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とある魔術の禁書目録フィクション(Novel)読書感想

小説「【外伝】とある科学の超電磁砲」感想・ネタバレ

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とある科学の超電磁砲の表紙画像(レビュー記事導入用) とある魔術の禁書目録
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物語の概要

■ 作品概要

本作は、総人口230万人の約8割を学生が占める「学園都市」を舞台としたサイエンス・ファンタジー、学園アクション作品である。超能力の開発がカリキュラムとして組み込まれたこの都市で、電撃使い(エレクトロマスター)の頂点に立つ少女・御坂美琴を中心に物語が展開される。本作は、鎌池和馬のライトノベル『とある魔術の禁書目録』の外伝(スピンオフ)にあたり、魔術サイドの要素を抑え、学園都市内部の科学的な陰謀や能力者同士の戦い、そして少女たちの日常を深く描いている。

■ 主要キャラクター

  • 御坂美琴: 本作の主人公。学園都市に7人しか存在しない最高位「超能力者(レベル5)」の第3位。電気を自在に操り、指先からコインを放つ「超電磁砲(レールガン)」を必殺技とする。勝気で正義感が強いが、可愛いものに目がない一面も持つ。
  • 白井黒子: 美琴の後輩であり、寄宿舎の同室者。治安維持組織「風紀委員(ジャッジメント)」第177支部に所属する。能力は「空間移動(テレポート)」。美琴を「お姉様」と慕い過剰な愛情表現を行うが、任務においては極めて冷静かつ冷徹に能力を運用する。
  • 初春飾利: 白井のパートナーを務める風紀委員。能力は触れたものの温度を一定に保つ「定温保存(サーマルハンド)」で、評価は「低能力(レベル1)」だが、天才的な情報処理・ハッキング能力を持ち、広域のバックアップを担う。
  • 佐天涙子: 初春の親友。能力を一切持たない「無能力者(レベル0)」だが、学園都市の都市伝説や流行に敏感で、事件の端緒を掴むことが多い。無能力者ゆえの葛藤を抱える描写もあるが、明るく行動的な性格で仲間を支える。
  • 食蜂操祈: 第5位の超能力者。能力は精神系最強の「心理掌握(メンタルアウト)」。常盤台中学の最大派閥を率いる「女王」であり、美琴とはライバル関係に近い立ち位置にある。

■ 物語の特徴

本作の最大の特徴は、超能力を「個別の現実(パーソナル・リアリティ)」や「演算」といった科学的・理論的な裏付けを持って描写している点にある。単なる破壊力のぶつけ合いではなく、相手の能力特性の分析、環境の構築、そして演算能力を乱す心理戦などが勝敗を分ける。また、平和に見える学園都市の裏側に潜む非道な実験や陰謀といった「闇」の部分が色濃く描かれており、少女たちが直面する過酷な運命と、それを跳ね除ける強い絆が読者の興味を惹きつける。

書籍情報

とある科学の超電磁砲
著者:鎌池 和馬 氏
イラスト: はいむら きよたか
                冬川 基
                近木野 中哉
                山路 新
                乃木 康仁
                舘津テト
                如月 南極
出版社:KADOKAWA(電撃文庫)
発売日:2022年6月10日
ISBN:9784049144550

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あらすじ・内容

『超電磁砲』15周年を記念し、美琴たちの日常を原作者・鎌池和馬が描く!『白井黒子は躊躇わない』――夢の金曜日。黒子は御坂美琴との熱烈な週末に備えていた。だが、最強メガネ巨乳、固法先輩との格技の稽古の知らせが届き……。
『佐天涙子のドロドロ血祭りパラダイス☆』――風紀委員一七七支部に遊びに来た佐天。血糊をペタペタ死んだふりで初春を驚かそうとするが……。
『初春飾利もマジメに仕事する』――イグジットApp。恐怖を感じることなく本当に死ねる自殺ツールが学園都市で流行する。風紀委員として調査をする初春は捜査の中で開発者を名乗る少女と出会う――。
『御坂美琴とお嬢の終わり』――『学舎の園』でありえない事件が起こる。お嬢様空間の日常が終わりを告げる。消えたクラスメイトを追う美琴だったが……。

 コミック連載15周年を記念し、平和で平凡で、ちょっぴり変わった能力者の少女たちの日常を原作者・鎌池和馬が描く!

とある科学の超電磁砲

感想

『とある科学の超電磁砲』のコミック連載15周年を記念した本作は、原作者である鎌池和馬自らが筆を執り、メインキャラクター4人それぞれを主人公に据えた短編集である。平和な日常の裏側に潜む学園都市の闇と、それに対峙する少女たちの活躍が、圧倒的な熱量で描かれている。

物語の幕開けを飾る白井黒子のエピソードでは、彼女の相変わらずの奔放な「変態性」に笑わされる。しかし、注目すべきは格上の先輩である固法美偉に挑む際の戦術的思考だ。能力特性を理論的に分析し、狭隘なバスルームという環境を味方につけることで勝利を掴む過程は、まさに高度な戦術事例といえる。だが、どれほど鮮やかに格技で勝利しても、住居不法侵入で正座させられ、最後には門限破りで寮監にすべてを計画を潰されるというオチには、日常のルールの厳しさを痛感した。やはり学園都市において、最強の存在は能力者ではなく寮監なのかもしれない。

続く初春飾利のエピソードでは、彼女の多面的な魅力が際立っている。親友である佐天涙子の悪戯に対する報復は、普段の温厚さからは想像もつかないほど冷徹で、まさに「外道」とも呼べる徹底ぶりであった。風紀委員としての活動を侮辱された際の彼女が、どれほど恐ろしい存在になり得るかを物語っている。一方で、自殺ツール「イグジットApp」を巡る事件で見せた彼女の器の大きさには、深い感銘を受けた。「毒を作れるなら薬も作れるはず」という言葉は、技術や能力の価値は使い手の意志によって決まるという真理を突いている。彼女の意志が開発者の絶望を救い、悪循環を断ち切る展開は非常に清々しい。

そして、御坂美琴が中心となるエピソードでは、まさに「とあるシリーズ」らしい規格外のスケールに圧倒された。「学舎の園」そのものが浮上するという展開には唖然としたが、その怒涛のバトル描写に引き込まれずにはいられない。美琴の能力は単なる高火力に留まらず、自身のレーダーによる空間把握や磁力を応用した機動性など、極めて万能である。砂鉄や環境設備を変幻自在に操り、多数の局面に柔軟に対応する彼女の姿は、まさに最強のエースにふさわしい。

本作を通じて強く印象に残ったのは、能力者間の戦闘において、純粋な出力の強弱だけが勝敗を決めるのではないという点だ。発想の転換、環境の支配、そして時には自らの身を削る覚悟こそが、学園都市における真の戦闘技術なのだと感じた。

15周年を記念するにふさわしい本作は、知略と技術の積み重ねが非日常を切り拓く爽快感に満ちている。少女たちの絆と成長を多角的に楽しむことができる、読み応えのある傑作であった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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考察・解説

白井黒子の特訓

白井黒子と、風紀委員(ジャッジメント)の先輩である固法美偉との間で行われた特訓、およびその特訓を回避するために繰り広げられた攻防の記録である。本件は、能力の特性を理論的に分析し、環境を味方につけることで格上の相手に対して勝利を収めた高度な戦術事例といえる。

特訓のきっかけ
白井黒子は、週末の48時間をルームメイトの御坂美琴と部屋で二人きりで過ごす「完全愛情計画」を画策していた 。しかし、美琴を通じて「黒子の格技の練度が下がっているため、風紀委員の固法先輩が週末をすべて費やして鍛え直す」という伝言を受け取る 。自身の計画を優先したい白井は、特訓が本格化する前の金曜日のうちに固法を倒して自由を勝ち取ることを決意した 。

特訓のルールと固法美偉の能力
白井は風紀委員の訓練施設にいる固法を急襲するが、固法の強能力(レベル3)である透視能力(クレアボヤンス)によって遮蔽物越しの動きを完全に把握されており、迎撃された 。その後、固法より以下の訓練ルールが提示された 。

・期間は金・土・日の3日間とし、白井が固法を一度でも拘束(手錠の装着など)できれば勝利、固法は期間中逃げ切れば勝利とする 。
・白井は随時攻撃を仕掛けてよいが、固法側から先制攻撃を行うことはない 。
・能力や武器の使用に制限はないが、民間人や建造物に被害を出さないことが厳守される 。

また固法は、白井が空間移動(テレポート)の能力に過度に依存している点を指摘し、怪我や閃光などで演算を乱されれば実戦で命を落とすと警告した 。

黒子の反撃作戦
白井は固法を監視する中で、透視能力が空気の歪みや遮蔽物を無視して極めて正確に空間を把握できるため、遠距離からの奇襲が通用しないことを悟った 。そこで白井は、見つからないように動くのではなく、見えていても回避や対応が不可能な状況を作るという戦術に転換した 。

土曜日の早朝、白井は固法が朝風呂に入っているバスルームへ空間移動で突入した 。作戦の詳細は以下の通りである。

・狭隘かつ濡れて足場が不安定な浴室環境を利用し、固法の動きを制限した 。
・シャワーの温度設定を最大にして熱湯を撒き散らし、広範囲への攻撃で完全な回避を困難にさせた 。
・透視能力で遮蔽物を無視して視界を確保する分、強烈な光を直接受けてしまうという弱点を突き、携帯電話のフラッシュを炸裂させて目潰しを行った 。

白井はこの隙を逃さずシャワーホースを固法の首に巻き付けて拘束し、顔面に肘打ちを叩き込んで勝利を収めた 。

特訓の結末
勝負には勝利したものの、バスルームへの強襲は住居不法侵入にあたると固法に激怒され、白井はリビングで正座させられることになった 。それでも週末の自由を獲得した白井は、美琴との理想の週末を空想しながら意気揚々と寮へ帰還した 。しかし、門限破りと朝帰りによって激怒した常盤台中学の寮監が入り口で待ち構えていた 。寮監から「お前はここで終わりだ」と宣告されたことで、白井の計画は最終的に潰える結果となった 。

白井黒子の勝利は、相手の能力特性を逆手に取った優れた戦術によるものであった。しかし、学園都市のルールや寮の規則という日常の壁までは突破できず、彼女の野望は皮肉な結末を迎えることとなった。

初春飾利の豹変

佐天涙子が初春飾利に仕掛けた悪戯をきっかけに、初春が冷酷な一面を見せるエピソード 。親友を恐怖のどん底に叩き落としたこの事件は、能力の応用と心理戦が絡み合った、学園都市らしい一幕といえる 。

事の発端
佐天涙子は、風紀委員第一七七支部で初春飾利にドッキリを仕掛けることを計画した 。流行の動画を参考に自作した血糊と、支部内にあった警杖を用い、自分が何者かに殺害された死体を装ったのである 。支部に戻ってきた初春が慌てふためく様子を見て、ゾンビのように起き上がって驚かせるという二段構えの悪戯であった 。

異常な死体処理計画
しかし、初春の反応は佐天の予想を大きく裏切るものであった 。初春は親友の「死体」を前にしても動じず、極めて冷静な口調で死体隠蔽の手順を語り始めた 。

・自身の低能力(レベル1)である定温保存(サーマルハンド)を利用して体温を一定に保ち、感情の起伏を強制的に抑えているような素振りを見せた 。
・四九キロ分の人肉を効率的に消去する必要があると述べ、証拠隠滅のための洗剤や清掃方法について具体的に言及した 。
・過去に風力発電の内部ユニットへ死体を詰め込んで粉砕した経験があるかのように語り、死体を運搬するための中古清掃ロボットを通販サイトで楽しげに物色し始めた 。

生存を隠そうとする佐天が隙を見てスマートフォンでドアの状況を撮影しようとし、フラッシュを光らせてしまった際も、初春は動じることなく罠やタイマー設定を疑い、押収した端末をパソコンに繋いで解析しようとするなど、常軌を逸した冷静さと手際で佐天を追い詰めていった 。

白井黒子の「惨殺」と狂気
さらに事態はエスカレートする。支部へ白井黒子がやってくると、初春は躊躇なく警杖を振り下ろして白井を打ち倒した(かのように見せかけた) 。頭部が損壊したような白井の「死体」を前に、初春は「消し去るとなったら数が増えても一緒」と乾いた笑いを漏らした 。返り血まみれの笑顔で警杖を握り潰す初春の姿に、佐天は恐怖の限界を超えて発狂するに至った 。

豹変の真相
この恐ろしい初春の変貌は、すべて佐天への逆ドッキリであった 。

・初春はパソコンのWebカメラを通じ、佐天が血糊を仕込んでいるのを最初から観察していた 。
・白井黒子と結託し、防犯訓練用の特殊メイクや小道具を用いて凄惨な殺人現場を演出した 。
・警杖を握り潰したように見せたのは、生分解性プラスチックの素材を定温保存の能力で急速に腐食・発酵させた結果であった 。

やりすぎだと呆れる御坂美琴に対し、初春は「面白半分で『こう』されたくはありませんし」と平然と答え、悪戯の報復として徹底的な恐怖を佐天に味わわせたのであった 。

まとめ
このエピソードは、普段は温厚な初春飾利が持つ、情報処理能力や自身の能力を駆使した際の徹底した冷徹さを浮き彫りにしている 。たとえ親しい友人による悪戯であっても、風紀委員としての活動を侮辱された際の彼女がどれほど恐ろしい存在になり得るかを示す、象徴的な事件であったといえる 。

