とある魔術の禁書目録(15)レビュー
とある魔術の禁書目録SS2レビュー
物語の概要
■ 作品概要
『とある魔術の禁書目録(16)』は、超能力が開発される学園都市を舞台に、魔術を操る強大な敵との死闘を描いたSFファンタジー・バトルアクション作品である。
ローマ正教の暗部『神の右席』の一人でありながら『聖人』の力をも併せ持つ最強の敵「後方のアックア」が、上条当麻の右腕を狙って学園都市に侵入する。イギリス清教から派遣された天草式十字凄教の五和が上条を護衛するが、アックアの圧倒的な暴力の前に上条は瀕死の重傷を負ってしまう。彼を救うため、かつて天草式を率いていた聖人・神裂火織が駆けつけ、アックアとの桁外れの死闘が幕を開ける。
■ 主要キャラクター
- 上条当麻(かみじょうとうま): 右手に異能の力を打ち消す「幻想殺し(イマジンブレイカー)」を宿す高校生。アックアに右腕を狙われるが、自らの身を呈して五和を守ろうと行動する。
- 五和(いつわ): 天草式十字凄教に所属する少女。上条の護衛として泊まり込みで世話を焼き、彼を守るためにアックアへ決死の戦いを挑んで切り札である「聖人崩し」を放つ。
- 後方のアックア: ローマ正教『神の右席』の一人であり、本名はウィリアム=オルウェル。神の右席と聖人の力を同時に操り、圧倒的な破壊力をもって上条たちを蹂躙する強敵である。
- 神裂火織(かんざきかおり): イギリス清教の聖人であり、元天草式女教皇。上条と天草式を救うためアックアと対峙する。かつて仲間を信じきれなかった自身の傲慢さを悔い改め、再び天草式と共に戦う決意を固める。
- 御坂美琴(みさかみこと): 学園都市第三位の超能力者。上条が記憶喪失であることを知り、一人で傷つき続ける彼を止めようと試みる。しかし、記憶の有無に揺るがない彼の信念に触れ、心を強く揺さぶられる。
- 建宮斎字(たてみやさいじ): 天草式十字凄教の教皇代理。圧倒的な実力差に一度は絶望するが、五和を叱咤し、再び神裂と共にアックアに立ち向かうよう仲間たちを導く。
- 右方のフィアンマ: ローマ正教『神の右席』の実質的なリーダー。終章で登場してローマ教皇を圧倒し、上条の右手と禁書目録を狙って次なる騒乱を引き起こそうと暗躍する。
■物語の特徴
本作の最大の特徴は、『神の右席』と『聖人』という二つの規格外の力を併せ持つ「後方のアックア」がもたらす、他を寄せ付けない圧倒的な絶望感にある。それに立ち向かう神裂火織との「聖人同士の死闘」は、魔術と武術が極限の速度と威力で交錯し、息を呑むような大迫力のバトルシーンとして描かれている。
また、単なるバトルアクションにとどまらず、絶望的な実力差を前に一度は心を折られた五和や建宮たち天草式の面々が、再び立ち上がる泥臭い姿が読者の胸を強く打つ。彼らがかつての指導者である神裂火織と真の絆を取り戻し、総力戦で怪物に挑む展開は非常に熱い魅力を持っている。
さらに、上条の記憶喪失の事実を御坂美琴が知るシーンなど、キャラクターたちの関係性が大きく進展する重要なターニングポイントにもなっており、ドラマ面でも読み応えのある一冊となっている。
書籍情報
とある魔術の禁書目録 16
(A Certain Magical Index)
著者:鎌池 和馬 氏
イラスト:はいむらきよたか 氏
出版社:株式会社KADOKAWA(電撃文庫)
発売日:2008年6月10日
ISBN:9784048670869
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あらすじ・内容
ついに最強・最大の敵が現れる……!
ローマ正教の暗部 『神の右席』 後方のアックアがついに動いた。『聖人』 の力と、『神の右席』 の 「特性」 を併せ持つその最強・最悪の敵は、上条当麻の 「右手」 を狙い学園都市に侵入する。アックアの宣告を受けたイギリス清教は、上条当麻のもとに天草式十字凄教の五和をボディガードとして派遣していた。上条宅に泊まり込んで護衛する彼女は、圧倒的な料理スキルとかいがいしさをもってして、居候シスター・インデックスの立場すら危うくさせる。一方、それを見た上条の目からは一筋の涙が……。しかしそんな彼の安息の時も束の間、ついに最強・最大の敵が現れる……!
感想
強大な敵との死闘とキャラクターたちの確かな絆の成長が深く心に刻まれる一冊であった。ローマ正教vsイギリス清教という国家規模の対立構図でありながら、舞台が日本の学園都市となる点には面白さを感じるが、上条当麻の右腕が狙われているとあればそれも納得だ。
激しい戦いが予想される中で描かれる日常パートは、物語の良いアクセントになっている。土御門兄妹が少しだけ登場して場を和ませてくれたが、勢い余って破いてしまったベランダの仕切りボードは後でちゃんと修理されたのか密かに気になってしまう。また、学園都市へ易々と侵入してくるローマ正教の人間は、某潜入アクションゲームのスネイクよろしく、ダンボールでも被って見えなくなる隠密スキルでも持っているのだろうかと思わずツッコミを入れたくなった。
しかし、物語が本格的に動き出すと圧倒的な絶望感が場を支配する。『神の右席』であり『聖人』の力も併せ持つ後方のアックアの脅威は凄まじく、護衛として派遣された天草式の五和らが敗北し、彼女を庇って上条が瀕死の重傷を負う姿には胸が締め付けられた。終盤で見事な活躍を見せたとはいえ、彼がここまでボコボコにされて入院するのはイタリアでの出来事以来ではないだろうか。
そんな絶望的な状況下で、己の無力さに打ちひしがれていた天草式の面々が、上条を救うために再びアックアに立ち向かう決意を固める展開は非常に熱い。そこへ元女教皇の神裂火織が駆けつけ、桁外れの激闘が幕を開けるバトルシーンは圧巻の一言に尽きる。単独で戦い猛攻に追い詰められていた神裂が、かつての過ちを悟り、天草式の仲間たちに協力を求めて共に戦うことを選んだ姿には、過去を乗り越えた精神的な成長を感じて深く感動させられた。
神裂と天草式の連携でアックアを迎え撃つ中、病院を抜け出した上条が戦場へ合流する流れはまさに王道である。上条の『幻想殺し』で魔術攻撃を防いだ隙を突き、五和が必殺の『聖人崩し』を命中させて撃破に成功した見事な連携プレイは、読後の爽快感を格段に引き上げてくれた。
見事に事態が収束したと思いきや、裏では同じく『神の右席』のフィアンマがイギリスや上条の右腕に狙いを定めており、次なる戦乱を予感させる不気味な幕切れとなっている。この先どのような過酷な運命が待ち受けているのか、次巻への期待がどこまでも膨らむ素晴らしい作品だ。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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とある魔術の禁書目録(15)レビュー
とある魔術の禁書目録SS2レビュー
考察・解説
ローマ教皇の葛藤
『とある魔術の禁書目録(16)』におけるローマ教皇の葛藤は、巨大な権力を持つ指導者としての立場と、純粋に「隣人愛」や「平等」を求める信仰者としての願いとの間に生じる苦悩として描かれている。彼の葛藤は、大きく「理想と現実の距離感」と「組織内部の暴走」という二つの側面に分けられる。
第一の葛藤:理想と現実の壁
ローマ教皇はかつて、イギリス清教の最大主教ローラ=スチュアートが、部下の神裂火織と礼儀や階級を忘れて言い合い、最後には笑い合っている姿を目撃した。そこに「人類は皆兄弟であり、主の前において全ては平等」という教えの真の体現を見出し、年齢や地位の壁を超えた彼女たちの関係を強く羨んでいた。その理想を胸に、ローマ教皇は市井の人々との接点を持つため、ローマ市街をあえて徒歩で移動していた。しかし、現実の民衆は彼を畏れと尊敬の対象としてしか見なかった。理想と現実の隔たりを示す象徴的な出来事として、以下の事象が挙げられる。
- 路地裏から転がってきたボールを拾おうとした際、薄汚れた服の少女から拒絶されたこと
- 少女から「そんな大層な服を汚したら、どんな目に遭うか分からないから」と畏怖の対象として扱われたこと
自分が隣人としてではなく、近づけば危険を及ぼす得体の知れない存在として畏怖されている現実に直面し、ローマ教皇は深い寒気と絶望を覚えることとなる。
第二の葛藤:暗部組織「神の右席」の暴走
また、ローマ教皇は組織の実権を握りつつある暗部「神の右席」との思想的な乖離にも苦悩していた。本来は歴代教皇の「相談役」として設立されたはずの彼らが、敵地の中心へ踏み込むような過激な行動を取ることに疑問を抱いていた。教皇が明確な反発を感じた「神の右席」の行動は以下の通りである。
- 明確に神の敵となったわけでもなく、まだ神の教えを知らないだけの上条当麻を殺害しようとするやり方
- イギリスを孤立させ、ヨーロッパ全土を巻き込む戦争を引き起こそうとする右方のフィアンマの計画
この葛藤は、終章における右方のフィアンマとの対峙で頂点に達する。フィアンマがイギリスを孤立させ、ヨーロッパ全土を巻き込む戦争を引き起こそうとしていることを知った教皇は、彼を止めるために立ち塞がる。彼がローマ教皇という地位に就いたのは、罪のない子羊が踏み台にされるような世の中を作るためではなかったからである。
葛藤の結末と救済
ローマ教皇は二〇億人の未来を守るため、勝ち目がないと分かりながらもフィアンマに戦いを挑み、圧倒的な力の前に敗北を喫する。聖ピエトロ大聖堂が崩壊し、自身も重傷を負って吹き飛ばされるが、彼はその破壊の余波をバチカン内部に留め、外壁の向こう側にあるローマ市街への被害を食い止めた。
傷つき倒れた彼のもとに、かつて彼を恐れて拒絶したあの「薄汚れた身なりの少女」が駆け寄り、心配して声をかけた。莫大な悪意に打ちのめされた直後だからこそ、その小さな善意が深く身に染み、ローマ教皇はわずかに微笑む。
巨大宗教の指導者という重圧の中で孤独を抱えていたローマ教皇は、戦いには敗れたものの、最後の最後に市井の少女との間にささやかな繋がりを得たことで、その葛藤の果てに一つの救済を見出している。
後方のアックア襲来
『とある魔術の禁書目録(16)』における「後方のアックア襲来」は、物語において最大の絶望感と、それに立ち向かうキャラクターたちの絆と成長を描く重要なエピソードである。アックアの学園都市侵攻の背景、その圧倒的な力、そして決着に至るまでの過程について考察する。
襲来の背景とアックアの目的
ローマ正教の暗部『神の右席』の一員でありながら、世界に20人もいない『聖人』の力をも併せ持つ後方のアックア。彼の目的は、世界的な騒乱の元凶と見なした上条当麻の「右手(幻想殺し)」を排除することであった。アックアの行動には以下のような特徴がある。
・他の『神の右席』のように搦め手を使わず、事前にイギリス清教と学園都市へ果たし状を送付する
・民間人を巻き込む残酷な手法に反発し、自ら粛清した左方のテッラの遺体を果たし状に添える
これらの堂々とした行動から、彼独自の傭兵としての流儀と武人としての矜持が窺える。
圧倒的な力の誇示と最初の敗北
学園都市に侵入したアックアは、上条の護衛に就いていた天草式十字凄教の五和と上条当麻の前に立ち塞がる。全長5メートルを超える鋼鉄のメイスを軽々と振るい、聖人としての規格外の速度と筋力を見せつけるアックアの前に、五和と上条は為す術もなく敗北を喫した。上条は五和を庇って瀕死の重傷を負うが、アックアは以下の猶予を与えて一時撤退する。
・「一日待つ」と宣告する
・自ら右腕を切断して差し出せば命は助けると提示する
この圧倒的な敗北は、上条や天草式の面々に己の無力さを痛感させることとなった。
天草式の決起と聖人同士の死闘
絶対的な実力差に一度は絶望した天草式の面々であったが、教皇代理である建宮斎字の叱咤により、上条を守り抜くために再び立ち上がる決意を固める。アックアを迎え撃つべく罠を張る天草式のもとに、かつての指導者である元女教皇・神裂火織が駆けつけ、聖人同士の死闘が幕を開けた。
しかし、アックアは単なる聖人ではなく、『神の右席』として聖母崇拝の特殊な術式を併用する規格外の存在であった。本来なら相容れないはずの二重の力を強引に安定させて操るアックアの猛攻により、神裂は次第に追い詰められていく。その極限状況の中で、神裂は以下の行動に出る。
・かつて自分が仲間たちを信じきれず、一人で全てを背負い込んでいた傲慢さに気づく
・天草式の仲間たちに協力を求め、真の共闘体制を構築する
決着とアックアの流儀
神裂と天草式の連携によってアックアを迎え撃つ中、満身創痍の上条当麻が病院を抜け出して戦場へ合流する。決着は以下の連携によってもたらされた。
・アックアの放つ絶死の魔術攻撃を上条が『幻想殺し』で防ぐ
・アックアが驚愕した隙を突いて神裂がその動きを封じる
・その一瞬の好機に、五和が対聖人専用の術式『聖人崩し』をアックアに命中させる
この一撃により、アックアの体内で聖人と聖母の力が競合を起こして暴走し、ついに無敵を誇ったアックアは撃破されるに至った。
まとめ
アックアの襲来は、上条当麻や天草式、神裂火織に極限の試練を与えた。しかし、それを乗り越えたことで彼らの間に真の絆が結ばれ、各々の精神的な成長をもたらす結果となった。敗北したアックアもまた、気絶した前方のヴェントを回収して撤退し、自らの流儀を貫き続ける姿を見せており、単なる悪役には留まらない深い魅力を持ったキャラクターとして描かれている。
五和の護衛任務
『とある魔術の禁書目録(16)』における五和の護衛任務は、強大な敵との圧倒的な実力差に直面しながらも、それを乗り越えようとする彼女の献身と精神的成長、そして天草式十字凄教の絆が色濃く描かれたエピソードである。
護衛任務の背景
