物語の概要
■ 作品概要
本作は、小説投稿サイト「小説家になろう」で連載を開始し、カドカワBOOKSから刊行されたファンタジー小説である。ジャンルは異世界転生によるダンジョン攻略ものに分類される。 不慮の事故で命を落とした元社畜のサラリーマン・後部有人(アトベ・アリヒト)が、異世界の「迷宮国」へと転生し、探索者として成長していく物語である。アリヒトは、地味で不人気なジョブである「後衛」を選択するが、前世で培ったマネジメント能力と、ジョブ特有の多才な支援スキルを組み合わせることで、常識外れの強さを発揮していく。
■ 主要キャラクター
- アリヒト(後部 有人): 本作の主人公。元社畜の経験を活かし、パーティーの司令塔として冷静な状況判断を下す。選択したジョブ「後衛」の特性を最大限に引き出し、仲間を死なせないための徹底した支援と最適化を追求する。
- テレジア: アリヒトが最初に仲間にした、言葉を話さない「名無し」の亜人。職業はスカウト。無機質な印象を与えるが、アリヒトに対しては絶対的な信頼と忠誠心を持っており、戦闘では鋭い感覚で彼をサポートする。
- 五十嵐 響香(イガラシ・キョウカ): アリヒトの元部下であり、同じく迷宮国へ転生した女性。ジョブは「盾役」を選択し、パーティーの壁役を担う。現実世界での信頼関係をベースに、アリヒトの右腕として前線を支える。
■ 物語の特徴
本作の最大の特徴は、主人公が「後方支援」という立場を貫きながら、パーティー全体を「最強」へと導くプロセスにある。 一般的なファンタジー作品では、主人公が圧倒的な攻撃力で敵をなぎ倒す展開が多いが、本作では仲間の能力を数倍に引き上げるバフ(強化)や、絶妙なタイミングでの援護射撃、そしてメンバーの特性を最適化するマネジメント力が勝利の鍵となる。また、迷宮国の緻密な設定や、ジョブのスキル構成による戦略的なバトル描写も、RPG的な深みを楽しめるポイントとなっている。
書籍情報
世界最強の後衛 ~迷宮国の新人探索者~
著者:とーわ 氏
イラスト:風花風花 氏
出版社:KADOKAWA(カドカワBOOKS)
発売日:2017年11月10日
ISBN:9784040725031
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あらすじ・内容
その支援は、力と絆を強化する――最強の見守り系支援職の冒険譚、開幕!元社畜アリヒトが転生先で就いた職業『後衛』は、攻撃&防御支援、回復もこなせる万能の後衛職――さらに相手の後ろにいれば好感度が上昇していくオマケつき!? 仲間たちを支援して、アリヒトは序列を駆け上る!
感想
印象に残ったのは、物語の進行が非常にスムーズである点だ。不慮の事故で命を落とした元社畜の主人公・アリヒトが、異世界の「迷宮国」で新たな人生を歩み始める過程が淀みなく描かれている 。特に、彼が不人気職とされる「後衛」を選択し、その真価を実戦で証明していくプロセスにはカタルシスがあり面白かった 。
本作の核心ともいえるアリヒトの能力については、非常にユニークで興味深い。単にバフや回復を行うだけでなく、仲間の背後に位置することで「信頼度」が劇的に上昇するという仕組みは、一種の「攻略対象との親密度を高めるシステム」を彷彿とさせる 。ユーザーの感想メモにもあった通り、この「後ろにいるだけで相手が自分を強く意識してしまう」という設定は、まるで恋愛シミュレーションやエロゲの特殊能力のような艶っぽさと面白さを孕んでいる 。特に元上司である五十嵐鏡花が、アリヒトの視線(支援)を背中に感じるだけで恍惚とした表情を浮かべる描写などは、支援職という立場が持つ新たな可能性を感じさせるものであった 。
人間関係の構築については、伝統的な「ハーレム系」の王道を往く構成となっている。言葉を失った献身的な亜人のテレジア、そして前世では「天敵」ともいえる鬼上司だった五十嵐鏡花といった、属性の異なる女性キャラクターたちがアリヒトの周囲に集まってくる 。かつての上司を自分のパーティに迎え入れ、さらには同じ部屋で生活するという主従逆転の状況は、まさにエロゲ展開といえるだろう 。
世界観の作り込みも秀逸である。迷宮国という舞台設定は、序列(ランク)がそのまま生活水準に直結する格差社会としての側面を持ち、上位者はスイートルーム、下位者は馬小屋での宿泊を余儀なくされるといったシビアなルールが物語に緊張感を与えている 。この「カルマ」や「序列」に基づいた緻密なゲーム的システムと、かつての社会人経験を活かしたアリヒトのマネジメント能力がうまく噛み合っており、独自の面白さを生み出している 。
総じて、スピーディーな展開の中に、少しばかり「羨ましい」と感じさせる特殊な人間関係と、戦略的なバトル描写が凝縮された作品であった。後衛という地味なはずの役割が、絆と力を強化して序列を駆け上がっていく姿には、王道の冒険譚としての確かな満足感がある。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察・解説
異世界転生と迷宮国
主人公である後部有人をはじめとするバス事故の犠牲者たちは、死後、暗いトンネルの先で案内人から「迷宮国」への転生を告げられる。彼らは転生先を選ぶことはできず、魂を迷宮国に引き取られ、強制的に「探索者」として新たな人生を送ることが義務付けられている。
迷宮国の基本構造と社会
迷宮国は、迷宮を探索する者とそれを支援する者だけで成り立つ国であり、社会のすべてが迷宮を中心に回っている。
・とてつもなく長い壁で周囲を囲まれた城塞都市であり、壁の外に出ることはできない。
・都市は一番区から八番区までの8つの地区に階層化されて分かれており、主人公たちが最初に降り立ったのは初心者が集まる八番区である。
・人々の衣服や生活用品も迷宮で狩られる魔物の素材(ワタダマの毛など)に依存して生産されている。
・建国した一族はすでに一番区から追放されており、現在はギルドの指導者と大神殿の神殿長が実権を握って国を統治している。
・探索者の成果はライセンス上の「貢献度」や「序列」として厳格に管理されており、序列が低いと馬小屋で寝泊まりしなければならないなど、実力主義と階級が結びついた厳しい環境である。
迷宮の特異な仕組み
町にはいくつも迷宮の入り口があり、難易度(星の数)でランク分けされている。しかし、実際の迷宮そのものが都市の地下にあるわけではなく、迷宮の構造には以下のような特異な点がある。
・迷宮は世界の別の場所に存在している。
・迷宮国にはそこへ転移するための入り口だけが壁の中に集められている。
転生と迷宮国の真の目的
物語が進むと、初級迷宮の隠し階層である四層で目覚めた「神の模造品」である秘神・アリアドネによって、迷宮国の真実の一端が語られる。彼女の言葉から、以下の事実が示唆されている。
・迷宮国は「神集め」の責を負わされた者の集う場所である。
・彼方の世界(元の世界)から死者の魂を集めて転生させ、彼らに過酷な「探索」を強要しているのには、この「神集め」という大いなる目的が背景にある。
まとめ
迷宮国は、死者の魂を引き取って強制的に探索者としての生を歩ませる、独自の法則と厳しい階級制度に支配された世界である。主人公たちは迷宮の探索を進める中で、この国が抱える「神集め」という大いなる目的や、世界の背後にある真実に迫っていくこととなる。
未知の職業「後衛」
未知の職業「後衛」は、本作の主人公であるアリヒト(後部有人)が就いた、迷宮国においても前例のない特殊な職業である。
ギルドでの職業登録の際、アリヒトは特別な適性がないと考え、需要の高いポジションである「後衛」とそのまま職業欄に書き込んだ。すると文字が輝き、文字通りの「後衛」という職業として受理された。ギルドの受付嬢であるルイーザでさえ見たことがない未知の職業であり、公にすれば周囲から嘲笑される可能性があるほどの異端な存在とされている。
「後衛」の基本的な役割と特徴
この職業は自身で直接戦闘を行うのではなく、前に立つ仲間(前衛や中衛)を支援することに完全に特化している。戦闘能力は皆無に等しいものの、パーティメンバーが自分の「前」にいれば、距離が大きく離れていても支援効果が届くという、広域支援の性質を持っている。
一方で、自分自身には支援効果が適用されないという明確な弱点がある。そのため、敵に直接狙われたり、横や後ろから攻撃されたりすると非常に脆く、前衛の存在が不可欠である。
圧倒的な効果を持つ「支援」技能
「後衛」の支援技能は、レベルが低い初期段階において、迷宮国の常識を覆すほどの絶大な効果を発揮する。
・支援防御:前にいる仲間が受ける被害を10ポイント減らす。低レベル帯では敵の攻撃ダメージが10以下のことが多く、強力な魔物の大技すら無効化することが可能である。
・支援攻撃:前にいる仲間の攻撃に加えて、10ポイントの固定被害(不可視の追撃)を与える。この追撃は、物理攻撃を無効化する強敵「ジャガーノート」などにも通るため、格上の相手を削り倒す大きな武器となる。
・支援回復:前にいる仲間の体力を30秒ごとに5ポイント回復させる。
・支援高揚:前にいる仲間の「士気」を向上させ、状態異常の回復や、強力な「士気解放」を発動するためのエネルギーを蓄積させる。
さらにレベルが上がると、敵の背後に回り込んで攻撃を回避する「バックスタンド」や、後列から敵の弱点を看破する「鷹の眼」といった戦術的な技能も取得できるようになる。
日常や人間関係への影響(信頼度の急上昇)
「後衛」の支援は戦闘中だけでなく、日常的な位置関係でも発動している可能性がある。アリヒトが仲間の後ろにいる(例えば別室のソファで寝ている)だけでも「支援回復」が常時働き、仲間たちの疲労を取り除く効果を見せた。
また、支援行動の影響なのか、アリヒトのライセンスに表示される仲間との「信頼度」が異常な速度で急上昇する現象が起きている。常時発動する支援効果によって、女性メンバーたちが就寝中に身体の火照りや強い高揚感、アリヒトへの抑えきれない衝動を感じてしまうといった、予期せぬ副次的な影響ももたらしている。
まとめ
総じて、未知の職業「後衛」は、自身は脆弱ながらも仲間を鉄壁の要塞かつ強力なアタッカーへと変貌させ、本来なら大人数で挑むべき賞金首の「名前つき」魔物をも少人数で討伐可能にする、規格外のポテンシャルを秘めた職業であると言える。
職業「後衛」の特性
未知の職業「後衛」は、本作の主人公アリヒト(後部有人)が就いた、迷宮国のギルド受付嬢ですら見たことがない前例のない職業である。職業欄にそのまま「後衛」と書き込んだことで受理された。
この職業には以下のような特異な性質や能力がある。
広域支援と致命的な弱点
「後衛」はその名の通り、前に立つ仲間(前衛や中衛)を支援することに完全に特化した職業である。
・パーティメンバーが自分の「前」にさえいれば、距離が大きく離れていても支援効果が届くという強力な広域支援の性質を持っている。
・一方で、自分自身には支援効果が一切適用されないという明確な弱点がある。
・そのため、敵の攻撃を直接受けると非常に脆く、自分を守ってくれる前衛の存在が不可欠となる。
規格外の「支援技能」
低レベル帯から、戦局を大きく左右する強力な支援技能を取得・発動できる。
・支援防御:前にいる仲間が受ける被害を10ポイント減らす。低レベル時の敵の攻撃を無効化できるほど強力な防御手段である。
・支援攻撃:仲間の攻撃に合わせて、10ポイントの不可視の追加ダメージを与える。この追撃は、物理攻撃を無効化する強敵ジャガーノートなどにも確実なダメージとして通るという強みがある。
・支援回復:前にいる仲間の体力を30秒ごとに5ポイント自動的に回復させる。
・支援高揚:仲間の「士気」を10ポイント上昇させる。戦闘中だけでなく、日常会話の励ましなどに織り交ぜて発動させることも可能である。
・これ以外にも、後列から敵の弱点を看破する「鷹の眼」や、対象の背後へ瞬時に移動して死角攻撃を可能にする「バックスタンド」といった戦術的な技能も取得できる。
「信頼度」の急上昇と予期せぬ副次効果
「後衛」の支援技能を受けると、仲間は強烈な「守られている感覚」や「心地よさ」を覚え、時には恍惚とするほどの快感を得ることがある。
・それに伴い、ライセンスに記録される仲間との「信頼度」が、通常ではあり得ない異常な速度で急上昇する。
・また、この支援効果(特に「支援回復」)は、戦闘中だけでなく日常的な位置関係でも常時発動してしまう。
・アリヒトが別室で女性メンバーたちの「後方」に位置して就寝した結果、無意識下の継続的な支援が彼女たちの身体に強い火照りや高揚感、アリヒトへの抑えきれない衝動を引き起こした。
・夜な夜な寝顔を覗き込まれたりスキンシップを図られたりするという、一種の「魅了」にも似た副次的な影響をもたらしている。
装備による拡張性
あらゆる武器を使いこなせるという隠れた適性があり、スリングショットから槍まで柔軟に装備可能である。
・「味方を強化する技能の性能が向上する」効果を持つ装備(チェイングラブ+1など)を身につけることができる。
・これにより、支援ダメージの数値を底上げする(10ポイントから11ポイントに増幅する等)ことができ、支援の威力をさらに高めることが可能である。
まとめ
未知の職業「後衛」は、自身は脆弱であるものの、広域に及ぶ規格外の支援技能と装備の拡張性によって味方を劇的に強化する職業である。さらに、仲間との信頼度を異常な速度で高め、時には予期せぬ副次効果まで引き起こすという、他に類を見ない特異なポテンシャルを秘めていると言える。
希少魔物との戦闘
迷宮国における希少魔物は、一般的に「名前つき(ネームド)」と呼ばれている。これらは同階層に出現する通常の魔物とは比較にならないほどの強さを持ち、最初に敵と認識した相手を執念深く追い続けるという恐ろしい習性を持っている。
主人公・アリヒトのパーティは、結成直後から立て続けにこの「名前つき」と遭遇し、未知の職業「後衛」の規格外の支援技能を駆使して死闘を繰り広げた。
レッドフェイス(赤いワタダマ)との戦闘
初級迷宮「曙の野原」の一層に出現した、真っ赤な体毛に覆われたワタダマの希少種である。
・レベル3のパーティすら壊滅させるほどの素早さと威力を誇り、「ブーメランダイブ」という強力な全体体当たり攻撃を仕掛けてくる。
・アリヒトは前衛のテレジアに「支援防御」をかけることでこの大技を無傷で防いだ。
・さらに「支援攻撃」の固定ダメージ(不可視の追撃)をテレジアの斬撃に乗せることで、強固な防御を貫通して討伐に成功した。
・この討伐により、炎属性を武器に付与できる「燃焼石」などの希少素材を獲得している。
ジャガーノート(巨大なファングオーク)との戦闘
「曙の野原」の二層に出現した、レベル5の巨大なオークの「名前つき」である。悪意ある他の探索者(ベルゲンたち)によって、意図的にアリヒトたちになすりつけられた。
・最大の特徴は「物理攻撃を無効化する」という点であり、高レベル剣士であるエリーティアの斬撃すら通じなかった。
・アリヒトの炎属性攻撃(ブレイズショット)で怯ませた隙にエリーティアをパーティに組み込んだ。
・彼女の高速連撃「ブロッサムブレード」に「支援攻撃」の無属性固定ダメージを全段乗せるという戦術で、物理無効の壁を破り討伐を果たした。
・この戦いで、莫大な経験値や高額な賞金のほか、極めて希少な「黒い箱(黒箱)」や魔石を入手している。
鷲頭の巨人兵との戦闘
隠し階層である四層の石扉を守護していた、レベル6のゴーレムのような存在である。金属の体を持ち、槍と盾で武装している。
・「ウィンドバースト」や無数の羽を飛ばす「ニードルフェザー」といった風の魔法による全体攻撃を繰り出す。
・瀕死になると「生存本能」を発動して全能力が上昇する難敵であった。
・アリヒトは「鷹の眼」で頭部の古傷という弱点を見抜き、仲間たちに指示を出した。
・敵の猛攻に対しては、五十嵐鏡花とテレジアの「士気解放」によって生み出された分身(戦霊)を盾にしつつ、手数を倍増させる総力戦を展開した。
・最後はアリヒトが新技能「バックスタンド」で敵の背後に回り込み、死角からの支援射撃で頭部を砕いて勝利した。
まとめ
「名前つき」を討伐すると、一気にレベルが上がるほどの莫大な経験値や、高額な賞金、強力な武具の素材となる魔石、そして強力な罠が掛けられた「宝箱」が得られる。
しかし、魔物本体は討伐者のライセンスに記録されるものの、ドロップ品や宝箱には所有権が記録されないため、他の探索者から横取りを狙われる危険が伴う。そのためギルドでは、探索者の射幸心を煽って犠牲者や犯罪者が出ないよう、あえて賞金額を公に掲示しないという対策をとっている。
探索者パーティの結成
迷宮国において、難易度の高い迷宮を攻略し生き残るためには、役割分担を明確にしたパーティの結成が不可欠である。特に主人公のアリヒト(後部有人)が就いた未知の職業「後衛」は、自身は攻撃を受けずに味方を支援することに特化しており、前に立つ仲間(前衛や中衛)がいなければ成り立たないという明確な弱点があった。
アリヒトは迷宮を攻略するため、以下の経緯で仲間を集め、強力な探索者パーティを結成していく。
傭兵テレジアの雇用と正式加入
アリヒトは初期段階で前衛を確保するため、ギルドの受付嬢ルイーザから受け取った「傭兵チケット」を使い、傭兵斡旋所で亜人(リザードマン)の少女・テレジアを雇った。
・彼女の職業は中衛向けの「ローグ」であり、盾と剣を装備して前衛を務めた。
・レッドフェイスとの死闘を通じて強い信頼関係を築いたアリヒトは、後に銅の傭兵チケット100枚を支払って彼女の隷属印を自分に変更し、正式な固定メンバーとしてパーティに迎え入れた。
元上司・五十嵐鏡花の加入
五十嵐鏡花はアリヒトの前世での直属の上司(課長)であった。
・彼女は剣、槍、魔法が使える「ヴァルキリー」という職業に就いたが、器用貧乏とみなされて他のパーティに入れず、単独行動をしていた。
・迷宮でレッドフェイスに遭遇した際、彼女が逃げずにアリヒトたちを守るために戦った姿を見て、アリヒトは彼女への苦手意識を払拭した。
・戦闘後、アリヒトから「自分のパーティに入ってほしい」と提案し、前世の「上司と部下」の関係から対等な「パーティメンバー」として新たな関係を築くことになった。
スズナの加入とエリーティアの同行
二層での探索中、アリヒトたちは魔物に囲まれていた少女剣士のエリーティアと、アリヒトと同じ転生者で「巫女」の職業に就いたスズナ(白宮珠洲菜)に遭遇した。
・レベル8の「カースブレード」であるエリーティアは、スズナを育てようとしていたが、自身が装備する呪いの剣や、敵の返り血を浴びると暴走する「ベルセルク」という技能のリスクを抱えており、初心者を守りながら戦うのには不向きであった。
・そこでアリヒトは、スズナの安全な育成のために彼女を正式なパーティメンバーとして迎え入れることを提案した。
・エリーティアはアリヒトの実力を認め、普段は経験値を奪わないよう「ゲスト」として同行し、強敵との戦闘時にのみパーティに加わるという変則的な形で合流した。
ミサキの救出と複数パーティの構想
