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フィクション(Novel)本好きの下剋上読書感想

小説「本好きの下剋上 第二部 神殿の巫女見習い 4巻」感想・ネタバレ

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フィクション(Novel)

第二部 神殿の巫女見習い3レビュー
第二部 神殿の巫女見習い
本好きの下剋上 全巻まとめ
第三部 領主の養女1レビュー

中世ヨーロッパ風の世界が舞台。
異世界なのでファンタジー要素もある。
中世ヨーロッパなので、宗教と地位が物を言う世界。

そんな中で魔力を豊富に持っており、金も稼げる利用価値が高いマインを虎視眈々と狙う貴族達。

それから守ろうと奮闘する領主の別腹の弟の神官長。
マインを排除しようとする領主婦人の弟の神殿長。
その対象の平民のマイン。

そんなドロドロな関係の中に投げ込まれたマインは生き残るためには、、、
貴族になるしかない。
猶予は2年。

でも、それすら赦されない状況になってしまったマインは、身元不明の怪しい自称青色神官ジルヴェスターに助けを求める。。

Table of Contents

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  1. 読んだ本のタイトル
  2. あらすじ・内容
  3. 感想
  4. 考察・解説
    1. ベーゼヴァンスの陰謀
      1. 陰謀の発端と祈念式での失敗
      2. 密会と「闇の魔石」による結託
      3. 神殿での実行と卑劣な手段
      4. 陰謀の露見と断罪
      5. まとめ
    2. 誘拐未遂とマインの威圧
      1. 誘拐未遂の発生
      2. トゥーリの危機とマインの威圧
      3. トゥーリの救出と神殿への避難
      4. まとめ
    3. ディルクの身食い発覚
      1. ディルクの異変とマインの確信
      2. 神官長への報告と厳しい現実
      3. 魔力量の測定と一筋の希望
      4. 神殿長からの徹底的な隠蔽
      5. まとめ
    4. 色インクと印刷技術
      1. 印刷技術の変遷と活版印刷の確立
      2. 活版印刷の制限とガリ版印刷への移行
      3. 色インクの開発と定着剤の発見
      4. まとめ
    5. ローゼマインの誕生と決別
      1. 上級貴族ローゼマイン誕生の背景
      2. 家族との残酷な決別と誓い
      3. 最後の祝福と契約の成立
      4. まとめ
  5. キャラクター紹介
    1. マインとその家族
      1. マイン
      2. エーファ
      3. トゥーリ
      4. ギュンター
      5. カミル
    2. ルッツとその家族
      1. ルッツ
      2. ラルフ
    3. ギルベルタ商会・門の兵士・関係者
      1. ベンノ
      2. マルク
      3. レオン
      4. オットー
      5. コリンナ
      6. レナーテ
    4. オトマール商会関係者
      1. フリーダ
      2. ギルド長
    5. 神殿
      1. 神殿長(ベーゼヴァンス)
      2. 神官長フェルディナンド
      3. フラン
      4. デリア
      5. ロジーナ
      6. ギル
      7. ヴィルマ
      8. ディルク
      9. アルノー
      10. イェニー
      11. フリッツ
      12. ザーム
      13. エグモント
      14. モニカ
      15. ニコラ
    6. 騎士団・貴族
      1. ビンデバルト伯爵
      2. ギーベ・グラーツ
      3. ギーベ・ゲルラッハ
      4. ダールドルフ子爵夫人
      5. ザイツェン子爵
      6. ダームエル
      7. カルステッド
      8. ジルヴェスター
      9. ヘンリック
    7. 職人・街の人々・その他集団
      1. ビアス
      2. ハイディ
      3. ヨゼフ
      4. ヨハン
      5. フェイ
  6. 展開まとめ
    1. 第二部 神殿の巫女見習い4
    2. プロローグ
    3. カミルのお世話
    4. 身食いの捨て子
    5. ディルクについての話し合い
    6. インク工房の跡取り達
    7. 色作り研究中
    8. ロウ原紙に挑戦
    9. デリアの進歩
    10. それぞれの言い分
    11. いなくなった二人
    12. 誘拐未遂
    13. 他領の貴族
    14. 黒いお守り
    15. 騒動の責任
    16. これからのわたし
    17. 決別
    18. エピローグ
    19. それから貴族街へ向かうまで
    20. ベルーフの資格
    21. 領主のお忍び
  7. 本好きの下剋上 シリーズ 一覧
      1. 兵士の娘
      2. 神殿の巫女見習い
      3. 領主の養女
      4. 貴族院の自称図書委
      5. 女神の化身
    1. ハンネローレの貴族院五年生
  8. その他フィクション

読んだ本のタイトル

本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 第二部「神殿の巫女見習いIV
著者: #香月美夜  氏  イラスト: #椎名優 氏

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あらすじ・内容

長い冬を終え、瑞々しい春が到来したエーレンフェスト。神殿内では、巫女見習い・マインの今後について様々な動きが加速していた。彼女を嫌う神殿長の画策もあり、街は不穏な空気に包まれていく。それでも、マインの毎日は何も変わらないはずだった。弟の誕生、インク開発による新しい本作り等、これからもずっと家族や仲間との愛おしい時間を過ごすはずだった。だが、世界は彼女に残酷な決断を迫る――。マインは今、大切な人々を守るため、家族への愛を胸に新たな道を歩き始める! ビブリア・ファンタジー第二部、感動の完結編!衝撃の結末後の人々を描く書き下ろし短編集+番外編2本、さらには椎名優描き下ろし「四コマ漫画」収録!

本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第二部「神殿の巫女見習いIV」

感想

マインを追い出そうと策謀を巡らせていた神殿長。

 領主は混乱を危惧して他領の貴族の入領を禁止していたのに、マインを攫う他領の貴族を公文書を偽造して領内に招き入れ、彼女を他領へ連れて行き消耗品のように使い潰すつもりだったらしいが、、
マインの反撃を受けて失敗。
でも、マインは平民で神殿長は貴族。
その身分差で貴族が被害に遭ったと言ったら其方が貴族の証言の方が採用されてしまう。

そのせいで、平民のマインの反撃が神殿長への攻撃と判定されてしまう。。。

でも、マインが領主の養女になる事を襲撃中に了承した事により、平民から貴族令嬢の扱いになり、証言は覆り神殿長と他領の貴族はお縄になった。

 神殿長は死刑・・公文書を偽造が死罪だって、、ヘェー日本より厳しい。

 あと、商人ギルド長の孫娘、フリーダを囲う予定の貴族はダームエルの兄だったんだ・・
以外な関係。
お人好しな家系なのか?

 この当時のダームエルは、伯爵を相手に雑魚扱いされたが、最新刊(26巻)の彼ならどうだろう?
中級の魔力を持っており、効率的な戦闘が出来る彼なら、、
そう想像するとダームエルってメチャクチャ成長してるな。。

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第三部 領主の養女1レビュー

考察・解説

ベーゼヴァンスの陰謀

ベーゼヴァンス(神殿長)の陰謀は、自身の個人的な恨みと権力欲を満たすため、他領の貴族であるビンデバルト伯爵と結託し、強大な魔力を持つマインを不法に売り飛ばそうとした一連の計画である。その全容と結末は以下の通りである。

陰謀の発端と祈念式での失敗

ベーゼヴァンスは、平民でありながら青の衣を纏い、自分に逆らったマインやその家族、そして彼女を庇護する神官長フェルディナンドに対して強い憎悪を抱いていた。アーレンスバッハの貴族であるビンデバルト伯爵は、春の祈念式において身食い兵や農民を扇動してマインを誘拐しようと企てたが、以下の要因により失敗に終わった。

  • フェルディナンドやカルステッドの反撃を受けたこと
  • 伯爵側が多くの私兵を失ったこと

密会と「闇の魔石」による結託

祈念式の後、雨の中でギーベ・グラーツの夏の館で密会が開かれた。ビンデバルト伯爵は失った兵力補充のため、マインを売るようベーゼヴァンスに持ちかけた。当初、マインの魔力による「威圧」を恐れたベーゼヴァンスは協力を渋ったが、伯爵から魔力を吸収して威圧を無効化する「闇の魔石」を渡されたことで態度を一変させた。
彼は以下の悪意に満ちた打算から、この陰謀に加担することを決断した。

  • マインを他領へ売り飛ばすこと
  • マインの家族を絶望に落とすこと
  • フェルディナンドを苦しめることで自身の姉(領主の母)を喜ばせること

神殿での実行と卑劣な手段

領主会議でアウブが不在の隙を突き、ベーゼヴァンスは公文書を偽造してビンデバルト伯爵を神殿に招き入れた。そして、孤児の赤子ディルクを「養子縁組」と偽って伯爵と従属契約を結ばせた。
マインを捕らえるため、ベーゼヴァンスは以下の極めて卑劣な手段をとった。

  • ディルクの魔力を無理やり奪って衰弱させる
  • ディルクを「肉の盾」として突き出すことでマインの魔力攻撃を封じる
  • マインが手出しできない隙を突いて側仕えのイェニーにマインを拘束させる
  • 伯爵にマインの指を刃物で切り裂かせ、無理やり従属契約の血判を押させようとする

陰謀の露見と断罪

マインの父ギュンターの介入によって拘束は解かれたが、伯爵の魔力攻撃でギュンターが負傷したことでマインは激怒し、魔力を暴走させて伯爵を威圧でねじ伏せた。ベーゼヴァンスは予定通り闇の魔石でマインの魔力を吸収しようとしたが、そこに不在と思われていた神官長フェルディナンドと、領主アウブ・エーレンフェストであるジルヴェスターが現れた。

状況が不利になったベーゼヴァンスは、「マインが貴族に魔力で攻撃した」「全てはマインの責任」と責任転嫁を図り、マインを反逆罪で捕らえるよう主張した。しかし、ジルヴェスターは黒い石のネックレスを証拠として掲げ、マインがすでに自らの養女(ローゼマイン)となっていることを突きつけた。これにより、ビンデバルト伯爵とベーゼヴァンスの行為は「領主の養女への攻撃」という大罪に変わった。

まとめ

最終的に、以下の罪により、ジルヴェスターは肉親の情を捨ててベーゼヴァンスを処刑すると宣告した。

  • 他領の貴族を不法に引き入れるための公文書偽造
  • 犯罪幇助
  • 領主の命に背いた数え切れない過去の罪

これにより、ベーゼヴァンスの陰謀は完全に潰えることとなった。

誘拐未遂とマインの威圧

下町におけるマインの誘拐未遂事件と、それに伴うマインの魔力による「威圧」の発動は、他領の貴族が関与する重大な騒動の中で発生した。その経緯と詳細は以下の通りである。

誘拐未遂の発生

春の祈念式後、東門における門番への連絡不備が重なり、他領の上級貴族(ビンデバルト伯爵)の馬車が偽造許可証を使って街に侵入する事態が発生した。
神殿から帰宅途中だったマイン、トゥーリ、ルッツ、そして護衛のダームエルは、通りかかったオットーからその知らせを受けた。ダームエルが事態を重く見て騎士団へ救援信号(赤い光)を打ち上げた直後、マインは突然背後から麻袋のようなものを被せられ、男に担ぎ上げられて拉致されそうになった。

トゥーリの危機とマインの威圧

マインの父ギュンターやオットーの奮闘により、マインは男から投げ出されて奪還された。しかし、麻袋を剥ぎ取られて視界が晴れたマインが目にしたのは、別の男にナイフを突きつけられ、恐怖に涙を浮かべて人質にされている姉トゥーリの姿であった。
それを見たマインは激怒し、全身の血が沸騰するような感覚と共に魔力を巡らせて「堪忍袋の緒が切れた」状態になった。かつて神殿長に対して無差別に威圧を放った時とは異なり、神殿での奉納や儀式を経て魔力の扱いに慣れていたマインは、以下の行動をとった。

  • 標的を「トゥーリを捕らえている男」一人に定めて魔力の圧力を放った
  • マインの威圧を真っ向から受けた男は、顔色が呼吸を止められたように紫じみたどす黒い色へと変わった
  • 男は口から泡を吹いて震え上がり、全く身動きが取れない状態に陥った

トゥーリの救出と神殿への避難

男が威圧で硬直してわずかに身を捩ろうとした瞬間、飛んできた刃物が男の二の腕に深々と刺さった。それとほぼ同時にギュンターが男に飛びかかり、トゥーリを無事に救出した。
しかし、別の襲撃犯が魔力の込められた魔石の指輪を光らせているのを目にしたギュンターは、残りの対処を騎士であるダームエルらに任せ、マインを抱え上げて安全な神殿(神官長の部屋)へと急遽駆け出した。

まとめ

この出来事は、マインが自身の強大な魔力を「家族を守るため」に明確な意思を持ってコントロールし、ピンポイントでの威圧として機能させた重要な場面である。また、この逃走の直後に神殿内でビンデバルト伯爵および神殿長との直接対決へと繋がっていくこととなる。

ディルクの身食い発覚

ディルクの「身食い」発覚は、孤児院に保護された赤子の異変をきっかけに、マインがその症状を確認し、神官長と情報を共有した一連の出来事である。その経緯と詳細は以下の通りである。

ディルクの異変とマインの確信

ディルクは神殿の門番に「神様に捧げます」と預けられた捨て子で、マインの側仕えであるデリアが「お姉ちゃん」として熱心に世話をしていた。
ある朝、デリアはディルクの様子がおかしいとマインに報告した。ヤギの乳の準備が間に合わずディルクを泣かせておいたところ、突然熱が上がり、頬の皮膚がぼこぼこと膨れ上がったというのである。
マインは実際にヤギの乳を用意した状態でディルクを泣かせて様子を観察し、以下の特異な症状を確認した。

  • 泣き声が激しくなるにつれて一気に熱が上がり、頬の皮膚がぼこぼこに変形する
  • マインが触れると、静電気が走るような反発する感触がある
  • 乳を飲ませるとすぐに熱も腫れも治まる

この症状を見て、マインはディルクが「身食い」であり、しかも赤子のうちに死んでしまうほど強い魔力を持っているとほぼ確信した。マインはデリアには確証がないと誤魔化しつつ、ディルクの魔力が暴走した際の応急処置(魔力を吸い取らせるため)として、ルッツに密かに「タウの実」を森で採ってくるよう頼んだ。

神官長への報告と厳しい現実

マインはすぐに神官長の部屋へ行き、盗聴防止の魔術具を用いてディルクの症状を報告した。神官長も、赤子の状態でそれだけ症状が出るならば魔力量がそこそこ多い「身食い」で間違いないと断定した。
神官長は、ディルクが生き延びるためには早急に貴族と契約(魔術具を与えられる代わりに一生飼い殺しにされる従属契約)させる必要があると告げた。マインは自分のように青色神官にしたり、貴族の養子にしたりできないかと尋ねたが、神官長は以下の現実的な問題を挙げ、非常に困難であると説明した。

  • 多額の費用を誰が負担するのか
  • 男児の養子縁組は女児よりもさらに難しい
  • 養子縁組には領主の許可が必要

魔力量の測定と一筋の希望

翌朝、神官長はマインの部屋(孤児院長室)を訪れ、魔力を測る環状の魔術具をディルクの額に当てて測定を行った。その結果、ディルクの魔力量は「少し強めの中級貴族」程度であることが判明した。
魔力不足の現状であれば養子に欲しがる貴族がいるかもしれないものの、情報を広めるのはマイン自身の身の安全を脅かす危険な行為であると神官長は判断した。そこで神官長は、以下の解決策を提示した。

  • マインが将来カルステッドの養女となって貴族の身分を得る
  • その後、マイン自身がディルクの契約者になる

これにより、マインはディルクを他人に渡さず孤児院で育てられるという希望を抱いた。

神殿長からの徹底的な隠蔽

しかし神官長は、喜ぶマインに厳しく釘を刺した。もし神殿長がディルクの存在(身食いであること)を知れば、自身の意のままにならないマインよりも、自我のない赤子を自分の自由にできる魔力源として確実に利用しようとするためである。
「この赤子を守りきれるかどうかで、君の立場や環境が大きく変わる」と警告されたマインは、ディルクが身食いであるという事実をデリアを含めた周囲に隠し通すことを決意した。

まとめ

このように、ディルクの身食い発覚は、彼自身の命の危機を明らかにしただけでなく、マインが貴族社会の過酷なルールや神殿内の権力闘争(神殿長との対立)にさらに深く巻き込まれていく重要な転機となった。

色インクと印刷技術

マインが目指す本作りにおいて、印刷技術の確立とそれに伴う色インクの開発は、数多くの試行錯誤と周囲の職人たちの協力によって進められた。

印刷技術の変遷と活版印刷の確立

マインが本の量産に向けて取り組んだ印刷技術の変遷は以下の通りである。

  • 木版画:最初に試みたが、ヴィルマの繊細な絵を木工職人が彫るのは難しく、黒背景に白文字となって読みにくいうえに絵が怖い印象になってしまったため、絵本には不向きだと判断された。
  • 孔版印刷(ステンシル):次に採用された手法で、厚紙をカッターで切り抜いて版紙を作る。この手法で『子供用聖典』などの絵本が印刷され、紙を切り刻んで惜しげもなくインクを塗るという発想は、羊皮紙の常識しか持たない神官長を驚愕させた。
  • 活版印刷と金属活字:文字の印刷を効率化するため、鍛冶職人のヨハンに金属活字の作成を依頼した。ヨハンは父型と母型、鋳型を用いた鋳造技術で活字の量産に成功し、マインからグーテンベルクの称号を与えられた。並行して、ワインの圧搾機を改造した印刷機の製作も木工工房のインゴに発注され、活版印刷の技術が現実のものとなりつつあった。

活版印刷の制限とガリ版印刷への移行

しかし、活版印刷の確立には社会的な障壁が立ちはだかることとなった。

  • 活版印刷の禁止:活版印刷によって文字の多い本を大量生産することは、写本を生業とする下級貴族や神官の既得権益を直接的に脅かすため危険だと神官長に見抜かれた。そのため、上級貴族の養女となり、領主の許可を得た国家事業として始められるようになるまで、活版印刷は禁止すると命じられた。
  • ガリ版印刷(ロウ原紙)への移行:これを受け、当面の間は既得権益とぶつからない子供向けの絵本作りに注力することになった。そして、より繊細な線を印刷するために、蝋引きした薄い紙を鉄筆で削るガリ版印刷の技術向上を目指し、蝋工房の協力を仰ぐとともに、ヨハンへ専用道具(アイロン、ガリ版用の鉄筆、やすりなど)を追加発注した。

色インクの開発と定着剤の発見

子供向けの絵本を作るにあたり、弟のカミルの成長に合わせて色付きの絵本が必要だと考えたマインは、色インクの開発に着手した。

  • 開発の開始:インク協会の新会長ビアスの娘であり、新しい物好きなハイディをパトロンとして支援し、彼女とその夫ヨゼフと共に様々な顔料と油を混ぜる実験を開始した。
  • 発生した問題:油の種類(亜麻仁油やミッシュなど)によって黄土が青や赤に変色してしまうなど、予想外の化学変化が起きた。さらに、完成したインクを紙に塗って乾かすと色がくすみ、複数の色を重ね塗りすると黒く濁ってしまうという重大な問題が発生した。
  • 問題の突破口:この行き詰まりを打破したのは定着剤の存在である。マインは母から布染めに使う定着剤(グナーデの樹液とハイラインの茎を煮詰めたもの)の製法を聞き出し、側仕えのロジーナから「定着剤をあらかじめ紙に塗って乾かしておき、その上から絵を描く」という絵画における正しい使い方を教わった。

まとめ

定着剤を導入したことにより、色を重ねても変色や黒濁りが発生しなくなり、ついに色インクが完成した。ただし、パレット上でインク同士を直接混ぜると黒くなってしまうため、取り扱いには注意が必要な代物であった。数多くの制約や困難がありながらも、職人たちとの協力による技術開発は、マインの目指す本作りを大きく前進させる結果となった。

ローゼマインの誕生と決別

「ローゼマインの誕生と決別」は、他領の貴族による襲撃騒動の事後処理に伴い、平民の少女マインが法的に「死亡」し、上級貴族の娘として新たな人生を歩み始める、本作の大きな転換点となる一連の出来事である。その詳細と経緯は以下の通りである。

上級貴族ローゼマイン誕生の背景

ビンデバルト伯爵と神殿長による襲撃騒動を収拾するため、領主ジルヴェスターは強大な魔力と知識を持つマインを保護し、自らの養女とすることを決定した。しかし、平民を直接領主の養女にすることはできないため、以下の計画が立てられた。

  • 上級貴族である騎士団長カルステッドの娘(亡き第三夫人ローゼマリーの娘)という設定を与える
  • その上で領主の養女とする
  • 処刑される神殿長の後任として彼女を神殿長に就任させる

これに伴い、マインという平民の少女は対外的に「死亡した」こととされ、カルステッドの提案によって「ローゼマイン」という新たな名を与えられることになった。

家族との残酷な決別と誓い

この決定は、マインにとって平民の家族との完全な関係断絶を意味していた。神官長の部屋に呼び出されたギュンター、エーファ、トゥーリ、そして赤子のカミルに対し、ジルヴェスターは「マインは死んだことになり、今後は家族として接することを契約魔術で禁じる」という過酷な事実を通告した。
マインは泣き崩れる家族と、一人ずつ以下の言葉を交わした。

  • トゥーリとは、彼女が字を覚えて絵本を読み、いつか一流の針子になって自分の服を仕立てるという未来の約束を交わした
  • 母エーファからは、「一人で勝手に突っ走らないように」といういつもの小言とともに、深い愛情を伝えられた
  • 弟カミルには、彼が読めるように絵本をたくさん作ると誓い、その額に口づけを落とした
  • 父ギュンターには、これまで自分を守ってくれたことへの感謝を伝え、今度は自分がいつか街ごと皆を守ると涙ながらに誓った

最後の祝福と契約の成立

家族への愛と別れの悲しみで感情が極限まで高ぶったマインは、神官長から借りていた魔術具の指輪を通じ、最高神と五柱の大神に祈りを捧げた。愛する家族を守るため、痛みを癒す力や悪意を撥ね退ける力を願うと、薄い黄色の光が部屋を満たし、ギュンターの腕の火傷を跡形もなく癒すという奇跡的な祝福をもたらした。
その後、マインと家族は涙を流しながら契約書に署名し、血判を押した。家族との縁を切る契約書と、ローゼマインへ改名するための契約書が金色の炎を上げて燃え尽きた瞬間、平民のマインは法的に消滅し、上級貴族の娘ローゼマインが正式に誕生した。

