アラフォー賢者2巻レビュー
アラフォー賢者まとめ
アラフォー賢者4巻レビュー
どんなラノベ?
■ 作品概要
『アラフォー賢者の異世界生活日記 3』は、VRMMORPGの規格外の能力を持ったまま異世界に転生した40歳のおっさん主人公による、成り上がりファンタジーおよびスローライフを描いた作品である。 約束の2ヶ月間が過ぎ、ソリステア公爵家の兄妹(ツヴェイトとセレスティーナ)の家庭教師を終えた主人公・ゼロスは、再び「無職」に戻るが、元公爵一行を救った褒美として畑付きの家を与えられ、念願の平穏な農作業生活をスタートさせる。しかし、美味しい卵かけご飯(TKG)のために異常進化を遂げたニワトリの魔物「ワイルド・コッコ」と壮絶な格闘戦を繰り広げたり、ドワーフの土木作業員に巻き込まれて激流の大河に橋を架ける過酷な工事を踊りながら手伝わされたりと、相変わらず騒動の絶えない日々を送る。一方、イストール魔法学院に戻った弟子たちは、ゼロスから学んだ実戦経験と真の魔法知識によって学院の常識を次々と覆し、派閥争いに大きな変革をもたらしていく。やがて、ツヴェイトを狙う裏組織「ヒュドラ」の暗殺計画が浮上し、ゼロスは彼を守るために実戦訓練の護衛依頼を引き受けることになる。
■ 主要キャラクター
・大迫 聡(ゼロス・マーリン): 本作の主人公。無職のおっさん魔導士だが、その正体はゲーム内で【殲滅者】と恐れられたトッププレイヤー。平穏な自給自足の生活を望んでいるが、ドワーフの土木工事で「踊る作業員」と化したり、農機具やバイクを自作したりとやりたい放題である。美味しい卵かけご飯を食べるためだけに、凶悪な魔物と本気で死闘を繰り広げるなど、行動原理が非常に庶民的である。
・ツヴェイト・ヴァン・ソリステア: ソリステア公爵家の長子。大深緑地帯での過酷なサバイバルとゼロスの指導を経て、精神的にも技術的にも大きく成長した。学院復帰後は、実戦を知らない自身が所属する「ウィースラー派」の稚拙な机上の空論を正論で論破し、洗脳されていた派閥メンバーを解放して派閥を二分する中心人物となる。
・セレスティーナ・ヴァン・ソリステア: ツヴェイトの妹。かつて「無能」と蔑まれていたが、ゼロスによる魔法式の最適化と過酷な実戦訓練により、学院で他を圧倒する魔法の威力を披露し、「才女」として名を馳せるようになる。ゼロスから課された「秘宝魔法の最適化」という難題にツヴェイトと共に取り組む。
・クロイサス・ヴァン・ソリステア: ツヴェイトとセレスティーナの次兄で、魔法学院主席の天才魔導士。魔法研究にしか興味のない重度のひきこもりであり、他人に無関心な性格。独自の考察から現在の魔法式が改悪された欠陥品であることに辿り着いており、ゼロスの存在を知って実家に帰らなかったことを激しく後悔する。
・デルサシス・ヴァン・ソリステア: ソリステア公爵領の現領主であり、ツヴェイトたちの父親。領主としての辣腕に加え、自ら商会を率いる天才的な経営者。ゼロスが考案した冷蔵庫のアイデアを即座に実用化して販売し、敵対する派閥の資金源を経済面から徹底的に潰すなど、恐るべき手腕で暗躍する。
・カエデ・ハーフェン: 旧市街の養護院に預けられているエルフ(ハイ・エルフ)の少女。エルフでありながら東方の侍の家系に生まれ、「死して屍拾うもの無し」などと語りながら修羅の道を突き進む剣士。ゼロスやワイルド・コッコに闘いを挑むほど血の気が多い。
・ワイルド・コッコ(グラップラー・コッコなど): 養鶏農家で異常な突然変異と進化を遂げたニワトリの魔物。格闘、斬撃、狙撃などに特化し、傭兵を返り討ちにするほどの強さを持つ。ゼロスとの壮絶なドツキ合いの末に敗北し、彼を「師父」と仰いで配下となり、畑の護衛兼卵の提供者となる。
■物語の特徴
本作の特徴は、主人公であるゼロスの「平穏を求める庶民的な行動」が、周囲の世界情勢や他者の思惑と激しくすれ違い、無自覚なうちに巨大な影響を与えていく(アンジャッシュ状態の)ギャップコメディである点にある。例えば、ゼロスがドワーフたちと協力して河に橋脚を建てた行為が、他国のスパイからは「自国の水上侵攻を完璧に防ぐ恐るべき防衛策」と勘違いされ、勝手に脅威を抱いて撤退していくという展開が読者の笑いを誘う。
また、単なる主人公の無双劇にとどまらず、教え子たち(ツヴェイトやセレスティーナ)が学院に戻り、旧態依然とした貴族の派閥争いや腐敗した魔法理論を、ゼロスから得た圧倒的な実力と論理で打ち砕いていく「弟子たちの成長と活躍」が詳細に描かれている点も魅力である。
さらに、ファンタジー世界に似つかわしくない「唐箕(農機具)」を魔改造して音速で空に飛ばしてしまったり、ドラゴンの素材で大型バイクを自作して街道を爆走したりと、技術チートを趣味全開で暴走させるゼロスの非常識ぶりも、他作品とは一線を画す興味深いポイントとなっている。
前巻からのあらすじ
公爵家のセレスティーナとツヴェイト兄妹を中心に護衛の騎士達とゼロスは大緑地帯の浅い地区に行ってレベルを上げるため現地訓練を実施する。
順調にレベルが上がり疲れた身体を引きずって大緑地帯の基地にしている岩場に囲まれた安全地帯に帰って来たら、、
残り4日分の食糧が魔獣達に食い荒らされていた。
しかも、食糧を巡って争いがあったらしく食糧の代わりに魔獣の死体が多く転がっている始末。
そして、その原因になった魔獣の群れをボロボロに疲れている騎士に変わってオッサンがアッサリと倒したが、、
食糧は皆無。
残り4日分の食糧を確保しないといけない。
オッサンは以前に彷徨ったトラウマのせいかゲラゲラと笑い出し。
「皆んなと不幸を分かち合おう」と笑い出す。
戦闘によって食料(肉)を獲得、その血の臭いに釣られて肉食モンスターが襲ってくる無限地獄が始まる。
読んだ本のタイトル
#アラフォー賢者の異世界生活日記 3
著者:#寿安清 氏
イラスト:#ジョンディー 氏
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あらすじ・内容
セレスティーナとツヴェイトの家庭教師を終えたゼロス。彼は無職に戻ったものの、元公爵より畑付きの家を賜り、ひとまずの安住を手に入れる。ところが自分と同等の力を持つ【黒衣の魔導士】に突然襲われ……!?
(以上、Amazonより引用)
感想
ゼロスの修業を経て学園に帰って来たツヴェイトとセレスティーナ兄妹は変貌していた。
セレスティーナは魔法が使えなかったのが嘘みたいに魔法を行使し詠唱の根底を揺るがす問題提起を教師にぶつけ。
無自覚に学界にケンカを売ってしまう。
しかも、彼女が言う事が正しそうだからタチが悪い。
長年の研究を否定される一大事。
平民の子供だったら殺されていたかもしれないが、彼女は妾腹とはいえ公爵家の一員。
下手な手出しをしたら出した側が、孫娘を溺愛してる先代公爵に瞬殺されてしまう、、
兄のツヴェイトは、戦術研究会での討論で以前だったら洗脳の影響で絶賛していた戦術を洗脳が解除されたおかげで冷静に問題点を指摘して派閥を割ってしまう。
そして引篭な弟のクロイサスはマイペースに実験して行くが、、
彼の部屋では様々な騒動が起こってるはずなのだが、、、
騒動の後には記憶が無くなっており詳細は全くの不明。
そんなツヴェイトとセレスティーナ兄妹を変貌させたオッサンは、、
ついにマイホームを手に入れる!
場所は、マンドラゴラを栽培している絶叫協会の隣。
でも、オッサンはマイホームを建てたドワーフ達の前で魔法を使って地面の掘削と整地を一瞬で終わられてしまい。
ドワーフ連中から建設の重機に使えるとロックオンされてしまう。
そんなある日。
オッサンは突然、ドワーフ達に拉致られて激流の河川に橋を建設作業に従事。
その橋の建築が早く終わったお陰で隣国との戦争を回避させる事に成功。
でも、オッサンはその事情は知らない。
普段は畑を耕してるオッサン。
その辺に生えてる草を調べてみたら。
米だった。
それに歓喜するオッサンと同じ転生者のイリス(表紙の絵)。
米が手に入るならTKGを食べたい。
そうなるとニワトリを手に入れたいオッサンは。
ニワトリと似たような魔物のコッコを手に入れるのだが。
このコッコ達がとにかく凶暴。
だが、オッサンの配下に入ったおかげで関係者は襲わず大人しくなったが、、、
オッサンに指導を受けてるせいでより強くなってしまう。
そして家族の話になると姉への呪詛を吐いたり。。
あまりにもオッサンが邪悪になったので、オッサンの前では姉の話は禁句になったりもした。
そんな本人は淡々としながらやってる事は派手w
最後はバイクを自作して街道を爆走して変な噂を撒き散らすw
ただ単にブレーキが作動しなくて止まれなくなっただけだけど、、
そして、轢き逃げを。。。
人じゃないよ魔物だよ?
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アラフォー賢者4巻レビュー
考察・解説
イストール魔法学院の再会
『アラフォー賢者の異世界生活日記』における「イストール魔法学院の再会」は、夏季休暇を終えて学院に戻ったツヴェイトおよびセレスティーナと、休暇中も実家に帰らず学院の研究室に引きこもっていた次兄・クロイサスとの間で果たされた重要な出来事である。この再会は、ソリステア公爵家の兄弟関係を大きく変化させると同時に、世界の魔法の真理が共有される重要な場面として描かれている。
1. 書庫での予期せぬ再会とツヴェイトの変貌
クロイサスは借りていた大量の文献を返却するために大図書館(書庫)を訪れた際、偶然ツヴェイトと再会した。
・クロイサスの記憶では、ツヴェイトは「魔法は威力」と豪語する力任せな性格であり、本を広げて勤勉に調べるような人物ではなかった。
・しかし、ゼロスの指導と過酷な実戦を経て精神的に大きく成長していたツヴェイトは、一族の秘宝魔法の効率化という「師からの宿題」を解くため、真剣に魔法式の解読に取り組んでいた。
・その熱心な姿はクロイサスを驚愕させた。
2. 大賢者の存在と欠陥魔法の真実の共有
ツヴェイトはクロイサスに対し、自分とセレスティーナが休暇中に大賢者に師事したという極秘事項を打ち明ける。
・さらに、セレスティーナがこれまで魔法を使えなかったのは彼女が無能だったからではなく、現在世間に流通している魔法式そのものが欠陥品であったためだと真実を語った。
・ゼロスの手によって最適化された魔法を身につけたセレスティーナは、今や実戦経験も積み、クロイサスよりも強くなっているという事実も伝えられた。
3. クロイサスの仮説の証明と兄弟の和解
実はクロイサス自身も、書庫に引きこもって研究を重ねる中で、魔法文字は一文字ずつに意味があるのではなく、繋げることで意味をなす(言葉の連なりである)という、現在の魔法理論を根底から覆す真理に独学で辿り着いていた。
・ツヴェイトの話から大賢者の魔法の仕組みを聞いたことで、自身の仮説が完全に正しかったことが証明され、クロイサスは研究者として強い歓喜と意欲を燃やす。
・同時にツヴェイトは、大賢者の手引きなしに独学でその真理に辿り着いたクロイサスの優秀さを素直に認めた。
・俺はお前の事を過小評価していたようだ、お前は誰よりも魔導士らしい、と彼を高く評価する。
・これまで性格の不一致から互いを毛嫌いし、無関心を貫いていた兄弟が、魔法の深淵に触れたことで初めて互いを認め合った瞬間であった。
4. クロイサスの激しい後悔
再会の最後、ツヴェイトはゼロスから託された「白銀の指輪(ミスリル製の魔法媒体)」をクロイサスに投げ渡した。
・そこに刻まれた常軌を逸した精緻な積層魔法式を見たクロイサスは息を呑む。
・実家に帰らなかったために大賢者の指導を直接受けられなかったことを死ぬほど後悔することになった。
まとめ
「イストール魔法学院の再会」は、ゼロスの存在が間接的に学院の最高知識層へも影響を与え始めたことを示すエピソードである。力に溺れていたツヴェイトの精神的成長と、独学で世界の心理に迫っていたクロイサスの知性が魔法を通じて結びついた。これにより、ソリステア公爵家内の無用な不和が解消されるとともに、異世界の古い魔法体系が刷新されていく新たな潮流の幕開けとなっている。
ソリステア兄妹の成長
『アラフォー賢者の異世界生活日記』におけるソリステア公爵家の兄妹、ツヴェイトとセレスティーナは、大賢者ゼロスの指導と過酷な実戦訓練を経て、技術面だけでなく精神的にも劇的な成長を遂げる。かつては冷え切っていた二人の関係性も、成長の過程で大きく変化した。
1. セレスティーナの成長:「無能」から学院を圧倒する「才女」へ
セレスティーナは妾腹の子であり、世間に流通する魔法式の欠陥によって魔法が使えなかったため、長年「無能」と蔑まれ冷遇されていた。しかし、ゼロスによって魔法式が最適化され魔法が発動できるようになると、彼女の才能は一気に開花する。
・ゼロスによる終わりのないマッドゴーレムとの乱戦や、大深緑地帯での死線を潜る訓練を通じ、小柄な体格を活かした一撃離脱の戦法を身につける。
・同時に、敵の動きを先読みする高い状況判断力や分析力も獲得した。
・ゼロスから強力な破壊魔法の危険性を説かれたことで、戦うためだけではなく、人々の暮らしを豊かにする魔導士になる、という確固たる目標を見出す。
・夏季休暇を終えてイストール魔法学院に戻った彼女は、実技訓練において無詠唱の魔法で対魔法耐性の鎧を粉砕し、周囲を驚愕させて才女として名を馳せることになった。
2. ツヴェイトの成長:傲慢な問題児から覚悟を持つ次期領主へ
ツヴェイトは当初、次期領主としての自尊心が高く粗暴で、魔法が使えない妹を虐め、ルーセリスに強引に言い寄るなど問題行動が目立っていた。
・彼が所属するウィースラー派の過激な思想や、他者から受けていた洗脳魔法の影響もあった。
・しかし、ゼロスの圧倒的な力に敗北し、自身の未熟さや井の中の蛙であったことを痛感したことで彼の態度は一変する。
・大深緑地帯での実戦を経て、少しの油断が死を招く戦場の厳しさを骨の髄まで理解した彼は、学院のぬるい訓練や机上の空論を徹底的に否定するようになった。
・ウィースラー派の論議会では、自軍が圧倒的不利な状況や民の避難を想定した現実的な戦術論を展開し、増長する派閥のメンバーたちを正論で完全に論破した。
・さらに、ゼロスの叱咤を受けて自身の過去の過ちと正面から向き合い、セレスティーナに深く頭を下げて謝罪する。
・民の命や財産を守るため、その手を血に染める、という公爵家の跡取りとしての重い責務と覚悟を背負って生きる道を選んだ。
3. 兄妹の和解と飽くなき探求心
過去のわだかまりを解消し、互いの進む道と覚悟を認め合った二人は、不仲だった以前の姿が嘘のように関係を修復した。
・学院に戻った後は、ゼロスから出された「一族の秘宝魔法の効率化と威力強化」という極めて難易度の高い宿題に共同で取り組む。
・彼らは積層魔法陣の複雑な仕組みや魔法式の解読に頭を抱えながらも、ゼロスという遥か高みにいる師の背中を追いかける。
・こうして、未知の魔法の深淵へと力強く歩みを進めていく。
まとめ
ツヴェイトとセレスティーナの成長と和解は、ゼロスという規格外の存在がもたらした最大の功績の一つである。古い因習や歪んだ派閥思想に囚われていた二人が、本物の魔法の深淵と実戦の厳しさに触れたことで、互いを尊重し合える真の魔導士へと脱皮を遂げた。この兄妹の絆の再生は、公爵家の未来を明るく照らすだけでなく、停滞していた異世界の魔法文明を揺るがす新たな原動力となっている。
魔法理論の革新
『アラフォー賢者の異世界生活日記』における「魔法理論の革新」は、失われた旧時代の魔法技術が停滞している世界において、主人公ゼロスの知識と、それに触発されたソリステア家の兄妹たちによってもたらされた重要なテーマである。その革新の具体的な内容と経緯について解説する。
旧来の魔法理論の停滞
この世界では、過去の邪神戦争などで多くの魔法文献が失われた結果、現在の魔導士たちは間違った常識にとらわれていた。
・彼らは、魔法文字(55音と記号10文字)の一文字ずつに意味があり、それをパズルのように並べて魔力を現象に変える、と信じて研究を続けていた。
・しかし、この理論では発動しない不完全な魔法式が生まれやすく、魔法研究は長らく停滞していた。
革新の核心:「言葉」としての魔法式
ゼロスの指導を受けたセレスティーナは、イストール魔法学院の講義において現在の理論を根底から覆す問題提起を行う。
・彼女は、魔法文字は一文字ずつ意味を持つのではなく、文字を連ねて言葉(命令文)を形成し、魔力を変質させるものである、と主張した。
・さらに、学院主席で天才と称される次兄・クロイサスも、研究室に引きこもって独自に研究を重ねた結果、全く同じ、魔法文字は言葉の連なりである、という真理に辿り着いていた。
・その後、クロイサスはツヴェイトが言語解読のために辞書を漁っていると聞いたことで、自身の仮説が完全に正しかったことを確信し、研究への意欲を爆発させる。
画期的なシステム「積層魔法陣」
ゼロスが弟子たちに見せた高度な技術が「積層魔法陣」である。
・従来の魔法陣は平面に大きく描く必要があったが、積層魔法陣は複数の命令系統を分割し、上下に重ね合わせて統合処理する立体的な形式をとる。
・これにより魔法式を非常にコンパクトにまとめることができ、魔導士が潜在意識領域に記憶できる魔法の数を飛躍的に増やすことができる。
・ただし、各魔法式の噛み合わせの調整が極めて難しく、少しでもズレが生じると魔法式同士が相殺し合って何も起こらなくなる魔法式崩壊現象を引き起こすという難易度の高さがある。
常識外れの極致「01式新魔法(機械言語)」
ゼロスたち「殲滅者」が生み出した広範囲殲滅魔法などは、さらに次元の違う革新であった。
・彼らは数字を表す文字を使い、機械言語(0と1のプログラム)で魔法を構築した。
・この魔法式は人間の脳では処理しきれないほど膨大かつ高密度である。
・そのため、ゼロスは、処理プログラム自体を魔法式の中に内包させ、魔法式弾として撃ち込んで目標地点で外部処理させる、という方法をとる。
・この世界の常識を完全に無視した方法を用いることで、絶大な破壊力を生み出している。
まとめ
これらの革新的な理論は、無駄な魔力消費を強いていた従来の欠陥魔法を過去のものにし、真理に触れた若い魔導士たち(セレスティーナ、ツヴェイト、クロイサス)を通じて、腐敗し停滞していた魔法学の世界に大きな変革の波を起こしていくこととなる。
学院内の派閥争い
『アラフォー賢者の異世界生活日記』におけるイストール魔法学院の「派閥争い」は、単なる学生同士の意見の対立にとどまらず、魔法貴族たちの権力闘争(代理戦争)として描かれている。その詳細と経緯について以下に解説する。
1. 派閥争いの概要と主要な派閥
かつて魔導士の派閥は、危険な破壊魔法の使用を防ぐための安全装置として機能していたが、時代とともに権力や功績を求める組織へと変質してしまった。学院は、貴族たちが自身の権威を拡大するために子供たちを操る陰謀の舞台となっている。
学院内には、主に以下の代表的な派閥が存在する。
・ウィースラー派:実戦を主軸とし、魔法による国家防衛や戦術を研究する派閥である。しかし近年は魔導士至上主義に陥り、権力志向に取り憑かれ、裏組織「ヒュドラ」と関わりを持つなど暴走傾向にあり、騎士団とは激しく対立している。
・サンジェルマン派:研究第一の理論派魔導士を輩出する派閥である。魔法研究こそが派閥の存在意義であり、他派閥の権力争いには関与せず中立を保っている。
・ソリステア派:魔導士団と騎士団の融合を提唱し、クレストン前公爵が立ち上げた新興派閥である。表向きは弱小であるが、現当主デルサシスが率いるソリステア商会の莫大な資本力に支えられており、経済面で他派閥を圧倒している。
2. 派閥の腐敗と学生への影響
各派閥は、魔導士が作成した魔法スクロールや魔法薬の売り上げの6割を回収することで組織の資金源としている。
・派閥に所属しなければ研究すら許されず、真面目な魔導士が困窮する一方で、トップの貴族たちは集めた資金を賄賂などに使い、自らの権力を強めていた。
・また、多感な学生たちにも派閥の枠組みが押し付けられ、異なる派閥の生徒を冷遇し、同門であれば依怙贔屓するといった腐敗が横行する。
・これが学生たちの精神を歪ませる原因となっていた。
3. ソリステア派による経済的包囲網(派閥潰し)
デルサシスとクレストンは、腐敗して暴走するウィースラー派などの力を削ぐため、経済的な切り崩しを図る。
・彼らはゼロスが最適化した「使用後に魔法式が消去される魔法スクロール」を販売し、既存のスクロール市場の仕組みを破壊して他派閥の資金源を断った。
・さらに、ゼロスのアイデアを基にした冷蔵庫の販売や、ウィースラー派の強力な資金源であったヨクブケーノ伯爵の失脚工作を進め、敵対派閥の資金繰りを徹底的に悪化させる。
・その結果、生活に困窮した魔導士たちが次々とウィースラー派を抜け出し、ソリステア派へ鞍替えする事態となった。
4. ウィースラー派の内部分裂と暗殺計画
ウィースラー侯爵家の次男サムトロールとその仲間ブレマイトは、精神系の血統魔法である洗脳を用いて派閥の学生たちを操り、自らの稚拙な戦術案が通るように誘導していた。
・しかし夏季休暇明け、ゼロスの過酷な訓練で実戦の厳しさを知ったツヴェイトが、ウィースラー派の戦術論議(机上の空論会)において、仲間たちの都合の良い勝利前提の作戦や未完成の広範囲殲滅魔法への依存を正論で完全に論破する。
・この論破による精神的衝撃によって学生たちの洗脳が解け、正気に戻った彼らは一斉にサムトロールに牙を剥いた。
・これにより、ウィースラー派はツヴェイトの現実論派とサムトロールの夢想論派に分裂し、組織は崩壊の危機に陥る。
・追い詰められたサムトロールらは、形勢を逆転させるために実戦訓練に乗じてツヴェイトを事故死に見せかけて暗殺しようと企て、裏組織であるヒュドラに刺客を依頼するという凶行に及ぶこととなった。
まとめ
イストール魔法学院における派閥争いは、単なる机上の学問的対立を超え、国家の経済や治安をも揺るがす大規模な権力闘争へと発展している。ゼロスの持ち込んだ画期的な技術と、過酷な訓練によるツヴェイトの精神的成長は、結果として旧態依然とした派閥の経済基盤と欺瞞の戦術論を内側から崩壊させた。この腐敗した旧体制の瓦解と、それに伴う利害関係者の過激な暴走は、物語に一層のシリアスさと緊張感をもたらす重要な背景となっている。
ゼロスの土木作業
『アラフォー賢者の異世界生活日記』におけるゼロスの「土木作業」は、彼が望む平穏なスローライフとは裏腹に、その規格外の魔法能力によってインフラ整備や国家間の防衛問題にまで影響を与えてしまう、本作のコミカルかつ重要なエピソードである。その詳細について以下に解説する。
1. 自宅の地下室作りとスカウト
事の発端は、元公爵クレストンから褒美として与えられた新居の建築である。この工事を請け負ったのは、腕利きだが血の気が多く、仕事に一切の妥協を許さないドワーフの職人集団「ハンバ土木工業」であった。
・ゼロスは物置用の地下室を希望し、自らの魔法で基礎工事を行うことを提案する。
・大地操作魔法「ガイア・コントロール」で土を掘り進め、土を圧縮して岩盤化する「ロック・フォーミング」を駆使して、アーチ式の天井を持つ強固な地下室を瞬く間に構築した。
・さらに周囲の土地の水捌けを考慮した整地まで一瞬で終わらせる。
・ゼロスの正確で広範囲な作業に棟梁のナグリは驚嘆し、彼を汎用型万能重機のような優秀な臨時職人としてスカウトした。
