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フィクション(Novel)理想のヒモ生活読書感想

小説「理想のヒモ生活 15巻」アウラの魔法でヤンが復活⁉ 感想・ネタバレ

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フィクション(Novel)
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どんな本?

■ 作品概要

理想のヒモ生活」は、異世界における国家間の重厚な外交交渉や政治的駆け引き、そして王族や使用人たちの日常を描いたファンタジー小説である。

物語は、現代日本から召喚され南大陸カープァ王国の王配となった善治郎と、ウップサーラ王国の次期国王ユングヴィ王子が、神秘に包まれた北方五か国の都市「ウトガルズ」に招かれるところから始まる。善治郎はウトガルズの代表ロックから、巨人族の住む異界『ウートガルザ』への移動手段の確立を依頼され、他国の干渉を防ぐために独断で独占貿易契約を結ぶ。 一方、北大陸では絶大な権力を持つ宗教組織『教会』が、彼らを批判し続けていたヤン司祭を火刑に処す。この情報を得たカープァ王国の女王アウラは、将来確実に起こり得る北大陸からの侵略戦争への時間稼ぎとして、カープァ王家の秘匿魔法『時間遡行』を利用し、焼け焦げたヤン司祭の遺骨から彼を蘇生させるという恐るべき策謀を実行に移す。 血統魔法を重視する南大陸と、造船や製鉄などの科学技術が発展する北大陸という異なる文明圏が交錯する中、国家の存亡を懸けた暗躍と技術獲得競争が繰り広げられる世界観となっている。

■ 主要キャラクター

  • 善治郎・ビルボ・カープァ:現代日本から召喚されたカープァ王国王配。争いごとを好まない小市民的な性格だが、愛する家族と国を守るため、避けられない戦争の未来を受け入れて覚悟を決める。血統魔法『瞬間移動』を駆使して南北大陸を飛び回り、ウトガルズとの交渉やヤン司祭蘇生計画の裏方など、外交の最前線で不可欠な役割を担う。
  • アウラ・カープァ:カープァ王国の女王であり、善治郎の正妻。大国の君主として極めて優秀で、冷徹かつ現実的な判断を下す。北大陸の脅威に対抗するため、自国の強化を進めつつ、ヤン司祭を蘇生させて北大陸内部に混乱の種をまくという、大胆で容赦のない謀略を仕掛ける。
  • フレア・アルカト・カープァ:ウップサーラ王国元第一王女であり、善治郎の側室。未知への探求心が強く、アルカト公爵として新たな国際貿易港の開発を目指す。予算不足を補うため、北大陸の進んだ技術(繊維の洗浄や脱色など)を活用した新たな事業の立ち上げを画策する。
  • ユングヴィ・ウップサーラ:ウップサーラ王国の第二王子にして次期国王。野心家で徹底した実利主義者。自国の国力増強を至上命題としており、時空魔法を持つカープァ王国との結びつきを確固たるものにするため、カープァ王国の高位貴族の娘(ミレーラ)を第二夫人として迎えようと精力的に動く。
  • ヤン司祭:ボヘビア王国の大学竜学部長。現在の『教会』(爪派)の教義を批判し続けたため火刑に処されたが、アウラの魔法によって蘇生する。高い知性と強固な信念を持ち、蘇生後も自身の主張を曲げずに『教会』を非難する声明を出し、北大陸に大きな波紋を呼ぶ。
  • ヤン隊長:ヤン司祭に心酔する隻眼の傭兵隊長。司祭の処刑に深い絶望と復讐心を抱くが、アウラからの「亡骸を修復できる」という提案を受け入れ、危険を冒して『教会』から遺骨を奪還する。蘇生したヤン司祭を護衛し、共に北大陸へと帰還する。

■物語の特徴

本作の最大の魅力は、魔法による単純な武力行使での無双劇ではなく、国家の国益や技術格差、宗教問題を絡めたリアルでシビアな「外交戦・情報戦」が物語の主軸となっている点である。 第15巻では、いずれ訪れる北大陸からの侵略戦争(応戦)という避けられない未来に向け、カープァ王国がいかにして自国を強化し、敵国の足を引っ張るかが詳細に描かれる。特に、奇跡とも呼べる『死者蘇生』の魔法を、人助けのためではなく「敵対勢力内部に混乱を起こすための政治的カード」として冷徹に利用する女王アウラの策謀は、読者に強い緊張感と驚きを与える。 その一方で、善治郎と妻たちとの愛情深いやり取りや、文化の異なる後宮の侍女たちが窓ガラスの掃除を通じて交流を深める姿など、ユーモアと温かみのある日常描写も丁寧に織り交ぜられている。血生臭い政治的駆け引きと、平和で穏やかな家族・生活の風景が絶妙なバランスで共存している点が、他作品にはない本作ならではの差別化要素であり、強く惹きつけられるポイントである。

読んだ本のタイトル

理想のヒモ生活 15
著者:渡辺 恒彦 氏
イラスト:文倉 十  氏

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あらすじ・内容

アニメ化企画進行中! シリーズ累計470万部突破の大人気シリーズ。最新巻では女王と側室がバチバチ!? 「迎え撃とう!」

善治郎とユングヴィ王子は、神秘のヴェールに
包まれた都市ウトガルズへと招かれた。
氷原の中にある都市ウトガルズで二人を迎えたのは、
ウトガルズの王とも言える代表のロック。
ロック代表は善治郎に、一つの依頼をする。
巨人族が住む異界『ウートガルザ』への移動手段を確保してほしい、と。
交渉を重ねた末、善治郎は独断でその申し出を受け入れる。
ウトガルズから帰国を果たしたユングヴィ王子は、
父のグスタフ王に自分の第二夫人として
カープァ王国の女性を迎えるよう訴える。
カープァ王国と善治郎の価値を認めたグスタフ王は、
次期国王であるユングヴィ王子の側妃を
南大陸のカープァ王国から迎えることを許可する。
一方、北大陸では、『教会』は再三の警告を無視し、
自分たちへの非難と独自の「竜の教え」を説くことをやめない
ヤン司祭をついに拘束していた。
傭兵ヤンは救出のために動くが間に合わず、ヤン司祭は火刑に処された。
そんなある日、復讐の念に燃える傭兵ヤンに届けられた一通の書状。
その書状には「火刑に処された亡骸を、魔法で完全な形に修復し、
清めることができる」と記されていた。
竜信仰者にとって、火は竜罰の象徴。
焼け焦げた亡骸を癒やすことは、信仰上大きな意味がある。
書状を信じた傭兵ヤンが、指示に従い向かった先で待っていたのは女王アウラ。
女王アウラは傭兵ヤンに告げる。
「死体を私のところに持ってくれば、修復してやろう」
女王アウラの言葉を信じ、ヤン司祭の亡骸を奪取してきた傭兵ヤン。
約束通り、亡骸に『時間遡行』の魔法を施す女王アウラ。
その結果は「ヤン司祭の死体の修復」ではなく、思いもよらないものだった。

