司波達也暗殺計画(1)レビュー
魔法科シリーズ まとめ
司波達也暗殺計画(3)レビュー
物語の概要
■ 作品概要
本作は、佐島勤によるライトノベルシリーズ『魔法科高校の劣等生』の公式スピンオフ作品であり、ジャンルはSFアクションである。魔法が技術として体系化された21世紀末を舞台に、本編の主人公・司波達也を「暗殺対象」とする側から描く異色の物語となっている。 物語は、暗殺者である榛有希が司波達也に敗北してから約二年が経過した西暦2096年5月から始まる。核融合の実用化を巡る電力業界の利権争いと、達也の暗殺を目論む「人間主義」を掲げる教団の陰謀が絡み合う中、影の世界で生きる者たちの戦いが描かれる。
■ 主要キャラクター
- 榛有希(はる ゆき): かつて司波達也の暗殺に失敗し敗北した経験を持つ殺し屋。現在は四葉家の分家である黒羽文弥の直轄として活動しており、コードネームは「ナッツ」。幼い外見を任務に利用されることを嫌う傾向がある。
- 桜崎奈穂(さくらざき なほ): 四葉家から有希のもとへ派遣されてきた暗殺者見習いの少女。独自の「フラッシュ・キャスト」を操る能力を持ち、有希との奇妙な共同生活を送りながら自身の力を証明しようとする。
- 黒羽文弥(くろば ふみや): 四葉家の分家である黒羽家の次期当主であり、有希の雇用主。達也に対して敬意を払いつつ、影の立場から彼を取り巻く厄介事の対処や暗殺計画の阻止に奔走する。
- 司波達也(しば たつや): 本編の主人公であり、本作における究極の暗殺ターゲット。圧倒的な実力を持つがゆえに、常に多様な組織から命を狙われる「トラブルに愛された」存在として描かれる。
■ 物語の特徴
- 「影」の視点による再構築: 本編では無敵の主人公として描かれる司波達也を、あえて「暗殺対象」や「脅威」として捉えることで、魔法科の世界観をより多角的に掘り下げている。
- リアリティのある社会背景: 暗殺計画の背後に、エネルギー業界の利権争いや「魔法師による格差」への反発を掲げる宗教団体の動向を置くことで、物語に社会派的な深みを与えている。
- 分家キャラクターの深掘り: 本編では脇役に近い立ち位置である黒羽家や有希にスポットを当て、彼らの成長や葛藤、そして「大魔王」と称される達也に振り回される苦労を描いている点が興味深いポイントである。
書籍情報
魔法科高校の劣等生 司波達也暗殺計画(2)
著者:佐島 勤 氏
イラスト:石田 可奈 氏
出版社:KADOKAWA(電撃文庫)
発売日:2019年2月9日
ISBN:9784049122657
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あらすじ・内容
有希の許を訪れる暗殺者見習いの少女。落ちこぼれ魔法師!? それとも? 西暦二〇九六年五月、榛有希が司波達也に敗北をしてから約二年の月日が流れた頃。彼女は黒羽文弥直轄の暗殺者として日々依頼される仕事をこなしていた。
そんな中、有希の許に四葉家より“暗殺者見習いの少女”桜崎奈穂が派遣されてくる。自らのコンプレックスを鏡に映したような奈穂の幼気な容貌に辟易しつつも、二人の奇妙な共同生活が始まった。
そして、新たなるターゲットが決まる。
それは『人間主義』を掲げ、司波達也暗殺を目論むとある教団。奈穂は自らの能力を示すため独断専行を試みるが――。
落ちこぼれ? それとも? 独自なフラッシュ・キャストを扱う奈穂の力とは!?
感想
司波達也との戦いに敗れてから二年の月日が流れた二〇九六年。かつて達也の命を狙った暗殺者、榛有希は、今や四葉家の分家である黒羽文弥の直轄として、裏社会の任務に身を投じる日々を送っている。今巻では、そんな彼女のもとへ「暗殺者見習い」の少女・桜崎奈穂が派遣されてくるところから、新たな波乱が幕を開ける。
物語の核心にあるのは、魔法核融合の実用化という社会を根底から変えうる技術を巡る、電力業界のどろどろとした思惑だ。自らの利権を守るため、中堅電力会社が「人間主義」を掲げる宗教団体を利用して達也の排除を画策する構図は、単なる能力者バトルに留まらないリアリティを作品に与えている。
読み進める中で強く印象に残るのは、ターゲットである司波達也の、あまりにも「トラブルに愛されている」主人公としての宿命だ。本来守られるべき立場であるはずの妹・深雪以上に、常に誰かに命を狙われ、暗殺計画が後を絶たない彼の日常には、驚きを通り越して同情すら覚える。
そして、その騒動のたびに駆り出され、後始末や周辺調査を強いられる黒羽文弥や有希ら、分家の次期当主とその部下たちの苦労は察するに余りある。文弥たちの視点から語られることで、本編の主人公である達也の異常性がより際立っている点が非常に面白い。作中に漂う「あんな大魔王みたいなやつが高校生をやっているのがそもそも間違い」という評価は、本作の本質を突いた、まさに至言と言えるだろう。
圧倒的な力を持つ者が、平穏な学園生活の裏で無意識のうちに世界の均衡を揺さぶり、それに翻弄される周囲の人々。暗殺者という「影」の視点から描かれることで、司波達也という存在の巨大さと、それに伴う「気の毒な」人々の人間模様が色鮮やかに浮き彫りになっている。最強の「大魔王」が今後どのようなトラブルを呼び込み、有希たちを振り回していくのか、今後の展開への期待が高まる一冊であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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司波達也暗殺計画(1)レビュー
魔法科シリーズ まとめ
司波達也暗殺計画(3)レビュー
考察・解説
司波達也暗殺計画
『魔法科高校の劣等生 司波達也暗殺計画』第2巻で描かれた、電力業界の裏工作員および反魔法主義団体「小西教団」による達也の暗殺計画、そしてもう一つの人身売買組織による暗殺未遂事件の全貌について解説する。
1. 恒星炉技術を恐れる電力業界の陰謀
達也が第一高校で行った恒星炉実験の成功により、魔法を用いた核融合発電の実用化が現実味を帯びた。これを自社の太陽光発電ビジネスに対する致命的な脅威と見なした中堅電力会社の裏工作担当者たち(岩切来人、赤石ジュール、貝塚英吉ら7社による同盟)は、達也を排除するための暗殺計画を企てた。
彼らは周公瑾の仲介を受け、反魔法主義団体「今よりも人間的な暮らしと社会を実現する会」の代表である小西蘭に暗殺を依頼した。
2. 小西教団の自爆テロと達也の規格外の力
小西の団体は宗教の皮を被ったテロ組織であり、彼女は「邪眼(視線で相手の意識に干渉する本物の異能)」と催眠術の舞台装置を組み合わせて信者を狂信者に洗脳し、暗殺の鉄砲玉として利用していた。
実際に、小西に洗脳された8人の男が駅前で達也たち(達也、深雪、水波)を囲み、自爆テロを仕掛けようとした。しかし、達也は以下の行動でこれを未然に防いだ。
・一撃ずつのカウンターで彼らを無力化する。
・男たちが身に着けていた爆弾の起爆装置を分解魔法で解体する。
一部始終を目撃していた殺し屋の榛有希(ナッツ)は、達也の力を御伽噺のようだと評し、恐怖を新たにした。
3. 黒羽家の暗躍と有希・奈穂の活躍
達也暗殺の動きを察知した黒羽文弥は、実働要員として有希と、四葉家から派遣された暗殺者見習いの少女である桜崎奈穂(桜シリーズの調整体)を動かして事態の収拾を図った。彼女たちは以下の通りに立ち回った。
・依頼人の排除:奈穂はフラッシュ・キャストと水滴を弾丸化する魔法を使い、依頼人である赤石や貝塚を次々と暗殺し、残る同盟者を撤退に追い込んだ。
・有希の潜入と洗脳:有希は洗脳の秘密を探るため教団に潜入したが、小西の邪眼にかかり司波達也を殺せという暗示を植え付けられてしまった。操られた有希は達也の自宅へ向かい刃を向けようとしたが、達也の圧倒的な死の眼差しと深雪の冷気に当てられ、極限の生存本能から逃走することで正気を取り戻した。
・教団本部の制圧:文弥率いる黒羽家部隊が教団本部を急襲した。文弥は洗脳された信者たちを精神干渉魔法「ダイレクト・ペイン」で殺さずに無力化し、小西を隠し部屋から引きずり出した。小西が黒幕を白状しようとした瞬間、彼女は古式魔法の使い魔(芋虫型の影)によって呪殺され、事件は幕を閉じた。
4. 幕間:人身売買組織「出多興業」の壊滅
第2巻の幕間では、達也がバーチャルアイドルの「中の人」宇佐美夕姫をヤクザから助けたことを発端とする事件が描かれている。彼女は失敗した調整体魔法師であり、非指定暴力団「出多興業」がフィリピンマフィアと結託し、魔法師の血統を欲する勢力に彼女たちを繁殖用として売り飛ばそうとしていた。
有希と文弥が人身売買の拠点である本牧埠頭の倉庫に突入し、マフィアを全滅させた。追い詰められた出多興業の社長である三角健三は、達也の家をグレネードで狙わせていると脅迫し、部下に暗殺決行の指示を出してしまった。
まとめ
達也の家を狙わせた出多興業の事件では、深雪への殺意という「縁」を辿った達也の分解魔法が遠隔で発動した。これにより三角は輪郭から崩壊して小さな鬼火となり、塵も残さず世界から完全消滅(追放)するという恐るべき結末を迎えた。
小西教団の事件を含め、達也を狙った者たちは彼自身や黒羽家の暗躍によりことごとく壊滅し、達也の規格外の力と周囲の冷徹な排除能力が改めて浮き彫りとなる結果となった。
魔法核融合炉の脅威
『魔法科高校の劣等生 司波達也暗殺計画』第2巻において描かれる「魔法核融合炉(恒星炉)」の脅威は、軍事的な兵器としての危険性ではなく、既存のエネルギー産業(電力業界)の既得権益に対する経済的・ビジネス的な脅威として描かれている。
その詳細について、以下のポイントに分けて解説する。
1. 魔法核融合炉(恒星炉)の圧倒的な発電能力
司波達也が魔法大学付属第一高等学校で実験を成功させた「恒星炉」は、魔法を用いた核融合発電の実用化に大きく近づく画期的な技術であった。この技術が計画通りに実用化されると、以下の恩恵をもたらす。
・天候に左右されない。
・昼夜を問わず無尽蔵かつ大量の電力が安定して供給されるようになる。
2. 既存の太陽光発電ビジネスの崩壊と倒産の危機
作中の現代において、電力供給の主流は太陽光をエネルギー源とする発電(特に陸上空き地などにパネルを設置する太陽光パネル発電)である。
中堅電力会社で非合法な裏工作を担当する岩切来人たちにとって、魔法核融合炉の実現は自社のビジネスモデルを根本から破壊するものであった。もし魔法核融合炉によって電力需給が大幅に緩和されれば、広大な土地を占有している既存の太陽光発電所は、土地の有効活用や環境改善などを名目とした行政の介入を受けるリスクが高まる。楽観視できないこの新技術は、彼らの会社を将来倒産に追い込みかねない無視し得ない潜在的脅威と見なされた。
