アラフォー賢者20巻レビュー
アラフォー賢者まとめ
アラフォー賢者22巻レビュー
物語の概要
■ 作品概要
本作は、アラフォーの魔導士であるゼロスが規格外の力で活躍する異世界ファンタジーである。未知の東大陸・フオウ国へと転移したゼロスとアドは、左腕を失った女剣士・ミヤビとその弟・タカマルに出会う。彼女の腕を奪い、妖刀に魅入られて鬼と化した父親・ゲンザを討伐するため、ゼロスはミヤビに凶悪な武装義手を与えた。やがて、龍脈の魔力を取り込んだ妖刀本体が大量の魑魅魍魎を生み出す「百鬼夜行」を引き起こし、国家存亡の危機へと発展していく。ゼロス一行は事態を収束させるべく、規格外の魔法と武技を駆使して妖魔の軍勢に立ち向かっていく。
■ 主要キャラクター
- ゼロス(大迫聡):本作の主人公であるアラフォー魔導士。圧倒的な魔法力を持ち、地形を変えるほどの広範囲殲滅魔法「暴食なる深淵」を放つ。実用性を度外視した「ロマン武器」の製作を好む変人であり、ミヤビのために兵器を内蔵した義手を作成した。
- アド:ゼロスに同行する青年剣士。高い戦闘力と冷静な判断力を備え、パーティーにおける常識人かつツッコミ役を担う。未熟なタカマルに対しては、実戦における剣士としての心構えを指導している。
- ミヤビ:妖刀に操られた父に左腕を斬り落とされた修羅の娘。ゼロスから贈られた凶悪な武装義手を装備し、好戦的かつ苛烈な戦闘スタイルで妖魔や父に挑む。
- タカマル:ミヤビの弟である少年剣士。剣士としての理想を追い求めるものの、優しすぎる性格ゆえに非情になりきれず、圧倒的な強者たちの中で己の未熟さに苦悩を抱えている。
- ゲンザ:ミヤビとタカマルの父親であり、達人級の腕を持つ剣豪。妖刀に魅入られ鬼と化していたが、ゼロスたちに救出される。非常に強い露出癖を持つ変態であり、戦いの最中でも全裸になろうとするため周囲を呆れさせている。
■ 物語の特徴
圧倒的な実力を持つ主人公たちによる爽快な無双劇と、自作の「ロマン武器」による規格外の戦闘描写が本作の大きな魅力である。また、魑魅魍魎が押し寄せる「百鬼夜行」に対し、使い捨ての駒として扱われる陰陽師や侍たちが決死の防衛戦を繰り広げるという重厚でシリアスな国家の危機が描かれる。その一方で、露出癖のある変態剣豪ゲンザの奇行や、地形ごと妖魔を消し飛ばすゼロスの非常識な行動が絶妙なコメディ要素として絡み合う。シリアスとギャグ、そして圧倒的な破壊力が入り混じった独特の作風が、読者を強く惹きつけるポイントとなっている。
書籍情報
アラフォー賢者の異世界生活日記 21
著者:寿安清 氏
イラスト:ジョンディー 氏
出版社:KADOKAWA(MFブックス)
発売日:2026年4月24日
ISBN:9784046600844
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あらすじ・内容
東方の国を震撼させた妖刀事件、いよいよクライマックスへ!!
東大陸・フオウ国にある【ギズモの街】にて、隻腕の女剣士・ミヤビと出会ったゼロスとアド。彼女の話では、自分の左腕を切り落としたのは父親のゲンザであり、妖刀に魅入られ鬼と化し姿をくらましているとのこと。そこでゼロスは、この街での寝床を提供してもらうお礼として、義手と凶悪な爪で武装された外部装甲腕とでも言うべき武具を製作し、彼女にプレゼントする。早速装備し、一通りの動作確認を終え何やら手応えを感じたミヤビは、不敵な笑みを浮かべながら父親討伐に目を輝かせるのだった……。
実の父親を倒すことも躊躇わない修羅娘のミヤビに、その弟であるタカマル、更には剣豪・ゲンザを加え、国を滅亡しかねないほど強力な負の力を秘めた妖刀に挑むゼロス。はたして彼らの運命は!?
感想
国を揺るがす妖刀事件というシリアスな物語でありながら、登場人物たちの濃すぎる個性によって何度も笑わされる一冊だった。緊迫した戦いの最中でもギャグを忘れない、本作らしい空気を最後まで楽しめた。
今巻で最も印象に残ったのは、ミヤビとタカマルの父・ゲンザである。
妖刀に取り憑かれていたとはいえ、全裸で刀を振り回しながら徘徊する姿は、あまりにもインパクトが強かった。読んでいて「おまわりさん、こいつです!」とツッコミを入れたくなり、シリアスな場面なのに思わず笑ってしまう。
さらに、妖刀の呪縛から解放された後、大八車に乗せられて運ばれる場面も忘れられない。筵をかぶせられた全裸のおっさんは、どう見ても遺体を運んでいるようにしか見えず、そのシュールさに吹き出してしまった。
ところが、これで終わらないのがゲンザという男である。
目を覚ました途端に再び全裸で歩き回り、ようやく褌だけは着けたものの、その格好のまま陰陽師たちと普通に食事を始める姿には、「誰か止めてくれ」と何度も思った。
そして極めつけは、強敵と戦うほど興奮し、全裸で真剣勝負をしたくなるという、とんでもない性癖である。
最初は呆れるしかなかったが、途中からは「この人はこういう生き物なんだ」と妙に納得してしまった。本作のギャグキャラクターとして、これ以上ない存在感を放っていたと思う。
一方で、ギャグばかりでは終わらないのも本作の魅力である。
鵬天山での妖魔討伐では、国の討滅隊が魑魅魍魎の大群を前に苦戦する中、ゼロスが広範囲殲滅魔法で廃村ごと敵を吹き飛ばしてしまう場面には圧倒された。
敵だけでなく地形まで消し飛ばして巨大なクレーターを作る光景は、ゼロスの規格外ぶりを改めて実感させられる。細かいことを考えずに読める爽快感があり、思わず「やりすぎだろ」と笑ってしまった。
その後の強敵との戦いも見応え十分だった。
特にゲンザは、変態的な言動ばかりが目立つものの、剣豪としての実力は本物である。そのギャップが面白く、ふざけているのに戦闘になると一気に空気が変わるところが印象的だった。
読んでいて感じたのは、この作品はシリアスとギャグの切り替えが本当に上手いということである。
妖刀事件という重い題材を扱いながらも、ゲンザが登場するだけで空気が一変する。その一方で、戦闘ではしっかりと緊張感を描き、読者を飽きさせない構成になっていた。
事件が終息した後、その被害が「自然災害」として処理される結末も、本作らしいオチだった。ゼロスたちの規格外すぎる力を考えれば、それしか説明のしようがないのだろう。
東大陸での新たな旅はまだ始まったばかりである。次はどんな強敵と出会い、どんな騒動に巻き込まれるのか。続きを読むのがますます楽しみになった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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アラフォー賢者20巻レビュー
アラフォー賢者まとめ
アラフォー賢者22巻レビュー
考察・解説
武装義手の製作
『アラフォー賢者の異世界生活日記 21』における「武装義手の製作」は、ゼロスの非常識なロマン追求と、それを受け入れるミヤビの好戦的な性格が合わさった印象的なエピソードとして描かれている。
ゴーレム技術をベースとした精巧な義手の設計、仕込み刀などの武器機能を外付けに集約する逆転の発想、超硬度爪や振動衝撃波装置を満載した完全なる兵器の完成、そして全裸で徘徊する父親を討ち果たすための修羅の娘の決意にいたる全容は以下の通りである。
球体関節を用いたドールタイプの応用と本物の腕と見間違うほど精巧な本体の構築
ミヤビは、妖刀に魅入られて鬼と化した父・グレン・ゲンザの攻撃を受け、左腕を斬り落とされていた。
・ゼロスは、タカマルの道場に滞在させてもらう宿代と、自身の実験を兼ねて彼女のための義手製作を申し出る。
・ゼロスが義手のベースとして選んだのは、ゴーレム技術の一つであるドールタイプ(球体関節を用いたタイプ)であった。
・この技術を応用して作られた義手本体は、本物の腕と見間違うほど精巧なものであった。
仕込み刀や振動衝撃波を仕込むスペースを補う外付け外部装甲腕の発想
ただの義手を作るだけでは満足できないゼロスは、義手の中に仕込み刀や振動衝撃波といったロマン武器を組み込もうと画策する。
・しかし、義手本体にはそれらの武器を仕込むためのスペースが足りなかった。
・そこでゼロスは、義手そのものは精密に作りつつ、武器機能は義手の上から装着する外付けの外部装甲腕に集約するという発想に至った。
金剛石を両断する合金爪と庭石を抵抗なくスライスする振動衝撃波の威力
3日間の徹夜の末にゼロスが完成させた外部装甲腕は、義手という枠を超えた完全な兵器であり、恐るべき性能を備えていた。
・蛇腹関節と伸縮機能:肘の少し先から手首にかけて蛇腹関節になっており、ありえない角度に腕を曲げることができる。さらに関節部のロックを外すことで、瞬間的に腕を伸ばすことも可能である。
・超硬度の合金爪:大きな手のひらの各指には、オリハルコンをベースにヒヒイロガネとミスリルを合金化した鋭い爪が備えられている。この爪は金剛石すら容易く両断し、岩を一撃でスライスするほどの異常な切断力を誇る。
・振動衝撃波装置:装甲腕の内部には魔石が組み込まれており、強力な破砕力を持つ振動衝撃波を手のひらから放つことができる。
圧倒的な破壊力への戦闘狂としての興奮と一族の恥を確実に葬る誓い
完成したこの禍々しい武装義手を装着したミヤビは、試し斬りとして中庭の庭石に爪を振り下ろした。
・一切の抵抗なく庭石をスライスし、さらに拳を叩きつけて粉砕するという圧倒的な破壊力を目の当たりにし、彼女は大いに喜んで興奮する。
・常識的な人間であれば引いてしまうような凶悪な兵器であるが、修羅の娘であるミヤビは不敵で邪悪な笑みを浮かべた。
・全裸で徘徊して一族の恥と化した父・ゲンザを、自らの手で確実に討ち果たす決意を固めたのである。
まとめ
武装義手の製作は、深刻な身内の悲劇を端緒としながらも、主人公の規格外なオタク的技術力によって過剰な決戦兵器が生み出される本作特有の展開である。妖刀によって実父に腕を落とされたミヤビに対し、ゼロスは精巧なドールタイプ義手と、伸縮自在の蛇腹関節や超硬度合金爪を搭載した外部装甲腕を提供した。この常識外れの破壊力を持つ鬼の手が、戦闘狂である少女の復讐心と合致し、変態化した父親を物理的に排除して一族の落とし前をつけるための強力な原動力となったプロセスは、シリアスな背景にロマン武器のロジックが融合するエピソードの特異性を厳密に証明している。
妖刀と鬼化
『アラフォー賢者の異世界生活日記 21』における「妖刀と鬼化」は、国家存亡の危機というシリアスな展開と、登場人物の特異な個性が交錯する重要な要素として描かれている。
凄惨な歴史により善悪問わず滅ぼそうとする特級呪物の背景、鍔からの触手侵入による肉体肥大化と妖魔への変容プロセス、強靭な精神力で支配をねじ伏せ全裸徘徊の暴走へと反転させたイレギュラーな事例、そして真剣勝負による刀の破壊と肉体復元にいたる全容は以下の通りである。
家族を贄とされた刀工の激しい憎悪と無数に分身体を生み出す悪魔型の性質
物語の元凶となる妖刀は、約150年前にアキノワダツシマ国からフオウ国へと持ち込まれた特級呪物である。
・この刀は、悪徳領主によって家族を人質に取られた刀工が無理やり打たされたものであり、試し斬りで妻子を殺され、刀工自身も命を奪われたという凄惨な歴史を持っている。
・この外道な行為によって刀工や家族が贄となり、無念と激しい憎悪が宿ることで、人を憎み善悪問わず滅ぼそうとする恐るべき呪具となった。
・妖刀には特定の血族を祟る呪物型や無差別に人を殺す無秩序型、完全に魔物化した禍霊型などがある。
・今回の妖刀は無数に分身体を生み出す極めて厄介な悪魔型に近い性質を持っている。
半透明な肉の根による宿主への瘴気流入と犠牲者の怨念吸収に伴う悪循環
妖刀、またはその分身体に魅入られた者は、精神を支配されるだけでなく、肉体ごと鬼(妖鬼)へと変貌してしまう。
・刀の鍔から伸びた半透明の肉の根のような触手が宿主の腕に絡みついて体内に侵入し、瘴気を流し込むことで肉体を強制的に強化、肥大化させる。
・操られた者は辻斬りなどの凶行を繰り返し、犠牲者の命や魔力、怨念を吸収することで妖刀の力をさらに増大させる。
・宿主自身も人間から完全な妖魔へと変容していくという悪循環を生み出す。
右半身の鬼変異をねじ伏せた精神力と変態的な裸道の解放による刃へのダメージ
ミヤビとタカマルの父である剣豪グレン・ゲンザのケースは、非常に特異なものであった。
・妖刀を拾ったゲンザは右半身が鬼のように変異し、抗いきれずにミヤビの左腕を斬り落とすという悲劇を起こした。
・しかしその後、彼の異常に強靭な精神力が妖刀の支配力を逆にねじ伏せてしまう。
・結果として、妖刀は本来の力を発揮できず、逆にゲンザが心の奥底に秘めていた全裸で過ごしたいという変態的な欲望(裸道)が解放された。
・全裸で夜な夜な徘徊するという暴走を引き起こす。
・妖刀の側から見ても、変態的な性癖によって逆に侵食を受けるという予期せぬ事態となり、妖刀本来の強度を発揮できず刃が欠けるほどのダメージを負うことになった。
抜刀術の真剣勝負による呪縛からの解放と概念を捨て去った蟲龍への変質
鬼化から被害者を救う手段として呪符を用いる方法もあるが、最も確実なのは憑依した刀自体を破壊することである。
・ただし、この方法には被害者が強靭な精神力を持っていなければ精神崩壊を起こすリスクが伴う。
・ゲンザの場合、ゼロスとの抜刀術による真剣勝負の末に、憑依していた刀がへし折られたことで呪縛から解放された。
・刀が破壊されると瘴気が霧散し、肥大化していた肉体も元に戻った。
・しかし、妖刀と精神的な闘いを続けていた反動で急激な疲労に襲われ、そのまま昏倒するという結末を迎えた。
・なお、分身体をばら撒いた妖刀の本体は、やがて刀という存在概念すら捨て去って怨念の塊である妖魔へと変質する。
・鵬天山の龍穴から魔力を吸収して蟲龍という巨大な化け物となって百鬼夜行を引き起こすことになる。
まとめ
妖刀と鬼化のメカニズムは、凄惨な怨念による精神と肉体の侵食という絶対的な呪いに対し、人間の強すぎるエゴがその支配構造をねじ曲げた希有な事象である。触手と瘴気によって人間を妖魔へ変質させる悪魔型の妖刀であったが、ゲンザの異常な精神力と「裸道」という強烈な性癖によって逆侵食を受け、刃が欠けるほどのダメージを負う結果となった。ゼロスの抜刀術によって刀が破壊されたことで呪縛は解かれ、肉体の復元へと至ったものの、概念を捨てて巨大な「蟲龍」へと変質した本体が百鬼夜行を誘発するプロセスは、怨念の暴走がもたらす国家規模の脅威を厳密に証明している。
陰陽寮の格差問題
『アラフォー賢者の異世界生活日記 21』における「陰陽寮の格差問題」は、特権階級である上層部の「呪家」と、下部組織で現場の矢面に立つ「祓魔師」や分家筋との間に横たわる、根深い身分差別と劣悪な労働環境として描かれている。
孤児から基礎的な呪術のみを教え込まれ消耗品として扱われる祓魔師の実態、装備損耗の自腹負担や転職の禁止に伴う理不尽な労働条件、同族婚の繰り返しによる血統維持の弊害と後継者問題、そして百鬼夜行の緊急事態においても機能しない上層部の秘密主義にいたる全容は以下の通りである。
最低限の基礎呪術のみによる危険現場への送出と消耗品としての侮蔑
陰陽寮の下部組織「退魔部祓魔殿」に所属する祓魔師たちは、主に孤児の中から才能を見出されて拾われた者たちである。
・彼らには一族相伝の強力な秘術が教えられることはなく、最低限の基礎的な呪術だけを叩き込まれ、妖魔討伐の危険な現場へと送り込まれる。
・上層部の呪家出身の術師たちから「模造品」や「消耗品」と見下され、侮蔑の対象となっている。
・過酷な現場で殉職者が出ても上層部は心を痛めることはなく、完全に使い捨ての駒として扱われている。
装備損耗の自己負担による困窮と漏洩防止の名目で行われる転職逃亡の抹殺
祓魔師の労働環境は、いわゆるブラック企業そのものである。
・宿泊費や食費は経費で落ちるものの、激しい戦いで呪具や装備が損耗しすぎると自腹を切らされるため、生活が困窮しかねないという理不尽な状況に置かれている。
・出世するためには多大な手柄を立てる必要があり、ほとんどの者が万年平社員のような立場のままである。
・技術漏洩を防ぐという名目で転職することも許されず、逃亡しようものなら抹殺されるという過酷な掟に縛られている。
外部婚姻者の女中扱いと血統純化を狙う同族婚が招いた一族の弱体化
上層部の呪家は歴史と血統を重んじるあまり、極端な秘密主義と孤立主義に陥っている。
・祓魔師のような外部の者が呪家に嫁いだり婿入りしたりしても、一族の術を教えられることはなく「女中扱い」されて激しいいびりを受ける。
・そのため、祓魔師たちは呪家との婚姻を避け、市井で家庭を持つのが一般的となっている。
・しかし、呪家が純血を保とうと同族婚(近親婚)を繰り返した結果、体が弱く呪術に耐えられない子供や忌児が生まれやすくなるという皮肉な結果を招いている。
・これが一族の弱体化という深刻な後継者問題を引き起こす原因となっている。
安全圏からの無茶な命令と責任逃れに対する指揮官たちの疲弊
格差の弊害は祓魔師だけでなく、アシヤやサエキのような分家筋の実力者(中間管理職)にも重くのしかかっている。
・上層部の老人たちは現場の過酷さを知らず、自分たちの権力やメンツを最優先し、安全な場所から現場に無茶を押し付けている。
・国家の存亡がかかる百鬼夜行の事態においてすら、上層部は後継者問題にかまけている。
・現場で命を懸ける指揮官たちは、上の連中は自分たちで責任を取らない、百害あって一利ない老害、と強い不満と疲弊を募らせている。
まとめ
陰陽寮の格差問題は、血統主義に固執する特権階級と、使い捨てにされる現場の術師たちとの断絶がもたらした組織的な機能不全である。孤児を消耗品として酷使し、装備の自己負担や逃亡者の抹殺によって縛り付けるブラックな体制は、現場の困窮と不満を限界まで高めた。さらに、純血維持のための同族婚が後継者の弱体化を招き、百鬼夜行という国家の危機においても上層部が保身とメンツに終始する姿は、身分差別が個人の尊厳を奪うだけでなく、防衛組織としての致命的な欠陥となって国を崩壊へ導く要因となることを厳密に証明している。
