第四部 貴族院の自称図書委員9レビュー
第五部 女神の化身
本好きの下剋上 全巻まとめ
第五部 女神の化身1レビュー
読んだ本のタイトル
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身1」
著者:香月美夜 氏
イラスト:椎名優 氏
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あらすじ・内容
フェルディナンドが旅立ったエーレンフェストの冬は重い。騒乱を好む「混沌の女神」のようなゲオルギーネに関する密告があったことで粛清が早められた。
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身1」
一方、貴族院の三年生になったローゼマインは喪失感を振り払うように、忙しく動き回る。寮内では旧ヴェローニカ派の子供達が連座を回避できるように説得し、院内では領主候補生の講義初日が開始。文官コースの試験に、新しい上級司書との出会い、専門コースの専攻など、一年前とは立場も環境も激変した日々へ突入していく。
次第に「らしさ」を取り戻す中、神々のご加護まで大量に得て、ますますローゼマインの暴走は止まらない!?
「わたしの本好きウィルス、皆に広がれ!」
感想
アーレンスバッハに婿(予定)に行ったフェルディナンド。
アーレンスバッハの第一夫人で元エーレンフェストの領主候補だったゲオルギーネの侵略に協力するエーレンフェストの旧ヴェローニカ派の貴族達の粛清が始まった。
それに巻き込まれる貴族院の生徒達。
粛清は秘密にされており親に手紙を送る事も禁止。
それなのに送ろうとする旧ヴェローニカ派の生徒。
勉強なんて出来ないと言う生徒もいる。
それでも生徒が連座で処刑されないようにローゼマインは尽力するローゼマインを見ていた側近達はブチギレてしまう。
だが、、アーレンスバッハのフェルディナンドの弟子が持って来た課題が深刻な空気を吹き飛ばす。
成績を落とすなと厳命が来た。
録音のため反論は許さない。
フェルディナンド、マジで魔王だ。
そんな浮足立ってる状態でも、エーレンフェストの生徒達全てに試験の1発で試験を突破する。
そして、授業では加護を得るとエーレンフェストの生徒達がダントツに加護を得る種類が豊富になっていた。
ダンケルフェルガーでは戦い系の加護はよく得ていたが、エーレンフェストは下級貴族ですら加護を増やしている、
それで、他の領地との差はとなると、、
ローゼマインが神殿長として日々神々に祈りを与えていたのが原因だとローゼマインは言う。
ただローゼマインは40以上の加護を得たため、シュピーゲルでの演奏で魔力を溢れさせしまい。
金色の粉で都市を造る授業でも、他の領主候補より数段早く魔力を充填してしまう始末。
あまりにもコントロール出来ないので、側仕えのリビャルダと寮長に聞いてみるが、、
無理だとアッサリと匙を投げられる。
そんなローゼマインに魔力の放出先の図書館は、上級貴族の書士が来たのだが、、
たった1人の上級貴族だけでは多くの魔導具を使っている図書館にはまだまだ魔力が足りない。
ローゼマインが魔力を充填してしまうと、いつまでも上級貴族の書士が魔道具の主人になれない。
それなのでローゼマインは遠慮していたのだが、本好きの集まりで恋愛モノには挿絵があるのに。
騎士の物語だと挿絵が無いのにダンケルフェルガーの次期当主が不満を持つのだが、、
ローゼマインの部下には貴族の戦闘に詳しい者がおらず、挿絵を書けないと言う。
それならとダンケルフェルガーの次期当主が挿絵を書くと言う。
それなら騎士の物語は彼にお願いする形で挿絵をお試しでお願いするのだが、、
次期当主は絵を描くのが大好きなせいでハマってしまう。
そして、最後に不穏な空気が、、
あんなに有用な人材を王家に取られてなるものかとダンケルフェルガーが猛り出す。
確かに序章で王子がなんか妄想じみた事が書いてあったな、、
ローゼマインを中心に荒れ出す。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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第四部 貴族院の自称図書委員9レビュー
第五部 女神の化身
本好きの下剋上 全巻まとめ
第五部 女神の化身1レビュー
考察・解説
ヒルデブラントの婚約
洗礼式を終えて間もない王族の第三王子ヒルデブラントが、王命によってアーレンスバッハへの婿入りを命じられ、その過酷な運命に抗おうとする過程が描かれている。本稿では、ヒルデブラントの婚約を巡る状況と、彼が抱くこととなった大きな決意について解説する。
領主会議での突然の婚約発表
春の終わりの領主会議で行われたお披露目の直後、父親である王から、ヒルデブラントとアーレンスバッハの領主候補生レティーツィアとの婚約が突然発表された。
- ヒルデブラントは事前に母親からこの話を聞かされてはいたものの、唐突な公表に内心で激しい衝撃を受けた。
- 値踏みするような大勢の領主たちの目の前で、彼は笑顔を崩さぬよう自らの感情を押し殺し、祝辞を受け取っていた。
アーレンスバッハへの婿入りと王族からの離脱
ヒルデブラントは自身が臣下となるように育てられていることを理解していたが、それまでは別の未来を想像していた。
- 中央で王族として妻を迎え、異母兄のアナスタージウスのように王族として役に立つ立場であり続けると考えていた。
- しかし、アウブの配偶者(婿)になるということは、成人後に完全に王族としての籍を失うことを意味する。
- 見たこともない土地へ婿入りするという現実は、幼い彼にとって予想外のものであり、受け入れがたいものに感じられていた。
自分で相手を選びたいという願いとローゼマインへの想い
アナスタージウスとエグランティーヌの恋物語が中央で称賛される様子に触れるうち、ヒルデブラントは自分も好きな相手を選びたいと強く願うようになっていた。
- その際に彼の脳裏に浮かんだのは、図書館で本に深く没頭していたエーレンフェストの領主候補生、ローゼマインの姿であった。
- ローゼマインにはすでにヴィルフリートという婚約者がおり、自身も王命による婚約が定められているため、この想いが叶わぬものであると理解しつつも、寂しさを拭いきれずにいた。
- 後に行われた本好きのお茶会において、ローゼマインからレティーツィアの話題を振られた際にも婚約の自覚が薄く、彼女への淡い初恋を静かに抱き続けていた。
王位への誘惑と母親の後押し
進むべき道に深く沈むヒルデブラントの隙を突き、中央騎士団長ラオブルートが接触を図った。
- ラオブルートは一度しか再生できない魔術具を用いて、王命を覆してアーレンスバッハ行きを回避し、かつ望む女性と結ばれるためには、自らが王になるしかないと唆した。
- 王族の証であり、失われたとされる書であるグルトリスハイトを手に入れれば、父親である王を助け、自らのあらゆる望みを叶えられるという甘美な誘惑であった。
- さらに母親からも、本当に欲しいものを手にするためには、ただ待つのではなく努力と挑戦を重ねるべきであると後押しを受けた。
- この結果、ヒルデブラントはグルトリスハイトを手に入れて二つの婚約を解消し、ローゼマインに求婚するという、非常に大きな決意を胸に秘めて次の貴族院へ向かうこととなった。
まとめ
ヒルデブラントの婚約は、彼から王族としての未来を奪い、見知らぬ土地への婿入りを強要する過酷なものである。しかし、ローゼマインへの淡い初恋、ラオブルートがもたらした王位への誘惑、そして母親による挑戦への促しが重なった。これらにより、それまで王命に従順であった幼い王子がグルトリスハイトを求めて王位を目指すという、ユルゲンシュミットの情勢を大きく揺るがしかねない決意を抱くに至った。この一連の流れは、物語における極めて重要な転換点となっている。
グルトリスハイト
物語における「グルトリスハイト」について解説する。ユルゲンシュミットの王族にとって欠かすことのできない「真実の王の証し」であり、現在これが失われていることが国全体を揺るがす数々の問題の根本的な原因となっている。
グルトリスハイトの喪失
かつては第二王子(ワルディフリード)がグルトリスハイトを継承すると見なされていたが、第一王子による第二王子殺害から始まった政変の混乱の中で失われてしまった。喪失の状況は以下の通りである。
- 殺害された場所や王宮を捜索しても発見には至っていない。
- 関係のあった貴族の館などを探しても手がかりはなく、現在に至るまで完全に行方不明となっている。
不在による深刻な弊害
グルトリスハイトを持たない王が国を治めることで、次のような深刻な弊害が生じている。
- 領地の境界線を引き直すなど、国の大事に関わる不可欠な魔術を行使することができない。
- 現在の王(トラオクヴァール)は、ひたすら魔力を注ぎ続けて国の以前の状態を維持することしかできず、「人身御供」のように魔力を搾り取られる苦労の絶えない状態に陥っている。
- 王になるための教育を受けていなかった現王がグルトリスハイトを持たずに即位したことで正当性が揺らいでおり、廃領地の反乱分子などから「偽りの王」と見なされる要因となっている。
手がかりを求める王族の動きとローゼマインへの疑念
事態を重く見た王族や関係者は、失われた王の証しを求めて次のような動きを見せている。
- 王族と中央騎士団長ラオブルートは、貴族院の図書館に手がかりがあるのではないかと疑っている。
- 三人の上級司書の鍵が揃わなければ開かない「開かずの書庫(保存書庫)」に重要な情報が隠されていると考え、調査のためにラオブルートの第一夫人であるオルタンシアが上級司書として派遣された。
- 図書館の魔術具の主であり、王族しか入れない書庫についてヒルデブラントに尋ねていたローゼマインに対しても、何か情報を握っているのではないかと強い警戒と疑念の目が向けられている。
ヒルデブラントを巡る王位簒奪の火種
グルトリスハイトの不在は、次代の王位を巡る新たな政争の火種も生み出している。
- アーレンスバッハへの婿入りを命じられ落ち込んでいた第三王子ヒルデブラントに対し、ラオブルートが「グルトリスハイトを見つけて真実の王になれ」と唆す魔術具を渡した。
- これは、グルトリスハイトを手に入れれば父親である現王を救えるだけでなく、王命を覆して意に染まぬ婚約を解消し、想いを寄せるローゼマインと結ばれることもできるという甘美な誘惑である。
- この言葉と母親の後押しを受けたヒルデブラントは、自らグルトリスハイトを得て王位を目指すという決意を抱くに至っている。
まとめ
このように、グルトリスハイトの喪失は単なる重要アイテムの紛失にとどまらず、ユルゲンシュミットという国そのものの存続や王の正当性を揺るがす最大の危機となっている。現王の疲弊や反乱分子の台頭を引き起こしているだけでなく、純粋な第三王子を巻き込んだ新たな陰謀の火種まで生み出しており、この「真実の王の証し」を誰が手にするのかが、今後の物語の行方を左右する極めて重要な鍵となっているのである。
エーレンフェストの粛清
物語におけるエーレンフェストの旧ヴェローニカ派に対する粛清について解説する。
粛清の背景と前倒し
エーレンフェストでは冬の社交界の間に旧ヴェローニカ派への粛清が予定されていたが、貴族院へ向かう直前に中級騎士見習いのマティアスから密告がもたらされた。彼が、父親であるギーベ・ゲルラッハとゲオルギーネが秘密裏に会合していた事実や計画の一端を告発したことで、粛清計画は見直しを含めて前倒しで急遽実行されることになったのである。
貴族院における子供達への説得と救済
粛清が前倒しになったため、貴族院にいる旧ヴェローニカ派の子供達の監視と説得は領主候補生たちに一任された。彼らに対する具体的な対応と救済策は以下の通りである。
・マティアスやラウレンツが中心となり、領主一族へ名捧げをして親の影響下から抜け出すことで、連座処分を回避する道が示された。
・洗礼前の幼い子供達については、ローゼマインの提案により孤児院で保護し、教育を受けて問題がなければアウブや神殿長を後見人として貴族の洗礼式を受けさせるという救済策が提示された。
・家族を救うために他領へ情報を漏らそうとした生徒も出たが、ヴィルフリートの判断で一度だけ不問にされ、粛清が終了するまで寮内で隔離と説得が続けられた。
粛清の結果とギーベ・ゲルラッハの最期
粛清の第一段階が終了した結果、他領の第一夫人であるゲオルギーネに名を捧げていた者や、不正を行ってエーレンフェストに不利益を与えた者が処刑された。主な結果と処分内容は次の通りである。
・マティアスの父であるギーベ・ゲルラッハは、捕縛される直前に自爆し、腕と指輪だけが残された。
・名捧げをしていた者以外は捕らえられて取り調べ中であり、罰金で済む者は冬の終わりには帰宅でき、処分が重く労役に服す者の子供は城の寮で保護されることになった。
・処刑された者は当初の予想より少なく、名を捧げなければ連座で命を失う学生はマティアス、ラウレンツ、ミュリエラ、バルトルト、カサンドラの5名に留まった。
・他の学生は時間がかかっても家族の元へ戻れる見込みとなった。
トルークによる記憶攪乱とゲオルギーネの執念
粛清において、ゲオルギーネ派の証拠を掴むために記憶を覗く試みが行われたが、生け捕りにできた者が少なかった上に、残された記憶も視界や音が歪んでいて内容が判別できなかった。これは、記憶混濁や幻覚作用を持つ危険な植物であるトルークが、証拠隠滅のために使われていたためと推測された。ゲオルギーネが捜査の手が伸びないように幾重にも対策を施していた執念深さに、ジルヴェスター達は舌を巻くこととなったのである。
粛清後の対応
事態の収拾と、その後の領地および関係者の対応は以下の通りである。
・今回の粛清で孤児院へ送られた洗礼前の子供は17名であり、家族と引き離された悲しみに耐えながら生活を始めている。
・3人のギーベが処刑されたことでエーレンフェスト各地での魔力不足が懸念されたが、ローゼマインの余剰魔力を大量の空の魔石に注ぎ込んで領地へ送り、冬の主討伐などに役立てることになった。
・名捧げが必要になったマティアスとラウレンツはローゼマインへ名を捧げ、ミュリエラもそれに続いた。
・連座対象から外れたグレーティアも自らの意思でローゼマインに名を捧げることを選び、彼女の内向きの側仕えとなった。
まとめ
エーレンフェストにおける旧ヴェローニカ派の粛清は、内部からの密告により急遽前倒しで実行された。結果として首謀者の一部を排除することには成功したものの、ゲオルギーネの巧妙な証拠隠滅により全容解明には至らなかった。一方で、親の罪に問われる子供たちへの救済策が講じられ、ローゼマインを中心とした新たな主従関係が結ばれるなど、領内における勢力図と人間関係に大きな変化をもたらす重要な転換点となったのである。
神々の御加護
物語における「神々の御加護」について解説する。貴族院三年生の最初に行われる実技を通じて得られるものであり、魔術の効率を劇的に向上させる力を持つが、エーレンフェストの学生たちが規格外の加護を得たことで、貴族社会の常識を覆す大きな発見へと繋がっていくのである。
御加護の概要と効果
・生まれながらに持っている適性属性に加えて、神々から加護を受けることで、その属性の魔術が非常に使いやすくなる。
・具体的には消費魔力が減少し、より大規模な魔術や長時間の魔術行使が可能になる。
・通常、普通の貴族は自身の適性属性の大神からの御加護を得るのみであり、複数の眷属神や適性以外の属性の加護を得ることは、百年単位で遡らなければ見つからないほど極めて稀なケースであるとされている。
御加護を得る儀式
御加護を得るための儀式は、以下の手順で行われる。
・三年生の神学の座学(神々の名前の暗記)に合格した学生が、講堂の奥にある祭壇で行う実技である。
・全属性の魔法陣の中央で跪き、自身の魔力で魔法陣を満たしながら、最高神、五柱の大神、そして眷属神の名前と祈りの言葉を唱える。
・正しく祈りが通じれば、魔法陣から貴色の光の柱が立ち上り、頭上で光の渦となって祈り手に降り注ぎ、神像へ吸い込まれていく。
・神々の名前を正確に唱えられなかった場合、適性があっても加護を得ることはできない(過去のアンゲリカの事例がこれに該当する)。
加護を増やすための条件と「祈り」の重要性
加護を増やすためには、日常的な「祈り」が重要な鍵となっている。
・教科書には「神々に祈りを捧げよ」と記されているが、多くの貴族は神殿を忌避し、これを儀式時の手順としか捉えていなかった。
・実際には、日常生活の中で神々に真摯な祈りと感謝を捧げ、魔力を奉納する行いこそが加護を増やすための必須条件である。
・エーレンフェストの領主一族は礎の魔術へ魔力供給する際に祈りの言葉を唱えており、ローゼマインの側近達も神殿で日常的に祈りや奉納を行っていた。
・ダンケルフェルガーの学生が武勇の神などの加護を得やすいのも、ディッター勝負の前後に戦歌を歌い、神々へ魔力を奉納する習慣があったためである。
・魔力の少ない中級・下級貴族であっても、回復薬を用いて魔法陣全体を魔力で完全に満たして祈ることで、適性以外の御加護を得られることが判明した。
規格外の取得結果
エーレンフェストの学生たちが日常的な祈りを実践していた結果、三年生の実技において異常な取得結果が続出した。
・ローゼマイン:四十近い神々から加護を得た。儀式中には神々の像が動き、最奥の「白い広場」への道が開くという特大の異常事態を引き起こした。また、魔力効率が良くなりすぎた結果、音楽の実技で無意識に大規模な祝福を暴発させている。
・ヴィルフリート:領主一族として魔力供給時に祈りを捧げていたため、十二柱もの神々から加護を得て周囲を驚愕させた。
・フィリーネ:元々は土属性のみの適性だったが、神殿での文官業務と、回復薬を使って魔法陣を満たした結果、風の眷属である英知の女神メスティオノーラの加護を得た。
・ローデリヒ:ローゼマインへ名を捧げたことで主の全属性魔力の影響を強く受け、元は二属性だったにもかかわらず全属性の加護を得るという前代未聞の事態を引き起こした。
まとめ
ローゼマイン式魔力圧縮による魔力量の増加に加え、御加護の増加による魔力効率の向上までエーレンフェストが独占すれば、他領や魔力不足の中央から強い警戒と反感を買う危険性があった。そのため、寮監ヒルシュールの強い勧めと王族からの指示もあり、ダンケルフェルガーと共同で「祈りと御加護の関係」についての研究を行い、領地対抗戦でその成果を広く発表することとなったのである。この共同研究と発表を通じて、他領の神殿に対する偏見を払拭し、ユルゲンシュミット全体の魔力不足の改善に貢献することが期待されている。
貴族院の司書交代
物語における貴族院図書館の司書交代と、それに伴う魔術具の管理者変更について解説する。長らく中級司書であるソランジュが一人で切り盛りしていた図書館に、中央から新しい上級司書が派遣されたことで、様々な変化や騒動が引き起こされた。
新しい上級司書オルタンシアの就任
中央から新たに派遣された上級司書オルタンシアの就任に関する背景は以下の通りである。
・中央から新たに派遣された上級司書は、クラッセンブルク出身のオルタンシアである。
・彼女は中央騎士団長ラオブルートの第一夫人であり、その派遣の裏には、エーレンフェスト(特にローゼマインとフェルディナンド)を警戒し、グルトリスハイトの手がかりが隠されているかもしれない「開かずの書庫」を調査するという王族と騎士団長の思惑があった。
・一方で人手不足に悩んでいたソランジュは、正式な上級司書の就任を心から喜んで迎え入れたのである。
王族立ち会いによる管理者変更
魔術具の管理者変更は、次のような手順と課題を伴って行われた。
・図書館の魔術具であるシュバルツとヴァイスは王族の遺物であるため、その管理者変更には王族の立ち会いが必要とされた。
・講師として赴任したエグランティーヌやヒルデブラント王子が立ち会う中、現在の主であるローゼマインが許可を与え、オルタンシアが魔石に触れて魔力を登録する手続きが行われた。
・しかし、完全に管理者が移行するには、新任のオルタンシアの供給魔力量が現在のローゼマインの供給魔力量を上回る必要があった。
