物語の概要
■ 作品概要
本作のジャンルは、異世界転生ファンタジー、および迷宮(ダンジョン)攻略をテーマとした冒険譚である。 物語の舞台は、無数の探索者が集う「迷宮国」と呼ばれる異世界である。現代社会の過酷な労働環境に疲弊し、不慮の事故で命を落とした元社畜の主人公・アリヒトが、この世界へと転生する。彼が転生先で選択した職業は、一見すると地味で正体不明な職業『後衛』であったが、実は攻撃支援、防御支援、回復をすべて高水準でこなせる極めて万能かつ強力な職業であった。 第8巻では、強敵『赫灼たる猿侯(かくしゃくたるえんこう)』との長きにわたる因縁の決戦が描かれる。操られた探索者を救う糸口や、新たな秘神の力である『星機鎧(インテリジェンスメイル)フォギア』を手に入れたアリヒトたちが、刻一刻と迫るタイムリミットに抗いながら、仲間を救うために過去最大の戦力で決戦へと挑むエピソードが中心となる。
■ 主要キャラクター
アリヒト(仁科有人): 本作の主人公。前世は日本の社畜サラリーマンであったが、迷宮国へと転生し『後衛』の職業に就く。卓越した観察眼と前世のマネジメント経験を活かし、戦闘全体の指揮を執る。仲間を後ろから見守り、その力を最大限に引き出す最強の支援職であり、臨機応変な立ち回りでパーティーを勝利へと導く。
テレジア: アリヒトのパーティーに所属する、元亜人の傭兵少女(スカウト)。過去の出来事から言葉を失っているが、高い索敵能力や俊敏性を活かしてアリヒトたちを先導する。第8巻では、宿敵『赫灼たる猿侯』によって植え付けられた『呪詛』が深刻なレベルまで進行しており、彼女を救い出すことが今回の決戦の大きな動機となる。
エリーティア: パーティーのメインアタッカーを務める高レベルの美少女剣士。とある事情を抱えて孤立していたところをアリヒトに救われ、彼の仲間となった。『赫灼たる猿侯』には深い因縁があり、アリヒトの強力な後衛支援を受けながら、最前線で凄まじい剣技を振るって戦う。
■ 物語の特徴
本作の最大の特徴は、一般的な「無双系」ファンタジーのように主人公が最前線で派手な攻撃魔法や剣技を振るうのではなく、徹底して「後方からの支援」に特化している点である。主人公アリヒトが、仲間の配置、バフ(能力強化)、回復、シールドの展開などを論理的に管理する、いわゆる「ゲームの優れたヒーラー・バッファー」のような視点で戦況をコントロールする爽快感がある。 また、アリヒトの持つ『後衛』のスキルには、自分の前方にいる仲間(パーティーメンバー)の好感度や絆を自然と上昇させるユニークな効果も含まれており、これが個性豊かな女性陣との信頼関係を強固にする要素となっている。他作品との差別化として、ギルドや他の探索者チームとの組織的な連携、政治的な駆け引きといった「集団戦」の妙が丁寧に描写される点も、読者の興味を惹きつける大きなポイントである。
書籍情報
世界最強の後衛 ~迷宮国の新人探索者~ 8
著者:とーわ 氏
イラスト:風花風花 氏
出版社:KADOKAWA(カドカワBOOKS)
発売日:2021年11月10日
ISBN:9784040742212
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あらすじ・内容
最強の支援職、仲間たちの未来のために決戦に挑む!
『赫灼たる猿侯』との決戦に向けて、着々と準備を進めるアリヒトたち。操られた探索者たちにかけられた呪詛を解くためのアイテムと、新たな秘神の力である星機鎧(インテリジェンスメイル)フォギアも手に入れ、ついに誰も成し遂げられなかった猿侯打倒が現実味を帯びてくる。
一方、テレジアにかけられた呪詛も刻一刻と彼女を蝕んでいて……彼女を救うため、アリヒトはギルドセイバーや支援者とも協力し、過去最大の戦力で決戦に挑む!
感想
胸が熱くなるような最高のカタルシスを味わった。ここ数巻にわたり、じっくりと戦闘準備や探索の過程が描かれていたため、一時は展開が停滞しているように感じられたのも事実である。このままでは今巻でも宿敵との戦いまで辿り着かないのではないかと不安がよぎったが、それは杞憂に終わった。念入りに積み重ねられた準備の期間があったからこそ、待ちに待った「赫灼たる猿侯」との決戦は、こちらの期待を遥かに超える極めてエキサイティングな展開となった。
今回の決戦を語る上で欠かせないのが、遺失迷宮での過酷な試練を乗り越えて仲間に加わった星機鎧(インテリジェンスメイル)フォギアの存在である。誰にでも着装可能という優れた汎用性と圧倒的な防御力は、アリヒトたちのパーティーにとってまさに絶対的な防壁として機能していた。強力な魔物が跋扈する危険な五番区の攻略において、仲間たちの命を繋ぎ、勝利を引き寄せるための決定的な切り札として凄まじい存在感を放っている。
また、本作において秘神パーツの収集は単なる戦力拡充の意味に留まらない。五番区に潜むとされる敵対する秘神の脅威に立ち向かうための、極めて重要な「備え」として描かれている。アリヒトたちは過酷な試練をクリアしてパーツを集めるだけでなく、霊媒による魔力供給体制をも確立させた。これにより、来るべき未知の死闘を生き抜くための戦略が、極めて現実的な形として具現化していくプロセスに深く感心させられた。
本作の大きな魅力は、こうした緻密な戦術の構築と、熱い人間関係の対比にある。特に、白夜旅団のヨハンが見せた冷酷な実力至上主義やルウリィの切り捨てに対し、アリヒトたちが掲げた「誰も見捨てない」という確固たる信念が実に対照的で印象深い。この対立は、エリーティアの過去の因縁を浮き彫りにした。それだけに留まらず、旅団が諦めた親友を自分たちの手で救い出そうとする、パーティー全体の結束をより強固なものへと昇華させる重要な契機となっていた。
決戦に至るまでのエピソードも、読み応えのあるものばかりである。震える山麓での探索では、テレジアの救出に直接繋がるホーリーストーンの獲得という成果のほか、強力な名前つき魔物との戦闘や新たな出会い、さらには秘境の発見といった冒険の醍醐味がこれでもかと詰め込まれていた。厳しい昇格条件を突破した一行は確かな実力を証明し、因縁の五つ星迷宮「炎天の紅楼」への挑戦権を見事に手に入れる。この素晴らしい成果は、次なる魔王討伐への大きな弾みとなるに違いない。
道中で立ちふさがった「彷徨う嵐の鬼兎」との戦闘も非常に緊迫感があった。愛らしい外見とは裏腹に、鉄壁の防御力と致命的な広範囲攻撃を併せ持つ強敵である。アリヒトたちの緻密な連携によって一度は部位破壊を達成したものの、最終的には「流浪のストラダ」へと形態変化を遂げるという、一筋縄ではいかない不気味な性質にハラハラさせられた。この予測不能な生態を打破するためには、さらに一歩踏み込んだ戦略の構築が必要不可欠であると感じ、戦闘描写の奥深さに改めて唸らされた。
そして迎えたクライマックス。激闘の末に猿侯を討伐した瞬間、すべての眷属印が消滅した。ルウリィや操られていた探索者たち、そして刻一刻と呪詛に蝕まれていたテレジアの呪いまでもが完全に解除され、奪われていた人々の命が救われた結末には、言葉にできないほどの安堵と感動を覚えた。テレジアの呪いが治り、エリーティアの長年の悲願がようやく叶った姿を見て、心から「本当に良かった、めでたしめでたし」と祝福したくなる。
この常識外れの偉業を成し遂げたアリヒトのパーティーは、後にギルドから正式に『銀の車輪』という名で五番区全体に告示されることとなる。数々の困難を乗り越え、迷宮国の常識を打ち破って仲間たちを救い出した彼らが、ついに固有のパーティー名を得た瞬間は鳥肌が立つほどに熱かった。この『銀の車輪』という名前の誕生は、これまでの過酷な歩みと、互いを信じ抜いた確かな絆の証明に他ならない。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察・解説
遺失迷宮とフォギア
五番区のスタンピードで討伐したザ・カラミティのドロップ品である黒い箱をファルマに解錠してもらった結果、アリヒトたちは秘神のパーツによって遺失迷宮へと強制転移させられた。
遺失迷宮の性質
この迷宮は、秘神のパーツが来訪者の力を試すために用意された特殊な空間である。
・神器操晶で制御を受けるまではすべての来訪者と戦って力を試すよう創られており、試練に敗れればパーツは破壊されるか、あるいは契約者に従うことになる。
・迷宮から途中で脱出を試みる場合は所持品喪失のリスクが生じるが、試練を乗り越えて奥にある転移魔法陣から脱出すれば、アイテムを失うことなく帰還することができる。
・内部と外部では時間の流れが異なり、アリヒトたちが内部で激戦を終えて帰還した際、現実世界では約6時間しか経過していなかった。
星機鎧フォギアの参入と能力
この遺失迷宮の主として待ち受けていたのが、インテリジェンスメイル(意志を持つ鎧)である星機鎧フォギアである。激しい戦闘の末、破壊される前に自ら負けを認めてくれたフォギアに対し、アリヒトが神器操晶の一つである巨門晶を装着したことで、正式に所有者として認められた。
・特徴と性質:実体化した際は女騎士のような姿をしているが、実体化を維持するには魔力の補給が必要である。また、探索者が装備する際は全身を覆う騎士鎧ではなく、増加装甲のような形で機能する。
・最大の強み:装備者を固定せずに誰でも防御の切り札として力を借りられる点にある。秘神アリアドネも、フォギアの瞬間的な高防御を付与する能力はパーティにとって不可欠であると高く評価している。
作中での活躍
フォギアの能力は、五番区での致死的な攻撃から仲間を守る切り札として幾度も活躍する。
・鬼兎のラビットトルネード:新たな迷宮である震える山麓にて、★彷徨う嵐の鬼兎が後衛を吹き飛ばすほどの広範囲攻撃ラビットトルネードを放った際、フォギアは盾役のセラフィナに着装した。秘神を鎧い、契約者を守る者という名乗りのもと、セラフィナの鎧を強化し、防衛を成功させてパーティの全滅を防いだ。
・猿王の灰燼の閃光:炎天の紅楼における★赫焉たる猿王との決戦の最終盤、猿王が放った必殺の灰燼の閃光に対してもアリアドネによって召喚された。セラフィナのグラシアルプレートをさらに強化して極大の攻撃を受け止めさせ、直後の反撃へ繋ぐ最大の立役者となった。
まとめ
遺失迷宮での過酷な試練を経て一行の戦力に加わった星機鎧フォギアは、アリヒトのパーティにとって絶対的な防壁として機能している。誰にでも着装可能という高い汎用性と圧倒的な防御力は、強力な魔物が跋扈する五番区の攻略において、仲間たちの命を繋ぎ勝利を引き寄せるための極めて重要な切り札となっている。
秘神パーツの収集
アリヒトが契約している秘神アリアドネの失われた武装である秘神パーツの収集には、特有の試練と重大な目的が存在する。
パーツの収集方法と試練
・パーツは通常の迷宮ではなく、黒い箱の解錠などをきっかけに引き込まれる遺失迷宮に存在している。
・パーツは神器操晶で制御を受けるまでは、すべての来訪者と戦ってその力を試すように創られている。
・アリヒトたちが死闘の末に勝利し、あるいは相手に負けを認めさせ、特定の晶石を装着することで初めて所有者として認められ、使役や装備が可能になる。星機鎧フォギアの場合は巨門晶がこれに該当する。
・現在までに星機剣ムラクモ、銀の車輪アルフェッカ、星機鎧フォギアが収集されており、アリアドネ自身は固有装備として機神の腕ガードアームを最初から所持している。
収集の目的と敵対する秘神
・アリアドネはかつて廃棄された際に情報の多くを失っているため、パーツがすべて揃うと何が起きるのかは彼女自身にも分かっていない。
・しかし、敵対する秘神に遭遇した際、パーツがどれだけ揃っているかが極めて重要になることは確言している。
・さらにアリアドネは、五番区に移動してから自分の中の何かが警告を発しており、五番区には敵対する秘神がいるかもしれないとアリヒトに伝えている。
