中世ヨーロッパ風の世界が舞台。
異世界なのでファンタジー要素もある。
少女が主人公なので敬遠してたが、読書メーターで面白いとのコメントが多かったので読んでみた。
たしかに面白い。
読んだ本のタイトル
本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~第一部「兵士の娘I」
著者:香月美夜 氏
イラスト:椎名優 氏
発売日:2015年1月25日
ISBN:9784864723428
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あらすじ・内容
幼い頃から本が大好きな、ある女子大生が事故に巻き込まれ、見知らぬ世界で生まれ変わった。貧しい兵士の家に、病気がちな5歳の女の子、マインとして……。おまけに、その世界では人々の識字率も低く、書物はほとんど存在しない。いくら読みたくても高価で手に入らない。マインは決意する。ないなら、作ってしまえばいいじゃない!目指すは図書館司書。本に囲まれて生きるため、本を作ることから始めよう!
感想
前世は本がないと生きていけない日本の女子大生・麗乃。
震度3程度の地震で部屋の本が雪崩を起こして、どうやら死亡したようだ。
そして、数え年6歳の虚弱少女・マインに、、
少し動いたら熱を出して倒れてしまう貧弱な女の子に転生してしまった。
今いる世界の事情も分からず、家は兵士の家らしくどうやら貧しいようだ。衛生面は中世ヨーロッパなみ、窓から排泄物を放り投げる環境で最悪。
そんなハンデがありながらも、前世の知識を活かして生活環境改善を目指し、数回倒れながらも部屋を掃除して、毎日濡れた布で身体を拭いたりして家庭内の衛生面を向上させる。
さらにリンシャンを開発して、髪をツヤツヤにして周りから注目される。
そんな貧困でも暖かな家族の囲まれて暮らしていたが、、、
本がないと生きていけない日本の女子大生・麗乃にとってに必須アイテム本が無かった。
いや、あったのだが高級品過ぎて手が出なかった。
目標に向けて幾多の失敗にもめげず周囲も巻き込みながら紙作りに向けて邁進していく
それなら作れば良いじゃないと彼女は決断して、何かをしようとする度に倒れる(笑)
それを見かねた近所の男の子ルッツと共に、本を作るために、あの手この手で色々やるが、、
特に酷かったのが粘土板。。
近所の悪ガキ達も巻き込んで作成したのだが、、、、
最後の焼き入れで粘土が爆散。。。
母親から粘土禁止を言い渡される。。。
負けるなマイン!
そうじゃないと、、、
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登場キャラクター紹介
主要キャラクター
マイン(本須麗乃)
現代日本で本を愛していた本須麗乃が、異世界の幼女マインとして転生した姿である。病弱な身体と貧しい環境に苦しみながらも、本を読むために紙やインク、本そのものを自作しようと奮闘する。
・所属組織、地位や役職 兵士ギュンターの次女。オットーの助手(非公式)。商人見習い候補。
・物語内での具体的な行動や成果 髪の艶を出す簡易ちゃんリンシャンや、パルゥを使った菓子、鳥ガラスープなどの料理を考案し、生活環境を改善した。 本を作るため、草の繊維、粘土板、木簡、竹簡など様々な素材で記録媒体の作成を試みたが、体力不足や事故、家族の誤解により悉く失敗した。 門でオットーの仕事を手伝い、高い計算能力と事務処理能力を示したことで、商人ベンノとの面会を取り付けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 体内に謎の熱を抱えており、ベンノから「身食い」の可能性があると指摘された。 ベンノに対して植物紙の試作を提案し、春までの猶予と商人見習いへの道筋を得た。
ルッツ
マインの近所に住む同い年の少年であり、四人兄弟の末っ子である。マインの突飛な行動や知識に驚きつつも、彼女の熱意に押されて協力者となり、共に商人を目指すパートナーとなった。
・所属組織、地位や役職 平民の少年。商人見習い候補。
・物語内での具体的な行動や成果 マインの歩行を助け、森での採集や粘土板作り、竹の確保などに協力した。 旅商人になりたいという夢を持っていたが、オットーに現実の厳しさを諭され、マインと共に街の商人を目指すことに決めた。 ベンノとの面会では、マインの補佐を受けつつも自身の意志で商人になりたいと宣言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 マインが作る料理や商品の価値を理解し、彼女が異質な存在であることを感じつつも、それを受け入れて守る姿勢を見せている。
トゥーリ
マインの姉であり、面倒見の良い性格をしている。病弱な妹を世話しつつ、家族の一員として家事や仕事に励んでいる。
・所属組織、地位や役職 兵士ギュンターの長女。見習い(職種は針子や細工師などが示唆される)。
・物語内での具体的な行動や成果 マインに油の搾り方や森での過ごし方を教え、彼女の奇行をたしなめつつも協力した。 七歳になり洗礼式を受け、正式に見習いとして働き始めた。 マインが考案した髪飾りをつけて洗礼式に臨み、周囲から注目を集めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 マインの異常な器用さや知識に劣等感を抱く場面もあったが、姉としての自尊心を取り戻し、良好な関係を維持している。
エーファ
マインとトゥーリの母であり、染色や裁縫を得意とする。家族の生活を支えるしっかり者であり、マインの不可解な行動に対しては現実的な視点から指導や制止を行う。
・所属組織、地位や役職 兵士ギュンターの妻。
・物語内での具体的な行動や成果 マインが作った木簡や竹簡を薪と誤認して燃やしてしまうなど、本作りにおいては障壁となることがあった。 マインが考案した髪飾りの編み方を習得し、高い技術力で再現した。 冬支度や日々の家事を通じて、子供たちに生きるための技術を教えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 マインが提案する新しい料理や衛生習慣を徐々に受け入れ、生活に取り入れている。
ギュンター
マインとトゥーリの父であり、南門を守る兵士である。娘たちを溺愛しているが、マインの暴走や危険な行動に対しては厳しく接することもある。
・所属組織、地位や役職 南門の兵士(班長クラス)。
・物語内での具体的な行動や成果 マインに細いかぎ針や簪を作成し、彼女の手仕事を物理面で支援した。 マインを門へ連れて行き、オットーに預けることで彼女が文字に触れるきっかけを作った。 豚の解体作業など、生活に必要な荒仕事を一手に引き受けている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 オットーがマインに近づくことを警戒しつつも、娘の将来を考えて関係を容認した。
協力者・関係者
オットー
南門で働く兵士であり、元旅商人という経歴を持つ。計算や識字ができるため、マインの知的好奇心を満たす最初の理解者となった。
・所属組織、地位や役職 南門の兵士。元旅商人。
・物語内での具体的な行動や成果 マインに石板を与えて文字を教え、自身の業務である会計書類の検算を手伝わせた。 マインとルッツを自身の知人である商人ベンノに紹介し、面会の場を設けた。 マインの能力を高く評価し、自身の助手として囲い込もうとした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 妻コリンナに惚れ込んでおり、彼女のために全財産を使って市民権を得た過去を持つ。
ベンノ
オットーの知人であり、鋭い眼光を持つ商人である。マインたちが持ち込んだ商談に応じ、その異質さと有能さを見抜いた。
・所属組織、地位や役職 商人(ギルベルタ商会等の主であることが示唆される)。
・物語内での具体的な行動や成果 マインとルッツを面接し、旅商人の夢を否定した上で、商品を提示できれば見習いとして雇う条件を出した。 マインの髪の艶や簪に商品価値を見出し、彼女を他店に渡さないよう画策した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 マインの症状を聞き、「身食い」の可能性があることをオットーに示唆した。
フェイ
ルッツの兄であり、近所の子供たちのグループに属している。当初はマインの奇行を嘲笑したり、粘土板を踏み荒らしたりして対立した。
・所属組織、地位や役職 平民の少年。
・物語内での具体的な行動や成果 森でマインが作った粘土板を誤って踏みつけ、激怒したマインに威圧された。 その一件以来、マインに対して恐怖心を抱き、関わり合いを避けるようになった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 ルッツに対し、マインの不気味さについて相談を持ちかけた。
ラルフ
ルッツの兄であり、兄弟の中ではリーダー格である。
・所属組織、地位や役職 平民の少年。
・物語内での具体的な行動や成果 マインを背負って門まで送り届けたり、パルゥケーキ作りを手伝ったりした。 ルッツがマインの世話を焼いていることに対し、大変だと同情している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 特になし。
前世・現代日本
本須麗乃
マインの前世の姿であり、極度の読書家である。大学卒業間近に地震で本棚の下敷きになり死亡した。
・所属組織、地位や役職 日本人。大学卒業予定者。
・物語内での具体的な行動や成果 知識欲が旺盛で、活字を読むことに至上の喜びを感じていた。 生活能力が低く、幼馴染の修に面倒を見てもらっていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 マインとして覚醒した後も、彼女の人格と知識が行動の基盤となっている。
