どんなラノベ?
■ 作品概要
『アラフォー賢者の異世界生活日記 1』は、VRMMORPGの能力を引き継いで異世界に転生した40歳の主人公による、成り上がりファンタジーおよびスローライフを描いた作品である。
ゲーム内で「大賢者」として名を馳せたトッププレイヤーの無職のおっさん・大迫聡は、ラスボスである邪神を倒すが、その自爆に巻き込まれて命を落とす。目覚めると、彼はゲームのアバター「ゼロス・マーリン」としての規格外の能力や自作装備を保持したまま、魔法が存在する異世界へと転生していた。過酷な魔の森でのサバイバルを経て人里へ出たゼロスは、盗賊に襲われていたソリステア大公爵家の隠居・クレストンとその孫娘・セレスティーナを救出する。平穏な生活と畑仕事を望むゼロスだったが、魔法が使えずに冷遇されていたセレスティーナの家庭教師を引き受けることになり、自身の非常識な力と知識で異世界の常識を次々と覆していく。
■ 主要キャラクター
・大迫 聡(ゼロス・マーリン):
本作の主人公。現実世界では40歳無職で元プログラマーの独身男性だが、ゲーム内では【殲滅者】と呼ばれる「大賢者」であった。ゲームデータを引き継いで転生したため、魔法や近接戦闘、アイテム生産において常識外れの能力を持つ。本人は権力闘争を嫌い、畑仕事を中心とした平穏なスローライフと結婚を望んでいるが、その圧倒的な実力ゆえに周囲からは高潔な求道者として勘違いされ、崇拝を集めてしまう。
・クレストン・ヴァン・ソリステア:
ソリステア魔法王国の元大公爵。かつては【煉獄の魔導士】と名を馳せた凄腕の実力者。孫娘のセレスティーナを溺愛しており、彼女が絡むと周りが見えなくなり、横領まがいの暴走までする重度の「爺馬鹿」である。ゼロスの実力と、権力に固執しない姿勢に惚れ込み、彼を重用する。
・セレスティーナ・ヴァン・ソリステア:
クレストンの孫娘。公爵家の妾腹の子であり、魔法が使えないため「無能」と冷遇され、虐めを受けていた。しかし、それは世間に普及している教本の魔法式が欠陥品だったためであり、ゼロスによる術式の最適化と指導によって魔法の才能を開花させる。ゼロスを理想の魔導士として深く心酔し、弟子として成長していく。
・ツヴェイト・ヴァン・ソリステア:
セレスティーナの異母兄で公爵家の次期領主候補。粗暴で自尊心が高く、シスターのルーセリスに強引に言い寄っていたが、ゼロスに圧倒的な力で敗北して己の未熟さを痛感する。その後は改心し、純粋に魔法の極みを目指すべくゼロスの教えを乞うようになる。
・ルーセリス:
旧市街の養護院で、身寄りのない孤児たちの世話をしているシスター。ツヴェイトからの強引な求愛と嫌がらせに悩まされていたが、ゼロスに助けられる。ゼロスが養護院に魔法で畑を作り、生活の基盤を与えてくれたことで、彼に対して尊敬と好意を抱き始める。
・イリス(入江澄香):
短編に登場する14歳の中学生。ゼロスと同じく女神の不始末による邪神の自爆に巻き込まれて死亡し、ゲームの魔法職アバターの能力を持って転生した。異世界での冒険に胸を躍らせ、ゴブリン襲撃に苦しむ村を魔法で救い、傭兵たちと共に新たな世界へと旅立つ。
■物語の特徴
本作の特徴は、チート級の最強能力を持つ主人公が「40歳のおっさん」であり、世界の覇権や英雄になることには興味がなく、「平穏な農作業」と「結婚」というささやかな幸せを第一に求めている点である。この庶民的で所帯染みた感覚と、規格外の実力とのギャップが秀逸なコメディ要素を生み出している。
また、魔法のシステムがプログラミングの概念(デバッグ、最適化、マクロ化など)を用いて論理的に描かれている点も他作品との明確な差別化要素である。元プログラマーである主人公が、異世界の非効率な欠陥魔法式を瞬時に修正し、魔法の威力を劇的に向上させる過程は、読者にとって非常に興味深いポイントとなっている。
さらに、主人公が単に無双するだけでなく、不遇な環境にいた教え子たち(セレスティーナやツヴェイト)に実戦訓練や魔法の理を指導し、彼らを精神的・技術的に成長させていく「師弟関係」の描写も魅力の一つである。主人公の意図とは裏腹に、周囲の貴族や教え子たちが彼を「高潔な大賢者」として勝手に神格化していく勘違いの連鎖も、物語を面白く引き立てている。
読んだ本のタイトル
#アラフォー賢者の異世界生活日記 1巻
著者:#寿安清 氏
イラスト:#ジョンディー 氏
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あらすじ・内容
【朗報】40歳おっさん、ゲームの能力を引き継いで異世界に転生す!!
リストラに遭って以来、毎日畑の世話をしながら『ゼロス・マーリン』としてゲームにのめり込む日々を送っていた、無職のおっさん大迫 聡(40歳)。
アラフォー賢者の異世界生活日記 1
オリジナルの魔法を作り、名実ともにトッププレイヤーに上り詰めた彼は、ラスボスを難なく攻略するが、ログイン中に発生したある事故によりその生涯に幕をおろす。
独りぼっちで死んだと思われた彼だったが、気づくと大深緑地帯の真っただ中に立たされていた。異世界の女神によれば、彼はゲームのステータスを引継いで転生したということらしい。
大深緑地帯でのサバイバルを経て、元公爵の老人と知り合ったゼロスは賢者の能力を買われ、魔法を使えない少女の家庭教師を依頼されるが――!?
「僕は日々平穏がモットーなんですがねぇ……」アラフォー賢者の異世界生活日記開始!
感想
田舎でスローライフを営みネットゲームでボスの邪神を倒したら、異世界の神々から追放された本物の邪神だった。
邪神は、異世界の神から殺され事を願ってゲーム世界のラスボスにされてしまう。
そして、醜い姿にされて廃人ゲーマー達に殺されてしまった。
本物の神としての最後の意地で自爆し日本中が大停電が発生。
その結果、数十名が亡くなってしまう。
その1人、大迫聡ことオッサンゼロスはゲームをしていた姿とステータスを引き継いだ状態で突然覚醒した。
周りを確認したら、モンスター蔓延る森の中に放置されアイテムはあるが食料は皆無。
メールにこの世界の女神から経緯の説明があったが、、
あまりにも無責任なこの世界の女神に殺意を持ってしまう。
だが、まずは生きて魔獣蔓延るこの森(ファーフランの大深緑地地帯)を出なければいけない。
1人なので安心して寝る事が出来ない。
調味料が無いため、焼くだけの味気ない肉を貪りながらサバイバルを1週間。
完全に野生になっていたオッサンは遂に人に出会ったら、、
盗賊に襲われてたので何方が悪いの確認してから襲われる方を助ける。
そこから始まる大賢者ゼロスのストーリー。。
ちなみに、賢者が出て来るだけでも大騒ぎな世界。
そこに大賢者が降臨して来た。
それだけでも大騒ぎになるのだが、助けた人が引退したとはいえ元公爵家の当主だった人だったので権力者(息子)から隠す事に成功する。
助けた貴族の女子は魔法が使えず、彼女の持っていた教科書の魔法術式を見たら無駄が多く、術式を簡略化してそれを彼女に使わせたらアッサリと魔法を使えるようになり。
いままで使っていた教科書をゼロスに見せたら、術式の多数が無駄が多いと指摘して修正をしたら、、、
より小さい魔力で魔法が展開できる物になり、、
今まで使用していた教科書の価値が駄々下がる。
さらにゼロスの職業称号が大賢者と知ると貴族はゼロスを囲い込む事を模索するが、、
ゼロスは贅沢や栄光は求めておらず普通に暮らしたいと言ってるので、魔法が使えなかったセレスティーナの家庭教師をしてもらう事をお願いしたらアッサリと了承を貰える。
そしてオッサンは、公爵家のセレスティーナの家庭教師として屋敷に住み込む事になる。
そして、セレティーナを鍛えるのだが、、
セレスティーナは魔法が使えなかったせいで、魔法理論を猛勉強しており。
理論は完璧に覚えているので実践を重点的にさせるのだが、、
何故か鈍器のメイスを持たせてゴーレムとの模擬戦をさせる事になる、、
それがまた的確な教育だったらしくセレティーナの実力はメキメキと上がって行く。
だけどハードな訓練である事には変わりなくセレティーナには休養も必要であり、そんな時は暇なオッサンはタバコを求めて街をフラフラと歩いていたら。
腹を空かせた子供達にご飯を奢れと集られ、盗んだと言われて怒られるのも不憫なので子供達の保護者に渡すと言って養護院に行くと。
公爵家の長男のツヴェイトが、、
養護院で子供の面倒を見ている女性を権力にモノを言わせて口説いていた。
やってる事がゲスくて女性は嫌悪感を丸出し。
完全にフラれているのに、さらに粘着してくるからより悪化する。
それを仲裁に入ったオッサンにツヴェイトくんは公爵家の奥義の魔法を放つが、、、
オッサンは拳で奥義の魔法を完封。
あまりのショックに呆然としているとツヴェイトくんは学園で施された洗脳が解け、さらに父親と拳で語り合いたいをしたら完全に元に戻ってしまう。
そして、そんな騒動を他所に養護院の子供達はオッサンの持ってきた食い物を貪り食べていた。。
何気に逞しいw
そして、オッサンはセレスティーナとツヴェイトと護衛の騎士を連れて、オッサンがかつて彷徨った大緑地帯に実戦訓練にをしに行く。。。
え?何で森に戻るんだよ!!
そして、大緑地帯は甘くなかった。
4日分の食糧を置いていた基地を襲われ、食糧の無い状態で4日間のサバイバルを強要される事になる。
そんな状態に笑顔になるオッサンは、、
他人を巻き込んで喜んでる。
このオッサンはマジでヤバイ。
次巻へ続く

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考察・解説
異世界転生
『アラフォー賢者の異世界生活日記』における「異世界転生」は、よくある「神からの使命を受けた転生」ではなく、神々の身勝手な不始末による「理不尽な事故」と「事後処理」として描かれているのが大きな特徴である。その背景や転生者たちの状況について以下に解説する。
1. 転生の経緯と原因である邪神の自爆テロ
異世界の女神たち(風の女神ウィンディアなど)は、自分たちの世界で倒しきれなかった本物の邪神を、地球のVRRPG「ソード・アンド・ソーサリス」の世界に勝手に封印していた。
・そうとは知らない主人公の聡(ゼロス)たちトッププレイヤーは、ゲーム内のラスボスとしてこの邪神を討伐してしまう。
・その際、追い詰められた邪神が最後の意地で自爆テロを引き起こし、現実世界の日本で大停電が発生した。
・これにより聡を含む数十名が巻き込まれて命を落とすこととなった。
2. 女神たちの無責任な事後処理
勝手な封印によって地球の神々から多大な苦情を受けた女神たちは、死者蘇生などの面倒な後始末を地球の神々に押し付け、責任逃れのために死亡したプレイヤーたちを異世界へ転生させることにした。
・転生後、ゼロスや同じく犠牲となった中学生のイリス(入江澄香)には、女神からのメールで事の真相が伝えられた。
・しかし、その文面はハートマークが飛び交う極めて軽く無責任なものであった。
・女神たちは「生き返らせてあげただけでも親切でしょ?」「適当に生きて勝手に死んで頂戴」などと開き直っており、全く反省の色を見せていなかった。
3. ゲーム能力の引き継ぎと過酷な初期状態
女神の気まぐれな恩恵により、転生者たちはゲーム時代のアバターの能力(レベル、スキル、装備、アイテム製作レシピなど)をそのまま保持して肉体を再構築された。
・これにより、ゼロスはレベル1879で全職業スキルが最高位の「神」クラスという規格外の大賢者として転生する。
・イリスもレベル25という、この世界では一流魔導士相当の力を持って転生した。
・しかし、インベントリー内には食料が一切用意されていない。
・ゼロスがいきなり魔境であるファーフランの大深緑地帯に放り出されるなど、転生直後から過酷なサバイバル生活を強いられるというアフターケアの欠如が際立っていた。
4. 転生者たちの対照的な反応
この理不尽な転生に対する受け止め方は、キャラクターの年齢や性格によって大きく異なっている。
・ゼロス(40歳):平穏な人生を一方的に奪われ、極限のサバイバルを強要された理不尽さから、女神に対して怒りを通り越して殺意すら抱いており、「神は敵である」と断言している。
・イリス(14歳):厨二病気味な中学生であった彼女は、家族と会えなくなる寂しさは感じたものの、それ以上に退屈な日常から解放された。
・憧れの、剣と魔法の世界で冒険ができる、という事実に胸を高鳴らせ、比較的すんなりと異世界生活を受け入れて楽しんでいる。
まとめ
本作の異世界転生は、世界の救済や人類の守護といった高潔な目的ではなく、完全に神々の自己保身と怠慢の結果として発生している。この理不尽なスタートが、主人公であるゼロスに神々への強い不信感を植え付け、世界の権力闘争や神々の思惑から距離を置き、ただ「平穏なスローライフ」を営みたいと切望させる最大の動機となっている。
サバイバル生活
『アラフォー賢者の異世界生活日記』における主人公・ゼロス(大迫聡)のサバイバル生活について、以下の通り解説する。
ゼロスは邪神の自爆に巻き込まれて死亡した後、未知の原生林である「ファーフランの大深緑地帯」で目覚め、そこから約1週間にわたる過酷なサバイバル生活を余儀なくされた。
1. 食料確保の困難と葛藤
女神の手によってゲーム時代のステータスや装備を引き継いで転生したものの、インベントリー内には食料が一切存在せず、自給自足で生き抜く必要があった。
・最初にフォレスト・ラビットを狩ろうとした際、魔改造された弓を使ったために威力が強すぎて獲物を粉砕してしまうという失敗を犯す。
・その後、手加減スキルで獲物を瀕死にし、持ち前のスキルによって見事に肉を解体することに成功した。
・しかし、野菜やパンなどが一切手に入らず、三食すべてが肉のみという偏った食生活に陥る。
・現代の日本社会で生きてきたゼロスは、白いご飯が恋しい、と嘆くなど、サバイバル生活二日目にして早くも限界を感じ始めていた。
2. 絶え間ない魔物との死闘
ファーフランの大深緑地帯は、ゴブリン、オーク、ワイヴァーン、トロール、キメラなどが生息する弱肉強食の魔境であった。
・水辺を探す途中でゴブリンの集落に迷い込んでしまったゼロスは、極限状態から禁断の魔法「闇の裁き」を放ち、集落ごと更地にしてしまうという大量虐殺と自然破壊を引き起こしてしまう。
・さらに、空の悪魔と呼ばれるワイヴァーンから執拗な追撃を受ける。
・休もうと立ち寄った洞窟はキラーアントの巣、川辺ではリザードマン、岩場では男の尻を狙うクレイジーエイプに襲われるなど、気の休まる暇が全くない日々を送った。
・少しでも安全を確保するため、木の上に自分をロープで縛り付けて寝るなどの工夫もしたが、尻が痛くなるなど寝心地は最悪であった。
3. サバイバル生活がもたらした影響
約1週間の過酷なサバイバルを生き抜き、ようやく街道に出た時、ゼロスの精神はひどく荒んでいた。
・極限の環境で生きるための防衛本能から、自分に害をなす盗賊や魔物を殺すことへの躊躇いが完全に消え去っていた。
・一方で、クレストン公爵一行に助けられ、久しぶりにパンなどの人間らしい食事を与えられた際には、感極まって涙を流すほど食に飢えていた。
・この殺伐としたサバイバル生活の経験は、ゼロスが戦いを避け、平穏な農作業(スローライフ)と温かい家庭(結婚)というささやかな幸せを誰よりも強く渇望する最大の要因となっている。
まとめ
ゼロスの異世界生活の原点となったファーフランの大深緑地帯でのサバイバルは、圧倒的なチート能力を持ちながらも精神的には現代日本人である彼にとって、心身ともに限界を試される過酷な試練であった。この経験によって培われた冷徹な戦闘能力と、それとは裏腹に平穏な日常や食事を強く求める姿勢は、その後の物語におけるゼロスの行動原理を決定づける重要な要素となっている。
魔法術式の最適化
『アラフォー賢者の異世界生活日記』における「魔法術式の最適化」は、元プログラマーである主人公・ゼロスが、異世界の非効率な魔法システムを「デバッグ」し、劇的な効率化と威力向上をもたらす本作の重要な要素である。その仕組みと特徴について以下に解説する。
1. 異世界の魔法式の欠陥と最適化の基本
異世界で一般に流通している魔法の教本に記載された術式は、不必要で無駄な魔術文字が多く混入した欠陥品であった。
・従来の術式は、発動に極端な魔力を要求し、個人の資質(魔力保有量)に依存する力任せな構造になっていた。
・そのため、セレスティーナのように魔力の低い者は魔法が使えず、無能、と見なされてしまっていた。
・ゼロスはプログラマーの視点からこの教本の術式をデバッグし、余分な記述を削除して必要な制御術式だけを組み込む最適化を行った。
・魔法文字は単なる記号ではなく、一つ一つに意味があり、それらを組み合わせて物理現象を引き起こす回路や言葉として機能する。
・これにより、論理的なパズルのように無駄を省くことが可能となった。
2. 外部魔力の活用
最適化の最大の核となるのが、「外部魔力」を効率的に利用するシステムへの書き換えである。
・異世界の一般的な魔導士は、個人の体内魔力のみで事象を変質させようとするため、すぐに魔力枯渇を起こしてしまう。
・しかし、最適化された術式では、術者の体内魔力はあくまで呼び水(触媒)としてのみ使用する。
・自然界に滞留する外部魔力を引き寄せて現象を引き起こす仕組みになっている。
・これにより、術者の魔力消費を極限まで抑えることが可能となった。
3. 高度な最適化技術である積層型術式
さらに高度な魔法を構築する際、ゼロスは積層型術式とスペル・ライン(魔力循環)という技術を用いる。
・通常、強大な威力の魔法は広大な面積の魔法陣を描かなければ構築できない。
・しかしゼロスは、魔法陣を複数に分割し、その間に処理魔法式を挟み込むことで立体的にコンパクトにまとめ上げている。
・これにより、必要魔力量と魔法陣の耐久力のバランスを保つ。
・魔力を効率的に循環させて暴走や崩壊を防いでいる。
4. 極限の最適化である機械言語による魔法構築
ゼロスたち「殲滅者」がゲーム時代に極めたオリジナル魔法(闇の裁きなどの広範囲殲滅魔法)は、この最適化を狂気的なレベルまで突き詰めたものである。
・通常の魔法は650の音階文字を使用して構築されるが、ゼロスたちは数字を表す100文字のみを用いた機械言語(0と1のプログラム)を流用して魔法を生み出した。
・情報量が膨大になりすぎるため、紙の魔法陣ではなく賢者の石を媒体にして構築されている。
・異世界の文明水準を100年以上も凌駕する圧倒的な威力を誇る。
・しかし、その製作過程は延々とバグ修正を続ける修羅場のような地獄であり、威力も危険すぎるため、ゼロスは他人に教えることを固く封印している。
まとめ
このプログラミング的思考を用いた最適化により、魔法が使えなかったセレスティーナは才能を開花させ、権力に固執していた兄のツヴェイトも、常識を覆す魔法理論の深淵に触れて純粋な探求心に目覚めていくことになる。
家庭教師の就任