まとめ

契約成立後、家族は上級貴族となったローゼマインに対して跪き、臣下の礼をとった。ローゼマインは彼らと同じ目線に立つことは許されなくなったが、せめてもの感謝と敬意を示すため、立ったまま腰を九十度に折って深く頭を下げるという、貴族の常識にはない最敬礼で家族を見送った。
こうして彼女は愛する家族と完全に決別し、一人きりで貴族社会という新たな過酷な世界へ踏み出すこととなったのである。

第二部 神殿の巫女見習い3レビュー
第二部 神殿の巫女見習い
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第三部 領主の養女1レビュー

キャラクター紹介

マインとその家族

マイン

前世の記憶を持つ少女である。本作の主人公であり、本を作って読むことに強い執着を持つ。家族を何よりも大切に思っている。

・所属組織、地位や役職
 神殿・青色巫女見習い。マイン工房・工房長。孤児院・院長。領主の養女(予定)。

・物語内での具体的な行動や成果
 弟のカミルや孤児のディルクのために絵本やガラガラを作った。襲撃を受けた際、魔力を使って家族や側仕えを守るために風の盾を張った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 平民としては死亡したと扱われ、カルステッドの娘としてジルヴェスターの養女になった。名をローゼマインと改め、神殿長に就任することが決まった。

エーファ

マインたちの母親である。家族を思いやり、産後の体でありながら家事や育児に励む。

・所属組織、地位や役職
 平民の主婦。

・物語内での具体的な行動や成果
 カミルを出産し、授乳や世話を行った。マインに布を染める時に使う定着剤の作り方を教えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 契約魔術により、マインと家族として接することができなくなった。

トゥーリ

マインの姉である。マインを大事に思っており、妹の服を作る約束を交わす。

・所属組織、地位や役職
 針子見習い。

・物語内での具体的な行動や成果
 産後の母を気遣い、カミルのおむつを洗ったり夕食を作ったりした。ダームエルと共にマインを迎えに行った際、男に捕まり人質にされた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 コリンナの工房に入って働く約束を取り付けた。契約魔術により、マインと家族として接することができなくなった。

ギュンター

マインたちの父親である。家族を溺愛し、身を挺して守ろうとする。

・所属組織、地位や役職
 門の兵士・班長。

・物語内での具体的な行動や成果
 東門で他領の貴族の侵入に対応し、騎士団へ救援信号を送った。マインやトゥーリを狙う男を短剣で倒し、怪我を負いながらもマインを守った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 マインの祝福を受けて腕の怪我が完治した。契約魔術により、マインと家族として接することができなくなった。

カミル

マインとトゥーリの弟である。

・所属組織、地位や役職
 平民の赤子。

・物語内での具体的な行動や成果
 エーファからお乳をもらい、マインが作ったガラガラの音に反応した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

ルッツとその家族

ルッツ

マインの幼馴染である。マインの夢を応援し、商人としての実務を支える。

・所属組織、地位や役職
 ギルベルタ商会・ダプラ見習い。マイン工房・工房長補佐。

・物語内での具体的な行動や成果
 マインの指示で素材を集め、定着液の作成を行った。ジルヴェスターを森へ案内し、昼食の準備や獲物の処理方法を教えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 マインが貴族となった後も、商売を通じて彼女と繋がりを保つ役目を担うことになった。

ラルフ

ルッツの兄である。

・所属組織、地位や役職
 職人見習い。

・物語内での具体的な行動や成果
 マインの偽装の葬儀に関わり、腕に黒い布を巻いて参加した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

ギルベルタ商会・門の兵士・関係者

ベンノ

ギルベルタ商会の店主である。マインの保護者的存在であり、利益に敏感で計算高い。

・所属組織、地位や役職
 ギルベルタ商会・店主。

・物語内での具体的な行動や成果
 インク協会との交渉を行い、インクの販売窓口を引き受けた。神官長から呼び出され、印刷業の拡大やイタリアンレストランの完成を命じられた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 領主が推進する印刷事業の中心的な役割を担い、ギルド長を共同出資者として巻き込む策を講じた。

マルク

ギルベルタ商会の店員である。ベンノを補佐し、常に笑顔で実務をこなす。

・所属組織、地位や役職
 ギルベルタ商会・ダプラ。

・物語内での具体的な行動や成果
 ベンノと共に神殿へ行き、神官長からの指示を受けた。ジルヴェスターの昼食のためにパンや食器を手配した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

レオン

ギルベルタ商会の店員である。実家の店を盛り立てるためにギルベルタ商会に入った。

・所属組織、地位や役職
 ギルベルタ商会・ダプラ見習い。

・物語内での具体的な行動や成果
 神殿で給仕の仕方を教わった。ジルヴェスターの森での狩りに同行し、昼食の給仕を行った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 マインが放った祝福の光の粉が降り注いだ際、彼だけ避けられた。

オットー

門の兵士である。ベンノの義弟であり、娘のレナーテを溺愛している。

・所属組織、地位や役職
 門の兵士。ギルベルタ商会関係者。

・物語内での具体的な行動や成果
 ルッツたちと合流し、東門の士長がギュンターに殴られた件を伝えた。襲撃事件の際にトゥーリを保護した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

コリンナ

ベンノの妹である。オットーの妻であり、服飾工房を持つ。

・所属組織、地位や役職
 ギルベルタ商会関係者。服飾工房の主。

・物語内での具体的な行動や成果
 ベンノから神殿長の儀式用衣装の仕立て直しと、洗礼式用の簪の作成を依頼された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 トゥーリを自身の工房の針子として迎え入れる約束をした。

レナーテ

オットーとコリンナの娘である。

・所属組織、地位や役職
 ギルベルタ商会の跡取り娘。

・物語内での具体的な行動や成果
 冬の終わりに誕生した。ベンノが大声を出したため泣き出した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

オトマール商会関係者

フリーダ

ギルド長の孫娘である。身食いであり、貴族と契約している。

・所属組織、地位や役職
 商業ギルド・見習い。

・物語内での具体的な行動や成果
 契約主のヘンリックのもとへ行き、ダームエルが運び込まれた現場に居合わせた。契約書類を調べ、マインがローゼマインに改名したことを知った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 イタリアンレストランの共同出資の話に興味を示した。

ギルド長

オトマール商会の主であり、フリーダの祖父である。ベンノとは対立関係にあるが、利益には敏感だ。

・所属組織、地位や役職
 オトマール商会・店主。商業ギルド・ギルド長。

・物語内での具体的な行動や成果
 フリーダと共にヘンリックの館を訪問し、商談を行った。ベンノからローゼマインの情報を聞き出した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ベンノからイタリアンレストランの共同出資者になるよう提案された。

神殿

神殿長(ベーゼヴァンス)

神殿の最高権力者である。領主の血を引いており、平民を見下し、自身の利益を優先する。

・所属組織、地位や役職
 神殿・神殿長。

・物語内での具体的な行動や成果
 マインを排除するためビンデバルト伯爵と結託し、ディルクを騙して従属契約を結ばせた。マインから魔力を奪おうとし、威圧を受けて吐血した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ジルヴェスターにより公文書偽造などの罪で捕縛され、処刑されることが決定した。

神官長フェルディナンド

神殿の実務を担う青色神官である。領主の異母弟であり、冷静で合理的な性格だ。

・所属組織、地位や役職
 神殿・神官長。

・物語内での具体的な行動や成果
 ディルクの魔力量を測定し、マインに彼を守るよう助言した。神殿長とビンデバルト伯爵を光の帯で捕縛し、マインを保護した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ローゼマインが神殿長に就任するまでの間、一時的に神殿長の職務を引き継いだ。

フラン

マインの筆頭側仕えである。真面目で職務に忠実だ。

・所属組織、地位や役職
 灰色神官。マインの側仕え。

・物語内での具体的な行動や成果
 襲撃者からマインを守るために短剣で応戦した。神殿長室の片付けや新しい側仕えの教育を取り仕切った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 マインが神殿長に就任することに伴い、神殿長の補佐として全力で取り組む決意を固めた。

デリア

マインの側仕えである。家族に憧れを持ち、孤児のディルクを可愛がる。

・所属組織、地位や役職
 灰色巫女見習い。マインの側仕え。

・物語内での具体的な行動や成果
 ディルクの世話に没頭し、彼と一緒に過ごすために神殿長の部屋へ移動した。マインの風の盾に入り、ディルクを守った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 マインの側仕えを解任された。神殿長の捕縛後、処刑を免れ、孤児院で子供たちの世話をすることになった。

ロジーナ

マインの側仕えである。芸術を重んじ、フェシュピールの演奏が得意だ。

・所属組織、地位や役職
 灰色巫女。マインの側仕え。

・物語内での具体的な行動や成果
 マインに定着剤の使い方を教え、フェシュピールの指導を行った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 神官長の専属楽師として買い取られることが決まった。

ギル

マインの側仕えである。マイン工房の仕事に熱心に取り組む。

・所属組織、地位や役職
 灰色神官見習い。マインの側仕え。

・物語内での具体的な行動や成果
 マインに鉄筆を作ってもらい、印刷や紙作りの作業を進めた。神殿長の私物の片付けを手伝った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 他の孤児院の視察と工房立ち上げの担当者に指名された。

ヴィルマ

孤児院の子供たちの世話をする灰色巫女である。絵を描くことが得意で、マインの本作りを支える。

・所属組織、地位や役職
 灰色巫女。マインの側仕え。孤児院の管理者。

・物語内での具体的な行動や成果
 捨て子のディルクを引き取り、ヤギの乳を与えた。絵本のためにフリュートレーネと十二の女神の絵を作成した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

ディルク

神殿に捨てられた赤子である。身食いの熱を抱えている。

・所属組織、地位や役職
 身食いの孤児。

・物語内での具体的な行動や成果
 神殿長によってビンデバルト伯爵と従属契約を結ばされた。神殿長に魔力を奪われ、痙攣して倒れた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

アルノー

神官長の筆頭側仕えである。過去の出来事からフランに悪意を抱いている。

・所属組織、地位や役職
 灰色神官。神官長の側仕え。

・物語内での具体的な行動や成果
 神官長からの指示でギルベルタ商会へ招待状を届けた。フランが過去の出来事で動揺する姿を見て暗い喜びを感じた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

イェニー

神殿長の側仕えである。マインの側仕えを妬み、恨みを抱いている。

・所属組織、地位や役職
 灰色巫女。神殿長の側仕え。

・物語内での具体的な行動や成果
 マインを背後から捕まえ、ビンデバルト伯爵に引き渡そうとした。ギュンターに蹴り飛ばされて吐血した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 神殿長と共に捕縛された。

フリッツ

孤児院で働く灰色神官である。

・所属組織、地位や役職
 灰色神官。

・物語内での具体的な行動や成果
 ジルヴェスターに下町の歩き方や川での手の洗い方を教えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

ザーム

神官長の側仕えである。

・所属組織、地位や役職
 灰色神官。神官長の側仕え。

・物語内での具体的な行動や成果
 フランに神殿内の現状を報告した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

エグモント

青色神官である。神殿長の権威を笠に着ていた。

・所属組織、地位や役職
 青色神官。

・物語内での具体的な行動や成果
 神殿長が捕えられたことをアルノーから聞き、青ざめた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

モニカ

新しくマインの側仕えとなった少女である。

・所属組織、地位や役職
 灰色巫女見習い。マインの側仕え見習い。

・物語内での具体的な行動や成果
 ロジーナから側仕えの仕事の手順や行儀作法を教わった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 料理の補助や部屋の雑務を担当することになった。

ニコラ

新しくマインの側仕えとなった少女である。

・所属組織、地位や役職
 灰色巫女見習い。マインの側仕え見習い。

・物語内での具体的な行動や成果
 食事の美味しさを楽しみにしながら側仕えの仕事を覚えようとした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 料理の補助や部屋の雑務を担当することになった。

騎士団・貴族

ビンデバルト伯爵

アーレンスバッハの貴族である。身食いを集め、従属契約を結ばせようとする。

・所属組織、地位や役職
 アーレンスバッハの伯爵。上級貴族。

・物語内での具体的な行動や成果
 マインを捕らえるため私兵をけしかけ、魔力攻撃を行った。マインの指に傷をつけ、無理やり血判を押させようとした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 街への不法侵入と領主の養女への攻撃の罪で捕縛された。

ギーベ・グラーツ

グラーツの領主である。

・所属組織、地位や役職
 下級貴族。ギーベ・グラーツ。

・物語内での具体的な行動や成果
 ベーゼヴァンスや他の貴族たちを自身の夏の館に招き入れた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

ギーベ・ゲルラッハ

ゲルラッハの領主である。

・所属組織、地位や役職
 子爵。ギーベ・ゲルラッハ。

・物語内での具体的な行動や成果
 祈念式の際、身食い兵を使ってマインを誘拐しようと企てたが失敗した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

ダールドルフ子爵夫人

ダールドルフ子爵の妻である。

・所属組織、地位や役職
 子爵夫人。

・物語内での具体的な行動や成果
 息子のシキコーザが処分を受けたことで、マインとフェルディナンドに憎悪を募らせていた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

ザイツェン子爵

ザイツェンの領主である。

・所属組織、地位や役職
 子爵。ギーベ・ザイツェン。

・物語内での具体的な行動や成果
 祈念式での襲撃計画に関する報告を聞いて、不審な様子を見せた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

ダームエル

マインの護衛を務める騎士である。実直で責任感が強い。

・所属組織、地位や役職
 騎士団の騎士(見習いに降格中)。

・物語内での具体的な行動や成果
 マインを狙う男たちと戦い、神殿長やビンデバルト伯爵の魔力攻撃からマインを守ろうとして意識を失った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

カルステッド

騎士団長であり、領主の従兄である。頼りがいのある武人だ。

・所属組織、地位や役職
 騎士団長。上級貴族。

・物語内での具体的な行動や成果
 ビンデバルト伯爵や神殿長を光の帯で捕縛し、騎士団に引き渡した。マインの実父という設定を受け入れた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 マインを名目上の娘として迎え入れることになった。

ジルヴェスター

エーレンフェストの領主である。奔放だが、領主としての厳しい一面を持つ。

・所属組織、地位や役職
 アウブ・エーレンフェスト。領主。

・物語内での具体的な行動や成果
 マインに黒いお守りを与えていた。マインを養女に迎え、神殿長とビンデバルト伯爵を断罪した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 マインと養子縁組を結び、彼女を新たな神殿長に任命した。

ヘンリック

フリーダと契約している下級貴族である。誠実でおっとりとした性格だ。

・所属組織、地位や役職
 下級貴族。

・物語内での具体的な行動や成果
 フリーダから魔力が溜まったブレスレットを受け取り、体調を気遣った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

職人・街の人々・その他集団

ビアス

インク工房の親方である。新しいインク協会の会長を引き受けた。

・所属組織、地位や役職
 インク工房の親方。インク協会・会長。

・物語内での具体的な行動や成果
 ベンノにインクの販売窓口を依頼した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ヴォルフの死後、インク協会の会長に就任した。ヨゼフにベルーフの資格を与えた。

ハイディ

ビアスの娘である。インク研究に没頭する研究馬鹿だ。

・所属組織、地位や役職
 インク工房の跡取り娘。

・物語内での具体的な行動や成果
 マインから資金と知識を得て、色インクと定着剤を完成させた。絵具の製法を探るため他の工房へ迷い込み、捕まった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 マインからグーテンベルクの一員に認定された。

ヨゼフ

ハイディの夫である。工房の経営とハイディの世話を担う苦労人だ。

・所属組織、地位や役職
 インク工房のダプラ。

・物語内での具体的な行動や成果
 色インク作りで油と素材を混ぜる実作業を行った。ハイディが他の工房で捕まった際に謝罪して連れ戻した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ビアスからベルーフの資格を与えられた。マインからグーテンベルクの一員に認定された。

ヨハン

鍛冶工房の職人である。細かい作業が得意で、マインからの注文に翻弄される。

・所属組織、地位や役職
 鍛冶工房の職人。

・物語内での具体的な行動や成果
 マインからギルの鉄筆やガラガラ用の鈴の制作を依頼された。ロウ原紙を作るための道具の設計書を受け取った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 「グーテンベルク」という呼び名が完全に定着した。

フェイ

ルッツの友人である。

・所属組織、地位や役職
 平民の子供。

・物語内での具体的な行動や成果
 マインの偽装の葬儀で、森での彼女の様子を語った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

第二部 神殿の巫女見習い3レビュー
第二部 神殿の巫女見習い
本好きの下剋上 全巻まとめ
第三部 領主の養女1レビュー

展開まとめ

第二部 神殿の巫女見習い4

プロローグ

雨の中の密会の始まり
祈念式後の春、雨が降り始める中で農民達は家に戻り、水の女神への感謝とともに手仕事に励んでいた。その頃、ぬかるんだ街道を進む馬車には神殿長ベーゼヴァンスが乗っており、雨に苛立ちながらグラーツの夏の館へと向かった。館ではすでに複数の貴族が集まっており、密かに行われる会合であることが示されていた。

ベーゼヴァンスの立場と内面
ベーゼヴァンスは神殿の者でありながら領主の血を引くため、貴族達から一定の扱いを受けていた。幼少期に神殿へ送られた経緯により貴族としての正統な地位を持てなかったことに強い不満を抱いており、貴族達が自分に頭を下げる様子に歪んだ満足感を覚えていた。

ビンデバルト伯爵との邂逅
会合の中で、アーレンスバッハから来たビンデバルト伯爵が紹介された。彼は今回の計画における重要人物であり、ベーゼヴァンスに対して表面上は礼を尽くしながらも内心では軽視していた。ベーゼヴァンスはそれを察しつつも、上座に座る立場を維持することで優位を保とうとしていた。

誘拐計画の失敗と不満
会合では、青色巫女見習いマインの誘拐計画が祈念式で失敗したことが話題となった。フェルディナンドの存在によって計画は阻止され、襲撃に参加した者達も戻らなかった。貴族達はその結果に不満を募らせ、マインとフェルディナンド双方への憎悪を口にしていた。

マイン売買の提案
ビンデバルト伯爵は失われた戦力の補充のため、マインを売るよう提案した。貴族達もベーゼヴァンスに協力を求めたが、彼は責任を負うことやマインの魔力への警戒から一度は消極的な姿勢を見せた。

闇の魔石による誘惑
伯爵は対価として、魔力を吸収する闇の魔石を提示した。これによりマインの威圧を無効化できると知ったベーゼヴァンスは、強い関心を示した。マインへの憎しみと屈辱の記憶、そして復讐心が刺激され、彼の判断は大きく揺らいだ。

協力の決断と動機の正当化
最終的にベーゼヴァンスは、自身の利益と姉の機嫌を理由に協力を決断した。マインを排除しフェルディナンドを苦しめることができれば、多くの者が喜ぶと考え、自らの行動を正当化したのである。

陰謀の成立
ベーゼヴァンスが協力を表明したことで会合は成功裏に終わり、貴族達は安堵と期待を示した。雨が強まる中、彼はこれから起こる事態を楽しむかのように街の方向を見つめ、陰謀は本格的に動き出した。

カミルのお世話

お姉ちゃんとして張り切るマイン
カミルが生まれた翌日、マインは素敵なお姉ちゃんになろうと決意していたが、出産を心配して夜明けから動いていたため、食後には強い眠気に襲われていた。それでも父やトゥーリが戻るまでは起きて手伝おうとしたが、母に倒れる方が困ると言われ、カミルのそばで少し眠ることにした。

授乳の様子と家族の会話
目を覚ましたマインは、泣き出したカミルを母が抱き上げて授乳しているところを見た。小さな口や手の一つ一つを可愛いと感じて見つめていると、宴会から戻ったトゥーリも加わり、皆でカミルの小ささを話題にした。そこから母は、マインが赤ん坊の頃は乳を飲むのが下手で吐き戻しも多かったと懐かしそうに語り、トゥーリも今と変わっていないとからかったため、マインは不満を口にした。

おむつ替えの見学と天気の変化
母がおむつを替えようとすると、トゥーリがやってみたいと申し出て実際にやってみせた。マインはその様子を見ながら、自分も次はやってみようと考えた。その後、トゥーリは空模様を見て早めにおむつを洗う必要があると判断したが、マインには天気の変化が読み取れなかった。さらに、ダームエルから外出を禁じられていたことを思い出し、井戸の広場にも出ない方がよいと判断したため、洗濯はトゥーリが一人で行くことになった。

夕食作りと母への気遣い
トゥーリは近所から祝ってもらった春野菜で簡単なスープを作るつもりだったが、マインは自分が空腹であることに加え、母にはしっかり栄養を取ってもらう必要があると考え、神殿から贈られた鳥の肉を使うことを提案した。薬草は産後の母には向かないと止められたため、塩と酒で下処理をすることにし、父の酒を少し拝借して料理の準備を進めた。

家事能力の低下を自覚するマイン
神殿で長く世話をされる生活をしていたせいで、マインは包丁を持つ手元が以前より危うくなっていることに気付いた。生活力がさらに低下したと嘆きながらも、怪我をしないように注意して野菜を切り進めた。ヴァルゲールを見つけると、季節の味覚としてスープではなくバター炒めにする方がよいと考え、夕食の献立を整えていった。

洗濯後の帰宅とおむつの現実
洗濯を終えたトゥーリと酔って上機嫌の父が戻ると、父は濡れたおむつを台所に張った紐へ干し始めた。台所に布おむつが揺れる光景にマインは落ち着かなさを覚え、紙おむつの便利さを思い出したが、この家では古い布を使い回すしかない現実も理解した。清潔さよりも布の不足が優先される生活の中で、何度も洗われて柔らかくなった布が使われていることを知った。

母を休ませる家族の判断
夕食の支度が整った後、マインは母を呼びに寝室へ行ったが、母はカミルのそばで眠っており、顔色も悪く疲れ切って見えた。そのため起こすのをためらって戻ると、トゥーリも産後はできるだけ休ませなければならないと近所の女性達から聞いており、母を起こさないことにした。出産の大変さを実際に見たトゥーリは、しばらく家族で家事を支え、母に無理をさせないようにしようとマインに言い聞かせた。

夜泣きとマインの適応
その夜、マインはカミルが泣くたびに目を覚まし、母が授乳する様子を何度もぼんやり見ながら眠り直すことになったため、翌朝は寝不足で頭がぼんやりしていた。母は数日もすれば泣き声に慣れると言ったが、マインはそんな簡単には無理だと返した。しかし二日目の夜には、泣き声を意識の端で聞きながらもほとんど起きずに朝を迎えた。父に似てよく眠れるらしいと母に言われたマインは、自分の適応力の高さに少し驚いていた。