2. オーラス大河の難工事と新魔法である礎構築
その後、ゼロスは有無を言わさずオーラス大河の橋架け工事の現場へと連行される。この現場はヨクブケーノ伯爵が独断で推し進めたもので、激流のため基礎工事ができず、他の業者が匙を投げた難所であった。
・ゼロスは現代の知識を活かし、激流の圧力を分散させるため、橋脚を楕円形にして側面に凹凸をつけるという水流攪拌の設計変更を提案した。
・さらに、水流を遮る「白銀の神壁」の二重展開と、ガイア・コントロール、ロック・フォーミングの三つの魔法を同時に並行運用する。
・この極めて難易度の高い複合魔法「礎構築」を開発し、激流の中に強固な橋脚を立てるという離れ業を成し遂げた。
3. 踊る土木作業員と過酷な現場
ドワーフたちは重度の仕事中毒であり、ゼロスが橋脚を立てると、テンションを最高潮に上げ、狂ったように踊りながら一糸乱れぬチームワークで土台を構築し始める。
・ゼロスも場の空気に飲まれ、有名人の物真似をしながらノリノリで踊りつつ魔法を行使することになり、現場は一大エンターテインメントの舞台と化した。
・また、ゼロスは橋の柱に趣味でロボットや超時空の要塞艦などの奇妙な彫刻を施したが、職人気質のドワーフたちからダメ出しを受ける。
・結果として、魔力切れで倒れるまで手直しを強要されるという過酷な目にも遭っている。
4. 土木革命と他国への影響
ゼロスが提供したガイア・コントロールなどの土木魔法は、ソリステア商会を通じて「使用後に魔法式が消去されるスクロール」として販売され、ドワーフたちに導入された。これにより、重機のない異世界で工期の大幅短縮や人員削減が可能となり、インフラ整備に「土木革命」を引き起こした。
・さらに、ゼロスが橋の工事の際に上流に設置した水流攪拌用の柱と完成した橋は、偶然にも川を下って奇襲を狙っていた他国の侵攻ルートを完全に物理封鎖する天然の要塞として機能してしまう。
・敵国のスパイはこれを見て、ソリステア王国には繁栄と敵の殲滅を同時に想定できる恐るべき策士がいる、と深読みして震え上がった。
・結果的におっさんの土木作業が戦争を未然に防ぐという国家規模の影響を与えた。
まとめ
ゼロスの行う土木作業は、現代の建築知識とゲーム時代のチート魔法が融合した結果、異世界のインフラ水準を数百年単位で進歩させる土木革命となった。本人はただ手伝わされているだけのつもりであったが、ドワーフたちの職人魂を刺激して現場を熱狂させ、さらには無自覚な防衛拠点の構築によって国防の要を担ってしまうなど、おっさんの規格外な影響力がコミカルかつ壮大に描かれたエピソードである。
邪神石と異形の魔物
『アラフォー賢者の異世界生活日記』において、人間の欲望と狂気が生み出した最悪の脅威である「邪神石」と、それによって生み出された「異形の魔物」について解説する。
1. 邪神石の正体と恐るべき代償
邪神石とは、かつてゼロスたちがゲーム内で倒したラスボス「邪神」の体の一部が、長い時間を経て石化したものである。
・魔力を流し込むと使用者に強大な力を与えるが、代償として異常な空腹感に苛まれる。
・やがて理性を完全に失った異形の魔物へと変貌してしまう。
・一度変化すると二度と元の姿に戻ることはできず、ただ捕食するだけの存在に成り果ててしまう。
・また、ゼロスがインベントリーに所持していた邪神魂魄に赤く光って反応するという特性を持っている。
2. アミュレットによる人体実験と村の惨劇
事の発端は、サントールの酒場でクリスティンに絡んでいた低ランクの傭兵たちが、黒衣の魔導士から「力を与えるアミュレット」として邪神石を受け取ったことであった。
・彼らは知らぬ間に人体実験の被験者にされ、魔物を討伐した直後に強烈な飢餓感に襲われる。
・空腹に耐えきれず、魔物の死骸を解体もせずに生肉や骨ごと貪り食って取り込んでしまった。
・その結果、全身の筋肉が膨張し剛毛に覆われた異形の獣へと変貌する。
・完全に理性を失った彼らは近くの村を襲撃し、二百人近い村人を食い殺すという凄惨な事件を引き起こした。
3. 痛覚の欠如と異常な再生・適応能力
魔物と化した傭兵たちは、痛覚を持たず、受けた傷を瞬時に塞ぐ驚異的な再生能力を持っている。
・しかし、その超速再生には莫大な栄養が必要となるため、彼らは常に激しい飢えと栄養欠乏に苦しみ、目に映る動くものを手当たり次第に捕食し続ける。
・オーラス大河の橋の建設現場に現れた際は、ドワーフたちの魔法によって地面ごと下半身を石化して捕縛されたが、自らの下半身を力任せに引きちぎって脱出した。
・さらに、失った部位から即座に蜘蛛のような脚や蛇のような触手を生やすなど、状況に適応して不気味な進化を遂げる姿を見せた。
4. 共食いによる巨大化と老魔導士の知識の悪用
森の奥では、飢えに耐えかねた二体の魔物が互いの肉や内臓を引きちぎりながら共食いを始めた。勝った一体は同族を喰らい尽くして力を取り込み、二回り以上も巨大化するという進化を果たす。
・その姿は、上半身が人で下半身がイヌ科、背中に昆虫の足を持ち、頭部は目がないワニのような形状というおぞましいものであった。
・最も恐ろしいのは、腹部に食い殺した村人や子供たちの苦悶の顔が無数に浮かび上がっていた点である。
・さらに、村を襲った際に老魔導士を喰っていたため、その脳内にあった魔法式を取り込み、獣でありながら魔法障壁や範囲魔法まで使いこなすという絶望的な戦闘力を獲得していた。
・最終的には、ゼロスの複合殲滅魔法によって空中で塵一つ残さず炭化・粉砕され、その残骸から邪神石が回収された。
5. 黒衣の魔導士の陰謀
このおぞましい人体実験の裏で糸を引いていたのは、貧困に喘ぎソリステア魔法王国への侵略を企む上流の小国の諜報員と、それに協力する黒衣の魔導士であった。
・彼らは邪神石による魔物化が自国の軍事利用には危険すぎると判断したものの、計画を中止することはしなかった。
・黒衣の魔導士は、邪神石を粉末にして威力を弱めた上で裏組織であるヒュドラに流す。
・敵国であるソリステア王国にばら撒いて社会不適合者を魔物化させ、内部から混乱と自滅を狙うという極めて非道な計画へとシフトしていくことになった。
まとめ
邪神石とそれによって生み出される魔物は、個人の尊厳を破壊するだけでなく、国家の安全をも根底から揺るがす最悪の大量兵器として描かれている。ゼロスの圧倒的な魔法によって脅威は一時的に排除されたものの、これを巡る国際的な陰謀や裏組織の暗躍は終わっていない。人間の尽きない欲望がもたらす悲劇の象徴として、この存在は今後の物語における深刻な火種となっている。
米の収穫とニワトリの飼育
『アラフォー賢者の異世界生活日記』において、「米の収穫とニワトリの飼育」は、主人公ゼロスが前世の日本の食文化(特に卵かけご飯=TKG)を異世界で再現しようとする執念と、その結果引き起こされる常識外れの騒動を描いた象徴的なエピソードである。その詳細について解説する。
1. 米(ライスウィード)の発見と収穫
この世界において、米はライスウィードと呼ばれる繁殖力の強い単なる雑草として扱われており、他の作物の成長を阻害するため農民からは真っ先に間引かれる哀れな存在であった。
・偶然足元に生えていたこの草を鑑定したゼロスは、それが極上の味わいを持つ米であると知る。
・失われた米文化(ご飯、酒、味噌、醤油など)を復活させるべく異常なまでのテンションで栽培を決意した。
・ゼロスは畑を区分けして育てた稲を、ウィンド・カッターで刈り倒して収穫し、自作の足踏み式脱穀機を使って養護院の子供たちと一緒に脱穀を行った。
・さらに米の粒の大きさによって用途が異なるため、風力で分別する唐箕(とうみ)を魔導錬成で製作する。
・しかし、魔石を組み込んで自動化した唐箕の試作一号機と二号機は風圧の制御に失敗して暴走した。
・世界で初めて農機具が音速の壁を越えて空の彼方へ飛んでいってしまうという大惨事を引き起こした。
2. ニワトリ(ワイルド・コッコ)との死闘と飼育
米を手に入れたゼロスは、究極のTKGを食べるために新鮮で美味しい卵を求める。目を付けたのは、卵は美味だが非常に凶暴で、最終進化はコカトリスにまで至るという魔物であるワイルド・コッコであった。
・ゼロスが女性傭兵やカエデ(醤油を提供したハイ・エルフ)と共に養鶏農家へ向かうと、そこは地獄絵図と化していた。
・依頼人の農家は全身を打撃でボコボコにされて倒れており、その上にグラップラー・コッコやスラッシュ・コッコ、スナイパー・コッコといった戦闘に特化して異常進化したニワトリたちが君臨していた。
・彼らが反乱を起こした理由は、依頼人が無精卵だけでなく、ヒヨコが生まれる有精卵まで無差別に奪ったことに対する、親としての復讐であった。
・ゼロスは鑑定スキルで有精卵と無精卵の区別がつくため、卵を奪っても恨まれる心配はない。
・彼は拳神のスキルを発動し、グラップラー・コッコと残像が見えるほどの壮絶なドツキ合い(肉弾戦)を日暮れまで繰り広げた。
・全力を出し切って満足して倒れたグラップラー・コッコたちは、ゼロスの圧倒的な強さに感服し、自ら服従を誓った。
3. 最強の自宅警備員とTKGの結末
こうしてゼロスは13羽の凶悪なニワトリを自宅 of の庭で飼うことになる。
・彼らは卵を提供する代わりにゼロスから手ほどきを受け、毎日一糸乱れぬ型稽古に励む。
・それだけでなく、害虫駆除や畑仕事まで自発的に手伝う極めて優秀な護衛(自宅警備員)となった。
・そして、ついに収穫した米とコッコの卵、カエデから得た醤油を使って念願のTKGを作ったゼロスであったが、一口食べて絶望する。
・ワイルド・コッコの卵の味が濃厚すぎて、普通の醤油では旨味が完全に負けてしまっていたのである。
・この結果、ゼロスは究極の卵に合う究極の醤油(と日本酒)を一から作るという、さらに困難な調味料づくりの壁に直面することになった。
まとめ
ゼロスによる米の収穫とニワトリの飼育は、元の世界への郷愁と食への飽くなき探求心が異世界の常識を破壊していく、本作ならではの魅力が詰まったエピソードである。単なるスローライフにとどまらず、農機具を音速で暴走させ、凶暴な魔物と肉弾戦を演じて配下にしてしまうおっさんの規格外な行動力は、異世界に新たな食の開拓をもたらす大きな一歩となっている。
アラフォー賢者2巻レビュー
アラフォー賢者まとめ
アラフォー賢者4巻レビュー
登場キャラクター
転生者・地球の人物
大迫聡(ゼロス・マーリン)
無職のおっさん魔導士であり、平穏な生活を望む転生者である。権力闘争を極端に嫌っている。
・所属組織、地位や役職
無職。元プログラム技術者。
・物語内での具体的な行動や成果
オーラス大河の橋脚基礎工事を手伝い、難所での建設を成功に導いた。唐箕や冷蔵庫などの農機具や魔導具を自作した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ツヴェイトの護衛として実戦訓練に参加する依頼を受けた。魔法スクロールの売上金を養護院に寄付した。
入江澄香(イリス)
好奇心旺盛で冒険を求める転生者の少女である。ゼロスを憧れの「殲滅者」として尊敬している。
・所属組織、地位や役職
駆け出しの傭兵。
・物語内での具体的な行動や成果
生活費に困窮し、ゼロスから調合の技術を学んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ゼロスからツヴェイトの護衛任務のサポートを依頼された。
大迫麗美
聡の姉であり、外面だけは良く金遣いが荒い人物である。
・所属組織、地位や役職
聡の姉。
・物語内での具体的な行動や成果
管理人を騙して聡の部屋に侵入し、開発中のプログラムデータを盗み出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ライバル会社の重役と再婚し、盗んだデータを横流しした。
会社の重役達
聡の元の世界のライバル会社の重役などである。
・所属組織、地位や役職
ライバル会社の重役。
・物語内での具体的な行動や成果
麗美が盗んだプログラムを受け取り、先に発表した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
裁判で欠陥が証明され、責任を取らされて解雇された。
ソリステア大公爵家
クレストン
ソリステア大公爵家の元当主であり、孫娘のセレスティーナを溺愛している。
・所属組織、地位や役職
ソリステア大公爵家・前当主。ソリステア派創設者。
・物語内での具体的な行動や成果
デルサシスと共にソリステア派の影響力拡大と、敵対派閥の資金源を断つ工作を進めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ゼロスが改良した魔法スクロールの販売を通じて、派閥の権威を高めた。
デルサシス・ヴァン・ソリステア
ソリステア大公爵家の現当主であり、優秀な領主である。妻や愛人を大切にするスケコマシでもある。
・所属組織、地位や役職
ソリステア公爵領・領主。ソリステア商会会長。
・物語内での具体的な行動や成果
ソリステア商会を通じて、ゼロスの魔法スクロールや調味料を販売した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ゼロスにツヴェイトの護衛を依頼した。
ツヴェイト・ヴァン・ソリステア
ソリステア公爵家の長子であり、粗暴だが根は真面目な青年である。
・所属組織、地位や役職
イストール魔法学院高等部の生徒。ウィースラー派所属。
・物語内での具体的な行動や成果
過去の仕打ちをセレスティーナに謝罪し、民を守るための道を歩む覚悟を決めた。ウィースラー派の論議会で正論を展開し、派閥内に分裂を引き起こした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
サムトロールから恨みを買い、暗殺の標的とされた。
セレスティーナ・ヴァン・ソリステア
ソリステア公爵家の娘であり、魔法の才能を開花させた少女である。
・所属組織、地位や役職
イストール魔法学院の生徒。
・物語内での具体的な行動や成果
学院の講義で現在の魔法理論を根底から覆す問題提起を行った。ツヴェイトと共に秘宝魔法の最適化に取り組んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
学院で圧倒的な魔法の威力を披露し、「才女」と呼ばれるようになった。
クロイサス・ヴァン・ソリステア
ソリステア公爵家の次男であり、魔法研究に没頭する天才魔導士である。
・所属組織、地位や役職
イストール魔法学院主席。サンジェルマン派所属。
・物語内での具体的な行動や成果
独学で魔法文字が言葉の連なりであるという真理に辿り着いた。ツヴェイトからゼロス作の魔法媒体の指輪を受け取った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
実家に帰らなかったことで大賢者の指導を受け損ね、激しく後悔した。
ミスカ
セレスティーナの専属使用人であり、クールで人を食った性格のメイドである。
・所属組織、地位や役職
ソリステア公爵家のメイド。
・物語内での具体的な行動や成果
船酔いしたツヴェイトを放置して菓子を堪能した。セレスティーナをからかいながらも、彼女の成長を微笑ましく見守った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
旦那様と渡り合えるほどの実力を持つと自負している。
ダンディス
ソリステア公爵家の執事であり、紳士的なナイスミドルである。
・所属組織、地位や役職
ソリステア公爵家の執事。
・物語内での具体的な行動や成果
ゼロスを領主邸へ案内し、正装で赴くよう助言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
護衛の騎士たち
ソリステア公爵家の騎士であり、大深緑地帯での訓練を経て精悍な戦士へと変貌した。
・所属組織、地位や役職
ソリステア公爵家騎士団。
・物語内での具体的な行動や成果
実戦訓練の帰り道で発見した盗賊のアジトを制圧した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
イストール魔法学院
キャロスティー・ルド・サンジェルマン
サンジェルマン派の筆頭であり、魔法研究に強い意欲を持つ侯爵家の息女である。
・所属組織、地位や役職
イストール魔法学院の生徒。サンジェルマン派筆頭。
・物語内での具体的な行動や成果
セレスティーナに魔法が使えるようになった理由を尋ねた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
サムトロール・イヴァ・ウィースラー
ウィースラー侯爵家の次男であり、権力志向が強く好戦的な青年である。
・所属組織、地位や役職
イストール魔法学院の生徒。ウィースラー派所属。
・物語内での具体的な行動や成果
ツヴェイトに論破されて逆恨みし、裏組織「ヒュドラ」に彼の暗殺を依頼した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
実家からも見放されつつある。
ブレマイト
サムトロールの取り巻きであり、精神系の血統魔法を使う魔導士である。
・所属組織、地位や役職
イストール魔法学院の生徒。ウィースラー派所属。
・物語内での具体的な行動や成果
論議会で派閥の生徒たちに洗脳魔法をかけ、サムトロールの意見を通るように誘導していた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ツヴェイトの論破によって洗脳魔法の効果が破られた。
ディーオ
ツヴェイトの親友であり、自主鍛錬を行う学院生である。
・所属組織、地位や役職
イストール魔法学院の生徒。ウィースラー派所属。
・物語内での具体的な行動や成果
セレスティーナに一目惚れし、ツヴェイトに紹介を頼んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
イー・リン
クロイサスの同期であり、獣人族の血を引く実力者である。
・所属組織、地位や役職
イストール魔法学院の生徒。サンジェルマン派所属。
・物語内での具体的な行動や成果
クロイサスにセレスティーナが強力な魔導士になったことを伝えた。クロイサスの本の返却を手伝った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
クロイサスと恋仲であるという噂が流れた。
セリナ
クロイサスの同期の学院生である。
・所属組織、地位や役職
イストール魔法学院の生徒。サンジェルマン派所属。
・物語内での具体的な行動や成果
クロイサスとイー・リンの揉み合いを目撃し、二人の関係を勘違いした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
変な噂を流した罰として昼食を奢らされた。
マカロフ
クロイサスの同期の学院生である。
・所属組織、地位や役職
イストール魔法学院の生徒。サンジェルマン派所属。
・物語内での具体的な行動や成果
セリナと共にクロイサスたちの現場を目撃し、盛大な勘違いをした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
噂を流した罰として昼食を奢らされた。
サマス講師
ウィースラー派に所属する魔法講師である。
・所属組織、地位や役職
イストール魔法学院の講師。
・物語内での具体的な行動や成果
セレスティーナからの魔法文字に関する問題提起を受け、従来の理論が覆ることに不安を覚えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
バーバン講師
ウィースラー派に所属する、筋肉質な魔法講師である。
・所属組織、地位や役職
イストール魔法学院の講師。
・物語内での具体的な行動や成果
実戦訓練を前に、学院生たちに格闘戦の基礎をみっちりと叩き込んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
学院生達
イストール魔法学院で学ぶ生徒たちである。
・所属組織、地位や役職
イストール魔法学院の生徒。
・物語内での具体的な行動や成果
セレスティーナの魔法の威力を目の当たりにして驚愕した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
講師陣
イストール魔法学院で魔法を教える教員たちである。
・所属組織、地位や役職
イストール魔法学院の講師。
・物語内での具体的な行動や成果
セレスティーナの実力が講師を上回ったため、彼女の扱いに困った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
教会・養護院
ルーセリス
旧市街の養護院を運営する見習い神官である。心優しく孤児たちを育てている。
・所属組織、地位や役職
四神教の見習い神官。
・物語内での具体的な行動や成果
教会の畑で収穫された野菜で孤児たちの食事を作った。ジャーネが感染症にかかった際、ゼロスからもらった薬を飲ませて看病した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ゼロスに好意を抱いていることを子供たちにからかわれた。
カエデ・ハーフェン
ハイ・エルフの少女であり、剣士を志す好戦的な性格である。
・所属組織、地位や役職
養護院に預けられたハイ・エルフ。
・物語内での具体的な行動や成果
醤油を分けることを条件に、ワイルド・コッコ討伐に同行した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ザンケイ(スラッシュ・コッコ)と互角に打ち合った。
アンジェ
養護院で暮らす赤毛の孤児の少女である。
・所属組織、地位や役職
養護院の子供。
・物語内での具体的な行動や成果
ゼロスが足踏み式脱穀機を使っているのを見て、円筒にしがみついて遊んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
ジョニー
養護院で暮らす孤児の少年である。
・所属組織、地位や役職
養護院の子供。
・物語内での具体的な行動や成果
脱穀機で遊び、ルーセリスに正座させられて説教を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
ラディ
養護院で暮らす孤児の少年である。
・所属組織、地位や役職
養護院の子供。
・物語内での具体的な行動や成果
脱穀機で遊んで目を回し、ルーセリスに怒られた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
カイ
養護院で暮らす孤児の少年である。
・所属組織、地位や役職
養護院の子供。
・物語内での具体的な行動や成果
他の子供たちと共に脱穀機で遊び、説教を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
養護院の子供達
旧市街の養護院で暮らす孤児たちである。逞しく生きているが、柄の悪い言葉を覚えている。
・所属組織、地位や役職
養護院の子供たち。
・物語内での具体的な行動や成果
