ヒモ生活4巻レビュー
【理想のヒモ生活】あらすじ・ネタバレ・まとめ
ヒモ生活6巻レビュー
どんな本?
「理想のヒモ生活」とは、渡辺恒彦 氏によるライトノベル。
日本でブラック労働をしていた善治郎は久しぶりの休みの日に異世界に召喚された。
その召喚主は善治郎の好みドストライクの美女だった。
そんな彼女は大国の女王で、善治郎に婿に来て欲しいと言う。
善治郎は躊躇なく「はい」と返事をして地球で婿に行く準備をしていざ異世界へ、、
後宮に引き篭もるヒモ生活を享受出来ると思っだが、、
女王が妊娠したら悪阻が酷く、彼女の代理として政治の表舞台へと行くと、世間が彼を後宮に引きこもる事を許してくれなくなった。
さらに彼の持ち物のビー玉が隣国双王国の付与魔術の媒体として最高品であると判ると、、
さらに善治郎の血統も、、
そんなタイトル詐欺と言いたくなるほど大忙しな善治郎のヒモ生活。
読んだラノベのタイトル
理想のヒモ生活 5
著者:渡辺恒彦 氏 イラスト: 文倉 十 氏
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あらすじ・内容
大人気シリーズ第5弾。ヒモらしくないと評判の善治郎の働きぶり、活躍ぶりが目覚ましい今巻。なんと群竜討伐の総指揮を執ることに……!?
カープァ王国最大の港、ワレンティア港に突如現れた大型帆船。 それは北大陸ウップサーラ王国からの使者だった。ウップサーラ王国第一王女フレア・ウップサーラと名乗るその少女は、カープァ王国との国交を求める。 王都を離れられない女王アウラに代役として、ワレンティアの街へ跳ぶ善治郎。一方その頃、塩の街道では、プジョル将軍の指揮の下、大規模な山狩りが始まっていた。 プジョル将軍の的確な指示の元、徐々に追いつめられていく群竜達。追いつめられた群竜達は、西の山へと逃げ込む。塩の街道の西側は、いくつかの山を挟んでワレンティアの街に続いている。 ワレンティアでフレア姫一行と対面を果たす善治郎。善治郎に対し、カープァ王国との大陸間貿易を希望するフレア姫。 貿易は女王アウラの意にかなう提案。大筋では同意する善治郎が交渉を続けているさなか、ワレンティアの街に緊急を告げる鐘の音が鳴り響く。 それは、塩の街道から逃げ来た群竜達がワレンティアにやってきたことを告げる音だった……。
理想のヒモ生活5
感想
双王国の王子、王女が来てるのに。
港街では最新の大型帆船に乗って北の大陸のウップサーラから姫様がやって来た。
お互いに国については全くの無知の状態。
ヨーロッパ大陸のスウェーデンからアフリカ大陸の南アフリカに来たような感じかもしれない。
そんな報告を受けて女王アウラは、貿易による富の独占を狙い夫の善治郎を全権使節として港街に派遣する事にした。
善治郎からしたら初めての出張。
さらに日本文化から完全に隔離された状態にもなる。
そんな状態での初めての自身が1番偉い状態の外交。
補佐役は有能なのと善治郎自身が名声を得たく無いので無難に条約を締結して行く。
そんな時に、餓狼将軍に追い立てられた肉食竜の群れが善治郎の居る港街の近くの村を襲って来た。
その対策に善治郎は補佐役をしていた男を迎撃の司令官として任命するが、アウラから別の司令官を送られて来てしまう。
このままでは男尊女卑の王国では女王が夫の仕事に勝手に手を出したと不評に繋がる。
それならと善治郎自身が、我が儘を装い司令官となり、補佐役を参謀にし、アウラから送られて来たのを現場指揮官にして誤魔化す事にするが、、、
善治郎の危険は付き纏うが、そこは愛する妻の立場のため。
でもそのせいで、肉食竜の群れを討伐した後に女王アウラ自ら善治郎を迎えに来て半ば強制的に王都に連れ戻されてしまう。
その後、善治郎の説明で行動の意図を理解した女王アウラは自身が良かれと思った行動が裏目に出てた事が判り顔面蒼白になりながら、機転を利かせた善治郎に感謝する。
そしてその頃、侍女たちは善治郎のせいで緩んでた雰囲気を引き締めるため地獄の特訓を受けていた。。
燃え尽きてないかな?w
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ヒモ生活4巻レビュー
【理想のヒモ生活】あらすじ・ネタバレ・まとめ
ヒモ生活6巻レビュー
考察・解説
四本マストの大型帆船
『理想のヒモ生活5』に登場する「四本マストの大型帆船」は、北大陸の先進的な造船技術の象徴であり、カープァ王国との間に新たな外交・貿易問題をもたらす重要な存在として描かれている。
この帆船の特徴と物語における影響について、以下の4つのポイントから解説する。
1. 北大陸の最先端技術の塊である国有船
南大陸の帆船は一本マストが主流であり、三本マストの大型船でさえ北大陸の大商人が所有する貴重なものである。それを上回る四本マストの帆船は、以下の特徴を持っている。
・北大陸のある程度以上の大国のみが保有を許される正真正銘の最先端技術の塊である
・民間には下ろされない国家所有物である
そのため、ワレンティア港への四本マスト船の出現は、北大陸の大国の中枢人物が来訪したことを意味していた。
2. ウップサーラ王国の最新鋭船「黄金の木の葉号」
ワレンティア港に現れた帆船の正体は、技術先進国であるウップサーラ王国の最新鋭船「黄金の木の葉号」である。同国でも四本マスト船はこの船と海軍旗艦しか存在しない。この船について、以下の点が特筆される。
・第一王女であるフレア・ウップサーラ自らが船長を務めている
・フレア姫が海水の真水化魔法で船員の水事情を支えながら、南大陸までの過酷な大陸間航行を成し遂げた
3. 嵐による損傷とカープァ王国側の技術吸収の思惑
「黄金の木の葉号」は航海中の嵐によって深刻なダメージを負っており、カープァ王国の協力なしには修繕と帰国が不可能な状態に陥っていた。この状況に対し、両国は以下の思惑を抱いた。
・カープァ王国側(アウラと善治郎)は無償で修繕に協力する見返りとして、南大陸には存在しない大型帆船の製造技術を吸収しようと目論んだ
・フレア姫も技術の流出は避けられないと理解しつつ、帰国のためにその条件を受け入れた
4. 両国にもたらす莫大な直接貿易の利益
この大型帆船の到達は、これまで中継地点を通さざるを得なかった北大陸北部と南大陸中西部の間に、直接的な大陸間貿易の道を開く可能性を示した。直接貿易が実現すれば、以下の物資の取引が可能となる。
・北大陸では高級品である砂糖や香辛料、竜素材
・南大陸では高級品である毛織物や鉄器
これらを直接取引できれば両国に計り知れない莫大な利益をもたらすため、大型帆船は新たな国益の鍵となっている。
まとめ
四本マストの大型帆船は、圧倒的な技術力を見せつけると同時に、嵐による損傷をきっかけとして両国間の高度な政治交渉を引き起こした。カープァ王国は技術吸収を狙い、ウップサーラ王国は莫大な貿易利益を見込むなど、帆船の存在そのものが国家間の思惑を交錯させる重要な役割を担っている。
北大陸との国交
『理想のヒモ生活5』において、北大陸のウップサーラ王国との間に結ばれた国交(直接貿易)は、カープァ王国に莫大な利益と新たな技術をもたらす重要な外交的転機として描かれている。
北大陸との国交に関する現状と今後の展望について、以下の4つのポイントから解説する。
1. 直接貿易のもたらす莫大な利益と距離の障壁
これまで大陸間貿易は、主に北大陸南部の国と南大陸北部の国の間で行われており、南大陸中西部のカープァ王国や北大陸北部のウップサーラ王国は中継貿易に頼っていた。今回、両国が直接貿易を行えば、以下のような特徴がある。
・北大陸で貴重な砂糖や香辛料、南大陸で貴重な毛織物や鉄器を直接取引することで、計り知れない利益が生まれる。
・しかし、両国を隔てる広大な海と長大な航路が、貿易を成立させる上での最大の物理的障害となっている。
2. 既存の貿易摩擦の回避
距離の遠さという障害がある一方で、ウップサーラ王国のフレア姫は、両国間の直接貿易には外交的なメリットがあると主張した。
・既存の大陸間貿易を行っている諸国を飛び越えて直接結びつくことで、既存の貿易ルートにおけるパイの奪い合いを避けられる。
・結果として、周辺諸国との貿易摩擦などの厄介な外交問題を最小限に抑えつつ、関係を構築できる。
3. 大型帆船の技術吸収による自立への布石
北大陸の最新鋭船「黄金の木の葉号」が嵐で損傷し、ワレンティア港に流れ着いたことは、カープァ王国にとって天載一遇の好機となった。
・カープァ王国側は、船の修繕にワレンティアやマルケス領の船大工を派遣し、全面的に協力することを約束した。
・この修繕支援を通じて、南大陸には存在しない四本マストの大型帆船の製造技術を吸収し、将来的にカープァ王国独自の直接貿易船を就航させるための足がかりを得た。
4. 竜素材の取引と教会の影響による認識のズレ
具体的な物資の取引において、毛織物や鉄器の買い取りは順調に合意に至ったが、竜素材(竜革や竜骨)の取引には課題が残った。
・北大陸では竜種を神聖視する教会の権勢が強く、竜素材の利用が制限されている。
・ウップサーラ王国は例外的に教会の影響が小さいためフレア姫は竜素材を欲しがったが、そうした事情を知らない善治郎側は警戒し、明確な約束を避けた。
・今後の国交を深めるには、こうした文化的・宗教的背景による認識のズレを解消していく必要がある。
まとめ
ウップサーラ王国との国交樹立は、距離や文化の違いという大きな課題を抱えつつも、直接貿易による莫大な利益と大型帆船技術の獲得という、カープァ王国にとって計り知れない国益をもたらすものである。善治郎やアウラの冷静な外交判断と、フレア姫の果断な行動が交錯し、両国間に新たな関係が築かれる過程が詳細に描かれている。
善治郎の単身赴任
『理想のヒモ生活5』において、善治郎は女王アウラの名代として、港街ワレンティアへ初めての単身赴任を経験する。この出張は、四本マストの大型帆船で来訪した北大陸の王女への対応から群竜討伐まで、彼にとって政治的にも生活環境的にも大きな試練となった。
善治郎の単身赴任について、以下の4つのポイントから解説する。
1. フレア姫対応と技術吸収を目的とした派遣
・ワレンティア港に北大陸ウップサーラ王国の第一王女フレア姫が乗る四本マストの大型帆船が漂着したことで、事態が動く。
・アウラは、北大陸の大型帆船の製造技術の吸収と直接貿易の道を開くという莫大な国益のため、自らの代わりに善治郎を派遣することを決定した。
・王都を離れられないアウラの名代として、善治郎は「ワレンティア公爵全権代理」として現地へ赴くこととなった。
2. 現代文明から切り離された不便な生活
・王都の後宮でエアコンや冷蔵庫などの日本の電化製品に囲まれて生活していた善治郎にとって、ワレンティアでの生活は過酷なものであった。
・酷暑期は過ぎていたものの寝苦しい夜に悩まされ、改めて現代の家電のありがたみを痛感することになる。
・アウラの配慮により同行した侍女イネスのサポートを受けながら、善治郎はこの不便な「異世界の生活」に順応しようと努めた。
3. 「お飾り」を装う巧みな政治的立ち回り
・現地での善治郎は、実務能力に長けたラファエロ・マルケスを「臨時私設補佐官」として重用し、自分はただのお飾りとして振る舞うよう努めた。
・しかし、群竜討伐のためにアウラがチャビエルを送り込んできた際には、地方領主への王権の介入や指揮系統の混乱を防ぐ必要に迫られた。
・結果として、自らが名目上の総司令官に立ち、実務をチャビエルに、作戦指揮をラファエロに任せるという絶妙な人事調整を自らの決断で行っている。
4. 自身の無謀さの自覚と反省
・群竜討伐の際、善治郎は政治的な体裁を守るためにダミアン代官の制止を振り切って城壁の外(戦場から離れた安全な後方)へ出陣した。
・しかし、逃げ延びて息絶えた群竜の巨大な死体を間近で目の当たりにしたことで、自分がどれほど危険な真似をしていたかを肌で実感し、恐怖する。
・善治郎は自身の認識の甘さを深く反省し、今後は二度と城壁の外には出ないと固く誓い、これがこの討伐騒動における彼自身の最大の成果となった。
まとめ
このように、初めての単身赴任は、善治郎に政治的な手腕を要求すると同時に、異世界における生活の不便さや野生の脅威を直接実感させる経験となった。彼の柔軟な判断力と裏方に徹する姿勢は、結果的にカープァ王国の国益と安定を守ることに繋がっている。
ワレンティアの群竜討伐
『理想のヒモ生活』におけるワレンティアでの群竜討伐は、塩の街道から逃れてきた群竜の大群による農村襲撃に端を発し、善治郎が単身赴任先で初めて総司令官として指揮を執ることになった重大な事件である。