スズナの友人で「ギャンブラー」の職業に就いたミサキは、宝箱の罠で隠し階層に転移してしまい、巨大な魔物ジャガーノートの生贄にされかけていたところをアリヒトたちに救出された。
・彼女は一時的にパーティと行動を共にするが、ゆくゆくは自分でも仲間を集めるという展望を語った。
・アリヒトたちと合わせて「二つのパーティ」を作り、状況に応じてメンバーを入れ替えられる体制を作りたいという構想である。
陣形とパーティの強み
結成されたパーティは、テレジアと五十嵐鏡花が前衛・中衛として敵の攻撃を受け止め、スズナが後方から弓で射撃し、アリヒトが最後尾から「支援防御」「支援攻撃」「支援回復」「支援高揚」などの技能で全体をカバーするという強力な陣形を完成させた。
この連携と役割分担により、彼らは結成からわずか数日で、大人数でも壊滅するほどの賞金首「レッドフェイス」や「ジャガーノート」を討伐するほどの規格外のパーティへと成長していった。
秘神アリアドネとの出会い
初級迷宮「曙の野原」の隠し階層(四層)において、アリヒトたちは門番である強敵「鷲頭の巨人兵」との死闘を制し、その奥の石扉の先にある部屋へと足を踏み入れた。そこには「聖櫃」と呼ばれる黒い大理石の箱が安置されており、中には水色の髪を持つ美しい少女が眠っていた。アリヒトが、以前ジャガーノートの黒箱から手に入れていた「秘神の鍵」を彼女の胸の穴に差し込むことで、少女は長い眠りから目覚める。
アリアドネの正体と迷宮国の真実
目覚めた少女は、自らを「鉄の車輪」アリアドネ、百十七番目の「秘神」であり、神の模造品であると名乗った。彼女の言葉から、以下の事実が語られる。
・彼女は創造主に見限られ、不完全な「はずれ」として迷宮の底に廃棄されていた存在である。
・迷宮国は「神集め」の責を負わされた者の集う場所である。
・転生者たちが魂を集められて過酷な探索を強要されている背景には、この大いなる目的がある。
信仰の契約と加護
アリアドネは自身の機能が劣化しているため、より状態の良い他の秘神を探し、自身を放置することを推奨した。しかし、アリヒトたちは彼女を見捨てず、共に成長していく道を選び、彼女を「信仰」して加護を受けることを決断する。
契約の証として、アリヒトのライセンス(札)には第三者に感知されない秘匿機能が追加された。これにより、以下のことが可能になった。
・アリアドネに供物を捧げて加護を得る。
・迷宮で危機に陥った際に強制的に彼女のいる聖域へ帰還する(ただし装備を失うリスクあり)。
まとめ
アリアドネ自身は、失われた機能を回復する「パーツ」を集めない限り、聖域の外に出ることはできない。しかし、彼女が最後に力を振るうことで、アリヒトたちは迷宮の深部から一層の野原へと転移させられ、絶望的な死闘から無事に生還を果たすこととなる。
支援技能による信頼関係
未知の職業「後衛」の最大の特徴である「支援技能」は、戦闘を有利に進めるだけでなく、パーティメンバーとの「信頼関係」を常識外れの速度で構築し、時には予期せぬ副次的な影響をもたらすという特異な性質を持っている。
異常な速度で上昇する「信頼度」
アリヒトが「支援防御」「支援攻撃」「支援回復」などの技能を仲間にかけると、ギルドのライセンスに記録される「信頼度」が急激に上昇する。
・通常、探索者の間で信頼度が上がるのは数ポイント程度であり、感情を持たないとされる傭兵の亜人(テレジア)相手に一度の探索で「50」も上昇した事実は、ベテラン受付嬢のルイーザを驚愕させた。
・この急激な信頼度の上昇は、パーティの結束を固めるだけでなく、戦闘中に強力な技を放つための「士気」が上がりやすくなる要因にもなっていると推測されている。
支援がもたらす「心地よさ」と関係性の変化
支援技能を受けたメンバーは、単にダメージが減ったり体力が回復したりするだけでなく、強烈な「守られている感覚」や「心地よさ」を感じるようである。
・五十嵐鏡花(元上司):アリヒトの支援を受けて敵を倒した際、「すっごく良かった」と恍惚とした表情を浮かべるほどに快感を覚えていた。前世ではアリヒトを酷使する厳しい上司であったが、支援を通じて彼への苦手意識が完全に消え、信頼や親愛、さらには強い依存心すら抱くようになった。
・テレジア(傭兵):言葉を話せない亜人でありながら、アリヒトに非常に懐き、男風呂にまでついてきて防具を脱いで背中を流そうとしたり、戦いの後に自ら膝枕をしてくれたりするほど心を開いた。これが、彼女を銅の傭兵チケット100枚で買い取り、正式にパーティへ迎える決定的な理由となった。
夜の宿舎で起きる予期せぬ副次効果(フラストレーション)
支援技能は戦闘中だけでなく、日常的な位置関係でも発動してしまう。
・宿舎でアリヒトが気を遣って居間のソファで寝た結果、奥の寝室で眠る女性メンバーたち(五十嵐、スズナ、ミサキ、テレジア、そして客人のルイーザとエリーティア)に対して、彼が「後方」に位置することになり、就寝中ずっと「支援回復」が常時発動するという事態が起きた。
・この無意識下の継続的な支援は、女性陣の身体に強い火照りや高揚感を引き起こし、彼女たちの目を覚まさせてしまった。
・アリヒトへの抑えきれない衝動(フラストレーション)を抱えた彼女たちは、夜な夜な彼が眠るソファの周りに集まり、寝顔を見つめながら次々と彼の手を握ったり、胸に抱きしめたりするという、理性を失いかけるほどのスキンシップに走ってしまった。
まとめ
このように、「後衛」の支援技能は、戦闘における強力なバフであると同時に、仲間たちにアリヒトへの絶対的な安心感と強烈な好意(あるいはスキンシップへの欲求)を植え付ける、ある種の「魅了」に近い影響力を持っていると言える。
登場キャラクター
アリヒトのパーティ
後部有人
会社のスキー旅行中にバス事故に遭う。迷宮国へ転生した元会社員である。前世では広告代理店のプランナーとして働いていた。他者の意見を聞き入れる度量を持つ。五十嵐鏡花は前世での直属の上司にあたる。
・所属組織、地位や役職
アリヒトのパーティ・リーダー。職業は「後衛」。
・物語内での具体的な行動や成果
迷宮国の案内人から探索者になるよう告げられ、ギルドで未知の職業に就いた。傭兵のテレジアを雇う。五十嵐鏡花や白宮珠洲菜らをパーティに加えて迷宮の探索を行った。「支援防御」や「支援攻撃」などの技能を駆使する。賞金首であるレッドフェイスやジャガーノートの討伐に貢献した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
レッドフェイス討伐などの成果により、八番区での序列が七位まで上昇した。星二つの探索者に認定される。宿舎もロイヤルスイートへ移行している。
五十嵐鏡花
後部有人の前世での直属の上司である。二十四歳で課長に就任した。気の強い性格をしている。親に結婚を決められそうになっていた過去を持つ。転生後は後部有人をリーダーとして認めた。パーティに加入する。
・所属組織、地位や役職
アリヒトのパーティ・前衛または中衛。職業は「ヴァルキリー」。
・物語内での具体的な行動や成果
迷宮国で後部有人と再会する。共に探索を行うことになった。レッドフェイスとの戦闘では後部有人を逃がすために盾となった。その結果として重傷を負う。その後はアリヒトの支援を受けて戦闘に参加した。ジャガーノート戦では士気解放「ソウルブリンク」を発動する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
レッドフェイス戦での重傷により、一時的に貢献度がゼロになった。馬小屋暮らしになりかけた。ジャガーノート討伐の貢献により、序列が大幅に上昇している。
白宮珠洲菜
黒髪で和風の容姿を持つ少女である。実家は神社である。礼儀正しい性格をしている。ミサキは幼馴染にあたる。
・所属組織、地位や役職
アリヒトのパーティ・後衛。職業は「巫女」。
・物語内での具体的な行動や成果
ギルドでエリーティアに勧誘された。その後、共に迷宮へ向かった。アリヒトのパーティに加わる。弓を用いた「皆中」による遠距離攻撃で戦闘に参加する。ジャガーノート戦ではミサキの士気解放と連携して「月読」を発動させた。未踏の領域である隠し階層の発見に繋げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ジャガーノート討伐の貢献により序列が上昇した。霊能感知の技能を取得する。隠し階層での過去の犠牲者の痕跡を感知している。
テレジア
言葉を話さない亜人である。普段は無表情である。しかし行動によって感情を示す。アリヒトに対して強い信頼を抱いている。
・所属組織、地位や役職
傭兵斡旋所・傭兵。アリヒトのパーティ・前衛または中衛。職業は「ローグ」。
・物語内での具体的な行動や成果
アリヒトに傭兵として雇われた。共に迷宮の探索を行う。レッドフェイス戦ではアリヒトの支援を受けて敵を討伐する。ジャガーノート戦では士気解放「トリプルスティール」を発動した。パーティの勝利に貢献する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アリヒトとの間に高い信頼度を築いた。アリヒトが銅の傭兵チケットを百枚支払った。正式にパーティメンバーとして加入している。
エリーティア=セントレイル
金色の髪を持つ少女剣士である。責任感が強い性格をしている。親友は過去に所属していた白夜旅団に見捨てられた。その親友を救うため、迷宮の深層を目指している。
・所属組織、地位や役職
アリヒトのパーティ・ゲストメンバー。職業は「カースブレード」。
・物語内での具体的な行動や成果
ギルドで白宮珠洲菜を勧誘した。共に迷宮の探索を行う。ジャガーノート戦では高速連撃技「ブロッサムブレード」を駆使する。敵に大きな損害を与えた。隠し階層の鷲頭の巨人兵との戦闘でも、前衛として攻撃を引き受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「緋の帝剣」という呪いの剣を装備している。敵の返り血を浴びると「ベルセルク」が発動する。精神状態が不安定になる問題を抱えている。
ミサキ
白宮珠洲菜の幼馴染である。明るい性格をしている。運の良さに自信を持っている。
・所属組織、地位や役職
アリヒトのパーティ・メンバー。職業は「ギャンブラー」。
・物語内での具体的な行動や成果
最初は別のパーティに所属していた。二層で罠にかかって転移した。その後、オークの群れに捕らえられる。アリヒトたちに救出された。パーティに同行する。鷲頭の巨人兵との戦闘では、投擲武器を用いて攻撃に参加した。士気解放「フォーチュンロール」を発動し、白宮珠洲菜の「月読」を成功に導いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
将来的に複数のパーティを編成することを見据えている。自分でもメンバーを集める意向を示した。
ギルド・案内人
案内人の女性
柔和な外見である。はきはきと話す女性でもある。死後と思われる世界で、転生者たちの列を整理している。
・所属組織、地位や役職
案内人。
・物語内での具体的な行動や成果
トンネルのような空間で、転生者たちに札を渡した。彼らが迷宮国で探索者として新たな人生を送ることになるという事実を伝達する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
自身も迷宮国にいる。縁があれば再会するかもしれないと言い残した。
ルイーザ=ファルメル
緑色の髪と眼鏡が特徴の女性である。丁寧な態度で探索者に接する。元は探索者であった。
・所属組織、地位や役職
ギルド・登録担当官。初級探索者の相談窓口。
・物語内での具体的な行動や成果
アリヒトの登録手続きを担当した。「後衛」という職業を選んだ彼に、特別措置として銅の傭兵チケットを提供する。アリヒトがレッドフェイスやジャガーノートを討伐した成果に驚愕した。討伐者の名前を秘匿するなどの配慮を行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アリヒトの予想外の活躍に感銘を受けている。アリヒトの序列上昇に伴い、宿舎の変更手続きなどを手配した。
傭兵斡旋所
レイラ
眼帯をつけた赤毛の女性である。屈強な戦士の風貌を持つ。亜人に対して思いやりを持っている。彼らに居場所を与えることを役割と考えている。
・所属組織、地位や役職
傭兵斡旋所・副所長。
・物語内での具体的な行動や成果
アリヒトに傭兵のテレジアを紹介した。後日、アリヒトは銅の傭兵チケット百枚を持参した。その手腕を高く評価する。テレジアの正式加入の手続きを行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アリヒトのような有能な探索者を希望の存在として見ている。
武器商人
篠乃木円
黒髪のボブカットの少女である。日本人であり、転生者でもある。実家がスポーツ用品店だった経験を持つ。
・所属組織、地位や役職
露店の武器商人。職業は「商人」。
・物語内での具体的な行動や成果
アリヒトに無料の武器としてスリングショットを提供した。素材を入れるための革袋も手渡す。後日、アリヒトから武器の新調を依頼され、上位の装備を販売する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アリヒトからマドカと呼ばれている。
魔物解体所
ライカートン
眼鏡をかけた男性である。常に笑みを浮かべている。職人としての腕は確かである。
・所属組織、地位や役職
ライカートン魔物解体所・店主。
・物語内での具体的な行動や成果
アリヒトたちが持ち込んだレッドフェイスの解体と加工を引き受けた。素材から炎属性の武器や防具を作成する。大容量のナップザックを一行に提供した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「名前つき」の魔物の素材を扱うことを喜んでいる。
メリッサ
銀色に近い髪を持つ少女である。口数が少ない。無表情である。
・所属組織、地位や役職
ライカートン魔物解体所・解体職人。ライカートンの娘。
・物語内での具体的な行動や成果
大きな包丁を用いて魔物の解体作業を行っている。レッドフェイスの素材を受け取った。希少素材を扱えることに喜びを見せた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
解体の腕前は父親に引けを取らない。
ノルニルハイツ・箱屋
パルム=アルトゥール
恰幅の良い女性である。探索者たちに対して親切に接する。
・所属組織、地位や役職
八番区の宿舎ノルニルハイツ・管理人。
・物語内での具体的な行動や成果
アリヒトたちに部屋の案内を行った。鍵の管理規則を説明する。彼らが別の宿舎へ移る際には、娘が箱屋を営んでいることを教える。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アリヒトの探索者としての前途を応援している。
ファルマ=アルトゥール
落ち着いた主婦のような雰囲気を持つ女性である。パルムの娘にあたる。
・所属組織、地位や役職
ギルド認可の罠師。箱屋の店主。
・物語内での具体的な行動や成果
アリヒトたちが持ち込んだ「黒い箱」の解錠を引き受けた。専用の地下施設へ転移する。「結界錠」を安全に解除した。中の宝物を出現させる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
高い技能と装備により、解錠確率を完全にしている。
エイク
ファルマの息子である。五歳くらいの男の子である。
・所属組織、地位や役職
箱屋の店主ファルマの家族。
・物語内での具体的な行動や成果
母親のファルマに本を読んでもらっていた。ファルマが仕事をする間、妹とともに祖母の元へ向かう。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
護衛犬のシルバーハウンドと行動を共にしている。
プラム
ファルマの娘である。三歳くらいの女の子である。
・所属組織、地位や役職
箱屋の店主ファルマの家族。
・物語内での具体的な行動や成果
母親のファルマに本を読んでもらっていた。箱を開けることに興味を示す。妹ではなく兄とともに祖母の元へ向かう。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
エイクやシルバーハウンドと行動を共にしている。
シルバーハウンド
人間の言葉を理解している。家族に懐く忠犬である。
・所属組織、地位や役職
ファルマの店にいる白い大型犬。元は探索者の護衛犬。
・物語内での具体的な行動や成果
エイクやプラムが外に出ようとした。護衛として後をついていった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
亜人であるテレジアに警戒されていた。
その他の探索者
リヴァル
白髪と白髭を持つ壮年の男性である。新人の探索者を気にかける。探索についての助言を行った。
・所属組織、地位や役職
初級迷宮の入口に常駐する探索者。
・物語内での具体的な行動や成果
迷宮に入るアリヒトたちに助言を与えた。経験値の仕組みやダメージの感覚について説明する。五十嵐鏡花が負傷した際には、彼女を治癒師の元へ搬送する手助けをする。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
迷宮内で動けなくなった初心者の救助を副業としている。
バドウィック
金銭に執着する性格である。新人を案内する見返りに利益を得ようとする。
・所属組織、地位や役職
初心者を組み入れたパーティのリーダー。
・物語内での具体的な行動や成果
迷宮内で初心者を案内していた。レッドフェイスに遭遇した際、「帰還の巻物」を使用する。仲間を見捨てて逃亡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
帰還の巻物を使用したことで貢献度が減点された。序列を落としたと推測されている。
ベルゲン
他者を利用する探索者である。
・所属組織、地位や役職
過去に討伐隊から逃亡したパーティのリーダー。
・物語内での具体的な行動や成果
二層で意図的にジャガーノートを出現させる。エリーティアに倒させようと企んだ。ジャガーノート討伐後、弱ったエリーティアたちを攻撃した。収穫を横取りしようとした。しかしアリヒトたちに反撃されて倒される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ドロップ品や宝箱を狙う手口を用いていた。
秘神
アリアドネ
水色の髪と瞳を持つ少女である。無表情で淡々とした口調で話す。自身を神の模造品であると認識している。「はずれ」であるとも語った。
・所属組織、地位や役職
百十七番目の秘神。鉄の車輪。
・物語内での具体的な行動や成果
