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フィクション(Novel)本好きの下剋上読書感想

小説「本好きの下剋上 第三部 領主の養女 3巻」感想・ネタバレ

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フィクション(Novel)

第三部 領主の養女2レビュー
第三部 領主の養女
本好きの下剋上 全巻まとめ
第三部 領主の養女4レビュー

中世ヨーロッパ風の世界が舞台。
異世界なのでファンタジー要素もある。

第一部。

日本で本の虫だった女子大生が、地震で本の下敷きになって死亡(多分)
次に目覚めたらファンタジーな世界の下町の門番兵の娘として目覚める。
貧しく、衛生面も最悪。
身体は魔力が大きいせいで貧弱。
チョット作業したり、興奮したらぶっ倒れる始末。

さらに彼女に必須アイテム本が高価で手が出ない。
なら創れば良いじゃないかと、、

そんな彼女は幼馴染のルッツと共に紙を作り、髪を綺麗にするリンシャン、髪飾りの製法をべノン商会に売り、紙作りの支援を受けて紙の量産体制を作ろうとしたが、彼女の魔力が身体を蝕み瀕死になってしまう。

本来なら貴族に隷属して延命するのだが、それを良しとせず大好きな家族と過ごし死ぬ事を決意したが、、

神殿で図書館を見付けた結果、神殿の巫女見習になる事を決意。

そこで平民である事がアダとなり、孤児と変わらない灰色巫女見習になる処だったが余りにも高圧的に言う神殿長にブチギレ、魔力で威圧して昏倒させ灰色巫女見習案は却下。

交代で出て来た神官長と交渉の末、貴族と同じ青色巫女見習として、通いで神殿に入る事が決まる。

第二部。
神官長直属の神殿の青色巫女見習として神殿に通う事になったが、下町との常識が違い過ぎた。
神官長、神殿長に付けられた側仕えとの常識の擦り合わせに苦労する。

さらに神殿の部屋が無いので欲しいと神官長に言ったら、孤児院の院長室を与えられたのだが、、
その孤児院の過酷な飢餓状況を知り、孤児たちに食べ物を自己の力で獲得する事を教え、さらに自身でお金を稼ぐ方法、紙作りを教える。

何気に孤児院の孤児達を本作りに巻き込み、絵を描くのが上手い灰色巫女を側仕えに追加して、遂に絵本を完成させる。

順風満帆と思ったのは束の間、神官長と共に騎士団の要請で赴いたトロンベ討伐の際に、貴族の目の前で貴族達を遥かに超える魔力を持ってる事を知られてしまい、拉致られそうになる。

それを恐れて神殿に籠っていたが、他領の貴族が神殿にまで押し入って来た。

その貴族を手引きしたのは、マインに威圧されて気絶させられた事を恨んでいる神殿長だった。

何とか撃退したのだが、、
平民が貴族を攻撃したと言われて、正式に拘束されそうになる。

だが、以前お忍びで来た領主に渡された、養女になる契約に印を付けた事によりマインは貴族になっていた。
その結果、神殿長は公文書偽装で極刑。

マインはローゼマインとなり神殿長に就任する。

そして、第三部。

貴族のローゼマインとなったが、いきなり領主の養女にはなれなかった。
上級貴族のカルステッドの第三夫人(故人)の娘という事にして、神殿で密かに育てられていた事にした。

そんな経歴を携えてローゼマインは領主の養女になった。

でも、貴族の世間は神殿とも下町とも違っており特に貴族のご婦人方と上手くやって行けるかは不安材料だったが、、

フェルディナンドをダシにして、お茶会を了解してリサイタルを開催。
さらに、フェルディナンドの肖像画を印刷してパンフレットを作成。

結果、貴族のご婦人方の心をガッチリ掴んでローゼマインは貴族社会で確固たる地盤を得る。
それが前巻。

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  1. 読んだ本のタイトル
  2. あらすじ・内容
  3. 感想
  4. 考察・解説
    1. 側仕えと料理人の増員
      1. 側仕え不足の発覚と見直し
      2. 工房管理者フリッツの登用
      3. 料理人の増員とニコラの配置転換
      4. 専属料理人フーゴの獲得
      5. まとめ
    2. 印刷機改良と異業種連携
      1. 初期の印刷機の課題と金属導入の提案
      2. 異業種連携という常識破りとインゴの決断
      3. 鍛冶職人の反発と設計図の買取
      4. アイデアの共有と先進的な設計図の完成
      5. まとめ
    3. 冬の社交界と聖女伝説
      1. 聖女伝説の事前計画
      2. 音楽の奉納における予期せぬ祝福
      3. フェルディナンドの宣言と伝説の確立
      4. 聖女という肩書の必要性
      5. まとめ
    4. 子供部屋での教育普及
      1. 遊びを取り入れた教育と競争心の刺激
      2. 規律正しいカリキュラムの導入
      3. 教材の貸し出しと物語収集
      4. 教育普及の成果と領地への影響
      5. ローゼマイン不在時の引き継ぎ
      6. まとめ
    5. ハッセの処罰と祈念式
      1. 処罰の決定と祈念式での役割
      2. 情報戦とハッセへの罰の宣告
      3. 選別の扉と反逆者の処刑
      4. まとめ
  5. キャラクター紹介
    1. 領主一族(エーレンフェスト)
      1. ローゼマイン
      2. ジルヴェスター
      3. フロレンツィア
      4. フェルディナンド
      5. ヴィルフリート
    2. 貴族・騎士・側仕え・文官
      1. カルステッド
      2. エルヴィーラ
      3. エックハルト
      4. ランプレヒト
      5. コルネリウス
      6. アンゲリカ
      7. ダームエル
      8. ブリギッテ
      9. ユストクス
      10. リヒャルダ
      11. オズヴァルト
      12. オティーリエ
      13. リンハルト
      14. モーリッツ
      15. ノルベルト
      16. ラザファム
      17. ヘンリック
      18. ギーベ・イルクナー
      19. ギーベ・グレッシェル
      20. ギーベ・キルンベルガ
      21. ハルトムート
      22. フィリーネ
      23. イグナーツ
      24. トラウゴット
      25. イージドール
      26. ラウレンツ
      27. ローデリヒ
    3. 神殿関係者
      1. フラン
      2. ザーム
      3. ギル
      4. フリッツ
      5. モニカ
      6. ニコラ
      7. ヴィルマ
      8. ロジーナ
      9. デリア
      10. ノルト
      11. バルツ
      12. カンフェル
      13. フリターク
      14. トール
      15. リック
      16. ノーラ
      17. マルテ
    4. 商業関係者・職人・下町の住人
      1. ベンノ
      2. マルク
      3. ルッツ
      4. レオン
      5. グスタフ
      6. コリンナ
      7. インゴ
      8. アニカ
      9. ヨハン
      10. ザック
      11. ディモ
      12. フーゴ
      13. エラ
      14. ギュンター
      15. エーファ
      16. トゥーリ
    5. ハッセの住人
      1. リヒト
      2. ハッセの町長
      3. 町長の奥さん
  6. 展開まとめ
    1. 第三部領主の養女3
    2. プロローグ
    3. インゴと印刷機の改良
    4. グーテンベルクの集い
    5. 冬の社交界の始まり
    6. 洗礼式とお披露目
    7. 子供教室
    8. お茶会
    9. 奉納式
    10. 冬の素材収集
    11. シュネティルムとの戦い
    12. 冬の終わりへ
    13. 教材販売
    14. 春の訪れとアンゲリカ
    15. 祈念式に向かって
    16. ハッセへの罰
    17. 選別の扉
    18. 処分
    19. 春の素材と祈念式のお話し合い
    20. 女神の水浴場
    21. フリュートレーネの夜
    22. 祈念式終了
    23. エピローグ
    24. 冬のお披露目と子供部屋
    25. 神殿長の専属
  7. 本好きの下剋上 シリーズ 一覧
      1. 兵士の娘
      2. 神殿の巫女見習い
      3. 領主の養女
      4. 貴族院の自称図書委
      5. 女神の化身
    1. ハンネローレの貴族院五年生
  8. その他フィクション

読んだ本のタイトル

#本好きの下剋上  ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 第三部「領主の養女Ⅲ
著者:香月美夜
イラスト:椎名優

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あらすじ・内容

冬の気配が近付く中、神殿長のローゼマインは城と神殿を行き来する、慌しい毎日を送っていた。
社交界での交遊に、洗礼式や奉納式等への参加。 識字率の向上を目指した、貴族院入学前の子供の指導、さらには成績不振な護衛騎士の教育まで、一年前とは比較にならないほど忙しい。 貴族間でも神殿内でも影響力は高まっていく。
一方で、グーテンベルクの職人と印刷機の改良に挑んだり、城で絵本を販売したり、本への愛情は強まるばかり。
そんなローゼマインの内なる魔力もますます強力に! 周囲の注目を集める中、騎士団と共に冬の主の討伐を行い、春の祈念式では新たな素材を採集するのだった。
戦いと幻想の冬を越えて、「エーレンフェストの聖女」が高く舞い上がるビブリア・ファンタジー激闘の章!
大増書き下ろし番外編2本+椎名優描き下ろし「四コマ漫画」収録!

感想

識字率向上のため、グーテンベルク達が過労状態に。。
大丈夫まだ死んで無い。
過労死レベルじゃ、、、、
無いよな?

更に冬籠りでは貴族の子供達はヴィルフリードをいい感じに転がして、男の子達に競争意識させ子供達の識字率を上げてしまう。

さらに、進級できそうに無い、脳筋のアンゲリカをご褒美を目の前にぶら下げて勉強を続けさせ進級させる。

子供部屋では子供達が、神の名前だけとはいえ学院生より知識を付けさせてしまう。

それに戦慄する学院生達。

そして、ローゼマインは幼少期に死亡(仮死)した際に固まった魔力を溶かす薬の材料を採取するためにフェルディナンドと共に採取する旅に行くのだが、、女神の水浴場では。

夜、森の樹木にバケツリレーで拉致られて、女性のみ呑気に女神の前でお茶会をして、男性陣はソレを女神が作った結界で朝まで見せつけられてオロオロする。

何気にローゼマイン達が楽しそうだったw

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第三部 領主の養女2レビュー
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本好きの下剋上 全巻まとめ
第三部 領主の養女4レビュー

考察・解説

側仕えと料理人の増員

ローゼマインが神殿長、孤児院長、工房長という三つの重責を担うようになり、業務が拡大する中で行われた側仕えと料理人の増員の経緯と人員配置の見直しは以下の通りである。

側仕え不足の発覚と見直し

ローゼマインの側仕えは名目上五人いたものの、実質三人で多くの業務を回しており、一人一人の負担が大きくなっていた。その背景と対応は以下の通りである。

  • 実際にはニコラとモニカが料理の助手に多くの時間を取られていた
  • ヴィルマからこの状況を指摘されたローゼマインは、神官長フェルディナンドに側仕え増員の相談をした
  • フェルディナンドからは、ローゼマイン自身が稼いでいるお金や神官長が預かっている養育費があるため金銭的な問題はないとされた
  • 円滑に執務が進むようにフランと相談して決めるよう許可を得た

工房管理者フリッツの登用

印刷業を他町にも拡大していく計画に伴い、将来的にギルが長期出張で不在になる事態が予想された。そのため、ギルに代わって孤児院の男子棟の地階にある工房を管理できる成人男性の側仕えが必要となった。

  • ローゼマインは工房の現場をよく知るギルとルッツに人選を任せ、二人はフリッツを推薦した
  • フリッツは過去に青色神官シキコーザの側仕えを務めた経験があり、我慢強くて仕事ができ、立ち居振る舞いも問題なかった
  • そのため、フランも賛同して新しい側仕えとして召し上げることが決定した

料理人の増員とニコラの配置転換

フランとの相談の中で、側仕えの負担増の根本的な原因は、本来の側仕えの仕事ではない料理の助手にニコラとモニカが従事していることだと指摘された。

  • ローゼマインは料理人を増やすことを決め、イタリアンレストランで新人を育成できないかベンノに相談することにした
  • 料理の助手をとても楽しそうにしているニコラについては、料理の仕事を辞めさせるのではなく、側仕え待遇のまま料理助手専任とする方針とした
  • 彼女の抜けた穴を埋めるために別の側仕え見習いを新しく入れることになった

専属料理人フーゴの獲得

イタリアンレストランの料理人であったフーゴは、恋人に振られたことをきっかけに、少しでも早く下町から離れるために宮廷料理人を目指していた。ローゼマインは、すでに自分の特殊なレシピを知っており腕も確かなフーゴを、城の厨房で下働きからやり直させるのはもったいないと考え、自身の専属料理人として住み込みで雇うことを提案した。その際、以下の条件を提示した。

  • 城と神殿を往復する生活になるため宮廷料理人と名乗っても間違いではないこと
  • 新しいレシピや調理器具が一番に手に入ること
  • エラやニコラ、モニカといった可愛い女の子ばかりの職場で働けること

結果として、これらの条件でフーゴを陥落させて専属契約を結ぶことに成功した。

まとめ

ローゼマインの業務拡大に伴う増員は、単に人数を増やすだけでなく、フリッツの工房管理やニコラの料理助手への専任化、そして腕の確かなフーゴの専属化など、個々の適性と希望を見極めた適材適所の人員配置であった。この柔軟な対応により、神殿長としての執務、工房運営、そして食環境の体制が大きく強化されたのである。

印刷機改良と異業種連携

マイン(ローゼマイン)が推進する印刷事業において、より効率的で高品質な印刷機を生み出すため、木工職人と鍛冶職人による異業種連携が行われた。その経緯と成果は以下の通りである。

初期の印刷機の課題と金属導入の提案

マイン工房で最初に作られた印刷機は、ブドウの圧搾機を改造した木製の簡素なものであった。初期の課題と提案内容は以下の通りである。

  • 組版や紙をセットした台を手動で出し入れするなど使い勝手が悪く、マインは横のハンドルを回して台を動かしたり、てこの原理を利用して少ない力でプレスしたりする改良案を持っていた
  • しかし、木材だけでは重く滑らせるのが困難であるため、強度や安定度、速さを向上させるには金属部品の導入が不可欠であった
  • そこでマインは、専属の木工職人であるインゴに対し、鍛冶職人のヨハンとザックに協力を仰ぐことを提案した

異業種連携という常識破りとインゴの決断

当時の職人社会では、木工工房への依頼に鍛冶工房が設計段階から関わることは前例のないことであった。

  • 通常は誰が依頼を受け、どこが利益を得るのかを明確にするため、木工工房が設計を終えた後に必要な金属部品だけを鍛冶工房へ発注するのが常識であった
  • しかし、インゴは木しか扱っていない自分にはどんな金属をどう使えば良いかわからないと考えた
  • そして、依頼主であるマインを満足させるため、異業種間での意見交換を決意した

鍛冶職人の反発と設計図の買取

呼び出されたザックは、木工工房への依頼を設計から手伝っても鍛冶協会での自身の評価に繋がらないとし、協力を渋った。

  • これに対しマインは、ザックの発想力を評価し、ザックが描いた設計図そのものを商品として買い取るという提案を行った
  • 設計図を売買するという概念はこの世界にはなかったが、それならば自身の評価に繋がると納得したザックは、印刷機の設計に協力することとなった

アイデアの共有と先進的な設計図の完成

マインはハンドルの利用、てこの原理、スプリング(バネ)など、自身の断片的な知識を職人達に提示した。

  • 柔軟な発想が得意なザックが、マインの提示したアイデアとインゴや工房の者達の意見を取り入れ、工夫に満ちた設計図を複数描き上げた
  • その設計図をもとに、木工職人のインゴが使い勝手や顧客の満足度という現実的な視点から意見を述べ、精密な作業を得意とするヨハンが技術的な検証を行った
  • 職人同士で各案の優れた部分を取捨選択し、設計図を何度も描き直した結果、かなり先進的な印刷機の設計図が完成した

まとめ

木工職人と鍛冶職人が設計段階から協力するという前例のない異業種連携は、マインの画期的な提案によって実現した。この連携による成果は以下の通りである。

  • マインの断片的な知識が職人達の高い技術力と発想力によって形となり、印刷機の歴史を一気に進めるほどの大きな成果を上げるに至った
  • この仕事を通じてグーテンベルクと呼ばれる印刷関係の職人達の結束が強まることとなった

冬の社交界と聖女伝説

冬の社交界の幕開けとなる洗礼式とお披露目において、ローゼマインが持つ規格外の魔力とフェルディナンドの機転により、「聖女伝説」が貴族社会に広く認知されることとなった。その背景と出来事の詳細は以下の通りである。

聖女伝説の事前計画

ローゼマインを領主の養女とし、神殿長に据えるにあたり、フェルディナンドとカルステッドは彼女の立場を強化するための筋書きを練っていた。

  • 孤児院の惨状を嘆き、孤児たちに仕事と食事を与えたという実績を利用し、彼女を慈悲深い聖女として仕立て上げる計画であった
  • トロンベ討伐時のように強大な魔力で祝福を行えば、貴族たちの目を引き、聖女らしく見えると踏んでいたのである

音楽の奉納における予期せぬ祝福

冬の社交界で行われたお披露目の場において、ローゼマインは火の神ライデンシャフトに捧げる曲をフェシュピールで演奏した。

  • 演奏に合わせて真剣に神へ祈りを捧げた結果、指輪から勝手に魔力が引き出された
  • 魔力は青い光の祝福となって大広間全体に降り注ぎ、意図せぬ大規模な祝福に会場にいた貴族たちは唖然として反応に困り果てていた

フェルディナンドの宣言と伝説の確立

微妙な空気が流れる中、フェルディナンドは即座にローゼマインを抱き上げ、「エーレンフェストに恵みをもたらす聖女に祝福を」と高らかに宣言した。

  • この声に呼応するように貴族たちも一斉にシュタープを掲げて祝福の光を上げ、「なるほど、聖女だ」と納得する声が上がった
  • 割れんばかりの拍手が起こり、フェルディナンドの咄嗟の演出によって、聖女伝説は一気に強固なものとして貴族社会に定着したのである

聖女という肩書の必要性

控室に戻った後、フェルディナンドはローゼマインに対し、なぜこのような演出が必要だったのかを説明した。

  • 洗礼式を終えた貴族が魔術具の指輪を外すことはあり得ず、魔力の流出を完全に意識で止めることも難しいため、普通とは違う力には理由付けが必要であった
  • 強大な魔力を持つ者が貴族社会で忌避や迫害を避けるためには、領地にとって有益な存在である「聖女」として振る舞い、周囲を納得させることが最善の防衛策だったのである

まとめ

冬の社交界での予期せぬ祝福は、フェルディナンドの機転によってローゼマインの聖女伝説を決定づける劇的な出来事へと変わった。この出来事は、特異な魔力と背景を持つ彼女が、エーレンフェストの貴族社会において自らの身を守り、確固たる立場を築くための重要な布石となったのである。

子供部屋での教育普及

冬の社交界の期間中、洗礼式を終えた貴族の子供たちが貴族院に入学するまでの間を過ごす「子供部屋」において、ローゼマインが主導した教育普及の経緯と成果は以下の通りである。

遊びを取り入れた教育と競争心の刺激

従来の子供部屋は、上級貴族が下級貴族にいばり散らしたり、親の思惑による側近の取り入りが行われたりする場であった。ローゼマインは印刷業の販路拡大を兼ねて、子供部屋に自作の絵本、カルタ、トランプを持ち込んだ。

  • 最初にローゼマインとヴィルフリートがカルタで圧勝し、子供たちの「勝ちたい」という競争心を煽った
  • 最も優秀だった者には、普段は食べられないような美味しいお菓子を賞品として与え、子供たちを本気にさせた

規律正しいカリキュラムの導入

ローゼマインは、自身とヴィルフリートに行われていた教育をそのまま子供部屋の全体に持ち込んだ。

  • 朝食後に騎士団との訓練、その後に勉強の時間を設けるなど、時間割のような生活を取り入れた
  • 子供の集中力が続くように、カルタ、絵本の読み聞かせ、レベルに応じた書き取りなど、内容を次々と変えて対応した
  • 算数ではトランプを使った足し算ゲームを導入し、フェシュピールも優秀な楽師の指導のもとで全員に練習させた

この結果、身分差によるいじめなどはなくなり、これまでにないほど規律正しい子供部屋になったと監視役の側仕えたちから感心された。

教材の貸し出しと物語収集

絵本やカルタは高価であり、下級貴族の子供たちは全ての教材を買い揃えることが難しかった。

  • ローゼマインは、自分が高価な教材を買えない子供たちへの配慮が足りなかったことに気付いた
  • そこで、自身の知らない新しいお話を教えてもらうことと引き換えに、教材を春から次の冬まで貸し出す制度を作った
  • この制度により、フィリーネをはじめとする下級貴族の子供たちも学ぶ機会を得られ、同時にローゼマインは新しい絵本の題材となる物語を集めることができた

教育普及の成果と領地への影響

一冬の子供部屋での教育により、領地の子供たちの学力は劇的に向上した。

  • 下級貴族も含めて全員が基本文字を書けるようになり、一桁の計算ができ、フェシュピールも上達した
  • カルタで遊んだことで、貴族院の学生が苦労して暗記する「神々の名前や属性」を、就学前の子供たちが完璧に覚えてしまった
  • 競争相手ができたヴィルフリートも順調に成長し、貴族院の学生以上に神々に詳しくなった

この成果を知ったジルヴェスターやフェルディナンドは驚愕した。他領にこの教材を知られれば影響力が削がれるため、しばらくは他領に秘密にし、エーレンフェストの学力向上と影響力強化のために独占することが決定された。

ローゼマイン不在時の引き継ぎ

ローゼマインがユレーヴェの治療で長き眠りについた後、子供部屋の統率はヴィルフリートとシャルロッテに引き継がれた。

  • ローゼマインが残した手紙の指示をもとに、二人は側近やモーリッツ先生と協力して運営を行った
  • お菓子の準備や楽師の分担、ゲームの組分けなど、ローゼマインが事前にどれほど細やかな準備をして子供たちを統率していたかをシャルロッテは思い知り、その偉大さを痛感した
  • ダームエルたちの補佐により、下級貴族への教材の貸し出しと物語の収集も無事に継続された

まとめ

ローゼマインが子供部屋に持ち込んだ遊びながら学ぶ教材と、競争心を刺激する画期的な教育カリキュラムは、身分差のあった子供部屋を規律正しい学習の場へと変えた。その結果、エーレンフェストの子供たちの基礎学力は底上げされ、領地の将来の戦力強化と影響力拡大に大きく貢献することとなったのである。