ローマ正教の暗部「神の右席」であり「聖人」でもある後方のアックアから、イギリス清教と学園都市の双方に上条当麻を襲撃するという果たし状が届いたことが事の発端である。アックアの危険性を示す要因は以下の通りである。
・果たし状には、アックア自身が処刑した左方のテッラの遺体が添えられていたこと
・この脅威に対し、本来は禁じられている魔術師の学園都市入りが例外的に許可されたこと
これにより、イギリス清教の傘下である天草式十字凄教から五和が上条の護衛として派遣された。
日常パートでの奮闘と空回り
学園都市に到着した五和は、上条を追いかけていた生活指導の災誤先生をアックアと誤認して槍で突撃してしまうという失敗から護衛任務をスタートさせる。その後、五和は泊まり込みでの護衛を宣言し、上条の学生寮へと上がり込む。彼女の奮闘ぶりは以下の通りである。
・高級猫缶やスーパーで調達した食材で手料理を振る舞う
・上条の同居人であるインデックスの機嫌を完璧に取り結ぶことに成功する
・家事を進んでこなし、日々トラブルに巻き込まれがちな上条に束の間の安らぎを与える
一方、建宮斎字をはじめとする天草式本隊の面々は、周囲の風景に溶け込んで密かに上条と五和の護衛を続けていた。彼らは上条に対する五和の奥手ぶりを見かねて恋愛支援を試みるなど、命懸けの任務の中にもユーモラスな日常のやり取りが展開されていた。
アックアの襲来と圧倒的な敗北
第二二学区の地下市街にある温浴施設からの帰路、五和と上条の前に突如として後方のアックアが現れる。そこでの圧倒的な敗北の経緯は以下の通りである。
・五和は上条を守るべく立ち向かうが、聖人の規格外の速度と巨大な鋼鉄のメイスを操るアックアの前に為す術もなく吹き飛ばされる
・重傷を負いながらも、五和は血まみれの上条を救おうと日用品で回復魔術を組み上げるが、上条の持つ幻想殺し(イマジンブレイカー)の特性によって魔術はことごとく打ち消される
・自分の無力さに絶望する五和を庇うように、意識を取り戻した上条が自らアックアの前に飛び出し、瀕死の重傷を負う
アックアは一日待つと宣告して撤退するが、守るべき対象に守られ、回復すら施せなかった五和の精神は深く打ちのめされる結果となった。
絶望からの再起と決意
病院の片隅で、五和は己の無力さと上条を見殺しにした罪悪感に苛まれ、泣き崩れていた。しかし、天草式の教皇代理である建宮から壁に叩きつけられ、笑顔を守りたければ立ち上がれと強烈な叱責を受ける。
建宮の言葉により、後悔しているのは自分だけでなく仲間全員が同じ思いを抱えていることに気付いた五和は、再び戦う決意を固める。戦線に復帰した五和の覚悟は凄まじく、狂気にも似た執念で以下の行動をとった。
・自身の海軍用船上槍を樹脂と紙ヤスリで強化・改造する
・アックアを仕留めるための武器へと極限まで研ぎ澄ませていく
決戦と聖人崩しによる決着
タイムリミットが迫る深夜の鉄橋で、天草式はアックアとの再戦に挑む。五和と天草式は以下の手段を駆使して聖人であるアックアの猛攻に食い下がる。
・五和の強化した槍と衣服によるダメージ緩和の術式
・天草式の仲間たちによる運動能力増強の陣形
激戦の中、アックアの移動術式が偶然スクリーンに刻まれた亀裂の陣によって破綻した一瞬の隙を突き、五和は天草式が編み出した対聖人専用の奥義である聖人崩しを放つ。しかし、神の右席の力をも併せ持つアックアには完全には通用せず、五和は再び強烈な反撃を受けて落下してしまう。
その後、元女教皇である神裂火織が駆けつけ、聖人同士の凄まじい死闘が繰り広げられる。最終的に、神裂と病院を抜け出してきた上条がアックアの動きを物理的・魔術的に封じ込めた一瞬の好機に、五和が再び雷光と化した聖人崩しをアックアへ命中させる。この一撃によってアックアの体内で力が暴走し、ついに最強の敵を撃破することに成功した。
まとめ
五和の護衛任務は、度重なる実力差の壁と絶望に直面しながらも、決して守ることを諦めなかった彼女の芯の強さを証明する戦いであった。彼女を支える天草式の絆や、上条当麻の自己犠牲の精神に触れたことで、単なる護衛役から一人の戦士として大きく成長を遂げたエピソードだと言える。
聖人同士の激突
『とある魔術の禁書目録(16)』における「聖人同士の激突」は、世界に20人もいない「聖人」という規格外の力を持つ神裂火織と後方のアックアによる、本作最大の見せ場である。単なる圧倒的な暴力の応酬にとどまらず、魔術理論の激しい読み合い、そして戦場に対する思想の衝突と神裂の精神的な成長が色濃く描かれている。
超常の戦闘描写と魔術の読み合い
深夜の第4階層の展望台を舞台に開戦した二人の戦いは、爆音や衝撃波の領域すら超える壮絶なものであった。二人の戦いの特徴は以下の通りである。
・神裂は、十字教・仏教・神道の術式を切り替えて一神教の天使すら切断する神速の抜刀術「唯閃」を放つ
・アックアは巨大なメイスでそれを弾き返し、ただの「神の右席」には不可能とされる一般的な魔術を行使して神裂の術式転換に即座に対応する
音速を超える肉弾戦の最中に、莫大な魔力が性質を変えながらぶつかり合うという、別次元の頭脳戦が並行して展開された。
戦場観と思想の対立
戦闘中、アックアと神裂の信念は真っ向から衝突した。
・アックアの思想:才能とは残酷なものと評し、自身の力を才能の差として誇示する。歩兵が戦車に遭遇すれば無残に消し飛ぶのが戦場のルールであり、一般人がそれに巻き込まれるのは必然であると冷徹な戦場観を突きつける
・神裂の思想:自身の剣術や鋼糸の技術は天草式の仲間たちが積み上げた歴史の結晶であると反論し、それを才能という言葉で侮辱することを許さない。圧倒的な力を持つ聖人でありながら、一般人の少年に暴虐を働くアックアを激しく非難する
アックアの異常な力と高速安定ライン
激戦の中で、神裂はアックアの力が通常の聖人の限界をはるかに超えていることに気づく。本来、聖人は与えられた力を100%引き出すと肉体が自滅するため、無意識のうちに出力を落として制御している。しかしアックアは以下の特性により200%以上の力を完全に掌握していた。
・大天使「神の力」の属性と聖母崇拝の力を併せ持つ
・聖人と聖母という二つの性質を重ねることで、航空機が音速を超えることで機体を安定させるように、強引な「高速安定ライン」を生み出し力の暴走を抑え込む
その圧倒的な力をもって、アックアは月光を利用した聖母崇拝術式「聖母の慈悲は厳罰を和らげる」という必殺の一撃を放ち、第4階層の地面ごと神裂を第5階層の広場まで叩き落とし、彼女を死の淵まで追い詰めた。
まとめ
満身創痍となりながらも、神裂はアックアの異常な力の構造にこそ致命的な弱点があることを見抜く。聖人と聖母の力を同居させる絶妙なバランスは、対象の聖人としてのバランスを崩す対聖人専用術式「聖人崩し」を受ければ、たちまち体内で競合を起こして自爆に至るという事実である。
そしてアックアに対抗するためには、自ら一人で全てを背負うのをやめなければならないと悟る。神裂はかつて、仲間を守りたいがゆえに彼らの実力を信じきれず、結果的に天草式から居場所を奪ってしまった自身の「傲慢さ」を深く悔い改めた。
限界を迎えた聖人は、誇りを捨て、はるか上方の第4階層で戦いを見守っていた天草式の仲間たちに向けて「力を貸してください」と叫んだ。この神裂の真のSOSと精神的な成長が、絶望していた天草式を再び奮い立たせ、最終的に上条当麻の援護と五和の「聖人崩し」による決着へと繋がっていくのである。
右方のフィアンマ台頭
『とある魔術の禁書目録(16)』の終章において描かれた「右方のフィアンマの台頭」は、ローマ正教の暗部「神の右席」の真の脅威が明らかになり、次なる世界規模の戦乱を予感させる重要なエピソードである。彼の実権掌握、異質な目的、そしてローマ教皇との圧倒的な力の差を見せつけた対決について考察する。
実権の掌握とイギリス侵攻計画
前方のヴェント、左方のテッラ、後方のアックアといった他の「神の右席」メンバーが次々と敗北・離脱していく中、ローマ正教の決定権を一手に握ったのが右方のフィアンマである。彼はローマ教皇に対し、ロシア成教と結託してヨーロッパ全域を掌握し、イギリスを孤立させる計画を明かした。彼の目論見は以下の通りである。
・物資や人員の流れを断つこと
・ヨーロッパ全土を巻き込む戦争を引き起こすこと
これらの計画は、従来の「神の右席」の目的すら超えた、危険で異質なものであった。
「聖なる右」と上条当麻・禁書目録への執着
フィアンマが学園都市ではなくイギリスを標的にした理由は、禁書目録(インデックス)と上条当麻の右腕を手に入れるためであった。フィアンマの特性と目的は以下の通りである。
・右肩に不格好な五本指を備えた巨人の腕のような歪な光の塊が存在し、それを大天使ミカエルのごとき奇跡の象徴であると称している
・彼自身はただの人間であるため、その膨大な力を引き出し制御するための「出力端子」として上条の右腕を必要としている
・圧倒的な力を押さえつける知識の宝庫として禁書目録を必要としている
ローマ教皇との対決と圧倒的な力
フィアンマの思想が数億の信徒や無関係な人々を犠牲にする正真正銘の戦争を引き起こすと悟ったローマ教皇は、彼を止めるために立ち塞がる。教皇は十字教の歴史と二〇億人の信仰に支えられた強力な術式を用い、フィアンマを精神的な牢獄である一三面体の束縛の陣へ封じ込めようと試みた。
しかしフィアンマは「たった二〇億人、たかが二〇〇〇年ではな」と言い放ち、ただの一撃でその束縛を粉砕する。対決の結果は以下の惨状をもたらした。
・余波だけで十字教最大の要塞である聖ピエトロ大聖堂の三分の一が吹き飛んだ
・ローマ教皇は重傷を負って敗北を喫した
まとめ
右方のフィアンマの台頭は、彼が単なる魔術師や聖人とは次元の違う圧倒的な力を持つことを読者に強く印象づけた。教皇すら一撃で退け、世界のパワーバランスを根底から覆そうとする彼の存在は、上条当麻やイギリス清教にとって最大の脅威となる。このエピソードは、次なる過酷な戦いへの幕開けとして物語を大きく動かす役割を果たしている。
とある魔術の禁書目録(15)レビュー
とある魔術の禁書目録SS2レビュー
登場キャラクター
学園都市
上条当麻
右手に異能の力を打ち消す「幻想殺し」を宿す高校生である。記憶喪失であることを隠している。困っている者を助けるために行動し、インデックスと同居している。
・所属組織、地位や役職
学園都市の高校生。
・物語内での具体的な行動や成果
五和の護衛を受けながら日常を過ごしていたが、後方のアックアの襲撃を受ける。五和を庇って瀕死の重傷を負うものの、最終的には戦場へ復帰する。アックアの魔術攻撃を右手で防いで勝利に貢献した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化はない。右手の力を右方のフィアンマから狙われている。
青髪ピアス
上条のクラスメイトである。関西弁を話す。
・所属組織、地位や役職
学園都市の高校生。
・物語内での具体的な行動や成果
昼休みに食堂の席と食券を逃す。上条たちと共に学校からの脱走作戦に参加する。災誤先生に捕まり、制圧された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
土御門元春
上条のクラスメイトである。魔術サイドと科学サイドの両方に通じるスパイとして活動し、常にサングラスをかけている。
・所属組織、地位や役職
学園都市の高校生。イギリス清教と学園都市の多重スパイ。
・物語内での具体的な行動や成果
昼休みの脱走作戦に参加し、青髪ピアスを囮にして逃走する。後日、病院で神裂火織の感謝の示し方についてからかい、彼女を追い詰めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
吹寄制理
上条のクラスメイトである。クラスのまとめ役を担っている。
・所属組織、地位や役職
学園都市の高校生。
・物語内での具体的な行動や成果
昼休みの食糧難を打開するため、少人数での買い出し作戦を立案して指揮を執る。災誤先生に発見されると、いち早く別ルートへ退避した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
姫神秋沙
上条のクラスメイトである。
・所属組織、地位や役職
学園都市の高校生。
・物語内での具体的な行動や成果
弁当を作り忘れたため昼食に困る。食堂・購買組として脱走作戦の会議に参加した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
月詠小萌
上条のクラスの担任教師である。
・所属組織、地位や役職
学園都市の教師。
・物語内での具体的な行動や成果
職員室でざるそばセットを食べていた。上条から調理実習室の開放を懇願されたが、苦笑して応じなかった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
親船素甘
上条の学校の数学教師である。
・所属組織、地位や役職
学園都市の教師。
・物語内での具体的な行動や成果
職員室で海鮮丼を食べていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
黄泉川愛穂
上条の学校の体育教師である。
・所属組織、地位や役職
学園都市の教師。
・物語内での具体的な行動や成果
職員室で肉まんを食べていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
災誤
生活指導を担当する巨体の教師である。
・所属組織、地位や役職
学園都市の教師。
・物語内での具体的な行動や成果
外食から車で戻った際、脱走しようとする上条たちを発見して追跡する。その後、五和から後方のアックアと誤認されてタックルを受け、気絶した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