理想のヒモ生活 15
ヒーロー文庫

感想

女王アウラと側室のフレアの関係はかなり良好な模様。素でお互いに話が出来ている。

そんな2人の夫のゼンジロウは、、

ウトガルズ

フレアの双子の弟、ユングヴィと共に高度な魔法技術を持っている秘密に包まれた国、ウトガルズへと招待される。

空飛ぶトナカイが引く箱ソリに乗ってウトガルズへと向かうゼンジロウ。
空に飛んでいる事に愕然とするユングヴィに対してゼンジロウは、現代で飛行機に乗っていたので空の旅には慣れていた。

それを不審に思うユングヴィ、、
まさか、自身が別の世界から来たと言えないのではぐらかそうとするが、、
迂闊な事を言って墓穴を掘りまくるゼンジロウ。

そんな義理の兄弟の戯れをしながらも、無事にウトガルズへと到着。

ウトガルズの代表の巨漢、ロックと対談。

ロックの要望は異世界に行く方法を探して欲しいと言う。
巨人の国ウートガルザへと行きたいらしく、ウートガルザと交易して、永年研鑽した魔法技術を巨人達に売り込みたいらしい。
そういう要望を聞いて、ゼンジロウは返事をアウラと協議した後に返すと言って終わろうとしたのだが、、
ウトガルズのガラス加工の技術が高いため、双王国に取引されないために、ゼンジロウは独断でウトガルズとの独占交渉を決めてしまう。
後々にこの件でアウラと話し合うのだが、、

ウトガルズも気が長いので話は受ける方向で向かう。

ロックとの会見を終えて、ゼンジロウはユングヴィと共にカープァ王国へ戻り。
ユングヴィの側室候補のお見合いパーティーを開催して、マルケス伯爵の姪のミレーラが側室として内定する。

ちなみに、ユングヴィの正室は誰か決まっていない状態。
ただ、南大陸から嫁いで来る他大陸の側室を差別しない者を正室にしないといけない。

ヤン司祭

北方大陸では、長く教義を批判して、独自の”竜の教え”を説いていたヤン司祭が火刑に処されて死亡してしまった。

土葬が当たり前の宗教の司祭を火刑に処した。
魂の尊厳を踏み躙る最も惨たらしい刑。
ヤン司祭を助けようと動いていた傭兵のヤンだったが、、
間に合わずに悔しさと、ヤン司祭を火刑にした恨みで自棄になりそうになっていた時。
ゼンジロウから依頼された傭兵から傭兵ヤンに秘密裏に接触があり。

火刑に処されて灰になってしまったヤン司祭の遺骸を綺麗に治して、土葬出来るようにしてやると連絡。

傭兵ヤンは、ヤン司祭の亡骸の骨と灰を教会から回収。

それをアウラが、時間遡行を使用して処刑される前まで遡らせたら、、
ヤン司祭は蘇生した。

奇跡が起きて生き返ったヤン司祭。
その後、ヤン司祭は自身を火刑に処した教会を批判。
火刑されたヤン司祭が、教会に火刑にされたと批判。
コレが北方大陸で戦乱の火種となった。

だがコレは、、
アウラとゼンジロウの謀略の一環だった。
北方から大陸間航行が出来るようになった北方大陸。

“白の帝国”の系譜を絶対に許容しない教会を国教にしている連中が白の帝国の子孫の双王国が見つかったら確実に戦争になる。

このままでは南大陸は侵略され、抵抗が出来ない状態。
時間を稼いで、カープァ王国も大陸間航行が出来る船を生産出来るようにする。
そのためにも時間が必要。

その時間稼ぎの一環に、教会に殺された、魔力を一切持たないヤン司祭を時間遡行の魔法で蘇生させ。

北方大陸中で足を引っ張り合いをしてもらい、少しでも遅く南方大陸に進出させるために、、

アウラとゼンジロウは、ヤン司祭を利用した。

ヤン司祭がとあるビックな宗教の象徴の人と似ているようなきがする。。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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ヒモ生活14巻レビュー
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考察・解説

ウトガルズとの国交

『理想のヒモ生活 15』における「ウトガルズとの国交」は、未知の高度な魔法文明との接触であると同時に、同盟国とのパワーバランスをも見据えたシビアな外交交渉の舞台として描かれている。

ウトガルズとの国交について、以下の4つのポイントから解説する。

1. ウトガルズの概要と交渉の発端

北大陸の氷原に存在する「ウトガルズ」は、神秘のヴェールに包まれた都市であり、住民は巨人族の末裔を自称している。

・彼らは血統魔法とは異なる、極めて高度な「魔法文字」の技術を基盤とした文明を築いている。
・空飛ぶ箱ソリや巨大な城壁、そして透明度の高いガラスなどを有している。
・百余年ぶりに他国との接触を図ったウトガルズの代表・ロックは、カープァ王国王配である善治郎と、ウップサーラ王国第二王子ユングヴィを招き入れ、交渉の端緒を開いた。

2. ウトガルズの狙いと異界ウートガルザ

ロック代表が善治郎を招待した最大の目的は、カープァ王家が有する「時空魔法」を用いて、巨人が住む異界ウートガルザへの移動手段を確立することであった。

・ウトガルズは、魔法文字の効果を十全に発揮させる「魔堆岩(またいがん)」という物質に依存して文明を維持しているが、その大氷河地下の埋蔵量が枯渇しつつある。
・巨人は巨大ゆえに細かな魔法文字を刻むのが人間より苦手である。
・そのため、ロック代表は人間が磨き上げた「魔法文字を刻む技術」を対価として、異界の巨人と魔堆岩を取引できると目論んでいた。

