物語の概要
本作は、後宮で薬師として働く少女・猫猫(マオマオ)が、薬学の知識と鋭い観察眼を駆使して宮中で起こる事件や陰謀を解決していく物語である。第20巻では、反逆を企てる子一族の砦に到着した壬氏(ジンシ)率いる禁軍が、猫猫を救出し子昌を討伐することに成功する。砦の奥へと進んだ壬氏は、楼蘭から子一族の過去を聞かされる。神美は真実に耐えきれず、楼蘭に向かって飛発を撃つが暴発して死亡する。「悪女」として最期を迎えた楼蘭だが、猫猫にあることを託していた。
主要キャラクター
• 猫猫(マオマオ): 後宮で働く元薬師の少女。好奇心旺盛で、薬学や毒に関する深い知識を持つ。
• 壬氏(ジンシ): 皇帝の側近であり、禁軍を率いる美貌の青年。猫猫に特別な感情を抱いている。
物語の特徴
本作は、架空の後宮を舞台に、薬学や毒に関する知識を駆使して事件を解決するミステリー要素と、宮中の権力争いや人間関係を描いたドラマが融合している点が特徴である。猫猫の冷静かつユーモラスな視点から描かれる物語は、読者に新鮮な驚きと知的好奇心を提供する。また、壬氏との微妙な関係性や、後宮内の複雑な人間模様も物語に深みを与えている。
書籍情報
薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~ 20
原作: 日向 夏 氏
作画: 倉田三ノ路 氏
キャラクター原案: しのとうこ 氏
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あらすじ・内容
シリーズ累計4000万部突破!!
子一族が反逆を企てる砦に到着した壬氏率いる禁軍は、猫猫を救出し子昌を討伐することに成功する。砦の奥へと進んだ壬氏は楼蘭から子一族の過去を聞かされる。神美は真実に耐えきれず、楼蘭に向かって飛発を撃つが暴発して死亡。
「悪女」として最期を迎えた楼蘭だが、猫猫にあることを託していて…!?
超絶ヒットノベルコミカライズ、第二十弾!!
感想
本巻は、「子一族」という一大陰謀の収束を軸としながら、登場人物たちの生活と立場に大きな変化が訪れる転換点となっていた。
緊張の連続であった砦編の終幕に続き、登場人物の多くが自らの役割を終え、次なる道を歩み始める展開が印象深い。
まず、救出された猫猫が「お役御免」となり、薬屋に戻って養父の仕事を継ぐ決意をする場面には、ひとつの章の終わりと始まりを感じさせられる。
一方で、その日常は決して静かではない。
子一族の生き残りである趙迂という少年が、猫猫のそばに「当然のように」居座ることで、今後の伏線が巧みに張られている。
この“クソガキ”の立ち位置は興味深く、無邪気さと謎を併せ持ちつつ、猫猫と壬氏の関係にも絶妙に割り込んでくる。
趙迂が語った「蝗がすかすかだと不作になる」という一言が、やがて蝗害の伏線として回収されていく構成は、作者の緻密なプロット設計が光る部分である。
さりげない朝餉の一幕が、国家規模の災厄へと繋がる可能性を示す点において、シリーズの持つ“日常と事件の接点”がしっかりと踏襲されていた。
また、今巻ではキャラクターの“旅立ち”も多く描かれている。
子翠は玉藻と名を変え遠く倭へと向かい、小蘭は下級妃の妹の下女として後宮を去る。
それぞれの人物が「新しい場所」を得る姿には、寂しさと同時に清々しさがあった。
一方で、壬氏はついに皇弟として表舞台に立ち、政治に携わるようになる。
その重圧の中で、猫猫を訪れる時間だけが彼の癒しのように描かれるが、そこに趙迂が絡むことで、癒しが混沌へと変わっていく描写にはユーモアすら感じさせられる。
壬氏が眠るために妓女ではなく猫猫の子守唄を求める場面は、彼の心理的な安定の象徴であり、猫猫との関係の深化を静かに物語っていた。
総じて、本巻は「事件後」の余韻と、「次の危機」の芽吹きが絶妙に同居した構成となっている。