御坂美琴
学園都市第三位の超能力者である。上条当麻が記憶喪失であることを知り、思い悩んでいる。
・所属組織、地位や役職
常盤台中学の生徒。レベル5の超能力者。
・物語内での具体的な行動や成果
ゲコ太ストラップを手に入れるため、第二二学区の温浴施設を訪れる。深夜に傷だらけの上条と遭遇し、彼を止めようとするが、彼の信念に触れて見送った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
上条への強い感情に気づき、自身の内面に変化が生じている。
土御門舞夏
メイド服を着た少女である。土御門元春の義妹にあたる。
・所属組織、地位や役職
メイド候補生。
・物語内での具体的な行動や成果
上条の部屋のベランダを破壊して侵入する。五和の作った味噌汁を味見して対抗意識を燃やす。兄の夕食を放置して料理を作り直そうとした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
アレイスター
窓のないビルの中で生命維持装置に浸かっている人物である。学園都市のトップに立つ。
・所属組織、地位や役職
学園都市統括理事長。
・物語内での具体的な行動や成果
滞空回線を通じて情報を収集する。アックア撃破後の爆発によるノイズの中、上条の右手の力についてのデータを分析する。計画の進行を確認して笑みを浮かべた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
イギリス清教
インデックス
上条当麻の部屋に居候しているシスターである。大量の魔道書を記憶している。
・所属組織、地位や役職
イギリス清教所属。
・物語内での具体的な行動や成果
五和が上条の部屋に上がり込んだことに不満を抱くが、彼女の料理を食べて機嫌を直す。風呂掃除で給湯器を壊す。上条が重傷を負った後は、病院のベッドに寄り添い続けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
右方のフィアンマから知識の宝庫として狙われている。
神裂火織
世界に20人もいない聖人の一人である。長い日本刀「七天七刀」を操り、かつて天草式十字凄教を率いていた。
・所属組織、地位や役職
イギリス清教所属。聖人。元天草式女教皇。
・物語内での具体的な行動や成果
後方のアックアと対峙し、戦闘を繰り広げる。圧倒的な力の前に追い詰められるが、自らの傲慢さを悔い改めて天草式の仲間に協力を求める。最終的に上条や天草式と連携し、アックアを退けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
単独で戦うことをやめ、天草式と共闘体制を築き上げる。
ローラ=スチュアート
年齢不詳の女性である。巨大組織の長としての巧みな話術と、礼儀や階級を気にしない親しみやすさを持つ。
・所属組織、地位や役職
イギリス清教最大主教。
・物語内での具体的な行動や成果
ローマ教皇がフィアンマに敗北して重傷を負った報告を受ける。被害を市民へ及ぼさないようにした教皇の行動を評価した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
シェリー=クロムウェル
ゴスロリの黒いドレスを着た女性である。美術学校で講師をしている。
・所属組織、地位や役職
イギリス清教所属。魔術師。
・物語内での具体的な行動や成果
オルソラから送られてきた盾の紋章の図案を分析する。その結果から、後方のアックアがイングランド出身の傭兵であった可能性を導き出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
オルソラ=アクィナス
のんびりとした口調の女性である。書物のスペシャリストとして活動する。
・所属組織、地位や役職
イギリス清教所属。
・物語内での具体的な行動や成果
英国図書館で情報を調べる。シェリーや建宮に後方のアックアの正体がウィリアム=オルウェルであると伝える。彼の戦歴や人物像についても報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
天草式十字凄教
五和
海軍用船上槍を扱う少女である。上条当麻に好意を抱いている。
・所属組織、地位や役職
天草式十字凄教のメンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
上条の護衛として学園都市に派遣され、彼に手料理を振る舞う。アックアの襲撃で瀕死の重傷を負った上条を前に絶望するが、建宮の叱責で再起する。槍を強化して再び戦場へ赴き、上条や神裂の援護を受けて対聖人専用術式「聖人崩し」をアックアへ命中させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
建宮斎字
クワガタのような髪型をした大男である。長大な剣フランベルジェを扱う。
・所属組織、地位や役職
天草式十字凄教教皇代理。
・物語内での具体的な行動や成果
風景に溶け込みながら上条と五和を護衛する。アックアに敗北して絶望する五和を叱責し、再び立ち上がるよう促す。戦闘では天草式を指揮し、神裂の呼びかけに応えて彼女を支援した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
牛深
建宮と行動を共にする大男である。
・所属組織、地位や役職
天草式十字凄教のメンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
五和の奥手ぶりを気にかけながら護衛任務に就く。アックアとの戦闘では、ワイヤーを使った術式の準備や回収を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
香焼
ポップコーンを食べている小柄な少年である。
・所属組織、地位や役職
天草式十字凄教のメンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
建宮の五和に関する隠れ巨乳説に食いつく。アックアとの戦闘では、上空から襲いかかるが衝撃波で薙ぎ払われた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
諫早
初老の男性である。
・所属組織、地位や役職
天草式十字凄教のメンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
アックアとの戦闘で刀を犠牲にする。攻撃の軌道を遅らせ、五和を救った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
野母崎
既婚者の男性である。
・所属組織、地位や役職
天草式十字凄教のメンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
建宮が提示した五和隠れ巨乳説に対し、悔しがる様子を見せた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
対馬
ふわふわした金髪の女性である。
・所属組織、地位や役職
天草式十字凄教のメンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
建宮たちの話に呆れ、護衛任務への集中を促す。アックアとの戦闘では、危機に陥った五和の首根っこを掴んで回避させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
ローマ正教
ローマ教皇
十字教の頂点に立つ指導者である。民衆との間に生じた距離感や、組織の暴走に苦悩している。
・所属組織、地位や役職
ローマ正教の指導者。教皇。
・物語内での具体的な行動や成果
イギリス侵攻を企てる右方のフィアンマを止めるため、彼を精神的な牢獄へ封じ込めようとする。しかし力の前に敗北し、重傷を負いながらもバチカン市街への被害を防いだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
前方のヴェント
黄色い服に身を包んだ女性である。
・所属組織、地位や役職
ローマ正教暗部「神の右席」のメンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
フィアンマに敗北して倒れていたローマ教皇の前に現れる。教皇からフィアンマの狙いがイギリスにあると聞かされた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
後方のアックア(ウィリアム=オルウェル)
茶色い髪の屈強な男である。5メートルを超える巨大なメイスを扱う。
・所属組織、地位や役職
ローマ正教暗部「神の右席」のメンバー。聖人。元傭兵。
・物語内での具体的な行動や成果
上条当麻の右腕を狙って学園都市に侵入する。天草式や上条を圧倒するが、神裂や五和たちの連携攻撃と上条の右手による妨害を受け、聖人崩しを被弾する。体内で力の暴走を引き起こし、姿を消した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
右方のフィアンマ
赤い色を象徴とする青年である。
・所属組織、地位や役職
ローマ正教暗部「神の右席」のメンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
ローマ正教の実権を握り、ヨーロッパ全土を巻き込む戦争を引き起こしてイギリスを孤立させる計画を立てる。自身を止めようとしたローマ教皇を退け、聖ピエトロ大聖堂を破壊した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
上条の右腕と禁書目録の知識を手に入れるため、本格的に行動を開始する。
イギリス
騎士団長
優雅な立ち振る舞いを見せる男である。ウィリアム(アックア)とは旧友の間柄である。
・所属組織、地位や役職
イギリス「騎士派」のトップ。
・物語内での具体的な行動や成果
過去の回想にて、フランスで救難信号を出し続ける第三王女を救うため、騎士の地位を捨てて向かおうとする。しかしウィリアムに腹を殴られて気絶させられ、彼に役目を譲ることになった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
英国第三王女
イギリスの王族の少女である。
・所属組織、地位や役職
英国第三王女。
・物語内での具体的な行動や成果
過去の回想にて、政治的取引の捨て駒とされ、フランスでスペイン星教派に襲撃されて救難信号を発する。その後、騎士団長とウィリアムのやり取りを見守っていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項は記載されていない。
とある魔術の禁書目録(15)レビュー
とある魔術の禁書目録SS2レビュー
展開まとめ
序章 指導者としての立ち位置 Stage_in_Roma.
ローマ教皇の回想と距離感
ローラとの会合後に見た平等な喧騒
ローマ教皇は、かつてロンドンでイギリス清教の最大主教ローラ=スチュアートと会合した時のことを思い出していた。ローラは巧みに議論を操る人物であり、ローマ正教側の書記が緊張で医務室に運ばれるほどの存在だった。
しかしローマ教皇の記憶に強く残っていたのは会合そのものではなかった。会合後、ランベス宮から聞こえてきたローラと神裂火織の騒がしいやり取りだった。二人は立場や礼儀を超えて言い合い、悪態をつきながらも、最後には笑い声のある関係を築いていた。
ローマ教皇はその光景に、人類は皆兄弟であり主の前では平等であるという教えの形を見た。ただ上位者が下位者に優しくするのではなく、同じ輪の中でぶつかり合える関係こそが平等なのだと感じていた。
ローマ教皇の徒歩移動
現在のローマ教皇は、ローマ市街を歩いていた。聖ゴスティーノ教会で講演を終え、バチカンまで徒歩で戻る途中だった。
彼は健康や街の空気を好む気持ちに加え、市井の人々と接点を持ちたいという思いから、送迎車ではなく徒歩で移動していた。しかし周囲の人々は彼を特別な存在として見つめるばかりで、ローラがいたような輪の中へ入っている感覚は得られなかった。
書記との認識のずれ
護衛を兼ねた書記は、徒歩移動の危険性を指摘し、術的防護を施した車両団を使うべきだと進言した。さらに、平等を示すなら寄付や施設訪問の方が効率的だとも述べた。
ローマ教皇はその言葉を遮った。彼は効率的な宣伝を求めていたのではなく、人々との自然な距離を求めていたためである。
少女の拒絶と教皇の痛み
その時、路地から子供用のボールが転がってきた。ローマ教皇はそれを拾おうとしたが、書記が止めた。続いて現れた汚れた服の少女は、ローマ教皇に向かって、立派な服を汚したら自分がどんな目に遭うか分からないからやめてほしいと告げた。
その言葉にローマ教皇は衝撃を受けた。少女は彼を隣人としてではなく、近づけば危険な存在として見ていた。ローマ教皇は、隣人を愛し、全ては平等であるという教えを思い浮かべながら、問題だと呟いた。
書記の誤解と深まる寒気
書記は少女の無礼な言葉遣いを問題視し、信徒として最低限の質を保つべきだと述べた。
しかしローマ教皇が問題だと感じたのは、少女の礼儀ではなかった。信徒や市井の人々との間に、恐れと距離が生まれてしまっていることだった。
書記が何も理解していない様子を見て、ローマ教皇はさらに深いため息を吐いた。彼は、いつから自分達と人々との間に得体の知れない距離が生まれてしまったのかと、寒気を覚えていた。
第一章 平穏から破滅へ続く道筋 Battle_of_Collapse.