『アラフォー賢者の異世界生活日記』における主人公・ゼロス(大迫聡)の家庭教師への就任は、彼の圧倒的な実力と、平穏な生活を望む思惑、そして公爵家の事情が見事に合致した結果である。その経緯と関係者の思惑について以下に解説する。
1. 出会いと実力の証明
過酷なサバイバル生活を経て街道に出たゼロスは、盗賊に襲われていたソリステア大公爵家の前当主・クレストンとその孫娘・セレスティーナ一行を救出した。
・その際にゼロスは、常識外れの魔法や剣技を披露する。
・さらに、空の悪魔と呼ばれるワイヴァーンを単独で複数討伐してきたという事実が明らかになる。
・これらを知ったクレストンは、ゼロスを伝説級の非凡な魔導士であると認識した。
2. セレスティーナの無能の克服
公爵家の妾腹の子であるセレスティーナは魔力が低く、さらに学院で使われている魔法の教本が、無駄が多く力任せに魔力を要求する欠陥品、であったため、魔法が使えず無能と冷遇され酷く悩んでいた。
・ゼロスは教本を一目見ただけでその欠陥を看破した。
・プログラマーの視点で術式の無駄を省く最適化を施す。
・その結果、セレスティーナは生まれて初めて魔法を発動できるようになる。
・さらにゼロスの指導と補助によって魔物を倒し、大幅なレベルアップと魔力向上を果たした。
3. クレストンの思惑と雇用条件
孫娘を溺愛するクレストンは、セレスティーナの長年の問題を鮮やかに解決し、彼女に笑顔を取り戻してくれたゼロスに深く感謝する。
・ゼロスが己の実力をひけらかさず、権力闘争を嫌って、静かな土地で畑を耕して暮らしたい、という庶民的で無欲な願望を持っている点に強く好感を持った。
・そこでクレストンは、セレスティーナが魔法学院の夏季休暇を終えるまでの約2ヶ月間、彼女の家庭教師としてゼロスを雇うことを決める。
・報酬として、別邸の森の一角を切り開いた土地と家を進呈することが約束された。
4. ゼロス自身の打算とセレスティーナの心酔
一方のゼロスも、異世界に転生して四十路で無職・宿なしという自身の身の上に強い焦りと体裁の悪さを感じていた。
・平穏な農作業を中心としたスローライフと結婚(温かい家庭)を第一に望む彼にとって、定職(家庭教師)を得られ、何よりも帰るべき家と土地がもらえるクレストンの提案は渡りに船であり、打算もあってこの依頼を快諾した。
・家庭教師となったゼロスに対し、セレスティーナは単なる恩人以上の感情を抱くようになる。
・自分に魔法の才能を開花させてくれただけでなく、魔法は破壊(戦争)のためだけではなく、人を豊かにし幸せにするためにも使える、という理念を語るゼロスの姿に、彼女は彼を力に溺れない高潔な魔導士の理想像として深く尊敬する。
・彼女はゼロスに正式な弟子として認められることを目標に掲げ、彼が課す過酷な実戦訓練や魔法の座学に嬉々として没頭していくことになった。
まとめ
ゼロスの家庭教師就任は、公爵家にとっては救世主を囲い込む最善の手段であり、ゼロスにとっては異世界での生活基盤を確立するための完璧な足がかりとなった。この主従かつ師弟としての関係の始まりは、ゼロスを悩ましい権力闘争の渦中へと緩やかに巻き込んでいくと同時に、彼が渇望する平穏なスローライフの基盤を築く重要な転換点となっている。
実戦訓練の過酷さ
『アラフォー賢者の異世界生活日記』における主人公・ゼロスが教え子たち(セレスティーナとツヴェイト)に課した実戦訓練は、一般的な魔導士の常識を覆すほど過酷なものである。魔法学院では安全な場所から魔法を撃つだけの「ぬるい」訓練しか行われていないが、ゼロスは「魔力が尽きれば死に直結する」という実戦の厳しさを教えるため、あえて過酷な状況を作り出している。
1. マッドゴーレムを用いた終わりのない消耗戦
庭で行われた最初の訓練の相手は、ゼロスが生み出した多数のマッドゴーレムである。
・ゴーレム自体のレベルは3程度で動きも遅いが、泥でできているため物理攻撃が効きにくく、核を破壊しない限り何度でも再生する厄介な性質を持っている。
・さらに、倒したそばからゼロスが魔石を使って無尽蔵にゴーレムを補充するため、終わりのない消耗戦を強いられる。
・ゼロスは分隊長ゴーレムを介して軍隊の指揮系統のように三十体以上のゴーレムを精密に操作している。
・途中からは素早さ重視の細長い個体を混ぜ、死角からの攻撃や足掛け、連携による捕縛など、極めて狡猾でえげつない戦法で二人を追い詰めていく。
2. 限界を超えた極限状態の体験
この訓練の最大の過酷さは、疲労困憊で魔力が枯渇寸前になっても決して休ませてもらえない点にある。
・ゼロスは「魔力が切れたという理由で敵が待ってくれるわけがない」と容赦なく訓練を続行し、二時間に及ぶ絶え間ない乱戦を強要する。
・これは、ゼロス自身がオンラインゲーム時代のレイド戦で経験した地獄のような乱戦を再現したものである。
・極限状態の中でいかに冷静な状況判断を下し、ペース配分を行い、生き残るための最善策を見出すかを身をもって学ばせることが目的である。
3. 本物の死地であるファーフランの大深緑地帯での実戦
庭での訓練を経て、彼らはついに凶悪な魔物が跋扈する魔境であるファーフランの大深緑地帯へと赴き、本物の実戦訓練を行う。
・そこでは、知恵が回り群れで襲いかかってくるオークの集団との死闘が待っていた。
・ゼロスはあえて完全に敵を殲滅せず、弟子たちや護衛の騎士たちが自らの力で戦い抜く状況を作り出す。
・一瞬の油断が死に直結する戦場の恐怖を体験させた。
まとめ
このように、ゼロスの実戦訓練は、後方から魔法を撃つだけの甘えを一切許さず、死線を潜り抜けることで生存能力を徹底的に叩き込む、ブートキャンプのような極めて過酷な内容となっている。
養護院の再建
『アラフォー賢者の異世界生活日記』における「養護院の再建」は、ゼロスが街の散策中に孤児たちと出会ったことから始まり、彼の規格外の魔法と現実的な教育方針によって成し遂げられた。その経緯と特徴について以下に解説する。
1. 養護院の困窮とツヴェイトの横暴
サントールの街で迷子になったゼロスは、治安の悪い旧市街で孤児の子供たちに串肉をねだられ、彼らの住処である養護院(教会)を訪れた。
・そこではシスターのルーセリスが孤児たちを育てていたが、国の寄付金が下りず生活は困窮していた。
・さらに、次期領主候補であるツヴェイトがルーセリスに一方的な好意を寄せる。
・彼女を孤立させるために権力を使って養護院を四分割するという悪辣な嫌がらせを行っていた。
・ゼロスは、このツヴェイトの身勝手な振る舞いを圧倒的な実力と正論で撃退し、養護院を理不尽な脅威から救い出す。
2. 魔法による畑の開拓と自立への教育
困窮する養護院の現状を見たゼロスは、教会の裏手にある放置された荒れ地を、大地操作魔法「ガイア・コントロール」を用いて一瞬にして広大な農地へと作り変え、「ストーンウォール」で外壁を築いて立派な畑を完成させる。
・ゼロスは単に食料を与えるのではない。
・人に甘えたら、その分の成果を出すのが当たり前。人はいずれ自立しなくてはいけない、と説いた。
・子供たち自身に畑の世話をさせることで、勤労の重要性と自立への道を教え込んだ。
3. マンドラゴラの栽培と絶叫教会の誕生
畑には野菜だけでなく、ゼロスが大深緑地帯で採取した高級薬草「マンドラゴラ」の種が植えられた。
・マンドラゴラは驚異的な速度で成長し、数日で収穫期を迎えたが、引き抜く際に精神を削るような凄まじい断末魔や呪詛を上げる厄介な特性を持っていた。
・無邪気に笑いながらマンドラゴラを引き抜く子供たちに対し、ゼロスとルーセリスは精神的な大ダメージを受けることとなる。
・しかし、この高級薬草の収穫によって養護院の財政は劇的に潤い、まともな食事ができるまでに再建された。
4. 副産物としての防犯効果
マンドラゴラの悲鳴が響き渡るようになった養護院は、近隣や領主からも「絶叫教会(悲鳴の飛び交う悪夢の教会)」と陰で呼ばれ恐れられるようになる。
・一方で、噂を聞きつけて畑に忍び込んだ泥棒がマンドラゴラの絶叫によってパニックに陥る。
・待ち構えていた近隣住民に次々と捕縛されるという事態が多発した。
・結果としてマンドラゴラは極めて優秀な防犯装置として機能し、治安の悪い旧市街にある養護院の安全にも寄与することとなった。
まとめ
「養護院の再建」は、ゼロスの規格外の魔法が単なる戦闘だけでなく、内政や生活基盤の改善において圧倒的な効果を発揮することを示したエピソードである。施しを与えるだけでなく自立を促すゼロスの教育方針と、マンドラゴラ栽培という斜め上の手段が組み合わさることで、養護院は経済的自立と安全を同時に獲得し、物語における重要な拠点として再生を遂げることとなった。
マンドラゴラ収穫
『アラフォー賢者の異世界生活日記 1』において、マンドラゴラを収穫する際の具体的な被害は物理的なものではなく、主に精神的・社会的なダメージである。一般には「引き抜くと断末魔の叫びを上げ、その声を聴くと即死する」と噂されているが、実際には死ぬことはなく、以下のような強烈な被害をもたらす。
1. 大人の精神を粉砕する強烈な罪悪感
引き抜かれる際、惨劇の被害者のような絶叫や、「ヒトオモイニコロセ」「ノロワレヨ」といった呪詛を上げる。
・これにより、良識のある大人には凄まじい罪悪感が無理やり呼び起こされる。
・精神を粉々に粉砕されるほどのダメージ(メンタルブレイク)を受けることとなる。
・実際、6時間にわたる収穫を終えたゼロスとルーセリスは、目が虚ろになり、空中に向かって誰かと語り出すほど精神的に満身創痍となっていた。
2. 近隣からの誤解と通報リスク
「オカサレル」といった人聞きの悪い悲鳴や、卑猥な声まで上げる特性を持つ。
・そのため、近隣住民から猟奇的な変質者の犯行だと誤解される危険性がある。
・すでに何度も誤解を受けて衛兵に対応する羽目になっており、通報や補導をされかねない社会的なリスクを伴う。
3. 子供の教育上の悪影響
マンドラゴラが意図的に発する残酷な言葉や卑猥な声は、子供たちの好奇心を悪刺激してしまう。
・養護院の子供たちは絶叫を面白がって無邪気にマンドラゴラを引き抜き続けている。
・これが大人たちの精神をさらに抉る結果を招いた。
・教育上非常に良くないとゼロスたちを悩ませる要因となっている。
まとめ
このように、マンドラゴラの収穫は、大人の心を的確に抉り、社会的な立場まで危うくする極めて凶悪な精神攻撃の被害を伴う。一般的な魔物のような物理的脅威とは異なり、関わった者の精神力と倫理観、そして周囲の評判を直接破壊してくる点が、この植物の最も恐るべき被害の実態である。
登場キャラクター
転生者・神々
大迫聡(ゼロス・マーリン)
現実世界ではリストラに遭った元プログラム技術者であり、田舎で暮らす四十歳の独身男性である。ゲーム内では「大賢者」や「殲滅者」と呼ばれるトッププレイヤーであった。平穏な余生と温かい家庭を持つことを望んでおり、権力争いを極端に嫌う。セレスティーナやツヴェイトの家庭教師として、彼らに魔法や実戦の厳しさを教える。
・所属組織、地位や役職
無職の魔導士。ソリステア大公爵家の客分および家庭教師。
・物語内での具体的な行動や成果
ゲーム内で邪神を倒した直後に自爆へ巻き込まれて死亡した。ゲームのアバター能力を引き継いで異世界に転生し、森でのサバイバルを経てクレストン一行を盗賊から救った。セレスティーナの教本にある魔法式を最適化し、彼女が魔法を使えるように導いた。マッドゴーレムを用いた実戦訓練を通じて、兄妹の戦闘技術を鍛え上げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
クレストンから別邸の森の一部と家を与えられる約束を取り付けた。規格外の魔力と技術を持っており、周囲からは大賢者として畏敬の念を集めている。
入江澄香(イリス)
現実世界では十四歳の中学生であり、周囲と趣味が合わず孤立気味であった。退屈な日常から解放され、未知の世界での冒険に胸を躍らせる好奇心旺盛な性格である。
・所属組織、地位や役職
さすらいの魔導士(駆け出しの傭兵)。
・物語内での具体的な行動や成果
邪神の自爆テロに巻き込まれて死亡し、ゲームの能力を保持したまま異世界に転生した。ゴブリンに襲撃されていた村にたどり着き、傭兵のジャーネやレナと連携してゴブリンジェネラルを討伐した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
村を救った報酬として路銀を受け取り、イリスと名を変えてサントールの街へ旅立った。
女神フレイレス
異世界の風の女神であり、極めて無責任で自己中心的な性格である。事後処理を地球の神々に押し付け、全く反省の色を見せない。
・所属組織、地位や役職
異世界の風の女神。
・物語内での具体的な行動や成果
地球のゲーム内に邪神を再封印し、自爆による被害を発生させた。他世界の神々からの苦情を受け、死亡した数十名をゲームデータに基づいて異世界へ転生させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
聡にメールで転生の経緯を伝えたが、その軽薄な態度から彼に強い怒りと殺意を抱かれている。
邪神
異世界の神々に封印された存在であり、禍々しい姿を持つ強大な敵である。
・所属組織、地位や役職
ゲーム内のラスボス。
・物語内での具体的な行動や成果
ゲーム内で聡たちに敗北したが、最期に怒りと呪詛を解放して自爆を引き起こした。これにより地球で大停電を発生させ、聡たちを巻き込んで殺害した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
討伐された後に自爆し、プレイヤーたちが異世界へ転生する直接の原因を作った。
ソリステア大公爵家
クレストン・ヴァン・ソリステア
ソリステア魔法王国の王族の血に連なる元公爵であり、隠居の身である。孫娘のセレスティーナを溺愛しており、彼女のためなら他人の犠牲や横領も辞さない暴走を見せる。
・所属組織、地位や役職
ソリステア大公爵家の元当主。ソリステア派の創設者。
・物語内での具体的な行動や成果
盗賊に襲われていたところをゼロスに救われ、彼をセレスティーナの家庭教師として雇い入れた。孫娘の装備を作るため、無断で宝物庫の魔石を売り払った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
宝物庫横領の件を現当主のデルサシスに追及され、後始末を命じられた。
デルサシス・ヴァン・ソリステア
厳格で仕事とプライベートを分ける優秀な領主であるが、女性関係が派手である。セレスティーナとツヴェイトの父親でもある。
・所属組織、地位や役職
ソリステア大公爵家の現当主。サントールの領主。
・物語内での具体的な行動や成果
クレストンが宝物庫から貴重な魔石を持ち出したことを見抜き、証拠を突きつけて彼に後始末を指示した。権力を私物化してルーセリスに迫ったツヴェイトを叱責し、殴り倒した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ゼロスからワイヴァーンの魔石を受け取り、その恩返しとして別邸の森の一部と家を彼に譲渡すると約束した。
ツヴェイト・ヴァン・ソリステア
ソリステア公爵家の長兄で、次期領主を自負する青年である。粗暴でプライドが高く、ルーセリスに一方的な好意を寄せている。セレスティーナを冷遇していたが、ゼロスの実力に触れて教えを乞うようになる。
・所属組織、地位や役職
ソリステア公爵家の子息。イストール魔法学院高等部の生徒。ウィースラー派所属。
・物語内での具体的な行動や成果
ルーセリスに強引に迫り、養護院を分割する嫌がらせを行った。街中でゼロスに範囲魔法を放つが、素手で打ち消されて完敗した。自身の未熟さを悟り、ゼロスに鍛え直しを頼み込んで訓練を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ゼロスの指導により魔法の基礎を学び直し、実戦訓練を通じて魔導士としての成長を始めている。
セレスティーナ・ヴァン・ソリステア
ソリステア公爵家の妾腹の娘である。魔法が使えないため一族から冷遇されていたが、祖父のクレストンには愛されている。真面目で探究心があり、ゼロスを深く尊敬するようになる。
・所属組織、地位や役職
ソリステア公爵家の息女。
・物語内での具体的な行動や成果
ゼロスによって教本の魔法式を最適化され、初めて魔法を発動させた。ゼロスの指導の下、ブラッド・ベアーを倒してレベルを上げ、マッドゴーレムとの実戦訓練で格闘戦と魔法の連携を学んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ゼロスのオリジナル魔法を伝授されるという目標に向け、懸命に修練に励んでいる。
ダンディス
クレストンの別邸に仕えるナイスミドルの執事である。ゼロスを命の恩人として丁重にもてなす。
・所属組織、地位や役職
ソリステア大公爵家別邸の執事。
・物語内での具体的な行動や成果
ゼロスを別邸で一番見晴らしの良い客室へ案内し、湯浴みを勧めた。浴場での鉢合わせ騒動の際は、激怒するクレストンを必死に宥めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
ミスカ
セレスティーナの専属使用人で、教養と他者を立てる物腰を持つ女性である。年齢の話題を極端に嫌う。
・所属組織、地位や役職
ソリステア大公爵家の女給。
・物語内での具体的な行動や成果
セレスティーナに対し、ゼロスが冷酷な一面を持っている可能性を指摘した。ツヴェイトにゼロスのゴーレム操作の仕組みを説明した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ツヴェイトに年齢を尋ねられそうになった際、不気味な気配を放って彼を屈服させた。
アーレフ・ギルバート
実戦経験を持ち、現実的な戦場観を持つ騎士である。魔導士が近接戦闘を軽視する現状を嘆いており、ゼロスの考えに共感する。
・所属組織、地位や役職
ソリステア公爵家騎士団の分隊長。
・物語内での具体的な行動や成果
セレスティーナたちの実戦訓練の護衛として、ファーフランの大深緑地帯へ同行した。オークの群れとの戦闘では部隊を指揮し、的確な迎撃を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
養護院
ルーセリス
身寄りのない子供たちを育てる心優しいシスターである。ツヴェイトから一方的に付きまとわれており、彼を卑怯で下劣だと拒絶している。
・所属組織、地位や役職
四神教の見習い神官。養護院の運営者。
・物語内での具体的な行動や成果
ツヴェイトに養護院を分割された。ゼロスから串肉の寄付を受け取り、彼と子供たちを養護院に案内した。ゼロスと共にマンドラゴラを収穫したが、その絶叫によって精神的なダメージを受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
赤毛の子供