膨大な魔力供給と図書委員活動の休止
魔力供給の格差から、ローゼマインの図書委員活動に影響が生じることとなった。
・ローゼマインは学生が不在となる春から秋の間も巨大な魔石を貸し出し、シュバルツ達へ大量の魔力を供給していたため、オルタンシアの魔力がそれを上回るには時間がかかることが判明した。
・管理者変更をスムーズに進めるため、ソランジュはローゼマインに対し、無意識の魔力供給を防ぐ目的で図書館へ近付くことを控えるようお願いした。
・その結果、ローゼマインは図書委員としての活動を一時休止し、図書館用の魔術具を作るためにヒルシュールの研究室へ籠もる決断を下したのである。
ハンネローレの管理者化騒動
管理者移行の空白期間に、予期せぬ騒動が発生した。
・オルタンシアは「開かずの書庫」を開けるため、三本の鍵の管理者になるための魔力供給を優先し、シュバルツ達への魔力供給を後回しにしていた。
・その間、善意の図書委員としてシュバルツ達へ魔力供給を行っていたダンケルフェルガーのハンネローレが、オルタンシアの供給量を上回ってしまい、意図せず一時的に新たな管理者(ひめさま)として認識されてしまう事態が発生した。
・これは図書館側から協力者への連絡が行き届いていなかったことが原因の行き違いであり、その後王族を交えたお茶会の場で事情が説明され、ハンネローレは安堵することとなった。
まとめ
貴族院の司書交代は、ソランジュの負担を軽減する喜ばしい出来事であると同時に、中央の政治的思惑や警戒心が図書館に持ち込まれる契機となった。また、圧倒的な魔力で図書館を支えていたローゼマインから権限を移行させる過程で生じたハンネローレの騒動など、図書委員たちを巻き込む波乱の幕開けとして描かれているのである。
他領地との共同研究
物語における他領との共同研究について解説する。貴族院三年生の冬、エーレンフェストは順位の急上昇や流行の発信により他領からの嫉妬や悪評を集めていた。その状況を緩和し、周囲への貢献を示すため、三大領地(ダンケルフェルガー、ドレヴァンヒェル、アーレンスバッハ)とそれぞれ異なるテーマで共同研究を行い、領地対抗戦で発表することになった過程が描かれている。
共同研究開始の背景
共同研究が開始されることになった背景には、以下の理由がある。
・エーレンフェストの学生たちが「神々の御加護を得る儀式」において、複数の眷属神からの加護獲得、フィリーネの属性増加、ローデリヒの全属性化など、常識外れの結果を出したためである。
・寮監のヒルシュールから、魔力圧縮に加えて加護の増加方法までエーレンフェストが独占すれば、魔力不足に悩む中央や他領から強い警戒と反感を買うと警告されたのである。
・アナスタージウス王子からの指示もあり、研究成果を他領へ還元してエーレンフェストの評価を上げるための外交手段として、共同研究の発表が決定した。
ダンケルフェルガーとの共同研究
ダンケルフェルガーとの共同研究は、次のような内容と目的で進められた。
・テーマは、神々に祈りや魔力を奉納することと、得られる御加護の数の関係についての検証である。
・ダンケルフェルガーの学生は戦い系の眷属神の加護を得ることが多く、ディッター勝負の前後で祈りや儀式を行っていることが判明したため、比較検証の対象として最適であった。
・お茶会での交渉の結果、レスティラウトから協力の条件として「真面目にディッター勝負を行うこと」と「ローゼマイン自身が儀式を披露すること」が提示されたのである。
・ローゼマインの側近であるハルトムートの婚約者クラリッサを研究に参加させ、エーレンフェストの神殿に対する偏見を払拭し、彼女を上位領地との社交要員として円滑に迎え入れる思惑も含まれている。
ドレヴァンヒェルとの共同研究
ドレヴァンヒェルとは、以下の内容で共同研究が行われた。
・テーマは、エーレンフェストの魔木から作った紙を魔術具として利用する方法や品質向上の研究であり、紙の製法自体は領主会議案件として秘匿される。
・ドレヴァンヒェルのグンドルフ先生からの強い共同研究の勧誘を躱す中で、ローゼマインが魔術具の紙の研究を提案して成立したのである。
・老獪なグンドルフに誘導されて機密を漏らさないよう、ローゼマイン自身は直接関わらず、ヴィルフリートとシャルロッテの文官見習いを中心に進める体制をとった。
・この研究に旧ヴェローニカ派の文官見習いも巻き込むことで、彼らが領地の基幹産業に貢献している実績を作り、領内での風当たりを和らげるという救済の狙いもある。
アーレンスバッハとの共同研究
アーレンスバッハとの共同研究の経緯と目的は次の通りである。
・テーマは、省魔力で動く図書館の魔術具などの研究や開発である。
・エーレンフェストが大領地と共同研究をするという噂を聞きつけたアーレンスバッハ側(ディートリンデやフラウレルム)が、功績を求めて便乗してきたことで始まった。
・フラウレルムの妨害を避けて文官コースの試験合格を勝ち取るための交渉材料として、ヒルシュールの助言により成立したのである。
・フェルディナンドの弟子であるライムントが設計を担当し、魔力が豊富で調合が早いローゼマインが試作を担当する体制となった。
・フラウレルムを共同研究の連絡役に据えることでアーレンスバッハにいるフェルディナンドとの新たな通信経路を確保し、さらに弟子の成果を発表することで彼の現地での待遇や立場を強化する目的がある。
まとめ
ローゼマインを中心に急遽立ち上がった他領との共同研究は、単なる学術的な探求にとどまらず、エーレンフェストの悪評払拭、特産品の付加価値向上、旧ヴェローニカ派の学生の救済、そしてアーレンスバッハへ旅立ったフェルディナンドの支援など、領地内外の複雑な政治的課題を解決するための重要な外交戦略として機能しているのである。
第四部 貴族院の自称図書委員9レビュー
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登場キャラクター
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展開まとめ
第五部 女神の化身1
プロローグ
領主会議での婚約発表
洗礼式を終えたヒルデブラントは、領主会議で正式なお披露目を行った。神々への奉納としてフェシュピールを演奏し、緊張しながらも無事に役目を果たした直後、王からアーレンスバッハの領主候補生レティーツィアとの婚約が発表された。
ヒルデブラントは事前に母親から婚約話を聞かされていたものの、突然の発表に衝撃を受けていた。中央で王族として生きる未来を想像していた彼にとって、アーレンスバッハへ婿入りし、王族ではなくなるという現実は受け入れ難いものだった。それでも周囲から祝辞を受ける中、笑顔を崩さぬよう感情を押し殺していた。
自由な結婚への憧れ
アナスタージウスとエグランティーヌの恋物語が中央で称賛される中、ヒルデブラントは自分も好きな相手を選びたいと強く願うようになっていた。
彼の脳裏に浮かんだのは、図書館で本に没頭するローゼマインの姿だった。しかし彼女には既にヴィルフリートという婚約者がおり、さらに自身も王命による婚約を受けているため、その想いは叶わぬものだった。ローゼマインもまた望まぬ婚約を受け入れているのだろうと考え、ヒルデブラントは沈んだ気持ちを抱え込んでいた。
ラオブルートによる情報収集依頼
数日後、中央騎士団長ラオブルートが王の伝言を携えて訪れた。彼はヒルデブラントへ玩具を贈りつつ、本題としてローゼマインからグルトリスハイトに関する情報を得てほしいと告げた。
王族側は、ローゼマインとフェルディナンドが図書館で何かを探っていたことから、図書館に秘密があると疑っていた。ラオブルートはフェルディナンドを警戒するよう進言したが、ヒルデブラント自身はローゼマインの善意を疑っていなかった。
さらにラオブルートは、王族がローゼマインの管理者権限を別の司書へ譲らせようとしていることや、エグランティーヌも情報収集に協力する予定であることを説明した。ヒルデブラントは複雑な思いを抱きながら話を聞いていた。
王位簒奪への誘惑
ラオブルートは退室前、王族の機密だという一度しか再生できない魔術具を残していった。
隠し部屋で魔術具を起動したヒルデブラントは、その中に録音されていたラオブルートの声から、アーレンスバッハへ行きたくないならば自ら王になるしかないと囁かれた。真の王の証であるグルトリスハイトを手に入れれば、王命を覆し、自分の望む女性と結ばれることも可能だと語られたのである。
ヒルデブラントは、自分のような第三王子が王位を望んでよいのか迷いながらも、父を救い、自分やローゼマインを望まぬ婚約から解放できるという甘美な誘惑に強く惹かれていった。
母親からの後押し
悩みを抱えたまま夕食に臨んだヒルデブラントに、母親は珍しく優しく接した。
ヒルデブラントは詳細を伏せながら、自分の欲しいものを望んでもよいのかと問いかけた。母親は、欲しいものを得るために努力し、周囲へ利益を与え、何度でも挑戦するのがダンケルフェルガーだと語った。そして周囲を味方につける方法を学び、諦めずに力を蓄えよと励ました。
その言葉に背中を押されたヒルデブラントは、グルトリスハイトを手に入れ、二つの婚約を解消した上でローゼマインへ求婚する決意を固めた。
親睦会での再会と嫉妬
強い決意を抱いたまま貴族院へやって来たヒルデブラントは、親睦会で一年ぶりにローゼマインと再会した。
彼女は以前より成長しており、美しい髪には虹色魔石の髪飾りが揺れていた。ヒルデブラントは、その髪飾りをヴィルフリートから贈られた物ではないかと考えた瞬間、胸の奥に嫉妬を覚えた。
当然のようにローゼマインの手を取るヴィルフリートの姿を見ながら、いつか自分がその立場に立つのだと決意を新たにし、グルトリスハイトと虹色魔石という高い目標を胸に拳を握り締めていた。
旧ヴェローニカ派の子供達
粛清回避のための奔走
フェルディナンドが旅立って間もなく冬の社交界が始まり、ローゼマインは貴族院へ向かうまでの短い期間を忙殺されていた。旧ヴェローニカ派への冬の粛清が目前に迫る中、罪のない子供達まで連座で処分すべきだという声が上層部には根強く存在していたためである。
ローゼマインは、自ら提案した子供達の救済策を実現するため、ジルヴェスターが責められないよう動き回り、喪失感に浸る暇もなく過ごしていた。
マティアスによる密告
貴族院へ到着したローゼマイン達の前に、旧ヴェローニカ派の中級騎士見習いマティアスが進み出た。
彼は、名捧げをすれば親の影響下から抜け出せるという領主一族の方針を受け、自ら旧ヴェローニカ派の子供達へも説明役を買って出ていた。そして、ゲオルギーネがギーベ・ゲルラッハらと秘密裏に会合していた事実や計画の一端を密告した。
ローゼマインとヴィルフリートはその内容を即座にジルヴェスターへ報告し、粛清計画は見直しを含めて急遽動き始めることとなった。
旧ヴェローニカ派の説得方針
ジルヴェスターからは、領主候補生達には寮内にいる旧ヴェローニカ派の子供達の監視と説得を任せるという返答が届いた。
ヴィルフリートは、マティアスとラウレンツを中心に説得を進めるべきだと提案した。二人は、家族を切り捨ててでもエーレンフェストのために動こうとしていたのである。
マティアス達は、誰がどの程度の罪に関与しているか整理し、名捧げによって生き残るのか、家族と共に罰を受けるのかを各自に考えさせる方針を示した。また、自暴自棄になった者が領主候補生へ危害を加えれば、全員が連座処分へ傾く危険があるため、それだけは防ぎたいと語った。
リヒャルダによる警戒強化
リヒャルダは、旧ヴェローニカ派の子供達が感情的になる危険性を指摘し、領主候補生達に距離を取るよう進言した。
その助言を受け、領主候補生達はしばらく他の生徒達と食事時間も分けることとなった。警戒を徹底しながらも、説得によってできる限り多くの命を救う方針は維持された。
洗礼前の子供達の救済策
ローゼマインは旧ヴェローニカ派の子供達へ、洗礼前の幼い子供達を孤児院で保護する計画を説明した。
教育を受け、復讐心などの問題がなく、アウブへ仕える意思があると認められれば、後見人を立てた上で貴族として洗礼式を受けさせる構想も存在していた。
しかし、犯罪者の子供を貴族として生かすことに反対する声は強く、子供達自身の行動が弟妹達の未来を左右するとローゼマインは訴えた。この言葉は旧ヴェローニカ派の子供達へ大きな衝撃を与えていた。
ローデリヒによる説得協力
ローゼマインは、自ら名捧げによって救われたローデリヒを説得役へ加えた。
ローデリヒには、旧ヴェローニカ派の子供達の家族構成も確認するよう命じられた。洗礼前の子供達の人数を把握し、救出を円滑に進めるためである。
新たな護衛騎士テオドール
ユーディットの弟テオドールは、ローゼマイン専属の貴族院限定護衛騎士として加わった。
突然粛清問題へ巻き込まれ戸惑っていたが、レオノーレ達から任務説明を受ける中で徐々に役割を理解していった。また、ユーディットが遠隔攻撃に優れた騎士であることも語られ、姉弟のやり取りに場の空気は少し和らいでいた。
名捧げ先の決定
旧ヴェローニカ派の子供達は、粛清後を見据えて名捧げ先を決め始めた。
騎士見習いや側仕え見習いの男子はヴィルフリート、女子はシャルロッテを希望する者が多く、文官見習いはアウブを希望していた。ローゼマインへの希望者は、マティアス、ラウレンツ、ミュリエラの三名のみだった。
女性達がシャルロッテを希望するのは、他領へ嫁ぐ際に同行できる可能性が高いためであり、一方でローゼマインの側近になると神殿勤務やハルトムートとの関係が避けられないこと、さらにローゼマイン自身の虚弱体質も不安視されていた。
ミュリエラとエルヴィーラへの憧れ
ミュリエラは、エルヴィーラを深く尊敬しており、本来なら彼女へ名捧げしたいと考えていた。
しかし対象が領主一族に限られるため、最もエルヴィーラに近いローゼマインへの名捧げを希望していた。ローゼマインはその願いを受け、卒業後にエルヴィーラへ名を捧げ直す形をジルヴェスターへ確認し、許可を得た。印刷業に従事する文官育成という思惑もあった。
グレーティアの不安と採用
側仕え見習いのグレーティアは、庇護者を必要としており、ローゼマインへの名捧げを希望していた。
しかし内気な性格のため、上位領地や王族対応を求められる側仕えとして務まるか不安を抱えていた。これに対し、リーゼレータとブリュンヒルデは、グレーティアには内向きの仕事へ優れた適性があると評価し、ベルティルデと役割分担すれば問題ないと進言した。
その結果、ローゼマインはグレーティアを内向き業務中心の側仕えとして迎える決断を下した。
進級式前の緊張
粛清の開始時期も終了時期も不明なまま、貴族院では進級式と親睦会が目前に迫っていた。
他領へエーレンフェスト寮内の混乱を悟られぬよう、側近達は例年通りリンシャンや髪飾りの準備を進めながら、緊張感を抱えたまま翌日に備えていた。
親睦会(三年)
親睦会(三年)
ヒルシュールからの叱責
進級式と親睦会を翌日に控えた夕食時、寮監ヒルシュールがエーレンフェストの学生移動完了報告がないことを怒りながら指摘した。
旧ヴェローニカ派の対応に追われていたローゼマイン達は、連絡を完全に失念していたのである。ヴィルフリートは事情説明に詰まったが、ローゼマインが食事へ招待して場を収めた。
食事中、ヒルシュールから順位や親睦会に関する連絡事項が伝えられた。また、フェルディナンドがアーレンスバッハへ移った件についても話題となり、ヒルシュールは彼がヴェローニカに最も疎まれていたにもかかわらず、彼女が繋がりを求め続けたアーレンスバッハへ向かうことになった皮肉を口にしていた。
フェルディナンドの研究資料問題
ローゼマインは、フェルディナンドの屋敷を譲り受けて図書館にする許可を得たことを語り、研究室で魔術具開発を進めたいと話した。
しかしヒルシュールから研究資料を持参していないのか問われ、ローゼマインは必要資料を準備していなかったことに気付いた。これまではフェルディナンドが全て整えていたため、自分で準備する必要性を失念していたのである。
この一件により、ローゼマインは改めてフェルディナンドの用意周到さを痛感していた。
ヒルシュールによる助言
ヒルシュールは、領主候補生達だけが別行動を取っている理由を尋ねた。
ローゼマインは詳細を伏せつつ、今は距離を置く必要があるとだけ説明した。事情を察したヒルシュールは追及を止め、その代わりにローゼマインへ「背伸びをしすぎて自分らしさを失ってはならない」と静かに告げた。
ローゼマインは、その言葉の意味を理解できず戸惑っていた。
進級式当日の準備
進級式当日、ローゼマインはトゥーリの髪飾りと、フェルディナンドから贈られた虹色魔石の簪を身につけていた。
しかし、その簪に使われている魔石の質が、ディートリンデへ贈られた物より高級だと指摘されていたため、ヴィルフリートへ「皆で魔石を用意し、フェルディナンドがデザインした」という設定に合わせてほしいと頼んだ。
ローゼマインは、ディートリンデを刺激してフェルディナンドの立場を悪化させたくないと考えていたのである。ヴィルフリートもその意図を理解し、話を合わせることを了承した。
旧ヴェローニカ派の暴走未遂
その直後、寮内で騒ぎが発生し、ラウレンツが一年生を拘束して連れて来た。
その少年は、親睦会を利用して他領経由で家族へ粛清情報を知らせようとしていた。手紙には、両親が無事なのか、自分はまた家族へ会えるのかという切実な想いが綴られていた。
ローゼマインは胸を痛めたが、ヴィルフリートは「家族を思う失敗は一度だけ許す」と判断し、今回は不問にする決断を下した。旧ヴェローニカ派の生徒達は流行り病を理由に進級式と親睦会を欠席することとなった。
疲弊したまま迎えた進級式
旧ヴェローニカ派の問題で精神的に消耗したローゼマインは、講堂へ向かう時点ですでに疲れ切っていた。
講堂での挨拶や式典もほとんど意識に入らず、ただ貴族らしい笑顔だけを貼り付けたまま時間が過ぎるのを待っていた。
ヒルデブラントとの再会
親睦会の小広間では、ヒルデブラントが正面で迎えていた。
ヴィルフリート達は王族と距離を取るよう指示されていたため緊張していたが、ヒルデブラントは嬉しそうに微笑んでいた。その幸福そうな表情を見たローゼマインは、自分でも理由のわからない羨望を抱いていた。
ヒルデブラントは今年も図書館で会えることを楽しみにしていると語り、ローゼマインは無難な返答で応じた。
ダンケルフェルガーとの交流
ダンケルフェルガーでは、ハンネローレがローゼマインの無事を喜び、シャルロッテは流行り病の話題を巧みに逸らしながら髪飾りの納品予定へ話を移した。
レスティラウトは、自らデザインした髪飾りが高く評価されたことを誇らしげに語った。また、ローゼマインの虹色魔石の髪飾りにも強い興味を示し、フェルディナンドのデザインを称賛した。
さらに、ダンケルフェルガーの歴史書出版計画や本の交換についても話題となり、今年のお茶会開催を楽しみにする様子を見せていた。
ディートリンデの誤解
アーレンスバッハでは、ディートリンデがフェルディナンドとの婚約生活を幸せそうに語っていた。
彼女は、フェルディナンドが優しく微笑みながら執務を頑張り、自分のために熱烈な恋歌まで作曲してくれたと誇らしげに話していた。
しかしローゼマインには、それが無理を重ねた結果にしか思えず、食事や睡眠を削って働いている姿が容易に想像できた。ヴィルフリートも、ディートリンデの語る人物像が本当にフェルディナンドなのか疑問を抱いていた。
インメルディンクからの謝罪
最後にインメルディンクの領主候補生が、前年の領地対抗戦で上級貴族が行った襲撃事件について謝罪した。
ローゼマインは、中央からの圧力や順位低下など、インメルディンク側も大きな影響を受けているのだろうと察し、笑顔で謝罪を受け入れていた。
初めての講義合格
初めての講義合格
フェルディナンドからの伝言
親睦会を終えて寮へ戻る途中、ライムントがローゼマイン達を訪ねてきた。
彼はフェルディナンドから預かった録音魔術具を持参しており、そこにはエーレンフェスト全体の成績を落とすなという厳命が吹き込まれていた。ローゼマインは貴族院へ来てから勉強を全くしていなかったことに気付き、強い危機感を覚える。
