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フィクション(Novel)本好きの下剋上読書感想

小説「本好きの下剋上 第三部 領主の養女 5巻」感想・ネタバレ

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フィクション(Novel)

第三部 領主の養女4レビュー
第三部 領主の養女
本好きの下剋上 全巻まとめ
第四部 貴族院の自称図書委員1レビュー

中世ヨーロッパ風の世界が舞台。
異世界なのでファンタジー要素もある。

第一部

日本で本の虫だった女子大生が、地震で本の下敷きになって死亡(多分)
次に目覚めたらファンタジーな世界の下町の門番兵の娘として目覚める。
貧しく、衛生面も最悪。
身体は魔力が大きいせいで貧弱。
チョット作業したり、興奮したらぶっ倒れる始末。

さらに彼女に必須アイテム本が高価で手が出ない。
なら創れば良いじゃないかと、、

そんな彼女は幼馴染のルッツと共に紙を作り、髪を綺麗にするリンシャン、髪飾りの製法をべノン商会に売り、紙作りの支援を受けて紙の量産体制を作ろうとしたが、彼女の魔力が身体を蝕み瀕死になってしまう。

本来なら貴族に隷属して延命するのだが、それを良しとせず大好きな家族と過ごし死ぬ事を決意したが、、

神殿で図書館を見付けた結果、神殿の巫女見習になる事を決意。

そこで平民である事がアダとなり、孤児と変わらない灰色巫女見習になる処だったが余りにも高圧的に言う神殿長にブチギレ、魔力で威圧して昏倒させ灰色巫女見習案は却下。

交代で出て来た神官長と交渉の末、貴族と同じ青色巫女見習として、通いで神殿に入る事が決まる。

第二部

神官長直属の神殿の青色巫女見習として神殿に通う事になったが、下町との常識が違い過ぎた。
神官長、神殿長に付けられた側仕えとの常識の擦り合わせに苦労する。

さらに神殿の部屋が無いので欲しいと神官長に言ったら、孤児院の院長室を与えられたのだが、、
その孤児院の過酷な飢餓状況を知り、孤児たちに食べ物を自己の力で獲得する事を教え、さらに自身でお金を稼ぐ方法、紙作りを教える。

何気に孤児院の孤児達を本作りに巻き込み、絵を描くのが上手い灰色巫女を側仕えに追加して、遂に絵本を完成させる。

順風満帆と思ったのは束の間、神官長と共に騎士団の要請で赴いたトロンベ討伐の際に、貴族の目の前で貴族達を遥かに超える魔力を持ってる事を知られてしまい、拉致られそうになる。

それを恐れて神殿に籠っていたが、他領の貴族が神殿にまで押し入って来た。

その貴族を手引きしたのは、マインに威圧されて気絶させられた事を恨んでいる神殿長だった。

何とか撃退したのだが、、
平民が貴族を攻撃したと言われて、正式に拘束されそうになる。

だが、以前お忍びで来た領主に渡された、養女になる契約に印を付けた事によりマインは貴族になっていた。
その結果、神殿長は公文書偽装で極刑。

マインはローゼマインとなり神殿長に就任する。

第三部

貴族のローゼマインとなったが、いきなり領主の養女にはなれなかった。
上級貴族のカルステッドの第三夫人(故人)の娘という事にして、神殿で密かに育てられていた事にした。

そんな経歴を携えてローゼマインは領主の養女になった。

でも、貴族の世間は神殿とも下町とも違っており特に貴族のご婦人方と上手くやって行けるかは不安材料だったが、、

フェルディナンドをダシにして、お茶会を了解してリサイタルを開催。
さらに、フェルディナンドの肖像画を印刷してパンフレットを作成。

結果、貴族のご婦人方の心をガッチリ掴んでローゼマインは貴族社会で確固たる地盤を得る。

貴族として初めての冬。
冬籠りの部屋で一緒になった子供達に絵本とカルタを与えて無自覚に勉強をさせる。

それは歳上の学院生達よりも神の名前限定だが、、

さらに、紙でハリセン製造、水汲みポンプ作成、アンゲリカの説教剣(cvフェルディナンド)を作成して貴族達の度肝を抜く。

最後にはハリセンでおバカな養兄ヴィルフリートにツッコミを入れる。

隣の領地に嫁いだゲオルギーネの暗躍もこの時から明らかになってくる。

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  1. 読んだ本のタイトル
  2. 感想
  3. 考察・解説
    1. 領主の養女
      1. 養女となった背景と理由
      2. 身分偽装と家族との別れ
      3. 洗礼式での発表と聖女伝説
      4. まとめ
    2. 襲撃と誘拐
      1. 襲撃の発生とシャルロッテの誘拐
      2. 追撃とシャルロッテの救出
      3. 罠とローゼマインの拉致
      4. 救出とユレーヴェによる長き眠り
      5. まとめ
    3. ユレーヴェの調合
      1. 調合の場所と準備
      2. 四季の魔石の投入
      3. 仕上げと完成
      4. ユレーヴェの使用方法
      5. まとめ
    4. 魔力圧縮法
      1. 魔力圧縮法の誕生と背景
      2. ローゼマイン式圧縮法の具体的手順
      3. 圧縮法の影響と危険性
      4. 普及と厳しい伝授条件
      5. まとめ
    5. 二年間の眠り
      1. ユレーヴェによる治療と夢の中での戦い
      2. 二年後の目覚め
      3. 身体と魔力の状態
      4. 周囲とのギャップ
      5. まとめ
  4. キャラクター紹介
    1. 領主一族(エーレンフェスト)
      1. ローゼマイン
      2. ジルヴェスター
      3. フロレンツィア
      4. フェルディナンド
      5. ヴィルフリート
      6. シャルロッテ
      7. ボニファティウス
      8. ヴェローニカ
    2. 貴族・騎士・側仕え・文官
      1. カルステッド
      2. エルヴィーラ
      3. エックハルト
      4. ブリギッテ
      5. ダームエル
      6. ユストクス
      7. アンゲリカ
      8. ランプレヒト
      9. コルネリウス
      10. リヒャルダ
      11. オティーリエ
      12. オズヴァルト
      13. リンハルト
      14. モーリッツ
      15. フィリーネ
      16. エルネスタ
      17. ギーベ・イルクナー
      18. ギーベ・ゲルラッハ
      19. ジョイソターク子爵
      20. ユリアーネ
      21. ノルベルト
    3. 神殿関係者
      1. フラン
      2. ザーム
      3. ギル
      4. フリッツ
      5. モニカ
      6. ニコラ
      7. ヴィルマ
      8. ロジーナ
      9. デリア
      10. ディルク
      11. ノーラ
      12. フォルク
      13. バルツ
      14. セリム
      15. ノルト
      16. アヒム
      17. エゴン
      18. リリー
      19. カンフェル
      20. フリターク
      21. エグモント
    4. 商業関係者・職人・下町の住人
      1. ベンノ
      2. マルク
      3. ルッツ
      4. ダミアン
      5. ギュンター
      6. エーファ
      7. トゥーリ
      8. カミル
      9. ラルフ
      10. インゴ
      11. ヨハン
      12. ザック
      13. ハイディ
      14. フーゴ
      15. エラ
    5. イルクナーの住人
      1. カーヤ
    6. ハッセの住人
      1. リヒト
    7. その他
      1. シュティンルーク(魔剣)
      2. ハッセの村長達
  5. 展開まとめ
    1. 第三部 領主の養女5
    2. プロローグ
    3. 新しい孤児とグリム計画
    4. ハッセと灰色神官
    5. リュエルに再挑戦
    6. ダームエルの成長
    7. 魔力圧縮の条件
    8. イルクナーの収穫祭
    9. 初めての妹
    10. ヴィルフリートの行い
    11. ヴィルフリートの処分
    12. ユレーヴェ作りと魔力圧縮
    13. シャルロッテの洗礼式
    14. 囚われた姫君
    15. 救出
    16. そして、その後
    17. エピローグ
    18. ローゼマインが不在の二年間
    19. 洗礼式の日のおじい様
    20. お姉様の代わり
    21. 二つの結婚話
    22. オレ達に休息はない
    23. 神殿の二年間
    24. 下級貴族の護衛騎士
    25. 困った男の調理法
  6. 本好きの下剋上 シリーズ 一覧
      1. 兵士の娘
      2. 神殿の巫女見習い
      3. 領主の養女
      4. 貴族院の自称図書委
      5. 女神の化身
    1. ハンネローレの貴族院五年生
  7. その他フィクション

読んだ本のタイトル

#本好きの下剋上   ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 第三部「領主の養女Ⅴ
著者:香月美夜
イラスト:椎名優

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感想

領地の後継者が情報弱者過ぎて泣けても来るが過ちには気が付いてるのが成長している。
でも、精神年齢Pー歳のローゼマインと比べられるのは気の毒としか言えない。。

急にキナ臭くなって来たと思ったら、この巻から出て来た養妹シャルロッテを庇って毒を盛られて2年間も昏睡。

ローゼマインの9歳は寝て終わったw

うん?確か貴族になる時に1歳下げられてるから10歳か?

この巻はエピローグ以降が長い。

2年分だもんな。

ダームエルとブリギッテの話は残念だが綺麗に終わった。

脳筋だが見た目は可憐なアンゲリカと、ローゼマインに触れると殺してしまう可能性があるため、接触を禁止されてるボニファティウスが意気投合して師弟関係に。

それに下級騎士のダームエルも巻き込まれるw

でも、ローゼマインの1番の忠臣だから頑張れダームエルw

そして、魔力を増やすマイン圧縮法が重要になってきたな最初に指導を受けたダームエルがより一層上に気に入られるのも。

シャルロッテの奮起も面白い。

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第三部 領主の養女4レビュー
第三部 領主の養女
本好きの下剋上 全巻まとめ
第四部 貴族院の自称図書委員1レビュー

考察・解説

領主の養女

マイン(ローゼマイン)が領主の養女となったのは、彼女の強大な魔力と知識を領地に取り込み、同時に他領の貴族などから彼女の身を守るためであった。その経緯や設定、発表の詳細は以下の通りである。

養女となった背景と理由

平民の青色巫女見習いであったマインは、トロンベ討伐時の癒しの儀式などで強大な魔力を見せつけたため、魔力を求める他領の貴族や、個人的な恨みを持つ貴族(シキコーザの母親など)から狙われる危険が高まった。これには以下の理由が含まれる。

  • 魔力不足に悩むエーレンフェストにおいて、マインの魔力は個人の貴族が所有できる規模ではなく、領地や国のために使わなければならない量であった
  • 彼女が生み出す印刷業を既得権益を持つ下級貴族から守り、領地の新産業として拡大させるためにも、上級貴族以上の強力な後ろ盾が必要とされた

当初は騎士団長カルステッドの養女となる予定だったが、他領のビンデバルト伯爵や前神殿長による直接的な襲撃事件が発生し、命の危険が現実のものとなったため、より強力な庇護を与えるべく、急遽アウブ・エーレンフェストであるジルヴェスターの養女となることが決定した。

身分偽装と家族との別れ

平民が領主の養女になることへの反発や混乱を防ぐため、マインの生い立ちは大きく書き換えられた。

  • 第三夫人の娘という設定:マインはカルステッドが溺愛していた亡き第三夫人(ローゼマリー)の娘という設定にされた。正妻たちにいびられるのを避けるために神殿で秘密裏に育てられており、前神殿長が勝手に平民だと嘘を言いふらしたという筋書きである
  • 洗礼式のやり直しと改名:貴族社会に受け入れられるため、洗礼式をやり直して年齢を誤魔化し、名前もローゼマリーにちなんでマインから上流貴族らしいローゼマインへと改名した
  • 平民家族との決別:平民のマインは対外的に死亡したこととされ、本当の家族(ギュンター、エーファ、トゥーリ)とは、以後家族として接してはならないという契約魔術を結ばされ、事実上の永遠の別れを強いられることとなった

洗礼式での発表と聖女伝説

夏に行われたカルステッドの娘としての洗礼式の場で、ジルヴェスターは突然、ローゼマインとの養子縁組を宣言した。
その際、孤児院の惨状を救い子供たちに仕事と食事を与えた慈悲深さや、新しい事業をもたらしたことを強調し、彼女をエーレンフェストの聖女として大々的に貴族たちに紹介した。これは彼女の立場を確固たるものにし、反発の多い神殿長という重要な役職に就けるための布石であった。

まとめ

洗礼式後、ローゼマインは領主の養女、神殿長、そして工房長という三つの重責を同時にこなすことになった。
城では洗礼式を終えた領主の子供が住む北の離れに居室を与えられ、ジルヴェスターの実子であるヴィルフリートやシャルロッテらと共に過ごすこととなる。
同時に、貴族社会で生き抜くために筆頭側仕えのリヒャルダや母代わりのエルヴィーラから厳しい指導を受け、上級貴族の長大な系図の暗記や、フェシュピール(楽器)の特訓など、過酷な教育を受ける毎日が始まったのである。

襲撃と誘拐

冬の城内で起きた、黒ずくめの集団によるシャルロッテとローゼマインを狙った襲撃・誘拐事件の経緯と結末は以下の通りである。

襲撃の発生とシャルロッテの誘拐

本館から北の離れへ向かう回廊を移動中、ローゼマインが窓の異変に気付いた直後、黒ずくめの男達が多数窓から飛び込んできた。

  • 護衛騎士たちが応戦する混戦の中、ローゼマインとシャルロッテは北の離れ側へ、ヴィルフリートは本館側へと分断されてしまう
  • 危険時の取り決め通り、護衛騎士と共に北の離れへ逃げ込もうとしたシャルロッテだったが、追加で侵入してきた黒ずくめの一人に抱え上げられる
  • そのまま窓の外で待機していた天馬の騎獣によって夜空へと連れ去られてしまった

追撃とシャルロッテの救出

妹をさらわれたローゼマインは激しい怒りに駆られ、自身の騎獣レッサーバスに大量の魔力を注ぎ込んで猛追撃を開始した。屋根には護衛騎士のアンゲリカが飛び乗って同行する。

  • 空を飛ぶレッサーバスに驚き、追いつかれると悟った誘拐犯は、シャルロッテを空中に投げ捨てて単独で逃亡を図った
  • ローゼマインが急ブレーキをかけた反動で空中に放り出されたアンゲリカは、身体強化を用いて落下するシャルロッテを見事に抱き留める
  • さらに、後を追って駆けつけたコルネリウスが騎獣で二人に並走して回収し、シャルロッテは無事に救出された

罠とローゼマインの拉致

妹たちの無事を確認して安堵した直後、ローゼマインのレッサーバスは何者かが操る「光の網」に絡め取られ、森へと引きずり落とされて墜落してしまう。

  • 横転した騎獣から這い出たローゼマインを待ち受けていたのは、別の黒ずくめの男だった
  • 光の帯で一本釣りのように捕縛されたローゼマインは、地面に叩きつけられ、無理やり口に致死量の毒薬を流し込まれてしまう
  • 薬によって声も出せず全身が麻痺していく中、ローゼマインは布で簀巻きにされ、下働きの男が引く馬に括り付けられて連れ去られていった

救出とユレーヴェによる長き眠り

事態を察知して激怒した祖父ボニファティウスが、爆音とすさまじい威圧で馬を止めさせ、ローゼマインを奪還する。

  • しかし、布を乱暴に振りほどこうとした結果、ローゼマインは勢い余って空中へ放り出されてしまう
  • それを間一髪で受け止めたのは、後を追ってきたフェルディナンドであった
  • フェルディナンドは毒の種類を見抜き、即座に応急処置を施した上で神殿へと急行した

猛毒に侵され瀕死となったローゼマインの命を救うため、あらかじめ準備していた自身の魔力で満たされた薬の液体(ユレーヴェ)に彼女を浸し、本格的な解毒治療を開始する。この結果、ローゼマインは毒が完全に抜けるまでの約二年間、眠り続けることとなった。

まとめ

この襲撃の実行犯として、カルステッドの亡き第三夫人の親族であるジョイソターク子爵が捕らえられた。しかし、計画が稚拙であり単独犯とは考えにくいため、その背後には旧ヴェローニカ派のギーベ・ゲルラッハなどの暗躍があると疑われている。

ユレーヴェの調合

ローゼマインの虚弱体質を改善し、体内で固まった魔力を溶かすための薬「ユレーヴェ」の調合は、フェルディナンドの指導のもとで行われた。その調合の過程や手順、完成した薬の詳細は以下の通りである。

調合の場所と準備

ユレーヴェを使用すると長期間の昏睡状態に陥るため、安全を確保する目的で神殿長室に新しい隠し部屋が作られた。

  • フェルディナンドの隠し部屋から素材や機材が運び込まれ、調合の環境が整えられた
  • ローゼマインはたすき掛けをし、高さを調節するための木箱の上に立ち、大きな鍋と櫂のようなへらを使って調合に臨んだ

四季の魔石の投入

調合は、ローゼマイン自身が魔力を注いで採集した四季の素材(魔石)を季節順に鍋に入れていくことから始まった。

  • まず、春の素材であるライレーネの蜜を変化させた緑の魔石を鍋に入れ、櫂で混ぜて溶かす
  • 緑の魔石がどろりと溶け崩れ始めたら、夏の素材であるリーズファルケの卵を変化させた青の魔石を投入する
  • 続いて、秋の素材であるリュエルの実、冬の素材であるシュネティルムの魔石の順に加え、ひたすら混ぜ続けた

仕上げと完成

四季の魔石が溶け合わせた後、フェルディナンドによる緻密な仕上げ作業が行われた。

  • 天秤で正確に分量を量り、小さく刻まれた様々な素材が次々と鍋に投入された
  • 小さな壺から黒い液体が垂らされると、鍋の底に少ししかなかった薬の分量が一気に八分目を超えるまで膨れ上がった
  • 最後に、フェルディナンドが何かの薬を一滴落とすと、薬の表面が眩しく光り、薄い青色の液体となってユレーヴェが完成した

ユレーヴェの使用方法

完成したユレーヴェは、飲むタイプの薬ではなく、白い石でできた箱に満たして全身を浸すためのものである。

  • 箱の中には魔法陣が敷かれており、そこに浸かって眠ることで治療が行われる
  • 調合時点では、この治療により一ヶ月から季節一つ分ほどの期間、意識を失って眠り続けると想定されていた

まとめ

四季の素材とフェルディナンドの計算によって完成したユレーヴェにより、ローゼマインは長きにわたる眠りにつき、虚弱体質の改善と魔力の塊を溶かすための本格的な治療に入ることになったのである。

魔力圧縮法

マイン(ローゼマイン)が自己流で編み出した魔力圧縮法は、エーレンフェストの貴族達の魔力を底上げし、領地の勢力図にも影響を与える画期的な技術である。その開発の経緯や具体的な方法、普及のための条件は以下の通りである。

魔力圧縮法の誕生と背景

本来、魔力圧縮とは身体が成長する第二次性徴期を前に貴族院で教えられる技術であり、全身に満ちる魔力を精神力で抑え込む行為は死の危険と隣り合わせである。しかし、マインには以下の背景があった。

  • 平民の身食いとして生まれ、魔力を逃がす魔術具を持っていなかった
  • 生き延びるために無意識のうちに溢れそうな熱(魔力)を体内の奥へ押し込めて圧縮し続けてきた

その結果、幼い身体にはあり得ないほど強大に圧縮された魔力を持つに至ったのである。

ローゼマイン式圧縮法の具体的手順

貴族院で教えられる圧縮法は感覚的なものだが、ローゼマイン式は視覚的なイメージを用いるため非常にわかりやすく、効率的である。

  • 第一段階:木箱を自分の体、マントを魔力に見立てる。マントをただ丸めて木箱に押し込むのではなく、綺麗に畳んで隙間なく木箱に詰めるイメージで体内の魔力を圧縮する
  • 第二段階:畳んだマントを革袋に入れ、その上に乗って空気を抜きながら体重をかけて押し潰し、体積を半分以下にするイメージでさらに魔力を圧縮する

圧縮法の影響と危険性

この圧縮法は、すでに成長期を過ぎた大人や、魔力の伸びが止まりかけていた下級貴族であっても魔力が増加するという画期的な効果を持つ。実際の事例は以下の通りである。

  • 下級騎士のダームエルはこの方法で魔力を大きく伸ばし、中級騎士であるブリギッテに求婚できる水準にまで達した
  • アンゲリカもこの方法で魔力を増やし、身体強化の精度を上げようと特訓に励んでいる

一方で、この圧縮法には以下の特徴と危険性がある。

  • どれだけ圧縮できるかは本人の精神力に大きく左右される
  • 体内の魔力濃度が一気に変わるため、いきなり強く圧縮するとひどい魔力酔いを起こして気分が悪くなる危険性がある
  • そのため、少しずつ濃度を上げて体を慣らす必要がある

普及と厳しい伝授条件

フェルディナンドは、ゲオルギーネ派の暗躍に備えてエーレンフェストの戦力を底上げするため、他の貴族にもこの圧縮法を教えるよう求めた。ローゼマインは領地のために承諾したが、非常に危険な技術であることと、自らの保身のために以下の厳しい条件を設けた。

  • 対象者の限定:自力で圧縮できない者や、親に無理をさせられる洗礼前の幼い子供が出ないよう、貴族院で魔力圧縮を習った者に限る
  • 派閥の限定:敵対者の魔力を増やさないため、フロレンツィア派に属する者に限る
  • 承認制:領主夫妻、フェルディナンド、カルステッド、エルヴィーラ、そして知識提供者であるローゼマインの計6人全員の許可を必要とする
  • 情報漏洩の禁止:個人との契約魔術を用い、親子や兄弟間であっても知識の共有や口外を禁じる
  • 料金の設定:下級貴族は小金貨二枚、中級貴族は小金貨八枚、上級貴族は大金貨二枚と身分が上がるほど高価にし、同家族の二人目以降は半額とする

まとめ

ローゼマインの生存本能から生まれた魔力圧縮法は、エーレンフェストの魔力不足を解消する切り札となった。厳格な条件と高額な料金、そして強力な契約魔術によって守られながら、この知識は領主一族や側近たちを中心に共有され、冬の社交界でも大きな注目を集めることとなったのである。

二年間の眠り

城での襲撃事件で猛毒を受けたローゼマインは、一命を取り留めるために完成したばかりの「ユレーヴェ」に身を浸すことになった。その結果として生じた約二年間に及ぶ長き眠りと、目覚めた後の状況は以下の通りである。

ユレーヴェによる治療と夢の中での戦い

フェルディナンドの応急処置を受けたローゼマインは、神殿長室の隠し部屋にある魔法陣が敷かれた白い箱(ユレーヴェ)に浸けられた。眠っている間、ローゼマインの意識は夢の世界にあった。

  • 夢の中では、柔らかな桃色の世界で硬い山に行く手を阻まれていた
  • 白いじょうろから液体を注いで山を少しずつ溶かし、足で蹴り砕きながら道を作っていくという作業をひたすら続けていた
  • これは、体内で固まった魔力をユレーヴェの薬効と自身の力で溶かして崩していく過程が夢として具現化されたものであった

二年後の目覚め

収穫祭が終わった秋の頃、ついにローゼマインの体がユレーヴェの薬液から浮かび上がり、目を覚ました。

  • 呼吸を確保するためフェルディナンドに背中を叩かれ、気管に入っていた薬液を吐き出したことで無事に呼吸を取り戻した
  • 眠りについていた期間は約二年に及び、八歳の冬から十歳の秋へと時間が経過していた

身体と魔力の状態

目覚めたローゼマインには、いくつかの厳しい現実が突きつけられた。

  • 身体の成長停止:ユレーヴェに浸かっている間は魔力を溶かす以外の生命活動が著しく低下していたため、身体が全く成長しておらず、八歳の頃の姿のままであった
  • 魔力の残滓:元々固まっていた魔力に加え、毒を受けたことで魔力がさらに強く固まってしまっていたため、準備していたユレーヴェの品質でも完全には魔力の塊を溶かしきれなかった。しかし、以前よりはかなり状態が良くなっていた

周囲とのギャップ

ローゼマイン自身は二年前から姿も記憶も変わっていないが、周囲の時間は確実に進んでいた。

  • 目覚めたローゼマインを喜んで出迎えた側仕えたちは全員が成人し、すっかり大人びた姿に成長していた
  • ローゼマインは自分だけが取り残されたような現実に直面し、不安からフェルディナンドの袖を強く掴むこととなった