身食いの捨て子

家族の祝いを終えて神殿へ戻るマイン
家や近所での誕生祝いを終えると、家族は日常へ戻り、マインも再び神殿へ向かうことになった。迎えに来たダームエルとフランを伴ってギルベルタ商会へ立ち寄ったマインは、カミルの可愛さを熱心に語ったが、ベンノにはうんざりした顔で話を打ち切られ、印刷の話をするよう促された。

レナーテ誕生の報告とベンノの反応
そこでマインは、コリンナの子がすでに生まれていたことを初めて知った。冬の終わりに生まれたその子はレナーテと名付けられ、ギルベルタ商会の跡取り娘として紹介された。父のように大げさに喜ばないベンノに対し、マインは淡白だと感じたが、実際にはオットーがはしゃぎ過ぎているため、自分は厳しく育てなければならないと考えていることが示された。マインは、商人として見ればむしろベンノよりコリンナの方が油断ならないと感じつつ、ギルベルタ商会の先行きは安泰だと受け止めた。

印刷事業の方針転換
その後、マインは神官長から活版印刷を当面止められたことを伝えた。写本は貴族の既得権益に関わるため、大人向けの文字の多い本を作れば危険だと説明し、今後数年は子供向けの絵本作りに力を入れる方針を示した。さらに、色付きインクやロウ原紙を開発し、ガリ版印刷の技術向上を急ぎたいと語り、その理由をカミルの成長に合わせた絵本を用意するためだと胸を張って説明した。神官長の許可を得ていると確認したベンノは、蝋工房の親方に会えるよう手配すると約束した。

神殿での再会とヴィルマの急報
神殿へ戻ったマインは、デリアとロジーナにカミル誕生の話をして満足した後、フェシュピールの練習に入った。ところが、フランが火急の用があるとしてヴィルマを連れてきた。ヴィルマの腕にはカミルより少し大きい赤子が抱かれており、その子は門番に預けられた捨て子であることが明かされた。女性が神への奉納だと言って布に包んだまま置いていったものであり、品を改めた時に初めて中身が赤子だと判明したのであった。

孤児院で途絶えていた育児の知識
孤児院に新たな子供が入るのは、マインが院長になってから初めてのことであり、どのような手続きが必要かもわからなかった。さらに、以前なら地階に妊娠中や産後の灰色巫女がいて乳児の面倒を見られたが、今はそのような者が一人もいないため、赤子に乳を与える方法すら共有されていなかった。マインは、本で読んだ知識をもとに、母乳の代わりにヤギの乳を小さな匙で少しずつ与える方法を提案した。ヴィルマはその助言に救われ、フランに乳の用意を頼んだ。

赤子の命をつなぐ応急対応
ヤギの乳が準備された頃、赤子は目を覚まして泣き出した。ヴィルマが小さな匙で少しずつ乳を与えると、最初は嫌がったものの、空腹が勝ったのか次第に飲み始めた。周囲はそれを見て安堵し、少なくとも飢え死にだけは避けられると胸をなで下ろした。マインは、鐘が鳴るのを聞きながらも、一刻も早く赤子の環境を整えなければならないと考え、神官長のもとへ向かった。

神官長への相談と現実的な判断
神官長に事情を説明したマインは、孤児院に子供が増えた時の手続きと世話の方法を相談した。神官長は当初、今まで通りでよいと考えていたが、育児経験のある灰色巫女がいなくなっていることに気付くと、乳母を雇う案を口にした。しかし、孤児院に来たがる者を見つけるのは難しいと判断され、その案は現実的ではなかった。結局、今いる側仕え達で何とかするしかないと結論づけられ、名前も孤児院内で重ならなければ自由に付けてよいと許可された。

ディルクという名前とデリアの役割
部屋へ戻ると、赤子は機嫌よくしており、男の子であることもわかった。マインは、ヴィルマ一人に任せれば倒れてしまうと考え、昼は孤児院でヴィルマが面倒を見て、夜は自室で側仕え達が交代で世話をする体制を決めた。だが、デリアは捨て子の面倒を見る意味がわからないと強く反発した。そこでマインは、家族への憧れを持つデリアの気持ちを思い出し、この子はデリアの家族であり、デリアはお姉ちゃんなのだと語りかけた。さらに、自分もつい先日お姉ちゃんになったばかりだとして、どちらが良いお姉ちゃんになれるか競争しようと持ちかけたことで、デリアは一気にやる気を見せた。似た響きの名前を望んだデリアの意見を受け、赤子はディルクと名付けられた。

お姉ちゃんとしての自覚と失敗
ディルクに触れたデリアが笑顔を引き出したのを見て、マインは早くもお姉ちゃん力の差を感じて少し落ち込んだ。その後、帰宅したマインはカミルの世話でも挽回しようと張り切ったが、母とトゥーリが大半を済ませてしまっており、自分が手を出すとおむつ替えの途中で失敗が起こるなど、思うようにはいかなかった。そこで母に相談すると、世話をする者達が昼寝できるようにして睡眠時間を確保することが大事だと助言され、マインはその方針を神殿でも活かそうと決めた。

側仕え達の負担と昼寝の提案
翌日神殿へ行くと、夜中にヤギの乳を準備して与える生活に変わったため、フランとロジーナは明らかに疲れていた。マインは二人に昼食後しばらく昼寝をするよう指示し、少しでも体を休めるよう配慮した。突然他人の赤子を世話することになった負担の大きさを、改めて実感したのである。

ディルクの異変と身食いの疑い
その時、デリアがディルクの様子がおかしいと訴えた。朝、乳の準備が間に合わず泣かせていたところ、突然熱が上がり、頬がぼこぼこと膨らんだのだという。だが、乳を飲ませるとすぐに元へ戻ったらしい。マインは実際に確かめるため、ヤギの乳を用意した状態でディルクを少し泣かせてみた。すると、泣き声が激しくなるにつれて本当に熱が上がり、頬の皮膚がぼこぼこと変化した。マインが触れると反発するような感触があり、さらに激しく泣き出したが、すぐに乳を与えると、泣き止んで飲み始め、熱も腫れもおさまった。

確信に近づく不安
その異変を見たマインは、すぐに神官長への面会を申し込ませた。デリアに何かわかったのかと問われても、この場では確定していないとして明言を避けたが、心の中ではほぼ確信していた。ディルクは身食いであり、それも赤子のうちに命を落とすほど強い魔力を持つ身食いだと考えたのである。事情を知らされないままのデリアは不安に目を揺らしながら、ディルクを守るように強く抱きしめた。

ディルクについての話し合い

ディルクを守るための備え
ディルクが大きな魔力を持つ身食いであれば、魔力を吸い取る魔術具が用意される前に命を落とす危険があった。そのため、マインは少しでも危険を減らすために、ルッツへ密かにタウの実を取ってきてほしいと頼んだ。タウの実の存在を貴族に知られたくなかったため、ダームエルに聞かれないよう小声で伝え、ルッツも事情を察してすぐに森へ向かった。

神官長への報告と身食いの確定
フランから面会の許可が下りたと聞いたマインは、神官長にディルクの異変を伝えるため部屋へ向かった。ディルクを連れていこうとしたが、洗礼前の孤児を孤児院の外へ出すことはできない決まりがあるため断念し、神官長の部屋では盗聴防止の魔術具を用いて話をした。マインが朝の症状を説明すると、神官長は赤子の状態でそこまで症状が出るなら、かなりの魔力を持つ身食いであることは間違いないと判断した。

契約という厳しい現実
神官長は、ディルクが生き延びるには早急に貴族と契約させる必要があるかもしれないと告げた。契約とは、生きるための魔術具を得る代わりに、貴族に魔力を提供し続ける隷属的な生き方を意味していた。マインは、自分と同じ年頃の赤子がそうした未来へ追い込まれることに強い衝撃を受け、自分のように青色神官として生きたり、貴族の養子になったりできないかと問いかけた。

青色神官や養子が難しい理由
しかし神官長は、青色神官として育てるには多額の費用がかかり、その金を孤児の赤子のために誰が出すのかと現実を突きつけた。マイン自身が負担するにも限界があり、孤児院長として一人だけを特別扱いすることも問題になると指摘された。また、養子縁組には領主の許可が必要であり、誰でも自由に縁組できるわけではなかった。しかもディルクは男児であり、次代の魔力には母親の魔力量が関わるため、女児よりさらに養子の道は難しいと説明された。

魔力量の測定を決定する
ただし、今は魔力不足の時期であるため、魔力量によっては養子として欲しがる貴族がいる可能性もあるとして、神官長は翌朝に測定用の魔術具を持ってマインの部屋へ来ると決めた。その上で、ディルクが身食いであると知っている者がどれだけいるかを確認し、当面はその事実を伏せて育てるよう命じた。特に神殿長に知られれば利用される危険が高いため、決して気付かれないようにしろと強く釘を刺した。

魔術具による魔力量の測定
翌朝、三の鐘の後に神官長はアルノーを伴って訪れ、部屋を人払いした上で盗聴防止の魔術具を使い、ディルクの魔力量を測った。環状の魔術具を額に当てて魔力を吸い出し、色の変化した石を数えた結果、ディルクの魔力量は少し強めの中級貴族ほどだと判明した。マインは今にも死にそうなディルクの方が自分より多いと思っていたが、神官長は赤子は魔力を抑えられず垂れ流している一方で、マインは長年にわたって魔力を押し込め、圧縮してきたため単純比較はできないと説明した。

マインの魔力圧縮の特殊性
神官長は、マインが誰にも教わらずに魔力を圧縮してきたこと自体が異常であり、本来その技術は成長期を前に貴族院で教えられる危険なものだと語った。全身に満ちる魔力を精神力で抑え込む行為は死の危険と隣り合わせであり、扱いを誤って命を落としかける子供も毎年いるという。マインが過去に何度も命の危険を感じながら魔力を押し込め続けた結果、幼い身体にはあり得ないほど強く圧縮された魔力を持つようになったことが明かされた。

将来の希望としての契約者
神官長は、ディルクほどの魔力なら魔力不足の今は養子に望む者がいるかもしれないが、情報を広げればマインの身の安全に関わるため、それも危険だと判断した。そこで、そこまで心配するならば、マインがカルステッドの養女となって貴族の身分を得た後、自らディルクの契約者になればよいと提案した。マインは思いがけない選択肢に驚いたが、それが可能であればディルクを他人に渡さずに済み、育てることにも口出しされにくくなると知って大きな希望を抱いた。

神殿長から守る必要性
しかし神官長は、喜ぶマインに対し、浮かれている場合ではないと厳しく言い聞かせた。神殿長がディルクの存在を知れば、自分の意のままにならないマインより、まだ自我のない赤子を利用するのは明らかであるため、守りたいなら隠し通すしかないと警告した。ディルクを守れるかどうかで、自分の立場も大きく変わると自覚したマインは、その忠告を強く胸に刻んだ。

デリアへの隠し事
神官長が帰った後、デリアはすぐに駆け上がってきて、ディルクは病気なのかと不安そうに尋ねた。マインは問題ない、このまま孤児院で育てればよいと言って安心させたが、真実を伏せたままでいなければならないことに複雑な思いを抱いた。デリアは心底安堵し、ディルクを抱きしめて頬擦りしたため、他の貴族に渡したり契約させたりする道は取りたくないと、マインは改めて思った。

休憩時間とデリアの未練
午後になると、フランとロジーナが休憩に入るため、ディルクはヴィルマに預けられて孤児院へ戻ることになった。ディルクを見送るデリアは寂しそうだったが、自分から孤児院へ行くことは拒んだ。以前から孤児院へ行きたくないと言っていた彼女は、行きたい気持ちと拒絶感の間で揺れている様子を見せた。

ディルクのための絵本作りとデリアの葛藤
マインは部屋に残り、ディルク用の白黒絵本の第二弾を作り始めた。カミルやディルクの成長に合わせ、丸や三角を組み合わせた絵を描き、板に貼って紐で綴じるつもりで準備を進める。一方のデリアは、ディルクが寂しがっていないか、泣いていないかを何度も気にしていたが、マインはヴィルマが見ているから大丈夫だと淡々と返した。その態度に焦れたデリアは怒りを露わにしたが、マインにそれほど気になるなら自分で見に行けばよいと言われても、結局は孤児院へ行く決断ができなかった。

デリアの心の変化の兆し
それでも、ディルクを案じるデリアの気持ちは明らかに強くなっていた。マインが冗談めかして自分が様子を見に行こうかと言うと、デリアはそれをずるいと引き止め、一緒に行かないかと誘われても悔しそうに拒んだ。孤児院への抵抗はまだ消えていなかったが、ディルクへの愛着は確実に育っており、マインには、デリアが自ら孤児院へ向かう日もそう遠くないように思えた。

インク工房の跡取り達

ベンノからの呼び出しと期待の高まり
カミルが生まれて十日ほど経った頃、ルッツがベンノから空いている日を尋ねてこいと言われたと伝えに来た。マインは蝋工房へ連れていってもらえるのだと期待して喜んだが、実際には会いたい人物がいると聞かされて一度は落胆した。ところが、その相手がインク工房の職人だと知ると、色インクの相談ができるかもしれないと考え、すぐに気分を持ち直した。一方で、亡くなったインク協会の会長が自分の情報を探っていたことを思い出し、不安も覚えたが、ベンノが大丈夫と判断したのだろうと考えて素直に楽しみにすることにした。

新しいインク協会会長ビアスとの面会
約束の日、マインはルッツ、ダームエル、ギルと共にギルベルタ商会へ向かい、マルクの案内で奥の部屋へ通された。そこには見覚えのあるインク工房の親方と、若い女性がいた。女性は好奇心に満ちた灰色の目でマインを見つめており、親方にたしなめられる様子から親子であることがわかった。親方の名はビアスで、亡くなったヴォルフに代わって新たにインク協会の会長を引き受けた人物であった。ヴォルフは不審な死を遂げており、その後始末を押し付けられる形で会長職を担わされたらしく、ビアスは苦労をにじませながら協会の現状を語った。

インク販売の窓口を巡る悩み
ビアスは工房の運営や職人達のまとめ役にはなれても、販売には向いていないと自覚していた。これまで貴族向けの営業はヴォルフが独占していたため、彼の死後は誰が窓口になるかが問題になっていた。文具店に任せるにも、今まで平和に商売をしてきた店に突然貴族との取引を押し付けるのは酷であり、ギルド長の店に戻すにしても、かつて独占を奪われた経緯から足元を見られるのは明らかだった。そこでビアスは、マイン工房と関わりの深いギルベルタ商会に販売窓口を頼みたいと考えていた。

ベンノの逡巡とマインの後押し
しかしベンノは、今までヴォルフが密かに引き受けていた後ろ暗い仕事まで押し付けられる可能性や、ギルド長からの干渉が強まることを理由に即答を避けた。マインにとっても、今後本を印刷していく以上、大量のインクは必須であり、知らない店と新たに取引するよりベンノに扱ってもらう方が安心だった。マインがそう言って後押しすると、ビアスも必死に頼み込み、ベンノは完全には断れない雰囲気になっていった。

ハイディとの出会いと色インクの提案
その流れの中で、マインは自分が説得に協力する代わりに、色インクの開発に協力してほしいと条件を出した。ビアスが首を傾げる一方で、隣にいた娘のハイディが勢いよく名乗りを上げた。ハイディはインク作りが好きで、新しいもの好きな工房の跡取りであり、植物紙専用のインクを作っていた人物でもあった。彼女は以前から、植物紙専用インクと同じ作り方で黒以外の色インクもできるのではないかと考えていたが、勝手に進めてよいかわからず、ベンノに相談しに来ていたのであった。

色インク開発の契約交渉
マインが黒以外も作れると断言すると、ハイディはどんな素材が向いているのか教えてほしいと身を乗り出した。だが、ベンノは情報を無償で渡すなと無言で圧力をかけ、マインは色インクの売り上げの一割を情報料として要求した。ハイディは高すぎると悲鳴を上げたが、マインはその代わり研究費の半額を負担すると提案し、商談がまとまりかけた。しかし、それぞれの保護者が割って入り、結局は情報料として一割を受け取りつつ、初期投資は四分の一だけ負担する形に修正された。

保護者達の調整と販売方針の決定
マインとハイディが早く工房へ行きたがって落ち着かない中、ベンノとビアスは販売方針の最終調整を進めた。その結果、ギルベルタ商会がひとまずインク取引を扱うことになったが、独占するのはマイン工房で使う植物紙専用インクと色インクのみとされた。それ以外のインクについては、他店が参入したいなら認める方針とし、ギルド長の敵意を一手に引き受けないようにする形で落ち着いた。

ハイディの暴走気味な熱意
話がまとまると、マインとハイディはすぐに工房へ向かおうとしたが、保護者達に首根っこを押さえられて制止された。それでも最終的には工房行きが許され、ベンノはルッツにマインをよく見張れと命じた。ハイディはマインの歩く速さに耐えられず、途中で先に走って工房へ向かってしまい、ビアスは青ざめて謝った。マインは、ハイディが仕事熱心で面白いが変わった人物だと感じたが、ルッツからはお前が言うなと呆れられた。

インク工房の様子とハイディの立場
インク工房は多くの器具や秤が並ぶ理科室のような場所で、職人達が慎重に分量を量りながら没食子インクを作っていた。隅には植物紙用インクを作る場所があり、すでに瓶詰めされた完成品も並んでいた。そこではハイディが二十代半ばほどの男性に叱られており、その男性ヨゼフはハイディの夫であり、実質的な工房の跡取りであった。ビアスは今日は客の相手をさせるのだと説明し、ヨゼフも渋々ながらそれを受け入れた。

植物紙用インクの買い取り
マインは、まず完成している植物紙用インクを買い取るために来たことを伝えた。ヨゼフは、作ったものの買い手がなくて困っていたらしく、安堵した様子を見せた。ルッツがギルベルタ商会のダプラとして親方からインクを買い取り、そこからマイン工房に売るという手順で取引が進められた。

色インク素材の検討と油の選別
その後、マインはハイディに呼ばれて色インク用の素材が集められた場所へ向かった。そこには粉末状にされた多様な素材だけでなく、数種類の油も揃えられていた。ハイディは片っ端から集めてみたのだと説明し、マインも乾性油の代用品を探していたため意気投合した。マインが乾性油が必要だと説明すると、ハイディは亜麻仁油以外にも向いていそうな油をすぐに挙げ、マインはそれを慌てて書字板に記録した。

予想外の発色と異世界の法則
まず黄土のような素材を使って黄色と茶色の中間色を作ろうとしたが、油と混ぜた結果は予想と全く異なっていた。ある油では青空のような鮮やかな青になり、他の油では赤や青緑に変わるなど、油の種類によってまるで別の色が現れたのである。唯一、アイゼという油だけがマインの予想した黄土色に近かった。誰もが驚く中、マインは理由はわからなくても色数が増えるなら歓迎できると前向きに受け止めた。

研究への姿勢の違い
ヨゼフは予想以上に前向きだと驚いたが、マインにとって重要なのは原因の解明ではなく、望む色が作れるかどうかであった。一方でハイディは、こうした不思議がなぜ起こるのかを知りたくてたまらない性質であり、ルッツにまでその興味を共有させようとした。だが、マインは理由より結果を重視し、まずはできる色の組み合わせを増やす方が大事だと考えた。

試行錯誤の末に見えた難しさ
さらに、予想通りの色が出たアイゼに別の青い粉を混ぜると鮮やかな黄色になるなど、素材と油の組み合わせによる変化はますます複雑であった。菜の花畑を描くには便利な色でも、求めていた青ではない。大量の素材と五種類の油を前に、マインは自分の知識とこの世界の常識の間に大きな隔たりがあることを痛感した。色インク開発は簡単ではなく、思った以上に難しいと悟りながら、結果を書き留めた書字板を睨みつけた。

色作り研究中

実験結果の整理と傾向の発見
作り上げた色インクの瓶には、それぞれ油と素材の組み合わせを書いた木札が付けられ、木箱に整然と並べて片付けられていった。その日の実験は、数時間に及ぶ作業でヨゼフとハイディの腕が限界に達したことと、昼が近付いたこと、さらに書字板が二人分とも実験結果で埋まったことを理由に終了となった。マインは二枚の書字板を見比べながら、色の変化が予測しにくいことに難しさを感じていたが、ハイディはこうして記録を残せるだけでも大きな進歩だと喜んだ。字を書けないハイディにとって、これまでは結果を全て記憶するしかなく、マインの記録力は大きな助けとなっていた。

互いの長所を認め合う関係
マインがハイディの記憶力を称賛すると、ヨゼフはそれが実験以外では活かされないことを残念がった。一方、ルッツは本に関わる時だけ異様な集中力を見せるマインと同じだとからかい、ヨゼフとルッツは互いに肩を叩きながら苦労を分かち合うような様子を見せた。マインは、こうして気の合う相手がいることが毎日を少し楽しくするのだと感じていた。

ギルの願いとヨハンへの注文
工房を後にしようとした時、ギルは少し躊躇いながら、自分も書字板が欲しいと打ち明けた。マインは以前、字が読めるようになったら作ってあげると約束していたことを思い出し、すぐにヨハンの鍛冶工房へ寄って鉄筆を注文することにした。工房では親方が相変わらずヨハンをグーテンベルクと呼んでからかっており、ヨハン本人は涙目で抗議していた。マインが鉄筆の追加注文をすると、ヨハンは金属活字以外の仕事が久しぶりすぎて、心から嬉しそうな顔を見せた。マインはその様子に少し罪悪感を覚えつつ、今後は金属活字以外の注文も持ってくると約束した。

家での整理と色の法則の発見
その後、ルッツに背負われて家へ帰ったマインは、母と昼食を取った後、自分とルッツの書字板に記した実験結果を失敗作の紙へ書き写していった。表として整理し直してみると、完全に無秩序だと思っていた結果にも一定の傾向が見えてきた。亜麻仁油は青系、ミッシュは緑系、ペードは赤系、アイゼは黄色系へ変化しやすく、トゥルムは不規則ながらパステル調になることが多いとわかったのである。例外はあるものの、素材の組み合わせ次第でかなり多くの色が作れそうだという手応えが見えてきた。

