とある魔術の禁書目録(4)レビュー
とある魔術の禁書目録(6)レビュー
物語の概要
■ 作品概要
本作は、最先端の超能力開発が進む「学園都市」と、宗教や神話の歴史を背景に持つ「魔術サイド」が交錯する学園サイエンス・ファンタジー作品である。第5巻は、8月31日という「夏休み最終日の24時間」を舞台に、複数の事件が同時多発的に発生する重厚なストーリー構成となっている。 あらすじとしては、大量の宿題に追われる主人公・上条当麻が、御坂美琴の頼みで「恋人役」を演じる最中にアステカの魔術師に急襲され、さらにインデックスを連れ去った魔術師・闇咲逢魔との死闘に巻き込まれる。その裏では、都市最強の能力者である一方通行(アクセラレータ)が、新たなクローン少女「打ち止め(ラストオーダー)」と出会い、世界規模のネットワーク暴走ウイルスを阻止するために命を懸けた救出劇へと身を投じる。
■ 主要キャラクター
- 上条当麻: 本作の主人公。右手に宿る、あらゆる異能の力を打ち消す「幻想殺し(イマジンブレイカー)」を武器に戦う。過去の事件で記憶喪失に陥っている事事実を隠しながら、夏休み最終日に大量の課題と魔術師たちとの戦いに翻弄される。
- インデックス: イギリス清教に所属するシスター。脳内に10万3000冊の魔道書を記憶している。上条を強く信頼して同居しているが、彼の記憶喪失については知らない。自らの知識を求める魔術師・闇咲逢魔によってホテル屋上へと連れ去られる。
- 一方通行(アクセラレータ): 学園都市第一位の超能力者(レベル5)。あらゆる力の向きを操る「ベクトル操作」の能力を持つ。かつて多くのクローンを虐殺した過去を持つが、深夜につきまとってきた少女・打ち止めを救うため、自身の存在意義を懸けて戦う。
- 打ち止め(ラストオーダー): 御坂美琴のクローンである「妹達(シスターズ)」の最終検体(20001号)。クローン全体の暴走を防ぐ安全装置としての機能を持つ。無邪気な性格で一方通行を信頼するが、元研究員の天井亜雄によって脳内にウイルスを仕込まれる。
- 御坂美琴: 学園都市第三位の超能力者(レベル5)で、電撃を操る「超電磁砲(レールガン)」。付きまとってくる海原光貴を諦めさせるため、偶然通りかかった上条を強引に「恋人役」の偽装工作に巻き込む。
- 海原光貴(偽物): アステカの魔術師。本物の海原の皮膚を剥いで身に纏う変装魔術を使い、学園都市に潜入した。「上条勢力」の繋がりを内部から破壊する任務を帯び、不可視の分解光線を放つ「トラウィスカルパンテクウトリの槍」で上条を襲撃する。
- 闇咲逢魔: 梓弓の弦を引く音によって、圧縮空気の刃や空間移動などの魔術を操る魔術師。呪いによって死に瀕した大切な女性を救うため、インデックスの脳内から錬丹術の知識が記された魔道書を読み取ろうと画策する。
■ 物語の特徴
本作の最大の特徴は、8月31日という限られた一日の中で、複数の主人公の視点が並行して進む緻密なタイムライン構成にある。上条当麻の「日常の宿題と魔術師との対決」というコミカルかつ熱い側面と、一方通行の「過去の罪と向き合い、一人の少女を救うための命懸けの演算」というダークでシリアスな側面が、見事な対比として描かれている。 他作品との差別化として、敵側である魔術師や研究者、そしてかつての虐殺者である一方通行それぞれの「譲れない願いや本音」が鮮明に描写される。単なる勧善懲悪にとどまらない、個々の意志が衝突する深い人間ドラマと、科学と魔術の理論が交錯する怒涛のバトル展開が、読者にとって極めて興味深いポイントとなっている。
書籍情報
とある魔術の禁書目録(5)
(A Certain Magical Index)
著者:鎌池 和馬 氏
イラスト: 灰村 キヨタカ 氏
出版社:株式会社KADOKAWA(電撃文庫)
発売日:2005年4月10日
ISBN:9784048666312
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あらすじ・内容
宿題忘れてた!――夏休み最終日、上条当麻の運命は!?
8月31日は学園都市の夏休み最終日。一方通行(アクセラレータ)は、不思議な少女と出会った。 そいつは、どこかで見た顔で――。御坂美琴は、男子生徒からデートに誘われた。 そいつは、超・さわやかなやつで――。上条当麻は、不幸な一日の始まりを感じた。 夏休みの宿題を全くやっていないことに気づいて――。それぞれの物語が幕を開けた、大人気学園アクション第5弾登場!
感想
八月三十一日という夏休み最終日の一日を切り取り、複数の視点から描かれたエピソードが緻密に絡み合う構成となっている。短編集のようでありながらすべての事件が一本の線へと繋がっていく展開の妙には、終始物語へ引き込まれることとなった。また、シリーズの定番である上条当麻の入院劇が今回は見られない点に新鮮さを覚える。その代わりに他の主要キャラクターたちが次々と手術室へ運び込まれる過酷な結末には、心地よい裏切りのような衝撃を受けた。
物語の軸の一つとなる上条の「夏休みの宿題」を巡る描写は、本作の持つコミカルさとリアルな世界観を象徴している。世界の運命を左右する凄惨な死闘や日常の不運が重なった結果、宿題の消化がクリア困難な絶望的ミッションへと変わっていく様子は、悲惨でありながらどこか微笑ましい。どれほど壮絶な戦いを繰り広げても、最終的には学生としての義務や補習の恐怖という現実へ引き戻されるギャップが、上条という主人公の魅力を際立たせていた。
その一方で、インデックスを襲撃した魔術師・闇咲逢魔との戦闘で見せた上条の救済の姿勢には、深い感銘を受けずにはいられない。闇咲の行動は、呪いに侵された大切な女性を救いたい一心から、自らの命を懸けて禁忌の魔道書に触れようとする悲劇的な挑戦だったと言える。そこへ上条の「幻想殺し」という既存の魔術体系を超越した力が提示されたことで、闇咲はこれ以上罪を重ねる必要がなくなった。絶望の淵にいた魔術師が真の救済への一歩を踏み出すラストは、非常に胸を打つ場面である。
御坂美琴の突発的な「恋人役」の偽装工作から始まるエピソードも、人間関係の機微が繊細に描かれていて興味深い。美琴は苦手な相手である海原光貴を遠ざけようと画策するが、海原の真摯な内面を察した上条が加担を拒絶したことにより、計画は失敗に終わる。この上条の誠実な姿勢を前にして、美琴が自身の恋心ともとれる複雑な感情を自覚させられていく心理描写には、読んでいて強く心が揺さぶられた。
さらに、海原の正体であったアステカの魔術師との決戦も印象深い。組織の命令に縛られながら学園都市での日常に惹かれていく魔術師の葛藤と、それを正面から受け止めた上条の戦いは、泥臭くも熱いものであった。最終的に魔術師は敗北を喫したが、自らの本心と「美琴を守る」という真の願いを上条へ託すことで、悲痛な運命の中に救いのある道を繋いだ点に切なさと救いを感じる。
そして、本作において最も重大かつ心に深く残ったのは、学園都市最強の能力者である一方通行の変革である。これまでただ破壊し、殺戮を繰り返すことしか知らなかった彼が、無邪気な少女・打ち止めと出会ったことで「誰かを守ること」を知る。彼女の脳内に仕込まれたウイルスを除去するため、自身の存在意義をかなぐり捨てて命を懸ける救出劇には、言葉にできないほどの熱量を感じた。
ミサカネットワークを介した一万人のクローンの一斉暴走という世界規模の危機を、かつての虐殺者が身を挺して未然に防ぐ展開は劇的である。彼はこの事件によって脳を負傷し、言語機能や演算能力を失うという致命的な代償を支払う。ネットワークの並列演算によって能力を補う設定と、チョーカー型デバイスが持つ本当の意味をようやく理解できて深く納得した。自身の力を失ってでも一人の少女のために盾となったその姿は、彼が「他者を守るヒーロー」として目覚めた決定的な転機として、強く記憶に刻まれる。
本作は、過酷な能力者同士の戦いや魔術の衝突といった緊迫感溢れるバトルパートと、学生らしい日常のコミカルさ、配置された少年少女たちの複雑な人間関係が見事に交錯した傑作である。それぞれの登場人物が譲れない願いを抱えて衝突し、上条の右手や一方通行の意志によってそれぞれの救済が生み出されていく。読後には、これこそが「とあるシリーズ」の真骨頂であるという強い満足感と、彼らの今後の歩みに対する深い期待感が込み上げてくる。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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とある魔術の禁書目録(4)レビュー
とある魔術の禁書目録(6)レビュー
考察・解説
上条当麻の記憶喪失
上条当麻の記憶喪失に関する事実と、それに伴う内面の葛藤、および日常生活への影響についての記録である。
記憶喪失の原因と医師の敗北
・上条当麻は七月末に入院した出来事によって記憶喪失に陥っている。
・彼の失われた記憶は、いかなる怪我や病気も治し寿命すら克服したと言われる学園都市の凄腕の医師「冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)」をもってしても戻すことができなかった。
・この事象は、その医師にとっての「初めての敗北」になったと言われている。
インデックスとの関係性における葛藤
・上条は現在、魔術サイドの少女であるインデックスと学生寮の自室で同居している。
・しかし、彼自身はなぜ彼女と同居するようになったのかを覚えておらず、気がついたらすでに一緒にいたというのが正直な認識である。
・さらに重要な点として、インデックス本人は上条が記憶喪失であることを知らない。
・彼女は上条に対して無防備な寝姿を見せるほどの強い信頼を寄せているが、上条は「彼女が信頼しているのは記憶を失う前の上条当麻であり、今ここにいる自分ではない」と冷静に自覚している。
・そのため、彼女の無防備な態度を勘違いしてはいけないと必死に自制しつつ、複雑な思いを抱えながら接している。
日常生活への影響
・記憶喪失は、学校をはじめとする日常的な人間関係の認識にも影響を及ぼしている。
・夏休みの最終日の早朝に街で出会った土御門元春や青髪ピアスについても、上条にとっては「共にクラスメイトらしい」という認識に留まっている。
・なぜなら彼は記憶喪失になって以降、学校の授業風景を見たことがない状態だからである。
まとめ
このように、上条当麻は記憶喪失という事実をインデックスに隠したまま日常を送っている。この状況が、彼自身の内面に「過去の自分」に対する引け目や葛藤を生み出す要因となっている。
夏休みの宿題
『とある魔術の禁書目録5』における「夏休みの宿題」は、八月三十一日という夏休み最終日の学園都市を舞台に、主人公の上条当麻を精神的・物理的に追い詰める重要な要素として描かれている。世界を救う戦いの裏で、学生としての義務に翻弄されるエピソードの詳細は以下の通りである。
学園都市の8月31日の風景
人口の約八割を学生が占める学園都市において、夏休みの最終日は独特な街並みへと変化する。
・多くの学生が残った宿題を片付けるために自室へ引きこもる日である。
・普段は非常に賑やかな街の表通りも人影がまばらになり、ゴーストタウンのような状態となる。
上条当麻の絶望的な状況
上条当麻は夏休みの最終日になっても、一切の宿題に手を着けていない状態であった。
・深夜、インデックスが鼻血を拭くために差し出した紙が「数学計算問題集」の頁であったことで、残り二十四時間という現実に気づき絶望する。
・残された課題は数学の因数分解、英語のプリント、現国の読書感想文(テーマは『桃太郎』)など大量に及ぶ。
・期限内に終わらせなければ月詠小萌先生による厳しい個人授業(補習)が待っているため、徹夜での処理を決意する。
宿題を阻む絶え間ないトラブル
上条は宿題の消化を試みるが、次々と発生する予測不能な事件によって作業をことごとく妨害される。
・御坂美琴の「恋人役」としての依頼に付き合わされ、その後にアステカの魔術師である偽の海原光貴との死闘に巻き込まれる。
・ファミリーレストランで読書感想文を進めようとした際、インデックスから『桃太郎』にまつわる凄惨なオカルト解説を聞かされて集中を乱される。
・さらにウェイトレスが転倒したことで、書きかけの原稿用紙が料理の山に埋もれてしまう。
・別の魔術師である闇咲逢魔の急襲を受け、彼の操る空気の刃によって原稿用紙を粉々に切り刻まれて紙吹雪にされる。
・闇咲との戦闘に勝利した後も、宿題の達成が絶望的になった上条は、拉致されそうになった状況を逆手に取り「宿題を忘れた言い訳をそちらで用意しろ」と魔術師に詰め寄り、同行する前に宿題を持って行ってよいか尋ねるほど追い詰められる。
常盤台中学と海原光貴の事情
宿題に苦しむ上条に対し、周囲の人間は異なる状況や事情を抱えている。
・御坂美琴は上条の古文のプリントを淀みなく解いてみせるが、彼女が通う名門・常盤台中学にはそもそも夏休みの宿題が存在しない。「長期休暇で気が緩んだり学力が低下したりすることはない」というエリート校ならではの前提があるためである。
・偽の海原光貴も上条の古文の宿題に対して正しい解答を教えてサポートする。
・なお、本物の海原光貴の成績が優秀である理由について、美琴は彼の能力である念動力を利用してテスト問題が映るモニターの電気信号を読み取るという、高度なカンニングによるものであると指摘している。
まとめ
このように、上条当麻にとっての夏休みの宿題は、魔術師たちとの死闘や日常の不運が重なった結果、クリア困難な絶望的ミッションへと変貌した。どれほど過酷な戦いを経てもなお、学生としての日常の義務と恐怖に引き戻される描写は、本作のコミカルかつリアルな世界観を象徴している。
一方通行と打ち止め
『とある魔術の禁書目録』第5巻における、学園都市第一位の超能力者である一方通行(アクセラレータ)と、打ち止め(ラストオーダー)の出会い、および一方通行の心情と行動の変化についての記録である。本件は、破壊の代名詞であった能力者が他者を守る存在へと転換した重要な契機として位置づけられる。
二人の出会いと打ち止めの正体
八月三十一日の深夜、能力者への襲撃を繰り返す不良たちを返り討ちにして帰路についていた一方通行の前に、一人の少女が現れた。
・少女は空色の毛布を被った十歳前後の容姿をしていた。
・その正体は、一方通行がかつて一万人以上殺害した御坂美琴のクローン「妹達(シスターズ)」の最終ロットである検体番号二〇〇〇一号、通称「打ち止め(ラストオーダー)」であった。
・彼女は、二万人の妹達が暴走した際に全体へ停止命令を送るための安全装置(管理者)として製造された存在であり、意図的に肉体も人格も未完成な状態に留め置かれていた。
・絶対能力進化実験の凍結に伴い培養器から放り出された彼女は、研究者とコンタクトを取りたいという目的や、誰かと一緒にいたいという理由から、かつての虐殺者である一方通行の部屋に転がり込んだ。
打ち止めの言葉と一方通行の気づき
打ち止めは一方通行に対し、全く恐怖を抱くことなく対等な人間として接した。
・ファミリーレストランでの食事中、彼女はミサカ単体の命にも価値があり、自分が死ねば悲しむ人がいると教えてもらったため、これ以上は一人だって死なせないと真っ直ぐな瞳で宣言した。
・さらに彼女は、一方通行が実験中に何度も妹達に話しかけていた事実を指摘した。
・この問いかけをきっかけに、一方通行は自分がただ八つ当たりで妹達を殺していたのではなく、本当は誰かに止めてほしかったのではないかという自身の本心に気づき始めることとなった。
ウィルス感染と究極の選択
しかし、打ち止めの脳内には元研究員の天井亜雄によって、世界中の妹達を無差別に暴走させるためのウィルスコードが仕込まれていた。