さらにフェルディナンドは、成績が落ちればローゼマインへ与えた図書館を取り上げると宣言した。図書館を心の支えにしていたローゼマインは衝撃を受け、即座に勉強へ全力を注ぐ決意を固めた。
全員初日合格への決意
フェルディナンドはヴィルフリートとシャルロッテにも、エーレンフェスト全員の初日合格を求めていた。
成績が落ちれば、エーレンフェストの躍進は一時的なものだったと他領に嘲笑されるだけでなく、アーレンスバッハへ移ったフェルディナンド自身の立場も悪化する。ブリュンヒルデからその事情を聞かされたローゼマイン達は、絶対に成績を落とせないと理解した。
領主候補生達は急いで寮へ戻り、学生達へ勉強道具を持って集合するよう指示した。旧ヴェローニカ派の子供達にも同じ命令が伝えられた。
リヒャルダの励まし
自室へ戻ったローゼマインは、リヒャルダへ事情を説明しながら勉強道具を準備してもらった。
ローゼマインは、図書館を取り上げるというフェルディナンドの脅しを酷いと訴えたが、リヒャルダは、それでも課題を与え続けるのがフェルディナンドらしい気遣いだと笑った。
さらに、成績を維持できればご褒美もあるはずだと励まされ、ローゼマインは図書館を守り抜き、必要な魔術具を作らせようと決意を新たにしていた。
旧ヴェローニカ派との衝突
多目的ホールで勉強会が始まる中、旧ヴェローニカ派の子供達は複雑な感情を抱えたまま現れた。
その中の一人が、家族が処分されるかもしれない状況で勉強などできないと反発した瞬間、レオノーレが即座に光の帯で拘束した。
レオノーレは、ローゼマインがこれまでどれだけ旧ヴェローニカ派の子供達を救うために奔走し、心を痛めてきたかを怒りと共に語った。本来なら全員連座処分で当然なのに、領主一族は慣例を破ってまで命を救おうとしているのだと厳しく叱責したのである。
側近達の怒り
レオノーレだけでなく、ブリュンヒルデやリーゼレータ達も強い怒りを見せた。
ブリュンヒルデは、領地経営が厳しい中で犯罪者の血縁者を多数生かそうとしている領主一族へ感謝もない態度は許せないと断言し、リーゼレータも主の精神的健康を守るため排除するとまで言い切った。
ヴィルフリートやシャルロッテの側近達も、旧ヴェローニカ派によって領主候補生達がどれほど傷付けられてきたかを指摘し、彼等が特別扱いされている現状を忘れるなと厳しく責め立てた。
シャルロッテの断言
旧ヴェローニカ派の子供が、家族にも慈悲を与えてほしいと訴えると、シャルロッテが立ち上がった。
シャルロッテは、裁かれるのは罪を犯した者達自身であり、領主一族は罪のない子供達へ生き延びる道を示しただけだと明言した。そして、ここから先を選ぶのは子供達自身だと断言した。
その毅然とした態度に、ローゼマインは自分が守られているような感覚を覚えていた。
ローゼマインの説得
ローゼマインは、自分が救えるのは彼等の家族ではなく、彼等自身の将来だと静かに語った。
神殿時代からフェルディナンドに教え込まれてきたように、より良い環境を得るためには教養と成績が必要であること、自分自身も勉強によって領主の養女となれたことを説明した。
さらに、もし家族が無罪や軽い処分だった場合でも、成績が悪ければ家族へ顔向けできないこと、将来家族を支えるためにも学力が必要になることを訴えた。
粛清終了と選択
その後、ヴィルフリートが領地から届いた木札を示し、粛清が大筋で終了したことを伝えた。
情報漏洩の危険がなくなったことで、ローゼマインは旧ヴェローニカ派の子供達へ改めて選択を促した。今から勉強して試験合格を目指すのか、それとも拘束されたまま領地へ送還されるのか、自分達で決めろと言ったのである。
その言葉を受け、マティアスとラウレンツが最初に勉強へ戻り、次第に他の子供達も勉強の輪へ加わっていった。最後まで拘束されていた少年も、家族は罪を犯していないと信じていると叫び、自ら勉強へ参加する道を選んだ。
新しい司書
新しい司書
初日の全員合格
講義初日、エーレンフェストの学生は全員が試験へ出席し、無事に合格を果たした。
一年生のテオドールは初めての合格に大喜びし、ローゼマイン達へ報告した。三年生達は共通座学で全員満点を達成しており、神々の名前を書き出す試験など、カルタや聖典絵本で育った彼等にとって極めて簡単な内容だった。
勉強会の成果がしっかり現れたことで、エーレンフェストの空気は久しぶりに明るさを取り戻していた。
ソランジュからの呼び出し
昼食中、ソランジュからオルドナンツが届いた。
中央から新しい司書が派遣されたため、シュバルツとヴァイスの登録変更をしてほしいという依頼だった。長年一人で図書館を支えてきたソランジュにとって、正式な上級司書の派遣は悲願だったのである。
ローゼマインは食後すぐに図書館へ向かうことを決めたが、リヒャルダから読書は禁止だと念を押されてしまった。
テオドールの落胆
初めての図書館を楽しみにしていたテオドールだったが、まだ図書館登録が終わっていないため同行できなかった。
ローゼマインが慰めると、テオドールは拗ねたような表情を見せ、それがユーディットそっくりだったため、周囲は思わず笑い出してしまう。
ユーディットまで姉らしく注意し始めたことで、姉弟の反応がますます似通い、ローゼマイン達は笑いを堪えられなくなっていた。
シュバルツ達との別れへの寂しさ
図書館へ向かう途中、リーゼレータは、新しい司書が来たことでシュバルツとヴァイスの主が変わるのではないかと尋ねた。
ローゼマインは、それが本来の形だと当然のように答えたが、リーゼレータは残念そうにしていた。彼女はシュバルツ達のために新しい服まで作っていたのである。
ローゼマインは、管理者変更後もしばらくは現在の衣装を着せられるだろうと説明し、リーゼレータを少し安心させていた。
ソランジュの感謝
図書館へ到着すると、ソランジュは正式な上級司書派遣が間に合ったことを心から喜んでいた。
ローゼマインが今年から領主候補生コースと文官コースを同時受講するため、魔力供給を学生一人へ依存し続ける状況を解消したかったのである。
また、ソランジュは、図書館で長く孤独に働いてきた自分へ話し相手ができることも嬉しそうに語り、ローゼマインもそれを喜んでいた。
王族同席による登録変更
ソランジュの執務室へ入ると、そこには大勢の王族関係者が待機していた。
王族の魔術具であるシュバルツとヴァイスの管理者変更には、王族の立ち会いが必要だったのである。立ち会いにはヒルデブラントだけでなく、領主候補生コース講師となったエグランティーヌまで同席していた。
ローゼマインは、エグランティーヌが教師となって貴族院へ戻ってきたことへ強い驚きを覚えていた。
新しい上級司書オルタンシア
エグランティーヌは、新任上級司書オルタンシアを紹介した。
オルタンシアはクラッセンブルク出身の中央貴族で、おっとりした雰囲気を持つ女性だった。ソランジュとも気が合いそうであり、本好きでもあるらしい。
ローゼマインは、クラッセンブルク出身者特有の柔らかな雰囲気を感じながら、幸せそうなエグランティーヌの姿にも見惚れていた。
シュバルツとヴァイスの管理者変更
ローゼマインは、シュバルツとヴァイスへオルタンシアを新しい主として登録した。
ただし、正式な管理者変更には、オルタンシアの供給魔力量が現在のローゼマインを上回る必要があった。ソランジュは、ローゼマインがこれまで春から秋の間も巨大な魔石を貸し出し、シュバルツ達へ魔力供給していたことを明かし、周囲は驚愕した。
ローゼマイン自身は、快適な図書館運営のために魔力を使うのは当然だと思っていたが、その感覚は一般的ではなかった。
図書館から距離を置く決意
ソランジュは、管理者変更が安定するまでシュバルツ達へ魔力供給しないよう頼んだ。
癖で触れるだけでも魔力供給してしまう可能性があるため、ローゼマインはしばらく図書館へ近付かず、代わりにヒルシュールの研究室へ籠もって図書館用魔術具の研究を進めることを決めた。
ローゼマインにとっては、本を読まないのではなく、自分の図書館をより良くするために別の形で本と関わるという発想だった。
本好きのお茶会再開計画
ソランジュは、去年楽しみにしていた本好きのお茶会について尋ねた。
ローゼマインは、今年も新しい本を持ち寄って開催したいと答え、オルタンシアも参加希望を表明した。中央貴族おすすめの本が聞けると知ったローゼマインは大いに喜ぶ。
さらにヒルデブラントまで参加希望を口にしたが、王族と距離を置くよう求められている状況だったため、空気が微妙になる。
そこへエグランティーヌが機転を利かせ、ローゼマインの体調が良い時にこちらから招待する形にすれば良いと助け舟を出したため、ローゼマインは全力でその提案へ乗っかっていた。
再び魔力供給してしまう失敗
図書館を去る際、シュバルツとヴァイスは「じじさま」が待っているから祈りを捧げてほしいと訴えた。
ローゼマインは去年の魔力供給を思い出したが、今は管理者変更中であるため、自分が供給するべきではないと説明した。しかし、別れ際にいつもの癖でシュバルツ達の額を撫でてしまい、また少し魔力を供給してしまう。
これではいつまで経っても管理者が変わらないかもしれないと反省し、今年は大人しく研究室へ籠もろうと考えていた。
実技 神々の御加護
実技 神々の御加護
神々の御加護を得る実技
午後の実技は、神々から御加護を得るための重要な儀式だった。
神々の加護を得れば、その属性の魔術が格段に扱いやすくなるため、専門コースへ分かれる三年生にとって極めて重要な実技である。神学試験へ合格した学生のみが講堂へ集められ、祭壇の前で一人ずつ儀式を行う形式だった。
エーレンフェストは全員が試験に合格していたため、三年生全員が講堂へ集まっていた。
ハルトムートの余計な指示
講堂へ向かう途中、フィリーネとローデリヒは、ハルトムートからローゼマインがどの神々の御加護を得るか記録するよう頼まれていると打ち明けた。
二人は書字板まで準備しており、ローゼマインは余計なことを頼んだハルトムートへ呆れ返った。どの神の加護を得たかは本人だけが知っていれば十分であり、わざわざ文官達が分担して記録する必要などないと考えていたのである。
ハンネローレとの会話
講堂では、ダンケルフェルガーで唯一初日合格したハンネローレが一人で立っていた。
ローゼマインが声をかけると、ハンネローレは神々の名前を全て覚えるのに苦労したと語った。ローゼマインも、洗礼式直後から神殿長として神々の名前に囲まれた生活を送っていたため、その苦労へ共感を示した。
しかしハンネローレは、洗礼式直後から神殿長を務めていたことへ衝撃を受ける。そこでローゼマインは、エーレンフェストの神殿は居心地が良く、アウブや領主候補生達も出入りしていること、フェルディナンドも神殿を離れ難く思っていたことなどを説明し、神殿への悪印象を和らげようとしていた。
御加護と適性の説明
ローゼマインはフィリーネ達へ、神々の御加護によって魔術の使いやすさや魔力量に大きな差が生まれると説明した。
適性属性は生まれつき決まっているが、祈りや行いによって御加護を増やせる可能性があるという参考書の記述も存在するため、今からでも祈りを重ねるよう勧めたのである。
しかしヴィルフリートは、適性以外の加護を得たという話を聞いたことがないと首を傾げていた。
アンゲリカの異常事例
ローゼマインは、アンゲリカが風属性の適性を持ちながら、風属性の御加護を一つも得られなかったことを明かした。
フィリーネは、自分も適性神の御加護を得られないのではないかと真っ青になる。しかし、そこへ現れたヒルシュールが、アンゲリカの失敗原因を説明した。
アンゲリカは神学試験合格直後に実技を行ったものの、神々の名前を正しく覚えておらず、魔法陣の上で名前を唱えられなかったのである。そのため、神々から御加護を得られなかったのだった。
祈りの言葉の公開
ヒルシュールは、儀式で用いる祈りの言葉を映写魔術具で映し出した。
そこには最高神と五柱の大神、さらに全ての眷属神の名前が並んでいた。しかしローゼマインにとっては、神殿や奉納式で普段から唱えている祈りに近い内容だったため、特別難しいものには感じられなかった。
一方、他領の学生達は苦戦しており、特にダンケルフェルガーやドレヴァンヒェルの学生達は真剣な表情で暗記していた。
礎への祈りを巡る衝撃
ローゼマインは即座に祈りを覚え、ヒルシュールへ申告した。
その際、領地の礎へ魔力供給する時にも似た祈りを使っていると説明したが、オルトヴィーンやハンネローレは、そのような祈りを唱えたことがないと驚愕した。
エーレンフェストでは領主一族が祈りながら魔力供給していることが判明し、ヒルシュールとグンドルフは研究対象として強い興味を示していた。
ローゼマインの儀式開始
ヒルシュールに導かれたローゼマインは、祭壇最奥の間へ入り、巨大な魔法陣の中央へ立った。
祭壇は奉納式とよく似た造りであり、神々への供物まで整えられていた。ローゼマインは奉納式と同じように跪き、魔法陣へ魔力を流しながら、最高神から順番に神々の名を唱え始める。
すると、全属性の光が反応し、さらに多くの眷属神の名へも反応して光が増えていった。
神像の異変
祈りを終えた直後、七色の光が頭上で渦を巻き、祭壇の神像へ吸い込まれていった。
すると突然、神々の像が左右へ動き始め、中央へ道を開いた。そこには供給の間を思わせる揺らめく入り口が現れていた。
ヒルシュールは、この現象がフェルディナンドの時にも起きたと語り、貴族院へ伝わる不思議話の一つではないかと説明した。
白い広場への到達
ローゼマインは騎獣で祭壇最上段へ上がり、入り口の奥へ足を踏み入れた。
その先に広がっていたのは、かつて「神の意志」を採取した白い広場だった。白い石畳と巨大な白い木が存在する神秘的な空間であり、ローゼマインは、昔の教育課程ではここでシュタープと御加護を同時に得ていたのではないかと推測した。
しかし既にシュタープを持つローゼマインへ新たな変化は起こらず、しばらく広場を見た後、祭壇へ戻ることとなった。
アンゲリカ救済への着想
祭壇へ戻ったローゼマインは、魔法陣を見下ろしながら考え込んだ。
アンゲリカが御加護を得られなかったのなら、領地で再び儀式を行い、必要な神の名前だけを重点的に覚えさせれば、速さを司る風属性の加護くらいは得られるのではないかと考えたのである。
そのため、ローゼマインは書字板へ魔法陣を描き留めていた。
秘密保持の決意
儀式終了後、ヒルシュールは白い広場の内部について教えてほしいと強く迫った。
しかしフェルディナンドも、この件については何も語らなかったらしい。ローゼマインは、フェルディナンドが秘密にした内容を勝手に話すつもりはないと拒否し、まずは本人へ相談すると決めた。
こうしてローゼマインは、消えるインクを使ってフェルディナンドへ手紙を書く必要性を感じていた。
皆の儀式と音楽
ヴィルフリートの大量加護獲得
ローゼマインが講堂へ戻ると、ローデリヒとフィリーネはどの神々の御加護を得たのか知りたがっていた。
しかしローゼマインは、二人へ自分の儀式より暗記へ集中するよう促し、自身は勉強を続けながら皆の儀式を待つことにした。
その後、ヴィルフリートが儀式へ向かい、帰還すると喜色満面で十二柱の神々から御加護を得られたと報告した。周囲は大きくざわめき、複数の眷属神から加護を得ること自体が極めて珍しい事例だと判明する。
ローゼマイン自身は四十近い加護を得ていたが、場を混乱させないため曖昧に誤魔化していた。
複数加護の希少性
ハンネローレは、通常は適性数に応じた加護しか得られないと説明した。
ダンケルフェルガーでは戦いに関係する火属性の眷属神から複数の加護を得る例はあるものの、ヴィルフリートのような領主候補生が多数の加護を得るのは異例だったのである。
その後、オルトヴィーンを含む他領の学生達も儀式を行ったが、誰も適性数以上の加護は得られなかった。
ハンネローレの困惑
ハンネローレは、時の女神ドレッファングーアと武勇の神アングリーフから御加護を得て戻ってきた。
しかし本人は、神々の目に留まるようなことをした覚えがないと困惑していた。ローゼマインは、戦闘色の強いダンケルフェルガーらしい加護だと感じていた。
フィリーネの属性増加
最後に残ったフィリーネは、緊張しながら儀式へ向かった。
戻ってきた彼女は興奮した様子で、土属性しか持たなかった自分が、英知の女神メスティオノーラの御加護によって風属性を得たと報告した。
この報告に周囲は騒然となる。フィリーネ自身は、ローゼマインの助言通り、回復薬を使ってでも完全に魔法陣へ魔力を満たし、心を込めて祈っただけだと説明した。
グンドルフの興奮
ドレヴァンヒェルの教師グンドルフは、属性増加という稀有な事例へ強い興味を示した。
彼は、フィリーネがどのような知的活動をしていたのか質問攻めにする。フィリーネは、お話集めや写本、現代語訳の勉強、神殿での執務補助などを挙げた。
グンドルフは、ドレヴァンヒェルでも知的活動は盛んだが、英知の女神から加護を得る者はほとんどいないと語り、属性増加の条件を探ろうとしていた。
ローデリヒの全属性化
続いて儀式を終えたローデリヒは、明らかに様子がおかしかった。
問いかけられた彼は、儀式自体は成功したものの、何故か全属性の御加護を得てしまったと告白する。洗礼式では風と土しか適性がなかったにもかかわらず、儀式中には全ての属性記号が光ったのである。
この異常事態に、グンドルフは激しく動揺した。御加護によって全属性化した例など聞いたことがなかったためである。
ローゼマインによる擁護
グンドルフが原因究明のためローデリヒを問い詰めると、ローデリヒは自分のような者が全属性になるなどおかしいと萎縮し始めた。
それを見たローゼマインは、主としてローデリヒを庇った。御加護をくださった神々へ失礼になるため、自分を卑下するなと諭し、グンドルフにも祝福が先だと告げる。
さらに、御加護は喜ばしいことであり、驕らず今後も努力を続けるべきだとまとめ、場を落ち着かせた。
秘密保持の決定
その後、ヒルシュールが講堂へ戻り、ローデリヒの全属性化は周囲を混乱させる危険な事例だと判断した。
そのため、エーレンフェストの学生達はこの件を口外しないと誓い合う。ヒルシュールとグンドルフは、属性増加について独自調査を始めることも決定した。
音楽講義の開始
翌日の午後は音楽の講義だった。
ローゼマインは、今年も新曲を要求される可能性を考え、ロジーナと事前準備をしていた。課題曲は二年前に練習済みの曲だったため問題なく演奏できたが、改めてフェルディナンドとロジーナの教育水準の高さを痛感していた。
フェルディナンドの新曲
講義中、アーレンスバッハの上級貴族が、フェルディナンド作曲だという新曲を演奏した。
ローゼマインには、それが以前自分が贈った旋律を基にした曲だとわかった。しかし内容は恋歌ではなく、離れてしまった相手を想う郷愁歌へ変化していた。
ローゼマインは、フェルディナンドが意図的に誤解を誘う形で曲を作り変えたのだろうと察し、彼の立場が少しでも良くなるよう、あえてアーレンスバッハの新曲として肯定した。
新曲披露への挑発
演奏を終えたアーレンスバッハの貴族は、フェルディナンドがいなくなった今でも新曲を作れるのかと、ローゼマインを挑発した。
ローゼマインはそれを受けて立ち、自由曲として風の女神シュツェーリアへ捧げる曲を演奏した。この曲には、フェルディナンドや粛清で家族を失う子供達を守ってほしいという願いが込められていた。
制御不能になった祝福
演奏中、ローゼマインは指輪から魔力が吸い出され、黄色い祝福が溢れ始めるのを感じた。
以前なら止められたはずの祝福だったが、神々の御加護を得た後は魔力効率が上がりすぎており、自分の意思では制御できなくなっていたのである。
周囲が唖然とする中、ローゼマインは演奏を最後まで続けるしかなかった。演奏後は、風の女神の祝福が溢れやすくなっただけだと笑って誤魔化したものの、内心では深刻な危機感を抱いていた。
制御方法喪失への不安
寮へ戻ったローゼマインは、リヒャルダへ相談した。
しかしリヒャルダの世代は、御加護取得後にシュタープを得ていたため、現在のローゼマインのような問題は経験していなかった。そのため解決法は不明だった。
卒業直前にシュタープを取得していた旧教育課程には意味があったのだと判明し、ローゼマインは教育課程を変更した者達へ心の中で絶叫していた。