慈善事業で街の掃除をして小遣いを稼いだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
ハンバ土木工業・土木業者
ナグリ
ハンバ土木工業の棟梁である。仕事に一切の妥協を許さないドワーフの職人である。
・所属組織、地位や役職
ハンバ土木工業の棟梁。
・物語内での具体的な行動や成果
オーラス大河の橋脚基礎工事を請け負い、ゼロスを現場に連行した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ゼロスの作った彫刻にダメ出しをし、手直しを強要した。
ボーリング
ハンバ土木工業の職人で、ナグリの叔父である。
・所属組織、地位や役職
ハンバ土木工業の職人。
・物語内での具体的な行動や成果
橋の建設現場で魔物に襲われ、斧を盾にして致命傷を避けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
ユンボ
ハンバ土木工業の現場責任者である。
・所属組織、地位や役職
ハンバ土木工業の職人。
・物語内での具体的な行動や成果
ナグリが楽しみにしていた鳥肉を食べたため、柱を投げつけられた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
ドワーフ職人達
ハンバ土木工業に所属する職人たちである。仕事熱心で、踊りながら作業を行う。
・所属組織、地位や役職
ハンバ土木工業の作業員。
・物語内での具体的な行動や成果
ゼロスが立てた橋脚の上に魔法で土台を構築し、橋を完成させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
メイガ土木の職人達
ハンバ土木工業と懇意にしている土木業者の職人たちである。
・所属組織、地位や役職
メイガ土木の作業員。
・物語内での具体的な行動や成果
橋の建設現場に助っ人として集まった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
チュブリー土建の職人達
ハンバ土木工業と親交のある土木業者の職人たちである。
・所属組織、地位や役職
チュブリー土建の作業員。
・物語内での具体的な行動や成果
橋の建設作業を手伝いに来た。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
傭兵
ジャーネ
赤髪の長身な女性傭兵である。男勝りだが内面は純情な性格である。
・所属組織、地位や役職
傭兵。
・物語内での具体的な行動や成果
ワイルド・コッコに大剣を折られ、ゼロスに修復してもらった。魔物の攻撃で感染症にかかり、ルーセリスに看病された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ゼロスに下着姿を見られて恥辱を味わった。
レナ
甘栗色のボブカットの女性傭兵である。年下の少年に目がない奔放な性格である。
・所属組織、地位や役職
傭兵。
・物語内での具体的な行動や成果
少年傭兵たちを相手に欲望を満たした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
少年傭兵達
サントールの街などで活動する若い傭兵たちである。
・所属組織、地位や役職
駆け出しの傭兵。
・物語内での具体的な行動や成果
レナに誘われ、やつれた姿で宿から出てきた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
魔物と化した傭兵達
黒衣の魔導士からアミュレットを受け取った四人の傭兵である。
・所属組織、地位や役職
傭兵。
・物語内での具体的な行動や成果
アミュレットの力で凶暴化し、村人を食い殺す異形の魔物に変貌した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
共食いを経て巨大化し、魔法まで使うようになったが、ゼロスに焼き尽くされた。
傭兵達
サントールの街や酒場に集う傭兵たちである。
・所属組織、地位や役職
傭兵。
・物語内での具体的な行動や成果
詐欺鍛冶師に劣悪な武器を売りつけられたことに怒り、工房へ押しかけた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
裏組織・他国の間者・犯罪者
黒衣の魔導士
人体実験を行う危険な闇魔導士である。
・所属組織、地位や役職
闇魔導士。
・物語内での具体的な行動や成果
傭兵たちに邪神石のアミュレットを渡し、魔物化する様子を観察した。ゼロスと遭遇して剣と魔法で打ち合い、爆発に乗じて逃走した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
シャランラ
裏社会の頭目の愛人である女性暗殺者である。
・所属組織、地位や役職
裏組織「ヒュドラ」の構成員。
・物語内での具体的な行動や成果
闇商人を暗殺して首飾りを奪った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
欲しい物を買ってもらう条件でツヴェイトの暗殺依頼を引き受けた。
裏社会の頭目
紫のスーツを着た裏組織の頭目である。
・所属組織、地位や役職
裏組織「ヒュドラ」の幹部。
・物語内での具体的な行動や成果
サムトロールからツヴェイト暗殺の依頼を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
デルサシスを恐れながらも、責任をサムトロールに押し付けて依頼を受諾した。
闇商人
非合法な品を売り捌いていた商人である。
・所属組織、地位や役職
闇商人。
・物語内での具体的な行動や成果
旧時代のエルフの魔道具を手に入れて喜んでいた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
シャランラに毒針で暗殺された。
禿オヤジ(鍛冶師)
傭兵を騙して劣悪な武器を売りつけていた鍛冶師である。
・所属組織、地位や役職
工房の主。
・物語内での具体的な行動や成果
ミスリルを奪って逃げようとしたが、ゼロスに見つかって一本背負いで気絶させられた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
犯罪組織の関係者と共に捕縛された。
運び屋の男達
鍛冶師に雇われたチンピラ風情の男たちである。
・所属組織、地位や役職
裏組織の末端。
・物語内での具体的な行動や成果
ミスリルを入れた木箱を裏口から運び出そうとしたが、ゼロスの指弾にナイフを弾かれて逃走した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
黒ずくめの男達(監視員)
他国から派遣された諜報員である。
・所属組織、地位や役職
他国の間者。
・物語内での具体的な行動や成果
魔物と化した傭兵を監視していたが、恐れをなして邪香水を撒いて逃走した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
完成した橋を見て、ソリステア王国に恐るべき策士がいると勘違いした。
ガラの悪い男達
酒場に集まる定職に就いていない者たちである。
・所属組織、地位や役職
ならず者。
・物語内での具体的な行動や成果
シャランラに下卑た視線を向けたが、マスターに止められて蒼ざめた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
貴族
ヨクブケーノ伯爵
民から重税を絞り取る悪徳貴族である。
・所属組織、地位や役職
伯爵。
・物語内での具体的な行動や成果
王命を偽造して橋の建設を強要し、工費をウィースラー派へ流していた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
デルサシスの工作により、近いうちに更迭される予定である。
マーシナー
ヨクブケーノ伯爵の弟であり、民からの支持が高い人物である。
・所属組織、地位や役職
騎士団所属。
・物語内での具体的な行動や成果
ウィースラー派の動きを危険視している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
デルサシスの支援で次の伯爵になる予定である。
ワイルド・コッコ
ウーケイ(グラップラー・コッコ)
格闘戦に特化した異常進化を遂げたニワトリである。
・所属組織、地位や役職
ゼロスの家の護衛兼畑仕事の手伝い。
・物語内での具体的な行動や成果
ゼロスと激しい拳の応酬を繰り広げ、敗北して服従を誓った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
名前を与えられたことで更に強くなった。
ザンケイ(スラッシュ・コッコ)
斬撃を得意とし、嘴に楊枝を加えたニワトリである。
・所属組織、地位や役職
ゼロスの家の護衛兼畑仕事の手伝い。
・物語内での具体的な行動や成果
カエデと互角の打ち合いを演じた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
名前を与えられて忠誠度が上がり、カエデの良きライバルとなった。
センケイ(スナイパー・コッコ)
狙撃に特化したニワトリである。
・所属組織、地位や役職
ゼロスの家の護衛兼畑仕事の手伝い。
・物語内での具体的な行動や成果
ゼロスの家で他のニワトリたちのまとめ役を担っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
名前を与えられて強くなった。
シロオビ・コッコ
上位三羽の弟子のような存在のニワトリである。
・所属組織、地位や役職
ゼロスの家の護衛。
・物語内での具体的な行動や成果
強くなるために庭で型稽古を行っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
アーチャー・コッコ
遠距離攻撃を得意とするニワトリである。
・所属組織、地位や役職
ゼロスの家の護衛。
・物語内での具体的な行動や成果
なぜか接近戦の技術も学ぼうと型稽古をしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
ケンドー・コッコ
剣術のような動きをするニワトリである。
・所属組織、地位や役職
ゼロスの家の護衛。
・物語内での具体的な行動や成果
強者に従う習性から、ゼロスの家で日夜鍛錬を続けている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
アラフォー賢者2巻レビュー
アラフォー賢者まとめ
アラフォー賢者4巻レビュー
展開まとめ
プロローグ イストール魔法学院への航路
船上の帰路とミスカの正体不明な威圧感
オーラス大河の商船
オーラス大河を一艘の商船が下流の街へ向けて進んでいた。船には商人だけでなく、イストール魔法学院の制服を着た生徒たちも乗っており、長い休暇の終わりを憂鬱に思う者や、学院で友人と再会することを楽しみにする者がいた。二ヶ月の帰省で成果を得た者もいれば、何も得られなかった者もおり、その違いは学院での講義によって明らかになるはずであった。
ソリステア家の兄妹
甲板には、ツヴェイト・ヴァン・ソリステアとセレスティーナ・ヴァン・ソリステアの兄妹がいた。二人は四大公爵家の一つであるソリステア家の子供であり、【煉獄の魔導士】の孫であった。次兄のクロイサスは休暇中も学院に残って研究に没頭し、一度も実家に戻らなかったため、母親が拗ねてしまい、デルサシスが対応に苦労したらしい。
幻想的なサークテゥーレス
初秋の季節に咲く【サークテゥーレス】の白い花弁が、風に流されてオーラス大河へ雪のように舞い落ちていた。その幻想的な光景を見て、セレスティーナは素直に綺麗だと口にした。彼女の純粋な笑みは周囲の少年たちを惹きつけ、頬を染めて目を逸らさせるほどであった。
船酔いのツヴェイト
一方で、ツヴェイトは船酔いに苦しみ、船の端に寄り掛かっていた。普段の凛々しさは消え、港はまだか、もう駄目かもしれないと弱音を吐いていた。船酔いに苦しむ生徒は他にもおり、美しい景色を台無しにしているとして、観光目的の乗客たちから白い目を向けられていた。
戻らないミスカ
ツヴェイトは、酔い止めの薬を取りに行ったミスカが一時間近く戻らないことに不満を漏らした。セレスティーナも不審に思ったが、ミスカなら嫌がらせをしないとは言い切れなかった。ミスカは涼しい顔で嫌がらせを行う大人気ない人物であり、二人は彼女の性格をよく知っていた。
背後のミスカ
セレスティーナが言いよどんだ直後、ミスカはいつの間にか背後に現れた。青い髪のショートカットに眼鏡をかけたクールな美女であるが、気配を微塵も感じさせずに忍び寄る人物であった。彼女は、船倉へ行く途中で行商人から珍しい菓子を手に入れ、その味を堪能していたため遅れたと平然と語った。
酔い止めの正論
ツヴェイトはミスカが自分の苦しむ姿を見たかったのではないかと疑った。ミスカは、酔い止めは船に乗る前に飲むものであり、酔ってから飲んでも手遅れだと正論を返した。今から飲んでも効果が出る頃には港へ着くと告げ、注意書きを読むべきだと冷静に突き放した。
情けない次期当主
ミスカは、船に乗っただけで情けない姿を晒すツヴェイトを、ソリステア公爵家の次期当主として先が思いやられると評した。セレスティーナは、使用人であるはずのミスカがなぜそこまで偉そうに振る舞えるのか疑問をぶつけた。ミスカは、自分が誰よりも偉いからだと答え、旦那様とだけは渡り合えるが、いずれ決着をつけるつもりだと語った。
九十九の秘密
セレスティーナは、ミスカの正体やデルサシスとの関係、公爵夫人たちが彼女を恐れる理由を尋ねた。ミスカは、自分は九十九の秘密と九のバストを持つ者であり、簡単に秘密を明かすことはないと返した。セレスティーナがその胸の数字を疑いかけると、ミスカは殴ろうとし、セレスティーナは慌てて謝った。
地獄を運ぶ船
船は静かに流れ続けていたが、甲板の兄妹の周囲は、美しい景色とは裏腹にグダグダな空気に包まれていた。ツヴェイトは船酔いで地獄を見ており、セレスティーナはミスカの正体不明な態度と威圧感に振り回されていた。こうして船は、色々な意味で苦難を抱えたソリステア家の兄妹を乗せて進んでいった。
第一話 おっさんのいない日常
イストール魔法学院への帰還とセレスティーナの実力披露
名門学院の内情
イストール魔法学院は、三百年の歴史を持つ魔導士育成機関であり、広大な敷地内には研究機関や学院生の生活を支える街まで存在していた。多くの者が入学を望む名門であったが、内部では貴族派閥の権力争いが激しく、学院生の対立も実質的には魔法貴族たちの代理戦争に近いものになっていた。派閥に属すれば揉め事に巻き込まれやすく、一般学院生にとっても迷惑な環境であった。
学院へ戻る憂鬱
セレスティーナは馬車から荷物を下ろしながら、学院で自分が学ぶことなどあるのかと憂鬱になっていた。この二ヶ月で魔法を使えるようになり、魔法式の解読や改良も多少できるようになったため、学院の講義が物足りなく感じられた。ミスカは友人を作り、学院生として青春を謳歌することも学院でしかできないことだと語ったが、セレスティーナは未練を残しながらも覚悟を決めた。
寮での侮蔑
セレスティーナが寮へ戻ると、学院生たちは彼女を無能者と嘲った。彼女は公爵家のコネで学院にいる、魔法が使えない者だと思われており、愛人の子という出自まで侮蔑の材料にされていた。以前の彼女はその声に苦しみ、書庫にひきこもって魔法を使える方法を探していたが、今のセレスティーナはすでに魔法を使え、実戦を経て学院生を大きく突き放す力を得ていた。
師の名に恥じない決意
ミスカは、周囲の学院生が今のセレスティーナを知らないだけだと励ました。セレスティーナは、二ヶ月前の自分がよくこのような場所にいられたものだと振り返り、不快感を覚えつつも、ゼロスの名に恥じない魔導士として学院を卒院すると決意した。その左腕には、ゼロスが作った腕輪の魔法媒体が輝いていた。
変わらない講義の空気
二日後、セレスティーナは決意を胸に講義を受けたが、状況は以前と変わらなかった。周囲からは侮蔑や嫌みの視線が向けられ、講師たちも彼女を見て見ぬふりをしていた。講師陣は、セレスティーナが魔法を使えないにもかかわらず理論面では優秀で、自分たちが答えられない疑問を投げかけるため、彼女を厄介な存在として扱っていた。
魔法文字への疑問
セレスティーナは講義を聞きながら、魔法文字を一つひとつ意味のあるものとして捉える現在の理論は誤りではないかと考えた。ゼロスから学んだ知識により、魔法文字は文字を連ねて魔力へ命令を与える言葉を作るものであり、現在の講義は根本からずれているように思えた。今後の魔導士のためにも、誤った内容を放置してよいのかと考えた彼女は、サマス講師に質問した。
サマス講師への問い
セレスティーナは、魔法文字は一文字ずつ意味を持つのではなく、文字を連ねて言葉を形成し、魔力を変質させる命令文字になるのではないかと問いかけた。サマス講師は、その考えが現在の魔法研究を根底から覆す危険な内容だと理解し、動揺した。もし彼女の仮説が正しければ、これまでの魔法式解読研究は無駄になりかねなかった。
旧時代の魔法への視点
セレスティーナは、自分が魔法を使えなかったからこそ多くの知識を探り、現在の魔法が古き時代の魔法より劣っているのではないかと考えるに至ったと語った。旧時代には多くの民が魔法を使い、生活基盤にも魔法があったとされるのに、今の時代は魔導士の数が限られている。その理由として、研究の過程で古い魔法を誤った形に変質させ、個人差のある不完全な魔法にしてしまった可能性を示した。
魔法が使えるという過去形
サマス講師は、セレスティーナが魔法を使えませんでしたと過去形で言ったことに気付いた。セレスティーナは、この二ヶ月の修練で魔法を使えるようになったと明かした。戦闘訓練、魔力運用訓練、実戦経験を積んだと語ると、サマス講師は短期間で魔法を使えるようになるなどあり得ないと驚いた。
大深緑地帯での実戦
セレスティーナは、食料を魔物に襲われて失い、四日ほど狩りをしながら生き延び、数時間おきに魔物に襲われる状況を経験したと語った。兄や騎士団も一緒だったため確認できると述べたが、その内容は学院生や講師にとって想像を絶するものだった。ファーフラン大深緑地帯での過酷な実戦を思い出したセレスティーナは、戦いは人の心を壊すものだと虚ろな目で語った。
ソリステア派への警戒
サマス講師は、セレスティーナの言葉からソリステア派が魔導士に実戦訓練を施している可能性を考え、冷や汗を流した。実戦派を自称するウィースラー派にとって、騎士団と繋がりを持つソリステア派が台頭すれば、自分たちの存在意義が揺らぐからである。セレスティーナは他派閥に入る気はなく、自分を指導した人物も祖父の知人であり、公表する権限はないと答えた。
蒼ざめる学院生たち
セレスティーナが魔法を使えるようになったと知り、彼女を無能者と侮ってきた学院生たちは蒼ざめた。公爵家の令嬢を聞こえるように馬鹿にしてきた自覚があったからである。一方で、現実を認められない落ちこぼれの学院生たちは、二ヶ月で実力が上がるはずがないと否定していた。セレスティーナにとって、彼らはもはやどうでもよい存在になっていた。
検証されない仮説
講義終了の鐘が鳴り、サマス講師はセレスティーナの仮説を検証してみると口にした。しかし実際には、彼がその仮説を検証することはなかった。魔法文字を言葉として扱うなら、これまでの研究成果を捨て、一から調べ直さなければならない。優秀な成績で卒院したサマス講師は、自分が教わってきた常識を覆す可能性を認めることができなかった。
学院での学び直し
学院には魔法学だけでなく、歴史、文学、数学、薬学など多くの講座があった。セレスティーナは魔法学と物理学を中心に受講し、新学期からは錬金学にも足を運び、講義内容を書き留めて図書館で予習する日々を送った。周囲は彼女に興味や敵意、怯えを込めた視線を向けていた。
落ちこぼれたちの敵意
最底辺学力の学院生たちは、セレスティーナを裏切り者のように見ていた。彼らは魔法が使えない彼女を、自分たちより下の存在として心の支えにしていたためである。セレスティーナが魔法を使えるようになったことで、彼らの歪んだ優越感は崩れ、勝手な敵意を抱くようになった。
魔法発動訓練への失望
魔法発動訓練では、学院生が修練場に集まり、的に向かって初期魔法【ファイアーボール】を撃ち続けることになっていた。目的は魔力消費を体に覚えさせることだったが、実際にはストレス発散の場に近かった。ゼロスの訓練を知るセレスティーナにとっては、ゴーレム相手の訓練の方が心身を鍛えられ、成長の実感もあったため、この訓練は退屈でしかなかった。
魔法媒体への目標
セレスティーナは、この学院に学ぶべきものが少ないと感じながらも、膨大な資料を集める必要があると考えていた。ゼロスから課された物理法則の理解は、魔法の構築に不可欠であり、現象の意味を知ることで魔法発動の理に近づけるからである。ゼロスが作る魔法媒体に強く惹かれていた彼女は、そのためにも知識を深めることを最優先にしていた。
キャロスティーとの再会
修練場で、セレスティーナはキャロスティー・ルド・サンジェルマンに声をかけられた。キャロスティーはサンジェルマン侯爵家の息女であり、魔法研究一派の筆頭に属する少女であった。彼女は嫌みのつもりではなくても、周囲からはセレスティーナに絡んでいるように見える言動をするため、セレスティーナにとって少し苦手な相手であった。
ゴーレム訓練の説明
キャロスティーは、セレスティーナがどのように魔法を使えるようになったのか尋ねた。セレスティーナは、マッドゴーレムを相手に三時間戦い続けたと答えた。さらに、祖父の知り合いである魔導士が【ゴーレム・クリエイト】で作り出したもので、強く統制された動きをする相手だったと説明した。
旅立った師という嘘
キャロスティーは、そのような魔導士にぜひ会いたいと強く興味を示した。セレスティーナはゼロスの存在を明かすわけにはいかず、その人物は旅をしており、夏季休暇が終わると共にまた旅立ったと虚実を交えて答えた。キャロスティーが大賢者の存在を知れば全力で会いに行こうとするため、セレスティーナは師の平穏を守るために話を躱した。
無詠唱の火球
セレスティーナの順番が来ると、彼女は的の前へ進んだ。的はダマスカス鉱とミスリルの複合素材でできた、対魔法耐性を持つ鎧であり、傷をつけるだけでも優秀とされるほど頑丈だった。セレスティーナは無詠唱で掌に小さな火球を生み出し、講師を驚かせた。
砕け散る鎧
小さな火球を見た学院生たちは失笑したが、セレスティーナが発射した火球は超高速で鎧に命中し、高熱で装甲を溶かして貫通した。さらに内側から爆発し、鎧を粉々に吹き飛ばした。圧縮された火球は熱量と破壊力を高め、ゼロスが改良した魔法式とセレスティーナの魔法制御、魔力操作によって、同じ【ファイアーボール】とは思えない威力を発揮していた。
無能者から才女へ
修練場は騒然となった。対魔法耐性を備えた鎧を粉砕したのが、学院で無能者と呼ばれていたセレスティーナだったためである。この日、彼女は学院の才女として名を馳せることになった。しかしセレスティーナにとって、その称号に意味はなかった。彼女が目指すゼロスの背中は、はるか高みにあったからである。
第二話 ツヴェイトの日常