まとめ

猛毒による死の淵からユレーヴェによって救われたローゼマインであったが、その代償として「丸二年の時間」と「その間の身体の成長」を失うこととなった。貴族院への入学が冬に迫る中、彼女は成長の止まった身体と完全には治りきっていない魔力を抱えたまま、進んでしまった周囲の環境に折り合いをつけていかなければならないのである。

第三部 領主の養女4レビュー
第三部 領主の養女
本好きの下剋上 全巻まとめ
第四部 貴族院の自称図書委員1レビュー

キャラクター紹介

領主一族(エーレンフェスト)

ローゼマイン

領主の養女であり、神殿長を務める少女である。読書を好み、本を作るために印刷業の拡大を進めている。虚弱体質であり、ユレーヴェという薬で健康になることを望んでいる。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト領主一族・養女。神殿長。孤児院長。ローゼマイン工房の責任者。
・物語内での具体的な行動や成果
 ハッセへの灰色神官派遣や、イルクナーでの新しい紙の開発を主導した。秋の素材採集でリュエルの実を入手したが、襲撃を受けて毒を飲まされた。解毒と治療のため、ユレーヴェに浸かって約二年間の眠りについた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 眠っている間に九歳の期間を丸ごと失い、体が成長しないまま十歳の秋を迎えた。

ジルヴェスター

エーレンフェストの領主であり、ローゼマインの養父である。ヴィルフリートやシャルロッテの父親にあたる。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト領・アウブ(領主)。
・物語内での具体的な行動や成果
 ヴィルフリートが白い塔に立ち入った件で、彼から次期領主の内定を取り消す処分を下した。ローゼマインが提案した魔力圧縮の方法を自ら試した。襲撃事件の後、ジョイソターク子爵やギーベ・ゲルラッハを尋問した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

フロレンツィア

ジルヴェスターの第一夫人であり、ヴィルフリートとシャルロッテの母親である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト領主一族・第一夫人。フロレンツィア派の象徴。
・物語内での具体的な行動や成果
 ヴィルフリートが白い塔に入ったことが発覚した際、自分が彼をヴェローニカから取り上げられていた過去を語り、涙を流した。シャルロッテの魔力供給の練習を補助した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

フェルディナンド

ジルヴェスターの異母弟であり、神官長である。ローゼマインの後見人として、彼女の教育や体調管理を担う。冷静で理知的な判断を下す。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・神官長。
・物語内での具体的な行動や成果
 リュエルの実の採集で魔獣を広範囲の爆発で討伐した。ローゼマインが毒を受けた際、神殿へ運び込んで応急処置とユレーヴェによる治療を行った。ローゼマインの不在中、神殿長の業務や印刷業の対応を代行した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ヴィルフリート

ジルヴェスターとフロレンツィアの息子である。素直な性格を持つが、周囲の意見に流されやすい。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト領主一族・領主の息子。
・物語内での具体的な行動や成果
 狩猟大会の際、旧ヴェローニカ派の貴族に誘導されて白い塔へ入り、祖母と面会した。その罪により、次期領主の内定を取り消された。その後はローゼマインの不在を埋めるため、子供部屋の統率や魔力供給の練習に励んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 次期領主の内定を取り消された。

シャルロッテ

ジルヴェスターとフロレンツィアの娘であり、ヴィルフリートの妹である。ローゼマインを慕い、姉として尊敬している。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト領主一族・領主の娘。
・物語内での具体的な行動や成果
 冬の洗礼式を迎え、ローゼマインから祝福を授けられた。襲撃事件でジョイソターク子爵に誘拐されたが、アンゲリカとコルネリウスによって救出された。春の祈念式ではローゼマインの魔力が籠った魔石を使って直轄地を回り、儀式を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 洗礼式を終えて貴族の一員となった。

ボニファティウス

先々代領主の子であり、カルステッドの父親である。ローゼマインの祖父にあたる。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト領主一族。元騎士団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 ローゼマインが襲撃された際、いち早く森へ駆けつけて救出を試みた。ジョイソターク子爵らを捕らえ、その後はアンゲリカを弟子として鍛え始めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ヴェローニカ

ジルヴェスターの母親であり、ヴィルフリートの祖母である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト領主一族(先代領主の第一夫人)。
・物語内での具体的な行動や成果
 白い塔に幽閉されている。面会に来たヴィルフリートに対し、自分が幽閉されたのはローゼマインとフェルディナンドのせいだと語った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

貴族・騎士・側仕え・文官

カルステッド

エーレンフェストの騎士団長であり、エルヴィーラの夫である。

・所属組織、地位や役職
 騎士団・騎士団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 リュエルの実の採集において、大鎌を使って多数の魔獣を討伐した。襲撃事件の発生時には、大広間の封鎖と騎士の派遣を指揮した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

エルヴィーラ

カルステッドの第一夫人であり、ローゼマインを娘として扱っている。

・所属組織、地位や役職
 カルステッド家・第一夫人。フロレンツィア派の有力者。
・物語内での具体的な行動や成果
 ゲオルギーネ派の動きに関する情報をまとめ、フェルディナンドに提供した。ローゼマインを自称親族から守るため、ジョイソターク子爵を冷ややかに突き放した。実家のハルデンツェルに印刷工房を作る計画を進めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

エックハルト

フェルディナンドの護衛騎士であり、カルステッドの息子である。

・所属組織、地位や役職
 騎士団・騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
 リュエルの実の採集に同行し、槍を用いて魔獣を倒した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ブリギッテ

ローゼマインの護衛騎士であり、イルクナー出身の中級貴族である。

・所属組織、地位や役職
 領主一族・ローゼマインの護衛騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
 イルクナーの製紙工房に関して、領民に貴族への対応を教育するよう兄に伝えた。星結びの儀式でダームエルから求婚されたが、イルクナーへ戻ることを選んで断った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 結婚に向けて護衛騎士を辞める予定である。

ダームエル

ローゼマインの護衛騎士であり、下級貴族である。

・所属組織、地位や役職
 領主一族・ローゼマインの護衛騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
 魔力圧縮の訓練により、魔力を目に見えて増加させた。星結びの儀式でブリギッテに求婚したが、護衛騎士を辞めてイルクナーに行くことはできないと答えて断られた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ユストクス

フェルディナンドの側近である文官である。情報収集を好む。

・所属組織、地位や役職
 文官。徴税官。
・物語内での具体的な行動や成果
 ハッセの収穫祭に徴税官として同行した。ローゼマインが不在の間、フリッツの案内で神殿の工房を訪れ、商人とのやり取りや管理の補助を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

アンゲリカ

ローゼマインの護衛騎士であり、中級貴族である。

・所属組織、地位や役職
 領主一族・ローゼマインの護衛騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
 ヴィルフリートが許可なく部屋に入ろうとした際、彼を取り押さえた。襲撃事件でシャルロッテが空中に放り出された際、空中で抱き留めて救出した。その後、ボニファティウスの弟子となった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ランプレヒト

ヴィルフリートの護衛騎士であり、カルステッドの息子である。

・所属組織、地位や役職
 領主一族・ヴィルフリートの護衛騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
 ヴィルフリートが白い塔に入った件で、主の行動を防げなかったことに悔しさをにじませた。襲撃事件の際、ヴィルフリートを本館へ護衛した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

コルネリウス

ローゼマインの護衛騎士見習いであり、カルステッドの息子である。

・所属組織、地位や役職
 領主一族・ローゼマインの護衛騎士見習い。
・物語内での具体的な行動や成果
 シャルロッテとアンゲリカが落下した際、騎獣で駆けつけて二人を救出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

リヒャルダ

ローゼマインの筆頭側仕えである。

・所属組織、地位や役職
 領主の城・筆頭側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 ヴィルフリートの件でアウブ・エーレンフェストへ報告に走った。シャルロッテが子供部屋の準備をする際、事前準備の必要性を助言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

オティーリエ

ローゼマインの側仕えである。

・所属組織、地位や役職
 領主の城・側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 シャルロッテの洗礼式に向けて、ローゼマインの着替えを手伝った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

オズヴァルト

ヴィルフリートの筆頭側仕えである。

・所属組織、地位や役職
 領主の城・ヴィルフリートの側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 ヴィルフリートが白い塔に入った件の尋問で、自分たちが目を離したことはないと主張した。襲撃事件の際、ヴィルフリートを抱えて本館へ避難した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

リンハルト

ヴィルフリートの側仕えである。

・所属組織、地位や役職
 領主の城・ヴィルフリートの側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 狩猟大会の際、学友たちと遊ぶヴィルフリートの面倒を見ていたが、負傷して手当てに向かった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

モーリッツ

ヴィルフリートらの教育を担当する先生である。

・所属組織、地位や役職
 城の教師。
・物語内での具体的な行動や成果
 シャルロッテとヴィルフリートによる子供部屋の運営を補佐し、試験を作成して子供たちの実力を測った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

フィリーネ

下級貴族の少女である。

・所属組織、地位や役職
 下級貴族の子供。
・物語内での具体的な行動や成果
 ローゼマインに見せるために自分で物語を書いてきたが、ローゼマインが休養に入ったと聞いて悲しんだ。シャルロッテに教材の販売や貸し出しの継続について尋ねた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

エルネスタ

ヴィルフリートの護衛騎士見習いである。

・所属組織、地位や役職
 領主一族・ヴィルフリートの護衛騎士見習い。
・物語内での具体的な行動や成果
 貴族院での情報収集や参考書作成において、シャルロッテへの協力を了承した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ギーベ・イルクナー

イルクナーの領主であり、ブリギッテの兄である。

・所属組織、地位や役職
 イルクナーの領主(ギーベ)。
・物語内での具体的な行動や成果
 フォルクの買い取りを希望したが、価格が高すぎたため一度は断念した。その後、紙を販売して資金を貯め、フォルクの売買契約を成立させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ギーベ・ゲルラッハ

ゲルラッハ子爵である。

・所属組織、地位や役職
 ゲルラッハ子爵(ギーベ)。
・物語内での具体的な行動や成果
 ビンデバルト伯爵の私兵を預かり、ジョイソターク子爵に譲渡したと証言した。尋問に対して知らぬ存ぜぬを貫いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ジョイソターク子爵

ローゼマリーの親族に連なる貴族である。

・所属組織、地位や役職
 ジョイソターク子爵。
・物語内での具体的な行動や成果
 シャルロッテを誘拐して逃走を図ったが、アンゲリカに捕らえられた。尋問では単独犯行を主張したが、計画の稚拙さを指摘された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 領主一族への危害により極刑が決定した。

ユリアーネ

ダームエルの兄の妻である。

・所属組織、地位や役職
 ダームエルの兄の妻。
・物語内での具体的な行動や成果
 求婚を断ることになったダームエルに対して、身分違いの結婚における女性の負担を説明して窘めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ノルベルト

城の執事であり、側仕えを統率する。

・所属組織、地位や役職
 領主の城・筆頭側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 ジョイソターク子爵らの尋問の場に、城の側仕えを統率する者として居並んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

神殿関係者

フラン

ローゼマインの筆頭側仕えである。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・ローゼマインの筆頭側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 ローゼマインの不在中、神殿長室の管理や孤児院への指示を行った。春の祈念式ではシャルロッテに同行し、儀式の補佐を務めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ザーム

ローゼマインの側仕えである。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・ローゼマインの側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 ローゼマインが眠りについた後、資料をまとめてフェルディナンドの執務を補佐した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ギル

ローゼマインの側仕えである。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・ローゼマインの側仕え。マイン工房の責任者。
・物語内での具体的な行動や成果
 イルクナーへ派遣され、現地の住人に紙作りを指導した。ローゼマインの目覚めを早めるため、新しい本を印刷して積み上げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

フリッツ

ローゼマインの側仕えである。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・ローゼマインの側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 ベンノやユストクスと工房の管理について話し合いを行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

モニカ

ローゼマインの側仕えである。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・ローゼマインの側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 毒を受けたローゼマインを白の服に着替えさせた。ローゼマイン不在中はフェルディナンドの執務を手伝った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ローゼマインの不在中に成人した。

ニコラ

ローゼマインの側仕えである。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・ローゼマインの側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 料理の道に進むため、エラやフーゴの助手として厨房で働き始めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ローゼマインの不在中に成人した。

ヴィルマ

孤児院の管理者である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・ローゼマインの側仕え。孤児院の管理者。
・物語内での具体的な行動や成果
 ベンノから管理者としての責任を叱責され、リリーの出産を手伝うためにハッセへ向かった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ロジーナ

ローゼマインの専属楽師である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・ローゼマインの専属楽師。
・物語内での具体的な行動や成果
 ローゼマインの不在中、孤児院の子供たちに音楽を教えた。ハルデンツェル向けのガリ版印刷を手伝った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

デリア

孤児院に住む少女である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・孤児院の住人。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディルクの世話を担当しており、異常があれば早めに連絡するようフランから指示を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ディルク

身食いの孤児である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・孤児。
・物語内での具体的な行動や成果
 デリアによって世話を受けている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ノーラ

ハッセの小神殿に移動した灰色巫女である。

・所属組織、地位や役職
 ハッセの小神殿・灰色巫女。
・物語内での具体的な行動や成果
 ハッセの小神殿で新しい孤児たちを歓迎した。出産経験を活かしてリリーの出産準備を手伝った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

フォルク

灰色神官である。カーヤと結婚した。

・所属組織、地位や役職
 イルクナーの住人。元灰色神官。
・物語内での具体的な行動や成果
 イルクナーで紙作りに尽力し、目標の枚数を達成した。ギーベ・イルクナーに買い取られ、カーヤと結婚した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 灰色神官からギーベ・イルクナーの民へ立場を変えた。

バルツ

灰色神官である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・灰色神官。
・物語内での具体的な行動や成果
 フォルクらと共にイルクナーへ派遣され、紙作りの指導を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

セリム

灰色神官である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・灰色神官。
・物語内での具体的な行動や成果
 イルクナーへ派遣され、紙作りの指導を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ノルト

灰色神官である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・灰色神官。
・物語内での具体的な行動や成果
 イルクナーへ派遣され、紙作りの指導を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

アヒム

灰色神官である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・灰色神官。
・物語内での具体的な行動や成果
 ハッセの冬の館に派遣され、手紙の書き方などを教える教師役を務めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

エゴン

灰色神官である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・灰色神官。
・物語内での具体的な行動や成果
 アヒムと共にハッセの冬の館に派遣され、教師役を務めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

リリー

灰色巫女である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・灰色巫女。
・物語内での具体的な行動や成果
 妊娠したため青色神官の側仕えを解任され、孤児院へ戻った。その後、出産のためハッセの小神殿に移動した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

カンフェル

青色神官である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・青色神官。
・物語内での具体的な行動や成果
 ローゼマイン不在の間、奉納式の準備などを担当した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

フリターク

青色神官である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・青色神官。
・物語内での具体的な行動や成果
 カンフェルと共に奉納式の準備などを担当した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

エグモント

青色神官である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・青色神官。
・物語内での具体的な行動や成果
 妊娠したリリーを孤児院に返し、新しい側仕えを要求した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

商業関係者・職人・下町の住人

ベンノ

プランタン商会の店主である。

・所属組織、地位や役職
 プランタン商会・店主。
・物語内での具体的な行動や成果
 ハルデンツェルでの印刷事業拡大に向けて準備を進めた。お産の手伝いを渋るヴィルマに対して管理者としての責任を問い、厳しく叱責した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

マルク

プランタン商会の店代である。

・所属組織、地位や役職
 プランタン商会・店代。
・物語内での具体的な行動や成果
 ベンノの補佐として、新しい紙に関する話し合いなどに同席した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ルッツ

プランタン商会の見習いであり、ローゼマインの幼馴染である。

・所属組織、地位や役職
 プランタン商会・ダプラ見習い。
・物語内での具体的な行動や成果
 イルクナーで紙作りに携わり、トラオペルレを用いた新しい紙を完成させた。トゥーリと共に行儀作法の練習を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ダミアン

プランタン商会の店員である。

・所属組織、地位や役職
 プランタン商会・ダルア。
・物語内での具体的な行動や成果
 イルクナーへ同行し、新しい紙の価格設定についてローゼマインと話し合った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ギュンター

ローゼマインの父親である。

・所属組織、地位や役職
 兵士・士長。
・物語内での具体的な行動や成果
 ハッセの収穫祭や祈念式へ向かう神官たちの護衛を務めた。ローゼマインにトゥーリとカミルが登場する物語を聞かせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

エーファ

ローゼマインの母親である。

・所属組織、地位や役職
 平民。
・物語内での具体的な行動や成果
 ローゼマインが眠りについたと手紙で知らされ、必ず目覚めると信じて不安をこらえた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

トゥーリ

ローゼマインの姉である。

・所属組織、地位や役職
 ギルベルタ商会・ダプラ見習い。
・物語内での具体的な行動や成果
 ローゼマインのために新しい髪飾りを作り続けた。貴族の館に行くための行儀作法をヴィルマから教わった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

カミル

ローゼマインの弟である。

・所属組織、地位や役職
 平民。
・物語内での具体的な行動や成果
 冬の洗礼式の際、神殿の扉の前に姿を見せ、ローゼマインに手を振った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ラルフ

ルッツの兄である。

・所属組織、地位や役職
 平民。
・物語内での具体的な行動や成果
 トゥーリに想いを寄せており、彼女と過ごす時間が多いルッツに不満をぶつけた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

インゴ

木工工房の親方である。

・所属組織、地位や役職
 木工工房・親方。
・物語内での具体的な行動や成果
 本棚の原案を持ち込まれ、移動式本棚や集密書庫の製作に取り掛かった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ヨハン

鍛冶職人である。

・所属組織、地位や役職
 鍛冶工房・職人。
・物語内での具体的な行動や成果
 インゴが請け負った本棚の金属部品の製作を任され、仕事が増えたことに悲鳴を上げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ザック

鍛冶職人である。

・所属組織、地位や役職
 鍛冶工房・職人。
・物語内での具体的な行動や成果
 仕事が増えて嘆くヨハンを励ました。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ハイディ

インク工房の職人である。

・所属組織、地位や役職
 インク工房・職人。
・物語内での具体的な行動や成果
 新しい仕事が増えたヨハンを励ました。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

フーゴ

ローゼマインの専属料理人である。

・所属組織、地位や役職
 ローゼマインの専属料理人。
・物語内での具体的な行動や成果
 料理対決でイルゼに敗れて落ち込んでいたが、エラに叱咤されて立ち直った。帰り道にエラに求婚した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 エラと結婚の約束をした。

エラ

ローゼマインの専属料理人である。

・所属組織、地位や役職
 ローゼマインの専属料理人。
・物語内での具体的な行動や成果
 料理対決で負けて落ち込むフーゴを叱咤して立ち直らせた。フーゴからの求婚を受け入れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 フーゴと結婚の約束をした。

イルクナーの住人

カーヤ

イルクナーの住人である。フォルクと結婚した。

・所属組織、地位や役職
 イルクナーの館・下働き。
・物語内での具体的な行動や成果
 フォルクと共に新しい紙作りに励み、目標枚数を達成した。ギーベ・イルクナーに買い取られたフォルクと結婚した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 フォルクと結婚した。

ハッセの住人

リヒト

ハッセの町長である。

・所属組織、地位や役職
 ハッセ・町長。
・物語内での具体的な行動や成果
 冬の館での儀式の後、ローゼマインからボルフェの許可を得て喜んだ。リリーの出産の手伝いに協力した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

その他

シュティンルーク(魔剣)

アンゲリカの所有する魔剣である。フェルディナンドの声で喋る。

・所属組織、地位や役職
 アンゲリカの魔剣。
・物語内での具体的な行動や成果
 襲撃事件の際、シャルロッテを救出するアンゲリカに対し、状況を指摘して助言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ハッセの村長達

ハッセの周辺農村をまとめる村長たちである。

・所属組織、地位や役職
 ハッセの周辺農村・村長。
・物語内での具体的な行動や成果
 手紙の結び文句が誤っていたことを指摘され、貴族への対応を学ぶために灰色神官を受け入れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

第三部 領主の養女4レビュー
第三部 領主の養女
本好きの下剋上 全巻まとめ
第四部 貴族院の自称図書委員1レビュー

展開まとめ

第三部 領主の養女5

プロローグ

隠し部屋での商談開始

ローゼマインは形式的な会話を終え、隠し部屋へ移動することで本来の打ち合わせに入った。ここでは領主の養女ではなくマインとして振る舞うため、同席者は平民時代を知る者に限られていた。ベンノはこの場の特殊性と、徐々に貴族の習慣が入り込んできている変化に不安を覚え、今後も商談の場として維持できるのか懸念を抱いた。

新しい紙の報告と可能性

ローゼマインはイルクナーで作られた新しい紙を提示し、インク工房での研究を依頼した。滑らかな表面を持つその紙により、新たな商品展開の可能性が広がるとベンノは考えた。一方でローゼマインは自らも研究したい意欲を見せたが、ベンノは立場を踏まえ、貴族社会での影響力確保を優先するよう釘を刺した。

紙の用途と影響への懸念

新しい紙の用途としてトランプ製作が提案されたが、既存の板製品の仕事を奪う可能性があり、ベンノは職人への影響を考慮するか迷った。しかし最終的には大きな問題にはならないと判断し、価格設定はインク研究後に決める方針となった。

ポンプと職人育成の課題

ハッセへのポンプ設置に関する進捗が話題となり、部品製作を担う職人不足が問題として浮上した。ローゼマインの支援により若手職人の競争意識が高まり、技術向上が進んでいる現状が共有されると、彼女は新たな職人をグーテンベルクとして積極的に迎え入れる意欲を示した。

工房の現状確認と変化

ベンノは工房の状況を直接確認し、小さな問題の有無を探った。フリッツは精鋭の不在による影響はあったものの、現場で改善を重ねて安定していると報告した。また今後、製紙業と印刷業の拡大に伴い、職人の派遣が常態化する可能性が示された。

神殿長としての期限の認識

フリッツはローゼマインが成人後に神殿長を退くことを指摘し、隠し部屋でのやり取りも長くは続かないと説明した。貴族の慣習上、隠し部屋は私的空間であり、いずれ使用が禁じられる可能性が高いとされ、ベンノは予想以上に残された時間が少ないことに焦りを覚えた。

今後への備えと決意

フリッツは将来を見据え、ローゼマインを介さずとも商会と連携できる体制の必要性を示した。ベンノもその重要性を認識し、関係強化を約束した。帰路の馬車の中でベンノは今後二年間で準備を整える必要性を自覚し、予測不能なローゼマインに対応するための備えを進める決意を固めた。

新しい孤児とグリム計画

ハッセ訪問の準備とユストクスの落胆

ローゼマインは午後からハッセの町長リヒトと面会するため、護衛騎士や側仕え、文官であるユストクスを伴って出発することになった。ユストクスはローゼマインの騎獣に乗ることを期待していたが、以前の面倒さを覚えていたローゼマインにきっぱりと断られ、未練を残しながらも自分の騎獣で向かうことになった。

ハッセでの面会と灰色神官派遣の通達

ハッセに到着したローゼマインは、リヒトや村長達の出迎えを受けた後、今年の収穫状況について確認した。祈念式が行えなかった影響で収穫は厳しい状況にあり、町の者達は不安を抱えていた。そこでローゼマインは、反抗心の有無と反省の様子を確かめるためだけでなく、貴族への正しい対応や書類の書き方を教えるためにも、冬の間は灰色神官を二人ハッセに滞在させると伝えた。

結び文句の誤用と教育の必要性

ローゼマインは、ハッセから送られてくる手紙の結び文句が本来の意味を理解されないまま使われていることを指摘した。フェルディナンドがその言葉は神官への賄賂や接待を申し出る意味を持つと説明すると、リヒト達は重大な無礼を犯していたと知って青ざめた。意味を知らずに使っていたことは明らかであるため今回は罰しないとされたが、同じ行き違いを防ぐためにも灰色神官から学ぶ必要があると示された。

