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アラフォー賢者の異世界生活日記フィクション(Novel)

「アラフォー賢者の異世界生活日記 2巻」【感想文・ネタバレ】

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アラフォー賢者の異世界生活日記

アラフォー賢者1巻レビュー
アラフォー賢者まとめ
アラフォー賢者3巻レビュー

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  1. どんなラノベ?
    1. ■ 作品概要
    2. ■ 主要キャラクター
    3. ■物語の特徴
  2. 前巻からのあらすじ
  3. 読んだ本のタイトル
  4. あらすじ・内容
  5. 感想
  6. 考察・解説
    1. ファーフラン大深緑地帯
    2. 騎士団の野生化
    3. クレイジーエイプの脅威
    4. 盗賊団の制圧
    5. 転生者との邂逅
    6. ゼロスの魔法指導
  7. 登場キャラクター
    1. 転生者・神々
      1. 大迫聡(ゼロス・マーリン)
      2. 入江澄香(イリス)
      3. 女神
      4. 邪神
    2. ソリステア大公爵家
      1. クレストン・ヴァン・ソリステア
      2. デルサシス・ヴァン・ソリステア
      3. ツヴェイト・ヴァン・ソリステア
      4. セレスティーナ・ヴァン・ソリステア
      5. クロイサス
      6. アーレフ・ギルバート
      7. ソリステア家の騎士たち
    3. エルウェル子爵家
      1. クリスティン・ド・エルウェル
      2. エドワルド
      3. イザート
      4. サイル
      5. コルサ
      6. ソクトー
      7. エルウェル家の騎士たち
    4. 教会・養護院
      1. ルーセリス
      2. メルラーサ司祭長
      3. カエデ
      4. アンジェ
      5. 養護院の子供たち
    5. ハンバ土木工業
      1. ナグリ
      2. バール
      3. ドーリル
      4. ユンボ
      5. ハンバ土木工業の職人たち
    6. 魔導具店
      1. ベラドンナ(キャンディー)
      2. クーティー
    7. 騎士団・衛兵
      1. マーカス・ヴィルトン
    8. 傭兵
      1. ジャーネ
      2. レナ
    9. 盗賊・裏組織
      1. 盗賊の頭
      2. 黒いローブの魔導士
      3. 軍事的な訓練を受けた男たち
      4. 盗賊たち
      5. 山賊たち
    10. その他
      1. 肝っ玉婆さん
      2. 宿の店主
      3. 商人たち
  8. 展開まとめ
    1. プロローグ おっさん、同情する
    2. 第一話 おっさん、引率する
    3. 第二話 おっさん、現実逃避する
    4. 第三話 おっさん、あの時を夢に見る
    5. 第四話 おっさん、同郷の者と邂逅する
    6. 第五話 おっさん、身の上話をする
    7. 第六話 おっさん、誘導する
    8. 第七話 おっさん、自宅建築現場へ赴く
    9. 第八話 おっさん、再び無職に・・・・・・
    10. 第九話 おっさん、米を簡単に発見する
    11. 第十話 おっさん、廃鉱山へ向かう
    12. 第十一話 おっさん、お節介を焼く
    13. 第十二話 おっさん、廃鉱山に入る
    14. 第十三話 おっさん、やらかす
    15. 第十四話 おっさん、テンションが上がる
    16. 第十五話 おっさん、さっさと帰宅する
    17. 短編 ルーセリスの一日
  9. 同シリーズ
    1. アラフォー賢者の異世界生活日記シリーズ
    2. 小説
  10. その他フィクション

どんなラノベ?

■ 作品概要

『アラフォー賢者の異世界生活日記 2』は、VRMMORPGの能力を持ったまま異世界に転生した40歳のおっさん主人公による、成り上がりファンタジーおよびスローライフを描いた作品である。
本作の世界は、剣と魔法が存在し、弱肉強食の過酷な自然や魔物が蔓延る世界である。公爵家の娘・セレスティーナとその兄・ツヴェイトの家庭教師となった主人公のゼロスは、二人に実戦経験を積ませるため、危険な魔物が跋扈する「ファーフランの大深緑地帯」へと足を踏み入れる。壮絶なサバイバル訓練を経て極限状態を生き抜いた一行は、帰路で盗賊に捕らわれていた人々を救出するが、その中にゼロスと同郷の転生者の少女・イリスがいた。さらに、新居の建築に伴うドワーフ職人たちとの土木作業や、ダンジョン化した廃鉱山での採掘と新たな出会いなど、ゼロスの規格外の力が周囲を巻き込みながら物語が展開していく。

■ 主要キャラクター

・大迫 聡(ゼロス・マーリン):
本作の主人公。ゲーム内で「大賢者」や「殲滅者」と呼ばれたトッププレイヤーであり、その能力を引き継いで転生した。平穏な農作業を望む小心者だが、強力な魔物を前にすると野性や殲滅者としての本能が目覚め、容赦のない広範囲魔法を放ってしまう。

・セレスティーナ・ヴァン・ソリステア:
ソリステア公爵家の娘でゼロスの弟子。ゼロスの指導により才能を開花させ、過酷な実戦訓練を通じて逞しく成長していく。魔法を人々の暮らしを豊かにするために使いたいと考えている。

・ツヴェイト・ヴァン・ソリステア:
セレスティーナの異母兄でゼロスの弟子。かつて魔法が使えなかった妹を冷遇していたが、己の過ちを悟り、彼女に謝罪して和解する。次期領主として、民を守るために戦う覚悟を持っている。

・イリス(入江澄香):
ゼロスと同じく地球から転生した少女。ゲームのプレイヤーであり、現在は傭兵として活動している。盗賊に捕まっていたところをゼロスたちに助けられ、彼の圧倒的な強さに憧れを抱く。

・アーレフ・ギルバート:
ゼロスたちの護衛を務める騎士の分隊長。大深緑地帯での過酷なサバイバルを経て、礼儀正しい騎士から血に飢えた野獣のような精悍な戦士へと変貌を遂げる。

・クリスティン・ド・エルウェル:
エルウェル子爵家の三女。亡き父の背を追って男装し、自分の剣を作るため廃鉱山へ採掘に来ていた。罠に落ちて絶体絶命のところをゼロスに救われ、彼から魔法の適性を見出される。

・デルサシス・ヴァン・ソリステア:
ソリステア公爵領の現領主。ゼロスが最適化した魔法スクロールを自身の商会で販売し、敵対する魔導士派閥の資金源を絶って領地の治安と経済を向上させる辣腕の持ち主。

■物語の特徴

本作の最大の特徴は、最強の力を持つ主人公が覇権などに興味を持たず、あくまで「平穏なスローライフ」を望むおっさんであることによる、周囲との激しいギャップである。大深緑地帯での訓練では、真面目な騎士たちが過酷な環境に適応しすぎて狂戦士のように野性化し、魔物を嬉々として狩る姿がコミカルかつ殺伐と描かれている。

また、魔法が単なる戦闘手段にとどまらず、社会システムや経済に深く結びついている点も他作品との明確な差別化要素である。ゼロスが施した魔法式の消去機能がスクロール販売のビジネスとして発展し派閥争いの武器となったり、土木魔法がドワーフの職人たちに導入されてインフラ整備の「土木革命」を引き起こしたりと、主人公の何気ない行動が世界に多大な影響を与えていく過程が非常に興味深い。

さらに、同郷の転生者であるイリスとの出会いをきっかけに、元の世界でプレイしていたゲームのシステムと異世界の法則が酷似していることへの疑念や、誰かに人間たちの思考が誘導されていたのではないかという謎が提示される点も、単なる無双ファンタジーにとどまらない魅力となっている。

前巻からのあらすじ

メールにこの世界の女神から経緯の説明があったが、、
あまりにも無責任なこの世界の女神に殺意を持ってしまう。

だが、まずは生きて魔獣蔓延るこの森(ファーフランの大深緑地地帯)を出なければいけない。

1人なので安心して寝る事が出来ない。

調味料が無いため、焼くだけの味気ない肉を貪りながらサバイバルを1週間。

完全に野生になっていたオッサンは遂に人に出会ったら、、

盗賊に襲われてたので何方が悪いの確認してから襲われてる方を助ける。

そしてオッサンは、襲われてた公爵家の長女セレスティーナの家庭教師として屋敷に住み込む事になる。

そして、セレティーナを鍛えるのだが、、

そして、オッサンはセレスティーナと公爵家の長男ツヴェイトと護衛の騎士を連れて、オッサンがかつて彷徨った大緑地帯に実戦訓練にをしに行く。

え?何で森に戻るんだよ!!

読んだ本のタイトル

#アラフォー賢者の異世界生活日記  2巻
著者:#寿安清 氏
イラスト:#ジョンディー  氏

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あらすじ・内容

セレスティーナとツヴェイトを連れ、ファーフラン大深緑地帯に再び足を踏み入れたゼロス。訓練を終えた彼らは、盗賊に捕えられた人々を救うが、その中にはゲーム内で見覚えがあるアイテムを装備した少女の姿が――。

感想

公爵家の連中が魅力的だw

女誑しだが、領地経営と商会の経営は凄腕で鳴らしているソルシテア公爵の現当主のデルサシス。
隠し子が何人居るか不明、、、

孫娘か可愛すぎてしょうがないが、他の男の孫はあまり興味がない先代当主のクレストン。

洗脳され異世界特有の恋愛症候群で大失敗したが、そのおかげで洗脳が解けてマトモに戻ったツヴェイト。

魔法の術式の欠陥で魔法が使えず落ちこぼれ扱いされていたが、オッサンの指導の下でメキメキ実力を上げているセレスティーナ。

そんなセレスティーナとツヴェイト兄妹。
護衛の騎士達とゼロスは一緒に大緑地帯の浅い地区に行ってレベルを上げるために1週間の現地訓練を実施する。

そしてオッサンは物凄く強いキマイラ(イラスト)を拘束して騎士達に討伐させてレベル上げを敢行。

「早く倒さないと拘束魔法が切れちゃいますよ」とヘラヘラと笑いながら、、、
騎士達を煽る。

実際は拘束魔法は解けないのだが、解けそうだと言って煽って必死にさせる所がオッサンのドS気質が垣間見える。

そして、順調にレベルが上がり疲れた身体を引きずって基地にしている岩場に囲まれた安全地帯に帰って来たら、、

残り4日分の食糧が魔獣達に食い荒らされていた。


しかも、食糧を巡って争いがあったらしく食糧の代わりに魔獣の死体が多く転がっている始末。

そして、その原因になった魔獣の群れをボロボロに疲れている騎士に変わってオッサンがアッサリと倒したが、、
食糧は皆無。

残り4日分の食糧を確保しないといけない。

戦闘によって食料(肉)を獲得、その血の臭いに釣られてモンスターが襲ってくる無限地獄が始まる。

オッサンは以前に彷徨ったトラウマのせいかゲラゲラと笑い出し。
「皆んなと不幸を分かち合おう」と大笑いしながら言う始末。

そして、何より恐ろしいのは男性の尻を狙う白い猿(クレイジーエイプ)達。
オッサンも1人で彷徨ってる時に半ケツにされて目の前に股間のスカイツリーを聳え立たせた猿が、、、

勿論、オッサンもトラウマを抱えており。

同じトラウマを負った騎士が複数人出来てしまう、、
「白い猿がーー!!!やめろ!!!!俺のズボンを下ろすな!!」と魘される騎士達が多数、、

さらには白い猿のボスを倒した際に。

元々猿はメスしか居ない種族だと判明。

スカイツリーを装備してる猿はメスからオスに変化した種類だったらしい。

そして、種族としてのマウンティングで弱そうなオス、ヒューマン種の男を襲いメスの時の名残で尻を狙うらしい、、

 そんな男に天敵の白い猿の群れを1つ全滅させて多くの高級素材を獲得。

4日間のサバイバルで、騎士達は野生へと回帰しギラついたワイルドな戦士へと豹変するw

そんな彼らが生き残り、帰り際に盗賊達に襲われた商隊の死体を発見。

女子供はアジトに連れて行かれたらしく、オッサンが探索して盗賊のアジトに単独でフラフラと入って行って。
盗賊達とヘラヘラと会話をする。
盗賊は人質を盾にしているが、実験材料は死んでいても構わないと演技して。

時間を稼いでいる間に、騎士達は大緑地帯で手に入れた痺れ薬を使用して盗賊達を蹂躙。

「ヒャッハー!!汚物は消毒じゃ!!!!」と叫びながら盗賊を虐殺して行く騎士達。

助けられた人質の人達は騎士達の容赦のない戦闘スタイルにドン引きする。

そんな捕まった女性の中にオッサンと同郷の転生者イリスがおり。

オッサンはイリスと情報交換をすると、、

オッサンが有名なプレイヤーだと知って憧れの目を向けて何故か懐いてしまう。

そして、街に帰還したオッサンは普段の家庭教師に戻るのだが、、
セレスティーナとツヴェイトに魔法を教えていだが、彼等は学園に帰る時期になりオッサンは無職となる。

そして、侯爵家からマンドラゴラの栽培を教えた擁護院(絶叫教会)の側に家を建てて貰い、そこに住む事になる。

そして、イリス達と廃坑に行って後々に重要なキャラクターになるクリスティーナを助け。

大量の鉱石を獲得してホクホク顔になりながら街へと帰って行く。

その時に、擁護院の子供達にお土産を忘れないのがホッとさせてくれるが、、
子供達の遠慮の無いコメントが全てを台無しにするww

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アラフォー賢者1巻レビュー
アラフォー賢者まとめ
アラフォー賢者3巻レビュー

考察・解説

ファーフラン大深緑地帯

『アラフォー賢者の異世界生活日記』に登場する「ファーフラン大深緑地帯」について、その概要と物語における役割を解説する。

ファーフラン大深緑地帯は、大陸の半分以上を覆い尽くす広大な原生林であり、千を優に超える魔物の群れが生息する過酷な魔境である。

1. 広大で過酷な魔境にして宝の宝庫

森の奥へ進むほど魔力濃度が高くなり、そこに生息する魔物もより強力になっていく。

・この過酷な弱肉強食の環境ゆえに人間が生存できる領域はごくわずかである。
・かつて人間の愚かさに愛想を尽かしたエルフたちが、自らこの森の奥深くに国を造って隠れ住んでいる。
・一方で、この森の魔物から得られる素材は人里周辺のものより遥かに高品質である。
・鉱脈や薬草の群生も豊富に存在しているなど、多大な恩恵をもたらす宝の宝庫としての側面も持っている。

2. 多種多様で凶悪な魔物たち

森にはゴブリンやオークといった魔物から、キマイラ、トロール、マンイーター・ビーストコピーといった強力な上位の魔物が蔓延っている。

・空の悪魔と呼ばれるワイヴァーンや、Aランクモンスターであるレッド・グリード・バトルウルフが群れで襲いかかってくることもある。
・また、男の尻を執拗に狙う変態的な白い大猿「クレイジーエイプ」が息づく。
・そのボスである雌の巨大ゴリラ「クイーン・アリエネコンガ」なども生息する。
・物理的な強さとは別の意味で恐ろしい生態を持つ魔物も存在しているデンジャーゾーンである。

3. ゼロスを変えたサバイバルの地

主人公のゼロスは、異世界に転生した直後にこの森のど真ん中に放り出され、約1週間にわたる命懸けのサバイバル生活を余儀なくされた。

・休息をとる間もなく絶え間なく襲い来る魔物との死闘が続く。
・肉しか食べられない偏った食生活によって、彼の精神は極限まで追い詰められた。
・この過酷な経験は、現代の文明社会に染まっていたゼロスから甘さを完全に奪い去る。
・生き残るためならば容赦なく敵を殲滅する野性(獣)を目覚めさせる最大の要因となった。

4. 実戦訓練の舞台と狂戦士化する騎士たち

後にゼロスは、教え子であるセレスティーナとツヴェイト、そして彼らの護衛である騎士たちに実戦経験を積ませるため、大深緑地帯の端にあるサフラン平原に陣を敷いて訓練を行う。

・森の端とはいえ次々と魔物が襲撃する。
・さらには地中から現れたワームや魔物たちに食料を根こそぎ奪われるという絶望的な状況に陥った。
・その結果、空腹と極限状態に追い込まれた礼儀正しい騎士たちは、食料の恨みと生存本能から野性に目覚める。
・血に飢えた狂戦士(修羅)と化して魔物たちを狩り尽くすようになった。

まとめ

このように、ファーフラン大深緑地帯は、登場人物たちの甘さを容赦なく打ち砕き、生き残るための本能と凶暴性を強制的に引き出す、本作において極めて重要な舞台となっている。

騎士団の野生化

『アラフォー賢者の異世界生活日記』における「騎士団の野生化」について、以下の通り解説する。

ソリステア公爵家の護衛としてゼロスたちの実戦訓練に同行した騎士たちは、ファーフランの大深緑地帯での過酷なサバイバルを経て、清廉潔白な騎士から血に飢えた狂戦士(修羅)へと変貌を遂げた。

1. 野生化のきっかけである食料の喪失

最大の引き金となったのは、大深緑地帯での訓練の序盤に、クレイジーエイプやウルフ系の魔物などによって拠点が荒らされ、持ち込んだ食料を根こそぎ奪われたことである。

・民衆の血税で購入した貴重な食料を奪われたことへの凄まじい怒りが発生した。
・さらに、極限状態の中で生き残らねばならないという危機感に直面する。
・これらが彼らの闘争本能を臨界突破させる原因となった。

2. サバイバル生活と狂戦士化

食料を失った騎士たちは、自ら森へ入り、魔物を狩っては捌いて食べるという原始的で野蛮な生活を余儀なくされた。

・絶え間なく襲い来る魔物との死闘の中で、彼らは甘さを捨て、非情にならねば生き残れない、と悟り、四日目にして完全に野性に目覚める。
・彼らの戦闘スタイルも激変し、騎士の矜持や正々堂々とした戦い方をかなぐり捨てた。
・魔物の群れに毒や麻痺の煙を投げ込んで動けなくしてから一方的に惨殺するなど、生き残るためならばいかなる卑怯な手段も徹底的に行使するようになる。
・獲物を仕留めた際には雄叫びを上げ、炎を囲んで踊り狂うほどに原始へと回帰していた。

3. 帰還後の変貌と盗賊への殺意

一週間の地獄を生き抜いて撤収する際、彼らの真新しい鎧は無残な傷に覆われ、憔悴しつつも歴戦の戦士のような凄味を放っていた。

・さらに、帰路の休憩地点で盗賊の襲撃跡を発見すると、安息の時間を奪われた怒りから彼らは再び修羅へと変貌する。
・飢えた獣のように獰猛な眼差しで、今宵のミスリルソードは血に飢えてやがる、などと呟きながら盗賊のアジトへ進軍する姿は、迎えに来た別の騎士たちを激しく戸惑わせた。
・アジトを制圧した際にも、痺れて動けない盗賊たちを、多いから間引きだぁ、と笑顔で惨殺する。
・その悪辣で容赦のない姿は、助けられたイリスたちをも戦慄させるほどであった。

まとめ

このように、大深緑地帯の過酷な環境は、礼儀正しかった騎士たちから常識や甘さを完全に奪い去り、生き残るための本能と凶暴性を剥き出しにした獣へと変えてしまった。この野生化した騎士団の存在は、単なるギャグ描写にとどまらず、いかにファーフランの大深緑地帯が過酷な環境であるかを雄弁に物語る象徴的なエピソードとなっている。

クレイジーエイプの脅威

『アラフォー賢者の異世界生活日記』において、「クレイジーエイプ」の脅威は、物理的な攻撃力や強さ以上に、人間の男性の貞操を脅かすという特異で凶悪な生態にある。その全容について、以下の通り解説する。

1. 男性のみを狙う白い悪魔としての恐怖

クレイジーエイプは、全長2メートル弱の美しい白い体毛を持ち、酔っ払ったようにだらしない顔をした大猿の魔物である。

・彼らの最大の脅威は、女性には一切見向きもせず、人間の男性を執拗に狙って襲い掛かってくるという点にある。
・大深緑地帯で遭遇した騎士たちは、ズボンや下着まで脱がされて股間を揉まれるという想像を絶する被害に遭った。
・これにより、ドラゴンよりも恐ろしい白い悪魔として深いトラウマ(心の傷)を負わされることになった。
・主人公のゼロス自身も、過去の過酷なサバイバル生活の中で就寝中に彼らに襲われ、ズボンを下げられて半ケツ状態にされるという貞操の危機に直面している。
・この出来事が引き金となり、ゼロスは生き残るため、そして貞操を守るために悪鬼羅刹と化し、魔物を容赦なく狩る修羅へと変貌した。

2. 特異な行動の理由である異常な生態系

なぜ彼らが人間の男性を襲うのかについて、ゼロスはある推測を立てている。

・クレイジーエイプの群れは、進化形である5メートルクラスの巨大な緑色の雌ゴリラであるクイーン・アリエネコンガという絶対的なボスによって支配されている。
・群れは元々雌中心であるが、弱い個体がストレスによって雄へ変化させられ、上位個体の繁殖の道具として扱われていると考えられる。
・そのため、雄になった個体は元の雌に戻るため、あるいは群れの中での自分の序列を上げる(強いと誇示する)ための示威行為として、弱い個体と見なした人間の男性を襲うのだと推測されている。
・人間からすれば、強盗に入った山賊ですら序列の最底辺に組み込まれ、性的な餌食にされてしまうという、おぞましい生態系が築かれている。

3. 白猿の毛皮と傭兵たちの末路

クレイジーエイプの毛皮は白猿の毛皮と呼ばれ、穢れなき白さと美しい艶から貴婦人のコートなどに使われ、非常に高値で取引される最高品質の素材である。

・しかし、一攫千金を狙って討伐に向かった猟師や傭兵の多くは消息不明になっていた。
・その理由は、物理的な戦いで命を落としたからではない。
・クレイジーエイプたちの特異な性癖の餌食になり、別の意味で喰われて帰ってこられなくなったためだという恐ろしい事実が判明した。

まとめ

このように、クレイジーエイプは強靭な魔物とは全く異なるベクトルの恐怖で人間の男性を絶望の底に突き落とす、極めて厄介な脅威として描かれている。物理的な強さだけでなく、関わった者の尊厳や精神を根底から破壊してくる点が、大深緑地帯に生息する魔物の中でも際立って恐ろしい生態の実態である。

