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フィクション(Novel)理想のヒモ生活読書感想

小説「理想のヒモ生活 3巻」塩問題勃発!【感想文・ネタバレ】

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小説理想のヒモ生活3巻の表紙画像(レビュー記事導入用) フィクション(Novel)

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どんな本?

理想のヒモ生活」とは、渡辺恒彦 氏によるライトノベル。

日本でブラック労働をしていた善治郎は久しぶりの休みの日に異世界に召喚された。
その召喚主は善治郎の好みドストライクの美女だった。
そんな彼女は大国の女王で、善治郎に婿に来て欲しいと言う。
善治郎は躊躇なく「はい」と返事をして地球で婿に行く準備をしていざ異世界へ、、

後宮に引き篭もるヒモ生活を享受出来ると思っだが、、
女王が妊娠したら悪阻が酷く、彼女の代理として政治の表舞台へと行くと、世間が彼を後宮に引きこもる事を許してくれなくなった。

さらに彼の持ち物のビー玉が隣国双王国の付与魔術の媒体として最高品であると判ると、、
さらに善治郎の血統も、、

そんなタイトル詐欺と言いたくなるほど大忙しな善治郎のヒモ生活。

読んだラノベのタイトル

理想のヒモ生活 3
著者:渡辺恒彦 氏 イラスト: 文倉 十 氏

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あらすじ・内容

「理想のヒモ」と言いながらヒモらしくない暮らしを送る主人公が大人気のシリーズ第3弾

山井善治郎が女王アウラに婿入りしてから、早一年。王子誕生にカープァ王国が沸き立つ一方、ガジール辺境伯領に今年の塩が届かないという不吉な知らせが届く。事態解明に乗り出す女王アウラとは別に、後宮で暇をもてあました善治郎は、石鹸や蒸留酒の製造など、様々な物づくりに励みはじめる。しかし、善治郎も巻き込む大事件が起こる!今回も書籍でしか読めない新章、エピソードをしっかり収録し、ますますパワーアップ。

理想のヒモ生活3

感想

気楽なヒモとは程遠い、王国の権力の中枢に居る善治郎。
子供も無事に産まれて、少しずつ王家の仕事をするようになって来た。
更に、魔法も少しづつ使えるようになり、次の子供が産まれる時には瞬間移動で治癒魔法を使える王家に一瞬で飛んで行けるようにするため努力もしてる。
そんな彼が地球から持ってきたビー玉が、工作を得意とする王家の訪問を自国に招き入れる事になってしまう。
どうやらその王家にはビー玉が垂涎の品に見えるらしい。
そんな外交的に頭の痛い状態なのに、更に塩を輸送する商隊が肉食竜に襲われて全滅する事件が起こる。

それに対応するのが辺境伯の三男坊。
三男坊でも上の2人は前の大戦で戦死しており実質的には長男で後継でもある彼は、辺境伯の後継としての箔付けに肉食竜の討伐の任務を私兵を率いて請け負うのだが、、、

普通の肉食竜の群れじゃ無かった。
強大な肉食竜が率いる大規模な群れで、普通は10〜20頭なのが100頭近くの群れと対峙する事となり撤退を決断する。
初陣の彼からしたら大殊勲な対応で、国軍の出番になるのだが、、

それを率いるのが餓狼将軍となると、王家からすると面白くないが、、
辺境伯の実状を考えると、権力の鍔迫り合いをしてる場合ではない。

そんな状態でこの巻は終わる。

外伝の問題児3人組の侍女の話が唯一の癒しかもしれない。

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考察・解説

第一王子の誕生

カープァ王国の女王アウラと、異世界から召喚された王配・山井善治郎の間に誕生した第一王子は、王国にとって待望の世継ぎであり、夫婦の絆をさらに深める存在となった。第一王子の誕生とその後の様子について、以下の4つのポイントから解説する。

誕生から一ヶ月後の盛大な祝祭

  • 医療技術が未発達な異世界では、王族であっても子供が無事に育つ保証がないため、誕生から一ヶ月後に生誕祭を行う慣習がある。
  • 王子誕生を祝う夜には王都で篝火が焚かれ、王室の費用負担による大盤振る舞いが行われた。
  • 庶民たちは無料の酒や食事を楽しみながら、戦後の復興期に続く吉事として王子の誕生を大いに祝った。
  • この祝祭は酔客の消費を促し、王都の経済を一時的に活性化させる副次的な効果ももたらしている。

二つの名前「カルロス」と「善吉」

  • 第一王子の正式な名前は「カルロス・善吉・カープァ」である。
  • 「カルロス」はカープァ王国で歴代の王や王族に多く見られる伝統的な名前である。
  • 「善吉」は善治郎が我が子に贈った日本風の名前である。
  • 善治郎自身の名前から一文字を取り入れつつも、表意文字の概念を持たない異世界の人々にも分かりやすく、発音しやすいようにと考えられて名付けられた。

現代知識を活用した画期的な育児

  • 王子の育児には、善治郎が地球から持ち込んだ現代の道具が大きく役立っている。
  • 母乳冷凍用タッパーや哺乳瓶を活用することで、昼間に搾ったアウラの母乳を保存し、夜間に乳母の代わりに侍女が哺乳瓶で与えることが可能になった。
  • これにより、乳母が夜泣きのたびに必ず起きなければならないという睡眠不足の負担が劇的に軽減されている。
  • 酷暑期には王子の部屋を木製の衝立で狭くし、氷塊を団扇であおいで冷気を循環させるといった暑さ対策も行われている。

父親としての葛藤と「言語の壁」

  • 我が子を溺愛する善治郎であるが、父親としては制限も受けている。
  • 自動翻訳の言霊が存在するこの世界では、まっさらな赤子が異なる言語に触れると、言葉が混ざり合って言語習得に混乱をきたす恐れがある。
  • そのため、現地の言葉を十分に話せない善治郎は、我が子への語りかけを厳しく制限されており、発音のお墨付きを得たごくわずかな言葉しかかけられない。
  • さらに、男子禁制の掟により、王子が5歳になれば後宮を出て王宮へ移ることが決まっている。
  • 善治郎は寂しさを感じつつも、将来的に王宮に自分の私室を設けることを考えるなど、親としての現実と向き合っている。

まとめ
待望の第一王子「カルロス・善吉・カープァ」の誕生は、カープァ王国全体に大きな喜びをもたらし、王都の経済や庶民の士気を高めるきっかけとなった。育児の現場では善治郎が持ち込んだ現代地球の知識や道具が役立ち、これまでの因習に囚われない効率的な変革をもたらしている。善治郎は異世界特有の言語の壁や制度に悩みながらも、父親としての責任と覚悟を新たにし、家族の未来を見据えて歩み進めている。

酷暑と王都の生活

カープァ王国の王都は、一年でもっとも暑い時期には昼間の最高気温が40度を超え、夜でも35度を下回らない過酷な気候となる。命に関わるほどの酷暑を乗り切るため、王都の人々は生活の様々な面で知恵と工夫を凝らしている。酷暑における王都の生活事情について、以下の4つのポイントから解説する。

活動時間の工夫と直射日光対策

  • 昼間の最も気温が上がる時間帯は、熱射病を避けるために屋内で昼寝をして体力の消耗を防ぐのが一般的な習慣である。
  • 人々は朝や夕方の比較的涼しい時間帯に集中して活発に動くため、王宮の政務も昼に長時間の休息が設けられる分、朝の会議(朝議)は通常より早く始まる。
  • どうしても日中に外出する場合は、直射日光を遮るために厚手の綿織物で作られたフード付きの外套を羽織る。
  • 気温が体温よりも高いため、通気性の良い麻のような服では熱風を直接浴びてかえって暑くなってしまうという理由からである。

庶民の食生活と酒場での涼の取り方

  • 庶民の食事では、塩やスパイス、黒砂糖で強く味付けされた熱いスープを食べて汗をかき、その分の水分をしっかり補給するというのが一般的な酷暑の乗り越え方である。
  • 夜の酒場などでは、水槽の水を床にまいて気化熱で室温を下げたり、柄杓を使って直接客の頭上に水を降らせて水浴びを楽しんだりして涼を取るという、南国らしく豪快な光景も見られる。

入浴文化の違い

  • 多湿で気温が異常に高いこの地域では、体を清潔に保つために熱いお湯に浸かるのではなく、水浴びで済ませる文化が根付いている。
  • そのため、善治郎が後宮の侍女たちに毎日の「お湯での入浴(湯浴み)」を推奨した際は、この暑い最中に熱いお湯に入ることを嫌がる者もおり、文化の違いから最初は多少の反発もあった。

王族ならではの特別な暑さ対策

  • 王族が暮らす王宮や後宮ではさらに特別な対策が取られており、善治郎は地球から持ち込んだマイクロ水力発電機を利用し、扇風機や冷蔵庫で作った氷を活用するだけでなく、大がかりな工事を経てエアコンの設置にも成功し、劇的な生活改善を行っている。
  • 生まれたばかりの王子の部屋では、木製の衝立で空間を狭くし、氷塊を侍女が団扇であおいで冷気を循環させるという贅沢な工夫がなされている。
  • 善治郎とアウラが日中に運動をする際も、熱中症を防ぐために噴水の風下で常に水しぶきを浴び続けるなど、特別な環境を利用している。

まとめ
このように、カープァ王国の王都における酷暑対策は、伝統的な知恵と現代技術の導入が融合した形をとっている。庶民が活動時間の調整や水浴び、独自の食生活で過酷な気候に対応する一方で、王宮内では善治郎が持ち込んだ電化製品やエアコンが大きな役割を果たしている。環境に応じた多様な工夫を凝らすことで、王都の人々は過酷な夏を無事に乗り切る工夫を続けている。

塩の街道の異変

塩の街道は、数代前の王が生活必需品である塩を国内全領地へ円滑に運ぶために築いた国道である。この重要な物流の動脈で起きた異変は、単なる魔物被害にとどまらず、カープァ王国の貴族間の思惑や女王の老獪な政治的駆け引きが交錯する重要な事件となった。塩の街道の異変に関する全容について、以下の4つのポイントから解説する。

異変の発端とガジール辺境伯の思惑

  • 塩を全面的に輸入に頼る南端のガジール辺境伯領に、予定日を過ぎても塩が届かないという事態が発生した。
  • 領内の備蓄は3ヶ月分しかなく、辺境伯は肉食竜の出没が原因であると推測し、領主代理である息子のチャビエルに軍を率いさせて原因排除に向かわせたいと朝議で訴えた。
  • 国道の安全確保は国軍の領分であるとしてプジョル将軍は反対したが、女王アウラは辺境伯の真の思惑を正確に見抜いていた。
  • 先の大戦で二人の有能な息子を亡くした辺境伯は、唯一生き残った三男のチャビエルに後継者に相応しい実績(手柄)を立てさせるため、この比較的危険が少ないと踏んだ討伐任務を任せたかったのである。

女王アウラの老獪な牽制と事前策

  • アウラは辺境伯の要請を許可したが、同時に巧妙な条件を突きつけた。万が一原因が通常の肉食竜でなかった場合は必ず報告すること、そして討伐の褒賞は王都でチャビエルに直接手渡すことを義務付けた。
  • これには、若い辺境貴族を王都に数ヶ月滞在させ、王家への帰属意識を高めさせるという政治的な狙いがあった。
  • さらにアウラは、新米指揮官のチャビエルが失敗した場合に備え、プジョル将軍に郊外長期演習の名目で国軍の精鋭一千を密かに待機・行軍させるという周到な防衛線を張っていた。

凄惨な現場と異常な群竜の脅威

  • チャビエル率いる約百名の辺境伯軍が現地に到着すると、そこには塩商人や護衛たちが一方的に全滅させられた凄惨な現場があった。
  • 熟練の狩人たちの分析により、敵はただの肉食竜ではなく、通常より遥かに巨大な大ボスに統率された、50匹を超える群竜の大群であることが判明する。
  • 群竜たちは逃走を防ぐため意図的に荷竜車の車輪を破壊しており、さらには上空の飛竜に兵士が気を取られた隙を突いて完璧な奇ッシュを仕掛けるなど、獣の本能を超えた狡猾さと高度な統率力を見せつけた。

