第三部 領主の養女3レビュー
第三部 領主の養女
本好きの下剋上 全巻まとめ
第三部 領主の養女5レビュー
中世ヨーロッパ風の世界が舞台。
異世界なのでファンタジー要素もある。
第一部。
日本で本の虫だった女子大生が、地震で本の下敷きになって死亡(多分)
次に目覚めたらファンタジーな世界の下町の門番兵の娘として目覚める。
貧しく、衛生面も最悪。
身体は魔力が大きいせいで貧弱。
チョット作業したり、興奮したらぶっ倒れる始末。
さらに彼女に必須アイテム本が高価で手が出ない。
なら創れば良いじゃないかと、、
そんな彼女は幼馴染のルッツと共に紙を作り、髪を綺麗にするリンシャン、髪飾りの製法をべノン商会に売り、紙作りの支援を受けて紙の量産体制を作ろうとしたが、彼女の魔力が身体を蝕み瀕死になってしまう。
本来なら貴族に隷属して延命するのだが、それを良しとせず大好きな家族と過ごし死ぬ事を決意したが、、
神殿で図書館を見付けた結果、神殿の巫女見習になる事を決意。
そこで平民である事がアダとなり、孤児と変わらない灰色巫女見習になる処だったが余りにも高圧的に言う神殿長にブチギレ、魔力で威圧して昏倒させ灰色巫女見習案は却下。
交代で出て来た神官長と交渉の末、貴族と同じ青色巫女見習として、通いで神殿に入る事が決まる。
第二部。
神官長直属の神殿の青色巫女見習として神殿に通う事になったが、下町との常識が違い過ぎた。
神官長、神殿長に付けられた側仕えとの常識の擦り合わせに苦労する。
さらに神殿の部屋が無いので欲しいと神官長に言ったら、孤児院の院長室を与えられたのだが、、
その孤児院の過酷な飢餓状況を知り、孤児たちに食べ物を自己の力で獲得する事を教え、さらに自身でお金を稼ぐ方法、紙作りを教える。
何気に孤児院の孤児達を本作りに巻き込み、絵を描くのが上手い灰色巫女を側仕えに追加して、遂に絵本を完成させる。
順風満帆と思ったのは束の間、神官長と共に騎士団の要請で赴いたトロンベ討伐の際に、貴族の目の前で貴族達を遥かに超える魔力を持ってる事を知られてしまい、拉致られそうになる。
それを恐れて神殿に籠っていたが、他領の貴族が神殿にまで押し入って来た。
その貴族を手引きしたのは、マインに威圧されて気絶させられた事を恨んでいる神殿長だった。
何とか撃退したのだが、、
平民が貴族を攻撃したと言われて、正式に拘束されそうになる。
だが、以前お忍びで来た領主に渡された、養女になる契約に印を付けた事によりマインは貴族になっていた。
その結果、神殿長は公文書偽装で極刑。
マインはローゼマインとなり神殿長に就任する。
そして、第三部。
貴族のローゼマインとなったが、いきなり領主の養女にはなれなかった。
上級貴族のカルステッドの第三夫人(故人)の娘という事にして、神殿で密かに育てられていた事にした。
そんな経歴を携えてローゼマインは領主の養女になった。
でも、貴族の世間は神殿とも下町とも違っており特に貴族のご婦人方と上手くやって行けるかは不安材料だったが、、
フェルディナンドをダシにして、お茶会を了解してリサイタルを開催。
さらに、フェルディナンドの肖像画を印刷してパンフレットを作成。
結果、貴族のご婦人方の心をガッチリ掴んでローゼマインは貴族社会で確固たる地盤を得る。
貴族として初めての冬。
冬籠りの部屋で一緒になった子供達に絵本とカルタを与えて無自覚に勉強をさせる。
それは歳上の学院生達よりも神の名前限定だが、、
読んだ本のタイトル
#本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 第三部「領主の養女Ⅳ」
著者:香月美夜 氏
イラスト:椎名優 氏
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あらすじ・内容
春は恋が芽生える季節!ローゼマインの側近や専属達が何だか色めき立って、衣装を作ったり、お披露目したりと華やいだ様子。
神殿の工房では新しい印刷機もついに完成し、本作りは広がりを見せていく。絵本に、楽譜、騎士物語等、様々な本を販売するにまで到った。
今後の領地内における印刷業の拡大を見据え、まずは製紙業を広げることに。ローゼマイン一行は紙の作り方を教えたり、新素材の研究をするため、イルクナーへ向かう。
少しずつローゼマインを取り巻く環境が改善される一方、現領主の姉が来訪したことで、エーレンフェストには不穏な空気が流れ始めるのだった。
第三部完結へ向けて貴族達の想いが交錯する、ビブリア・ファンタジー転変の章!
大増書き下ろし番外編2本+椎名優描き下ろし「四コマ漫画」収録!
感想
ハリセン製造、水汲みポンプ作成。アンゲリカの説教剣(cvフェルディナンド)爆誕。
ブリギッテの実家、イルクナーは紙の生産拠点として重要になって来た。
マイン工房イルクナー支店も発足。
そして、他領からはエーレンフェストの元領主候補で、アーレンスバッハの第一夫人ゲオルギーネの来訪によって、没落したエーレンフェストの元第一夫人派閥が息を吹き返す。
その派閥の1人、青色巫女見習いのマインの護衛を放棄し、傷を負わせた罪で処刑されたシキコーザの母親が暗躍し始める。
そして、その派閥はエーレンフェストを混乱させ、アーレンスバッハのゲオルギーネに戻って貰おうと暗躍する。
その派閥達に育てられたヴィルフリートが、あまりにもおバカ過ぎて、ゲオルギーネの暗躍に助力してローゼマインのハリセンが炸裂する。
それに頭を抱える領主夫婦達。。
何気に気苦労が多い。
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本好きの下剋上 全巻まとめ
第三部 領主の養女5レビュー
考察・解説
印刷事業の拡大
マインの個人的な「本が読みたい」という願望から始まった印刷事業は、技術革新と協力者たちの尽力により、やがて領地全体を巻き込む一大産業へと拡大していった。その拡大の過程と直面した課題は以下の通りである。
協会の設立と既得権益との衝突
印刷事業を統率し、利益と技術を守るため、マインとベンノは「植物紙協会」および「印刷協会」を設立した。しかし、新しい紙の登場は既存の紙の権利を独占していた「羊皮紙協会」との激しい対立を招くことになった。話し合いの結果、以下の用途の棲み分けを行うことで妥協が成立し、事業拡大の基盤が整えられた。
- 契約書などの正式な用途には羊皮紙を使う
- それ以外の日常用途や本には植物紙を使う
プランタン商会の独立
印刷や製紙業の業績が急激に伸びた結果、ギルベルタ商会の本来の業務である服飾業に支障が出始め、他の大店からの嫉妬や反発を買うようになった。そのためベンノは、服飾の店としてギルベルタ商会を守るため、以下の対応を行った。
- 印刷・製紙関係の事業を切り離して独立させる
- マインが名付けた「プランタン商会」を新たに設立する
貴族社会への影響と活版印刷の制限
マインが金属活字と印刷機を開発し、文字ばかりの本の量産が可能になったことで、写本を生業とする下級貴族や神官の既得権益を直接脅かす問題が浮上した。そのため、神官長フェルディナンドはマインが平民のまま活版印刷を行うことを一時禁止した。
しかし、マインが上級貴族である領主の養女「ローゼマイン」となったことで、印刷業は領主の許可を得た国家事業として位置付けられ、下級貴族を事業に取り込みながら領地全体へ広げていく方針が固まった。
まとめ
領主ジルヴェスターの命により、印刷事業は領地全体へとその規模を拡大していった。その具体的な動きは以下の通りである。
- 印刷業を他都市へ広げるため、近隣の町の孤児院にマイン工房と同様の工房を新設する計画が進められた
- 新しい紙の素材を求めて、林業が盛んなイルクナーへプランタン商会のダミアンやルッツ、マイン工房の灰色神官たちが派遣された
- イルクナーでは現地の住民への紙作りの指導とともに、新たな糊の素材「トラオペルレ」を使った新素材の紙が開発された
このように、印刷事業の基盤となる紙の生産と研究が各地で拡大していくこととなったのである。
礎への魔力供給
エーレンフェストを維持するための中核となる礎の魔術への魔力供給について、その概要や具体的な手順、供給時の様子は以下の通りである。
魔力供給の間と入室条件
礎へ魔力を供給するための部屋である魔力供給の間は、領主の執務室の奥にあるタペストリーで隠された小さな扉の先に存在している。
- 入室できるのは、事前に魔石を握って自身の魔力を登録した領主一族のみに限定されている
- 現在登録されているのは、領主夫妻、ヴィルフリート、ローゼマイン、フェルディナンド、ボニファティウスのみである
- 罪を犯して幽閉された領主の母ヴェローニカは、登録した魔石を外され入室できなくなっている
- 部屋の内部は真っ白で、中央には複雑な魔法陣と共にスイカより少し大きいくらいの魔石が浮かんで回っている
魔力供給の手順
実際の魔力供給は、定められた位置で以下の手順によって行われる。
- 参加者はぐるぐると回る魔法陣の周囲にある円い陣に跪き、床に手を当てる。ローゼマインは風の女神の記号がある陣を指定された
- 全員が位置について手を当てた後、領主ジルヴェスターを筆頭に、神殿の奉納式と同じ祈りの言葉を唱える
- 祈りの言葉を唱えることで魔力が吸い上げられ、部屋全体を巡る光の流れとなって魔石と魔法陣の動きを活発にしていく
- 領主からの制止の声がかかるまで魔力を注ぎ続け、その後魔法陣から手を離して終了となる
供給後の様子
強大な魔力を扱うため、供給後の参加者には大きな負担がかかる。
- 初めて大きな魔力を扱ったヴィルフリートは、強がってはいたものの顔色も悪く、座り込んでしまうほど疲弊していた
- 一方、神殿での奉納式などで日常的に魔力を消費することに慣れていたローゼマインは、虚弱体質でありながら全く平気な顔をしていた
- その様子を見たジルヴェスターは驚き、フェルディナンドがローゼマインを酷使しているのではないかと疑う一幕もあった
まとめ
礎への魔力供給は領地の存続に関わる極めて重要な儀式であり、厳重な警戒と限られた血族のみによって行われている。ローゼマインは領主会議で領主夫妻が不在となる春の成人式までの間、城に滞在してこの魔力供給の重責を担うことになったのである。
新衣装のお披露目
ローゼマインが護衛騎士ブリギッテのために考案した新衣装は、既存の流行に合わない彼女の魅力を引き出し、貴族社会に新たな価値観をもたらすためのものであった。そのお披露目の経緯と結果は以下の通りである。
新衣装考案の背景と仮縫いのお披露目(お茶会)
当時の貴族女性の間では、肩がふんわりとして横に広がるデザインの衣装が流行していた。しかし、この流行は小柄で細身の女性には似合うものの、長身で体を鍛え上げているブリギッテが着ると肩がさらに大きく見えてしまい、彼女の魅力を半減させていた。そこでローゼマインは、縦の線を強調して引き締まった体を美しく見せつつ、騎士としての動きやすさも兼ね備えた「アメリカンスリーブ」のドレスを考案した。
当初、ローゼマインに新しい流行を作るつもりはなかったが、エルヴィーラから「ローゼマインが作る新しい流行として周知させなければ、ブリギッテ一人だけが変わった衣装を着ていると認識され恥をかく」という指摘を受けた。そのため、以下の手順でお披露目が行われた。
- 春の終わりに、エルヴィーラ派閥の貴婦人や女性騎士を招いてお茶会(仮縫いのお披露目会)が城で開催された
- お茶会の最中にブリギッテが古い衣装から新しい衣装に着替えて再登場し、ギルベルタ商会のベンノやオットーが商品の売り込みを行った
- 彼女の女性らしい曲線を際立たせる新衣装は大好評を博し、同じように流行の衣装に辟易していた女性騎士たちからも強い関心が寄せられ、衣装にあしらわれた糸編みの立体的な花飾りにも注文が殺到した
- ローゼマインは令嬢たちに対し、単に新しいものを追うのではなく「自分の欠点を隠し長所を強調する、自分に似合う衣装を着ることが大事である」と説いた
星結びの儀式での正式なお披露目
夏の星結びの儀式の後に行われた大人の宴において、完成した新衣装を身にまとったブリギッテが登場した。
- 淡いエメラルドグリーンのドレスに、ブリギッテの赤い髪を引き立てる同色の花飾りが腰にあしらわれ、髪にはローゼマインとお揃いの白い花飾りが揺れるという非常に美しい仕上がりであった
- 以前はブリギッテの衣装を酷評していた領主ジルヴェスターも「去年の女性騎士と同一人物とは思えん」と絶賛した
- 新衣装の美しさに加え、ローゼマインという強大な後ろ盾を得たブリギッテには、出世欲に駆られた多くの男性貴族たちが群がる結果となった
ダームエルの求婚劇
ブリギッテが全ての注目を集める中、かつて彼女との婚約を解消した元婚約者のハスハイトが近づき、「もう一度、婚約しても良い。それが君の評判を一番傷つけない」と高圧的に復縁を迫る事態が発生した。
- そこで、ブリギッテの名誉を守るために護衛騎士のダームエルが数人の騎士仲間とともに割って入り、ハスハイトを退けた
- さらにダームエルはブリギッテの前に跪き、「求婚するに相応しい魔力を身に付けるから一年待ってほしい」と公衆の面前で堂々と宣言した
- ブリギッテはハスハイトの身勝手な求婚を拒絶し、田舎であるイルクナーを嘲笑わず、本気で魔力を伸ばそうとしてくれるダームエルの申し出を「一年後の星結びの夜を心待ちにしています」と嬉しく受け入れた
まとめ
ブリギッテの新衣装のお披露目は、単なる服飾の流行発信にとどまらず、「自分を一番綺麗に見せられる似合うものを着る」という新しい価値観を貴族の女性たちにもたらした。また、ダームエルによる一年越しの求婚というロマンチックなドラマを生み出し、城中の話題をさらう大成功を収めたのである。
イルクナーでの製紙
ローゼマインが推進する印刷事業を拡大するため、新たな木材の発見と冬の手仕事としての製紙業の定着を目指し、林業が盛んなイルクナー領で植物紙の研究が行われた。ギーベ・イルクナーの全面的な協力を得て進められたこの事業の経緯と成果は以下の通りである。
イルクナーへの派遣と生活環境の違い
イルクナーにはエーレンフェストにない多様な木材が存在し、冬でも川が凍らないため一年を通じて紙作りが可能であると見込まれた。現地にはプランタン商会からダミアンとルッツ、マイン工房からギルと紙作りに慣れた四人の灰色神官(フォルク、バルツ、セリム、ノルト)が派遣された。しかし、イルクナーはエーレンフェストの街とは生活環境が大きく異なっていた。
- 物々交換が基本であり、店が存在せず、お金で下働きを雇うことができなかった
- 食材は自ら山や川で採集・狩猟して調達する必要があり、自分の身の回りの世話はすべて自分で行わなければならなかった
- 街での便利な生活しか知らないダミアンは自活に非常に苦労し、神殿育ちの灰色神官たちも文化や習慣の違いに戸惑いながら順応していった
紙作りの指導と新素材の研究
イルクナーの住民に紙作りを定着させるため、役割分担が行われた。
- 未成年のルッツやギルでは大人の住民に指示を聞き入れてもらいにくいため、作業手順の指導は成人の灰色神官たちが担当した
- ルッツとギルは、住民たちへの指導を灰色神官に任せ、イルクナー特有の素材を使った新しい紙の研究開発に専念した
- 現地の物知りな老人から、紙作りに向く柔らかく若い木として「ナンセーブ」や「エイフォン」などを教わり、新たな木材の選定を進めた
トラオペルレ紙の完成と特徴
新素材の研究において、夏の終わりから秋にかけて採れる「トラオペルレ」という白い実が注目された。この実を潰して出る粘り気のある液を糊(トロロ)の代わりとし、フォリンの繊維に混ぜて紙を漉く実験が行われた。トラオペルレを用いた紙には、以下のような特異な性質があった。
- 日光に当てるとみるみるうちに乾燥して固まり、少し縮む性質があった
- 完全に乾くと表面がつるつるして硬くなり、曲げたり折ったりしても割れない丈夫さを持っていた
- 蛇腹に折ってハリセンのように使うことも可能であり、インクの滲みもなく文字が書けるため、トランプなどの遊具作成に非常に向いていると評価された
まとめ
イルクナーでの製紙事業は、現地の住民への技術指導が成功しただけでなく、トラオペルレという新素材を用いた硬く丈夫な新しい紙を生み出すという大きな成果を上げた。この新しい紙はイルクナーの特産品となる可能性を秘めており、エーレンフェストにおける印刷業の表現の幅をさらに広げる重要な一歩となったのである。
ゲオルギーネの来訪
アーレンスバッハに嫁いでいたジルヴェスターの姉・ゲオルギーネの来訪は、エーレンフェストの領主一族に大きな緊張をもたらし、領内の勢力図に暗い影を落とす出来事となった。その背景と滞在中の動向、そしてもたらされた影響は以下の通りである。
来訪の背景と目的
第三夫人として嫁いでいたゲオルギーネが第一夫人に繰り上がったことで、彼女は領主会議に出席し、それまで伏せられていた前神殿長の死やそれにまつわる事情を知ることとなった。ゲオルギーネの来訪には以下の背景がある。
- ゲオルギーネにとって前神殿長は、嫁いだ後も手紙のやり取りをするほど親しい身内であった
- そのため、前神殿長の墓参りを名目として、長年戻ることのなかった故郷エーレンフェストへの来訪を決定した
歓迎の宴と領主一族との確執
歓迎の宴において、ゲオルギーネは上品な笑顔を崩さぬまま、ジルヴェスターの無精さや無能さを言葉の端々で貶めた。また、領主一族に対して以下の牽制を行った。
- 幼いローゼマインが神殿長に就いていることに対し、憐れみを装った嫌味を投げかける
- 異母弟であるフェルディナンドが後見人を務めていることに対しても牽制の言葉を向ける
これに対し、フェルディナンドは普段見せないような完璧な作り笑顔で応対し、内心の嫌悪感を隠し通した。
遺品の受け取りと母ヴェローニカとの面会
ジルヴェスターやフロレンツィアとのお茶会の席で、ゲオルギーネは前神殿長の遺品である手紙の束やインク壺を受け取り、彼が最後まで自分の品を使ってくれていたことに静かな喜びを見せた。その後の動向は以下の通りである。
- 前神殿長を唆した罪で幽閉されている母・ヴェローニカの姿を見るため、シュタープを封じる手枷をはめることを条件に白の塔へ赴く
- フェルディナンドに操られていると助けを乞う母に対し、一言も言葉を交わさず、ただ愉しそうな冷酷な微笑みを向けただけであった
ヴィルフリートの失言と次年度の来訪決定
一週間の滞在を終えた見送りの場で、全てが穏便に終わろうとしていた隙を突き、ヴィルフリートが空気を読まずに「来年はゆっくりお話ししたい」とゲオルギーネに駆け寄ってしまう事態が発生した。
- ゲオルギーネはこの失言を巧みに利用し、フロレンツィアに「ご迷惑ではないかしら」と尋ねることで、公式の場での拒絶を封じる
- 結果として、来年の来訪を既成事実として確定させた
- 馬車が去った直後、ヴィルフリートは激怒したフェルディナンドから渡されたハリセンにより、ローゼマインから強烈な叱責を受けることとなった
まとめ
ゲオルギーネの来訪は、エーレンフェスト国内の不満分子を大きく刺激する結果を招いた。その影響は以下の通りである。
- ヴェローニカの失脚により冷遇され、勢いを失っていたダールドルフ子爵夫人グローリエやゲルラッハ子爵グラオザムら旧ヴェローニカ派の貴族たちは、大領地の第一夫人となった彼女の存在に新たな希望を見出した
- 彼らは水面下で密会を開き、ゲオルギーネを新たなアウブ・エーレンフェストとして擁立し、領地の礎を奪取するための陰謀を本格的に画策し始めた
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キャラクター紹介
領主一族(エーレンフェスト)
ローゼマイン(マイン)
エーレンフェストの領主の養女であり、神殿長を務める少女である。読書をこよなく愛し、本を作るために印刷業の普及を目指している。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト領主一族・養女。神殿長。孤児院長。ローゼマイン工房の責任者。
・物語内での具体的な行動や成果
新しい印刷機を稼働させ、騎士物語や絵本などの印刷物を製作した。女性騎士向けの新しい衣装を考案し、手押しポンプの普及に向けて領主との契約魔術を主導する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
虚弱体質であり、頻繁に体調を崩す。フェルディナンドを後見人としている。
ジルヴェスター
エーレンフェストの領主であり、ローゼマインの養父である。身内には甘い一方で、領主としての威厳を保つ必要がある立場にある。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト領・アウブ(領主)。
・物語内での具体的な行動や成果
礎の魔術への魔力供給をローゼマインやヴィルフリートと共に行う。手押しポンプの契約魔術をローゼマインらと結ぶ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
母親であるヴェローニカを幽閉したことで、足元が揺らいでいると一部の貴族から見なされている。
フロレンツィア
ジルヴェスターの第一夫人であり、ヴィルフリートらの母親である。子供たちに深い愛情を注いでいる。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト領主一族・第一夫人。
・物語内での具体的な行動や成果
ヴィルフリートの魔力供給を補助する。ゲオルギーネの来訪時には第一夫人として応対し、お茶会を共にする。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ローゼマインのおかげでヴィルフリートの養育権を取り戻せたことに深く感謝している。
ヴィルフリート
ジルヴェスターの息子であり、領主候補生である。素直だが空気を読むのが苦手な側面がある。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト領主一族・領主の息子。
・物語内での具体的な行動や成果
礎の魔術への魔力供給を初めて行う。ゲオルギーネの見送りの際、来年の来訪を無邪気に約束してしまい、ローゼマインからハリセンで叩かれた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
祖母ヴェローニカの教育の影響が残っており、フェルディナンドを目上として扱っていなかった。
シャルロッテ
フロレンツィアの娘であり、ヴィルフリートの妹である。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト領主一族・領主の娘。
・物語内での具体的な行動や成果
朝の挨拶でフロレンツィアに見送られる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
メルヒオール
フロレンツィアの息子である。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト領主一族・領主の息子。
・物語内での具体的な行動や成果