自殺アプリの捜査

学園都市において「恐怖を感じることなく自殺できる」と喧伝され、急速に広まった絶対自殺ツール「イグジットApp」と、その開発者を巡る捜査の経緯である。本件は、科学技術の暴走が招いた悲劇に対し、風紀委員(ジャッジメント)が情報技術と不屈の意志で立ち向かった事案として記録されるべきものである。

「イグジットApp」の概要
・御坂美琴と白井黒子が第一五学区の違法サイバー施設を制圧した際、その存在が判明した 。
・IoT対応マッサージチェアの管理プログラムを改造し、リミッターを解除することで人体を物理的に破壊する処刑マシンへと変貌させるものである 。
・本来、機材の暴走による激痛で利用者は途中で逃げ出してしまうが、強いアルコールを組み合わせて泥酔状態を作り出すことで、抵抗を封じて死を完遂させる極めて悪質なシステムであった 。

捜査の方針と囮捜査の開始
・マッサージチェアの全面回収は大手メーカーとの対立を招くため非現実的であり、開発者を特定してツールの危険性を周知し、利用者に忌避感を抱かせる作戦が採られた 。
・裏社会から警戒されている御坂美琴と白井黒子は後方待機し、初春飾利が第一五学区の裏路地で囮となって捜査を開始した 。
・売人たちは通販ドローンの配送網を悪用し、荷物の底にUSBメモリを貼り付ける手法でツールを密売していた 。

開発者との接触
・捜査の途上、初春は通信ノイズとともに地下の暗渠へと連れ込まれ、そこでツールの開発者である甘蛇冴華と遭遇した 。
・甘蛇は金儲けを目的としたツールの流通を嫌悪しており、独断で末端の売人を潰すために活動していたことが判明した 。
・売人の追手が迫る中、初春は自作のスタンガン付き携帯電話を用いて甘蛇を気絶させ、彼女を背負って地下通路を逃走した 。

イグジットAppの真実と対抗策
・甘蛇の告白により、イグジットAppは元々自殺用ではなく、脳のシナプス配線を遮断して超能力を後天的に書き換えるための学習装置として開発されたことが明かされた 。
・実験の失敗によって暴走プログラムが流出し、死を望む者たちによって「確実に死ねる組み合わせ」が探り当てられてしまったのである 。
・初春は「酔わせる機能」がオンライン配布されている点に着目し、その一斉削除と、マッサージチェアへの無害なプログラムの先行感染によるデータ領域の占有という解決策を提示した 。

事件の決着
・逃走の最中、ツールを他殺に悪用しようと目論む女が現れ、金属メジャーを武器に襲い掛かってきた 。
・甘蛇は自らの血に死のイメージを乗せてあらゆる毒を生成する能力「死毒生産」で応戦したが、飛び散った血が初春にも付着してしまう 。
・「人を傷つけることしかできない」と絶望する甘蛇に対し、初春は倒れたまま「毒を作れるなら薬も作れるはずだ」と語りかけた 。
・その言葉に救われた甘蛇は、自らの能力を初春の治療のために使い、事態は収拾へと向かった 。

まとめ
本事件は、開発者の手を離れて独り歩きを始めた技術が、人間の悪意や絶望と結びついた結果引き起こされたものである。しかし、初春飾利が示した「毒を薬に変える」という視点は、技術や能力の価値は使い手の意志によって決まるという真理を浮き彫りにした。開発者である甘蛇冴華が自らの能力と向き合い、人を救うために力を使ったことで、イグジットAppを巡る悪循環は断ち切られることとなった。

学舎の園独立計画

学舎の園独立計画は、常盤台中学をはじめとする五つの名門校が集まる特別区域である学舎の園を、学園都市から切り離して独立させようとした大規模な反乱事件である。本計画は、教育環境への不満を背景とした生徒たちの暴走と、高度な科学技術を用いた都市機能の物理的な分離を伴うものであった。

計画の発端と浮上
事の発端は、教師陣が提案した極端な校則案であった。下着の素材を木綿に限定し、制汗スプレーの使用を禁止するといった過剰な制約に対し、生徒たちは激しく反発して暴徒化した。この反乱を主導したのは、東欧ダイヤライン皇国の君主であり常盤台中学三年のレザネリエ=サディス=ダイヤラインを筆頭とする、五校のディベート大会代表たちである。彼女らは以下の手段を用いて計画を実行に移した。

・学舎の園の地盤をメガフロート用の軽量アルミ合金キューブで補強した。
・大規模太陽光発電と巨大な垂直離着陸機構(VTOL)を構築した。
・学舎の園全体を高度五〇〇〇メートルの上空へと浮上させ、物理的な独立を強行した。

群衆の支配手法
レザネリエらは、生徒たちを支配・扇動するために二つの心理的アプローチを用いた。

・積極的肯定:教師や研究者などの大人たちを悪と定義し、共通の敵を作ることで生徒たちの団結力を高めた。
・消極的肯定:大人を排除しても生活サイクルは維持されると信じ込ませ、無理に抵抗せず静観するほうが賢いと思わせて抵抗意志を奪った。

さらにレザネリエは、拡声器から指向性の音響とともに痒み成分の微細ミストを散布していた。これにより人々のストレスを無意識レベルで増幅させ、感情を操作していたのである。

地下工場の秘密と口減らし
この計画には決定的な破綻が隠されていた。常盤台中学二年の夕暮金糸雀が調査した地下施設には、人工の野菜プラントやクローン食肉工場が存在していたが、その規模では全生徒の食料を賄うには不十分であった。レザネリエたちは最初から全員を生かすつもりはなく、食料不足を補うための口減らしとして教師たちの処刑を企てていたのである。

レザネリエの真の動機
レザネリエが暴挙に出た真の理由は、愛馬であるビストリオの死にあった。脚を骨折したビストリオは、教師たちによってコストに見合わないと判断され、治療も安楽死も許されずに処分された。この経験から、彼女は大人たちが不要になった命を平然と切り捨てる存在であると確信した。いずれ自分たち能力者も同様に見捨てられるという恐怖と、大切な命を奪われた復讐心が、計画の根本的な動機となっていた。

計画の結末
最終的に、御坂美琴がレザネリエの操る巨大なハルバードの特性を逆手に取り、至近距離から超電磁砲を放って彼女を撃破したことで、計画は完全に瓦解した。浮上した学舎の園は、婚后光子の空力使いによるサポートによって、元の位置へと安全に不時着した。

事件の事後処理は以下の通りである。

・食蜂操祈が心理掌握を用いて関係者の記憶を操作し、事件を巨大なサプライズイベントであったと偽装した。
・御坂美琴が内部サーバーにデコイの計画書を仕込み、暴徒化した生徒や教師たちが自らの行動を合法的な心理学実験であったと自己修正するように仕向けた。

まとめ
学舎の園独立計画は、個人的な悲劇から生じた大人への不信感が、閉鎖的な環境下で爆発した結果引き起こされた。しかし、御坂美琴らの活躍と、食蜂操祈による徹底した情報隠蔽により、この未曾有の反乱事件は表沙汰になることなく、学園都市の日常の中に埋もれることとなった。

能力者間の戦闘

学園都市における能力者間の戦闘(対能力戦)は、単なる能力の出力のぶつけ合いではない。相手の能力の分析と環境の構築、そして心理戦が極めて重要な要素となる。

対能力戦の基本原則
学園都市における対能力戦の基本は、以下の3つのステップに要約される。

・まず自分の生存条件を確保すること。
・安全な位置や条件を保ちつつ、相手の能力や痕跡を観察・分析すること。
・手に入れた情報を基に、自分の能力で相手を打破する方法を構築すること。

実際の戦闘では、能力に頼りすぎることは危険である。怪我や病気、閃光やガスなどで頭の中の演算を乱されると、能力が機能しなくなり死に直結するからである。そのため、以下のような多様な戦術が展開される。

環境と条件のセッティングによる打破
相手の能力を分析し、自分に有利な、あるいは相手に不利な環境を構築することが勝利への鍵となる。白井黒子と固法美偉の戦闘では、固法の透視能力(クレアボヤンス)によって奇襲が一切通じない状況に陥った。そこで白井は、見つからないように動くことを諦め、見えていても回避できない状況を作る戦術に切り替えた。狭く滑りやすい浴室という空間を利用し、熱湯を撒き散らして回避を困難にさせた上で、透視能力の致命的な弱点である強光への脆弱性を突き、携帯電話のフラッシュで目潰しを行って勝利を収めた。

痛覚の上書きと能力の極限応用
能力を極限まで応用し、自身の肉体的な限界を強引に突破する戦い方も存在する。白井黒子がシェフの少女(爆発膨張の能力者)と戦った際、高圧で酢酸ミストを血管内に打ち込まれ、ショック死寸前の激痛に襲われた。白井はこれに対抗するため、自身の能力である空間移動(テレポート)を使って自分の頭蓋骨ギリギリに金属矢を刺し、くも膜下出血に匹敵する極限の頭痛を人工的に発生させた。全身の痛覚を擬似的に遮断、あるいは上書きすることで行動を継続し、そのまま相手の額へ金属矢を転送して勝利を収めた事例である。

能力の看破と武器の特性の逆利用
御坂美琴とレザネリエ=サディス=ダイヤラインの戦闘では、美琴は相手の猛攻を受けながらも、相手の能力が金属を急速に腐食・発熱させる赤色支配であることを看破した。そして、レザネリエが扱う巨大なハルバードが槍、斧、鉤を備えた複雑な形状であることに着目する。わざと脱ぎ捨てた自分のブレザーをハルバードの刃に絡みつかせることで武器の動きを完全に封じ、至近距離から超電磁砲(レールガン)を放って撃破した。

精神・感覚系能力の衝突
物理的な破壊力ではなく、精神や感覚を支配する能力者同士の戦いも行われる。食蜂操祈(心理掌握)と統御懸愛(物理感覚)の戦闘では、統御懸愛が五感を狂わせる幻覚や痛覚で食蜂を追い詰めようとした。しかし食蜂は、自身も精神系能力者である強みを活かし、自らの下半身が炎を纏う蛇や巨大な魚の鱗に変化したかのような圧倒的な怪物の幻覚を相手の精神に直接見せつけ、恐怖によって相手を屈服させた。

まとめ
このように、能力者間の戦闘では能力の純粋な強弱だけではなく、発想の転換、環境の支配、相手の弱点の看破、そして時には自らの身を削る覚悟が勝敗を大きく左右するのである。技術と知略の積み重ねこそが、学園都市における真の戦闘技術といえる。

能力

学園都市に存在する能力者たちは、それぞれが独自の理論に基づいた多様な能力を保有している。以下に、主要な能力者の特性、具体的な応用方法、および戦闘における戦術的側面について整理する。

御坂美琴:超能力者(レベル5)超電磁砲

学園都市の第三位に位置し、発電系最強の能力を誇る。その代名詞である攻撃技から超電磁砲の異名を持つが、能力の応用範囲は極めて広い。

・超電磁砲(レールガン):指先でコインを音速の3倍で撃ち出す主力攻撃である。超至近距離からの発射では、周囲を揺るがすほどの衝撃波と轟音を発生させる。

・磁力の操作:磁力を高度にコントロールし、周囲の砂鉄を集めてチェーンソーのように高速振動する砂鉄の剣を作り出す。また、巨大な鉄板を投げ飛ばす、水道管を引きずり出して水の壁を作るなど、環境を自在に利用した攻撃や防御が可能である。

・立体機動:自身の体を磁力で浮かせ、高所からの着地減速や、ビルからビルへと飛び移る超高速移動を行う。

・第六感(レーダー):全身から微弱なマイクロ波を放つことで、周囲の状況を把握する。透明化能力者の位置特定や、非金属の破片といった飛来物の正確な捕捉が可能である。

・電子操作:電気信号を直接操作することで、高度なセキュリティを強引に突破するハッキング能力を備えている。

白井黒子:大能力(レベル4)空間移動

自身や触れた物体を三次元的な制約を無視して転送する能力である。

・機動力:一度の飛距離は最大81.5メートル、最大移動重量は130.7キログラムに達する。壁などの障害物を無視した移動が可能である。

・戦闘応用:金属矢などの武器を相手の至近距離や体内に直接転送する攻撃を行う。極限状態では、自分の頭蓋骨付近に矢を転送して人工的な激痛を作り出し、敵から受けた痛覚を上書きして行動を継続するなどの戦術を用いる。

・弱点:発動には複雑な空間演算が必要なため、負傷や閃光、ガスなどによって集中力が乱されると、能力が使用不能になるリスクを抱えている。

固法美偉:強能力(レベル3)透視能力

遮蔽物を無視してその向こう側を視認する能力である。

・視認精度:50メートル以上先の対象を正確に捉える。空気による光の屈折などを無視して視界を確保するため、歪みのない完全純粋視界を得ることが可能である。

・戦闘応用:優れた格闘術と組み合わせることで、視界内の攻撃を確実に見切り、迎撃や回避を行う絶対的な防御力を発揮する。

・弱点:遮蔽物を無視して見る特性上、強烈な光を直接受けてしまうため、フラッシュなどの光による目潰しに弱い。

初春飾利:低能力(レベル1)定温保存

手で触れた対象の温度を一定に保つ能力である。低レベルながら、知識との組み合わせにより多角的な応用を見せる。

・感情制御:自身の体温を一定に保つことで、極度の緊張下でも冷静な状態を維持する。

・物質変化:生分解性プラスチックの温度を一定に保ち、微生物を活性化させることで、対象を急速に腐食・発酵させて物理的に破壊する。

食蜂操祈:超能力者(レベル5)心理掌握

学園都市の第五位であり、精神系最強の能力者である。

・心理操作:記憶の改竄、読心、精神支配など、人の心に関するあらゆる事象を操作できる。大規模な事件の記憶をサプライズイベントに書き換えて隠蔽するなどの処理も可能である。