・来るべき脅威から契約者の命を守るために、パーツの収集は不可欠なプロセスとなっている。
パーツの維持と能力の発揮
・収集されたパーツは人型に具現化して同行することも可能であるが、実体化の維持や、フォギアの瞬間的な高防御などの強力な技能を完全に引き出すには魔力の補給と蓄積が必要となる。
・そのためアリヒトは、巫女のスズナを通じた霊媒を行い、アシストチャージによってアリアドネへ魔力を供給し続けることで、強力なパーツたちを運用するための準備を整えている。
まとめ
秘神パーツの収集は、単なる戦力の拡充に留まらず、五番区に潜むとされる敵対する秘神の脅威に立ち向かうための極めて重要な備えである。アリヒトたちは遺失迷宮での過酷な試練を乗り越えてパーツを集め、霊媒による魔力供給体制を確立することで、来るべき未知の死闘を生き抜くための戦略を着実に具現化している。
白夜旅団との対峙
第8巻における白夜旅団との対峙は、アリヒトたちが五番区での最大の試練である赫灼たる猿侯討伐に向けた決意を新たにする重要な出来事である。
フォレストダイナーでの遭遇とヨハンの冷徹な態度
アリヒトたちがフォレストダイナーで食事をとろうとしていたところ、エリーティアの兄であり白夜旅団の団長であるヨハン率いる一団と遭遇した。
・ヨハンは冷たい雰囲気を纏っており、猿侯に捕らわれた治癒師ルウリィの名前すら呼ばない。
・すでに彼女の救出を諦めている冷徹な姿勢を見せた。
緋の帝剣の回収要求
・ヨハンはエリーティアに対し、猿侯に挑むのは無謀であり、負ければルウリィと同じように従属させられる道を辿ると警告した。
・その上で、エリーティアが持っている強力な武器である緋の帝剣(アンタレス)が魔物の手に渡ることを危惧し、剣を回収しようと要求した。
アリヒトたちの反論と強い絆
・この横暴な要求に対し、アリヒトはエリーティアの前に立ち塞がり、彼女が今は自分たちのパーティの大切な仲間であることを宣言した。
・自分たちがこれからルウリィを救出し、猿侯を討伐するという目的を否定しないでほしいと強く反論した。
・五十嵐キョウカもそれに同調し、エリーティアがかけがえのない存在であることを主張した。
ヨハンの不可解な反応とアニエスの葛藤
・アリヒトの言葉を聞き、ヨハンはアリヒトたちと向き合うが、何かに気づいたように遠くを見つめて笑い、不可解な言葉を残した。
・一方、副団長のアニエスはルウリィを置き去りにした罪悪感から、アリヒトたちへの協力をヨハンに提案した。
・しかしヨハンは、負傷した場合はそれなりの処分をすると冷たく返し、実質的に旅団メンバーがアリヒトたちに助力することを禁じた。
エリーティアの思いと対峙がもたらした影響
・旅団が去った後、エリーティアは、兄であるヨハンが昔からあのような冷酷な人物だったわけではなく、迷宮国に来てから人が変わってしまったのだと仲間に打ち明けた。
・この対峙を通じて、アリヒトたちは白夜旅団全体が明確に敵対してくるわけではないことを確認し、安堵した。
・同時に、旅団が見捨てたルウリィを絶対に自分たちの手で救い出し、猿侯との因縁に決着をつけるという強い覚悟をパーティ全体で共有することとなった。
まとめ
白夜旅団のヨハンが見せた冷酷な実力至上主義とルウリィの切り捨てに対し、アリヒトたちは誰も見捨てないという確固たる信念を対比させた。この遭遇はエリーティアの過去の因縁を浮き彫りにしただけでなく、旅団が諦めた親友を自分たちの手で救い出すというパーティ全体の結束をより強固にする重要な契機となった。
震える山麓の探索
『震える山麓』の探索は、五番区の五つ星迷宮へ挑むための重要なステップであり、同時にテレジアを救うためのアイテムを入手する不可欠な任務である。
探索の目的と事前の情報収集
アリヒトたちの最大の目的は、赫灼たる猿侯の呪詛を解くための武器である呪詛喰らいの素材となるホーリーストーンを採掘することであった。
・迷宮へ向かう途中、以前救助した探索者パーティのアイゼンリートと再会した。
・ホーリーストーンは暗い所で光ることや、一層でも見つかる可能性があるという重要な情報を得る。
・さらに、採掘用の魔道具である小人のマトックを譲り受け、万全の準備を整えた。
彷徨う嵐の鬼兎との遭遇とストラダへの変化
山岳地帯のような迷宮を進む中、一行は桃色の小動物に遭遇するが、それは巨大な腕を展開して広範囲攻撃であるラビットトルネードを放つレベル不明の名前つき魔物、彷徨う嵐の鬼兎であった。
・フォギアの力を借りたセラフィナの防御や、全員の連携によって敵の記憶の封印角を破壊することに成功した。
・角を失った敵は、人間に近い姿を持つ流浪のストラダへと形態変化を遂げる。
・圧倒的な力を持つストラダに対し、エリーティアの猛攻で操作石の効果を蓄積させたアリヒトは戦闘放棄を交渉し、これを見事に成立させた。
・ホーリーストーンの場所を尋ねると、ストラダは崖を破壊して洞窟への道を示した。
洞窟での死闘とディープイーターの討伐
洞窟の中には光る苔と巨大な岩塊が存在したが、その中の一つが岩に擬態した魔物であるディープイーターであった。
・ディープイーターは非常に高い防御力に加え、地形を崩壊させる鳴動や地中を遊泳する能力を持っていた。
・アリヒトはスロウサラマンダーとメイを召喚して敵の動きを止め、ミサキのジョーカーオブフレイムで炎属性の弱点を付与する。
・その上で、全員による強力な連携技である光花雷鳴禁蝕断を叩き込んだ。
・自爆されそうになる寸前、砂地に潜伏していたテレジアの急襲が決まり、無事に討伐を果たした。
ホーリーストーンの採掘成功
小人のマトックの残り使用回数が2回しかない中、ミサキのフォーチュンロール(次の行動が確実に成功)とピックロトリー(希少素材の発見確率上昇)の技能を組み合わせて使用した。
・メリッサがマトックを振るうと、見事に目的のホーリーストーンを2つ掘り当てる。
・さらに、装備強化に必要な真銀の砂などの貴重な素材を同時に獲得し、最大の目的を達成した。
秘境の発見と五つ星迷宮の条件クリア
ディープイーター討伐後、スロウサラマンダーの案内で洞窟の奥へ進むと、滝のある美しい水場に出た。
・そこは未踏領域であり、新たな秘境として認定される。
・中立の魔物である眠れる森の湖竜などから、マスク(竜の鱗のマスク)という贈り物を受け取った。
・ディープイーターがこの水場の魔物を捕食していたという、迷宮内の過酷な生態系が垣間見える出来事でもあった。
・この秘境発見などにより、アリヒトたちは貢献度三千以上という非常に厳しい基準を大幅に上回る貢献度(3210ポイント)を獲得した。
・これにより、ついに五番区の五つ星迷宮である炎天の紅楼の探索許可条件を正式に達成することとなった。
まとめ
震える山麓での探索は、ホーリーストーンの獲得というテレジアの救出に向けた直接的な成果だけでなく、強力な名前つき魔物との戦闘や新たな出会い、そして秘境の発見をもたらした。厳しい昇格条件を突破したアリヒトのパーティは、確かな実力を証明し、因縁の五つ星迷宮である炎天の紅楼への挑戦権を手に入れた。この成果は、次なる魔王討伐への大きな弾みとなるに違いない。
彷徨う嵐の鬼兎
彷徨う嵐の鬼兎は、五番区の迷宮「震える山麓」に生息するレベル不明の「名前つき」の魔物である。初めは愛らしい小動物の姿で探索者を油断させるが、戦闘状態に入ると圧倒的な戦闘能力で牙を剥く。
愛らしい外見からの豹変
・最初は淡いピンク色の毛をしたウサギのような姿(ライセンス上は「?桃色の獣」)で現れる。
・しかし、敵対すると身体から巨大な二本の腕が生え出す。
・この腕を展開し、「ピーカブースタイル」で強固な防御姿勢を取ることで、アリヒトたちの射撃を弾き返すほどの防御力を誇る。
・さらに、恐るべき速度で腕を盾に変化させる「マシンガンブロック」を使用し、エリーティアの超高速の連続斬撃すら無効化してしまうという鉄壁の守りを見せる。
必殺の広範囲攻撃ラビットトルネード
この魔物の最大の脅威は、腕を大砲のような形状である「キャノンフォーム」に変化させて放つ大技「ラビットトルネード」である。
・馬鹿げているほどの広範囲に射出される「桃色の嵐」は、後衛がまともに受ければ一撃で致命傷となるほどの威力を持つ。
・作中での戦闘では、アリアドネが召喚した星機鎧「フォギア」の力を借り、セラフィナが全防御技能を重ねて辛うじてこの一撃を受け止め、反射することに成功した。
連携による部位破壊と形態変化
隙の少ない鬼兎に対し、アリヒトたちは総力戦で立ち向かった。
・キョウカの雷撃で感電させてわずかな隙を作り、シオンの拘束攻撃とメリッサの兜割り、そしてエリーティアの残紅を解放した猛攻を叩き込んだ。
・これにより、鬼兎の部位である記憶の封印角を切り落とすことに成功した。
・しかし、角を失った鬼兎は討伐されることなく、血のように赤い球体に包まれた。
・その中から、人間の女性に近い姿を持つ新たな魔物である「★流浪のストラダ」へと形態を変化させ、アリヒトたちの前に立ちはだかることとなる。
まとめ
彷徨う嵐の鬼兎は、愛らしい外見とは裏腹に、鉄壁の防御力と致命的な広範囲攻撃を併せ持つ強敵である。アリヒトたちの緻密な連携によって一度は部位破壊を達成したものの、最終的には流浪のストラダへと形態変化を遂げるという、一筋縄ではいかない不気味な性質を備えている。この予測不能な生態を打破するためには、さらなる戦略の構築が必要不可欠となる。
仲間の加入と絆
第8巻において仲間の加入と絆は、強敵である猿王を打ち倒すための最大の原動力として描かれている。新たな戦力の加入や、これまでに培ってきた組織や立場を超えた信頼関係が、幾重にも重なり合ってパーティの危機を救う。
秘神パーツ「フォギア」の加入
・ザ・カラミティから得た黒い箱を通じて遺失迷宮へと導かれたアリヒトたちは、試練として立ちはだかった星機鎧フォギアとの死闘を制した。
・アリヒトが神器操晶の一つである巨門晶を装着したことで、フォギアは正式に仲間として加入した。
・彼女は探索者の装備や増加装甲として機能し、誰にでも瞬間的な高防御を付与できる切り札として、過酷な五番区での戦闘を支える頼もしい存在となる。
立場を超えた支援者・協力者との結束
・猿侯討伐という極めて危険な作戦に対し、ギルドセイバーのクーゼルカやホスロウ、ナユタ、アデリーヌたちは、組織の枠や規則を超えてアリヒトたちに協力した。彼らはアリヒトたちが迷宮国のために命を懸ける姿勢に強く共感しており、深い恩義と信頼で結ばれている。
・テレジアが呪詛によって拘束された際も、クーゼルカが自らの権限を用いて彼女をパーティに同行させるなどの支援を行った。
・料理人のマリアは視力を失った自らの過去を明かした上で、アリヒトたちの帰りを待つ専属料理人として加入した。アリヒトは彼女を単なる料理人としてではなく、一緒に食卓を囲む仲間として迎え入れた。
・決戦ではアリヒトの全体相互支援により、迷宮の入り口で待機していたセレスやルカたち職人の支援技能であるオートクチュールなども前線の戦闘に反映され、物理的な距離を超えた絆がパーティを強化した。
呪詛に抗うテレジアとアリヒトの絆
・テレジアはイビルドミネイトの呪詛に侵蝕され、一時的にアリヒトを攻撃してしまうほど追い詰められた。
・自分の行いを責め、自暴自棄になりかけるテレジアに対し、アリヒトは決戦前夜に自らの本心を打ち明けた。自分が探索者として歩き出せたのはテレジアのおかげであること、そして彼女を異性として意識しているという葛藤を真っ直ぐに伝えた。
・テレジアも涙を流してそれを受け入れ、二人の絆はさらに深いものとなった。セレスやリーネが指摘した通り、テレジアが完全に猿侯に支配されなかったのは、アリヒトや仲間たちへの強い想いがあったからである。
仲間たちの想いと「協定」の結成