「曙の野原」の隠し階層にある聖櫃の中で眠っていた。アリヒトが秘神の鍵を使用したことで目覚める。迷宮国の「神集め」の目的を語る。アリヒトたちに自身の加護を与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アリヒトのライセンスに秘匿機能を追加した。地上への転移を行う。身体の一部に電子回路のような模様が浮かび上がる特徴を持つ。
展開まとめ
プロローグ 転生者の行列
死後を思わせる異様な状況
語り手の男性は、会社のスキー旅行のため夜行バスに乗り、眠りについたはずであったが、気づくと長く暗いトンネルの中で老若男女の行列に並んでいた。バスを降りた記憶がまったくなく、突然見知らぬ場所に立たされていることから、ただならぬ事態に巻き込まれたと察していた。
事故死の可能性と死後への不安
前方では列の案内をしている女性に対し、生き返らせろと訴える声が上がっており、その様子から男性はバス事故で死亡したのではないかと考えた。死後の世界が存在するなら消滅ではない点に安堵もあったが、この先が天国ではなく地獄かもしれないという不安も抱いていた。また、夢である可能性も捨てきれず、状況を完全には受け入れきれていなかった。
同僚たちの不在と生存への思い
行列の中には旅行に参加していた社員も何人かいたが、一緒に来た同僚の姿は見当たらなかった。そのため男性は、結婚を控えていた同僚が生き残っていてほしいと願っていた。一方で、雪山で事故が起きたのだとすれば、生き延びていても救助まで過酷な状況に置かれているはずだと考え、凍傷などを負わずにいてほしいとも案じていた。
五十嵐課長の存在
列の先には、男性の直属の上司である五十嵐課長らしき姿も見えていた。少し茶色がかった艶のある長い髪から、男性はその背中をすぐに見分けていた。彼女は年下ながらも強い気性と有能さを備えたエリートであり、男性にとっては頭の上がらない存在であった。その五十嵐課長でさえ、この状況には逆らえず、おとなしく列に並んでいる様子であった。
転生者を送り出す案内人との対面
やがて前にいた女子高生ほどの少女が案内人から何かを受け取り、光の差す先へ進んでいった。男性はその少女がバスで見かけた黒髪の大和撫子風の少女であったことを思い出したが、すぐに目の前の案内人へ意識を向けた。そこにいたのは、紫色の髪とファンタジー風の服装をした女性であり、見た目は柔和ながらも、行列を手際よくさばいていた。
迷宮国への転生の宣告
案内人の女性は、並んでいる者たちに札を渡し、この先ではまずギルドに行って職業を決めるよう告げていた。男性が問いかけると、行き先は迷宮国であり、そこへ魂を引き取られて転生することになったのだと説明された。転生先は選べず、転生後は探索者として新たな人生を送ることになるとも告げられた。案内人は自分も迷宮国にいると話し、縁があれば再会するかもしれないと付け加えていた。
新たな世界への第一歩
男性は案内人から、紙幣より一回り大きく革のような素材でできた頑丈な札を受け取った。神や天使のような存在なのかと疑問を抱きつつも、それ以上を知ることはできないまま、男性は前方の光を目指して歩き出していた。
第一章 探索者生活の始まり
一 迷宮国
迷宮国の仕組みと転生者の立場
迷宮国は、迷宮を探索する者とその支援者だけが暮らす国であり、国のあらゆる仕組みが迷宮を中心に成り立っていた。町の各所には迷宮への入口があり、出現する魔物などに応じて難易度とランクが定められていた。今回、語り手とともに集団転生したのは三十人ほどであったが、語り手は天涯孤独であったため、家族を残してきた痛みがないことを一つの救いとして受け止めていた。そのうえで、過去を嘆くよりも、この世界でどう生きるかを考えるべきだと意識を切り替えていた。
探索者になる以外にない現実
転生者たちはトンネルから迷宮国の各地に出たのち、案内人の指示どおりギルドを目指して集まっていた。そこで互いに情報交換した結果、転生者は案内人から探索者になるよう一方的に定められており、その指示に逆らう発想すら持てないことが分かった。迷宮国では、転生した者はまず探索者になるほかなかった。理不尽な制度ではあったが、語り手はそれを完全に悲観するのではなく、悪い話ばかりでもないと受け止めていた。
新入りに向けられる現実的な忠告
ギルドでは、すでに探索者登録を済ませて迷宮へ向かう者も多く、語り手が最初の到着者ではなかったことが分かった。建物の中では、先輩探索者が新入りらしい男性に対し、単独で星二つ以上の迷宮に入れば即死すると忠告していた。特にゴブリンの矢は危険であり、敵意の強い魔物に不意を突かれれば、毒や不衛生な矢によって命を落としかねないと説明していた。このやりとりから、迷宮国は厳しい世界ではあるものの、新人に最低限の忠告を与える程度の秩序はあると語り手は感じていた。
初心者たちのパーティ編成
忠告を受けた男性は、そのまま先輩探索者に案内役を申し出られ、初日の稼ぎの大半を渡す条件で迷宮へ連れて行ってもらうことになっていた。語り手は、転生者同士あるいは同じ会社の者同士で組めばよいのではないかとも考えたが、実際には初心者の多くが経験者のいるパーティへ次々と加わっていった。安全を考えれば当然の流れであり、語り手もまた早いうちに仲間を得たいと考えていた。
スズナの職業決定と注目
語り手が行列で前に見ていた黒髪の少女も、まだ誘われていない側に残っていた。彼女の友人らしいギャル風の少女はすでに別のパーティに入っており、黒髪の少女もそれを予想していたようで動揺は見せていなかった。やがて彼女は受付でスズナ=シロミヤと名乗り、希望職業として巫女を選び、それが適性ありとして受理された。転生者は受付で札に希望職業を書き込み、適性が認められればその職に就ける仕組みであった。
エリーティアの勧誘
スズナが巫女として登録を終えると、今度は金髪の少女剣士が彼女に声をかけた。銀の胸当てと長剣を備えたその少女は、遠目にも目を引く熟練者であり、周囲の探索者たちも動きを止めて見守っていた。彼女はエリーティア=セントレイルと名乗り、自分は前衛として問題を抱えているため、初心者には組みにくい相手かもしれないが、後衛を探しているのだと率直に打ち明けた。そして、パーティに入ればすぐにレベルが上がるはずだとスズナを説得していた。
周囲の陰口とスズナの決断
エリーティアはギルド内で有名な存在らしく、周囲からは、彼女には何らかの問題があるため長続きしない、という陰口が飛んでいた。強い美少女剣士でありながら相手が定まらないのには理由があるようで、男たちは下卑た笑いを浮かべながらその様子を眺めていた。エリーティアはそれらを無視していたが、内心では傷ついている様子も見せていた。そうした中で、スズナは友人が別の相手のもとへ行ってしまったことを明かし、それでもエリーティアと組めるなら心強いと応じた。そして、問題があるのだとしても後衛を務められるよう努力すると伝え、差し出された手を握り返していた。こうして二人は意気投合し、連れ立ってギルドを後にしていた。
職業選択の厳しさと迷宮国の秩序
その一方で、別の転生者の男性は、もっと勇者らしい職業に就きたいと受付嬢に食い下がっていた。しかし受付では、聖騎士の適性はなく、戦士や盗賊や格闘家の素養しかないと告げられていた。さらに、別の大柄な男が受付嬢を恫喝し、転職させろと騒ぎ立てた結果、その行為は迷宮国における恫喝と見なされ、カルマが上昇したとして兵士に取り押さえられ、投獄されていた。語り手はその様子を見て、ギルドでは秩序を守って行動しなければならないと自らを戒めていた。
まずは生活基盤を整える決意
こうして語り手は、まず無事に職業を決め、迷宮を無理に攻略するか、この世界で安住の地を築くかといった大きな方針は、その後に考えるべきだと判断していた。目の前の混乱に巻き込まれず、まずは落ち着いて生活の土台を固めることが先決であると考えていた。
二 ギルドの受付嬢と元上司
受付嬢ルイーザとの出会い
未登録の札を持ったまま立ち尽くしていた語り手に、先ほどスズナの登録を担当していた受付嬢が声をかけた。彼女はルイーザ=ファルメルと名乗り、登録担当官であると同時に、初級探索者の相談窓口も兼ねていると説明した。
語り手が緊張している様子を見て、ルイーザは柔らかな態度で安心させようとし、手続きをそのまま進めるかどうかを確認してきた。語り手は彼女に任せることを決め、登録を進めることにした。
転生前の記憶と上司への苦手意識
手続きを前にした語り手は、転生前の記憶を思い出していた。配置換えによりメディア戦略課へ異動し、若くして課長となった五十嵐鏡花の補佐を任されていた。彼女は有能で行動力にあふれる一方で、仕事量を際限なく増やす傾向があり、語り手は実質的に二人分以上の業務を抱え込む状況に置かれていた。
その結果、日中は補佐業務に追われ、前部署の仕事は残業に回さざるを得ず、昇進に必要な勉強時間すら確保できなかった。五十嵐は悪意なく語り手に期待をかけていたが、その言動は結果として負担を増やすものとなっていた。語り手はその関係を、扱いやすい手足として使われているに過ぎないと感じていた。
異世界への転生による解放感
こうした過去を振り返る中で、語り手は自分が会社のしがらみから解放されたことに気づいた。苦手な上司のもとで働く必要もなくなり、その事実に心身が軽くなる感覚を覚えていた。ルイーザはその様子を見て回復したと判断し、改めて職業登録の手続きを案内した。
登録は、札の職業欄に自分で希望する職業を書く方式であり、決まった選択肢から選ぶわけではないと説明された。転生者は多様な経歴を持つため、未知の職業が現れることもあるという仕組みであった。
職業選択における葛藤
語り手は、自身に特別な技能がないことを自覚していた。転生前は広告代理店のプランナーとして企画書や資料作成を行っていたが、この世界で直接役立つ能力とは言い難かった。そのため、需要のある職業を選べるかどうかが今後の生存に関わると理解しつつも、具体的な選択に悩んでいた。
五十嵐鏡花との再会
そのとき、語り手は五十嵐鏡花に声をかけられた。彼女も同じ転生者としてこの場に現れており、以前と変わらぬ姿であった。語り手は思わず動揺し、以前と同じように萎縮した態度を取ってしまう。
五十嵐は語り手に職業を尋ね、自分はすでに選択を終えている様子であった。彼女の態度は以前より柔らかさを含んでいたが、言葉の端々には相変わらず強い気性が見え隠れしていた。
職業選択とパーティの可能性
五十嵐は語り手に対し、早く職業を決めれば自分とパーティを組めるかどうか検討してやると告げた。また、役割分担を考えて職業を選ぶべきだと助言し、自身は「ヴァルキリー」という職業を選んだと明かした。剣や槍を扱い、精霊魔法も使える多機能な職であり、生存を重視して選択したものであった。
語り手はその話を参考に、自分も役割を分担できる職業を選ぼうと考えるが、五十嵐の期待に応えきれない返答をしてしまい、彼女の機嫌を損ねる結果となった。
すれ違いと別行動
会話の中で、五十嵐は語り手に対して何らかの意図を示していたが、語り手はそれに気づくことができなかった。その結果、彼女は苛立ちを見せつつも別のパーティを探すと言い残し、ギルドを去っていった。
語り手は彼女の無事を気にかけつつも、同時に前世の上下関係から解放されたいという思いも抱いていた。しかし、実力と行動力を兼ね備えた五十嵐とであれば、状況次第では共に行動する価値があるとも感じていた。
三 職業選択
受付嬢の助言と新たな目標
語り手はルイーザに転生前の上司との関係を話し、その苦労を労われていた。彼女は探索者として実績を積めば評価は変わると励まし、後悔のない職業選択をするよう助言した。語り手はそれを受け、上司を見返すことを一つの動機としつつも、この世界ではより高みを目指すべきだと考え始めていた。
探索者の序列と評価制度
語り手は探索者として評価される基準について尋ね、ルイーザから序列制度の説明を受けた。探索者の札には行動記録が蓄積され、迷宮での成果に応じて序列が変動する仕組みであった。評価が低い場合は劣悪な環境での生活を強いられる可能性があり、無計画な行動は避けるべきだと警告された。救援を要請すれば最低限の支援は受けられるが、それに頼りすぎることは許されていなかった。
後衛職の需要と危険性
語り手は現在の需要について確認し、後衛職が不足していることを知った。しかし同時に、後衛は防御力が低く、初心者の段階では特に死亡率が高い職種でもあった。前衛が機能しなければ攻撃を受けやすく、一撃で致命傷となる危険があるためである。それでもパーティにおいて後衛は不可欠な役割であり、需要の高さと危険性が表裏一体であることが示されていた。
職業選択の決断
語り手は自身に特別な適性がないことを踏まえたうえで、不足している後衛を担うことが最善だと判断した。具体的な職業を思いつけなかったため、職業欄にそのまま後衛と書き込むという選択を取った。その結果、文字は変化し、正式な職業として登録されたが、ルイーザはその表記に強い違和感を示していた。
未知の職業「後衛」の成立
登録された職業は、文字通り後衛であった。ルイーザですら前例を知らない特殊な職業であり、公にすれば嘲笑される可能性があると忠告された。彼女は自身の助言の責任も感じ、特別措置として傭兵チケットを提供した。それにより、一定期間だけ前衛となる亜人型モンスターを雇うことができ、探索の補助を受けられるようになった。
技能の確認と選択
語り手はライセンスを確認し、後衛としての初期技能を把握した。内容は仲間の被害を軽減する支援防御、攻撃を補助する支援攻撃、回復を行う支援回復、そして後方視界を拡張する後ろの正面であった。いずれも前衛を支援することに特化した能力であり、自身が戦うのではなく仲間を補助する役割であることが明確であった。
語り手は慎重に検討した結果、まず支援防御を取得することを選択した。限られたスキルポイントを無駄にしないため、回復などの取得は状況を見て判断することにした。
探索への準備と決意
傭兵チケットによって前衛を確保できる目処が立ったことで、語り手は後衛という職業を活かす可能性を見出していた。まずは実際に迷宮へ入り、技能の効果やダメージの感覚を確かめる必要があると判断した。パーティを組めば自分の職業の価値も明らかになると考え、語り手は決意を固めてギルドを後にしていた。
四 傭兵の雇用
迷宮国の構造と初級迷宮への出発
迷宮国は、周囲を果てしなく長い壁に囲まれた城塞都市であり、その内部に無数の迷宮の入口を抱えていた。都市は八つの地区に分かれており、語り手たちがいる八番区には星一つの初級迷宮が複数存在していた。語り手はその中でも最も近い曙の野原を目指し、ルイーザに記してもらった地図を頼りに、途中にある傭兵斡旋所へ立ち寄った。
傭兵斡旋所の副所長レイラとの出会い
傭兵斡旋所では、眼帯をつけた赤毛の女性レイラが応対した。彼女はいかにも屈強な女戦士という風貌で、初級探索者である語り手が一人でここまで来たことを評価していた。一方で、探索者になりたての者は小動物系の魔物の攻撃ですら致命傷になり得ると警告し、少なくともレベル3になるまでは一撃も受けるべきではないと忠告した。語り手はその言葉から、この世界では死が極めて身近なものであることを改めて実感していた。
傭兵選びとリザードマンの事情
語り手がルイーザから渡された銅の傭兵チケットを見せると、レイラは副所長として案内を引き受け、傭兵の一覧を示した。語り手は前衛役としてリザードマンを希望したが、体格のよい男の個体は出払っており、残っていたのは女の個体だけであった。しかもそのリザードマンは戦士ではなくローグであり、前衛と後衛の中間に位置する中衛向きの職であった。盾や弓も扱える万能型ではあったが、特化した戦士ほどの安定感はないため、人気が低く残っていたのである。それでもレイラは、レベル3で若く、命令をよく聞く点では初心者向きだと説明し、語り手はその個体を雇うことに決めた。
亜人の正体と雇用の現実
やがてレイラが連れてきたリザードマンは、語り手の想像していた蜥蜴型の怪物ではなく、人間の女性が蜥蜴の頭部装備と蜥蜴革の装備を身につけているような姿をしていた。レイラは、亜人とは迷宮で魔物に倒された人間が変化した姿であり、死者の蘇生ができないとされる理由の一端でもあると説明した。亜人は隷属印によって命令に従う存在とされていたが、戦闘時には本能に基づいて動き、自衛も行うという。語り手はこの説明に戸惑いながらも、誓約書に署名し、亜人に危害を加えないことを約束した。
テレジアとのパーティ結成
契約が成立すると、ライセンスの表示が自動的に切り替わり、パーティページに語り手と傭兵の情報が記載された。語り手の職業名は相変わらず判読できなかったが、傭兵の名はテレジアであり、職業はローグ、レベル3と表示されていた。語り手はさらに隊列ページを開き、自分を後衛、テレジアを前衛から中衛寄りの位置に配置した。完全な前衛固定にはせず、まずは自分の支援防御がどのように働くかを間近で確かめるつもりであった。
無言の仲間との最初の接触
語り手はテレジアに自己紹介し、右手を差し出して握手を求めた。テレジアは少し遅れて応じたが、握り返す力は強く、語り手はそれを頼もしさとして受け取った。無表情で無言のままではあったが、今の語り手にとっては彼女が唯一の仲間であり、共に迷宮へ向かう存在となっていた。
探索前の注意と五十嵐課長への懸念
レイラは、傭兵は危険に陥ると自動的に斡旋所へ転移して帰還する仕組みであり、それを悪用すればカルマが上昇すると注意した。さらに、少し前に単身で迷宮へ向かった女性がいたと語り、もし知り合いなら見かけたときに声をかけてやるよう勧めた。語り手はそれが五十嵐課長かもしれないと案じたが、まずは自分のパーティの戦力を見極めることが先決だと考えた。
初めての迷宮への決意
こうして語り手は、テレジアを伴って初級迷宮へ向かい始めた。彼女の表情は読めなかったが、今は唯一の仲間であり、何とか二人とも無傷で戻ることを目標に、語り手は初めての迷宮探索へと足を進めていた。
五 武器商人
初級迷宮前の賑わいと武器の支給
星一つの迷宮はいくつか存在していたが、初級探索者が最初に訪れる場所は曙の野原と慣習的に決まっていた。語り手が傭兵斡旋所を出て進むと、迷宮の入口らしい大階段の周囲には人が集まり、遺跡の観光地のような雰囲気すら漂っていた。そこでは若い探索者から、武器を持っていないなら露店で一つ無料で受け取れると教えられた。語り手はその言葉に従い、武器商人の露店へ向かっていた。
スズナとエリーティアの姿
露店の近くには、スズナとエリーティアの姿もあった。エリーティアはスズナを武具の露店に案内し、装備の説明を受けさせていた。語り手はその様子を見かけたが、自分は自分で装備を整える必要があると考え、別の露店へ向かっていた。
商人マドカとの出会い
語り手に声をかけてきた露店商は、意外にも日本人らしい若い少女であった。彼女は篠乃木円と名乗り、実家がスポーツ用品店だった経験から商人の職を希望し、この場所で武器を扱っていた。迷宮国では日本人だけでなく他国の人間も多く、ライセンスがあれば言葉の壁なく会話できることを、彼女は楽しそうに語っていた。語り手は探索者だけでなく、この町で支援者として暮らす道もあるのだと改めて知っていた。
