ヒモ生活6巻レビュー
【理想のヒモ生活】あらすじ・ネタバレ・まとめ
ヒモ生活8巻レビュー
どんな本?
■ 作品概要
『理想のヒモ生活 7』は、現代日本から異世界(カープァ王国)に召喚された主人公・善治郎が、女王アウラと結婚し「理想のヒモ生活」を送りながらも、様々な政治的課題や外交問題に向き合っていく異世界ファンタジーである。 第7巻では、ガジール辺境伯家長女ルシンダとプジョル将軍の結婚式に出席するため、善治郎と北大陸のフレア姫がガジール辺境伯領へ赴くエピソードが描かれる。そこで隣国ナバラ王国の騎士が立ち入り禁止区域に無断侵入する事件が発生し、ガジール辺境伯家の次女ニルダと真っ向から対立する国際問題に発展する。善治郎はニルダの「貴族籍がない可能性」という爆弾を隠しつつ、現代日本の道具であるLED懐中電灯を用いて相手の嘘を暴き、事態を穏便に収拾する。一方で王都では、女王アウラがシャロワ・ジルベール双王国のフランチェスコ王子と「瞬間移動」や「付与魔法」の魔道具化を巡る高度な交渉を行い、さらにアウラの第二子妊娠の可能性が浮上するなど、国の未来を左右する出来事が並行して進行する。
■ 主要キャラクター
- 善治郎・カープァ:現代日本から召喚されたカープァ王国王配。自身に戦闘能力がないことを自覚しており、遠出の際は常に護衛に頼っているが、現代の知識や道具(LED懐中電灯など)を用いた機転で外交問題を解決に導く。妻のアウラを深く愛しており、フレア姫からの積極的な好意に戸惑いを見せている。
- アウラ一世:カープァ王国の女王であり、善治郎の愛する妻。第二子妊娠の可能性が浮上する中、善治郎への絶対的な信頼を口にし、王都で双王国の王子と国益を懸けた腹の探り合いを行う。
- フレア・ウップサーラ:北大陸ウップサーラ王国の第一王女。結婚式のパートナーとして善治郎に同行し、道中で自ら肉竜を狩るほどの勇猛さを見せる。ナバラ王国の騎士との裁判で善治郎の頼みを受けて矢面に立ち、女としてではなく一人の人間として自分を認めてくれる善治郎に明確な愛情を抱くようになる。
- ニルダ・ガジール:ガジール辺境伯が領民の娘との間に設けた妾腹の次女。純真で人懐っこい性格だが、王家が管理する貴族の「名簿」に名前が載っていない身分問題が存在し、それが他国の騎士との諍いを重大な国際問題へと発展させる要因となる。
- プジョル・ギジェン:カープァ王国軍の大将軍。野心家で、ガジール辺境伯家長女のルシンダと結婚する。ナバラ王国の騎士長が善治郎を侮る発言をした際、激怒して相手を追い詰める烈しさを見せる。
- マルティン・ナダル:ナバラ王国の大将軍であり、使節団の代表。プジョル将軍とは先の大戦からの因縁がある。部下の失態を若手への実践訓練の場として利用しようとする老獪さや、自国の英雄でありながら大国の王族である善治郎に深く頭を下げる度量を持つ。
- ルシンダ・ギジェン(ルシンダ・ガジール):ガジール辺境伯家の長女で、プジョル将軍の新妻。派手さはないが清楚で有能な女性であり、結婚式では見事な手腕で領地運営や来客対応を指揮し、夫と隣国の将軍の一触即発の空気を機転で和らげる。
■物語の特徴
主人公が圧倒的な武力や魔法で敵を倒すのではなく、現代日本の知識や道具、そして大人の政治的駆け引きを用いて問題を解決していく点が本作の大きな特徴である。 第7巻では、異世界の「魔法」と現代の「懐中電灯」といった対比だけでなく、女性の社会的地位の違い、妾腹の身分問題、隣国との国境を越えた情報戦など、シビアな社会制度や貴族の建前がリアルに描かれている。証拠がない水掛け論の裁判において、自らを弱者と偽って相手の油断を誘い、逃げ場のない罠に嵌めて論破する善治郎の鮮やかな手腕は、読者にとって非常に痛快であり興味深いポイントである。また、若き騎士の未熟さや大国と中堅国の力関係といった外交の機微が緻密に描かれ、ヒューマンドラマとしても深い魅力を持っている。
読んだラノベのタイトル
理想のヒモ生活 7
著者:渡辺恒彦 氏 イラスト: 文倉 十 氏
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あらすじ・内容
大人気シリーズ第7弾! 善治郎とフレア姫が急接近! 女王アウラはどうなる……!?
結婚式に出席するため、ガジール辺境伯領へとやってきた善治郎とフレア姫。そこで待っていたのは、ガジール辺境伯家次女と名乗る少女ニルダだった。アウラからの事前情報では、ガジール辺境伯家の娘はルシンダ一人のはず。警戒感を抱く善治郎。その数日後に問題が発生する。ナバラ王国使節団の騎士ライムンドが、誤って立ち入り禁止区域に足を踏み入れてしまう。その一件をきっかけに事はは次第に大きくなっていく。事態の悪化を回避するために、善治郎が奮闘。問題解決の策をフレア姫に要請する。そのことで心理的な距離が近づいたフレア姫は、善治郎に対するほのかな恋心を自覚するのだが―――!?
理想のヒモ生活7
感想
そんな淡い感じの恋心には見えないのですが、、
肉食獣が草食動物を追い回してるように。。
餓狼将軍と辺境伯の長女の結婚式のため長旅を経て辺境にやって来た善治郎一向。
隣国であり、餓狼将軍と交戦した事もある隣国の重鎮が結婚式に出席するハプニングがあったが結婚式は何事も無く終わる。
だが、その後に厄介事が起こった。
隣国の騎士が、立ち入り禁止エリアに間違って入ってしまい、それを辺境伯の次女とフレア姫が目撃してしまった。
男尊女卑のこの国の貴族の風習なら、男性が間違えていても女性はそれを指摘せず引くのが慣わしだったのだが、、
戦乱中の王国側の手違いとはいえ、辺境伯の次女は貴族として登録されておらず。
貴族教育がまだ不十分な次女と北大陸から来た御転婆姫は相手の騎士に「嘘を言うな」と抗議してしまった。
そこからは、辺境伯まで巻き込んだ騒動になるだが、、
辺境伯と隣国の重鎮の間には不問にするとお互いに折り合いを付けており。
お互いの後継者と見込む者達に経験を積ませようと、この騒動を利用している状況だった。。
そこに横槍を入れたのが善治郎の意を汲んだフレア姫だった。
隣国の若き副官vs辺境伯の息子の構図が、若き副官vsフレア姫になってしまい、しかも最後には善治郎までがシャシャリ出て来て相手を完膚なきまで論破してしまう。
そして、フレア姫に女だから能力が低いと決め付けていた若き副官に善治郎は謝罪を要求したが、若さゆえか善治郎にも噛み付いてしまった。
そこに今まで傍観者でいた餓狼将軍が出張ってくるのだが、それを諌めたのが辺境伯の長女だったりして、、
何気に国王夫妻には強力なライバル夫婦が爆誕してしまったと善治郎は戦慄する。
そして、その頃の後宮では侍女達が善治郎からの依頼とはいえ、アウラ王女が寝る部屋の隣のリビングで善治郎のゲームを使って夜更かしをしていた。。
緩んでんなww
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ヒモ生活8巻レビュー
考察・解説
肉竜狩りと遠征
『理想のヒモ生活7』において、ガジール辺境伯領へ向かう遠征中の塩の街道で繰り広げられた肉竜狩りは、南大陸の過酷な環境と、各キャラクターの立場の違いを浮き彫りにするエピソードとして描かれている。
肉竜狩りと遠征について、以下の4つのポイントから解説する。
1. 遠征における新鮮な肉としての野生の肉竜
・南大陸で食肉用の家畜として一般的な肉竜であるが、野生のものは切り落とされていない二本の角を持ち、猟師や兵士でも不覚を取ることがあるほど攻撃的で危険な存在である。
・しかし、ガジール辺境伯領への長期の遠征を続ける兵士たちにとって、塩胡椒のきいた干し肉や堅い平パンといった保存食ばかりの食事はつらく、本来危険なはずの野生の肉竜も血走った目には喉から手が出るほど欲しい新鮮な肉として映り、格好の狩りの対象となっていた。
2. フレア姫の果敢な肉竜狩り
・北大陸のウップサーラ王国から来たフレア姫は、故国では小動物の狩りしか経験がなく、竜種を仕留めるこの機会に強い興奮と緊張を抱いていた。
・兵士たちが街道に追い立てた肉竜に対し、フレア姫は護衛のスカジの気遣いを断って自ら長槍を構え、一直線に突進してくる肉竜の左肩に見事な一撃を突き立てることに成功した。
3. スカジの機転と手斧による確実なとどめ
・長槍を突き立てたフレア姫であったが、踏み込みすぎて肉竜の突進ルートに身体が残ってしまった。
・しかし、側近の女戦士スカジが咄嗟にフレア姫を伏せさせ、強烈な回し蹴りを肉竜の横っ面に叩き込んで軌道を逸らして難を逃れた。
・気絶した肉竜に対し、兵士からフレア姫の槍が急所を捉えていたと称えられた彼女は、教えられた急所である首の隙間へ愛用の手斧を振り下ろし、自らの手で確実にとどめを刺した。
4. 自衛能力のない善治郎の竜車待機
・フレア姫が勇ましく肉竜狩りに汗を流している間、戦闘能力を持たない善治郎は足手まといにならないよう、安全な巨大竜車の中で大人しく待機していた。
・狩りが終わった後に塩の街道を歩き始めた善治郎であったが、樹上から獲物を狙う盗竜の存在に侍女のイネスがいち早く気づき、護衛騎士ナタリオが一矢で射落とすという早業を目の当たりにした。
・自らの戦闘力のなさを痛感した善治郎は、護衛たちに全面的に頼るしかない現状を改めて認識することになった。
まとめ
遠征中の肉竜狩りは、長旅に疲れた兵士たちに新鮮な肉をもたらすだけでなく、フレア姫が自らの手で竜を狩るという念願を叶える冒険譚のような出来事であった。一方で、戦闘力を持たない善治郎が竜車で待機し、優れた護衛に守られながら進む姿は、異世界の過酷な環境下における彼の特異な立場と遠征の危険性を際立たせている。
プジョル将軍の結婚式
『理想のヒモ生活7』において、ガジール辺境伯領で執り行われたプジョル将軍の結婚式は、単なる祝宴にとどまらず、新たな文化の広まりや他国との外交的な緊張感が交錯する重要なイベントとして描かれている。
プジョル将軍の結婚式について、以下の4つのポイントから解説する。
1. 辺境伯領での挙式と善治郎の名代出席
・結婚式は、王都ではなく新婦の故郷であるガジール辺境伯領で執り行われた。これには、王族を辺境まで呼び寄せることで自らの箔をつけようとするプジョル将軍の狙いがあった。
・多忙な女王アウラの名代として王配・善治郎が出席することになり、そのパートナーとしてウップサーラ王国の第一王女フレア姫が同行したことで、この結婚式は国際的な注目を集めることとなった。
2. 善治郎の影響による結婚指輪の交換
・結婚式の終盤、南大陸ではまだあまり聞き覚えのない儀式である結婚指輪の交換が行われ、会場をどよめかせた。
・これは善治郎がアウラに贈った結婚指輪がきっかけで広まりつつある文化であり、新郎のプジョル将軍は儀式の最中に善治郎へ目礼し、その文化をもたらしたことへの感謝を示した。
・飾り気のない簡素な金の指輪であったが、新婦のルシンダはそれを心から喜び、夫への感謝を伝えた。
3. 隣国の英雄マルティン将軍の予期せぬ来訪
・結婚式には、隣国ナバラ王国から大将軍マルティン・ナダルが使節団の代表として夜通しで駆けつけた。
・マルティン将軍は先の大戦でプジョル将軍と矛を交えた因縁の相手であり、ギジェン家とガジール辺境伯家の結びつきを警戒して自ら足を運んだのである。
・結婚式後の立食会で二人が顔を合わせた際、会場は水を打ったように静まり返り、一触即発の重苦しい緊張感に包まれた。
4. 新婦ルシンダの機転による事態の収拾
・二人の英雄の間に漂う危険な空気を察知した新婦ルシンダは、新妻として夫にかまってもらえないふりをして、絶妙なタイミングで会話に割って入った。
・彼女の出しゃばりすぎない淑女としての振る舞いと的確な言葉選びにより、場に流れていた闘気は霧散し、和やかな空気が戻った。
・その見事な対応にマルティン将軍も態度を和らげ、ルシンダを出来た細君と称賛した。
まとめ
プジョル将軍の結婚式は、善治郎がもたらした結婚指輪という新しい文化が貴族社会に根付きつつあることを示す場となった。同時に、隣国の英雄の来訪によって生じた一触即発の危機を、新婦ルシンダの機転が見事に救うという、彼女の聡明さと新婚夫婦の先行きを象徴する印象的なエピソードとなっている。
ニルダの身分問題
『理想のヒモ生活7』において、ニルダ・ガジールの身分問題は、単なる王家側の手続き上のミスでありながら、タイミング悪く他国との諍いと重なったことで、重大な国際問題に発展しかねない時限爆弾として描かれている。