シャルロッテと共にフロレンツィアの朝の見送りを受ける。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
ボニファティウス
先々代領主の子であり、カルステッドの父親である。大柄で筋肉質な体格を持つ。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト領主一族。領主代理。
・物語内での具体的な行動や成果
領主夫妻が領主会議で不在の間、領主代理として執務を担う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ローゼマインには甘い傾向がある。
ヴェローニカ
ジルヴェスターやゲオルギーネの母親である。ジルヴェスターを溺愛していた。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト領主一族(失脚)。
・物語内での具体的な行動や成果
森の白の塔に幽閉されており、面会に来たゲオルギーネに助けを求める。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
犯罪者としてシュタープを封じる手枷を付けられている。
フェルディナンド
ジルヴェスターの異母弟であり、ローゼマインの保護者的存在である。冷徹で効率を重んじる。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト神殿・神官長。ローゼマインの後見人。
・物語内での具体的な行動や成果
ローエンベルクの山で魔物アイデロートを捕らえ、素材採集を指揮する。アンゲリカの魔剣に魔力を通し、人格と口調を形作った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
星結びの儀式で還俗が発表され、改めて領主命令で神官長に就任した。
領主一族(アーレンスバッハ)
ゲオルギーネ
ジルヴェスターの姉であり、アーレンスバッハの第一夫人である。自尊心が高く執念深い性格とされる。
・所属組織、地位や役職
アーレンスバッハ領主一族・第一夫人。
・物語内での具体的な行動や成果
前神殿長の墓参りという名目でエーレンフェストを訪れ、ジルヴェスターやローゼマインに皮肉を浴びせる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
旧ヴェローニカ派の貴族たちから、エーレンフェストの新たな領主として擁立する計画が企てられている。
カルステッド家
カルステッド
エーレンフェストの騎士団長であり、ボニファティウスの息子である。
・所属組織、地位や役職
騎士団・騎士団長。
・物語内での具体的な行動や成果
領主会議へ護衛騎士として同行する。フェルディナンドとローゼマインの結婚を冗談めかして提案する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
エルヴィーラ
カルステッドの第一夫人である。ローゼマインの母親役を務める。
・所属組織、地位や役職
カルステッド家・第一夫人。
・物語内での具体的な行動や成果
ローゼマインが考案したブリギッテの新しい衣装のお披露目茶会を主催する。フロレンツィアにゲオルギーネに関する情報を提供する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
フェルディナンドの絵を印刷で量産する計画を画策する。
エックハルト
フェルディナンドの護衛騎士であり、カルステッドの息子である。
・所属組織、地位や役職
騎士団・騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
ローエンベルクでの素材採集に同行し、温泉に潜ってローゼマインと共に卵を確保する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
フェルディナンドの還俗により、再び護衛騎士として仕えることができるようになり喜んでいる。
ランプレヒト
ヴィルフリートの護衛騎士である。
・所属組織、地位や役職
領主一族・ヴィルフリートの護衛騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
魔力供給の場において、執務室の外で護衛を行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
コルネリウス
ローゼマインの護衛騎士である。
・所属組織、地位や役職
領主一族・ローゼマインの護衛騎士見習い(未成年)。
・物語内での具体的な行動や成果
ダームエルと共にアンゲリカの補講を手伝う。報酬として新しい菓子のレシピを受け取る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
貴族・騎士・側仕え・文官
ギーベ・イルクナー
イルクナーの領主であり、ブリギッテの兄である。
・所属組織、地位や役職
イルクナーの領主(ギーベ)。
・物語内での具体的な行動や成果
ブリギッテの名誉を回復してくれたローゼマインに感謝し、植物紙の研究開発を領地で受け入れる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
植物紙協会との契約を結ぶ。
ブリギッテ
ローゼマインの護衛騎士である。イルクナーの出身である。
・所属組織、地位や役職
領主一族・ローゼマインの護衛騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
ローゼマインが考案した新しい衣装をまとい、星結びの儀式で披露する。ローエンベルクでの素材採集に同行する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
星結びの儀式の場でダームエルから求婚を受け、一年後の結果を待つと返答した。
ダームエル
ローゼマインの護衛騎士であり、下級貴族である。
・所属組織、地位や役職
領主一族・ローゼマインの護衛騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
ブリギッテを元婚約者から守るため、星結びの儀式で魔力を伸ばす猶予を求めて求婚する。ローゼマインから魔力圧縮の助言を受ける。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
魔力の成長期が遅く、現在も魔力が伸び続けている。
アンゲリカ
ローゼマインの護衛騎士である。考えることが苦手である。
・所属組織、地位や役職
領主一族・ローゼマインの護衛騎士見習い(未成年)。
・物語内での具体的な行動や成果
貴族院での補講を終えて任務に復帰する。魔剣シュティンルークの主となる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
知性を持つ魔剣から予習を強要されるようになる。
ユストクス
フェルディナンドの側近である。情報収集に熱心である。
・所属組織、地位や役職
文官。フェルディナンドの側近。
・物語内での具体的な行動や成果
ローゼマインの孤児院に興味を示すが、立ち入りを禁じられる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
過去にローエンベルクで魔獣を狩りすぎて騒動を起こした前歴がある。
リヒャルダ
ローゼマインの筆頭側仕えである。
・所属組織、地位や役職
領主の城・筆頭側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
城に滞在中のローゼマインの読書時間を管理し、生活全般を指導する。歓迎の宴に向けてローゼマインの衣装を整える。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
オティーリエ
ローゼマインの側仕えである。
・所属組織、地位や役職
領主の城・側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
ブリギッテの着替えの進捗をローゼマインに報告する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
ノルベルト
城の執事である。
・所属組織、地位や役職
領主の城・執事。
・物語内での具体的な行動や成果
城に到着したローゼマイン一行を出迎え、それぞれの行き先を指示する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
オズヴァルト
ヴィルフリートの側仕えである。
・所属組織、地位や役職
領主の城・ヴィルフリートの側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
ヴィルフリートに貴族の別れの挨拶を指導する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
グラオザム
ゲルラッハ子爵である。ゲオルギーネを信奉している。
・所属組織、地位や役職
ゲルラッハ子爵。
・物語内での具体的な行動や成果
ゲオルギーネからの手紙を受け、エーレンフェストの情勢を揺るがすための計画を同志たちと話し合う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ヴィルフリートやローゼマインを利用してジルヴェスターを失脚させる策を練る。
ロイエーア
ゲルラッハ子爵夫人であり、グラオザムの妻である。
・所属組織、地位や役職
ゲルラッハ子爵夫人。
・物語内での具体的な行動や成果
集まった同志たちの前でゲオルギーネからの手紙を読み上げる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
グローリエ
ダールドルフ子爵の第一夫人である。
・所属組織、地位や役職
ダールドルフ子爵夫人。
・物語内での具体的な行動や成果
息子シキコーザの処刑を恨み、ローゼマインに対する悪意ある噂をお茶会で流す。ゲルラッハの館での密会に参加する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ゲオルギーネがエーレンフェストの領主となることを強く望んでいる。
ダールドルフ子爵
グローリエの夫である。
・所属組織、地位や役職
ダールドルフ子爵。
・物語内での具体的な行動や成果
収穫祭の時期に、荷物と共に馬車で戻るようグローリエに指示を出す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
ハスハイト
ブリギッテの元婚約者である。
・所属組織、地位や役職
貴族。
・物語内での具体的な行動や成果
星結びの儀式で新しい衣装をまとうブリギッテに接触し、再び婚約してもよいと高圧的に迫る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ダームエルの介入により、求婚を退けられる。
神殿関係者
カンフェル
青色神官である。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト神殿・青色神官。
・物語内での具体的な行動や成果
フリタークと共にフェルディナンドの執務を手伝う。還俗の儀式中は星結びの儀式の進行を任される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
フリターク
青色神官である。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト神殿・青色神官。
・物語内での具体的な行動や成果
カンフェルと共にフェルディナンドの執務を補佐する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
フラン
ローゼマインの筆頭側仕えである。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト神殿・ローゼマインの筆頭側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
オットーやテオに対して貴族相手の立ち居振る舞いを指導する。隠し部屋への苦手意識を克服しようと努める。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
イルクナーの文化に馴染めず戸惑いを見せる。
ザーム
ローゼマインの側仕えである。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト神殿・ローゼマインの側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
ローゼマイン不在時にフランを助け、神官長室で執務の報告を行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
フェルディナンドの側仕えからローゼマインの側仕えへ正式に移籍した。
ギル
ローゼマインの側仕えである。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト神殿・ローゼマインの側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
イルクナーへ派遣され、現地の住人に紙作りを指導する。新しい紙の試作をルッツと共に行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
フリッツ
ローゼマインの側仕えである。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト神殿・ローゼマインの側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
ローゼマインが工房で組版を行う際、孤児たちを森へ連れ出して遠ざける。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
モニカ
ローゼマインの側仕えである。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト神殿・ローゼマインの側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
ブリギッテの衣装の裁断時に隠し部屋で手伝う。手押しポンプの試作品を操作して水を出してみせる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
ニコラ
ローゼマインの側仕えである。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト神殿・ローゼマインの側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
エラの新作菓子を運ぶ。レシピ集作成のため、料理人たちの間を取り持つ役割を任される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
ヴィルマ
ローゼマインの側仕えであり、絵が得意である。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト神殿・ローゼマインの側仕え。孤児院長代行。
・物語内での具体的な行動や成果
騎士物語の挿絵を依頼され、フェルディナンドをモデルにして描くことを承諾する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
ロジーナ
ローゼマインの専属楽師である。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト神殿・ローゼマインの専属楽師。
・物語内での具体的な行動や成果
印刷するための楽譜の清書を依頼され、自らが編曲した楽譜も作成する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
デリア
孤児院に住む少女であり、ディルクの姉代わりである。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト神殿・孤児院の住人。
・物語内での具体的な行動や成果
ディルクの魔力を黒い魔石で吸収する役目を果たす。ディルクの従属契約書を預かる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ローゼマインへの信頼を取り戻しつつある。
ディルク
身食いの孤児である。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト神殿・孤児。
・物語内での具体的な行動や成果
魔力が溜まって顔にぶつぶつが出る症状を起こし、デリアに魔力を吸収してもらう。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ビンデバルト伯爵との従属契約が破棄され、緊急時のためにローゼマインと契約する書類が作成された。
フォルク
灰色神官である。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト神殿・灰色神官。
・物語内での具体的な行動や成果
イルクナーへ派遣され、住人たちに白皮の処理などの紙作りを教える。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
バルツ
灰色神官である。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト神殿・灰色神官。
・物語内での具体的な行動や成果
フォルクらと共にイルクナーへ派遣され、紙作りの指導を行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
セリム
灰色神官である。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト神殿・灰色神官。
・物語内での具体的な行動や成果
イルクナーへ派遣され、ダミアンと共に飲み水用の湧水を汲む。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
ノルト
灰色神官である。
・所属組織、地位や役職
エーレンフェスト神殿・灰色神官。
・物語内での具体的な行動や成果
イルクナーへ派遣され、新しい素材の配合を記録する役割を担う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
商業関係者
ベンノ
プランタン商会の店主である。ローゼマインの商業面の後見人である。
・所属組織、地位や役職
プランタン商会・店主。
・物語内での具体的な行動や成果
ギルベルタ商会から印刷業を切り離してプランタン商会を設立する。手押しポンプの契約魔術について助言を行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ギルベルタ商会の店主からプランタン商会の店主へと立場を変えた。
マルク
ベンノの腹心である。
・所属組織、地位や役職
プランタン商会・店代。
・物語内での具体的な行動や成果
ローゼマインの販売会でイラスト集のファイルを管理する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ベンノと共にプランタン商会へ移籍した。
ルッツ
プランタン商会の見習いであり、ローゼマインの幼馴染である。
・所属組織、地位や役職
プランタン商会・ダプラ見習い。
・物語内での具体的な行動や成果
新しい印刷機でのゲラ刷りを行う。イルクナーへ派遣され、新素材の紙の開発に励む。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ギルベルタ商会からプランタン商会へと移籍した。
コリンナ
ギルベルタ商会の店主である。ベンノの妹である。
・所属組織、地位や役職
ギルベルタ商会・店主。
・物語内での具体的な行動や成果
ブリギッテの新しい衣装の裁断と仮縫いを担当する。トゥーリを自らの工房へダプラとして迎えようとする。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
オットー
ギルベルタ商会の次代の店主である。
・所属組織、地位や役職
ギルベルタ商会・次代の店主。
・物語内での具体的な行動や成果
フランから貴族に対する立ち居振る舞いの指導を受ける。トゥーリの契約についてローゼマインと相談する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
兵士を辞めて正式に商人となった。
グスタフ
商業ギルドのギルド長である。
・所属組織、地位や役職
商業ギルド・ギルド長。
・物語内での具体的な行動や成果
孫のダミアンをプランタン商会へ送り込む。イルクナーへ向かうローゼマインたちを見送る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
フリーダ
グスタフの孫娘である。
・所属組織、地位や役職
オトマール商会・ギルド長の孫娘。
・物語内での具体的な行動や成果
兄のダミアンをプランタン商会へ推薦する。レッサーバスを見て唖然とする。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
ダミアン
フリーダの兄である。強引で利に敏い性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
プランタン商会・ダルア。
・物語内での具体的な行動や成果
イルクナーへ同行し、現地の慣れない自活生活に苦労する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
オトマール商会からプランタン商会へダルアとして送り込まれた。
職人・料理人・下町の住人
エーファ
トゥーリとローゼマインの母親である。
・所属組織、地位や役職
平民。
・物語内での具体的な行動や成果
トゥーリの買い物に同行し、ギルベルタ商会へ入る娘の服を選ぶ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
トゥーリ
ローゼマインの姉である。一流の針子を目指している。
・所属組織、地位や役職
髪飾り職人見習い。
・物語内での具体的な行動や成果
ブリギッテの衣装の裁断を見学する。ローゼマインと離れることを避けるため、契約の形態について悩む。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
十歳の契約更新を機にコリンナの工房へ移る予定である。
ヨハン
鍛冶職人である。ローゼマインのグーテンベルクの一人である。
・所属組織、地位や役職