チャビエルの決断と事態の主動権の移行

  • 群竜との戦闘は膠着状態に入ったが、敵の大ボスが撤退の咆哮を上げたことで一時休戦となった。
  • チャビエルは、森の中でこれほど統率された大群を相手にすれば自軍の被害が許容範囲を確実に超えると判断した。
  • 彼は初陣の功名よりも兵士たちの命を優先し、自らの討伐失敗を認めて王都へ援軍を要請する苦渋の決断を下した。
  • この報告を受けたアウラは、チャビエルの理性的で的確な判断を評価して失敗を咎めなかった。
  • しかしこの結果として、塩の街道における群竜討伐の主動権はガジール辺境伯家から、密かに待機していた野心家であるプジョル将軍へと完全に移行することとなった。

まとめ
塩の街道で発生した群竜の出現は、カープァ王国の物流を脅かすだけでなく、中央と地方貴族のパワーバランスを揺るがす政治的な事件へと発展した。ガジール辺境伯の後継者問題に絡む思惑や、それを見越して国軍を待機させていた女王アウラの高度な事前策は、本作における政治劇の深みを示している。チャビエルの賢明な撤退判断により最悪の全滅は免れたものの、結果として討伐の主導権は軍部の有力者であるプジョル将軍へと移り、国内の権力構造に新たな動きをもたらす契機となった。

塩の街道の政変

「塩の街道」で発生した事態は、単なる物流の遮断や魔物被害にとどまらず、カープァ王国の貴族間の思惑と女王アウラの老獪な政治的駆け引きが交錯する重要な事件となった。この出来事の政治的な背景と結末について、4つの重要視点から解説する。

異変の発端とガジール辺境伯の思惑

塩を全面的に輸入に頼る南端のガジール辺境伯領に、塩が届かなくなる事態が発生した。領内の備蓄は3ヶ月分しかなく、辺境伯は肉食竜の出没が原因であると推測し、領主代理である息子のチャビエルに軍を率いさせて原因排除に向かわせたいと朝議で訴える。

国道の安全確保は本来国軍の領分であるが、ガジール辺境伯には独自の意図があった。

  • 先の大戦で有能な二人の息子を亡くしたという背景
  • 唯一生き残った三男チャビエルに後継者に相応しい実績を立てさせる必要性
  • 比較的危険が少ないと踏んだ討伐任務を任せることで、手柄を立てさせたいという思惑

女王アウラの老獪な牽制と事前策

女王アウラは辺境伯の要請を許可しつつも、巧妙な条件を突きつけた。万が一原因が通常の肉食竜でなかった場合は必ず報告すること、そして討伐の褒賞は王都でチャビエルに直接手渡すことを義務付けた。これには、若い辺境貴族を王都に数ヶ月滞在させ、王家への帰属意識を高めさせるという政治的な狙いがあった。

さらにアウラは、不測の事態に備えて周到な防衛線を張っていた。

  • 新米指揮官のチャビエルが失敗した場合の想定
  • 野心家であるプジョル将軍への指示
  • 郊外長期演習の名目で、国軍の精鋭一千を密かに待機および行軍させる措置

予想外の脅威とチャビエルの決断

チャビエル率いる約百名の辺境伯軍が現地に到着すると、そこには塩商人や護衛たちが一方的に全滅させられた凄惨な現場があった。敵はただの肉食竜ではなく、通常より遥かに巨大な大ボスに統率された50匹を超える群竜の大群であった。

群竜は非常に狡猾な戦術を用いていた。

  • 逃走を防ぐために荷竜車の車輪を破壊
  • 空の飛竜に気を取られた隙を突いた奇襲

戦闘は一時膠着状態に入ったが、敵が撤退の咆哮を上げた際、チャビエルは森の中でこれほどの大群を相手にすれば自軍の被害が許容範囲を確実に超えると判断した。彼は初陣の功名よりも兵士たちの命を優先し、自らの討伐失敗を認めて王都へ援軍を要請する苦渋の決断を下した。

討伐の主導権の移行と政治的結末

チャビエルの報告を受けたアウラは、新米でありながら理性的で的確な判断を下した彼を評価し、失敗を咎めなかった。しかしこの結果として、塩の街道における群竜討伐の主導権はガジール辺境伯家から、密かに待機していたプジョル将軍へと完全に移行することになった。

ガジール辺境伯の後継者問題に絡む思惑から始まったこの一件は、アウラの高度な事前策とチャビエルの賢明な撤退によって最悪の全滅は免れた。しかし結果としては、国内の権力構造において軍部の有力者であるプジョル将軍の存在感をより一層高める契機となった。

双王国との外交交渉

カープァ王国と南大陸中央部の大国であるシャロワ・ジルベール双王国の外交交渉は、善治郎が持つ「王家の血統」と「現代知識の産物」を巡り、水面下の激しい駆け引きとして展開されている。双王国との外交交渉とそれにまつわる思惑について、4つの重要視点から解説する。

イザベッラ王女の来訪と血統問題の確信

双王国のイザベッラ王女は、コブラゴ王国の前王の治療を行った帰りにカープァ王国を訪問した。表向きは見舞いや魔道具化の相談であったが、真の狙いは異世界から来た女王の伴侶である善治郎を直接観察することであった。

不運にも風土病「森の祝福」で病床にあった善治郎は、見舞いに訪れた王女に対し、自分が150年前に異世界へ愛の逃避行を果たした王族の子孫であるとうっかり口走ってしまう。これにより、善治郎が双王国の秘術「付与魔法」の血を引いているという疑惑が確信へと変わり、双王国は魔法の流出危機から警戒を一層強めることになった。

「ビー玉」の法外な価値と魔道具作製の秘密

アウラはイザベッラ王女との会談で、善治郎の私物である「ビー玉」の価値を査定させた。ガラス技術が存在しないこの世界において、王女はたかがガラス玉一つに「金貨50枚」という下級貴族の家一軒分に相当する異常な高値を提示した。

エスピリディオンの推測によると、その背景には以下の要因があるとされている。

  • かつて双王国で作られた伝説的な魔道具「雷壁の杖」の存在
  • 作製時間を大幅に短縮する「裏技」として、透明な水晶球のような物質が用いられたという噂
  • 双王国がビー玉にその物質と同様の価値を見出した可能性

双王国は血統問題だけでなく、この未知の物質にも強烈な関心を寄せるようになった。

密約の締結と善治郎の抜け穴指摘

「付与魔法」の流出を防ぎたい双王国と、大戦を避けたいカープァ王国の間で、双王国の外交官モレノ・ミリテッロを通じて秘密条約(密約)が結ばれた。内容は以下の通りである。

  • 善治郎はアウラ以外と子を作らない
  • 双王国はアウラの直系には干渉しない
  • 万が一側室との間に付与魔法を持つ子が生まれれば双王国へ留学させる

しかし善治郎は、将来的に直系と傍系が婚姻した場合などに「直系不干渉」と「側室の子への干渉」の条項が矛盾すると指摘した。アウラは即座にモレノと事前交渉を行い、「条文が矛盾した場合は直系不干渉を優先する」という追加条項を盛り込ませることに成功し、将来カープァ王国を襲うかもしれない禍根を未然に防いだ。

非公式会談の活用とシャロワ王家来訪の予告

アウラは隣国ナバラ王国のザマード伯爵に対し、国境付近の軍事行動について釈明する非公式の昼食会を開いた。この際、あえて双王国のモレノを同席させることで、大国である双王国を証人とし、カープァ王国が約束を反故にできないという公的な信頼性を持たせる老獪な外交手腕を見せた。

その後、モレノから、双王国で「付与魔法」を担うシャロワ王家のフランチェスコ王子とボナ王女が、ビー玉などに強い興味を示し、カープァ王国訪問を希望していることが伝えられた。通常は国外へ出ないシャロワ王族の来訪は、双王国が善治郎の血筋やガラス技術を諦めておらず、さらなる外交的接触を図ってくることを意味している。

このように、善治郎という存在を発端としたカープァ王国と双王国の外交戦は、互いの技術や血統の利害が複雑に絡み合うことで、さらなる新たな局面を迎えることになっている。

善治郎の技術開発

山井善治郎が異世界カープァ王国で行っている技術開発や現代知識の導入は、彼自身の試行錯誤と現地の職人たちの技術、そして女王アウラの政治的判断が組み合わさって進められている。『理想のヒモ生活3』における善治郎の技術開発の主な取り組みを、5つの重要視点から解説する。

「時間遡行」を前提としたエアコンの設置

善治郎は後宮の中庭にマイクロ水力発電機を設置し、冷蔵庫や扇風機などを稼働させて生活環境を改善していたが、最も大がかりな「エアコン」の設置は、失敗して壊してしまうことを恐れて手つかずであった。しかし、アウラからカープァ王家の秘匿魔法である「時間遡行」を見せられ、万が一失敗しても時間を巻き戻してやり直しがきくことを知った善治郎は、ついに自力での取り付け工事に挑む。

設置にあたっては、以下のようなプロセスと課題が生じている。

  • 大理石の壁の穴開けは石工の魔法に依存
  • 酷暑の中で自ら配管や室外機の設置を行い、見事に稼働させることに成功
  • 異世界の部屋は広すぎるうえに気密性が低いため、昼間の冷却性能には課題が残留

ガラス製造と電磁石による鉄分除去のアイデア

善治郎が持ち込んだ「ビー玉」をきっかけに、アウラの主導でガラス製造の研究が始まった。引退した老鍛冶師たちは、善治郎が提供したテレビ番組の知識を参考に、白砂、焼いた貝殻の粉末、天然重曹を高温で加熱し、緑がかった黒いガラス状の物質の生成に成功する。

今後の量産と品質向上に向けては、以下の対策が進められている。

  • ガラスを溶かす高温に耐えるための「耐火煉瓦」の開発
  • ガラスの透明度を上げる(砂から鉄分を除去する)ための「電磁石」の作製
  • 充電式電池と銅線(あるいは銀細工師に作らせる銀線)を用いた理科の知識による実験準備

「互いに素」の法則による水車の改良

カープァ王国の水車は木製の歯車がすぐに摩耗して自壊しやすいという欠点があった。善治郎はこれに対し、噛み合う歯車同士の歯数を「互いに素(1以外の共通の約数を持たない数)」にすることで、摩耗が均等化されるという数学的な知識を提供した。

職人たちがミニチュアで実証実験を行った結果、耐久性が劇的に向上することが証明された。これにより、王国全体の水車の維持費を削減し、国庫に余剰資金を生み出すという大きな経済的貢献を果たしている。

日用品(蒸留酒と石けん)の開発とローカライズ

消耗品の枯渇に備え、善治郎は手作りでの日用品開発にも取り組んでいる。

  • 蒸留酒:家庭用蒸留装置を使い、高濃度アルコールの精製を実施。できた酒は非常に強いアルコール溶液であるが、果汁や香辛料で割る飲み方や、木樽で長期熟成させる方法を検討。燃料や消毒用途としての価値も見込んでいる。
  • 石けん:シャンプー不足の危機感から、灰汁と植物油を使った石けんの試作を反復(苛性ソーダは材料や危険性から断念)。試作品の油臭さを消すため、アウラ経由で侍女たちに高級香油をプレゼントし、それを石けんに混ぜて使用感をテストしてもらうという工夫も行っている。

太陽暦と気象データの研究

善治郎は自室で、窓枠の釘が落とす影とデジタル時計、デジタルカメラを用いて、この世界の「1日の長さ」や「1年の日数」を観測している。

カープァ王国は閏月で調整する太陰暦のような暦を使っているため、年によって季節が大きくずれる問題があった。善治郎は、この観測を続けることで正確な太陽暦を作り、将来的に種まきや治水工事に役立つ気象データの蓄積を行えないかと考えている。

まとめ

善治郎の技術開発は、自らの快適な生活を守るためのものから始まったが、水車の改良やガラス開発のように国家の財政や産業に直結する成果を生み出し始めている。彼は自身の生兵法であることを自覚しつつも、アウラや現地の職人と協力しながら、着実に異世界へ現代知識を根付かせている。