3. 実用化阻止のための司波達也暗殺計画
魔法核融合炉技術を業界共通の致命的な脅威と認識した岩切をはじめとする同業7社の裏工作担当者たちは、裏で同盟(カルテル)を結び、あらゆる手段を用いて実用化を阻止することで合意した。
そして、その最も効果的な対策として、以下の行動をとった。
・核融合炉開発のキーパーソンである司波達也の暗殺を決定する。
・自分たち企業側に疑いが向かない実行犯を探し求める。
・周公瑾の仲介を経て、狂信的な反魔法主義団体「今よりも人間的な暮らしと社会を実現する会(小西教団)」の代表である小西蘭に達也の暗殺を依頼する。
まとめ
このように、魔法核融合炉は世界に豊かなエネルギーをもたらす希望の技術であると同時に、旧来のシステムで利益を得ている者たちにとっては既得権益を奪う巨大な脅威として描かれている。
狂信的な反魔法団体
『魔法科高校の劣等生 司波達也暗殺計画』第2巻に登場する「狂信的な反魔法団体」は、小西蘭(こにしらん)が代表を務める「今よりも人間的な暮らしと社会を実現する会」(通称:小西教団)である。
この団体の実態と、物語における動向について、以下のポイントに分けて解説する。
1. 表向きの顔とマッチポンプのビジネスモデル
表向きは、魔法師に対して不安を抱く一般市民の感情を代弁し、「魔法師と一般市民の居住区を分ける(魔法師の社会からの隔離)」ことを主張する市民団体として、デモ行進やメディアへの出演を行っている。
しかし、その真の目的は反魔法主義運動を派手に行うことで、魔法を嫌う富裕層からの寄付金を集めることである。彼らは裏で以下の悪辣なマッチポンプを行っている。
・信者に爆弾を持たせて魔法師を狙った自爆テロを起こす。
・一般市民の魔法師に対する忌避感を煽ることで自分たちへの追い風(資金源)を作る。
2. 狂信者の正体と洗脳のカラクリ
この団体の構成員(信者)は、死を恐れず、恍惚とした笑みを浮かべて自爆特攻を行うほどの狂信者と化している。警察は洗脳を疑っていたが、彼らからは薬物の痕跡が一切検出されなかった。
その洗脳の正体は、教祖である小西蘭の異能「邪眼」である。これは視線を媒介にして相手の意識に直接干渉する本物の異能だが、彼女の力は不完全であり、一度で完全に心を支配することはできない。そのため、以下の催眠術の舞台装置を併用し、複数回にわたって「魔法師を消せ」という暗示を刷り込むことで、信者を操り人形(鉄砲玉)に仕立て上げていた。
・薄暗い照明
・振り子時計の規則的な音
・揺れるロッキングチェア
・香りの強いハーブティー
3. 背後関係(黒幕)と非合法な武装
小西蘭は、別名「西小蘭」といい、かつて司波達也によって壊滅させられた香港系国際犯罪シンジケート「無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)」の元現地協力員であった。現在は、在米華僑マフィアの首領・顧傑(グ・ジー)の手先となって工作を行っている。
そのため、単なる市民団体とは異なり、池袋に厳重なセキュリティが施された隠し事務所を持ち、闇取引で軍用系の禁止爆発物を大量に調達するなどの高度な犯罪ネットワークを有していた。
4. 司波達也の暗殺計画と教団の結末
電力業界の裏工作カルテルから周公瑾の仲介で司波達也の暗殺を請け負った教団は、8人の信者を使った自爆テロを仕掛けた。しかし、達也の格闘術と起爆装置を直接分解する魔法の前に、テロは完全に失敗に終わった。
次に小西は、教団に潜入してきたプロの殺し屋・榛有希(ナッツ)を邪眼で洗脳し、達也へ差し向けた。しかし、達也と深雪が放つ圧倒的な「死」と「氷獄」の恐怖を前に、有希の生存本能が暗示を上回り、洗脳は打ち砕かれた。
まとめ
最終的に、教団は黒羽文弥らの部隊によって池袋の隠し金庫(武器購入資金)を奪われたうえ、青山にある本部も制圧された。追い詰められた小西は文弥の尋問を受け、仲介者の名を白状しかけたが、直後に黒幕(大陸系方術による芋虫型の使い魔)によって呪殺され、教団は事実上の壊滅を迎えることとなった。
暗殺者見習いの潜入
『魔法科高校の劣等生 司波達也暗殺計画』第2巻において、「暗殺者見習い」である桜崎奈穂(コードネーム:シェル)が提案・実行した潜入工作について、以下のポイントに分けて解説する。
1. 暗殺者見習い・桜崎奈穂の立場
桜崎奈穂は、四葉家が育成する「桜シリーズ」の調整体魔法師である。本来は防壁魔法に優れる護衛要員として造られたが、特性が合わず落第し、暗殺要員として再訓練を受けた。彼女は殺し屋である榛有希(ナッツ)のマンションに家政婦兼暗殺者見習いとして派遣され、有希の仕事を手伝うことが卒業試験(実地テスト)とされていた。
2. 小西教団への潜入提案と却下
有希たちが、司波達也の暗殺を請け負った「小西教団(今よりも人間的な暮らしと社会を実現する会)」の洗脳の仕組みを調査していた際、奈穂は自ら教団に信者として潜入する案を提案した。彼女は自分の幼く無害そうな外見なら警戒されないと主張したが、有希は魔法師が反魔法カルト教団に潜入するのは無謀だとして即座に却下した。
これに反発した奈穂は、魔法抜きでも戦えると証明するため有希に模擬戦を挑んだが、実力差を見せつけられて敗北した。その結果、教団への潜入は有希自身が行うことになった。
3. 暗殺依頼人・赤石ジュールへの接触と潜入
有希に教団への潜入を譲った奈穂は、もう一つのターゲットである暗殺依頼人側の窓口・赤石ジュールに対して独自の行動を起こした。
彼女は赤石の行きつけの店に赴き、当初は行動パターンを把握して後日狙撃する下見のつもりであった。しかし、赤石が幼い外見の奈穂に興味を持って声を掛けてきたため、急遽作戦を変更し、世間知らずな少女「チホ」を演じて彼に接近した。
奈穂は以下の手順でホテルへの潜入と暗殺を決行した。
・赤石に連れられて街で買い物をした後、高級ホテルの一室に潜入する。
・赤石は奈穂を酒で酔わせたつもりであったが、奈穂は事前に対策をしており正気を保つ。
・赤石が浴室に入って油断した隙を突き、シャワーの水滴を魔法で弾丸化して彼の脳を撃ち抜く。
まとめ
奈穂の魔法は規模が極小だったため、ホテルの想子センサーにも感知されず、証拠を残さずに現場を離脱することに成功した。
初めての実戦暗殺で精神的なショックは受けていたものの、この潜入と暗殺の成功により、雇い主である黒羽文弥から暗殺者として戦力になると証明されたと見事に実技試験の合格を言い渡された。
四葉家と黒羽家
『魔法科高校の劣等生 司波達也暗殺計画』第2巻における、本家である「四葉家」と分家である「黒羽家」の役割や関係性について、以下のポイントに分けて解説する。
1. 四葉家の戦力拡充と黒羽家の役割
四葉家は三十年余り前に起きた事件で戦力となる魔法師の約半数を失って以来、戦力の拡充を最重要課題として戦闘魔法師の育成をハイペースで進めている。
・遺伝子操作を用いた「桜シリーズ」などの調整体開発もその一環である。
・分家の黒羽家は主に諜報・工作活動を専門に担っている。
四葉本家が育成した魔法師のうち、暗殺要員や諜報要員として育てられた者は、実戦任務(実地テストなど)の場として黒羽家に預けられ、運用されるのが定石となっている。
2. 本家当主と分家(黒羽家)の連携
達也を標的とした中堅電力会社による暗殺計画が発覚した際、黒羽家次期当主の黒羽文弥は即座に本家当主の四葉真夜へ報告を行った。
真夜は達也が暗殺者に遅れを取るとは全く考えていなかったが、恒星炉実験で世間の注目を集めている達也の周囲で暴力沙汰が表面化することを避けるため、事態の収拾を文弥に一任した。その際、以下の具体的な指示を出している。
・文弥自身が表に出ることを禁じる。
・黒羽家の配下となっている殺し屋の榛有希を実働要員として使う。
このように、本家と分家が密接に連携して問題に対処していることが分かる。
3. 身内への甘さと魔法師の価値
四葉家は裏社会から恐れられる存在であるが、実は身内には甘い一族であることが黒羽亜夜子の口から語られている。
例えば、「桜シリーズ」の調整体である桜崎奈穂は、本来の目的である護衛(防壁魔法)に向かず一度落第した。しかし四葉家は彼女に対して以下の対応をとった。
・即座に処分(廃棄)するのではなく、暗殺要員として再訓練する。
・実地テストとして黒羽家の指揮下(有希の元)へ送り込む。
四葉家は魔法を使えるという事実自体に大きな価値を見出しており、向いていない仕事で犬死にさせるのではなく、別の適性を見つけて利用しようとする合理的な身内保護の姿勢を持っている。
4. 裏社会の支配とコントロール
黒羽家は、かつて反魔法主義的な傾向を持っていた政治的暗殺結社「亜貿社」を完全に傘下に収め、裏社会のコントロールに利用している。
司波達也の暗殺を企てる依頼人(電力会社の貝塚)が、新たな暗殺者として亜貿社に接触してきた際、黒羽家の意向により亜貿社は以下の巧妙な策で敵を排除した。
・依頼を無下に断るのではなく受けるふりをする。
・指定された取引現場で奈穂の狙撃魔法を使って依頼人を暗殺する。
・亜貿社が裏切りを疑われないよう、サポート要員の鰐塚に自身の血を使った偽装被弾をさせる。
このように、裏社会のルールを逆手に取った緻密なコントロールが行われている。
まとめ
本家(四葉家)が強力な魔法師の確保と全体の方針決定を行い、分家(黒羽家)がその手足となって非合法活動や裏社会の工作を遂行するという、強力で盤石な分業体制が築かれている。
黒羽家の暗躍
四葉家の分家であり、主に諜報・工作活動を専門に担う黒羽家は、司波達也を狙う暗殺計画に対して裏社会で高度な暗躍を行っている。第2巻における黒羽家(特に次期当主の黒羽文弥と双子の姉・亜夜子)の具体的な暗躍の全貌は以下の通りである。
1. 四葉真夜の特命と実働要員の運用
達也の恒星炉実験の成功に伴い、電力業界のカルテルが達也の暗殺を企てた際、文弥は即座に四葉家当主・四葉真夜へ報告した。真夜は達也が暗殺者に遅れを取るとは考えていなかったが、達也の周囲で暴力沙汰が表沙汰になることを避けるため、事態の収拾を文弥に一任した。
文弥は自身が表に出ることを避け、以下の者を実働要員として最前線で運用した。
・黒羽家傘下となった殺し屋の榛有希(ナッツ)
・四葉家から実地テストとして派遣された暗殺者見習いの桜崎奈穂(シェル)
2. 小西教団の資金源強奪と本部制圧
狂信的な反魔法団体「小西教団」による自爆テロの背後に大規模な組織の存在を察知した文弥と亜夜子は、まず教団の武器調達資金を断つ作戦に出た。彼らは教団が池袋に隠し持っていた金庫を急襲し、闇取引に必要な現金や無記名マネーカードを根こそぎ奪い取ることで、教団が新たな殺し屋や武器を雇えない状況に追い込んだ。
さらに教団の青山本部を制圧する際には、以下の行動をとった。
