小説【魔法科】「続・魔法科高校の劣等生 メイジアン・カンパニー 8」感想・ネタバレ

小説【魔法科】「続・魔法科高校の劣等生 メイジアン・カンパニー 8」感想・ネタバレ

どんな本?

続・魔法科高校の劣等生 メイジアン・カンパニー」は、佐島勤 氏によるライトノベルシリーズで、司波達也の新たな物語を描かれてる。
達也は一般社団法人『メイジアン・カンパニー』の専務理事に就任し、その組織の目的は、魔法適性はあるものの実用レベルに至らない存在、メイジアンの人権保護の実現。
達也は魔法師が兵器ではなく人間として生活できる新時代へ向け、大学生ながら、確実に歩みを進めている。
彼の影響力は世界中から注目され、魔法師の結社「FEHR」から刺客が送り込まれるなど、新たな騒動が起こる。

8巻の主な出来事

サンフランシスコでの暴動

レナやFEHRの一行がサンフランシスコでの暴動を抑えるための作戦を練る中、暴動は拡大し、混乱が広がる。
スピカ少尉や他の関係者とのやり取り、暴動の拡大に対する達也やカノープスの対応などが含まれる。

真夜との会話

達也が真夜との会話を行い、サンフランシスコの暴動やディーンの魔法について議論する。
真夜の意見や達也の対応について述べられる。

外交特権の取得

達也が外交特権を取得し、米国への渡航が迫る中、明山や風間との対話、特権の経緯や影響についてまとめられる。
この特権取得による達也の立場や対応が記述される。

トラビス空軍基地での到着と会議

達也はトラビス空軍基地に到着し、暴動対策の会議に参加。
暴動の状況や捜査の進展について話し合われた。

リッチモンドでの会議と調査

リッチモンドでの会議後、達也たちは遺跡に向かい、魔法の影響を調査。
暴動の実態を確認し、対処策を模索した。

暴動対策と魔法の影響

達也は暴動が魔法によって引き起こされたと確信し、魔法の影響を調査。
暴徒の精神状態に対処する魔法を模索し、対処策を検討した。

サンフランシスコの暴動

サンフランシスコの暴動は、特にダウンタウンや中華街が激しいエリアで起こっており、暴動のクラスターは商業エリアや高級住宅街、空港などに広がっている。
朱元允の別宅での会議では、ディーンとローラが朱元允と共に国外逃亡の計画を話し合っていた。

レナの魔法と対策

レナは魔法を使いながら暴動を鎮圧し、空港で小型機を使った逃亡を図るディーンの行動を阻止する。
一方、達也はギャラルホルンの対策を考え、レナの力についても研究を進めていた。

ディーンとローラの逃亡

ディーンとローラは様々な手段を使って朱元允の要求に従いつつ、逃亡を図り、最終的に潜水艇に乗り込んで逃走に成功した。
一方、ローラは捕獲され、魔法の研究が進められることになった。

真夜との通話

達也は真夜との通話で、[ギャラルホルン]の問題や[ニルヴァーナ]の副作用について議論し、翌日の遺跡発掘に向かう予定を伝えた。

遺跡の探索中断

達也は遺跡での探索中断後、深雪や未確認魔法研究会のメンバーに出来事を報告し、翌日の同行者を依頼した。

東道と八雲の会話

東道と八雲は達也に関する情報や助力者について話し合い、抜刀隊の出動命令についても言及した。

達也たちの樹海への冒険

達也たちは自走車で樹海に向かい、戦闘服を着用し、遺跡を目指す。
軍や魔法師との戦いが待ち受ける中、達也たちは遺跡へ進む。

達也の洞窟での戦い

達也は洞窟の幻覚の中で戦い、水中での攻撃や広い地下空間での戦闘を繰り広げる。
幻術に引き込まれた達也は試練に立ち向かう。

達也の火山を登る

達也は火山を登る冒険で溶岩の巨人や敵との戦いに直面し、最終的に幻影世界を消滅させる。
達也の勇敢な冒険が描かれる。

遺産の回収

達也は深雪とリーナに長い幻覚を見たことを説明し、祭壇にある三つの鍵を取って遺産の回収を始めるために一旦帰宅するよう指示した。

遺跡の発見者たち

エリカと幹比古は修験者を倒し、樹海に潜んでいた魔法師たちの活動を調査し、達也は光宣と水波に遺跡について報告し、パラサイトを人間に戻す魔法の伝授を行った。

パラサイトの魔法

達也は富士の遺跡について危険性について報告し、パラサイトの魔法や「鏡」について説明し、遺跡の鍵を分散することに同意した。

日本への脅威

朱元允はディーンを使って日本と大亜連合に内乱を引き起こすことを目的とし、ミラー大佐も日本を最優先で対処すべき敵国と考えていた。
ディーンは日本に向けて出発した。

読んだ本のタイトル

#続・魔法科高校の劣等生 メイジアン・カンパニー (8)
著者:佐島勤 氏
イラスト:石田可奈 氏

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あらすじ・内容

暴動に包まれたサンフランシスコ、この危機に達也が立ち向かう!

 サンフランシスコが一夜にして暴動に包まれる。FAIRのロッキー・ディーンが古代遺跡から入手した大規模魔法によって引き起こされたのだ。
 事態を重く見たスターズ総司令官のカノープスはこの状況を打破するために達也に助けを求める。時を同じくしてFEHRのレナ・フェールからも達也に協力の依頼が。
 魔法師の海外渡航は制限を受けるものだが、今回は四葉家の影のスポンサーでもある東道の同意も得ることができた達也。
 何故か国防軍も渡航に協力的で、出国の準備は整った。達也はまたUSNAへと渡り、サンフランシスコの危機に挑む!

続・魔法科高校の劣等生 メイジアン・カンパニー(8)

感想

サンフランシスコの暴動を中心に、達也と仲間たちの活躍が描かれている。ロッキー・ディーンが古代遺跡で手に入れた大規模魔法により、サンフランシスコは一夜にして混乱に包まれた。事態を重く見たスターズ総司令官カノープスは、達也に協力を求め、FEHRのレナ・フェールからも助力が依頼され。
スポンサーの東道の同意を得た達也は、USNAへの渡航準備を整え、堂々と渡航してサンフランシスコの危機に立ち向かう。

達也が現地に到着すると、FEHRのメンバーと共にディーンの魔法「ギャラルホルン」の効果を確認。
この魔法は人々の精神に影響を与え、暴動を引き起こすものであった。
達也はレナと協力し、魔法の解明と対策に努めた。
レナはその能力を活かし、暴動を鎮める魔法を発動し、少しずつ事態を収拾していく。
最終的に、達也はディーンの捕縛には至らなかったものの、彼の魔法の詳細を把握し、今後の対策のための貴重な情報を得た。

物語の終盤では、富士山麓の遺跡から新たな魔法が発見され、水波をパラサイトから人間に戻す儀式が成功することで、シリーズの大きな転機を迎えそうだ。
また、ローラ・シモンがついに捕まったことで、物語はさらに重要な展開を迎えると思われる。
エピローグでは新たな脅威が示唆され、次回作への期待が高まる構成となっている。

今巻は、達也がサンフランシスコの混乱を収束させるために奔走する姿と、レナの大活躍が描かれ、緊迫感と感動を与えてくれた。
全体として、スリリングで読み応えのある内容となっており、達也と仲間たちの成長と活躍が楽しめる作品である。
『続・魔法科高校の劣等生 メイジアン・カンパニー(8)』は、アクションと魔法の要素が絶妙に融合した、エキサイティングな一冊であり、物語の進展に大きな意味を持つ重要な作品である。
シリーズファンにとって見逃せない一冊である。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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備忘録

1 サンフランシスコ暴動

USNAカリフォルニア州、9月22日午後2時。レナ・フェール、遠上遼介、アイラ・クリシュナ・シャーストリー、ルイ・ルーの四人は、オークランド国際空港経由でリッチモンド市に到着した。
彼らはバンクーバーを拠点とする政治結社FEHRの一員であり、対立組織FAIRのリーダー、ロッキー・ディーンとサブリーダーのローラ・シモンの捕縛を目的としていた。
実際に捕らえるのは連邦軍参謀本部直属の特殊作戦軍魔法師部隊・スターズであり、彼らはその隠れ蓑として活動していた。