養護院に住む孤児で、十三歳の少女であるが男の子のように見える。明るく物怖じしない性格である。
・所属組織、地位や役職
養護院の子供。
・物語内での具体的な行動や成果
旧市街でゼロスを尾行し、串肉をねだった。ゼロスを養護院の教会まで案内した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
養護院の子供たち
旧市街の養護院で暮らす孤児たちである。たくましく生きているが、楽をして儲けることを好む傾向がある。
・所属組織、地位や役職
養護院の子供たち。
・物語内での具体的な行動や成果
マンドラゴラを引き抜き、その絶叫を無邪気に面白がった。収穫したマンドラゴラを干す作業を行い、養護院の財政改善に貢献した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
魔導具店
ベラドンナ
娼婦のような妖艶な外見の魔導具店店長である。優秀な魔導士でもあり、ゼロスの実力と危険性を直感で察知する。
・所属組織、地位や役職
魔導具店の店長。
・物語内での具体的な行動や成果
店員がゼロスを盗人扱いしたことを謝罪し、魔石を高額で買い取った。ゼロスが去った後、彼を敵に回してはいけないと店員を叱責した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
クーティー
魔導具店の店員で、魔女姿にメガネをかけている。推理小説にかぶれており、客を疑う悪癖がある。
・所属組織、地位や役職
魔導具店の店員。
・物語内での具体的な行動や成果
ゼロスが持ち込んだ魔石を見て、彼を盗人扱いして問い詰めた。クレストンの客だと知り、顔を青ざめさせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
傭兵
ジャーネ
赤髪のロングストレートで長身の女性傭兵である。勇敢で高い実力を持つ。
・所属組織、地位や役職
傭兵。
・物語内での具体的な行動や成果
ゴブリンの群れから村を守るため、大剣を振るって戦った。イリスやレナと連携し、ゴブリンジェネラルを討伐した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
レナ
甘栗色のボブカットの女性傭兵である。シミターとバックラーを使いこなし、特定の性癖を持つ。
・所属組織、地位や役職
傭兵。
・物語内での具体的な行動や成果
ゴブリンの群れを迎撃し、イリスの魔法援護を受けながらゴブリンジェネラルに止めを刺した。村での宴の後、宿で誰かに手を出していた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
村
農民の男
ゴブリンの襲撃に悩まされる村の住人である。人情に厚く、困っている者に親切である。
・所属組織、地位や役職
村人。
・物語内での具体的な行動や成果
村にたどり着いたイリスに事情を説明し、彼女の参戦を受け入れた。鉈を振るって村に侵入したゴブリンと戦った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
長老
ゴブリンの脅威が去ったことを喜ぶ村の代表者である。
・所属組織、地位や役職
村の長老。
・物語内での具体的な行動や成果
ゴブリンジェネラル討伐後、村で大宴会を開くよう宣言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
その他
盗賊の頭目
街道で商人を襲った盗賊団のリーダーである。残忍で卑劣な性格をしている。
・所属組織、地位や役職
盗賊団の頭目。
・物語内での具体的な行動や成果
クレストン一行を包囲し、金品と女子供を奪おうとした。ゼロスに正々堂々と勝負しろと要求したが、瞬時に腕を斬り落とされた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
盗賊たち
街道で商人や貴族を襲撃する犯罪者集団である。
・所属組織、地位や役職
盗賊団の構成員。
・物語内での具体的な行動や成果
倒木で道を塞ぎ、クレストンたちを襲った。ゼロスの魔法によって次々と倒され、生き残った者も傭兵たちに追撃されて全滅した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
商人たち
サントールなどで商売を行う人々である。
・所属組織、地位や役職
商人。
・物語内での具体的な行動や成果
街道で盗賊に襲撃されて立ち往生していたが、ゼロスに救出された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
展開まとめ
プロローグ おっさん、死す
VRRPG【ソード・アンド・ソーサリス】
ゼロス・マーリンとしての冒険
VRRPG【ソード・アンド・ソーサリス】は、最新機器【ドリーム・ワークス】によって五感を伴う臨場感を実現した体感型RPGであった。大迫聡はゼロス・マーリンという名でその世界に参加し、仲間と冒険を楽しんでいた。冴えない中年魔導士のような姿をしたアバターであったが、実際には五指に入るトップ・プレイヤーであり、殲滅者と呼ばれるほどの実力を持っていた。
混乱を生んだ魔法作成システム
【ソード・アンド・ソーサリス】では、装備やアイテムだけでなく魔法も作成できた。魔術は文字や数字の記号を重ねることで効果を生み出し、【スペル・サーキッド】によって初期魔法を改造できた。精緻で複雑な魔法ほど威力が増し、魔力消費が下がる性質があったため、計算上は威力が出ないはずの魔法が異常な力を発揮することもあり、発売当初は混乱が起きていた。
隠し要素の発見
プレイヤーたちの探索によって、魔法の異常な威力は隠し要素によるものだと判明した。アバターの魔力を呼び水にし、フィールド内の魔力を利用することで威力が上がっていたのである。ただし、フィールド内の魔力は数値として表示されなかったため、必要な魔力消費量は手探りで調べるしかなかった。
自作魔法への没頭
魔法作成の知識は探索で得られるものだったが、作成には手間がかかったため、多くのプレイヤーは既存魔法を使っていた。聡は魔法作成に深くのめり込み、詠唱時間やリキャストタイムをなくす改良を進めていた。聡たちのパーティーは強力な自作魔法を公表せず、魔法スクロールとしても売らなかったため、ネット上で非難されることもあったが、それを無視して開発を続けた。
孤独な現実と電脳世界の安らぎ
聡はかつて一流企業のプログラム技術者であったが、リストラを受けて田舎で孤独に暮らしていた。現実では四十歳の独身であり、姉以外に家族と呼べる存在もいなかった。畑の世話をしながらゲームに没頭する生活を続ける中で、電脳世界は聡にとって自分をさらけ出せる安らぎの場所となっていた。
邪神との最終決戦
聡たちのパーティーは、高威力で省エネの魔法を作り続け、高難易度クエストを攻略していた。そしてストーリーモードのラスボスと思われる邪神と戦っていた。三段変身を遂げた邪神は禍々しい姿であったが、聡たち五人は魔法職でありながら改造した武器や装備、魔法を駆使し、圧倒的な火力と連携で邪神を追い詰めていた。
邪神撃破と仲間たちのログアウト
聡たちはそれぞれ予定があったため、邪神との戦いを終わらせようとしていた。仲間たちは高威力の魔法を連続で叩き込み、邪神のHPを一気に削っていった。やがて邪神は爆炎に包まれながら断末魔を上げ、地面へ崩れ落ちた。戦闘後、仲間たちは睡眠や仕事、バイトのために次々とログアウトし、邪神の城には聡だけが残った。
倒されたはずの邪神の復活
聡は獲得アイテムや上昇したレベル、溜まったポイントを確認しており、目の前で邪神の軀がわずかに動いていることに気付いていなかった。邪神は禍々しい瘴気を放ちながら動き出し、自分を滅ぼした存在を許さないと告げた。聡は邪神のHPがゼロのはずであることに驚き、イベントがまだ終わっていないのではないかと考えた。
現実世界を巻き込む呪い
邪神は怒りと呪詛を解放し、周囲を深紅の光で包んだ。その日、日本の全ての電力供給が停止した。さらに数十名ほどの国民が遺体で発見されたが、死因は不明であった。電力復旧が急がれる中で、彼らの死は騒ぎに埋もれ、新聞の片隅に小さく残されただけで、時間と共に忘れ去られていった。
第一話 おっさん、異世界に転生す
見知らぬ森での目覚めとサバイバル開始
異世界の森での覚醒
聡は気が付くと、緑豊かな見知らぬ森の中にいた。部屋でゲームをしていたはずだったが、周囲には見たこともない植物が生え、空には月が二つ浮かんでいた。さらに、地球上の生物とは思えない鳥や、狼のような生物を捕食する巨大植物を目にし、聡は少なくとも日本ではなく、地球ですらない場所にいる可能性が高いと判断した。
ゲーム装備との一致
聡は腰に二振りの剣があることに気付いた。それはゲーム内で自ら鍛えたショートソードであり、レア素材を用いた強力な武器であった。身に着けている薄汚れた灰色のローブも、ゲーム内のアバターが装備していた防御力特化の装備であり、同系統のレザーアーマーも着込んでいた。聡はゲームの世界に転移したような状況を否定しようとしたが、目の前の現実はそれを許さなかった。
ゼロス・マーリンとしての能力
聡が冗談半分でステータスを開く言葉を口にすると、ゲーム内と同じステータス画面が浮かび上がった。そこにはゼロス・マーリンとしての名前、レベル、HP、MP、職業、各種スキルが表示されていた。その能力は人間の領域を大きく超えており、聡はゲーム内で邪神と同等の魔法を生み出し、仲間と共に邪神を圧倒していた力が現実になっていることを理解した。
女神フレイレスからのメール
聡はステータス画面にメールの受信表示を見つけ、震える指で開いた。メールでは、女神フレイレスが、二四八七年前に邪神を勇者と共に封じたが、その封印場所が聡たちの世界のゲーム内だったと説明していた。復活しそうになった邪神を聡たちが倒したものの、邪神は自爆して彼らを巻き込み、死亡した数十名をこの世界へ転生させることになったと記されていた。
奪われた人生への怒り
女神たちは、聡をゲームデータをベースにして転生させ、所有していた素材や装備もこの世界の物として再構築したと告げていた。さらに、聡たちの世界を管理する神々から苦情が来たため、転生させるしかなかったとも書かれていた。聡は、ゲームを楽しんでいただけで人生を奪われたことに納得できず、女神たちの無責任な態度に強い怒りを覚えた。
飛行魔法による探索
聡は人の住む場所を探すため、高所から周囲を見渡すことにした。ゲーム内で作成した飛行魔法【闇鳥の翼】を発動すると、魔法陣が顕現し、聡の体は重力から解き放たれて空へ浮かび上がった。自作魔法が現実に使えたことに聡は喜んだが、上空から見えたのは広大な原生林と山ばかりで、町や村は見当たらなかった。
食料確保の必要
聡は数時間飛び続けても人里を見つけられず、食料確保と野宿を考える必要に迫られた。インベントリーには食料がなく、調味料はあっても調理する素材がなかったため、狩りをするしかなかった。聡は弓を取り出し、スキルで気配を消しながら獲物を探した。
魔改造弓による失敗
聡はフォレスト・ラビットを見つけ、木の上から矢を放った。だが、使用した弓が仲間と面白半分で作った魔改造武器だったため、ウサギは地面ごと吹き飛び、肉片になってしまった。聡は無益な殺生をしたことを悔やみ、次は戦闘スキル【手加減】を使って獲物を瀕死にし、ナイフで止めを刺して食料を確保した。
ゴブリンの追跡
聡が水辺を探して森を進んでいると、ゴブリンに発見された。ゴブリンは笛を鳴らし、森の奥から仲間を呼び寄せた。聡は勝てないわけではなかったが、人型の相手を殺す気になれず、現代社会で生きてきた人間としての嫌悪感から逃げ出した。しかし、ゴブリンの数は増え続け、退路も塞がれていった。
ゴブリン集落への迷い込み
逃げ続けた聡は、前方に明かりのようなものを見つけ、助かったと思って向かった。だが、そこにあったのは人の村ではなく、ゴブリンの集落であった。聡は敵地に飛び込んでしまい、精神的に追い詰められていった。ゴブリンたちは聡を食料と見なしていたが、聡が手を出してよい存在ではないことには気付いていなかった。
禁断魔法【闇の裁き】
追い詰められた聡は、ゴブリンたちに向かって消し飛べと叫び、禁断の魔法【闇の裁き】を放った。膨大な魔力によって漆黒の巨大な球体が現れ、小型の球体がゴブリンたちを飲み込んでいった。黒い球体は雷と旋風を巻き起こし、大地ごとゴブリンたちを飲み込んで爆発した。その結果、ゴブリンの集落は消滅し、周囲の森にも更地が生まれた。
非常識な力への恐怖
正気に戻った聡の前には、隕石が落ちたような巨大なクレーター群が広がっていた。聡は、生き残るためとはいえ、取り返しのつかない自然破壊と大量虐殺をしてしまったと感じた。そこにはゴブリンだった者たちの魔石だけが残されており、聡はそれを回収したものの、自分の力が戦略兵器並みの非常識なものだと自覚し、足取りを重くした。
川辺での解体スキル発動
聡は三時間ほど歩き続け、透明度の高い川にたどり着いた。空腹に耐えきれずフォレスト・ラビットを解体しようとすると、気付くとウサギは綺麗な肉へ取り分けられていた。別の一羽を持ち上げた瞬間、聡の腕は無意識に動き、正確かつ高速に肉を解体した。これは【狩神】や【解体補正】などのスキルによるものであり、職業スキルが現実でも反映されていることを示していた。
目立つことへの警戒
聡は、自分の力が非常識であるため、どこかの国に目を付けられれば厄介な事態になると考えた。結婚したい願望もあったが、今の自分が化け物のような存在であることに不安を抱いた。脳内に追加された知識を調べると、この世界の通貨は一ゴルが一円に近い基準であり、日本円に近い感覚で扱えることが分かった。
孤独な野営
夜になると、聡は焚火の前でウサギ肉を焼きながら、この世界で生きることについて考えた。盗賊などが現れた時に殺せるのか、魔導士が冷遇される国や強制的に軍属にされる国があるのではないかなど、今後の危険を想定した。聡は目立たず低リスクで生きる必要があると考え、焼いたウサギ肉を食べた後、地上より安全だと判断して木の上にロープで自分を括り付けて眠った。
二日目の方針
翌朝、聡は木の上で寝たせいで尻が痛くなり、この方法をやめることにした。二日目は狩りをしながらスキルの把握を進める方針を立てた。自分の力を使いこなせなければ、うっかり人を殺しかねないためである。聡は、周囲から恐れられることも孤独に生きることも避けるため、実力を抑えて相手を圧倒できるようになる必要があると考えた。
ミート・オークとの遭遇
聡が警戒していると、生物反応を感知した。現れたのは豚の頭部を持つ肥満体の魔物、ミート・オークであった。ミート・オークは食べられる魔物であり、人型というより四足歩行の豚に近かったため、聡は食べることに躊躇しなかった。聡は瞬時に間合いを詰め、両手の剣でミート・オークを斬り殺し、手加減しても瞬殺できる自分の異常な能力をさらに理解した。
肉だけの食生活
聡は魔物を見つけては返り討ちにしながら移動し、食料を確保した。だが肉ばかりの食事では飽きが来るため、山菜を探そうとした。しかし見つかるのは薬草や毒草、種の類ばかりで、食べられる野草は見つからなかった。機材や容器がないため毒草も活用できず、聡はパンや白い飯を恋しがり、サバイバル生活二日目にして限界を感じ始めた。
ワイヴァーンの襲来
聡が神を信じられないと叫んでいると、緑色の鱗に覆われた長い首を持つワイヴァーンが飛来した。ワイヴァーンは聡を獲物と見なし、腹に収めようと何度も一撃離脱を繰り返した。聡は空からの攻撃に慣れておらず、何度も攻撃を避けながら逃げるしかなかった。森にはワイヴァーンのブレスと爆発音が響き、命懸けの鬼ごっこは日が暮れるまで続いた。
第二話 おっさん、テンプレに遭遇する
この世界に転生して、早一週間
大深緑地帯の果て
この世界に転生してから一週間が経ち、聡はファーフランの大深緑地帯での過酷なサバイバル生活を抜け出し、ようやく人工的な街道にたどり着いた。森ではゴブリン、オーク、ワイヴァーン、トロール、マンイーター、キメラなどに襲われ、休もうとした洞窟はキラーアントの巣であり、川辺ではリザードマン、岩場ではクレイジーエイプにも狙われたため、聡の精神はひどく荒んでいた。
捻くれた道選び
聡は街道の左右どちらへ進むか迷い、拾った枝が倒れる方向で決めようとした。二十三回目で左に倒れたが、聡はあえて右へ向かった。粗末な街道であっても人の手が入った道であることに変わりはなく、聡は人里へ行ける可能性と誰かと会話できる期待から、軽い足取りで進んだ。
川辺の身支度
聡は風呂に入っていないことに気付き、このまま人に会えば山賊のように見えると考えた。幸運にも川と橋を見つけたため、人目につかない下流へ移動し、装備を脱いで川に飛び込んだ。久しぶりに体を洗い、衣服も洗濯した聡は、服が乾くまで川辺で食事の準備をし、肉だけの食事に不満を抱きながらも穏やかな時間を過ごした。
馬車の行方
衣服が乾くと、聡は装備を身に着けた。この一週間で装備の扱いにも慣れており、自然に着込めるようになっていた。橋を渡る商人の馬車を見かけたことで、人の住む集落があると分かった聡は、馬車が進んだ方角へ歩き出した。途中で白く豪奢な馬車が通り過ぎたが、権力者に興味がなかったため、聡は気に留めなかった。
街道前方の不穏な気配
聡は強化魔法で身体能力を高めて走り、三十分ほど進んだところで索敵スキルによって前方に集団の気配を感じ取った。盗賊の可能性を考えたが、いきなり攻撃するのは文明人のすることではないと判断し、気配を消して森に隠れた。前方では薄汚い格好の男たちが武器を持ち、商人たちを取り囲んでいたため、聡は犯罪現場の可能性が高いと考えながら状況を見極めることにした。
白い馬車の主従
ファーフラン街道を、白一色で金細工の施された豪奢な馬車が進んでいた。御者台には騎士二人が控え、馬車の中には老人と少女が座っていた。老人は純白のローブをまとった魔導士で、この辺りの領地を治める大公爵であり、ソリステア魔法王国の王族の血を引くクレストン・ヴァン・ソリステア元公爵であった。彼は家督を息子に譲って隠居しており、孫娘セレスティーナを深く可愛がっていた。
冷遇される孫娘
セレスティーナは公爵と使用人の間に生まれた妾腹の子であり、魔法を行使する才能が低かったため、公爵夫人たちから苛烈な虐めを受けていた。クレストンはセレスティーナを別邸で暮らさせ、高名な魔導士を家庭教師に招いて才能を伸ばそうとしたが、すべて失敗していた。その結果、セレスティーナには才能がないという烙印が定着し、彼女は努力を続けながらも悲しげな笑みを浮かべるようになっていた。
灰色のローブの魔導士
馬車が橋に差しかかった時、セレスティーナは双剣を携えた灰色のローブの魔導士を見かけた。クレストンは、灰色のローブなら下級魔導士か、他国から旅をしてきた魔導士かもしれないと語った。この国ではローブの色が魔導士の階級を示しており、灰色は下級、黒は中級、深紅は上級、白は国直属の精鋭を表していた。クレストンは、魔法と剣の両方を極めるのは難しいと説明し、セレスティーナは自分が前に進めていないことに落ち込んだ。