・ウィルス起動のタイムリミットが迫る中、研究者の芳川桔梗は世界規模の暴走を防ぐための唯一の確実な手段として、ウィルスの中継核である打ち止めを殺害(処分)するよう一方通行に命じた。
・これまで自分は殺すことしかできないと自嘲してきた一方通行であったが、彼はたった一人の少女を助けるため、自身の存在意義をかなぐり捨てて彼女を守ることを決意した。
命を懸けた救出とヒーローとしての目覚め
一方通行は自身の能力であるベクトル操作を極限まで応用し、生体電気を操作して打ち止めの脳内に直接干渉し、ウィルスコードの除去(上書き修正)を開始した。
・作業の最中、気絶していた天井亜雄が目を覚まし、一方通行の額を拳銃で撃ち抜いた。
・脳内の演算に全力を注いでいたため反射の能力を解いていた一方通行であったが、撃たれてもなお打ち止めから手を離さず、死の淵でウィルスの除去を完遂させた。
・その後、天井が打ち止め自身を射殺しようとした瞬間、血まみれの一方通行が立ち上がり、彼女を庇った。
・彼は、たとえ自分たちがどれほど腐ったクズであっても、このガキが見殺しにされていい理由にはならないと叫んだ。
・救いを待っていても誰も助けに来ないこの世界で、都合の良いヒーローがいないのなら、その場にいる自分がやるしかないと悟ったのである。
結幕
最終的に重傷を負って倒れた一方通行であったが、芳川桔梗や凄腕の医師「冥土帰し」の尽力により一命を取り留めた。
・脳の前頭葉を損傷し、言語機能や演算能力を失うという能力者として致命的な代償を負うこととなった。
・しかし、その欠損機能は、彼が命を懸けて救った打ち止めをはじめとする「ミサカネットワーク」の並列演算によって補われることとなった。
この一連の出来事は、ただ破壊することしか知らなかった一方通行が、誰かを守ることを知る決定的な転機となった。打ち止めとの出会いによって彼の内面に宿った光は、学園都市の闇の中で新たな意味を持ち始めている。
学園都市最強の能力
学園都市における最高位の能力者である超能力者(レベル5)の中でも、突出した性能を持ついくつかの能力は、各系統における最強と位置づけられている。その中でも特に象徴的な3つの能力について、それぞれの特性と具体的な応用実績を解説する。
学園都市最強の能力:一方通行(アクセラレータ)
学園都市第一位の超能力者が持つ、都市全体の頂点に君臨する能力である。
・皮膚に触れた運動量、熱量、電気量など、あらゆる力のベクトル(向き)を自在に変更し、操作することができる。
・通常時は、生存に必要な最低限の力(重力、気圧、光量、酸素、熱量など)だけを無意識のうちに算出し、それ以外の不要なすべての力の向きを自動的に反射する設定にしている。これにより、奇襲や凶器による攻撃はもちろん、核ミサイルの直撃を受けたとしても傷つくことのない絶対的な防御力を誇る。
・能力者自身はこれまで何かを壊すための滅ぼす力としてこの能力を認識していたが、極限状態においては、対象の脳内にある微細な生体電流のベクトルを精密に予測演算し、脳波(電気信号)を操作して直接ウィルスコードを書き換えるという、極めて高度な精密操作を成し遂げている。
発電系最強の能力:超電磁砲(レールガン)
学園都市第三位の超能力者である御坂美琴が持つ能力である。
・音速の3倍でコインを撃ち出す主力技をはじめ、磁力を高度に操作して砂鉄の剣を作り出したり、巨大な鉄板を投げ飛ばしたりする戦術を展開できる。
・マイクロ波による空間感知(レーダー)や、電気信号の直接操作による電子機器のハッキングなど、圧倒的な高火力、防御力、機動力を兼ね備えた万能な能力として確立されている。
精神系最強の能力:心理掌握(メンタルアウト)
学園都市第五位の超能力者である食蜂操祈が持つ能力である。
・人の心の分野において不可能はないと言われるほど万能であり、人間の精神を完全に支配して操作する力を有する。
・具体的な効果として、対象の記憶の改竄、読心、心理誘導、さらには相手の精神に干渉して強烈な幻覚を投影して屈服させるなど、多彩な精神干渉が可能である。
まとめ
このように、学園都市において最強と呼ばれる能力は、単なる物理的な破壊力の高さだけを意味するものではない。それぞれの分野における絶対的な優位性と、状況に応じて多角的なアプローチを可能にする極めて高度な応用力を備えている点が、最強たる所以である。
御坂美琴の偽装工作
御坂美琴が上条当麻を巻き込んで行った「恋人役」の偽装工作について、事の経緯と結末を解説する。本件は、付きまとわれていた男を遠ざけるために突発的に仕組まれたものであったが、周囲を巻き込むトラブルへと発展した。
偽装工作の目的と背景
夏休みの終盤、美琴は常盤台中学の理事長の孫である海原光貴に付きまとわれていた。海原は容姿端麗で物腰も柔らかい青年であったが、美琴に対して常に隙のない態度で接していた。そのため美琴は四六時中気を遣わなければならず、彼に対して強い苦手意識を抱いていた。ある日、強引に同行しようとする海原から逃れるため、美琴は咄嗟に「他の男と待ち合わせをしている」と嘘をつき、恋人がいるように見せかける偽装工作を企てた。
恋人役の選定
工作を思いついたものの、当日は八月三十一日であった。学園都市の学生のほとんどが夏休みの宿題に追われて寮に引きこもっており、街には人影がなかった。絶望しかけた美琴の前に、偶然上条当麻、土御門元春、青髪ピアスの三人組が通りかかった。美琴は三人の中から恋人役を選別した。
・青髪ピアス:守備範囲が広すぎるため、危険思想の持ち主として除外された。
・土御門元春:実の妹に対する執着が強く、危険人物とみなされ除外された。
・上条当麻:消去法の結果、本心では不本意ながらも消極的な選択として標的に決定された。
偽装工作の強行と発生したトラブル
美琴は海原の制止を聞かずに上条へ突撃し、背後から抱きついて恋人を装った。しかし、この行動が原因で以下のトラブルが発生した。
・上条の友人たちが「常盤台の中学生に抱きつかれている」と大騒ぎを始めた。
・現場が常盤台中学の女子寮の目の前であったため、白井黒子を含む寮生たちが一斉に窓から顔を出した。
・さらに寮監が現れ、寮の眼前で逢引をする度胸を咎めるような無言の圧力をかけてきた。
パニックに陥った美琴は、上条を引きずったまま一時間近くも学園都市内を逃げ回る事態となった。
偽装工作の結末と心理的影響
逃走の末に落ち着きを取り戻した美琴は、上条に高級なホットドッグを奢り、正式に恋人のフリをして海原を諦めさせてほしいと依頼した。しかし、上条はこの協力を拒絶した。
上条はジュースを買いに行っている間に海原と会話を交わしており、海原が何度断られても諦めない真っ直ぐな想いを持っていることを知った。海原は「本気で拒絶されて自分がどうなろうと、彼女が幸せになれるなら構わない」と語っていた。その真剣さを知った上条は、本当にボロボロになるまで傷つくのを覚悟し、さらに傷ついた後にお前を逆恨みしないと決意している人間を騙すことはできないと判断した。
この上条の拒絶に対し、美琴の心境には大きな揺らぎが生じた。美琴は、自分が上条にとって名簿に名前があれば気にかけてもらえる程度には近づいていると思っていた。しかし、上条が自分の味方をせず、海原の想いを素直に認めて応援するような態度をとったことに激しく動揺した。美琴はその感情の正体が分からないまま、複雑な思いを抱えて立ち尽くすこととなった。
まとめ
この一件は、苦手な相手を退けるための突発的な偽装工作であった。しかし、海原の真摯な内面を察した上条当麻が加担を拒絶したことにより、計画は失敗に終わった。結果として、美琴は海原を遠ざけることができなかっただけでなく、上条の誠実な姿勢を前にして、自身の恋心ともとれる複雑な感情を自覚させられる契機となった。
アステカ魔術師の襲撃
夏休みの終盤に学園都市で発生した、アステカの魔術師による上条当麻襲撃事件の経緯と結末について解説する。本事件は、魔術サイドが学園都市内の特定の勢力を警戒したことから引き起こされた。
襲撃者の正体と目的
上条当麻を襲撃したのは、常盤台中学の理事長の孫である海原光貴の姿に化けたアステカの魔術師である。
・彼は元々、インデックスや御坂美琴などの超能力者を擁する上条勢力が、世界のパワーバランスを崩すことを警戒した組織から監視役として派遣されていた。
・しかし、上条が短期間に複数の組織を壊滅させたことで危険視され、上条勢力を内部から崩壊させる任務へと変更された。
・身近な人物の姿を模して悪事を行うことで、周囲の信用を失わせ、疑心暗鬼を生み出して仲間の繋がりを引き裂くことが真の目的であった。
使用されたアステカ魔術
魔術師はアステカ特有の伝承に基づく魔術を行使して上条を追い詰めた。
・トラウィスカルパンテクウトリの槍:金星と災厄を司るアステカの神の名を冠した魔術である。黒曜石のナイフを鏡として金星の光を反射し、不可視の光線を放つ。この光線が接触した物体は、結合部分から完全に分解されてしまう特性を持つ。
・変装魔術:神官が生け贄の皮膚を剥いで身に纏う技術の応用である。自身の腕の皮膚を切り取って護符にすることで、本物の海原光貴の容姿を完全に再現していた。
襲撃の展開と上条の反撃
昼時のファミリーレストラン前で、上条が人混みに消えるもう一人の海原を目撃した直後、偽物の海原は背後から襲撃を開始した。
・魔術師は一般人を巻き込むことも辞さずに不可視の槍を放ち、自動車を一瞬で分解するなどの猛攻を仕掛けた。
・上条は被害の拡大を防ぐために裏路地へと逃げ込み、工事現場へ追い詰められる。
・逃走中、インデックスからの連絡で魔術の特性が金星の光の反射であると知った上条は、セメントの袋を破って周囲に撒き散らした。
・灰色の粉末によって金星の光を物理的に遮断し、さらに黒曜石のナイフに粉末が付着して鏡が曇った一瞬の隙を突いた。
・上条は懐に飛び込み、自身の右手である幻想殺しによってナイフを粉々に打ち砕いた。
魔術師の本音と結末
ナイフを破壊され、偽の顔が砕け散って素顔を晒した魔術師は、自らの本心を吐露した。
・彼はこの一ヶ月の間に学園都市や御坂美琴のいる世界を好ましく思うようになっており、本来は海原を襲うことも美琴を騙すことも望んでいなかった。
・しかし、組織の命令に逆らう強さがなく、やむを得ず敵対する道を選んでいたことが判明する。
・上条は彼の悲痛な本音を受け止め、全力を尽って戦うことを決意した。
・崩落するビルの下で激しい肉弾戦を繰り広げた末、上条は落下する鉄骨を奇跡的に回避した。
・一方で鉄骨に腕を挟まれた魔術師は戦闘不能となり、敗北を認めた。
・魔術師が美琴に危害を加えないためにわざと隙を作っていたことを見抜いた上条に対し、魔術師は自分が本当に望んでいた美琴をいつでも守るという夢を託し、上条も無言でそれを受け入れた。
まとめ
この事件は、組織の命に縛られた魔術師の葛藤と、それを正面から受け止めた上条当麻の戦いによって決着した。最終的に魔術師は敗北したものの、自らの意思を上条に託すことで、美琴を守るという真の願いを果たす道を繋ぐ結果となった。
ミサカネットワークの危機
ミサカネットワークの危機は、学園都市のみならず世界規模の破滅をもたらしかねない重大な事件である。その事の経緯と解決までの道のりについて解説する。
ミサカネットワークと打ち止めの役割
ミサカネットワークとは、御坂美琴のクローンである「妹達(シスターズ)」の脳波リンクによって構成される並列演算ネットワークである。その中で検体番号20001号である「打ち止め(ラストオーダー)」は、重要な役割を担っていた。
・2万人の妹達が反乱を起こした際に、ネットワーク全体へ停止命令を送るための「管理者(安全装置)」として製造された特別な個体である。
天井亜雄の陰謀とウィルスの脅威
絶対能力進化実験の凍結により多額の借金を背負い、逃亡を企てていた元研究員の天井亜雄は、打ち止めの脳内に不正なウィルスコードを仕込んだ。このウィルスによる脅威の詳細は以下の通りである。
・現存するすべての妹達(一万弱)にミサカネットワークを介して感染し、人間に対する無差別攻撃を強制させて暴走を引き起こす。
・当時、妹達の大半は学園都市の外部にある世界中の協力機関で再調整中であったため、一斉に暴走すればクローン能力者の存在が世界に暴露される。
・クローン能力者の存在が公になれば学園都市が世界を敵に回す事態となり、世界のパワーバランスの崩壊や、最悪の場合は世界規模の戦争へと発展しかねない未曾有の危機であった。
タイムリミットの罠と究極の選択
天井はウィルス起動のタイムリミットを9月1日午前0時と見せかけていたが、それはダミーの情報であった。
・実際には8月31日の午後8時過ぎに、前倒しで起動準備が開始された。
・事態を察知した研究者の芳川桔梗は、ワクチンプログラムの作成が間に合わないと判断した。
・世界規模の暴走を防ぐための唯一の確実な手段として、ウィルスの中継核である打ち止めを殺害(処分)することを一方通行(アクセラレータ)に命じた。
一方通行の決死の救出劇
これまで自分は殺すことしかできないと自嘲してきた一方通行であったが、芳川の提案を拒絶し、自身の存在意義をかなぐり捨ててでも目の前の少女を救うことを決意した。
・自身の能力であるベクトル操作を極限まで応用し、打ち止めの額に直接手を触れて生体電気の向きを精密に操作した。
・これにより、学習装置を介さずに脳内のウィルスコードの特定と上書き修正(削除)を試みた。
・この作業は、打ち止めが一方通行と過ごした大切な思い出のデータさえも上書きして消去してしまう危険を伴うものであったが、彼女の命を救うために作業を続行した。
危機の回避
ウィルス除去の最終盤、気絶から目を覚ました天井亜雄が一方通行に銃を向けた。
・脳内の精密な演算に全力を注いでいたため、防御用の反射を解いていた一方通行は、額を特殊弾頭で撃ち抜かれる重傷を負った。
・撃たれてもなお一方通行は打ち止めから決して手を離さず、死の淵でウィルスの除去を完遂させた。
まとめ
ミサカネットワークを介した一万人のクローンの一斉暴走という世界の危機は、かつての虐殺者であった一方通行の命を懸けた行動によって未然に防がれる結果となった。この事件は、単なる能力の暴走を止めただけでなく、一方通行が他者を守るヒーローとして目覚める決定的な転機となった。
闇咲逢魔の襲撃
夏休みの最終日、学園都市において魔術師の闇咲逢魔によるインデックス襲撃事件が発生した。本事件は、魔術の知識を渇望する魔術師の悲痛な動機と、それに対する上条当麻の救済の手が交錯した一幕である。
襲撃者の正体と能力
闇咲逢魔は、黒いスーツを着用した無骨な大男の魔術師である。
・右腕に和風の籠手と黒塗りの和弓である「梓弓(あずさゆみ)」を装着している。
・矢を射るのではなく、弦を引く音によって様々な魔術を発動する特性を持つ。
・作中では以下の多様な魔術を駆使した。
・風魔の弦:見えない空気のボールに乗って跳躍する。
・衝打の弦:見えない鉄球のような衝撃波で窓を粉砕する。
・捜魔の弦:ソナーのように対象を探知する。
・断魔の弦:圧縮空気の刃を放つ。
・透魔の弦:空間移動などを行う。
真の目的と動機
闇咲がインデックスを狙った理由は、彼女が記憶している10万3000冊の魔道書の中から、中国の魔道書『抱朴子』の知識を引き出すためであった。
・『抱朴子』には、不老不死や病、呪いを解く錬丹術の知識が記されている。
・闇咲は、病院の中庭で出会った顔見知りの女性が類似の呪いによって死に瀕していることを知り、彼女を救おうとしていた。
・魔術師になれば何でもできると信じていた彼は、たった一人の女性すら救えずに挫折することを許せなかった。
・そのため、自らの命を削り、罪を被ってでも魔道書の知識を手に入れようと決意していた。
襲撃の経緯とインデックスの誘拐
夏休みの最終日、闇咲は上条当麻の学生寮を強襲したが不在であったため、捜魔の弦で居場所を突き止めた。