・文弥は電源室を落として闇に乗じて侵入する。
・小西蘭に洗脳されて「人間の盾」とされた女性信者たちに対しては、殺すのではなく精神に激痛を与える魔法「ダイレクト・ペイン」を用いて無力化する。
・無血で教祖の小西を隠し部屋から引きずり出す。
3. 暗殺依頼人の排除と偽装工作
達也の暗殺を直接依頼した電力業界の裏工作員たちに対しては、奈穂の狙撃魔法を駆使して排除を進めた。奈穂は窓口となっていた赤石ジュールをホテルで密かに暗殺した。
残る依頼人の一人である貝塚英吉が新たな暗殺を黒羽家傘下の「亜貿社」に依頼してきた際には、亜貿社が裏切りを疑われないよう巧妙な偽装工作を行った。
・サポート要員の鰐塚に自身の血を使った水滴弾を被弾させ、「亜貿社側も狙撃された」と見せかける。
・その直後に、貝塚の首を水滴弾で撃ち抜いて即死させる。
裏社会のルールを逆手に取ったこの作戦で、残る依頼人たちを完全に撤退させた。
4. 亜夜子の高度な後方支援
文弥の双子の姉である亜夜子も、高い魔法技術で暗躍をサポートしている。
・有希が教団本部に潜入した際には、認識を阻害する魔法を用いて完全に気配を消し、密かに尾行・監視を行った。
・小西の邪眼に洗脳された有希が襲い掛かってきた際には、空間を跳躍する「疑似瞬間移動」で奈穂を抱えて退避した。
・黒い羽根に慣性増幅を乗せて敵を打ち据える「フェザー・ラッシュ」を用いて有希の接近を阻んだ。
このように、味方を守りながら確実に状況をコントロールした。
5. 人身売買組織「出多興業」の壊滅
暗殺計画とは別に、フィリピンマフィアと結託して魔法師の少女を海外へ売り飛ばそうとしていた人身売買組織「出多興業」の取引現場にも介入した。
外務省からの密かな要請を受けた文弥は有希を現場に送り込んだ。有希が囮となってマフィアの狙撃手(根来衆の末裔)の注意を引いている間に、文弥たちが密かに敵を全滅させるという圧倒的な手際を見せた。
まとめ
このように黒羽家は、本家からの特命や外務省からの密命に対し、文弥と亜夜子の高い魔法技術と知略、そして有希や奈穂といった実働要員を的確に運用することで、裏社会の脅威を静かに、かつ確実に排除している。司波達也の周囲で蠢く陰謀は、彼らの高度な暗躍によって人知れず闇に葬られているのである。
魔法による暗殺
『魔法科高校の劣等生 司波達也暗殺計画』第2巻において描かれる「魔法による暗殺」は、物理的な凶器を用いず、証拠や痕跡を残さないという点で、一般的な殺人とは次元の異なる脅威として描かれている。
作中で描かれた魔法による暗殺の手口や特徴について、以下のポイントに分けて解説する。
1. 極小規模な魔法による証拠の隠滅(桜崎奈穂の手口)
暗殺者見習いの桜崎奈穂は、暗殺依頼人である赤石ジュールや貝塚英吉を暗殺する際、水滴を弾丸化するという特異な狙撃魔法を使用した。
具体的には以下の手口で暗殺を実行する。
・シャワーの水滴や日傘のシャフトに仕込んだ少量の水滴を「対物シールド」でコーティングして加速させる。
・標的の脳や首(頸椎)に撃ち込む。
・体内に深く食い込んだ瞬間にシールドを解除し、運動エネルギーを破裂させて即死させる。
凶器が単なる水であるため、解剖しても金属片などの凶器が一切発見されない。さらに、水滴一滴に作用する事象改変の規模が極めて小さいため、現場に設置された魔法検知用の想子センサーにも一切反応が記録されないという、極めて隠密性の高い暗殺術である。
2. 警察の捜査と立件の壁
このように痕跡が残らない魔法暗殺は、警察の捜査を大きく難航させる。
作中の警察(警視庁捜査一課の刑事たち)も、不可解な遺体の状況から魔法犯罪ではないかと疑うが、想子センサーに記録がないため断定できず、捜査に行き詰まる。
暗殺サポート要員の鰐塚が「昔は呪殺が殺人として立件できなかったように、魔法による暗殺は事件として成り立ち難い面がある」と語る通り、魔法による暗殺は完全犯罪に近い性質を持っている。また奈穂は、魔法師を見分ける一般的な目印であるCAD(演算デバイス)を携帯せず、記憶から直接魔法式を読み出すフラッシュ・キャストを用いることで、魔法師であること自体を徹底的に隠蔽していた。
3. 古式魔法による呪殺
現代魔法だけでなく、大陸系方術などの古式魔法を用いた暗殺も描かれている。
反魔法主義団体を率いる小西蘭が、黒羽文弥の尋問を受けて黒幕の名を白状しかけた瞬間、突然苦しみ出し心臓が停止した。これは、倒れた彼女の背中から黒い影でできた芋虫型の使い魔が這い出して空気中に溶けて消えたことから、古式魔法による遠隔からの呪殺であったことが判明している。
まとめ
作中において最も恐るべき魔法暗殺(排除)は、司波達也の分解魔法である。
人身売買組織の社長である三角健三が、達也の妹・深雪がいる自宅をグレネードで狙わせた際、達也はその深雪に向けられた殺意の縁を辿り、遠隔から魔法を発動させた。
その結果、三角の身体は輪郭から崩壊して小さな鬼火となり、遺体はおろか塵一つ残さず世界から完全消滅した。この圧倒的で理不尽なまでの消去能力は、現場にいたプロの殺し屋である榛有希に「触らぬ神に祟りなし」と魂の底から恐怖を刻み込ませるものであった。
このように、痕跡を残さない水滴の弾丸や古式魔法による呪殺、そして達也の規格外の分解魔法など、魔法による暗殺は一般的な殺人とは次元の異なる完全犯罪としての脅威を描き出している。
司波達也暗殺計画(1)レビュー
魔法科シリーズ まとめ
司波達也暗殺計画(3)レビュー
登場キャラクター
四葉家・国防軍・関係者
四葉真夜
四葉家の当主である。達也が暗殺者に後れを取るとは全く考えていない。達也の周囲で暴力沙汰が明るみに出ることを避けるため、事態の収拾を文弥に一任する。身内には甘い一面を持つ。
・所属組織、地位や役職
十師族・四葉家当主。
・物語内での具体的な行動や成果
ヴィジホン越しに文弥からの報告を受けた。文弥に自身が表に出ることを禁じ、榛有希を使うよう指示した。桜崎奈穂を有希の元に暗殺者見習いとして派遣した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
四葉家を統べる絶対的な存在である。
葉山
真夜の隣に控える執事である。
・所属組織、地位や役職
四葉家・使用人(執事)。
・物語内での具体的な行動や成果
真夜の視線に応え、文弥に任せてよいと恭しく頷いた。奈穂に有希の生活費としてクレジットカードを渡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化は描かれていない。
黒羽文弥(ヤミ)
黒羽家の次期当主である。達也を強く慕っている。達也の害になる者を排除しようと動く。女装を嫌っている。
・所属組織、地位や役職
四葉家分家・黒羽家の次期当主。魔法大学付属第四高校の一年生。
・物語内での具体的な行動や成果
達也の暗殺計画を知り、真夜に報告した。ヤミという名の少女に変装して暗躍する。小西教団の本部を急襲し、ダイレクト・ペインで信者たちを無力化した。小西蘭から情報を引き出そうとした。人身売買組織「出多興業」の事件に介入した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
有希の直属の雇い主として彼女に指示を出している。
桜崎奈穂(シェル)
「桜シリーズ」の調整体魔法師である。幼い外見とあざとい笑顔を持つ。護衛魔法師として落第し、暗殺要員として再訓練を受けた。有希の家政婦として派遣される。
・所属組織、地位や役職
四葉家・暗殺者見習い。コードネームはシェル。
・物語内での具体的な行動や成果
有希に模擬戦を挑んで敗北した。赤石ジュールに接触し、水滴を弾丸化する魔法で彼を暗殺した。貝塚英吉も同じ魔法で暗殺した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
文弥から暗殺者として戦力になると認められた。有希のマンションに引き続き留まることを許可された。
司波達也
国立魔法大学付属第一高校二年生である。恒星炉実験の成功により電力業界から暗殺のターゲットにされる。圧倒的な戦闘力と魔法の力を持つ。
・所属組織、地位や役職
国立魔法大学付属第一高校の二年生。
・物語内での具体的な行動や成果
駅前で小西教団の狂信者たちによる自爆テロに遭うが、カウンターで全員を沈めた。爆弾の起爆装置を分解魔法で解体した。宇佐美夕姫を黒服たちから助けた。三角健三を遠隔からの分解魔法で消滅させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
周囲からは恐れられる存在である。
黒羽亜夜子(ヨル)
黒羽家の長女であり、文弥の双子の姉である。四葉家当主のお気に入りである。弟の文弥をからかうのが好きである。
・所属組織、地位や役職
四葉家分家・黒羽家の長女。魔法大学付属第四高校の一年生。
・物語内での具体的な行動や成果
文弥と共に東京のホテルへ入った。国会議事堂前から有希を尾行した。有希のマンションを訪れ、奈穂と対話した。有希に襲撃された際、フェザー・ラッシュや疑似瞬間移動の魔法で奈穂を連れて退避した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化は描かれていない。
黒川白羽
文弥と亜夜子の側近を務める青年である。
・所属組織、地位や役職
黒羽家の部下。幹部候補。
・物語内での具体的な行動や成果
文弥たちをホテルのスイートルームに案内し、小西教団の資料を提供した。ハイヤーの運転手に扮して文弥たちを池袋へ送った。小西教団の資金源を断つ作戦を提案した。教団本部襲撃に参加し、空蝉の術で攻撃を避けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
殺気を読むことに長けた甲賀流の忍術使いである。
桜井水波
達也の家に住み込みで働くメイドである。
・所属組織、地位や役職
第一高校の一年生。メイド。
・物語内での具体的な行動や成果
司波家の窓のシャッターを閉めている際に、攻撃的な不審者の気配に気付いた。達也にそのことを報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化は描かれていない。
司波深雪
達也の妹である。兄を慕っている。
・所属組織、地位や役職
特筆事項は記載されていない。
・物語内での具体的な行動や成果
有希が達也を襲おうとした際、達也の隣に並び、彼女を消してしまうのはよろしくないと進言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
有希に永遠の氷獄を思わせる恐怖を与えた。
亜貿社
榛有希(ナッツ)
亜貿社に所属する少女の殺し屋である。実年齢は19歳だが、幼い外見をしている。司波達也に対して強い恐怖を抱いている。