後衛に適した武器の選択
マドカは語り手の職業に合わせて武器を見繕おうとしたが、語り手の職業はどの武器にも適応できるらしく、彼女を驚かせていた。語り手は剣を選ぶことも考えたが、後衛として立ち回ることを意識し、最終的にスリングショットを選んでいた。それは頑丈な木製のパチンコのような武器であり、技能がなくても装備できるうえ、手に持つと自然と扱い方が理解できる感覚があった。語り手は、支援を主とする自分には遠距離から使える武器の方が合っていると判断していた。
迷宮素材を持ち帰るための準備
マドカは無料武器とともに、迷宮で得た素材を入れる革袋も渡した。補充分の弾は実費になるため、今後は迷宮で弱い魔物を倒して素材を持ち帰り、それを売って弾代を稼ぐ必要があると説明した。語り手は、大型の魔物を倒した場合には持ち帰る素材を選ぶ必要も出てくると考え、この世界では探索だけでなく、戦利品の運搬方法も重要になるのだと感じていた。
名前の呼び方に残る前世の感覚
語り手は改めて名乗り、露店商の少女の名が篠乃木円であることを知った。迷宮国では日本人も名前を先に名乗ることが多いため、日本式の姓名の順で名乗ることに互いに少し懐かしさを覚えていた。語り手は彼女をどう呼ぶべきか迷い、名前で呼ぶことにまだぎこちなさを感じていた。前世での人間関係の感覚が、こうした小さな場面にも残っていたのである。
迷宮入口の案内人リヴァルとの会話
武器を整えた語り手は、テレジアを伴って迷宮入口に近づき、案内人らしい壮年の男リヴァルに声をかけられた。リヴァルは初級迷宮で動けなくなった探索者を救助することを副業としており、自身も探索者であった。探索だけでなく支援者として活動しながらも、探索者であり続ける道があると語ったことで、語り手は探索者としての生き方に幅があることを知っていた。
経験値と危険の現実
語り手が質問しようとすると、リヴァルは先回りするように、高レベル探索者に守られていても戦闘に貢献しなければ経験値は十分に入らないと説明した。語り手はその情報を得たうえで、自分が本当に知りたかった、技能説明にある十ポイントの被害とはどの程度なのかを尋ねた。するとリヴァルは、現実の痛みを数字で完全には測れず、自分の生命力表示と敵の攻撃の感覚から把握するしかないと答えた。そして、曙の野原一層に出るワタダマという雑魚なら、備えをして受ければ素人でも死なずに済む数少ない相手だと教えていた。
初心者たちへの不安と新たな目的
リヴァルは語り手を慎重な新人と見て、自力で帰還できる可能性は高いと評価しつつ、危険な状況を見たらすぐ救援を呼ぶよう勧めた。そのやり取りの後、周囲の救援役たちが、先ほど初心者を組み入れて潜っていったパーティについて不安を口にしていた。そのパーティは以前にも名前つきと呼ばれる強力な魔物に遭遇した際、初心者を置き去りにして逃げたことがあったという。語り手はそれを聞き、ギルドで見かけた者たちのことを思い出していた。
知人たちを生き残らせたいという思い
語り手は、同時に転生してきた五十嵐課長やスズナたちも、この迷宮のどこかに潜っている可能性を思い浮かべていた。無茶はできないものの、顔を知る者たちには生き残ってほしいという思いが強まり、それまでの探索目的に加えて、可能であれば彼らの無事も確かめたいという新たな目的を胸に抱いていた。
六 支援防御
曙の野原での初戦
語り手はテレジアを伴い、長く緩やかな階段を下っていった。すると途中から階段は草に覆われ、地下に潜っていたはずにもかかわらず、目の前には光に満ちた野原が広がっていた。それが曙の野原であり、都市の地下とは思えない広大な空間であった。ライセンスには周辺地形を示す地図も表示され、迷宮が常識を超えた構造を持つことを語り手は実感していた。
ワタダマとの遭遇
周囲を警戒しながら進む中、テレジアが不意に立ち止まり、武器と盾を構えた。草むらの陰から現れたのは、ワタダマと呼ばれるレベル1の魔物であった。見た目はぬいぐるみのように愛らしかったが、警戒状態に入っており、次の瞬間には猛烈な勢いでテレジアへ体当たりを仕掛けてきた。その一撃は凄まじく、最弱の雑魚と聞いていた語り手の認識を一瞬で覆すほどの威力であった。
支援防御の初使用
最初の攻撃でテレジアは盾によって衝撃の大半を防いだものの、生命力は確実に削られていた。語り手は後衛としての技能を活かすべき場面だと判断し、次の攻撃に合わせて支援防御1を発動した。すると、再び飛びかかってきたワタダマは、テレジアに届く直前で何かに弾かれたように跳ね返され、まるで透明な障壁が彼女を守ったかのような結果となった。技能は確かに効果を発揮し、語り手は自分の職業の力を初めて実感していた。
テレジアとの連携による撃破
支援防御で好機を作った語り手は、テレジアの陰から飛び出し、スリングでワタダマを撃ち抜いた。その一撃で魔物の動きが止まると、テレジアがすかさず肉薄して剣を振るい、とどめを刺した。こうして語り手とテレジアは初めての戦闘でワタダマを一体討伐することに成功した。語り手は自分の攻撃が実戦でも通用することに驚きつつ、無言ながらも確かな連携を見せたテレジアの頼もしさを感じていた。
支援防御の有効性の確認
戦闘後、語り手はテレジアの傷を気遣い、一度迷宮の外に出ることも考えたが、テレジアは首を振ってまだ続行可能であることを示した。その様子を確認した語り手は、支援防御によって二度目の攻撃では彼女の生命力が減っていないことに気づいた。ワタダマの攻撃は十ポイント以下であり、支援防御1で完全に防げた可能性が高かった。技能の真価を見極めるにはさらなる検証が必要であったが、少なくとも雑魚相手には大きな効果があると分かり、語り手は今後の戦い方に手応えを得ていた。
狩場の見通しと次の危機
語り手はワタダマの死体をそのまま革袋に収め、換金効率次第ではこの迷宮一層をしばらく狩場にできるかもしれないと考えた。そうして次の獲物を探そうとした矢先、遠くから女性の悲鳴と男の絶叫が響いた。悲鳴は五十嵐課長のものであり、もう一つはギルドで案内役を買って出ていた先輩探索者の声であった。語り手が声のした方向へ駆けつけると、そこでは探索者たちが何者かに追われて逃げており、逃げ遅れた新人男性の背後には、通常とは異なる真っ赤なワタダマが迫っていた。語り手は新たな危機が始まったことを悟っていた。
七 「後衛」の本領
レッドフェイスの猛攻と課長の奮戦
赤いワタダマであるレッドフェイスは、通常個体よりも一回り大きく、速度も明らかに上回っていた。逃げる探索者たちの最後尾にいた新人男性は逃げ切れず、レッドフェイスはブーメランダイブを発動して一瞬でパーティ全員を薙ぎ払った。先輩探索者たちは帰還の巻物で離脱したが、五十嵐鏡花だけはその場に残り、サンダーボルトを撃ち込み、さらにブリンクステップで攻撃を回避して応戦していた。
五十嵐鏡花の危機と語り手の怒り
五十嵐鏡花は語り手たちを逃がそうとしてレッドフェイスの注意を引きつけたが、語り手のスリングの攻撃はまったく通じなかった。レッドフェイスは再び五十嵐鏡花を標的にし、彼女は最後の力で槍を振るって大技を止めようとしたものの、攻撃は通らず、逆に体当たりを受けて吹き飛ばされた。語り手は、その姿を見てようやく自分が彼女から距離を置こうとしていたことと、彼女が自分を守ろうとしていた事実に向き合い、強い怒りと後悔を抱いていた。
テレジアとの共闘の決意
語り手はこのまま何も変わらず終わるわけにはいかないと覚悟を決め、テレジアに力を貸してほしいと頼んだ。これから取得する支援攻撃1を活かし、二人で切り抜けるしかないと判断したのである。テレジアは離脱せず、語り手の言葉に頷き、アクセルダッシュを発動して一気に前へ出た。それは、まだ息のある五十嵐鏡花を守るための突撃であった。
「後衛」の本質の発見
その瞬間、語り手は自分の職業の本質に気づいた。前にいるパーティメンバーすべてが支援対象になるなら、距離が離れていても支援防御は届くはずだと理解したのである。語り手がテレジアに向けて支援防御を発動すると、レッドフェイスのブーメランダイブは完全に防がれた。通常のワタダマよりはるかに強い攻撃であっても、テレジアの防御と支援防御の重なりによって無効化できたことで、語り手は後衛の技能が広域支援として機能することを確信していた。
支援攻撃による逆転
レッドフェイスの大技を防いだことで隙が生まれると、語り手は続けて支援攻撃1を発動し、テレジアの攻撃に不可視の追撃を重ねた。テレジア自身の斬撃は通らなくとも、支援ダメージ十だけは確実にレッドフェイスに通っていた。さらにテレジアが連続で斬りつけるたび、支援攻撃が重なってダメージを与え続け、ついにはレッドフェイスの討伐に成功した。語り手もこの戦闘でレベルアップを果たしていた。
救援要請と五十嵐鏡花の重傷
勝利の余韻に浸る間もなく、語り手はテレジアに迷宮の外へ出てリヴァルを呼ぶよう命じ、自分は倒れている五十嵐鏡花のもとへ向かった。彼女は強い打撃を受けて腕が赤く腫れ、骨折している可能性もある重傷であった。苦しむ彼女を前に、語り手は転生前のやりとりを思い返しながらも、今は救うことだけを優先しようとしていた。
支援回復の取得と応急処置の準備
レベルアップによって得たスキルポイントを、語り手は迷わず支援回復1に割り振った。しかしその技能を使うためには、五十嵐鏡花をパーティに加える必要があった。語り手が事情を説明すると、五十嵐鏡花は意識が薄れたままでもかろうじて頷き、意地を崩さずに変なことをしたら訴えると告げた。語り手は彼女をパーティに加えたうえで、回復のために自分が後衛となる位置関係を作ろうとし、彼女の上半身を支えて後ろから抱えるような体勢を取った。そして、三十秒ごとに発動する支援回復で彼女の体力が戻ることを、長く感じながら待ち続けていた。
八 第一回探索終了
支援回復の有効性の確認
語り手は、これまでの戦闘で得た感触から、支援回復1も初級探索者にとって有用な技能であると考えていた。そして三十秒が経過すると、その予想どおり技能が発動し、五十嵐鏡花の体力が大きく回復した。七割ほど減っていた赤いバーは一気に五割近く戻り、荒れていた呼吸も落ち着き、赤く腫れていた腕の状態もかなり改善していた。語り手はこの結果から、レベル1の探索者にとって三十秒ごとに五ポイント回復する効果は極めて大きいと判断していた。
五十嵐鏡花の搬送と職業の秘匿
体力は回復したものの、五十嵐鏡花は激痛のショックから意識を失っていたため、状態異常や意識そのものまでは支援回復では治せないことも明らかになった。その後、語り手は倒したレッドフェイスを革袋に収めたが、袋はそれだけでいっぱいになってしまった。そこへテレジアが呼んできたリヴァルたちが到着し、五十嵐鏡花は担架で治癒師のもとへ運ばれていった。道中、リヴァルに何があったのかを問われた語り手は、バドウィックのパーティが帰還の巻物で逃げたことだけを伝え、自分がレッドフェイスを倒したことや、自身の特殊な職業については伏せることにした。職業の特異性が広まれば、余計な注目を集める危険があると考えたためであった。
「後衛」の課題と今後の見通し
語り手は今回の戦闘を通じて、自分の職業には明確な弱点もあると理解していた。支援は味方にしか及ばず、自分自身は守れないため、隊列や敵の位置次第では簡単に倒されかねないのである。そのため、側面や背後からの攻撃に対応する技能や、敵の狙いを前衛に集中させる技能が今後必要になると考えていた。一方で、前衛が攻撃し、後衛が支援する形さえ整えば、初級迷宮の攻略自体は十分可能であるという手応えも得ていた。また、現在は十ポイントという数値が有効でも、今後敵の強さが増せば不足する可能性があるため、支援防御や支援攻撃の上位技能の存在にも期待していた。
エリーティアとスズナとの再会
迷宮を脱出する途中で、語り手はエリーティアとスズナの二人に再び出会った。彼女たちはレッドフェイスとの戦闘そのものは知らなかったが、周囲の緊迫した空気からただ事ではないと察し、語り手に駆け寄ってきた。語り手が名前つきが現れたと説明すると、エリーティアは赤いワタダマの危険性を詳しく語り、それを生き延びたことを驚いていた。しかし途中で詮索しすぎたことに気づき、無事を喜ぶべきだと考え直していた。語り手は赤いワタダマはもう出ないと伝え、二人を安心させようとしていた。
後衛としての可能性への関心
エリーティアは五十嵐鏡花の体力が回復していることに気づき、貴重なポーションを使ったのかと尋ねた。しかし語り手がそれを否定すると、彼女は語り手の職業に思い至った様子を見せた。回復と援護の両方をある程度こなせる後衛であるなら、今後大きく伸びる存在になるだろうと評価していた。語り手はその反応から、もし自分の職について詳しく話せば、エリーティアからパーティへの勧誘を受ける可能性があると感じていた。また、彼女が後衛を求める理由や、スズナが将来直面するかもしれない危険についても気にかけていたが、今は五十嵐鏡花のことが優先であると判断し、その場では深追いしなかった。
スズナとの交流と別れ
別れ際、スズナは同じ日本から来た転生者と話せたことを喜び、またどこかで会ったら話してほしいと語った。語り手もそれに応じ、再会を望んでいることを伝えた。転生したばかりで不安を抱えているのは皆同じであり、その短いやり取りには互いの心細さと安堵がにじんでいた。スズナは何度も頭を下げ、エリーティアと共にその場を去っていった。
テレジアとの関係の変化
二人と別れたあと、語り手は待っていたテレジアの様子がどこか以前と違って見えることに気づいた。言葉を発しない彼女は相変わらず静かに見つめ返してくるだけであったが、語り手が明日も傭兵チケットを使うので一緒に来てくれるかと尋ねると、しばらく間を置いたあとで頷いた。その反応から、語り手はテレジアが明日も同行する意思を示したのだと受け取り、短いながらも確かな関係の変化を感じていた。
初探索の成果
こうして語り手はテレジアとともにリヴァルたちを追って迷宮の外へ戻った。今回の探索では、曙の野原一階層への侵入、ワタダマの討伐、賞金首レッドフェイスの討伐によって大きな成果を得ていた。語り手自身もレベル2へ上がり、さらにテレジアと五十嵐鏡花からの信頼度も上昇していた。探索者貢献度は二百八十に達し、初めての探索としては予想以上の結果を残していた。
第二章 パーティ結成
一 信頼度
テレジアとの別れと再雇用の条件
迷宮を出た語り手は、ギルドへ戻る途中で傭兵斡旋所に立ち寄り、テレジアを送り届けた。迎えた副所長レイラは、短時間で交戦して戻ってきたことを勇敢だと評し、テレジアには使用した武器の手入れを指示した。しかしテレジアはすぐに中へ戻ろうとせず、その場で語り手をじっと見つめていた。語り手は明日もテレジアを雇いたいと考え、チケットの追加購入について尋ねたが、傭兵は予約できず、雇用は訪問時ごとに公平に決められる仕組みであり、チケットも月に十枚までしか買えないと知らされた。
信頼度と固定加入の可能性
レイラは、亜人が雇用主を気に入ることは稀にあると語り、テレジアも語り手に対してそのような反応を示しているのではないかと見ていた。本来、亜人に好かれるのは魔物使いのような職に限られることが多いが、例外もあるという。語り手はそこで、ライセンスに表示されていた信頼度の上昇を思い出し、自分の支援行動やパーティ結成が関係しているのではないかと考えた。さらにレイラは、信頼を得た亜人であれば固定メンバーとして加入させることも可能であり、そのためには隷属印を語り手を主人とするものへ変更し、銅の傭兵チケット百枚分に相当する代価を払う必要があると説明した。
テレジアを仲間にしたいという決意
百枚という数字は大きかったが、語り手は高すぎるとは感じなかった。しかし月ごとの購入制限がある以上、実際には長い時間が必要になるうえ、その間に継続的に雇うことも難しいと分かった。それでも語り手は、たった一度同行しただけで、テレジア無しでは理想のパーティを考えられないほど強い相性を感じていた。前衛か中衛を任せられる彼女がいれば、将来的に後衛や他の前衛も勧誘しやすくなり、理想の編成に近づけると考えた語り手は、できるだけ早くチケット百枚を用意するとレイラに告げていた。
リヴァルとの再会と課長への助言
傭兵斡旋所を出てギルドへ向かう途中、語り手はリヴァルと再会した。リヴァルは五十嵐鏡花を治癒師に預けてきたことを伝え、帰還の巻物は高価なうえに探索者貢献度が大きく減点されるため、救助に使うにも負担が大きいと説明した。また、帰還の巻物で逃げたバドウィックのパーティは、おそらく序列を落としているだろうとも語った。さらにリヴァルは、明日も曙の野原に潜るなら、五十嵐鏡花をパーティに誘ってやるべきだと勧めた。ヴァルキリーは前衛にも後衛にも特化していないため、初級段階では評価されにくく、彼女はパーティに入れず単独行動していたのではないかという見立てであった。
五十嵐鏡花への見方の変化
語り手は、転生前には五十嵐鏡花に強い苦手意識を持っていたが、今回の一件でその感情は少し変わっていた。彼女は危険を承知で逃げず、レッドフェイスに立ち向かって語り手たちを守ろうとした。その姿を見たことで、苦手意識よりも感謝が上回り始めていた。語り手は、彼女を一人にしておくのは危険だと感じつつも、今さら自分から誘えば不自然に思われるのではないかと迷っていた。そんな語り手に対し、リヴァルは転生後は本音で話せるようになる者も多く、自分を守ってくれた相手を嫌い続けるのは難しいと笑って言い残し、語り手を励まして去っていった。
ルイーザへの報告
考え込みながらギルドに着くと、ルイーザが語り手の姿を見つけて駆け寄ってきた。五十嵐鏡花が意識を失った状態で運ばれてきたため、語り手も無事ではないのではないかと心配していたのである。語り手は自分が無傷であることを伝え、それはルイーザが渡してくれた傭兵チケットのおかげだと礼を述べた。ルイーザは恐縮しながらも安堵していたが、語り手は彼女にだけは事情を知っていてほしいと考え、周囲に聞かれないよう耳を貸してほしいと頼んだ。
レッドフェイス討伐の開示
語り手はルイーザに対し、小声でレッドフェイスを倒したことを打ち明けた。ルイーザはその言葉に大きく動揺し、語り手の差し出した革袋の中身を見てようやくそれが事実であると理解した。驚きを隠しきれないまま周囲を警戒した彼女は、語り手を奥の個室へ案内した。語り手は、これから自分の職業や戦果についてどのような評価が下るのかを半ば期待しながら、レッドフェイスの収穫物を持ってルイーザの後に続いていた。
二 探索の報酬
探索の報酬
貢献度評価と賞金首討伐の証明
語り手はルイーザに個室へ案内され、探索記録の確認を受けた。提示されたライセンスの内容を見たルイーザは、貢献度二百八十という数値に驚愕し、さらに賞金首レッドフェイスの討伐が事実であることを確認して強い感動を示した。自身の現役時代の最高貢献度を大きく上回る成果に、語り手の未知の職業の力によるものだと確信していた。
語り手は革袋からレッドフェイスの死骸を取り出して提示し、討伐の証拠として認められたことで、今回の成果が正式に評価されることとなった。
討伐の秘匿とギルドの対応