・ファミリーレストランで休憩していた上条とインデックスを窓越しに見つけ、断魔の弦による空気の刃で急襲した。
・上条が自身の右手「幻想殺し(イマジンブレイカー)」で攻撃を打ち消した。
・その直後、闇咲は透魔の弦を使ってインデックスの背後へと空間移動し、彼女を拘束してそのまま虚空へ姿を消した。
ホテル屋上での儀式と魔道書の猛毒
インデックスを高級ホテルの屋上へ連れ去った闇咲は、給水塔を中心に注連縄と護符を用い、神楽舞台のような結界を構築した。
・梓弓の弦の音を増幅させ、インデックスの心の中を覗き込んで魔道書を読み取ろうと試みた。
・しかし、魔道書の知識は常人にとっては脳をえぐるほどの猛毒であり、読み取ろうとした闇咲は激しい頭痛と出血に襲われ、着実に寿命を削られていった。
・インデックスは、闇咲が女性に責任を感じさせないためにわざと「己の欲望のためだ」と悪ぶっていることを見抜き、悲痛な声で彼を止めようとした。
結末と上条による救済
携帯電話越しに事態を把握し、屋上へ駆けつけた上条が結界のロープに右手で触れてこれを破壊した。
・闇咲は「たとえこの命と引き換えにしてでも、誰かを守りたいと思うのは悪い事なのか」と問いかけながら倒れ伏した。
・原典の一冊すら入手できなかった自らの人生の挫折に絶望し、闇咲は涙を流した。
・しかし上条は、自身の幻想殺しを使えば、魔道書などに頼らなくても女性にかけられた呪いそのものを直接打ち消せるはずだと提示した。
・全く予期せぬ希望を与えられた闇咲は涙を流して上条の提案を受け入れ、呪われた女性の元へ彼を案内することとなった。
まとめ
本事件は、大切な人を救いたいという一心から、自らの命を賭して禁忌に触れようとした魔術師の悲劇的な挑戦であった。しかし、上条当麻が持つ幻想殺しという既存の魔術体系を超越した力が提示されたことで、闇咲逢魔は罪を重ねることなく、真の救済への道を歩み出す結果となった。
とある魔術の禁書目録(4)レビュー
とある魔術の禁書目録(6)レビュー
登場キャラクター
学園都市の学生・関係者
上条当麻
学園都市の高校生であり、記憶喪失であることを隠しながら日常を送っている。インデックスと同居しており、彼女の無防備な態度に葛藤を抱えつつも接している。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
学園都市の男子高校生。無能力者。
・能力の詳細または使用魔術の特性
右手に宿る「幻想殺し(イマジンブレイカー)」の能力を持つ。異能の力であれば、魔術でも超能力でも触れただけで打ち消すことが可能である。
・作中での具体的な行動や戦果
夏休みの宿題に追われる中、アステカの魔術師の襲撃を退けた。その後、インデックスを連れ去った闇咲逢魔を追い、魔道書の知識に頼らず呪いを解く道を提示して彼を救済している。
・影響力、特筆事項、変化
短期間で複数の組織を壊滅させたことから、外部の魔術組織から「上条勢力」として極めて危険視されている。
御坂美琴
常盤台中学のエースと呼ばれる少女である。海原光貴からの誘いを断るために、偶然出会った上条当麻を恋人役に仕立て上げようと画策した。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
常盤台中学。レベル5(超能力者)の第三位。「超電磁砲(レールガン)」。
・能力の詳細または使用魔術の特性
発電系最強の能力者である。指先からコインを音速の3倍で撃ち出すほか、磁力や電磁波を高度に操作する。
・作中での具体的な行動や戦果
海原から逃れるために上条の背後から抱きついて恋人を装い、一時間近く学園都市を逃げ回った。上条に偽装工作への協力を拒絶され、彼が海原の想いを認めたことに激しく動揺する。
・影響力、特筆事項、変化
上条の誠実な態度に触れたことで、自身の恋心ともとれる複雑な感情を自覚させられる契機となった。
土御門元春
上条当麻のクラスメイトである。リアル義妹に強い執着を見せるため、美琴からは恋人役の候補として危険視された。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
学園都市の学生。上条当麻のクラスメイト。
・能力の詳細または使用魔術の特性
文書内に具体的な能力の記述は確認できない。
・作中での具体的な行動や戦果
夏休み最終日の朝に青髪ピアスとともに上条へ絡み、ラブコメ的イベントが起きないことに不満を漏らした。義妹に関する上条の発言に激怒し、拳を振るっている。
・影響力、特筆事項、変化
インデックス奪還の際、上条は彼にアステカの魔術師を預けたと認識している。
青髪ピアス
上条当麻のクラスメイトである。幅広い女性のタイプを守備範囲とする発言を行ったため、美琴から恋人役の候補から外された。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
学園都市の学生。上条当麻のクラスメイト。
・能力の詳細または使用魔術の特性
文書内に具体的な能力の記述は確認できない。
・作中での具体的な行動や戦果
夏休み最終日の朝に上条へ絡み、自身の異常なまでの女性の守備範囲を語り続けた。
・影響力、特筆事項、変化
特筆すべき地位の変化や影響力は描写されていない。
海原光貴
常盤台中学の理事長の孫である。容姿端麗で物腰も柔らかく、美琴に対して常に対等な大人として接する。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
常盤台中学の理事長の孫。大能力(レベル4)。
・能力の詳細または使用魔術の特性
念動力(テレキネシス)を持つ。テスト問題のモニタの電気信号を読み取ることで高度なカンニングを行っていると指摘されている。
・作中での具体的な行動や戦果
迷子の小学生を助け、上条に対して美琴への真剣な想いを語った。実際には一週間ずっと部活の合宿に出ていたことが判明する。
・影響力、特筆事項、変化
彼になりすましたアステカの魔術師によって、その顔と立場が悪用された。
白井黒子
常盤台中学の生徒であり、御坂美琴のルームメイトである。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
常盤台中学の生徒。風紀委員。大能力(レベル4)。
・能力の詳細または使用魔術の特性
空間移動(テレポート)の能力を持つ。
・作中での具体的な行動や戦果
女子寮の前で上条当麻に抱きついた美琴を目撃し、窓から顔を出して引きつった表情を見せた。
・影響力、特筆事項、変化
本事件においては、美琴の行動を目撃する場面でのみ登場している。
寮監
常盤台中学の女子寮を管理する女性である。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
常盤台中学女子寮の寮監。
・能力の詳細または使用魔術の特性
能力を持たない一般人である。
・作中での具体的な行動や戦果
女子寮の目の前で上条に抱きついた美琴に対し、窓辺に現れて無言の圧力をかけた。
・影響力、特筆事項、変化
特筆すべき地位の変化は描写されていない。
科学サイド(能力者・研究者・医師)
一方通行(アクセラレータ)
学園都市第一位の超能力者である。常に合理的で冷酷な振る舞いを見せるが、打ち止めとの出会いを通じて他者を守る道を選ぶ。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
学園都市・レベル5(超能力者)の第一位。
・能力の詳細または使用魔術の特性
能力名は「一方通行(アクセラレータ)」。皮膚に触れた運動量や熱量など、あらゆる力の向き(ベクトル)を自在に変更・操作する。
・作中での具体的な行動や戦果
打ち止めの脳内に仕込まれたウィルスを駆除するため、ベクトル操作を極限まで応用して生体電気を操作した。天井亜雄から頭部を銃撃されながらも、ウィルスの除去を完遂して打ち止めを救出している。
・影響力、特筆事項、変化
前頭葉を損傷して言語機能や演算能力を失う致命的な代償を負った。その欠損機能は、ミサカネットワークの並列演算によって補われることになった。
打ち止め(ラストオーダー)
御坂美琴のクローンである「妹達」の最終ロットである。無邪気な性格で一方通行を信頼し、彼が本心に気づくきっかけを作った。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
妹達(シスターズ)の検体番号20001号。
・能力の詳細または使用魔術の特性
ミサカネットワーク全体へ停止命令を送るための管理者(安全装置)として製造された。意図的に肉体も人格も未完成な状態に留め置かれている。
・作中での具体的な行動や戦果
培養器から放り出された後、一方通行の部屋に転がり込んだ。天井亜雄によって脳内にウィルスを仕込まれたが、一方通行の命を懸けた行動によって救われた。
・影響力、特筆事項、変化
彼女の存在が、ただ破壊することしか知らなかった一方通行に誰かを守ることを教える転機となった。
芳川桔梗
量産型能力者計画などに関わる研究者である。自分を甘い性格だと自覚しつつも、子供たちを守るために行動を起こす。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
学園都市の研究者。
・能力の詳細または使用魔術の特性
能力を持たない一般人である。
・作中での具体的な行動や戦果
打ち止めの頭の中に不正なプログラムが仕込まれていることに気づき、一方通行に事態の解決を依頼した。その後、天井亜雄と相撃ちになりながらも打ち止めを保護している。
・影響力、特筆事項、変化
研究所の解体と実験の中止により、研究者としての地位を失う結果となった。
天井亜雄
量産型能力者計画の元研究者である。多額の借金を背負い、逃亡のために学園都市に未曾有の危機を引き起こそうと企てた。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
学園都市の元研究員。
・能力の詳細または使用魔術の特性
妹達の人格データ設計を専門とする。
・作中での具体的な行動や戦果
打ち止めの脳内に世界中の妹達を暴走させるウィルスコードを仕込んだ。ウィルスの起動を阻止しようとする一方通行を拳銃で撃ったが、最後は芳川桔梗と相撃ちになる。
・影響力、特筆事項、変化
学園都市と外部の敵対勢力の板挟みとなり、破滅へと向かっていった。
冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)
いかなる怪我や病気も治すと言われる学園都市の凄腕の医師である。患者を決して見捨てないという強い信念を持つ。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
学園都市の医師。
・能力の詳細または使用魔術の特性
未知の理論を用いた特殊生命維持装置を開発するなど、寿命すらも克服したと言われる高度な医療技術を持つ。
・作中での具体的な行動や戦果
銃撃を受けた芳川桔梗と一方通行の緊急手術を行い、両者の一命を取り留めた。一方通行の失われた演算機能を補うため、ミサカネットワークを利用する治療法を提案している。
・影響力、特筆事項、変化
上条当麻の記憶喪失を治せなかったことが、彼にとって初めての敗北となっている。
妹達(シスターズ)
御坂美琴のクローンたちである。脳波リンクによる並列演算ネットワークを構築しており、情報を共有している。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
御坂美琴のクローン。
・能力の詳細または使用魔術の特性
ミサカネットワークと呼ばれる精神共有システムで繋がっている。
・作中での具体的な行動や戦果
本巻では大半が学園都市の外部で再調整中である。打ち止めに仕込まれたウィルスによって世界規模で暴走する危機に晒された。
・影響力、特筆事項、変化
一方通行の失われた演算能力を補うために、そのネットワークが活用されることになった。
魔術サイド
インデックス
10万3000冊の魔道書を記憶しているシスターである。上条当麻に強い信頼を寄せるが、彼が記憶喪失である事実を知らない。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
イギリス清教・必要悪の教会所属。
・能力の詳細または使用魔術の特性
完全記憶能力を持ち、頭の中に魔道書を記憶する歩く魔道書図書館である。
・作中での具体的な行動や戦果
魔道書の知識を狙う闇咲逢魔によってホテル屋上へ連れ去られた。魔道書を読み取ろうとした闇咲の意図を見抜き、彼が壊れることを防ぐために悲痛な声で止めようとする。
・影響力、特筆事項、変化
彼女が持つ知識を狙い、世界中の魔術師から標的とされる存在となっている。
闇咲逢魔
黒いスーツを着た無骨な大男の魔術師である。呪いによって死に瀕している女性を救いたいという一心から、禁忌の知識を求めた。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
魔術師。
・能力の詳細または使用魔術の特性
右腕に装着した「梓弓(あずさゆみ)」の弦を引く音によって、圧縮空気の刃や空間移動などの様々な魔術を発動する。
・作中での具体的な行動や戦果
中国の魔道書「抱朴子」の知識を得るため、インデックスを誘拐した。記憶を読み取ろうとしたが魔道書の猛毒に脳を蝕まれ、上条当麻に結界を破壊されて敗北する。
・影響力、特筆事項、変化
上条の「幻想殺し」によって呪いを直接打ち消せる可能性を提示され、涙を流して彼を女性の元へ案内することになった。
アステカの魔術師
海原光貴の姿に化けたアステカの魔術師である。組織の命令と自身の本心の間で深く葛藤していた。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
上条勢力を監視・崩壊させるために派遣された魔術師。
・能力の詳細または使用魔術の特性
変装魔術と、物体を分解する不可視の光線「トラウィスカルパンテクウトリの槍」を行使する。
・作中での具体的な行動や戦果
本物の海原光貴の皮膚を用いて変装し、上条当麻を襲撃した。工事中のビルで肉弾戦を繰り広げ、落下する鉄骨に腕を挟まれて敗北を認めている。
・影響力、特筆事項、変化
御坂美琴を好ましく思っており、上条に美琴をいつでも守るという夢を託して決着を受け入れた。
警備員(アンチスキル)
警備員
学園都市の治安を維持する対能力者用の部隊の隊員である。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
警備員(アンチスキル)。
・能力の詳細または使用魔術の特性
次世代兵器や銃器を使用して治安維持にあたる。
・作中での具体的な行動や戦果
ファミレスの窓ガラスが割られた騒動やビルの倒壊事件で上条当麻を目撃し、彼を容疑者として追跡してゴム弾を発砲した。
・影響力、特筆事項、変化
特筆すべき地位の変化は描写されていない。
その他
スフィンクス
上条当麻が飼っている三毛猫である。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
上条当麻のペット。
・能力の詳細または使用魔術の特性
能力を持たない動物である。
・作中での具体的な行動や戦果
インデックスが誘拐された後、上条とともに彼女を探す手がかりになるかと思いきや、ホテルの裏口で生ゴミを漁っていた。
・影響力、特筆事項、変化
上条の古文の宿題を咥えていった犯人として言及されている。
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展開まとめ
序章 始まりの夜 Good_Bye_Yesterday.