この討伐作戦の経緯と結末について、以下の4つのポイントから解説する。
1. ワレンティアへの群竜襲来と善治郎の決断
・ワレンティア周辺の農村が、密林での縄張り争いに敗れて飢えた百匹近い群竜の敗残兵に襲撃され、甚大な被害を出す。
・ワレンティア公爵全権代理として最高責任者の立場にあった善治郎は、この事態に対して自ら兵を率いて出陣することを決意する。
・これは、攻勢任務である討伐において責任者が安全な城壁内に引きこもっていては、前線で指揮を執った者が最高責任者と見なされてしまうためであった。
・善治郎は身の危険を懸念するダミアン代官の制止を振り切り、戦場から離れた後方の安全な場所に本陣を構える決断を下した。
2. 政治的摩擦を避ける巧妙な人事と戦力確保
・善治郎は、王都のアウラから推薦されてやってきたチャビエルと、自身が既に責任者に任命していたラファエロの間で角が立たないよう、絶妙な人事を構成した。
・自らが名目上の最高責任者となり、実務はチャビエルに任せつつ、ラファエロを参謀として同格に置くという、三者が妥協する形をとったのである。
・さらに善治郎は、ワレンティアに滞在していたウップサーラ王国のフレア姫と交渉し、彼女の優秀な護衛部隊の半数を討伐軍の戦力として組み込むことにも成功する。
3. 現代の知恵を用いた誘導作戦と殲滅戦
・猟師から、群竜は臭いで道標を作って移動すると聞いた善治郎は、貝殻から作らせた消石灰を撒いて元の臭いを消去し、群竜の皮と尿で偽の道標を作って特定の村へ誘導する作戦を立案する。
・囮として肉竜を残した無人の村へ百匹近い群竜を誘い込み、周囲の丘に伏せていた兵士たちが長弓による一斉射撃と長槍による迎撃を行った。
・結果として地の利を完全に活かし、群竜の群れを圧倒・殲滅することに成功した。
4. 巨大群竜の討伐と善治郎の痛切な反省
・群れを指揮する巨大群竜は用心深く密林に留まっていたが、別働隊として待ち構えていたフレア姫の腹心である女戦士スカジが、見事な一騎打ちの末にこれを討ち取った。
・こうして作戦は死傷者を出すことなく大成功を収めたが、事後に群竜の巨大な死体を間近で見た善治郎は、自分がどれほど危険な場所に身を置いていたかを肌で実感し恐怖する。
・自らの認識の甘さを猛省した彼は、今後は二度と城壁の外には出ないと固く心に誓うことになった。
まとめ
ワレンティアの群竜討伐は、善治郎の現代知識に基づく柔軟な発想と、政治的な摩擦を最小限に抑える人事調整が光った作戦であった。軍事的には素人でありながらも、適材適所で人員を使いこなし、被害を出さずに事態を解決に導いたこの出来事は、善治郎が王配としての手腕を確かなものにしつつ、異世界の危険性を身をもって学ぶ重要な契機となった。
後宮侍女の特別指導
『理想のヒモ生活』において、善治郎がワレンティア公爵領へ単身赴任したことで主不在となった後宮では、侍女長アマンダによる若手侍女たちへの特別指導が実施された。
この特別指導の背景と、侍女たちに与えた影響について、以下の4つのポイントから解説する。
1. 主不在を機に始まったアマンダ侍女長の特別指導
・善治郎が長期間後宮を留守にしたことで、若い侍女たちは骨休めの休日がもらえるのではないかと期待していた。
・しかし、後宮の総責任者であるアマンダ侍女長は、これをゼンジロウ様の前では出来なかった規律の引き締めを行う絶好の機会と捉えた。
・結果として、善治郎が帰還するまでの間を特別指導期間と宣言することになった。
2. 善治郎の甘やかしによる侍女たちのなまりの指摘
・アマンダが特別指導に踏み切った最大の理由は、侍女たちの意識と技術の低下であった。
・我が儘を言わず、ミスにも寛容な善治郎は使用人にとって働きやすい主であったが、その快適さに慣れきった若い侍女たちは、後宮配属当初の緊張感を失いなまってしまっていた。
・アマンダは、彼女たちがいずれ実家に帰り結婚する際、元後宮侍女の看板を背負うことを自覚させ、その名に恥じないよう再教育を施したのである。
3. 時計を活用した分刻みの過酷なスケジュール管理
・特別指導の対象となったフェー、ドロレス、レテの問題児三人組は、まずアマンダ直轄の清掃部門に回され、広いリビングの絨毯の雑巾がけなど過酷な労働を課された。
・さらに恐ろしいことに、アマンダは善治郎が持ち込んだデジタル時計の読み方を密かに習得していた。
・前日の作業時間と比較して一分遅れていると叱責するなど、分刻みでの厳格なスケジュール管理を行って彼女たちを震え上がらせた。
4. 全員参加のローテーションと意図せぬ復讐劇
・この特別指導は、後宮の若い侍女全員が全部門をローテーションで回る仕組みになっていた。
・ある日の昼休み、問題児三人組は調理責任者ヴァネッサから出された一般的な王宮料理を味見し、野菜の切り方やパンの硬さを的確に批評した。
・しかし、実はその料理を作ったのは厨房で特別指導を受けていた同僚の侍女たち(キーシャ、コンチタ、サブリーナ)であった。
・背後で酷評を聞かれてしまったドロレスたちは、三日後に自分たちが厨房へ回った際に同僚たちから厳しい味見の復讐を受ける羽目になってしまった。
まとめ
後宮侍女の特別指導は、善治郎の寛容さがもたらした侍女たちの気の緩みを正すために行われた、アマンダ侍女長の厳しくも親心のある教育であった。読者にとっては、分刻みの指導に苦しむ問題児三人組の姿や、侍女たち同士のコミカルなやり取りなど、主不在の後宮で繰り広げられる生き生きとした人間模様を楽しめるエピソードとなっている。
南北大陸の技術交流
『理想のヒモ生活5』において、カープァ王国(南大陸)とウップサーラ王国(北大陸)の間で生じた技術交流は、両国の発展と将来の貿易に多大な影響を与える重要な要素として描かれている。
南北大陸の技術交流について、以下の4つのポイントから解説する。
1. 「南魔北技」と呼ばれる根本的な技術格差
・南大陸は王家が継承する魔法技術が発達している一方で、北大陸は製鉄、造船、建築といった物理的な技術において一歩先を行く先進国である。
・そのため、北大陸からワレンティア港に現れた四本マストの大型帆船「黄金の木の葉号」は、南大陸には存在しない正真正銘の最先端技術の塊であった。
2. 修繕支援を通じた大型帆船技術の吸収
・嵐によって深刻なダメージを負った黄金の木の葉号に対し、カープァ王国は現地の船大工を動員し、無償で全面的に修繕に協力することを申し出た。
・この協力の裏には、修繕作業を通じて大型帆船の構造や製造技術を吸収し、将来的に自国で直接貿易船を建造するというアウラたちの明確な狙いがあった。
・ウップサーラ王国のフレア姫も、技術流出は避けられないと理解しつつ、無事に帰国するためにその提案を受け入れた。
3. 製鉄・炉の技術獲得の断念
・ガラス製造の研究を進めるカープァ王国にとって、鉄を溶かすような高温に耐えうる北大陸の炉の技術や製鉄技術も喉から手が出るほど欲しいものであった。
・善治郎は技術提供の可能性を探るものの、黄金の木の葉号には武器の修繕ができる職人はいても、本格的な鍛冶師や炉の建設を担う職人は乗船していなかった。
・専門の職人が不在では高度な技術の提供は不可能であるため、今回は炉に関する技術交渉は見送られることとなった。
4. 資源枯渇問題と将来の交流への布石
・技術先進国であるウップサーラ王国も決して万全ではなく、製鉄や造船、暖房のために大量の木材を消費した結果、森林資源の枯渇という深刻な課題を抱えている。
・そのためフレア姫は、技術流出を甘受してでも南大陸との独自の直接貿易路を確立し、自国に利益をもたらす必要があった。
・今回の帆船修繕を契機とした技術と資源のやり取りは、将来的に両国が互いの不足を補い合う、本格的な大陸間貿易へと発展していくための重要な布石となっている。
まとめ
南北大陸の技術交流は、黄金の木の葉号の漂着という偶然から始まったものの、カープァ王国にとっては造船技術を吸収する絶好の機会となった。炉の技術獲得には至らなかったものの、帆船技術の流出を受け入れてでも国益を追求するウップサーラ王国との間には、将来的な直接貿易に向けた確かな土台が築かれることとなった。
ヒモ生活4巻レビュー
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登場キャラクター
カープァ王国 王家・王宮関係者
アウラ
カープァ王国の女王である。善治郎を異世界から召喚し、伴侶として迎えた。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国・女王。ワレンティア公爵。
・物語内での具体的な行動や成果
善治郎をワレンティア公爵全権代理に任命し、単身赴任させた。ガジール辺境伯の群竜討伐を許可し、後から国軍を派遣した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
カープァ王国の直系王族であり、時空魔法の使い手である。
善治郎・カープァ
現代日本から召喚されたカープァ王国の王配だ。アウラの夫であり、政治的な野心を持たず後宮での生活を望んでいる。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国・王配。ワレンティア公爵全権代理。
・物語内での具体的な行動や成果
アウラの名代としてワレンティアへ赴き、群竜討伐の名目上の総司令官を務めた。討伐の際、群竜を誘導する作戦を立案し成功を収めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王族として時空魔法の素養を持つ。シャロワ王家の血も引いている可能性がある。
ファビオ
女王アウラの第一秘書官である。細面の中年男であり、常に無表情で冷徹な意見を述べる。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国・秘書官。
・物語内での具体的な行動や成果
アウラに対して、善治郎に独自の領地や爵位を持たせるよう進言した。アウラの指示を受け、群竜討伐に関する書類を作成した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アウラの腹心の一人として、国政において大きな権限を持つ。
エスピリディオン
カープァ王国の筆頭宮廷魔法使いだ。紫のローブをまとった初老の男である。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国・筆頭宮廷魔法使い。
・物語内での具体的な行動や成果
アウラからの問いに対し、ウップサーラ王国の位置について自身の知識を答えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アウラの腹心の一人として信頼されている。
カープァ王国 貴族・軍関係者
ラファエロ・マルケス
マルケス伯爵家の嫡男である。有能な文官であり、穏やかな表情を崩さない。
・所属組織、地位や役職
マルケス伯爵家・嫡男。ワレンティア公爵全権代理補佐官(臨時私設補佐官)。
・物語内での具体的な行動や成果
善治郎の補佐官としてワレンティアに同行し、フレア姫一行との交渉や実務を担当した。群竜討伐においては参謀として作戦指揮を執った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
かつてアウラの婿候補の一人であった。
プジョル・ギジェン
カープァ王国軍の将軍だ。大柄で精悍な顔立ちの野心家である。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国・将軍。竜弓騎兵団総団長。
・物語内での具体的な行動や成果
郊外演習の名目で軍を率いて塩の街道へ赴き、群竜を討伐した。群竜の規模が大きいと判断し、王都へ援軍を要請した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
軍部で強い影響力を持つ。「餓狼」の異名を持つ。
チャビエル・ガジール
ガジール辺境伯の三男である。小柄で痩身の若い騎士だ。
・所属組織、地位や役職
ガジール辺境伯領・領主代理。
・物語内での具体的な行動や成果
塩の街道で群竜の群れと交戦した。自軍の被害を抑えるため単独での討伐を断念し、王都へ援軍を要請した。ワレンティアでは前線指揮官として群竜の殲滅作戦を実行した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ガジール辺境伯家で唯一生き残っている実息であり、次期当主である。