修
本須麗乃の幼馴染であり、彼女の保護者のような役割を果たしていた青年である。
・所属組織、地位や役職 日本人。
・物語内での具体的な行動や成果 旅行先でも図書館や本屋に行きたがる麗乃に呆れつつ、彼女の安全を確保していた。 麗乃が死んだ後も、彼女との思い出を振り返っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 麗乃(マイン)が熱に浮かされた際、生きる気力を取り戻すきっかけの一つとして回想された。
展開まとめ
プロローグ
本を愛する本須麗乃の価値観
本須麗乃は、心理学や自然科学から物語まで、人類の知識が凝縮された書物を心から愛していた。一冊の本に多様な知識が収められていることに喜びを感じ、写真集や古い物語を通して、自分の知らない世界や時代に触れることに強い幸福を見出していた。読書に没頭するあまり時間を忘れることは日常であり、本を読むことそのものが生きる基盤となっていた。
図書館と書庫への偏愛
麗乃は図書館の古書庫を好み、古い紙と埃の混じった匂いに強い安らぎを覚えていた。新しい本の紙とインクの匂いにも魅了され、常に文字を追っていなければ落ち着かない性質であった。幼少期から大学卒業間際に至るまで読書中心の生活を続けており、周囲からは生活に支障をきたすほどの本好きとして変人扱いされていたが、本人は意に介していなかった。
幼馴染・修との日常的なやり取り
麗乃は外出中も読書を続け、危険な場面でも注意が散漫であった。幼馴染の修はその様子をたびたび諫め、強引に身の安全を確保させていた。麗乃はそれを当然のように受け止めつつ、死ぬなら本に埋もれて死にたいという考えを口にしていた。修は呆れながらも、彼女の行動を支え続けていた。
書庫での日常と地震
帰宅後、麗乃は亡き父の遺した書庫に入り、本に囲まれた空間で読書を再開した。遮光された室内で椅子に座り、本から目を離さないまま過ごしていたが、突然大きな地震に見舞われた。揺れに不快感を覚えつつ顔を上げた瞬間、傾いた本棚から大量の本が崩れ落ち、麗乃の視界を埋め尽くした。
新しい生活
幼い声と高熱の中での覚醒
本須麗乃の意識は、高熱と関節痛に苛まれながら浮上した。頭の中には幼い声が響いていたが、それはやがて消え、代わりに強い熱と体の不調を自覚することとなった。体を動かそうとした際、布団の下から紙や草の擦れる音が聞こえ、自分の声が幼い子供のものに変わっていることに気付いた。
異変への気付きと異世界の環境
目を開けた麗乃が見たのは、大人のものではない痩せた子供の手であった。周囲を見回すと、硬い寝台と汚れた布、劣悪な衛生環境が広がっており、自身の知る日本の病院や住環境とは明らかに異なっていた。記憶の最後が本棚に押し潰された事故であることから、自身が死亡した可能性を自覚し、母を残して死んだことへの後悔を募らせた。
マインの記憶の流入と混乱
部屋に現れた見知らぬ女性が「マイン」と呼びかけた瞬間、麗乃の意識に幼い少女マインの記憶が大量に流れ込んだ。言葉の理解が可能になり、環境や人間関係が見知ったものとして認識され始める一方で、自分が麗乃ではなくマインになってしまったという事実に強い動揺を覚えた。
家族関係の把握と現実の受容
マインとしての記憶から、母エーファ、姉トゥーリ、父ギュンターの四人家族であることを理解した。髪の色が緑や青といった異質な特徴を持つことから、この世界が地球とは異なる場所であると確信する。生活水準は低く、衛生環境も劣悪であり、医療や入浴の概念も極めて原始的であった。
本の不存在と価値観の衝突
何より衝撃的だったのは、家の中に本が一切存在しないことであった。姉トゥーリに本を求めても通じず、「本」という概念自体が共有されていないことを知る。麗乃は異世界に転生してもなお本を求め続ける自分の価値観を再確認した。
生き延びるための決意
環境の劣悪さと自身の虚弱体質を踏まえ、まずは生活環境と衛生状態を改善しなければ生きていけないと判断した。絶望しかけながらも、本を読むためなら努力を惜しまないという従来の姿勢を取り戻し、この世界で生きていくことを前向きに受け入れる。そして体調回復を優先し、再び眠りにつきながら、ただ一つ「本を読みたい」という願いを抱き続けた。
おうち探索
三日間の敗北と小さな勝利
マインになって三日が経ち、本を探すためにベッドから抜け出そうとしては母と姉に阻まれ、トイレ以外の行動を禁じられる状態になっていた。寝室でのおまる使用や着替えの介助に強い羞恥を覚えつつも、抵抗し続けた結果、諦めて受け入れるようになった。一方で、我慢できずに姉トゥーリへ頼み、毎日温かい布で体を拭いてもらう習慣を得たほか、髪を留めるための簪を作ってもらい、身支度の工夫を進めた。
探索の決意と姉の警戒を欺く準備
本を読めない状態が続き、禁断症状に近い焦りを抱えたマインは、回復を待って家の中を探索することを決めた。姉トゥーリは看病役として警戒を強め、ベッドから出さないよう見張っていたため、マインは大人しく寝ているふりをして隙を作り、トゥーリが皿洗いのため外へ出るのを待った。
寝室脱出の難関と転倒
トゥーリが外出したのを確認し、マインは裸足で寝室を出ようとしたが、ドアノブの高さが障害となった。踏み台として動かせる物を探し、最終的に両親の布団を丸めて足場にし、全体重をかけてドアノブを回した。ドアが開いた勢いでバランスを崩し、布団から転げ落ちて頭を打ったが、ドアはわずかに開いた状態となり、マインは痛みをこらえて脱出を果たした。
台所の確認と家の構造把握
寝室の外は台所であり、テーブルや椅子、木箱、食器棚、かまど、鍋類、水瓶、流し台のような設備、籠に入った食材などが置かれていた。衛生状態の悪さを実感しつつ、籠の中の野菜を見て油が取れる可能性を考え、頭のかゆみ対策に繋げられるかもしれないと見込んだ。台所には他に二つのドアがあり、一方を開けると物置のような雑多な部屋で、本棚のある場所ではなかった。
外への扉と本の不在の確信
もう一方のドアは鍵がかかっており、外に通じる可能性が高いと推測した。家の中に他の部屋が見当たらず、風呂もトイレも水道も本棚もない現実を突きつけられたマインは、本が高価で一般家庭に存在しない時代なのではないかと考えた。そこで本がなくても文字から学ぼうとして、食器棚や物置などを探したが、紙も文字のある物も一切見つからなかった。
崩れ落ちる絶望と姉の発見
本も文字も存在しない状況に耐えきれず、マインは涙を流してその場にうずくまった。本に囲まれて生きる意味を支えにしていたため、本がない世界で生きる意味を見出せなくなった。そこへ戻ってきたトゥーリが、床に座り込むマインを見つけて叱りつけつつ心配し、痛む場所を尋ねたが、マインは本がないことだけを訴え、理解されないまま途方に暮れた。
街中探索
泣き疲れた翌朝と外出の提案
前日に泣き続けた影響で目は腫れ、頭痛も残っていたが、熱は下がり体のだるさは消えていた。家族は腫れものに触るように接し、母エーファは冷たい手で額と腫れた目を押さえ、回復を確かめた。エーファは市が立つ日に合わせ、マインを買い物へ連れ出すことを提案し、前日の様子から寂しがっていると周囲に受け取られたことを語った。マインは本がない絶望が原因だったとは言えず、罪悪感を抱えながらも外出に同意した。
姉の外出と家族の生活事情
姉トゥーリは子守りから解放され、皆と森へ薪拾いや木の実・茸探しに出かけた。子供は学校に通うのではなく、手伝いや仕事を担うらしく、年上の子は見習いとして働き始めるという状況が示された。マインは本屋や司書に繋がる道を探す意図を内に秘め、外出を情報収集の機会と位置づけた。
初めての外出と住環境の過酷さ
マインは初めてパジャマ以外の服を着せられ、厚手の服を重ねて母エーファと外に出た。石造りの建物の冷気、狭さ、臭いに圧倒され、五階の住居から急で狭い木の階段を下りるだけで息が上がった。体力の乏しさを自覚し、途中で苦しさを訴えると、エーファはおんぶ紐のようなものでマインを背負って移動した。
共同井戸と街路への到達
建物の外には小さな広場があり、共同の井戸の周囲で人々が洗濯していた。そこから薄暗い路地を抜けると大通りに出て、石畳を荷馬車や動物が行き交い、通りの両側に店が並ぶ街並みが広がった。マインは本屋を探しながら歩いたが、母エーファは日常の買い物は店ではなく市場で行い、店は金のある層向けだと説明した。
神殿と城壁の説明
目立つ大きな建物を城と誤認したマインに対し、エーファはそれが神殿であり、七歳になれば洗礼式で行くことになると告げた。さらに、領主の城や貴族の屋敷がある城壁、街を守る外壁、南門の門番が父ギュンターであることなど、街の構造と支配層の隔たりが語られた。マインは街の規模を判断できず、本屋の有無に結びつけて焦りを募らせた。
文字の不在への不安と市場の賑わい
通りの看板は絵で示され、字らしきものが見当たらなかったため、マインは識字率の低さや文字自体の不存在を疑い、血の気が引く感覚に襲われた。そうした不安のまま市場に到着すると、露店が密集し人々が行き交う活気が広がり、日本の屋台を思わせる賑わいに一瞬心が緩んだ。
値札の発見と数字の習得
果物屋の品の上に、記号が書かれた板が刺さっているのを見つけ、マインは強く反応した。それが値段を示すものだと母エーファから聞き、マインは次々に読み方を尋ね、記号と数の対応を頭の中で繋げていった。自分でも読み取って正答し、母に驚かれ、数字の記号が十種類であることから十進法だと見当を付け、計算も可能だと確信するに至った。
本、入手不可能
冬支度と市場の現実
母エーファは冬に備えて肉を多めに買い、塩漬けや燻製にして保存する必要があると説明した。冬は野菜がほとんど採れず雪も厳しく、市が立つ回数自体が減るため、この時期にまとめ買いするのが当然だと語った。マインは保存食作りが生活の前提であることを理解しつつ、自分が役に立てそうにない現実に内心安堵した。