鵬天山の決戦
『アラフォー賢者の異世界生活日記 21』における「鵬天山の決戦」は、フオウ国の国家存亡をかけた百鬼夜行討滅隊の戦いと、ゼロス一行による妖刀本体の討伐という二つの視点で繰り広げられたクライマックスの戦いである。龍脈の魔力を吸収して肥大化した妖魔の軍勢に対し、国家の防衛部隊と規格外の賢者たちがそれぞれの死闘を展開した全容は以下の通りである。
霊山地下の龍穴占拠による百鬼夜行の発生と封魔浄化結界を展開する討滅隊の苦戦
妖刀の本体は、霊山・鵬天山の地下にある龍穴を占拠し、龍脈から噴き出す膨大な魔力を吸収して百鬼夜行と呼ばれる魑魅魍魎の大群を生み出していた。
・これに対抗するため、フオウ国の陰陽寮の呪術師アシヤやサエキが率いる討滅隊が平原に陣を敷き、封魔浄化結界を展開して妖魔を迎え撃つ。
・討滅隊は大祓いの祝詞などを用いて妖魔を浄化し善戦するが、妖魔の数は圧倒的であった。
・やがて、ゼロスの魔法の余波を生き延びた強力な大型妖魔が陣地に迫り、結界を維持する呪術師たちが限界を迎える。
・侍たちが自爆特攻を強いられる絶望的な状況に陥った。
退魔の札による数千度の大気熱炭化と天を貫く巨大な光の柱の大爆発
討滅隊が全滅 of 危機に瀕したその時、ゼロスと別れて本陣に合流したアケノ, スケ, カクの3人の祓魔師が到着する。
・彼らはゼロスから譲り受けた規格外に強力な退魔の札を三方向から大型妖魔へ向けて投擲した。
・呪符は自動で魔法陣を組み上げ、分厚い円柱形の障壁で大型妖魔を閉じ込める。
・障壁内部で急激に大気圧と熱量を上昇させ、数千度の大気熱が妖魔を炭化させた。
・その後、天を貫く巨大な光の柱とともに大爆発を引き起こし、この一撃により討滅隊側の百鬼夜行は一応の終息を迎えた。
広範囲殲滅魔法によるクレーター形成と妖刀本体が変質した超巨大妖魔の出現
一方、鵬天山の麓に向かっていたゼロス, アド, ミヤビ, タカマル, ゲンザの一行は、大量の妖魔がひしめく廃村を発見する。
・ゼロスは妖刀の正確な潜伏場所が不明だったため、龍穴の存在する地下の洞窟ごと一掃すべく、広範囲殲滅魔法「暴食なる深淵」を容赦なく放った。
・この一撃により山の中腹は巨大なクレーターと化し、そこから妖刀本体が変質した超巨大な妖魔「蟲龍」が出現する。
・蟲龍の周囲には、黒豹、獅子、虎、壺の四肢を持つ4体の武霊獣士が護衛として立ち塞がった。
幻惑を打ち破る神速の一刀両断と武装義手の振動波がもたらした勝利
一行は4体の武霊獣士と個別に戦闘を開始し、それぞれの執念と技量によって撃破に至る。
・黒豹獣士 vs アド:高い機動力と幻惑を駆使する敵に対し、アドは視覚を捨てて魔力(瘴気)のみを知覚し、縮地と雷属性を合わせた複合剣技「瞬天一閃」を放って神速で一刀両断した。
・獅子獣士 vs ゲンザ:鎖鎌と鉄球を操る強敵であったが、ゲンザが戦闘中に衣服を剥がされることに快楽を覚え、全裸になろうとする変態性を発揮したことで、武人としての矜持を汚されたと感じた敵は恐怖して逃亡し、最後はアドに突撃して倒された。
・虎獣士 vs ミヤビ:二刀の呉鉤を操る敵にミヤビは防戦一方となるが、最後は死なばもろともの覚悟で踏み込み、ゼロスが作った武装義手の切り札である高出力の振動波を至近距離から叩き込み、勝利を収めた。
・壺獣士(蛸獣士) vs タカマル、ゲンザ:長刀をトリッキーに操る敵にタカマルは敗北するが、代わったゲンザが激しい攻防の末に壺を割ると、下半身が蛸の足のような蛸獣士へと変化した。ゲンザは無数の蛸足による斬撃結界の中へ突撃し、全身に無数の重傷を負いながらも、限界を超えた一撃で両断した。
五剣封縛の聖域による蟲龍の光鎖封印と火山活動への報告偽装による活躍隠蔽
ゼロスは、熱や毒ガスを放ちながら龍脈から魔力を吸収し続ける蟲龍の弱点を分析し、インベントリーから5本の剣を取り出して地面に配置した。
・退魔領域結界「五剣封縛の聖域」と「光の縛鎖」を発動して蟲龍を光の鎖で封じ込める。
・結界内で瘴気と自然界魔力の均衡が崩れ、蟲龍は自浄作用の紅蓮の炎に焼かれて消滅した。
・ゼロスは、妖刀を鍛えた鍛冶師の怨念が摩耗し、家族への思いすら曖昧になっていた蟲龍に対し、同情しつつも引動を渡した。
・蟲龍が倒されたクレーター跡地からは龍脈の清浄な水が湧き出し、緑豊かな聖域へと変貌していった。
・一方、討滅隊を率いていたアシヤとサエキは、大呪法をもたらした異国の呪術師(ゼロスたち)の存在が古い血統を重んじる陰陽寮の上層部に知られれば、婚姻や呪術による囲い込みなどの面倒な事態になると判断する。
・そのため、鵬天山は火山活動によって吹き飛んだという自然災害として報告を偽装し、ゼロスたちの活躍を密かに隠蔽した。
まとめ
鵬天山の決戦は、国家を揺るがす怨念の百鬼夜行に対し、国家の防衛組織と規格外の現代的術理が交錯した最大規模の防衛劇である。アケノたちがゼロス譲りの退魔の札で全滅の危機を救った一方で、ゼロス一行は山ごと龍穴を一掃する暴食なる深淵によって妖刀の本体を引きずり出し、個々の死闘を経て蟲龍の完全消滅へと至った。この歴史的勝利がもたらした龍脈の清浄化という恩恵に対し、古い血統主義の陰陽寮上層部からの囲い込みを避けるために現場の指揮官たちが災害として報告を偽装したプロセスは、歪んだ組織構造を回避しながら世界を守り抜く現場の知恵を厳密に証明している。
呪術師の因習
『アラフォー賢者の異世界生活日記 21』における「呪術師の因習」は、特権階級である古い呪術家系(呪家)が抱える深刻な弊害であり、一族の存続すら脅かす致命的な欠陥として描かれている。
秘術の漏洩を恐れた同族婚や近親婚の繰り返し、血筋の外にある外部の者への激しい排他性と差別、一族の肉体弱体化による神事での前代未聞の失態、そして異国の術者から医学的情報を突きつけられたことによる狼狽と半世紀に及ぶ派閥対立にいたる全容は以下の通りである。
一族相伝の秘術漏洩防止と高い呪力を求めた極端な血統第一主義の弊害
陰陽寮の上層部に君臨する古い呪家の者たちは、世代を重ねて研究してきた一族相伝の呪術が外部に漏洩することを極端に恐れていた。
・より高い呪力や霊力を持つ跡継ぎを生み出すために、極端な血統第一主義を掲げる。
・同族婚や近親婚を繰り返すという古い因習やしきたりに縛られていた。
外部の才能ある婚姻者に対する女中扱いと下部組織から敬遠される婚姻の実態
彼らは極めて閉鎖的であり、血筋の外にある者を下賤な存在として激しく見下していた。
・仮に外部から才能ある者を嫁や婿として一族に迎え入れたとしても、一族の秘術を教えることは決してなかった。
・女中扱いをして執拗にいびり抜くという悪辣な風習が根付いていた。
・そのため、下部組織の祓魔師たちからも呪家との婚姻は敬遠されていた。
純血に固執した結果の死産や異形化と御前神事で次期当主全員が倒れた失態
血の濃さを誇りとし、外部の血を拒絶し続けた結果、呪家は深刻な肉体の弱体化を引き起こしてしまった。
・生まれつき体の弱い子供や死産、さらには体の一部が異形化した忌児が生まれやすくなる。
・帝の御前で行われた神事「霊鎮めの舞儀」では、体力のなさが原因で次期当主たちが全員倒れるという前代未聞の失態まで演じている。
・皮肉にも、一族を守るための因習が深刻な後継者問題を引き起こし、自分達の首を絞める結果となっていた。
ゼロスによる医学的情報の提示と新しき血の受け入れを巡る半世紀のいがみ合い
百鬼夜行の事件の裏で、ゼロス(異国の術者)の口から、近親婚は悪手であり、血が濃くなることで肉体の弱体化や異常を招く、という医学的な情報がもたらされる。
・これを聞いた呪寮長たちは、自分たちの現状に思い当たる節がありすぎたため酷く狼狽した。
・方針を転換して祓魔師などの中から養子や配偶者を迎え入れようと動き出す。
・しかし、古い因習に囚われた頭の固い老人たちは、歴史ある我らが一族の血に外部の下賤な血を入れるなどもってのほかだ、と激しく反発した。
・結果として陰陽寮の内部では、新しき血を受け入れて生き残りを図る新興の呪家と、古き因習と純血に固執する一族との間で激しい対立が生まれる。
・その後半世紀ほどにもわたっていがみ合うことになった。
まとめ
呪術師の因習は、血統の純化と特権の維持に固執するあまり、生物学的な破滅へと直進した支配階級の機能不全である。一族相伝の術を秘匿するための近親婚は、呪力の増強どころか後継者たちの肉体弱体化と忌児の発生を招き、国の最高神事で全員が昏倒するという組織的崩壊を露呈させた。ゼロスによって突きつけられた「近親婚の医学的リスク」という異国の知識が、旧態依然とした上層部を狼狽させ、生き残りのための「新興の呪家」と純血に固執する「保守派」との間で半世紀に及ぶ内部抗争を引き起こしたプロセスは、歪んだ特権意識が組織の再生を阻む致命的な要因となることを厳密に証明している。
殲滅魔法の威力
『アラフォー賢者の異世界生活日記』シリーズにおいて、主人公ゼロスが使用する「殲滅魔法」は、単なる敵の討伐という枠を完全に超え、地形そのものを作り変えてしまうほどの常軌を逸した破壊力(威力)として描かれている。
全力での発動がもたらす山間部の根こそぎの消滅とクレーターへの変貌、絶対零度の冷気や地獄の獄炎による物質崩壊を伴う各種極大魔法の威力、そして使用した本人さえも恐怖を覚える制御不能な危険性と周囲からのツッコミにいたる全容は以下の通りである。
全力での魔力解放に伴う空間収束と山間部を抉り湖へと変容させる核級の熱量
21巻の鵬天山の決戦で、数え切れないほどの魑魅魍魎(妖魔)を一掃するために全力で放たれた広範囲殲滅魔法が暴食なる深淵である。
・圧縮された膨大な魔力が解放されると、爆縮の影響で空間の収束現象が起こり、周囲の妖魔たちを巻き込む。
・物質すら崩壊させるほどの熱量と大爆発を引き起こし、廃村を包んでいた結界ごと、大自然に包まれた山間部の景観を一瞬にして根こそぎ消し飛ばした。
・その威力は、まさに核級に相当するほどの破壊力、と表現されており、一度発動したら人間には制御も停止も不可能な、最悪にして災厄の魔法、とされている。
・結果として、鵬天山の麓は3分の1ほどが抉り取られ、巨大なクレーターへと変貌した。
・後日訪れた討滅隊の斥候が、廃村の痕跡すらなくなり、抉られた岩盤から地下水が滾々と湧き出して新たな湖(聖域)ができつつある惨状を見て驚愕するほど、大規模な自然破壊と不可逆的な地形改変をもたらした。
海水ごと絶対零度に凍りつかせる術式と周辺を溶岩のプールに沈める漆黒キューブ
ゼロスは暴食なる深淵の他にも、ゲーム時代の知識をもとに様々な特性を持つ殲滅魔法を状況に応じて使い分けている。
・極大氷結魔法(極零崩滅華(仮)):マグマゴーレム戦で使用された。対象の頭上で術式を発動させ、大気温度を瞬間的に絶対零度まで急速に下げることで、周囲の海水ごと一瞬にして凍りつかせる。灼熱の溶岩で構成されたゴーレムからすべての熱量を奪い去り、物質の崩壊を引き起こして完全に活動を停止、粉砕した。
・広範囲殲滅魔法(煉獄炎焦滅陣):屍の巨人に対して使用された。漆黒のキューブから膨大な魔力と術式が放たれ、尋常ではない熱量によって石畳や周辺の廃屋ごと、広範囲を地獄のような獄炎が吹き荒れる溶岩の沼(プール)へと沈め、巨大なアンデッドを完全に焼却した。
・極大級殲滅攻撃(闇の裁き):暴食なる深淵をも超えるとされる攻撃である。作中では実際に使用されていないが、過去に邪神が放った超重力攻撃の爪痕(地形が変わるほどの連続した巨大クレーター)を見た際に比較として挙げられており、その威力は暴食なる深淵と比べても、威力の桁があまりにも違いすぎて想像がつかない、ほど強大だと語られている。
効果範囲の未知数さと開発した本人による恐怖および同行者からの自然破壊という警告
これらの魔法の多くは、ゲーム「ソード・アンド・ソーサリス」時代にゼロスが趣味や実験で開発、改造したものであり、未完成の術式も含まれている。
・魔法の効果範囲がどこまで及ぶか未知数であるため、ゼロス自身も、使用した結果が最悪の事態を招く可能性が高い、と認識しており、おいそれと使っていい魔法ではないと語っている。
・事実、暴食なる深淵を全力で放った際には、ゼロス自身でさえ、マジで危険な魔法を作ってたんだねぇ。これが闇の裁きだったらと思うと、少しばかり怖くなっちゃったよ、と恐怖を覚えるほどであった。
・同行するアドからは、威力が無慈悲で高すぎるため、ただの自然破壊だろ、と呆れられ、使用時には周囲の人間や環境を巻き込まないよう度々警告やツッコミを受けている。
まとめ
ゼロスの殲滅魔法は、個人の魔術戦闘という概念を逸脱し、物理法則を蹂躙して地形や生態系を不可逆的に変容させる神がかった出力の暴力である。趣味で開発した未完成の術式でありながら、一撃で山を削り、溶岩の沼や絶対零度の結界を作り出すその威力は、世界のパワーバランスを根底から揺るがす危険性を孕んでいる。発動した本人すらその無慈悲な破壊力に戦慄し、同行者から「ただの自然破壊」と酷評されるほどの規格外の性能は、彼が異世界において文字通りの生ける天災であり、神に匹敵する絶対的なマギ・クラフトマンであることを厳密に証明している。
アラフォー賢者20巻レビュー
アラフォー賢者まとめ
アラフォー賢者22巻レビュー
登場キャラクター
転生者・地球の人物
ゼロス(大迫聡)
アラフォーの魔導士であり、規格外の魔法を行使する。アドと行動を共にし、ミヤビのために凶悪な武装義手を作った。
・所属組織、地位や役職
魔導士である。
・物語内での具体的な行動や成果
広範囲殲滅魔法「暴食なる深淵」で妖魔の群れを一掃した。巨大妖魔「蟲龍」を単独で討伐している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
その圧倒的な力から、フオウ国の呪術師たちに恐れられている。
アド
ゼロスと行動を共にする青年剣士である。冷静に状況を判断し、パーティーのツッコミ役に回ることが多い。
・所属組織、地位や役職
剣士である。
・物語内での具体的な行動や成果
タカマルに剣の稽古をつけた。鵬天山の決戦では黒豹獣士を神速の剣技で一刀両断している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
タカマルから師匠と仰がれている。
東大陸(フオウ国など)
グレン・ミヤビ
タカマルの姉であり、強い意志を持つ修羅の娘である。妖刀に魅入られた父を自ら討つ決意を固めている。
・所属組織、地位や役職
不明である(剣士)。
・物語内での具体的な行動や成果
ゼロスが製作した武装義手を装着して戦いに臨んだ。虎獣士との戦闘において、至近距離からの振動波を放ち勝利を収めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
妖魔との戦闘を通じてレベルアップを果たしている。
グレン・ゲンザ
ミヤビとタカマルの父であり、紅蓮新刀流の剣豪である。極度の露出癖を持つ変態として描かれている。
・所属組織、地位や役職
剣術指南役である。道場主。
・物語内での具体的な行動や成果
妖刀の呪縛から解放されたのち、鵬天山での決戦に参加した。獅子獣士を退け、蛸獣士を限界を超えた一撃で両断している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
戦闘を通じて肉体が戦いに適した形へと変化した。
グレン・タカマル
ミヤビの弟である少年剣士である。剣士としての理想を追い求めるが、優しすぎる性格に悩んでいる。
・所属組織、地位や役職
師範代見習いである。
・物語内での具体的な行動や成果
黒大狼と戦い、窮地に陥ったところをアドに助けられた。アドから剣の指導を受け、鵬天山の決戦では壺獣士と戦っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
壺獣士との戦いで圧倒的な実力差を経験した。
陰陽寮(呪術師・祓魔師・討滅隊)
祓魔師達
陰陽寮の下部組織に属する者たちである。過酷な労働環境に置かれ、使い捨ての駒として扱われている。
・所属組織、地位や役職
退魔部祓魔殿に所属する呪術師である。
・物語内での具体的な行動や成果
各地で妖魔の討伐や情報収集にあたった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
呪家出身の上層部から侮蔑の対象とされている。
アケノ(アリューシャ)
祓魔師の女性リーダーである。仲間を守るため、危険を承知でゼロスから受け取った呪符を使う決断を下した。
・所属組織、地位や役職
祓魔師である。
・物語内での具体的な行動や成果
スケやカクと共に、大型妖魔へ向けて大呪法を発動させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
アシヤ
陰陽寮の分家筋に当たる呪術師である。討滅隊の責任者として、現場の苦労と上層部の無理解に挟まれ疲弊している。
・所属組織、地位や役職
宮廷陰陽師である。
・物語内での具体的な行動や成果
サエキと共に封魔浄化結界を展開し、百鬼夜行の討伐を指揮した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ゼロスたちの存在を上層部に知られないよう隠蔽した。
サエキ
アシヤと行動を共にする呪術師である。冷静に戦況を分析し、部下に的確な指示を出す。
・所属組織、地位や役職
宮廷陰陽師である。
・物語内での具体的な行動や成果
平原に結界を張り、討滅隊の防衛陣地を構築した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
呪寮長達
陰陽寮の上層部にいる老人たちである。歴史と血統を重んじ、権力に固執している。
・所属組織、地位や役職
陰陽寮の呪寮長である。
・物語内での具体的な行動や成果