夫婦の絆と魔法

カープァ王国における「魔法」は、単なる便利な道具や国家の戦力であるにとどまらず、異世界から召喚された山井善治郎と女王アウラの夫婦の絆を深め、愛情を確かめ合うための重要な要素として描かれている。魔法が二人の夫婦関係にどのような影響を与え、絆を深めているかについて、4つの重要視点から解説する。

王家の秘匿魔法の共有と生活環境の向上

善治郎が不注意で貴重なガラスのグラスを割ってしまった際、アウラはカープァ王家の絶対的な秘匿魔法である「時間遡行」を用いてグラスを修復した。アウラは自身の腹心や息子にすら隠しているこの魔法を、善治郎を正統なカープァ王家の一員として深く信頼しているからこそ開示した。

さらに、この魔法の開示は以下のような好循環を生み出している。

  • 失敗しても時間を巻き戻せるという安心感から、善治郎がエアコンの取り付け作業を決意
  • 自力での設置に成功し、夫婦の寝室に異世界の王族すら味わえない劇的な涼しさと快適さを提供
  • プライベートな時間がより充実したものへと変化

愛する妻を守るための魔法習得への執念

善治郎は、オクタビア夫人を家庭教師として魔力出力調整などの魔法の修練に必死に取り組んでいる。その最大の原動力は政治的な野心や自己顕示欲ではなく、アウラが次に妊娠・出産する際、「瞬間移動」の魔法を使って自らの手で双王国の治癒術士を即座に連れてこられるようにするためである。

前回の過酷な出産で妻の命を危険に晒した経験から、もう二度と無力な立場で祈るしかできない状況にはなりたくないという、善治郎の強い愛情が彼を突き動かしている。アウラもまた、限界まで努力しようとする夫の生真面目さを心配しつつ、その思いに対して深い愛情と優しさのこもった眼差しを向けている。

言霊の壁とそれを乗り越える温かな育児

魔力を持つ者同士の言葉を自動翻訳する「言霊」の法則は、善治郎の父親としての活動に制限を課している。まっさらな赤子に対して異なる言語が入り交じると言語習得に混乱をきたす恐れがあるため、善治郎は我が子カルロスに対して、発音の許可を得たごくわずかな言葉しかかけることができない。

しかし、そのような魔法と文化の壁が存在する中でも、二人の育児は温かく展開されている。

  • アウラがわざと息子をあやして善治郎をからかう微笑ましい光景
  • それにむきになった善治郎が大声をあげて息子を泣かせてしまう人間味あふれる一幕
  • 夫婦で愛情深く育児に取り組み、仲睦まじく過ごす日常の構築

血統魔法を守るための政治的連帯

そもそも二人の婚姻は、王家特有の「時空魔法」を次代に残すため、アウラが王家の血を色濃く引く善治郎を召喚したことから始まった。しかし、善治郎が双王国の「付与魔法」の血も引いている可能性が浮上したことで、魔法の流出を恐れる大国の介入や、国内貴族からの側室の圧力といった政治的危機が訪れる。

これに対し善治郎は、自らアウラに首ったけの駄目男を演じて悪評を被ることで、二人の関係を引き裂こうとする政治的圧力からアウラの王権と夫婦の絆を守り抜いている。

まとめ

魔法の継承を目的とした政略結婚から始まった二人の関係は、魔法の秘密を共有し、魔法の制限による困難を分かち合い、相手を守るために魔法を習得しようとする過程を通じて、他に代えがたい強い夫婦の絆へと発展している。

ヒモ生活2巻レビュー
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ヒモ生活4巻レビュー

登場キャラクター

カープァ王国 王家・側近

アウラ・カープァ

カープァ王国の女王である。赤い髪と小麦色の肌を持つ。ゼンジロウを異世界から召喚し、夫に迎えた。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国・女王。
・物語内での具体的な行動や成果
 第一子カルロス・善吉を出産する。ガジール辺境伯に塩の街道の異変解決を命じた。ゼンジロウと双王国に関する密約を結ぶ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 同国の歴史上三人目の女王である。時空魔法の使い手だ。

ゼンジロウ・カープァ

異世界から召喚された男である。アウラの伴侶だ。アウラに首ったけの駄目男を演じる。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国・王配。
・物語内での具体的な行動や成果
 水力発電機やエアコンなどの現代家電を後宮に設置する。表計算ソフトで地方貴族の脱税を発見した。双王国との密約文書の抜け穴を指摘する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 時空魔法を継承可能な血統を引いている。

カルロス・善吉・カープァ

アウラとゼンジロウの間に生まれた第一子である。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国・第一王子。
・物語内での具体的な行動や成果
 酷暑の時期に誕生する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 アウラを上回るほどの魔力量を秘めている。

ファビオ

アウラの秘書官である。細面の中年男性だ。常に無表情で冷徹な意見を述べる。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国・第一秘書官。
・物語内での具体的な行動や成果
 アウラに地方貴族の脱税に対する穏便な対応を提案する。ゼンジロウに独自の領地を持たせるよう進言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 女王の右腕として極めて大きな権限を持つ。

エスピリディオン

紫のローブをまとった初老の男性である。多方面の知識を持つ賢者だ。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国・筆頭宮廷魔法使い。
・物語内での具体的な行動や成果
 アウラにグプタ王国の雷壁の杖に関する噂話を提供する。シャロワ王家の魔道具作製の裏技について説明した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 大魔力を持ちながらささやかな魔法を扱える例外的な存在である。

カサンドラ

カルロスの乳母である。三人の子を持つ。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国・乳母。
・物語内での具体的な行動や成果
 カルロスの泣き声で欲求を区別して世話をする。アウラに泣き声の聞き分け方を教えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記述なし。

カープァ王国 貴族・軍関係者

プジョル・ギジェン

カープァ王国の将軍である。「餓狼」の異名を持つ野心家だ。アウラの元婿候補の一人である。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国軍・将軍。竜弓騎兵団総団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 塩の街道の安全確保は国軍の領分だと主張する。妹ファティマをゼンジロウの側室として売り込んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 軍部で強い影響力を持つ。

ファティマ・ギジェン

プジョルの妹である。長身で切れ長な黒い瞳を持つ。

・所属組織、地位や役職
 ギジェン家。
・物語内での具体的な行動や成果
 立食会でゼンジロウに兄の武勇伝を語る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 才色兼備の美姫として知られている。

ガジール辺境伯

カープァ王国最南端の辺境伯である。初老の男だ。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国・辺境伯。
・物語内での具体的な行動や成果
 塩の街道の異変解決を自軍で行う許可をアウラに求める。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 先の大戦で二人の息子を亡くしている。

チャビエル・ガジール

ガジール辺境伯の三男である。小柄で痩身の若い騎士だ。生真面目な性格を持つ。

・所属組織、地位や役職
 ガジール辺境伯領・領主代理。
・物語内での具体的な行動や成果
 塩の街道で群竜の群れと交戦する。自軍のみでの討伐を断念し、王都へ援軍を要請する決断を下した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ガジール家で唯一生き残っている実息である。

ジョゼップ

ガジール辺境伯の側近である。黒々とした口ひげを生やした中年の騎士だ。

・所属組織、地位や役職
 ガジール辺境伯領・騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
 チャビエルの初陣を支え、戦闘や行軍に関する助言を行う。竜弓を用いて群竜を一矢で仕留めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 先の大戦でも武名を鳴らした歴戦の古強者である。

アンドレス

チャビエルの従者である。色白の若者だ。

・所属組織、地位や役職
 ガジール辺境伯軍・従者。
・物語内での具体的な行動や成果
 野営時にチャビエルの世話をする。戦闘時に群竜のボスの出現を知らせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記述なし。

トマス・パントハ

中肉中背の中年男性である。

・所属組織、地位や役職
 パントハ男爵家当主。領主。
・物語内での具体的な行動や成果
 王都勤めの継続をゼンジロウに報告し、忠誠を誓う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 先の大戦では騎士隊長として武を振るった。

ブラス

初老の男性である。

・所属組織、地位や役職
 ボボネ騎士家前当主。
・物語内での具体的な行動や成果
 王都勤めの継続をゼンジロウに報告し、忠誠を誓う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記述なし。

コンラド

カバジェロ騎士家の当主である。

・所属組織、地位や役職
 カバジェロ騎士家当主。
・物語内での具体的な行動や成果
 文書内に直接的な行動の描写はない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 長子のフランセスクが王都勤めを行う。

フランセスク・カバジェロ

年若い騎士である。

・所属組織、地位や役職
 カバジェロ騎士家。
・物語内での具体的な行動や成果
 王都勤めの継続をゼンジロウに報告する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 コンラドの長子である。

ディエゴ・ドゥラン

中年貴族である。

・所属組織、地位や役職
 ドゥラン伯爵家当主。
・物語内での具体的な行動や成果
 王都勤めの継続をゼンジロウに報告する。ゼンジロウを自領の避暑へ誘った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記述なし。

エミディオ

プジョル・ギジェンの叔父である。

・所属組織、地位や役職
 ギジェン家。
・物語内での具体的な行動や成果
 文書内に直接的な行動の描写はない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 若い頃のプジョルと飲み比べをして負け、秘蔵の宝槍を取られた過去を持つ。

デボラ

エミディオの妻である。

・所属組織、地位や役職
 ギジェン家。
・物語内での具体的な行動や成果
 文書内に直接的な行動の描写はない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 夫が酒を断ったことを感謝している。

オクタビア

マヌエル・マルケス伯爵の後妻である。華奢で清楚な雰囲気を持つ。ゼンジロウの家庭教師だ。

・所属組織、地位や役職
 マルケス伯爵夫人。
・物語内での具体的な行動や成果
 ゼンジロウに王族としてのマナーや一般常識を教える。魔法の基礎を指導した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 知識、教養、魔法技術を備え、貴族女性のかがみと呼ばれる。

カープァ王国 王宮・後宮使用人・職人

アマンダ

後宮の侍女長である。四十歳前後の細身の女性だ。生真面目で厳しい性格を持つ。

・所属組織、地位や役職
 後宮・侍女長。
・物語内での具体的な行動や成果
 ゼンジロウに後宮の侍女たちを紹介する。後宮商人の訪問日に若い侍女たちを監督した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 後宮の人員を統括する。

イネス

後宮の清掃責任者である。中年の侍女だ。職務に忠実で厳しいが部下思いな面を持つ。

・所属組織、地位や役職
 後宮・清掃担当責任者。
・物語内での具体的な行動や成果
 ゲーム機を持ち帰ってしまったフェーたちを説教する。ゼンジロウへの取りなしを約束した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記述なし。

ヴァネッサ

後宮の調理責任者である。でっぷりと太った中年の女性だ。

・所属組織、地位や役職
 後宮・調理担当責任者。
・物語内での具体的な行動や成果
 ゼンジロウの持ち込んだカステラのレシピを独自に改良して完成させる。若い侍女たちにパイ作りを指導した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 宮廷料理人に準ずる腕を持つ。

エミリア

後宮の庭園担当責任者である。

・所属組織、地位や役職
 後宮・庭園担当責任者。
・物語内での具体的な行動や成果
 ゼンジロウへの挨拶に登場する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記述なし。

オラジャ

後宮の浴室担当責任者である。中年の侍女だ。寡黙で無表情である。

・所属組織、地位や役職
 後宮・浴室担当責任者。
・物語内での具体的な行動や成果
 浴室掃除中に言い争うフェーとドロレスに冷水を浴びせる。職務態度を叱責した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 侍女の仕事ぶりの合否を判定し、失格の場合は侍女長に報告する権限を持つ。

フェー

小柄で短髪の少女である。お調子者で物欲に弱い。

・所属組織、地位や役職
 後宮・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
 掃除中に誤ってゼンジロウの携帯ゲーム機を自室に持ち帰る。パイ作りの際に時間を計る時計を活用した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 問題児三人組の一人である。

ドロレス

長身で切れ長な瞳の少女である。三人の中では比較的冷静な言動が多い。

・所属組織、地位や役職
 後宮・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
 携帯ゲーム機の持ち出しについてイネスに相談するよう促す。パイ作りに携帯ゲーム機の時計機能を活用した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 問題児三人組の一人である。