3. 善治郎の独断による独占貿易契約とその狙い

善治郎は、超大国であると予想される巨人族との直接取引のリスクを避けるため、ウートガルザとの交易をすべてウトガルズ経由にすることを提案した。

・その見返りとして、今後ウトガルズが新規に接触する国や組織との窓口をカープァ王国に一任させるという、事実上の「独占貿易契約」をその場で結ぶ。
・善治郎がこの越権行為スレスレの即決を行ったのは、同盟国であるシャロワ・ジルベール双王国がウトガルズと直接取引するのを防ぐためである。
・ウトガルズの優れたガラス製造技術(ビー玉製造能力)を双王国が得てしまうと、カープァ王国の「ビー玉供給」という優位性が失われ、同盟における力の均衡が崩れてしまうことを危惧したためであった。

4. 契約の締結と女王アウラの評価

善治郎は異世界移動の手段確立には100年単位の時間がかかると正直に告げたが、ロック代表はそれを承諾し、将来的には「白の帝国」の遺産である「契約の魔道具」を用いて正式な魔法契約を結ぶことで合意した。

・帰国後、報告を受けた女王アウラは、双王国を牽制した善治郎の判断自体は正しかったと評価する。
・しかし同時に、王配が単独で即出して国家間契約をまとめたという事実が他国に知れ渡れば、今後の外交において扱いやすい善治郎への圧力が強まるという大きな懸念を指摘した。
・これにより、善治郎に深く反省を促す結果となった。

まとめ

ウトガルズとの国交は、世界の根幹に関わる未知の技術や異世界への扉を開くロマンあふれる出来事である一方、自国の優位性を保つために同盟国すらも牽制しなければならないという、国家間の冷徹な駆け引きを描く重要なエピソードとなっている。

魔法文字と魔堆岩

『理想のヒモ生活15』における「魔法文字と魔堆岩」は、未知の都市ウトガルズの文明を支える根幹技術とその必須資源であり、異世界との交易や国家間の駆け引きの核となる重要な要素として描かれている。

「魔法文字と魔堆岩」について、以下の4つのポイントから解説する。

1. 巨人から受け継ぎ磨き上げた技術である魔法文字

ウトガルズの文明を支える「魔法文字」は、かつて異世界ウートガルザで巨人族から教えられた高度な魔法技術である。

・魔法文字は、正確に刻まれてさえいれば文字の大きさは効果に一切寄与しないという特性を持っている。
・そのため、巨大な指で細かな文字を刻むのが苦手な巨人よりも、小さく器用な人間の方がこの作業に圧倒的に向いていた。
・ウトガルズの人々は、巨人の元を離れこちらの世界に移住してから今日に至るまで、自分たちのために魔法文字を刻む技術を独自に磨き上げ、発展させてきた。

2. 魔法文字の真価を引き出す資源である魔堆岩の枯渇

魔法文字は、単なる翻訳機能程度であれば刻む素材を問わないが、本来の強力な効果を十全に発揮させるためには、「魔堆岩」または「純魔力物質」という特別な物質に刻む必要がある。

・しかし、ウトガルズが位置する大氷河の地下に堆積していた魔堆岩はすでに底が見え始めている。
・魔堆岩の枯渇は、魔法文字を技術的基盤とするウトガルズにとって、国家の寿命そのものに関わる死活問題となっている。

3. 異世界ウートガルザとの交易構想

魔堆岩の枯渇という危機を脱するため、ウトガルズのロック代表はカープァ王家の「時空魔法」に着目し、巨人が住む異世界ウートガルザへの移動手段の確立を依頼した。

・ロック代表は、ウートガルザに潤沢にあると思われる魔堆岩を輸入する見返りを考える。
・ウトガルズの人間が長年磨き上げてきた、高度な魔法文字を刻む技術、を取引材料として提示できると目論んでいる。

4. 魔堆岩の存在範囲と南大陸の謎

ウートガルザへの移動手段確立には数百年単位の時間がかかるため、ウトガルズは並行してこちらの世界での魔堆岩の探索も行う予定である。

・ロック代表は魔堆岩の存在可能性がある場所として北方五か国や教会の聖地を挙げる。
・その一方で、カープァ王国のある南大陸には絶対に存在しない、と断言している。
・その理由は一切明かされず、ご自身で調べるようにと突き放されており、世界の成り立ちや過去の歴史に関わる大きな謎を残している。

まとめ

「魔法文字と魔堆岩」は、南大陸の血統魔法や北大陸の科学技術とは異なる、第三の高度な文明の存在を示すと同時に、資源の枯渇という現実的な問題を浮き彫りにしている。この資源を求めてウトガルズがカープァ王国に接触したことで、異世界への扉が開かれる可能性が生じ、物語のスケールをさらに広げる重要な鍵となっている。

巨人族の伝承

『理想のヒモ生活 15』における「巨人族の伝承」は、神秘の都市ウトガルズのルーツや、彼らが持つ高度な「魔法文字」の技術の根源を明らかにする重要な要素として描かれている。

巨人族の伝承について、以下の4つのポイントから解説する。

1. 巨人族の実在とウトガルズの伝承

ウトガルズの住民は巨人族の末裔を自称しているが、当代の代表ロックは、人間と巨人では体格が違いすぎるため交配は不可能だったと考えている。

・しかし、ウトガルズにある巨大な神殿や家具が残されている。
・持ち手がすり減った巨人用の武器といった物的証拠も存在する。
・これらの証拠から、かつてこの地に巨人が実在し、人間と共に生活していたことは間違いないとされている。

2. 幻影魔法による姿の継承

歴代のロックは、血統魔法である「幻影」を用いて巨人の姿を後世に伝えている。

・善治郎たちが見せられた幻影の巨人は、神話の神々を彷彿とさせる均整の取れた美男美女であった。
・しかし、ロック自身は、崇拝の対象として何世代にもわたるうちに術者の願望によって美化されてきたのだろうと推測している。