異国からの医学情報に狼狽し、新しい血を迎え入れるよう方針を転換しようとした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
近親婚の影響で次期当主たちが弱体化している。
討滅隊
百鬼夜行を防ぐために集められた部隊である。侍や呪術師で構成されている。
・所属組織、地位や役職
フオウ国の討滅隊である。
・物語内での具体的な行動や成果
平原に陣地を構築し、押し寄せる妖魔の群れと激戦を繰り広げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
呪術師達
討滅隊に参加している術者たちである。結界の維持を担い、前線の侍たちを支援している。
・所属組織、地位や役職
呪術師である。
・物語内での具体的な行動や成果
封魔浄化結界を展開し、魔力枯渇で倒れるまで陣地を守り抜いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
スケ(ヤスケ)
アケノと行動を共にする祓魔師である。元孤児であり、過酷な職場環境に身を置いている。
・所属組織、地位や役職
祓魔師である。
・物語内での具体的な行動や成果
アケノの合図に合わせ、大型妖魔へ向けて呪符を投げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
カク(フガク)
アケノと行動を共にする祓魔師である。スケと同じく元孤児である。
・所属組織、地位や役職
祓魔師である。
・物語内での具体的な行動や成果
指定された位置に移動し、大型妖魔へ向けて呪符を投げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
魔物・妖魔
妖刀
アキノワダツシマ国からフオウ国に持ち込まれた特級呪物である。多くの怨念を溜め込んでいる。
・所属組織、地位や役職
呪具である。
・物語内での具体的な行動や成果
ゲンザを操り、各地に分身体をばら撒いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
刀という概念から逸脱し、妖魔へと変質した。
鬼
妖刀に魅入られた者が変容した姿である。瘴気によって肉体が強制的に強化されている。
・所属組織、地位や役職
妖魔である。
・物語内での具体的な行動や成果
ゲンザが鬼と化し、全裸で徘徊して祓魔師たちを困惑させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
刀が破壊されると元の姿に戻る。
魑魅魍魎
妖刀に込められた怨念が実体化した妖魔の大群である。生きる者を無差別に襲う。
・所属組織、地位や役職
魔物である。
・物語内での具体的な行動や成果
百鬼夜行を形成し、討滅隊の陣地へ押し寄せた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
大半がゼロスの広範囲殲滅魔法によって消滅した。
妖魔達
魑魅魍魎を構成する化け物たちである。生前の妄執で動く。
・所属組織、地位や役職
妖魔である。
・物語内での具体的な行動や成果
陣地に押し寄せ、侍たちと激しい乱戦を繰り広げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
躯武者
戦場で無念の死を遂げた落ち武者の亡霊である。生者を殺すことに特化している。
・所属組織、地位や役職
妖魔である。
・物語内での具体的な行動や成果
討滅隊の侍たちを襲い、前線を混乱させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
皿の女
大きな皿に不気味な女の顔が浮かんだ妖魔である。
・所属組織、地位や役職
飛行型の妖魔である。
・物語内での具体的な行動や成果
高速回転して侍の首を落とした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
火車
牛車の車輪に人間の首が張り付いた妖怪である。
・所属組織、地位や役職
飛行型の妖魔である。
・物語内での具体的な行動や成果
炎を吐きながら侍たちに自爆特攻を仕掛けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
蟲龍
妖刀本体が変容した超巨大な妖魔である。ムカデのような胴体を持つ。
・所属組織、地位や役職
妖魔である。
・物語内での具体的な行動や成果
龍脈から魔力を吸収し、溶岩や毒煙を放ってゼロスと戦った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ゼロスの結界に封じられ、炎に焼かれて消滅した。
武霊獣士
蟲龍を護衛する半人半獣の鎧武者たちである。
・所属組織、地位や役職
妖魔である。
・物語内での具体的な行動や成果
ゼロスたち一行とそれぞれ一対一の戦いを繰り広げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
壺獣士
壺を四肢とする武霊獣士である。トリッキーな動きで相手を翻弄する。
・所属組織、地位や役職
妖魔である。
・物語内での具体的な行動や成果
タカマルを長刀で圧倒した後、ゲンザと激しい死闘を演じた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
壺を割られて蛸獣士へと姿を変えた。
黒豹獣士
黒豹の四肢を持つ武霊獣士である。青龍刀を持つ。
・所属組織、地位や役職
妖魔である。
・物語内での具体的な行動や成果
幻惑と機動力を駆使してアドを追い詰めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アドの神速の剣技によって両断された。
獅子獣士
獅子の四肢を持つ武霊獣士である。鎖鎌と鉄球を操る。
・所属組織、地位や役職
妖魔である。
・物語内での具体的な行動や成果
ゲンザと戦ったが、相手の全裸癖に恐怖して逃亡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
最後はアドに突撃し、斬られて消滅した。
虎獣士
虎の四肢を持つ武霊獣士である。二刀の呉鉤を操る。
・所属組織、地位や役職
妖魔である。
・物語内での具体的な行動や成果
隙のない連撃でミヤビを追い詰めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ミヤビの至近距離からの振動波を受けて霧散した。
蛸獣士
壺獣士の壺が割れて現れた姿である。下半身にタコのような足を持つ。
・所属組織、地位や役職
妖魔である。
・物語内での具体的な行動や成果
無数の足を鞭のように使い、ゲンザを激しく攻撃した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
限界を超えたゲンザの一撃で両断された。
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アラフォー賢者20巻レビュー
アラフォー賢者まとめ
アラフォー賢者22巻レビュー
展開まとめ
プロローグ おっさん、鬼退治の前準備をする
魔導具とロマン武器
魔導具の発展とロマン武器の誕生
魔導具は【ソード・アンド・ソーサリス】内で、プレイヤーやNPCが製作・使用できる戦闘補助用の道具にすぎなかった。しかし、一部の生産系プレイヤーが複数の魔導具を組み合わせれば強力な武器を作れるのではないかと考え、実験を始めたことで状況が変わった。
その結果、攻撃力を限界まで高めた武器、代償と引き換えに攻撃やデバフを与える武器、使用者を呪う呪物、耐久値を使い切って最大の一撃を放つ武器、自爆武器などが作られた。こうして【ソード・アンド・ソーサリス】内には、数多くのロマン武器が溢れることになった。
ミヤビの義手とゼロスの改良
東大陸で出会ったタカマルの姉であるミヤビは、事情があって左腕を欠損していた。ゼロスは彼女のために義手を製作したが、作ることが楽しくなり、次第にその義手をロマン武器へと改良していった。
義手には術式を動かす魔石のほか、別用途の魔石を組み込む機能が備わっていた。その機能がなければ、高性能な身体欠損者向け義手と呼べるものだったが、義手を包む外部装甲は完全に戦闘を想定した武装魔導具となっていた。
兵器化した外部装甲
外部装甲の手のひらは大きく、各指にはオリハルコンやヒヒイロガネなどのレア素材を使った鋭い爪が取り付けられていた。肘の少し先から手首までの部位は蛇腹関節で自在に動き、関節部を外せば瞬間的に伸ばすことも可能だった。
さらに、手のひらには特殊な一撃必殺の魔導武器まで組み込まれていた。もはや完全な兵器であったが、ゼロスはそれでも義手であると言い張った。爪を振り下ろすだけで庭石を切り裂き、粉砕し、使用者に人外の能力を与えても、ゼロスは義手だと言い続けていた。
新たな腕への適応
ミヤビは新たな武装義手を装着し、腕が少し延長された違和感はあるものの、悪くはなく、自分の腕のように感じられると語った。ただし、爪の切れ味が名刀並みに鋭いため、その手で自分の顔に触れられないことを欠点として挙げた。
ミヤビは恍惚とした表情で新たな腕を受け入れていた。小声で物騒なことを呟いている点は気がかりだったが、本人は義手に愛着を抱いたようで、庭先に置かれた岩を上機嫌で次々とスライスしていた。
刀へのこだわり
ミヤビは、腕が長くなった利点を活かして刀を振るいたいと考えた。左腕の先が自在に動かせることにも興味を示し、武人としてそれを極めたいとゼロスに伝えた。
しかし、武装義手の爪は鋭すぎて刀の柄を切り裂いてしまい、手のひらも戦闘用の強い力を持っていたため、刀を持てたとしても柄を握り潰してしまう可能性があった。外部装甲は内部の義手を守る補強装甲であり、盾として使うことも想定されていたため、刀を握る用途には向いていなかった。
二刀流の断念
ゼロスは刀の柄の強度を変える案を考えたが、ミヤビは左手に脇差を持つ二刀流を提案した。ゼロスは、爪で攻撃したほうが早く、脇差を持てるように細工しても爪が邪魔になって攻撃時に力が入らないと説明した。
さらに、左手で刀を振り抜けば刀身がすっぽ抜ける可能性もあると指摘した。ミヤビも、自分の刀の柄がすでに傷んでいることを認め、二刀流で刀を振るうことを諦めた。
試作品の刀
ゼロスは詫びとして、試作品の刀を一振りミヤビに進呈した。ミヤビはこれ以上厚意に甘えるのは我儘だとして遠慮したが、ゼロスはユーザーの声を直接聞くのも職人の仕事だと答えた。
その刀は、鉄とオリハルコンの合成金属で作られた刀身を持ち、鞘と柄には邪神ちゃんの素材が使われていた。見た目は地味だが頑丈さに特化した刀であった。後の世では有名な剣士が生涯連れ添った不壊の【神剣】として歴史に名を刻むことになるが、この時のゼロスとミヤビにとっては、あくまでも試作品と頂き物にすぎなかった。
第一話 おっさん、鬼退治をする
妖刀に憑かれた鬼
夜に活動する妖魔
妖魔は夕暮れから深夜にかけて活発化し、自らの本質に従って存在の証を立てる存在であった。生前の記憶や物質に宿った魔力によって生じたものであっても、意思というより機械的な在り方に近く、人間に認識されることで現実に縛られる歪な存在であった。
祓魔師達の廃村調査
【陰陽寮】の【退魔部祓魔殿】に属する三人の祓魔師は、鬼の目撃情報をもとに廃村へ向かっていた。三人は孤児の中から才能を見いだされ、最低限の呪術だけを学ばされた現地派遣の祓魔師であり、呪具の反応から相手がかなりの大物であることを察して警戒していた。
全裸の鬼ゲンザ
三人の前に現れたのは、鬼と化した五十代ほどの男ゲンザであった。ゲンザは全身の筋肉が肥大化していたが、それ以上に全裸であることが祓魔師達に強い嫌悪感と恐怖を与えていた。
ゲンザの右手には妖刀が握られており、柄から伸びた肉の根のようなものが腕に絡みついていた。妖刀は瘴気を流し込み、宿主の肉体を強制的に強化していた。
ミヤビの乱入
祓魔師達が危機に陥ったところへ、異形の左腕を持つミヤビが現れた。ミヤビは鬼となったゲンザを父上と呼び、父の恥ずべき姿に引導を渡すため、特別にあつらえた腕だと告げた。
ミヤビとゲンザは斬り合いを始めた。祓魔師達は、ミヤビが鬼ではないことを確認しながらも、彼女の左腕に宿る凄まじい気の力に圧倒されていた。
妖刀への対処
ミヤビの狙いは、ゲンザを斬ることではなく、ゲンザを鬼に落ちかけさせている妖刀を耐久限界まで追い込み、呪縛から解放することだった。彼女は刀で攻撃を捌かせることで、妖刀に少しずつダメージを蓄積させようとしていた。
そこへタカマルが到着し、変わり果てた父の姿に絶句した。ゲンザはタカマルにも裸道を迫ったが、タカマルは即座に否定し、ミヤビは父は元からこうだったと現実を突きつけた。
ゼロスとアドの判断
ゼロスとアドも現れ、ゲンザの剣の腕が達人の域にあるため、祓魔師達やタカマルが加勢しても状況は大きく変わらないと判断した。ゼロスは妖刀に違和感を覚え、アドは【ソード・アンド・ソーサリス】に登場した妖刀【塵残】を思い出した。
目の前の妖刀は【塵残】そのものではないが、似た技術で作られた可能性があった。アドは、本体を早く見つけて破壊する必要があると考えた。
ゲンザとゼロスの剣戟
ゲンザはゼロスとアドを強者と見なし、闘気を高めた。ゲンザが不可視の斬撃を放つと、ゼロスはショートソードで受け止め、そこから激しい剣戟が始まった。
ゼロスとゲンザの攻防は周囲の地面や木々を切り裂き、アドも飛んでくる斬撃を迎撃した。タカマルや祓魔師達はその戦いに圧倒され、ミヤビも自分の手で父に引導を渡せなかったことを悔しがっていた。
連刃天撃と妖刀の損傷
ゲンザは【連刃天撃】を繰り出し、ゼロスに反撃の隙を与えない連続攻撃を仕掛けた。ミヤビはそれが相手の逃げ場を潰して斬り続ける高難度の即殺技だと説明した。
ゼロスはその技の性質を見極め、ショートソードに魔力付与、火炎付与、凍氷付与を重ねた。そしてゲンザの刀が振り下ろされる瞬間、妖刀の欠けた部分へ正確に二撃を加え、刀身に罅を広げた。
抜刀術の勝負
ゼロスは、ゲンザとの戦いを抜刀術の打ち合いで終わらせることを提案した。ゲンザもそれに応じ、二人は互いに刀を納めて構えを取った。
落ち葉が二人の間に落ちた瞬間、勝負は決した。ゼロスの一撃が妖刀を折り、折れた刀身はミヤビへ飛んだが、アドが即座に叩き落とした。
ゲンザの救出
妖刀が破壊されたことで、ゲンザは呪縛から解放された。鬼化して肥大化していた肉体も元に戻り、瘴気が抜けた反動で急激な疲労に襲われて気を失った。
タカマルは父へ駆け寄り、ミヤビは生存を確認しながらも辛辣な言葉をこぼした。祓魔師達は最後まで置き去りにされたままであり、その後は全裸のゲンザをどう道場へ運ぶかが問題となった。
大八車での帰還
ゲンザをそのまま運ぶわけにはいかず、一行は深夜のうちに大八車へ乗せ、筵で隠して道場へ運ぶことにした。こうして家族はゲンザを取り戻したが、妖刀本体という新たな問題が残ることになった。
第二話 おっさん、祓魔師と情報共有する
妖刀本体の危険性/祓魔殿への報告とゲンザの目覚め
妖刀本体の変質
妖刀は、刀という道具の存在概念に縛られた呪具であった。ゲンザを乗っ取ろうとした分身体は、斬るという本質に従って使い手を求め、新たな怨念を糧にしようとしていた。
一方で妖刀本体は、分身体をばら撒く過程で刀としての概念を切り離し、怨念そのものの妖魔へ変質している可能性が高かった。刀の概念を失えば、怨念を留める鎖も失われ、荒魂として災いをもたらす存在になると考えられていた。
龍穴と百鬼夜行の危険
アケノは、妖刀本体の変質がどれほど危険なのかをゼロスに尋ねた。ゼロスは、妖刀が刀の存在概念を失っているなら、気の濃度が高い龍穴へ誘引される可能性があると説明した。
妖刀本体が龍穴に辿り着けば、怨念が膨大な魔力を取り込み、醜悪な魑魅魍魎を大量発生させる危険があった。それは人里を襲い、周囲を瘴気で汚染しながら拡散する百鬼夜行であり、祓魔師三人で対処できる規模ではなかった。
ゲンザの記憶への期待
ゼロスは、妖刀本体の手掛かりを得るため、妖刀に操られていたゲンザの目覚めを待っていた。分身体は本体と深い部分で繋がっているため、ゲンザの記憶に本体の所在が残っている可能性があった。
ただし、ゲンザが目覚めない場合は別の手段を探す必要があった。ゼロスは最悪の場合、多少の犠牲を容認してでも妖刀を消滅させるつもりでいた。
アルフィア復活の影響
ゼロスは本来、ゲンザを救出するだけで十分であり、妖刀問題へ深く関わる必要はなかった。しかし、妖刀が龍脈の魔力を掌握しているなら、アルフィア・メーガスの復活による龍脈や龍穴の活性化が関係している可能性があった。
東大陸は本来魔力濃度が薄く、妖刀本体も休眠状態だった可能性が高かった。だが自然魔力濃度が急激に高まったことで、妖刀が活動を始めたと考えられたため、ゼロスは自分が関わった復活の余波として見過ごせなくなっていた。
アケノの報告
アケノは、妖刀本体の危険性や龍穴の問題を陰陽寮へ報告するため、報告書をまとめた。ゼロスは、彼女が呪符を貼って式神で報告書を送る仕組みを見抜いたが、アケノは裏事情を勘繰らないでほしいと頼んだ。
ほかの二人は街で情報収集をしていたが、妖刀や悪霊のような非生命体は特定条件がなければ出現しないため、捜索は難航していた。
祓魔師の人手不足と待遇
アケノはゼロスを陰陽寮へ勧誘したが、ゼロスは別大陸の人間であり、家に待つ者もいるとして断った。ゼロスは自分が陰陽師や呪術師とは系統が異なり、被害者ごと消し飛ばす程度しかできないとも語った。
祓魔師は孤児を引き取り、過酷な修行で呪術師としての下地を作らせる仕組みで育てられていた。しかし教えられる術は限られており、家系独自の呪術は秘匿されていた。出世には大きな手柄が必要で、多くは安月給のまま辞めることもできず、使い捨てに近い扱いを受けていた。
呪家の閉鎖性と婚姻問題