ジョゼップ
ガジール辺境伯の側近だ。中年の騎士である。
・所属組織、地位や役職
ガジール辺境伯領・騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
チャビエルの初陣を支え、助言を行った。竜弓を用いて群竜を一矢で仕留めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
先の大戦でも武名を鳴らした歴戦の古強者である。
アンドレス
チャビエル・ガジールに仕える色白の若い従者である。
・所属組織、地位や役職
ガジール辺境伯領・従者。
・物語内での具体的な行動や成果
塩の街道での行軍中、チャビエルの世話をした。チャビエルに巨大群竜の存在をいち早く知らせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記述なし。
竜弓騎兵団
カープァ王国軍の精鋭部隊だ。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国・国軍。
・物語内での具体的な行動や成果
プジョル将軍に率いられ、塩の街道で群竜を迎撃し、高い命中率で討伐した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
走竜に騎乗したまま戦闘を行い、竜弓を使用する。
ガジール辺境伯領主軍
ガジール辺境伯領の地方軍である。
・所属組織、地位や役職
ガジール辺境伯領・領主軍。
・物語内での具体的な行動や成果
チャビエルに率いられ、塩の街道の異変解決に向かった。ワレンティアでは群竜の殲滅作戦に参加した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記述なし。
カープァ王国 ワレンティア公爵領
ダミアン
ワレンティア公爵領の代官である。中年の貴族だ。
・所属組織、地位や役職
ワレンティア公爵領・代官。
・物語内での具体的な行動や成果
四本マストの大型帆船の入港を王都へ報告した。群竜討伐に際して、善治郎が戦場へ出ることに強く反対した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記述なし。
アントニオ
ガジール辺境伯領の熟練の猟師である。茶色の無精ひげを生やした中年男だ。
・所属組織、地位や役職
ガジール辺境伯領・猟師。
・物語内での具体的な行動や成果
塩の街道で群竜の痕跡から敵の規模を分析した。ワレンティアでの群竜討伐において、群竜の生態や習性に関する助言を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
竜種の生態に関する専門的な知識を持つ。
農村の村人達
ワレンティア周辺の農村に住む人々である。
・所属組織、地位や役職
ワレンティア公爵領・領民。
・物語内での具体的な行動や成果
群竜の襲撃を受け、甚大な被害を出した。ワレンティアの街へ避難した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記述なし。
カープァ王国 後宮
アマンダ
後宮の侍女長である。生真面目で厳しい性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
後宮・侍女長。
・物語内での具体的な行動や成果
善治郎がワレンティアへ出張した際、若い侍女たちに対して特別指導を実施した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
後宮の人員を統括する。
イネス
後宮の清掃担当責任者だ。えんじ色の侍女服を着こなす中年の女である。
・所属組織、地位や役職
後宮・清掃担当責任者。ワレンティア公爵邸の臨時侍女長。
・物語内での具体的な行動や成果
善治郎のワレンティア出張に同行し、身の回りの世話や秘書的な役割を果たした。フレア姫の身体検査を担当した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記述なし。
ヴァネッサ
後宮の調理担当責任者である。でっぷりと太った中年女だ。
・所属組織、地位や役職
後宮・調理担当責任者。
・物語内での具体的な行動や成果
若い侍女たちに王宮料理の指導を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記述なし。
フェー
後宮の小柄で短髪の若い侍女である。お調子者だ。
・所属組織、地位や役職
後宮・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
アマンダ侍女長の特別指導で清掃部門に回され、過酷な労働を課された。同僚たちと新作菓子の再現に挑戦した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
問題児三人組の一人である。
ドロレス
後宮の長身の若い侍女だ。
・所属組織、地位や役職
後宮・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
アマンダ侍女長の特別指導を受けた。同僚たちと新作菓子の再現に挑戦した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
問題児三人組の一人である。
レテ
後宮の胸が豊かな若い侍女である。
・所属組織、地位や役職
後宮・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
アマンダ侍女長の特別指導を受けた。同僚たちと新作菓子の再現に挑戦した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
問題児三人組の一人である。若い侍女の中では料理の腕が高い。
キーシャ
後宮の若い侍女だ。
・所属組織、地位や役職
後宮・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
ヴァネッサの指導の下で調理の特別指導を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記述なし。
コンチタ
後宮の若い侍女である。
・所属組織、地位や役職
後宮・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
ヴァネッサの指導の下で調理の特別指導を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記述なし。
サブリーナ
後宮の若い侍女だ。
・所属組織、地位や役職
後宮・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
ヴァネッサの指導の下で調理の特別指導を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記述なし。
ウップサーラ王国
フレア・ウップサーラ
ウップサーラ王国の第一王女である。神秘的な美貌を持つ男装の少女だ。
・所属組織、地位や役職
ウップサーラ王国・第一王女。黄金の木の葉号・船長。
・物語内での具体的な行動や成果
四本マストの大型帆船で大陸間航海を行い、ワレンティア港に到着した。善治郎との交渉で、船の修繕と引き換えに家畜の山羊などを提供することに合意した。群竜討伐において、自国の護衛部隊を援軍として提供した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
四大魔法の使い手である。
ヴィクトリア・クロンクヴィスト
ウップサーラ王国の長身の女戦士だ。フレア姫の腹心として護衛を務めている。
・所属組織、地位や役職
ウップサーラ王国・戦士。
・物語内での具体的な行動や成果
ワレンティアの群竜討伐において、部隊を率いて巨大群竜を単独で討ち取った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「スカジ」という英雄の称号を持つ。
シャロワ・ジルベール双王国
フランチェスコ
シャロワ王家第一王子の長男である。軽薄な言動をとるが、その振る舞いは計算されたものである。
・所属組織、地位や役職
シャロワ・ジルベール双王国・第一王子長男。
・物語内での具体的な行動や成果
治癒の秘石を使うという名目でカルロスを見舞い、自身の治癒魔法で赤斑熱を完治させた。ビー玉を核とした魔道具を作成した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
付与魔法と治癒魔法の二つの血統魔法を使える。双王国の密約により、王位継承権を持たない。
ボナ
シャロワ王家の王女だ。真面目で責任感が強い。フランチェスコのお目付役として同行する。
・所属組織、地位や役職
シャロワ・ジルベール双王国・王女。
・物語内での具体的な行動や成果
善治郎の結婚指輪を見て強い関心を示した。フランチェスコが後宮へ無断で入り込んだ件について説教をした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
下級貴族の出身だが、隔世遺伝で付与魔法に目覚めたため王族に迎えられた。宝飾職人としての顔も持つ。
ヒモ生活4巻レビュー
【理想のヒモ生活】あらすじ・ネタバレ・まとめ
ヒモ生活6巻レビュー
展開まとめ
プロローグ 海都の船影
ワレンティア港と四本マスト船の出現
王家直轄地としてのワレンティア
ワレンティアは、カープァ王国最大の港を有する海都であり、塩の生産地と最大の貿易港を兼ねる重要都市であった。その重要性から、歴史上ほとんどの期間で国王直轄地とされ、現在も女王アウラがワレンティア公爵を兼ねていた。実務は代官が担っていたが、王家の時空魔法による抜き打ち監査の可能性があるため、不正の危険は比較的低かった。
巨大港湾施設と活気ある港
ワレンティアの港には、石造りの桟橋、防波堤、灯台が整備されていた。大型帆船でも接岸できる深さと、暴風雨でも船を守る防波堤を備えており、南大陸西部最大の港にふさわしい規模であった。港では船員や人足が荷を運び、兵士たちが喧嘩を防ぐために声を張って警備していた。
台車の普及と若い人足の発見
港では、最近王都の商人が売り出した台車を使う人足も現れ始めていた。台車を押していた若い人足は、水平線の向こうに見慣れない巨大な船影を見つけた。彼は視力の良さを頼りに船の形を確認し、それが通常の三本マストではなく、四本マストの船であることに気づいた。
四本マスト船が意味する重大事
若い人足の報告を聞いた中年の人足は、四本マスト船の意味を理解して血相を変えた。三本マスト船ですら北大陸の大商人が持つ貴重な大型帆船であり、四本マスト船は北大陸の大国が保有する国家所有の最先端船であった。
そのため中年の人足は、荷を若い人足に任せて代官所へ走った。四本マストの大型帆船がワレンティア港へ現れたことは、北大陸の大国の中枢人物がカープァ王国へ来訪したことを意味していた。
四本マスト船の正体
ワレンティア港へ現れた四本マストの大型帆船は、『黄金の木の葉号』と呼ばれるウップサーラ王国の最新鋭船であった。ウップサーラ王国でも四本マスト船は極めて希少であり、この船と海軍旗艦しか存在しなかった。
フレア姫とスカジの会話
甲板に立つフレア・ウップサーラは、百二十日ぶりに見る陸地へ安堵と感慨を抱いていた。王女であるフレアは船上では船長として振る舞っており、腹心の女戦士スカジにも船長と呼ぶよう求めていた。
フレアは現在地について確認し、スカジは星の位置と航路からカープァ王国であると推測した。フレアは予想以上に南へ流されたことを理解したが、海の不文律により入港は認められるだろうと判断した。
船員への気遣いと真水化の重要性
フレアは長い航海で疲弊した船員たちを上陸させられることを喜んだ。スカジは船員だけでなくフレア自身も休養が必要だと指摘した。
しかしフレアは、自分は大丈夫だと答えた。この船ではフレアが真水化の魔法による水の供給を担っており、彼女に万が一のことがあれば船の存続に関わるため、航海中は常に危険を避けていた。
南大陸への認識の変化
フレアとスカジは、青い海と空、そして巨大なワレンティア港を眺めながら、その規模に感心していた。北大陸では技術が進み、南大陸では魔法が発達しているという認識を持っていたが、目の前の港を見て南大陸への評価を改める必要を感じていた。