ハッセの処罰と祈念式

ハッセの町長らによる小神殿襲撃事件に対する処罰の決定と、その後の祈念式における対応の経緯は以下の通りである。

処罰の決定と祈念式での役割

小神殿への攻撃は領主一族への反逆罪に当たるため、本来ならば町全体が消し炭にされてもおかしくない重罪であった。これに対する処罰と祈念式での対応は以下の通り決定された。

  • ローゼマインは町全体を潰すことに反対し、町長派の処分とハッセ全体への十年間の増税という罰を提案した
  • ジルヴェスターはこの案を受け入れたが、追加の罰として今年の春の祈念式にはハッセへ神官を派遣しないことを決定した
  • 昨年の祈念式でローゼマインが直接祝福を与えた直轄地の収穫量が大きく増加していたため、今年もローゼマインが直轄地を回って祈念式を行うことになった
  • その道中、ローゼマインは各冬の館の町長や村長に対し、ハッセで起こった事件をかいつまんで説明し、同じような過ちを犯さないよう釘を刺して回った

情報戦とハッセへの罰の宣告

祈念式に出発する前、ローゼマイン達はギルベルタ商会と協力し、ハッセの町に情報戦を仕掛けた。

  • 小神殿襲撃は反逆罪であり町全体が危険だが、神殿長が憂えているという噂を流した
  • これにより町民の不安を煽り、町長を孤立させることを目的とした

その後、ハッセに到着したローゼマインは、広場に集まった民衆に対して小神殿への攻撃が町全体を潰されるほどの重罪であることを告げた。

  • その上で、自身の嘆願により連帯責任は免れたことを説明した
  • 罰として今年の祈念式への神官派遣の禁止と十年間の増税が課されたことを宣告した

命が助かったことを知った民衆からは安堵と喜びの歓声が上がった。

選別の扉と反逆者の処刑

罰の宣告直後、フェルディナンドが反逆者を出せ、処分すると宣言し、町長が舞台へ引き出された。町長は罪を知らなかったと自己弁護し、ローゼマインに慈悲を求めたが、フェルディナンドの厳しい追及とローゼマインの反論により言い逃れができなくなった。
ハッセの民を庇う町長補佐のリヒトに対し、フェルディナンドは真に反省しているかを見極めるため、魔術で「選別の扉」を作り出し、全住民にそこを潜るよう命じた。

  • リヒトや農村の者達は無事に通り抜けたが、町長や襲撃に加わった強硬な町長派の計六人は扉に弾き飛ばされ、光の帯で捕縛された
  • ユストクスがハッセの登録証の箱から六人分の血判を用いて該当の登録証を抽出し、フェルディナンドが領主候補生のみに教えられる反逆者処刑の魔術を行使した
  • 魔法陣の黒い霧によって登録証が燃やされると、捕縛を解かれた六人は逃げる間もなく足元から石化し、最後は灰となって風に散り、遺体も墓標も残らない末路を辿った

まとめ

処刑の凄惨な光景に広場が恐怖と静寂に包まれる中、リヒトは立ち上がり、反逆者は消えたのだから汚名返上のために長く償いを続けようと民衆を鼓舞した。
ローゼマインは声を増幅させる魔術具を手に取り、来年の祈念式が行われるかどうかはこの一年間のハッセの行いにかかっていると語りかけた。そして、反逆の心がないと証明された民衆に対し、来年、ここで祈念式を行い、ハッセに祝福と祈りを捧げたいと宣言し、絶望の中にいたハッセの民に希望を与えた。

第三部 領主の養女2レビュー
第三部 領主の養女
本好きの下剋上 全巻まとめ
第三部 領主の養女4レビュー

キャラクター紹介

領主一族(エーレンフェスト)

ローゼマイン

エーレンフェストの領主の養女であり、神殿長を務める少女である。平民出身の身食いであるが、カルステッドの第三夫人の娘という設定で貴族社会に迎えられた。本を作るために印刷業を広げようとしている。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト領主一族・養女。神殿長。孤児院長。マイン工房の責任者。
・物語内での具体的な行動や成果
 冬のお披露目でフェシュピールを披露し、大規模な祝福を与えて聖女伝説を強固なものにした。子供部屋で教材の販売と貸し出しを行い、子供たちの学力を向上させた。ハッセの処分や祈念式、冬の主シュネティルム討伐、春のライレーネの蜜採集を経験した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 領主の養女としてお披露目され、貴族社会に正式に認知された。

ジルヴェスター

エーレンフェストの領主であり、ローゼマインの養父である。ヴィルフリートやシャルロッテの父親にあたる。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト領・アウブ(領主)。
・物語内での具体的な行動や成果
 冬のお披露目でローゼマインをエーレンフェストの聖女として紹介した。ローゼマインの提案を受け、子供部屋での教材販売やハッセへの十年間の増税処分を許可した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

フロレンツィア

アウブの第一夫人であり、ジルヴェスターの妻である。ヴィルフリートの母親にあたる。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト領主一族・第一夫人。
・物語内での具体的な行動や成果
 冬のお披露目で、立派にフェシュピールを演奏したヴィルフリートの姿を見て目を潤ませて微笑んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

フェルディナンド

神官長であり、ローゼマインの後見人として彼女の教育や監視を担う。冷静で理知的な判断を下し、貴族社会の常識をローゼマインに教え込む。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・神官長。
・物語内での具体的な行動や成果
 神殿で青色神官や灰色神官の熱血指導を行った。冬の主シュネティルム討伐ではローゼマインを補助し、春の素材採集ではライレーネの蜜の研究に意欲を見せた。ハッセでは選別の扉と魔術を用いて町長らを処刑した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ヴィルフリート

ジルヴェスターとフロレンツィアの息子である。次期アウブ候補として努力を重ねている。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト領主一族・領主の息子。
・物語内での具体的な行動や成果
 努力の末に冬のお披露目でフェシュピールを立派に披露し、廃嫡の危機を免れた。子供部屋ではカルタやトランプを通じて、派閥を超えた学友達を率いるようになった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 次期アウブとしての資質を示し始めた。

貴族・騎士・側仕え・文官

カルステッド

騎士団長であり、エックハルトやランプレヒト、コルネリウスの父親である。

・所属組織、地位や役職
 騎士団・騎士団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 冬の主シュネティルム討伐において、フェルディナンドと共に強力な攻撃を仕掛け、魔獣の右前足を切断した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

エルヴィーラ

カルステッドの第一夫人である。ローゼマインを娘として扱っている。

・所属組織、地位や役職
 カルステッド家・第一夫人。
・物語内での具体的な行動や成果
 自身のお茶会でローゼマインから会計報告を受け、フェルディナンドの絵が隠された折り紙の手裏剣を受け取って喜んだ。子供部屋で教材を一式購入し、ベンノにリンシャンの注文を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

エックハルト

フェルディナンドの護衛騎士であり、カルステッドの息子である。フェルディナンドに全幅の信頼を置いている。

・所属組織、地位や役職
 騎士団・騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
 春の祈念式および素材採集に臨時でローゼマインの護衛として同行した。ハッセの処分の際には、選別の扉に弾かれた者を光の帯で拘束した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ランプレヒト

ヴィルフリートの護衛騎士であり、カルステッドの息子である。ヴィルフリートを次期アウブにするために尽力している。

・所属組織、地位や役職
 領主一族・ヴィルフリートの護衛騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
 ヴィルフリートのお披露目成功を喜んだ。ローゼマインの圧倒的な優秀さに脅威を感じつつも、彼女の虚弱さを指摘し、ヴィルフリートとの協力関係を築く方針を側近達に提案した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

コルネリウス

ローゼマインの護衛騎士見習いであり、カルステッドの息子である。

・所属組織、地位や役職
 領主一族・ローゼマインの護衛騎士見習い。
・物語内での具体的な行動や成果
 アンゲリカの成績上げ隊に参加し、自身のカルタを貸し出して学習を支援した。ローゼマインの側近を続けるか悩んでいたが、ランプレヒトとの会話を経て迷いを晴らした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

アンゲリカ

ローゼマインの護衛騎士である。勉強嫌いであり、座学の成績が著しく悪い。

・所属組織、地位や役職
 領主一族・ローゼマインの護衛騎士。貴族院三年生。
・物語内での具体的な行動や成果
 貴族院の講義で落第し、春の補講が決まった。魔剣を育てるため、ローゼマインの魔力をもらうことを条件に、護衛騎士達による猛特訓を受けることになった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ダームエル

ローゼマインの護衛騎士であり、下級貴族である。ヘンリックの弟にあたる。

・所属組織、地位や役職
 領主一族・ローゼマインの護衛騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
 シュネティルム討伐でローゼマインの騎獣に同乗し、監視と護衛を務めた。アンゲリカの成績上げ隊に参加し、ゲヴィンネンを用いて兵法を教えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ブリギッテ

ローゼマインの護衛騎士であり、中級貴族である。イルクナー出身である。

・所属組織、地位や役職
 領主一族・ローゼマインの護衛騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
 シュネティルム討伐や春の素材採集でローゼマインに同行し、彼女を守った。コリンナにアメリカンスリーブの新しい衣装を仕立ててもらうことになった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ユストクス

情報収集を好む変わり者の文官である。

・所属組織、地位や役職
 文官。徴税官。
・物語内での具体的な行動や成果
 春の祈念式に同行し、ハッセの処分において平民の登録証に血判を押させる処理を行った。フェルディナンドの処刑魔術を観察して興奮していた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

リヒャルダ

ローゼマインの筆頭側仕えである。

・所属組織、地位や役職
 領主の城・筆頭側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 ローゼマインに城での生活や面会の調整、貴族社会のしきたりを教えた。お茶会に同行し、ローゼマインの行動を補助した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

オズヴァルト

ヴィルフリートの筆頭側仕えである。

・所属組織、地位や役職
 領主の城・ヴィルフリートの側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 辞めさせられた側近達の穴を埋め、ヴィルフリートの教育と生活を支えた。ヴィルフリートを次期アウブにするための会議を主導した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

オティーリエ

ローゼマインの側仕えである。

・所属組織、地位や役職
 領主の城・側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 エルヴィーラのお茶会に同行し、会計報告書のプリントを配布した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

リンハルト

ヴィルフリートの側仕えである。

・所属組織、地位や役職
 領主の城・ヴィルフリートの側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 子供部屋で、領主候補生であるヴィルフリートやローゼマインに対する学生達の態度を観察し、評価した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

モーリッツ

子供達の教育を担当する先生である。

・所属組織、地位や役職
 城の教師。
・物語内での具体的な行動や成果
 子供部屋でローゼマインの指示に従い、子供達のレベルに合わせた教育を実施した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ノルベルト

城の筆頭側仕えである。

・所属組織、地位や役職
 領主の城・筆頭側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 城へ移ってきたローゼマインを出迎えた。教材販売の日、ローゼマインの騎獣から商人達が出てきたことに驚きつつも子供部屋へ案内した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ラザファム

フェルディナンドの側仕えである。

・所属組織、地位や役職
 フェルディナンドの館の側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 フェルディナンドの館を訪れたカルステッドを案内した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ヘンリック

ダームエルの兄であり、文官である。

・所属組織、地位や役職
 下級貴族。文官。
・物語内での具体的な行動や成果
 ローゼマインと面会し、弟のダームエルを護衛騎士に取り立ててくれたことへの深い感謝と謝罪を伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ギーベ・イルクナー

林業が盛んなイルクナーの領主であり、ブリギッテの兄である。

・所属組織、地位や役職
 イルクナーの領主(ギーベ)。
・物語内での具体的な行動や成果
 ローゼマインと面会し、イルクナーの木々や魔木について説明した。将来の訪問を歓迎する意向を示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ギーベ・グレッシェル

グレッシェル伯爵である。

・所属組織、地位や役職
 グレッシェル伯爵(ギーベ)。
・物語内での具体的な行動や成果
 子供部屋での教材販売において、娘の頼みを受けて絵本やカルタ、トランプをすべて購入した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ギーベ・キルンベルガ

キルンベルガの領主である。

・所属組織、地位や役職
 キルンベルガの領主(ギーベ)。
・物語内での具体的な行動や成果
 子供部屋での教材販売において、ヴィルフリートから教材を勧められた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ハルトムート

レーベレヒトの息子である。

・所属組織、地位や役職
 上級貴族の子供。
・物語内での具体的な行動や成果
 子供部屋でローゼマインに初対面の挨拶を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

フィリーネ

下級貴族の娘である。おとなしく、絵本を好む。

・所属組織、地位や役職
 下級貴族の子供。
・物語内での具体的な行動や成果
 冬の洗礼式を受け、貴族の仲間入りをした。子供部屋で絵本の読み聞かせを気に入り、亡き母の話を絵本に残したいと願った。新しいお話をローゼマインに教える対価として、教材を借りることになった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

イグナーツ

ヴィルフリートの学友である。

・所属組織、地位や役職
 中立派の子供。
・物語内での具体的な行動や成果
 子供部屋でヴィルフリートを中心とした作戦会議に参加し、カルタの練習に励んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

トラウゴット

ヴィルフリートの学友である。

・所属組織、地位や役職
 ライゼガング系の子供。
・物語内での具体的な行動や成果
 子供部屋でヴィルフリートを中心とした作戦会議に参加し、カルタの練習に励んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

イージドール

ヴィルフリートの学友である。

・所属組織、地位や役職
 旧ヴェローニカ派の子供。
・物語内での具体的な行動や成果
 子供部屋でヴィルフリートを中心とした作戦会議に参加し、カルタの練習に励んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ラウレンツ

ヴィルフリートの学友である。

・所属組織、地位や役職
 旧ヴェローニカ派の子供。
・物語内での具体的な行動や成果
 子供部屋でヴィルフリートを中心とした作戦会議に参加し、カルタの練習に励んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ローデリヒ

ヴィルフリートの学友である。

・所属組織、地位や役職
 旧ヴェローニカ派の子供。
・物語内での具体的な行動や成果
 子供部屋でヴィルフリートを中心とした作戦会議に参加し、カルタの練習に励んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

神殿関係者

フラン

ローゼマインの神殿における筆頭側仕えである。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・ローゼマインの筆頭側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 ローゼマインに側仕え増員や料理人不足の課題を報告した。教材販売の際には商人としての服装で城へ向かい、商品の管理を担当した。春の素材採集にも同行した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ザーム

フェルディナンドの側仕えであるが、のちにローゼマインの側仕えとなる予定である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・青色神官の側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 フランの仕事を手伝い、春の祈念式に同行して地図を用いた旅程の説明を補助した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ギル

ローゼマインの側仕え見習いであり、工房の責任者である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・ローゼマインの側仕え見習い。マイン工房の責任者。
・物語内での具体的な行動や成果
 印刷機の改良において、インゴとルッツの間で板挟みになりながらも工房を管理した。冬の手仕事の進行をローゼマインに報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

フリッツ

ローゼマインの新しい側仕えである。落ち着いた性格で我慢強い。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・ローゼマインの側仕え。工房の管理者。
・物語内での具体的な行動や成果
 工房で文字が書けないインゴの代わりに要望を記録するよう提案した。教材販売の際には商人としての服装で城へ向かい、カルタの販売を担当した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 灰色神官からローゼマインの側仕えに召し上げられた。

モニカ

ローゼマインの側仕えである。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・ローゼマインの側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 ローゼマインの着替えを手伝い、春の素材採集に同行した。森の入り口で汚れた女神像を清掃した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ニコラ

ローゼマインの側仕えであり、料理助手も務めている。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・ローゼマインの側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
 春の素材採集に同行し、女神への供え物として甘いお菓子を用意した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ヴィルマ

孤児院の管理者である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・ローゼマインの側仕え。孤児院の管理者。
・物語内での具体的な行動や成果
 秋と冬の眷属の絵本のイラスト制作を担当した。孤児院の状況をローゼマインに報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ロジーナ

ローゼマインの専属楽師である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・ローゼマインの専属楽師。
・物語内での具体的な行動や成果
 冬のお披露目でローゼマインの演奏を補助した。春の素材採集に同行し、フリュートレーネの夜にフェシュピールを弾いて泉から光を集めた。かつての主であるクリスティーネから誘いを受けたが、ローゼマインの専属を続けることを選んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

デリア

孤児院の子供である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・孤児院の住人。
・物語内での具体的な行動や成果
 ハッセから来たマルテに編み物を教えた。ハッセへ戻る神官達を見送る際にマルテと別れを惜しんだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ノルト

神殿の門番をしている灰色神官である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・灰色神官。
・物語内での具体的な行動や成果
 神殿を訪れたルッツとインゴの通行を許可した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

バルツ

孤児院の工房で働く灰色神官である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・灰色神官。
・物語内での具体的な行動や成果
 工房を訪れたインゴとディモに印刷機の工程を説明した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

カンフェル

青色神官である。フェルディナンドの指導を受けている。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・青色神官。
・物語内での具体的な行動や成果
 フェルディナンドの熱血指導を受けながら奉納式の準備を行った。奉納式では魔石を用いて小聖杯に魔力を注いだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

フリターク

青色神官である。カンフェルと共に指導を受けている。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・青色神官。
・物語内での具体的な行動や成果
 奉納式の準備を行い、儀式では魔石を用いて小聖杯に魔力を注いだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

トール

ハッセから孤児院へ引き取られた少年である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・孤児。
・物語内での具体的な行動や成果
 小神殿へ赴任する神官達と共にハッセへ戻れることを喜んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

リック

ハッセから孤児院へ引き取られた少年である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・孤児。
・物語内での具体的な行動や成果
 小神殿へ赴任する神官達と共にハッセへ戻れることを喜んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ノーラ

ハッセから孤児院へ引き取られた少女である。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・孤児。
・物語内での具体的な行動や成果
 神殿の生活に馴染めずにいたが、孤児達にハッセの編み物を教えることで自信と居場所を取り戻した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

マルテ

ハッセから孤児院へ引き取られた少女である。一番幼い。

・所属組織、地位や役職
 エーレンフェスト神殿・孤児。
・物語内での具体的な行動や成果
 デリアから編み物を教わった。ハッセへ戻る神官達を見送る際にデリアと別れを惜しんだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

商業関係者・職人・下町の住人

ベンノ

ギルベルタ商会の店主である。

・所属組織、地位や役職
 ギルベルタ商会・店主。
・物語内での具体的な行動や成果
 ハッセ小神殿の建設において代理人として働き、インゴに工事を任せた。子供部屋での教材販売を取り仕切り、貴族達の注目を集めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

マルク

ギルベルタ商会の店代である。

・所属組織、地位や役職
 ギルベルタ商会・店代。
・物語内での具体的な行動や成果
 ハッセの現状を確認し、町長派が孤立している状況をローゼマインに報告した。子供部屋での教材販売に同行した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ルッツ

ギルベルタ商会のダプラ見習いである。ローゼマインの幼馴染。

・所属組織、地位や役職
 ギルベルタ商会・ダプラ見習い。
・物語内での具体的な行動や成果
 印刷機の改良においてインゴと神殿の職人の意見を調整しようとした。インゴをローゼマインに会わせる仲介役を務めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

レオン

ギルベルタ商会の店員である。

・所属組織、地位や役職
 ギルベルタ商会・店員。
・物語内での具体的な行動や成果
 子供部屋での教材販売に同行し、トランプの販売を担当した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

グスタフ

商業ギルドのギルド長である。

・所属組織、地位や役職
 商業ギルド・ギルド長。
・物語内での具体的な行動や成果
 ハッセ小神殿建設の代理人を務めた。印刷機改良に関する異業種協力に対し、インゴへ苦言を呈した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

コリンナ

ギルベルタ商会の工房の親方である。ベンノの妹にあたる。

・所属組織、地位や役職
 ギルベルタ商会・親方。
・物語内での具体的な行動や成果
 ローゼマインの依頼を受け、ブリギッテの新しい衣装を仕立てることになった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

インゴ

木工工房の親方であり、ローゼマインの専属職人である。

・所属組織、地位や役職
 木工工房・親方。
・物語内での具体的な行動や成果
 ハッセ小神殿の工事で現場の指揮を執った。印刷機の改良を請け負い、ザックやヨハンと協力して先進的な印刷機の設計に携わった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

アニカ

インゴの妻である。

・所属組織、地位や役職
 インゴの工房の職人。
・物語内での具体的な行動や成果
 インゴと共にハッセの小神殿に泊まり込んで仕事をした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ヨハン

鍛冶職人であり、グーテンベルクの一人である。

・所属組織、地位や役職
 鍛冶工房・職人。
・物語内での具体的な行動や成果
 印刷機の改良において、金属部品の製作を依頼された。細かな技術に優れる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ザック

鍛冶職人であり、グーテンベルクの一人である。

・所属組織、地位や役職
 鍛冶工房・職人。
・物語内での具体的な行動や成果
 印刷機の設計図を描き、工夫を凝らした先進的な印刷機を考案した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ディモ

インゴの工房の職人である。

・所属組織、地位や役職
 ドスタル工房のダプラ。
・物語内での具体的な行動や成果
 インゴと共に神殿の工房へ赴き、印刷機の改良に向けた作業を体験した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

フーゴ

イタリアンレストランの料理人である。

・所属組織、地位や役職
 イタリアンレストラン・料理人。
・物語内での具体的な行動や成果
 ローゼマインの依頼で、祈念式出発前の昼食を神殿で調理した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

エラ

ローゼマインの専属料理人である。

・所属組織、地位や役職
 ローゼマインの専属料理人。
・物語内での具体的な行動や成果
 春の祈念式と素材採集に同行し、食事の準備を行った。女神への供え物として甘いお菓子を用意した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ギュンター

ローゼマインの本当の父親であり、兵士である。

・所属組織、地位や役職
 兵士・士長。
・物語内での具体的な行動や成果
 ハッセへ向かう神官たちの護衛を務めた。祈念式の出発時にローゼマインの体調を案じて自らのマントを貸した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

エーファ

ギュンターの妻であり、トゥーリの母親である。

・所属組織、地位や役職
 平民。
・物語内での具体的な行動や成果
 冬のお披露目用の髪飾りを神殿へ納品に訪れ、ローゼマインの体調を気遣った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

トゥーリ

ギュンターとエーファの娘であり、コリンナの助手である。

・所属組織、地位や役職
 ギルベルタ商会・ダプラ見習い。
・物語内での具体的な行動や成果
 冬のお披露目用の髪飾りを納品し、ローゼマインから絵本を下賜された。ブリギッテの衣装の採寸に同行し、春の髪飾りを製作してローゼマインに贈った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ハッセの住人