・精神の最適化:味方の心理的負担を軽減させ、戦闘に特化させる調整を行うことができる。

・幻覚の投影:相手の精神に干渉し、圧倒的な怪物の姿などの強烈な幻覚を見せて恐怖で屈服させる。

・制限:能力の行使にはリモコンを向ける動作を必要とする。また、機械や動物には効果がなく、補助装置なしでは極端に広範囲の人間を同時に操作することはできない。

レザネリエ=サディス=ダイヤライン:赤色支配

金属を急速に腐食させ、発熱を伴う錆を発生させる能力である。

・金属腐食:ステンレスなどの錆びにくい金属も瞬時に崩壊させる。この際に発生する熱や酸化現象を利用する。

・武器ブースト:自身が扱う大型武器の性能を能力で底上げし、人間離れした速度で振り回すことができる。

・弱点:使用した武器自体も急速に錆びて壊れていくため、長期戦には向かない。

・補足的手段:能力とは別に、指向性音響と痒み成分のミストを散布する拡声器を使い、群衆のストレスを増幅させて感情を操る戦術を得意とする。

まとめ

学園都市の能力は、単純な火力の強弱だけで決まるものではない。能力の特性を理解し、環境や心理状況を巧みに利用することで、格上の相手を打破することも可能である。各能力者が持つ利点と欠点は、戦術の組み立てにおいて重要な要素となっている。

登場キャラクター

風紀委員(ジャッジメント)

白井黒子

常盤台中学の1年生であり、御坂美琴のルームメイトとして彼女を深く慕っている。風紀委員第一七七支部に所属し、強い正義感を持って治安維持活動に従事する。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 風紀委員第一七七支部・常盤台中学1年生。レベル4(大能力)の『空間移動(テレポート)』。
・能力の詳細または使用魔術の特性
 自分自身や直接触れた物体を三次元的な制約を無視して転送する。飛距離は81.5メートル、最大移動重量は130.7キログラムである。
・作中での具体的な行動や戦果
 固法美偉との特訓を回避するための攻防で、浴室の環境や携帯電話のフラッシュを利用して勝利を収めた。また、学舎の園独立計画の鎮圧において、シェフの少女を撃破している。
・影響力、特筆事項、変化
 御坂美琴のサポート役として活躍する一方で、能力発動には高度な空間演算が不可欠であるため、集中力を乱されると機能しなくなる弱点を持つ。

初春飾利

風紀委員第一七七支部に所属する中学1年生である。内気な性格でブレーキ役となることが多いが、お嬢様文化に対しては強い憧れを抱く。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 風紀委員第一七七支部。レベル1(低能力)の『定温保存(サーマルハンド)』。
・能力の詳細または使用魔術の特性
 手で触れた対象の温度を一定に保つ能力である。自身の体温を一定に保つことで感情の起伏を抑制するほか、素材の腐食や発酵を促進させるといった応用が可能となっている。
・作中での具体的な行動や戦果
 佐天涙子による悪戯に対して、冷酷な死体処理計画を語る逆ドッキリを仕掛けて恐怖を与えた。また、「イグジットApp」事件において囮捜査を行い、開発者の甘蛇冴華と接触して事態の収拾に貢献している。
・影響力、特筆事項、変化
 高度な情報処理技術を持ち、サイバー犯罪対策の専門家として風紀委員の活動を情報面から支える役割を担う。

固法美偉

第七学区で活動する風紀委員の先輩である。真面目な優等生として知られ、逮捕術などの格闘にも優れている。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 風紀委員。レベル3(強能力)の『透視能力(クレアボヤンス)』。
・能力の詳細または使用魔術の特性
 遮蔽物を無視して対象を視認する。空気による光の減衰や屈折も無視するため、誤差のない完全純粋視界を得ることができる。
・作中での具体的な行動や戦果
 白井黒子に対して空間移動能力への依存を指摘し、特訓を行った。白井の奇襲を幾度も防いだが、浴室での攻防において閃光を直接受ける弱点を突かれて拘束された。
・影響力、特筆事項、変化
 日頃からメガネを着用しており、洞察力と格闘術を能力と組み合わせることで絶対的な防御力を発揮する。

常盤台中学

御坂美琴

常盤台中学のエースとされる少女である。正義感が強く、事件解決のためには単独で危険な場所へも踏み込む。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 常盤台中学。レベル5(超能力者)の第三位。『超電磁砲(レールガン)』の異名を持つ。
・能力の詳細または使用魔術の特性
 発電系最強の能力者である。指先からコインを音速の3倍で撃ち出すほか、砂鉄の剣の生成、磁力による立体機動、マイクロ波レーダーによる空間把握、高度な電子操作など多彩な応用を見せる。
・作中での具体的な行動や戦果
 違法サイバー施設を制圧し、「イグジットApp」事件の解決を後方から支援した。学舎の園独立計画の阻止に動き、首謀者であるレザネリエ=サディス=ダイヤラインを撃破している。
・影響力、特筆事項、変化
 学園都市屈指の戦力として多様な事件の解決に貢献しており、他者からはその実力を高く評価されている。

食蜂操祈

常盤台中学の最大派閥を率いる少女である。女王と称され、自らの派閥に属する者を庇護する責任感を持つ。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 常盤台中学。レベル5(超能力者)の第五位。精神系最強の『心理掌握(メンタルアウト)』。
・能力の詳細または使用魔術の特性
 対象の心を読み取る、記憶を操作する、幻覚を見せるなど、精神を完全に支配する。能力の行使にはテレビのリモコンを相手に向けるアクションを伴う。
・作中での具体的な行動や戦果
 学舎の園独立計画の最中、統御懸愛との戦闘で相手に怪物の幻覚を見せて屈服させた。事後処理として関係者の記憶を操作し、事件をサプライズイベントであったと偽装している。
・影響力、特筆事項、変化
 機械や動物には効果がないという弱点を持つが、対人戦闘や情報操作において極めて高い影響力を発揮する。

帆風潤子

食蜂派閥のナンバー2として、女王である食蜂操祈の護衛を務める少女である。食蜂の命令に忠実に行動する。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 常盤台中学・食蜂派閥ナンバー2。能力は『天衣装着(ランペイジドレス)』。
・能力の詳細または使用魔術の特性
 微弱な電気信号を用いて自身の筋肉を限界以上に稼働させる。防弾車を素手で圧壊するほどの身体能力と、ビル間を跳躍する脚力を発揮する。
・作中での具体的な行動や戦果
 食蜂操祈の指示に従い、御坂美琴を捕縛するふりをしてレザネリエたちの信頼を獲得する作戦に参加した。食蜂の最適化を受けた結果、恐怖を喪失して美琴との戦闘を熱望する様子を見せた。
・影響力、特筆事項、変化
 食蜂派閥の主力として前衛を担い、純粋な物理攻撃において高い戦闘力を誇る。

口囃子早鳥

食蜂派閥に所属するおかっぱ頭の少女である。直接戦闘は苦手としており、後方からの支援を担当する。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 常盤台中学・食蜂派閥。念話能力(テレパス)を持つ。
・能力の詳細または使用魔術の特性
 接続した相手の位置を大まかに把握できる。また、対象の思考内容を聞き取ることが可能である。
・作中での具体的な行動や戦果
 逃走する御坂美琴の座標を特定し、前衛である帆風潤子を着弾させるための通信支援を行った。
・影響力、特筆事項、変化
 戦闘部隊の眼として機能し、派閥の組織的な行動を支えている。

婚后光子

常盤台中学に所属する和風の黒髪を持つ少女である。その場の空気に流されやすい傾向がある。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 常盤台中学。能力は『空力使い(エアロハンド)』。
・能力の詳細または使用魔術の特性
 物体に触れることで空気の噴射点を作る。長距離攻撃が可能であり、射程距離に関しては超電磁砲を上回る。
・作中での具体的な行動や戦果
 学舎の園が浮上した際、暴徒化した生徒たちに紛れて御坂美琴を追跡した。事件後には能力を用いて浮上した学舎の園を元の位置へ安全に不時着させている。
・影響力、特筆事項、変化
 索敵能力は持たないものの、事態の収拾において極めて重要な役割を果たした。

夕暮金糸雀

常盤台中学の2年生であり、新聞部に所属する少女である。正義感が非常に強く、真実の追求に熱心である。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 常盤台中学2年生・新聞部。レベル3(強能力)の『完全消毒(ミクロダイイング)』。
・能力の詳細または使用魔術の特性
 触れた対象の微生物を根こそぎ殺菌する。特定の微生物だけを選んで生き残らせることで、生成された粘液を利用して高速移動することが可能である。
・作中での具体的な行動や戦果
 学舎の園の地下施設を調査し、食糧生産規模の不足から口減らし計画の存在を突き止めた。その後、地下に閉じ込められたが美琴たちに救出され、施設データを初春に託した。
・影響力、特筆事項、変化
 彼女が持ち出したデータが、学舎の園独立計画の真の目的を暴く決定的な証拠となった。

レザネリエ=サディス=ダイヤライン

東欧ダイヤライン皇国の君主であり、常盤台中学の3年生である。愛馬の死をきっかけに大人たちへの不信感を募らせ、独立計画を立案した。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 常盤台中学3年生・馬上戦闘部部長。能力は『赤色支配(クリムゾンマネージャ)』。
・能力の詳細または使用魔術の特性
 金属を急速に腐食させて発熱させる。この能力で大型のハルバードの性能を底上げし、人間離れした速度で振り回す。
・作中での具体的な行動や戦果
 ディベート大会代表たちと結託し、学舎の園全体を高度5000メートルに浮上させて反乱を引き起こした。御坂美琴との決戦において、ハルバードの動きを封じられて敗北した。
・影響力、特筆事項、変化
 自身の武器が急速に錆びて崩壊するという時間制限の弱点を抱えていた。拡声器を用いた精神操作で生徒たちを煽動し、大事件の首謀者として立ち回った。

寮監

常盤台中学の外部学生寮を管理する女性である。規則に厳格であり、生徒たちから非常に恐れられている。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 常盤台中学・寮監。
・作中での具体的な行動や戦果
 門限破りと朝帰りを犯した白井黒子を入り口で待ち構え、「お前はここで終わりだ」と宣告した。
・影響力、特筆事項、変化
 能力を持たない一般人でありながら、常盤台の生徒たちを恐怖で支配するほどの威圧感を持つ。

綿辺先生

常盤台中学の教師である。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 常盤台中学・教師。
・作中での具体的な行動や戦果
 学舎の園独立計画の最中、寮監の思考の中で囚われのお姫様系のポジションとして言及された。
・影響力、特筆事項、変化
 具体的な登場シーンは描写されておらず、名前のみが登場している。

赤鮫先生

常盤台中学の女教師である。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 常盤台中学・教師。
・作中での具体的な行動や戦果
 学舎の園独立計画の暴動において、暴徒化した生徒たちによって死刑台に立たされ、処刑されかけたところを御坂美琴に救出された。
・影響力、特筆事項、変化
 生徒たちの不満の矛先として利用された被害者の一人である。

学舎の園独立計画幹部(他校のディベート大会代表)

統御懸愛

高級スーツを着用した弁護士のような風貌の少女である。レザネリエの側近として行動する。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 学舎の園のお嬢様学校。能力は『物理感覚(センスストライカー)』。
・能力の詳細または使用魔術の特性
 人間の五感や肉体感覚に錯覚を流し込み、物理的な痛みや熱などを感じさせる。
・作中での具体的な行動や戦果
 食蜂操祈との戦闘において、幻覚の炎と熱感で相手を追い詰めようとしたが、逆に食蜂から怪物の幻覚を見せつけられて屈服した。
・影響力、特筆事項、変化
 レザネリエの家臣として立ち回り、精神的な攻撃によって相手を無力化することを得意とする。

恋歌エフィルティ

メイド服を着用した少女である。レザネリエを君主として敬い、自らの命を懸けて仕える。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 学舎の園のお嬢様学校。レベル3(強能力)の『効果飛翔(フライレーシング)』。
・能力の詳細または使用魔術の特性
 髪に仕込んだエクステや衣服のワイヤーなどの硬質樹脂を操作して翼を作り、地面効果を利用して時速1100キロで滑空する。
・作中での具体的な行動や戦果
 食蜂操祈を仕留めるために高速突撃を行ったが、夕暮金糸雀の能力によって巨大な粘菌ネットで受け止められて墜落した。
・影響力、特筆事項、変化
 地力は低いものの、非効率を極めた手段を高速で実行することによって強力な攻撃へと昇華させている。

算木逢

会計士としてレザネリエに仕える少女である。状況を数字の大小で判断し、合理的な計算を優先する。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 学舎の園のお嬢様学校。能力は『万能吸着(プラスエクイップメント)』。
・能力の詳細または使用魔術の特性
 微細繊維を操作して毛羽立たせ、包帯や絆創膏の密着性と止血性能を極端に高める応急固定を行う。
・作中での具体的な行動や戦果
 瀕死の味方を治療して戦線復帰させることで油断を誘う戦術を企てたが、夕暮爪羽鶏の白血球群によって阻まれた。
・影響力、特筆事項、変化
 味方の損失を許容し、それをより大きな利益へと転換するための戦術的思考を持つ。