鍛冶工房・ダプラの職人。
・物語内での具体的な行動や成果
ザックと共に手押しポンプを製作し、神殿や城の井戸に取り付ける。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
ザック
鍛冶職人である。ローゼマインのグーテンベルクの一人である。
・所属組織、地位や役職
鍛冶工房・ダプラの職人。
・物語内での具体的な行動や成果
手押しポンプを設計し、試作品を完成させる。城での謁見に臨み、契約魔術に血判を押す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
手押しポンプの設計者として名が刻まれることになった。
インゴ
木工職人である。ローゼマインのグーテンベルクの一人である。
・所属組織、地位や役職
木工工房・親方。
・物語内での具体的な行動や成果
新しい印刷機を製作し、試し刷りの成功を見届ける。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
エラ
ローゼマインの専属料理人である。
・所属組織、地位や役職
ローゼマインの専属料理人。
・物語内での具体的な行動や成果
城へ同行し、初めての騎獣で怯えるフーゴをからかう。フーゴの対抗心を煽るために新作の菓子を作る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
フーゴ
料理人である。宮廷料理人を目指している。
・所属組織、地位や役職
ローゼマインの専属料理人。
・物語内での具体的な行動や成果
エラの作った菓子に刺激を受け、ローゼマインの誘いに乗って専属料理人となる。イルクナーへ同行し、現地の食材を調理する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
イタリアンレストランの料理長からローゼマインの専属へと移籍した。
イルクナーの住人
カーヤ
ギーベ・イルクナーの館で働く下働きである。
・所属組織、地位や役職
イルクナーの館・下働き。
・物語内での具体的な行動や成果
紙作りの工房へ住人を連れて行き、世話係を務める。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。
第三部 領主の養女3レビュー
第三部 領主の養女
本好きの下剋上 全巻まとめ
第三部 領主の養女5レビュー
展開まとめ
第三部 領主の養女4
プロローグ
十歳という節目と進路の決定
春の半ば、トゥーリはエーファとルッツと共に買い物へ向かった。エーレンフェストでは十歳になると服装や契約が切り替わるため、仕事や将来を選ぶ重要な時期であった。トゥーリは契約更新の機会にコリンナの工房へ移ることを決めており、専属髪飾り職人としての立場もあるため不安なく準備を進めていた。一方で友人との別れを伴いながらも、夢に近づいた達成感により気持ちは軽やかであった。
北側の街と立場の変化の自覚
三人は街の北側へ進み、周囲の上品な雰囲気の中でトゥーリは自分がその環境に慣れてきたことに気付いた。コリンナの工房への勧誘という誇らしい出来事をルッツに語るが、エーファは嫉妬を招くため軽々しく話すべきではないと諭した。トゥーリはこれまで周囲との関係を考え、進路について公に語らなかった事情を明かし、ルッツはその努力を認めて励ました。
マインの影響と専属の意味
会話の中でルッツは、自分やトゥーリの現在の立場がマインによって切り開かれたものであると指摘した。トゥーリの専属という地位も特別な後ろ盾によるものであり、実力を伴わなければ維持できないと忠告した。その結果、技術を磨き続けなければ他人の作品を自分のものとして納める立場になる可能性があると示され、トゥーリは努力を続ける決意を新たにした。
工房での採寸と受け入れ
コリンナの工房では職人達に迎えられ、仕事着や見習い服の採寸が行われた。エーファは娘が既に工房に馴染んでいる様子に安堵し、正式契約に向けて挨拶を行った。トゥーリも歓迎されることで不安を和らげ、これから仲間として働く実感を得た。
高級中古服店での買い物と支援
続いて訪れた高級中古服店では、十歳用の衣服を選ぶことになった。費用に戸惑うトゥーリとエーファであったが、ルッツはマインの資金を用いて必要な物を揃えるよう指示し、多数の衣服や生活用品を購入させた。これによりトゥーリは北側で生活する現実を強く意識することになった。
新生活への不安と家族の心情
大量の買い物を通じて、エーファはトゥーリの早い巣立ちを実感し複雑な思いを抱いた。トゥーリは不安を感じながらもルッツの存在を支えにしようとするが、ルッツは将来的に同じ場所にい続けるとは限らないと語り始めた。
商会の方針転換と独立の計画
ルッツは、ギルベルタ商会が印刷や製紙の事業を切り離し独立させる計画を明かした。急成長による他店からの嫉妬を避けるためであり、将来的にはローゼマインに同行する新たな店を作る意図もあった。一方で既存の商会は顧客との関係を守るため移動しない方針であり、立場の違いが明確に示された。
契約形態への迷いと将来への選択
この話を受けてトゥーリは、自身が将来ローゼマインと行動を共にできない可能性に戸惑い、契約形態について悩み始めた。ダプラ契約の重要性を理解しつつも、自分の夢は一流の針子になることであり、そのための選択を優先したいと考えた。最終的にエーファの助言により、コリンナと相談して最善の道を選ぶ決意を固めた。
新しい衣装
ブリギッテの新衣装の裁断開始
安い布が用意できたため、ローゼマインはブリギッテの新衣装を実際に体へ当てて裁断することになり、孤児院長室へ向かった。そこにはベンノ、ルッツ、コリンナ、トゥーリに加え、複数の針子が集まっており、ローゼマインはトゥーリとルッツに会えることもあって心を弾ませていた。裁断は隠し部屋で行われることになり、ブリギッテに合わせて女性だけが中へ入った。
貴族の衣装事情とローゼマインの着想
隠し部屋では、ブリギッテが服を脱いで裁断の準備を進め、魔石を変化させて体に沿うように固めた。これは騎士の鎧の基本となるものであり、晴れ着の下でも常に戦えるように身に着ける防具の役割を果たしていた。ローゼマインはその仕組みに感心しつつも、引き締まった体に対して下半身は色気のないドロワーズであることに複雑な思いを抱き、実用性と見た目の両立の難しさを考えていた。
トゥーリの真剣な学びとベンノとの相談
コリンナ達がデザインに沿って布を当て、折り込みや裁断を進める間、トゥーリは針を渡しながら真剣に作業を見つめ、少しでも多くを学ぼうとしていた。ローゼマインは裁断の終わり際を見ることにして隠し部屋を出ると、ベンノとの話し合いに移った。ベンノは貴族との取引が増えたことに礼を述べたが、ローゼマインが仕事を他へ回そうかと口にすると、それは切られたと見なされて商会を危うくすると強く制した。そのため、ローゼマインは今後もギルベルタ商会を優先するべきだと理解した。
イルクナー進出の構想と人材育成の交渉
続いてローゼマインは、新しい木材による紙の研究のためイルクナーで紙作りをしたいと伝え、ルッツや灰色神官達を派遣したいと相談した。しかしベンノは、貴族相手の商談が増えている現状ではルッツと共に向かわせられる人材がいないと答えた。そこでローゼマインはオットーを貴族対応に慣らすよう提案し、フランに教育の可否を尋ねた。フランはニコラとモニカへの教育と並行する形なら可能だと答え、ローゼマインはその授業料として、教育完了後にマルクとルッツをイルクナーへ派遣するよう求めた。こうして、オットーとテオの立ち居振る舞いの教育が決まった。
新型印刷機の完成報告
最後にルッツとギルは、ザックが設計し、インゴとヨハンが製作していた新しい印刷機が完成したと報告した。ローゼマインは興奮して立ち上がりかけたが、フランに止められた。試運転のためには印刷する原稿を決める必要があり、ローゼマインは絵本を卒業する子供向けに、字の多い騎士物語を作りたいと答えた。さらに印刷に必要な小物類やインクの準備も整っていると聞き、ローゼマインは強く喜んだ。
印刷機への執着と工房訪問の決定
ローゼマインは、印刷機の使い方を教えるために自ら工房へ行き、組版から解版まで一通りやりたいと主張した。フランは止めようとしたが、ルッツは厳選した者だけを工房に入れる形ならばよいと提案し、ローゼマインの希望が通る形になった。ローゼマインは原稿を準備次第、すぐに試運転へ向かうつもりで意気込んだが、興奮しすぎて倒れれば印刷機に触らせないとルッツに釘を刺され、ようやく落ち着きを取り戻した。
新衣装の仕上がりと細かな調整
その後、モニカの合図で再び隠し部屋へ戻ると、ブリギッテには生成りの布で仮のドレス形が作られていた。アメリカンスリーブの形をしたその衣装は去年のものより格段によく似合っており、ローゼマインは強く満足した。細部ではまだ調整が必要だったため、胸元や背中のラインについて指示を出し、コリンナ達がピンを付け直しながら形を整えていった。衣装は上半身にぴったり沿い、くびれや腰の線を美しく見せつつ、スカートは軽さと動きやすさを重視した作りになっていた。
ブリギッテの実用重視の感想
ローゼマインが窮屈さの有無を尋ねると、ブリギッテは肩を覆う布がないため腕を動かしやすく、戦闘時には魔石で覆えるので問題ないと答えた。華やかな衣装に対しても戦う際の利便性を第一に考える姿勢に、ローゼマインは感心しながらも、もう少し色恋にも関心を向けてほしいと感じていた。
ダームエルの反応と恋心の露見
ローゼマインは、この衣装が男性貴族からどう見えるか確かめるため、ダームエルを隠し部屋へ呼んだ。ダームエルは衝立の向こうのブリギッテを見た瞬間に足を止め、息を呑み、見惚れたまま動かなくなった。その様子は周囲の者にも明らかであり、コリンナや針子達も微笑ましく見守るほどであった。問いかけられたダームエルは照れながらも、衣装はよいと思うとだけ答えるのが精一杯で、それ以上の言葉を続けられなかった。
ブリギッテの評価と現実的な線引き
ダームエルが去った後、ローゼマインがブリギッテの気持ちを探ると、ブリギッテはダームエルがわかりやすいと少し照れた様子で語った。そして、性格や立場の面では悪くない相手であり、イルクナーにとっても不利ではないと認めたものの、魔力差が大きいため恋愛対象にはならないときっぱり言い切った。ローゼマインはその現実を知ってダームエルを不憫に思いながらも、自分が色恋に首を突っ込んでもろくなことにならないと考え、心の中で応援するだけに留めた。
新しい印刷機の試運転
騎士物語の原稿作成
ギルベルタ商会の面々が帰ると、ローゼマインは神殿長室へ戻り、新しい印刷機の試運転に使う原稿を書き始めた。冬の間に子供達から聞き取っていた騎士の話をもとに、まずは短編から印刷し、最終的には騎士物語集にしたいと考えた。ギルと相談しながら、魔物退治をした騎士が得た魔石を意中の女性へ贈る物語を書き進め、数日後に短い騎士物語を完成させた。
工房作業の準備とヴィルマへの挿絵依頼
原稿完成後、ローゼマインはギルとフリッツに、晴れた日の午後に組版を行う予定を伝え、工房への出入りを制限するよう指示した。ギルは組版に参加し、フリッツは孤児院の子供達を森へ連れ出す役を引き受けた。翌日、ローゼマインは原稿を持って孤児院へ向かい、ヴィルマに挿絵を依頼した。参考にする顔として神官長を挙げたためヴィルマは心配したが、登場人物は架空であると本に明記すると聞き、髪型を変えるなどして別人に見えるよう工夫することを約束した。
孤児達の反応と本作りへの期待
ヴィルマとの話を終えると、食堂の隅で遊んでいた子供達が駆け寄り、新しい本について尋ねた。ローゼマインは、冬の眷属の絵本の後に騎士物語の本を作ること、今度は文字が多くなることを伝えた。子供達は読めるようになりたいと意欲を見せ、いつか自分達でも新しい本を書きたいという期待を抱かせたため、ローゼマインは孤児院の子供達に文字と読書の楽しさを教えることが、自分の将来読む本を増やすための先行投資でもあると改めて喜んだ。
作業着への着替えと懐かしい服
組版の日になると、ローゼマインは工房での作業に備えて汚れてもよい服への着替えを望んだが、領主の娘が自ら作業する前提の服は用意されていなかった。そこでフランは孤児院長室に残されていた巫女見習い時代の服を提案し、ローゼマインはモニカとダームエルと共に孤児院長室へ向かった。クローゼットの中に残されていたギルベルタ商会の見習い服を見つけたローゼマインは懐かしさに胸を締め付けられながらも、その服に着替えた。少しきつくなっていたことで、自分が成長していることを感じる一方、マインだった頃との違いも強く意識していた。
工房到着とルッツの動揺
着替えを終えたローゼマインは、ギルとダームエルと共に工房へ向かった。フリッツが孤児達を森へ連れ出していたため、工房は静かに準備が整えられていた。そこで見習い服姿のローゼマインを見たルッツは、一瞬マインと呼びかけてしまうほど動揺した。ローゼマインは懐かしい姿を見せて喜んでいたが、ルッツは紛らわしいと文句を言い、それでも作業できる袖の服がそれしかないと説明されて受け入れた。
組版作業の開始
ローゼマインは植字台の前に立ったが、自分の背では届かないことに気付き、活字ケースを作業台の上へ移すよう頼んだ。そこでルッツとギルにページごとの原稿を割り振り、ステッキやインテル、セッテンの使い方を説明しながら組版を始めた。インテルで一行の長さを決め、セッテンで活字を滑りやすくしながら、活字ケースから必要な文字を探して順番に並べていく作業であった。初めての本格的な組版であったため、三人とも活字探しに苦労し、金属の触れ合う音だけが工房に響き続けた。
予想以上の困難とゲラの完成
組版は一行ずつ活字を並べてはゲラへ移し、また並べる作業の繰り返しであり、想像以上に時間がかかった。小さな活字を見続けるため目が疲れ、最初は快調だったローゼマインも途中からへとへとになっていった。しかも一ページ分を組み終えるのは三人の中で最も遅く、最後は活字が崩れないよう解版糸で縛る作業も力不足でうまくできず、ルッツに任せることになった。こうしてゲラが完成し、組版作業は終わった。
印刷機への設置と操作説明
続いてローゼマインは、完成したゲラを新しい印刷機へ設置する方法を説明した。見開き印刷ができる構造になっていたため、自分の組んだゲラとルッツの組んだゲラを左右に配置し、余白用のフォルマートを並べて木枠で固定した。そのうえで、紙を置く位置や押さえる板の使い方、ハンドルを回して台を動かす仕組みを順に教えた。自分では回せないハンドルもルッツやギルなら容易に動かすことができ、前の印刷機よりずっと軽く操作できることが確認された。
初日の終了と翌日の試し刷り
印刷機の操作説明を終えると、ギルは書字板に印刷手順を書き留め、ルッツと共に確認を行った。翌日にはインゴ達を呼んで試し刷りを行うことが決まり、ルッツからは神殿長らしく見学に徹するよう釘を刺された。ローゼマインも表向きはおとなしくすると答えたが、実際には組版作業で疲れ果てており、これ以上動けない状態であった。
試し刷りの成功
翌日、インゴ、ザック、ヨハンが作業着姿で工房に集まり、ローゼマインだけが神殿長の衣装で見学する形となった。ギルとルッツは打ち合わせ通り、ゲラにインクを塗り、紙を置いて押さえ、ハンドルを使って台をプレス機の下へ送り込んだ。大きな音とともにプレス盤が動き、紙を取り出すと、見開き二ページ分が一度にきちんと印刷されていた。これを見た職人達は、無事に注文品が完成したことに安堵し、新しい印刷機の成功を実感した。
職人達の苦労とヨハンの現状
ローゼマインは、印刷機完成までの苦労について職人達に尋ねた。緊張から解放された彼らは、それぞれ冬の間の忙しさを語り始めた。ヨハンはグーテンベルク認定を受けてから非常に忙しくなったと漏らしたため、ローゼマインは新しいパトロンができたのかと期待して尋ねた。しかしヨハンは気まずそうに視線を逸らし、まだ新しい支援者が見つかっていないことをうかがわせた。
ベンノからのお願い
印刷機の追加注文と工房構想の壁
試し刷りの後、ローゼマインは校正を複数人で行い、誤字脱字を確認してから再度試し刷りをする必要があると説明したうえで、完成した印刷機に満足し、ハッセにも同じ印刷機を導入したいとして追加注文を出した。インゴとヨハンは引きつった笑みを見せ、設計担当のザックは自分だけが取り残されているように感じて不満そうであった。そこでローゼマインは、ザックとヨハンが組んで新しい工房を作れば注文がしやすくなると考え、ザックが親方になる方法を尋ねた。だが、二人はダプラ契約であり、独立して新しい工房を持つことはできないと知らされ、その案は実現困難であることが明らかになった。
手押しポンプ構想と利益配分の発想
専属の鍛冶工房を作れないと知ったローゼマインは、別の大きな仕事として手押しポンプの設計をザックに依頼した。これは井戸の水汲みを楽にするためのものであり、設計図は鍛冶協会に管理させ、将来的には誰でも作れるようにしたいと考えていた。職人達は利益を独占しない考え方に首を傾げたが、ローゼマインは一つ作るたびに自分とザックへ報酬が入るよう契約魔術を結ぶつもりだと説明し、利益を得ながら普及させる方法を示した。その説明により、インゴやザックも納得し、ザックは手押しポンプの設計に挑戦することを引き受けた。
フーゴの希望と紹介の依頼
その後、ルッツからベンノの手紙を受け取ったローゼマインは、フーゴが宮廷料理人になりたがっていることを知った。イタリアンレストランの後進育成が終わり、正式な書面はないものの領主から直接声をかけられていたため、紹介の口添えが求められていた。ローゼマインは一度本人と話したいと考え、ベンノを通じてフーゴを呼ぶよう伝えた。
新作菓子とフーゴの料理人としての反応
三日後、ベンノとルッツに連れられて孤児院長室へやってきたフーゴは、晴れ着を着せられ、普段よりも緊張した様子を見せていた。ローゼマインはフランに茶と菓子を用意させ、エラがフーゴの来訪を意識して作った新作菓子を勧めた。フーゴは菓子を前にすると一気に料理人の顔つきになり、厳しい目で観察した後に口へ運び、エラの腕前の成長を悔しそうに認めた。これにより、エラの狙い通り、フーゴの料理人としての自尊心は強く刺激された。
宮廷料理人志望の事情確認
ローゼマインは、フーゴを宮廷料理人にするための口添えは可能だとしつつ、現在の料理長という立場を捨てて下働きからやり直すことや、契約魔術で守られたレシピの問題、家族と離れて暮らすことについて確認した。フーゴはそれでも宮廷料理人になりたいと答え、強い意志を示した。そこでローゼマインが理由を尋ねると、ベンノが代わりに事情を説明し、フーゴはかつての恋人が近所の男と付き合い始め、その様子を毎日見せつけられているため、少しでも早く家と下町を離れたいのだと明かされた。
専属料理人への勧誘とフーゴの転向
フーゴの理由を知ったローゼマインは、宮廷料理人ではなく自分の専属料理人として住み込みで働く道を示した。エラ一人では負担が大きく、フーゴならば既にレシピを知っており腕も確かで、下働きから始める必要もないと説明した。さらに、専属料理人であれば城と神殿を往復する生活になるため、下町では宮廷料理人と呼んでも大きな間違いではなく、神殿にいる時は申請すれば下町へ戻ることもできると説いた。加えて、新しいレシピや調理器具を最初に得られる立場であり、職場にはエラやニコラ、モニカもいて、男ばかりの城の厨房より魅力的だと畳みかけた結果、フーゴは専属料理人の契約を受け入れた。
オットー達の教育とベンノの本題
フーゴが神殿長室の厨房へ案内された後、ローゼマインはベンノにオットー達の教育日程が決まったことを伝えた。教育は領主会議の期間中、ローゼマインが城に滞在している間に行われることになっており、その間にフラン達が余裕を持てるからであった。その後、ベンノは隠し部屋で話したいことがある様子を見せ、ローゼマインはギルとダームエルと共に隠し部屋へ移動した。
ギルベルタ商会の分離計画
隠し部屋でベンノは、最近貴族との付き合いが急増し、ローゼマイン工房の教材に関する問い合わせが貴族だけでなく富豪からも相次いでいることを説明した。その結果、服飾を扱うはずのギルベルタ商会が印刷や教材にまで手を広げすぎていると他の大店から不満を買い、やっかみが激しくなっていた。さらに、新しい貴族の顧客にはギルベルタ商会が本来服飾の店であることを知らない者も多く、このままでは将来コリンナやレナーテに店を継がせるのが難しくなるため、オットー達の教育が終わり次第、印刷関係を請け負う新しい店をギルベルタ商会とは別に作るつもりだと打ち明けた。
新商会への命名依頼
新しい店には、領主の新事業に関わりたがる大店が自分のところのダルアを一人ずつ送り込むことになっており、余所のダルアをギルベルタ商会へ入れたくない事情も本音としてあった。そこでベンノは、その新しい店がローゼマインのお墨付きで始まるとわかるよう、名前を付けてほしいと依頼した。ローゼマインはしばらく考えた末、ローゼマイン工房と紛らわしくならないよう、新商会の名をプランタン商会と提案した。由来は明かさなかったが、ベンノはグーテンベルクでなかっただけましだとして受け入れた。
印刷業への野望とベンノの叱責
命名が決まると、ローゼマインはプランタン商会として本をどんどん作って売りたいこと、二十台の印刷機を並べられるような工房が欲しいことを勢いよく語った。しかしベンノは強く嫌な顔をし、性急さを直すよう神官長から言われていたはずだと指摘して額を弾いた。ローゼマインは自重を捨ててよいかとぼやいたが、即座に否定され、そのまま頭をぐりぐりと押されながら、久しぶりのやり取りにどこか懐かしさを覚えていた。
領主会議のお留守番
城での滞在開始と同行者たちの移動
ローゼマインは領主会議のため中央へ向かう領主夫妻に代わって、春の成人式まで城で生活し、礎の魔術へ魔力を供給する役目を担うことになった。出発に際してはフランに神殿での教育を任せ、ザームにも補助を頼んだうえで、フェルディナンドと共に城へ向かった。騎獣にはエラ、フーゴ、ロジーナが乗り込み、ブリギッテは定位置に座った。道中では、初めて騎獣に乗ったフーゴが怯えた声を上げ、騎獣に慣れているエラがからかいながら先輩らしく振る舞っていた。
城到着後の配置換え
城へ到着すると、ノルベルトがすでに準備は整っていると告げ、側仕えや専属料理人達に指示を出した。フーゴとエラは厨房へ向かい、ロジーナは部屋へ案内されることになった。また、これから向かう先にはダームエルとブリギッテは入れないため、護衛騎士はコルネリウスへ交代し、二人は休暇扱いとなった。ローゼマインは事情を知らないまま、ノルベルトとフェルディナンドの後をレッサーバスで追い、本館の執務室へ向かった。
礎の間への入室準備
執務室には領主夫妻をはじめ、ヴィルフリートや側近達が揃っていた。執務机の背後にあったタペストリーが外されると、小さな扉が現れ、その扉には七つの丸い穴といくつかの魔石が見えていた。ジルヴェスターはローゼマインとヴィルフリートに魔石を渡し、自らの魔力を込めて登録させた。その魔石を扉にはめ込むことで、二人も中へ入れるようになった。領主夫妻が手袋を外して備えを整えると、扉は大きく変化し、奥には虹色の幕が広がっていた。
魔力供給の間の光景