リヒト

ハッセの冬の館のまとめ役である。

・所属組織、地位や役職
 ハッセの周辺農村・村長。
・物語内での具体的な行動や成果
 町長に代わりハッセの民を庇い、フェルディナンドの選別の扉を率先して通り抜けた。処分後は民をまとめて償いを続けると宣言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき地位の変化はない。

ハッセの町長

ハッセの町長である。

・所属組織、地位や役職
 ハッセ・町長。
・物語内での具体的な行動や成果
 小神殿を襲撃した反逆罪に問われた。ローゼマインに慈悲を乞うたが、選別の扉を通れず拘束された。その後、フェルディナンドの魔術によって石化し、灰となって処刑された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 反逆罪で処刑された。

町長の奥さん

ハッセの町長の妻である。

・所属組織、地位や役職
 ハッセの町長の妻。
・物語内での具体的な行動や成果
 反逆罪に問われ、選別の扉を通れずに拘束された。フェルディナンドに向かって駆け出そうとしたが、魔術によって石化し、灰となって処刑された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 反逆罪で処刑された。

第三部 領主の養女2レビュー
第三部 領主の養女
本好きの下剋上 全巻まとめ
第三部 領主の養女4レビュー

展開まとめ

第三部領主の養女3

プロローグ

側仕え増員の相談と現状認識
ローゼマインは城から戻り、神殿で安らぎながら側仕えの増員についてフランに相談した。ヴィルマの指摘を受け、役職に対して人手が不足している現状を自覚したためであった。実際には五人の側仕えがいるものの、ニコラとモニカは料理に取られることが多く、実質三人で業務を担っており、負担が大きい状況であった。

フェルディナンドの許可と方針の確認
ローゼマインは既に神官長フェルディナンドへ相談しており、必要に応じて増員してよいとの許可を得ていた。資金面の問題も解決済みであり、判断はフランとの相談に委ねられていた。これによりフランは安心して増員の検討を進めることができた。

工房管理者の増員提案
フランは工房運営の将来を見据え、管理者の増員を提案した。現在はギルが単独で管理しているが、今後工房が増えれば不在になる機会が増え、業務が滞る懸念があったためである。ローゼマインはこの意見を受け入れ、適任者の選定をギルとルッツに任せることにした。

孤児院管理の現状維持
孤児院については新たな管理者の増員は不要とされた。ヴィルマの配置は特別な事情によるものであり、過剰な体制は将来の引き継ぎに支障をきたすと判断されたためである。ローゼマインもその経緯を思い出し、現状維持に納得した。

神殿長室の側仕え増員見送り
神殿長室の側仕えについては、即戦力の引き抜きであれば有効だが、新規育成は負担増になるため見送られた。フランは現状の業務と新人教育で手一杯であり、これ以上の増員は逆効果であると判断した。

料理人不足の発覚と対応策
議論の中で、側仕えの負担の原因が料理業務にあることが明確になった。本来の業務ではない料理に人員が割かれていたためであり、フランは料理人の増員を提案した。ローゼマインはこれを受け、ベンノに相談して新たな料理人の確保を進めることを決定した。

ニコラの役割転換の検討
ローゼマインは料理を好むニコラを料理助手として活用し、代わりに別の側仕えを補充する案を示した。フランは最終的な采配をローゼマインに委ねる形を取った。

工房での人選とフリッツの選出
工房ではギルとルッツが適任者を検討し、共通してフリッツの名を挙げた。フリッツは元側仕えであり能力も十分であるため、フランも賛同し、彼を新たな側仕えとして迎える方針が決まった。

フェルディナンドへの報告と評価
フランは決定事項をフェルディナンドに報告した。ニコラを料理に従事させる方針には疑問が示されたが、前例を踏まえれば許容範囲と判断された。また、フランの負担を考慮し、必要であれば神官長側から人員を出す提案もなされたが、フランは辞退した。

主従の影響関係の自覚
フェルディナンドはローゼマインとフランが互いに影響し合っている様子を指摘した。フラン自身も無自覚ながらローゼマインの影響を受けていることを認め、主従関係の変化を実感していた。

インゴと印刷機の改良

正式な面会依頼への戸惑い
ローゼマインは就寝前の報告で、ギルからギルベルタ商会の正式な手紙を受け取った。そこには印刷機の改良について、隠し部屋でインゴを交えて話し合いたいという面会依頼が記されていた。ローゼマインは、自分の素を知る者を増やしたくないという思いから、あまり親しくないインゴを隠し部屋に入れることに躊躇したが、まずは詳しい事情を聞くことにした。

工房で起きていた混乱
翌日、隠し部屋でルッツから事情を聞いたローゼマインは、工房で印刷機改良の話し合いが難航していたことを知った。現在の印刷機は圧搾機を改造しただけの簡素なもので、使い勝手が悪く、灰色神官達の意見を取り入れながら改良していく予定であった。ところが、ルッツがローゼマインの語っていた完成形の印刷機について触れると、インゴは詳しく知っている者がいるなら最初から意見を出させるべきだと強く主張し、工房の空気は険悪になっていた。

インゴの切実な事情
ルッツの説明により、インゴが強く食い下がった理由も明らかになった。インゴは若くして独立した優秀な木工職人であったが、木工協会の中ではまだ下っ端扱いされていた。さらに、ハッセの小神殿の仕事が木工協会へ直接発注されたことで、本来ならローゼマインの専属として采配を振るうべき立場だったにもかかわらず、その地位が周囲から疑われる状況になっていた。専属として認められるかどうかは職人としての評価に直結するため、インゴにとっては見過ごせない問題であった。

直接話し合う決断
ローゼマインは、自身の判断がインゴを苦しい立場に追い込んでいたことを理解し、その名誉を回復する責任は自分にあると考えた。また、印刷機の改良内容については自分も直接話を聞きたいと思っていたため、インゴとの面会を受け入れることにした。

隠し部屋での確認と安堵
約束の日、ベンノとルッツに連れられてやって来たインゴは、職人らしい粗野な姿とは異なり、貴族との面会に備えて整えられた格好をしていた。隠し部屋に入り、言葉遣いへの配慮を受けた上で、インゴは最も重要な問いとして自分がローゼマインの専属なのかを確認した。ローゼマインは、ハッセの件は期限の都合による例外であり、インゴの仕事は十分に期待に応えていると評価していると明言した。これを聞いたインゴは、ようやく肩の力を抜いた。

改良版印刷機への要求
専属であることを確認した後、インゴは職人としての厳しい表情に戻り、印刷機の改良について知っていることをすべて教えてほしいと求めた。ローゼマインは、自分の知識の中にあるより進んだ印刷機の姿を思い出しながら、台を押し引きして版を出し入れする仕組みや、横のハンドルを回して操作する構造について説明した。しかし、それは断片的な知識に過ぎず、設計図として示せるほど明確ではなかったため、インゴにとってもすぐ形にできるものではなかった。

知識の限界と技術的な壁
ローゼマインはさらに、てこの原理を使えばもっと楽に印刷できると説明しようとしたが、支点や力点、作用点といった概念はインゴにとって馴染みがなく、十分に伝わらなかった。そのため、大幅な改良は現時点では難しく、まずは台の出し入れ機構のような実現可能な部分から取り組むしかないという見通しになった。

鍛冶職人との連携という新たな展開
木材だけでは重く、滑らせる仕組みには金属が必要だという話になると、ローゼマインは鍛冶職人にも協力を仰ぐ案を出した。強度や安定性を高めるには金属部品が有効であり、これまで依頼を受けてきたヨハンとザックならば、説明を形にする助けになると考えたためである。インゴは、ローゼマインの頭の中に高度な改良案がある一方で、それをそのまま他者が理解するのは難しいことを悟り、できる範囲で形にするため鍛冶職人とも話し合いたいと考えるようになった。

グーテンベルク達への期待
ローゼマインはヨハンとザックを、自分が誇る職人であり、印刷業を広げるためのグーテンベルクだと語った。その言葉を聞いたインゴは、二人への関心を強く示し、印刷機改良のための新たな連携へ意欲を見せた。

グーテンベルクの集い

異業種連携という前例のない決断
インゴが印刷機の改良に金属を取り入れると決めたため、ローゼマインは次回の面会にヨハンとザックも同席させるようベンノに頼んだ。これに対しベンノは、木工工房の仕事に鍛冶工房が設計段階から関わるのは前例がないと指摘した。通常は木工工房が設計を固めた後で必要な金属部品だけを鍛冶工房へ注文する形であり、誰が依頼を受けてどこが利益を得るのかを明確にする慣習があった。しかしインゴは、良い物を作るためには専門家の知恵を借りるべきだと考え、異業種間の意見交換を含めた新しいやり方を選んだ。

ザックの反発と評価制度の問題
呼び出されたヨハンとザックに事情を説明し、印刷機改良への協力を求めると、ヨハンはすぐ了承したが、ザックは難色を示した。印刷機の依頼は木工工房へのものであり、自分達が手伝っても鍛冶協会での評価には繋がらないと考えたからである。ザックは、他人の仕事を支えるだけでは依頼を受けた側の評価ばかりが上がり、手伝った自分の工房には利益が残らないと不満を抱いていた。その説明によって、ヨハンが高い技術を持ちながら協会内で十分に評価されていない理由も明らかになった。

設計図を商品とする発想
ザックの不満を聞いたローゼマインは、発想と設計の価値そのものを評価すべきだと考え、ザックの設計図を買い取る形にできないかと提案した。この世界では設計図そのものを売買する発想が一般的ではなかったため、ザックは大きく驚いたが、設計図を商品として扱うならば自分の評価にも繋がると理解し、協力を受け入れた。こうして、ベンノを通じてザックへ設計図の依頼が正式に出されることになった。

印刷機改良案の提示
ローゼマインは、自分の知る印刷機の記憶をもとに改良したい点を説明した。今の全木製の印刷機に、強度と正確さを高めるため一部金属を取り入れ、組版を載せた台を動かして圧縮盤の下へ滑り込ませる仕組みを作りたいと望んでいた。最低限は金属で滑りやすくすることだと述べると、ヨハンは実現可能だと判断したが、ザックはさらに上を求め、より高度な改良点を尋ねた。

バネとてこの原理が生んだ発想の広がり
ローゼマインは、印刷機の改良に使えるかもしれないものとしてバネを挙げた。詳細な使い方までは知らなかったが、その存在を示したことで職人達の発想を刺激した。さらに、今はネジ式の圧搾機を元にしているが、将来的にはてこの原理を使った印刷機が望ましいと説明した。原理自体を具体例付きで説明すると、ヨハンは利用法を思いつけずにいた一方で、ザックは小さな力で大きなものを動かせることの価値に気付き、印刷以外の用途にも応用できると目を輝かせた。ローゼマインは、まず何よりも印刷機の完成を優先しつつ、ザックに自由な発想で設計させる方針を固めた。

適材適所による役割分担
ローゼマインは、設計はザック、実現可能な形に落とし込んで作るのはヨハンとインゴという役割分担を明確にした。ザックには印刷機の設計図作成を依頼し、良いと思ったものはすべて買い取ると約束した。一方でインゴとヨハンには、印刷機本体以外に必要となる周辺道具の制作も任せた。インゴには活字ケース、植字台、ステッキ、インテルを、ヨハンにはセッテンや込め物類などを依頼した。ローゼマインは、今後文字主体の本を印刷する段階になればこれらの道具が大量に必要になるため、早めの準備が重要だと考えていた。

ザックの設計図完成と称賛
十日ほど後、ザックは七枚もの設計図を完成させて再び隠し部屋へ現れた。ローゼマインが見比べると、自分の知る印刷機に非常に近い設計図が含まれており、その完成度に強く感動した。ザックは、ローゼマインの説明だけでなく、インゴやギル、灰色神官達の意見も取り入れながら工夫を重ねていた。顧客の要望に細かく応えるその姿勢は、多くの依頼人に支持される理由でもあった。

インゴによる冷静な評価と再検討
ローゼマインが喜びのあまり一つの設計図に飛びつき、ヨハンも難しい仕組みを持つ別案を推したことで、その場は熱気を帯びた。しかしインゴは全員を制し、まずザックの多彩で工夫に富んだ設計を称賛した上で、ローゼマインには知っている形に近いという理由だけで決めず、他案の長所と短所も見極めるよう促した。さらにヨハンには、難しい技術への挑戦だけでなく、客にとって本当に使いやすいかどうかを考えるべきだと諭した。インゴの言葉によって全員が冷静さを取り戻し、設計図を見直しながら改良点を取捨選択していった。

先進的な印刷機の完成図と職人達の意気込み
その後、話し合いを重ねながらザックが何度も設計図を書き直し、各案の優れた部分を取り入れたかなり先進的な印刷機の設計図が完成した。ローゼマインは、それによって印刷の歴史が二百年分ほど進んだように感じた。冬の大仕事として新しい印刷機の制作を任されたインゴ、ヨハン、ザックは、いずれも挑戦に満ちた眼差しを見せ、春までの完成を目指して意欲を燃やしていた。

冬の社交界の始まり

冬の訪れと城への移動時期の確認
冬の気配が深まり、神殿の窓からは収穫祭を終えた貴族達が次々と貴族街へ戻っていく様子が見えていた。ローゼマインは自分がいつ城へ移るのかをフランに尋ね、冬の洗礼式が終わってから城へ居住を移すと知らされた。フェルディナンドの側仕えであるザームもそれを補足し、雪の中で神殿と貴族街を往復する苦労を思って体調への配慮を促した。

神殿側の体制強化と側仕え達の変化
ザームは後にローゼマインの側仕えとなる予定であり、フランにとっては同性の同僚が増えることも喜ばしい出来事であった。一方、フェルディナンドは騎士団や城での仕事が減った分を神殿の教育に注ぎ込み、青色神官や灰色神官達を徹底的に鍛えていた。その熱血指導は神殿内に広く知れ渡り、推薦されたカンフェルとフリタークも課題に苦しみながら成長を促されていた。

髪飾りの納品と家族との再会
ある日、ギルベルタ商会から納品があると知らされたローゼマインは、冬のお披露目用の髪飾りが届くことを心待ちにしていた。孤児院長室へ移動すると、ルッツ、母、トゥーリが訪れ、隠し部屋で納品が行われた。届けられたのは赤い花を白いレースと羽で飾った冬の貴色にふさわしい髪飾りであり、ローゼマインは母に簪を挿してもらいながら、その出来栄えを確かめた。トゥーリの率直な反応にかつての空気がよみがえり、ローゼマインの表情も自然と緩んだ。

家族との会話と贈り物
髪飾りの確認の後、母とトゥーリは父がハッセへの護衛任務を喜んでいたことや、神殿での料理を高く評価していたことを伝えた。ローゼマインも春に再び神官達をハッセへ送る際には護衛を頼みたいと応じ、続いて孤児院の子供達やカミルの成長について話を交わした。そして、カミルへの土産として鈴入りの布のボールを贈り、それをギルベルタ商会の商品にできないかと提案した。さらにトゥーリには髪飾りの礼として絵本の第三弾を下賜し、そこに手紙も忍ばせた。

母の気遣いと別れ
母はローゼマインの体調を案じ、寒さが厳しくなる季節に熱を出したり長く寝込んだりしないよう気を付けてほしいと願った。ローゼマインも母と家族の健康を気遣い、互いに短いながらも思いやりを交わして別れた。その後、冬の洗礼式の日には家族の姿はなかったものの、カミルが布のボールで元気に遊んでいると伝え聞き、ローゼマインは満足していた。

神殿を離れる準備と側仕え達への託し事
冬の洗礼式を終えると、ローゼマインとフェルディナンドは神殿を留守にする間の仕事を青色神官達へ指示した。課題を積まれたカンフェルとフリタークは怯えつつも引き受け、神殿側の体制は整えられていった。城へ向かう日、ローゼマインは見送りに来た側仕え達に対し、ギルとフリッツにヴィルマと共に孤児院を任せ、特に冬の手仕事としての印刷に全力を尽くすよう頼んだ。自らは貴族の子供達へ教材を売るつもりで、営業も頑張ると応じた。

城での迎えと冬の予定の説明
雪の降る中で城へ移ったローゼマインは、養父の筆頭側仕えノルベルトに迎えられ、北の離れに近い待合室へ案内された。そこではリヒャルダが待っており、ローゼマインとフェルディナンドに冬の予定を説明した。三日後の土の日には洗礼式があり、それは社交界の始まりを告げる行事であり、今年洗礼式を終えた子供達のお披露目も兼ねていた。今年はローゼマイン自身がお披露目に出席するため、洗礼式はフェルディナンドが神殿長代理として執り行い、ローゼマインは来年に備えて見学することになった。

お披露目の順番に込められた配慮
お披露目の演奏順は本来なら身分の低い者から高い者へと進むが、ローゼマインは領主の養女であることを広く知らせるため、最後に回されることになっていた。形式上は領主の子に順位はないものの、実際には実子であるヴィルフリートとの差が意識されており、養女となったローゼマインを後にすることで、ヴィルフリートが見劣りしないよう配慮されていた。ローゼマインはその事情を理解し、受け入れた。

フェルディナンドの注意と離別
予定の説明が終わると、フェルディナンドは神殿の奉納式の日程を伝えた上で、ローゼマインの体調を最優先に予定を組むようリヒャルダへ命じた。その後、自宅へ戻る前に、薬を預けること、図書室には立ち入らないこと、知らない貴族とは直接話さないことなどを細かく言い聞かせたが、リヒャルダに制されてようやく退室した。こうしてローゼマインは、しばらくフェルディナンドの小言から離れた静かな時間を得ることになった。

ヴィルフリートの課題と発奮
城での生活が始まると、ローゼマインはリヒャルダに連れられてヴィルフリートの様子を見に行った。ヴィルフリートは課題表の大半を埋めており、大きく成長していたが、まだ五つの課題が残っていた。ローゼマインはそれを見て、あと少し間に合わなかったとあえて惜しむように伝えた。その言葉に刺激され、ヴィルフリートは三日後のお披露目までに終わらせると奮起し、モーリッツを呼んで猛然と勉強を始めた。

夕食での応酬と領主一家への影響
夕食の席では、ヴィルフリートの課題がさらに進んだことが報告され、両親がそれを褒めた。ローゼマインも、やらなければ何もできないと気付いたことこそ進歩だと評価し、ヴィルフリートの努力を認めた。その一方で、ジルヴェスターはフェルディナンドが神殿から城へ手伝いに来てくれないことへの不満を漏らしたが、ローゼマインは城には文官が大勢おり、今は神殿で後進を育てる方が重要だと反論した。さらに、領主たる者が息子の前でみっともない姿を見せるはずがないと釘を刺したことで、ヴィルフリートも父を擁護し、結果としてジルヴェスターは一層手を抜けない立場へ追い込まれた。

宴当日の準備と待合室での時間
やがて、エーレンフェストの全貴族が集まる宴の日が訪れた。ローゼマインは早朝から湯浴みを済ませ、お披露目用の衣装を着せられ、髪を整えられてから本館近くの待合室へ移動した。そこではリヒャルダと専属楽師のロジーナ、さらに護衛騎士のコルネリウスとアンゲリカが付き添っていた。二人が身につける領地色のマントとブローチは、貴族院に属する者の印であり、貴族院では領地ごとに異なる色のマントを用いると教えられた。

子供達の集結と大広間への入場
待合室にはヴィルフリートも現れ、やがて他の子供達も続々と集まってきた。今年の子供は八人で、例年より少なめであった。子供同士で自由に話すことは許されず、ローゼマインは少しだけ手を振ってみたものの困らせてしまい、自重することにした。三の鐘が鳴ると、ヴィルフリートが小さな紳士らしく手を差し出し、ローゼマインをエスコートして大広間へ向かった。歩みの速さに気を付けるよう頼みつつ進み、扉の前に並んだ二人は、フェルディナンドの新たなるエーレンフェストの子を迎えよという声とともに大広間へ迎え入れられた。見たこともない数の貴族達の視線に一瞬怯みながらも、ローゼマインはヴィルフリートと視線を交わし、共に一歩を踏み出した。

洗礼式とお披露目

大広間への入場と立場の変化の実感
ローゼマインとヴィルフリートは、大勢の貴族が見守る大広間の中央を進んでいった。集まった貴族達は衣装や立ち位置によって身分の違いが見て取れ、舞台に近い者ほど高位であることがうかがえた。ローゼマインは会場の様子を見渡す中で、エルヴィーラやエックハルトが通常の上級貴族の位置におり、洗礼式を受ける子供の関係者の場所にはいないことに気付き、自分がすでに領主の養女として扱われている現実を改めて実感し、少し寂しさを覚えた。

四人の子供の洗礼式
舞台に上がった後、貴族街から遠く、誕生季に神官を招けなかった子供も含めた四人の洗礼式が始まった。フェルディナンドが神話を語り、それぞれの子供の名を呼んで進めていく流れは、ローゼマイン自身の洗礼式とほぼ同じであった。フィリーネは魔術具を握って光らせ、メダルに魔力を登録することで正式にエーレンフェストの貴族として認められた。その後、父親から指輪を贈られ、フェルディナンドの祝福に対して小さな祝福を返した。ローゼマインはその控えめな祝福を見て、自分の洗礼式で出席者全員を祝福してしまったことが明らかに常識外れであったと悟り、今さらながら自分の異常さを痛感した。

お披露目の演奏から見えた身分差
洗礼式の後は、今年洗礼式を迎えた子供達が神々への感謝と今後の加護を願って音楽を奉納するお披露目が始まった。演奏は身分の低い者から順に行われ、最初の子供達の腕前はローゼマインの想像よりもずっと拙かった。だが、順番が進んで身分の高い子供達になるにつれて演奏は上達し、教師や楽器、教育にかけられる費用の差がそのまま嗜みの差となって現れているのだと理解した。ローゼマインはその現実を見て、ヴィルフリートが見劣りせずに済みそうだと安堵し、緊張する彼を励ました。

ヴィルフリートの演奏と母の眼差し
ローゼマインに背を押されたヴィルフリートは、中央の椅子に座り、堂々とフェシュピールを演奏した。少し詰まる場面はあったものの、慌てず最後まで弾き切り、領主の子に相応しい姿を見せた。その姿を見守るフロレンツィアは目を潤ませて微笑み、母親としての愛情を隠さなかった。ローゼマインはその眼差しに母との関係を重ね、ヴィルフリートを少し羨ましく感じた。