灰色神官の待遇への釘刺し

ローゼマインは、派遣される灰色神官は自分の代理であると明言し、彼らを孤児と蔑んだり嘲ったりすることがあれば、すぐに小神殿へ戻らせると厳しく告げた。灰色神官の派遣がハッセのためであることを徹底して周知するよう求めた上で、問題が起こらなければ春には祈念式を行えるだろうと励ましたため、リヒト達は緊張を解きつつ感謝を示した。

孤児の引き取りと新たな受け入れ

リヒトは冬を越すのが難しい孤児を数人買い取ってほしいと願い出た。ローゼマインは神殿に入れば町民には戻れなくなることを説明した上で、将来を奪うことになる年長者ではなく、神殿の生活に馴染みやすい幼い子供の方が良いと判断した。こうして洗礼前後の子供四人を引き取ることが決まり、ローゼマインは新しい孤児達を小神殿へ連れて行き、ノーラ達の助けを受けながら神殿生活に慣れさせることにした。

派遣人員の選抜とブリギッテへの配慮

収穫祭や冬支度を前に、ローゼマインはハッセへ向かわせる灰色神官二人と小神殿の交代要員四人を選ばなければならなくなった。そこで孤児院を管理するヴィルマと工房を管理するフリッツに選抜を任せることにした。また、イルクナーにも製紙工房ができた以上、隠しておく必要はないと判断し、ギーベ・イルクナーの妹であるブリギッテを工房見学に同行させることにした。

工房見学と選抜条件の指示

ローゼマインはブリギッテを伴って工房を訪れ、紙作りや印刷の作業を見せた。工房では孤児達が静かに手際よく働いており、ブリギッテはその様子に感心した。その後、孤児院でヴィルマとフリッツに対し、ハッセの冬の館へ派遣する二人には側仕え経験があり、人に教えるのが上手で、互いに協力できる者を選ぶよう求めた。また、小神殿への交代要員は男女二人ずつとし、ノーラ達と上手くやれそうな人材を選ぶよう指示した。

イルクナーへの警告と教育の必要性

神殿長室に戻ったローゼマインは、工房見学を終えたブリギッテに本当に見てほしかったのは作業の様子だけではないと告げた。収穫祭でイルクナーへ赴く際にはフェルディナンドも視察に同行することになっており、今後は他の貴族も工房や利益に興味を持って訪れる可能性が高いと説明した。その上で、貴族に対する礼儀を知らないことが町を滅ぼす理由になり得るとハッセの件を踏まえて警告し、夏の館で働く者や貴族と接する者だけでも早急に教育するよう求めた。ブリギッテはその重大さを理解し、兄に相談すると約束した。

収穫祭前の準備と派遣者への激励

収穫祭が近付く中、選ばれた灰色神官達は移動の準備を進めていた。ローゼマインは孤児院に赴き、小神殿へ移動する者達には印刷機導入後の働きを期待すると励まし、餞別として書字板を与えた。さらに冬の館へ向かうアヒムとエゴンには、手紙や書類における貴族の言い回しを教えること、そして灰色神官として蔑まれたり軽んじられたりした場合は無理をせず小神殿へ避難することを伝えた。

グリム計画の始動

ローゼマインはアヒムとエゴンに、貴族の言い回しを教える木札だけでなく、失敗作の紙を綴じたノートとインクも渡した。そして二人目の仕事として、ハッセの人々から農村に伝わる物語や旅人から聞いた話など、平民だけが知るお話を聞き取って書き留めるよう命じた。これは各地に残る口伝を集めて将来の本の題材にするための計画であり、ローゼマインはこれを内心でグリム計画と名付け、その広がりに大きな期待を抱いていた。

ハッセへの出発と収穫祭の始まり

やがてプランタン商会の馬車がハッセへ向かう日が訪れ、小神殿へ移動する者達は荷物を積み込んで出発準備を整えた。兵士達が迎えに来ると、その先頭には久し振りに会うギュンターの姿があり、ローゼマインは短い会話を交わして馬車を送り出した。その後、自身も収穫祭へ向かうための支度を進め、ユストクスや護衛騎士達、側仕えや料理人、楽師らを伴ってレッサーバスに乗り込んだ。フェルディナンドから注意を受けつつも、ローゼマインはドールヴァンでの再会を約して空へ飛び立ち、収穫祭という長旅を始めた。

ハッセと灰色神官

冬の館への到着と住民の自粛

ローゼマインは先に小神殿へ側仕え達と荷物を降ろした後、アヒムとエゴンを伴って冬の館へ向かった。去年とは違って祭りの準備も人の賑わいも見えず不審に思ったが、玄関前で待っていたリヒトから、領主に睨まれている現状を考慮して収穫祭は自粛し、徴税と儀式だけをひっそりと行うことにしたと説明を受けた。ローゼマインは、祝福も祭りもないまま不満を溜め込んだ住民の中へ灰色神官を送り込むことに不安を覚えた。

灰色神官の紹介と滞在環境への懸念

フランは、冬の間に神殿長代理として滞在するアヒムとエゴンをリヒト達に紹介した。二人は教師役でもあるため、住民達はその人物像を警戒しながら見つめていた。ローゼマインは二人の部屋も自分の目で確認するため案内を求め、冬の館の内部へ入った。中では住民の視線があちこちから向けられ、子供達も恐る恐る様子を窺っていた。案内された部屋は二人部屋だったが、神殿や孤児院の清潔さに慣れた三人には受け入れ難い環境であり、掃除道具を求めることになった。ローゼマインは部屋の外にまで神殿式を強要しないよう釘を刺しつつ、翌日には掃除道具一式を小神殿から運ばせると約束した。

広間での儀式と教育役としての告知

広間も決して良い環境ではなかったが、ローゼマイン達は例年通り壇上に立ち、洗礼式、成人式、結婚式の儀式を執り行った。ただし住民達の顔色は悪く、祝福を得られなかった一年の重さが広間全体に漂っていた。儀式の後、ローゼマインはアヒムとエゴンを皆の前に立たせ、彼らは監視役であると同時に教師でもあると説明した。そして、以前の手紙のやり取りに貴族の怒りを買いかねない重大な不備があったことを明かし、それが悪意ではなく知識不足によるものだったからこそ、灰色神官による教育の機会を与えるのだと伝えた。

灰色神官への配慮と住民への牽制

住民の怒りが教育の機会によっていったん収まると、ローゼマインは続けて、灰色神官は孤児ではあっても神殿長代理であり、不快な扱いを受ければ小神殿へ移動させると明言した。罰が終わりかけたこの時期に愚かな行いはしないと信じると言いつつも、二人への言動には十分注意するよう強く牽制した。舞台の上から見える住民の表情には、罰が本当に終わるのかという不安と鬱屈が濃く現れており、ローゼマインはこのままでは冬の生活がさらに厳しくなると感じた。

ボルフェ許可による感情の発散

ローゼマインは、精神的な発散が必要だと考え、エックハルトとユストクスに相談した上で、リヒトにボルフェの許可をほのめかした。意味を掴みかねているリヒトには、アヒムとエゴンがローゼマインの言葉を補足し、会議中に外で騒ぐ分には目溢しする意向だと伝えた。リヒトはその許可を受け取って大いに喜び、広間を出た直後には住民達の歓声が冬の館を揺らすほどに響き渡った。アヒムとエゴンはその荒々しい雄叫びに驚いたが、ローゼマインは少しでも住民の不満が発散されることを望んだ。

会議とボルフェ後の空気の変化

会議室では収穫量や税、ローゼマインへの寄贈分について話し合いが行われた。収穫量は周辺より少なかったものの、祝福なしで得た成果としては健闘していた。寄贈分の一部はアヒムとエゴンの冬支度に回され、残りは小神殿の冬支度の材料として運ばれることになった。外から聞こえる声は先ほどまでより明るく弾んでおり、ボルフェを許可した効果が現れていることがうかがえた。

夕食風景と灰色神官の戸惑い

その後の夕食は住民達と同じ広間で行われた。住民達は低い簡素な卓を囲み、手づかみを交えながら自由に食べていたため、神殿の生活しか知らないアヒムとエゴンは衝撃を受けて動けなくなった。エックハルトも同様に厳しい表情になったが、イルクナーや小神殿の食事風景を見てきたフランは比較的冷静だった。食事場所に不安を覚えたアヒムとエゴンに対し、ローゼマインは今夜は自分達の後で同じ卓を使い、今後は部屋で食事ができるよう机と椅子を用意させると伝えた。灰色神官を各地へ派遣することの難しさが、生活習慣の違いからも改めて浮き彫りになった。

孤児院への勧誘と住民の拒絶

酒が入って口の軽くなった住民達の中から、神殿へ売られた孤児の方が自分達より良いものを食べているという羨望混じりの声が上がった。ローゼマインはこれを好機と捉え、印刷機の増加で労働力を必要としていることもあり、孤児院への入所を歓迎すると壇上から勧誘した。そして、三食や寝床、服の支給、識字や計算の教育、教材の充実といった利点を挙げた上で、孤児と蔑まれること、貴族の支配下で生きること、結婚や独立の自由がないこと、売られても拒否権がないことなどの欠点も包み隠さず説明した。誠実に語ったにもかかわらず、住民達は故郷を離れたくないとして全力で断り、ローゼマインもそれを受け入れた。

小神殿への帰還と父への物語収集

宴の風景に下町を思い出したローゼマインは父に会いたくなり、リヒトに暇乞いを告げた。その際、アヒムとエゴンのために机と椅子を部屋へ用意するよう依頼し、灰色神官は外の生活様式を知らないのだから気を配ってほしいと頼んだ。エックハルトとユストクスは冬の館に残り、ローゼマインはフランとブリギッテを伴って小神殿へ戻った。小神殿でも食事会が開かれており、ローゼマインはノートとペンを持って兵士達の席に向かい、ギュンターに下町で聞いて育った物語を尋ねた。ギュンターはトゥーリとカミルが魔物にさらわれたマインを助けに行く話を語り、ローゼマインは感動しながらそれを書き留めた。さらに他の兵士達からも物語を集め、満足のうちに眠りについた夜、ローゼマインはマインとして下町の家に帰り、家族と笑い合う幸福な夢を見た。

リュエルに再挑戦

小神殿での朝の支度

幸せな夢から目覚めたローゼマインは寂しさを抱えたまま朝を迎えた。朝食後はハッセの見習いや巫女達に小神殿の清めを任せ、フランと成人した神官達には冬の館へ届ける掃除道具や盥、石鹸などの生活用品を準備させた。同時に、側仕えや専属達は馬車で先に次の冬の館へ向かわせ、プランタン商会の馬車には神殿孤児院へ移動する幼い孤児達を乗せた。ローゼマインは護衛の兵士達に心付けを渡して見送り、父との短い触れ合いを終えると、自らもレッサーバスで冬の館へ向かった。

灰色神官への支援と冬支度の進行

冬の館ではアヒムとエゴンに生活用品を渡し、足りない物があれば小神殿へ取りに行くよう伝えた。二人は清めが進められると喜び、すぐに自室の掃除へ取りかかる様子を見せた。ローゼマインはリヒトに寄贈分の一部を二人の冬支度用として預け、残りは小神殿の冬支度に使うため持ち帰ることにした。朝からの荷運びで疲れたローゼマインは小神殿に戻って休憩し、フランから冬支度はノーラ達や孤児院の者達が慣れてきたため順調に進んでいると報告を受けた。

本の不在と聖典絵本による慰め

休憩中、ローゼマインはエックハルト達の到着まで本を読もうとしたが、暇潰し用の本はすでに馬車で出発してしまっていた。落胆するローゼマインに対し、フランは子供達への読み聞かせ用である聖典絵本を差し出した。ローゼマインはそれを読めるだけで心が安らぎ、改めて読書の必要性を強く実感した。やがて到着したユストクスは、なぜ聖典絵本を作ろうと思ったのかと尋ねた。ローゼマインは本を読むために本を作るのだと答え、さらに本の贈り物であれば喜んで受け取ると口にしたが、ユストクスからはその発言は野心のある貴族を呼び寄せるため人前では口にしてはならないと釘を刺された。

収穫祭の旅による消耗

昼食を終えた後、一行は次の冬の館へ向かった。祈念式の祝福によって豊作となった直轄地では、どの冬の館でも熱狂的な歓迎を受けた。町長や村長達は次の春も来てほしいと願い、ローゼマインは愛想笑いで応じ続けた。しかしその熱気は体調の弱いローゼマインには大きな負担となり、薬で持ち直しては祭りの興奮に巻き込まれて再び体調を崩すことを繰り返した。

ドールヴァン到着とフェルディナンドの配慮

待ち合わせ場所であるドールヴァンの冬の館へ到着したのは、シュツェーリアの夜の前日だった。すでに到着していたフェルディナンドは、間に合わないのではないかと心配していたと告げた上で、祭りが終わっていることに安堵するローゼマインの体調を確かめた。フランから薬をすでにかなり使っていると聞くと、フェルディナンドは予備を補充するよう命じ、翌日の採集に備えてローゼマインを早々に休ませた。ローゼマインも今年こそリュエルを採ると決意して、薬を飲んで眠った。

翌朝の書類仕事と不穏な情報

翌朝、ローゼマインの護衛騎士は再びダームエルに戻っていた。朝食後、フェルディナンドはローゼマインを自室に呼び、収穫祭の報告書を書かせた。素材採集の後にユレーヴェ作製を進めるには先に報告を終わらせる必要があると説明され、ローゼマインは自分の健康のために書類仕事に励むしかなかった。そこへカルステッドからのオルドナンツが届き、まもなく到着すると知らされる。カルステッドが到着すると、フェルディナンドとローゼマインに伝えるよう頼まれた不穏な話があるとして、護衛騎士以外を退室させた。

派閥再編の兆し

カルステッドは、旧ヴェローニカ派がゲオルギーネ来訪以降、再び勢いを取り戻しつつあり、ゲオルギーネ派として復活の兆しを見せていると語った。さらにヴィルフリートが次の旗頭として相応しいと見なされているという噂も、お茶会を通じて各所に広がっていることが明らかになった。ヴィルフリート本人にその意図はなくとも、周囲からどう見えるかが重要であり、派閥争いが再び大きくなり始めているというのである。フェルディナンドは、領主一家がようやくまとまりかけていたのにまた面倒なことになったと眉を寄せた。

ローゼマインへの注意

カルステッドは、表立った動きはまだないものの、来年の夏にもゲオルギーネが来訪するため完全な沈静化は望めず、今後は貴族達の動きを警戒した方が良いと告げた。ローゼマインが何をすれば良いのかと尋ねると、カルステッド、フェルディナンド、エックハルト、ユストクスの四人から一斉に、何をするにもフェルディナンドを通すこと、勝手な真似をしないこと、見知らぬ者に近付かないこと、本を賄賂にされても受け取らないことを言い渡された。ローゼマインは自分への信用の薄さを感じながらも、力なく従うしかなかった。

リュエル採集の作戦会議

昼食後はリュエルの実を確実に採るための作戦会議が開かれた。去年の経験があるため、今回は対処法がわかっており、カルステッド、フェルディナンド、エックハルトという布陣なら対応できると見込まれていた。魔獣は数は多いが一体一体は弱いため、広範囲を狩れる武器が適していること、去年より出発を少し遅らせること、そしてローゼマインの仮眠時間をやや長めに取ることなどが話し合われた。ユストクスも素材採集の経験があるため戦闘要員に含まれ、去年のように枝を伝ってくる魔獣の迎撃役を担うことになった。

シュツェーリアの夜の再挑戦

夕方から仮眠を取った後、紫の月が光るシュツェーリアの夜、一行は昨年と同じ場所へ向かった。リュエルの木にはすでに大きく膨らんだ蕾と白木蓮のような花が咲いており、強い芳香を漂わせていた。フェルディナンドは大鎌に変えたシュタープで周囲の枝を払い、魔獣が飛び移りにくいように整えた。カルステッドも同じように枝を払って備えを進めた。ローゼマインは武勇の神アングリーフに祈りを捧げて皆に祝福を与え、自身はリュエルの実のすぐ近くへ騎獣で上がって待機した。

魔獣の接近と戦いの始まり

やがて花弁が去年と同じようにひらひらと散り始め、土に触れた瞬間に消えていく儚い光景が広がった。その美しさに見入る間もなく、フェルディナンドの促しでローゼマインは祝福を行い、採集体勢に入った。リュエルの木の周囲には五人の騎士がそれぞれ武器を構えて立ち、エックハルトは槍、ブリギッテは薙刀、ダームエルは剣、カルステッドは大鎌を手にしていた。そこへ藪の奥から多数の足音が迫り、ザンツェやアイフィントといった小型の魔獣が赤い目を光らせて次々と現れた。カルステッドとフェルディナンドは、一匹ずつ確実に仕留めることと長期戦を見据えて魔力配分に注意するようダームエルに指示し、リュエルを巡る再挑戦が始まった。

ダームエルの成長

騎獣の上から見守る戦場

ローゼマインは、リュエルの実が大きくなるまで騎獣の中から騎士達の戦いを見守っていた。ダームエルはフェルディナンドとカルステッドが援護しやすい位置に置かれ、担当範囲も最も狭くされていた。周囲から現れるザンツェやフェルツェ、アイフィントといった魔獣は一体ごとの強さは低かったが、数が多いことが脅威であり、去年はそれが大きな問題になっていた。しかし今年は魔力量の豊富なフェルディナンドやカルステッドがいるため、戦況は比較的安定していた。

エックハルトの鋭い槍捌き

最初に大きく動いたのはエックハルトだった。勢いよく踏み込んで槍を突き出すと、一撃で複数の魔獣を貫き、その後も鋭い連撃で次々と魔獣を仕留めていった。弱った魔獣に群がる他の魔獣ごとまとめて突き刺していく戦いぶりは圧倒的であり、普段はフェルディナンドの側近として働く姿しか見ていないローゼマインにとって、騎士として戦う姿は非常に頼もしく映った。

ブリギッテの美しい薙ぎ払い

続いてブリギッテは、薙刀のような武器を大きく振るい、広い範囲の魔獣を一気に薙ぎ払っていった。腰のひねりを活かした無駄のない動きは美しく、刃が翻るたびに魔獣が次々と切り裂かれて消えていった。ローゼマインはその颯爽とした姿に見惚れ、自分もあのような頼れる強さが欲しいと憧れを抱いた。

カルステッドの圧倒的な制圧力

カルステッドは、自分の身長より大きな大鎌を軽々と振るいながら、広い担当範囲の魔獣を次々と消していった。一振りで十匹以上を屠るほどの威力を持ちながら、その動きはあまり力んでいるようには見えず、草刈りでもするような自然さだった。ローゼマインはその強さに改めて騎士団長としての実力を実感し、深く感嘆した。

フェルディナンドの異質な殲滅方法

フェルディナンドは、何かを投げて見えない網のようなものを広範囲に広げ、そこに絡め取った魔獣を一気に爆発で消し去っていた。さらに地面に手をつけて魔力を網目状に走らせると、再び大きな爆発音と共に広範囲の魔獣が消失した。その攻撃は桁違いの魔力量と精密な魔力操作があってこそ成り立つものであり、ローゼマインは感嘆を通り越して恐怖さえ覚えた。

ダームエルの着実な成長

その中でダームエルの戦いは派手さこそなかったが、去年とは明らかに違っていた。剣で一匹ずつ確実に仕留め、無駄に振り回すこともなく、周囲を不安そうに見回すこともなかった。相手に応じて使う魔力量を調整し、より大きな魔獣にはやや強めに、小さい魔獣には小さいなりの力で対処するなど、緩急をつけた戦い方ができるようになっていた。カルステッドやフェルディナンドから休むよう言われても、自分の状態を見極めた上でまだ戦えると答え、必要な時にだけ自分から下がって回復薬を使うなど、冷静さも身につけていた。

努力を認められたダームエル

ダームエルが一度下がった時、ローゼマインは騎獣の上から強くなったと声をかけた。ダームエルは驚きながらも礼を述べ、その後は自分の魔力を確かめるように息を整えてから再び戦いに戻った。先ほどよりも余裕を持って戦えているように見え、ローゼマインは彼が真面目に訓練を積み重ねてきたことを感じ取り、自分のことのように嬉しくなった。

リュエルの実の採集成功

やがてユストクスから頃合いだと告げられ、ローゼマインは騎獣から身を乗り出してリュエルの実に魔力を注ぎ始めた。リュエルの実は他者の魔力を拒むように強く抵抗するが、去年よりも押し返される感覚は弱く、ローゼマインは自分の成長も実感しながら一気に魔力で染め上げた。実が淡い黄色に変わると、枝を切ってすぐに魔力遮断の革袋へ収め、採集を無事に終えた。

ダームエルへの気配りと誤算

ローゼマインは、自分の採集が終わった後もすぐには撤収を認めず、ダームエルにも高品質のリュエルを採らせるべきだと主張した。護衛任務のため普段は魔石を取りに行けないのだから、求婚用にここで採集しておくべきだと騎士物語の知識を根拠に胸を張ったが、その発言はブリギッテ本人の前でなされたため、場の空気を微妙なものにしてしまった。本来はこっそり準備する類のものであり、ローゼマインは気を回したつもりが大失敗だったと気付いて慌てた。

ダームエルの採集と喜び

それでもカルステッドが許可を出し、エックハルトとフェルディナンドも後押ししたことで、ダームエルは騎獣でリュエルの実に近付き、手早く二つを採集した。ひとつは求婚用、もうひとつは自分用と考えられ、ダームエルはこれほど質の良い魔石を持つのは初めてだと喜び、後で時間をかけて自分の魔力で染めるつもりだと語った。

翌朝の呼び出しと異様な空気

素材採集を終えて満足したローゼマインはぐっすり眠り、翌朝は健康になれるという期待を胸にフェルディナンドの部屋へ向かった。だが、部屋の中は仕事の続きとは違う緊迫した空気に包まれており、カルステッド、フェルディナンド、エックハルトが難しい顔で座り、ダームエルは情けない様子で助けを求めるようにローゼマインを見ていた。ブリギッテとフランを下がらせた上で、フェルディナンドはローゼマインに、ダームエルに何をしたのかと問いただした。

魔力圧縮の助言の発覚

ローゼマインは最初、リュエル採集の勧めや護衛中に菓子を渡したことを思い浮かべたが、問題にされていたのはダームエルの魔力が不自然に増えていることだった。ローゼマインは、アンゲリカに兵法を理解させる際にダームエルがゲヴィンネンを利用したのと同じように、自分の魔力圧縮の仕方を見える形で教えただけだと説明した。ダームエルは、その方法を広めれば成長期の者の魔力が飛躍的に伸び、自分が再び平均以下に埋もれることを恐れて報告しなかったと謝罪した。エックハルトも、個人や一族の秘法と呼べるほどの効果があるなら隠したくなる気持ちは理解できると庇った。

ローゼマインの考えとフェルディナンドの依頼

フェルディナンドは、ローゼマインがその方法を周囲に秘匿するつもりはなかったのなら、なぜ魔力不足のエーレンフェスト全体に広めようと考えなかったのかと問いかけた。ローゼマインは、自分にとって魔力圧縮は生きるために必要だった方法であり、魔術具を持つ貴族に教えるものではないと思っていた上に、危険なやり方なら死者が出るかもしれず、安易には広められないと答えた。そしてダームエルには、自分の素性とその方法の重みを理解できる相手だったから教えたのだと説明した。これに対してフェルディナンドは、考えは理解した上で、それでもエーレンフェストの他の貴族達にも教えてほしいと頼んだ。ゲオルギーネがアーレンスバッハ第一夫人という立場を利用して何か仕掛けてきた時に備えるため、貴族達の魔力の底上げは準備の一環として必要だと考えていたのである。

条件付きの協力表明

ローゼマインは、貴族の魔力を早急に増やそうとする理由に疑問を抱きつつも、フェルディナンドが準備の一環だと説明したことで協力自体は受け入れた。ただし、魔力圧縮の方法には危険性や不安要素があるため、無条件で教えるつもりはなかった。そこで領地のためならば教えてもよいが、条件を付けさせてほしいと告げた。

魔力圧縮の条件

圧縮法を教える対象の制限

ローゼマインは、魔力圧縮を教える相手を貴族院で正式な圧縮法を学んだ者に限ると条件を示した。自力で圧縮できない者に教えるつもりはなく、生死に関わる危険がある以上、それは譲れない線だと明言した。フェルディナンドもカルステッドもエックハルトも、この条件には当然だと納得した。