語り手は、自分たちがレッドフェイスを討伐した事実を他者に広めないようルイーザに依頼した。低レベルでの討伐は異常であり、実力が知られれば利用される危険があると判断したためである。ルイーザはその意図を理解し、討伐者の名前は伏せつつ、討伐された事実のみを後日公表する方針を示した。これにより語り手は不要な注目を避けつつ活動を続けられる状況を得た。
報酬とその価値
レッドフェイス討伐の報酬として、語り手には金貨二十枚が支給された。これは銅貨二千枚に相当し、食堂での食事価格と比較すると長期間の生活費に匹敵する額であった。語り手は一部を銅貨で受け取り、残りを口座へ振り込む形を選択した。また、討伐した魔物の素材も所有権が認められ、保存用の袋により一定期間は劣化しないことも説明された。
信頼度の異常な上昇
語り手はライセンスに表示された「信頼度」について質問し、その数値がパーティ内の関係性を基に評価される仕組みであることを知った。通常は数ポイント程度しか上昇しないはずであるが、語り手の場合は短時間で五十もの増加を記録しており、ルイーザはこれを異例と判断した。特に傭兵であるテレジアとの間でこの数値が上昇している点は前例がなく、語り手の支援行動が極めて高い信頼を生み出している可能性が示唆された。
語り手は、自身の職業が仲間との関係を急速に深める特性を持つのではないかと考え、その影響の大きさに戸惑いを覚えていた。
序列と生活環境の変化
今回の成果により、語り手の序列は大きく上昇し、八番区内で上位に位置することとなった。その結果、宿泊先としてスイートルームが割り当てられるなど、生活環境は大幅に改善された。一方で、同じく転生した五十嵐鏡花は戦闘不能となり救助されたため、貢献度がゼロとなり、退院後は馬小屋での生活を余儀なくされる状況となった。
五十嵐鏡花への対応の葛藤
語り手は五十嵐鏡花が厳しい待遇を受けることを知り、その事実を伝える役目を引き受けるべきか悩んでいた。ルイーザは、語り手のスイートルームに彼女を泊めるという選択肢を提案したが、語り手はそれを実行できるかどうかに強い戸惑いを抱いていた。前世での関係性と現在の状況が重なり、語り手は彼女との距離の取り方に葛藤を深めていた。
三 ヴァルキリー
医療所での再会と容態確認
語り手は医療所を訪れ、受付で五十嵐鏡花の病室を確認し、面会の許可を得て中へ入った。彼女は応急処置用のベッドで眠っており、顔色はやや青白いものの穏やかな状態であった。しばらくして目を覚ました五十嵐鏡花は、自身が生き延びたことを確認しつつ、戦闘の記憶を辿り始めた。
戦闘の認識と語り手への評価の変化
五十嵐鏡花は、自身が気を失った後の状況から、語り手と仲間によってレッドフェイスが討伐された可能性に思い至った。普段であれば信じなかったであろう事実も、今回に限っては受け入れ、語り手の存在が自分の生存に繋がったと認めた。さらに、成功を過小評価する語り手に対し、自信を持つよう諭すなど、これまでとは異なる柔らかな態度を見せていた。
自己反省と関係の修復
五十嵐鏡花は、自身がこれまで語り手を都合よく扱っていたことを自覚し、その傲慢さを認めて謝罪した。一方で語り手は、彼女が危険な状況でも逃げずに戦ったことに感謝を示し、その姿勢を格好良いと評価した。この相互理解により、二人の関係は前世の上下関係から対等な立場へと変化していった。
職業ヴァルキリーの評価と将来性
語り手は五十嵐鏡花の職業であるヴァルキリーについて、現時点では扱いが難しいが、将来的には強力になる可能性を示唆した。さらに自身の職業の特性として、条件が整えば高い戦闘力を発揮できることを説明し、その前提としてパーティ編成の重要性を説いた。
パーティ勧誘と承諾
語り手は自らがリーダーとなる方針を示し、五十嵐鏡花にパーティ参加を提案した。彼女は一度ためらいを見せたものの、命を救われたことと語り手の誠意を受け入れ、最終的に参加を承諾した。これにより、二人は正式にパーティメンバーとしての関係を築くこととなった。
呼称の変化と関係の再定義
五十嵐鏡花は、語り手に対して「課長」という呼び方を改めるよう求め、対等な関係として接する姿勢を示した。語り手もこれを受け入れ、「五十嵐さん」と呼ぶことで、新たな関係性を明確にした。これまでの職場での上下関係は解消され、互いに協力する仲間としての立場が確立された。
宿泊問題と同居の提案
五十嵐鏡花は貢献度ゼロのため低い序列に置かれ、馬小屋での宿泊を強いられる状況にあった。語り手はこれを回避するため、自身のスイートルームへの仮宿を提案した。五十嵐鏡花は戸惑いながらもこれを受け入れ、二人は共に宿舎へ向かうこととなった。
新たな関係の始まり
語り手は、これまで鬼上司として認識していた五十嵐鏡花の素の姿に触れ、彼女を一人の人物として受け入れるようになっていた。一方の五十嵐鏡花も、語り手を頼れる存在として認識し始めていた。こうして二人は、探索者としての新たな関係と共同生活の第一歩を踏み出した。
四 必需品
着替えの必要と服屋での買い物
五十嵐鏡花は、異世界に来てまだ半日ほどしか経っていないものの、同じ服のままでいることに強い不便を感じていた。退院手続きを終えたあと、二人は宿へ向かう途中で服屋に立ち寄り、五十嵐鏡花は必要な衣類を選び始めた。語り手は、女性にとって着替えが必需品であることに改めて気づき、自分がその点に思い至っていなかったことを詫びていた。
迷宮素材と生活用品の関係
二人は、迷宮国で流通している衣類や生活用品の多くが魔物素材によって支えられていることも確認していた。ワタダマの毛は服を作るために大量に必要とされており、それが安定した換金対象になっている理由でもあった。魔物に襲われながら、その素材に生活を支えられるという状況に五十嵐鏡花は複雑な感想を抱いていたが、この世界ではそれに慣れていくしかないとも受け止めていた。
女性同士の距離感と会話の変化
買い物の最中、語り手が女性の衣類に関することを率直に口にしてしまい、五十嵐鏡花はそういうときは察しても口に出さないようにとたしなめた。しかし彼女は本気で怒ったわけではなく、これからパーティを組むのだから少しずつ慣れていけばよいと伝えていた。語り手もすぐに謝ったが、五十嵐鏡花は以前のように厳しく咎めることはなく、むしろそのやり取り自体を楽しんでいるようであった。
会社では話せなかった私的な会話
二人は、転生しなければ仕事以外の話をする機会などなかっただろうと振り返っていた。会社では私語をするとすぐ噂になる環境であり、以前に二人だけで残業したことすら上から注意されたことがあったと五十嵐鏡花は明かした。その流れで、社長との関係についての噂にも話が及び、彼女は自分が社長に引き立てられたのは事実だが、それは個人的に目をつけられて便利に使われようとしていただけであり、親密な関係だったわけではないと否定していた。
五十嵐鏡花の事情と謝罪
さらに五十嵐鏡花は、自身が語り手に多くの仕事を振っていた背景についても打ち明けた。社長からの執拗な働きかけに悩まされていたうえ、家庭でも親に勝手に決められた相手との結婚を迫られており、精神的に追い詰められていたのだと語った。父親の会社の事情も絡み、自分の意思とは無関係に将来を決められそうになっていたことに、彼女は強い苦痛を抱えていた。そのうえで、現場経験のある語り手に頼りきっていたことを認め、本当に申し訳なかったと改めて謝罪していた。
語り手への評価の変化
五十嵐鏡花は、会社では語り手のような人こそ上に立つべきだと思っていたと告げた。語り手は自分は裏方向きだと返したが、彼女はこの世界ではむしろ語り手のように人の話を聞き、滅多に怒らず、周囲を支えられる人物の方がリーダーにふさわしいと評価していた。転生後の経験を通じて、彼女の中で語り手を見る目が大きく変わっていたことがうかがえた。
資金の貸与とパーティとしての支え合い
買い物を進めるうちに、五十嵐鏡花は選びすぎてしまい、手持ちの金で足りるか不安を見せた。語り手は銀行から下ろしてくることもできると申し出たうえで、必要ならさらに金を貸すと提案した。すでに五十枚を貸していたにもかかわらず、まだ余裕があると語る語り手に五十嵐鏡花は驚きつつも、返済の負担を考えて追加は三十枚でよいと遠慮していた。語り手は今後、パーティ資金を共有しつつ配分していく形も考えられると感じていた。
自分の準備不足への気づき
五十嵐鏡花の会計を見送ったあと、語り手は自分自身の着替えをまだ買っていなかったことに気づいた。探索用の装備だけでなく、宿で休むための衣類も必要であり、生活を整えるうえで自分にも揃えるべき必需品があることをようやく意識していた。
五 「後衛」の定義
宿舎での共同生活と距離の変化
語り手と五十嵐鏡花は宿舎に到着し、同じ部屋で生活を始めた。部屋は広く設備も整っており、二人は互いに気遣いながら共同生活に順応しようとしていた。会話の中でも五十嵐鏡花の態度は柔らかくなっており、以前よりも距離が縮まっている様子が見て取れた。
食事と情報共有による関係構築
夕食の場では、迷宮での出来事や今後の方針について話し合われた。五十嵐鏡花は語り手の戦闘方法に興味を示し、翌日の探索で詳細を聞くことを楽しみにしていた。また、周囲の探索者の会話から新たな脅威の存在も示唆され、二人の行動に慎重さが求められる状況が浮き彫りとなった。
「後衛」という位置関係の違和感
就寝時、五十嵐鏡花は語り手に背を向けて寝るよう求めた。語り手はその理由を考える中で、単なる心理的な問題ではなく、「前衛」と「後衛」という位置関係が影響している可能性に思い至った。自分が彼女の後方にいることで、無意識のうちに何らかの効果が発生しているのではないかと疑念を抱いた。
支援回復の常時発動という仮説
語り手は、自身の技能である「支援回復1」が、戦闘時だけでなく日常でも発動している可能性を考察した。もし後方にいるだけで効果が持続するならば、睡眠中であっても回復が続くことになり、それが五十嵐鏡花の違和感の原因である可能性があった。しかしライセンスには外での記録が残らないため、確証を得ることはできなかった。
後衛の本質に対する気づき
この一連の出来事を通じて、語り手は「後衛」という職業の本質が単なる戦闘配置ではなく、位置関係そのものに意味を持つ可能性に気づいた。戦闘中だけでなく、空間的に後ろにいるという状態そのものが支援効果を生むとすれば、「後衛」は常時発動型の支援職である可能性があった。この仮説は確定ではないものの、今後の戦い方やパーティ運用に大きな影響を与える重要な示唆となっていた。
六 希少素材
傭兵再雇用と再出発の準備
語り手と五十嵐鏡花は翌朝、再び傭兵斡旋所を訪れ、テレジアを再雇用した。連携の良さを重視し、他の前衛ではなくテレジアを選択したことで、昨日の戦闘で築いた信頼関係を活かす方針を固めた。また、食料や装備の準備についても確認し、より長時間の探索に備える体制を整えた。
魔物解体所での素材処理
三人は魔物解体所を訪れ、前日の戦闘で得たワタダマとレッドフェイスの処理を依頼した。店主ライカートンと娘メリッサは、素材の価値を見極めるとともに、「名前つき」の魔物から得られる素材が希少であることを示した。特にレッドフェイスは高額買取も可能であり、重要な資源であると判明した。
レッドフェイス素材の特性と価値
レッドフェイスの素材には、炎を操る特殊な性質があり、加工によって「ブレイズ」系の能力を持つ武器を作ることができると説明された。また、防具に加工すれば炎耐性を付与できるため、単なる換金以上の価値を持つ戦略資源であることが明らかとなった。
換金ではなく加工を選択
語り手は高額での売却ではなく、素材の加工を選択した。今後の戦闘を見据え、パーティ全体の戦力強化を優先した判断である。レッドフェイス一体から複数の装備を作れる可能性があるため、効率よく強化を進める好機と捉えた。
装備強化によるパーティ戦力向上
具体的には、テレジアの盾を耐炎仕様に改良し、五十嵐鏡花には防御力の高いスカーフを用意し、語り手自身のスリングショットも改造する方針を決定した。これにより、前衛・中衛・後衛それぞれの防御と攻撃のバランスを強化し、今後の探索に備える体制が整えられた。
次なる行動への移行
加工には時間が必要なため、その間に武具屋へ向かうこととなった。迷宮で得た成果を即座に次の行動へと繋げることで、探索者としての成長と効率的な強化を同時に進める流れが形成された。
七 武具の新調
迷宮前での出会いとミサキの動向
語り手たちは迷宮入口で、探索者たちを送り出す少女ミサキと出会った。彼女は複数の男性探索者と行動していたが、効率やリスクを考えて離脱する意向を示し、最終的にスズナとエリーティアのもとへ向かった。軽い調子で行動する姿勢に対し、語り手は不安を覚えつつも、自らのパーティ方針として自然な信頼関係を重視する姿勢を再確認した。
武具商マドカとの再会
三人は露店の武具商である篠乃木円と再会し、前日の戦闘について報告した。彼女は「名前つき」との遭遇に強い危機感を示しつつ、無事を喜んだ。その後、語り手は武具の新調を依頼し、より上位の装備を整える段階へと進んだ。
五十嵐鏡花の武器選択
五十嵐鏡花は複数の槍系武器の中から、盾と併用できるランスを選択した。前衛としての運用を見据えた選択であり、将来的により適した役割の仲間が加われば武器を変更する柔軟性も残された。これにより、パーティ内での役割分担の基礎が形成された。
防具の整備と役割の明確化
五十嵐鏡花にはブロンズブレストや具足などの防具が用意され、外見と実用性の両面で前衛としての装備が整えられた。語り手自身も軽装防具を整え、後衛としての立ち回りを前提とした装備を選択した。一方でテレジアの装備は変更できず、亜人としての特性が制約となっていることが改めて確認された。
加工装備の受領と戦力強化
魔物解体所に戻った語り手たちは、レッドフェイスの素材を用いた装備を受け取った。スリングは炎属性を付与した「ブレイズショット」となり、テレジアの盾は耐炎性能を持つ「レッドバックラー」、五十嵐鏡花には防御力を高める「レッドスカーフ」が用意された。これにより、攻撃・防御ともにパーティ全体の性能が大きく向上した。
収納問題の解決と今後の展望
さらに解体所から大容量のナップザックが提供され、素材運搬の問題も解消された。これにより探索効率が向上し、より多くの戦果を持ち帰る基盤が整った。また、二層に出現する未討伐の「名前つき」の存在が示され、語り手は次なる強敵との遭遇を視野に入れながら、新装備の性能を確かめる準備を進めた。
八 新しい陣形
新しい陣形での探索開始
探索の準備を整えた語り手たちは、携帯食料を買い込んだのち、二度目の探索へ向かった。迷宮入口ではリヴァルに見送られ、語り手は五十嵐鏡花とテレジアの二人を前衛に置く新しい陣形を試すことにした。まだ前衛と中衛を厳密に分ける必要はないと判断し、まずは二人に前へ出てもらう形で戦闘の感触を確かめようとしていた。
五十嵐鏡花への支援と陣形の手応え
迷宮に入って間もなく、テレジアがいち早くワタダマの接近を察知した。語り手はまず、支援防御が指定した相手だけに働くのかを確認するため、五十嵐鏡花を対象に技能を発動した。するとワタダマの体当たりはあっさり防がれ、その直後に五十嵐鏡花の突きへ支援攻撃が重なって、ワタダマは一撃で倒された。語り手は自分が後方にいるだけでも支援が成立することを改めて確認し、五十嵐鏡花もまた、その爽快感に強く高揚していた。
支援を受けた五十嵐鏡花の高揚
戦闘後、五十嵐鏡花は語り手の支援を受けた感覚を興奮気味に語った。前日の戦闘では何度も攻撃してようやく倒せた相手が、今回は一撃で片付いたことに大きな快感を覚えていたのである。語り手はその反応に戸惑いつつも、自分の技能が仲間に明確な恩恵と安心感を与えていることを実感し、支援役としての手応えを深めていた。
ドロップ品の発見
倒したワタダマを回収しようとした語り手は、その頭部に光る石のようなものが付いていることに気づいた。ライセンスの表示から、それが風瑪瑙というドロップ品であると判明した。ワタダマが風属性に近い性質を持つことを示す品らしく、迷宮の魔物がただの獲物ではなく、素材や鉱石の供給源でもあることが具体的に見えてきた。
複数の敵への同時支援
その後、語り手たちはワタダマに加えて、空中を飛ぶドクヤリバチとも遭遇した。ドクヤリバチは五十嵐鏡花を、ワタダマはテレジアを狙って同時に襲いかかったが、語り手が支援防御を発動すると、今度は前衛の二人全員に効果が及んだ。二体の攻撃はともに弾かれ、語り手はその隙にブレイズショットを放ってドクヤリバチに命中させた。燃焼で動きの鈍った敵に五十嵐鏡花が槍を突き込み、同時にテレジアもワタダマを倒し、二体を危なげなく討伐した。
炎属性武器の有効性
ドクヤリバチとの戦闘では、ブレイズショットによって羽が焼かれたことが決定打となり、五十嵐鏡花の攻撃が通りやすくなっていた。語り手は偶然の結果だと答えたが、五十嵐鏡花は炎属性の武器を作っておいて正解だったと評価した。レッドフェイスの素材から作った武器は、この曙の野原の魔物に対して相性が良く、探索の順調な滑り出しを支えていた。
一層での連戦と課題の見え始め
その後、語り手たちは二層の入口付近まで進みながら、ワタダマを十五体、ドクヤリバチを六体倒した。五十嵐鏡花もまだ疲れを見せず、さらにレベルを上げる意欲を見せていた。一方で、ワタダマは軽いもののかさばるため、全員の鞄を使っても持ち帰りきれないことが分かった。語り手は、今後は換金効率の良い獲物を選んで持ち帰る必要があると考え、あわせて素材の剝ぎ取りに長けた仲間の必要性も感じていた。
第三章 最初の難関
一 少女二人のパーティ
二層への到達と準備
語り手たちは一層で得た情報をもとに、大樹の間に存在する転移のような空間を通って二層へ向かう準備を整えた。階段ではなく平原の先に次の層があるという構造に戸惑いながらも、出発前に携帯食料を摂ることにした。探索では水分の重要性が高く、保存食は硬く食べにくいものの栄養を効率よく補えると理解した。
テレジアとの関係と支援効果の実感
食事中、語り手はテレジアが言葉を話せない亜人であることを改めて説明しつつ、彼女を正式な仲間にしたい意志を共有した。五十嵐鏡花は語り手の支援によって疲労が軽減されていることを実感しており、守られている感覚があると語った。語り手は自らの技能が仲間の体力回復にも作用していることを再確認し、その効果範囲や距離について検証の必要性を感じていた。
エリーティアとスズナの危機
二層に入った直後、語り手たちは戦闘音を察知し、エリーティアとスズナのパーティを発見した。彼女たちはレベル2のファングオークと複数のドクヤリバチに囲まれていたが、エリーティアは高い戦闘力でオークを瞬時に撃破した。しかし空中の敵への対処に課題があり、スズナが危険に晒される状況となった。語り手は支援と遠距離攻撃で介入し、テレジアと五十嵐鏡花と連携してドクヤリバチを撃破した。
スズナの成長方針と戦闘の問題点
戦闘後、語り手はスズナが経験値を得るために止めを任されていたことを理解したが、その方法には大きな危険が伴っていると判断した。特にドクヤリバチの毒針は致命的であり、低レベルのスズナには過大なリスクとなる。エリーティアはスズナを早く成長させる必要があると焦っていたが、そのやり方は安全性に欠けていた。