倒木の罠
馬車は前方の倒木で速度を落とし、商人と護衛の傭兵たちが立ち往生している場面に出くわした。クレストンは嫌な予感を覚え、騎士たちに周囲を警戒するよう命じた。直後、森に潜んでいた盗賊たちが一斉に矢を放ち、商人たちは混乱し、傭兵たちは荷馬車を盾にして応戦した。クレストンは魔法の込められた短剣で障壁を張ったが、囲まれていたため攻撃には移れなかった。
追い詰められた商人たち
盗賊たちは街道を封鎖し、商人や傭兵を皆殺しにして荷物や金を奪うつもりでいた。クレストンは孫娘を守るために戦おうとしたが、障壁を解除すれば矢で狙われ、魔法を詠唱する隙もなかった。盗賊の頭目は女子供を売り払うつもりだと告げ、商人たちは打つ手を失っていった。魔剣の魔力も切れかけ、状況はさらに悪化していた。
氷結華の奇襲
盗賊たちが勝利を確信していた時、商人たちを囲んでいた森が白く染まり、盗賊ごと凍りついて砕け散った。ゼロスが【氷結華】を放ち、弓兵を完全に沈黙させたのである。ゼロスは灰色のローブをまとった冴えない魔導士の姿で、白い馬車の上に降り立った。盗賊の会話と状況から相手が盗賊だと判断し、商人たちに逃げ場がなかったため、人命を優先して介入したのであった。
黒雷連弾の制圧
盗賊の頭目が仲間を殺したと怒ると、ゼロスはその仲間も頭目にとっては使い捨ての道具に過ぎないと返した。頭目がそれを認めるような言葉を返したため、ゼロスは【黒雷連弾】を発動した。小さな黒い粒は漆黒の弾丸となって盗賊たちを貫き、内側から雷撃で焼き尽くした。ゼロスは、乱戦が得意であり、まとまっている相手は良い標的だと告げ、盗賊たちに消えるよう最後通告をした。
頭目の敗北
盗賊の頭目は、後から出てきて卑怯だと叫び、正々堂々と勝負しろと要求した。ゼロスはそれを受け、瞬時に間合いを詰めて頭目の腕を斬り落とした。頭目は何が起きたのか理解できず、斬り落とされた腕を見て悲鳴を上げた。ゼロスの動きは誰にも追えず、傭兵たちもその速度と魔法の実力に戦慄した。
崩壊した盗賊団
ゼロスという予期せぬ乱入者によって、数の優位に立っていた盗賊たちは一気に瓦解した。盗賊たちは逃げ出したが、怒り狂った傭兵たちが追撃し、反撃する間もなく血祭りに上げていった。ほどなくして盗賊たちは全て殲滅され、街道の危機は収まった。
クレストンからの礼
戦いの後、クレストンはゼロスに礼を述べた。ゼロスは、たまたま行く先が同じだっただけだと軽く返したが、クレストンは孫娘を危険にさらさずに済んだため、礼を受け取ってほしいと告げた。ゼロスは街や集落の場所を尋ね、自分が道に迷っていることを明かした。そして名を問われた際、元の世界の名を名乗りかけたが、この世界では異質だと判断し、ゼロス・マーリンという魔導士だと名乗った。
静かな土地への望み
クレストンは、ゼロスほどの腕があれば他国からも引く手数多だろうと考えた。ゼロスは、もう歳なので静かに余生を過ごしたく、住み心地の良い街を探していると答えた。国に仕えるのは面倒であり、家庭を築き、畑を耕しながら静かに暮らしたいという願いを語った。クレストンは、権力に執着する魔導士たちと異なるゼロスを気に入り、個人的な繋がりを作りたいと考えた。
褒美の条件
クレストンは、恩人に何もせず帰すわけにはいかないとして、褒美を受け取るよう求めた。ゼロスは当初断ったが、貴族の面子を潰さないために望みを口にした。ゼロスは、街から少し離れた静かな土地が欲しいと頼んだ。畑があり、野菜や薬草を作って細々と暮らせる場所を求めたのである。クレストンは心当たりを探すと答えた。
馬車への同乗
傭兵たちは盗賊の死体に油をかけて燃やし、怪我人を手当てし、倒木を退かして街道を片づけた。やがて商人たちが移動を再開すると、クレストンはゼロスに街まで馬車に乗るよう勧めた。街までは馬車で三日ほどかかると聞いたゼロスは、徒歩ではさらに時間がかかることと、肉だけの食事を避けたいことから同行を決めた。
セレスティーナとの初対面
ゼロスが豪奢な馬車に乗り込むと、そこにはセレスティーナが座っていた。彼女は青い瞳と長い金髪を持ち、青を基調とした服装の十代前半の少女であり、どこか陰のある表情をしていた。クレストンはゼロスが恩人であると紹介し、ゼロスは魔導士ゼロス・マーリンと名乗り、街まで同行することになったと挨拶した。セレスティーナも緊張しながら名乗った。
セレスティーナの魔法不発
ゼロスはセレスティーナから感じる魔力が弱いことに気付き、魔導士なのかと尋ねた。クレストンは、セレスティーナは駆け出しだが魔法を発動できない問題があると説明した。ゼロスは、魔力があるのに魔法が発動しないのは妙だと考え、この世界がゲームに似た世界観なら、生き物には魔力があり、魔法を覚えれば発動できるはずだと判断した。
欠陥だらけの教本
セレスティーナは、自分の教本に書かれた術式を見てほしいとゼロスに頼んだ。ゼロスは真剣な表情に押され、教本の術式を確認した。そこに記された魔術はゼロスの知る魔法に似ていたが、不要なものが混在し、無駄が多く、発動には力任せの魔力を必要とする不完全な魔法式であった。ゼロスは、それが意図的に生み出されたような不完全さを持つ欠陥だと見抜いた。
魔法発動への道筋
ゼロスは、教本の魔法式は人を選ぶものであり、基本魔法にも大量の魔力を要求する欠陥魔法だと説明した。そのため魔力保有量が規定量に満たない者は発動が困難であり、魔導士育成には適さないと述べた。セレスティーナが魔法を使えなかった原因は、魔力不足だけでなく、不完全な魔法式による過剰な負荷と、魔法が使えないという思い込みや境遇による精神的な揺らぎが重なったためだと整理された。
魔導書のデバッグ
クレストンとセレスティーナは、ゼロスに魔法式の改善を強く求めた。ゼロスは、無駄を省くだけなら手間はそれほどかからないと答え、できる限りのことをすると決めた。全体を書き換える時間はなかったため、ゼロスは簡単な魔法だけに修正を施すことにした。こうして大迫聡改めゼロスは、魔導書の術式を最適化するデバッグ作業を始めた。
第三話 おっさん、少女の悩みを解消す
ゆっくりと進む馬車に揺られ
馬車内の術式修正
ゼロスは馬車に揺られながら、教本に記された魔法術式を展開し、余分な部分を削除しつつ必要な要素を組み込んでいた。空中に浮かぶ魔法式は、文字が消えたり継ぎ足されたりしながら形を変え、幻想的な光景を作っていた。作業は非常に速く、セレスティーナは初めて見る光景に目を輝かせ、クレストンは孫娘の反応を喜んでいた。
外部魔力という発想
ゼロスは修正した魔法【灯火】を試す前に、外部魔力を取り込む考え方を語った。クレストンとセレスティーナは、魔法式は個人の魔力で事象を変化させるものだと考えていたが、ゼロスは自然界に滞留する魔力を利用し、体内魔力はそれを呼び寄せる呼び水として使うべきだと説明した。個人の魔力だけで発動すれば、すぐに魔力切れを起こすためであった。
欠陥を抱えた魔法術式
ゼロスは、教本の術式がすべて個人の魔力で発動するように組まれていることから、この世界の魔法研究が大きく遅れていると感じた。魔法は自然界の魔力の性質を変えて現象を起こすものだと考えていたため、教本の術式は魔導士に過剰な負担を強いるものだった。ゼロスは、それが偶然であれ意図的であれ、欠陥を抱えていることは間違いないと判断した。
国仕えへの拒否感
クレストンは、ゼロスほど優秀な魔導士がなぜ国に仕えないのかと尋ねた。ゼロスは、権力争いに利用され、命を狙われたり厄介事に巻き込まれたりするのが嫌だと答えた。また、国に仕える魔導士の間では師への絶対服従や研究成果の横取りもあり得ると考えていた。クレストンも、近年の魔導士には派閥の力で他人の成果を奪い、失敗すれば責任を押し付ける者がいると認めた。
危険な研究成果の封印
セレスティーナは、後継者がいなければゼロスの研究成果が途絶えるのではないかと尋ねた。ゼロスは、自分の研究成果には危険なものが多く、理解も難しいため、歴史に消えても構わないと答えた。戦争に使われれば多くの犠牲を出す魔法もあるため、多少の道筋は示せても、完成した魔法を伝えるつもりはなかった。クレストンとセレスティーナは、その判断の理由を理解した。
灯火の実践訓練
ゼロスは二つの魔法式の最適化を終え、まず【灯火】を試すことにした。馬車内で火球を使うのは危険であるため、灯火を一定の火力で維持し、魔力操作を覚える訓練に使うことにしたのである。ゼロスは、魔力操作を覚えれば発動した魔法の維持や消去ができ、さらに鍛えれば無詠唱や魔法式の書き換えも可能になると説明した。
初めて灯った魔法の火
セレスティーナは修正された術式を潜在意識に刻み込み、【灯火】を発動した。指先には小さな魔法陣が形成され、弱いながらも確かに火が灯った。セレスティーナは初めて魔法を使えたことを喜び、クレストンも孫娘の成功を心から喜んだ。ゼロスは火を一定に保つよう助言したが、セレスティーナは火を消したり大きくしすぎたりし、細かな制御に苦戦した。
魔力操作の鍛錬
ゼロスは、魔力操作の訓練は魔力が枯渇するまで続け、休んで回復したら再び行えばよいと説明した。魔力を消費することで保有魔力が少しずつ増え、スキルも鍛えられるため、一石二鳥の訓練であった。クレストンは毎日続ける必要があると理解し、セレスティーナは魔法が使えた以上、この程度の訓練は乗り越えると意気込んだ。
セレスティーナのステータス
ゼロスは身体強化魔法も訓練に使える可能性を考えたが、【灯火】よりも魔力消費が大きいため、現在のセレスティーナではすぐ倒れそうだと判断した。鑑定で確認すると、セレスティーナはレベル五で魔力が少なく、火属性魔法を覚えたばかりだった。一方で我慢と忍耐のスキル値が高く、ゼロスは彼女が相当つらい経験をしてきたのではないかと察した。
術式修正の競争
ゼロスは教本の術式を次々と修正していった。基本魔法はベースが守られていたため、不要な部分を削除し、制御術式を組み込むだけで済んだ。元プログラマーであるゼロスにとって、その作業は手慣れたものであった。ゼロスは、自分が術式を改良するのが早いか、セレスティーナの魔力が尽きるのが早いか競争しようと提案し、実際にはゼロスの方が早かったが、セレスティーナに華を持たせるためにあえて負けた。
久しぶりのパン
休憩地点で野営の準備が始まると、ゼロスは用意されたパンを見て涙を浮かべた。一週間もの間、森で肉しか口にしていなかったため、人間らしい食事を前に感無量となったのである。クレストンたちはパン程度で泣くゼロスに驚き、彼が森で一週間迷い、魔物に追われ続け、肉だけを食べていたと聞かされた。
ワイヴァーン討伐の衝撃
ゼロスがワイヴァーンに襲われて苦戦したと話すと、クレストン、セレスティーナ、騎士たちは一斉に驚いた。ワイヴァーンは空の悪魔と呼ばれる危険な魔物であったが、ゼロスは慣れれば楽勝だったと語り、七頭分の肉があると明かした。さらにベヒーモスよりは楽だと続けたため、一行はベヒーモスが最悪の災厄指定モンスターであることを指摘し、さらに衝撃を受けた。
作られた身の上話
ゼロスは現代日本から転生したことや邪神と戦ったことを伏せ、幼い頃から両親と旅をして魔導を研究し、魔法研究機関を解雇された後、魔物専門の傭兵として各地を転戦したという話をした。同じ境遇の仲間四人と出会い、五人で魔導の極限に挑む旅を続けたが、仲間たちは個人の事情で抜け、自分も普通に暮らせる場所を望むようになったと語った。この話により、クレストンたちはゼロスを戦闘経験豊富な探究者として受け止め、必要以上に英雄視した。
大賢者という非常識
クレストンたちはゼロスの格を気にした。セレスティーナは、ワイヴァーンを倒したのだから最高値の三十はありそうだと考えたが、ゼロスはその三倍は軽くあると呟いた。その発言に一行は驚愕した。ゼロスは自分を魔導士ではなく大賢者だと述べつつも、魔導士で構わないので内密にしてほしいと頼んだ。常識を揺さぶられた一行は動揺し、その日の夕食はゼロスが泣きながらパンを食べる以外、異様に静かになった。
朝の魔力操作訓練
翌朝、ゼロスが目を覚ますと、セレスティーナは魔力操作を覚えるための訓練を始めていた。彼女は昨夜のうちにゼロスが編集した魔法術式をすべて刻み込み、現在使える魔法を自分で調べていた。攻撃魔法はまだ負担が大きかったため、魔力消費を減らす【魔力操作】と【魔法耐性】の習得を狙っていた。セレスティーナはゼロスを先生と呼び、前へ進めるようになったことに感謝を示した。
家庭教師の予定
セレスティーナは、ゼロスのような魔導士になりたいと語った。ゼロスは、自分のような存在を目指すのは凶悪すぎると感じたが、目標を持つこと自体は良いと考えた。セレスティーナは、クレストンがゼロスに家庭教師を頼むつもりだと聞いていたため、今後も指導を受けるつもりでいた。ゼロスはその話を聞かされておらず戸惑ったが、無職でいるよりはよいと受け止めた。
イストール魔法学院への不信
ゼロスは、セレスティーナが通う【イストール魔法学院】について尋ねた。そこは貴族の子供たちが学び、魔導士の道へ進む学院だったが、派閥が多く存在していた。ゼロスは、教本の魔導書を見る限り、学院がまともに魔法を教えているのか怪しいと考えた。さらに、学院は魔導士の修練よりも貴族同士の繋がりを作る社交の場になっているのではないかと推測し、子供たちにまで派閥を押し付ける情勢に不快感を覚えた。
ブラッド・ベアーの襲撃
会話の途中、騎士二人が慌てて駆け寄り、ブラッド・ベアーの出現を知らせた。後方には漆黒の体毛を持つ巨大な熊が咆哮を上げていた。ゼロスはすぐに【鋼の縛鎖】でブラッド・ベアーを捕縛し、セレスティーナに攻撃魔法を試し撃ちさせることにした。セレスティーナは自分の魔法では三回ほどしか撃てないと戸惑ったが、ゼロスはそれで充分だと判断し、魔法攻撃を大幅に高める【天魔の祝福】を付与した。
ブラッド・ベアー討伐
セレスティーナは【ファイアーボール】を放ち、強化された魔法でブラッド・ベアーを炎に包んだ。騎士たちとセレスティーナは、その威力に驚愕した。ゼロスに止めを促され、セレスティーナは続けて【エアーカッター】を放った。本来なら威力の弱い風魔法であったが、強化された一撃はブラッド・ベアーを真っ二つに両断した。
セレスティーナの急成長
セレスティーナは急激なレベルアップによる眩暈で倒れそうになり、ゼロスが咄嗟に支えた。確認すると、彼女のレベルは十一に上がり、魔力保有量や属性魔法、魔力操作も成長していた。セレスティーナは六つも格が上がったことを信じられずにいたが、ゼロスは格上の相手を実戦で倒したのだから当然だと説明した。クレストンは馬車の陰で孫娘の成長に涙し、セレスティーナが自分の手で魔物を倒したことを喜んでいた。その後、一行はブラッド・ベアーを解体して朝食を摂り、最大の街【サントール】へ向けて再び馬車を走らせた。
第四話 おっさん、居候になる
馬車で街道を走り続け、三日目
サントール遠望
馬車で街道を走り続けて三日目、ゼロスは窓から見える街の景色に目を向けていた。一週間ほど森をさまよい、街道に出ても盗賊と鉢合わせた彼にとって、人の暮らしを感じさせるサントールの街並みは大きな安堵を与えるものだった。クレストンは、サントールが領内最大の街であり、商人たちの交通の要所でもあると説明した。
難攻不落の要塞都市
サントールは山間を切り開いた土地に築かれ、オーラス大河に面しているため、古くから貿易の要所として栄えていた。同時に天然の要塞としての性質を持ち、幾度も戦火に見舞われながら陥落しなかったため、難攻不落の要塞都市と呼ばれていた。街の住人は治安を重視した政策によって守られており、世界で最も安全な街としても知られていた。
現公爵への警戒
クレストンは、山の麓にある門を抜けた先に自分の別邸があると説明した。ゼロスは現公爵と会うことになるのかを気にし、権力者に目を付けられて権力抗争に巻き込まれることを避けようとした。クレストンも、セレスティーナの家庭教師として雇う以上、派閥争いに巻き込むのは気が引けると考え、現公爵とはできるだけ会わない方がよいと判断した。
土地と魔石の相談
セレスティーナが【灯火】の魔力操作訓練を続ける中、クレストンはゼロスに与える土地の話を始めた。ゼロスは魔法の開発実験を行い、自給自足で暮らせる広い土地を望んでいた。さらに、ゴブリンの集落を殲滅して得た大量の魔石をどこで売ればよいか尋ねると、クレストンはファーフランの大深緑地帯から生還したゼロスに呆れつつ、専門店に売るのがよいと助言した。
魔石と魔導具の扱い
クレストンは、魔石が魔導具製作に欠かせないため需要が高いと説明した。ゼロスがワイヴァーンの魔石について尋ねると、しばらく遊んで暮らせるほどの価値があると聞かされた。ゼロスは、下手に売れば騒ぎになると考えて自分で使うことにした。また、魔導具も作れると明かしたが、強力な品を売れば他の職人の仕事を奪いかねないため、販売は控えようと考えた。
サントール入城
馬車はサントールの門に到着し、公爵家の家紋が刻まれていたため、簡単な確認だけで通過できた。ゼロスは街を囲む城門の規模に驚いた。クレストンは、多くの民が行き交う要所だからこそ厳重に守る必要があり、民は貴族が守らなければならないと語った。
宮廷魔導士の失態
クレストンは、かつてセレスティーナの家庭教師を探していた時、宮廷魔導士の筆頭に金を要求され、魔導士を紹介されたことを語った。しかし紹介された魔導士は原因も分からず匙を投げ、セレスティーナは魔法を使えるようにならなかった。クレストンは、権力に固執する俗物と、権力を求めずに高みに至ったゼロスとの差を感じていた。
セレスティーナの未来
ゼロスは、セレスティーナが高みに辿り着けるかは、努力と才能、そして情熱を持ち続けられるかにかかっていると語った。クレストンは、ゼロスが無名でありながらセレスティーナの問題を解決したことを重く受け止めていた。セレスティーナの未来は、彼女自身がどこまで学び続けられるかに委ねられていた。
天然要塞の街並み
馬車はサントールの街を進み、煉瓦と漆喰で固められた建物や、行き交う商人の馬車、武器を携えた傭兵たちの姿が見えた。やがて馬車は街の中央付近にある森へ進んだ。クレストンは、この先に険しい岩山があり、その周囲に森が広がり、別邸はその中心にあると説明した。ゼロスは、街が防壁と岩山と大河に守られた天然の要塞であることを理解した。
現公爵の女性問題
クレストンは、息子である現公爵が領地運営では健全さを保っている一方、女性関係に問題があることを語った。現公爵は使用人の娘や訳ありの娘、人の妻にまで手を出しており、分かっているだけでも五十人ほどに及んでいた。ゼロスは、家督争いで血を見る可能性を指摘し、後継者や遺言を明確にしておくべきだと助言した。
クレストンの別邸
馬車はクレストンの別邸に到着した。屋敷は飾り気のない小さな城のようで、堀や橋、門を備えた落ち着いた建物であった。敷地には庭だけでなく畑もあり、野菜類は自給自足で賄われていた。ゼロスはその畑に強い関心を示し、後で農作業を手伝わせてほしいと申し出た。