聖女伝説の誇張と演奏前の緊張
次に舞台中央へ呼ばれたローゼマインは、集まった八百人近い貴族達の視線を一身に浴びた。エルヴィーラやエックハルトは落ち着いた笑顔を向けていたが、ダームエルやブリギッテは心配そうであり、コルネリウスとアンゲリカは期待に満ちた目を向けていた。その中でジルヴェスターは、ローゼマインが養女となった経緯を含めて、さらに誇張した聖女伝説を貴族達に語り、ローゼマインは内心で必死にやめてほしいと叫びながら笑顔を保っていた。ロジーナに励まされ、笑顔と神々への感謝を忘れないように言われたことで、ローゼマインは何とか気持ちを整えて演奏に臨んだ。

奉納演奏で起きた祝福の暴発
ローゼマインが奉納したのは火の神ライデンシャフトに捧げる歌であった。心を籠めて演奏し、歌ったその瞬間、指輪から魔力が勝手に引き出され、歌詞に合わせて祝福へと変わって大広間全体に降り注いだ。ローゼマインは慌てて魔力を止めようとしたが間に合わず、会場の貴族達は唖然とした表情を見せた。フェルディナンドも頭を抱えるような反応を見せたが、演奏を途中で止めることもできず、ローゼマインは最後まで演奏を続けた。演奏後も拍手はまばらで、多くの者が反応に困っていたため、ローゼマインは自分が場の空気を微妙にしてしまったことに激しく動揺した。

フェルディナンドによる聖女演出の強化
演奏を終えたローゼマインのもとへフェルディナンドが歩み寄ると、そのまま彼女を抱き上げ、エーレンフェストに恵みをもたらす聖女に祝福をと呼びかけた。それに応じて貴族達が一斉にシュタープを掲げ、祝福の光を上げたことで、聖女伝説は一気に強固なものとなった。フェルディナンドに手を振れ、笑えと命じられたローゼマインは、練習していた優雅な笑みで応じるしかなく、大きな拍手の中でそのまま控室へと連れ出された。

控室での確認と聖女伝説の必要性
控室で盗聴防止の魔術具を使いながら、フェルディナンドはローゼマインにあの祝福は何だったのかと問いただした。ローゼマイン自身も原因はわからず、真剣に神へ祈ったことで指輪から魔力が引き出されたのではないかと説明した。今後は指輪を外して演奏する案も出したが、洗礼式を終えた貴族が指輪をしていないことはあり得ないとして却下された。そしてフェルディナンドは、普通と違う力には理由付けが必要であり、領地に役立つ聖女であれば忌避や迫害を避けられると語った。大きな力を持つ者は、有用であることを示さなければ危険なのだとローゼマインに教えた。

リヒャルダの慰めと自分の力への認識
その後、リヒャルダに連れられて食堂へ向かう途中、ローゼマインはよくやったと労われた。リヒャルダは、洗礼式や星結びの儀式、ヴィルフリートへの教育を見てきた者達にとって、ローゼマインが普通の子供ではないことは今さらの話であると軽く言い、魔力が多いことは貴族として誇るべきことであって、困るようなことではないと慰めた。その言葉にローゼマインの気持ちは少し軽くなった。

ロジーナとクリスティーネの再会
昼食後、ロジーナがいつもと違う困惑した表情をしていることに気付いたローゼマインが尋ねると、ロジーナはクリスティーネに声をかけられたと明かした。しかもクリスティーネは、ロジーナを迎えに来るつもりだったと語ったという。芸術を共に楽しめるクリスティーネのもとへ戻りたいのではないかとローゼマインは不安になるが、ロジーナは今の生活に満足しており戻るつもりはないと答えた。ただし、置いていかれたと感じていた過去の傷が慰められたことは確かであった。ローゼマインはロジーナを失わずに済んだことに安堵し、自分の小さな嫉妬心を見抜かれたことに少し恥ずかしさを覚えた。

授与式と貴族院への関心
続いて行われた授与式では、貴族院へ向かう新入生達にマントとブローチが授けられた。ローゼマインは周囲の護衛騎士や側仕えに囲まれて舞台がよく見えなかったが、ジルヴェスターが一人ずつ新入生に手渡し、励ましている様子を隙間から見守った。さらに移動日は学年ごとに異なり、転移の魔法陣が一度に多人数を運べないため学年別で移動すると聞き、ローゼマインは貴族院が中央にあり、冬の間学生達がそこで生活することを知った。

社交界のざわめきと退場
授与式が終わると、大広間は情報交換の場として一気にざわめき始めた。ローゼマインはここでどのように振る舞えばよいのか考えていたが、フェルディナンドとエルヴィーラに顔色がよくないと指摘され、これ以上騒ぎを起こす前に退場するよう促された。こうしてリヒャルダや護衛騎士に囲まれて大広間を後にすることになった。

聖女として向けられる視線
退場の途中、ローゼマインの耳には聖女に相応しい魔力だと好意的に囁く声もあれば、魔力が多いだけで聖女などあり得ないと否定する声も入ってきた。さらには自分の姪に違いないと勝手なことを言う者までいた。あからさまではないものの、入場時以上に多くの視線と意識が自分へ向けられていることをローゼマインは肌で感じた。駆け出したい思いを堪えながら、俯かずに顔を上げ、貴族らしく歩き切ったのであった。

子供教室

子供部屋の役割と冬の過ごし方
冬の間、貴族の大人達は社交を優先し、他領や中央、ギーベ同士の会合、女性同士の集まりなどを通じて様々な情報交換を行っていた。その間、洗礼式を終えた子供達は一室に集められ、将来貴族院で共に過ごす同期や先輩後輩として交流を深めることになっていた。そこでは所属するコースを考えたり、同年代の子供達と関わったりしながら、社交の術や身分差に応じた振る舞いを学ぶことが求められていた。

側近選びの場としての子供部屋
リヒャルダは、子供部屋が将来の側近を選び育てる場でもあると説明した。貴族院で長く行動を共にすることで信頼関係が生まれやすく、年の近い者が側近として選ばれやすいためである。同時に、その背後では親達が側近の座を巡って暗躍することもあるため、子供の後ろには必ず親族が付いていることを忘れてはならないと、ローゼマインに注意を与えた。

子供部屋への初登場と挨拶の列
ローゼマインは騎獣で子供部屋へ向かい、その途中で貴族院へ移動する学生達の荷物や、マントとブローチを付けた学生達の姿を目にした。学生達に付き従う側仕えの存在や、貴族院で必要となる人員配置の仕組みについても教えられた。やがて子供部屋へ入ると、室内にいた子供達は一斉に口を閉ざして跪き、ローゼマインは奥の椅子へ案内された。その後は次々と挨拶を受けることになり、名と親の名を聞きながら、前神殿長の手紙をもとに作られた要注意人物だけは意識して覚えようとしていた。

護衛騎士達の志望理由
自分への挨拶が終わると、ローゼマインは子供達のように自由に話せない状況を物足りなく感じ、周囲にいた護衛騎士達へ騎士を目指した理由を尋ねた。ダームエルは文官として優秀な兄と異なる立場で役立つために騎士を選んだと答え、ブリギッテは魔獣の多い土地で育ったため、害獣を倒す力を身に付けることが周囲のためになると考えたと語った。コルネリウスは騎士である父と兄の影響から自然に騎士を志していた。一方、アンゲリカは勉強をしたくなかったから騎士を選んだと率直に答え、勉強好きな主であるローゼマインと不足を補い合えることを喜んでいた。

司書への道が閉ざされる衝撃
自分は文官になって図書室を管理する司書になりたいと語ったローゼマインに対し、ブリギッテは領主の養女である以上、進むべきは領主候補生のコースであり、文官になることは難しいのではないかと伝えた。その言葉によって、ローゼマインは自分が思い描いていた司書への道が閉ざされているかもしれないと知り、大きな衝撃を受けて意識を失った。

フェルディナンドが示した可能性
目を覚ましたローゼマインは、すぐにフェルディナンドへ司書になれないのかと訴えた。フェルディナンドは面倒そうにしながらも、文官になる道がまったくないわけではないと告げた。その方法は、領主候補生の講義をすべて取りながら、文官コースの講義も受けるというものであった。さらに、前例として自分自身が領主候補生でありながら文官と騎士の講義を取っていたことも明かした。ローゼマインはその規格外ぶりに驚きつつも、司書への道が完全には閉ざされていないと知って希望を取り戻した。

今は販路拡大を優先するという助言
フェルディナンドは、貴族院での講義の取り方については入学後に相談に乗るとし、今は虚弱な体をどうにかすることと、印刷業の販路拡大のためにカルタや絵本を貴族の子供達へ広めることを優先するよう命じた。ローゼマインはそれを受け入れ、司書への道を後回しにしながらも希望を抱いて前向きに動き出した。

カルタによる子供達への働きかけ
貴族院へ向かう学生達がいなくなった翌日、ローゼマインはカルタを持って子供部屋へ向かった。これから同じ顔ぶれで冬を過ごすことになる子供達と仲良くなるためだと説明し、七歳から九歳の子供達を学年ごとに分けてカルタ大会を始めた。経験者であるローゼマインとヴィルフリートは九歳の集まりに加わって簡単に勝利したが、ローゼマインは周囲が手加減していることを見抜いていた。そこで、冬の間に一度も自分達に勝てないようでは側近は任せられないとあえて煽り、接待ではなく実力で挑ませる方向へと空気を変えた。

賞品による競争意識の刺激
初心者と経験者では勝負にならず、当初はローゼマインとヴィルフリートの圧勝となった。そこでローゼマインは、翌日から最も優秀だった者へお菓子を与えると宣言した。普段、身分差によって十分なお菓子を口にできない子供達にとって、その賞品は非常に魅力的であり、以後は皆が真剣な目でカルタに向き合うようになった。

子供部屋への教育導入
翌日からローゼマインは、自分達に行われていた教育内容をそのまま子供部屋へ持ち込んだ。朝食後には騎士団との訓練があり、ローゼマイン自身は皆が走る間に歩行練習を行い、エックハルトが倒れないよう見守った。三の鐘の後は勉強の時間となり、カルタ、絵本の読み聞かせ、書き取りなどを子供達のレベルに合わせて進めた。ヴィルフリートは基礎文字を覚え終えて絵本の書写へ進み、領主の息子として最低限の水準へ追い付いていた。ローゼマインは一人で本を読んだり内容をまとめたり、次に作る絵本の本文を書いたりして、満ち足りた時間を過ごしていた。

遊びを通じた学習の工夫
算数では普通の練習問題に加え、足し算を使うカード遊びを取り入れた。計算が得意ではない子供達は難しい顔をしながらも取り組み、得意な子供はお菓子を稼いでいた。フェシュピールも全員が同じ時間に練習することにし、良い教師を招けない子供達にもロジーナのような優れた楽師の指導を受けさせた。領内の子供達の基礎力向上についてはフロレンツィアの許可も得ており、教師達にも特別手当が支払われたため、円滑に進められていた。

規律ある子供部屋への変化
毎年子供部屋を監視していた側仕え達は、これほど規律正しい子供部屋は初めてだと感心していた。従来は上級貴族の子供が身分を振りかざし、下級貴族の子供がいじめられ、その仲裁に側仕え達が苦労していたからである。ローゼマインは、勉強に慣れていない子供達が飽きないよう、書き取りが終われば絵本の読み聞かせへ移るなど、内容をこまめに変えて対応していた。

絵本に魅せられたフィリーネ
読み聞かせの時間になると、子供達は挿絵付きでわかりやすくまとめられた神々の話に目を輝かせた。その中でも最も熱心だったのが、今年洗礼式を終えたばかりの下級貴族の娘フィリーネであった。蜂蜜色の髪と若葉のような瞳を持つおとなしい子で、絵本の読み聞かせではいつも一番前に座り、自由時間にも絵本を嬉しそうに眺めていた。ヴィルフリートはそのフィリーネに、絵本はローゼマインが作ったのだと誇らしげに語った。

フィリーネの願いと新たな課題
ローゼマインに強い憧れを向けるフィリーネは、自分も絵本を作りたいと勇気を振り絞って申し出た。理由を尋ねると、亡くなった実母が語ってくれた話を絵本に残したいのだと答えた。新しい母は同じ話を知らず、母の語った物語を忘れたくないという切実な思いがそこにはあった。その言葉を聞いたローゼマインは、自分も母の話を書き留めてきたことを思い出し、フィリーネの願いに深く共感した。そして、自分が話を書き留めて差し上げると申し出て、フィリーネの母の話を書写することを彼女の冬の課題とした。フィリーネはそれを恥ずかしそうに喜び、本作りに興味を持つ子としてローゼマインに歓迎された。

お茶会

冬の社交の変化と面会依頼の確認
冬の社交は、大人達の情報収集が一段落すると、新たな交友関係の構築や派閥強化へと重点が移っていった。特に今年はジルヴェスターの母が退いたことで領内の勢力図が大きく変わり、多くの貴族が新しい繋がりを求めて動いていた。ローゼマインも毎日、リヒャルダが持ってくる面会依頼の手紙に目を通しながら、誰がどの派閥に属し、誰と繋がっているのかを学んでいた。その中でも特に注意すべき相手として、生母とされるローゼマリーの親族の存在が挙げられていた。

面会相手の選定
ローゼマインは、まずエルヴィーラからのお茶会の誘いを受けたいと希望した。フェシュピール演奏会の会計報告をする約束があったためである。さらに、護衛騎士であるダームエルの兄ヘンリックや、ブリギッテの兄であるイルクナー子爵との面会も望んだ。ヘンリックにはトロンベ討伐の件に関する詫びと礼の意があり、イルクナー子爵とは林業と製紙業に関する話ができる可能性があったためである。

ヘンリックとの面会と感謝の表明
最初に実現したのはダームエルの兄ヘンリックとの面会であった。ダームエルは兄との面会に同席させられることを気まずがっていたが、護衛騎士として外すわけにはいかなかった。ヘンリックは誠実で穏やかな文官であり、面会の目的はただひたすら、去年のトロンベ討伐でのダームエルの失態に対する口添えと、その後に護衛騎士へ取り立てたことへの礼を述べることにあった。シキコーザに巻き込まれたダームエルを被害者として強く印象付け、さらに領主一族の護衛騎士へ抜擢したことは、下級貴族であるダームエルにとって大きな出世であり、ヘンリックは兄として深く感謝していた。面会はその礼を伝えるだけで、簡潔に終わった。

イルクナー子爵との面会と製紙業への関心
続いて行われたブリギッテの兄、イルクナー子爵との面会では、ローゼマインは早速、木々について話を聞きたいと切り出した。イルクナーは林業の盛んな土地であり、木から紙を作る事業を進めているローゼマインにとって、新たな素材の発見に繋がる可能性があった。イルクナー子爵は、ローゼマインが木に強い関心を示したことを喜び、この地域とは異なる木や特殊な魔木についていくつか名を挙げて説明した。ローゼマインは、自分の知らない木ばかりであることに驚き、いつかイルクナーを実際に訪れて木々を見たいと口にしたが、公の場で軽々しく決定事項のように話してはならないとリヒャルダにたしなめられた。それでも、数年後になるかもしれないが、紙の改良のためにいつかイルクナーを訪れる意志を伝え、子爵もそれを歓迎した。

ローゼマリーの親族との遭遇
イルクナー子爵との面会を終えて部屋を出たところで、ローゼマインは見知らぬ貴族に呼び止められた。その男は、田舎貴族と付き合うより先に交友を持つべき相手がいると述べ、自分の妹であるローゼマリーにローゼマインがよく似ていると語った。ローゼマインは、その時点で相手がローゼマリーの親族であると悟ったが、紹介も挨拶もない見知らぬ貴族とは直接口を利くなというフェルディナンドの教えを思い出し、反応せずにリヒャルダへ視線を向けた。リヒャルダは無礼者として相手を退けようとしたが、その男は自分が伯父であると主張して食い下がった。それでもローゼマインは無視を貫き、イルクナー子爵へ別れの挨拶をしてその場を離れた。

面倒な親族への対処方針
部屋へ戻った後、今回の件は保護者達へ報告されることになった。返ってきた結論は三者とも同じで、関わらなければ良いというものであった。洗礼式でもお披露目でも実母の名を公表していない以上、肯定も否定もせず、接触を避け続けることが最善とされた。その後も面会依頼の手紙は届き続けたが、それ以上の接触はなく、ローゼマリーの親族は放置する方針となった。

アンゲリカの両親との誤解に満ちた面会
次に行われたアンゲリカの親族との面会では、部屋に入った直後から両親が平身低頭して謝罪を始めたため、ローゼマインは意味がわからず呆然とした。リヒャルダが理由を尋ねると、アンゲリカの両親は、娘が領主の養女の護衛騎士に抜擢された時点で不安しかなく、今回の呼び出しも何か重大な失敗をした結果であり、一族を巻き込んだ処分が下るのだと思っていたと明かした。アンゲリカは側仕えを多く出す家系に生まれながら勉強嫌いで、気も利かず、自発的にも動かないため、両親はいつ何をしでかすかと常に気を揉んでいたのである。ローゼマインは、命令違反をするわけではなく、良き主従になりたいと本人も言っていることを伝え、仕事を頑張っていると穏やかに説明したことで、面会は早めに終了した。

エルヴィーラの派閥のお茶会と会計報告
その後、エルヴィーラの派閥が集まるお茶会の日がやってきた。これは女性だけの集まりであり、ローゼマインはダームエルを休ませ、ブリギッテ、リヒャルダ、オティーリエを伴って出席した。ローゼマインはこの日のために、フェシュピール演奏会の会計報告を印刷して用意していた。寄付金の総額と用途を明記し、孤児院の子供達のために冬を越す準備や仕事環境の整備ができたことを報告したのである。しかし、集まった貴婦人達は数字や使途の細かい説明にはあまり興味を示さず、それよりも演奏会で販売されたフェルディナンドの姿絵の再販を期待していた。報告用紙が文字と数字ばかりであることに露骨に落胆する者もいた。

再販への期待と裏面の仕掛け
会計報告が終わって雑談になると、貴婦人達は一斉にヴィルマの描いた美麗なイラストの再販を望み、演奏会をもう一度開く予定はないのかと尋ねた。ローゼマインは、姿絵はアウブの手に渡ったことでフェルディナンドに知られ、二度と売ってはならないと約束させられたと説明した。その事実に貴婦人達は悲嘆したが、ローゼマインは、ただの会計報告で終わらせるには紙がもったいないと考えていた。そこで会計報告書の裏面に仕込んでおいた線を見せ、リヒャルダから受け取ったペーパーナイフで紙を切り、折り紙の手裏剣を作ってみせた。完成したそれには、両面に表情違いのフェルディナンドの絵が現れる仕組みになっていた。

折り紙教室となったお茶会
その仕掛けを見たエルヴィーラ達は大いに沸き立ち、折り方を教えてほしいと次々に求めたため、お茶会はたちまち折り紙教室へと変わった。ローゼマインは折り方を教えながら、これは今日のお茶会に出席した者だけの秘密であると念を押した。もし外に漏れれば、今度こそ印刷そのものが禁じられるかもしれないからである。貴婦人達は、それが漏れればこの場にいた者の仕業だと容易にわかると理解し、見事な結束を見せながら秘密を守ることを誓った。こうして、お茶会はフェルディナンドの新たな姿絵を共有する秘密の場として、大きな満足とともに終わった。

奉納式

子供教室での別れと新たな本の種
子供教室でカルタ勝負に勝った後、ローゼマインは三日後から奉納式のため神殿へ戻ることをヴィルフリートに伝えた。するとヴィルフリートは悔しさよりも次の勝負への意欲を燃やし、仲間達と共にローゼマインに勝つための作戦会議を始めた。ローゼマインはその成長を微笑ましく見守りつつ、フィリーネや他の女の子達から母親に聞いた物語や騎士物語の話を聞き取り、次に作る本の構想を練りながら三日を過ごした。

吹雪の中の神殿帰還
神殿へ戻る当日は猛吹雪となり、馬車では移動できないため騎獣で向かうことになった。リヒャルダはローゼマインの体調を案じて何枚も服を重ね着させ、防寒を徹底した。ローゼマインの騎獣は壁も屋根もあるため中は快適だったが、先導するフェルディナンドとダームエルは全身鎧をまとって吹雪の中を進んだ。その鎧は魔術具であり、防寒や耐火の機能が備わっていることも明かされた。二人の先導によって、ローゼマイン達は無事に神殿へたどり着いた。

神殿での再会と奉納式前の確認
神殿へ戻ると、フランとモニカが慌てて出迎え、ローゼマインは着ぶくれした服を脱いで神殿長の衣装へ着替えた。やがて神官服に着替えたフェルディナンドが現れ、カンフェルとフリタークが奉納式の準備を滞りなく終えていることを伝えた上で、当初の予定通り翌日から奉納式を始めると告げた。ローゼマインが前神殿長の不在や、ジルヴェスターが引き受けてしまった小聖杯の問題について尋ねると、フェルディナンドはすでに対処済みだと答えた。

罪人から確保した魔力
フェルディナンドが取り出した二つの魔石には大量の魔力が込められていた。ローゼマインは領主夫妻が魔力を注いだのかと疑ったが、実際にはそうではなく、前神殿長よりもはるかに魔力豊富な罪人達から搾り取ったものだった。ジルヴェスターの母やビンデバルト伯爵といった幽閉中の罪人から魔力を確保することで、今年の奉納式は去年よりも豊かな魔力で進められる見込みとなった。フェルディナンドは、青色神官達に魔石の扱いを教えれば、後は去年より楽だと見通しを語った。

儀式用衣装と奉納式の開始
奉納式当日、ローゼマインは湯浴みを済ませ、神殿長としての儀式用衣装に身を包んだ。去年とは違い、金色のタスキと銀色の帯を締め、赤い小物で統一された装いである。ロジーナの確認を受けて着付けが終わると、フランとザームに先導されて儀式の間へ向かった。そこには去年と同じように祭壇と神具、小聖杯が並べられていたが、今年はフェルディナンドだけでなく、カンフェルとフリタークも魔力入りの魔石を持って待機していた。

神殿長としての祈りと大規模な奉納
フェルディナンドに促され、ローゼマインは祭壇の前に進み、去年とは逆に自分が祈りの言葉を唱え、後ろの三人がそれを復唱する形で奉納式が始まった。祝詞を口にするにつれてローゼマインの魔力は赤い布へ流れ込み、光の波となって祭壇へ向かっていった。さらに後ろの三人からも魔力が流れ込み、一度の奉納で四十個ほどの小聖杯が満たされた。去年はフェルディナンドと二人で七、八個ずつ満たしていたことを思えば、格段に効率が上がっていた。