盗賊団の制圧

『アラフォー賢者の異世界生活日記』における「盗賊団の制圧」は、物語の中で主に2つの重要な場面として描かれている。圧倒的な力を持つ主人公ゼロスと、過酷な訓練で変貌した騎士団の非情な戦術が特徴的である。
以下にそれぞれの制圧劇について解説する。

1. 街道での第一の制圧(クレストン一行の救出)

異世界に転生し、大深緑地帯での過酷なサバイバル生活を抜けて街道に出たゼロスが、最初に遭遇した盗賊団との戦闘である。

・ソリステア大公爵家の前当主クレストンと孫娘セレスティーナ一行が乗る馬車は、倒木で道を塞がれ、多数の盗賊に包囲されて絶体絶命の危機に陥っていた。
・そこへ状況を窺っていたゼロスが、人命を優先して乱入する。
・ゼロスはまず氷結華で森に潜む弓兵たちを一瞬にして凍結させ、続いて黒雷連弾という漆黒の弾丸で周囲の盗賊たちを内側から焼き尽くした。
・激高した頭目から正々堂々と勝負しろと要求されると、電光石火の速さで間合いを詰め、瞬時に腕を斬り落とす。
・ゼロスの規格外の速さと魔法の威力に戦意を喪失した盗賊たちは逃げ惑うが、怒り狂った護衛の傭兵たちに追撃され、あえなく全滅した。
・この救出劇がきっかけとなり、ゼロスはクレストンに気に入られ、セレスティーナの家庭教師として雇われることになった。

2. 人質救出のための第二 of の制圧(帰還時の殲滅戦)

大深緑地帯での過酷な実戦訓練(ブートキャンプ)を終え、サントールの街へ帰還する途中で遭遇した河賊(マシラ盗賊団)の制圧劇である。

・帰路の休憩地点で商人や傭兵の惨殺死体を発見した一行は、使い魔による上空からの偵察で、女性や子供(同郷の転生者・イリスを含む)を人質に取っている盗賊のアジトを発見する。
・過酷なサバイバルを経て野生化し、ようやく訪れた安息の時間を奪われた騎士たちは、激しい怒りと殺意を滾らせた。
・これにより、騎士の矜持を捨て去って徹底的に蹂躙する作戦を立てる。
・ゼロスは胡散臭い風貌を利用し、人体実験の材料を求める闇魔導士を演じて単身アジトへ乗り込んだ。
・背後から襲ってきた盗賊を返り討ちにし、引き裂く風花や指弾の魔法で瞬く間に盗賊を惨殺する。
・さらに、生き残るために子供を人質に取ろうとした盗賊の頭部を魔法(ストーン・バレット)で躊躇なく吹き飛ばした。
・人質交渉すら通じない異常な魔導士として盗賊たちに深い絶望と恐怖を植え付け、完全に注意を惹きつける。
・ゼロスが時間を稼いでいる間に、風上に回り込んでいた騎士たちが強力な麻痺毒の煙を流し込んだ。
・盗賊と人質が痺れてまともに動けなくなったところへ騎士たちが突撃し、抵抗できない盗賊たちを、多いから間引きだぁ、と満面の笑顔で次々と惨殺していった。

制圧劇の特徴と影響

この第二の制圧劇は、大深緑地帯の過酷な環境を生き抜いた騎士たちが、勝つためにはいかなる卑劣な手段(毒や不意打ち)も厭わない、実利優先の修羅へと変貌したことを強く象徴している。
人質として囚われていたイリスや傭兵たちは、助けられたとはいえ、麻痺で動けない相手を笑顔で殺していく騎士たちの悪辣なやり口にドン引きし、強い戦慄を覚える結果となった。

まとめ

ゼロスと野生化した騎士団による一連の盗賊団制圧は、この世界の「弱肉強食」の現実を容赦なく示す描写である。ゼロスの圧倒的な魔法は他者を寄せ付けない恐怖を与え、極限状態を経て変貌した騎士団の非情な戦術は、美化された騎士道精神を打ち砕くリアルな実利主義を浮き彫りにした。これらのエピソードは、単なる爽快な戦闘描写にとどまらず、サバイバルが人間の精神をどのように変えてしまうかを描く、本作のシニカルな魅力を象徴している。

転生者との邂逅

『アラフォー賢者の異世界生活日記』における、主人公ゼロスと同郷の転生者・イリス(入江澄香)との邂逅(出会い)について解説する。

同じく邪神の自爆テロに巻き込まれて地球から転生してきた二人は、非常に緊迫した、そして思いがけない形で出会いを果たすこととなる。

1. 盗賊のアジトでの救出劇

傭兵として活動を始めていた14歳の転生者・イリスは、商人の護衛任務からの帰路で河賊(マシラ盗賊団)に襲われ、人質として捕らえられて絶体絶命の危機に陥っていた。

・盗賊たちは女性や子供を人質に取り、彼女たちの服を脱がせて慰み者にしようとする悪辣な行為に及ぼうとしていた。
・一方、大深緑地帯での過酷な実戦訓練を終えてサントールの街へ帰還する途中だったゼロスと騎士団一行は、惨殺された商人の死体を発見する。
・使い魔による上空からの偵察で、この盗賊のアジトを発見した。
・ゼロスが「人体実験の材料を求める闇魔導士」を演じて単身で乗り込み、盗賊の注意を完全に惹きつける。
・その間に、過酷な訓練で修羅と化していた騎士団が麻痺毒の煙を使ってアジトを急襲した。
・動けない盗賊たちを次々と惨殺するという容赦のない制圧劇によって、イリスたちは救出された。

2. 課金アイテムによる同郷者の確信

イリスたちは助けられたものの、痺れて動けない相手を笑顔で惨殺していく騎士たちや、圧倒的で容赦のないゼロスの戦い方にドン引きし、深い戦慄を覚えていた。

・そんな中、ゼロスが戦利品の中から一本の杖を拾い上げる。
・それがイリスの持つ「ルーンウッドの杖」であった。
・ゼロスが、コレ、課金装備ですよね? ガチャでもらえるヤツ……、と呟き、イリスが、初心者ボーナスで、ガチャ券をもらって出たのよ……、と返したことで二人の間に沈黙が流れる。
・このファンタジー世界に存在するはずのない「課金」「ガチャ」という地球のゲーム用語によって、二人は互いが『ソード・アンド・ソーサリス』をプレイしていた同郷の転生者であることに劇的な形で気付いた。

3. オークの襲来によるドタバタな結末

ようやく同郷の者と出会え、もしかして、同郷の方ですかねぇ? と感動的な再会になるかと思われた直後、タイミング悪く雌のオークの群れが急襲してくる。

・ゼロスや騎士団は、人質を保護して迅速に撤退することを最優先とした。
・イリスの手を強引に引いて一斉に撤収を開始する。
・ゆっくりと素性を語り合う間もなく、痺れて動けない盗賊たちをオークの繁殖相手(餌食)として置き去りにするという、非常にドタバタとした殺伐な結末を迎えた。

4. 邂逅がもたらした影響(世界の謎と正体の発覚)

その後、サントールへと向かう馬車での道中、二人は改めて語り合う。

・ゼロスはイリスに対し、この異世界の摂理がゲームのシステムと異常なまでに酷似していることへの疑念を語る。
・本来ならシステムエラーになるはずの規格外のオリジナル魔法がゲーム内で受け入れられていたことや、画期的なゲームを作った企業名を誰も思い出せない事実を指摘した。
・そこから、地球にいた頃から、人間の思考が神によって制御・誘導されていたのではないか(異世界をベースにゲームが作られていたのではないか)、という恐ろしい仮説を提示した。
・一方のイリスは、このおっさんがゲーム時代に自分が憧れていたトッププレイヤーであることに気付く。
・無茶な挑戦で全てを蹂躙してきた最強の魔導士パーティーのリーダー格「黒の殲滅者(大賢者)」である正体に驚愕することとなった。

まとめ

ゼロスとイリスの出会いは、緊迫した救出劇からゲーム用語によるコミカルな確信、そしてオーク襲撃による強行撤退へと繋がる劇的なものであった。この邂逅は、互いが孤独な転生者ではないと知る安堵をもたらしただけでなく、異世界とゲームの奇妙な一致という世界の根幹に関わる謎を浮き彫りにし、その後の二人の関係性と物語の展開を大きく動かす契機となっている。

ゼロスの魔法指導

『アラフォー賢者の異世界生活日記』における主人公・ゼロスの「魔法指導」は、この世界の魔導士たちが陥っている常識や派閥争いを真っ向から否定し、より実践的で本質的な魔法の理を叩き込むものである。彼がセレスティーナやツヴェイトに行った指導の主な特徴について解説する。

1. 魔法式のデバッグと基礎理論の再構築

ゼロスは、セレスティーナが魔法を使えない原因が彼女の才能不足ではなく、学院の教本に記された魔法式が無駄だらけの欠陥品であることを見抜いた。

・彼は元プログラマーの視点で術式をデバッグ(最適化)した。
・術者の魔力はあくまで呼び水として使い、自然界の外部魔力を取り込んで発動する効率的なシステムへと書き換えた。
・また、魔法文字を単なる記号ではなく、意味のある言葉であり、回路である、と教える。
・物理現象を引き起こすための論理的なパズルとして魔法式を解読・構築する楽しさを教え込んだ。

2. 基礎スキルである魔力操作の徹底

魔法の威力を求める前に、ゼロスは灯火の小さな火を一定時間保ち続ける魔力操作の訓練を課した。

・これは、一度発動した魔法を自在に操り、無駄な魔力消費を抑えるための必須スキルである。
・これを極めれば無詠唱や術式の書き換えも可能になると説いた。

3. 魔導士としての在り方と魔法の危険性の提示

ゼロスはあえて自身の最大魔法である広範囲殲滅魔法「闇の裁き」の高密度な術式を見せ、行き過ぎた探求心が生み出す破壊魔法の恐ろしさを実感させる。

・強力な魔法は権力者に利用されて戦争や悲劇を招くと警告した。
・一方で、人々の暮らしを豊かにする魔法の可能性も示唆した。
・そして、安易に答えを与えるのではなく、自分がどんな魔導士を目指すのか、を自ら考えさせる教育を行った。

4. 近接戦闘を組み込んだ過酷な実戦訓練

一般的な魔導士は後方から魔法を撃つだけで近接戦闘を軽視するが、ゼロスは「魔力が尽きれば死に直結する」と教え、自衛のための格闘・剣術スキルを徹底的に鍛えさせた。

・マッドゴーレムを無尽蔵に生み出して終わりのない乱戦を強要し、ペース配分や状況判断を学ばせた。
・危険な魔物が跋扈するファーフランの大深緑地帯でのブートキャンプを行い、極限状態での生存能力と実戦の厳しさを身をもって体験させた。

5. 自主性の尊重と高いハードルの付与

ゼロスの圧倒的な実力を前に教えを乞うようになったツヴェイトに対しても、ゼロスは自身のオリジナル魔法を安易に教えることはしなかった。

・彼は、基礎を知り、応用を尽くせば簡単、自身で極めるしかない、と説き、魔導士としての自立を促す。
・そして、夏季休暇を終えて学院へ戻る二人に対し、一族の秘宝魔法の効率化と威力強化という極めて難易度の高い宿題を与えた。
・成功すれば最高の魔法媒体を与えると約束することで、彼らの探究心を強烈に刺激した。

まとめ

ゼロスの魔法指導は、非効率な伝統に縛られていた異世界の魔法技術に革命をもたらすものであった。単に強力な技術を授けるだけでなく、技術の危険性と利便性の双方を示し、魔力操作の基礎と自衛のための身体能力を徹底的に叩き込むことで、弟子たちを精神的にも技術的にも自立した真の魔導士へと成長させている。

アラフォー賢者1巻レビュー
アラフォー賢者まとめ
アラフォー賢者3巻レビュー

登場キャラクター

転生者・神々

大迫聡(ゼロス・マーリン)

現実世界ではリストラされた元プログラム技術者であり、田舎で農業を営む四十歳の独身男性である。ゲーム内では「大賢者」や「殲滅者」と呼ばれるトッププレイヤーであった。平穏な生活を望んでおり、権力闘争を嫌う。セレスティーナやツヴェイトの家庭教師として魔法や実戦を指導する。

・所属組織、地位や役職
 無職の魔導士。ソリステア大公爵家の客分および家庭教師。

・物語内での具体的な行動や成果
 ゲーム内で邪神を倒した直後に自爆に巻き込まれて死亡した。ゲームの能力を引き継いで異世界に転生した。大深緑地帯でのサバイバルを経て、クレストン一行を盗賊から救出した。セレスティーナの教本の魔法式を最適化した。マッドゴーレムを用いた実戦訓練でツヴェイトたちを指導した。廃鉱山でクリスティンを救出し、広範囲殲滅魔法でワームの群れを焼き払った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 クレストンから別邸の森の一部と家を与えられた。規格外の能力を持つため、周囲から大賢者として畏敬の念を持たれている。

入江澄香(イリス)

現実世界では十四歳の中学生であり、周囲と話が合わず孤立気味であった。退屈な日常から解放され、未知の世界での冒険に胸を躍らせる。ゼロスに憧れを抱いている。

・所属組織、地位や役職
 さすらいの魔導士。駆け出しの傭兵。

・物語内での具体的な行動や成果
 邪神の自爆に巻き込まれて死亡し、ゲームの能力を持ったまま転生した。ゴブリンに襲撃されていた村でジャーネやレナと共闘し、ゴブリンジェネラルを討伐した。盗賊に捕らえられていたところをゼロスたちに救出された。廃鉱山でビッグ・スパイダーやコボルトと戦った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ゼロスからオリジナル魔法が記された劣化版賢者の石を与えられた。

女神

風の女神ウィンディアなど、異世界の神々である。無責任な性格である。

・所属組織、地位や役職
 異世界の女神。

・物語内での具体的な行動や成果
 邪神を地球のゲーム内に封印した。邪神の自爆で死亡したプレイヤーたちを異世界に転生させた。転生者に状況を伝えるメールを送った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 事後処理を他の神々に押し付けたため、ゼロスから敵と認識されている。

邪神

ゲーム内でラスボスとして登場した強大な存在である。

・所属組織、地位や役職
 異世界の神々に封印された存在。

・物語内での具体的な行動や成果
 ゲーム内でゼロスたちに倒された。死の間際に自爆を引き起こし、地球で大停電を発生させた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 自爆によってプレイヤー数十名を死に至らしめ、転生の直接的な原因となった。

ソリステア大公爵家

クレストン・ヴァン・ソリステア

ソリステア魔法王国の王族の血に連なる元公爵である。隠居の身であり、孫娘のセレスティーナを溺愛している。魔導士としてのあり方に持論を持つ。

・所属組織、地位や役職
 ソリステア大公爵家の元当主。ソリステア派の創設者。

・物語内での具体的な行動や成果
 盗賊に襲撃されていたところをゼロスに救出された。ゼロスをセレスティーナの家庭教師として雇い入れた。孫娘の装備を整えるため、宝物庫の魔石を無断で持ち出して売却した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 宝物庫の横領がデルサシスに発覚し、後始末を命じられた。

デルサシス・ヴァン・ソリステア

ソリステア公爵領の現領主である。厳格な性格だが、女性関係が派手である。仕事とプライベートを明確に分けている。

・所属組織、地位や役職
 ソリステア大公爵家の現当主。ソリステア商会の会長。

・物語内での具体的な行動や成果
 クレストンによる宝物庫横領の証拠を突き止め、後始末を指示した。権力を乱用したツヴェイトを叱責して殴り倒した。ゼロスの最適化魔法スクロールをソリステア商会で販売させた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ゼロスに土地と新居を与えた。

ツヴェイト・ヴァン・ソリステア

ソリステア公爵家の長兄である。次期領主を自負している。粗暴でプライドが高かったが、ゼロスの実力を知り態度を改める。

・所属組織、地位や役職
 ソリステア公爵家の子息。イストール魔法学院高等部の生徒。ウィースラー派所属。

・物語内での具体的な行動や成果
 ルーセリスに強引に言い寄り、養護院を分割した。ゼロスに魔法を放つが素手で打ち消され、敗北した。大深緑地帯での実戦訓練に参加し、マッドゴーレムや魔物と戦った。過去の冷遇をセレスティーナに謝罪した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ゼロスから秘宝魔法の効率化と威力強化という宿題を与えられた。

セレスティーナ・ヴァン・ソリステア

ソリステア公爵家の妾腹の娘である。魔法が使えず冷遇されていたが、真面目で探究心がある。ゼロスを深く尊敬している。

・所属組織、地位や役職
 ソリステア公爵家の息女。イストール魔法学院高等部の生徒。

・物語内での具体的な行動や成果
 ゼロスに魔法式を最適化され、初めて魔法を発動させた。大深緑地帯での実戦訓練でゴーレムや魔物と戦い、格を上げた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 祖父から宝物級の装備を与えられた。ゼロスから魔法媒体の腕輪を受け取った。

クロイサス

ソリステア公爵家の次男である。他人に興味を示さず、魔法研究に没頭している。

・所属組織、地位や役職
 ソリステア公爵家の子息。サンジェルマン派の重鎮候補。

・物語内での具体的な行動や成果
 研究棟に入り浸っていると言及されている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ゼロスからツヴェイト経由で魔法媒体の指輪を与えられる予定である。

アーレフ・ギルバート

実戦経験が豊富で、現実的な戦場観を持つ騎士である。魔導士が近接戦闘を軽視する現状を嘆いている。

・所属組織、地位や役職
 ソリステア公爵家騎士団の分隊長。

・物語内での具体的な行動や成果
 セレスティーナたちの実戦訓練の護衛として大深緑地帯へ同行した。オークやトロールの群れとの戦闘で部隊を指揮し、自らも剣を振るった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 過酷な戦闘を経て、野性的な戦士へと変貌した。

ソリステア家の騎士たち

ソリステア公爵家に仕える騎士たちである。訓練と実戦を通じて鍛え上げられる。

・所属組織、地位や役職
 ソリステア公爵家騎士団。

・物語内での具体的な行動や成果
 大深緑地帯で魔物に食料を奪われ、サバイバル生活を強いられた。生存本能から狂戦士と化し、魔物や盗賊を容赦なく殲滅した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 帰還時には歴戦の戦士のような凄味を放つようになった。

エルウェル子爵家

クリスティン・ド・エルウェル

エルウェル子爵家の三女である。亡き父の跡を継ぐため、性別を偽って少年の格好をしている。

・所属組織、地位や役職
 エルウェル子爵家の次期当主。

・物語内での具体的な行動や成果
 自身の剣を作るために廃鉱山で鉱石を採掘した。罠に落ちて最下層へ落下したが、ゼロスに救出された。ゼロスから渡されたスクロールで魔法を発動させた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 急速なレベルアップの影響で気絶し、アーハンの村の宿で休養した。

エドワルド

クリスティンの父親である。勇敢で温厚な人物であった。

・所属組織、地位や役職
 エルウェル子爵家の前当主。近衛騎士団の副隊長。

・物語内での具体的な行動や成果
 盗賊の討伐任務中に毒矢を受けて死亡した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 孤児たちを拾い、彼らから強い忠誠を受けている。

イザート

クリスティンの側近の騎士である。エドワルドに恩義を感じている。

・所属組織、地位や役職
 エルウェル子爵家の騎士。

・物語内での具体的な行動や成果
 クリスティンを護衛して廃鉱山へ同行した。クリスティンが落下した際、救出を試みた。ジャイアント・アントと交戦した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

サイル

クリスティンの側近の騎士である。

・所属組織、地位や役職
 エルウェル子爵家の騎士。

・物語内での具体的な行動や成果
 廃鉱山でクリスティンを護衛した。ジャイアント・アントの群れを迎え撃った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

コルサ

クリスティンの側近の騎士である。

・所属組織、地位や役職
 エルウェル子爵家の騎士。

・物語内での具体的な行動や成果
 廃鉱山でクリスティンを護衛した。ジャイアント・アントの群れと戦った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

ソクトー

クリスティンの側近の騎士である。

・所属組織、地位や役職
 エルウェル子爵家の騎士。

・物語内での具体的な行動や成果
 廃鉱山でクリスティンを護衛した。ジャイアント・アントの群れと戦った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

エルウェル家の騎士たち

クリスティンを守るために行動する騎士たちである。

・所属組織、地位や役職
 エルウェル子爵家騎士団。

・物語内での具体的な行動や成果
 クリスティンを護衛して採掘を手伝った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

教会・養護院

ルーセリス

身寄りのない子供たちを育てる見習い神官である。心優しく、孤児たちのために身を粉にして働いている。

・所属組織、地位や役職
 四神教の見習い神官。旧市街の養護院の運営者。

・物語内での具体的な行動や成果
 ツヴェイトの強引な求愛を拒絶した。ゼロスと共にマンドラゴラを収穫した。街で怪我人の治療を格安で行った。ジャーネが感染症にかかった際、ゼロスから貰った薬で看病した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ゼロスに好意を抱き始めている。

メルラーサ司祭長

ルーセリスを育てた初老の女性司祭である。酒と博打に溺れる自由人だが、街の人々から人気がある。

・所属組織、地位や役職
 四神教の司祭長。

・物語内での具体的な行動や成果
 ルーセリスにカエデを預けた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

カエデ

緑色の髪を持つハイ・エルフの少女である。好戦的で剣術に優れている。

・所属組織、地位や役職
 養護院に預けられたエルフ。剣士。

・物語内での具体的な行動や成果
 教会の庭で木刀を振るって稽古をしていた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

アンジェ

養護院に住む孤児の少女である。赤毛で物怖じしない性格である。

・所属組織、地位や役職
 養護院の子供。

・物語内での具体的な行動や成果
 カエデに物騒な知識を与えたと言及されている。ゼロスから串肉をもらった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

養護院の子供たち

旧市街の養護院で暮らす孤児たちである。過酷な環境で逞しく生きている。

・所属組織、地位や役職
 養護院の子供たち。

・物語内での具体的な行動や成果
 マンドラゴラの絶叫を面白がって引き抜いた。ゼロスの指導で畑の世話を任された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

ハンバ土木工業

ナグリ

ハンバ土木工業の棟梁である。仕事に一切の妥協を許さないドワーフである。

・所属組織、地位や役職
 ハンバ土木工業の棟梁。

・物語内での具体的な行動や成果
 ゼロスの家の建築現場を指揮した。部下のユンボと殴り合いの喧嘩をした。ゼロスを臨時職人としてスカウトした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

バール

ハンバ土木工業の職人である。

・所属組織、地位や役職
 ハンバ土木工業の職人。

・物語内での具体的な行動や成果
 建材の上に茶をこぼしたとしてナグリに殴られた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