・決戦前夜、エリーティア、キョウカ、スズナ、ミサキ、セラフィナ、メリッサの女性陣もまた、アリヒトに対するそれぞれの特別な想いを告白し合った。
・エリーティアは、アリヒトと皆がいることが今の自分にとって生きることであると語り、他のメンバーもアリヒトの優しさや存在の大きさを再確認した。
・彼女たちはテレジアとの友情を大切にしながらも自らの想いを諦めないため、キョウカの提案により迷宮国の新たな常識に則った「協定」を結ぶこととなった。
絆の結実と銀の車輪の誕生
・猿侯が進化を遂げた猿王との最終決戦では、パーティメンバー全員、および共闘する協力者たちによる総力戦が繰り広げられた。
・全員の絆を乗せた連携攻撃によって猿王を討伐し、ルウリィをはじめとする従属させられていた探索者たちを見事に救出した。
・この偉業を成し遂げた彼らは、これまでの歩みと絆の証として、パーティ名を銀の車輪と命名し、その名を五番区全土に轟かせることとなった。
まとめ
物語における仲間の加入と絆は、単なる戦力補強に留まらず、過酷な運命や理不尽な呪いに立ち向かうための精神的支柱として機能している。立場を超えた協力者たちの支援、テレジアとの深い信頼、そして女性陣の間で結ばれた協定は、すべてがアリヒトを中心に結実したものである。彼らが獲得した銀の車輪という名は、これまでの歩みと確かな絆の証明であり、次なる区への進出に向けた大いなる飛躍を予感させる。
猿侯との決戦
五番区の五つ星迷宮である炎天の紅楼における★赫灼たる猿侯との決戦は、アリヒトのパーティとギルドセイバーをはじめとする協力者たちによる総力戦となった。
「第三の矢」作戦による強襲
アリヒトたちは戦力を分散させるため、以下のような強襲作戦を展開した。
・クーゼルカとホスロウの班が東西の砦に突入し、猿侯の影武者である獄卒の魔猿や破岩の猛猿、そして操られた探索者たちを引きつける陽動を行う。
・その隙を突き、アリヒトたちはクイーンズテイルによる砲撃で城壁を破壊した。
・秘神パーツである銀の車輪アルフェッカの力で空を駆け、中央砦へと強行突入を果たした。
レベル15「業魔の戦人形」との死闘
中央砦で待ち構えていた猿侯は、捕らえた人形使いの能力と配下のカルマを利用し、レベル15の怪物である★業魔の戦人形を生み出した。圧倒的な巨体と暴力の前に絶体絶命の危機に陥るが、以下の連携によって打破することに成功した。
・決死の覚悟で前に出たテレジアの行動を起点とする。
・エリーティアが格上の相手にも弱点への必中クリティカルを出せる瞬星眼を覚醒させた。
・アリヒトの支援連携やセラフィナの防御と組み合わせることで、圧倒的な手数とダメージを叩き込んだ。
・最終的に、戦人形を凍結および活動停止に追い込んだ。
「赫焉たる猿王」への進化と全体支援
・配下や影武者が敗れたことを悟った猿侯は、彼らの魂魄を吸収して6本腕の☆赫焉たる猿王へと進化を遂げた。
・必中効果を持つ必殺の炎弾である王技・六獄炎掌を放とうとする。
・これに対し、アリヒトは全体相互支援を発動した。
・エリーティアが装備していたブリーシンガメンの炎熱保護効果をパーティ全体に拡張させることで、この極大攻撃を完全に無効化した。
総力戦と決死の防衛
・その後、アリヒトの指揮のもと、イヴリルやフェリシアたち別班の仲間も加わった一斉攻撃が猿王に集中した。
・猿王の肩に乗せられ回復役をさせられていたルウリィに対しては、スズナが沈黙石を組み込んだ角笛を吹いて回復を封じた。
・追い詰められた猿王は、ルウリィたちを盾にしながら極大ビームである灰燼の閃光を放った。
・セラフィナがプロヴォークで攻撃を引き付け、オルタネイトボディとフォギアの防御を展開する。
・さらにミサキが自身の命を削ってダメージを肩代わりするポットリミットを発動したことで、辛うじて全員の致死を回避した。
呪詛の打破と「呪詛喰らい」による決着
・最後の切り札として、猿王は背信扇動を発動し、呪詛に侵されているテレジアを操って同士討ちさせようとした。
・しかし、決戦前に呪術医のリーネがテレジアに施していた精神防壁1が仲間との信頼度によって絶対成功し、猿王の洗脳を弾き返した。
・動揺する猿王に対し、アリヒトは新たに習得した支援攻撃3を発動してテレジアとエリーティアの攻撃を連携させた。
・エリーティアの蓄積された残紅の解放とともに、テレジアがホーリーストーンから作られたグロリアスティレットを叩き込んだ。
・ついに呪詛喰らいが発動し、猿王の完全討伐を成し遂げた。
まとめ
この討伐によりすべての眷属印が消滅し、ルウリィや操られていた探索者たち、そしてテレジアの呪詛も完全に解除され、奪われていた人々を救出することに成功した。この常識外れの偉業を成し遂げたアリヒトのパーティは、後にギルドから正式に銀の車輪という名で五番区全体に告示されることとなる。
銀の車輪の誕生
第8巻のエピローグにおいて、五番区の五つ星迷宮である炎天の紅楼を長年支配していた猿侯(猿王)を討伐したアリヒトたちのパーティは、ついに正式なパーティ名を決定し、ギルドから告示されることとなった。これが銀の車輪の誕生である。その誕生の経緯と影響は以下の通りである。
案内人ユカリの予言
・猿侯討伐の戦いを見守っていた案内人のユカリは、戦いの終結を見届けると、セレスたち支援者に対してパーティの名前を決めるよう促した。
・彼女は、アリヒトたちが猿侯を倒したことで、五番区においてあの強大な白夜旅団を凌ぐほどの実力と目されるようになると予言していた。
討伐の報せと広がる噂
・長年にわたって討伐されることなく探索者を返り討ちにし、従属させてきた猿侯が討伐されたという知らせは、文字通り五番区全域を揺るがす大事件となった。
・当初、街ではスーツの男が率いる、死の剣が所属するパーティが猿侯を倒したという噂が広がっていた。
ギルドの公式発表とエリーティアの名誉回復
・事態を受けたギルドは、噂のままにしておくのではなく、直々に正式な発表を行った。
・これは、かつて呪いの武器に操られていたエリーティアの名誉を回復するためのものでもあった。
・ギルドは、エリーティア・セントレイルが完全に呪いから解放されており、無差別攻撃を行う危険人物ではないことを大々的に公表した。
銀の車輪の告示と名前の由来
・ギルドは、赫灼たる猿侯から進化した猿王を討伐し、従属させられていた探索者たちを見事に救出したパーティの名前が、アリヒトたち自身によって登録された銀の車輪であると正式に告示いた。
・この銀の車輪という名前は、秘神アリアドネのパーツであり、自らを銀の車輪の化身と名乗ったアルフェッカに由来するものと思われる。
・アルフェッカは決戦において荷車を牽引して空を駆け、絶体絶命の危機から幾度も彼らを救う活躍を見せていた。
まとめ
数々の困難を乗り越え、迷宮国の常識を打ち破って仲間たちを救い出したアリヒトのパーティは、この日を境に銀の車輪として、その名を五番区全土に轟かせることとなった。このパーティ名の誕生は、これまでの歩みと確かな絆の証明であり、次なる区への進出に向けた大いなる飛躍の象徴であるといえる。
登場キャラクター
展開まとめ
プロローグ
『遺失迷宮』からの帰還
アリヒトたちは、『ザ・カラミティ』討伐後に入手した『黒い箱』を開封した結果、『遺失迷宮』へ転移させられていた。そこで彼らは星機鎧『フォギア』と戦い、辛勝の末に『神器操晶』の一つ『巨門晶』を装着することで、フォギアを仲間として迎え入れる。フォギアは探索者の装備や増加装甲として機能する存在であり、ムラクモやアルフェッカと同様に、秘神の契約者へ従う存在だった。
秘神と『パーツ』の役割
五十嵐は、秘神の『パーツ』たちが探索者を試す理由について疑問を抱く。フォギアは、自分たちはそのように創られた存在であり、『神器操晶』によって制御されるまでは来訪者と戦い続ける宿命にあると説明した。アリヒトは、剣・車輪・機体という三つの『パーツ』が揃ったことを実感し、アリアドネへ今後何が起きるのか尋ねる。しかしアリアドネ自身も、廃棄された際に多くの情報を失っており、全貌は把握できていなかった。
五番区への不穏な予兆
アリアドネは、現在の地区――五番区に移動して以降、何かが警告を発していると語る。論理的根拠はないが、敵対する秘神が存在している可能性を示唆していた。アリヒトは『猿侯』との戦いの前にそのような存在とは遭遇したくないと考えるが、アリアドネは契約者たちを守るため備えるのみだと答える。その言葉には、以前よりも明確な感情が宿っていた。
『霊媒』への提案
スズナは、以前行った『霊媒』を再び行うべきではないかと提案する。アリアドネの加護を強めるため、定期的な信仰値上昇が必要だと考えたのである。アリアドネも休息に支障がない範囲なら否定しないと答え、アリヒトたちは再び『霊媒』を行う方向で話を進める。
ファルマとの再会
元の場所へ帰還したアリヒトたちは、待ち続けていたファルマたちと再会する。ミサキはファルマに強く抱きしめられ、皆の無事が確認された。転移先では六時間ほど経過しており、大幅な時間差が発生していなかったことに安堵する。ファルマは、自分の開封作業が失敗したのではと不安に思っていたが、部屋が消滅していないことから、結果としては成功だったと理解していた。
装備強化と素材加工
その後アリヒトたちは貸し工房へ向かい、『ザ・カラミティ』から回収した『クイーンズテイル』や、『水蛇の鱗』『天の乙女の羽衣』などの素材について相談する。セレスとシュタイナーは、『水蛇の鱗』を荷車や防具の増加装甲として加工可能だと説明した。一方、『天の乙女の羽衣』は修復に縫製専門職が必要であり、七番区の服飾職人ルカへの依頼が検討される。さらに、付与能力抽出には極めて希少な『媒介の宝珠』が必要だという話も共有された。
『フォレストダイナー』での遭遇
夜になり、アリヒトたちは『フォレストダイナー』を訪れる。個室へ向かおうとしたその時、周囲の探索者たちがざわめき始めた。現れたのは『白夜旅団』だった。その中央には、冷たい雰囲気を纏う青年――ヨハンが立っていた。エリーティアは彼を見て、かつての団長であり兄でもある存在だと呟く。
ヨハンとの対峙
ヨハンはエリーティアへ歩み寄り、『緋の帝剣』を見せるよう求めた。彼は『猿侯』を倒そうとする行為を無謀だと断じ、負ければルウリィと同じように従属されるだけだと語る。さらに、エリーティアの剣を回収したいとまで口にした。アリヒトはエリーティアが今は自分たちの仲間であると告げ、彼女の意思を否定しないでほしいと真っ向から反論する。
仲間としてのエリーティア
アリヒトだけでなく、五十嵐もまたエリーティアはかけがえのない仲間だと断言する。旅団の一部メンバーは五十嵐の存在感へ妙な感心を示していたが、ヨハン自身はエリーティアとアリヒトたちの関係を観察していた。そして何かに気づいたように笑い、急ぐ必要はないと言い残す。
アニエスの葛藤
副団長アニエスは、ルウリィを置き去りにした責任は旅団全体にもあるのだから、エリーティアへ協力できないかとヨハンへ訴える。しかしヨハンは、負傷した場合には処分が必要になると冷たく返し、実質的に助力を禁じた。アニエスがなおもアリヒトたちを案じていることは明白だったが、現時点では旅団全体を動かすことは不可能だった。
エリーティアの過去
旅団が去った後、エリーティアは兄が昔からあのような人物ではなかったと語る。迷宮国へ来てから変わってしまい、その理由は自分にも分からないのだと打ち明けた。アリヒトたちは、少なくとも旅団全体が敵対しているわけではないことを確認し、それだけでも意味があると考える。
フェリシアとの交流
その後、ライカートンとフェリシアも合流する。フェリシアは『ワーキャット』として猫のような鳴き声しか発せないが、テレジアとは何らかの意思疎通ができている様子だった。メリッサは、自分ですら曖昧にしか分からない感覚を二人が共有していることへ感心し、その様子を見たアリヒトもまた、仲間たちに少しずつ変化が生まれていることを嬉しく感じていた。