ヒルシュールと加護のお話
制御不能な祝福への相談
夕食の時間になると、ヒルシュールがエーレンフェスト寮を訪れた。
ローゼマインは、神々の御加護を得た後から魔力制御が極めて難しくなり、音楽の実技では祝福が止まらなくなったと相談する。しかしヒルシュールは、魔力が余っているからこそ起こる現象であり、自分には対処法がわからないとして、フェルディナンドへ相談するよう即座に丸投げした。
エーレンフェストへの高評価
食事中、ヒルシュールは加護の儀式について触れず、エーレンフェストの学生達を高く評価した。
座学では全員初日合格を継続しており、実技でもローゼマイン式魔力圧縮の普及によって成績が毎年向上しているという。アンゲリカ達が卒業すれば実技成績は落ちると思われていたが、レオノーレやマティアス達が成長しているため、教師陣からの評価も非常に高かった。
ローゼマイン達は、第三者から正式に実績を認められたことを素直に喜んでいた。
ムースによる新レシピ試験
食事には、蜂蜜ヨーグルトムースを使った新作デザートが用意されていた。
これはゼラチン普及を目的とした新しいレシピであり、王族向けのお茶会へ出せるか試験する意味もあった。ヒルシュールは食感こそ珍しいが味は問題ないと評価し、ローゼマインは見た目をさらに改良しようと考えていた。
秘密会議の開始
食後、ローゼマイン達は当事者だけで別室へ移動した。
参加者はローゼマイン、ヴィルフリート、シャルロッテ、フィリーネ、ローデリヒ、そしてヒルシュールである。盗聴防止の魔術具まで用意され、極秘の話し合いが始まった。
ローゼマインは魔術具へ魔力を流しながら、神々の御加護によって消費魔力が激減していることを改めて実感していた。
異常事態の整理
ヒルシュールは、シャルロッテへ昨日の儀式内容を説明させた。
その中で、ヴィルフリートの大量加護、フィリーネの属性増加、ローデリヒの全属性化について整理される。しかしローゼマイン自身の異常な儀式については、意図的に触れられなかった。
シャルロッテは、神々の御加護を得る儀式なのだから複数加護は不自然ではないのではと疑問を呈したが、ヒルシュールは、それが極めて稀少な現象であると説明した。
複数加護の異常性
ヒルシュールによれば、通常の貴族は適性属性の大神から加護を得るだけであり、戦闘系の騎士見習いやダンケルフェルガー以外で複数の眷属神から加護を得る例は、百年単位で遡らなければ見つからないほど珍しかった。
そのため、ヴィルフリートが多数の加護を得たことは称賛で済むが、下級貴族のフィリーネが属性を増やしたことや、ローデリヒが全属性化したことは、完全に前例外の異常事態だったのである。
ローゼマインだけ例外扱い
ローゼマインは、自分の大量加護や神像移動はどれほど異常なのか質問した。
しかしヒルシュールは、ローゼマインが規格外なのは今さらなのでどうでもいいと切り捨てる。ヴィルフリートは最重要問題だと抗議したが、ヒルシュールは、規格外同士であるフェルディナンドへ丸投げするのが最適だと主張した。
フェルディナンドの後始末で苦労してきた経験から、ヒルシュールは完全に匙を投げていた。
異常発生者の共通点
ヒルシュールは、今回異常事態を起こした四人には共通点があると指摘した。
それは、ローゼマイン本人、その婚約者、その側近達という、全員がローゼマインに深く関係する人物ばかりだったことである。
ローゼマインは必死に否定したが、周囲は全員納得していた。エーレンフェストで想定外の変化が起こる時は、大抵ローゼマインが中心にいるという認識が完全に定着していたのである。
神殿と祈りの影響
ヒルシュールは、他の貴族がしていないことをローゼマイン達がしているのではないかと問いかけた。
ローゼマインは即座に、それは祈りと奉納だと答える。自分は神殿長として日常的に神々へ祈りを捧げ、側近達も神殿で祈りや奉納を繰り返してきたのである。
さらに、ヴィルフリートやシャルロッテも神事で各地を巡り、祈念式や収穫祭を行っていた。エーレンフェストでは礎への魔力供給時にも祈りを捧げており、他領とは根本的に生活習慣が異なっていた。
参考書の本当の意味
ローゼマインは、参考書に書かれていた「神々へ祈りを捧げよ」という文言は、儀式時だけの話ではなく、日常生活へ取り入れるべき習慣だったのだと説明した。
アンゲリカが神々の名前を覚えておらず加護を得られなかったように、真摯な祈りを行っていない者には最低限の加護しか与えられないのだろうと推測した。
ヒルシュールも、その解釈が正しかったのだろうと認め、ダンケルフェルガーでの調査を検討し始める。
ローデリヒ問題の保留
しかしローデリヒの全属性化については、祈りだけでは説明できなかった。
ローデリヒ自身は心当たりがある様子を見せたが、口外してよい内容か判断できず、まずはアウブへ相談すると答えた。
ジルヴェスターは粛清対応で多忙なため、ヒルシュールは後日改めて話をしたいと申し出る。
御加護増加の危険性
ヒルシュールは、御加護が増えることで魔術効率が劇的に向上する点を問題視していた。
ローゼマイン式魔力圧縮によって魔力量を増やし、さらに御加護増加によって消費効率まで向上すれば、エーレンフェストの魔術能力は他領を圧倒する可能性があるのである。
そのためヒルシュールは、御加護を増やす方法を領地対抗戦で研究成果として発表し、中央や他領へ還元するべきだと提案した。独占状態にすると、周囲から強い警戒と反感を招くと危惧していたのである。
中央からの警戒
さらにヒルシュールは、現在のエーレンフェストが他領からかなり悪く思われている現状を説明した。
成績上昇、流行発信、順位上昇が続く中、アウブ・エーレンフェストへの悪評も増加しているという。そこへ御加護増加まで独占すれば、中央からも危険視される可能性が高かった。
ローゼマインへの監視強化
最後にヒルシュールは、ローゼマインが中央から強く注目されていると警告した。
中央では、フェルディナンドが聖女伝説の裏で暗躍していたと考える者も多く、彼の愛弟子であるローゼマインが重要情報を握っていると疑われているのである。
領主候補生講師となったエグランティーヌも、ローゼマインと最も近い王族だからこそ配置された存在だった。また、新任司書オルタンシアは中央騎士団長ラオブルートの第一夫人であり、図書館も安全地帯ではなくなっていた。
ローゼマインは、優しげなオルタンシアの背後にラオブルートの鋭い視線を感じ、強い警戒心を抱いていた。
領主候補生の初講義
ローデリヒの全属性化の真相
ヒルシュールとの話し合いが終わった後、ローゼマインはローデリヒだけを部屋へ残した。
盗聴防止の魔術具を起動した上で事情を尋ねると、ローデリヒは、自分が全属性になった原因は名捧げだと思うと語った。名捧げの際、ローゼマインの全属性魔力に強く縛られたことで、その影響を受けたのではないかと推測したのである。
ローゼマインも、自分の影響であることを認めた。ローデリヒは、加護の儀式前から調合が少し楽になっていたと振り返り、加護によってその変化が決定的になったと説明した。
名捧げ公表への懸念
ローデリヒは、名捧げによる属性増加は公表しない方が良いと進言した。
名捧げは本来、忠義と命を主へ捧げる儀式であり、属性増加を目的に行うものではないからである。属性欲しさに名捧げが流行れば、自分達の忠誠心が軽視されるように感じるとローデリヒは語った。
さらに現在の旧ヴェローニカ派の子供達は、生き残るために名捧げを迫られている状態であり、そこへ属性増加という利点まで加われば、他の貴族達から強い反感を買う危険があると警告した。
噂と祝福への注目
その後もエーレンフェストは全ての講義で初日合格を続けた。
しかしローゼマインは、音楽講義で大規模な祝福を起こした件を周囲から噂され続けていた。実際に目撃者が多いため否定もできず、噂が沈静化するのを待つしかなかった。
ローゼマインは、その間にクラリッサへ手紙を書いたり、ヒルシュールとの会談内容を報告するため領地へ報告書を送ったりしていた。フェルディナンドへも手紙を書いたが、ライムントが研究室へ籠もっており、まだ渡せていなかった。
採集と魔力放出
週末には各学年が採集へ向かった。
二、三年生は粛清騒動で採集が遅れていたため、大量の薬草採集を行うことになる。ローゼマインは、祝福暴走を防ぐためにも余剰魔力を積極的に放出しながら採集を行っていた。
専門コース初日
週明けとなり、三年生は初めての専門コース講義へ向かうこととなった。
一年生のテオドールはまだシュタープ取得中で姿を見せておらず、ローゼマインは心の中で応援していた。
二年生までが全座学初日合格を達成したことで、シャルロッテは去年の雪辱を果たせたと安堵していた。一方、三年生以上は専門講義でさらに高得点を狙う状況へ移っていた。
中央棟での講義
領主候補生には専用棟が存在せず、講義は中央棟の一角で行われた。
教室には低い机が並び、箱庭を覗き込みやすい構造になっていた。ローゼマインの席には専用の踏み台まで用意されており、エグランティーヌの細かな配慮が感じられた。
しかし、人数が極端に少ないため、これまでの講義よりかなり静かで寂しい雰囲気になっていた。
ハンネローレとの加護談義
ローゼマインは早速ハンネローレへ、ヒルシュールの調査結果について尋ねた。
ハンネローレは、時の女神ドレッファングーアへ日常的に祈っていたことを明かす。また、ダンケルフェルガーではディッター前に戦歌を歌い、戦いの神々へ奉納を行う習慣があり、それが武勇の神アングリーフの加護へ繋がったのだろうと説明した。
これにより、ダンケルフェルガーで戦い系眷属の加護が多い理由が判明する。ローゼマインは、真摯な祈りと奉納こそ加護の鍵なのだと改めて確信していた。
ローゼマインへの疑念
ハンネローレは、ローゼマインがどれほど多くの神々から加護を得たのか恐る恐る尋ねた。
周囲の領主候補生達まで聞き耳を立てる中、ローゼマインは正確な数は秘密だと誤魔化した。しかし、口外できないほど大量なのだと逆に察されてしまう。
そこへエグランティーヌが入室し、講義が始まった。ローゼマインは、彼女が自分から情報を得るため王族側に配置された存在かもしれないというヒルシュールの警告を思い出し、少し気分を沈ませていた。
礎の魔術講義開始
エグランティーヌは、領主候補生の三年生講義として、礎の魔術の簡易版を扱うと説明した。
各自へ配られた箱庭には砂が敷かれており、中央の魔術具へ魔力を流し込むことで領地を満たしていく形式だった。これはフェルディナンドとの予習で行った内容とほぼ同じであり、ローゼマインは安心していた。
暴走する魔力
しかしローゼマインが魔術具へ魔力を流し込むと、異変が起こった。
これまで通りの感覚で魔力を込めただけなのに、箱庭全体が一気に染まり、黒土へ変化し、緑まで芽吹き始めたのである。しかも一度流れ始めた魔力は止められず、じわじわと流出し続けていた。
エグランティーヌは感心した様子で眺めていたが、ローゼマイン本人は、シュタープで制御できなくなっている現状へ内心で悲鳴を上げていた。
特別課題への移行
予定より早く箱庭を完成させてしまったローゼマインは、追加課題へ進むことになった。
結界や境界門の設計図作成、エントヴィッケルン用の金粉準備など、高度な作業が次々と与えられる。ローゼマインは、以前フェルディナンドとの予習で図書館模型を作り、五分で崩壊したことまで思い出していた。
ハンネローレを怯えさせる発言
ローゼマインは、現在の自分は飽和状態で、魔力を止められないとハンネローレへ小声で打ち明けた。
もし今この場で祝福を行えば、全員の箱庭を自分の魔力で染めてしまう可能性すらあるという。シュバルツとヴァイスが祝福で主認定された前例まで語ったため、ハンネローレは完全に引き気味になっていた。
ローゼマインは慌てて冗談だと誤魔化そうとしたが、まるで説得力がなかった。
ヴィルフリートとの差
その頃、ヴィルフリートは順調に箱庭を染め終え、エグランティーヌから優秀だと褒められていた。
同じように大量の御加護を得たにもかかわらず、ヴィルフリートは問題なく魔力を扱えている。その様子を見たローゼマインは、自分だけ制御不能になっている状況へ理不尽さを感じ、内心で神々へ抗議していた。
奉納舞(三年)
祝福暴走への危機感
昼食前、多目的ホールで待機していたローゼマインは、午後の奉納舞で再び祝福が暴走する危険性へ気付いた。
午前中の講義ですでにハンネローレを驚かせてしまっており、さらに奉納舞で祝福を撒き散らせば距離を置かれるかもしれないと強い危機感を抱く。
そこでローゼマインは、ヴィルフリートとシャルロッテへ魔力制御について相談した。しかし、前日の採集場で大量に魔力を消費しても効果は薄く、根本的解決には至っていなかった。
魔石回収作戦
シャルロッテは、余剰魔力を空の魔石や魔術具へ注ぎ込めば良いと提案した。
さらにヴィルフリートは、ローゼマインの魔力で育った薬草を領地へ送れば、冬の主討伐用の回復薬材料として役立ち、同時に魔力放出にもなると補足する。
ローゼマインは即座にフィリーネへ指示を出し、「加護が多すぎて魔力制御ができず、奉納舞で大量の祝福を出しそうだ」と緊急手紙を書かせ、空の魔石や魔術具を至急送るよう領地へ要請した。
寮内への魔力配布
ローゼマインは、多目的ホールにいる者達へ、自分の余剰魔力を無償提供すると宣言した。
最初は畏れ多いという空気が漂っていたが、レオノーレが率先して魔石を差し出したことで空気が変わる。騎士見習い達は一斉に自室へ魔石や魔術具を取りに走り、文官見習いや側仕え見習いも続いた。
ローゼマインは、次々と魔石へ魔力を注ぎ込んでいった。小さい魔石は金粉化する危険があると警告したものの、逆に文官見習い達は金粉目当てで小型魔石を差し出してくるほどだった。
エーレンフェストからの支援
食後には、エーレンフェストから大量の空魔石第一弾が届いた。
ローゼマインはすぐに魔力を込めて送り返す。ジルヴェスターが送った大きな魔石はかなり魔力を吸収してくれたため、ローゼマインも少し安堵した。
しかし、それでも完全に制御できる保証はなく、ヴィルフリートは、最悪の場合は合格直後に倒れたふりをして誤魔化せば良いと提案する。シャルロッテは、それなら「皆へ祝福するため限界まで魔力を使った」という印象を与えられ、単純な魔力量問題を誤魔化せると補足した。
聖女伝説の加速問題
ただしブリュンヒルデは、その方法ではローゼマインの聖女伝説がさらに加速すると指摘した。
シャルロッテは、すでに大量の御加護と祝福で聖女扱いは避けられない状況だと分析し、今後はどのように印象操作するかが重要だと語った。
ローゼマインは反論しきれず、最終的にフェルディナンドから渡されたお守りを全て身につけ、少しでも魔力漏出を防ぐ方針を取る。服の下まで魔石だらけにした完全武装状態で、奉納舞へ向かうこととなった。
ハンネローレとの再会
小広間へ入ったローゼマインは、ハンネローレと目が合った瞬間、避けられていないことに心底安堵した。
しかし興奮して祝福が漏れそうになり、シャルロッテから慌てて制止される。ルーツィンデへは、「神殿長であるローゼマインは奉納舞へ力を込めすぎる傾向がある」と説明し、倒れても不自然ではない状況作りまで整えられていた。
ダンケルフェルガーとの髪飾り談義
そこへハンネローレとレスティラウトが現れ、エーレンフェストとのお茶会予定について話し合いが始まった。
レスティラウトは髪飾りの出来を確認したいだけだと強がっていたが、ハンネローレから完全に楽しみにしていると暴露される。
さらにディートリンデまで加わり、自身の髪飾りについて語り始めた。ローゼマインは、フェルディナンドがデザインしたと思われないよう誘導しつつ、ディートリンデ本人がデザインへ関与したという言質を巧みに引き出していった。
エグランティーヌの奉納舞
やがて教師達が到着し、エグランティーヌが奉納舞のお手本を披露することとなった。
黒いマントを外し、中央へ進み出たエグランティーヌの舞は圧巻だった。指先、袖の動き、視線、全てが完璧であり、ローゼマインは完全に見惚れていた。
一方ディートリンデは、卒業済みのエグランティーヌが舞うことへ嫌味を口にしたが、ローゼマインは心の中で反論し、ただ舞を見て学べば良いのにと呆れていた。
祝福を抑え込む奉納舞
いよいよ三年生の奉納舞が始まった。
祝福を出してはならないローゼマインは、声すら出さず、口だけ動かして祈りを唱える。魔力が一滴も漏れないよう極限まで集中し、全神経を使って舞った。
体は熱を帯び、呼吸も苦しくなっていく。それでもローゼマインは、貴族院でこれ以上目立つわけにはいかないと耐え続け、最後まで祝福を発生させることなく舞い切った。
魔石暴走という新たな異常
しかし舞を終えた瞬間、ローゼマインは異変に気付いた。
身につけていた大量のお守りや魔石が、全て激しく発光していたのである。祝福そのものは抑え込めたものの、蓄積された魔力が魔石へ流れ込み、全身が光り輝く状態になっていた。
シャルロッテは即座に駆け寄り、「どれほど神へ祈りを捧げたのか」と動揺した。祝福こそ発生していないが、神へ祈る気持ちは周囲へ十分伝わっていたのである。
合格と退場
ローゼマインは、祝福していない以上は合否確認を受けねばならないと主張した。
教師側も、全身全霊を込めた舞だと認め、即座に合格を宣言する。しかし周囲の領主候補生達は、発光するローゼマインを呆然と見つめていた。
ローゼマインは泣きたい気持ちを抱えたまま、シャルロッテとヴィルフリートに支えられ、小広間を退出することとなった。
帰寮後の対応
寮へ戻ると、第二弾の空魔石と魔術具が届いていた。
ローゼマインはすぐに魔力を流し込み、体内の熱を少しずつ落ち着かせていく。その中には、ジルヴェスターから送られたヒルシュールとの面会日時を記した手紙も含まれていた。
アウブとヒルシュールの面会
奉納舞後の不安
奉納舞の稽古後、ローゼマインは周囲の反応が気になって仕方がなかった。
ヴィルフリートとシャルロッテへ確認すると、祝福自体は抑え込めていたものの、全身の魔石が発光していたため、まるで聖女のような光景だったという。ヴィルフリートでさえ途中で舞を止めて見入ってしまったほどであり、周囲の領主候補生達も完全に動きを止めていたらしい。
ただし、その場では誰も感想を口にせず、どのような報告が各領地へ送られたのかはまだ不明だった。領主候補生だけの閉鎖的な場だったからこそ、影響の大きさが読めない状況だったのである。
ジルヴェスター来訪決定
ローゼマインは、エーレンフェストから届いた木札を二人へ見せた。
そこには、二日後の夕食時にジルヴェスターがヒルシュールとの面会のため来訪することが記されていた。ヴィルフリートとシャルロッテは、御加護の発表問題だけでなく、粛清結果も明らかになると察し、不安げな表情を見せる。
その後、ローゼマイン達は旧ヴェローニカ派の子供達も含めて採集場へ向かい、大量の薬草や素材を採取しながら祝福で土地を回復した。冬の主討伐への支援と、寮運営が安定していることのアピールを兼ねていたのである。
フロレンツィアの同行
ジルヴェスター来訪当日、転移陣から現れたのはジルヴェスターだけではなく、フロレンツィアも一緒だった。
フロレンツィアは、ヒルシュールとの話が領地にとって極めて重要だからこそ、自分も同席する必要があると説明する。粛清対応で多忙だったジルヴェスターに代わり、今年の貴族院報告書はフロレンツィアが全て確認していたらしい。
ローゼマイン達は会議室へ移動し、ヒルシュール到着前に情報整理を始めた。
フロレンツィアの苦労
フロレンツィアは、今年の報告内容へ本気で頭を抱えていた。
加護の儀式でローゼマイン関係者ばかりが大量の御加護を獲得し、翌日には音楽実技で祝福が暴走する。さらにヒルシュールから緊急面会依頼が届き、御加護増加法の公表相談まで持ち上がった。
その後は「奉納舞で祝福が溢れそうだから大量の空魔石を送れ」という緊急要請まで発生し、騎士団から魔石をかき集め、側仕えや文官へ指示を飛ばしながら対応していたという。しかも最終報告は、「祝福は防いだが、大量の魔石を発光させて目立った」だったため、客観的には何が起きているのか理解不能な状態だった。
御加護公表への方針
フロレンツィアは、御加護を得る方法をどこまで公開するべきかローゼマインへ尋ねた。