レテ

巨乳で垂れ眼の少女である。好奇心旺盛でマイペースだ。

・所属組織、地位や役職
 後宮・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
 フェーが持ち帰った携帯ゲーム機を開いて起動させる。取扱説明書を発見した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 問題児三人組の一人である。若い侍女の中ではトップクラスの料理の腕を持つ。

カリナ

若い侍女である。

・所属組織、地位や役職
 後宮・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
 ゼンジロウに自己紹介を行う。後宮商人から麝香の香油を購入した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記述なし。

ケイト

若い侍女である。ナタリオ・マルドナドの妹だ。

・所属組織、地位や役職
 後宮・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
 ゼンジロウに自己紹介を行う。後宮商人の訪問日に買い物を楽しんだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 プジョルからゼンジロウとのパイプ役として利用されようとしている。

クリステル

若い侍女である。

・所属組織、地位や役職
 後宮・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
 ゼンジロウに自己紹介を行う。後宮商人の訪問日に買い物を楽しんだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記述なし。

ナバラ王国

ナルビア・ザマード伯爵

中肉中背で黒髪の中年男性である。

・所属組織、地位や役職
 ナバラ王国貴族。
・物語内での具体的な行動や成果
 アウラが主催する非公式の昼食会に出席する。ガジール辺境伯領の軍事行動に関する説明を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記述なし。

シャロワ・ジルベール双王国

モレノ・ミリテッロ

中年の男である。胆力のある落ち着いた性格だ。

・所属組織、地位や役職
 シャロワ・ジルベール双王国・外交官。爵位も領地も持たない平貴族。
・物語内での具体的な行動や成果
 アウラ主催の昼食会に同席する。ゼンジロウとアウラに対して指輪の受け渡しを行った。密約文書の読み上げを担当する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記述なし。

フランチェスコ

シャロワ王家直系の王子である。

・所属組織、地位や役職
 シャロワ・ジルベール双王国・第一王子長男。
・物語内での具体的な行動や成果
 アウラの結婚指輪に発火の魔法を付与する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 現シャロワ王家の中でも五指に入る付与魔法の使い手である。

ボナ

シャロワ王家の王女である。

・所属組織、地位や役職
 シャロワ・ジルベール双王国・王女。
・物語内での具体的な行動や成果
 文書内に直接的な行動の描写はない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 両親は王族ではない古参貴族であり、王位継承権は末席に近い。

イザベッラ

少し恰幅の良い上品な中年女性である。老獪な外交手腕を持つ。

・所属組織、地位や役職
 シャロワ・ジルベール双王国・王女。
・物語内での具体的な行動や成果
 風土病にかかった善治郎を見舞う。体力回復と精神疲労除去の補助魔法を施した。善治郎のビー玉に対して金貨五十枚の値を提示する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ジルベール法王家の中でも五指に入る治癒魔法の使い手である。

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展開まとめ

プロローグ 二年目のはじまり

王子誕生を祝う夜祭

カープァ王国第一王子カルロス誕生から一ヶ月後、王都では盛大な祝祭が開かれていた。

王都の大通りや公園では篝火が焚かれ、兵士達が松明を持って巡回し、酒場や飲食店は夜通し営業を行っていた。本来なら深夜営業は火事の危険と費用負担から避けられていたが、この日は王子誕生を祝う特別な夜として例外扱いされていた。

酒場では人々がアウラ女王、カルロス王子、そして王国の未来へ乾杯を繰り返し、祝いに沸いていた。

王家による大盤振る舞い

祝祭では、王室が大量の酒や食事を無償提供していた。

篝火用の薪や油、飲食店への補助金、さらに警備兵まで王家が負担していた。戦後復興中の王室には重い出費であったが、祝い事を軽視することはできなかった。

同時に、この大盤振る舞いは王都経済の活性化にも繋がっていた。無料提供されるのは安酒と簡素なスープ程度だったため、人々は酔いが回ると自腹でより良い料理や酒を注文し、結果として各店は大きな利益を得ていた。

庶民達の実感を伴った祝福

酒場では、戦争を生き延びた労働者達が、最近の王国の幸運について語り合っていた。

戦争の勝利、アウラの結婚、そして王子誕生と続く吉事に対し、長年の苦労への報いだと感じていたのである。

また、この季節特有の酷暑についても語られていた。昼間は四十度を超える猛暑となるため、人々は昼を避けて活動し、夜に祝いを行っていた。

暑さをしのぐため、酒場では客達が床へ水を撒き、最後には頭上へ水を振りまくほどの騒ぎとなった。

酔客達はアウラ女王やカルロス王子を称賛しつつ、善治郎については名前を思い出せず、「女王陛下の婿さん」と曖昧に呼ぶ程度であり、庶民層では善治郎の知名度がまだ低いことも示されていた。

善治郎による暦の研究

翌朝、祭りが終わった王都では、人々が酷暑を避けるため早朝から活動を始めていた。

その一方、後宮の善治郎は、静かなリビングルームで独自の研究を続けていた。

彼は窓枠に落ちる影とデジタル時計を用い、この世界の暦や一日の長さを調べようとしていたのである。

地球と同じ二十四時間制なのか、一年の日数はどうなっているのかを確認し、将来的には農業や治水へ役立つ正確な太陽暦を作れないかと考えていた。

現在のカープァ王国では閏月による調整を行っており、年ごとの季節のズレが大きかったため、善治郎はそれを不便だと感じていた。

アウラとカルロスの訪問

そんな善治郎の元へ、朝議開始の遅延によって空き時間ができたアウラが、生後一ヶ月のカルロスを抱いて訪れる。

アウラはガジール辺境伯の到着遅れによって会議が延期されたと説明し、その間を利用して息子との時間を過ごしに来ていた。

カルロスはすでに丸々と育ち、愛らしい赤子へ成長していた。善治郎は変顔で息子を笑わせ、カルロスも楽しげな声を上げる。

しかしアウラは、夫の変顔をやり過ぎるなと苦笑交じりにたしなめた。

善吉というもう一つの名前

アウラは、善治郎へカルロスのもう一つの名前で呼ぶよう促した。

善治郎が日本風の名として付けた名前は「善吉」であり、正式名称は「カルロス・善吉・カープァ」であった。

善治郎は少し照れながらも、「善吉」と我が子の名を呼んだ。

授乳と家族の時間

その後、カルロスは空腹を訴えて泣き始める。

アウラは泣き方から授乳の要求だと判断し、善治郎へドレスの結び目をほどくよう頼んだ。

善治郎はアウラの肩紐を外し、アウラは乳房をカルロスへ与える。

カルロスは夢中で母乳を飲み始め、夫婦はそんな我が子を穏やかな表情で見守った。

アウラは、女王として多忙なため授乳できる機会が限られていることを惜しみつつ、今だけは母としての時間を楽しんでいた。

やがて満腹になったカルロスが乳房から口を離すと、アウラは冗談めかして「残りはパパの分だな」と言う。

それに対し善治郎は、必死の形相で否定し、夫婦の穏やかなやり取りが続くのだった。

第一章 塩の街道の異変

塩輸送問題と辺境伯の思惑

朝議の場で、アウラはガジール辺境伯から、辺境領へ送られるはずの塩が予定日を過ぎても届いていないとの報告を受けた。

辺境領では塩の備蓄が三ヶ月分しか残されておらず、辺境伯は領主代理を務める息子に兵を率いさせ、『塩の街道』の異常原因を排除したいと申し出た。

これに対し、プジョル将軍は国道の安全確保は国軍の役目であり、辺境伯軍が独自に動くべきではないと反対する。

しかし辺境伯は、原因が肉食竜による被害ならば、戦場となる森や草原は自領内であり、自軍の出動は正当であると主張した。

アウラによる政治的判断

アウラは両者の主張を冷静に比較し、最終的に辺境伯軍へ対応を任せる決定を下した。

ただし条件として、原因が予想外の重大事態であった場合は、必ず王宮へ報告するよう命じる。

アウラは、この件を辺境伯の若い三男へ武功を与える機会と見抜いていた。先の戦争で長男と次男を失った辺境伯は、生き残った三男へ後継者としての実績を作らせたかったのである。