領主夫妻に続いてヴィルフリートとローゼマインが中へ入ると、その先には真っ白な部屋の中央に巨大な魔石が浮かび、その周囲を複雑な魔法陣や文字列が回る幻想的な空間が広がっていた。フェルディナンドはここがエーレンフェストの礎に魔力を注ぐための魔力供給の間であり、領主夫妻と魔力を登録した領主一族のみが入れる場所だと説明した。供給の間に入れるのは領主夫妻、ヴィルフリート、ローゼマイン、フェルディナンド、そしてボニファティウスだけであり、かつて罪を犯した領主の母は登録を外されていた。
礎への魔力供給
ジルヴェスターが中央の魔石の下で跪き床に手をつけると、部屋全体に文様が光って浮かび上がった。フェルディナンドはローゼマインに風の女神の記号がある陣の位置を示し、そこに跪いて魔力を注ぐよう指示した。ヴィルフリートも別の陣に着き、フロレンツィアがその支えを務めた。ジルヴェスターの祈りの言葉に合わせて皆が奉納式と同じ祈りを唱えると、床に触れた手から魔力が吸い上げられ、部屋の中を光の流れが巡っていった。
供給後の反応とローゼマインの慣れ
魔力供給が終わると、ヴィルフリートはその場に座り込むほど疲弊していた。口では平気だと言いながらも顔色は悪く、初めて大きな魔力を扱った負担が明らかであった。一方、ローゼマインは奉納式で日常的に魔力を使っていたため、この程度の供給には慣れており、平然としていた。その様子にジルヴェスターは驚き、フェルディナンドがローゼマインを酷使しているのではないかと疑ったが、フェルディナンドはむしろジルヴェスターの方が祈念式などで酷使していると反論した。ローゼマインは他人の口から自分が酷使されていると聞かされ、改めてその事実を実感していた。
読書と休養をめぐるやり取り
魔力供給の後、ローゼマインは夕食まで部屋で休むように言われ、本を持って来させて読書を始めた。リヒャルダに読書は休憩ではないとたしなめられたが、ローゼマインにとって読書こそ最も心安らぐ時間であった。夕食の席ではまだ疲労の残るヴィルフリートの様子を見て、かつて身食いの熱で弱っていた頃の自分を思い出し、自身が強くなったことをしみじみと感じた。
城での生活への制限
夕食中、フェルディナンドは城に滞在する間はおとなしく過ごすようローゼマインに強く言い渡した。ローゼマインは図書室で本を読む以外何もしないと即答したが、フェルディナンドはそれでは本当に本しか読まなくなると見抜き、読書だけに没頭させないよう、魔力供給、勉強、体力づくりの訓練を必ず組み込むようリヒャルダに命じた。そのため、ローゼマインの読書時間は確実に減らされることになり、本人は強く不満を抱いた。
領主夫妻の出立とエルヴィーラとの再会
城に来て三日目、ローゼマインは領主会議へ向かう領主夫妻とカルステッドを見送った。カルステッドは、領主夫妻不在中の領主代理を務めるボニファティウスを頼るように言い残した。見送りを終えた後、エルヴィーラが久しぶりにゆっくり話をしたいと声をかけ、ローゼマインもそれに応じて本館の待合室で茶を共にすることになった。
新しい女性騎士用衣装への介入
お茶の席でエルヴィーラは、ギルベルタ商会から聞いた話として、ローゼマインが女性騎士のために新しい衣装を考えたことを問いただした。ローゼマインは、今の流行の衣装が小柄で細身の女性には似合っても、ブリギッテのように体を鍛えた女性には似合わないため、選択肢を増やす目的で考えただけであり、新しい流行を作るつもりはないと説明した。だが、エルヴィーラはそれではいけないと断じ、ブリギッテ一人だけが変わった衣装を着る形ではなく、ローゼマインが作る新しい流行として周囲に周知させなければ、本人が恥をかくことになると指摘した。
仮縫いのお披露目計画
エルヴィーラは、裁断が終わっているなら仮縫いの段階で自ら確認し、さらに自分の派閥の女性達にも披露して、新しい衣装への羨望を先に植え付けておくべきだと判断した。ブリギッテに似た体格の女性も招き、流行の種として広める準備をするつもりであった。ローゼマインは、自分では神殿に戻らない限りギルベルタ商会へ連絡できないため、連絡はエルヴィーラに任せることにした。こうして、ブリギッテのために考えた衣装は、ローゼマインの意図を超えて城での急ぎの仕事として進められることになった。
衣装のお披露目と報酬
城での規則正しい生活
城での生活は神殿より朝がゆっくりしており、ローゼマインは朝食までの時間を読書に充てられることに満足していた。朝食後はヴィルフリートと共に訓練場へ向かうが、ヴィルフリートが木剣を振る一方で、ローゼマインは体力づくりのためにラジオ体操と軽い歩行を行うだけで疲れ果てていた。その後はヴィルフリートと共に午前の授業を受け、午後はフェシュピールの練習や裁縫に取り組まされ、刺繍やレース編みを通じて将来の嫁入り道具を作るよう求められていた。
読書時間と休日の過ごし方
五の鐘が鳴ると自由時間となり、ヴィルフリートは弟妹に会いに行くことが多かったが、ローゼマインは図書室へ通って読書を楽しんでいた。だが、その至福の時間も六の鐘と共に終わり、夕食と魔力供給、入浴を経て再び読書に戻る毎日であった。土の日は勉強も訓練も休みであったが、補講中のアンゲリカが戻ってくるため、実際には貴族院の勉強会が開かれていた。アンゲリカは補講を着実に突破しており、ダームエルとコルネリウスは資料を用いながら必死に教えていた。
お茶会準備と読書時間の減少
ある日、エルヴィーラからオルドナンツが届き、ギルベルタ商会との連絡がついて仮縫いの日が決まったことが知らされた。ローゼマインは自分の名前でお茶会を開き、エルヴィーラの派閥に新しい衣装を先に披露する役を担うことになった。リヒャルダやエルヴィーラに教わりながら招待状を書き、お茶会の準備や菓子の相談を進める中で、読書時間はさらに削られていったが、その分だけ貴族の令嬢として必要な技能を身につけていった。
ギルベルタ商会の来訪とオットーの紹介
お茶会当日、ローゼマイン、エルヴィーラ、ブリギッテが並んでギルベルタ商会を迎えた。ベンノに続いて紹介されたオットーは、神殿で厳しく仕込まれたことがわかる立ち居振る舞いを見せ、ローゼマインは領主の養女として祝福を与えた。その後、ローゼマインは本日の流れを説明し、ブリギッテがまず昨年の衣装でお茶会に出た後、新しい衣装へ着替えて再登場すること、ベンノとオットーは着替えの間に商品の売り込みを行うことを伝えた。
お茶会と商会の売り込み
お茶会ではエラの菓子が高く評価され、ローゼマインはエルヴィーラと共に客をもてなした。カトルカールの話題では、オトマール商会のグスタフとフリーダへの恩返しとしてレシピを贈った経緯も明かされた。その後、ローゼマインはギルベルタ商会が本来は服飾を扱う店であること、教材や本を扱うプランタン商会が独立したことを紹介し、自らがプランタンの名を与えたことも伝えた。教材やカルタによって子供達の学習意欲が高まっている話題も広がり、新しい絵本を次の機会に販売する予定も売り込まれた。
ブリギッテの新衣装披露
お茶会の本題として、ローゼマインは今の流行の衣装がブリギッテには似合わないことを説明し、新しい衣装を仮縫いしていると告げた。ブリギッテが試着室で着替えて戻ると、その姿は先ほどとは大きく印象が変わっており、上半身をすっきり見せ、下半身にたっぷり布を使ったデザインによって女性らしさが際立っていた。さらに軽い布や別付けの袖など、騎士としての動きやすさも考慮されていたため、女性騎士達も強い関心を示した。
新衣装への好意的な評価
参加者達はブリギッテの変化を驚きと共に褒め、女性騎士達からは袖の位置や脇の詰め方について具体的な意見も寄せられたが、全体としては非常に好意的に受け止められた。ブリギッテと似た体格の女性騎士は、自分も来年はこうした衣装を仕立てたいと真剣に考え始めていた。また、ブリギッテの衣装に付けられた花の飾りにも注目が集まり、髪飾りだけでなく衣装の飾りとしても注文したいという声が上がった。ローゼマインはそれに応じてベンノとオットーへ客を引き合わせ、商売の機会を広げていった。
体型に合った衣装という考え方の提示
衣装を欲しがる令嬢達に対して、ローゼマインは新しい衣装だからよいのではなく、自分に似合うかどうかが大事なのだと強調した。華奢な令嬢には今の流行の方が似合うと伝え、ややふくよかな令嬢には首回りをすっきり見せ、上半身とスカート部分で色や素材を変える工夫を助言した。流行よりも、自分を最も美しく見せられる衣装を選ぶべきだという考えを一貫して示しながら、相談に応じていった。
お披露目の成功とアンゲリカの帰還
こうして、ブリギッテの新しい衣装を受け入れてもらうためのお披露目は無事に成功した。春の終わりが近づいた頃には、アンゲリカの両親から感謝の手紙が届き、補講を終えてアンゲリカが護衛騎士に復帰することが知らされた。ダームエルとコルネリウスはその報せに強く感動し、自分達の苦労が報われたことを喜んだ。
報酬の授与とそれぞれの反応
ローゼマインは、ブリギッテにはすでに衣装を作っているため、アンゲリカの補講対策に尽力したダームエルとコルネリウスに報酬を与えることにした。ダームエルには約束通り小金貨一枚を渡し、彼は兄への借金を返せると喜んだが、その借金の原因がローゼマインの儀式用巫女服であったことを思い出したローゼマインは、内心で複雑な気持ちになっていた。コルネリウスには、好物のタニエの実を使った菓子モンブランのレシピを贈ったが、今は春の終わりでありタニエは手に入らないため、彼は自分だけ先送りになったと嘆いた。そこでローゼマインは、応用して春の味のクリームを作るよう提案し、コルネリウスはそれを受けて大いに喜んだ。
アンゲリカへの新たな褒美
最後にブリギッテは、翌日にはアンゲリカにも褒美として魔力を注ぐことを提案した。どのように魔剣が変化するのか、自分も楽しみだと語り、アンゲリカの帰還を迎える空気は明るいものとなっていた。
アンゲリカの魔剣
訓練場へ向かう道中の会話
朝食後、ローゼマインは日課の体力作りのために訓練場へ向かった。ここ数日はレッサーバスを使わず歩いていたため、ヴィルフリートには先に行かれており、この日同行していた護衛騎士はダームエルだけであった。道中でダームエルはローゼマインの魔力量を羨ましいと漏らしたため、ローゼマインは人目のない場所で立ち止まり、自分は神殿へ入る前、魔術具もなく溢れそうになる魔力を抑え込むために死にかけながら無意識に圧縮を繰り返してきたのだと告げた。そのうえで、羨ましいなら全ての魔術具を外して同じようにしてみればよいと返し、ダームエルに軽率な発言だったと謝らせた。
訓練中止と魔力圧縮の説明
訓練場に着いた後、ローゼマインは休憩室で息を整え、いつものようにラジオ体操をするつもりでいたが、監督役のエックハルトが呼び出されて不在であることを知らされた。そのため、危険を避けるために訓練は中止となり、ローゼマインは休憩室から動けなくなった。そこでローゼマインは、魔力が少ないことを気にしているダームエルのために、自分なりの魔力圧縮の考え方を教えることにした。木箱を身体、マントを魔力に見立て、ただ丸めた状態、畳んだ状態、さらに革袋に入れて空気を抜いて圧縮した状態を見せながら、魔力を体内で折り畳み、さらに押し込めるように増やしていく感覚を説明した。ダームエルはその説明を受けて実際に魔力を圧縮し、これまでよりずっと圧縮できたと感動していた。
アンゲリカの帰還と魔剣の相談
そこへ補講を終えて復帰したアンゲリカが現れ、ローゼマインに挨拶した。後ろにはブリギッテとコルネリウスもおり、訓練の交代に来たようであった。ローゼマインはエックハルトが戻るまで動けないので、その間に褒美としてアンゲリカの魔剣へ魔力を注ごうと提案した。皆も他人の魔剣にローゼマインの魔力を注ぐとどう変化するのか見たいと言い、アンゲリカは魔剣を抜いて見せた。魔剣は柄頭の魔石に魔力を込めて育てるもので、込める魔力によって刀身の長さが変わり、さらに様々な適性を加えることで多様な魔物に対応しやすくなるのだと説明された。
適性の話とローゼマインの曖昧な返答
ブリギッテの説明によれば、適性があると大神の御加護を受けやすくなり、アンゲリカ自身は火と風、ブリギッテは火と土、ダームエルは風、コルネリウスは光・水・火・風の適性を持っていた。ローゼマイン自身の適性を問われたが、洗礼式の登録証がいくつかの色に変わったことは覚えていても、それが何を意味するのか知らなかったため、曖昧に答えるしかなかった。周囲はローゼマインが使った祝福や盾などから火や風、水の適性もあるのではないかと推測し、兄妹であるコルネリウスに似ているのではないかと話していた。
魔剣に与えるものをめぐる議論
その後、アンゲリカの魔剣にローゼマインの魔力で何を与えるべきかについて、護衛騎士達の間で意見が分かれた。足りない適性を補うべきだという意見、刀身を伸ばして攻撃力を優先すべきだという意見、アンゲリカは自力で短所を埋めるのが苦手だから短所を補ってやるべきだという意見が出た。アンゲリカ本人は、自分では短所を補うのが下手なので足りない部分を埋めてほしいと答えたため、ローゼマインはその言葉に従って、アンゲリカに足りないものを補うよう念じながら魔剣の魔石へ少しずつ魔力を流し始めた。
知性ある剣という発想
魔力を流しながら、ローゼマインはアンゲリカに足りないのは適性以前に知性ではないかと考えた。周囲の意見を聞いて覚え、間違った時には叱って軌道修正し、知識の足りないアンゲリカに助言できる知性的な剣があればよいと想像したが、その発想はもはや剣ではなくフェルディナンドそのものだと自分で気付いていた。
エックハルトの帰還とフェルディナンドの呼び出し
そこへエックハルトが戻ってきて、何をしているのかと問うた。事情を聞いたエックハルトは、他人の魔剣へ魔力を注ぐのは危険であり、フェルディナンドの監視下で行うべきだと即座に止めた。しかしローゼマインは、すでに魔力を注いでしまったと白状したため、エックハルトはすぐにオルドナンツを飛ばしてフェルディナンドを呼び出した。
説教と魔剣の異変
到着したフェルディナンドは、魔剣や魔術具に自分の魔力を通して使い手を限定することの意味や危険性について、ローゼマインだけでなく護衛騎士達にも長々と説教した。理解したかと問われたローゼマインは素直に頷いたが、アンゲリカは何となくわかったような気がすると答え、全く理解していないことが周囲にも明白であった。その瞬間、フェルディナンドが怒鳴る声と重なるように、台の上に置かれていたアンゲリカの魔剣がフェルディナンドそっくりの口調で説教を始めた。
魔剣誕生の理由
魔剣の柄頭の魔石から響く声は、周囲の意見を聞いて覚え、間違ったことをすれば叱って軌道修正し、知識の足りない主に助言できる知性的な剣が必要だというローゼマインの望みにより、自分は生まれたのだと語った。さらに、フェルディナンドが魔力を通したことで人格や物言いが決定したらしく、最後の決定打はフェルディナンドだったとも明かされた。ローゼマインは、自分が原因ではあるが、こんな残念な進化をするとは思わなかったと必死に弁解した。
アンゲリカの受け入れと今後の制限
ローゼマインは責任を感じ、このお説教臭い魔剣が嫌なら自分が引き取ると申し出た。しかしアンゲリカは、自分の代わりに覚え、色々と教えてくれる剣など他にはないとして、その魔剣を大事にしたいと答えた。魔剣自身も、我が主に足りない知識は自分が補うと告げ、アンゲリカもそれに満足していた。フェルディナンドは、アンゲリカがそれでよいなら使い続けても構わないとしたうえで、これ以上妙な変化を起こされては困るため、以後ローゼマインが他人の魔剣へ魔力を注ぐことを禁止した。残念そうなアンゲリカを除き、その場の全員が強く同意した。
印刷物を増やそう
お説教剣の性質とアンゲリカの予習計画
アンゲリカのお説教剣ができてから数日が経ち、その魔剣はなかなか興味深い存在であることがわかった。フェルディナンドの魔力から人格や口調を得ていたが、知識自体はまだ持っておらず、これから主であるアンゲリカや周囲の会話から学んでいくらしかった。そのため、現状では何も知らないまま説教だけする剣になっていた。アンゲリカはその魔剣にシュティンルークと名付け、嬉しそうに扱っていたが、ダームエルやコルネリウス、ブリギッテは、知識を蓄えるには結局アンゲリカ自身が四年生の予習を進めなければならないと判断した。シュティンルークも、主がまず勉強しなければ自分も学べないと叱りつけ、アンゲリカは結局勉強から逃れられないと知って打ちのめされた。
参考書の可能性と販売の問題
アンゲリカ達が教育計画を立てる横で、ローゼマインはエックハルトの資料に目を通していた。資料にはフェルディナンドの注釈が多く書き込まれており、それを見たローゼマインは、こうした成績優秀者の資料から学生向けの参考書を作れば売れるのではないかと考えた。教科書がなく、講義内容を各自がまとめる授業形態であれば、質の高い参考書には大きな価値があると思えたからである。しかしダームエルは、講義内容をまとめた木札を売ったり代理で筆記したりすることが、金の少ない下級貴族の貴重な小遣い稼ぎになっていると説明した。そのため、参考書の販売は学生達の収入源を奪う可能性があり、領地の学力向上には有効でも、導入には慎重な検討が必要だという結論になった。
プランタン商会からの面会依頼
その話の最中、フェルディナンドの声を使ったオルドナンツが飛んできて、プランタン商会から面会依頼が届いていることが伝えられた。夏になる前に相談したいことがあるらしく、ローゼマインは実の日の魔力供給を終えた後に神殿へ戻り、水の日の午前中に面会する予定を伝える返事を出した。するとフェルディナンドからは、土の日に城での仕事を片付けたうえで、三の鐘には自分の部屋へ来るよう命じられた。これにより、城でののんびりした週末読書は消え、慌ただしい週末になることが決まった。
ボニファティウスとヴィルフリートの反応
夕食の席でローゼマインが週末の予定をボニファティウスとヴィルフリートへ伝えると、ボニファティウスはあまり無理をしないよう短く気遣った。見た目や口調は厳つく恐ろしいが、ローゼマインには甘いらしく、虚弱ぶりが周知されているため強くは出ないらしかった。ヴィルフリートは、魔力供給の後に騎獣で神殿まで戻れるローゼマインを不思議がり、体力がないのに魔力供給では平然としていることに首を傾げた。ローゼマインは、体力と魔力は別であり、魔力に慣れているからこそ平気なのだと説明した。
神殿への帰還と神殿内の変化
実の日の魔力供給を終えたローゼマインが神殿へ戻ったのは、七の鐘が鳴る頃の遅い時間であった。部屋へ戻るとすぐに風呂へ入り、その後フランの淹れた茶を飲みながら報告を受けた。まずフランとザームからは、神殿長室そのものに大きな変化はないが、執務は神殿長室ではなく神官長室で行われていること、そして神殿内部では少しずつ変化が起きていることが伝えられた。カンフェルとフリタークが神官長に重用されている様子を見て、中立だった青色神官達が執務に興味を示し始め、フェルディナンドの判断で彼らへの教育も始まったという。今まで仕事らしい仕事をしてこなかった彼らは苦しんでいるが、その分フェルディナンドは仕事を分担できる相手が増え、薬の服用回数も激減していた。
冬の眷属の絵本完成
続いてギルとフリッツから工房の報告が行われ、まず冬の眷属の絵本が完成したことが告げられた。ローゼマインは絵本を受け取り、赤い花びらが散る表紙を撫で、インクの匂いを堪能した。そして自室に揃っている神々と季節の眷属の絵本を全て並べ、子供用の聖典絵本が一式完成した光景に深く感動した。グーテンベルク達への感謝を叫びながら喜び、ギルもその反応を見て誇らしげにしていた。ローゼマインは部屋の棚へ丁寧に本を並べ直し、自室に本が増えていく幸せをかみしめた。
騎士物語の販売方針と次の印刷物
その後、ローゼマインは次に印刷する本について考え始めた。ギルの報告によれば、騎士物語の短編は三つまでできているものの、星結びの儀式までに全体を一冊にまとめるのは難しく、あと一つ短編が仕上がるかどうかという状況であった。ローゼマインは、全てが揃うのを待つのではなく、短編ごとに綴じて完成分から売り出すよう指示した。さらに、絵本印刷が終わって空いているガリ版印刷を使って何か印刷できるものがないかと問われると、楽譜やレシピ集が向いていると考えたが、販売時期や価格の問題があるため、神官長へ相談してから決めることにした。
フェルディナンドへの相談と許可
翌日、三の鐘と同時にローゼマインはフェルディナンドの部屋へ向かい、新しく仕事をする青色神官達の紹介を受けた後で本題を切り出した。ガリ版印刷で、フェルディナンドが演奏会で弾いていた曲の楽譜や、ローゼマイン厳選レシピ集を作りたいと相談したのである。フェルディナンドは、楽譜については自分が作曲したのではなく編曲しただけだとしつつ、販売自体には反対せず、表記を正しく行うよう求めた。レシピ集については、全ての貴族が集まる冬の社交界で販売した方がよく、星結びの儀式では料理を出して関心を引き、あらかじめ情報と価格を噂として広めておくよう助言した。楽譜作成にはロジーナを使ってよいという許可も与えられた。
ロジーナとニコラへの依頼
昼食の時間になると、ローゼマインは自室へ戻り、フェシュピールを弾いていたロジーナに楽譜作成を依頼した。演奏会でフェルディナンドが弾いた曲をすべて、美しい飾り文字付きで丁寧に清書してほしいと頼むと、ロジーナは快く引き受けた。さらに自分が編曲した楽譜も作ってよいかと申し出たため、ローゼマインはそれも歓迎した。続いて、料理を運んできたニコラには、今後作る予定のレシピ集について、フーゴやエラと相談しながら載せるレシピを書き出し、作りやすい料理と複雑で載せにくい料理を分けて整理してほしいと頼んだ。貴族の養女という立場では厨房に直接出入りしにくいため、ニコラが橋渡し役になる必要があった。
母への手作り本の準備
しかし昼食の最中も印刷や製本の話を続けようとしたため、フランから何度も食事を先に済ませるようたしなめられた。ローゼマインはそれに従って食事を進めつつ、モニカには工房へ行って製本用の針と糸を借りてくるよう頼んだ。これは冬から少しずつ書きためていた母の物語集を綴じるためであり、表紙には自分で描いた家族の絵も用意していた。昼食後にはその世界に一つだけの手作り絵本を仕上げ、ルッツに託して家族へ届けてもらうつもりであった。
プランタン商会との話し合い
神殿での再会と家族への贈り物
プランタン商会との話し合いの日、ローゼマインは完成させた母の物語集と家族への手紙を抱えて孤児院長室へ向かった。そこにはすでにベンノ、マルク、ルッツ、オットーが待っており、形式的な挨拶を終えるとすぐに隠し部屋へ移動した。ローゼマインは久しぶりに会えたルッツへ勢いよく飛びつき、家族の様子を尋ねた。ルッツから、ギュンター達はローゼマインが城で何かやらかさないかと心配していたと聞かされて落ち込んだが、その一方で、トゥーリへの十歳の祝いとして母の物語集を届けてほしいとルッツへ託した。
トゥーリの契約問題
話の本題は、トゥーリの今後の契約形態であった。春の終わりでダルア契約が終了するため、夏までに次の働き口を決めなければならず、ギルベルタ商会としてはトゥーリを必要としていた。髪飾り職人としての価値に加え、領主の養女であるローゼマインとの繋がりを保つ意味でも、コリンナの工房はトゥーリと契約したがっていた。しかし問題は、ダルア契約にするかダプラ契約にするかであった。