・所属組織、地位や役職
亜貿社・殺し屋。コードネームはナッツ。
・物語内での具体的な行動や成果
国会前のデモ隊に潜入し、山野ハナを助けて小西教団の本部へ入り込んだ。小西の邪眼によって洗脳され、亜夜子と奈穂を襲撃した。暗示から解放された後、本性を現したハナの心臓をナイフで刺して殺害した。出多興業の事件では、倉庫に潜入して狙撃を避けながら立ち回った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
文弥の直属の部下として行動している。身体強化の異能を持つ。
鰐塚(クロコ)
有希の相棒である情報屋である。彼女の運転手やバックアップを務める。
・所属組織、地位や役職
亜貿社・サポート要員。コードネームはクロコ。
・物語内での具体的な行動や成果
有希に小西教団や暗殺計画に関する情報を提供した。警察の捜査状況を調べ、有希たちに報告した。貝塚英吉との会談に臨み、奈穂の狙撃を受けて血を流して倒れる偽装工作を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
情報屋としての能力が高く、亜貿社の上層部から対応を一任されている。
電力業界裏工作カルテル
岩切来人
中堅電力会社の部長である。裏工作を担当している。恒星炉技術を自社の脅威と見なしている。
・所属組織、地位や役職
中堅電力会社・部長。
・物語内での具体的な行動や成果
周公瑾と面会し、小西教団への暗殺依頼を決定した。会員制クラブで何者かに暗殺された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼の死後、暗殺計画の窓口は赤石に引き継がれた。
赤石ジュール
中堅電力会社に勤める裏工作員である。岩切の死後、暗殺依頼の窓口となる。自身の死への恐怖に苛まれていた。
・所属組織、地位や役職
中堅電力会社・社員。
・物語内での具体的な行動や成果
行きつけの店で幼い外見の奈穂に声を掛けた。奈穂をホテルの部屋に連れ込んだ。浴室で奈穂の魔法による水滴の弾丸を受けて死亡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化は描かれていない。
貝塚英吉
岩切や赤石の仲間である。赤石の死後、暗殺計画の窓口を引き継いだ。
・所属組織、地位や役職
中堅電力会社・課長。
・物語内での具体的な行動や成果
新たな暗殺を亜貿社に依頼しようと鰐塚に接触した。倉庫街での会談中、奈穂の魔法によって首を撃ち抜かれ即死した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼の死後、残るメンバーは暗殺計画を断念した。
小西教団(今よりも人間的な暮らしと社会を実現する会)
小西蘭(西小蘭)
反魔法主義団体の代表である。魔法師に対する憎悪を抱いている。
・所属組織、地位や役職
今よりも人間的な暮らしと社会を実現する会(小西教団)・代表。元無頭竜の現地協力員。
・物語内での具体的な行動や成果
周公瑾の仲介で達也の暗殺を請け負った。信者を洗脳して自爆テロを行わせた。有希を隠し部屋に招き入れ、邪眼で洗脳した。文弥にダイレクト・ペインで尋問され、白状しかけた直後に使い魔によって呪殺された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
在米華僑マフィア・顧傑の手先として活動していた。
山野ハナ
女子大学生である。フィリピンとのハーフである。魔法師に対して強い反感と憎悪を抱いている。
・所属組織、地位や役職
今よりも人間的な暮らしと社会を実現する会・構成員。
・物語内での具体的な行動や成果
国会前のデモで有希に助けられ、彼女を教団本部に案内した。有希が小西を襲撃した後、本性を現して有希にナイフで襲い掛かった。有希に自分を殺すよう懇願し、心臓を刺されて死亡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
父親は国防軍の非合法工作員で、母親は横浜事変の犠牲者であった。
警察関係者
梶谷
警視庁捜査一課の中堅刑事である。不可解な事件に頭を悩ませている。
・所属組織、地位や役職
警視庁捜査一課・部長刑事。
・物語内での具体的な行動や成果
赤石の死因が分からないことに疑問を抱いた。魔法犯罪を疑いつつも、想子センサーの反応がないため断定できずにいた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化は描かれていない。
尾山
警視庁捜査一課の若手刑事である。梶谷の相棒である。
・所属組織、地位や役職
警視庁捜査一課・刑事。
・物語内での具体的な行動や成果
赤石の死が魔法による殺しではないかと主張した。小西教団の捜査に助っ人として参加している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化は描かれていない。
その他の登場人物・集団
周公瑾
横浜中華街の酒楼のオーナーである。裏社会の動向に詳しい。達也を厄介な存在だと感じている。
・所属組織、地位や役職
横浜中華街の酒楼・オーナー。顧傑の弟子。
・物語内での具体的な行動や成果
岩切と面会し、小西の団体を紹介して達也暗殺を仲介した。電力業界のカルテルが計画を断念したことを把握した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
大亜連合からの亡命ルートを仕切る有力者である。
宇佐美夕姫
バーチャルアイドルの「中の人」を務める少女である。失敗した調整体魔法師である。
・所属組織、地位や役職
特筆事項は記載されていない。
・物語内での具体的な行動や成果
街で出多興業の黒服たちに襲われているところを達也に助けを求めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
潜在的な魔法因子を持っているため、マフィアに狙われていた。
三角健三
出多興業の社長である。小規模な組織の長だが、カスティーヨに対して尊大な態度を取る。リスクを回避する慎重な一面を持つ。
・所属組織、地位や役職
非指定暴力団「出多興業」・社長。
・物語内での具体的な行動や成果
潜在的魔法師の少女を海外に売り飛ばそうとしていた。有希の襲撃を受け、文弥に達也の家を狙わせていると脅迫した。達也の分解魔法によって完全消滅した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化は描かれていない。
カルロ・カスティーヨ
東南アジアの有力なマフィアのボスである。
・所属組織、地位や役職
フィリピンマフィア・ボス。
・物語内での具体的な行動や成果
ヴィジホンで三角に不良品への苦情を伝え、日本に直接買い付けに行くと通告した。本牧埠頭の倉庫で三角と取引を行おうとした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化は描かれていない。
杉屋
三角の右腕として仕える男である。
・所属組織、地位や役職
出多興業・社員。
・物語内での具体的な行動や成果
取引の警備を担当した。有希の襲撃から三角を守ろうと立ちはだかり、有希に喉をナイフで刺されて死亡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化は描かれていない。
司波達也暗殺計画(1)レビュー
魔法科シリーズ まとめ
司波達也暗殺計画(3)レビュー
展開まとめ
[1]
横浜中華街での密談
横浜中華街の高級店では、店主である周公瑾が、中堅電力会社の部長・岩切来人を接待していた。周公瑾は、反魔法主義団体を率いる小西との接触を提案し、司波達也と恒星炉技術を脅威視する岩切へ協力を持ち掛けた。
岩切たち電力業界関係者は、魔法核融合炉が実用化されれば自社の事業基盤が崩壊すると危機感を抱いていた。そのため、司波達也を排除するための暗殺計画を水面下で進めていたが、自分たちに疑いが向かない実行犯の確保に苦慮していた。
周公瑾は、小西の団体であれば司波達也を狙う動機を自然に用意できると説明し、岩切は個人の判断として会談を承諾した。岩切を見送った後、周公瑾は小西へ連絡し、両者の面会を成立させた。
殺し屋・榛有希の任務
数日後、殺し屋「ナッツ」こと榛有希は、高級歓楽街での任務へ向かっていた。有希は所属組織「亜貿社」の暗殺者であり、運転手兼相棒の鰐塚と共に移動していた。
今回の任務は、女性しか入れない会員制クラブへの潜入であり、有希はターゲットの趣味に合わせた少女然としたドレス姿を強いられていた。会場では厳重なボディチェックが行われるため、衣装自体に防刃・防弾性能が施されていた。
有希は自身の幼い外見を利用する仕事を嫌悪していたが、腐敗した権力者を標的とするという組織の建前もあり、仕事を受け入れていた。翌朝、会員制クラブで高級官僚と電力会社社員四名が殺害された事件が報じられたが、世間の注目は官僚側の醜聞へ集中し、岩切来人の存在はほとんど扱われなかった。
司波達也との因縁
有希は二年前、暗殺現場を司波達也に目撃されたことを切っ掛けに、四葉家と深く関わることになっていた。
司波達也は、有希の銃撃を素手で無効化するほどの圧倒的な力を持っており、有希は完全敗北を喫した。その後、四葉分家・黒羽家の黒羽文弥によって亜貿社ごと支配下に置かれ、有希自身も文弥直属の部下となっていた。
現在の有希は、形式上は亜貿社に所属しているものの、実際には黒羽文弥の命令に従う立場へ変わっていた。
暗殺計画の発覚
事件後、鰐塚はクラブから回収した情報端末を解析し、売春顧客リストだけでなく、司波達也暗殺計画に関する録音データを発見した。
録音には、中堅電力会社関係者が司波達也暗殺について話し合う内容が収められており、有希と鰐塚は重大な案件に巻き込まれたことを悟った。有希は関わりたくない本音を抱えながらも、司波達也を巡る問題を黙殺できないと判断した。
四葉家の対応
有希から情報提供を受けた黒羽文弥は、すぐに四葉家当主・四葉真夜へ報告を行った。
真夜は、司波達也自身が暗殺者に後れを取ることはないと考えていたが、恒星炉実験によって世間の注目を集めている現状では、騒動が表面化することを問題視した。そして対処を文弥へ一任し、東京在住の有希を実働要員として使うよう指示した。
さらに真夜は、「桜シリーズ」の調整体少女・桜崎奈穂を、有希の元へ送り込むことを決定した。奈穂は本来護衛向きに設計された戦闘魔法師だったが、特性の違いから暗殺要員へ転用されていた。
桜崎奈穂との同居開始
奈穂は、有希のマンションへ住み込み家政婦として現れた。有希は、文弥の命令である以上拒否権がないことを理解しながらも、奈穂に強い嫌悪感を抱いていた。