ドーリル

ハンバ土木工業の職人である。

・所属組織、地位や役職
 ハンバ土木工業の職人。

・物語内での具体的な行動や成果
 バールを売ったため、巻き添えでナグリに殴られた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

ユンボ

ハンバ土木工業の現場責任者である。

・所属組織、地位や役職
 ハンバ土木工業の職人。

・物語内での具体的な行動や成果
 ナグリが楽しみにしていた鳥肉を食べたため、ナグリと殴り合いの喧嘩をした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

ハンバ土木工業の職人たち

建築や土木作業を請け負うドワーフの職人集団である。

・所属組織、地位や役職
 ハンバ土木工業の職人たち。

・物語内での具体的な行動や成果
 ゼロスの家を短期間で建築した。魔法を取り入れて作業効率を大幅に向上させた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

魔導具店

ベラドンナ(キャンディー)

娼婦のような外見を持つ魔導具店の店長である。優秀な魔導士であり、ゼロスの実力を直感で察知する。

・所属組織、地位や役職
 魔導具店の店長。

・物語内での具体的な行動や成果
 店員がゼロスを盗人扱いしたことを謝罪した。ゼロスから大量の魔石を高額で買い取った。店の外観をファンシーなものに変更した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

クーティー

魔導具店の店員である。魔女姿にメガネをかけている。推理小説にかぶれている。

・所属組織、地位や役職
 魔導具店の店員。

・物語内での具体的な行動や成果
 ゼロスを盗人扱いして問い詰めた。店の外観が変わった後もゼロスに失礼な態度をとった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

騎士団・衛兵

マーカス・ヴィルトン

叩き上げの軍人である。騎士団長として部下を厳しく鍛え上げている。

・所属組織、地位や役職
 ソリステア公爵家騎士団の騎士団長。

・物語内での具体的な行動や成果
 アーレフからの報告書を読み、大深緑地帯の過酷な状況と部下の成長に驚嘆した。レッド・グリード・バトルウルフの出現に危機感を抱き、傭兵ギルドに注意勧告を出した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

傭兵

ジャーネ

赤髪のロングストレートで長身の女性傭兵である。勇敢で高い戦闘力を持つ。

・所属組織、地位や役職
 傭兵。

・物語内での具体的な行動や成果
 ゴブリンに襲撃された村を防衛し、イリスやレナと共にゴブリンジェネラルを討伐した。感染症にかかり、ルーセリスの看病を受けた。廃鉱山でコボルトやビッグ・スパイダーと戦った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

レナ

甘栗色のボブカットの女性傭兵である。特定の性癖を持つ。

・所属組織、地位や役職
 傭兵。

・物語内での具体的な行動や成果
 村を防衛し、ゴブリンジェネラルに止めを刺した。村での宴の後、宿で少年をつまみ食いした。廃鉱山でイリスを守りながら戦った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

盗賊・裏組織

盗賊の頭

街道や河で人々を襲う盗賊団のリーダーである。残忍で卑劣な性格である。

・所属組織、地位や役職
 盗賊団の頭目。

・物語内での具体的な行動や成果
 クレストン一行を包囲したが、ゼロスに腕を斬り落とされた。別のアジトで女性や子供を人質に取ったが、ゼロスと騎士団に制圧された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 麻痺で動けないままオークの群れに襲撃された。

黒いローブの魔導士

人体実験を行う危険な魔導士である。

・所属組織、地位や役職
 闇魔導士。

・物語内での具体的な行動や成果
 サントールの酒場で傭兵たちに黒い石のアミュレットを渡し、彼らを人体実験の被験者にした。路地裏で軍事的な訓練を受けた男たちと合流した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

軍事的な訓練を受けた男たち

黒いローブの魔導士と協力する胡散臭い男たちである。

・所属組織、地位や役職
 裏組織の構成員。

・物語内での具体的な行動や成果
 路地裏で魔導士から報告を受けた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

盗賊たち

街道や河で略奪を行う犯罪者集団である。

・所属組織、地位や役職
 盗賊団の構成員。

・物語内での具体的な行動や成果
 倒木で道を塞ぎクレストンたちを襲ったが、ゼロスに倒された。別のアジトで女性や子供を人質にしたが、騎士団の麻痺毒で制圧された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

山賊たち

クレイジーエイプの群れに捕らえられた男たちである。

・所属組織、地位や役職
 山賊。

・物語内での具体的な行動や成果
 クレイジーエイプの群れで最底辺の序列に組み込まれ、正気を失っていた。アリエネコンガに踏み潰されて死亡した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

その他

肝っ玉婆さん

旧市街に住む老婆である。ルーセリスを幼い頃から知っている。

・所属組織、地位や役職
 街の住人。

・物語内での具体的な行動や成果
 ルーセリスから貰った薬で体調が良くなったと語った。ルーセリスに恋人ができたかからかった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

宿の店主

アーハンの村の宿の店主である。料理長を兼任している。

・所属組織、地位や役職
 宿の店主。料理長。

・物語内での具体的な行動や成果
 イリスの頼みで弁当を用意したと言及されている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

商人たち

サントールなどで商売を行う人々である。

・所属組織、地位や役職
 商人。

・物語内での具体的な行動や成果
 街道で倒木に立ち往生し、盗賊に襲撃されたところを救助された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特になし。

アラフォー賢者1巻レビュー
アラフォー賢者まとめ
アラフォー賢者3巻レビュー

展開まとめ

プロローグ おっさん、同情する

ファーフラン大深緑地帯二日目の朝

宝の森と危険な森

ファーフランの大深緑地帯は、人が生存するには過酷な森である一方、多くの恩恵を得られる豊かな森でもあった。魔物の素材は人が住む領域のものより品質が高く、鉱脈や薬草の群生も見られるため、危険と利益が同居する場所であった。ゼロスはセレスティーナに実力をつけさせるため、護衛の騎士たちと共に再びこの危険領域へ足を踏み入れていた。

森を知るゼロスの警戒

ゼロスたちは一日目にオークと戦い、その後【白い悪魔】と遭遇して何とか逃げ帰っていた。転生初日にこの森へ落とされたゼロスは、誰よりも大深緑地帯の恐ろしさを知っており、同時に強い恐怖も抱いていた。そのため、昨日までの出来事がまだ序の口であることも理解していた。

清々しい朝と暇な時間

大深緑地帯二日目の朝、ゼロスは仮眠用テントを出て、平原を照らす朝日と草花の香りを味わっていた。農業生活をしていた頃の習慣で早起きしたものの、そこには耕す畑もなく、やることがなかった。ゼロスは、かつての世界なら鶏小屋で卵を回収し、畑の草刈りをしていた時間だと思い返し、暇を持て余していた。

宿無し無職への憂鬱

ゼロスは、以前の世界では貸家の家賃収入で生活に困らず、畑仕事やゲームをしながらのんびり暮らしていた。だが今は宿無しの無職であり、家庭教師をしていても一ヶ月後にはまた無職へ戻る立場であった。魔物を倒せば素材で稼げるが、殺伐とした生活は避けたく、国に仕える仕事も望んでいなかったため、責任ある職に就きたくないという思いから気分を重くしていた。

夜勤明けの悲鳴

ゼロスが沈んだ気分になっていると、夜勤明けの見張り番たちが、白い悪魔が出たと叫びながら騒ぎ始めた。彼らはクレイジーエイプに遭遇したようであり、昨日の被害を思い出して激しく怯えていた。仲間に置いて逃げられたことへの恨みもあり、見張り番たちは落ち着きを失っていた。

白い悪魔の傷跡

クレイジーエイプは女性には見向きもせず、騎士たちに襲い掛かっていた。七人もの屈強な男たちがズボンを脱がされ、うち二人は下着まで脱がされたうえに股間を揉まれていた。その恐怖は襲われた者にしか分からないものであり、騎士たちにとってはドラゴンよりも別の意味で危険な存在となっていた。

台無しになった朝

被害を受けた騎士たちは、クレイジーエイプの声が聞こえると叫び、幻聴が聞こえるほどの深い心の傷を負っていた。ゼロスは男にしか分からない恐怖を体験した彼らに心から同情した。清々しいはずだった朝は、騎士たちの魂の慟哭によって見事に台無しとなり、ゼロスもなぜか涙を流していた。

第一話 おっさん、引率する

ファーフラン大深緑地帯での実戦訓練二日目

大深緑地帯の成り立ち

ファーフランの大深緑地帯は大陸の半分以上を覆う広大な森であり、多くの魔物が弱肉強食の中で生きる魔境であった。人や各種族が生存できる領域は限られ、邪神戦争後に一度は統一国家が生まれたものの、百年にも満たないうちに衰退し、再び小国が乱立する時代へ戻っていた。広大な森は、そうした世界情勢を見続けながら変わらず存在する領域であった。

森に隠れたエルフたち

エルフたちは人間にあまり関わらず、特定の者たち以外には姿を見せなかった。その理由は、邪神戦争後の統一国家が種族を超えた博愛を掲げながら、結局は他種族への迫害と民族紛争によって破綻したことにあった。人の愚かさに愛想を尽かしたエルフたちは過酷な森へ入り、自ら国を造って姿を隠した。今ではその国の所在も不明であり、多くの国家が魔法の知識を求めて探っていた。

実戦訓練二日目の探索

ゼロスたちは、セレスティーナとツヴェイトを鍛えるため、ファーフラン大深緑地帯で再び探索を始めた。この森では奥へ進むほど魔力濃度が高くなり、それに応じて魔物も強くなるため、小さな油断が命取りになりかねなかった。騎士たちは白い猿の存在を気にしながらも、いつ襲ってくるか分からない魔物への警戒で神経をすり減らしていた。

キマイラとの遭遇

一行は、獅子の体に山羊の頭部、蠍の尻尾、蝙蝠の羽を持つ上級魔物【キマイラ】に遭遇した。キマイラは個体ごとに姿や特殊能力が異なり、戦略を変えなければ対処できない厄介な魔物であった。ゼロスはその格を一二四と見抜き、以前に倒した個体より弱いと評したが、騎士たちにとっては平均格の四倍ほどもある圧倒的な相手であり、正面から戦えば瞬殺されかねない存在であった。

闇の縛鎖による捕縛

ゼロスは【闇の縛鎖】を発動し、キマイラの影から漆黒の鎖を絡みつかせて動きを封じた。さらに、この魔法は魔力を奪い、防御力も落とすため、今なら攻撃の好機だと騎士たちに告げた。捕縛時間が短いと言われた騎士たちは、いつ自由になって襲い掛かってくるか分からない恐怖の中で、泣きながら剣を抜き、キマイラへ向かった。

恐怖の集団戦

騎士たちは生き延びるために必死で剣を振るい、統制の取れた攻撃とは言えないままキマイラへダメージを重ねていった。キマイラは執念深く、ここで逃せば国内にまで追いかけてくる危険があったため、倒すしかなかった。四十分ほどの攻撃の末、キマイラはついに動かなくなったが、騎士たちもセレスティーナとツヴェイトも蒼ざめていた。

格上げと喜べない勝利

キマイラを倒したことで、騎士たちやセレスティーナは格やスキルの上昇を確認した。しかし、彼らは強敵への恐怖に縛られており、勝利を喜ぶ者はいなかった。ゼロスはキマイラのHPの減り方を観察し、今回の個体が防御特化型であり、【闇の縛鎖】による防御低下や魔力吸収にも耐性を持っていた可能性が高いと判断した。集団による数の暴力がなければ、倒すのは難しい相手であった。

ゼロスへの怒り

ゼロスが何事もなかったかのように解体を始めようとすると、騎士たちは怒りを爆発させた。彼らは勝てないと分かっている相手と戦わされた恐怖から、ゼロスに死んだらどうするつもりだったのかと詰め寄った。だが、ゼロスは捕縛魔法が実際にはキマイラが死ぬまで持続していたことを示し、騎士たちは自分たちが急かされるために騙されていたことに気付いた。

依存を断つための荒療治

ゼロスは、今の騎士たちが弱すぎるため、生存率を高める必要があったと説明した。強い魔物を前にして逃げきれない場合は戦うしかなく、その時に一人の実力者へ依存していれば、油断から致命的な判断ミスを犯す恐れがあるためである。ゼロスが常にそばにいるわけではなく、広大な森の奥にはキマイラ以上の凶悪な魔物が無数にいるため、騎士たち自身も強くなる必要があった。

騎士団の熱血化

アーレフは、ゼロスの厳しい処置を自分たちへの思いやりと受け止めた。騎士たちはゼロスに甘えていたことを認め、民を守る騎士として強者に怯んではならないと奮い立った。ゼロスの意図とは少し異なる方向で彼の評価は上がり、騎士たちは自ら格を上げるため、出会う魔物へ率先して挑む熱血の集団へ変わっていった。

トロールとの戦闘

二時間後、騎士たちは緑色の巨人トロール三体と戦っていた。トロールは短い足と長い腕を持つ筋骨隆々の巨人であり、一撃でも受ければ即死につながる危険な相手であった。騎士たちは小柄な体格を活かして動き回り、恐怖に怯まず善戦した。ツヴェイトは【ボルガニック】で一体を炎に包み、騎士たちは次のトロールへ攻撃を移した。

魔導士派閥への不満

戦闘の合間、ゼロスとアーレフはトロールの素材や騎士団の装備について話した。トロールの皮は優秀なレザーアーマー素材であったが、炎系統の魔法に弱いことが難点だった。アーレフは、問題を起こす貴族出身の魔導士が炎系統魔法を多用し、派閥の意向でまともな魔導士も逆らえない現状を語った。ゼロスは、魔導士の派閥が研究成果を奪うブラック企業のようなものだと理解した。

巨神の剛力と最後の一体

残るトロールが一体になると、ゼロスはアーレフに身体強化魔法【巨神の剛力】をかけた。アーレフはロングソードを抜いてトロールへ駆け、棍棒を避けながら足元へ入り、アキレス腱を斬り裂いた。巨体が倒れたところへセレスティーナとツヴェイトが攻撃魔法を浴びせ、爆炎と雷がトロールを蹂躙した。最後にアーレフが首へ渾身の一撃を叩き込み、トロールを討ち取った。

オリジナル魔法への条件

戦闘後、セレスティーナは格が五十を超えたことを喜んだ。彼女は格五十と複数のスキル条件を満たせばゼロスのオリジナル魔法を教えてもらえるため、その達成が近づいたことに浮かれていた。ツヴェイトは彼女の様子を不審に思い、問い詰めた結果、条件を満たせば魔法をもらえる約束を聞き出した。自分だけが除外されていることに納得できないツヴェイトは、ゼロスにも同じ魔法を求めた。

兄妹関係の修復

ツヴェイトはセレスティーナばかり狡いと訴え、彼女に一族の秘宝魔法を教える代わりに、自分にもゼロスの魔法を教えてほしいと迫った。ゼロスは、同じ魔法でよければセレスティーナが条件を満たした後に構わないと答えた。ツヴェイトとセレスティーナの関係は、かつての不仲が嘘のように軟化していた。魔法式の欠陥が原因だったことを知ったツヴェイトは、自分の思い込みを恥じ、訓練を通じて少しずつ距離を縮めていた。

トロールの解体と帰還

騎士たちは三体のトロールの解体に取りかかった。彼らは傭兵ではないため手際は十分ではなかったが、魔物素材の一部は報酬となり、残りは騎士団の運営資金に回されるため、疲れながらも作業に励んでいた。ゼロスはその傍らで、ビールや手羽先を恋しがっていた。結局、一行が野営陣地へ戻ったのは日が暮れてからであり、オークやゴブリン、パライズスネイク、トロールとの戦闘で全員が疲弊していた。

荒らされた野営陣地

平原の野営陣地へ戻った一行は、拠点の惨状に言葉を失った。テントは壊され、荷物は荒らされ、食料の大半は食い荒らされるか持ち去られていた。陣地の周囲はゼロスの岩壁で塞がれていたはずであり、騎士たちは何がどうやって侵入したのか分からず困惑した。さらに周囲にはフォレスト・ウルフやハンターウルフ、クレイジーエイプの死骸が散乱しており、激しい乱戦の跡のようであった。

幌馬車の裏のワーム

騎士たちは、荷物置き場として使っていた幌馬車の裏に蠢く影を見つけた。そこには手足のない長い軟体生物、ワームがいて、他の魔物を捕食していた。騎士たちは、周囲の死骸と食料の残骸を見て、複数の魔物が拠点を襲った可能性を考えた。疲弊しきった状態で、さらに地中にワームが潜んでいるかもしれない状況に、アーレフは自分たちが不利であることを悟った。

第二話 おっさん、現実逃避する

ワーム襲撃後の食料危機とクレイジーエイプ討伐

ワームによる捕食現場

野営陣地では、ワームが地中から頭を出し、フォレスト・ウルフを呑み込もうとしていた。周囲にはクレイジーエイプやウルフ系魔物の屍があり、最初に拠点を荒らしたクレイジーエイプをウルフ系の魔物が襲い、そのウルフを追ってワームが現れたと考えられた。騎士たちは連戦と急速な格上げによる倦怠感でまともに戦えず、ゼロスが対処するしかなかった。

疲弊した騎士たち

女性騎士たちは、ワームを前に震える男性騎士たちへ情けないと冷たい視線を向けた。だが男性騎士たちは、魔力不足と肉体の変調によって戦える状態ではなく、男だから戦えという言い方に反発した。騎士たちは重度のネガティブ状態に陥っており、隊長のアーレフですら足腰の震えを隠せなかった。

進化と魔物の強さ

ゼロスはワームを鑑定し、カントリーワームの格が二〇四であることを知った。体力や魔力がキマイラより低いことから、進化前の個体ではないかと考えた。ゼロスは、この森の魔物の平均的な格が二〇〇から三〇〇ほどある可能性を見て、あと四日程度で教え子や騎士たちをそこまで引き上げるのは難しいと判断した。

サウンドボムと雷撃

ゼロスは休みたいと思いながら剣を抜き、【サウンドボム】で大音量の爆発音を響かせた。音が振動となって地中に伝わり、隠れていたワーム五匹を引きずり出した。続けて【サンダーブリット】でワームたちを麻痺させ、【フォース・エンチャント】で剣の切れ味を強化したゼロスは、逃げられなくなったワームの頭部を次々に斬り落とした。

勇者扱いされるゼロス

流れるようにワームを倒したゼロスに、騎士たちは拍手喝采を送り、勇者とまで崇めた。ゼロスはその反応を気にせず、ワームや周囲に転がる魔物の剥ぎ取りを始めた。ワームの肉は食用にならなかったため焼却処分となり、問題はワームに襲われていた他の魔物の素材に移った。

白猿の毛皮の正体

クレイジーエイプの毛皮は【白猿の毛皮】であり、貴族のコートとして高値で取引される人気素材だった。美しく穢れなき白い毛皮とされていたが、ゼロスは毛皮の主である猿の実態を思い出して皮肉を感じた。騎士たちは、この毛皮を求めた傭兵や猟師が帰ってこない理由を理解し、自分たちが傭兵ではなく騎士であったことに安堵した。

食料喪失と侵入口

拠点には食料がほとんど残されていなかった。調査の結果、魔物たちは壁の外側から穴を掘って侵入していたことが分かった。その穴からクレイジーエイプやウルフ系の魔物が入り込み、食料の奪い合いから激しい食い合いに発展したと考えられた。迎えが来るまであと四日あり、食料を失った一行は深刻な状況に追い込まれた。

野性に目覚めた騎士たち

それから二日、騎士たちは獲物を求めて森へ入り、倒した魔物を捌いて食べる生活を続けた。ワイルド・ウルフやゴブリン、オークを相手に容赦なく戦い、食料確保のためだけに殺戮を重ねていった。騎士たちは心の余裕を失い、魔物を仕留めると雄叫びを上げ、炎を囲んで狩りの成功を喜ぶほど原始的な状態へ変わっていった。

森への適応

ツヴェイトは、騎士たちの変化を精神が病んでいるのではないかと疑った。ゼロスは、この森では甘さを捨て、非情にならなければ生き残れないと語り、サーチ・アンド・デストロイと笑った。転生初日から続いたサバイバルによって、ゼロスの中にも獰猛な獣が生まれており、大深緑地帯の過酷さは文明的な人間の脆さを暴いていた。

干し肉の痕跡

騎士の一人が、奪われた干し肉の欠片を発見した。アーレフは、食料を奪った相手がこの先にいると判断し、発見次第殲滅すると号令をかけた。礼儀正しかった騎士たちは柄の悪い修羅のようになり、食料の恨みを晴らすため、怨敵を追跡し始めた。セレスティーナは人は一皮剥けば獣なのだと感じ、ツヴェイトは何かが間違っていると戸惑った。

クレイジーエイプの群れ

クレイジーエイプは岩場に住み着いており、群れの数は二十三匹であった。群れにはボスを中心とした序列があり、上位の個体が繁殖行為を許されていた。白い体毛の猿の中には雌雄の判別が難しい個体も存在し、さらにボスは緑色の体毛を持つ五メートル級の雌ゴリラ、【クイーン・アリエネコンガ】であった。

クレイジーエイプの生態

ゼロスは、クレイジーエイプには普通の雄がおらず、群れの中で弱い個体が雄へ変化するのではないかと推測した。雄となった個体は、群れの中で弱い立場となり、上位個体の繁殖の道具にされる。そのため、元の雌に戻るため、あるいは序列を上げるために人間の男を襲って力を示そうとしていると考えられた。騎士たちは、自分たちが同類扱いされていた可能性に強い嫌悪を覚えた。

山賊たちの惨状

群れの中には山賊風の男たちもいたが、彼らは既に正気を失っていた。ゼロスは、彼らが負けたことで序列の最底辺に置かれたのだと見た。さらに、奪われた食料はボスの腹に収まったと告げたため、騎士たちの怒りは臨界を超えた。食料は遠征において最重要であり、民衆の血税で用意されたものでもあったため、騎士たちはクレイジーエイプを許さなかった。

毒と麻痺の奇襲

アーレフの指示で騎士たちは部隊を分け、風下から岩場を囲んだ。セレスティーナが【フラッシュ】を放つと、群れの中心で閃光が炸裂し、クレイジーエイプたちの視界を奪った。騎士たちは黄色と紫色の煙を投げ入れ、麻痺と毒で群れを弱らせた。ツヴェイトは【ウィンド】で煙を群れ全体へ行き渡らせ、騎士たちは一斉に剣を抜いて襲い掛かった。