ニルダの身分問題について、以下の4つのポイントから解説する。
1. 妾腹の娘と王家の名簿からの欠落
・ニルダは、ガジール辺境伯が領民の娘との間に設けた妾腹の子であり、9歳まで村で育った少女である。
・ガジール辺境伯は彼女を辺境伯家の人間として扱い、王配である善治郎の接待役まで任せているが、王家が管理する国内貴族の名簿にはニルダの名前が存在していない。
・アウラとファビオ秘書官は、辺境伯家には名簿の写しがあるという主張から、先々代国王サンチョ一世時代の戦乱の混乱により、王家側で伝達ミスや名簿の欠落が生じたのだと推測している。
2. 騎士との諍いにおける致命的な弱点
・ニルダは、立ち入り禁止区域に無断侵入したナバラ王国の騎士ライムンドを見咎めたが、彼が嘘をついたことで事態は水掛け論に発展してしまった。
・もしニルダが公式には貴族ではないと発覚すれば、貴族でもない平民の娘が他国の騎士に難癖をつけたという事実が残り、重大な国際問題になってしまう。
・さらに、夜間の見回りという軍事・警備に関わる問題では、専門家である騎士の証言が優先されるため、ニルダは極めて不利な立場に置かれていた。
3. 王家の静観とアウラの信頼
・アウラはニルダの身分問題を把握したものの、多数の貴族が集まる結婚式の場でそれを公表すれば、ガジール辺境伯家に大恥をかかせることになると判断した。
・アウラは、善治郎からの手紙の内容から彼もニルダが貴族ではない可能性に気づき、最悪の事態を想定して動いていると確信した。
・最悪を避ける能力において善治郎に全幅の信頼を置くアウラは、下手に動いて事態を悪化させることを避け、解決を現地にいる善治郎へ完全に一任して静観する道を選んだ。
4. 善治郎の機転による事態の回避
・ニルダの貴族籍に疑念を抱いた善治郎は、ニルダを証言の矢面に立たせたままにするのは危険だと判断し、他国の王族であるフレア姫を交渉の主役に据える作戦をとった。
・フレア姫の強気な追及に加え、善治郎は持ち込んだLED懐中電灯を用いて相手の嘘を公衆の面前で暴き、言い逃れ不可能な状況に追い込んだ。
・結果として、ニルダの身分問題を一切表面化させることなくナバラ王国側の謝罪を引き出し、国際問題への発展という最悪の事態を見事に回避したのである。
まとめ
ニルダの身分問題は、王家側の名簿欠落という事務的なミスが発端であったが、隣国の騎士とのトラブルが絡むことでカープァ王国を揺るがす危機となり得た。しかし、女王アウラの的確な静観と、最悪の事態を想定して動いた善治郎の慎重かつ機転の利いた立ち回りにより、その爆弾が破裂する前に事態は無事に収束することとなった。
ナバラ王国との外交
『理想のヒモ生活7』におけるナバラ王国との外交は、プジョル将軍とルシンダの結婚式を舞台に、国境を接する隣国同士の緊張感と、些細なトラブルから発展した国際問題への対応として描かれている。
ナバラ王国との外交について、以下の4つのポイントから解説する。
1. 大将軍マルティンの来訪と水面下の牽制
・ガジール辺境伯領は、ナバラ王国と山一つ挟んで国境を接する隣の領地である。
・ナバラ王国は、プジョル将軍とガジール辺境伯家が縁戚になることを警戒し、大将軍マルティン・ナダルを使節団の代表として派遣した。
・迎え撃つルシンダは、マルティン将軍の来訪を予測して専用の特注家具を準備し、同行するクリス騎士長の好物である砂糖菓子を用意した。
・これにより、自軍の情報収集能力の高さを示し、暗に牽制を行った。
2. 騎士ライムンドの虚言と国際問題への発展
・ナバラ王国の騎士ライムンドが、ガジール辺境伯館の立ち入り禁止区域に無断侵入するという事件が発生した。
・ニルダ・ガジールに見咎められたライムンドは、別の通路から来たと虚偽の主張を行った。
・ニルダの側にはフレア姫とスカジという証人がいたが、ナバラ王国側のクリス騎士長が部下を庇い、女性特有の夜の恐怖による見間違いだと主張した。
・その結果、両陣営が真っ向から対立する国際問題へと発展してしまった。
3. 両陣営トップによる非公式会談と実戦訓練の意図
・事態の深刻化を察知したガジール辺境伯とマルティン将軍は、ルシンダの計らいで同室になった機会を利用し、非公式の会談を行った。
・互いに些細な行き違いであり事を大きくしたくないという本音を確認し合った上で、マルティン将軍はあえて若手であるクリス騎士長とチャビエルに実戦同然の交渉を経験させることを提案した。
・ガジール辺境伯もこれに同意し、万が一の際にはトップ同士が責任を持って収拾をつけるという前提で、若手たちの交渉を静観する方針をとった。
4. 善治郎の介入と穏便な決着
・最終討論の場において、善治郎はLED懐中電灯のまばゆい光を用いてライムンドの嘘を逃げ道なく暴き、ナバラ王国側を論破した。
・虚言が発覚したナバラ王国側に対し、ガジール辺境伯は謝罪を命じたが、善治郎はこれ以上の処罰を求めず、些細な行き違いとして処理し、何もなかったことにすることを提案した。
・その後、クリス騎士長の失言に対しても、マルティン将軍とクリス騎士長からの正式な謝罪を受け入れ、若さゆえの経験不足として寛容に収めた。
・これにより、外交的な火種は無事に鎮火した。
まとめ
ナバラ王国との外交は、結婚式という非公式な場を借りたトップ同士の腹の探り合いや、些細なトラブルを若手の経験の場として利用する老練な駆け引きとして展開された。最終的には善治郎の的確な介入と寛容な対応により、隣国との関係悪化を防ぎつつ、自国の優位性を示すという理想的な形で決着を見ている。
懐中電灯による裁判
『理想のヒモ生活7』における懐中電灯による裁判は、ガジール辺境伯領で起きたナバラ王国騎士の無断侵入事件を巡る水掛け論に終止符を打った、痛快な逆転劇として描かれている。
懐中電灯による裁判について、以下の4つのポイントから解説する。
1. 膠着状態に陥った最終討論
・ナバラ王国の騎士ライムンドが立ち入り禁止区域に侵入した事件の裁判では、目撃したニルダやフレア姫の主張と、見間違いだとするナバラ王国側の意見が真っ向から対立していた。
・ナバラ王国側のクリス騎士長は、騎士靴の足音に気づかなかったことを理由にフレア姫たちの証言を錯覚だと主張し、反論できなかったチャビエルが劣勢に立たされるなど、議論は平行線をたどっていた。
2. 善治郎の巧妙な誘導尋問
・事態を打開するため発言を求めた善治郎は、自身があの夜外側の通路を歩いていたと明かし、ライムンドの主張が本当なら自分の前を歩いていたはずだと指摘した。
・さらに善治郎は、護衛のナタリオの足音に気づかなかったのかとライムンドに問いただし、彼から足音を聞いたような気がして一度振り向いたが、自分の足音の反響だと思ったという証言を引き出すことに成功した。
3. LED懐中電灯による決定的な証明
・証言を引き出した善治郎は、自分が戦士の訓練を受けておらず暗闇を恐れるため、常に照明の魔道具で前を照らして歩いていると明かした。
・そして、日本から持ち込んだ手回し式LED懐中電灯のスイッチを入れ、夜闇を切り裂くような強烈な白色光で会場を照らし出した。
・あの一本道で一度振り返っておきながら、これほど強い光に気づかないはずがないと突きつけ、ライムンドの逃げ道を完全に塞いだ。
4. 逃げ道を塞がれたライムンドの敗北
・戦士の訓練を受けた者がこの光に気づかない理由を説明せよと迫られたライムンドは、もはや言い逃れは不可能であると悟り、ついに自らの虚言を認めた。
・公衆の面前で相手に大恥をかかせて追い詰めるやり方は、本来善治郎が好む決着のつけ方ではなかった。
・しかし、この裁判で敗北すればニルダやフレア姫の立場が悪化し、最悪の事態を招く恐れがあったため、善治郎はこの引っかけを用いて確実に勝利を収める道を選んだのである。
まとめ
懐中電灯による裁判は、証拠がなく水掛け論に陥っていた状況を、善治郎の機転と現代日本の道具であるLED懐中電灯を用いてひっくり返した印象的な場面である。自らを弱者と偽りながら相手の油断を誘い、言い逃れのできない罠に嵌めるという善治郎の鮮やかな手腕が光るエピソードとなっている。
ヒモ生活6巻レビュー
【理想のヒモ生活】あらすじ・ネタバレ・まとめ
ヒモ生活8巻レビュー
登場キャラクター
カープァ王国 王家・王宮
アウラ一世
カープァ王国の女王であり、善治郎の妻である。直系王族の唯一の生き残りとして国家を直接統治している。夫の善治郎を深く愛する良き妻の顔も持つ。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国女王。ワレンティア公爵。
・物語内での具体的な行動や成果
善治郎を異世界から召喚して結婚した。第一子カルロスを出産した。プジョル将軍とガジール辺境伯家の婚姻を許可した。双王国との間で密約を締結した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
時空魔法の使い手として国家の存亡を担っている。
善治郎・カープァ
現代日本から召喚されたアウラの夫である。政治的野心を持たず、権力争いに関わらないことを望んでいる。妻のアウラを一途に愛し、側室の受け入れを拒む。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国王配。ワレンティア公爵全権代理。
・物語内での具体的な行動や成果
地球から持ち込んだ家電製品を活用して後宮の生活を改善した。パソコンの表計算ソフトで貴族の脱税を可視化した。ナバラ王国の騎士の嘘を懐中電灯で暴いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
カープァ王家とシャロワ王家の両方の血を引いている。
カルロス・善吉
アウラと善治郎の間に生まれた第一王子である。両親から深い愛情を受けて育てられている。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国第一王子。
・物語内での具体的な行動や成果
赤斑熱に感染した。フランチェスコ王子の治癒魔法によって回復した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
時空魔法と付与魔法の両方の素質を持つ可能性がある。
ファビオ
アウラの第一秘書官である。常に無表情で、冷徹な意見を述べる現実主義者として描かれる。アウラを深く信頼して直言を行う。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国第一秘書官。
・物語内での具体的な行動や成果
アウラに対して数多くの進言や報告を行った。善治郎の行動を監視してアウラに伝えた。若手秘書官の指導にあたっている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
女王の右腕として大きな権限を持っている。
ミシェル
王室付きの初老の医師である。落ち着いた態度で職務を全うする。
・所属組織、地位や役職
王室付き医師。
・物語内での具体的な行動や成果
アウラの懐妊を診断した。カルロス王子の赤斑熱を診察して看病にあたった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
カープァ王国における医師の最高位に就いている。
サンチョ一世
アウラの弟であり、先々代のカープァ王国国王である。兄の仇討ちを誓って戦場で過ごした。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国国王(先々代)。
・物語内での具体的な行動や成果
戦場で戦死した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼の在位期間中の戦乱により、貴族名簿の一部が欠落したと推測されている。
カルロス二世
アウラの前の国王である。在位期間は一年未満であった。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国国王(先代)。
・物語内での具体的な行動や成果
具体的な行動に関する記述は存在しない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
エンリケ四世
アウラの兄であり、三代前の国王である。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国国王(三代前)。
・物語内での具体的な行動や成果