3. 人間が求められた理由と魔法文字

伝承によれば、人間が巨人にすり寄ったのではなく、高度な魔法文明を築いていた巨人側が人間を必要としたとされている。

・魔法の根幹をなす「魔法文字」は、大きさに関わらず正確に刻むことで効果を発揮する特性を持つ。
・そのため、巨大な指を持つ巨人よりも小さく器用な人間のほうが作業に圧倒的に向いていた。
・結果として、人間は巨人のために魔法文字を刻む有益な被支配種族(家畜)として配下に組み込まれたと伝えられている。

4. 善治郎が提唱した人間小人説

幻影の巨人が、人間世界ではあり得ないほど巨大な宝石や衣服を身につけているのを見た善治郎は、ある推論を立てた。

・巨人の住む異界ウートガルザでは動植物すべてが巨大であり、巨人が巨大なのではなく、移住した人間たちこそが小人と呼ばれる存在なのではないか、という説である。
・ロックも、巨大な宝石が人間の世界と同じくらいの希少性(価値)で成立している点などから、善治郎の説は非常に筋が通っていると高く評価している。

まとめ

「巨人族の伝承」は、単なる過去の神話にとどまらず、ウトガルズの人々が今日まで「魔法文字」を正確に刻む技術を独自に磨き続けてきた歴史的背景そのものである。この伝承に基づく高度な手先の技術こそが、魔堆岩の枯渇という国家の危機を救うため、異界ウートガルザの巨人たちと対等な取引を行うための最大の武器になると目論まれている。

ヤン司祭の蘇生

『理想のヒモ生活15』における「ヤン司祭の蘇生」は、女王アウラがカープァ王家の秘匿魔法を用いて仕掛けた恐るべき謀略であり、北大陸の宗教勢力に大きな混乱を呼ぶ重要なエピソードとして描かれている。

ヤン司祭の蘇生について、以下の4つのポイントから解説する。

1. 時間稼ぎのための冷徹な謀略と魔力を持たない特異体質

女王アウラの目的は、北大陸の教会勢力内に混乱を起こし、将来起こり得る南大陸への侵略を遅らせるための時間稼ぎである。

・アウラは、教会と対立して火刑に処されたヤン司祭が、極めて稀な「魔力を一切持たない人間」であることに着目した。
・カープァ王家の秘匿魔法「時間遡行」は、魔力を持たない生物の死体にかけることで蘇生をもたらす可能性がある。
・アウラはこの希望的観測に基づき、彼を蘇らせて北大陸に送り返すという大胆な計画を立案した。

2. 傭兵ヤン隊長との密約と遺骨の奪還

アウラは、ヤン司祭に心酔する傭兵のヤン隊長に対し、亡骸を完全な形に修復し、清めることができる、という書状を送り接触を図る。

・竜信仰において火葬は最悪の埋葬法であり、元の姿に戻せるという提案はヤン隊長にとって復讐よりも優先すべき希望であった。
・アウラは黒焦げの兎の死体を時間遡行で修復する実演を見せて彼を信用させる。
・これにより、ヤン隊長に教会からの遺骨奪還を約束させた。

3. 未来代償を用いた奇跡の現出

ヤン隊長が命がけで持ち出した炭化した骨片に対し、女王アウラは、未来代償の魔道具に長期間貯蔵していた膨大な魔力を解放し、大規模な時間遡行を行使する。

・対象の時間を五十三日巻き戻した。
・光に包まれた遺骨は生前のヤン司祭の姿へと戻り、体温や脈拍、呼吸を取り戻して完全に生者として蘇生する。
・アウラは狙い通りの結果に内心歓喜しつつも、ヤン隊長にはあくまで、死体を修復しただけだが予想外に生き返った、という体裁を取り繕い、自身の底知れなさを隠し通した。

4. 記憶の空白の対処と北大陸の動乱

蘇生したヤン司祭には五十三日間の記憶の空白があり、これが偽物と断じられる隙になり得た。

・しかしヤン隊長の提案により、自説を曲げないヤン司祭は事実に即した主張を貫き、情報収集で空白を補うこととなる。
・アウラは彼らにカープァ王国の関与を隠蔽させたうえで、瞬間移動を用いて北大陸へと送り返した。
・結果として、処刑されたはずのヤン司祭の生存を巡り、教会と彼を支持するボヘビア王国の大学が真っ向から対立する。
・目論見通り、北大陸に大きな波紋を呼ぶことになった。

まとめ

「ヤン司祭の蘇生」は、奇跡とも呼べる魔法の力を人助けのためではなく、敵国に混乱の種をまくための政治的カードとして冷徹に利用する女王アウラの策謀の恐ろしさを象徴するエピソードである。この結果生じた北大陸の動乱は、南大陸が自国を強化するための貴重な時間を生み出し、両大陸の対立をさらに複雑化させる要因となっている。

北大陸の技術導入

『理想のヒモ生活15』における「北大陸の技術導入」は、魔法以外の多くの分野で進んでいる北大陸の技術を南大陸(カープァ王国)に吸収し、迫り来る戦争の脅威に対抗するための国家生存戦略として描かれている。

北大陸の技術導入について、以下の4つのポイントから解説する。

1. 造船・港湾技術の導入によるインフラ整備

カープァ王国は、ウップサーラ王国から造船やその関連道具を作れる優秀な職人たちを招聘し、港湾インフラの整備を進めている。

・ワレンティア港には南大陸には存在しなかった巨大な木製クレーンが建設された。
・大陸間航行船である黄金の木の葉号を修繕するための大型の乾ドックの建造も進行している。
・また、将来的な防衛や交易を見据え、フレア姫が治めるアルカトをワレンティアに次ぐ第二の国際貿易港として開発する計画も動き出している。

2. 大陸間航行船による終戦の主導権の確保

女王アウラが造船技術の導入を急ぐ最大の理由は、北大陸からの侵略に備えるためである。

・戦争において、やめたい時にやめられる、という終戦の主導権は極めて重要である。
・しかし、現在は大陸間航行船を持つ北大陸側だけが海を渡って一方的に撤退できる有利な状況にある。
・南大陸側も独自に大陸間航行船を製造・運用し、北大陸本土へ反撃できる脅威を示す。
・この非対称な状況を打破し、侵略を牽制することが技術導入の最大の目的とされている。