奈穂は幼い外見と柔らかな笑顔を持つ少女だったが、有希はその内側に危険性を感じ取っていた。実際、奈穂は家政婦としての能力も極めて高く、短時間で部屋を見違えるほど整え、有希に手料理まで振る舞った。
食事中、奈穂は当然のように「誰を殺せば良いのか」と尋ね、自身が暗殺者見習いであることを明かした。奈穂は、護衛魔法師として落第した後、暗殺要員へ転向させられた経緯を明るい口調で語り、有希を困惑させた。
最終的に、有希は奈穂を「有希さん」と呼ばせる形で妥協し、不本意ながらも共同生活を受け入れることになった。
[2]
小西蘭の正体と暗殺計画への自信
小西蘭は表向きには「今よりも人間的な暮らしと社会を実現する会」という任意団体の代表者を務めていた。しかし実態は、魔法師排斥を掲げる過激な反魔法主義組織であり、狂信的な宗教団体同然の存在だった。
さらに小西蘭は、「西小蘭」の別名を持ち、香港系犯罪組織『無頭竜』の協力者であり、現在は在米華僑マフィアの顧傑の指示で反魔法工作を行っていた。
岩切来人の死後も、小西は司波達也暗殺計画を継続する意志を示した。彼女は徹底した調査の結果、司波達也には有力な後ろ盾が存在しないと判断しており、九重八雲との関係も師弟ではないと把握していた。
また、司波達也は二科生だった経歴を持ち、魔法実技の成績も悪いと認識していたため、戦闘能力も大したことはないと過小評価していた。小西は、自分の組織なら問題なく暗殺を実行できると確信していた。
有希と奈穂の作戦会議
五月十三日の夜、有希と奈穂は司波達也暗殺計画について話し合っていた。
録音データに「小西」の名前が含まれていたことから、有希は犯人が小西蘭率いる団体であると見当を付けていた。ただし、決め付けではなく裏付け調査を進めている最中であり、確認が取れ次第行動に移すつもりだった。
その流れの中で、奈穂は仕事用のコードネームを求め、有希から本名使用の危険性を指摘された。奈穂は自身の魔法特性にちなみ、「炸裂弾」を意味する「シェル」というコードネームを選択した。
有希は、その名称から奈穂が攻撃系の魔法師であることを察し、彼女への興味を強めていた。
小西教団の実態
小西蘭は、教団内から司波達也暗殺を実行する「鉄砲玉」を募集した。
彼女の教団は、宗教的救済や来世を約束する代わりに、単純明快な「正義」を与えることで信者を支配していた。複雑な社会問題を単純化し、魔法師を「悪」と断定することで、信者たちは使命感と陶酔感を抱いていた。
信者たちは小西へ絶対服従しており、命を懸けてでも彼女の示す「悪」を排除しようとする。警察は洗脳の可能性を疑っていたが、薬物などの物証は一切見つかっていなかった。
そのため小西は、自身が逮捕されることはないと確信し、今回も容易に司波達也暗殺の実行役を確保していた。
奈穂による生活改善
翌朝、有希は珍しく早起きをしていた。もっとも自主的ではなく、奈穂に強引に起こされた結果だった。
奈穂は、規則正しい生活と朝食を重視し、有希の昼夜逆転生活を矯正しようとしていた。有希は反発しつつも、司波達也の行動時間帯に合わせる必要性を指摘され、完全には言い返せなかった。
そこへ鰐塚が訪れ、奈穂がただの家政婦ではないと即座に見抜いた。理由は単純で、黒羽家が普通の家政婦を送り込むはずがないと理解していたからだった。
奈穂は家政婦兼暗殺者見習いとして紹介され、今回の案件が彼女の実地試験であることも明かされた。
小西教団への潜入提案
鰐塚の調査により、司波達也暗殺を請け負ったのが「今よりも人間的な暮らしと社会を実現する会」であることが確定した。
鰐塚は、小西教団の実態について詳しく説明した。構成員による暴力事件や殺人事件への関与が疑われていること、信者が小西へ異常な忠誠を示していること、さらに背後に華僑マフィアの存在が噂されていることなどが語られた。
また、洗脳には薬物以外の方法が使われている可能性も示された。罪悪感や孤独感を利用し、人を狂信者へ変えているのではないかと鰐塚は推測していた。
その話を聞いた奈穂は、教団内部へ信者として潜入する案を提案した。自身の幼い外見なら警戒されにくいと主張したが、有希は危険すぎるとして即座に却下した。
しかし奈穂は、有希と同じく戦闘訓練を受けていると反発し、有希も挑発に乗る形で腕試しを宣言した。こうして情報共有の場は、二人の実力確認へと発展していった。
[3]
有希と奈穂の模擬戦
有希と奈穂は、黒羽家が東京郊外に保有する訓練施設で模擬戦を行った。
殺し屋同士の戦闘は、広い空間での正面戦闘ではなく、限られた屋内空間で隠密行動と不意打ちを競う形式が基本であった。そのため二人は、廃墟化した訓練用ビル四階を舞台に戦うことになった。
先行役を選んだ奈穂は、一分後に追跡を開始した有希から完全に気配を消していた。有希は索敵能力に自信を持っていたが、奈穂の隠密技術を高く評価した。
有希は全方位へ殺気を放ち、奈穂の反応を誘発した。奈穂は気配を乱さなかったものの、囮の音へ注意を向けた隙に側面から奇襲を仕掛けた。
奈穂はスローイングナイフで牽制した後、ファイティングナイフで接近戦へ持ち込もうとした。しかし有希は、瓦礫を蹴り飛ばして奈穂の体勢を崩し、一瞬の隙を突いて喉元へナイフを突きつけた。
奈穂は敗北を認め、有希は身体強化を使わずに勝利した。
潜入作戦を巡る対立
模擬戦後、有希は奈穂の潜入案を改めて却下した。
奈穂は悔しさを隠せなかったが、事前に決めた条件として、有希に実力で勝てなければ潜入を諦めると受け止め、命令へ従う姿勢を示した。
しかし涙目で睨む奈穂を見た有希は、年下の少女への扱い方に戸惑いながらも、彼女の意見自体には理があると認めた。そして小西教団への潜入は、自分が行うと宣言した。
鰐塚は危険性を理解していたが、洗脳の仕組みを早急に解明する必要性も否定できず、有希を止め切れなかった。
司波達也への尾行
五月十五日の夕方、有希は司波達也を尾行していた。
目的は護衛ではなく、小西教団が送り込む実行犯を発見することだった。有希は、小西教団がこれまで行ってきた犯行が、自爆覚悟の狂信者による特攻型であることを理解していた。
彼女は、なぜ一般人がそこまで死を恐れなくなるのか疑問を抱き、薬物の使用も疑っていた。しかし決定的な答えは得られず、内部へ潜り込む必要性を改めて感じ始めていた。
駅前での襲撃
司波達也が妹と後輩と共に駅前でコミューターを待っていた時、小西教団の男たち八人が接近した。
一般人たちは彼らから暴力の気配を察知してその場を離れたが、有希は達也の視界へ入ることを恐れ、直接介入をためらっていた。
やがて七人の男が同時に襲い掛かった。しかし達也は、ほぼ一撃ずつのカウンターだけで全員を行動不能へ追い込んだ。
さらに残った一人が起爆装置を持って突撃したことで、有希は自爆攻撃だと悟った。倒れた七人も爆弾を装備しており、達也へ取り付いた状態で爆破する計画だったのである。
達也による爆弾無力化
爆弾による自爆攻撃が実行される寸前、達也の掌打が最後の男へ叩き込まれた。
その直後、男たちが所持していた爆弾は爆発せず、起爆装置や配線、アンテナなどが分解された状態で路上へ散乱した。有希は、爆弾そのものが魔法によって解体されたのだと理解した。
有希は以前、司波達也が銃弾を素手で粉砕する光景を目撃していたが、今回の魔法はそれ以上に理不尽で不気味なものに感じられた。
現代魔法が理論に基づく技術だと知っている有希にとっても、達也の力は御伽噺のような異質さを持っていた。そして過去に植え付けられた恐怖が、改めて彼女の中で蘇っていた。
小西蘭の苛立ち
襲撃失敗の報告を受けた小西蘭は、表面上は冷静に振る舞っていたが、内心では激しい苛立ちを抱えていた。
彼女は、今回の作戦を単純な暗殺目的だけでなく、街中で魔法師を狙った爆破事件を発生させ、世論の反魔法感情を煽るために利用していた。
そのため爆弾が不発に終わったことは、単なる失敗以上に痛手だった。しかも起爆装置が同時に分解された原因も把握できず、司波達也本人以外に護衛の魔法師が存在する可能性まで疑い始めていた。
小西は、周公瑾が裏で別の目的を持っていることも薄々察しており、今回の依頼が単純な案件ではないと感じていた。
しかし彼女には十分なプロの殺し屋戦力が無く、従来どおり狂信者を大量投入するか、高額を払って外部暗殺者を雇うかという苦しい選択を迫られていた。
[4]
奈穂との共同生活
司波達也たちの尾行を終えて帰宅した有希は、奈穂の存在を一瞬忘れていた。
奈穂は夕食としてクリームシチューを用意しており、有希を自然に迎え入れた。有希は奈穂の料理を完食した後、食材の購入方法を問い質した。
すると奈穂は、黒羽文弥から預かった法人用ゴールドカードを提示し、生活費はそこから出していると説明した。さらに文弥からは、有希へ栄養バランスの良い食事を取らせるよう命じられていた。
有希は照れ隠しのように軽口を叩いたが、奈穂が模擬戦の敗北を引きずる様子を見せず、本心から笑っているように見えたことへ戸惑いを覚えていた。
鰐塚との情報共有
その後、有希は鰐塚と通信を行った。
鰐塚は亜貿社の専務から呼び出されていたが、案件が司波達也絡みである以上、状況確認を優先していた。
有希は、駅前での襲撃事件を振り返り、司波達也には護衛など不要だと断言した。自分程度の暗殺者が束になっても勝てず、達也へ傷を負わせられる相手なら、自分の方が犬死にするとまで語った。
その一方で、有希は司波達也が関与してきた過去の大規模事件を思い返し、高校生とは思えない危険人物だと内心で毒づいていた。
小西教団への潜入準備
有希は、防御ではなく攻勢へ転じると決め、小西教団への潜入を進める方針を固めた。
鰐塚へは教団の活動予定や行動パターンの調査を依頼し、デモ活動や街宣行動を利用して接触する案を示した。
また、有希は奈穂に対し、暗殺依頼人側の情報も追うよう指示した。岩切来人の死後も暗殺計画が継続していることから、依頼人は複数存在していると判明したためである。
鰐塚は、岩切を含めた中堅電力会社七社の裏工作担当者たちが同盟関係にあることを明かし、有希へ関係者リストを送信した。
文弥と亜夜子の推測
その頃、黒羽文弥は姉の亜夜子と共に、達也襲撃事件について分析していた。
二人は、自爆テロに使用された爆薬が一般人には入手困難な軍用系爆発物である点に注目し、小西教団の背後により大規模な犯罪組織が存在すると推測した。
また、文弥は有希だけに任せるべきではないと判断していたが、それは四葉真夜の命令に反する可能性もあった。亜夜子は屁理屈だと呆れながらも、文弥を止めようとはしなかった。
奈穂の独自行動
翌朝、有希は奈穂に特殊目覚まし機能で強制的に起こされた。
文句を言おうとした有希だったが、奈穂は既に外出しており、仕事へ向かったという置き手紙だけが残されていた。