具体的な行動に関する記述は存在しない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
後宮の侍女・護衛
アマンダ
後宮の侍女長である。規則に厳格であり、後宮の秩序維持に尽力している。若い侍女たちに厳しい指導を行う。
・所属組織、地位や役職
後宮侍女長。
・物語内での具体的な行動や成果
商人との折衝や監視を担当した。善治郎が不在の期間に若い侍女への特別指導を実施した。コンチタとサブリーナに退職の予定を伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
後宮の人員を統括する責任者である。
イネス
後宮の清掃担当責任者である。上品で落ち着いた雰囲気を持つ中年の侍女として描かれる。善治郎の遠出に同行して身の回りの世話を行う。
・所属組織、地位や役職
後宮清掃担当責任者。
・物語内での具体的な行動や成果
善治郎のワレンティア行きやガジール辺境伯領行きに同行した。フレア姫の身体検査を代行した。塩の街道の近くで群竜の死体を発見した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
過去にはカルロス二世に仕えていた経験がある。
フェー
問題児三人組の一人と呼ばれる若い侍女である。小柄で短髪であり、楽観的な性格をしている。
・所属組織、地位や役職
後宮の侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
善治郎の携帯ゲーム機を誤って持ち帰った。ドロレスたちと一緒にゲームで遊んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アマンダ侍女長の特別指導を受けた。
ドロレス
問題児三人組の一人と呼ばれる若い侍女である。長身でスリムな体型であり、要領の良さを持つ。
・所属組織、地位や役職
後宮の侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
フェーが持ち帰った携帯ゲーム機の配線を繋いだ。芝刈りの際に台車を使って草を運搬した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アマンダ侍女長の特別指導を受けた。
レテ
問題児三人組の一人と呼ばれる若い侍女である。巨乳で垂れ目であり、のんびりとした性格をしている。
・所属組織、地位や役職
後宮の侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
携帯ゲーム機の遊び方の紙を見つけてゲームを起動した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アマンダ侍女長の特別指導を受けた。
マルグレーテ
アウラ直属の侍女である。金髪と緑の瞳を持ち、密偵としての訓練を受けている。
・所属組織、地位や役職
アウラ直属の後宮侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
ゲームで遊ぶフェーたちを注意した。ボナ王女の動向をアウラに報告した。カルロス王子の看病に立ち会った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アウラの腹心の一人として情報網を担っている。
ナタリオ
王家に忠誠を誓う若い騎士である。実直で生真面目な性格をしている。
・所属組織、地位や役職
竜弓騎兵団所属の騎士。善治郎の直衛騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
善治郎から竜弓を貸与された。善治郎の護衛としてワレンティアやガジール辺境伯領へ同行した。樹上の盗竜を弓で射落とした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王都守護騎兵団から竜弓騎兵団へ転属となった。
ギジェン家
プジョル・ギジェン
王国軍の大将軍である。野心家であり、自らの権力拡大を狙っている。アウラの元婿候補であった。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国竜弓騎兵団総団長。将軍。
・物語内での具体的な行動や成果
善治郎に竜弓を進呈し、妹のファティマを売り込んだ。塩の街道の群竜討伐で援軍を率いた。ルシンダと結婚した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
群竜討伐の主導権を握った。
プリモ・ギジェン
プジョル将軍の叔父である。背の高い凡庸な印象の男として登場する。
・所属組織、地位や役職
ギジェン家の一員。子爵。
・物語内での具体的な行動や成果
プジョル将軍の結婚式で善治郎に挨拶を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地位に関する大きな変化の記述はない。
ファティマ・ギジェン
プジョル将軍の妹である。長身で気の強い美少女として描かれる。兄を心底から尊敬している。
・所属組織、地位や役職
ギジェン家の令嬢。
・物語内での具体的な行動や成果
立食会で善治郎に挨拶をした。プジョルの結婚式に出席して善治郎に言葉をかけた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地位に関する大きな変化の記述はない。
ルシンダ・ギジェン(ルシンダ・ガジール)
ガジール辺境伯家の長女であり、プジョル将軍の妻である。清楚な容姿で有能な女性として家を支えた。
・所属組織、地位や役職
ガジール辺境伯家長女。後にギジェン家の妻。
・物語内での具体的な行動や成果
先の大戦中に領主代行を務めた。結婚式の準備や来客対応を指揮した。マルティン将軍の来訪を予測して特注家具と砂糖菓子を用意した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ガジール家からギジェン家へと嫁いだ。
ガジール辺境伯家
ミゲル・ガジール
ガジール辺境伯領の領主である。老いてなお盛んな武人として描かれる。腹芸を苦手とする実直な性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
ガジール辺境伯家当主。
・物語内での具体的な行動や成果
塩の街道の異変解決を自領軍で行う許可を得た。プジョル将軍との結婚を許可された。マルティン将軍と非公式の会談を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地位に関する大きな変化の記述はない。
チャビエル・ガジール
ガジール辺境伯の三男である。生真面目で経験は浅いが責任感が強い。姉のルシンダを慕っている。
・所属組織、地位や役職
ガジール辺境伯家次期当主。
・物語内での具体的な行動や成果
塩の街道で群竜討伐の指揮を執った。ワレンティアでの討伐戦で群竜の本隊を撃滅した。ナバラ王国騎士との裁判で論戦に参加した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地位に関する大きな変化の記述はない。
ニルダ・ガジール
ガジール辺境伯の妾腹の娘である。人懐っこく明るい性格をしている。
・所属組織、地位や役職
ガジール辺境伯家次女。
・物語内での具体的な行動や成果
ガジール辺境伯領での善治郎の接待役を務めた。立ち入り禁止区域に侵入したライムンドを見咎めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王家の貴族名簿に名前が記載されていない。
セベロ
ガジール辺境伯家に仕える陪臣である。小太りの丸顔の中年男として登場する。
・所属組織、地位や役職
ガジール辺境伯家の陪臣貴族。王都屋敷の管理者。
・物語内での具体的な行動や成果
アウラに呼び出されてニルダの身分について質問された。名簿の写しが領地に存在すると答えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地位に関する大きな変化の記述はない。
マルケス伯爵家
ラファエロ・マルケス
マルケス伯爵家の嫡男である。有能な文官であり、穏やかな態度の聞き上手として描かれる。
・所属組織、地位や役職
マルケス伯爵家次期当主。善治郎の臨時私設補佐官。
・物語内での具体的な行動や成果
ワレンティアで善治郎の補佐官として実務を担当した。群竜討伐部隊の参謀として指揮を執った。善治郎の武勲の噂を王都に流した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アウラの元婿候補であった。
キーシャ
マッサーナ男爵家の次女である。派手で妖艶な美貌を持つ。
・所属組織、地位や役職
後宮の侍女。後にラファエロの婚約者。
・物語内での具体的な行動や成果
ラファエロの婚約者として結婚式に出席し、善治郎に言葉をかけた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
後宮侍女を退職してマルケス伯爵家の次期当主夫人となる予定である。
ウップサーラ王国
フレア・ウップサーラ
ウップサーラ王国の第一王女である。男装の船長として行動力と度胸を備えている。善治郎の側室となることを狙う。
・所属組織、地位や役職
ウップサーラ王国第一王女。黄金の木の葉号船長。
・物語内での具体的な行動や成果
四本マストの帆船でカープァ王国へ渡航した。塩の街道で肉竜に槍を突き立てた。結婚式でライムンドの嘘を追及した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
善治郎の結婚式のパートナーとなった。
ヴィクトリア・クロンクヴィスト
フレア姫の護衛を務める長身の女戦士である。スカジの称号を持つ。フレア姫に強い忠誠を誓っている。
・所属組織、地位や役職
ウップサーラ王国の戦士。フレア姫の護衛。
・物語内での具体的な行動や成果
突進してくる肉竜に回し蹴りを入れてフレア姫を救った。ワレンティアで巨大群竜を一騎打ちで討ち取った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地位に関する大きな変化の記述はない。
ニコライ
ウップサーラ王国の人間である。小柄で華奢な若い男として登場する。
・所属組織、地位や役職
黄金の木の葉号の家畜世話担当。
・物語内での具体的な行動や成果
カープァ王国へ山羊を運搬した。山羊の世話役としてフレア姫に紹介された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
シャロワ・ジルベール双王国
フランチェスコ
シャロワ王家の王子である。軽薄に見えるが、卓越した魔力と二つの血統魔法を持つ天才として描かれる。
・所属組織、地位や役職
シャロワ王家第一王子ジュゼッペの第一男子。
・物語内での具体的な行動や成果
カルロス王子の赤斑熱を治癒魔法で治療した。未来代償の魔道具を作製した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
正式な王位継承権を得ていない。
ボナ
シャロワ王家の王女である。下級貴族の出身で真面目な性格をしている。フランチェスコのお目付役を務める。
・所属組織、地位や役職
シャロワ王家の王女。宝飾職人。
・物語内での具体的な行動や成果
フランチェスコと共にカープァ王国を訪問した。善治郎の結婚指輪を見て強い興味を示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王位継承権は下位にある。
ナバラ王国
マルティン・ナダル
ナバラ王国の大将軍である。鍛え抜かれた巨体を持つ熟練の武人として描かれる。ガジール辺境伯と互いに敬意を抱く関係である。
・所属組織、地位や役職
ナバラ王国の将軍。使節団の代表。
・物語内での具体的な行動や成果
ガジール辺境伯家の結婚式に出席した。ガジール辺境伯と非公式の会談を行った。クリス騎士長の失言を善治郎に謝罪した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地位に関する大きな変化の記述はない。
クリスティアーノ・ピント