ウィースラー派の論議会とツヴェイトの変化
戦術論議への違和感
ツヴェイト・ヴァン・ソリステアは、大賢者の教え子であり、ソリステア公爵家の長子でもあった。彼は所属するウィースラー派の戦術論議に参加していたが、目の前で交わされる議論が現実からかけ離れていると感じていた。三十人以上いる学院生の多くは実戦経験がなく、戦場への認識も低いため、話し合いは戦略を高め合う場ではなく、他人の揚げ足取りに近いものになっていた。
騎士を呼ぶべき場
ツヴェイトは、集団戦の作戦を論じるなら現場を知る騎士を呼ぶべきだと発言した。ウィースラー派には騎士団を自分たちに従う存在と見る者が多く、その言葉は場の空気を凍らせた。友人のディーオも、騎士たちが魔導士の話を聞くとは思えないと答えたが、ツヴェイトは騎士が動かない作戦を考える意味がないと指摘した。
机上の空論
ツヴェイトは、論議会で扱う戦力想定がいつも都合よく、敵味方の兵力や装備、兵糧数まで互角に設定されていることを問題視した。政事状況や季節、国力差で兵力は変わるため、敵が都合よく動く前提の作戦は無意味だと断じた。この論議会は最初から自分たちが勝つことを前提にしており、仮想敵の動きもその勝利に合わせられているだけだった。
十倍の敵軍
ディーオに敵国の兵力配分を問われたツヴェイトは、隣国で飢饉が起こり、敵が民衆を兵力に加えてソリステアへ奇襲を仕掛け、略奪を始める状況を想定した。敵の戦力比はこちらの十倍であり、ソリステア側は敵の動きを把握できず奇襲を受けるという条件だった。これまで勝てる戦いしか想定してこなかった学院生たちは、その急を要する最悪の状況に作戦を出せなかった。
国を滅ぼさない作戦
ツヴェイトは、ラオス砦に兵力の半数を置いて防衛し、騎士や傭兵で民を避難させながら敵を国内に引き入れ、奪われる食料を焼き払って敵を飢えさせる作戦を示した。それは勝利を狙う作戦ではなく、国を滅亡させないための作戦であった。敵が食料確保のために戦力を分散すれば、各個撃破の余地が生まれ、撤退へ追い込めると考えていた。
前線に出る魔導士
ウィースラー派の学院生は、魔導士が食料を焼き払うために前線へ出ることに反発した。ツヴェイトは、緊急時に騎士団へ油などの物資を持たせる余裕はなく、前線に出られない魔導士は信用されないと告げた。騎士団に魔法を覚えさせればよいという意見には、それでは魔導士団の存在意義がなくなると返した。
実戦経験の凄み
ツヴェイトは、ファーフラン大深緑地帯で食料を失い、四日ものサバイバル生活を送った経験を語った。魔物を倒しても次々に襲われ、見張りを交代しながら群れを迎撃し続ける地獄のような一週間であった。その経験から、必要なのは知識だけではなく、過酷な状況で生き延びる技術だと痛感していた。
魔導士の近接戦
ツヴェイトは、騎士を使い捨ての駒のように見る魔導士に権威を与えることはできないと断じた。魔力を使い切った時や撤退中、補給が滞った時に近接戦闘ができない魔導士は死ぬだけである。彼自身も死にかけたが、知り合いの魔導士が剣で魔物を葬り、斬撃で助けてくれたことを挙げ、魔法だけに頼る危うさを語った。
論破される作戦案
ツヴェイトはこれまで論議されてきた疑似作戦を例に出し、足りない要素を次々と指摘した。正論で容赦なく潰されることで、学院生たちの自信は根本から叩き折られた。激論は三時間続き、ツヴェイトは、戦場で戦う魔導士と魔法を研究する魔導士は分けるべきであり、今のままでは中途半端な魔導士しか育たないと主張した。
広範囲殲滅魔法への否定
ウィースラー派が研究する広範囲殲滅魔法について、ツヴェイトは使い物にならない可能性が高いと判断していた。膨大な魔法式を一人で処理することも、魔力を用意することも現実的ではなく、廃人を量産するだけだと語った。起動できたとしても格が一〇〇〇は必要であり、実戦で誰が使うのかと問い詰めた。
サムトロールとの衝突
サムトロール・イヴァ・ウィースラーは、ツヴェイトの発言を派閥への反逆だと受け取った。ツヴェイトは、それは反逆ではなく国を担う魔導士としての意見であり、ここはサムトロール個人の所有物ではなく、我等の派閥だと返した。さらに、権力に目を奪われて先を見ない者に国の防衛は任せられないと告げ、サムトロールを言葉で圧倒した。
派閥乗っ取りへの焦り
サムトロールは、好戦的な性格と家の権力を笠に着た態度で人徳を欠いていた。彼はソリステア公爵家の長男であるツヴェイトを取り込み、派閥の力を強めるつもりだったが、夏季休暇を経たツヴェイトは強力なライバルとして台頭していた。このままでは派閥を乗っ取られると焦りを覚えていた。
解けた洗脳
ツヴェイトが退室した後、サムトロールたちは彼がなぜ元に戻っているのかを話し合った。ブレマイトの血統魔法は、会話に魔力を混ぜて相手の精神を少しずつ掌握する洗脳魔法であり、彼らは数年かけてツヴェイトを操っていた。しかし強い精神的衝撃によって効果が破られ、ブレマイトが再び魔法をかけようとしても、ツヴェイトの魔力に弾かれてしまっていた。
露見への警戒
ブレマイトは、学院内で洗脳魔法を使っていたことが公になれば極刑もあり得るため、しばらく動かない方がよいと忠告した。サムトロールは、支配していた学院生たちまで洗脳が破られて向こうにつくことを恐れたが、下手に動くこともできなくなっていた。悪巧みには亀裂が入り、サムトロールは忌々しげに部屋を出ていった。
ツヴェイトの疑念
寮へ戻る途中、ツヴェイトはブレマイトが論議会の場で何かをしていたとディーオに話した。ブレマイトが話すたびに魔力が自分へ向かってきており、精神系の魔法、つまり洗脳の可能性があると考えていた。サムトロールの案だけが不自然に否定されず受け入れられてきたことを思い返し、ツヴェイトは派閥全体が洗脳されている可能性を疑っていた。
ディーオの恋心
ツヴェイトが師からの宿題に取り組むため寮へ戻ろうとすると、ディーオが気になる娘に声をかけたいと頼んできた。ディーオは連れのメイドが怖いと言い、二人は中等学院生の魔法訓練場へ向かった。そこでツヴェイトは、ディーオの意中の相手が自分の妹セレスティーナであることに気付き、嫌な予感を抱いた。
紹介の懇願
ディーオは、セレスティーナを紹介してほしいとツヴェイトの手を握って頼み込んだ。ツヴェイトは、自分ではなく祖父クレストンに殺される覚悟があるのかと警告した。クレストンはセレスティーナを異常なほど可愛がっており、ディーオが無残な目に遭う未来がツヴェイトには容易に想像できた。
訓練場のセレスティーナ
セレスティーナの順番が回り、彼女は掌に小さくも太陽のように輝く火球を生み出した。周囲の学院生やディーオは、その小ささから才能がないのではと見た。だが次の瞬間、魔法耐性を施された鎧が木っ端微塵に吹き飛び、修練場にいた者たちは口を開けたまま固まった。
ファイアーの応用
ディーオは、あれが【ファイアーボール】なのかと驚いた。ツヴェイトは、あれは【ファイアーボール】ではなく、ただの【ファイアー】を掌で圧縮して撃ち出したものだと説明した。【ファイアーボール】は【ファイアー】を球状にする魔法式を加えたものに過ぎず、炎を自力で圧縮できるなら、より高い威力で再現できるという理屈であった。
燃え上がるディーオ
ディーオは、セレスティーナの実力を見て自分が教えられることはないと呆然としたが、すぐに彼女を天使や女神のようだと称えた。彼はセレスティーナに相応しい男になると燃え上がった。ツヴェイトは、祖父に焼かれる親友の未来を想像し、ディーオの命の炎が風前の灯火であることを案じた。
恋心による解呪
ディーオは、セレスティーナへの強い想いによってブレマイトの洗脳効果が解けた。本人はその危険に気付かず、ただセレスティーナへの憧れと決意を燃やしていた。思いの力は、洗脳を破るほど凄まじいものだった。
第三話 クロイサスの日常
クロイサスの魔法式研究と兄弟の再認識
研究に埋もれるクロイサス
クロイサス・ヴァン・ソリステアは、ソリステア公爵家の次男であり、魔法学院主席として天才魔導士と呼ばれていた。家督争いには興味がなく、実家の騒動も周囲が勝手に騒いでいるだけだと見ていた。彼にとって重要なのは魔法研究であり、知識を求め続けることこそが生き甲斐であった。
冷めた家族評価
クロイサスは家族に対しても冷めた見方をしていた。父デルサシスは有能だが女癖が悪く、母は親馬鹿でしつこく、兄ツヴェイトはここ数年で愚かになったと見ていた。祖父クレストンは尊敬できるが、魔法の使えないセレスティーナを可愛がっている点は減点対象であり、クロイサス自身はセレスティーナにほとんど関心を持っていなかった。
魔法式への独自仮説
クロイサスは、学院で教えられている魔法文字や魔法式の解釈に疑問を抱いていた。彼は、魔法文字一つひとつに意味があるのではなく、文字を繋げることで意味を成すのではないかと考えていた。発動しない魔法式と正常に発動する魔法式を比較し、共通する文字列や違和感のある箇所を調べた結果、魔法式は何代も前に改変された可能性に辿り着いた。
未発表の論文
クロイサスは、旧時代の完成された魔法を後世の魔導士たちが破壊したのではないかと推論し、魔法文字は物理法則や命令を言葉として表すものだと考えるようになった。彼は一人で膨大な記録を整理し、論文にまとめた。だが、確固たる証拠にはまだ足りず、派閥争いの激しい現状では研究成果を公表すれば潰されかねないため、世に出すことはできなかった。
研究室のイー・リン
クロイサスが研究に没頭していると、犬耳の少女イー・リンが研究室のソファで眠っていた。彼女はクロイサスの同期であり、同じ派閥に属する研究者であった。人間と獣人族の血を引き、生まれながら高い魔力を持つ実力者でもあったが、クロイサスの部屋に気軽に入り込むほど距離が近かった。
朴念仁のやり取り
クロイサスは、年頃の女性が男の部屋に一人で入るのは感心しないと注意した。イー・リンは、クロイサスなら子供ができても責任を取ってくれると冗談めかして返した。クロイサスは疲れたように溜息を吐き、彼が周囲から人気を集める一方で、恋愛面では朴念仁であることが示されていた。
セレスティーナの噂
イー・リンは、セレスティーナが今では中等学課の成績上位者であり、強力な魔導士になっていると話した。クロイサスは、魔法が使えなかったはずの妹にそんなことができるとは思えず、本を落とすほど驚いた。さらに、セレスティーナがツヴェイトと一緒に書庫で調べものをしていたと聞き、彼の知る兄妹関係とは食い違っていることに違和感を覚えた。
返却すべき本の山
イー・リンは、書庫の係員が借りた本を返してほしいと言っていたことも伝えた。クロイサスが借りた本は、床から天井まで積み上がるほど大量にあり、台車で何度も往復しなければならない量であった。イー・リンは逃げようとしたが、クロイサスに腕を掴まれ、手伝うよう迫られた。
誤解を招く体勢
イー・リンが逃れようとして暴れ、クロイサスも労働力を逃すまいとして掴んだため、二人はもつれ合ってソファに倒れ込んだ。結果として、情事に及ぶかのような体勢で見つめ合う形になった。そこへセリナとマカロフが入ってきて、二人の姿を目撃した。
広がる恋人疑惑
セリナとマカロフは、クロイサスとイー・リンが深い関係になったと盛大に誤解した。二人は必死に否定したが、セリナは大人の女として分かっていると誤解を残し、マカロフも後で詳細を聞かせろと言って去った。翌朝には二人が恋人同士になったという噂が広まり、サンジェルマン派内部では公認の仲として扱われるようになった。
書庫への本返却
五日後、クロイサスは借りた本を返すため、台車を押して学院内の大図書館へ向かった。彼はインドア派であり、外に出ることすら億劫に感じていた。近いうちに行われる上位者の実戦訓練にも参加義務があったが、研究以外に手を煩わされることを嫌う彼は、魔物狩りに出ることを考えるだけで憂鬱になっていた。
書庫のツヴェイト
クロイサスが書庫に入ると、そこにはツヴェイトが本を山積みにして調べものをしていた。クロイサスの記憶では、ツヴェイトは魔法の威力ばかりを重視する人物であり、本を広げて知識を求めるような勤勉な姿とは結びつかなかった。だが実際のツヴェイトは、人に努力を見られたくないだけの真面目な性格であり、クロイサスがそれを知らなかっただけであった。
机上の空論会の停止
クロイサスが声をかけると、ツヴェイトは派閥の戦術論を全て否定した結果、論議会が揉めるようになり、自分は出入り禁止になったと語った。クロイサスは、以前の兄とは違う気安さを感じて戸惑った。さらに、ツヴェイトが秘宝魔法の効率化という宿題に取り組んでいると知り、誰からの課題なのかを尋ねた。
秘匿された師
ツヴェイトは、宿題を出したのは祖父や父ではなく師だと答えた。クロイサスがその人物を尋ねると、ツヴェイトはソリステア公爵家の秘事であり、他言無用だと前置きした。夏季休暇中、クレストンとセレスティーナが賊に襲われ、その窮地を救った無名の魔導士に兄妹が師事したのだと明かした。
大賢者の存在
ツヴェイトは、その無名の魔導士の職業が【大賢者】であると告げた。クロイサスは、それが知られれば王や貴族たちがこぞって取り込もうとするだろうと理解した。ツヴェイトは、その人物は静かに暮らしたいだけであり、国に知られれば下手をすると国が滅びると語った。
欠陥だった魔法式
ツヴェイトは、大賢者が学院の教本にある魔法式を全て書き換えたことを話した。セレスティーナが魔法を使えなかった理由は、魔法式そのものに欠陥があったためであり、本来は誰でも魔法を使えるものらしいと告げた。クロイサスは、自分の仮説が正しかったことを知り、今の魔法式は太古のものより劣っているという結論に納得した。
妹への評価修正
クロイサスは、セレスティーナも魔法式を書き換えることができ、同じ結論へ辿り着いていたと聞いて評価を改めた。彼は、セレスティーナが優秀だったことを認めた。ツヴェイトは、今のセレスティーナはクロイサスより強く、実戦を積んできたと語り、大賢者は理論を実戦で試してきた化け物のような存在だと説明した。
秘宝魔法の難題
ツヴェイトは、秘宝魔法を調べ直した結果、術者への負担が大きく、魔力消費も激しく、威力も安定しないことが分かったと語った。しかも少しでも効率化しようとすると発動しなくなるほど絶妙な魔法式で構築されていた。クロイサスは、ツヴェイトが魔法式を読めるようになっていることに驚き、自分が実家に帰らなかったことを強く後悔した。
言語解読への確信
ツヴェイトが言語解読のために辞書を漁っていると話すと、クロイサスは魔法式の文字が言葉の連なりだったと確信した。彼は、学院理論への違和感から独自に同じ結論に近づいており、自分の未発表論文の仮説が正しいと証明されたことで大きく意欲を高めた。ツヴェイトは、師の指導なしにそこへ辿り着いたクロイサスを素直に評価した。
広範囲殲滅魔法の真理
ツヴェイトは、クロイサスが大賢者と同類であり、行き着く先で危険なものを作りかねないと忠告した。広範囲殲滅魔法は人が使えるものではないと考えるクロイサスだったが、自然界の魔力を利用するという考えに触れ、答えの一端を掴んだ。ツヴェイトは解読方法を知りたいかと尋ねたが、クロイサスはここまで来れば独学で最後まで進めると答えた。
白銀の指輪
ツヴェイトは、大賢者からクロイサスへ渡された白銀の指輪を投げ渡した。それは杖の代わりになる金属の魔法媒体であり、表面には精緻な魔法式が刻まれていた。クロイサスはミスリル製の媒体に強い興味を示し、使い心地をレポートにまとめてクレストン宛に送ると約束した。
本返却の重労働
ツヴェイトは、借りっぱなしの本を早く返すようクロイサスに告げた。クロイサスは量が多すぎるため手伝いを頼んだが、ツヴェイトは自分のいい加減さが招いたことだとして断った。クロイサスは、これから何度も台車を押して往復しなければならず、気が滅入ることになった。
同棲疑惑への恨み
ツヴェイトは、クロイサスが女と同棲しているという噂を持ち出した。クロイサスは、イー・リンがいつの間にか研究室で寝ているだけだと否定したが、噂は裸で抱き合っていたという形にまで膨らんでいた。噂を流したのがマカロフだと聞くと、クロイサスは暗い笑みを浮かべ、どうしてくれようかと考えた。
変わった弟
クロイサスが本棚の列へ消えていくと、ツヴェイトは彼も変わったと呟いた。以前のクロイサスは誰にも関心を示さず、兄であるツヴェイトすら置物のように扱っていた。しかし今のクロイサスは話している間もツヴェイトから目を離さず、冷たさが薄れていた。
真冬のツヴェイト
ツヴェイトは、クロイサスの変化の理由が女なのかと考え、自分に春は来ないのかと嘆いた。ルーセリスが好みだっただけに、失恋の傷は深かった。彼は怒りの矛先を、洗脳魔法を使ったと思われるブレマイトへ向け、この恨みは必ず晴らすと心に決めた。
第四話 おっさん、アルバイトへ行く
橋脚工事への連行と黒いアミュレットの異変
早すぎた道具製作
ゼロスは鉱山から戻った後、地下に乾燥機付きサイロを作り、さらに冷蔵庫、足踏み式脱穀機、携帯灰皿まで製作していた。既存の魔法式を利用して温度管理もできるようにしたため有頂天になっていたが、肝心の米はまだ収穫できる状態ではなかった。稲は足首ほどの高さまでしか育っておらず、米が手に入るのは数週間先であると気付き、彼は大きな見落としに困惑した。
麴菌探しの決意
米がまだない以上、ゼロスは味噌や醤油、酒に必要な麴菌を探すことにした。酵母菌については養護院でパンを焼いているため育成しやすく、老麵法を試していたが、麴菌は見つかっていなかった。ゼロスは発酵文化を取り戻すため、麴菌探しに出ようとして玄関の扉を開けた。
玄関前のナグリ
玄関の前にはナグリが立っていた。ナグリは、今日から橋脚基礎工事の仕事を頼んでいたはずだとゼロスに告げた。ゼロスは来週からという話を日付未定の予定として受け取っていたが、職人にとって来週とは月曜日を指す感覚であり、両者の間に認識のずれがあった。
強制連行
ゼロスは麴菌を探しに行こうとしたが、ナグリは橋の工事が大仕事だからしっかり働いてもらうと譲らなかった。職人は現場の仕事に妥協せず、ナグリも現場監督としてゼロスを逃がすつもりはなかった。こうしてゼロスは、予定を無視される形で工事現場へ連れて行かれた。
森の奥の傭兵たち
ある森の奥では、四人の傭兵がフォレストグリズリーを討伐していた。彼らは本来さほど腕の良い傭兵ではなかったが、ここ数日でオークの巣やアーマーリザードなど、本来なら達成できない依頼を次々に成功させていた。その理由は、酒場で黒いローブの魔導士から受け取ったアミュレットにあった。
黒いアミュレットの力
傭兵たちは、黒い石をはめ込んだアミュレットに魔力を流すことで、信じられないほどの力を得ていた。しかしその代償として、いくら食べても満たされない強烈な空腹に苛まれるようになっていた。空腹感は日増しに悪化し、彼らの意識を侵食していた。
フォレストグリズリーの死肉
傭兵たちは空腹に耐えきれず、討伐したフォレストグリズリーの死骸に群がった。解体もせず肉を噛み千切り、血をすすり、骨まで噛み砕いて食らい尽くした。だがそれでも飢えは満たされず、彼らの体は急速に異形へと変化し始めた。
人であった獣
傭兵たちの筋肉は膨張し、剛毛が体を覆い、顔には血管が浮かび上がった。もはや人間ではなく、人であった何かへと変わっていた。そのうちの一体は、フォレストグリズリー討伐を依頼した小さな村へ向かい、民家を襲撃した。
村の惨劇
異形となった傭兵たちは、動くものを無差別に襲い、死肉を貪った。二百人近くいた村人の大半は喰い殺され、生き延びたのは二十名足らずであった。彼らを支配していたのは、理性ではなく貪欲な飢えであった。
黒ずくめの観測者
森の中では、黒ずくめの男二人が木の上から双眼鏡で傭兵たちを観察していた。彼らは傭兵の力や食欲の異常を記録していたが、フォレストグリズリーを食らって化け物へ変わる姿を見て恐怖した。異形の者たちが自分たちへ向かってくると悟った彼らは、魔物寄せの禁薬【邪香水】を散布して魔物を集め、それを囮に逃げ出した。
黒衣の魔導士の後悔
傭兵たちを観測していたのは、黒ずくめの男たちだけではなかった。アミュレットを作った黒衣の魔導士も、木々の上から魔法でその様子を見ていた。彼は副作用がここまで酷いとは思わず、自分が危険なものを作ってしまったと後悔した。標的である傭兵たちはともかく、村人に恨みはないため、彼は苦々しく思いながらアミュレットの回収と魔物の処分を考えていた。
橋工事への道中
ゼロスはハンバ土木工業の馬車に揺られ、髭のないドワーフのボーリングと世間話をしていた。ボーリングもナグリに突然連行されたようで、休暇中に好物の【メッカラビーンズ】を作ろうとしていたところを連れてこられたと嘆いていた。ゼロスも予定を大雑把に決められたせいで連行された身であり、二人は互いの不運に共感していた。
難所の橋建設
ハンバ土木工業の一行は、三日かけて橋建設の現場へ向かっていた。そこは他の領地の業者が何度も失敗した難所であり、領主が大々的に宣伝してしまったため、橋が架けられなかったでは済まない状況になっていた。ゼロスは、ドワーフたちが【ガイア・コントロール】を使いこなせない基礎部分の作業要員として雇われていた。
魔導士と剣
道中、ボーリングは魔導士なのに剣を持つゼロスを珍しがった。ゼロスは、魔法は万能ではなく、魔法を無効化する魔物がいれば肉弾戦しかないと語った。撤退すればよいというボーリングの考えに対して、戦闘中に相手が撤退を許してくれるとは限らないと返した。
戦場への警戒
ゼロスは、元の世界で戦闘に巻き込まれ、流れ弾で危うく命を落としかけた経験を思い出していた。戦闘にルールはなく、異世界でも戦争が起これば民衆兵や傭兵が蛮行に走る可能性があると考えていた。平和な時ほど人は腐ると見ており、魔導士団の一部が決起して問題を起こすのではないかという不安も抱いていた。
ボーリングとの会話
現場が近づいた頃、ゼロスはようやく相手の名前を聞いた。髭のないドワーフはボーリングと名乗り、ゼロスのことはナグリから聞いていると話した。彼は人間のゼロスを若造扱いし、精霊種の年齢の分かりにくさを感じさせた。
激流の現場
現場はオーラス大河上流の街道で、石畳の道が途中で途切れていた。崖下には恐ろしい勢いの激流が流れ、ゼロスは橋脚を作るにしても流れに削られる危険があると判断した。ナグリは、役所の見積もりが甘く、国の要請も絡んでいるため断れないと語った。
無意味な橋への疑念
ゼロスは、ソリステア公爵領への商いは船で足りるため、ここに橋を架ける意味を疑った。ナグリも商人にとって遠回りで、完成しても盗賊の稼ぎ場になりかねないと認めた。ヨクブケーノ伯爵が工費を着服し、失敗時の責任を職人に押しつける可能性も考えられたが、完成後の管理や治安維持は伯爵側の負担になるため、目先の利益に目が眩んでいるだけかもしれなかった。
橋脚案の見直し
ゼロスは、硬い岩盤に魔法をかけ、流れの負担を減らす楕円形の橋脚基礎を作る案を出した。ナグリは当初の橋脚二本では足りないと理解し、橋脚の数を増やして負担を分散させる方向へ話が進んだ。やがて他の職人たちも集まり、設計変更や強度計算がその場で始まった。
水流を攪拌する橋脚
当初の橋は二本の橋脚で支える予定だったが、対岸まで二百五十メートル近くあるため、少なくとも四本の橋脚が必要とされた。さらにゼロスの知識を踏まえ、橋脚の側面に縦の凹凸をつけ、水流を攪拌して負担を分散させる案が採用された。これにより橋の寿命を延ばし、下流の水害を軽減する狙いも加わった。
夜の作業準備