海竜の襲来
その時、見張りの水兵が海竜の接近を知らせた。昨夜の嵐で海竜の縄張りへ入り込んだため、追跡されてきたのである。
大型クロスボウが使えない状況だったため、スカジは海竜への迎撃を申し出た。フレアは港へ迷惑をかけないためにも迎撃を許可したが、無理はしないよう命じた。
スカジによる海竜討伐
スカジは船尾楼へ駆け上がり、接近する首長竜型の海竜を確認した。比較的小型であることを幸運と判断した彼女は、海獣の牙から作られた槍を用意した。
深呼吸で集中したスカジは、北方に伝わる蹴槍術を用いて槍を放った。その槍は一直線に飛び、海竜の頭部を貫いた。
海竜は短い悲鳴を上げて絶命し、船員たちはスカジの見事な技量に歓声を上げた。
海竜の死体への対応
討伐後、フレアはスカジを労った。スカジは海竜の死体の所有権を主張できると述べたが、フレアは港へ迷惑をかけかねなかったことや、初めて利用する港との関係を考慮し、権利を主張しない方針を示した。
スカジは従ったものの、海竜の死体へ未練を見せたため、フレアは槍だけは返還してもらうよう交渉すると約束した。スカジはそれを聞いて恐縮しながら感謝した。
第一章 王配の単身赴任
ワレンティアからの緊急連絡
アウラは執務室で、群竜討伐の援軍に関する予算見積書を前に頭を悩ませていた。軍事物資の価格が想定以上に高騰しており、財政面での負担が予想以上に大きかったためである。
そんな中、ワレンティアから緊急の小飛竜便が届いた。アウラもファビオ秘書官も内容に心当たりはなく、突発的な事態であることを察したアウラは、冷静に報告を受け入れた。
緊急会合の開催
約一時間後、アウラは小会議室で非公式の緊急会合を開いた。出席者はアウラ、ファビオ秘書官、エスピリディオン、善治郎の四名であった。
アウラはワレンティアから届いた報告を説明した。一昨日、ワレンティア港へ四本マストの巨大帆船が入港し、その船長がウップサーラ王国第一王女フレア・ウップサーラを名乗っているという内容であった。ワレンティアの代官は対応が困難と判断し、王都へ指示を求めていた。
四本マスト船の重要性
報告を聞いたファビオ秘書官は、四本マスト船が北大陸でも数少ない最新鋭の国有船であることを説明した。アウラもそれに同意し、その船の船長が王族である可能性は高いと語った。
一方で、若い王女が船長を務めている理由については分からず、アウラは疑問を抱いた。
ウップサーラ王国に関する情報
アウラはエスピリディオンにウップサーラ王国について尋ねた。エスピリディオンは詳細な知識こそ持たなかったものの、北大陸のさらに北方に位置する国だと記憶していた。
その説明を受けたアウラは、遠方の国であるため情報が少ないのも当然だと理解した。しかし、そのような遠国がなぜカープァ王国まで来たのかについては、誰も答えを持っていなかった。
交渉役選定の必要性
ファビオ秘書官は、北大陸との直接貿易の可能性は大きな利益となる一方で、相手側にも目的がある以上、交渉は容易ではないと指摘した。
アウラもまず相手の身元確認が必要だと考えていた。王女を名乗る以上は王族として扱わねばならないが、同時にその言葉を無条件で信じることもできず、慎重な対応が必要であった。
さらにエスピリディオンは、北大陸には血統魔法を持たない王族や王家も存在すると説明した。そのため、南大陸の常識である血統魔法による身分証明が通用しないことが判明し、身元確認はより困難なものとなった。
ラファエロ起用案
交渉役について問われたアウラは、ラファエロ・マルケスを任務に就けたいと提案した。
しかし、マルケス侯爵家は領地を持つ有力貴族であり、本来王家直轄地の実務に関与させるべき立場ではなかった。そこでアウラは、ラファエロを正式な責任者ではなく責任者補佐として任命し、名目上は別の責任者に雇われる形を取る考えを示した。
善治郎への任務委任
ファビオ秘書官が責任者となる人物について触れると、会話の流れは自然に善治郎へ向かった。
アウラは、ラファエロを補佐役として使うためには、それを従わせられる王族の立場が必要だと説明した。そして自身が現地へ赴くことは王都の統治上難しいため、その役目を担えるのは善治郎しかいないと結論づけた。
善治郎は、現在担当しているフランチェスコ王子とボナ王女への対応を懸念として挙げたが、アウラはそれを自ら引き継ぐと説明した。
さらに善治郎は、自身の任命に対する法衣貴族の反発を心配したが、アウラは適任者は既に重要職に就いており、王宮を離れても影響が最も少ない高位者が善治郎であると説明した。
善治郎の受諾
懸念事項にすべて回答を得た善治郎は、任務を引き受ける決意を固めた。
善治郎は全力で命令を遂行すると誓い、アウラもその忠誠を受け入れた。こうして善治郎がワレンティアでの対応役を務めることが決定したのであった。
アウラの謝罪と善治郎の疑問
その日の夕刻、後宮へ戻ったアウラは善治郎に謝罪した。善治郎は、ワレンティア行きの決定が不可避だったことは理解していると伝えつつ、その理由について説明を求めた。
善治郎は、今回ワレンティアへ送り込みたかった本命がラファエロ・マルケスなのか、それとも自分なのかを問いかけた。アウラは迷いなく善治郎だと答えた。
ワレンティアで対応する理由
善治郎は、本来ならば王女を名乗る一行を王都へ招き入れる方が自然ではないかと指摘した。それに対しアウラは、当初は自らワレンティアへ赴くことまで考えていたが不可能であり、その次善策として善治郎を送り込むことにしたと説明した。
さらにアウラは、ワレンティアが王家直轄の領地であり、自身がワレンティア公爵でもあることを説明した。王都で対応すれば王国全体の問題となるが、ワレンティアであれば王家の権限の範囲で対応できるため、国内の干渉を抑えながら関係を築けると語った。
北大陸との交渉への期待
アウラは、北大陸の王族を名乗る一行がわざわざカープァ王国まで来た以上、大きな目的か事故があるはずだと考えていた。
意図的な来訪なら交渉の余地があり、事故による漂着なら船の修繕が必要になる可能性が高いと見ていた。その場合、修繕を通じて北大陸の大型帆船技術を吸収できるため、大きな利益になると説明した。
善治郎がアウラの狙いを尋ねると、アウラは大型帆船の製造技術こそ最大の目的であると明言した。将来的に北大陸との直接貿易を実現するためにも、その技術が必要だと考えていた。
事前準備と交渉方針の整理
善治郎は、現地へ行けば簡単に連絡が取れなくなるため、優先事項や自分が独断で約束してよい範囲を事前に整理したいと提案した。
アウラもそれに同意し、二人は長時間話し合いを行った。そして、アウラが王女一行との交渉で望む事項の優先順位や、善治郎が裁量で決定できる内容をまとめた文書を作成した。
アウラの反省
準備が終わった後、アウラは改めて善治郎へ謝罪した。今回も国益のために善治郎へ負担をかけてしまったことを申し訳なく思っていたのである。
しかし善治郎は、今回は気付いた時には断れない段階まで話が進んでおり、流石に大変だったと率直な気持ちを伝えた。
その言葉を受けたアウラは、自分が無意識のうちに善治郎を無条件で従ってくれる存在として扱っていたことに気付いた。そして深く反省し、今後は可能な限り事前に相談することを約束した。
褒賞を巡る会話
アウラは今回の任務を成功させた際には、形ある褒賞を与えたいと申し出た。しかし善治郎は欲しいものが思い浮かばなかった。
そこで善治郎は一般的な褒賞について尋ねた。アウラは金銭や荘園、文武の功績に応じた道具、婚姻許可、場合によっては女性が褒賞として与えられることもあると説明した。
善治郎は金銭には興味を示さず、婚姻や女性の褒賞も即座に不要だと断った。最終的には、何も思いつかなければ竜骨筆や計算石をもらう程度で良いと答えた。
欲しいものの模索
アウラはもっと率直に希望を言うよう勧めたため、善治郎は日本にいた頃に欲しかったものを思い返した。
高価な腕時計や新車、サッカーの年間チケットなどが頭に浮かんだものの、それらは現在の生活では必要ないものであった。そのため結局、今の自分には特に欲しいものがないという結論に至った。
善治郎は不自由なく暮らしている現状を語り、強いて言えばインターネットが使えればと思う程度だと話したが、それは実現不可能な願いであった。
ワレンティアへの期待
話の最後に善治郎は、今回初めて王都の外へ出ることになるため、向こうで新たな楽しみや欲しいものが見つかるかもしれないと語った。
アウラも、ワレンティアは海風が涼しく海産物も美味しい土地だと紹介し、冗談交じりにワレンティア公爵の爵位は譲れないと笑った。
さらに、自称王女を連れて帰るのも駄目だと冗談を重ねると、善治郎も笑いながら応じた。こうして二人は和やかな雰囲気の中で会話を終えた。
ワレンティア行きの報告
善治郎は数日後、フランチェスコ王子とボナ王女を招き、王宮の一室で歓談の場を設けた。その席で善治郎は、ワレンティアへ向かうことを二人へ伝えた。
フランチェスコ王子は驚きながらも落ち着いて別れを受け入れたが、ボナ王女は善治郎の不在によって自分を支えてくれる協力者を失うことになるため、大きな動揺を見せた。善治郎は二人の言葉に感謝しつつ、無難な返答で応じた。
土産話と宝飾品への期待
フランチェスコ王子は気軽に土産を頼み、善治郎はワレンティア名産の珊瑚や真珠を持ち帰れれば贈ると約束した。
その言葉に宝飾品作りへ情熱を注ぐフランチェスコ王子は大いに喜び、ボナ王女もまた強い関心を示した。善治郎は二人のために持ち帰るつもりであることを明言し、ボナ王女も深く感謝した。
ワレンティア行きの準備
さらに数日後、善治郎が出発する日を迎えた。出発まで時間がかかったのは、先に受け入れ準備を整える人員がワレンティアへ送られていたためであった。
女王アウラは一日に何度も瞬間移動を行えるだけの魔力を持っていたが、王国の切り札であるため、一日に送れる人数は限られていた。
出発前、善治郎は手回し懐中電灯やツールナイフ、蒸留酒など、自らが持ち込んだ私物を確認した。必要な物資や正装はすでに先行した人員によって運ばれていたため、善治郎自身は最低限の荷物だけを携えていた。
アウラからの指示
アウラは善治郎へ、先に派遣してあるラファエロ・マルケスを活用するよう指示した。善治郎は細かな実務をラファエロに任せ、自分は表向きの立場に徹する考えを示した。
またアウラは、侍女イネスを頼るよう強く念を押した。後宮以外で生活するのは善治郎にとって初めてであり、慣れない環境で心身の負担が増すことを心配していたためである。
さらに、王女一行との交渉方針を記した指示書を決して失わないよう注意した。善治郎は内容もほぼ記憶していると答え、指示書を大切に保管していることを伝えた。
別れを惜しむ夫婦
準備を終えた二人は、しばらく無言で向き合った。これまで一度も離れて暮らしたことがなかったため、別れを惜しむ気持ちを隠せなかったのである。
やがて善治郎はアウラを抱き寄せ、二人は固く抱き合いながら口づけを交わした。しばらく続いた抱擁の後、善治郎は行ってくると告げた。
アウラも笑顔で応じ、善治郎の肩から手を外すと、瞬間移動の準備に入った。
瞬間移動による出発
アウラは深い集中状態に入り、膨大な魔力を解放しながら呪文を唱えた。善治郎は目を閉じてその時を待ち、全身を包む不思議な力を感じた。
次の瞬間、軽い酩酊感とともに目を開いた善治郎の前には、もはやアウラの姿はなかった。代わりに、ワレンティアで待機していた高官達が片膝をつき、善治郎を歓迎していたのであった。
第二章 航海王女フレア姫
ワレンティア到着
善治郎はワレンティア公爵邸へ到着し、私室の窓から港町の景色を眺めて感嘆していた。白い石造りの港と青い海の対比に見入った善治郎は、かつて日本で応援していたサッカークラブを思い出し、懐かしさを覚えた。
そこへ後宮から同行した侍女イネスが訪れ、ラファエロ・マルケスが面会を求めていることを伝えた。善治郎は自ら判断する必要性を自覚し、会談の準備を命じた。
ラファエロとの初会談
約一時間後、善治郎はラファエロ・マルケスと対面した。
善治郎は北大陸の王女について報告を求め、ラファエロはフレア・ウップサーラという十七、八歳ほどの少女がウップサーラ王国第一王女を名乗っていると説明した。そして立ち居振る舞いや言葉遣いから見て、その身分は本物である可能性が極めて高いと語った。
さらにフレア姫は嵐に遭ってワレンティアへ流れ着いたらしく、船が損傷している可能性が高いことも報告された。善治郎はアウラの方針に従い、船の修繕に全面的な協力を行うよう命じた。