家庭教師としての滞在
別邸に到着した後、クレストンはゼロスに部屋を用意させ、明日から家庭教師の話を進めると告げた。ゼロスは、自分にできる限りは教えるが、どのような未来を目指すかはセレスティーナ次第だと答えた。クレストンは、ゼロスを縛り付けるつもりも敵対するつもりもないと伝えた。
指輪の発動媒体
セレスティーナは、ゼロスが杖を持っていないことに気付き、その理由を尋ねた。ゼロスは、杖ではなく指輪を発動媒体にしているため、剣も振るえるのだと説明した。その指輪はミスリルではなく、メタルグラードスの胆石で作られていた。クレストンは、危険な魔物の素材を使うゼロスの過酷な戦いを想像し、彼が平穏を望む理由に納得した。
時空魔法という方便
クレストンは、ゼロスが身軽で荷物を持っていないことを不思議に思った。ゼロスは、時空魔法で荷物を別空間に入れていると説明した。実際にはインベントリーであり、ゼロス自身も仕組みを理解していなかったため、太古の魔法ということにした。クレストンが複製できるのか尋ねると、ゼロスは術式が高密度で文字も異なり、防御機能もあるため無理だと答えた。
屋敷での歓待
ゼロスはクレストンたちと別れ、屋敷の中へ入った。玄関ホールは天井が高く、品の良いシャンデリアや絵画、花瓶があり、余計な装飾を省いた落ち着いた空間であった。クレストンは遠慮なく寛いでほしいと伝え、ゼロスが屋根のある場所で寝食するのは久しぶりだと話すと、その境遇に同情した。
客室への案内
クレストンたちが去った後、ゼロスは自分がどこへ行けばよいのか分からず、不安を覚えた。そこへ執事のダンディスが現れ、ゼロスを客室へ案内した。部屋は少し手狭ながら客人を泊めるには十分で、ベッドがあり、窓からの眺めも良かった。ダンディスは、セレスティーナの問題を解決し、クレストンの命も救ったため、特別な客人としてこの部屋を用意したと説明した。
破格の待遇
ゼロスは、盗賊を倒して魔法式を改良しただけなのに、破格の待遇を受けていると感じて恐縮した。だがダンディスは、ゼロスが稀代の魔導士であり、公爵家にとって十分すぎる功績を立てたと考えていた。ゼロス自身は自分を一介の家庭教師と考えていたが、クレストンたちにとっては、命を救われ、セレスティーナが魔法を使えるようになり、大賢者が家庭教師になるという重大な出来事だった。
久しぶりの湯浴み
ダンディスは着替えを用意し、夕食の前に湯浴みを勧めた。ゼロスは風呂があることに感激し、三日前に川で体を洗っただけだったため、汚れを落とせることを喜んだ。ダンディスは湯船に浸かる作法を知っているか確認したが、ゼロスは湯船の前に体を洗うのは常識だと答えた。この世界では風呂は貴族の贅沢であり、ゼロスは作法を知っていることで裕福な生まれだと見なされたが、そのことには気付いていなかった。
浴場での鉢合わせ
ゼロスは浴場へ案内され、旅の疲れを癒すために装備を外してインベントリーに収納し、タオル一枚を持って浴場へ入った。浴場は品の良い彫刻や植物で飾られ、温泉のような雰囲気であった。だが、そこには湯船から上がろうとしていたセレスティーナがいた。全裸のゼロスとセレスティーナは鉢合わせし、沈黙の後、二人の悲鳴が浴場に響いた。
手違いの後始末
ダンディスは女給から、今はセレスティーナが浴場を使っていると知らされた直後、浴場から二人の悲鳴を聞き、手違いが現実になったことを悟った。二人はどちらも全裸だったため、ダンディスと女給は浴場に入ることもできなかった。その後、泣き続けるセレスティーナを宥め、激怒するクレストンを説得することになった。この日の夕食は、ゼロスにとって何の味もしないものとなった。
第五話 おっさん、かてきょす
朝の食事は静かであった
気まずい朝食
朝食は決まった時間に部屋へ運び込まれ、起きていなければ強制的に叩き起こされるものだった。食事は味が薄く、美味いとも不味いとも言えない中途半端な味であり、ゼロスは落ち込みながら今日からのことを考えていた。前日の浴場でセレスティーナの裸を見てしまったため、家庭教師として二ヶ月ほど同じ古城に滞在することを思い、何度も溜息を吐いていた。
授業内容の迷い
ゼロスはセレスティーナから借りた教本や資料を確認し、この世界の魔導士は魔法式に関する知識が低いと実感していた。オンラインゲーム時代のプレイヤーの方が、魔法製作については進んでいると感じていたのである。一方で、ゼロスたちが作った魔法は危険すぎるため、教えるとしても初期の積層型魔法までにすべきだと考えた。
禁術製作の記憶
ゼロスたち【殲滅者】は、魔導具製作に使う最高素材である賢者の石を流用し、数字を表す魔法文字と機械言語によって新たな魔法を構築していた。【闇の裁き】を含む複数の禁術は、賢者の石を大量に生成するための長い戦闘と、多人数を巻き込んだ作業の末に完成したものだった。魔法式の作成と修正は過酷なデバッグ作業に近く、ゼロスは二度と同じ作業をする気にはなれなかった。
失われた魔法文明
ゼロスは、セレスティーナから借りた教科書や、書庫から借りた歴史書を読み、この世界の情報を集めていた。過去には【邪神戦争】と呼ばれる大きな戦いがあり、その影響で高度な魔法文明は失われ、魔法に関する資料や文献も消失していた。現在の魔法は旧時代の模倣であり、遺跡から発掘された魔法スクロールや古い魔導書を基に研究されていたが、成果は上がっていなかった。
セレスティーナの羞恥
一方、セレスティーナは自室で落ち着かずに悶えていた。前日の浴場でゼロスに裸を見られ、さらにゼロスの裸も見てしまったため、羞恥と混乱に囚われていたのである。女給のミスカは、ゼロスに変な印象を与えないよう落ち着くよう促し、ゼロスから見ればセレスティーナは子供に見えているはずだと告げた。セレスティーナはその言葉に少なからずショックを受けた。
ミスカの忠告
セレスティーナは、ゼロスの魔導士としての才能や人柄を高く評価していたが、ミスカは別の面を指摘した。ゼロスは一見温厚で穏やかに見えるが、戦場を転戦し、魔法の実験を繰り返してきた以上、成果のためなら危険な場所にも飛び込み、敵を実験材料として扱う冷酷な面があると語った。セレスティーナは、ゼロスの行動を別の視点から考えることになった。
授業前の緊張
セレスティーナはミスカの年齢を尋ねかけたが、ミスカは女性に年齢を聞くものではないと危険な気配を漂わせた。その直後、ゼロスが部屋の扉をノックした。ゼロスの声を聞いたセレスティーナは、前日の出来事を思い出して激しく動揺した。ミスカは落ち着くよう促したが、セレスティーナはうまく話せないほど緊張していた。
魔法文字の授業
ゼロスは部屋に入り、借りていた教本の中から一冊を取り出してセレスティーナに渡した。それは別邸の書庫にあった古い魔法関連の書籍で、比較的まともな魔法式の考察や理論が記されていたため、基礎理論の教科書として使うことにしたのである。ゼロスは最初の授業として魔法文字の認識から始め、魔法文字は言葉であり、回路であり、魔力に干渉する媒体でもあると説明した。
魔法文字の本質
魔法文字には音を表す文字と数字を表す文字があり、文字を並べて言葉を作ることで意味を成していた。ゼロスにとっては日本語などの知識を使って解読できるものだったが、英語やフランス語、スペイン語、ドイツ語、スワヒリ語まで混じるため、解読には手間がかかった。この世界の魔導士たちは魔法文字を言葉として捉えていなかったため、魔法式の本質を理解できず、基本で躓いていた。
ゲーム世界への違和感
ゼロスは、数字の魔法文字だけで構築する魔法式について説明しながら、【ソード・アンド・ソーサリス】に違和感を覚えた。ゲーム内では膨大な魔法式やエフェクト、日々増えるデータ、自由意思を持つNPCまで処理されていた。ゼロスは、一つの世界を構築し続け、さらに新たな魔法作成まで受け入れるのは情報量の面で不自然だと感じたが、授業中であることを思い出して意識を戻した。
灯火の分解学習
セレスティーナが魔法構築に自信がないと話すと、ゼロスは今は基本の正しい知識を学ぶことが大切だと伝えた。そして、【灯火】の魔法を分解して説明することにした。【灯火】は明かりを灯すだけの初歩魔法であったが、自身の魔力を燃料とし、外界魔力を利用して火を生み出し、空気の調節まで行う術式で構築されていた。セレスティーナは、この授業によって魔法式の見方を理解し始めた。
魔法陣の役割
セレスティーナは、言葉で現象を起こせるならなぜ魔法陣にする必要があるのかと疑問を抱いた。ゼロスは、魔法陣は魔法に必要な魔力を集め、魔法式で現象へ転換し、発現させるまでの工程を一つにまとめる区切りのようなものだと説明した。魔力が拡散してしまえば意味がないため、魔法陣は現象を成立させるための殻のような役割を持っていた。
闇の裁きの魔法式
セレスティーナは、ゼロスの魔法式に興味を持った。ゼロスは、魔法の危険性を知っておくことも大切だと考え、自分の最大魔法【闇の裁き】の魔法式を掌に顕現させた。それは膨大な魔力を含み、禍々しさと神々しさを同時に帯びた立方体であった。内部には高密度の魔法文字が高速で循環しており、初歩魔法とは比較にならないほど圧倒的な密度を持っていた。
破壊魔法の危険
セレスティーナが、なぜそのような強力な魔法を作ったのかと問うと、ゼロスは面白そうだったからだと答えた。そのうえで、行き過ぎた好奇心は危険なものを生み出してしまうと告げた。ゼロスは、強力な破壊魔法は権力者が欲しがるものであり、使われれば多くの命が奪われ、憎しみがさらに別の破壊魔法を生み、終わりのない戦争につながると語った。
魔導士の在り方
ゼロスは、魔導士は権力を持たず、常に中立であるべきだと語った。破壊魔法だけでなく、人々の暮らしを豊かにする魔法や、幸せを運ぶ魔法もあってよいと考えていた。ゼロスはセレスティーナに、どのような魔導士になりたいのかを問いかけた。セレスティーナは戦うためだけの魔導士にはなりたくないと答えたが、まだ明確な目標は持てていなかった。
セレスティーナの心酔
ゼロス自身は、神に与えられた借り物のような力を危険だと感じ、破壊魔法に目を奪われなければよいと考えていただけであった。しかし、セレスティーナには、彼が力に溺れず、自らの危険性と向き合い、責任を背負う理想的な魔導士に見えた。そのため、セレスティーナはますますゼロスに心酔することになった。
翌日の実技訓練
授業の最後に、ゼロスは翌日は簡単なゴーレムを作り、それを的にして実技訓練とレベルアップを行うと告げた。セレスティーナは、ゼロスの指導を受けて魔導士の道を歩み始めた。彼女にとってゼロスの授業は、魔法の使い方だけでなく、魔導士としてどう在るべきかを考えるきっかけにもなっていた。
学院への失望
授業後、セレスティーナは魔法式の解読法や高密度の魔法式、魔導士としての在り方について深く考えていた。ゼロスは問題を解決しただけでなく、魔法の危険性と向き合う考え方を示してくれた。一方、イストール魔法学院では、魔法の威力ばかりが査定され、魔導士としての心構えや目指す道を考える時間は与えられていなかった。派閥の違いで生徒を冷遇し、同門なら優遇する学院の在り方を思い返すと、セレスティーナにはその場所が矮小で浅ましいものに思えた。
クレストンへの報告
授業を終えたセレスティーナは、クレストンに声を掛けられた。クレストンは孫娘との会話を楽しみにしており、セレスティーナも授業が分かりやすく楽しかったと報告した。だが、セレスティーナが授業内容を語るにつれ、クレストンの表情は険しくなっていった。特に、ゼロスが見せた広範囲殲滅魔法【闇の裁き】の話を聞いたことで、クレストンはその危険性とゼロスの研究の凄まじさを理解した。
ゼロスという難題
クレストンは、ゼロスを国の重鎮として見れば放置するには危険な存在だと考えた。しかし、無理に繋ぎ留めようとすれば敵に回しかねず、さらにゼロスは孫娘の将来を見据えて魔法の危険性を説き、どのような魔導士を目指すのか自分で考えさせる優秀な教師でもあった。ゼロスは民の暮らしを豊かにする魔法の可能性も示しており、クレストンは魔導士の派閥改革について頭を悩ませることになった。
畑仕事の一日
クレストンとセレスティーナが政治的な話に繋がる会話をしている頃、ゼロスは別邸の庭にある畑で農作業に精を出していた。ゼロスは魔導士として危険視され、教師として期待され、政治的にも注目されつつあったが、本人は畑仕事をして一日を終えていた。根っからの趣味農民であった。
第六話 おっさん、実戦訓練を始める
セレスティーナに魔法を教える家庭教師を始めて二日目の授業
庭での実戦訓練
家庭教師二日目の授業は、庭でのゴーレムとの対戦であった。ゼロスが呼び出した泥製の【マッドゴーレム】はレベル三程度に設定されていた。ゼロスは、魔導士であっても魔力切れの際に身を守るため、弱い魔物を倒せる程度の近接戦闘能力は必要だとセレスティーナに教えた。
騎士団と魔導士団の軋轢
この世界の魔導士は戦場で遠距離砲撃を担っていたが、騎士団は後方支援や援護を求めていた。魔導士側が砲撃ばかりを優先するため、両者の間には軋轢が生まれていた。ソリステア魔法王国では、騎士団と魔導士団の仲の悪さが問題視されていたが、王族や大公爵は派閥問題も絡むため静観するしかなかった。
前衛と後衛の連携
ゼロスは、大規模戦闘では安全な場所から攻撃し続けられるとは限らないと語った。魔導士は前衛職と連携し、補助や援護を行い、必要に応じて大技で敵陣を乱す役割が理想であると考えていた。後衛である魔導士は、前衛が詠唱時間を稼いでくれることに感謝すべきであり、立場の違いで争うのは無駄だと見ていた。
孫娘を見守るクレストン
訓練は実戦形式であったため、クレストンも監視役として参加していた。しかし実際には、セレスティーナの成長を近くで見たいという気持ちが強かった。ゼロスは、クレストンの孫娘への溺愛がやや常軌を逸していると感じつつ、クレストンはゼロスの戦場観に感心していた。
マッドゴーレム訓練の狙い
ゼロスは、魔力切れで動けなくなる弱点を補うため、セレスティーナにマッドゴーレムと戦わせることにした。マッドゴーレムは攻撃力が弱く、再生するため、死人を出さない実戦訓練に向いていた。武器の扱いを覚えるだけでなく、魔法属性スキルや体術スキルを上げ、魔物を倒すことで【格上げ】を狙う訓練でもあった。
初めての実戦への高揚
セレスティーナは魔法が使えなかったため、これまで戦闘訓練では見学するだけだった。そのため、今回の訓練は自分が魔導士になった証でもあり、強い意欲を見せていた。ゼロスは、弱い相手でも油断すれば怪我をすると注意し、魔力の温存や長期戦を意識するよう伝えた。
泥人形との開戦
マッドゴーレムが一斉に動き出すと、セレスティーナはメイスを振るって果敢に攻めた。可愛らしい声とは裏腹に、彼女は凶悪な武器を振り回し、泥飛沫を上げながらゴーレムを粉砕していった。ゼロスは、彼女が格闘戦に慣れているように見えることに気付き、クレストンは、見学中に自分ならどう動くかを考えていたのではないかと推測した。
体力切れの窮地
最初は順調だったセレスティーナも、訓練開始から十分ほどで動きが鈍り始めた。剣士としての訓練を受けていなかったため、ペース配分を考えられず、疲労によってゴーレムの攻撃を受けるようになっていった。ゼロスは、窮地をどう覆すかが格闘戦で重要であり、状況を理解して最善の策を選ぶことが魔導士の真骨頂だと見ていた。
包囲網からの突破
セレスティーナは、倒しても再生するゴーレムに囲まれ、自分の認識の甘さを実感した。魔法を乱発すれば魔力が枯渇するため、慎重な判断が必要だった。彼女は冷静さを保とうとし、動きの遅いゴーレムの弱点を突くため、右側の集団へ突撃することにした。
身体強化と水魔法
セレスティーナは【パワーブースト】で身体能力を高め、マッドゴーレムを薙ぎ払って緩衝地帯を作った。さらに詠唱時間を稼ぎ、水の魔法【アクア・ジェット】を放った。貫通力を持つ水魔法は泥で構成されたマッドゴーレムに有効であり、包囲網に綻びが生まれたため、セレスティーナは開けた場所へ走り出した。
突破直前の転倒
セレスティーナは包囲を抜けたと思ったが、ゼロスはその判断が甘いと見ていた。直後、彼女の足にマッドゴーレムの腕が絡み付き、勢いのまま水溜まりに倒れ込んだ。その腕は【アクア・ジェット】で倒したと思っていたマッドゴーレムの一部であり、ゼロスは、完全に安全を確保できるまで気を抜いてはいけないと教えた。
初戦の反省
ゼロスは、序盤で飛ばし過ぎたことが失敗につながったと指摘した。セレスティーナも、自分が実戦訓練に浮かれていたことを認めた。彼女は、これまで見学だけで訓練後に同級生から馬鹿にされていたため、実戦訓練が嬉しかったのである。ゼロスは、初めての実戦訓練としては及第点だと評価した。
失敗から学ぶ戦い方
ゼロスは、その日の戦闘訓練を終え、翌日も戦闘訓練にするか尋ねた。セレスティーナが強く希望したため、ゼロスは今日の反省点を明日に生かすよう伝えた。実戦では戦い方を教えてくれる者はいないため、自分で戦闘スタイルを突き詰めるしかなく、失敗が許される訓練は幸せなものだと語った。
学院訓練への疑問
ゼロスが学院での戦闘訓練について尋ねると、セレスティーナはゴブリンを集めて訓練場で戦うと答えた。ゼロスは、ゴブリンを捕らえて運搬する手間や費用を考え、むしろその方が豪華だと感じた。ゴーレムなら魔力だけで済むが、大量生成できる魔導士はほとんどおらず、クレストンは学院が毎年多額の金を要求してくることを思い出した。
派閥改革の糸口
ゼロスは、成果の上がらない派閥は潰せばよいと述べ、何も残さない金食い虫は不要ではないかと語った。クレストンは、ゼロスが改良した教本を口実に使えるかもしれないと考えた。ゼロスは自分の名前を出さないよう頼んだが、クレストンは情報がどこから漏れるか分からないと答えた。
魔法の平和利用
ゼロスは、攻撃魔法でも魔力制御ができれば身の立てようはいくらでもあると説明した。船の加速、水魔法による下水処理、地属性魔法による荷物の重量軽減など、戦闘以外の使い道を挙げた。クレストンは、攻撃魔法の応用によって低レベルの魔導士でも稼げる道が広がると気付いた。
泥まみれの考察
ゼロスがセレスティーナに目を向けると、彼女は泥で汚れたまま顎に手を当て、真剣に戦闘を分析していた。小声で有効だった動きや失敗の修正方法を考えていたのである。ゼロスは、貴族令嬢としてはどうかと思いながらも、研究者としては充分だと評価した。
オリジナル魔法への目標
ゼロスはセレスティーナに、二ヶ月の間に格を五十まで上げ、各スキルのうち三つ以上をレベル三十以上にできれば、自分のオリジナル魔法を一つ教えると告げた。その魔法は危険のない無難なものだが、役に立つ魔法であった。セレスティーナにとって、それは弟子として認められることを意味しており、彼女は強くやる気を刺激された。
白銀の神壁
クレストンは、ゼロスが教える予定の魔法がどのようなものか尋ねた。ゼロスは実演することにし、自分へ逃げきれないほど強力な魔法を複数放つよう頼んだ。クレストンは炎系統魔法【ドラグ・インフェルノ・ディストラクション】を放ち、炎の龍たちがゼロスへ迫ったが、ゼロスは【白銀の神壁】を発動し、見えない障壁で炎龍を貫いて霧散させた。