エリーティアの目的と過去
エリーティアは、自身が所属していた集団が仲間を見捨てた過去を語り、その親友を救うために単独で行動していることを明かした。探索者はやがて自分の生存を優先せざるを得なくなるという現実を認めつつも、それでも彼女は仲間を見捨てない選択をしていた。この強い意志が、無理な育成方針の背景にあった。
ミサキの失踪と新たな問題
さらに、同行していたミサキが宝箱の罠により姿を消したことが判明した。宝箱は希少でありながら罠が仕掛けられている可能性が高く、解除には専門職が必要である。彼女は階層内のどこかへ転移したと考えられ、早急な捜索が必要な状況となった。
共同パーティの提案と再編成
状況を踏まえ、語り手はエリーティアに対し一時的な協力を提案した。スズナは語り手のパーティに加入し、エリーティアは「ゲスト」として同行する形を取ることで、安全性と成長の両立を図る方針とした。エリーティアも語り手の能力を認め、この提案を受け入れた。
新たなパーティの成立
こうして語り手、五十嵐鏡花、スズナ、テレジアの四人に、エリーティアを加えた新たな編成が成立した。スズナは緊張しながらも仲間として挨拶を交わし、五十嵐鏡花はそれを温かく受け入れた。新たな仲間とともに、語り手たちはミサキの捜索とさらなる探索という課題に向き合うことになった。
二 暴君
巨大な脅威の出現
ミサキの悲鳴を頼りに進んだ語り手たちは、巨大なオークの影とその配下に捕らえられた彼女の姿を発見した。それは通常の魔物ではなく、「名前つき」と呼ばれる強敵であり、明らかに誰かの意図によって誘導された状況であった。エリーティアは責任を感じ、単独で突撃してオークの群れを瞬時に殲滅したが、その際に発動した技能「ベルセルク」によって精神状態が不安定となっていた。
暴走と絶望的戦況
オークの群れを倒した直後、さらに上位の存在である「ジャガーノート」が出現した。この魔物は物理攻撃を無効化する特性を持ち、エリーティアの攻撃すら通じなかった。反撃として放たれた咆哮により彼女は麻痺し、そのまま捕獲されてしまう。仲間たちは逃走も選択できる状況であったが、語り手はそれを拒否し、全員を救う決意を固めた。
支援による反撃の糸口
語り手は自らの攻撃が炎属性であることに着目し、ジャガーノートに対して有効であることを見抜いた。ブレイズショットにより敵を怯ませ、エリーティアの拘束を解くことに成功する。そして彼女を一時的にパーティへ組み込み、「支援攻撃」を適用可能な状態にした。これにより、物理無効の敵に対しても固定ダメージを与える手段を確立した。
連撃による撃破
語り手の指示に従い、エリーティアは高速連撃技を発動した。物理攻撃自体は無効化されたものの、支援攻撃による追撃が重なり、徐々にダメージが蓄積されていく。最終的に連続した支援ダメージが決定打となり、ジャガーノートは撃破された。圧倒的な敵を前にした戦闘は、支援能力の有効性を示す結果となった。
黒幕の出現と排除
戦闘直後、状況を傍観していた男たちが現れ、エリーティアを狙って攻撃を仕掛けてきた。彼らは意図的に強敵を出現させ、他者に倒させた上で利益を奪うつもりであった。語り手たちは即座に連携し、支援防御と魔法・遠距離攻撃で応戦する。五十嵐鏡花とテレジアの前衛戦闘、語り手の支援により、敵は短時間で無力化された。
戦闘後の安堵と回復
戦闘が終わると、語り手は支援回復を発動し、エリーティアの体力を回復させた。極限状態を乗り越えた一行は互いの無事を確認し、深い安堵を覚える。エリーティアも「ベルセルク」の影響から解放され、ようやく戦闘は完全に終結した。
三 魔石と黒箱
エリーティアの消耗と支援回復
ジャガーノートを倒したあとも、エリーティアの体力は大きく削られたままであった。気力も尽きかけていた彼女は立っているのがやっとの状態であり、語り手が後ろから支えることでようやく倒れずに済んでいた。そんな中で支援回復が再び発動し、エリーティアは後衛につかれることで痛みが和らいでいく感覚を覚えていた。語り手は、自分の技能が体力を回復させるものであることを説明し、ポーションが不足している現状ではこの力が貴重であることを共有していた。
ポーション不足と迷宮国の事情
エリーティアによれば、ポーションは上位区画での消費が激しく、供給が不足していた。作成できる者も、八番区で売るより商人組合を通して上の区に流した方が高値になるため、下位区の探索者には行き渡りにくい状況であった。語り手は、薬師系の職業を選んだ者がいれば有利に暮らしているだろうと考えつつ、この世界の資源格差の一端を知っていた。
ミサキの救出とカルマの抜け道
一方、縛られていたミサキは無事に保護されたが、縄の跡が痛々しく残っていた。語り手は、あのように探索者を拘束すればカルマが上がるのではないかと疑問を口にしたが、エリーティアはそこに抜け道があると説明した。相手の攻撃を受けたあとに報復として拘束した形を作れば、見かけ上はカルマが相殺されるのだという。だが、それはライセンス上の判定にすぎず、ギルドに報告すれば審判は下されるため、男たちの行為は裁かれるべきものだと確認された。
巨大魔物の収穫処理
ジャガーノートのような巨大魔物は、その場で丸ごと持ち帰ることができないため、専用の運び屋に依頼する必要があった。ただし本体を運ばせる前に、価値の高い魔石や素材は先に回収しておくべきだとエリーティアは助言した。爪や牙や角に魔石が含まれている可能性があり、とくに石袋を直接開くのは危険が伴うため、まず外部の部位から確認するのが安全だと説明していた。
黒箱の発見
ジャガーノートの脇には、黒い宝箱が落ちていた。エリーティアもこの色の箱を見るのは初めてであり、探索者にとって箱の色は価値を左右する重要な要素であると語った。黒箱は非常に価値が高い可能性があり、不用意に開けず、町にいる専門の「箱屋」に任せるべきだと判断された。語り手もその助言に従い、自分で開封することは避けることにした。
魔石の回収
ジャガーノートの角を調べた結果、十本のうち二本から魔石が見つかった。ひとつは生命石であり、これはアクセサリーに加工すると体力の最大値を上昇させる効果を持つ、どの名前つきからも稀に得られる石であった。もうひとつは破軍晶であり、こちらはエリーティアも見たことがない未知の素材であった。語り手はそれらを受け取り、後で加工法を調べることにした。エリーティアは、もし自分にしか使えないものだった場合には買い取らせてほしいと申し出たが、ひとまず収穫は語り手に預けられた。
回収品を守る必要性
魔物本体はライセンスに討伐記録が残るため他者に持ち去られることはないが、ドロップ品や宝箱までは記録されないため、横取りの対象になりうることも判明した。ベルゲンたちが狙っていたのはまさにそれであり、今回の一件でライセンスのカルマ判定の限界も浮き彫りになっていた。語り手は、回収すべき品を今のうちに確保して外へ出る必要があると理解していた。
ミサキの悪夢と今後への見通し
ミサキはまだ意識を取り戻しておらず、オークに襲われる悪夢にうなされていた。語り手に爪を立てるほど取り乱していたが、スズナが肩を撫でると少し落ち着きを見せた。巫女であるスズナの技能「お清め」は精神面の安定にも役立つようであり、迷宮探索では有用な力になると感じられた。語り手は、エリーティアの職業カースブレードの事情も気にかけつつ、まずは運び屋を呼び、今回の収穫を安全に持ち帰ることを優先しようとしていた。ワタダマ十五体、ドクヤリバチ八体、ファングオーク二十三体、そしてジャガーノート一体という戦果に加え、レベルアップや信頼度上昇も見込まれ、今回の探索が前回を大きく上回る成果になることを確信していた。
四 帰還と躍進
救助したパーティとの別れとミサキの決意
帰還の途中、語り手たちはワタダマとドクヤリバチに追い詰められていたパーティを救助した。彼らはミサキが最初に所属していたパーティであり、彼女の無事を知ると安堵していたが、ミサキは復帰を選ばなかった。彼女はこれまでの軽率な行動を反省し、自分の覚悟が足りないと認めた上で、まずは強くなることを優先すると決意していた。
八番区の現実と停滞する探索者たち
ミサキの話から、経験値は継続して稼がなければ減少し、低レベルのまま八番区に留まり続ける探索者が多い現実が語られた。さらに、序列一位になれば上位区へ進む試験があるにもかかわらず、現状の生活に安住し挑戦を避ける者も多いことが明らかとなった。語り手は、自身が順調に進んでいる状況が例外的であることを改めて認識していた。
エリーティアの事情と仲間関係の深化
エリーティアは自身のレベルが低い理由について後で話すとしつつ、仲間に対して隠していたことを詫びた。スズナは彼女の抱える事情に理解を示し、二人の関係は短期間ながらも深まっていた。ミサキもその様子に加わり、三人の間に自然な交流が生まれていた。
ギルド帰還とルイーザの動揺
ギルドに戻ると、ルイーザは一行の様子から異変を察し、緊張した面持ちで迎えた。語り手がジャガーノート討伐を報告すると、その衝撃の大きさから彼女は気を失ってしまう。ジャガーノートの危険性を熟知していたため、その事実は彼女にとって常識外れの出来事であった。
ジャガーノートの危険性と過去の記録
ルイーザの説明によれば、ジャガーノートは過去に二十四人規模の討伐隊を壊滅させたほどの強敵であり、多くの犠牲者を出していた。「名前つき」は本来、大人数と犠牲を覚悟して討伐する存在であり、語り手たちの成果がいかに異例であるかが示された。また、敗北した探索者の末路として亜人化や未帰還という過酷な現実も語られた。
探索成果と圧倒的な貢献度
今回の探索では、ジャガーノート討伐を含む多数の戦果により、探索者貢献度は1649に到達した。これは一度の探索として歴代上位に入る記録であり、語り手たちの急激な躍進を示していた。複数名がレベルアップし、信頼度も上昇するなど、パーティ全体の成長が顕著であった。
序列上昇と新たな生活基盤
語り手は八番区で序列七位に到達し、他のメンバーも大きく順位を上げた。これにより星二つの探索者として認定され、宿舎もより上位のロイヤルスイートへ移行可能となった。また、ジャガーノートの賞金によって傭兵チケットを購入し、テレジアを正式に仲間として迎える準備も整った。
テレジアの未来と大神殿への道
語り手はテレジアを人間に戻すという目標を掲げ、そのためには上位区である四番区や大神殿への到達が必要であると示唆された。これは短期間では達成できないが、現在の成長速度であれば数ヶ月で現実的な目標になる可能性があるとルイーザは語った。
迷宮国の構造と探索者の役割
迷宮国には王は存在せず、大神殿とギルドが実質的な統治を担っていた。また、迷宮は世界各地に存在するものの入口だけが集約されている特殊な構造であり、探索者はその仕組みの中で活動する存在であった。語り手は、自身が国の意向に基づいて探索を行っている立場であることを理解していた。
今後への期待と束の間の安息
報告と手続きを終えた語り手は、これまで支えてくれたルイーザに感謝を伝えるため、夕食に誘うことを決めた。大きな成果を得た直後の達成感を共有しようとした行動であったが、この後の展開についてはまだ予想もしていなかった。
五 歓談
素材処理と迷宮資源の仕組み
語り手はルイーザと待ち合わせる間、ジャガーノートの解体について考えていた。巨大な魔物は転移によって専用の解体所へ運ばれ、八番区では一箇所しか扱えない規模であった。素材は骨や爪など多岐にわたり、それぞれ建材や工芸素材として活用される。また、迷宮内では持ちきれず放棄された素材は一定時間で所有権が消え、他の探索者が自由に回収できる仕組みであることも判明した。
ルイーザとの待ち合わせと変化した印象
ルイーザは仕事着から私服に着替えて現れ、印象が大きく変わっていた。受付嬢は外で目立たないよう指示されているため地味な服装であったが、語り手はその変化に驚きを覚える。二人は軽口を交わしながら酒場へ向かい、関係が自然に親しくなっている様子が描かれた。
酒場での合流と微妙な空気
酒場では既に五十嵐鏡花たちが席を確保しており、ルイーザも加わる形で歓談が始まった。五十嵐とルイーザは互いに礼を尽くしつつも、どこか緊張感を帯びたやり取りを見せ、語り手はその雰囲気に違和感を覚えていた。語り手はリーダーとして中央の席に座らされ、場の中心となる。
ミサキの奔放な発言と場の波紋
ミサキは語り手に対して軽口を叩き続け、好みや年齢を探ろうとするなど場をかき回した。その発言は五十嵐の感情を刺激し、場の空気が一時的に険悪になる。語り手は衝突を避けるため話題を制し、場の調整役として振る舞うこととなった。
酒席の進行と各人の素顔
飲み放題の席で、メンバーは次々と語り手に酒を注ぎ、場は次第に打ち解けていく。スズナは神社の家系であることを明かし、巫女としての背景が語られた。緊張しながらも酒を注ぐ姿や、五十嵐が過去の行動を気にして落ち込む様子など、それぞれの素の表情が見え始める。
五十嵐との関係の変化
五十嵐はかつての上司としての立場を振り返りつつも、現在は語り手に対して対等な関係を築こうとしていた。語り手もその変化を受け入れ、互いに遠慮を残しながらも信頼関係を深めていく。会社では見えなかった一面を知ることで、関係性は確実に変化していた。
テレジアとの静かな交流と乾杯
テレジアは寡黙ながらも酒席に参加し、語り手は彼女に労いの意味を込めて酒を注いだ。全員に飲み物が行き渡ったところで改めて乾杯が行われ、探索の成功を祝う形となる。語り手は久々に心地よい酔いを感じながら、仲間との時間を共有していた。
六 月明かり
酒席で深まる打ち解けた空気
エリーティアが遅れて酒場に加わると、一行は改めて乾杯し、場はさらに賑やかになっていた。ミサキはエリーティアを親しげにエリーと呼び、スズナもそれにならって距離を縮めていた。年下の三人が賑やかに話す一方で、テレジアは静かに酒を飲み、皆と同じ場に自然に溶け込んでいた。
五十嵐鏡花の酔いと本音
酒が進むにつれ、五十嵐鏡花は語り手に対して、自分がどれだけ彼を見込んでいたか、そして酷使してしまったことをどれほど申し訳なく思っていたかを繰り返し語っていた。前世では伝えられなかった感情が、酔いによって一気に表に出たのである。さらに、バレンタインやホワイトデーのやり取りまで持ち出し、語り手に対して部下以上の親しみを抱いていたことがにじみ出ていた。語り手はその様子に戸惑いながらも、彼女が自分を可愛がっていたことをようやく実感していた。
ルイーザの酔い方と距離の近さ
ルイーザもまた酒が回るにつれて距離感が近くなり、語り手に抱きつくようにして酌をするほどになっていた。本人は酔うと友人に抱きつく癖があると説明したが、その仕草は非常に色っぽく、周囲をも戸惑わせていた。語り手は左右から五十嵐鏡花とルイーザに絡まれる形となり、場の中心として完全に逃げ場を失っていた。
少女たちの観察と会話
ミサキはそんな大人たちの様子を面白がりながら見ており、語り手に対して好みを探るような言葉を投げかけ続けていた。スズナは相変わらず真面目で、酒の扱いにも慎重であった。エリーティアは最初こそ落ち着いていたが、酒場の熱気の中で皆のやり取りを見守りつつ、自分の知らない日本の風習についても興味を示していた。テレジアは目立って騒ぐことはなかったが、静かに飲み食いしながら場に加わっていた。
酒席の終わりと宿への流れ
酒場を出る頃には、ルイーザと五十嵐鏡花は意気投合し、一緒に語り合いたいと言い出すほどになっていた。エリーティアも彼女たちを送る側に回り、スズナとミサキも同行する流れとなったため、語り手の部屋には多くの女性が集まることになりそうであった。語り手はその状況に戸惑いながらも、まずはテレジアを正式加入させるため、彼女を連れて傭兵斡旋所へ向かっていた。
テレジアの正式加入
語り手は傭兵斡旋所で、用意した百枚の銅のチケットをレイラに渡し、テレジアを正式な仲間にしたいと申し出た。レイラはその早さに驚きつつも、語り手の実績と志を認め、手続きを受け入れた。語り手は、テレジアを初めての仲間として大切に思っており、いずれ彼女を人間に戻したいと考えていることも率直に伝えていた。レイラもまた、亜人に居場所を与えるだけでなく、心を取り戻してほしいという願いを持っており、語り手に希望を見出していた。
並んで歩く帰り道
手続きを終えた帰り道、語り手はテレジアに好きな位置を歩いてよいと伝えた。するとテレジアは少し考えたあと、最初は前に出かけたものの、最終的には語り手の横に並んだ。戦う時は前に出てほしいが、それ以外では隣を歩きたいのだと受け取れる動きであった。さらにテレジアは袖を軽く引き、語り手に何かを伝えようとしていた。語り手はその意図をはっきりとは掴めなかったが、急がずに共に歩くことを選び、二人は月明かりと街灯に照らされた町を、宿へ向かって静かに進んでいった。
七 探索者の習慣
宿舎に戻って知る探索者たちの夜
語り手とテレジアがノルニルハイツに戻ると、管理人の女性から、今日は女の子たちが大勢遊びに来ていて賑やかだと声をかけられた。その言い回しに違和感を覚えつつ階段を上がった語り手は、二階から聞こえてくる妙な声によって、男女混成の探索者パーティには探索後にそうした習慣がある場合もあるのだと察した。気まずさを覚えながらも、テレジアが不安がっている様子を見て、彼女に無理をさせるつもりはないと伝え、安心させようとしていた。
ロイヤルスイートと居住人数の制約
そこへエリーティアとスズナが現れ、エリーティアは探索者用宿舎には居住可能人数に応じた制限があると教えた。語り手が翌日から利用できる予定のロイヤルスイートは定員が八人であり、一つのパーティが借りられる部屋の合計人数も八までと決まっていた。そのため、語り手たちが新しい部屋へ移ると、エリーティアとスズナが別に借りている部屋を維持できなくなる可能性があり、今後は同居も視野に入れて相談した方がよいという話になった。さらに、七番区へ上がった後もしばらくは同じ部屋を拠点にできることや、星三つの探索者になる条件についても語られ、語り手は今後の生活基盤を具体的に意識し始めていた。
部屋に集まる仲間たち
部屋へ戻ると、すでにルイーザと五十嵐鏡花が先に入っており、ミサキは語り手のベッドで眠ってしまっていた。ルイーザと五十嵐鏡花はこれから風呂に入るつもりで、スズナとエリーティアも宿舎へ戻ると入浴時間に間に合わないため、皆で一緒に浴場へ行く流れになった。語り手は次々と物事が進んでいく状況に押されつつも、彼女たちを見送ることになった。
テレジアと静かな時間
女たちが浴場へ向かったあと、語り手はテレジアと二人きりになった。テレジアは風呂に入りたそうな素振りも見せたが、結局は何も言わず、部屋の中を見回したのち、語り手の近くに落ち着いた。最初は迫力ばかり感じていた蜥蜴の装備も、今では愛嬌のあるものに見えるようになっており、語り手は彼女との距離が確かに縮まっていることを感じていた。
新技能の確認と後衛の課題