カミルへの思いと新たな着想
母がカミルを抱いて寝室から戻ると、マインは自分がカミルのために絵本を作るため、綺麗な色のインクを作っている最中だと説明した。しばらくカミルと触れ合い、その寝顔を見送った後、マインは表を眺めながら、馴染み深いパルゥ油が実験に含まれていないことに気付いた。そこで、パルゥ油も試す価値があると考え、さらに作ったインクを紙に塗った場合の変色や、時間が経った後の変化、重ね塗りの結果も確かめる必要があると思い至り、次に調べるべきことを書き出していった。

パルゥ油の実験と期待
翌日は神殿で日常の務めをこなし、その次の日にマインは冬に残していたパルゥ油と紙や筆を持って、再びインク工房へ向かった。工房の前ではハイディが待ち構えており、マインがまとめてきた実験結果の表を見せると、文字が読めず大半を理解できないことに落胆しつつも、内容には大いに興味を示した。そして、マインが新たに試したいこととしてパルゥ油を提示すると、ハイディは面白い結果になるかもしれないと大いに乗り気になった。実際にパルゥ油へ赤と青の素材をそれぞれ混ぜてみると、これまでのような妙な変色は起こらず、思った通りの鮮やかな色がそのまま現れた。マインもハイディもその結果に感動したが、パルゥは冬の晴れ間にしか採れず、量産には向かないため、優れた素材でありながら気軽には使えないことを惜しんだ。

紙による発色の違いと限界
次に、それまで作ってきたインクをフォリン紙やトロンベ紙に実際に塗ってみることになった。すると、紙の種類によっても発色が異なることがわかった。トロンベ紙では作った時の色がほぼそのまま出たが、フォリン紙では色が少しくすみ、乾くにつれてさらに変色が進んでいった。マインは、今後絵本を作るのが主にフォリン紙である以上、その紙に合わせて色を調整する必要があると考えた。美しく見えていた赤も、乾けばどす黒い赤茶に変わり、血痕表現には向いていても絵本には向かない色になってしまった。

重ね塗りの失敗と絵具の秘密
さらに色を重ねてみると、上から塗った青によって下の色が暗く沈み、黒に近い濁った色へと変わってしまった。完全な黒ではなかったが、鮮やかな色は一つとして残らず、誰もが絶句する結果となった。ヨゼフは絵具は単色で使うのが良さそうだと判断したが、ハイディはそれでは神殿のような絵画が描けるはずがなく、絵画工房の絵具にはまだ何か秘密があるはずだと考えた。マインも、色作りの先にはまだ知らない技術があることを思い知らされ、色インク開発はその段階では行き詰まりに達したと受け止めた。

母の助言による突破口
肩を落として帰宅したマインは、夕食を作りながらトゥーリに実験結果を報告した。そこへカミルに授乳していた母が、不思議そうに色を塗る時に定着剤を使っていないのかと問いかけた。マインは定着剤の存在を知らず、詳しく教えてほしいと頼んだ。母によれば、定着剤とは色を定着させるための液であり、布を染める時にも使われるものであった。グナーデという木の樹液にハイラインという花の茎を入れ、とろりとするまで煮詰めたものが原液となり、使用時には熱湯で二十倍ほどに薄めるのだという。紙にも使えるかはわからないと注意されながらも、マインはこれを大きな突破口として受け止めた。

定着剤の知識の補完
マインはすぐにルッツへ材料集めを頼んだが、ルッツもギルも、マイン自身が作業に加わることは許さなかった。そのため、マインは神殿でフェシュピールの練習後、仲間外れにされた悔しさをロジーナへ訴えた。するとロジーナは、絵を描くには定着剤が必須であり、それなしでは描けないとあっさり答えた。しかも、使い方はあらかじめ紙へ塗って乾かしておき、その上から絵を描くのが正しいのだと教えたのである。布を染める時の知識しか持たない母の情報に加え、絵画用の使い方をロジーナから得たことで、マインは必要な知識をようやく揃えることができた。

色インク完成への到達
母から定着剤の製法を聞き出し、ロジーナから使い方を学んだことで、マイン達はインクを塗ってもくすんだり、重ね塗りで黒く変色したりしない状態を作れるようになった。こうして、長く難航していた色作りの研究はようやく形になり、色インクは完成へと至ったのであった。

ロウ原紙に挑戦

色インク完成後の次なる課題
色インクは一応完成したものの、定着剤を使った紙の上でなければ重ね塗りが難しく、パレット上で混ぜれば黒くなる扱いの難しい代物であった。それでも一歩前進であることに変わりはなく、マインは安堵していた。一方、ハイディは原因究明をする前に完成扱いになってしまったことが不満で、楽しみを取り上げられた子供のように落胆していた。ヨゼフはそんなハイディをたしなめたが、マインは色を鮮やかにしたり色数を増やしたりするためにも基礎研究は重要だとして、必要なら研究費を出すと告げた。

新たなグーテンベルク仲間の誕生
マインが研究継続への出資を申し出ると、ハイディは大喜びし、ヨゼフは信じられないというような顔をした。マインは、自分が本を作るために必要な者達をグーテンベルク仲間だと考えており、金属活字のヨハン、植物紙のベンノ、本を売るルッツ、印刷機を作るインゴに加え、インクを作るハイディとヨゼフもその仲間に含めた。ヨゼフは意味がわからず戸惑っていたが、ハイディは仕事として研究を続けられることに飛び上がって喜んだ。

ロウ原紙に必要な薄い紙の難しさ
色インクの目途が立ったことで、マインは次にロウ原紙を作りたいと考えた。ロウ原紙があれば、版紙を切り抜くよりも簡単に文字や線を表現でき、ヴィルマの絵柄もより繊細に印刷できるからである。しかしそのためには、向こうが透けて見えるほど薄く均一な紙が必要であった。絵本用の厚めの紙なら作れても、薄い紙は破れやすく、まだ成功より失敗の方が多かった。トロンベなら比較的作りやすいが、希少で高価なため、版紙として大量に使うには向かなかった。

蝋工房への道筋がつく
薄い紙作りを工房に任せている中、数日後にルッツが、蝋工房と連絡が取れて明日の午後なら会えると知らせに来た。マインはそれを聞いて喜び、自分とギルの書字板に使う蝋も入れ直せると考えた。その夜、父に頼んでギル用の書字板の枠を作ってもらい、自分の古くなった書字板の蝋も削り取って準備を整えた。

蝋工房へ向かう道中の打ち合わせ
翌日、ベンノに迎えられたマインは、ギルやルッツと共に蝋工房へ向かった。移動中、マインは蝋の臭い消しの方法をいくらで売れるかを尋ねたが、ベンノはそれは一つの工房ではなく協会に売るべき内容であり、交渉は自分がするからマインは表に出るなと釘を刺した。ヴォルフのような存在がまた現れないとも限らないためである。今日の目的はあくまで書字板に蝋を流してもらい、各種の蝋を購入することだと確認しつつ、マインは改良なしでロウ原紙が作れれば理想だが、うまくいかなければ樹脂を混ぜた改良蝋を工房に相談したいと考えていた。

蝋工房での書字板作りと蝋の購入
蝋工房へ入ると、工房の中は熱気と獣脂の臭いに満ちていた。親方はすぐに応対し、マインとギルの書字板に最も安い蝋を流し込んでくれた。ギルは固まるまで触るなと言われながらもそわそわと見守っていたが、マインが以前固まりかけた蝋を指でつついて表面をぼこぼこにした話をルッツに暴露され、慌てて距離を取った。その後、ベンノは蝋燭ではなく、工房で扱っている蝋を全種類小箱一つずつ欲しいと注文した。親方は驚きながらも了承し、すぐに用意できる二種類をその場で渡し、残りは翌日店へ届けると約束した。

工房での作業に向けた説明
ギルベルタ商会へ戻ると、マインはベンノと代金のやり取りを済ませ、塩析の方法を書いた紙も渡して、今後の蝋協会との交渉を任せた。そこから神殿へ戻ろうとしたところで、ルッツが工房で何をどうするのか説明が足りないと引き留めた。マインは、薄く作った紙に蝋を細かく削って散らし、その上からアイロンをかけて蝋引き紙を作るのだと説明した。だが、ルッツにはアイロンが通じず、ベンノが富豪の家や服飾工房で使う、木炭入りの火のしのような道具だと補足した。

道具不足と新たな問題の発覚
アイロン自体は服飾工房などで使われているが、扱いが難しく、周囲を汚しやすいという問題があった。そのためマインは、形を少し改良したものをヨハンに頼んでみようと考えた。するとルッツは、紙作りの時と同じように、今回もやる気と知識だけあって道具が足りない状態ではないかと指摘した。そこでマインは、蝋を削るための茶こしのようなものは雑貨屋で買えるし、蝋引き紙を作るだけならなんとかなると考えたが、途中で簡単な作り方に必要なクッキングシートが存在しないことに気付いて青ざめた。

代用品の検討と必要な追加道具
クッキングシートが使えない以上、代わりに普通の紙で挟んでも大丈夫ではないかとマインは考えた。多少蝋を吸着させる働きもあるはずだと希望的に判断しつつ、ロウ原紙として使えるかどうかを試すには、ガリ版用の鉄筆とやすりも必要だと説明した。それらはどちらもヨハンの担当範囲であり、結局また鍛冶工房の助けが必要になることが明らかになった。ベンノは、マインに関わるグーテンベルク達は皆大量の仕事に埋もれて大変な思いをしているのだから、少しくらい労いの言葉があってもよいだろうと迫った。

労いを求められるマイン
突然ベンノとルッツに厳しい目で見つめられたマインは、求められている言葉がすぐに思い浮かばず混乱した。ようやく今の自分があるのはルッツとベンノのおかげであり、これからもよろしくお願いしたいと叫んだが、二人が求めていたのは感謝よりも労いの言葉であったため、ベンノから頭をぐりぐりされて涙目になった。それでもマインは、カミルと一緒にいられる時間には限りがある以上、絵本作りに関して自重するつもりはなく、むしろもっと急ぎたいと思っていた。

ヨハンへの新たな依頼
その後、ギルの鉄筆を引き取りに行った際、マインはヨハンへ、自分の知っている形を元にしたアイロンと、ガリ版用の鉄筆、さらにガリ版用のやすりの設計書を渡した。それらが全て印刷のための道具だと知ったヨハンは、もうグーテンベルクという呼び名から逃れられないことを悟りながらも、涙を流して喜んでいた。

デリアの進歩

次の絵本制作への切り替え
ヨハンにロウ原紙用の道具を注文したものの、完成まではまだ時間がかかる状況であった。その一方で、次の絵本に使うヴィルマの絵はすでに仕上がっており、題材は春をテーマにした水の女神フリュートレーネと十二の女神の物語であった。今回の版紙は色インク完成前から白黒を前提に作られていたため、マインは道具の完成を待たず、先にこの絵本を白黒で作ってしまおうと考えた。しかし、印刷機の使用は神官長に禁じられているため、ルッツに止められ、従来通り版紙を切り抜く方法で進めるしかなかった。

ヴィルマへの相談を決意する
ルッツは、版紙作りより先にやるべきことがあるとして、色インクが完成したことをフランと神官長に伝え、今後の絵本では色インクを活かした絵を描いてもらうためにヴィルマへ知らせる必要があると指摘した。マインもその意見に納得し、午後から孤児院へ行ってヴィルマと話をすることを決めた。

赤子用のおもちゃを用意する
孤児院へ向かう途中、マインは通りで子供を背負う母親を見て思いつき、トートバッグから木の筒と小石の袋を取り出した。木の筒に小石を入れて蓋をし、膠で留めれば、赤子向けのガラガラになるのである。カミルとディルクのために二つ用意しており、本当は色も付けて可愛くしたかったが、赤子が口に入れる物にインクを塗ることには抵抗があった。するとルッツは、どうせ長く使う物ではないのだから、口に入れても問題ない素材で作られた色インクを使えばよいと助言し、午後までに仕上げて届けると引き受けた。

ディルクに夢中なデリア
神殿へ戻ると、ロジーナはフェシュピールを持って待ち構えており、マインはまず着替えることになった。デリアは急いで着替えを済ませると、すぐさまディルクのもとへ戻っていった。その時のデリアは、マインが今まで見たこともないほど柔らかく愛情に満ちた笑顔を浮かべており、ディルクに完全に夢中になっていた。寝返りしそうなディルクを見ながら、デリアはさすが自分の弟だと誇らしげに語り、その様子からも可愛がりようがよくわかった。

ヴィルマとの引き継ぎと今後の課題
やがて孤児院の朝の仕事を終えたヴィルマがディルクを迎えに来た。マインは、今日は午後に絵本の件で孤児院へ行くことを伝えた上で、デリアとヴィルマの間で、夜の様子や授乳量、次の授乳時間の見込みなどについて引き継ぎを行わせた。育児経験のある灰色巫女がいなくなった今、乳児を預かった際の対応を今後の孤児院運営の中で整えていかなければならず、いつまでも側仕え達にだけ負担をかけ続けるわけにはいかないという思いが、マインの中で強まっていた。

ディルクと離れたくないデリア
ディルクが孤児院へ連れて行かれる時、デリアは何度も撫でながら名残惜しそうに手放した。ディルクがいなくなると元気をなくすデリアとは対照的に、ロジーナは少しほっとしたような表情を見せた。午後の休憩時間を取るようになったことで、フランとロジーナの疲れは多少軽くなっていたが、それでもまだ疲労は残っている様子であった。

完成したガラガラの受け取り
昼食後、ルッツが完成したガラガラを持ってやってきた。少し暗い赤に塗られたそのおもちゃを振って見せると、マインは喜んで受け取った。カミルはまだ反応する月齢ではないため、まずはディルクで試して反応を確かめたいと考えた。また、ルッツはベンノに紙も注文してきており、版紙さえ揃えばいつでも印刷に取り掛かれる状態だと報告した。

側仕えなしでは出られない現実
マインはガラガラの一つをトートバッグへしまい、もう一つを持って孤児院へ向かおうとしたが、ダームエルに、一人の伴も連れずに外出するとは何事かと叱られた。護衛であるダームエルは伴には数えられず、淑女である以上、側仕えを連れずに部屋を出てはならないという。そこでマインは、デリアに孤児院まで伴をするよう命じるしかなかった。デリアは嫌だと言いたくても言えず、強張った顔のまま先頭を歩き始めた。

孤児院の扉を開く試練
孤児院の前まで来ると、デリアはそこまでで戻ろうとしたが、ダームエルに扉を開けていけと厳しく言われた。騎士や主に扉を開けさせるわけにはいかない以上、側仕えであるデリアが開けるしかなかったのである。真っ青な顔になったデリアは、目を固く閉じて歯を食いしばりながら、震える手で重い扉を押し開けた。そこには食堂が広がり、奥の大きなクッションの周囲には灰色巫女達とディルクがいた。

デリア、孤児院の中へ踏み込む
扉の音に気付いた灰色巫女達が一斉に跪き、デリアは孤児院の光景を見ないよう俯いたまま戻ろうとした。ところがその瞬間、寝返りに成功しかけたディルクがクッションから転がり落ちそうになっているのを見つけ、デリアは思わず駆け出した。滑り込むようにして腕を差し出したデリアと、初めて寝返りに成功するディルクの動きはほぼ同時であった。デリアは慌ててディルクをクッションの中央へ戻し、怪我でもしたらどうするのかと眉を吊り上げて叱った。

お姉ちゃんとしてのおもちゃの贈り物
マインは、これで孤児院へ入れたのだから、いっそデリアがディルクを見ればよいのではないかと考えた。そして、持ってきた赤いガラガラをデリアに渡し、初めてのおもちゃはお姉ちゃんからあげるのがよいと思ったのだと告げた。デリアは一瞬ためらったものの、結局そのガラガラを受け取り、ディルクの目の前で振ってみせた。ディルクは大きく目を開き、音と赤い色の動きをしっかりと目で追っていた。その反応を見て、カミルにもきっと喜ばれるとマインは確信した。

孤児院への慣れの始まり
周囲の灰色巫女達も、赤子とおもちゃの様子を興味深そうに見守っていた。だが、自分が孤児院の中にいることを改めて意識したデリアは、顔を赤くしてマインを睨み、ディルクを灰色巫女に託すと、そのまま孤児院を飛び出していった。マインは、一度中へ入れたのだから、ヴィルマと同じように少しずつ慣れていけば、いずれ孤児院にも出入りできるようになるのではないかと考えた。

ディルクと離れる将来への懸念
ヴィルマは、孤児院が苦手だというデリアが大丈夫なのかと気にかけた。マインは、デリアが怖れているのはかつて自分がいた地階の記憶であり、今の孤児院はすでに別の場所なのだから、少しずつ実感して慣れていけばよいのではないかと答えた。そして、ディルクが夜眠れるようになれば、やがて洗礼前の子供達の部屋へ移されるため、デリアが孤児院に入れないままだと可愛い弟と会えなくなることも懸念していた。ヴィルマもまた、毎日ディルクを引き取りに来る時のデリアの様子から、その別れがどちらにとっても悲しいことになると感じていた。

ヴィルマの役割と子供達への愛情
マインは、ヴィルマにはロジーナやフランのような疲労の色が見えないことに気付き、その理由を尋ねた。ヴィルマは、自分がディルクの世話をするのは昼だけで、一人で抱え込んでいるわけではないからだと答えた。その一方で、幼い子供達の中には、ヴィルマがディルクに手を取られていることで赤ちゃん返りのようにべったりする子もいるらしい。それでもヴィルマは、自分も洗礼式までの間は地階で母に可愛がられた記憶があるからこそ、母を失った子供達にも愛情を注ぎたいと思っており、皆が自分を母親のように思ってくれたら嬉しいと穏やかに語った。マインは、そんなヴィルマを孤児院の管理者にできて本当に良かったとしみじみ感じた。

絵本の打ち合わせと孤児院の安定
その後、マインはヴィルマと絵本について話し合った。新しい絵本を印刷するため版紙を受け取り、色インクが完成したことも伝えた。そして、これから先は色インクを活かした絵を考えてほしいこと、ただし今の孔版印刷では色ごとに版紙が必要であること、さらに将来的にはロウ原紙でより繊細な絵が描けるようになることも説明した。ヴィルマは、本当に本が好きなのだと感心しつつ、自分も精一杯絵を描くと応じた。話が終わる頃にはディルクがお腹を空かせてぐずり始めたが、ヴィルマがいなくても灰色巫女達が手早くヤギの乳を準備しており、世話の流れも少しずつ安定してきていることが窺えた。マインは、皆の邪魔にならないよう早めに部屋へ戻ることにし、ヴィルマを伴として孤児院を後にした。

それぞれの言い分

フランとデリアの衝突
孤児院から部屋へ戻る途中、マインはデリアの甲高い怒鳴り声を聞きつけた。部屋へ急いで戻ると、そこではフランとデリアが言い争っており、デリアは神官長は信用できないと感情的に訴え、フランは冷静に神官長は信用に足る人物だと言い返していた。マインが声をかけると、フランはすぐに取り繕ったが、デリアはわたしの方へ駆け寄り、ディルクを養子にやるとはどういうつもりかと怒鳴りつけた。

事情説明のための場を整える
何が起きているのか理解できなかったマインは、まず双方の言い分を詳しく聞くことにした。ヴィルマは孤児院へ戻し、デリアにはお茶を淹れさせて少しでも気持ちを落ち着けさせようとした。二階へ上がると、昼寝を邪魔されたらしいロジーナまで起こされており、部屋の空気は悪かった。マインはロジーナを休ませた上で、まずフランから事情を聞くことにした。

アルノーの伝言の内容
フランの話によると、孤児院から戻ってきたデリアが、神官長からの伝言を持ってきたアルノーと途中で会い、そのまま一緒に部屋へ戻ってきたらしい。ちょうど休憩中だったフランは叩き起こされて応対することになったが、アルノーの用件自体は単なる伝言でしかなかった。内容は、神官長がディルクの養子先を探してみたものの、やはり難しく、気を落とさず孤児院で養育するようにというものであった。

神官長の意図を誤解するデリア
フランの説明からすれば、神官長はマインの最初の相談を受けて律儀に養子先を探してくれただけであった。しかしデリアは、なぜ神官長の口からディルクを養子にやる話が出るのかと怒りを募らせ、マインの家族を引き離したのに続いて、自分とディルクまで引き離そうとしているのではないかと考えていた。神官長を尊敬するフランにとって、その言い方は到底看過できず、二人の対立が激しくなっていたのである。

マインの説明とデリアの動揺
マインは、子供を育てられる灰色巫女がいないこと、乳母も雇えないこと、フランやロジーナの負担も大きいことから、もし養子に欲しがる者がいれば、その方がディルクにとって幸せではないかと考えて神官長に相談したのだと説明した。デリアは、自分がディルクの面倒を見たがらなかったのはほんの最初だけだと反論しかけたが、それに対しマインも、相談したのはそのほんの最初の時期だったのだと返したことで、デリアは言葉に詰まった。

デリアの不安の解消
マインはさらに、今はデリアがここまでディルクを可愛がってくれるとは思っていなかったからこそ養子の話をしたのであり、今となっては養子縁組の話が流れて良かったと思っていると告げた。アルノーが持ってきた伝言も、このまま孤児院で育てるようにという内容であったため、デリアはようやく肩の力を抜いた。そして、マインが自分とディルクを引き離すつもりはないのかと不安げに尋ねると、マインは家族と離れたくない気持ちは自分自身がよく知っていると答え、デリアがディルクを大事にしていることも理解していると伝えた。これを聞いたデリアは、初めての家族だから絶対に離れたくないのだと本音をこぼした。

蝋引き版紙による工夫
その後、デリアが納得してから十日ほど経ち、ヨハンに頼んでいた道具のうち、最も形がわかりやすかったアイロンが完成した。そこで、二冊目の絵本の印刷を始める前に、版紙へ蝋引きをして強化することになった。ガリ切りに使うわけではないため、多少蝋が厚くても問題はなく、耐久性を高めて何度も使えるようにするのが狙いであった。ルッツは、神官長から細々と作れと言われていたのではないかと疑問を呈したが、マインは再利用できれば結果として細々と長く使えるのだと言い返した。

ヴィルマの負担を減らしたい思い
実際にはマインは絵の版紙を何度も使えるようにしたいという思いが強かった。文字は将来的に活版印刷に置き換えられるが、絵は描き直しになってしまうためである。ヴィルマが描き、繊細に切り込んだ絵の労力を知るルッツは、結局苦い顔でそれを認めた。絵の版紙だけを蝋引きした上でギルへ預け、印刷作業そのものはすでに工房へ任せられる体制が整っていた。