舌鼓淑子

シェフの服装に身を包んだ陰気な少女である。人間を料理してみたいという特異な願望を抱いている。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 学舎の園のお嬢様学校。能力は『爆発膨張(マテリアルフレア)』。
・能力の詳細または使用魔術の特性
 燃焼ガスの膨張を異常加速させ、目に見えない衝撃波を巨大な包丁の形にして放つ。また、高圧で液体を噴射して皮膚を貫通させる。
・作中での具体的な行動や戦果
 白井黒子との戦闘において、高圧の酢酸ミストを血管内に打ち込んで激痛を与えたが、痛覚を上書きした白井の金属矢を受けて敗北した。
・影響力、特筆事項、変化
 調理の理論を戦闘に応用し、不可視の攻撃によって相手を追い詰める戦い方を見せた。

犯罪者・アングラ勢力

甘蛇冴華

金髪褐色でギャル系の風貌を持つ女子高生である。能力の格差に疑問を抱き、超能力を後天的に書き換える装置の開発を目指していた。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 第一五学区の不良。能力は『死毒生産(スコーピオンテイル)』。
・能力の詳細または使用魔術の特性
 自らの血に死のイメージを乗せ、あらゆる種類の毒を生成して自在に操る。
・作中での具体的な行動や戦果
 「イグジットApp」の開発者であるが、意図せぬ形で自殺ツールとして流出したため、末端の売人を自ら潰して回っていた。暗渠で初春飾利と接触し、彼女の説得によって自らの毒を治療薬として用いることを決意した。
・影響力、特筆事項、変化
 自身の能力を嫌悪していたが、初春の言葉によって能力の真の価値に気づき、人を救うために力を行使するようになった。

その他の学生・一般人

佐天涙子

流行の追っかけや都市伝説の収集を趣味とする中学1年生である。能力を持たないことへの複雑な感情を抱えている。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 学園都市の中学1年生。レベル0(無能力)。
・作中での具体的な行動や戦果
 初春飾利に血糊を使った悪戯を仕掛けたが、逆に初春から冷酷な死体処理計画を語られる逆ドッキリを受け、恐怖の限界を超えて発狂した。また、迷子の夕暮爪羽鶏を保護する際にも同行している。
・影響力、特筆事項、変化
 情報収集能力に長けており、極限状態でも都市伝説の知識を思い出すなどの特徴を持つが、能力戦においては無力である。

夕暮爪羽鶏

常盤台中学への推薦入試のために学舎の園を訪れた小学6年生である。姉の金糸雀を深く慕っている。
・所属組織、地位・ランク、能力・魔術の分類
 小学6年生。レベル4(大能力)の『血中肥大(マクロダイイング)』。
・能力の詳細または使用魔術の特性
 自らの血液成分を巨大化させて操る。白血球を2メートル大に膨張させ、対象を丸呑みにして消化することが可能である。
・作中での具体的な行動や戦果
 姉が行方不明になったことで絶望していたが、食蜂操祈によって精神を安定させられた。その後、姉を傷つけようとする算木逢たちに怒りを爆発させ、巨大な白血球群で攻撃した。
・影響力、特筆事項、変化
 注射嫌いであるため自分の血を流す能力を好んでいないが、単独で軍勢を生み出せるほどの実力を秘めている。

展開まとめ

序章四人の少女達

学園都市の喫茶店での合流

放課後の繁華街で、佐天涙子は人混みの中から御坂美琴たちを見つけ、席を立って大きく手を振っていた。学園都市には二三〇万人もの人口がおり、その多くが学生であるため、繁華街は非常に混雑していた。御坂美琴と白井黒子は、人の多さについて言葉を交わしながら喫茶店へ合流した。

常盤台中学の生徒達への反応

初春飾利は、名門である常盤台中学の生徒が安価なチェーン系喫茶店を利用していることへ驚きを示した。しかし御坂美琴本人は気にした様子もなく、ベイクドチーズケーキを食べながら紅茶を楽しんでいた。その姿には周囲が勝手に高級感を感じ取っており、佐天涙子と初春飾利は、学園都市に七人しか存在しない超能力者第三位である御坂美琴の存在感へ密かに感嘆していた。

ゲコ太イベントへの興味

御坂美琴は、トレイに敷かれていたイベント広告のチラシに描かれたカエルのマスコット「ゲコ太」に夢中になっていた。イベント会場が有明であると知ると、学園都市の外へこっそり出ることは難しいと残念がった。それに対して白井黒子は、御坂美琴の発言が冗談では済まされないと警戒を示していた。

学園都市という特殊な環境

学園都市は東京西部に存在する特殊な都市であり、外部より二、三〇年進んだ技術を有していた。超能力開発が授業へ組み込まれているほか、警察や自衛隊の代わりに教師組織や生徒による風紀委員が治安維持を担っていた。白井黒子は、必要ならば自身の空間移動能力を使ってでも御坂美琴を止める意思を見せていた。

また学園都市では、生徒達は無能力者から超能力者まで六段階に分類されていた。御坂美琴は、その中でも発電系最強とされる「超電磁砲」の異名を持つ超能力者であり、学園都市を代表する存在の一人であった。

御坂美琴の思いつき

有明のイベントへ行けないことを惜しんでいた御坂美琴は、突然、イベント自体を学園都市へ呼び込めば良いとひらめいた。ネットワーク経由で電子書類を操作しようと考え始めた美琴に対し、白井黒子は本気の表情を見せる彼女へ強い危機感を抱いていた。

この場面は、学園都市で日々を全力で生きる少女達の日常の一幕として描かれていた。

第一章白井黒子は躊躇わない

学舎の園と白井黒子の立場

学園都市第七学区に存在する『学舎の園』は、名門女子校が集まる特別区域であり、上流階級の少女達が集う空間であった。ブランドショップや整備された街並みが並び、一般的な感覚とは異なる価値観で運営されていた。

その中でも常盤台中学は特に格式高い存在であり、廊下では白井黒子に関する噂話が広がっていた。白井は風紀委員として優秀であり、さらに超能力者第三位である御坂美琴の側近として認識されていた。しかし白井本人は、他人の評判などに価値を感じておらず、実力こそが重要だと考えていた。

御坂美琴への執着

白井黒子は廊下で御坂美琴を発見すると、背後から抱きつこうとして空間移動能力を使用した。しかし御坂美琴は事前に察知しており、高圧電流で迎撃した。白井は痙攣しながらも、美琴との相思相愛だと前向きに解釈していた。

さらに白井は、ルームメイトとして過ごす週末を理想の時間にしようと密かに計画を立てていた。学生寮の部屋を外側からも内側からも開けられない密室仕様へ改造し、様々な準備を進めていたのである。

御坂美琴の無邪気な計画

御坂美琴は、夜更かし用に冷蔵庫代わりとなるクーラーボックスへ興味を示していた。寮生活では自由に飲食できないため、ショートケーキや冷たい紅茶を保存したいと語り、寮監への小さな反抗として楽しそうに想像を膨らませていた。

その無邪気な様子を見た白井黒子は、自分の邪な計画との差に動揺しながらも、理性を保とうとしていた。

固法美偉からの伝言

御坂美琴は、アカウント不調で連絡を受け取れていない白井黒子へ、風紀委員の先輩である固法美偉からの伝言を伝えた。それは、白井の格闘技の腕が鈍っているため、この週末を使って鍛え直すという内容だった。

その瞬間、白井黒子の理想の週末計画は崩壊した。白井は廊下で崩れ落ちながらも、固法美偉を倒して自由を勝ち取る決意を固めていた。

固法美偉への警戒

放課後、白井黒子は風紀委員の訓練施設へ向かいながら、固法美偉への対策を考えていた。固法は優秀な風紀委員であり、透視能力を持つ強能力者であった。

白井は、自身の空間移動能力と違い、超感覚系能力は外部から性能を把握しづらいことへ強い警戒を抱いていた。透視能力がどの範囲まで機能し、どの程度の精度を持つのか分からない以上、長期戦は危険だと判断したのである。

白井黒子の奇襲と敗北

白井黒子は、先手必勝を狙い、訓練施設へ到着すると同時に空間移動を使用した。第一格技道場の上空へ転移し、固法美偉へドロップキックを仕掛けたのである。

しかし固法美偉は、その奇襲を完全に見抜いていた。固法は笑顔のまま白井を返り討ちにし、自身の透視能力によって、鉄筋コンクリート越しでも遠距離から白井の動きを把握できることを証明した。

固法美偉との訓練ルール

奇襲作戦に失敗した白井黒子は、格技道場で正座させられながら、固法美偉から正式な訓練ルールを説明された。戦闘期間は金曜から日曜までの三日間であり、その間、白井はいつでも固法へ攻撃を仕掛けてよかった。一方で固法側から先制攻撃は禁止されており、白井が手錠による拘束を成功させれば勝利となる条件だった。

さらに、他者や建物へ被害を出さないこと、公的ルールを守ることも定められていた。白井は勝ち目がないのではと弱音を吐いたが、固法美偉は最初から諦めるべきではないと諭した。

能力依存への指摘

固法美偉は、白井黒子が空間移動能力へ依存しすぎている点を問題視していた。怪我や病気、閃光やガスなどによって演算を乱されれば能力は機能不全へ陥るため、能力前提の戦い方では現場で死ぬと警告したのである。

白井はその言葉を聞きながらも、固法が道場を出た直後に再び空間移動を使って金属矢による奇襲を試みた。しかし固法には全く通用せず、白井は改めて透視能力の厄介さを痛感していた。

固法美偉の透視能力分析

白井黒子は、固法美偉の透視能力が単なる壁抜き視界ではなく、膨大な情報から必要なものだけを正確に見抜く洞察力と結び付いていることへ気づいた。固法は人混みの中から危険人物を察知できるほど経験豊富であり、その観察眼が能力の強みをさらに増幅させていたのである。

白井は、時間を掛けるほど不利になると判断し、再び速攻勝負を仕掛ける決意を固めた。

商店街での追跡

白井黒子は屋根の上を空間移動で飛び回りながら、商店街を歩く固法美偉を追跡した。しかし固法は、ビルを何棟も挟んでいても白井の位置を正確に把握していた。

白井は、この透視能力が光の屈折や減衰による誤差すら無視している可能性へ思い至った。固法は空気や塵による視界の歪みすら透視で排除し、極めて正確な空間認識を実現していると推測したのである。

その能力は遠距離でも衰えず、地形や遮蔽物をほとんど意味のないものへ変えていた。白井は、これでは通常の奇襲戦法は成立しないと悟った。

監視と新たな発想

白井黒子は固法美偉の学生寮を突き止め、向かいのビルから監視を続けた。夜を徹して観察する中で、固法がルームメイトと交代で見張りを行っている可能性にも気づき、寝込みへの奇襲は危険だと判断した。

その結果、白井は重要な結論へ辿り着く。固法相手には「見つからないように動く」のではなく、「見えていても対応できない状況」を作るべきだと考えたのである。

浴室への突撃

土曜早朝、白井黒子は朝風呂中の固法美偉の浴室へ空間移動で突撃した。突然の襲撃に固法は狼狽しつつも、濡れたタオルを鞭のように振るって迎撃した。

しかし狭い浴室では固法も自由に動けず、濡れた床によって踏ん張りも利かなかった。白井は、その環境こそが固法の強みを封じる条件だと理解していた。

透視能力への対抗策

白井黒子は、見られていても回避不能な状況を作り出すため、シャワーの温度を最大まで上げて浴室全体へ熱湯を撒き散らした。狭い浴室では、完全回避は困難だった。

さらに白井は、固法の透視能力が強烈な光に弱いという仮説を突いた。以前、商店街で固法が不自然に視線を逸らした場面を思い出し、携帯電話のフラッシュを浴室内で炸裂させたのである。

透視能力によって遮蔽物を無視して視界を確保する固法は、その代償として強烈な閃光を直接受ける弱点を抱えていた。白井はその隙を逃さず、シャワーホースを固法の首へ巻き付け、さらに肘打ちを顔面へ叩き込んだ。

白井黒子の勝利と拘束

固法美偉との戦いに勝利した白井黒子だったが、その直後、リビングで正座させられていた。制服も髪もずぶ濡れのままであり、固法美偉は予備のメガネへ掛け替えながら不機嫌そうに対応していた。

白井は、勝利した以上は自由を得たはずなのになぜ拘束されているのかと抗議した。しかし固法は、訓練中であっても学園都市の条例を守る必要があると指摘し、浴室への侵入は住居不法侵入だと怒鳴った。

それでも固法美偉は、勝負そのものを無効にはしなかった。白井黒子は正式に勝利を認められ、週末の自由を獲得したのである。

暴走する白井黒子の妄想

自由を手に入れた白井黒子は、御坂美琴との密室生活を思い浮かべ、極端な妄想へ暴走していた。その興奮のあまり鼻血を噴き出し、固法美偉とルームメイトを困惑させていた。

固法美偉は、自分の膝蹴りによって白井へ後遺症が出たのではないかと心配し、病院へ連れて行こうとした。しかし白井は、これは健全な妄想の結果であり怪我ではないと必死に否定していた。

一方、ルームメイトは白井の異常な言動を見て、救急車を呼ぶべきではないかと真顔で提案していた。

空間移動による脱走

これ以上付き合う必要はないと判断した白井黒子は、空間移動を使用してその場から逃走した。頭の中の演算さえ妨害されなければ、自分を拘束できる者はいないという自信を持っていたのである。