マルティン将軍直属の若き騎士長である。端正な顔立ちでプライドが高い。
・所属組織、地位や役職
ピント侯爵家第一男子。騎士長。
・物語内での具体的な行動や成果
結婚式でマルティン将軍に同行した。フレア姫の主張を否定して部下を庇った。善治郎を侮る発言をしてプジョル将軍から叱責された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地位に関する大きな変化の記述はない。
ライムンド
ナバラ王国使節団の護衛騎士である。
・所属組織、地位や役職
ナバラ王国の騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
夜間に立ち入り禁止区域へ侵入した。ニルダに見咎められた際に別の通路から来たと虚偽の主張をした。善治郎の追及により嘘を認めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地位に関する大きな変化の記述はない。
ヒモ生活6巻レビュー
【理想のヒモ生活】あらすじ・ネタバレ・まとめ
ヒモ生活8巻レビュー
展開まとめ
プロローグ 往路
肉竜狩りと盗竜の襲撃
肉竜の性質と狩りの理由
南大陸で食肉用の家畜として一般的な肉竜は、卵を多く産み、成長が早く、可食部が多い草食竜であった。家畜の肉竜は角を切られて攻撃性を抑えられていたが、野生の肉竜は角を持つ危険な存在であった。
しかし長旅の途中にある善治郎一行にとって、野生の肉竜は新鮮な肉を得る貴重な獲物でもあった。そのため、塩の街道で密林から現れた肉竜は、兵士たちによって狩りの対象とされた。
フレア姫の肉竜狩り
兵士たちは肉竜を街道へ追い立て、フレア姫は長槍を構えて待ち受けた。スカジは危険を案じて代わろうとしたが、フレア姫は竜を仕留める機会を逃したくないとして、自ら狩ることを望んだ。
密林から飛び出した肉竜に対し、フレア姫は横へかわしながら長槍を突き立てた。しかし踏み込みのために肉竜の進路に残ってしまい、危険に陥った。
スカジの救援とフレア姫のとどめ
スカジは即座にフレア姫へ伏せるよう命じ、倒れ込んだフレア姫の上を越すように回し蹴りを放った。その蹴りで肉竜の突進は逸らされ、肉竜は街道に倒れて意識を失った。
フレア姫は獲物を仕留めたのが自分ではなくスカジではないかと不満を漏らしたが、兵士はフレア姫の槍が急所を捉えていたため、放っておいても肉竜は息絶えたと説明した。納得したフレア姫は、兵士に急所を教わり、手斧で肉竜にとどめを刺した。
竜車で待機する善治郎
同じ頃、善治郎は竜車の中で狩りが終わるのを待っていた。自衛能力のない善治郎が外へ出ても役に立たないため、護衛される立場に徹していたのである。
狩りが終わったと知らされると、善治郎は騎士ナタリオと侍女イネスを伴って竜車を降りた。周囲は護衛の兵士たちに固められ、善治郎は塩の街道を歩き始めた。
盗竜の発見とナタリオの射撃
道中、イネスは樹上に潜む盗竜に気付き、騎士ナタリオへ知らせた。ナタリオは即座に弓を放ち、樹上の盗竜を射落とした。
盗竜は樹上から獲物を狙い、子供や小柄な者をさらう危険な竜種であった。善治郎はその説明を聞き、イネスの察知とナタリオの弓の腕に感謝した。
血まみれのフレア姫との合流
善治郎が進むと、先に狩りを終えたフレア姫一行の姿が見えた。フレア姫は満面の笑顔で善治郎に手を振っていた。
その手には肉竜の血で汚れた手斧が握られており、善治郎は活動的なフレア姫の姿に苦笑した。
第一章 到着
ガジール辺境伯領への到着
領都への到着と善治郎の安堵
善治郎一行は道中で何度か野生の竜種と遭遇したものの、大きな問題もなく無事にガジール辺境伯領の領都へ到着した。
領都は高い城壁に囲まれた城郭都市であり、その中央に建つ領主館も砦のような質実剛健な造りであった。豪華な王宮やワレンティア公爵邸と比べれば質素な建物であったが、長い旅と野営を続けてきた善治郎にとっては、しっかりした建物の中で休めること自体がありがたいことであった。
旅の疲労とイネスとの会話
割り当てられた別館に入った善治郎は、靴と靴下を脱ぎ捨ててソファーに身を沈め、旅の疲れを癒やしていた。
冷水を差し出したイネスに対し、善治郎は疲労の色を見せない彼女を感心して称賛した。イネスはかつて大戦中にアウラの側仕えとして戦場に同行していた経験を明かし、善治郎はその頼もしさに納得した。
また、善治郎は今回の滞在先が別館であることについても理解を示した。ルシンダとプジョル将軍の結婚式には多数の貴族が集まっており、本館は主賓である両家が使用するためであった。
ニルダとの初対面
休息の後、ガジール辺境伯家から滞在中の世話役として三人の女性が訪れた。その中心にいたのは、辺境伯家次女を名乗る少女ニルダであった。
ニルダは緊張しながらも礼儀正しく挨拶し、自分がルシンダとチャビエルの異母妹であると説明した。兄姉への強い敬愛を隠さない様子に、善治郎は好感を抱いた。
善治郎はチャビエルへの感謝を伝えるよう頼み、その後、旅の疲れを癒やすため湯桶の準備を依頼した。ニルダは張り切った様子でその命令を受け、使用人たちとともに退出した。
ニルダの存在への疑問
ニルダが去った後、善治郎はイネスに疑問を投げかけた。事前にアウラから説明を受けたガジール辺境伯家の重要人物の中に、ニルダの名前が存在しなかったためである。
イネスは、アウラが意図的に隠した可能性を否定した。辺境伯家の娘の存在を隠す理由はなく、仮に伝達漏れがあったとしても可能性は低いと説明した。
さらに、認知されていない子供や秘密裏に育てられた子供の例は存在するものの、その場合に本人が堂々と善治郎の前に現れるのは不自然であり、またガジール辺境伯自身も陰謀を巡らせる性格ではないため、その線も考えにくいと分析した。
アウラへの報告決定
善治郎とイネスは状況を検討したものの、ニルダの存在に関する明確な結論には至らなかった。
そのため善治郎は、この件を王都のアウラへ報告し判断を仰ぐことを決め、それまでは無難な対応に徹する方針を取った。イネスはその決定を受け、すぐに手配を進めることを約束した。
野外夕食会の提案と善治郎の判断
夕刻、旅の疲れを癒やした善治郎は、イネスからフレア姫が別館の中庭で野外夕食会を開きたいと申し出ていることを聞かされた。夕食会では、旅の途中でフレア姫が仕留めた肉竜の燻製肉を皆に振る舞う予定であった。
しかし、この催しを許可すれば、フレア姫の側室入りを善治郎自身が後押ししているように見られ、逆に拒否すればフレア姫を受け入れていないという印象を与えてしまう。善治郎は苦悩したものの、アウラが公認している以上、王配として拒絶するわけにはいかず、夕食会の開催を許可した。
側室問題への本音
着替えをしながら善治郎はイネスと会話を交わした。フレア姫とは旅の中でかなり打ち解けており、その人柄にも好感を抱いていると認めた。
しかし、それと側室として迎えることは別問題であると語った。善治郎が不安に思っているのはフレア姫個人ではなく、アウラと善吉との穏やかな家庭に新たな妻を迎えることで生じる軋轢であった。今の後宮での生活を大切に思っているからこそ、変化を恐れているのだと率直な気持ちを明かした。
カルロ=ゼンという呼称の由来
話題は善吉の呼び方へ移った。善治郎がイネスに、なぜ善吉をカルロ=ゼンと呼ぶのか尋ねると、イネスはかつてカルロス二世に仕えていたことを語った。
彼女にとってカルロスという名は先王を連想させるため、善吉を区別してカルロ=ゼンと呼んでいるのだという。善治郎はその理由を聞いて納得し、呼び方を変える必要はないと伝えた。
野外夕食会の開催
中庭では肉や野菜の焼ける香ばしい匂いが漂い、フレア姫が中心となって食事会を取り仕切っていた。
フレア姫は自ら肉を切り分け、参加者へ振る舞うことを心から楽しんでいた。スカジは善治郎へ礼を述べ、この食事会がフレア姫にとって特別な意味を持つことを説明した。
それは、自ら仕留めた獲物を公式の場で切り分けて振る舞うという、故国では戦士だけに許された行為だったからである。
フレア姫の戦士への憧れ
善治郎がフレア姫の見事な槍術について触れると、スカジはフレア姫が戦士としての素質を持ちながらも、故国の基準では戦士とは認められていないと語った。
ウップサーラ王国では、女が戦士になるためには並の男を大きく上回る武力が必要であり、そうした特別な者だけが女戦士として認められるのだという。そのためフレア姫は戦士に憧れ続けていたのであり、自ら獲物を振る舞う夢を叶えられたことを喜んでいた。
ニルダとの交流
善治郎のもとにはニルダもやって来た。ニルダはフレア姫の勇敢さを素直に称賛し、自身が村で育ち、九歳の時に辺境伯家の一員として認められた経歴を語った。
村で家畜の肉竜の世話をした経験を持つ彼女は、野生の肉竜へ立ち向かうフレア姫を心から尊敬していた。善治郎は、その率直な感情表現が貴族社会では危険になることもあると忠告した。
また、王都や王宮の話を求めるニルダに対し、善治郎は王宮の美しい景観を語った。王都へ来る機会があれば王宮を案内すると約束し、ニルダも嬉しそうに応じた。
フレア姫との語らい
やがて挨拶回りを終えたフレア姫が善治郎のもとへやって来た。二人は同じ切り株に並んで腰掛け、静かに語り合った。
フレア姫は、今回の夕食会で長年の夢を叶えられたことへの感謝を伝えた。そして、槍術や野営術、航海技術や魔法を学び続けてきた理由を語り、自分は野山を駆け回り、大海を渡ることが好きなのだと打ち明けた。
善治郎は、そうした努力や知識は立派な財産であると評価し、その生き方を肯定した。フレア姫は、自分の好きなことや積み重ねてきた努力を認めてもらえたことを心から喜んだ。
こうして二人は互いの価値観や考え方を語り合いながら、距離の近さも忘れて笑顔で会話を続けるのであった。
野外夕食会の終盤
野外夕食会は終盤を迎えていた。串焼きや酒が減り、焚き火も小さくなったことで、参加者たちは宴の終わりが近いことを感じ取っていた。賑やかな笑い声や歌声も収まり、穏やかな会話が交わされるようになっていた。
その時、本館の方角から大きな鐘の音が鳴り響いた。善治郎はイネスに状況を尋ねたが、イネスは詳細は分からないものの、ニルダの様子から緊急事態ではないと判断した。
来客到着の報告
善治郎の視線に気付いたニルダは、鐘が正門への来客到着を知らせる合図であると説明した。そして兵士を本館へ走らせ、詳細の確認を命じた。
善治郎は夜間の来訪を不思議に思ったが、やがて戻ってきた兵士から、ナバラ王国の代表使節団が到着したとの報告を受けた。ガジール辺境伯領はナバラ王国と山脈を挟んで隣接しており、危険な山越えを考えれば夜通し移動してでも到着する方が合理的だと善治郎は納得した。
マルティン将軍来訪の衝撃
しかし兵士は続けて、使節団の代表がマルティン・ナダル将軍であると告げた。
その名を聞いた兵士や陪臣貴族たちは一斉に驚愕し、動揺を隠せなかった。本国防衛の要である人物が自ら来訪したことに驚き、その意図について様々な憶測を口にした。
一方で事情を知らない善治郎は、イネスにマルティン将軍の正体を尋ねた。
プジョル将軍の宿敵
イネスは、マルティン将軍がナバラ王国の英雄であり、先の大戦で数々の武勲を立てた大将軍であると説明した。さらに、ナバラ王国が大戦を勝ち抜けた理由の半分は彼の存在にあるとまで評価されている人物であった。
善治郎がプジョル将軍と同格の存在かと確認すると、イネスは即座に肯定した。そしてさらに、マルティン将軍こそがプジョル将軍の額と頬に傷を負わせた人物であると明かした。
その説明を聞いた善治郎は、今回の結婚式が平穏無事に終わるという期待を完全に捨て去るのであった。
第二章 結婚式
結婚式前日の動向
マルティン将軍の洞察
ナバラ王国の大将軍マルティン・ナダルは、鍛え抜かれた巨体を持つ壮年の武人であった。ガジール辺境伯家から与えられた部屋に入った彼は、自分の体格に合った頑丈な家具が用意されていることから、自身の来訪が事前に予測されていた可能性を察した。
若い騎士クリスティアーノ・ピントとの会話の中で、マルティンは自分とプジョル将軍の因縁を考えれば予想されていても不思議ではないと語った。また、部屋に置かれた砂糖菓子が甘味好きのクリスに向けられたものだと見抜き、カープァ王国側がクリスの情報まで把握していることに警戒を示した。
大国への警戒
マルティンは、広大な領土や人口だけではなく、それらを維持できる優秀な人材を抱えているからこそ大国は大国たり得るのだと語った。そして、カープァ王国の情報収集能力を高く評価しつつ、クリスと共に改めて警戒心を強めた。