狩りとなった殲滅戦

麻痺で動けないクレイジーエイプたちは、騎士たちに次々と倒されていった。さらに【フレイムアロー】や【ライトニング・ブリット】で追撃し、炎と雷によって確実に仕留められていった。ここは人間同士の戦場ではなく、油断すれば死ぬ森であったため、騎士たちは卑怯と呼ばれる手段もためらわず使っていた。

クイーン・アリエネコンガの暴威

群れを荒らされたクイーン・アリエネコンガはドラミングで威嚇し、毒も効かないまま跳躍して騎士たちの前に着地した。長い腕を横薙ぎに振るうだけで騎士を吹き飛ばし、叩きつけた拳の衝撃波で別の騎士も弾き飛ばした。さらに逆上したアリエネコンガは、仲間のクレイジーエイプごと薙ぎ払い、弱っていた個体を即死させた。

雌ゴリラへの捕縛と強化

アリエネコンガの硬い皮膚には騎士たちの剣が通らず、山賊たちもその拳や足で無残に潰されていった。そこへゼロスが【光の縛鎖】を発動し、アリエネコンガを輝く鎖で十字架に磔にされたように拘束した。ゼロスは特殊攻撃を警戒するよう告げ、さらに広範囲ユニット強化魔法【神の祝福】を発動した。味方の能力が大幅に強化され、騎士たちは獰猛な笑みを浮かべながら、今なら殺れると叫んだ。

第三話 おっさん、あの時を夢に見る

クレイジーエイプ討伐後の帰還と盗賊団への進軍

雑魚の掃討とアリエネコンガへの攻撃

ゼロスがアリエネコンガを封じている間、騎士たちは周囲に群がるクレイジーエイプを優先して始末していた。食料を盗まれた怒りもあり、攻撃は苛烈なものとなっていた。戻ってきたクレイジーエイプも戦いに加わり、戦況は再び混乱したが、ツヴェイトとセレスティーナはアリエネコンガへ魔法を放ち、騎士たちは群れの一掃を進めた。

強酸の痰

アリエネコンガは口の中で何かをもごもごさせ、痰のようなものを吐き出した。それは岩に当たると赤熱して溶岩のように溶かす強酸の体液であり、騎士たちはその汚くも恐ろしい攻撃に戦慄した。アーレフとツヴェイトは背後から剣技で攻めたが、硬い皮膚に阻まれ、致命傷には届かなかった。

凶暴化する女王猿

アーレフは最大の技【轟雷一閃】でアリエネコンガの皮膚を斬り裂いたが、その一撃をきっかけに封縛していた【光の縛鎖】が砕け散った。アリエネコンガは【バインド・ブレイク】で拘束を破り、さらに【凶暴化】によって体毛を赤く変え、筋肉を膨張させた。怒りに支配されたアリエネコンガは大木を引き抜いて振り回し、周囲のクレイジーエイプまで巻き込みながら暴れ続けた。

雷神轟雷球の決着

ゼロスは、これ以上騎士たちに相手をさせるのは危険だと判断した。掌サイズの雷球【雷神轟雷球】を生み出すと、アリエネコンガの懐へ飛び込み、至近距離から叩き込んだ。雷球は凄まじい魔力と破壊力を解放し、アリエネコンガを体内から焼き尽くした。ゼロスは煙草に火をつけ、空虚さを覚えながら白煙を吐いたが、騎士や教え子たちは、もっと早く仕留めてほしかったと言いたげな冷たい視線を向けていた。

赤い巨狼の出現

アリエネコンガを倒しても、ファーフランの大深緑地帯は一行を休ませなかった。血の臭いを嗅ぎつけた赤い巨狼【レッド・グリード・バトルウルフ】と、狼型魔獣の群れが現れ、倒されたクレイジーエイプの肉を食らっていた。ゼロスは、先ほどの【神の祝福】が残っているうちに倒すしかないと判断した。逃げれば集団で追われるため、騎士たちは半ばやけになりながら再び戦うことを決めた。

狼群との乱戦

ゼロスは【撃ち貫く雷光の矢】で雑魚の狼たちを巻き込み、ツヴェイトとセレスティーナに群れの処理を任せた。レッド・グリード・バトルウルフは機動力が高く、牙には致死性の猛毒があったため、騎士たちでは相手が悪かった。ゼロスは巨狼を引き受け、騎士たちはハンターウルフやワイルド・ウルフ、フォレスト・ウルフの群れを引きつけて戦った。

白銀の神壁と断頭斬

ゼロスは【縮地】で間合いを詰め、魔力で強化した双剣でレッド・グリード・バトルウルフの腱を斬り裂いた。巨狼は切り札の【フレイムブレス】を放とうとしたが、ゼロスは【白銀の神壁】を円錐状に展開してブレスを拡散させ、さらに見えない槍のように伸ばして反撃した。弱った巨狼に【断頭斬】を放ち、頭部を斬り落として討伐した。

兄妹と騎士たちの奮戦

レッド・グリード・バトルウルフが倒れると、狼の群れは分散し始めた。ツヴェイトは【ライトニング・レイン】を放ち、セレスティーナは【エア・ストリーム】で群れを薙ぎ払った。討ち漏らした狼たちは騎士たちが迎撃し、命懸けの叫びを上げながら戦った。ツヴェイトとセレスティーナも魔力を温存して接近戦へ移り、ゴーレム訓練の成果を発揮した。

満身創痍の勝利

分が悪いと判断したハンターウルフたちは、子分を連れて撤退していった。騎士たちは勝利し、さらに格を上げることに成功したが、拠点へ戻る頃には満身創痍を超える疲労状態であった。ゼロスは見張りすらできない彼らを見かね、眠った後に回復魔法で癒し、一晩だけ見張りを買って出た。朝食はやはり焼肉であり、香辛料があったことだけが救いであった。

クレイジーエイプの悪夢

ゼロスは、この世界に来て三日目の夜の夢を見た。その日は朝から魔物の集団に襲われ続け、獲物を奪われ、血の臭いに誘われた肉食魔獣にも襲われ、空腹と疲労に追い詰められていた。岩場の陰で眠っていたゼロスは、クレイジーエイプにズボンを下げられ、半ケツ状態で目を覚ました。白い腕と赤い猿面と目が合い、危険な追いかけっこが始まったことで、ゼロスは生き残るために鬼となったのであった。

最終日の朝の襲撃

ゼロスが目を覚ますと、テントの外では騎士たちが激しい戦闘の真っ最中であった。実戦訓練最終日の朝、拠点は植物系の魔物に襲われ、女性騎士の一人が捕らえられていた。陣地は壁で囲まれていたため、魔物は地中から侵入したと考えられた。ゼロスは、ファーフラン大深緑地帯では人の常識が通じず、魔物が特殊能力で生存競争を勝ち抜いていることを改めて認識した。

マンイーター・ビーストコピー

ゼロスが鑑定すると、敵は【マンイーター・ビーストコピー】であった。植物でありながら餌となった魔物を複写して兵力にする魔物であり、炎に強く氷結魔法に弱かった。捕らわれた女性騎士は牙の生え揃った花へ引き込まれそうになっており、強酸性の粘液が異臭を放っていた。ゼロスは【霧氷散華】で本体を凍結させ、氷の彫刻のように固めた後、騎士の一撃で砕かせて救出した。

変魔種の発見

ゼロスはマンイーターの残骸を調べ、目的の素材である【変魔種】を見つけた。それは他の生物の遺伝子情報を複製し、同じ個体を量産する性質を持ち、ホムンクルスの体を構築するのに必要な素材でもあった。ゼロスは畑仕事の人手を得るために人造生命体を作る可能性を考えたが、素材や設備が足りないため計画段階に留めた。セレスティーナにはポーション素材だと説明し、ホムンクルスのことは伏せた。

最悪の味の回復薬

ゼロスは、変魔種を使った回復薬は効果こそ高いが、味が最悪になると説明した。飲めば奇声を上げて踊り狂うほど不味いと考えており、通常の商品には向かないと見ていた。酒場で賭けをした時の罰ゲームに使えるかもしれないと語るゼロスに、ツヴェイトは悪魔のような発想だと呆れた。こうして最終日は朝から散々な状態で始まった。

迎えの馬車

昼頃、ゼロスは煙草をふかしながら、毛皮や骨、牙、保存用の肉が並ぶ光景を見ていた。マンイーター戦後も五回ほど魔物に襲われ、騎士たちは疲弊しきっていた。その時、迎えの馬車が来たと知らされ、騎士たちは地獄の日々が終わることに涙するほど喜んだ。だがゼロスが、この辺りの魔物は大深緑地帯の奥に比べれば弱い方だと告げると、騎士たちは衝撃を受けた。

あの頃のゼロス

騎士たちは、ゼロスがこの森の奥で一週間もサバイバル生活をしていたことを思い出し、彼に同情した。彼らは、自分たちも同じような地獄を体験したことで、あの頃のゼロスの心理状態の危うさを理解した。アーレフの号令で荷物を積み込み、一行はこの危険地帯から逃れられることを心から喜び、驚く迎えの騎士たちをよそに素早く撤収を進めた。

生還した騎士たち

迎えに来た騎士たちは、傷だらけの鎧をまとい、憔悴しながらも凄みを帯びた仲間たちの姿に驚愕した。大深緑地帯で命懸けの死線を潜り抜け、誰一人欠けることなく生き延びた苦労は、そこにいた者たちにしか分からなかった。帰路の馬車の中で騎士たちはぐっすりと眠り、ようやく安心できる場所へ向かっていることに身を委ねていた。

川辺の惨状

馬車はサントールの手前にある川辺の休憩地点へ差し掛かった。そこには壊れた馬車と商人や護衛らしき死体があり、おびただしい血の跡が残されていた。死体はまだ温かく、少し前に襲われたばかりだと分かった。アーレフは盗賊が近くにいると判断し、周辺にある古い盗賊団のアジトを再利用している可能性を考えた。

使い魔による捜索

ゼロスはツヴェイトとセレスティーナに使い魔を用意させた。ゼロスは大鷲、ツヴェイトは隼、セレスティーナは鳩を魔法符で生成し、上流と下流に分かれて空から捜索した。ほどなくして、上流に盗賊たちの姿を見つけた。そこには女性と子供が人質にされており、ゼロスたちは余計な仕事を増やされたことに激しい怒りを覚えた。

盗賊団への怒り

大深緑地帯から帰還した騎士たちは、連続する戦いと肉ばかりの生活に嫌気が差していた。ようやく休めると思ったところで盗賊の被害を見つけたため、怒りの矛先は一気に盗賊たちへ向かった。彼らは騎士というより飢えた獣のような目で殺意を放ち、盗賊を始末することだけを考える修羅へ変わっていた。

盗賊アジトへの進軍

アーレフは総員に戦闘準備を命じ、盗賊たちを討つ号令をかけた。騎士たちは鬨の声を上げ、盗賊のアジトがある方角へ進軍を開始した。残された迎えの騎士たちは、一週間前まで清廉だった仲間たちの変貌に戸惑ったが、彼らには川辺の惨状を片付ける仕事が残されていた。盗賊たちは知らないうちに、凶暴な獣の群れを敵に回していた。

第四話 おっさん、同郷の者と邂逅する

盗賊団制圧と同郷の魔導士

捕らわれたイリス

入江澄香ことイリスは、商人の馬車の護衛依頼を受けた帰りに盗賊に襲われ、捕らわれの身となっていた。彼女は異世界転生後に村を救い、女性傭兵たちと共にサントールで傭兵登録をしていたが、現代社会の感覚とゲームに近い認識の甘さから、数の多い盗賊と人質の存在によって窮地に陥っていた。

盗賊への殺意

盗賊たちは女性や子供を人質に取り、家族を脅して女性を辱めようとしていた。その光景を見たイリスは、生まれて初めて純粋な殺意を抱いた。仲間のレナと離れないようにしながら周囲を探ると、上空に使い魔らしき反応を見つけ、魔導士がこちらを見ていると察した。イリスは救援の可能性をレナに伝えたが、いつ来るか分からないことに不安を抱いていた。

河賊のねぐら

ゼロスたち騎士団一行は、川を上流へ遡りながら痕跡を追い、三十分ほどで盗賊たちのねぐらを発見した。川のそばには船があり、盗賊たちは荷物を船で運んだ河賊だと見られた。騎士たちは、盗賊たちが女性や子供を人質にしている状況を確認し、怒りを高めていった。

殲滅作戦の準備

騎士たちは、魔物との戦いで得た経験から、麻痺や毒を使って盗賊を無力化する作戦を立てた。正々堂々と戦う必要はない相手であり、被害者を救うためにも時間はなかった。ゼロスは先陣を切って盗賊の注意を引きつけ、騎士たちが包囲するまで時間を稼ぐ役割を引き受けた。

悪役としての潜入

盗賊たちの前に、薄汚れた灰色ローブの中年魔導士としてゼロスが現れた。彼は森をさまよっていたと装い、町までの道を尋ねながら、盗賊たちと同類であるかのように振る舞った。さらに女性たちを実験材料として譲ってほしいと口にし、盗賊たちに闇魔導士だと思わせた。盗賊頭はゼロスを信用できない危険人物と判断し、部下に始末させようとした。

返されたナイフ

盗賊の一人が背後からナイフでゼロスを襲ったが、倒れたのは盗賊の方であった。ゼロスは相手の攻撃をそのまま返したように見せ、盗賊たちへ、交渉したにもかかわらず武器を向けた以上、殺されても文句は言えないと告げた。ゼロスは悪役を演じながら、盗賊たちを実験材料にするような言動で恐怖を煽った。

引き裂く風花

ゼロスは【引き裂く風花】を放ち、盗賊たちを一瞬で切り裂いた。さらに逃げ出そうとした者たちには【指弾】を使い、小石で頭部を撃ち抜いた。盗賊たちは、灰色ローブの色でゼロスを低く見積もった自分たちの判断が致命的な誤りだったと理解したが、すでに逃げ場はなかった。

人質を無意味にする恐怖

盗賊頭は生き残るために子供を人質にしようとしたが、別の盗賊も同じ考えで動いた。ゼロスは【ストーン・バレット】でその盗賊を倒し、人質が通用する相手ではないと盗賊頭に思い知らせた。ゼロスは、自分は盗賊たちを標的にしているだけだと演じ続け、相手を狩る側から狩られる側へ追い込んでいった。

麻痺毒の包囲

やがて盗賊たちの体に痺れが回り、まともに動けなくなった。ゼロスが時間を稼いでいる間に、騎士たちが風上から麻痺毒を流していたのである。盗賊たちは卑怯だと訴えたが、ゼロスは、卑劣な手を使っていた者たちが同じ手を使われて文句を言う資格はないと切り捨てた。騎士団はその隙に突撃し、抵抗する者を倒して盗賊団を完全に制圧した。

騎士への戦慄

助けられたイリスは、毒物を使い、痺れて動けない盗賊を容赦なく殺す騎士たちの姿に戦慄した。人質にも麻痺が回っていたため解毒薬は用意されていたが、そのやり方は誇り高い騎士の印象とは大きく異なっていた。レナも騎士たちを怖いと感じ、イリスも彼らの悪辣な手口に戸惑いながら、助けられた事実を受け止めていた。

ルーンウッドの杖

ゼロスは戦利品の中にルーンウッドの杖を見つけ、持ち主を尋ねた。それがイリスの杖だと分かると、ゼロスは課金装備であり、ガチャで入手できるものだと口にした。イリスは初心者ボーナスでガチャ券をもらって出たものだと答えた。二人は互いに地球とゲームの知識を持つ者だと気付き、同郷のプレイヤーではないかと見つめ合った。

オークの群れ

ゼロスとイリスが話そうとした直後、オークの雄叫びが響いた。現れたオークは二回り大きく、森から出てきた群れの斥候のように見えたが、様子には違和感があった。騎士たちは盗賊を制圧した直後に魔物まで相手にしなければならない状況に顔色を変えた。被害者の護衛と盗賊の連行を同時に行う余裕はなく、アーレフも対応に窮した。

盗賊たちの置き去り

ゼロスは嫌な予感を覚え、盗賊たちは邪魔だから置いていくべきだと判断した。騎士たちは被害者の保護を最優先し、麻痺で動けない盗賊たちを残して撤退を始めた。イリスはゼロスと話したがったが、ゼロスは今はこの場を離れることが重要だとして、彼女の手を引いて移動した。

因果応報の末路

残された盗賊たちは、オークの群れに囲まれた。彼らは助かったと思いかけたが、現れたのは繁殖のために他種族の雄を狙う雌のオークたちであった。盗賊たちは自分たちが狩る側から狩られる側になったことを悟る間もなく、自然の摂理の中へ放り込まれた。彼らは自らが振りかざしてきた力の理論に従い、誰にも助けられないまま報いを受けることになった。

第五話 おっさん、身の上話をする

ゼロスとイリスの同郷者同士の会話

川原での夜営

盗賊を討伐した後、ゼロスたちは川原にたどり着き、そこで一夜を明かすことになった。セレスティーナとツヴェイトは先に眠り、ゼロスは数人の騎士たちと交代で見張りをしていた。大深緑地帯から帰還した騎士たちは獣のように感覚が鋭くなり、少しの気配でも目を覚ますようになっていた。さらに、クマのような獣が現れると嬉々として狩りに向かうほど野性化が進んでいた。

イリスとの接触

ゼロスが焚火にあたりながら薬草の種を取り分けていると、イリスが近付いてきた。イリスはゼロスをおじさんと呼び、ゼロスは四十歳なので間違いではないとしながらも、若い少女にそう呼ばれると少し傷ついた。ゼロスは以前、同年代の少女に援助交際目的で誘われたことがあり、それを断って罵られた経験から、イリスにも冗談めかして先に断りを入れた。イリスはその扱いに憤慨したが、同時にゼロスが元の世界の話をしていることを理解した。

二人の装備と外見

イリスは黒を基調としたマジックドレスを着ており、ツインテールに小さなとんがり帽子を合わせた、魔法使いらしいが実用性に欠ける姿であった。ゼロスはその装備をファンシーだと評したが、イリスは元のアバターが長身の美女系だったため、今の体で装備できるものが限られていたと説明した。イリスもゼロスの灰色ローブと怪しい口調を、街中に紛れた映画のエキストラのようで変だと指摘した。

ゼロスの仕事と口調

ゼロスは、今の口調は会社勤めの時に矯正したものであり、もはや癖になっていると語った。元の世界ではネットワークのセキュリティ関係の仕事をしており、ファイアーウォールの構築やクラッカー追跡用のカウンタープログラムなどに携わっていた。イリスはゼロスをインテリではないかと見たが、ゼロスはまた援助交際を断るような冗談を返し、イリスに怒られた。

厄介な姉

ゼロスこと大迫聡は、かつて会社で順調に働き、国家プロジェクトにも関わるほどの実績を持っていた。しかし、姉が社宅に転がり込み、働かずに三年も居座ったことで生活を乱された。姉は金遣いが荒く、結婚相手の預金を使い潰し、外面だけは良いため周囲を味方につける厄介な人物であった。聡は預金通帳を貸金庫に隠すなどして被害を防いでいたが、姉との生活は地獄のようなものだった。

盗まれた開発データ

聡が海外出張中、姉は管理人を騙して寮の部屋に侵入し、開発中のプログラムデータをコピーして盗んだ。さらに姉の再婚相手がライバル会社の重役であり、その会社が奪ったソフトを先に発表した。裁判では、盗まれたプログラムの欠陥を証拠として提示したことで聡側が勝利したが、聡は姉のせいで会社を辞めることになった。重役も責任を取らされ、誰も得をしない結果となった。

田舎でのひきこもり生活

会社を辞めた聡は田舎に土地を買い、親の残したアパートの管理を人に任せ、姉の目を欺くために偽の会社名を掲げて生活を隠した。その後は農業を営みながら、悠々自適のひきこもり生活を送るようになった。姉は一度だけ顔を見せたが、農家の生活を嫌ったのか、それ以降は寄り付かなくなった。ゼロスは、この世界に姉がいたら真っ先に殺していたと語るほど、姉を嫌っていた。

イリスの状況把握

ゼロスは身の上話をした後、イリスの装備や資金事情を聞いた。イリスは現在の体に合う装備が少なく、鎧を買う金もないため、傭兵で稼いで装備を買い替えようとしていた。ゼロスは会話の中で、イリスがゲームを楽しんでいたプレイヤーであり、自分の殻にひきこもりがちだが好奇心は強く、危機感はやや薄い少女だと見た。家族関係は悪くはなく、異世界転生の状況そのものを楽しもうとしているようでもあった。

ソード・アンド・ソーサリスへの疑問

ゼロスは、イリスにこの世界をどう思うか尋ねた。イリスは、異世界に来られて嬉しい気持ちと家族に会えない残念さが半分ずつだと答えた。ゼロスは、この世界の摂理が【ソード・アンド・ソーサリス】と似すぎていることを不審に思っていた。上位プレイヤーが作った新魔法は、ゲームシステム上、本来なら受け入れられるはずがないものであり、NPCの思考や膨大な処理能力を含めても、普通のゲームとしては不自然だった。

疑問を抱かせない世界

ゼロスは、ゲーム内で新魔法が成立し、エフェクトまで自然に発生していたことに、技術者として強い違和感を抱いていた。さらに、これほど革命的なシステムを作った企業名すら思い出せず、誰もその点を疑問に思っていなかったこともおかしかった。ゼロスは、元の世界の人間たちが【ソード・アンド・ソーサリス】に疑問を抱かないよう、思考を制御されていた可能性に触れた。イリスもその考えに動揺し、この世界の情報をもとにゲームが作られていたのではないかという仮説を聞かされた。

傭兵生活への問い

ゼロスは、イリスがこのまま傭兵を続けるつもりなのか尋ねた。イリスは、ダンジョンもあると聞いており、この世界を楽しみたいと答えた。ゼロスは本来、殺伐とした世界に身を置き続けるのかと聞きたかったが、自分も他人の人生に口を出せるほど立派ではないと考え、踏み込むのをやめた。代わりに、何かあれば相談には乗ると伝えた。

ゼロスという名と黒の殲滅者

イリスは、まだゼロスの名を知らないことに気付いた。ゼロスは、この世界ではゼロスと名乗っていると答えた。するとイリスは、彼が【黒の殲滅者】ではないかと驚いた。ゼロスはその二つ名を知らなかったが、ゲーム内で最強装備の状態が黒一色だったことから付けられたものだった。ゼロスは厨二病的な二つ名にやるせなさを覚え、煙草の煙で輪を作って誤魔化した。

