「ヘヴィーオブジェクト 採用戦争」裏で熾烈な競争を繰り広げていた【感想・ネタバレ】

「ヘヴィーオブジェクト 採用戦争」裏で熾烈な競争を繰り広げていた【感想・ネタバレ】

どんなラノベ?

とある島国が作成した核兵器が直撃しても耐えてしまう超大型兵器オブジェクト。
戦闘機をほぼ確実に撃墜し、ミサイルも迎撃してしまう。
おかげで今は、戦争の全てがオブジェクトで決まるようになった。
そんな戦場に派遣留学した学生クウェンサーと貴族だけど下っ端軍人のヘイヴィアの2人が撃破してしまった。

詳しくは特設サイト

前巻からのあらすじ

オブジェクト対オブジェクトの戦争が当たり前になっていた昨今。
アラスカではウォータースライダー、ジブラルタルではトライコア、オセアニアでは0.5世代を生身の兵士が撃破した。
そんな彼等を邪魔に思った正統王国の政治家から目を付けられて暗殺未遂に遭う。

読んだ本のタイトル

#ヘヴィーオブジェクト  採用戦争
著者:#鎌池和馬 氏
イラスト:#凪良 氏

あらすじ・内容

『禁書目録』『超電磁砲』の鎌池和馬が贈る、爽快アクションストーリー!

超巨大兵器『オブジェクト』が全てを塗り替えたこの世界は、宇宙開発技術採用を巡り熾烈な競争を繰り広げていた。 人生を効率よく生きたい戦地派遣留学生のクウェンサーと、貴族だけど下っ端軍人のヘイヴィアは、上官である和風マニア美女(ただしドS)のフローレイティアにいつも通りこき使われる日々を過ごしていた。 正統王国のオブジェクト『ベイビーマグナム』を操る『エリート』少女・ミリンダの魅惑のお尻に気を取られ、報われる日が永遠に来なそうな彼らに、今回下されたミッションは……姿が見えない謎の超巨大兵器『ステルスオブジェクト』との交戦!? 氷で閉ざされた南極から、凶暴な軍隊アリに支配されるアマゾンシティ跡地まで、あらゆる戦場に派遣させられる不良兵士二人組の、明るく爽快な近未来アクション……のはずだ!

ヘヴィーオブジェクト 採用戦争

感想

クウェンサー、ヘイヴィアのバカ2人がこの巻も大暴れ。

1番笑ったのはエロビを見ながらマガジンに弾を込めるシーン。

凄まじく作業は捗るらしいww
それをバッチリ婚約者に見られるヘイヴィアが、、

世間は宇宙に上がる軌道エレベータかレールガンを利用した射出機かで熾烈な争いをしていたが、軌道エレベーターでケリがついたようだ。

それに不服なレールガン派はオブジェクトを建設してテロ行為を行う。

それに巻き込まれてしまうバカ2人。

南極でペンギンを見ながら銃撃戦。

ペンギンが横断したら銃撃戦をやめて、通過したら爆弾を投げて相手を谷底に落としたりして何とかテロリストが何をしようとしていたか判明するが、、

テロリスト達は、敵国の高級将校を暗殺しようとしてたのだが、同じ処に泊まっているヘイヴィアの婚約者を助けるため。
暗殺する機械を放置しろと命令されていたのに、ウッカリとボタンを押してしまい軍人の暗殺を失敗させてしまったり。

イグアス山岳ではレールガンを利用した姿の見えない敵オブジェクトの攻撃で基地と味方のオブジェクトを撃破され、撃破されたオブジェクトのチームが腹いせに周辺住人を巻き込んだ破壊工作をしようとしているのを止め。

敵オブジェクトを索敵してベイビーマグナムに撃破させて味方の虐殺を止めたり。

ついでに上官のドSな貴族令嬢の意にそぐわない婚約を破断させたり、、
そのせいで、御令嬢の婚姻相手としての評判はガタ落ちにしてしまう。
意にそぐわない婚約だったので破断は嬉しいが、、
ピッチという評判にしたせいで上官から銃殺されそうになる。

アマゾンでアリの群れに襲われながらテロリストの首領とバトル。
何気にオブジェクトのパイロットのお姫様の暗殺も防ぐのだが、、

ハッキリ言って生き残ってるのが不思議なくらいの過酷な戦争に巻き込まれてしまってる。

それでもバカ2人が元気なのが救い。

最後までお読み頂きありがとうございます。
次巻↓

登場キャラクター

クウェンサー

現地派遣の学生技術者であり、爆薬と地形解析を得意とする存在である。整備担当でありながら前線で判断と実行を担い、上官への軽口と実務的な胆力を併せ持つ。
・所属組織、地位や役職
 第37機動整備大隊・派遣学生。
・物語内での具体的な行動や成果
 南極で氷床の脆弱帯を爆破し敵歩兵隊を殲滅した。レールガン陣地に対し山越えコイルガンの地盤破砕を進言した。イグアスでは二進暗号の射撃で敵位置を伝達し、ブレイクキャリアー撃破に導いた。アマゾンではお姫様の緊急射出路を爆薬で開放した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 対オブジェクト戦での“歩兵的解法”を連続して提示し、部隊の戦術選好に影響を与えた。

ヘイヴィア

現場感覚に優れた上等兵であり、銃撃と攪乱を得意とする存在である。皮肉と軽口が多いが、要所では背水の覚悟で時間を稼ぐ。
・所属組織、地位や役職
 第37機動整備大隊・上等兵。
・物語内での具体的な行動や成果
 南極とアンデスで牽制射撃と突入を主導した。イグアス・ダムでは同僚部隊の爆破を銃撃で阻止し、作業員を避難させた。終盤はスラッダー投降の呼びかけを担った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 家督と武勲をめぐる私事を抱えつつ戦闘継続の意思を示した。

フローレイティア

冷徹な現実主義者である女性指揮官である。戦術・政治・倫理の折り合いを取りながら部隊を動かす。
・所属組織、地位や役職
 第37機動整備大隊・指揮官。
・物語内での具体的な行動や成果
 南極でオブジェクト不使用を決断し歩兵作戦へ転換した。アンデスとアマゾンで分散索敵と限定使用火力を運用した。自爆保全に関わる現場判断を下し、部下の独断を“探せなかった”運用で黙認した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 対外勢力との交渉で作戦主導権を維持した。個人的事情を抱えつつも統率を崩さなかった。

お姫様(ベイビーマグナムのエリート)

オブジェクト操縦の適性を持つ少女であり、機体の主兵装を使い分けて戦局を動かす存在。
・所属組織、地位や役職
 ベイビーマグナム・エリート。
・物語内での具体的な行動や成果
 山列を下位安定式プラズマ砲で面制圧した。谷間からの一撃でブレイクキャリアーを撃破した。アマゾンでは損傷機体で砲台役を継続した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 自動自爆保全に伴う強制射出を受けたが救出され、戦線離脱を回避した。

ハルリード=コパカバーナ

強い誇りを持つエリート操縦士であり、正面決戦を是とする姿勢が顕著。
・所属組織、地位や役職
 ブライトホッパー・エリート少佐。
・物語内での具体的な行動や成果
 レーザー統一機で高速突進したが、長距離レールガンの一撃で大破した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 縁談問題でフローレイティアへ圧迫を試みたが頓挫した。

バイラニー=サローノ

結果優先の斥候指揮官であり、民間被害を許容する過激な選択を辞さない。
・所属組織、地位や役職
 第五二大隊・斥候部隊指揮。
・物語内での具体的な行動や成果
 イグアス・ダム破壊を提案し実行段階まで進めた。ヘイヴィアの説得で動揺を見せた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 独断色が強く、部隊間の倫理的亀裂を顕在化させた。