リッチモンド市外縁の一軒家にFAIRの二人が隠れているとの情報を得たが、現地に到着した彼らは誰もいないことに気づいた。
遼介が人の気配がしないと感じ、レナはそれを確認した。彼らは二人が既に逃げた可能性が高いと推測した。
レナは、この隠れ家がシャスタ山の遺跡にアクセスするための拠点であった可能性を示唆し、ルイ・ルーは手掛かりが残っていないことを嘆いた。

アイラは「ミレディ」と呼びかけ、サイコメトリの使用を提案したが、レナは自信がないと答えた。
遼介はスターズの士官に相談することを提案し、レナは消極的ながらもそれを了承した。

レナにリッチモンド行きを勧めたのはスターズのスピカ少尉である。
少尉はレナに電話番号を伝え、「必ずつながる」と断言していた。実際に電話をかけると、すぐに接続できた。
しかし、ディーンが隠れていたとされる民家への立ち入りは許可されなかった。
スピカ少尉は所有者からの承諾が得られなかったと説明したが、実際は警察との交渉が難航したのだろう。
軍が指名手配犯の捜索に出るのは警察にとって容認しがたいものであり、無名の政治結社を率いる民間の魔法師を家に入れることはなおさらである。

この結果に対して遼介は司法当局に不満を漏らしていたが、レナは内心安堵していた。
レナのサイコメトリの能力は悪くないが、本人には自信がなかったからである。
FEHRの一行はスピカが予約したホテルに向かい、ディーンたちの逃亡先を推理する手がかりもなく、方針を決めかねていた。

レナの星気体投射は自由に飛べるわけではなく、敵を捜索するのには不向きであった。
ルイ・ルーの魔法は狭い範囲の偵察には適しているが、広範囲の捜索には向かない。
アイラの魔法は広い範囲をカバーできるが、一人に絞るのは難しく、長距離知覚の魔法もない。
遼介は近距離戦闘に特化しており、探偵役は無理だった。

四人はリッチモンドに留まる意味がないと結論づけ、翌日バンクーバーに戻ることにした。
しかし、その予定は夜更けに変更された。
午後11時過ぎ、レナは南南西の方角で破滅の角笛の音を聞いた。
それはディーンがラ・ロの遺跡で手に入れた先史時代の凶悪な魔法を発動した気配であった。

9月22日午後11時過ぎに発生した暴動は、当初は小規模な暴力事件であった。
しかし、暴動は急速に拡大し、サンフランシスコ主要部全域に広がった。
FEHRの一行にスピカ少尉を加えた5人は、サンフランシスコ・オークランド・ベイブリッジの手前でサンフランシスコ市街地の火災を見つめていた。

レナは先史超古代魔法の発動を感知し、全員に声を掛け、スピカを電話で呼び出し、車を用意させた。
レナは「この魔法は放置できない」と確信し、サンフランシスコに向かうようスピカに求めた。
しかし、スピカは暴動と火災の混乱の中に突入するのは危険と判断し、拒否した。

レナはスピカに車を貸すよう要求したが、スピカは安全を理由に拒否し、詳しい状況が判明するまで待つよう求めた。
レナは「放っておいたら、ますます酷いことになる」と主張したが、スピカはレナが暴動を鎮めたり火を消すことができるかを問い、レナは「分かりません」と答えた。
その瞬間、対岸で爆発音が轟き、遼介はレナに諦めるよう促した。
ルイ・ルーが「戻ってください」とスピカに告げると、スピカは即座に自走車をUターンさせた。

リッチモンドのホテルに戻ったレナは落ち着きを取り戻し、「先程はすみませんでした」とスピカに謝罪し、アイラに肩を抱かれ部屋に戻った。

達也がサンフランシスコで暴動が発生したことを知ったのは、9月23日木曜日午後6時であった。
情報源はUSNA発のニュースであり、オークランドから全米ネットのテレビ局がリアルタイムで情報を発信していた。
達也はこの暴動とラ・ロの遺跡を結び付けた。
レナはFAIRのディーンが遺跡で獲得した魔法を「ディオニュソス」の上位互換と推測していた。

「ディオニュソス」は酔ったような群集心理を引き起こし、煽動を助ける魔法であり、理性の抵抗力を奪うものである。
負荷が少なく、大人数を対象にしても負担が小さいため、大衆を唆すには適していると考えられる。
レナの推測が正しければ、ディーンが手に入れた魔法は「ディオニュソス」の上位互換であり、大都市規模の暴動を引き起こすことが可能かもしれないと達也は考えた。
暴動はさらに拡大する可能性があり、USNA全体に影響を及ぼすかもしれない。

達也はUSNAニューメキシコ州のカノープスとカリフォルニア州のレナから電話を受け、通信室に移動した。
カノープスはディーンが先史時代の魔法を使用して暴動を引き起こしたと考えており、ディーンは捕らえられていないと述べた。
達也はUSNAが個人の固有の信号を捕捉する技術を有していると推測していたが、ディーンは魔法によって信号が変質したため追跡が難しいという。

達也はラ・ロの魔法が使い魔によって魔法師の精神を改造し、魔法を植え付けるものである可能性を考えた。
カノープスはディーンの逃亡に三合会が関与していると述べ、捜査はその線で進められていると説明した。
達也はスターズの方針について尋ね、カノープスは暴動の原因究明と再発防止を重視していると答えた。
達也はラ・ロの魔法について調査するため、協力を求められた。

達也は渡米を希望したが、独断で決められないため少し時間を要すると述べ、カノープスから暴動に関する情報を提供するよう依頼した。
カノープスは情報を後でメールすることを約束し、達也は通話を終えた。

藤林に遅い時間に仕事の話をするのは避けた達也は、サンフランシスコの状況を調べるよう指示するメールを送った。
翌朝、藤林からの詳細な報告書とスターズから提供された現地のレポートを確認しながら朝食を終え、達也はレナに国際電話をかけた。
現地時間は午後三時であり、レナはホテルにまだ滞在していた。

レナは電話で、サンフランシスコの暴動はロッキー・ディーンが遺跡で手に入れた魔法によるものだと説明し、達也もそれを認識していた。
レナは「異質な魔法」と感じたと語り、それは二つ以上の意志を持つものであり、人間の魔法師と亡霊のようなものの意志が含まれていたと述べた。
この説明に達也は驚き、レナの感覚が超感覚に馴染んでいることを理解した。

ディーンの魔法による変質についても議論し、達也は魔法が魔法演算領域を占有するだけでなく、精神を変質させる性質があると考えた。
また、魔法発動に連動して残留思念が顕在化し、変質が進行する可能性を考察した。

レナは達也にディーンを止めるための助力を求め、彼の力でサンフランシスコの暴動を食い止める方法を見つけてほしいと訴えた。
達也は長期間日本を離れることはできないが、できる限りの協力を約束し、レナはその答えに感謝した。

レナの依頼がなくても、達也はサンフランシスコに行く予定であったが、その前に解決すべき手順があった。
適当なタイミングで四葉本家に電話をかけたが、真夜とも葉山とも話すことができなかった。
朝の九時まで待ったが、二人は予想以上に忙しかったようであり、四葉本家もサンフランシスコの暴動対応に苦慮している可能性があった。

一応、電話に出た使用人に伝言を残したところ、昼前に葉山から連絡があった。
葉山は「明晩七時に直接話したい」と真夜が希望していることを伝えた。
達也は「明日の午後七時に本家でよろしいか」と確認したが、葉山は「東京で会う」と答え、有名ホテルの名前を告げた。それは真夜が東京で定宿にしているホテルであった。
葉山はロビーで待っていると述べ、達也は了承の返答をし、葉山はヴィジホンの画面越しに頭を下げた。

達也が約一週間ぶりに東京の自宅に帰ると、深雪は丁寧にお辞儀をしながらも、少しよそよそしい態度を見せた。
彼女が大学に通っている間、二人は別行動であり、ヴィジホンでのやり取りはあったものの、実際に会うことはなかったため、深雪は少し拗ねていた。
達也は「ただいま」と言いながら深雪を抱き寄せ、彼女は抵抗せず、少し安心した様子を見せた。