昼休みの食糧危機
昼食を逃した生徒達
四時間目が長引いた影響で、上条当麻達が購買や食堂へ向かった頃には、パンも席も食券も尽きていた。原因は上条が歴史教師へ投げかけた質問から授業が脱線したためであり、責任を感じた上条は小萌先生に調理実習室の開放を頼んだが断られた。職員室では教師達が食事を楽しんでおり、上条は空腹感だけを刺激されて引き返した。
食糧難に陥った食堂・購買組は二十一人に達し、空腹に耐えかねた彼らは学校を抜け出してコンビニへ向かう計画を立てた。
脱走計画の立案
吹寄制理は大人数で動けば発覚すると判断し、少人数の実働部隊が全員分の食料を買い出す作戦を提案した。上条、青髪ピアス、土御門元春、吹寄の四人が実働部隊に選ばれ、残りの生徒達は情報収集や陽動を担当することになった。
携帯電話を使った連携体制も整えられ、全員は作戦開始とともに散開した。上条達は教師の目を避けながら校内を移動し、仲間から運動靴を受け取って校舎裏へ向かった。
脱走作戦の失敗
フェンスを越えて脱走しようとした直後、裏口から戻ってきた災誤先生に発見された。吹寄は計画の穴に気づいて後悔したが、すでに状況は手遅れだった。
上条達は逃走を開始し、吹寄は別ルートへ退避した。土御門は青髪ピアスを囮にして逃げ延び、上条と土御門は道路へ飛び出した。しかし災誤先生は青髪ピアスを制圧した後も追跡を続けたため、二人は生存率を上げるために別々の道へ分かれた。
五和への護衛任務
その頃、五和は上条の高校近くで待機していた。後方のアックアから、数日以内に上条当麻を襲撃するという果たし状がイギリス清教と学園都市へ届いていたためである。
さらに、その手紙には左方のテッラの遺体が添えられていた。五和は遺体確認に立ち会い、テッラが学園都市製兵器ではなく、腰を断ち切られる形で殺害されていることを知った。そして、その傷跡から後方のアックアの圧倒的な実力を実感した。
学園都市とイギリス清教はアックアを極めて危険な存在と判断し、本来禁じられている魔術師の学園都市入りを認めた。その結果、五和は上条の護衛として派遣されていた。
アックアと誤認された災誤先生
放課後まで接触を待つ予定だった五和だったが、突然学校から飛び出してきた上条を発見した。さらに、その後ろからゴリラのような風貌の災誤先生が追いかけている姿を目撃する。
アックアは男性であるという情報を知っていた五和は、災誤先生をアックア本人だと誤認した。上条が恐怖に満ちた表情で逃げていたことも判断を後押しし、五和は即座に槍を組み立てて突撃した。
その結果、災誤先生は早退を余儀なくされた。
五和の落ち込みと護衛任務の説明
放課後、上条は五和と再会した。五和は一般人である教師を攻撃してしまったことを深く反省し、自分を役立たずだと責めていた。
上条は五和が学園都市に来た理由を尋ねた。五和は後方のアックアが上条を狙っていること、イギリス清教と学園都市の双方に果たし状が届いていることを説明した。
さらに、前方のヴェントや左方のテッラとの戦いでは、科学サイドからの介入が勝利の要因になっていたと語った。そして学園都市という科学側の舞台で戦うことが重要であり、自分達も全力で護衛に当たると約束した。
泊まり込み護衛の宣言
上条が改めて何をしに来たのか尋ねると、五和は護衛のためだと答えた。さらに、泊まり込みで護衛を行う予定であることも告げた。
上条はその返答を聞き、驚きを隠せずにいた。
天草式による恋愛作戦会議
五和の様子を見守る天草式
建宮斎字達は人目につきにくい場所から、上条当麻と行動する五和を監視していた。しかし五和は護衛任務に関する連絡ばかりで、上条への積極的な働きかけを全く見せなかったため、建宮達は不満を募らせていた。
建宮は過去の観察結果から五和隠れ巨乳説を唱え、男衆はその説に大いに盛り上がった。一方で対馬は呆れながら任務への集中を促したが、建宮達は聞き入れなかった。
フリーキック大作戦の決行
五和の奥手ぶりでは進展が望めないと判断した建宮は、秘策としてサッカーボールを取り出した。そしてフィールドの狙撃手を名乗り、フリーキック大作戦の実行を宣言した。
御坂美琴の悩み
御坂美琴は、上条当麻が記憶喪失である事実を知って以来、そのことで悩み続けていた。いつから記憶を失っていたのか、どの程度失われているのか、自分との思い出は残っているのかなど、答えの出ない疑問に苦しんでいた。
精神系能力者へ相談する案も考えたが、信頼できないと判断して断念した。上条本人がこの件を隠そうとしている事も理解していたため、どう接すれば良いのか分からずにいた。
上条へのフリーキック攻撃
悩みながら歩いていた美琴は、映画館近くで建宮達がサッカーボールを蹴る姿を目撃した。ボールは大きく弧を描きながら飛び、上条当麻の側頭部へ直撃した。
衝撃で上条は隣を歩いていた五和の胸元へ倒れ込み、そのまま気絶した。五和は顔を真っ赤にしながらも介抱していた。
その様子を見た建宮達は成功を喜んだが、美琴は怒りを爆発させた。雷撃を放って建宮達を追い払った後、上条へ直接制裁を加えるために走り出した。
上条の災難続き
その後の上条は、フリーキックによる被害に加え、美琴の追撃から逃げ回る羽目になった。さらに護衛任務を果たそうと槍を組み立てた五和を止めながら逃走を続け、一日中振り回される結果となった。
インデックスとの対面
学生寮へ戻った上条は、隣にいる五和を見たインデックスから何故天草式の五和が一緒にいるのかと問い詰められた。
上条は後方のアックアの件をインデックスへ知らせたくなかったため、五和を連れて離れた場所へ移動し、事情を話さないよう頼み込んだ。五和は顔を真っ赤にしながら了承したが、インデックスは不機嫌になってしまった。
五和の家事能力
場の空気を変えようとした五和は、三毛猫への土産として高級猫缶を差し出した。さらにバッグの中には食材も用意しており、居候になる代わりに料理や家事を担当すると申し出た。
その言葉を聞いた上条は、家事を全く手伝わないインデックスとの差を強く意識するようになった。インデックスは反論したものの流れを変えられず、上条は台所へ立つ五和を歓迎した。
料理人として認められる五和
料理を始めた五和のもとへ、土御門舞夏がベランダを破壊して侵入してきた。舞夏は味噌汁の隠し味まで見抜き、試食した結果、五和の料理の腕前を高く評価した。
舞夏は対抗意識を燃やして自室へ戻り、兄の夕食を差し置いて料理を作り直そうとした。その様子に五和は戸惑いながらも料理を続けた。
上条が感じた安らぎ
五和は自然に部屋へ溶け込み、料理や家事をこなしていった。上条は料理の音や香りを聞きながら、女の子が料理をしている光景に感動していた。
その後もインデックスは料理のつまみ食いを試みて上条に止められたが、五和は変わらず台所で料理を続けた。上条は五和のような常識的な人物に安らぎを覚え、この少女だけは周囲の変人達に染まらないでほしいと願った。
銭湯行きと五和の護衛活動
料理で打ち解ける五和とインデックス
五和の料理を食べたインデックスは機嫌を直し、何度もおかわりを求めるほど満足していた。三毛猫も五和が持参したおしぼりで遊び、大きな問題は起こらずに済んでいた。
夕食後、上条当麻達は風呂に入って寝るだけの予定だったが、インデックスが風呂掃除中に給湯器を壊してしまったため、近所の銭湯へ向かうことになった。
第二二学区の温浴施設を目指す
五和は護衛活動の一環として収集した情報をもとに、第二二学区にあるレジャー施設型の温浴施設を提案した。上条は五和の学園都市に関する詳しさに驚きながらも、その提案を受け入れた。
移動手段としてレンタバイクを借りることになり、五和が運転を担当した。五和は自動車や二輪車だけでなく、小型船舶やヘリコプターまで扱えることを明かし、上条を感心させた。
バイクで地下市街へ向かう一行
五和の運転するサイドカー付きバイクで、三人は第二二学区へ向かった。途中、五和は地下市街の発電設備や構造について詳しく説明した。
地下市街へ到着した一行は、巨大な地下空間に広がる人工の星空や森、水路などの光景を目にした。インデックスはその景色に感動し、五和は地下都市の仕組みや大量の電力を必要とする理由を説明していた。
御坂美琴の目的
一方、御坂美琴も第二二学区の温浴施設スパリゾート安泰泉を訪れていた。目的は期間限定の湯上がりゲコ太ストラップを手に入れるためであり、そのために寮を抜け出してやって来ていた。
美琴はスタンプを集めるため浴場へ向かい、入浴しながら記憶喪失となった上条当麻のことを考え続けていた。どう接するべきか答えを出せず、悩みを抱えたままであった。
女湯での遭遇
大浴場へ入った美琴は、そこにいたインデックスを発見した。さらにインデックスの隣には、昼間に上条へ抱きつかれる形になっていた五和の姿もあった。
美琴は五和の存在に反応しながらも、二人が上条の記憶喪失について知っているのか気になり始めた。しかし確かめる術はなく、自分は部外者なのだと改めて考え込み、そのまま湯船の中で悩み続けた。
美琴ののぼせと上条の待機
考え事を続けていた美琴は、いつの間にかのぼせて湯の中へ沈み始めた。インデックスと五和はその異変に気付き、慌てて助けようとした。
その頃、先に風呂から上がっていた上条は、自動販売機の前でコーヒー牛乳とアイスクリームのどちらにするか考えていた。そこへ救護室の女医が慌ただしく女湯へ向かう姿を目撃したが、中で何が起きているのかは分からなかった。
地下市街の散策と天草式の護衛
五和との夜の散歩
レジャー施設での入浴を終えた上条当麻は、地下市街の入口付近で夜景を眺めながら後方のアックアによる襲撃について考えていた。しかし宣戦布告を受けているにもかかわらず何も起こらず、ブラフの可能性も考え始めていた。
そこへ五和が現れ、二人は地下市街を散歩することになった。インデックスは試食コーナーに夢中になっていたため、そのまま施設内に残すことにした。上条はアックアの件をインデックスに知らせて危険へ巻き込みたくないと考えていた。
天草式とロンドンでの生活
散策しながら上条は天草式がロンドンへ移住した後の生活について尋ねた。五和は天草式が日本人街を担当しているため食生活などは日本と大きく変わらないと説明した。
さらに天草式は環境へ溶け込むことを重視する集団であり、日本人街にいるのも日本文化への執着ではなく、その環境に自然に適応した結果だと語った。イギリス清教からの待遇も良く、現在の生活には満足している様子を見せていた。
服装の話題と神裂への評価
上条は天草式の服装について興味を示し、現在の五和の服装やロンドンでの装いについて質問した。五和は地域によって服装だけでなく仕草や振る舞いも変える必要があると説明した。
話題が神裂火織へ及ぶと、上条は神裂の服装を率直に評価した。五和は神裂の服装には術式上の理由があると熱心に反論し、普段の控えめな様子からは想像できないほど感情をあらわにしていた。
その後、五和はロンドンへ移ったことで日本の知人たちと簡単には会えなくなったことを残念に思いつつも、それを織姫と彦星のようだと感じていることを口にしかけ、慌てて誤魔化していた。
天草式による密かな護衛
一方、建宮斎字を中心とした天草式の面々は、上条と五和を遠巻きに囲みながら護衛任務を続けていた。彼らは街の風景へ完全に溶け込み、周囲からは護衛であることを悟らせないまま行動していた。
建宮と牛深は後方のアックアについて話し合い、学園都市から侵入の痕跡がないとの報告を受けているものの、その情報を完全には信用していなかった。学園都市の魔術への理解不足か、あるいは上層部による情報秘匿の可能性を考えていた。
上条当麻の価値への疑問
建宮はさらに、学園都市、イギリス清教、ローマ正教の三つの巨大組織が上条当麻一人を巡って動いている現状に違和感を抱いていた。
天草式にとって上条は恩人であり重要な存在であるが、それだけで三つの巨大組織が動く理由にはならないと考えていた。上条にはまだ明かされていない価値や秘密があり、それが各組織に共通して関わっているのではないかと推測していた。
迫り来る異変
建宮が上条の真の価値について思考を巡らせていた時、周囲に異変が起きた。いつの間にか地下市街から人影が消え、天草式の者たちだけがその場に残されていた。
人の流れが巧妙に操作されたことを察した建宮は即座に仲間へ合図を送り、天草式の面々は隠し持っていた武器へ手を伸ばした。
やがて彼らは、巨大な何かが接近してくる時に生じる圧迫感のような気配を感じ取った。建宮がその方向へ振り返ると、そこには何者かが現れていた。
後方のアックアとの遭遇
地下市街での警戒
青い夜景に包まれた地下市街を歩きながら、上条当麻と五和は後方のアックアについて話していた。襲撃が起きないことに安堵しつつも、学園都市の警備や天草式の支援だけでは安心できず、アックアが何らかの準備を進めている可能性を警戒していた。