登場人物がそれぞれの場所で自らの役目を果たし、次の物語へと歩みを進めていく様は、シリーズを追ってきた読者にとって非常に満足度の高いものであった。
読後に残るのは、静かな安堵と、これから起こるであろう災厄への予感であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
(PR)シリーズ累計4,000万部突破。今後の展開に注目したい方は、ぜひ上記サイトより第20巻をご確認ください。
登場キャラクター
猫猫
好奇心旺盛で冷静沈着な元薬師の少女である。身分や立場に囚われず、後宮や花街で起こる出来事を論理的に捉え、知識と経験をもとに問題解決を試みる姿勢を崩さない。壬氏との関係には微妙な距離感がある。
・所属:薬屋(元後宮下女、毒見役)
・子一族の砦からの帰還後、薬屋を再開し趙迂の保護者となる
・飛蝗と蝗害の因果に気づき、国難に関わる伏線を見出す
壬氏
皇弟であり、禁軍を率いる青年。美貌の宦官と偽って後宮に出入りしていたが、今巻では政治の表舞台に立つようになった。猫猫に対して特別な感情を持ち続けている。
・所属:皇族(皇弟)、禁軍指揮官
・子一族の反乱鎮圧を指揮し、猫猫の救出を達成
・簪の行方や猫猫との関係に心を揺らしながらも政務に邁進する
趙迂
子一族の生き残りの少年。記憶喪失と軽い麻痺を抱えながらも猫猫の元で花街の生活に適応している。
・所属:なし(花街、猫猫の家在住)
・似顔絵を描く才能を活かし、自活を始めている
・発言を通じて蝗害の兆候を示唆し、物語の鍵を握る
高順
壬氏の側近であり、命令の執行や調査補佐を担当する忠実な補佐役。
・所属:禁軍(壬氏直属)
・図録の回収、事件の報告などを淡々と遂行
・猫猫や壬氏からの信頼が厚い人物である
楼蘭(子翠)
かつて猫猫と交流のあった子一族の女性。情報を猫猫に託した後、神美の発砲により死亡した。
・所属:子一族
・砦での研究や記録を猫猫に残すために動いていた
・遺した簪が次巻への伏線となる
玉藻
港町で簪と玉の蝉を交換する娘。楼蘭の遺志を継ぐ存在である可能性が示唆されている。
・所属:不明(港町在住)
・商人との取引により物語に関わる簪を入手
・名を変えた子翠である可能性が濃厚
翠苓
かつての敵対者であったが、阿多とともに監視付きで新生活を始めている。
・所属:不明(監視下で移送)
・命を救われた後、新たな生活に移行
・表立った活動は描かれていないが再登場の余地がある
小蘭
猫猫の友人であり、後宮を出て下級妃の妹に仕える下女となった。
・所属:後宮外(新たな仕官先)
・赤羽を通じて猫猫に手紙を届ける
・友情と別れを象徴する役割を果たす
やり手婆
緑青館の運営者であり、実質的な管理者。厳しく現実的な性格である。
・所属:緑青館(花街)
・猫猫に対し身請け金の支払いや生活の指針を示す
・壬氏に対しても臆せず発言する胆力を持つ
梅梅
花街の姐御分の妓女。猫猫に助言を与え、緑青館での生活を支える存在である。
・所属:緑青館(花街)
・猫猫をもらい湯に誘導し、生活面を支援
・花街における猫猫の後見人的立場
お館さん
緑青館の経営者。やり手婆から頻繁に叱られている。
・所属:緑青館の主
・妓女たちとの関係は深いが詳細は不明
・騒動や事件に関与せず、周辺的な役割
白鈴
名高い妓女。李白の憧れの対象として登場する。
・所属:緑青館
・李白の感情に影響を与え、物語の端々で名が挙がる
・物語内では象徴的存在として描かれる
李白
武官であり、猫猫と協力して盗品の回収や市中の調査に当たった人物。
・所属:武官(官吏)
・猫猫の依頼で図録を追跡し盗人を逮捕
・白鈴への好意を行動原理としている
右叫
尋問を担当する人物であり、飴と鞭の使い分けで盗人から情報を引き出す。
・所属:不明(治安関係者)
・盗人の心理を読み取り、蝗害の情報を得ることに成功
・猫猫と連携して調査を進めた
盗人
砦から図録などを盗み出して密売していた人物。猫猫を過去に「蛇娘」と呼んだ。
・所属:なし(市井の犯罪者)