3. ガラス職人の招聘と魔道具量産の基盤固め

カープァ王国は同盟国である双王国に戦闘用魔道具の媒体となる「宝玉(ビー玉)」を供給することで対等な関係を維持している。

・善治郎は、ウトガルズに高品質なガラスが存在することを知る。
・双王国がウトガルズと直接取引してビー玉を自給してしまうのを防ぐため、越権行為すれすれでウトガルズとの独占貿易契約を結んだ。
・同時に、ヤン司祭蘇生の目くらましも兼ねて、北大陸の技術革新に取り残された初老のガラス職人を秘密裏に招聘した。
・これにより、自国内での透明なガラス製造の基盤固めを図っている。

4. 繊維の洗浄・脱色技術による新規事業の創出

アルカト港開発のための独自財源を求めるフレア姫に対し、善治郎は北大陸の、糸や布の白さ、に着目した事業を提案する。

・北大陸の職人を少数招聘し、南大陸で調達できる物資だけで脱色技術を再現させる。
・その技術を既存の商会に提供して継続的な技術料を得るというビジネスモデルである。
・これにより、自国業者との摩擦を避けつつ利益を上げることが可能となる。
・アウラも染色技術ではなく再現性の高い洗浄・脱色技術に特化して進めることを承認した。

まとめ

「北大陸の技術導入」は、単なる文明の進歩にとどまらず、南大陸の劣勢を覆すためのシビアな軍事・外交カードとして機能している。造船技術による国防の要の構築、魔道具量産のためのガラス技術の保護、そして港湾開発資金を生むための繊維技術のビジネス化など、輸入した技術を自国の国益と防衛に直結させる現実的な国家運営が描かれている。

大陸間航行船の整備

『理想のヒモ生活14』における「大陸間航行船の整備」は、迫り来る北大陸の脅威に対抗するための国防の要であり、国家の生存戦略と直結する重要な事業として描かれている。

大陸間航行船の整備について、以下の4つのポイントから解説する。

1. 終戦の主導権を握るための国防上の急務

女王アウラは、戦争においてやめたい時にやめられるという終戦の主導権を握ることが極めて重要であると分析している。

・現在、海を越えられる大陸間航行船を保有しているのは北大陸のみである。
・そのため、彼らは不利になれば船を引き上げるだけで一方的に撤退できる有利な状況にある。
・この非対称な状況を打破し、北大陸本土へ反撃できる脅威を示すことで侵略を牽制する。
・そのために南大陸側(カープァ王国)も独自に大陸間航行船を製造・運用することが国家の急務となっている。

2. ワレンティア港での大型ドック建設と技術導入

カープァ王国最大の港であるワレンティア港では、ウップサーラ王国から招聘した職人たちの手により、南大陸には存在しなかった巨大な木製クレーンが建設されている。

・さらに、黄金の木の葉号のような大型船を修繕・新造するための乾ドックの建設も進められている。
・現在は黄金の木の葉号の修繕に人員と資材を回しているため乾ドックの建設は遅れている。
・しかし、善治郎は現場の職人に対し、納期よりも長期間の使用に耐えうる品質を優先して作るよう指示を出している。

3. リスク分散のための第二の国際貿易港アルカト

現在、カープァ王国で大型船が停泊や修繕を行えるのは事実上ワレンティア港のみである。

・もし北大陸の侵略によってワレンティアが陥落・破壊されれば、海戦で敗北した際の逃げ場や反撃の拠点が失われ、国にとって致命傷となる。
・一つの籠に卵を盛るなという軍事的な教訓から、リスクの分散が必要とされた。
・そのため、フレア姫の領地であるアルカトを、ワレンティアに次ぐ第二の国際貿易港および造船所として開発する計画が動いている。

4. 予算不足による開発の遅れと独自財源の模索

アルカトの港湾開発は国防上重要であるが、国の予算の都合により、現場はまだ少数の作業員が整地を行っているだけの空き地状態である。

・本格的な桟橋を築くには高度な技術を持つ職人と莫大な人件費が必要であるが、予算は女王アウラが握っているため思い通りには進んでいない。
・そこでフレア姫は、港の開発を前倒しするための独自財源を確保しようとする。
・善治郎の助言を受けながら、北大陸の繊維の洗浄・脱色技術を南大陸でビジネス化する新規事業の立ち上げを画策している。

まとめ

「大陸間航行船の整備」は、単なる交通手段の発展にとどまらず、北大陸との軍事的な非対称性を是正するための最大の防衛策として描かれている。ワレンティア港のインフラ整備とアルカト港の新造という二段構えで進められるこの計画は、予算不足や技術的課題に直面しながらも、国家の存亡を懸けた一大プロジェクトとして物語の重要な軸となっている。

教会との対立深まる

『理想のヒモ生活15』における「教会との対立深まる」展開は、女王アウラが仕掛けた「ヤン司祭の蘇生」という謀略によって、北大陸の最大勢力である教会の内部に深刻な分断と混乱が引き起こされたエピソードとして描かれている。

教会との対立深まる展開について、以下の4つのポイントから解説する。

1. 教会によるヤン司祭の拘束と火刑

北大陸で絶大な権力を持つ教会(爪派)は、再三の警告を無視して現在の教会を非難し、独自の竜の教えを説き続けるボヘビア王国の大学竜学部長・ヤン司祭をついに拘束し、異端者として火刑に処した。

・これは、自らの権威を脅かすヤン司祭を強硬手段で排除する決定であった。
・本来であれば、ヤン司祭の死をもって事態は収束するはずであった。

2. ヤン司祭の奇跡の生還と教会への非難声明

しかし、カープァ王国の女王アウラによる秘匿魔法「時間遡行」によって亡骸が修復され、ヤン司祭は奇跡的に生者として蘇生を果たす。

・北大陸へ帰還したヤン司祭は、自身が処刑された事実を認めた。
・その上で、自分を正当な理由なく処刑した教会は竜の教えを歪ませている、と公然と非難声明を出す。
・死人が蘇り教会を非難するという、前代未聞の事態が発生した。