五和は建宮たちも見えない場所で努力していると語り、特別なことを意識せず普段通りに最善を尽くすことが大切だと上条を励ましていた。
神裂火織と聖人の力
話題は神裂火織へ移った。五和は神裂を絶賛し、聖人として圧倒的な力を持つ存在だと説明した。
さらに天使と聖人の力の違いについて語り、天使の力は聖人をはるかに上回るものであり、人間が扱える力には限界があると説明した。また、神裂を簡単に国外で活動させられない事情もあり、天草式だけでは協力を求められない複雑な立場にあることも明かした。
二人きりの橋の上
二人は青く照らされた鉄橋へ足を踏み入れた。五和は人通りの少なさに動揺しながらも誤魔化し、上条は夜の学園都市では珍しくないと説明した。
しかし上条は次第に異様な静けさに違和感を覚えた。本来ならまだ多くの人が活動している時間帯であるにもかかわらず、周囲には人影が見当たらなかったのである。
後方のアックアの出現
違和感を覚えた直後、前方から男の声が響いた。重い足音とともに現れたのは後方のアックアだった。
上条は以前、前方のヴェントを連れ去った際に彼と遭遇していた。アックアは宣告通りに現れ、自らの目的は世界の騒乱の元凶を排除することだと告げた。そして、その原因は上条当麻の右腕に宿る特異な力にあるとして、命を助ける代わりに右腕を差し出せと要求した。
上条は当然それを拒絶した。
天草式の排除
五和は護衛についていた天草式の仲間たちの行方を尋ねた。アックアは彼らを殺してはいないが無力化したと答え、自分の標的は上条だけだと告げた。
その言葉とともに戦闘が始まった。
五和の敗北
アックアは人間離れした速度で五和の懐へ飛び込み、肘打ちで吹き飛ばした。上条が反応する間もなく、アックアは影の中から巨大な鉄塊のようなメイスを取り出した。
続く一撃は五和が投げたバッグによって辛うじて回避されたものの、メイスは鉄橋を激しく破壊し、その余波だけで上条を吹き飛ばした。
五和は海軍用船上槍を組み立てて立ち上がったが、最初の攻撃によるダメージは深刻だった。それでも意地を示してアックアへ挑んだ。
しかし実力差は圧倒的だった。アックアは五和の攻撃を容易く制し、メイスで五和を打ち据えると、そのまま彼女ごと上条へ叩きつけた。
絶望的な実力差
重傷を負った上条は、アックアの力がこれまで戦った前方のヴェントや左方のテッラとは比較にならないことを痛感した。攻撃の軌道を追うことすら困難であり、戦いとして成立していなかった。
アックアは再び右腕を差し出せば命だけは助けると告げた。しかし上条は拒否し続けた。
立ち上がる力すら失いながらも諦めない上条に対し、アックアはならば現実を教えると告げ、さらなる行動へ移ろうとしていた。
後方のアックアの圧倒的な力
五和の覚醒と上条の惨状
意識を取り戻した五和は、鉄臭い匂いと全身を襲う激痛の中で状況を把握した。目の前には破壊された鉄橋と砕かれた夜景が広がっていた。
起き上がった五和は、自分の手に付着した大量の血を見て、それが上条当麻のものだと悟った。そして振り返った先には、血まみれのまま動かなくなった上条の姿があった。生死すら判別できない状態を目の当たりにし、五和の判断力は完全に失われた。
回復魔術の失敗
五和は上条を救うことだけを考え、財布や日用品を使って回復魔術を組み上げた。混乱の極みにありながらも手際は正確で、魔術は発動した。
しかし回復の光は上条の右手に触れた瞬間、幻想殺しによって完全に打ち消された。五和は何度も回復魔術を組み直したが、そのたびに破壊され続けた。
やがて材料も尽き、回復の手段は失われた。
アックアの追撃
回復を諦めず叫び続ける五和に対し、アックアは無言のまま近づき、その背中を踏み潰した。
五和は意識を失って倒れたが、アックアが上条の右肩を狙ってメイスを振り下ろそうとした瞬間、再び立ち上がった。
全身に傷を負いながらも槍を握り、上条とアックアの間に立ちはだかった五和は、死なせたくないという思いだけで体を動かしていた。
決死の抵抗
五和は血を吐きながらもアックアへ槍を向け続けた。しかしアックアは五和を敵として認識しておらず、邪魔な存在ごと上条を粉砕するつもりでいた。
圧倒的な実力差を理解しながらも、五和は最後の力を槍へ込めてアックアへ宣戦布告した。
その覚悟がぶつかる直前、後ろから弱々しい手が五和の肩に置かれた。
上条の決断
意識を失っていたはずの上条が立ち上がり、五和へ感謝を告げた。回復魔術は幻想殺しによって無効化されたはずだったが、それでも上条は五和の行動に感謝していた。
五和は上条が何をしようとしているのか察し、止めようとした。しかし上条は五和と立ち位置を入れ替えるように前へ飛び出した。
アックアが上条だけを標的としていることを理解した上で、自分が戦いを引き受ければ五和を守れると判断していたのである。
五和は涙を流しながらその背中を見送ることしかできなかった。
上条の敗北と最後通告
上条は一直線にアックアへ向かったが、アックアの巨大なメイスによる一撃を受けた。
脇腹へ直撃した攻撃によって上条は完全に意識を失い、反撃することすらできなかった。アックアはその勇気を認めるように上条を見下ろし、一日の猶予を与えると宣言した。
右腕を自ら切断して差し出せば命は助けると告げた後、アックアはメイスを振るい、意識を失った上条を鉄橋の外へ吹き飛ばした。
上条の体は砲弾のような速度で川へ叩き込まれ、水面を何度も跳ねた末に遠くへ沈んでいった。
アックアは生死を確かめることもなく五和へ背を向け、もう一度一日待つとだけ告げてその場を去ろうとしていた。
行間 一
占星施術旅団の過去
占星施術旅団の活動
語り手は占星施術旅団について語った。占星施術旅団は十字教系の魔術結社であり、人々の相談を受け、その状況に応じて密かに魔術を施す集団であった。
当時は依頼の数が非常に多く、一か所に留まることができなかったため、何年もかけてロシア全土を巡りながら活動していた。
ロシア成教からの追跡
しかし旅団は、ロシア成教の一部門を私物化した人物に目を付けられた。その結果、旅団はロシア成教の戦闘集団から追われる立場となった。
追手は幽霊や妖精のような人外の存在と戦うために編成された精鋭であり、人助けを生業とする旅団では正面から対抗できないほど圧倒的な力を持っていた。
国外への逃亡
旅団は追跡から逃れるため、ロシア国外への脱出を決断した。ロシア成教の影響は国境の外までは及ばないため、国境を越えれば助かる可能性があったからである。
しかし周囲は氷点下五十度にも達する極寒の世界であり、国境までは何十キロもの距離があった。老人も子供も等しく徒歩で進み続けなければならず、過酷な逃避行となった。
迫る追手と絶望
極寒の環境であっても、追手たちは行動を止めなかった。永久凍土での活動を前提に訓練された彼らは、機械のように規則正しく進軍し、一流の装備も備えていた。
特に八本脚の馬を模したスレイプニルと呼ばれる霊装を使用していたため、旅団との速度差は歴然であった。
吹雪の向こうには国境が見えていたものの、そこへ辿り着く前に捕まることは明らかであった。それでも希望が見えている以上、諦めることもできず、一行は進み続けた。
ウィリアム=オルウェルの出現
その後、一行は何とか逃げ延びることに成功した。
語り手は、その理由は単純だったと語った。追手から逃げ切れたのは、一行の前にウィリアム=オルウェルが現れたからであった。
第二章 敗北から立ち上がる者達 Flere210.
病院に集う天草式
第二二学区第七階層の救命救急病院では、重傷を負った上条当麻の治療が行われていた。手術を終えた医師は、容態は安定しているとは言えないものの、最も懸念されていた溺水による脳への酸素不足は軽微で済んだと説明した。
上条は全身打撲や脳震盪、関節の脱臼、内臓への損傷を負っていたが、生存していること自体が奇跡的な状態であった。病院の廊下には負傷した天草式の仲間たちが集まり、その説明を聞いていた。
インデックスの付き添い
集中治療室では、眠り続ける上条の傍らにインデックスが寄り添っていた。彼女は上条の手を両手で包み込み、離れようとしなかった。
医師は建宮斎字に対し、今はそっとしておくべきだと告げた。建宮もその様子を見て何も言えず、静かに身を引いた。
建宮の後悔と決意
建宮は、自分たちが後方のアックアから上条を守れなかった現実を噛み締めていた。天草式の回復魔術も上条には通用せず、仲間たちはアックアに一方的に蹴散らされ、護衛対象である上条自身が仲間を守るために戦った結果、重傷を負ったのである。
さらに五和から、アックアが一日後に上条の右腕を差し出さなければ再び襲撃すると告げていたことを聞いていた建宮は、どれほど打ちのめされても立ち上がらなければならないと決意していた。
絶望する五和
病院の隅では五和が一人うずくまっていた。肉体の傷以上に精神的な傷は深く、守ると誓った上条を守れなかったことに苦しんでいた。
五和は、自分の槍も魔術も役に立たず、それでも上条からありがとうと言われたことを思い返していた。幻想殺しによって回復魔術すら受けられない上条が、自らの身体だけで戦い続けていた事実を知り、自分はそんな人を見殺しにしたのだと自責の念に囚われていた。
建宮の叱責
建宮はそんな五和の胸倉を掴み、壁へ叩きつけた。五和が建宮も負けたではないかと感情をぶつけると、建宮はそれを受け止めながらも、だからといって立ち止まる理由にはならないと叱責した。
アックアは必ず再び現れる。後悔や罪悪感に囚われて可能性を捨てれば、上条は右腕を失うことになる。助けを求めても都合よく増援が来る保証はなく、今戦える者たちが動かなければ誰も上条を守れないと強く訴えた。
再び立ち上がる天草式
建宮の言葉を受け、五和は自分だけが苦しんでいるのではなく、仲間全員が敗北と無力感を抱えながらも再び立ち上がろうとしていることを理解した。
建宮は、謝りたいなら戦え、守りたかった者をもう一度日常へ帰したいなら戦えと告げた。そして仲間たちに同じように諦める者がいるか問いかけたが、誰も前には出なかった。
後悔は消えていなかったが、それ以上に戦う意思が残っていた。天草式十字凄教の面々は集中治療室に上条とインデックスを残し、再び後方のアックアへ立ち向かうため戦場へ向かった。
彼らの目的はただ一つ、上条当麻の命を守り抜くことであった。
後方のアックアとローマ教皇の会話
後方のアックアは第二二学区第三階層近くの自然公園に身を置き、魔術を用いた通信でローマ教皇と連絡を取っていた。教皇は上条当麻を殺さず右腕だけを奪おうとしている判断について問いかけたが、アックアは脅威の本質は右腕にあり、それを排除すれば十分だと説明した。
また、上条が右腕を差し出せば命は助けるが、拒否するなら殺すだけだと語り、自らの判断に迷いは見せなかった。
神の右席の役割への言及
会話の中でローマ教皇は、かつて教皇たちの相談役として設立された神の右席の存在について触れた。神の右席は四大天使に対応する四人によって構成される特殊な存在であり、歴代の教皇たちを支えてきた経緯があった。
アックアはその話を聞きながらも特に感想を述べず、次の連絡は標的に関する結果報告になるだろうと告げた。
学園都市の迎撃開始
その直後、アックアは周囲の異変を察知した。目に見えない微粒子による攻撃で地面が削り取られ、彼はそれが学園都市の技術によるものだと推測した。
さらに人工の夜空には無酸素警報が表示され、第三階層全域への避難命令が発令された。アックアは、学園都市が攻撃用微粒子を広範囲に散布して逃げ場を封じようとしていると理解した。
無人兵器との戦闘
周囲の茂みには駆動鎧が潜み、装甲車も配置されていた。アックアはそれらが無人機であることを察すると、人命を巻き込まない戦場を用意した学園都市を評価しながら戦闘態勢に入った。
無数の弾丸と微粒子攻撃が襲いかかったが、アックアはそれらを回避し、時には微粒子の動きすら利用して反撃した。巨大なメイスを振るいながら包囲網を突破し、装甲車や駆動鎧を次々と破壊していった。
ロンドンでの調査
場面はロンドンへ移り、王立芸術院で講義をしていたシェリー=クロムウェルのもとに連絡が入った。電話の相手はオルソラであり、後方のアックアに関する調査結果を伝えた。
調査によれば、アックアは神の右席になる以前、イギリス国内で活動していた可能性があり、一部ではイギリスの騎士だったという証言も存在していた。
謎の紋章の解析
オルソラは、依頼人不明のまま製作途中で取り消された盾の紋章の注文書を発見していた。シェリーは送られてきた図案を分析し、青と緑を組み合わせた配色や、ドラゴン、ユニコーン、シルキーといった伝説上の存在ばかりが描かれていることから、持ち主が騎士という立場に強い反発を抱いていたと推測した。
さらに、この紋章はイングランドの伝承に由来する意匠で統一されていると見抜き、持ち主はイングランド出身で、英国の利益となる活動をしていた一匹狼の傭兵だった可能性が高いと結論付けた。