・砦の火事に紛れて盗品を持ち出した
・趙迂に関する秘密を知る人物として重要視される
展開まとめ
第八十三話 狐につままれた
楼蘭との関係の話題
壬氏は楼蘭との関係について猫猫に尋ねた。猫猫は楼蘭が複雑な人物であったことを認めたが、彼女との関係が友情であったのか曖昧な答えをした。壬氏は楼蘭の死を悔やみ、彼女の意図を理解できないまま終わったことを残念に思っていた。
子どもたちの安置場所でのやり取り
壬氏は疲労からその場で横になり、猫猫と子どもたちが安置されている場所で一緒に休もうとした。猫猫はこの場所が「忌むべき場所」であると主張し、壬氏を諭そうとしたが、彼は聞き入れなかった。猫猫自身もここにいる理由を問われるが、答えを濁した。
猫猫の痣と壬氏の反応
壬氏は猫猫の首に残る痣に気づき、その原因を問いただした。猫猫は冷静に女性に叩かれた痕だと説明したが、壬氏は怒りを抑えられない様子だった。猫猫は壬氏の執拗な心配に辟易しながらも、彼の誠実さを感じ取った。
蘇る子どもたち
子どもたちの安置場所から音がしたことで猫猫が確認すると、一人の子どもがかすかな息をしていた。猫猫はその子どもを救おうと必死に動き、蘇生の方法を試みた。楼蘭が事前に与えた手がかりと知識を思い出しながら、猫猫は次々と蘇生を試みた。
壬氏の手助けと次の約束
壬氏は猫猫の指示で湯と温かいものを用意し、子どもたちの蘇生を手伝った。彼はこの状況を「狐に化かされた」と苦笑しつつ、猫猫に耳元で「続きはまた後で」とささやき去っていった。猫猫はその言葉に気を留める余裕もなく、子どもたちの世話に集中した。
第八十四話 年明け
帝の后と東宮のお披露目
都は現帝が后を迎え、東宮をお披露目することで盛り上がっていた。その后の名は玉葉であり、東宮は彼女の御子である。このめでたい知らせの一方で、猫猫は薬屋に戻り日常へと復帰していた。
趙迂の蘇生と新しい生活
蘇生された子どもたちの中でも、趙迂は記憶喪失と軽い麻痺を抱えながらも花街で新たな生活を送っていた。他の子どもたちは元上級妃阿多のもとで育てられることになったが、趙迂だけは猫猫の元に残された。彼の適応力と明るさが花街の人々に溶け込んでいた。
阿多と翠苓の新たな道
男装した阿多は以前より生き生きとした姿を見せ、翠苓も監視付きながら命を許され新しい環境へ移っていた。阿多が子どもたちを引き取る決断をした背景には、彼女の慈悲と責任感があった。
小蘭からの手紙
猫猫の元に赤羽が訪れ、小蘭からの手紙を届けた。そこには、寂しさと再会への願いが書かれており、猫猫は心に温かさと寂しさを同時に感じた。一方で楼蘭の死体が見つからないことを猫猫は内心望んでいた。
壬氏との再会と約束の行方
覆面を外した壬氏が猫猫の元を訪れた。彼は任務を終え、猫猫と再会を果たしたものの、楼蘭に渡した簪の行方について聞き落胆していた。それでも、壬氏は猫猫との対話や時間を楽しむ様子を見せた。
猫猫の日常と露店の娘
猫猫は薬作りに励む中、都での様々な出来事に無関心でいようとしていた。一方、遠い港町では簪を持つ娘が商人と交渉し、玉の蝉を手に入れた。彼女の名前は玉藻であり、彼女の行動には未来への希望が込められていた。
第八十五話 趙迂
朝の花街と猫猫の生活
花街の朝はけだるく、妓女たちは明け方までの疲れを癒して眠っていた。猫猫は寒さに震えながらあばら屋を出て、緑青館へ向かい湯浴みをしようとしていた。そこで、姐御分の梅梅と出会い、やり手婆に呼ばれたことを思い出した。
やり手婆とお館さんのやり取り
緑青館では、お館さんがやり手婆に怒られていた。お館さんが持ち込んだ話に対し、婆は拳骨を落としながらも緑青館の朝餉を準備した。その豪華な朝食には蝗の煮付けが並んでおり、妓女たちは驚きと嫌悪感を隠せなかった。趙迂だけがそれを平然と食べ、猫猫はその順応性に驚かされた。
趙迂の記憶と蝗害の兆し
朝餉の席で趙迂が「蝗がすかすかだと不作になる」と語ったことが猫猫の興味を引いた。彼の曖昧な記憶が重要な情報を示している可能性に気づき、猫猫は調査を始める決意をした。