達也はリビングで深雪が淹れたコーヒーを飲みながら、サンフランシスコの暴動について説明した。
深雪は、達也が渡米することには反対せず、大規模な暴動を引き起こす魔法の危険性を理解していた。
彼女は「叔母が東京に来る」と聞き、自分も同行するべきか尋ねたが、達也は一人で行くと言い、深雪はそれに納得した様子であった。

深雪は以前、達也を冷遇する真夜に敵意を抱いていたが、婚約を機にその敵意は消え、現在は真夜に対して苦手意識を持つようになっていた。真夜の方は深雪の若さを面白がっているようだった。

夕食時、リーナが訪れ、サンフランシスコの暴動について話題に上がった。
リーナは達也に「ステイツに行くのか」と尋ねたが、特に積極的な態度は見せなかった。
リーナの出身地はUSNA中西部で、西海岸には思い入れが少ないためかもしれない。
また、日本での生活に愛着が育っている可能性もあった。
達也はリーナに「今回は一人で行く」と言い、リーナは「エンジョイしろとは言わないのね」と笑った。
達也はリーナの言葉に困惑しつつも、深雪が笑っている様子を見て、自分がずれていると認めた。

達也は翌夜、指定されたホテルにビジネススーツ姿で訪れた。
このホテルは、四葉家が十年前にオーナーとなり、改装を経て一流ホテルとなった場所である。
達也はロビーで葉山に案内され、最上階のロイヤルスイートに到着した。
そこで、真夜が達也を待っており、対話が始まった。

真夜はサンフランシスコへの出向のメリットについて尋ね、達也はラ・ロの魔法の性質と対処法を得ることを挙げた。
ディーンの身柄確保は難しいが、被害者のサンプル収集で一定の情報が得られると説明した。
真夜はこれに納得し、24時間以内のサンプルが得られることを期待した。

達也はエイドスの変更履歴を24時間まで遡れるが、精神には作用しないことを説明した。
しかし、魔法式の瞬間を捉えれば、魔法のシステムを解明できる可能性があると述べた。
真夜は元老院でも意見が分かれていることを伝え、東道の意見は短期的な渡米は許可されていると明かした。

東道は、自衛と調査以外の目的で力を行使しないよう命じており、暴動の鎮圧やディーンの捕縛には関わらないように指示した。
達也はこの制限を受け入れ、真夜に了解の意を示した。

達也は深夜、調布の自宅からカノープスに電話をかけた。
ニューメキシコ州では朝の8時であり、カノープスは軍服姿で応答した。
達也はサンフランシスコの件が解決したことを伝え、現地視察を希望した。
カノープスは感謝しつつ、実務的な話に移り、達也は男性二名での訪問を伝えた。カノープスは宿と航空機を手配し、明後日の出発を提案した。達也はそれを了承した。

翌朝、達也はレナに電話をかけ、明日か明後日に訪問すると伝えた。
レナは喜びを見せ、彼女が心理的に追い詰められていることが明白だった。
達也はレナにホテル滞在の継続を確認し、彼女は必要な物は連邦軍が揃えてくれると答えた。

達也は暴動発生から3日が経過したが、レナの主観的な印象を尋ねた。
レナは潮騒のようなさざめきが聞こえると感じており、達也はその音が人の声であったかを確認した。
レナは大勢の人の声だと思うと答えたが、達也はその情報をどう解釈すべきかはまだ分からなかった。彼はレナに近日中の再会を約束した。

午前8時半、カノープスから渡米の段取りに関するメールが達也に届いた。
向こうの現地時間は午後5時半であり、非常時態勢が続いていると察しがついた。
メールの内容は「座間基地に超音速輸送機を用意するので、明日朝9時までに来てほしい」とのことだった。
出入国手続きもカノープス側で手配されており、今回は達也が手続きを誤魔化す必要はなかった。

米軍と親密な関係を見せることは、新ソ連や大亜連合を刺激するが、USNAとその友好国に対する牽制にもなる。
国内の諜報機関とその背後の政治家への効果もあり、特に偽装工作などの対処は不要と達也は判断した。

明日の準備を命じるために兵庫を呼ぼうとしたところで、メールの着信音が鳴った。
差出人は風間であり、用件は「話し合いたいことがあるので、今日の予定に空きがあれば教えてほしい」という内容だった。
明日渡米することを考えると、スケジュールに余裕はないが、風間の背後に統合軍令部の明山参謀本部長がいることから、その意向を探ることは無益ではないと判断した。
達也はレストランに予約を入れ、ランチに招待するメールを風間に返した。

達也が住むビルの三階には個室形式のレストランがあり、風間を屋上のヘリポートからそこに案内した。
このレストランは四葉家が身内の会食や接待に使用するもので、一般客は利用できない。
風間は多少警戒しつつも、本題に入った。

話題はサンフランシスコ暴動についてであり、達也は「憂慮すべき事態」と回答した。
風間は暴動が広がればUSNAの外交余力が減少し、現在のアジア情勢にとって好ましくないと主張。
達也は国防軍がその見解で一致しているかを問い、風間は統合軍令部の見解と答えた。

風間は達也に、USNA国内問題であっても、魔法を用いた解決策があるのではないかと尋ねた。
達也は七月にスターズの要請でカリフォルニア北部の魔法テロを解決したことを認めた。
風間は今回の暴動も未知の魔法が関与している可能性を示唆し、達也はそれを認めつつも情報源は明かさなかった。

風間は米軍から座間基地への超音速輸送機のフライトプランが提出されたことを告げた。
それが達也を迎えに来るものではないかと問い、達也は密出国の意図はないと間接的に認めた。
これにより、風間はこれ以上の追及をしなかった。

9月27日、月曜日。達也、深雪、リーナの三人はそれぞれ大学へ向かったが、達也は別の目的地へ向かう。
深雪は達也に気をつけるようにと告げ、リーナは土産選びに注意するよう助言したが、二人とも達也の留守に不満を抱いている様子だった。
達也は憮然としながらも、座間基地へ向かう。

座間基地に到着した達也は、独立魔装連隊の下士官によって案内され、米軍の輸送機ではなく基地の応接室へと通された。
そこで彼を待っていたのは風間と共に現れた明山だった。
明山は達也に外交旅券を手渡し、日本政府として彼に外国で拘束されたくないという意図を明かした。
これにより、達也は外交特権を持つことになり、国際的な保護を受けることとなる。

この外交特権は、達也がチベットの件で協力した際に作成され、今回はUSNAでの活動に必要なものとして提供された。
スペンサーの側近であるジェフリー・ジェームズが、達也が冤罪で逮捕されるリスクを避けるための保険として、この特権を設定した。
また、USNA政府は達也がミッドウェーの軍刑務所を一人で攻略した過去の経験を考慮し、彼の拘束が現実的に不可能であると認識していた。

明山と風間の来訪はカノープスには知らされておらず、米軍のスタッフは戸惑いながらも手続きを進行。
午前10時、達也は二人の高級軍人に見送られ、USNAに向けて飛び立った。

2 ギャラルホルン

達也は9月26日午後9時、カリフォルニア州フェアフィールドのトラビス空軍基地に到着。
サンフランシスコまで車で一時間のこの基地には、暴動対策の連邦軍拠点が設置されている。
到着後、カノープス大佐が出迎え、達也は高級士官用宿舎に案内された。

翌朝7時、達也と兵庫は準備を整え、高級士官用食堂でカノープスと共に朝食を取った後、午前8時からミーティングに参加した。
会議ではサンフランシスコの暴動状況が説明され、暴動は沈静化せず無差別の暴力や略奪が続いていることが報告された。
達也はこの暴動が精神を狂わせる魔法によって引き起こされたものだと確信する。

容疑者ロッキー・ディーンの捜索について尋ねたが、進展は無く、国家保安部から外国人の関与を控えるようクレームがあったことがカノープスから伝えられた。
ミーティング後、達也はスピカ少尉という女性士官を紹介された。
彼女がアシスタントを務めることになった。

達也はスピカ少尉に、リッチモンドにいるFEHRのレナと会う予定を伝え、案内を依頼した。
スピカは一瞬動揺したが、コンタクトを取ることを提案し、達也もそれに同意した。

レナとのアポイントは迅速に取れたため、達也はそのままリッチモンドのホテルへ向かった。
フロントでスピカがレナを呼び出し、彼女はすぐにロビーに現れた。
達也はレナと朝の挨拶を交わし、同行していた遼介にも挨拶した。遼介がレナに付き添っていることは予想通りだった。
達也、兵庫、レナ、遼介、スピカの五人はホテルの個室ラウンジに移動した。