シェリーは、王室派との関係を持ちながら正式な組織には属していなかった傭兵を洗い出すようオルソラに指示した。
天草式の再起と五和の変化
建宮斎字率いる天草式十字凄教の本隊は、第二二学区第七階層の裏路地で後方のアックアとの再戦に向けた準備を進めていた。
五和は槍の強化と改造に没頭していた。柄を樹脂で補強し、紙ヤスリで削りながら何度も調整を繰り返し、自ら受けたアックアの攻撃を踏まえて、怪物を倒すための武器へと作り変えていた。その様子は強い執念に満ちており、建宮や牛深は彼女の変化に圧倒されていた。
オルソラからの新情報
そこへ建宮の携帯電話にオルソラから連絡が入った。彼女は後方のアックアの正体がウィリアム=オルウェルであると報告した。
ウィリアムはイングランド出身の魔術的傭兵で、幼少期にはイギリス清教で洗礼を受けていた。一匹狼として活動し、敵拠点の制圧を得意としていたという。また魔法名はFlere210であり、その名には涙を意味する言葉が用いられていた。
伝説的な戦歴と人物像
オルソラはさらに、ウィリアムが数々の戦場で勝利を重ねてきた経歴を説明した。占星施術旅団援護やオルレアン騎士団殲滅戦、英国第三王女救出戦など、多くの激戦を生き抜いていた。
また彼は戦うだけの人物ではなく、紛争地域で薬草の知識を広めたり、飢えた村に食料活用法を教えたりと、人々の生活改善にも尽力していた。そのため一部では賢者とも呼ばれていた。
建宮は、強大な力だけでなく知恵も兼ね備えた相手であることを改めて認識した。
アックアの戦闘能力の分析
さらに調査によって、ウィリアムはかつて英国の騎士に任命される予定だったが、その直前に消息を絶っていたことも判明した。
戦闘流派は独学であり、自らは傭兵の流儀と呼んでいた。武器は五メートルを超える巨大なメイスで、移動には水を利用した特殊な術式を用いていた。建宮は、アックアが神の右席となる以前から水の扱いに長けていたことを理解し、その実力の底知れなさを再認識した。
鉄橋での対峙
深夜三時、後方のアックアは第二二学区第三階層の鉄橋に立っていた。
学園都市が投入した無人兵器部隊を次々と撃破したものの、指揮官の所在は掴めなかった。しかし敵が早期撤退を決断したことから、学園都市側にも優秀な指導者が存在すると評価していた。
その後、交渉期限まで十九時間を残した時点で、アックアの前に天草式十字凄教の約五十人が姿を現した。先頭には建宮斎字が立ち、上条当麻の右腕を差し出す要求を拒絶した。
アックアは自らが聖人であり神の右席でもあることを告げ、天草式が持つ全ての切り札を受け止めた上で勝つと宣言した。
五和の先制攻撃
しかしアックアの言葉は最後まで続かなかった。
痺れを切らした五和が、会話を無視して海軍用船上槍による全力の一撃を放ったからである。術式を伴う攻撃は閃光と爆風を巻き起こし、周囲の地面ごと粉砕した。
だが粉塵の中から現れたアックアは無傷だった。
それでも五和は怯まず、徹底的に叩き潰すと宣言した。天草式の仲間たちがその勢いに圧倒される中、五和はさらに前へ踏み出した。
こうして五和と後方のアックアは正面から激突したのであった。
天草式の迎撃成功
深夜の鉄橋で戦闘が始まると、後方のアックアは聖人としての圧倒的な速度と怪力で五和へ襲いかかった。しかし五和は強化した海軍用船上槍でその一撃を受け止めた。
槍には樹脂を何度も重ねることで植物の繁殖力を象徴した術式が組み込まれており、時間経過と共に硬度が増すよう改造されていた。さらに衣服にも装着者を守る術式が施されており、アックアの攻撃による衝撃を緩和していた。
天草式の連携術式
アックアは五和が自分の速度に反応できた理由を見抜いた。天草式の五十人近い仲間たちが特殊な陣形を組み、互いの動体視力や運動能力を増強し合っていたのである。
かつて聖人が所属していた天草式は、その経験によって聖人の動きに慣れており、さらに術式による補助を加えることでアックアの速度に対応していた。
それでもアックアは五和を圧倒し、連続攻撃で追い詰めていった。仲間たちは刀や移動による援護で辛うじて五和を救いながら戦線を維持した。
ワイヤーを利用した禁忌の術式
天草式は次の手段として鋼糸を用いた術式を発動した。五十人近い術者が合計三百五十本の鋼糸を放ち、アックアを包囲する。
アックアは力任せに鋼糸を引き千切ったが、それこそが術式発動の条件だった。鋼糸を生命線と再定義し、それを破壊した者へ殺人の罰を与える魔術である。
赤い霧がアックアを包み込み、内部で巨大な爆発が連続して発生した。これは天草式全体で織り成す最大級の奥義であった。
聖母の慈悲による術式破壊
しかし術式は破られた。アックアは神の力と聖母崇拝の秘儀を用い、自らに課される罰そのものを無効化していたのである。
聖母崇拝は厳罰を軽減する性質を持ち、神の裁きすら歪める力を持つとアックアは説明した。殺人への罰など意味をなさず、爆発は全て無効化された。
さらに天草式が戦闘中に姿を消していたことを察すると、アックアは彼らを追跡する楽しみが増えたと語った。
地下施設への撤退
天草式は事前に術式を仕込み、禁忌の術式が破られた瞬間に強制的に撤退するよう準備していた。建宮たちは鉄橋から離れた広場へ移動し、作戦の立て直しを図った。
五和は仲間同士で背中に触れることで身体能力を回復・増強する術式の仕組みを説明した。だが陣形が崩れると連携も乱れ、聖人に対抗するには不十分だった。
建宮は本命の作戦を実行する決断を下し、五和も槍を握ったまま了承した。
アックアの追撃とルーン魔術
その直後、アックアが高速で接近した。天草式は地下施設へ退避しながら各所にワイヤーの罠を仕掛けて時間を稼ごうとした。
しかしアックアは地下の巨大水道管を内側から破裂させ、無数の金属片を散弾のように降らせた。五和はその際、水のルーンであるラグズの文字を目撃する。
神の右席は通常の魔術を扱えないはずだったが、アックアは聖母崇拝の力によってその制約すら無効化していた。聖人と神の右席の力に加え、人間と天使双方の術式を自在に操る怪物であることが明らかになった。
第四階層での再対決
五和は地下施設を抜けて第四階層の天井部へ飛び出した。そこには巨大なプラネタリウム用スクリーンが張り巡らされていた。
直後にアックアが現れ、五和を一撃で十五メートルも吹き飛ばした。五和は巨大スクリーンの上へ落下したが、槍を構えて立ち上がる。
アックアもスクリーン上へ降り立ち、小手調べは終わりだと告げた。五和も応じ、ここからが本番だと宣言した。
総力戦の開始
その瞬間、天井部のハッチが次々と開き、天草式の仲間たちが姿を現した。全員が傷を負いながらも脱落者はなく、総勢五十人がアックアを包囲する。
アックアは動じることなく来いと告げた。
その言葉を合図に、天草式十字凄教の全員が後方のアックアへ一斉に飛びかかったのであった。
聖人アックアとの総力戦
五和が正面からアックアへ突撃すると、天草式の仲間たちも左右や後方、上空から一斉に攻撃を仕掛けた。常人なら対処不可能な数の攻撃であったが、アックアは巨大なメイスを振るい、衝撃波ごと周囲を薙ぎ払った。天草式の面々は次々と吹き飛ばされ、アックアは圧倒的な戦闘力を見せつけた。
五和の奮戦と劣勢
アックアの攻撃は五和にも迫ったが、五和は衣服を利用した身代わりの術式によって致命傷を回避した。その後も槍で応戦し続けたものの、聖人の速度と力に徐々に押されていった。
天草式の仲間たちも援護を続けたが、アックアは五和と戦いながら周囲への牽制や水のルーンを用いた反撃まで行い、優勢を保ち続けた。建宮は本命の術式準備を急がせたが、五和には余裕がなかった。
スクリーンに刻まれた偶然の陣
追い詰められた五和は後方へ飛び退き、わずかな距離を稼いだ。アックアはとどめを刺そうと高速移動を行ったが、突如その動きが止まった。
これまでの戦闘でアックアの攻撃が巨大スクリーンを引き裂き、その裂け目が魔術的な模様を形成していたのである。日用品や身近な事象から術式を組み上げる天草式の性質により、その模様は偶然ながらアックアの移動術式を妨害する陣となっていた。
一瞬の隙を見逃さず、五和は初めて本格的な反撃へ転じた。
本命の術式発動
アックアが空中へ退避すると、五和は建宮たちへ本命の術式発動を呼びかけた。天草式の仲間たちは五和を中心とした陣形を形成し、意志と魔力を一点へ集中させる。
その力を受けた五和は猛烈な速度で空中を駆け上がり、布を用いて槍を構え直した。そして管槍の技法を応用した必殺技を放つ。
聖人崩しと名付けられたその一撃は、雷光と化した槍をアックアへ突き刺し、天草式全員の力を込めて聖人としての力を封じる術式を発動させた。
聖人崩しの由来
聖人崩しは、かつて天草式を去った聖人を支えられるだけの力を得るため、彼らが長年の努力によって編み出した術式であった。
聖人の力の根源となる身体的特徴の均衡を崩し、一時的に聖人の力を封じることを目的としていた。五和は術式が成功した手応えを感じ、アックアを無力化できると確信した。
神の右席の力による突破
しかしアックアは平然としていた。彼は槍が雷光となる直前に穂先へ干渉し、術式の軌道を微妙に逸らしていたのである。
さらに、自分は聖人であるだけでなく神の右席でもあると告げた。術式は完全な効果を発揮できず、アックアの反撃が炸裂する。
五和は防御する暇もなく叩き落とされ、巨大スクリーンを突き破って二十メートル下の地面へ落下した。仲間たちの防御術式も突破され、重傷を負う結果となった。
壊滅した天草式
アックアはさらに巨大な水の塊を操り、天草式の仲間たちを次々と吹き飛ばした。第四階層は水に蹂躙され、仲間たちの悲鳴が響き渡った。
アックアは倒れた五和へ幻想殺しの右腕を差し出すよう要求した。しかし五和は血まみれになりながらも立ち上がろうとし、降伏を拒んだ。
それを見たアックアは、巨大な水の槌で五和ごと周囲を粉砕しようとした。
突如現れた新たな脅威
だがその瞬間、得体の知れない強烈な殺気が周囲を満たした。アックアは五和への攻撃を中断し、その気配へ意識を向ける。
彼は強敵を前にした時と同じ表情を浮かべ、水の制御を解除した。そして五和へ命拾いしたのであるな、貴様の主に感謝しろと告げると、その場から姿を消した。
五和は意味を理解できないまま、その言葉を反芻した。
神裂火織の登場
アックアが向かった先には、人払いによって無人となった展望台があった。そこには二人の聖人が向かい合っていた。
一人は後方のアックア。そしてもう一人は七天七刀を携えた神裂火織であった。
神裂は天草式の仲間たちが蹂躙される様子を目の当たりにし、自らの怒りを認めた。そして仲間たちの決意を無駄にしないためにも戦うと決意を語った。
こうして世界でも数少ない二人の聖人が対峙し、本当の決戦の幕が上がったのであった。
行間 二
オルレアン騎士団の変質
オルレアン騎士団は、もともとジャンヌ=ダルクを陰から支えるために集まった有志による組織であった。身分や地位に関係なく人々が集まり、フランスを救うという目的を共有していた。
しかしジャンヌ=ダルクが処刑されたことで組織は大きく変質した。以後はジャンヌへの復讐を掲げる集団となり、イギリスだけでなく、ジャンヌを救えなかったフランスの兵士や貴族、さらには国民までも復讐の対象としていった。
ダルクの神託を求める狂信
オルレアン騎士団は、ジャンヌが十三歳の時に受けた神託に着目した。彼女の力を再現しようと考えた彼らは、神託を人工的に再現する実験へと傾倒していった。
数百年の時が流れた後も、騎士団はダルクの力を持つ者を作り出そうと不可能な実験を繰り返していた。その過程で、一人の少女が神託の素体として選ばれ、少年は彼女を救うために戦ったが敗北した。
絶望した少年
少女を救えなかった少年は、瀕死の状態で路地に倒れていた。少女から信じているという言葉を託されていたが、立ち上がる力も気力も失っていた。
そこへ現れたのが、オルレアン騎士団を止めるためフランスへ来ていた傭兵であった。彼は少年に対し、敵が強大であることを認めながらも、少女が最後まで少年を信じていた事実を突きつけた。
傭兵の問いかけ
傭兵は、少女の夢を守るために立ち上がるのか、それとも少女の信頼を裏切って絶望を与えるのかを選べと少年へ問いかけた。
その言葉を受けた少年は、自分の前に積み上がる問題や危険を考える前に、まず動き出さなければならないと悟った。そして差し出されたコリシュマルドを握り、再び立ち上がった。
反撃への決意
少年は剣を抜き、傭兵の隣へ立った。もはや絶望に囚われることなく、救うべき少女のいる場所を見据えた。
傭兵はその決意を認め、少年と肩を並べた。少年は脅える時間は終わったと告げ、フランス最大の魔術結社であるオルレアン騎士団に対する反撃を開始する決意を固めた。
第三章 桁の違う怪物同士の死闘 Saint_VS_Saint.