マルケス家の協力体制
ラファエロは船の修繕にはワレンティアだけでなく外部の職人も必要になると提案し、その人材としてマルケス伯爵領の職人を呼び寄せたいと申し出た。
善治郎が確認を求めると、ラファエロはアウラとマルケス伯爵の許可を得た文書を提示した。イネスが内容を読み上げると、ラファエロには必要に応じて外部から人員を招集する権限が与えられており、その費用の一部はマルケス家が負担することになっていた。
内容を確認した善治郎は了承し、ラファエロへ裁量を委ねた。
慣れないワレンティアでの生活
翌朝、善治郎は寝苦しさに不満を漏らしながら目を覚ました。後宮ではエアコンや電化製品のある生活に慣れていたため、ワレンティアでの不便な環境は想像以上に堪えていた。
夜は時間を持て余し、アウラとの会話や魔法訓練もできないことから暇を感じていた。それでも善治郎は、この生活に慣れなければならないと自らを奮い立たせた。
侍女達との朝支度
朝になると、ワレンティアの若い侍女達が着替えを手伝いに訪れた。善治郎は王族らしい態度を崩さないよう注意しながら応対した。
侍女達からイネスが厨房や予定調整で多忙に動いていることを聞き、善治郎は着替えを済ませた後、侍女達に退出を命じた。常に使用人が側にいる環境に慣れない善治郎は、一人になる時間を確保しようとしたのである。
フレア姫との初対面
朝食後、善治郎はワレンティア公爵邸の大広間でフレア姫との正式な会見に臨んだ。
やがて入室したフレア姫は、青みがかった銀髪を短く切り揃え、男物の船長服をまとった少女であった。同行していたのは長身の女戦士ヴィクトリアであった。
しかし会見開始前、ワレンティア代官ダミアンは安全確保のため身体検査を求めた。護衛のヴィクトリアは激しく反発したが、フレア姫は自らの身分を証明できない現状を理解し、その対応は正当だとして受け入れた。
イネスが侍女達と共に暗幕を用意し、フレア姫とヴィクトリアの身体検査を実施した結果、問題は確認されなかった。
正式な挨拶と身分の確認
身体検査を終えたフレア姫が進み出ると、善治郎は敬意を示すため自ら立ち上がって迎えた。
善治郎はアウラの代理として挨拶し、フレア姫はまずウップサーラ王国海軍八番船『黄金の木の葉号』の船長として名乗り、その後に第一王女フレア・ウップサーラとして自己紹介した。善治郎は王族よりも船長としての立場を優先していることを察した。
続いて善治郎は護衛の女戦士について尋ねた。フレア姫は彼女をヴィクトリア・クロンクヴィストと紹介し、さらに「スカジ」という英雄の名を授けられた優れた戦士であると説明した。
客人としての受け入れ
善治郎はフレア姫一行をカープァ王国ワレンティア公爵領の正式な客人として認め、公爵邸の離れを住居として提供することを告げた。
さらに身の安全を保証することを約束し、今後の実務的な交渉窓口としてラファエロ・マルケスを指名した。
ラファエロが恭しく挨拶すると、フレア姫は王女らしい威厳を保ちながら応じ、両者の正式な交渉が始まることとなった。
ワレンティアでの対応と善治郎の退屈
フレア姫との会見を終えて自室へ戻った善治郎は、ようやく緊張から解放されて安堵した。イネスに手伝ってもらいながら正装を緩め、ソファーへ腰を下ろした。
その後、善治郎はフレア姫一行の待遇について尋ねた。イネスは不自由はさせていると答え、その理由がカープァ王国の暑さであることを説明した。北方出身のフレア姫達にとって当地の気候は過酷であり、善治郎は水や食事だけでも不自由のないよう配慮するよう指示した。
さらに善治郎は今後の予定を確認し、しばらくはラファエロが実務交渉を担当するため自由時間が多いと知った。退屈を持て余すことを懸念した善治郎は、暇つぶしも兼ねて貝殻や砂を集めるよう依頼した。ガラス製造に利用できる材料を調べる意図があったのである。
また、現地の侍女達には気を遣ってしまうため、後宮の侍女達を追加で派遣してもらえないかと考え、イネスにアウラ宛ての書状作成を依頼した。
離れの館でくつろぐフレア姫
同じ頃、公爵邸の離れではフレア姫が腹心のスカジと話をしていた。
フレア姫は男装を解き、薄水色のワンピース姿で過ごしていた。部屋の快適さや上履きという文化に興味を示したが、スカジは戦士として上履きに不満を抱いていた。
しかしフレア姫は郷に入っては郷に従うべきだと諭し、スカジも試しに動いてみた結果、戦闘に支障は少ないと判断した。
船の修繕と技術流出への懸念
話題はやがて『黄金の木の葉号』へ移った。
スカジは船付き大工の見立てとして、船は修繕可能だが大規模な工事になると報告した。フレア姫はそれを受け、帆船技術の流出は避けられないと判断した。
ラファエロが修繕への全面協力を申し出た裏には、大型帆船の技術を学ぼうとする意図があることを理解していたが、現状ではそれを拒む選択肢はなかった。船が直らなければ帰国できないためである。
フレア姫は状況次第では造船技術の提供や造船所建設への協力すら視野に入れていると語り、スカジを驚かせた。
ウップサーラ王国の木材問題
フレア姫はさらに、ウップサーラ王国が抱える森林資源の問題を語った。
製鉄、暖房、造船に大量の木材を必要とする同国では、長年の伐採によって森林資源が枯渇しつつあった。王家は伐採制限や植林を進めていたが、将来的な木材不足への不安は消えていなかった。
今回の航海も木材確保が重要な目的の一つだったが、大型船用の大木をそのまま海路で輸送することは、海竜の脅威や航海上の危険から現実的ではないと判断された。
貿易による成果への期待
木材輸送が困難であっても、フレア姫は独自の大陸間貿易路を築く必要があると考えていた。
北大陸で高値で取引される砂糖や香辛料、竜の革や骨などは有望な商品であり、一方でウップサーラ王国から持ち込んだ毛織物、毛皮、鉄器も十分な利益を生む見込みがあった。
フレア姫は父王や兄の期待を背負って航海に出た以上、成果を持たずに帰るつもりはないと語った。スカジもまた命を懸けて支えることを誓い、王女への忠誠を改めて示した。
幕間一 山狩り
塩の街道の山狩り
群竜討伐隊の本格的な山狩り
塩の街道では、王都からの援軍と合流したプジョル将軍率いる群竜討伐隊が、本格的な山狩りを開始していた。兵士達は数十人単位に分かれ、草木を切り払い、通路を確保しながら密林へ進んだ。
プジョル将軍は人命を第一に考え、外敵と遭遇した場合は敵の規模にかかわらず呼び子を鳴らすよう厳命していた。そのため作業効率は落ちていたが、兵士達の安全は確保されていた。
呼び子の音と応援部隊の移動
作業中、南側から呼び子の音が響いた。兵士達は即座に作業を止め、草刈り用の鉈から短槍へ持ち替え、応援に向かう準備を整えた。
近くにいたチャビエル率いるガジール辺境伯軍も呼び子を聞きつけ、走竜で街道を南下した。チャビエルはプジョル将軍の直属部隊なら大きな損害は受けないだろうと見ていたが、援軍として駆けつける義務を果たそうとしていた。
密林での群竜との遭遇戦
チャビエル達が密林へ入ると、プジョル将軍直属部隊は複数の群竜と交戦していた。視界の悪い密林では弓を使う余地がなく、すでに白兵戦になっていた。
プジョル将軍は曲刀と盾を手に自ら戦いながら、チャビエルに参戦を命じた。チャビエルは部下達に三人一組を崩さないよう命じ、盾兵、槍兵、見張り役の連携を維持させて戦わせた。
プジョル将軍の常識外れの戦闘力
戦闘中、プジョル将軍の部下が群竜に槍を引きずられて体勢を崩した。チャビエルが投げ槍で援護しようとした瞬間、プジョル将軍が視界外から一気に割り込み、その兵士を庇った。
プジョル将軍は盾で群竜を殴り倒し、足で押さえつけ、曲刀で首を斬り落とした。その後、兵士に対して、人は竜種と力で競うべきではなく、技と武装と連携で戦うべきだと諭した。しかし、直前にプジョル将軍自身が力で群竜を圧倒していたため、その言葉はチャビエルには空々しく聞こえた。
群竜の撤退と的確な追撃
プジョル将軍は群竜が退く気配を即座に察知し、投げ槍と弓矢による追撃を命じた。兵士達はその判断を疑わず、群竜が背を向けた瞬間に投げ槍を放ち、逃走前に攻撃を加えることに成功した。
その後、プジョル将軍は前線で戦いながらも、チャビエルの部下が左翼側で突出していることに気づいていた。チャビエルはその視野の広さに戦慄しつつ、ジョゼップを連れて部下を連れ戻しに向かった。
チャビエルの自覚
チャビエルは、後方から見ていた自分が見落とした部下の動きを、前線で戦っていたプジョル将軍が把握していたことに衝撃を受けた。
敵味方が入り乱れる密林の戦場でも状況を把握し、必要な指示を出すプジョル将軍の力量を目の当たりにし、チャビエルは自分の目標がまだ遠い存在であることを改めて自覚した。
第三章 好意と下心の境界
昼食会での再会と相互評価
善治郎はワレンティア公爵邸でフレア姫と二度目の対面を果たした。これは友好を目的とした昼食会であったが、実際には事前交渉の最終確認の場としての意味合いが強かった。
善治郎は大陸間航海に挑んだフレア姫の勇気を称賛し、フレア姫も嵐を乗り越えてこの国へ辿り着けたことを幸運だと語った。両者は、ウップサーラ王国とカープァ王国の直接貿易が大きな利益をもたらすという認識を共有した。
直接貿易の可能性と課題
善治郎は両国の直接貿易には大きな障害が存在すると指摘した。それは両国を隔てる広大な海と長大な航路であった。
一方のフレア姫は、既存の大陸間貿易国との摩擦こそが問題であり、両国が直接結びつけばそうした外交上の問題を避けられると考えていた。両者は立場の違いを確認しつつも、直接貿易の実現が大きな利益を生むという点では一致していた。
帆船修繕と技術交流の確認
善治郎はカープァ王国が責任を持って黄金の木の葉号を修繕すると約束した。フレア姫はその厚意に感謝を示した。
船の修繕にはカープァ王国の職人達が関わるため、大型帆船の技術が南大陸へ流入することになるが、善治郎はまず航路の実績を作ることが重要だと考えていた。
積み荷取引の合意
善治郎は黄金の木の葉号の積み荷について話題を移し、毛織物と鉄をカープァ王国側で買い取ることを提案した。
フレア姫は代金の一部を銀貨で受け取り、残りを物資で受け取ることを望んだ。特に竜革や竜骨への関心を示したが、善治郎は安定供給の保証ができないとして明確な約束は避けた。フレア姫もそれ以上は要求を重ねなかった。
山羊の話題と新たな取引
故郷の食文化について話す中で、フレア姫は船内に生きた山羊や鶏を積んでいることを明かした。
善治郎は山羊の乳や乳製品に興味を示し、山羊を譲ってほしいと申し出た。フレア姫は毛織物向きの山羊ではないと説明したが、善治郎は乳を目的としていると答えた。
フレア姫は繁殖可能な数の山羊を融通することに前向きな姿勢を示し、善治郎も個人的な予算で購入したいと申し出た。さらにフレア姫は出産祝いとして山羊を贈ることを提案し、善治郎は感謝して受け入れた。
価値観の違いと探り合い
山羊の乳を当然のように求める善治郎に対し、フレア姫は一瞬警戒を見せた。南大陸では家畜の乳や乳製品を口にする文化がほとんど存在しないためである。
しかし善治郎は自然な態度で乳製品への関心を語り、フレア姫は善治郎の素性について改めて考えを巡らせた。それでも表面上は笑顔を崩さず、友好的な会話を続けた。
家族と戦士の文化の話題
話題は家族へと移り、フレア姫は善治郎とアウラの子の誕生を祝福した。さらにウップサーラ王国では戦士が編み物を趣味とすることも珍しくないと語った。
善治郎は北方の文化に興味を示し、フレア姫は厳しい自然環境が人々を鍛えていると説明した。両者は互いの国の戦士達についても敬意を示し合った。
大戦の被害と国の責任
フレア姫は南大陸の大戦による被害について触れ、力になれることがあれば協力したいと申し出た。
これに対し善治郎は、国内難民や孤児はすべてカープァ王国の臣民であり、アウラのもとで国が責任を持つと明言した。フレア姫はその姿勢に敬意を表し、善治郎も感謝を示した。
こうして両者は終始笑顔を崩すことなく、穏やかな雰囲気のまま昼食会を終えるのだった。
フレア姫の休息と貿易計画の確認
昼食会を終えたフレア姫は離れに戻ると水浴びを済ませ、スカジと共にくつろぎながら今後について話し合った。
二人は船の修理の目処が立ち、最低限の貿易の道筋も確保できたことを喜んだ。さらに、大陸間貿易が想像以上の利益を生むことを再確認し、砂糖や香辛料、毛織物による莫大な利潤について語り合った。
竜素材と教会の影響
フレア姫は大型帆船の技術流出は避けられないと受け入れつつも、軍事力強化のため竜革や竜骨を入手したいと考えていた。