スピカが遮音フィールドを展開した後、達也はスピカの同席についてレナに確認し、彼女はスピカの同席を積極的に受け入れた。
達也は本題に入り、レナに「潮騒のようなさざめき」について尋ねた。
レナはそのさざめきが「秩序に対するブーイング」に近いと感じていると答えた。達也はこの情報から、この暴動が現行秩序に対する叛逆を煽動する魔法の影響であると確信した。

達也はレナに、他者の精神を安定させる魔法を使用できるか尋ね、レナはそれを認めたが、サンフランシスコ全体に対する大規模な魔法は不可能であると述べた。達也はそれでもレナの能力に感心した様子を見せた。
スピカは達也がレナの魔法で暴動を鎮圧するつもりかを尋ねたが、達也はまず魔法の解明が先決だと答えた。達也はラ・ロの遺跡の正確な場所を尋ね、スピカが案内を申し出た。
レナが同行を提案しようとしたが、スピカはそれを先回りして断念させた。

達也たちはヘリでリッチモンドから遺跡に向かい、洞窟の入り口は連邦軍が封鎖していた。
遺跡内を調査した達也は、床に残されたわずかな情報から「ギャラルホルン」という魔法が他者への攻撃性を高め、混沌とした騒乱状態を作り出すものであると判断した。
スピカの質問に達也は、魔法の源流や具体的な詳細は分からないと答えた。

その後、達也たちはサンフランシスコの現況を上空から確認し、街全体で略奪と暴行が続いている様子を目撃した。
スピカは魔法の徴候が捕捉できないことを悔やんでいたが、達也は魔法の発動プロセスが異質である可能性を示唆した。
達也はサンフランシスコの暴徒から「サンプル」を集める提案をし、スピカは警察との接触が難しいと答えたが、最終的にはカノープス総司令の意見を仰ぐことになり、基地に戻ることにした。

達也たちはカノープスの許可を得て、ヘリでサンフランシスコ国際空港へ向かった。
空港は暴徒に占拠されていたが、彼らは強行着陸した。
暴徒は達也とスピカに襲いかかるが、達也は魔法で暴徒の銃を分解し、スピカも魔法で暴徒を無力化した。
達也は暴徒の一部を物理的に制圧し、その際に彼らの魔法的痕跡を確認した。スピカが呼んだ輸送ヘリが到着し、達也が選んだ暴徒を基地に運び込んだ。
これにより、達也たちはディーンの魔法の痕跡を調査するためにトラビス基地に戻ることとなった。

基地に戻った達也は、五人のサンプルを調査し、魔法は継続的に作用していないと結論付けた。
ステューアットがなぜ彼らが暴れ続けたのかを尋ねると、達也は「ギャラルホルン」という魔法が精神に対する起爆剤として作用し、本人の内なる破滅衝動を解き放つと説明した。
これはフロイトが提唱したデストルドーに似ているものである。
スピカは他の暴徒が「ギャラルホルン」の影響を受けていないことに疑問を呈したが、ステューアットは他人の行動が免罪符となり、群集心理により暴動が拡大すると述べた。
ステューアットは「ギャラルホルン」が能動テレパシーのようにデストルドーを刺激し、群集心理を誘発する魔法であると推測した。
達也もこの仮説に同意し、対処には「ギャラルホルン」と逆の効果を持つ薬か魔法が必要だと述べた。
カノープスは薬の使用が現実的でないと指摘し、ステューアットは自制心を回復する魔法が必要だと提案した。
達也は破滅衝動を静める魔法を考えており、ある女性魔法師の顔を思い浮かべていた。

午後五時、達也は再びレナが宿泊するホテルを訪れ、同行者はスピカと兵庫であった。
今回、面談場所はレナの部屋で、同席していたのはアイラである。兵庫はロビーで待機させた。

達也は、今日分かったことをレナに要約し、今回の暴動はディーンの魔法「ギャラルホルン」によるものであると説明した。
暴動は魔法によって引き起こされたが、暴れているのは暴徒自身であり、群集心理により自制心を失っていると述べた。
レナは納得しない様子で、ディーンの魔法を打ち破っても効果がないのかと問いかけたが、達也は冷静に対応すべきは暴徒の精神状態であると答えた。

アイラは具体的な対応策を尋ねたが、達也はレナを見つめるだけであった。
レナは達也の言葉から、彼女の魔法が必要であることを理解し、暴徒の精神状態に対処するための魔法を使う決意を固めた。
ただし、彼女は自身の魔法が全ての暴徒をカバーできる規模ではないと述べた。

達也は、全てを一度に鎮火させる必要はなく、部分的に暴徒を静めることで暴動の勢いを弱める計画を提案した。
彼は破壊消火という消防活動の例を出し、暴徒の一部を静めることで破滅衝動の空白地帯を作り、暴動の拡大を防ぐと説明した。
レナはその計画に同意し、微力を尽くすことを約束した。彼女の右手は微かに震えていたが、決意の眼差しで達也に応えた。

3 アタラクシア

サンフランシスコの暴動は、全域に広がっているわけではなく、特にダウンタウンや中華街がある北東部が激しい。暴動のクラスターはルート101沿いの商業エリアや高級住宅街、空港などに形成されている。

その中で、サンフランシスコ市南東部の湾岸地域に位置する朱元允の別宅では、ディーンとローラが朱元允と共にディナーを取っていた。
彼らはディーンとローラの国外逃亡について話し合っており、朱元允はホノルル経由で上海かシンガポールへの飛行を提案していた。
朱元允は、ディーンに日本での暴動を起こすことを望んでおり、それが彼の主要な計画であった。

ディーンは朱元允に対して恭しい態度を示し続けていたが、ローラはその態度に不満を持っていた。
朱元允はディーンに、日本での内乱や暴動を引き起こすことを期待しており、サンフランシスコの暴動もその実験の一部であった。

実際には、ディーンは「ギャラルホルン」を用いてサンフランシスコで暴動を起こし、その効果を確かめていた。
しかし、朱元允はディーンの行動に気づいており、その秘密を見抜いていた。
ディーンは朱元允に対して謝罪を試みたが、朱元允は日本だけでなく大亜連合でも同様の内乱を引き起こすことを求めていた。
ディーンは三合会との対立を避けるため、朱元允の要求に従わざるを得なかった。

現地時間の28日午前9時、レナがトラビス基地内に設けられたスターズのサンフランシスコ暴動対策本部を訪れた。彼女を案内したのはスピカで、招いたのは達也である。

達也はカノープスに対し、「レナが暴動の鎮圧に協力することになった」と伝えた。昨夜のうちに、カノープスには「ギャラルホルン」の性質と、それに対するレナの魔法の有効性について説明しており、レナの魔法を用いた鎮圧プランも了承を得ていた。この訪問は、レナとカノープスの顔合わせを目的としていた。

レナは少女のような外見に反して落ち着いた態度でカノープスに挨拶し、前日の震えは見られなかった。

暴動が始まってから6日目にもかかわらず、鎮静化の兆しは見られなかった。
具体的な事件もなく、火種や燃料の追加もない中で、これだけの長期間にわたって暴動が続くのは異常であり、主な原因は「ギャラルホルン」による干渉であると考えられる。

サンフランシスコの幹線道路には、レナを乗せたオープントップの軍用車が現れた。
乾期の終盤の晴天の下、レナは素顔を晒しながら走り抜けていた。
装甲車ではなくオープントップ車を選んだのは、集団に魔法をかける際、対象の姿が見えていたほうが効果的であるためだ。

達也はトラビス基地の対策本部に控えており、司法当局の意向でこの問題に関わらないようにされていた。
レナの左右には遼介とアイラが座っており、運転手にはスターズの衛星級隊員、助手席にはスピカ、後部には戦闘員が同乗していた。
遼介は特に、レナの護衛をスターズに任せ切りにすることに抵抗した。

レナを乗せた車は暴徒のクラスターを発見するたびに突入し、レナは魔法を発動する。
魔法の手応えを感じた後、結果を確認せずに幹線道路に戻り、次のクラスターを探す。この繰り返しにより、非常にゆっくりとしたペースでルート101を南下していた。