奈穂は独断で、暗殺依頼側窓口となっている赤石ジュールへの接触を開始していたのである。
赤石ジュールの不安
赤石ジュールは、中堅電力会社で裏工作を担当する人物だった。
彼は高校時代から裏社会との繋がりを持ち、違法工作専門として活動していた。しかし岩切来人暗殺以降、自分も次の標的になるのではないかという恐怖に苛まれていた。
岩切と赤石を含む七人は、司波達也暗殺計画を共同で進めていた。そのため赤石は、達也暗殺依頼と岩切殺害が関係している可能性を強く疑っていた。
強い不安を抱えながらも、赤石は日常的なストレス発散として利用している店へ向かった。
奈穂による接触工作
奈穂は赤石の行動を尾行し、後日狙撃するつもりで店へ潜入していた。
本来の計画では、赤石へ直接接触せず行動パターンだけを把握する予定だった。しかし赤石は予想外に幼い奈穂へ興味を示し、自ら声を掛けてきた。
奈穂は「チホ」と名乗り、子供っぽい少女を演じながら赤石へ接近した。暗殺訓練で叩き込まれた笑顔と演技によって、赤石の警戒を解いていった。
やがて二人は街へ出掛け、買い物や食事を重ねた後、高級ホテルへ移動した。赤石は奈穂へ酒を飲ませて酔わせたつもりでいたが、奈穂は事前に対策を施していたため正気を保っていた。
赤石暗殺
ホテルの浴室へ向かった赤石に対し、奈穂は暗殺を実行した。
奈穂は足利義輝の辞世の句を起動式として魔法を発動し、シャワーの水滴一つを弾丸化した。強化された水滴は赤石の左耳から脳へ到達し、内部で破裂することで即死させた。
この魔法は事象改変の規模が極小だったため、ホテル側の魔法センサーにも感知されなかった。
任務を終えた奈穂は、髪型や服装を元へ戻し、何事も無かったかのようにホテルを後にした。
[5]
奈穂の初任務後の動揺
午後に帰宅した奈穂は、有希から顔色の悪さを指摘された。
奈穂は仕事中に幼い少女を装い、男を油断させるための格好をしていたことを明かした。有希はその説明から、奈穂が誰かを殺してきたと即座に察した。
奈穂は、赤石ジュールを殺害したこと、当初は下見だけの予定だったが犯されそうになったため現場で決行したことを説明した。初めての実戦任務ではなく、訓練で一人殺した経験があったものの、精神的な負担は大きかった。
有希は、自分も最初の殺しでは眠れなかった経験を語り、奈穂を過度に責めることはしなかった。そして殺しに慣れていくことの危うさを内心で感じながらも、奈穂を気遣っていた。
魔法による暗殺手口
奈穂は、凶器を使わず魔法だけで赤石を殺害したと説明した。
有希は、奈穂がCADを持っていなかったことから手法を不思議がったが、奈穂は「CADを使わなくて良いマル秘技術」とだけ答え、詳細は伏せた。
その後、奈穂はコーヒーを淹れ直し、有希との会話は一旦打ち切られた。
赤石ジュール殺害事件の発覚
赤石の死体は、ホテル側がチェックアウト時刻になっても応答がないことを不審に思い、部屋へ入ったことで発見された。
当初は脳梗塞や心臓麻痺が疑われたが、後の解剖で耳内部から頭蓋骨を貫通する微細な穴が発見され、殺人事件として扱われることになった。
しかし凶器は発見されず、現場の想子センサーにも反応が残っていなかったため、警察は犯行手段を特定できず混乱していた。
ホテル側の証言から、被害者が未成年と思われる少女を連れ込んでいたことは判明していたが、監視カメラ映像には顔が映っておらず、街路カメラの使用許可も下りにくい状況だった。
鰐塚による状況分析
鰐塚は、有希と奈穂へ赤石事件の捜査状況を報告した。
彼は、赤石がホテルの常連だったため従業員も異常を見逃していたこと、奈穂の魔法が極小規模で想子センサーへ反応しなかったことなどを分析した。
その結果、警察は依然として「若い女と一緒にいた」という段階までしか掴めておらず、奈穂へ捜査の手が及ぶ可能性は低いと判断された。
さらに鰐塚は、小西教団の活動予定も調査済みであり、国会議事堂前を通るデモ活動への潜入案を有希へ提示した。有希は嫌そうな反応を見せつつも、その案を受け入れる方向で考え始めていた。
文弥による奈穂への評価
鰐塚の報告中、黒羽文弥から通信が入り、奈穂の行動について確認が行われた。
文弥は、奈穂が実戦で成果を上げたことで「暗殺者として戦力になる」と認め、本家への帰任希望があるなら取り計らうと提案した。
しかし奈穂は、有希を一人にしたくないと主張し、任務継続を願い出た。彼女は、有希の生活習慣が改善し始めていることを具体的に挙げ、自分がいなくなれば再び自堕落な生活へ戻ると熱弁した。
有希は仏頂面で不満そうにしながらも否定はせず、文弥も奈穂の訴えを受け入れた。
こうして奈穂は、有希のマンションで引き続き任務へ参加することになった。
[6]
黒羽姉弟の東京入り
土曜日の夕方、黒羽文弥と亜夜子は浜松から東京へ移動した。
二人は黒羽家が実質所有するホテルの隠しスイートルームへ入り、黒川白羽から小西教団に関する資料を受け取った。資料を確認した後、二人は夜の活動に向けて念入りな変装を施した。
亜夜子は外国人風の外見へ変装し、文弥は普段通り女性姿へ変装した。黒川もハイヤー運転手に扮し、三人は池袋の繁華街へ向かった。
小西教団の資金源への襲撃計画
移動中、黒川は小西教団の武器調達ルートを潰す方法について、文弥と亜夜子へ問い掛けた。
文弥は武器保管庫の襲撃を提案し、亜夜子は取引相手への制裁を考えた。しかし黒川は、闇取引に必要な現金や無記名資産を奪うことこそ有効だと説明した。
その結果、教団の隠し金庫を襲撃し、武器購入資金を断つ方針が決定された。文弥は当初こそ悔しさを見せたが、最終的には黒川の説明を受け入れた。
池袋事務所襲撃の影響
翌日、小西蘭は池袋の隠し事務所が襲撃を受け、武器購入用の現金と無記名マネーカードを全て奪われたという報告を受けた。
事務所には厳重な警備が施されていたが、犯人は魔法とも機械工作とも判断できない手法で監視網を突破していた。防犯カメラはノイズ化され、警備員たちは正体不明の攻撃で無力化されていた。
小西は、司波達也側の勢力による報復ではないかと疑ったものの、想子センサーに反応が残っていないことから断定できずにいた。
さらに武器調達資金を失ったことで、外部の殺し屋を雇う計画も断念せざるを得なくなった。
国会前デモへの潜入
五月二十日、有希は国会議事堂前で行われる小西教団主導のデモへ潜入した。
デモ隊は魔法反対を訴えながら行進していたが、一部の若者たちは警官隊へ突撃し、小競り合いへ発展した。
混乱の最中、一人の若い女性が警官隊とデモ参加者に挟まれて倒れ、さらに後続の参加者に踏みつけられた。
有希は即座にデモ隊へ飛び込み、身体強化能力を使って混乱を突破し、負傷した女性を救出した。その様子は報道陣にも撮影されていた。
ハナとの接触
救助後、有希は「ハナ」と名乗る若い女性から声を掛けられた。
ハナは、負傷者を助けるために危険を顧みず飛び込んだ有希を称賛し、有希も「魔法の危険性を見過ごせなかった」と同調する姿勢を見せた。
その結果、ハナは有希へ強い親近感を抱き、「ナッちゃん」と愛称で呼び始めた。警戒心の薄い態度に有希は内心で警戒を強めつつも、小西教団内部へ近付く好機だと判断していた。
青山の喫茶店での会話
ハナは有希を青山の喫茶店へ連れて行った。
有希は、店が教団の拠点ではないかと一瞬疑ったものの、焦りすぎだと自制した。
そこでハナは、自分がフィリピンとのハーフであり、本名は山野ハナだと明かした。一方、有希は「ナツ」とだけ名乗り、個人情報を伏せたまま会話を続けた。
また、ハナは有希を十五歳前後だと思い込んでおり、有希が十九歳だと知ると大きく驚いた。有希は内心で複雑な感情を抱きながらも、小西教団潜入のため平静を装い続けていた。
[7]
小西蘭による反魔法思想の宣伝
国会前デモの後、小西蘭は地上波テレビのインタビューを受けていた。
小西は、魔法は銃や爆弾と同じく容易に人を殺せる危険な力であり、一般市民は魔法師に対して無力だと主張した。そして魔法師と一般人は住み分けるべきであり、魔法師専用の居住区を政府が用意するべきだと訴えた。
彼女にとって重要なのは、警察との衝突そのものではなく、団体名と思想を世間へ浸透させることだった。その目的は、デモがニュースとして報道された時点で既に達成されていた。
次なる刺客の選定
代表室へ戻った小西は、団体構成員の名簿を確認し、新たな司波達也暗殺要員を選別していた。
前回の男性中心の襲撃が失敗したことから、今度は若い女性だけで構成された攻撃隊を編成する方針へ切り替えていた。
小西は五人の女性信者を選び出し、後ほどセミナー室へ集めるよう指示した。
ハナの過去と魔法への恐怖
喫茶店で会話を続けていた山野ハナは、自分が魔法を嫌う理由を語り始めた。
彼女は前年の横浜事変の記録映像を見たことで、人間が破裂し、目が焼け爛れるように死んでいく光景へ強い恐怖を抱いたと説明した。
ハナにとって、魔法師は単なる人殺しではなく、人間を簡単に壊せる異質な存在だった。有希はその言葉へ表面上同調しながらも、彼女の恐怖にはそれ以上の個人的事情があるのではないかと感じ取っていた。
小西教団本部への潜入
有希は、ハナの案内で『今よりも人間的な暮らしと社会を実現する会』本部へ入った。
教団本部は青山通り近くの古い中層ビルであり、短期間で取得できる規模の建物ではなかった。有希は背後に大きな支援勢力の存在を察していた。
内部では、構成員たちが本名を避けて活動していることも判明した。政府や社会からの監視を警戒しているためであり、ハナは有希へ本名を教えた理由について、莉子を助けてくれた恩返しだと説明した。
有希は、ただの顔見知りのためにそこまで感情を動かせるハナの価値観を理解できず、同時に少し羨ましくも感じていた。
亜夜子による監視
その頃、黒羽亜夜子は魔法で存在感を薄めながら、有希を密かに尾行していた。
亜夜子は、小西教団本部へ潜入した有希を確認したものの、自身が内部へ侵入することは避け、有希からの報告を待つ方針を選んだ。
彼女は文弥と通信を行いながら、当面は監視に徹する判断を下していた。
小西蘭と有希の対面
有希はハナに連れられ、小西蘭本人との面会へ進んだ。
小西は、有希を一目見た瞬間に、彼女がただの少女ではなく暴力の専門家だと見抜いていた。そしてハナを部屋から下がらせ、有希だけを隠し応接室へ案内した。
その部屋は薄暗く、振り子時計の音が響き、ロッキングチェアや香り付きのハーブティーによって精神を緩める空間として作られていた。
有希は毒物を警戒して身体強化能力で匂いを確認したが、危険な薬物反応は検出できなかった。しかし部屋全体の雰囲気によって、次第に緊張感を削がれていった。
邪眼による洗脳
会話を続ける中で、小西は魔法師を社会から排除すべきだと語り続けた。