さらにアウラは、功績を挙げた場合には王都へ呼び、褒賞を直接与えると宣言した。

それは単なる褒賞ではなく、若い辺境貴族を長期間王都へ滞在させ、王家への帰属意識を高める政治的意図を含んでいた。

辺境伯はその意図を理解しながらも、最終的には了承する。

善治郎による税収整理

その頃、後宮に残った善治郎は、アウラから預かった税収一覧をパソコンの表計算ソフトへ入力していた。

入力を終えた善治郎は、申告額と再計算結果の差額を比較し、一割以上の差異がある項目へ印を付ける機能を追加する。

その結果、多くの領地で意図的な脱税と思われる数字が見つかり、善治郎はアウラの苦労を実感していた。

同時に、自分もそろそろ表向きの仕事を増やすべきではないかと考え始めていた。

異世界生活に慣れ、身体も精神も回復した今、善治郎は単なる引きこもり生活に居心地の悪さを感じ始めていたのである。

善治郎の今後への意欲

善治郎は、自分の立場上大きく目立つことはできなくとも、アウラを通じてなら様々な改善策を提案できると考えていた。

その一つとして取り組んでいるのが蒸留酒の精製である。

彼は日本から持ち込んだ家庭用蒸留装置を利用し、高濃度アルコールの製造を試みていた。

現状では趣味の域を出ないが、将来的には燃料や消毒用途として国の発展に役立つ可能性を見込んでいた。

生活用品不足への危機感

さらに善治郎は、シャンプーやリンスの残量不足にも強い危機感を抱いていた。

石けん類はまだ余裕があるものの、長髪のアウラが大量に消費するシャンプーとリンスは、今年中にも尽きそうだったのである。

善治郎はネットから石けんやシャンプーの製法を保存していたが、この世界では苛性ソーダなど必要材料が入手困難であり、簡単には再現できなかった。

また、素人製作の石けんは肌荒れなどの危険もあるため、慎重な試験が必要だった。

善治郎は、まず試作品を手洗いや動物への使用で試そうと考えるが、この世界には毛のある家畜がほとんど存在せず、試験対象すら不足している現実に頭を抱えるのだった。

執務室での軍事判断

朝議を終えたアウラは、ファビオ秘書官を伴って執務室へ移動し、ガジール辺境伯軍へ正式な軍事行動許可書を発行した。

その書類には、『塩の街道』の異変調査と原因排除を辺境伯軍へ命じる内容が記されていた。

アウラは、通常の使者による伝達では時間がかかりすぎると判断し、自らの『瞬間移動』魔法を用いて使者ごと辺境伯領へ送る方針を決定する。

時空魔法を前提として国家運営が行われているカープァ王国ならではの対応であり、この能力こそが広大な領土を中央集権的に統治できる理由でもあった。

ファビオとの政治議論

書類作成後、ファビオ秘書官は、なぜ国軍ではなく辺境伯軍へ対応を任せたのかをアウラへ問いかけた。

彼は、今回の件を利用すれば、国軍を辺境へ駐留させる前例を作れたのではないかと提案する。

しかしアウラは、地方軍の縮小と国軍拡大を中途半端に進めれば、領主達の反発や諸外国への隙を招く危険があるとして否定した。

国政は賭け事ではなく、最善を求めて最悪を招くべきではないというのが、アウラの考えだった。

その一方で、ファビオの進言を完全には退けず、万一に備えてプジョル将軍へ「郊外長期演習」の名目で部隊を待機させる命令を出す。

必要な時には即座に辺境へ派遣できるよう、事前準備だけは整えておくことにしたのである。

夫婦の訓練時間

午後になると、アウラは仕事を切り上げ、後宮の中庭で善治郎と槍術訓練を行っていた。

噴水の近くで、水しぶきを浴びながら行われる訓練は、善治郎の運動不足解消と、産後太りを気にするアウラの体型維持を兼ねていた。

善治郎はアウラの連撃に必死で食らいつくが、何度も足払いを受けて芝生へ転倒する。

それでもアウラは適切に手加減しており、善治郎に大きな怪我はなかった。

訓練後の夫婦の会話

訓練後、二人は噴水の縁に腰掛け、水分を補給しながら感想を語り合った。

善治郎は、予想以上にアウラの攻撃が重かったと素直に感想を漏らし、アウラはその言葉に微妙な反応を見せる。

現在のアウラは産後の体型変化を強く気にしており、「重い」「重量感」といった何気ない言葉が精神的に刺さってしまったのである。

夫婦喧嘩の危険を察したアウラは、慌てて話題を変え、朝議で発生した『塩の街道』問題について善治郎へ説明を始めるのだった。

蒸留酒の試飲

夜のリビングルームでは、昼間に行われた蒸留作業の影響で、まだアルコールの匂いが残っていた。善治郎は自作した蒸留酒を、薩摩切り子のグラスへ注ぎ、アウラへ振る舞う。

しかし、何度も蒸留を重ねて高濃度となったその酒は、風味に乏しく、アウラからも「味も素っ気もない」と率直な感想を告げられてしまう。

善治郎は落胆するが、アウラは酒としての強さ自体には価値があると評価し、果汁や香辛料を加えて飲む方法を提案した。

さらに善治郎は、蒸留後に木樽で熟成させることで風味が増す酒の存在を思い出し、今後の改良の可能性を考える。

蒸留技術の可能性

アウラは蒸留技術そのものへも興味を示し、専用装置なしで再現可能なのかを善治郎へ尋ねた。

善治郎は、蒸留そのものの原理は単純だと説明する。

酒を七十度から八十度程度で加熱し、発生したアルコール蒸気を集めて液化させるだけであり、問題はその温度管理にあると語った。

アウラは、砂糖の煮出し作業に携わる職人ならば感覚的に近い技術を持っているかもしれないと考え、善治郎も職人達の経験次第で実現は可能だろうと認める。

しかし、戦災復興中の国庫事情を考えれば、本格投資には慎重にならざるを得ず、当面は善治郎個人の趣味として扱う方針に落ち着いた。

ガラス開発計画

話題は、現在進行中のガラス開発へ移る。

アウラは、十名弱の元鍛冶師や鍛冶師見習いを集め、近いうちに開発を開始できる見込みだと語った。

現役鍛冶師は国家の重要資産であり、容易に引き抜くことは出来ないため、人選にはかなり苦労していた。

さらに、水車を利用した石臼設備も整備する予定であり、砕いた煉瓦や砂を細かく加工する工程へ利用する考えも示す。

善治郎は、水車の歯車寿命について「互いに素」の概念が関係しているのではないかと口にするが、その説明に入る直前、侍女達が入室してきたことで会話は中断された。

カルロス王子のための氷

夜になっても暑さが残るため、侍女達はカルロス王子の寝室用の氷を求めてリビングルームへやって来る。

善治郎は快く許可を出し、侍女達は冷蔵庫から氷を取り出していった。

カルロスはまだ生後一ヶ月ほどであり、この酷暑期を安全に乗り切るため、氷で冷やした部屋で乳母と共に寝起きしていた。

アウラは、本当は我が子と同じ部屋で眠りたいという本音を漏らす。

しかし、夜泣きによって睡眠不足となれば政務に支障をきたすため、善治郎はそれを理性的に諭した。

カルロスとの距離への寂しさ

さらに善治郎は、自分が日本語を話す以上、カルロスが幼いうちは不用意に話しかけることも出来ない現実へ寂しさを覚えていた。

この世界では『言霊』による自動翻訳が働くため、幼少期に複数言語へ触れると、言語習得が混乱する危険があるのである。

また、カルロスは男児であるため、五歳になれば男子禁制の後宮から王宮へ移される運命にあった。

将来的に我が子と疎遠になる未来を想像し、善治郎は王宮側にも私室を持つ必要性を考え始める。

夜の別れと魔法訓練

やがて就寝時間となり、アウラは翌朝の『瞬間移動』に備えて先に寝室へ向かうことを決めた。

一方の善治郎は、魔法の反復練習を済ませるため、まだ起きていると答える。

現在の二人は、産後間もないアウラの体調を考慮し、子作りを一時的に控えていた。

その決定を下した際、善治郎は避妊具を日本から持ち込まなかったことを本気で後悔していた。

別れ際、二人は自然な抱擁と口づけを交わす。

しかし、アウラは自分の体型変化を気にしており、以前よりも密着を少し控えていた。

善治郎はその感触を振り払うように気持ちを切り替え、魔法訓練へ向かうのだった。

第二章 王都の動き

外交昼食会の開催

王都カープァの王宮中庭では、女王アウラが国内外の貴族を招き、昼食会という名目の非公式外交会談を開いていた。

酷暑期であるため、会場には噴水横の屋根付き広場が選ばれ、風通しを重視した構造によって暑さを和らげていた。

本来であれば昼休みとして過ごす時間であったが、外交日程の都合上、アウラは私的時間すら外交へ充てざるを得なくなっていた。

ナバラ王国への説明

アウラはナバラ王国のナルビア・ザマード伯爵へ対し、現在ガジール辺境伯領で行われている軍事行動について説明する。

表向きの理由は、街道周辺へ出没した肉食竜討伐であり、軍事行動は国内向けのものであって、ナバラ王国への侵攻意図は存在しないと明言した。

これに対し、ザマード伯爵は理解を示しつつ、自国も北方国境を警戒する必要があると述べ、本国への警告文送付許可を求める。

実際には、双方とも肉食竜よりカープァ王国軍の動きを警戒していることを理解しており、この会話は軍事緊張を避けるための外交的確認作業であった。

アウラもその意図を承知した上で了承し、隣国との無用な誤解を防ぐための配慮を見せる。

双王国外交官の同席

この昼食会には、シャロワ・ジルベール双王国の外交官モレノ・ミリテッロ騎士も同席していた。

アウラは、双王国という第三国の外交官を立ち会わせることで、今回の説明内容へ公的信頼性を持たせようとしていた。

大国であるカープァ王国が後から発言を翻す危険を、ナバラ王国側へ感じさせないための配慮である。

ザマード伯爵もその意図を理解し、アウラへ深く謝意を示した。

瞬間移動魔法への言及

会話が一段落した後、モレノ騎士はアウラへ対し、今回の迅速な命令伝達に『瞬間移動』の魔法を用いたのかを尋ねる。

アウラが素直に肯定すると、モレノは時空魔法の実用性を高く評価しつつ、使い手がアウラ一人しかいない現状の不便さを指摘した。

その流れから、双王国側は『瞬間移動』の魔道具作製を提案する。

しかしアウラは、それがカープァ王家最大級の国家的優位性を他者へ渡す危険性を伴うと理解しており、即座に否定した。

さらに、魔道具製作には術者本人の長期協力が必要であり、自分が玉座を空けて双王国へ赴くことなど不可能だと切り返す。

善治郎への思惑

アウラは内心、双王国側が狙っているのは自分ではなく善治郎だと考えていた。

善治郎は急速に魔法技術を習得しており、将来的には『瞬間移動』を扱える可能性が高い。

さらに善治郎自身も、次の出産時には双王国の『治癒魔法』を即座に呼べる体制を整えたいと考えていたため、将来的に双王国訪問へ前向きな姿勢を見せている。

その事情を踏まえ、アウラはあまり強硬に拒絶するべきではないと判断していた。

予想外の提案

しかし、モレノ騎士の真の狙いは、アウラの予想を超えるものだった。

彼は、双王国のフランチェスコ王子とボナ王女が、善治郎の持ち込んだ『透明な宝玉』や『金剛石の指輪』へ強い関心を示しており、カープァ王国訪問を望んでいると語った。

これは、『シャロワ王家』の王族が国外訪問を検討していることを意味していた。

『付与魔法』を持つシャロワ王家の人間が国外へ出る例は極めて珍しく、少なくとも百年単位で前例がない重大事である。

その場にいた貴族達も動揺を隠せず、アウラ自身も表情を取り繕えないほど驚愕する。

モレノは、この話はまだ非公式段階だと補足しつつも、発言内容自体は真実だと明言し、場へ強烈な衝撃を残すのだった。

シャロワ王家来訪の報告

その夜、善治郎とアウラはリビングルームで向かい合い、昼食会で出た話について話し合った。アウラは、シャロワ王家のフランチェスコ王子とボナ王女がカープァ王国訪問を望んでいると善治郎へ伝えた。善治郎は、王族の国外訪問がそこまで珍しいのかと疑問を示したが、アウラは、双王国では国外対応をジルベール法王家が担うため、シャロワ王家が国外に出ること自体が極めて異例であると説明した。

ビー玉を巡る思惑

アウラは、来訪の主目的は善治郎が持ち込んだビー玉であろうと推測した。双王国からは、その後もイザベッラ王女を通じてビー玉買い取りを匂わせる書状が届いており、付与魔法においてビー玉が大きな価値を持つ可能性が高まっていた。善治郎は、一袋数百円のおもちゃが国家間の均衡を揺るがす存在になっていることに実感を持てなかったが、取引についてはアウラに任せる姿勢を示した。

善治郎の血筋を巡る警戒

善治郎は、彼らの目的が自分の血筋である可能性を問いかけた。アウラは、カープァ王宮内で露骨な誘惑に出る可能性は低いとしつつ、善治郎が将来『瞬間移動』を習得して双王国へ向かった際には、向こうの王宮で本格的な歓待と接触が行われる危険があると指摘した。善治郎は見通しの甘さを自覚しながらも、アウラの次の出産に備えて治癒魔法の使い手を即座に呼べるようにするため、双王国へ行く意思は変えなかった。

フランチェスコ王子の不可解な立場

アウラは、フランチェスコ王子が二十四歳で、現シャロワ王の孫にあたり、次期王に近い第一王子の長男であると説明した。しかし、彼は付与魔法の実力を持ちながら、正式な王位継承権を得ていなかった。善治郎はその不自然さから人格面の問題を疑い、会う前から気が重くなった。アウラも同感しつつ、国際問題を起こさない程度の常識はあるはずだと期待するしかなかった。

ボナ王女の役割

一方、ボナ王女は直系王族ではなく、王家の血を引く古参貴族の家に生まれた血統魔法継承者であった。王位継承権はほぼ末席で、国内での立場も弱い名ばかりの王女に近かった。アウラは、だからこそ双王国が善治郎との接触役として送り込もうとしている可能性を見抜いた。善治郎も、双王国がまだ自分の血筋を諦めていないことを理解し、面倒な事態になりそうだと感じるのだった。

第三章 塩の街道

ガジール辺境伯領への進軍

カープァ王国最南端のガジール辺境伯領では、酷暑期の最中、『塩の街道』を寸断した肉食竜への対処のため、辺境伯軍が軍事行動を開始した。雨期に次いで行軍に向かない季節でありながらも、流通再開の必要性から出兵が決断されたのである。

百名規模の軍勢は、騎兵、歩兵、輜重兵によって構成されていた。街道は土が剥き出しの粗末な造りであり、兵士達は厚手の衣服で日差しを防ぎながらも、水袋を早々に空にしてしまうほどの過酷な暑さに苦しめられていた。鈍竜が引く荷竜車だけが、大量の補給物資を運びながら安定した進軍を維持していた。

初陣に挑むチャビエル

軍を率いていたのは、ガジール辺境伯の第三子にして唯一の実子であるチャビエル・ガジールだった。小柄で痩身の若者であり、歴戦の父とは対照的な体格をしていた。チャビエルは、自らを少しでも威厳ある指揮官に見せようと、走竜の背で過剰なほど背筋を伸ばし続けていた。

その緊張を見抜いていたのが、辺境伯の腹心である騎士ジョゼップだった。彼は兵士達の疲労を理由に早めの休憩を提案した。チャビエルは最初こそ予定通り進軍を続けるべきか迷ったが、歩兵達の疲弊を理解すると、大休止を命じた。兵士達が安堵の表情を浮かべる姿を見て、チャビエルは自分の未熟さを痛感し、指揮官として成長しなければならないと決意を新たにした。

野営地での休息と魔法の活用

数日後、軍勢は街道沿いに設けられた広場で野営を張った。兵士達は『土壁作製』『発火』『水質浄化』といった生活用魔法を用いながら、野営の準備を進めていた。戦闘中には使いづらい魔法も、非戦闘時には重要な役割を果たしていたのである。