ダルアとダプラの違い
ベンノは、ダルアは三年ごとの契約で様々な店を渡って修行できる一方、保障が薄く、更新されなければ仕事に困る可能性があると説明した。それに対しダプラは待遇が良く、生活の面倒も見てもらえるが、一生その店に縛られて移動も独立もできない立場であった。すでにルッツやマルクは、プランタン商会が独立したことでそちらへ移っており、ギルベルタ商会へ戻れない立場になっていた。トゥーリがダプラ契約をすると、将来ローゼマインの行く先へ付いて行けなくなる可能性があったため、それが問題視されていた。
トゥーリの希望とベンノの懸念
トゥーリ自身は、もしローゼマインが別の街や領地へ移ることになった場合には、自分も一緒に行きたいと望んでいた。プランタン商会は印刷業を行う都合上、ローゼマインに付いて行く覚悟があるが、ギルベルタ商会は服飾の店としてエーレンフェストに根を下ろすため、外へ出ることはない。そのため、ギルベルタ商会のダプラになることは、トゥーリの将来の移動を制限することになるのであった。ローゼマインは、自分がエーレンフェストから動くことはほぼないと考えていたが、ベンノは政治的な力や、ローゼマイン自身の本に対する暴走によって予想外の移動が起こり得ると警戒していた。
のれん分けという提案
ローゼマインは妥協案として、ダプラ契約をしたうえで、必要になればギルベルタ商会二号店のような形で別の街に店を作り、そこへトゥーリを移すのれん分けの方式を提案した。独立ではなく同じ店の別店舗という形であれば、ダプラのまま移動できると考えたのである。しかし、この世界にはそのような店の増やし方が存在しないため、ベンノ達には発想自体が理解しにくかった。それでも、一つの考え方としてコリンナへ伝え、検討することになった。
ローゼマインの本音と工房の後援
最終的にローゼマインは、個人的にはトゥーリはダルア契約の方がよいと考えていると明かした。ギルベルタ商会がトゥーリをダプラとして確保したいのは商会側の都合であり、もしトゥーリが将来自分に付いて来たいなら、自分は工房くらいすぐに用意できるからである。ずっとエーレンフェストに住む場合でも、実力が伴えば後援して工房を持たせることは可能だと考えていた。そのため、ダプラ契約に縛られる必要はないというのがローゼマインの本音であった。
イルクナー派遣の要請
トゥーリの話が一段落すると、ベンノは次にプランタン商会からのお願いとして、イルクナーへルッツを派遣できる環境が整ったため、ギーベ・イルクナーと話をつけてほしいと頼んだ。以前は貴族対応ができる人材不足で外へ出す余裕がなかったが、プランタン商会が独立した際に各店から送り込まれたダルア達が予想以上に優秀で、貴族対応も難なくこなしていたため、店に少し余裕ができたのである。プランタン商会は新商品を増やす必要があり、そのための新しい紙の研究をルッツに担わせたいと考えていた。
ダミアンの同行決定
イルクナーへ向かうルッツには、マルクではなく別のダルアが同行することになっていた。その人物はフリーダの兄ダミアンであり、ローゼマインも洗礼式の時に一度だけ顔を合わせていた。オトマール商会が積極的に関わるために送り込んだ精鋭で、貴族対応にも慣れており、新商品の開発に強い関心を持っていた。ただし、強引で利に敏い人物でもあるため、ルッツは少し不安そうであった。ベンノは、ダミアンを外すことはできないとしつつ、自分も最初は責任者としてイルクナーへ同行し、ルッツ達を残して戻った後も根回しと牽制を続けるつもりだと説明した。
イルクナーでの体制づくり
イルクナーで植物紙の研究を進めるにあたり、ローゼマインは自分の工房からギルと作業に慣れた灰色神官を数人派遣することを約束した。本来は自分自身が行って研究すべきことをルッツ達が代わりに担うのだから、困らないよう十分に支えるべきだと考えたからである。ルッツも、新しい紙や素材が見つかるかもしれないことに期待を示し、イルクナー行きそのものは楽しみにしている様子であった。
レシピ集の価格相談
話し合いの終盤、ローゼマインは冬までに作る予定の特選レシピ集の価格設定について相談した。養父や父に売った価格を基準にするか、それとも限定販売にしてさらに値段を吊り上げるか迷っていたのである。するとベンノとマルクは、当然限定販売にして高額で売るべきだと即答した。ローゼマインのレシピは手間がかかり、再現にも腕が必要で、しかも他にはないものである以上、安売りして広げるようなものではないというのが商人としての判断であった。さらに、イルゼの知らないレシピを少し混ぜればギルド長にも確実に売れるだろうと、ベンノは悪い顔で利益の拡大を見込んでいた。
領主夫妻の帰還
領主夫妻の帰還と再会
午後の授業中、領主夫妻の帰還が知らされると、ヴィルフリートは大きく喜び、ローゼマインもリヒャルダに急かされて転移陣のある部屋へ向かった。転移陣からカルステッド、ジルヴェスター、フロレンツィアが姿を現し、ヴィルフリートは真っ先に駆け寄って出迎えた。フロレンツィアは二人が魔力供給の役目を果たしたか確認し、ローゼマインはヴィルフリートが毎日よく頑張っていたと報告した。フロレンツィアはその答えに満足し、二人を母として誇らしく思うと微笑んだ。
ジルヴェスターの不機嫌と呼び出し
領主夫妻が転移の間を出る流れの中で、ローゼマインはカルステッドに挨拶をした。するとジルヴェスターがいきなりローゼマインの頬を突き始め、理由も言わぬまま不機嫌そうに額を弾いたうえで、五の鐘が鳴ったら執務室へ来るよう命じた。わけがわからないまま、ローゼマインは授業へ戻り、約束の時間になるとレッサーバスで執務室へ向かった。
神殿に関する話の始まり
執務室では、ジルヴェスターが文官や側仕えを下がらせ、カルステッドだけを残した。人払いを終えると、領主らしい威厳を崩して机に突っ伏し、神殿に関することで話があると言いながら、再びローゼマインのせいだと恨みがましく告げた。ジルヴェスターは、ローゼマインが前神殿長の死を他領へ嫁いだ姉に知らせたことを問題にしていた。
前神殿長の訃報と姉からの嫌味
ローゼマインは、奉納式の頃に返事を書いた魔術具の手紙のことを思い出し、それが該当するのではないかと気付いた。ジルヴェスターによれば、その相手はフレーベルタークに嫁いだ二番目の姉ではなく、アーレンスバッハに嫁いだ一番上の姉であり、前神殿長である叔父と非常に親しくしていた人物であった。そのため、叔父の死を領主からではなく新しい神殿長から知らされたことに強く怒り、領主会議の間中、ジルヴェスターはその件で嫌味を言われ続けたのだという。さらにその姉は夏の終わりに墓参りに来る予定であり、知らせてくれたローゼマインにも礼を言いたいと伝えてきた。
礼ではなく嫌味への警戒
ローゼマインは律儀な人物だと受け取ったが、ジルヴェスターは全くわかっていないと否定した。叔父を捕えた原因がローゼマインであることを知れば、姉は遠慮なく心を抉るような嫌味を浴びせてくるはずだと忠告したのである。しかもアーレンスバッハはエーレンフェストより上位の領地であるため、機嫌を損ねると領地間の関係にも悪影響が出ると付け加えられ、ローゼマインは厄介な相手が来ることを知って青ざめた。
フェルディナンド還俗の提案
だが、ジルヴェスターの話はそれで終わらなかった。今年の星結びの儀式を機に、フェルディナンドを還俗させたいので、神殿長であるローゼマインの意見を聞きたいと言い出したのである。ローゼマインは率直に、今神官長を神殿から取り上げれば神殿が潰れると反発した。するとジルヴェスターは、直轄地の収穫増加によって領主一族が領地のために動いている姿を示す意義があること、また幽閉されて一年経った以上、母が文句を言うこともないだろうと説明した。そのうえで、一度還俗させて領主命令で再び神官長として神殿へ送るつもりだと明かした。
還俗に込められた本音
ローゼマインは、神殿で後進がまだ育っていない今、フェルディナンドを取られるのは困ると主張し、それが城でこき使いたいだけではないのかと疑った。ジルヴェスターは一度言葉に詰まったものの、領主一族として動かせる成人が少ないため、その穴を埋めたい思いもあると認めた。しかしそれ以上に、自分はフェルディナンドをこのまま神殿に置いたままにしておきたくないのだと本音を語り始めた。
フェルディナンドが神殿に入った理由
ジルヴェスターとカルステッドの説明によれば、フェルディナンドが神殿へ入ったのは、ジルヴェスターの母からの迫害を避けるためであった。フェルディナンドは愛妾の子であり、養子縁組もされていなかったため本来領主にはなれない立場であったにもかかわらず、先代領主が亡くなる少し前から、母は彼が領主の座を狙っていると思い込み、命の危険を感じるほどの悪意を向けるようになっていた。ジルヴェスターは自らが領主となった直後、騒動を避けるためにフェルディナンドを神殿へ逃がしたが、本当はこれほど長く置くつもりはなかったのだと明かした。
ローゼマインの懸念と条件付きの了承
ローゼマインは、フェルディナンドが神殿で後進を育て、薬の服用も減って健康面で良い状態にあるのだから、むやみに環境を変えてほしくないと訴えた。するとジルヴェスターは、還俗すればフェルディナンドは正式にローゼマインの後見人となり、領主の異母弟として護衛騎士や文官も付けられるようになるため、神殿の仕事も多少楽になるはずだと説いた。ローゼマインはその利点を認めつつも、最終的にはフェルディナンド本人の意思を最優先してほしいと条件を付けた。
神殿での面会と還俗への反応
翌日神殿へ戻ったローゼマインは、他の神官達に知られないよう隠し部屋でフェルディナンドと会い、領主との話を伝えた。神殿での生活に余裕ができていたらしく、隠し部屋には趣味の魔術具研究の成果が散らばっていた。還俗の話を聞いたフェルディナンドは、まだその件をジルヴェスターが気に病んでいたのかと面倒くさそうに溜息を吐いた。
利点と欠点の間での判断
ローゼマインが、領主の話では利点が多いと言うと、フェルディナンドはジルヴェスターが敢えて言わなかった欠点もあると返した。そのうえで、還俗しようがしまいが、どうせ執務の手伝いで城へ駆り出されることに変わりはないのだから、利点の多い方を選ぶべきだと淡々と述べた。ローゼマインは、周囲の損得ではなくフェルディナンド自身がどう思っているのかを尋ねたが、フェルディナンドは領主の決定に大した理由もなく異を唱えるべきではないとし、何より自分に付くエックハルトやユストクスが余計な悪意に晒されている現状を考えれば、彼らのためにも還俗は有益だと答えた。
後見人という立場への皮肉
星結びの儀式で還俗を発表し、その後はローゼマインの正式な後見人になると聞くと、フェルディナンドはその点にだけ反応し、還俗は早まったかもしれないと皮肉っぽく言った。ローゼマインが理由を問うと、次々と想定外の面倒事を持ち込むローゼマインの後見人になることは、ジルヴェスターの補佐と同じくらい厄介だと笑ったのである。ローゼマインは、自分がジルヴェスターと同列に扱われたことへショックを受けつつも、フェルディナンドが還俗を嫌がっているわけではなく、利点を優先して受け入れるつもりであることを理解した。
神官長の還俗と衣装のお披露目
還俗前の慌ただしい準備
神殿へ戻ってからのローゼマインは、城での販売日に向けて印刷物を揃え、時間や場所の調整を進め、ブリギッテの衣装の仕上がりを確認し、さらにハッセの様子も見に行くなど、多忙な日々を送っていた。星結びの儀式を目前にして、神殿ではフェルディナンドの還俗の儀式が内々に行われ、儀式終了後には再び神官長として戻ってくることが周囲に伝えられた。還俗している間は神官長室も閉ざされ、神殿から一時的に姿を消すことになったため、カンフェルとフリタークは不安を抱えながらも、今年の儀式を任されることになった。
青色神官への対応と神殿長としての覚悟
フェルディナンドは出発前、カンフェルとフリタークには星結びの儀式をきちんと進めるよう命じ、ローゼマインには神殿長として去年と同じように儀式をこなすよう言い含めた。カンフェルとフリタークは儀式そのものよりも、前神殿長の腰巾着だった身分の高い青色神官達が従わないのではないかと恐れていた。ローゼマインは、そのような場合は神殿長として自分が対応すると請け負い、必要なら権力や魔力で押さえ込むつもりでいた。
星祭りと周囲の忙しさ
儀式用の支度を整える中で、ニコラから下町では今日が星祭りに当たることを聞かされ、ローゼマインは孤児院の子供達がタウの実拾いに出発した頃だろうと考えた。今年はギュンターが同行し、ルッツはできたばかりのプランタン商会を地域に認めさせるため、商人達との交流に力を入れなければならず同行できなかった。フーゴも恋人と別れていたため星祭りの主役にはなれず、さらにその後は貴族街や城の厨房での仕事も控えていて忙しくしていた。
ブリギッテのお披露目準備
午後からは城での儀式とブリギッテの衣装披露が控えていた。ブリギッテは本来なら騎士寮で着付けを行うところを、ローゼマインが考案した衣装を披露するため、本館の一室で支度を整えていた。ローゼマインが部屋へ向かうと、エルヴィーラが付き添い、コリンナ達針子が最後の仕上げをしていた。完成した衣装は、胸から腰までの曲線を美しく見せる淡いエメラルドグリーンのアメリカンスリーブのドレスであり、赤い花の飾りや白い髪飾りが調和し、ローゼマインの簪と揃いになっていた。エルヴィーラは、出世欲の強い男達が群がるだろうと忠告し、ブリギッテは良い相手が見つかればそれ以上は望まないと静かに答えた。
新衣装への期待とイルクナーへの思い
エルヴィーラは、ブリギッテの結婚を有利に進めるには、イルクナーの価値を高めることも必要だと語った。新しい製紙業がイルクナーで始まれば、その土地の魅力が増し、ブリギッテの縁談にも良い影響を与えると考えていた。ローゼマインはその言葉を聞き、ブリギッテのためにもギーベ・イルクナーとの交渉を頑張ろうと改めて思った。その後、エルヴィーラとブリギッテは先に大広間へ向かい、ローゼマインはコリンナ達へ労いの言葉をかけてから自分も会場へ向かった。
大広間での注目とブリギッテの評判
大広間では、去年と同じようにローゼマインが壇上のジルヴェスターの隣へ座り、その後ろにコルネリウスとアンゲリカが控えた。ジルヴェスターはブリギッテの新しい衣装を見て、去年の酷評とは打って変わって感心した様子を見せた。ブリギッテは男性だけでなく、新しい衣装に興味を持つ女性達にも取り囲まれており、その姿は大きな注目を集めていた。ローゼマインは、ブリギッテが美しく可愛いことが知られ、さらに女性達が流行を追うだけでなく、自分に似合う衣装を選ぶようになるのが理想だと考えていた。
フェルディナンドの還俗披露と周囲の反応
やがてフェルディナンドが入場すると、ご令嬢達の間から黄色い悲鳴が上がった。誰もその行く手を阻まず、彼は真っ直ぐ壇上へ進んでローゼマインの隣へ座った。その後ろには嬉しそうなエックハルトが立ち、再び護衛騎士として仕えられることを喜んでいた。ローゼマインが還俗した以上は結婚相手探しをしなくていいのかと尋ねると、フェルディナンドはエーレンフェストには魔力の釣り合う未婚女性がいないと断言した。領主一族の女性や人妻ならば可能性はあるが、結婚相手となる対象はほぼいないという現実が示された。
冗談めいた縁談と二人の反撃
その会話の中で、カルステッドがフェルディナンドとローゼマインが将来結婚すればよいのではないかと、軽率な発言をした。フェルディナンドは問題児の面倒を一生見ろという嫌がらせかと即座に拒否し、ローゼマインもお小言を一生聞かされるなど耐えられないと反発した。ジルヴェスターはそのやり取りを面白がっていたが、フェルディナンドとローゼマインは逆に、ローゼマインが大きな図書館を持つ相手を探す努力をし、フェルディナンドも自分の相手を探すべきだと勝手に話を進めたため、ジルヴェスターは慌てて止めに入った。
星結びの儀式と祝福
七の鐘が鳴ると、ジルヴェスターが立ち上がって星結びの儀式の開始を宣言した。新郎新婦が並び、契約書に順に署名をしていく。全ての契約が終わると、ローゼマインは最高神の夫婦神へ祈りを捧げ、指輪に魔力を込めて新郎新婦へ祝福を与えた。金と黒の光が絡み合って弾け、無数の光の粒となって新郎新婦へ降り注ぎ、会場から歓声が上がった。ローゼマインは祝福を終えると、その役目を果たしてすぐに退場した。
お茶会で語られたブリギッテの一夜
翌日、エルヴィーラとのお茶会で、ローゼマインは昨夜のブリギッテの衣装がどのように評価されたのかを尋ねた。するとエルヴィーラは、衣装の評判そのものよりも、ブリギッテを巡る恋物語のような一幕を熱っぽく語り始めた。新しい衣装で誰よりも注目を集めていたブリギッテの前に現れたのは元婚約者であり、彼はブリギッテの評判を傷つけないためにも、もう一度婚約してやってもよいと傲慢に手を差し出したという。そこへダームエルと数人の騎士仲間が割って入り、ブリギッテの名誉を守るために立ちはだかった。
ダームエルの求婚
エルヴィーラによれば、ダームエルはブリギッテの前に跪き、求婚するに足る魔力を身に付けるから一年待ってほしいと告げたのだという。その場はまるで恋物語の一場面のようであり、見ていたエルヴィーラ自身まで胸を高鳴らせたと語った。ローゼマインはその話を聞いて衝撃を受けると同時に、自分もその場に立ち会いたかったと強く思った。
会食と販売会
ダームエルの求愛が広まる
星結びの儀式から二日が経ち、販売会を前にしても多くの貴族が貴族街に残っていたため、ダームエルの求愛は城中に知れ渡っていた。物語のような求愛を目の当たりにした女性達からは好意的に受け止められていたが、男性達の多くは、下級貴族であるダームエルが中級貴族のブリギッテに見合う魔力を得るのは無理だろうと無謀さを笑っていた。それでも、元婚約者からブリギッテの名誉を守った行動そのものは高く評価されており、周囲からは一年後を楽しみにしているとからかわれていた。ブリギッテ自身は名誉を守ってくれただけで十分嬉しいと語っていたが、その表情からは実現は難しいと考えていることがうかがえた。
ギーベ・イルクナーとの会食
販売会当日、ローゼマインは昼食を兼ねてギーベ・イルクナーと面会した。ブリギッテへの新しい衣装の礼をしたいという申し出があり、同時にプランタン商会の紹介とイルクナー行きの話も進めるためであった。会食には正式に後見人となったフェルディナンドも同席していた。挨拶の後、食事が始まると、ギーベ・イルクナーは冬の社交界で口にしたローゼマイン考案の料理に感動したことや、ブリギッテから食事の自慢を聞かされていたことを嬉しそうに語った。
ブリギッテへの後援と製紙業の提案
会食の本題では、ギーベ・イルクナーがブリギッテに新しい衣装を与え、その名誉を回復させてくれたことへの感謝を述べたうえで、イルクナーを後援してほしいという意図をにじませた。フェルディナンドは、その申し出が元婚約者に対する牽制も含んでいることを踏まえたうえで返答するよう促した。ローゼマインは、ブリギッテを傷つけるような相手との縁を取り持つ気はないが、イルクナーで植物紙の研究をさせてもらえるなら自分にも利があり、それがイルクナーのためにもなるのなら構わないと答えた。こうして、ブリギッテへの後援と引き換えに、イルクナーで植物紙の研究を行う方向が定まった。
イルクナーでの研究計画の具体化
ローゼマインは、印刷業を広めるためには紙が必要であり、そのために植物紙工房を作らなければならないと説明したうえで、イルクナーにプランタン商会と自分の工房の人間を派遣し、植物紙研究と製紙技術の導入を始めたいと提案した。収穫祭や祈念式で神官が宿泊する離れを利用すれば、すぐにでも始められると考えていた。さらに、イルクナーはエーレンフェストの南に位置し、冬でも川が凍らないことから、製紙業を冬の手仕事として成立させられるかもしれないと指摘した。ギーベ・イルクナーはその提案に大きな価値を見出し、強い関心を示した。
プランタン商会の呼び出しと派遣準備
具体的な利益配分や実務の説明のため、ローゼマインは販売会の準備をしていたプランタン商会からベンノを呼び寄せた。ベンノは見慣れない青年を伴って現れ、ギーベ・イルクナーの祝福を受けた。ローゼマインがイルクナーでの新しい紙の研究について説明し、いつから向かえるかを尋ねると、ベンノは人員も道具もすでに準備が整っており、いつでも出発できると答えた。ローゼマインはその手際の良さを褒め、ギーベ・イルクナーに対しても、プランタン商会がすぐに動ける体制にあることを示した。
販売会の準備と商人達の動き
やがて五の鐘が近づくと、ローゼマインはギーベ・イルクナーとの会食を切り上げ、販売会の会場へ向かった。そこにはベンノとマルクのほか、各店から送り込まれたダルア達がいて、滑らかな動きで販売準備を整えていた。台の上には、最高神と五柱の大神の絵本、各季節の眷属の絵本、騎士物語の短編五つ、六曲分の楽譜、さらにカルタやトランプ、リバーシなどがずらりと並べられていた。孤児院やハッセの工房を含め、これまでの努力の成果が一目でわかる光景であった。
販売会の開始と眷属の絵本の人気
販売会が始まる前から挨拶のために貴族が訪れ、ローゼマインは対応に追われた。冬の子供部屋で事前告知していたこともあり、予習用に季節の眷属の絵本を買い求める子供と親が多く訪れた。ローゼマインは、これらを読んでおけば三年生の講義がとても楽になると勧め、子供達へ勉強を頑張るように声をかけた。眷属の絵本は、学習用としての実用性と神々に関する知識を得られる点から、大きな需要を集めた。
楽譜と遊具類の売れ行き
少女達はフェシュピールの楽譜にも興味を示し、子供向けの練習曲や、フェルディナンドが演奏会で披露した曲の楽譜が紹介された。特に演奏会で披露された曲は、あの場限りのオリジナル曲であったため、思い出として欲しがる貴婦人や令嬢、自分の楽師に弾かせたい者、さらには女性を口説くために使いたい男性まで、幅広い層に売れていった。また、子供達からせがまれていたトランプも好評で、計算の練習や順位争いの楽しさから、次の冬には勝ちたいと意気込む子供達のために購入されていった。
騎士物語と特選イラスト集の効果
印刷そのものに興味を持つ年配の貴族には、字が詰まった騎士物語が売れた。一方、ご令嬢達の関心を最も引いたのは騎士物語の挿絵であった。表紙だけでは中の絵が見えないため、ローゼマインは騎士物語の特選イラスト集を薄い板のファイルに綴じ、こっそり見せられる形で用意していた。それを見たご令嬢達は目を輝かせ、好みの挿絵から本を選んで購入していった。この評判はすぐに広まり、女性客が一気に増えた。特に、魔物を倒して魔石を姫に捧げる騎士の物語が人気を集め、甘い笑みで求婚する騎士の絵が女性達の心を掴んでいた。
絵の販売をめぐる抜け道の共有
すべての騎士物語と楽譜を買い込んだエルヴィーラは、それでも絵そのものが売られていないことを残念がった。ローゼマインは、最も売れるのは絵だと認めつつも、フェルディナンドに禁止されているため自分にはどうにもできないと答えた。だが、その言い方をわざと強調したことで、エルヴィーラはすぐに意図を理解した。ローゼマイン本人には無理でも、別の印刷所であれば可能かもしれないという含みである。エルヴィーラはすぐに、兄であるギーベ・ハルデンツェルへ協力を頼み、冬には新たな印刷工房で相談に乗ってもらえるよう働きかけることを決めた。