白銀の神壁の継承

翌朝、馬車がサントールへ向けて出発すると、ゼロスは先頭馬車の中でセレスティーナとツヴェイトに劣化版【賢者の石】を渡した。それは広範囲殲滅魔法【闇の裁き】を作る時に余った失敗作であり、魔法スクロールの代わりにも使えるものだった。中にはゼロスのオリジナル魔法【白銀の神壁】が封じられており、約束通り二人に与えられた。

消える魔法式

セレスティーナとツヴェイトは【賢者の石】から魔法式を展開し、自身の潜在意識領域に魔法を刻み込んだ。すると、封じられていた魔法式は消滅した。ゼロスは、勝手にコピーされないよう、潜在意識に刻まれた時点で記録媒体側の術式が消えるよう細工していた。二人は、膨大で圧縮された魔法式の構造を見て解読不能だと感じ、ゼロスの魔法を高度な芸術のように受け止めた。

攻防一体の障壁魔法

ゼロスは【白銀の神壁】について、自分の思う形に変化させられる魔法障壁だと説明した。それは盾にも剣にもなり、伸ばしたり、棘のように展開したり、熟練すれば透明化や礫として撃ち出すことも可能だった。攻防一体で応用範囲の広い魔法であったが、障壁の強度は使用者の魔力制御や魔力保有量に左右され、使いこなすには高い練度が必要であった。二人はその奥の深さに興奮し、早く試したいと考えていた。

若返りへの一瞬の迷い

若い二人の熱意を見たゼロスは、自分も若返ることを考えた。【時戻りの秘薬】なら二十歳ほど若返ることができ、【回春の秘薬】も一時的に若返る効果があったが、後者は寿命を縮める副作用があった。ゼロスは、無理に若返る必要はなく、怪しいおっさんの姿もそれなりに気に入っていると考えた。身だしなみを整えるのも面倒で、長いひきこもり生活による怠け癖が抜けていなかった。

イリスの憧れと誤解

イリスは馬車の荷台から、前を進む馬車にいるゼロスを見ていた。自分と同じ転生者であり、上位プレイヤーとして名を馳せたゼロスの存在が気になっていた。彼女は、ゼロスを世界最強の魔導士だと見て、仲間に引き込めないか考えていた。だがレナは、それを恋愛感情だと勘違いし、年齢差やイリスの幼い体型をからかいながら、あのおじさんは危ないのではないかと茶化した。

恋愛症候群という発情期

レナは、イリスに恋愛症候群に気を付けるよう忠告した。イリスは発情期のようなものは人間にはないと思っていたが、この世界の人間には恋愛症候群と呼ばれる現象が存在していた。それは地脈を流れる魔力が精神に反応して起こる暴走現象であり、相性の良い異性に本能が強く反応し、理性の箍を外してしまうものだった。魔導士は魔力と精神の親和性が高いため、特に暴走しやすいとされていた。

イリスの戦慄

レナは、恋愛症候群は【天使の悪戯】や【キューピッドの気まぐれ】とも呼ばれ、街中でメロドラマが起きる初夏から初秋の風物詩だと説明した。互いの魔力干渉が成立しなければ成就しないが、発症すれば恥ずかしい告白や社会的な死につながることもあるという。イリスは、自分がゼロスに妙な告白をしてしまう可能性まで想像し、この世界に来て初めて強い戦慄を覚えた。サントールへ戻る数日間、彼女は悶々とした気分に苛まれることになった。

第六話 おっさん、誘導する

騎士団への報告とツヴェイトの謝罪

騎士団執務室の報告

騎士団の執務室では、騎士団長マーカス・ヴィルトンと分隊長アーレフ・ギルバートが顔を合わせていた。マーカスは、部下に経験を積ませるため護衛依頼を了承したが、アーレフたちがファーフランの大深緑地帯で得た成果は想像を超えていた。短期間で格が一五四に達したことや、オーガ、トロール、キマイラ、マンイーターと戦って生還した事実に、マーカスは驚きを隠せなかった。

大深緑地帯の生還者

アーレフは、倒さなければ自分たちが喰われる状況だったため、命懸けで戦ったと淡々と答えた。二日目に食料を奪われ、そこから生存のためのサバイバルを強いられた経験は過酷なものだった。マーカスは、数日で別人のように精悍になったアーレフの姿に驚き、我が子の成長を喜ぶような気持ちを抱いた。

赤い巨狼への警戒

マーカスは報告書に記されたレッド・グリード・バトルウルフの情報に目を通し、その脅威に息を呑んだ。レッド・グリード・バトルウルフは並の傭兵では相手にならず、下位種の狼型魔物と群れを組んで獲物を追い詰める凶悪な魔物であった。アーレフは、他にも同種が存在する可能性や、より強力な魔物に追われて人里近くへ現れた可能性を示し、辺境の行方不明事件にも関係しているかもしれないと考えた。

白猿の毛皮と傭兵への警告

マーカスは、クレイジーエイプの情報にも頭を悩ませた。【白猿の毛皮】は高値で売れるため、傭兵たちが狙う可能性が高かった。しかし、クレイジーエイプは人間や多種族を繁殖の道具にする厄介な魔物であり、油断すれば犠牲者が増えるだけであった。マーカスは傭兵ギルドに注意喚起する判断を下したが、後に傭兵ギルドはその情報を軽んじ、多くの傭兵が戻らなくなることになった。

重くなるマーカスの役目

アーレフが退室した後、マーカスは机に頭を抱えて蹲った。レッド・グリード・バトルウルフのような凶悪な魔物が出没するなら、警戒だけで済む問題ではなかった。群れで人里へ現れれば、骨すら残らず食い尽くされる危険があり、マーカスは自分が今後その対応を説明しなければならないことに心を重くしていた。

サントール帰還後の訓練

ゼロスたちがサントールに戻って三日後、セレスティーナとツヴェイトはいつものようにゴーレム相手の戦闘訓練を行っていた。訓練相手にはマッドゴーレムに加えてストーンゴーレムも混ざるようになり、二人は苦戦しながらも倒せるほどに成長していた。大深緑地帯で死線を潜り抜けた経験により、動きには以前の危うさが消えていた。

クレストンの派閥構想

クレストンは、セレスティーナとツヴェイトの成長を見て満足し、二人を自分の派閥に加えるつもりでいた。魔法文字を解読できる二人が加われば、魔導士団と騎士団の対立を改善し、派閥の影響力を高めることにつながるためである。ゼロスは、影響力の拡大を嫌う者たちや裏組織とのつながりを警戒したが、クレストンは王族直轄の暗部や再調整した教本を使い、外堀から埋めていく考えだった。

最適化魔法の販売

ソリステア公爵家傘下の商会では、ゼロスが作成した【ガイア・コントロール】や最適化した既存魔法のスクロール販売が始まっていた。建築業者や農民にも売れ行きは良く、魔法スクロールの売り上げを収入源にしていた既存派閥にとっては、土台を揺るがす事態であった。ゼロスはスクロールに、潜在意識領域へ魔法を刻むと魔法式が消える細工を施しており、魔法の無制限な拡散を防ぎつつ魔法紙の再利用も可能にしていた。

ストーンゴーレムの包囲戦

訓練では、ストーンゴーレムが防御役となり、太いマッドゴーレムと細いマッドゴーレムが攻撃と間接戦闘を担っていた。ストーンゴーレムは防御力が高く、核を破壊しなければ倒せないうえ、石を弾丸のように撃ち出す【ストーン・ショット】も使ってきた。セレスティーナとツヴェイトは魔法障壁で攻撃を防ぎながら、鉄壁に近い布陣の突破を迫られていた。

白銀の神壁の実戦応用

セレスティーナとツヴェイトは、短期決戦に活路を見出し、【白銀の神壁】を展開した。セレスティーナは棘状の障壁を前方へ伸ばす突撃型として使い、ツヴェイトは巨大な剣の形へ変えて周囲の敵を薙ぎ払った。さらに武技を組み合わせることで威力を高め、リーダー格のストーンゴーレム・コマンダーを狙った。

アースクェイクの返り討ち

リーダー格のストーンゴーレム・コマンダーは、両腕で地面を叩きつけ、【アースクェイク】を発動した。振動波によって二人の体勢は崩れ、そこへ泥のように這い回るマッドゴーレムが周囲を囲んだ。勝機を見出そうとした判断は間違っていなかったが、相手の手の内を見極めるには早く、二人は泥だらけにされて訓練を終えることになった。

地獄の入口という実感

ゼロスは、二人の判断は少し早かったが、戦い方自体は悪くないと評価した。さらに大深緑地帯のゴーレムはこの程度では済まず、【アースクェイク】で周囲の森ごと吹き飛ばすほどだったと語った。セレスティーナとツヴェイトは、自分たちが過ごした場所はまだ地獄の入口にも至っていなかったことを思い知り、ファーフランの大深緑地帯の恐ろしさを改めて感じた。

挙動不審なツヴェイト

最近のツヴェイトは、セレスティーナを陰から見ては深い溜息を吐くようになっていた。周囲から見れば妹に恋慕する危ない兄にしか見えなかったが、本人はそれに気付いていなかった。実際には、幼い頃からセレスティーナを虐めてきた過去を清算するため、謝罪する機会を窺っていたのである。

ゼロスの勘違い

ゼロスはツヴェイトの背後に現れ、その行動はやめた方がいいと忠告した。彼はツヴェイトがセレスティーナに恋慕の情を抱いていると勘違いしていたが、ツヴェイトは全力で否定した。ツヴェイトは、魔法が使えないと思い込んでいたセレスティーナを、公爵家の血を引く無能な存在として許せず辛く当たってきたことを明かした。だが、原因が魔法式の欠陥だったと知り、罪悪感に耐えられなくなっていた。

謝罪への迷い

ゼロスは、謝りたいなら一言謝ればよいと促したが、ツヴェイトは体裁や恥ずかしさから踏み出せずにいた。ゼロスは、今謝らなければいずれ謝ることすらできなくなり、信用を失うと説いた。さらに、過去の自分を許せるのか、胸を張って生きられるのかと問い詰め、ツヴェイトに過去と向き合う覚悟を促した。

ドS主任の扇動

ツヴェイトは、自分がまだ何もしていないことに気付き、まず自分の言葉でセレスティーナに謝ると決意した。ゼロスは、謝罪はセレスティーナのためだけではなく、自分の過去にけじめをつけ、今後の在り方を決めるためのものだと煽った。ツヴェイトは熱血漢らしく決意を固め、セレスティーナのもとへ向かった。ゼロスは、かつて会社員時代に部下を奮い立たせた話術でツヴェイトを誘導していた。

バルコニーの謝罪

セレスティーナはバルコニーで森からの風を楽しんでいた。そこへツヴェイトが現れ、幼い頃からのことを含めて、今まですまなかったと頭を下げた。彼は、公爵家の跡取りとして育てられ、魔法が使えないセレスティーナが同じ血を引いていることを許せなかったが、それが魔法式の欠陥によるものだったと知り、自分の過ちを清算したいと語った。セレスティーナは突然の謝罪に困惑しながらも、彼の誠実さを受け止めた。

魔法の力と責任

セレスティーナは、ゼロスの魔法をどう思うかツヴェイトに尋ねた。二人は、ゼロスの魔法が圧倒的な威力と効率を持つ一方で、他国へ漏れれば大きな戦火を招く危険な力でもあると理解していた。セレスティーナは、人を幸せにする魔法を作ることが自分たち弟子の使命ではないかと語ったが、ツヴェイトは公爵家の後継者として民を守る責務に殉じる道を選ぶと答えた。

交わらない二人の道

セレスティーナは、人の暮らしを豊かにする魔法を目指し、ツヴェイトは民の命と財産を守るために戦う道を選んでいた。二人の進む道は異なるが、どちらも民のために魔法を追求する点では同じであった。ツヴェイトは、軍務に就けば国の命令に従うことになり、死ぬかもしれなくても民の血税で育った自分は逃げられないと語った。

兄妹の和解

ツヴェイトの覚悟を知ったセレスティーナは、兄を許すと告げた。彼が幼い頃から民の命の重さを理解し、貴族としての責務を背負っていたことを知ったためである。ツヴェイトは、セレスティーナには彼女にしかできないことを探せばよいと伝え、クロイサスもいずれ覚悟をしているだろうと語った。この日、二人は過去のわだかまりを解消したが、セレスティーナは決められた道しか進めないツヴェイトの人生の重さも初めて知ることになった。

第七話 おっさん、自宅建築現場へ赴く

領主からの土地譲渡とドワーフ職人の建築現場

領主館での対面

ゼロスは領主の館を訪れ、現公爵デルサシスと対面していた。二人の奥方から値踏みするような視線を向けられたが、ゼロスは前世の経験を活かして営業口調で無難に応対した。奥方たちはゼロスの胡散臭い格好を評したが、ゼロスは趣味だと流し、余計な火種を避けていた。

土地の権利書

デルサシスは、以前約束していた土地の権利書をゼロスへ渡した。場所は旧市街地の教会裏手であり、治安には多少の不安があったが、デルサシスはゼロスなら大抵の相手を返り討ちにできると見ていた。さらに新築の設計図も用意されており、ゼロスはようやく自分の家を得られることになった。

ハンバ土木工業

ゼロスは家の引き渡し予定が二週間後であることに驚いた。デルサシスは、ドワーフの職人集団であるハンバ土木工業が恐ろしい速度で建築を進めていると説明した。彼らは腕利きで期日を守る一方、設計変更をする客や仕事で失敗した者には容赦なく拳が飛ぶような血の気の多い集団であった。

地下室の希望

ゼロスは、家に地下室があれば物置として便利だと考えた。しかしデルサシスは、地下室の件は職人たちに直接言ってほしいと告げた。自分が言うと殴られるかもしれないためであった。ゼロスは関わりたくないと思ったが、下見に行かなければ今度は職人たちが集団で殴りに来ると聞き、建築現場へ向かうことになった。

奥方たちの縁談話

部屋を出ようとしたゼロスに、奥方二人が結婚の話を持ちかけた。彼女たちはセレスティーナをいまだに魔法の使えない役立たずだと思っており、政略結婚にも使えないならゼロスにもらってもらえないかと口にした。ゼロスはクレストンに殺されたくないとして無難に断り、貴族の家庭事情に深入りしないよう退室した。

デルサシスの火遊び

ゼロスが去った後、奥方二人は彼が野心家ではないかと話し合ったが、デルサシスはゼロスについて語ろうとしなかった。彼は大賢者を敵に回したくなかったためである。デルサシスは妻たちを街へ連れ出す話題に切り替え、二人はすぐに機嫌を直した。デルサシスは複数の女性と関係を持ちながらも、その後の配慮を忘れない男であった。

建築現場の騒動

ゼロスが教会裏手の建築現場へ向かうと、そこでは大勢のドワーフたちが作業に励んでいた。建材の番号を消した原因を巡ってドワーフたちが口論し、棟梁のナグリが部下二人を殴り倒していた。ゼロスはその光景に呆然としたが、ドワーフたちはすぐに立ち上がり、何事もなかったかのように作業へ戻っていった。

棟梁ナグリ

ゼロスは現場責任者である棟梁ナグリと挨拶を交わした。ナグリはゼロスがこの家に住む者だと知り、家の設計について意見を求めた。ゼロスは間取りに大きな不満はなかったが、魔導士として地下室が欲しいと伝えた。ナグリは、当初はデルサシスの愛人を住まわせる家だと思っていたため、地下室までは考えていなかったと語った。

沈黙の領主

ナグリは、デルサシスが訳ありの女性と関係を持つことが多いと話した。かつて裏組織に囲われていた愛人を助けるため、公爵家の権力を使わず商人としての伝手だけで組織を潰した逸話があり、その通り名は【沈黙の領主】であった。さらにデルサシスは女を喜ばせることを生きがいとする本まで出しており、その本は男のバイブルとして売れていた。

地下室作りの提案

ナグリは地下室を作る方法を考え、ゼロスの【ガイア・コントロール】でどうにかならないかと相談した。ゼロスは精密な制御が必要だとしながらも、自分なら作業できると答えた。ドワーフたちは魔法を忌避する傾向があるが、土木作業に向いた【ガイア・コントロール】は重宝しており、ハンバ土木工業もソリステア商会から購入して使い始めていた。

ロック・フォーミング

ゼロスは地下室を作るため、まず【ロック・フォーミング】で家の基礎周辺の土を岩盤に変えた。この魔法は土を圧縮して岩にするもので、花壇作りなどを目的に考案したものだったが、使い方次第では短期間で砦を築くこともできる危険な魔法であった。そのため、ゼロスは迂闊に広めるつもりはなかった。

完成する地下室

ゼロスは【ガイア・コントロール】で斜めに掘り進み、地下五メートルほどの深さから横穴を作り、【ロック・フォーミング】で硬質化させていった。地下室は三部屋で十字型の構造となり、天井は重量を分散させるアーチ式にした。さらに通気口も設け、周辺基礎を岩盤化して、並大抵のことでは崩れない強固な構造に仕上げた。

ハンバ土木からの勧誘

ゼロスの作業を見たナグリは、その腕を見込んでハンバ土木工業で働かないかと誘った。ゼロスは研究者であり、畑仕事をしながらのんびり暮らしたいと断ろうとしたが、数週間後には無職になることを思い出し、暇な時の日雇いなら手伝うと了承した。ナグリはゼロスを臨時職人として歓迎した。

長命種との会話

地下室作りの合間、ゼロスとナグリは寿命について話した。ドワーフは平均で二百年ほど生き、エルフやドラゴンはさらに長命であった。ゼロスは長命種を羨ましく思う一方、ナグリは長く生きるほど人間の知り合いが先に死んでいく寂しさを語った。ゼロスは、先に死ぬ者としては思い出話に名前が残れば嬉しいと答え、ナグリはその考えを参考にした。

整地作業の衝撃

地下室を終えたゼロスは、周囲の土地も畑に使えるよう水捌けを考えて整地した。土地の勾配や凹凸を整える作業は本来なら人手と時間がかかるが、【ガイア・コントロール】により一気に進んだ。ドワーフたちはその正確で広範囲な作業に驚き、ゼロスを正式に自分たちの現場へ欲しがるほど歓迎した。

土木革命の兆し

ドワーフたちは、街道整備や側溝作りに【ガイア・コントロール】が大きく役立つことを理解していた。雨水が溜まる道や凹凸のある山道を整えるには多くの人員と時間が必要だったが、この魔法を使えば工期を短縮し、複数の現場を掛け持ちできる可能性があった。ゼロスにそのつもりはなかったが、彼の魔法は結果的に土木業へ大きな変化をもたらしつつあった。

ボロモロ鳥の恨み

作業中、ナグリは別のドワーフであるユンボに向けて柱を投げつけた。原因は、ナグリが楽しみに取っておいた期間限定の【ボロモロ鳥のピリ辛揚げ】をユンボが勝手に食べたことであった。ユンボは反発し、ナグリと激しい殴り合いを始めた。他のドワーフたちは動じず作業を続けており、ゼロスはこれが現場の日常なのだと察した。

ドワーフの日常

ナグリとユンボの殴り合いは、食べ物の恨みから明け方まで続いた。ドワーフたちの体力は尋常ではなく、周囲の職人たちは騒動を気にせず仕事を進めていた。状況に置き去りにされたゼロスは、帰っていいのかと途方に暮れることになった。

第八話 おっさん、再び無職に・・・・・・

魔導錬成の試作と学院帰還前の課題

魔導錬成の試作

ゼロスは部屋で机に向かい、複雑な魔法陣と魔法式を使って小さな金属塊を加工していた。彼が行っていたのは錬金術の最高秘匿技術である【魔導錬成】であり、魔法制御や魔力操作、金属加工や精錬知識を総動員する高等魔法技術であった。ゼロスは魔法陣に魔力を流し込み、金属を自在に変形させていった。

白銀の指輪と腕輪

ゼロスが作っていたのは、二つの指輪と一つの腕輪であった。素材にはミスリルとマナライト鉱石を使い、魔力との相性と強度を両立させる合金として加工していた。木製の杖は材質や年代によって性能差が出るが、金属製の魔法媒体は魔力が安定し、長持ちするため、ゼロスは装飾品型の魔法媒体として仕上げようとしていた。

杖による格差

この世界では魔導士が杖を使うのが主流であり、良質な杖を持つ貴族出身の魔導士が威力面で優遇されていた。平民出身の魔導士は安い杖しか手に入らないため、実力とは別のところで差をつけられていた。ゼロスは金属製の魔法媒体の方が安定性に優れていると考えていたが、この世界には金属が魔力を弾くという根拠のない噂が広まり、魔導士にはあまり使われていなかった。

魔法式の刻印

指輪と腕輪の形が整うと、ゼロスは魔法式を刻む工程に移った。魔法式は魔力の運用効率を高め、魔法行使を安定させるためのものであり、魔導具製作において重要な工程であった。ゼロスは魔法紙から魔法式を解放し、指輪と腕輪に複雑な模様として刻み込んでいった。作業は長く、額に汗を浮かべるほど手間のかかるものだった。

現実の魔導錬成

作業を終えたゼロスは、ゲーム時代とは違って実際の魔導錬成が予想以上に苦戦するものだと感じた。工程そのものは理解していたが、魔法陣や魔法式の準備に時間と手間がかかったためである。完成した魔法媒体はゼロス自身には必要ない装備であり、使い道を考えるうちに面倒になったゼロスは、疲れてベッドに潜り込み眠ってしまった。

夏季休暇の終わり

セレスティーナとツヴェイトは、数日後に夏季休暇を終え、イストール魔法学院の寮生活へ戻ることになっていた。二人はこの二ヶ月間、ゼロスから戦闘訓練や魔法薬調合、魔法式の知識を学び、濃厚で充実した日々を過ごしていた。そのため、ゼロスの講義を受けられなくなることや、学院での退屈な生活に戻ることを憂鬱に感じていた。

魔法薬調合の成果

ゼロスは二人に、孤立した時や魔法薬を使い切った時に自力で調合できれば生存率が上がると教えていた。二人は実戦訓練の後、試験管やビーカーを使って調合を続け、低級の【ポーション】や【マナ・ポーション】を作れるほどに上達していた。殺伐とした戦闘訓練と薬剤研究の休暇ではあったが、二人にとっては楽しく充実した時間であった。

学院への不満

セレスティーナとツヴェイトは、学院に戻ることに強い不満を抱いていた。ゼロスのもとでは積層魔法陣方式や魔法薬、魔導具、魔法式構築と運用といった高度な知識を学べたが、学院の講師は教えられたことしか知らず、深く質問しても答えられないと二人は見ていた。学院に戻る価値を見出せない二人にとって、夏季休暇の終わりは重いものだった。