サンフランシスコからルート101を約20キロ南下すると、サンフランシスコ国際空港(SFO)が見えてくる。
USNA西海岸の主要ハブ空港の一つであるSFOは、通常なら分刻みで航空機が離着陸し、乗客や作業員が忙しなく行き交っている。
しかし、暴動が発生してから5日間、空港は完全に麻痺していた。
スタッフや乗務員は避難し、警備員もいなくなっていた。

当局は暴動発生当日にフル装備の警官隊を投入したが、暴徒は恐怖を感じることなく押し寄せ、警官隊は対応しきれなかった。
このため、事態の収拾には軍の出動が必要と見られていたが、州知事の反対で実行されていなかった。
州知事が軍の投入に反対する理由は、暴動が凶悪さに欠け、銃や爆弾の使用が見られないことだった。
この異常な状況は、まるで死を望むかのような群衆の行動として不気味に映っていた。

しかし、西海岸有数のハブ空港を閉鎖し続けるわけにはいかないため、カリフォルニア州知事は州軍の治安出動準備を進め、最終的に約100名の州兵をSFOに投入した。
ディーンとローラは、朱元允の別宅のダイニングに呼び出され、州兵の投入で空港職員が復帰し、滑走路が利用可能になったと伝えられた。

ディーンは州軍の出動タイミングをコントロールしていたのかと朱元允に尋ねるが、朱元允は「少しアドバイスをしただけ」と答えた。
その「アドバイス」が少なくない影響力を持っていたことが窺え、ディーンは不気味な威圧感を感じた。朱元允は、定期便再開には少なく見積もって三日かかるため、今ならすぐに出発できると告げた。
ディーンが準備はできていると答えると、ローラは発つ前に質問を許可され、朱元允に日本と大亜連合での暴動の理由を尋ねた。

朱元允は、自分はUSNAの国民であり、洪門はどの国家にも与せず、華僑同胞の利益のためだけに動くと答え、大亜連合とはビジネスの関係であり、金蔓としか考えていなかったことを明らかにした。

正午前、ディーンとローラは、朱元允の部下が運転する車でSFOの手前に到着した。
朱元允は同乗せず、別宅で通信機を通じて状況をフォローしていた。
空港手前では、州兵と暴徒の小競り合いが続き、州兵は空港内への侵入阻止に専念していた。
威嚇射撃の効果がないため、装甲車と大型シールドを持った兵士で壁を作り対抗していた。

ローラが「魔法で兵士をどかせましょうか?」と提案すると、ディーンは「私がやろう」と答えた。
ローラは「ギャラルホルン」の使用を懸念したが、ディーンは監視に記録される方を問題視し、使用を決意した。
ディーンはこの魔法に慣れておらず、現代魔法とは文法が異なるため、精神集中を必要とした。

「ラ・ロの魔法」は精神現象や人間同士のコミュニケーションに重点を置き、ゲリラ戦向けに設計されているため、現代魔法とは根本的に異なる。
ディーンは深い集中状態に入り、約五分後、急に目を開けて「狂え」と呪詛の言葉を放った。

レナはルート101を南下中の車内で突然「ギャラルホルン」が使用されたことに驚き、遼介がその理由を尋ねた。
ディーンが遺跡の魔法を使ったことが判明し、アイラは場所を尋ねた。レナは目を閉じて集中し、魔法の波動を探り始めた。
彼女の睫毛が金色に染まる現象は、彼女の魔法力が活性化する際に特有のものとされ、達也がレナの力を霊力ではないかと疑う理由の一つである。

短時間でレナは目を開き、サンフランシスコ国際空港が目的地であると告げた。

トラビス空軍基地の対策本部にいる達也は、ディーンが遺跡で入手したとされる魔法「ギャラルホルン」の発動を感知した。
カノープスがその場所を尋ねると、達也はサンフランシスコ国際空港であると答えた。
カノープスは即座に空港からの逃亡を阻止するため、自家用機かチャーター機の離陸を止める手配を考えた。
達也は、ギャラルホルンの力が国家に対する脅威として認識されていないため、連邦航空局や空港を運営する自治体が軍の介入を歓迎しないだろうと懐疑的だった。
カノープスは焦りながらも迅速な対応を決意し、達也は一人になってギャラルホルンの発動を観察した。

SFOの前で、緊張に耐えられなくなった州兵が衝動的に発砲し、それが連鎖して暴徒に対する発砲が始まった。
州兵たちは「ギャラルホルン」の音色に捕らわれており、一般市民が次々と倒れていく。
前列の人々は逃げようとし、後列の暴徒は押し進もうとする。
発砲を止める声と反発する怒号が交錯し、州兵同士、暴徒同士の衝突も広がった。
膠着状態は混沌に変わり、一部の衝動を刺激するだけで群衆は暴走しやすい状況にあった。
ディーンは朱元允の使用人に進入を催促し、側面が手薄になっているため、資材搬入口からの進入を提案した。
ディーンたちを乗せた車は空港のフェンス沿いに走り出した。

レナは、SFOの前に多くの市民と少数の州兵が倒れている光景を見て、悲痛な声を漏らした。
暴徒が彼女に群がろうとする中、レナは祈りのポーズを取った。
その結果、車の周囲に清浄な霊気が満ち、暴徒は次第に沈静化し始めた。
レナの魔法「アタラクシア」の効果であり、群衆は一時的な平穏を得た。

この状況下で、ディーンは空港の小型ジェット機に乗り込み、ハワイへ向かう準備を進めていた。
一方、レナたちはターミナルビルを抜けてエプロンに出た際、遼介が小型ジェット機にローラ・シモンとディーンがいることを感知した。
遼介は魔法で走力を強化し、小型機に向かって走り出したが、機体は滑走路手前まで来ていた。

アイラ・クリシュナ・シャーストリーは、スピカの許可を受けて「アグニ・ダウンバースト」を発動した。
この魔法は、小規模な破壊力で小型機を飛べなくするために使用された。
結果として、滑走路直前で熱気塊が小型機を襲い、主翼に亀裂が入った。
ディーンとローラが逃げ出す前に、遼介はその身柄確保に向かった。

激しい揺れに驚いたディーンは、小型機の乗務員に説明を求めたが、ローラが「敵の攻撃」と答えた。
ディーンは窓から主翼に亀裂が入っているのを確認し、飛べないと判断。
ローラの魔法の準備が整うのを待ち、脱出の準備を始めた。

その間、遼介は自走車より速く、小型機に向かって走り、魔法で自分を加速させた。
遼介は空中から小型機の窓に飛び蹴りを打ち込み、機内に侵入。
乗務員が発砲したが、遼介の魔法シールドにより無効化された。
ローラは濃霧の魔法を使ったが、遼介は幻影に惑わされず、ローラ本人に突進。ローラはディーンを機外に押し出し、逃走を試みた。

ディーンは、ローラに突き飛ばされて誘導路に出た後、体勢を立て直して車に乗り込んだ。
彼が脱出したのを確認すると、ローラは機内に残り、ハッチを閉じ始めた。
機内では、遼介が乗務員を次々と無力化していた。

ローラは、遼介に対して精神干渉系の魔法を連発したが、遼介には効果が無かった。
彼の[リアクティブ・アーマー]は物理攻撃だけでなく、精神攻撃も防御していたためである。
遼介はローラの気配を捉え、全力で攻撃を続けた。遼介は、ローラを避けながらも追い詰め、最終的に床に倒れた彼女に襲い掛かった。

遼介はローラの動きを封じるため馬乗りになり、彼女のナイフ攻撃を無効化した。
ローラは次々と魔女術を繰り出すが、遼介の[リアクティブ・アーマー]には効果が無かった。
ローラは最終的に息切れし、遼介に首を圧迫されて失神する。外に出たディーンは朱元允の部下の車に乗り込むが、追跡するFBIやNSBの捜査官に気づく。
ディーンは精神干渉系魔法[ディオニュソス]を使い、追跡車を事故に遭わせた。これにより、ディーンは無事に朱元允が手配した潜水艇に到達した。