深夜の鼻血騒動
深夜、上条当麻は学生寮のユニットバスで鼻血を止めようとしていた。原因は柿の種に含まれていたピーナッツの食べ過ぎらしく、上条は鼻を押さえながらティッシュを探していた。
上条はインデックスと同居していたが、彼女の無防備さに耐え切れず、夜になるとユニットバスへ閉じこもって眠る生活を送っていた。インデックスは寝ぼけて鍵すら開けてしまうため、上条にとっては気が抜けない日常だった。
また上条は記憶喪失であり、インデックスが信頼しているのは「記憶を失う前の上条当麻」であることも、彼に複雑な思いを抱かせていた。
眠るインデックスの姿
ティッシュを探して部屋へ戻った上条は、ベッドで眠るインデックスの姿を目にした。ワイシャツ一枚のまま丸くなって眠る彼女は、ベッドの端へ寄り、まるでもう一人分の場所を空けているようだった。
上条は、その無防備な姿に思わず見入ってしまう。可愛らしい寝顔や白い太股に動揺しながらも、それはあくまで信頼の表れであり、自分が勘違いしてはいけないと必死に自制していた。
インデックスの誤解
しかしその時、インデックスが目を覚ました。彼女は寝ぼけながらも、ワイシャツ姿のまま自分を覗き込む上条と、鼻に詰められたティッシュを見て状況を誤解した。
インデックスは、上条が自分の寝顔を見て何も感じなかったのかと真剣な表情で問い詰めた。上条は否定しようとしたが、それではインデックスが怒り、慌てて可愛いと思ったと認めた。しかし今度は発言を翻したことを責められ、結局、頭へ噛みつかれることになった。
インデックスの噛み癖は相変わらず凶悪であり、上条は悲鳴を上げながら抵抗していた。
御坂美琴の名前
騒ぎの最中、上条は思わず「超電磁砲の美琴だってこんなに凶暴じゃない」と口走った。するとインデックスは、「レールガンノミコトとは誰なのか」と鋭く反応した。
上条は慌てて日本神話の神の親戚だなどと誤魔化そうとしたが、当然ながら通用せず、さらに噛みつかれていた。
鼻血の真相
その後、鼻に詰めていたティッシュが抜け落ち、本当に鼻血が出ていることを見たインデックスはようやく冷静さを取り戻した。上条がピーナッツの食べ過ぎだと説明すると、インデックスは「自分はピーナッツに負けたのだ」と落ち込んでいた。
しかし彼女は、その後も「上条がピーナッツに興奮して鼻血を出した」と妙な方向へ話を歪曲していた。
夏休み終了の絶望
上条が新しいティッシュを取ろうとした時、インデックスは代わりに紙を差し出した。それは「夏休みの宿題・数学計算問題集」だった。
その瞬間、上条は夏休みの宿題へ全く手を付けていなかった事実を思い出す。夏休み最終日まで残り二四時間しかない現実に気づき、上条の思考は完全に停止した。
そして彼は、乾いた笑いを浮かべながら、本当に不幸な時は「不幸だ」と叫ぶ余裕すらないのだと壊れたように呟いていた。
第一章とある科学の一方通行 Last_Order.
路地裏の襲撃
深夜の路地裏では、複数の少年達が一方通行を取り囲んでいた。彼らはナイフや警棒、催涙スプレーを手にしていたが、その扱いは素人同然だった。
しかし一方通行は全く動じていなかった。コンビニ袋を提げたまま夜空を見上げ、ぼんやりと考え事をしていた。
少年達は、一方通行が『学園都市最強』ではなくなったと信じて襲いかかっていた。『妹達』実験で上条当麻へ敗北したことが、学園都市全体へ誤解として広がっていたのである。
変わらない『最強』
最初の襲撃者が背後からナイフで刺しかかった瞬間、骨の折れる音が響いた。しかし壊れたのは一方通行ではなく、襲撃者の手首だった。
一方通行の『反射』能力によって、攻撃のベクトルがそのまま相手へ返されたのである。
続く襲撃者達も、同じように自滅していった。能力攻撃を使った者すら、自分の攻撃をそのまま返されて地面へ倒れていた。
一方通行は、彼らを戦闘相手ですらないと感じていた。『学園都市最強』は、何も変わっていなかったのである。
一方通行の変化
それでも、一方通行自身は、自分の中で何かが変わったと感じていた。以前の自分なら、襲撃者達を容赦なく殺していたはずだった。
しかし今は、倒れた敵へ止めを刺す気にもならなかった。『妹達』実験のような明確なゴールもなく、ただ暴力を振るうことへ虚しさを覚えていたのである。
そんな時、上階から男女の痴話喧嘩らしき声が聞こえてきた。一方通行は煩わしそうにその音を『反射』してしまい、その結果、上条当麻の叫び声を聞き逃していた。
毛布少女との遭遇
その後、一方通行は、自分のすぐ後ろへ張り付いて叫び続ける小柄な人物に気づいた。
頭から毛布を被った奇妙な少女であり、身長は一〇歳前後しかなかった。一方通行は音声の『反射』を解除し、初めて彼女の声を聞いた。
少女は「ミサカはミサカは」と独特な口調で話し続け、一方通行へ異常なほど馴れ馴れしく接していた。
一方通行は、その「ミサカ」という単語へ反応し、毛布を強引に引き剥がした。
打ち止めの正体
毛布の下にいたのは、『妹達』と同じ顔を持つ少女だった。しかし彼女は『妹達』より幼く、肉体年齢は一〇歳前後に見えた。
さらに問題だったのは、毛布の下に何も着ていなかったことである。
少女は、自分が『妹達』最終ロット二〇〇〇一号、「打ち止め」だと名乗った。『実験』終了によって製造途中で放り出され、肉体も人格も未完成状態だと説明した。
彼女は、自分を完成させるため研究者達と接触したいと頼み込んでいた。
学生寮への帰還
一方通行は打ち止めを連れたまま、自分の学生寮へ戻った。打ち止めは、誰かと一緒にいたいという理由だけで彼へ付き従っていた。
道中、一方通行は何度も偽の部屋番号を教えて追い払おうとしたが、打ち止めはそのたびに別人の部屋へ突入して騒動を起こしていた。
やがて本当の部屋である三一一号室へ辿り着いた時、一方通行は異変に気づく。
破壊された部屋
部屋のドアは壊され、内部は徹底的に荒らされていた。家具も家電も破壊され、壁紙や床板まで剥がされていた。
一方通行が不在中に、襲撃者達が腹いせとして部屋を破壊したのである。
しかし一方通行は、特に感慨もなく壊れたソファへ寝転がった。彼の能力は、自分自身だけは守れても、周囲の何かを守る力ではなかった。
打ち止めとの同居
打ち止めは、それでもここへ泊まりたいと告げた。危険だと忠告されても、「誰かと一緒にいたいから」と即答したのである。
一方通行は呆れながらも、それ以上拒絶しなかった。
暗闇の中、埃っぽい部屋で打ち止めが咳き込む音を聞きながら、一方通行はぼんやりと考えていた。
自分へ悪意ではなく、純粋に話しかけてくる存在など、何年ぶりだったのかと。
打ち止めの朝
翌日、一方通行は部屋へ差し込む日差しで目を覚ました。すると目の前には、打ち止めが覆い被さるようにして彼の寝顔を覗き込んでいた。
打ち止めは、一方通行の寝顔を珍しそうに観察していたが、一方通行は寝ぼけたまま彼女の声を『反射』してしまう。結果、打ち止めは自分の声を至近距離で浴びせられたような衝撃を受け、悲鳴を上げていた。
その後、一方通行は打ち止めの毛布を奪い取り、そのまま毛布にくるまって再び眠ってしまった。
荒れ果てた部屋と空腹
午後二時過ぎ、一方通行は空腹で再び目を覚ました。打ち止めはテーブルクロスを身にまとい、彼へ毛布を返して欲しいと涙目で訴えていた。
一方通行は毛布を返した後、台所を確認したが、冷蔵庫は横倒しにされ、冷凍食品も破壊されていた。昨日の襲撃者達による破壊の痕跡が残っていたのである。
打ち止めは空腹を訴え、朝食を作って欲しいと頼み込んだが、一方通行は相変わらず「寝ろ」とだけ返していた。
しかし結局、一方通行は外へ食事に出ることを決め、打ち止めも後ろからついていった。
会話の成立
八月三一日の学園都市は、夏休み最終日ということもあり、街に人影が少なかった。
歩きながら、打ち止めは一方通行の白髪や赤い瞳について質問した。一方通行は、自分の能力が紫外線すら『反射』してしまうため、体が色素を必要としなくなったのだろうと説明していた。
一方通行は、自分でも驚くほど自然に打ち止めと会話していることへ違和感を覚えていた。『妹達』との間では、一度もまともな会話が成立したことなどなかったからである。
『実験』中の会話は、全て事務的で機械的だった。しかし打ち止めとのやり取りは違っていた。そこには、確かに人間同士の会話が存在していたのである。
一方通行は、自分の中で何かが変わり始めていることを感じ取っていた。
ファミレスでの昼食
二人はファミレスへ入った。毛布一枚の打ち止めに対し、ウェイトレスは顔を引きつらせながらも接客を続けていた。
窓際の席へ座った一方通行は、外を歩く白衣の研究員・天井亜雄を見つける。
天井亜雄は『絶対能力進化実験』推進派の研究者であり、一方通行と『妹達』実験へ深く関わっていた人物だった。しかし彼は、一方通行と目が合った瞬間、怯えたように逃げ去ってしまう。
一方通行は天井の存在を気にしたが、打ち止めは「今はご飯が優先」とでも言うように、食事へ意識を向けていた。
一方通行の孤独
食事を待つ間、打ち止めは、一方通行が普通に店で注文し料金を支払っていることへ驚いていた。彼女の中では、一方通行は暴力で全てを解決する怪物のような印象だったのである。
一方通行は、自分ほどの力を持つ人間でも、結局は社会から完全に孤立して生きることはできないと語った。仮に軍隊や核兵器すら退けられても、人類社会そのものが崩壊すれば、人間らしい生活は成立しないからである。
さらに一方通行は、自分が特別クラス所属であり、学校にクラスメイトが一人もいないことも明かした。
それを聞いた打ち止めは、「寂しいのか」と尋ねる。一方通行は否定したが、その問いは彼の心へ確かな違和感を残していた。
『実験』への疑問
一方通行は、『妹達』実験について改めて考え始めていた。
もし本当に『妹達』を八つ当たりのためだけに殺していたのなら、そもそも彼女達と会話しようなどとは思わなかったはずだった。
しかし実際には、一方通行の方から何度も会話を試みていた。実験のルールから外れたイレギュラー行動を取っていたのは、むしろ一方通行自身だったのである。
その事実へ気づいた一方通行は、自分自身の本心が分からなくなり始めていた。
初めての食事
やがて打ち止めの料理が運ばれてきた。しかし彼女は料理へ手をつけず、一方通行の到着を待っていた。
理由を尋ねられた打ち止めは、「誰かと一緒にご飯を食べるのが初めてだから」と笑顔で答える。さらに「いただきます」を一緒にやってみたいと嬉しそうに語っていた。
その間、料理の湯気はすっかり消えてしまっていたが、それでも打ち止めは嬉しそうに笑っていた。
打ち止めとの食事
ファミレスでの食事が始まったものの、打ち止めはスプーンやフォークすらまともに扱えず、白米へフォークを突き刺したまま首を傾げていた。
一方通行もまた、鉄板料理をうまく切り分けられず苛立っていたが、最終的には素手で高熱の鉄板を掴んで固定していた。熱を『反射』する彼にとって火傷は存在しないため、周囲からは異様な光景にしか見えなかった。
打ち止めは、冷凍食品ばかりの料理でも「誰かと食べるご飯だから美味しい」と嬉しそうに語っていた。
『妹達』への罪悪感
そんな中、一方通行はついに打ち止めへ問いをぶつけた。
自分が『妹達』へ何をしたのか、本当に覚えていないのか、と。痛くて苦しくて辛くて悔しかったはずなのに、なぜ平然としていられるのか、と。
操車場で上条当麻が乱入した後、『妹達』の一人は確かに一方通行へ敵意ある視線を向けていた。その記憶が、一方通行の中で強く残っていたのである。
ミサカネットワークの正体
打ち止めは、自分達『妹達』が「ミサカネットワーク」という精神共有システムで繋がっていると説明した。
個々の『妹達』は脳細胞のような存在であり、脳波リンクがシナプスの役割を担っている。そして「ミサカネットワーク」という巨大な一つの脳が、全ての『妹達』を統括しているというのである。
『妹達』一人一人が死んでもネットワーク自体は消滅しない。しかし、その個体が持っていた経験や記憶だけは失われる。だから痛みも恐怖も、確かに存在していた。