3. ボヘビア王国と大学による教会への反旗

教会はすでにヤン司祭の処刑を公式発表していたため、現れた彼を偽物と断定するしかなかった。

・しかし、ヤン司祭と直接面識のあるボヘビア王国の大学は、彼を本物であると公式に認定する。
・ボヘビア王国もこれを黙認した。
・これにより、ヤン司祭の思想が浸透していた国全体が教会の意向を無視し、公然と反旗を翻す形となった。

4. 爪派教会の権威失墜と避けられない武力衝突の予兆

爪派教会は聖典の中で「勇者の死者蘇生」の奇跡を史実として扱っているため、ヤン司祭の復活が事実として広まれば、信徒から彼が現代の勇者と見なされる。

・これは、教会の権威が根本から揺らぐ致命的な事態となる。
・教会上層部はメンツを潰されたことで感情的な判断を下す傾向がある。
・先の戦いで最大戦力である騎士団を失い疲弊している現状であっても、ヤン司祭排除のためにボヘビア王国と武力衝突を起こす可能性が高いとウップサーラ王国首脳陣に予測されている。

まとめ

「教会との対立深まる」展開は、女王アウラが仕掛けた「ヤン司祭の蘇生」というカードが、見事に北大陸の教会勢力内部に狙い通りの内輪揉めをもたらした結果である。この教会とヤン司祭、およびボヘビア王国の対立は、いずれ南大陸へ侵略の矛先を向けるはずだった北大陸の脅威を内部の混乱に向けさせる。これにより、カープァ王国が自国を強化して応戦の準備を整えるための貴重な時間稼ぎとして機能することになる。

ヒモ生活14巻レビュー
ヒモ生活16巻レビュー

登場キャラクター

主要キャラクター

アウラ・カープァ

カープァ王国の女王であり、善治郎の正妻である。大国の君主として冷徹かつ現実的な判断を下す。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国・女王。
・物語内での具体的な行動や成果
 ヤン司祭の遺骨に秘匿魔法『時間遡行』を施し、彼を蘇生させた。ウトガルズとの交渉結果を受け、善治郎に『時空魔法』を用いた異世界移動手段の確立を一任した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 北大陸からの侵略を牽制するため、大陸間航行船の自国単独での運営を最優先目標に掲げている。

善治郎・ビルボ・カープァ

現代日本から召喚されたカープァ王国の王配である。争いを好まない性格であるが、北大陸からの侵略という未来を受け入れ、応戦の覚悟を固める。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国・王配。
・物語内での具体的な行動や成果
 ユングヴィ王子と共にウトガルズを訪問し、ロック代表と独断で独占貿易契約を結んだ。『瞬間移動』を駆使して各国の連絡役や人員の輸送を担った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 女王アウラから次代へ向けた『時空魔法』の研究と引き継ぎの責任者に任命された。

フレア・アルカト・カープァ

ウップサーラ王国出身の善治郎の側室であり、未知の土地への探求心が強い。ユングヴィ王子の双子の姉である。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国・王配側室。アルカト公爵。
・物語内での具体的な行動や成果
 自らの領地であるアルカトを国際貿易港として開発するため、北大陸の脱色技術を用いた新規事業の立ち上げを画策した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 公的な場ではカープァ王国の民族衣装を着用し、王族としての立場を確立しつつある。

ファビオ

女王アウラに仕える腹心の秘書官である。常に表情を変えず、淡々と職務をこなす。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国・秘書官。
・物語内での具体的な行動や成果
 トゥカーレ王国から届いたヤン隊長の所在情報について、その有益性をアウラに確認した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項の記載はない。

プジョル・ギジェン

カープァ王国の元帥であり、巨漢の戦士である。軍を率いる将軍としても優れた能力を持ち、上昇志向が強い。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国・元帥。
・物語内での具体的な行動や成果
 ユングヴィ王子の歓迎夜会に出席し、彼と走竜や製鉄技術に関する話題で交流した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ウップサーラ王国の鍛冶師ヴェルンドから自ら武器を作ると申し出を受けており、戦士として高い評価を得ている。

ルシンダ

プジョル元帥の妻である。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国・元帥夫人。
・物語内での具体的な行動や成果
 歓迎夜会において、夫とともにユングヴィ王子へ挨拶を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ユングヴィ王子からは全く印象に残らない人物と評価された。

ナタリオ

善治郎を護衛するビルボ公爵騎士団の団長である。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国・ビルボ公爵騎士団団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 アルカトを視察する善治郎とフレア姫の護衛を務めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 善治郎の意向に反し、所属する騎士団の規模が拡大を続けている。

ダミアン

カープァ王国の王家直轄領であるワレンティアを管理する代官である。王から一定以上の信頼を受けている。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国・ワレンティア公爵領代官。
・物語内での具体的な行動や成果
 善治郎を代官館で出迎え、マグヌス船長らとの事務的な報告会議を進行した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項の記載はない。

アマンダ

後宮の侍女たちをまとめる侍女長である。厳しい指導者として知られている。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国後宮・侍女長。
・物語内での具体的な行動や成果
 新しく設置された北大陸製の窓ガラスの取り扱いについて、若い侍女たちに説明を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項の記載はない。

フェー

後宮で働く小柄な侍女である。問題児三人組の一人とされる。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国後宮・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
 エルヴィーラの指導を受け、窓ガラスの清掃作業に取り組んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項の記載はない。

ドロレス

後宮で働く長身の侍女である。問題児三人組の一人であり、状況を都合よく解釈する強かな一面を持つ。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国後宮・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
 窓ガラスの清掃において高い位置を担当し、作業を分担した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項の記載はない。

レテ

後宮で働く薄茶色の髪を持つ侍女である。問題児三人組の一人であり、のんびりとした口調で話す。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国後宮・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
 侍女用食堂で同僚たちのためにお茶と焼き菓子を用意した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項の記載はない。

ウップサーラ王国

グスタフ五世

ウップサーラ王国の国王である。国の利益を第一に考え、長年の経験から他国の指導者を警戒する為政者である。

・所属組織、地位や役職
 ウップサーラ王国・国王。
・物語内での具体的な行動や成果
 ユングヴィ王子の第二夫人をカープァ王国から迎えることを許可した。ペテル・リンネ教授に対して帰国命令を出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項の記載はない。