スタッカート=レイロング

極限操縦を実行できる操縦士。
・所属組織、地位や役職
 「正統王国」軍・戦闘機パイロット。
・物語内での具体的な行動や成果
 超低空・超高速で廃都の吹き抜けを貫通し、500キロ爆弾を投下してオブジェクト拘束を解除した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 対空レーザー網下での侵入成功により航空戦術の例外解を示した。

スラッダー=ハニーサックル

マスドライバー財閥の技術中枢であり、設計と投資の両面を握る首魁。
・所属組織、地位や役職
 マスドライバー財閥・名誉会長軍事相談員。オブジェクト設計士。
・物語内での具体的な行動や成果
 南極とアマゾンでの攪乱を指揮した。アマゾンでは試作実験炉を餌にした罠を構築した。最終局面で確保された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 捕縛により財閥は統率を失い、戦争終結の決定打となった。

レンディ=ファロリート

技術保存を最優先する現実的軍人。
・所属組織、地位や役職
 情報同盟・中佐。
・物語内での具体的な行動や成果
 交信で“個人抹殺より技術確保”の方針を明示した。ベースゾーン稼働の加速を示唆した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 四勢力化の火種を外交面から強めた。

バッファ=プランターズ

対財閥の封じ込めを狙う軍指揮官。
・所属組織、地位や役職
 資本企業軍・少将。
・物語内での具体的な行動や成果
 亡命の行き先と介入の意図を通告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 技術流出阻止の立場を貫き、戦域拡大の引き金になり得る圧力を与えた。

バンダービルト家の令嬢

社交性と観察眼を持つ貴族の娘であり、前線兵士の私生活にも介入する存在。
・所属組織、地位や役職
 貴族社会・ヘイヴィアの婚約者。
・物語内での具体的な行動や成果
 通信でヘイヴィアの行動を牽制しつつ士気を刺激した。月面別荘地帯からの臨時権限で情報連携を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 貴族間の力学を背景に、現場判断へ間接的影響を与えた。

展開まとめ

序章

歴史の定説の変化
歴史における定説は簡単に覆るものであった。鉄の使用開始をヒッタイトとする説も、西アジアのより古い遺跡での精錬跡発掘によって誤りと証明された。このように新たな発見があれば古い知識はすぐに更新され、現在の定説も未来では笑われる可能性があると語られていた。

オブジェクトの存在と支配
戦争の様相を一変させたのが超大型兵器オブジェクトであった。本体は全長五十メートルを超え、二十万トン以上の重量を誇り、核シェルター並みの装甲と原子炉を凌駕する動力炉を搭載していた。百門以上の砲を駆使するその力は陸海空を制圧し、戦争はオブジェクト同士の対決に集約されるようになった。どちらかの機体が行動不能となれば勝敗が決するというのが定説となり、誰もが揺るがぬものと信じていた。

定説への疑念
しかし、この定説も歴史の常と同じく、いつ覆るかは分からないと警鐘が鳴らされていた。未来の人間から見れば、現代の常識すら時代遅れで笑われることになるかもしれないのである。

第一章 障害物競走なら普通は泥まみれ 南極大陸制圧戦

弾薬装填の苦行と軽口
ヘイヴィアとクウェンサーは狭い予備作業室で、レールガン砲弾ケースを椅子代わりにしながらアサルトライフルの弾を黙々と装填していた。効率の悪さに音を立てて苛立つヘイヴィアに対し、クウェンサーは規則的に作業を進め、長期保存時の不具合回避を理由に工場での事前装填を否定していた。兵站コストや人力投入の是非を巡る掛け合いは続き、ヘイヴィアは面倒に悲鳴を上げた。

不適切動画での加速と露見
二人は棚から見つけた成人向け教材を再生し、叱咤調の音声に合わせて装填速度を劇的に上げた。しかし、その最中に映像チャットが割り込み、画面越しの金髪の少女に状況を見られて狼狽した。クウェンサーとヘイヴィアは慌てて再生を止めたが、ケースは発見され、体裁は取り繕えなかった。

バンダービルト家令嬢との通話
少女はバンダービルト家の令嬢であり、ヘイヴィアの婚約者であった。彼女はウィンチェル家嫡男としての待遇や階級の低さを話題にしつつ、戦地から音信不通であることを咎め、社交的な軽口で関係を保っていた。クウェンサーは私語を避けて作業に戻り、ヘイヴィアは貴族同士の事情をにじませながら応対していた。

緊急召集と指揮官の介入
フローレイティアが密閉室に直接現れ、通信の優先度の都合を説明した上で二人を会議室へ回収した。令嬢は軽く頷いて送り出し、フローレイティアはそのまま作戦会議を開始した。

南極での作戦概要
舞台は南極であり、ロス海沿岸上空を飛行した正統王国の調査機が地対空ミサイルの照準レーザーを受けた事案が共有された。照準位置から逆算した発射地点はエレバス山麓であり、国際照会の結果いずれの大勢力にも属さないテロリストと認定されたため、強襲・排除が容認される情勢であった。無人観測所の被害確認と防護、必要なら殲滅も辞さない方針が明言された。

オブジェクト不使用の制約
兵士らはオブジェクト優位の時代背景から余裕を見せたが、フローレイティアは南極の厚氷上ではオブジェクトが沈下する危険を理由に出撃不可と通告した。ベイビーマグナムは使えず、整備部隊であるはずのクウェンサーとヘイヴィアにも小銃を抱えての対テロ戦闘が命じられ、二人は状況の過酷さを悟ったのである。

南極上陸と環境の違和感
クウェンサーとヘイヴィアはボートでロス海沿岸に上陸し、百名規模の包囲網の一角としてエレバス山へ進出していた。だが現地は黒い岩肌から白い蒸気が立ちのぼり、雪が積もらない異様な温感に満ちていた。クウェンサーは温度計と過去の噴火情報を根拠に火山熱の影響だと説明し、装備の着用継続を促していた。

火山地帯と“温泉”の誘惑
湯気の立つ水溜まりは体感四十度前後の温水で、ヘイヴィアは湯に触れて歓声を上げたが、クウェンサーは任務逸脱を戒めて前進を継続した。地形は次第に雪原へと変わり、顔汗が凍るほどの寒冷域に入ったのである。

衛星監視の制約と領有権背景
無線のフローレイティアは、南極が資源と漁場を巡る“激戦区”であり、複数勢力が歴史的主張を重ねている事情を述べた。さらに、静止衛星の死角や極軸上空の衛星枠の奪い合いにより、正統王国は南極側で衛星優位を持たず、生身の捜索が不可避であると説明した。

初撃と即席の遮蔽
突如、二人の間に被弾が走り、敵の散発射撃が開始された。遮蔽物の乏しい雪原で、二人は地形の微起伏に身を伏せて応戦体勢を取った。ヘイヴィアはライフルで牽制したが、強風や機材劣化の影響で着弾は散り、敵も七、八名にバラけて回り込みを図っていた。クウェンサーは学生身分のため火器所持を禁じられており、手持ちは爆薬のみであった。

ペンギン親子の一幕
銃撃の最中、灰色の雛ペンギンが戦線を横断し、双方は一時的に発砲を止めて成り行きを見守った。上空からアホウドリが急降下したが、母ペンギンの威嚇で狙いが逸れ、再旋回の後に捕食は断念された。雛は母の足元に潜り、やがて視界外へ去り、束の間の静寂は歓声とともに終わった。