長時間の騎乗で身体を固めていたチャビエルは、土壁の影で休息を取りながら、従者アンドレスの世話を受けていた。そこへ騎士ジョゼップと先行偵察隊が戻り、街道の先で塩商人達の死体を発見したと報告した。荷車や鈍竜、人間の遺体はいずれも肉食竜によって激しく損壊されており、この先に危険な竜が潜んでいることは明白だった。

指揮官としての決断

報告を受けたチャビエルは、即座に全軍へ警戒命令を出そうとした。しかしジョゼップは、休憩中の兵士達に情報を流せば、新兵達が緊張で休息できなくなると進言した。一方で、警戒を怠れば肉食竜の奇襲を受ける危険も残る。

チャビエルは教官から叩き込まれた「戦場では迅速に決断せよ」という教えを思い出し、熟考の末に判断を下した。情報は騎士と兵隊長までに留め、兵士達には通常通り休息を取らせる。そして休憩終了後に全軍へ情報を伝達し、午後から警戒態勢で進軍を再開することを決定したのである。

命令を下した後も、チャビエルの胸中には、自分の判断が誤っていた場合への不安が渦巻いていた。しかし、若き指揮官はその動揺を表へ出すまいと必死に耐え続けるのだった。

塩商人達の惨状

チャビエル・ガジール率いる辺境伯領軍は、『塩の街道』で壊滅した塩商人達の現場へ到着した。そこには横倒しになった荷竜車、革紐で繋がれたまま腐敗した鈍竜、塩袋の残骸、そして激しく損壊した人間の死体が散乱していた。腐肉には大量の肉蠅が群がり、辺りには耐えがたい腐敗臭が充満していた。新兵達は吐き気を堪えきれず、古参兵達から叱咤を受けていた。

チャビエル自身も強烈な臭気に苦しみながらも、指揮官として検分係へ調査を命じ、周囲の警戒態勢を取らせた。検分を担当したのは熟練の狩人達であり、彼等は歯形や爪痕から襲撃者が『群竜』であると断定した。

群竜の脅威

『群竜』は群れで行動する中型肉食竜であり、通常でも人間にとって危険な存在だった。だが狩人は、今回の群れは通常の規模ではなく、大ボスに率いられた異常な大群であると推測した。鈍竜の不味い背中部分まで食い荒らされていたことから、少なくとも五十匹を超える規模だった可能性が高いと判断したのである。

さらに狩人は、塩商人達の荷竜車が全て車輪や車軸を意図的に破壊されていたことを指摘した。群竜達は逃走手段を断つため、狙って荷車を行動不能にしていたのである。また、現場には群竜の死体が一体も残っておらず、護衛兵達が一方的に殲滅された形跡があったことから、群竜側に極めて狡猾な統率者が存在すると考えられた。

チャビエルは、今回の討伐が想像以上に危険な任務であることを悟り、自らの名誉と兵士達の命の間で苦悩することとなった。

飛竜の出現と緊張

死体と荷車の焼却処分を進めていた最中、見張りの兵士が北北東の空に飛竜を発見した。兵士達は一斉に空へ意識を向け、弓兵達は地面へ伏せながら迎撃態勢を整えた。

だが狩人は、飛竜はこの場を狩場としておらず、別の獲物を探して移動中だと分析した。実際、飛竜は軍勢を襲うことなく、そのまま上空を通過していった。兵士達は安堵し、全軍の緊張感がわずかに緩んだ。

群竜による奇襲

しかしその瞬間、街道脇の森から七匹の群竜が飛び出し、油断していた兵士達を押し潰した。群竜達は飛竜へ注意が向いている隙を突き、完璧な奇襲を成功させたのである。

チャビエルは混乱しながらも正気を取り戻し、盾兵による防御陣形の構築、槍兵による牽制、弓兵による支援射撃を命じた。兵士達は徐々に本来の動きを取り戻し、街道の両脇で群竜達と対峙する膠着状態へ持ち込んだ。

奇襲によって兵士一人が森へ引きずり込まれて死亡し、五名が重傷を負ったが、部隊全体はまだ戦闘継続可能な状態を保っていた。

騎士ジョゼップの奮戦

膠着状態の中、騎士ジョゼップは竜弓を用いて群竜を射殺した。その一撃によって兵士達の士気は上昇し、群竜側にも動揺が広がった。ジョゼップは、いくら統率された群竜でも下っ端は本能優先の獣であり、長時間の膠着に耐え切れず無謀な行動を取ると見抜いていた。

実際、一匹の群竜が森から飛び出したところを、弓兵と槍兵の集中攻撃によって討ち取ることに成功した。チャビエルは、このまま各個撃破できる可能性を見出し始めていた。

巨大な群竜のボス

その時、森の奥から巨大な咆哮が響き渡った。チャビエル達の視界には、通常の群竜より遥かに巨大な大ボスの影が映った。中型肉食竜とは思えぬほど大きなその個体は、配下達へ明確な命令を下していた。

大ボスの咆哮を受けた群竜達は、一斉に森の奥へ退却を開始した。チャビエルは警戒を続行させたが、騎士ジョゼップと狩人達は、完全に撤退したと判断した。群竜は基本的に、一度諦めた獲物へすぐには再襲撃を行わないのである。

戦闘終了後、チャビエルは全軍へ警戒解除を命じ、負傷者の治療と被害確認を指示した。兵士達は、ようやく張り詰めていた緊張から解放されるのだった。

負傷者達の治療

戦闘後のチャビエル一行は、負傷者の治療に追われていた。兵士達は傷口を大量の水で洗浄され、清潔な布で止血されていた。骨折した者には骨接ぎと添え木による固定が施され、最低限ではあるが、命を繋ぐための処置が続けられていた。

やがて輜重隊責任者が、負傷者達にひとまず命の危険はないと報告したことで、チャビエルは安堵する。しかし竜種による傷は後に高熱を引き起こす危険があり、依然として油断できない状況だった。

輜重隊の奮闘

チャビエルは続けて荷竜車の修理状況を確認した。破損したのは一台のみであり、予備の車輪を使えば応急修理による運用は可能だった。

輜重隊は単なる運搬役ではなく、荷車や装備の修理も担う技能集団だった。さらに今回の戦闘では、恐慌状態になりかねない鈍竜達を制御し続けたことで、大きな功績を挙げていた。チャビエルは彼等の働きを高く評価し、後に報いる必要があると考えていた。

また、戦闘中に大量の水を消費した結果、荷竜車の積載量に余裕が生まれていたため、負傷者を荷台に乗せて移送することも可能になっていた。

援軍要請の決断

その後、チャビエルは騎士ジョゼップへ、自軍のみで群竜の山狩りを行うのは無謀かと確認した。ジョゼップは、十分な警戒をすれば一定の成果は望めるものの、被害は確実に許容範囲を超えると断言した。

その言葉を受け、チャビエルは苦渋の末、自らの討伐失敗を認め、王都へ援軍を要請する決断を下した。名声より兵士達の命を優先したのである。ジョゼップはその判断を賢明だと感じながらも、若い指揮官の無念を慮り、余計な言葉を控えた。

王領への進軍

チャビエルは荷竜車の修理完了後、領地へ引き返すのではなく、そのまま『塩の街道』を進んで王領へ入る方針を示した。その方が、負傷者達を早く医療技術者へ診せることができるためだった。

王領の軍施設には医療技術者が配置されており、さらに王都から派遣される援軍もそこへ立ち寄る可能性が高かった。ジョゼップは、チャビエルが援軍と合流し、再び討伐へ加わる意志をまだ捨てていないことを察していた。

若き指揮官の覚悟

チャビエルは負傷者達への負担を減らすため、歩けなくなった歩兵達を騎士の走竜へ乗せて移動させる案を出した。軍法上は問題がある行為だったが、ジョゼップは戦時下では現場判断が優先されるとして了承した。

チャビエルは、一刻も早く援軍要請を届けるため、『塩の街道』を可能な限り急いで抜けることを決意する。失敗を認めながらも、兵士達を救い、なお戦果を求めようとする若き指揮官の覚悟に、ジョゼップは改めて彼を支えたいと強く感じるのだった。

第四章 善治郎の日常

王都での儀礼対応

善治郎は王宮で、多数の貴族達を相手に儀礼的な応対を行っていた。玉座の隣に設けられた王配の席に座り、王都駐留を継続する貴族達の宣言を受け、それを承認していく役目を担っていたのである。

カープァ王国では、地方領主の家から一族の代表者を王都へ常駐させる慣習があり、それはかつての人質制度から発展したものだった。王権の強いカープァ王国では、王都に代表者を置くことが各家の利益にも繋がっており、王都経済の活性化にも寄与していた。

本来はアウラが行うべき役目だったが、今年は継続者ばかりで複雑な調整が不要だったため、善治郎が代役を務めていた。善治郎自身も、アウラの負担を少しでも減らしたいという思いで、その役目を受け入れていた。

貴族達の思惑

しかし、一部の貴族は単なる挨拶だけで終わらなかった。ドゥラン伯爵ディエゴは、自領が涼しく風光明媚であることを語り、善治郎を避暑へ招待したいと持ちかける。

その言葉の裏には、アウラを王都へ縛り付けたまま、善治郎だけを地方へ招き、自らの影響下へ置きたい意図が透けて見えていた。男尊女卑の価値観を持つ貴族達から見れば、善治郎が現在の立場に不満を抱いていると考えるのは自然だったのである。

善治郎はその意図を察しつつも、善吉が成人した後にアウラと共に訪れてみたいと返答し、遠回しにアウラと距離を置く意思がないことを示した。その返答を受けたディエゴは、失望を隠せぬまま頭を下げて引き下がった。

石けん作りへの試行錯誤

夜になって後宮へ戻った善治郎は、正装を脱ぎ捨て、暑さに疲弊しながらも石けん作りについて思案していた。灰汁と植物油を使った石けん製造は依然として試行錯誤の段階であり、うまく乳化しないものや、単なる油の塊になってしまうものばかりだった。

善治郎は一時、苛性ソーダの精製にまで手を広げることを考える。しかし、貝殻や天然重曹から水酸化ナトリウムを作る工程の複雑さと危険性を冷静に考え直し、まずは現在の灰汁方式を改良していく方針を選んだ。

その後、善治郎は表計算ソフトを用い、灰汁や植物油の組み合わせによる石けんの変化を分析しようと計画を立てていった。

双王国王族来訪の確定

夜、アウラは善治郎へ、シャロワ・ジルベール双王国から来訪予定の王子と王女について報告した。すでに内々ではほぼ決定事項となっており、近いうちに南大陸西部と中部へ大きな衝撃が走るだろうと語る。

王族二人を長期間受け入れるには、莫大な予算や人員が必要となるため、情報を秘匿し続けることは不可能だった。貴族達は金や物資の動きから異変を察知し、善治郎へ探りを入れてくるだろうと、アウラは警告する。

善治郎はその未来にうんざりしながらも、受け入れるしかなかった。

石けん実験と切り子グラスの破損

話題を変えた善治郎は、翌日、侍女達に協力してもらい、試作品の石けんの使用実験を行う予定だと話した。石けん自体は比較的順調に完成へ近づいていたが、シャンプーの代用品開発は難航していた。

そんな中、善治郎はうっかり青い薩摩切り子のグラスを落としてしまう。ガラスは硬いテーブルへ叩きつけられ、無惨に砕け散った。

替えの効かない貴重品を壊してしまった善治郎は落胆し、侍女を呼ぼうとする。しかしアウラはそれを制止し、自らの血統魔法の秘密を明かす決意を固めた。

カープァ王家の秘匿魔法

アウラは、この魔法の存在を誰にも漏らしてはならないと厳命した上で、割れた切り子グラスへ右手をかざした。呪文を唱えると、強烈な光が発生し、砕けたグラスは元通りの姿へと復元された。

それは単なる修復魔法ではなく、カープァ王家の秘匿魔法『時間遡行』だった。対象物の時間を巻き戻すことで、破損前の状態へ戻していたのである。

ただし、この魔法には厳しい制約があった。魔力を持つ生物や魔道具には使用できず、大きな物体や長期間の巻き戻しには膨大な魔力を必要とする。そのため、実用性は限定的だった。

しかし善治郎は、その制約よりも可能性に強く反応する。小型で短時間なら巻き戻せると知った善治郎は、放置されたままのエアコンを指差し、その取り付け失敗をやり直せるのではないかと興奮した。