ユングヴィ・ウップサーラ

ウップサーラ王国の第二王子であり、次期国王である。自国の国力増強を何よりも優先する野心家である。

・所属組織、地位や役職
 ウップサーラ王国・王太子。
・物語内での具体的な行動や成果
 善治郎と共にウトガルズを訪問した。第二夫人候補としてカープァ王国のミレーラを有力視している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王太子に指名されており、父王からも次期国王としての能力を認められている。

フレデリック

ウップサーラ王国の外交官である。

・所属組織、地位や役職
 ウップサーラ王国・外交官。
・物語内での具体的な行動や成果
 ワレンティア港において、善治郎やマグヌス船長と『黄金の木の葉号』の修繕に関する実務的な協議を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項の記載はない。

ペテル・リンネ

ウップサーラ王国の自然学の権威である教授である。知的好奇心を満たすことを最優先に行動する。

・所属組織、地位や役職
 ウップサーラ王国・大学教授。
・物語内での具体的な行動や成果
 『黄金の木の葉号』に密航に近い形で乗り込み、カープァ王国へ渡った。善治郎の説得を受け、一時帰国に同意した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項の記載はない。

マグヌス

ウップサーラ王国の船乗りである。

・所属組織、地位や役職
 『黄金の木の葉号』・船長。
・物語内での具体的な行動や成果
 ワレンティア港に『黄金の木の葉号』を到着させ、善治郎に航海の成功を報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 フレア姫の後任として『黄金の木の葉号』の船長に就任した。

スカジ(ヴィクトリア・クロンクヴィスト)

フレア姫の護衛を務める女戦士である。真面目な性格である。

・所属組織、地位や役職
 ウップサーラ王国・女戦士。
・物語内での具体的な行動や成果
 フレア姫の護衛として後宮の昼食会に同行した。アルカト視察においても護衛の任務を果たした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 後宮内で武装を許可されており、走竜の騎乗技術も習得している。

ランヒルド

フレア姫の母方の伯母であり、お目付け役である。礼儀正しく厳しい指導を行う。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国後宮別棟・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
 若い侍女たちに窓ガラスの清掃を担当するよう指示を出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ウップサーラ王国上層部からの信頼が厚く、彼女の評価はフェリシア第二王妃への推薦につながる影響力を持つ。

エルヴィーラ

ウップサーラ王国出身の侍女である。北大陸の大学で講義を聴講した経験を持ち、知識が豊富である。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国後宮別棟・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
 カープァ王国の侍女たちに、北大陸から取り寄せた窓ガラスの清掃方法を実演して指導した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項の記載はない。

レベッカ

ウップサーラ王国出身の侍女であり、フレア姫の友人でもある。気安い性格でカープァ王国の侍女たちとも親しい。

・所属組織、地位や役職
 カープァ王国後宮別棟・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
 侍女用食堂を訪れ、同僚たちと冗談を交えた会話を楽しんだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項の記載はない。

シャロワ・ジルベール双王国

フランチェスコ

シャロワ・ジルベール双王国の第一王子である。為政者としての能力を持ちながら、それを拒絶し自由を好む性格である。

・所属組織、地位や役職
 シャロワ・ジルベール双王国・第一王子。
・物語内での具体的な行動や成果
 ユングヴィ王子に対して『不動火球』の魔道具を譲渡する約束をした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 女王アウラのために『未来代償』の魔法を魔道具化し、その使い勝手を劇的に向上させた。

ボナ

シャロワ・ジルベール双王国の王女である。魔道具の作成技術に優れている。

・所属組織、地位や役職
 シャロワ・ジルベール双王国・王女。
・物語内での具体的な行動や成果
 女王アウラと共同で『空間遮断結界』の魔道具を作成している。ユングヴィ王子に私物の『不動火球』の魔道具を譲ると申し出た。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項の記載はない。

タラーイェ

シャロワ・ジルベール双王国のエレメンタカト公爵家の令嬢である。商売人としての気質が強い。

・所属組織、地位や役職
 シャロワ・ジルベール双王国・公爵令嬢。
・物語内での具体的な行動や成果
 歓迎夜会において、ユングヴィ王子の第二夫人候補たちに自領の金細工を売りさばいた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項の記載はない。

ウトガルズ

ロック

ウトガルズの代表である。巨人族の末裔を自称する集団を率い、合理的で現実的な思考を持つ。

・所属組織、地位や役職
 ウトガルズ・代表。
・物語内での具体的な行動や成果
 善治郎とユングヴィ王子をウトガルズへ招待した。善治郎に対して異世界『ウートガルザ』への移動手段の確保を依頼した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項の記載はない。

ボヘビア王国・傭兵

ヤン(ヤン司祭)

ボヘビア王国の大学の竜学部長であった人物である。自身の信念を曲げない強固な意志を持つ。

・所属組織、地位や役職
 ボヘビア王国・大学竜学部学部長、元司祭。
・物語内での具体的な行動や成果
 『教会』を非難したことで火刑に処されたが、女王アウラの魔法によって蘇生した。その後、再び『教会』を非難する声明を出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 蘇生後は爪派『教会』と対立する存在となり、北大陸に波紋を呼ぶ中心人物となった。

ヤン(ヤン隊長)

隻眼の傭兵隊長である。ヤン司祭を深く敬愛し、彼のためならば命を懸ける覚悟を持つ。

・所属組織、地位や役職
 傭兵部隊・隊長。
・物語内での具体的な行動や成果
 女王アウラと取引を行い、『教会』からヤン司祭の遺骨を奪還した。蘇生したヤン司祭の護衛として行動を共にした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項の記載はない。

ラースロー

傭兵ヤーノシュの息子である。聡明で堂々とした振る舞いをする少年である。

・所属組織、地位や役職
 特筆すべき事項の記載はない。
・物語内での具体的な行動や成果
 貧民街の子供に変装し、ヤン隊長へ女王アウラからの書状を届けた。ヤン隊長から変装の不備を指摘され、素直に教えを乞うた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項の記載はない。