氷床崩落による殲滅
銃撃再開後、ヘイヴィアの広域牽制に合わせ、クウェンサーは無線起爆付きプラスチック爆弾を前方へ投擲した。爆薬は氷上に落ちて滑走し、起爆で二百メートル規模の氷床が丸ごと崩落した。下は火山活動で空洞化しており、敵兵は奈落へ落下した。クウェンサーは氷割り実験の知見と地図判読で脆弱箇所を見抜いたと明かし、オブジェクト投入不能の理由も氷床の危険性にあると結論していた。ヘイヴィアは戦果を認めつつも、怒気を含んでクウェンサーの首を絞める衝動を抑えていたのである。

包囲網の収束と寒冷地の徒進
クウェンサーとヘイヴィアは包囲網の一角として前進し、別働隊の姿を確認して安心感を得ていたが、露見リスクから軽率な合図を戒められていた。南極の寒さと装備の不快さに愚痴をこぼしつつ、訓練課程や身分差、政治への姿勢をめぐる会話を交わしながらエレバス山麓へ接近していった。

無人観測所と謎の円筒群の発見
視界が開けると、雪原と急斜面の境に無人観測所があり、その周辺一帯に直径八十センチ・長さ九メートルの円筒が等間隔で多数横倒しに並んでいた。正体不明の装置に対し、周辺の部隊も同様に警戒と困惑を示していた。

円筒の正体とレールガン陣地の起動
ある円筒が回転して砲口を向け、続いて多数が同調した。実体はオブジェクト搭載用レールガンのスペアであり、低重心台座に据え付けられた即席の砲台群であった。第一射の衝撃波だけでクウェンサーは吹き飛ばされ、雪原に大きな亀裂が走った。二人は亀裂へ飛び込み、歴史的な対戦車陣地に類する誘引・包囲の布陣であると理解した。

隠れた動力源の推測と時間制約
ヘイヴィアは砲群を稼働させる出力から、送電ケーブルで接続された隠匿オブジェクトの存在を推測した。亀裂は砲撃余波で拡大しており、留まれば転落、地上に出れば一斉射で蜂の巣という二重の危機が迫っていた。

山越えコイルガンの“地盤破砕”誘導
クウェンサーはベイビーマグナムへ山越え弾道でのコイルガン着弾をグリッド指定で要請した。狙いは直撃破壊ではなく岩盤そのものの破砕であり、レールガンを支える深いアンカーの効力を失わせることにあった。着弾は大震動を引き起こし地盤を割り、砲台は反動と衝撃波に耐えられず傾倒・転倒・後方飛散を起こした。

砲台の自壊と反撃転機
歩兵側への直撃は消え、クウェンサーは倒れた砲の射線を避けつつ送電ケーブル切断で無力化する方針を示した。遠隔操作の拠点は無人観測所と見なされ、同所の動きが慌ただしくなったことから、クウェンサーは突入準備を促し、銃撃戦の主導をヘイヴィアに任せる判断を下した。

無人観測所の制圧
クウェンサーとヘイヴィアは、歩兵隊と合流し無人観測所を制圧した。敵はスペア砲を遠隔操作する戦術に依存しており、突破後の対応を用意していなかったため抵抗は乏しかった。現場からはミサイルランチャーと不自然な角度の対空レーダーが発見されたが、目的の詳細は不明であった。

兵士たちの疲弊と小休止
制圧後、二人は活火山域に湧く温泉を見つけ、足湯で暖を取った。戦闘や捜索への疲労から任務への意欲は低下し、オブジェクトの有無や敵の意図についての議論も、半ば投げやりな調子となっていた。

新たな発見
その後、岩陰に巨大な銀色の塊を発見した。近づくと、それはカメラやセンサーを備えた観測用ロボットであり、防水ノートパソコンが不自然に接続されていた。設計者以外の者が外部から接続した痕跡があり、テロリストの目的との関係が疑われた。

衛星への干渉
ロボットを解析した結果、通信衛星を介してデータを送受信する仕組みに干渉が行われており、衛星に搭載された実験用レーザーが月面の「ブラインドネット」を照射する危険が明らかとなった。この攻撃が成功すれば、月面の別荘地帯「ロックキャッスル」に甚大な被害が及ぶ可能性があった。

上層部の対応と矛盾
フローレイティアは、標的が「資本企業」の高官であると知るや黙認の姿勢を示した。任務に従えば民間人を巻き込む可能性がある一方、軍規を破って衛星に介入すれば自らが処罰対象となるという矛盾に、クウェンサーとヘイヴィアは直面した。

フローレイティアによる叱責
クウェンサーとヘイヴィアは強襲揚陸空母の士官室でフローレイティアから激しい説教を受けていた。説教は一二〇分を超える長さに及び、両名は机上の飛び道具が飛んでくるかと戦々恐々として耐えた。フローレイティアは非公式の追加作戦であった事実を指摘し、公式の場で責任を問えないために不問に付されることが幸いであったと述べたが、もし違えば鉄格子の中に入っていたと厳しく告げた。

お嬢さんの反応と士官室の空気
長時間の罵詈雑言の末、フローレイティアは問いを変え、当該の少女の反応を尋ねた。クウェンサーがその質問をヘイヴィアに回すと、ヘイヴィアはばつの悪さを滲ませつつも、少女が超嬉しそうであったと正直に報告した。これを受けてフローレイティアは初めて表情を崩し、二人の上官はそれ以上詮索する必要はないと結論した。

ヘイヴィアの一人の時間と心情
任務を終えたヘイヴィアは士官室を出てクウェンサーと別れ、単独で冷たい甲板に出た。四人一部屋の寝室は一人になりたい彼の希望に合わず、艦の外気に当たりながら携帯端末で映像チャットを接続した。相手は月面の別荘にいるバンダービルト家の令嬢であり、臨時権限がこれで最後になる可能性を意識していたため、話すべき事をすべて伝えておく必要があると考えていた。

家督と武勲を巡る決意
チャットの中で令嬢から家督を継ぐ事に関する問いかけを受け、ヘイヴィアは自身が家督を継ぐために必要な武勲を得る機会から遠ざかった事実を語った。周囲から疎まれる理由があると指摘されても、ヘイヴィアは後悔していないと答え、かえって家督を得る資格を掴むためにあがき続ける決意を固めた。彼は士官学校に通わず上等兵の位置に甘んじているのは、やるべき事を為すためであり、その目的のためなら超大型兵器オブジェクトと戦う覚悟すら示した。

ベイビーマグナムの観測
エリートのお姫様はベイビーマグナムのコックピットでロス海沿岸を監視していた。エレバス山の戦場近くには数隻のモーターボートが停泊しており、テロリスト達のものと推測された。さらに海面には数十本もの送電ケーブルが垂れていたが、本来接続されるはずのオブジェクトの姿はなかった。レーダーにもそれらしい巨大な影は見当たらず、彼女は率直にフローレイティアへ報告した。

潜航機能かステルスか
フローレイティアは潜水機能の可能性を検討したが、五〇メートル級の球体が潜航すれば水流の乱れをソナーが拾うはずだと指摘した。お姫様はステルスの可能性を挙げたが、いずれにせよ実際には姿を確認できず、探索は難航していた。

残された手がかり
一方で、対戦車陣地に残された痕跡は重要な情報源となった。大量のレールガン用小抵抗ケーブルや、調査機をロックした地対空ミサイルユニットなどが確認され、敵兵は全滅していたが複数の手がかりが残されていた。これらの装備の出所を分析することで、敵勢力の特定に近づいていた。

財閥の名の発覚
フローレイティアは逡巡の末に口を開き、残された技術と物資の規模から導かれる勢力を示した。それは世界的な影響力を持つ「資本企業」の一角であるマスドライバー財閥であった。彼女は明確な根拠が薄いことを認識しつつも、この名を挙げることで戦況の背後に潜む巨大組織の存在を示唆した。