ローゼマインは、一部分だけなら公開すべきだと答える。エーレンフェストは急激な順位上昇によって悪評が増えており、上位領地として周囲へ利益を与える必要があると理解していたのである。
また、御加護増加によって魔力効率が改善されれば、慢性的な魔力不足に悩む各領地にも利益がある。その結果として、エーレンフェストへの見方も変わる可能性があると考えていた。
神殿改革への期待
ローゼマインは、御加護増加には神殿との関わりが不可欠だと説明した。
領主候補生や貴族達が儀式のため神殿へ出入りするようになれば、神殿への偏見も少しは改善されるだろうと期待していた。
実際、フレーベルタークではエーレンフェストを真似て領主候補生が神殿儀式を行った結果、収穫量が増加していた。しかし神殿へ出入りしていること自体は周囲へほとんど広まっておらず、神殿への偏見の強さが窺えた。
ヒルシュール来訪
打ち合わせを終える頃、ヒルシュールが到着した。
ジルヴェスターは、以前ヒルシュールの窮状を知らなかったことを改めて謝罪した。だがヒルシュールは、書簡で謝罪は受け取っていると返しつつ、少額の援助金程度では報いにならないほど今後も問題が山積みだと告げる。
そして、その問題を生み出している元凶のようにローゼマインへ視線を向けたため、ジルヴェスターも苦い顔になっていた。
保護者呼び出しの深刻化
ヴィルフリートは、ローゼマインへ毎年問題が悪化していると指摘した。
一年生時は問題があっても保護者呼び出しはなく、二年生では途中で呼び出し、三年生では開始一週間で寮監からアウブ面会依頼が届いている。問題規模が加速度的に大きくなっているのは明白だった。
しかしローゼマインは、自分は好きで問題を起こしているわけではなく、今年に関しては完全に不可抗力だと反論する。そして、シュタープ取得時期を変更した教育課程そのものに原因があると主張した。
教育課程への批判
ローゼマインは、御加護増加によって魔力制御が困難になる現状を説明し、シュタープ取得や御加護儀式は昔のように卒業前へ戻すべきだと訴えた。
現在は成長途中でシュタープを取得するため、後から魔力量や加護数が増えた際、制御不能になる危険がある。特にローデリヒは、名捧げによる全属性化で将来的に今のシュタープでは対応できなくなる可能性が高かった。
さらに、昔の調合技術やシュタープなしで使う魔術具知識が急速に失われつつあり、このままでは取り返しがつかなくなると警告した。
エーレンフェストへの厳しい視線
夕食後の本格会議では、ヒルシュールから中央や他領におけるエーレンフェスト評価が説明された。
長く激しい政争で各領地が疲弊する中、比較的被害の少なかったエーレンフェストには厳しい視線が向けられているという。エーレンフェスト側は十分苦労しているつもりでも、周囲はさらに深刻な状況に置かれていた。
中央騎士団長への警戒
さらにヒルシュールは、中央騎士団長ラオブルートがフェルディナンドを異常なほど敵視していると警告した。
他者が流行や成績向上について質問する中、ラオブルートだけはフェルディナンドとローゼマインに関する情報ばかり探ってくるという。
ローゼマインは、ラオブルートがフェルディナンドの出自を知り、王へ働きかけてアーレンスバッハ送りへ追い込んだ可能性を思い浮かべていた。さらに現在は、第一夫人オルタンシアを図書館司書として送り込み、自分の情報を探っていると推測していた。
共同研究案
ヒルシュールは、御加護増加法を発表するなら、ダンケルフェルガーとの共同研究形式が望ましいと提案した。
ダンケルフェルガーでも祈りによる加護増加が確認されており、共同研究にすることで研究の信頼性が上がるという。
ただし、研究成果をダンケルフェルガーへ奪われる可能性もあるため、中央貴族である自分の言葉を鵜呑みにするなとジルヴェスターへ忠告した。しかしジルヴェスターは、フェルディナンドとローゼマインを守り続けてきたヒルシュールを、自分達が信じなくてどうするのだと返した。
ヴィルフリートへの危険
最後にヒルシュールは、ローゼマインの価値が可視化されたことで、ヴィルフリートが狙われる危険性も高まったと警告した。
婚約者であるヴィルフリートが排除されれば、婚約解消へ持ち込めるためである。しかしヴィルフリート本人は、フェルディナンドから護身用のお守りを受け取っているため問題ないと笑顔で言い切った。
それに対しフロレンツィアは、婚約者を自分の力で守れて初めて一人前だと厳しく指摘する。ヒルシュールも、自領の宝を守るのは領主の役目だとジルヴェスターへ念を押し、エーレンフェストへ向けられる脅威の大きさを改めて示していた。
儀式の研究と粛清の報告
共同研究先としてのダンケルフェルガー
ヒルシュールが去った後、ジルヴェスターは神々の御加護研究について、ダンケルフェルガーとの共同研究を進めるべきかローゼマインへ意見を求めた。
ローゼマインは、エーレンフェストの信用と好感度向上のため他領と組む必要があるなら、最適なのはダンケルフェルガーだと答える。
理由として、ハンネローレという友人がいるため話を通しやすいこと、古い儀式を行う領地であり、多数の眷属神から御加護を得た騎士見習い達が研究対象として適していることを挙げた。魔法陣研究ならドレヴァンヒェルの方が権威はあるが、今回の研究対象は「祈りと加護」であるため、ダンケルフェルガーの方が適任だったのである。
クラリッサ招聘計画
さらにローゼマインは、ハルトムートの婚約者クラリッサの存在も重要だと説明した。
クラリッサはダンケルフェルガーの上級貴族であり、共同研究を通じてエーレンフェストの神殿事情を理解してもらえれば、婚約解消を避けられる可能性がある。
また、上位領地出身の彼女がエーレンフェストへ来れば、上位領地として必要な社交知識を学べる人材になると指摘した。王族からも社交面の未熟さを指摘されていたため、ジルヴェスターもその必要性を認めていた。
公開する研究内容
フロレンツィアは、どこまでが「当たり障りのない研究内容」なのか具体的に尋ねた。
ローゼマインは、祈りを捧げることで御加護を得やすくなること、真剣に祈らなければ加護は得られないこと、神々へ魔力奉納が必要なことを公開範囲だと説明する。
加えて、中級・下級貴族は回復薬を使ってでも魔法陣全体へ魔力を行き渡らせなければ、適性以外の御加護を得られないという仮説も提示した。フィリーネが実際に回復薬を用いて完全に魔法陣を満たした結果、属性増加を起こしたためである。
礎への祈りの由来
ローゼマインは、礎への魔力供給時に祈りを唱えるのがエーレンフェスト独自の習慣だと確認した。
フロレンツィアによれば、フレーベルタークでは祈りを唱えていなかったという。一方ジルヴェスターは、エーレンフェストでも昔から行われていたわけではなく、自分の父親が始めた比較的新しい習慣だと明かした。
しかも、その父親はリーベスクヒルフェとグリュックリテートの御加護を得ていた。ローゼマインは、その内容がいかにも恋愛に熱中していた若者らしい加護だと内心で納得していた。
秘匿する研究内容
ローゼマインは、当たり障りのある内容として、成人後でも祈りや奉納によって御加護が増えるかどうかを調べたいと語った。
神殿へ頻繁に出入りしている側近達や、御加護を得損ねたアンゲリカ、下級騎士ダームエルなどが研究対象候補である。また、貴族院ではなく領地の神殿でも加護を得られるか実験したいとも考えていた。
これらが成功すれば、エーレンフェストは周辺領地に対して圧倒的な魔力優位を得られる可能性があったため、全面公開するつもりはなかった。
魔法陣写し取り問題
ジルヴェスターは、ローゼマインが加護儀式の巨大魔法陣を書き写したと聞き、驚愕した。
普通は複雑な装飾で全体図など把握できないはずだが、ローゼマインは、自分の魔力で魔法陣が浮かび上がって見えたため簡単だったと説明する。
しかし、神像が動いて道が開いた件は明らかに危険案件であり、フェルディナンドへ相談するまでは詳細を伏せる必要があった。そのためローゼマインは、「神々のお導きです」と半ば強引に誤魔化していた。
粛清結果の報告
話題が変わり、ジルヴェスターは粛清結果を説明し始めた。
他領第一夫人へ名捧げした者や、不正に関与してエーレンフェストへ損害を与えた者達は排除された。現在は捕縛した者達への取り調べと処分決定が進められている最中である。
ゲオルギーネへ名捧げしていた者達の多くは予想通りだったが、実際の処刑者数は当初懸念されていたほど多くはなかった。
名捧げが必要な学生達
結果として、貴族院で名捧げをしなければ連座で命を落とす学生は、マティアス、ラウレンツ、ミュリエラ、バルトルト、カサンドラの五名となった。
それ以外の子供達は、時間はかかっても家族の元へ戻れる見込みが立つ。ローゼマインは、想定より犠牲が少なく済んだことへ安堵していた。
ギーベ・ゲルラッハの最期
ギーベ・ゲルラッハは、ボニファティウスによる捕縛直前に自爆した。
残ったのは腕のみであり、指輪や魔力から本人確認されたという。ローゼマインは、自分を執拗に狙っていた危険人物が完全に排除されたことへ大きな安堵を覚えていた。
孤児院の子供達
孤児院へ送られた子供は十七名だった。
ローゼマインは、ヴィルマによる報告書へ目を通しながら、家族と引き離された子供達の精神状態を気にかける。貴族らしく感情を押し殺して耐えている幼い子供達の様子を想像し、自身が家族と離れた時の悲しみを思い出して胸を痛めていた。
ニコラウスの現状
ローゼマインは異母弟ニコラウスについても尋ねた。
ニコラウスは現在子供部屋で保護されており、母親トルデリーデの処分決定後に今後の扱いを決める予定だという。ただしカルステッドは粛清責任者であり、さらに冬の主討伐も控えているため、しばらく向き合う余裕はないらしかった。
トルークによる記憶攪乱
ヴィルフリートは、ゲオルギーネ派の記憶を覗けたのか確認した。
ジルヴェスターによれば、捕縛直前に自爆する者が多く、まともな記憶を回収できた者は少数だった。しかも残された記憶は、視界も音も歪み、内容がまともに判別できなかった。
原因として浮上したのが、夏にもかかわらず暖炉で焚かれていた「トルーク」という植物だった。これは記憶混濁や幻覚作用を持つ危険植物であり、ゲオルギーネが証拠隠滅のため使用していた可能性が高かった。
ゲオルギーネの執念
ジルヴェスターは、ゲオルギーネが自分へ捜査の手が伸びないよう、幾重にも対策を施していたことへ舌を巻いていた。
ローゼマインも、その執念深さと用意周到さには感心しつつ、そんな頭脳が破壊的陰謀ではなく、もっと建設的なことへ使われていればと思わずにはいられなかった。
シャルロッテによる励まし
落ち込むジルヴェスターへ、シャルロッテは穏やかに語りかけた。
ゲオルギーネとの直接的証拠は得られなくても、他領へ名捧げしていた危険分子を排除できたこと自体が大きな成果であり、マティアスの進言がなければ粛清自体が失敗していた可能性もあると指摘する。
さらに、ギーベ・ゲルラッハも処刑され、今後はゲオルギーネがエーレンフェスト内で好き勝手できなくなった以上、これからは領地統一へ目を向けるべきだと励ました。
フェルディナンドの過去と助言
最後にジルヴェスターは、大量の空魔石をローゼマインへ渡した。
そして、かつてフェルディナンドも貴族院一年時に魔力圧縮で魔力を増やしすぎ、制御不能になったことを明かす。その際は、一度大量に魔力を放出し、圧縮率を下げることで体内魔力量を調整していたという。
ローゼマインは貴重な助言へ感謝し、今後は意識的に魔力放出を進める決意を固めていた。
領主候補生の講義終了
魔力制御の調整
ジルヴェスターとの会談後、ローゼマインは自室へ戻り、大量の魔石へ魔力を注ぎ込みながら圧縮率を下げる訓練を始めた。
これまでは無意識に圧縮して魔力を押し込めていたが、今後は逆に薄く広げて器へ残る魔力量を減らさなければならない。平民時代とは正反対の制御方法に苦労しつつも、魔力を放出し続けていると、ある瞬間に体が軽くなり、シュタープの限界値へ収まった感覚を得る。
ローゼマインは、ようやく魔力制御が安定したかもしれないと安堵していた。
粛清結果の学生達への報告
翌朝、多目的ホールへ学生達が集められ、ヴィルフリートから粛清結果が正式に説明された。
ゲオルギーネへ名捧げしていた者は処刑、それ以外の者は取り調べと冬の間の処分決定となること、そして名捧げしなければ命を失う学生は五名だけで済んだことが告げられる。
旧ヴェローニカ派の子供達は、再び家族へ会える可能性が残されたことで緊張を解き、自然な笑顔を見せ始めていた。
マティアスとラウレンツの名捧げ
報告後、マティアスとラウレンツは、自分達の名捧げ用魔石が準備できたとローゼマインへ申し出た。
レオノーレ達は即座に警戒態勢を取ったが、ローゼマインは早めに名を受けてしまうべきだと判断し、側近達立ち会いの下で儀式を行う。
ローデリヒの時と同様、ローゼマインの全属性魔力で縛られる瞬間、二人はかなり苦しそうな様子を見せていた。しかし儀式は無事に終わり、二人は正式にローゼマインの護衛騎士となった。
ミュリエラの焦り
ミュリエラは、マティアス達を羨ましそうに見つめながら、自分も早く名捧げをしたいと語った。
しかし、適切な素材がまだ手元になかったため、マティアスとラウレンツが次の土の日に素材狩りへ同行することとなる。
ローゼマインはすぐに許可を出し、できるだけ早くミュリエラも正式な側近へ迎えたいと考えていた。
グレーティア問題
ローゼマインは、名捧げ不要となったグレーティアについて、せめて貴族院限定側仕えとして雇えないか提案した。
しかし側近達は全員反対した。旧ヴェローニカ派の家族を持つ以上、名捧げなしでは周囲から危険視され、本人が強い中傷を受けることになるからである。
ローゼマインは側仕え不足を理由に食い下がったものの、最終的には、グレーティア本人から名捧げ希望が出ない限り諦めるしかないと説得され、肩を落としていた。
大荷物で向かう講義
午前は領主候補生講義だった。
ローゼマインは、前回までに作成した設計図や大量の金粉、魔石などを抱えて講義室へ向かう。しかし進度が速すぎた結果、荷物量が異常になっており、自分一人では持ち切れなかった。
見かねたヴィルフリートが金粉や魔石袋を運んでくれたため、ローゼマインは素直に感謝していた。
ハンネローレの管理者化問題
講義室でハンネローレと会話していたローゼマインは、驚くべき事実を知る。
ハンネローレが図書館でシュバルツ達へ魔力供給を続けた結果、「ひめさま」と呼ばれ、管理者扱いされていたのである。
ローゼマインは、新任司書オルタンシアへの管理者変更中だったことを説明し、二人で慌てる。しかしハンネローレは閲覧室へ入らず、司書達から説明を受けていなかったため、自分が問題を起こしているとは全く気付いていなかった。
エグランティーヌへの相談
ローゼマインは、管理者変更が王族案件だったことを思い出し、エグランティーヌへ事情を報告した。
ハンネローレは王族絡みの問題だと知って青ざめたが、エグランティーヌは、二人が善意で図書館へ協力していただけだと理解を示し、図書館側へ確認を取ると約束した。
ローゼマインは、オルタンシアほどの中央上級貴族が毎日魔力供給しているなら、ハンネローレが簡単に管理者になるはずがないと疑問を抱いていたが、エグランティーヌは、図書館全体の魔術具維持で手一杯なのだろうと説明していた。
共同研究の打診
ローゼマインは、加護研究についてダンケルフェルガーとの共同研究を希望していることをハンネローレへ正式に伝えた。
ダンケルフェルガーには複数加護を得た騎士見習いが多く、比較対象として最適だったのである。ルーフェンからも話があるだろうと補足しつつ、返答は今後のお茶会で良いと伝えた。
ハンネローレも、まずはアウブへ相談すると応じていた。
理想の図書館都市
その後、ローゼマインはエグランティーヌへ、自分の理想都市設計図を提出した。
図書館を中心に、商業区、工業区、宿泊区を整備した「本の街」であり、ローゼマインは大真面目に理想を語る。しかしエグランティーヌからは、夢想的な子供の構想を見るような微妙な笑みを向けられてしまう。
ローゼマインは慌てて、流通や製本を含めた実用的都市構造なのだと説明していた。
最高神の御名授与
エグランティーヌはローゼマインを小部屋へ案内し、最高神の御名授与儀式を行わせた。
闇の神シックザントラハト、光の女神フェアシュプレーディという名は、魔法陣へ魔力を満たすことで脳へ直接刻み込まれる形式だった。
さらに名前を口にした瞬間、ローゼマインのシュタープが勝手に浮かび上がり、金と黒の光を吸収した後、今度は大量の魔力を放出する。体内魔力まで一気に持っていかれたローゼマインは、貧血のような状態で床へ座り込み、回復薬を飲んで回復を待つこととなった。
エントヴィッケルン実習
回復後、ローゼマインはエントヴィッケルン実習へ進んだ。
フェルディナンドの集中講義で習得済みだったため、設計図を用いた街創造も一度で成功する。その後はエグランティーヌと境界門作成実習まで行い、国境門との違いなども学んだ。
こうしてローゼマインは、他の学生を大幅に引き離す形で、領主候補生講義を最速で終了させた。
グンドルフ先生の講義合格
エグランティーヌからのお茶会誘い
領主候補生講義を最速で終えたローゼマインは、エグランティーヌから驚かれながらお茶会へ誘われた。
しかしローゼマインは、王族へ不用意に近付くなと周囲から警告されている上、共同研究を進めるためダンケルフェルガーとのお茶会を優先しなければならなかった。そのため、まずは文官コースを終える必要があると説明し、先延ばしにする。
エグランティーヌは残念そうにしながらも、文官コース終了後のお茶会を約束していた。
文官コース突入
自室へ戻ったローゼマインは、すぐに文官コース教師達へ個別試験予約を送った。
領主候補生講義を優先した結果、文官コース初日の試験を受けられなかったためである。ダンケルフェルガーとの共同研究やお茶会へ間に合わせるためにも、できる限り早く講義を終わらせる必要があった。
文官コースの内容は、魔術具制作、魔法陣研究、古文書読解、情報整理、薬学など多岐にわたっていたが、フェルディナンドによる事前教育済みだったため、ローゼマインには十分対応可能だった。
グンドルフ研究室訪問
最初に返答を寄越したのはグンドルフだった。
ローゼマインは調合服へ着替え、フィリーネとローデリヒに材料を持たせて、文官専門棟にあるグンドルフの研究室へ向かう。
研究室はヒルシュール同様に雑然としていたが、調合台だけは綺麗に整理されていた。グンドルフは早速、高度な属性分離を伴う調合実技試験を開始する。
魔力制御改善による成功
ローゼマインは、ジルヴェスターから教わった魔力放出調整のおかげで、問題なく調合を進められた。
以前なら制御不能だったシュタープも安定し、属性別の魔力操作や複雑な調合も滑らかにこなせる。グンドルフは、時間短縮魔法陣まで併用しながら全く魔力が乱れない様子を見て感心していた。
ローゼマイン自身も、ようやくまともに実技ができる状態へ戻れたことを心から喜んでいた。
薬調合に対する価値観の違い
調合中、グンドルフはローゼマインが自分で薬を作っていることへ驚く。
普通の領主候補生なら薬調合は側近文官へ任せる仕事であり、自分で調合する必要はないからである。しかしローゼマインは、フェルディナンドから「自分の薬くらい自分で作れ」と叩き込まれていたため、それが常識だと思い込んでいた。
さらに、自分専用の回復薬は特殊素材と大量魔力が必要な特別製であり、簡単に他人へ任せられないとも説明していた。
加護研究への質問攻め
グンドルフは、加護の儀式についても執拗に質問してきた。
しかしローゼマインは、王族からの指示により、領地対抗戦で共同研究として正式発表する予定だと説明し、詳細を伏せる。
さらに、研究相手はダンケルフェルガーであり、複数加護を得た騎士見習い達が多いことから、研究対象として最適なのだと説明していた。
グンドルフの勧誘
加護研究を断られても、グンドルフは諦めなかった。
今度は、魔術具研究を共同で行わないかと勧誘してくる。しかしローゼマインは、フェルディナンドの弟子ライムントがいることや、加護研究と図書館魔術具制作を両立したいことから、ヒルシュール研究室へ所属する方針を崩さない。