その説明を聞いた一方通行は、打ち止め達が人間とは別種の生物のように思え、強烈な嫌悪感を覚えていた。
打ち止めの宣言
しかし打ち止めは、そこで考えを変えたと語る。
彼女は、上条当麻との出会いによって、「『ミサカ』全体ではなく、一人一人の命にも価値がある」と教えられていた。
この『ミサカ』が死ねば悲しむ人間がいる。だからもう、自分達は死んではいけない。これ以上、一人も死なせてはいけない。
打ち止めは、人間らしい真っ直ぐな瞳でそう宣言していた。
一方通行の混乱
その言葉は、一方通行をさらに混乱させた。
彼は、自分が『実験』を嫌々やらされていた訳ではないと否定する。『妹達』の命など気にも留めていなかった、それだけの話だと、自分自身へ言い聞かせるように語っていた。
しかし打ち止めは、そこで問い返した。
それなら、なぜ『実験』中に何度も『妹達』へ話しかけたのか、と。
一方通行は、『実験』中、自分から何度も『妹達』へ言葉を投げかけていた。会話を試みていたのである。
もし本当に単なる八つ当たりや殺戮欲だけだったなら、そもそも会話など必要なかったはずだった。
本当に望んでいたもの
一方通行は、自分が『妹達』へ問いを投げ続けていた理由を考え始める。
もしかすると彼は、最初から「止めて欲しかった」のではないか、と。
もし『妹達』が、本当に死にたくないと叫び、自分達の命を守って欲しいと訴えていたなら。一方通行は、『実験』を止めていたのではないか。
なぜなら『実験』の中心は一方通行自身であり、彼が拒否すれば、研究者達に実験続行は不可能だったからである。
そして彼は思い出す。何度倒されても立ち上がり、自分を止めた上条当麻の姿を。
最後に拳で殴り倒された瞬間、自分の中で何かが変わった。その答えが、今ようやく理解でき始めていた。
打ち止めの異変
だが、その直後だった。
突然、打ち止めがテーブルへ突っ伏した。彼女の全身からは異常な汗が噴き出し、呼吸も弱々しくなっていた。
打ち止めは、自分が最終ロット二〇〇〇一号であり、本来なら培養器から出してはいけない未完成状態だったと明かす。
これまでは騙し騙しやってこられたが、限界が来たのだろうと、苦笑しながら語っていた。
無力感
一方通行は、自分に何もできないことを痛感していた。
学園都市最強の能力を持っていても、それは誰かを守る力ではない。壊れていくものを前に、ただ立ち尽くすことしかできない力だった。
彼は感情を消したような顔で席を立ち、伝票を掴んでレジへ向かった。
打ち止めは「ごちそうさまも言ってみたかった」と寂しそうに呟いていたが、一方通行は「残念だったな」とだけ返し、その場を去っていった。
研究所への決意
しかし、一人で街を歩きながらも、一方通行の脳裏には打ち止めの言葉が何度も浮かんでいた。
自分には誰かを助ける資格などない。『妹達』を地獄へ突き落とした張本人が、今さら正義の味方を気取るなど滑稽だと理解していた。
それでも彼は、気づけば『妹達』を生み出した研究所の前まで来ていた。
ここなら、打ち止めの未完成な身体を調整できる培養設備がまだ残っているかもしれない。
一方通行は、自分の行動が筋違いだと理解しながらも、それでもたった一人の少女を助けるため、研究所の敷地へ足を踏み入れていた。
第二章とあるお嬢の超電磁砲 Doubt_Lovers.
常盤台女子寮の朝
八月三一日早朝、常盤台中学女子寮では、夏休み中でも普段通りの厳格な生活リズムが維持されていた。午前七時起床、七時三〇分には食堂集合という規律ある日常である。
その中で御坂美琴は、巨大食堂で朝食を終えながら、いつものように漫画雑誌の立ち読みについて考えていた。夏休み中で時間に余裕があるため、今日は朝からコンビニへ向かうつもりだったのである。
美琴は超能力者でありながら、お嬢様らしからぬ庶民的な趣味を隠し持っていた。
メイド見習いとの会話
食堂では、他校の家政学校から実習へ来ているメイド見習い・土御門舞夏とも軽口を交わしていた。
舞夏は少女向け漫画や兄妹物の話題を平然と口にし、美琴は呆れながらも付き合っていた。
常盤台の女子寮は格式高い環境ではあるものの、そこで暮らす少女達は結局普通の中学生なのだと、美琴は改めて感じていた。
海原光貴との遭遇
学生寮を出た美琴は、近未来的な第七学区の街並みを眺めながらコンビニへ向かった。だが、その直後、海原光貴に声を掛けられる。
海原は常盤台理事長の孫であり、容姿端麗かつ物腰柔らかな青年だった。しかし美琴は、彼を非常に苦手としていた。
理由は権力ではなく、彼が常に「大人」として完璧に振る舞うことだった。海原は美琴へ対等な目線で接しながらも、距離感だけは絶対に崩さない。その落ち着きが、美琴には妙に息苦しかったのである。
しかも最近の海原は、以前より積極的に美琴へ付き纏うようになっていた。
海原の強引な誘い
海原は、スポーツや食事へ自然に美琴を誘い始めた。美琴は断ろうとするが、海原は即座に予定へ同行しようとしてくる。
美琴は咄嗟に「今から下着売り場へ行く」と嘘をついた。しかし海原は全く動じず、「ご一緒しますよ」と爽やかに返してしまう。
完全に追い詰められた美琴は、偽の恋人役を用意して海原を引かせようと考え始めた。
上条達との遭遇
その時、通りの向こうから三人の男子高校生が現れた。上条当麻、土御門元春、青髪ピアスである。
上条当麻は、本来なら夏休み最終日の宿題へ追われているはずだった。しかし宿題から逃避するようにコンビニへ缶コーヒーを買いに出たところ、友人二人に捕まってしまっていた。
土御門と青髪ピアスは、夏休み最後にラブコメ的イベントが起きないことへ不満を漏らし続けていた。
空から女の子が降ってくる、許婚が待っている、女性ばかりに囲まれるなど、現実味のない妄想を延々と語る二人へ、上条は疲れ切った反応を返していた。
さらに青髪ピアスは、自分の守備範囲を異常な勢いで語り始め、土御門はリアル義妹への執着を見せていた。
御坂美琴の絶望
美琴は、その三人組を見た瞬間、完全に固まってしまった。
恋人役に使うなら三人の誰かしかいない。しかし青髪ピアスは危険思想の塊にしか見えず、土御門も妹絡みで危険人物にしか思えなかった。
そして残る一人は、よりにもよって上条当麻だった。
美琴は激しく葛藤する。だが他に人影はなく、このままでは一日中海原と行動する羽目になる。
最終的に、美琴は覚悟を決めた。
御坂美琴の突撃
海原の制止も聞かず、美琴は目を閉じたまま全力で駆け出した。
標的は、まだこちらへ気づいていない上条当麻だった。
御坂美琴の強行突破
御坂美琴は、上条当麻達三人へ向かって突然「ごめーん、待ったー?」と声をかけた。
当然ながら、上条達は女の子と待ち合わせなどしていなかったため、一瞬何が起きたのか理解できなかった。だが次の瞬間、美琴は勢いよく上条へ飛びつき、そのまま二人は歩道へ転がり込む。
上条は相手が御坂美琴だと気づいて驚愕するが、美琴は小声で「話を合わせて」と必死に頼み込んでいた。
常盤台女子寮の誤解
青髪ピアスと土御門元春は、突然の展開に大騒ぎし始めた。美琴は普段なら電撃を飛ばして黙らせるところだったが、この時は海原光貴へ演技を見せる必要があり、必死に耐えていた。
さらに美琴は、わざと大声で「待った待ったー? お詫びに何か奢ってあげる」と演技を続ける。
しかしその直後、常盤台女子寮の窓が一斉に開いた。女子生徒達が興味津々でこちらを見下ろしており、白井黒子まで顔を引きつらせながら騒いでいた。
さらに寮監らしき女性が窓辺へ現れ、美琴の脳内へ「寮の目の前で逢引とは良い度胸だ」と言わんばかりの圧力を叩き込んでくる。
完全に追い詰められた美琴は、上条の手を掴んだまま絶叫し、逃げ出していた。
一時間の逃走劇
その後、美琴は上条を引きずったまま、学園都市を一時間近く走り回った。
上条は宿題の存在を思い出して抗議するが、美琴は「少し気持ちを整理させて」と半ば錯乱状態だった。
やがて裏路地のベンチ付近でようやく落ち着いた美琴は、改めて事情説明を始める。海原光貴へ付き纏われて困っていること、恋人がいるように見せかけて諦めさせたいこと、そして偶然目に入ったのが上条達だったことを打ち明けた。
二〇〇〇円のホットドッグ
美琴は説明のついでに、上条を高級ホットドッグ屋台へ連れていった。
そのホットドッグは一個二〇〇〇円もしたが、見た目は普通のホットドッグとほとんど変わらなかった。上条は値段へ絶句するが、美琴は平然と二人分を支払ってしまう。
上条は、自分の分ぐらい払うと抗議するものの、美琴は「財布を出す方が面倒」とお嬢様らしい感覚で返していた。
恋人役の依頼
ベンチへ座った二人は、ホットドッグを食べながら改めて話を続けた。
美琴は、今日一日恋人役として一緒に行動して欲しいと頼む。できるだけ多くの人へ見られれば、海原も諦めるだろうと考えていたのである。
上条は、中学生と付き合っているように見える状況へ危機感を覚えながらも、美琴を怒らせると厄介だと判断し、強く断れなかった。
マスタード騒動
会話中、美琴はホットドッグのマスタードを鼻へつけてしまう。上条に指摘されると、美琴は顔を真っ赤にして慌てて拭き取ろうとした。
しかし急ぎ過ぎた結果、今度はマスタードが鼻の粘膜へ入り込み、涙目になりながら必死に平静を装う羽目になる。
上条は心配してティッシュを差し出すが、美琴は「何も起きていない」と強引に押し切ろうとしていた。
間接キス騒動
その後、二人はどちらのホットドッグが誰のものだったか分からなくなってしまう。
上条は気にせず適当に手を伸ばしたが、美琴は異常なほど慌てて確認を始めた。最終的には区別がつかず、上条が適当に選んだ方を食べることになる。
すると美琴は突然静かになり、顔を真っ赤にしながらホットドッグを小動物のように齧り始めた。
上条は何が問題なのか全く理解していなかったが、美琴は完全に「間接キス」を意識していたのである。
恋人らしさへの困惑
その後、二人は「恋人らしい行動とは何か」という根本的な問題へ直面した。
何をすれば恋人らしく見えるのか、そもそも二人とも分かっていなかったのである。
結局、ベンチで普通に世間話をすることになったが、街には人がおらず、そもそも作戦自体が成立していないことへ上条は気づき始めていた。
宿題と勉強会
会話の流れで、美琴は常盤台には夏休みの宿題が存在しないと明かした。
上条は理不尽さへ絶望するが、美琴は逆に上条の古文プリントを見て、軽々と問題を解き始める。
しかも美琴は、上条へ身体を密着させるような姿勢でプリントを覗き込み、自然に肩や頬が触れそうな距離まで接近していた。
上条は強烈に動揺するが、美琴本人はそれを全く自覚していなかった。
海原光貴の本心
やがて美琴はジュースを買いに席を外す。
その間、上条は偶然、逃げた犬を助けていた海原光貴と遭遇した。海原は迷子の小学生へ優しく対応しており、その姿はどこまでも爽やかだった。
海原は上条へ近づき、御坂美琴との関係を尋ねる。そして、美琴が好きだとはっきり口にした。
上条は、その真っ直ぐさへ思わず感心してしまう。海原は他人を蹴落とすタイプではなく、自分自身を高めることで相手へ向き合おうとしていたのである。
海原光貴との会話
上条当麻は、海原光貴と並んでベンチに座りながら、古文の宿題を進めていた。海原は問題を正確に解きつつ、御坂美琴について語っていた。
海原は、美琴はもっと「好き」と「嫌い」をはっきり口にするべきだと語る。彼によれば、美琴は感情を素直に見せているようでいて、実際には照れや演技で本音を隠しているらしかった。
さらに海原は、自分が何度断られても諦めきれない理由についても語っていた。本気で拒絶された時、自分がどうなるか分からないほど恐ろしい。それでも、美琴が幸せになれるなら構わないと。
その真っ直ぐな言葉に、上条は思わず海原を応援したくなってしまう。だが同時に、美琴から頼まれている「恋人役」としての立場との板挟みにもなっていた。
御坂美琴の嫉妬
そこへ、ジュースを買って戻ってきた美琴が現れる。
美琴は、上条と海原が親しげに会話している光景を見て、明らかに不機嫌になっていた。彼女は強引に上条を連れ去ろうとし、「今日はこの人と外せない用事がある」と海原へ告げる。