一息ついた語り手は、レベル上昇によって得た新たな技能を確認した。新たに習得候補として現れたのは、対象の背後で自分の位置を固定するバックスタンド、後ろからの攻撃に自動で反撃するバックドラフト、士気を高める支援高揚などであった。とくにバックドラフトは、後衛である自分が直接攻撃される危険を補う手段として有望に思われたが、横からの攻撃には依然として弱いままであり、後衛という職が強力である一方で決して万能ではないことも再確認していた。支援系技能を一通り取るべきかどうかを考えながら、語り手は今後は仲間たちの技能も改めて確認し、ミーティングを開きたいと考えていた。
八 装備の境界
テレジアの隷属印と装備の正体
語り手はテレジアにライセンスの有無を確認したが、傭兵である彼女はそれを持っていなかった。代わりに背中を見せられ、首元の装備の隙間に刻まれた隷属印を確認することになる。テレジアが語り手の手をその印に触れさせると、印は発光し、所有権が語り手へ移ったことを示すように変化した。これにより、テレジアは正式に語り手の管理下に置かれた存在となった。
技能の可視化とローグとしての特性
テレジアは語り手のライセンスを操作し、自身の技能一覧を表示した。そこには防御力と耐性を高めるリザードスキン、瞬間加速のアクセルダッシュ、索敵拡張や無音歩行など、機動力と潜入能力に優れた技能が並んでいた。さらに盗みや罠解除に関わる技能も取得可能であり、戦闘だけでなく探索全般に適応したローグとしての性質が明らかとなった。語り手はその技能構成から、彼女を専門分野で活かすべきだと考えていた。
ミサキの加入志向と特異な能力
その後目を覚ましたミサキは、自身の技能としてドロップ率上昇や幸運に関わる能力を持っていることを明かし、語り手のパーティに加わる意思を見せた。語り手は彼女の無邪気さと運の強さに可能性を感じつつも、軽率な判断を避けながら今後の同行を考える必要があると認識していた。
入浴施設と生活環境の現実
語り手はテレジアを連れて浴場へ向かい、宿舎の設備について改めて実感する。蛇口がないなど不便さはあるものの、毎日風呂に入れる環境自体が探索者にとって重要であり、生活基盤が士気に直結することを理解していた。こうした設備は探索者向けに整備されており、厳しい迷宮生活を支える重要な要素となっていた。
テレジアの装備解除と身体の露出
浴場で語り手が入浴していると、テレジアが男性用浴場に現れた。彼女は本来外せないと思われていた蜥蜴のレザーアーマーを、自らの操作で外してみせる。装備の一部は残るものの、大部分が外れたことで彼女の身体が露わになり、語り手は強い動揺を覚えた。テレジア自身は羞恥の感覚が薄い様子で、状況を理解していないように振る舞っていた。
善意による行動と認識のずれ
テレジアは語り手の背中を流すなど世話をしようとし、その行動は彼女なりの善意に基づくものであった。しかし男女の区別や状況の適切さについての認識は曖昧であり、語り手は戸惑いながらも彼女に説明しようと試みる。だが彼女は強く拒否することも理解を示すこともなく、独自の感覚で行動し続けていた。
リザードマンとしての身体特性の発覚
入浴中、テレジアは急速に体温が上昇し、全身が赤くなっていった。語り手はその様子から、彼女がリザードマンとして変温動物の性質を持つことに気づく。人間に近い姿であっても、その身体は完全に同一ではなく、環境への適応にも違いがあることが明らかとなった。語り手は彼女の体調悪化に対処するため、迅速に対応を迫られることとなった。
九 夜の「後衛」
テレジアの救助と種族的弱点の理解
テレジアが風呂でのぼせたため、語り手は彼女を抱えて浴槽から救い出した。転生後の身体能力の向上により、大人の彼女を軽々と運べたことに自身の変化を実感する。同時に、リザードマンとしての特性から高温に弱いことが判明し、今後は水浴びやぬるま湯での対応が必要であると理解した。
生活上の課題と装備の制約
宿舎へ戻ると、テレジアの着替えに関する問題が浮上した。亜人である彼女は肌に直接触れる装備に強いこだわりを持ち、蜥蜴素材以外の衣類を嫌うため、下着を着用しない状態となっていた。そのため他の探索者の目に触れさせることが難しく、生活面での調整が必要であると語り手は痛感する。
混浴騒動の説明と信頼関係の補強
その後、仲間たちが帰還し、テレジアが男性用浴場に入ってきた件について説明が求められた。語り手は事情を説明し、テレジア自身も彼をかばうような態度を示したことで、大きな問題には発展しなかった。仲間たちは驚きつつも理解を示し、語り手とテレジアの関係性は信頼に基づくものとして受け入れられた。
就寝場所を巡る調整とパーティの配慮
夜の就寝にあたり、限られたベッドを誰が使うかで議論が行われた。仲間たちは互いに譲り合い、最終的にはくじで決定することとなる。その結果、語り手は再びソファで眠ることとなったが、全員が互いを気遣う姿勢が見られ、パーティとしての結束が強まっていた。
テレジアの同行と後衛としての思索
就寝前、テレジアは語り手の近くで眠り、護衛のように寄り添う姿勢を見せた。語り手はその様子を見ながら、新たに得た技能の選択について考察する。後方から支援する立場として、自身の役割を明確にし、「支援高揚」や「鷹の眼」といった技能を優先的に取得する判断を下した。これにより、戦闘時の指揮能力と状況把握力の向上を図った。
夜の気配と曖昧な記憶
深夜、仲間たちが起き出して語り合う気配を感じながらも、語り手は強い眠気に抗えず意識を手放した。翌朝、断片的な記憶に違和感を覚えつつも詳細は思い出せず、出来事の真偽は曖昧なままとなった。周囲の様子からも何かがあった気配は残るが、語り手はそれを確かめることなく日常へと戻っていった。
第四章 最初の迷宮の終わり
一 新たな宿舎
朝の支度と一日の計画
一行は起床後、宿舎で簡単な朝食をとった。食事にはパンや卵、ベーコンが並び、野菜の代わりに果物や木の実が提供される環境であった。食後、ルイーザをギルドへ送り届けたのち、本日の行動として箱屋の訪問、新宿舎の内覧、そして午後の迷宮探索という流れを決定した。
ロイヤルスイートの内覧と生活環境の変化
新たに訪れた宿舎は八番区中心に位置するロイヤルスイートであり、これまでの宿とは比較にならないほどの豪華さを備えていた。広大な室内、整備された浴室や設備、そして行き届いたサービスにより、一行はその格の違いを実感する。アリヒトは一人での利用には広すぎると考え、パーティでの共同生活を提案した。
共同生活の展望と拡張の可能性
部屋の規模や居住人数の制限から、将来的には複数の仲間と共同生活を行う可能性が示された。さらに、自身の家を所有すれば人数制限を超えた運用も可能となるため、アリヒトは仲間の増員や複数パーティ運用を視野に入れ始めた。戦力の多様化を見据え、前衛・魔法職・支援職など不足している役割の補完も課題として認識される。
エリーティアの事情と呪いの剣
内覧中、エリーティアは自身の抱える問題を打ち明けた。彼女は「緋の帝剣」という呪われた武器を装備したことで職業が変化し、「カースブレード」となっていた。この武器は外すことができず、戦闘時に暴走する危険性を伴うものであった。かつて所属していた白夜旅団では、未知の武具でも装備を強制される環境にあり、その結果として現在の状態に至っていた。
戦力としての評価と協力関係の継続
エリーティアは自身の未熟さと危険性を自覚し、一定の目的を達するまでの協力を求めた。アリヒトは彼女の力を評価しつつも、暴走時には距離を取るなどの対策を前提に支援する意向を示した。支援技能の特性により安全距離から援護可能であることもあり、彼女を戦力として組み込む方針を固めた。
パーティ内の関係性と役割の整理
五十嵐はアリヒトの指示に従う立場を明確にし、パーティ内での役割意識が形成されていく。一方で、全員がアリヒトに好意的であるため、諫め役の必要性も話題となり、エリーティアがその役割を担う可能性が示唆された。テレジアも無言ながら肯定の意思を示し、パーティとしての一体感が強まっていく。
今後の行動と拠点移行の準備
内覧を終えた一行は、各自の荷物を移動させるため一度解散し、後に再集合することを決めた。ロイヤルスイートへの拠点移行により、生活環境と行動の自由度は大きく向上する見込みとなった。これにより、今後の探索活動はより安定した体制で進められることとなった。
二 箱屋の親子
宿舎との別れと箱屋への道
新たな宿舎の契約を終えたあと、アリヒトたちはいったんノルニルハイツへ戻り、世話になった管理人のパルムに別れを告げた。そこでパルムが、自分の娘が箱屋を営んでいると明かしたことで、一行が向かう箱屋が管理人の娘の店であることが分かった。アリヒトは世間の意外な狭さを感じつつ、五十嵐鏡花とテレジアを伴って箱屋へ向かった。
五十嵐鏡花の技能選択
道中、五十嵐鏡花はレベル2になって増えたスキルポイントの振り分けについてアリヒトに相談した。ライセンスに表示された候補には、攻撃回数を増やすダブルアタック、恐怖状態を解除するブレイブミスト、氷系の妨害技能や遠距離攻撃への耐性、囮を生み出す技能などが並んでいた。アリヒトは即効性と相性を考えてダブルアタックを勧め、もう一つは五十嵐鏡花の希望も踏まえて囮人形を選ぶ方針とした。五十嵐鏡花は技能の選択肢の多さにわくわくしつつも、どれも試してみたくなると実感していた。
テレジアの成長への期待
アリヒトは五十嵐鏡花の技能選択を見ながら、テレジアにも次のレベルアップ時には新しい技能を取らせたいと考えていた。すでにローグとして十分に有能ではあるが、さらに得意分野を伸ばせば、探索でも戦闘でもより頼れる存在になると見込んでいた。仲間それぞれの技能を把握し、最適な役割を考えることが、今後のパーティ運営に重要だと感じていた。
箱屋の母子との対面
箱屋に入ると、エプロン姿の女性が幼い男の子と女の子に本を読んで聞かせていた。彼女はファルマ=アルトゥールと名乗り、パルムの娘であり、ギルド認可の罠師でもあった。店内には白い大きな護衛犬もおり、子どもたちを見守るように付き添っていた。穏やかな家庭の気配と、危険な箱を扱う専門職としての側面が同居する、不思議な空間であった。
罠師ファルマの存在感
ファルマは慈愛に満ちた主婦然とした雰囲気をまとっていたが、その実態は黒い箱のような危険な品でも安全に開けられる熟練の罠師であった。アリヒトがルイーザの紹介で来たことを伝えると、彼女は黒い箱を丁重に開けると請け負った。五十嵐鏡花は彼女の容姿や雰囲気に圧倒されつつも、アリヒトが見惚れすぎないよう牽制しており、そのやり取りをファルマは微笑ましく受け止めていた。
三 結界
箱屋での信頼関係の確認
ファルマに黒い箱を見せると、彼女は一行の関係性を確認しつつ、仲の良いパーティであることに安心した様子を見せた。五十嵐鏡花がアリヒトをリーダーとして認めていると明言し、テレジアも頷いたことで、統率が取れていることが示された。また、亜人は犬を苦手とする場合が多いと説明され、テレジアが警戒していた理由も明らかとなった。
黒箱の危険性とギルドの管理体制
黒い箱は「黒箱」と呼ばれる極めて希少かつ危険なものであり、解錠に失敗すれば町が消失する、あるいは強力な魔物が召喚されるといった甚大な被害が発生する可能性があると説明された。そのため、箱屋には厳格な条件が課されており、解錠確率を完全にすること、専用施設で作業すること、定期的な技能更新を受けることが義務付けられていた。ファルマは高位の「指先術」と装備によってその条件を満たしており、安全性が確保されていた。
罠技能と役割分担の理解
アリヒトは罠に関する技能について質問し、罠の発見には「罠感知」、解除には「指先術」または「罠破壊」が必要であると知った。これにより、テレジアにシーフ的な役割を持たせる可能性が浮上し、パーティ内での役割分担の重要性が改めて認識された。多機能な職ほど運用に悩むという課題も浮き彫りとなった。
転移施設と結界錠の仕組み
解錠作業は店の地下にある転移扉を通じ、ギルド管理の専用施設で行われることになった。過去に大規模な事故が発生した経緯から、安全確保のため町から隔離された場所での作業が徹底されていた。転移先の広大な部屋は、結界や罠の暴発に備えたものであり、万全の体制が整えられていた。
結界錠の解錠と異空間の展開
黒箱に施された「結界錠」は、魔力によって形成された巨大な立体迷路のような構造として展開された。ファルマは指先術によって正しい経路に魔力を流し、罠を回避しながら解錠を進めた。誤れば爆発する危険な工程であったが、熟練の技術により最終段階まで到達し、結界が解除された瞬間、箱から膨大な光が溢れ出した。
黒箱の中身とその価値
結界が解けると、箱の中に存在していた異空間が解放され、大量の金貨や装備品が一気に出現した。黒箱には魔物の収集した品だけでなく、出所不明の宝物も蓄積されており、その価値は計り知れないものであった。アリヒトたちはその光景に圧倒されつつも、装備更新や戦力強化の可能性に期待を抱いた。
新たな発見と今後への布石
大量の戦利品の中から、アリヒトは鍵のような形状を持つ異質な物体を発見した。それが何に使われるのかは不明であったが、迷宮内での用途がある可能性を感じ、まず鑑定して確認する必要があると判断した。未知のアイテムとの出会いは、今後の探索に新たな展開をもたらす兆しとなっていた。
四 装備更新
資金獲得と今後の方針の整理
黒箱の成果により資金に余裕が生まれ、当面は生活に困らない状況となった。一方で、宿舎は区の昇格に伴い再び分散する可能性があり、長期的には自力で維持する必要があると再認識された。また、ミサキは将来的な複数パーティ編成を見据え、自身でも仲間を集める意向を示し、戦力運用の幅を広げる方針が固まりつつあった。
レベルと経験値の仕組みの把握
戦闘を通じて、探索者のレベルは一度の探索で一段階しか上がらず、強敵を倒しても効率的とは限らないことが判明した。そのため、同レベル帯で安定して狩れる魔物を相手にする方が効率的であると理解された。エリーティアは今後もゲストとして同行し、強敵戦でのみパーティに加わる運用が提案された。
技能共有と支援効果の確認
スズナの技能が開示され、「皆中」や霊系に対抗する能力など、パーティにとって有用な効果が確認された。また、アリヒトの支援回復が常時発動していることや、受け手側のライセンス表示が異なることも判明し、戦闘中の情報管理や隠蔽の必要性が意識されるようになった。
隠蔽手段と情報管理の重要性
技能や行動の表示は第三者に知られる可能性があるため、「隠蔽」技能や装飾品の必要性が議論された。装飾品によって代替できる場合もあると分かり、今回の戦利品にそれが含まれている可能性に期待が寄せられた。情報の秘匿は今後の戦闘において重要な要素となると認識された。
戦利品の整理と経済的成果
箱の中身は膨大であり、貨幣だけでも金貨六千枚以上が確認された。劣化した貨幣も再利用可能として買い取られ、全体として莫大な資産が得られた。装備品については選別が行われ、汎用品は売却し、有用なもののみを確保する方針が取られた。
各メンバーの装備強化
アリヒトはルーンスロット付きのスリングを入手し、今後の強化余地を確保した。五十嵐鏡花は性能の高い槍と軽量鎧を得て、防御と攻撃の両面で強化が見込まれた。テレジアは武器や盾、さらに環境に同化するブーツを装備し、奇襲能力を高めた。スズナには防御力を補うケープが与えられ、後衛としての生存性が向上した。
隠蔽装備の獲得と新たな段階
戦利品の中から「隠蔽のチョーカー」が発見され、アリヒトの技能を秘匿する手段が確保された。これにより戦闘時の情報漏洩リスクが軽減され、パーティ運用の自由度が増した。装備更新を終えた一行は、戦力・資金ともに大きく飛躍し、次なる探索へ向けた準備を整えた。
五 レディアーマー
新装備レディアーマーの評価と反応
五十嵐鏡花は新たに「ライトスティール・レディアーマー+3」を装備し、その軽量性と魔法防御の高さを実感していた。軽量化の効果により見た目に反して扱いやすく、戦闘用として優秀な防具であることが確認された。一方で露出の多い構造に戸惑いを見せつつも、周囲からは似合っていると評価され、本人も複雑な心境を抱えていた。
各メンバーの防具状況と比較
エリーティアは「ハイミスリル・ナイトメイル+4」という高性能装備を維持しており、速度と防御を両立していた。五十嵐鏡花の装備は軽量かつ回避寄りであり、役割に応じた装備差が明確となった。また外套の必要性も指摘され、外見と実用性の両立が意識されるようになった。
アリヒトの防具更新と新装備の発見
アリヒトは「ハードオックスメイル+2」を装備し、防御面を強化した。さらに「ライトスティール・チェイングラブ+1」を発見し、支援技能の効果が向上する特性に気づいたことで、自身の戦闘能力が間接的に強化される可能性を見出した。支援特化職としての装備選択の重要性が明確となった。
装備強化の完了と準備の整備
各自の装備更新が完了し、戦闘能力の底上げが実現した。その後、運び屋の手配や銀行への預け入れ、倉庫の確保などを行い、物資管理体制も整備された。これにより探索に集中できる環境が整った。
迷宮再突入と戦闘検証
迷宮に再び入り、ワタダマとの戦闘で新装備と支援効果の検証が行われた。ミサキの投擲にも支援ダメージが適用されることが確認され、チェイングラブの効果によって支援威力が向上していることが判明した。前衛と後衛の連携も安定し、敵を効率よく処理できるようになっていた。
新技能と戦術の試験運用
五十嵐鏡花やテレジアの新技能使用が計画され、スズナの「皆中」も試験対象とされた。また、アリヒトは「支援高揚」を発動し、仲間の士気が上昇することを確認した。士気上昇の具体的効果は未解明であるが、今後の戦闘における重要な要素として検証が必要であると認識された。
パーティ連携の深化と今後の展望
戦闘を通じて支援の効果が仲間の士気や感情にも影響を与えていることが明らかとなり、パーティの結束が強まっていた。エリーティアは遊撃として控えつつも支援を望む様子を見せ、戦闘参加の意欲を維持していた。装備と技能の両面で強化された一行は、さらなる迷宮攻略へと歩みを進めていった。
六 見えざる敵
新たな敵との遭遇と戦闘開始
一行はファングオークとドクヤリバチに遭遇し、戦闘に入った。スズナの技能「皆中」によって回避されるはずの矢が命中し、遠距離攻撃の有効性が確認された。続いてアリヒトの支援と前衛の連携により、敵は迅速に排除された。
士気上昇と支援効果の検証
戦闘中、アリヒトは「支援高揚」を発動し、仲間の士気が上昇した。士気は直接的な攻撃力上昇には繋がらないが、状態異常の回復などに影響することが示唆された。また、スズナには士気のエネルギーが視覚的に認識できる様子が見られ、精神的要素の存在が明らかとなった。
探索継続と戦利品の回収
戦闘後、毒晶石などの魔石を回収しつつ進行し、一行は三層へ向けて進んだ。経験値の分配についても確認され、同行しているだけでも一定の成長が見込めることが分かった。
三層突入と環境変化
三層に入ると、視界や地形が変化し、木々が増えて遮蔽物が多くなった。これにより敵の奇襲リスクが高まり、索敵と警戒の重要性が増した。