それでもグンドルフは、研究費や素材環境はこちらの方が優れていると食い下がっていた。
魔術具用紙研究の始動
ローゼマインは、魔獣皮以外の素材で魔術具用紙を作れないか研究したいと語った。
この発想にグンドルフは強い興味を示し、ぜひ共同研究しようと申し出る。ローゼマインは忙しさを理由に断ろうとしたが、グンドルフは「研究は自分だけで抱え込まず、文官達へ振り分けて進めるべきだ」と指摘した。
領主候補生の役割は、研究そのものではなく、領地発展へどう活かすかを考えることだと諭され、ローゼマインは自分がフェルディナンドと同じ抱え込み方をしていたと気付かされる。
旧教育課程への興味
ローゼマインは、昔の教育課程にも興味を示した。
卒業時にシュタープを取得していた頃、教師達がどのように講義を行っていたのか、教師側資料が欲しいと頼む。グンドルフは、自分達教師世代なら多少は資料も知識も残っていると応じ、研究の合間に話をすることを約束した。
こうしてローゼマインは、座学一つと調合二つの合格を獲得し、さらにドレヴァンヒェルとの共同研究まで成立させてしまった。
ヴィルフリートの困惑
寮へ戻って報告すると、ヴィルフリートは理解不能だと叫んだ。
ローゼマイン自身も、世間話をしていたら共同研究になっていた感覚だったため、うまく説明できない。しかし彼女は、紙研究をエーレンフェストの基幹産業強化へ繋げるべきだと考えていた。
そこで、ヴィルフリートやシャルロッテの文官見習い達へ研究参加を提案する。
旧ヴェローニカ派の活用
ローゼマインは、紙研究へ旧ヴェローニカ派の文官見習い達も組み込む構想を語った。
名捧げ不要となった子供達は、領地へ戻れば周囲から厳しい視線を向けられる可能性が高い。しかし領地産業研究へ貢献できれば、必要人材として立場を改善できる。
ヴィルフリートもその意図を理解し、イグナーツとバルトルトを研究中心へ据えることを決定する。シャルロッテもマリアンネとカサンドラを参加させる方針を示した。
名捧げ素材採集計画
さらにローゼマインは、ミュリエラだけでなく、バルトルトやカサンドラの名捧げ素材採集も急ぐべきだと提案した。
名捧げ予定者達は周囲と距離ができ始めており、主側から積極的にフォローしなければ孤立する危険があったからである。
ヴィルフリートとシャルロッテはその指摘を受け入れ、護衛騎士達へ採集同行指示を出していた。
グレーティアの決意
その直後、グレーティアがユーディットを通じて、自分も名捧げしたいと申し出てきた。
処刑対象ではなくなったため、本来なら名捧げの必要はない。しかしグレーティア自身は、それでもローゼマインへ仕えたいと考えていたのである。
ローゼマインは驚きながらも、リヒャルダの許可を得て、グレーティア本人と直接話し合うことを決めた。
グレーティアの事情と素材採集
グレーティアの告白
ローゼマインは個室を用意し、グレーティアと向き合った。
グレーティアはユーディットと同学年の四年生であり、普段から内気で目立たない少女だった。しかし彼女は、ローゼマインへ名捧げしたいと強く願っていた。
理由を尋ねられたグレーティアは、盗聴防止の魔術具を取り出し、自分の事情を他人へ知られたくないと前置きした上で、衝撃的な過去を語り始める。
神殿の子としての出生
グレーティアは、自分が青色神官と青色巫女の間に生まれた「神殿の子」だと明かした。
まだ神殿に青色神官や青色巫女が多かった時代、中級貴族出身の二人は密かに愛し合っていた。しかし妊娠が発覚すると、生母は実家へ連れ戻され、醜聞隠しとして離れへ隔離される。
グレーティアはその離れで生まれ、生母から「神殿にいた頃の方が幸せだった」という愚痴を聞きながら育ったのである。
貴族社会への復帰
その後、粛清や中央移動による貴族不足で、神殿にいた子供達が貴族社会へ戻される流れが生じた。
グレーティアも魔力量を測定され、生母の兄夫婦の娘として洗礼式を受ける。しかし洗礼後も愛情を向けられることはなく、政略結婚用の駒として扱われ続けた。
兄弟達からは「神殿の子」と蔑まれ、灰色がかった髪や発育の良さまで嘲笑され、長年いじめを受けてきたのである。
ローゼマインへの羨望
ローゼマインは、自身も洗礼式によって戸籍を変えた立場でありながら、フロレンツィア達から大切に育てられてきたことを改めて実感する。
衣装、教育、生活環境、兄妹関係まで全て恵まれていた自分と比べ、グレーティアの環境はあまりにも過酷だった。
ローゼマインは、フロレンツィアがどれほど自分を守ってくれていたのかを改めて噛み締めていた。
名捧げへの希望
グレーティアは、自分にとって名捧げ強要騒動は「救い」だったと語る。
家族との縁を切り、自分で主を選べる唯一の機会だったからである。そして、神殿長であり孤児達へ慈悲を与えるローゼマインなら、自分の素性を知っても偏見を持たず受け入れてくれると信じていた。
しかし両親が処刑を免れたことで、その希望は崩れかけていた。
最悪の未来への恐怖
グレーティアは、自分の父親が重罪へ関与していたと確信していた。
計画立案側ではなくとも、命令されて実行する立場だった父親は、危険な仕事へ加担していた形跡があったのである。そのため、今後の政略結婚では「重罪人の娘」として扱われ、さらに酷い環境へ追い込まれる未来しか想像できなかった。
彼女は、自分の人生は常に最悪の方向へ転がると語り、今しか逃げ出す機会はないと必死に訴えていた。
ローゼマインの確認
ローゼマインは、名捧げには大きな危険も伴うと説明した。
主が失脚すれば共に落ち、生死まで握られる。それでも本当に良いのか確認する。しかしグレーティアは、ローデリヒやユーディットからローゼマインの人柄を聞いており、平民の楽師や料理人にまで配慮する主なら信頼できると断言した。
さらに、一生誰にも嫁がず仕える命令すら受け入れると告げ、本気の覚悟を示した。
名捧げ受諾
その真剣さを見たローゼマインは、グレーティアの名を受ける決意を固める。
グレーティアは初めて穏やかに微笑み、ローゼマインは、その笑顔を守れる主にならなければならないと強く感じていた。
その後、土の日にはミュリエラとグレーティアの名捧げ石素材採集へ向かうことが決定する。
高品質素材採集法
多目的ホールへ戻ると、マティアスが高品質な名捧げ石素材の採集方法を説明した。
採集場にあるタイガネーメの実へ自分の属性魔力を流し込み、それを魔獣へ食べさせることで、巨大化した高品質魔石持ち魔獣を作り出す方法である。
ただし、一属性ごとに別々の実を染める必要があり、属性分離が必要なため三年生以上でなければ不可能だった。
採集計画の拡大
採集には多数の騎士見習いが必要となる。
そこでレオノーレは、ローゼマイン本人にも同行を求めた。シュツェーリアの盾で採集地全体を守ってもらえば、安全性が大きく向上するからである。
さらに、長時間盾を維持し、採集地へ祝福を施せば、ローゼマイン自身の魔力放出にもなると説明された。ローゼマインは、その最後の理由へ特に強く納得していた。
遠足化する採集計画
シュツェーリアの盾によって安全が確保できると知ると、採集計画は急速に遠足のような雰囲気へ変わっていった。
フィリーネは採集地で弁当を食べようと提案し、シャルロッテやヴィルフリートも乗り気になる。キッシュ、ミートパイ、サンドイッチなどの話題で盛り上がり、一年生達だけが留守番組として羨ましそうに見つめていた。
土の日の採集
土の日当日、騎士見習い達が事前に周辺魔獣を駆逐した後、全員で採集場へ向かった。
ローゼマインはシュツェーリアの盾を展開し、その内部で皆がタイガネーメの実へ魔力を流し込んでいく。自分も試しに実を染め、三つほど完成させた。
しかしタイガネーメの実は非常に抵抗が強く、魔力を流し込むには回復薬を使いながら長時間集中し続ける必要があった。
穏やかな休日
ローゼマインは、疲れるとレッサーバスへ戻り、読書しながらシュツェーリアの盾を維持していた。
圧縮率を下げて魔力を薄く広げるようになってから、以前より体調が安定していることも実感していた。
その結果、名捧げ用の高品質魔石も無事に確保でき、皆で食べた弁当も大好評となる。ローゼマインにとっては、まるで遠足のように楽しい土の日となっていた。
フラウレルム先生の講義
フラウレルムから返事が来ない不安
ローゼマインは文官コースの教師達へ試験希望のオルドナンツを送っていたが、フラウレルムからだけ返事が来ていなかった。
これまで毎年エーレンフェストへ嫌がらせを繰り返してきた相手だけに、「時間が取れなかった」「連絡が届いていない」など教師権限を使った妨害を警戒していたのである。
フィリーネは、すでにローゼマインの成績や祝福は周囲に認められており、今さら嫌がらせしてもフラウレルム自身が白い目で見られるだけだと分析していた。
共同研究の打ち合わせ
返事を待つ間、ローゼマインは多目的ホールで、ドレヴァンヒェルとの共同研究について側近達と相談を始めた。
ヴィルフリートとシャルロッテは、エーレンフェストの基幹産業に関わる研究なのだから、アウブへの相談も必要ではないかと指摘する。
しかしローゼマインは、研究対象は「魔木から作った紙の使用法」であり、紙そのものの製法は領主会議案件として秘匿すると説明した。
紙研究による価値向上計画
ローゼマインは、共同研究の本当の目的を語る。
それは、平民が作る紙へ魔術具的価値を持たせることで、エーレンフェスト紙の価値そのものを高めることだった。
魔術具としての効果や利用法が研究で証明されれば、製法自体の価値も跳ね上がる。その結果、将来的に製法を他領へ売る際、高額で取引できるようになると考えていた。
グンドルフ警戒論
シャルロッテは、そこまで考えているならローゼマイン自身が研究へ関わるべきではないかと尋ねた。
しかしローゼマインは、グンドルフと直接関わるのは危険だと断言する。自分は迂闊に情報を漏らしてしまう性格だと理解しており、老獪なグンドルフに誘導されれば、紙製法の秘密まで口を滑らせる危険が高いからである。
そのため、研究参加者は製法を知らないイグナーツやマリアンネに限定し、「知らない情報は漏らせない」状況を作ることにしていた。
共同研究噂の拡大
その後、ローゼマインは文官コース試験を次々と突破していく。
しかし、どの教師からもダンケルフェルガーやドレヴァンヒェルとの共同研究について質問されるようになっていた。ルーフェンとグンドルフが積極的に噂を広め、外堀を埋めていたのである。
さらにヒルシュール研究室には、共同研究へ便乗したい領地から参加希望まで届いていたが、研究対象にならないとヒルシュールが全て却下していた。
フラウレルムからの返答
そんな中、ようやくフラウレルムから「翌日午前なら時間が取れる」という返答が届いた。
ローゼマインは、完全拒否されると予想していたため驚く。しかし直後、ヒルシュールからオルドナンツが届き、その理由が判明する。
ヒルシュールは、アーレンスバッハとの共同研究が存在しないのは寮監の責任ではないかとフラウレルムへ嫌味を言っていたのである。その結果、フラウレルムも無視できなくなったらしかった。
ヒルシュールの作戦
さらにヒルシュールは、アーレンスバッハとの共同研究を餌に、フラウレルムから講義合格を勝ち取れと助言する。
ライムントと共同で魔術具研究を進め、フェルディナンドへ相談する形を取れば、立派な共同研究になるという。そして採点時には、自分が立ち会って監視するとまで申し出た。
ローゼマインは、思った以上に頼りになるヒルシュールへ強い感謝を覚えていた。
整然とした研究室
翌日、ローゼマインはフラウレルムの研究室を訪れる。
ヒルシュールやグンドルフの研究室と違い、室内は徹底的に整理整頓されていた。情報整理講義担当らしい几帳面さが空間全体から伝わってくる。
しかし入室直後、フラウレルムは共同研究の噂について真偽確認を始め、特にアーレンスバッハが蔑ろにされていることへ強い不満を示した。
共同研究を利用した誘導
ローゼマインは、アーレンスバッハとの関係を深めたいとは思っているが、まずは講義合格が必要だと返す。
そしてフラウレルムから試験問題を受け取り、即座に解答を書き上げた。その後、ヒルシュールを呼び出す。
フラウレルムは、突然の第三者立ち会いに動揺するが、ヒルシュールは平然と採点監視を始めた。
五年生用試験問題
採点中、ヒルシュールはフラウレルムが試験問題を間違えていることに気付く。
実際には三年生ではなく五年生用の試験問題が出されていたのである。しかしローゼマインは、フェルディナンドから卒業までの内容を全て叩き込まれていたため、普通に解答できてしまっていた。
フラウレルムは「非常識ですわ」と繰り返し、ヒルシュールも額を押さえて呆れていた。
共同研究成立
試験合格後、ローゼマインはアーレンスバッハとの共同研究案を説明した。
ライムントが主体となっている魔術具研究へ自分が試作協力する形にすれば、共同研究として成立する。そしてヒルシュール研究室を使う理由も、フェルディナンドとライムント双方の師だからだと説明した。
さらにローゼマインは、研究没頭型のヒルシュールとライムントではアーレンスバッハへの報告が滞る可能性が高いと指摘し、その仲介役としてフラウレルムへ「飛信の女神オルドシュネーリ」役を依頼する。
フラウレルムの承諾
自分が報告経路を管理でき、領地間交流の立役者にもなれる立場を気に入ったらしく、フラウレルムは共同研究仲介役を引き受けた。
ただし、ローゼマインへは「非常識な言動を慎め」と釘を刺し、フェルディナンドへ迷惑をかけるなと警告する。
こうしてローゼマインは、フェルディナンドと連絡を取る新たな経路を確保することに成功した。
不穏な確認
退室直前、フラウレルムは突然、最近体調に変化はないかと尋ねてきた。
ローゼマインは、祝福暴走や魔力制御問題などを思い浮かべながら、「あまり良くない方向へ変化している」と曖昧に答える。
するとフラウレルムは、薄く笑みを浮かべながらその返答を受け止めた。その目は鈍く光っており、ローゼマインは何か不穏なものを感じ取っていた。
ヒルシュール研究室の専属司書
ダンケルフェルガーとのお茶会待ち
文官コース試験を終えたローゼマインは、早速ダンケルフェルガーへお茶会の日程確認を送った。
しかし、共同研究についてアウブ・ダンケルフェルガーからの返答待ち状態であり、すぐには予定が決まらないことが判明する。
そこでローゼマインは、空いた時間を利用してヒルシュール研究室へ通うことを決め、リーゼレータへ準備を命じた。リーゼレータは、まず研究室へ入れる環境を整えねばならないとして、掃除道具の準備へ気合を入れていた。
フェルディナンドへの秘密手紙
その夜、ローゼマインは隠し部屋へ籠もり、フェルディナンド宛の手紙を書き始める。
内容は、御加護儀式で高みへの階段を登った件、祭壇上から見えた巨大魔法陣を書き写した件、祝福暴走問題、シュタープ許容量超過問題など、重大案件ばかりだった。
さらに、フラウレルム経由の手紙にも消えるインクを使い、どの経路が実際にフェルディナンドまで届くか確認する実験まで始めていた。
研究室遠征準備
翌日、ローゼマインは大量の荷物と共に研究室へ向かう。
ワゴンには掃除道具だけでなく、差し入れまで積まれていた。シャルロッテは、その荷物量が研究室へ行くとは思えないと呆れるが、ローゼマインは「あそこにいる者達は碌な生活をしていない」と真顔で説明する。
リヒャルダからは、「読書に没頭すると生活を蔑ろにする姫様が言うことではない」と即座に突っ込まれていた。
文官専門棟の異臭
文官専門棟へ入ると、テオドールは薬草や素材の混ざった独特な臭いに顔をしかめた。
ローゼマインは、回復薬を常用するようになれば慣れると説明し、フェルディナンドの薬に比べれば可愛い臭いだと語る。
その説明に、テオドールは逆に恐怖していた。
研究室突入前の攻防
研究室前へ到着すると、リーゼレータが先に中へ入り、掃除可能か確認を始めた。
しかし中からは、「リーゼレータ、少々お待ちなさいませ!」というヒルシュールの慌てた声が響く。事前に掃除予告されていたにもかかわらず、研究優先で片付けていなかったのである。
しばらくして、ようやく入室許可が下りた。
フェルディナンド流整理法
室内では、大量の資料が調合机へ積み上がっていた。
ヒルシュールによれば、本棚へ整理されている資料は、去年フェルディナンドが来訪した際に片付けた物だという。フェルディナンドは魔術具回収だけでなく、ユストクス達まで使って資料整理までしていたらしかった。
ローゼマインは、改めてフェルディナンドの苦労へ感心していた。
二十不思議研究との遭遇
資料整理中、ローゼマインはフェルディナンドの過去研究を発見する。
そこには「貴族院の二十不思議」についての調査資料と地図が残されていた。各地点へ○や×が記されており、かなり本格的な調査だったことが窺える。
しかし研究結果部分だけが不自然に欠けており、ヒルシュールは、フェルディナンドは自分が納得すると記録を残さないことも多かったと説明した。
司書気分の資料整理
ローゼマインは、フェルディナンド流の分類法を学びながら、本格的に資料整理へ乗り出す。
本来は自分で片付けようと「たすき掛け」までしたが、リヒャルダから「はしたない」と即座に止められ、結局は椅子へ座って指示役になった。
それでも、研究ごとに木札を整理し、本棚へ収めていく作業は非常に楽しく、ローゼマインは「ヒルシュール研究室の専属司書」のような気分を味わっていた。貴族院へ来てから最も司書らしい仕事だと感じ、内心で大喜びしていたのである。
ライムントの驚愕
講義を終えたライムントは、綺麗になった研究室を見て「部屋を間違えた」と本気で勘違いして退出した。
再入室した際には、差し入れの香りで腹を鳴らし、リーゼレータから身だしなみを整えるよう厳しく注意される。
その後、ようやく昼食が始まり、共同研究の正式な打ち合わせが行われた。
アーレンスバッハ共同研究の真相
ライムントは、昨夜ディートリンデから「フェルディナンドとよく連絡を取り、共同研究を成功させよ」と命じられたと報告する。
さらに今朝はフラウレルムからも研究概要報告を要求され、状況が理解できず混乱していた。
ヒルシュールは、エーレンフェストが大領地と共同研究を始めたため、アーレンスバッハ側も功績欲しさに便乗したのだと説明していた。
試作担当としての才能
ヒルシュールは、ライムントとローゼマインの役割分担を説明する。
ライムントは設計向きだが魔力不足で試作が遅く、ローゼマインは魔法陣設計こそ普通だが、調合速度と魔力量が異常なため試作向きだった。
二人が組めば効率的な共同研究になると断言され、ライムントも最終的に受け入れた。
調合漬けの午後
午後、ローゼマインはライムントの設計図を元に、次々と魔術具試作品を完成させていく。
不足する腕力は身体強化で補い、疲労は体力回復薬で誤魔化しながら作業を続ける。
しかし作業途中で、「普通に研究しているだけで薬漬けになっている」と危機感を抱いていた。
魔力量格差への絶望
夕方、戻ってきたライムントへ試作品を披露すると、彼は肩を落として項垂れた。
ローゼマインは出来が悪かったのかと焦るが、原因は逆だった。一日に一つ作るだけで限界のライムントに対し、ローゼマインは半日で四つ完成させていたのである。
ライムントは、圧倒的な魔力量格差に世の不平等を感じていた。
フェルディナンドへの祈り
最後にローゼマインは、試作品提出と共に、フェルディナンド宛の二系統の手紙をライムントへ託した。
ライムント経由とフラウレルム経由、その両方である。
そして飛信の女神オルドシュネーリへ、どうかフェルディナンドから返事が届くよう祈りを捧げていた。
王族からの依頼
突然の王族主催お茶会
ローゼマインがフェルディナンドからの返事を待っていると、代わりに届いたのはエグランティーヌからの招待状だった。
内容は「王族主催の本好きのお茶会」であり、図書館関係者を一堂に集める目的があるという。ローゼマインは、まだ文官コース終了報告すらしていないのに何故誘いが届いたのか驚くが、教師達の間で自分の早期講義終了と共同研究の噂が広まっていると説明される。
参加者は司書二名、図書委員三名、さらにエグランティーヌ、アナスタージウス、側近達であり、実質的には王族からの呼び出しだった。