忙しい日々の中で考えること
ギルに工房を任せられるようになったことで、ルッツの手には少し余裕ができ、マインは神殿に行く日と下町へ出る日を交互にしながら忙しく動いていた。イタリアンレストランの進捗確認、インク工房での研究結果の整理など、やるべきことは多かったが、その頭の中を占めていたのはやはりカミルのことであった。ディルクは木をくり抜いたガラガラを気に入っているものの、自分で持とうとして顔に落として泣くらしい。そのため、カミルにはもっと柔らかく、安全なおもちゃを作ってあげたいと考えていた。

鈴の注文とヨハンの誤解
マインは、手に握れるぬいぐるみ型のガラガラを作るためには鈴が欲しいと思いつき、ルッツとダームエルを連れて鍛冶工房へ向かった。丸い鈴はこの世界では一般的でないらしく、ヨハンにその場で設計図を描いて見せながら注文した。切り込みは飾りではなく音を響かせるために必要であり、中玉が落ちない程度の大きさで作るように頼んだ。これが赤ちゃんのおもちゃ用だと知ると、ヨハンは印刷以外の注文は初めてだと嬉しそうに笑い、マインは本にしか興味がないわけではないのだと一瞬安心したようだった。しかし、ルッツに即座に本にしか興味はないと断言され、結局グーテンベルクの称号から逃れられないことを思い知らされて落ち込むことになった。

東門の非常事態
その帰り道、突然非常事態を知らせる鐘が鳴り、東門の上に赤い救援信号が上がった。真っ先に反応したダームエルは、険しい顔でマインを担ぎ上げると、入り組んだ下町の道を迷いなく駆け抜けて家まで送り届けた。母を半ば押しのけるように家へ入り、騎士団の助けを要する事態が東門で起こったと告げる。赤い信号の光が細かったことから、荒事ではなく騎士の判断を必要とする問題だと思われたが、念のためマインの安全が確認できるまで家で待機すると決めた。

父の持ち帰った真相
やがて騎士団からダームエルへ呼び戻しの魔術が届き、彼はマインに絶対に家から出ないよう念を押して去っていった。その夜、春から東門勤務になっていた父が帰宅し、騒動の内容を語った。余所の領地の貴族が街へ無理やり入ろうとして騒ぎを起こしたのだという。春から規則が変わり、領主の許可なき他領の貴族は街へ入れなくなったが、それを知らない貴族が平民の門番に止められて激怒したのであった。父は預けられていた魔術具を使って騎士団へ救援信号を送り、騎士団が駆けつけて説明した結果、その貴族は文句を言いながらも帰っていったらしい。

父の決意とマインの安心
父は、貴族の起こす問題は貴族に解決してもらうのが一番だと語り、門番として門を守り、危険な貴族を街へ入れないようにする決意を見せた。そして、マインにも護衛から離れず、くれぐれも身の回りに気を付けるよう真剣に言い聞かせた。門と街と娘を守るのだという父の言葉を聞いたマインは、緊急事態の話であるにもかかわらず、その頼もしさが嬉しくて思わず笑顔になってしまった。

いなくなった二人

家に籠もる日々とカミルへの贈り物
ダームエルの迎えが来ない日が続き、マインは井戸の広場に出ることすら禁じられたため、家に籠もって過ごしていた。その間、トゥーリと共にカミルのためのぬいぐるみ型のガラガラを作り、絵本の第三弾の内容も考えていた。トゥーリは自分の作ったガラガラをコリンナの娘レナーテへの贈り物にするつもりでおり、マインもいずれコリンナの家へ遊びに行くことを考えていた。

鈴入りガラガラの完成とカミルの反応
三日目の夕方には、ルッツがヨハンの作った鈴を持ってきた。マインはそれをぬいぐるみの中へ縫い込み、カミル用のガラガラを完成させた。振ると布の向こうから可愛らしい鈴の音が響き、耳元で鳴らされたカミルは瞬きをしながら音のする方を探るような反応を見せた。自分の作ったものに反応してくれたことにマインは喜んだが、その直後に泣かれてしまい、弟に懐かれる道のりはまだ遠いと感じた。

神殿への帰還と不穏な気配
家に籠もるようになって五日後、ようやくフランとダームエルが迎えに来た。出発前にダームエルは父へ、領主が中央へ行っているため新たな通行許可はしばらく下りず、偽物の許可証が出回るかもしれないから気を付けるようフェルディナンドから伝言があったことを告げた。神殿へ向かう道中、フランはいつになく厳しい表情をしており、マインが理由を尋ねても、後で話すとしか答えなかった。

静まり返った部屋と異変の発覚
神殿へ着き、いつものように自室へ戻ったマインは、部屋の中が異様に静かなことに気付いた。普段なら聞こえるディルクやデリアの気配がなく、代わりにロジーナが雑事をしている姿があった。デリアの姿を尋ねると、ロジーナは悲しそうに微笑みながら、デリアはもうここにはおらず、ディルクと共に神殿長のもとへ行ったと告げた。

デリアとディルク失踪の経緯
着替えを終えた後、ロジーナとフランから事情が語られた。前日の昼、フランとロジーナが休憩していた間に、ディルク用のクッションやおむつなどが部屋から消え、デリアの姿もなくなっていた。ロジーナが孤児院へ探しに行くと、ヴィルマから、デリアが家族だから連れていくと言ってディルクを引き取っていったと聞かされた。フランは神殿長の関与を疑い、神官長へ報告に向かう途中で、実際に神殿長と一緒にいるデリアとディルクを発見したのであった。

養子縁組という既成事実
マインが、洗礼前の孤児であるディルクをどうやって貴族区域へ連れ出したのかと問うと、フランはディルクはもう孤児ではないと答えた。神殿長の権限により、ディルクは余所の貴族と養子縁組させられていたのである。この領地の貴族との養子縁組には領主の許可が必要だが、余所の領地の形式で作られた書類であれば、この街の領主の許可を経ずとも有効になるらしく、ディルクはすでにその貴族の養子となっていた。

デリアの解任を決めるマイン
この事態を受け、フランはデリアを切り捨ててほしいと真剣に訴えた。主に断りもなく動き、結果として不利益をもたらした以上、もはや側仕えとして置いておくわけにはいかないというのである。ロジーナもまた、最近はうまくやれていると思っていただけに裏切られた思いが強く、デリアへの憤りを隠していなかった。マインは胸の痛みを抱えながらも、デリアを解任し、呼んでくるようフランに命じた。

神殿長側へ移ったデリアの主張
フランに連れられて戻ってきたデリアは、驚くほど機嫌が良く、神殿長があっという間にディルクの養子先を見つけてくれたのだと誇らしげに語った。しかもその養子先は余所の貴族であり、ディルクが成人するまでは神殿長が預かって育てることになっているため、自分とディルクは神殿長の側仕え用の一室で一緒に暮らせるという。孤児院長室と孤児院に生活の場が分かれてしまうマインのもとでは、いずれディルクと離れ離れになるが、神殿長のところならそれを避けられると、デリアは本気で喜んでいた。

解任の宣言とすれ違う感情
マインは、二人とも今のところ辛い思いはしていないのかを確認した上で、デリアを自分の側仕えから解任し、今後は神殿長の側仕えとして扱うことを告げた。デリアはそれをあっさり受け入れ、早くディルクのもとへ戻りたいとそわそわしていた。マインはせめて一言知らせを残してほしかったと不満を漏らしたが、デリアは神殿長に反対されるから黙って事を運ぶよう言われたのだと弁解し、それについては謝罪した。そして、朗らかな笑顔を見せたまま、ディルクのところへ戻っていった。

フランの警告と神殿長への不信
デリアが去った後も、マインはディルクとデリアの将来に不安を覚えていたが、ロジーナは本人が選んだことであり、すでに孤児でなくなったディルクに自分達がしてやれることはないときっぱり言い切った。そこへフランが跪き、これからはデリアに呼ばれても決して神殿長のもとへ出向かないよう強く注意した。実際、デリアを呼びに行った時、神殿長はマインを自ら呼びつけようと執拗に求めてきたらしく、以前は視界に入れることすら嫌がっていた態度とのあまりの違いに、フランは恐ろしさを感じていた。

東門騒動の真相と神殿長の思惑
さらにフランは、先日の東門の騒動で余所の貴族へ紹介状を出していたのが神殿長であったことも明かした。神殿長は冬の社交にほとんど招かれない立場にあり、領主が冬の集まりで発表した新しい規則を知らなかったため、以前と同じ感覚で余所の貴族を街へ招こうとしたらしい。しかし時期から見て、神官長はそれがディルクの養子縁組のためではないかと推測していた。ディルクを余所の貴族と縁組させた上で神殿長の手元に置こうとするその意図は不明であり、フランはマインに、今後はくれぐれも慎重に行動してほしいと強く願った。マインはその不安を受け止め、フランの震える手を握り返しながら静かに頷いた。

誘拐未遂

新しい側仕えの必要性
デリアがいなくなった後、フランは新しい側仕えを入れた方がよいと進言した。今すぐ人数が足りなくなるほどではないが、ロジーナは指を痛めるような雑事を避けたがるため、いずれ代わりの人員が必要になるというのである。さらにフランは、マインがなおもデリアを気にかけていることを指摘し、その情を別の者へ向けた方が周囲としても安心できると率直に告げた。マインはその言葉に詰まりながらも、新たな側仕えとして冬の間にエラをよく手伝っていたモニカとニコラを思い浮かべた。

モニカとニコラの採用案
モニカとニコラは、冬の間に料理の補助をしていたため働きぶりもわかっており、部屋の雑事だけでなく今後の厨房でも役に立つ存在であった。イタリアンレストランの開店が近づき、料理人達がそちらへ移る予定であるため、エラの補助としても二人は都合がよい。フランは二人同時に召し抱えて経済的に大丈夫かと気遣ったが、マインは冬の手仕事の追加注文や絵本の売れ行きを踏まえ、問題ないと判断した。どちらか一人だけを選べば、もう一方に冬の手伝いを頼みにくくなるとも考え、二人まとめて声をかけたい意向を示した。

突然の来訪とトゥーリの迎え
採用の話がまとまりかけた時、珍しく部屋の扉がノックされた。フランが一階へ降りて応対すると、そこにはルッツとトゥーリが来ていた。さらに少し遅れてギルも駆け込んできた。トゥーリは、危ないのなら自分がマインを守ると言って迎えに来たのであり、ギルも側仕えとして自分も守ると張り合った。しかしダームエルは、守る対象が増えるほど護衛は難しくなると呆れたように言い、マインもトゥーリにはもう迎えに来ないよう注意することを約束した上で、その日は皆で帰ることにした。

トゥーリを巻き込みたくないマイン
帰り道、マインはトゥーリに対し、危険な時に自分一人ならダームエルが守れても、トゥーリがいれば二人とも守れない場合があると説明した。緊急時には護衛対象である自分が最優先となり、トゥーリが置き去りにされたり、最悪の場合囮にされるかもしれないとまで言い含めた。トゥーリは不満そうにしながらも、それを理解して引き下がった。

オットーから知らされる東門の失態
職人通りを進んで家へ向かう途中、槍のような武器を持って辺りを見回しているオットーに出会った。オットーは、東門の士長と門番が父の怒りを買うような失敗をしてしまい、その尻拭いで駆り出されている最中だと語った。父は昼勤だというのに早い時間から東門へ出向き、各門の士長を集めて、領主不在のため新しい許可証は出ないことと、偽造許可証が出回る可能性があることを伝えていた。しかし父が東門へ戻った時には、すでに貴族の馬車が通された後だったのである。

偽造許可証を持った馬車の通過
門番達は、東門の士長から重要事項の伝達を受けていなかったため、その馬車の許可証が偽造である可能性を疑わなかったらしい。オットーの話を聞いたマインは嫌な予感に襲われ、ダームエルも馬車を通したという言葉に愕然とした。オットーによれば、その貴族は先日問題を起こした余所の貴族であり、まだ馬車は見つかっていないという。ダームエルは騎士団に連絡が入っていない可能性を知ると激怒し、その場で救援信号の赤い光を打ち上げた。

突然の襲撃とマインの拉致
その赤い光に少し安堵しかけた直後、トゥーリの姿が視界から消えた。振り返る間もなく、マイン自身も何かを頭から被せられて暗闇に包まれ、そのまま誰かに担がれて運ばれ始めた。麻袋のようなものの中でもがきながら助けを呼ぶと、ルッツやダームエルの叫び声、複数の追いかける足音が聞こえた。どうやらトゥーリも一緒にさらわれたらしく、大通りの喧騒が遠ざかっていく中、路地を走っていることがわかった。

父の追撃とマインの救出
やがてオットーの叫びと父の怒号が響き、マインを担いでいた男は攻撃を避けるためにマインを投げ出した。石畳に叩きつけられて痛みを覚えた直後、ルッツとギルに袋を引き剥がされ、マインはようやく明るい外に戻った。周囲を見ると、ダームエルが警戒し、父とオットーが武器を構えている一方で、トゥーリは別の男にナイフを突き付けられたまま人質にされていた。恐怖に顔を強張らせたトゥーリの姿を見た瞬間、マインの怒りは限界を超えた。

トゥーリを守るための威圧
マインはゆっくりと立ち上がり、トゥーリに刃を押し付ける男だけを睨みつけた。かつては視界に入る者全てに向けてしまっていた威圧も、神殿で奉納や儀式を重ねた経験により、今では目標を定めて向けられるようになっていた。男の顔色はみるみる赤から恐怖の色へと変わり、呼吸が止まりそうなほど追い詰められていった。マインがトゥーリから手を離さなければ死ぬと告げて圧力を強めると、男は泡を吹いて震え始めた。

父の反撃とトゥーリの解放
男の口がわずかに動いた瞬間、刃物が飛び、男の二の腕に深く突き刺さった。マインが驚きで理性を取り戻したのと同時に、父が短剣を握って男へ飛びかかった。威圧で動けなくなっていた男は避けることもできず、刃を受け、トゥーリは父に突き飛ばされるようにしてその場から解放された。ギルとルッツはすぐにトゥーリへ駆け寄り、返り血を拭いながら安否を確かめた。

魔術具の発動とさらなる危機
マインもトゥーリのもとへ向かおうとしたが、その時、別の男の指輪が光っているのを目にした。おそらく自分をさらおうとしていた男であり、その指輪の魔石に魔力が込められていることを瞬時に理解した。直後の展開は語られず、場面はすぐに切り替わるが、この時点でまだ危険が完全には去っていなかったことが示されていた。

神殿へ急ぐ決断
その後、父は店の前でトゥーリを降ろしながら、すぐに指示を出した。ルッツは一緒に行きたいと訴えたが、戦えない者は邪魔だと父に切り捨てられた。ギルは神殿の者であるため同行を許され、オットーにはトゥーリを任せることになった。父はマインを抱き上げ、騎士団がすでに動き始めていることを確認すると、そのまま神殿を目指して駆け出した。

他領の貴族

神殿での報告と神官長不在の判明
父に抱えられて神殿へ戻ると、フランが門の前で待っていた。騎士団への救援を求める赤い光を窓から見て、マインが戻ってくるかもしれないと考えていたのである。部屋へ着いた後、フランは、マイン達が帰った直後に父が神殿へ駆け込み、先日の貴族が街へ入ったらしいので神官長へ報告してほしいと伝えてきたことを説明した。しかし神官長は不在で、アルノーからは居場所も明かされなかったという。

デリアからの呼び出しと不穏な依頼
神官長に会えず戻ろうとしたフランは、途中でデリアに呼び止められた。ディルクの養父となった貴族が到着し、これまで世話をしていたマインから話を聞きたいと言っているという内容だった。フランは、マインはすでに帰宅したと答えて追い返したが、神官長不在の時に神殿長の部屋へ向かわせずに済んでよかったと安堵していた。マインが帰路で襲撃を受けたことも合わせて考えると、神官長は騎士団から呼び出されていた可能性が高いと判断された。

証拠品の指輪と神官長の部屋への移動
ダームエルが戻ると、現場に神官長の姿は見なかったと告げたため、一行はもう一度神官長の部屋へ向かうことにした。その前にダームエルは、襲撃犯が持っていた紋章入りの指輪を証拠品としてマインに預けた。質の悪い小さな魔石付きの指輪で、壊れかけているようだったが、少しだけなら魔力を籠められることも確認された。そこで、フランを先頭に、中央にマイン、その左右を父とダームエルが固める形で神官長の部屋へ急いだ。

神殿長とビンデバルト伯爵との遭遇
貴族区域を進む途中、先を避けたつもりだった神殿長一行に先回りされてしまった。神殿長の隣には、醜悪で肥え太ったビンデバルト伯爵が立っており、その周囲には灰色巫女や従者達が付き従っていた。ダームエルは、彼こそ許可証を偽造して街へ入り込んだ他領の上級貴族であり、おそらくマインを狙っている相手だと低く告げた。魔力差も身分差も大きく、今の自分では相手にならないと理解していたため、一行は神官長の庇護下へ急ごうとしたが、その道も塞がれていた。

契約の強要とデリアの誤解
神殿長はマインを指し示し、ビンデバルト伯爵に差し出した。伯爵はマインと契約してやると言い出し、マインがすでに約束があるとして断っても、先に契約してしまえば問題ないと嘲笑した。そこへディルクを抱いたデリアが現れ、マインも伯爵の養子になるのかと場違いに喜んだ声を上げた。だが伯爵は、平民を養子にするわけがないと鼻で笑い、ディルクと結んだのも養子縁組ではなく、身食いを一生従属させる契約だと明かした。命を守る魔術具を与える代わりに、ディルクは飼い殺しにされる立場であった。神殿長はそれでも、赤子は神殿のためにここで育てるのでデリアは一緒にいられると誤魔化し、実際にはディルクを差し出す代わりにマインを神殿から追い出す取引だったと語った。

戦闘の開始
神殿長が領主も神官長もいない今のうちにマインを勝手に連れていけと告げると、その場の緊張は一気に高まった。父はマインを降ろして前に出て武器に手をかけ、ダームエルも身分差に苦しみながら武器を抜いた。フランも短剣を取り出し、伯爵の私兵である三人の男が襲いかかってきた。ダームエルは二人を相手にし、残り一人を父とフランが相手取った。正規の訓練を受けたダームエルは私兵より強かったが、二人同時は厳しく、父とフランも武器では優勢でも魔力攻撃に苦戦した。

マインの魔力による援護
私兵の一人が父とフランへ魔力を放った瞬間、ダームエルが光るタクトでそれを弾いた。その動きを見て、伯爵と神殿長はダームエルが貴族であり騎士であることに初めて気付いたらしい。騎士団に知られた以上、一刻も早く消さねばならないと判断した伯爵は、自ら指輪に魔力を込めてダームエルへ向けて魔力の塊を放った。マインはそれを見て、咄嗟に自分の指輪へ魔力を籠め、白っぽい魔力をぶつけて伯爵の攻撃を逸らした。壁に当たった魔力は吸収され、傷一つ残さなかったが、マインは伯爵の遠距離攻撃ならばまだしも肉弾戦よりは対処しやすいと考え、必死に時間を稼いだ。

従属の指輪だと勘違いされる
伯爵は何度も魔力を放ちながらも、予想以上にマインが耐えることに苛立ちを募らせた。そして、マインの手にはまった指輪に気付くと、それを従属契約の指輪だと勘違いして笑い出した。本来、従属の指輪をつけた身食いは主に逆らえず、契約破棄がなければ外すこともできないはずだったからである。伯爵はそれなら無駄な争いは不要だとして従えと命じたが、マインはあっさりと指輪を外してみせた。壊れかけで契約もしていないため、本来の機能など果たせないことが明らかになり、伯爵は驚愕した。

ディルクを盾にした神殿長
伯爵が動揺した直後、神殿長は懐から黒い魔石を取り出し、デリアの腕からディルクを奪い取った。そして、ディルクから無理やり魔力を吸い上げた。顔色を失って痙攣するディルクにデリアは悲鳴を上げて手を伸ばしたが、神殿長はそれを振り払った上で、奪った魔力を用いてマインに攻撃を仕掛けてきた。マインは慌てて指輪をはめ直し、魔力を弾き返したが、神殿長はぐったりしたディルクを盾のように前へ突き出し、攻撃できるものならしてみろと嘲った。デリアも、ディルクを傷つけないでほしいと悲鳴混じりに懇願し、マインは威圧も攻撃も躊躇せざるを得なくなった。

イェニーの裏切りと拘束
その一瞬の隙を突いて、神殿長付きの灰色巫女イェニーが横合いから近付き、マインを捕まえた。イェニーは、神殿長に召し上げられて花捧げを強要される自分とは違い、ロジーナとヴィルマだけがマインに召し上げられて優遇されていることが許せなかったのだと囁いた。細身のイェニーの腕でも、非力な子供のマインには振りほどけなかった。そのままビンデバルト伯爵が近付き、契約書を広げて契約を迫った。シキコーザに刃を向けられた時と同じ恐怖が蘇る中、伯爵はナイフでマインの指先を深く切り、血判を押させようとした。

父の介入と伯爵の反撃
抵抗するマインのもとへ、父が渾身の蹴りでイェニーごと突っ込んできた。イェニーと伯爵がもつれた隙にマインは引き剥がされ、父に抱き上げられた。さらに父はイェニーの腹を蹴り上げて動きを封じ、神殿長達を冷たい目で見据えた。だが、怒りに顔を赤くした伯爵は指輪へ今までで最大の魔力を込め、至近距離から大きな魔力の塊を放った。逃げきれないと悟った父は、咄嗟にマインを腕の中へ抱え込み、横へ飛んで転がった。それでも完全には避けきれず、父の左肩から肘にかけてが火傷のように赤く腫れ上がった。

マインの全力の威圧
傷付いた父を見た瞬間、マインの中で何かが決定的に切れた。父の腕から転がり出ると、悠然と立ち上がっている伯爵へ向け、最初から全力の魔力を叩きつけた。すると、マインの指輪の魔石は耐えきれず粉々に砕け散り、威圧を直撃で受けた伯爵は信じられないという顔でその場に膝をついた。震えながら立ち上がろうとする伯爵へ、マインは一切の容赦を向けなかった。

黒い魔石による阻止
だが、その直後、神殿長が黒い魔石を取り出してマインの魔力を吸収し始めた。魔力は神殿長の手の中の魔石へ吸い込まれていき、得意げに笑う神殿長に対して、マインはそれでも魔力をぶつけ続けた。神殿長は、まさかここまでの魔力を持つとは思わなかったと呻きつつも、黒い魔石で対抗できることに余裕を見せた。一方、伯爵は威圧から立ち直り、こちらを侮る表情を完全に消した無表情で、再び光るタクトを取り出した。