有希は反論を思い浮かべながらも、気付かない内に小西の言葉へ同調し始めていた。ロッキングチェアの揺れ、振り子時計の音、ハーブの香気、薄暗い照明が重なり、有希の意識は徐々に支配されていった。
そして小西は、本物の「邪眼」を発動した。
その能力は、視線を媒介として相手の意識へ干渉する異能であり、催眠術的な舞台装置を組み合わせることで完全な精神支配を成立させる力だった。
有希は警戒していたにもかかわらず、小西の術中へ落ち、意志の光を失った。
その後、小西は有希へ本名と職業を問い掛け、有希は「榛有希」「殺し屋」と正直に答えてしまった。さらに、五年間の暗殺経験を持つことまで明かし、小西は邪悪な笑みを浮かべていた。
[8]
亜夜子への作戦変更通達
ホテルへ戻った亜夜子は、文弥と黒川から今夜の作戦変更を告げられた。
当初は小西教団の武器庫襲撃へ同行する予定だったが、黒川は亜夜子の魔法が便利すぎるため、文弥の潜入技能向上にならないと説明した。亜夜子は軽く不満を見せつつも、文弥から有希と奈穂の様子を見に行って欲しいと頼まれ、それを引き受けた。
文弥は、奈穂が初めて実戦暗殺を経験したばかりであり、同性の亜夜子の方が話を聞きやすいだろうと考えていた。亜夜子は茶化しながらも、最後には文弥へ油断を禁じる忠告を与えていた。
奈穂の不安と自己否定
有希が外出した後、奈穂は一人で家事を終えながら、自身の将来について思い悩んでいた。
彼女は前回の暗殺からまだ四日しか経っておらず、人を殺した感触への嫌悪感を拭い切れていなかった。また、自分が「桜シリーズ」でありながら防御魔法に適性が無く、一度落第した調整体であることに強い劣等感を抱いていた。
そんな時、亜夜子がマンションを訪問した。奈穂は四葉家本家に近い存在である亜夜子へ強い緊張を抱き、粗相をすれば廃棄されるのではないかと怯えていた。
亜夜子による奈穂への対話
亜夜子は奈穂へ穏やかに接しながら、暗殺者としてやっていけそうかを問い掛けた。
奈穂は強がりながらも、自分は「不良品」であり、利用価値が無ければ処分されると思っていた本音を吐露した。これに対し亜夜子は、四葉家は身内には甘く、魔法を使えるという事実自体に価値があると語った。
さらに亜夜子は、魔法は道具であり、用途は後からいくらでも見つかると説明した。奈穂は完全には不安を拭えなかったものの、暗殺者として「今はまだ続けられる」と答えた。亜夜子は、その「今は」「まだ」という言葉へ静かに注目していた。
小西蘭による有希への暗示
その頃、有希は小西蘭の邪眼によって四つの暗示を植え付けられていた。
内容は「魔法師を殺す」「司波達也を殺す」「明日も小西の元へ行く」「小西に命じられたことを思い出してはならない」というものだった。
小西の邪眼は本物の精神干渉能力であったが、一度だけでは完全な洗脳に至らない欠点があった。そのため彼女は、時間を掛けて複数回暗示を重ねる方式を取っていた。
小西自身は、その不完全さを自覚しながらも、魔法師として認められなかった劣等感を、魔法師への憎悪へ変えていた。
有希の暴走
有希が帰宅すると、ダイニングには亜夜子の姿があった。
有希は最初こそ彼女を思い出せなかったが、記憶を探る内に「黒羽亜夜子」「魔法師」という認識へ辿り着いた。その瞬間、小西による暗示が蘇り、「魔法師は消さなければならない」という命令が意識を支配した。
有希は即座にナイフで奈穂へ襲い掛かった。しかし亜夜子が叫び、奈穂も反射的に回避したことで致命傷は避けられた。
その後、有希は卓上の椅子やテーブルを利用しながら亜夜子へ接近した。亜夜子は疑似瞬間移動を用いて奈穂を抱えて退避し、反撃を行いながら非常階段へ逃走した。
奈穂の狙撃魔法
逃走中、奈穂は折り畳み傘を展開し、内部機構を使った狙撃魔法を発動した。
彼女は辞世の句を起動式として読み上げ、「フラッシュ・キャスト」によって記憶領域から直接魔法式を展開した。
放たれた水滴弾は、有希の足を浅く抉り、追撃速度を低下させた。奈穂は自分の攻撃を外したと謝罪したが、亜夜子は十分な成果だと評価した。
奈穂は、CADを持たずに魔法師であることを隠蔽する方向で育成された存在であり、その特性が今回の狙撃にも活用されていた。
亜夜子の迎撃魔法
屋上へ到達した有希へ対し、亜夜子は迎撃魔法「フェザー・ラッシュ」を発動した。
黒い羽根へ慣性操作を施し、接触直前に運動エネルギーを増幅することで、多数の鞭のような打撃を叩き込む魔法だった。
攻撃魔法を苦手とする亜夜子が、接近阻止用として編み出した技であり、有希は空中で勢いを削がれ、亜夜子へ届く前に地面へ叩き落とされた。
その隙に亜夜子は奈穂を抱え、疑似瞬間移動によって数百メートル離れた別のマンション屋上へ退避した。
洗脳下の有希
取り残された有希は、肉体的損傷こそ軽傷で済んでいたものの、精神面では依然として小西の暗示支配下に置かれていた。
彼女は「魔法師を殺せ」「司波達也を殺せ」という命令に縛られたまま、自室へ戻った。
足の治療や着替えを行う程度の判断力は保っていたが、自分が何を目的として行動すべきかという根本的な意思は、小西蘭の邪眼によって歪められたままだった。
[9]
司波家へ向かう有希
五月の夕方、有希は司波達也暗殺のため司波家へ向かっていた。
彼女は過去に調査した司波家の位置を覚えており、今回は徒歩で接近していた。しかし家へ近づくにつれ、動悸や冷や汗、足の重さなど異常な身体反応が現れ始めた。
本来なら恐怖による拒絶反応だと理解できる状態だったが、小西蘭の暗示に縛られた有希はそれを自覚できなかった。彼女は「魔法師を殺せ」「司波達也を殺せ」という強迫観念に従い、無理矢理前進していた。
司波達也との対峙
司波家へあと数ブロックという地点で、達也たちが自宅から姿を現した。
達也の背後には深雪と桜井水波も控えており、水波は既に不審な気配を察知していた。
有希は達也を目にした瞬間、完全に身体が硬直した。進むことも逃げることもできない中、唯一動いた右手がファイティングナイフを抜き放った。
しかし達也は恐怖も警戒も見せず、「次に姿を見せれば消すと言ったはずだ」と冷徹に告げた。有希の肉体は本能的に危険を察知し、攻撃動作を途中で停止した。
さらに深雪が前へ出て、有希は文弥の部下であるため消すべきではないと進言した。その美貌と冷気を帯びた存在感は、有希へさらなる恐怖を与えた。
最終的に、有希の生存本能が暗示を上回り、彼女は達也たちへ背を向けて逃走した。その瞬間、小西の暗示は完全に砕け散っていた。
文弥との再会
逃走中の有希は、二年前に「ヤミ」と遭遇した場所へ差し掛かった。
直後、見えない衝撃を腹部へ受けて悶絶し、顔を上げた先で女装姿の黒羽文弥――「ヤミ」と再会した。
文弥は敵意を向けていたが、有希は自分が正気へ戻ったこと、小西の邪眼で操られていたことを必死に説明した。
文弥は話を聞く姿勢を見せ、有希は黒服たちに拘束された状態でドライバンへ連行された。車内で行われた簡易尋問の中で、有希は小西教団内部の状況と洗脳手法について詳細を説明した。
小西蘭の邪眼の正体
有希の証言から、小西蘭の能力は「邪眼」と呼ばれる精神干渉系異能であることが判明した。
ただし完全な精神支配能力ではなく、催眠術用の舞台装置を併用することで洗脳効果を成立させていた。
隠し部屋の暗い照明、振り子時計、ロッキングチェア、ハーブティーなどは全て催眠誘導のための仕掛けだったのである。
文弥は、小西の力は不完全であり、通信機能付き耳栓や強い光を抑えるサングラスで十分対策可能だと判断した。また、有希が操られていた状況を考慮し、今回の暴走を不問に付すことを決定した。
有希は深く謝罪し、汚名返上のため自ら小西討伐へ同行すると申し出た。
ホテルでの情報共有
文弥は有希を連れてスイートルームへ戻り、亜夜子と奈穂へ事情を説明した。
奈穂は、有希が邪眼へ掛かったことへ呆れた反応を見せたが、亜夜子は被害が軽微だったこともあり、不問で良いと判断した。
その後、文弥は今夜の内に小西蘭を始末すると宣言した。彼は「毒蜂」の実戦訓練台に使うつもりだと語り、必要があれば尋問も行うと説明した。
亜夜子と文弥には人を殺すことへの忌避感がほとんど見られず、奈穂だけがその会話へ強い衝撃を受けていた。
文弥は有希のみを連れて作戦へ向かい、奈穂は亜夜子と共にホテルで待機することになった。
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小西蘭の油断
小西蘭は、隠し部屋で有希への追加洗脳計画を考えていた。
彼女は、有希という「プロの殺し屋」を手駒にできたことへ高揚しており、本来確認すべき所属組織や技能詳細を聞き忘れていたことに気付いていた。
そんな中、教団最大の武器庫が襲撃され、大量の銃器と爆薬が奪われたうえ、残存武器も焼失したという報告が入った。
小西は警戒を強め、倉庫警備へ人員を回した一方、本部防衛には司波達也暗殺用に選抜した女性信者五人を「人間の盾」として配置した。彼女は、自分へ直接危害が及ぶ可能性を軽視していた。
黒羽家による教団本部襲撃
一方、黒羽文弥たちは小西教団本部への突入作戦を開始した。
参加者は文弥、有希、黒川を含め十三人。複数チームに分かれて時間差侵入を行い、まず電源室を制圧して館内を停電状態へ追い込んだ。
その後、各チームが警備員と事務員を無力化し、文弥たちは正面玄関から代表室前へ到達した。
文弥は、有希へ停止した自動ドアを力尽くで開かせ、黒川を先行させた。室内では女性たちがボウガンによる待ち伏せを行っていたが、黒川の忍術「空蝉の術」により奇襲は失敗した。
文弥による非殺傷制圧
文弥は、待ち伏せしていた女性信者たちが小西の暗示で操られていると察した。
彼は、洗脳された女性たちを殺すことへ強い抵抗を覚え、「ダイレクト・ペイン」による非殺傷制圧を選択した。
精神へ直接激痛を与える魔法によって、女性たちは次々と意識を失った。結果は死者一名、失神者四名、負傷者ゼロだった。
有希は、自分だけ見張り役へ回されたことに不満を見せたが、文弥は暗示残存の可能性を理由に彼女を戦線から外した。
小西蘭の拘束
代表室へ突入した文弥と黒川は、壁の向こうに隠された小西蘭の気配を感知した。
文弥は隠し部屋へ向けて「ダイレクト・ペイン」を放ち、小西へ強烈な痛みを与え続けた。耐え切れなくなった小西は、自ら隠し部屋から這い出した。
文弥は、小西が香港マフィア『無頭竜』の日本側協力者「西小蘭」であることまで把握していた。
そして小西へ、司波達也暗殺依頼の仲介人について尋問を開始した。
ハナの正体
その頃、有希は気絶している女性信者たちを監視していた。
そこで彼女は、潜入時に接触した女子大学生・ハナが混じっていることへ気付いた。有希は、ハナも小西に利用されていた事実へ陰鬱な感情を抱いていた。
しかし次の瞬間、ハナは突然目覚め、有希へナイフで襲い掛かった。
ハナは、昼間の無邪気な女子学生とは別人のような態度を見せ、自分がフィリピン・ミンダナオ島マラウィのスラム出身であることを明かした。