第一章 残された時間、新たな装備
1 歓談 三種のデザート
『フォレストダイナー』での晩餐
『白夜旅団』との緊迫した遭遇のあと、アリヒトたちは気持ちを切り替え、『フォレストダイナー』の個室で食事を取ることにした。ライカートン一家やセレスたちも同席し、それぞれ飲み物を注文する。フェリスは好物のマタタビ酒を選び、メリッサは興味を示しつつもジュースに留められた。アリヒトは五番区特産の『水色葡萄酒』を注文し、皆もそれぞれ好みの飲み物を選んでいった。
再会を祝う乾杯
飲み物が行き渡ると、ライカートンが乾杯の音頭を取った。彼は、アリヒトたちと出会わなければ家族との再会は叶わなかったと感謝を述べ、同じ食卓を囲める喜びを語る。乾杯後、アリヒトは瑠璃色の葡萄酒を口にし、その甘さと酸味、軽やかな喉越しに感心していた。
家族の団欒とメリッサの変化
魚料理が運ばれてくると、フェリスはライカートンに食べさせてもらい、夫婦の睦まじい様子が周囲を和ませる。メリッサは酒を飲んでいないにもかかわらず顔を赤らめ、しゃっくりまで始めてしまう。ミサキやスズナ、マドカがそれぞれしゃっくりを止めようと奔走し、賑やかな空気が広がっていた。
フォギアとの情報共有
途中、セラフィナがアリヒトへ声をかけ、フォギアが実体化解除後も会話を続けていることを報告する。フォギアは、アリヒトたちのパーティがレベルに対して強敵と戦いすぎている点へ驚いていた。エリーティアは、自分が突出した戦力であってもアリヒトがパーティへ自然に溶け込ませてくれたと語り、二度と独断行動をしないと改めて誓う。
テレジアとの食事
スズナがエリーティアへ料理を食べさせる流れから、ミサキがテレジアも参加させようと騒ぎ始める。テレジアは魚料理を切り分けてアリヒトへ差し出し、アリヒトも照れながら食べさせ返した。周囲はそのやり取りに大いに盛り上がり、ミサキは過剰な反応を見せ、五十嵐やルイーザまで巻き込まれていく。
シオンとファルマの会話
シオンには専用の食事が用意されており、ファルマが世話をしていた。彼女は、シオンがアリヒトへ深く懐いていること、そして今のシオンにとって最も大切なのがアリヒトたちと共にいることだと語る。アリヒトは危険な戦いへシオンを連れていくことへ迷いを抱いていたが、ファルマは護衛犬とは誇り高く、自分の力を信じてほしい生き物なのだと諭した。シオン自身も、自分は問題ないと言うようにアリヒトを見つめていた。
酔いと賑わい
酒が進むにつれ、五十嵐は大胆にシオンを撫で回し、ルイーザも普段以上に色気を漂わせ始める。アリヒトは対応に困惑していたが、そこへマリアがデザートを運んできたことで場の空気が切り替わる。
能力上昇のデザート
マリアは『豪力の胡桃』のスフレ、『機知の林檎』のアップルパイ、『敏捷の葡萄』を使ったパンケーキを提供する。彼女は、自身の技能によって一つの素材から複数人分の効果付き料理を作れるのだと説明した。皆はどの料理を選ぶか真剣に悩みながらも、それぞれに食べる料理を決めていく。
食事による強化
『豪力の胡桃』を食べたエリーティア、メリッサ、シオンは力が上昇し、『機知の林檎』を食べたアリヒトたちは魔力最大値が増加した。さらに『敏捷の葡萄』を選んだテレジアたちは敏捷性を強化される。アリヒトは、アップルパイを食べた直後に魔力最大値が大幅に増えていることを確認し、その効果量に驚愕していた。
マリアへの呼び止め
食事が一段落し、マリアが退室しようとしたところで、ルイーザが彼女を呼び止める。アリヒトは、その理由をまだ理解していなかった。
2 スカウト
マリアへの誘い
食事を終えたあと、アリヒトはルイーザ、五十嵐、テレジアと共に『フォレストダイナー』一階で待機していた。ルイーザは、マリアへ宿舎へ来ないかと誘っていたのである。突然の申し出だったが、マリアは退勤準備後であれば構わないと受け入れた。ルイーザとアリヒトは、マリアの料理技術を高く評価しており、探索で得た貴重な食材を最大限活かすため、専属料理人として迎えたいと考えていた。
五番区での立場
マリアは探索者上がりの料理人であり、七番区で活動していた頃はレベル5だった。しかし料理技能を評価されて五番区へ転勤となり、現在はレベル9へ達していた。支援者であっても有用と判断されれば、特例によって上位区で活動できるのだと彼女は説明する。マリアは、アリヒトたちがスタンピードから街の人々を守ったことへ強く感銘を受けており、少しでも力になりたいと考えていた。
探索者時代の過去
酒が入ったことで饒舌になったマリアは、自身の過去を語り始める。彼女はかつて探索者として活動していたが、『名前つき』との戦闘で視力のほとんどを失っていた。仲間たちは治療法を探そうとしてくれたが、マリアはそれを断る。自分のために仲間たちを縛りたくなかったからだった。現在は料理人として鍛えた嗅覚と、腕輪による『聴覚強化2』の技能で生活しているという。
専属契約への思い
マリアは、自分は戦闘へ参加できないが、それでもアリヒトたちの帰りを待っていたいと告げる。そして、片方の腕輪を外してアリヒトへ託した。アリヒトは、それを必ず返すと約束する。マリアは、危険な五番区探索の中でも、無事に帰還し、自分の料理をまた食べてほしいと願っていた。
仲間として迎える提案
アリヒトは、料理人として厨房へ立たせるだけではなく、一緒に食卓を囲む仲間として迎えたいと伝える。支援者たちと同じように、感情や言葉で繋がる関係を築きたいという考えだった。マリアはその言葉を受け入れ、アリヒトと握手を交わす。さらにテレジアにも手を差し伸べ、いつも沢山食べてくれて嬉しかったと語った。テレジアは言葉こそ返せないものの、揺れる尻尾で応えていた。
テレジアとの入浴
その後、アリヒトは宿舎近くの浴場へ向かう。テレジアも当然のようについてきており、受付では二人分の料金を請求されることになった。男女での利用は禁止ではないが、アリヒトは強い気恥ずかしさを覚えていた。一方のテレジアは全く気にしておらず、当然のように脱衣所へ入ってくる。
変化への不安
浴室でテレジアへ背中を流してもらいながら、アリヒトは彼女の変化を強く意識していた。『赫灼たる猿侯』の呪詛による『イビルドミネイト』が進行している以上、いつ何が起こるか分からない。だがテレジアの手つきは、以前と変わらず優しかった。アリヒトは、必ず彼女を救うと心の中で誓いながら、その感触を受け止めていた。
3 再びの『霊媒』
『霊媒』の再開
宿舎へ戻ると、スズナが一人で居間へやってきた。彼女のライセンスには、アリアドネから『霊媒』の使用要求が通知されていた。アリヒトはアリアドネの意図を深く詮索しないよう努めながら、再び『霊媒』を行うことを了承する。スズナが床に正座し、詠唱を行うと、身体は淡い青色の光を帯び、髪色もアリアドネと同じ色へ変化した。
アリアドネの説明
アリアドネは、契約者との連携は時間経過によって最適化されると語る。また、『星機鎧』フォギアを早期に発見できたことは大きな意味があり、瞬間的な高防御能力を付与する存在として不可欠だと説明した。さらに、完全な機能解放には自身の魔力蓄積も必要だと明かし、そのために魔力供給を求める。
『アシストチャージ』による魔力循環
スズナはアリアドネの代行として『エナジーシンク』を発動し、アリヒトは『アシストチャージ』で魔力を供給する。互いの魔力を均衡させ続けることで、魔力を消耗せずに信仰値を高め続ける循環が成立していた。アリヒトはスズナの背中へ触れながら魔力供給を続け、溢れた魔力は光の粒となって彼女の身体から立ち上っていく。
『星体図』と魔力の流れ
アリアドネは、人間の身体には『星体図』と呼ばれる魔力収束点と経路が存在すると説明する。ただ魔力を通すだけではなく、収束点を順番に辿る必要があるのだという。アリアドネの指示に従い、アリヒトは肩甲骨から徐々に位置を変えながら『アシストチャージ』を続けていく。スズナは熱を帯びながらも耐え続け、アリアドネはあと数回なら問題ないと告げていた。
アリアドネの不用意な発言
その最中、アリアドネは『星体図』の収束点は身体の表側にも存在すると説明し、技能定義上は前面から接触することも可能なはずだと口にする。アリヒトは即座に拒否したが、スズナも慌てて主導権を取り戻し、そんなことをしてもらうのは駄目だと強く否定した。勢い余ってアリヒトをソファへ押し倒してしまい、二人は揃って狼狽する。
テレジアの仲裁
気まずい空気の中、テレジアが近寄ってくる。彼女の仕草を受けて、アリヒトはスズナの頭を撫でた。スズナは少しくすぐったそうにしながらも、それによって落ち着きを取り戻していく。アリアドネも既に身体を離れていたようで、髪色は元へ戻っていた。スズナは、アリアドネにも少し悪戯好きなところがあるのだと苦笑していた。
仲間たちの誤解
そこへミサキが部屋へ入ってきたことで、場の空気はさらに混乱する。彼女は室内の雰囲気を見て慌てて逃げ出し、その先には五十嵐、ルイーザ、ファルマたちが待っていた。皆はスズナを心配して様子を見に来ていたのである。スズナは何事もなかったように振る舞い、皆と共に寝室へ戻っていった。ファルマだけは最後に顔を出し、意味深な笑みを浮かべながらアリヒトへ挨拶を残して去っていった。
テレジアとの静かな夜
残されたアリヒトは、ソファで丸くなるテレジアへ毛布をかける。彼女の首筋にある『イビルドミネイト』の呪印を確認することはせず、侵蝕が迷宮外ではあまり進んでいないことを信じようとしていた。横になったアリヒトへ、アリアドネは静かに念話を送る。契約者よ、自分の加護のもとで眠れ――その言葉は子守唄のように響き、アリヒトは安堵の中で眠りへ落ちていった。最後に目を開けたとき、テレジアはアリヒトの方を向いたまま、静かに眠っていた。
4 解錠
マリアとの朝
翌朝、アリヒトが目を覚ますと、マリアがすでに朝食の準備を進めていた。彼女は『フォレストダイナー』から食材を手配し、私服にエプロン姿で台所へ立っていた。アリヒトは気を遣わせてしまったことを謝るが、マリアは快く泊めてもらえたことを嬉しく思っていると答える。テレジアもすでに起きており、アリヒトの毛布まで畳んでくれていた。
メリッサ一家の思い
朝食前、アリヒトはメリッサから昨夜の話を聞く。フェリスは『キャットファイター』として非常に高い実力を持っており、メリッサが戦うなら自分も協力すると考えているらしかった。ライカートンもまた、昨夜はアリヒトの話をずっとしていたという。メリッサは両親との再会を経て、家族と同じ部屋で眠ったことを静かに喜んでいた。アリヒトはそんな彼女を子供扱いしすぎないよう気を遣いながらも、思わず頭を撫でる。メリッサは照れながらも、それを嫌ではないと小さく答えた。
黒い箱の解錠
その後、アリヒトたちは再び『黒い箱』の開封へ向かう。今回もファルマが解錠を担当し、巨大な立体迷路へ魔力を流し込んでいく。以前よりも解読は順調だったが、彼女は途中で隠された罠を見抜き、慎重に解除を進めた。やがて箱は青白く発光し、内部のアイテムが一覧表示される。
『魔法の幌』の発見
今回の目玉は『★魔法の幌』だった。使用すると魔力製の幌を展開し、内部空間を拡張できる特殊魔道具である。幌の耐久力はパーティのレベルに依存し、荷車へ搭載すれば移動型の防護空間としても利用できる可能性があった。セラフィナは、アルフェッカへ搭載すれば輸送能力や野営性能を大幅に強化できると考えていた。
未鑑定装備と新装備
『錆びた武器』と『プレートメイル』は上級鑑定が必要だったため、現時点では詳細不明だった。一方、『守護天使のアンク』は防御能力と状態異常耐性を高め、さらに仲間への回復効果まで備えていた。『ダンピールのマント』は全属性耐性や魅了耐性を持つ優秀な装備だったが、女性装備者へ『渇望』状態を付与する危険な副作用も存在していた。