敵対者に知識を渡さない方針

次にローゼマインは、自分が属する派閥の者にしか教えないと宣言した。自分に敵対する可能性のある者の魔力を増やす手助けをする気はないのである。貴族社会の繋がりを把握していない自分に個別判断は難しいため、対象はフロレンツィア派に属する者に絞るべきだと主張した。そうすることでゲオルギーネ派を切り崩す一助にもなり、ヴィルフリートをフロレンツィア派として周囲に認識させる効果もあると考えた。

許可者を六人に限定した選別方法

ローゼマインは、対象者の決定には六人全員の許可を必要とする案を示した。領主夫妻、私情を挟まず判断できるフェルディナンド、戦力の要であるカルステッド、フロレンツィア派を実質的に支えるエルヴィーラ、そして知識提供者であるローゼマイン自身である。自分の保護者に当たる者達の全員が認める相手ならば、敵に回る可能性は著しく低くなると考えたのである。

親の情への警戒

フェルディナンドが領主夫妻だけでは不足かと問うと、ローゼマインは、親の情が入ればヴィルフリートに知識を渡してしまう可能性があると答えた。親の情は何よりも子を優先するものだと考えており、それは平民時代に父母から受けた愛情が基準になっていた。フェルディナンドは、その基準は貴族社会では通用しないとしつつも、ローゼマインの考え方自体は理解した。

契約魔術による知識流出の防止

ローゼマインは、他領へ圧縮法が広まることを防ぐため、契約魔術で他者に教えられないよう縛る必要があると主張した。エーレンフェストだけで秘伝とするつもりであり、そのための費用を惜しむならば教えること自体を諦めるべきだとまで言い切った。フェルディナンドは、その契約魔術は非常に高価だが存在すると答え、領地の予算を割く価値は十分にあると判断した。

親子間にも例外を認めない理由

さらにローゼマインは、親子や兄弟の間でも圧縮法を教えられないよう契約で縛るべきだと求めた。危険な方法である以上、神殿入りを避けたい親が幼い子供に無理をさせる可能性を恐れたからである。洗礼前の子供は貴族社会で人として数えられていないと言われても、実際に存在し生きている以上、その命を危険に晒すようなやり方は認められないと強く訴えた。

子供の命を優先する選択

フェルディナンドは、ローゼマインの選択によって貴族になれたかもしれない子供が神殿に入ることになってもよいのかと問いかけた。これに対しローゼマインは、十人が死んで一人が貴族になれる状況よりも、十一人が青色神官になる状況を選ぶとはっきり答えた。神殿入りと貴族の生活に大きな差があることを理解しながらも、子供の命を危険に晒すことだけは譲れなかったのである。

料金設定の提案

フェルディナンドが他に条件はあるかと問うと、ローゼマインは教える際には料金を取るべきだと主張した。貴重な知識なのだから当然だという考えである。ただし、魔力の底上げが目的ならば、下級貴族は安価に、位が上がるほど高額にするべきだと提案した。もともと魔力の多い上級貴族は、自分の努力でどうにかできる余地があるのだから、その価値を感じる者だけが対価を払って得ればよいという考えだった。

条件受諾とダームエルの扱い

フェルディナンドはローゼマインの条件を受け入れた上で、契約魔術と料金の準備が整ってから圧縮法を教えるよう求めた。ローゼマインは即答を避け、準備ができてからだと返し、少しは用心深くなったと評された。また、ダームエルに関しては自分が勝手に教えたのだから料金は不要だが、他の者と同じように契約魔術で口外できないようにするべきだと決めた。ダームエルはそれを快諾し、費用を請求されなかったことに安堵した。

カルステッドの帰還と読書の一日

魔力圧縮の話を終えると、カルステッドは安心したように帰還した。ローゼマイン達は一日休憩を取った後にイルクナーへ向かう予定となり、フェルディナンドは情報収集のためユストクスを先にエーレンフェストへ戻すことにした。また、自分が忙しいため問題を起こされては困るとして、ローゼマインには一日部屋で紙の綴りを読んで過ごすよう命じた。ローゼマインは読書ができることを大いに喜び、上機嫌で部屋へ戻った。

エルヴィーラからのリストと親の情

ローゼマインが受け取った紙の綴りは、ゲオルギーネ派のリストだった。ゲオルギーネ派のお茶会に出ている貴婦人達の名や、中立寄りの下級貴族への注釈、さらにその血縁関係まで記されていた。最後のページには、フェルディナンドの役に立てば幸いだという言葉と共に、ローゼマインをよろしく頼むという一文が添えられていた。ローゼマインはそこにエルヴィーラの親としての情を感じ取り、危険を避けられるよう自分のために準備してくれた心遣いに胸を熱くしながら、リストをしっかり読み込もうと決意した。

イルクナーの収穫祭

イルクナーの変化と新たな懸念

ローゼマインがゲオルギーネ派のリストを読み込んでいると、ブリギッテのもとにギーベ・イルクナーからのオルドナンツが届いた。そこでは到着予定や収穫祭の日取りに加え、例の件についてローゼマインに確認してほしいと伝えられていた。ローゼマインはイルクナーの様子を尋ね、灰色神官達が住民教育に非常に尽力し、少しずつ形になってきたと聞いて安堵した。一方で、イルクナーは自分が対応すれば問題ないと思い込み、他の貴族が視察に来る可能性を考えていなかったことを認め、神殿工房が参考にならないとフェルディナンドに指摘されたことで、自分の見通しの甘さを痛感していた。

灰色神官の結婚を巡る相談

ブリギッテは逡巡した末に、灰色神官には結婚が許されていないのかと尋ねた。ローゼマインが事実だと答えると、ブリギッテは落胆を露わにしたため、ローゼマインは一瞬ブリギッテ自身の想い人が灰色神官なのかと疑ったが、すぐに否定された。実際には、イルクナーの民と灰色神官の婚姻についての相談だった。ローゼマインは、ギーベ・イルクナーがその灰色神官を購入して神殿の管轄から外せば、婚姻は可能になると説明した。これを聞いたブリギッテは兄に知らせてよいかと願い出たが、ローゼマインは勝手なことはできないとして、まずフェルディナンドに確認を取ることにした。

フェルディナンドの許可と書類作成

ローゼマインがフランを通じて面会を求めると、部屋で待機するよう命じたはずだと叱られたが、それでも急ぎの件であると伝えた結果、昼からの面会を許された。そこで灰色神官の結婚について相談すると、フェルディナンドはギーベ・イルクナーが買い取れば何の問題もないと即答した。ただし、収穫祭で結婚させるなら準備が必要であり、書類はこちらで整えるべきだと指示した。ローゼマインは部屋に戻ってフランに教わりながら灰色神官の買い取りに関する書類を作成したが、人の売買に関わることへの憂鬱と、結婚して幸せになれるなら祝ってあげたいという気持ちの間で複雑な心境になっていた。

フランの結婚観とローゼマインの不安

書類を作りながらローゼマインは、結婚祝いはどうすればよいかとフランに尋ねたが、灰色神官で結婚した例を知らないと返された。さらに、フラン自身は結婚したいとは思わず、今の生活に満足しており、結婚がどういうものかも知らないため、仮にそうなれば非常に困ると告げた。その言葉を聞いたローゼマインは、イルクナーの民が結婚を望んでいても、灰色神官本人が本当にそれを望んでいるのかという不安を強くした。

イルクナー到着と住民達の努力

イルクナーに到着すると、以前のように気軽に群がってくるのではなく、ギーベ・イルクナーを先頭に住民達が跪いて出迎えた。作法にはまだたどたどしさが残っていたが、田舎ゆえの不慣れで済ませられる範囲であり、灰色神官達の教育と住民達の努力がはっきりと伝わるものだった。ローゼマインは部屋へ案内された後、ギーベと話す前に灰色神官達の本心を確かめなければならないと考え、急いで離れへ向かった。

フォルクの本心の確認

離れではギルと四人の灰色神官達が待っており、ローゼマインはギーベ・イルクナーから聞いた話を切り出した。結婚を望んでいるのが誰かと尋ねると、視線はフォルクに集中した。ローゼマインはまず、ギーベや相手に結婚を強要されていないかを確認し、フォルクはそのようなことはないと答えた。続いて、自分自身が結婚を望み、神殿を出てイルクナーで一生を過ごす覚悟があるのかを問うと、フォルクは不安は多いし結婚がどういうものかもわからないが、それでも彼女と共にありたいと思ったと告白した。ローゼマインはそれを聞いて安心し、ギーベ・イルクナーとの売買契約を進めることを決めた。

急ぎの呼び出しと契約内容の確認

灰色神官達との話を終え、工房の成果報告は後日に回して戻ろうとしたところで、フェルディナンドから急ぎの呼び出しが入った。勝手に離れへ行っていたことを見抜かれ、薬で無理に体調を保っている状況で何をしていたのかと鋭く咎められたが、ローゼマインは灰色神官に急ぎ確認すべきことがあったと答えた。フェルディナンドは、売買契約の前に契約書への記入を済ませるよう命じ、フォルクにできることを書き足させた。製紙業と印刷業の知識と実務経験などを並べた結果、その価値は非常に高くなった。

フォルクの価値と値段の重さ

フェルディナンドは、灰色神官の値段は平均で小金貨五枚ほどだが、技能によって大きく上下すると説明した。フォルクは元青色神官の側仕えで教育も受けており、製紙業と印刷業にも通じているため高価になるのは当然だった。ローゼマインも、何でもできる優秀な灰色神官が安いはずがなく、ここで安売りすれば今後他の貴族にも値引きを迫られ、工房の中核を担う人材を支えられなくなると考えた。フェルディナンドからも、神官の売買契約は本来神官長の職務であり、今回は神殿長として承認するだけに留めて口を出さぬよう念を押された。

夕食後の契約交渉と決裂

夕食後、ギーベ・イルクナーの執務室で売買契約の話し合いが始まった。そこには当事者であるフォルクと、その相手である若い女性カーヤが寄り添うように立っていた。ギーベ・イルクナーの表情には祝福の色があり、ローゼマインはフォルクが利用されているのではないかという不安を少し和らげた。だが、契約書に目を通したギーベ・イルクナーはその金額に愕然とした。父が買った灰色神官は小金貨一枚程度だったのに対し、フォルクは大金貨二枚と小金貨二枚という高額であり、とても購入できないと告げた。彼は当初、小金貨五、六枚ほどを想定していたが、フェルディナンドは印刷業と製紙業の知識という付加価値を考えれば値引きはできないと断じた。

ローゼマインの苦渋と交渉の終幕

ギーベ・イルクナーはローゼマインに縋るような視線を向けたが、彼女は首を横に振った。恋を叶えてあげたい気持ちはあっても、ここで情に流されて値を下げれば、他の貴族からも同様の要求を受け、偽装結婚のような問題まで起こり得るからである。交渉は決裂し、フェルディナンドは灰色神官は買い取られない限り結婚できないのだから、この話は終わりだと切り捨てた。ギーベ・イルクナーは苦い顔で跪き、カーヤは堪え切れず嗚咽を漏らし、フォルクも今にも泣きそうに顔を歪めた。ローゼマインは居たたまれなくなったが、フェルディナンドから、金が足りないならどうするのだと問われ、即座に稼ぐと答えた。そこでフォルクに優先権を与え、一年間で必要な金額を稼ぐ案を提案したが、ギーベ・イルクナーはそんな額は一年では無理だと絶望した。

商売感覚への評価と助言の許可

退室した後、ローゼマインはイルクナーの新しい紙を活かせば、一年で大金貨二枚程度なら十分に稼げるはずだと考えた。植物紙の初期にも自分達は短期間で大きく稼いでおり、他に真似される前の今こそ好機だと思ったのである。フェルディナンドは、ギーベ・イルクナーは交渉事そのものに弱く、貴族として致命的だと評しつつも、ローゼマインがベンノに育てられた商売感覚を持っていることを認め、稼ぎ方について助言するくらいなら構わぬと許した。ローゼマインはその情け深さに驚いたが、すぐに額を弾かれてたしなめられた。

収穫祭の熱気と工房の成果報告

翌日はイルクナーの収穫祭だった。住民総出の準備の熱気が満ちる中、ブリギッテは休みを与えられ、久々の故郷の祭りを堪能できるように配慮された。フェルディナンドが徴税官を伴って儀式を執り行うことになり、ローゼマインはただの客として離れへ向かった。そこにはギル、ルッツ、ダミアンが待っており、イルクナーでの成果を報告した。ギルによれば、リンファイ、魔木のナンセーブ、エイフォンから三種類の新しい紙ができていた。シッスイラはイルクナー産のデグルヴァという糊と相性が悪く、白皮を持ち帰って他の糊で試す予定だった。ナンセーブ紙とエイフォン紙にはまだ特性が見つかっていないものの、今後使う中で発見していくしかないと話された。

トラオペルレと新たな特産の可能性

続いてルッツは、トラオペルレという木の実を使うと、つるつるして硬い紙が作れると報告した。これは食用には向かないが、糊として使えば独特の紙になるため、購入してエーレンフェストへ持ち帰り、他の木との相性も試したいと考えていた。ローゼマインは、トラオペルレを使った紙がイルクナーの特産になりそうだと評価した。その後、ダミアンとは価格設定について相談し、プランタン商会としてぼったくりにならぬよう気を配りつつ、他の紙との兼ね合いも考えながら値を決めた。

ルッツ達との再会と癒やし

ダミアンが契約書を作るために退室すると、ローゼマインはフランを外へ出してもらい、ルッツに飛びついた。家族にも会えず、手紙も届けられない中で寂しさを抱えていたためである。ルッツは呆れた顔をしながらも抱き止め、ローゼマインはルッツやギルを褒めて労った。素材採集について尋ねられると、薬の材料はすべて揃ったと胸を張って答えたが、ダームエルからは頑張ったのは護衛騎士だと突っ込まれ、皆で笑い合った。ローゼマインは、これで普通の女の子になれるのだと嬉しそうに語ったが、ルッツからは元気になっても普通の女の子にはなれず、むしろ変なところが目立つだろうと言われてしまった。

フォルクへの希望と一年の猶予

その後、ルッツがフォルクのことを気にかけ、交渉が駄目だったのかと尋ねた。ローゼマインは、高価すぎてギーベ・イルクナーに資金が足りなかったが、先を考えると値下げはできなかったと説明した。ルッツも計算し、印刷関係の知識を持つ元側仕えなら高価になるのは当然だと納得した。ローゼマインは、これだけ新しい紙ができたのだから、一年必死に紙を作って売れば大金貨二枚程度なら十分稼げると思うと語り、ギルからフォルクにそれを伝えさせてほしいと頼まれた。ローゼマインはそれを快諾し、ギーベ・イルクナーに頼まれてフォルクを一年貸し出す形にできれば、神殿側としても一番都合が良いと考えた。

祭りの中でのフォルクへの助言

収穫祭が始まり、初めて祭りを目にするギルやルッツ、灰色神官達はそれぞれ違う反応を見せた。ローゼマインは、ボルフェに夢中な人々の喧騒の中でフォルクを呼び寄せ、値引きできないのは他の契約への影響を考えれば譲れないからだと説明した。その上で、一年かけてカーヤと協力して新しい紙作りに励み、お金を貯めながらイルクナーでの生活に慣れてほしいと告げた。灰色神官ではない生き方を見つめ、夫婦として共に暮らすとはどういうことかを理解し、互いを大切にできる関係を築いてほしいと祈りを込めて語った。

一年の貸し出しと帰還

収穫祭の後、ギーベ・イルクナーとプランタン商会の契約が結ばれ、ローゼマインはその契約をもとに商売の助言を与えつつ、フォルクを一年間貸し出す方向で話をまとめた。すべての話し合いを終えてエーレンフェストへ帰る時、フォルクとカーヤは寄り添って静かに跪き、最後まで首を垂れてローゼマイン達を見送った。

初めての妹

収穫祭後の報告と城への帰還

エーレンフェストへ戻ったローゼマインは、各地の収穫祭から青色神官達が持ち帰った小聖杯を回収し、収穫量や各地の様子について報告を受けた。その内容をまとめて領主に報告するため城へ向かい、これが終わればユレーヴェを作ってもらえるのだと、自らを励ましながら準備を進めた。

シャルロッテとの初対面

城に着くと、ローゼマインはフェルディナンドと別れて北の離れの自室へ向かった。そこでリヒャルダから、報告の後にこの冬に洗礼式を迎えるシャルロッテ姫の挨拶があると告げられる。階段を上がる途中、家具が運び込まれる隣室の前でシャルロッテと出会った。シャルロッテはローゼマインを見るなり嬉しそうに駆け寄り、お姉様と呼びかけた。その一言にローゼマインは強く心を打たれ、初めてできた妹の存在に感動した。

姉妹としての受け入れ

シャルロッテはまだ洗礼式前で正式な祝福は祈れないものの、祈り言葉をきちんと述べて丁寧に挨拶した。ローゼマインはそれを歓迎し、自分はシャルロッテの姉であると告げた。シャルロッテは兄弟が男ばかりなのでお姉様が欲しかったと喜び、ローゼマインも妹が欲しかったと応じた。二人はこれから仲良くしていくことを確かめ合い、ローゼマインはシャルロッテを非常に愛らしく感じた。

洗礼式の祝福の約束

シャルロッテは、ローゼマインが神殿長であるなら、自分の洗礼式で祝福を授けてくれるのかと期待を込めて尋ねた。ローゼマインは、フェルディナンドが許可すれば姉として祝福を与えると約束した。可愛い妹からのおねだりを叶えたいという気持ちが強く、姉として良いところを見せたいという思いが芽生えた。

お茶会の約束と報告への移動

リヒャルダに急かされてローゼマインは報告へ向かうことになったが、その前にシャルロッテと五の鐘の頃にお茶会を開く約束をした。シャルロッテもお菓子が好きらしく、その約束は両者にとって楽しみなものとなった。ローゼマインは急いで着替えて領主の執務室へ向かい、到着するとフェルディナンドや文官達がすでに準備を整えていた。

収穫祭の報告とシャルロッテへの想い

執務室では、ローゼマインはまずシャルロッテがとても可愛らしいと口にし、ジルヴェスターもそれに同意した。だが、フェルディナンドに本題へ戻され、収穫祭の報告を始めることになった。ハッセを除く直轄地では収穫量が前年より増加しており、祈念式でローゼマインが領地を回った効果が認められた。ジルヴェスターは次の春もローゼマインに頼むつもりであることを示し、ローゼマインも健康になっているはずだと考えて了承した。

魔力圧縮の実験提案

報告後、文官や側仕えを下がらせたジルヴェスターは、大人にも魔力圧縮が効果を持つのではないかと話を切り出した。ローゼマインは、自分はまだ大人ではないので断言できないが、実験してみる価値はあると答えた。ジルヴェスターは領主夫妻やフェルディナンド、カルステッド一家など、ローゼマインの条件に合う家族や保護者から始めるつもりでいたらしく、その後は護衛騎士や側仕えにも広げる構想を持っていた。

料金設定の見直し案

ローゼマインは、大人にも効果があるならば魔力圧縮の料金を見直した方が良いと提案した。子供向けの教育費のつもりで考えていたが、大人も使えるとなれば利用者が増え、負担も大きくなるからである。そこで、同じ一家の二人目からは半額にする案を出し、特に一家の対象者が多いカルステッドにとっては助かる話となった。

シャルロッテとの約束を優先

ジルヴェスターは、なるべく早く冬の社交界で魔力圧縮の話を流したいと考え、急いで試したい様子を見せた。しかしローゼマインは、今日はシャルロッテとお茶会の約束をしているのだから、契約魔術の準備などは後日にしてほしいときっぱり断った。ジルヴェスターが養父である自分よりシャルロッテを優先するのかと嘆くと、ローゼマインはシャルロッテの方が可愛いからだと即答した。

ユレーヴェ使用の延期

さらにローゼマインは、自分の薬作りの方が他人への魔力圧縮普及より重要だと主張したが、フェルディナンドはユレーヴェを使えば十日から一月、場合によっては一季節分眠ることになると説明した。シャルロッテの洗礼式に出るなら今は使わない方が良いとされ、しかも洗礼式で祝福を行うならそのために覚えるべきことが大量にあると言われた。ローゼマインは自分の健康が遠のいたことに嘆いたが、妹との約束を守るため、薬の使用は後回しにすると決めた。

妹に尊敬されたい願い

フェルディナンドは、洗礼式で祝福をするだけでなく、その後の奉納式や祈念式でも領主の養女として領地に貢献する姿を見せれば、さらに妹に尊敬されるのではないかと説いた。ローゼマインはその言葉に深く納得し、初めてできた妹に良いところを見せたい気持ちから、それなら祈念式まで頑張ろうと決意した。こうして、健康を得る時期はさらに後ろへずれたが、ローゼマインはシャルロッテとのお茶会へと意気揚々と向かった。

初めての妹とのお茶会

五の鐘前には、お茶会の準備とエラの作った果物たっぷりのパイが整えられていた。シャルロッテは家族以外とのお茶会が初めてで少し緊張していたが、ヴィルフリートがいつもローゼマインを褒めており、会えるのをとても楽しみにしていたと打ち明けた。聖典絵本やカルタ、トランプ、フロレンツィアの髪飾りなど、ローゼマインが考えた品々を次々と褒められ、ローゼマインは嬉しさと気恥ずかしさで胸がいっぱいになった。さらに、シャルロッテの洗礼式に合う髪飾りを貸してあげる話まで進み、姉妹らしい穏やかな時間が流れた。

ヴィルフリートの乱入

その和やかな場に、ヴィルフリートが入室許可も待たずに飛び込んできた。ダームエルが入室の許可を求めていると告げている途中だったが、ヴィルフリートはそのまま部屋へ入り、シャルロッテに今すぐ部屋を出るよう命じた。さらに、ローゼマインに騙されてはならず、ローゼマインとフェルディナンドは悪者だと叫んだため、部屋の空気は一変した。

アンゲリカによる制圧

ローゼマインが言いがかりをやめるよう求める間もなく、ヴィルフリートはローゼマインへ駆け寄ろうとした。これに対し、護衛騎士のアンゲリカは即座に動き、ヴィルフリートの腕を取って引き倒し、そのまま押さえ込んだ。ダームエルも警戒態勢を取って護衛を固め、ランプレヒトは助けを求めるような視線をローゼマインに向けた。だが、拘束を解くより先に、ヴィルフリートはさらに重大なことを叫んだ。

ヴェローニカとの接触の発覚

ヴィルフリートは、自分は祖母から聞いたのだと叫び、ローゼマインとフェルディナンドに陥れられたのだと訴えた。その祖母とは、重大な罪を犯して幽閉されているヴェローニカのことだった。ローゼマインが、いつどこでヴェローニカと話したのかと尋ねると、周囲の護衛騎士や側仕え達は一斉に顔色を変えた。リヒャルダは息を呑み、ランプレヒトはヴィルフリートに詰め寄って、いつどのようにヴェローニカと会ったのかを必死に問いただした。どう考えても正規の許可で面会したとは思えず、ここで収まる話ではないことが明白になった。

アウブへの報告

この異常事態を前に、ローゼマインは事を荒立てないよう慎重に伴を選んでジルヴェスターを呼ぶべきだと判断した。リヒャルダに対し、アウブ・エーレンフェストへ報告を入れ、こちらに来てもらうよう命じた。こうして、初めての妹との幸せなお茶会は、ヴェローニカとの接触という重大な問題の発覚によって中断されることになった。

ヴィルフリートの行い

側近達の落胆と問い詰め

リヒャルダがアウブへの報告に向かい、重い沈黙が部屋を満たす中、ヴィルフリートは自分を助けるようランプレヒトに叫んだ。だがランプレヒトは、去年の秋以来まじめに励むヴィルフリートの姿を誇らしく思っていたからこそ、このような事態になったことが悔しくてならないと告げ、何が起こったのかがわかるまでは拘束を解けないと答えた。ヴィルフリートは祖母に会ったことがそれほど重大なのかと驚いたが、側近達は沈痛な面持ちで肯定した。