肉屋の衝撃と気絶
肉屋の区域に近づくにつれ強い臭いが増し、解体された肉や血抜き中の動物が並ぶ光景が目に入った。さらに、豚が解体される場面を目撃し、周囲の人々がそれを待つ空気にも耐えられず、マインは恐怖で悲鳴を上げた末、母の背で気絶した。
気付けの酒と退避
意識を取り戻すと、強いアルコール臭の液体で咳き込み、母エーファが気付けとして酒を飲ませたことが判明した。マインは肉屋へ戻るのを拒み、具合が悪いふりをしてその場に残る策を取った。酒屋の屋台の女性が待機を引き受け、隣の雑貨屋の男性が店の奥へ入れてくれたことで、マインは安全に座り込める場所を確保した。
雑貨屋での発見
雑貨屋に並ぶ品々は用途不明なものが多く、店主は布を織る道具や狩りの仕掛けだと説明した。やり取りの最中、雑貨の隅に装丁の豪華な分厚い本が一冊あるのをマインが見つけ、強い興奮を覚えた。店主はそれが本であると認めたため、マインは本が存在する事実に救われた。
本屋の不在と本の価値
マインが本を売る店の所在を尋ねると、店主は「店などない」と断言した。本は書き写して作るもので高価すぎるため売買の対象になりにくく、その本も借金を返せなくなった貴族の質草で、まだ売り物ではないと説明された。マインは本が貴族階級の所有物に近いことを悟り、平民では入手がほぼ不可能だと突きつけられた。
土下座の誤爆と撤退
マインは買えないなら触らせてほしいと土下座して懇願し、頬ずりや匂いを嗅ぐことまで求めたが、店主は困惑と嫌悪を混ぜた反応を示し、危険だとして拒否した。そこへ母エーファが戻り、マインは店主を守るために「酒のせいで気持ち悪い」と説明して場を収めた。世話になった酒屋と雑貨屋へ笑顔で礼を述べ、母に背負われて帰宅した。
結論と次の方針
帰路でも本屋は見当たらず、当初の「絵本をねだって字を覚える」という計画は実現しなかった。マインは本屋が存在しない以上、本は手に入らないと認めざるを得ず、それでも諦めずに「手に入らないなら自分で作るしかない」と決意を固めた。
生活改善中
「本を作る」以前に「紙がない」問題
本を自作する決意は立派だが、この世界はちゃんと意地悪なので、家に紙が存在しない。紙屋があるのか、白紙の帳面があるのか、そもそもどこで“材料”を買えるのかが不明で、計画は出鼻から詰まる。
森の戦利品とメリル争奪戦
トゥーリが森で薪・木の実・茸・薬草を拾って帰宅し、マインはアボカドっぽい木の実(メリル)に目を付けた。油が取れると踏んで欲しがり、2つ譲ってもらう。
ところがマインはハンマーで直に叩き潰して汁を飛散させ、トゥーリに怒られ、母エーファにも壁を汚した件で叱られる。床は気にしないのに壁は気にするという、生活文化の謎仕様も発覚する。
“正しい油の取り方”を学習
母の判断でトゥーリが油搾りを教える流れになり、道具一式が物置にあることが判明する。
金属台を敷き、布で包んで飛び散りを防ぐこと、メリルは本来「食べた後の種」から油を取ることなどが説明される。マインは実からも搾ると強行し、やり方自体は覚えたものの、力不足でほとんど取れない。トゥーリが代わりに潰して搾ると、ちゃんと油がポタポタ落ち、マインは実力差を思い知らされる。
簡易シャンプーの誕生と「食べるな」攻防
マインは搾った油に薬草を混ぜ、匂い付けし、さらに塩を加えて“シャンプーもどき”を作る。
しかしトゥーリが油を夕飯に使おうとし、母も同調して回収しようとする。マインは「食べちゃダメ」と死守し、最終的に二人が折れて引き下がる。マインは油を薄めて髪を洗い、布で何度も拭いて仕上げ、髪の艶と香りを取り戻す。トゥーリも使って髪がつるつるになり、母も使い始める。
衛生意識が家に伝播する
気分が上向いたマインは部屋の汚れにも目が向き、蜘蛛の巣が気になって父ギュンターに撤去を頼む。理由は「怖いから」として通し、天井周りが少し綺麗になる。
さらに箒で掃除を始めるが、土埃で体力が尽き、母にベッドへ戻される。掃いたゴミを台所側へ寄せてしまい、やり方でも注意される。
今の到達点
髪と衛生は改善の兆しが出た。一方で、掃除は体力が追いつかず、そして最重要の「紙」がまだ手に入らない。結局、次の戦場は“紙の入手ルート探索”になる。人間はいつも、欲しいものがある時だけ急に文明を欲しがる。
近所の男の子
「紙」が通じない問題、発生
マインはトゥーリに「紙はどこで売ってる?」と聞くが、日本語(概念)がそのまま出てしまい通じない。言葉の問題だけでなく、紙・筆記具の入手経路も不明、外出体力も資金もないという三重苦に突き刺さる。
父の忘れ物で“門まで配達イベント”が発生
父ギュンターが仕事で使う包みを家に置き忘れ、母エーファの怒りが爆発しそうな未来が見える。トゥーリはマインを一人にできず同行させ、全身防寒フル装備で出発する。マインは階段だけで息切れし、石畳の歩きにくさに苦戦するが、信頼回復のために無理しないペースで進もうとする。
近所の男の子トリオと合流
途中で背負子と弓を持った男の子3人が駆け寄ってくる。
- ラルフ:赤毛で体格がよく、まとめ役。
- フェイ:ピンク頭、悪戯っぽい。
- ルッツ:金髪でマインと同い年。背伸びした“お兄ちゃんムーブ”をするタイプ。
トゥーリは彼らと森へ行く仲で、マインも少しだけ一緒に行った記憶がある。
マイン、歩行限界で“おんぶ争奪戦”に突入
トゥーリのペースが上がってマインが膝をつき、ルッツが「背負う」と申し出る。だがラルフが「それだと遅い」と判断し、自分が背負うことにして、ルッツに弓を持たせ、フェイに背負子を任せる。
マインはルッツの気遣いをきちんと褒めて手を握り、ルッツは照れつつ満足して役割を受け入れる。ラルフに背負われたことで視界が上がり、街並みが見えるようになり、移動速度も上がる。
衛生改善の効果が“匂い”で可視化される
道中、ラルフがトゥーリに「いい匂いする」と言って髪をくんかくんかし、フェイとルッツも便乗。髪の艶も褒められ、マインは内心ドヤる。
一方で、男の子たちはわりと“その辺の匂い”なので、マインはまとめて石鹸で洗いたい衝動を抱く。
ルッツ、無邪気な褒め攻撃でマインを撃墜
ルッツがマインの髪を引いて匂いを嗅ぎ、「マインもいい匂い」「髪結ったら顔がよく見えて可愛くなった」と無邪気に言う。マインは経験値不足のせいで内心パニックになるが、周囲は普通に森の話を続けていて温度差がひどい。
紙、入手不可能
南門で“父の職場”に到着
ラルフに背負われたまま南門へ辿り着き、トゥーリが父ギュンターに忘れ物を手渡す。父はマインを置いてきたと勘違いして焦るが、ラルフが背負ってきたと知って礼を言い、ラルフ達は森へ向かって離れる。
門の待合室と“小さな騒ぎ”
父の同僚が待合室に水を持ってきてくれ、マインは生き返る。兵士が木箱を取りに出たり戻ったりする慌ただしさがあり、父は「要注意な奴が来ただけ」と説明する。悪人面や貴族などを別室で待たせ、上の判断で通すか決める仕組みである。
ロウィンワルト伯爵の来訪と書類仕事
若い兵士オットーが戻り、父に敬礼して報告する。来訪者は「ロウィンワルト伯爵」で、割印確認済みとして通す判断が下る。オットーは机に木箱を置き、筒状のものを広げて作業を始める。
羊皮紙・インク・ペンが目の前に出現
オットーが広げたのは羊皮紙で、インク壺と葦ペンで文字を書き込む。マインは「紙と筆記具がある」と興奮し、父にねだるが即却下される。字を覚えると言って食い下がり、父が文字は得意でないことが露呈する。
価格の現実で希望が叩き折られる
父は羊皮紙が「一枚で一月の給料が飛ぶ」と言い、マインは紙が家に無い理由、本屋が無い理由が“値段”だと理解する。さらにオットーは、平民が出入りする店では紙は扱わず、貴族や大商人や役人向けの物だと告げる。
石板ルートで“字の勉強”は確保
オットーは代案として、昔使っていた石板を譲ると申し出る。マインは即座に受け取り、字も教えてほしいと頼む。父は情けない顔をするが、マインは無視する。
冬支度
冬支度への強制参加
マインは茎を使ってパピルスもどきを作ろうとするが、母エーファに止められ、家族総出の冬支度に参加させられる。体力も技術も乏しいマインにとって、冬支度は基本的に戦力外であるが、家族全員が動く状況から逃げ場はなかった。
父ギュンターとの家屋点検
ギュンターと共に家の点検と補修を行うが、蝶番や釘の状態を巡って認識の差が露呈する。マインが実際に板戸を揺らしたことで蝶番が破損し、補修費用の問題が浮上する。結果としてマインは作業から外され、母の手伝いに回される。
灯りの準備と油の精製
母とトゥーリは冬用の灯りとして、蜜蝋・牛脂・木の実の油を用いた蝋燭とランプ用オイルを準備する。牛脂の強い臭いに耐えつつ、マインは現代知識を使い「塩水を使った分離」を提案し、油の質と臭いを改善する工程に関与する。
蝋燭作りの工程
トゥーリは紐を芯にして牛脂を何度も浸し、蝋燭を作っていく。マインは一部の蝋燭にだけハーブを加え、消臭効果を試みる。全面的な変更は避け、試験的な範囲に留める形で作業を続ける。
薪の準備と冬支度用の部屋
ギュンターは斧で薪を割り、エーファがそれを家の奥にある冬支度用の部屋へ運ぶ。普段使われないその部屋は台所の竈から最も遠く、非常に寒いが、薪や保存食、油を保管するための場所として使われている。
手仕事の準備
冬の間に行う仕事として、母は衣服用の糸や染色の準備を進め、トゥーリは春に売るための籠作りの素材を整える。マインも自分の「手仕事」として、採取した茎から繊維を取り出し、パピルスもどき作りの準備を始める。
それぞれの作業へ
トゥーリは籠作り、両親は薪と生活準備、マインは繊維作りと、それぞれが冬支度に取り組む中、マインは自分なりに役割を確保する。一方で、作業の最中、トゥーリの機嫌に微妙な変化が生じていることにマインは気付き始める。
石板GET!