青色神官達の疲労と奉納式短縮の見通し
奉納を終えた後、フェルディナンドはカンフェルとフリタークの魔石から魔力がほとんど失われていることを確認し、奉納式全体は三日ほどで終わるだろうと見積もった。二人は自分では扱ったことのない規模の魔力を扱ったため、ぐったりと疲弊していたが、ローゼマインはその働きに感謝して退室を許した。続いてフェルディナンドは他の青色神官達を呼び寄せ、後は一気に終わらせると告げた。

フレーベルタークの小聖杯と領主夫妻の弱み
儀式の合間に、ローゼマインはジルヴェスターが増やした小聖杯がどこのものかを尋ねた。フェルディナンドによれば、それはエーレンフェスト西のフレーベルタークのものであった。フレーベルタークは政変に深く巻き込まれ、立て直しに苦しむ土地であり、ジルヴェスターとフロレンツィアはそれぞれ兄姉との関係からその頼み事に弱いのだという。フェルディナンドは、これまでは自分が交渉の場で歯止めをかけていたが、今後はそれが難しくなり、領主夫妻は良いようにあしらわれるだろうと懸念していた。ローゼマインは、自分が交渉の矢面に立たされたのだと悟った。

去年より楽な奉納式への安堵
それでも、去年より三日ほどで終わる見込みが立ち、冬の素材採集までには奉納式が終わりそうだと知って、ローゼマインは素直に安堵した。去年のように十日以上かけて奉納した上で、激しい回復薬に頼る必要がなくなりそうだったからである。フェルディナンドは、ローゼマインには休息を優先させ、自分が奉納式全体を見守ると告げ、退室を促した。

神殿での書類仕事と不審な手紙
自室へ戻ったローゼマインは、モニカに普段着へ着替えさせてもらった後、フランから城に滞在している間に溜まった書類や手紙を渡された。大半は儀礼的な書簡だったが、その中に前神殿長宛ての秘密の恋文らしき手紙が混じっていた。差出人も宛先もなく、どうしても頼みたいことがあるという内容で、返信用の紙も同封されていた。ローゼマインは、いつも通り前神殿長は亡くなったと伝える文面を書き、折って封筒に入れようとした。

魔術具の手紙と神官長への報告決意
すると、その返信用の紙はローゼマインの指輪から魔力を吸い取り、鳥の姿を取ってオルドナンツのように飛び去っていった。手紙自体が魔術具であり、返信に魔力を込めると差出人へ戻る仕組みだったのである。突然の出来事に驚きつつも、ローゼマインはブリギッテに大丈夫だと告げた。そして、この件は儀式を終えた後のフェルディナンドへ必ず話しておかなければならないと判断した。

冬の素材収集

前神殿長宛ての手紙への不安と安堵
ローゼマインは、前神殿長宛ての魔術具の手紙に返信してしまった件をフェルディナンドへ報告しなければならないと考え、奉納式の終了を待っていた。領主の母の幽閉や前神殿長に関する一連の事件には箝口令が敷かれている可能性があると思い至り、自分が重大な失敗をしたのではないかと青ざめていたのである。だが、やがて戻ってきた返書には、前神殿長の死への悔やみと知らせへの礼が丁寧に記されているだけで、混乱や追及の色はなかった。さらに、奉納式後にフェルディナンドへ確認すると、箝口令が敷かれているのは領主の母の件であり、前神殿長の生死については特に制限がないとわかったため、ローゼマインはようやく大事にはなっていないと安堵した。

奉納式の終了と小聖杯の管理
奉納式はフェルディナンドの見立て通り三日で終わった。去年よりも大幅に短く済み、預かっていたすべての小聖杯へ無事に魔力を込め終えることができた。ローゼマインは、フランやモニカと共に神殿長室の戸棚に並べられた小聖杯を一つ一つ確認し、間違いがないことを確かめた上でしっかりと施錠した。奉納式が滞りなく終わったことで、去年のような極端な負担は回避できたのである。

ライデンシャフトの槍を武器として与えられる
施錠を終えたローゼマインのもとへフェルディナンドが訪れ、火の神ライデンシャフトの槍を差し出した。そして、それを自分の魔力で満たすよう命じた。奉納式の直後は神具に蓄えられていた魔力が小聖杯へ流れて空になっているため、今が注ぎ直す好機だったのである。フェルディナンドは、ローゼマインには通常の武器を扱う体力も腕力もなく、冬の素材採集に向けて使える武器がこの神具しかないと説明した。ローゼマインは神具を自分の武器とすることに強い抵抗を覚えつつも、領主の許可も得ていると聞かされ、罰当たりな気分を抱えながら数時間かけて槍へ魔力を注ぎ込んだ。

孤児院の様子と印刷事業の進展
槍への魔力注入を終えた後、ローゼマインは孤児院を訪れて冬の手仕事の進捗を確認した。ギルとフリッツからは、絵本やカルタ、トランプの製造状況が順調であり、城の子供部屋でもカルタやトランプが流行し始め、絵本やヴィルマの絵も好評であると報告された。ローゼマインは、次の悪戯めいた仕掛けもすでに考えていると笑い、ヴィルマもそれを楽しそうに受け止めた。また、女の子達は編み物に励んでおり、ハッセから来たノーラが中心となって皆に教えていた。新しい環境に馴染めず自信を失っていたノーラも、自分が教える立場になることで役割と居場所を得て、笑顔を取り戻していた。ローゼマインは孤児院の子供達が問題なく過ごしている様子に安心した。

冬の主出現の急報
奉納式も終わり、孤児院の状況も確認できたため、ローゼマインはいつでも城へ戻れるとフェルディナンドに伝えていた。するとその時、白い鳥のオルドナンツが飛び込み、カルステッドの声で冬の主が現れたこと、今年はシュネティルムであることが告げられた。フェルディナンドは即座に返答を飛ばし、準備してすぐ向かうと命じた。そしてローゼマインには、最高級の魔石が得られるかもしれないと告げ、ただちに準備して城へ向かうよう指示した。

討伐への準備と冬の主の説明
ローゼマインは青ざめながらも、自室へ駆け戻って準備を始めた。エラやロジーナにも城へ向かう支度が命じられ、護衛騎士達も顔色を変えて動き出した。ローゼマインは防寒のために下着と上着を重ね、採集用の服装に着替えた上で、さらに厚手の上着を羽織った。着替えの最中、ブリギッテから冬の主について説明を受けた。冬の主とは、毎年冬に現れる最も強力な魔獣であり、強大な魔力を持って吹雪を起こす存在である。それを狩らなければ春の訪れが遅れるため、エーレンフェストの騎士団総出で討伐に向かうのだという。ローゼマインは、自分がその魔獣を狩るのかと恐る恐る尋ねたが、実際には騎士団が弱らせた後、自分が止めを刺して魔石を得るのだと教えられた。

吹雪の中での城への移動
準備を終えた一行は、神殿の貴族門に近い通用口へ集まった。ローゼマインは屋内でレッサーバスを出し、エラやロジーナ、ブリギッテと共に乗り込んだ。フェルディナンドは、冬の主が暴れれば吹雪はさらに激しくなり視界も悪化すると警告し、自分の青いマントとダームエルの黄土色のマントを見失わないよう念を押した。扉が開くと凄まじい風雪が吹き込み、フェルディナンドの騎獣が真っ先に飛び出した。ローゼマインは二人のマントを目印にして、白一色の世界の中を必死に騎獣で追った。ブリギッテの案内もあって、なんとか城へたどり着くことができた。

騎士団総出の出陣準備
城へ着くと、エラとロジーナはすぐ屋内へ避難させられ、ローゼマインとブリギッテはそのまま騎士団の集合場所である第一訓練場へ向かった。そこには、地方の騎士も含めて二百五十人ほどの騎士達がすでに集結しており、冬の主がいかに危険な存在であるかがよくわかった。フェルディナンドは、上級騎士には冬の主の四肢切断を、中級騎士には眷属退治を、下級騎士にはローゼマインの騎獣周囲の防衛を命じた。さらに、ブリギッテにはローゼマインの騎獣へ同乗した後に中級へ合流するよう、ダームエルには下級と共に行動するよう指示した。

出陣前の祈りと魔力の消耗
フェルディナンドはローゼマインに、呼びに行くまで指定位置から絶対に動くなと命じた。ローゼマインは、自分にできることは少ないが、せめて騎士達の武運を祈りたいと願い出た。フェルディナンドは、魔力を温存すべきだとしながらも、今年は冬の主の魔石を譲ることになるためと許可を出した。そこでローゼマインは、火の神ライデンシャフトと武勇の神アングリーフの加護が皆にあるよう祈りを捧げた。青い祝福の光は騎士団の上へ降り注ぎ、人数が多いぶん、ローゼマインは思った以上に魔力を消耗した。

激マズ回復薬と出陣開始
祈りを終えるとフェルディナンドは、戦いの前にこれを飲めと回復薬を差し出し、同時に騎獣の大きさを魔力節約のため調整するよう命じた。ローゼマインは泣きたい気分でその激烈に苦い回復薬を飲み干し、体調と魔力を整えた。そして、カルステッド率いる上級騎士達を先頭に、フェルディナンドが殿を務め、中級騎士に囲まれながらローゼマインも出陣した。北へ向かうにつれ、強大な魔力と吹雪はますます激しさを増していった。

冬の主との対峙直前
吹雪の中心に巨大な影が見えた瞬間、フェルディナンドはローゼマインに待機を命じた。ローゼマインはその場でライデンシャフトの槍を握り、いつでも飛び出せるように準備を整えた。ブリギッテはレッサーバスを飛び出し、自らの騎獣で中級騎士達の戦列へ合流した。フェルディナンドも青いマントを翻して上級騎士達のもとへ向かい、ローゼマインの周囲は下級騎士達によって固められた。こうして、ローゼマインは冬の主との戦いを目前に、待機することになった。

シュネティルムとの戦い

待機中の監視とダームエルの同乗
ローゼマインは雪に埋もれないようレッサーバスを空中に浮かせたまま、下級騎士達に囲まれて待機していた。吹雪は激しく、近くの騎士のマントすら霞むほどであった。そこへダームエルがやってきて、フェルディナンドの命令で助手席に乗り込んだ。命令の内容は、ローゼマインが不安だから側に付いていろという建前のもと、実際には余計な行動を起こさせず、魔力を温存させるための監視であった。ダームエルは、自分がようやく見習いから騎士に戻れた立場であることを訴え、無茶をしないようにと頼んだ。

騎獣の使い勝手と戦闘への不向きさ
待機の合間、ダームエルはレッサーバスの内部に感心しつつも、ブリギッテから聞いた感想を伝えた。移動手段としては快適だが、騎士のように武器を持って戦うことを考えると、跨って操る騎獣の方が戦闘には向いているというものであった。ローゼマインは用途ごとに騎獣を使い分ければよいのではないかと考えたが、騎士にとって一瞬で出せる騎獣には明確なイメージと慣れが必要であり、そのような使い分けは難しいと説明された。

騎士団長とフェルディナンドの初撃
やがて、吹雪の中心に向かって左右から強い光が現れた。ダームエルによれば、それはシュツェーリアの夜にゴルツェを倒した時と同じ攻撃であり、騎士団長カルステッドとフェルディナンドによるものだった。二つの光が吹雪の渦へ叩き込まれると轟音が響き、渦は一瞬乱れたが、直後に騎士達が次々と吹き飛ばされるほどの強烈な衝撃が広がった。ローゼマインもレッサーバスを維持するために魔力を注ぎ込みながら耐えるしかなかった。

シュネティルムの姿と眷属の出現
攻撃の後も吹雪は消えず、地の底から響くような唸り声と共に渦はさらに巨大化した。その吹雪の中から白い塊が次々と飛び出し、豹や兎、狼に似た姿を取って騎士達へ襲いかかった。それらはシュネティルムの魔力によって作られた眷属であった。吹雪が薄れた中心には、巨大な雪の虎のような魔獣シュネティルムが現れた。白い体に黒い縞を持ち、長い牙と鋭い爪、赤く光る目を備えたその巨体は、周囲を飛び回る騎士達が小さな虫に見えるほどの大きさであった。

長期戦となった消耗戦
シュネティルムは吠えるたびに吹雪を起こし、その中から眷属を生み出していた。眷属自体は騎士達が比較的容易に倒していたが、倒された眷属は吹雪のように散って再びシュネティルムへ戻っていった。そのため、戦いは終わる気配を見せず、吹雪と眷属の発生を繰り返す長期戦となった。ローゼマインは苦戦の様子に不安を抱いたが、ダームエルもまた厳しい表情で戦況を見守るしかなかった。

右前足の切断と再生の脅威
長い攻防の末、シュネティルムの吹雪が弱まり、眷属の数も減り始めたところで、再びカルステッドとフェルディナンドの強い光が放たれた。二人の攻撃はシュネティルムの右前足へ集中し、体内で爆発するように炸裂したことで、ついにその前足を切り落とすことに成功した。続いて周囲の上級騎士達も左前足へ集中攻撃を浴びせた。シュネティルムは苦痛と怒りに満ちた咆哮を上げ、吹雪は一時的に完全に晴れ、眷属も消え去った。しかし、それは勝利ではなく、シュネティルムは吹雪の力を自らの傷の治癒へ使い始め、左前足の傷を塞ぎ、切断された右前足さえ再生させようとしていた。

フェルディナンドの呼び出しと強制移動
その危機的状況の中、フェルディナンドが凄まじい速度でローゼマインのもとへ飛来した。ダームエルは邪魔にならぬよう自らの騎獣に移り、ローゼマインはライデンシャフトの槍を持って待ち構えた。フェルディナンドはローゼマインへ来なさいと命じたが、宙に浮いたレッサーバスからどう移ればよいのかわからず躊躇したため、フェルディナンドは舌打ちし、シュタープで光の帯を出してローゼマインを一本釣りのように引き寄せ、自分の騎獣の上へ移した。

槍への魔力注入と投擲の準備
フェルディナンドは、シュネティルムが完全に再生する前が唯一の勝機だと告げ、槍を両手で握って全力で魔力を込めるよう命じた。ローゼマインは左腕で支えられながら、槍へひたすら魔力を注いだ。すでに満たされているはずの槍にはなお魔力が流れ込み、やがて穂先が青く発光し始めた。フェルディナンドはさらに、いつでも投擲できるよう右手で構えるよう指示し、自らも安全を確保しつつ手首を支えた。

急降下からの一撃
十分に魔力が満ちたところで、フェルディナンドの騎獣は上空から真下へと急降下を開始した。ローゼマインは恐怖に声も出せず、頬を叩く空気と浮遊感に耐えながら、フェルディナンドと共にシュネティルムへ突っ込んでいった。そして投げろという叫びと共に、フェルディナンドはローゼマインの手首を誘導し、ローゼマインは青く光る槍から手を離した。槍は流れ星のように一直線にシュネティルムへ落ちていった。

討伐の完了と魔石回収
槍が放たれた直後、フェルディナンドは騎獣の向きを変えて衝撃をかわし、上空で停止して下を確認した。そして討伐完了だと告げ、魔石の回収へ向かった。地面には大きく抉れた穴が開き、その中にライデンシャフトの槍と魔石が残されていた。シュネティルムの体はすでに消えており、槍は無傷のまま魔力を使い果たして魔石に突き刺さっていた。ローゼマインはフェルディナンドに促されるまま槍を引き抜き、白い魔石を回収した。その魔石はローゼマインの魔力でほとんど淡い黄色に染まりつつあったため、さらに自分の魔力を込めて完全に染め上げた。

戦いの成果と成功した素材採集
魔石を染めている間に、騎士達は回復や癒しを行い、帰還の準備を進めていた。カルステッドは、今年の討伐は予想以上に早く終わったと笑い、武勇の神の加護とローゼマインの一撃が大きかったと称えた。ローゼマインは、初めて素材採集に成功したことを実感し、深く安堵した。こうして最高品質の冬の素材を得ることに成功したのである。

討伐後の発熱と皮肉な結末
翌日は吹雪が嘘のように晴れ渡り、城の子供達は久し振りの快晴に喜んで外で遊び回っていた。孤児院の子供達もパルゥ採りに出ているだろうと想像できるほどの天気であった。だがその一方で、ローゼマインは熱を出して布団の中にいた。皆が楽しく過ごす中、自分だけが寝込んでいる状況に、ローゼマインはただパルゥケーキが食べたいと呟くしかなかった。その願いに深く頷いてくれたのは、ダームエルだけであった。

冬の終わりへ

冬の終わりと子供部屋の変化
冬の主の討伐後、少しずつ晴れの日が増え、貴族院から戻ってくる学生達の姿も目立つようになった。講義や課題を終えた者から順に戻ってきており、騎士見習いは騎士団の練習に、文官見習いは文官の業務手伝いに加わっていた。時間がある時には子供部屋にも顔を出し、そこでは年上の兄姉達とヴィルフリート達がカルタで勝負していた。軽く見ていた弟妹達に学生が惨敗する光景が広がり、兄姉達は大いに衝撃を受けていた。

カルタが生んだ競争意識
ローゼマインは、カルタで自分に勝てずに腐り始めていたヴィルフリートのために、今度は学生達という新たな競争相手を用意していた。経験の差があっても、この冬の間は弟妹達の方が強く、兄姉達は沽券に関わるとばかりに真剣に取り組み始めた。競争相手が増えたことで、子供達の学ぶ意欲はさらに高まり、カルタは単なる遊びではなく、自然に能力を伸ばす教材として機能していた。

教材としてのカルタの価値
コルネリウスは、初めて目にするカルタについて、それが売り物なのかと尋ねた。ローゼマインは、もともとヴィルフリートが文字を覚えるために城へ持ち込んだ教材であり、神々の名前や眷属、司る役割まで覚えられるものだと説明した。するとコルネリウスは、それが来年の貴族院で学ぶ内容に直結すると気付いた。今年の貴族院で神々に関する講義に苦労した学生達の反応を見ても、カルタが有用な教材であることは明らかであった。

教材販売の許可申請
ローゼマインは、貴族院へ戻る学生達やこれから学ぶ子供達のためにも、カルタや絵本、トランプを早めに売り出したいと考え、ジルヴェスターに面会を申し込んだ。面会では、冬の間に子供部屋で行った教育の成果を報告した。下級貴族を含めて全員が基本文字を書けるようになり、カルタで神々の名と属性を暗記し、一桁の足し算引き算もできるようになったこと、さらにフェシュピールの技量も大きく向上したことを伝えた。ヴィルフリートが今では貴族院帰りの学生より神々について詳しいと聞かされたジルヴェスターは、驚愕していた。

子供限定での販売方針
ローゼマインは、子供達の競争心を刺激し、学ぶ力をさらに伸ばすために、教材を城内で販売する許可を求めた。ジルヴェスターはこれを認め、販売場所を子供部屋とすることにも同意した。さらに、販売には御用商人としてギルベルタ商会を入れたいという願いも許可された。ただし、今回は全ての貴族を対象にせず、子供がいる家限定で売る方針とされた。数に限りがある手作業品である以上、繋がり目的の貴族が殺到して本当に必要な相手に行き渡らなくなる事態を避けるためであった。

料理レシピ本という新たな商機
ジルヴェスターからは、ローゼマインの料理レシピがこの冬の会食で大変な評判を呼び、多くの貴族がその内容を知りたがっていると告げられた。これに対しローゼマインは、いっそレシピ本にまとめて売る案を出した。すでに養父達が持っている独占的な価値は下がっているため、以前より安く売るのは当然だと説明しつつも、料理人の指導込みではなくレシピだけの販売である以上、完全な再現は難しいとも付け加えた。さらに、限定販売にして価値を吊り上げる案まで口にし、ジルヴェスターを呆れさせたが、商機を逃さず金を稼ぐ発想は明確であった。

ハッセへの処罰の決定
続いて話題はハッセへ移った。ローゼマインは、神殿襲撃の責任を町長派へ被せて貴族への態度を改めさせる方針を述べたが、ジルヴェスターは、それだけでは領主一族への襲撃に対する罰として軽すぎると指摘した。そこでローゼマインは、町長派の処分に加えて十年間の増税を提案した。大量処刑よりも、町全体に長く負担を背負わせる方が領地の利益にもなると考えたのである。ジルヴェスターはその案を、甘いのか厳しいのかわからぬと評しながらも受け入れ、ハッセへの処分は町長派の処分と十年間の増税で決着した。

祈念式と聖女の役割
ローゼマインは、増税のためにもハッセの収穫が必要だと考え、祈念式に行けないかと願い出たが、今年は派遣しないことがすでに決定事項だと告げられた。その代わり、ローゼマイン自身がハッセへ赴き、罰が聖女の慈悲によって軽減されたのだと公表してくるよう命じられた。ハッセの者達が今回の罪を理解していなかった場合は、完全に潰すという含みも示されており、これは処分を軽くしようとしたローゼマイン自身への罰でもあった。

祈念式で求められる役割の増大
さらにジルヴェスターは、今年の収穫量を調べた結果、ローゼマインが直接祝福を施した直轄地は、ギーベの土地と変わらぬ収穫を得ていたと説明した。ここ数年は青色神官の質の低下により、直轄地の収穫は目に見えて落ちていたが、ローゼマインの働きでその差が埋まったのである。そのため、今年の祈念式もローゼマインに直轄地を回ってほしいと頼まれた。ローゼマインは憂鬱になりながらも了承したが、フェルディナンドが青色神官の仕事を奪わないよう、ローゼマインが回るのは直轄地だけに限ると補足し、ギーベの土地へ小聖杯を運ぶのは他の青色神官に任せることになった。

教材販売の告知と新作絵本への期待
面会を終えて子供部屋へ戻ったローゼマインは、アウブから許可を得たことを子供達へ知らせた。カルタ、絵本、トランプがこの部屋で販売されると聞いた子供達は大喜びし、夏の館へ戻ってからも遊べるのか、絵本は全部販売されるのかと次々に尋ねた。ローゼマインはもちろんだと答えつつ、むしろ絵本の普及こそ自分の第一目的であると考えていた。さらに、秋や冬の眷属の絵本はないのかと問う年上の令嬢も現れ、ローゼマインは秋の絵本なら販売時期に間に合うかもしれず、冬の絵本は星結びの儀式の頃には販売できるよう相談してみると伝えた。こうして子供達は、どれを買うか、親にどう頼むかを楽しげに語り合い始めた。

フィリーネの浮かない表情
教材販売の話で子供部屋が盛り上がる中、ローゼマインは一人だけ浮かない表情をしているフィリーネの姿に気付いた。皆が喜びに顔を輝かせる中で、その様子だけが周囲と異なっており、ローゼマインの目を引いたのであった。