職人たちが宿舎で酒を飲みながら作業案を話している頃、ゼロスはナグリと共に実作業の検討を始めていた。水深は五ギールほどで、深い場所では六から七ギールあると見られた。橋脚を作るには岩盤への固定が不可欠だが、初めての作業であり、崩落を避けるためにも一回で成功させる必要があった。
三つの魔法の同時展開
ゼロスは、楕円形の魔法障壁で水流を遮り、【ガイア・コントロール】で土砂や岩盤を利用し、【ロック・フォーミング】で橋脚を下から固定する必要があると考えた。さらに【白銀の神壁】を二重展開しながら複数の魔法を同時に扱うことになるため、魔法式の構築は非常に難しいものだった。
自然相手の難工事
障壁魔法は攻撃を受けるほど魔力を消費するが、相手が激流である以上、魔力は絶えず削られることになる。ゼロスは橋脚を頑丈にするつもりだったが、同時に水流を防ぎ、土砂を集め、形を保って固めるには手が足りず、大雑把な仕上がりになる可能性があった。魔法は便利だが万能ではないとナグリも理解した。
徹夜の魔法式作成
ゼロスは、既存の魔法を繋げて新たな土木用魔法式を作る必要に迫られていた。水圧や構造を正確に計算できる道具もなく、試作して実験し、修正できる回数も限られていた。ナグリから頼りにされてプレッシャーを感じながらも、ゼロスはブツブツと文句を言い、橋脚工事のための魔法式作成に専念していった。
第五話 おっさん、遭遇する
橋脚魔法の試作と黒衣の魔導士との遭遇
夜明けの仮宿舎
ゼロスは仮宿舎の部屋で、蠟燭と魔法の明かりを使いながら徹夜で魔法式の統合作業を進めていた。範囲障壁魔法の二重展開、形状操作、大地の操作、硬質化を一つの工程にまとめる魔法は、魔力消費が大きく、誰にでも使えるものではなかった。夜が明ける頃には大まかな目処はついたが、実験と再調整が必要だったため、ゼロスは少し休むことにした。
上流での試験
三時間ほど眠ったゼロスは、ナグリに上流で魔法を試したいと申し出た。いきなり本番で使うわけにはいかず、実用性と魔力消費を確かめる必要があったからである。ナグリは作業の遅れを気にしつつも、三日の猶予を与えたのは自分だとして許可した。ゼロスは工事の成否が自分の魔法にかかっている重圧を抱えながら、上流へ向かった。
激流への橋脚試作
上流の河は相変わらず激流であり、ゼロスは複数の柱を立てて流れを攪拌することにした。複合魔法を起動すると、激流の中に光の壁が生まれ、川底の土砂や小石が集まって楕円形の柱を形成した。さらに【ロック・フォーミング】で土砂や石を凝縮し、魔法効果が切れても形を保てる石柱へと変えた。
魔力消費の重さ
試作した魔法は成功したが、魔力消費はゼロスの予想を大きく上回った。橋脚の形を保つために【白銀の神壁】を二重展開する必要があり、その自由度の高さが消費を増やしていた。ゼロスは、クレストンほどの魔導士でも一回使うのが限界であり、実質的に使える魔導士がいない魔法だと判断した。
練習で築かれる柱
ゼロスは本番前の練習として何度も魔法を試し、オーラス大河の上流に幾本もの岩の柱を築いた。柱が増えるにつれて水流は攪拌され、激しかった流れは目に見えて緩やかになっていった。ゼロスは柱が老朽化して壊れないよう、魔法式と魔石を組み込み、周囲の魔力を吸収して障壁を展開し続ける魔道具のように加工した。
遊び心の装飾
ゼロスは作業の勢いに乗り、柱の上へ彫刻を加え始めた。グリフォンのような生物に加え、超時空の要塞艦や人型機動兵器を思わせるもの、歌姫や魔法の天使のようなものまで作り、趣味の赴くままに手を加えていった。もはや試作の域を超え、河には不可思議な彫刻付きの柱が並ぶことになった。
異形の獣
調子に乗って作業を続けていたゼロスは、対岸に動く影を見つけた。そこにいたのは、全身を剛毛で覆われ、鋭い牙と四本の腕を持つ人型に近い獣であった。獣はゼロスを見つけると柱を飛び跳ねながら急接近し、鋭い爪で襲いかかってきた。
人面を持つ魔物
ゼロスは攻撃を避けて反撃したが、魔物の体には無数の人面が浮かび上がっていた。その中には子供の顔もあり、呻きながらゼロスを恨めしそうに見ていた。ゼロスは本能的な恐怖を覚えながらも剣で腕を斬り落としたが、魔物は痛みを感じないように突進し、彼を木へ叩きつけた。
再生する肉体
ゼロスは【白銀の神壁】で棘状の障壁を展開し、魔物を串刺しにしたが、勢いは止まらなかった。さらに【エア・バースト】で距離を取ると、魔物は斬り落とされた自分の腕を食べ、失った腕を再生し始めた。傷も塞がり、体中から腕や足、人の上半身までもが生え始める異様な光景に、ゼロスは吐き気を覚えた。
灼熱による焼却
ゼロスは【チェーン・バインド】で魔物を拘束し、再生が追いつかない速度で焼き尽くすため【プロミネンス・フレイム】を放った。灼熱の火球は魔物を包み込み、半ばプラズマ化した炎で跡形もなく焼き尽くした。だがゼロスは、魔物が一瞬だけ自分を凌駕したことに恐怖し、異世界を甘く見ていたと痛感した。
人を喰らった可能性
ゼロスは、倒した魔物が異常な再生能力を持ち、食べた生物を取り込んでいた可能性を考えた。複数の人面が体に現れていたことから、人間を喰ったのではないかと疑った。もしそうなら、あの魔物は際限なく人を襲う危険な存在であり、ゼロスは冷たい汗を流した。
黒衣の魔導士
そこへ黒衣の魔導士が現れ、あれを倒したのなら残りは三体だと告げた。ゼロスはその気配が只者ではないと感じ、敵か味方かを問うた。黒衣の魔導士は、自分は様子を見に来ただけだが、目撃者をそのままにはできないと答え、ゼロスに襲いかかった。
剣と魔法の応酬
黒衣の魔導士は一瞬で間合いを詰め、ゼロスは咄嗟にショートソードで受け止めた。二人は剣を交えながら【フレアランス】と【フレアブリッド】を撃ち合い、爆発を避けて再び斬り合った。互いに手練れであり、剣も魔法も決定打にならず、まるで互いの手の内を読み合うような戦いになった。
噛み合う戦い
ゼロスと黒衣の魔導士は、強力な魔法を使うにはわずかな隙が生じることを理解していた。そのため、互いに魔法の発動や剣術の動作を潰し合い、決定打を打てない状態に陥った。ゼロスは、自分自身と戦っているようだと感じるほど相性の悪い相手だと見ていた。
極大魔法の衝突
誰かがゼロスを探す声が近づいたことで、黒衣の魔導士に好機が生まれた。彼は【グラン・オーバー・エクスプロード】を放ち、ゼロスは【プラズマ・バースト・ディストラクション】で迎撃した。二つの極大魔法は正面から衝突し、凄まじい衝撃で二人を吹き飛ばした。
逃げた黒衣の魔導士
ゼロスは大木に叩きつけられながらも無事だったが、爆発地点には大きなクレーターができていた。黒衣の魔導士の気配はすでになく、爆発を利用して離脱したと考えられた。誰かが近づいている状況では追跡も難しく、ゼロスは諦めざるを得なかった。
ドワーフたちの到着
ナグリたちは、ゼロスが昼時になっても戻らないため探しに来ていた。周囲の惨状や河に並ぶ柱に驚いたナグリは、何が起きたのか問いただした。ゼロスは橋脚の試作と襲撃を説明し、怪我はないと答えた。ナグリはゼロスの無事に安堵しつつも、柱の装飾に職人としての関心を示した。
彫刻への職人魂
ドワーフたちは、ゼロスが作った彫刻付きの柱を真剣に評価し始めた。彫刻と模様の調和、柱の太さ、上流と下流の両側から見える配置など、細部にまで意見を出した。やがて彼らは、彫刻を前後対称に直し、大きさも調整するようゼロスに命じた。
妥協なき手直し
ゼロスは戦闘と実験でかなり魔力を消費していたが、ナグリたちは妥協を許さなかった。柱は四十五本あり、ゼロスは魔力切れ寸前にもかかわらず、ドワーフたちの監視と怒声の中で彫刻を手直しする羽目になった。作業が終わったのは日が暮れた頃で、ゼロスはこの世界に来て初めて魔力切れで倒れた。
黒衣の魔導士の迷い
一方、黒衣の魔導士は爆発に紛れてオーラス大河から離脱していた。彼はゼロスの強さを【殲滅者】並みだと感じ、先ほど戦った相手が自分の知る人物なのではないかと気付いた。もしそうなら、後で詫びなければ殺されるかもしれないと悩んだが、今はやるべきことを優先し、仲間と合流するためにその場を離れた。
監視員たちの帰還
深夜、三人の男たちが森を歩いていた。彼らはアミュレットの効果を確認するための監視員であり、人間が化け物になった結果を目の当たりにしていた。逃げるために【邪香水】を使ったが、異形の傭兵たちは誘き寄せられた魔物まで喰らい尽くしており、男たちはあれを利用するどころか敵を生み出す危険物だと判断した。
河に並ぶ柱
男たちは崖下に並ぶ柱を見つけ、その存在に驚愕した。柱はオーラス大河に突き出し、かつて自国が川を下って奇襲した歴史を踏まえれば、船での侵攻を妨げる障害に見えた。激流に乗った船は柱に衝突し、周囲の断崖から攻撃を受ければ死地になると考えられた。
煉獄の魔導士への誤認
男たちは、柱の近くに残る爆発跡やガラス化した地面を見て、強力な炎系統魔法が使われたと判断した。さらに黒い石が溶け込んでいるのを発見し、被検体の一体がここで倒されたと悟った。これほどの魔法を使える者として、彼らは【煉獄の魔導士】を思い浮かべた。
天然の要塞
男たちは周辺を調べ、街道工事と橋建設の存在に気付いた。彼らは、この橋と上流の柱によって船の侵攻が難しくなり、崖上からの攻撃を受ける天然の要塞が作られていると解釈した。実際には偶然の産物であったが、彼らにはソリステア魔法王国が自国の侵攻を想定して先手を打ったように見えた。
存在しない策士への恐怖
男たちは、橋と柱の配置、開拓の早さ、護衛が傭兵だけであることを、すべて敵国への牽制策だと受け取った。国内組織の不仲という噂も攪乱のために流されたものではないかと考え、ソリステアには繁栄と敵の殲滅を同時に見据える恐ろしい策士がいると結論づけた。彼らは祖国へ報告するため、闇夜を走り抜けた。
第六話 おっさん、働く
橋建設の再開と飢餓の魔物
魔力切れの翌日
ゼロスは二日前の魔法テストで柱と彫刻をドワーフたちに見られ、日暮れまで手直しを強いられていた。その結果、柱は立派な芸術品になったが、ゼロスの魔力は完全に枯渇し、一日経っても三分の一ほどしか戻っていなかった。ナグリは自分たちがやり過ぎた自覚があり、ゼロスが再び手直しを命じられれば三日は動けなくなると言うと、思わず顔を背けた。
礎構築の始動
ゼロスは、橋脚を作る複合魔法を【礎構築】と名付けた。マナ・ポーションを飲んでわずかに魔力を回復させると、崖際に立ち、両手を翳して魔法式を起動した。水面に光の柱が現れ、障壁が橋脚の型枠となり、河の泥や石を集めて凝結させると、圧縮された土砂が熱を発して水蒸気を上げながら橋脚を形成していった。
仕事中毒のドワーフたち
橋脚が作られる様子を見たドワーフたちは一気に興奮した。彼らは建築のために森で狩りをしてレベル上げまで行うほどの仕事中毒者であり、体力と腕力、地属性魔法を組み合わせた工事戦士であった。二本目の橋脚が完成すると、ナグリの号令で彼らは一斉に持ち場へ走り、橋の土台作りを始めた。
踊る土木作業
ドワーフたちは【ガイア・コントロール】と【ロック・フォーミング】を集団で使い、魔力の不足を人数とチームワークで補っていた。補給班が魔法薬を運び、石材班が装飾済みの石を配置し、各班は踊りや掛け声を交えながら作業を進めた。奇妙な光景でありながら仕事は完璧で、橋脚の上に土台が目に見える速さで築かれていった。
巻き込まれたゼロス
ナグリは目でゼロスにも参加を促した。ゼロスは苦手意識を持ちながらも、殴られるのを避けるために有名人の物真似を交えて作業に加わった。最初は仕方なくだったが、次第に楽しくなり、ドワーフたちと一体となって踊りながら作業を進めた。こうして一人の中年魔導士とドワーフ職人たちは、数日かけて土台部分を完成させていった。
筋肉痛の朝
数日後、ゼロスは全身の筋肉痛で目を覚ました。農作業とは異なり、踊りながらの土木作業は使う筋肉が違い、中年の体には大きな負担になっていた。一方、ドワーフたちは平然と朝食を食べ、ゼロスの弱音を笑っていた。彼らは今日も二段目から橋の本体部分を同時に進めるつもりであり、ゼロスはこの世界の広さと異様さを改めて思い知った。
集まる土木業者
現場にはメイガ土木やチュブリー土建など、ハンバ土木工業と縁のある他業者の職人たちが次々に集まってきた。彼らは橋建設を押し付けられた仲間を助けるために来ており、ヨクブケーノ伯爵への怒りも共有していた。土木関係者たちの横の繋がりは強く、互いに酒を酌み交わす仲でもあった。
ヨクブケーノ伯爵の独断
本来の街道整備は未開地の開拓と経済活性化を目的にした国の計画であったが、橋建設は未定段階であった。ヨクブケーノ伯爵は独断で橋の建造を国命として押し付け、依頼書まで偽造していた。成功すれば恩寵を得られ、失敗すれば建設業者から違約金を取れると考えていたが、費用負担や責任追及が自分に向かうことを考えていなかった。
職人たちの恨み
ヨクブケーノ伯爵は、以前にも悪趣味な屋敷建築で何度も設計変更を命じ、さらに工事費を値切ろうとしてナグリに殴られていた。そのためハンバ土木工業を一方的に逆恨みしていたが、職人たちの側にも大きな恨みが積もっていた。彼らは、伯爵の弟の方がまともで、近いうちに当主が交代するだろうと話しながら、血に飢えたような目で作業へ戻っていった。
橋を目指す避難民
森の中では、二十人ほどの村人たちが恐怖に怯えながら逃げ続けていた。彼らは黒い獣に村を襲われ、家族や親戚、妻や子供を喰い殺され、逃げるしかなかった者たちであった。断崖に追い詰められた彼らは、建設中の橋を見つけ、助けを求めて必死に叫んだ。
村人たちの救助
叫び声に気付いたドワーフたちは、【ガイア・コントロール】で階段を作り、村人たちを救助した。彼らは休憩所へ運ばれ、食事と手当てを受けた。事情を聞いたナグリたちは、村が黒い魔物に襲われたことを知った。ゼロスはその話から、自分が以前倒した異常な再生能力を持つ魔物と同じ存在だと判断した。
残る三体への警戒
村人の話では魔物は四体いたため、ゼロスは残り三体がいると考えた。彼は一体を倒した時に魔導士の襲撃も受けたことをナグリに話し、黒い魔物は痛覚を持たず、異常な再生能力を備え、捕食を続けなければならない出来損ないの生物だと説明した。自然界で同時に四体も現れるとは考えにくく、人為的に作られた可能性が高いと見た。
対岸からの襲来
警鐘が鳴り響き、ゼロスとナグリが橋の元へ急ぐと、対岸に黒い剛毛の人型獣が現れた。魔物は警鐘に反応せず、こちらを見ると猛然と走り出した。ドワーフたちは【ガイア・コントロール】で地面を波打たせて魔物を引き込み、【ロック・フォーミング】で石化させて動きを封じた。
上半身だけの前進
魔物は石化した地面から逃れるため、自らの下半身を引き千切りながら前進し始めた。傷口はすぐに塞がり、背中から蜘蛛のような足まで生え始めた。あまりにおぞましい光景にドワーフたちが動けなくなる中、ゼロスは間合いを詰め、【プロミネンス・フレイム】で魔物を焼き払った。
あと二体の脅威
ゼロスとナグリは、魔物が自然界から生まれたとは思えない存在だと改めて確認した。まだ二体が森の奥にいる以上、工事は安心して続けられなかった。ドワーフたちは忌々しげに対岸の森を睨み、作業の中断を余儀なくされた。
喰い合う二体
暗い森の中では、残る二体の魔物が互いに喰らい合っていた。かつて人であった面影はなく、尽きることのない飢えに支配され、腕や内臓を奪い合っていた。再生能力が強すぎるため決着はつかなかったが、やがて一体の動きが鈍り、もう一体が同族を完全に喰らい尽くした。
膨れ上がる飢餓
同族を喰らった魔物は小さな欠片まで取り込み、初めて飢えが満たされた。だがその体は倍に膨れ上がり、人型であった姿をさらに変えた。すぐに再び飢えが襲い、魔物は大小問わず他の魔物を襲って喰らいながら力を増し、やがて崖の傍へ辿り着いた。そこに生き物の気配を感じた魔物は、終わらない飢えを満たすために咆哮を上げた。
第七話 おっさん、アルバイト終了する
橋の完成と麴菌の発見
魔力切れからの作業再開
ゼロスは二日前の魔法テストで作った柱と彫刻を、こだわりの強いドワーフたちに手直しさせられ、魔力を完全に使い果たしていた。一日経っても魔力は三分の一ほどしか戻っておらず、ナグリは橋脚作業に支障が出ることを気にしていた。ゼロスは【礎構築】と名付けた魔法で作業を進めることにし、マナ・ポーションを飲んで少しでも回復を図った。
礎構築による橋脚作り
ゼロスが崖際で魔法式を起動すると、水面に光の柱が現れた。障壁が橋脚の型枠となり、川底の泥や石を集めて凝結させ、高圧で圧縮された土砂は熱を発して水蒸気を上げながら橋脚へ変わっていった。ドワーフたちはその光景に興奮し、橋脚ができれば後は自分たちの仕事だと意気込んだ。
踊る工事戦士たち
ドワーフたちは【ガイア・コントロール】や【ロック・フォーミング】を集団で使い、土台部分を一気に作り始めた。彼らは踊りや掛け声を交えながらも、一糸乱れぬ動きで作業をこなし、補給班や石材班も役割を果たしていった。ゼロスはその異様な作業風景に度肝を抜かれたが、ナグリの目に促され、自分も踊りながら作業に加わることになった。
一体化した職人たち
ゼロスは最初こそ仕方なく物真似を交えて作業に参加していたが、次第に楽しくなり、ドワーフたちと一体になっていった。彼らは狂ったように踊りながらも驚異的な速さで仕事を進め、数日かけて橋の土台部分を完成させた。ゼロスとドワーフたちは、作業を通じて奇妙な連帯感を得ていた。
筋肉痛の朝
ゼロスは数日間の土木作業で全身を酷使し、筋肉痛で目を覚ました。ドワーフたちは平然と朝食を食べ、ゼロスが音を上げる様子をからかった。彼らは踊りながらの作業にも慣れており、橋の二段目から本体部分の建設へ進むため、再び気合いを入れて作業に向かった。
集まる土木業者たち
現場には、メイガ土木やチュブリー土建など、ハンバ土木工業と縁のある土木業者たちが助っ人として集まってきた。彼らは互いに酒を酌み交わす仲で、ヨクブケーノ伯爵から無茶な仕事を押し付けられたことに怒っていた。橋の建設は本来未定であり、街道工事に便乗して伯爵が独断で進めたものだった。
ヨクブケーノ伯爵の無謀
ヨクブケーノ伯爵は、国命を偽って橋建設を進め、成功すれば恩寵を得られ、失敗すれば職人たちから違約金を取れると考えていた。だが橋建設は国家予算に含まれておらず、費用は伯爵自身が負担しなければならなかった。さらに依頼書を偽造していたため、発覚すれば重大な責任を問われる立場であった。
職人たちの怒り
ヨクブケーノ伯爵は以前にも悪趣味な屋敷の建築で設計変更を繰り返し、工費を値切ろうとしてナグリに殴られた過去があった。そのためハンバ土木工業を逆恨みしていたが、職人たちの側にも深い恨みが溜まっていた。彼らは伯爵の弟の方がまともだと話し、近いうちに当主が変わるだろうと見ていた。
橋を目指す避難民
森の中では、二十人ほどの村人が恐怖に怯えながら逃げていた。彼らは突然現れた黒い獣に村を襲われ、家族や親戚、妻子を失いながら逃げ続けていた。断崖に追い詰められた彼らは、建設中の橋を見つけ、必死に助けを求めた。
避難民の保護
ドワーフたちは村人たちの叫びに気付き、【ガイア・コントロール】で階段を作って救助した。村人たちは休憩所へ運ばれ、食事と手当てを受けた。事情を聞いたゼロスは、村を襲った黒い魔物が、自分が以前戦った異常な再生能力を持つ魔物と同種であると判断した。
残る魔物への警戒
村人の話では黒い魔物は四体おり、ゼロスがすでに一体を倒していたため、残りは三体と考えられた。ゼロスは、あれが自然に生まれた生物とは思えず、人為的に作られた可能性があると見た。ナグリたちは作業員を戻し、武器を持たせて警戒を強めた。
対岸の黒い魔物
警鐘が鳴り、ゼロスとナグリが橋の元へ向かうと、対岸に黒い剛毛の人型の獣が現れた。ドワーフたちは【ガイア・コントロール】で地面を波打たせ、【ロック・フォーミング】で魔物を捕らえた。しかし魔物は自分の下半身を引き千切って前進し、傷口を再生させながら背中から蜘蛛のような足を生やした。
二体目の焼却
異様な姿にドワーフたちが動けなくなる中、ゼロスは即座に間合いを詰めた。彼は【プロミネンス・フレイム】を叩き込み、魔物を灼熱の炎で焼き払った。ゼロスとナグリは、あと二体が森の奥にいることを確認し、工事を安心して続けられない状況になった。
共食いによる変異
森の奥では、残る二体の魔物が互いを喰らい合っていた。強力な再生能力のせいで決着はつかなかったが、やがて一体の動きが鈍り、もう一体が同族を完全に喰らい尽くした。魔物は同族と小さな欠片を取り込み、初めて飢えを満たしたが、体は倍に膨れ上がり、さらなる飢えに突き動かされて崖の方へ向かっていった。
三体目との激戦
深夜、巨大化した魔物が橋の対岸に現れた。人型の上半身と獣の下半身、昆虫の脚、人面が浮かぶ腹部を持つ異形であり、仲間を喰ったことで姿も力も変化していた。ドワーフたちは再び地面を操って捕獲しようとしたが、魔物は足を引き千切って再生し、昆虫の脚や羽、蛇のような触手を生やして襲いかかった。
魔法を使う異形
魔物は炎の魔法攻撃を受けても透明な障壁で防いだ。ゼロスは、村にいた魔導士を喰ったことで、その魔法式を取り込んだのだと判断した。彼は【レールガン】で障壁を貫き、魔物に風穴を開けたが、傷はすぐに再生した。魔物は範囲魔法まで使い、ドワーフたちを狙って暴れ続けた。
空中での焼滅
ボーリングが斧で魔物の足を斬ったが、魔物に弾き飛ばされて建材へ叩きつけられた。ドワーフたちが魔法で足止めする中、魔物は羽を広げて空中へ舞い上がった。ゼロスはその好機を逃さず【トルネード】で魔物を捕らえ、さらに【プロミネンス・フレイム】を合わせて炎の嵐に変え、魔物を炭化させて粉々に砕いた。
邪神石の発見
ゼロスが魔物の残骸を鑑定すると、ほとんどは炭としか出なかったが、くすんだ黒い石だけが残っていた。それは【邪神石】であり、邪神の体の一部が石化したものだった。魔力を加えると強大な力を与える代わりに、使用者を魔物へ変貌させ、理性を失わせる危険なものだった。
邪神魂魄への反応
ゼロスが【邪神石】を手にすると、石は赤い光を放った。彼がインベントリーを確認すると、邪神の甲殻や爪に加え、【邪神魂魄】という詳細不明のものがあった。邪神石はそれに反応しており、ゼロスは厄介なものを持っていると理解したが、とりあえず保管することにした。
デルサシスの視察
三日後、デルサシスは街道整備の視察のため、騎士たちを連れて現場へ向かっていた。馬車の中でも書類を整理するほど忙しく、領主の仕事や商売、妻や愛人への対応までこなしていた。街道整備は国の要請であったが、橋建設の話を聞いたデルサシスは、国の事業に橋は含まれていないと気付いた。
偽造依頼書
デルサシスは、橋建設がヨクブケーノ伯爵の独断先行だと判断した。現場に到着すると、完成した橋の上でゼロスとドワーフたちがダンシングしており、領主一行はしばらく言葉を失った。その後、職人たちが保管していた国王命の依頼要請書を確認すると、紙の質や玉璽がおかしく、偽造されたものだと見抜いた。
職人たちへの保証
職人たちは、自分たちがタダ働きになるのかと動揺した。デルサシスは、これほど見事な橋を完成させた以上、後のことは自分に任せてほしいと告げた。依頼書を持ち込んだのがヨクブケーノ伯爵の家臣だと分かると、職人たちは今すぐ潰しに行きたがったが、デルサシスは自分が何とかすると言って止めた。
忙しいデルサシス
デルサシスは、ヨクブケーノ伯爵を追い落とす案件ができたため、すぐにサントールへ戻ることにした。彼は愛人のもとへも向かわねばならないと堂々と言い、女は泣かせるものではないと語って馬車に乗り込んだ。ゼロスとナグリは、相変わらず忙しい男だと見送った。