彼女は、日本人の父を持ちながら、証明書類不足で帰化を拒否された過去を持っていた。一方、魔法師適性を持つ知人が容易に日本国籍を得たことへ強烈な不公平感を抱き、それが魔法師憎悪へ繋がっていた。
ハナとの決着
ハナは、魔法師の存在しない世界へ行きたいと涙ながらに語った。
そして、有希もまた「普通ではない側」の存在だと見抜き、自分を殺してほしいと懇願した。
直後、ハナは最後の刺突を放った。有希は左手でその攻撃を止めると、右手のナイフをハナの心臓へ静かに突き刺した。
有希は、苦痛や死後損傷を最小限に抑える「綺麗な死に方」を選び、ハナを横向きに寝かせた。
文弥は、その行動を見て、有希が本心では安らかな最期を与えようとしていたのだと感じ取っていた。
小西蘭の死
その後、文弥は小西蘭の尋問結果を有希へ伝えた。
小西は、司波達也暗殺依頼の仲介者を白状しかけた瞬間、突如苦しみ始め、その場で死亡した。
さらに背中からは、黒い影のような三十センチほどの芋虫型使い魔が現れ、空気中へ消滅した。
文弥は、大陸系方術による古式魔法の呪殺だと推測した。有希は使い魔という存在に強い嫌悪感を示し、芋虫が苦手だと文弥に見抜かれていた。
作戦終了と有希の後悔
作戦終了後、有希はハナを殺したことへの複雑な感情を吐露した。
生かしておけば気持ちが変わったかもしれないと語りながらも、自分は殺し屋であり、相手が刃を向けた以上は手加減できないと結論付けた。
それに対し文弥は、「正義の味方になる必要はない。自分の部下でいれば良い」と返した。
有希は軽口混じりに自分を道具扱いかと抗議したが、文弥は冗談めかしながら「せいぜい奴隷」と返し、有希はその言葉に本気が混じっていると疑っていた。
[11]
貝塚英吉との偽装取引
五月二十三日、鰐塚は東京湾岸の倉庫街で、中堅電力会社社員・貝塚英吉と接触した。
貝塚は、岩切や赤石の後任として司波達也暗殺計画を引き継いだ人物であり、新たな暗殺依頼を亜貿社へ持ち掛けていた。
しかし亜貿社は既に黒羽家傘下であり、司波達也暗殺を受ける立場にはなかった。それでも無下に断れば疑念を招くため、黒羽家は「依頼を受けるふり」をした上で、依頼人側を処理する作戦を選択した。
鰐塚は、見張り役の存在まで把握しながら、営業マンのような態度で貝塚との会談へ臨んでいた。
有希と奈穂による狙撃作戦
一方、有希と奈穂は、倉庫街周辺で待機していた。
貝塚側が配置した監視役は既に有希が始末しており、奈穂は五十五メートル弱離れた位置から日傘型の魔法狙撃装備を構えていた。
まず奈穂は、本多忠勝の辞世の句を起動式として魔法を発動し、対物シールド付きの血液弾を鰐塚へ撃ち込んだ。
鰐塚は前のめりに倒れたが、これは裏切りを偽装するための演出だった。使用されたのは彼自身の血液であり、対物シールドを着弾直前に解除することで、致命傷を避けていた。
続けて奈穂は、楠木正行の辞世の句を起動式に変更し、今度は貝塚へ本命の狙撃を行った。
水滴弾は魔法シールドによって貫通力を得たまま貝塚の首へ侵入し、内部で魔法解除によって破裂した。貝塚は頸椎と血管を破壊され、即死した。
暗殺計画グループの壊滅
作戦後、有希と奈穂は自宅へ帰還し、そこへ鰐塚も無事姿を現した。
鰐塚は、貝塚の部下たちが主人の死体を放置して逃亡したため、自力で撤収できたと説明した。
今回の作戦によって、司波達也暗殺計画を進めていた七人組のうち、既に三人が死亡したことになる。有希は、残る四人はこれ以上深入りせず手を引くだろうと予測した。
奈穂もまた、以前より精神的動揺を見せなくなっており、有希は今回の任務を「依頼完遂」と総括した。
周公瑾の警戒
その頃、横浜中華街では周公瑾が生き残った電力会社側関係者の動向を確認していた。
周公瑾は、彼らが司波達也暗殺計画から撤退する決断を下したことを把握していたが、不要な始末までは考えていなかった。
しかし同時に、小西教団を襲撃した存在について強い警戒を抱いていた。周公瑾は、その手際が国防軍情報部をも上回ると感じていたのである。
彼は、司波達也そのものよりも、背後に存在する「何者か」の方を脅威視し始めていた。さらに彼の意識は、未確認存在「摩醯首羅」と、別の魔法師勢力へ向けられていった。
警察による不可解な事件捜査
翌日、警視庁捜査一課の梶谷は、倉庫街殺人事件の不可解さへ頭を悩ませていた。
被害者は銃撃のような傷を受けていたが、現場や遺体から弾丸片が一切発見されなかったのである。
梶谷は、同僚の尾山が主張する「センサーに検知されない魔法犯罪」説を否定し切れず、不気味な違和感を抱えていた。
文弥からの任務終了通達
五月二十六日、有希は文弥からホテルへ呼び出された。
文弥は、司波達也暗殺依頼グループが完全撤退したことを伝え、今回の任務終了を宣言した。
ただし、有希には小西蘭の邪眼で操られ、亜夜子と奈穂を襲撃した件の「ペナルティ」が課せられ、報酬は没収扱いとなった。有希は、その程度で済むなら安いものだと受け入れた。
山野ハナの真実
その後、文弥は有希へ、山野ハナに関する追加調査結果を伝えた。
ハナの母親は、半年前の横浜事変で死亡していた。これが、彼女の魔法師憎悪を決定付けた最大要因だった。
さらに父親は、大亜連合対策として活動していた国防軍の非合法工作員であり、既に死亡が確認されていた。
また、ハナが語っていた友人「アンナ」は、日本へ帰化後に国防軍へ入隊していたが、実際には二年前に死亡扱いとなり、現在は軍の魔法研究施設で実験体にされている可能性が高かった。
有希は、平穏な大学生活を送れたハナと、魔法師として利用され続けるアンナのどちらが幸福だったのか、答えの出ない思索へ沈んでいた。
幕間『ある愚か者の消失』
達也による爆弾処理
西暦二〇九六年四月末日、司波達也は都心湾岸地域を訪れていた。
きっかけは、以前取引した有名女優の父親が、反魔法主義者から敵視されていると知ったためであった。達也は、自身に利益をもたらす相手を見殺しにするつもりはなく、関与を悟られない範囲で支援することを決めていた。
その結果、達也はメディア企業へ仕掛けられていた時限爆弾を発見し、「分解」によって内部配線だけを除去して無害化した。彼は匿名通報を済ませた後、現場から立ち去ろうとしていた。
宇佐美夕姫との遭遇
帰路の途中、達也は黒服の男たちに囲まれている少女を目撃した。
その少女は、以前レオと一緒にいた宇佐美夕姫であり、バーチャルアイドルの中の人を務めている人物だった。達也は当初、警察へ通報するだけのつもりだったが、夕姫が助けを求めて彼の名前を叫んだことで状況が変化した。
達也は一一〇番通報を行いながら黒服たちと対峙し、刃物を持って襲い掛かってきた男を前蹴りと肘打ちで制圧した。最後の一人は恐慌状態となって逃走し、夕姫は無事保護された。
その後、警察は達也がCADを所持していたことから当初疑いの目を向けたものの、夕姫の証言と現場証拠により短時間で解放した。
夕姫を巡る調査
事件から二日後、密かに上京していた黒羽文弥は、有希へ今回の件の詳細を説明した。
夕姫は単なる芸能関係者ではなく、「失敗した調整体魔法師」であり、自分の意思で魔法を使えない存在だった。しかし潜在的な魔法因子は保持しており、彼女の子供には魔法師が生まれる可能性があった。
文弥は、資金や技術を持たない組織が魔法師戦力を得るため、潜在的魔法師の少女を攫って繁殖利用しようとしている実態を説明した。そして今回の黒服たちの背後には、フィリピンマフィアが存在していると明かした。
有希は、達也がまた厄介事へ巻き込まれていることへ呆れつつも、黒服たちの始末を引き受けた。
出多興業とフィリピンマフィア
標的となったのは、非指定暴力団「出多興業」であった。
表向きは小規模組織だったが、その実態は少女売買を行う犯罪組織であり、フィリピンマフィアと結託して潜在的魔法師の少女たちを海外へ輸出していた。
社長の三角健三は、フィリピンマフィアのボス、カルロ・カスティーヨと取引を行っていた。彼らの真の目的は、潜在的魔法師少女を軍事利用することであり、表向きの人身売買以上に危険な計画であった。
また三角は、司波達也が九重寺へ出入りしている情報を掴んでおり、達也を「危険な小僧」と警戒していた。最終的に彼は夕姫への接触を断念したものの、達也の家をグレネードで狙う保険まで用意していた。
有希による潜入
五月六日、有希は本牧埠頭の倉庫へ潜入した。
そこには二十人以上の少女が監禁されており、全員が貨物船で海外へ売り飛ばされる寸前だった。有希は少女たちに紛れて監禁場所へ入り込み、金属探知機対策としてガラス製ナイフを隠し持っていた。
その後、三角とカスティーヨが取引を開始した瞬間、有希は行動を開始した。
彼女は側近・杉屋の喉へガラスナイフを突き刺して即死させ、三角へ迫った。しかし直後、コンテナ上に潜んでいた狙撃手たちが一斉射撃を開始した。
有希は身体強化異能と暗殺訓練によって狙撃を回避し続けた。彼女は魔法師ではなかったが、知覚能力と身体能力を極限まで強化する異能を持っていたのである。
文弥の介入
有希が追い詰められかけた時、狙撃手たちは突如全滅した。
そこへ「ヤミ」に変装した文弥が現れ、既にフィリピンマフィアと出多興業を壊滅させたことを明かした。
有希は三角を制圧し、喉元へナイフを突き付けたまま、文弥の指示を待った。
文弥は、本来であれば三角を外務省へ引き渡し、人身売買組織の全容を吐かせる予定だった。しかし三角は、司波達也の家をグレネードで襲撃する手配を済ませていると告げ、自身の解放を要求した。
愚か者の消失
三角は、自分が達也を人質に取ったと思い込んでいた。
しかし文弥は、達也には何も通用しないと冷淡に返した。三角は焦燥のまま暗殺指令を送信したが、その直後、彼の身体は輪郭から崩壊し、小さな鬼火だけを残して完全消滅した。
それは、深雪への殺意という「縁」を辿って達也が発動した分解魔法による裁きだった。
文弥と有希は、その現象を当然の結果として受け止めていた。有希は、かつて達也を敵に回しかけた際に魂へ刻み込まれた恐怖を思い出し、改めて「触らぬ神に祟り無し」と痛感していた。
司波達也暗殺計画(1)レビュー
魔法科シリーズ まとめ
司波達也暗殺計画(3)レビュー
魔法科高校の劣等生 シリーズ 一覧
司波達也暗殺計画



魔法科高校の劣等生 夜の帳に闇は閃く



小説版
魔法科高校の劣等生


























続・魔法科高校の劣等生 メイジアン・カンパニー










新魔法科高校の劣等生 キグナスの乙女たち







漫画版
四葉継承編



師族会議編




エスケープ編

その他フィクション

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