しかし交渉では明確な返答を得られなかった。二人はその背景に北大陸の教会の存在があると考えた。教会は竜種を神聖視し、竜素材の利用を制限しているため、南大陸側にも北大陸全体が同様の価値観を持つと誤解されているのである。フレア姫は時間をかけて善治郎と認識をすり合わせる必要があると判断した。
善治郎への再評価
スカジは善治郎を女王の夫という立場だけを持つ飾りの人物と見ていたが、フレア姫はそれを否定した。
フレア姫は善治郎が南大陸とは異なる文化圏の出身であると考えていた。山羊の乳に強い関心を示したことや、生後半年の子供をまだ一歳ではないと認識していたこと、港が凍るという発想を自然に口にしたことなどから、その知識や価値観が南大陸の常識とは異なると分析した。
善治郎の立場と役割の考察
スカジは善治郎に特別な才能を感じなかったが、フレア姫は理解力と判断力を備えた人物だと評価した。
事前交渉の内容を正確に把握し、最終承認を下す権限を持っている以上、交渉相手として最も注意すべき人物は善治郎であると指摘した。また、山羊を贈り物として受け取る提案をその場で受諾した判断力にも注目し、相手を過小評価するべきではないとスカジに説いた。
戦争孤児への関心と断念
フレア姫は昼食会で、戦争によって生じた難民や孤児をウップサーラ王国へ受け入れる可能性を探っていた。
南大陸の人々は魔力量に恵まれており、平均魔力量の低下に悩むウップサーラ王国にとって大きな利益になるからである。しかし善治郎は、国民は全てカープァ王国が責任を持つと明確に拒絶した。
その態度からフレア姫は、人材獲得の道は完全に閉ざされたと理解しながらも、大きな利益を逃したことを惜しみ続けた。
善治郎とラファエロの打ち合わせ
同じ頃、善治郎は執務室でラファエロと打ち合わせを行っていた。
ラファエロはフレア姫との契約に問題はなく、今後の取引が円滑になると報告した。また、黄金の木の葉号についても船大工達が修理可能と判断しており、修繕に支障はないと説明した。
大型帆船への興味
ラファエロから修繕前の視察を提案された善治郎は、大型帆船への興味を隠せなかった。
現場への影響を心配したものの、作業前であるため問題ないと説明を受けると、最も支障の少ない日程で視察したいと希望した。
炉の技術交渉の断念
善治郎はアウラから指示されていた炉の技術についても確認した。
しかし、黄金の木の葉号には本格的な鍛冶師は乗船しておらず、製鉄や炉の製作に関する知識を持つ人物もいなかった。ラファエロは当面技術提供の可能性はないと判断し、善治郎もそれを受け入れて交渉を中断することにした。
ラファエロへの評価
打ち合わせを続ける中で、善治郎はラファエロの有能さを改めて実感していた。
ラファエロは必要な情報を収集し、複数の選択肢と予想を整理した上で判断を仰いでくるため、善治郎はその中から最適なものを選ぶだけで済んでいた。善治郎はラファエロを極めて有能な官僚型の人物だと評価しつつ、不測の事態があれば連絡するよう念を押した。
ラファエロは穏やかな笑みを浮かべながら、その指示に従うことを約束するのだった。
幕間二 残された痕跡、見つからない竜影
塩の街道の山狩りと兵士たちの苦闘
プジョル将軍率いる王軍とチャビエル・ガジール率いる辺境伯軍は、塩の街道の安全確保のため山狩りを進めていた。
兵士たちは巨大群竜の根城と見られる山を半包囲しながら包囲網を縮めていたが、その作業は過酷であった。密林には木々や蔓草、毒虫があふれ、暑さの中で重装備のまま草刈りを続けなければならなかった。さらに群竜の接近を警戒する必要があるため、大声を出したり歌ったりすることも許されず、兵士たちは疲労と不満を抱えながら黙々と作業を続けていた。
猟師からの異変の報告
山狩りが予定の半分ほど進んだ頃、チャビエル配下の猟師が重要な報告を持ち込んだ。
猟師は、この山にはすでに群竜がいない可能性が高いと主張した。当初は頻繁に発見されていた群竜の痕跡や遭遇例が、包囲網が狭まるにつれて逆に減少し、ここ数日はまったく姿を見せなくなっていたためである。
群竜逃亡説の浮上
猟師の分析によれば、この山に巨大群竜を含む大規模な群れが存在していたこと自体は確実だった。しかし現在は群れ全体が縄張りを放棄して逃亡した可能性が高いという。
本来、群竜は容易に縄張りを捨てない生き物である。良質な餌場や水場を失えば生存が危うくなるためである。それにもかかわらず群竜が逃亡したとすれば、それは皇竜や暴竜のような絶対に勝てない相手に遭遇した場合に限られると猟師は説明した。
人間を脅威と認識した巨大群竜
周辺に皇竜や暴竜の痕跡は存在しなかったため、プジョル将軍は結論へ到達した。
巨大群竜は、自分たち人間の軍勢を絶対に勝てない敵と判断し、縄張りを捨てて逃亡したのである。チャビエルも猟師の見解としてそれ以外に考えられないと報告した。
プジョル将軍は、その巨大群竜の決断力と撤退判断を高く評価し、自軍の部下であれば合格点を与えるほどの見事な引き際だと認めた。
縄張り争い拡大への懸念
しかし群竜の逃亡は、新たな問題を生み出す可能性があった。
猟師によれば、縄張りを失った群竜が別の地域へ流れ込めば、新たな縄張り争いが発生する。そして敗れた側がさらに別の地域へ移動することで争いが連鎖し、密林全体が荒れる可能性があるという。
もしその影響が人里近くまで広がれば、塩の街道だけでなく国全体の安全にも関わる問題となるため、プジョル将軍は深刻に受け止めた。
王都への急報決定
状況を整理したプジョル将軍は、まず予定通り山狩りを継続して事実確認を行う方針を定めた。
そのうえで、この問題は現地だけでは対処できないと判断し、チャビエルに猟師を伴って王都へ向かうよう命じた。複雑な内容であるため、小飛竜による文書報告では不十分であり、猟師本人の口から女王アウラへ直接説明させる必要があると考えたのである。
チャビエルは当初戸惑ったものの、事態の重大さを理解すると命令を受諾した。プジョル将軍は山狩り終了を待たずに出発するよう指示し、自身も砦へ戻り小飛竜で追加報告を送ることを決定した。
チャビエルは緊張した表情で敬礼すると、ただちに王都へ向かう準備のためテントを後にしたのであった。
第四章 連鎖の行き着く先
大型帆船との対面
善治郎はワレンティアへ転移して以来初めて港を訪れ、四本マストの大型帆船『黄金の木の葉号』を目にして圧倒されていた。
フレア姫は自国が誇る最新鋭艦であると誇らしげに説明し、善治郎も帆船の構造や縦帆と横帆を切り替えられる仕組みに興味を示した。二人は帆船の性能について言葉を交わし、善治郎はその優れた設計に感心していた。
フレア姫の男装の理由
善治郎はフレア姫が男装している理由を尋ねた。
フレア姫は、ウップサーラ王国では船に女性の人格があると考えられており、船長は独身男性でなければならないという風習があると説明した。そのため女性船長は船に近づく際に男装するのだという。
フレア姫自身もそれを迷信だと理解していたが、船乗りたちの験担ぎとして根強く残っている習慣であり、簡単には廃止できないと語った。さらに船長たちの風習について話しかけたが、側近のスカジに慌てて制止され、自らも恥じらいを見せて話を打ち切った。
善治郎のフレア姫への再評価
善治郎はフレア姫の船員たちを眺めながら、彼女が長い航海の中で荒々しい船乗りたちと過ごしてきたことを実感した。
同時に、昼食会で見せた交渉人としての姿を思い出し、フレア姫が単なる王族ではなく、自ら交渉を進める優れた人物であることを改めて認識した。
警鐘による緊急事態の発生
その時、街中に大きな鐘の音が響き渡った。
善治郎がダミアンに尋ねると、それは襲撃を知らせる警鐘であり、東側の山で異変が発生したことを意味していた。事態の深刻さを察した善治郎は、自らは館へ戻り、現場対応はダミアンとラファエロに任せることを決断した。
余計な介入を避け、自身は安全な場所で待機するという判断に、ダミアンは安堵の表情を見せた。善治郎はフレア姫にも同行を求め、両者はワレンティア公爵邸へ戻った。
群竜襲撃の報告
夕刻になり、ラファエロが善治郎へ詳細な報告を行った。
襲撃の原因は群竜であり、ワレンティア近郊の農村が大規模な襲撃を受けていた。人的被害は二十一人に及び、小型肉竜はほぼ全滅、労働用の鈍竜も多数失われたため、村は自力での復興が困難な状況に陥っていた。
防衛部隊が現場へ到着した時には群竜はすでに撤退しており、追撃も実らなかったため、群竜は依然として密林内に潜伏していると考えられた。
塩の街道との関連性の検討
善治郎は塩の街道で発生していた群竜騒動との関連を確認した。
ラファエロは、通常の群竜の群れを大きく超える規模の群竜が目撃されていることや、多数の農民が圧倒的な大群だったと証言していることから、両事件の関連性は高いと考えていた。しかし塩の街道とワレンティアは距離が離れており、確証は得られていなかった。
善治郎は王都へ小飛竜を飛ばしてアウラへ報告することを決めたが、現場の判断は待てないため、基本的な対応はワレンティア側で決定する方針を固めた。
全権代理としての責任
善治郎は自らがワレンティア公爵全権代理として、現在の最高責任者であることを改めて確認した。
本来であればダミアンへ一任できる問題だったが、ワレンティアにはフレア姫一行が滞在しており、事態は複雑になっていた。群竜出現の情報が伝われば、フレア姫側が武装許可を求める可能性が高かったのである。
しかし外国勢力の本格武装を認めるには理由が必要であり、その扱いを慎重に考えなければならなかった。
フレア姫一行への協力要請方針
善治郎はラファエロに、フレア姫の護衛たちを群竜討伐に参加させることが可能か尋ねた。
ラファエロは、戦術や武装が異なる北大陸の戦士と共同作戦を行うことは現場にとって大きな負担になると説明した。しかし、独立した一方面を任せ、案内役を付ける形であれば問題は最小限に抑えられると提案した。
その意見を聞いた善治郎は、フレア姫へ現状を説明したうえで、事態解決のため協力を求める方針を決定した。ラファエロはその指示を受け、速やかに手配を進めることとなった。
夜の会談と協力体制の成立
その日の夜、善治郎はフレア姫一行を迎え、群竜襲撃によってワレンティアが予想外の事態に直面していることを説明した。
フレア姫は北大陸には群竜がおらず、陸上の竜種そのものが少ないと語りながらも冷静さを崩さなかった。善治郎が戒厳令への協力を求めると、フレア姫は快く応じ、必要であれば自分たちも協力すると申し出た。
そこで善治郎は、群竜対策のため護衛兵の半数を貸してほしいと要請した。フレア姫は兵士たちの交代制を条件にこれを受諾し、両者は協力関係を成立させた。
兵士派遣の決定
協力の内容が決まると、フレア姫は腹心のスカジに兵士を二部隊へ分けるよう命じた。
スカジは自身も前線に出ることを察して動揺を見せたが、フレア姫は自分は館で大人しくしているから前線で力を尽くせと命じた。主君の決定を理解したスカジは、その命令を受け入れた。
こうしてフレア姫側は護衛と交代要員を兼ねた体制を整え、善治郎側も安全を確保しながら戦力を補強することとなった。
深夜の主従の対話
その夜、スカジは槍を抱えてフレア姫と同室で警護に当たっていた。
眠りにつく前、フレア姫は今回の群竜討伐で大きな戦果を挙げた場合、それがどの程度外交上の手札になるかを問いかけた。スカジは、群竜の首領を討つほどの功績を立てられれば、王都とのより踏み込んだ外交交渉へ繋がる可能性があると答えた。
フレア姫は、カープァ王家だけでなく王都の諸侯とも取引関係を築ければ利益が大きいと考えており、そのためには王宮へ話を持ち込む機会が欲しいと考えていた。
善治郎への評価の変化
会話の中でフレア姫は、スカジが以前より善治郎を高く評価していることに気付いた。
スカジは、港で警鐘が鳴った際やその後の対応を振り返り、善治郎は自ら考えた上で判断を下している人物だと認識を改めたと語った。判断力のない飾りの存在であれば周囲の指示を待つはずだが、善治郎は自らの役割を理解した上で迅速に決断していたのである。
そのためスカジは、善治郎の不興を買うような行動は避けるべきだと考えていた。
保守的な外交方針の確認
フレア姫もまた、善治郎は誠実で分かりやすい人物であり、自らの役割を無難に果たそうとしていると評価した。
現在の自分たちは異国の地であり、最悪の場合には船や身柄を奪われる危険すらある立場である。それと比べれば、無事に交易の道筋を作って帰国できるだけでも十分な成果だと考えていた。
そのため今回の外交では欲張らず、保守的な方針を維持することが最善であるとの結論に至った。
信頼の言葉と就寝