共犯めいた未来への期待
領地全体に印刷業を広げることはアウブ・エーレンフェストの意向でもあり、新しい印刷工房が増えること自体には問題がなかった。たとえそこでフェルディナンドの絵が印刷されるようになったとしても、ローゼマイン自身には関係ないという形を取れる。エルヴィーラはすでに絵師を見つけて育てる計画まで立て始めており、ローゼマインもまた、その企みに加担するように視線を交わし、共犯者のような笑みを浮かべていた。
イルクナーへ行く
イルクナー行きの準備開始
販売会を終えて神殿へ戻ったローゼマインは、すぐにイルクナーへの移動部隊の編成に取りかかった。孤児院長室の隠し部屋へルッツとギルを呼び、灰色神官の選定と生活用品の準備を指示した。服については夏と秋の分が必要であり、工房で働く時以外に着る外出用の服も見繕うよう頼んだ。また、神殿と違う生活環境に備えて、灰色神官達が困らないよう食器を必ず持参することも念押しした。
ルッツとの確認とダミアンの工房出入り
ルッツとの会話の中で、去年の素材採集の失敗を思い出しながら、ローゼマインは今年はフェルディナンドやエックハルトが布陣を整えてくれているから大丈夫だと答えた。さらに、プランタン商会からの報告として、ダミアンが工房へ出入りするようになることも伝えられた。紙作りの知識なしではイルクナーでの交渉が難しいためであり、ローゼマインはベンノが許可しているなら構わないとしつつ、工房以外の貴族区域へ入り込まないよう厳しく言い聞かせるよう求めた。
ギルド長との見送りの話
ルッツはさらに、ギルド長がイルクナー派遣前に挨拶したがっていることを伝えたが、ローゼマインは出発直前に時間を割く余裕はなく、見送りに来る程度なら構わないと答えた。ギルド長からの無理難題を警戒していたのである。これに対してルッツは、無理難題の多さでは貴族の方が上だと遠慮なく言い返し、ローゼマインは仕事を増やしている自覚に少ししおれた。
派遣人員の決定とイルクナー行きの日程
その後、ルッツとギルによってイルクナーへ派遣する灰色神官が四人選ばれ、紙作りの道具も工房へ運び込まれるようになった。ブリギッテは実家との連絡を取ることに少し喜びを見せながら、オルドナンツでイルクナーと日程調整を進めた。こうして出発の日が正式に決まった。
出発当日の神殿前庭
出発当日の朝、神殿の前庭には大量の荷物が積み上げられていた。そこは工房から近く、騎獣を出せる広い場所であったためである。ローゼマインは大型バスほどの大きさの騎獣を出し、ベンノの指示のもとで荷物の積み込みが始まった。その光景を見たフリーダは唖然とし、レッサーバスを騎獣だと説明されてもなお不思議そうにしていた。
出発前のフリーダとダミアンの様子
準備の間、ローゼマインはフリーダからイタリアンレストランやプランタン商会の近況を聞いた。ダミアンをプランタン商会へ推薦したのがフリーダであると知り、相変わらず商魂たくましいと感じたが、少し引き気味にもなっていた。そこへダミアンが自然に間へ入り、フリーダへ、今のローゼマインは洗礼前とは違う立場なのだから、あまり馴れ馴れしくしてはならないとたしなめた。
移動メンバーと出発
今回イルクナーへ向かうのは、プランタン商会からベンノ、ルッツ、ダミアンの三人、ローゼマイン側からフラン、ギル、モニカ、フーゴの四人、護衛騎士のダームエルとブリギッテ、そして孤児院の灰色神官四人であった。助手席には久しぶりの帰郷を嬉しそうにしているブリギッテが座り、先導役のダームエルはどこか緊張していた。フリーダとギルド長が見送る中、ローゼマインは手を振ってイルクナーへ向けて出発した。
イルクナーの風景とブリギッテの反応
途中で昼食休憩を挟みながら進むと、やがて森や山に囲まれたイルクナーの景色が見えてきた。川に沿って家々が点在し、その中で最も大きな集落に夏の館が建っていた。空を見上げて手を振る住民達の姿に、ローゼマインはブリギッテへ向けたものではないかと尋ねたが、ブリギッテは皆家族のようなものだと目を細めた。エーレンフェストとは違い、貴族と平民の距離が近い土地柄であることも、ブリギッテは少し不安そうに説明した。
住民達の出迎えと文化の違い
レッサーバスが降り立つと、十数名の住民が取り囲み、ブリギッテへ親しげに声をかけた。彼らは森や畑で働きながら、夏の館でも下働きをしている者達であった。ブリギッテはローゼマインを自分の主として紹介し、粗相のないよう注意したが、住民達は構わず昔話を始めた。貴族と平民の距離感しか知らないフラン達はその様子に戸惑っていたが、ローゼマインはここはエーレンフェストとは違うのだから、危険がない限り受け入れるべきだと告げた。住民との関係がこじれると、今後滞在するプランタン商会や灰色神官達が居心地の悪い思いをするからであった。
宿泊場所の割り振り
荷物の搬入が始まる中、ローゼマイン、ダームエル、ブリギッテは夏の館に部屋が用意され、モニカとフランもそれぞれの付き人として館に入ることになった。一方で、ギルやフーゴ、プランタン商会の者達や灰色神官達は離れで寝泊まりすることになった。館の調度品はエーレンフェストのものより素朴で、手作りの温もりが感じられるものが多かった。
ギーベ・イルクナー一家との対面
応接室ではギーベ・イルクナーとその家族が待っていた。ブリギッテの母やギーベ・イルクナーの妻、その息子も同席していた。挨拶を交わした後、部屋が整うまで茶を勧められたが、ローゼマインは家族と話したくて仕方がない様子のブリギッテを見て、自分の護衛はダームエルに任せるので、ブリギッテは帰る日まで休暇扱いにすると命じた。護衛任務中では話もできないし、せっかく実家にいるのだから家族と接する時間を持つべきだと考えたためである。
イルクナーの空気とローゼマインの心情
ギーベ・イルクナーは、ローゼマインが自分の知る上級貴族とはかなり違うことに驚いていたが、ローゼマインは自分が神殿育ちで孤児院の子供達や商人、職人達と近い距離で接してきたことを理由に、この土地の雰囲気が肌に合うのだと答えた。城よりも下町にいた頃のように落ち着く空気であり、図書室さえなければこちらの方が心安らぐほどであった。
到着後の実務準備
着替えを済ませた後、フランとギルが戻り、ダームエルの部屋も整い、離れの整理もほとんど終わったと報告した。すでに川の場所から工房にする場所を決め、道具の設置も始まっているという。さらに、プランタン商会は植物紙協会についてできるだけ早くギーベ・イルクナーと話をしたいと希望していた。イルクナーでは物々交換が主であり、紙を適正価格で売買するためには協会の設置が必要になると考えられていたからである。
面会予約とイルクナー流の早さ
ローゼマインはすぐに手紙を書き、植物紙協会の話し合いのための面会予約を取ろうとした。しかしフランが戻ってきて伝えたのは、ギーベ・イルクナーが今から話を聞いてくれるという返事であった。エーレンフェストの貴族流なら数日先の日時を調整するところだが、こちらでは双方の予定がわかっているなら待つ意味はないという考えらしい。ローゼマインは話が早くて助かると思ったが、フランはこの田舎の流儀にどうしても馴染めず戸惑いを見せていた。
植物紙協会の契約成立
ベンノとダミアンも呼ばれ、ローゼマインはフランとともにギーベ・イルクナーの執務室へ向かった。植物紙協会の代表はベンノであり、ローゼマインは立会人の立場で話し合いを見守った。ダミアンも今後イルクナーに滞在する者として契約内容を確認するため同席した。すでに城で大筋の話は済んでいたため、契約は驚くほど早くまとまり、植物紙協会の設立へ向けた準備が正式に進み始めた。
イルクナーのブリギッテ
住人達との夕食と灰色神官の戸惑い
イルクナーでの夕食は、周囲の住人も交じった盛大なバーベキューであった。ローゼマインは珍しい野菜や新鮮な素材を焼いて塩で食べるだけでも十分においしいと感じていたが、周囲を見回すと灰色神官達が困り果てた様子で固まっていることに気付いた。神殿では食事は平等に分け与えられるものであり、自分で取り分けて食べた経験がなかったため、どのように手を出せばよいのかわからなかったのである。ローゼマインはモニカにルッツを呼ばせ、ルッツにギルや灰色神官達へ食べ方を教えるよう頼んだ。ルッツは驚きつつもすぐに理解し、鉄板から肉や野菜を取ってギルの皿に入れ、自分で取ってよいのだと示したことで、灰色神官達もようやく食べ始めた。
側仕え達の食事とブリギッテの自然な姿
その様子を見ていたローゼマインは、フランとモニカが給仕を優先するあまり、自分達がまだ一口も食べていないことにも気付いた。二人に食事を勧めても、側仕えとして給仕を優先する姿勢を崩さなかったため、ローゼマインはフーゴに二人分の食事を取り分けてもらうよう頼むしかなかった。その時、ブリギッテは自ら立ち上がり、住人達と気軽に会話し、勧められた酒も飲みながら、楽しそうに鉄板の前へ向かった。そこでフーゴに伝言を伝え、自分の皿にも料理を盛ってもらっていた。神殿で見る寡黙で職務に徹した護衛騎士の姿とは違い、家族や住人達と共にいる時のブリギッテは笑顔が多く、伸び伸びとしていて、ローゼマインにはいつも以上に素敵に見えた。
ダームエルの本音
そのブリギッテの姿にフランが衝撃を受けて茫然としている一方で、ローゼマインはダームエルに、今のブリギッテをどう思うかと尋ねた。エーレンフェスト育ちの貴族から見れば、貴族らしくないと失望してもおかしくないと思ったからである。するとダームエルは、初めて見る姿に驚いてはいるが、可愛いと思うと少し視線を逸らしながら小さく答えた。ローゼマインはその言葉をブリギッテに伝えてあげようとしたが、ダームエルに必死で止められた。もっとも、周囲の家族達はそのやり取りを楽しそうに見ており、いずれダームエルの本音は彼らの口からブリギッテに伝わるだろうとローゼマインは感じていた。
物知りじいさんとの山歩き
翌日、ローゼマイン達はイルクナーの住人の中でも物知りじいさんと呼ばれる老人の案内で野山の散策に出た。ローゼマインは採集用の服を着て魔術具のナイフを持ち、騎獣に乗った万全の姿であり、ブリギッテやダームエルも軽装の鎧を身に付けて同行した。ベンノとダミアンは離れで仕事を行い、ルッツやギル、灰色神官達は森へ行く時と同じ採集スタイルで加わった。老人は、紙作りに向く柔らかく繊維の細い若木について知識を披露し、その候補としてナンセーブやエイフォンなどを挙げた。ルッツとギルはその話を熱心に書字板へ書き留めていた。
ナンセーブの採集とローゼマインの挑戦
山を歩く途中で、老人が寄生樹ナンセーブを見つけた。ナンセーブは根を足のように動かして大木を探し、寄生して栄養を吸い尽くす魔木であった。ブリギッテは慣れた手つきでナンセーブをつかみ、暴れる根を切り落として袋へ入れ、根の回収を忘れてはならないと説明した。その後、枯れた大木の周辺に多く生えていると知ると、ローゼマインも自分で刈りたいと言い出し、ブリギッテやルッツ、ギルと共に競うように駆け出した。ローゼマインはナンセーブをつかむところまではできたものの、暴れる根を押さえきれずに取り落としてしまい、結局ダームエルが持ち、ローゼマインが魔術具のナイフで根を切り落とす形で協力して三本を刈り取ることができた。
謎の歌声とエイフォンの正体
ナンセーブを採っている最中、どこからともなく妙な歌声のような叫び声が聞こえてきた。しかも一つではなく、複数の声が次第に大きくなっていく。ダームエルは怪しさを理由に確認に行くことを止めたが、老人のところへ戻って話すと、ブリギッテはすぐにそれがエイフォンだと察した。エイフォンは一つなら比較的静かなのだが、近くに複数生えていると声量を競うようにどんどんうるさくなる魔木なのだという。皆で歌声のする方へ向かうと、そこでは木々が枝を激しく揺らしながら、まるでヘッドバンギングでもするように大音量で声を出していた。ローゼマインはそのあまりの騒音に思わず耳を塞ぎ、これは害がない魔木などではなく立派な公害だと感じた。
エイフォン討伐と風の盾
ブリギッテは、大きく育ちすぎたエイフォンは紙の材料には向かないと判断し、魔石だけを狙うことにした。ダームエルにも別のエイフォンを任せ、自分達には武勇の神アングリーフの御加護を授けてほしいと求めた。ローゼマインは二人へ祝福を与えた後、ギルやルッツ達と老人を守るために風の女神シュツェーリアの盾を張った。琥珀色のドーム状の盾が皆を包み込み、その中でブリギッテは大きなエイフォンを一撃で爆ぜさせ、ダームエルも続いて攻撃を重ね、ようやく魔石を露出させて回収した。大きなエイフォンは普段なら木こり達が耳を塞ぎながら普通の斧で切り倒すらしかったが、この日は騎士達の魔力攻撃で手早く処理された。
ダームエルへの助言
エイフォン退治が終わった後、ダームエルは自分が全然強くなっていないと情けなさそうに呟いた。これに対しローゼマインは、ダームエルは魔力を温存する癖が身に染みついていて、増えた魔力を一度の攻撃へ多く使うことをしていないのではないかと指摘した。魔力が増えても、以前と同じ量しか使っていないなら攻撃力が上がらないのは当然だと説明し、一度の攻撃にもっと多くの魔力を込めることを意識するよう助言した。ダームエルはそれを聞いてはっとし、目標が定まったように感謝を述べた。
新しい素材の発見とルッツとの約束
その後、ギル達が籠いっぱいに新しい材料を持ち帰ってきた。中にはデグルヴァの葉という、水に浸すと粘り気のある液を出す植物もあり、エディルの代わりになるかもしれないと期待された。エーレンフェストでは見られない素材が多く、これならすぐに紙作りの研究を始められるとローゼマインは喜んだ。山を下る途中、ローゼマインは騎獣に乗ったまま小さな声でルッツへ、頑張ってほしいと声をかけた。ルッツも、迎えに来た時には新しい紙ができたと報告できるように頑張ると応じ、二人はそれぞれの役目を果たすことを約束し合った。
帰還と見送り
その夜はギーベ・イルクナー一家へフーゴの料理を振る舞い、翌日の午前中にはローゼマイン達だけがエーレンフェストへ戻ることになった。帰るのはローゼマイン、ベンノ、フラン、モニカ、フーゴ、そして護衛騎士の二人であり、ルッツ達はイルクナーに残って紙作りに励むことになる。出発の際には多くの住人達が見送りに集まり、ローゼマインは、イルクナーにしかない木材から新しい紙が生まれればこの地の特産品になるのだから、皆も協力してほしいと頼んだ。ギーベ・イルクナーがそれを受け入れ、ブリギッテも家族へ別れの挨拶を交わした。胸の前で手を交差させて跪く住人達に見送られながら、ローゼマインはレッサーバスを発進させた。
ローエンベルクの山
神殿での準備とユストクスの同行却下
イルクナーから戻った翌日、ローゼマインが三の鐘に合わせてフェルディナンドの部屋へ向かうと、引継ぎを終えたエックハルトが事務仕事を手伝っていた。フェルディナンドは、自分は不意の攻撃にもある程度対処できるが、ローゼマインは勝手に倒れるため常に至近距離の護衛が必要なのだと説明した。その後、ユストクスが素材採集の話のために現れ、イルクナーの様子や孤児院に強い興味を示したが、女子棟へも入りかねない危うさを見抜かれ、ローゼマインから孤児院への立ち入りを全面的に禁じられた。
ローエンベルク行きの決定
フェルディナンドは人払いをした上で地図を広げ、五日後が夏の素材採集に最も適しているため、明後日にはローエンベルクへ出発すると告げた。今回の素材は、火の神ライデンシャフトの怒りを鎮める鳥とされるリーズファルケの卵であり、それを得ることが目的であった。ローゼマインは卵を奪うことを罰当たりに感じたが、リーズファルケは聖なる存在ではなく魔物の一種であると説明された。また、ローエンベルクでは魔物を殺しすぎると山に魔力が余り、ライデンシャフトの怒りとして火を噴くため、殺生を最小限に抑えねばならないことも明かされた。さらに、以前ユストクスが卵を採りすぎて山を危険な状態にした経験があることも語られ、フェルディナンドは今回はそのような事態を避けるため万全の対策を取るつもりだと述べた。
強行軍での出発準備
二日後、昼食を終えると、ローエンベルクへ向けてフェルディナンド、エックハルト、ダームエル、ブリギッテ、そしてローゼマインが出発することになった。ユストクスも同行を望んでいたが、興味に引かれて騒動を起こしかねない前歴があることから却下され、城の仕事を押し付けられた。今回は近くに村もなく、移動の速度を重視するため、側仕えも連れず、食事は携帯食料、入浴は洗浄の魔術、体調不良は薬で無理やり抑えるという騎士の行軍に準じた強行軍となった。ローゼマインはせめてまともな食事をと思い、エラとフーゴに弁当を作ってもらったが、フェルディナンドが自分の分の弁当も同じ氷室に入れたため、荷物を減らせと言っていた本人に荷物を増やされた形になった。
ローエンベルクへの移動
側仕え達の心配に見送られながら一行は出発し、暑い夏空の下を南へ向かって飛んだ。騎士達は魔術具の鎧のおかげで暑さを感じていないようであったが、ローゼマインには地上よりさらに強い日差しと熱気が堪えた。進むにつれて、畑の多い直轄地から森と丘陵の多い景色へ変わり、やがていくつもの山の中にひときわ高いローエンベルクが姿を現した。麓には青々とした樹林が広がっていたが、中腹より上は丈の低い木や草が多く、山頂付近はごつごつした岩肌だけが目立っていた。噴火の兆候はまだ見えなかったが、フェルディナンドの説明から、この山が火山であることは明らかであった。
麓での宿営と洗浄の魔術
ローエンベルクの麓へ到着したのは夏の日暮れが近い頃であり、フェルディナンドは翌朝早く行動を開始し、最も日差しが高い時間に採集したいと説明した。また、春の採集時のように男女を分けると不測の事態が起きかねないため、今回は全員がローゼマインの騎獣の中で眠ることに決めた。夕食はローゼマインとフェルディナンドが弁当、他の三人は携帯食料で済ませ、その後、ローゼマインとブリギッテは洗浄の魔術で身を清めた。ローゼマインは魔術のタイミングがわからず、一瞬溺れるような苦しさを味わって大いに慌てたが、数秒で全身がすっきりと清められた。騎士達も順に洗浄を終え、全員でローゼマインの騎獣の中に入ったが、柔らかな座席に感心するエックハルトに対し、フェルディナンドは非常識だとしか思えないと評した。
洞窟への進入と過酷な環境
翌朝、一行は夜明け前に起こされ、騎士団用の携帯食料で朝食を済ませると、中腹にある裂け目のような洞窟の入り口へ向かった。洞窟の中では騎獣に乗れないため、騎士達は徒歩で進み、ローゼマインは騎獣をできるだけ小型化して付いて行った。中へ入るとすぐに硫黄臭が強くなり、暗さと湿気も増していった。フェルディナンドは暗所でも視界を確保するための目薬型の魔術具を全員に使わせたが、ローゼマインはそれを無理やり差され、鼻の奥に抜ける匂いと喉の苦味に文句を言った。それでも、視界は夜中の豆電球ほどには確保され、奥へ進むことは可能となった。
温泉とリーズファルケの卵の仕組み
途中の泉で小休止した際、ローゼマインはその湯に触れてみたくなったが、フェルディナンドに危険だと止められた。この洞窟の最奥の泉にリーズファルケの卵があり、いずれ嫌でもその温泉に入ることになると告げられたため、ローゼマインは一瞬温泉卵を連想したものの、卵はあくまで薬の素材であり、魔力を注いで魔石へ変化させるためのものだと知らされた。さらに、リーズファルケの卵はローエンベルクの魔力を吸って孵るため、卵を持ち去る代わりに同程度の魔力を吸収する火属性の空魔石を置かなければ、山に魔力が余って噴火に繋がるのだと説明された。フェルディナンドは、そのために大きさの揃った火属性の空魔石と複数の不揃いな空魔石を準備してきていた。
最奥での待機と親鳥の出発
さらに奥へ進むにつれて、洞窟内は温泉どころかサウナのような熱気と湿度になり、息苦しさすら感じる環境になった。途中の泉には爬虫類のような魔物もいたが、山の魔力の均衡を崩さぬため、襲ってこない限り倒さず放置する方針であった。最終的に一行は最奥近くまでたどり着き、親鳥であるリーズファルケが餌を探しに飛び立つ瞬間を待つことになった。待機だけでも体力を削られるような暑さの中、やがて翼の音が響き、それが遠ざかるのを確認したフェルディナンドは、いよいよ卵を取りに行くよう指示した。
親鳥の代わりに現れた魔物
フェルディナンドは、エックハルトには採取、ダームエルにはリーズファルケの監視を命じ、自分は現れた魔物を倒さずに引きつける役を担うと宣言した。エックハルトが放り投げられた革袋には、卵の代わりに置く空魔石が入っているはずであった。一行が最奥の穴へ向かって駆け出した瞬間、横の泉の水面が揺れ、赤く燃えるように見える巨大な魔物が飛び出して道を塞いだ。それはオオサンショウウオとエリマキトカゲを合わせたような姿をしており、自分の卵を守ろうとするかのように立ちはだかったのであった。
リーズファルケの卵
アイデロートの制圧と奥への突入
フェルディナンドがアイデロートに向けてシュタープを構えると、アイデロートは炎を吐いて威嚇した。だが、フェルディナンドは即座にシュツェーリアの盾を展開し、突進してきたアイデロートを盾の中に閉じ込めた。エックハルトの合図でローゼマイン達は奥の泉へ向かって走り出し、途中で別のアイデロートが来ることも察知したが、フェルディナンドは問題ないと告げてその場を引き受けた。
青白く光る泉とリーズファルケの卵
通路を抜けた先には、青白く光る幻想的な泉が広がっていた。湯気の立つ水面の奥には十個近いリーズファルケの卵が見え、他者の魔力を混ぜられないため、卵を取るのはローゼマインの役目だと説明された。エックハルトは火属性の空の魔石を泉に投げ込み、泉の熱を一時的に吸わせて温度を下げた上で、自ら鎧のまま泉に入り、ローゼマインを抱えて卵の場所まで進んだ。ローゼマインは潜った先で一番近い卵を両手で抱え、無事に採取を終えた。
バートアッフェの襲撃
浮上した直後、温泉の中から人懐っこそうな子猿のような魔獣バートアッフェが現れ、リーズファルケの卵を奪おうとした。エックハルトが引き寄せて防いだため卵は無事だったが、バートアッフェは群れで行動する魔獣であり、一匹いれば多数いると警告された。ローゼマインは卵を守るために胸に抱え、さらに襲いかかってきたバートアッフェへ怒りのままに魔力を叩きつけた。その結果、バートアッフェは泡を吹いて温泉に浮かび上がり、やりすぎたと気付いたローゼマインの前には、対岸の穴から大量のバートアッフェが押し寄せてきた。
リーズファルケの帰還と緊急離脱
バートアッフェの群れに加え、上空からは親鳥であるリーズファルケが急降下してきた。エックハルトは泡を吹いて浮かんでいたバートアッフェをつかんでリーズファルケへ投げつけ、その隙にローゼマインを抱えたまま岸へ上がった。リーズファルケは一度舞い上がった後、卵を抱えたローゼマインではなく、温泉内のバートアッフェへ狙いを定めたため、一行はその隙に撤退を開始した。エックハルトはローゼマインを騎獣へ放り込み、魔石の網や革手袋を投げ入れて即座に走るよう命じ、細い通路を全力で引き返した。
フェルディナンドとの合流と洞窟脱出