王宮図書館の本という誘惑
ローゼマインは王族との接触を憂鬱に感じていた。
しかし、アナスタージウスが王宮図書館から本を貸し出してくれると聞いた瞬間、態度が一変する。
王宮図書館の本という言葉だけで完全に心を掴まれ、エグランティーヌの夫を「素晴らしい方」と絶賛しながら、貸し出し用の本選びを始めていた。
離宮での個別呼び出し
お茶会当日、ローゼマインはエグランティーヌの離宮へ向かう。
しかし部屋へ通されると、そこにはアナスタージウスとエグランティーヌしかおらず、他の参加者はまだ来ていなかった。
アナスタージウスは、「話があるので早めに呼んだ」と説明し、ローゼマインへ座るよう促す。ローゼマインは、自分が最近何か問題を起こしたのではないかと内心で怯えていた。
共同研究への事情聴取
アナスタージウスは、エーレンフェストがダンケルフェルガー、ドレヴァンヒェル、アーレンスバッハと同時に共同研究を始めた件について問い質した。
ローゼマインは、ダンケルフェルガーは王子からの助言が理由であり、ドレヴァンヒェルは利益が大きかったから受諾したと説明する。
さらにアーレンスバッハについては、フラウレルムによる文官コース妨害を避けるためだったと率直に告げた。アナスタージウスは「そのような報告は受けていない」と怒りを見せるが、ローゼマインは「もう終わったこと」と軽く流していた。
領地対抗戦での約束
ローゼマインは、以前アナスタージウスと交わした「領地対抗戦で驚くような研究をする」という約束を持ち出した。
アナスタージウスは、まさかここまで大規模な展開になるとは思っていなかったらしく、頭を抱えながら「考えるだけで頭が痛くなるほど驚いた」と本音を漏らす。
エグランティーヌは、二人が意外に親しいのだと微笑ましく見ていたが、アナスタージウス本人は強く否定していた。
共同研究への警告
アナスタージウスは、三領地との共同研究を同時進行する以上、研究成果を狙われる危険に気を付けろと警告した。
しかしローゼマインは内心で、それほど奪う価値のある研究ではないと考えていた。
祈りと御加護の研究は真似するだけでは意味がなく、紙研究はむしろ他領が真似してくれるなら面白い。図書館魔術具研究についても、フェルディナンドの弟子になれるような人材なら歓迎したいと思っていた。
卒業式祝福問題
突然、アナスタージウスは話題を変え、以前の卒業式で降り注いだ祝福について追及し始める。
ローゼマインがしらを切ろうとしても、アナスタージウスは完全に確信していた。
あの祝福によって、「次期王に相応しいのはアナスタージウスとエグランティーヌだ」という声が王族周辺で再燃し、政争寸前の騒ぎになっていたのである。
グルトリスハイト喪失の現実
アナスタージウスは、グルトリスハイト喪失によって現在の王族が置かれている苦境を語った。
本来の王なら使えるはずの国の礎魔術が使えず、現王も次期王候補達も、膨大な魔力を注ぎ続けることで辛うじて国を維持しているだけだった。
そのため、王族達は神々からの祝福に過敏なほど反応しており、ローゼマインの祝福は大きな政治的意味を持ってしまったのである。
星結びの儀式依頼
そしてアナスタージウスは、本題を切り出す。
次の領主会議で行われる次期王の星結びの儀式で、ローゼマインへ神殿長役を務め、祝福を与えてほしいと依頼したのである。
エグランティーヌも、「本物の祝福を次期王夫妻へ与えてほしい」と頭を下げる。アナスタージウスは、兄を守りたいという本心を隠さず語っていた。
ローゼマインの条件
ローゼマインは深く悩む。
王族には近付くなとも言われているが、王族命令へ逆らうなとも言われているからである。
最終的にローゼマインは、アウブ・エーレンフェスト、王、中央神殿長の許可を得ること、さらに自分の護衛騎士を壇上へ配置することを条件に、依頼を受諾した。
そして内心では、フェルディナンドとディートリンデの星結びの儀式を見られるかもしれないと少し期待していた。
図書委員への新たな依頼
その後、ハンネローレ達も到着する。
アナスタージウスは、図書委員達へ協力してほしい案件があると切り出した。それは、ヒルデブラントが持ち帰った「開かずの書庫」に関する調査だった。
グルトリスハイト喪失問題を聞かされた直後だけに、その重要性は明白だった。ローゼマインは、自分が思った以上に深い問題へ巻き込まれ始めていることを実感し、内心で頭を抱えていた。
本好きのお茶会
ハンネローレとの再会
お茶会へ合流したハンネローレは、王族へ謝罪するため早く来たつもりだったと語った。
ローゼマインは、自分も王族から呼び出されていただけだと内心で苦笑しつつ、エグランティーヌへの髪飾り納品という体裁で誤魔化す。
アナスタージウスは、完成した髪飾りを満足げにエグランティーヌへ贈り、二人の仲睦まじい様子にハンネローレも安心したように微笑んでいた。
ディートリンデ髪飾り問題
ローゼマインは、ここぞとばかりにディートリンデの髪飾り事情を説明した。
フェルディナンドの趣味ではなく、ディートリンデ自身が考えたデザインであり、組み合わせ自由な構造なのだと強調する。フェルディナンドの美的感覚への誤解を解こうと必死だったのである。
エグランティーヌは、エーレンフェストの髪飾りは十分に美しいと評価していた。
オルタンシアからの説明
そこへ図書館側からソランジュとオルタンシアが到着する。
オルタンシアは、夫である中央騎士団長ラオブルートがフェルディナンドを疑った経緯を説明した。
ヒルデブラントが開かずの書庫について持ち帰った情報、卒業式後の図書館でエーレンフェストの領主候補生が旧司書の日誌を読んでいた事実、さらにフェルディナンドの血筋問題まで重なった結果、王族関係の物を狙っていると判断されたのである。
フェルディナンドへの複雑な感情
ローゼマインは、疑われる理由そのものは理解できた。
しかし、その結果としてフェルディナンドがアーレンスバッハへ送られたことには複雑な感情を抱く。
とはいえ、周囲には「大領地への栄転」と見えている以上、不満を口にすることはできず、笑顔を保ちながら曖昧に受け流していた。
ヒルデブラントの成長
続いてヒルデブラントが到着する。
去年よりも挨拶がしっかりしており、ローゼマインは成長を微笑ましく感じていた。
ヒルデブラントは、ローゼマインが勧めた騎士物語を非常に気に入っており、魔獣を倒して姫へ美しい魔石を贈る騎士に憧れていると熱く語っていた。
ヒルデブラントの婚約話
ローゼマインは何気なく、ヒルデブラントの婚約者であるレティーツィアの話題を出してしまう。
しかしヒルデブラントは微妙な反応を見せる。そこでローゼマインは、彼が以前シャルロッテへ淡い想いを抱いていたことを思い出し、内心で大慌てする。
その空気を察したように、ハンネローレが婚約祝いへ話題を切り替え、その場は何とか穏便に収まった。
ハンネローレの理想
恋愛話の流れで、ハンネローレは理想の殿方像を語った。
それは、ローゼマインが身につけているような美しいお守りを贈ってくれる人物であり、エーレンフェストの恋物語のような求愛に憧れているという。
ローゼマインは、虹色魔石の簪はフェルディナンドの設計とヴィルフリートからの贈り物であると説明しつつ、改めて自分が領地で非常に大切にされていることを実感していた。
開かずの書庫の事情
その後、本題となる開かずの書庫問題へ話が移る。
オルタンシアは、王族命令で書庫調査を行っていたが、鍵管理には大量の魔力が必要であり、シュバルツ達への供給を後回しにしていた結果、ハンネローレへ管理者が移ってしまったと説明した。
書庫を開くには三本の鍵と、それぞれを管理できる高魔力者が必要だったのである。
鍵の管理者依頼
アナスタージウスは、ローゼマインとハンネローレへ、鍵の管理者になってほしいと依頼する。
シュバルツ達への大量魔力供給より負担は軽く、必要時だけ呼び出される形だという。
二人は顔を見合わせた後、最終的に了承した。だがヒルデブラントだけは、自分が仲間外れになったようで落ち込んでいた。
読めない書庫への苦悩
ローゼマインは、鍵を開ける役なのに中の本を自由に読めないと知り、大きな衝撃を受ける。
開かずの書庫には未知の本があるはずなのに、自分は確認済みの物しか読めないのである。
それでも、グルトリスハイト問題を抱える現状では、王族に警戒されているエーレンフェストの自分が不用意に近付くべきではないと理解し、何とか我慢しようとしていた。
本好き達のお茶会開始
重い話が終わると、ようやく本格的なお茶会が始まる。
ダンケルフェルガー風カトルカールやエーレンフェストのヨーグルトムースタルトなど、各領地のお菓子が並び、本の感想会も始まった。
ローゼマインは、これこそ理想の「本好きのお茶会」だと心から感激していた。
印刷本への衝撃
ローゼマインは、印刷技術で作られた同一内容の本を皆へ配布する。
エグランティーヌ達は、全く同じ本が複数存在することへ強い衝撃を受ける。アナスタージウスは簡素な紙表紙へ不満を示したが、ローゼマインは、下級・中級貴族でも買いやすいよう価格を抑えているのだと説明した。
ハンネローレやヒルデブラントは、軽くて持ち運びしやすいエーレンフェスト本を高く評価していた。
王宮図書館の本獲得
ソランジュは、シュバルツ達研究に関する古い魔法陣資料をローゼマインへ貸し出す。
さらにヒルデブラントは、自分には難しすぎるからと、王宮図書館の専門書までローゼマインへ譲ってくれた。
ローゼマインは、本好きとしてこれ以上ない報酬を得た気分になり、内心でヒルデブラントを大絶賛していた。
フェルネスティーネ物語の披露
最後にローゼマインは、新刊『フェルネスティーネ物語』を披露する。
母を失い義母に虐げられた領主候補生フェルネスティーネが、王子との恋を経て救われる長編恋愛物語であり、実質的にはフェルディナンドをモデルにした物語だった。
皆が夢中で本を手に取る様子を見ながら、ローゼマインは「続きが読みたくてたまらない病」をユルゲンシュミット全土へ広げようと密かに企んでいた。
ダンケルフェルガーとのお茶会
本好きのお茶会後の報告
本好きのお茶会を終えたローゼマインは、寮へ戻るなり本へ飛びつこうとした。
しかしリヒャルダから、王族関連の重要報告を先にまとめるよう叱責される。ローゼマインは渋々隠し部屋へ向かい、アウブ・エーレンフェスト宛の報告書と、フェルディナンド宛の手紙を書き始めた。
内容は、第一王子の星結び儀式で神殿長役を依頼された件と、図書委員活動が「開かずの書庫の鍵管理者」へ変更された件が中心だった。フェルディナンドへの手紙には、消えるインクで重要情報を書き込みつつ、「書庫の本は司書確認後に読ませてもらえる」と嬉しそうに追記していた。
ダンケルフェルガーからの招待
翌日には、ダンケルフェルガーから正式なお茶会招待状が届く。
共同研究への許可が下りたらしく、レスティラウトも同席するため、ヴィルフリートにも参加要請が来ていた。
さらに、ダンケルフェルガーの騎士達がローデリヒ作のディッター物語へ強い興味を示し、貸し出しまで求めていることも伝えられる。ローゼマインは、元々最初にダンケルフェルガーへ見せる予定だったため快く了承した。
お茶会までの準備
お茶会までの間、ローゼマインは忙しく動き回る。
ドレヴァンヒェルとの共同研究に参加する文官見習い達をグンドルフへ紹介し、ヒルシュール研究室ではライムントへ追加の手紙を託し、フェルディナンドからの返事を催促していた。
側仕え達も、ヴィルフリート側と連携しながら、お菓子や合図、手順確認など、お茶会準備を進めていた。
レスティラウトの髪飾り検品
お茶会当日、ローゼマイン達はダンケルフェルガーの茶会室へ招かれる。
開始直後から、レスティラウトは待ちきれない様子で髪飾りを要求した。本人は不機嫌そうに振る舞っていたが、実際にはそわそわしていただけだとハンネローレに暴露される。
受け取った髪飾りは、秋の貴色を基調にした花と実の豪華な意匠であり、レスティラウトは厳しい顔で検分した後、一瞬だけ満足そうに笑みを見せた。ハンネローレによれば、彼の「まあまあ」は最高評価だった。
トゥーリ防衛戦
レスティラウトは、髪飾り職人にも興味を示す。
しかしローゼマインは、「自慢の専属職人」であり、自分の髪飾り全てを任せていると笑顔で牽制する。レスティラウトが職人引き抜きを狙っていることを察しつつも、トゥーリだけは絶対に譲れなかったのである。
共同研究とディッター条件
共同研究の話題へ移ると、レスティラウトは条件を提示した。
ダンケルフェルガーの儀式はディッター前後に行われるため、研究のためには実際にディッターを行う必要があるというのである。
ローゼマインは完全に予想外だったが、こちらから申し込んだ研究である以上、断れなかった。ヴィルフリートはすでに覚悟を決めており、ダンケルフェルガー側の騎士達は露骨に喜んでいた。
エーレンフェストの儀式公開要求
さらにレスティラウトは、エーレンフェスト側の儀式も公開するよう要求する。
ダンケルフェルガーが伝統儀式を見せる以上、エーレンフェストも「聖女の祈り」を見せろという理屈だった。
ローゼマインは、貴族院で見せられる規模の儀式が思い浮かばず困惑しつつも、何か考えると返答していた。
クラリッサ指名
ローゼマインは、共同研究へクラリッサを参加させたいと申し出る。
理由は、ハルトムートの婚約者であり、神殿改革研究へ真面目に取り組むと確信できるからだった。
しかしレスティラウトは、ハルトムートが神官長として神殿入りしたと聞き、「何をやらかした」と素で驚愕する。エーレンフェストでは領主一族まで神殿へ出入りしていると説明され、ダンケルフェルガー側は強い衝撃を受けていた。
クラリッサ暴走開始
クラリッサ本人は、神殿入りしたハルトムートを誇りに思うと断言する。
さらに、自分がエーレンフェストにいたなら、ハルトムートと神官長の座を争っていただろうと笑顔で語り始めた。
その様子は完全に「ハルトムート二号」であり、レスティラウトはげんなりした表情を浮かべる。ローゼマイン自身も、聞き間違いではないかと本気で疑っていた。
髪飾りによる鎮静化
熱弁が止まらないクラリッサへ、ローゼマインは卒業式用の髪飾りを差し出した。
これは、ハルトムートとの婚約を諦めなかった場合に渡すよう頼まれていた贈り物だった。
クラリッサは感極まって涙ぐみ、髪飾りを受け取る。そしてレスティラウトに命じられ、ようやく静かに部屋の端へ下がった。レスティラウトは、ローゼマインの対応を「見事な手綱捌き」と評していた。
歴史本への高評価
続いて、ダンケルフェルガー歴史本の見本が披露される。
ハンネローレは、ローゼマインによる現代語訳が領地へ大きな衝撃を与えたと語る。従来は領主一族しか詳細を知らなかった自領史が、子供達にも読みやすい形になったためである。
さらに、王の第三夫人まで「読みやすい」と高く評価しており、出版を楽しみにしていることも明かされた。
レスティラウトの芸術評価
レスティラウトは、本文よりもヴィルマの挿絵へ強く反応していた。
白黒前提で構成された挿絵の完成度を高く評価し、特にヴィルマの画力へ興味を示す。
ローゼマインが「専属絵師」であると説明すると、レスティラウトはさらに興味を深め、ディッター物語への挿絵参加まで乗り気になっていった。
ディッター物語と領主候補生絵師
ディッター物語には、平民絵師であるヴィルマが貴族院ディッターを描けないため、挿絵が存在しなかった。
それを聞いたレスティラウトは、自分が描く気満々の態度を見せる。
ローゼマインは、領主候補生へ依頼するなど恐れ多いと必死に止めようとしたが、ヴィルフリートが「卒業まではハンネローレ経由で受け渡し可能」と提案してしまい、完全に流れが決定する。
レスティラウトはすぐさま「その提案は悪くない」と乗り気になり、ディッター物語のどの場面へ絵を入れるか本気で検討を始めていた。
恋物語への読解差
お茶会後半では、ハンネローレと恋物語談義が始まる。
ハンネローレは、エルヴィーラ作品の神話表現や恋愛描写を深く読み解いていたが、ローゼマインは恋愛感情へ共感できず、物語を「読解問題」のように読んでいると気付かされる。
秋風で突然泣き出す主人公へ感情移入する前に、「何故今泣いたのか」を考えてしまうのである。
フェルネスティーネ物語誤解問題
さらにハンネローレは、『フェルネスティーネ物語』の主人公がローゼマイン本人ではないかと指摘した。
青髪、橙色の瞳、幼少期から優秀、アウブに引き取られた経歴など、共通点が多すぎたのである。
ローゼマインは慌てて否定し、自分は家族に愛されて育っており、義母から迫害されるような人生ではなかったと必死に説明する。しかし結果的に、モデル人物が実在することまで半ば認めてしまっていた。
新たな火種
こうしてダンケルフェルガーとのお茶会は盛況のうちに終わった。
しかしローゼマインは、フェルネスティーネ物語が自分の実話だと誤解され始めていることに気付き、急いで第二巻を作らせなければと危機感を募らせていた。
お返事
ダンケルフェルガー茶会後の発熱
ダンケルフェルガーとのお茶会後、ローゼマインは疲れから熱を出して寝込んだ。
しかし本人は、久し振りの発熱に「丈夫になった」と喜んでおり、リヒャルダから呆れられていた。
寝込んでいる間も、アナスタージウス、ソランジュ、オルタンシアから借りた本を読み漁っていた。
シュバルツ研究資料の発見
ローゼマインは、シュバルツ達に関する資料の中に、命属性を含む未完成魔法陣を発見する。
そこには「ここまでは判明したが、続きは後世に託す」と書かれており、フェルディナンドの研究と組み合わせれば大きく進展する可能性があった。
興奮したローゼマインは即座に手紙を書こうとしたが、リーゼレータに「まず体調を整えろ」と押し戻される。しかしリーゼレータ自身も、巨大シュミル研究へ期待を膨らませて機嫌が良くなっていた。
エーレンフェストからの返答
熱が下がった後、ローゼマインは多目的ホールで報告を受ける。
エーレンフェストからは、三大領地との共同研究全てへ許可が下りていた。さらに、研究を側近達へ分担している点について、功績独占を避ける良い判断だと評価される。
同時に、研究用として各種魔紙も届けられていた。ローゼマインは、勘合紙や音を出す魔木紙の性質を文官達へ説明しながら、研究班へ配布していく。
星結び問題への返答
ジギスヴァルト王子とアドルフィーネの星結びについても返答が届く。
エーレンフェスト側は、ローゼマインが神殿長として表に立つより、以前のように遠隔祝福した方が安全ではないかと提案していた。
しかしローゼマインは、自分の祝福は感情任せで制御不能であり、遠隔では失敗する可能性が高いと判断する。中央神殿との対立を避ける意味でも、正式に神殿長役として祝福する方が穏当だと考えていた。
フェルネスティーネ第二巻決定
さらに、フェルネスティーネ物語第二巻を急ぎ印刷するとの連絡も届く。
第一巻だけでは、フェルネスティーネがローゼマイン本人だと誤解されかねないためである。
ローゼマインは、第二巻で王子との恋愛要素が始まれば誤解も減るだろうと安堵していた。
ミュリエラの名捧げ
その後、ミュリエラとグレーティアが名捧げの石を持参する。
まずミュリエラが名を捧げるが、苦しみながらも非常に喜んでいた。理由は、ローゼマインへ名捧げする決意をしたことで、ダンケルフェルガーのお茶会へ同行でき、ハンネローレと恋物語談義ができたからだった。
ミュリエラはエルヴィーラそっくりの熱量で恋物語への愛を語り始め、ローゼマインは「母親と相性が良すぎる」と内心で確信していた。
側近運営方針の説明
ローゼマインはミュリエラへ、自分の側近制度について説明する。
階級ではなく能力と適性で仕事を割り振るため、上級貴族のローデリヒではなく、経験豊富なフィリーネが指導役になるのだと説明した。
ミュリエラは貴族社会の常識と違う運営方針へ驚きながらも、素直に受け入れていた。
グレーティアの名捧げ
続いてグレーティアが名を捧げる。
彼女は苦痛をあまり表に出さず、「居心地の良い部屋を維持したい」と側仕えとしての決意を述べた。
リーゼレータは、ヒルシュール研究室の掃除まで側仕え業務へ含まれると説明し、グレーティアへ研究室管理を教え始める。ローゼマイン本人は、共同研究で忙しくシュバルツ研究は後回しのつもりだったため、側近達の熱量に少し押され気味だった。