失われた魔法知識

邪神戦争では優秀な魔導士たちが戦場で失われ、その後の疫病や戦乱によって魔導書や魔導具も散逸した。結果として、現在の魔法研究は魔法文字一つひとつの効果を手探りで確かめる段階に留まっていた。魔法文字を繋げて意味ある魔法式を構築する知識は失われ、ソリステア家の秘宝魔法【ドラグ・インフェルノ・ディストラクション】も欠陥を抱えたまま伝わっていた。

秘宝魔法の欠陥

セレスティーナとツヴェイトは、秘宝魔法の解読と改良に取り組んでいた。魔力消費が大きく、術者への負担も重いことから、実戦で何度も使える魔法ではなかった。二人は大深緑地帯での実戦経験を経たことで、威力だけでなく魔力消費や戦場での継戦能力を考える必要があると理解し、秘宝魔法の欠点に気付いていた。

危険なクレストン

クレストンは、孫たちの成長を見て満足していたが、内心ではセレスティーナに近づく未来の求婚者へ殺意を燃やしていた。ゼロスが、以前頼まれていた秘宝魔法の効率化が完成したと伝えると、クレストンは大いに喜んだ。だが、その目的がセレスティーナに近づく有象無象を始末することに向いているようで、セレスティーナとツヴェイトは祖父の危険な発想に驚いた。

効率化された秘宝魔法

ゼロスは、秘宝魔法の無駄を減らし、可能な限り効率化したうえで威力も高めていた。だが、秘宝魔法は四大公爵家が秘匿するべきものであり、クレストンがそれを部外者であるゼロスに見せたことに、セレスティーナとツヴェイトは強く驚いた。ゼロスは他人に教えるつもりはないとしながらも、危険すぎる改良を施してしまっていた。

マナ・ポーションの調合

ゼロスはクレストンの暴走を自然に流し、薬草の色が変わったことを指摘して調合へ話を戻した。セレスティーナとツヴェイトは、ビーカーを火から下ろし、マンドラゴラの粉末を加えて中級の【マナ・ポーション】を作る工程へ移った。マンドラゴラの名を聞いた二人は、大深緑地帯で採取した時の強烈な精神攻撃を思い出した。

大深緑地帯のマンドラゴラ採取

食料を奪われた後、一行は生き残るために食料や薬草を現地調達していた。ゼロスは薬草や【ドラック茸】、【ケミカルリーフ】、マンドラゴラを集める必要があると説明した。ツヴェイトはたかが植物だと軽く見ていたが、実際に引き抜くと、マンドラゴラは人の良心を抉るような叫びを上げ、二人の精神を容赦なく追い詰めた。

良心を抉る叫び

マンドラゴラは助けを求めたり、家族を思わせる言葉を叫んだりし、採取する者に強い罪悪感を与えた。セレスティーナとツヴェイトは心を折られ、拠点に戻った時には虚ろな目で独り言を呟くほど消耗していた。一方、ゼロスは教会で栽培と収穫を経験していたため、すでに慣れており、素材と割り切って平然と採取していた。

素材と割り切る覚悟

ゼロスは、植物であっても牛や豚であっても、他の生物を糧にして生きている以上、感情論だけで否定するのは偽善だと語った。糧になるものには感謝を、敵には殺意を向けるべきだとし、必要な時に自力で素材を採取できなければ錬金術を学ぶ意味がないと説いた。セレスティーナとツヴェイトは釈然としないものを感じながらも、中級の魔法薬作りに集中した。

船と技術改革への沈黙

話題の中で、川を使った移動や帆船の不便さにも触れられた。ゼロスは一瞬、蒸気機関を思いついたが、燃料や整備、監視の問題を考えたうえで、技術チートを持ち込む気はなかった。彼は工業大学で得た知識を持っていたが、下手な技術革命は混乱や戦乱を呼ぶと考え、余計なことは口にしなかった。

学院中退への未練

ツヴェイトとセレスティーナは、学院を中退してゼロスのもとで学びたいと訴えた。だがクレストンは、貴族として一族の名に傷をつけるわけにはいかず、学院は社交や将来の部下となる人材を探す場として利用価値があると諭した。ゼロスはクレストンに視線で助けを求められ、仕方なく二人にあるものを渡した。

金属製の魔法媒体

ゼロスは、二人に自作した魔法媒体を与えた。セレスティーナには魔法文字が装飾のように刻まれた銀の腕輪を、ツヴェイトには精緻な幾何学模様の刻まれた指輪を渡した。それは杖の代わりとなる媒体であり、ゼロスにとっては試作品にすぎなかったが、師から魔法媒体を与えられることは一人前と認められる証でもあった。

クロイサスへの指輪

ツヴェイトに渡された指輪は二つあり、もう一つは弟のクロイサスに渡してほしいものだった。ゼロスは使い心地の感想をレポートにしてほしいと考えており、自分では効果が分かりにくい試作品を、格の低い者に使って確かめてもらうつもりでいた。ツヴェイトはクロイサスが受け取るか疑問に思ったが、ゼロスはその時はその時だと軽く流した。

秘宝魔法の宿題

ゼロスは、二人に学院での宿題として、秘宝魔法の効率化と威力強化を命じた。共同研究でも個人研究でもよく、他の魔法も改良できればなお良いと告げ、成功した場合は最高の魔法媒体を用意すると約束した。ゼロスとしては、失敗する前提で自分の手で研究させるための課題であったが、二人にとっては大賢者が作る最高の魔法媒体を得られる名誉ある目標となり、強い意欲を燃やした。

学院への出発

翌朝、朝霧のかかるサントールの街で、セレスティーナとツヴェイトは馬車に乗り込んだ。二人は大賢者から与えられた課題に挑み、それを成し遂げた証として魔導具を得るため、意気揚々とスティーラの街へ向かった。二人が学院へ戻ったことで、ゼロスの家庭教師としての役目は一段落し、彼は再び無職となって頭を抱えることになった。

第九話 おっさん、米を簡単に発見する

新居での畑作りと米文化への執念

新居での生活開始

セレスティーナたちがイストール魔法学院に戻った三日後、ゼロスはソリステア公爵家から与えられた家へ引っ越していた。新居のそばには豊かな土があり、ミミズがいることから畑に適した土地だと分かった。ゼロスは鍬を入れながら、何を植えるか想像して自然と笑みを浮かべていた。

無職になったゼロス

ゼロスは三日前まで公爵家の子息子女に魔法を教える家庭教師だったが、今は無職であった。魔導書の版権料や家庭教師の給料で生活には困らないものの、職がないことに体裁の悪さを感じていた。農業は趣味であり、魔導士としての力も他人に与えられたものだと考えていたため、自分の力で細々と稼いで暮らすことを望んでいた。

奇妙な野菜の種

ゼロスは畑に蒔く種を確認し、【セクシー大根】、【メタボカブ】、【マキシマムホウレンソウ】、【バスターレタス】といった奇妙な名前に首をひねった。何がマキシマムでバスターなのか分からず、誰が名付けたのかに興味を抱いていた。長いひきこもり生活の影響もあり、彼はそうした妙な部分に強い関心を示していた。

卵かけ御飯への未練

ゼロスは新鮮な卵を得るため、ニワトリを飼いたいと考えた。だが卵かけ御飯には米と醤油が必要であり、この世界に米や醤油があるのかは分からなかった。彼は【ジャックビーンズ】という豆の種にも注目したが、鑑定では一般的な豆としか分からず、鑑定能力の気まぐれさに不満を抱いていた。

ハンバ土木工業の来訪

ゼロスが畑で考え込んでいると、新築の家からハンバ土木工業のドワーフ職人たちが出てきた。彼らは家の建築を請け負った職人集団であり、一般住宅から城、道路整備、家具製作まで幅広く手がける集団であった。腕は確かで民衆からの信頼も厚いが、妥協を許さず、後から設計を変えようとする客には容赦しない職人気質の強い者たちであった。

橋工事の依頼

棟梁のナグリは、橋を架ける難所の工事を手伝ってほしいとゼロスに頼んだ。激流の中に橋の基礎を作る必要があり、ドワーフたちは【ガイア・コントロール】を使い始めていたものの、精密な魔力操作がまだできなかった。人力では危険が大きいため、ゼロスの魔法技術が必要とされていた。

重機扱いへの悲哀

ゼロスは、自分がドワーフたちから人間ではなく高性能な重機のように見られているのではないかと感じ、少し悲しくなった。それでも来週の工事を手伝うことを了承した。ナグリは正式に土木の仕事へ誘ったが、ゼロスは自分が入りすぎると職人たちの成長を妨げ、仕事を奪うことにもなりかねないため、臨時の助っ人に留めるべきだと考えていた。

魔力操作の限界訓練

ナグリは、ドワーフたちが集団で魔法を使う訓練をしてもスキルが身につかないと語った。ゼロスは、最低でも一度は魔力を限界まで消費しなければスキルは獲得できないと助言した。ナグリは、魔力が尽きると倒れるため運ぶのが面倒で、そこまでやらせていなかったと明かした。

四神への恨み

ナグリが女神という言葉を口にすると、ゼロスは四神への恨みを滲ませた。元の世界に置いてきたものが大きく、すべてを奪われたと感じているゼロスにとって、神は許せない相手であった。ナグリはその危険な表情を見て、信者に殺されても知らないと忠告したが、ゼロスは返り討ちにすると不穏に笑った。

異世界野菜の成長速度

ナグリは、畑に植える作物の成長が速く、収穫日を考えておかないと大量繁殖すると忠告した。この世界の植物は大地から栄養だけでなく魔力も吸収するため、成長や発芽が異常に早かった。ゼロスは作物管理のために奴隷を雇うことまで考えたが、ナグリは買った方が安いと助言しつつ、ゼロスを自分たちの職場へ引き込もうとしていた。

麦と水田の食い違い

ゼロスが麦を育てながら暮らしたいと語ると、ナグリは水田を作るのかと尋ねた。ゼロスは、この世界では麦が水田で育てる作物だと知って驚いた。地球での知識と異世界の植生は一致せず、彼は改めてこの世界の常識が自分の知るものと違うことを思い知らされた。

足元のライスウィード

ナグリは、米なら足元に生えている【ライスウィード】だと教えた。ゼロスが鑑定すると、それは繁殖力が強く、どこにでも生える雑草扱いの植物であったが、炊き上げればほのかな甘みを持つ極上の味であることが分かった。ゼロスは、日本人として米が雑草扱いされていることを見過ごせず、米文化をこの地で復活させる決意を固めた。

米栽培への熱意

ゼロスは、米があれば麹を作り、味噌や醤油、酒にもつなげられると考えた。日本酒への未練もあり、彼の思考は一気に加速した。ナグリに成功したら食べさせると約束し、ゼロスは来週の土木作業前に、まず米を確保するため畑の区分け整理へ取りかかった。

卵の情報収集

翌日、ゼロスは卵かけ御飯を目指し、卵の情報を集めるためルーセリスに話を聞いた。ルーセリスは、卵は庶民が簡単に手を出せない高級食材だと説明した。栄養価が高く、神殿でも二ヶ月に一度出れば贅沢なほどであり、ゼロスは卵が想像以上に貴重であることを知った。

ワイルド・コッコの危険性

ルーセリスは、卵を産む鳥である【ワイルド・コッコ】が非常に獰猛で、養鶏家が毎日のように傷を負うほど手に負えないと語った。肉は美味しくないが卵は重宝されており、最終進化が【コカトリス】であるため、誰も家で飼おうとはしなかった。ゼロスは、ニワトリという印象と危険な魔物じみた性質の差に戸惑った。

廃鉱山への思いつき

ゼロスは米の乾燥機を作るため、金属を採掘できる場所をルーセリスに尋ねた。彼女はサントールの北に廃鉱山があり、傭兵たちが装備補強のため金属を採りに行くことがあると教えた。ゼロスはすぐに行こうとしたが、ルーセリスは日が暮れることや魔物の出没を心配した。

廃鉱山への出発

ゼロスは、ファーフラン大深緑地帯で一週間生き延びた自分が、この辺りの魔物に負けるはずがないと答えた。米のためには乾燥機が必要であり、そのためには金属が足りなかった。ルーセリスの心配をよそに、ゼロスは二、三日で戻ると言い残し、意気揚々と廃鉱山へ向かった。

ルーセリスの胸の痛み

ゼロスが去った後、ルーセリスは胸の奥にわずかな痛みを覚えた。その様子を見ていた孤児たちは、それは恋だとからかい始めた。ルーセリスは動揺して否定しようとしたが、子供たちは初恋や照れ隠しだと囃し立てた。彼女は追い詰められ、逃げる子供たちを追いかけることになった。

ませた孤児たち

孤児たちは旧市街の影響を受けて妙にませており、ゼロスとの年齢差や恋心をからかう言葉を次々に口にした。中には肉への欲望を混ぜて騒ぐ子供もいた。ルーセリスは子供たちを叱りながら追いかけたが、その光景は騒がしくもどこか楽しげなものだった。

第十話 おっさん、廃鉱山へ向かう

廃鉱山への道とソリステア派の商業戦略

酒場での情報収集

廃鉱山へ向かうにあたり、ゼロスは道案内よりも現地情報を求めて近場の酒場へ入った。そこは胡散臭い場末の酒場に見えたが、昼間は商人や職人、傭兵、家族連れまで集まる食堂兼社交場のような場所であった。ゼロスは、ラノベ的な酒場の印象を鵜呑みにしていた自分の認識を改める必要があると感じた。

怪しい魔導士への視線

ゼロスは周囲から視線を向けられ、自分の胡散臭い見た目が警戒されていることに気付いた。酒場に集まる傭兵たちは、見知らぬ相手の装備から実力を測る習慣があり、ゼロスもその対象になっていた。ゼロスはこの世界で生きる以上、ひきこもり魔導士のままではなく、一般常識や情報を得るために周囲へ溶け込む必要があると考えていた。

イリスたちとの再会

空席を探していたゼロスは、黒を基調とした魔女のような衣装を着たイリスを見つけた。彼女は以前盗賊から救い出した同郷の転生者であり、傍にはレナと赤毛の女性ジャーネもいた。ゼロスは相席を頼み、廃鉱山へ向かう前に情報を得ようとした。

灰色ローブへの誤解

ジャーネは、灰色ローブのゼロスが廃鉱山へ行くのは危険だと忠告した。この国では魔導士の階位をローブの色で見分けるため、灰色は最下位と見なされていた。しかしイリスとゼロスはこの国の魔導士ではないため、その常識には当てはまらなかった。ゼロスは廃鉱山にゴブリン、コボルト、ワーム、ゴーレムが出ると聞きながらも、金属が必要だから採掘に行くつもりでいた。

廃鉱山への同行

イリスたちもジャーネの剣を新調するため、廃鉱山で鉄や黒鉄を採掘する予定だった。奥へ行けば【赤光鉄】も採れるが、ワームが多いため命懸けになるとジャーネは説明した。イリスはゼロスがいれば安心だと考え、同行を提案した。ゼロスは若い女性だけのパーティーに同行することに気恥ずかしさを覚えたが、不慣れな道を行くには仲間がいた方がよいと判断した。

ジャーネの動揺

ゼロスは、宿があるなら安心して同行できると話し、目の前に魅力的な女性がいると自分も危ないかもしれないと冗談めかして語った。イリスは子供扱いされ、レナは言動から対象外にされ、結果としてジャーネが魅力的だと言われる形になった。ジャーネは顔を真っ赤にして動揺し、ゼロスとの同行を嫌がったが、イリスとレナに説得されて不承不承受け入れた。

アーハンの村への道

食事を終えた一行は、廃鉱山近くのアーハンの村を目指して出発した。三時間ほど歩くと、当初は賑やかだった女性陣も無言になった。道中は変わり映えしない森と整地された街道が続き、魔物も現れなかったため退屈であった。イリスは沈黙に耐えかね、ゼロスが金属を採掘して何を作るのか尋ねた。

米と脱穀機の構想

ゼロスは、米を保存する乾燥機付きの小型サイロを自作するつもりだと話した。イリスはこの世界に米があることに驚いたが、ゼロスは足元に生えている雑草扱いの植物が米だと教えた。さらに千歯扱きや足踏み脱穀機、コンバインの話をし、米を効率よく扱う道具について説明した。

技術チートへの警戒

イリスはコンバインを作ればよいと言ったが、ゼロスは悪用すれば戦車のような兵器になり得ると考えていた。便利な道具が戦争で人に向けられない保証はなく、大規模戦争や大量虐殺につながる可能性もあった。ゼロスは、行き過ぎた技術を持ち込むつもりはなく、平穏に暮らしたいだけであった。

無職の実感

イリスに家庭教師をしていたのではないかと尋ねられ、ゼロスは現在無職であることを突かれて言葉に詰まった。彼は六日前まで魔法を教えていたセレスティーナのことを思い出し、今頃どうしているのか少し気にしていた。青空を見上げながら、かつて役立たずと言われていた少女の現在に思いを向けていた。

デルサシスの領地経営

デルサシス・ヴァン・ソリステアは、ソリステア公爵領の現領主であり、二人の妻を持ちながらも夫婦仲は円満であった。彼は自身で商会を運営し、税金を私的に使わず、民の暮らしを良くする事業へ投資して領地を発展させていた。さらにソリステア派を率い、魔導士団と騎士団の融合を提唱していた。

ソリステア派の立場

ソリステア派は表向きには弱小派閥であったが、デルサシスの資本力とソリステア商会の経済力に支えられていた。ソリステア公爵家は王族と血縁があり、デルサシスも王位継承権を持っていたが、彼は継承権を早々に放棄し、王族を立てる立場を取っていた。そのため敵対派閥にとっては手を出しにくい厄介な存在であった。

魔法スクロール事業

デルサシスとクレストンは、ソリステア商会で販売している魔法スクロールの好調な売り上げについて話していた。従来の魔法スクロールは一度購入されると使い回されるため商売として成立しにくかったが、ゼロスの仕込んだ魔法消去式により、魔法を覚えた後はスクロール上の魔法式が完全に消える仕組みになっていた。高価な魔法紙も回収して再利用できるため、赤字を防ぎつつ需要を生み出す事業になっていた。

治安と商売の好循環

ソリステア商会の魔法スクロールは安価で信頼性が高く、傭兵たちから好評を得ていた。強い魔法を買うには相応の格も必要になるため、傭兵たちは腕を上げようと励み、結果として魔物への対処力や治安の向上にもつながると考えられた。デルサシスたちは、治安向上を名目に敵対派閥の文句を抑えつつ、経済的な圧力をかけられる状況を作っていた。

魔法薬の量産案

デルサシスは、魔法薬の量産でも敵対派閥の資金源を削ろうとしていた。三流の錬金術師も雇い、等級ごとの回復薬をそれぞれ作らせてから一つにまとめれば、品質を均一化できると考えた。腕の良い錬金術師には高等級の薬を任せ、職に困っている学院卒業生や錬金術師を取り込むことで、生産体制を整えるつもりであった。

敵対派閥への反撃

ウィースラー派とサンジェルマン派は、魔導士派閥の中でも特に厄介な存在であった。サンジェルマン派は研究主体であり、道理を示せば賛同の余地があったが、ウィースラー派は近年暴走し、闇組織との関係や不審死の噂まであった。デルサシスとクレストンは、暗部の協力も得ながら、彼らの資金源を徹底的に潰す方針を固めていた。

ゼロスへの協力要請案

クレストンとデルサシスは、魔法文字の解読法を広めるため、ゼロスに協力してもらう必要があると考えていた。セレスティーナとツヴェイトを除けば、魔法文字を解読できるのはゼロスしかいなかった。解読法を書籍化してクレストンの派閥で使えば、魔法学の向上につながり、不正にまみれた派閥を弱体化できると見ていた。ただし、ゼロスの名を表に出せば国が滅びかねないため、彼の存在は伏せる必要があった。

反逆の狼煙

クレストンは、セレスティーナとツヴェイトが反逆の狼煙になってくれるかを案じていた。デルサシスは、ゼロスとの出会いによってツヴェイトが大きく変わったため、今なら大丈夫だと考えていた。クレストンはクロイサスの今後にも不安を抱き、孫たちの行く末を思って頭を痛めていた。

デルサシスの退勤

デルサシスは定時になると仕事を終え、良い女が待っていると言って愛人のもとへ向かった。クレストンは、いつか女たちに殺されるぞと呆れたが、デルサシスは良い女に殺されるなら男冥利に尽きると答えた。クレストンは息子の行動の謎に困惑し、自分の教育を誤ったのではないかと真剣に思い悩んでいた。

第十一話 おっさん、お節介を焼く

廃鉱山の恐怖譚と坑道への同行

アーハンの村の朝

ゼロスたちは鉱山を目指してアーハンの村に到着し、宿で一泊した。翌朝、朝食の席でイリスがファーフラン大深緑地帯について尋ねたため、ゼロスは語りたくないと思いながらも、興味半分で足を踏み入れて命を落とさないようにするため、その危険さを語ることにした。

五日目の森の逃走

異世界転生から五日目、ゼロスは深夜の森を走り続けていた。周囲は自分を餌と見る魔物ばかりで、食事や睡眠の間も警戒を緩められず、精神的な疲労が蓄積していた。魔物を倒せば血の臭いに引かれて別の魔物が現れるため、彼は休む間もなく戦い続けていた。

見えない捕食者

ゼロスは背後からの攻撃を避けたが、相手の姿は見えなかった。彼は光学迷彩か精神攪乱型の能力を持つ魔物だと考え、攻撃の気配を感じ取れることから光学迷彩の可能性が高いと判断した。再び攻撃を避けると、空間の歪みから大型の魔物が潜んでいることを見抜いた。

デス・マンティス

ゼロスは【狩猟神の矢】を放ち、姿を隠していた魔物に傷を負わせた。光学迷彩を解いて現れたのは、黒い外殻と長い鎌を持つ巨大なカマキリ型のデス・マンティスであった。ゼロスは進化形か亜種だと判断し、魔力消費を抑えるため、硬い外殻ではなく関節部を狙って戦うことにした。

関節狙いの討伐

ゼロスはデス・マンティスの懐へ飛び込み、鎌の腕を繋ぐ関節を斬り落とした。続けて脚の関節を次々と断ち、巨体を崩したところで頭部を跳ね飛ばした。彼は素早く解体して素材をインベントリーに回収し、血の臭いに引かれて次の魔物が来る前にその場を離れようとした。