白井は、固法美偉を倒したことで障害は消え去ったと確信していた。土曜と日曜は完全に自分のものになったと思い込み、御坂美琴との理想の時間へ期待を膨らませていた。

寮監との遭遇

しかし学生寮へ帰還した白井黒子を待っていたのは、常盤台中学の寮監だった。門限破りに加え朝帰りという状況を見た寮監は、正面玄関で仁王立ちしていた。

白井は、風紀委員活動を不眠不休で行っていたにもかかわらず、なぜ最後にこんな強敵が待ち構えているのかと絶望していた。さらに携帯電話を確認した結果、アカウントクラッシュによって寮監からの警告メールを受信できていなかった事実へ気づいた。

寮監は冷徹に事実だけを見ろと告げ、白井黒子へ圧力を掛けた。能力とは無関係に、常盤台中学の生徒達から恐れられている存在として、圧倒的な威圧感を放っていた。最後に寮監は、白井黒子へ「お前はここで終わりだ」と宣告し、白井は教育者らしくない台詞だと悲鳴を上げていた。

第二章佐天涙子のドロドロ血祭りパラダイス☆

佐天涙子の悪戯計画

佐天涙子は、流行や都市伝説を追いかけることを趣味とする中学一年生だった。無能力者であることへの複雑な感情を抱えながらも、明るく振る舞っていた。

放課後、佐天は風紀委員第一七七支部を訪れ、不在だった初春飾利へ悪戯を仕掛けようと考えた。流行していた動画を参考に、本物そっくりの血糊を作成し、小袋へ分けて制服や髪の中へ仕込んでいった。

さらに支部内に置かれていた警杖を見つけると、それを小道具として利用することを決めた。

血みどろサスペンス劇場

初春飾利が支部へ戻ってくると、佐天涙子は大げさな悲鳴を上げながら飛びかかり、自分の頭へ警杖をぶつけて床へ倒れ込んだ。

佐天は白目を剥いて痙攣する演技を続けつつ、仕込んでおいた血糊を床へ滲ませ、本当に死亡したような状況を作り上げた。初春が慌てる様子を想像しながら、後でゾンビのように起き上がってさらに驚かせるつもりだった。

初春飾利の異常な反応

しかし初春飾利の反応は、佐天の想像とまるで違っていた。初春は極めて冷静な口調で、死体を隠蔽しなければならないと語り始めたのである。

さらに初春は、以前にも同様の処理を行ったことがあるかのように話し始め、洗剤や清掃方法、死体処理の手順について具体的に語り出した。

佐天は、初春の能力『定温保存』によって感情の高ぶりを抑えているのではないかと推測しつつ、その異様な冷静さへ恐怖を抱いていた。

死体処理計画への恐怖

初春飾利は、風力発電設備へ死体を詰め込んで粉砕する方法や、清掃ロボットへ人間を押し込んで処理施設へ運ぶ方法などを、楽しげに検討し始めた。

佐天涙子は、冗談が完全に手遅れな状況へ変貌してしまったと感じ、生きていることを悟られないよう必死に耐えていた。しかしこのままでは本当に処分されると考え、恐怖の中で脱出の機会を探り始めた。

スマホを使った脱出計画

佐天涙子は、薄目を開けながら状況を確認し、ドアの施錠状況を把握するためスマホを利用しようと考えた。しかしスマホが振動したことで初春に近づかれ、佐天は恐怖で固まってしまった。

初春はスマホの位置情報ログを消去する話まで始め、完全に証拠隠滅を前提として行動していた。

それでも佐天は、初春が背を向けた隙を狙い、床に置かれたスマホを少しずつ引き寄せた。

緊急通報を諦めた佐天

スマホを手にした佐天は、一一〇番や一一九番へ通報することも考えた。しかし学園都市の通報システムでは音声確認が入る可能性が高く、そのやり取りを初春へ聞かれる危険を恐れて断念した。

代わりに、カメラ機能を使ってドアの状況だけでも確認しようと考えた。ドアまでの距離と施錠の有無が分かれば、脱出のタイミングを判断できると考えたのである。

致命的なミス

佐天涙子は、静かにスマホのカメラを起動し、ドアの方向へ向けて撮影ボタンを押した。しかしシャッター音を切っていたにもかかわらず、フラッシュ設定までは確認していなかった。

その結果、部屋全体が強烈な閃光で照らされてしまった。

フラッシュ発覚後の絶望

スマホのフラッシュが炸裂した直後、佐天涙子は完全に動揺していた。暗い室内であれほどの閃光を初春飾利が見逃すはずもなく、もはや誤魔化しようがない状況だった。

初春は警杖を強く握りしめながら、ゆっくりと佐天へ近づいてきた。佐天は恐怖で何もできず、ただ必死に目を閉じて耐えるしかなかった。

初春飾利による揺さぶり

初春飾利は、見えているくせにと静かな声で佐天へ呼びかけた。佐天はそれを単なるハッタリだと自分へ言い聞かせ、反応しないよう耐えていた。

しかし直後、再びフラッシュが一定間隔で点滅し始める。佐天は、とっさにスマホへタイマー設定を仕込んでいたことを思い出した。初春は一度疑いながらも、ひとまずその説明を受け入れた様子を見せた。

だが初春は、スマホ内の写真データそのものを確認しようと考え始めた。最初に撮影された一枚目には、佐天が自らドア方向を撮影した痕跡が残っているため、それを見られれば生存が確定してしまう。

パソコン破壊を考える佐天

佐天涙子は、初春がスマホをパソコンへ接続して解析しようとしていることへ気づいた。そこで、床を這う電源ケーブルを引き抜き、パソコン自体を停止させることを考え始めた。

しかし、それで本当にデータ破壊が可能なのか、逆に初春へ不審を抱かせるだけではないかという不安も拭えなかった。それでも何もしなければ確実に終わるため、佐天は行動を決意した。

白井黒子の来訪

佐天が足を伸ばしてケーブルへ触れようとしていた時、突然、支部の外から白井黒子の声が響いた。防犯訓練の準備を急かす内容であり、白井が一七七支部へやってきたのである。

佐天は、ようやく救世主が現れたと希望を抱いた。空間移動能力を持つ白井黒子なら、初春飾利にも対抗できるはずだと考えたのである。

一方の初春は、それまでの不気味な雰囲気を失い、いつもの小動物的な調子へ戻っていた。

白井黒子死亡の衝撃

しかし白井黒子が支部へ入ってきた直後、重く鈍い打撃音が響いた。

佐天涙子は、初春飾利が警杖による一撃で白井黒子を倒したのだと理解し、完全に絶望した。低能力であるはずの『定温保存』によって筋力リミッターを制御し、異常な打撃力を発揮しているのではないかという推測まで浮かんでいた。

さらに初春は、死体が一人増えても同じだと乾いた笑いを漏らしていた。

佐天涙子の発狂

極限状態に耐え切れなくなった佐天涙子は、ついに目を開けてしまった。そして目の前には、頭部が大きく損壊し、完全に死亡したように見える白井黒子の姿が転がっていた。

佐天は恐怖のあまり絶叫し、自分が生きていることを初春へ完全に知られてしまった。

振り返った先では、返り血まみれの初春飾利が笑顔を浮かべながら、警杖を握り潰していた。初春は、やはり生きていたのかと笑みを浮かべていた。

事件の真相

その後、御坂美琴が一七七支部へやってきた。室内は血まみれだったが、中央では佐天涙子が仰向けで痙攣しているだけであり、実際に死者は存在しなかった。

初春飾利は、最初からWebカメラで佐天の行動を監視していたと説明した。佐天の悪戯へ対抗するため、初春と白井黒子は事前に打ち合わせを行い、特殊メイクや血糊、防犯訓練用の小道具を利用して逆ドッキリを仕掛けていたのである。

白井黒子が倒されたように見えたのも演技であり、実際には防犯訓練用のメイクを利用した芝居だった。

また、初春が警杖を握り潰したように見えたのは、生分解性プラスチック製の素材を『定温保存』で腐食・発酵させた結果だった。

最後に御坂美琴は、イタズラへイタズラで返すにしてもやり過ぎではないかと呆れていた。一方の初春飾利は、自分はただ仕返ししただけだと平然と返していた。

第三章初春飾利もマジメに仕事する

学園都市と隠された問題

学園都市は、大人達の理想を形にするため計画的に作られた巨大都市だった。人口二三〇万人のうち八割が学生という特殊な環境であり、街全体が人工的な空気をまとっていた。

その一方で、公的には決して表へ出されない数字も存在していた。特に年間自殺者数については、都市の理想像を損なう問題として隠蔽されていた。

違法サイバー施設への突入

御坂美琴と白井黒子は、第一五学区の片隅に存在する違法サイバー施設を捜索していた。施設の正体は、喫煙ルームを偽装した小規模な『ラボ』だった。内部には大量のコンピュータや改造途中の機械類が並んでいた。

この施設では、危険なサイバー攻撃ツールの改造や流通が行われていた。美琴は、金儲けのために人命を軽視する連中へ嫌悪感を抱いていた。

床には、御坂美琴によって制圧された技術者や監視役達が倒れていた。

イグジットAppの存在

今回問題となっていたのは、「イグジットApp」と呼ばれる危険なプログラムだった。これは、恐怖を感じることなく自殺できると宣伝されている絶対自殺ツールだった。

確認されているだけで十四件の死亡事例があり、未発見のケースを含めれば実数は不明だった。

初春飾利の調査によれば、このツールはIoT対応マッサージチェアの制御プログラムを改造したものだった。

マッサージチェアを利用した自殺システム

通常のマッサージチェアは問題ないが、イグジットAppによって制御リミッターを解除すると、人間の身体へ危険な負荷を掛けられるようになる。

ただし、それだけでは人は痛みで逃げ出してしまうため、自殺を完遂することは難しかった。そこで組み合わせられていたのがアルコールだった。

大量の飲酒によって意識を鈍らせた状態でマッサージチェアへ座ることで、抵抗できないまま死亡へ至る仕組みだったのである。

このツールの危険性は、事故ではなく「自殺専用ツール」として設計されている点にあった。利用者は、日常的にマッサージチェアを使う習慣の延長線上で、少しずつ死への抵抗感を薄めていくのである。

学園都市に広がる危険

学園都市では、能力開発や試験勉強のストレスから、軽い口調で死にたいと言う学生は珍しくなかった。イグジットAppは、そうした軽い絶望へ現実性を与えてしまう危険な存在だった。

実際には、アルコール購入という障壁が存在するため、踏み止まるケースも多かった。中学生が酒を手に入れることへの心理的抵抗が、最後の防波堤として機能していたのである。

しかし近年では、ネット通販や無人レジの普及によって、その障壁も低下し始めていた。

開発者追跡作戦

初春飾利は、マッサージチェア自体を全面回収するのは現実的ではないと分析していた。多くの大手家電メーカーが健康器具市場へ参入しており、全撤去を命じれば大規模な対立へ発展するためだった。

そのため必要なのは、イグジットAppの開発者そのものを特定し、流通ルートを根絶することだった。

開発者を捕まえ、ツールの危険性を世間へ明確に示せば、利用者達の間へ「忌避感」が生まれる。初春は、それによって自殺志願者達が自然とイグジットAppを手放していくと考えていた。

御坂美琴達は、すでに複数の末端業者を潰しており、流通経路の絞り込みも進んでいた。初春飾利は、次こそが本命だと判断し、イグジットAppの根絶へ向けて動き出していた。

囮捜査の開始

イグジットAppの流通経路を追うため、美琴達は追跡調査を開始した。しかし御坂美琴と白井黒子は、これまで複数の業者を潰した影響で裏社会側から強く警戒されていたため、表立った行動を控えることになっていた。

そのため、囮役として動くことになったのは初春飾利だった。佐天涙子は自分も参加したがったが、余計なトラブルを起こす未来しか見えないとして全員から即座に却下されていた。

一方で警備員達も独自に捜査を進めていたが、美琴達四人はそれとは別に独断で動いていた。

通販ドローンを利用した密売ルート

初春飾利は、第一五学区の裏路地を単独で歩きながら、通信越しに情報を共有していた。アングラ系の取引では、ネット上よりも現実空間を利用した方法が重視されていた。

売人達は、通販ドローンが飛び交うルートを利用していた。ゴム系接着剤でUSBメモリを通販荷物へ貼り付け、通常配送へ紛れ込ませることでイグジットAppを流通させていたのである。

美琴と白井は離れた位置から監視を続けていた。御坂美琴はドローンのカメラを利用でき、白井黒子も空間移動によって即座に割り込めるため、初春の安全は確保されていた。

通信遮断と初春の拉致

初春飾利は、売人を逆に辿れば開発者へ到達できると説明していた。しかしその途中で通信へ激しいノイズが走り、映像と音声が途切れた。

直後、白井黒子は初春の姿が突然消えたことへ気づいた。空間移動能力でも位置を把握できず、白井は混乱していた。

暗渠での接触

実際には、初春飾利は謎の女子高生によって地下の暗渠へ連れ込まれていた。そこは通販ドローン用の通信インフラと接続された巨大通信ケーブル用の地下通路だった。

金髪褐色の女子高生は、初春へ売人かと問い返しつつ、なぜわざわざ直接接触しに来たのか尋ねた。

初春は、自分が誰よりも早く流通ルートの穴へ気づいたことを強調し、より安全な密売方法を提供できると提案した。そして自殺ツールそのものには興味がなく、セキュリティ担当として利益を得たいだけだと説明した。