海原は無理に引き留めようとせず、「行ってあげてください」と笑顔で送り出していた。
恋人役への苛立ち
裏路地へ移動した後、美琴は上条へ怒りをぶつける。
恋人役を頼んだのは、海原を諦めさせるためだった。それなのに、上条が海原と仲良くなってしまっては意味がない、と。
しかし上条は、海原の本気を見てしまった以上、彼を騙したくないと正直に答える。傷つく覚悟を決め、それでも美琴を逆恨みしないと断言できるような人間を、自分は欺けないと語った。
その言葉を聞いた美琴は、大きく動揺していた。
御坂美琴の揺れる感情
美琴は、なぜ自分がここまで動揺しているのか理解できずにいた。
自分は、上条にとって少しは特別な存在なのではないかと思っていた。千人分の名前が並んだ名簿の中でも、「御坂」という名字を見れば少しぐらいは気に留めてもらえると思っていたのである。
だが実際の上条は、海原の真剣さを素直に認め、応援したいとまで言っていた。
その事実が、美琴の心へ強い衝撃を与えていた。だが、その感情の正体を自分でも理解できない。逃げ出したいと思う一方で、上条から離れたくないとも感じていた。
最終的に美琴は、自分自身へ「馬鹿だな」と呟きながら、その感情を押し殺していた。
海原への評価
その後、二人は今後どうするかを話し合う。
上条は、もう恋人役を続ける意味はないのではないかと提案する。海原は、断られた程度で逆上するような人物には見えなかったからである。
一方、美琴は海原について「最近急に積極的になって怖い部分もある」と語っていた。
さらに美琴は、海原の成績が実は能力を使ったカンニングによるものだと説明する。海原の能力『念動力』を利用し、テスト問題を作成するモニタから情報を盗み見ていたのである。
上条は、人間が生身でそんな芸当を行えることに驚愕していた。
再び現れる海原光貴
昼食時になり、美琴はハンバーガーを買うため店内の行列へ並んだ。
上条は外で待っていたが、そこへ再び海原光貴が現れる。海原は、美琴の様子を気にしながら上条へ声をかけてきた。
その時だった。上条は、ファーストフード店へ飛び込んでいく「もう一人の海原光貴」を目撃する。
顔も服装も本物そっくりだったが、その人物は全身汗だくで、異様な雰囲気を漂わせていた。
海原本人は兄弟など存在しないと否定し、「肉体変化」という能力者の存在について言及する。
偽者の正体
さらに会話を続ける中で、上条は決定的な事実を知る。
美琴の話では、海原はこの一週間ずっと彼女へ付きまとっていた。しかし本物の海原は、その期間ずっと部活の合宿へ出ていたというのである。
つまり、美琴の周囲にいた「海原光貴」は別人だった。
上条がその違和感へ気づいた直後、背後から強烈な衝撃が叩き込まれる。
偽海原の襲撃
上条を攻撃したのは、本物ではない「偽の海原光貴」だった。
偽者は、人混みの中でも周囲へ気づかれない暗殺技術で上条を攻撃してくる。さらに黒い石の刃物を取り出し、それを使って不可視の攻撃を放った。
その攻撃は、自動車を一瞬でバラバラに分解してしまう。切断ではなく、ネジやボルト単位で完全に分解する異様な力だった。
上条は、その現象から相手が「魔術師」であると理解する。
しかも敵は、周囲の一般人への被害など一切考慮していなかった。流れ弾だけでも大量の被害が出る危険な状況だったのである。
裏路地への逃走
上条は、一般人を巻き込まないため、大通りから脇道へ飛び込んで逃走を開始する。
背後からは、見えない攻撃を持つ偽海原が静かに追跡してきていた。
魔術師からの逃走
上条当麻は、裏路地を全力で逃げながら、追跡してくる魔術師について考えていた。相手は不可視の「槍」を使って攻撃してくるが、命中精度や連射性能は高くないらしかった。
それでも、背後から常に命を狙われている状況は凄まじい重圧となっていた。上条は震える指で携帯電話を操作し、インデックスへ連絡を取る。
インデックスによる解析
インデックスは、上条の説明から敵の術式を即座に看破した。
黒曜石のナイフを鏡として使い、金星の光を反射することで「トラウィスカルパンテクウトリの槍」という魔術を発動しているというのである。
その槍は、神話では金星の光を浴びた者を殺すとされる災厄の槍だった。もっとも、人間が扱えるのは本物ではなく劣化版に過ぎず、金星の光を遮断すれば攻撃自体を封じられるらしい。
上条は、見えないレーザー兵器のようなものだと理解する。
アステカ魔術の不気味さ
さらにインデックスは、「海原光貴」への変装もアステカ系魔術の一種だと説明した。
本来は生け贄の皮膚を剥いで着るような技術であり、単純な変装なら腕の皮膚を少し切り取って護符にすれば姿形を真似できるらしい。
その説明に、上条は背筋へ嫌悪感が走るのを感じていた。
工事現場での反撃
逃走を続ける上条は、工事中のビルへ追い込まれてしまう。
そこへ魔術師が現れ、再び槍を放とうとする。だが上条は、近くにあったセメント袋へシャベルを突き刺し、中身を周囲へ撒き散らした。
灰色の粉末によって空間が覆われ、金星の光と黒曜石の鏡を繋ぐ経路が遮断される。結果として、魔術師の槍は発動しなかった。
その隙を突き、上条は肉弾戦へ持ち込む。
黒曜石のナイフ破壊
一度は突風によってセメントの幕が吹き飛ばされ、魔術師は再び槍を発動しようとする。
しかし黒曜石のナイフにはセメントの粉が付着しており、鏡面が曇っていた。槍は不発に終わる。
その一瞬の隙を逃さず、上条は懐へ飛び込み、拳で黒曜石のナイフごと打ち砕いた。幻想殺しの力によって、魔術の媒体は粉々に破壊される。
偽海原の素顔
殴られた衝撃で、「海原光貴」の顔面がガラスのように砕け散った。
その下から現れたのは、海原より幼く、浅黒い肌をした少年だった。海原の皮膚が破片のように残っている様子は異様だった。
上条は激昂し、なぜ海原へ化けたのかを問い詰める。御坂美琴まで狙うつもりだったのか、と。
魔術師の目的
魔術師は淡々と語り始めた。
彼は元々、上条個人ではなく「上条勢力」を監視するために学園都市へ送り込まれていた。
インデックスという魔道書図書館、イギリス清教の魔術師、常盤台の超能力者など、科学側と魔術側の両方へ繋がりを持つ上条当麻は、新たな勢力として危険視されていたのである。
本来は問題なしと報告して終わる予定だった。しかし上条は、この夏だけで複数の組織を壊滅へ追い込み、しかも金や権力で制御できない存在だった。
その結果、「上」は上条勢力を危険と判断し、魔術師へ破壊工作を命じたのである。
内部崩壊工作
魔術師は、知り合いへ化けながら上条勢力を内部から崩壊させるつもりだった。
誰かの顔で悪事を行い、信用を失わせる。さらに「誰が偽物か分からない」という疑心暗鬼を広げ、仲間同士の繋がりを壊していく。
それは古くから王朝を滅ぼしてきた、内部腐敗の手法そのものだった。
魔術師の本音
だが魔術師自身は、本当はこんな任務を望んでいなかった。
彼は、一か月前に学園都市へ来て以来、この街が好きだった。御坂美琴のいる世界を守りたいと思っていた。
しかし、「上」が上条勢力を危険視してしまった以上、自分は敵になるしかなかった。海原を襲う事も、美琴を騙す事も、本当はしたくなかったと苦しげに叫ぶ。
さらに彼は、自分には上条のように組織へ逆らう強さがないと認めていた。土御門元春のような命令違反の覚悟も持てなかったのである。
上条当麻の決意
その本音を聞き、上条は理解する。
この男は、本当は敵になりたくなかったのだと。守りたいものを守れず、自分自身を許せなくなっていたのだと。
だからこそ上条は、全力でぶつかる事を決める。
魔術師は「ニセモノには平和を望む資格もないのか」と問いかける。御坂を守りたいと思う事すら許されないのか、と。
上条は、それでも否定する。たとえ敵になっても、御坂へ手を出す未来など認めないと。
崩壊するビルでの激突
ちょうどその頃、狙いの外れた槍によって工事中のビルが崩壊を始めていた。
大量の鉄骨が雨のように降り注ぐ中、それでも二人は逃げず、互いへ向かって突撃する。
上条の拳が魔術師の顔面へ炸裂し、魔術師もまた上条の首を締め上げながら反撃していた。
そして戦闘の最中、巨大な鉄骨が二人へ直撃しようとしている事に上条は気づく。
魔術師は諦めたように笑っていたが、上条は歯を食いしばりながら、その腕を掴もうとした。
直後、大量の鉄骨が降り注ぎ、地面が激しく震動した。
崩落現場での生還
大量の鉄骨と砂煙が降り注いだ後、上条当麻は奇跡的に生き残っていた。
周囲には鉄骨が複雑に突き刺さり、隙間だらけの粗末な小屋のような空間ができあがっていた。少しでも崩れれば生き埋めになりそうな状態だったが、直撃だけは免れていたのである。
上条は、自分の不幸体質を考えれば単なる幸運では説明できないと考えていた。そして、鉄骨の軌道を直前で歪めた存在として、御坂美琴の電磁力を思い浮かべる。
敗北を受け入れる魔術師
鉄骨の隙間では、魔術師もまた生き残っていた。しかし彼は片腕を鉄骨の隙間へ挟まれ、ほとんど身動きが取れなくなっていた。
魔術師は呆然としたまま、自分は負けたのかと問いかける。上条は、自分が勝った訳ではないと答えるが、魔術師は静かに首を横へ振った。今の状態では、もはや戦闘続行は不可能だったのである。
そして魔術師は、自分がここで止まれたのなら、それで良かったのかもしれないと呟いた。御坂美琴も、他の誰も殺さずに済んだのだから、と。
魔術師の迷い
上条は、改めてこの魔術師の行動を振り返っていた。
本気で戦っていたのは間違いない。だが同時に、彼はずっと迷い続けてもいた。もし本当に迷いがなかったなら、最初から槍を全力で使えば上条は即死していたはずだったのである。
裏路地を逃げる最中にも、背後から確実に仕留められる場面は何度かあった。それでも魔術師は決定打を避け続けていた。
なぜなら、この戦いへ勝った瞬間、彼自身の手で御坂美琴を傷つける未来が確定してしまうからだった。
彼は御坂美琴を傷つけたくなかった。彼女のいる学園都市を壊したくなかった。
しかし同時に、組織へ逆らえば自分自身の命が危うくなる。だからこそ彼は、「全力を尽くしたが失敗した」という大義名分を欲していたのである。
上条勢力への脅威
魔術師は、今回の一件で終わりではないと告げた。
自分のような下っ端が一度失敗した程度で、「上」が引き下がることはない。むしろ上条勢力をさらに危険視し、別の人間を送り込んでくる可能性すらあるという。
場合によっては、自分へ再び命令が下るかもしれない。
その上で魔術師は、上条へ問いかけた。
御坂美琴を守ってくれるのか、と。いつでも、どこでも、誰からでも、何度でも。自分が本当はやりたかった夢を、代わりに背負ってくれるのか、と。
それは、自分には決して叶えられなかった願いだった。
上条当麻の返答
上条は長い言葉を返さなかった。
ただ一言だけ告げ、静かに頷いた。
その返答を聞いた魔術師は、「まったく最低な返事だ」と苦笑していた。
御坂美琴の動揺
一方その頃、御坂美琴は路地の角でハンバーガーの紙袋を抱えたまま、二人の会話を聞いていた。
もっとも、全てを聞けた訳ではない。海原光貴が二人いること、片方の顔が壊れて別人が現れたこと、そしてビル崩壊など、あまりにも異常な事態が立て続けに起きていたため、彼女自身も冷静ではいられなかった。
それでも、美琴には理解できてしまった。二人がなぜ戦っていたのか。誰のために、誰を守ろうとしていたのかを。
抑えきれない感情
美琴は、自分へ言い聞かせるように「勘違いだ」と繰り返していた。
上条当麻は、誰に対してもああいう言葉を無自覚に口にする人間だ。別に自分が特別な訳ではない。そう理解しているはずだった。
それでも、否定するために振っていた首の動きは、いつの間にか止まってしまう。
美琴は壁へ後頭部を預けながら、顔が熱くなっていくのを感じていた。こんな状況で、どんな顔をして二人の前へ出ていけばいいのか分からなかったのである。
特に最後の、上条の返答。あの言葉だけは、どうしても頭から離れなかった。
美琴は深いため息をつきながら、上条当麻という存在の厄介さを改めて痛感していた。
第三章 とある御坂の最終信号 Tender_or_Sugary.