黒いお守り

黒い魔石の崩壊
顔色を変えたダームエルが光るタクトを構え、マインとビンデバルト伯爵の間に立ちはだかった。その背中に守られながら、マインは勝ち誇ったように笑う神殿長へ魔力を注ぎ続けた。すると、黒い魔石には薄い黄色が浮かび始め、小さなひびが次々と走っていった。神殿長が驚愕する中、黒色は完全に失われ、淡い金色に変わった魔石は一度まばゆく光った後、砂のように崩れ落ちた。

神殿長への威圧とダームエルの倒下
魔石を失った神殿長は、血走った目でマインを睨みながら威圧を正面から受け、胸元を押さえて吐血した。マインはそのまま畳みかけようとしたが、直後にダームエルの苦痛に満ちた呻き声が響いた。振り返ると、ダームエルはその場に膝をつき、手からタクトを落として意識を失っていた。マインは慌てて駆け寄ったが、呼びかけにも反応はなく、苦しげな呼吸音だけが返ってきた。

父とフランの奮戦と神官長の登場
その間に父は最後の敵を床へ叩きつけて気絶させ、負傷した左腕を庇いながらマインのもとへ駆け寄った。フランも扉に寄りかかって荒い息を吐いていた。一方で、威圧を受けた神殿長は吐血してうずくまり、灰色巫女達はその周囲で狼狽えていた。惨状の中、突如として神官長の部屋の扉が開き、神官長が廊下へ出てきた。あまりに異様な光景に目を見開きつつも、すぐに神殿長へ事情の説明を求めた。

神官長の不在の正体
神殿長が、アルノーは不在だと言ったはずだと叫ぶと、神官長は平然と、会えないようにしておいたのだから嘘はついていないと答えた。神官長は説教部屋に籠もっていたため、外の騒ぎには気付いていなかったのである。その後、神官長は周囲の状況を見回しつつ、見覚えのない者が神殿内にいることを指摘し、ビンデバルト伯爵へ許可証の提示を求めた。だが伯爵は神官相手に名乗る必要はないと高圧的に応じ、神殿長も領主不在時に事を起こすつもりかと神官長を牽制した。

責任転嫁されるマイン
神官長が他領の貴族に許可が下りるはずがないと冷静に返すと、神殿長は言葉に詰まりつつも、責任はすべてマインにあると主張した。自分や伯爵へ魔力で攻撃したのだから、貴族への反逆罪として捕えるべきだと血を吐きながら訴え、伯爵もそれに同調した。神官長はそれを聞いた後、父の手を握るマインの前に立ち、また魔力を暴走させたなと静かに告げた。神殿長と他領の伯爵が相手では、マインだけでなく家族や側仕えまで罪に問われることになると説明し、マインは父へ謝罪した。だが父は、マインが神殿に入る時に死ぬ覚悟はしていたと笑って受け止めた。

お守りの正体
追い詰められた状況の中で、マインはジルヴェスターからもらった黒い石のネックレスを取り出し、助けてくれるという約束は何の効果もなかったと悔しさを滲ませた。すると神官長は、そのネックレスを見た途端に表情を変え、これは強力なお守りになると断言した。ただし、その力が意味を持つのはマインが覚悟を決めた場合だけだという。そして神官長は、その覚悟とはカルステッドではなく、ジルヴェスターの養女になる覚悟だと告げた。予想外の話にマインは驚いたが、家族や側仕え達を守れるなら受け入れると答えた。

神官長の反撃準備
マインが覚悟を決めると、神官長は黄色の石がはまった高品質の指輪を手渡した。そして、風に祈って自分の大切なものを神官長の魔力から守れと命じた。さらに、扉の外へ魔力が漏れないよう風の盾で覆うよう指示し、今こそ大義名分を得たので邪魔者を排除すると凶悪な笑みを浮かべた。その後、神殿長にはマインの魔力を封じる魔術具を与えたと偽って安心させた上で、光るタクトを取り出し、神殿長を光の帯で達磨のように拘束した。

ビンデバルト伯爵との対決
続いて神官長はビンデバルト伯爵に向き直り、正式な貴族であることを明かした。東門で騎士団の世話になった他領の伯爵の名を知らぬはずがないと告げ、この領地を出れば安全だと思うなと牽制した。伯爵も狼狽しながらタクトを構えたが、神官長が流し込む魔力の量は先程の伯爵とは比較にならないほど大きく、マインは思わず息を呑んだ。

風の盾による防御
マインは父に頼んでダームエルをフランのいる扉のそばへ運ばせ、自分はフランのもとへ走った。フランは傷や痣を負いながらも立ち上がろうとしたが、父はその働きを認め、鍛えれば強くなれると労った。マインはその三人を守るため、一歩前へ出て祈りの言葉を唱え、扉と自分達を包む風の盾を作り上げた。硬質な音と共に形成された盾へ魔力を注ぎ込みながら、マインは絶対に守ると心に決めていた。

デリアとディルクの救済
神官長と伯爵の魔力がぶつかり合う前から、周囲には威圧のような圧力と火花が散っていた。神殿長達はその場に硬直し、震えて動けなくなっていたが、デリアだけはディルクを守るように抱きしめ、必死に安全な場所を探していた。そしてマインの風の盾を見つけると、助けてほしいと悲痛な声で訴えながら、ディルクを抱えてこちらへ向かってきた。マインは助けに行く余裕はないが、盾の中へ自力で入るなら構わないと答えた。デリアは重い足取りで盾の中へ辿り着き、力尽きたように座り込んだ。命だけは助けるが、これまでの行動を許したわけではないとマインは釘を刺し、デリアもそれを受け入れた。

盾に拒まれた灰色巫女達
神殿長付きの灰色巫女達も盾の中へ入ろうとしたが、三人のうち一人しか入ることができず、残る二人は風に弾かれて吹き飛ばされた。風の盾は、守られている者に害意を持つ者を拒む性質を持っていたためである。マインは、ここにいる誰かへ害意を持つ者まで救う余裕も気持ちもないと静かに受け止めた。

ジルヴェスターとカルステッドの到着
一触即発の空気の中、背後の扉が開き、ジルヴェスターとカルステッドが姿を現した。マインは巨大な魔力の衝突を目前にして、二人へすぐに盾の中へ入り、扉を閉めるよう叫んだ。

騒動の責任

風の盾の中へ飛び込む二人
ジルヴェスターとカルステッドは、マインの叫びに即座に反応し、風の盾の中へ飛び込むとすぐに扉を閉めた。マインは中にいる者達を守るため、できる限り多くの魔力を注いで風の盾を強化した。

神官長と伯爵の魔力戦
神官長とビンデバルト伯爵の光るタクトから放たれた魔力は渦を巻くように激突したが、明らかに神官長の方が上回っていた。押し負けた伯爵は壁に激突して床へ叩きつけられ、火傷を負ったまま痛みにのたうち回った。一方、神殿長は拘束されていたため命は拾ったものの、間近で強大な魔力の衝突を見せつけられ、完全に怯えきっていた。巻き込まれた灰色巫女や倒れていた男達は、跡形もなく消し飛んでいた。

ジルヴェスターの指示と神官長の退避
伯爵を見下ろしながら神官長が証拠隠滅とはこうするのだと冷たく告げたところで、ジルヴェスターがもう十分だと制した。マインは指示に従って風の盾を消し、神官長もタクトを収めた。そしてジルヴェスターの顎の合図に従い、神官長は数歩下がって胸の前で手を交差させ、跪いた。その姿を見て、マインはジルヴェスターが単なる青色神官ではなく、神官長すら跪かせるほど高い身分の持ち主であることを思い知らされた。

アウブ・エーレンフェストの正体
カルステッドが前に出て、ジルヴェスターこそアウブ・エーレンフェストであると明かしたことで、ビンデバルト伯爵は激しく狼狽した。父にそっと尋ねたマインも、この街の名を持つ者は領主ただ一人だと聞かされ、愕然とした。これまでの言動からは想像もつかなかったが、ジルヴェスターは紛れもなく領主その人であった。

神殿長の弁明と責任転嫁
ジルヴェスターは、叔父である神殿長に事情説明を求めた。すると神殿長は、自分に都合のよいように話を盛り、ビンデバルト伯爵を招いたことも、騒動が大きくなったことも、ほとんどすべてマインの責任だと主張した。神官長が居留守を使って自分を罠にはめたとも言い立て、騒動の八割はマイン、残り二割は神官長のせいだと責任転嫁した。

伯爵の主張と偽造書類の露見
続いてビンデバルト伯爵も、自分は偽造書類だとは知らず招かれたから来ただけだと弁解し、街への不法侵入や襲撃とは無関係な被害者だと振る舞った。そして話題を変えるように、マインこそ危険で凶暴な平民であり、貴族に向かって魔力をぶつけて私兵まで減らしたと訴えた。しかしマインは、先に私兵をけしかけてきたのは伯爵の側であると即座に言い返した。

ディルクの契約書のからくり
マインはさらに、ビンデバルト伯爵がディルクと結んだ契約について、養子縁組だと騙して従属契約を結んでいたのではないかと指摘した。伯爵はそれを否定し、最初から従属契約であり、平民の孤児と養子縁組するはずがないと言い張った。だが神官長は、自分が見せられたのは養子縁組の書類だったと証言し、伯爵の顔色は変わった。平民や灰色巫女見習いの証言なら握り潰せても、神官長の証言は覆せなかったのである。

マインが領主の養女であることの宣言
そこでジルヴェスターは、ビンデバルト伯爵が平民の小娘だと見なしていたマインこそ、自分の養女であると明言した。首元の黒い石のネックレスを引き出してそれを証拠とし、すでに養子縁組の契約は済んでいると告げた。この時点で伯爵が主張していた、平民だからこそ罰せられるという論理は完全に崩れ去った。

マインによる被害の告発
ジルヴェスターに促されたマインは、自分が受けた被害を述べた。魔力攻撃だけでなく、下町での襲撃、従属契約の強要、そしてナイフで傷を付けられたことまで明かした。さらに、春の祈念式を襲った男達もビンデバルト伯爵の従属契約下にあった身食い兵だと考えられることを告げた。ジルヴェスターが祈念式の一行に同行していた以上、それは領主一行への襲撃であり、場合によってはアーレンスバッハからの宣戦布告と見なされかねない重大事であった。

伯爵の拘束と騎士団への引き渡し
ジルヴェスターは、ビンデバルト伯爵の罪状を街への不法侵入、領主の養女とその護衛騎士への攻撃と定め、さらに祈念式襲撃の件も含めて全容を明らかにした上で、アウブ・アーレンスバッハに意図を問うと宣言した。そして伯爵の身柄拘束を命じた。カルステッドは光の帯で伯爵を拘束し、貴族門を開けて待機していた騎士団へ引き渡した。意識を失っていたダームエルも回収されていった。

神殿長とジルヴェスターの決裂
その後、神殿長は床に転がされたまま、フェルディナンドの意見など聞き入れる必要はないことや、マインのような平民に騙されてはならないことを叔父として忠告した。これに対しジルヴェスターは、フェルディナンドは自分の弟であり、侮辱は許さないと明言した。さらに、叔父の罪を庇い続けてきた母にも責任があるとし、今回こそは肉親の情を捨てて領主として裁くと宣告した。

神殿長への裁定
ジルヴェスターは、神殿長がこれまで重ねてきた数えきれない罪を挙げ、今回はついに公文書偽造と犯罪幇助まで加わったと断じた。そして、神殿長は処刑、母は離宮へ幽閉とする方針を示し、自分の統治に叔父は不要だと言い切った。騎士達は命令に従い、ぐるぐる巻きの神殿長と、その側仕え達を次々に捕えていった。

デリアへの処罰を願うマイン
その中で、デリアにも捕縛の手が伸びた。デリアは一瞬だけマインと目を合わせると、諦めたようにディルクを差し出し、助けてほしかったと訴えたあの日と同じ表情を浮かべた。その姿に胸を痛めたマインは、ジルヴェスターへデリアの処刑だけは許してほしいと願い出た。デリアは伯爵と神殿長に騙されただけであり、行動に問題はあっても処刑されるほどではないと説明した。

領主の養女としての裁定
ジルヴェスターは、その願いを聞き届ける代わりに、領主の養女としてどのように裁くのか見せてみろとマインに迫った。気に入らぬ裁きなら処刑直行であることが、態度から明らかであった。マインは、デリアには二度と戻りたくないと言っていた孤児院に戻ってもらい、誰の側仕えにもならず、一生孤児院で過ごしながら孤児達の世話をする罰を与えると告げた。側仕えに召し上げられることが孤児にとって唯一の出世である以上、それを失わせることは十分な罰になると考えたのである。

デリアの受け入れ
ジルヴェスターは青ざめたデリアの表情を見て、その裁きでよいと認めた。マインが改めて、ディルクをはじめとする孤児達の世話がこれからの仕事だと告げると、デリアは不安を抱えながらもそれを受け入れた。だが、ディルクを抱きしめるその顔からは、処刑を免れた安堵と、今後への不安が入り混じっていることがうかがえた。

これからのわたし

デリアとディルクの帰還と残された課題
神殿長とその側仕えが連行される中、マインはディルクを抱いたデリアを孤児院へ送ろうとしたが、ジルヴェスターに制止された。優先されるのはマイン自身の処遇であり、話し合いが先であると告げられる。デリアは一人で孤児院へ向かい、マインはその背を見送った。

家族招集の命令と別離の前提
ジルヴェスターはギュンターに家族を呼ぶよう命じた。縁組の手続きのためであり、同時に最後の別れの機会でもあった。家族関係の断絶が前提となっていることは明白であり、ギュンターはそれを受け入れて動き出した。

領主達の本音が露わになる場面
側仕えが下がると、ジルヴェスターは疲労を隠さず、身内を裁く苦しさを吐露した。カルステッドはそれを戒め、まだ重要な局面が残っていると指摘する。マインはこの場が自分の人生を決定する場であると理解した。

貴族社会の血統と相続の仕組み
カルステッドが従兄であることが明かされ、跡取りは魔力量で決まるという貴族の常識が語られた。血筋よりも魔力が重視される社会であることに、マインは強い違和感と現実の重みを感じた。

カルステッドの娘という身分の付与
マインは一度カルステッドの娘となり、その後領主の養女になる方針が示された。亡き第三夫人の娘という設定が与えられ、平民出身である事実は覆い隠されることとなった。

洗礼式再実施と養子縁組の公表計画
洗礼式は改めて行われ、その場で養子縁組が公表されることが決まった。年齢の調整も含め、貴族社会へ自然に組み込むための準備が進められる。

神殿と下町を行き来する生活方針
マインは貴族としての役割と神殿での生活を両立することになる。本作りのために下町との繋がりは維持され、ギルベルタ商会との関係も継続されることになった。

神殿長就任という新たな立場
処刑される神殿長の後任として、マインがその座に就くことが決定された。実務は神官長が担うが、象徴としての責任はマインに課されることになる。

下町との接触許可と家族関係の断絶
下町の人間と会うことは許されたが、家族として接することは禁止された。父や姉とは仕事上の関係のみが認められ、家族という関係性は契約によって断たれることとなった。

決別

新たな名を定める話し合い
場が静まり返る中、神官長はカルステッドの娘として洗礼式を行うなら、名も改めるべきだと提案した。貴族には相応の長い名が必要であり、愛称としてマインを残せる形が望ましいとされた。マイン自身は咄嗟に適当な案しか出せなかったが、カルステッドが亡き第三夫人ローゼマリーの名を取ってローゼマインという名を示し、その名が採用された。こうして、マインは新しい身分にふさわしい新たな名を与えられた。

家族の到着と避けられない通告
神官長が改名と契約魔術の書類を整え終えた頃、フランに案内されてギュンター、エーファ、トゥーリ、そしてカミルが部屋へ入ってきた。トゥーリは無事なマインを見て駆け寄ったが、場にいるのが貴族ばかりだと知ると慌てて跪いた。人払いが済むと、ジルヴェスターはマインが今回の騒動を丸く収めるために自分の養女になること、そのため平民のマインは対外的に死亡したことにすると告げた。突然の宣告に、家族は誰もすぐには言葉を返せなかった。

トゥーリとの約束
自分が迎えに行ったせいで襲撃されたのではないかと、トゥーリは強い負い目を抱いていた。だがマインは、相手は最初から神殿にいて狙っていたのだから、トゥーリのせいではないと繰り返して否定した。その上で、自分が家族を危険に晒したくないからこそ、この別れを受け入れるしかないのだと伝えた。トゥーリは納得できずに涙を零したが、マインは契約しなければ今後は本当に顔も見られなくなると訴えた。するとトゥーリは、これからも孤児院へ遊びに行き、字を覚えてマインの作る絵本を読めるようになると約束した。マインもまた、絵本やおもちゃを作り続け、いつかトゥーリに自分の服を仕立ててもらいたいと願いを口にした。二人は泣きながら抱き合い、その約束を胸に、トゥーリは契約書へ署名した。

母からの別れの言葉
続いてエーファが立ち上がり、マインを抱きしめた。親の手を離れるにはあまりにも早すぎるとこぼしながらも、体調に気を付けること、周囲に相談すること、一人で勝手に突っ走らないことなど、いつものように細かな注意を繰り返した。その言葉は普段と変わらぬ母親の小言であったが、もう二度と同じ形では聞けないものでもあった。最後にエーファは涙を零しながら、無理だけはせず元気でいるようにと言い、愛していると告げた。マインもまた、母への愛情を返し、その後エーファは震える手で自分とカミルの名を書き、血判を押した。

カミルへの願い
マインは父に頼んで、スリングに入ったカミルを抱かせてもらった。まだ何も覚えてはいられないであろう弟に向かって、それでも絵本だけはたくさん作るから、いつかきちんと読んでほしいと語りかけた。そして、赤ん坊らしい匂いを胸いっぱいに吸い込み、その額に口づけを落とした後、再び母の腕へと返した。母は少しだけ躊躇いながらも、カミルの指先に浅い傷をつけ、その血を契約書へ押し付けた。

父との対話と誓い
最後に向き合ったギュンターは、傷付いた左腕を庇いながらも、右腕でマインを強く抱きしめた。守ってやれなかったことを詫びる父に対し、マインは父がずっと自分を守ってくれたことを知っていると伝えた。そして、もし結婚するなら父のように自分を守ってくれる人がよいと思っていると語った。ギュンターは、それなら父のお嫁さんになりたいと言うべきだと、泣き笑いのような表情で返した。マインがその通りに言うと、ギュンターはずっと娘に言われたかった夢が叶ったのに、その途端に娘を失うのが辛いと本音を漏らした。マインは、自分はこれから名前も立場も変わるが、それでも父の娘であり続けると伝え、いつか街ごと皆を守ると誓った。

家族への祝福
感情が溢れたその瞬間、神官長から借りていた指輪が光り始めた。マインはその魔力が家族を思う心から生まれたものだと悟り、家族のために使わなければならないと呟いた。そして、最高神と五柱の大神へ祈りを捧げ、愛する者達へ痛みを癒す力、目標に進み続ける力、悪意を撥ね退ける力、苦難に耐える力を与えてほしいと願った。薄い黄色の光が部屋に満ち、家族へ降り注ぐ。ギュンターの火傷は跡形もなく癒え、マインはその腕を撫でながら、自分の力を正しく使うと約束した。

契約の成立
祝福の後、ギュンターは震える手で契約書に署名し、血判を押した。マインは家族一人一人を見つめ、愛していると告げた上で、自らも二枚の契約書に署名した。ひとつは家族との関係を断ち切る契約書であり、もうひとつはマインからローゼマインへと改名するための契約書であった。ギュンターに浅く指を傷つけてもらい、その血を二枚の契約書へ押し付けると、契約書は金色の炎を上げて燃え尽きた。こうして契約魔術は成立し、その場にいたのはもはや平民のマインではなく、上級貴族の娘ローゼマインであった。

家族との決別
契約成立後、家族は揃って跪き、ローゼマインに向かって礼を取った。ローゼマインはもう皆と同じ目線に立ってはならず、家族として別れを告げることも許されなかった。それでも彼女は、自分なりの感謝と敬意を示すため、腰を九十度に折って深く頭を下げた。そして、また会える日があることを心より望むと述べた。かつて家族だった者達はその場を去り、部屋にはローゼマインとなった彼女だけが残された。

エピローグ

襲撃直後の避難と報告

ルッツはマインとトゥーリが襲われた直後、オットーと共にギルベルタ商会へ逃げ込んでいた。そこへ駆けつけたベンノに対し、ルッツはトゥーリが迎えに来た帰路で襲撃に遭い、相手がマインを狙っていたこと、ダームエルが応戦し、ギュンターとマインが神殿へ向かったことを順を追って説明した。さらに、ダームエルが騎士団を呼んでいたことも伝えたことで、事態がすでに大きく動いていることが明らかになった。

お守りの異変とベンノの察知

オットーは、マインが首から下げていたお守りに血判を押していたことを思い出し、窮地の際に誰かが助けてくれるものらしいと語った。その言葉を聞いたベンノはただちに何かを察し、最大級の守秘義務だと吐き捨てて階下へ向かった。ルッツには状況の全貌が見えず、自分にできることのなさだけが重くのしかかった。

待機を強いられたルッツの焦燥

神殿へ向かったギュンター達に対し、ルッツは同行を願い出たものの許されなかった。家族ではない以上、神殿へ行く資格はないのである。じっとしていても不安が募るだけだと判断したルッツは、せめて仕事をこなそうと店へ戻り、マイン工房の収支計算に取りかかった。マインの傍らにいられない現実に苛立ちながらも、置いていかれないためには働くしかないと自分に言い聞かせた。

祝福の光と手が届かない現実

仕事中、店の中へ突然光の塊が飛び込み、光の粉となってルッツ達へ降り注いだ。レオンだけを避けるように散ったその光は、やがて消えて何事もなかったかのように静まり返った。そこへ戻ってきたギュンター達は皆泣き腫らした目をしており、マインの姿はなかった。さらにギュンターの腕の火傷が治っていることから、その光はマインの最後の祝福であり、大事な者のところへ飛んでいったものだとわかった。ルッツはその時、すべてが自分の届かない場所で終わってしまったことを悟った。