スカジは、自分が必ずフレア姫を守ると静かに誓った。
フレア姫はその言葉に感謝し、スカジへの信頼を伝えると素直に横になった。そして安心したように眠りにつき、スカジはその寝顔を見守りながら警護を続けるのだった。
第五章 好意から生まれる窮地
群竜討伐会議
それから三日後、善治郎はワレンティアに到着したチャビエル・ガジールと対面した。チャビエルはガジール辺境伯家の後継者であり、塩の街道で群竜討伐に携わっていた人物であった。
善治郎が来訪の理由を尋ねると、チャビエルはアウラからの書状を差し出した。書状には、チャビエルを群竜討伐の責任者として推薦し、善治郎の指揮下に置いて任務を果たさせるよう記されていた。
善治郎は表面上平静を保ちながらも、その内容に強い動揺を覚えていた。
善治郎の政治的苦悩
自室に戻った善治郎は、今回の人事が政治的に非常に難しい問題であることに頭を悩ませた。
すでにワレンティアではラファエロを責任者とする討伐体制が構築されており、今さらチャビエルを責任者に据えれば混乱を招く。一方で、女王アウラの推薦を退ければ、それもまた大きな問題となる状況であった。
善治郎は、アウラが情報交換のための報告を指示待ちと受け取った結果、このような人事を行ったのだろうと考えた。また、アウラが善意から行動したことも理解していたため、何とか帳尻を合わせるしかないと決意した。
討伐会議の開始
翌朝、ワレンティア公爵邸で群竜討伐に関する会議が開かれた。
ラファエロは前夜の防衛状況を報告し、六部隊で村々を警戒した結果、群竜の襲撃はなかったと説明した。しかし、群竜を根絶しない限り状況は改善しないため、討伐が必要であるとの認識が共有された。
そこで善治郎は、アウラが送り込んだ援軍としてチャビエルと猟師アントニオを紹介した。二人は塩の街道で群竜と戦った経験と知識を持つ存在として、会議に参加することとなった。
塩の街道とワレンティアの群竜の関連性
ラファエロはチャビエルとアントニオから情報を引き出しながら、塩の街道の群竜とワレンティアを襲う群竜の関連性を検討した。
その結果、塩の街道で負傷した群竜の血痕と一致する痕跡がワレンティアでも確認されていることから、両者は同じ群れである可能性が高いと判断された。
さらに、巨大群竜は塩の街道でも前面には出ず、密林の奥から群れを指揮していたことが判明した。ワレンティアで巨大群竜の姿が確認されていないことにも説明がつき、群れ全体を統率している存在であることが改めて認識された。
群竜の行動と臭いの利用
会議では、群竜が驚異的な速さで密林を移動できる理由についても議論された。
アントニオは、群竜が尿や体臭を利用して道しるべを作っていると説明した。善治郎はその話に着目し、もし臭いを消せれば群竜の行動を妨害できるのではないかと考えた。
アントニオは過去に土砂崩れで臭いの目印が失われ、群竜が迷った事例を挙げた。これを受けて出席者たちは、臭いを消すことができれば群竜の動きを誘導したり、退路を混乱させたりできる可能性について議論を始めた。
群竜の実態の解明
さらに会議では、ワレンティアを襲う群竜の数について新たな事実が共有された。
塩の街道では常に五十匹前後が襲撃していたが、その背後には二百から五百匹規模の本隊が存在すると推測されていた。一方、ワレンティアでは百匹を超える群竜が確認されていた。
この情報からアントニオは、現在の群竜は密林での縄張り争いに敗れ続けた残存勢力ではないかと推測した。群竜は広大な縄張りを必要とするため、密林を移動する過程で強力な竜種との争いを繰り返し、そのたびに数を減らしてきた可能性が高いというのである。
敗残兵としての群竜
アントニオは、ワレンティアを襲う群竜は敗走を重ねた結果、飢えに追い込まれた集団だと説明した。
その推測を裏付けるように、塩の街道では見られなかった雌の群竜がワレンティアで討ち取られていたことも判明した。これは群れ全体が追い詰められ、雌まで動員せざるを得ない状況になっていることを示していた。
ラファエロは、群竜たちは縄張り争いに敗れ続け、飢餓によって人里を襲わざるを得なくなったのだと結論づけた。
討伐作戦の検討
群竜の正体と状況がおおむね判明すると、善治郎は議論を締めくくった。
現在ワレンティアを襲っている群竜は、密林での争いに敗れた残存勢力であり、その数も限られている可能性が高い。ならば問題は、その最後の群れをいかにして逃がさず討ち取るかである。
善治郎の呼びかけを受け、出席者たちは群竜殲滅に向けた具体的な作戦の検討を始めるのだった。
第六章 討伐最終段階
群竜の正体の確定
群竜による三度目の襲撃が発生したが、ワレンティア軍はこれまでの経験を活かして迎撃し、前回以上の群竜を討ち取って撃退に成功した。
この戦闘にはチャビエルと猟師アントニオも立ち会っており、二人は襲撃してきた群竜が塩の街道を荒らしていた群れと同一であることを確認した。アントニオは体色や模様から見覚えのある個体を見分け、チャビエルは背中に竜弓騎兵団の矢が刺さった個体を発見したことで確信を得た。
さらに、群れの半数近くが雌であることも判明し、これまでの推測が正しかったことが裏付けられた。
群竜誘導作戦の開始
群竜の正体が確定すると、ワレンティア軍は最終決戦へ向けた準備に入った。
チャビエルは一部隊を率いて密林へ入り、群竜が目印として利用している木を探させた。アントニオの案内によって目印が発見されると、兵士たちは木の周辺に大量の白い粉を散布した。
その粉の正体は消石灰であり、善治郎が臭いを消すために用意させたものであった。群竜が臭いを頼りに移動していることから、その目印を消し去ることで行動を誘導しようとしていたのである。
偽の目印による罠の構築
消石灰によって本来の目印を消した後は、別の場所に群竜の皮や尿を利用した偽の目印を設置する計画が進められた。
討ち取った群竜から剥いだ皮や膀胱内の尿を利用し、群竜に自分たちの縄張りだと思わせることで、軍が用意した戦場へ誘導する作戦であった。
善治郎の発案によるこの方法が成功すれば、これまでのような撃退ではなく、群竜の殲滅まで持ち込める可能性が高まるため、チャビエルは次の戦いで決着をつける決意を新たにした。
決戦の村の準備
一方、決戦の舞台となる農村では大規模な準備が進められていた。
選ばれた村は密林から十分に離れ、南北に丘を持つ低地に位置していた。村には家畜を残し、兵士たちは丘に伏兵として配置される計画であった。
また、比較的新しい村であったため、高齢者たちがワレンティア市街での生活を知っており、避難後の混乱が少ないことも選定理由となっていた。
ラファエロは全体の指揮を執りながら、防柵や伏兵用の隠れ穴の建設を進め、村人たちをワレンティアへ避難させる作業を進めた。
善治郎の資金負担
作戦に必要な費用は、家畜の買い上げや村の補償金、避難民の生活費に至るまで善治郎の私費から支払われていた。
幸いフレア姫が山羊を無償で譲ったため予算にはまだ余裕があったが、避難生活が長引けば負担が増大する状況であった。
そのため善治郎としても、できるだけ早期に決着をつけたいと考えていた。
ラファエロの善治郎評
準備の合間、ラファエロは善治郎について思いを巡らせた。
家庭教師である義母オクタビアから聞いていた通り、善治郎は知性と理性、決断力を備えた人物であり、何よりアウラへの強い忠誠と愛情を持っていると感じていた。
善治郎が普段積極的に動こうとしないのも、自らが前に出ればアウラの負担になることを理解しているからであり、その姿勢にラファエロは納得していた。
善治郎とダミアンの対立
その頃、ワレンティア公爵邸では善治郎とダミアンが激しく意見を戦わせていた。
善治郎は決戦時に自ら城壁の外へ出ると決めていたが、ダミアンは王配の身を危険に晒すべきではないと必死に反対した。
しかし善治郎は考えを変えなかった。今回の群竜討伐は攻勢任務に分類されるため、責任者が安全な城内に留まれば、実際に前線で指揮を執った人物が最高責任者と見なされてしまうからであった。
苦肉の人事調整
善治郎が城外へ出ることに固執した理由は、人事上の問題を解消するためでもあった。
アウラの推薦を受けたチャビエルを正式な責任者にすれば、女王による地方領主への介入と見なされる。一方で推薦を退ければ、善治郎がアウラの意向を無視した形になってしまう。
そのため善治郎は自らを名目上の総司令官とし、実務はチャビエルに担わせ、ラファエロを参謀として配置する妥協案を作り上げた。
善治郎自身は不本意ながらも最高責任者の立場を引き受け、政治的な問題を最小限に抑えようとしていたのである。
フレア姫の同行決定
さらに善治郎は、自身が城外へ出る以上、フレア姫だけを公爵邸に残すことは危険だと判断していた。
そのため事前にフレア姫へ相談し、護衛とともに同行してもらうことを決定していた。
この説明を受けたダミアンは衝撃を受けたが、善治郎の決意が変わらないことを悟り、最終的には諦めて受け入れるしかなかった。
第四度目の襲撃と待ち伏せ
それから二日後、群竜たちは四度目の襲撃を開始した。襲撃先はチャビエル率いる討伐軍が罠を仕掛けて待ち構える川沿いの村であった。
チャビエルは丘の上の隠れ穴で兵たちに物音を立てないよう命じ、自身も泥と草汁で体臭を消して潜伏した。不快な状況に耐えながらも、これまで順調に進んだ作戦を成功させるため、必ずここで決着をつけると決意を固めていた。
群竜の村への誘導
現れた群竜は九十匹近い大群であった。群竜たちは村の入口に設置された柵を軽々と跳び越え、あるいは体当たりで破壊しながら侵入した。
しかしその柵は群竜を防ぐためではなく、囮として残された肉竜を逃がさないためのものであった。追われた肉竜たちは村中を逃げ回り、建物の間に設置された丸太によって群竜の追撃が妨げられる中、広場へと誘導されていった。
チャビエルは巨大群竜の姿が見えないことを確認し、指揮官と主力部隊の分断に成功したと判断した。
弓兵による一斉攻撃
広場に十分な数の群竜が集まった瞬間、チャビエルは攻撃開始を決断した。
丘の両側に潜んでいた六百人の弓兵が一斉に立ち上がり、数百本の矢を群竜へ降り注がせた。高所から放たれた長弓の矢は強大な威力を発揮し、多くの群竜が何が起きたか理解する間もなく倒された。
囮となった肉竜も巻き添えになったが、作戦上は避けられない犠牲であった。
丘での迎撃戦
生き残った群竜の一部は逃走ではなく反撃を選び、丘を駆け上がって弓兵へ襲いかかった。
しかしチャビエルは即座に弓兵を後退させ、代わりに長槍兵を前面へ配置した。急斜面を利用した槍陣によって群竜の突進は阻止され、体勢を崩した群竜は弓兵の追撃によって次々と討ち取られた。
反撃に出た群竜たちは何一つ成果を挙げられずに命を落とした。
チャビエルの成長
戦況を見つめるチャビエルは、かつてプジョル将軍が語った人の強みは技と武装と連携であるという言葉を実感していた。
塩の街道では苦戦した群竜も、地形を利用し、敵を誘導し、兵たちの力を統一して運用すれば圧倒できる。人間の戦い方の強さを目の当たりにしたのである。
戦闘終盤、自ら武器を取って戦いたい衝動に駆られたが、手に握る指揮鞭を見て思い直した。自分の役割は敵を倒すことではなく、部下を指揮し、損害を抑えながら勝利へ導くことだと再認識した。
その後も的確な指示を出し続け、罠を突破できた群竜はわずか数匹にとどまった。
巨大群竜の決断
一方その頃、巨大群竜は密林の奥に留まり続けていた。
部下たちの断末魔を聞いた巨大群竜は異変を察知したが、部下を見捨てることもできず、自ら前進を開始した。巨大群竜は知能と慎重さを備えていたが、その巨体を維持するためには部下たちが運ぶ獲物が必要であり、群れなしでは生きられない存在となっていたのである。
草原へ出た巨大群竜の前に、一人の戦士が立ちはだかった。
スカジと巨大群竜の一騎打ち
巨大群竜の前に現れたのはヴィクトリア・クロンクヴィストことスカジであった。
巨大群竜は人間の集団を恐れていたが、単独の人間を脅威とは見なさなかった。しかしスカジもまた恐れを抱いていなかった。
スカジは短槍を構え、巨大群竜の突進を迎え撃った。巨大群竜の爪撃を巧みに受け流しながら反撃を加え、そのたびに外皮を切り裂いて傷を増やしていった。
巨大群竜は攻撃を強めたが、スカジは冷静に対処し、すれ違いざまに尾の先端を切り落とした。その結果、巨大群竜は身体のバランスを崩し、さらに不利な状況へ追い込まれた。
巨大群竜の敗北
戦いが長引くにつれ、巨大群竜は出血と疲労によって追い詰められていった。
やがて自分より強い相手だと認識した巨大群竜は逃走を選択した。しかしスカジは慌てることなく魔法を発動し、穂先に炎を宿した短槍を投擲した。