ルシンダによる結婚式準備
一方、ガジール辺境伯家本館では、結婚式を目前に控えたルシンダが領地運営と来客対応の指揮を執っていた。使用人たちから別館の善治郎一行やナバラ王国使節団の状況報告を受けながら、冷静に指示を出していた。
ルシンダはマルティン将軍の来訪を予測して家具を整え、クリスの嗜好に合わせた砂糖菓子を用意させていた。それは隣国に対し、自分たちが相手の情報を十分把握していることを示す牽制でもあった。
領地の将来への配慮
ルシンダは自身の結婚後に領地が混乱する可能性を危惧していた。後継者である弟チャビエルや陪臣たちへ引き継ぎを進めていたが、それでも急な婚姻で十分な準備期間はなかった。
そのため、隣国ナバラ王国に余計な介入をさせないよう情報戦を仕掛けるとともに、善治郎が結婚式当日まで余計な負担をかけないよう配慮してくれていることにも感謝していた。
姉弟の語らい
夜の巡回から戻ったチャビエルは、領都が平穏であり、領民たちがルシンダの結婚を祝福していると報告した。ルシンダは酒席での騒動に注意しつつも、祝賀の機会を過度に制限しないよう指示した。
その後ルシンダは、結婚後はギジェン家の人間となる以上、今までのように自分を全面的に信用してはならないと弟へ告げた。今後はギジェン家の利益を優先する立場になるため、将来的に両家の利害が衝突した場合にはガジール辺境伯家へ不利益をもたらす可能性もあると説明した。
チャビエルは動揺しながらも、姉の言葉を真剣に受け止めた。
結婚式の開幕
数日後、大きな問題も起こらないまま結婚式当日を迎えた。会場となった大広間には多くの貴族が集まり、善治郎はフレア姫やスカジ、護衛のナタリオと同じ卓についていた。
善治郎とフレア姫は、南大陸と北大陸の結婚式文化の違いについて語り合った。フレア姫は絨毯に直接座る南大陸の古い風習が苦手だと打ち明け、善治郎はそれを聞きながら様々な思いを巡らせていた。
新郎新婦の入場
銅鑼の音とともに、新郎プジョル・ギジェンと新婦ルシンダ・ガジールが入場した。
儀礼用軍服をまとったプジョル将軍は堂々たる威容を見せ、純白の花嫁衣装を身にまとったルシンダは清楚で落ち着いた美しさを漂わせていた。二人は神官の待つ壇上へ進み、祝福の言葉と誓いの儀式が執り行われた。
結婚指輪の交換
式の終盤、神官が指輪交換を告げると会場はどよめいた。カープァ王国ではまだ新しい風習であり、善治郎はアウラとの結婚時に贈った結婚指輪がきっかけとなって広まり始めていることを思い出した。
プジョル将軍は一瞬善治郎へ目礼し、感謝の意を示した。その後、新郎新婦は互いに簡素な金の指輪を左手の薬指にはめ合った。
飾り気のない指輪を受け取ったルシンダは心から嬉しそうに微笑み、静かな声でプジョルへ感謝の言葉を伝えるのであった。
結婚式前日の動向
マルティン将軍の洞察
ナバラ王国の大将軍マルティン・ナダルは、鍛え抜かれた巨体を持つ壮年の武人であった。ガジール辺境伯家から与えられた部屋に入った彼は、自分の体格に合った頑丈な家具が用意されていることから、自身の来訪が事前に予測されていた可能性を察した。
若い騎士クリスティアーノ・ピントとの会話の中で、マルティンは自分とプジョル将軍の因縁を考えれば予想されていても不思議ではないと語った。また、部屋に置かれた砂糖菓子が甘味好きのクリスに向けられたものだと見抜き、カープァ王国側がクリスの情報まで把握していることに警戒を示した。
大国への警戒
マルティンは、広大な領土や人口だけではなく、それらを維持できる優秀な人材を抱えているからこそ大国は大国たり得るのだと語った。そして、カープァ王国の情報収集能力を高く評価しつつ、クリスと共に改めて警戒心を強めた。
ルシンダによる結婚式準備
一方、ガジール辺境伯家本館では、結婚式を目前に控えたルシンダが領地運営と来客対応の指揮を執っていた。使用人たちから別館の善治郎一行やナバラ王国使節団の状況報告を受けながら、冷静に指示を出していた。
ルシンダはマルティン将軍の来訪を予測して家具を整え、クリスの嗜好に合わせた砂糖菓子を用意させていた。それは隣国に対し、自分たちが相手の情報を十分把握していることを示す牽制でもあった。
領地の将来への配慮
ルシンダは自身の結婚後に領地が混乱する可能性を危惧していた。後継者である弟チャビエルや陪臣たちへ引き継ぎを進めていたが、それでも急な婚姻で十分な準備期間はなかった。
そのため、隣国ナバラ王国に余計な介入をさせないよう情報戦を仕掛けるとともに、善治郎が結婚式当日まで余計な負担をかけないよう配慮してくれていることにも感謝していた。
姉弟の語らい
夜の巡回から戻ったチャビエルは、領都が平穏であり、領民たちがルシンダの結婚を祝福していると報告した。ルシンダは酒席での騒動に注意しつつも、祝賀の機会を過度に制限しないよう指示した。
その後ルシンダは、結婚後はギジェン家の人間となる以上、今までのように自分を全面的に信用してはならないと弟へ告げた。今後はギジェン家の利益を優先する立場になるため、将来的に両家の利害が衝突した場合にはガジール辺境伯家へ不利益をもたらす可能性もあると説明した。
チャビエルは動揺しながらも、姉の言葉を真剣に受け止めた。
結婚式の開幕
数日後、大きな問題も起こらないまま結婚式当日を迎えた。会場となった大広間には多くの貴族が集まり、善治郎はフレア姫やスカジ、護衛のナタリオと同じ卓についていた。
善治郎とフレア姫は、南大陸と北大陸の結婚式文化の違いについて語り合った。フレア姫は絨毯に直接座る南大陸の古い風習が苦手だと打ち明け、善治郎はそれを聞きながら様々な思いを巡らせていた。
新郎新婦の入場
銅鑼の音とともに、新郎プジョル・ギジェンと新婦ルシンダ・ガジールが入場した。
儀礼用軍服をまとったプジョル将軍は堂々たる威容を見せ、純白の花嫁衣装を身にまとったルシンダは清楚で落ち着いた美しさを漂わせていた。二人は神官の待つ壇上へ進み、祝福の言葉と誓いの儀式が執り行われた。
結婚指輪の交換
式の終盤、神官が指輪交換を告げると会場はどよめいた。カープァ王国ではまだ新しい風習であり、善治郎はアウラとの結婚時に贈った結婚指輪がきっかけとなって広まり始めていることを思い出した。
プジョル将軍は一瞬善治郎へ目礼し、感謝の意を示した。その後、新郎新婦は互いに簡素な金の指輪を左手の薬指にはめ合った。
飾り気のない指輪を受け取ったルシンダは心から嬉しそうに微笑み、静かな声でプジョルへ感謝の言葉を伝えるのであった。
マルティン将軍の来訪
マルティン将軍の観察力
ナバラ王国の大将軍マルティン・ナダルは、鍛え抜かれた巨体を持つ壮年の武人であった。ガジール辺境伯家から用意された部屋に入った彼は、自分の体格に合わせた頑丈な椅子や机が準備されていることに気付き、自身の来訪が事前に予測されていた可能性を指摘した。
プジョル将軍との因縁は広く知られているため、その関係から予想されていたのかもしれないと考えながらも、誰がそこまで周到な配慮を行ったのか思案していた。
クリスへの配慮と情報戦
マルティンの側に控える若い騎士クリスティアーノ・ピントは、部屋に置かれた砂糖菓子に目を留めていた。甘味を好むクリスに対し、マルティンはそれが偶然ではなく、クリスの嗜好を把握した上で用意された可能性が高いと指摘した。
さらに、クリスが若くして将軍直属の騎士長を務める有望な人物であり、その名が隣国にも知られていて不思議ではないと語った。マルティンは、大国とは領土や人口だけでなく優秀な人材を抱えているからこそ大国であり続けられるのだと説き、カープァ王国への警戒を新たにした。
ルシンダの采配
一方その頃、ガジール辺境伯家本館ではルシンダ・ガジールが結婚式準備と来客対応の指揮を執っていた。別館の善治郎一行やナバラ王国使節団の状況報告を受けながら、的確に指示を出していた。
マルティン将軍に合わせた家具や、クリスの好みに合わせた砂糖菓子を準備させたのもルシンダであった。隣国に対して自分たちの情報収集能力を示し、牽制する意図があったのである。
善治郎への感謝
ルシンダは、善治郎が結婚式当日まで新郎新婦との面会を求めず、余計な負担をかけない姿勢を示していることに感謝していた。王族という最も手間のかかる賓客への対応を最低限で済ませられたことで、結婚式準備に集中できていたのである。
チャビエルとの対話
領都の巡回を終えたチャビエル・ガジールは、領民たちがルシンダの結婚を祝福していることや、大きな問題が起きていないことを報告した。
ルシンダは領民の祝賀を尊重しつつ、他家の貴族との諍いを防ぐため、無許可の領民を領主館へ近づけないよう徹底するよう指示した。
嫁入り前の忠告
その後ルシンダは、結婚後はギジェン家の人間となるため、今までのように自分を全面的に信用してはならないとチャビエルへ告げた。
今後はギジェン家の利益を優先する立場になる以上、将来両家の利害が対立した場合にはガジール辺境伯家へ不利益をもたらす可能性もあると説明した。しかし同時に、現状では両家の関係は良好であり、そのような事態が起こる可能性は低いとも語った。
チャビエルは姉の言葉を真剣に受け止め、神妙な面持ちで頷いた。
結婚式の開始
数日後、特に問題も起こらないまま結婚式当日を迎えた。
大広間には多くの貴族が集まり、善治郎はフレア姫やスカジ、ナタリオと同じ卓についていた。新郎新婦の入場を待つ間、善治郎とフレア姫は南大陸と北大陸の結婚式文化について語り合った。フレア姫は絨毯の上に直接座る南大陸の古い風習が苦手であることを認め、善治郎はその話を聞きながら思案を巡らせていた。
新郎新婦の入場
銅鑼の音とともに、新郎プジョル・ギジェンと新婦ルシンダ・ガジールが入場した。
儀礼用軍服をまとったプジョルは堂々たる威容を示し、純白のドレスをまとったルシンダは派手さこそないものの清楚な美しさを見せていた。二人は壇上へ進み、神官から祝福の言葉を受けながら儀式を進めていった。
その最中、善治郎は国外来賓席の方から視線を感じた。視界の端に映る大柄な人影から、それをマルティン将軍だと思ったが、詳細までは判別できなかった。
結婚指輪の交換
儀式の最後に神官が指輪交換を告げると、会場はざわめきに包まれた。
近年カープァ王国で広まり始めた結婚指輪の風習は、善治郎とアウラの結婚がきっかけとなったものであった。プジョル将軍は善治郎へ目礼し、その文化をもたらしたことへの感謝を示した。
新郎新婦は互いに金の指輪を左手の薬指にはめ合った。飾り気のない指輪であったが、ルシンダは心から嬉しそうにそれを見つめ、旦那様と静かに感謝を伝えるのであった。
幕間一 王都の女王
王都での外交対応
フランチェスコ王子との会談
善治郎がガジール辺境伯領へ赴いている間、本来善治郎が担っていた職務の一部はアウラが代行していた。その中でも重要だったのが、シャロワ・ジルベール双王国のフランチェスコ王子とボナ王女への対応であった。
応接の場でフランチェスコ王子はカルロスの近況を尋ね、アウラは問題なく成長していると答えた。また、ボナ王女が同席していない理由にも話が及び、アウラが制作を依頼した野外用飾り燭台によって、ボナ王女が長期間魔道具製作に従事していることが語られた。
側室問題への探り
アウラは、善治郎の側室問題についてシャロワ王家の考えを探ろうとした。フレア姫の件によって善治郎への側室推挙が再び活発化していたためである。
フランチェスコ王子は、ボナ王女と善治郎が親しくなることについて王家から制限はないと明かし、本格的な話は善治郎が双王国を訪問してからだと語った。さらに、シャロワ王家が善治郎の訪問を強く期待していることも包み隠さず認めた。
アウラはその言葉に警戒を深めながらも、善治郎には危険を感じたらすぐ帰国するよう伝える考えを示した。
密約への認識
フレア姫が善治郎の結婚式のパートナーとなった件について話が及ぶと、アウラは恋愛感情によるものであると説明した。
それに対しフランチェスコ王子は、善治郎の側室に関する密約についても、それが厳密に守られるものだとは考えていないと率直に語った。密約は側室そのものを制限する内容ではなく、側室に子が生まれた場合の取り扱いを定めたものだからであった。
一時帰国と瞬間移動の提案
フランチェスコ王子は善治郎が双王国を訪問する際、家族へ届ける手紙を託したいと申し出た。アウラは、それならば善治郎が瞬間移動を習得した後に一時帰国する方が良いのではないかと提案した。