農村行きの強制同行
冬支度の要として食料確保があり、家族は夜明け前から荷車で農村へ向かった。マインは事情を聞かされないまま起こされ、移動中も体力不足で荷車に乗せられ、荷台の荷物と一緒に運ばれる形になった。
目的は豚肉加工の共同作業
農村の燻製小屋を借り、ご近所の大人たちと豚を二頭購入して解体し、塩漬け・燻製・加工肉を作って分け合う行事に参加する予定だと判明する。トゥーリは祭りのような雰囲気を楽しみにしていたが、マインは解体作業への抵抗感を強めた。
城壁外の景色と移動の負担
南門を出て初めて街の外を見たマインは、家の密集が途切れ、畑と森が広がる風景や空気の違いに驚く。石畳から土の道に変わり荷車の揺れが激しくなり、マインは落ちないように荷台にしがみついた。
解体現場の直視と気絶
農村到着時、すでに解体準備が進行しており、家族は作業場所へ急行した。マインは荷車の番を選ぶが、荷車の位置が解体広場の正面で、逃げ回る豚と取り押さえる男たちが見えてしまう。父ギュンターが槍で豚を仕留め、血抜きと吊り下げが進む様子を目にした直後、マインは意識を失った。
門の建物での覚醒とオットー再登場
マインは石造りの建物内で目を覚まし、そこが門の待合室(宿直室)であると把握する。オットーが見舞い、ギュンターが荷車の中で倒れたマインを連れてきたこと、作業が終わり次第迎えに来ることを伝えた。
石板の受け渡し
オットーは以前の約束どおり石板を持参し、マインの名前を書いて石筆と布も置き、門の勤務へ戻った。マインは石板をA4程度の黒板として確認し、基準線入りの面や石筆の質感、布が消去用であることを理解した。
文字練習への没頭
マインはオットーの字を手本に未知の文字を書いては消し、繰り返し練習する。さらに日本語の短歌や俳句も石板に書いては消し、文字を書けること自体に強い満足を覚えた。待合室で長時間過ごした結果、マインは風邪を引き熱を出す。
帰宅後の冬支度の継続
帰宅後、マインはベッドから出ることを禁じられ、家族は根菜の搬入、木の実と蜂蜜のジャム作り、酒の仕込み、豚加工品の運び込みなど冬支度を進めた。トゥーリは看病しつつ不満も示し、マインは石板で名前や日本語を書いて過ごした。
古代エジプト人に敗北
冬の到来と暗闇生活
雪が降り始め、家は吹雪対策で窓の板戸を閉め、布や詰め物で隙間風を防いだ。明かりは竈と蝋燭のみで、昼間でも室内は暗かった。家にはランプが一つあるが、油の節約のため常用しない方針だった。
反射で明るくする試みの失敗
マインは金属の手甲を磨いて蝋燭の近くに置き、反射で手元を明るくしようとした。しかし手甲の形状と表面の乱反射で目がチカチカし、かえって見えにくくなるため中止となった。
機織りと冬の手仕事の説明
母は織り機を組み立て、トゥーリに縦糸の準備から教え始めた。服作りは布を織るところから始まり、縫製や刺繍も含まれる。平民が新品の服や布を買うのは難しい前提が語られた。母は「裁縫と料理」を美人の条件として挙げ、マインにも手伝いを促したが、マインは乗り気にならなかった。
洗礼式の晴れ着準備
トゥーリの洗礼式が夏にあるため、薄手の布を冬のうちに織って準備する話になった。成長への懸念に対しては、多少の調整ができると説明された。また、マインとトゥーリの身長差が大きく、お下がりにしづらい点が問題として挙がった。
パピルスもどき製作の開始
マインは草の繊維を縦横に組んで葉書サイズを目標に編み始めた。繊維が細く、やり直しが難しく、間違えるたびに崩れやすかった。トゥーリは作業の内容を理解できず何度も尋ね、母は「遊ぶ暇があるなら籠を作れ」と指示した。
製作の停滞と挫折宣言
編み続けても進みが遅く、途中から密度が乱れてガタガタになった。完成品は紙として文字を書く用途に適さず、コースター程度にしか見えない仕上がりだった。マインは「古代エジプト人に負け」と言って作業を中断した。
籠編みへの移行と異常な仕上がり
母に強く言われ、マインは籠作りに移った。トゥーリの説明を断り、手慣れた様子で素材を組み、底から側面、模様、持ち手まで整えて一日でトートバッグを完成させた。母は出来栄えに驚き、細工師見習いを提案した。
トゥーリの動揺と取り繕い
トゥーリは出来の差に落ち込み、姉としての自尊心が揺らいだ様子を見せた。マインは「ゲルダばあちゃんに預けられていた間に教わった」と説明し、トゥーリの得意分野が別にあることも挙げて宥めた。トゥーリは気持ちを立て直し、冬の間に上達すると言った。マインは籠のコツ(力を入れて目を揃える等)を教えた。
失敗作を見ながらの次案の検討
マインは失敗したパピルスもどきを見つめ、別の方法を考える描写に移った。
冬の甘味
晴天の到来とパルゥ採取の出発
吹雪が数日続いた後、快晴となり、トゥーリが興奮して家族を起こした。父は休日で、トゥーリと共に準備して外出し、パルゥを採って帰ると告げた。母は洗濯に出て、マインは留守番として朝食後に籠作りを始めた。
パルゥの搾汁と家に満ちる甘い匂い
昼頃、父とトゥーリはパルゥを三つ採って帰宅した。母は器を用意し、細い枯れ枝に火を付け、実に穴を開けて白い果汁を流し取った。搾り終えた実は父が圧搾用の重りで潰し、果汁が器に落ちていった。甘い匂いが家中に広がり、マインは強く惹かれた。
パルゥの用途と採取の過酷さ
トゥーリは、果汁は飲み物になり、実から油が取れ、搾りかすは家畜の餌になると説明した。家は家畜がいないため、搾りかすはルッツの家へ持って行き卵と交換するという。採取は、実の枝を柔らかくするため素手で温める必要があり、木の上では火が使えず不思議な力で消されると語られた。さらにパルゥは昼までしか採れず、昼以降は葉が光り木が揺れ、枝が伸び、残った実が飛び散った後に木が消えると説明された。
貴重な果汁の試飲
保存用の壺へ果汁を移した後、器に残した少量をトゥーリとマインが二口ずつ飲んだ。とろりとした甘みが広がり、マインは強い満足感を覚えたが、果汁は冬の間大事に飲むものだと釘を刺された。
搾りかすへの着目と“鳥の餌”問題
搾りかすを見たマインは匂いに惹かれ、食べられないかと口に入れた。トゥーリは「鳥の餌」だと止めたが、マインは搾りかすを果汁で湿らせて食べ、工夫すれば使える手応えを得た。トゥーリにも食べさせ、複雑な反応を引き出した。
ルッツ宅での交換交渉と実演
マインとトゥーリは搾りかすと卵を交換するためルッツの家へ向かった。ルッツは餌は足りていると言い、肉不足を不満として述べた。マインは搾りかすを食用にできると主張するが、ルッツは拒否した。トゥーリが「実際に食べられた」と証言し、マインはルッツ宅の果汁を使って搾りかすを混ぜたものを作り、ルッツに食べさせた。ルッツは甘さに驚いた。
兄たちの介入と“奪われる弟”
味見を見たルッツの兄たちが群がり、器の中身を奪って食べた。ルッツは抵抗したが押さえ込まれ、器は空になった。兄たちも味に驚き、さらに作れるのかと食いついた。
即席調理体制の構築
マインは自分の体力と腕力不足を理由に、作業を兄弟に割り振った。兄たちは鉄板を竈で熱し、ルッツは卵と牛乳、バターなどを用意し、ラルフが混ぜ役を担当した。マインは材料をボウルへ入れ、バターを鉄板に滑らせ、生地を置いて焼きの手順を示した。
パルゥケーキの完成と満腹効果
焼き上がったものは皿に上げられ、「簡単パルゥケーキ」として提供された。マインは味見し、ふわふわで甘く、搾りかすのパサつきが消えていることを確認した。ルッツも満腹になると認め、冬の食として成立する手応えが示された。
継続的な分業の成立
ルッツの家には搾りかすが大量にあり、卵や牛乳も入手しやすい状況が語られた。以後、力や体力が要る料理はルッツ兄弟が作り、マインはレシピを渡して味見を担う形に落ち着いた。
オットーさんのお手伝い
パルゥ拾いの段取りと“マイン問題”
冬の晴れ日はパルゥ拾いの日であり、父が仕事の日でも母がトゥーリと森へ行くことにした。一方、病弱で留守番も任せられないマインの扱いが問題となり、父が「門で待機させ、帰りに母たちが回収する」案を出して採用された。マインは門でオットーに会える可能性を楽しみにし、石板と石筆を持って出かける準備を整えた。
雪道の移動と父の謎の牽制
外は凍てつく寒さで、マインは雪に足を取られて歩けず、父に肩車されて門へ向かった。道中、父は「オットーは結婚している」と唐突に釘を刺し、さらに「嫁のことしか頭にない男」と評した。マインは意図が理解できないまま、オットーが一途で素敵だと返し、父は拗ねて無言になった。
門での預け入れと宿直室の環境
門に着いた父は兵士に事情を伝え、マインを昼過ぎまで宿直室に置くと決めた。宿直室は暖炉の火とランプで家より明るく暖かく、オットーが机で書類仕事をしていた。父はオットーに面倒を見るよう押し付ける形でマインを置いて去り、オットーは困惑しつつ受け入れた。
文字の練習と会計仕事への興味
マインは「迎えまでおとなしくする」と言い、新しい文字を教えてほしいと頼んだ。オットーは机周りを片付け、暖炉前の席を譲って石板練習を許可した。しばらくして、マインは羊皮紙に並ぶ項目と数字の書類に興味を持ち、オットーが会計報告と予算表を作っていることを聞いた。兵士は計算が苦手な者が多く、金勘定が得意なオットーが担当しているという。
計算間違いの発見と“幼児助手”誕生
マインは書類の計算が誤っている箇所を見つけ、七十五と三十の積などを指摘した。文字は読めないが、数字は母から教わったため計算できると説明し、オットーは驚いた上で「手伝ってほしい」と頼んだ。マインは引き受ける代わりに、石筆の補充と文字の先生になることを条件に提示し、オットーは苦笑しつつ了承した。
検算作業の効率化と評価
オットーは別人が作った書類の計算確認に時間がかかっていたため、マインに合計の検算を任せた。マインは石板を計算用紙代わりにして筆算で確認し、計算器具は使わなかった。作業は大幅に進み、オットーは強く感謝し、商人向きではないかと評価して商業ギルドへの紹介を示唆した。
文字教育の提案とマインの期待
オットーは「本気で文字を教える」と言い、将来は書類作成も手伝えるようにしようと持ちかけた。マインはそれを歓迎した。羊皮紙に触れ、インクで字を書けること自体が、マインにとって大きな価値を持つためであった。
トゥーリの髪飾り
晴れ着完成と“物足りなさ”の発生