工事完了と撤収
橋の工事は無事に竣工し、職人たちは撤収準備を始めた。逃げてきた村人たちの面倒はハンバ土木工業が見ることになり、黒い魔物については報告書でデルサシスへ伝えられることになった。ゼロスはあくまでアルバイトとして扱われ、職人たちは次の現場へ向けて動き出した。
ボーリングの家
数日後、ゼロスたちはサントールの工業区へ戻った。ボーリングはゼロスを食事に誘い、ナグリと共に自宅へ案内した。煉瓦造りの家の中には工具が並び、職人の家というより工房のようであった。ボーリングは得意の【メッカラビーンズ】を作ろうとしたが、準備していた大豆には白いカビが大量に生えていた。
麴菌の発見
ゼロスが鍋を覗き込むと、鑑定によってそれが【麴菌】だと分かった。この世界の麴菌は魔力の強い土地で育つ変異種で、黒カビすら駆逐するほど生命力が強いものだった。ゼロスは探していた麴菌をようやく発見し、酒造りの準備が整ったと大喜びした。
酒盛りと草刈り
橋の完成と麴菌の発見を祝って、ゼロス、ナグリ、ボーリングは盛大に酒盛りをした。だが翌朝、自宅に戻ったゼロスは、畑一面が雑草に覆い尽くされているのを見て呆然とした。生命力が強いのは麴菌だけではなく、ゼロスはその日から数日かけて鎌を手に草刈りをすることになった。
第八話 おっさん、寄付する
邪神石の危険と報酬金の使い道
廃屋の諜報員たち
三人の男たちはアジトの廃屋へ戻り、自国へ戻る準備を進めていた。戦力増強に使おうとしていた【邪神石】の危険性を知らせる必要があったためである。傭兵たちに使わせた結果、四人全員が化け物へ変貌し、生物を喰らい尽くす存在になったため、このままでは国そのものが滅びかねないと判断していた。
黒衣の魔導士の提案
廃屋に黒衣の魔導士が現れると、男たちは【邪神石】が人間を化け物に変える危険なものだったと報告した。だが黒衣の魔導士は研究中断ではなく、石を粉末にして少量を与えれば使えるかもしれないと考えた。さらに軍で使うのではなく、裏組織へ流して敵国にばら撒き、混乱と自滅を狙えばよいと提案した。
小国の苦境
男たちの国は貧しく、目立った商業や工業、特産品もなかった。生き延びるためには、他国を掌握するしかないほど追い詰められていた。だが【邪神石】を使えば自国にも危険が及ぶため、男たちは黒衣の魔導士の策を危険視した。それでも国の命運がかかっているため、陛下へ報告した上で判断するしかなかった。
信用できない協力者
黒衣の魔導士は、効果を弱めるから裏社会の人間を見繕ってほしいと言い残して去った。男たちは、彼の知識が国を多少持ち直させたことを認めながらも、何を企んでいるのか分からない危険な人物だと見ていた。彼らは二手に分かれ、一人が国へ報告へ向かうことになった。
草刈りに追われるゼロス
ゼロスは農民姿で畑の草刈りをしていた。二週間近く橋の建設のアルバイトに出ていた間に、畑は雑草が生い茂る草原のようになっていた。作物は辛うじて判別できたため、ゼロスは鎌や【ガイア・コントロール】を使って草を刈っていたが、雑草は翌日には芽を出し、三日後には伸びるほど逞しく、作業は終わりが見えなかった。
クレストンの来訪
草刈り中のゼロスのもとへ、クレストンと護衛の騎士たちが訪れた。クレストンは、クロイサスから届いた魔法媒体の指輪に関するレポートをゼロスへ渡した。ゼロスは指輪の件をすっかり忘れていたが、レポートには魔法運用効率、魔力消費、負荷の低さ、威力の上昇などが細かく記されており、最後には気に入ったので愛用すると書かれていた。
虫退治の気配
クレストンは自分にも魔法媒体を作ってほしいと頼んだ。近いうちに必要になりそうだと語る彼は、花に集る汚らわしい虫を退治するだけだと不穏に笑った。ゼロスは何か碌でもないことだと察したが、あえて口には出さなかった。護衛の騎士たちもその様子に引いていた。
魔法文字解読法の扱い
クレストンは、セレスティーナから学んだ魔法文字の解読方法を使わせてほしいとゼロスに頼んだ。ゼロスは、普通の魔法式の解読法なら好きに伝えて構わないと答えた。情報はいずれ他人へ漏れるものであり、旧時代の魔法式を扱う程度なら問題はないと考えていたからである。
新魔法式への警戒
ゼロスは、自分の独自作成した新魔法式は危険だが、旧時代の魔法式なら広まっても構わないと考えていた。クレストンはセレスティーナが一部の新魔法式を記憶していたことを明かし、ゼロスは彼女の記憶力に驚いた。ゼロスは、新魔法式の理解はまだこの世界には早すぎるため、いずれ誰かが解き明かすだろうと話した。
自宅でのもてなし
難しい話を続けるため、ゼロスはクレストンと騎士たちを自宅へ招いた。家はログハウス風の外観に反して内部が広く、工房、キッチン、リビング、空き部屋、地下室があった。ゼロスはキッチンへ向かい、手製のビアサーバーから冷えたエール酒を注いで客に出した。
冷えたエール酒
クレストンと騎士たちは、冷えたエール酒を初めて口にした。果実のような甘さと炭酸、冷たさが合わさり、温いエール酒とはまったく違う清涼感があった。騎士たちは勤務中に酒を飲むことに戸惑ったが、クレストンがもてなしを断るのは失礼だと許可し、全員がその味に驚いた。
冷蔵庫の仕組み
クレストンは、冷えたエール酒を作る魔導具に強い興味を示した。ゼロスは、金属の箱の中に水を入れるタンクを置き、それを凍らせて冷気で食材を冷やすだけの単純な仕組みだと説明した。魔石に氷結系の魔法式を刻めば、魔導士でなくても魔力補充で扱える可能性があった。
生活を豊かにする魔道具
クレストンは、魔法を戦闘ではなく民の生活を豊かにする魔道具へ応用する発想に可能性を見た。冷蔵庫が普及すれば食材の傷みを遅らせられ、飲食店や酒場でも重宝される。さらに大規模な冷蔵倉庫や船への設置も考えられ、魔導士の新たな仕事や派閥の利益に繋がると判断した。
魔導士不足の課題
クレストンは、民生用魔道具の研究を始めたいと考えたが、魔導士の人材不足が問題だった。学院を卒業しても戦闘にも生産にも中途半端な者が多く、錬金術師へ転向しても薬草が高価で続かず、普通の労働者になる者も多かった。魔道具も高価すぎて需要が限られており、魔導士には厳しい世の中であった。
冷蔵庫事業の構想
ゼロスは、冷蔵庫の製作には魔石、金属加工を行うドワーフ、設置工事業者が必要になり、大規模な組織運営が必要になると指摘した。クレストンは、魔導士の組合を作り、依頼先へ派遣する形を考えていた。値段についてはゼロスにも分からなかったため、デルサシスへ相談することになった。
法外な印税
クレストンは、魔法スクロールの売上金の一部をゼロスに渡さなければならないと切り出した。紙に書かれた金額を見たゼロスは、ゼロの数の多さに目を疑った。彼は学院の魔法を最適化しただけだと考えていたが、その成果は莫大な売上を生んでおり、正当な報酬として受け取らねばならないものだった。
使い道のない大金
ゼロスは、一生遊んで暮らせそうな金額を前にして、人として堕落しそうだと怖くなった。平穏な生活に余計な金は必要なく、使い道も思いつかなかった。だが断ればデルサシスが罪に問われるため、受け取らざるを得なかった。
養護院への寄付案
ゼロスは窓の外に教会の屋根を見て、報酬金を養護院へ寄付することを思いついた。孤児たちを雇って慈善事業を行わせれば、子供たちは働く意味を知り、給料を得られる。ゼロス自身は一割ほどあれば十分だと考え、働けなくなった老人の小遣い稼ぎにも使えると提案した。
街を支える仕事
ゼロスは、子供たちに地区ごとの掃除やゴミ回収をさせ、空き瓶をリサイクルし、燃えるゴミを灰にして畑の肥料にする案を出した。養護院を嫌がる年長の子供には、近くの農村で草刈りをさせれば稼ぎになると考えた。全てを救うことはできないが、使わない金を有効活用すべきだと語った。
マーリン基金の芽
クレストンは、ゼロスの提案を救済措置として評価した。孤児たちを働かせることで真っ当な生活へ導き、犯罪予備軍になりかねない子供たちを救えるからである。こうして思いつきから始まった報酬金の活用案は、後にマーリン基金と呼ばれる福祉厚生基金の始まりになった。
デルサシスへの報告
その日のやり取りを聞いたデルサシスは、子供たちを働かせて給料を与える事業に感心した。ゼロスの報酬は一生使い切れないほどの額であり、それを寄付する行為は豪気なものだった。デルサシスとクレストンは、ゼロスが本当に平穏を望み、必要な金以外を求めない人物だと受け取った。
冷蔵庫販売の始動
デルサシスは冷蔵庫にも強い関心を示し、酒場や飲食店で重宝される商品になると見た。まずは小型のものから売り出し、様子を見る方針を立てた。魔法スクロールに続く第二弾の事業として冷蔵庫を動かし、特許申請も即日行うことで、他派閥が容易に真似できない布陣を整えていた。
ヨクブケーノ伯爵への一手
デルサシスは、ヨクブケーノ伯爵が王命を偽り、無断で橋を建てた件についても上々だと語った。伯爵は民から絞り上げた税金をウィースラー派へ流しており、国へ納める税金も偽っていたため、極刑を免れない状況であった。デルサシスは、民からの支持が高い伯爵の弟マーシナーを次の伯爵にするべく動いていた。
静かな暗躍
クレストンとデルサシスは、ウィースラー派を削る計画を静かに進めていた。サンジェルマン派は静観の構えを見せており、敵対しないだけまだましだと判断された。二人は、魔法スクロール、冷蔵庫、ヨクブケーノ伯爵の更迭を通じて、気付いた時には手遅れになるよう深く静かに手を伸ばしていた。
デキる漢の生き様
仕事を終えたデルサシスは、急いで愛人のもとへ向かおうとした。クレストンは、何度刺されれば気が済むのかと呆れたが、デルサシスは女に殺されるなら本望だと堂々と答えた。クレストンは、どこで教育を間違えたのかと嘆き、計画が成就する前に息子が刺殺されないことを祈るばかりであった。
第九話 実戦訓練のお知らせ
実戦訓練の通達と秘宝魔法の停滞
学院寮の騒ぎ
イストール魔法学院の学院生寮では、毎年恒例の実戦訓練を前に学院生たちが騒いでいた。実戦訓練は、一定以上の才覚を見せた者が強制的に参加させられる行事であり、錬金術や魔道具製作を目指す学院生にとっては迷惑なものだった。一方で、成績不振の学院生には単位を得る機会でもあり、参加せざるを得ない者も多かった。
魔導士の狭き進路
学院生の多くは魔法を覚えて手に職を付けたいと考えていたが、魔導士は攻撃職として見られることが多く、活躍できる場所は限られていた。王都や大きな街では衛生処理などを担う魔導士もいたが、門戸は狭く、成績や派閥の影響が大きかった。そのため、実戦訓練で単位は欲しくても、戦闘自体は望まない者が多かった。
待ち望むセレスティーナ
そんな中で、セレスティーナは実戦訓練を楽しみにしていた。かつて劣等生だった彼女は、今では才女と呼ばれ、魔法の威力も学院生を大きく上回っていた。講師たちは彼女を指導できなくなり、実質的に特別待遇となっていたため、セレスティーナは講義以外の時間を使って秘宝魔法の最適化や魔法薬、魔道具の学習に取り組んでいた。
ミスカのからかい
セレスティーナが体を動かしたいと語ると、ミスカは彼女が鈍器を振り回してゴーレムを粉砕していたことを持ち出し、撲殺趣味に目覚めたのではないかとからかった。さらに鈍器少女や滅殺ガール、血塗れ公爵令嬢など不名誉な呼び名を並べ、セレスティーナをむくれさせた。ミスカは、以前より明るくなったセレスティーナを微笑ましく思い、わざと揶揄っていた。
装備選びの悩み
実戦訓練に使う装備について、セレスティーナはファーフランの森で使った白蛇竜の装備を考えた。しかしミスカは、その装備は性能が高すぎて目立ち、公爵家のコネを使ったと言われかねないため使えないと判断した。学院指定の装備は古く、武具店の最新装備も防御面やサイズに不安があったため、訓練用装備を強化する案が出された。
図書館へ向かう日課
ミスカは装備の手配を引き受け、セレスティーナは疲れた様子で息を吐いた。彼女はからかわれながらも、いつものように図書館へ向かうことになった。ミスカにとって、セレスティーナが感情を表に出し、明るく振る舞うようになったこと自体が喜ばしいことであった。
本返却に苦しむクロイサス
一方、クロイサスは大量の本を台車に載せて、大図書館まで運んでいた。借りたまま返していなかった本を返却するためであり、一週間ほど同じ作業を続けていた彼の足腰は限界を迎えていた。研究に没頭して私生活を疎かにしていたことが原因であり、彼は自業自得の苦痛に耐えながら本を運んでいた。
世話焼きのイー・リン
イー・リンは、辛そうなクロイサスに声をかけながらも、最初からは手伝わなかった。借りたものは返すべきであり、次から気を付けるよう体に覚えさせるべきだと考えていたからである。大図書館に到着してからは手伝うと言い、クロイサスを励ました。彼女の姿は、駄目な子を世話する母親のようであった。
嫉妬する男たち
クロイサスとイー・リンの仲の良さを見て、後方ではイー・リンに思いを寄せる男たちが血の涙を流していた。イー・リンは学院でも人気の高い庶民派の美少女であり、彼らはクロイサスに激しい嫉妬を抱いていた。しかしクロイサスは周囲に無関心で、その視線にも気付かないまま大図書館へ入っていった。
秘宝魔法の壁
大図書館では、セレスティーナとツヴェイトが秘宝魔法の効率化に取り組んでいた。自然界の魔力を集める魔法式、魔力配分、威力調整、有効範囲、積層魔法陣の同調など、問題は多岐にわたっていた。秘宝魔法はあまりに複雑で、不完全な魔法式が絶妙に噛み合っているため、少しでも調整を誤ると発動しなくなる難物であった。
積層魔法陣の難しさ
積層魔法陣は、複数の命令系統を上下に重ね合わせ、それぞれの魔法式を読み取って統合処理する形式であった。旧来の魔法陣よりも覚えられる魔法の幅を広げる画期的な仕組みだったが、各魔法式の噛み合わせが悪いと魔法式同士が相殺し、魔力を消費するだけで何も起こらない。秘宝魔法の最適化は、セレスティーナとツヴェイトにはまだ難しすぎる作業であった。
クロイサスの助言
そこへクロイサスが現れ、二人の悩みを聞いた。彼は、秘宝魔法を再構築するなら基本魔法を見直し、技術を学ばなければ意味がないと指摘した。その言葉で、セレスティーナとツヴェイトはゼロスが他の魔法も改良できたなら尚良いと言っていたことを思い出した。秘宝魔法の最適化そのものではなく、他の魔法研究へ目を向けさせることが本来の意図だと理解した。
大賢者の宿題
ツヴェイトとセレスティーナは、ゼロスが最初から秘宝魔法の最適化が無理だと分かっていて課題を出したのだと考えた。二人は最高の魔法媒体という言葉に気を取られ、本質を見逃していたのである。クロイサスは、研究とは一朝一夕でできるものではないと述べ、ゼロスの考えに共感を示した。
歪んだ師への評価
クロイサスは、二人の師がどのような人物なのか尋ねた。ツヴェイトは優秀だが歪んでおり、人としてどこか壊れていると答え、セレスティーナは厳しい人だが、自分に関して特に偏っていると語った。ゼロスとクロイサスは、閉じこもって研究するか、静かな暮らしを求めるかの違いはあっても、世間から距離を置く点で似た気質を持っていた。
イー・リンの乱入
そこへイー・リンが現れ、クロイサスが本の返却作業をさぼっていると指摘した。彼女はツヴェイトとセレスティーナを見て、兄妹同士でただならぬ関係という噂があると口にした。二人は激しく動揺し、その噂を広めた原因がイー・リンであると知って怒った。セレスティーナは感情的になり、どこからかメイスを取り出すほどであった。
秘宝魔法式への興味
イー・リンは、二人が扱っていた魔法式に気付き、変な魔法式だと興味を示した。ツヴェイトは、秘宝魔法の膨大な魔法式の一部だけを見ても意味は理解できないと判断し、見られても問題ないと考えた。クロイサスは、積層魔法陣の仕組みを説明し、その構造が魔導士の覚えられる魔法の幅を広げる画期的なものだと改めて認識した。
スクロールへの未練
ツヴェイトは、デルサシスが売り捌いている最適化された魔法スクロールなら、自分も多くの攻撃魔法を覚えられたと話した。クロイサスはその魔法を使ってみたいと考えたが、セレスティーナは魔導士の数が限られており、スクロールの生産が追いついていないだろうと指摘した。クロイサスは実家へ帰らなかったことを本気で後悔した。
連行されるクロイサス
イー・リンは、片付けを最後までしなければならないとクロイサスを引っ張っていった。彼は逃げないと言ったが、彼女は目を離すとすぐ研究に没頭すると見抜き、母親のように連行した。ツヴェイトとセレスティーナは、その様子を見て親子のようだと感じた。
変わったクロイサス
クロイサスが大量の本を抱えて震える足で階段を上り、イー・リンが尻尾を振りながら後をついていく姿を見て、セレスティーナは兄が変わったと感じた。ツヴェイトは、女が駄目な男を変えるのかと考えた。見た目の印象が怖そうなために女性に縁がないことを、ツヴェイト自身はまだ知らなかった。
第十話 それぞれの準備
実戦訓練前の派閥分裂と近接戦闘訓練
研究棟の魔窟化
イストール魔法学院高等学部の傍らには、成績上位者だけが使える研究棟があった。本来は才ある若い魔導士が研鑽を積むための場所であったが、現在は派閥同士がいがみ合う魔窟と化していた。その中でもウィースラー派は、魔導士による戦術研究と国家防衛を目的として始まったにもかかわらず、いつしか魔導士至上主義の集団へ変わっていた。
未完成の広範囲殲滅魔法
ウィースラー派が増長した原因は、旧時代の遺跡から発掘された広範囲殲滅魔法の魔法陣設計図であった。だがその魔法陣は、魔法技術が未熟な初期文明の未完成品であり、複数の魔導士による精神同調を前提としていたため、実用には向かないものだった。サムトロールたちはその欠陥を理解せず、使える魔法陣だと信じ込んでいた。
机上の空論会の崩壊
ウィースラー派の戦術論会では、サムトロールの作戦が学院生たちから激しく批判されていた。騎士や徴兵された民を使い捨てにし、使えるか分からない広範囲殲滅魔法を戦略に組み込む内容は、無謀な特攻に過ぎないと否定された。かつて洗脳されていた学院生たちは、ツヴェイトの現実的な軍事論に触れたことで自分たちの無知を知り、次々と洗脳から解放されていた。
現実論派の台頭
ウィースラー派は、ツヴェイトに近い現実論派と、サムトロール側の夢想論派に分裂していた。現実論派は、敵戦力や伏兵、撤退や損害の軽減まで考慮すべきだと主張し、サムトロールの稚拙な作戦を退けた。サムトロール側の者まで同意し始めたことで、彼の築いた基盤は音を立てて崩れ始めていた。
洗脳魔法への監視
ブレマイトの洗脳魔法も、すでに疑われていた。魔導士は魔力の流れを感知する力が高く、ブレマイトは学院生たちから監視されていたため、再び洗脳を施すことが難しくなっていた。サムトロールとブレマイトは、ツヴェイトの影響によって派閥が崩れていくことに苦々しい思いを抱いた。
実戦訓練での悪巧み
サムトロールは、近く行われる恒例の実戦訓練を利用してツヴェイトに仕掛けることを考えた。実戦訓練中なら、事故死として片付けられると判断したのである。彼らは、欲に狂った者らしく人として許されない手段に手を伸ばし、学院施設の一室で密かに悪巧みを進めていた。
実戦訓練を嫌がるクロイサス
クロイサスは研究棟で古代言語辞典を眺めながら、実戦訓練に参加したくないと嘆いていた。研究を続けたいだけの彼にとって、実戦訓練は時間の無駄であり、運動が苦手な身にはありがたくない行事であった。だが成績優秀者であるため強制参加となり、彼は不条理を感じていた。
旅の魔導士への関心
クロイサスは、夏季休暇中に実家へ戻らなかったことで、セレスティーナとツヴェイトに魔法式の解読方法を教えた旅の魔導士に会えなかったことを悔やんでいた。その人物は理論を実戦で試す危険な魔導士らしく、無名でありながら魔法に関する叡智を持っていた。もし世間に知られれば、学院や派閥の信頼が揺らぎかねない存在であった。
ソリステア派の動き
クロイサスたちは、ソリステア派が効率の良い魔法スクロールを売り出し、各派閥の資金源を潰し始めていることを話し合った。標的は主にウィースラー派と見られ、兄ツヴェイトが内部分裂の中心にいることも話題になった。クロイサスは、精神系の血統魔法で派閥内の人間が洗脳されていた可能性を語った。
洗脳解除の波紋
精神系魔法は永続せず、感情の揺らぎや時間の経過で解除されることがある。ツヴェイトの行動によって波紋が広がり、洗脳されていた者たちは怒りを主犯格へ向け始めていた。サムトロール側が被害者面していることも反発を強め、ウィースラー派は内部分裂を深めていた。
昼食代の罰
クロイサスは、セリナとマカロフが自分たちに関する変な噂を流した罰として、昼食を奢るよう求めた。二人は懐具合を気にしたが、噂を流したのは自業自得であった。サンジェルマン派は周囲の騒動を気にせず、研究さえ滞らなければ平穏に過ごす派閥であった。
広がるウィースラー派の噂
学院内では、ウィースラー派の内部分裂に関する噂が急速に広まっていた。洗脳魔法、裏組織との癒着、ツヴェイトとサムトロールの対立など、真偽の入り混じった話が飛び交っていた。中には、ツヴェイトが肉体派へ派閥を変えるといった根拠のない噂まで生まれていた。
ディーオの失言
噂の一部は、ディーオが勢いで洗脳魔法の話を漏らしたことが原因であった。ツヴェイトは証拠もない話を広めたことを咎めたが、すでに噂は妙な方向へ膨らんでいた。ツヴェイトは男色疑惑や肉体美に目覚めたという話に困惑し、早く消えてほしいと感じていた。
ディーオの近接訓練
ツヴェイトは実戦訓練に備え、ディーオが武器を扱えるのか尋ねた。ディーオは苦手ながらも死にたくないため、週に三回、ツヴェイトが講義を受けている間に近接戦の訓練を受けていた。ツヴェイトは、自分がゴーレム相手に地獄の格闘訓練を受けたことを思い出し、実戦を甘く見ると死ぬと忠告した。
師への評価
ディーオは、ツヴェイトとセレスティーナを鍛えた魔導士が何者なのか疑問を抱いた。ツヴェイトは、師匠をあえて言うなら化け物であり、学院の講師など足元にも及ばない手練れだと答えた。ディーオは、そのような人物が無名であることを不思議に思ったが、ツヴェイトは権力者に関わらず自由に研究するためだろうと考えていた。
近接戦闘講義への集合
ツヴェイトとディーオが訓練場へ向かうと、ウィースラー派の学院生が五十名ほど集まっていた。バーバン講師は、格闘戦技の講義を受けたいという学院生が急に増えたことに張り切っていた。彼は筋肉質の魔導士であり、見た目は戦士そのものだった。
バーバン講師の熱血指導
バーバン講師は、魔導士も撤退戦や接近戦に備える必要があると説いた。魔導士は騎士のように戦う必要はないが、味方を支援し、近接戦闘に持ち込まれた時に身を守る技術が必要だと語った。学院生たちは気合いの入った返事をし、訓練場は妙な熱気に包まれていった。
罵声と悲鳴の訓練
こうして格闘戦の基礎訓練が始まった。ツヴェイトは嫌な予感を覚えたが、バーバン講師の熱血指導は止まらなかった。この日、イストール魔法学院の一画では、聞くに堪えない罵声と学院生たちの悲鳴が響き渡ることになった。その訓練は、実戦訓練が始まる二日前まで続いた。
第十一話 おっさん、昔の夢を見る
過去の夢と米の収穫、カエデとの出会い
会社を追われた大迫聡