第二章 二人三脚の登山は命懸けで イグアス山岳砲撃戦

海上での会談と任務の位置づけ
フォークランド諸島近海で、強襲揚陸空母シャルルマーニュの艦長とフローレイティアが甲板を歩きながら、空母運用の変遷とオブジェクト時代の任務を確認した。大量の航空機を集約する旧来の空母思想は、超高速魚雷やステルス機雷の登場でリスクが増し、小型艦の分散運用へ移行したという整理であった。現在の主務は、海上でオブジェクトに補給と防衛を施し、迅速に上陸用機材を展開することであると結論づけられた。また追跡対象がマスドライバー財閥であることを共有した。

海上整備場としての二隻運用
二隻の強襲揚陸空母が並走し、間にベイビーマグナムを据えて多数のワイヤーと足場で急造の整備場を構築していた。クレーン群は艦の両端に分散配置され、位置取りと安定を両立させていた。

揺れる足場での作業訓練
クウェンサーは海面三〇メートル上の細い吊り橋状の足場で恐怖に耐え、整備兵の老女から「波と風の規則に合わせて重心を取れ」と叱咤を受けた。周囲の整備兵は命綱なしで作業をこなし、これが整備の基本技能であると示された。老女は研究テーマの決定を促し、クウェンサーは推進と重量分散に関心を示しつつ効率重視の姿勢を語った。

コックピットへの“冷蔵庫+電子レンジ”案
クレーンで運ばれる小型冷蔵庫を見たクウェンサーは驚き、老女は長航行の集中力維持のためコックピットに固定設置する計画を説明した。全兵士には味気ないレーションを均等配備する一方、エリートの集中力は戦局を左右するため個別最適が許容されると整理された。

甲板上の情勢分析と“資本企業”論
ヘイヴィアはジャミング重視の小型戦闘機を眺めつつ、オブジェクトのレーザー優位下で「ロック回避」が航空の主眼となったと述べた。続けてマスドライバー財閥の来歴を解説し、資本の集積が地位を決める「資本企業」の中で、同財閥がマスドライバー実用化を独占的に進めてきたが、最終採用でレーザー式軌道エレベーターに敗北し、資産価値の崩壊を恐れて脱退と“大移動”に踏み切った経緯を示した。資本企業はPMC制で軍を外注し、オブジェクトとエリートのみ中核保持という仕組みであり、交渉の余地は乏しく総力戦は不可避であると結んだ。

お姫様の補足と緊張緩和
お姫様はマスドライバーの概念を「上向きレールガン」にたとえて補足したうえで、資本企業の差し止めで採用先を失った財閥の窮状を示した。緊張する二人に対し、お姫様は艦内食堂に就航十五周年パーティの残りがあると告げ、フライドチキン談義で漂う空気を一瞬和ませた。

作戦前夜の含意
フローレイティアが慎重に作戦立案を進める背景として、脱退財閥の覚悟、PMC群の動員力、秘匿オブジェクトやエリートの存在可能性が挙げられた。クウェンサーとヘイヴィアは装備・補給・心身の準備を一段と求められる段階に入ったのである。

食堂での小休止と軽口
クウェンサー、ヘイヴィア、お姫様は艦内食堂でフローレイティアと合流し、パーティの残り物を分け合って腹を満たした。フライドチキンを巡るやり取りで場は和んだが、四人は戦場にいる自覚を保ちつつ談笑を続けたのである。

ポールダンスの力学と上官の実演
ヘイヴィアの疑問から話題はポールダンスの保持原理に及び、フローレイティアが真鍮棒と肌の摩擦、脚の挟み込みとねじりで体重を受けると解説した。彼女は即興で配管を使って逆さ回転を実演し、化学繊維は摩擦を下げて不利である旨を補足した。お姫様にも同様の技量があると明かされ、二人は意外性に驚愕した。

月面攻撃未遂の狙いと“資本企業”内対立
会話は本題へ移り、南極探査ロボット経由で衛星を乗っ取り月面別荘を狙った動機が整理された。標的の少将はレーザー式軌道エレベーター推進派であり、マスドライバー派の逆恨みが背景にあったとフローレイティアは述べた。これは「資本企業」内部の路線対立が表面化した事例であると位置づけられた。

正統王国が関与せざるを得ない理由
クウェンサーの内政干渉リスクへの懸念に対し、フローレイティアは「正統王国」のアマゾン方面に建設中の宇宙開発基地(レーザー式)を守る必要を挙げ、最小限の関与で防衛線を確保する方針を示した。暴走する財閥の矛先が基地へ向けば被害が拡大するため、抑止と限定行動が不可欠であるとの判断であった。

偵察の困難と脅威見立て
アンデスの高標高と鉱山粉塵、南東貿易風の乱れにより衛星スキャンに死角が生じ、敵位置は不鮮明であった。相手オブジェクトの主砲は大口径レールガンと推定され、直撃はもちろん余波の衝撃波でも耳や内臓を損なう危険が強調された。南極で見たレールガンは予備水準に過ぎず、本機はそれを凌駕すると評価された。

生身の限界と問い
具体的対策を問うヘイヴィアの独白で場は締めくくられた。五〇メートル級オブジェクトの火力を前に、生身の兵が取り得る手は限られ、なおも「具体的にどうしろと」という自問が残り続けたのである。

上陸準備と先行
ベイビーマグナムの整備が完了し、お姫様は海上用フロートを装着したまま先行して海岸線を掃討した。クウェンサーとヘイヴィアは強襲揚陸空母から水中翼船で上陸に向かった。

上陸直前の飽和砲撃
内陸の低山斜面からレールガンの砲弾が弧を描いて襲来した。お姫様は対空レーザーで迎撃したが、一部が着水して被害が発生した。フローレイティアは上陸の続行を命じた。

山列の無力化
クウェンサーの進言により、お姫様は七門の主砲を下位安定式プラズマ砲に切り替えて分散射撃し、山列を面で崩落させて砲台を沈黙させた。余波の衝撃波が上陸部隊を襲ったが、作戦は継続された。

砂塵下の捜索と後方構築
砂塵で戦果判定が不能となり、歩兵・工兵が崩落地帯を捜索した。遠隔操作のスペア砲と送電ケーブルのみを確認し、敵兵は見当たらなかった。海戦用フロートの取り外し完了に伴い、基地構築と簡易飛行場整備が進められた。

空白地帯の事情
イグアス周辺が勢力無所属の空白地帯である事情が整理された。犯罪組織の経由地になりやすい一方、マスドライバー財閥のように留まる例は稀であると示された。

他部隊の思惑と隊内事情
お姫様は一か月後にブライトホッパーとの模擬戦で“噛ませ犬”役を命じられ、不満を示した。第32機動整備大隊のハルリード=コパカバーナから合流打診があり、フローレイティアは作戦の主導権維持を優先して牽制した。

チャフミサイル発射と疑念
北方パラナ山岳地帯から天候兵器のチャフミサイルが発射され、衛星監視が一時無効化された。クウェンサーは、撤退偽装にとどまらない意図が潜むのではないかと不穏を察知した。

ブライトホッパーの進撃
ブライトホッパーは球体下部の静電浮上装置で機体を薄く浮かせ、後部の三本脚で地面を蹴って時速七〜八百キロで山岳を突進した。後退機能は捨て、正面突撃に特化した設計であった。操縦士エリートのハルリードは誇り高い「貴族」として退く意思はなく、道中の飛来体を対空レーザーで容易に撃墜しつつ、補給車列を置き去りにしてでも最速合流を優先した。全兵装はレーザーに統一され、想定五キロ圏内で敵オブジェクトを瞬殺できるとの自負を示していた。