善治郎が双王国へ到達すれば、アウラと善治郎の瞬間移動によって両国を短時間で往来できるようになるためである。この提案にフランチェスコ王子は大いに乗り気になり、ボナ王女も帰国させたいと語った。
瞬間移動の魔道具交渉
アウラは対価として、瞬間移動の魔道具を一つ製作してほしいと依頼した。
フランチェスコ王子はさらに二つ製作して一つを譲る案を提示したが、アウラは使い捨ての魔道具一つのみを希望し、それ以上は認めなかった。
交渉の末、フランチェスコ王子は瞬間移動そのものを諦める代わりに宝玉を二つ求めた。その際、もう一つの宝玉で作る魔道具の内容を事前に報告することが条件となった。
付与魔法の魔道具計画
何を作るのかと問われたフランチェスコ王子は、他の王族にも秘密にしてほしいと前置きした上で、その宝玉で付与魔法の魔道具を作ろうとしていると打ち明けた。
その告白にアウラは衝撃を受けた。もし付与魔法を魔道具化できれば、世界の文化や技術体系そのものを変革しかねない発明だからである。
アウラの思案
フランチェスコ王子が去った後、アウラは瞬間移動の魔道具と付与魔法の魔道具という二つの重大案件について考え込んだ。
特に瞬間移動の魔道具は、将来的に善治郎をウップサーラ王国へ派遣する際の安全確保に不可欠であった。善治郎本人が瞬間移動を使えても、緊急時に冷静な発動は困難であるため、魔道具として即座に発動できる手段が必要だったのである。
アウラは各国との利益や貸し借りの均衡をどう取るべきか慎重に思案を続けた。
ニルダの存在への疑問
そこへファビオ秘書官が現れ、善治郎から届いた小飛竜便を渡した。
報告書の中に記されていたニルダ・ガジールという名前を見たアウラは、ファビオに心当たりがあるか尋ねた。しかしファビオにも記憶はなく、王家が管理する貴族名簿にもその名は存在しないことが判明した。
ガジール辺境伯の子として公式に記録されているのは長女ルシンダと三男チャビエルを含む四人だけであり、ニルダは公式には貴族として認められていない存在であった。
調査の決定
それにもかかわらず、ガジール辺境伯家は王族である善治郎の接待役をニルダに任せていた。
アウラとファビオは、ガジール辺境伯が複雑な策を巡らせる人物ではないという認識で一致した上で、この件は単純に事情を確認するのが最善だと判断した。
そしてアウラは、ガジール辺境伯家の王都屋敷に使者を送り、事情を知る者を呼び出して調査を進めるよう命じるのであった。
第三章 些細な火種
結婚式後の滞在と善治郎の日常
結婚式が終わった後も、多くの貴族や有力者たちは領都に滞在し続けていた。祝賀のために各地や他国から集まった者たちは、顔つなぎや今後の交流の機会として長期滞在を望み、さらに新郎新婦が王都へ向かう大規模な行事も控えていたためである。
善治郎も別館に滞在を続けていた。電化製品が使えない生活に不便さを感じながらも、事前に持参した携帯音楽プレーヤーや携帯ゲーム機を活用し、夜の時間を過ごしていた。特に重要だったのは、アウラが録音した瞬間移動の呪文であり、善治郎はその音声を繰り返し聞きながら発音の習得に励んでいた。しかし習得は難航し、自身に本当に使いこなせるのかと弱音を漏らしていた。
フレア姫を迎えに向かう善治郎
練習を切り上げた善治郎はイネスを呼び、フレア姫の様子を尋ねた。フレア姫はニルダの案内で本館を訪れており、二人は年齢も近く良好な関係を築いていると聞かされた。
善治郎は、フレア姫との不仲を周囲に疑われることは避けたいと考え、自ら迎えに行くことを決めた。結婚式のパートナーとして同行している以上、両者の関係は周囲から注目されており、将来的な国益にも関わる問題であった。
フレア姫とニルダの交流
その頃、本館ではフレア姫とニルダが廊下を歩きながら会話を交わしていた。ニルダはフレア姫の武勇伝に強い憧れを抱いており、フレア姫も年下の少女から向けられる純粋な尊敬の眼差しを好意的に受け止めていた。
夜目について尋ねられたフレア姫は、狩りや川下り、外洋航海などを通じて自然と身についた能力だと語った。その内容から、普段から活発な行動を取ってきたことがうかがえた。
不審なナバラ王国騎士との遭遇
三人が廊下を進んでいると、スカジが前方に人影を発見した。フレア姫は服装からナバラ王国の者ではないかと見抜き、ニルダは確認のため近づいた。
呼び止められた男はライムンドと名乗るナバラ王国使節団の護衛騎士だった。ニルダは、彼が立ち入り禁止区域へ続く中央通路から出てきたことを確認していたが、ライムンドはそれを否定し、別の通路から来たと主張した。
ニルダが追及してもライムンドは態度を変えず、そのまま立ち去っていった。
立ち入り禁止区域への侵入疑惑
ライムンドが出てきたとされる中央通路は、館の軍事施設へと続く区域だった。施設自体は重要性の低い見張り塔に過ぎなかったが、他国の人間の立ち入りは禁止されていた。
ニルダは問題を大きくしたくなかったものの、このまま見逃せば他の立ち入り禁止区域にも影響しかねないため、父や兄に報告する必要があると判断した。フレア姫も目撃者として証言することを申し出た。
善治郎との合流
そこへ善治郎が懐中電灯を手に現れた。フレア姫とニルダは善治郎に迎えられ、夕食のため別館へ戻ることになった。
三人は自然に会話を交わしながら歩き、以前よりも打ち解けた関係を築いている様子を見せた。人手不足により直接顔を合わせる機会が増えたことが、その関係を深める要因となっていた。
翌朝の追及と対立
翌朝、ニルダから報告を受けたチャビエルは、ナバラ王国使節団を訪ねて事情を問いただした。
しかしクリスティアーノ・ピントは、配下のライムンドが中央通路に入った事実を全面的に否定した。ニルダだけでなくフレア姫とスカジも同様の証言をしていると告げられても、夜間の見間違いだと主張し続けた。
チャビエルの反論
クリスティアーノは女性たちの証言を錯覚によるものだと切り捨てたが、チャビエルは三人もの証言が一致している以上、見間違いとは考えられないと反論した。
さらにチャビエルは、ライムンドが虚偽を述べていると断言し、もし自分の疑いが誤りだったと証明された場合には正式に謝罪する覚悟があると表明した。
これまで余裕を見せていたクリスティアーノも、この強い反論には動揺を隠せなかった。両者は互いに譲らず、問題は完全に平行線をたどることとなったのである。
ニルダを巡る懸念と善治郎の介入
ナバラ王国の騎士ライムンドによる立ち入り禁止区域への侵入疑惑は、目撃者であるニルダ、フレア姫、スカジの三人がいずれも善治郎と深く関わる人物だったため、善治郎も無関係ではいられなくなった。
ニルダは善治郎に謝罪したが、善治郎は彼女に落ち度はないと告げたうえで、この件は国際問題であり、自分もアウラの名代として協力すると約束した。さらにフレア姫にも協力を依頼し、フレア姫は友人であるニルダのため、そして自身の証言を軽視されたことへの反発もあって積極的に協力する意思を示した。
善治郎の不安とニルダの身分問題
二人が退出した後、善治郎はイネスに相談を持ちかけた。
善治郎が最も懸念していたのは、ニルダが正式な貴族ではない可能性だった。アウラがニルダの存在を把握していなかったことから、王家の管理する名簿に名前が記載されていないのではないかと考えていたのである。
イネスは、その場合は重大な国際問題になると断言した。たとえニルダの証言が正しく、相手の騎士が嘘をついていたとしても、身分の上下が優先されるため状況は変わらないと説明した。
夜間警備を巡る証言の重み
善治郎は、なぜ平民の少女の証言が不利になるのかを尋ねた。
イネスは、今回の件が夜間の立ち入り禁止区域への侵入という軍事や警備に関わる問題だからだと説明した。専門分野では専門家の意見が重視されるため、騎士であるライムンドの発言が優先されやすいのである。
そのため、もしニルダが正式な貴族でなければ、事実関係にかかわらず不利な立場に置かれることになるのだった。
辺境伯への相談をためらう善治郎
善治郎は、ニルダ自身が自分を貴族だと思っているように見えることから、ガジール辺境伯に事情を打ち明けて協力を求めるべきか考えた。
しかしイネスは、それが危険を伴う可能性を指摘した。ニルダの身分に関する問題が辺境伯自身の策である可能性や、逆に王家側の手続き上の問題である可能性も否定できないためだった。
善治郎もその意見に理解を示しつつ、国際問題を国内事情より優先すべきだと考えながらも、最悪の事態を避けるため慎重な判断を迫られていた。
ニルダの対応の問題点
悩み続ける善治郎に対し、イネスはニルダの問題は運や偶然ではなく対応にあったと指摘した。
本来であれば、ライムンドに見間違いだと言われた時点で一度その言葉を受け入れた上で、遠回しに注意を促すべきだったのである。しかしニルダは率直に事実を指摘し続けたため、相手も引き下がれなくなった。
イネスは、それが村娘として育った期間が長く、貴族社会特有の建前や駆け引きを十分に身につけていないためだと分析した。
フレア姫を前面に立てる決断
善治郎は熟考の末、フレア姫を前面に立てる方策を思いついた。
ニルダが正式な貴族ではない可能性がある以上、彼女を主な証言者のままにしておくのは危険である。そこで、現場にいたフレア姫を中心人物として立て、ニルダは後方に下がる形にしようと考えた。
イネスは、その方法なら問題の多くは解消されるが、同時に善治郎とフレア姫の結びつきがより強く周囲に認識されることになると指摘した。
善治郎はそれを理解した上で、最も無難な解決策としてフレア姫への協力依頼を決断し、イネスに手配を命じた。
両陣営首脳による非公式会談
一方、事態の深刻化を察したガジール辺境伯とマルティン将軍は、ルシンダの計らいによって同じ控室で顔を合わせることになった。
二人は非公式な場で率直に意見を交換し、この問題をできるだけ大きくしないという方針で一致した。
ガジール辺境伯は今回の件を些細な行き違いだと考えており、マルティン将軍も本来なら口頭の注意と謝罪で終わる問題だと認識していた。
ライムンドの虚言を認めるマルティン将軍
会談の中でガジール辺境伯は、ライムンドが本当に立ち入り禁止区域へ入ったのかを率直に尋ねた。
マルティン将軍は、本人が明言こそしていないものの、状況から見てほぼ間違いないと認めた。
ガジール辺境伯も、ニルダはそのような嘘をつく人物ではなく、三人の目撃証言が一致している以上、見間違いは考えにくいと述べた。
一方でマルティン将軍は、ニルダの追及の仕方にも問題があり、相手に逃げ道を与えなかったため事態がこじれたと指摘した。
若手に経験を積ませる提案
その後マルティン将軍は、この問題を若い世代の経験の場として利用することを提案した。
両陣営の責任者が裏で事態を制御しつつ、チャビエルとクリス騎士長には本番同然の交渉を経験させようという考えである。
ガジール辺境伯は身内を欺くようなやり方に抵抗を示したものの、有効な方法であることは認め、最終的に了承した。
こうして両者は、大事にならない範囲で若い者たちに交渉を続けさせる方針を固めた。
見落とされた重大な前提
ガジール辺境伯とマルティン将軍は、どちらの結果になっても大きな問題にはならないと考えていた。
しかし、その判断はニルダが正式な貴族であることを前提としていた。もし後にニルダが貴族ではなかったと判明すれば、状況は一変することになる。
その重大な前提を知らないまま、二人は有意義な話し合いだったと満足し、問題は大火傷にはならないだろうと考えながら会談を終えるのだった。
幕間二 女王の信頼
ニルダの名簿欠落発覚
女王アウラは、ガジール辺境伯家の重臣であり王都屋敷を預かるセベロから事情を聞き出していた。セベロは、ニルダが間違いなく辺境伯家の人間であり、領地には名簿の写しも存在すると断言した。
しかしアウラは、王家が管理する名簿にはニルダ・ガジールの名前が記載されていないことを明かした。セベロは大きな衝撃を受けたが、アウラは辺境伯家を疑っているわけではなく、大戦中の混乱による伝達ミスの可能性が高いと説明し、事態の確認と解決を急ぐ意向を伝えた。
王家側の過失という結論
セベロが退出した後、アウラはファビオ秘書官と状況を整理した。
二人は、ガジール辺境伯家が名簿の写しについて虚偽を語る危険を冒す理由はなく、今回の件は謀略ではなく単なる行き違いだと判断した。そして王家の名簿には記載がなく、辺境伯家には写しが存在するという状況から、王家側の名簿に欠落が生じている可能性が極めて高いと結論付けた。
名簿欠落の原因推測
アウラは、ニルダが九歳で引き取られ、現在十五歳であることから、問題が発生した時期を逆算した。