女子高生による試験

女子高生は、美琴達の監視を初春が振り切ったことを理解していた。そのため、初春の言葉に一定の信憑性を感じ始めていた。

しかし次の瞬間、女子高生は初春の胸ぐらを掴み、そのまま壁へ叩きつけた。仲間へ引き込むよりも、危険人物として口封じを選んだ可能性が高かった。

初春は、スカートのポケットに隠したスタンガン付き改造携帯電話へ手を伸ばそうとしたが、密着状態では自分まで感電しかねず、簡単には使えなかった。

開発者本人の正体

その時、女子高生は自分こそイグジットAppの開発者だと明かした。しかし彼女は、金儲け目的で無差別に流通させる現状を嫌悪しており、末端売人達を潰すため独自に動いていた。

さらに彼女は、すでに売人側からも正体を知られていること、そして今まさにその連中がここへ向かっていることを説明した。暗渠の奥からは、複数人の足音が迫ってきていた。

女子高生は初春へ逃走を促したが、初春は改造携帯電話のスタンガン機能を発動させた。

初春飾利の反撃

設定最大電圧の高圧電流を受け、女子高生は呆気なく地面へ倒れ込んだ。完全に気絶はしていなかったが、まともに動けない状態へ陥っていた。

初春は、自分でも何をしているのか分からなくなりながらも、迫ってくる売人達へ女子高生を渡す訳にはいかないと判断した。

そのため、初春は動けない女子高生を背負い、暗渠から逃走を開始した。

甘蛇冴華の正体

暗渠を逃走する中、初春飾利は女子高生から名前を聞き出した。彼女の名は甘蛇冴華であり、イグジットAppの開発者本人だった。

地下通路は複雑に枝分かれしており、簡単には地上へ出られなかった。初春は甘蛇を背負ったまま逃げ続けていたが、限界を迎え、途中で甘蛇を床へ下ろした。追手の足音はまだ遠かった。

イグジットApp本来の目的

甘蛇冴華は、イグジットAppは本来、自殺ツールとして開発したものではないと語った。元々は、マッサージチェアを利用した学習装置の一種だったのである。

その核心は、脳のシナプス配線を自分の意思で選択的に遮断する技術だった。能力開発によって固定されている脳の構造を書き換え、超能力そのものを変化・切り替え可能にする研究だったのである。

甘蛇は、学園都市における能力の格差へ強い問題意識を抱いていた。生まれ持った脳の構造によって能力の種類や限界が決まる現実を覆し、後天的に能力を書き換える技術を目指していた。

しかし実験は失敗した。シナプス制御は暴走し、マッサージチェアは人体を破壊する処刑装置へ変貌してしまった。さらにアルコールと組み合わさることで、抵抗なく死へ至る絶対自殺ツールへ変質したのである。

失敗作の流出

甘蛇冴華は、失敗を悟った後、プロジェクトを閉鎖しようとしていた。しかし既にプログラムの一部はネット上へ流出していた。

彼女は大量の偽情報やダミープログラムを流し、本物へ辿り着けないよう妨害していた。それでも死を望む者達は、本当に死ねる組み合わせだけを探し当ててしまった。

甘蛇は、理性的な説得だけでは自殺志願者達を止められないと絶望していた。

初春飾利の突破口

しかし初春飾利は、まだ完全に手遅れではないと主張した。イグジットAppは特殊な技術や開発環境が必要であり、誰でも簡単に再現できるものではないと指摘したのである。

その上で初春は、問題の核心が「酔わせる機能」にあると気づいた。マッサージチェア単体では激痛によって途中で逃げ出せるが、酩酊状態を強制する機能があることで自殺が成立していたのである。

その機能は動画サイト経由で配布されており、オンライン上のデータだった。初春は、自分の専門分野ならまとめて一斉削除できると断言した。

さらに初春は、マッサージチェア側へ先回りして無害なプログラムを送り込み、イグジットAppが入り込む余地を奪う対策まで提案した。

新たな脅威の出現

その直後、暗渠へ別の女が現れた。三つ編みで地味な服装をした、柔和そうな女子大生風の女だった。

しかし彼女は、イグジットAppを利用して元恋人の恋人を殺害しようとしていた。絶対に自殺扱いになるツールを使えば、完全犯罪が成立すると考えていたのである。

初春飾利は、イグジットAppが単なる自殺ツールを超え、他殺へ悪用され始めている事実へ戦慄した。

女は異常な執着と妄執を露わにしながら、金属製メジャーを武器として引き伸ばし、初春達へ襲い掛かった。

甘蛇冴華の能力

初春が恐怖で動けなくなる中、甘蛇冴華が前へ出た。金属メジャーによって頬を切り裂かれた甘蛇の血は、普通の赤ではなく鮮やかな緑色をしていた。

甘蛇の能力は『死毒生産』だった。自らの血へ「死」のイメージを乗せ、あらゆる毒を生成する能力だったのである。

彼女は毒を自在に変化させ、一滴の血だけで敵へ致命的な症状を引き起こした。女は激痛と異常症状に苦しみ始める。

甘蛇は、自分の能力をずっと嫌悪していた。血の色すら普通ではなく、人を傷つけることしかできない力だと思い込んでいたのである。

初春飾利の言葉

戦いの中で飛び散った血は、初春飾利にも付着していた。甘蛇は、自分がまた人を傷つけたと絶望し、泣き崩れた。

しかし初春は倒れたまま、それでも甘蛇へ笑いかけた。そして、毒を作れるということは薬も作れるはずだと告げたのである。

さらに初春は、甘蛇自身なら自分を救えると信じ、毒へ触れたまま彼女の手を握った。

甘蛇冴華は、その言葉によって初めて自分の能力と向き合った。毒は使い方次第で薬へ変わると理解し、初春を救うため、自らの能力を治療へ使う決意を固めた。

第四章御坂美琴とお嬢の終わり

暴走する『学舎の園』

『学舎の園』では、常盤台中学を含むお嬢様学校の生徒達が異常な熱狂へ包まれていた。発端は教師側が提案した極端な校則案であり、下着や生活用品にまで干渉する内容だった。

生徒達は激しく反発し、教師を吊るし上げようとしていた。校庭には旗用ポールへ輪状のワイヤーまで用意されており、御坂美琴は暴走が既に危険な段階へ達していることを察していた。

お嬢様学校の生徒達は、普段は上品に振る舞っていても、一度感情が爆発すると集団心理へ飲み込まれやすかった。美琴は、純粋培養された環境そのものが今回の暴走を加速させていると感じていた。

天空へ浮上した『学舎の園』

さらに異常だったのは、『学舎の園』そのものが高度五〇〇〇メートル上空へ浮上していた点だった。巨大ローター群によって空中へ持ち上げられた結果、警備員や外部組織による介入は不可能になっていた。

地面には崩落箇所があり、その下には遥かな空が見えていた。閉鎖空間となった『学舎の園』では、反対意見を持つ者すら群衆へ密告されかねない危険な空気が形成されていた。

御坂美琴は、この状況を作り出した扇動者だけが真の敵だと理解していた。しかし数百人規模の高位能力者集団を相手に正面衝突すれば、味方同士で潰し合うだけだとも判断していた。

『学舎の園』訪問

物語は少し前へ戻る。佐天涙子と初春飾利は、『学舎の園』へ入れたことへ大興奮していた。欧風の街並みや、お嬢様口調で会話する生徒達を見て、完全に浮かれていたのである。

特に初春飾利は、お嬢様文化へ妙な憧れを抱いており、周囲の空気へ感化されて自然と「おほほ笑い」まで始めていた。御坂美琴は、その様子へ呆れながらも苦笑していた。

一方、美琴は『学舎の園』の実態について、教師達が無意味な校則を増やそうとし続けていることなど、外部から見える理想像とは違う部分も説明していた。

推薦入試と情報戦

『学舎の園』では推薦入試が行われており、多くの受験生や見学者が訪れていた。白井黒子は、こうした状況では情報盗難や産業スパイ行為も発生し得ると警戒していた。

実際、推薦入試へ最初から合格を諦め、機密情報だけを持ち帰ろうとする受験者も存在すると白井は語っていた。佐天涙子は、小学生レベルの年齢でそこまで計算高い行動が行われる現実へ驚いていた。

迷子の少女

そんな中、白井黒子と初春飾利は、人混みの中で何度も「お姉ちゃん、どこ」と繰り返している小さな少女へ気づいた。

二人は風紀委員として保護へ向かい、白井は優しい口調で声を掛けた。佐天涙子は、その姿が普段の変態的言動からは想像できないほど教育番組のお姉さんらしいと茶化していた。

初春飾利は、携帯電話や写真などから姉の特徴を探ろうとした。しかし少女は、ただ迷子なのではないと告げた。

少女は涙を浮かべながら、「お姉ちゃん、本当にいなくなっちゃったの」と語った。

夕暮爪羽鶏の保護

御坂美琴達は、迷子の少女である夕暮爪羽鶏を風紀委員支部へ連れてきていた。夕暮爪羽鶏は常盤台中学推薦入試のため『学舎の園』へ来ていた小学六年生であり、常盤台中学二年生の姉・夕暮金糸雀と合流する予定だった。

美琴は夕暮金糸雀のことを知っており、同じクラスの知人だった。しかし「とびきりヤバい子」と評したため、爪羽鶏は一瞬で不安そうな表情になってしまった。慌てて美琴は、危険なのは能力の方であり本人は良い子だと説明していた。

夕暮金糸雀の能力

夕暮金糸雀の能力は『完全消毒』だった。触れた対象の微生物を根こそぎ殺菌する能力であり、判定は強能力だった。

しかし実際の危険性はそれ以上だった。人体は腸内細菌や皮膚常在菌によって守られているため、それらを無差別に消し去れば、人体は生きたまま深刻な感染症状態へ陥る。

さらに金糸雀自身は、あらゆる病原菌へ完全耐性を持つに等しく、使い方次第では個人暗殺から大規模生物災害まで成立しかねない能力だった。

ただし本人は極端に温厚で、常にのんびりした性格だったため、危険な方向へ能力を応用しようとする発想自体を持っていなかった。

夕暮爪羽鶏の能力

一方、夕暮爪羽鶏自身も高位能力者だった。能力名は『血中肥大』であり、自らの血液成分を巨大化させ自在に操る能力だった。

巨大化した白血球で対象を丸呑みにするなど、戦闘面でも極めて危険な応用が可能だった。美琴は、輸血や人工透析と組み合わせた場合の危険性まで想像し、戦慄していた。

しかし爪羽鶏本人は、自分の能力をあまり好いていなかった。能力発動のためには自分の血を流す必要があり、注射嫌いの彼女にとっては苦痛だったのである。

夕暮金糸雀失踪の経緯

夕暮爪羽鶏によれば、姉の金糸雀は「何かを探している」と電話で話していたという。誰かに見つかるとまずい調査をしているらしく、終わったらすぐ迎えに行くと約束していた。

しかし、その後いくら待っても金糸雀は現れず、連絡も途絶えてしまった。

美琴達は、推薦入試シーズン特有の情報盗難事件へ金糸雀が巻き込まれた可能性を考え始めていた。特に金糸雀は新聞部所属で、正義感が非常に強かった。警備員や風紀委員を監視する第三勢力の必要性まで考えていたほどであり、危険な秘密へ踏み込んだ可能性が高かった。

ロストピースの存在

美琴と白井黒子は、『学舎の園』で人が完全に姿を消せる場所は限られていると説明した。それが『ロストピース』だった。

『学舎の園』は五つのお嬢様学校が共同出資して作られているため、土地の所有権や管理権を巡って対立している区域が存在していた。そうした係争地では、防犯カメラや警備ロボットすら設置できず、完全な監視不能地帯となっていた。

表向きは放置工事現場や人工林にしか見えないが、実際には欲望や秘密が噴き出す危険地帯となっていたのである。

ロストピース捜索

美琴達は複数のロストピースを巡り、夕暮金糸雀の痕跡を探し始めた。工事現場では足跡は見つからなかったが、人工林では常盤台指定ローファーと一致する二二センチの足跡が発見された。

さらに美琴は、電磁感知によって地下に巨大な金属反応を発見した。佐天涙子の指摘によれば、それは通常のマンホールとは異なる構造だった。

美琴が磁力操作で黒土を吹き飛ばすと、一辺二メートル級の巨大金属蓋が露出した。その下には、地下へ続く階段が隠されていた。

地下施設の発見

地下階段は非常に大規模であり、個人が秘密裏に掘ったものとは思えなかった。おそらく『学舎の園』を構成する学校側が建設した施設だった。

さらに重要だったのは、夕暮金糸雀の足跡がそこで消えていた点だった。彼女は地下へ下りた可能性が高い。

しかし地下へ入った後、外側から金属蓋が閉じられ、さらに黒土まで被せられていた。つまり、夕暮金糸雀とは別の誰かが現場を隠蔽したことになる。

地下施設への突入

美琴達は、人工林地下に存在する巨大施設へ警備員と風紀委員を呼び寄せた。地下入口の状況から、夕暮金糸雀は第三者によって閉じ込められた可能性が高く、事件性は明白だった。

ロストピースは通常監視が行えない特殊区域だったが、監禁や殺人の疑いがあれば警備員側も正式介入できた。現場には二、三〇人規模の警備員と風紀委員が集まり、鑑識まで動員されていた。

しかし警備員と風紀委員は互いに主導権を譲らず、現場では露骨な対立が起きていた。結局、美琴達四人は風紀委員側へ協力する形で地下探索へ参加することになった。

地下施設の異様さ

地下へ続くステンレス階段は異常なほど深く、一〇〇段以上下りても終わりが見えなかった。途中で折り返しもなく、既に人工林の敷地を越えていると推測された。

地下空間は銀色の軽量金属で構成され、無数の分岐通路が蜘蛛の巣のように広がっていた。美琴は壁材の構造から、内部が空洞化されたメガフロート用金属キューブではないかと推測していた。