母が作っていたトゥーリの晴れ着が完成し、生成りのワンピースに刺繍の縁取り、青いサッシュというシンプルな仕立てであった。マインは可愛いと認めつつ、華やかさの不足を感じ、髪型と髪飾りに手を入れる方針を立てた。
髪飾り計画と道具不足の発覚
洗礼式でもトゥーリは普段通り三つ編みの予定で、髪飾りは花を摘む程度の案が出た。マインはそれでは足りないと考え、レース編みで髪飾りを作ると宣言するが、細いかぎ針がないことに気づき、父に頼む必要が生じた。
父の機嫌取りと細いかぎ針の制作
父はまだ不機嫌気味だったが、マインは父の器用さを持ち上げて頼み込み、木製の細いかぎ針を作らせることに成功した。父はナイフで枝を削り、太さを調整し、針先を整え、糸が引っかからないよう磨いて油で滑らかにする作業まで引き受け、機嫌も回復した。
糸の確保と母の渋りを突破
マインは余った色糸を髪飾り用に欲しがるが、母は髪飾りに糸を使うのはもったいないと難色を示した。マインが強く主張し、父も「余った糸くらい渡せ」と加勢したことで、母は使い道に困る長さの糸をいくつか譲った。
小花量産と母の参戦
マインは小さな花を量産する方式でレース編みを進め、トゥーリに“小花を集めた飾り”にする意図を説明した。編み方に興味を持った母はかぎ針を受け取ると、見よう見まねで素早く小花を編み上げ、マインは母の技量に驚いた。
取り付け問題と“ピン不存在”の危機
小花を布に縫い付け、頭に留める段階でマインは「ピン」がないことに気づく。髪ゴムもなく紐で髪を括る生活環境のため、固定具が必要となり、マインは父に短い簪型の留め具を作ってもらう案へ切り替えた。
短い簪の完成とミニブーケ化
マインは石板に絵を描いて父へ形状を伝え、片側を尖らせ反対側を平らにして穴を開けた短い簪を作ってもらった。父は「かぎ針より簡単」と即答し制作し、マインは簪の穴に小花の束を縫い付けてミニブーケ状の髪飾りを完成させた。
ヘアアレンジ実施と家族の評価
トゥーリに晴れ着を着せ、マインは三つ編みを解いて櫛を入れ、両脇から編み込みをしてハーフアップに整えた。最後に紐で縛った部分へ簪を挿し、青緑の髪に黄色や青、白の小花が映える仕上がりとなり、母と父も可愛いと評価した。
鏡なし問題と“見えない不満”への対応
トゥーリは飾りが後ろで自分から見えないことに不満を示し、鏡がないため確認できなかった。マインは簪を抜いて自分の髪に挿し、見本として見せることで納得させ、トゥーリは喜んだ。
余波としての母のレース編み熱
髪飾りで成果が出たことで母はレース編みに興味を強め、父が作ったかぎ針はいつの間にか母の裁縫箱に収まっていた。
わたしを森へ連れて行って
森への執着と体調の“改善アピール”
マインは春の気配とともに森の雪解けが進み、採集が再開されたことを知り、粘土板用の土を掘りに行きたいと強く願った。冬の間に健康へ気を配った結果、熱で倒れた回数が減り、食事回数が増えて体格と体力が少し上向いたと自負し、「無理なら門で休む」と条件を付けて家族へ食い下がった。
トゥーリの即却下と判断の丸投げ
マインはまずトゥーリに甘えて同行を頼むが、「歩けないから無理」と一蹴された。諦めずに体力が付いたことを主張すると、トゥーリは最終判断を父へ委ね、「父さんがいいって言ったら」と譲歩した。
父の条件は“門通い”
父は森同行を即許可せず、門まで通って歩行力を付けることを条件に提示した。マインは森が遠のいたと感じつつも、預け先のゲルダの元へ行かずに済む現実的な妥協として受け入れた。
オットー公認ルートの成立
父は門通いの目的として、オットーから文字を習うことを提案した。オットーが「頭を使う仕事のほうが体への負担が少ない」と父へ説得しており、将来の仕事を見据えて文字習得を勧めたため、父はオットーとの繋がりを大事にすべきだと考えを改めた。父は代筆屋のような仕事の存在にも触れ、オットーが元旅商人で商業ギルドと繋がりがある点を評価した。
門まで歩く現実と“抱っこ移動”
マインは昼番の父と手を繋いで門へ向かうが、少し歩くだけで息が切れ、結局父に抱き上げられて移動する。マイン自身も「家族の判断が正しい」と痛感し、森同行の難しさを認める形になった。
兵士見習いの授業に“助手枠”で参加
門では洗礼式を終えた見習いが五人おり、文字を教えるのがオットーの仕事だった。マインは兵士見習いではなく「オットーの助手」として参加する扱いとなり、給料は石筆、体調不良時は休みという条件が整えられた。背景には、マインが以前オットーの会計関連の計算確認を手伝った実績があり、オットーが「負担軽減のため育てたい」と上司へ話を通した事情があった。
授業の組み立てを提案し、場を回す
オットーの授業が始まると、マインは見習いたちの集中が切れる様子を見て、短時間で区切り、文字練習の次に計算や地図、心得、運動を挟む進め方を提案した。マインは「苦手意識を持たせない」「一度に教える量を抑える」考えで解散させ、次回までの宿題として習った文字と数字の習得を促した。
個人授業の深化と“仕事用語”偏重
見習い解散後、オットーはマインに単語を教え、マインは石板で練習した。教えられる単語は備品ではなく書類関連の語が多く、オットーが書類作成の戦力として本気で育てる意図が透けた。
帰路の試練と子供社会の洗礼
閉門前、森帰りの子供たちと合流して帰るが、採集帰りの集団は自然に足が速くなり、マインは置いていかれそうになる。トゥーリは年長として集団の面倒を優先し、ルッツがマインに付き添ってゆっくり歩いた。マインが文字を習っていると知ったルッツは強く驚き、名前が書けるだけでも尊敬対象になるこの世界の価値観が示された。
体力づくりは“行って寝込む”の反復
帰宅後、マインは疲労困憊となり熱を出して寝込むが、回復期間は徐々に短くなった。門通いを繰り返すうちに、休みの間隔が縮まり、最終的に門まで自力で歩ける日が増え、家族も成長を祝うようになった。
森への許可獲得
門通い開始から三か月が経ち、春の終わりにようやく森へ行く許可が下りた。マインは体力の向上と、門での学習と助手経験を積み上げた末に、念願の“森への一歩”を手に入れた。
メソポタミア文明、万歳
初の“自力で森”と過保護な安全目標
マインは初めて自分の足で森へ向かう日を迎え、小ぶりの籠と木べらみたいなスコップを携行した。父は「今日は森に行って帰るだけ」「森では休憩し、帰りは荷物が増える子供たちに合わせて無理をしない」と念押しし、トゥーリにもルッツと相談して閉門までに帰れるよう頼んだ。採集隊はフェイ先頭、トゥーリ最後尾の並びで、マインはルッツのペースで歩いた。
ルッツとの関係強化と“食”の恩義
道中、マインは以前ルッツ家の食事情を助ける形で、パルゥの搾りかす処分の場で“量増し料理”を教えたことが語られる。男の子たちが泣くほど満腹になった経験が、ルッツ側の恩義として残っており、ルッツは「世話になってる」と監視役を引き受ける理由にもなっていた。
森で休憩…のはずが、粘土への執念が暴走
到着後、マインは疲れて石に座って休むが、ルッツから「トゥーリが洗礼式後に見習い仕事を始めたら、森に一人で行く日が増える」と現実を突きつけられ動揺する。ルッツは「守ってやる」と言い残し薪拾いへ行くが、周囲が無人になるとマインは即座に穴掘りを開始し、粘土質の土を探し始めた。木べらスコップでは土が硬すぎて全然刺さらず、マインは削るように少しずつ掘り進める。
ルッツの尋問と“条件付き協力”
薪を抱えて戻ったルッツは、約束違反の穴掘りを見つけて激怒し、目的を問い詰める。マインが「粘土質の土が欲しい」と説明すると、ルッツは「木や草が少ない場所に多い」と場所の見当を付けた上で、マインを制止し「薪拾いが終わったら俺が掘る。その代わり用途を言え」と交渉する。理由は、無駄を省いて効率よく手伝うためであり、恩義として以前のパルゥケーキ(パルゥ系料理)を挙げた。
力技で粘土発掘、粘土板づくりへ
ルッツは木べらスコップで土を掘り進め、十五センチほどで土色の変化を引き当てる。マインが握って確かめ、冷たく重く形が作れる粘土だと断定する。マインは粘土をこねて薄い板を作り、拾った細木で日本語の物語を刻み始める。文字として記録し、後で読み返せることの価値を語り、粘土板にびっしり刻んで十枚規模の大作に到達する。
完成の絶叫と最悪の事故
「完」を書いて達成感に震えた直後、マインは振り返って絶叫する。フェイと子分たちが粘土板を踏みつけ、前半が足跡だらけで崩壊していた。ルッツが駆け寄り、怒りも悔しさも理解しつつ「怒っても戻らない、作り直そう。俺も手伝う」と提案する。トゥーリも「今からなら閉門に間に合う」と取りなし、フェイ達も大慌てで謝罪する。
怒りの噴火と“合理性”への着地
マインは、森に来るまでの三か月の努力、体力作り、ルッツとトゥーリを巻き込んだ工程を踏みにじられたとして号泣し、フェイ達を睨みつける。トゥーリは宥めようとするが収まらず、最終的に「もう一回作る」と作業へ戻る一方、「二度目があると思わないでね」と釘を刺す。結果としてマインは子供社会で「怒らせてはいけない相手」として突出した扱いになった。
粘土板はダメだ
粘土板の再挑戦と制止
森で粘土板作りに挑戦し激しく感情を爆発させた結果、わたしは高熱を出して倒れた。数日間うわごとで「粘土板」と呟き続け、ようやく熱が下がったものの、父の判断によりすぐに森へ行くことは許されなかった。体調を最優先とする条件付きで、翌日に備えることとなった。
準備と天候による挫折
森行きに備えて籠や布を準備したが、翌朝は激しい豪雨となった。嵐の中で外出することは許されず、森に残してきた粘土板が崩れてしまうことを想像して落胆した。雨は数日続き、その間、森へ行くことはできなかった。
再び森へ
天候が回復した後、再び森へ向かうことが許された。嵐の爪痕が残る道を進み、以前粘土板を置いた場所を探したが、倒木などにより場所の特定は困難であった。仲間たちの協力で粘土板の痕跡は見つかったものの、雨により形を失っていた。
再制作への決意
粘土板が失われたことに落胆するが、ルッツの言葉を受け、再度作り直す決意を固めた。粘土の場所は把握できており、天候も安定していたため、前回よりも条件は整っていた。トゥーリは採集に向かい、ルッツと他の子供たちが粘土板作りを手伝う体制となった。
粘土板の完成
役割分担のもとで作業は進み、粘土板は順調に成形された。わたしは木の棒で文字を刻み、母から聞いた物語を書き留めていった。完成した粘土板は布に包んで籠に収められ、初めて形ある「本」として完成した。