領主一家の到着と事情聴取の開始

やがてジルヴェスター、カルステッド、フェルディナンド、エックハルトが到着し、続いてフロレンツィアも呼び寄せられた。部屋は急ぎ話し合いの場へ整え直され、ヴィルフリートの側近達も全員集められた。ジルヴェスターはまず、物事にはそれぞれの見方があり、すべてを明らかにした上で判断しなければならないと前置きした後、オズヴァルトに対して、いつヴィルフリートを見失ったのかを問いただした。

狩猟大会での誘導

オズヴァルトは、自分達が業務に就いている間にヴィルフリートを見失ったことはなく、この一年の報告に偽りはないと主張した。そこへヴィルフリート自身が、自分は誰も欺いていないと口を挟み、ヴェローニカに会ったのは狩猟大会の時だと明かした。ヴィルフリートは途中までフロレンツィアと共にいたが、冬に知り合った学友達と遊び始め、かくれんぼのような形で大人に見つからぬようお茶会の広場を抜けるうち、そこにいた貴族達の話を聞いたという。

旧ヴェローニカ派の噂話

その場にいた大人達は、ローゼマインとフェルディナンドのせいでヴェローニカや前神殿長が捕えられたのだと口々に語っていた。ヴィルフリートは父から聞いていた説明をその場で口にしたが、ヴェローニカが罪を犯したこと自体はその通りでも、罪を犯すように仕向けられた原因はローゼマインにあり、裏で糸を引いていたのはフェルディナンドだと畳みかけられた。さらに、ヴェローニカ本人に直接聞けば真実がわかるのではないかと誘導され、白い塔の存在と場所を教えられたのである。

白い塔への侵入

ヴィルフリートは学友達と共に探検気分で白い塔へ向かい、そこにいた男から、扉は領主かその子しか開けられないと聞かされた。他の子供達が試しても開かなかったため、期待を込めた視線を受けたヴィルフリートが扉に手をかけると、本当に開いてしまった。塔の中へ入ったのはヴィルフリート一人だけであり、そこでヴェローニカ本人から、自分が辛い目に遭っているのはすべてローゼマインとフェルディナンドのせいだと聞かされたのだった。

領主への反逆という重大性

ジルヴェスターは、ヴェローニカの罪を明らかにし、裁決を下したのはアウブ・エーレンフェストである自分だと厳しく告げた。母を擁護し、その裁決に異議を唱えることは領主への反逆に等しいと指摘され、ヴィルフリートは慌てて反抗の意思はないと否定した。だがジルヴェスターは、そう見られること自体が問題なのだと諭し、迂闊なことを言ってはならないと繰り返し戒めた。

フロレンツィアの真実

続いてフロレンツィアは、自分にとっての真実を語った。生まれてすぐのヴィルフリートをヴェローニカに取り上げられ、撫でることも抱きしめることも許されなかったこと、そればかりか今度はヴィルフリート自身に大きな罪を犯させてしまったことが、自分にとっての真実なのだと震える声で告げた。ヴィルフリートは、自分が罪を犯したのかとようやく事の重大さに気付き始めた。

塔への立ち入りが意味する罪

ジルヴェスターは、白い塔は領主一族の中でも深刻な罪を犯した者を幽閉しておくための場所であり、アウブの許可なく立ち入った者は領主への反乱や罪人の逃亡幇助に問われると説明した。ヴィルフリートを塔へ導いた貴族達は、噂を流し、場所を教え、探検に誘っただけで、塔へは立ち入っていない。結果として明確に罪に問えるのは、塔に踏み込んだヴィルフリート一人だけだった。フロレンツィアは、その罪が廃嫡どころで済まぬかもしれず、やっと手元に戻った息子をまた失うかもしれないと涙を流した。

ローゼマインの真実

フェルディナンドは、真実は人の数だけ存在するとして、今度はローゼマインに自分の真実を語らせた。ローゼマインは、神殿で隠されて育てられていたこと、前神殿長が自分を平民と誤解してそれを他領の貴族に流したこと、その結果ビンデバルト伯爵に売られかけたこと、護衛や側仕えが自分を守ろうとして傷ついたこと、そして自分を守るために領主の養女となり、下町に降りる自由や家族との生活、本作りの自由を失ったことを語った。さらに、洗礼式直後から魔力の穴を埋めるために神殿長の職を担わされたことも付け加えた。

ヴィルフリートの動揺と謝罪

ヴェローニカの罪がどのようにローゼマインに結びついていたのかを初めて知ったヴィルフリートは愕然とし、祖母から聞かされていた話と違うと戸惑った。フロレンツィアは、ヴェローニカのせいでローゼマインは大変な目に遭ったにもかかわらず、ヴィルフリートが廃嫡の危機に陥った時には助力してくれたではないかと諭した。そこでようやくヴィルフリートは、自分が恩知らずであったことを認めてローゼマインに謝罪した。ローゼマインは、ヴィルフリートにとってヴェローニカが大切な家族である以上、自分より祖母の言葉を信じたのは当然だと受け止めた。

処分を巡る議論

フェルディナンドはなお冷ややかに、ヴィルフリートはローゼマインを侮辱し、禁じられた塔に入ったのだから、廃嫡して神殿に入れるか、祖母と同じように塔へ幽閉するのが妥当だと述べた。ローゼマインは、明らかに誘導された結果であり、まだ何もしていないのだから罪に問うのは重すぎるのではないかと庇った。さらに、自分も家族への思いを持つ者として、もし同じ立場ならば同じことをしたかもしれないと訴えた。

三つの真実を前にしたヴィルフリート

フェルディナンドは、ヴィルフリートは今や祖母、父、ローゼマインという三つの真実を知ったのだと整理し、そのすべてを聞いた上で何を思い、何を考えたのかを問うた。ヴィルフリートは顎に手を当て、しばらく深く考え込んだ末、ゆっくりと顔を上げてフェルディナンドを真っ直ぐに見た。

ヴィルフリートの処分

ヴィルフリートの判断と謝罪

ヴィルフリートは、ヴェローニカの語った真実だけが他の者達の真実と一致しないことに気付き、好きではあるが正しいか間違っているかで考えれば、祖母の方が間違っていると思うと述べた。そして、まずフェルディナンドに対して素直に謝罪した。予想外の謝罪にフェルディナンドは驚いたものの、さらに厳しい目で見つめたため、ヴィルフリートはかえって怯えることになった。

フェルディナンドの問いとヴィルフリートの気付き

ローゼマインが、フェルディナンドは怒っているのではなく、話をきちんと聞く気になったのだと説明すると、フェルディナンドは渋々ながらも話を続けた。そして、お茶会にいた貴族達をどう思ったのかとヴィルフリートに尋ねた。ヴィルフリートは、親切そうに見えた貴族達が実際には犯罪を勧めていたのだから、本当の味方ではなかったと理解したと答えた。笑顔で近付く者が味方とは限らないという、これまで教えられてきた言葉の意味を、ようやく実感として理解したのである。

教育の意味の理解

フェルディナンドは、だからこそ知らぬ貴族と口をきくな、迂闊なことを言うなと教え込まれるのだと説明した。禁止されることには必ず意味があり、領主の子に多くの制約があるのも危険を避けるためだと諭した。ヴィルフリートは、文字や計算、フェシュピールの練習と同じように、教育として叩き込まれることにも意味があるのだと理解した。さらに、ヴェローニカの罪でさえ見る者によって全く異なって映るのだから、様々な意見を聞くこと自体は大切だとも述べた。

処分の難しさと敵の狙いへの疑念

本来であれば、ヴィルフリートには廃嫡して神殿に入れるか、祖母と同じく塔に幽閉する処分が妥当だとフェルディナンドは言った。だが同時に、今回は多くの人間が関わりすぎていて、単純に処分を下せば済む話ではないとも判断した。塔の情報を知る者が限られていること、扉さえ開けば他の者も入れたはずなのに誰も助け出しに入らなかったことから見ても、ヴィルフリートを唆した者達の狙いが一つではない可能性が高かった。派閥の旗頭にしたいのか、逆に排除したいのか、その目的さえ判然としなかったのである。

ローゼマインの外部からの嫌がらせという見立て

複雑な悪意の流れを聞いたローゼマインは、これは完全に嫌がらせではないかと指摘した。ヴィルフリートには祖母の現状を見せて家族関係にひびを入れ、領主夫妻には息子の処遇で苦しませる。そして、どのように処分しても不満が出て、処分しなくても危険が残る。さらに関わった貴族を一斉に処分できるほどエーレンフェストに魔力の余裕はない。そう考えると、これは内部の派閥争いというより、外部から領地を引っ掻き回すための嫌がらせと見る方が自然だと考えたのである。

現状維持という提案

ジルヴェスターが、もし外部からの嫌がらせだと仮定するなら、相手が最も嫌がるのは何かと問うと、ローゼマインは現状維持だと答えた。引っ掻き回したいのに何も変えられず終わることこそ、相手にとって最も嫌な結果だという考えである。そして、ヴィルフリートが罪を犯した事実は証拠として残しておきつつも、処分は情報が出揃ってからでも遅くないのだから、まずは情報収集を優先し、その間は現状を維持するべきだと提案した。

記憶を覗く魔術具による処罰案

しかしフェルディナンドは、全く咎めなしでは領主の権威に傷がつくとして、何らかの処分は必要だと反論した。そこでローゼマインは、重大な犯罪者に対して用いる記憶を覗く魔術具をヴィルフリートに使う案を出した。これならば、ヴィルフリートを処罰した印象を与えつつ、唆した相手を特定できる上に、その後は現状維持を装って相手を泳がせることもできる。さらに、ヴィルフリートの今までの生活にどのような問題があったかも、ジルヴェスターが記憶を見れば把握できると説明した。

処分内容の決定

この提案を受けてフェルディナンドは、ヴィルフリートの記憶を探って危険な貴族達を特定し、彼らには処罰を与える一方で、ヴィルフリートについては次期領主の内定を取り消すのが妥当だと進言した。ジルヴェスターはその案を受け入れ、ヴィルフリートを重大な罪を犯した者として扱い、記憶を覗く魔術具を使い、同時に次期領主の内定を取り消すことを今回の処分とすると決めた。そして今後は迂闊な行動を取らず、側仕えや護衛騎士を決して離さぬよう厳命した。

家族の安堵と感謝

処分が重すぎない形で決まったことで、部屋の空気はようやく緩んだ。シャルロッテは胸元を押さえて安堵し、フロレンツィアも涙を拭いながら、ヴィルフリートがまだ自分の手元に残ってくれるだけで本当に嬉しいとローゼマインに感謝した。ローゼマインが応じると、ヴィルフリートも改めて祖母が間違っていたことを理解し、ローゼマインを疑ったことをきちんと謝罪した。

妹からの賞賛

さらにシャルロッテは椅子から飛び降り、ローゼマインのもとへ駆け寄ると、お姉様はすごい、自分はお姉様を尊敬すると真っ直ぐに告げた。ローゼマインは、その一言で全てが報われたように感じた。初めての妹から尊敬される姉になりたいと願っていた思いが、この瞬間に叶ったのである。ジルヴェスターとカルステッドもローゼマインの提案を褒め、ヴィルフリートも自分の側仕え達に、これからも頼むと声をかけた。

フェルディナンドの評価

最後にフェルディナンドはヴィルフリートのもとへ歩み寄り、領主の子として消せない汚点が残ったことは事実だが、それでも腐らず努力を続ければ伸びるだろうと告げた。そして、ヴィルフリートの素直さは得難い美点だと評価した。ヴィルフリートは最初その言葉の意味を理解できずにいたが、やがて嬉しさと戸惑いの入り混じった表情になり、与えられた機会を無駄にしないよう努力すると誓った。叔父上と呼び直して跪くヴィルフリートを前に、フェルディナンドは何も言わずに退室したが、その足取りがいつもよりわずかに早かったことに、彼なりの思いが表れていた。

ユレーヴェ作りと魔力圧縮

ゲオルギーネ派の動きを踏まえた焦り

神殿に戻ったローゼマインは、ユストクスから情報が入ったとしてフェルディナンドに呼び出された。久し振りにトゥーリと会い、手紙を受け取って浮かれていたため、隠し部屋に入るなり何の情報かと尋ねて叱られた。フェルディナンドは、ヴィルフリートを使った件は終わったことではなく、むしろこれから始まることだと告げた。各所の情報を統合した結果、相手はエーレンフェストの様子を探っていると見ており、ヴィルフリートが誰の意見を聞くのか、ジルヴェスターが罪を犯した我が子をどう扱うのか、周囲の貴族がどう動くのかを試されているのだと説明した。

魔力圧縮より健康を優先する主張

フェルディナンドは、エーレンフェストの守りを固めるためにも、できる限り早く魔力圧縮の方法を教えてほしいと求めた。しかしローゼマインは、以前から言っている通り、自分の薬を作ってからでなければ応じないと譲らなかった。皆の戦力を整えても、自分だけが虚弱なままであれば結局危険なのは変わらないと訴えた。フェルディナンドも最終的には折れ、翌日の午前中に執務時間を潰してユレーヴェを作ることを認めた。

ユレーヴェ作製の必要性と時間のなさ

翌日、調合の準備をするフェルディナンドの背に向かって、ローゼマインは魔力圧縮がそこまで急務なのかと尋ねた。フェルディナンドは、ダームエルのように少しずつ魔力が伸びるのにも半年ほどかかっているのだから、大人に効果があるか試し、さらに派閥内に広げて領地全体の魔力を底上げするとなれば、来年夏にゲオルギーネが再来するまでに時間が全く足りないのだと説明した。だからこそ、本音ではユレーヴェ作りを後回しにしたいと考えていたのである。

ローゼマインの譲れない反論

フェルディナンドの言葉にローゼマインは強く反発した。素材を集めたら作ると言われ、次はシャルロッテの洗礼式の後、さらに奉納式や祈念式の後と先延ばしにされ、今度はゲオルギーネの後などと言われたら、どこまで後回しにされるかわからないと訴えた。フェルディナンドが何か起こる前に魔力を圧縮したいのと同じように、自分も健康を手に入れたいのだと主張し、今のままでは何かあっても走ることすらできないではないかと食い下がった。その言葉を受けて、フェルディナンドもようやく納得した。

神殿長室への隠し部屋作り

ユレーヴェを使えば昏睡状態に入るため、安全に眠らせる隠し部屋が必要だとして、フェルディナンドは神殿長室に新たな隠し部屋を作ることにした。ローゼマインは神殿長室にある扉の魔石に手を当てて魔力を流し込み、そこへフェルディナンドも魔力を重ねた。さらにシュタープをペンに変えて魔法陣を書き換え、二人が入れる隠し部屋を完成させた。ローゼマインは、光る文字がくるくると動きながら魔法陣を書き換えていく様子に見惚れ、自分も魔法陣を書きたいと願ったが、それはシュタープを手に入れてからだと断られた。

調合設備の搬入と夢の工房

隠し部屋が完成すると、フェルディナンドは許可を示すブローチを側仕え達に付けさせ、自分の隠し部屋から素材や器具をどんどん運び込ませた。転移用の魔法陣に似た布から、大きな箱や鍋、長い櫂のような棒、大きなテーブルなどが次々と取り出され、隠し部屋は調合のための設備で満たされていった。ローゼマインは、自分の隠し部屋がまるでフェルディナンドの第二の工房のようになっていくことに少し驚きつつも、自分の工房になるのだと言われて一気に気分が高揚した。

ユレーヴェの調合開始

フェルディナンドは、大きな鍋にローゼマインが集めた季節の素材を順番に入れて混ぜるよう指示した。ローゼマインは緑の魔石、青の魔石、リュエルの実、シュネティルムの魔石を季節順に投入し、長い櫂でぐるぐると混ぜ続けた。魔石がどろりと溶け、そこへフェルディナンドが分量を量った素材を几帳面に刻んで次々と加えていく様子は、どこか料理にも似ていた。ローゼマインは単調な作業にすぐ飽きたが、フェルディナンドは趣味の領域に入った顔で調合に没頭していた。

大量のユレーヴェと使い方の判明

作業の途中、フェルディナンドが黒い液体を鍋に一滴垂らすと、鍋の中身は一気に増えた。ローゼマインは零れると慌てたが、鍋いっぱいに増えた液体は、飲むための量ではなく浸かるためのものだと説明された。ユレーヴェは白い石の箱に入れて、その中にローゼマインが浸かった状態で眠る薬だったのである。最後にフェルディナンドが一滴薬を落とすと、鍋の中の四色の液体は眩しく光り、薄い青色の薬として完成した。

眠りの長さと事前準備

完成したユレーヴェを使えば、一月から一季節ほど眠ることになるかもしれないとフェルディナンドは述べた。どのくらいで目覚めるか正確にはわからないが、長引いても問題がないように、事前にやるべきことを片付けておけと言われた。家族への手紙や側仕えへの指示、印刷業についての連絡などを準備しておく必要があり、特に印刷業はローゼマインの後見人であるフェルディナンドが一時的に受け持つことになるため、ベンノに余計な面倒事を持ち込ませないよう伝えておけと指示された。

翌日の魔力圧縮講義の準備

ユレーヴェを作った直後、フェルディナンドは約束通り次の日には城へ行くよう命じた。領主の執務室には木箱と数枚のマント、革袋とアイロンが準備され、関係者以外は人払いされていた。そこにはローゼマイン、フェルディナンド、領主夫妻、カルステッド一家、そして契約魔術に署名するダームエルの十人が集まった。用意された契約書には、ローゼマインの敵に回らないこと、圧縮法を他言しないことなどが記されており、上級貴族には大金貨二枚、二人目以降は半額という形でお金も回収された。

第一段階の魔力圧縮

契約魔術が終わると、ローゼマインはまずダームエルに教えた時と同じように、木箱の上のマントを畳んで詰め込む実演を見せた。ぎゅうぎゅうに押し込むだけでなく、丁寧に畳んで隙間なく収めるように圧縮するのが基本だと説明した。ジルヴェスターやカルステッド達は、目で見ることで非常にわかりやすいと驚きながら、自分の中の魔力を動かし始めた。エックハルト、ランプレヒト、コルネリウスも新しいイメージに驚き、余裕ができたことを喜んでいた。

フェルディナンドへの第二段階

ただしフェルディナンドだけは、もともとかなり丁寧なイメージで圧縮していたため、この段階ではあまり効果がないようだと首を振った。そこでローゼマインは、畳んだマントをさらに革袋に入れ、その上に乗ってぎゅうぎゅうと押し潰す第二段階を示した。これがローゼマイン式圧縮法であり、フェルディナンドはその先があるとは思っていなかったようで驚きながらも挑戦し始めた。

フェルディナンドの無茶とローゼマインの怒り

しばらく集中した後、フェルディナンドは魔力を回復させる薬を飲み、さらに圧縮を続けようとした。ローゼマインは、自然に魔力が増えるのを待つだけでも魔力酔いを起こすのに、薬で増やしてまで一気に圧縮するのは危険だと強く怒った。契約魔術まで結んで危険を防ごうとしているのに何をしているのかと責め立てたが、フェルディナンドは危険だと思えば止めるとだけ答え、また集中を再開した。

圧縮法の性質と今後の課題

やがてフェルディナンドは圧縮を終え、ローゼマインはかなり精神的に頑丈だと評した。どれだけ圧縮できるかは精神力に大きく左右されること、体内の魔力濃度が急に変わるため、少しずつ濃度を上げて体を慣らす必要があること、いきなりローゼマイン式で倍以上の濃度にするとかなり気分が悪くなることなどを、自身の体感を交えて分析した。それはほとんどローゼマインが先に言っていた内容だったため、ローゼマインは人の話を聞いていないのかと激しく突っ込んだ。こうして、首脳陣による魔力圧縮の試行は始まったが、実際の成果が目に見える形で現れるのはまだ先のこととなった。

シャルロッテの洗礼式

洗礼式に向けた過酷な準備

ローゼマインは、孤児院と自室の冬支度、冬の手仕事と印刷の手配に加え、冬の社交界での対応を叩き込まれ、領主一族の護衛騎士達や騎士団の一部に魔力圧縮を教えながら、シャルロッテの願いを叶えるために洗礼式の勉強まで重ねていた。そのため、秋の終わりには半分死にかけのような状態にまで疲れ切っていたが、それでも努力の跡を見せることなく、さらりと役目をこなして尊敬されたいと願っていた。

下町の洗礼式で得たご褒美

冬が訪れ、下町の洗礼式が行われた日、ローゼマインは神殿の扉の向こうに家族の姿を見つけた。特に、もこもこに着込んで危なっかしく歩くカミルの可愛らしさに心を撃ち抜かれ、疲れなど一瞬で吹き飛んだ。あまりの興奮にその場で動けなくなり、祭壇にもたれて余韻に浸っていたところをフェルディナンドに見つかり、フランに抱えられて部屋へ戻されることになった。薬を飲まされ、木札に書かれた注意事項を読みながら休むよう命じられたローゼマインは、城へ向かう時まで大人しく過ごすしかなかった。

万全の体調で迎えた当日

城への移動日は洗礼式の前日であり、城にいるより神殿にいる方がゆっくりできるだろうというフェルディナンドの配慮によって、ローゼマインは比較的良い体調で本番を迎えることができた。神殿長の儀式服に着替え、トゥーリの新作の髪飾りを挿して待合室に入ると、窓の外には続々と到着する貴族の馬車や騎獣が見えた。そこへフェルディナンドも到着し、やがて二人は揃って大広間へ向かうことになった。

社交界の開幕とヴィルフリートの処分公表

大広間に入場すると、去年と同じように祭壇や領主夫妻の席、楽師や家族の並ぶ配置が整えられていた。ジルヴェスターは社交界の始まりを告げ、春の訪れを祈る儀式が行われた。その後には秋の狩猟大会で起こった事件について説明があり、ヴィルフリートが次期領主の内定から外され、記憶を探られたこと、さらにその記憶から判明した貴族達にも左遷や減俸、罰金などの処分が下されたことが公表された。表向きの罰は軽く見えても、重用されぬことが広く知られた以上、それが最大の処罰となった。

シャルロッテの洗礼式

領主が舞台を下りた後、神殿長であるローゼマインは踏み台に立ち、フェルディナンドの宣言とともに洗礼式を始めた。扉が開き、十一人の子供達が入場する中、先頭のシャルロッテは冬らしい白い衣装に赤の飾りや刺繍をまとい、貸し与えられた赤い花の髪飾りを付けていた。ローゼマインは彼女と目を合わせながら舞台へ導き、神話の朗読の後、順に子供達の名を呼んでいった。最後に呼ばれたシャルロッテは、魔力検査の魔術具を光らせてメダルに魔力を登録し、ジルヴェスターから指輪を贈られた。その後、ローゼマインは練習を重ねた通りに祝福を与え、感情で祝福量が偏らぬよう慎重に制御しながら、他の子供達と変わらぬ祝福を授けることに成功した。

音楽の奉納と姉としての誇り

洗礼式を終えると、お披露目として神に音楽を奉納する儀式が始まった。下級貴族の子供から順にフェシュピールが演奏され、最後にシャルロッテが舞台中央に座った。シャルロッテは領主の娘として真面目に練習してきたらしく、非常に上手に演奏を終えた。ローゼマインはそれを姉として誇らしく思い、神々もお喜びだろうと声をかけた。こうして洗礼式とお披露目は無事に終了し、ローゼマインはフェルディナンドと共に大広間を退出した。

貴族としての装いと労いの言葉

洗礼式が終わると、授与式の間に神殿長の衣装を脱いで、冬の貴色である赤を基調とした貴族の衣装へと急いで着替えさせられた。部屋を飛び出し、騎獣で食堂へ向かったローゼマインを、フロレンツィアは優しい笑みで迎えた。シャルロッテの我儘に応えて洗礼式で祝福を授けるため、大変だったでしょうと労われたローゼマインは、可愛い妹の頼みだからだと笑って返した。するとシャルロッテは、神殿長姿のローゼマインは立派で素敵であり、自分もお姉様のようになりたいと尊敬に満ちた目で語った。ローゼマインは、その言葉によって、これまでの苦労がすべて報われたように感じた。