マインの喪失とローゼマインという新しい名

ルッツがマインの行方を問うと、トゥーリは涙を零しながら、マインは貴族に取られてもういないのだと答えた。ベンノは、マインが死んだわけではなく、領主に取り込まれて上級貴族の娘ローゼマインとなったのだと説明した。家族を守るためにその道を選んだこと、そして家族として接することを契約魔術で禁じられたことも明かされた。ルッツはその事実に衝撃を受けたが、ベンノはマインだろうとローゼマインだろうと本質は変わらず、本を求めることだけは変わらないと断言した。そのため、自分達がすべきこともまた、本を作り続けることと、商売の関係を維持することに尽きるのだと示された。

家族との橋渡しという新たな役目

ベンノは、家族が直接マインに会えなくても、書類のやり取りの中に手紙を忍ばせることくらいは可能だと語った。契約魔術にも抜け道はあり、最低限の連絡は取れる見込みがあった。トゥーリはそれを聞き、手紙を書いたら届けてくれるかとルッツに頼み、ルッツはそれを引き受けた。こうしてルッツには、本作りだけでなく、家族とローゼマインを繋ぐ役目も生まれたのである。

偽りの死として営まれた葬式

帰宅したギュンターは、マインは余所から来た貴族に殺されたのだと周囲へ説明し、その前提で葬式の準備が進められた。遺体はなく、木箱にマインの服と簪が収められただけの簡素な葬儀であった。近所の人々は洗礼式やカミルのお披露目の時のことを語り合ったが、神殿へ上がってからのマインを知る者は少なく、語れることも限られていた。ルッツは本当ならば孤児院に工房を立て、本作りのために多くの人と関わり、インクや活字や印刷機まで生み出したマインの凄さを語りたかったが、それを口にすることはできなかった。

埋葬と父の墓碑

翌朝、神殿で死亡届を出し、洗礼式で登録したメダルを受け取った一行は墓地へ向かった。木箱を埋め、ギュンターは削っていた板にそのメダルを押し付けて墓碑とした。そこには「愛する娘」と刻まれていた。遺体すら戻らなかった中で、せめてもの形として父が残した墓標であり、それはギュンターの悔しさと愛情の象徴でもあった。

本当の喪失を知った朝

葬式が終わった翌日、ルッツはいつものようにマインの家へ向かった。だが、もう一緒に神殿へ行くことも、体調を気にしながら歩くことも、何かを一緒に作ることもないのだと、そこで初めて実感した。マインは生きていても、上級貴族の娘ローゼマインとなった以上、ルッツの知っているマインではない。その現実を突きつけられたルッツは、その場で涙を堪えきれず、トゥーリに頭を撫でられながら泣いた。

最後の約束を果たす決意

涙の中でトゥーリは、自分はコリンナの工房に入り、一流の針子になってマインの服を作るという最後の約束を果たすのだと語った。そのためにギルベルタ商会へ向かう決意を示し、マインの使っていたトートバッグを手に取った。ルッツもまた、マインと交わした、本を一緒に作ること、マインの考えた物を形にすることを思い出した。泣いている場合ではないと悟ったルッツは、マインが一日中本を読んで過ごせるだけの本を作るために、自分が進み続けなければならないと決意した。そうして二人は、それぞれの約束を胸に、玄関の重たい扉を開けて歩き出した。

それから貴族街へ向かうまで

フリーダ 貴族街訪問

魔石の変化と貴族街行きの決定

フリーダは就寝前、身食いの魔力を受け止めるために契約主から与えられているブレスレットの魔石の一つが透き通り始めていることに気づいた。それは魔力がかなり溜まってきた兆候であり、契約主であるヘンリックのもとへ赴く必要が生じたことを意味していた。翌朝、フリーダは祖父に面会の手配を頼み、今回の土産にはルムトプフを混ぜた新作のカトルカールを持参することを決めた。

マインへの不信と関心の高まり

フリーダは新作カトルカールの出来栄えに自信を持ちながらも、新しい商品を生み出すための発想源であるマインを捕まえられないことに不満を抱いていた。マインは神殿に入った巫女見習いであるにもかかわらず、植物紙、絵本、玩具、書字板など高利益の商品を次々に世に出し、大きな契約や共同出資にも関わっていた。にもかかわらず商人ギルドにはほとんど顔を出さず、存在だけを周囲に強く意識させていたため、フリーダは神殿で一体何をしているのかと強い興味を抱いていた。

貴族街への道と貴族社会の空気

ヘンリックから面会許可が下りると、フリーダは祖父と共に馬車で貴族街へ向かった。途中で下町用の馬車から貴族街専用の馬車へ乗り換え、ほとんど揺れない快適な移動をしながら、貴族街と下町の成り立ちについて祖父から聞かされた。北門では騎士達に許可証を示し、見下すような視線を向けられながらも、フリーダはそれを受け流せるようになっていた。将来貴族街で暮らす以上、この空気に慣れなければならないと理解していたからである。

ヘンリックとの面会と夕食への招待

館に到着したフリーダは、誠実で温厚な貴族であるヘンリックと挨拶を交わし、魔力の溜まったブレスレットを手渡した。ヘンリックはフリーダの体調を気遣いながら、後ほど夕食の席で会うことを告げて退室した。その後は祖父が執事と商談を始め、フリーダは夕食前の湯浴みと身支度をすることになった。貴族の湯浴みは長く熱く、彼女にとっては最も苦手な時間だったが、契約相手の館に泊まる以上は避けられない苦行でもあった。

騎士ダームエルとの思わぬ遭遇

夕食の席では下町の流通や教育の話、新作カトルカールの話題が交わされたが、途中でヘンリックは火急の用事を告げられて席を外した。その後、フリーダが案内された客間には本来置かれているはずの荷物がなく、寝台にはヘンリックによく似た面差しの男性が苦しげに横たわっていた。側仕えが確認に走った結果、その人物は任務中に大怪我を負って運び込まれたヘンリックの弟ダームエルであることが判明した。

祝福の光とダームエルの覚醒

部屋の中でフリーダが困惑していると、突如として窓から光の塊が飛び込み、寝台の上のダームエルの周囲で回り始めた。やがて光は粉のように散って彼の上へ降り注ぎ、その直後、ダームエルは飛び起きて巫女見習いの無事を問いかけた。フリーダにはその巫女見習いがマインであることがすぐに察せられた。ダームエルは状況を把握すると、自らの傷が癒えていることを確認し、なおも任務の途中だとして騎獣を呼び出し、夜空へ飛び去っていった。

マインへの疑念と真相の探索

ダームエルの言葉と負傷の経緯から、フリーダはマインが何か大きな騒動に巻き込まれている可能性を確信した。しかし貴族側に不用意に踏み込めば、自分にとっても不利益になる恐れがあるため、表立って事情を探ることは避けることにした。翌朝、ヘンリックから昨夜の一件について謝罪を受けた後、フリーダは帰宅するとすぐに商業ギルドの奥にある契約魔術関連の書類保管室へ向かった。

ローゼマインの名と養女化の察知

フリーダはマインが交わした契約書を探し出し、そこに記されていた名前がマインではなくローゼマインであることを知った。身食いの女子が改名している以上、それは単なる従属契約ではなく、貴族の養女として取り込まれたことを示していた。家族と離れるくらいなら死を選ぶとまで言っていたマインが、ついに貴族の側へ渡ったのである。フリーダは衝撃を受けつつも、その背後に街全体へ及びかねない大きな変化を感じ取り、事情を知るはずのベンノを呼ぶよう祖父に求めた。

ジルヴェスター 騒ぎの後始末

家族との別れを見届けたジルヴェスターの痛み

ジルヴェスターは、神殿長の断罪とローゼマインの家族との決別を同時に成し遂げた直後、自らの判断が正しかったのか確かめたくなるほど重い疲労を覚えていた。家族への感謝を込めて見慣れない礼をしたローゼマインの姿は、異なる世界の記憶を持つ子供であることを強く感じさせると同時に、家族を引き裂いた現実を容赦なく突きつけた。やがてローゼマインは張り詰めていた糸が切れたように倒れかけ、フェルディナンドが即座に抱きとめて薬を飲ませ、フランに自室へ運ばせた。

祝福の広がりとローゼマインの危うさ

フランの怪我が祝福によって癒えている様子を見たジルヴェスターは、ローゼマインの祝福がどこまで届いたのかを調べる必要を感じた。大事な者に何かあれば、彼女は強大な魔力を簡単に暴走させるとわかっていたからである。ローゼマインの身に起きたことと、その力の異常さは、今後の扱いを慎重に定めなければならない問題だった。

ブラウと重なるローゼマインの印象

フランが退出した後、ジルヴェスターはカルステッドに、ローゼマインが幼い頃に飼っていた虚弱なシュミルのブラウによく似ていると語った。黒と青の間の艶のある髪や金色の目、虚弱さ、そして自分よりカルステッドに懐くところまで重なって見えたのである。しかしカルステッドは、それはジルヴェスターが構いすぎて命の危険を与えていたせいだと指摘し、今度は手加減を間違えるなと釘を刺した。

神殿長更迭後の打ち合わせ

人払いの後、三人は今回の騒動の結果を整理した。マインの確保、神殿長の処刑、神殿長を庇ってきた母の隔離、さらにビンデバルト伯爵の確保まで果たせたため、成果そのものは大きかった。しかしジルヴェスターは、肉親を罠にはめ、家族を引き裂いた後味の悪さを隠せなかった。対してフェルディナンドは、神殿長にも母にも思い入れはなく、目的達成のために必要なことだったと割り切っていた。

ローゼマインの精神的不安定への懸念

一方でフェルディナンドは、家族を失ったローゼマインがしばらく精神的に不安定になるだろうと予測していた。神殿に籠るだけでも不安定だった彼女が、今回は家族との断絶まで経験したのである。ジルヴェスターは、自分は領主という立場上、養女であるローゼマインを甘やかすことはできないため、慰めや気遣いはフェルディナンドとカルステッドに任せると告げた。

祝福の異常性と教育の必要

三人は、ローゼマインが家族に与えた祝福の規模と内容の異常さについても話し合った。最高神と五柱の大神に一度に祈り、複数人へ祝福を与えるなど前例のない行為であり、しかも本人はそれを重大なことと理解していない。フェルディナンドは、彼女が元々異世界で成人するまで生きた記憶を持ち、高い学習能力によって魔力の圧縮や神具の扱いに慣れ、祈りと言葉を結びつけて祝福を成立させたのだろうと推測した。今後は魔術具を持って行動する以上、自己流の危険な使い方を防ぐためにも、正式に魔術の扱いを教える必要があるという結論に至った。

健康診断と今後の準備

ジルヴェスターは、ローゼマインの体に以前から気になる異常があることを踏まえ、貴族街へ移す前に神殿で内々に健康診断を済ませるよう求めた。貴族街に移してから騒ぎになるより、身内だけで確認して対処した方が安全だからである。ローゼマインは何事も普通に終わらないと皆が理解していたため、移動も教育も準備も慎重に進める必要があった。

ベンノへの説明と印刷業の取り込み

さらにジルヴェスターは、ベンノに渡すための書類を用意していた。そこには口裏合わせに必要な設定と、今後の予定が記されていた。ローゼマインをカルステッドの娘とし、神殿で秘匿されて育ったことにする筋書きは貴族街や神殿内では通用しても、下町では事情が違うため、下町の実情を知るベンノの力が必要だった。ジルヴェスターはすでにベンノと印刷業を領地の産業に育てる方向で話を通しており、植物紙、インク、金属活字、印刷機の流れはもはや一人の死で止められないと認識していた。そのため、潰すのではなく領地の利益に組み込む方針を固めていた。

下町へ出るための建前と本音

フェルディナンドとカルステッドが、領主自ら下町へ出向く必要はないと難色を示す中、ジルヴェスターは商人と率直な話をするには堅苦しい場では不都合だと建前を述べた。しかし本音は、イタリアンレストランの料理を楽しみたいという極めて個人的なものであった。とはいえ、ベンノとの会食や視察には確かに事業上の意味もあり、洗礼式後にローゼマインを外に出せるようになるまでの猶予期間に、周辺の工房や事業の準備を進める必要があった。

それぞれに託された後始末

最後にジルヴェスターは、今後の実務を二人に振り分けた。ベンノへの説明と神殿側の処理や準備はフェルディナンドに、洗礼式の準備と本日捕えた犯罪者達への処理はカルステッドに任せ、自分は領主会議のため中央へ戻ることにした。こうして騒動直後の混乱の中でも、ローゼマインを迎え入れるための体制づくりと、神殿長失脚後の後始末が着々と進められていった。

アルノー 私とフラン

神官長の使いとして動き始めた朝

神殿に他領の貴族が入り込み、領主が現れて神殿長を更迭した翌朝、アルノーは何も事情を知らされないまま神官長に呼ばれた。神官長はほとんど眠っていないような顔で、ギルベルタ商会へ至急届ける招待状をフラン達に渡すよう命じ、騒動について問われた場合は後日まとめて説明すると答えるよう言い含めた。アルノーは、前日に神官長が工房へ籠っていると知りながらフランの取り次ぎを敢えてしなかったことを思い返し、もしそれをフランが知ればどう思うかと考えた。

水汲みをするフランへの皮肉な視線

アルノーは井戸で水を汲むフランとギルを見つけ、神官長の招待状を手渡した。デリアが抜けたことで人手不足になり、筆頭側仕えであるフランまで雑務に追われている様子を見て、アルノーは内心ほくそ笑んだ。フランは招待状を即座にギルへ託し、ギルは急いでギルベルタ商会へ向かった。アルノーは人数が少なくて大変だろうと告げ、フランから今日から新しい側仕えが入る予定だと聞かされると、もうしばらく苦労していてもよいのにと心の中で思った。

神殿長派の青色神官を動揺させた返答

神官長室へ戻る途中、神殿長の取り巻きであったエグモントに呼び止められ、昨日の騒ぎの内容を問い詰められた。アルノーは神官長に命じられた通り、後ほど説明があると答えつつ、神殿長が領主と騎士団によって捕えられたらしいとだけ伝えた。その一言でエグモントは青ざめ、神殿長の庇護を失った自分の立場を思い知らされた。アルノーはその様子に溜飲を下げた。

葬式へ向かった神官長への違和感

神官長室の近くでザームを連れた神官長と合流したアルノーは、神官長が礼拝室へ向かうと告げられて驚いた。平民の葬式に青色神官が顔を出すことはほとんどないためである。神官長は理由を詳しく語らず、ギルベルタ商会を迎える準備だけを命じた。アルノーは事情を測りかねたまま部屋へ戻り、来客の準備を整えた。

ギルベルタ商会との会合と秘匿された話し合い

やがてギルベルタ商会の一行が到着したが、今回の会合でも神官長は側仕えを全て排した。アルノーはやはり何も知らされないまま、午後にはマインの部屋へ向かう予定だけを告げられる。昼食後、神官長に従って植物紙を抱え、孤児院長室へと向かった。

孤児院長室で呼び起こされた過去

孤児院長室の前に立つと、アルノーの中には、かつてマルグリットに仕えていた頃の感覚が蘇った。ベルを鳴らし、フランが扉を開ける様子や部屋の雰囲気は当時に似ていたが、そこにいるのはマルグリットではなく、熱のあるローゼマインと側仕え達だった。さらに見慣れない少女が二人加わっており、デリアの後任であるモニカとニコラだと説明される。

ローゼマインの正体と神殿長就任の告知

神官長はその場で、マインが平民ではなく上級貴族の娘ローゼマインであること、夏に洗礼式を行って領主の養女となり、神殿長に就任することを告げた。神殿長はすでに捕えられており、それまでは神官長が神殿長職も兼ねるという。側仕え達は困惑しながらも従うしかなく、アルノーもまた、理不尽であっても貴族がそう決めた以上はそれが正しいのだと受け入れた。

側仕え達への新たな役割の割り振り

神官長は、洗礼式までローゼマインは父の館で教育を受け、就任後は神殿長室へ移るため、その準備を側仕え達に命じた。さらに、印刷業を他領へ広げるため他の孤児院を視察させる必要があるとして、工房の事情に詳しい者を選ぶよう促した。ローゼマインはギルを指名し、フランには神殿長室の整備、モニカとニコラの教育、工房管理など多くの役目を任せた。ロジーナは楽師として買い取られることになり、側仕えの役目から一部外れることになった。

過去の部屋とフランの動揺を見抜いた喜び

神官長はローゼマインに父からの贈り物だという大きな魔石の指輪を渡し、天幕の奥にある隠し扉へ魔力登録をさせた。この扉の奥は、かつてフランがマルグリットに連れ込まれていた場所を連想させるものだったため、フランは見るだけで顔色を失った。ローゼマインはその異変に気づいて心配したが、神官長は空間が変わるから問題ないと軽く言い切った。アルノーは、フランが完全に過去を乗り越えていたわけではなかったと知り、昏い喜びを覚えた。

フランへの悪意を再確認したアルノー

会合の後、アルノーはフランに近づき、神官長に問われたら過去の事情を報告すると告げた。フランは、神官長に知られるのは仕方がないが、ローゼマインの耳に入らずに済んでよかったと答えた。その言葉を聞き、アルノーは神官長以上にローゼマインに知られたくないのかと感じ、どこでどう吹き込めばよいかと考えた。アルノーにとって、マルグリットの寵愛を受けながら彼女を拒み、救おうともせず、彼女の死後に安堵していたフランは、未だ許せない存在であり続けていた。

ベンノ 仕事を減らそう

神官長からの急な呼び出し

マインがローゼマインになったと知らされた翌朝、ベンノは神官長から大至急の招待状を受け取った。二の鐘の後で店が忙しくなる最中に呼び出しが来たことに苛立ちながらも、ギルベルタ商会の今後が決まる重大な会合だと理解し、マルクと共に貴族向けの衣装へ着替えて神殿へ急いだ。ローゼマインにとって不要と判断されれば、自分達が簡単に消されかねないと忠告されていたため、ベンノはこれを正念場だと認識していた。

情報統制の重みを突きつけられる

神官長との会合では側仕えまで人払いされ、ベンノはローゼマインの存在を知る者として事情を確認された。ベンノは、マインの家族から事情を聞いた自分とマルク、ルッツ、レオンの名を挙げたうえで、下町で起きた騒動と家族がルッツを迎えに来た流れを説明した。神官長は、ローゼマインは神殿に預けられていた上級貴族の娘であり、孤児院を救った功績により領主の養女となり、洗礼式の後に神殿長へ就任すると告げた。そして、ギルベルタ商会とマイン工房に関わった者達へうまく口裏合わせをしなければ、領主が面倒を避けて関係者を消す可能性もあると警告した。ベンノはその言葉の重さを受け止め、情報統制を最優先事項として胸に刻んだ。

領主から突きつけられた二つの命令

続いて神官長から領主の命令書が渡され、印刷業に関する計画を前倒しで進めることと、星結びの儀の後に食事処へ来訪するため店を完成させて待つことの二点が命じられた。ベンノは、二年の猶予があると思っていた印刷事業の拡大が一気に目前へ迫ったことに眩暈を覚えたが、ここで止まることは許されなかった。文官との打ち合わせや近隣の孤児院への視察も必要となり、神官長からはローゼマイン側からも一人を同行させるよう手配するとの返答を得た。

食事処を報告の場に変える要求

領主が食事処へ来る理由について問い質すと、神官長は、堅苦しい場所では商人の率直な意見が聞けないため、食事をしながら視察や印刷業について報告を受けたいのだと説明した。ベンノは、それが単なる来店ではなく、文官との打ち合わせ、視察、その結果の取りまとめまで終えたうえでの報告会を意味していると理解し、期限の厳しさに頭を抱えた。神官長もまた領主に振り回されている様子で、互いに苦労していることを暗に認め合う空気が生まれた。

貴族来訪に備えた料理人の修行計画

食事処へ来るのが領主、騎士団長、ローゼマイン、神官長であると知ったベンノは、貴族向け料理の準備が不可欠だと判断した。そこで、今はローゼマインのもとで修行している料理人を別の場所でさらに修行させたいと申し出た。神官長は、ローゼマインが貴族街へ移ってからなら問題ないだろうと応じ、ローゼマインにも確認すると約束した。ベンノは同時に、イタリアンレストランを餌にギルド長の協力を取りつける構想も立て始めた。

ローゼマインの衣装と簪の注文

神官長はさらに、神殿長就任式で必要となる儀式用衣装をローゼマインの寸法に合わせて仕立て直すよう依頼し、洗礼式用の簪も最高級の糸を使って華やかに作るよう命じた。印刷業と食事処に加え、本来の服飾の仕事まで一気に増えたことで、ベンノはこのままでは仕事に押し潰されると感じた。それでも断る余地はなく、帰店後はすぐに対応を始めた。

仕事を振り分けて先回りする

店へ戻ったベンノは、マルクに鍛冶工房へ活字の増産を、ビアスのインク工房へ印刷用インクの製造を依頼するよう命じた。さらに、近隣の町への工房展開を見据えて、各所への準備を急がせた。印刷業の拡大は確実であり、領主の命令である以上、手を抜くことはできなかった。また、ギルド長に小さな文句を付けられ続けていては到底間に合わないと判断し、まずは商人ギルド側を取り込む必要があると考えた。

コリンナに託した衣装仕事

ベンノは次にコリンナのもとへ向かい、神殿長用の衣装をマインの寸法に合わせて仕立て直すよう頼んだ。表向きはローゼマインが着る衣装だが、寸法はマインそのものであり、コリンナも事情を察して受け入れた。加えて、上級貴族の娘の洗礼式にふさわしい白を基調とした華やかな簪も注文し、暗に家族側へ仕事を回すよう意図を伝えた。コリンナはその意図を理解し、静かに頷いた。

ギルド長を巻き込む覚悟を固める

商人ギルドへ赴いたベンノは、ギルド長とフリーダからローゼマインについて問い質された。フリーダは、契約している貴族の弟がマインの護衛だったことから、契約魔術の資料室で改名後の書類を見つけ、ローゼマインの存在に気づいていた。これ以上隠し通すよりも、事情を話したうえで味方に引き込んだ方がよいと判断したベンノは、マインが死んだことにされ、領主の養女ローゼマインとなったこと、そして印刷業が領主主導の事業になることを打ち明けた。そのうえで、今後は全面的に協力してもらうと宣言した。

食事処を餌に協力を取りつける

ギルド長が見返りを求めると、ベンノはイタリアンレストランの共同出資者に加える案を示した。貴族の生活や料理に詳しく、教育された給仕も抱えているギルド長なら、これからの食事処をそのまま運営できると踏んでいたのである。また、自分は印刷業だけでも手一杯であり、別業種にまで手を広げていられなかった。ギルド長の孫娘フリーダはその条件に即座に食いつき、ギルド長もこの提案を受け入れる方向へ傾いた。こうしてベンノは、増え続ける仕事を少しでも減らすため、食事処を切り離しつつ、商人ギルドを自分達の計画へ巻き込む足場を築いた。