戻った先では、フェルディナンドが複数のシュツェーリアの盾を同時に展開し、五匹ほどのアイデロートを閉じ込めていた。卵の採取が無事終わったこと、リーズファルケが帰還してこちらを認識している可能性があることを聞いたフェルディナンドは、ここで盾を使い続ければ魔力に引かれて来る可能性が高いと判断し、自分が最後尾でアイデロートを抑える間に他の者を先に行かせた。一行は来る時には何度も小休止を挟んだ道を今度は一気に走り抜け、洞窟の出口近くまでたどり着いたところでようやくフェルディナンドが十分だと判断した。
洞窟外での休息と体調悪化
洞窟を出ると、明るい空と乾いた空気、硫黄臭のない世界が戻ってきた。一行は野営した場所まで移動し、遅い昼食を取ることになったが、ローゼマインは温泉から出た後に体をきちんと拭くことも着替えることもできないまま逃走を優先したため、すっかり風邪を引いてしまっていた。悪寒が走り、首筋がぞわつく中、フェルディナンドは携帯食料を食べさせてから薬を飲ませた。ローゼマインは騎獣の中で横になり、ブリギッテに冷やしたタオルを額へ載せてもらい、その優しさに救われた。
卵の魔石化と次の決意
フェルディナンドは、薬が効くまで動けないのならその間に卵へ魔力を注げばよいと考え、リーズファルケの卵を抱えて寝るよう指示した。魔力に満ちた騎獣の中なら染めるのに時間はかからないと判断したのである。ローゼマインは去年失敗した秋のリュエルの実を今度こそ絶対に採ると決意し、フェルディナンドも二度失敗するつもりはないと応じた。そうして卵を抱えたまま眠り、熱が下がった頃には、リーズファルケの卵は青い魔石へと変わっていた。
手押しポンプ
神官長不在に備える必要とフランの克服
夏の素材採集から戻って寝込み、ようやく熱が下がった後、ローゼマインは数日留守にしたことで神殿の仕事が積み上がっている現状を改めて意識した。フェルディナンドが還俗した以上、今後は神殿を離れる機会がさらに増えると考え、カンフェルやフリタークをはじめとする者達に仕事を分担させ、神殿を回せるよう鍛えておく必要を感じていた。
その日の午後、プランタン商会との打ち合わせのため孤児院長室へ向かったローゼマインは、いつも隠し部屋で気安く応対する際に同席していたギルが不在であることに気付いた。フランは隠し部屋に苦い記憶を抱えていたため、ローゼマインは無理をさせまいとしたが、フラン自身が筆頭側仕えとして苦手を克服したいと申し出たため、協力することになった。結果として、フランは最初こそ顔色を悪くしたものの、掃除や給仕を普段通りにこなし、隠し部屋への苦手意識を乗り越えつつある様子を見せた。
ザックの試作品完成と手押しポンプ構想の拡大
隠し部屋でベンノとマルクを迎えたローゼマインは、ザックが井戸用ポンプの試作品をすでに作り上げ、工房の井戸で改良を重ねていると聞かされた。設計図段階ではなく試作品にまで進んでいたことに驚きつつも、ローゼマインはこれを下町だけでなく広く普及させたいと考えた。
その理由は、水汲みに苦労している者が多く、一つの工房だけが独占するには利益が大きすぎると判断したからである。ただし、無料で広げるのではなく、鍛冶協会に設計図を管理させ、作られるたびに提案者であるローゼマインと設計者であるザックへ設計料が入る仕組みにしたいと考えた。これは後に他の分野へ広げたい著作権や特許料の概念に近い考え方でもあった。
契約魔術に領主を巻き込む必要
ローゼマインはベンノに鍛冶協会との契約魔術を頼もうとしたが、ベンノはそれほど大規模な契約を商人である自分が仕切るのは不自然だと指摘した。さらに、手押しポンプのように領地全体へ広げる可能性が高い新しい道具なら、商人向けではなく領主が関わる契約魔術を使うべきであり、その方が鍛冶協会への牽制にもなると助言した。
加えて、領主へ献上品としてまず一台納めておけば、鍛冶協会との話も通しやすくなると説明した。ローゼマインはその商人としてのやり方に従うことにし、ザックには献上用のポンプを作らせるよう伝え、鍛冶協会の会長にも城での契約に同行してもらう段取りを整えることにした。
フェルディナンドへの報告と試作品の確認
ローゼマインがフェルディナンドへ手押しポンプの件を報告すると、フェルディナンドは事前相談がなかったことを叱りつつも、その規模の大きさから領主に話を通す前に自分で実物を確認したいと求めた。そこで、ヨハンの工房に設置予定だった試作品二号を神殿へ運び込み、説明と実演を行うことになった。
神殿の井戸に手押しポンプが取り付けられると、ザックは設計図を広げながら原理を説明した。フェルディナンドは真空や弁の仕組みに強い興味を示し、質問を重ねたため、緊張しきっていたザックは途中で原理の詳しい説明をローゼマインへ振った。一方、ヨハン達は黙々と取り付けを進め、やがて試作品は完成した。
実演成功と領主への献上決定
完成した手押しポンプに呼び水を入れてハンドルを動かすと、水口から勢いよく水が流れ出した。さらにモニカにも実際に動かさせると、彼女でも簡単に水が汲めることが明らかになり、水汲みの負担が大きく減ることが示された。これにより、フェルディナンドはこの道具の有用性を認め、領主へ報告すべき品だと判断した。
その結果、領主に献上するに相応しい手押しポンプを用意させた上で、謁見と契約魔術の段取りを進めることが決まった。ザックとヨハンは領主へ献上する品を作ることになったことで真っ青になりながらも、引き受けるしかなかった。
城での謁見と井戸での実物確認
謁見の日、献上用の手押しポンプは大きくて運びにくいため、ローゼマインの騎獣レッサーバスに載せて城へ運ばれた。ザックと鍛冶協会の会長、職人達も同行し、正面玄関から城へ入り、待合室で呼び出しを待つことになった。職人達は領主への謁見など初めてであり、極度に緊張していたが、受け答えはローゼマインとフェルディナンドが担うと説明され、どうにか気持ちを保っていた。
執務室でジルヴェスターと対面すると、フェルディナンドは井戸の水汲みを楽にする手押しポンプを献上したいこと、さらにこれを領地内へ広げるため領主の契約魔術を用いたいことを説明した。ジルヴェスターはまず実物を見て判断すると応じ、護衛騎士や文官を伴って井戸のある場所まで足を運んだ。領主がそのような場所へ赴くのは本来なら異例だったが、興味が強かったためである。
契約魔術の成立と普及への第一歩
井戸ではすでに職人達が取り付けを終えており、ザックが実際にポンプを動かして見せた。ジルヴェスターは直接自分で触りたそうにしながらも、立場上それはせず、動作と効果をじっくり確認した上で、この道具を領地内へ広げるなら契約魔術が必要だと判断した。こうして、領主の後ろ盾を得た形で普及が認められた。
その後、契約魔術が執り行われ、ローゼマインとジルヴェスターは魔力を込めた筆で署名し、ザックと鍛冶協会の会長は商人用と同じくインクと血判で署名した。契約書は金色の炎に包まれて消え、手押しポンプの設計者としてローゼマインとザックの名が刻まれる仕組みが正式に成立した。こうして手押しポンプは、領地全体に広げるための第一歩を踏み出したのである。
ゲオルギーネの来訪
突然の叱責と報告漏れの発覚
三の鐘の後、いつものようにフェルディナンドの部屋へ手伝いに向かったローゼマインは、入室直後に厳しい表情のフェルディナンドから説教部屋へ呼ばれた。理由がわからぬまま向かうと、フェルディナンドは、夏の終わりにアーレンスバッハからジルヴェスターの姉が来訪する件を聞いていないと咎めた。ローゼマインは、領主夫妻帰還後にジルヴェスターから聞かされた内容を伝え、前神殿長の死を神殿から知らせたことで領主会議でジルヴェスターが責められたことと、その姉が墓参りのために来る予定であることを説明した。
ゲオルギーネの立場と政治的な意味
ローゼマインの話を聞いたフェルディナンドは、なぜその姉が領主会議に出席していたのかを問題視した。ローゼマインは当然のことのように受け取っていたが、フェルディナンドは、ゲオルギーネは第三夫人として嫁いだはずであり、本来なら第一夫人だけが出る領主会議に同行するのはおかしいと指摘した。そして、今年その場にいたということは、彼女が第一夫人へ繰り上がったことを意味し、今後は大領地アーレンスバッハからの干渉が強まる可能性が高いと説明した。フレーベルタークの影響よりもさらに厄介な圧力が加わるだろうと見ていた。
前神殿長の手紙と隠匿への叱責
ゲオルギーネの名前を聞いたローゼマインは、前神殿長が保管していた手紙の中で事情を読んだことがあると口にした。しかしフェルディナンドは、その報告を受けていないとして強く叱責した。ローゼマインは恋文だと思ったため触れないようにしていたと弁解したが、フェルディナンドは、犯罪者に関する情報を勝手に隠すことは共犯扱いされかねない危険な行為だと説いた。ローゼマインは特大の雷を落とされ、しょんぼりと肩を落とした。
フェルディナンドの過去とローゼマインの怒り
その後、フェルディナンドは、自身はゲオルギーネについて詳しく知らず、葬儀の場で遠目に見ただけだと語った。彼はすでに神殿入りしており、先代領主の葬儀にも親族ではなく神殿関係者として参列していたため、父親の死を家族として送ることすらできなかったのである。その事実を淡々と受け流すフェルディナンドに対し、ローゼマインは大きな衝撃を受け、自分もいずれ家族の死に立ち会うことさえ叶わぬ立場にいるのだと思い至った。家族として葬儀に出られなかったことを平然と受け止めるフェルディナンドに怒りと悲しみをぶつけ、泣きながら訴えたが、フェルディナンドはその感情を理解しきれず、ただ形式的に抱き締めて落ち着かせた。ローゼマインは優しさの足りなさに脱力しつつも、彼の怒りがすでに薄れていることに気付いた。
ゲオルギーネ来訪への警戒
話を戻したフェルディナンドは、ゲオルギーネ本人を知らない以上、的確な助言はできないとしながらも、決して一人にならず、必ず側仕えと護衛を伴い、必要な宴以外には出席せず神殿にいるよう忠告した。ローゼマインは、その注意を聞きながら、家族の痛みには鈍い一方で、貴族社会の危険には極めて細かく気を配るフェルディナンドの在り方に、彼が恋人と長続きしない理由を悟ったような気持ちになった。
歓迎の宴への準備
夏の終わりが近づいた頃、神殿前を多くの馬車が通って貴族街へ向かうのを見て、ローゼマインはゲオルギーネの到着を知った。フェルディナンドのもとへ報告に行くと、すでにジルヴェスターからオルドナンツで連絡が届いており、二日後の歓迎の宴へ出席するよう命じられていた。ローゼマインも城へ向かう支度を始め、リヒャルダはアーレンスバッハ風のヴェールを伴う衣装を選び、かつてアーレンスバッハから嫁いだ祖母の影響でその装いがエーレンフェストで流行したことを語った。ローゼマインがゲオルギーネの人物像を尋ねると、リヒャルダは努力家だったとだけ慎重に答えた。
歓迎の宴とゲオルギーネの印象
歓迎の宴では、故郷の料理やアーレンスバッハ風の料理が並び、会場の装いもヴェールや薄布をまとう独特の様式に彩られていた。やがて本日の主役であるゲオルギーネが入場すると、彼女はジルヴェスターと同じ髪色と瞳を持ちながらも、より彫りの深い華やかな美貌を備えた貴婦人として現れた。その優雅さと存在感は一目で上位の女性だとわかるほどであり、ローゼマインはその美しさに感嘆しつつも、妙な緊張と居心地の悪さを覚えた。
ヴィルフリートへの笑顔と不穏な気配
ジルヴェスターに促され、ヴィルフリートとローゼマインはゲオルギーネに挨拶した。ゲオルギーネはヴィルフリートを見て、幼い頃のジルヴェスターによく似ていると微笑み、ヴィルフリートはそれを喜んだ。だがローゼマインには、その柔らかな言葉の奥に不穏なものが感じ取れた。実際、ヴィルフリートが祖母に似て美しいと無邪気に返した際には、ゲオルギーネの眉がわずかに動いたように見えた。フロレンツィアはその場に割って入り、ヴィルフリートを庇うように前へ出た。
ジルヴェスターへの優位と刺すような言葉
その後、ジルヴェスター夫妻が正式に挨拶を行う場面では、ジルヴェスターが跪く姿をゲオルギーネが満足げに見下ろしていた。再会を喜ぶ言葉を交わしながらも、二人の間には強い緊張が満ちており、ローゼマインはその場の空気に息を呑んだ。やがてゲオルギーネは、前神殿長の死を知らせた神殿長としてローゼマインを呼び寄せ、礼を述べつつも、養父であるジルヴェスターの無精さや無能さを上品な笑顔のまま容赦なく言葉で刺していった。ローゼマインがフォローしようとしても、その言葉は逆にジルヴェスターを貶める材料にされるばかりだった。
フェルディナンドとの対面と不穏な笑顔
ゲオルギーネはさらに、ローゼマインの後見人が誰かを尋ねた。ジルヴェスターが異母弟フェルディナンドを紹介すると、フェルディナンドは今まで見たことがないほど眩しい笑顔で進み出て、完璧な作法で挨拶した。その笑顔は、ヴィルマの描く理想の姿そのものだったが、ローゼマインには逆に強い嫌悪や皮肉を押し隠しているように見えた。ゲオルギーネはその後も社交の中心となって貴族達と巧みに言葉を交わし、多くの旧知の者達にとって懐かしく馴染み深い存在であることを示した。ローゼマインは、その華やかな姿を見つめながら、彼女がただの来客ではなく、エーレンフェストに大きな影響を及ぼし得る人物であることを肌で感じ取っていた。
ディルクの魔力と従属契約
神殿での日常とディルクの異変
ゲオルギーネの歓迎式が終わると、ローゼマインとフェルディナンドはすぐに神殿へ戻った。ゲオルギーネの滞在中は貴族街との接触に制限がかかっていたが、ローゼマインにとっては神殿で日常業務をこなす方が気楽であった。そんな中、昼食のために神殿長室へ戻ったローゼマインは、深刻な表情のフリッツからディルクの件で至急相談したいと告げられた。去年タウの実で一時的に魔力を抜いて以来、ディルクの問題を先延ばしにしていたことを思い出し、ローゼマインはフェルディナンドに相談することを決めた。
フェルディナンドとの相談と従属契約の危険性
翌日、ローゼマインはフラン、フリッツ、ダームエルを伴ってフェルディナンドのもとを訪れた。そこで明かされたのは、ディルクとビンデバルト伯爵との従属契約を今まで放置していたのは、それによって他の貴族と契約させられる危険を避けられていたからだという事情であった。しかし状況は変わっていた。ゲオルギーネがアーレンスバッハの第一夫人となり、ビンデバルト伯爵の不祥事やディルクの存在を知る立場になったことで、ディルクを理由に孤児院やローゼマインを攻撃される恐れが出てきたのである。ゲオルギーネがジルヴェスターを深く恨んでいること、そしてローゼマインがその養女であり前神殿長の死にも関わった存在であることを踏まえれば、ディルクは十分に利用され得る弱みだとフェルディナンドは判断していた。
契約の移行を巡る問題
ローゼマインは、ディルクを守るためには自分と従属契約を結び直すのが最善ではないかと提案した。だがフェルディナンドは、契約すればローゼマインがディルクの保護者となり、ディルクを孤児院に置いておけなくなると指摘した。洗礼前の子供を城で育てることはできず、神殿長室で引き取れば側仕えの負担も増える上、ディルクを弟同然に思っているデリアとも引き離すことになる。ローゼマインは、契約によって守れるとしても、今すぐその形を取るのは難しいと悟った。
緊急時のための契約書の準備
そのうえでフェルディナンドは、現状維持をしつつ非常時にだけ契約を成立させる方法を考えついた。ビンデバルト伯爵との契約は解除しておき、ローゼマインを主とする従属契約書をあらかじめ作成しておき、危険が迫った時にだけ血判を押して契約を発動させるという方法である。これなら普段は孤児院で育てながら、必要な時にローゼマインの庇護下へ移せる。ローゼマインはその案を受け入れ、ディルクの契約書に署名した。
孤児院での魔力吸収
相談を終えたローゼマインは、すぐに孤児院へ向かった。そこではヴィルマが、ディルクが泣くと顔にぶつぶつが出るようになったと心配していた。ローゼマインは、フェルディナンドから借りてきた魔力吸収用の黒い魔石を使えば大丈夫だと説明し、ディルクを連れてくるよう頼んだ。やって来たディルクはずいぶん成長しており、危なっかしくも歩けるようになっていた。しかしフランが黒い魔石を差し出すと、デリアは前神殿長に魔力を無理やり抜かれた時の記憶を思い出し、ディルクを守るように抱きしめた。
デリアへの信頼と新たな約束
ローゼマインは、今度は根こそぎ奪うのではなく、あふれそうな魔力を少し吸い取るだけだと説明し、デリア自身の手でディルクの魔力を吸収させた。デリアは恐る恐る魔石をディルクに触れさせ、ディルクの様子を見ながら適切なところで止めた。これによってディルクの症状は落ち着き、デリアも安堵した。続いてローゼマインは、ビンデバルト伯爵との従属契約が破棄されること、そして今後のために自分とディルクの従属契約書を用意したことを二人に話した。孤児院を出なければならないほどの危険が迫った時には、デリアの判断でディルクの血判を押し、契約を成立させてほしいと託したのである。
デリアとの信頼の回復
契約書を預けられたデリアは驚きつつも、ローゼマインが約束を守る人間であることをもう知っていると告げた。かつてのように疑ったり、他人の甘言に乗ったりはしないと誓い、ディルクを守るために契約書を預かることを受け入れた。ローゼマインは、以前の主従関係では得られなかった信頼が、今ようやく新しい形で築かれつつあることを感じていた。
ゲオルギーネ様の見送り
見送り前の準備とイルクナーからの報告
ジルヴェスターからのオルドナンツを受けたフェルディナンドは、翌日にゲオルギーネの見送りがあると告げた。ローゼマインは、長く続いた行動制限がようやく終わることに安堵しつつ、側仕えや護衛騎士へ予定変更を伝えた。その最中、ブリギッテのもとにはイルクナーから連絡が届き、新しい紙が完成したため、城へ送るので受け取ってほしいという報告がもたらされた。ローゼマインは、短期間で新素材の紙が完成したことに感嘆し、翌日に城で受け取ると返事をさせた。
城での待機と新しい紙の受け取り
翌朝、ローゼマインは早くから城へ赴き、見送りにふさわしい衣装に整えられた後、待合室で待機した。そこにはすでにフェルディナンドがおり、見送りまでの時間を使って仕事を進めていた。ローゼマインは、自分もイルクナーから届いた荷物を受け取りたいと申し出て、フェルディナンドを説得し、本館の荷物管理部署へ同行してもらった。そこで文箱を受け取り、サインを済ませて中身を確認すると、新しい紙と手紙、受領確認用の札が入っていた。待合室へ戻ったローゼマインは、ルッツとギルからの手紙を読み、新しい紙をハイディに渡してインクの研究を依頼したいという内容を知った。そして紙の性質を確かめるために折ってみた結果、硬くても素直に折れ、蛇腹にするとハリセンのように使えることに気付いた。調子に乗ってフェルディナンドに試そうとしたが、防がれた上に逆に叩き返され、ハリセンを没収された。
見送り直前の空気とヴィルフリートの練習
待合室では、ヴィルフリートが別れの挨拶を練習していた。その文句は、再会の約束を明言せず、また会えればよいという程度の社交辞令として使うものであった。ローゼマインは仕事を続けながらその様子を見ていたが、見送りが近付くと全員が玄関前へ移動した。ゲオルギーネに騎獣を見られると面倒だという理由から、ローゼマインはエックハルトに抱えられて移動することになった。
見送りの挨拶とヴィルフリートの失言
見送りの場では、フェルディナンドは即座に社交用の爽やかな笑顔に切り替え、ローゼマインも無難に挨拶を終えた。ところが、その直後にヴィルフリートが突然ゲオルギーネへ駆け寄り、次はもっとゆっくり話したいと口にした。皆が今回の別れをその場限りのものとして収めようとしていた空気の中で、その言葉は流れを完全に壊すものだった。ゲオルギーネはその申し出を喜ぶように受け取り、来年の今頃また来ようかと返した。ヴィルフリートは無邪気にそれを歓迎し、さらにゲオルギーネはフロレンツィアに確認を取り、来年の来訪まで既成事実のように決めてしまった。フロレンツィアはその場で拒絶できず、歓迎すると答えるしかなかった。
ハリセンによる叱責と小会議室での糾弾
馬車が去った後、フェルディナンドは作り笑顔を消し、怒りを込めてヴィルフリートを見下ろした。そして、没収していたハリセンをローゼマインに渡し、実行を促した。ローゼマインはヴィルフリートの頭を叩き、空気を読まずに来年の約束を取り付けた軽率さを怒鳴りつけた。ヴィルフリートは自分が伯母と話したいと願っただけだと反発したが、その場の空気や挨拶の意味をまるで理解していなかった。そこで一行は小会議室へ移り、ジルヴェスターとフロレンツィアから、目上の他領貴族に対して勝手な発言をしてはならないことや、身内であっても他領の第一夫人は警戒すべき存在であることを説明された。
ヴィルフリートの認識不足と祖母の影響
ヴィルフリートは、フェルディナンドを目上と見なしていない理由として、祖母からそう教えられたと口にした。ローゼマインは、フェルディナンドはすでに還俗して領主一族であり、年長者でもあるのだから礼を尽くすべきだと指摘したうえで、幽閉されて一年半が過ぎた祖母の価値観に今も縛られていることを厳しく咎めた。オズヴァルトは、ヴィルフリートにはもう少し成長してから教えるつもりだったと弁明したが、ローゼマインは去年の秋の時点で現実を見せる必要を痛感したはずだと反論した。ジルヴェスターもそれを受けて、今後はフェルディナンドを叔父として敬うよう命じ、オズヴァルトには礼儀を一から教え直すよう言いつけた。
ローゼマインの離脱と神殿への帰還
ジルヴェスターはさらに、ヴィルフリートの教育方針についてローゼマインの意見を求めた。しかしローゼマインは、自分にはやるべきことが山積しており、すでに両親のもとへ教育権が戻った今、これ以上ヴィルフリートの教育に時間を割く意義はないときっぱり告げた。新しい紙をハイディへ渡すことや、ギルベルタ商会との髪飾りの受け渡しなど、ゲオルギーネ滞在中に後回しになっていた用件があるからであった。フェルディナンドもそれを認め、神殿へ戻ることになった。
ハッセへの対応と制限解除後の日常再開
神殿へ戻る途中、フェルディナンドはローゼマインに、何のためにハッセへ行くのかを尋ねた。ローゼマインは、ハッセから届いていた面会依頼の内容が冬支度のため孤児を買い取ってほしいというものだったこと、さらにその手紙の文面に前神殿長時代の悪習が残っており、貴族相手には無礼と取られかねない内容であったことを説明した。フェルディナンドは、その事情なら自分も同行すると決め、面会日時を明後日の午後に指定するよう命じた。ローゼマインはさらに、冬の間だけハッセに灰色神官を派遣し、手紙の書き方や貴族向けの言い回しを町長リヒトらに教えたいと申し出た。これも許可され、ゲオルギーネの滞在中に止まっていた案件がようやく動き始めた。こうしてローゼマインは、制限のない日常へ戻れたことに安堵しながら、後回しにしていた仕事の処理へ取り掛かっていった。
エピローグ
グローリエの帰路と消えない怨嗟
収穫祭の時期を迎え、各地を治めるギーベ達はそれぞれの領地へ急いで戻ることになった。ダールドルフ子爵も騎獣で先に戻ることを選び、第一夫人グローリエには荷物と共に馬車で戻るよう頼んだ。グローリエは表面上は穏やかに応じたが、心中では息子シキコーザを失った悔しさと、望みを奪われた絶望を抱え続けていた。