長距離砲撃の衝撃
前方上空の微光直後、山脈のさらに彼方から巨大な衝撃波がベースゾーン方面まで届いた。強襲揚陸空母は、五五〇キロ北から進撃中のブライトホッパーが一撃で大破したと通達した。フローレイティアは曲射弾道の長距離レールガンと断じ、常識外れの交戦距離での命中に部隊は騒然となった。推定弾速はマッハ二五と報じられ、従来の常識(数〜十数キロでの決戦)を完全に覆していた。

チャフ雲反射の照準理論
クウェンサーは、敵が天候兵器のチャフミサイルで「電波を反射する雲」を上空に形成し、地上から照準電波を斜め上に打ち上げて雲で反射させ、山岳地形の死角を無視してロックしていると推理した。乱反射による戻り波は少ないが、補正計算で位置決定が可能と見抜き、ベイビーマグナムに対し雲そのものを下位安定式プラズマ砲で吹き飛ばす対処を進言した。お姫様は即応して雲に風穴を開けたが、五十キロ全域を覆う雲を払うには至らず、照準妨害は不十分であった。

ベイビーマグナム中破
マッハ二五の砲弾が低峰をまたいで掠り、ベイビーマグナムの装甲を抉った。第一〜第三主砲が発射不能、推進系にも異常が発生し、高速戦闘能力が低下した。衝撃波でクウェンサーとヘイヴィアは鼓膜をやられ、骨伝導で通信を確保するのがやっとであった。雲の切れ目から覗く敵影は長大な主砲を機体の中心理念に据えた第二世代機であり、砲身はバイポッド様の支持機構で支えられていた。

敵の接近と意図
マスドライバー財閥のオブジェクトは距離優位を保てるはずにもかかわらず、あえて接近してきた。空に散在する円形の雲穴は、過大な弾速による空力加熱で砲弾が自己崩壊した痕跡とも取れ、敵は「確実圏」での止めを選んだ可能性が高かった。

ベースゾーンへの殲滅射
クウェンサーは「オブジェクトを仕留める者は、整備・補給の心臓部も必ず潰す」と直感し、全員に退避を叫んだ直後、マッハ二五の砲撃がベースゾーンを直撃した。施設・人員は甚大な被害を受け、クウェンサーは衝撃で意識を喪失した。敵オブジェクトは数百キロの速度でなお接近を続け、戦局は「追撃」から「劣勢のオブジェクト対オブジェクト」へと一変していた。ハルリードの生死は不明のままであった。

砲撃の余波と被害の把握
クウェンサーは意識を取り戻し、周囲の地盤が割れて段差となり、基部が崩落している惨状を確認した。フローレイティアは直撃は免れたが衝撃波で広域被害が出たと述べ、基地は堅牢構造に逃げ込んだため致命傷は限定的であったと説明した。

長距離砲の特性と不発の理屈
フローレイティアはマッハ二五級の砲弾が空力加熱で空中爆発した可能性を指摘し、液体窒素などの冷却機構を内蔵した試作的主砲ゆえ半数が自爆している痕跡を挙げた。距離が近いほど放物線が急になるため分解に救われた面はあるが、敵は直射で接近戦に移れば決定打を取りに来ると分析した。

作戦の転換と撤退判断
ベイビーマグナムは中破し高速戦闘が困難であるため、フローレイティアは作戦中止と海上撤退を決断した。負傷者は水中翼船で散開退避し、外洋の味方艦隊に救援を仰ぐ方針を示したが、艦隊全体の運命は各旗艦判断に委ねるしかない状況であった。

第五二大隊斥候からの提案
最前斥候のバイラニー=サローノが連絡し、ベイビーマグナムは山間に隠匿中でヘイヴィアの予測に基づいて遮蔽を活用していると報告したうえで、ブライトホッパー式の足止め撃破マニュアルを提案した。高山植物プラント跡の半球施設を隠れ蓑にして至近から下位安定式プラズマ砲で貫通する策であった。

ダム破壊案をめぐる対立
足止め手段としてバイラニーはイグアス・ダム破壊で下流を一時水没させる案を提示した。フローレイティアは民間被害が万単位に及ぶとして断固拒否したが、バイラニーは「正統王国」の民ではないと冷淡に切り捨て、独断実行の姿勢を崩さなかった。

役割分担の即決と倫理の軋轢
ヘイヴィアは独断爆破の恐れを共有し、二人は即座に「ダムはヘイヴィアが止める、敵オブジェクトはクウェンサー側で仕留める」と役割を分けた。フローレイティアは無謀と制止したが、クウェンサーは「見つからなかった」と報告してほしいと頼み、派遣学生としての立場を切り離して現地責任を引き受ける覚悟を示した。

上官の条件付き容認
フローレイティアは正式命令としては認めない姿勢を貫きつつ、上陸用水中翼船一隻の残置と自らの「捜索」継続を宣言し、実質的に行動の余地を与えた。捻挫したクウェンサーに肩を貸し、「やると決めたなら全力で選択肢を尽くせ」と述べ、アラスカ、ジブラルタル、オセアニアでの対オブジェクト戦績を踏まえて現場で見届ける覚悟を示した。

サバイバル=即席兵装
フローレイティアはサバイバルキットを「殺しの道具」に再解釈。鉄串=刺突・投擲、釣り糸=絞殺・ワイヤートラップ、ミニ竿=カーボン鞭と講義し、自ら武装。クウェンサーは応急薬のみ受け取りつつ、飛来していたPDWを秘匿携行。

足を引きずりつつ機動開始
フローレイティアが満身創痍のオフロードカーを確保。上り勾配の内陸へ進みつつ、シャルルマーニュから敵主砲の追加解析を受領。

ブレイクキャリアー主砲・追加解析

  • レールガン+ロケットの混成:発射後に砲弾を三分割し、中央ロケットへ運動エネルギー集中→さらに加速。
  • 終末は子弾(タングステン想定)を円形射出して誤差吸収。
  • 弾道は“急降下曲射”:約2,500mまで上昇→急転降下。尾翼は不明、可変溝や表面損傷で空力調整か。
  • 液体窒素で冷却(蒸気痕=飛行機雲様)。冷却不全で空中分解=不発の主因。
    ⇒ 宇宙技術の寄せ集めで、理屈は通るが危険極まりない“実戦投入中の試作級”。

一撃離脱・奇襲方針の具体化
チャフで衛星は盲目。ならば地上で進路を特定→ベイビーマグナムを施設残骸に隠匿し“一発必中”。候補ルートは山脈の谷3本。駆動音の来向で振り分け、中央ルート近傍で待ち伏せへ。

待伏せ準備と電管統制
車両を偽装隠匿。斜面の植林帯に潜み、坑道・トンネルの位置を端末にオフラインでブックマーク(以降の逃走・迂回に備える)。電波は遮断して被捕捉を回避。

フローレイティアの素顔
待機中、彼女は“男子後継をほぼ確実に産む”という血統ゆえの政略と性的搾取の現実を静かに吐露。戦場を自らの自由として選ぶ苦渋と諧謔。クウェンサーは軽口で空気を和らげつつも、重さを受け止める。

接近音
静電浮上系特有の低い唸りが山中に反響。ブレイクキャリアー接近。三ルートのどれか—音の定位に全神経を尖らせる……。

イグアス・ダムの現地状況
イグアス・ダムは高さ約四〇メートル、幅三〇〇から四〇〇メートルの規模を誇り、最大貯水量は八億トン以上であった。そこに最前斥候小隊の車両が到着しており、ヘイヴィアは爆破を阻止すべく潜入した。拘束されていた作業員を救出し、標高一〇〇メートル以上の山岳地帯へ避難させた。