『ダンピールのマント』
副作用を避けるため、アリヒト自身が『ダンピールのマント』を試着することになる。予想に反して非常に馴染みが良く、軽量で通気性にも優れていた。仲間たちは、その姿が異様なほど似合っていると口々に感想を漏らす。ミサキは、以前の陰のある雰囲気と合わさって、まるで魔物狩りの男のようだと評した。
『守護天使のアンク』の装備者
『守護天使のアンク』は、防御役であるセラフィナへ託されることになった。大技を受け止める役割の多い彼女にとって、最適な装備だと判断されたのである。
『ミストリウムのメダリオン』
最後に確認されたのは、『ミストリウムのメダリオン』だった。それはディラン司令官から与えられた『マギスタイトのメダリオン』とよく似た形状をしていたが、さらに上位の代物だった。これほどの勲章を持つ探索者が、過去にアルフェッカへ敗北し、『黒い箱』へ収められた可能性が示唆される。アリヒトは、持つべき人物へ返すべきものだと考えていた。
新たな探索へ
箱の整理を終えると、アリヒトたちは次なる目的である『ホーリーストーン』探索へ向かう準備を始める。ファルマとマドカは街へ残り、回収品の整理を担当することになった。別れ際、ファルマは今夜も探索の話を聞かせてほしいと微笑み、アリヒトたちは必ず無事に戻ると約束する。外へ出ると、曇天だった空には雲の切れ間が生まれ、眩しい太陽の光が差し込んでいた。
第二章 解呪の鉱石、強敵との邂逅
1 震える山麓一層
『アイゼンリート』との再会
アリヒトたちは『震える山麓』へ向かう途中、『夕闇歩きの湖畔』で救助したレナードたち『アイゼンリート』と再会した。彼らは『水蛇の崇拝者』の探索に挑んでいたが、幽霊のような魔物や遠距離攻撃に苦しめられ、十分な成果を得られず撤退したという。五十嵐が回収していた『ネルゼクス・ハープーン』を返却すると、前衛役のヴァネッサは素直に感謝を示した。
探索者たちとの情報交換
アリヒトたちは『ホーリーストーン』について尋ねる。ヴァネッサによれば、一層でも発見例はあるが、非常に希少で運の要素が強いという。レナードは、暗所で発光する性質を持つと補足した。また、ユウホは採掘用の魔道具『小人のマトック』を譲渡してくれる。出会いが迷宮攻略の助けになることを、セラフィナは改めて実感していた。
『震える山麓』への転移
北へ進んだアリヒトたちは、巨大な石の輪を通じて『震える山麓』へ転移した。そこは青空の下に険しい山道が続く高地であり、巨大な岩塊が転がる荒々しい地形だった。探索者たちの往来によって自然に形成された獣道を進みながら、一行は山岳探索を開始する。シオンは軽快に駆け、セラフィナも大盾を背負いながら難なく進んでいった。
危険な野営跡
さらに進むと、野営跡が残された分岐地点へ辿り着く。しかしそこには破壊された簡易テントや血痕が残されており、野営中に魔物へ襲撃された痕跡があった。岩にまで穴が穿たれていることから、強力な攻撃を行う敵の存在が推測される。エリーティアたちは警戒を強め、長期探索の危険性を再認識していた。
桃色の獣の出現
そのとき、尾根の向こうから桃色の小動物のような魔物が現れる。一見すると愛らしいウサギのようだったが、ライセンスには情報がほとんど表示されず、不気味さを感じさせた。アリヒトはまず『バインシュート』で拘束を狙い、続けてスズナが『フォビドゥンアロー』を放つ。しかし敵は巨大な腕を展開し、『ピーカブースタイル』によって強固な防御態勢を取って攻撃を弾き返す。
鬼兎の本性
アリヒトは支援攻撃で凍結を付与し、敵を一瞬だけ怯ませることに成功する。そこへエリーティア、五十嵐、テレジア、メリッサが同時に接近戦を仕掛けた。しかしその瞬間、アリアドネが壊滅的被害を警告する。桃色の獣は正体を現し、『★彷徨う嵐の鬼兎』と判明した。さらに腕部を大砲状へ変形させ、『ラビットトルネード』を発動する。桃色の嵐が広範囲へ放たれ、後衛のスズナ、ミサキ、アリヒトへ死を予感させる一撃が迫った。
フォギアの加護
誰も動けない中、セラフィナだけは前へ出て盾を構える。『支援防御』だけでは到底耐えられない攻撃だったが、アリヒトはフォギアへ助力を求める。するとセラフィナの身体が光に包まれ、『秘神を鎧い、契約者を守る者』と名乗るフォギアの力が発動する。セラフィナは持てる防御技能を全て重ね、迫り来る桃色の嵐へ真正面から立ち向かった。
2 迷宮を知る者
セラフィナによる防衛
『ラビットトルネード』を受け止めたセラフィナは、アリアドネが召喚したフォギアによって鎧を強化され、全防御技能を重ねて桃色の嵐へ立ち向かった。アリヒトも『支援防御』を発動し、自身の耐性や装備効果を共有することで彼女を支援する。激しい衝突の末、『鏡甲の大盾』が『ラビットトルネード』を反射することに成功した。
鬼兎への反撃
反射された攻撃は鬼兎自身によって相殺されたが、ブレス攻撃には再使用まで溜めが必要だと判明する。その隙を突き、エリーティアが高速戦技『コメットレイド』で接近した。アリヒトは『支援攻撃』で援護し、エリーティアは『アルティメイタム』『スターパレード』『ルミナスフラウ』を重ねて猛攻を仕掛ける。鬼兎は『マシンガンブロック』で防御するが、五十嵐の雷撃支援によって隙を生じさせられ、多数の斬撃を受けた。
連携による部位破壊
メリッサとシオンも攻撃へ加わり、アリヒトは『ダークネスバレット』を支援攻撃として発動する。シオンの拘束攻撃、メリッサの『兜割り』、そしてエリーティアの『残紅』解放による連撃が決まり、鬼兎へ大きな損傷を与えた。その結果、『封印角』が切断され、鬼兎は新たな形態へ変化し始める。
『流浪のストラダ』への変化
赤い球体の中から現れたのは、人間に近い四肢を持つ存在『★流浪のストラダ』だった。テレジアは透明化技能を用いて奇襲を仕掛け、『アズールスラッシュ』を放つ。しかしストラダは『小心者の聴覚』で接近を察知し、『白刃取り』によって攻撃を完全に無効化した。さらにセラフィナの『シールドスラム』すら受け止め、圧倒的な実力差を見せつける。
エリーティアの突破
ストラダが強力な技『月穿ち』を放った直後、アリヒトはエリーティアへ合図を送る。エリーティアは『ルミナスフラウ』と『マシンガンブロック』の超高速攻防へ突入し、その最中に『アンタレス』の能力解放『緋影刃』を発動した。緋色の斬撃は防御を突破し、四十五回もの支援攻撃と『残紅』による追撃を叩き込むことに成功する。その結果、『操作石』の効果が累積し、ストラダとの交渉が可能となった。
戦闘放棄の成立
アリヒトはストラダへ戦闘放棄を要請し、ストラダはそれを受諾した。テレジアはストラダの言葉を理解しているような反応を見せる。ストラダは失った『記憶の封印角』の返却を求めるが、その代わりとして自らが提示可能な全てを差し出す意思を示した。アリヒトが『ホーリーストーン』の在り処を尋ねると、ストラダは崖を破壊して洞窟への道を作り、探索者たちを導く。
崖下洞窟への進入
一行は崖に張り付きながら危険な道を進み、洞窟へ到達した。途中で五十嵐やセラフィナが足場を崩す場面もあったが、アリヒトは『バックスタンド』や『八艘飛び』で救出する。洞窟内部には光る苔と巨大な岩塊が並び、未踏領域らしい神秘的な空間が広がっていた。
『ディープイーター』の襲撃
ミサキが『ピックロトリー』を使用し、セラフィナが『小人のマトック』で岩塊を破壊すると、鉱石素材が発見される。しかし次の瞬間、アリヒトは『鷹の眼』で岩に擬態していた魔物を看破する。その正体は『ディープイーター』だった。巨大な口を開いた魔物はミサキとシオンを狙って襲いかかり、セラフィナの『シールドスラム』すら『岩石の剛性』で受け流してしまう。さらに『アーマーブレイク』によってセラフィナの鎧を破壊し、圧倒的な防御力を見せつけた。
拘束による立て直し
エリーティアの斬撃も無効化される中、アリヒトの『バインシュート』による蔓草拘束だけは通用した。そこへシオンが『ヒートクロー』を叩き込み、炎属性が有効であることが判明する。アリヒトは近接戦が危険だと判断し、遠距離攻撃主体へ戦術を切り替えることを決意する。そして、自分たちを苦しめた“あの魔物”の力を利用することを考え始めていた。
4 鳴動 流星と蒼炎
洞窟封鎖と新たな召喚
『ディープイーター』は『ハウリングクェイク』を発動し、洞窟全体を激しく震動させた。その影響で崖道が崩落し、一行の退路は塞がれてしまう。セラフィナが時間稼ぎを申し出る中、アリヒトは『スロウサラマンダー』二体と『メイ』を召喚する。すると『ディープイーター』は捕食本能を刺激され、『捕食衝動』によって形態変化を起こした。
地中遊泳する捕食者
『ディープイーター』は腕をヒレ状に変化させ、『地面遊泳』によって砂地を泳ぐように高速移動し始めた。その異様な姿に、召喚された『スロウサラマンダー』たちは本能的恐怖で動けなくなる。スズナの『フォビドゥンアロー』も『超反応』と『弾除け』によって防がれ、アリヒトは通常の攻撃では止められないことを悟る。
メイによる防御
アリヒトはムラクモの助言を受け、『雲の構え』による防御支援を選択する。同時にメイが『ウェブスピナー』を発動し、巨大な蜘蛛の巣で『ディープイーター』の突進を受け止めた。支援効果によって速度が低下し、その隙を利用して五十嵐が『ブレイブミスト』を使用し、『スロウサラマンダー』たちの恐怖状態を解除する。
連携技『共鳴止水の鬼札』
恐怖から立ち直った『スロウサラマンダー』たちは、『止水の呼吸』を連続発動した。そこへミサキの『ジョーカーオブフレイム』が加わり、『ディープイーター』は怒り状態となって炎属性弱点へ変化する。さらにアリヒトの『行雲流星突き』が連携へ組み込まれ、『共鳴止水の鬼札』が成立した。その結果、『ディープイーター』は三段階低速化と脳震盪状態へ追い込まれる。
総攻撃による追撃
動きの鈍った敵へ、エリーティアが『ルミナスフラウ』による多段斬撃を叩き込み、メリッサの『兜割り』、キョウカの雷撃、スズナの矢撃が連携する。『光花雷鳴禁蝕断』が発動し、巨大な支援ダメージを与えることに成功した。しかし『ディープイーター』は追い詰められ、自爆技『煉岩爆散』の発動態勢へ移行する。
テレジアの奇襲
洞窟崩壊の危機に直面した中、アリヒトはテレジアの存在を察知する。テレジアは『モードチェンジ:サンドクラッド』で砂地へ潜伏し、機会を窺っていた。アリヒトの『輝炎流星突き』支援を受けたテレジアは、『蝶の舞い』と『アズールスラッシュ』を発動する。低速化した『ディープイーター』へ六連撃を叩き込み、弱点へのクリティカル攻撃によってついに討伐へ成功した。
洞窟奥への道
自爆寸前だった『ディープイーター』は完全停止し、洞窟崩落も回避された。激戦を終えた一行は疲労困憊しながらも無事を確認する。その後、『スロウサラマンダー』たちが洞窟奥へ進みたがる様子を見せたため、シオンの背へ乗せて案内させる。すると苔に隠されていた岩壁の隙間が発見され、新たな通路の存在が明らかになった。
5 秘境
最後の採掘
『小人のマトック』の使用回数が残り二回しかないことが判明し、一行は最後の採掘へ挑む。ミサキは『フォーチュンロール』と『ピックロトリー』を重ね、希少素材の発見を確定させた。メリッサが指定された岩を砕くと、『ヘブンスチル鉱石』『グロウゴールド』『クリスダイト片』『真銀の砂』、そして目的だった『★ホーリーストーン』を二つ同時に発見する。アリヒトたちは、『呪詛喰らい』作成に必要な素材を確保できたことへ安堵した。
魔力回復と次の目標
『ピックロトリー』を連続使用したミサキは魔力切れ寸前となり、アリヒトが『アシストチャージ』で回復を行う。エリーティアも戦闘疲労を理由に回復を受け、アリヒトの技能による魔力循環を改めて実感していた。その後、一行は五つ星迷宮の探索資格を得るため、引き続き五番区で実績を積む必要があることを確認する。