聖人同士の激突
神裂火織と後方のアックアは、第四階層の展望台で激突した。神裂は十字術式、仏教術式、神道術式を組み合わせた必殺の抜刀術・唯閃を放ったが、アックアは巨大なメイスで受け止めた。
さらに両者は肉弾戦を繰り広げながら、複数の魔術体系を瞬時に切り替える高度な読み合いを展開した。アックアは神裂と同等以上の魔術知識を持ち、『神の右席』でありながら一般的な魔術まで自在に扱っていた。
アックアの猛攻と神裂の反撃
アックアは巨大な水のハンマーを作り出して神裂を攻撃した。しかし神裂は鋼糸による七閃で水の塊を切断し、そのままワイヤーを利用した術式と爆発を連続して発動させた。
炎と斬撃を重ねた連続攻撃により、アックアは後退を余儀なくされた。頬にはわずかな切り傷が生じ、初めて神裂の攻撃が届いた。
天草式への侮辱と神裂の反論
傷を負ったアックアは、神裂の力は聖人としての才能によるものであり、天草式とは根本的に違うと語った。
それに対して神裂は、唯閃こそ扱えないものの、その基礎となる剣術や鋼糸、術式や戦術はすべて天草式の仲間たちから学んだものだと反論した。そして自身の力は仲間たちが積み上げてきた歴史の結晶であり、それを才能だけで片付ける発言は認められないと告げた。
さらに、圧倒的な力を持ちながら一般の高校生にまで容赦なく振るったアックアを厳しく非難した。
戦場観の衝突
アックアは戦場に平等など存在せず、戦力差を考慮して戦いが成立するわけではないと語った。歩兵が戦車と遭遇すれば容赦なく蹂躙されるように、戦場とはそういうものだと主張した。
神裂はそれをアックア自身の論理だと否定したが、アックアは戦場に踏み込んだ以上、その理屈からは逃れられないと淡々と返した。
信念を問う再戦
鍔迫り合いの末に距離を取った二人は再び対峙した。神裂は上条当麻のような一般人に聖人の力を振るった理由を問い詰めたが、アックアは自らの行動に言い訳は不要であり、結果によって意志は示されるものだと答えた。
やがてアックアは、神裂に言葉ではなく刃で理由を示せと告げた。二人は再び激突し、聖人同士の戦いはさらに激しさを増していった。
上条当麻の目覚め
その頃、上条当麻は病院のベッドで意識を取り戻した。隣ではインデックスが付き添ったまま眠っていた。
上条は後方のアックアと五和、そして天草式の戦いを思い出した。アックアが自分の右手を危険視していた事実から、その力なら戦況を変えられる可能性があると考えた。
インデックスへの申し訳なさを抱きながらも、上条は今やるべき事を優先すると決意した。
聖人同士の超常戦闘
神裂火織と後方のアックアの戦いは激化していた。アックアは第四階層全域の水を支配し、巨大な氷の槍や水の鞭、巨大な水塊などを次々と生み出して神裂を攻撃した。
それに対して神裂は七本のワイヤーを張り巡らせ、水で構築された魔法陣へ干渉した。術式を破壊し、軌道を逸らし、時には乗っ取ることで対抗し、水と鋼糸による熾烈な主導権争いを繰り広げた。
さらに両者は魔術戦と肉弾戦を同時に展開し、常人では追うことすらできない戦闘を続けた。
聖母崇拝への怒り
戦いながら神裂は、アックアが聖母崇拝術式を暴力のために利用していることへ強い怒りを抱いていた。
本来の聖母崇拝は、悲劇に苦しむ人々へ救いを与えるための信仰であり、人々の祈りや願いによって支えられてきたものであった。しかしアックアは、その奇跡を暴虐のために行使していた。
神裂は聖母崇拝に込められた人々の想いが踏みにじられている現実に憤りを覚えながら戦い続けた。
神裂の限界とアックアの優位
アックアは神裂の肉体が限界に近づいていることを見抜いていた。
神裂の唯閃は本来一撃必殺を前提とした技であり、長時間の戦闘を想定していなかった。しかしアックアは聖人としての力に加え、『神の右席』としての能力で肉体を極限まで強化していたため、一撃必殺すら通用しなかった。
神裂はアックアの力に、かつて対峙した大天使にも匹敵する異質さを感じていた。
聖母の慈悲による必殺の一撃
アックアは連撃を止め、一撃に力を集中させた。そして神裂の追撃すら受け止めると、天井近くまで跳躍した。
引き裂かれたプラネタリウムのスクリーンを月に見立て、聖母崇拝術式によってその光を利用したアックアは、莫大な力をメイスへ宿した。
聖母の慈悲は厳罰を和らげると告げたアックアは、天井を蹴って急降下し、圧倒的な重圧を伴う一撃を放った。その攻撃は第四階層の地面を直径百メートル規模で崩壊させ、第五階層へ巨大な穴を穿った。
第五階層への落下
神裂は七天七刀で直撃を防いだものの、足場となる大地そのものが崩壊したため、瓦礫と共に第五階層へ落下した。
全身は深刻な損傷を受け、再び同じ攻撃を受ければ命を落とす状態であった。それでも神裂は恐怖ではなく怒りを抱いていた。
もし崩壊地点が広場ではなく住宅街であれば、多数の犠牲者が出ていた可能性があったからである。神裂は聖人でありながら無関係な人々を危険に晒すアックアへ強い憤りを向けた。
幻想殺しを求めるアックア
傷だらけの神裂が立ち上がる中、アックアは幻想殺しはどこにいるのかと問いかけた。
さらに、見つかるまで階層を一つずつ破壊していけばよいと語った。その言葉を聞いた神裂は激しい怒りを爆発させ、再びアックアへ突撃した。
激戦の継続
神裂は刀とワイヤー、抜刀術、炎や氷の術式を組み合わせて攻撃を続けた。
対するアックアも月光の力や聖母崇拝術式を利用しながら、真空刃や岩塊を交えた連続攻撃を繰り出した。
しかし神裂の肉体はすでに限界に達しており、口から血を吐きながら戦い続けていた。逆転のための切り札を残す余裕もなく、追い詰められていった。
上条当麻の信念を思い出す神裂
追い詰められた神裂の脳裏に浮かんだのは上条当麻の言葉であった。
守りたいものがあるから力を手に入れるのだという信念を思い出した神裂は、自分の力を当然のように振るうアックアよりも、五和を守るために命を懸けた上条の行動の方が尊いと感じた。
神裂はその信念を踏みにじらせまいと決意し、再び力を振り絞った。
天草式の絶望
一方、天草式十字凄教の面々は第五階層で繰り広げられる戦いを見守っていた。
神裂が自分たちのために命を懸けて戦う姿を見れば見るほど、自分たちとの圧倒的な実力差を痛感していた。どれほど努力しても聖人の領域には届かず、自分たちの戦いが遊びのように思えてしまうほどであった。
五和をはじめ多くの者が武器を取り落とし、無力感に打ちのめされていた。それでも聖人同士の戦いは続き、その圧倒的な力は戦場に立たない者たちの心まで深く抉っていった。
行間 三
オルレアン騎士団
第三王女救難信号の真相
英国王室専用の長距離護送用馬車から救難信号が発せられていた。本来、その馬車は魔術大国イギリスの技術の粋を集めた移動鉄壁であり、救難信号など発せられるはずのない存在であった。
その異常事態は、英国第三王女が何らかの政治的取引の結果、捨て駒にされたことを意味していた。
騎士派の苦悩
ドーヴァー海峡沿いに展開していた騎士派は、繰り返し届く救難信号を聞きながらも動けずにいた。
騎士派は王家の血を引く者を命懸けで守ることを使命としていたが、現在はイギリスへ被害が及ぶまでは動いてはならないという政治的制約を受けていた。
彼らは第三王女を襲撃しているのがスペイン星教派であり、英国王室が南米への影響力拡大を狙ってその襲撃を黙認していることを理解していた。そして第三王女がその計画の犠牲となったことにも気づいていた。
ウィリアムの決断
騎士派の野営地を離れたウィリアム=オルウェルは、フランス側で続く魔術戦の光を見つめていた。
そこへ騎士団長が現れ、ウィリアムが第三王女救出へ向かおうとしていることを見抜いた。
ウィリアムは、自分は国家に属さない傭兵であり、個人的な行動はイギリスの意思とは無関係だと語り、自らが救出に向かう理由を説明した。
騎士団長の覚悟
騎士団長はウィリアム一人を行かせるつもりはなかった。
イギリスを背負う騎士派は動けないという理屈に対し、騎士団長は自らの識別章を外して地面へ捨てた。そして騎士としての立場を捨て、第三王女救出へ向かう覚悟を示した。
第三王女がまだ救難信号を発し続けている以上、生存しているはずだと信じていたのである。
ウィリアムの制止
騎士団長の決意を認めたウィリアムだったが、次の瞬間、その腹へ拳を叩き込んだ。
倒れた騎士団長に対し、ウィリアムは第三王女を本当に守りたいなら今だけを見るべきではないと語った。
今後も政治的駆け引きによる危機は繰り返されるはずであり、その時に王女の側で守れるのは騎士団長しかいないと告げた。王室派そのものを守る役目は、傭兵ではなく騎士である騎士団長にしか果たせないと説いたのである。
傭兵の出撃
騎士団長の叫びを背に受けながら、ウィリアムは戦場へ向かった。
そして名乗るべき時が来たとして、自らをその涙の理由を変える者と名乗った。
水中移動術式を施したウィリアムは、ドーヴァー海峡を砲弾のような速度で突き進み、第三王女救出のためフランスへ向かっていった。
第四章 誰が誰を守り守られるか Leader_is_All_Members.