焼成の失敗
粘土板を保存するため、竈で焼くことを試みたが、粘土板は破裂し、粉々になった。この出来事により、粘土板作りは危険と判断され、母から二度と行わないよう厳しく叱責され、約束をさせられた。
トゥーリの洗礼式
粘土板制作の頓挫と次の模索
粘土板を焼成して保存する試みは爆発事故により失敗し、危険性から制作自体が禁止された。本作りは行き詰まり、新たな手段を見いだせないまま時間が過ぎ、トゥーリは七歳を迎えた。
洗礼式という節目
この街では七歳になると洗礼式を受け、見習いとして働く資格を得る慣習があった。洗礼式は季節ごとに神殿で行われ、街全体で祝われる行事である。マインは年齢と体調の都合により神殿内には入れず、父も当日は上級貴族招集の会議で参加できなかった。
家族の朝と父の葛藤
父は洗礼式に出席できないことを嘆き、仕事に向かうことを渋ったが、マインとトゥーリの説得により、途中まで同行する形で家を出た。トゥーリは父を気遣い、家族全員での夜の祝いを約束させた。
トゥーリの晴れ支度
マインはトゥーリの髪を丁寧に結い、編み込みのハーフアップに髪飾りを添えた。母も一張羅の服に身を包み、家族揃って洗礼式の行列へ向かった。
街全体の祝福
井戸の広場には多くの人々が集まり、洗礼を受ける子供たちに祝福の言葉がかけられた。トゥーリの装いと髪型は注目を集め、女性たちや子供たちから称賛を受けた。マインは体調と事情を理由に、他の子供の髪を結う依頼を断り、後日見本を示す形で教えることを提案した。
行列と別れ
鐘の音を合図に洗礼式の行列が出発し、子供たちは大通りを進んで神殿へ向かった。途中で父は仕事のため行列を離れ、マインと共に門へ向かった。
門番での仕事と読み書き
門では父の不在中、マインがオットーの助手として書類の読み取りを補助した。貴族の紹介状を読み、適切な対応を指示することで兵士の業務を助けた。
洗礼式後の帰宅と祝い
会議を終えた父と共に帰宅し、夜は家族でトゥーリの洗礼と誕生日を祝った。食事は限られた材料で工夫され、トゥーリには見習い用の仕事着と道具が贈られた。
マインへの贈り物
トゥーリが見習いを始めることに伴い、マインにもナイフが与えられた。これにより、これまで赤子同然に扱われていた立場に変化が生じた。
黄河文明、愛してる
トゥーリ初出勤とマインの挫折
トゥーリが見習い仕事へ行った日に、マインは家の手伝いを任されるが、水運び・火起こし・調理補助の多くが思うようにできず落ち込んだ。井戸の水は力が足りず何度も往復し、火打石の火花を怖がって手が止まり、包丁の重さや鶏の処理で動けなくなった。
家族の反応と評価
母は状況を説明し、トゥーリは現実的に「このままでは雇われない」と指摘した。父は「元気になってきたことが十分だ」と語り、門での書類仕事なら雇えると述べた。マインは門でオットーの手伝いをしていることを説明しつつ、自分は本に関わる仕事を望むと主張したが、周囲には通じなかった。
薪拾いとトゥーリの技能
マインは薪拾いに出て、到着後に休憩を挟みながら作業した。トゥーリは刃物で枝を切る手際を見せ、マインはその作業を見て感心した。
ナイフで木簡作りを開始
休憩中、マインはナイフを取り出し、細い枝を削って木の皮を剥き、中の面を平らにする作業を始めた。自分の手では細い枝しか扱えず、木簡は一本につき一行程度になるため数が必要だと考え、木簡を量産する方針を立てた。
ルッツの合流と観察
薪を集め終えたルッツが現れ、マインが粘土板の代わりの記録媒体を作っていると見抜いた。マインは作っているものが「木簡」であり、そこに字を書くために多く必要だと説明した。
交換条件とオットーへの接触希望
ルッツは木簡作りを手伝う代わりに、旅商人の話を聞きたいとしてオットーに会わせてほしいと頼んだ。マインは忙しい相手だと前置きしつつ、頼んでみると答えた。
共同作業と木簡の増産
二人は会話少なめのまま木簡作りを続けた。ルッツは太めの枝から大きめの木簡を作り、マインはその表面を削って整えた。
インクの課題と交渉案
木簡は用意できたが、文字を書くためのインクが手元にない。門ではインクが羊皮紙と共に厳重に保管されていることを思い出し、インクが高価なのではないかと推測した。マインは、石筆ではなくインクを報酬としてもらえないかオットーに交渉する案を考え、ルッツの件も併せて伝えるつもりになった。
インクが欲しい
門での勉強と旅商人の相談
トゥーリが仕事の日、マインは門で単語や計算の練習をしつつ、オットーに話しかける機会をうかがった。オットーに「旅商人のなり方」を尋ねると、オットーは強く驚いたが、マイン自身ではなく友達の相談だと分かると「止めた方がいい」と即答した。旅商人は親から反対されやすく、生活基盤やコネが必要で、街の子が突然なれる職業ではないという見立ても語られた。
インクの譲渡交渉と価格の壁
マインは続けて、インクを譲ってもらえるか、あるいは石筆の給料をインクにできないかを尋ねた。オットーは条件として「三年ただ働き。前借り不可」と提示し、インクが高価で子供のおもちゃにできる値段ではないと説明した。マインは木簡を作ったのに書けない状況に悔しさを覚え、インク入手は困難だと理解した。
ルッツの面会調整
オットーは、マインが世話になっている金髪の少年がルッツだと見当をつけ、今が一番暇な季節なので休日に会う提案をした。マインは旅商人が難しくても、商人見習いなら街を出る機会が得られる可能性があると考え、その現実をオットーから伝えてもらう意図を語った。
「作るしかない」という結論
インクを買う・拾う・もらう・盗む・作るという選択肢を考え、盗みは避けて「作るしかない」と判断した。インクの作り方は不明で、顔料と油という知識はあるが、入手手段が分からない状態だった。
煤と灰の候補、母の判断
マインはルッツに相談し、黒いものとして「煤や灰」を提案され、まずは家庭で入手しやすい材料として試す方針を立てた。母に灰の使用許可を求めると、灰には石鹸・雪溶かし・染め物・販売など用途が多いとして却下された。煤は許可され、竈と煙突の掃除で煤を集める流れになった。
煤回収と体調悪化
マインは雑巾服を作ってもらい、髪もまとめて竈と煙突を掃除し、煤を回収した。作業に夢中になりすぎて熱を出して倒れたが、煤は確保できた。
煤インク試作と失敗
回収した煤を水で溶いて混ぜ、先を削った棒で木簡に書こうとしたが、煤は溶けにくく、棒に付着して字が薄く読みにくかった。油で溶く方法も考えたが、植物油も動物油も家庭で不足気味で頼めないと判断した。
代替案として「煤鉛筆」
液体にこだわらず、鉛筆の芯のイメージから「粘土と煤を混ぜる」案に切り替えた。以前の粘土が残っている場所から粘土を取り、煤を混ぜてこね、細く丸めて鉛筆状にし、乾燥させることにした。焼く案も出たが、爆発を警戒して乾燥で固める方針を選んだ。
お料理奮闘中
料理番の担当開始と現実の壁
トゥーリが働き始めたことで、マインにも料理番が回ってきた。しかし包丁が重く、火も扱いにくいため、現時点で一人で全工程はできず、母と一緒に作る形になった。和食への憧れは強いが、米・味噌・醤油・味醂・日本酒などが手に入らず、調味料の欠如が最大の障害になった。
発酵調味料の自作を断念
味噌や醤油の材料や手順の知識はあるが、この世界で大豆や麹の入手先が分からず、麹が「黴」であることから失敗による危険も恐れた。住環境の衛生面や臭いの問題もあり、醸造は現実的でないと判断した。
和食代替案の失敗と渇望の増幅
刺し身を塩と柑橘で食べる案を考えるが、海が遠く市場に新鮮な魚や海藻がなく断念した。昆布・鰹節・干しエビなど出汁系も存在せず、和食が成立しないことが痛手になった。きゅうりもどきとワインビネガーで酢の物風に試すが、醤油や砂糖がなく風味が合わず、塩揉みきゅうりもどきで一時的に和食気分を狙うも、逆に白米への渇望が強まり失敗した。
川魚への挑戦と二連敗
魚を釣って干物にしようと考え、ルッツに相談して釣りに挑むが惨敗した。ルッツが釣った魚を塩焼きにすると泥臭く苦く、食べ方が悪いと指摘される。もう一尾を干して干物を作るが、乾燥しすぎてカチカチになり、母に気持ち悪がられて出汁利用も却下された。和食化の試みはここで一度折れる。
鳥一羽の入手と“出汁”への再挑戦
近所から鳥を一羽もらい、母が捌き、マインは羽むしりを担当した。泣きながらも作業を続け、内臓処理の耐性が上がった自覚も得た。マインは鳥ガラでスープを取り、干し茸もどきの出汁と合わせて料理の幅を広げようと考えた。
鳥ガラスープ作りと不思議食材の洗礼
鳥ガラスープを母が理解できず最初は非協力だったが、説得して鳥ガラのぶつ切りだけはしてもらう。大鍋に水・鳥ガラ・ささみ・ハーブ類を投入し、臭み消しを総動員した。白ラディッシュの葉を切ろうとして母に止められ、切った瞬間に「ぎゃっ」と声のようなものが聞こえ、赤くにじむ不気味な変化も起きた。マインは母の方が凶暴に見えると感じつつ、この世界の食材の異質さを再認識した。
ポメ鍋の構築と家庭内の調理観の衝突
スープを灰汁取りしながら煮込み、ざるで濾してスープを整えた。鳥ガラから肉をほじって鍋に投入しつつ、ポメ(見た目は黄パプリカ、味はトマト)とハーブでトマト鍋風にする。母は野菜を別鍋で湯がいて湯を捨てるのが普通だと主張し、直投入に驚くが、マインは譲らず完成させた。
香りの拡散と食卓での成功
鳥ガラスープの匂いが大通りまで届き、帰宅したトゥーリや父も匂いで期待を高めた。食卓にはローストチキン、サラダ、内臓の塩焼き、ポメスープ(鍋)が並んだ。家族はスープを高く評価し、母も不安だった工程に反して美味しいと認めた。父は料理の才能を褒めたが、マイン自身は和食にならない点で満足できなかった。
翌日の第二回: 酒蒸しとニョッキ
残り肉を使い、鳥の酒蒸しとニョッキ、サラダを作る。ニョッキは芋と塩と雑穀粉で生地を作り、フォークで成形して茹でた。ポメソースを作って絡める準備も整えた。酒蒸しはムネ肉を皮面だけ炙り、酒を入れて蓋をし、余熱で火を通す方式を採用した。
“踊る茸”と世界のルール
採ってきた茸を切ろうとすると、トゥーリが「一度火であぶらないと踊る」と止め、茸を串刺しにして炙ってから渡した。マインは意味を理解しきれないまま従い、異世界の食材ルールを受け入れる。
味の成功と“秘蔵酒”事件