爆破方式の見極め
ダムは老朽化時の廃棄を想定して複数の解体チェックポイントを持っていた。これを同時に破壊すれば崩落するが、逆に一つでも無力化できれば防衛可能であった。設置された爆弾は有線起爆式であったが、クウェンサーの助言により電気信管用ケーブルと断定され、ヘイヴィアは射撃で切断に成功した。これにより一部の爆破は封じられた。

サローノ小隊との交戦
バイラニー=サローノ伍長が率いる部隊は、同じ正統王国軍に属しながらも作戦遂行を優先し、ヘイヴィアの排除を命じられていた。ロケット砲や挟撃部隊も投入され、激しい銃撃戦が始まった。ヘイヴィアは同胞を殺すことを避けつつ応戦したが、数の差は不利であった。

言葉による対抗
ヘイヴィアは声を張り上げ、作戦の大義を否定した。クウェンサーとフローレイティアが敵オブジェクトを先に撃破すれば、ダム爆破による大水害の意味は失われると宣告したのである。サローノは動揺しつつも、学生の力で勝てるのかと反論した。ヘイヴィアは即座に「当たり前だ」と断言し、自ら安全な退路を断ち切った。

戦況の転換点
この時点でヘイヴィアは時間稼ぎの役割を完全に引き受け、味方の勝利を信じて持久戦に臨んだ。ダム上での銃撃戦は激化し、作戦の趨勢はクウェンサー達の行動に委ねられる状況となった。

音源判別の混乱と決断
クウェンサーとフローレイティアは山の斜面で駆動音を探知したが、それはベイビーマグナムと敵オブジェクト双方の音が重なったものだった。方角の判別は不可能であり、時間が迫る中でクウェンサーは二手に分かれる案を提示した。彼は自ら斜面へ滑落し、真ん中のルートに残ることでフローレイティアをトンネル経由で左側へ向かわせた。

滑落と敵影の出現
斜面を転がり落ちたクウェンサーは両脚を負傷し、移動不能となった。その場に現れたのはマスドライバー財閥のオブジェクト「ブレイクキャリアー」であった。全長百メートル超の大口径レールガンを備え、砲弾の分割加速や液体窒素冷却を併用する多重兵装を有していた。彼は無線機が破損したため、PDWの射撃音を二進暗号に変換し、敵位置を「中央ルート・ポイント391」と伝達した。

暗号伝達と攻撃準備
ベイビーマグナムを操るお姫様は谷間に潜み、クウェンサーの規則的な銃声から位置を把握した。事前に彼がブックマークしていた地形データを利用し、トンネルを経由した射線を即座に確保する。彼女は迷うことなく主砲を照準し、下位安定式プラズマ砲を発射した。

敵オブジェクトの撃破
プラズマ砲はブレイクキャリアーの中心部を貫き、動力炉を内部から爆発させた。二〇万トンの巨体は粉砕され、衝撃波と破片が山岳地帯を覆った。クウェンサーは崩落に巻き込まれながらも生き延び、直後にフローレイティアに救出された。彼女は激怒し、次に命を軽んじれば自ら殺すと警告した。

戦闘の終結と残された疑念
お姫様は通信で敵オブジェクトの破壊を全軍に告げ、イグアス・ダムではヘイヴィアがバイラニーに投降を呼びかけた。戦闘は終了したが、ヘイヴィアは一つの疑問を抱いた。海岸線でスペア砲に送電していた別のオブジェクトの存在が確認されていないのである。マスドライバー財閥がなお秘匿兵器を保持している可能性が示唆された。

フローレイティアの説教と割り込み
クウェンサーは強襲揚陸空母の士官室で、フローレイティアから一時間に及ぶ説教を受けていた。両脚を傷つけていたため衛生兵は車椅子を勧めたが、彼女は取り合わなかった。そんな最中、パソコンに映像通話が入り、場は中断された。

ハルリードの登場と婚姻問題
画面に現れたのは、ブライトホッパーの操縦士だったハルリード=コパカバーナ少佐であった。彼はフローレイティアの婚姻候補の一人であり、自身が第一候補に繰り上がったと告げた。さらに彼女へ帰国と精密検査を求め、体の価値を確認するような発言を行った。これは彼女を美術品のように扱う態度であり、強い侮辱を含んでいた。

クウェンサーの介入と茶番
フローレイティアが追い詰められる中、クウェンサーは背後から彼女の胸を掴み、カメラに向かって「私的な関係がある」と宣言した。これにより、彼女が“正統な後継者を産む器”としてのみ扱われる状況を崩そうとしたのである。ハルリードは激昂し、縁談を白紙にすると言い残して通信を切った。

制裁と揺らぎ
行為の直後、フローレイティアは激怒してクウェンサーを殴り倒し、さらに顔を踏みつけた。軍規違反の口実すら与えたため、彼女は「射殺権限すらある」と告げた。しかし、クウェンサーが「困っている彼女をどうにかしたかった」と漏らすと、彼女は一瞬だけ目を逸らし、心中にわずかな揺らぎを見せた。

第三章 騎馬戦は足元を崩すべし アマゾンシティ総力戦

大西洋を北上する艦隊と空軍の現在地
旗艦シャルルマーニュを中心とする強襲揚陸空母群が、南米アマゾン方面のブラガンサ港近海を目指して北上していた。甲板では整備兵が灼熱下でカタパルトの歪みを点検し、エレベーターで上がる一人乗り戦闘機のパイロットと無線でやり取りしていた。制空権の価値が薄れた時代に空軍の役割は輸送や低空偵察、式典アクロバットに傾いたという認識が共有され、活躍したいが活躍が必要な事態は望まないという本音が交わされていた。

艦長—フローレイティア—現地管制の交信
艦橋の艦長は私語回線を遮断して作戦通信に集中し、フローレイティアおよび現地基地管制官と状況を確認した。アマゾン方面の守備オブジェクトはメンテ中や他戦線対応で動かせず、プライトホッパーも大破、指揮官ハルリード=コパカバーナは帰国志向という報が伝えられた。ベイビーマグナムは装甲板交換こそ終えたが主砲の一部と推進装置が不調で、現地基地の規格差から十分な補給整備も望めないことが判明した。艦長とフローレイティアは、未確認の第二オブジェクトの存在可能性を暗に共有し、情勢が荒れる予感を口にしていた。

整備基地の敷設とアマゾンシティの素性
クウェンサーとヘイヴィアは可搬式施設群の展開後、各施設への物資搬入に従事していた。マスドライバー財閥残党は二〇キロ先のアマゾンシティ跡地で拠点化を進め、反撃後に足跡を消して逃走する意図があると把握された。ヘイヴィアはアマゾンシティがかつて資源採掘のために建設された工業都市だったが、免疫学を覆すほどのウイルス発生で放棄された経緯を説明した。直近の調査でウイルスは確認されなかったとされ、二人は不安を抱えつつも作業を続けていた。

コックピット用シートの試用という一幕
お姫様が現れ、梱包されていた豪華な椅子がベイビーマグナムのコックピットに取り付けるシートであると明かした。集中力維持のため低周波治療機能まで備えた装備であり、クウェンサーとヘイヴィアが試用すると強烈な刺激に翻弄される騒ぎとなった。お姫様は黙って代替のコックピット用シートの追加配備を要請して場を収めた。