アウラが、一日分程度ならエアコンでも時間遡行は不可能ではないと答えると、善治郎は歓喜し、ついにエアコン設置へ挑戦できると大喜びするのだった。

第五章 昼の難敵、夕の講義、夜のくつろぎ

立食昼食会でのファティマの接近

善治郎は、王宮の片隅で開かれた立食形式の昼食会へ出席していた。儀礼的な公式行事だけに絞って参加するよう努めていた善治郎だったが、王配という立場上、断れない付き合いも増えていたのである。

そこで善治郎へ積極的に接近してきたのが、プジョル将軍の妹であるファティマ・ギジェンだった。ファティマは善治郎が新しい酒を作っていることを大げさに称賛し、熱心に話しかけ続ける。

善治郎は出来るだけ素っ気なく応対し、会話を切り上げようとした。しかしファティマは兄譲りの押しの強さで離れようとせず、善治郎へ様々な話題を振り続ける。

善治郎は、彼女の態度から明確な打算を感じ取っていた。ファティマは善治郎個人に惹かれているわけではなく、兄プジョルの命令によってギジェン家の利益のために接近しているのだと、善治郎には透けて見えていたのである。

兄を誇るファティマ

会話が進むにつれ、ファティマは次第に兄プジョルの武勇伝を熱弁し始めた。十八歳の時に酒豪として知られた叔父を飲み比べで潰した話や、戦場での武功が吟遊詩人の詩になっていることなどを、誇らしげに語る。

善治郎は、プジョル将軍に対して複雑な感情を抱いていたものの、露骨に嫌悪を見せることは避け、適度に相槌を打ちながら会話を続けた。内心では、度数の高い蒸留酒を飲ませて酔い潰してやりたいなどと、子供じみた想像までしていた。

しかし、兄の話をしている時だけは、ファティマは打算や媚びを忘れ、本心から楽しそうな表情を見せていた。善治郎は、その時の彼女の方が、作り笑いを浮かべている時より遥かに魅力的だと感じる。

やがて自分が話し過ぎていたことに気づいたファティマは、恥ずかしそうに謝罪した。善治郎は、それを咎めず、軍部の重鎮であるプジョルの逸話は有益で興味深いと穏やかに返した。

魔法講義の再開

昼食会を終えて後宮へ戻った善治郎は、休む間もなくオクタビア夫人による魔法講義へ向かった。

教室では、善治郎が『空間遮断結界』の魔法を実演する。善治郎は自らの魔力を視認しながら呪文を唱え、無事に光のドーム状結界を展開させることに成功した。

オクタビアは、その成功を高く評価した上で、善治郎がすでに『魔力出力調整』の入り口へ足を踏み入れていることを指摘する。人間の魔力量は体調や精神状態によって微妙に変動するため、本来ならば現在の善治郎の魔力量では魔法は発動しないはずだった。しかし善治郎は無意識のうちに出力を絞り、必要量へ合わせていたのである。

善治郎は半信半疑のまま再び魔法を発動し、自分の魔力光がわずかに変化していることを確認した。これによって、自分が本当に魔力調整を始めていることを実感する。

魔力出力調整の訓練

その後、オクタビアは魔力出力調整の本格的な訓練を開始した。オクタビア自身は、全身から立ち上る魔力光を自在に増減させ、まるで別の身体を操るように魔力を制御してみせる。

善治郎も同じように挑戦したが、光量の変化はごくわずかで、まだ自由自在とは程遠かった。それでもオクタビアは、魔力出力調整とは「もう一つの身体の動かし方を覚える」ようなものであり、最初は赤子同然なのだと説明し、善治郎を励ます。

さらにオクタビアは、この訓練には才能が大きく影響し、努力しても限界を突破できない者もいると語った。つまり、善治郎の努力が無駄に終わる可能性も存在していたのである。

それでも善治郎は諦めなかった。『瞬間移動』の魔法を会得しなければ、次にアウラが出産する時も、何も出来ず祈るしかない立場に逆戻りしてしまう。その思いが、善治郎を突き動かしていた。

善治郎は、見守るオクタビアの視線にも気づかぬまま、必死に魔力出力調整の修練へ打ち込み続けるのだった。

民族衣装姿のアウラ

昼の昼食会と夕方の魔法講義を終えた善治郎は、酷暑の中で比較的忙しい半日を過ごし、後宮のリビングルームでくつろいでいた。Tシャツとズボンというラフな格好で黒いソファーに寝そべり、DVDを見ていたところへ、アウラが戻ってくる。

帰宅したアウラは、普段の赤いロングドレスではなく、赤を基調としたサリー風の民族衣装を身にまとっていた。善治郎が驚いて尋ねると、アウラは古典的な公的行事へ出席していたため、この伝統衣装を着用していたのだと説明する。

アウラは、似合っているかを暗に尋ねるように胸を張った。善治郎は照れながらも素直に、普段のドレス姿も良いが、この格好も新鮮でよく似合うと感想を伝える。その率直な言葉にアウラは大いに満足し、今後は時折この服も着ようかと嬉しそうに語った。

その後、二人は自然に寄り添ってソファーへ腰掛ける。暑さの厳しい夜ではあったが、互いの体温を感じ合いながら短い安らぎの時間を共有した。

昼食会でのファティマとのやり取り

会話の流れで、アウラは昼食会について尋ねた。善治郎は、ギジェン家のファティマ姫が乱入してきて少し焦ったことを打ち明ける。

アウラはすぐに警戒を強め、変な言質を取られていないか確認した。善治郎は問題なかったと答えたが、話の流れで、自分が蒸留酒を作っていることを話してしまったと説明する。

それを聞いたアウラは、蒸留酒自体は近く夜会で披露する予定だったため問題ないと判断した。しかし同時に、技術や知識の漏洩には注意するよう釘を刺す。特にガラスのような再現可能な技術は、王家の秘伝として扱いたいと考えていたのである。

さらに、善治郎が国へ利益をもたらし過ぎれば、反女王派が善治郎を担ぎ上げる口実になりかねないという危険性も存在していた。善治郎は自分の軽率さを反省し、今後は注意すると素直に謝罪した。

魔法講義での進展

続いて善治郎は、オクタビア夫人との魔法講義で大きな進展があったことを報告する。『空間遮断結界』は十回中九回成功するようになり、さらに魔力出力調整もわずかに出来るようになったのだと語り、自分の魔力光を少しだけ増減させてみせた。

その成果を見たアウラは素直に感心し、自分は幼少期に魔力調整を覚えるまで二年以上かかったと語る。しかし善治郎は、自分はすでに成人しているため、子供時代のアウラと比べれば覚えが早いのは当然だと返した。

善治郎は、『瞬間移動』の魔法を会得するため、全力で努力する決意を改めて口にした。それは、次にアウラが出産する際には、自分が何も出来ない無力な立場でいたくないという強い思いから来るものであった。

アウラは、善治郎の真剣さを理解しつつも、彼が限界まで努力し続けようとする性格を心配していた。適度に休ませながら支えていかなければならないと感じつつ、夫を見つめるその眼差しには、深い愛情と優しさが込められていた。

第六章 動き出す事態

チャビエル討伐隊の失敗報告

塩の街道でチャビエル達が群竜と交戦してから十日以上が過ぎた頃、アウラは執務室で王領端の砦から届いた報告書に目を通していた。そこには、ガジール辺境伯家の三男チャビエルが群竜討伐に失敗したことが記されていた。

しかし、討伐対象が統率された五十匹以上の群竜であることを突き止め、その情報を持ち帰ったこと自体は成果と評価できるものであった。ファビオ秘書官も、百人規模の兵力では討伐は荷が重く、チャビエルの撤退判断は妥当だったと評した。

アウラ自身も、無理な戦いで若い兵士達を大量に失うよりは、被害を抑えて撤退したチャビエルの判断を評価していた。しかし同時に、この失敗によって群竜討伐の主導権がガジール辺境伯家からプジョル将軍へ移ったことを残念に感じていた。

すでにプジョル将軍率いる精鋭千人規模の部隊は砦へ向かって進軍しており、討伐の主導権は完全に将軍側へ移っていたのである。アウラは、プジョル将軍の能力自体には信頼を置いていたものの、この功績を足掛かりに更なる政治的影響力を得ようとする点を警戒していた。

また、近く来訪するかもしれない双王国の王族達と、プジョル将軍が同席しないで済みそうなことについては、皮肉交じりに安堵していた。

善治郎によるエアコン設置作業

一方その頃、善治郎は後宮の寝室でエアコン設置作業に追われていた。異世界の酷暑の中、侍女達に梯子を支えてもらいながら、壁へエアコンのバックボードを取り付けていたのである。

善治郎は、エアコンのない暑い空間で作業を繰り返す日本のエアコン工事業者の苦労話を思い出し、自分がまさに同じ状況へ置かれていることを実感していた。

侍女達の協力を受けながら、どうにかバックボードの設置を終えた善治郎は、冷蔵庫で冷やした濡れタオルで汗を拭き、生き返ったような感覚を味わう。侍女達にも冷水や冷タオルを自由に使うよう勧め、熱中症対策を徹底させた。

設置のためには、前日に王宮付きの大工を呼び、寝室の壁へ木製の柱と筋交いを追加して補強していた。また、大理石の壁には石工が魔法を用いて排水・配管用の穴を正確に開けており、その技術力に善治郎は感嘆していた。

しかし作業はまだ途中であり、この後は室内機と室外機の設置が残されていた。特に室外機の設置は炎天下の中庭で行わなければならず、善治郎は窓から差し込む強烈な日差しを見ながら、大きく溜息をついていた。

ガラス製造研究の成果

同じ頃、仕事を終えたアウラは王宮後庭にある職人街を訪れていた。そこには、善治郎の知識を元に進められているガラス製造研究のための小屋が建てられていた。

アウラの前に現れたのは、引退した老鍛冶師と若い鍛冶師見習い達だった。彼らは、白砂、焼いた貝殻、天然重曹を高温で長期間加熱することで、ついに液状化した物質を作り出すことに成功したと報告する。

差し出された物体は、緑がかった黒曜石のような不透明な塊であった。しかし太陽に透かして見ると、わずかに光を通しており、確かにガラスの性質を備えていた。

アウラは、この成果だけでも十分過ぎる進歩だと評価し、今後は透明度向上と製法の確立を進めるよう命じる。同時に、現在流用している鉄用の窯では耐久力不足であることから、『耐火煉瓦』開発も平行して進める必要性を認識していた。

職人達は、失敗を咎めず試行錯誤を許容するアウラの姿勢に感謝しながら、新技術の研究へ挑み続ける決意を新たにしていた。

水車改良と年間契約制度

続いてアウラは、水路沿いに設置された小型水車の試験場を訪れた。そこでは、善治郎の助言を基にした新型歯車の耐久実験が行われていた。

善治郎は以前、歯車同士の歯数を『互いに素』にすることで摩耗を均等化できると指摘していた。これを応用した結果、従来型水車は次々破損した一方、新型歯車を組み込んだ水車は高い耐久性を示していた。

職人達は、女王が示した理論が驚異的な成果を上げたことに深く感嘆していた。アウラはその賞賛を受けつつも、本当の発案者は善治郎であることを内心理解していた。

アウラは、この新型歯車を今後王領全体へ導入する方針を示した。しかし職人達は、水車が長持ちすることで修繕仕事が減り、自分達の収入が激減することを不安視する。

そこでアウラは、水車一件ごとの修理依頼ではなく、水車全体の維持管理を年間契約として職人達へ一括委託する制度を提案した。これにより、職人達は一定収入を安定して得られるようになり、水車の長寿命化による急激な没落を避けられるようになる。

職人達は感激し、アウラへ深く感謝した。アウラはその様子を見ながら、善治郎の知識によって王国財政に生まれる余裕を、今後どの分野へ振り向けるべきか考え始めていた。

カルロ=ゼン王子との触れ合い

その日の夕刻、善治郎とアウラは、愛息カルロ=ゼン王子の部屋で顔を合わせていた。善治郎は普段、南大陸西方語を十分に話せないため、王子の言語習得へ悪影響を与えないよう長時間部屋へ滞在することを避けていた。