ゲイズハウンドとの戦闘と状態異常
新たな敵であるゲイズハウンドが出現し、高速で接近してきた。スズナとアリヒトの遠距離攻撃でダメージを与えるも、「凝視」により五十嵐鏡花がスタン状態に陥った。しかしテレジアの迅速な攻撃と、士気を消費した回復によって体勢を立て直し、撃破に成功した。
不可視の敵の出現
戦闘直後、姿の見えない敵による奇襲が発生した。テレジアの察知により位置を特定し、スズナの攻撃で姿を現した敵は「ブレーンイーター」であった。透明化能力を持つ危険な魔物であり、初級迷宮において想定外の脅威であった。
エリーティアによる決着
ブレーンイーターはエリーティアの高速斬撃によって瞬時に撃破された。彼女は距離を保ったまま一撃で仕留め、戦闘能力の高さを示した。
装備破損と新たな課題
ブレーンイーターの攻撃により五十嵐鏡花の防具が破損し、防具を狙う特殊能力の存在が判明した。透明化と装備破壊という特性により、従来の戦術では対処が難しい敵であることが明らかとなった。今後は索敵能力の強化と防御手段の見直しが必要と認識された。
七 士気の用途
戦利品の確認と素材の把握
戦闘後、アリヒトたちはゲイズハウンドやブレーンイーターの素材を確認した。ゲイズハウンドは炎耐性のある毛皮などが素材として有用であり、ブレーンイーターは透明化に関わる皮が価値の高い素材であると判明した。また、倉庫の鍵によって魔物を転送できる仕組みを活用し、戦利品の管理方法が確立された。
新技能「バックスタンド」の習得と活用
戦闘の中で後衛への突破を許したことを受け、アリヒトは新技能「バックスタンド」を習得した。この技能により敵の背後へ瞬時に移動し、攻撃を回避しつつ死角からの攻撃を可能にした。ただし消費魔力が大きく、連続使用は困難であるという課題も明らかとなった。
士気の蓄積と基本的な用途
戦闘を重ねる中で士気が最大値である百まで蓄積されることが確認された。士気は軽度の状態異常の回復に消費され、スタン解除などに有効であることが分かった。また「支援高揚」によって効率的に士気を増加させられることが示された。
士気解放の発現
士気が最大に達したことで、スズナとミサキのライセンスに「士気解放可能」と表示された。士気解放は特定の職に固有の強力な能力を発動させるものであり、通常は専門職がいなければ発動しにくい希少な現象であった。
スズナとミサキの士気解放
ミサキは「フォーチュンロール」を発動し、次の行動の成功を確定させた。その効果を受けてスズナが「月読」を発動し、青白い光とともに特異な現象を引き起こした。これは単独ではなく、連携によって成立した強力な効果である可能性が示された。
未知の現象の発見
スズナの「月読」によって示された地点に向かうと、地中に何かが埋まっていることが判明した。一行は掘削を開始し、石板のような構造物を発見するに至った。士気解放が単なる戦闘能力ではなく、探索における新たな手段となる可能性が示唆された。
八 地中の秘密
発掘中の警戒と士気の維持
一行は地中から現れた石板の正体を確かめるため、発掘作業を進めていた。発掘の途中からは、周囲に出没するゲイズハウンドへの対処のため、テレジアとエリーティアが見張り役となった。テレジアが敵を察知し、エリーティアが撃破する形で周囲の安全を保ち、アリヒトは作業を続けながら二人へ支援と励ましを送り、士気を上昇させていた。
石板の正体への推測
掘り進めた結果、地中に埋まっていたものの全貌が見え始めた。模様の刻まれた大きな石板を見たエリーティアは、過去に別の迷宮で見た転移床に似ていると気づいた。曙の野原は三層までと聞かされていたため、この先に未踏の領域がある可能性が浮かび上がったが、同時に転移先に強力な魔物が潜んでいる危険も考えられ、一行は進むべきか慎重になるべきかで迷っていた。
ミサキの転移事故
判断が定まらないまま様子を見ていたところ、ミサキが石板の上に足を乗せるふりをした拍子に土が崩れ、そのまま石床の上に尻もちをついた。すると石板が輝き、ミサキは光に包まれて転移してしまった。スズナは引き戻そうと手を伸ばしたが巻き込まれず、全身が石床に乗った者だけが転移する仕組みであることがわかった。
救出をめぐる決断
ミサキが片道の転移先へ送られたと知り、エリーティアは自分一人で向かおうとしたが、アリヒトはそれを認めず、自分が行くと決めた。すると五十嵐鏡花は、リーダーだけを危険に行かせるわけにはいかないと反対し、スズナとテレジアもアリヒトに続く意志を示した。仲間である以上、一人を見捨てず全員で行動するべきだという考えのもと、一行は揃って転移床に乗る決断を下した。
隠しエリアへの到達
全員で石床に乗ると、景色は一変し、一行は広い石造りの部屋へ転移した。そこは古代遺跡のような雰囲気を持つ空間であり、通常の迷宮とは異なる印象を与えていた。ミサキは片道転移と知って怯えながらも、アリヒトたちが自分を助けに来たことに動揺し、五十嵐鏡花はそんな彼女を励ました。アリヒト自身も強い緊張を覚えていたが、仲間たちが同行を当然のこととして受け止めている様子に支えられていた。
隊列の再編と未知への前進
テレジアはすでに遺跡の先に意識を向けており、一行は彼女の感覚を頼りに隊列を整えた。アリヒトは声掛けによって士気を上昇させ、五十嵐鏡花とテレジアの士気は最大値に達した。エリーティアは、ジャガーノートを倒した自分たちであれば、この迷宮内でそれ以上の敵にそう簡単には遭遇しないはずだと前向きに語った。スズナは、白い石壁と蛍光色の光に照らされた通路に美しさと寂しさを感じ取り、一行は未踏の隠しエリアへ慎重に足を踏み入れていった。
九 門番
隠し領域の正体と新たな脅威
隠し転移床の先に辿り着いた一行は、この場所が実質的な四層にあたる未踏の領域ではないかと考えていた。スズナの士気解放によって見つかった場所であることからも、通常の探索では発見されない区域なのだと推測された。そして通路の突き当たりで、一行は大きな石扉と、それを守るように立つ鷲頭の巨人兵を発見した。見た目からしてただの像では済まないと判断したアリヒトは、まず脱出の巻物が使えるかを試したが、ライセンスには封印中と表示され、退路が断たれていることが明らかになった。
巨人兵への作戦立案
退路が閉ざされたことで、一行はこの門番を突破するしかなくなった。アリヒトは支援が通ることを前提に、五十嵐鏡花にはブリンクステップからのダブルアタック、テレジアには無理をしない範囲での攻撃、スズナには皆中を使った遠距離支援、ミサキには後方からの投擲支援を指示した。エリーティアについてはベルセルクを避けたい事情があるものの、ブロッサムブレードによる手数は依然として有効であり、必要に応じて前に出てもらう方針となった。また、五十嵐鏡花とテレジアの士気解放についても確認し、前者はソウルブリンク、後者はトリプルスティールであることが判明した。
士気解放の性質と役割の確認
ヴァルキリーの士気解放であるソウルブリンクは、エリーティアも名称だけしか知らず、詳細は不明であった。一方、ローグの士気解放であるトリプルスティールは、一度だけ味方全員に体力吸収、魔力吸収、ドロップ奪取の効果を付与するものであり、アリヒトの支援ダメージとも相性が良いと考えられた。エリーティア自身の士気解放はベルセルクを条件とする危険なものであるため、この戦いでは使わない方針が確認された。アリヒトは、前衛の耐久不足と自分の支援防御の限界を踏まえ、今後はより堅牢な盾役と支援防御の上位技能が必要になると痛感していた。
鷲頭の巨人兵との戦闘開始
テレジアが先行して近づくと、鷲頭の巨人兵の目が妖しく輝き、像は生命を得たように動き出した。高らかな鳴き声とともに翼を広げたその姿を前に、アリヒトは支援高揚を発動して全員の士気をさらに高めた。まず五十嵐鏡花がブリンクステップで先陣を切り、ダブルアタックを叩き込む。物理攻撃そのものは弾かれたものの、支援ダメージは通り、巨人兵にわずかな揺らぎが生じた。その直後、巨人兵の槍が襲いかかったが、五十嵐鏡花は分身によって一撃を回避した。
エリーティアの猛攻と風の反撃
巨人兵に隙ができた瞬間、エリーティアがソニックレイドからブロッサムブレードへと繋げ、怒涛の連撃を浴びせた。物理攻撃もある程度は通っており、さらに支援ダメージも積み重なったことで、巨人兵に確かな損耗を与えていた。しかし七段目まで入ったところで、巨人兵はウィンドバーストを発動し、荒れ狂う風によってエリーティアを弾き飛ばして行動を中断させた。全段を叩き込めなかったことで、アリヒトはこの敵に対しては攻めの流れを作る工夫が必要だと理解した。
風の反射とテレジアの防御
エリーティアの攻撃が中断された直後、スズナが皆中を発動して矢を放ったが、ウィンドバーストの風によって矢は反射されてしまった。だがアリヒトは即座にテレジアへ支援防御をかけ、彼女が盾でその矢を受け止めたことで味方への被害は防がれた。続けてテレジアはアクセルダッシュで巨人兵に肉薄し、ウィンドスラッシュを叩き込んで敵を小さくのけぞらせた。このやり取りからアリヒトは、ウィンドバーストは常時ではなく、効果が切れた直後に攻め込めば通用することを掴んでいた。
鷹の眼による弱点の看破
援護のために照準を定めた瞬間、アリヒトの視界は一変し、まるで遠くを覗き込むように巨人兵の全身のきしみや力の流れが鮮明に見えた。鷹の眼の効果により、彼は巨人兵の頭部に刻まれた古傷こそが弱点であると見抜いた。そして自らのスリングでもその部分にダメージが通ることを確認し、仲間たちに頭を狙うよう指示した。弱点を共有できたことで、一行はこの強敵に対して明確な攻略の糸口を得た。
巨人兵の本気と次なる局面
だが、頭部の弱点を突かれたことで、巨人兵は危機を悟ったように生存本能を発動し、全身を赤い光で包んだ。能力の全面上昇とともに、それまでとは比較にならないほどの殺気が迸り、戦いは新たな段階へと移行した。レッドフェイスと同じく、体力を削られてからが本番となる相手だと判明し、アリヒトはこの先どう倒し切るか、そしてどう生き残るかを瞬時に考え続けていた。
十 死闘
巨人兵との激突と押し合い
「生存本能」を発動した鷲頭の巨人兵は隙を見せず、エリーティアは間合いを見極めながら攻撃の機会を探っていた。槍と剣が激しくぶつかり合う中、その迫力にミサキは恐怖で震えていた。巨人兵はトリプルアタックを繰り出し、エリーティアはそれを回避したものの、反撃に転じる余裕はなかった。そこでアリヒトは隙を突いてスズナに射撃を指示し、矢とスリングによる攻撃が頭部に命中して巨人兵の体勢を崩した。
弱点への集中攻撃と危機の兆し
頭部への攻撃で巨人兵は膝をつきかけるも、完全には崩れなかった。右目の光が消え、弱点が露出したことで一斉攻撃の好機が訪れる。エリーティアが跳躍して追撃に入ろうとしたその瞬間、アリヒトは強烈な悪寒を覚え、次の攻撃が致命的なものであると直感した。直後、巨人兵はウィンドバーストからニードルフェザーへと派生させ、全体攻撃を放った。
全体攻撃による壊滅寸前の状況
無数の羽根が降り注ぎ、パーティ全員が被弾する。アリヒトは支援防御で仲間を守ることには成功したが、自身は防御できず大きなダメージを受けた。体力低下により能力も落ちる中、それでも彼は戦闘継続を選択し、逃走は不可能であると判断する。支援回復によって仲間の体力を安全圏に戻しつつ、ここが勝負所であると認識した。
士気解放による逆転の一手
追い詰められた状況で、アリヒトは五十嵐鏡花とテレジアに士気解放を指示する。ソウルブリンクによって各自の分身である戦霊が出現し、トリプルスティールにより吸収と奪取の効果が全員に付与された。戦霊は盾としても機能し、ニードルフェザーの再攻撃を受け止めることで本体の被害を防ぐと同時に、攻撃回数を倍増させる効果を発揮した。
総攻撃と削り切れない絶望
ウィンドバーストの切れ目を狙い、アリヒトとスズナの遠距離攻撃、五十嵐鏡花とテレジアの連携攻撃、さらにミサキの投擲が次々と命中する。トリプルスティールの効果で体力も回復し、攻勢は一気に強まった。加えてエリーティアと戦霊によるブロッサムブレードが叩き込まれ、莫大なダメージが蓄積される。しかしそれでも巨人兵は倒れず、最後の反撃を試みて槍を振り上げた。
死角からの一撃と決着
その瞬間、アリヒトはバックスタンドで巨人兵の背後へ回り込み、死角からの攻撃を仕掛けた。支援ダメージを乗せたスリングの一撃が後頭部に命中し、金属の頭部は限界を超えて砕け散る。巨人兵は槍を突き立てようとしたまま崩れ落ち、ついに討伐が成立した。
勝利の余韻と新たな収穫
戦闘後、全員は生存の実感が薄れるほどの死闘を振り返る。ソウルブリンクの強力さにより五十嵐鏡花がMVPと称され、ヴァルキリーの士気解放の価値が再認識された。また、テレジアはトリプルスティールによってルーンを入手し、その成果を示した。アリヒト自身も負傷しながら仲間を守り抜き、パーティの結束と成長を実感する結果となった。
第五章 迷宮深部の秘密
一 聖櫃
巨人兵撃破後の探索と遺物の発見
倒した鷲頭の巨人兵を警戒しつつ調査を行うと、目に嵌められていた宝石が回収された。それは粗雑な魔石とは異なり、人工的に整えられた形状をしており、この遺跡や転移装置と同様に人為的な構造であることが示唆された。さらに巨人兵の内部からは動珠と呼ばれる核が見つかり、金属の身体を動かす仕組みを持つゴーレムのような存在であると判明した。
過去の犠牲者と迷宮の危険性の認識
スズナが霊能感知を用いると、この場所で過去に探索者が命を落としていた事実が明らかとなる。六人の探索者が巨人兵に挑み敗北した痕跡が残っており、四層の入口が秘匿されていたのは、侵入者を排除する仕組みが存在するためだと推測された。これにより、この場所が単なる試練ではなく致命的な罠でもある可能性が示された。
扉の解錠と遺跡内部への侵入
巨人兵の宝石を利用することで、巨大な石扉の鍵穴に嵌め込み解錠する方法が見つかる。仲間たちは協力して足場を作り、テレジアが宝石を嵌め込むことで扉は開かれた。その先には階段と、光に照らされた箱状の物体が存在し、不穏な気配を伴う新たな領域へと進むことになった。
罠の発動と慎重な前進
先行して囮人形を進ませた結果、生命吸収の罠が発動し、人形が消滅する。この罠は一撃で生命力を奪う危険なものであり、無警戒に進めば即死もあり得た。囮によって危険を回避した一行は、改めて迷宮の容赦なさを認識しつつ慎重に奥へ進んだ。
聖櫃の発見と眠る少女の存在
階段の先にあったのは黒い大理石の箱であり、その内部には一人の少女が眠っていた。彼女は呼吸をしていないものの魂は失われておらず、特殊な状態で封じられていると判明する。さらに箱の開閉には、過去に入手した黒箱の鍵が対応していることが分かり、これまでの探索で得た要素が繋がっていることが明らかとなった。
鍵の使用と解錠の決断
少女の胸部には鍵穴が存在し、そこに秘神の鍵を差し込むことで起動できる構造であると推測される。一行は危険を承知の上で、この少女こそ脱出や迷宮の秘密に関する手がかりを持つ存在だと判断し、解錠を決断した。仲間たちが支える中でアリヒトは鍵を差し込み、聖櫃の解錠を成功させるに至った。
二 聖域の少女
少女の覚醒と異質な存在の顕現
鍵を差し込まれた少女は呼吸を取り戻し、長い眠りから目覚めた。光のない瞳で周囲を見渡し、言葉を発することなくテレジアと視線を交わした後、やがてアリヒトの名を言い当てる。彼女はテレジアから情報を読み取り、状況を理解した上で語り始めた。
迷宮の本質と「神集め」の真実
少女は迷宮国を「神集め」の責を負った場所と断じ、探索者が転生させられ迷宮を探索する理由に言及した。その言葉はアリヒトたちが抱いていた疑問に直結しており、迷宮の存在意義が単なる冒険ではないことを示唆していた。
秘神アリアドネの正体と境遇
少女は自身を「鉄の車輪」アリアドネと名乗り、百十七番目の秘神であり神の模造品であると明かした。しかしその実態は不完全な存在として創造主に廃棄され、迷宮の底で長く封じられていたものであった。守護者として配置された巨人兵も、彼女を守るためではなく侵入者を排除するための存在に過ぎなかった。
不完全な加護と選択の提示
アリアドネは加護を与えることができるが、その力は劣化しており完全な機能は望めないと説明する。また加護を受けるには彼女を信仰し、他の秘神と敵対する義務を負う必要があると告げた上で、より良い状態の秘神を選ぶことを推奨した。
アリヒトの決断と仲間の同意
アリヒトはアリアドネの不完全さを否定し、その存在自体に価値があると判断した。仲間たちも彼の決断に同意し、アリアドネを見捨てず共に進む道を選ぶ。こうして一行は彼女の加護を受けることを決断した。
加護の付与と新たな機能の獲得
アリアドネはライセンスに秘匿機能を追加し、供物によって加護を得る仕組みや、死亡時の強制帰還といった能力を与えた。また彼女自身は聖域から出ることができず、機能回復のためのパーツ収集が必要であることも明らかとなった。
帰還と生還の実感
会話の後、アリアドネの力によって一行は地上へ転移させられる。無事に曙の野原へ帰還したことで、極限状態からの解放と生還の実感を得た一同は安堵し、これまでの出来事の重みを噛みしめることとなった。
書き下ろし番外編夜の『後衛』と、パーティの葛藤
支援回復の影響と夜の異変
ルイーザが宿泊した夜、アリヒトの「支援回復」は別室にも及んでいた。居間で眠る彼は寝室の仲間にとって「後方」に位置し、無意識のうちに回復効果を発揮していた。その結果、仲間たちは身体の火照りによって目を覚まし、落ち着かない状態に陥っていた。
テレジアの動揺と静かな葛藤
最初に目覚めたテレジアは、暗い居間でアリヒトの様子を見守る。彼に背を向けても回復効果が発動してしまい、心拍や呼吸を意識するほど動揺していた。やがて抑えきれなくなり、再び彼の方を見てしまうなど、内心の葛藤を繰り返していた。
仲間たちの覚醒と共有される感情
やがてキョウカやミサキ、さらにルイーザやエリーティア、スズナも次々と起き出し、同様の状態であることを互いに確認する。全員が火照りと高揚を感じており、その原因がアリヒトの能力であると理解しながらも、どう対処すべきか迷っていた。
接触への衝動と抑えきれない感情
ミサキの提案をきっかけに、仲間たちは眠るアリヒトに近づき、手に触れるなどの接触を試みる。最初は戸惑いながらも、その温もりにより感情はさらに高まり、次第に誰も止められなくなっていった。普段は冷静な者たちも、この状況では理性を保つのに苦労していた。
キョウカの葛藤と感情の解放
キョウカは理性と責任感から行動を抑えようとするが、蓄積された感情と身体の反応に抗えず、最終的にアリヒトに触れることを選ぶ。彼の手を抱きしめた瞬間、安堵と満足感を覚え、自身が彼に強く依存し始めていることを自覚していった。
夜の終わりと静かな見守り
やがて全員が順に寝室へ戻り、アリヒトに気づかれないよう元の状態に整えた。最後まで残ったテレジアは、静かに彼の寝顔を見つめ続け、わずかな笑みを浮かべながら夜明けまで寄り添っていた。
世界最強の後衛 一覧







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