社交の場での矢面

昼食後、三人は領主の子として並び、大広間で貴族達との挨拶に臨むことになった。ヴィルフリートの件で関係に溝が生じていないことを示さなければならず、ローゼマインは胃が痛くなる思いで大人達の中へ出て行った。フロレンツィア派との挨拶の間は問題なかったが、やがて狩猟大会の件を探るような貴族が現れ始めると、ローゼマインはヴィルフリートとシャルロッテを背後に庇いながら、フェルディナンドに叩き込まれた言い回しで応じた。白い塔に柔らかな布が流れたのではないかと探られると、ヴィルフリートがアウブ・エーレンフェストから離れるはずがないという意味の返答をにこやかに返し、その場をやり過ごした。ヴィルフリートはそのやり取りの意味を理解できずにいたが、ローゼマインは今日のために嫌味や皮肉への返答を叩き込まれたのだと説明した。

夜の挨拶と一瞬の安堵

七の鐘が鳴ると、子供達は大人の時間になる前に退席することになった。領主夫妻や周囲の貴族達に就寝の挨拶を交わし、ボニファティウスにも声をかけた後、三人は側仕え一人と護衛騎士四人ずつを伴って大広間を出た。貴族達の視線から解放されただけで、ローゼマインは心も体も軽くなったように感じた。明日は子供部屋でカルタだとヴィルフリートが話し、シャルロッテもそれに耳を傾けながら、三人は本館の表から裏へ回って北の離れへ向かった。

窓の異変と襲撃の発生

北の離れまであと少しというところで、ローゼマインは窓がわずかに動いたように見えた。気のせいかもしれないと口にしつつも、ダームエルに確認を頼んだ直後、その窓が大きく開き、黒ずくめの者達が十人ほど武器を手にして飛び込んできた。護衛騎士達は即座に武器を構え、襲撃者を封じ込めるような陣形を取り、混戦が始まった。その結果、ローゼマインとシャルロッテは北の離れ側、ヴィルフリートは本館側に分断される形となった。

本館と北の離れへの分断

ローゼマインはヴィルフリートに本館へ戻って助けを呼ぶよう叫び、オズヴァルトが彼を抱えて駆け出した。ランプレヒトともう一人の護衛騎士がそれを守って本館側へ走っていく。一方シャルロッテは、危険時には北の離れへ逃げ込むよう教えられていたのか、そちらへ護衛騎士二人を伴って走り始めた。しかしその回廊に差しかかる寸前、さらに三人の黒ずくめが窓から飛び込み、護衛騎士が対応する中で、一人が立ち尽くしたシャルロッテを抱えて窓から飛び出した。

シャルロッテの誘拐

シャルロッテが連れ去られると同時に、大きな羽音が響き、夜空には天馬のような騎獣が浮かび上がった。まさかここで騎獣が出てくるとは思っていなかったローゼマインは息を呑んだ。黒ずくめの貴族は、シャルロッテを抱えたままその騎獣を操り、冬の暗い夜空へと駆け去っていった。

囚われた姫君

シャルロッテ救出への追撃

シャルロッテをさらった天馬の騎獣を見た瞬間、ローゼマインは怒りに駆られ、レッサーバスに大量の魔力を叩き込んで夜空へ飛び出した。コルネリウスの制止も届かぬまま、レッサーバスは全速力で誘拐犯を追い始めた。そこへアンゲリカが一人乗りのレッサーバスの屋根に飛び乗り、さらに魔剣シュティンルークから響くフェルディナンドの声も加わって、救出は一層切迫したものとなった。

誘拐犯の狼狽とシャルロッテの投棄

ローゼマインのレッサーバスが空を飛べることを知らなかったらしい誘拐犯は、追撃される状況に驚きと焦りを露わにした。シャルロッテは涙を浮かべながらローゼマインへ助けを求めて手を伸ばしていたが、誘拐犯は追いつかれると判断したのか、シャルロッテを空中へ投げ捨て、自分だけ反対方向へ逃げていった。ローゼマインは妹を助けることを最優先とし、騎獣をシャルロッテの落下地点へと急旋回させた。

アンゲリカによる空中救出

レッサーバスで直接追いつけばシャルロッテをはねてしまうとシュティンルークに指摘され、ローゼマインが急ブレーキをかけた瞬間、屋根にいたアンゲリカが空中へ吹き飛ばされた。だが、身体強化中だったアンゲリカはそのまま落下するシャルロッテへ突っ込み、見事に空中で抱き留めた。シャルロッテも必死にアンゲリカへしがみつき、アンゲリカは姫を救出したと誇らしげに叫んだ。

コルネリウスの見事な回収

しかし、アンゲリカ自身には落下後の策がなかったため、今度は二人ともそのまま地上へ落ち始めた。そこへ騎獣で追いついてきたコルネリウスが全速力で駆け抜け、落下する二人に並走してアンゲリカのマントを掴み、そのまま自分の騎獣の後ろへ二人を乗せる形で確保した。大きな曲線を描きながら体勢を立て直し、安定した飛行に戻った三人の姿を見て、ローゼマインはようやくシャルロッテ達の無事を確信した。

レッサーバスへの罠と墜落

アンゲリカ達の救出に安堵した次の瞬間、ローゼマインの操るレッサーバスは突然引っ張られるように傾き始めた。ハンドルもアクセルも効かず、森へ向かって斜め下へ引きずられていく。月光の下で、レッサーバスが細い光の網に絡め取られていることに気付いたローゼマインは、それが故障ではなく敵の罠であると悟った。木々の陰には光の網を操る黒ずくめの仲間が潜んでおり、強く引かれたレッサーバスは木々にぶつかりながら森へ墜落した。

一本釣りによる拘束

墜落の衝撃の中で何とか身を起こしたローゼマインだったが、立ち上がった途端に別の黒ずくめが放った光の帯にぐるぐると巻き取られた。ローゼマインは一本釣りのように空中へ引き上げられ、そのまま地面へ叩きつけられる。さらにその男は、ようやく捕まえた青色巫女見習いが領主の養女になったため手こずったが、これであの方も喜ぶだろうと口にし、ローゼマインを完全に物のように扱っていた。

薬による沈黙と麻痺

ローゼマインは風の祝福を唱えようとしたが、腹を強く踏みつけられて中断させられた。男は祝福よりもこれを飲めと嘲笑いながら薬を取り出し、顎を掴んで無理やり口へ流し込んだ。ローゼマインは必死に抵抗したものの、鼻を摘ままれて呼吸を奪われたため、薬を飲み込まされてしまう。すると口や舌の感覚が急速に失われ、やがて声も出せず、手足も動かなくなっていった。

助けを呼べぬ恐怖

その頃、コルネリウスは森へ駆け下りながらローゼマインを探して呼びかけていた。だが、薬のせいでローゼマインは声を出すことも祈ることもできず、助けを求めることすら叶わなくなっていた。自分の体が意思に反して動かなくなっていく恐怖の中で、ローゼマインは必死に助けを願ったが、その声は誰にも届かなかった。

馬車への移送

黒ずくめの男は少し離れた場所で馬と共に待っていた下働き風の二人に、馬で馬車まで運ぶよう命じると、自身は森の闇へと消えた。ローゼマインは痺れて動かぬ体のまま布でぐるぐると包まれ、荷物のように馬へ括りつけられた。視界は生成りの布だけとなり、馬が走り出す振動だけが体に伝わる。痛みよりも感覚の異常さと恐怖の方が勝る中、ローゼマインは完全に囚われの身となった。

救出

誘拐され運ばれるローゼマイン

ローゼマインは薬によって全身の自由を奪われ、布に包まれたまま馬で運ばれていた。自力で瞬きすらできなくなり、感覚が徐々に失われていく中で、このまま死ぬのではないかという恐怖に襲われていた。しかし、敵の言葉から殺害目的ではない可能性に縋りつつ、救援が来ることを必死に信じて耐えていた。

やがて救援の到着を予測しながらも、果たして間に合うのかという不安が募る中、爆音が響き状況が大きく変化した。

ボニファティウスの強引な救出

爆音に驚いた馬が暴走し混乱が広がる中、ボニファティウスが現れ、怒声と共に誘拐犯へ襲いかかった。彼の威圧により馬は動きを止め、そのまま倒れ込んだが、縛られていたローゼマインは危うく巻き込まれかけた。

ボニファティウスはすぐにローゼマインを回収したものの、布ごと振り回して無理やり取り出そうとしたため、彼女は空中へ投げ出されるという危険な状況に陥った。結果としてフェルディナンドがそれを受け止め、致命的な事態は回避された。

フェルディナンドによる応急処置と判断

フェルディナンドは即座にローゼマインの状態を確認し、毒による危険な状態であると判断した。応急処置として口内に薬を塗り込み、毒の進行を抑える処置を行ったが、完全な解毒には専用の設備が必要であると判断した。

そのため、周囲の反対を押し切って神殿へ搬送することを決断し、自らの管理下で治療する方が最も安全であると主張した。

犯人追跡と役割分担

フェルディナンドはコルネリウスとボニファティウスに対し、残る犯人の捕縛を指示した。襲撃に関与したのは複数であり、情報を得るためにも生け捕りが必要であると判断したためである。

ボニファティウスは即座に追撃へ向かい、コルネリウスもそれに続いたことで、ローゼマインの救出と犯人追跡が同時に進められる体制が整えられた。

神殿での解毒処置

フェルディナンドは高速で神殿へ戻り、側仕え達に指示を出して即座に治療準備を整えさせた。ローゼマインは着替えさせられた後、解毒薬を投与され、呼吸や姿勢に注意を払いながら支えられた。

やがて薬が効き始め、わずかに意識と反応が戻ると、側仕え達は安堵しつつ回復を支え続けた。ローゼマイン自身も状況を理解し、今後の指示を出せる程度まで回復した。

ユレーヴェによる本格治療

完全な回復のため、ローゼマインはユレーヴェによる治療を受けることになった。魔力の流れに異常が生じていたため、早急な処置が必要と判断されたのである。

フェルディナンドは魔法陣の整った装置にローゼマインを浸し、治療を開始した。ローゼマインは眠気に抗えなくなりながらも、後を託して意識を手放した。

安堵と眠りへの移行

治療の過程で、ローゼマインは液体に包まれる感覚の中で安堵を覚え、そのまま深い眠りへと落ちていった。命の危機から救い出された後、フェルディナンドの管理下で回復に向かうこととなった。

そして、その後

夢の中で魔力を溶かし続けた時間

ローゼマインは、柔らかな桃色の世界で硬い山に行く手を阻まれていた。そこへ現れた白いじょうろから液体を注ぐと、山が少しずつ溶けることに気付き、さらに足で蹴って砕きながら、通れる道を作っていった。じょうろの液体は時折切れたが、すぐに補充され、ローゼマインはひたすら山を崩し続けた。多くの山を越えたことで大きな達成感を覚え、自分の頑張りを誰かに褒めてほしいと思っていた。

ユレーヴェからの目覚め

やがてローゼマインが目を覚ますと、大きな手に頭を持ち上げられ、無理やり上半身を起こされた。突然空気が流れ込み、激しく咳き込んだ末に胸の奥に溜まっていた液体を吐き出すことで、ようやく呼吸が楽になった。背中を強く叩かれた痛みに涙目になりながら見上げると、そこにいたのはフェルディナンドだった。ローゼマインは神殿長室の隠し部屋にある白い箱の中で目覚めており、フェルディナンドから眠りすぎだと告げられた。

完全には溶けていなかった魔力の塊

フェルディナンドは額や首筋を確認し、体調に大きな問題はないと判断したが、魔力については残念な知らせがあると切り出した。ローゼマインの中で固まっていた魔力は、毒によってさらに強く固まり、本来十ほどだったものが二十ほどに膨れ上がっていたため、十五ほどを溶かせる品質で用意したユレーヴェでは完全には足りなかったのである。完全には溶けていないものの、以前よりはかなり良くなっていると聞き、ローゼマインは死にかけていた状況を思えば少しでも改善しているだけで良いと受け止めた。

目覚めを願って積み上げられた本

白い箱のそばには五冊の和綴じ本が積まれていた。それはギルが、ローゼマインが早く目を覚ますようにと願って、印刷された新しい本ができるたびに持ってきたものだった。ローゼマインは喜んで手を伸ばそうとしたが、自分の手がユレーヴェの液で濡れていることに気付き、フェルディナンドに制止された。すでに風呂の準備は始まっているから、もう少し待つように言われ、ローゼマインは渋々それに従った。

失われた二年と消えた九歳

新しい本が五冊も積み上がっていることから、かなり長い時間眠っていたのではないかと察したローゼマインは、自分がどれほど眠っていたのかを尋ねた。フェルディナンドは約二年だと答え、今は十歳の秋であり、冬には貴族院へ入学することになると告げた。八歳の冬にユレーヴェへ浸かったはずのローゼマインは、九歳をまるごと失ったことに愕然とした。さらに、自分の体がまったく成長していないように見える理由を問うと、ユレーヴェに浸かっている間は生命活動が著しく低下し、成長も止まっていたのだと説明された。

健康を得ても残った喪失感

健康になるはずだったのに、九歳という時間を失い、しかも体は成長していないまま貴族院へ行くことになったと知り、ローゼマインは強く衝撃を受けた。前より少し健康になったのは確かだったが、その代償として失ったものの大きさに嘆き、フェルディナンドに嘘つきだと抗議した。こうしてローゼマインは、完全には回復しきっていない魔力と成長しない体を抱えたまま、十歳として新たな時間へ進むことになった。

エピローグ

ユレーヴェからの目覚め

ここ数日の間、ローゼマインはユレーヴェの青い薬液の中で、時折瞼を開いては焦点の合わない目を閉じる状態を繰り返していた。フェルディナンドはその様子から目覚めが近いと見ていたが、彼女の体はなかなか浮かび上がってこなかった。収穫祭の最中も夜中に何度も神殿へ戻って様子を確認していたものの、進展は遅く、ようやく緩慢な瞬きの後で焦点が合い、これ以上の治療は難しいと示すように体がゆっくりと浮かび上がってきた。

呼吸を取り戻したローゼマイン

フェルディナンドは安堵しながらユレーヴェに手を入れ、ローゼマインを助け起こした。うまく呼吸できていない彼女の背中を叩くと、口や気管に入っていたユレーヴェが吐き出され、呼吸音の異常はなくなった。ローゼマインは痛いと文句を言い、恨みがましい目を向けたが、フェルディナンドにはその視線の理由が理解できなかった。目覚めた直後から文句を言う彼女に対し、こちらの苦労も知らず恩知らずだと感じていた。

側仕え達の安堵とフェルディナンドの着替え

フェルディナンドがローゼマインを側仕え達に任せて神官長室へ戻ると、側仕え達は神殿長が目覚めたことに安堵し、神官服に付いた小さな手形を見て表情を綻ばせた。ローゼマインを助け起こしたり抱き運んだりしたため、神官服はかなり汚れていたが、それ以上に皆が彼女の目覚めを待っていたことが伝わってきた。側仕え達は着替えを勧めつつ、ようやく神殿長が目覚めて安心したと口にした。

ボニファティウスからの執拗な問い合わせ

神官長室には、ローゼマインの目覚めを問うボニファティウスのオルドナンツが大量に溜まっていた。ここ半年ほど、彼は毎日のようにローゼマインがいつ目覚めるのか尋ねてきており、神官長室の者達を心底うんざりさせていた。フェルディナンド自身も、なかなか溶けないローゼマインの魔力に苛立ちながら、目覚めを問いたいのはこちらだと思っていた。そこで着替えを終えた後、彼は机に溜まっていた黄色い魔石を一斉にオルドナンツに変え、ローゼマインが目覚めたことと、三日後に城へ連れて行く予定であること、まだ本調子ではないので神殿へは来ないようにと告げた。特にボニファティウスへの返信が大量であったことから、同じ内容を何十回も聞かされるであろう彼の姿を思い浮かべ、少しばかり溜飲を下げた。

目覚めても変わらぬ煩わしさ

だが、その安堵は長く続かなかった。フェルディナンドが貴族院に向かうまでに必要な教育項目の資料を確認していると、すぐにボニファティウスから喜色に満ちた雄叫びのようなオルドナンツが返ってきたのである。神殿中に響きそうな声でローゼマインの目覚めを喜ぶそれを三度も聞かされ、フェルディナンドはこめかみを押さえるしかなかった。ローゼマインが眠っていても起きていても、ボニファティウスが面倒であることに変わりはなかった。

二年の隔たりへの不安

ローゼマインが無事に目覚めたことには大きな安堵があったが、フェルディナンドには同時に不安もあった。ユレーヴェに浸かっていた以上当然ではあるが、ローゼマインにはこの二年の間の変化が一切現れていなかった。意識や記憶だけでなく、姿形さえ二年前のままである。先ほど彼女をフランに渡した時、成人していたフランよりも、見習いだった側仕え達が全員成人していることにローゼマインが驚き、不安げにフェルディナンドの袖を掴んでいた姿が思い出された。ローゼマインが周囲の変化と、自分だけが取り残されたような現実に折り合いをつけていくのは、これからであった。

貴族院入学に間に合った意味

それでも、冬の社交界が始まる前にローゼマインが目覚めたこと自体は大きな救いであった。貴族院への入学に間に合うかどうか懸念していたが、何とか間に合いそうな状況になったからである。一年入学を遅らせることも不可能ではなかったが、その場合は貴族社会の視線や余計な噂が大きな負担となることが目に見えていた。もともとローゼマインには他領の貴族の噂になりそうな弱みが多く、それを増やすわけにはいかなかった。そう考えながら、フェルディナンドは貴族院へ入るために必要な教育項目を整理し続けていた。

再会への準備

そんなフェルディナンドのもとへ、側仕えが神殿長の準備が整ったと報告に来た。ローゼマインが目覚めた後に向き合わなければならない現実と、これから始まる説明の時が、いよいよ訪れたのである。

ローゼマインが不在の二年間

洗礼式の日のおじい様

洗礼式で見たローゼマインの雄姿

ボニファティウスは、洗礼式とお披露目を神殿長として堂々とやり遂げたローゼマインの姿に強い感動を覚えていた。大勢の貴族の前で、虚弱な体ながらも立派に務めを果たし、さらにジルヴェスターの子供達を背に庇って対応する様子を見て、彼女を誇らしく思っていた。一方で、ローゼマインに嫌味を向ける貴族達には激しい苛立ちを抱いていたが、カルステッドとエルヴィーラから手出しを禁じられていたため、怒りを抑えるしかなかった。

虚弱さゆえの距離と祖父の願い

ボニファティウスは、雪玉をいくつか当てられただけでローゼマインが卒倒した昨冬の出来事を思い返し、そのひ弱さに今なお恐れを抱いていた。そのため、自分が触れれば死なせてしまうかもしれないと考え、以後は不用意に接触していなかった。それでも、洗礼式の場で挨拶を交わし、公の場ではおじい様と呼ばれないことに不満を覚えつつも、魔力供給の折に感謝の言葉を欠かさなかったローゼマインとの触れ合いを懐かしく思い出し、再びその機会が来ることを願っていた。

襲撃報告と即座の出動

七の鐘と共に領主夫妻らへ挨拶をしながら退出する子供達を見送りつつ、ボニファティウスはローゼマインと挨拶を交わせたことに満足していた。そこへ、ヴィルフリートが側仕えに抱えられた状態で大広間へ駆け込んできて、北の離れ近くで襲撃が起こり、ローゼマインが北の離れ側に分断されていると報告した。カルステッドが大広間の封鎖と騎士達への出動を命じる中、ボニファティウスは制止を振り切って自ら救援に向かった。彼にとって最優先は、可愛い孫娘であるローゼマインの救出であった。

交戦現場での混乱とシャルロッテ救出の把握

北の離れ近くに最初に駆けつけたボニファティウスは、黒ずくめ達と護衛騎士が交戦している場に遭遇した。背後から飛びかかって敵を叩き潰したところ、その黒ずくめが爆発し、周囲に肉片と血を撒き散らしたため、騎士達は一時混乱した。彼は騎士達を叱咤して体勢を立て直させると、敵が次々に自爆する異様な状況を横目に、ローゼマインの所在確認を優先した。その後、シャルロッテを助けて戻ってきたアンゲリカから、シャルロッテは救出されたが、ローゼマインは彼女を助けようとして騎獣で飛び出し、逆にさらわれたことを知った。

森での追跡とローゼマイン救出

ボニファティウスは、アンゲリカから事情を聞くと即座に騎獣で夜空へ飛び出し、森の中を移動する馬の足音を頼りに犯人を追跡した。全速力で森に迫ると、魔力を込めた攻撃で爆発を起こし、馬を暴走させて進路を阻んだ上で、威圧によって馬を棒立ちにし、騎乗していた男を振り落とした。そのまま男を叩き潰してから布に包まれたローゼマインを回収したが、生死を確かめようとした焦りから勢いよく布を振ってしまい、ローゼマインを空中へ飛ばしてしまった。幸い、追いついてきたフェルディナンドが木々にぶつかる寸前で彼女を受け止めた。

毒の判明と治療のための神殿搬送

フェルディナンドは、ローゼマインが飲まされた薬の臭いから、彼女にとっては致死毒であることを見抜いた。すぐに応急の薬で進行を抑え、解毒のためには神殿の工房に戻る必要があると判断した。ボニファティウスは神殿に預けることや余所の男であるフェルディナンドに任せることに強い不満を覚えたが、自分では適切な治療もできず、下手に触れれば危険であると自覚していたため、フェルディナンドにローゼマインを託すしかなかった。その代わり、自分は残る犯人の追跡と確保に回ることを決めた。

下働きの男とジョイソターク子爵の捕縛

ローゼマインを託した後、ボニファティウスはコルネリウスと共にもう一頭の馬を追跡し、まず下働きの男を確保した。続いて、アンゲリカが森の奥で黒ずくめの貴族を捕らえている現場に駆けつけ、その黒布を剥ぎ取った結果、正体がジョイソターク子爵であることを知った。ローゼマリーの親族に連なる者の関係者であったため、ボニファティウスは激しい怒りを覚えたが、その場では叩き潰すのを耐え、情報を取れる状態で連行するに留めた。

アンゲリカとの会話と新たな弟子

捕らえた下働きの男とジョイソターク子爵を牢へ運んだ後、ボニファティウスはアンゲリカと待機することになった。アンゲリカは、自分が身体強化と騎獣の扱いを同時に十分こなせなかったため、結果としてローゼマインを守れなかったことを悔いていた。ボニファティウスは、彼女がシャルロッテ救出に尽力したことを認めつつ、身体強化の向上には魔力量の増加が必要だと話した。するとアンゲリカは、すでにローゼマイン式圧縮方法で魔力を増やしている最中だと明かした。これを知ったボニファティウスは、自分もその圧縮方法を知りたいと考え、同時にアンゲリカを弟子として鍛えることを決めた。

ジョイソターク子爵の供述と計画の稚拙さ

領主の執務室での尋問では、ジョイソターク子爵が主犯として扱われた。彼は、自分一人で領主の子の誰かを誘拐し、狩猟大会で見つけた管理小屋に隠すつもりだったと供述した。ヴィルフリートかシャルロッテをさらえた場合は、ローゼマインに情報を流して助けさせることで心証を良くし、ローゼマインをさらえた場合は自分が救出して恩を売るつもりだったと語った。さらに、黒ずくめの私兵を馬車に隠して城内に連れ込み、用が済めば爆発させて証拠を消す予定だったことまで明かした。その計画はあまりに穴だらけで行き当たりばったりであり、出席者達は呆れ返った。

ジョイソターク子爵の限界と黒幕の存在

しかし、アンゲリカの証言により、ジョイソターク子爵がさらったのはシャルロッテであり、ローゼマインをさらった犯人は別にいることが明らかになった。コルネリウスが騎獣で降りた地点と、ローゼマインが助け出された場所、さらにジョイソターク子爵が捕まった場所には距離があり、彼一人で両方の犯行をこなすのは不可能だったのである。これにより、他に貴族の共犯者がいる可能性が濃厚になった。

ゲルラッハ子爵への疑念

ジョイソターク子爵は、使用した私兵は以前ゲルラッハ子爵から譲られたものだと証言した。翌日呼び出されたゲルラッハ子爵は、自分は大広間にいて現場不在証明もあり、ビンデバルト伯爵の私兵を預かっていただけで、不要になったためジョイソターク子爵に譲ったのだと説明した。表向きは無関係を装っていたが、その態度や言い分に対して、ボニファティウスは強い違和感を抱いた。決定的な証拠はなかったものの、自らの勘が、ローゼマイン誘拐の背後にいるのはゲルラッハ子爵だと告げていた。