隠された通路
スロウサラマンダーたちが示した方向へ進むと、苔に隠された通路が発見される。その先には水音が響き、洞窟を抜けた先には高所の崖と滝を伴う秘境が広がっていた。ライセンスには『未踏領域』『秘境』と表示され、さらに巨大な湖竜と小型の爬虫類型魔物『サイレントレプス』の存在が確認される。どの魔物も中立状態であり、敵意を見せなかった。
魔物たちの生態
アリヒトは、『ディープイーター』がこの秘境に棲む『サイレントレプス』を捕食していたのだと理解する。スロウサラマンダーたちは、仲間に近い存在を守るため、アリヒトたちをこの場所へ導いたのだった。探索者と魔物が敵対しながらも、生態系として繋がっている現実を、一行は静かに受け止める。
湖竜からの贈り物
そのとき、メイが湖のほとりを指差す。『鷹の眼』で確認すると、『眠れる森の湖竜』が『?マスク』をドロップしていた。敵対もせず、自ら報酬を残したことに、一行は驚きを隠せない。メイは絶壁を降りてその品を回収し、戻ってきた。マスクは竜鱗で作られたような重厚な防具であり、非常に高い防御力を感じさせる代物だった。
ストラダとの再会
帰還路へ向かった一行を待っていたのは、『★流浪のストラダ』だった。アリヒトが『記憶の封印角』を返そうとすると、ストラダは受け取らず、逆にアリヒトへ頬擦りを見せる。角は本来、ストラダの記憶を封じるためのものであり、現在のストラダは本来の意識を取り戻している可能性が示唆された。ムラクモも、ストラダに敵意がないことを認める。
エリーティアとストラダ
エリーティアはストラダへ同行を提案する。ストラダは耳を動かして応じ、『脱兎閃速』を発動する。エリーティアも『コメットレイド』を使用し、二人は一瞬で次層方面へ駆け抜けていった。その圧倒的な速度を見送りながら、一行は改めて五番区攻略の危険性を認識する。同時に、セラフィナの壊れた鎧の代替装備調達や、『呪詛喰らい』作成依頼など、今後やるべき課題を整理しながら迷宮出口を目指して歩き始めた。
第三章 迫る刻限、集う戦力
1 侵蝕 再会
迷宮からの帰還
エリーティアとストラダは短時間で探索を終えて戻ってきた。迷宮内部では時間の流れが不安定であり、外ではすでに夜が更け始めていた。エリーティアはストラダへ礼を告げ、再会を願いながら別れを見送る。ストラダは言葉を発しないまま去っていったが、その耳の動きは肯定の意志を示していた。
テレジアの異変
迷宮を出た直後、テレジアの様子が急変する。アリヒトが声をかけようとした瞬間、テレジアは『イビルドミネイト』の影響で敵対状態に陥り、アリヒトへ攻撃を加えた。スーツは裂け、血が飛び散る。さらにメリッサやキョウカにも攻撃が向けられ、仲間たちは混乱する。テレジア本人も必死に抵抗していたが、呪詛の侵蝕は彼女の意志を上回っていた。
クーゼルカの介入
五十嵐の攻撃を受け流したテレジアが反撃へ移ろうとした瞬間、クーゼルカが割って入る。『ガルムドライブ』『流撃の狼煙』『ウェポンハント』を連続発動し、テレジアの武器を奪取する。続いて『拘束の金環』によってテレジアを拘束し、ギルドセイバー本部への連行を宣告した。テレジアはその後、一時的に『敵対』状態を解除したものの、拘束は継続された。
アリヒトの後悔
テレジアを止められなかったことに、アリヒトは強い後悔を抱く。ライセンスには『イビルドミネイト』進行度46と表示され、『ディープイーター』討伐によって呪詛が進行したことが判明した。アリヒトは自分の甘さが招いた結果だと痛感しながら、ギルドセイバー本部へ向かう。
ギルドセイバーとの対話
本部でクーゼルカとホスロウは、アリヒトたちを監視していた理由を説明する。五つ星迷宮探索資格をわずか四日で得た実績に感嘆しつつも、『猿侯』による探索者支配の危険性について語った。『炎天の紅楼』では操られた探索者を魔物扱いする規定があり、亜人への偏見も根深い現実が存在していた。アリヒトは、それでも『猿侯』を倒し、操られた探索者たちを救いたいと訴える。
テレジア解放の条件
ホスロウは、テレジアをこのまま監房へ残せば八番区への送還や矯正施設送りになる可能性があると説明する。その上で、クーゼルカがアリヒトたちのパーティへ一時加入することで、三等竜尉の権限を用い、テレジアを同行させる案を提示した。アリヒトは二人の厚意へ深く感謝し、『炎天の紅楼』攻略への決意を新たにする。
監房での再会
地下監房にいたテレジアは、体育座りのまま沈んでいた。アリヒトが笑顔で手を差し出すと、テレジアは震える手でそれを取る。アリヒトは彼女を恐れず、これまで通り接し続ける意思を示した。その態度に、テレジアもまた自分を保とうとしていることが伝わっていた。
ルカの到着
地上へ戻ると、そこには七番区で世話になっていたルカの姿があった。ルカは『サンダーヘッド』と『ダークネスブリッツ』素材による新しいスーツを完成させ、五番区へ届けに来ていたのである。クーゼルカは、ルカもまた戦力として協力を求められる存在だと評価し、アリヒトは改めて周囲の支えを実感するのだった。
2 能力付与
宿舎での再会
宿舎へ戻ると、五十嵐たちはすでに居間へ集まっており、そこにはリーネの姿もあった。セレスは幼馴染みであるリーネと再会し、普段とは異なる感情を見せる。リーネは『翡翠の民』であり、セレスと同じく若々しい容姿と亜麻色の髪、翡翠色の瞳を持っていた。彼女は探索者時代に手に入れた『媒介の宝珠』を持参し、『ホーリーストーン』の加工を提案する。
ギルドセイバーの配慮
クーゼルカとホスロウは、テレジアの監視も兼ねて宿舎周辺で待機すると告げた。アリヒトはテレジアの拘束を早く解きたいと思いながらも、まずは『猿侯』攻略の準備を優先する。ルカとホスロウは葉巻を片手に外へ出ていき、クーゼルカはファルマに誘われて別室へ向かった。
呪詛喰らいの武器
工房では『ヘブンスティレット』をベースに、『ホーリーストーン』の力を付与する作業が始まる。テレジアが『ローグ』であるため、この武器を装備できることが判明した。しかし同時に、『猿侯』との戦闘で再び呪詛が進行する危険も浮上する。セレスは、テレジアが仲間への強い想いによって呪詛へ抗っていると断言した。
リーネの支援
リーネは『呪術医』としての技能『絆の呪言』を発動し、テレジアへ『精神防壁1』を付与する。これは呪詛の侵蝕自体を止めるものではないが、状態異常の発生頻度を抑える保険として機能するものだった。リーネは成功率も低く、何度も使える技能ではないと説明する。
グロリアスティレット完成
セレスは『エクストラクト』と『コンバージョン』を発動し、『ホーリーストーン』の特殊能力を『ヘブンスティレット』へ移植した。こうして完成した『★グロリアスティレット+6』には、『特攻:呪い』の効果が付与される。呪詛を使用する魔物への打撃が強化され、討伐時には『呪詛喰らい』を発動できるようになった。
支援者たちの決意
リーネは直接戦闘へ加わることはできないとしながらも、アリヒトたちへ生き残ってほしいと願いを伝える。セレスとシュタイナーもまた、『猿侯』討伐への支援を約束した。シュタイナーは撤退支援を引き受け、セレスは『クイーンズテイル』の完成や荷車改造について説明する。マドカも戦闘への参加を希望し、仲間たちは互いに支え合いながら決戦への覚悟を固めていった。
グラシアルプレートの鑑定
リーネは希少な『上級鑑定』の巻物を提供し、マドカが『黒い箱』から発見されたプレートメイルを鑑定する。その結果、『★グラシアルプレート』であることが判明した。『クリスダイト』製で、高温地形の影響を無効化し、『氷の盾』を発動する能力を持つ強力な鎧だった。さらに『転のルーン』を装着し、『★グラシアルプレート・オルタ』へ強化される。
装備強化と最終調整
『牧神の響声』には『沈黙石』が装着され、魔石装着数も増加する。『黒き魔弾を放つもの』には『会心石』が取り付けられ、各装備は『猿侯』戦を想定した性能へ調整された。アリヒトは、どの強化が決定打になるか分からないと理解しつつも、少しでも戦術の幅を広げることが生存へ繋がると考えていた。
決戦前夜
ルイーザがギルドでの仕事を終えて工房へ合流し、アリヒトは翌日に『炎天の紅楼』へ突入する意志を伝える。五つ星迷宮への挑戦条件を満たしているか確認しながら、仲間たちはついに『猿侯』との決戦へ向け、最後の準備を整えていくのだった。
3 決戦前のミーティング リーネの過去
五つ星迷宮への到達条件
宿舎の居間で、アリヒトはルイーザへライセンスの成果表示を見せた。今回の探索では『震える山麓』の秘境発見や仲間たちのレベル上昇、『★流浪のストラダ』との友好関係成立などによって、探索者貢献度が3210に達していた。これにより、五つ星迷宮への探索許可条件が正式に達成された。ルイーザは秘境発見による高い貢献度の意味を説明し、アリヒトたちの成果へ驚きを隠せなかった。
ルイーザとの約束
アリヒトが翌日に『猿侯』討伐へ向かうと告げると、ルイーザは不安を滲ませながらも、必ず戻ってきて再び探索報告を聞かせてほしいと願った。アリヒトもまた、彼女と再び話をしたいと思っていることを伝え、互いに帰還を誓い合うようなやり取りを交わした。
キョウカの新技能選択
レベル8となったキョウカは、新たな技能候補を確認する。『ディヴィニティ』や『サンダーストライク』など強力な技能もあったが、最終的に彼女は『戦乙女の艶舞1』と『ポールダンス』を取得する方針を決めた。これは『魅了』によって操られている探索者の行動を制限できる可能性を見込んだ判断だった。アリヒトも、完全な正解は分からないながら、敵対者を無力化する選択肢を増やすべきだと考えていた。
ミサキの覚悟
ミサキは『ギャンブラー』らしい技能群の中から、『ポットリミット』を取得する決意を固める。この技能は、仲間が致命傷を受けた際に戦闘不能を回避させ、その代償としてミサキ自身が被害を肩代わりする危険な能力だった。スズナは彼女を心配するが、ミサキは使わずに済むのが理想だと笑ってみせる。それでも、仲間を守るための選択であることは明白だった。
スズナとアリアドネの新たな力
スズナは『神楽』を取得した。これは霊体を自らへ降ろし、その力を借りる技能だった。アリアドネは、自身も対象に含まれると説明し、完全な『パーツ』が揃っていない現状では能力行使に制限があるものの、スズナを守る力にはなれると語る。ミサキは二人の“合体”に驚愕しつつ、その力への期待を口にしていた。
アリヒトの不安
仲間たちが去った後、アリヒトは眠れずにいた。テレジアの呪詛は今も進行しており、パーティの平均レベルも五番区に対して十分とは言い難い。明日の決戦を目前にしながら、彼は心の奥底で恐怖を抱えていた。そんな彼の前に現れたセレスは、探索者とは可能性を選択する存在だと語り、自分自身もまた多くを知らないのだと静かに打ち明ける。
リーネの過去
セレスはリーネの過去について語り始める。リーネはかつて探索者として五番区まで到達したが、『アルターガスト』による同士討ちで仲間を失った。その喪失から立ち直れず、失った仲間を術で再現した存在が『スケアクロウ』のシュバルツだった。リーネが迷宮内の庵に籠もっていた理由も、その因縁にあった。アリヒトは、自分たちがリーネへ助けられてきたことを改めて実感する。
クイーンズテイルの最終確認
セレスは『クイーンズテイル』の試射を提案し、最大三十分かかる再装填時間について説明する。アリヒトは『アシストチャージ』を利用すれば再発射までの時間を短縮できると考え、兵器運用の可能性を模索していた。セレスは最後まで彼らを信じると言い残し、工房へ戻っていった。
テレジアとの静かな夜