市での買い物と趙迂の特技
猫猫は市で香を購入し、趙迂は似顔絵を描いて稼いでいた。その才能に周囲が驚きつつも、妓楼での彼の行動に警戒する者もいた。猫猫は趙迂に注意を促し、花街の外での活動を控えるよう忠告した。
第八十六話 本の行方
不思議な書物との再会
趙迂が描いた蝗の絵をきっかけに、猫猫は過去に見た書物を思い出した。書店を訪れると偶然にもその書物と再会し、かつて監禁された部屋にあった本と同じものであることに気づいた。その内容が不老不死の薬の研究に関連するものだと分かり、猫猫の関心は一層深まった。
盗品の発見と李白の協力
猫猫は市で不審な品物を見つけ、砦から流出した可能性が高いと判断した。知り合いの武官李白に協力を依頼し、書庫から盗まれた図録の行方を追うよう頼んだ。李白は白鈴に良い印象を与えたいがために自ら見張りを行い、結果として盗人を捕まえることに成功した。
捕らえられた盗人との対峙
盗人は痩せた男で、猫猫を見て驚き「蛇娘」と叫んだ。彼は以前、砦で猫猫の見張りをしていた人物であり、火事場泥棒として図録を持ち出した経緯が明らかになった。猫猫は脅しも交えながら情報を引き出し、まだ手元に図録があることを確認した。
右叫の対応と盗人の告白
右叫は飴と鞭を使い分けて盗人を落ち着かせ、彼の信頼を得ることに成功した。盗人は、飛蝗と蝗の違いや、農民が虫の分別を行っていることを説明しつつ、蝗害の兆候を示唆した。また、砦で研究を行っていた人物が蝗害を防ぐ方法を模索していたことも明らかにした。
趙迂の登場と緊迫した空気
趙迂が現れたことで、盗人は彼を「坊っちゃん」と呼びかけそうになり、猫猫はとっさに盗人の口を薬草で塞いだ。趙迂はその発言を覚えておらず、無邪気に振る舞っていたが、その存在が盗人にとって重要な意味を持つことが暗示された。
飛蝗と蝗害の問題への意識
猫猫は飛蝗と蝗に関する情報を基に、蝗害の兆候が現れている可能性を確信した。砦での研究の成果が国にとって重要な意味を持つことに気づきつつも、趙迂の正体にまつわる不穏な状況をどう処理すべきか悩む場面で物語は展開した。
壬氏の来訪と図録の提示
猫猫の薬屋に壬氏が訪れた。彼の顔には傷が残っており、その美貌に不似合いな痛々しさがあった。
第八十七話 眠り
猫猫は本屋で手に入れた図録を見せ、飛蝗の大量発生について話した。壬氏も北部農村での蝗害被害を把握しており、昨年の不作分には対応済みであると述べたが、今年の被害が続く可能性に憂慮していた。
図録の回収依頼
猫猫は壬氏に、砦に残ると思われる虫の図録の回収を依頼した。その図録には飛蝗に関する詳細な記録が含まれている可能性が高く、蝗害の予防策を探るための重要な手がかりになると説明した。壬氏はその要請を受け入れ、高順を通じて対応を進めることとなった。
壬氏の疲労と休息の勧め
猫猫は壬氏の疲労を察し、緑青館での休息を提案した。やり手婆の協力で準備された最上階の部屋に案内され、壬氏はそこで湯浴みを提案されたが、環境に慣れないため遠慮した。猫猫は滋養強壮の茶を差し出し、壬氏を励ましつつ、彼の疲れを癒す手助けを行った。
妓女たちの登場と壬氏の反応
猫猫は壬氏のために妓女たちを用意したが、壬氏は戸惑いと拒絶の態度を見せた。彼の意図を理解しない妓女たちは自らをアピールしたが、壬氏はただ眠りたいとだけ伝えた。猫猫は妓女たちを下がらせ、壬氏に静かな環境を提供した。
壬氏の眠りと別れ
壬氏は猫猫に子守唄を頼み、猫猫の歌声で深い眠りについた。目覚めた後、彼は元気を取り戻し、粥を三杯も平らげて薬屋を後にした。猫猫は壬氏を見送りながら、彼の体調と仕事量を案じたが、ひとまず安心してその姿を見送った。それを見ていた白鈴は「そろそろ観念したら」と言われたが、猫猫は惚けた。
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