攻防一体の障壁
ゼロスは、【白銀の神壁】が術者の意思で形を変えられる障壁だと説明した。この魔法は、魔力を収束させた放出系魔法に対して構成を破壊して霧散させることができた。さらに障壁を剣のように伸ばせば、武器の間合いの外から敵を斬ることもでき、燃費効率もよいため、初見の相手には特に有効な攻防一体の魔法であった。
孫娘の未来への期待
クレストンは、セレスティーナが【白銀の神壁】を覚えれば、一定の魔導士は彼女に勝てなくなると考え、孫娘の将来をさらに楽しみにした。ゼロスは、二つ名が付けばセレスティーナは恥ずかしがってベッドから出てこなくなるのではないかと述べたが、クレストンはそれすら見てみたいと語った。ゼロスは、孫娘を愛しすぎるクレストンに溜息を吐きながら、庭先に大量の泥を残して屋敷へ戻った。
第七話 おっさん、街に出る
異世界生活を始めて早二週間
初めての街歩き
異世界生活を始めて二週間が経ち、ゼロスはこの世界の環境に慣れ始めていた。しかし、まだ街の様子を見たことがなく、この世界の通貨も持っていなかった。普段はセレスティーナの家庭教師や公爵家別邸の農場仕事、書庫での読書、騎士たちとの剣の稽古をしていたが、民の暮らしを知らなければ生きていけないと考え、街へ出ることにした。実際には、禁煙状態が続いて煙草を吸いたかったことも大きな理由であった。
サントール散策
クレストンは領主の屋敷へ出向き、セレスティーナは実戦訓練後の習い事と筋肉痛のため姿を見せていなかった。ゼロスは使用人に挨拶しながら正門を出て、三十分ほど歩いて街の片隅へたどり着いた。サントールは広い森を防壁で囲んだ街であり、背後には断崖の岩山がそびえていた。交通の要所であるため多くの人が行き交い、傭兵ギルドも置かれ、騎士団だけでは手が足りない犯罪者の取り締まりを傭兵が担う仕組みになっていた。
魔導具店への道
ゼロスは、まず魔石を売って金を用意するため、魔導具店を目指した。地図は大まかなものだったが、街は道が整備されており、商人向けの周辺地図も立てられていた。ただし、建物の隙間には見えにくい小道があり、柄の悪い者たちがたむろしていると屋敷の使用人から聞いていたため、ゼロスは危険な場所を避けながら魔導具店へ向かった。
怪しい店構え
目的の魔導具店は、商業区と工業区の片隅にある十字路の角に建っていた。黒一色の外観は街の雰囲気から浮いており、店先には生首の人形や山羊の頭部の剥製、磔にされた少女の人形、頭蓋骨などが置かれていた。とても客商売の店には見えず、呼び鈴も悲鳴のような音を立てたが、ゼロスは金が必要だったため意を決して店に入った。
魔石の鑑定
店内に入ると、魔女姿の眼鏡の女性店員が明るく出迎えた。外観とは違い、内部は普通の店で、魔導具がケースに綺麗に並べられていた。ゼロスは魔石の買い取りを頼み、ゴブリン、ハイ・ゴブリン、ゴブリンメイジ、ゴブリンキングの魔石を出した。量の多さに女性店員は驚き、ルーペで一つ一つ鑑定を始めた。
盗人扱いの失態
鑑定を終えた女性店員は、魔石がファーフラン大深緑地帯のものだと気付き、ゼロスが盗んできたのではないかと疑った。灰色ローブの中途半端な魔導士が、あの大深緑地帯から生きて帰れるはずがないと考えたためである。ゼロスは自分で狩ってきたものだと説明したが信じてもらえず、クレストンの紹介で来たと告げると、女性店員は公爵家の客人を侮辱した可能性に気付き、顔を青ざめさせた。
店長ベラドンナ
奥から店長のベラドンナが現れ、女性店員クーティーがまた客を盗人扱いしていることを咎めた。ベラドンナはゼロスの灰色ローブを見て、ただの下級魔導士のものではなく、とんでもない素材で作られていることを見抜いた。彼女はそのローブがベヒーモスの素材であると察し、互いに詮索しない方がよいと理解したうえで、クーティーの失礼を詫び、魔石の買い取りに色を付けると申し出た。
二百四十九万八千ゴル
ベラドンナはクーティーに代金を用意させた。ゼロスは煙草すら買えない状況だったため、活動資金を得られることを望んでいた。集計の結果、魔石の代金は二百四十九万八千ゴルとなった。大半はゴブリンキングの魔石の価値によるものであり、ベラドンナは大きな魔石に創作意欲を刺激されていた。ゼロスは今後も良い魔石が手に入れば持ち込むと伝え、店を後にした。
ベラドンナの恐怖
ゼロスが去った後、ベラドンナはクーティーを叱った。ゼロスは敵に回してはいけない類の人間であり、ベラドンナは初めて見た時から背筋が凍るほどの恐怖を感じていた。彼女はゼロスが纏う膨大な魔力を察知しており、平静を装って応対していただけであった。絶対に勝てないという敗北感と恐怖を抱き、クレストンがどこであのような魔導士と知り合ったのかと悪態を吐いた。
市場の物価
ゼロスは市場を見て回り、この世界では物価が非常に安いことを知った。百ゴルあれば一月ほど暮らせるほどで、食料は特に安かった。一方で、金属類は高価であった。鉱山などの資源地帯には魔物が住んでいることが多く、採掘には傭兵の護衛や魔物討伐が必要になるためである。陶石や食器類も値が張り、一般市民の家庭では木製の食器が主流だった。
露店の串焼き
ゼロスは露店の商人と国内情勢について話し、騎士団と魔導士団の仲の悪さや、軍部内でのクーデターを心配する声を聞いた。情報は生きるために必要であり、ゼロスは少しでも状況を知ろうとしていた。その後、露店の串焼きの香りに惹かれ、ワイルド・ホルスタインの肉を使った串焼きを一本買った。肉汁とタレの旨味に感動したゼロスは、串焼きを五十本購入した。
煙草専門店
市場を散策していたゼロスは、パイプを模した看板を見つけ、煙草専門店だと気付いた。愛煙家である彼は禁煙状態が続いて落ち着かず、迷わず店に入った。店内には多くの引き出しとパイプが並び、ゼロスは紙煙草を求めた。店主はゼロスが重度の愛煙家であることを見抜き、好みに合う煙草をいくつか試させた。ゼロスは煙管を取り出して煙草を楽しみ、ノルマット産とイサラク産を気に入って購入した。
煙草と迷子
念願の煙草を手に入れたゼロスは、咥え煙草のまま上機嫌で街を歩いた。気分がリフレッシュし、足取り軽く散策していたが、気付いた時には迷子になっていた。そこは賑わう街中とは違い、古い家が並ぶ閑散とした場所であった。暗い表情の大人、孤児、人を物色するようなチンピラが多く、ゼロスはスラムではなく旧市街のような場所だと考えた。
子供たちの尾行
ゼロスは道なりに歩き、寂れた噴水のある広場へ出た。串焼きを食べながら周囲を警戒していると、気配察知によって後をつけてくる者たちに気付いた。尾行はひどく稚拙であり、ゼロスは相手が子供である可能性が高いと考えた。すると赤毛の子供が声をかけ、肉をくれと堂々と頼んできた。その子供は女の子のようにも男の子のようにも見え、薄汚れた服を着て痩せていた。
養護院の孤児たち
赤毛の子供は、自分たちは養護院に住んでおり、親はいないと語った。子供たちは四人で、もう一人は留守番をしているという。ゼロスは、子供たちに食べ物を渡すこと自体は構わないと考えたが、勝手に食べれば養護院の大人に盗んだと思われる可能性を心配した。そのため、養護院まで案内してもらい、自分がきちんと説明することにした。
旧市街の先の養護院
子供たちは旧市街の住民が野菜を分けてくれることもあると話し、ゼロスはこの場所が意外に人情のある地域なのかもしれないと考えた。養護院はクレストンの別邸が見える位置にあり、新市街からも旧市街からも少し離れた不便な場所にあった。ゼロスは、治安に不安のある旧市街を通らなければならない立地を危険だと感じた。
養護院前の領主の息子
赤毛の少女が指さした先には、寂れた教会があった。そこが養護院であると思われたが、門の前には身なりの良い青年と騎士たちが立っていた。彼らと向き合っていたのは、神官服を着た十代後半の女性であった。子供たちは、その青年がここの領主の息子で嫌な奴だと教えた。つまり彼はクレストンの孫であり、セレスティーナの兄に当たる人物だった。ゼロスは面倒事の気配を感じ、静かに暮らしたいだけなのに厄介事に巻き込まれたと悟り、重い溜息を吐いた。
第八話 おっさん、人の恋路に口を出す
養護院の前に屯しているのは
教会前の口論
養護院の前にいた青年は、ソリステア公爵の子息ツヴェイト・ヴァン・ソリステアであった。彼は護衛の騎士二人を連れ、養護院である教会の前でシスターのルーセリスと口論していた。ツヴェイトはイストール魔法学院高等部に所属する優秀な生徒であり、実戦型の魔導士を多く輩出するウィースラー派に所属していたが、粗暴な問題児でもあった。彼は大公爵家の長兄であり、祖父クレストンの後を継ぐ存在だと思い込んでいた。
一方的な執着
ツヴェイトは、養護院で子供たちの世話をしていたルーセリスを見かけ、一目で恋に落ちた。それ以来、彼は熱烈に求愛し、半ば嫌がらせのように付きまとっていた。ルーセリスは養護院で育ち、神官の修業を終えて戻った後、そこを手伝いながら民を格安で治療していた。ツヴェイトは彼女を聖女のように見なし、自分のものにしようとしたが、最初から一方的で高圧的だったため、ルーセリスは彼を拒絶していた。
分割された養護院
ツヴェイトは、ルーセリスに断られ続けたことで、次期領主としての仕事の経験を名目に養護院を四方に分割した。表向きは街の景観を損なわないためとされたが、実際にはルーセリスを孤立させることが目的であった。その行為はルーセリスの反感を強めるだけであり、彼女はツヴェイトを卑怯で下劣だと非難した。ツヴェイトは新規事業の許可が下りれば彼女はここにいられなくなると脅し、子供たちのためにも自分に泣きつくことになると迫った。
離れた場所からの観察
口論している二人の様子を、ゼロスと養護院の子供たちは少し離れた場所から眺めていた。ゼロスは、ツヴェイトがすでに振られているにもかかわらず未練がましく追い回している状況だと見た。出会い頭に俺の女になれと迫ったことや、ルーセリスに頼ってもらうために養護院を分割したことを致命的な失敗だと評し、子供たちも好感度が下がった、恋も領主も終わりだと容赦なく言い立てた。
崖っ縁の次期領主
ゼロスは、ツヴェイトが恋愛でも次期領主としても崖っ縁に立っていると指摘した。力や権力で相手を動かそうとしたこと、往来で脅迫まがいの口論をしていること、世間体を損なう行動を取っていることが、自分自身の立場を危うくしていた。ツヴェイトは怒りを押し殺していたが、ゼロスと子供たちの言葉は外聞的には正しく、噂が広まれば領主の座にも影響しかねない状況であった。
ルーセリスとの対面
ルーセリスは、ゼロスが何者なのかを尋ねた。ゼロスは、偶然子供たちに絡まれた一般市民だと答え、子供たちに肉を求められたことを話した。ルーセリスは、養護院の寄付金が下りず生活が困窮していることを明かした。ゼロスは、ツヴェイトがそこまで手を回したのかと察し、子供たちの健康には食事が必要だと考え、五十本買った串肉を寄付として渡すことにした。
割り込むツヴェイト
ゼロスとルーセリスの会話に、ツヴェイトが割り込んだ。彼は、公爵家の血族である自分を侮辱してただで済むと思うなと怒りをぶつけた。ツヴェイトはゼロスの灰色ローブを見て最下級魔導士だと見下したが、ゼロスは自分が他国から来た魔導士であり、この国のローブの色による階級制度には当てはまらないと返した。ゼロスは、相手の実力を知らずに喧嘩を売るのは危険だと忠告した。
拳で消えた火球
ツヴェイトは怒りに任せて【ファイアーボール】をゼロスへ放った。だが、ゼロスは無造作に拳を突き出し、その魔法を一瞬で霧散させた。ツヴェイトは、ゼロスが魔導士でありながら接近戦もこなせることに驚いた。ゼロスは、魔法だけでなく剣も得意であり、ツヴェイト程度なら拳で充分だと告げた。護衛の騎士たちはゼロスの隙のなさに気圧され、動くことができなかった。
鑑定で見えた洗脳
ゼロスは、ツヴェイトや騎士たちの格やスキルが見えていると告げた。鑑定スキルによってステータスを見抜かれたことで、彼らはゼロスとの圧倒的な実力差を理解した。ゼロスは、ツヴェイトの格が五十で炎系統魔法を得意としていることを見抜いたが、その際に状態異常として【洗脳】があることにも気付いた。しかし、教えるべきか迷っているうちに、ツヴェイトは大魔法の詠唱を始めてしまった。
旧市街の大魔法
ツヴェイトは旧市街であるにもかかわらず、広範囲に被害を出しかねない【ドラグ・インフェルノ・ディストラクション】を放った。護衛の騎士たちは火事になる危険を訴えたが、ツヴェイトは止まらなかった。ゼロスはその魔法をすでに見たことがあると呟き、【ファントム・ラッシュ】で高速移動した。彼は無数に分裂したかのような動きで炎龍を拳と蹴りだけで消し去り、最後の炎龍も回し蹴りで霧散させた。
祖父への報告
ゼロスがクレストンの屋敷で世話になっていることを明かすと、ツヴェイトと騎士たちは動揺した。ツヴェイトは、祖父に知られれば殺されると恐れ、報告をやめてほしいと懇願した。しかしゼロスは、街中で炎系統の範囲魔法を感情任せに使ったこと、ルーセリスに悪辣な真似をしたことを重く見た。公爵家の跡取りなら軽率な行為を慎むべきだとして、クレストンにきっちり報告すると告げた。
ルーセリスの魔力察知
ルーセリスは、ゼロスが魔法を素手で打ち消したことに驚きながらも、彼から魔力を感じられないことに違和感を覚えた。彼女は【魔力察知】を持っていたが、ゼロスの周囲から魔力を感知できなかった。ゼロスは、自分の魔力圏が広すぎるためだと説明した。魔力が感じられないのは弱いからではなく、逆にゼロスの魔力圏内にいるため錯覚しているのだと語り、ルーセリスは勝手にスキルで相手を覗いたことを謝罪した。
胸元への謝罪
ゼロスは、自分も粗相をしていると前置きし、ルーセリスの胸に目が行っていたことを正直に謝った。ルーセリスは顔を赤くし、破廉恥だと抗議した。ゼロスは、男は皆エロいと思った方が正しいと述べ、ツヴェイトや騎士たちにも話を振った。三人は顔を背け、図星であることを示した。さらにゼロスが、ルーセリスは清楚な美人であり、男が目を向けるのは当然だと語ったため、彼女はさらに赤面した。
養護院の夕食
ルーセリスは挙動不審になりながらも、串肉を厨房へ運ぶためにゼロスを養護院内へ案内した。子供たちは肉を食べることを楽しみにしながら後に続いた。その場に残されたツヴェイトはしばらく呆然としていたが、自分がこれから罪の清算をしなければならないことを思い出し、力なく崩れ落ちた。ゼロスはその後、養護院で夕食を摂り、気軽な足取りで別邸へ戻った。ただし、彼はツヴェイトの状態異常【洗脳】のことをすっかり忘れていた。
第九話 おっさん、養護院に畑を作る
領主の屋敷と養護院の畑作り
秘宝魔法を巡る叱責
領主の屋敷では、クレストン老、現当主デルサシス公爵、長兄ツヴェイトが顔を合わせていた。デルサシスは、ツヴェイトが父の客人と知らずにゼロスへ戦いを挑み、一族の秘宝魔法を使ったうえで敗れたことを厳しく責めた。さらに、その理由が惚れた女性を巡る嫉妬であり、領内への被害も顧みなかったため、公爵家の恥になると断じた。
ゼロスという危険な恩人
クレストンは、自分もゼロスに秘宝魔法を使って敗れたと明かし、ゼロスが自分とセレスティーナの命の恩人であり、家庭教師として雇った人物だと語った。ゼロスとの出会いを聞いたデルサシスは政治的な脅威を感じ、国の重鎮として雇いたいと考えたが、クレストンはゼロスが政治を面倒がっており、無理に関われば危険だと止めた。
大賢者という事実
クレストンは、ゼロスが国を滅ぼせる魔法をいくつも持ち、さらに大賢者であると語った。デルサシスとツヴェイトは、大賢者が邪神戦争以降に失われた幻の職業だと知っていたため、激しく驚いた。クレストンはゼロスの格が千を超えていることを明かし、ツヴェイトは自分がとんでもない相手に喧嘩を売った事実に震えた。クレストンはこの件を陛下にも他言無用と命じた。
土地と養護院の譲渡方針
クレストンは、静かに暮らしたいゼロスに土地を与える約束をしていると告げた。デルサシスは了承し、別邸の森の一部と養護院を含めて与えることになった。ツヴェイトはルーセリスを気にして動揺したが、クレストンはゼロスが一般作業に適した農業魔法を考え、孤児たちに教えたいのだと語った。
セレスティーナの成長と教本改革
デルサシスは、セレスティーナが魔法を使えなかったはずだと驚いたが、クレストンはゼロスのおかげで既に使えるようになっていると答えた。さらにゼロスが改良した教本は以前のものより優れており、魔導士教育に役立つと語った。クレストンとデルサシスはどちらもイストール魔法学院の卒院生であり、現在の学院の在り方に疑問を抱いていたため、教本を広げることに期待を寄せた。
デルサシスの複雑な家庭事情
クレストンは、デルサシスがセレスティーナに冷たいのではないかと問いかけた。デルサシスは、セレスティーナの母親が妻たちより魅力的だったため、妻二人の手前、娘を表立って可愛がれないのだと語った。デルサシスには娘への愛情があったが、派手な女性遍歴のために家庭内で複雑な事情を抱えていた。
父子の女性問題
話題はツヴェイトの処分へ移り、デルサシスは領主としての仕事を学びたいと言いながら、実際は一人の娘を手に入れるために権力を使ったことを叱責した。ツヴェイトはデルサシスの女性関係を持ち出して反論したが、デルサシスは仕事と火遊びを分け、権力に物を言わせたことはないと返した。父子の口論は激しくなり、やがて殴り合いに発展した。
養護院の畑作り
同じ頃、ゼロスとセレスティーナは護衛の騎士二人と共に養護院を訪れていた。ゼロスは、教会裏手の広い土地を使って畑を作り、子供たちに世話をさせればよいとルーセリスに提案した。ルーセリスは地面が固く小石も多いため無理だと考えたが、ゼロスは魔法を使えばよく、魔法は戦うためだけの道具ではないと語った。
神聖魔法と魔導士の魔法
ルーセリスは、神官にとって魔法は人を傷つける悪しき行いであり、神聖魔法こそ神の奇跡だと考えていた。だがゼロスは、治療魔法も攻撃魔法も分野としては同じであり、神聖魔法のスクロールは古い魔導書と同じ原理だと語った。ルーセリスは信じられず動揺したが、ゼロスは自分も回復魔法や浄化を使えると話し、神官も防衛特化の後方支援型魔導士と見なせると述べた。
神への不信
ゼロスは、神聖魔法と光属性魔法の分裂が邪神戦争後の文献消失や文化的常識によるものだと考えていた。セレスティーナは、この事実が世界を動乱に陥れる可能性を心配したが、ゼロスは真実を知っても現実がすぐ変わるわけではないと語った。さらにゼロスは、神の不始末で邪神に殺されかけたため、神は嫌いであり敵だと口にした。ルーセリスとセレスティーナは冗談かと問い返したが、ゼロスは真偽をはぐらかした。
ガイア・コントロールの農地化
教会の裏手は、かつて墓地にする予定だったが頓挫し、雑草が生い茂るまま放置されていた土地だった。子供たちはゼロスに土産や肉を求めて騒いだが、ゼロスは邪魔にならないよう後ろで見ているように言った。そして【ガイア・コントロール】を使い、雑草や小石を分別しながら地面を動かし、広い農地を作り上げた。さらに畝を作り、【ストーンウォール】で周囲に低い壁を築いたため、すぐに種や苗を植えられる状態になった。