王子の部屋は本来より狭く仕切られており、氷塊を団扇であおいで冷気を循環させることで室温を下げていた。酷暑の中でもその部屋だけは比較的涼しく保たれており、侍女達にとっても人気の仕事場となっていた。

アウラは乳母の許可を得てカルロ=ゼン王子を抱き上げ、頬を撫でられながら幸せそうな表情を浮かべる。善治郎も我慢できずに近づき、唯一発音を許されている南大陸西方語で、善吉、パパだよーと繰り返し語りかけた。

しかしアウラは、カルロスはママが一番好きだと善治郎をからかい始める。対抗心を燃やした善治郎は、必死に大声で善吉、パパだよーと叫びながら息子へ近づいたが、その勢いに驚いた王子は大泣きしてしまった。

アウラや侍女達はその光景に笑いを堪えきれず、善治郎は憮然とした表情で部屋を後にする。後から戻ってきたアウラも笑い続けたため、善治郎は仕返しとしてアウラへ覆い被さり、脇腹や首筋をくすぐり回した。夫婦はそのまま、侍女が入浴準備完了を知らせに来るまで、仲睦まじくじゃれ合い続けた。

エアコン完成と夫婦の団欒

入浴後、善治郎とアウラは寝室へ向かい、ついに完成したエアコンの様子を確認した。善治郎が扉を開けると、そこには酷暑の王国では考えられないほど冷えた空気が広がっていた。

アウラは冷風へ手をかざしながら、照明や冷蔵庫以上の衝撃だと感嘆する。一方で善治郎は、部屋が広すぎることや建物の気密性不足を理由に、昼間は十分な冷却性能を発揮できないかもしれないと不満を漏らした。

さらに善治郎は、設置方法に問題があった場合、数日後に故障する危険もあると不安を口にする。もし故障した場合には、時間遡行魔法による修復が必要になるため、簡単にはやり直せない状況であった。

それでもアウラは、明日には寝室へ椅子や机を搬入し、生活の中心をこの部屋へ移すつもりでいるほどエアコンを気に入っていた。善治郎はその様子に苦笑しつつも、自分の努力が報われたことを実感していた。

善治郎とアウラの技術談義

ベッドに腰掛けた二人は、昼間に進められていた技術開発について語り合う。善治郎は、一日中エアコン設置作業へ追われていたため、石けんや蒸留酒作りへ手を回せなかったことを残念がっていた。

アウラは、善治郎が国へ利益をもたらす技術を次々と提案していることを評価し、仕事量を減らしてでも開発へ集中してよいと告げる。しかし善治郎は、今後アウラが再び出産する際に備え、自分も王宮業務へ慣れておく必要があると主張し、責務から逃げるつもりはないと答えた。

その後、アウラはガラス製造研究の成果を報告する。鍛冶師達は、まだ黒ずんだ粗雑な代物ではあるものの、確かにガラスと呼べる物質の生成に成功していた。善治郎はその成果を素直に称賛しつつ、今後は耐火煉瓦の製造や、砂から鉄分を除去する工程が重要になると指摘した。

さらに、電磁石による鉄分除去の可能性についても話題となり、善治郎は銅線や銀線を巻いた簡易電磁石の構想を説明する。アウラは、銀細工師を動員して実験に必要な素材を準備すると約束した。

また、水車の歯車を互いに素にするという善治郎の発想が予想以上の成果を挙げていることも伝えられる。新型歯車は従来型より遥かに長持ちし、水車維持費削減による余剰資金まで生み出していた。

善治郎は、自分の知識が役立っていることを喜びつつも、アウラが王としての視点から予算運用を考えている様子に、改めて女王としての迫力を感じ取っていた。

双王国来訪への備え

話の最後にアウラは、シャロワ=ジルベール双王国からフランチェスコ王子とボナ王女がすでに出立したことを伝える。順調ならば一か月ほどで到着予定であり、その後は善治郎もアウラも王族対応に追われる日々になると説明した。

善治郎はその事実に驚きつつも、覚悟を決めて頑張ると答える。やがて携帯電話のアラームが鳴り、二人は就寝準備へ移った。

善治郎はエアコンを睡眠用設定へ切り替え、寝室の照明を落とす。完全な暗闇の中、二人は自然に手を繋ぎ、口づけを交わし、互いの体温を感じながら静かに眠りへ落ちていった。双王国の来訪によって大きな政治的変動が訪れることを理解しながらも、その夜だけは夫婦として穏やかな安らぎを共有していたのであった。

付録 主と侍女の間接交流

後宮侍女達の善治郎評

後宮で働く侍女達は、善治郎を非常に扱いやすい主だと評価していた。善治郎は理不尽な命令を出さず、事情を説明すれば叱責も少なく、仕事を終えた相手へ感謝の言葉を忘れない。その積み重ねが、侍女達にとって居心地の良い環境を形成していた。

一方で不満も存在していた。特に侍女達が共通して抱いていた不満は、善治郎の異常な風呂好きである。後宮の巨大な浴室は頻繁な使用によって常に掃除が必要であり、侍女達は重労働を強いられていた。

浴室掃除と問題児三人組

その日も侍女達は浴室掃除へ追われていた。小柄なフェーと長身のドロレスは、腰の痛みを訴えながら口喧嘩を始める。しかし浴室担当責任者オラジャが冷水を浴びせ、無言の圧力で二人を制止した。

オラジャは寡黙で無表情な中年侍女であり、仕事ぶりを厳格に観察して失格者を切り捨てることで恐れられていた。問題児三人組と呼ばれるフェー達でさえ、彼女の前では緊張を隠せなかった。

しばらく無言で掃除を続けていたフェーは、普段のんびり屋のレテが異常に真面目に働いていることへ気付く。理由を尋ねると、今日は三ヶ月に一度の後宮商人訪問日であり、買い物へ出遅れるわけにはいかないからだと教えられる。

その事実を思い出した問題児三人組は、大急ぎで掃除を終え、後宮の外縁部にある商人用の建物へ向かった。

後宮商人との買い物

建物へ到着した三人は、すでに買い物を済ませた他の侍女達とすれ違い、出遅れたことを悔しがる。部屋の中では、後宮総責任者アマンダ侍女長が近衛兵達を従え、厳しい視線で場を監督していた。

商人はフェー達の名前を即座に呼び、笑顔で商品を勧める。反物や櫛、髪飾りなどを前に、三人は目を輝かせながら買い物を楽しんだ。普段は礼儀に厳しいアマンダも、この場では若い侍女達の楽しみを黙認していた。

やがて商人は、銀製の香油瓶を並べ始める。若い侍女達は高級品に驚くが、アマンダはそれらが善治郎からの贈り物であると説明した。フェー達は歓声を上げ、それぞれ好みの香油瓶を選び始める。

しかしアマンダは、香油の半分は善治郎が試作している石けんへ混ぜ、使用感を報告するよう命じた。善治郎は石けん作りへ熱心に取り組んでいたが、完成品にはまだ油臭さが残っており、高級香油で改善を試みていたのである。

問題児三人組は最初こそ不満げだったが、アマンダの冷たい視線に押され、素直に従うことを約束した。

商人の思惑と善治郎の価値

若い侍女達が退出した後、アマンダは商人へ礼を述べる。本来なら王室御用達の大商人が、侍女達向けの安価な商品販売を行うことは割に合わない行為だった。

しかし商人は、善治郎との取引によって地球由来の技術知識を得られることへ大きな価値を見出していた。平たい四つ穴ボタンやねじ釘、ポンプ構造など、善治郎が何気なく見せた文明品は、この世界にとって革新的な発明の種となり得たのである。

商人はそれらを将来的な利益へ結びつける野心を胸に秘めつつも、表面上は恭しく礼を述べ、今後も善治郎との関係を続けたいと語るのであった。

侍女達の入浴文化と善治郎の影響

善治郎の風呂好きは、侍女達から不評を買っていた。理由は掃除や湯炊きの負担だけでなく、善治郎が異世界人としての入浴習慣を半ば強制的に侍女達へ推奨していたためである。本来、この国では湯浴みより水浴びが一般的であり、毎日熱い湯へ浸かる文化は浸透していなかった。

しかし一年が経過し、侍女達の中にも入浴へ慣れ始める者が増えていた。特に浴室担当となったフェー、ドロレス、レテの問題児三人組は、夜更けになってから仕事を終え、自分達だけの入浴時間を楽しもうとしていた。

三人それぞれの入浴観

フェーは相変わらず風呂嫌いであり、暑苦しい浴室へ入るなり水風呂へ直行しようとする。しかしドロレスとレテに止められ、まず湯で身体を洗うよう説得された。

レテは元々風呂好きであり、善治郎の入浴推奨へ最も自然に馴染んでいた。一方ドロレスは、好きではないものの、湯で身体や髪を洗う方が清潔になるという実利を理解していた。

三人は脱衣室で裸になると、最近善治郎から使用許可が下りたLEDランタンを灯す。液体石けんによって浴室の床が滑りやすくなったため、安全対策として明るい照明が必要になっていたのである。

香油入り石けんの試用

三人は浴室へ入り、液体石けんへ今日手に入れた香油を混ぜ始める。フェーは香角竜、ドロレスは水竜石、レテはペパーミントの香油を選んでいた。

香油瓶を交換し合いながら香りを楽しむ様子は、年頃の少女らしい賑やかなものだった。しかし本来の目的は、善治郎が試作している液体石けんの油臭さを消すことにあった。

三人はもったいないと嘆きながらも、少しずつ高級香油を石けんへ加えていく。やがて石けんの臭いが完全に消えるまで香油を混ぜ終えると、香油瓶の中身は十分の一ほど減ってしまっていた。

しかしその効果は絶大だった。石けんで洗った肌は滑らかになり、香油の香りも心地よかったため、特にレテはすっかり魅了されていた。

麝香の香油と侍女達の興奮

湯船へ浸かりながら、三人は別班のカリナが手に入れた香油について話し始める。カリナが選んだのは、北大陸から運ばれる超高級香料「麝香」だった。

麝香は大型哺乳類が存在しない南大陸では極めて希少であり、大陸間貿易でしか入手できない高級品であった。その価値を知るフェー達は大興奮し、後で必ず貸してもらおうと盛り上がる。

その後、暑さに耐えかねたフェーは水風呂へ移動し、犬かきを始める。ドロレスとレテも水風呂へ移ったが、レテは何かを忘れている気がすると首を傾げる。

やがて三人は同時に、その忘れていたことを思い出した。時間が遅くなりすぎた結果、そろそろ上級侍女達の入浴時間になっていたのである。

上級侍女達との遭遇

次の瞬間、浴室の扉が開き、アマンダ侍女長を先頭に、イネス、ヴァネッサ、エミリア、オラジャら後宮を統括する上級侍女達が姿を現した。

問題児三人組は慌てて退出しようとするが、アマンダはそれを許さなかった。善治郎からいつ呼び出しがかかるか分からない以上、身体や髪の手入れをきちんと覚える必要があるとして、上級侍女達による入浴指導が始まる。

楽しかった若者だけの入浴時間は、こうして緊張感漂う指導の場へ変貌してしまうのだった。

ヒモ生活2巻レビュー
【理想のヒモ生活】あらすじ・ネタバレ・まとめ
ヒモ生活4巻レビュー

同シリーズ

理想のヒモ生活 シリーズ

小説版

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理想のヒモ生活 2巻
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理想のヒモ生活 3巻
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理想のヒモ生活 4巻
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理想のヒモ生活 5巻
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理想のヒモ生活 6巻
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理想のヒモ生活 7巻
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理想のヒモ生活 8巻
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理想のヒモ生活 9巻
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理想のヒモ生活 10巻
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理想のヒモ生活 11巻
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理想のヒモ生活 12巻
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理想のヒモ生活 13巻
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理想のヒモ生活 14
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理想のヒモ生活 15

漫画版

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理想のヒモ生活 17巻
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理想のヒモ生活 18巻
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理想のヒモ生活 19巻
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理想のヒモ生活 20巻
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理想のヒモ生活 21巻
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理想のヒモ生活 22巻
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理想のヒモ生活 23巻
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理想のヒモ生活 24巻

その他フィクション

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