レナたちの足止めをしていた捜査官は、同僚の事故を知り現場へ向かったため、レナたちは解放された。
遼介とレナの功績に対し、スターズのカノープス総司令は謝辞を述べ、連邦軍参謀本部からFAIRへの資金援助と遼介にグリーンカードの授与が約束された。
ローラは薬で眠らされ、トラビス空軍基地を経由して連邦軍の魔法師研究所に移送された。
その後、NSBはスターズがローラを捕らえていることを突き止め、引き渡しを要求したが、スターズを従える統合参謀本部は拒否した。
ローラは研究所で人体実験の被験体となり、鎮静剤が魔法の発動を妨げることが発見され、薬漬けにされた。
ブラッドストーンは研究所に移送される際に消えていた。

トラビス基地で対策本部に待機していた達也は、ステューアットからローラ・シモンの捕縛成功を伝えられた。
達也は社交的に祝辞を述べたが、ステューアットはロッキー・ディーンの逃亡を苦笑しながら報告した。
NSB(FBIの公安部門)が追跡を妨げたことが原因であると説明された。
ステューアットはローラの到着を告げ、達也も興味を示し、案内された。
ヘリ内で拘束され眠らされたローラを見て、達也はエイドスを「視」て彼女の記憶を確認し、ディーンの痕跡も特定した。
ローラのエイドスは魔法による改造が多く、特徴的であった。
また、ローラの左耳にはシャンバラの遺跡で見た情報体と似たものが付着していた。
達也は監視兵の隙を突き、その石を回収した。
その後、カノープスとの対話で、[ギャラルホルン]への対処策について意見交換が行われ、達也は精神沈静化魔法の研究協力を約束した。

ディーンは逃がしたものの、ローラを確保し、ラ・ロの遺産である[ギャラルホルン]の詳細と対策を把握したため、達也の渡米目的は達成された。
カノープスと国防総省も達也の帰国を望み、その夜、超音速輸送機の準備が整った。スピカが見送りに来ており、達也はローラから奪った「石」が知られていないことを確認した。
司法当局と軍の間でローラの扱いに関する綱引きが続く中、達也は石を分解し、そのデータを保存。
石の魔法式解読は今後の課題とした。帰国後は巳焼島に保管されている『導師の石板』を調査する予定である。
輸送機に搭乗する前、達也はスピカにディーンの行方について「海中を探していますか?」と助言し、「多分、北だと思いますよ」と告げて去った。

日本時間9月29日午後4時、達也は座間基地に到着した。
今日は水曜日であり、魔法大学の講義が終わったばかりのはずであるが、座間基地のエプロンには深雪とリーナが待っていた。
輸送機から降りた達也に対し、深雪は淑女感を損なわない程度の小走りで駆け寄り、「お帰りなさいませ」と丁寧にお辞儀をした。達也は顔を上げた深雪を自分から抱き寄せた。

4 樹海遺跡の番人

座間基地から自宅に戻った達也は、すぐに本家に電話をかけた。
帰国の予定はすでに伝えてあり、真夜はすぐにヴィジホンのモニターに現れた。
真夜は「[ギャラルホルン]という魔法は達也の[術式解散]では無効化できないのか?」と尋ねた。
達也は、発動時に立ち会えば[術式解散]で無効化可能だが、[ギャラルホルン]の影響が魔法として終了後も残る点が問題だと説明した。

真夜は、神経ガスの使用は容易に決断できないと述べ、達也もそれに同意し、精神干渉系魔法が必要だと考えていることを伝えた。
また、シャンバラの魔法である[ニルヴァーナ]が[ギャラルホルン]に対抗可能だと説明した。

真夜は、[ニルヴァーナ]が強い副作用を持つのか尋ねた。
達也は、魔法に対する抵抗力が低い人間が[ニルヴァーナ]を受けると廃人になる可能性があると述べた。
[ニルヴァーナ]は事実認識以外の精神機能を麻痺させ、受動的な行動しか取れなくなるため、長期間の影響下ではその状態から抜け出せなくなると説明した。

真夜はその魔法が既に発掘済みかを尋ね、達也は「まだである」と答えた。
遺跡の場所は富士山麓の地下にあり、翌日に発掘に向かう予定であることを伝えた。

達也は真夜との通話を終え、深雪の勧めで早めに夕食を取った。
アメリカでの食事から6時間が経ち、時差を考慮して早めに就寝するのが適当であった。
深雪とリーナに対し、達也はカリフォルニアでの出来事と今後の具体的な方針を説明した。
達也は翌日、単独で遺跡に向かう予定であった。
深雪は同行しないことに不満を示さなかった。

深雪は光宣の同行を疑問視したが、達也は東道閣下の許可が得られなかったと説明した。
光宣と水波はパラサイトに変質したが、達也たちにとっては友人であり協力者である。
しかし、霊的な国防を重視する人々にはパラサイトは妖魔と見なされ、駆逐すべき存在とされていた。
巳焼島への上陸が最大限の譲歩であったため、達也は光宣の同行を断念した。

光宣は遺跡に同行できないことに失望したが、達也は富士山麓の遺跡を訪れる予定を伝えた。
光宣は上空から観察することにし、達也は未明に出発することを決めた。

翌朝5時、達也は青木ヶ原樹海に到着し、暗闇でも不自由しない装備である飛行戦闘服フリードスーツを着用していた。
遺跡は富士山の噴火で埋まっているが、青木ヶ原樹海の風穴が遺跡の近くまで続いているとされ、達也はその風穴の入口に到達した。

午前五時、光宣と水波が暮らす衛星軌道居住施設・高千穂は日本の地平線近くにあり、観察には適していなかった。
だが、光宣は可視光線や電波だけでなく、情報体視認の超知覚を持っていた。
この能力で達也の探索をフォローし、サポートする意図もあったが、特に遺跡に対する関心が強かった。
遺跡にはパラサイトを人間に戻す魔法が保管されている。

光宣は水波が人間に戻ることを望んだ場合、自分の選択に悩んだ。
彼はパラサイトとなり、以前の不安定な体質から解放され、自由に魔法を使えるようになっていた。
光宣にとって、人間に戻ることは無価値であり、受け入れがたい未来であった。
もし水波が人間に戻り、自分がパラサイトのままであれば、共にいられないと感じた。

その結果、光宣は水波を失うことへの恐怖を抱いていた。
彼は水波が人間に戻ることを望むなら、その願いを叶えたいと思っていたが、同時に魔法の回収が失敗することも望んでいた。
パラサイトを人間に戻す魔法が手に入らない方が良いと感じていた。

このような葛藤を抱えながら、光宣は達也の探索を見守り続けた。
しかし、達也が風穴に入った瞬間、光宣の「眼」は達也へ届かなくなった。

達也は風穴に入った直後から圧迫感を覚え、深雪を見守る「眼」が妨害を受けていた。強力な情報遮断の結界が張られていると推測された。魔法的な探知では風穴の入り口を発見できず、達也もラサの遺跡で情報を得なければ見つけられなかっただろう。ブハラやラサ、シャスタ山の遺跡にはこのような結界は無かったため、シャンバラの人々が残したものではないと考えられた。

達也は罠を警戒しながら先に進み、風穴の最奥に到達した。ここから先は自分で道を作る必要があった。超知覚の「視力」で遺跡の位置を確認し、風穴よりも勾配を付けた斜面の通路を掘り進めた。階段状の足場を作りながら約三十メートル掘り進んだ後、ホールを作り出し、石の扉にブハラの遺跡で手に入れたマスターキーの宝杖を当てた。扉はスムーズに開いた。

達也は遺跡に入り、内部はブハラの遺跡とほぼ同じサイズで、正面に祭壇があった。
祭壇には宝杖ではなく、円形の「鏡」と三つの「鍵」が置かれていた。
鏡は八葉蓮華のレリーフが施されており、祭壇に固定されていた。
隣の水晶の杯が鏡を取り外すための装置だと推測された。

達也は壁面の石板に宝杖を向けたが、寸前で動きを止めた。
壁には残留思念が宿っており、達也は危機感を覚えたため触れずに撤退を決断した。
「鏡」も「鍵」も持ち出さず、遺跡を出て石扉を閉め、階段を埋め戻して痕跡を消し、風穴の出口に向かった。

達也は富士山麓の遺跡での探索を中断し、早朝に自宅に戻った。
深雪は驚きつつも心配し、達也は遺跡に罠があったため一旦引き返したと説明した。
着替えてから大学に向かい、ゼミ室で提出物を片付けた。