しかし、そんな大規模構造物を『学舎の園』地下へ秘密裏に建設すること自体が異常だった。美琴は、この地下空間そのものに強い違和感を抱いていた。

地下施設の振動

探索中、地下全体へ低い軋み音と震動が響き始めた。佐天涙子は地震ではないかと怯えていたが、美琴は違和感を覚えていた。地震特有の静電気反応が存在しなかったのである。

さらに、全員の携帯電話へ一斉に防災警報アプリのアラートが鳴り始めた。地下全体で同じ警報音が連鎖し、不気味な反響を作り出していた。

美琴は、この震動が自然災害ではなく、巨大機械による人工的な振動ではないかと考え始めていた。

夕暮金糸雀の発見

探索の途中、美琴達は地下通路の奥で倒れている人影を発見した。そこにいたのは、常盤台の制服を着た夕暮金糸雀だった。

金糸雀はうつ伏せで倒れており、まともに動けない状態だった。美琴が声を掛けると、金糸雀は朦朧としながら「工場だった」と呟いた。

さらに金糸雀は、この地下空間が単なる施設ではなく「工場」であり、しかも規模が全く足りていないと語っていた。

『学舎の園』独立計画

その直後、地下全体へ再び大きな震動が走った。金糸雀は絶望した様子で、「始まった」と告げた。

そして彼女は、『学舎の園』の独立が始まると語った。

美琴達は、その言葉の意味を理解できず混乱していた。しかし地下施設全体の異様な構造と震動は、既に何か巨大な計画が進行していることを示していた。

夕暮爪羽鶏の絶望

一方その頃、夕暮爪羽鶏は面接試験会場で精神的限界へ達していた。教師達は彼女の事情を把握しており、特例対応を検討していたが、その気遣い自体が逆に少女を追い詰めていた。

爪羽鶏は、自分が常盤台へ憧れたせいで姉が危険へ巻き込まれたのではないかと自責し始めていた。

そして校舎を出た後、常盤台への夢も未来も全部捨てるから姉を返してほしいと泣き崩れていた。

食蜂操祈の介入

そんな夕暮爪羽鶏へ声を掛けたのは、金髪の少女・食蜂操祈だった。食蜂は、御坂美琴達が夕暮金糸雀を発見したと伝え、彼女が無事保護されたと優しく説明した。

その言葉によって、爪羽鶏はようやく感情を爆発させ、大泣きしながら食蜂へ抱きついた。

しかし実際には、食蜂操祈は御坂美琴達と連絡を取っていなかった。彼女は超能力『心理掌握』によって爪羽鶏の記憶や感情を読み取り、それに合わせて最適な言葉を並べていたのである。

最後に食蜂は、側近の帆風潤子へ夕暮爪羽鶏の保護を命じた。そして足元から響く巨大モーターのような震動を感じ取りながら、御坂美琴へ苛立ち混じりの言葉を漏らしていた。

『学舎の園』浮上

地下施設の振動は、ついに現実となって現れた。常盤台中学を含む『学舎の園』全体が、巨大メガフロート構造によって空中へ浮上したのである。

地盤そのものが軽量アルミ合金製キューブ群によって巨大飛行フロート化されており、大規模太陽光発電と垂直離着陸機構によって高度五〇〇〇メートルへ到達していた。

夕暮金糸雀が口にしていた「独立」とは、『学舎の園』を空中都市として学園都市から切り離す計画だったのである。

浮上後の『学舎の園』

空中へ隔離された『学舎の園』では、既に正常な秩序が崩壊していた。校庭では女教師の赤鮫先生が死刑台へ追い詰められ、生徒達は有罪コールを叫んでいた。

金属ポールとワイヤーまで準備されており、処刑は冗談では済まない段階へ達していた。『学舎の園』はもはや安全なお嬢様学校群ではなく、高度五〇〇〇メートルに浮かぶ閉鎖監獄へ変貌していた。

外部通信もほぼ遮断されており、通常回線では地上サイトへ接続できなくなっていた。

『扇動者』の思想

群衆を支配していたのは、常盤台三年生の赤毛少女だった。彼女は拡声器を使い、大人達による能力開発と格差社会を糾弾していた。

能力開発による序列化、研究者達の利権、能力者格差――そうした学園都市の歪みを利用し、「教師も理事長も不要な生徒だけの理想郷」を掲げていたのである。

さらにディベート大会を利用し、複数校の代表達が思想誘導を事前に広めていた可能性まで浮上していた。

暴動を支える技術

御坂美琴は、暴走が単なる思想だけで成立しているわけではないと気づいていた。『扇動者』の拡声器は、音だけでなく化学物質や電磁波を散布し、無意識レベルで人々を苛立たせている可能性があった。

精神論だけでなく、テクノロジーによって集団心理そのものが誘導されていたのである。

そのため、食蜂操祈の『心理掌握』だけで全員を沈静化できる保証も薄かった。美琴は状況の深刻さを理解し始めていた。

御坂美琴の決断

それでも、美琴は処刑を見過ごせなかった。もしここで一人でも教師が殺されれば、『学舎の園』は完全に歯止めを失うと理解していたからである。

美琴は磁力操作で巨大鉄板を射出し、死刑台へ立たされていた赤鮫先生を強引に吹き飛ばして救出した。

しかし直後、『扇動者』は御坂美琴を裏切り者として名指しし、生徒達へ攻撃命令を出した。

能力者集団との戦闘

校庭中から数百種類もの能力攻撃が美琴へ集中した。炎、氷、風、岩石など、多数の能力が一斉に発射され、校舎や人工林を吹き飛ばしていく。

美琴は校舎壁面を駆け上がって屋上へ逃れたが、そこには既に『扇動者』本人が待ち構えていた。

レザネリエ=サディス=ダイヤライン

赤毛の少女は、自らをレザネリエ=サディス=ダイヤラインと名乗った。常盤台中学三年生であり、ディベート大会代表にして馬上戦闘部部長だった。

彼女は巨大ハルバードを片手だけで自在に操り、御坂美琴と互角以上に渡り合った。

さらに恐ろしかったのは、その時点で彼女が超能力を使っていなかった点だった。純粋な武術だけで、美琴の『砂鉄の剣』すら捌いていたのである。

ハルバード戦術

レザネリエは、槍・斧・鉤を組み合わせたハルバードの多彩な攻撃を駆使していた。突き、斬撃、引っ掛け、窒息狙いなど、あらゆる間合いへ即座に対応できる武器だった。

彼女は『砂鉄の剣』の高速振動原理まで瞬時に看破し、振動周期の隙間へ強引に割り込むことで攻撃を弾き返していた。

御坂美琴は、学園都市第三位としての戦闘能力を持ちながら、一方的に押し込まれていった。

レザネリエの正体

戦闘の最中、レザネリエは自らが東欧ダイヤライン皇国の君主であると明かした。単なる金持ちの令嬢ではなく、本物の王族だったのである。

『学舎の園』浮上に必要だった国家事業級の資金も、彼女達の背後に国家規模勢力が存在すると考えれば説明がついた。

御坂美琴敗北

レザネリエは最後に本気を出すと宣言し、美琴へ猛攻を浴びせた。美琴はレーダー能力を最大出力にしていたにもかかわらず、攻撃の軌道を捉え切れなかった。

気づいた時には全身へ深い傷を負わされ、中庭側へ吹き飛ばされていた。

レザネリエは、そのまま拡声器で全生徒へ御坂美琴抹殺命令を発令した。

『学舎の園』全体が、御坂美琴一人を狩る巨大処刑場へ変貌し始めていた。

ディベート代表五人の集結

常盤台中学屋上では、レザネリエ=サディス=ダイヤラインが『学舎の園』全体を見下ろしていた。そこへ自然に集まったのは、他四校のディベート代表達だった。

弁護士の統御懸愛、メイドの恋歌エフィルティ、会計士の算木逢、シェフの舌鼓淑子。五人はそれぞれ異なるお嬢様学校の代表であり、『学舎の園』独立計画の中心人物達だった。

レザネリエは、御坂美琴をただ始末するだけではなく、彼女を利用して内部の不穏分子を炙り出そうとしていた。美琴追跡を命じ、その命令へ従うかどうかで忠誠を試す「踏み絵」に利用しようと考えていたのである。

その対象として真っ先に挙げられたのは、食蜂操祈とその派閥だった。

レザネリエの能力の正体

戦闘後、レザネリエのハルバードは赤錆となって崩壊していた。ステンレスですら腐食し切る異常な現象だった。

恋歌エフィルティは、それがレザネリエの能力によるものだと説明していた。レザネリエ自身、固定の武器を持てないことへ不満を抱えていた。

つまり彼女の能力は、あらゆる金属を急速腐食させる性質を持っていたのである。

さらに彼女の真の武器は、ハルバードではなく拡声器だった。指向性音響と共に痒み成分の微細ミストを散布し、人々の精神状態を無意識レベルで悪化させていたのである。

逃走する御坂美琴

一方、負傷した御坂美琴は常盤台中学敷地から離脱していた。全身へ深い傷を負っており、布切れで応急止血するのが限界だった。

しかし美琴は、自分だけ逃げ帰ることを危険視していた。白井黒子、初春飾利、佐天涙子、夕暮金糸雀達の隠れ場所を尾行から暴かれる恐れがあったためである。

『学舎の園』内部は意外なほど整然としていた。電気はソーラーパネル、水は雨雲利用など、インフラ維持まで計算された上で独立計画は進められていた。

しかし街から人影は消えていた。教師や大人達は、暴徒化した高位能力者達から身を隠している状況だった。

婚后光子の追跡

そんな中、美琴は婚后光子が自分を探して走り回っている姿を発見した。婚后は悪意ではなく、本気で美琴を捕まえようとしていた。

『空力使い』による長距離攻撃能力は極めて危険であり、高度五〇〇〇メートルの閉鎖空間では敷地外へ吹き飛ばされる危険すらあった。

ただし婚后自身には索敵能力がないため、美琴は死角へ逃げ込めば振り切れると考えていた。

口囃子早鳥の索敵

しかし次の瞬間、美琴は隣ビル屋上から声を掛けられた。食蜂派閥の口囃子早鳥だった。

彼女の念話能力は、接続相手の位置を大まかに把握できる索敵特化型だった。さらに口囃子は、美琴の思考内容まで聞き取っていた。

口囃子の役割は、直接戦闘ではなく標的座標を前衛へ伝える通信支援だったのである。

帆風潤子の襲来

直後、ビル屋上中央へ巨大な衝撃が落下した。そこへ着地していたのは、食蜂派閥ナンバー2・帆風潤子だった。

帆風は『天衣装着』によって筋肉出力を極限まで引き上げる純粋物理型能力者だった。黒塗り防弾車すら素手で圧壊できる怪力を持っていた。

しかも彼女は、純粋な脚力だけでビル間を跳躍し、美琴へ追いついていた。

食蜂派閥の方針

帆風潤子は、美琴を敵視している訳ではなかった。しかし食蜂操祈の判断により、食蜂派閥は「独立派へ従順な振る舞いを見せる」方針を選択していた。

そのため、美琴を捕縛して独立派へ引き渡し、信頼を獲得する必要があったのである。

さらに帆風自身、『心理掌握』による精神最適化を受けていた。恐怖や葛藤を抑制された結果、彼女は御坂美琴との戦闘へ異常な高揚感すら抱き始めていた。

美琴は、食蜂操祈の危険な調整に怒りを爆発させながら、帆風潤子との戦闘へ追い込まれていった。

食蜂操祈の合流

食蜂操祈は、御坂美琴と食蜂派閥の戦闘へ周囲の注目が集中している隙を利用し、単独で行動していた。さらに彼女は、夕暮爪羽鶏を連れて欧風街区を進んでいた。

『心理掌握』によって爪羽鶏の精神状態は安定化されており、少女はぼんやりした様子で食蜂へ従っていた。高度五〇〇〇メートルの紫外線や低気圧を気にしながらも、食蜂は防犯カメラの故障状況を慎重に確認しつつ移動していた。

その末に辿り着いたのは、イベント用キッチンカーだった。防犯カメラ網から独立しているため、隠れ家として最適だったのである。

白井達との再会

キッチンカー内部には、白井黒子、初春飾利、佐天涙子、そして救出された夕暮金糸雀が潜んでいた。

食蜂は『心理掌握』を解除し、爪羽鶏を姉の元へ返した。爪羽鶏は涙を流しながら姉へ抱きつき、金糸雀もまた妹を優しく抱き締め返していた。

その光景を見ながら、食蜂操祈は一瞬だけ「女王」ではなく普通の少女らしい表情を浮かべていた。

一方、白井黒子は、姉妹の距離感へ妙な親近感を抱き、自分の思想を語り始めていた。佐天涙子は、それが完全に白井と同系統の危険思想だと呆れていた。

食蜂操祈の分析

食蜂操祈は、本題としてレザネリエ達の計画について語り始めた。彼女は、一見すると全てがレザネリエ達の計画通りに見えるが、実際には複数の失敗を重ねていると分析していた。

そもそも夕暮金糸雀へ「見られてはいけないもの」を見られた時点で計画側は追い詰められており、その後の口封じ失敗や救出成功まで含めれば、既に重大な綻びが生じているというのである。