アケノは、呪家へ嫁いでも術を教えられず、女中扱いされることもあると語った。才能だけがあって使える術の少ない元祓魔師は侮蔑の対象となり、祓魔師達は呪家に嫁いだり婿入りしたりすることを避けていた。
ゼロスは、同族婚や近い血筋で婚姻を繰り返せば一族は劣化して滅びると説明した。アケノは他大陸の医学知識に驚き、陰陽寮の上層部へ報告すべきだと考えた。
式神への追加報告
アケノは、腹立たしい者達であっても国に必要な存在であり、陰陽寮の上層部が混乱すれば自分達にも影響すると考えていた。そのため、ゼロスから聞いた血筋と婚姻の知識も報告に加えることにした。
ゼロスはこの国の内情に深く関わるつもりはなく、自分の語った情報をどう扱うかはアケノの自由だと考えていた。その横で、アケノは再び報告書を書き、式神を飛ばしていた。
祓魔殿への情報集約
【陰陽寮】の【祓魔殿】には、各地の祓魔師から情報が送られていた。届いた情報は精査され、重要事項として上層部へ報告されていたが、報告者の主観に左右される欠点もあった。
今回、祓魔殿が重要視していたのは妖刀による辻斬り騒動であった。各地で分身体の妖刀は倒されていたが、少なくない犠牲者が出ており、上層部は頭を痛めていた。
祓魔師への侮蔑と呪家の問題
古い呪術師の一族は、末端の祓魔師達を出来損ないの欠陥呪術者と見下していた。祓魔師に成果を求めながらも、自分達の術を教えず、基礎的な呪術だけを叩き込んで現場へ送り出していた。
同時に、呪術師達の間では一族の当主や子供達の体調不良が問題になっていた。呪力や霊力の高い跡継ぎを得るために同族婚や近親婚を繰り返していたが、その習慣が後継者問題を悪化させているとは気付いていなかった。
異国の呪術者と近親婚への動揺
ギズモの街から、鬼が異国の呪術者によって討たれたという報告が入った。呪術師達は異国の呪術者に興味を示し、呪力が高ければ分家筋の娘や子息をあてがうことまで考えた。
しかし報告書には、一族同士の近親婚が悪手であり、血が濃くなりすぎることで肉体の弱体化が起きるという医学的な情報も含まれていた。呪寮長達は、体の弱い者や死産、異形化した忌児の存在に心当たりがあり、血統第一主義が自分達を苦しめていた可能性に狼狽した。
古い因習との対立
一部の年寄り達は、他大陸の医学を信用せず、外部の血を入れることにも強く反発した。一方で、アシヤの家では分家筋や祓魔師あがりの妻達から健康な子供が生まれており、報告内容が正しいことを示す材料となっていた。
その結果、陰陽寮では新しい血を受け入れる一族と、古い因習を守る一族との間に対立が生じた。陰陽寮は半世紀ほどいがみ合うことになったが、その原因を作ったゼロスは何も知らずに生きていくことになった。
道場での稽古
ゲンザを保護してから七日後、道場ではアド、タカマル、通常の義手を付けたミヤビが剣の稽古をしていた。ミヤビはタカマルより動きが速く剣速も鋭かったが、実戦経験が不足しているため動きが単調で読みやすかった。
アドは剣の技量ではゼロスより高く、この世界に来てからも戦いの中に身を置いていたため、対人戦闘を熟知していた。相手をしながら助言できる剣の師としても、ゼロスより適性があった。
ミヤビとタカマルへの助言
ミヤビはアドの速さや隙のなさに圧倒され、自分が弱かったのかと落ち込んだ。アドは、その歳では強い方だが、圧倒的に経験が足りず、体が最適な動きを自然に選べるようになる必要があると助言した。
ミヤビもタカマルも剣筋が素直すぎたため、アドは虚を衝く技術を覚える必要があると指摘した。二人に足りないのは虚実を織り交ぜる技術であり、最初は意識して覚え、いずれ自然に体が動くよう叩き込む必要があった。
ゲンザの教え方
ミヤビは、父ゲンザのように全身の肌で剣の気配を感じ取るべきなのかと考えたが、アドとタカマルは即座に止めた。父のように全裸で歩き回る者が身内に二人も出ることは、タカマルには受け入れがたいことだった。
アドは、ゲンザが感覚的な言葉で教えていたのではないかと推測した。ミヤビとタカマルの反応からその推測は当たっており、ゲンザは剣の天才であっても、人に教えることには向かない人物だと分かった。
ゲンザの目覚め
稽古の途中、意識不明だったはずのゲンザが道場の隅に立っていた。ゲンザは病み上がりにもかかわらず稽古を見て疼くと語り、ミヤビとタカマルは父の目覚めに驚いた。
アドですら気配を掴めなかったことから、ゲンザは剣気を抑える術に長けているようだった。しかし問題はそこではなく、目覚めたばかりのゲンザは堂々と全裸で立っていた。アド、ミヤビ、タカマルは、せめて何か羽織ってほしいと訴えることになった。
第三話 おっさん、妖刀本体の所在地を知る
妖刀本体の所在と鵬天山への追跡
朝食とゲンザの回復
目覚めたゲンザは褌だけを締め、猛烈な勢いで朝食を取っていた。ゼロス、アド、ミヤビ、タカマル、祓魔師の三人は、何か言いたそうな顔でその様子を見ながら食事をしていた。
ゲンザは久しぶりのまともな食事に涙を流し、モッチリヤカングチは不味かったと振り返りながら飯を掻き込んでいた。ゼロスの料理を褒め、ミヤビにも料理を教えてほしいと頼んだ。
ミヤビの料理と食文化
ゼロスは、ミヤビにやる気があるなら料理を教えると答えたが、内心では気が進んでいなかった。道場で食べたミヤビの料理は、見た目は日本食に近くても味付けが独特で、スパイスや甘味、カレー風の汁物などが混じる危険な料理だったからである。
一方でミヤビはゼロスの料理を美味しそうに食べていたため、味音痴ではないようだった。ゼロスとアドは、東大陸の暑い気候や保存の事情によって、塩気や香辛料の強い食文化が生まれたのだろうと受け止めていた。
タカマルとミヤビの資質
ゲンザは、剣の才能ではミヤビがタカマルより上だと語った。ゼロスは本人の前で言うには無神経だと指摘したが、ゲンザは殺しの技を鍛える者が甘い情で揺れるようでは一流になれないと考えていた。
タカマルは妖刀に支配されたゲンザを助けようとして思い詰めていたが、ミヤビには父を斬り捨てる覚悟があった。ゲンザは、タカマルが一流を目指しているからこそ、その優しさが問題になると見ていた。
剣士としての覚悟
ゲンザは、タカマルが優しすぎるため、剣一本で生きるには向いていないと考えていた。必要な時に感情を殺して敵を斬れなければ、いずれ自滅すると見ていたのである。
ゼロスもその見方には同意していた。タカマルは人として好ましい性質を持っていたが、剣の高みを目指すには余計な感情を抱え込みすぎていた。
ミヤビの殺意と稽古相手
ゼロスは、アドとの稽古を見る限り、ミヤビは確実に殺しに行っていたと語った。アドは殺気を感じていたものの、本当に殺すつもりだったことに驚いた。
ミヤビは、アドほどの腕前なら自分の殺意などそよ風程度だと考えていた。アドは弟子を取った覚えはないと反発したが、滞在中の稽古相手としてミヤビに付き合うことになっていた。
紅蓮新刀流とミヤビの課題
ゲンザは、アドが技を教えるのが上手いと感心した。タカマルの姿勢は以前より安定し、ミヤビも新しい技を試しているように見えたからである。
アドは、ミヤビには相手を翻弄する技術が必要だと説明した。【紅蓮新刀流】は相手の武器ごと叩き斬る技を重視していたが、小柄なミヤビには扱いづらかった。ミヤビは、自分に合った流派を作ればよいと受け止めていた。
武装義手と新しい戦い方
ゲンザは、ミヤビの左腕を失わせる原因を作ったことを謝った。一方で、腕をなくしてからミヤビの動きの無駄が消え、強くなっていることにも驚いていた。
ゼロスの作った外部装甲には鋭い爪があり、相手を掴むだけでも切り裂ける力があった。ミヤビが武装義手を活かすには速度を重視した戦い方へ変える必要があり、これまでの剣術を組み込めば奇抜な戦闘スタイルになると考えられていた。
妖刀本体の手掛かり
食事を終えると、ゼロスは本題に入った。ゲンザには妖刀に乗っ取られていた時の記憶が残っているようだったため、ゼロスは妖刀本体の場所を思い出すよう求めた。
ゲンザは、妖刀本体がどこかの山奥に隠れ、地面に刀身を突き刺して龍脈の霊気を吸収していたと語った。ゼロス達は、妖刀が別の存在へ変質しようとしている動きだと理解し、息を呑んだ。
廃村と七つ鳥居
アケノは険しい表情でゲンザに詰め寄り、妖刀本体の場所を問いただした。ゲンザは、田園風景、六連地蔵、廃墟と化した社、洞窟、山奥の廃村などを見たと語ったが、それだけでは場所の特定には足りなかった。
さらにゲンザは、廃村を抜けた先に古びた七つ鳥居があったことを思い出した。ゼロスは、そこがどこかの呪術師の一派が移り住んだ場所ではないかと見たが、まだ決定的な手掛かりにはならなかった。
鵬天山という手掛かり
ゲンザは、近くに大きな山があり、山頂にうっすら雪が積もっていたことを思い出した。それが鵬天山だと語ったため、ゼロス達はそれを先に言うべきだったと一斉に叫んだ。
鵬天山はフオウ国内で最も有名な霊山であり、かつて多くの修行者が訪れた休火山であった。ゼロスとアドにとっても、【ソード・アンド・ソーサリス】で須弥山と呼ばれた修行場に当たる場所であり、妖刀本体の所在を絞る大きな手掛かりとなった。
龍穴を掌握した妖刀
鵬天山周辺で村を作れる場所は限られていた。アドは、妖刀本体がそこにあるなら龍穴を掌握していることになると指摘した。
ゼロスは、時間が経つほど危険になるため、速攻で終わらせる必要があると判断した。百鬼夜行が起きれば周辺に甚大な被害が出るだけでなく、最悪の場合は国が滅びる可能性もあったため、必要なら周辺ごと消し飛ばすことも視野に入れていた。
祓魔師達の報告
祓魔師達は、妖刀本体が鵬天山にあることを上層部へ報告する必要があると判断した。鵬天山周辺の住民にも避難勧告を出すべきだったが、周辺領主は陰陽寮を嫌っているため、実際に避難が行われるかには不安が残っていた。
三人はその場で報告書を書き、式神に乗せて関係部署へ送った。しかし、陰陽寮が本格的に動くには時間がかかるため、ゼロス達は先に動く必要があった。
鵬天山への出発準備
鵬天山までは急いでも十日以上かかるため、ゼロスは翌日に出発することを決めた。戦力は多いに越したことはなかったが、万が一も考える必要があった。
ゲンザは面白い合戦だとして同行を申し出た。ミヤビも武装義手を本当の戦場で試す機会として乗り気であった。ゼロスは止めたいと思ったが、二人が強引についてくることは明らかだったため、諦めて大所帯で鵬天山へ向かうことになった。
陰陽寮に届いた報せ
ゼロス達が妖刀本体破壊の準備を一日で済ませて街を出た頃、陰陽寮にも妖刀本体の所在地を知らせる報せが届いた。それは、多くの祓魔師や仙術師、陰陽術師達が血眼で探していた特級呪物に関する情報であった。
報せを受けたアシヤは報告書を握りしめ、即座に出立の伝令を飛ばした。以前から準備を進めていたため動きは速かったが、兵站や呪具、呪符を集めても、人手不足によって出撃までに時間を取られることは避けられなかった。
アシヤとサエキの危機感
アシヤは、妖刀の支配を逆に取り込んだゲンザの存在に驚いていた。サエキも、よほど強い精神力を持つ武人なのだろうと見ていた。
フオウ国では、戦乱の時代を生きた手練れの剣士達の多くがすでに亡くなっていた。技を受け継ぐ者はいても本格的な戦争を経験した者は少なく、侍達も街を守る戦力がなくなるとして率先して出撃しようとはしていなかった。アシヤは、国難に自ら飛び込まない侍達に苛立っていた。
呪家の慌ただしさ
陰陽寮では、呪家の者達が仕事を放り出して嫁探しや婿養子候補の選定に動いていた。異国の術者からもたらされた近親婚の危険性に思い当たることがあったため、祓魔師達の中から呪力や霊力の高い者を養子に迎えたり、待遇を改善したりしようとしていた。
アシヤやサエキのような新興家系は、古い家系ほど閉鎖的ではなかったため、体の弱い子供が生まれることはなかった。古い家系は秘密主義と孤立主義によって問題を抱えており、アベノ家やカモヤ家のように次期当主候補が弱っている家ほど慌てていた。
東大陸の医術と呪術
アシヤとサエキは、外国の医術が進んでいることを認めざるを得なかった。東大陸と南大陸は邪神戦争以降に文明の崩壊が大きく進み、魔法や医術に関する知識も北大陸ほど残らなかった。
東大陸では原始的な民間療法が広く行われ、医術は遅れていた。一方で、そうした文化の中だからこそ呪術は高度に発展していた。だが自然界魔力が戻り始めたことで妖刀の力も急激に活性化し、封印を上回る力を得てしまっていた。
討滅への覚悟
アシヤとサエキは、妖刀本体を完全に破壊しなければならないと結論づけた。たとえ犠牲者が出たとしても、百鬼夜行を防ぎ、国が滅ぶ前に食い止めることが大前提だった。
龍脈から自然界魔力を吸収し続ける妖刀が、どのように変質し、どれほどの力を蓄えているのかは分からなかった。大妖怪ほどの怪異に成長していれば現地は地獄となるため、二人は自分達が死ぬ可能性も考慮し、遺書や遺言状まで残していた。
討滅隊の進軍
早朝、アシヤとサエキを筆頭とした呪術師を含む武装集団が、鵬天山へ向けて街道を進んでいた。妖刀が姿を消してから日数が経過していたため、すでに妖魔へ変異している可能性を考慮し、動かせる部隊を総動員していた。
鵬天山には龍穴が存在するとされ、その魔力が妖刀に宿る怨念を強める危険があった。討滅隊は、百鬼夜行が形成された場合に備え、魑魅魍魎を命がけで滅ぼす使命を帯びていた。
平原の陣地構築
数日の強行軍を経た討滅隊は、険しい山道へ入る前に平原で陣を敷くことにした。兵達には疲れが見えており、このまま鵬天山で戦えばまともに動けないと判断されたためである。
呪術師達は槍のような呪具を測量しながら地面に埋め、兵士達も作業を手伝った。防衛資材は不足していたが、戸板などで間に合わせの防壁を築き、交代制で警戒に当たることになった。
戦前の酒と百鬼夜行の兆候
陣地が完成すると、兵達には酒が振る舞われた。それは士気を高めるためであり、最後の晩餐になるかもしれない兵達への労いでもあった。
夜になり、アシヤとサエキは斥候の報告を確認した。鵬天山麓の盆地にある洞窟から魑魅魍魎が湧き出し、廃社の結界も瘴気で限界に近づいていた。妖刀はすでに魑魅魍魎を生み出しており、事態は最悪の段階に入っていた。
楔による迎撃作戦
サエキは、魑魅魍魎を罠に誘い込み、結界で固定して大規模呪法で焼き払う案を出した。平原は罠を仕掛けるには十分な広さがあり、今から準備すれば間に合う可能性があった。
アシヤは【楔】の設置を命じ、呪術師達と侍達は慌ただしく動き出した。魑魅魍魎は生物に反応する性質があるため、その性質を逆手に取り、平原へ誘導して数を減らす作戦が進められた。
軽ワゴンでの移動
一方、ゼロス達は軽ワゴンで鵬天山へ向かっていた。アドが運転していたが、ゼロスは方向音痴を心配して何度も運転を代わろうとしていた。
車内ではタカマルと祓魔師達が車酔いで苦しんでいたが、屋根の上に乗るミヤビとゲンザは平然としていた。ゲンザは酒まで飲んでおり、ゼロスとアドはこの世界に交通法がないことへ不安を覚えていた。
グワバの首塚
アケノは、鵬天山へ向かう道筋として、ハヌマの古戦場跡地にある【グワバの首塚】を過ぎて右折すると説明した。グワバは百年ほど前に謀反を起こし、戦場で斬首された武将であった。
首塚には強い怨念が漂っており、巨大な岩柱とストーンサークルによって厳重に封印されていた。グワバは帝の前で酒に酔って暴れ、無礼を働いた人物だったため、ゼロスとアドは処罰も仕方ないと呆れていた。
首塚の妖魔
首塚の近くに近づいたゼロス達は、ただならない魔力の塊が集まっていることに気付いた。ストーンサークル中央の岩柱の下からは膨大な瘴気が溢れ、妖刀の分身体と思われる刀が突き刺さっていた。
妖刀は首塚に封じられた怨念を引き出し、巨大な武将の生首を実体化させようとしていた。現れた生首には人間の体がなく、昆虫のような八本の脚が生えており、爪は刀のように鋭かった。
ゲンザとミヤビの突撃
ゲンザは面白いと笑い、真っ先に巨大生首へ飛び出した。刀に魔力を纏わせていたため、ゼロスはゲンザがこの手の魔物と戦った経験を持っていると見ていた。
ミヤビも父に続いて突撃したが、武装義手に魔力を流しておらず、そこには経験の差が表れていた。二人は巨大生首の脚を相手に激しい攻防を繰り広げた。
巨大生首との攻防
巨大生首は八本の脚を使い、横薙ぎや突き、錐揉み回転による落下攻撃を仕掛けてきた。ゲンザは避けながら懐へ入ろうとし、ミヤビは武装義手の装甲で攻撃を受け止めた。
ゲンザとミヤビは、巨大生首の本体よりも脚の関節部が脆いと見抜いた。二人は左右の脚を迎え撃ちながら、関節を狙って斬り落とそうとしていた。
修羅の父娘
ゼロスは、二人が巨大生首の攻撃が単調になる瞬間を狙い、八本の脚を斬り落とそうとしていると見抜いた。実体化した巨大生首には質量があるため、脚を失えば自重を支えきれなくなると考えられた。
傍目には死闘に見えたが、ゲンザとミヤビは強敵との戦いを喜んでいた。ゼロス達は不謹慎ながらも、二人の間に濃い血の繋がりを感じていた。
第五話 ミヤビ、必殺の一撃を試す
封魔浄化結界と百鬼夜行
修羅父娘と巨大生首
ゲンザとミヤビは巨大生首へ突っ込み、八本脚の関節部を狙って攻撃した。巨大生首は脚の数こそ多かったが、思考は一つしかなく、同時に扱える脚には限界があったため、二人を相手にすると隙が生じていた。
ゲンザは力任せに脚を斬り飛ばし、ミヤビは武装義手の爪を関節へ捻じ込んで破壊していった。巨大生首は再生能力も高くなく、ゼロスは自分やアドなら一撃で倒せる程度だと見ていたが、ゲンザとミヤビの肩慣らしのために任せていた。
武装義手の切り札
脚を半分失った巨大生首は、高速回転して巨大な回転鋸のような無差別攻撃を始めた。近づけなくなったミヤビに、ゼロスは手甲へ仕込まれた切り札を使うよう促した。
ミヤビは左腕の手のひらに魔力を集中させ、高速回転して飛来した巨大生首へ圧縮された熱量と振動波を放った。直撃を受けた脚は溶け、生首は内側から燃え上がって転がった。ゼロスはその仕組みを、純魔力が熱量を生み、振動波で内部から破壊する対魔力生物用の兵器だと説明した。
剣士と殲滅兵器