補給所での再会と誤解の種
配線確認の合間、クウェンサーは補給所でフローレイティアと遭遇した。かつての不意打ちへの警戒や婚姻問題の尾を引く愚痴が交わされる中、半開きの扉に寄りかかった拍子にクウェンサーの勉強部屋へ踏み込み、教材に紛れた成人向けビデオの存在が露見した。クウェンサーは自分の持ち込みではないと必死に弁明したが、フローレイティアの視線は冷え、気まずさを抱えたまま二人は移動した。

作戦方針と標的の特定
フローレイティアは残党の規模を約五百名と見積もり、オブジェクト運用時の陣頭指揮者が失われたため命令系統が変更されたと述べた。現指揮はスラッダー=ハニーサックルであり、財閥専属のオブジェクト設計士にして投資家、名誉会長の軍事相談員を兼ねる要人であった。作戦はアマゾンシティ跡地でベイビーマグナムを投入し、最低限この人物を確実に討つというものだった。クウェンサーは第二のオブジェクトの噂に触れ、フローレイティアはびっくり箱の脅威を理由に警戒を強め、軽傷で済んだ過去の捻挫では終わらない事態を予期して注意を促していた。

指揮所からの統制
フローレイティアは整備基地ベースゾーンで状況を監視し、密林と廃都が交錯するアマゾンシティでの感知精度と味方歩兵の動線干渉を天秤にかけつつ、センサー運用の指針を調整した。伏兵の見落としを避けることと、現場判断で生じる弊害の是正を自らの責務と定め、遠隔から小反応の拾い漏れ防止に注力したのである。

私的話題が混線する無線
お姫様は出撃中にもかかわらずフローレイティアに私的質問を投げ、先の一件を巡る動揺を示した。フローレイティアはエリートの精神状態が戦況を左右する点を重ねて自覚しつつ、平静を取り戻すよう対応した。

市街侵入と環境把握
クウェンサーとヘイヴィアは密林を抜け、幅広い幹線道路と送電の高層配線が残るアマゾンシティ跡へ進入した。資源採掘都市ゆえ大型重機対応の道路計画が施されており、ビルは崩落と傾斜が進んでいた。遠方では銃声が交錯し、戦闘の火蓋が切られていた。

砲撃支援と歩兵任務の再定義
ベイビーマグナムは損耗により主砲の一部と推進装置が不調であったため、無駄撃ちを避けつつコイルガンでピンポイント支援を実施した。歩兵側は瓦礫越え支援のための工爆準備と、地上据え付け型のスペア砲捜索・無力化を担うことになった。

敵の足を刈る作戦
フローレイティアは敵戦力の分散阻止と包囲殲滅を最優先し、スラッダー=ハニーサックルの確実な殺害・身元特定(顔・指紋・血液採取)を命じた。車両団の破壊で逃走経路を断ち、中心へ圧縮する索敵線形を指示した。強襲揚陸空母隊の支援「バーニング・アルファ」による地雷散布案は、長期汚染と安全装置の信頼性を理由に即時却下した。

びっくり箱への備え
第二のオブジェクト存在は依然未確定だが、フローレイティアは「不用意な決戦投入=不意撃破」の最悪手を避け、消耗戦回避を明言した。ハニーサックルは資金・才覚の両面から新造計画を再始動し得る脅威と評価され、逃亡阻止が作戦の要となった。

軍隊アリの脅威と即席対処
市街路上でクウェンサーとヘイヴィアは軍隊アリの大群に進路を塞がれ、背後は衝撃波で倒木が落ち退路を喪失。殺虫剤ノズルを搭載したライフルで対処を試みるも逆上を誘発した。オブジェクトのレーザー援護は失明リスクで却下し、クウェンサーは発煙筒とスモークをばら撒いた上で、上空で小型爆薬を起爆して降下する煙を地表に叩きつけ、滞留時間内に群れの行動力を奪って鎮圧した。

市街戦の「地味な」現実
通過後、ビル内部には全身を噛まれ腫れ上がったマスドライバー財閥兵の死体が散見され、局所では自然環境が敵味方を無差別に削る実相が露わとなった。クウェンサーとヘイヴィアは騒擾に乗じた包囲を避けつつ、車両団探索と罠設置の是非を検討しながら前進を継続した。

後方指揮所と資本企業からの接触
フローレイティアは整備基地ベースゾーンの執務室で戦況を監視していたが、「資本企業」軍少将バッファ=プランターズから映像接続を受けた。彼はスラッダー=ハニーサックルが「正統王国」に亡命する可能性を否定し、むしろ「情報同盟」への接近を告げた。フローレイティアはこれを受け、隣接するパリマ方面の国境に仮設ベースゾーンが建設中である事実を想起し、早期介入の危険を確信した。

軍隊アリの被害と兵士の違和感
一方、クウェンサーとヘイヴィアはアマゾンシティ跡地で、軍隊アリに襲われた敵兵士と放置された砲座群を発見した。重機やレールガン設置の痕跡から時間稼ぎの構図が見えたが、兵士が使用していた弾薬は「情報同盟」規格であり、補給源に疑念が生じた。二人は地下鉄網を利用した脱出を疑ったが、フローレイティアは否定し、財閥の真意は籠城と「情報同盟」による救援待ちであると明かした。

四勢力衝突の危険性
マスドライバー財閥が亡命を既成事実化した事で、「情報同盟」の介入が確定的となり、さらに「資本企業」軍も技術流出阻止のため即応体制に入った。こうして「正統王国」「情報同盟」「資本企業」「財閥」の四勢力がアマゾンシティに集中する危機が発生した。フローレイティアは二時間以内にハニーサックルを排除しなければ、多数のオブジェクトが投入される戦場に変貌すると断じた。

大出力レールガンの出現
財閥は地下街を爆破してブレイクキャリアー級の大出力レールガンを露出させた。過去にオブジェクトを数百キロ先から貫通した悪魔の砲であり、ベイビーマグナムをも瞬時に破壊しかねなかった。市街崩落の連鎖でベイビーマグナムの逆Y字推進脚が瓦礫に挟まり、行動不能となった。

クウェンサーの奔走と航空支援
クウェンサーは爆薬で拘束部分の除去を試みたが、瓦礫の量は個人装備では処理困難であった。隣接ビルからの投下案も崩落で阻まれた中、上空のバーニング・アルファが500キロ爆弾による空爆支援を提案した。対空レーザーの脅威を承知しつつも、唯一の突破口として実行が検討される状況に至った。

対空レーザーの脅威と侵入の“例外”
アマゾンシティ跡地には、ブレイクキャリアー主砲の予備に加えて、オブジェクト搭載を想定した対空レーザー砲が配置されている可能性が高い。対空レーザーは一旦ロックされれば即座に航空機を破壊するが、例外として(1)強力なジャミングやチャフ・フレアでロックを阻害する方法、(2)極低高度を高速度で突進し空気中の塵や蜃気楼によりレーザーの有効性を低下させる方法が存在する。後者は事実上、廃都のビル群を超高速ですり抜ける自殺行為に近い手段である。

スタッカート=レイロングの超低空突入
「正統王国」軍パイロット、スタッカート=レイロングは高度五メートル前後でマッハ一前後の速度を維持し、廃ビルの吹き抜けを貫通して目的座標へ五〇〇キロ爆弾を投下した。機体下面の多数のセンサーとレーザー測距を併用し、ビル内の空間を「一本の通路」と断定して通過する操縦を行った。結果として瓦礫は一掃され、ベイビーマグナムの拘束は解除された。

レールガンは罠、真の標的は試作実験炉
クウェンサーは現地の状況から違和感を覚え、地上に固定された大出力レールガンは本来の目的に対して合理性を欠くと判断した。過去の沿岸事例と照らすと、莫大な電力供給源は潜水艦搭載型の試作実験炉(JPlevelMHD試作炉)であり、今回は地下埋設された炉の臨界爆発を誘発する罠としてレールガンを餌に用いた可能性が高い。つまり、レールガンの運用は誘導装置であり、真の破壊力は地中の炉の臨界爆発に求められているのである。