グレート・ギヴリオン

ゼロスが移動しようとした時、重低音の羽音と共に巨大なグレート・ギヴリオンが現れた。それは地球のGをそのまま巨大化させたような魔物であり、ゼロスは生理的嫌悪と恐怖で動揺した。グレート・ギヴリオンはゼロスを見つけると超高速で走り出し、彼は悲鳴を上げながら逃げ続けた。

早朝までの追跡

ゼロスはグレート・ギヴリオンに追われ、早朝まで続く恐怖の追いかけっこを強いられた。皮肉にも、その追跡のおかげで街道へ近づくことができたが、当時のゼロスはその事実を知る余裕などなかった。この体験によって、彼は自分をこの世界に招いた女神たちを強く嫌うようになった。

冒険譚の余波

ゼロスの話を聞いたイリス、レナ、ジャーネは、巨大なGを想像して一斉に精神的な打撃を受けた。三人はテーブルに突っ伏し、ファーフラン大深緑地帯の魔物の凶悪さと、巨大なGの存在に震えていた。ゼロスは朝食を済ませるよう促したが、三人の食欲は大きく削られていた。

傭兵としての覚悟

ゼロスは、巨大なGの話程度で食欲を失うようでは傭兵は務まらないと指摘した。イリスとレナが人間相手の殺し合いはできないと答えると、ゼロスは盗賊に捕まった原因もその甘さにあると告げた。人を笑って殺せる者は異常だが、傭兵である以上、殺す覚悟は持つべきだと諭した。

弁当という発想

朝食が進まない三人に、ゼロスは食事を包んでもらって持ち歩けばよいと提案した。この世界には弁当という習慣がなく、レナとジャーネはその言葉を知らなかった。ゼロスはパンに燻製肉や野菜を挟んで紙に包めばよいと説明し、イリスが宿の店主に話をつけに向かった。

デス・マンティスの素材と肉

レナは、デス・マンティスの素材が装備に使えるか尋ねた。ゼロスは軽くて丈夫だが炎に弱いと説明し、さらに甲殻の中の肉は蟹や海老のようで絶品だったと語った。レナとジャーネは、巨大昆虫型の魔物を食べた事実に衝撃を受けたが、ゼロスはサバイバルでは毒がなければ食料として扱うべきだと平然としていた。

アーハンの鉱山

アーハンの村の背後には三つの山があり、その一つに鉱山があった。かつては金鉱で賑わったが、魔物が大量に現れて鉱員たちは職場を追われていた。現在は傭兵たちが格上げや装備強化のために訪れ、宿泊料や食費が村の収入となっていたが、村の暮らしは豊かとは言えず、狼藉を働く傭兵による損害もあった。

少女の剣を狙う傭兵

鉱山には多くの傭兵が集まっており、その中で若い少年のように見える傭兵が中年の傭兵たちに絡まれていた。男たちは、父の形見だという剣を未熟者にはもったいないと言い、奪おうとしていた。周囲の傭兵たちは誰も助けようとせず、ゼロスは面倒事を避けようとしたが、イリスたちから冷たい視線を向けられた。

寿命の尽きたミスリルの剣

傭兵の男が剣を奪った瞬間、ゼロスの【鑑定】が勝手に発動し、その剣が亀裂の入った寿命間近のミスリルの剣だと分かった。ゼロスは男に、その剣は使い続ければ死ぬと忠告した。男は信じきれず、今度はゼロスの剣と交換しようとしたが、ゼロスは不要だと断った。

剣先の脅し

男はゼロスを灰色ローブの魔導士と見下し、力ずくで剣を奪おうとした。しかし、言い終える前にゼロスの剣先が喉元に突きつけられていた。ゼロスは自分が剣を使えないわけではなく、むしろ得意だと告げ、相手の実力も見抜けないなら三流以下だと静かに脅した。男たちは恐怖に縛られ、剣を放り出して逃げ去った。

形見の剣の応急修復

剣を取り返した少年はゼロスに礼を言った。ゼロスは、その剣のせいで少年が死ぬと寝覚めが悪いと考え、錬成魔法陣を広げて剣を応急修復することにした。剣は鉄、ダマスカス、ミスリルの複合素材であり、ゼロスは亀裂部分を修繕したが、あくまで新しい剣を手に入れるまでの繋ぎだと忠告した。

少女への勘違い

修復を終えたゼロスは、少年を送り出した後、イリスたちから冷たい視線を向けられた。三人はゼロスが少女に親切にしたと見ており、彼はその相手が女の子だったことにようやく気付いた。イリスとジャーネはゼロスを最低だと責め、レナは美少年に関する怪しい記憶でだらしない表情を浮かべた。

坑道への出発

ゼロスは弁解しても無駄だと判断し、話題を切り替えて採掘へ向かうことにした。イリスたちは彼をからかいながらも同行し、レナだけは妙な思い出に浸ったまま歩いていた。全員は彼女と距離を取りつつ、それぞれの目的のために魔物の住む坑道へ足を踏み入れた。

第十二話 おっさん、廃鉱山に入る

廃鉱山のダンジョン化とクリスティンの落下

青く光る坑道

廃坑の内部は、光を放つ鉱石によって青みがかった輝きに照らされていた。奥からは鋼のぶつかる音が響くこともあったが、すぐに収まっていた。狭い坑道では前衛と後衛に分かれる必要があり、ジャーネが背後からのセクハラを警戒したため、ゼロスとジャーネが前衛、レナとイリスが後衛となった。

危険な妄想中のレナ

レナはだらしない笑みを浮かべ、怪しげな妄想に浸っていた。イリスはいつものことだと受け流したが、ジャーネは今後の付き合い方を考えるべきかもしれないと感じていた。ゼロスも犯罪臭の漂う内容を聞くべきではないと判断し、声をかけないことにした。

坑道の先のコボルト

ゼロスは【索敵】で坑道の先に複数の気配を察知した。前方にいるのはコボルトらしく、嗅覚でこちらを察知している可能性が高かった。ゼロスは、後方に群れがいる可能性も考えながら、レベルの低いレナとジャーネに経験を積ませるため、自分が動きを止めて二人に倒させる方針を決めた。

麻痺と前衛二人の突撃

ゼロスは【ゾーン・パライズ】で坑道奥のコボルトたちを麻痺させた。ジャーネとレナは突撃し、動けなくなったコボルトを次々と倒した。二人は魔石を取り出し、ゼロスとイリスはその作業を見守った。ゼロスは大深緑地帯での経験から剥ぎ取りにも慣れており、イリスはその適応力に呆れていた。

冷えたビールへの未練

ゼロスは魔物の解体や肉の話から、元の世界の居酒屋や冷えたビールを思い出していた。この世界のエール酒はぬるく、彼の知るビールの満足感とは違っていたため、冷蔵庫を作ることまで考えた。イリスは技術チートを疑ったが、ゼロスは自分用に作るだけで、この世界に余計な干渉をする気はないと答えた。

消える死体への違和感

レナとジャーネが魔石を回収した後、ジャーネはコボルトの死体は戻る頃には消えていると語った。ゼロスはその言葉に違和感を覚えた。ワームのような死体処理をする魔物が地上付近にいないなら、食物連鎖が成立しないはずだったためである。階層ごとに魔物の種類が変わると聞き、ゼロスはこの鉱山がダンジョン化している可能性に気付いた。

ダンジョンという魔物

ゼロスは、ダンジョンが魔力の凝縮によって生まれるフィールド型の魔物であり、内部の土地を変質させ、魔物を召喚し、人間や魔物の死骸から魂魄や肉体を吸収して成長するものだと考えた。魔石だけが残るため、傭兵にとっては利益のある場所でもあったが、魔物が増えすぎれば外へ放出されるスタンピードの危険もあった。

最下層への懸念

ゼロスは、攻略されていないダンジョンなら最下層にどれほど魔物が増えているか分からないと考えた。もし下層の魔物が上へ上がって外へ出れば、周辺の村に被害が及ぶ可能性があった。レナとジャーネはその危険性に動揺したが、ゼロスは必要な鉱石を得るついでに下層を確認するつもりでいた。

殲滅者の気配

ゼロスは、危険なら逃げると言いながらも、魔物が大量にいれば殲滅すると告げた。彼にとって平穏な暮らしを脅かす存在は排除すべき対象であり、大深緑地帯での経験が魔物への強い敵愾心を植え付けていた。イリスはゼロスの強さを知っており、彼を心配しても無駄だとレナとジャーネに語った。

殲滅者への憧れ

イリスは、ゼロスが【ソード・アンド・ソーサリス】で知られた強者の一人であり、古参プレイヤーからは恐れられ、新規プレイヤーからは憧れられていた存在だと知っていた。初心者を守る活動の裏にはPK狩りという目的もあったが、結果として多くのプレイヤーに頼られる存在になっていた。イリスもかつてその活動に助けられた経験があり、ゼロスへの評価は高かった。

広い空間の弓兵コボルト

坑道の先には広い空間が広がっていた。ゼロスは【魔法符】の使い魔で索敵し、岩場の上に弓を装備したコボルトがいることを確認した。片側だけに弓兵がいるため、イリスの補助魔法は不要と判断し、ゼロスは自分が片付けると告げた。

闇鳥の翼とコボルト掃討

ゼロスは飛行魔法【闇鳥の翼】で宙へ舞い、弓を構えたコボルトたちを混乱させた。ダガーを投げて頭部を撃ち抜き、ワイヤーで回収しながら次の敵へ迫った。接近してくるコボルトにはダガーで対処し、囲もうとした群れには【ブラックサンダー】を放ち、一瞬で感電死させた。

魔導士らしからぬ戦い

ゼロスの戦いを見たイリス、レナ、ジャーネは、魔導士であるはずの彼が接近戦や投擲、格闘まで巧みにこなすことに呆れていた。魔導士というより暗殺者や忍者のようだと感じるほどであり、ゼロスはコボルトを容赦なく蹂躙していった。三人は自分たちの存在が小さく思えるほど、彼の戦闘能力に圧倒されていた。

イリスたちの参戦

ゼロスだけに獲物を奪われないよう、イリスは【ゾーン・パライズ】を放ち、ジャーネとレナが武器を構えて突撃した。ジャーネは大剣でコボルトを薙ぎ払い、レナは討ち漏らした敵にとどめを刺した。イリスも魔法で支援し、このエリアのコボルトは短時間で一掃された。

ダンジョン化の証拠

戦闘後、コボルトの屍は次第に塵へ変わり、魔石だけを残して消えていった。ゼロスは、それをダンジョンがコボルトを吸収している証拠だと見た。レナとジャーネは、今までコボルトを解体していた苦労が無意味だったと気付き、ゼロスはなぜ誰もこの鉱山がダンジョンだと気付かなかったのか疑問を抱いた。

情報の断絶

この鉱山は元々鉱山であり、魔物が住みついても傭兵や鍛冶師が短期間だけ採掘に来る場所であった。そのため、魔物の種類や死体が消える現象の情報は細分化され、誰にも共有されないまま消えていった。死骸がなくなっても、他の魔物が食べたと思われていたため、ダンジョン化の事実は見過ごされていた。

変化する坑道

ジャーネは、以前の記憶では細い坑道だった場所が、今は開けたフロアのように変わっていると感じた。ゼロスは、ダンジョンが構造を変えながら成長している可能性を見た。ただし、ゼロスはダンジョンを攻略する気はなく、スタンピードの危険があるなら魔物を間引けばよいと考えていた。

アーハンの村への配慮

ゼロスは、ダンジョンを攻略すればアーハンの村の暮らしが成り立たなくなる可能性も考えていた。村は鉱山へ来る傭兵たちの宿泊料や食費によって辛うじて成り立っており、廃鉱山の恩恵を受けていたためである。災厄であると同時に恩恵でもあるダンジョンを、ゼロスは自分の都合だけで壊すべきではないと判断した。

それぞれの目的

四人はさらに先へ進んだ。イリスとレナは生活費のために魔石を求め、ジャーネは剣を新調するために鉱石を求めていた。ゼロスは米の乾燥機や農機具、冷蔵庫の材料を得るために金属を求めており、それぞれの目的を抱えて坑道の奥へ進んでいった。

クリスティンの素性

クリスティン・ド・エルウェルは、エルウェル子爵家の三女であり、本来ならイストール魔法学院に通うはずの少女であった。だが、魔法式を潜在意識領域に刻めても発動できず、資質で弾かれたため、騎士を目指して修行していた。父エドワルドは近衛騎士団の副隊長だったが、盗賊討伐の任務で毒矢を受けて亡くなっていた。

父の背を追う少女

エルウェル家には男子の後継者がいなかったため、クリスティンは家督を継ぐ立場にあった。彼女は父が若い頃に傭兵として働き、自分の剣を作るために鉱山で鉱石を集めた話を聞いていた。その逸話にならい、自分の剣を作るため、髪を切って少年の格好をし、廃鉱山へ来ていた。

護衛騎士たち

クリスティンの周囲には、傭兵に扮した四人の騎士たちがいた。彼らは父エドワルドに手ほどきを受けた者たちで、市井生まれの孤児であり、エルウェル家へ忠誠を誓っていた。彼らは、先ほどクリスティンに絡んでいた傭兵たちを許せないと憤っていたが、同時にゼロスの抜剣速度や魔法だけで剣を修復した技量に驚いていた。

採掘の達成

クリスティンは非力ながらも鉱石を掘り、騎士たちの助けを得て目的を果たした。彼女は自分の剣がどのようなものになるか楽しみにしながら、帰還の準備を始めた。しかし、彼女たちはこの鉱山がダンジョンであり、罠が存在することを知らなかった。

ピット・シューター

歩き出した直後、クリスティンは突然地面に吸い込まれた。彼女が落ちたのは【ピット・シューター】と呼ばれる罠であり、開いた穴は一瞬で閉じた。騎士たちは慌てて開口部を開こうとしたが、一度閉じると一定時間は開かない罠であったため、閉じられた口は彼らを嘲笑うように固く閉ざされたままであった。

第十三話 おっさん、やらかす

廃鉱山最下層の救出と殲滅魔法の暴走

坑道奥への進行

ゼロスたちは変わりばえしない坑道を進み、出現する魔物を蹴散らしながら採掘可能な場所を目指していた。下層へ進むにつれて魔物の数と強さは増し、罠も見受けられるようになった。ゼロスが罠の発見を請け負っていたため、一行は比較的安全に進めていたが、この世界の罠は手足の欠損につながる危険があり、ゼロスはゲーム感覚で行動することの危うさを意識していた。

ビッグ・スパイダーの気配

ゼロスは前方に三匹のビッグ・スパイダーを察知した。イリスたちは魔石や経験値を得る好機と見たが、ゼロスが蜘蛛を食材として語り出したことで空気が一変した。彼は元の世界でタランチュラや大百足、さらに猿や子牛の脳みそまで食べた経験を語り、三人は想像力を刺激されて精神的に大きな打撃を受けた。

逃した稼ぎ時

ゼロスの話によってイリス、レナ、ジャーネは動揺し、ビッグ・スパイダーと戦うどころではなくなった。特にジャーネは立ったまま気絶しかけるほど追い詰められていた。そうしている間に三匹のビッグ・スパイダーはどこかへ行ってしまい、生活費や素材を求めていた三人は稼ぎ時を逃したため、ゼロスへ冷たい視線を向けることになった。

金属音の先の戦闘

一行が先へ進むと、T字路の奥から金属を激しく打ち付けるような音が聞こえた。ゼロスは戦闘音とは違う焦りを感じ取ったが、イリスたちは採掘音ではないかと軽く見ていた。さらに進むと、その音は戦闘の音へ変わり、四人の傭兵風の者たちがビッグ・スパイダーの群れと交戦していることが分かった。

ビッグ・スパイダーへの加勢

ジャーネ、レナ、イリス、ゼロスは即座に助太刀に入った。ジャーネが大剣で斬り込み、レナがショートソードで追撃し、イリスは【ロック・ブラスト】で蜘蛛を倒した。ゼロスは疾風のように駆け抜け、蜘蛛の脚を斬り落として解体するように仕留めた。加勢によって、騎士たちは窮地を脱した。

騎士たちの正体

戦闘後、ゼロスは彼らの剣の形や家紋から、傭兵ではなくどこかの貴族に仕える騎士だと見抜いた。騎士たちは、仕えるクリスティンが【ピット・シューター】に落ち、開口部が閉じて救出できなくなったと説明した。ゼロスはこの廃坑がダンジョンである可能性を踏まえ、落ちた先がどこにつながっているかを問題視した。

開いた罠の穴

ゼロスは閉じた【ピット・シューター】の蓋の上に乗り、魔法で吹き飛ばすことも考えた。だが、その矢先に蓋が内側へ開き、ゼロス自身が穴の中へ落ちてしまった。落下先で魔物の咆哮を聞いたゼロスは我に返り、クリスティンが餌になっていてはまずいと考え、救出を最優先にして走り出した。

断崖とワームの群れ

ゼロスが辿り着いた先には、二十メートルほどの断崖と、幅三十センチほどの細い足場しかなかった。真下には広大な砂地が広がり、無数のサンド・ワームが蠢いていた。さらに空中にはハウリング・バットの群れが飛び交っており、ゼロスは蝙蝠たちが音波でワームを誘導していると考えた。

ハウリング・バットの排除

ゼロスは、ハウリング・バットの群れの先にクリスティンがいると判断した。蝙蝠たちが固有振動で彼女を攻撃したり、ワームを誘導したりすれば危険であったため、まず排除する必要があった。ゼロスは【煉獄炎】を放ち、天井付近に広がった炎の津波でハウリング・バットを焼き払った。

崖を進むクリスティン

クリスティンは落下後、狭い足場にしがみつき、岩肌を掴みながら進んでいた。真下にはワームの群れがあり、上空には蝙蝠が飛び交っていたため、落ちれば死ぬと理解していた。手は傷だらけになり、疲労と恐怖に追い詰められながらも、彼女は父に守ってほしいと祈りながら岩棚を目指していた。

逆傾斜の絶望

クリスティンは岩棚の近くまで辿り着いたが、そこには逆向きにせり出した岩壁があった。素手で進むには熟練した技術が必要であり、装備もない彼女には突破が困難だった。爆発音と共に蝙蝠が焼け落ちる中、クリスティンは限界を迎え、指先の力を失って崖から落下した。

空中の救出

クリスティンは死を覚悟して目を閉じたが、ゼロスが飛行魔法で彼女を空中で抱き止めた。彼女は今朝剣を修復してくれた灰色ローブの魔導士だと気付き、助かったことに安堵した。ゼロスは暴れないよう注意しながら岩棚へ降り立ち、クリスティンの怪我を確認した。

ワーム殲滅の判断

ゼロスは真下に蠢く無数のワームを見て、この数が外へ放出されれば危険だと判断した。彼は虐殺を好まないと言いつつも、放置すれば被害が増えると考え、ワームを焼き払うことにした。クリスティンは殲滅という言葉に困惑したが、ゼロスは彼女の言葉を聞かず、魔法を発動する準備に入った。

煉獄炎焦滅陣

ゼロスは【煉獄炎焦滅陣】を発動し、高密度の魔法式を広大な空間の中央へ撃ち出した。魔法は周囲の魔力を取り込み、超高温の炎となってワームたちを包み込んだ。瞬間的に一万度に達する熱量は衝撃波とともに広がり、密閉された鉱山内部を焦土に変える危険な威力を発揮した。

氷壁と岩壁の防御

ゼロスは巻き込まれないよう【積層絶対氷結壁】を五十枚展開し、さらに【ガイア・コントロール】で自分とクリスティンの周囲を分厚い岩壁で覆った。高熱の爆風と激震が収まるまで、二人は防御の中で待つことになった。だが魔法の炎が消えても、溶けた岩場の熱は残り、外は人がいられない灼熱の空間になっていた。

冷却と空気の補充

外の高熱が氷壁を溶かし始めたため、ゼロスは【コキュートス】を多重展開して周囲を冷却した。さらに燃焼による酸欠を防ぐため、【カラミティ・サイクロン】と【暴虐なる西風神の進撃】を発動し、空気を循環させた。その結果、溶岩のようになった空間は急速に冷えたが、天井には何層も貫く大穴が開き、魔法の威力が想像以上であったことが明らかになった。

現実の殲滅魔法

ゼロスは、自分の殲滅魔法を現実で使う危険性を改めて痛感した。ゲームでは被害は数値上の処理で済んでいたが、現実では熱量が岩を溶かし、閉鎖空間に熱と酸欠を残す。彼は自分の魔法を過小評価していたことに気付き、この魔法は禁呪扱いが確定だと考えた。

殲滅者の二つ名

クリスティンは、広範囲殲滅魔法を目の前で見せたゼロスに、何者なのかと震えながら尋ねた。ゼロスはただの冴えない無職のおっさんだと答えたが、誤魔化しきれるものではなかった。クリスティンは彼を殲滅者と呼び、ゼロスは異世界で初めて現地の住民からその二つ名を口にされた。彼は誤魔化すように煙草に火をつけたが、その味は苦いものだった。

第十四話 おっさん、テンションが上がる

鉱山最下層からの帰還とクリスティンの救出

最下層の採掘

広大な地下空間で、ゼロスはツルハシを振るい、崩れた岩から金属を拾い集めていた。【煉獄炎焦滅陣】の熱で鉱石内の金属が融解し、比重の重い金属同士が結合していたため、珍しい鉱石まで大量に確保できた。ゼロスはそれを錬成してインゴットにし、次々とインベントリーへ収納していた。

高揚する米文化への執念

ゼロスはヒヒイロガネやオリハルコンまで見つけ、異様なほど上機嫌になっていた。目的は乾燥機付きサイロ、冷蔵庫、足踏み式脱穀機だったが、素材が大量に手に入ったことで風呂釜まで作れそうだと考えるようになった。米を取り戻し、酒、醤油、味噌、味醂を作るという思いが彼のテンションを一気に押し上げ、クリスティンの言葉も耳に入らないほど採掘に没頭していた。

殲滅魔法の原理

採掘後、クリスティンはゼロスの【煉獄炎焦滅陣】が普通の魔法と明らかに違うことを指摘した。ゼロスは、この魔法が魔法式そのものを砲弾のように撃ち込み、目標地点で周囲の魔力を吸収して破壊力に変えるものだと考えていた。人間の脳で処理できないほどの高密度魔法式を、魔法式弾として外部処理させる発想から生まれた危険な破壊魔法であった。