教材販売

ギルベルタ商会との販売準備
ローゼマインは神殿に戻ると、ギルに頼んでベンノへ手紙を届けさせた。雪のない日を選んで連絡を取り、午後から孤児院長室で話をする段取りを整えた。やって来たベンノ、マルク、ルッツに対し、ローゼマインは城で教材を販売したいという話を切り出したが、ベンノはすぐに城へ連れて行けるような店員が育っていないと難色を示した。貴族相手に通用する礼儀作法と立ち居振る舞いを備えた者がまだ少ないためであった。

灰色神官を売り子に使う案
ローゼマインは、今回は注文を取るのではなく、すでにできている商品をそのまま売るだけなのだから、計算ができて立ち居振る舞いに問題のない灰色神官を数人連れて行けばよいのではないかと提案した。これを受けて、ベンノは自分とマルク、そしてレオンが行き、さらに成人している灰色神官を二人選んでほしいと決めた。神殿側ではフランとフリッツが候補となり、ギルもその選定を手伝った。

価格設定と下級貴族への懸念
教材の価格は、絵本が小金貨一枚、カルタが大銀貨五枚、黒一色のトランプが大銀貨三枚、色インクを使ったトランプが小金貨一枚と定められた。原価の引き下げによって初期より安くなってはいたが、ダームエルは下級貴族にとってはなお簡単に買える値段ではなく、買えない子供が悔しい思いをするのではないかと懸念を示した。ローゼマインもそれを聞いて、自分がすぐに思い至らなかったことを反省しつつ、これ以上の値下げは難しいと理解した。

貸し出しという新たな発想
下級貴族でも教材に触れられる方法として、ローゼマインは貸し出しの仕組みを考え始めた。ルッツが、買えない物は借りるしかないと言ったことで、その考えは一気に具体化した。保証金を下げたり、親の一筆を取ったりして、低料金で貸し出せる形を作れないかと思案し、さらに新しいお話を提供してもらうことを対価にすれば、教材のレンタル料や原稿料のように扱えるのではないかと考えた。しかし、ベンノは金銭が絡む以上、思いつきで制度を変えるのは危険だと釘を刺し、今回はまず低料金貸し出しを試すくらいに留めるべきだと諭した。

販売当日の移動と失敗
販売日当日、絵本、カルタ、トランプがそれぞれ百ずつ木箱に詰められ、フランとフリッツも商人扱いでギルベルタ商会と共に動くことになった。ローゼマインは当然のようにレッサーバスへ商人達と商品を乗せて城へ向かったが、フェルディナンドから、商人は本来別の入り口から入るものであり、領主一家の玄関から平民を降ろすなど前例がないと指摘された。ローゼマインは自分の不注意にしょんぼりしながら謝ったが、今回は時間がなかったため仕方ないとされ、以後気を付けるようにと注意された。

子供部屋での販売準備
城へ着くと、ノルベルトもレッサーバスから平民が次々と出てくる様子に驚いていたが、許可証を確認した上で子供部屋まで案内した。子供部屋では、ヴィルフリートが男の子達とカルタの実演を担当し、ローゼマインは女の子達に絵本の読み聞かせを親へ披露させた。さらに、コルネリウスには学生達とトランプで遊んでもらい、それぞれが教材の使い方を実演する形を取った。その間に、ギルベルタ商会は一角に商品を並べ、釣り銭や注文票を整え、販売の準備を進めていった。

販売開始と貴族達の反応
ローゼマインが販売開始を宣言すると、子供を連れた貴族達が前に進み出て、身分順に長い挨拶を交わした後、注文票を受け取って希望の商品を記入していった。男の子はヴィルフリートの前に、女の子はローゼマインの前に並ぶ傾向があり、同性を優先する空気が見て取れた。上級貴族は絵本、カルタ、トランプをまとめて購入する者が多かったが、中級貴族になるとカルタやトランプを優先し、絵本は選んで買う形が増えた。下級貴族になると、一つ買うのがやっとという様子であった。

買えない子供達への提案
何も持たずに羨ましそうに見ている子供達もおり、その中にはフィリーネの姿もあった。親が来ていないことから、最初から購入できないとわかっている子供達なのだと察したローゼマインは、冬の終わりには今使っている絵本やカルタを貸し出すことも考えていると告げた。さらに、その貸し出しに必要なのはお金ではなく、自分が知らないお話だと説明した。フィリーネがすでに三つも母の話を教えてくれたことから、絵本を三冊貸し出せると伝えると、下級貴族の子供達は一斉に顔を輝かせた。

物語と引き換えの貸し出し制度
ローゼマインは、自分の知らないお話を教えてくれるなら、カルタや絵本を貸し出すと約束した。ただし、汚したり壊したりしないよう大切に使うこと、もし何かあれば弁償してもらうことを条件とし、そのために親からの一筆も取ることにした。こうして、春から次の冬まで教材を貸し出す制度が形作られた。購入できない子供達にも学ぶ機会を与えつつ、ローゼマインは新しい物語を集めるという目的も果たそうとしていた。

春の訪れとアンゲリカ

教材販売の成功とギルベルタ商会への注目
教材販売は無事に成功した。終盤にはエルヴィーラも姿を見せ、コルネリウスのために教材を一式購入したうえで、リンシャンの注文を取りに来るようベンノへ遠回しに伝えた。上級貴族であるエルヴィーラが公然と声をかけたことで、ギルベルタ商会への注目は一気に高まった。販売後にはリンシャンを目当てにした貴婦人達が何人かベンノとマルクへ声をかけ、その場で商談が始まった。

売れ残りの回収と日常への復帰
教材販売を終えると、ギルベルタ商会の面々とフラン、フリッツは神殿へ戻り、ローゼマイン自身は神殿に一泊しただけで城へ戻った。翌日には子供部屋で、購入した教材に名前を書くよう子供達へ指示した。同じ物を多くの子供が持っているため、取り違えを防ぐ必要があったからである。上級貴族の子供達は、全部に名前を書く手間を前にしてため息をついていたが、その日の分だけ書けばよいと言われて安堵していた。

新しい物語の収集と春の気配
ローゼマインは、子供部屋で下級貴族の子供達から新しいお話を聞き取り、書き留めていった。男の子達の話は途中で詰まったり、その場しのぎの作り話めいた展開になったりして、女の子達とはまた違った面白さがあった。そうしているうちに、雪の降る日もありながら晴れの日が増え、春の近づきを感じさせるようになっていった。

雪遊びへの挑戦と失敗
春の気配と共に、子供達は外遊びをする機会を増やしていった。ローゼマインも体力作りのために外へ出て、そり遊びや雪合戦に加わろうとした。しかし、雪の中を数歩進むごとに転び、尻餅をつき、他の子供達にはどんどん置いていかれた。そり遊びへ向かうこともかなわず、雪玉を丸めようとしゃがんでいたところに雪玉をぶつけられて意識を失い、その後は熱まで出してしまった。それでも本人は、雪の中を進んだことで少しは体力がついたように感じていた。

冬の終わりとアンゲリカの面会依頼
やがて貴族院の卒業式と成人式の時期となり、領主夫妻や学生達が再び貴族院へ向かった後、春を寿ぐ宴を前にして一斉に帰還してきた。その頃、アンゲリカの両親から面会依頼が届いた。以前はローゼマインに呼び出される側だった彼等が自ら面会を求めてきたことに、ローゼマインは不思議に思いながらも会うことにした。

成績不良による謝罪と解任の申し出
面会当日、ローゼマインが部屋へ入ると、アンゲリカとその両親は跪いて待ち構えており、扉が閉まると同時に悲鳴のような謝罪を始めた。話を聞くと、アンゲリカは貴族院で今年の講義に合格できず、春から補講を受けることになっていた。そのため、しばらく護衛任務に就けず、両親はこれ以上失態を重ねる前に護衛騎士から外してほしいと願い出たのである。

アンゲリカに与えられた猶予
ローゼマインは、春は祈念式で城を不在にするため、アンゲリカが春の間に補講を終えればそれほど問題にはならないと考えた。リヒャルダからは、出来の悪い側近として切り捨てるのも、見所があると見て存続させるのも主の自由だと言われた。そこでローゼマインはアンゲリカ本人の意思を確かめ、努力して夏までに戻ってくるなら、このまま仕えてほしいと告げた。両親は主の評判を落とす側近は不要だと重ねて解任を勧めたが、ローゼマインはヴィルフリートの側近達にも更生の機会を与えたことを思い出し、アンゲリカにも同じように機会を与えたいと考えた。

成績上げ隊の結成
アンゲリカの両親が退出した後、ローゼマインはその場で「アンゲリカの成績を上げ隊」を結成した。参加メンバーはダームエル、ブリギッテ、コルネリウスの護衛騎士達である。騎士の講義内容は騎士でなければわからないため、側仕えや文官は加えなかった。ローゼマインはまず、アンゲリカがどの講義でつまずいているのかを尋ねたが、アンゲリカは座学はほとんど全てだと答え、その場は絶句に包まれた。

講義内容の把握と対策方針
アンゲリカ本人からでは要領を得られないと判断したローゼマインは、ダームエル、ブリギッテ、コルネリウスから講義内容を聞き取った。騎士コースで重要なのは、神々の名前と司る事柄を覚えて加護を得ること、兵法の基本と武器の特性を理解して活用することだと整理された。さらに、講義は最初に試験があり、不合格者のみが講義を受け、最後に再び試験を受ける仕組みであると知った。つまり、補講で必要な内容を絞り込んで集中的に学べば、アンゲリカにもまだ合格の可能性はあった。

報酬付きの勉強会計画
ローゼマインは、神々の名前についてはカルタを使って覚え、兵法の基本についてはダームエルの兄ヘンリックが書き写した本と、魔力を使うチェスもどきの駒で学ぶ方針を立てた。さらに、子供達への教育と同じように、勉強の成果に対して褒美を用意した方がやる気が出るのではないかと考えた。ダームエルは給料の上乗せを、コルネリウスは新しい菓子か料理を望み、ブリギッテはイルクナーのためになることを望んだ。そこでローゼマインは、通常の協力にはそれぞれ相応の報酬を、そしてアンゲリカを試験合格へ導けた場合には、さらに大きな成功報酬を与えると宣言した。

アンゲリカの望みと魔剣の事情
最後に、アンゲリカ自身が望む報酬を尋ねると、彼女はローゼマインの魔力が欲しいと答えた。意味がわからず首を傾げたローゼマインに対し、ブリギッテが、アンゲリカの持つ剣は魔力を得て成長する魔剣であり、自分や他者の魔力を注ぐことで多様性と強さを増す武器だと説明した。アンゲリカは身体能力強化に魔力を多く使うため、シュタープよりも魔剣を使っており、その成長のために他者の魔力を必要としていたのである。魔力は貴族にとって極めて価値の高いものだが、ローゼマインは条件付きでそれを認めた。夏までに全ての座学試験へ合格した場合に限り、成功報酬として魔力を与えると約束したのである。

本気の勉強会の始まり
ローゼマインの条件を聞いたアンゲリカは、初めて明確なやる気を見せ、絶対に試験に合格して魔力をもらうと宣言した。ダームエルは小金貨一枚、コルネリウスは秘蔵のレシピという成功報酬に強く引きつけられ、二人とも目の色を変えた。こうして、貴族院が閉ざされる土の日を使った勉強会が決まり、コルネリウスのカルタを借りて神々の名を覚え、兵法や講義内容を徹底して叩き込む短期集中の補講計画が動き出した。こうして「アンゲリカの成績上げ隊」の真剣勝負が始まったのである。

祈念式に向かって

アンゲリカの勉強会の進展
護衛騎士達によるアンゲリカの勉強会が始まり、春を寿ぐ宴の後には補講のため貴族院へ戻らなければならないため、今のうちにと騎士寮で見習い達と共にカルタの猛特訓が行われていた。絵札を覚えた後の取り方は素早くなっており、コルネリウスはその変化をローゼマインに伝えた。

兵法の理解とダームエルの教え
兵法の基本については、洗礼式の後にランプレヒトが持ってきた本の内容をもとに、ゲヴィンネンの駒を使ってダームエルが解説していた。本だけでは意味が掴みにくかった内容も、実際に駒を動かしながら説明されることで理解しやすくなり、アンゲリカとコルネリウスの二人も兵法に対して少しずつ興味を示し始めた。ダームエルは、兄から教わったために自分も兵法の多くをゲヴィンネンで覚えたのだと語った。

フェルディナンドの影響と教材の価値
ダームエルの話から、貴族院ではかつてゲヴィンネンが大流行し、フェルディナンドが魔獣狩りやディッターの作戦説明にもそれを使っていたことが明らかになった。ローゼマインは改めてフェルディナンドの万能さを実感した。また、ブリギッテはカルタと絵本の効果を高く評価し、こうした教材を他領には伏せておき、しばらくはエーレンフェストの学力向上を優先するべきだと提案した。ローゼマインがその考えをジルヴェスターとフェルディナンドに伝えると、春を寿ぐ宴で領内の子供達の学力向上が示されたこともあり、教材は他領へ漏らさぬよう厳命されることになった。

教材貸し出しと子供達との別れ
春を寿ぐ宴が終わると、下級貴族の親達には一筆書かせたうえで、子供達へ教材が貸し出された。絵本やカルタを大事そうに抱える子供達の様子に、ローゼマインは安堵した。フィリーネは次の冬までにもっと多くの物語を集めておくと約束し、ローゼマインも新しい絵本を用意して待っていると応じた。アンゲリカもまた、カルタや絵本、ゲヴィンネンを抱えて貴族院へ戻っていった。勉強に関する道具を自ら欲しがったことに、アンゲリカの両親は驚きつつも深く感謝していた。

祈念式に向けた準備会議
貴族達がそれぞれの土地へ戻るのに合わせて、ローゼマインとフェルディナンドも神殿へ戻り、冬の成人式と春の洗礼式を執り行った。その翌日には祈念式へ向かうため、青色神官達の派遣先を決める会議が行われた。会議ではフェルディナンドが案を発表し、直轄地はローゼマインとフェルディナンドが手分けして回る形になっていた。

祈念式の詳細とフェルディナンドの同行
会議の後、ローゼマインは部屋で一息ついていたが、フェルディナンドとザームが地図を抱えてやってきて、祈念式の詳細な説明を始めた。話を聞くと、会議で半分ずつ回るように見えていた直轄地を、実際にはローゼマインがすべて回ることになっていた。フェルディナンドは、これは領主からローゼマインが直接頼まれた仕事であり、自分は補佐と監視役に過ぎないと説明した。さらに、道中では春の素材採集も予定されており、秋のような不測の事態に備えるためにも最初から共に行動する方がよいと考えていた。ローゼマインはその判断を受け入れ、今回も同行を頼んだ。

同行者の決定とフェルディナンドの懸念
続いて、祈念式にエックハルトを臨時の護衛騎士として同行させる案が示された。神官として行動するフェルディナンド自身は原則として護衛騎士を連れられないため、領主の養女であるローゼマインの護衛という体裁を取る必要があった。また、ハッセの顛末を見届けるための文官としてユストクスを同行させることも提案された。ローゼマインは顔見知りであるユストクスが同行することに安心したが、フェルディナンドはユストクスがやる気になっている時は碌なことがないと嫌そうに溜息をついた。

ギルベルタ商会との会合とブリギッテへの報酬
その後、ローゼマインは孤児院長室でギルベルタ商会の面々と会談した。この日はベンノ、マルク、ルッツに加え、コリンナとトゥーリも呼ばれていた。ローゼマインはまず、ブリギッテのために星結びの儀式までに新しい衣装を仕立ててほしいとコリンナへ依頼した。去年の星結びで見たブリギッテの衣装は体型に合っていないと感じており、今回は長身の女性が美しく見えるよう、肩を露出し、縦の線を強調する新しい意匠を考えていた。ブリギッテはその衣装を気に入り、自分だけでなく同じような体つきの女性騎士にも合う流行にできると受け入れた。

ハッセの現状確認と今後の段取り
隠し部屋の外では、教材販売の会計報告やハッセへ向かう神官達の段取りも話し合われていた。マルクは雪解けを機にハッセの様子を確認しており、町ではすでに町長派が孤立し、神殿襲撃の責任を取るべきだという意見が固まっていることを報告した。小神殿が領主一族の建てた建物であることも知られておらず、町民達は大混乱に陥っていたが、噂によって町長の責任が強調された結果、町長は小さくなって生きているようだった。ローゼマインはその報告を受け、再び門の兵士達へ護衛を依頼する手紙をルッツに託した。

トゥーリとの再会と春の髪飾り
ブリギッテの採寸が終わった後、ローゼマインは改めてコリンナへ衣装の仕立てを頼み、トゥーリにはブリギッテの衣装と髪色に合う髪飾りを考えてほしいと依頼した。祈念式から戻った後に再び二人を呼ぶつもりであることも伝えた。するとトゥーリは、自分の方から春用の髪飾りを差し出した。それは白いレンフールの花を、黄緑から深緑の葉が包み込む春らしい意匠であった。ローゼマインは喜んで受け取り、トゥーリに挿してもらい、その出来栄えにもトゥーリの笑顔にも深く満足した。

ハッセへの罰

神官達の先発とハッセへの圧力
祈念式に出発するより先に、ハッセへ向かう神官達がギルベルタ商会の馬車で護衛の兵士達に守られながら出発した。今回も護衛役としてギュンターが指名され、ローゼマインは信頼を込めて挨拶を交わした。マルテとデリアは別れを惜しみ、トール達はハッセへ戻れることに喜びを隠せず、新しく赴任する神官達は見知らぬ土地への緊張をにじませていた。

出発前の準備と冬の絵本の託し
神官達と側仕え、料理人を先に馬車で向かわせた後、ローゼマインは自らが向かう日までの間に、ハッセの町長宛ての手紙を書き終えた。その手紙には、反逆者の処分のために訪れる日時が領主の命令書として記されていた。町ではその手紙を受け取り、恐怖と緊張の中で待つことになるだろうと想像しながら、ローゼマインは気が重くなっていた。その一方で、冬の眷属の絵本の本文を書き上げ、フリッツにヴィルマへ渡して、祈念式の間に挿絵を進めてもらうよう頼んだ。

出発前の昼食とハッセの説明
祈念式に向かう当日、ローゼマインはフェルディナンド達を昼食に招いた。料理人のエラがすでに出発していたため、フーゴと助手を借りて料理を用意し、エックハルトとユストクスまで同席する形になった。昼食後、盗聴防止の魔術具を手にした上で、ローゼマインはハッセの成り立ちから今回の反逆に至る経緯を説明した。小神殿の建設は、自分が貴族の常識を知らずに口にした願いから始まったものであり、その無知が下町の職人や孤児達を巻き込み、最終的に町長派による小神殿襲撃へと繋がったのだと認めた。

ハッセをめぐる貴族とローゼマインの価値観の衝突
エックハルトは、白の建物に攻撃を加えた時点でハッセは即座に滅ぼすべきだと考えていたが、フェルディナンドはハッセをローゼマインの教材として残し、人を動かし、自分の望む結末を得るための課題として扱っていると明かした。ローゼマインは、領主は民を守るためにいるという自分の常識から、町を丸ごと消すという考え方を理解できず、罰として十年間の増税を提案したのだと説明した。これに対し、フェルディナンドやユストクスは、魔力供給が不足している現状では平民が減ってもむしろ助かると語り、貴族と平民の根本的な考え方の違いが改めて浮き彫りとなった。

ユストクスの同乗とハッセへの到着
出発の際、ローゼマインのレッサーバスにはフラン、ザーム、そして護衛のブリギッテが乗り込んだが、そこへ大きな箱を抱えたユストクスが、自分もその箱の管理者として同乗すると言い出した。フェルディナンドは激しく不快感を示したものの、最終的には黙認せざるを得ず、ローゼマインは仕方なくユストクスを乗せて出発した。道中、ユストクスは騎獣の仕組みに興味津々で質問を重ね続け、ローゼマインはそれに気を取られそうになりながら、何とかハッセへ到着した。

広場に集められた民と沈痛な空気
ハッセに到着すると、収穫祭の時とは違い、広場の民衆は皆場所を空けて跪き、深く頭を垂れていた。子供達も騒ぐことなく、大人の不安を察して静まり返っていた。広場の舞台にはリヒトと周辺農村の代表達が待ち構えており、町長ではなくリヒトが代表として挨拶を始めた。ハッセの現状を皆が理解している重苦しい空気の中で、ローゼマインは本当に町長だけの処分で済むのかと強い緊張を覚えていた。

罰の内容の公表と住民達の安堵
ローゼマインは、声を増幅させる魔術具を使い、ハッセの民に向かって小神殿への攻撃が領主一族への反逆罪であり、本来なら町ごと潰されてもおかしくない重罪だと告げた。その上で、農村の民や脅されて従った者達の存在を考慮し、自分が領主へ懸命に願い出た結果、処分内容が見直されたことを伝えた。民衆は一瞬喜びに沸いたが、ローゼマインはすぐに、それは無罪放免ではなく、今年の祈念式への神官派遣禁止と十年間の増税という重い罰が課されたのだと続けた。それでも命が助かったことを知った民衆は胸を撫で下ろし、ローゼマインへ感謝を向けた。

反逆者の処分開始
ハッセの民が処分軽減に沸く中、フェルディナンドが前へ進み出て、ローゼマインの手から声を増幅させる魔術具を取り上げた。そして冷ややかな声で、反逆者を出せ、処分すると告げた。その一言で広場は一瞬にして静まり返り、先ほどまでの安堵と歓声は消え失せた。リヒトは目を閉じた後、静かに了承し、ついに町長派の断罪が始まることになった。

選別の扉

町長の連行と侮りの視線
フェルディナンドの命を受けてリヒトが一度退場すると、ほどなくして町長が数人の男達に脇を固められたまま舞台へ連れてこられた。やつれた様子ではあったが、暴行の痕は見当たらず、冬の間に極端な虐待を受けていたわけではなかった。町長はローゼマインの前に跪かされると、一瞬だけ顔を上げて彼女を見た。その目には、慈悲深い幼い子供ならば言いくるめられるという侮りと嘲りが浮かんでおり、ローゼマインはその視線から町長の本心を読み取った。

町長の自己弁護と民衆の嘆願
町長は顔を伏せたまま、小神殿への攻撃が反逆罪になるとは知らなかったと悲痛な声で自己弁護を始めた。しかし、収穫祭の際に補佐役であったリヒトがすでに事の重大さを理解していた以上、町長だけが知らなかったはずはなく、前神殿長に揉み消してもらうつもりだっただけであることは明白だった。フェルディナンドが知らなかったことに何の意味があると切り捨てると、町長は今度はローゼマインに狙いを定め、ハッセを救ってくれた優しい神殿長に慈悲を求め始めた。その語り口に煽られるように、広場の民衆も神殿長に慈悲を願い始めた。