昼休み、未確認魔法研究会のサークル室で深雪、リーナ、亜夜子、文弥に遺跡での出来事を説明。
遺跡には情報を遮断する結界があり、番人が設置した可能性があると述べた。
また、残留思念が遺産の引き渡しを妨害している可能性を指摘した。

達也は深雪とリーナに翌日同行を依頼。
深雪は精神干渉系魔法で達也をサポートする役割を担うことに。
リーナは達也の護衛役を務めることに同意。

文弥と亜夜子も同行を申し出、達也はこれを受け入れた。
遺跡の番人が現代まで役目を継承している場合、信頼できる人手が必要との考えからであった。

達也が未確認魔法研究会のサークル室で話し合っている時、学食では幹比古がエリカと対面していた。
エリカは幹比古に明日の協力を依頼するために声をかけた。

エリカの依頼は、青木ヶ原で無許可の魔法儀式を行おうとしている古式魔法師の確認と捕縛であった。
これは国防軍、特に第一師団遊撃歩兵小隊「抜刀隊」からの依頼であった。
抜刀隊は近接魔法戦技・剣術による白兵戦を得意とする特殊部隊であり、エリカの次兄、千葉修次が所属している。

幹比古は依頼を受け入れ、エリカに協力を約束した。エリカは幹比古の即答に感謝を述べた。

この国の政界を支配する四大老のうち、東道青波、安西勲夫、樫和主鷹の三人は首都圏に住んでいるが、唯一の女性である穂州実明日葉は紀伊半島南部に居住している。
穂州実家の権力基盤は古い宗教勢力であり、秘教集団の支持を得ている。
その秘教集団の一つは富士山麓のシャンバラ遺跡の番人である。

穂州実明日葉は、遺跡の番人たちに四葉達也が遺跡に入ったかを尋ねた。
番人の代表は、達也が護鬼には触れずに引き返したことを報告したが、穂州実明日葉は、四葉達也が遺跡までたどり着いた道が通れるかどうかをさらに質問した。
代表の老人は謝罪し、穂州実明日葉は「鍵」を見つけなければ「遺産」を手に入れるのは難しいと述べた。

穂州実明日葉は、四葉達也に「遺産」を渡さないように、遺跡への風穴に近寄らせず、現地で直接阻止するよう命じた。
また、「夜叉変化」の秘術が世に出ないようにすることを最優先課題とし、命をかけて対処するよう指示した。
代表の老人は、その指示に従うことを誓った。

東道青波が九重寺を訪れたのは日没前であった。彼は八雲に対して、青木ヶ原の地下に遺跡があることを告げた。
八雲は既にその情報を知っており、四葉達也が遺跡の探索を開始したことにも気付いていた。
達也がポタラ宮に潜入した件についても、東道と八雲は黙認していた。

東道は八雲に遺跡探索の妨害をしないよう伝えた。
実際、穂州実から比叡山に達也の妨害を依頼する要請があったが、比叡山はこれを断っていた。
東道と八雲の親しい関係が、その背後にあった。

八雲は達也に協力を申し出たが、東道はそれを不要とし、既に助力者を手配していることを告げた。
その助力者は、九島烈の配下であった抜刀隊である。
九島烈の死後、抜刀隊を掌握しようとする権力者が多かったが、最終的に東道が勝者となった。
今回、千葉修次に下された出動命令も東道の意向が反映されたものである。

東道は抜刀隊に命令を下す指揮系統に影響力を持っているが、抜刀隊は形式上、第一師団の決定で動いているため、東道の直接の配下とは見做されていない。
東道は八雲の情報収集能力に驚きながらも称賛し、八雲はその自負を示していた。

5 幻界の試練

翌日、達也たちは通学時間に家を出発し、交通手段として兵庫が運転する自走車を利用した。
帰りは電話で迎えを呼ぶ予定で、全員が飛行デバイスを携行していた。
また、全員がハイキング用としても違和感のない戦闘服を着用していた。
達也は目立つのを避けるためにフリードスーツを着ていなかった。

彼らは遺跡に続く風穴を目指して樹海に足を踏み入れた。
亜夜子が昨日の邪魔者について尋ねると、達也は昨日は生きた人間の邪魔はなかったが、道を迷わせる魔法の妨害があったと答えた。
文弥はこれを「番人が本気になった」と解釈し、好戦的になった。
亜夜子はこれをたしなめつつ、軍も動いていることを指摘した。

達也は軍が出動していることを認め、吉田幹比古もいると告げた。
これに深雪が驚きを見せたが、達也はエリカに引っ張り出されたと説明した。
リーナは亜夜子に協力を求め、リーナは「ウォーキング・シャドウ」でデコイを出し、亜夜子は監視を妨害することにした。

リーナは複数の分身を作り出し、それぞれがランダムに歩き回る「ウォーキング・シャドウ」という新しい魔法を使用した。
亜夜子は「電磁波撹乱」で彼女たちの輪郭をぼやけさせ、監視を混乱させた。
この魔法は対象物が反射する電磁波を撹乱し、曇りガラス越しに見えるようにする効果があった。

青木ヶ原樹海は観光地であり、奥でなければ迷うことはない。
幹比古は達也の気配を感じるも自信を持てず、エリカに励まされる。
エリカは、達也が関わっているならば軍が動くのも納得できるとし、達也が政府の脅威であることを示唆する。
幹比古もそれに同意し、政府高官が達也を恐れる理由を理解していた。
達也たちは遺跡へ向かい、文弥と亜夜子が軍の動きを確認する。エリカはサポートに徹している。
シャンバラ遺跡の番人たちは、国防軍と優れた魔法師に圧倒され、逃げ場を失っていた。
彼らは穂州実明日葉の庇護を受けているが、その保護が今回の事態では機能していない。

青木ヶ原樹海は魔境ではなく、浅い部分は観光地で整備されている。
幹比古は達也の気配を感じたが自信が持てず、エリカに励まされる。
エリカは達也が関わっているならば軍の動きも理解できるとし、達也が政府の脅威であると指摘する。
幹比古もそれに同意し、政府高官が達也を恐れる理由を理解していた。
達也たちは順調に遺跡へ向かい、文弥と亜夜子が軍の動きを確認する。
エリカはサポートに徹しており、リーナもそれに同意する。
シャンバラ遺跡の番人たちは国防軍と優れた魔法師に圧倒され、逃げ場を失っていた。
彼らは穂州実明日葉の庇護を受けていたが、今回の事態ではその保護が機能していなかった。

達也は深雪たちを連れて風穴の最奥に進んだ。
文弥と亜夜子には軍に遺跡を知られないよう警戒を指示。
達也は遺跡への道を掘り進め、問題なく遺跡に入場した。
石板にアクセスすると、残留思念の攻撃を受けることが判明。
達也は魔法をチャネルに開設する計画だが、深雪に達也が錯乱した場合、[アイシィソーン]で眠らせて外に運び出すよう依頼。
リーナにはトラップ以外の襲撃に備えさせた。
達也は遺跡にアクセスを試み、幻術に引き込まれた。

達也は洞窟の幻覚の中で前進を強いられる。
彼は棒術の武器を持ち、暗闇と無音の中で進む。
暗闇は幼少期の訓練を思い出させ、恐怖を感じなかった。やがて刺客が現れ、達也は四人を倒して進む。
次に広い地下空間に到達し、そこでは水中を進むことになる。
達也は水中で半魚人の攻撃を受けるが、訓練により冷静に対処し、前進を続けた。
敵の攻撃は彼を水中に留めることを意図していたが、達也はそれを見抜き進み続けた。

達也は水深が浅くなり岸に到着し、上りのトンネルを進む。
明るい光の先に進むと、水晶の切っ先が敷き詰められた谷が広がる。
彼は高性能な戦闘服を着ており、靴底も強度が高いため谷を進む。
次に雪原に変わり、吹雪の中で白い狼に襲われるが、達也は冷静に対処し狼を倒す。
吹雪が止み、森林を抜けると溶岩の河に出る。
達也は溶岩の上の飛石を渡る中、溶岩の巨人と対峙し、六尺棒で接近戦を挑み互角の戦いを繰り広げる。