フラン 神殿長の側仕えになるために

ローゼマインの不安とフランの気遣い

三の鐘の後に神殿長の部屋の片付けへ向かうと告げたフランに対し、ローゼマインは怪我の具合を心配した。フランは、戦いで負った傷は不思議な光の祝福によってすでに完全に治っていると答え、むしろ上級貴族の娘として生きることになったローゼマインこそ自分の身を案じるべきだと諭した。ローゼマインは、改名によってマインではなくなった現実を突きつけられるたびに苦しくなると本音を漏らしつつも、貴族街へ行く前に慣れなければならないと受け止めていた。フランはその不安定さを感じ取りながらも、気分転換になるよう図書室から借りた本を差し出した。

新しい側仕えへの引き継ぎ開始

ローゼマインが本を受け取って喜ぶのを見届けた後、フランは部屋を見回し、フェシュピールを嬉しそうに磨くロジーナに声をかけた。自分とギルは神殿長室の片付けへ向かうため、その間はロジーナにローゼマインの世話を任せ、水を飲ませる頃合いも見てほしいと頼んだ。さらに、ロジーナには楽師として貴族街へ行く前に、モニカとニコラへ必要な仕事をしっかり引き継がなければならないと釘を刺した。ロジーナは浮き立ちながらもそれを受け入れ、フランは一階で掃除をしていたギルを伴って孤児院長室を出た。

神殿長室の整理と現状把握

神官長の命に従って神殿長室へ向かったフランは、ザームから貴族区域の現状を聞かされた。青色神官達には、神殿長が亡くなったとだけ伝えられており、事情を知らぬまま不安に包まれているという。神殿長室では、神官長がすでに多くの職務を引き受けていたため、残された書類は予想以上に少なかった。フランとギルは神殿長の私物を片付けながら、聖典や祭壇の道具を布で丁寧に包んで木箱へ収め、同時に今後必要となる家具の寸法を測って書字板へ記していった。ギルは、神殿長になれば聖典が読めるようになるため、ローゼマインは喜ぶはずだと口にし、フランもそれに同意した。

新しい立場に向けた仕事の分担

片付けの途中で神官長に呼び止められたフランは、午後に神官長室へ来るよう命じられた。神殿長の家具の下げ渡しや、ローゼマインが神殿長として行う職務について話があるという。孤児院長室へ戻ったフランは、測った寸法をもとに新しい家具の準備に備えた。昼食時には、デリアの代わりに入ったモニカとニコラがやる気を見せ、ロジーナも教育が思った以上に進みそうだと伝えた。ギルは工房の様子を見に行くと言い出し、フランは、ギルが自分だけで仕事を抱え込まず、今後は他の灰色神官へも仕事を割り振れるようになるべきだと助言した。

神官長から告げられた本当の役目

午後、神官長室を訪れたフランは、まずローゼマインの体調について報告した。熱はほとんど下がったが、平民の家族を心配し、今の立場に不安を感じて弱音を吐いていたと伝えると、神官長はそれならばまだ大きな問題ではないと判断し、異変があれば引き続き報告するよう命じた。その後、神殿長の家具処分や職務整理の話が進み、最後に神官長はフランだけを残したうえで、アルノーから事情を聞いたと切り出した。かつて青色巫女に関わって苦い過去を持つフランが、これからもローゼマインを主として仕えられるかを静かに確認したのである。

過去を越えて主に仕える決意

神官長に問われたフランは、孤児院長室や青色巫女見習いへの奉仕に陰鬱な感情を抱いたことは確かだと認めた。しかし、ローゼマインはこれまでの青色巫女達とは全く異なり、自分の利益のためではなく、孤児院そのものを良くしようとして身銭を切り、孤児達に仕事と生活の術を与えた存在だったと語った。孤児院で育った者にしかわからないほど、その行いは貴重で尊いものであり、だからこそ自分はこれからもローゼマインの役に立ちたいと明言した。神官長はその答えを受け入れ、アルノーは遠ざけたが、フランには今後もローゼマインに仕えるよう命じた。

領主の養女に相応しい補佐への覚悟

神官長はさらに、貴族社会では些細な失敗が取り返しのつかない汚点になるため、ローゼマインにはただ従うのではなく、領主の養女として相応しい成果を残せるよう厳しく導くよう求めた。フランはその責任の重さに震えつつも、誠心誠意仕えると誓って神官長室を辞した。孤児院長室へ戻ったフランは、神殿長として必要な儀式や役目を木札にまとめ始める。ギルが本作りの面でローゼマインを支えるなら、自分は筆頭側仕えとして神殿長の職務を支えなければならないと考えたからである。そして、少しでも時間があれば図書館へ行きたがるローゼマインにどうやってこれらを覚えさせるかが、次の大きな課題だと痛感した。

エーファ 前を向いて

カミルを抱きながら揺れる気持ちを立て直した

真夜中、カミルの泣き声で目を覚ましたエーファは、授乳しながらマインのことを思い出していた。幼い頃から何度も熱を出して寝込んできたマインをずっと案じてきたのに、ようやく元気になってきた矢先、今度は手の届かない遠い場所へ行ってしまったのである。それでも、本当に死んでしまったわけではないと自分に言い聞かせることで、沈みかける気持ちを立て直していた。一方で、よく眠れずに何度も寝返りを打つギュンターのことも気にかかっていた。

ギュンターが喪失感から立ち直れずにいた

葬儀が終われば皆が日常へ戻るものの、ギュンターはまだ深く落ち込んでいた。仕事には戻ったが、門で士長を殴り飛ばし、しばらく頭を冷やせと言われて帰されてしまったのである。余所の貴族の侵入を許したことでマインを失うことになったのは士長のせいだと怒りをぶつけたらしく、マインを守り切れなかったこと、自分が逆にマインに守られる形になったことを強く悔やんでいた。エーファは、今は無理に励ますより少しそっとしておいた方が良いと考えた。

トゥーリが祝福を支えに前を向き始めた

朝になると、トゥーリは自分が前向きに動けるのはマインの祝福のおかげだと語った。昨日、コリンナとの約束を取り付けるために北へ向かった時も、以前のような怖さが薄れていたのだという。マインから与えられた、目標に進み続ける力や苦難に耐える力が自分を支えてくれているのだと考えていた。さらに、トゥーリはギルベルタ商会へ行き、コリンナの工房に入って働き、将来はマインの髪飾りの注文を自分が受けるという約束まで取り付けていた。エーファは、それがギルベルタ商会の打算も含んでいると理解しつつも、マインへ繋がる道をトゥーリが自力で掴んだことを嬉しく思った。

エーファも家事を再開して日常を取り戻そうとした

トゥーリが前へ進み始めた姿に刺激を受けたエーファは、自分も立ち止まってはいられないと考えた。マインの祝福によって産後の痛みや疲労感が和らいだ以上、家事も育児も進めなければならないのである。ご近所の差し入れは尽き、水汲みや買い物、洗濯もしなければならなかった。カミルを外へ連れ出してはならないというマインの言葉を思い出しながら、エーファはエプロンを身に着け、前を向いて動き出した。

ギュンターを挑発して無理やり動かした

家事を始めたエーファに対し、ギュンターはどうしてトゥーリもエーファも普通に生活できるのかと不満をぶつけた。そこでエーファは、トゥーリも自分もマインの祝福を受けたのだから前へ進めるのだと返し、逆にしょげてばかりいるギュンターは本当はマインに愛されていなかったのではないかと、あえて挑発した。ギュンターは、父さんのお嫁さんになりたいと言われたことや腕の傷を癒されたことを挙げて激しく反発し、自分がマインに愛されていたことを言い募った。エーファはその勢いを利用し、水汲みや買い物を言いつけて家の外へ追い出し、気持ちを立て直させようとした。

家事の中でマインのいた痕跡を守ろうとした

ギュンターを送り出した後、エーファは授乳やおむつ替えを済ませ、寝かしつけたカミルの傍らで部屋を見回した。数日掃除していなかったため、隅には埃が積もり始めていた。マインが家を綺麗にしようとして無理をし、しばしば寝込んでいたことを思い出しながら、少しでもマインがいた頃と同じように家を整えておきたいと思った。掃除と洗濯を進める中で、日常を守ること自体がマインとの繋がりを保つことでもあると感じていた。

ギルからの近況がギュンターを立ち直らせた

買い物から戻ったギュンターは、出かけた時よりも明らかに晴れやかな様子を見せていた。道中でギルと会い、マインは近いうちに貴族街へ行くものの元気で、こちらを心配していたと聞かされたのである。ギュンターは、自分達も皆目標に向かって動いているから心配するなと伝言を託していた。士長を殴って仕事を休んでいることがマインに伝われば心配をかけると考えたらしく、翌日からは仕事へ戻ると口にした。まだ空元気ではあったが、気持ちは確かに前を向き始めていた。

家族が細い繋がりを支えに歩き出した

その夜、ギュンターは久しぶりに深く眠り、カミルが泣いても起きないほどだった。エーファは、その単純さをギュンターらしいと思いながらも、ギルを通じてマインの近況を知れたことが大きかったのだと理解した。家族として接することはできなくなっても、ギルやルッツを通じて様子は伝わるのである。エーファは、そんな細い繋がりが残されていることを改めて感じながら、マインを大好きなまま前を向こうとするギュンターの変化を静かに喜んだ。

ベルーフの資格

明るさを取り戻した工房でヨゼフは安堵した

仕事の終わり際、ヨゼフはダプラ達に親方達も交えた食事があると伝えた。職人達は、以前のような重苦しい夕食ではないのかと半ば冗談交じりに確認し、ヨゼフもまた、今日は楽しく飲み食いできると応じた。工房に軽口が飛び交うほど雰囲気が明るくなっていたことに、ヨゼフは久しぶりに以前の空気が戻ってきたと感じていた。

ハイディの暴走を抑える役目をヨゼフが担った

一方で、ハイディは素材を前にして研究に没頭し、片付けの時間になっても思考の海から戻ってこなかった。職人達に促されたヨゼフは、彼女の前に並んでいた小皿を片付け始めて強引に意識を現実へ引き戻した。ハイディは慌てて抗議したが、ヨゼフは鐘が鳴る前に片付けるよう叱りつけた。工房では、研究にのめり込むハイディを止める役割が自然とヨゼフに集まっていた。

新しいインクの成功が工房に希望をもたらした

夕食の席では、ビアスがギルベルタ商会と商人ギルド長の協力によって貴族にインクを売る道筋が整ったこと、ハイディの研究に出資するパトロンが現れたこと、新しい製法のインクが売れたことを告げた。職人達はそれを聞いて歓声を上げ、酒と料理を楽しみ始めた。ヨゼフもようやく苦労が少し報われたと感じたが、その一方で、明日からは再びハイディとの研究と雑事に追われることも理解していた。

ヨゼフは工房の将来と自らの資格を案じていた

喜びの場にいても、ヨゼフの頭の中は明日からの仕事で埋まっていた。研究そのもの以外の細かな調整や管理はすべて自分の役目になるとわかっていたからである。さらに、ヴォルフの死によってビアスがインク協会の会長に就任したことで、工房の将来に対する不安も強まっていた。もしビアスに何かあれば、ベルーフの資格を持たないヨゼフでは工房の立場が弱くなり、取引や雇用にも制限がかかる。ヴォルフの工房が衰退した現実を前に、ヨゼフはできるだけ早くベルーフの資格を取らねばならないと痛感していた。

ハイディは工房の事情より研究を優先していた

夕食の最中も、ハイディは自分達の作ったインクが売れた喜びと、皆で食べる食事の楽しさを口にしていた。だが、その無邪気さはヨゼフの不安とは噛み合っていなかった。ビアスが協会長になった危うさも、工房の先行きも、ハイディにとっては研究を続けられるかどうかほど重大ではなかった。ヨゼフは、彼女にとって自分がインク研究を支えるための存在でしかないように感じ、苛立ちを募らせていた。

色インク研究が始まり工房は失敗を重ねた

それから、パトロンであるマインが毎日のように工房を訪れ、色インクの研究が本格化した。油や素材の違いによって色味が変わったり、塗った後に変色したりと、研究は失敗の連続だった。マインはその結果を記録し、ハイディはお嬢様に納得してもらえるものを作ろうと、研究にさらにのめり込んでいった。ヨゼフは、ある程度ならいつものことだと思っていたが、やがてそれでは済まなくなった。

ハイディの暴走が工房の外で問題を引き起こした

ある日、工房へ来るのが遅いハイディを不審に思っていたところへ、ダルア見習いが血相を変えて飛び込んできた。ハイディが美術系の工房をうろつき、絵具の秘密を探ろうとした不審者として捕まったというのである。駆けつけたヨゼフが見たのは、職人達に囲まれながらうとうとしているハイディの姿だった。彼女は、パンを食べながら考え事をしていたらいつの間にかここに来ていたと寝ぼけたように答えたが、絵具の製法を盗みに来たと疑われても仕方のない状況だった。ヨゼフは必死に謝罪し、寝ぼけていただけで他意はないと弁明するしかなかった。

ヨゼフは妻との将来に不安を覚えた

騒ぎを収めてハイディを背負って工房へ戻ったヨゼフは、昼になってしまったことと自分の負担の大きさにいっそう疲れを感じていた。寝台に放り込んだハイディを叱りつけ、今のような状況で足を引っ張るなと怒鳴ったが、ハイディは研究のことしか考えていなかった。彼女にとって今最も重要なのは、マインが資金を出してくれている間に納得させられるインクを完成させることだったのである。その噛み合わなさに、ヨゼフは本気で離婚まで考えるほど腹を立てていた。

マインが定着液を持ち込み研究を一歩進めた

その日の午後、マインは満面の笑みで工房に現れ、布染めに使う定着液の作り方を教えた。それによって色インクは変色せずに使えるようになり、ひとまず完成に至った。ヨゼフは、これで毎日のような工房通いも終わり、ハイディの研究時間も多少は抑えられると胸を撫で下ろした。だが、ハイディは原因究明まで終わらなかったことに肩を落とし、研究の終わりを惜しんでいた。

マインは研究継続への出資を申し出た

ヨゼフがこれで出資が終わると思っていたところ、マインは研究を続けたいなら多少のお金は出すと告げた。ハイディは大喜びし、ヨゼフは反射的にそれを甘やかしすぎだと抗議した。するとマインは、ハイディもヨゼフも本を作るために必要なグーテンベルクの仲間だと説明し、研究の価値を認めたうえで、ただし最優先は注文されたインク作りであり、納期に遅れれば出資は打ち切ると釘を刺した。その言葉にヨゼフは、ハイディと同類の変人ではあるが、経営者としては驚くほどしっかりしていると見直した。

ハイディの本当の狙いが明かされた

その夜、上機嫌のハイディは、今回の研究で工房に必要なものが手に入ると笑った。ヨゼフが訝しむと、彼女は、色インクの研究成果と今の情勢を利用すれば、インク協会の今の会長であるビアスのもとで、ヨゼフをベルーフの資格へねじ込めるかもしれないと語った。ヨゼフは、自分より研究に没頭していたハイディこそ資格に相応しいのではないかと返したが、ハイディは工房経営に必要なのは自分ではなくヨゼフであり、自分はただ好きな研究を続けたいだけだとあっさり言い切った。ヨゼフは初めて、彼女が工房の将来と自分の立場を考えて動いていたことを知ったのである。

ヨゼフはベルーフの資格を得た

後日、インク協会会長となったビアスの手によって、ヨゼフはベルーフの資格を得た。工房の将来を支えるために必要だった資格を、彼はようやく手にすることができたのである。

領主のお忍び

森行きの準備と不満

ルッツが森へ行く予定を告げると、レオンも自室で神殿行き用のぼろ服へ着替え始めた。本来は実家の商売のためにギルベルタ商会へ入ったはずであったが、現状は孤児と森へ行き、工房で職人のような作業をさせられている状況である。商人は売ることが役目だという意識が強く、作ることに執着するルッツの姿は理解し難いものだった。

ジルヴェスターの異様な存在感

工房前へ出たレオンは、ぼろ服を着ていながら明らかに場違いな雰囲気を放つジルヴェスターの姿に息を呑んだ。その正体に気付いているのは自分だけではないかと感じられ、内心で強い動揺が広がっていく。マインは平然と役割分担を指示し、レオンは疑問を抱えたまま従うしかなかったのである。

下町の常識と貴族の価値観の衝突

神殿を出たジルヴェスターは、下町の汚れや臭いに不満を示し、掃除を担う者がいないことを疑問視した。これに対しルッツは、街は誰の物でもないため雇う者がいないと説明する。レオンは慌てて領主の所有であると訂正したものの、ルッツはあくまで平然としており、領主に頼めばよいと言い返す始末であった。そのやり取りは、平民と貴族の価値観の違いを鮮明に示していた。

森での行動に現れる立場の差

森に到着すると、ルッツは狩った獲物は自分で処理するものだとジルヴェスターに教えた。さらに川での手洗いも子供達に任せるなど、貴族としての扱いはほとんど意識されていない様子であった。レオンはその対応に不安を覚えたが、当の本人であるジルヴェスターはむしろ楽しんでいるようであった。

昼食の問題と商会の対応

森での食事が普段通りの芋と塩スープでは済まないと判断したレオンは、急ぎギルベルタ商会へ戻る。事情を聞いたマルクは、パンやハム、チーズに飲み物、さらに食器まで整えさせ、すぐに持たせた。神殿側には食事を青色神官が準備するという認識があるため、この対応は商人側ならではの判断であった。

孤児達の語るマインの実像

昼食の場でジルヴェスターがマインについて尋ねると、ルッツは率直にその人物像を語った。常識に欠ける部分や病弱さを挙げつつも、優しさと支え合う関係を強調する内容である。さらに孤児達は、食事や生活の改善、冬の環境整備など、マインによる変化を次々と語り始めた。その様子からは強い敬意と感謝が感じられ、レオンにとっては初めて知る事実ばかりであった。

圧倒的な戦闘能力の顕現

狩りの最中、獲物を狙う獣が現れると、ジルヴェスターは即座に弓を放ち、続けて剣で仕留めた。その動きは無駄がなく、平民とは明らかに異なる戦闘能力を示していた。レオンはその力に畏怖を覚えた一方で、子供達は純粋に称賛し、場の空気はむしろ明るくなっていく。

帰還と黒い石の授与

狩りの成果が想定以上となり、ルッツの判断で一行は神殿へ戻ることになった。帰還後はすぐに肉の処理が始まり、その最中にジルヴェスターがマインへ黒い石のネックレスを手渡す場面があった。レオンはその様子を目にし、ただ事ではない何かが進んでいることを感じ取っていた。

第二部 神殿の巫女見習い3レビュー
第二部 神殿の巫女見習い
本好きの下剋上 全巻まとめ
第三部 領主の養女1レビュー

本好きの下剋上 シリーズ 一覧

兵士の娘

本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第一部「兵士の娘1」の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第一部「兵士の娘I」の表紙。
あらすじと考察は本文で詳しく解説。
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第一部「兵士の娘2」の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第一部「兵士の娘II」の表紙。
あらすじと考察は本文で詳しく解説。
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第一部「兵士の娘3」の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第一部「兵士の娘Ⅲ」の表紙。
あらすじと考察は本文で詳しく解説。

神殿の巫女見習い

本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第二部「神殿の巫女見習い1」の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第二部「神殿の巫女見習いI」の表紙。
あらすじと考察は本文で詳しく解説。
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第二部「神殿の巫女見習い2」の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第二部「神殿の巫女見習いⅡ」の表紙。
あらすじと考察は本文で詳しく解説。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第二部「神殿の巫女見習い4」の表紙画像(レビュー記事導入用)
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あらすじと考察は本文で詳しく解説。

領主の養女

本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第三部「領主の養女1」の表紙画像(レビュー記事導入用)
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第三部「領主の養女3」の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第三部「領主の養女Ⅲ」の表紙。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第三部「領主の養女4」の表紙画像(レビュー記事導入用)
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第三部「領主の養女5」の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第三部「領主の養女Ⅴ」の表紙。
あらすじと考察は本文で詳しく解説。

貴族院の自称図書委

本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員1」の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員I」の表紙。
あらすじと考察は本文で詳しく解説。
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員2」の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員Ⅱ」の表紙。
あらすじと考察は本文で詳しく解説。
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員3」の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員Ⅲ」の表紙。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員4」の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員Ⅳ」の表紙。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員5」の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員Ⅴ」の表紙。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員6」の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員Ⅵ」の表紙。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員7」の表紙画像(レビュー記事導入用)
「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員Ⅶ」の表紙。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員8」の表紙画像(レビュー記事導入用)
「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員Ⅷ」の表紙。
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「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員Ⅷ」の表紙。
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女神の化身

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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身 1巻」の表紙。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身2」の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身 2巻」の表紙。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身3」の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身 3巻」の表紙。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身7」の表紙。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身8」の表紙。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身9」の表紙。
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本好きの下剋上 第五部「女神の化身 10巻」の表紙。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身11」の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上 第五部「女神の化身 11巻 」の表紙。
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本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身12」の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上 第五部「女神の化身 12巻 」の表紙。
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ハンネローレの貴族院五年生

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本好きの下剋上 ハンネローレの貴族院五年生 1の表紙。
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本好きの下剋上 ハンネローレの貴族院五年生2の表紙画像(レビュー記事導入用)
本好きの下剋上 ハンネローレの貴族院五年生 2の表紙。
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本好きの下剋上 ハンネローレの貴族院五年生 3の表紙。
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コメント

  1. おおかみ より:

    おじゃまします、
    神殿長はマインの事件が決め手になってますけど
    ヴェローニカ(現領主の母)の弟なのと
    他の着服に横領等々の悪事で排除するには少し足りなかった
    多分神官長がユストクス辺りに情報の収集をさせていたのではないかと思われますが

    • こも より:

      おおかみさん
      コメントありがとうございます。

      神官長が神殿長の不正を以前から調査していたと思います。

      そこに、領主が禁止していた他領の貴族を領内に誘導して騒動を誘発。

      しかも、後々に領主の養女になるマインを他領地に誘拐させようとしたのが効いてたと思います。
      もし、マインが領主の養女にならなかったら有耶無耶になってマインは他領の身食いと同じ末路をたどったかと・・・

      そして、神殿長の罪は他領の貴族を領内に居れた許可書が偽造していたのも大きいと思います。
      普通、公文書の改ざんは重罪ですから。

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