グローリエはかつて、魔力不足のために将来を危ぶまれたシキコーザを神殿へ入れ、前神殿長ベーゼヴァンスやヴェローニカとの繋がりを利用してダールドルフの立場を強めようとしていた。努力の末に第一夫人へ繰り上がり、さらに政変によってシキコーザが貴族院へ編入されるという好機まで得たが、平民の青色巫女見習いを巡る事件によってその全ては崩れ去った。シキコーザは処刑され、名誉だけが殉職という形で守られたものの、グローリエの恨みはジルヴェスター、フェルディナンド、そして平民から養女となったローゼマインへと積もり続けていた。
ゲオルギーネへの信奉と情勢の変化
グローリエは、ジルヴェスターではなくゲオルギーネこそがアウブに相応しいと信じていた。知謀に優れた彼女であれば、ライゼガング系貴族も抑え込み、領地をより強く導けたはずだと考えていたのである。今回、ゲオルギーネが帰還したことで、かつて彼女を支持していた貴族達も同じ思いを新たにしたに違いないとグローリエは感じていた。
その折、ゲルラッハ子爵夫人ロイエーアから、ゲオルギーネよりエーレンフェストの将来に関わる重大な手紙が届いたとの知らせが入った。これを受けたグローリエは、ダールドルフへ戻る途中で体調不良を装い、側仕えに宿の手配を命じたうえで騎獣に乗り換え、密かにゲルラッハへ向かった。
ゲルラッハでの密会と礎の発見
ゲルラッハの夏の館では、ゲオルギーネを主と仰ぐ貴族達が集まり、ロイエーアが彼女からの手紙を読み上げた。その内容は、エーレンフェストの礎へ至る道を見つけたらしいというものであった。これを聞いたグローリエは、答えは一つしかないとして、ゲオルギーネが礎を手に入れられるように動くべきだと即座に主張した。
ロイエーアとグラオザムは、ヴェローニカが失脚し、ジルヴェスターの体制が揺らいでいる今こそが好機であると説いた。ゲオルギーネが礎への道を発見したこと自体が神々の導きであり、今の不安定な情勢ならば彼女を再びエーレンフェストへ迎える道も開けると皆が考えた。さらに、ヴィルフリートが別れ際に来年の再訪を求めたことで、来夏の来訪が確定していることも追い風として受け止められた。
エーレンフェストを揺るがす策謀
集まった者達は、ゲオルギーネが動くに足るだけの勝機を示すため、まずは現在のエーレンフェストの脆さを露わにし、中立派の貴族達を揺さぶる必要があると判断した。ジルヴェスターの治世、領主一族の素質、側近達の能力、そして危機への対応力を試し、その脆弱さを証明することができれば、ゲオルギーネの帰還に現実味を持たせられると考えたのである。
その中で、ヴィルフリートは利用価値の高い存在として語られた。ヴェローニカに可愛がられてきた彼を取り込み、汚点を付けたうえで救い出せば、将来的にはゲオルギーネの孫娘の配偶者としても使えると見なされた。一方で、ローゼマインについては、前神殿長の名誉回復と平民出自の暴露によって領主一族の汚点として扱い、その後は神殿に閉じ込めて魔力を奪う、アーレンスバッハへ送る、あるいは身食い兵として利用するなど、道具として消費する方向が示された。グローリエにとって、それは自らの怨念を果たす道でもあった。
フェルディナンドへの警戒と収穫祭を狙う計画
ただし、計画を進めるうえで最も厄介なのはフェルディナンドであった。彼は優秀で、ローゼマインの守りとして神殿に籠もっているため、正面から動けば妨害される可能性が高いと皆が認めていた。そこで、神殿から二人が離れる神事や収穫祭の時期を狙う案が出された。
グラオザムは、今必要なのは命を奪うような大掛かりな罠ではなく、ジルヴェスターの体面や派閥を揺るがし、抜け出しにくい小さな罠を幾重にも仕掛けることだと結論づけた。ロイエーアも、ゲオルギーネとの繋がりが露骨に見えぬよう、まずは貴族街の者達だけで動くべきだと補足した。こうして、エーレンフェストを揺らし、ゲオルギーネに帰還の決意を固めさせるための策謀が静かに形を取り始めた。
グローリエの願望と新たな希望
グローリエ自身は、すぐにローゼマインへ報復できないことを惜しみながらも、ジルヴェスターを廃しさえすれば、やがてローゼマインを守る者はいなくなると考えた。接触すら禁じられていたこれまでに比べれば、今は復讐に向けて確かな一歩を踏み出した状態であった。
そのため、グローリエは心から、ゲオルギーネがエーレンフェストへ戻る日が一日でも早く訪れることを願った。自分の望みが叶う時は近付いていると信じながら、彼女は同志達と共に、領地を揺るがすための計画に身を投じていった。
お茶会
子供達への想いとローゼマインへの感謝
フロレンツィアは毎朝シャルロッテとメルヒオールに声をかけ、抱きしめてから執務へ向かっていた。そのたびに、ヴィルフリートには同じような愛情を注げなかった過去を思い出し、口惜しさを募らせていた。ヴィルフリートは生後まもなくヴェローニカの手元に取り上げられ、洗礼式まで十分に養育できなかったのである。
そのような中で、ローゼマインはフロレンツィアにとって特別な存在となっていた。ヴェローニカの失脚をもたらし、貴族女性の勢力図を流行で塗り替え、さらに廃嫡の危機にあったヴィルフリートまで救ってくれたからである。フロレンツィアは、ローゼマインを領地にとっての聖女であると同時に、自分にとっての聖女だと感じていた。
ゲオルギーネへの警戒と夫婦の会話
本日、フロレンツィアはゲオルギーネとのお茶会に同席することになっていた。ジルヴェスターから強く頼まれたものの、相手がヴェローニカに似た存在であることもあり、気は進まなかった。歓迎の宴でヴィルフリートへ向けられたゲオルギーネの笑顔に、強い不安も覚えていた。
その不安に対して、ジルヴェスターも同意していた。ヴィルフリートもローゼマインもゲオルギーネとあまり接触させたくないと語り、その理由を、かつて自分が受けた仕打ちを我が子に味わわせたくないからだと明かした。洗礼式後に北の離れへ移った頃から、ゲオルギーネは長年にわたりジルヴェスターへ嫌がらせを続けていたのである。フロレンツィアは、その傷がいまだに夫の中に残っていることを改めて感じ、支えようと決意した。
お茶会の始まりと前神殿長の処遇
お茶会では、ジルヴェスターとフロレンツィアが並び、その向かいにゲオルギーネが座った。供されたのはローゼマイン考案の新しい菓子ではなく、昔ながらのコルデの蜂蜜パイであった。アーレンスバッハに対してエーレンフェストの新たな旨味を見せたくないというジルヴェスターの意向が反映されていた。
席に着くなり、ゲオルギーネは前神殿長の墓参りにいつ案内してくれるのかと問うた。そこでジルヴェスターは、前神殿長が重罪人として処刑され、実家からも無関係とされたため墓が存在しないことを告げた。さらに、領主の命に背き、公文書を偽造し、他領の貴族を引き入れて騒動を起こした罪であったと説明した。フロレンツィアは、震えるジルヴェスターの拳にそっと手を添え、支え続けた。
遺品と母ヴェローニカへの面会願い
前神殿長の死を受け入れたゲオルギーネは、せめて遺品を見たいと求めた。ジルヴェスターは、前神殿長が大切に保管していたゲオルギーネの手紙や装飾の施されたインク壺を収めた木箱を差し出した。ゲオルギーネはそれらを懐かしそうに見つめ、前神殿長が最後まで自分の品を使ってくれていたことに静かな喜びをにじませた。その姿は優しく穏やかであり、歓迎の宴で見せた印象とは異なる一面であった。
続いてゲオルギーネは、前神殿長を唆したとされる母ヴェローニカの現状を尋ねた。ジルヴェスターは、同じ罪で幽閉され、森の白の塔にいると答えた。ゲオルギーネは会話ではなく姿を見るだけでよいと願い出て、シュタープを封じる手枷を付けることを条件に、面会が許可された。
白の塔で交わされた視線
白の塔でヴェローニカと対面すると、ヴェローニカはゲオルギーネの名を呼び、助けを求めた。ジルヴェスターがフェルディナンドに操られているのだと訴え、自分をここから出すよう懇願したのである。だがゲオルギーネは一言も返さず、ただ静かにその姿を見ただけであった。
塔を出る途中、ヴェローニカがなおも名を呼び続けると、ゲオルギーネは振り返り、それはそれは愉しそうに微笑んだ。その笑みは母を案じる娘のものには見えず、フロレンツィアはそこに寒気を覚えた。ゲオルギーネの内面には、単なる情愛ではない別の感情が潜んでいると感じたのである。
エルヴィーラとの情報交換
その後、フロレンツィアはエルヴィーラとのお茶会に臨んだ。エルヴィーラは嫁いだばかりの頃からフロレンツィアを支え、派閥にも迎え入れてくれた頼れる存在である。二人は盗聴防止の魔術具を用い、ゲオルギーネについて率直に語り合った。
エルヴィーラによれば、ゲオルギーネは自尊心が高く努力家である一方、敵意や悪意を向ける相手には極めて容赦のない性格であった。跡継ぎの座を奪われ、婚約を解消され、アーレンスバッハへ第三夫人として嫁がされた屈辱は理解できるものの、それを幼いジルヴェスターに向けて執拗な嫌がらせという形でぶつけたことは、あまりにも苛烈だったとエルヴィーラは語った。
さらに、ゲオルギーネは旧ヴェローニカ派と積極的に交流を深めており、特にダールドルフ子爵夫人がローゼマインに関する悪意ある噂を吹き込んでいることが問題視された。前神殿長とも親しかったその夫人が、ローゼマインは平民であり、前神殿長の死にも深く関わっていると語っているらしい。フロレンツィアは、ゲオルギーネが第一夫人として力を得たこと自体を強く警戒すべきだと認識した。
見送りでの失態と新たな決意
一週間ほどの滞在を終え、ゲオルギーネが帰還する日が来た。見送りの場では長い別れの挨拶が交わされ、フロレンツィアはようやく安堵しかけていた。ところが、その一瞬の隙を突くように、ヴィルフリートが駆け出して、次は伯母上とゆっくり話したいと無邪気に言ってしまった。
その言葉にゲオルギーネは機を逃さず、では来年の今頃また来ようかしらと返し、ヴィルフリートも笑顔でそれを歓迎した。さらに、ゲオルギーネはフロレンツィアへ向き直り、招きに応じても迷惑ではないかと尋ねた。公式の場で拒絶はできず、フロレンツィアは歓迎すると答えるしかなかった。こうして来年の再訪が確定してしまったのである。
馬車が去った後、フェルディナンドは冷え切った声でローゼマインにハリセンを渡し、ヴィルフリートを叩かせた。ローゼマインは、口にして良いことと悪いことがある、空気を読めと真っ向から叱りつけた。その痛烈な一撃と叱責は、まさにフロレンツィア自身が言いたかったことそのものであった。
将来への思案
この一連の出来事を通じて、フロレンツィアはゲオルギーネが極めて危険な存在であることを再確認した。同時に、ヴィルフリートの未熟さと、それを補えるローゼマインの聡さも改めて思い知らされた。
そのためフロレンツィアは、エーレンフェストの将来を守るためにも、ローゼマインとヴィルフリートを娶わせることを真剣に考えるべきではないかと思うようになった。ヴィルフリートの欠けた部分を補い、領地を支えられるのは、今やローゼマインしかいないと感じたからである。
ダームエルの申し出
還俗発表後に高まる緊張
星結びの儀式でローゼマインが祝福を終えて退場すると、大広間の空気は成人ばかりの夜の雰囲気へと変わった。すでに相手の決まっている者達は親族への紹介を始め、相手を探す者達は保護者や友人と共に動き始めた。ブリギッテはローゼマイン考案の衣装を披露するため、エルヴィーラに付き添われながらその場に留まっていた。
その最中、アウブ・エーレンフェストがフェルディナンドの還俗を発表した。ヴェローニカ派にとっては権力の失墜を意味する重大な知らせであり、賛同する者と項垂れる者とで場の空気は大きく揺れた。エルヴィーラはその変化を即座に読み取り、ローゼマインの後見を体現する存在となったブリギッテには、権力を求める旧ヴェローニカ派の視線が集まると警告した。ブリギッテは、儀式前とは比較にならないほど強い注目を浴びていることを思い知った。
元婚約者ハスハイトの接近
緊張の中で、ブリギッテの前に現れたのは元婚約者ハスハイトであった。彼はエルヴィーラに対し、ブリギッテと二人で話す許可を求めた。エルヴィーラは目の届く範囲内という条件でそれを認め、後ろに控えて見守った。
ハスハイトは、かつての婚約解消によって深く傷ついたと遠回しに責め立てながら、自分が今もなおブリギッテを思っているように装った。しかしその真意は、イルクナーの地位や利を諦めていないことにあった。彼は、婚約を解消して衰えたイルクナーや、それに翻弄されたブリギッテの兄を嘲笑し、今のブリギッテには価値がないと言外に侮辱した。さらに、ローゼマインの後ろ盾も長くは続かないと見越して、今こそ自分を受け入れるべきだと迫った。
ブリギッテは激しい怒りを覚えたが、ここで感情的になればイルクナーの立場を危うくすることを理解していた。エルヴィーラの忠告を思い出し、怒りを表に出さず、微笑みで受け流そうと努めた。
ダームエルの介入
その時、アンゲリカの成績を上げ隊の男性騎士達が間に割って入った。彼らは、痩せ衰えたゲドゥルリーヒにも求める神が複数いるように、ブリギッテにも求婚者は一人ではないと切り返し、その流れの中でダームエルを前に押し出した。
ハスハイトは下級貴族であるダームエル達に身分を弁えよと冷たく言い放った。だが、その言葉を受けたダームエルは、これまでとは異なり強い意志を宿した目で前に進み出た。かつて身分を理由に引いた結果として罰を受けたことを思い返し、守るべき者がいる時に退いてはならないと厳重注意を受けたのだと語った。そして、ハスハイトの前ではなく、ブリギッテの前に跪き、求婚の言葉を述べた。
ダームエルは、今すぐ釣り合うとは言えないことを自ら認めた上で、一年後までに魔力を伸ばして正式に求婚したいので、それまで誰の求婚も受けずに待っていてほしいと願い出た。ブリギッテは、この申し出が自分をその場から救うためのものであると同時に、断ることなくハスハイトの求婚を退けるための道を開くものでもあると理解した。
求婚の受諾と場の収束
ブリギッテはハスハイトに対し、残念ながら時の女神の紡ぐ糸が重なる日はないと告げ、決別の挨拶を返した。そしてダームエルの手に自分の手を重ね、その申し出を嬉しく思うと伝え、一年後を心待ちにしていると答えた。
この返答によって、ブリギッテには求婚を受け入れる意志があること、しかしハスハイトだけは受け入れない理由があることが周囲に明確に伝わった。場はどよめいたが、ハスハイトの求婚を受け入れさせる流れは完全に断ち切られた。ダームエルはブリギッテの手を引いてエルヴィーラのもとへ向かい、エルヴィーラは後見人としての役目は終わったとしながらも、ハスハイトの動向には注意すると約束した。
その後、ブリギッテは兄に対して、自分の判断で動いたことを詫びた。兄は、自分が飛び出すより良い結果に終わったと認め、ダームエルが妹の名誉を守ってくれたことに感謝した。ダームエルは友人達の助けがあったからこそ動けたのだと答え、その場を去っていった。
イルクナーで明かされた本心
星結びの夜以降、周囲はこの求婚騒ぎを面白がっていたが、ダームエル自身は本気を見せることなく日々を過ごしていた。ブリギッテもまた、その申し出を本気では受け取っていなかった。だが、イルクナーに戻ってから状況は変わった。
ある夜、下働きからダームエルが深夜に外出したとの報告を受け、ブリギッテは何事かと緊張しながら後を追った。イルクナーに夜出歩ける場所などほとんどなく、何か問題が起こるのではないかと危惧していた。だが、ダームエルはただ昼間ローゼマインから受けた戦い方の助言を試すため、訓練に出ていただけだった。
ローゼマインは、ダームエルが魔力を温存する戦い方に慣れすぎていて、一度に大きな魔力を使うことを知らないのではないかと見抜いていた。ブリギッテはその話を聞いて驚きつつも、中級騎士が見習いの頃に教わるように、まずはシュタープへ一気に魔力を込める訓練から始めるべきだと助言した。二人はその場で訓練を始め、その中でブリギッテは、ダームエルの魔力が以前より伸びていることに気付いた。
問いただされたダームエルは、自分の成長期が他人より遅く、今もなお魔力が伸びていると騎士団長から言われていることを明かした。そして一年後に本当に釣り合うまで伸びるかはわからないが、それでも諦めたくないのだと本心を告げた。
イルクナーへの思いと一年後の約束
ダームエルはさらに、もし魔力が釣り合ったなら、自分の求婚を受け入れてくれるのかとブリギッテに尋ねた。その問いに対し、ブリギッテはまずイルクナーをどう思うのかを問い返した。彼女にとってそれは最も重要な確認だったからである。
ダームエルは、イルクナーはとても良い土地であり、民は素朴で優しく、これから製紙業によって発展していくと率直に述べた。そして、イルクナーにいる時のブリギッテは貴族街にいる時よりずっと伸び伸びしていて、可愛らしいと照れながら認めた。その言葉に、ブリギッテはハスハイトから受け続けたイルクナーへの侮辱と対照的な誠実さを感じ取った。
ダームエルの問いに対し、ブリギッテは高鳴る胸を押さえながら手を差し出した。そして、自分はダームエルの申し出をとても嬉しく思っており、一年後の星結びの夜を心待ちにしていると答えた。今回の返答は社交辞令ではないと明言し、二人の間に交わされた約束は、形式的なものではなく本心からのものとなったのである。
イルクナーでの滞在
イルクナーの生活への適応
イルクナーでは物々交換が基本で、個人がお金を持つ生活ではなかったため、ダミアンが給金を提示して下働きを雇おうとしても住人達に断られた。住人達は自分達の仕事で手一杯であり、紙作りを教わる立場である以上、よそ者の世話まで引き受ける余裕はないと考えていたのである。そのため、ダミアンは自分の身の回りのことを自分で整えざるを得なくなり、料理や洗濯、掃除に四苦八苦していた。最初の頃は何もできず住人達を呆れさせていたが、失敗を笑われながらも少しずつ順応していった。
ギル達もまた、神殿や下町とは違うイルクナーの生活習慣に戸惑っていた。朝は一の鐘と共に起き、川で顔を洗い、身を清め、服を洗濯することから始まった。生活用水は川から運び、飲み水は館の裏に引かれた山の湧水を使っていた。神殿と同じように厨房の水瓶を満たすのが朝一番の仕事であり、工房へ持っていく飲み水も革袋に詰めて用意した。店がなく、必要な物資はギーベが旅商人から買い付けて館に保管するという仕組みも、エーレンフェストの街に慣れた者達には大きな驚きであった。
神殿の習慣とイルクナーの違い
食事の習慣も大きく異なっていた。イルクナーでは客人であっても本館の下働き達と一緒に食事をするのが当然とされていたが、神殿では下げ渡しの習慣があるため、ルッツが交渉して離れで食べられるようにした。住人達にはギルが我儘を言っているように映ったかもしれないが、神殿育ちの者達が住人と食事を取り合うような状況を避けるためには必要な配慮であった。
朝食は前日の残りと硬いパン、そしてミルクで簡単に済ませるのが普通だった。イルクナーのパンは十日ほどに一度まとめて焼かれるため非常に硬く、ミルクでふやかさなければ食べにくかった。神殿や商会で出されるローゼマイン考案のスープを恋しく思いながらも、皆はイルクナーの食事に合わせて日々を過ごしていた。食事当番は食材集めと調理を担当し、山菜や果実、獣や魚をその日の食事として確保していた。街で何でも買えた生活しか知らないダミアンにとって、食材を自分で集めることは特に大きな苦労だった。
工房運営と役割分担
朝食後は離れと工房を清め、二の鐘が近づくと工房の準備に入った。神殿の工房とは異なり、イルクナーでは未成年のギルやルッツの指示は住人達に軽く見られがちであったため、イルクナーの人々に紙作りを教える役目は灰色神官達が担っていた。ギルは全体の指示を出し、ルッツと共に新素材を使った新しい紙の開発に専念していた。字が書けない住人達には、素材の配合や記録を細かく取る作業は難しかったためである。
三の鐘が鳴る頃には、カーヤが世話係として住人達を連れて工房にやって来た。カーヤは住人達との連絡役であり、工房の改良点や必要なことをギーベ側へ伝える役も果たしていた。工房では、白皮の処理を住人達に教える作業と、新しい紙の研究とを並行して進めていた。灰色神官達が住人達に工程を教える間、ギルとルッツは新素材を使った試作に取り組んでいた。
新素材トラオペルレの発見
新素材として目を付けたのは、トラオペルレという夏の終わりから秋に採れる白い実であった。潰すと粘り気のある液が出るらしく、紙作りの糊として使えるのではないかと考えられた。ギルとルッツはその実を力を込めて潰し、布で濾して液体だけを取り出し、フォリンの繊維を使った紙料に少しずつ加えていった。匙で量を変えながら五種類の試作品を作り、どの配合が最適かを探る、いつもの手順で研究を進めた。
四の鐘が鳴って昼食の時間になると、一度作業を中断したが、トラオペルレを使った試作品はそれまでの紙とは明らかに異なる性質を見せ始めていた。昼食後、工房へ戻ると、試作品は紙床の上で急速に乾燥し始めていた。ギルとルッツは工房の外へ紙床ごと運び出し、日光に当てて経過を観察することにした。すると、太陽に当たるにつれて紙の白さが増し、表面がつるりと光り始め、しかもトラオペルレの配合が多いほど乾燥が早く、紙自体が少し縮んでいくのが確認できた。
新しい紙の完成と可能性
五の鐘が鳴る頃には、トラオペルレを多く使った試作品は完全に乾いているように見えた。ギルは慎重に紙床から剥がしたが、割れることなくペロンと綺麗に剥がれた。ルッツが曲げたり折ったりしても割れず、インクで字を書いても、最も配合の多いものだけは少しインクを弾いたが、他の試作品は滲みもなく文字を書くことができた。感触は今までの紙と違って硬く、動かすと変わった音がしたが、確かに紙として成立していた。
本に使えるかどうかはまだ判断できなかったが、ギルはそれを考えるのはローゼマインの役目であり、自分達の仕事は新しい紙を作ることだと割り切った。夕日にかざした新しい紙を見ながら、ギルはローゼマインが喜ぶ姿を思い浮かべた。こうして完成した新しい紙は、できるだけ早くローゼマインのもとへ届け、どのように使えるのか、またハイディにどんなインクが適しているか研究してもらうことになった。新しい紙の誕生は、イルクナーでの滞在と研究が確かな成果に結びついたことを示していた。
第三部 領主の養女3レビュー
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兵士の娘

あらすじと考察は本文で詳しく解説。

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神殿の巫女見習い

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領主の養女

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貴族院の自称図書委

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女神の化身

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ハンネローレの貴族院五年生

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