研究所への帰還
一方通行は、『妹達』の培養施設と研究所が並ぶ巨大施設へ足を踏み入れた。
そこには、『実験』で使われた培養カプセル群が今も残されていた。二万人ものクローンを製造するための施設は圧倒的な規模を誇っていたが、現在は静まり返っている。
一方通行は研究所の扉を強引に破壊し、中へ侵入する。そこは無数の量子コンピュータと大量のデータ用紙に埋め尽くされた計算室のような空間だった。
芳川桔梗との再会
研究室には、芳川桔梗が一人だけ残っていた。
彼女は、『樹形図の設計者』の演算データではなく、別の人格データを解析していた。一方通行は、打ち止めを救うために必要な培養装置や調整設備を借りようとする。
その言葉に芳川は驚き、打ち止めについて知っているのかと問い返した。
人格データに潜む異常
芳川は、自分が解析しているのは『妹達』の人格データだと説明した。
その中には、バグではなく「ウィルス」と呼ぶべき不正プログラムが仕込まれていたのである。
さらに芳川は、「最終信号」と呼ばれる特別個体について語り始めた。検体番号二〇〇〇一号――それが打ち止めだった。
打ち止めの役割
打ち止めは、『実験』そのものには不要な存在だった。彼女は二万人の妹達が反乱を起こした際に備えた「安全装置」として作られていたのである。
妹達は脳波リンク「ミサカネットワーク」によって繋がっている。そして打ち止めの脳へ特殊な電気信号を送る事で、ネットワーク全体を制御し、全妹達へ停止命令を送る事が可能だった。
そのため打ち止めは、自由であってはならなかった。彼女は意図的に未完成な精神状態へ留め置かれていたのである。
一方通行は、その非人道的な構造へ嫌悪感を覚えていた。
研究所からの逃亡
芳川によれば、一週間前、打ち止めの脳波に異常が発生した。研究員達が培養器へ向かった時には、設備は内側から破壊され、打ち止めは既に逃亡していた。
当初は原因不明の暴走と判断されていたが、人格データを解析した結果、誰かが打ち止めの頭へ不正プログラムを書き込んでいた事が判明したのである。
そのプログラムは、人間へ無差別攻撃を行わせるためのものだった。
暴走のタイムリミット
ウィルスは九月一日午前〇時〇分〇秒に起動準備へ入り、その後一〇分で完全起動する。
もし発動すれば、ミサカネットワークを通じて世界中の妹達へ感染し、一万人規模の能力者暴走事件へ発展してしまう。
しかも現在、多くの妹達は学園都市の外で再調整中だった。つまり事件は世界規模で発生する事になる。
その結果、クローン能力者計画の存在も暴露され、学園都市と世界全体の均衡すら崩壊しかねなかった。
一方通行は、その未来を想像していた。文明が崩壊し、世界が破滅した後、自分だけが生き残る光景を。
犯人・天井亜雄
芳川は、不正プログラムを書き込んだ犯人として天井亜雄の名を挙げる。
天井は『量産型能力者計画』出身の研究員であり、妹達の人格データ設計を専門としていた。打ち止めへ細工を行える技術と立場を持つ人物だったのである。
さらに事件発生直後から失踪しており、学習装置使用ログも消されていた。
芳川は、天井が妹達を「信頼される存在」として外部へ浸透させた後、一斉暴走によって社会を混乱へ陥れようとしているのではないかと推測していた。
芳川桔梗の甘さ
芳川は研究員の中では比較的良心的な人物だった。妹達を検体番号ではなく人として扱おうとし、顔を覚えようともしていた。
しかし一方通行は、それでも彼女を「優しい人間」とは認めていなかった。本当に優しい人間なら、そもそも『実験』自体を止めるはずだからである。
それでも芳川は、打ち止めを救おうとしていた。
二つの選択肢
芳川は二つの封筒を一方通行へ差し出した。
一つは天井亜雄の潜伏先情報。もう一つは打ち止めの人格データと行動傾向資料だった。
つまり、「犯人を追う」か、「打ち止めを守る」か。そのどちらかを選べという意味だった。
一方通行は理解していた。自分の力は、誰かを守るためではなく、何かを壊すための力だと。人を救うような存在ではないと。
しかし、その脳裏には、レストランで無邪気に笑っていた打ち止めの姿が何度も浮かび上がっていた。
一方通行の決断
最終的に、一方通行は右側の封筒を手に取った。
打ち止めの人格データが入った封筒だった。
それは、一方通行という存在にとって決定的な選択だった。誰かを守るために立ち上がるという行為は、これまでの彼の在り方を根底から覆すものだったのである。
彼は、自嘲するように呟いた。どうやら自分は、この期に及んでまだ救いを欲しているらしい、と。
芳川は、その感情を笑って祝福すると答えた。そして、一方通行の力は誰かを守れるのだと証明してみせろ、と告げる。
一方通行は何も答えず、打ち止めを救うため研究所を後にした。
芳川桔梗の決意
研究所に一人残った芳川桔梗は、一方通行が現れた事を奇跡に近い幸運だと感じていた。
もし彼が来なければ、学園都市は為す術もなく崩壊していたかもしれないのである。
一方通行が打ち止めの捜索へ向かった以上、芳川の役目はウィルスコードの解析だった。彼女は追跡へ出るより、自分でコードを解読する方が早いと判断して研究所へ留まる。
しかしその作業は困難だった。人格データの中からウィルスコードだけを探し出し、正常コードを傷つけず除去しなければならない。もし自律神経系コードを誤って削除すれば、打ち止めは命を落としてしまう。
甘さと後悔
さらに芳川には立場上の問題もあった。『実験』は中止ではなく凍結扱いであり、妹達制御の核である打ち止めを独断で解放する事は本来許されないのである。
芳川は、自分が優しい人間ではない事を理解していた。かつて妹達が結託して『実験』へ反抗した際も、彼女は停止信号を送って止める事ができた。それでも実行しなかったのは、妹達を守りたかったからではなく、『実験』そのものへ致命傷を与える事を恐れたからだった。
それでも今、一方通行が自らの存在意義を捨ててまで誰かを救おうとしている。その覚悟を踏みにじりたくないと芳川は考えていた。
彼はずっと、「自分は殺す事しかできない」と自嘲しながら生きてきた。そんな一方通行が、初めて「誰かを守る」という選択をしたのである。
芳川は、自分もまた変わらなければならないと決意した。
一方通行の過去
一方通行は街を走りながら、昔の記憶を思い出していた。
彼にもかつては普通の名前があった。最初から学園都市最強だった訳ではなく、ただ周囲より少し能力が強かっただけだったのである。
しかし、その力は周囲へ恐怖を与えた。喧嘩を売ってきた少年達は触れただけで骨を折り、止めに入った教師や警備員達まで次々と倒れていった。
一方通行自身は、ただ恐かっただけだった。殴られる恐怖から必死に抵抗しただけなのに、周囲は怪獣映画のような大騒ぎになってしまったのである。
その時、彼は気づいてしまった。自分は感情を向けるだけで人を傷つけてしまう存在なのだと。
だから彼は、感情を捨てる道を選んだ。他人に興味を持たず、何をされても動じない氷のような人間になる事で、力の暴走を防ごうとしたのである。
だが、それは同時に「他人がどうなっても気にしない人間」になる事でもあった。
やがて彼は、「最強」を超えた「絶対」の存在になれば、誰も争わなくなると考えるようになる。その思想が、後に多くの人間を傷つける事になるとも知らずに。
打ち止めとの出会い
それでも今、一方通行の中には変化が生まれていた。
打ち止めは、一方通行を「最強」や「絶対」ではなく、一人の人間として接してくれたのである。恐怖もなく、対等な目線で。
その事実を、一方通行は失いたくなかった。たとえ手遅れだとしても、自分は変われるかもしれないと、初めて思えたのである。
レストランでの異変
一方通行は、打ち止めと別れたレストランへ到着する。
しかし店では異変が起きていた。巨大な黒服の男が店へ侵入し、その直後には透明人間のような存在が飛び出してくる。さらに、その後を上条当麻が追いかけていた。
上条は、妹達を救うために『実験』を凍結へ追い込んだ張本人だった。一方通行は、あの少年ならまた事件へ首を突っ込んでいても不思議ではないと考える。
しかし今は打ち止めの行方が優先だったため、一方通行はレストランへ入り情報収集を始めた。
打ち止めの連れ去り
店内は荒れ果てており、打ち止めの姿はなかった。
ウェイトレスや店員から話を聞いた結果、打ち止めは熱で倒れていた事が判明する。店側は救急車を呼ぼうとしていたが、その前に白衣を着た男が現れ、自分は身内だと名乗って彼女を連れて行ったという。
その説明を聞いた瞬間、一方通行の脳裏に浮かんだ人物は一人しかいなかった。
天井亜雄だった。
天井亜雄の潜伏先推測
一方通行はレストランを出ると、芳川桔梗へ連絡を取った。
打ち止めを天井亜雄が連れ去ったと知った芳川は驚きを見せる。一方通行は、ウィルスは放置しても起動するはずなのに、なぜ天井がわざわざ打ち止めを連れ出したのか疑問を抱いていた。
さらに、学園都市では外部勢力侵入や戦闘騒ぎの影響で警備レベルがオレンジからレッドへ引き上げられていた。そのため街の出入りは完全封鎖されており、天井も学園都市から脱出できない状況になっていたのである。
芳川は、天井は人目を避けて潜伏しているだろうと推測した。一方通行はその情報から、ある研究施設跡地へ向かう事を決断する。そこはかつて御坂美琴の量産型能力者計画が行われていた施設だった。
追い詰められた天井亜雄
研究所跡地付近では、天井亜雄がスポーツカーの中で追い詰められていた。
本来なら打ち止めへウィルスを注入した直後に学園都市外へ逃亡する計画だった。しかし打ち止めが逃走したため計画は崩壊し、さらに警戒体制強化によって街外への脱出も不可能になっていた。
しかも打ち止めの容体は悪化していた。彼女は培養器なしでは長く生きられない未調整個体であり、このままではウィルス起動前に命を落としかねない状態だった。
それでも天井は、敵対組織から見捨てられないためにも打ち止めを生かし続ける必要があった。借金と失敗続きの研究人生の末、彼にはもはや後がなかったのである。
一方通行の襲来
そんな中、天井はルームミラー越しに一方通行の姿を発見する。
純白の超能力者がゆっくり近づいてくるだけで、天井は恐怖に震え上がった。彼は慌ててスポーツカーを発進させ、一方通行へ突撃する。
しかし一方通行は微動だにしなかった。車の運動ベクトルを真下へ変換された結果、スポーツカーは地面へ押し潰されるように破壊されてしまう。
逃げ出そうとした天井も、一方通行に車のドアを叩き付けられて気絶した。
打ち止めの保護
一方通行は助手席から打ち止めを見つけ出す。
彼女は毛布に包まれ、全身汗だくで意識を失っていた。顔には電極が貼られ、ノートパソコンへ生体データが送られている。
芳川の説明によれば、それは妹達用の身体検査キットだった。脳細胞稼働率なども監視しており、非常に高度な医療機器だったのである。
一方通行は、これを使ってウィルスを除去できないか尋ねる。しかし芳川は、これはモニタ装置であり、人格データを書き換えるには専用の培養器と学習装置が必要だと答えた。
その後、芳川自身が培養器などを積み込んだ車で現場へ向かっている事を明かす。状況はようやく好転し始めているように見えた。
ウィルス起動の前倒し
しかし突然、打ち止めが異常な発作を起こす。
意味不明な言葉を絶叫しながら体を激しく痙攣させ、ノートパソコンには大量の警告ウィンドウが表示され始めた。脳細胞稼働率も異常上昇し、一〇〇%を超えて暴走を続けていく。
芳川はその声を聞き取り、打ち止めが発しているのは暗号化されたウィルスコードそのものだと断定する。
ここで、一方通行達は致命的な事実へ気づく。天井亜雄はウィルス起動時間について偽情報を流していたのである。
本当の起動時刻は既に目前まで迫っていた。
芳川の決断
芳川は冷静に結論を下した。
ウィルスは妹達全員へ感染し暴走を引き起こす。これを防ぐ唯一の方法は、ウィルスの中継核である打ち止めを殺す事だった。
芳川は、一方通行へ打ち止めの処分を命じる。
その言葉を聞いた一方通行は、自分がこれまで一万人以上へ押し付けてきた苦痛を初めて理解する。少女一人を失う痛みだけで、胸が引き裂かれそうになっていたのである。
一方通行の突破口
それでも、一方通行は諦めなかった。
自分の能力はあらゆる力の「向き」を操作できる。ならば、生体電気の流れを操作し、学習装置の代わりとして打ち止めの脳内データへ干渉できるのではないかと考え始める。
彼は感染前の人格データが入ったデータスティックを利用し、現在の人格との差分からウィルス部分だけを特定しようとした。
ただし、この方法には代償があった。感染後に打ち止めが得た記憶や思い出まで全て失われる可能性があるのである。
それでも一方通行は決意する。
打ち止めは、自分のような存在と共にいてはいけない。もっと優しい世界へ帰るべきなのだと。
そして彼は、電子ブック内の人格データを数分足らずで読み切り、打ち止めの額へ手を当てた。
人を殺すためにしか使ってこなかった力を、初めて誰かを救うために使おうとしていた。
ウィルス起動まで、残り五二秒だった。
ウィルス除去開始
一方通行は、打ち止めの脳内へ直接干渉しながらウィルスコードの除去を開始した。
打ち止めの口からは意味不明な文字列が流れ続けていたが、一方通行はそれを日本語の命令コードとして理解していく。彼は感染前と感染後の人格データを照合し、差分を全て危険コードとして上書き修正し始めた。
しかし、その中にはウィルスだけでなく、打ち止めが一方通行と過ごした思い出までも含まれていた。どれが異常コードでどれが記憶なのか、もはや判別は不可能だったのである。
消えていく記憶
コード修正が進むにつれ、ノートパソコンに表示されていた大量の警告ウィンドウが逆再生のように次々と消えていった。
打ち止めの激しい痙攣も徐々に収まり始め、一方通行はウィルス除去が成功へ向かっている事を確信する。しかし同時に、自分が消去しているのは打ち止めとの思い出でもあるのだと理解し、寂しげに笑った。
天井亜雄の襲撃
その最中、気絶していたはずの天井亜雄が拳銃を持って立ち上がる。
一方通行は打ち止めの脳内操作へ全演算能力を集中していたため、防御用の「反射」を停止していた。この状態で銃弾を受ければ確実に死ぬ。
だが、一方通行は打ち止めから手を放さなかった。
天井は発狂したように叫びながら引き金を引き、一方通行の額を撃ち抜く。強烈な衝撃で彼の体は吹き飛ばされるが、それでも最後まで打ち止めへ触れ続けていた。