達也は溶岩巨人を倒し、次の火山を登り始めた。
森林地帯に入ると今度は人間の敵が現れ、達也は彼らの連携や技を相手に戦った。
森林を抜けると火山荒原に至り、頂上で達也のドッペルゲンガーと対峙する。
互角の戦いの中、達也はドッペルゲンガーを火口へ投げ込み勝利。
現れた徐福と思われる幻影を前に、達也は[アストラル・ディスパージョン]を発動し、幻影世界を消滅させた。

6 遺産相続

達也は目を覚まし、深雪とリーナに自身が長い幻覚を見ていたと説明した。
幻覚の中で長時間が経過したように感じたが、実際には一秒ほどしか経っていなかった。
達也は祭壇にある三つの鍵を取り、残留思念のトラップが解除されたと告げ、遺産の回収を始めるために深雪とリーナに一旦帰宅するよう指示した。
深雪には、もし一日経過しても連絡が無ければ迎えに来るよう頼んだ。
達也はトンネルを再び埋め、遺跡の扉を閉めて遺産にアクセスし、ショートカットをマスターキーに記録する作業に取り掛かった。
彼は「精神の限界」について、自身の仮説を持ちながらも、無意味なリスクを避けるため、慎重に作業を進める決意を新たにした。

修験者の背後に忍び寄り、刀身の無い刀の柄を振り下ろして無力化する。
これは千葉家の千刃流剣術の秘剣「朧突」であり、相手を殺さずに麻痺させる術である。
エリカは倒した修験者を拘束し、国防軍中尉である兄の修次と協力していた。エリカと幹比古は民間協力者として、敵を捕縛し続けた。
作戦終了後、修次は撤退を指示し、エリカは樹海に残っている者がいないことを確認した。

しかし、樹海には文弥、亜夜子、黒羽家の魔法師が潜んでいた。
彼らはエリカたちが風穴に近づいた場合に備えて、別の場所へ誘導するために待機していた。

文弥は亜夜子に帰還を提案し、亜夜子も同意。

風穴の見張りに付いた家人に指示を出し、その場を後にした。

達也は日付が変わる直前に深雪たちのもとに戻り、巳焼島の光宣と水波に連絡を取った。
彼は、富士の遺跡にパラサイトを奴隷化する魔法が存在しなかったことを報告し、パラサイトを人間に戻す魔法があることも伝えた。
これに対して光宣と水波は感謝の意を示した。

達也は富士の遺跡の魔法の危険性についても言及し、「ニルヴァーナ」という精神を強制的に沈静化させる魔法が存在していたことを説明した。
さらに、「アチャラマナス」という魔法も存在し、これは多数の人間の感情と衝動を凍結し、群衆を操り人形に変える効果があると説明した。
この魔法は極めて高い精神干渉系魔法の適性が必要で、適性を集中している者でなければ習得できないとしている。

達也は、遺跡の石板を取り外すことはできず、遺跡を封印することも難しいと述べたため、警報を設定し、遺跡に触れる者がいた場合に対応する方針を示した。
光宣もこれに納得し、今後の対応について同意した。

深雪は翌朝、朝食の席で達也に富士の遺跡の「鏡」について質問した。
達也はパラサイトを奴隷化する魔法は無かったが、パラサイトをコントロールする道具としての「鏡」があったと説明した。
深雪は、その「鏡」を厳重に保管すべきだと提案したが、達也は「鏡」は遺跡に接続して初めて機能するものであり、現代の魔法技術で同じ装置を作ることが可能であるとした。
そのため、彼はその誘惑に耐える自信がないと述べた。

また、達也は人間をパラサイト化する魔法が遺跡に存在しており、魔法を使い続ける限りパラサイトの出現は避けられないことを説明した。
シャンバラはパラサイトを有効活用する技術を開発し、そのための道具として「鏡」があったと述べた。

達也は、パラサイトが再び出現した時に「鏡」を再現する誘惑に抵抗できる自信が無く、パラサイトを軍事や犯罪に利用しようとする者が現れる可能性が高いため、「鏡」を封印し続ける方が良いと判断した。

深雪はその説明を理解し、達也に遺跡の鍵を返却した。
達也は鍵の一つを自分が持ち、残りを深雪と水波に保管させることでリスクを分散することに同意した。

紀伊半島南部の穂州実家の屋敷で、当主の穂州実明日葉が側仕えの老人から前日の出来事について報告を受けていた。
国防軍が遺跡の番人を全員拘束し、現地は高度な結界で閉ざされていると報告された。
結界は「学頭」と呼ばれる高野山から派遣された専門家によって確認されたものであった。

明日葉は、四葉家の小僧が関与したと考え、遺跡の場所が分からなくなった今、番人たちを解放させる必要は無いと判断し、軍に任せることに決定した。

その頃、四葉本家では真夜が達也からの報告書について、三人の執事から意見を聞いていた。
葉山忠教、花菱但馬、紅林邦友の三人は「達也の報告に不審な点は無い」で一致し、政府や元老院の動きも特にないと報告した。
紅林は、シャンバラの魔法に合わせた調整体の作成を提案し、達也に実験用の魔法の解放を依頼するよう要請した。
真夜はこれを承諾し、達也と相談することを約束した。

10月2日、土曜日。富士樹海の遺跡探索の翌日の夜、達也は深雪とリーナを伴って巳焼島を訪れた。
達也はまず研究室に保管されている「バベル」の「導師の石板」に「デーモン」が戻っていることを確認した。

夜8時過ぎ、達也たちの前に光宣と水波が現れた。
彼らは仮想衛星エレベーターで高千穂から降りてきたばかりであった。
達也は水波に準備が整っているかを確認し、水波は緊張しながらもはっきりと答えた。
周囲の深雪、リーナ、光宣も緊張して見守っていた。

達也はシャンバラの宝杖を手に取り、パラサイトを人間に戻す魔法の伝授を開始した。
儀式は5分以上続き、達也が完了を宣言すると、水波は力尽きて床に突っ伏した。
光宣は慌てて水波を支え、達也は水波を巳焼島で休ませるよう提案し、光宣も同意した。
リーナは自分の部屋を使うよう提案し、深雪もリーナに泊まるよう勧めたが、リーナは翌日の予定があるため、深雪にゆっくりするよう伝えた。

翌日の午後8時、光宣と水波は高千穂に戻り、パラサイトを人間に戻す魔法は水波に無事定着していた。
帰還時、水波は遺跡の鍵を一つ持っていたが、達也はその理由を説明しなかった。

エピローグ 北海の暗雲

日本時間10月10日午前2時、現地時間9日午前9時、USNAアラスカ州のフォックス諸島アマクナック島ウナラスカのダッチハーバーに民間の潜水艇が寄港した。この港は漁業基地であり観光拠点でもあるため、潜水艇の出現は珍しいが不自然ではなかった。連邦軍が臨検し問題なしと結論していたため、市民は警戒心を抱かなかった。

しかし、この潜水艇にはテロリストとして指名手配されているFAIRのロッキー・ディーンが乗っていた。ディーンは洪門の朱元允が手配した潜水艇でサンフランシスコを脱出し、10日以上かけてアラスカに到着した。現在、彼は連邦軍アラスカ基地に匿われている。

アラスカ基地と朱元允は対極東戦略で協力関係にあり、基地のエリオット・ミラー大佐がディーンを匿っていた。
ミラー大佐はアラスカ基地独立特殊歩兵大隊の隊長であり、国家公認戦略級魔法師「使徒」として知られる。
彼の操る魔法「リヴァイアサン」は海上戦闘において高い評価を受けている。

ミラー大佐は連邦政府の現状に不満を抱いており、日本の達也に対して強硬な姿勢を求めていた。
彼は達也の脅威を正確に認識し、日本を最優先で対処すべき敵国と考えていた。

一方、朱元允はUSNA国民としての愛国心を持ち、大亜連合と日本の弱体化を図っていた。
ディーンのテロ活動を黙認したのも、兵器の有用性を確認するためであった。
朱元允の目的はディーンを使って日本と大亜連合に内乱を引き起こすことであり、この目的はミラー大佐の戦略思想と一致していた。

ミラー大佐はディーンを長期滞在させるつもりはなく、迅速に日本に送り込む準備をしていた。
彼はディーンと面会せず、民間の遠洋漁船でディーンを西太平洋に送り出した。
ディーンのアラスカ到着3日後、10月12日の朝、ディーンは日本に向けて出発した。こうして、新たな刺客が達也に向けて放たれた。

アニメ

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