フェルディナンドからの返事到着
ようやく回復したローゼマインは、ヒルシュール研究室でライムントからフェルディナンドの返事を受け取る。
かなり厚みのある手紙であり、普通のインクと光るインクの両方で大量の文章が書かれていた。
ローゼマインは、自室の隠し部屋へ飛び込んで手紙を読み始める。
大量のお小言
まず普通の文章からして小言だらけだった。
研究室掃除や体調を気遣っただけなのに「あまり余計なことをするな」と書かれており、ローゼマインは納得できない。
しかし裏を読めば、「こちらは問題ないので心配するな」という意味でもあり、逆にフェルディナンドが不健康な生活を送っている証拠だと察していた。
加護儀式への警告
光るインク部分では、さらに厳しい注意が並んでいた。
特に「加護を得る儀式で高みに上る」という表現は止めろと警告される。ローゼマインの場合、本当に起こり得るから困るというのである。
また、魔力を溜め込みすぎると成長が阻害されるため、しばらくは圧縮を弱めて身体成長を優先しろとも書かれていた。ローゼマインは、自分の現在の魔力でも十分だと認められ、大きく安心する。
加護研究の実験済み情報
フェルディナンドは、加護儀式の研究についても既に様々な実験を済ませていた。
神殿入り後でも加護が増えること、自分自身で再実験済みであること、ただし被験者不足で完全な検証はできていないことなどが細かく記されている。
「エーレンフェストで実験がしたい」という一文には、ローゼマインも「研究者魂の叫びだ」と感じていた。
フェルディナンドの対抗心
さらに、フェルディナンドは三大領地との共同研究へ対抗心を燃やしていた。
自分の弟子達が「あのフェルディナンドの弟子」として発表する以上、研究難易度を上げる必要があると考えているらしい。
ローゼマインは、自分は慣れているが、ライムントが耐えられるのか少し心配していた。
レティーツィア教育報告
第二弾の返事では、レティーツィア教育について大量に語られていた。
教育内容、進捗、ご褒美のお菓子まで細かく記されており、表向きに書ける無難な話題がレティーツィアしかなかったことも判明する。
ローゼマインは、フェルディナンドが思った以上にレティーツィアへ情を注いでいることを感じ取っていた。
星結びへの最終助言
星結び儀式については、正式に王命なら受けるしかないと判断されていた。
その上で、補佐としてハルトムートを同行させること、体調を絶対に崩さないことを厳命される。
また、「自分の星結びは祝福しなくていい」と釘を刺される。ローゼマインの祝福がフェルディナンドへ偏れば、彼が王位争いから距離を置くために離籍した意味がなくなるからだった。
保存書庫の真実
図書館書庫については、予想外の情報が返ってくる。
あの保存書庫へ入れるのは、本来、王族・礎登録済み領主候補生・図書館魔術具だけであり、司書は鍵管理しかできないというのである。
さらに、中には古い儀式や領主講義の重要資料が大量に保存されているらしく、フェルディナンド自身も学生時代にシュバルツ達から存在を知らされていた。
書庫禁止令
しかしフェルディナンドは、「面倒事になるから近付くな」と強く警告する。
ローゼマインは、自分だけ禁止される理不尽さへ絶叫していた。
新しい本を読みたい気持ちと、また問題へ巻き込まれそうな予感との間で激しく葛藤していたのである。
アーレンスバッハの現状
手紙後半には、アーレンスバッハ情勢も詳しく書かれていた。
ゲオルギーネ派の影響力、小聖杯不足への民衆不満、レティーツィア次期領主説が周知されていないこと、ディートリンデ自身が中継ぎ領主だと理解していない可能性など、不穏な情報ばかりである。
さらに、ランツェナーヴェから姫君献上要求まで来ており、フェルディナンド自身がそれを処理しなければならない状況だった。ローゼマインは、彼の婿入り先がアーレンスバッハでなければ良かったのにと強く感じていた。
王族への連絡
ローゼマインは、保存書庫情報を王族へ知らせるべきだと判断する。
ヒルデブラント、エグランティーヌ、図書館へ同時にオルドナンツを送り、詳しい説明の場を求めた。
するとエグランティーヌ宛だったにもかかわらず、返答はアナスタージウスから返ってくる。三日後、離宮へ来るよう命じられたローゼマインは、再び王族問題へ巻き込まれていくことになった。
エピローグ
ディッター物語争奪戦
ダンケルフェルガー寮の多目的ホールでは、エーレンフェストから借りた本を巡って激しい争奪戦が起きていた。
文官見習いは主へ渡す前の内容確認を優先すべきだと主張し、騎士見習いは共同研究対象として複数加護取得者が先に読むべきだと反論する。
レスティラウトは、毎日の仲裁へ苛立ち、「勝者が決まったら本を借りに来い」と宣言して、本の監視だけを行う形に切り替えていた。
ディッター物語への熱狂
特に騎士見習い達は、ディッター物語へ異様な熱狂を見せていた。
ラザンタルクは、文官や側仕えと協力して勝利を目指す宝盗りディッターの描写に強く興奮しており、「これはエーレンフェルストからのディッターへの招待状ではないか」とまで語る。
レスティラウト自身も、一昔前の宝盗りディッターへの憧れを刺激されており、この物語が騎士達へ強く刺さる理由を理解していた。
現代貴族院を描く新鮮さ
ケントリプスは、ディッター物語が従来の騎士物語と異なる点を指摘する。
従来の騎士物語は神話や過去の英雄譚ばかりであり、現代の貴族院を舞台にした物語は極めて少なかった。
だからこそ、自分達と同じ時代・同じ貴族院を舞台にした物語は学生達に強い没入感を与えていたのである。
挿絵への執着
レスティラウトは、ディッター物語へ挿絵が存在しないことを惜しんでいた。
既刊本の挿絵が非常に美しかったため、同じような絵を期待していたのである。しかし絵師ヴィルマは平民であり、貴族院ディッターを直接見ることができない。
そのためレスティラウト自身が挿絵を描く決意をしており、気に入った場面を何枚も描き散らしていた。
続きを求める学生達
ラザンタルクは、途中で終わっているディッター物語の続きが気になって仕方がなかった。
作者シュボルトを探し出し、一刻も早く続きを書かせたいと本気で語るほどである。
レスティラウトは、成人済みの他領貴族を学生が探し出すのは難しいと説明するが、学生達の熱狂は収まらなかった。
歴史本への誇り
一方、ダンケルフェルガー歴史本への評価も非常に高かった。
これまで古語の原本は一部上層しか読めず、多くの学生は口伝でしか歴史を知らなかった。しかしローゼマインによる翻訳版は、現代語で読みやすく、内容も原本へ忠実だったのである。
学生達は、自領の歴史を初めて正確に理解し、強い誇りを抱くようになっていた。
印刷技術への羨望
さらに、同じ本を大量生産できる印刷技術にも注目が集まっていた。
借り物の本一冊を巡って毎日争う必要がないからである。
クラリッサがローゼマイン側近と婚約したことで、本を優先的に借りられる立場を得ている点まで羨望の対象となっていた。
ローゼマインへの再評価
レスティラウトは、ローゼマインという存在を改めて考え始める。
出版権交渉、大金貨十八枚を使った翻訳、流行の発信など、全ての中心にローゼマイン本人が存在していた。
領地事業として扱われているが、実際にはローゼマイン個人の趣味と執念から始まっているのではないかと疑問を抱くようになる。
フェルネスティーネ物語による誤解
さらに、フェルネスティーネ物語がレスティラウトの認識へ影響を与えていた。
第一夫人の実子ではないため虐げられる領主候補生という設定が、養女であるローゼマインと重なって見えたのである。
ヴィルフリートが知らない事情をローゼマインだけが知っていることも、不自然に感じられていた。
奉納舞の記憶
監視役をハンネローレへ引き継いだ後、レスティラウトは急いで自室へ戻り、奉納舞の絵へ取り掛かる。
彼の脳裏には、奉納舞で神聖な存在感を放っていたローゼマインの姿が焼き付いていた。
舞の最中、ローゼマインの指輪、腕輪、首飾り、髪飾りの魔石が次々と光り始め、まるで神々の加護そのもののように舞台を彩っていたのである。
聖女としての圧倒的存在感
レスティラウトは、その奉納舞を「エーレンフェルストの聖女」の名に相応しい姿だと感じていた。
神々へ奉納する舞とはこういうものだと突きつけられたような神聖さに圧倒され、描かずにはいられなかったのである。
しかし彼は、未だその感動を完全に絵へ落とし込めず、完成へ至っていなかった。
側近達の誤解
レスティラウトが何日も籠もってローゼマインの絵を描いているため、側近達は恋愛感情を疑い始める。
しかしレスティラウト本人は、「魔力感知も発現していない子供へ懸想などするか」と即座に否定した。
彼にとって重要なのは恋愛ではなく、あの舞の神聖さを正しく描き切ることだったのである。
ダンケルフェルガーへの利益
だが、ケントリプスは感情論を一旦置き、現実的利益を指摘する。
ローゼマインは、本、流行、神事、共同研究と、ダンケルフェルガーへ莫大な利益をもたらす存在であり、第一夫人として迎えれば領地全体が歓迎するだろうというのである。
王族への危機感
さらに側近達は、ローゼマインが王族へ奪われる危険性を警告する。
加護研究が領地対抗戦で証明されれば、王族が放置するはずがない。
第一王子の第三夫人になれば危険な政治闘争へ巻き込まれる可能性も高く、エーレンフェストでは王命を拒否できないと分析されていた。
嫁取りディッター構想
その結果、側近達は「王族へ奪われる前に、ダンケルフェルガーが嫁取りディッターで奪うべきだ」という結論へ傾いていく。
王族よりもダンケルフェルガーへ嫁ぐ方が、ローゼマイン本人にとっても利益が多いと考えたのである。
レスティラウト自身も、王族や他領へ先を越される前に動く必要があると判断していた。
秘密裏の情報収集開始
ただし、時間は圧倒的に足りなかった。
レスティラウトは今年で卒業するため、ローゼマインと接触できる機会は極端に少ない。それにもかかわらず、共同研究次第では王族介入が始まる可能性が高い。
そのため彼は、ハンネローレへすら秘密にしたまま、側近達へ「ローゼマインを取り込むための情報収集」を命じる。
王族がローゼマインの価値へ完全に気付く前に、ダンケルフェルガーが先に動くべきだと決意していたのである。
本の世界と現実
恋物語への逃避
ミュリエラは、多目的ホールで貴族院の恋物語へ没頭していた。
本の中には現実には存在しない甘い世界があり、旧ヴェローニカ派の粛清や親族問題から目を逸らせる束の間の休息となっていたのである。
しかし、読書中には必ず婚約者候補のバルトルトが現れ、将来について考えろと説教してくるため、ミュリエラは煩わしさを感じていた。
名捧げへの決意
バルトルトは、文官見習いならヴィルフリートへ名を捧げるべきだと主張する。
彼はヴェローニカ崇拝者であり、自分達の気持ちを理解してくれるのはヴィルフリートだけだと信じていた。
しかしミュリエラは、人の情など状況次第で簡単に変わると冷めた目で見ており、「素晴らしい本を作るローゼマインへ仕えたい」と断言する。現実の人間より、本の世界の方が信頼できると感じていたのである。
母親の処刑
その後、ミュリエラだけがアウブ・エーレンフェストの前へ残される。
そこで彼女は、母親がゲオルギーネ派第一夫人へ名捧げしていたため、将来的危険性を理由に処刑されたと知らされる。
母親自身は犯罪へ関与しておらず、本来なら無罪だった。しかし他領第一夫人へ従属する存在を放置できないという領主判断だったのである。
父親からの拒絶
さらに、ミュリエラの父親は彼女の引き取りを拒否していた。
ミュリエラはギーベ・ベッセルの実子であり、現在の父は養父だったのである。
養父は実子の弟だけを引き取り、ミュリエラを血族側へ返そうとした。しかしギーベ・ベッセル家は連座対象となっており、彼女もまた処刑対象へ組み込まれてしまっていた。
家族愛への不信
だがミュリエラは、それほど衝撃を受けなかった。
幼少期から家族内で存在感が薄く、実子ではない立場を感じ続けていたため、いずれ捨てられる可能性を予測していたのである。
だからこそ、彼女は「家族愛など幻想であり、状況次第で簡単に壊れるもの」と考えるようになっていた。
エルヴィーラへの憧れ
そんなミュリエラへ、アウブは特別な配慮を伝える。
成人後には、本人が望むならエルヴィーラへ名を捧げることを許可するというのである。
ミュリエラは深く感謝し、ローゼマイン側近として生きる道へ希望を見出していた。本を自由に読める生活だけでも、彼女にとっては大きな幸福だった。
ローデリヒによる側近教育
その後、新しく側近入りする旧ヴェローニカ派の子供達へ、ローデリヒが説明役を務める。
ローゼマインの側近制度は、貴族社会の常識と大きく異なっていた。
身分ではなく能力と適性が重視され、下級騎士ダームエルが筆頭護衛騎士を務め、平民職人や商人の意見まで重用されるのである。
神殿と平民への価値観
さらにローデリヒは、神殿や平民を見下してはならないと強く警告する。
彼自身、灰色神官達と距離を取っていたせいで、緊急時に孤児院立ち入りを禁止された過去があった。
ローゼマインにとって神殿関係者や平民は「手足同然」の存在であり、身分を振りかざす態度は強く嫌われるのである。
恋物語好きの孤独
ミュリエラは、ローゼマイン側近になれば恋物語好き同士で語り合えると期待していた。
しかし実際には、側近達は恋物語への熱量が低かった。
リーゼレータやブリュンヒルデは社交用として本を読んでいるだけであり、ユーディットは恋愛より騎士物語を好み、レオノーレは「気付けば自分が登場人物になっている」と警告するばかりだった。
文官達との温度差
文官見習い達も、恋物語へ強い没頭は見せなかった。
ローデリヒは文章表現の参考にはなると語り、フィリーネも恋愛そのものより昔話系の物語収集へ興味を向けていた。
さらにフィリーネは、「ローゼマイン自身も恋物語へ没頭しているわけではない」と分析していた。ミュリエラは、自分だけが熱中している状況へ少し落胆していた。
同好の士との出会い
そんなミュリエラへ、フィリーネは「話の合う人物」を紹介する。
それがヨースブレンナーの上級文官見習い、リュールラディだった。
二人は初対面にもかかわらず、互いが同類だと直感する。そして好きな恋物語の話題を出した瞬間、一気に会話が盛り上がり始めた。
恋物語談義の熱狂
二人は、ドンケルングとヘルシェーンの恋物語について熱く語り合う。
神々の描写、成長を促す神の炎、別れ際の切なさ、台詞の美しさなど、細かな場面まで感想を共有し続けた。
あまりに会話が盛り上がった結果、帰寮を促す六の鐘が鳴るまで時間経過へ気付かなかったほどだった。
本の世界と現実の接続
ミュリエラは、本を読む時間だけが楽しいものだと思っていた。
しかし今回、本について心から語り合える相手と出会ったことで、「本の世界」が現実と繋がった感覚を得る。
ローゼマインへ仕えなければ、リュールラディのような友人とも出会えなかっただろうと実感し、ミュリエラは初めて未来への期待を強く抱いていた。
自分の役目と知識の番人
図書館司書への就任
オルタンシアは、王と中央騎士団長ラオブルートの意向によって、貴族院図書館の上級司書へ就任した。
任務は、怪しい動きを見せるエーレンフェストの領主候補生ローゼマインを監視し、さらに彼女が口にした「王族しか入れない書庫」を調査することだった。
オルタンシア自身は、中央貴族として王へ尽くす役目を誇りに感じていた。
ソランジュとの再会
図書館では、中級司書ソランジュが迎え入れる。
ソランジュはオルタンシアの学生時代から図書館へ勤め続けており、柔和な笑顔も当時のままだった。
さらに、図書館の魔術具シュバルツとヴァイスも健在であり、オルタンシアは懐かしさから貴族院時代へ戻ったような感覚を覚えていた。
上級司書としての契約
執務室で王の書状を提出した後、オルタンシアは正式に上級司書となる。
するとシュバルツとヴァイスは、彼女を名前で呼び始めた。
オルタンシアは感激して触れようとしたが、二体の主登録はローゼマインのままであり、正式な変更が済むまでは接触できないと説明される。ローゼマインが祝福だけで主登録されたという事実に、オルタンシアは改めて異常性を感じていた。
第二閉架書庫の現状
ソランジュは、図書館内を案内していく。
第二閉架書庫には、政変前に使われていた参考書や古い資料が並んでいた。しかし、政変で粛清された教師達の資料は失われており、恩師の参考書が傷んでいる様子まで見つかる。
保存用魔術具は存在するが、中級貴族一人では十分に維持できないほど魔力不足が深刻だったのである。
図書館の魔力不足
さらに倉庫には、大量の図書館用魔術具が眠っていた。
本来この図書館は、上級司書三人と中級司書二人で運営する規模だったのである。
ソランジュは、オルタンシアが来たことで、ようやく資料修復まで手が回せるようになると嬉しそうに語った。オルタンシアも、かつて王宮で本や書棚管理をしていた頃を思い出し、仕事への懐かしさを感じていた。
ワルディフリードへの忠誠
オルタンシアは、自身の過去を語り始める。
彼女は元々、政変で殺された第二王子ワルディフリードへ仕える側近だった。
書類管理や蔵書管理、王宮図書館での資料探索などに没頭し、一生を主へ捧げるつもりで生きていたのである。しかし主は第一王子によって殺害され、オルタンシアは生きる意味すら失っていた。
政変後の再出発
その後、クラッセンブルクの支援によって第五王子トラオクヴァール派へ再編される。
オルタンシアは、勢力均衡のためラオブルートとの結婚を命じられた。
恋愛感情による結婚ではなかったが、役目を与えられたこと自体を当時の彼女は救いだと感じていたのである。
司書としての自覚
講義開始後、ローゼマイン達の主登録変更も無事終了する。
だがソランジュは、オルタンシアがローゼマインへ少し硬い態度を取っていることを見抜いていた。
オルタンシアは、ラオブルートから「エーレンフェストは再び争いを起こしかねない危険な存在だ」と警戒を命じられていたと打ち明ける。王族しか入れない書庫に、グルトリスハイトの手がかりがある可能性を疑っていたのである。
ローゼマイン疑惑の真相
しかしソランジュは、その疑惑へ苦笑する。
ローゼマインがヒルデブラントへ書庫を尋ねたのは、ただのお茶会で怪談話のように話題へ出たからだった。
詳細を聞いたオルタンシアも、ラオブルートが少々神経質になりすぎていると感じ始める。ソランジュから「あなたは騎士ではなく司書なのです」と指摘され、オルタンシアは自分の役割を見失っていたことに気付かされた。
上級司書しか入れない書庫
ソランジュは、図書館奥の特別書庫について説明する。
そこは三人の上級司書の鍵が揃わなければ開けられず、王族や領主候補生が出入りしていた場所だった。
しかし中級貴族であるソランジュ自身は入れず、王族も領主会議の忙しさから長年訪れていなかったため、完全に放置されていたのである。
知識の番人の存在
さらにソランジュは、「知識の番人」という存在を明かす。
これは王ではなく、英知の女神メスティオノーラへ忠誠を誓った司書達のことであり、粛清された上級司書達も全員が知識の番人だった。
彼等は契約魔術によって女神への忠誠しか誓えず、新王へ忠誠を誓うことを拒否した結果、処刑されたのである。
契約を巡る葛藤
ソランジュは、オルタンシアへ契約を強く考え直すよう促す。
知識の番人となれば、政変時の司書達と同じ立場になるからである。
しかしオルタンシアは、自分は中央騎士団長の妻であり、王から直接役目を与えられた中央貴族だと考えていた。今の情勢ならば、かつてのような悲劇にはならないと信じていたのである。
英知の女神との契約
オルタンシアは、英知の女神像の前で契約文を書き込む。
それは、人類の知識を守り、集め、広め、権力に屈せず奉納するという誓約だった。
書き終えた瞬間、文字は光となって女神像へ吸い込まれ、神具から鍵が現れる。鍵は触れた直後、シュタープのようにオルタンシアの中へ吸収された。
こうしてオルタンシアは、新たな「知識の番人」として正式に迎え入れられたのである。
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