酒蒸しは柔らかく仕上がり、茸も味が染みて家族に好評だった。使った酒が蜂蜜酒で甘みが深みを出したと分かり、父は減った瓶を見て「秘蔵の酒」を失ったことに嘆いた。母は皆で美味しく食べる方を選び、マインもその空気に従った。
継続する不満と調味料への渇望
芋グラタン、蕎麦っぽい穀物のリゾット風、雑穀パン生地のキッシュ風なども好評だったが、マインは香辛料や調味料が乏しく味が似通うことに不満を抱いた。最低限、胡椒を求め、さらにカレー粉まで欲しがり、食生活改善の挑戦は続いていく。
木簡と不思議な熱
煤鉛筆の成功と木簡の量産
煤鉛筆は乾燥で固まり、布を巻いて手が汚れないようにし、先端を削って文字を書ける状態になった。崩れやすいが筆記具として成立し、マインは喜び、木簡も薪拾いのついでに増やしていった。嵩張る問題はあるが、粘土板と同様に「独り立ちまでの辛抱」と割り切っていた。
木簡消失と“薪”扱いの悲劇
ある日、木簡が忽然と消え、母に尋ねると「拾ってきた薪」と認識されて使われたと判明した。マインは、木簡が寝る前の物語集であり、わざわざ分けて置いていたと訴えるが、母は「寝る前の話ならまたしてあげる」と受け止め、意図が通じなかった。木簡は一つも残らなかった。
気力の断絶と不思議な熱の暴走
「作っても燃やされる」と思った瞬間、マインの気力が抜け、そのタイミングで体内の熱が急激に暴れ出した。興奮や疲労で熱が出るまでの時間が圧縮されたような感覚で、痺れと脱力が起き、倒れて高熱にうなされた。熱は“体内を巡り、意識を呑みこむ”ように感じられ、マインは「本当のマインはこの熱に呑みこまれたのでは」と理解した。
ルッツの存在が意識を引き上げる
うなされる中で家族の顔が見え、なぜかルッツの顔があった。ルッツに焦点を合わせようとすると意識が浮上し、目覚めたことをルッツが母に知らせた。マインは喉の痛みと粘つき、体を拭きたいことを訴え、水を頼んだ。
“燃やされない素材”への転換案と竹簡
マインが木簡を燃やされたことを嘆くと、ルッツは「燃やされない素材にすればいい」と提案した。マインは素材の候補が浮かばず、ルッツが「竹」を挙げると、竹は燃やすと爆ぜて危険だから簡単に燃やされないという発想に繋がり、希望が湧いた。希望と連動するように熱が小さくなり呼吸も楽になった。ルッツは竹を採ってくると約束し、マインは感謝した。
竹の持ち帰りと母の“薪誤認”
二日後、ルッツは竹を竹簡に適した大きさに切り、表面も削った状態で持ってきた。「熱が下がるまで触るな」と釘を刺しつつ、マインは一本だけ握り、残りは物置に置いてもらった。完全回復後に書く決意を固めた。
破裂音と竹の焼却
うとうとした瞬間、台所から断続的に爆ぜる音が響いた。母は慌てて飛び込み「ルッツは何を持ってきたの」と問い、原因は竹を薪として焼いたことだと分かった。皮を剥いだ状態だったため、母は竹を薪と誤認した。
竹と“バニヒツの木”の取り違え
母は「竹とバニヒツの木は繊維が似ている」と説明し、冬の手仕事でトゥーリが籠作りに使っていた木だと明かした。マインも皮を剥ぐと竹に似て紛らわしいことを思い出す。母は危険だから竹を家に持ち込むなと念を押し、マインは小さく承諾した。
再燃する高熱と感情の沈降
木簡を燃やされた怒り、理解されない悔しさ、何度挑戦しても残らない絶望が積み重なり、マインは再び熱に呑みこまれた。今度は怒りすら湧かず、無気力が広がっていく。病弱さと環境の不利を嘆き、努力が無駄なら熱に身を委ねてもいいという思考に傾き始めた。
“約束”が熱を押し込める
ただ一つの心残りとして、ルッツへの謝罪と、オットー紹介の約束が残っていた。ルッツが先払いまでしている事実が、熱に呑まれて逃げることへのブレーキになる。マインは「約束を果たしてからでも遅くない」と自分に言い聞かせ、熱を押し込めていった。
黒歴史のフラッシュバックで生存確定
前世で地震死した際に身辺整理できなかったことを思い出し、処分できていない黒歴史の存在が一気に蘇った。「死んでる場合じゃない」と飛び起きた時、体内の熱はかなり小さくなっていた。
会合への道
宿直室での再会と相談
外出許可が出たマインは門の宿直室でオットーと会い、熱で約束の休日を潰したことを謝った。オットーは五日も熱が下がらなかったと聞いて体調を確認し、顔色の悪さを指摘した。マインは「解決しない悩みがある」と切り出し、自分の力では作れないほど今すぐ欲しい物があること、成長を待てない不安を打ち明けた。
オットーは即答で「自分でできないなら、できるヤツを雇えばいい」と言い、続けて「金がないなら、できるヤツを誘導して自主的にやらせる」と商人らしい発想を示した。マインはその黒さに内心震えつつ、参考にする、と返した。
会合の日時決定と不穏な期待
オットーは勉強に戻す合図として石板を渡しつつ、ルッツとの会合を「明後日の休日、中央広場、三の鐘の頃」に設定した。マインは石板の隅にメモし、オットーの「楽しい会合になりそうだ」という笑顔に危険を感じる。会合の意味が分からないまま今さら聞けず、冷や汗をかきながら単語練習を続けた。
父の説明で発覚する“面接”の重さ
帰り道でマインが「紹介に意味があるのか」と父に尋ねると、父は「見習い先探しでは」と推測し、見習いを抱えることの重さを説いた。マインは会合が“話を聞くだけ”ではなく、就職の斡旋に近い面接だと理解し、事態の重大さに青ざめた。
前日の身だしなみ強化作戦
翌日、マインは森へ向かい、道中でルッツに竹簡を燃やされた件を謝り、会合が明日だと伝えた。ルッツは「間違えることもある」と受け流し、会合が決まったことを素直に喜んだ。
森では川へ連れて行き、桶や布や櫛、簡易ちゃんリンシャンを持参してルッツを徹底的に洗わせた。マインは「第一印象が大事」「オットーは損得で判断する」「準備不足なら二度目はない」と現実を叩き込み、ルッツに志望動機と目的を考えさせた。ルッツは「マインは何をするのか即答できるのか」と問うが、マインは「紙を売り、作り手を雇う(教える)ことで本へ繋げる」と具体的に答え、ルッツも考える姿勢を見せた。
晴れ着は借りられず、早すぎる集合へ
ラルフの晴れ着は汚されるのを嫌がられて借りられなかった。二人は普段の服のままだが、いつもより整えた状態で中央広場へ早めに向かった。ルッツは早すぎると文句を言うが、マインは「遅れる方が致命的」と押し切った。
美容トラブルの後始末と“取引”の芽
艶々の金髪を見たカルラに詰められてルッツが「マインにしてもらった」と言ってしまい、マインは面倒を予感する。簡易ちゃんリンシャンは貴重で、カルラに渡すのは惜しいと内心で線引きしつつ、ルッツには世話になっているから使ったと認めた。さらにマインは「油が搾れないから、自分の分も作ってくれればいい」と言い、ルッツは「そんなことか」と笑って受け入れた。
面接官が増えた瞬間
やがてオットーが現れ、広場を見回してからこちらを見つけると、別方向へ手を振り、もう一人の男を連れてきた。二人の親しげな様子から、その男がオットーの知人の商人だと分かる。商人は値踏みするように鋭い目を向け、マインは無意識にルッツの手を握り「まずは挨拶」と促した。マインは、曖昧な指定で“時間厳守できるか”試されていたと確信し、面接官が増えたことに緊張を深めた。
商人との会合
会合の開始とベンノの威圧
マインは、オットーとその友人ベンノの身なりが上等であることから、晴れ着で来た方がよかったと感じた。ベンノは柔らかな容貌に反して自信に満ちた赤褐色の瞳を持ち、伸び盛りの商人らしい迫力を漂わせていた。
マインは敬礼で挨拶し、ルッツも怯まずに自己紹介を済ませる。オットーはベンノへ、マインが班長の娘で読み書きを教えていることを説明し、ベンノは洗礼前の子が助手候補である点に関心を示した。
簪と髪から始まる“値踏み”
ベンノは面接前にマインの頭の簪に食いつき、マインは「響」として髪をまとめる道具だと説明して実演した。続いてベンノはマインの髪に触れ、何を付けているのか追及する。ルッツも同じものを付けていると知ると、ベンノは苛立ちを見せたが、マインは詳細を「秘密」として手札を切らず、笑顔の応酬で受け流した。
旅商人の道を即座に否定
本題に入り、ルッツが旅商人志望を口にしようとすると、オットーが遮って「市民権を手放すのは馬鹿」と断じた。マインは市民権の意味を尋ね、オットーは洗礼で登録される「街に住む権利であり身元証明」で、仕事・結婚・家の契約に影響し、外から取得するには莫大な金が要ると説明した。
オットー自身も市民権を買った経験があり、ベンノはそれがコリンナとの結婚のためで全財産を投入したと補足した。オットーは旅商人の生活の厳しさや、水場の確保が最初の課題になること、旅商人の夢は最終的に市民権を得て街で安全に商売することだと説く。そして「旅商人には見習い制度がない。やるなら自分で始めるしかない」と結論づけ、ルッツに諦めろと告げた。
オットーの暴走する恋物語
マインが「なぜ兵士になったのか」と尋ねると、オットーは「コリンナと結婚するため」と言い切り、出会いから口説き、市民権を買い、兵士になり、婿入り同然で結婚した経緯を情熱的に語り始めた。ベンノは疲れた様子で制止し、本題へ戻すよう促した。
脱線の末、ルッツは「旅商人は無理」を叩き込まれて落ち込み、項垂れた。
商人見習いへの切り替えとベンノの圧迫面接
マインは旅商人ではなく商人見習いを提案し、市民権を捨てる危険も踏まえてオットーの商人仲間への紹介を相談しただけだと説明する。ベンノが「商人になりたいのか」と問うと、ルッツは肯定し、面接相手がベンノであると認識する。
ベンノは即座に「何が売れる。何を売りたい」と問い詰め、答えが出ないなら終わりだと突き放す。ルッツが詰まったところで、マインは小声で「紙、作る?」と提案し、ルッツは「やる」と即答して、マインの考えたものを作ると宣言した。
紙の提案で猶予をもぎ取る
マインは「動物の皮ではない紙を作って売りたい。羊皮紙より製作費が安く利益が出る」と述べ、ベンノの警戒と関心を引き出した。現物はないが「春までに試作を作る。使えるかで判断してほしい」と条件を提示すると、ベンノは渋々ながら猶予を与えた。
マインは司書志望も口にするが、貴族の領域だと笑われ、身分差への苛立ちを抱く。それでも“挑戦の機会”を得たことを勝利と捉え、ベンノとオットーに礼を述べた。オットーも「楽しい休日だった」と満足を示した。
熱の病の相談と情報なし