そしてついに、最後の警告ウィンドウが消滅する。ウィルスコードは全て上書き修正され、打ち止めは正常人格として再覚醒を開始した。
命を賭けた防衛
ウィルス起動失敗を知った天井亜雄は絶望し、今度は打ち止めそのものを射殺しようとする。
しかし倒れたはずの一方通行が再び立ち上がった。額から大量の血を流しながら、彼は打ち止めを庇うように立ちはだかる。
天井が使った特殊弾「衝槍弾頭」は致命傷となるはずだった。しかし、一方通行はウィルス除去を完了した瞬間に「反射」を復活させ、致命的な衝撃波だけを防いでいたのである。
一方通行の叫び
一方通行は、今さら人を救おうとする自分が醜く滑稽な存在である事を理解していた。
それでも彼は叫ぶ。自分達がどれほど腐った人間であろうと、それが打ち止めを見殺しにして良い理由にはならないのだと。
彼は、自分達にヒーローの資格があるかどうかではなく、今ここで誰かが手を差し伸べなければ打ち止めは死ぬという事実だけを見ていた。
そして彼は、かつて妹達を救うために立ち上がった上条当麻の気持ちを理解する。救いを待っても来ないなら、その場にいる者が自らヒーローのように振る舞うしかないのだと知ったのである。
限界と崩壊
しかし、重傷を負った一方通行の体は限界へ達していた。
最後の力で天井へ突撃するものの、致命傷の影響で途中で力尽き、地面へ倒れ込む。
天井は、一方通行の「反射」が機能停止していると判断し、止めを刺そうとする。
芳川桔梗の選択
その瞬間、別方向から銃声が響いた。
現れたのは芳川桔梗だった。彼女は護身用拳銃で天井を撃ち、打ち止めを培養器へ収容していた。
芳川は、GPS機能で一方通行の位置を追跡していた事を明かす。そして、一方通行と打ち止めは「冥土帰し」と呼ばれる医師へ任せれば助かる可能性があると告げた。
芳川の本心
天井は、なぜ芳川がそこまでして子供達を守ろうとするのか理解できなかった。
それに対し芳川は、自分は本当は研究者ではなく、優しい先生になりたかったのだと語る。
一人一人の子供と向き合い、困っている子を助け、卒業式で涙するような教師になりたかった。しかし自分は甘いだけで優しくない人間だと思い込み、その夢を諦めていたのである。
それでも、せめて一度だけでも、本当に優しい行動を取りたかった。だから彼女は命を懸けて子供達を守ろうとしていた。
最後の銃撃
芳川は天井へ、自分を道連れにするなら構わないが、子供達へだけは手を出さないでほしいと告げる。
天井は、そんな芳川の行動を「優しさ」ではなく「強さ」だと評した。
そして二人は互いへ銃口を向け合い、同時に引き金を引いた。
第四章 とある居候の禁書目録 Arrow_Made_of_AZUSA
学園都市と上条当麻の日常
学園都市は、超能力開発を目的として築かれた巨大都市であり、住民の大半を学生が占めていた。能力は科学的なカリキュラムによって覚醒するものとされ、六段階で評価されていた。
その街の学生寮で、上条当麻は夏休み最終日の宿題に追われていた。彼は数学や読書感想文の山に絶望しながら、自身の右手「幻想殺し」が宿題には何の役にも立たない事を嘆いていた。
同室では、インデックスがアニメを見ながら騒ぎ、借りた漫画を散らかしていた。上条は文句を言いながらも、結局は振り回され続ける。さらに、古文の宿題が消える騒動まで発生し、上条は完全に精神的余裕を失っていた。
闇咲逢魔の侵入
その頃、黒いスーツ姿の魔術師・闇咲逢魔は、学園都市へ侵入していた。彼は右腕に特殊な弓を装着し、インデックスを狙って学生寮へ向かっていた。
闇咲は学園都市の警備を突破しながらも、自分の行為によって傷つく者が出る事を理解していた。しかし、それでも目的を果たす覚悟を決めていた。
彼は上条の部屋へ突入するが、そこには誰もいなかった。そのため「捜魔の弦」を使ってインデックスの位置を探索し、彼女がファミレスにいる事を突き止める。
ファミレスでの騒動
一方、上条とインデックスは気分転換も兼ねてファミレスへ来ていた。上条は読書感想文を書こうとしていたが、インデックスは桃太郎を題材にしたオカルト解説を始め、作業を妨害する。
さらに、ウェイトレスが転倒して料理をぶちまけた結果、上条の読書感想文は料理まみれになってしまった。苦労して書いた原稿用紙を失い、上条は深い絶望へ沈む。
闇咲の襲撃
そこへ闇咲逢魔が現れた。彼はファミレスの外から弓を構え、見えない空気の刃を放って店内を切り裂く。
無数の刃は上条へ襲いかかるが、上条は「幻想殺し」で全て打ち消した。周囲の客達は、超常的な現象を前に息を呑む。
闇咲は瞬時に上条の背後へ移動し、インデックスを拘束した。彼は自分が魔術師である事を認め、インデックスを「禁書目録」と呼ぶ。
インデックス誘拐
闇咲は透明化のような魔術を使い、インデックスを連れて姿を消した。上条は必死に掴みかかるが、誤ってインデックスの胸を掴んでしまい、一瞬思考停止する。
その隙を突かれて闇咲は完全に逃走し、上条はインデックスを連れ去られてしまった。
しかしその直後、店を破壊した責任を追及され、上条は店員達に囲まれる。彼はファミレスから逃走する羽目になり、宿題どころではない状況へ追い込まれた。
インデックス捜索
上条は三毛猫のスフィンクスを連れて、暗い路地を走り続けた。インデックスを助けるため、猫の嗅覚や聴覚に期待したのである。
だがスフィンクスが辿り着いた先は、高級ホテルの裏口だった。猫はインデックスではなく、生ゴミへ夢中になっていた。上条は猫へ本気で怒鳴りつけるが、当然役には立たなかった。
闇咲の目的
その頃、闇咲はホテル屋上でインデックスを拘束していた。
彼は人工衛星による監視を警戒しつつも、自分の目的を果たす覚悟を崩さなかった。そして、ある病弱な女性の写真を見つめる。
その女性は呪いによって死に瀕していた。闇咲にとって特別な関係ではなかったが、彼は「魔術師なら何でもできる」という信念を持っていた。だからこそ、たった一人の女性すら救えない現実を認めたくなかったのである。
彼はインデックスの魔道書知識を利用し、その女性を救う方法を得ようとしていた。
拘束されたインデックス
インデックスは縄で縛られていたが、恐怖を見せなかった。彼女は魔術世界で生きてきた経験から、拘束や拷問への知識を持っていた。
闇咲は拷問が目的ではないと語り、インデックスの助言に従って縄を緩める。敵でありながら妙に素直な闇咲へ、インデックスは逆に困惑していた。
そして闇咲は、魔道書を利用するための結界を準備し始めるのだった。
御坂美琴との遭遇
インデックスを探して夜の街を走り回っていた上条当麻は、偶然御坂美琴と鉢合わせした。美琴は昼間の騒動を心配して声をかけたが、上条にはそれどころではなく、彼女を無視して走り去ろうとする。
怒った美琴は能力を使い、清掃ロボットのスピーカーを破壊して大音響を発生させた。その衝撃で上条は足を止められ、事情を問い詰められる。上条は宿題や人さらい、ファミレス騒動などを半ば錯乱気味に叫び、美琴を置いて再び走り去った。
拘束されたインデックスの観察
その頃、インデックスはホテル屋上で拘束されたまま、闇咲逢魔の行動を観察していた。闇咲は彼女を乱暴には扱わず、結界構築の準備を淡々と進めていた。
インデックスは、魔術世界における拷問や異端審問の実態を知っていたため、闇咲が本格的な拷問者ではない事を理解する。彼は人をオレンジのように搾り尽くすような人間ではなく、むしろ罪悪感を持つ側の人間だった。
警備員との遭遇
上条はインデックス救出のため、警備員への通報を考え始める。しかし、インデックスが学園都市の外部人間である以上、下手に治安機関へ関われば別の問題が発生しかねなかった。
迷っている最中、警備員が上条へ接触する。ファミレス破壊事件やビル倒壊事件の目撃証言から、上条が事件の中心人物として疑われていたのである。
上条はその場から逃走したが、警備員は銃まで発砲して追跡してきた。ゴム弾とはいえ危険極まりなく、上条は裏路地へ逃げ込むしかなかった。
神楽舞台の結界
一方、闇咲はホテル屋上に巨大な縄の結界を張り巡らせていた。給水塔を中心に無数の縄と護符が配置され、その構造は盆踊りや神楽舞台を思わせるものだった。
闇咲が使っていたのは、日本神道の呪具「梓弓」であった。本来は神楽で巫女を神懸かり状態へ導く道具だが、結界によって威力を増幅し、対象の精神内部へ干渉する術式へ変質していた。
彼の狙いは、インデックスの記憶の中にある魔道書を読み取る事だった。
闇咲の危険な魔道書探索
インデックスは必死に止めようとした。魔道書は普通の人間が読むだけで精神崩壊を引き起こす危険物であり、一〇万三〇〇〇冊もの知識を直接読み込めば、どれほど優れた魔術師でも耐えられないからである。
しかし闇咲は覚悟を決めていた。彼が求めていたのは、中国の魔道書『抱朴子』だった。不老不死や病・呪いを解く「錬丹術」の知識を得るため、彼は命を削りながらインデックスの記憶へ干渉し続ける。
やがて闇咲は激しい頭痛や出血に襲われ始めた。魔道書そのものが猛毒であり、人間の脳で処理できる代物ではなかったのである。
闇咲の本心
携帯電話越しにその会話を聞いていた上条は、闇咲の本心を知る。
闇咲は、呪いによって死に瀕している女性を救いたかっただけだった。彼はその女性を大切に想っていたが、彼女を助けるために罪を犯す事への恐怖も抱えていた。だからこそ、自分が犯す罪を彼女のせいにしたくなくて、「自分の欲望」で動いていると思い込もうとしていたのである。
インデックスは、そんな闇咲へ涙ながらに訴えた。誰かを助けたいという優しい願いのために、自分自身が壊れてはいけないのだと。
上条の突入
上条はホテルへ飛び込み、非常階段を駆け上がった。そして屋上へ繋がるドアを蹴破り、結界のロープへ右手で触れる。
「幻想殺し」に触れた結界は瞬時に崩壊し、屋上を包んでいた異常空間は消滅した。
インデックスは無事だったが、闇咲は既に限界を迎えていた。全身に血管が浮かび、目から血を流し、魔道書の毒によって肉体を蝕まれていたのである。
上条と闇咲の対話
闇咲は、それでもなお「誰かを守りたいと思う事は悪なのか」と上条へ問いかけた。
上条は、それが悪だと答える。誰かが傷つき苦しむ痛みを知っているなら、その重みを別の誰かへ押し付けてはいけないのだと語った。
闇咲は最後の力で攻撃しようとしたが、その前に力尽きて倒れる。彼はたった一冊の魔道書を読んだだけで限界へ達していた。
幻想殺しによる救済
闇咲は、自分はまた挫折したのだと呟く。しかし上条は、そんな彼を無理矢理現実へ引き戻した。
そして、自身の右手「幻想殺し」なら呪いすら打ち消せる可能性があると告げる。闇咲が求めていた魔道書を使わずとも、救う方法は存在するかもしれないと示したのである。
絶望していた闇咲は呆然とする。上条は、彼へ「大切な人」の元へ案内しろと告げた。世界でたった一人、その女性を助けたいと願っているのは闇咲自身なのだから、自分の手で最後までやり遂げろと促したのである。
闇咲は涙を流しながら、その言葉を受け入れた。
最後に上条は、宿題を持って行っても良いかと真顔で確認し、夏休み最終日の現実へ引き戻されるのだった。
終章 終わりの夜 Welcome_to_Tomorrow
冥土帰しによる手術
芳川桔梗が目を覚ますと、そこは青いタイル張りの手術室だった。彼女は首から下の感覚を失ったまま横たえられており、部分麻酔の状態で心臓手術を受けていたのである。
執刀していたのは「冥土帰し」と呼ばれる医師だった。彼は患者を絶対に見捨てない信念を持ち、医学界や学園都市ですら認可しない技術まで使って人命を救い続けていた。
芳川は、自分が軍用拳銃で心臓付近を撃ち抜かれたはずだと確認する。しかし冥土帰しは、正確には冠動脈破裂だったと説明した上で、即死を免れたのは一方通行のおかげだと語る。
一方通行は、能力によって血流を強引に繋ぎ止め続けていたのである。彼は意識を失った後も能力を使い続け、芳川が手術室へ運ばれるまで命を支えていた。
一方通行の重傷
冥土帰しは、現在一方通行も別室で手術を受けていると告げる。頭蓋骨の破片が前頭葉へ突き刺さっており、言語機能と計算能力へ重大な障害が残る可能性があった。
それは一方通行にとって致命的だった。彼の能力はベクトル演算によって成立しており、演算能力を失えば能力すら使えなくなる可能性があるからである。
しかし冥土帰しは、それでも必ず回復させると断言した。彼は「どうにもならない事をどうにかする」のが信条だと語る。
妹達ネットワークの利用
冥土帰しは、一万人規模で接続された「妹達」のミサカネットワークを利用し、一方通行の欠損した演算機能を補う計画を説明した。
波長の異なる脳を無理に接続すれば脳が焼き切れる危険があったが、冥土帰しは変換器として電極付きチョーカーを用意すれば解決できると語る。
その発想と技術力へ芳川は驚愕するが、冥土帰しは全く躊躇しなかった。患者を救うためなら、どれほどの技術や予算も惜しまない人物だったのである。
打ち止めの無事
芳川は、打ち止めの安否を確認する。冥土帰しは、彼女も無事だと答えた。
病院には既に御坂妹一〇三二号も保護されており、培養器も用意されていた。冥土帰しは必要な設備なら何でも揃えるつもりだった。
研究者としての終焉
一方で、今回の事件は学園都市上層部へ知られていた。研究所は解体され、『実験』も凍結ではなく完全中止となる。芳川自身も研究者としての地位を失う事になると冥土帰しは説明した。
しかし彼は、「道はいくらでもある」と告げる。
その言葉に、芳川はかつて抱いていた夢を思い出していた。研究者ではなく、子供達へ大切な事を教える優しい教師になりたかったという願いを。
一方通行や打ち止めへ、常識や優しさを教えていく未来。その可能性は、彼女にとって魅力的なものだった。
冥土帰しへの依頼
手術室を去ろうとする冥土帰しへ、芳川は一方通行を助けてほしいと頼む。もし助けられなかったら許さない、と。
冥土帰しは、自分の戦場で患者を死なせるつもりはないと返した。そして、今までずっと一人で戦ってきた患者を必ず連れて帰ると告げ、手術室を後にする。
芳川の安堵
静かな手術室で、芳川は一方通行の言葉を思い出していた。
彼は、自分は一万人もの妹達を殺した張本人であり、誰かを救う資格などないと語っていた。それでも最終的に、彼は打ち止めを守るため命を懸けたのである。
芳川は小さく笑いながら呟く。
やればできるじゃない、あの子、と。
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