臨界爆発と被害
クウェンサーの警告は遅く、ベイビーマグナムの脚下で試作炉が臨界に達し爆発が発生した。爆発は巨大な衝撃波と焼夷的な破壊をもたらし、周辺の建築物と人員に甚大な影響を与えた。

情報同盟との対話と目的の差異
整備基地側では、フローレイティアが「情報同盟」軍のレンディ=ファロリート中佐と通信を行った。レンディはスラッダー=ハニーサックル個人の抹殺を目的とはしておらず、マスドライバー技術そのもの、特に宇宙展開に資する技術の「保存」と「取得」を第一目的に挙げた。レンディは現時点のレーザー式軌道エレベーター優位を否定せずとも、将来的な代替策としてマスドライバー技術の蓄積価値を強調した。フローレイティアはこれに対し、ハニーサックル抹殺とデータ破壊で介入の口実を潰す方針を堅持した。

四勢力化の差し迫る危機
レンディの言明と衛星観測に基づき、情報同盟側の仮設ベースゾーンは短時間で作動可能状態へ移行しつつある。資本企業側も亡命阻止のために即応態勢を整えており、結果として「正統王国」「情報同盟」「資本企業」「マスドライバー財閥」の四勢力が交錯する事態に発展する恐れがある。フローレイティアは二時間以内にハニーサックルを排除できなければ局地戦が国際戦へ拡大する旨を明言している。

戦術上の現況と最優先課題
現場の最優先課題は(a)試作炉の所在特定と即時無力化、(b)スラッダー=ハニーサックルの確実な抹殺、および(c)情報同盟のベース稼働前の決着である。ベイビーマグナムは拘束解除直後に臨界爆発を受けるなど損耗が顕著であり、外部増援は期待しにくい。したがって現局面は、迅速かつ確実な目標達成によって戦端の国際化を阻止することが唯一の安全策である。

臨界爆発直後の状況把握
クウェンサーは試作実験炉の臨界爆発による衝撃で一時的に感覚を失ったが、意識を取り戻して通信機を確保した。爆風は指向性を持って形成されており、オブジェクトの外装部材(オニオン装甲のスペア)を用いた成形的な反響で被害の致命度が部分的に軽減されたと推測される。とはいえ、ベイビーマグナムの逆Y字推進装置と機体下半部は甚大な損傷を受け、機体は事実上砲台運用へ移行した。

自爆保全機構――パターンBの起動
お姫様のオブジェクトには鹵獲防止の自動安全装置が備わっており、今回のダメージ判定は「パターンB」を選択した。パターンBは機体の即時爆破ではなく、操縦エリートの自動射出を優先し、その後の機体処遇(回収・修理・遠隔爆破)を後続判断に委ねる方式である。しかしながらシステム判定の速度に対して人為的な介入は困難であり、カウントダウンが進行している状態であった。

射出阻害の発見と緊急対処
クウェンサーは射出口が鋼鉄製の網で塞がれている異常を発見し、マスドライバー財閥側がエリート捕獲を狙った「ネット弾」等の装備を用いて射出路を封鎖したと判断した。射出口が開かぬまま自動射出が作動すれば、エリートはハッチに激突し致命的となる。クウェンサーは廃ビルの傾斜構造を利用して屋上へ急行し、プラスチック爆弾「ハンドアックス」を投擲して噛み込みを剥がし、結果としてお姫様の自動射出とパラシュート展開を間一髪で成功させた。

射出直後の至近対峙
射出成功の安堵は短く、ベイビーマグナム上面の砲陰に白衣迷彩の男が出現した。男は拳銃を装備し、パラシュート展開中の操縦エリートへ狙いを定めた。クウェンサーは即座に対応し、爆薬のハッタリ投擲で男の動きを攪乱して優位を得る。男は自身をスラッダー=ハニーサックルと名乗った。スラッダーはマスドライバー財閥の名誉会長の軍事相談員であり、大投資家であり、かつオブジェクト設計士という、討滅優先度が極めて高い人物である。これによりクウェンサーは、射出直後の頂上戦で直接ハニーサックルと対峙している状況となった。

戦術的含意
(1)ベイビーマグナムの機能低下は著しく、歩兵とオブジェクトの相互依存性が崩れると戦局は不利へ傾く。
(2)マスドライバー財閥は罠と局所防御を組み合わせた綿密な作戦を敷いており、個別の破壊行為が連鎖的に戦況を攪乱する。
(3)スラッダー=ハニーサックルの存在は作戦の最重要軸であり、彼の即時除去が戦域の国際化を阻む鍵である。

終章

戦争の終結と財閥の失墜
スラッダー=ハニーサックルの捕縛により、マスドライバー財閥は統率力と士気を喪失した。ベイビーマグナムは大破し戦闘継続不能となったが、「正統王国」軍は歩兵や戦車による旧式戦術で戦線を維持し、敗北は免れた。こうして南極からアマゾン方面に至る長期戦は終結を迎えた。資本企業は財閥の暴走を主張し責任回避を図ったが、結局は正統王国に有利な条約締結を迫られることとなった。一方で情報同盟は直接介入に至らなかったため、追及を免れる形となった。

捕縛者の処遇と現場の修復
クウェンサーとヘイヴィアは、アマゾンの工場施設において大破したベイビーマグナムの修復作業を見守った。工場の方を分解・展開し、動けないオブジェクトを現地で修理する大規模作業であった。スラッダー=ハニーサックルの処遇は正統王国内で議論され、処刑か技術情報の抽出かで意見が割れた。フローレイティアは、資本企業や情報同盟からの引き渡し要求を一蹴し、治外法権を認めることはないと断言した。

クウェンサーの内省と戦争観
クウェンサーは、スラッダーに引き金を引けなかったことを悔いながらも、境遇の近さや戦争の本質に思いを巡らせた。学校では学べない現場の経験が、設計士を志す自分に必要な糧である可能性を感じ取ったのである。彼は「何のために戦うのか」という問いに立ち返り、単に生き残るためなら殺す必要はなかったと考えた。

兵士たちの総括と功績評価
ヘイヴィアは、自身とクウェンサーがブレイクキャリアー撃破やイグアス・ダム防衛、ハニーサックル生け捕りといった功績を挙げたとして勲章を期待した。しかし、フローレイティアはこれを冷笑し、戦果は部隊全体のものにすぎず、個別の功績としては認め難いと断じた。加えて、規律違反や軽率な行動を理由に「マイナス評価」を積み上げ、鞭三百回という冗談めいた処罰まで口にした。

新たな任務への布石
最終的にフローレイティアは、罰の代わりとして「結果で信頼を取り戻せ」と命じた。クウェンサーとヘイヴィアには、次なる任務――輸送機で遠方へ向かい、新たなオブジェクトを破壊するという過酷な作戦――が待っていることが示され、物語は新たな戦場への予感を残して幕を閉じた。

同シリーズ

ヘヴィーオブジェクトシリーズ

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「ヘヴィーオブジェクト」
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「ヘヴィーオブジェクト 巨人達の影」
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「ヘヴィーオブジェクト 電子数学の財宝」
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「ヘヴィーオブジェクト 第三世代への道」
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「ヘヴィーオブジェクト 亡霊達の警察」
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「ヘヴィーオブジェクト 亡霊達の警察」
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「ヘヴィーオブジェクト 氷点下一九五度の救済」
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「ヘヴィーオブジェクト 外なる神」
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「ヘヴィーオブジェクト 外なる神」

その他フィクション

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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