孤児への暴力を突いた反論
町長の言葉に民衆が流され始めたことで、ローゼマインは処分対象が増える危険を感じた。そこで彼女は、町長が日常的に孤児達へ暴力を振るっていた事実を持ち出し、トールやリックが傷だらけで引き取られたことを示しながら、弱者に暴力を振るう者に慈悲が必要かと問いかけた。町長はあれは仕置きであり、悪いことをしたから罰を与えたのだと正当化したが、ローゼマインはさらに、もし孤児が町長の家族へ攻撃した場合、それが知らなかったでは済まされるのかと問い返した。町長は、知らなかったとしても自分の家族への暴力なら当然罰するのだと口にし、自らの言い分の矛盾を露呈した。

フェルディナンドによる追及
ローゼマインが町長の言葉を受けて神官長へ話を振ると、フェルディナンドは前へ進み出て発言権を引き取った。彼は、町長が知らなかったのではなく、前神殿長が死んで自分達の罪を隠してくれる者がいなくなったことだけを知らなかったのだと断じた。そして、白の建物が領主一族の力によって作られることは、貴族と接する立場の町長ならば当然知っているはずであり、知っていて町民に小神殿を襲わせたのだと追い詰めた。町長は言い逃れしようとしたが、その必死さはかえって周囲の疑念を深めるだけであった。

リヒトの嘆願とローゼマインの役割
フェルディナンドの圧力が広場全体を支配する中、リヒトが震える声で発言の許可を求めた。彼は、町長が理解していなかっただけで、住民達は自分達のしでかした事の重大さも、聖女の慈悲の重みもよく理解しているのだと、必死に民を庇った。その姿に胸を打たれたローゼマインは、自分の役割を思い出し、リヒトを庇うように両手を広げてフェルディナンドと向き合った。そして、住民は反逆の重大さを理解しており、もう大丈夫だと皆に同意を求めた。広場からも賛同の声が上がり、ローゼマインはその流れで穏便に収めようとした。

選別の扉の出現
しかし、フェルディナンドはそのままでは終わらせなかった。彼は反逆の芽は徹底的に摘んでおくべきだと宣言し、シュタープから薄い四角形の琥珀色の扉を生み出した。それはローゼマインが祈りで作るシュツェーリアの盾と同じ模様を持ちながら、円形ではなく、大人二人が並んで通れるほどの四角い扉であった。フェルディナンドは、真に反省しているならばこの選別の扉を潜り抜けられるはずだと告げた。

リヒトの通過と町長の拘束
ローゼマインがリヒトなら大丈夫だと告げると、リヒトは強い決意を帯びた目で舞台を降り、扉の前に立った。彼は恐る恐るながらもその扉を通り抜け、何事もなく向こう側へ出た。続いてフェルディナンドは町長に視線を向けた。町長はリヒト達に引きずられるようにして扉の前へ立たされ、通ろうとした瞬間、強い風に弾き飛ばされた。直後にエックハルトの放った光の帯が町長を縛り上げ、反逆者として捕縛した。

ハッセ全員への選別の実施
フェルディナンドは町長だけでなく、広場の全員に選別の扉を潜らせるよう命じた。ローゼマインはそこまでしなくてもよいのではないかと袖を引いたが、フェルディナンドは、ハッセ全員をまとめて処分したくないのなら、危険人物を選別する必要があると返した。リヒトもまた、これ以上領主一族から疑いを向けられるわけにはいかないとして、選別を受け入れ、むしろ自ら率先して民衆を扉へ導いた。農村の者達は町長の影響が薄く、小神殿襲撃にも関わっていなかったため、次々と問題なく扉を通り抜けていった。

反逆者の抽出と六人の拘束
問題となったのは、小神殿襲撃に加わった町民達であった。彼らの中には、町長と同じように弾かれることを恐れて扉を潜るのを躊躇う者もいたが、エックハルトがシュタープを構えると、悲鳴を上げながら慌てて扉へ向かっていった。そして、何人かは扉を通り抜けられず、強い風に弾き飛ばされた。そうして弾かれた者達は即座に光の帯で拘束され、最終的に全員が選別を終えた後、町長を含めた六人が舞台の上へ連行された。こうして、ハッセの中で真に危険な反逆者と見なされた者達が明確に切り分けられたのである。

処分

反逆者の処刑準備
選別の扉に弾かれた者達について、フェルディナンドは自分達に害意を抱く者であるとして、その場で処分すると宣言した。リヒトもまた、彼等は根強い町長派であり、弁護の余地はないどころか、選別の扉によって住民達の潔白が示されたことに感謝すると述べた。ローゼマインは、処分が行われると理解していたにもかかわらず、その現実を前に血の気が引き、広場にいる者達にも処分への嫌悪や忌避より、加害者が裁かれるのは当然だという空気が広がっていることを重く受け止めた。

登録証の箱と血判による選別
フェルディナンドに命じられたユストクスは、舞台に持ち込んでいた大きな箱の鍵を開けた。その中には、ハッセの平民達の登録証が年代ごとに整理されて収められていた。ユストクスはシュタープをナイフに変え、反逆者となった者達の指先を傷つけて血判を紙に押させていった。その紙は登録証を選び出すためのものであり、最後の一人まで血判を取り終えた後、契約魔術のように燃えながら箱の上へ飛び、箱の引き出しを勝手に動かして六人分の登録証を呼び出した。ユストクスはそれをフェルディナンドに渡し、再び厳重に箱を閉じて守りについた。

反逆者処刑の魔術発動
フェルディナンドは登録証を左手に握り、シュタープで複雑な魔法陣を描き出した。黒い靄が炎のように揺らめくその魔法陣は、領主候補生だけに教えられる反逆者処刑の魔術であり、ユストクスはそれを見られたことに強い興奮を覚えていた。ローゼマインは、去年の祈念式で見た魔力を吸い取る黒い霧を思い出しながら、その禍々しい術を見守るしかなかった。フェルディナンドは六人分の登録証を魔法陣に投げ込み、登録証は黒い霧に包まれて蝕まれ始めた。

石化と崩壊による処刑
フェルディナンドが戒めを解くよう命じると、エックハルトが光の帯を消し、六人は自由になった。だが、逃げようとした者も、フェルディナンドに向かおうとした者も、数歩進んだところで足を止められ、その場に倒れ込んだ。彼等の足先から灰色が広がり始め、まるで石化するように全身を侵食していった。悲鳴や懇願の声が上がったが、それも胸の辺りまで石化が進むと消え、やがて首元まで灰色に覆われて完全に動かなくなった。登録証が完全に失われた瞬間、六人の石像のような体にはひびが入り、砕け、最後は灰のように崩れて春の風に散っていった。遺体も墓標とするべき登録証も残らないその末路は、反逆者には弔いすら許されないことを示していた。

ローゼマインの嫌悪と動揺
人が苦しみながら石のように固まり、灰となって消えていく様を前に、ローゼマインは強い嫌悪感と吐き気に襲われた。絶叫や恐怖に歪んだ表情が頭から離れず、目を閉じることも耳を塞ぐことも許されないまま、その場に立ち尽くすことしかできなかった。隣でユストクスが見事だと興奮気味に語ることにも理解を示せず、ただ手足の冷たさと胃の不快感に耐えていた。広場には貴族の力への恐怖が広がり、ハッセの民は、自分達の命が貴族の手で簡単に奪われ得ることを骨身に染みて理解した。

リヒトの呼びかけと償いの始まり
重苦しい沈黙の中で立ち上がったリヒトは、処分された者達が町全体を反逆者の立場へ引きずり込んだ元凶であったと明言し、住民達に向かって、これから長い償いを続けなければならないと呼びかけた。全員が処分されるところを救ってくれた聖女の慈悲に報いるためには、互いに協力してハッセを立て直していくしかないと訴えるその姿に、ローゼマインは目を奪われた。処分が終わってもまだ全ては終わっておらず、ここからが始まりなのだと悟ったのである。

聖女としての宣言
ローゼマインは深呼吸して気持ちを整えると、フェルディナンドから渡された声を響かせる魔術具を手にして、広場の民へ語りかけた。来年の祈念式が行われるかどうかは、この一年のハッセの行いを領主が吟味して決めるのであり、自分も願うつもりだが、何より大切なのはハッセ自身の行動であると告げた。そして、ここには反逆の心を持つ者はいないと証明されたのだから、償いの心を行いで示してほしい、自分は来年ここで祈念式を行い、ハッセに祝福と祈りを捧げたいのだと宣言した。その言葉に、絶望の中にいた民達はようやく希望を見いだし、一年耐え抜こうという前向きな声を上げ始めた。

小神殿への帰還とギュンターのマント
その後、ローゼマイン達は騎獣で小神殿へ向かった。道中、ブリギッテは彼女の振る舞いを称賛したが、ローゼマインの頭の中はぐらつき、胸のむかつきも強まっていた。小神殿に到着すると、灰色神官やギルベルタ商会の面々、側仕え達が出迎えたが、ローゼマインは気分の悪さと疲労でまともに応じる余裕がなかった。そんな中、心配そうにおろおろしていたギュンターが自分のマントを差し出し、寒いなら使ってほしいと申し出た。ローゼマインはその言葉と父の匂いに救われるような思いでマントを受け取り、涙をこらえながら抱きしめた。

洗浄魔術と眠り
フェルディナンドは、そのままでは寝台に持ち込めないとして一度マントを取り上げ、洗浄の魔術で汚れと匂いを落とした上で返した。それは騎士が野外で過ごす際に使う魔術であり、普段は側仕えがいる者には不要なものだったが、今回は特別だと説明された。ギルベルタ商会への説明も自分がしておくと告げたフェルディナンドが去った後、ローゼマインは父の匂いの消えた綺麗なマントを頭からすっぽりかぶり、そのまま眠りについた。気持ち悪さは次第に遠のき、その夜は嫌な夢を見ることもなかった。

春の素材と祈念式のお話し合い

ギュンターとの短い別れ

よく眠って目覚めたローゼマインは、父ギュンターから借りたマントを自ら丁寧に畳み、朝食の場で返した。身分上、直接手渡しはできなかったが、短い会話の中で互いの無事と気遣いを確認し、そのやり取りはローゼマインの心を温かくした。ブリギッテには、ギュンターとの親しさを、ギルベルタ商会やトゥーリ達を介した関係として説明し、表向きの繋がりを自然に伝えた。

ギルベルタ商会と兵士への感謝

朝食後、出発準備を整えたギルベルタ商会の面々と兵士達を見送りに出たローゼマインは、ハッセの件での働きに感謝を述べた。ベンノ達が情報を流し、状況を誘導し、冬の間に住民へ考える時間を与えたことが、今回の処分を受け入れさせる大きな要因だったと認識していたからである。一方で、今後イルクナーで新しい紙の素材を探したいという話を持ち出したことで、ベンノには新たな厄介事を増やされたと受け止められ、祈念式後の報告を求められることになった。兵士達には護衛の礼として報酬を渡し、特にギュンターとも改めて言葉を交わしたことで、見送りの時間はローゼマインにとって家族への思いを再確認する場にもなっていた。

春の素材採集の説明

皆を送り出した後、フェルディナンドはローゼマインと護衛騎士達を前に、祈念式の途中で行う春の素材採集について説明した。採取対象は、春の女神の水浴場と呼ばれる泉に咲くライレーネの蜜であり、夜明けと共に開く花から、他の魔力に触れさせず、魔物に奪われる前に採集しなければならない素材であった。フェルディナンド自身も実地経験はなかったが、ユストクスの情報では、泉にはタルクロッシュが現れるとされ、楽観はできない状況であった。ローゼマインは護衛の増員を提案したものの、未成年のコルネリウスを街の外に出すことはできないとして却下され、結局は限られた戦力で対応することになった。フェルディナンドへの信頼を示すエックハルトに対し、ローゼマインは不安を残しつつも、採集の詳細を記録しながら備える姿勢を見せた。

ハッセの件を通じた反省

護衛騎士達や側仕えを下がらせた後、フェルディナンドはローゼマインに、今回のハッセの件から何を学んだのかを問いただした。ローゼマインは、自分が貴族の常識を知らないまま、大人の世界で印刷業や工房経営に関わっていたことこそが問題の根源だったと認めた。生活習慣は見よう見まねで覚えられても、思考の基準そのものが平民時代の常識に立脚しているため、貴族の価値観との擦り合わせは容易ではないと自覚したのである。フェルディナンドは、今後貴族を相手に事業を広げるなら、その常識を知らないことは致命的だと指摘し、強引で性急な進め方を改めるよう求めた。ローゼマインもまた、印刷業を急拡大するより、時間をかけて慎重に進める必要を理解した。

平民への説明の必要性

さらにローゼマインは、ハッセの一件から、平民と貴族の間にある常識や意識の違いを放置することの危険性も痛感していた。町長が金や女や酒で神官や貴族を動かせると思い込んでいたことが悲劇を招いた以上、前神殿長の影響が残る直轄地の有力者達にも、貴族への正しい接し方を教える必要があると考えたのである。フェルディナンドは当初、そのような説明をわざわざする必要はないと突き放したが、厄介事を未然に防ぐ方が結果として効率的だというローゼマインの主張には一理あると認めた。ただし、その役目を自分に押しつけるなとして、祈念式の際に神殿長であるローゼマイン自身が話すよう命じた。こうしてローゼマインは、訪れた各地の町長や村長に対し、ハッセで起こったことを要点だけ説明し、同じ過ちが起こらぬよう穏やかに釘を刺して回ることになった。中には明らかに動揺を見せる者もおり、この働きかけは一定の危険回避になったのである。

女神の水浴場

直轄地で露わになった前神殿長の影響
祈念式の旅を続ける中で、前神殿長が回っていた地域はエーレンフェストに近い直轄地の一部に限られていたことが明らかになった。ある地点を境に、町長や村長の態度は露骨に変化し、前神殿長の支配が及んでいた範囲が浮き彫りになった。フェルディナンドは、前神殿長が長年にわたり神殿長の地位にあり、徴税官の人選にまで影響を及ぼしていたため、税さえ納められていれば平民との関係は深く追及されなかったのだと説明した。そして、貴族社会では正しいことを行うにも力や大義名分、根回しが必要であり、時には不愉快でも様子見をしなければ別の歪みを生むと語った。ローゼマインは本や身内が絡まなければ努力すると返したが、フェルディナンドには理解が浅いと見抜かれていた。

祈念式の順調な進行と聖女としての対応
今年の祈念式は、去年と違って午前と午後に一つずつ冬の館を回る余裕のある日程で進んでいた。薬漬けの強行軍ではなくなった一方で、去年の祝福によって収穫量が増えたため、どの土地でもローゼマインは神殿長として熱狂的な歓迎を受けるようになった。昼食や夕食では有力者達と食事を共にし、その場で社交を求められたが、ローゼマインは聖女らしい笑顔を保ちながら、少しでも多くの土地に祝福を与えたいという名目で切り上げる術を身につけていった。食事が終わればまだ幼いことを理由に部屋へ下がれたため、その点ではフェルディナンドより負担は軽かった。

女神の水浴場の情報収集
フォンテドルフの冬の館に到着した際、フェルディナンドはそこが女神の水浴場に最も近い村であると告げた。午後の祈念式を終えた後の夕食の席で、ローゼマインは有力者達から女神の水浴場の話を聞いた。泉の水は病や傷に効き、夏には遠方からも人が訪れる場所であり、春の女神達が集う場所だと伝えられていた。また、泉に向かう森の入り口には女神の像があり、蜂蜜やミルク、木の実などの甘い物を供えると迷わず泉にたどり着けるという言い伝えも教えられた。フェルディナンドは、騎獣があれば短時間で到達できること、さらにタルクロッシュという泉に棲む魔獣も明るいうちに退治しておきたいことから、森で野営する方針を決めた。村側にとっても森の魔獣退治は春先の害獣対策になり、歓迎される話であった。

少数精鋭での遠征準備
女神の水浴場へ向かうため、フォンテドルフには大半の側仕えを残し、ローゼマインは少数精鋭で出発することになった。同行するのはフラン、モニカ、ニコラ、エラ、ロジーナであり、身の回りの世話に加え、専属料理人を連れて行けば満足な食事ができるというフェルディナンドの判断が反映されていた。ローゼマインは食料や着替え、薬などの準備を命じると同時に、女神への供え物として蜂蜜やジャムだけでなく菓子も持って行こうと決めた。ニコラは女神が甘い物を好むと聞いて喜び、エラに依頼して供え物用と皆のための菓子を準備させた。こうして必要な荷を整えた一行は、昼食後に騎獣で水浴場を目指して出発した。

森の入り口の女神像と祈り
女神の水浴場へ向かう空路の末、一行は小高い山と森の広がる場所にたどり着いた。山の中腹から上にはまだ雪が残っていたが、裾野には春の緑が見え始めていた。森の入り口で一度降り立つと、騎士達は泉の所在を探しに上空へ向かい、ローゼマイン達は待機することになった。その際、森の入り口近くに、枯れ草に絡まれて汚れた女神像が見つかった。神殿育ちの側仕え達はそのままにしておけず、枯葉や枯草を払い、供え物を置く場所を清めた。ローゼマインは、蜂蜜、ミルク、干した果実、クッキーに加え、近くに咲いていたレンフールの花を供え、無事に女神の水浴場へ着けるよう祈りを捧げた。つい癖で柏手を打ってしまったが、すぐに正しい祈りへと切り替えた。

森への進入と道の出現
上空から戻ったフェルディナンド達は、泉そのものは上空から見つけられなかったと報告した。水の流れも木々の切れ目も不自然なほど見当たらず、魔力による目隠しが施されていて、フリュートレーネの夜が近い今の時期だけ特別な状態になっているのではないかと推測された。そのため、森の入り口から入るしかないと判断された。ローゼマインは、自分達が供え物と祈りを済ませてあることを伝え、女神の導きに期待を寄せた。森へ進んだ一行は、野営地をいくつか通り過ぎながら魔獣を倒して奥へ向かったが、やがて雪に閉ざされて道が見えなくなった。そこでローゼマインが光の差し込む一角を見つけ、レッサーバスを進めると、木々がざわめいて道を作り始めた。供え物の効果か、それ以外の要因もあるのかはわからなかったが、その導かれるような道を進んだ先に、春の光に満ちた泉の風景が広がっていた。

春に満ちた女神の水浴場の発見
森の暗さを抜けた先には、雪深い道を進んできたとは思えないほど明るく、春そのもののような景色が広がっていた。澄んだ泉の周囲にはレンフールの花が咲き乱れ、清水が流れ、中心には女神の愛した花ライレーネが薄い桃色で咲いていた。ローゼマインはその美しさに見惚れたが、フェルディナンドはすぐに魔物の気配を察知し、今は非戦闘員が多すぎるとして一度野営地に退くよう命じた。美しい泉を前にしながらも、一行は来た道を戻り、最寄りの野営地を拠点に動くこととなった。

野営地の確保とタルクロッシュ討伐準備
野営地に戻ると、フェルディナンドとエックハルトは雪を消す魔術具を使って周囲を整えた。ローゼマインは騎獣の中に魔術具を置き、自分が離れてもレッサーバスが消えないようにした。外はまだ冷たく、野営地は森に囲まれていて日も差しにくかった。フェルディナンドはローゼマインの側仕え達に食事の準備を命じ、自分達はタルクロッシュ討伐へ向かうと告げた。ローゼマインには採集の準備をさせ、ブリギッテの騎獣に同乗させることにした。側仕え達に食事の支度を託し、ローゼマインは採集道具を確認した上でブリギッテの騎獣に乗り込み、タルクロッシュ討伐とライレーネの蜜採集に備えた。

フリュートレーネの夜

タルクロッシュへの祝福と待機命令

ローゼマインはブリギッテの騎獣に同乗して、再び女神の水浴場へ向かった。泉へ近づくと水面が盛り上がり、タルクロッシュが姿を現したため、フェルディナンドは直ちに祝福を命じた。ローゼマインは武勇の神アングリーフの加護を祈って騎士達に祝福を与えたが、その後はダームエルとブリギッテと共に待機を命じられ、自分にできる支援の限界を改めて自覚していた。

合体するタルクロッシュと不意の捕食

泉から飛び出したタルクロッシュは大人ほどの大きさのガマガエルであり、見た目の気味悪さにローゼマインはうんざりした。やがて最も大きい個体が他のタルクロッシュを舌で絡め取って呑み込み、次々と合体しながら巨大化していった。フェルディナンドとエックハルトが攻撃を仕掛けようとした瞬間、巨大化したタルクロッシュの長い舌が高速で伸び、ブリギッテの騎獣ごとローゼマイン達を絡め取った。そのまま二人は口の中へ呑み込まれ、暗く生臭い体内へ引きずり込まれた。

体内での応戦と泉への脱出

タルクロッシュの口内で、ブリギッテは嚥下を防ぐために武器を構えたまま動きを止め、ローゼマインに採集用ナイフで舌を刺すよう指示した。ローゼマインは魔力を込めたナイフで何度も舌を突き刺したが、すぐには変化がなかった。ところが突然口が開き、二人は転がるように外へ放り出された。フェルディナンドの怒鳴り声に従って、ブリギッテはローゼマインを抱えたまま泉へ飛び込み、衝撃を覚悟したローゼマインは不思議な泉の水に包まれた。泉の中は冷たくも苦しくもなく、外ではフェルディナンドとエックハルトの攻撃でタルクロッシュが空中で爆散していた。

分裂した小型タルクロッシュへの恐慌

水面へ浮上して討伐が終わったと思った矢先、爆散したタルクロッシュは多数の小型個体となって降り注いだ。ローゼマインの顔や体にはぬめった小さなタルクロッシュが次々と貼り付き、彼女は恐怖と嫌悪で取り乱した。フェルディナンドは叫んでいないで自分で剥がして倒せと冷たく命じ、ブリギッテも自分の周囲の対処で手一杯であった。そのため、ローゼマインは半ば泣き叫びながら助けを求めるしかなかった。そこへ騎獣に乗ったダームエルが現れ、ローゼマインを引き上げてタルクロッシュを取り除き、ようやく彼女は落ち着きを取り戻した。

野営地での着替えと翌朝の採集準備

野営地へ戻ると、ローゼマインはレッサーバスの窓を閉めて外から見えないようにした上で、モニカとロジーナに手伝われて濡れた服を脱ぎ、体を拭いて着替えた。モニカとニコラは、この季節の泉への落下が命に関わる危険だと心配し、強く体調を案じた。食事の後、フェルディナンドは翌朝の採集方法を教えた。ライレーネの花の中央にある蜜は、魔力の影響を受けない金属製のスプーンで複数の瓶に分けて採取する必要があり、ローゼマインの魔力を含んだ蜜とそうでない蜜の差も調べるつもりであった。こうして一行は夜明け前の採集に備えて早めに休むことになった。