便利な農業魔法の危うさ
セレスティーナとルーセリスは、ゼロスの魔法が人を幸せにできる可能性を持つものだと感心した。だがゼロスは、この魔法が便利すぎるため、戦場で使われる危険性を考えていた。地面を操る魔法は農作業や建築に役立つ一方、騎馬軍団を足止めしたり、陣営や罠を作ったりする用途にも使えるため、農民が徴兵される恐れがあった。セレスティーナはその危険性に気づき、ルーセリスも便利な魔法が戦争に使われる可能性に衝撃を受けた。
上層部への丸投げ
ゼロスは、自分にできるのは使い勝手を少し悪くする程度であり、政治的な判断は上にいる者たちに押し付けると語った。セレスティーナとルーセリスは無責任だと感じたが、ゼロスは面倒事を嫌い、話を畑に戻した。ゼロスは野菜だけでなく薬草を植えることを勧め、肥料として森の落ち葉や残飯を使い、鳥小屋を作って卵も確保すればよいと提案した。
働くことへの教育
ルーセリスは畑の管理を一人ではできないと不安を示したが、ゼロスは子供たちに世話をさせるべきだと述べた。成人してからいきなり社会に放り出すのではなく、今のうちに働くことの大切さを教える必要があると考えたためである。だが子供たちは土産や肉を求め、働くことに消極的だったため、ゼロスは甘えたら成果を出すべきだと苛立った。
野菜と薬草の種
セレスティーナは屋敷からモッサリタマネギ、バビロントマト、トビゲリダイコン、マッスルポパイの種を持参していた。ゼロスは大深緑地帯で拾ったマンドラゴラの種と癒し草の種を出した。マンドラゴラは高価な薬草であり、ルーセリスは受け取れないと慌てたが、ゼロスは元はタダでまだ数があるため気にしなくてよいと答えた。
岩を砕いた指導
ゼロスは子供たちに、生活が掛かっているから種を植えて野菜や薬草を育てるよう言った。子供たちは面倒だと不満を漏らし、物乞いのほうがよいなどと口にした。するとゼロスは近くの岩を素手で粉砕し、怒らせないよう命を懸けて言うように笑顔で告げた。子供たちは即座に従う姿勢を見せ、ルーセリスは教育を間違えたのかと嘆き、セレスティーナが慰めた。
養護院改革の始まり
その後、ゼロスが陣頭指揮を執り、畑に種が植えられた。この畑作りは、後に養護院経営へつながる改革となり、養護院はゼロスの影響を受けて変わっていくことになった。ちょうどその頃、領主館ではツヴェイトがデルサシスの左フックをまともに受け、床に倒れ伏していた。
第十話 おっさん、教え子が増える
セレスティーナの実戦訓練とツヴェイトの再起
マッドゴーレムとの長期戦
セレスティーナはメイスを振るい、マッドゴーレムの核を次々と破壊していた。マッドゴーレムは動きが単調で攻撃も読みやすかったが、倒されるたびにゼロスが魔石の術式を起動して補充していたため、長時間の戦闘は負担になっていた。セレスティーナは増援が戦力に加わるまでの時間を見極め、その間に三体を倒す判断を下し、冷静に戦闘を続けていた。
学院で培った分析力
セレスティーナは魔法学院で戦闘訓練を受けられなかったが、見学を通して状況判断や分析を重ねていた。学院生が負傷する原因は、状況判断の甘さや仲間への過信、油断にあると見抜いていたため、マッドゴーレムの攻撃にも油断せず、相手の動きを観察しながら対処していた。
泥の奇襲と無詠唱
マッドゴーレムは足元から攻撃し、倒れた仲間の泥を利用して強化し、分裂や融合のような攻撃も行った。セレスティーナは【ロックランス】で数体を蹴散らしたが、崩れたゴーレムが地面を這って足を絡め取り、さらに別の二体にも捕まった。だが、セレスティーナは無詠唱で【パワーブースト】を発動し、強引に拘束を振りほどいてゴーレムを撃破した。
実戦訓練への期待と不安
ゼロスは、セレスティーナがこの程度の訓練なら安全に勝てると判断し、次は実戦を検討した。ただし保護者であるクレストンの許可が必要だと告げたため、セレスティーナは期待を込めてクレストンを見た。クレストンはファーフランの大深緑地帯の危険性を考えて渋り、ゴブリンやオークが年頃の娘を襲う可能性を想像して動揺した。
護衛一個師団の暴走案
クレストンはセレスティーナを守るため、護衛を一個師団用意すると言い出した。ゼロスは、大人数で森に入れば動きが阻害され、大型魔物に餌と勘違いされて襲われる危険があると止めた。クレストンは騎士たちをセレスティーナの身代わりにする覚悟まで口にし、ゼロスは権力者として最悪の発想だと呆れた。
セレスティーナの装備問題
ゼロスは生存率を高めるため、上等な素材で装備を用意すべきだと提案した。魔導士用の防具として革の鎧を挙げたところ、クレストンは寸法を測る必要があると知って激しく反応した。セレスティーナの身体を測ることに過剰な妄想を膨らませたため、ゼロスは成人前の子供に手を出す気はないと否定した。最終的に、装備製作はお抱えの職人に任せ、ゼロスが補助的加工を施すことで決着した。
窓辺のツヴェイト
セレスティーナの訓練を、異母兄のツヴェイトが窓から見ていた。ツヴェイトは以前、危険な魔法を街中で使ったため謹慎中であり、祖父クレストンに鍛え直してもらうため別邸に来ていた。彼は、魔法の才能がないと言われていたセレスティーナが近接戦闘を率先し、冷静に敵を仕留めている姿を見て信じられない思いを抱いた。
規格外のゴーレム運用
ツヴェイトは、ゼロスが一時間以上もゴーレムを生み出し続け、三十体以上を巧みに操っていることに驚愕した。通常の高位魔導士でもゴーレムを数体作れれば十分であり、数が増えるほど制御は困難になるため、ゼロスの能力は常識外れだった。国に仕えず、権力にも執着しない大賢者の在り方は、ツヴェイトの知る魔導士像から大きく外れていた。
ミスカの解説
ツヴェイトのそばに、セレスティーナの専属使用人であるミスカが現れた。ミスカは、ゼロスがゴーレムを直接すべて操作しているのではなく、司令官であるゼロスを起点に、分隊長役のゴーレムと配下のゴーレムで命令系統を作っていると説明した。さらに、分隊長ゴーレムは自軍を補充でき、魔石や積層型の魔法式である【スペル・サーキッド】によって魔力と制御の負担を軽減していると語った。
大賢者への恐怖と自覚
ミスカは、ゼロスがかつての仲間の方がさらに凄かったと話していたことや、五人でベヒーモスに挑むような魔導士たちだったことを伝えた。ツヴェイトは、ゼロスとその仲間たちの常識外れの行動に恐怖し、自分が高位魔導士の証である深紅のローブを着て浮かれていたことを恥じた。そして、自分は未熟どころか取るに足りない存在だったと認めた。
ミスカの年齢という禁忌
ツヴェイトは、昔から姿が変わらないミスカの年齢を尋ねようとした。するとミスカは不気味な気配を放ち、女性に歳を聞くのは失礼だと静かに迫った。ツヴェイトは本能的に命の危険を感じ、土下座して二度と聞かないと謝罪した。彼は、この世には知ってはならないことがあると身をもって理解した。
鍛え直しの願い
その夜、ツヴェイトはゼロスに鍛え直してほしいと頼み込んだ。ゼロスの実力を見たことで、魔導士としての極みが遥か先にあると感じ、この程度で終わりたくないと思ったためである。ゼロスは、ツヴェイトが所属するウィースラー派から離れることになる可能性を指摘した。ツヴェイトはその面倒さを忘れていたが、それでも今の自分から脱却したいという気持ちは変わらなかった。
英雄への問い
ツヴェイトは、クレストンのような魔導士を目指し、歴史に名を残す英雄になりたいと語った。ゼロスは、英雄とは戦場で強いだけではなく、何を成したかによって決まると説明した。国が祭り上げる英雄は戦の犠牲者を誤魔化すための存在でもあり、敵からは怨敵として狙われるため、名を上げた戦士や魔導士はろくな死に方をしていないと語った。
兄妹訓練の開始
ゼロスは、魔導士は自分の研究を見続ける存在であり、戦場での功績は命を縮めかねないと告げた。そのうえで、契約期間中に一人増えても同じだとして、ツヴェイトをセレスティーナと共に訓練することを認めた。ツヴェイトは学院に戻るまでに何かを掴むと決意し、ゼロスは翌日から実戦形式の訓練を受けさせると告げた。
兄妹そろって泥まみれ
翌日、ツヴェイトとセレスティーナは共にマッドゴーレムを相手に訓練していた。ツヴェイトは直情的に敵陣へ突っ込み、密集したゴーレムに囲まれて苦戦した。セレスティーナは慎重に動くよう言っていたが、ツヴェイトは泥ゴーレムだからいけると思ったと叫び、狡猾な動きに翻弄された。二人の兄妹はゴーレムに囲まれて散々打ちのめされ、ゼロスはまだまだだと厳しく評価した。
第十一話 おっさん、訓練後マンドラゴラを収穫しに行く
実戦訓練の激化とマンドラゴラ収穫騒動
苛烈化する実戦訓練
セレスティーナに実戦経験を積ませる方針が決まってから、訓練内容は次第に厳しくなっていった。マッドゴーレムの中には素早さを重視した細長い個体が混ざるようになり、通常個体の隙間を縫って足掛けや捕縛、死角からの攻撃を仕掛けてきた。ファーフランの大深緑地帯には多様な魔物が生息しているため、ゼロスは咄嗟の判断や戦況判断力を養う必要があると考えていた。
対照的な兄妹の戦い方
ツヴェイトはロングソードでマッドゴーレムを力任せに倒し、通常個体も強引に両断していた。一方のセレスティーナは慎重に横から攻め、防御と離脱を繰り返しながら安全性を重視していた。ゼロスとクレストンは二人の戦いを観察し、ツヴェイトは直情型の力押しで、セレスティーナは小柄な体格を考慮した技巧派だと評価した。
連携不足とそれぞれの課題
ゼロスとクレストンは、二人が組めば本来は相性が良いはずだと見ていた。しかし、ツヴェイトが感情を優先して動くため、連携には乱れが出ていた。ツヴェイトは咄嗟に魔法を使って魔力を温存できず、後半に追い込まれやすかった。セレスティーナは冷静に後の先を取る戦い方をしていたが、マッドゴーレムが脆いから善戦できている面もあり、より硬いゴーレム相手では大怪我の危険があった。
変則攻撃への焦り
マッドゴーレムの股下から細い個体が現れ、腕を鞭のようにしならせてツヴェイトを弾き飛ばした。ツヴェイトは倒れた状態から【ファイアーボール】を放ったが、素早い個体には簡単に避けられた。セレスティーナは、ゼロスがツヴェイトの動きの単調さを見抜き、連携を崩すために集中的に狙っていると指摘した。
実戦の厳しさ
ゼロスは、実戦では魔物が手加減せず、隙があれば遠慮なく狙ってくると説明した。広大な森で孤立することは死と隣り合わせであり、生き残るためには冷静な洞察力、純粋な力、生き残ろうとする意思が必要だと語った。ツヴェイトはその言葉を正論として受け止め、自分が甘かったことを認めた。
逃げ道のない鍛錬
ゼロスは、安全で楽な道など存在せず、生き残るためには何度も訓練を積むしかないと二人に告げた。セレスティーナとツヴェイトは、学院では得られなかった実戦に近い訓練に手応えを感じていた。ゼロスは内心では責任問題を恐れていたが、家庭教師として弱腰な姿勢を見せるわけにはいかず、厳しい態度を保っていた。
二時間の乱戦
ゼロスは、二時間にわたる乱戦状態を設定し、その間を生き延びるよう二人に命じた。魔力が切れそうだと訴えるセレスティーナに対し、ゼロスは敵が待ってくれるわけではないと告げた。マッドゴーレムたちは隊列を組み、知能の高い魔物が指揮するような陣形を取り始めたため、二人は緊張と高揚を覚えた。
クレストンの装備談義
訓練中、クレストンはセレスティーナの装備が安物のレザーベスト、鋼のバックラー、メイスであることを残念がった。ゼロスは、相手がマッドゴーレムで汚れるため安物で十分だと説明したが、クレストンは純白のドレスに鎧姿を望んでいた。ゼロスは純白の装備では狙ってほしいと言っているようなものだと返した。ツヴェイトについては、クレストンは男だからよいと軽く扱い、孫への扱いに差が出ていた。
戦場の消耗
二時間後、セレスティーナとツヴェイトは気力だけで立っている状態になっていた。二人は長時間の戦闘訓練の苦しさを身をもって体験し、戦場ではこれに近い状況がさらに長く続くと聞いて衝撃を受けた。ツヴェイトは学院の訓練が甘すぎると実感しながらも、この訓練を受けられることに充足感を覚えていた。
酒瓶入りのマナ・ポーション
ゼロスは、魔力が枯渇寸前の二人にマナ・ポーションを渡した。それは養護院で栽培していたマンドラゴラを少し分けてもらい、それを使って作ったものだった。だが専用の小瓶がなかったため酒瓶で代用しており、セレスティーナとツヴェイトは昼間から酒を飲んでいるように見えることを問題視した。ゼロスにとっては単なる再利用だったが、貴族の二人にとっては体裁の悪い容器であった。
護衛騎士を巡る不満
訓練後、ゼロスはクレストンに二人の装備と護衛騎士の状況を確認した。装備は近いうちに完成し、護衛には若い騎士が何名か回されることになっていた。しかしクレストンはデルサシスが二個師団を出さないことを嘆き、セレスティーナのためなら騎士団を大規模に動かそうとしていた。セレスティーナもツヴェイトも、その無茶な発言に驚いていた。
養護院での相談
戦闘訓練後、ゼロスはマンドラゴラを収穫するために養護院を訪れた。ルーセリスは眉間に手を当てて悩んでおり、マンドラゴラのことで問題が起きたとゼロスに告げた。ゼロスは事情を聞くため、ルーセリスに畑へ案内された。
畑に響く絶叫
畑では子供たちが楽しそうにマンドラゴラを引き抜いており、そのたびにマンドラゴラは断末魔のような叫びを上げていた。子供たちはその声を面白がっていたが、ルーセリスは精神的に耐えられず困っていた。ゼロスも最初は慣れるしかないと考えたが、実際に引き抜いたマンドラゴラが人聞きの悪い叫びを上げたため、冤罪を招きかねない危険な植物だと認識した。
子供たちの無邪気な収穫
マンドラゴラは助けを求めたり呪いの言葉を叫んだりし、時には子供の好奇心を刺激するような言葉まで発した。子供たちは無邪気に引き抜き続けたが、大人であるゼロスとルーセリスはその叫びに精神を削られていった。マンドラゴラはまるで狙ったかのように大人の心を攻撃しており、二人は子供たちの教育について頭を悩ませることになった。
潤う養護院の財政
ゼロスとルーセリスは六時間にわたる収穫作業で精神的に追い詰められ、虚ろな表情で疲弊していた。一方、子供たちは元気にマンドラゴラを物置に並べて干していた。子供たちの作業によって養護院の財政は潤い、二日後からまともな食事が可能になった。しかし、この日から養護院は陰で絶叫教会と呼ばれるようになった。
防犯装置となったマンドラゴラ
マンドラゴラの噂を聞いた泥棒が畑に忍び込むようになったが、マンドラゴラは引き抜かれると泥棒を告発するように絶叫した。その声を聞いた近所の人々が泥棒を捕まえる出来事が続き、マンドラゴラは結果的に有効な防犯装置になった。周辺住民は泥棒を捕らえて金貨と交換するため、捕縛の体制を整え、新たな獲物が掛かるのを待つようになった。
第十二話 おっさん、領主と会う
ツヴェイトの変化とセレスティーナの装備完成
異母弟妹との距離
ツヴェイトには異母弟クロイサスと異母妹セレスティーナがいた。クロイサスは同い年で家督争いの相手と見られていたが、人間関係に興味を示さず、魔法研究だけに関心を注いでいた。ツヴェイトは昔こそ喧嘩腰だったが、クロイサスが本気で研究以外をどうでもよいと思っていると知り、絡むことをやめていた。
セレスティーナの冷遇
セレスティーナは、デルサシスが公爵家の女給に手を出したことで生まれた妾腹の子であった。第一・第二公爵夫人たちは、家督争いの火種を増やさず、デルサシスの関心を引く女給を遠ざけるため、セレスティーナの母親を屋敷から追放した。その後、セレスティーナの母親はクレストンに引き取られたが若くして病死し、セレスティーナはクレストンに育てられることになった。
幼い頃の虐め
セレスティーナは母親に似た容姿のため公爵夫人たちから目の敵にされ、その影響を受けたツヴェイトも幼い頃から彼女を虐めていた。ツヴェイトにとって、魔法が使えないセレスティーナが敬愛する祖父クレストンのもとにいることは気に入らなかった。だが後に、彼女に才能がなかったのではなく、欠陥のある魔法式が原因だったと知ることになった。
ゼロスの講義
ゼロスは、魔法式における必要魔力量や耐久魔力量、余剰魔力の拡散について説明していた。ツヴェイトはゼロスを好きではなかったが、講義の内容は予想を超えて高度かつ分かりやすく、新しい知識がすんなり頭に入ることに楽しさを覚えていた。彼は、ゼロスが権力に媚びず、自らの生き方を貫く魔導士であることにも強い憧れを抱き始めていた。
積層型術式とスペル・ライン
セレスティーナは、魔法式の必要魔力量幅を変えれば威力の強弱も変わるのかと質問した。ゼロスは単純にはいかず、魔力が大きくなれば魔法式や魔法陣の耐久力が問題になると答えた。そのうえで、複数の魔法式を分割し、処理魔法式を挟んで魔法陣を小さくまとめる積層型術式と、魔力を循環させるスペル・ラインについて説明した。
本来の魔導士像
ツヴェイトは、ゼロスが祖父クレストンをも凌ぐような存在に見え、自分がその足元にも及ばない未熟者だと理解していた。ゼロスは派閥にも国にも属さず、自分で稼ぎ、理論と実践を重ねて魔法研究を続ける魔導士であった。ツヴェイトにとってそれは、クレストンが語っていた本来の魔導士像を体現する姿であった。
魔法の得手不得手
ツヴェイトは、誰もが全属性魔法を覚えられる理屈なら、なぜ使う魔法が個人の資質で分かれるのかと質問した。ゼロスは、結局は個人の好みの問題であり、好む魔法は死ぬ気で覚えるが、そうでないものはおざなりになるのだと答えた。さらに、潜在意識領域に刻む魔法式は無駄を省いて緻密にすれば小さくなり、その分だけ覚えられる魔法の数を増やせると説明した。
渡されない研究成果
ツヴェイトは、ゼロスが研究成果を教えるつもりがないことを聞き、自分で極地まで辿り着けという意味かと確認した。ゼロスは、血反吐を吐く思いで辿り着いた研究成果をなぜ他人に渡さなければならないのかと答え、広範囲殲滅魔法のような危険な魔法は継承させる相手が何に使うか分からないと語った。ツヴェイトは、ゼロスの魔法が自分専用であり、他人が使えるようなものではないと知り、高揚感を覚えた。
基礎からの道
ゼロスは、若い二人にはまず基礎から自分の手で極める必要があり、人に教えてもらって有頂天になることは停滞と同じだと告げた。ツヴェイトは、自分自身の魔法は自分で生み出せということだと受け止めた。ゼロスは、常識を疑い、理論と実践を重ね、自分との戦いを続けることが魔導士には必要だと語った。
魔法研究の停滞
ツヴェイトは学院の講師たちへの不満を口にしたが、セレスティーナは講師が悪いのではなく、邪神戦争以降に文献が失われ、間違った知識が手探りで受け継がれてきた結果ではないかと考えた。ツヴェイトは粗暴ではあったが、魔法に関しては真摯であり、知らないことを知り、その先を見たいという欲求を強く抱いていた。
講義後の兄妹