タカマルは、ミヤビが剣士でありながらあまりに破壊的な兵器を受け入れていることに戸惑った。ゼロスは、戦いは血生臭いものであり、剣士の誇りとは抜かずの剣として生涯を終えることだと語った。
ゲンザは、ミヤビがその武器を自分へ使うつもりだったのかと問い詰めた。ミヤビは、正気に戻らなければ家の恥を始末できたのに残念だと答え、ゲンザの全裸癖が家族に大きな負担を与えていたことを責めた。ゼロス達は、ゲンザの妻や家族が相当苦労したのだろうと察した。
鵬天山への再出発
ミヤビは切り札の再使用について確認し、ゼロスは魔石を交換すれば問題ないと答えた。ミヤビは戦場のどさくさで父を始末できるとほのめかし、ゲンザは慌てたが、ゼロス達はゲンザの自業自得だと受け止めた。
一行は鵬天山近くまで進み、山道に入る前に野営することを決めた。
斥候部隊の出立
討滅隊は平原で夜を明かし、翌朝、健脚の者達を斥候として鵬天山へ向かわせた。任務は妖魔の数と状況の調査であったが、実際には罠を仕掛けた本陣へ魑魅魍魎を引き込む囮でもあった。
斥候達には各自の判断で撤退することが厳命された。百鬼夜行相手の戦いでは人間同士の戦術が通用せず、殺すか殺されるかの滅ぼし合いになるためであった。
日中の魑魅魍魎
斥候達は、陽が出ているにもかかわらず活動する魑魅魍魎を目撃した。百鬼夜行は逢魔ヶ刻から翌朝にかけて起きるものとされていたため、日中も弱らず動く化け物達の姿に言葉を失った。
魑魅魍魎は形がばらばらで、無機物と有機物が混じったような異様な存在ばかりだった。斥候達は敵の異様さに戸惑いながらも、見つかる前に打って出るしかないと判断した。
斥候達の交戦
侍達は気を込めた矢で妖魔を貫き、それを合図に怪異の群れへ斬り込んだ。怨念から生まれた怪異は通常の攻撃では倒せなかったが、武器に気を込めれば斬ることができた。
魑魅魍魎の中には、母を呼ぶ子供や空腹を訴える者、殺意を繰り返す者もいた。侍達は哀れに思いながらも、亡霊を冥府へ送ることこそ慈悲だとして、情に流されず斬り伏せていった。
飛行型妖魔と火車
遠方で爆発音が響き、別の斥候隊が呪符を使うほどの大物と接敵したことが分かった。侍達が処理速度を上げた直後、一人の侍の首が大皿の化け物に落とされた。
飛行型の妖魔は鳥型、昆虫型、車輪型、大皿型など多様で、その中には火車もいた。火車は牛車の車輪に人間の首が張り付いたような姿で、炎を吐きながら突撃し、自爆した。怨念で動く魔力生物であるため、自己保存の意識が低かった。
斥候隊の撤退
侍達は囮として十分に妖魔を引きつけ、距離を保ちながら本陣へ誘導する段階に入った。敵の数は想像以上だったが、彼らは役割を果たしていた。
別ルートの斥候隊には撤退できず全滅した者達もいたが、この隊は負傷者と死者を一名出しながらも本陣へ戻ることができた。
本陣の緊張
斥候部隊を送り出してから七時間が経ち、アシヤとサエキは本陣で報告を待っていた。二人は鵬天山の方角から濃い瘴気が近づいてくるのを感じていた。
廃村の結界は持たず、瘴気は生者のいる場所を特定するように動いていた。式神の視点では中央ルートの斥候隊が交戦しており、他の隊も撤退に入っていた。中型妖魔も見え始め、小型は数え切れないほど多かった。
式神と東方呪術
サエキは式神との感覚共有を切った。東方呪術における式神との感覚共有は、術者に大きな負担を与えるためであった。
東方呪術は呪詛を直接扱うため精神的負荷が大きく、術者本人の精神力に依存していた。術式による効率化を知らない体系であったため、肉体と精神を激しく消耗させるものだった。
封魔浄化結界への焦り
アシヤとサエキは、【楔】の設置が間に合うかを気にしていた。封魔浄化結界は切り札であり、間に合わなければ敗退し、無辜の民が死ぬことになるからであった。
二人は国の命運を背負う重責と、戦力不足に苦しんでいた。逃げたいと漏らすアシヤに、サエキは逃げれば一族郎党が根切りにされると返し、二人は結局戦うしかなかった。
楔と結界の役割
【楔】は、陣地を含む一定範囲を封魔浄化結界で覆うための呪具だった。地面に円形に埋めることで大地から魔力を吸収し、半永久的な清浄結界を展開するものだった。
結界内では魑魅魍魎の力が中心へ進むほど弱まり、弱い妖は一瞬で霧散し、強い妖も実体化を維持できなくなる。一方で、埋設と回収に手間がかかり、破損すれば再製作に多大な時間を要する欠点があった。
人手不足と報われない立場
アシヤは、日中でも妖魔が動いている理由を、自然界の気の濃度が増えたためではないかと疑った。もしそうなら、従来の退魔戦術が通用しなくなる恐れがあった。
サエキは呪術師の慢性的な人手不足を嘆いた。祓魔師を一人前の呪術師に仕上げる案も出たが、待遇改善は戦いが終わった後の話であった。二人は命を懸けても、わずかな褒賞と有難くもない言葉しか得られない立場に置かれていた。
封魔浄化結界の展開
ようやく陣地周辺への【楔】の配置完了が報告された。アシヤとサエキは、封魔浄化結界を張るため、待機していた術師達を集めた。
術師達は【楔】と対になる錫杖型の呪具を手に陣地中央へ集まり、霊気同調態勢に入った。呪言とともに複数の術者の霊力が増幅され、錫杖型の術具を媒介として【楔】へ送られ、大規模呪術が発動された。
禁忌に近い大呪術
封魔浄化結界は、【楔】に封入された呪言を発動させ、広範囲の呪術陣を形成する大呪術であった。自然界魔力と生体魔力を共振同調させ、人為的に清浄な龍穴を作る秘術でもあった。
結界内では不浄な存在が浄化分解され、その霊力を術者の力として利用できた。ただし、龍脈の流れを乱して自然災害を招きやすく、不浄な存在を誘引し、長期的に霊地化する欠点があったため、緊急時以外の使用は禁忌とされていた。
第一波との開戦
封魔浄化結界は無事に張られたが、後始末には問題が残った。アシヤは、終わった後のことはその時に考えればよく、まずは生き残ることが最優先だとした。
討滅隊の者達は、これから死線に立つことを理解していた。武士達の中には、家族のもとへ無事に帰ることを願う者もいた。その一時間後、斥候に出ていた侍達が戻ってくると同時に、第一波との交戦が始まり、地獄のような戦いの幕が開いた。
第六話 おっさん一行、祓魔師達と別れる
鵬天山の妖魔と第一波の戦い
山道の小型妖魔
ゼロス達は早朝から鵬天山へ向かう山道を進み、足元にまとわりつく小型妖魔に不快感を覚えていた。本来、妖魔は早朝に活動しにくいはずだったが、小さな妖魔は弱体化せず動き回っていたため、現地の瘴気濃度が相当に高いことが示されていた。
小型妖魔は弱いものの、勝てない相手にも執拗に攻撃し、消える際には罪悪感を誘う言葉を残していた。ゼロスは、その罪悪感から生じる魔力を同類の糧にすることも、小型妖魔の役割だと見ていた。
祓魔師達の離脱
アケノ達三人は、自分達がゼロス達についていく意味を疑問視していた。ゼロスも、この先の事態は彼らの手に余ると判断し、危機的状況から逃げるための強力な【退魔の札】を渡した。
ゼロスは、フオウ国の術師達が北西側の平原に陣を張っていると伝え、祓魔師達にはそこへ合流するよう勧めた。三人は礼を述べ、来た道を戻っていった。
妖刀問題への関与
祓魔師達を見送った後、アドは自分達がなぜ妖刀の問題に関わっているのか疑問を口にした。ゼロスは、大勢の命を救える力がありながら見過ごすのは人として誇れる生き方ではないと答えた。
ゼロスは、今回の事態がアルフィア・メーガス復活の余波かもしれないと考えていた。そのため、無意識のうちに責任感と義務感に突き動かされていた。
魔石が残る異常現象
タカマルは、踏みつけた妖魔が煙とともに魔石と素材を残したことをゼロス達に示した。通常、自然界で倒された魔力生物は魔力へ還元され、魔石や特殊部位が残ることは少なかった。
残された魔石には瘴気の汚染が見られず、ゼロスは通常の理屈では説明しにくい現象だと考えた。さまざまな仮説を考えたが矛盾が残り、最終的にはイレギュラーな現象が起きていると受け止めた。
龍穴から逃げる妖魔
ミヤビは、妖刀が龍穴の気を蓄えて力を得ているはずなのに、妖魔達が龍穴から逃げている理由を疑問に思った。ゼロスは、妖刀が龍脈から噴き出す気をすべて瘴気に変えられるわけではなく、清浄な気が漏れ出すため、弱い妖魔は浄化を恐れて逃げているのだと説明した。
さらに、呪術の結界は網のような構造であるため、小さく弱い妖魔は目をすり抜けて外へ出てきていた。逆に言えば、この先には結界に足止めされるほど強い妖魔がいることを意味していた。
廃村へ向かう一行
タカマルは、この先へ向かって自分が生きて帰れるのか不安を口にした。アドはゼロスと自分がいるため死ぬことはないだろうと答えたが、ゼロスとアドは、いざとなれば廃村ごと消滅させると平然と語った。
ゼロス達は、妖魔の群れが北西方面へ移動していることも把握していた。ゼロスは、フオウ国の術師達に任せられる相手は任せつつ、廃村で足止めされている強い妖魔は自分達で間引くべきだと判断した。
討滅隊の第一波
封魔浄化結界を展開した討滅隊の陣地には、小型から中型犬ほどの大きさの妖魔達が迫っていた。アシヤとサエキは、第一陣は雑魚ばかりであり、結界によって弱体化するか消滅すると見ていた。
問題は第二陣以降であり、第一波はまだ序の口にすぎなかった。二人は、今は侍達で対応できると判断し、自分達が動く必要はないと見ていた。
鵬天山麓の古い結界
鵬天山麓の廃村には、かつて呪家の一派が住んでいた。そこには鵬天山近辺を覆う第一結界、廃村周囲の第二結界、社を起点とする第三結界が張られていた。
その呪家はすでに滅び、結界と呪術の記録だけが残っていた。アシヤとサエキは、その一派の結界技術を惜しみながらも、古い呪家が国の危機より自家の問題を優先していることに呆れていた。
封魔浄化結界の効果
百鬼夜行の第一波が封魔浄化結界の範囲に入ると、弱い妖魔は第一層に踏み込んだ時点で消滅した。結界は七層構造であり、中心に近づくほど妖魔を弱体化させるものだった。
侍達は結界の効果を確認し、槍を構えて突撃した。封魔浄化結界で弱った妖魔達は、次々と討ち取られていった。
結界への不安と呪家への不満
アシヤとサエキは、第一波で優勢を保ちながらも、封魔浄化結界が中位以上の妖魔にどこまで通用するか分からないと考えていた。自然界の気の濃度が高まっている現在、過去の秘術がそのまま通用する保証はなかった。
二人は、呪具や秘術を時代に合わせて改良する必要を感じていた。しかし上層の呪家は権力に固執し、予算も出し渋るだろうと見ており、現場の苦労を知らない姿勢に不満を抱いていた。
第一波後の休息
第一波の戦いは討滅隊が優勢を保ち、決着が近づいていた。アシヤは、これからが本番であるため、前線で戦った兵達を一度下がらせる必要があると判断した。
サエキは伝令に命じ、前線の兵達を休ませ、参戦しなかった者達と見張りを交代させた。討滅隊は、次に来る本格的な戦いに備えて力を温存することにした。
第七話 アド、師匠ぶる
鵬天山麓の廃村
夜の山中の魑魅魍魎
夜の山中では、本来なら夜行性の獣が活動するはずだった。しかし、現在そこを闊歩していたのは魑魅魍魎であり、ゼロス達は雑魚を無視して進んでいたものの、敵の数が増えたため戦闘を避けて進むことが難しくなっていた。
妖魔一体ごとの強さも上がっており、歪な獣や昆虫だけでなく、有機物と無機物が融合した化け物や、家具が手足を生やして動くものまで現れていた。それらは死者の残留思念や怨念が龍脈の魔力にあてられて実体化した存在であり、生物の屍に受肉した個体もいた。
ゲンザとミヤビの乱戦
ゲンザとミヤビは、現れる妖魔達を嬉々として処理していた。ゼロスとアドは、もうこの二人だけでよいのではないかと呆れ、タカマルは父と姉の暴れぶりに穴があれば入りたい気分になっていた。
ゲンザは箪笥の妖怪をあっさり両断し、ミヤビは鋭い爪を持つ左腕で化け物を叩き潰していた。彼女は爪で妖魔を引き裂き、突きで貫き、魔力を込めた指先から斬撃を放って中距離の雑魚を切り裂いていた。
ミヤビの急成長
ミヤビは実戦が初めてのはずだったが、戦うごとに技が冴え、乱戦の最中でも自分の動きを最適化しているようであった。その戦い方はゲンザに近づいていたが、豪剣のゲンザに対し、ミヤビの動きには舞のような優美さがあった。
ゼロスは、ミヤビの成長速度に違和感を覚えた。ゲンザの強さは長年の鍛錬の結果として理解できたが、ミヤビの急激な強化は異常であったため、魑魅魍魎を倒すことで得られる経験値により、ゲンザとミヤビが戦うごとにレベルアップしているのではないかと考えた。
タカマルの変化
タカマルも人面犬を倒した後、自分の体にわずかな変化を感じていた。ゼロスは、タカマルもレベルアップした可能性があると考えた。
ゼロスは検証のため、飛蝗の妖魔を拘束魔法で縛り、タカマルに倒させた。タカマルは嫌がりながらも妖魔の腹を刀で貫いて引き裂いたが、明確な変化は見られず、ゼロスは検証がうまくいかなかったことを不思議に思っていた。
ゲンザの魔力操作
ゲンザは、カマキリが牛車を背負ったような妖怪の腕を一閃で斬り落としていた。霊体が実体化した魔物であるため、通常なら物理的に斬るだけでは倒しにくいはずだったが、ゲンザは刀の切っ先に灯したわずかな魔力だけで妖魔を惨殺していた。
ゼロスとアドは、その魔力操作に驚いた。妖魔にダメージを与えるには魔力や魔法を付与した武器が必要であるにもかかわらず、ゲンザはごく少量の魔力で対応しており、戦闘中にそれを行う繊細な制御は神業に近いものだった。
東方剣士の技量
ミヤビもゲンザの技を真似ていたが、まだ同じ精度には達していなかった。タカマルの刀にも魔力が集中していたものの安定しておらず、刀身には薄い魔力膜の揺らぎが見えていた。
それでもミヤビは、右手の刀だけでなく義手の装甲腕の爪にも同様の技法を使っていた。ゼロスは、付与魔法ではなく意思の力で魔力を一定濃度に留めて戦う東方剣士達の技術を、異常なほど高度なものだと見ていた。
妖魔掃討と格の上昇
ゲンザ、ミヤビ、タカマルは、山を埋め尽くすような妖怪達を次々と消滅させていった。最終的に三百匹ほどの小型や中型の妖怪がすべて蹴散らされ、特にゲンザはほとんどの敵を刀の一振りで倒していた。
ミヤビは敵を倒した瞬間に力が湧き上がるような感覚があったと語り、ゲンザも戦うほど調子がよくなったようだった。ゼロスとアドは、三人がレベルアップしているように見えるにもかかわらず、急激な変化による不調が出ていないことを不思議に思った。
鍛えられた器
ゼロスは、東大陸の剣士達が日々の鍛錬で、魂の階位上昇を受け止めるだけの肉体を先に作り上げていたのではないかと考えた。東大陸には経験値の低い魔物ばかりが生息していたため、これまでレベルアップには至らなかったが、武術家達は肉体の器を鍛え続けていたのである。
今回、妖魔を倒して十分な経験値を得たことで魂の階位が上がり、すでに鍛えられていた肉体がその変化に順応したと考えられた。ゲンザの体も、過剰な筋肉が減り、戦いに特化した体形へ変わり始めているように見えていた。
タカマルへの助言
タカマルは、戦闘後に体の感覚がおかしいとアドへ相談した。アドは、魂と肉体の階位が上がったためだろうと説明し、慣れないうちは無理をしないよう忠告した。
アドは、タカマルがゲンザやミヤビのように攻め中心で戦えば死ぬことになると考えた。肉体の変化に慣れるまでは返し技を中心にした待ちの姿勢で戦い、自分に合った戦い方を貫くべきだと助言した。
アドの言葉と武士達の解釈
アドは、生きていれば挽回の機会はいくらでも巡ってくるため、他人の言葉で揺らぐような誇りなど持つだけ無駄だと語った。さらに、命を懸ける価値のない君主に仕える意味はないとも断じた。
ゲンザ、ミヤビ、タカマルは、その言葉を死を美化するよりも泥にまみれて生き抜けという教えのように受け取った。アドはそこまで大げさに言ったつもりはなかったが、三人の中で彼への評価は大きく上がった。
妖魔の数への違和感
アドは、魑魅魍魎の数が予想より少ないことに気付いた。ゼロスは、平原に多くの人間が陣取っているため、妖魔達がそちらへ向かったのだろうと考えた。
ゼロスは、平原の討滅隊が囮になっている間に、大本である妖刀を倒す方が手っ取り早いと判断した。広範囲魔法で他人を巻き込むことを避けるため、フオウ国の術師達とは距離を置き、廃村へ向かうことにした。
妖刀への興味
ゼロスは、アルフィア復活に端を発する騒ぎであることに加え、妖刀そのものにも興味を抱いていた。これほどの魑魅魍魎を生み出す妖刀なら、よほどの業物に違いないと考えていたのである。
アドも、歴史ある危険な武器を一度は見てみたい気持ちを理解していた。ゼロスは妖刀を破壊する前に実物を見て、可能なら破片を回収し、製作工程を調べて自分の技を磨きたいと考えていた。
ゲンザが見たゼロスの本質
ゲンザは、ゼロスが妖刀への興味で動いている一方、その妖刀へ辿り着くためなら多少の被害も容認するのではないかと見抜いた。その多少という言葉の意味が、自分達の常識とはかけ離れているとも考えていた。
アドは、ゲンザがゼロスの本質を見抜いたことに驚いた。ゼロスの言うちょっとしたことは、他人から見れば地獄のような結果になりかねず、迂闊に頼み事や話に乗ると不幸になるのは自分達だと語った。
廃村を覆う結界
妖魔を倒しながら進んだゼロス達は、三時間後、山間部に残された廃村を一望できる場所へ出た。そこには、通常なら目に見えないはずの結界が、瘴気と正常な自然界魔力の衝突によって魔力光として浮かび上がっていた。
廃村には恐ろしい数の妖魔がひしめき合い、ほつれた結界の穴から小型妖魔が次々と流出していた。結界はすでに廃村全体を守る力を失いつつあったが、ゼロスはそれでも持ちこたえていることを優秀だと評価した。
暴食なる深淵
アドは、廃村にひしめく魑魅魍魎の数を見て、自分達だけでは手に余るのではないかと危機感を覚えた。中級妖魔もかなり外へ抜け出しており、今の世界の住人にとっては手に負えない化け物であった。
ゼロスは、やることは一つだと判断した。嫌な予感を覚えたアドが止めようとした時には、ゼロスはすでに行動を終えており、広範囲殲滅魔法【暴食なる深淵】を廃村へ向けて放っていた。