ゲームと現実の差

ゼロスは、【ソード・アンド・ソーサリス】で作った魔法が現実ではあまりに危険な代物になることを改めて考えていた。ゲーム内では数値処理で済んだ威力も、現実では岩を溶かし、空間を破壊する結果につながる。さらに、ゲームの中枢システム【BABEL】や、ゲーム制作会社の名を思い出せないことにも違和感を覚え、あの世界そのものが異常だったのではないかと思考を深めかけた。

上層への移動手段

クリスティンに呼びかけられ、ゼロスは我に返った。採掘を終えたため上へ戻ろうとしたが、クリスティンは自分が弱く足手まといになると俯いた。ゼロスは天井に開いた別階層への穴を見つけ、飛行魔法でそこまで上がるのが最も早いと判断した。

飛行への恐怖

クリスティンは先ほど崖から落ちたばかりであり、高所に強い恐怖を抱いていた。ゼロスは、彼女の同行者たちが最下層まで来られる可能性は低く、上に着けば武器も貸すと話した。迷うクリスティンを見かねたゼロスは、強引に彼女を抱え、【闇鳥の翼】で高速上昇した。クリスティンは悲鳴を上げ、空への恐怖をさらに深めることになった。

岩陰での休息

上層へ辿り着いた二人は地上を目指して進み、魔物の大半はゼロスが蹴散らした。途中、岩場の狭い物陰で休むことになり、ゼロスは薪に火をつけて遅い昼食を準備した。そこでゼロスは、クリスティンが魔法を使わない理由を尋ねた。

灯火の発動

クリスティンは、魔法式は覚えられるが魔法が発動しないため、適性がないと言われてきたと語った。ゼロスはセレスティーナと同じ原因ではないかと考え、改修済みの魔法スクロールを渡した。クリスティンがスクロールから【灯火】を覚えて発動すると、掌に小さな炎が灯った。彼女は倦怠感なく魔法が使えたことに驚き、自分にも魔法が使えると知った。

串肉の正体

ゼロスは火で炙った串肉をクリスティンに渡した。空腹だった彼女は、その肉を美味しいと感じたが、ゼロスは後から、それがマンティコア、ワイヴァーン、デス・マンティスの肉だったと思い出した。クリスティンは高級食材や未知の昆虫型魔物の肉を食べたことに動揺したが、空腹には勝てず、最後にはおかわりするほど食べていた。

ウォーアントとの遭遇

昼食後、二人は再び上を目指して歩き始め、ウォーアントと遭遇した。ゼロスは、クリスティンに貸した魔改造青龍刀なら倒せると判断し、【プラズマ・バインド】でウォーアントの動きを封じた。クリスティンは青龍刀で斬りかかり、ウォーアントの頭部を胸部ごと一撃で斬り落とした。

魔改造武器の危険性

青龍刀の威力はクリスティンの想像を超えていた。ゼロスも、低レベルの者が使っても格上の魔物を一撃で倒す武器は危険すぎると判断した。彼は、ゲーム時代に面白半分で作った武器が現実では軍事バランスすら崩しかねないものだと理解し、脱出後は封印すべきだと考えた。

急速な格上げの反動

ウォーアントを倒したことで、クリスティンは急激に格を上げた。集団戦では経験値が分配されるが、彼女は単独で格上の魔物を倒したため、急速な身体の適応に耐えきれなかった。激痛から意識を守るため、彼女の体は強制的に眠りへ入り、ゼロスは倒れかけた彼女を慌てて支えた。

世間体の悪い救助

ゼロスは意識を失ったクリスティンを運ぶしかなかったが、灰色ローブの怪しい中年が少年姿の少女を抱えて歩く状況は、世間体が非常に悪いと感じた。それでも人命を優先し、クリスティンを抱えて移動することにした。彼は不名誉な悪名を覚悟しながら、彼女を連れて前へ進んだ。

ジャイアント・アントの群れ

一方、クリスティンの騎士たちは、ジャイアント・アントの群れに行く手を阻まれていた。彼らは亡きエドワルドに恩を受けた孤児たちであり、その忘れ形見であるクリスティンを守るために命懸けで戦っていた。疲弊しながらも、狭い地形を利用してアリの群れを迎え撃っていた。

イリスたちの合流

そこへイリス、ジャーネ、レナが追いつき、騎士たちを援護した。イリスは【アクア・ジェット】や【アイス・ブリザード】で支援し、ジャーネは大剣でジャイアント・アントを叩き斬り、レナは関節部を狙って攻撃した。騎士たちは助太刀に感謝し、戦局は大きく楽になった。

坑道を揺らす轟音

戦闘の最中、ジャイアント・アントたちが急に慌ただしくなり、坑道に轟音が響いた。狭い坑道に旋風が走り、アリの群れは一斉に別の坑道へ逃げていった。何が起きたのか分からないまま一同が警戒する中、粉塵の奥から灰色ローブのゼロスが現れた。

クリスティンの帰還

ゼロスの背には、救出されたクリスティンが背負われていた。騎士たちは彼女の無事を確認しようと駆け寄ったが、ゼロスは少し格が上がって気絶しているだけだと説明した。彼はクリスティンを騎士たちに預け、ようやく一息ついた。

孤独なチートおやじ

周囲では、レナとジャーネがジャイアント・アントを解体し、イリスが残った魔石を回収していた。素材がダンジョンに吸収される前に回収しなければならないため、彼女たちは作業に没頭していた。誰もゼロスを気遣わず、彼は少し疎外感を覚えながら、三人の楽しげな声を背に鉱山を出ていった。

第十五話 おっさん、さっさと帰宅する

帰還したゼロスとアーハンの大迷宮の芽

宿で目覚めたクリスティン

クリスティンが目を覚ますと、そこはアーハンの村の宿の一室であった。ウォーアントを倒した後の記憶はなく、ゼロスが自分をここまで運んでくれたのだと考えた。彼女は礼を言うために起き上がろうとしたが、急速な格上げによる身体の変調で眩暈を起こし、再びベッドへ倒れ込んだ。

眠り直す夜

クリスティンは礼を言いに行こうとしたが、辺りは暗く、ゼロスも休んでいる頃だと考えた。無理に動けばかえって迷惑をかけると判断し、体調を整えるために眠ることを優先した。階下から聞こえる賑やかな笑い声を聞きながら、彼女は再び眠りに落ちた。

朝の安堵

翌朝、クリスティンは着替えを済ませ、食堂へ向かった。そこにはイザート、サイル、コルサ、ソクトーら側近の騎士たちがいて、彼女は全員が無事だったことに安堵した。騎士たちも、彼女が目覚めたことを喜び、体調を気遣った。

去ったゼロス

クリスティンはゼロスに礼を言おうとしたが、イリスからゼロスは昨夜のうちに村を出たと知らされた。レナとジャーネもそれを知らず驚いたが、ゼロスは貴族に関わると面倒だから早々に消えると言っていたという。クリスティンは命を救われた礼を言えないことに落ち込んだが、ゼロスの住まいを知る者もいなかった。

届かない礼

ジャーネやイリスたちは、ゼロスはそこまで気にしないだろうと慰めた。しかしクリスティンは、人としても貴族としても礼をするべきだと考えていたため、気落ちしたままだった。一方、ゼロスはすでにサントールの街の門前まで戻っており、煙草をふかしながら鼻歌交じりに歩いていた。

アーハンの大迷宮の始まり

アーハンの村の廃鉱山は、その後正式にダンジョンと認定されるまで三ヶ月を要した。さらに村が再び活気を取り戻すには数年かかった。その頃には廃鉱山内部は広がり、多くの魔物が出没する場所になっていた。ゼロスの殲滅魔法で一瞬にして灰になった魔物たちは、効率よくダンジョンに吸収され、拡大の糧となっていたのである。

サントールの酒場

時間は少し戻り、サントールの酒場では、クリスティンに絡んでいた傭兵たちが酒を飲んでいた。ゼロスに脅され逃げ出した彼らは、今朝の出来事を根に持ち、自棄酒を呷っていた。男たちは、ゼロスの鑑定が本物かどうかを疑い、あのミスリルの剣が本当に壊れかけだったのかも分からないと考えていた。

低ランク傭兵たちの不満

傭兵たちは、実力を磨かず、他者の獲物や護衛依頼に寄生するような手法で生きてきた。信頼を得られず上のランクに上がれないにもかかわらず、彼らは傭兵ギルドを逆恨みしていた。そんな彼らのもとへ、黒いローブの魔導士が近付いてきた。

黒いローブの魔導士

黒いローブの魔導士は、強い武器を持てば自分も強くなれるという考えは間違いだと告げた。傭兵たちが反発すると、彼は酒一杯を対価に、今より強くなる方法を教えると言った。怪しい話ではあったが、傭兵たちは酔いもあり、その話に乗ってしまった。

黒い石のアミュレット

魔導士は虚空から黒い石のはまったアミュレットを取り出した。傭兵の一人がそれに魔力を流すと、身体に力が湧き出すような感覚を得た。男たちは驚き、残りのアミュレットも欲しがったため、魔導士は三つのアミュレットを渡した。

人体実験の被験者

魔導士は仕事があると言って酒場を去り、路地裏で軍事訓練を受けたような男たちと合流した。彼は、傭兵たちが人体実験の被験者になっていることを知らないだろうと語った。アミュレットが使えるか試し、上手くいけば量産するつもりであり、男たちにその後の監視と報告を任せた。

互いの利用関係

黒いローブの魔導士は、男たちも自分を利用しているが、自分も同じだと考えていた。目的に近付けるならどう転んでも構わないという態度であり、必要なら様子を見に行くつもりだった。彼は酷薄な笑みを浮かべ、闇の中へ姿を消した。

サントール帰還の朝

ゼロスがサントールの街に戻った頃には、すでに朝日が昇っていた。彼の頭の中は、乾燥機、脱穀機、冷蔵庫、畑管理の人手、ホムンクルス、日本酒、麹、味噌、醤油といった計画で埋め尽くされていた。徹夜で街道を走り抜けた影響もあり、思考はかなり浮かれていた。

門前の不審者

街門の前でブツブツと独り言を呟きながらうろついていたゼロスは、衛兵たちに不審者として声をかけられた。彼は見た目も行動も怪しいと指摘され、詰め所へ連れて行かれることになった。ゼロスは話せば分かると訴えつつ、アーハンの村から夜通し走ってきたため空腹だと主張し、朝食を求めた。

冤罪と朝食

ゼロスは衛兵に連行され、三時間後に釈放された。彼は冤罪を理由に、しっかり朝食をご馳走してもらっていた。釈放後、帰宅途中で魔石を売るために魔導具店へ向かった。

変わった魔導具店

ゼロスが訪れた魔導具店は、以前のおどろおどろしい外観から一転し、ファンシーな店構えに変わっていた。店員クーティーによれば、店長の気まぐれで客のニーズに合わせた雰囲気に変えたのだという。改装はハンバ土木工業が行ったらしく、ゼロスはナグリたちの仕事の早さを思い浮かべた。

クーティーの泥棒扱い

クーティーはゼロスを見ても名前を覚えておらず、また盗んだ魔石は買い取れないと失礼なことを言った。ゼロスは何度も泥棒扱いされることに呆れ、店長に報告してクビにしてもらおうと考えた。クーティーはすぐに態度を切り替え、店長を呼びに行った。

ベラドンナの本名

店長ベラドンナはカウンターで眠っており、クーティーに本名のキャンディーで呼ばれて飛び起きた。彼女はベラドンナこそ魂の名前だと主張し、本名に強いコンプレックスを抱いているようだった。ゼロスはその様子を見ながら、店の内装が外観と同じく乙女趣味に変わっていることに頭を痛めた。

魔石の売却

ゼロスは、アーハンの鉱山で得たワームと蜘蛛の魔石を売りたいと伝えた。大量に持ち込むと相場が下がるため、ベラドンナはワーム十五個、蜘蛛二十個を買い取ることにした。ゼロスは倒した魔物の魔石が【自動回収】で勝手に集まっていたことに気付いていたが、売れるだけありがたいとして商談を成立させた。

携帯灰皿の必要

魔石を売ったゼロスは、露店で揚げパンを買い、煙草店で紙煙草を購入して帰路に就いた。その途中で、咥え煙草で歩き、吸い殻を捨てていたことに今さら気付いた。彼は基本的なモラルを忘れていたと反省し、携帯灰皿が必要だと考えた。

教会裏のマンドラゴラ収穫

旧市街の教会前に差しかかると、子供たちが元気にマンドラゴラを引き抜いていた。マンドラゴラは絶叫していたが、ルーセリスや子供たちはすでに精神的なダメージを受けなくなっていた。ゼロスは、人間は非常識なことにも慣れるものだと感じた。

子供たちへの土産

ゼロスを見つけた子供たちは、土産や肉をねだりながら駆け寄ってきた。ゼロスは揚げパンを渡し、子供たちは喜んで教会へ戻っていった。中には奇妙な言葉を使う子もおり、ゼロスはどこで覚えてきたのか疑問に思った。

お帰りなさいの一言

ルーセリスは子供たちの失礼を謝り、ゼロスにお帰りなさいと声をかけた。その何気ない言葉に、長く一人暮らしをしてきたゼロスは一瞬言葉を失った。彼は、誰かにお帰りなさいと言ってもらえることが嬉しいと語り、ただいま帰りましたと返した。

独り者への挨拶

ゼロスは、当たり前の挨拶でも独り者には心に響くことがあると語った。元の世界では、家に帰ってもお帰りと言ってくれる者はなく、暗い部屋で一人過ごす生活が続いていた。ルーセリスは、知っている人を心配するのは当たり前だと返し、ゼロスはその優しさをありがたく受け止めた。

ルーセリスの安堵

ゼロスが軽い足取りで帰っていくのを見送りながら、ルーセリスは無事に帰ってきてくれて良かったと安堵した。その様子を見た子供たちは、それは恋だとからかい始めた。ルーセリスは否定したが、子供たちは素直になれ、殺ってしまえ、肉にするのかなど、危険な言葉まで口にした。

旧市街の教育環境

ルーセリスが子供たちにどこでそんな言葉を覚えたのか尋ねると、彼らは近所の大人や路地裏の人物、酒場の者たちの名を挙げた。旧市街は教育環境が悪く、子供たちは周囲の影響を強く受けていた。ルーセリスは、この日から子供たちの教育に頭を悩ませることになった。

短編 ルーセリスの一日

ルーセリスの奉仕とジャーネの感染症

早朝の買い出し

ルーセリスは孤児たちの朝食を準備するため、早朝から市場へ出かけていた。夏場は食材が日持ちせず、緑黄色野菜はすぐに傷むため、朝の買い出しが習慣になっていた。教会裏の畑で野菜を収穫できるようになったことは助けになっていたが、育ちやすい野菜と枯れやすい野菜があり、安定して採れるのは薬草類が中心であった。

マンドラゴラと養護院の変化

教会裏の畑では【マンドラゴラ】が収穫できるようになり、それによって養護院の食料事情は大きく改善していた。ただし【マンドラゴラ】は料理に使うようなものではなく、高価な薬草であった。毎日のように泥棒が現れ、近所の人々に捕まることで、逆に近隣住民の収入源のようにもなっていた。

朝稽古のカエデ

ルーセリスが教会へ戻ると、緑の髪を後ろでまとめたハイ・エルフの少女カエデが木刀を振っていた。カエデは外に出られず体が鈍るため、朝の稽古を続けていた。彼女は自分の容姿が狙われる理由になることを理解しており、下劣な者は斬り捨てると言い切るほど好戦的であった。

訳ありのハイ・エルフ

カエデはメルラーサ司祭長から頼まれてルーセリスが預かった少女であった。ルーセリスは詳しい事情を知らなかったが、カエデがハイ・エルフだとは当初思っていなかった。ハイ・エルフは奴隷商やコレクターに狙われるほど珍しい種族であり、カエデも危険な立場にあったが、彼女自身は剣の技量に優れており、攫おうとする相手を返り討ちにする気でいた。

子供たちの悪影響

ルーセリスは、悪人であっても無闇に殺してはいけないとカエデに諭した。だがカエデは弱肉強食を語り、ルーセリス自身も体を狙われることがあるのではないかと口にした。その知識はアンジェたちから得たものだと分かり、ルーセリスは子供たちがどこで変な知識を覚えてくるのか分からず、自分の教育の難しさに涙した。

街での奉仕活動

朝食後、ルーセリスは礼拝堂で祈りを捧げてから街へ出て、怪我人を見つけて格安で治療する奉仕を行っていた。薬学にも通じている彼女は、病人の薬を調合することもあったが、以前は薬草を買えず断念することも多かった。ゼロスのおかげで養護院の生活が楽になり、備品も買えるようになったため、ルーセリスは彼との出会いに感謝していた。

ルーセリスの信仰

ルーセリスは四神教の見習い神官であったが、神そのものを盲目的に信じているわけではなかった。彼女が信じていたのは、教義に書かれた道徳心や人の優しさと強さであった。自分を育ててくれた養護院への恩返しのために見習い神官となり、同じ境遇の孤児たちを一人でも多く助けることを何より大切にしていた。

孤児たちへの治療

ルーセリスは街で身寄りのない子供たちを優先して治療していた。彼女自身も幼い頃に石を投げられるような経験をしており、親のいない子供たちの苦しさをよく知っていたためである。ゼロスから神聖魔法も魔導士の魔法と同じものだと教えられてから、彼女は遠慮なく治療を行うようになり、見習い神官でありながら魔導士としての自覚も持ち始めていた。

肝っ玉婆さんのからかい

ルーセリスは幼い頃から世話になっていた老婆を訪ね、体調を気遣った。老婆は豪快に笑いながら薬のおかげで調子が良いと話し、さらにルーセリスに良い男ができたのかとからかった。ルーセリスは否定したが、老婆は年上の気になる男がいるのではないかと鋭く見抜き、ルーセリスは誤魔化してその場を逃げるように去った。

レナからの相談

ルーセリスが新市街大通りの宿の前に来たところで、レナに声をかけられた。レナはジャーネが風邪をひいたようだと話し、薬に詳しいルーセリスを探していた。症状は咳、熱、喉の痛み、吐き気、倦怠感、体のむくみであり、ルーセリスは風邪に似ているがむくみが気にかかると考えた。

レナの奇行

レナは、前日に酒を飲ませた後でジャーネを全裸にして放置したことがまずかったかもしれないと話した。ルーセリスは、なぜ全裸にしたのかと困惑したが、レナはちょっとしたお茶目だと濁した。ルーセリスは疑問を抱きつつも、薬草を集めることを優先し、ジャーネのために薬草店へ向かった。

薬草店での不足

ルーセリスは薬草店で【シック草】、【クールシード】、【ストーマクルミ】を揃えようとしたが、必要な【リバーハンヘッドの肝油】が売り切れていることを知った。調合ができず困っていると、そこへゼロスが現れた。ゼロスは【マナ・ポーション】の素材を買いに来ており、ルーセリスの事情を聞いた。

感染症の可能性

ルーセリスがジャーネの症状を説明すると、ゼロスは魔物から人間に感染する病の可能性を指摘した。その病は熱、咳、吐き気、倦怠感、喉の痛み、体のむくみから始まり、発疹や紫色の変色が出れば末期となり、三日で死に至るものだった。ルーセリスは聞いたことのない病に驚いたが、ゼロスはその薬を持っていると告げた。

赤い丸薬

ゼロスは【リバーハンヘッドの肝油】を譲るだけでなく、感染症にも風邪にも使える赤い丸薬を一瓶渡した。高価な薬であるようだったが、ゼロスは在庫処分だから礼はいらないと言い、早く友人のもとへ行くよう促した。ルーセリスは礼を述べ、ジャーネのいる宿へ急いだ。

極楽亭のジャーネ

ルーセリスが傭兵御用達の宿【極楽亭】へ向かうと、イリスがジャーネの容体を心配していた。部屋に入ると、ジャーネの額や腕には発疹が出ており、肌もわずかに紫色へ変わり始めていた。ルーセリスは、ゼロスの言っていた感染症が現実だったと悟り、すぐに赤い丸薬を水と一緒に飲ませた。

魔法薬の効果

ジャーネは薬を飲むとすぐに眠りにつき、苦しそうな表情も和らいでいった。ルーセリスは、これほど強力な魔法薬を見たことがなく、症状を聞いただけで病を見抜き、薬を無償で渡したゼロスに驚きを深めた。イリスもその効果に驚き、ゼロスのような魔導士はまるで【殲滅者】のようだと語った。

殲滅者への憧れ

イリスは、【殲滅者】が【大賢者】のパーティーであり、あらゆる無茶な挑戦を勝ち抜いてきた最強の魔導士たちだと説明した。彼らは邪魔する者を徹底的に排除し、自由で孤高の存在だったという。ルーセリスは、その全員が【大賢者】でありながら物騒な通り名を持つことに違和感を覚えた。

看病の決定

ルーセリスは、未知の病である以上、ジャーネはしばらく安静にすべきだと判断した。イリスとレナは翌日から商人の馬車護衛でサントールを離れるため、ルーセリスがジャーネの看病を引き受けることになった。以後しばらく、彼女は宿と教会を往復することになった。

病み上がりの暇

三日後、ジャーネは体調が戻りつつあり、暇を持て余して運動したがっていた。ルーセリスは病み上がりだから安静にすべきだと却下した。ジャーネは昔のルーセリスがお転婆だったことを思い出し、今では見習い神官になったのだから時間は人を成長させるものだと語った。

幼なじみの昔話

ルーセリスは、ジャーネも昔は人見知りが激しく、泣いてばかりいたと笑った。二人は幼い頃から姉妹のように育ち、支え合ってきた家族であった。ルーセリスが神殿へ修行に出た頃、ジャーネも剣を習い始め、再び同じ街で過ごすようになっていた。

メルラーサ司祭長の影響

二人は、自分たちを育ててくれたメルラーサ司祭長の話題になった。司祭長は酒と博打に溺れる自由人で、神官らしからぬ人物であったが、街の人々には絶大な人気があった。ジャーネは、ルーセリスの神への距離感や堂々とした発言が司祭長に似ていると指摘し、ルーセリスは見習いだから仮の神官だと軽く返した。

同じ相手への好意

ルーセリスとジャーネは互いに変わった部分もあったが、内面は幼い頃のままであった。この時の二人は、自分たちが同じ人物に好意を持ち始めることになるとは知らなかった。また、ジャーネは自分が風邪ではなく感染症にかかり、ゼロスの薬で命を救われたことにもまだ気付いていなかった。

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