ゼロスは三時間も講義を延長していたため、その日の授業を終えることにした。ゼロスが退室した後、セレスティーナは復習を続けていた。ツヴェイトは、以前なら自分から逃げ出していたはずのセレスティーナが大きく変わったと指摘した。セレスティーナは、自分も魔法を使えるようになり、魔法式もある程度解読できるようになったため、以前とは違うのかもしれないと答えた。
ウィースラー派への後悔
ツヴェイトは、ゼロスの教えを受けられるセレスティーナを羨ましがったが、自分にはウィースラー派との関係があり正式な弟子入りは難しいと考えていた。現在のウィースラー派は権力志向が強く、魔法研究は二の次になっていたため、ツヴェイトは派閥に入ったことを後悔していた。彼は学院に戻ったら派閥関係者に注意するようセレスティーナへ忠告し、彼女が魔法を使えるようになった今、派閥が放っておかないと警告した。
クロイサスの不在
セレスティーナは、クロイサスが実家に戻らないのかと尋ねた。ツヴェイトは、クロイサスがサンジェルマン派の重鎮候補として研究に明け暮れているだろうと答えた。二人は、大賢者の講義を受けられないクロイサスは運が悪いと考えた。ツヴェイトは、クロイサスの研究姿勢は魔導士らしいと認めながらも、自分を見ようとしない彼を嫌っており、いつかその顔に拳を叩き込みたいと語った。
完成した装備
翌日、ゼロスはクレストンに呼ばれて客用の応接間へ向かった。クレストンは、セレスティーナの装備が完成したことに非常に興奮していた。彼は初めて孫娘のために装備を作ったのだと喜び、ツヴェイトの装備については以前新調したものがあるからよいと軽く扱った。ゼロスは、清々しいほどに孫娘を依怙贔屓する老人だと呆れた。
嫁入り話の暴走
ゼロスが、セレスティーナはいずれ嫁に行く身だと指摘すると、クレストンは有象無象には嫁に出せないと拒絶した。さらに行き遅れた場合はゼロスに嫁にもらってもらうと言い出し、ゼロスを巻き込んだ。クレストンは曾孫ができたらゼロスがどこへ消えても構わないとまで言い、ゼロスは彼の外道ぶりに強く反発した。
宝物級の武具
セレスティーナは真新しい武具を身に着けて応接間に現れた。白いドレス調の衣装に白銀のブレストプレート、同色の盾、装飾されたメイス、金細工の施されたガントレットやブーツという仰々しい装備であった。ゼロスは、装甲ドレスにミスリルや白蛇竜の素材、オリハルコンまで使われていることを見抜き、宝物級の装備だと指摘した。セレスティーナは、その装備が非常に高価だと知って驚いた。
宝物庫の横領
ゼロスは、これほどの装備を用意するために税金を着服していないかと確認した。クレストンは自分の金だと主張したが、宝物庫の貴金属を売ったことを白状した。ゼロスが現領主の許可を取ったのか尋ねると、クレストンは顔を逸らした。孫娘のために手続きを飛ばして宝物庫の品を売ったため、横領にあたる行為であった。
デルサシスの追及
そこへ現領主デルサシスが現れ、クレストンが宝物庫の鍵をこじ開け、貴重な魔石を売り払ったと暴露した。クレストンは痕跡を消し、替え玉を使ってアリバイ工作までしていたが、距離と時間の不自然さから見抜かれていた。デルサシスは、そのせいで警備担当者が自殺未遂を起こしたと告げたが、クレストンは反省の色を見せなかった。
後始末の命令
デルサシスは、事の原因の一端が自分の火遊びにあるため強く責めきれないとしながらも、せめて正当な手続きをしてほしかったと語った。セレスティーナは、自分のために祖父が暴走し、警備兵が傷ついたことにショックを受けた。デルサシスはクレストンに後始末を命じ、クレストンは不本意ながらも対応することになった。
ワイヴァーンの魔石
デルサシスは、売られた品が王家から賜った掌サイズのワイヴァーンの魔石二個だったと説明した。ゼロスはワイヴァーンの魔石ならあると言い、インベントリーから保管品の倍ほどある大きな魔石を三つ取り出して渡した。デルサシス、クレストン、セレスティーナは、ゼロスが七頭分のワイヴァーンの魔石を持っている事実に絶句した。
土地と家の約束
デルサシスはゼロスに恩を返すため、望みを尋ねた。ゼロスは地位も名誉も不要で、農業ができる程度の土地が欲しいと答えた。デルサシスは、クレストンとセレスティーナを救ってくれた礼として、別邸の一角を切り開き、ゼロスの土地として譲渡し、家も進呈すると約束した。ゼロスはようやく宿なしから卒業できると喜んだ。
絶叫教会という評判
デルサシスは、土地として例の絶叫教会の裏手が都合よいだろうと口にした。ゼロスはその呼び名を知らず驚いたが、デルサシスは悲鳴の飛び交う悪夢の教会として最近話題になっていると説明した。ゼロスは、マンドラゴラ栽培によって養護院の世間体がかなり悪くなっていることを知った。
魔法式に没頭するツヴェイト
デルサシスが帰ろうとする中、ツヴェイトの姿がないことに気づいた。セレスティーナは、兄は予習をしているのではないかと考え、クレストンはどうでもよかったため気づかなかった。実際のツヴェイトは、上機嫌で魔法式の解読を実践していた。彼は普段の態度とは異なり、優秀で真面目な魔導士として新しい知識に夢中になっていた。
大深緑地帯への出発前
この日から三日後、ゼロスたちはファーフラン大深緑地帯へ出発することになった。魔物がうろつく大森林で、実戦訓練という名の厳しい訓練が始まろうとしていた。
第十三話 おっさん、教え子達と危険地帯へ行く
ファーフラン大深緑地帯での実戦訓練開始
早朝の出発準備
ソリステア大公爵家の別邸では、早朝から武装した騎士たちが行き交い、物々しい空気が漂っていた。騎士は十五名ほどで、公爵家の子息と息女を護衛する任務を与えられていた。だが彼らを手配したクレストンの本心は、最愛の孫娘であるセレスティーナを守るための身代わりを増やすことにあり、ゼロスはその考えに呆れていた。
アーレフとの戦場観
分隊長のアーレフ・ギルバートは、ゼロスが二刀流の剣を帯びていることに気づき、魔導士でありながら近接戦闘を重視する姿勢に驚いた。ゼロスは、魔力が尽きただけで戦えない魔導士は戦場で死ぬだけだと語った。アーレフはこの国の魔導士たちが近接戦闘を軽視し、騎士との連携も悪い現状を嘆き、ゼロスと互いに共感を覚えた。
魔導士と騎士の役割
ゼロス、アーレフ、クレストンは、この国の魔導士が権力欲や研究欲に偏り、実戦を知らないことを問題視した。ゼロスは、騎士は剣であり盾であり、魔導士は騎士を補佐して生存率を高め、戦いを有利に進める裏方であるべきだと考えていた。長い平穏によって戦いの恐ろしさを忘れた魔導士たちは、後方が安全だという根拠のない安心感に溺れていると見なされていた。
兄妹の大荷物
出発の準備が整う中、セレスティーナとツヴェイトは巨大な荷物を抱えて現れた。セレスティーナの荷物の大半は着替えと現地で調べたい書籍であり、ツヴェイトの荷物は薬草の調合機材だった。二人の熱意を無下にできなかったゼロスは、インベントリーに荷物を収納した。セレスティーナとツヴェイトはその便利さに驚き、ゼロスにも分からない魔法があることを知った。
クレストンの過剰な心配
出発前、クレストンはセレスティーナに、騎士たちが手を出してきたらすぐに言うよう告げた。彼は何をするつもりなのかを明かさず、ドス黒い気配を漂わせた。ゼロスは、クレストンが普段は民を思う優れた人物でありながら、セレスティーナが絡むと別人のように暴走すると感じていた。一方、ツヴェイトは騎士たちと現地での予定を確認していた。
馬車内の問い
一行がファーフラン街道を東へ進む中、ツヴェイトはゼロスに、権力者に利用されるのを嫌うのに、なぜセレスティーナの家庭教師をして土地を受け取るのかと尋ねた。ゼロスは、住所不定無職の中年でいるのは体裁が悪く、帰れる家があることは大事だと答えた。さらに、権力者には力を貸さなくても、未来ある若者に道を示すことは悪くないと語った。ツヴェイトは裏を勘ぐったことを詫びた。
サフラン平原の野営陣地
二日ほど馬車に揺られた後、一行はファーフランの大深緑地帯の端にあるサフラン平原の一角に陣を敷いた。騎士たちはテントを張り、ゼロスは地系統魔法で岩の防壁を作った。セレスティーナとツヴェイトは周囲に溝を掘り、落とし穴を設置していた。この場所は比較的安全ではあったが、魔物が出没するため油断できない場所だった。
魔法符の使い魔
陣地でゼロスが魔法紙に魔法文字を書いていると、ツヴェイトが興味を示した。ゼロスは使い魔を作るための魔法符だと説明し、完成した魔法符を起動させた。魔法符は周囲の魔力を取り込み、鷲の姿の使い魔として顕現した。これは生物を縛るのではなく、魔力で人工の魔物を作るものであり、魔石を与えれば活動時間を延長できるものだった。
空からの偵察
ゼロスはツヴェイトに魔法符を試させ、羨ましそうに見ていたセレスティーナにも同じものを与えた。二人は使い魔の視線を自分たちにリンクさせ、空からの景色を楽しみながら偵察の実地訓練を行った。彼らにとって魔法符は研究価値のある玩具であり、初めて見る視界の臨場感に高揚していた。
オークの群れ
二人が空からの景色を楽しんでいる一方で、ゼロスは使い魔を用いて周辺を偵察していた。すると近くに二十頭ほどのオークの群れを発見し、分隊長アーレフに報告した。アーレフはすぐに総員へ戦闘準備を命じ、騎士たちは手早く装備を整えた。ゼロスは騎士たちの練度の高さを評価しつつ、今は格を上げる好機だと考えた。
森からの焙り出し
オークたちは鼻が利き、風上にいた一行の気配に気づいて森の中で警戒していた。待つだけでは動かないと判断したゼロスは、天より降りし裁きの矢を放ち、空中で分裂した岩の矢をオークの後方へ降らせた。混乱したオークたちは森から逃げ出し、騎士たちは十分に引きつけてから一斉に矢を放った。これにより七頭が死亡し、五頭が重傷を負った。
騎士と兄妹の実戦
アーレフの号令で騎士たちは抜剣し、盾を構えてオークへ突撃した。オークは力任せに棍棒を振るったが、騎士たちは盾で受け止め、懐に入って剣で確実に仕留めていった。セレスティーナはメイスと【エアーカッター】を組み合わせて一頭を倒し、ツヴェイトも初級魔法で牽制しながらロングソードで弱ったオークを仕留めた。二人はゼロスの厳しい訓練によって、実戦でも対応できるほど成長していた。
木上からの狙撃
戦闘中、別のオークがツヴェイトを襲おうとしたが、ゼロスが木の上から矢で射抜いた。ゼロスは木々の間を飛び回りながら狙撃し、さらに接近してきた別のオーク部隊に対しても弓で三頭を仕留めた。その後、グルガナイフを取り出して狩人のようにオークへ襲い掛かった。彼は魔導士らしからぬ隠密性と近接戦闘能力で、淡々と獲物を仕留めていった。
訓練としての弱体化
ゼロスは全てのオークを自分で殺したわけではなく、騎士や弟子たちが経験を積めるように、毒や麻痺などを使ってオークを弱らせていた。無双しているように見えても、戦闘を訓練の一環として成立させるために細心の注意を払っていた。その結果、騎士たちは格を上げ、ツヴェイトとセレスティーナも成長を実感した。
クレイジーエイプの恐怖
戦闘後、ゼロスは使い魔と視界をリンクしたまま、恐るべき存在が近づいていることに気づいて顔色を変えた。彼が恐れていたのはクレイジーエイプであり、その魔物が男の尻を狙うと説明した瞬間、騎士たちは凍りついた。白い体毛の大猿が現れ、舐め回すような視線を向けると、勇敢にオークと戦っていた騎士たちは一斉に逃げ出した。
野営陣地の夕食
クレイジーエイプから逃げ切った一行は、野営陣地で少し早い夕食を取った。騎士たちは焚火の周りに座り、温かなスープを口にしていた。ゼロスはパンをスープに浸して食べ、この世界に来た時の過酷なサバイバル生活と比べ、味のある肉が食べられることを静かに喜んだ。ツヴェイトは本を読みながら調合を研究し、騎士たちは戦果や反省点を語り合っていた。
夜の森を前にした休息
ファーフランの大深緑地帯は闇に染まり始め、地平の先が赤く染まっていた。ゼロスは、この森の危険を身をもって理解しており、本当に危険なのはこの後だと知っていた。それでも今は満足できる食事を楽しみ、食後に煙草を取り出して【灯火】の魔法で火をつけた。静かに吐き出された紫煙は、星の瞬く空へ流れて消えていった。
短編 イリス、転生す
入江澄香の異世界転生とイリスの旅立ち
孤立気味の中学生
入江澄香は十四歳の市立中学生であり、父母と弟のいる普通の家庭で育っていた。だが、芸能人やファッションといった同年代の少女たちの話題には興味を持てず、ゲームや昔の漫画、お笑い芸人などを好んでいたため、周囲と話が合わなかった。そのため暗い、オタクなどと言われ、家庭でも部屋にひきこもりがちで影の薄い存在となっていた。
草原での転生
澄香はオンラインゲームで魔法職を極めようとしていたが、気が付くと草原に立っていた。空には二つの月があり、彼女は自分が異世界に来たのだと理解した。普通なら混乱する状況であったが、澄香は剣と魔法の世界に来たことに興奮し、冒険が始まると喜んだ。
女神ウィンディアのメール
澄香がステータスを開くと、今起きたことを説明するメールが届いていた。風の女神ウィンディアは、封印が弱まった邪神を澄香たちが遊んでいた世界に再封印した結果、邪神が自爆し、巻き込まれた者たちが死んだと説明した。さらに、他世界の神々に苦情を受けたため、澄香たちをこの世界に転生させ、ゲーム時代の持ち物を再構築したと告げていた。
理不尽な死と冒険への期待
澄香は自分が異世界召喚ではなく異世界転生だったと知り、家族にはもう会えないのだと理解した。女神の説明は無責任で、澄香は何の理由もなく死に、責任逃れのためにこの世界へ転生させられた形であった。だが澄香は退屈な日常から解放され、未知の世界で冒険できることに胸を高鳴らせ、まず街を探すことにした。
食料の不安
澄香は衣食住の確保が必要だと考えたが、現代社会で育った彼女には野宿や狩りの経験がなかった。ゲーム時代のステータスは保持しており、レベルは二十五で一流の魔導士相当だったが、近接戦闘には乏しく、強力な魔物に遭遇すれば逃げるしかなかった。さらにインベントリーには食料がなく、澄香は空腹と不安に涙目になった。
夕暮れの村
日が暮れ始めた頃、澄香は丘の先に村を見つけた。村は板張りの壁で囲まれており、防衛を目的とした造りであることが分かった。澄香は人里を見つけた喜びから走り出したが、村ぐるみの犯罪の可能性を思い出し、警戒しながら門をくぐった。
ゴブリン襲撃の村
村では男たちが農具を持ち、バリケードを築いて警戒していた。澄香が村人に事情を尋ねると、村は最近ゴブリンに毎日襲われており、上位種に率いられて野菜を奪おうとしていると聞かされた。街から女傭兵が二人来ていたが、村人はそれだけでは不安に思っていた。
食料と宿の交渉
澄香は、自分が魔導士であると名乗り、ゴブリン退治を手伝う代わりに寝泊まりする場所と食料を分けてほしいと交渉した。村人は澄香の身の上を聞き、彼女の申し出を受け入れた。ちょうどその時、見張り櫓の警鐘が鳴り、ゴブリンが現れたことが知らされた。
氷で塞がれた侵入口
澄香が東側の畑へ向かうと、外壁に穴が開けられ、ゴブリンの侵入を許していた。そこでは赤髪の女性傭兵と甘栗色の髪の女性傭兵がゴブリンと戦っていた。澄香は胸の大きい二人を見て複雑な感情を抱きながらも、【アイスブラスト】で穴の周辺に群がるゴブリンを凍結させ、侵入口を塞いだ。
本格的な襲撃
村人たちは侵入したゴブリンを倒していったが、外のゴブリンはいつものように逃げなかった。そのため、今までの襲撃は偵察であり、今回が本格的な攻撃ではないかと疑われた。外壁の上から見た澄香は、百を超えるゴブリンが周囲に散開し、防備の薄い場所を狙っていることを確認した。
範囲魔法による足止め
澄香は【ガイア・ランス】で地面から岩の槍を生やし、固まっていたゴブリンを串刺しにした。続けて【ロックニードル・フィールド】を使い、裸足のゴブリンが近づけない棘だらけの地面を作った。村人たちは澄香の無詠唱魔法に驚きながらも勢いづき、弓で応戦した。
西側の防衛
西側でもゴブリンが攻め込んでいると知らされ、澄香は防壁の上を走って向かった。そこではゴブリンが壁に取り付き、登ろうとしていた。澄香は【エクスプロード】を使い、広範囲の炎と熱波でゴブリンを吹き飛ばしたが、消費魔力が大きかったため、マナ・ポーションを飲んで魔力を回復した。
ゴブリンジェネラルの出現
澄香は、リーダー格が姿を見せないことを不審に思い、外のゴブリンは誘導役ではないかと考えた。すると畑に敵襲の声が上がり、最初に塞いだ穴の氷を破って大きなゴブリンが現れた。それはゴブリンナイトではなく、さらに上位のゴブリンジェネラルであった。
ジャーネとレナとの連携
ゴブリンジェネラルは赤髪の女性傭兵ジャーネを吹き飛ばし、もう一人のレナもゴブリンに囲まれた。澄香は【ホーミング・サンダーアロー】でゴブリンを感電させ、二人を助けた。澄香は自分をイリスと名乗り、補助魔法でジャーネとレナを強化し、二人には一撃離脱を繰り返すよう指示した。
三人での討伐
澄香は【パワーブースト】、【フォースシールド】、【スピード・エンチャント】を多重展開し、ジャーネとレナを支援した。ジャーネとレナは交互に攻撃して離脱し、澄香は【ロックブリット】で援護した。最後に澄香が【プラズマ・ブレイク】でゴブリンジェネラルを麻痺させ、レナが背後から刺し、ジャーネが首元から斬りつけて倒した。
魔物解体への衝撃
ゴブリンジェネラルが倒されると、外のゴブリンたちは逃げ出し、村は当面の安全を得た。村人たちはゴブリンの死体を解体し、魔石などを取り出し始めた。現代社会で生きていた澄香にとって、人型の魔物を笑いながら解体する光景は異様であり、気分が悪くなった。さらにゴブリンの死体を焼却した際の臭いにも耐えられなかった。
イリスとしての受け入れ
澄香はジャーネたちに、退屈な日常から飛び出し、刺激的な冒険を求めて一人旅をしていると話した。ただし、解体だけは無理であり、魔法専門で頑張ると答えた。この出会いが三人で行動するきっかけになることを、澄香はまだ知らなかった。村ではゴブリン退治を祝う宴が開かれ、死体処理が続いた後も祭り騒ぎが続いた。
サントールへの旅支度
ゴブリンの脅威が去り、村から街への往来が再開されることになった。澄香は村を救った礼として路銀を受け取り、ジャーネとレナと共にサントールの街へ向かうことを決めた。そこで傭兵登録をし、実力をつけてダンジョンにも行ってみたいと考えた。村人は危険を忠告したが、澄香は未知の世界を見たいという思いを抱いていた。
イリスの旅立ち
翌日、澄香はイリスと名を変え、二日酔いのジャーネたちと共に馬車に乗ってサントールへ向かった。約五日間の馬車旅を経て、新しい世界での生活を始めるつもりであった。夢と希望を抱いたイリスは、まだ一ヶ月半後に殲滅者と呼ばれるおっさん魔導士と出会い、長い付き合いになることを知らなかった。
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アラフォー賢者の異世界生活日記シリーズ
小説






















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