第八話 おっさん、地形を変える
百鬼夜行の均衡と妖刀本体
第二陣以降の襲撃
討滅隊は第一陣を凌いだ後、第二陣、第三陣と断続的に襲ってくる魑魅魍魎を相手に、必死に戦線を維持していた。乱戦状態となった各小隊の部隊長達は、現場判断で本陣の命令を待たずに動き、規律だった陣形での戦闘はほとんど意味を失っていた。
妖魔達には明確な戦略がなく、人間の魔力に惹かれて散発的に襲っているだけであった。しかし、人間相手の戦略が通じにくいうえ、予想外の行動も多かったため、討滅隊は流れを読み違えれば一気に瓦解しかねない状況に置かれていた。
封魔浄化結界の効果
封魔浄化結界は、結界の中心に近づくほど妖魔の肉体を構成する魔力を浄化し、強制的に弱体化させていた。小型妖魔は第一層の範囲内で浄化され、ただの魔力となって大気に拡散していた。
それでも全ての妖魔が消えるわけではなく、生き残った妖魔は侍達が駆逐していた。だが、多勢に無勢であり、長期戦になればなるほど人間側は不利に追い込まれていく状況であった。
中型妖魔への対応
中級の妖魔達は多少知能があるのか、膠着した前線を避け、迂回して別の場所から突撃していた。人間側の防衛が薄くなる箇所を本能的に読んでいるようであった。
それを結界の中心近くで待ち構えていた槍兵隊が迎え撃った。傷つけられた妖魔は傷口から魔力体を浄化され、急速に弱っていったため、他の兵達が機を逃さずとどめを刺していた。封魔浄化結界は自己修復を阻害しており、小さな傷であっても妖魔に致命的な弱体化をもたらしていた。
アシヤとサエキの危機感
戦況だけを見れば人間側が優位を保っているように見えたが、アシヤとサエキは険しい表情を崩さなかった。封魔浄化結界は霊質的な魔物に有効であったが、魑魅魍魎を浄化し続けるには相応の魔力を必要とし、結界内に妖魔が密集しすぎると瘴気の濃度が高まって効果が落ちる危険があった。
そのため外側の第一結界を強化し、侵入する妖魔の数を調整していた。しかし呪術者側への負荷は大きく、結界を維持する者達の額には汗が浮かんでいた。アシヤは、この均衡がどこまで持つのかを危ぶんでいた。
妖刀の来歴と記録の矛盾
アシヤとサエキは、妖刀がこれほど多くの魑魅魍魎を生み出すとは想定していなかった。妖刀は多くの命を食らい、死んだ直後の妄執を濃く残したまま怨念を蓄積していたため、本体を破壊しても完全に祓えるかは分からない状況であった。
妖刀は百五十年前に【アキノワダツシマ国】からの贈答品に隠されてフオウ国へ持ち込まれたと記録されていた。一方で、二百年前の旧皇都の宝物殿にも存在が確認されていた記録があり、記録が改竄されていなければ妖刀が二振り存在することになるため、サエキは考えたくない可能性だと見ていた。
古い因習と妖刀保管
妖刀は国家の一大事を招く危険物であり、本来なら破壊されるべき存在であった。しかし権力者は名刀に目がなく、たとえ妖刀であっても後世に残したかったのだろうと考えられていた。
アシヤは、記録を改竄してまで危険な妖刀を保管した結果が今回の騒動であることに苛立っていた。サエキは、アキノワダツシマ国の記録や伝承も改竄が多く、正しい情報を得るにはすべて疑わなければならないと語った。危険物でも優れた名刀なら受け継ぐべきだという古い価値観が、今回の戦争の一因になっていた。
騎馬隊の機動
戦況の中、騎馬隊が本陣の命令を待たずに動き出した。サエキは、前線を一時的に下げ、中型妖魔を集中的に弱らせるか倒すための援護だと見ていた。
騎馬隊は迂回してくる妖怪の群れへ横から突撃し、長槍で刺し貫く一撃離脱を繰り返した。そこへ侍達が追撃し、妖魔に立て直す暇を与えずに倒していった。防衛戦術から攻めの戦術へ移っていたが、長期戦には向かない動きであった。
戦場の高揚と暴走
侍達の中には、戦うほど強くなっている気がすると興奮する者も現れていた。肉体の修練によってレベルアップ時の変調に耐えられる者は正気を保っていたが、耐えられない者は精神的な高揚に呑まれ、独断で突撃を繰り返していた。
死者も出始め、このままでは戦線が崩れる危険があった。本陣の温存部隊がフォローに入り、突撃を続けようとした者達を無理やり後方へ下がらせた。乱戦で孤立することは死を意味するため、部隊の交代が急がれていた。
呪符使用の許可
サエキは、前線部隊の交代時間を稼ぐため、東と南の第二防衛線を担当する部隊に呪符の使用と呪術支援を許可するべきだと判断した。アシヤは全部使い切らないよう厳命し、銅鑼の合図で通達を出した。
侍達は持たされていた呪符を掲げ、呪言を唱えて術を発動させた。植物が妖魔に絡みつき、不可視の刃が敵を斬り裂き、雷が妖魔を貫いた。各呪家の特色が出た呪符は効果や威力にばらつきがあったが、高威力のものは前線交代の隙を作る役割を果たした。
躯武者の出現
戦いの中で、【躯武者】が現れ始めた。躯武者は落ち武者の亡霊であり、戦いの最中で無念の死を遂げた感情に突き動かされ、生者を殺すことに特化した危険な妖魔であった。
生前の強さに応じて個体差があり、集団で出現すれば非常に手強い存在であった。武の頂にいた者が躯武者になっていれば被害はさらに大きくなるため、侍達は複数人で確実に仕留めるよう指示されていた。
大祓いの祝詞
呪術師達は【大祓いの祝詞】を行使した。これは封魔浄化結界の特性を利用し、浄化効果を何倍にも高めることで、大規模な百鬼夜行にも対応できる強力な術であった。
封魔浄化結界内で妖を浄化すれば、妖魔の瘴気は純粋な魔力に還元され、呪術師達の力として利用できた。肉体を循環する生体魔力も一時的に増え、疲労や怪我の回復も早まるため、侍達は気力が漲るように感じていた。
戦意の高まり
大祓いの祝詞によって、結界内の魔素濃度は急激に高まった。侍達は疲労困憊の状態でありながら、さらに戦意を高めていった。
しかし、その効果は味方にも強く影響し、生存本能と闘争本能を活性化させる危険があった。戦場の高揚は侍達をバーサーク状態に近づけ、使いどころの難しい術でもあった。サエキは状況を見て独断で使用許可を出しており、アシヤは一応の責任者として事前に言ってほしかったと釘を刺した。
結界内の魔素濃度
アシヤとサエキは、中型の妖魔も浄化で消えてくれればよいと考えたが、そう都合よくはいかなかった。封魔浄化結界の外には、まだ大量の魑魅魍魎が蠢いていた。
結界内で浄化された魔素はすべて外へ抜けるわけではなく、一定量が内部に残り濃度を高めていた。その一方で、生き残った妖魔が瘴気を放ち続ければ、せっかく浄化した魔素も再び瘴気に戻され、妖魔達の力へ還元されかねなかった。
アシヤの祈り
アシヤとサエキは、封魔浄化結界を解除することもできず、長期戦になるほど不利になる状況に追い込まれていた。魔素濃度を下げるには自然に抜けるのを待つか、呪術を行使して強制的に下げるしかなかったが、どちらも負担が大きかった。
ひっきりなしに押し寄せる魑魅魍魎を前に、アシヤは誰でもよいからこの騒ぎを終息させてくれないものかと、宵闇の空を見上げながら虚ろな目で祈るように願っていた。
暴食なる深淵の直撃
その頃、ゼロスは問答無用で広範囲殲滅魔法【暴食なる深淵】を放っていた。魔法は廃村を囲んでいた結界の上部に当たり、圧縮された膨大な魔力が解放され、結界ごと吹き飛ばした。
さらに爆縮による空間の収束現象が妖魔達を飲み込み、物質すら崩壊させる熱量と大爆発が発生した。自然に囲まれた山間部の景観は一瞬で根こそぎ消し飛び、凄まじい衝撃波が木々や土砂を巻き上げながら周囲へ押し寄せた。
仲間達の反応
アドは即座に危険を察知し、全員に伏せるよう叫び、自ら【白銀の神壁】を展開した。ゲンザ、ミヤビ、タカマルも直感的に危機を察し、地面へ倒れ込んだ。
ゲンザは、とんでもない大呪術だと驚愕した。アドは、ゼロスに魔法を放つ前に一言声をかけろと怒ったが、ゼロスはあれだけの魑魅魍魎がいたのだから即座に魔法を行使することは予測できるはずだと返した。
全力魔法の惨状
【暴食なる深淵】の威力は、これまで放ってきたものと比べても圧倒的であった。爆風は山を越え、地を這う衝撃波は地形を変え、人里へ向かっていた魑魅魍魎達も破壊の奔流に呑まれた。
山間部はクレーターへと変貌し、鵬天山の麓も三分の一ほど抉られていた。ゼロスは初めて全力で使ったが、危険な魔法を作っていたものだと自分でも怖くなっていた。アドはその惨状をただの自然破壊だと責めた。
ゼロスの狙い
ゼロスは、龍穴や龍脈は地下に存在することが多く、鵬天山が火山である以上、溶岩によって作られた洞穴の奥に龍穴があると考えていた。妖刀の細かな潜伏場所が分からない以上、地表ごと圧倒的な火力で吹き飛ばす方が早いと判断したのである。
さらに、討ち漏らしたとしても、岩盤を貫いて噴き出した自然界魔力が妖刀の瘴気を急速に浄化するはずだった。クレーターの底からは高い魔力を含んだ水柱が立ち昇り、周囲の魔力濃度は急激に高まっていた。妖刀にとって、その巨大なクレーターは毒の泉となり始めていた。
妖刀本体の出現
ゼロスは、妖刀が存在を維持するために刀の姿を捨て、怨念を実体化させるだろうと見ていた。その予想通り、【暴食なる深淵】で抉られた山の中腹から、土砂を巻き上げて巨大な化け物が現れた。
それは超巨大なムカデのような姿をしていた。無数の節足は刀のような武器で構成され、黒曜鉄の鋼鉄製の甲殻が全身を覆っていた。頭部は翁の顔を模した能面で、眼の穴からは溶岩が血の涙のように流れ、関節から炎が噴き出していた。
武霊獣士の護衛
妖刀本体と思われる巨大な化け物の周囲には、獣の四肢を持つ鎧武者達がいた。ゼロスとアドは、それらを暫定的に【武霊獣士】と呼ぶことにした。
武霊獣士は四体おり、黒豹、獅子、虎のような四肢を持つものがいた一方、一体だけは四肢が大きな壺になっていた。壺の武霊獣士は飛び跳ねたり独楽のように回転したりと滑稽な動きを見せていたが、放たれる闘気は尋常ではなく、手練れであれば擬態だと理解できるものだった。
巨大妖魔の全容
ゲンザは、巨大ムカデの胴体が長すぎることに違和感を覚えた。ゼロスも、胴体だと思っている部分にはまだ先があると判断した。
やがて、ムカデのように見えた部分は実は長い首であり、その先にサソリに似た巨大な体が存在することが分かった。さらに、サナダムシのように甲殻のない粘液をまとった尾も生えていた。負の感情だけが残った思念がどのような要因でこのような姿になったのか、ゼロス達にも理解できなかった。
最終決戦の布陣
あまりにも巨大で異様な妖魔を見たゲンザ、ミヤビ、タカマル、アドは、そろってゼロスに本体の相手を頼んだ。ゼロスは、こんな時だけ意見が合うのかと呆れた。
アドは、武霊獣士を片付けたら援護に入るから、それまで時間を稼いでほしいと頼んだ。ゼロスは、消去法で自分が相手をするしかないと受け入れ、勝てないようなら時間稼ぎをすると答えた。こうして鵬天山の麓で、百鬼夜行との最終決戦が人知れず始まろうとしていた。
第九話 ゲンザ、変態ゆえ倦厭される
武霊獣士との戦い
四体の武霊獣士
黒豹、獅子、虎、壺の四肢を持つ武霊獣士には、アド、ゲンザ、ミヤビ、タカマルがそれぞれ一人ずつ当たることになった。アドが相対した黒豹獣士は、青龍刀を手にし、機動力と隠密性、幻惑を使い分ける妖であった。
アドは【ウィンド・カッター】で先制したが、黒豹獣士は幻惑によって攻撃をすり抜けさせた。そこにいるのに気配が薄く、目立つ武器を持ちながら暗殺者のように敵を翻弄する相手であった。
黒豹獣士の機動力
黒豹獣士は獣の四肢による高い機動力を持ち、青龍刀の重い一撃を繰り出した。アドは刀の鎬で受け流して反撃を試みたが、黒豹獣士はすでに距離を取っており、刃は残像を斬るだけであった。
アドは刀一本で相手をするには危険だと判断し、【ホーミング・サンダーブリット】を放った。しかし黒豹獣士は雷球をすべて斬り払い、一瞬で間合いを詰めて襲いかかってきた。アドは咄嗟に避けて受け止めたものの、重い一撃の勢いに体ごと弾き飛ばされた。
アドの見極め
アドは、黒豹獣士が人間の技と大型肉食獣の機動力、幻術と隠密性を組み合わせた厄介な相手であると見抜いた。正面から剣術で勝つのは難しく、技量では相手に分があると認めざるを得なかった。
一方で、黒豹獣士の攻撃は加速と自重を利用した一撃が重く鋭いのであって、純粋な力そのものが圧倒的というわけではないとも考えた。アドは身体強化を行い、目に魔力を集中させ、姿ではなく瘴気という魔力の塊として敵を捉えることにした。
瞬天一閃
アドは視覚以外の感覚を切り、刀に魔力を集めて黒豹獣士だけを見据えた。黒豹獣士もアドの変化を感じ取り、幻惑をやめて全身全霊の攻撃へ集中した。
アドは大声で吠えると同時に姿を消し、【瞬天一閃】を放った。それは【縮地】、【気刃纏】、【紫電】を同時に行う複合剣技であり、アドの全力の身体能力が加わることで神速の一撃となっていた。黒豹獣士は斬られたことすら理解できず、戻ってきたアドの追撃によって両断された。
獅子獣士とゲンザ
ゲンザはアドの技に感嘆しながらも、自分の相手である獅子獣士に集中し直した。獅子獣士は棘付きの鉄球を鎖で鎌とつなげた武器を使い、中距離と近距離の両方を得意としていた。
鉄球による攻撃は一見単調だったが、獅子獣士はそれを巧みに使い分け、ゲンザに反撃の機会を与えなかった。鎖で攻撃を受け止めたり、刀に絡めたりすることもでき、鎌による近接攻撃や獣の四肢の爪も混ぜるため、ゲンザは常に動かされていた。
衣服を裂かれるゲンザ
獅子獣士の攻撃がかすめるたび、ゲンザの胴衣や袴は裂かれていった。ゲンザは素肌が空気に触れる感覚を心地よく感じ、戦いの最中にもかかわらず解放感に震えていた。
ゲンザは、戦いの最中であれば合法的に全裸になれることに気付いてしまった。衣服を裂かれるたびに奇妙な声を上げ、表情を緩ませるゲンザを前に、獅子獣士は不審なものを感じて攻撃を止めた。
獅子獣士の恐怖
獅子獣士は鎌でゲンザの胴衣をさらに剥ぎ取ったが、ゲンザが歓喜の声を上げたことで、全身の毛を逆立てるほどの怖気を覚えた。ゲンザは、まだ胴衣の半分と袴が残っているとして、さらに自分を剥いでみせろと挑発した。
獅子獣士は武人として大切な何かを汚されるような恐怖を抱き、後ずさりした。ゲンザは逃がすつもりはなく、最後の褌が奪われても技のすべてを受けきると迫った。
逃げる獅子獣士
獅子獣士は強者と戦う欲求を持っていたが、ゲンザの相手をすることは想像以上に猥褻で破廉恥であり、戦うこと自体を恥だと感じるようになった。やがてゲンザから全力で逃げ出した。
ゲンザは逃げる獅子獣士を追いかけ、責任を持って相手をしろと迫った。獅子獣士は自分がなぜこんな相手をすることになったのかと嘆き、神に救いを求めたが、救いはなかった。
アドへの突撃
獅子獣士は、どうせ死ぬなら強者に倒されることを選び、戦闘を終えて様子を見ていたアドへ突撃した。鉄球にすべての魔力と殺意を込め、最初で最後の全身全霊の一撃を放った。
アドは突然襲いかかられて困惑しながらも、強烈な殺意に反応して神速の唐竹割りを放った。両者が交錯し、獅子獣士は左右に斬り分けられた。獅子獣士は強者に倒されたことに満足し、消滅した。
ゲンザへの不信
ゲンザは、なぜ獅子獣士がアドへ向かったのかと不満をこぼした。アドは、ゲンザがなぜ半裸で追いかけっこをしていたのかを問いただしたが、ゲンザは手強い相手に少し手間取っただけだと答えた。
その後、ゲンザはゼロスの方へ向かおうとした。アドは、ミヤビやタカマルの助けに行かないのかと尋ねたが、ゲンザはミヤビは一人で片付けるだろうと見ており、タカマルは強者と手合わせできる好機だから放置でよいと考えていた。
タカマルへの放任
アドは、タカマルが死にそうになったらどうするのかと問い詰めた。ゲンザは、普通なら危険になる前に逃げてくるはずであり、格上から逃げる選択は間違いではないと語った。
ゲンザは、気付けなければ討ち死にであり、戦場で死ぬなら剣士として本望だと考えていた。アドはその死生観を理解できず、ゲンザを鬼のようだと感じた。
ミヤビと虎獣士
ミヤビが相手にしていたのは虎獣士であった。下半身が虎の四肢で、首から上に鎧武者の上半身がついた妖魔であり、身の丈ほどの大ぶりな曲刀である呉鉤を二刀持ちしていた。
虎獣士は攻防一体の隙のない戦闘スタイルを持っていたため、攻めに特化したミヤビには少々分が悪かった。それでもミヤビはその技量に感服しながら、戦いを続けていた。
タカマルと壺獣士
タカマルは長刀を持つ壺獣士を相手に苦戦していた。壺獣士は壺の形状を活かし、回転したり跳ねたりしながら間合いを詰め、長刀を突き出してきた。
タカマルが斬り込めば、壺獣士は長刀さばきや回転で攻撃を逸らし、短く持ち替えて鋭い一撃を返してきた。さらに大ジャンプから上空より急降下する攻撃も仕掛けるため、タカマルは攻めに入れず逃げの一手となっていた。
ゼロスと蟲龍
ゼロスは、五十メートルはある巨大なムカデの化け物と戦っていた。ムカデのような長い胴体の根元にはサソリに似た不気味な胴体が合体し、体中の甲殻の隙間から炎が吹き荒れていた。
翁面のような頭部からは溶鉄が垂れ、顎の鋏は人間の腕のように変化し、二の腕から先が鋸状の武器となっていた。尾は地中に繋がったままであり、龍脈から自然界魔力を取り込んでいると見られていた。
蟲龍の性質
ゼロスは、蟲龍の炎や毒を含むガス、呪詛のような状態異常を厄介だと見ていた。吸い込むだけでも病や壊疽、恐怖、五感低迷などの状態異常が発生する可能性があり、耐性がなければ即死しかねなかった。
蟲龍は霊体化、実体化、半実体化を使い分ける妖魔であった。霊体化すれば呪詛で敵を内側から蝕み、実体化すれば質量を伴う物理攻撃を放つことができた。半実体化ではこちらの物理攻撃を通さず、一方的に攻撃できるため非常に厄介であった。
ゼロスの戦い方
ゼロスは【ストーン・ブリット】や【アイス・ニードル】などの簡単な魔法で牽制しながら、蟲龍の弱点属性を探っていた。蟲龍はレイドボスクラスの魔物であり、本来なら一人で戦って勝てるような相手ではなかった。
それでもゼロスは、魔法のごり押しだけでも勝てると見ていた。しかしすでに【暴食なる深淵】を放っており、これ以上強力な魔法を乱発すれば周辺に甚大な被害が出るため、装備を使って戦う方がよいと考えていた。