そして初春飾利は、その綻びの核心こそ「金糸雀が地下施設で何を見たのか」だと気づいた。

地下工場の正体

夕暮金糸雀は、自分が地下で発見したものを「工場」だと説明した。『学舎の園』地下には、単なる浮上用フロートではなく、大量の通路や施設が存在していたのである。

それは、『学舎の園』独立後も生活を維持するための食料生産施設だった。地下には農業ビル型野菜プラントやクローン食肉工場が設置されていたのである。

レザネリエ達は、「大人を排除しても生活は維持できる」と生徒達へ信じ込ませることで、抵抗意志を奪っていた。これが彼女達の「消極的肯定」による支配だった。

さらに教師や研究者を「悪」と定義し、それへ反発することで団結感を作り出していた。これが「積極的肯定」だった。

つまりレザネリエ達は、恐怖政治と生活保障を組み合わせた独裁国家システムを、『学舎の園』内部へ構築しようとしていたのである。

口減らし計画

しかし夕暮金糸雀は、その地下工場には決定的欠陥があると断言した。施設規模が小さすぎ、『学舎の園』全員分の食料供給を到底賄えないのである。

つまりレザネリエ達は、最初から全員を生かすつもりなどなかった。教師処刑を進めていた本当の理由は、食料不足を補うための「口減らし」だったのである。

中学生達は、現代社会でそんな言葉が現実に使われている事実へ強い衝撃を受けていた。

証拠データの確保

夕暮金糸雀は、地下工場のコンソールから施設スペックデータをコピー済みだった。ICレコーダー内のフラッシュメモリへ、生産量と消費量の詳細データが保存されていたのである。

初春飾利は、それを使えば『学舎の園』内部ネットワークを通じて全生徒へ真実を公開できると宣言した。

レザネリエの過去

一方その頃、レザネリエ=サディス=ダイヤラインは入浴中に過去を思い出していた。かつて彼女は、回復見込みがなく価値も低いと判断された存在が、経費削減だけを理由に処分される光景を目撃していた。

その時レザネリエは、自分達能力者もまた、不要になれば同じように切り捨てられる存在なのだと理解してしまったのである。

彼女の反乱思想は、そこから始まっていた。

御坂美琴への対策

その後、レザネリエは御坂美琴の捕縛状況を確認していた。食蜂派閥を利用して「踏み絵」を行っていたが、状況は想定通り進んでいなかった。

そこでレザネリエは、教師を人質にして公開処刑予告を流せば、美琴は必ず現れると判断した。

しかし直後、統御懸愛から、美琴と食蜂派閥の戦闘が常盤台中学方面へ向かっていると報告が入る。

食蜂派閥の賭け

実際には、食蜂派閥側が意図的に戦場を常盤台へ誘導していた。御坂美琴へ追われる形を装いながら、独立派側戦力へ流れ弾を叩き込み、集団戦力を分断していたのである。

食蜂派閥にとっても危険な賭けだったが、御坂美琴なら単独決戦でレザネリエへ勝てると信じていた。

美琴は帆風潤子達へ感謝を伝えながら、ついに常盤台中学敷地へ突入した。

御坂美琴とレザネリエの再戦

校庭中央では、レザネリエ=サディス=ダイヤラインが新たなハルバードを手に待ち構えていた。

美琴は、地下工場の食料不足と口減らし計画を突きつけた。さらに夕暮金糸雀が持ち出したデータは、初春飾利によって間もなく『学舎の園』全体へ公開されると宣言した。

しかしレザネリエは動揺しなかった。彼女は、夕暮金糸雀の『完全消毒』能力が危険すぎるため、地下工場へ閉じ込めて餓死させる予定だったと淡々と語った。

その冷酷な本音を聞いたことで、美琴は完全に迷いを捨てた。

そして次の瞬間、御坂美琴とレザネリエ=サディス=ダイヤラインは、一切の躊躇なく正面衝突した。

独立派幹部との戦闘開始

『学舎の園』大通りでは、食蜂操祈達を包囲する形で独立派幹部達が集結していた。弁護士・統御懸愛、メイド・恋歌エフィルティ、会計士・算木逢、シェフの少女――レザネリエ直属の四人である。

彼女達の狙いは、地下工場の真実を暴こうとしている初春飾利と、証拠を持つ夕暮金糸雀の抹殺だった。

食蜂操祈は、初春こそ最後の切り札だと判断し、佐天涙子へ彼女の護衛を任せた。無能力者だからこそ無茶をして傷つく展開だけは避けたいと、本気で考えていたのである。

その上で食蜂は、自ら独立派幹部達と対峙した。

食蜂操祈と統御懸愛

統御懸愛の能力は『物理感覚』だった。人間の五感や肉体感覚へ錯覚を流し込み、視覚や聴覚すら否定するほどの「肉体的な誤認」を生み出せる能力である。

彼女は、食蜂操祈の『心理掌握』はリモコンで対象を認識しなければ発動できないと分析し、感覚そのものを狂わせれば第五位でも無力化できると考えていた。

統御懸愛は、幻覚の炎と熱感で食蜂操祈を追い詰めた。だが次の瞬間、逆に自分自身が巨大な怪物へ取り囲まれる幻覚へ囚われた。

食蜂操祈は、自分もまた精神系能力者である以上、「幻覚で追い詰められる恐怖」を誰より理解していた。だからこそ、逆方向から相手の精神へ侵入したのである。

統御懸愛は、自らの五感が完全に支配されている事実へ恐怖していった。

恋歌エフィルティの突撃

一方、メイド服の恋歌エフィルティは『効果飛翔』による高速突撃を開始した。髪や服へ仕込んだ硬質樹脂を翼代わりに展開し、地面効果を利用して時速一一〇〇キロ級で滑空する能力だった。

彼女は、自分自身を弾丸として食蜂操祈へ叩き込む覚悟だった。たとえ自分が死んでも、第五位を仕留められれば十分だと考えていたのである。

しかし、その前へ夕暮金糸雀が立ちはだかった。

夕暮金糸雀の戦闘能力

夕暮金糸雀の『完全消毒』は、単なる殺菌能力ではなかった。彼女は「どの微生物を生かし、どの微生物を殺すか」を自在に選択できたのである。

その応用によって、特定微生物が生成する粘液を利用し、スケートのような高速移動まで可能にしていた。

さらに金糸雀は、恋歌エフィルティの命を奪うことなく、巨大粘菌ネットで受け止めて墜落死を防いだ。

御坂美琴が「とんでもなく正義感が強い」と評した人物らしく、敵であっても無駄死には許さなかったのである。

算木逢の戦術

会計士・算木逢は、『万能吸着』による応急固定能力を使っていた。微細繊維を操作し、包帯や絆創膏の密着性と止血性能を極端に高める能力だった。

彼女は、この能力を使って瀕死の味方を無理やり戦線復帰させる戦術を考えていた。退場したと思わせた敵を再投入することで、油断を誘うつもりだったのである。

しかし、その前へ立ち塞がったのは夕暮爪羽鶏だった。

夕暮爪羽鶏の暴走

姉を傷つけようとする者達へ怒りを爆発させた爪羽鶏は、『血中肥大』を本格発動した。

血液中の白血球が二メートル級まで巨大化し、周囲を埋め尽くしていく。白血球本来の「異物を喰らう」性質まで増幅されたそれは、完全な怪物群だった。

爪羽鶏は涙を流しながら、姉へ意地悪するなと叫び続けていた。

白井黒子とシェフの決着

シェフの少女は『爆発膨張』によって不可視の衝撃波を生み出していた。燃焼ガス膨張を異常加速し、巨大な「包丁」状衝撃波へ変換する能力だった。

さらに彼女は、酢酸ミストを超高圧で血管内へ直接打ち込む攻撃まで行っていた。

しかし白井黒子は、『空間移動』によって体内異物を完全除去するのではなく、後頭部へ金属矢を刺して極限の頭痛を人工発生させることで、全身痛覚を強引に上書きしていた。

数ミリ狂えば全身不随になりかねない危険行為だったが、白井は迷わなかった。

そして最後は、額へ転送した金属矢の振動によってシェフの意識を奪い、勝利した。

初春飾利の準備完了

その直後、キッチンカー内部から初春飾利が叫んだ。地下工場の証拠データ公開準備が完了したのである。

独立派最大の秘密が、ついに『学舎の園』全体へ暴露されようとしていた。

レザネリエの本音

一方、常盤台中学校庭では、レザネリエ=サディス=ダイヤラインがついに本音を明かしていた。

彼女の愛馬ビストリオは、脚を骨折した後、教師達によって「コストに見合わない」と判断され、治療も許されず処分されていたのである。

その経験からレザネリエは、「大人達は不要になった命を平然と切り捨てる」と確信してしまった。だからこそ、自分達能力者もいずれ同じように捨てられると恐れ、『学舎の園』独立へ走ったのである。

御坂美琴の理解

しかし御坂美琴は、その動機を否定しなかった。むしろ『学舎の園』独立という大義名分より、「大切な命を奪われた怒り」の方が、ずっと本物らしく格好良いと告げた。

レザネリエは、その言葉に強く動揺していた。

御坂美琴の反撃

直後、レザネリエは超高速突撃を放つ。しかし美琴は、自らブレザーを脱ぎ捨て、ハルバードへ絡め取って動きを封じた。

複雑な構造を持つハルバードだからこそ、布が引っ掛かれば全体の機動力が失われると見抜いていたのである。

そして美琴は、超至近距離からコインを構えた。ハルバードを『赤色支配』で錆びさせなければ、自分がレザネリエを殺してしまうかもしれない――そう叫びながら。

次の瞬間、超電磁砲の轟音と衝撃波が、高度五〇〇〇メートルの『学舎の園』全体を激しく揺さぶった。

終章四人の少女達+a

『学舎の園』事件の収束

レザネリエ=サディス=ダイヤラインが敗北したことで、『学舎の園』独立計画は完全に瓦解した。常盤台中学を含む『学舎の園』は再び第七学区へ戻り、空中都市化という異常事態も終息していた。

ディベート大会代表達ですら、レザネリエの本当の目的までは把握していなかったため、中心人物を失った後まで結束は続かなかったのである。

食蜂操祈による情報操作

事件後、御坂美琴は校舎窓から外を眺めながら、食蜂操祈へ呆れ混じりの言葉を向けていた。食蜂は『心理掌握』を利用し、大事件そのものを「なかったこと」に近い形へ処理していたのである。

ただし実際には、学園都市二三〇万人全員の記憶を直接改竄した訳ではなかった。食蜂は一部専門家やネット上の影響力ある人物達へだけ介入し、「『学舎の園』五校による巨大サプライズイベントだった」という説明を広めていた。

さらに御坂美琴側も、常盤台内部サーバーへ偽の計画書やデコイ文書を仕込み、外部調査側が自然にその説明へ辿り着くよう誘導していた。

結果として、多くの人間は「そういうイベントだったのだ」と納得してしまった。

人間の認識の危うさ

美琴は、人間が「自分に都合の良い説明」へ簡単に飛びつく危うさを改めて実感していた。

『学舎の園』浮上、教師処刑未遂、生徒達の暴徒化――本来なら絶対に忘れられないはずの事件であっても、「合法的な心理学実験だった」と言われれば、人は自分で記憶の整合性を修正してしまうのである。

その柔軟さは便利である一方、かつて『妹達』実験が表社会で隠蔽され続けていた頃と同じ恐ろしさも感じさせていた。

美琴は、不条理へ慣れ切ってしまえば、自分達能力者もまた学園都市暗部の研究者達と同じ側へ落ちる危険があると自覚していた。

レザネリエの記憶

食蜂操祈は、レザネリエの記憶だけは改竄しなかった。愛馬ビストリオを失った記憶ごと消す方が救いとしては簡単だったが、それだけは嫌だったのである。

美琴は、その判断を珍しく肯定していた。レザネリエ自身も、戦う理由を理解されたことで食蜂へ感謝していたのである。

美琴は、巨大な理想論よりも、「大切な命を奪われた怒り」の方がずっと本物らしく格好良いと思っていた。

お嬢様達の危うさ

食蜂操祈は、『学舎の園』のお嬢様達が暴走した理由についても語っていた。

礼儀、作法、学力、能力、美しさ――あらゆるものを管理され続ける環境では、多くのストレスが蓄積される。しかし彼女達は、自分自身のストレスへ無自覚な場合が多かった。

そのため、外側からほんの少し感情を刺激されるだけで、一気に暴発してしまったのである。レザネリエの拡声器に仕込まれていた痒み成分も、その爆発を加速させていた。

一方で美琴や食蜂は、自分のストレスを自覚し、自分なりの解消方法を持っていた。その差が、レザネリエ達の思想へ飲み込まれなかった理由だった。

婚后光子の功績

事件後、美琴は『学舎の園』を元の位置へ安全着陸させた最大の功労者が婚后光子だったことを思い返していた。

『空力使い』による空気制御能力がなければ、巨大浮遊構造体を制御し切れなかったのである。

また、夕暮爪羽鶏も依然として常盤台受験を諦めていなかった。美琴は、彼女なりに常盤台で叶えたい夢があるのだろうと感じていた。

日常への帰還

やがて御坂美琴は白井黒子と合流し、『学舎の園』を後にした。

外へ出れば、そこはいつもの第七学区だった。初春飾利や佐天涙子、婚后光子達も待っていた。

佐天涙子は、新たな都市伝説である「青いゲコ太」の噂を嬉しそうに話し始めていた。

御坂美琴はゲームセンターのコインを指で弾きながら、この街は本当に退屈しないと呟いていた。

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