抜け道とゲオルギーネへの疑い

ボニファティウスは、ローゼマインがさらわれた地点やコルネリウスの追跡地点を思い返し、大広間近くから森へ抜ける非常用の抜け道の存在に思い至った。これは領主と領主教育を受けた者しか知らぬはずの場所である。ジルヴェスターと魔力供給の間で二人きりになったボニファティウスは、その抜け道をゲルラッハ子爵が知っていた可能性、さらにはそれがゲオルギーネ経由で漏れた可能性を示唆した。ゲオルギーネはジルヴェスターが知るよりも長く領主教育を受けていたため、知っていても不思議ではないと指摘したのである。ジルヴェスターもその可能性を否定できず、フェルディナンドにゲルラッハ子爵を調べさせることを決めた。

時間稼ぎと今後の決意

ボニファティウスは、今回の件を理由にゲオルギーネの来訪を拒否し、アーレンスバッハ貴族の往来を禁じて時間を稼ぐべきだと提案した。ジルヴェスターもそれを受け入れ、エーレンフェストを立て直すための準備が必要だと認めた。ボニファティウス自身も、ローゼマインを守るためには領主一族の護衛騎士達を鍛え直し、騎士団を強化する必要があると考えた。後にフェルディナンドから、ローゼマインが毒の影響で一年以上目覚めないと聞かされたことで、ゲルラッハ子爵をすぐにでも叩き潰したい衝動に駆られたが、それは許されなかった。結果としてローゼマインは一年どころか二年近く眠り続け、ボニファティウスは神殿への出入りを禁じられたまま、オルドナンツで何度も安否を確かめつつ、その不安と焦燥を領主一族の護衛騎士達を鍛えることに向け続けた。

お姉様の代わり

ローゼマイン不在と代役の決意

シャルロッテは朝食後に両親とフェルディナンドから呼ばれ、前夜の襲撃の顛末を知らされた。襲撃には複数の貴族が関わっている可能性が高く、シャルロッテを助けたローゼマインは毒を受け、ユレーヴェに浸かって一年以上目覚めない見込みだと聞かされたため、自分のせいで姉が倒れたのだという罪悪感に襲われた。泣くより償いを考えろというフェルディナンドの言葉と、ローゼマインは泣かれることを望まないだろうというフロレンツィアの言葉を受けて、シャルロッテは姉の穴埋めを果たす決意を固めた。

祈念式参加を勝ち取った意志

フェルディナンドは、子供部屋の統率をヴィルフリートとシャルロッテに任せる一方、春の祈念式はヴィルフリートに担当させようとした。これに対してシャルロッテは、自分も領主の娘であり、冬の間に魔力の扱いを練習すればよいのだから外さないでほしいと訴えた。その真剣な願いを受け、ジルヴェスターは厳しくても挑戦したいならやってみるべきだと認め、ヴィルフリートもまたローゼマインに助けられてばかりではいられないと祈念式への参加を表明した。その結果、二人は冬の間に礎の魔術へ魔力を注ぐことで練習し、春の祈念式に備えることになった。

子供部屋統率の開始と最初の戸惑い

ローゼマインが残した手紙を託されたシャルロッテとヴィルフリートは、子供部屋の統率に取り掛かることになった。手紙には、他領の情報収集や講義内容をまとめた参考書作成への報酬制度、書き取りや計算の進め方、絵本や玩具の貸し出し方針などが記されていた。シャルロッテはローゼマインと同じ年齢なら自分にもできるはずだと思っていたが、報酬の扱いや情報管理など、具体的な運用になるとローゼマインの護衛騎士達が即座に分担を決めてしまい、自分が中心になって進めることの難しさを早々に思い知った。

リヒャルダの助言で知った見えない準備

子供部屋の運営について手紙の指示通りに進めようとしたシャルロッテだったが、リヒャルダから、賞品となるお菓子の準備、実力に応じた書き取り本の選定、楽師の分担、カルタやトランプの組分けなど、ローゼマインは事前に細かな準備を済ませていたと教えられた。手紙に書かれていない部分の多さに、シャルロッテは自分がどれほど見えていなかったかを知ることになった。そこで初日は無理に進めず、皆に担当を割り振って準備に充てる方針へ切り替えられた。

初日の運営失敗とローゼマインの不在の重さ

翌日から本格的に子供部屋の運営が始まったが、シャルロッテは洗礼式を終えたばかりの子供達のグループでカルタやトランプに挑んでも勝てず、思い描いていたような導き役にはなれなかった。さらに、貸し出し教材の回収という重要な仕事が手紙の一覧表によって初めて判明し、ダームエルとブリギッテが連携して対応する姿を見て、運営が自分の把握していない細部の積み重ねで成り立っていたことを思い知らされた。加えて、勝者に配った菓子は去年のような出来ではなく、ローゼマインの専属料理人がいない影響も明らかになったため、シャルロッテは姉の代わりが自分に務まるのかという不安を強めていった。

初めての魔力供給と自分の未熟さ

夕食後には魔力供給の練習が始まり、シャルロッテはフロレンツィアの補助を受けながら初めて魔石へ魔力を注いだ。自分のものではない魔力が逆流してくるような不快感に抗いながら押し返す作業は想像以上に苦しく、終わった直後には座り込んでしまうほど消耗した。一方で、ヴィルフリートはすでに春の領主会議中の供給で経験を積んでおり、多少慣れている様子だった。さらに、ローゼマインは奉納式などでこれを平然とこなしていたと聞かされ、シャルロッテは自分の至らなさと姉の異常なまでの力量との差に打ちのめされ、涙をこぼした。

冬の奮闘と限界の自覚

その後もシャルロッテとヴィルフリートは、子供部屋の時間配分、授業の進行、楽師の交代、ゲームの組分け、賞品の準備、持ち込まれたお話の管理など、次々と発生する課題に対処し続けた。ローゼマインは本を読んだり話を書き留めたりしているように見えながら、実際には子供達全体を見て細かく調整していたことがわかり、モーリッツ先生でさえその凄さを改めて認識するほどだった。そこへさらに、祈念式のための祈りの言葉が大量の木札で届けられ、二人は新たな課題にも追われることになった。シャルロッテは、特別なお姉様に自分が同じように追いつくことは難しいと感じつつも、ヴィルフリートが追いつこうと努力する姿に励まされ、自分も食らいついていこうと考えるようになった。

教材販売への対応とダームエルの有能さ

冬の終わりが近づいた頃、フィリーネから教材の販売や貸し出しを今年も行うのかと問われたことで、シャルロッテはその準備を全く考えていなかったことに気づいて真っ青になった。そこでも助けとなったのはダームエルであり、彼はすぐにフェルディナンドへ連絡を入れ、ジルヴェスターの許可を取ってプランタン商会を呼び寄せ、販売の手配を整えた。これによりシャルロッテは、ローゼマインに仕える護衛騎士達は、騎士でありながら文官のような段取り力まで求められるのだと痛感し、姉がいかに特別な主であったかを改めて思い知った。

祈念式への出発とフランから聞くローゼマイン像

春が訪れると、シャルロッテとヴィルフリートは初めてエーレンフェストの街を出て、直轄地を巡る祈念式へ向かった。神事に詳しい者が必要なため、シャルロッテにはローゼマインの神殿側仕えであるフランが付き添うことになった。道中、フランはハッセとローゼマインの関わりを語り、領主への反逆を知らずに犯した民を救うために交渉し、教育し、死なずに済む方法ばかりを模索してきたのがローゼマインだと伝えた。シャルロッテはその話を通して、ローゼマインが下の者達に慕われる理由を理解し、自分もただ上手く使うだけでなく、慕われる主でありたいと思うようになった。

ハッセで捧げた姉の魔力

ハッセに到着すると、町の者達は熱狂的にシャルロッテ達を迎えた。神具の準備を終えたフランは、緊張するシャルロッテに対し、今回の祝福に使う魔石にはローゼマインの魔力が籠っているのだと教えた。そして、ずっとハッセを心配していたローゼマインの魔力を、今度はシャルロッテが民へ届けるのだと励ました。その言葉で自分にしかできない役目を理解したシャルロッテは、お祈りと共に魔石の力を神具へ流し込み、ハッセの人々へ祝福を与えることに成功した。神事を終えた直後は力尽きて動けなくなったが、フランから渡されたフェルディナンド製の強烈な疲労回復薬を飲み、ローゼマインがこれを繰り返し使いながら各地の神事をこなしていたことを知って、姉をもはや聖女というより女神のようだと感じた。

代わりではなく、追いかける者として

シャルロッテはこの冬の間、子供部屋の運営、魔力供給、祈りの言葉の暗記、教材販売、そして祈念式と、ローゼマインの不在を埋めようと懸命に努めた。しかし、その過程で見えてきたのは、自分が姉と同じようにはできないという現実であった。それでも、できないからこそ、その凄さを知り、追いつこうとする意味を見出すようになっていった。ローゼマインは代わりの利かない特別な存在であり、シャルロッテはその不在を通じて初めて、姉の偉大さと、自分がこれからどう在りたいのかを深く理解していったのである。

二つの結婚話

イルクナーの激動とブリギッテの選択の重み

イルクナー子爵は、父の死後にギーベの地位を継いでからの三年間を激動の日々として振り返っていた。ブリギッテの婚約者だったハスハイトとその親族から命を狙われたことで婚約は解消され、その後も続いた嫌がらせに家族で対処し続けた結果、イルクナーからは貴族が去り、妹にも新たな縁談が見つからなかった。そうした中で、ブリギッテはイルクナーへの嫌がらせを少しでも減らすために、体面を顧みずローゼマインの護衛騎士となる道を選んだ。その決断は実際に効果を上げ、イルクナーへの圧力は大きく減少していた。

製紙業の成果とフォルクの努力の実り

イルクナーはローゼマインの庇護下に入ることを望み、他の貴族に先駆けて製紙業へ取り組むことになった。しかし、その実態は想像以上に厳しく、来訪する上位貴族達から足りないものを次々と指摘され、領主としての姿勢や覚悟まで問われ続ける苦しい日々であった。それでも後戻りはできず、発展のために進むしかなかった。そうした中、夏の半ば、カーヤとフォルクが目標枚数の紙の作製に成功したことを報告に来た。イルクナー子爵は二人の努力が結実したことを確認し、その紙をプランタン商会へ売り、その代金でフォルクの売買契約を成立させる決意を固めた。

神殿での商談とフォルクの売買契約成立

イルクナー子爵は紙を携えて神殿へ向かい、フェルディナンド立ち会いのもとで製紙の成果発表と売買を行った。植物紙協会による事前の価格取り決めがあったため、商人との交渉は驚くほど円滑に終わり、イルクナー子爵は商売に対する認識を改めることになった。続いて行われたフォルクの売買契約でも、紙の売却益が必要額に達していることが確認され、契約は無事成立した。フェルディナンドはローゼマインの予想より早い達成だと評し、イルクナー子爵はフォルクがローゼマインの言葉を信じてひたすら紙を作り続けた結果であると答えた。

フォルクの近況とローゼマインの不在

契約後、フェルディナンドはフォルクがイルクナーの生活に馴染めているかを尋ねた。イルクナー子爵は、生活習慣の違いに戸惑いはあるものの、フォルクは努力して適応しており、むしろイルクナーと神殿のやり方が互いに影響を与え合っていると説明した。その答えにギルが安堵する様子を見たことで、イルクナー子爵はフォルクが神殿側の者達にも大切に思われていることを実感した。さらに、フォルクが気にしていたローゼマインの様子について尋ねると、フェルディナンドはまだ目覚めておらず、あと一年近くかかる見込みだと答えた。そのため、フォルクとカーヤの結婚はローゼマインの祝福を待たず、この秋に行われるだろうとイルクナー子爵は伝えた。

貴族としての忠告とイルクナーへの帰還

フォルクの契約を終えた後、フェルディナンドはイルクナー子爵に対し、実直すぎる性格は貴族社会では足をすくわれやすいと忠告した。人柄としては好ましくとも、貴族のやり方をもっと学ぶべきだというその言葉は、ギーベとなった今では周囲から得難い貴重な助言であり、イルクナー子爵は深く受け止めた。契約書の控えとわずかな残金を持ち帰りながら、彼はフォルクを今後は製紙工房の経営だけでなく、館の教育係や自分への助言役として活かすことも考えるようになった。

ブリギッテの心とダームエルへの想い

冬の館に戻ると、ブリギッテが滞在しており、フォルクの契約成立を我が事のように喜んだ。だが、イルクナー子爵が本当に気にしていたのは、間近に迫ったブリギッテ自身の星結びの儀式であった。前年、ブリギッテは旧婚約者ハスハイトに復縁を迫られ、衆人環視の中で名誉を危うくされたが、その場を救ったのがダームエルであった。彼は求婚という形でブリギッテを守り、一年以内に魔力を伸ばして改めて求婚すると宣言していた。その経緯を踏まえ、イルクナー子爵がダームエルをどう思うか尋ねるブリギッテの様子から、彼女がすでにダームエルへ想いを寄せていることが明らかになった。

イルクナーへ戻りたいという決意

イルクナー子爵はダームエルの人柄には問題がないとしつつも、魔力差の問題を懸念していた。しかしブリギッテは、ローゼマインに教わった効率的な魔力圧縮法によって、ダームエルの魔力は一年で目に見えて増え、今ではある程度釣り合うほどになっていると説明した。さらに彼女は、結婚後に貴族街へ残るつもりはなく、イルクナーへ戻って子を育て、故郷の良さを残しながら発展させたいと語った。婚約破棄以降、イルクナーのために尽くし続けてきたブリギッテの根底には、騎士としてではなく土地持ちの貴族の娘としての郷土愛が確かにあった。イルクナー子爵はその思いを理解しつつ、もしダームエルがローゼマインの護衛騎士としての道を選び、イルクナーへ来られないと言ったとしても、恨んではならないと静かに諭した。

星結びの儀式で突きつけられた選択

星結びの儀式の夜、ブリギッテは前年と同じ衣装で会場に現れ、今年は多くの者が彼女を参考にした装いをしていたため、注目は衣装ではなくダームエルの求婚の行方へ集まっていた。ダームエルは大勢の見守る中で跪き、最上級の紫の魔石を捧げて、ブリギッテに自分の光の女神となってほしいと真摯に求婚した。だがブリギッテは、嬉しそうに顔を綻ばせた後、イルクナーでしか自分は輝けないのだと告げ、一緒にイルクナーへ来てくれるかと問い返した。その言葉にダームエルは大きく動揺し、長い沈黙の末、自分はローゼマインの護衛騎士である以上、イルクナーには行けないと答えた。想い合っていながらも譲れない道の違いによって、二人の恋は成就しなかった。

エルヴィーラの介入ともう一つの結婚話

ブリギッテの涙を見届けた後、イルクナー子爵のもとに現れたのはエルヴィーラであった。彼女は、故郷イルクナーに戻って発展に尽くしたいというブリギッテの優しい心に感動したと述べ、その幸せのためにイルクナーにとって有益な良縁を探してやると申し出た。ローゼマインの後ろ盾を必要とするイルクナーにとって、エルヴィーラとの良好な関係は不可欠であり、イルクナー子爵はその申し出を丁重に受け入れた。こうして、フォルクとカーヤの結婚が成就した一方で、ブリギッテとダームエルの結婚は叶わず、イルクナー子爵の前には対照的な二つの結婚話が残されたのであった。

オレ達に休息はない

マインの手紙がもたらした希望と不安

雪が降り始めた頃、ルッツはギルから必ず事情を知らない者のいない場所で読んでほしいと言われ、手紙を託された。ギルがそうして言葉を濁す時は、必ずマインに関することだとわかっていたため、ルッツは家に帰る前にマインの家へ向かった。手紙を待ち望んでいた家族の前で封を開くと、マイン自身の手紙には、元気になるための薬を使うので季節一つ分ほど寝込む見込みであり、その間は工房やグーテンベルク達を頼むと軽く書かれていた。家族宛ての手紙にも、元気になるから心配しないでほしいという言葉が並んでおり、皆はようやく元気になれるのかと安堵した。

だが、同封されていたフランの手紙には、城で襲撃を受けて毒を飲まされたこと、そのため命は助かったものの、薬を使う期間が一年以上に延びるという深刻な内容が記されていた。ギュンターは怒りを押し殺し、エーファはマインはきっと目覚めると信じて待つしかないと自分に言い聞かせていた。見舞いにも行けず、大っぴらに容体を尋ねることもできない家族の不安は大きかったが、それでも命に別状はないことだけが救いであった。

家に戻ったルッツと変わらぬ日常の重さ

マインの家を出たルッツは、自宅に戻ってもなお気持ちが晴れなかった。咄嗟にマインの家と言ってしまう自分に母は苦笑し、マインがいなくなって長いのにまだそう呼ぶのだと指摘したが、ルッツにとってそれは簡単には変えられない感覚であった。成長して狭くなった寝室の中で、いずれ自立して家を出ることもできるだけの金はあると考えながらも、十歳までは家族といたいと思っていた。望まない形で引き裂かれたマインを見てきたからこそ、自分から家族と離れることには強い抵抗があった。

その晩、兄のラルフはまたトゥーリのところへ行っていたのかと不機嫌そうに問いただした。ラルフはトゥーリに惚れ込んでおり、近所の幼馴染として距離を縮めたいと考えていたが、仕事を持った今のトゥーリとはなかなか会えず焦っていた。ルッツはトゥーリが一流の針子を目指して忙しくしていること、さらに春にはギルベルタ商会の住み込みとなって今より一層遠い存在になることを伝えた。ラルフは嘆いたが、ルッツは領主の養女のお抱えを目指しているトゥーリが、この辺りの男と結婚するとは思えず、兄を応援したい気持ちはあっても現実は厳しいと感じていた。

ベンノの判断と事業を定着させる方針

翌日、ルッツはプランタン商会に赴き、マインが一年以上眠ったままになることをベンノとマルクに報告した。命に別状はないと知ったベンノは、それならばむしろ都合が良いと判断した。マインは性急に物事を進めすぎるため、新しい事業ばかりが芽吹いている現状では、それらを定着させる期間が必要だというのである。目覚めればまた暴走が始まるだろうから、今のうちにこれまでの仕事を深めるべきだとベンノは言った。

その方針に従い、イルクナーの素材研究、新しいインクの開発、手押しポンプの普及、本の種類を増やすことなど、既存事業を広げる方向へ力を注ぐことが決まった。ルッツはグーテンベルク達への招集状を出し、それぞれの仕事を定着させる準備に取りかかることになった。

グーテンベルク達の再始動

招集を受けて集まったグーテンベルク達に対し、ベンノはローゼマインが眠っている間も、これまで通りそれぞれの仕事を進めるように命じた。インゴは新たな本棚の構想を持ち込まれ、移動式本棚や集密書庫の原案がすでにあることを明かしたため、金属部品を担当するヨハンはまたしても仕事が増えることになり悲鳴を上げた。ザックやハイディはそんなヨハンを励ましながら笑い、グーテンベルクの集いは今後も休みなく続いていくことが示された。

それぞれが新しい事業を始めるのではなく、今あるものに深みを出す方向で働き続けることが決まり、マイン不在の間も手を止めずに進む体制が整えられた。ルッツは、マインが目覚めた時に困らぬよう、皆がそれぞれの役目を果たさなければならないと実感していた。

本を絶やさないための相談

春も半ばを過ぎた頃、ギルはルッツに相談を持ちかけた。マインが準備していた印刷用のお話がほとんど尽きており、このままでは印刷が止まってしまうというのである。フランに相談した結果、冬の城で貴族の子供達から聞き取った話をフェルディナンドが渡してくれたものの、すべて子供の喋り言葉で書かれていて、そのままでは読みにくく、本にするには向いていなかった。マインはそれらを本で読める文章へと直していたのだと知り、ギルはどうすればよいかと悩んでいた。

そこでルッツは、トゥーリが持っている手書きの本を借りられないかと考えた。ギルは本をたくさん作れば、ローゼマインが読みたくて早く起きてくるかもしれないと言い、ルッツもそれに同意した。二人は印刷を止めずに続けることが、マインに繋がる道だと考えていた。

トゥーリの願いと行儀作法の必要性

ルッツがトゥーリに頼んで借りたのは、マインが家族のために書き残していた母さんの物語集であった。だが、トゥーリはその本を貸す代わりに、行儀作法を教えてくれる灰色神官か灰色巫女を紹介してほしいと頼んだ。ルッツはイルクナーで灰色神官達から教育を受けたことで、動きが洗練され、貴族向けの手紙も多少読めるようになっていた。その変化を見たトゥーリは、自分も行儀作法を覚えれば、いずれ貴族の館に連れて行ってもらえるのではないかと考えたのである。

ルッツは最初、そのためには袖の長い服なども必要になるから、かなりの出費になると説明し、無駄遣いと思うなら最初から諦めた方がよいと厳しく言った。それでも必要だと理解したトゥーリに、ルッツはマイン貯金から必要経費として支払うつもりで服を買い与えた。トゥーリは、マインが自分達のことを忘れていたのではなく、服の買い時や枚数まで考えて指示を残していたと知って涙ぐみ、改めて姉妹の繋がりの深さを実感していた。

孤児院での学びと恋愛どころではない現実

こうして土の日ごとに、ルッツとトゥーリは孤児院で行儀作法を学ぶことになった。ルッツはフリッツに、トゥーリはヴィルマに教わることが決まり、ギルやフラン、ヴィルマの好意によって、特別に孤児院への出入りが許されたのである。ルッツはこの機会を、自分もさらに成長するための大切な学びと受け止めていた。

その一方で、毎週トゥーリと一緒に出かけるようになったことで、ラルフはますますじっとりとした目でルッツを見るようになった。ルッツはラルフのために、トゥーリに恋愛について探りを入れたが、トゥーリは今はそんなことを考えている余裕がなく、マインに追いつくことだけで精一杯だと答えた。ルッツ自身もイルクナーで同じような気持ちを味わっていたため、ラルフへの同情はありつつも、今のトゥーリに恋愛は無理だと悟るしかなかった。

エルヴィーラの工房計画と休息なき仕事

マインが眠ってそろそろ一年になる頃、ベンノは血の気の引いた顔でグーテンベルク達を全員呼び集めた。エルヴィーラが自分の印刷工房を欲しがり、ハルデンツェルで大々的に事業を始めると言い出したのである。植物紙工房、専属のインク工房、印刷工房まで作る構想であり、マインに代わって印刷事業を広げるのが母親の務めだと主張していた。上級貴族であるエルヴィーラは平民の事情など考慮せず、マインが眠っていて止める者もいないため、グーテンベルク達は春から秋にかけて長期間の大移動を強いられることになった。

ベンノは、これでも冬の間は猶予をもぎ取ったのだと説明し、冬のうちに各自が店や工房を回せるよう準備を整えるよう命じた。マインが眠ったことで休息が訪れるかと思われたが、現実にはその家族が新たな事業を動かし始め、グーテンベルク達には相変わらず休息などなかった。ルッツは、マインがいなくても止まらない仕事の流れの中で、彼女が残したものの大きさと、それを支える自分達の責任の重さを改めて思い知るのであった。

神殿の二年間

ローゼマインの眠りと神殿の引き継ぎ

ローゼマインは薄い青の薬液に沈んだまま眠り続け、神官長は隠し部屋を閉ざして彼女の安全を確保した。そのうえでフランに対し、この冬にローゼマインが行う予定だった仕事の把握を命じ、神殿の運営を通常通り回す準備に入った。ローゼマインは日頃から覚書や手紙を紙に残していたため、彼女の不在中に必要な指示は比較的明確であった。

その直後、犯人を捕えた報告が届き、神官長は城へ戻ることになった。奉納式まで神殿へ戻れないため、神殿内のことは側仕え達に任せると告げ、貴族関係の手紙と覚書を持って退室した。こうして、ローゼマイン不在の長い日々が始まった。

側仕え達への説明と神殿長不在への対応

神官長が去った後、フランは不安に揺れる見習い達に対し、ローゼマインは一年以上眠る見込みであることを伝えた。皆は動揺したが、目覚めるのはずっと先である以上、今は受け入れて日常を保つしかないと諭された。翌日以降、フランは説明に追われながら、神殿長の仕事を神官長へ引き継ぐために資料を整理し始めた。