その結果、先々代国王サンチョ一世の治世中に名簿の欠落が生じた可能性が高いと考えた。サンチョ一世は戦乱の中で生涯を過ごした王であり、その時代の混乱によって名簿の一部が失われたとしても不思議ではなかった。
さらにファビオは、失われた部分に記載されていたのがニルダ一人とは考えにくく、同じ立場の貴族が他にも存在する可能性を指摘した。
公表のタイミングを巡る判断
名簿の問題が王家側の失態である可能性が高まったものの、アウラはすぐにガジール辺境伯領へ知らせるべきではないと判断した。
結婚式によって多くの貴族が集まっている状況で、ニルダが正式な貴族ではなかったと発覚すれば、事情を知らない周囲にはガジール辺境伯家が王族への接待役に不適切な人物を起用したように映ってしまうからである。
そのため、事実を伝えることで生じる混乱やスキャンダルを避ける必要があった。
善治郎への信頼
ファビオは、事情を知らないまま事態が進行する危険性を指摘したが、アウラは善治郎に任せると答えた。
善治郎から届いた報告内容から、彼もニルダが貴族ではない可能性に気づいていると判断したのである。そして慎重な善治郎であれば、最悪の事態を想定して行動しているはずだと確信していた。
アウラは、善治郎は最善を追求する能力こそ高くないが、最悪を避ける能力には非常に優れていると評価し、強い信頼を示した。
静観を選ぶ王家
アウラは、今この時点で瞬間移動を使って人員や書面を送り込めば、かえって周囲の注目を集めてしまうと判断した。
さらに、ガジール辺境伯が秘密を抱えたまま平静を装うことが得意な人物ではないことも考慮し、下手に動けば状況を悪化させる恐れがあると考えた。
こうしてアウラとファビオは、善治郎が王都へ戻るまでこの件は彼に一任し、その間に必要な準備だけを進めるという方針を固めたのだった。
第四章 言葉の鍔迫り合い
フレア姫による追及
フレア姫は、自身が確かにライムンドが中央の通路から出てくるところを目撃したと繰り返し主張し、見間違いだと言うのであれば相応の根拠を示すよう求めた。
これに対しクリス騎士長は、部下であるライムンドの証言を信じる以上、フレア姫の見間違いという結論にならざるを得ないと説明した。しかしフレア姫は、自分が見間違えた証拠もライムンドの主張を裏付ける証拠も示されていないと反論し、強い姿勢を崩さなかった。
善治郎の意図と周囲の困惑
フレア姫が公式の場で男性を厳しく追及する姿勢は、その場の人々の予想を大きく超えていた。
クリス騎士長は困惑し、ニルダとチャビエルも事態を大きくするつもりのない立場から、フレア姫をなだめようとした。しかし善治郎は表向き笑顔を保ちながらも介入せず、内心ではフレア姫を応援していた。
フレア姫は航海や夜間行動の経験を根拠に自身の観察力を主張し、見間違いという決めつけを受け入れない姿勢を示し続けた。
クリス騎士長の謝罪と価値観の相違
クリス騎士長は、女性にしては夜目が利くという表現を用いて先ほどの発言を謝罪した。
しかしフレア姫は、その言葉にむしろ怒りを深めた。航海経験を通じて培った能力への自負を持つフレア姫にとって、その評価は侮辱に近いものだったのである。
それでもフレア姫は感情を爆発させず、その話題には触れずに議論を先へ進めた。
ライムンドとの直接対決
フレア姫はライムンド本人へ問いかけ、あの夜の出来事を覚えているか確認した。
ライムンドはフレア姫の銀髪を覚えていると答え、当時その場にフレア姫がいたことを認めた。その上でフレア姫は改めて中央の通路から出てきた姿を見たと宣言したが、ライムンドは自分は外側の通路から出てきたと主張を変えなかった。
双方とも証拠を持たず、主張は平行線のままとなったため、チャビエルの提案により一度話し合いは中断されることとなった。
善治郎による立場の表明
ナバラ王国側が退出した後、善治郎は今回の問題を裁く権利がガジール辺境伯にあることを認め、その判断に異を唱えるつもりはないと明言した。
その一方で、フレア姫の主張が正しいと確信しており、自分はフレア姫の味方であることもはっきりと表明した。チャビエルはその言葉を受け入れ、善治郎の配慮に感謝した。
フレア姫への感謝と作戦の説明
別館へ戻った善治郎は、フレア姫に協力への感謝を伝えた。
今回フレア姫が前面に立ったのは善治郎の依頼によるものであり、ニルダが正式な貴族ではない可能性を考慮して、交渉の主役をフレア姫へ移す狙いがあった。
善治郎は詳しい事情を明かせないことを謝罪したが、フレア姫は王族として立場上の制約を理解していると答え、善治郎を安心させた。
善治郎が見抜いた矛盾
フレア姫は、善治郎がなぜライムンドの虚言を確信しているのか尋ねた。
善治郎は、問題の夜に自分自身が外側の通路を通って現場へ向かったことを説明した。もしライムンドが本当に外側の通路から来たのであれば、その一本道の通路で善治郎とすれ違っていなければならない。しかし実際にはそのようなことはなかった。
そのため、ライムンドが嘘をついていることは明白だと善治郎は結論付けた。
証言だけでは解決できない現実
フレア姫は善治郎の証言があれば勝てるのではないかと考えたが、善治郎は否定した。
現在はすでに話が大きくなりすぎており、自分の証言にも客観的証拠が存在しない以上、相手側は受け入れないだろうと説明した。また戦士ではない善治郎の証言は、相手から軽視される可能性も高かった。
そのため善治郎は、自らの身分を利用した力押しではなく、ライムンドが嘘をついていることを衆目の前で明らかにする策を用いる考えを示し、フレア姫にさらなる協力を求めた。
王都からの沈黙と善治郎の判断
フレア姫が退出した後、善治郎は王都から返事が届いていないことを確認した。
その事実から善治郎は、今回の問題が安易に返答できないほど繊細な内容を含んでいると推測した。そして王都から支援を期待できない以上、自分で対処しなければならないと理解した。
プジョル将軍への根回し
イネスは、問題への介入を防ぐためにもプジョル将軍へ事前に話を通しておくべきだと助言した。
善治郎は当初反発したが、プジョル将軍がニルダの義兄という立場から介入する可能性を認めた。そして将軍が利益を優先して事態を大きくする危険性を考え、むしろ事前に説得して傍観者に徹してもらう方が良いと判断した。
善治郎はラファエロへの協力依頼も検討したが、ニルダに関する問題である以上関係者を増やすべきではないとして退け、自らプジョル将軍を説得する決意を固めた。
ガジール辺境伯への対応方針
最後に善治郎はガジール辺境伯への対応を検討した。
本来であれば領主である辺境伯へ事情を伝えるべきだったが、ニルダの貴族籍問題という根本事情を伏せたまま話を通すことは不可能だった。また王配である自分が事前に働きかければ、辺境伯への圧力と受け取られる危険もあった。
そのため善治郎は、最終決定権を持つ辺境伯にはあえて事前連絡を行わず、本番に臨むことを決断したのだった。
第五章 決着の時
最終討論と善治郎の反撃
最終審判の開始
ナバラ王国騎士ライムンドとニルダの諍いを巡る問題は、長引いた議論の末に最終審判の段階へと進んだ。ガジール辺境伯は関係者を集め、自らが最終判断を下すことを宣言した。
しかし当初の予定とは異なり、フレア姫が議論の中心に座り、さらにプジョル将軍まで傍聴席に加わったことで、ガジール辺境伯とマルティン将軍が考えていた実践訓練の場としての構想は崩れていた。
当事者たちの証言
ガジール辺境伯は当事者三人に改めて証言を求めた。
ニルダは、夜に通路の交差地点でライムンドと遭遇し、彼が中央の通路から現れたと主張した。
ライムンドは遭遇自体は認めたものの、自分は外側の通路から来たのであり、ニルダの認識は誤りだと反論した。
さらにフレア姫も、ライムンドが中央の通路から出てきたのを確かに見たと断言し、ニルダの証言を支持した。
クリス騎士長の反論
発言権が与えられると、クリス騎士長はライムンドの履いていた騎士靴に着目した。
騎士靴は石畳の上で大きな足音を立てるため、ニルダがその足音に気づかなかったことを指摘し、会話に夢中だった二人がライムンドの進路を見間違えた可能性を示した。
ニルダは足音に気づかなかったことを認めたため、ナバラ王国側の主張に一定の説得力が加わった。
チャビエルの反撃失敗
劣勢を感じたチャビエルは、同行していたスカジも革靴を履いていたため、ライムンドも足音を聞き逃したのではないかと質問した。
しかしライムンドは、ニルダとフレア姫の会話声で足音は聞こえなかったが、会話そのものは聞こえていたと答えた。
結果として、ライムンドの方が周囲の状況を正確に把握していたという印象を与え、チャビエルの反論は逆効果となった。
善治郎の証言
状況の悪化を見た善治郎は発言を求めた。
善治郎は、自分が事件当夜に外側の通路を通って問題の場所へ向かっていたことを明かした。そしてライムンドが本当に外側の通路を歩いていたのであれば、自分の前方を歩いていたはずなのに、人影も足音も認識していないと指摘した。
クリス騎士長は、善治郎が戦士としての訓練を受けていないため気づけなかったのだと説明したが、善治郎はさらに追及を続けた。
矛盾の露呈
善治郎は、自分の護衛騎士ナタリオも騎士靴を履いていたことを挙げ、ライムンドが後方から接近する足音に気づかなかった理由を問いただした。
ライムンドは、足音を聞いた気がして一度振り返ったが、自分の足音の反響だと思ったと証言した。
その発言を聞いた善治郎は、自身の狙いが成功したことを確信した。
懐中電灯による決定的証明
善治郎は、自分が夜間に明かりなしでは移動できない性格であることを明かし、当夜も故郷から持ち込んだ照明器具を使っていたと説明した。
そして手回し式LED懐中電灯を点灯させ、会場を白色光で照らした。
善治郎は、一本道で後方からこれほど強い光を照らされながら、しかも一度振り返った人物が気づかないはずがないと指摘した。
ライムンドは反論できず、ついに自らが中央通路から出てきた事実と虚言を認めた。
判決と和解
ライムンドが虚偽を認めたことで事実関係は確定した。
ガジール辺境伯は、立入禁止区域への侵入そのものは大きな問題ではないが、その事実を隠すために虚言を用いたことは看過できないとして、ナバラ王国使節団側に謝罪を命じた。
善治郎はこれ以上の処罰を求めず、些細な行き違いを大事にしない方が良いと提案した。
クリス騎士長と善治郎が賛同し、フレア姫も不本意ながら受け入れたことで、一件は和解という形で終結した。
フレア姫の名誉回復
しかし善治郎はそこで終わらせなかった。
クリス騎士長に対し、フレア姫の証言を軽視していた認識が誤りだったことを正式に認めるよう求めた。
クリス騎士長は屈辱に耐えながらも、フレア姫が優れた夜目と胆力を持っていたことを認め、自らの誤りを訂正した。
善治郎は、今回矢面に立ったフレア姫への借りを返すために、この名誉回復を最後まで貫いたのであった。
クリス騎士長の失言とプジョル将軍の追及
その後の会話で、クリス騎士長は善治郎を暗に侮る発言を重ねた。
それを聞いたプジョル将軍は激怒し、大国カープァ王国の王族に対する無礼であるとして厳しく追及した。
さらにクリス騎士長の未熟さを理由に、自国で教育してやると称して事実上の人質同然の提案まで行った。
だが新妻ルシンダが巧みに口を挟み、ガジール辺境伯家への影響を示唆したことで、プジョル将軍は利益と不利益を計算し直し、その提案を撤回した。
失言の収束
マルティン将軍とクリス騎士長は善治郎へ正式に謝罪した。
善治郎は、若者が失敗するのは当然であり、それを導くのが年長者の役目だと語り、今回の失言を国外経験不足による未熟さとして収めた。
こうして事件だけでなく、その後に発生した外交的な火種も鎮火し、長く続いた騒動はようやく幕を下ろした。
第六章 それぞれの結末
裁判後の善治郎と各陣営の反応
別館へ戻った善治郎
騒動が無事に収束した後、善治郎はフレア姫と共に別館へ戻った。同行していたのは護衛のナタリオとスカジのみであり、侍女イネスは会場で水をこぼした後始末のため一時的に離れていた。
部屋に戻った善治郎は現地の侍女に着替えを手伝ってもらい、第三正装から部屋着へと着替えた。侍女が退出すると、ようやく緊張を解き、LED懐中電灯を使いながら汗を拭った。
懐中電灯への感謝と安堵
善治郎は手にしたLED懐中電灯を見つめ、今回の裁判で大きな助けになったことを実感していた。
もしライムンドの虚言を暴けなければ、ニルダが騎士へ不当な言いがかりをつけたという形で決着し、さらにニルダが貴族ではない事実が判明した場合には、貴族でもない女性が騎士へ難癖をつけたという最悪の結果になりかねなかった。