その後、クーゼルカがテレジアを連れて戻ってくる。彼女は監視という建前を残しつつも、実際にはアリヒトたちへ便宜を図っていた。部屋の灯りを落としたあとも、テレジアは眠らずにアリヒトを見つめ続ける。最初に出会った頃のような距離感を思い出しながら、アリヒトは彼女の肩へ触れ、互いに不安を抱えていることを感じ取っていた。暗い室内で、淡い灯りに照らされたテレジアの姿を見つめながら、アリヒトは必ず全てを取り戻すと胸に誓う。ルウリィも、そしてテレジアも救い出すために。
4 本心
迷宮国へ至るまでの回想
アリヒトは鮮明な夢を見る。迷宮国へ来る前、平凡な会社員として働いていた頃の日常だった。同僚と仕事の話をし、プレゼン成功や仕事の評価といった小さな幸福を積み重ねる穏やかな日々。その生活を否定する気持ちはなかったが、今となっては戻りたいとは思っていなかった。迷宮国で仲間と共に進む現在こそ、自分が成し遂げたいもののある場所になっていた。
テレジアへの迷い
夢の中でアリヒトは、テレジアとの関係について考え続けていた。亜人だから感情が薄いのだと、どこかで決めつけていた自分。風呂へ一緒に入ろうとすることも、忠実に従ってくれることも、隷属印の影響だと考えようとしていた。しかし、それを受け入れることは、自分自身の欲望や依存を認めることでもあった。だからこそ、アリヒトはテレジアを人間へ戻したいと願っていた。
涙の夜
ムラクモの警告によって目を覚ましたアリヒトは、暗い部屋で自分を見下ろすテレジアの姿を見る。テレジアは彼の首へ手を添えていたが、力は込めていなかった。そして彼女は涙を流していた。アリヒトは、テレジアが自分を責めていることを悟る。『イビルドミネイト』によって自分を攻撃したこと、その罪悪感に押し潰されそうになっていたのである。
アリヒトの本心
アリヒトはテレジアを抱きしめ、自分の思いを率直に語り始める。探索者として歩き始めることができたのは、テレジアと出会えたからだと。自分一人では何もできず、テレジアがいたからこそ前へ進めたのだと打ち明ける。そして仲間たちを妹のように思おうとしてきたこと、それは長く一緒に探索を続けるために自分へ課したルールだったとも語る。
異性としての感情
アリヒトはさらに、自分がテレジアを異性として見てしまっていることも認める。それを“ルール違反”だと思い込み、風呂へ入ろうとされるたびに動揺していたのだと正直に話した。しかしそれは、テレジア自身が悪いのではなく、自分が嬉しいと思ってしまう部分があるからこそ葛藤していたのだと告白する。テレジアは黙って話を聞きながら、顔を真っ赤に染めていた。
テレジアの意思
アリヒトは、テレジアが自分を攻撃したことで責任を感じ、望まないことをしようとしていたのだと思い込んでいた。しかしテレジアは首を振る。それは、彼女自身もまた、アリヒトへ想いを抱いていたことを示していた。『猿侯』との決戦を前に、テレジアは自分の意思でアリヒトへ近づこうとしていたのである。
静かな安堵
アリヒトは今夜は休もうと告げ、テレジアが眠るまで一緒にいると約束する。テレジアは彼の隣へ座り、アリヒトはその膝へ頭を預けた。テレジアは静かに彼の頭を撫でる。蜥蜴のマスクから覗く表情は、確かに微笑んでいるように見えた。決戦前夜の不安と迷いの中で、二人は初めて互いの本心へ触れ合い、わずかな安堵を分かち合っていた。
5 決戦の朝
呪詛進行の確認
アリヒトは夜明け前に目を覚まし、眠っているテレジアを静かにソファへ寝かせ直した。そしてライセンスで『イビルドミネイト』の進行度を確認すると、数値は46に達していた。進行は緩やかになっているものの、安全とは言い切れず、アリヒトは今日中に『猿侯』を倒す決意を改めて固める。エリーティアとの出会いから続いていた因縁を終わらせる時が来ていたのである。
新たな戦闘用スーツ
朝、ルカが完成した新しいスーツを届けに来る。黒と白を基調にした『ブラック&ホワイト』は、防御性能や敏捷性、雷属性強化に加え、悪魔系への耐性まで備えた特級品だった。ルカは戦闘用スーツとして自身の技術を注ぎ込んだと語り、アリヒトはその完成度へ感謝する。
仲間たちの反応
宿舎では、寝起きのミサキやスズナ、五十嵐たちがアリヒトの新しい姿へ反応していた。普段とは違う雰囲気のアリヒトへ、彼女たちは好意混じりの言葉を投げかける。アリヒトは戸惑いながらも身支度を整え、戦いへ向かう準備を進めていった。
ルカとの対話
ルカはアリヒトへ、迷宮国へ来たことで生きる実感を得たのではないかと問いかける。アリヒトはそれを否定せず、かつての平和な日常も大切だったが、今は迷宮国で仲間たちと進む道にこそ意味を感じていると答えた。ルカはそんな彼へ、生きることへ貪欲であれと告げる。アリヒト自身も、自分は死を望んでいるのではなく、仲間と共に生き抜きたいからこそ危険へ挑んでいるのだと再認識していた。
荷車の改造完成
マドカの依頼によって、荷車には『クイーンズテイル』や『水蛇の鱗』、『加速石』などが組み込まれていた。魔力で自走可能な特殊車両となり、アルフェッカが牽引することも想定されていた。マドカは『荷車の熟練』を発動しながら慎重に運転し、仲間たちはその性能を確認する。迷宮攻略のための新たな戦力が整ったのである。
『猿侯』攻略作戦
『炎天の紅楼』前の広場には、ホスロウ、クーゼルカ、ナユタ、イヴリルたちも集結していた。アリヒトは『猿侯』の戦力と能力を整理する。本体と影武者の識別、鎖による拘束、炎属性攻撃、遠隔攻撃を弾く『デモンズハンド』など、厄介な能力が数多く存在していた。そこで、本物を見極めた上でエリーティアへ最大火力を集中させる方針を打ち立てる。また、従属された探索者への対処にはイヴリルたちの搦め手を活用する考えだった。
決戦への決意
ディラン司令官の指示により、ナユタも作戦へ正式参加することになる。さらにアデリーヌも地形把握能力を活かした情報収集役として協力を申し出た。仲間たちはアリヒトの新しいスーツ姿を褒め、張り詰めていた空気が少し和らぐ。そんな中、アリヒトは皆へ宣言する。ルウリィを助け、テレジアを呪詛から解放すると。テレジアは『グロリアスティレット』を携え、アリヒトの少し前を歩いていく。アリヒトは、彼女が呪いごと『猿侯』を討ち払う未来へ必ず辿り着くと強く誓っていた。
第四章 炎天の砦、魔猿たちとの戦い
1 攻城兵器
中央砦の出現
アリヒトたちは『炎天の紅楼』第二層へ進み、巨大な河と東西の砦を確認する。しかし以前と違い、その中央には新たな巨大砦が築かれていた。河を越えなければ近づけない構造となっており、『猿侯』が短期間で迷宮を改造したことが明らかだった。
アデリーヌによる地形調査
アデリーヌは『アローファミリア』と『サーチアロー』を発動し、上空から地形情報を収集する。中央砦には正面入口がなく、後方から侵入するには崖地形を越えねばならないことが判明した。また東西の砦には、それぞれ『猿侯』らしき存在が待機していた。
影武者の正体
テレジアの感覚をもとに、エリーティアは東西にいる二体がどちらも本物ではないと断言する。一方は『獄卒の魔猿』という名前つきであり、もう一方も別種の配下だと推測された。つまり『猿侯』は影武者を利用し、本体の位置を悟らせないようにしていたのである。
従属探索者の情報
エリーティアは、猿面を付けた探索者たちや、回復役として従わされているルウリィについて説明する。さらにイヴリルは、過去に『猿侯』へ挑み敗北した際、自分が探している『人形遣い』の女性も捕らわれたままだと語った。『猿侯』は探索者を従属させ、自らの戦力として利用していたのである。
偽砦と迷宮改造
イヴリルは、かつて攻略対象だと思っていた砦が偽物だったと説明する。『猿侯』は中央砦だけでなく、周囲に囮となる砦まで建設していた。迷宮を自らの領土のように作り変え、探索者を翻弄していたのである。
『クイーンズテイル』試射
セレスは、小型砦を標的に『クイーンズテイル』の試射を提案する。マドカが荷車を操作し、セレスの魔力を充填した結果、『スティングレイ』が発動。九条の極太光線が石壁を貫き、広範囲をクレーター状に破壊した。アリヒトたちは、その圧倒的火力に言葉を失う。
作戦編成
アリヒトは、東西の砦へクーゼルカ班とホスロウ班を同時突入させる作戦を説明する。彼らには影武者と従属探索者の対応を任せ、その隙にアリヒトたち第三班が中央砦へ強行突入する計画だった。アリヒト班は平均レベルこそ低いが、エリーティアの瞬間火力、セラフィナの防御力、マドカの荷車運用、そしてテレジアの存在を含め、最少人数で最大戦力を発揮できる構成となっていた。
『第三の矢』
アリヒトは、自分たちの奇襲作戦を『第三の矢』と名付ける。東西で戦闘が始まれば、『猿侯』はそちらへ注意を向ける。その警戒の外側から、本命であるアリヒトたちが本体へ迫るのである。さらにアリアドネは、各班へ所属する仲間との繋がりを利用して戦況共有が可能だと説明した。アリヒトは後衛として、全戦場へ支援を届ける役割を担おうと決意する。
決戦開始
全員が作戦開始へ応じ、それぞれの班が移動を始める。エリーティアは、アリヒトが笑いながら策を巡らせている時ほど大きなことを成し遂げると語る。アリヒトもまた、怒りや憎しみだけではなく、戦いの先にある救済と未来を思い描きながら、仲間たちと共に決戦へ踏み出していった。
2 それぞれの役割
アリアドネによる戦況共有
アリアドネは、クーゼルカ班とホスロウ班の状況をリアルタイムでアリヒトへ共有していた。さらに地形情報も統合し、並列思考による支援まで行う。アリヒトは、影武者たちの注意を完全に引きつけ、本体との合流を阻止しなければならないと考えていた。
クーゼルカ班、東砦へ突入
クーゼルカ班は橋を渡って東砦へ突入する。しかし門が閉ざされ、内部には『地形士』によって形成された巨大な岩柱群が出現していた。『猿侯』は探索者を誘い込み、閉じ込めた上で迎撃する罠を張っていたのである。
東砦での乱戦
ナユタは『ロープバインド』で『猿侯の眷属・ハンター』を拘束し、クーゼルカは『イビルエイプ』を斬り飛ばす。しかし猿たちは柱を利用した立体的な動きで襲いかかり、五十嵐たちへ迫る。シオンが仲間を庇い、ミサキはアリヒトの『アザーアシスト』と『支援攻撃2』を受け、『ジョーカーオブサンダー』で敵をスタンさせた。
アサシン奇襲と連携拘束
『猿侯の眷属・アサシン』は『ハイディング』から奇襲を仕掛けるが、クーゼルカは『魔狼の本能』と『朧影』で回避し、『パリィ』によって追撃も無効化する。その隙を突き、『ウェポンハント』で武器を奪い、ナユタが拘束を成功させた。
影武者『破岩の猛猿』の出現
直後、巨大な猿が柱上から飛来し、『飛翔岩砕撃』で地形崩壊を引き起こす。シオンは『火事場救助』と『緊急搬出』で仲間を救出した。さらに赤い猿は正体を現し、『★破岩の猛猿』へ変化する。『血戦の咆哮』によって『イビルエイプ』たちは凶暴化し、攻撃性能を大きく高められた。
ホスロウ班、西砦へ突入
一方、西砦ではホスロウ班が闘技場のような広場へ踏み込む。そこには『猿侯』の影武者と、『踊り子』『格闘家』など従属探索者、さらに猿系魔物が待ち構えていた。ホスロウは『ウォリアーエイプ』の組み付きにも力で対抗し、『バトルクライ』で味方を強化する。
イヴリルとフェリシアの迎撃
『ソーサラーエイプ』の呪詛は、イヴリルの『リフレクトパラソル』で反射され、『踊り子』へ跳ね返る。さらに『格闘家』が『無心の極み』と『箭疾歩』でイヴリルを狙うが、フェリシアが『インターセプト』と『柔拳衝絶掌』で迎撃した。ヴァイオラも『バインドスネーク』と『パラライズヴェノム』で拘束と麻痺を重ねる。
母娘連携と猛攻
メリッサは『待ち伏せ』から『ソーサラーエイプ』を急襲し、フェリシアが『レッグキャノン』で追撃する。母娘ならではの見事な連携だった。しかし敵は異常なほどしぶとく、『猿侯』の影武者が解除され、『★獄卒の魔猿』へ変化する。
『魔戦傀儡』化