ザームは、ローゼマインの意見を取り入れて青色神官達を教育していたことが、この状況で大きく役立っていると語った。ローゼマインがいなければ神官長の負担はさらに増していただろうという認識が、側仕え達の間で共有されていた。神官長の側仕え達と協力しながら、仕事を分類し、青色神官達へ回せるものを少しでも増やそうとしたのである。

孤児院への説明と冬の課題

フランは孤児院へ赴き、ローゼマイン不在を恐れる者達に対して、基本的には今まで通りの生活が続くと説明した。予算についても、神殿長への補助金や領主の子としての生活費を神官長が管理しているため、無駄遣いをしなければ問題ないと伝えた。孤児院の管理を担うヴィルマにも、狼狽えず毅然としているよう求めた。

そのうえで、ローゼマインが残した冬の課題を発表した。今年の目標は、十歳までに全員が側仕えとしての基本知識を身に付けることだった。これは、灰色神官や灰色巫女の価値を高め、将来より良い扱いを受けられるようにしたいというローゼマインの考えに基づいていた。また、ディルクの異変についても早めに報告するようデリアへ念押しし、孤児院全体の将来と安全の両方に配慮していた。

工房の継続と専属達の帰還

工房では、ギルが本を増やせばローゼマインが早く起きるかもしれないと信じ、印刷作業に力を入れていた。そのため、フランはルッツ達に渡す手紙を託すだけで十分であり、工房は自発的に動き続けていた。ローゼマインの不在が、かえって彼らに役割意識を強く与えていたのである。

その翌日には、城に残されていた専属達も神殿へ戻された。ロジーナやエラのような若い女性を、主のいない城に置いておくことは危険であるというローゼマインの配慮が反映された結果であった。エラとフーゴには引き続き料理を任せ、ニコラを助手として育てるよう指示し、レシピ本の作成や新料理の開発も進めるよう求めた。ロジーナには孤児達へ音楽を教え、その才能を見極めて将来の道を広げる役目が与えられた。

奉納式準備と神官長の過重労働

ローゼマイン不在の神殿では、フラン、ザーム、モニカが中心となって神官長室での執務を支える生活が続いた。奉納式の準備も去年と同じように進められ、青色神官達も徐々に協力的になっていた。神官長が戻って準備を確認した際には、大きな問題なく整っており、その努力が認められた。

だが、奉納式の後、神官長の負担はさらに増していった。城の仕事に加えて、神殿長の仕事、孤児院、工房、プランタン商会とのやり取りまで肩代わりすることになり、薬入れに手を伸ばす姿が以前よりも明らかに増えた。ローゼマインが不在となったことで、彼女がどれだけ神官長の仕事を支えていたのかが、残された者達にも明確に見えるようになったのである。

ユレーヴェの補充と目覚めを待つ焦燥

奉納式後には、使用済みの魔石をローゼマインの薬液へ入れて魔力を補充する仕事も増えた。神官長は工房でローゼマインの状態を確認しながら、彼女の魔力が圧縮されすぎており、放置すれば魔石がまったく足りなくなると苦々しく呟いた。奉納式の時期で大量の魔石が確保できたことが、結果として治療の助けになっていた。

フランは、全く変化のない眠りが長く続くことに焦燥を覚えながらも、神官長と共に魔石の交換や補充を淡々と続けた。神官長がローゼマインの手を取り、赤い線を睨みながら時間がかかりそうだと零す姿から、治療の困難さと、その中でも諦めていない意志が感じられた。

ユストクスの登場と工房管理の補助

春が近付き、プランタン商会や孤児院との金銭的なやり取りが増えると、神官長一人では到底捌ききれなくなった。そのため、神官長は気が進まぬと言いながらもユストクスを呼び寄せた。工房の管理や商人とのやり取りを任せるためであり、フリッツの案内でユストクスは工房へ出入りするようになった。

ユストクスは情報収集を好む人物でありながら、仕事も非常に優秀であった。初めて工房に来た際には紙を触ってルッツに激しく叱られたが、それすら面白がりながら、すぐに工房の人間関係や流れに馴染んでいった。神殿ではこの一件を神官長へ報告せず、終わったこととして処理されたが、ユストクスはその後も神殿と城を行き来しつつ、犯人の証拠集めにも携わっている様子であった。

祈念式と新たな聖女伝説

春の半ばが近付き、祈念式の準備が始まると、今年はローゼマインの代わりに領主の子供達が魔石を持って直轄地を回ることが決まった。神官長は、ローゼマインに守られた領主の子供が代わりに祝福を捧げるという形で、新しい聖女伝説を作れとフランに命じた。これは、シャルロッテとヴィルフリートを周囲に好意的に認めさせ、来年以降も利用できるようにするための根回しでもあった。

シャルロッテにはローゼマインの白い儀式服、ヴィルフリートには丈直しした青い儀式服が用意された。倍の護衛を付け、ハッセへ向かう準備も整えられた。道中、シャルロッテはローゼマインの神殿での様子を聞いて喜び、フランもまた城でのローゼマインの話を聞くことができた。ハッセでは、リヒトが健気な聖女シャルロッテ伝説に感動し、彼女を歓迎した。シャルロッテはローゼマインの魔力が籠った魔石を手に、緊張しながらも立派に儀式をやり遂げた。

リリーの妊娠と孤児院の混乱

その後、エグモントが灰色巫女リリーを連れて神殿長室へ現れ、リリーを孤児院へ返して新しい側仕えを入れると言い出した。リリーには子ができており、体調を崩していたのである。フランは神官長を呼び戻し、最終的に神官長の面会予約を取り直させる形でこの件を収めた。

神官長は、ローゼマインの意向として、側仕えを希望する灰色巫女を出すのは構わないが、嫌がる者を無理に出してはならないと伝えた。三日後の選定では、希望者のみを連れていき、一人がエグモントの新しい側仕えに選ばれた。一方、リリーは孤児院へ戻されたが、妊婦をどのように扱えばよいのか誰にもわからなかった。神官長は月日が経てば勝手に生まれるだろうと言ったが、それは平民のお産事情を知らぬがゆえの認識であった。

ハッセへの移送と出産準備

トゥーリとルッツが、お産がそんな簡単なものではないと指摘したことで、孤児院全体の血の気が引いた。そこでルッツがベンノへ相談し、ベンノはハッセへリリーを移して出産させるべきだと助言した。ハッセならば住民との距離が近く、手伝ってくれる女性も見つかりやすく、ハッセ出身の孤児であるノーラも知識を持っているはずだった。

この案に従い、リリー、アヒム、エゴンを馬車でハッセへ送り出し、出産に必要な道具もプランタン商会の助言で揃えた。ハッセではノーラが活躍し、リリーの体調から出産時期まで見立てることができた。こうして、神殿内では対応できなかった危機を、外部との連携によって何とか乗り越える道筋が作られた。

工房の継続と季節ごとの変化

夏の終わりには、新しいインクが完成し、新しい紙と組み合わせた美しいトランプ作りが始まった。神殿では、料理人達が独自の創作料理に挑み、ロジーナは音楽教育を進め、ニコラは成人してもなお新しいレシピをローゼマインから教わりたがっていた。皆がそれぞれの形で、ローゼマイン不在の穴を埋めようと努力していたのである。

また、ブリギッテが結婚準備のため故郷へ戻ることになり、ダームエルはひどく落ち込んだ。さらに、エラとフーゴが結婚の許可を求めてきたが、神官長はローゼマインの専属である以上、本人が起きるまでは勝手に許可はできないと判断した。平民と貴族では結婚や仕事に対する認識が違うことも露わになり、神殿の人間達は自分達の常識だけでは対応しきれない場面に何度も直面した。

ハルデンツェルへの印刷事業拡大と冬支度

秋になると、エルヴィーラがハルデンツェルに印刷工房を作りたいと強く望み、そのために神殿とプランタン商会は大きく振り回された。ベンノは、今すぐ動くのは無理だと訴えつつも、冬の社交界でどうしても必要な印刷物についてはローゼマイン工房で引き受ける形で、最低限の猶予を確保した。

その結果、工房は冬支度を後回しにしてまでガリ版印刷で大量の原稿を仕上げることになった。フリッツやギル、ロジーナやヴィルマまで総動員され、ベンノは冬支度の大半を金で解決するしかないと割り切って必要物資の手配を請け負った。皆が奔走した末、冬の社交界直前に印刷物は完成したが、その内容には神官長の絵まで含まれており、冬の社交界がどうなるのかとフランは不安を覚えた。

二年目の奉納式と神殿の成熟

ローゼマインが眠って一年を越えても目覚める気配はなかったが、神官長は魔力が溶けるにはなお時間がかかると見ていた。それでも、神殿の準備そのものは去年より確実に洗練されていた。奉納式の準備も、もはや指導者がいなくても手順よく進められるほどになり、ローゼマインの不在の中で残された者達が成長していたことがうかがえた。

冬には礼儀作法や貴族特有の言い回しをまとめた本の印刷も始まり、貴族向けではなくても豪商や有力者には売れると判断されていた。神殿、孤児院、工房は、それぞれがローゼマインに頼り切る状態から少しずつ脱し、彼女が築いた仕組みを自力で回せるようになっていったのである。

ヴィルマの変化と祈念式の成果

二年目の春、リリーのお産のためハッセへ向かう祈念式の一行にヴィルマも同行することになった。当初ヴィルマは男への恐怖から強く抵抗したが、ベンノに管理者としての責任を厳しく突きつけられたことで、逃げてばかりではいられないと自覚させられた。トゥーリやギュンターの励ましも受け、ヴィルマは震えながらも馬車へ乗り込んだ。

その後、リリーの子供は無事に生まれ、ヴィルマと同行した灰色巫女達は経験を積んで帰ってきた。ヴィルマの表情は以前より明るく強くなっており、外の世界に出たことで明確な変化が生まれていた。孤児院では新しい赤子の世話が始まり、リリーとヴィルマは疲れた顔をしつつも、次の世代を育てる側へと回っていった。

目覚めの兆候と神官長の安堵

モニカが成人してもなおローゼマインは起きなかったが、秋の半ば、神官長はついに指先が動くようになってきたと口にした。治療は七、八割方終わり、後は目覚めを待つだけだという言葉に、フランは大きく安堵した。わずかな変化すらなかった長い時間を思えば、その兆候は何よりも希望に思えたのである。

収穫祭の間も神官長は夜ごと神殿へ戻ってローゼマインの様子を確認し続けていた。ザームは、それだけ神官長にとってローゼマインが大事なのだろうと漏らし、フランもまた、神官長の健康を真剣に気にかけてくれたのはローゼマインだけだったと応じた。こうして二年間続いた不在の果てに、ようやくローゼマインの目覚めが現実味を帯び始めたのである。

下級貴族の護衛騎士

求婚の前提が食い違っていたことの発覚

ダームエルはブリギッテへの求婚が成就しなかった後、兄に連れ戻されて事情を問われた。兄とその妻ユリアーネは、ダームエルが求婚しておきながら断る形になったことを重く受け止めており、ブリギッテの名誉を守るどころか傷つけたのではないかと厳しく指摘した。そこで初めてダームエルは、自分の求婚が周囲からはイルクナーへの婿入りを前提としたものと受け取られていたことを知った。

一方のダームエルは、自分もブリギッテもローゼマインの護衛騎士である以上、結婚後も貴族街で暮らしながら職を続けるのが当然だと考えていた。以前の婚約時と同様に家を借りて生活し、側仕えを一人付ければ問題ないと思っていたのである。しかし兄達にとって、その考えは到底受け入れられるものではなかった。

身分差を伴う婚姻への認識不足

ユリアーネは、中級貴族でありギーベの妹でもあるブリギッテに、婚姻によって下級貴族へ身分を落とさせるつもりだったのかと問いただした。そして、結婚後は婚家の基準に合わせて生きることになり、それまで対等だった相手にもへりくだる必要があること、実家との行き来も簡単ではなくなることを説明した。これは単なる住居の問題ではなく、生き方そのものが変わることを意味していた。

兄もまた、ダームエルの以前の婚約者は同じ下級貴族だったが、今回は事情がまったく異なると指摘した。ギーベの一族に連なるブリギッテを下級貴族の家へ迎えることは、本人の立場も生活も著しく変えてしまうため、単純に以前と同じ感覚では考えられないのである。ダームエルはそこで初めて、自分が結婚後のブリギッテの生活をほとんど想像していなかったことを思い知らされた。

イルクナーの事情とブリギッテの立場

ダームエルは、ブリギッテがイルクナーにいることを辛く感じて護衛騎士となり、ローゼマインとの繋がりを強化していくことがイルクナーのためだと考えているものと思っていた。だが兄によれば、婚約解消の後、イルクナーでは仕える下級貴族が引き抜かれて減少し、一人でも多くの貴族が必要な状況になっていた。だからこそ、ブリギッテが結婚によって婿を迎え、イルクナーを支えることが望まれていたのである。

さらに兄は、ブリギッテがダームエルの求婚を受け入れたのも、護衛騎士であり派閥に問題がなく、跡継ぎでもない下級貴族だからこそ、婿入りできる相手として認められたからだろうと語った。ダームエルはその言葉を聞き、イルクナーでブリギッテからこの土地をどう思うかと尋ねられた時のやり取りを思い出し、あの問い自体が婿入りを前提とした確認だったのではないかと気付いた。求婚を受け入れる言葉をもらったあの時点で、すでに二人の認識は食い違っていたのである。

護衛騎士としての立場とローゼマインへの忠誠

ダームエルは、自分はローゼマインの温情によって護衛騎士に取り立てられた下級貴族であり、主の許可なく護衛騎士を辞めることも、貴族街を離れることもできないと主張した。ローゼマインに関する秘密や事情を多く知る立場である以上、簡単に手放されるはずがないという認識もあった。そのため、自分がイルクナーへ移る選択は現実的ではなかったのである。

兄はその事情を理解しつつも、それを当然の前提としてブリギッテも理解していたはずだと思い込むのは傲慢だと諭した。自分にとって当たり前の事情でも、相手には違う尺度がある。二人はそれぞれ自分の都合と常識で結婚を考えており、肝心なことを話し合えていなかったのだと指摘された。

努力だけでは埋められなかった溝

兄は、ダームエルが一年間で魔力を増やし、中級貴族へ求婚できるだけの条件を整えた努力を高く評価した。ローゼマインから教わった魔力圧縮があったとはいえ、実際にそこまで伸ばしたこと自体は見事だと認めたのである。だが同時に、それだけでは結婚には足りなかったとも告げた。

魔力はあくまで最低条件に過ぎず、たとえ下級貴族同士であっても、気持ちと魔力量だけで結婚は決まらない。どこで、どのように暮らし、どのような将来を望むのかという生活のすり合わせが必要であり、ダームエルとブリギッテはそこに至る前提を共有できていなかった。必死に努力した一年間は、結婚のための一面では有効だったが、肝心の結婚生活については何も埋められていなかったのである。

ローゼマインに頼れないという自覚

ダームエルは、自分とブリギッテの間にある溝を前にして、ローゼマインが眠っていなければ何か変わったかもしれないと一瞬考えた。ローゼマインなら一緒に悩み、騎士団長やフェルディナンドに掛け合ってくれるかもしれないと思ったのである。だが同時に、すでに魔力圧縮という大きな助力を受けているうえ、さらに自分のために幼い主を悩ませるわけにはいかないとも悟った。

ローゼマイン自身も、最終的には保護者達の意向に逆らえない立場にある。そこへ護衛騎士である自分が私情で負担をかけるのは間違っていると判断し、ダームエルは自力で答えを出さなければならないと腹を括った。こうして彼は、自分とブリギッテの将来は交わらないという結論に達した。

兄との対話による諦念

深く考え抜いた末、ダームエルは、護衛騎士を辞められない自分と、イルクナーに尽くしたいブリギッテでは、どれだけ考えても未来が交わらないと兄へ告げた。兄はその言葉を受け止めたうえで、公衆の面前で求婚しておきながら断る形になった以上、ギーベ・イルクナーには自分が兄として詫びると約束した。

さらに兄は、求婚が成立した後ですれ違いに気付くよりは、成立前に条件が表面化して傷が浅いうちに終わった方がまだよかったと述べた。結婚は本人同士だけでなく家同士の問題でもあるため、深く絡んでから破綻する方がはるかに深刻だったのである。ダームエルはここで、自分が周囲や家の立場まで見られていなかったことを痛感した。

ブリギッテとの最終確認

翌日、ダームエルは神殿でブリギッテと向き合い、自分がイルクナーの事情も彼女の本心も知ろうとしていなかったことを詫びた。ブリギッテもまた、ダームエルが本当に貴族街を離れられない可能性があるとは考えていなかったと認め、二人とも周囲に指摘されるまで気付けなかったのだと理解した。

それでもダームエルは、まだわずかに未練を残し、ブリギッテがどうしてもイルクナーへ戻るのかと問い返した。ブリギッテは一度目を伏せた後、自分はギーベ・イルクナーの一族であり、護衛騎士になったのも故郷のためであって、下級貴族となって貴族街で生きることはできないと明言した。そして、イルクナーにとっての良縁を望むと告げたことで、二人の縁がここで完全に断たれたことが決定的になった。

新たな縁談とダームエルの喪失感

ブリギッテはさらに、兄を通じてエルヴィーラから派閥内の良縁を紹介してもらえることになっており、二十歳になる前に婚姻するため護衛騎士も辞める予定だと語った。これによって、今後神殿や訓練で顔を合わせて気まずい思いをすることもなくなると寂しげに微笑んだ。ダームエルにとっては、その言葉が決定的な別れの宣告となった。

こうして、想い合っていても将来像が交わらない以上、二人は結ばれないという現実が確定した。ブリギッテはイルクナーへ戻る道を選び、ダームエルはローゼマインの護衛騎士として貴族街に残る道を選ばざるを得なかったのである。

護衛騎士としての評価と続く苦しみ

その翌日の訓練では、ダームエルは婚姻よりも忠誠心を選んだ者として上層部から評価された。戦々恐々として訓練場へ向かった彼を待っていたのは、気遣うような騎士団長の表情と、上機嫌なボニファティウスであった。ボニファティウスは見上げた忠義心だと称え、さらに訓練を課そうとしたため、周囲から悪し様に言われることはなかったが、別の意味で苦しい日々が始まった。

こうしてダームエルは、失恋による心の傷と、ボニファティウスによる過酷な訓練の両方に苦しみながら、ローゼマインが目覚めるまでの日々を過ごすことになった。恋は叶わずとも、彼は護衛騎士としての忠誠を貫く道を選び、その代償を静かに背負い続けたのである。

困った男の調理法

料理対決の敗北と沈んだ厨房

神殿の厨房では、イタリアンレストランの新メニューを巡る料理対決でイルゼに敗れたフーゴが、数日経っても立ち直れずにいた。夏の客足に備えて新しい料理を求められたことが発端で、ローゼマインが眠っていて新しい助言を得られなかったため、フーゴは専属料理人として知っている手札の中から勝負に出た。だが結果は敗北であり、その後のフーゴは仕事中にもかかわらず暗い空気を纏い、厨房全体の雰囲気まで重くしていた。

エラは、悔しさ自体は理解しつつも、いつまでも落ち込み続けるフーゴに次第に苛立ちを募らせていた。ニコラが気遣いを見せるたびに、フーゴが慰めを求めるような態度を取ることも、エラにはますます鬱陶しく映っていた。

エラの叱咤による立て直し

ついにエラは我慢の限界に達し、フーゴの腕を叩いて正面から叱りつけた。イルゼに負けたことが悔しいのはわかるが、何日もうじうじされては厨房の空気が悪くなり、料理までまずくなると告げ、立ち直れないなら休めとまで言い切った。慰めを期待していたフーゴは面食らい、ニコラに同意を求めたが、ニコラは料理がおいしくなくなるのは困ると率直に答え、フランに休養を願い出ようかと言い出した。

神殿育ちのニコラは、その申し出が料理人としての立場を危うくすることを深く考えておらず、純粋においしい料理を重視していた。その反応に焦ったフーゴは、自分はもう大丈夫だと慌てて態度を改め、料理に集中する姿勢を見せた。こうして、エラの強い言葉とニコラの天然な一押しによって、厨房に漂っていた停滞はようやく破られた。

敗因の整理と次への視線

フーゴが気力を取り戻し始めると、エラは今回の敗因をはっきり言語化した。フーゴが負けたのは腕が悪かったからではなく、ローゼマインの専属料理人として、彼女好みの味に寄せすぎたからだと指摘したのである。イタリアンレストランで求められていたのは、ローゼマイン個人の嗜好に合う料理ではなく、多くの客に受け入れられる料理だった。そこを見誤ったことが、対決の結果を分けたのだとエラは考えた。

さらに、夏向けのローゼマインのレシピには氷室を前提としたものが多く、下町の店ではそのまま使えないという事情もあった。フーゴもその説明を受け、自分の意識がお貴族様寄りになっていたことを自覚し、今後は下町の店で出せる料理という条件をもっと重視すべきだと納得した。こうして二人は、夏の終わりから秋に向けた再挑戦を見据えて、茸など季節の食材を使った新たな料理の可能性を考え始めた。

落ち込みの裏にあった別の迷い

敗因を整理し、少しずつ前向きさを取り戻しても、フーゴにはまだ迷いが残っていた。皮を剥く手を止めたり、エラをちらちらと見たりする様子から、料理以外にも胸に引っかかっていることがあるのは明らかだった。エラがそれを見抜いて問いかけると、フーゴはしばらく逡巡した末、まるで夕食の相談でもするかのように唐突に結婚を申し込んだ。

あまりにも脈絡のない言葉に、エラは一瞬何を言われたのかわからず呆然とした。対するフーゴも、言ってしまってから失敗したと思ったらしく、顔を赤くしてしどろもどろになり、嫌ならそう言ってくれと自嘲気味に続けた。

求婚の受諾と実った恋

エラは驚きながらも、自分もフーゴのことが好きであり、求婚そのものは嬉しいと伝えた。ただし、ニコラがすぐそばで様子を窺っている状況で、そのまま話を続けるのは耐えられないと訴えた。神殿育ちのニコラには周囲の空気を察して席を外すという発想がなく、ただ興味深そうに見守っていただけだったのである。

フーゴもそれを理解し、その場では話を打ち切って、帰り道に改めて求婚し直した。こうしてエラは正式にその想いを受け入れ、二人の恋は実ることになった。

相変わらず困った男との未来

もっとも、恋が実った後もフーゴの困ったところは変わらなかった。ローゼマインの目覚めまで結婚の許可が下りないとフランから告げられると、次の星祭りでも主役になれないのかと騒ぎ出したのである。エラはそんなフーゴを宥めながら腕を取り、指を絡めて黙らせたうえで、今は迫っているメニュー対決のことを考えるべきだと促した。

その言葉にフーゴはすぐに気持ちを切り替え、今度こそイルゼに勝つと意気込み、エラにはラッフェルを使ったデザートを考えてほしいと頼んだ。やる気を取り戻した茶色の瞳を見たエラは、今度の勝負はきっと勝てると確信したのである。

第三部 領主の養女4レビュー
第三部 領主の養女
本好きの下剋上 全巻まとめ
第四部 貴族院の自称図書委員1レビュー

本好きの下剋上 シリーズ 一覧

兵士の娘

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神殿の巫女見習い

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領主の養女

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貴族院の自称図書委

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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員Ⅳ」の表紙。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員5」の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員Ⅴ」の表紙。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員Ⅵ」の表紙。
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「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員Ⅶ」の表紙。
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「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員Ⅷ」の表紙。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員9」の表紙画像(レビュー記事導入用)
「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員Ⅷ」の表紙。
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女神の化身

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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身 2巻」の表紙。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身 3巻」の表紙。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身9」の表紙。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身10」の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上 第五部「女神の化身 10巻」の表紙。
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本好きの下剋上 第五部「女神の化身 11巻 」の表紙。
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本好きの下剋上 第五部「女神の化身 12巻 」の表紙。
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ハンネローレの貴族院五年生

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本好きの下剋上 ハンネローレの貴族院五年生 1の表紙。
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本好きの下剋上 ハンネローレの貴族院五年生2の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上 ハンネローレの貴族院五年生 2の表紙。
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本好きの下剋上 ハンネローレの貴族院五年生 3の表紙。
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その他フィクション

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