善治郎は最悪の事態を回避しただけでなく、今回の件を蒸し返さないという約束まで取り付けられたことを振り返り、自らの働きを評価した。
フレア姫への負い目
一方で善治郎は、フレア姫を裁判の矢面に立たせてしまったことを気にしていた。
今回の件ではフレア姫に大きな負担を背負わせたと考えており、問題は解決したものの、状況がさらに複雑な方向へ進んでいるようにも感じて深くため息をついた。
敗北を受け止めるクリス騎士長
同じ頃、ナバラ王国使節団ではクリスティアーノ・ピントがマルティン将軍へ謝罪していた。
プジョル将軍による圧力を受けたこともあり、普段の自信を失って意気消沈していたが、マルティン将軍は世の中には恐ろしい相手もいるのだと諭し、今回を良い経験だと受け止めるよう促した。
マルティン将軍の評価
マルティン将軍は、当初チャビエルとクリス騎士長に経験を積ませるために用意した場が、フレア姫や善治郎、さらにはプジョル将軍まで介入したことで制御不能になったと振り返った。
それでもクリス騎士長が敗北と自分より格上の存在を認識できたことは収穫だったと考えていた。
また、部下を守ろうとした姿勢自体は軍人として評価できるものであり、その点については一定の理解を示した。
クリス騎士長への叱責
しかしマルティン将軍は、善治郎の前で反射的に攻撃態勢を取ったことだけは重大な問題だったと指摘した。
クリス騎士長は、自分の動きを見抜かれていたことに驚愕する。マルティン将軍は、もし剣に手をかけていればプジョル将軍が介入し、取り返しのつかない事態になっていたと説明した。
さらにクリス騎士長は、偶然踏んだ水たまりの冷たさで冷静さを取り戻せたと明かし、自身の未熟さを痛感した。
対外交渉の心得
マルティン将軍は、ナバラ王国は大国ではなく、多くの場合は不利な立場で交渉しなければならない国だと説いた。
善治郎のような寛容な人物ばかりではないため、自らの立場を理解し、軽率な行動を慎むべきだと厳しく忠告した。
クリス騎士長はその教訓を受け入れ、二度と同じ過ちを繰り返さないと誓った。
ガジール辺境伯家の反省
一方、ガジール辺境伯家では今回の問題が無事に終わったことを家族だけで喜んでいた。
チャビエルは妹を守れなかったことを悔やみ、自らの力不足を認めた。しかしニルダは兄が自分を守ろうとしてくれたことを感謝し、兄を慰めた。
その様子を見ながら、ガジール辺境伯は兄妹の仲の良さに安堵した。
ルシンダ不在の重み
辺境伯は、家族の結束や今回の危機回避の背景には長女ルシンダの存在があったことを改めて思い返した。
弟や妹を導き、家族をまとめ上げてきたルシンダはすでに嫁いでおり、その不在の大きさを痛感していた。
それでも過去を悔やむのではなく、未来の成功へ繋げるために反省するべきだと息子へ語った。
ニルダの王都行き決定
辺境伯はニルダにも落ち着いた対応を身につけるよう諭した。
そのうえで、成人した以上は王都の社交界へ出る必要があるとして、自身が王都へ戻る際に同行させる考えを伝えた。
ニルダは喜び、さらに善治郎から王宮を案内すると言われたことを父へ報告した。辺境伯は社交辞令ではないだろうと判断し、王都到着後に書状を出すよう勧めた。
また、ニルダの教育については王都で手配を進める考えを示し、後宮侍女長を務める従妹アマンダへ相談することを考えた。
善治郎への想いを語るフレア姫
別室ではフレア姫がスカジに着替えを手伝わせながら、裁判での出来事を振り返っていた。
フレア姫は、善治郎がライムンドを追い詰めた場面や、自分を軽視していたクリス騎士長に認識を改めさせたことを痛快だったと語り、善治郎へ惚れ直したと率直に打ち明けた。
好意から愛情への変化
フレア姫は、ガジール辺境伯領までの旅路そのものが人生でも特に充実した時間だったと語った。
竜退治の経験だけでなく、善治郎が女性だからと見下すことなく、一人の人間として接してくれたことに強く惹かれていた。
さらに今回の裁判でも、自分を盲目的に信じたのではなく、自身の能力や判断力を信頼してくれたことが何より嬉しかった。
そのため、当初の好意は明確な愛情へと変わっていた。
大胆な計画とスカジの叱責
話の流れの中でフレア姫は、帰路の竜車で善治郎と結ばれるための計画を思いついたと語った。
戦士としての自分の力なら善治郎を押さえ込めるはずだと真顔で提案したが、その内容を聞いたスカジは低い声で主君を厳しく叱責した。
こうしてフレア姫の暴走気味な発想に対し、側近の女戦士が歯止めをかける形となった。
エピローグ 復路
帰路の竜車とフレア姫の接近
結婚式を終えた善治郎は、往路と同じ顔ぶれと共に巨大な竜車で王都への帰路についていた。フレア姫、スカジ、ナタリオ、イネスが同乗する車内は広々としていたが、善治郎にとっては往路以上に落ち着かない空間となっていた。
その理由は、今回の一件を経てフレア姫が明らかに距離を縮めてきたためである。フレア姫は航海や探検への夢を楽しそうに語り、善治郎も会話を続けたが、内心では彼女の好意を強く意識していた。
善治郎の葛藤
善治郎はフレア姫の好意に気付いていた。美しい姫君から積極的に接近されれば心が揺れるのも当然であったが、一方でアウラという愛する妻がいる以上、その感情に罪悪感も抱いていた。
フレア姫から修理を終えた黄金の木の葉号の試運転へ誘われた善治郎は興味を示しつつも、話題の中で瞬間移動習得の進展を思い出した。そして将来アウラの出産に備える必要性を考えた後、帰国したらアウラとゆっくり過ごしたいという思いに至った。
その様子を見たフレア姫は、自らの想いが報われていない現実を悟るように、小さくため息をついた。
妊娠の可能性を調べるアウラ
同じ頃、王都の王宮ではアウラが宮廷医師ミシェルの診察を受けていた。
アウラは月のものが大幅に遅れており、第二子を身ごもった可能性があったためである。しかし診察の結果、ミシェルは妊娠を断定できなかった。
それでも妊娠初期は医師でも判断が難しいと説明し、可能性は十分残されていると告げた。
希望を抱く女王
前回の妊娠時にあった味覚や嗅覚の変化が今回は見られないことから、アウラは単なる体調の変化だと考えていた。しかしミシェルは、妊娠ごとに症状は異なるため、それだけでは判断できないと説明した。
その言葉を聞いたアウラは再び希望を抱き始める。ミシェルは少なくとも半月ほどは妊娠している前提で生活するよう勧め、飲酒を控えるよう忠告した。
夫婦生活への悩み
アウラは善治郎が間もなく帰還することを思い出し、妊娠の可能性がある場合は夫婦の営みも控えるべきかと尋ねた。
ミシェルは即座に認められないと答えたため、アウラは困惑した。善治郎との関係を円滑に保つうえで、夫婦として過ごす時間が重要であることを理解していたからである。
第二子を授かった可能性は本来喜ばしいことであったが、その一方で善治郎との関係をどうするべきかという新たな悩みも抱えることとなり、アウラは複雑な思いを抱きながら思案するのだった。
付録 主と侍女の間接交流
善治郎不在による後宮の変化
善治郎がガジール辺境伯領へ向かった後、後宮は慌ただしい状況に包まれていた。侍女の入れ替わりに加え、側室候補として現実味を帯びてきたフレア姫の存在によって、離れの整備や浴室運用の見直し、蒸気風呂設置の検討など、新たな課題が次々と発生していた。
そのため、アマンダ侍女長は後宮運営のために頭を悩ませていた。
問題児三人組の深刻な悩み
しかし、フェー、ドロレス、レテの三人が抱えていた悩みは全く別のものであった。
善治郎が出張に際して携帯ゲーム機を二台とも持ち出してしまったため、彼女達は夜の楽しみを失っていた。普段はゲームをしながら過ごしていた時間帯に何もすることがなくなり、眠れない夜を過ごしていたのである。
三人はベッドの中でゲームの話題を繰り返し、セーブデータの心配や苦労したレアアイテム集めの思い出を語りながら、眠気が訪れるのを待っていた。
夜更かしが習慣となった侍女達
三人が眠れない理由は、単なるゲーム不足だけではなかった。
善治郎とアウラの夜更かしに付き合う勤務が続いた結果、三人は遅い時間まで起きている生活に身体を慣らしていたのである。清掃担当の日は夜遅くまで仕事を行い、それ以外の日はゲームをして過ごすという生活が定着していた。
そのためゲームを失った現在も簡単には眠れず、三人は暗闇の中で小声の会話を続けていた。
アマンダ侍女長の苦労
アマンダ侍女長は有能な使用人であったが、善治郎という異世界人の主には苦労させられていた。
善治郎は侍女達に非常に甘く、緩やかな雰囲気を好んでいた。そのため侍女長は、主の望む柔らかな空気を維持しながらも、侍女達の技量や規律を保たなければならず、常に難しい舵取りを求められていた。
そんな中、善治郎が出張前に残した指示は、アマンダ侍女長にとっても予想外の内容であった。
侍女長室への呼び出し
ある日、フェー、ドロレス、レテの三人は侍女長室へ呼び出された。
三人は叱責を覚悟していたが、アマンダ侍女長が告げたのは特別な仕事の話であった。善治郎の私物について説明を受けた三人は、その内容に強い関心を示した。
善治郎は、自分が持ち込んだ私物を長期間動かさないのは望ましくないため、定期的に動かしておいてほしいと依頼していたのである。
据え置きゲーム機の管理任務
その私物とは据え置き型ゲーム機であった。
三人はすぐに意味を理解し、大喜びした。善治郎は出張中に三人がゲームで遊べるよう、あえてそのような口実を用意していたのである。
ただしアマンダ侍女長は、通常業務を終えた後に行うこと、アウラが就寝した後に限ること、騒音を出さないこと、後片付けを徹底すること、利用時間は一時間までであることを厳しく言い渡した。
任務を引き受ける三人
アウラの名が出たことで三人は気を引き締めた。
主に迷惑をかければ厳しい処分を受けることを理解していたためである。それでも三人は誰一人辞退することなく、与えられた任務を引き受けた。
喜びを隠し切れない三人を見ながら、アマンダ侍女長は善治郎の甘さに改めて頭を抱えつつも、彼女達に期待を寄せるのだった。
リビングでゲーム機を準備する三人
その夜、フェー、ドロレス、レテは後宮のリビングルームに集まっていた。三人はアウラを起こさないよう小声で話し、LEDスタンドライトを一つだけ点けて、据え置きゲーム機の準備を始めた。
ドロレスは、以前から善治郎が機器を出し入れする様子を観察していたため、配線を覚えていた。フェーとレテはその手際に驚き、三人は無事にゲーム機を起動させた。
初めての据え置きゲームへの熱中
三人は日本語も英語も読めなかったが、体感コントローラーを試行錯誤しながら操作し、次第にゲームへ慣れていった。
最初はテニスのルールを理解できず負け続けたが、フェーとドロレスは負けん気を刺激され、勝つまで挑戦した。やがて二人は五連勝を果たし、後ろで見守っていたレテも楽しそうに称賛した。
レテの希望で野球ゲームに移る三人
レテは、善治郎がよく遊んでいた野球ゲームを希望した。ドロレスがゲームを切り替え、三人は交代で投手と打者を操作して対戦した。
レテは操作が得意ではなかったが、打球が当たるだけで喜び、誰よりも楽しそうにゲームを遊んでいた。
マルグレーテの来訪
三人が夢中になっていると、リビングルームの扉が開いた。侍女長だと思って固まった三人だったが、入ってきたのはマルグレーテだった。
マルグレーテは三人がゲームをしていることに驚いたが、ドロレスから善治郎の依頼による仕事だと説明され、納得した。ただし、アウラの眠りを妨げないよう音に注意するよう忠告した。
山羊乳を飲むマルグレーテ
マルグレーテも善治郎から特別な仕事を頼まれており、冷蔵庫から山羊乳を取り出して飲んだ。
フェー、ドロレス、レテは山羊乳を飲みたがったが、マルグレーテはまだ獣臭く、美味しいとは言えないと説明した。ニコライが飼育環境や飼料を改良しており、いずれ乳製品やデザートに使えるようになると話すと、レテは期待しながら我慢することにした。
約束の時間を過ぎた四人
四人は乳製品やデザートの話で盛り上がり、テレビとゲーム機をつけたまま放置してしまった。
やがて約束の一時間が過ぎ、リビングルームの扉が開いた。現れたアマンダ侍女長は、表情を変えず、フェー、ドロレス、レテ、マルグレーテに片付けをして自室へ来るよう命じた。
四人は完全に観念し、それぞれ後片付けを始めた。
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