夜の泉と光の出現

その夜、ローゼマインはレッサーバスの揺れのような感覚で目を覚まし、窓の外に夜の女神の水浴場を見た。泉は赤みを帯びた月を映しながら光を放ち、小さな光の粒が次々と水面から浮かび上がっては辺りを漂っていた。光が生まれるたびに澄んだ音が響き、それらが重なって幻想的な音楽のようになっていた。ニコラやロジーナ達も目を覚まし、その光景に見入った。ロジーナは泉の音に誘われるようにフェシュピールを奏で始め、その音楽に惹かれた光がレッサーバスの周囲へ集まってきた。

音楽と甘味の奉納

ローゼマイン達は、春の女神達が音楽と甘い物を好むのではないかと考え、夜中の泉へ出て音楽と菓子を奉納することにした。ロジーナはフェシュピールを奏で、エラやニコラ達はクッキーなどの甘味を用意し、ブリギッテは警戒を続けながら同行した。泉から現れる光は、ロジーナの音楽や甘味、さらにタルクロッシュを討ったブリギッテの周囲に集まり、それぞれに反応を示した。ローゼマインはフェシュピールこそ持っていなかったが、麗乃時代の歌をもとにした春の歌を奉納することにした。

歌に応える泉とライレーネの成長

ローゼマインが歌い始めると、指輪が自動的に魔力を吸い上げ、歌と共に魔力が周囲へ広がっていった。その途端、泉の光はさらに増し、水中から無数のライレーネの蕾が伸び始めた。蕾は絡み合いながら巨大な花のように育ち、中心の葉が大きく広がってローゼマインの前へ伸びてきた。ローゼマインが女神に蜜をいただいてよいかと願うと、その葉は彼女を乗せるように広がり、そのまま高く持ち上がってライレーネの花の前まで運んだ。ローゼマインはフェルディナンドの指示通り金属のスプーンを使って蜜を採集し、持ってきた瓶を満たしていった。

夜明けと足場の崩落

蜜の採集を終えた頃、森の向こうの空は白み始め、朝日が差し込んできた。それと同時に泉の周囲を漂っていた光は徐々に薄れ、消え始めた。ライレーネを支えていた巨大な花も縮み始め、ローゼマインが立っていた葉も次第に小さくなっていった。やがて彼女の体重を支えきれなくなった茎は音を立てて折れ、ローゼマインの足場は崩れたところで終わった。

祈念式終了

落下とフェルディナンドの救助

ライレーネの蜜を採集し終えた直後、足場となっていた葉が傾き、ローゼマインは空中へ放り出された。ブリギッテが騎獣を出して助けようとしたが、それより早く木々の向こうから飛び出してきたフェルディナンドがローゼマインを空中で回収した。ローゼマインは助けられたものの、不機嫌なフェルディナンドに強く睨まれ、自分がまた危険な目に遭ったことを痛感した。

蜜の採集結果と撤収の決定

地上へ戻ったローゼマインは、採集したライレーネの蜜をフェルディナンドに見せた。フェルディナンドが確認したところ、その蜜は完全にローゼマインの魔力に染まっており、他者の魔力は通らなかった。採集方法に失敗があったわけではなく、ローゼマインの魔力で成長した花から採ったためにそうなったと説明され、素材採集そのものは成功だと判断された。とはいえ、男性陣は皆疲労の色が濃く、詳しい事情は翌日に回して、ひとまず早くフォンテドルフの冬の館へ戻ることになった。

泉の水の確保と休息

ローゼマインは泉の水が傷や病に効くと聞いていたため、孤児院やフォンテドルフの村のために少し汲んで帰りたいと願い出た。フェルディナンドの許可を得て、側仕え達に樽や皮袋へ泉の水を詰めてもらい、一行はそれを持ち帰った。夜更かしの影響で男性陣だけでなく女性陣も寝不足だったため、館に戻った後は一日しっかり休息を取ることになり、ローゼマインも疲労回復薬を飲んで眠りについた。

夜の泉で起きていた異変

翌朝、ローゼマインが前夜の出来事を尋ねると、フェルディナンド達は夜の間に女神の嫌がらせを受けていたと語った。見張りをしていたフェルディナンドによれば、突然森の木々が意思を持ったように動き出し、レッサーバスを枝から枝へと受け渡しながら女神の水浴場へ運び去っていったという。フェルディナンド達は追跡しようとしたが、木々が進路を妨げ、泉の周囲では強い魔力の壁に阻まれて中へ入れなかった。そのため、泉の中でローゼマイン達がのんきに音楽や菓子を楽しむ様子を見守るしかなく、非常に胃の痛い思いをしていたのであった。

魔力の影響と夜の行動への叱責

ローゼマインとブリギッテは、あの場では男性陣がいないことにすら気付かなかったと振り返った。外へ出た瞬間に意識がぼやけ、連絡を取ることも忘れてしまったため、フェルディナンドは泉の周囲を満たしていた強い魔力が判断力に影響したのではないかと考えた。さらに、ローゼマインが危うい葉の上に乗って採集していた様子は、見ている側からすると非常に危険で、胃が痛くなるような光景だったと厳しく叱責した。夜明けと共に魔力の壁が薄れたため、フェルディナンドは騎獣で突入し、葉が折れる直前にローゼマインを回収できたのだった。

泉の水の贈与と聖水扱い

フォンテドルフを出発する際、ローゼマインは予定通り泉の水を村長へ渡した。フェルディナンドはその水を、エーレンフェストの聖女であるローゼマインが汲んだ癒しの聖水であるかのように説明したため、村長は大いに驚き、非常に丁重に受け取った。ローゼマインはフェルディナンドの言い方に呆れつつも、大切に扱われるなら構わないと受け入れた。

祈念式の完了と研究結果

残りの祈念式を無事に終えて神殿へ戻った後、ローゼマインは興奮気味のフェルディナンドに呼び出され、今回採集したライレーネの蜜について説明を受けた。ライレーネの蜜はローゼマインの魔力を強く含んでいたが、完全に固定されているわけではなく、きちんと魔力を込めると結晶化し、高純度の水属性素材になることがわかった。しかも反発はあるものの、他者の魔力で染め直すことも可能であり、極めて価値の高い素材であると判明した。

十年後の実験計画と図書館の要求

フェルディナンドはこの成果に強く刺激され、他の魔木でも同様のことができるのではないかと考え、ローゼマインに今後の実験協力を持ちかけた。しかし、現在のエーレンフェストには魔力の余裕がなく、その場での魔木栽培計画は断念された。それでもフェルディナンドは諦めず、十年後に魔力の余裕ができたら改めて実験したいと申し出た。対するローゼマインは、自分の魔力と引き換えに欲しいものとして金ではなく図書館を求め、将来の取引条件として提示した。

エピローグ

菓子を通して見えるローゼマインの商才

エックハルトはフェルディナンドの館で供された菓子を食べながら、それがローゼマインのレシピかと尋ねた。道中で食べた菓子とは風味が違っていたためである。フェルディナンドは、道具の違いに加え、今回は茶葉や酒漬けの果実など相手の好みに合わせた材料が使われていると説明した。ローゼマインは女性のお茶会向けに菓子のレシピを売り込んでおり、顧客の好みを把握して望む物を売るのが当然だと考えているため、貴族というより商人の思考だとフェルディナンドは評した。

フェルディナンドの信頼への疑問

エックハルトは、フェルディナンドがローゼマインの食事をほとんど警戒せず口にしていることに強い違和感を覚えていた。警戒心の強いフェルディナンドが、ローゼマインの専属料理人の料理や持参された菓子を、そのまま受け入れているように見えたからである。フェルディナンドは、ローゼマインが神殿育ちで生粋の貴族ではなく、自分の目で確認したこともいくつかあるため信用していると述べた。その言葉から、エックハルトはローゼマインが平民出身であることこそが、フェルディナンドにとっての信頼の根拠なのだと理解した。

春の素材採集の報告

カルステッドが合流すると、三人は祈念式と素材採集について振り返った。フェルディナンドは、春の採集は大成功だったと認めつつも、フリュートレーネの夜に起こった数々の異変を説明した。男性陣が女神の水浴場に入れず、魔力障壁や精神的な干渉に苦しめられたこと、ローゼマインが歌を奉納し、ライレーネが成長して蜜を採集したこと、そして朝日と共に不思議な力が消えたことが語られた。エックハルトは、葉が小さくなる中でローゼマインが落下しかけ、それをフェルディナンドが危機一髪で救った場面を補足した。

ライレーネの蜜の特異性

採集されたライレーネの蜜は、通常の物とは比べものにならないほど魔力含有量が多く、水属性の純度も極めて高かった。さらに、普通は他人の魔力で染まった素材は染め直しができないにもかかわらず、この蜜はローゼマインの魔力を含みながらも、フェルディナンドの魔力で染め直すことが可能であった。フェルディナンドは、この特異性がフリュートレーネの夜だからなのか、ローゼマインの魔力によるものなのかを非常に気にしており、研究者として強い関心を示していた。一方でカルステッドとエックハルトは素材研究そのものにはさほど興味を示さず、話題は次第に別の方向へ移っていった。

冬の主討伐での神具の活用

カルステッドは、冬の主シュネティルム討伐でローゼマインがライデンシャフトの槍を用いたことに強い驚きを覚えていた。騎士団にローゼマインが扱える武器がなかったため、神殿の神具を武器として使わせたのだとフェルディナンドは説明した。古い資料には、神殿の神具が本来魔術具であり、実際に使われていた記述があったため、魔力で染めれば武器として使えると判断したのである。ただし、神具は使い勝手の良い武器ではなく、膨大な魔力を必要とするため、一度きりの攻撃手段と考えるべきだとも述べた。

ローゼマインの金策と放置される商売

シュネティルムの魔石代の補償が必要になったこともあり、ローゼマインがまた金策に走っているという話題も出た。フェルディナンドによれば、ローゼマインは予算を与えられていても、必要な金は自力で稼ぐべきだという考えが身に沁みついており、資金不足と言われれば自力で稼ぐ方へ発想が向くらしい。カルステッドも、ローゼマインは根っから自分で稼ぐことが好きなのだろうと苦笑した。フェルディナンドは、経済を回し派閥に変化をもたらす限り、肖像画を売り捌くような真似をしない限りは放置していると語った。

次の商売と新商品の予感

教材の販売は子供の数に限界があり、兄弟で使い回される以上、今後の販路には限りがある。そのためフェルディナンドは、ローゼマインが新商品開発か販路拡大のために、また何か突飛なことを始めるに違いないと警戒していた。印刷機の改良依頼や紙の研究、イルクナー訪問の話などを思い返しながら、何をしでかすか予測が難しいと苦い顔で語った。

次なる採集への不安

最後に話題は夏の素材採集へ移った。候補地は危険の少ないバルシュミーデの山と、品質を優先するなら適しているローエンベルクの山であったが、フェルディナンドはリーズファルケの卵を得るためにローエンベルクの山へ向かうつもりだと明かした。リーズファルケは火の神ライデンシャフトに関わる強力な魔物であり、採集には時間との勝負に加えて細心の注意が必要になる。エックハルトは、その説明を聞きながら、次の採集もまた何事もなく穏便には終わらないだろうと確信した。

冬のお披露目と子供部屋

ヴィルフリートのお披露目成功と側近達の安堵

冬の社交界は洗礼式とお披露目から始まり、ヴィルフリートはアウブ・エーレンフェストから課された基本文字と数字の習得、フェシュピールの演奏という条件を満たして壇上に立った。ランプレヒトは、その一月余りの間にヴィルフリートが逃げずに努力を重ね、側近達もまた廃嫡を避けるために必死で支えてきたことを振り返った。壇上で領主の子として相応しい姿を見せたヴィルフリートを見て、側近達は達成感と安堵を抱いた。

ローゼマインのお披露目と圧倒的な存在感

ヴィルフリートのお披露目が終わった直後、ローゼマインが領主の養女に相応しい魔力と慈悲、新産業を生み出す優秀さを備えたエーレンフェストの聖女として紹介された。ランプレヒトはその大仰な紹介に貴族達の懐疑的な空気を感じつつも、ローゼマインが動揺を見せずに楚々と振る舞う様子に、フェルディナンドによる教育の徹底ぶりを実感した。ローゼマインは高度なフェシュピール演奏と歌を披露し、その技量だけでも群を抜いていたが、さらに演奏と共に大広間全体へ祝福を広げたことで、貴族達に強烈な印象を与えた。

祝福によって揺らぐ次期アウブの構図

ローゼマインの大規模な祝福は保護者達にとっても想定外であったが、周囲の貴族達にはそうは映らなかった。洗礼式の時以上に派手な祝福により、ライゼガング系の貴族達はローゼマインを自分達が戴く領主候補生として持ち上げ始めた。ランプレヒトは、ヴィルフリートの努力が報われた直後に、そのお披露目がローゼマインの引き立て役のようになってしまったことに強い不安を抱いた。アウブはローゼマインをエーレンフェストの聖女と改めて位置付けて場を収めようとしたが、その言葉によってむしろ次期アウブ候補としての存在感が強まった。

側近達の夜の会議と今後の方針

宴の後、ヴィルフリートの側近達はオズヴァルトの部屋に集まり、今後について話し合った。廃嫡を免れた以上、アウブの言葉を信じてヴィルフリートを本物の次期アウブにするしかないという方向で意見は一致したが、ヴェローニカ派の貴族を安易に取り込むのは危険だとランプレヒトは主張した。今は慎重に情勢を見極め、中立派から基盤を固めるべきであり、まずは子供部屋で優秀な同年代の側近候補を得ることが最優先とされた。

ローゼマインの欠点とヴィルフリートの優位性

ローゼマインの圧倒的な優秀さに側近達は脅威を感じていたが、ランプレヒトは彼女にはアウブに向かない致命的な欠点があると指摘した。それは虚弱な体である。館の中で意識を失い、宴の最後まで参加できないほど体が弱いローゼマインは、いくら魔力や能力に優れていても次期アウブには不向きであり、保護者達もそのつもりはないとランプレヒトは伝えた。そのため、ローゼマインとは敵対するのではなく、将来的には協力関係を築き、必要であれば結婚によってライゼガング系を取り込むのが現実的だという結論に至った。

コルネリウスの迷いと主を選ぶ理由

ランプレヒトは、貴族院へ向かう前のコルネリウスから、なぜヴィルフリートに仕え続けることを選んだのかと問われた。コルネリウスは、ダームエルやブリギッテ、アンゲリカには仕える理由があるのに、自分には一人の主に仕える感覚がまだつかめていないと悩んでいた。ランプレヒトは、自分がヴィルフリートに必要だと感じたこと、満足に仕えていないまま他の主に移れなかったこと、共に成長できると思ったことを理由として挙げた。そして、主を選ぶ理由に明確な正解はなく、自分で答えを出すしかないと諭した。

子供部屋で始まる競争と教育の主導権

貴族院へ向かう学生達がいなくなると、子供部屋にはこれから冬を共に過ごす子供達だけが残った。そこでローゼマインはカルタを取り出し、学年ごとに分けて遊びを始めた。経験者であるローゼマインとヴィルフリートは年上の組に入って圧勝したが、ローゼマインは接待を感じ取ると、冬の間に一度も自分達に勝てないようでは側近は任せられないと子供達を煽り、さらに一番優秀だった者に菓子を与えると宣言した。これにより、中級や下級貴族の子供達も本気になり、上級貴族達も接待を続けていられなくなった。

ローゼマインの教育者としての力量

カルタやトランプによって子供達のやる気を引き出した後、ローゼマインはモーリッツと共に学年や能力に応じた教育を進めた。ヴィルフリートの傍らで見ていたランプレヒトには、子供達が短期間で目に見えて成長していく様子がはっきりとわかった。ローゼマイン自身は分厚い本を読んだり新しい本の原稿を書いたりしており、すでに学ぶ側ではなく教育する側に立っていた。ランプレヒトは、ヴィルフリートがローゼマインに見劣りするかどうかという段階ではなく、ローゼマインが最初から一人だけ次元の違う存在だと痛感した。

ヴィルフリートが率いる男の子達の輪

一方で、活発な男の子達は虚弱で本ばかり読んでいるローゼマインとは距離を取り、体を動かす場面ではヴィルフリートの周囲に集まった。ローゼマインが奉納式のため神殿へ向かうと、ヴィルフリートは男の子達とカルタでローゼマインに勝つための作戦会議を始めた。そこには中立派やライゼガング系、旧ヴェローニカ派の子供達が自然に集っており、接待ではない本気の仲間関係が生まれていた。ランプレヒトは、そうした輪の中でヴィルフリートが子供達を率いていく姿に、将来貴族達を率いる姿の片鱗を見た。

神殿長の専属

小神殿工事から外されたように見えた衝撃

インゴは、ハッセに新設される小神殿の内装や家具について木工協会が責任を持って采配するとの話を会議で聞き、自分がその計画を全く知らされていなかったことに強い衝撃を受けた。神殿長の専属であるならば、本来は専属職人である自分に先に話が通り、協会との調整にも関わるはずだったが、今回はギルド長グスタフとベンノが代理人に名を連ね、自分の名はどこにもなかった。そのためインゴは、自分が本当に神殿長の専属なのか、あるいは何らかの不満によって外されたのかと不安に駆られた。

協会内で広がる疑念と工房の危機感

木工協会を出た後、ドスタル工房の親方から専属かどうかを問われたインゴは、即座に否定できなかったことで周囲に疑念を抱かせてしまった。インゴ工房は若い工房であり、領主の養女となった神殿長の専属であるかどうかは協会内での立場に大きく影響するため、専属から外されたと見なされれば工房の将来に関わる問題であった。そうした状況の中でインゴは窓枠の仕事を割り振られたが、不安は消えなかった。

ベンノから知らされた急転直下の事情

その後ベンノから呼び止められたインゴは、最初から最後まで小神殿に泊まり込みで働き、現地で各工房の仕事を指示する役目を与えられたことで、少なくともベンノからは専属として扱われていると知った。しかし専属かと問うと、ベンノはグーテンベルクの一人だとは思っているが、明確に専属と言われたかどうかは知らないと曖昧に答えた。さらにベンノは、小神殿建設の話自体が三日前に決まったばかりであり、イタリアンレストランでの会食の席でローゼマインが孤児院を求めた結果、その日のうちに魔術で小神殿が完成し、収穫祭までに生活環境を整えるよう命じられたのだと説明した。インゴは、そのあまりの急展開に貴族の理不尽さを実感した。

泊まり込み工事と専属としての実績作り

インゴはアニカと共にハッセの小神殿に泊まり込みで働き、大勢の職人が集まる大規模工事の中で最後まで現場に残って仕事を指揮した。一月には少し間に合わなかったものの、小神殿は無事に完成し、インゴ工房としても他の工房に劣らぬ仕事ができたという手応えを得た。専属から外されたという噂を払拭するためにも、この工事を成功させることが重要であった。

新たな依頼と専属認定への執着

小神殿工事が終わると、冬の手仕事の準備や印刷機の改良といった神殿長からの依頼がルッツを通じて持ち込まれた。インゴは神殿長の依頼書を木工協会に持ち込み、自分は専属だと主張したが、協会側は改良依頼であることを理由に、以前の仕事に不満があったのではないかと疑った。専属だと認められるためには、一筆をもらってこいとまで言われたことで、インゴは明確な証明をどうしても得なければならないと考えるようになった。

工房で味わった神殿との常識の違い

ルッツに連れられて神殿の孤児院工房へ向かったインゴは、灰色神官達から印刷機について具体的かつ整然とした改良要望を次々に出され、下町とはまるで違う空気を感じた。字がうまく書けない自分に代わって記録役がすぐに用意され、印刷の現場を体験しながら改良点を掴むように促されるなど、神殿の工房は子供のギルを中心にしつつも、大人の灰色神官が支える独特の仕組みで動いていた。さらにルッツが完成形を知っているかのような具体的な意見を述べたことで、インゴはその背後にさらに詳しい誰かがいると察し、完成形を知る者と直接話させろと声を荒らげたが、その態度によって工房内の空気を一変させてしまった。

ルッツから明かされた神殿長との距離

工房の外に出た後、ルッツは完成形を知る者がローゼマイン本人であること、そして今のローゼマインは貴族であり神殿長である以上、下町の職人が気軽に会って話せる相手ではないことを明かした。下町の常識や怒鳴るような態度は神殿では通用せず、貴族に不興を買えば命に関わることさえあるため、ルッツはインゴが神殿長と直接話すことの危険性を警告した。それでもインゴは工房の将来が懸かっている以上引き下がれず、専属の確約を得なければならないと訴えた。

高額な仲介料を払って得た面会の機会

最終的にインゴは、ギルベルタ商会を通じてローゼマインに会うため、大銀貨三枚もの高額な仲介料を支払うことになった。ベンノからは、神殿へ同行する以上、服装や挨拶など貴族相手の作法を守り、許可が出るまでは口を開かないこと、覚悟を決めることを厳しく求められた。インゴはそれを情報料と考えて納得し、殺されることすら覚悟して神殿へ向かった。

専属の確約と新たな厄介事の始まり

神殿での面会を終えたインゴは、ローゼマインから専属としての確約を得られたことでようやく安堵した。しかしそれと引き換えに、新たな厄介事も背負うことになった。ローゼマインは印刷機改良のために鍛冶職人達とも意見交換を行うよう求めており、木工だけでなく異業種との連携が必要になったのである。ベンノとルッツは、それが一度きりでは終わらず、今後も当たり前のように続くだろうと告げた。さらに各協会や関係者への挨拶と根回しも必要となり、インゴはようやく、自分が引き受けた依頼が単なる改良ではなく、工房の立場も巻き込む大きな仕事の始まりであることを実感した。

商業ギルド長の拒絶が示した困難

しかし挨拶回りを始めると、現実はさらに厳しかった。ハッセの小神殿工事に続いて、今度は異業種協力による印刷機作りという前例のない仕事に対し、商業ギルド長からは御大層な称号を持つ専門家同士でやれと突き放されてしまった。これによりインゴは、自分が想像していた以上に面倒で厄介な仕事に足を踏み入れてしまったのだと、ようやく本当の意味で理解するに至った。

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神殿の巫女見習い

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領主の養女

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貴族院の自称図書委

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女神の化身

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ハンネローレの貴族院五年生

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