深夜の第二二学区
御坂美琴の足止め
御坂美琴は、ゲコ太ストラップを手に入れるために利用した外部の入浴施設から帰ろうとしていた。しかし第二二学区特有の無酸素警報に巻き込まれ、長時間足止めされた結果、深夜になってしまっていた。
警報自体は解除されていたものの、学区の出入り口は封鎖されたままであった。係員たちも混乱している様子だったため、美琴は事情を追及するのを諦め、第七階層のホテルへ向かうことにした。
傷だらけの上条との遭遇
第七階層へ向かう途中、美琴は暗がりから現れた人影に気づいた。それは上条当麻だった。
しかし上条の様子は異常だった。顔色は青白く、全身に包帯が巻かれ、病院着のような服を身につけていた。さらに電極のコードが体から垂れ下がり、焦点も定まっていなかった。
美琴が問い詰めると、上条は今も誰かが戦っているから自分も行かなければならないと告げた。その姿を見て、美琴は上条がこれまで何度も命の危険にさらされてきたことを実感し、記憶喪失の原因もその過酷な戦いにあるのではないかと考えた。
記憶喪失の告白と美琴の怒り
上条を止めようとした美琴は、なぜ助けを求めないのかと感情を爆発させた。
怖いことや不安なことを一言でも口にするべきだと訴え、さらに上条が記憶喪失であることを知っていると明かした。
上条は大きく動揺したが、美琴は止まらなかった。かつて自分や妹達が上条に救われたことを思い出し、自分もまた上条を助けたいと告げた。そして、これから何と戦うのか話してほしい、自分が力になると真っ直ぐに訴えた。
上条の揺るがぬ信念
上条は記憶を失っていることを認めながらも、それが自分の本質ではないと語った。
記憶がなくなったことを理由に誰かを責めたり、自分を哀れんだりするつもりはなかった。思い出せない過去の自分が確かに存在し、その積み重ねが胸の中に残っているからこそ、自分がやるべきことは理解できるのだと語った。
そして、たとえ記憶を失わなかったとしても、自分の選択は変わらないと断言した。上条当麻という人間は、記憶の有無で揺らぐ存在ではないのだと美琴へ告げた。
美琴が気づいた感情
上条は美琴の制止を振り切り、再び歩き始めた。
美琴は病院へ連れ戻すべきだと理解していた。しかし上条の言葉に偽りがないことも分かっていた。彼にとって今この瞬間、自分の足で前へ進むことが特別な意味を持っていることを感じ取っていたのである。
理屈では見送るのが正しいと理解しながらも、美琴は納得できなかった。そして、自分の胸の内にある強烈な感情の存在に気づいた。
それは理性や体裁を簡単に打ち砕くほど強大な感情であり、自身でも名前を知らない感情だった。
やがて上条の背中は闇の中へ消えていった。美琴は最後まで彼を止められなかった。
それは上条の覚悟に感動したからではなく、自らの内に芽生えた強烈な感情に圧倒され、動くことができなかったからであった。
神裂火織の敗勢と疑念
後方のアックアの猛攻により、神裂火織はついに力負けした。七天七刀ごと吹き飛ばされ、百メートル近く瓦礫を破壊しながら地面を転がった。満身創痍となった神裂は、アックアとの差が単なる実力差ではなく、その力の根源に秘密があると考え始めた。
神裂は、自らの唯閃が人間の限界を超えないよう極めて精密に構築された術式であることを理解していた。しかしアックアは、その限界を超える力を当然のように振るい続けていた。聖人と神の右席という二つの力を同時に制御しているアックアには、それを可能にする何らかの術式が存在すると確信したのである。
アックアとの思想の衝突
再び激突した神裂に対し、アックアは逆転の可能性はないと告げた。生まれ持った力の差こそが戦場の現実であり、力なき者を戦わせる必要はないと語った。
その言葉を受けた神裂は、自分自身も同じ過ちを犯していたことに気づいた。かつて女教皇として天草式を率いていた頃、仲間を守るためという名目で彼らの力を信じず、自分一人で全てを背負おうとしていたのである。
神裂は、自分が無意識のうちに仲間を管理される側の存在として扱い、その可能性を否定していたことを痛感した。そして、それこそが傲慢だったのだと悟った。
仲間を信じる決意
神裂は、自分が取るべき答えに辿り着いた。
後方のアックアを倒すためには、自分一人で戦うのではなく、仲間を信じることが必要だったのである。仲間を光の中に取り残さず、本当の意味で共に戦うために、自らの誤りを認めた。
そして神裂は七天七刀を構え直し、残された力を振り絞って最後の行動に出た。
天草式への援軍要請
第五階層での戦いを見守っていた天草式十字凄教の面々の耳に、神裂の声が届いた。
神裂は彼らへ向けて、力を貸してほしいと叫んだ。
それは単なる助力の要請ではなかった。今まで一人で全てを背負おうとしていた神裂が、仲間を対等な戦力として認め、共に戦いたいと願った証だった。
五和や建宮をはじめとする天草式の面々は、その言葉に震えた。自分たちが重荷ではなく、本当の仲間として認められたことを理解したからである。
天草式の再起
無気力感に押し潰されていた天草式の面々は、再び武器を手に取った。傷だらけの体など気にも留めず、誰一人として神裂の呼びかけを拒まなかった。
神裂の力になれること、再び共に戦えることへの喜びが、恐怖を上回っていたのである。
建宮斎字は仮の指導者として仲間たちへ呼びかけた。そして天草式十字凄教のあるべき場所へ向かうのだと叫び、自ら先頭に立って戦場へ飛び降りた。
天草式十字凄教は、自らが無力であることを理解しながらも、それでも戦う理由を胸に抱き、神裂火織と共に後方のアックアへ立ち向かっていった。
後方のアックアの一撃と上条当麻の介入
後方のアックアが放った絶対的な破壊の一撃を受けた瞬間、神裂火織の五感は完全に白く塗り潰された。しかし感覚が戻り始めたことで、自分が無傷で生きている事実に気づいた。
神裂は、魔術そのものが消滅したような状況から、一人の少年を思い浮かべた。そして感覚を取り戻した先で、アックアのメイスを右手で掴み、その魔術攻撃を打ち消している上条当麻の姿を目撃した。
アックアの攻撃は強大な魔術であったため、上条の右手によって完全に無効化されていたのである。
神裂と上条による足止め
驚愕したアックアの隙を突き、神裂は七天七刀を捨てて巨大なメイスごとアックアを拘束した。上条もまたメイスにもたれかかるようにして動きを封じ込めた。
満身創痍の二人が視線を向けた先には、槍を構える五和がいた。
五和は仲間たちの術式支援を受けながら、自分が必ず当てると宣言し、アックアへ向かって突撃した。
聖人崩しの直撃
アックアは回避を試みたが、神裂が聖人としての力を封じ、上条が神の右席の術式を打ち消したため、自由に動くことができなかった。
わずかな拘束時間の中で、五和は聖人崩しを発動した。槍は雷撃へと変化し、アックアの腹を貫いて背中へと突き抜けた。
戦意を失わないまま雄叫びを上げていたアックアだったが、その一撃は確実に命中した。上条と神裂は衝撃で手を離し、アックアの体は大きく吹き飛ばされた。
アックアの暴走と消滅
聖人崩しを受けたアックアは人工湖へ叩き込まれた。その直後、聖人と神の右席という二つの性質が競合を起こし、体内で連鎖的な暴走が発生した。
深夜の湖は凄まじい閃光に包まれ、大量の水が蒸発した。
やがて神裂が再び目を開けた時、アックアの姿は消えていた。
人工湖の水は完全に蒸発し、巨大な水蒸気の柱だけが地下市街の天井へ向かって伸びていた。その圧倒的な光景は、アックアの暴走と消滅がいかに凄まじいものであったかを示していた。
行間 四
過去の港での別れ
騎士団長とウィリアムの再会
今から十年ほど前の寂れた港で、ウィリアム=オルウェルは騎士団長に殴られていた。二人の間では英国第三王女が戸惑いながら見守っていた。
騎士団長は、救出劇で自分を騙して功績を独占したことへの怒りを口にしながら、さらにウィリアムが本当にイギリスを離れる意思を持っているのか確認した。そして離脱の意思を聞くと、再び彼を殴り飛ばした。
騎士への誘いを断る理由
騎士団長は、ウィリアムが傭兵で終わる器ではなく、ようやく騎士として迎え入れようとしていたのに断ったことへの不満を語った。
それに対してウィリアムは、騎士と傭兵にはそれぞれ役割があり、どちらか一方だけでは解決できない問題が存在すると説明した。騎士は権限を持つが自由に動けず、傭兵は身軽だが信用を必要とする場所へ踏み込めないため、双方が存在して初めて社会は成り立つのだと考えていた。
世界情勢への危機感
ウィリアムは今回の事件の背景に王室派の思惑があることを指摘し、その裏にある事情を探る必要があると語った。
さらにイギリス国内だけでなく、ローマ正教やロシア成教、学園都市の動きにも不穏な兆候を感じており、世界そのものが大きく動こうとしていると見ていた。そのため、自分は外から世界を見守り、騎士団長は内側からイギリスを守るべきだと告げた。
餞別と別れの言葉
議論が無意味だと悟った騎士団長は、寂しさを押し隠すようにスコッチの酒瓶を餞別として渡した。そして旅先で、その酒に見合う仲間を見つけろと語った。
ウィリアムはその言葉を受け入れつつ、以前注文していた盾の紋章は未練が残るため廃棄してほしいと頼んだ。それが傭兵としての別れの言葉であった。
騎士団長の本音
ウィリアムが去った後、騎士団長は一人残された。
第三王女が見守る中、彼は捨てるものか、捨てられるものかと小さく呟いた。その言葉には、去っていく旧友への強い未練と惜別の思いが込められていた。
終章 さらなる騒乱への案内人 True_Target_is…..
病室での目覚め
上条の回復と戦いの結果
上条当麻は病院の個室で目を覚ました。見舞いに来ていた五和から、後方のアックアを退けたことや、民間人と天草式の双方に死者が出なかったことを知らされた。
しかし上条自身は病院を抜け出して戦場へ向かった経緯の記憶が曖昧であり、戦いの実感も持てずにいた。それでもアックア撃破という結果に驚き、歴史的な出来事だったのではないかと口にした。五和は興奮しながら、その勝利がいかに奇跡的なものであったかを語った。
インデックスと五和の叱責
出席日数を心配して起き上がろうとした上条を、五和が慌てて押し留めた。その結果、二人の距離が急接近する。
そこへ病室に入ってきたインデックスがその光景を目撃し、複雑な感情を露わにした。さらに、黙って病院を抜け出して戦場へ向かった上条の行動について、インデックスと五和は揃って強く叱責した。
神裂の葛藤と土御門の挑発
病室の外では、見舞いに訪れていた神裂火織が中へ入る機会をうかがっていた。しかし五和やインデックスがいる状況に気後れし、行動に移せずにいた。
そこへ土御門元春が現れ、上条への感謝の示し方について執拗に神裂をからかった。土御門は五和の積極性を引き合いに出しながら神裂を挑発し続けたため、神裂は次第に追い詰められていった。
やがて神裂は覚悟を決め、土御門から例の物を受け取る決断をした。そして女性としての新たな一歩を踏み出し、病室へ向かって突撃していった。
フィアンマの台頭
一方ローマ正教では、後方のアックア敗北の報告を受けたローマ教皇が危機感を募らせていた。
そこへ右方のフィアンマが現れた。フィアンマは学園都市ではなくイギリスこそが目的であると明かし、ローマ正教とロシア成教の力でイギリスを孤立させる計画を語った。
さらにフィアンマは、自らが狙うものがイギリスに存在すること、その獲得によって学園都市すら圧倒できると説明した。その言葉を聞いたローマ教皇は、フィアンマの思想が他の『神の右席』とは根本的に異なることを悟った。
ローマ教皇との対決
フィアンマの暴走を止めるため、ローマ教皇は自ら術式を発動し、フィアンマを精神的な牢獄へ封じ込めようとした。
しかしフィアンマは圧倒的な力でその束縛を破壊した。聖ピエトロ大聖堂の三分の一が吹き飛び、バチカンを支える魔術的な防護機構も次々と崩壊した。
ローマ教皇は吹き飛ばされながらも立ち上がり、フィアンマに立ち向かったが、その力の前に圧倒された。
フィアンマの目的
フィアンマは、自らの右肩から生えた異形の光の腕を示しながら、その力について語った。
彼は『聖なる右』という奇跡の象徴を扱うためには、それに見合う右腕が必要であると説明した。そして学園都市にいる上条当麻の右腕こそ、自分が求める存在であることを示唆した。
さらに、その力を完全に制御するためには膨大な知識が必要であり、その鍵として禁書目録にも価値を見出していた。だからこそフィアンマはイギリスを狙っていたのである。
ローマ教皇の敗北と警告
ローマ教皇は重傷を負いながらも、フィアンマの計画を止めようとした。しかしフィアンマの一撃によって再び吹き飛ばされ、完全に力の差を見せつけられた。
それでもローマ教皇は一般市民への被害を防ぎ切り、薄汚れた少女の善意に触れながら意識を保った。そこへ現れた前方のヴェントに対し、フィアンマの狙いがイギリスにあることを伝えた。
各勢力の反応
ロンドンでは、最大主教ローラ=スチュアートがローマ教皇負傷の報告を受けた。彼女はローマ教皇が市民を守るために被害を引き受けたことを理解し、その善人ぶりに複雑な感情を抱いていた。
一方、学園都市ではアレイスターが後方のアックア撃破後の情報を分析していた。彼の関心は上条当麻の右腕に向けられており、『幻想殺し』が計画通り機能していることを確認して満足げな笑みを浮かべていた。
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