『獄卒の魔猿』は『獄卒の死命』を発動し、『ウォリアーエイプ』と『ソーサラーエイプ』を『魔戦傀儡』化する。配下たちは死力を尽くして戦い続ける存在へ変貌し、ホスロウ班は本格的な死闘へ突入した。ホスロウは、敵を本体へ合流させないと誓い、『獄卒の魔猿』へ真正面から突撃していった。
3 修羅
中央砦への突入
アリヒトたちは、アリアドネの支援によってアルフェッカを召喚し、荷車ごと空中を移動して中央砦への侵入を試みた。マドカの『クイーンズテイル』によって城壁を破壊し、アルフェッカの『フローティング』で河を越える。しかし『地形士』が『土柱』や『棘蔦』で妨害を行い、進路を塞ごうとする。アルフェッカは『茨の轍』と『終わりなき蹂躙』によって蔦を走破し、アリヒトは空中から『地形士』を狙撃して拘束に成功した。
猿侯との対面
中央砦では、『赫灼たる猿侯』が鎧武者のような姿で待ち構えていた。その肩にはルウリィと『人形遣い』が拘束されており、砦中央には巨大な戦人形が存在していた。さらに『猿侯』は必中効果を持つ『煉獄の炎弾』を放ち、アルフェッカへ深刻な損傷を与える。アリヒトたちはセラフィナやアリアドネの防御支援で被害を軽減しつつ前進した。
戦人形の覚醒
『人形遣い』が『マリオネット』を発動し、巨大人形は『業魔の戦人形』へ変貌する。さらに『猿侯』は『贖罪の業魔』で配下のカルマを利用し、戦人形をレベル15の怪物へ強化した。『煉獄の障壁』によって猿侯本体への接近も阻まれ、戦人形が前衛として立ちはだかる。
戦人形との死闘
戦人形は『剛剣・星砕き』『剛剣・黒炎旋風』などの強烈な攻撃を放ち、セラフィナが盾役として受け止め続けた。アリヒトは『支援防御』や『ガードヴァリアント』で仲間を支援し、テレジアも命を賭して前へ出る。しかし『タイタンフォール』による衝撃で吹き飛ばされ、『ハイドアンドシーク+5』が破損してしまう。
エリーティアの覚醒
テレジアの覚悟を受け、エリーティアは『瞬星眼』を発動する。『星天時限』による先制効果の中、『スターパレード』『ルミナスフラウ』を連続発動し、凄まじい数のクリティカルを叩き込んだ。さらにテレジアの投擲した『レイザーソード』が戦人形の動きを遅らせ、アリヒトの『支援連携』による連携技が成立する。最終的に『残紅』を解放し、『業魔の戦人形』を凍結停止へ追い込んだ。
猿侯の進化
しかし『猿侯』はなお余裕を失わず、東西砦で倒された『破岩の猛猿』『獄卒の魔猿』の魂魄を吸収する。『魔魂召装』によって六本腕の『赫焉たる猿王』へ進化し、『王技・六獄炎掌』を発動しようとする。必中の炎弾を六方向へ放つという絶望的な攻撃に対し、アリヒトは『全体相互支援』を発動した。『ブリーシンガメン』の『炎熱の加護』を味方全員へ拡張し、『六獄炎掌』を無効化することに成功する。
総力戦による追撃
アリヒトの『支援連携』『一斉攻撃』を軸に、エリーティア、クーゼルカ、ホスロウ、イヴリル、ヴァイオラ、フェリシア、五十嵐、メリッサら全員の連携攻撃が『猿王』へ集中する。メリッサは大鎌で猿王の角を切断し、スズナは『沈黙石』によってルウリィの回復行動を封じた。猿王は重傷を負いながらもなお倒れず、巨大な鎖でテレジアを狙う。しかしアリアドネとムラクモが『天地刃・斬鉄』で鎖を破壊した。
灰燼の閃光と防衛
追い詰められた猿王は、ルウリィと『人形遣い』を盾にしつつ、『灰燼の閃光』の詠唱を開始する。セラフィナは『プロヴォーク』で自ら標的となり、『オルタネイトボディ』とフォギアの強化を受けて攻撃を受け止めた。さらにミサキが『ポットリミット』を発動し、致死を回避する。セラフィナは瀕死となるが、辛うじて生存した。
テレジアの抵抗
猿王は最後の切り札として『背信扇動』を発動し、呪詛に侵されたテレジアを操ろうとする。しかしリーネが施していた『精神防壁1』が絶対成功し、洗脳は無効化された。狼狽した猿王へ、アリヒトは新たに獲得した『支援攻撃3』を発動し、テレジアの攻撃をエリーティアへ連携させる。
赫焉たる猿王の最期
エリーティアが蓄積した『残紅』を解放すると同時に、テレジアの『グロリアスティレット』による百五回の攻撃が重なり、『呪詛喰らい』が発動する。『赫焉たる猿王』はついに討伐され、全ての『眷属印』が消滅した。
救出と勝利
猿王が崩れ落ちる中、エリーティアは落下するルウリィを抱き留める。ルウリィは無事に生きており、再会した二人は涙を流し合った。テレジアの呪詛も消滅し、仲間たちは互いの無事を確かめ合う。アリヒトはアリアドネ、ムラクモ、アルフェッカ、フォギア、そして全ての仲間へ感謝を伝え、『猿侯』との長い戦いの終結を実感していた。
エピローグ
十八 銀の車輪
支援者たちの待機
『猿侯』の砦で激戦が続く中、セレスたちは一度は砦へ踏み込もうとしたものの、アリヒトの指示を思い出して踏みとどまっていた。自分たちはあくまで支援者であり、直接戦うべきではないと理解しながらも、彼らの力になりたいという思いを抱いていた。
セレスは、自分たちもまたアリヒトに惹きつけられていると口にする。シュタイナーも、彼らとの出会いが運命だったように感じ始めていた。アデリーヌは、セラフィナを通じてアリヒトたちと関わるようになったことで、戦いの一端に関われていること自体に喜びを覚えていた。
支援者たちは、自分たちの役割は小さなものだとしても、その力を必要とされることで誇りや喜びを感じていたのである。
全体相互支援の発動
そのとき、アリヒトの『全体相互支援』が発動し、支援者たちの持つ技能効果が前線へと共有される。セレスの『オートクチュール』による防具強化まで戦闘へ反映されていることに、支援者たちは驚愕した。
アリヒトは戦闘能力だけでなく、人と人を繋ぎ、支援そのものを戦力へ変えていた。彼らはその力を通じて、自分たちもまた戦いに参加している実感を得ていた。
ユカリの来訪
そこへ現れたのは、リーネとシュバルツ、そして紫色の髪をした案内人の女性だった。彼女は自らをユカリと名乗り、アリヒトたちの動向を見届けに来たのだと語る。
ユカリは、アリヒトたちには本来もっと成長してから『猿侯』へ挑んでほしかったと語りつつも、思惑通りに動かない彼らだからこそ面白いのだと笑った。
セレスは案内人である彼女に強い警戒を抱く。ユカリは支援者たちの事情や過去まで把握しており、その正体は得体の知れないものだった。
白夜旅団の動向
ユカリは、『白夜旅団』の一部メンバーが迷宮へ入っていることを告げる。そして、もしこれをきっかけに旅団が分裂でもしたら面白くないと語った。
セレスは、その発言に探索者同士を争わせる意図を感じ取り、不快感を示す。しかしユカリは、少なくとも現時点でアリヒトたちへ悪意はないと語り、彼らに期待しているだけだと言う。
彼女はアリヒトたちの周囲にいる人物たちの事情まで把握しており、その情報量と洞察力は支援者たちをさらに警戒させた。
猿王討伐の確認
やがて『中央の砦』の視界を遮っていた効果が消え、『猿侯』――『猿王』が討伐されたことが確認される。アデリーヌは真っ先にその変化へ気づき、セレスたちもアリヒトたちの勝利を悟った。
ユカリは、喜びを分かち合う時間を邪魔するつもりはないと言い残し、その場を去ろうとする。そして最後に、そろそろパーティ名を決めるべきだと告げた。
『猿侯』を倒したことで、アリヒトたちは五番区で『白夜旅団』を凌ぐ実力と見なされる存在になるとユカリは語った。
銀の車輪の誕生
ユカリが去った後、セレスたちは急いでアリヒトたちの元へ向かう。ライセンスには、『猿王』討伐と、『猿侯の眷属』となっていた探索者たちの解放が表示されていた。
そして、『炎天の紅楼』を長年支配していた『猿侯』討伐の報せは、五番区全域を揺るがす大事件となる。
当初は、『死の剣』の所属する『スーツの男』のパーティが討伐したという噂が広がった。しかしギルドは正式に発表を行い、エリーティアの名誉回復も兼ねて真実を公表した。
エリーティア=セントレイルは呪いから解放され、無差別攻撃を行う危険人物ではないこと。そして、『赫灼たる猿侯』から進化した『猿王』を討伐し、従属させられていた探索者たちを救出したパーティの名は――『銀の車輪』であると正式に告示された。
書き下ろし番外編 決戦前 彼女たちの協定
テレジアへの理解
テレジアが拘束を解かれ、ギルドセイバー本部から戻った夜、キョウカたちは眠れないまま時間を過ごしていた。
キョウカ、ミサキ、スズナ、メリッサ、セラフィナ、エリーティアの六人は寝室に集まり、ミサキとスズナが見てしまった、スーツを脱いだテレジアをアリヒトが抱きしめていた場面について話し始める。
テレジアがアリヒトを強く想っていることは、皆すでに察していた。セラフィナやメリッサは、アリヒトがテレジアを落ち着かせるために抱きしめたのだと受け止める。一方でミサキやキョウカは、自分がテレジアの立場だったなら羨ましいと思ってしまうと本音を漏らした。
エリーティアの告白
話題がアリヒトへの感情へ移ると、エリーティアは頬を赤く染めながら、自分はアリヒトを特別な存在として見るようになっていると打ち明けた。
彼女にとって、生きることとはアリヒトや仲間たちと共に迷宮国を旅し続けることそのものになっていた。テレジアやルウリィを助けたいという願いと同じくらい、仲間と共に未来へ進みたいという気持ちを抱いていたのである。
その言葉を聞いたスズナとミサキは涙を浮かべ、皆もエリーティアの覚悟を受け止めていた。
キョウカの後悔と想い
セラフィナに問われたキョウカは、自分もまた迷宮国へ来る以前からアリヒトを特別に見ていたことを認める。
キョウカは、会社員時代にアリヒトの企画力や仕事ぶりを高く評価していたこと、自分が課長職を務められていたのは彼のおかげだったことを語った。しかし上手くいかない時にはアリヒトへ辛く当たってしまい、そのことを今でも後悔していた。
セラフィナは、そんなキョウカを抱きしめ、アリヒトは昔から優しい人物だったのだと語る。キョウカは涙を滲ませながら、自分は彼に酷いことばかりしていたと口にした。
ファルマたちの価値観
途中から現れたファルマとルイーザも会話に加わる。ファルマは、支援者たちは皆、現役探索者たちへ夢を託しているのだと語った。彼女自身も、アリヒトたちの力になれるなら今後も支援を続けたいと考えていた。
さらにファルマは、アリヒトを大切に思う気持ちと、テレジアへの友情は両立できるものであり、どちらが大切か比べる必要はないと諭す。
セラフィナもまた、このパーティと共にこれからも迷宮国を進みたい、自分の力を試したいと考えていることを明かした。
それぞれの本音
スズナは、アリヒトと出会って初めて自分らしく生きられるようになったと語る。ミサキも、自分だけの役割をアリヒトのパーティで見つけられたことを嬉しく思っていた。
メリッサもまた、自分は魔物解体が好きな変わり者だが、アリヒトはそんな自分を嫌わなかったから、これからも彼のために働きたいと率直に口にした。
やがて話題は、アリヒトとテレジアが今どうしているのかへ移る。ミサキとキョウカがそっと居間を覗くと、そこにはソファへ座ったテレジアの膝を枕にして眠るアリヒトの姿があった。
テレジアは二人へ静かに微笑みかける。その様子を見たミサキは、これが正妻力なのだと冗談めかして語った。
協定の提案
寝室へ戻ったキョウカは、皆へ相談したいことがあると切り出す。明日の戦いを無事に終えたあと、自分たちはもう秘密のままではいられないのではないかと考えていた。
そしてキョウカは、アリヒトを巡る想いを抱えた者同士で「協定」を結ばないかと提案する。ここは日本ではなく迷宮国であり、以前の常識だけに縛られていては息苦しくなるのではないかと語った。
仲間たちは戸惑いながらも、その提案を真剣に受け止める。キョウカが何を提案し、皆がどう受け入れたのか――その詳細をアリヒトが知るのは、もう少し後のことだった。
世界最強の後衛 一覧








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