ゲンザの戦闘欲
ゲンザは、ゼロスが巨大な蟲龍を相手にできることに驚き、もう一度ゼロスに勝負を挑んでみたくなった。アドは本気のゼロスを相手にすれば一撃で死ぬと止めたが、ゲンザは逆にやる気になってしまった。
アドは、このままではゲンザがゼロスの戦闘に乱入し、三つ巴の混乱を起こしかねないと不安になった。ゲンザは先ほどの獅子獣士との戦いが不完全燃焼であり、衣服を剥がされるはずだったのに逃げられたことを不満に思っていた。
ゲンザへの呆れ
ゲンザは、全裸にならなければ本気になれず、殺意を肌で感じることこそ真剣勝負の醍醐味だと主張した。アドは同意を求めるなと拒絶し、心の底からミヤビの気持ちが分かったように感じた。
アドは、こんな変態親父が身内だと知られれば、自害するか殺意を向けるようになってもおかしくないと考えた。ミヤビが苛烈になったのは、父の醜態を日常的に見せられ続け、精神的に限界を迎えた結果ではないかと結論づけた。
アドの傍観
アドは、ゲンザの癖に振り回されるミヤビと、父と姉の間に挟まるタカマルに同情した。今後この一家がどうなるかは分からないが、ろくなことにはならないだろうと感じ、呆れたように溜息をついた。
しかしアド自身は、その家庭問題に踏み込むことはしなかった。同情はしても解決策を探そうとはせず、他人の事情として割り切っていた。面倒事を背負い込みたくない無責任な傍観者でもあった。
第十話 おっさん、姉弟の横で楽勝ムーブをかます
蟲龍の討滅と壺獣士
壺獣士とタカマルの苦戦
タカマルが相手にしていた壺獣士は、奇妙な見た目に反して手強い妖魔であった。上半身は鎧武者で両手に長刀を持ち、下半身は伸縮自在のスライム質で、大きな壺の口から生え出していた。
壺獣士は長刀の柄の長さを調整して攻撃を捌き、壺の回転や跳躍を使って連撃やプレス攻撃を仕掛けていた。タカマルは勝てない相手だと理解しながらも、剣士として何もできずに負けることを拒み、必死に食らいついていた。
稽古のような攻防
壺獣士はタカマルに致命傷を与えず、薄皮一枚を斬る程度の攻撃であしらっていた。その様子は、まるで稽古をつけているようであった。
アドは、壺獣士がタカマルを馬鹿にしているのではなく、その意地に真摯に応えているのだと見ていた。化け物になっても武人の魂を失っていないように見える壺獣士に、アドは少なからず敬意を抱いていた。
ゲンザの放任
ゲンザは、タカマルが壺獣士に稽古をつけられている状況を見ながら、早く自分に代わってほしいと口にした。アドは、ゲンザが相手をすればまた妖魔が自分へ突撃してくるのではないかと警戒し、脱ぐなと釘を刺した。
ゲンザはタカマルの戦いがしばらく大丈夫だと判断し、次にミヤビの様子へ目を向けた。アドには薄情に見えたが、ゲンザにとっては、戦場に身を置く以上、余計な口出しをしないという考えでもあった。
ミヤビと虎獣士
ミヤビが相手にしていた虎獣士は、下半身が虎の四肢で、上半身が鎧武者の姿をした妖魔であった。虎獣士は大ぶりの曲刀である呉鉤を二刀で使いこなし、装甲腕の攻撃をいなしながら鋭い反撃を加えていた。
ミヤビは虎獣士の重い一撃を受け止めきれず、宙に飛ばされていた。追撃を受けた際には、装甲腕の爪を地面に突き立て、その反動で強引に回避したが、わずかに遅れていれば体を両断されていた。
追い込まれるミヤビ
ミヤビは虎獣士の強さに心を躍らせながらも、自分が追い込まれていることを理解していた。身体能力でも剣術でも相手に及ばず、装甲腕がなければすでに倒されていた。
装甲腕は腕力を補い、爪による攻撃や第三の足のような使い方を可能にしていた。しかし重量と遠心力に振り回されるため、左腕を失う前のような動きはできなかった。それでもミヤビは、勝つために今できる戦い方を選ぶことこそ意味があると受け止めていた。
装甲腕の切り札
ミヤビは、虎獣士に真っ向勝負では勝てないと判断し、最終手段を使う隙を狙った。虎獣士は甘い隙を見せず、二刀流でありながら単調にならない攻撃を続けていたため、ミヤビは防戦に追い込まれていた。
長期戦は不利だと悟ったミヤビは、装甲腕の装置を起動した。手のひらに魔力が収束し、爪の切断力が強化されると、ミヤビは死なばもろともと叫んで爪を振り上げた。
虎獣士の撃破
虎獣士は呉鉤を十字に構えて防御したが、魔力で強化された爪は呉鉤を紙のように寸断した。ミヤビは続けて右手の刀で虎獣士の顔面を突き、虎獣士は壊れた呉鉤でそれを捌きながら、もう一方の呉鉤で反撃しようとした。
しかし、ミヤビの本命は装甲腕の手のひらから放つ高振動波であった。虎獣士は爪の強化だと誤認しており、超至近距離からの振動波に対処できなかった。高出力の振動波は虎獣士の体と核を破壊し、虎獣士は霧散した。
強敵への礼
ミヤビは虎獣士の技前を見事だと認め、その戦いで己の未熟さを知ったと受け止めた。今後の修練の課題とし、さらに高みへ上るための経験にすると考えていた。
ミヤビは頭を下げ、本気で戦ってくれたことに感謝を示した。心身ともに疲弊しており、これ以上の戦闘継続は難しい状態であった。
ゲンザの残念がる視線
ミヤビが勝利したことに対し、ゲンザは親としては嬉しいとしながらも、剣士として虎獣士と自分が戦いたかったという感情が勝っていた。乱入してでも戦うべきだったと後悔していた。
アドはひどい親だと呆れたが、ゲンザは感じてしまったのだから仕方ないと答えた。やがてゲンザは最後の一体である壺獣士とタカマルの戦いへ目を向け、期待するような表情を浮かべた。
討滅隊の膠着
平原で百鬼夜行と戦う討滅隊は、多数の妖魔に囲まれながら激戦を続けていた。封魔浄化結界によって妖魔を弱体化できていたため、防衛陣の武士達が交代しながら戦線を維持し、呪術師達の援護もあって致命的な崩壊は避けていた。
しかし、膠着状態は天秤の傾き次第で一気に崩れる危ういものだった。呪術師達は二度目の【大祓いの祝詞】を行い、妖魔を一掃して人的被害を抑えたが、戦場の者達は疲弊し、妖魔の個体も強くなっていた。
急激な成長の負荷
封魔浄化結界は呪術者達の力を引き上げていたが、戦場に立つ者達の格も急速に上昇していた。その結果、能力上昇に肉体が慣れず、突然倒れる者達が現れ始めた。
最前線の武士達は、断続的に押し寄せる妖魔への対応に疲弊し、冷静な思考を失いつつあった。実力が上がること自体は喜ばしいはずだったが、この状況で倒れる者が続けば全滅しかねないため、アシヤとサエキは危機感を強めていた。
傷ついた妖魔達の接近
封魔浄化結界の外に現れた新手の妖魔達は、大物であるにもかかわらず酷く損傷し、存在が希薄になっていた。アシヤとサエキは、強力な化け物に襲われて逃げてきたようだと訝しんだ。
それらの妖魔は、ゼロスが放った【暴食なる深淵】の余波で吹き飛ばされ、他の妖魔の群れに衝突して消耗していた。さらに【大祓いの祝詞】の効果も加わり、限界まで弱っていた。
捕食する大型妖魔
傷ついた妖魔達の背後から、さらに大型の妖魔が現れた。それは【暴食なる深淵】で体の大半を吹き飛ばされながらも生き延びた個体であり、前を行く妖魔を片端から捕食しながら近づいていた。
大型妖魔は同胞であるはずの妖魔達を食らい、失った力を回復していた。その霊質的な気配は歴史上のどの妖魔よりも強大であり、離れていても鳥肌が立つほどの恐ろしさを放っていた。
封魔浄化結界の強化
アシヤは結界班に、内に溜まった気をすべて使ってでも障壁強度を高めるよう命じた。【楔】が壊れても構わないというほどの緊急事態であった。
呪術師達は封魔浄化結界の出力を上げたが、霊力が尽きて倒れる者も出始めた。結界内で浄化され滞留した魔力を使い、足りない分は地脈から強引に引き出すため、術者達には凄まじい負荷がかかっていた。それでも彼らは、国を守るため精神力で耐えていた。
結界外の攻防
傷ついた妖魔達が結界の第一層に触れると、強化された障壁によって一斉に浄化消滅した。後続の妖魔達も次々と押し潰され、結界に触れて消えていった。
一方、大型妖魔は結界の存在に気付くと速度を落とし、まだ原形を残した中型妖魔を食らい始めた。結界の周囲にいるだけでも浄化の影響は受けていたが、捕食によって魔力量を増やし、姿も別の形へ変わっていった。
アシヤとサエキの判断
アシヤとサエキは、大型妖魔を結界の外に置くか、結界を弱めて内へ誘い込むかを考えていた。現状維持なら結界の壁面で瘴気を削れるが、術者達が倒れればすべてが終わる。一方で、結界内に入れれば残っている中型妖魔を食われ、さらに力を増す危険があった。
サエキは、第一層と第二層の結界出力を少し弱めて誘い込む案を出した。アシヤは無茶な判断を強いられる状況に愚痴をこぼしながらも、負けは許されないと覚悟を決めた。後続がいないことを式神で確認し、第二層までの結界出力を徐々に下げるよう命じた。
蟲龍の分析
一方、ゼロスは毒持ちの昆虫パーツで構成された【蟲龍】を相手にしながら、まだ本気で戦わず情報収集を続けていた。蟲龍は翁面の両目から溶岩の涙を流し、その溶岩が地面に落ちると瘴気となって大気に広がっていた。
ゼロスは、魔力が負の念を保持し、瘴気を生み、時に魔力生命体を生み出す不可解な力であることを考えていた。【蟲龍】は龍脈から膨大な魔力を吸収し、怨念で汚染して力に換え、人間を殺すことに特化した怪獣へ変質していた。
動けない怪物
【蟲龍】は無尽蔵に溶岩のブレスや毒煙を吐き、体の節々から劫火を噴き出していた。だが、尾を地面に刺して龍脈から魔力を吸収している限り、この場から動くことができなかった。
ゼロスは、【蟲龍】を人間を滅ぼしたいという本能だけで動く大きな的だと見た。家族を求めるような妄執を抱えているようであったが、すでに何に恨んでいるのかすら曖昧になっており、存在しているだけで迷惑な過去の残滓に過ぎなかった。
五剣封縛の聖域
ゼロスは蟲龍を始末するため、インベントリーから五本の剣を取り出した。一本ずつ地面へ突き刺し、蟲龍の周囲に配置していくと、光のラインが走り、五芒星の立体魔法陣が浮かび上がった。
それは討滅隊の封魔浄化結界よりも単純で強力な退魔領域結界であった。ゼロスは【五剣封縛の聖域】を発動し、さらに【光の縛鎖】で蟲龍を地面に縛りつけた。五本の剣は龍脈の自然界魔力を汲み上げ、結界と光の鎖の維持に利用していた。
蟲龍の崩壊
退魔領域結界の中で瘴気と自然界魔力の均衡が崩れ、蟲龍の巨体は紅蓮の炎に包まれた。蟲龍は力を返せ、妻や子供達、家族を返せと叫んだが、ゼロスはすでに蟲龍の生きた時代ではなく、過去の亡霊は消えるべきだと告げた。
蟲龍の翁面は砕け、負の感情が入り混じった男の顔が現れた。ゼロスは、家族の名前も姿も思い出せないのではないかと問いかけた。蟲龍の核は妖刀を鍛えた鍛冶師の怨念であったが、多くの怨念を取り込みすぎたため、根幹にあった家族への思いも摩耗し、ただ人を呪い殺す道具に成り下がっていた。
過去の残滓の終わり
ゼロスは、蟲龍の恨みはおそらくずっと昔に果たされており、自己の存在が曖昧になるほど他者の魂を取り込んだ結果、怨念で摩耗したのだと見ていた。それでも家族への思いだけが残っていることを哀れに感じた。
ゼロスは煙草に火を灯し、背後で蟲龍が自浄作用の炎に焼き尽くされて崩れていくのを見届けた。アドとゲンザは遠方からその様子を眺め、ゼロスがあの化け物を一人で倒したことに驚いていた。
ゲンザの再出陣
蟲龍が倒れ、残る相手はタカマルが戦っている壺獣士となった。ゲンザはそろそろ乱入してよいかと口にし、アドは戦いたいだけだろうと見抜いた。
ゲンザは、剣士である以上、強者に全力で挑みたいのは本能のようなものだと語った。先ほどの好機を自分の性癖で台無しにしたことを指摘されても、今度こそ脱がないように気をつけると笑った。アドは不安を覚えながらも、タカマルのもとへ向かうゲンザの背中を見送った。
ミヤビの冷淡さ
ミヤビはいつの間にかアドの背後に現れ、ゲンザが壺獣士のもとへ向かったことを確認した。タカマルには荷が重い相手であり、父に任せてもよいと判断していた。
アドが父を心配しないのかと尋ねると、ミヤビは父が死んでもそれまでのことだと冷淡に答えた。さらに、露出癖の親など死んでもいいと思っているが、引導は自分の手で渡したいと語った。アドはその割り切りに釈然としないものを覚えつつ、ミヤビへ【ハイ・ポーション】を手渡した。
第十一話 ゲンザ、今度こそ真剣勝負をする
大型妖魔と蛸獣士
大型妖魔への対処
アシヤは、封魔浄化結界内に誘い込んだ大型妖魔が中型妖魔を食らい続け、弱まるどころか姿を変えて暴れていることに苦い表情を浮かべていた。封魔浄化結界は浄化した妖魔の魔力を【楔】に流し込むことで維持されており、妖魔達は大型妖魔にとっての餌であると同時に、呪術師達にとっても結界維持の燃料であった。
アシヤは、大型妖魔以外の雑魚をできるだけ浄化し、大型妖魔を孤立させる方針を取った。結界の外周障壁を弱め、浄化効果を限界まで引き上げたことで、弱い妖魔や弱体化した個体は一瞬で消滅したが、生き残った妖魔達は侍達と激突し、戦場は陣形を保てない乱戦となった。
結界維持の負担
サエキは、封魔浄化結界の運用には多くの課題があると考えていた。【楔】は大きく数も必要で、設置にも人手と時間がかかり、位置を誤れば呪術師への負荷が増す危険があった。
さらに【楔】ごとに複数の呪術師が必要となるため、多くの術者が結界維持に縛られ、乱戦で侍達を十分に援護できなくなっていた。妖魔が強くなるほど術者への負担も増し、やがて吐血して倒れる者まで現れた。アシヤは他に手がないため、浄化と攻撃を続けて大型妖魔を少しでも弱らせようとしていた。
消耗する討滅隊
大型妖魔は弱体化しても捕食によって体力を補い、侍達を薙ぎ払いながら前進を続けていた。最後の群れが迫ると、侍達は死に物狂いで妖魔へ向かい、弓兵や足軽、手練れの者達がそれぞれの役目を果たそうとした。
呪術師達も支援を続けたが、死傷者は後を絶たなかった。アシヤは、この場にいる者達が命知らずの強者や実戦経験の乏しい者、中間管理職や厄介者ばかりでありながら戦線を維持していることを認めつつも、大型妖魔への決定打がないことを痛感していた。
壺獣士とタカマル
蟲龍を浄化し終えたゼロスは、アドとミヤビのもとへ合流し、タカマルと壺獣士の戦いを見守った。タカマルはボロボロになりながらも立ち上がり、刀を握って壺獣士へ挑み続けていた。
壺獣士はタカマルを殺す気はなく、長刀で弾き飛ばしながらも手加減していた。ゼロスはその行動を見て、壺獣士が単なる妖魔ではなく、生前の記憶や意思を残した存在かもしれないと考えた。
ゲンザの見守り
ゼロスはタカマルを助けるべきではないかとゲンザに促したが、ゲンザはタカマルがまだ音を上げていない以上、水を差せないと答えた。圧倒的な強者に稽古をつけてもらい、敗北を知ることも剣士には必要だと考えていたのである。
やがてタカマルは立つことも難しいほど消耗した。ゲンザはようやく前へ出て、よく粘ったと声をかけ、自分が代わるから休めと告げた。タカマルは一太刀も入れられず、相手にされないまま敗れた悔しさに打ちひしがれていた。
壺獣士の本気
ゲンザは壺獣士の前に立ち、未熟者の相手をさせたことを詫び、自分が最後の幕引きをすると告げた。ゲンザが闘気を解き放つと、壺獣士も長刀を構えて青白い妖気を放ち、タカマル相手には見せなかった本気の戦闘態勢へ入った。
ゼロス達は戻ってきたタカマルに余計な声をかけず、ゼロスは無言で【ハイ・ポーション】を手渡した。敗北に打ちのめされているタカマルには、その沈黙も一つの配慮であった。
長刀の攻防
ゲンザが斬り込むと、壺獣士は即座に長刀で三連撃を放った。突き、胴狙い、腕への攻撃を織り交ぜ、さらに柄の長さや石突きを自在に使い分ける技量は一級品であった。
壺獣士は地面を抉って石を飛ばし、目潰しまで使ってゲンザを追い込んだ。片目の視界を奪われたゲンザは刀で受け流しながら耐え、そのえげつない真剣勝負に闘志を燃やしていた。ゼロスとアドは、壺獣士が四体の武霊獣士の中でも最も強いのではないかと見ていた。
戦いの中の鍛錬
ゲンザは壺獣士に押されながらも、その動きを真似て自分の剣術に取り込もうとしていた。死合の最中に鍛錬を始めるような危険な行動に、ゼロスとアドは呆れつつも驚いていた。
ゲンザは過去に長刀術や棒術の道場で手合わせしていたが、壺獣士の技量によって、それらの相手が未熟だったのだと痛感した。追い詰められ、斬られながらも感覚を研ぎ澄ませ、ついには間合いへ踏み込み、腰の脇差で初めて壺獣士に傷を与えた。
獣となるゲンザ
タカマルは、何もできなかった自分と、初めて見る父の姿を虚ろな目で見つめていた。ゲンザは何かの枷が外れたように怒涛の斬撃を放ち続け、壺獣士も捌ききれず少しずつ手傷を負い始めた。
ゲンザは人の姿をした獣のようになり、目の前の強者を倒すことだけに集中していた。ゼロスは、その姿を見て、武士の本質がこれならば内なる獣性を飼い慣らすことが極意なのかもしれないと考えた。
蛸獣士の正体
攻防の末、ゲンザは全身のばねを使って一撃を振り下ろし、壺獣士の長刀の柄と下半身の壺を斬り裂いた。だが斬撃は浅く、壺獣士は致命傷を避けた。
壺に亀裂が入り、隠されていた下半身が露わになった。そこにはタコやイカのような足が何本も生えており、ゼロスとアドは壺が蛸壺だったのだと納得した。壺を割られた壺獣士は蛸獣士となり、斬られた足も再生し始めた。
蛸足の斬撃結界
蛸獣士は武器を失ったが、妖魔としての力はまだ残っていた。魔力が急激に高まり、軟体生物の下半身が魔力に包まれると、蛸足は周囲へ一気に伸び、鞭のようにしなって岩すら砕く威力を発揮した。
その攻撃は打撃であり、同時に斬撃の結界でもあった。蛸足一本一本が別の生物のように不規則に動くため、剣の達人でもすべてを捌き切ることは不可能に近かった。ゲンザにとっては一撃でも受ければ致命傷になりかねない状況であった。
自殺行為の突撃
普通なら逃げても恥ではないほど危険な状況であったが、ゲンザは笑みを絶やさず蛸獣士の斬撃結界を見つめていた。強敵との真剣勝負に高揚し、逃げるという選択肢は存在しなかった。
そしてゲンザは、何の策もなく真正面から蛸獣士へ突っ込んでいった。ゼロス達はその行動を自殺行為だと感じた。