解散前、マインは体内の熱が広がったり小さくなったりする症状について心当たりを尋ねるが、オットーもベンノも知らないと答えた。マインは病気の手掛かりは得られなかったものの、条件付きで商人への道と紙作りの協力者を得たことを前進とし、ルッツと共に紙作りを頑張ると確認して歩き出した。
エピローグ
帰宅と“いじめの戦果報告”
会合後、オットーはベンノを連れて帰宅し、妻コリンナに出迎えられた。コリンナは「洗礼前の子供をいじめてよく笑っていられる」と刺し、オットーは甘ったるく抱き寄せて応接室へ向かったが、ベンノにげんこつで制止された。応接室は商談用で、見本やタペストリーが飾られた色彩のある部屋であった。
マインの“異様さ”の棚卸し
オットーは会合が予想以上に面白かったと語り、コリンナもマインの聡明さを知っている様子を見せた。ベンノもまた、マインが本当に兵士の娘なのか疑いを口にし、外見の不自然さを指摘した。
具体的には、継ぎ接ぎの服なのに肌と髪が不釣り合いに綺麗で、貴族の娘のように生活感のない手をしており、歯も白いという点である。コリンナは髪の艶に過剰反応し、何を付けているのか知りたがったが、ベンノは教えてもらえなかったと答え、オットーも今後は警戒されて聞き出せないだろうと見た。
外見以上に危険な“商人適性”
ベンノは、異常なのは外見ではなく、姿勢・口調・胆力・情報を伏せる判断・交渉の組み立て・ハッタリの度胸だと断言した。ベンノに睨まれても目を逸らさない点は、コリンナにとって決定的に“普通ではない”材料になった。
さらにオットーは、マインが石筆の扱いを最初から知っているように書けたこと、計算能力が桁違いであること、そして書類仕事を「七割方」任せられるほどだと明かした。加えて、貴族の紹介状を持つ客への対応を、待合室の使い分けと説明で丸く収め、報告も正確に通して混乱を防いだ件を語り、マインが実務面でも異常に優秀だと示した。
ベンノの“抱え込み宣言”とオットーの抵抗
ベンノは、羊皮紙ではない紙、簪、髪の艶を出す手入れなど、マインが隠している商品価値の種が多いと見て「余所にやれない」と抱え込みを宣言した。オットーは自分の助手だと反発し、特に決算期の戦力として譲れないと主張した。
ベンノは商業ギルドと契約させて囲う案を出すが、オットーはマインの虚弱さを理由に反対する。暖炉の部屋に置いても倒れる、門まで歩けず抱えられて来る、倒れたら数日寝込むなど、生活に直結する弱さが語られ、ベンノも想定以上だと顔色を変えた。
“熱の病”の正体候補としての身食い
オットーは会合で聞かれた「体内の熱がうごめく」症状を思い出し、ベンノに心当たりを尋ねた。ベンノは確証はないと前置きしつつ、「身食い」かもしれないと口にした。
それは病気ではなく、体内の魔力が増えすぎて本人を蝕み死に至る現象であり、貴族以外にも魔力持ちはいるが、魔術具が高価で平民は扱えず、洗礼式まで持たずに死ぬ例が多いという。身食いなら小柄さや虚弱さは説明でき、魔術具がなければ近いうちに死ぬ可能性があるとベンノは述べた。
回避策としては貴族と契約し魔術具を借りる方法があるが、その場合は一生貴族のために力を使わされる「飼い殺し」になり得るとされ、オットーは救いにならない選択肢に動揺した。
不確定のまま残る不安
ベンノは「まだ身食いと決まったわけではない」と釘を刺し、もし本当に身食いなら外を歩き回れる状態ではないはずだと述べ、過度に深刻になるなと抑えた。それでもオットーの胸には、安堵と不安が同時に残り、酒で飲み下すしかなかった。
マインのいない日常
森へ向かう朝とマインの不在
ルッツは兄ラルフに呼ばれて慌てて支度し、森へ向かう子供たちの集合場所へ走った。集合場所には洗礼を終えたフェイやトゥーリもおり、久しぶりに昔の顔ぶれが揃った雰囲気になった。ルッツはトゥーリにマインの容体を尋ね、マインが木を削って「モッカン」を作っていた疲れで倒れ、三日目でも高熱が下がらないと聞かされる。ルッツは「まだホンを作ってないから簡単に死なない」と言い、マインとの約束を根拠に回復を信じた。
移動の軽さとルッツの本音
出発すると「マインがいないと速く歩ける」という話題が出て、トゥーリもマインの遅さを認めつつ笑った。ラルフはルッツがマインの世話をしていることをしみじみ大変だと言い、ルッツは少し反発しながらも受け流した。
ラルフに「マインの良いところはどこだ」と問われたルッツは、旅商人の件を隠し、昼飯を分けてくれることや美味いレシピを教えてくれることを挙げた。マインと一緒だと昼飯が増えるという利点が、ルッツの率直な動機として語られた。
シュミル狩りと解体の失敗
森ではシュミルを見つけ、鳴き声の真似で追い立てて網へ追い込む段取りが取られた。ルッツとフェイが追い役、トゥーリとラルフが網役となり、最終的に六匹を捕らえた。川辺で解体に入るが、トゥーリは魔石を溶かしてしまい落ち込む。ラルフは自分の獲物を一匹譲って助け、トゥーリはお礼に魔石を渡した。フェイもマインを連想する冗談を言ってトゥーリを動揺させ、さらに自分も手元を狂わせて失敗し、舌打ちしながら片付けた。
換金と東側の寄り道
ラルフはルッツに魔石の換金を任せ、ルッツとフェイは石屋へ急いだ。店主はシュミルの魔石だと見抜き、解体失敗の小さな魔石として中銅貨一枚で買い取った。フェイはその金で東側へ寄り、ランシェルを二つ買って一つをルッツに投げ渡し、二人は果物を食べながら帰路についた。六の鐘が鳴り、帰宅する人で通りが埋まったため、二人は薄暗い路地へ入って近道を選んだ。
フェイの恐怖とルッツの対処法
薄暗い路地でフェイは、マインを怖いと思わないのかとルッツに打ち明けた。フェイは、マインの目が虹色になって睨まれた時に息ができないほど苦しくなり、今も思い出すと怖く、薄気味悪いと感じていると語った。
ルッツは、マインは殴るような分かりやすい手段を取らず、頭の作りが自分たちと違うところが怖いのだと整理したうえで、怒らせなければいいと答えた。マインが怒るのはホンに関することだけだとルッツは断言し、フェイは関わらないようにすると決めて少し安心した。
夜空の連想
フェイとルッツはランシェルの芯を捨て、空が濃くなっていくのを見上げた。ルッツは、青さを増す空がマインの髪の色に近いと感じ、そこに上がる月をマインの目の色に似ていると重ねた。
変わらぬ日常
現在の旅行と図書館の定番
修は旅行先の図書館で麗乃を降ろし、閉館まで迎えに来ると念押しして自由時間を確保した。麗乃は髪型や服を整えられていても意に介さず、本を読むことだけに全力で図書館へ突撃した。修は閉館時刻を確認してアラームを設定し、十年ぶりの場所の空気を確かめるように周辺へ向かった。
十年前の学会旅行と探検ミッション
修は十年前、母の学会旅行に便乗して同じ場所へ来ており、その時は探検気分で胸を躍らせていた。母は地図と方位磁石と金を渡し、車が来ない範囲を示した上で、プラネタリウムまで辿り着いて入場券を持ち帰れと課題を与えた。修は勇者気分で出発し、念のため隣室の麗乃母にも出かける旨を伝えに行った。
麗乃の介入と図書館への隔離
修は麗乃も連れて出ることになったが、麗乃は早速デパートの本屋を指差して寄り道を要求した。修はプラネタリウム優先を貫き、麗乃が本を出し始めるのを止めて中央公園方面へ引っ張っていった。途中で図書館を見つけた麗乃が食いついたため、修は迎えに来るまで動くなと麗乃を図書館に置き、単独の探検に切り替えた。
プラネタリウムより科学館で遊び倒す
修は銀色の地球儀の施設へ到着すると、プラネタリウムではなく体験型の展示で遊ぶ方に夢中になった。見知らぬ子供と競争したり発電自転車をこいだりして閉館まで満喫し、外へ出た時には秋の夕暮れで辺りが暗く冷え込んでいた。修は急いで図書館へ戻ったが、図書館は閉館しており、麗乃の姿も見当たらなかった。
行方不明騒動と本屋説
修は麗乃がホテルへ戻ったと考えて走ったが、部屋に麗乃はいなかった。修が図書館に置いてきた事情を話すと、本屋に向かった可能性が浮上し、母とデパートの本屋を捜索した。しかし見つからず、店員から別の本屋の情報も得たが、修は麗乃が見知らぬ場所で人に聞いてまで動くタイプではないと判断し、図書館前で待っていて誘拐された可能性を口にした。
警察と図書館の再開錠
麗乃には閉館作業で気付かれず図書館に閉じ込められた前歴があり、要注意人物として退出確認されることがあると語られた。母たちは警察に連絡し、図書館を開けてもらって捜索を開始した。図書館職員は閉館時の見回り済みだとしつつ、残っていたなら助けを求める手段もあるはずだと述べた。
窓際で読書継続というオチ
電気が点くと、麗乃は窓際の低い本棚の上で本を広げ、平然と読み続けていた。修は安堵より先に怒りが出て「図書館の中も真っ暗だ」と叱り、麗乃は字が読みにくいのは気付いていたと反論した。修は「気付いても読むのが問題だ」と罵り、十年前の一件が原因らしい立ち入り禁止の場所や鎖を見て、麗乃の伝説を実感した。
十年後の同じ光景と進歩ゼロ判定
現在に戻ると、修は明るいうちに迎えに来て麗乃を促し、麗乃も暗くなると反射的に警戒するようになったと語った。修は成長を感じかけたが、麗乃は本を片付けに行った直後に立ち読みを始め、修は即座に本を取り上げて強制退館させた。麗乃は本屋に行こうとデパートを指差し、修はホテルへ引きずって帰り、結局いつも通りの展開にちょっと泣きたくなった。
本好きの下剋上 シリーズ 一覧
兵士の娘

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神殿の巫女見習い

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領主の養女

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貴族院の自称図書委

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女神の化身

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ハンネローレの貴族院五年生

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その他フィクション

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