大迫聡は、会社の重役たちに呼び出されていた。防衛省から依頼されて開発していたプログラムが流出し、その犯行に姉の大迫麗美と彼女の夫が関わっていたためである。流出は聡の独身寮の部屋で行われ、海外出張中だった聡は帰国後に不審なアクセス記録を見つけ、会社へ報告したことで事件が明るみに出た。
自主退職の処分
裁判では、流出したプログラムに残っていた不具合が証拠となり、聡の会社が勝訴した。しかし犯行に聡の身内が関わっていたため、会社は彼を置いておけなくなった。重役はこれまでの貢献を惜しみつつ自主退職を勧め、聡も覚悟を決めて辞表を提出した。
姉との決別
退職後、聡は寮の荷物を片付けていた。姉の麗美は以前から聡に寄生し続け、追い出された後に産業スパイまがいの行為を引き起こしていた。出発しようとした聡の前に再び現れた麗美は、また住まわせろ、金を貸せ、権利を寄越せと要求したが、聡は怒りを抑えきれず、血が繋がっているだけの他人だと言い切って彼女を拒絶した。
田舎暮らしへの逃避
聡は会社勤めへの生き甲斐を失い、瀬戸内海が見える片田舎で自給自足の生活を始めた。両親の残した不動産があったため、最低限の生活には困らなかった。荒んでいた聡はオンラインゲームだけを心の拠り所にしていたが、三年ほど村人たちと関わるうちに精神は少しずつ安定し、農作業にも慣れていった。
再び現れた麗美
田舎暮らしにも慣れた頃、麗美は借金を抱えて再び聡の前に現れた。彼女は働かずに住まわせてもらい、出前や金を求めようとしたが、山奥の農村には出前も便利な店もなく、エアコンすらなかった。聡は、住むなら早朝四時から畑仕事をし、農園の手伝いや草刈りもしてもらうと告げたため、麗美は思惑が外れ、翌日には姿を消した。
嫌な夢からの目覚め
ゼロスは朝霧に包まれた教会を見て目を覚ました。そこは地球の田舎家ではなく、真新しい木の香りが漂う異世界の家であった。彼は嫌な夢を見たと感じ、今さらなぜ思い出したのかと呟いた。起きがけに煙草を咥えたが、その一服は苦い味がした。
ライスウィードの収穫
ゼロスは【ウィンド・カッター】で黄色く実ったライスウィードを根元から刈り倒し、束にして運んでいた。ライスウィードはこの世界では雑草のような扱いだったが、ゼロスにとっては米を得られる貴重な植物であった。彼は麦わら帽子にタオルを首へ掛けた農民姿で、足踏み式脱穀機を使い、籾を弾き取っていた。
手伝いに来た子供たち
養護院の子供たちがゼロスの作業を手伝いに来ていた。子供たちは脱穀機に興味を示し、やらせてほしいと頼んだ。ゼロスは危険を注意したが、子供たちは円筒部分にしがみついて高速回転する遊びを始めてしまった。ルーセリスは慌てて止め、目を回した子供たちを正座させて説教した。
米の粒の違い
ゼロスはライスウィードの穂先に違和感を覚え、米粒の大きさが安定していないことに気付いた。鑑定すると、小粒、中粒、大粒で炊き上がりや用途が異なることが分かった。小粒は煎餅向き、中粒は美味な米、大粒はオハギやオコワ、餅に向いていたため、ゼロスは唐箕を作って分別する必要があると考えた。
子供たちの言葉遣い
ルーセリスは、子供たちが遊んでばかりで申し訳ないと謝った。子供たちは旧市街の大人たちの影響を受け、意味も分からないまま下品な言葉を使うようになっていた。ルーセリスは言葉遣いを直そうと悩んでいたが、ゼロスは注意すべき時は注意しつつ、強制しすぎず自分で考えさせることも大切だと話した。
食事を報酬にした作業
ゼロスは、皆で運べば早く終わり、終わったら食事をご馳走すると子供たちに声をかけた。子供たちは肉や食事に釣られてやる気を出し、休憩を挟みながら作業は順調に進んだ。こうしてこの世界初の稲刈りは終わり、脱穀した米は乾燥機に入れられた。あとは唐箕を作って分別するだけとなり、ゼロスは念願の米を手に入れた。
広場での待ち合わせ
夕暮れ時、ゼロスは子供たちの保護者役として街の広場でルーセリスを待っていた。子供たちは噴水の外周壁によじ登って遊んでいた。そこへルーセリスが、一人の少女を連れて現れた。
カエデとの対面
ルーセリスが連れてきた少女はカエデという名で、養護院で預かっている子であった。カエデは長い耳を持つエルフであり、着物に赤い袴、背に太刀を負った純和風の装いをしていた。ゼロスは彼女がハイ・エルフであることに気付き、ルーセリスはエルフを狙う者が多いため、今まで外に出さないようにしていたと説明した。
侍のハイ・エルフ
カエデは丁寧に名乗り、ゼロスに剣の指導を願い出た。彼女は魔法ではなく剣を志しており、並の大人では勝てないほどの腕を持つ少女であった。ルーセリスは、カエデが強者を求めて試合を挑むため、下手をすると相手を返り討ちで死なせかねないと語った。
東方の血筋
カエデの家族は東方から流れ着いた難民であり、祖国は剣を使わなければ生きられない戦乱の国だった。彼女の父は侍であり、常に戦場の心持ちでいよと教えていた。エルフでありながら刀を振るい、心技体を追求するカエデは、ゼロスにとっても予想外の存在であった。
食堂での夕食
子供たちは空腹を訴え、ゼロスたちは食堂へ向かった。店には商人や傭兵が集まり、賑やかな声が響いていた。ゼロスたちは壁際の席に座り、子供たちは思い思いの料理を注文した。料理が運ばれると、カエデを除く子供たちは獣のように食べ始め、ルーセリスは恥ずかしそうに俯いた。孤児たちは礼儀よりも今日を生きる食欲を優先する、逞しい子供たちであった。
第十二話 おっさん、首を突っ込む
食堂の騒動と詐欺鍛冶師の摘発
野性的な食事風景
子供たちは食事中の礼儀を気にせず、目の前の料理へ片っ端から手を伸ばしていた。養護院へ入る前に路地裏で飢えを経験していた四人は、食べられる時に徹底して食べる習慣が身についていた。一方、カエデは静かに食事をしており、会話もなく料理を口に運ぶ姿には気品があった。
慈善事業の仕事
ルーセリスは、子供たちが最近は領主の始めた慈善事業で街の清掃をしていると説明した。わずかながら報酬が出て、集めたゴミの量によって小遣いも増えるため、子供たちは頑張っていた。ゼロスは、それが自立を促す良い方法だと受け止めたが、その事業の資金が自分の寄付によるものだとはすっかり忘れていた。
子供を利用する大人への処罰
慈善事業では、子供を利用して金を巻き上げる大人の摘発に賞金が懸けられていた。すでに何人かが捕まり、取り調べの後に奴隷にされたという。ルーセリスは、酒に溺れた親を子供が通報した話に胸を痛めたが、ゼロスは子育てを放棄し虐待していたなら自業自得だと現実的に捉えていた。
子供たちの将来
ゼロスが将来の夢を尋ねると、子供たちはカエデから剣を教わり、傭兵になって金を稼ぎ、楽に暮らしたいと語った。嫁を十人持ちたい者や、肉を食べるために働くと言う者もおり、欲望に忠実で逞しかった。ルーセリスは、子供たちがいつかとんでもないことをしでかしそうだと不安を覚えた。
冥府魔道を望むカエデ
カエデは、世界中の強者と死合して腕を上げたいと語った。家訓として、冥府魔道に生きようとも侍魂を刃に秘めるという言葉を掲げ、実戦こそが己を鍛える道だと考えていた。ゼロスは、その物騒な考えを人斬りに近いと見たが、カエデは裏街道を進む勇気も必要だと返し、すでに修羅の道へ踏み込んでいるようであった。
ボロボロのイリスたち
そこへイリス、レナ、ジャーネの三人が現れた。三人はかなりボロボロで、ジャーネの新調した剣は折れていた。ジャーネは、仕事で恐ろしく手強い相手に失敗したと語り、ルーセリスは怪我を心配した。ゼロスは頬に残る紅葉型の痣を気にしながらも、何と戦ったのか尋ねた。
ワイルド・コッコの脅威
三人が戦った相手は【ワイルド・コッコ】であった。見た目は鶏だが、蹴り技を多用する格闘型の魔物であり、集団で連携して襲いかかる凶暴な存在だった。さらに亜種らしく、武器破壊技の【ブレイカーキック】を使い、ジャーネの大剣を折ったという。ゼロスは、卵を目当てに飼う計画を考え直す必要を感じた。
飼われて強くなった鶏
ワイルド・コッコは、元傭兵の依頼人が卵を売るために育てていた魔物であった。卵を集めようとするたびに襲いかかり、それに応戦していた結果、自然に格闘能力が鍛えられ、飼い主の手に負えないほど強くなっていた。人に育てられたため言葉を理解し、殺されると察して反旗を翻したようであった。
折れた大剣の修理話
剣を失って落ち込むジャーネを見て、イリスはゼロスに何とかならないかと頼んだ。ゼロスは、折れた剣と魔石があれば属性付与もでき、ついでに作り直せると提案した。ジャーネは金がないことを気にしたが、ゼロスは軽く作り直すだけだとして、まず折れた剣を見せるよう求めた。
屑鉄の大剣
ゼロスが折れた大剣を鑑定すると、それはミスリルを一切含まない【屑鉄の大剣】であった。鍛え方も甘く、三流以下の出来で、武器として使うには危険な代物だった。ジャーネは確かにミスリルを渡したはずだと動揺し、ゼロスは鍛冶師に騙された可能性を指摘した。
傭兵たちの怒り
会話を聞いていた傭兵たちが、自分たちの武器や防具も見てほしいとゼロスに頼んだ。調べると、彼らの装備も希少金属が使われていない劣等品であり、鍛冶師が傭兵たちのミスリルを裏で売りさばいている疑いが出た。傭兵たちは怒りに燃え、食事代を支払った上で、件の工房へ飛び出していった。
ルーセリスの心配
レナは衛兵を呼びに行き、ジャーネとイリスは先に武器屋へ向かった。ルーセリスは、罪人であっても殺されてしまえば償わせることができず、ジャーネが人を殺すことも心配だとゼロスに訴えた。ゼロスは面倒だと思いながらも席を立ち、会計を済ませて使い魔を放ち、イリスたちを追跡した。
裏路地での待ち伏せ
ゼロスは職人街へ向かい、イリスとジャーネに合流した。二人は工房の裏手を押さえ、鍛冶師が逃げられないようにしていた。ゼロスは、評判を流した者も仲間かもしれず、土地勘のない傭兵から希少金属を集めるための詐欺だった可能性を示した。
命の値段
ゼロスは、良い武器を持てば狙われる危険も高まると話した。イリスは人を殺すことに抵抗を見せたが、ゼロスはこの世界では命の値段が安く、生き残るためには殺す覚悟も必要だと語った。盗賊に捕まった経験を持つイリスは、ゼロスの冷徹な現実観に少し恐怖を覚えた。
工房での口論
工房内では、先に来ていた傭兵たちが鍛冶師を問い詰めていた。鍛冶師は、証拠を見せろと開き直り、非を認めようとしなかった。傭兵たちは衛兵を呼び、剣を溶かしてミスリルが出なければ有罪だと詰め寄ったが、鍛冶師は工房からミスリルが出なければ責任を取らせると強がっていた。
裏口からの運び出し
その最中、ゼロスたちが待つ裏口から、四人の柄の悪い男たちが木箱を抱えて出てきた。イリスは、その中にミスリルが入っているのだろうと問い詰め、ジャーネも自分のミスリルを返せと怒った。男たちはナイフを抜いて襲いかかったが、ゼロスは【指弾】でナイフを弾き飛ばし、戦意を挫いた。
領主の名を使う嘘
禿げた鍛冶師が裏口から現れ、木箱は領主へ届けるものだから邪魔をするなと脅した。ゼロスは、自分が領主や前領主クレストンと顔見知りだと返し、代わりに届けようかと提案した。その言葉で鍛冶師の嘘は崩れ、彼はさらに危険な魔道具だと誤魔化そうとしたが、ゼロスは魔道具の扱いにも慣れていると返した。
散らばるミスリル鉱石
ゼロスは鍛冶師の焦りを見抜き、【指弾】を木箱へ撃ち込んだ。木箱は砕け、中から白銀の金属を含むミスリル鉱石が周囲へ散らばった。鍛冶師は、これで自分が雇い主に殺されると叫んだが、ゼロスはしくじった鍛冶師が間抜けなだけだと突き放した。
一本背負いの制圧
追い詰められた鍛冶師は、落ちていたナイフを拾い、ゼロスへ突進した。ゼロスはその腕を軽く掴み、勢いを利用して一本背負いで石畳へ叩きつけた。さらに鳩尾へ掌底を叩き込み、鍛冶師を気絶させた。ゼロスは鍛冶師を無視して煙草に火を点け、衛兵の到着を待った。
ワイルド・コッコへの興味
ジャーネは自分が何のために来たのか分からなくなるほど出番を失っていた。ゼロスはそんなことより、イリスにワイルド・コッコの居場所を尋ねた。彼は倒すつもりではなく、美味しい卵を得るために飼ってみようと考えていた。米を得た彼は、次に卵かけ御飯を求めていたが、醤油が必要なことは忘れていた。
裏組織の摘発
その後、レナが連れてきた衛兵によって鍛冶師は捕らえられた。木箱を運んでいた男たちは中身を知らされていない運び屋であり、数日後に釈放されることになった。調査の結果、鍛冶師は裏組織の末端であり、傭兵たちから騙し取ったミスリルを資金源にしていたことが判明した。
犯罪組織の一掃
鍛冶師の逮捕をきっかけに、裏のブローカー組織の関係者が芋づる式に捕らえられた。サントールの街では犯罪集団が大きく減り、治安がいくらか改善された。さらに他の街の拠点も調べられ、各領地で一斉捜査が始まったため、犯罪組織にとって大きな打撃となった。
賞金と呑気な煙草
事件のきっかけを作った傭兵たちとゼロスは賞金を受け取り、しばらく生活に困らないほど懐が潤った。ゼロスは今日も呑気に煙草をふかしていた。
第十三話 おっさん、剣を製作する
唐箕の暴走とワイルド・コッコ討伐の決意
唐箕の試作
翌日、ゼロスは早朝から魔導錬成陣を使い、唐箕の部品を作っていた。唐箕は籾殻と米を分ける道具であり、ゼロスはこの世界の米が粒の大きさで性質を変えるため、米の種類まで分別できるように改良していた。手回し式に加え、魔石で送風板を回す自動式も作り、性能確認のため三台の試作機を並べた。
胸騒ぎの試作機
ゼロスは設計も魔法式も確認していたが、魔石を組み込んだ自動式に妙な不安を覚えていた。失敗するかどうかは動かしてみなければ分からず、爆発はしないだろうと思いつつも胸騒ぎが消えなかった。そこへルーセリス、イリス、レナ、ジャーネが訪れ、昨日約束した剣の修復のために来た。
ハンバ土木工業への連想
イリスたちは、教会裏にいつの間にかゼロスの家と広い畑ができていることに驚いた。ゼロスはハンバ土木工業の異名や踊る土木作業員たちを思い出し、いずれ農民まで踊り出すのではないかと遠い目をした。国中が歌って踊りながら働く光景を想像し、どこか異様な世界に思えていた。
空を飛ぶ唐箕一号
ゼロスは剣の修復の前に唐箕の試運転を始めた。第一号は一瞬成功したように見えたが、送風板の回転がどんどん速くなり、後方からの風で前進し始めた。ゼロスが停止スイッチを押しても止まらず、やがて揚力を得て空へ舞い上がった。こうして農機具は世界で初めて空を飛んだ。
音速を超える唐箕二号
ゼロスは一号機の欠陥を見て、続けて二号機を起動した。ルーセリスは中断すべきだと止めようとしたが、すでにスイッチは押されていた。円筒型の二号機は強力な風圧を一点に収束させ、壁を破壊して超高速で空へ飛び上がり、音速の壁を超えて消えていった。ゼロスは円筒型は危険だと判断し、設計の見直しを決めた。
落下への祈り
飛び去った唐箕は回収不能であり、魔力が切れればどこかへ落下するはずだった。ルーセリスは人の上に落ちることを心配し、ゼロスも大惨事になると認めた。二人は被害者が出ないことを祈るしかなく、ゼロスはこの国には落ちないよう願った。三号機は手回し式だったため暴走の危険はなかったが、大型化したため物置で組み直す手間が増えていた。
剣作りへの切り替え
ゼロスは飛んでいった唐箕の回収を諦め、ジャーネの剣の修復に話を戻した。イリスは農機具の件をなかったことにしたと指摘したが、ゼロスは高速で飛んだ以上、追うことはできないと答えた。ジャーネは本当に剣が作れるのか不安がったが、ゼロスは自分が生産職であり、武器や魔道具、秘薬も作れると説明した。
火属性の魔剣
ジャーネは、ミスリルを含む鉄剣にして、火属性の魔剣にしてほしいと頼んだ。ゼロスは折れた剣とミスリル鉱石、魔石を錬成陣に並べ、魔導錬成を開始した。見た目は派手ではなく、普通で武骨な剣にしてほしいというジャーネの希望に合わせ、素材を融合させて新たな剣へ作り直していった。
魔導錬成の工程
錬成陣の中で折れた剣と素材は宙に浮かび、水銀のように蠢いた。ゼロスは炭を加えて金属の結合を調整し、【鑑定】で分子結合を読み取りながら魔石を加え、熱を伴わずに赤熱した金属を剣の形へ整えていった。作業は三十分ほどで終わり、ルーセリスは魔法で武器が作られる光景に驚いた。
ルーセリスとジャーネの縁
作業中、ゼロスはルーセリスとジャーネが親しげである理由を尋ねた。二人は同じ養護院で育ち、成人後にルーセリスは神殿で修行し、ジャーネは傭兵ギルドへ登録して別々の道を進んだのだった。ジャーネは怪我をした時にルーセリスの回復魔法に助けられており、ルーセリスは育ててくれた司祭のように多くの人の助けになりたいと考えていた。
型破りな司祭
二人を育てた司祭は人格者というよりも、酒と博打を好み、剣の腕も立ち、怒ると拳が出る変わった女性であった。ジャーネにとっては剣の師でもあり、神に頼らず人の罪は人が裁くべきだと説いていた。ゼロスは、神官とは思えない言動に驚き、明らかに異端者ではないかと感じたが、それでも人徳はあったようだった。
完成した新たな剣
完成した剣は人肌のような温度を帯びていた。ジャーネは生暖かさに戸惑いながらも何度か振り、手に馴染むと満足げに笑った。ゼロスは、魔力を込めれば【炎弾】を放てるが、ここでは使わないように注意した。ジャーネはその剣でワイルド・コッコへのリベンジを果たすつもりだった。
ワイルド・コッコ飼育案
ゼロスは、ワイルド・コッコを飼って卵を得たいと考え、ジャーネたちの討伐に同行すると言い出した。ルーセリスたちは、ワイルド・コッコは凶暴な魔物であり、普通の鶏ではないと止めようとした。しかしゼロスは、美味しい卵なら食べてみたいという思いから、危険性をあまり重く見ていなかった。
物陰のカエデ
そこへ、いつの間にか物置の影に潜んでいたカエデが会話に加わった。彼女は隙を見てゼロスへ斬り込もうとしていたが、最初から気付かれていたため奇襲は失敗していた。カエデはワイルド・コッコ討伐への同行を望み、ゼロスは相手が鶏なら大丈夫だろうと軽く受け入れた。
醤油を持つカエデ
ゼロスは卵かけ御飯を思い浮かべたが、醤油がないことに気付き、一気に気落ちした。するとカエデが醤油を持っていると告げ、分ける条件として魔物討伐への同行を求めた。ゼロスは醤油のためなら悪魔に魂を売り渡すと即答し、カエデは少し戸惑いながらも条件を成立させた。
血気と食欲の出陣
ゼロスはTKGを取り戻すため、カエデは腕試しのため、ワイルド・コッコ討伐へ向かうことになった。カエデは【木枯らし丸】が血に飢えていると物騒に語り、ルーセリスは昼間であることを指摘しながらも慌てていた。こうして最強の魔導士と修羅のハイ・エルフ剣士の一時的なコンビが結成され、それぞれの目的のために動き出した。
第十四話 おっさん、ニワトリを求め格闘す
ワイルド・コッコとの対決と十三羽の護衛
養鶏農家への道
イリスたちが依頼を受けた養鶏農家は、サントールの街から歩いて一時間もかからない農村にあった。農家の主は元高ランク傭兵で、病気がちな母を養うために傭兵を辞め、父の死を機に農家を継いだ人物であった。母の治療費を稼ぐため、高級品として扱われるワイルド・コッコの卵に目を付けたが、卵を回収するたびにワイルド・コッコと争うことになり、ついには飼い主より強い凶暴な存在へ成長させてしまった。
血に飢えた同行者
ゼロス、イリス、ジャーネ、カエデは、農家の事情を話しながら目的地へ向かっていた。レナは道中で出会った少年傭兵たちを追い、行方不明になっていた。ゼロスは醤油を得られる取引のおかげで足取りが軽く、カエデは強者との戦いを求めて血を滾らせていた。イリスとジャーネは、ハイ・エルフとは思えないカエデの血の気の多さに困惑していた。
空から落ちる傭兵
農家へ近付いた一行は、庭先から打ち上げられた傭兵らしき男が空から落ちてくるのを目撃した。男は回転しながら頭から地面に突き刺さり、足だけを残して埋没した。ゼロスはニワトリではなく格闘技じみた技を使う魔物だと驚き、カエデは強者の気配にさらに昂った。
廃墟と化した農家
一行が農家へ踏み込むと、そこは廃墟同然に荒らされていた。庭には敗れた傭兵たちが山のように積み重なり、その上で無数のニワトリが鋭い視線を向けていた。ゼロスが鑑定すると、彼らはただのワイルド・コッコではなく、グラップラー・コッコ、スラッシュ・コッコ、スナイパー・コッコなどへ進化した突然変異体であり、コカトリスを凌ぐ強さを持つ好戦的な存在だった。
ボハンの惨状
ゼロスは言葉を理解するらしいコッコたちに飼い主の所在を尋ねた。グラップラー・コッコが示した先には、全身を打撃で腫れ上がらせたボハンが血塗れで倒れていた。ゼロスが【ハイ・ヒール】で回復させると、ボハンは髪をすべて抜かれたことを嘆き、ワイルド・コッコたちを欲しければ倒して強さを示せと告げた。
カエデとスラッシュ・コッコ
カエデは最初から戦う気であり、白銀の翼を持つスラッシュ・コッコへ全速力で斬りかかった。スラッシュ・コッコは翼の羽毛に魔力を通して刃のように変え、カエデの初太刀を弾いた。カエデは攻撃を逸らして距離を取り、そこから太刀による連続攻撃を仕掛けた。二人は火花を散らすほどの剣戟を繰り広げ、周囲の者たちは子供とニワトリとは思えない技量に圧倒された。
狙撃への警戒
激しい攻防の最中、ゼロスはわずかな気配を察知し、ジャーネの頭部を狙った矢を掴み取った。矢を放ったのはスナイパー・コッコであり、狙撃後すぐに位置を変えるほど高い隠密性を持っていた。ゼロスは次の狙撃に備えて小石を拾い、戦いを見守りながら警戒を続けた。
武士としての対話
カエデとスラッシュ・コッコは一度距離を取り、互いを武士として認め合うような会話を交わした。カエデは相手をニワトリと侮ったことを詫び、スラッシュ・コッコは剣で語ることを求めた。二人は一撃で勝負を決める構えを取り、周囲の空気は張り詰めた。
一撃の勝負
カエデとスラッシュ・コッコが同時に動いた瞬間、スナイパー・コッコが矢を放った。ゼロスは【指弾】で矢を迎撃し、さらに移動しようとしたスナイパー・コッコを撃ち落とした。同時にカエデとスラッシュ・コッコの太刀と翼が交差し、衝撃波が発生した。カエデは吹き飛ばされてゼロスに抱き止められ、スラッシュ・コッコも仲間の群れへ突っ込み、互いに気絶した。
残るグラップラー・コッコ
スナイパー・コッコが狙っていたのは飼い主のボハンであり、矢には致死性の高い神経毒が塗られていた。カエデが気絶したため、残るグラップラー・コッコの相手はゼロスがすることになった。ゼロスはできれば戦わずに家へ来てほしいと考えたが、グラップラー・コッコはカエデたちの戦いを見て血が騒ぎ、手合わせを求めた。
拳神の発動
ゼロスはグラップラー・コッコと対峙し、その尋常ならざる覇気を感じ取った。ニワトリとは思えない重い一撃を受け、久しぶりに気を引き締める必要を覚えた。彼は体内の気を循環させて身体強化を始め、【拳神】の職業スキルを発動させた。魔導士から武闘家へと能力が切り替わり、グラップラー・コッコとの格闘戦に入った。
壮絶な打撃戦
ゼロスとグラップラー・コッコは、殴り、捌き、躱し、隙を突きながら激しい打撃を交わした。グラップラー・コッコは残像を生むほどの速度で攪乱し、蹴りや投げを仕掛けたが、ゼロスはそれを見切って返した。周囲で見守る者たちは、ゼロスが魔導士ではなく特殊部隊のようだと呆れた。二人の壮絶な殴り合いは日暮れまで続いた。
服従するコッコたち
夜の帳が降りる頃、グラップラー・コッコは力尽きて倒れたが、全力を出し切った満足げな表情を浮かべていた。一方のゼロスは汗一つかかず、自分の体力がいかに非常識かを知って戦慄していた。進化したニワトリたちはゼロスの前で土下座し、強さに感服したため師になってほしいと服従の意思を示した。
卵と反乱の理由