第十二話 祓魔師、貰った呪符を使う
百鬼夜行の終息
封魔浄化結界の限界
封魔浄化結界は、すでに大型妖魔を防ぎ切れるほどの出力を保てなくなっていた。中型妖魔でさえ瘴気を削られながら侍達を襲い、人間の魂を取り込もうとする本能に突き動かされていた。
大型妖魔は他の妖魔を食らい尽くし、人間への捕食を始めていた。戦況は、人間側が大型妖魔を倒すか、大型妖魔が人間を食らい尽くすかの競争へ変わりつつあった。
不定形の大型妖魔
大型妖魔には怨讐以外の感情がなく、定まった姿も持っていなかった。元となった人間の感情は残されておらず、消滅する寸前まで殺して食らうだけの存在であった。
無数の触手は蛇のように鎌首をもたげ、鋭い牙の生えた円口で負傷者に食らいついていた。侍達はそれを首と見なし、すべて斬れば弱体化すると判断して、本体への攻撃に専念していた。
アシヤとサエキの消耗
アシヤとサエキは封魔浄化結界の維持に加わりながら、大型妖魔の様子を見ていた。妖気は削られていたが、食われた者達の命を取り込んで回復しているようにも見えた。
結界の効果を再び引き上げることは難しかった。術者の多くが限界に近く、アシヤとサエキも温存していた魔力を削られていたためである。もはや決め手となる武器は残されていなかった。
結界を支える者達
封魔浄化結界の維持に携わる者達は、霊力が尽きても代わりを求め、休むべき状態でも結界維持に入ろうとしていた。結界が解除されれば大型妖魔側へ形勢が傾くため、誰もが死に物狂いで役目を果たそうとしていた。
それでも大型妖魔が滅びる兆しは見えなかった。地獄のような戦場で、侍達は次々と食われ、倒れていった。
侍の自爆
大型妖魔に食われた侍の一人は、体が溶かされる痛みの中で手持ちの呪符をすべて発動させた。呪符は妖魔の体内で炸裂し、侍もろとも上方へ大穴を穿つ爆炎となり、火柱を立ち上げた。
その最期に奮い立った侍達は、呪符を手に特攻を始めた。しかし大型妖魔は、人間を食らえば内側から爆発すると学び、捕食よりも薙ぎ払う行動へ変化した。その結果、同じ手は使えなくなり、戦況はさらに厳しくなった。
討滅隊の瓦解
大型妖魔が攻撃を重視し始めたことで、討滅隊は近づくことすら難しくなった。触手の一撃で即死する者や、自爆特攻で戦死する者が相次ぎ、封魔浄化結界による弱体化より先に討滅隊が瓦解しかねない状況となった。
呪術師達の心も折れ始めていた。侍達に呪符を渡し、結界を維持し続けても大型妖魔を倒せず、神への祈祷にも意味はなかった。無力感と敗北感が彼らの心を蝕んでいた。
玉砕の覚悟
アシヤとサエキは、もはや逃げることもできず、玉砕覚悟で大型妖魔の力を削るしかないと判断した。結界維持をやめ、後に戦う者達のための礎となる覚悟を決めたのである。
アシヤは、ここで死ぬとしても最後に派手な仇花を咲かせようと皆を奮い立たせた。呪術師達も侍達も、死して護国の鬼となる覚悟で呪具や護符を手にし、最後の特攻へ移ろうとしていた。
突然の閃光
特攻を仕掛けようとした瞬間、途轍もない光が戦場を埋め尽くした。アシヤ達は強烈な光で視界を奪われ、何が起きたのか分からず狼狽した。
それは大型妖魔の攻撃ではなかった。事態は、ゼロス達と別れたアケノ達三人の祓魔師が、討滅隊へ合流しようとしていた少し前へ遡っていた。
祓魔師達の合流判断
アケノ、スケ、カクの三人は、討滅隊と合流するために移動していた。式神を使って本陣の位置を探し当てていたが、三人とも心底乗り気ではなかった。
三人は、自分達が合流しても役に立つとは思っていなかった。だが近くにいながら合流しなかったと知られれば嫌疑をかけられ、冤罪で処罰されかねないため、合流しようとした努力を見せる必要があった。
祓魔師の立場
祓魔師達は居場所を定期的に報告する義務があり、緊急時には戦闘要員として駆り出される立場であった。呪術を扱える以上、いても役に立たないよりはましと見なされていたのである。
アケノ達は、才能を見出されたと言えば聞こえはよいが、実際には面倒事を押し付けられる都合のよい人材であった。彼らは現状に辟易していたが、貧困生活に戻ることを恐れ、国の犬として生きる道にしがみついていた。
ゼロスの呪符
アケノ達は本陣付近へ到着し、戦況が妖魔側に傾いていることに気付いた。大型妖魔は遠方からでも分かるほど巨大で、不定形の体から捕食器官を生み出し、侍達や呪術師を襲っていた。
三人は正面から戦っても無駄死にになると理解したが、アケノはゼロスから預かった呪符を使えば何とかできるかもしれないと考えた。その呪符の束は特級の呪物のような魔力を放っており、使うこと自体を躊躇うほど危険な代物であった。
使わざるを得ない危険物
アケノ達は、呪符を使わなければ、後でなぜ使わなかったのかと責められる可能性を考えた。場合によっては責任を押し付けられ、処刑されかねない状況だった。
同時に、彼らは路地裏で暮らしていた頃に食べ物や服を分け与えてくれた優しい人達を思い出していた。酷い職場にいながらも呪物や怨霊を祓ってきたのは、そうした人達の生活を守りたかったからであり、それが彼らの術者としての矜持であった。
呪符の使用準備
アケノは説明書を確認し、呪符を三等分して三方向から投げる必要があることを知った。対象を感知すれば呪術は自動で作動する仕様であり、まぎれもなく危険物であった。
三人は腹を括り、呪符を分けて大型妖魔の周囲へ移動した。アケノは式神を使って合図を出し、スケとカクはそれぞれ左右に分かれて指定位置へ向かった。乱戦の中を進むのは難しかったが、三人は式神で互いの位置を確認しながら準備を整えた。
三人の名
アケノは、心の中で久しぶりにスケとカクの名を口にしていた。スケの本名はヤスケ、カクの本名はフガクであり、アケノと同じく呪家のもとで祓魔師として育てられた元孤児であった。
祓魔師達は基本的な呪術しか教えられず、呪術への防御も少なかったため、本名を名乗ることを避けていた。アケノという名も本名ではなく、本当の名はアリューシャであった。
大型妖魔への呪符
三人は大型妖魔の上空で式神を待機させ、アケノの式神の発光を合図にした。アケノが式神を自爆させると同時に、三人は大型妖魔へ向けて呪符を投げ放った。
三方向から投げられた呪符は一直線に大型妖魔へ向かい、近くで停止した。そして複数の呪符が妖魔本体を囲むように魔法陣を組み上げ、分厚い円柱形の障壁で妖魔を包み込んだ。
大呪法の発動
障壁の上部には薄い半円形の障壁が展開され、内部の大気圧が急激に上昇した。内部温度も高まり、数千度にも達する大気熱によって大型妖魔は瞬く間に炭化していった。
やがて障壁内の圧力が限界を迎えると、上部の半円形障壁が消滅し、加圧され続けた熱量が眩い光となって天を貫く柱のように立ち昇った。逃し切れなかった高熱量は上空で大爆発を起こし、その衝撃波は地上にも及んだ。
戦場の混乱
アケノ達を含め、地上にいた者達も爆発に巻き込まれた。威力は【暴食なる深淵】より低く、山を越えるほどの衝撃波は起きなかったが、爆心地近くにいた人間は数十名ほど吹き飛ばされた。
視力が戻った者達は、何が起きたのか分からず混乱した。巨大な呪法の威力に驚く者、担架や治療を求める者が相次ぎ、戦場はしばらく騒然となった。アケノ達も、ゼロスの呪符の威力が想像以上であることに呆然としていた。
百鬼夜行の終息
百鬼夜行との戦いは、ゼロスが作った呪符による大呪法によって一応の終息を迎えた。討滅隊の者達は、この後の処理に追われ、しばらく平原で右往左往することになった。
アケノ達は、異国の呪術師から貰った呪符を投げた結果、あのような事態になったと報告した。アシヤは助かったからよいとしながらも、個人に持たせてよい呪符ではないと驚きを隠せなかった。
異国の呪術師への対応
サエキは、【楔】まで使用しても防ぎきれなかった百鬼夜行を、その呪符がなければ全滅していたと認めた。アシヤ達は、異国の呪術師が恩人である一方、放置するには危険な存在でもあると考えた。
さらにアケノ達は、その呪術師が二人おり、どちらも呪術以上に武術も達者だと補足した。アシヤとサエキは本気で頭を悩ませ、敵対すれば国が滅びかねないと判断した。最終的に、丁重に帰ってもらうまで監視に留めるべきだと小声で結論づけた。
第十三話 それぞれの終局が
蛸獣士との決着と戦後処理
蛸獣士への突撃
ゲンザは、無数の蛸足から繰り出される連続攻撃の中を、極限まで研ぎ澄まされた精神で突き進んだ。時間がゆっくり流れるように感じ、攻撃の起こりや避けるべき位置を刹那の中で見極めていた。
ゲンザは迫る蛸足を紙一重で避け、右手の刀と左手の脇差で斬り、弾き、受け流しながら前進した。脇差が折れても躊躇なく蛸足へ突き刺して抉り、最後は両手で愛刀を握り、蛸獣士の懐へ入り込んだ。
強敵への敬意
ゲンザは勝利の確信ではなく、この戦いに最後まで付き合ってくれた強敵への尊敬と感謝から笑みを浮かべていた。渾身の一撃を放つ直前、鎧兜に重なるように、老いて武人としてではなく衰え死にゆくことを受け入れた男の顔を見た。
その顔は満足そうに笑っており、ゲンザは相手もこの戦いを楽しんでいたのだと理解した。敬意と哀悼を込めた一撃は蛸獣士の鎧へ抵抗なく滑り込み、蛸獣士を両断した。
ゲンザの負傷
蛸獣士は消滅し、ゲンザは全身血まみれで倒れた。ゼロス達から見ると、ゲンザは策もなく懐へ飛び込み、鬼神のような速さで蛸足を斬り飛ばし、折れた脇差すら使って攻撃をねじ切り、最後に一刀両断したように見えていた。
ゼロスは、ゲンザの一撃が肉体の限界を超えたものであり、全身の筋肉や血管が破裂、断裂していると見抜いた。ゲンザは蛸足の攻撃を完全に避け切ったわけではなく、体中に無数の傷を負い、大量に出血していた。
傷痕という勲章
ゼロスは【エリクサー】なら全身を完全に治せると考えたが、ゲンザのような武人がそれを望むとは思わなかった。傷痕は勲章のようなものだと考え、タカマルの時と同じように【ハイ・ポーション】を使った。
【ハイ・ポーション】によって抉れた筋肉は再生したが、傷痕は残った。アドがなぜ【エリクサー】を使わないのかと尋ねると、ゼロスは最後まで武人であろうとした男に勲章を残すのが粋だと答えた。
武士とタカマルの適性
ゼロスとアドは、昔の武士や任侠、武侠のような存在はロックンロールではなく蛮族だと話した。フオウ国の武士は日本の歴史に出てくる武士達に比べれば比較的穏やかだとされていたが、勝つためには手段を選ばない殺戮本能を持つ武士は、敵対者から見れば恐ろしい存在であった。
ゼロスとアドは、ゲンザとミヤビは鎌倉や薩摩寄りで、タカマルは江戸寄りではないかと見ていた。タカマルは殺し合いよりも勉学や外交のような方面に向いており、剣を何のために学び、何のために振るうのかを考える分、人間らしく好感が持てる存在として見られていた。
ミヤビへの警告
ゼロスはミヤビに、殺し合いの中に生を求めるのはやめたほうがよいと警告した。それしか考えられなくなれば人を捨てたのと同じであり、獣に堕ちた者の末路は決まっていると語った。
ミヤビは、獣に堕ちても納得できる最期を迎えられるなら幸せではないかと返した。ゼロスは、納得して死ねるのは最後まで為すべきことを成し、覚悟と責任を貫いた者だけであり、血に飢れた獣が誇りを語るのはおこがましいと否定した。
ゲンザの覚醒
ゲンザは意識を取り戻し、ゼロスの言いたいことは分かるが、それではミヤビには通じないと語った。ミヤビは自分が強くなることしか頭になく、相手を見ず、強くなるための糧としてしか考えていなかったと見抜いていた。
ゲンザは今回の真剣勝負に満足していたが、ミヤビは駄目だと告げた。そこにはいつもの変態な父親ではなく、一人の武士としての真剣な姿があった。
真剣勝負の意味
ゲンザは、真剣勝負とは剣で交わす相手との対話であり、技の重みから相手の培ってきた時間や向き合う姿勢を知るものだと語った。蛸獣士には武人として死にたかった無念の思いがあり、納得いく死を与えられるのは自分しかいなかったのだと理解していた。
一方で、タカマルについては見込みがあると語った。壺獣士はタカマルを舐めていたのではなく、死に急ぐなと伝えるように手解きしていたのだと説明した。
ミヤビの危うさ
ゲンザは、ミヤビの気性は獣のそれであり、ただ倒し、食らい、次の獲物を探すようなものだと指摘した。それは武士の本質の一面ではあるが、それ一本だけで生きるのはつまらないとして、もっと広い世界を見るよう促した。
ミヤビは、自分が殺死合の中でしか生きられないと自覚していた。強い相手を倒し、屍を乗り越えてでも高みへ至りたいという本能があると語った。ゲンザは、そのまま人の情を捨てれば、ここに来るまで蹴散らしてきた妖魔と変わらないと告げた。
血に魅入られた記憶
ミヤビは、街で押し込み強盗が頻発していた頃、偶然その現場を見たことを思い出した。赤く染まった家屋や、障子や襖に残された赤い手形が、鮮やかな光景として記憶に焼き付いていた。
ゼロスは、幼い頃に凄惨な殺人現場を見たことで精神的な衝撃を受け、記憶が歪んだのではないかと考えた。そこでゲンザは、その現場にミヤビを連れていったのが自分だと思い出し、ゼロスとアドから原因はゲンザだと責められた。
ゲンザの無責任
ゲンザは、子守りの途中で異臭を感じ、商家を確認しに入ったと説明した。しかしゼロスは、衛兵に知らせるか、誰かに連絡を頼んで外で待つべきだったと指摘した。
幼いミヤビに凄惨な現場を見せたことが、血の気の多い人格を形成した原因だと分かり、ゲンザは言い逃れできない立場になった。ゼロスとアドは、ゲンザが斬られても文句は言えないと判断した。
タカマルへの配慮
ゼロスはミヤビに、ゲンザを斬っても構わないが、タカマルだけは堪えるよう言った。アドも、ミヤビがそうなった原因は無責任で考えなしなゲンザにあると告げた。
ミヤビは、タカマルを斬ることには躊躇うと答えたが、その理由は掃除や洗濯など雑事をする者がいなくなるからだった。ゼロス、アド、タカマルは、その言葉に家事手伝いとして扱われていることを知り、内心で泣くことになった。
撤収準備
ゼロスは、いつまでもその場にいるわけにはいかないため撤収しようとした。アドはゲンザを埋めていきたいと口にし、ミヤビは埋めるなら斬ってからにしてほしいと返した。
ゲンザは、自分は怪我人であり、ちょっと脱いだだけで何が問題なのかと不満を漏らした。しかしゼロス達は、それこそが一番の問題だと声を揃えた。
帰路の山越え
ゼロスはアドに車の運転を頼んだが、アドは軽ワゴンで斜面を進むのは厳しいため、せめて山を越えてからにしてほしいと答えた。ゼロスは、もっと派手に消し飛ばせばよかったかもしれないと物騒なことを口にした。
こうしてゼロス達は、帰路の最初の難所である山越えを始めることになった。
クレーターの調査
百鬼夜行の迎撃から一夜明け、討滅隊は再び斥候部隊を送り出した。目的は、妖魔達が本当に全滅したかを確認し、生き残りがいた場合に対処することであった。
斥候達が旧呪家の村があったエリアへ向かうと、そこには巨大なクレーターと、暴風に巻き込まれたように薙ぎ倒された山林が広がっていた。村の痕跡はなく、地面からはいくつもの湧水が溢れていた。
聖域化する土地
水柱が立っていた場所は落ち着き、透明度の高い湧水が広範囲に広がっていた。水に含まれた龍脈の魔力によって植物の生命力が活性化し、苔やシダが倒木を苗床に広がり、湧き水には小魚まで泳いでいた。
斥候に参加していた術師は、ここは聖域になると呟いた。瘴気は感じられず、妖魔の姿も見当たらなかったため、清浄な空気によって浄化されたと見られた。
龍穴の名残
かつて龍穴があった洞窟は、ゼロスの魔法によって入口もろとも消し飛び、今はクレーターと化していた。滾々と湧き出る自然魔力に満ちた地下水だけが、龍穴の名残となっていた。
斥候達は、この一帯はいずれ湖になるのではないかと考えた。水には魔力が含まれており、【神仙酒】を仕込むには良い土地であったが、人が聖地を独占することは信心深い者達に許されないと見られた。
放置される聖地
鵬天山周辺は景色がよく、魔力を含む水が湧く土地であったが、野生動物や魔物も多く、近くに街もないため人間が暮らすには不便だった。以前龍穴を独占していた呪家も、自給自足が成り立たず、人口減少と過疎化の末に滅んでいた。
斥候達は、ここにはもう何もないと判断し、本陣へ戻っていった。
地形変化の報告
斥候部隊から、廃村周辺が綺麗さっぱり消滅し、地形が変わっていたという報告が届いた。アシヤは驚いたが、サエキは大掛かりな儀式呪法でもそこまでの威力を出せるのか疑問を抱いた。
アシヤは、非常識な呪符を作る呪術師ならありえない話でもないと考えた。しかし同時に、この話を上層部の老人達に知らせるべきではないと判断した。
ゼロス達の隠蔽
アシヤとサエキは、異国の呪術師達の存在が上層部に知られれば、間違いなく囲い込みに動くと考えた。古い血統を重んじる老人達は、力を知れば婚姻を結ばせようとし、必要なら呪術で縛ることすら考えかねなかった。
そのようなことをすれば、妖魔に向けられていた破壊の力が自分達へ向かう危険があった。恩知らずと思われることも避けるべきであり、ゼロス達の存在は陰陽寮でもごく一部だけが知る秘匿事項として隠蔽された。
報告書の処理
アシヤは、報告書では鵬天山が火山であり、地下で何らかの異変が起きて吹き飛んだことにしようと提案した。自然災害であれば上層部も深く追及しないと考えたのである。
サエキも、戦の最中は情報が錯綜するものだとして同意した。こうしてゼロス達は、ソリステア魔法王国に帰るまで安全が保障されることになった。
中間管理職の憂鬱
妖魔討伐が終わっても、アシヤ達の仕事は終わらなかった。【楔】の回収、犠牲になった侍や術者の遺品整理、疫病を防ぐための埋葬、被害状況の報告書作成など、多くの作業が残されていた。
アシヤは隠居したいとこぼし、サエキは自分はまだ何十年も老人達の相手をしなければならないと嘆いた。融通の利かない上層部と現場の状況の間に挟まれる中間管理職の二人は、気の重い表情で帰り支度を始めた。
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