回転と蹴りによって加速された槍は巨大群竜の頭部を正確に貫いた。頭蓋の内部で炎が脳を焼き尽くし、巨大群竜は密林目前で力尽きて倒れた。
勝利と帰還
巨大群竜の死を確認したスカジは、頭蓋に突き刺さった短槍を引き抜いた。
そこへ密林に潜伏していた黄金の木の葉号の戦士たちが姿を現した。彼らは万一に備えて退路を断つ役目を担っていたが、結果的に出番はなかった。
スカジは巨大群竜の完全な死を確認すると、部下たちに点呼を命じた。そして全員の無事を確認した後、吉報を待つ姫のもとへ帰還するため、その場を後にしたのであった。
群竜討伐の勝報
チャビエルが群竜の本隊を撃滅し、スカジが巨大群竜を討ち取っていた頃、善治郎率いる別働隊は戦場から離れた場所で待機していた。善治郎は自分の出撃が政治的理由によるものであり、実際には戦場から隔離されている立場であることを理解していた。
善治郎は隣にいたフレア姫を気遣ったが、フレア姫は落ち着いた様子で応じた。襲撃を待つ立場は初めてであるにもかかわらず、むしろ楽しみにしていたと語り、善治郎を驚かせた。その後も二人は北大陸と南大陸の竜種事情について会話を交わした。
作戦成功の報告
そこへラファエロが現れ、チャビエル隊が群竜の本隊をほぼ壊滅させ、死傷者も出していないこと、さらにスカジの部隊が巨大群竜を討ち取ったことを報告した。
善治郎は勝利を喜び、フレア姫へ感謝を述べた。フレア姫はスカジが単独で巨大群竜を倒したことを知っていたが、その場ではあえて訂正せず、善治郎の言葉を受け流した。
ラファエロは撃ち漏らした群竜が数匹いる可能性を説明し、すぐにワレンティアへの帰還を提案した。善治郎は了承したものの、わずかな可能性であっても群竜が現れるかもしれないという話に緊張を覚えていた。
帰路での小休止
善治郎、フレア姫、侍女イネスは竜車で帰還していた。舗装されていない道の揺れは激しく、善治郎は無言のまま移動を続けていた。
やがて竜車は小休止のため停止した。兵士たちやイネスもそれぞれ席を外したが、その後外が騒がしくなり始めたため、善治郎は様子を確認するため竜車を降りた。
群竜の死体の発見
兵士から事情を聞いた善治郎は、イネスが群竜の死体を発見したことを知った。当初は群竜そのものを発見したと誤解して動揺したが、すでに死んでいる個体だと聞き安堵した。
現場へ向かった善治郎は、無事だったイネスを確認した後、三匹の群竜の死体を目にした。死体はいずれも首元を深く切り裂かれており、チャビエルたちとの戦闘で致命傷を負いながらもここまで逃げ延びてきたものと考えられていた。
善治郎の自覚
初めて間近で群竜の死体を見た善治郎は、その巨大な爪や牙、圧倒的な存在感に衝撃を受けた。そして、自分がこれほど危険な生物が百匹近く暴れ回る状況の中で、危険は少ないと考えて城壁の外へ出ていた事実をようやく実感した。
善治郎は自らの認識の甘さを痛感し、自分を止めようとしていたダミアンの忠告が正しかったことを理解した。そして今後は二度とこのような無謀な行動を取らず、多少の政治的問題が生じても城壁の外には出ないと固く誓った。
善治郎にとって、その決意こそが今回の群竜討伐で得た最も大きな成果であった。
エピローグ
女王アウラの突然の来訪
群竜討伐から七日後、ワレンティア公爵邸には女王アウラが訪れていた。善治郎が送った討伐の詳細報告を受けたアウラは、瞬間移動の魔法を使い切ってでも自ら迎えに来ることを決意したのである。
アウラはラファエロやイネスの案内を受けて善治郎の私室へ向かい、善治郎を半ば強引に王都へ連れ帰った。荷物の大半は後日運ばせることとなり、善治郎は心の準備も整わないまま瞬間移動で王都へ帰還した。
夫婦の再会と事情説明
王都へ戻った善治郎は、夜になってようやくアウラと落ち着いて話す時間を得た。善治郎はワレンティアで起きた出来事を最初から順を追って説明し、フレア姫の来訪から群竜討伐、人事問題、自身の出撃に至る経緯まで詳しく語った。
話を聞いたアウラは、善治郎がラファエロを責任者に任命した後でチャビエルを送り込んだ自分の判断が問題の発端だったと理解した。善治郎が取った人事措置は完全ではなかったものの、最も被害の少ない解決策だったと認め、その判断を高く評価した。
善治郎の危険行動への懸念
しかしアウラは、善治郎の判断を認めながらも、その身を危険にさらしたことについては強く懸念を示した。政治的な失敗や地方の混乱は後から立て直せるが、善治郎を失うことだけは取り返しがつかないと語った。
善治郎も群竜の死体を目の当たりにして自分の無謀さを痛感していたため、二度と同じことはしないと約束した。アウラもその言葉を受け入れ、二人はようやくこの問題に区切りをつけた。
交易とフレア姫への評価
話題はフレア姫との交渉へ移った。善治郎は無事に交易条件を整えたことを報告し、アウラは北大陸との直接交易や大型帆船建造の可能性に大きな期待を寄せた。
一方で善治郎は、フレア姫は単なる友好的な姫君ではなく油断ならない人物だと感じており、その警戒をアウラに伝えた。アウラもその忠告を受け止め、慎重に対応することを約束した。
山羊と土産の話
善治郎はフレア姫からカルロス王子の出産祝いとして山羊を贈られたことを話した。アウラは喜んで飼育体制を整えると約束し、家畜の世話を学ぶための人員派遣まで提案した。
さらに善治郎は、ワレンティアで作った珪砂や消石灰も持ち帰ったことを伝えた。アウラはそれを善治郎からの土産だと喜び、ガラス製造への活用を楽しみにした。
忘れていた約束の発覚
しかし土産という言葉を聞いた善治郎は、突然重大な約束を思い出した。出発前にフランチェスコ王子とボナ王女へ真珠と珊瑚を土産に持ち帰ると約束していたにもかかわらず、ワレンティアでの騒動に追われて完全に忘れていたのである。
善治郎は青ざめて再びワレンティアへ行こうと慌てたが、アウラは王都でも真珠や珊瑚は手に入ると説得した。それでも善治郎は、現地で自ら選んだ土産でなければ意味がないと嘆き続けた。
アウラが小飛竜でイネスたちに頼めばよいと諭しても、善治郎はフランチェスコ王子とボナ王女への申し訳なさに頭を抱え続けるのだった。
付録 主と侍女の間接交流
後宮侍女達の期待と侍女長の決意
善治郎がワレンティア公爵領へ向かったことで、後宮には主不在の期間が生まれた。若い侍女達は休暇が与えられるのではないかと期待していたが、侍女長アマンダはこれを規律を引き締める絶好の機会と捉えていた。
翌日、後宮の侍女達が集められた場で、アマンダは善治郎が後宮に安らぎとくつろぎを求めているため、これまで厳しすぎる指導を控えていたと説明した。その結果、侍女達の意識や技術が少しずつ低下していると指摘し、善治郎の帰還までを特別指導期間とすると宣言した。
善治郎に合わせた後宮の変化
アマンダは、善治郎が完全無欠な奉仕よりも穏やかで自然な空気を望んでいることを見抜き、若い侍女達が過度に緊張しないよう少しずつ環境を整えていた。
そのため侍女達は以前より伸び伸びと働くようになっていたが、それと引き換えに侍女としての緊張感も薄れていた。アマンダは彼女達を最高の後宮侍女へ育てる責任があると考え、その改善に乗り出したのである。
問題児三人組への特別指導
特別指導の対象となったフェー、ドロレス、レテの三人は、清掃担当へ配属された。清掃部門の責任者であるイネスが善治郎と共に出張しているため、アマンダ自身が直接指導を行うことになった。
三人は重い気持ちでリビングルームへ向かったが、そこで命じられたのは広大な絨毯の雑巾がけだった。普段は時間の都合で行われない大規模な清掃作業に、三人は苦戦しながらも従事した。
侍女としての自覚の再確認
長時間の清掃で疲労困憊した三人に対し、アマンダは後宮に配属された当初はもっと容易に同じ仕事をこなしていたと指摘した。そして身体だけでなく意識も鈍っていると諭した。
さらに彼女達はいずれ実家へ戻り結婚すること、その際には元後宮侍女という看板を背負うことになると説明した。後宮で身につけた技術や品格は将来にも関わるため、今のままで満足してはならないと教えたのである。
三人はその言葉を受け、自分達が怠けていたことを認め、改めて真剣に仕事へ向き合う決意を固めた。
部屋で語られる将来への不安
一日の厳しい指導を終えた夜、フェー、ドロレス、レテは部屋で互いに疲れを癒やしながら語り合った。三人はアマンダの厳しさを話題にしつつも、自分達が実際になまっていたことを認めていた。
やがて話題は将来の結婚へ移った。三人とも貴族の娘であり、いずれは家の都合に従って結婚する運命にあった。しかし後宮での生活が長くなるにつれ、この生活がいつまでも続くような感覚を抱いていたため、現実との隔たりに複雑な思いを抱いていた。
善治郎とアウラへの信頼
会話の中で三人は、善治郎が侍女達を女性として意識することはあっても、誰一人として手を出していないことを話題にした。そのため、善治郎の側室になるような人物は現状では存在しないだろうという認識で一致した。
また、善治郎とアウラの夫婦仲が非常に良好であることにも触れた。アウラの懐妊中も善治郎が同じ部屋で眠ることを望んだという話を聞き、三人は二人の強い絆を実感していた。
側室の話題と理想の女性像
さらに話題は将来迎えられるかもしれない側室へ移った。しかし三人は、善治郎が侍女に八つ当たりするような側室を許すはずがないと考えていた。
善治郎がアウラを深く愛しながらも、その状況を受け入れて側室としての役割を果たせる女性とはどのような人物なのかと想像を巡らせた。そんな健気な女性がいるなら、善治郎の心も動くのではないかと語り合いながら、三人の取り留めのない恋愛談義は夜遅くまで続くのだった。
後宮侍女たちの特別指導二日目
翌日もフェー、レテ、ドロレスの三人はリビングルームの掃除に励んでいた。作業中、ドロレスはアマンダ侍女長が時折部屋の隅に置かれたデジタル時計へ視線を向けていることに気付く。そして前日より一分以上遅れていると指摘され、三人はアマンダが時計を読めるようになり、仕事の進行を分単位で管理していることを悟った。
その後の清掃はさらに厳しくなり、作業速度が落ちれば叱責され、急ぎすぎて雑になればやり直しを命じられた。三人は分刻みで管理される特別指導に苦しめられた。
昼休みの豪華な食事
昼休みになると、三人は厨房で調理責任者ヴァネッサから豪華な料理を振る舞われた。薄焼きパンや野菜スープ、肉竜のフライなど、本来なら王族の食卓に並ぶような料理であった。
ヴァネッサは、アウラが不在のため王宮料理の練習を行っていると説明した。練習で作った料理を無駄にせず、侍女たちに味見役を任せていたのである。
王宮料理の評価
料理を口にしたドロレスとレテは、普段後宮で出される善治郎向けの味付けではなく、一般的な王宮料理であることに気付いた。善治郎の好みに合わせた後宮料理とは異なり、伝統的な味付けが再現されていたのである。
さらに二人は料理の出来を分析し、野菜の切り方にばらつきがあることや、パンがやや硬いこと、フライの揚げ具合に差があることなどを指摘した。ヴァネッサはその評価を受け入れ、料理を作った侍女たちへ改良点として伝えた。
料理担当侍女たちの苦悩
その料理を作ったのは、キーシャ、コンチタ、サブリーナら同僚の侍女たちであった。彼女たちもまた特別指導期間の対象であり、ヴァネッサから厳しい指導を受けていた。
ドロレスとレテの率直な評価を聞いた三人は落胆しながらも、午後からさらなる特訓を受けることになった。鍋振りやみじん切り、オーブン操作などを徹底的に鍛えられると聞かされ、悲壮な表情を浮かべていた。
全員に及ぶ特別指導の実態
同僚たちを見送るフェーたちは、自分たちだけが厳しい思いをしているわけではないことを知った。しかしヴァネッサは、特別指導期間中は全員が各部門を順番に回り、一通りの指導を受けることになっていると説明した。
三日後にはフェーたちも厨房へ回される予定だと知らされる。レテだけは素直に喜んだが、ドロレスは先ほど料理を厳しく評価したことを思い出して青ざめた。
同僚たちとの報復宣言
ドロレスは慌てて評価を撤回しようとしたが、コンチタたちはすでに覚悟を決めていた。自分たちが受けた評価を忘れず、三日後には今度はドロレスたちの料理を評価すると宣言した。
フェーは自分まで巻き添えになることに抗議し、ドロレスは必死に弁解したが、同僚たちの決意は揺るがなかった。こうして特別指導期間は、侍女たち全員を巻き込みながら続いていくのであった。
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