ゼロスは、無精卵をもらえるなら構わないと答えた。鑑定スキルで有精卵と無精卵を見分けられるため、コッコたちの子孫を奪わずに済むからである。ボハンはその違いを理解せずに卵を無作為に回収していたため、コッコたちから信頼を失い、反乱を招いていた。彼らの行動は、子を奪われた親の復讐でもあった。
十三羽のニワトリ
ゼロスは餌の手配についてボハンに確認し、ボハンは家の場所を教えてくれれば餌を送ると答えた。ボハンはコッコたちがいなくなったら牛を飼うつもりでいた。カエデはスラッシュ・コッコという好敵手が近くに来ることを喜び、さらに修羅道へ踏み込みそうであった。この日、ゼロスは十三羽のニワトリを手に入れ、彼らは卵を提供する代わりにゼロスの手ほどきを受け、家を守る護衛となることになった。
帰宅後の不安
宵闇の中、ゼロスは自宅へ戻り、魔石ランプを灯して椅子に腰かけた。十三羽のニワトリが庭に住むことになったが、被害者が出ないか不安になった。彼らには知性があり、話せば理解するため、今後教えていけばよいと考えながら夕食の準備を始めた。
ホムンクルスの素材
ゼロスはローブに付いたカエデの髪を見つけ、【変魔種】と【ハイ・エルフの髪】が揃ったことに気付いた。残る重要素材である【精霊結晶】が手に入れば、ゼロスの血液で呪印を施すことでホムンクルスを生み出せる状態になっていた。さらに【邪神魂魄】を使うかどうかも考え始めた。
神々への悪意
ゼロスは、この世界の神々が自分たちを転生させた経緯や、魔の領域へ落とした杜撰さを許していなかった。世界を楽しんでいる者もいるため、無闇に戦乱を招く気はなかったが、何もしないつもりでもなかった。彼は今までにない怜悧な笑みを浮かべ、四神への嫌がらせを考えた。その秘めた悪意に呼応するように、地下の金属機材が不気味に鳴動していた。
第十五話 おっさん、出鼻を挫かれる
闇商人の死とゼロスの正装、養護院の恋模様
首飾りを手にした闇商人
夜、表向きは実業家でありながら裏では非合法な品を売り捌く闇商人の男は、自室で手に入れた首飾りを確かめていた。その首飾りは透明度の高い宝石が二つあしらわれた旧時代のエルフの魔道具で、美術的価値も高い秘宝であった。男はかつての持ち主をすでに葬っており、捜索の手が回る前に国外へ持ち出して売り捌くつもりでいた。
毒針による因果応報
男は首飾りの価値に下卑た笑みを浮かべていたが、不意に首筋へ小さな痛みを覚えた。そこには毒針が刺さっており、男は急速な麻痺、嘔吐感、息苦しさに襲われた。かつて同じような手段で他人を始末してきた男は、今度は自分が同じ苦しみを味わうことになり、そのまま息絶えた。
影から現れた女
男が死んだ部屋の床から黒い影が浮かび上がり、やがて黒いドレスをまとった二十代の女へ変化した。女は凄惨な現場に似つかわしくない柔和な笑みを浮かべ、首飾りを手に取って満足した。彼女は仕事だから悪く思わないでほしいと呟き、人を殺したことよりも装飾品の価値に心を奪われていた。
消えた証拠
女は首飾りを消し、ついでに他の品も探そうとして影へ潜った。後に残されたのは、強欲な闇商人の死体だけであった。翌朝、男の死は発見されたが、犯人の手掛かりは何も残っておらず、捜査は打ち切られた。男に人生を狂わされた被害者たちは、その死を大いに喜んだ。
朝のコッコ鍛錬
早朝、ゼロスは畑の草むしりを終えた後、十三羽のニワトリたちと鍛錬をしていた。シロオビ、ケンドー、アーチャーの各コッコたちは型稽古を行い、さらに強い種へ進化するために鍛錬を続けていた。グラップラー、スラッシュ、スナイパーの三羽にはそれぞれウーケイ、ザンケイ、センケイと名を与え、まとめ役にしていた。
畑仕事を手伝うニワトリ
名前を与えられた三羽は忠誠度を高め、他のコッコたちも畑仕事を手伝うようになっていた。害虫も食べてくれるため、ゼロスにとってはかなり役立つ存在になっていた。ただし、遠距離攻撃を得意とするコッコたちまで格闘技を学ぼうとしており、ゼロスは彼らがどこへ進化していくのか分からず、不安も感じていた。
カエデとザンケイの稽古
型稽古の横では、カエデがザンケイと激しく斬り合っていた。ザンケイはさらに腕を上げ、カエデもまた日々の鍛錬を欠かさず剣筋を磨いていた。ゼロスは、周囲に武闘派ばかりが集まってくることを感じつつ、ニワトリと会話が成立している状況も異世界だからで片付けるようになっていた。
念願のTKG
鍛錬と畑仕事を終えたゼロスは、白いご飯に卵をのせ、カエデから得た醤油をかけて念願の卵かけご飯を作った。鑑定で卵の安全を確認し、期待を込めて口に運んだが、卵の味が濃厚すぎて醤油の旨味が負けていた。美味ではあるものの、ゼロスが求めていた素朴な味とはまったく異なっていた。
究極の醤油への壁
ゼロスは、ワイルド・コッコ亜種の卵に合う醤油を作るには、普通の醤油では足りないと悟った。かつて田舎暮らしで醤油を作った経験はあったが、卵の濃厚さに合わせるほどの調味料を作る自信はなかった。味噌や醤油に必要な大豆を得られるかも微妙であり、食に関する課題の難しさに深く落ち込んでいた。
酒造りへの不安
ゼロスは、せめて酒だけは美味く作りたいと考えた。しかし現代日本では許可なく酒造りをできないため、彼の知識は手探りに近かった。醤油や味噌以上に難易度が高いと分かっていながらも、異世界で故郷の味を求める気持ちは膨らんでおり、調味料や酒への思考を巡らせていた。
ダンディスの来訪
悩んでいるゼロスのもとへ、ウーケイが客人の来訪を知らせに来た。玄関を開けると、そこにはソリステア公爵家の執事ダンディスが立っていた。ダンディスは、デルサシスがゼロスにどうしても会いたいと言っているため、領主邸へ来てほしいと伝えた。
ソリステア商会の醤油
ゼロスが調味料の相性で悩んでいたと話すと、ダンディスはソリステア商会で醤油や味噌が販売されていると教えた。ゼロスは思考を停止させるほど驚き、デルサシスが東方の商人や職人を取り込み、この国でも醤油や味噌を製造販売していることを知った。ソリステア商会の調味料は高級料理店でも使われるほど需要があり、ゼロスはデルサシスの商才に畏怖を覚えた。
正装の要請
ダンディスは、領主邸へ向かうにあたり、できるだけ正装をしてほしいと伝えた。ゼロスの普段の灰色ローブと二本差しの姿は、公爵夫人たちに非常に不評だったからである。ゼロスはスーツなど持っていなかったため、考えた末にフル装備で向かうことにした。
黒の殲滅者の装い
ゼロスは髭を剃り、髪を整え、黒龍素材を使ったコート風ローブや装甲ブーツ、ガントレットを身に着けた。さらに黒く禍々しい十字架のような魔法杖を手にし、腰や懐にはナイフも忍ばせた。その姿は武装した神父のようであり、【黒の殲滅者】と呼ばれた頃の装備であった。ダンディスは、戦争にでも行くのかと驚いた。
養護院への卵の差し入れ
ゼロスは領主邸へ向かう前に、余ったワイルド・コッコの卵を養護院へ届けることにした。ダンディスは卵なら信用ある農家から仕入れていると話したが、ゼロスは一人では食べきれないため、ルーセリスたちへ分けることにした。ゼロスは教会の裏口から声をかけ、ルーセリスへ卵を手渡した。
神父のような魔導士
ルーセリスは、普段と違うゼロスの姿に戸惑いながらも、神父や神官のように見えると話した。ゼロスは自分は魔導士だと返し、卵は売れば金になるものの、お金に執着はないから構わないと伝えた。ルーセリスは子供たちも喜ぶと礼を述べたが、ゼロスは子供たちなら肉をねだりそうだと苦笑した。
下着姿のジャーネ
そこへ、二日酔い気味のジャーネが下着姿で水を求めて現れた。ゼロスに見られたことに気付き、ジャーネは悲鳴を上げて慌てて体を隠した。さらにイリスも現れ、ゼロスの姿を見て【黒の殲滅者】と呼んだ。ゼロスはその二つ名を嫌がったが、イリスにとっては憧れの存在であった。
金欠のイリスたち
イリスは宿代がなく、ルーセリスにしばらく泊めてもらうことにしたと話した。ゼロスは手に職を持つべきだと助言し、簡単な調合を教えれば宿代くらいは稼げると提案した。イリスは生産職を無視していたため魔法薬を作れず、財政的に窮していたため、その申し出に飛びついた。
羞恥とからかい
ジャーネは下着姿を見られた羞恥で壁の裏に隠れ、真っ赤になって蹲っていた。ゼロスは若い姿を見られたことを可愛らしいと評し、本人にとっては相当な醜態だっただろうと軽くからかった。ルーセリスは、ジャーネは男勝りに見えて内面は純情だから虐めないでほしいと注意した。
冷蔵庫の普及
ルーセリスは、卵の保存について、ソリステア商会で冷蔵庫を購入していたため問題ないと語った。ゼロスは、冷蔵庫の案を出してから三週間ほどしか経っていないのにすでに販売されていることに驚いた。デルサシスの行動力と商才は、ゼロスにとってますます侮れないものに見えた。
掃除に出た子供たち
ゼロスは子供たちの姿が見えないことに気付き、ルーセリスに尋ねた。子供たちは街の掃除へ行き、傭兵の装備を買うために金を貯めているという。ゼロスとルーセリスは、逞しくも俗物的な夢へ向かって突き進む子供たちを見て、教育とは何なのかを考えることになった。
祭壇前の女子トーク
ゼロスが教会を通って馬車へ向かうと、ジャーネは彼から逃げるように子供たちの部屋へ隠れた。その後、ジャーネとイリスは、ルーセリスがゼロスを見る目が新妻のようだったとからかった。ルーセリスは否定したが、ジャーネもゼロスを意識していると指摘され、二人とも自分の淡い思いにまだ気付いていなかった。
恋愛症候群の気配
ルーセリス、ジャーネ、イリスは祭壇の前で女子トークに花を咲かせた。しかし彼女たちは、この世界には恋愛症候群と呼ばれる現象が存在することを忘れていた。それはある日突然発症する、嬉しくも恥ずかしい凶悪な発情期であった。
第十六話 おっさん、指名依頼を受ける
領主館での護衛依頼とヒュドラの暗躍
領主館への道中
ゼロスはダンディスの迎えの馬車に乗り、旧市街から領主館へ向かっていた。領主館は新市街の中央にあり、一部はソリステア商会の事務室として使われていた。貴族用の高級な馬車は小市民のゼロスには落ち着かない空間であり、彼は車窓から街並みを眺めながら居心地の悪さを感じていた。
宿前のレナ
馬車の窓から、ゼロスは宿から出てくるレナを見かけた。彼女は艶やかな表情をしており、後から出てきた五人の少年傭兵たちは疲れ果てながらも幸せそうな様子であった。ゼロスは何があったのか察しつつも深く考えないことにし、この世界の常識と自分の常識の違いを思い知った。
デルサシスとの対面
領主館に到着したゼロスは、執務室で書類の束と格闘するデルサシスと対面した。デルサシスは膨大な書類に目を通しながら素早く処理しており、問題のある書類だけを別に分けていた。ゼロスが用件を尋ねると、デルサシスはツヴェイトの護衛を依頼したいと切り出した。
ウィースラー派の分裂
デルサシスは、ツヴェイトが学院に戻った後、ウィースラー派内部で分裂抗争が起きたと説明した。ツヴェイトは、サムトロールが掲げる権力志向と稚拙な戦術論を論破し、それをきっかけに派閥内の対立が深まった。さらに洗脳魔法が使われていた疑いもあり、状況は深刻化していた。
サムトロールの失墜
サムトロールはウィースラー侯爵家の次男でありながら素行が悪く、実家の思想である国家防衛構想すら否定するような行動を取っていた。実家からも見放されつつあり、好きに処罰してよいという許可まで下りていた。ゼロスは、彼が実家からも見捨てられた愛されない馬鹿だと評した。
デルサシスの資金戦略
デルサシスは、ソリステア派の権威と資金力を使い、問題のある派閥を資金面から追い込んでいた。魔法研究部門と魔導士派遣部門を分けた効率的な運営により、派閥に所属しなければ研究できなかった魔導士たちに新たな居場所を与えていた。その結果、他派閥からソリステア派へ移る魔導士が増え、ウィースラー派の資金繰りは厳しくなっていた。
血統主義者の焦り
ツヴェイトの改革によって、ウィースラー派には血統主義の貴族たちだけが残りつつあった。彼らは実家の権威を笠に着るだけで、自分たちで資金を稼ぐ力がなかった。ゼロスは、彼らがツヴェイトを始末すれば勢いを取り戻せると考え、犯罪組織に刺客を頼んだのだと理解した。
裏組織ヒュドラ
デルサシスは、サムトロールたちが懇意にしている裏組織が【ヒュドラ】だと明かした。ヒュドラは頭を潰しても別の頭が生えるように消えない厄介な組織であり、デルサシスも若い頃から何度もやり合ってきた。彼は十人ほど頭目を始末し、敵対組織や構成員の多くを取り込んだと漏らしかけ、ゼロスは領主らしからぬ危険な一面を感じ取った。
闇商人殺害の手口
デルサシスは、先日ヒュドラと対立していた闇商人が消されたと話した。部屋には鍵がかかっており、わずかに残る魔力から【シャドウ・ダイブ】が使われたと見られていた。この手口から、暗殺者が動いている可能性が高く、学院の実戦訓練中に傭兵へ紛れてツヴェイトを狙う危険があった。
護衛任務の難しさ
ゼロスは、傭兵として実戦訓練に参加しても、必ずツヴェイトの近くにいられるとは限らないと指摘した。デルサシスは、学院の指示に口出しはできないため、そこはゼロスに任せるしかないと答えた。ゼロスは、緊急事態を知らせる魔道具や、三羽の強力なコッコを同行させる案を考え、暗殺阻止の準備を始めることにした。
黒装備での牽制
デルサシスは、ゼロスの装備が戦争を仕掛けに来たようだと評した。ゼロスは正装を持っていないため比較的まともな装備を選んだだけだと答えたが、デルサシスは護衛時にもその装備で参加してほしいと頼んだ。手練れがいると分かれば、相手への牽制になると考えたからである。ゼロスは目立ちたくないため顔を隠してよいか尋ねた。
学院行きの準備
実戦訓練は二週間後に始まり、ゼロスは数日前に船で学院へ向かうことになった。彼は狙われているのが教え子である以上、断ることはできないと判断した。デルサシスはツヴェイトを頼むと告げ、ゼロスは完全に阻止できるとは限らないと前置きしながらも、便利な装備を作って手を打つことにした。
デルサシスの諜報網
ゼロスは、学院内の情報をどう入手しているのか尋ねた。デルサシスは知らない方が身のためだと答え、裏の世界に足を踏み込むには覚悟がいるとだけ語った。その言葉から、ゼロスはデルサシスが独自の諜報員を抱え、人知れず暗躍していることを察した。敵に回すには危険だが、味方なら頼もしい人物であると認識した。
調味料の購入
ゼロスは護衛依頼を受けた後、ソリステア商会で醤油、味噌、酢を購入した。醤油は溜まり醤油に近く、コッコの卵に合う味であった。残る課題は酒と味醂だったが、ゼロスは味醂の作り方を知らなかった。
裏酒場の女
時間は少し戻り、フード付きのマントで顔を隠した女が寂れた酒場へ入った。酒場の奥には隠し扉があり、女はそこから地下道へ進んだ。地下には古い時代の遺跡が残っており、犯罪組織が根城として使っている場所だった。
ヒュドラの拠点
女が入った部屋には、数人の若い男たちと、派手な紫のスーツを着た裏社会の頭目らしき男がいた。女は男にしなだれかかり、闇商人を始末して首飾りを得た成果を報告した。二人は金が入ると喜び、目の前にいる若者たちを放置していちゃついた。
ツヴェイト暗殺の依頼
苛立った若者がテーブルを叩き、仕事を引き受けるのかと迫った。裏社会の男は、金を出すなら誰でも始末すると答え、標的を尋ねた。若者たちはツヴェイトの姿が写された紙を出し、今後の関係に亀裂を生む危険があるため始末したいと告げた。
沈黙の獅子の名
裏社会の男は、標的が【沈黙の獅子】の息子であることを見抜いた。【沈黙の獅子】とはデルサシスのことであり、ヒュドラはかつて彼によって壊滅寸前まで追い込まれ、多くの人材を奪われていた。男は、デルサシスが動いているならウィースラー派はすでに詰んでいると語った。
後戻りできないサムトロール
サムトロールたちは、ツヴェイトを殺せばデルサシスが本気で潰しに来ると知り、絶望した。だがヒュドラの拠点に来た時点で、すでに相手に筒抜けだろうと告げられ、逃げ場を失っていた。暗殺が成功しようが失敗しようが、責任はサムトロールたちに向かうことになった。
投げられた賽
裏社会の男は、依頼を受けることを決めた。シャランラと呼ばれた女も、終わったらいろいろ買ってもらうことを条件に引き受けた。サムトロールは自分たちの愚かさをようやく悟ったが、もはや引き返す道はなく、悪あがきとしてツヴェイト暗殺へ進むしかなくなっていた。
第十七話 おっさん、風になる
魔導錬成の準備と漆黒のバイク
魔導錬成の奥義
【魔導錬成】は、鍛冶師や錬金術師、薬術調合師などの生産職を一定段階まで極めることで使える奥義であった。素材を魔法陣の中央に置き、魔力を流して錬成過程を入力すれば様々なものを作れるが、万能ではなく、成功率や品質には経験が大きく関わっていた。ゼロスはその技術を自在に扱える数少ない人物であり、現実離れした生産能力を持っていた。
魔封石の製作
ゼロスは護衛依頼の準備として、魔封石を作っていた。魔封石は魔法式を内部に刻んだ魔石であり、魔導士が魔法を覚える過程と似た作業で作られるものだった。核となる魔石へ魔法式を刻み、同種の魔石を結合圧縮することで保有魔力量と強度を高めるが、圧縮時に魔法式が歪むため、高度な技術が必要であった。
三つの世界への疑念
作業を続けながら、ゼロスは自分の能力や世界の仕組みに疑問を抱いていた。ゲーム内で覚えた技術がこの世界の技術と酷似していること、【ソード・アンド・ソーサリス】の世界が地球の技術だけで作れるとは思えないほど精巧であることに違和感を覚えたのである。ゼロスは、ゲーム世界もまた神々が関わる別の現実だった可能性を考え始めていた。
転生への推測
ゼロスは、ゲーム世界の死に戻りの仕組みやアバターの再構築を思い返し、死にかけた人間をこの世界の摂理に合うアバターと融合させれば転生が成立するのではないかと推測した。もしその仮説が正しければ、【ソード・アンド・ソーサリス】はただの仮想空間ではなく、精神だけを異世界へ移す媒体だった可能性があった。証拠はないため憶測に過ぎなかったが、ゼロスは神々の無責任さにも思いを巡らせていた。
護衛用装備の完成
ゼロスは思索を続けながらも手を止めず、護衛依頼に必要な装備を作っていった。製作するのは指輪ではなく、身を守るために首から下げるアミュレット型の魔導具であった。素材は廃鉱山で採掘したものが大量にあり、ツヴェイトだけでなくセレスティーナやクロイサスにも渡せるよう、同じものを複数作った。
悪ノリの創作
護衛用の装備は、以前作った装備の劣化版だったため、準備さえ終われば作業はすぐに終わった。ゼロスは思ったより早く暇になり、作業の感覚が残っていたため、そこで終わるには物足りなさを感じた。彼は悪ノリして趣味を全開にし、護衛依頼とはまったく関係のないものを三日ほどかけて作り始めた。
依頼に困るイリス
三日後、イリスは傭兵ギルドの掲示板で依頼を探していた。だが遠距離で赤字になりそうな依頼ばかりで、宿代や食費を考えると受けられるものがなかった。前回のワイルド・コッコ討伐はゼロスとカエデが達成したため報酬は入らず、イリスたちは養護院の世話になりながら生活していた。
現実の重さ
イリスは、異世界が夢のような冒険の場ではなく、地球と同じく金や生活費に追われる現実なのだと痛感していた。レナは行方をくらませがちで、ジャーネは慎重すぎるため強い依頼を避ける傾向があり、ダンジョンへ挑むどころではなかった。イリス自身も魔導士としては強くても、解体や生産の技能を持たず、傭兵としては未熟であった。
副業への決意
イリスは、ゼロスが土地や家を手に入れ、自給自足をしていることを思い返し、現実を見据えた生活の重要さを理解した。傭兵生活には装備の維持費もかかり、魔法が使えるだけでは生きていけなかった。そこでイリスは、以前約束した通り、ゼロスに錬金術か調合を教えてもらおうと決め、彼の家へ向かった。
庭のコッコたち
ゼロスの家の庭では、ニワトリたちが組手や型稽古をしていた。彼らは傭兵を一蹴できるほど強く、ゼロスに従いながらさらに強い相手を求めて鍛錬していた。自宅警備員としても優秀であり、泥棒が入れば瞬殺されるような存在になっていた。
漆黒のバイク
イリスが工房へ入ると、ゼロスはファンタジー世界には不釣り合いなものを作っていた。そこには金属フレーム、車輪、エンジンのような機械があり、どう見てもバイクであった。外装は黒いドラゴンの甲殻のような素材で作られており、完成すれば漆黒の大型オフロードバイクのようになる代物だった。
ファンタジーへの異物
イリスは、剣と魔法の世界でなぜバイクを作るのかと嘆いた。ゼロスは、ファンタジー作品にも車やバイク、飛行船や戦闘機、ロボまで出てくると返し、魔法があるため燃料の心配もないと語った。イリスは、異世界への夢を壊されるような気分になったが、ゼロスには売り捌く気がないため、世界の技術水準が急変するわけではなかった。
護衛依頼への誘い
イリスが生活の苦しさから錬金術を教えてほしいと頼むと、ゼロスはちょうど護衛依頼に誘おうと思っていたと話した。依頼内容は、イストール魔法学院の実戦訓練に警護として参加し、ツヴェイトを守ることであった。ただし傭兵たちが必ずツヴェイトの近くに配置されるとは限らないため、イリスたちにはゼロスの目となり、襲撃時に知らせて時間を稼ぐ役割が求められた。
三羽の護衛
ゼロスは、自分の家から最強の護衛として三羽のコッコを出すつもりでもあった。彼らはすでにレベル三百を超えており、毒への耐性も高く、護衛として強力だった。しかし戦うことが好きすぎるため、魔物に夢中になって護衛を忘れる可能性があり、その欠点を補うためにイリスたちの協力が必要であった。
レナとジャーネの近況
ゼロスが他の二人の所在を尋ねると、ジャーネはルーセリスの手伝いに行き、レナはどこで何をしているか分からない状態だった。ゼロスは、以前宿から数人の青少年と出てくるレナを見かけたことを話した。イリスは、生活が苦しいのに何をしているのかと呆れ、レナの奔放さを受け止めるしかなかった。
生産職の必要性
ゼロスは、ここはゲームとは違い、副業を持つべきだとイリスに説いた。錬金術や魔道具作りができれば、補助魔法を込めた魔石や簡単な道具を作って稼げる可能性があった。イリスは、魔法が使えるだけでは生きていけない現実をすでに思い知っており、ゼロスから調合を学ぶことにした。
あやしい行商人の正体
ゼロスは、自分が商売をしない理由として、作るものが爆発物など危険なものに偏るからだと語った。ゲーム時代には仲間と分担して活動資金を稼いでおり、凶悪で奇妙なアイテムを売る【あやしい行商人】として知られていた。イリスはその正体がゼロスたちだったと知り、非常識な一面に改めて驚いた。
調合を覚えたイリス
ゼロスは作業を進めながら、イリスに傷薬の調合法を教えた。薬草に魔石の粉末を混ぜて魔力を込めれば効力が上がり、売れば宿代程度は稼げる可能性があった。イリスはこの日、生産職スキルである【調合】を覚え、魔導士であることから、将来的に錬金術へ発展する可能性も生まれた。
街道を駆ける漆黒
イリスが傷薬の作り方を覚える頃、ゼロスはバイクを完成させた。夕暮れ時、彼はバイクをインベントリーに回収し、意気揚々と出かけていった。後に、漆黒の魔物が超高速で街道を駆け抜けるという噂が広がった。騎士団が魔物と勘違いして出動したが、誰もゼロスのバイクには追いつけなかった。ゼロスは走行テストのつもりで街道を駆け抜け、愉快そうな笑い声を残しながら風となった。
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