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展開まとめ

プロローグ 残された者

後宮での昼食会

活動期に入ったある日、アウラは後宮の寝室で昼食を取りながらフレア姫との対談に臨んでいた。対談を申し込んだ当人であるフレア姫は、話の内容を思い出せないと言いながら、冷房の効いた後宮でくつろいでいた。

アウラは呆れながらも、二人が頻繁に顔を合わせることが仲の良さを周囲に印象付け、善治郎にとっても有益であると認めた。そのため、フレア姫の思惑を理解しつつも受け入れていた。

良好な関係を演出する二人

フレア姫はアウラとの良好な関係を示すために後宮での接触を増やしていると語った。アウラはその言葉に皮肉を交えながら応じたが、二人の関係は実際に良好であり、正妻と側室という立場を考えれば異例なほど打ち解けていた。

フレア姫は私的な場では遠慮なく甘える一方、公的な場では立場をわきまえて振る舞っていた。アウラもまた、その性格を理解していたため、私的な場では砕けたやり取りを許していた。

善治郎を中心とした会話

やがて話題は善治郎へと移った。現在ウトガルズへ向かっている善治郎のことを思い、フレア姫は行きたかったという未練を漏らした。

アウラは将来的にウトガルズとの行き来が可能になるかもしれないと慰めたが、フレア姫が求めていたのは未知の土地へ誰よりも早く到達し、自らの目で見る経験そのものであった。瞬間移動による移動にも興味はあるが、それだけでは満足できないと語った。

娘のようなフレア姫

未知への憧れを隠さず語るフレア姫に対し、アウラは一人の夫を共有する妻というより、手のかかる娘のように感じると漏らした。

フレア姫はそれをフアナの予行練習になると冗談交じりに返し、自分は十分な愛情と教育を受けた結果が今の姿だと胸を張った。その言葉にアウラは反論できず、親の努力だけでは子の性格を決められないことを認めざるを得なかった。

善治郎への想い

アウラは自らの人生を振り返った。王族としての責務を果たしながらも、善治郎との結婚によって幸福な家庭を築き、カルロスとフアナという子どもにも恵まれていた。

その幸福が善治郎によってもたらされたものであることを思い返していた時、フレア姫は早く善治郎に会いたいと素直な気持ちを口にした。

その言葉にアウラも同意し、善治郎の帰還を待ち望む気持ちを共有するのであった。

第一章 ウトガルズ

ウトガルズへの旅路

善治郎はユングヴィ王子と共にウトガルズへ向かっていた。カープァ王国から瞬間移動でウップサーラ王国へ移動し、一泊した後、王都北端でウトガルズが用意した乗り物へ乗り換えた。

その乗り物は巨大なトナカイのような生き物二頭が引く大型の箱ソリであった。積雪のない時期にもかかわらず、そのソリは地面ではなく空中を滑るように進んでいた。

不思議な箱ソリの内部

箱ソリの内部は灰色の素材で構成され、向かい合うソファーと中央の発光する柱が設置されていた。柱には魔法文字が表示され、入口閉鎖、着席推奨、出発といった案内が順に現れた。

出発後しばらくして離席自由の表示が出ると、善治郎は緊張を解いた。一方のユングヴィ王子は周囲の状況に興奮し、善治郎から空を飛んでいると聞かされて初めてその可能性に気づいた。

飛行への驚き

善治郎は慣性の感覚から飛行を確信していたが、空を飛んだ経験のないユングヴィ王子には理解し難いことであった。

不安を抱くユングヴィ王子に対し、善治郎はウトガルズが用意した乗り物である以上、安全性は高いだろうと説明した。しかしユングヴィ王子は半信半疑のままであり、善治郎も証拠を示す方法を探し始めた。

魔法文字による操作機能の発見

善治郎は中央のパネルに表示された限定操作という文字に気づいた。慎重に触れると画面が切り替わり、光量調整、座席操作、飲料水提供、便所案内、壁面透明という機能が表示された。

光量調整では照明の明暗を変えることができた。座席操作には複数の配置変更機能が存在したが、善治郎は不用意な操作を避けた。

壁面透明による空中飛行の確認

善治郎は壁面透明を選択し、さらに前面の一部を透明化した。すると壁の一角が透き通り、外の景色が見えるようになった。

そこには巨大なトナカイたちが空中を駆ける姿があり、箱ソリが実際に空を飛んでいることが明らかになった。善治郎は透明部分越しに下方を見下ろし、雪が点在する山岳地帯を確認した。

霧の山の正体

眼下の景色を見たユングヴィ王子は、その山が霧の山ではないかと推測した。霧の山は常に濃い霧に包まれ、登頂は自殺行為とまで言われる場所であり、ウトガルズが存在すると伝えられていた土地であった。

ユングヴィ王子は、現在霧が見えないのは招待客を迎えるために一時的に取り払われているのだろうと考えた。善治郎もその可能性に納得した。

善治郎への評価と空への野心

ユングヴィ王子は善治郎が未知の魔道具を自然に扱っていることに驚き、その洞察力を称賛した。善治郎は現代日本での経験によるものだと理解していたが、その事情を詳しく説明することは避けた。

その後ユングヴィ王子は空飛ぶ乗り物の価値について語った。偵察や物流に革命をもたらし、共和国の有翼騎兵だけが支配している空を変えられるかもしれないと考えていた。

善治郎は飛行戦力を持つなら性能差を考慮すべきだと助言したが、その発言から空戦の知識を持つことを示してしまった。ユングヴィ王子は善治郎の出身世界に空戦の歴史が存在することを察し、それ以上は追及しなかった。しかし内心では、善治郎とさらに親交を深めたいという思いを強めていた。

ウトガルズへの到着

数時間の移動後、箱ソリの窓が突然すべて灰色の壁へ戻り、パネルには操作不能と着席要請の文字が表示された。善治郎はウトガルズに近づいたため内部操作が制限されたのだと推測し、ユングヴィ王子と共に静かに待つことにした。

その後、着陸完了の表示が現れたものの外は見えず、二人は現在の状況を推測するしかなかった。

氷原と整備された道

再び操作が可能になると、善治郎は窓を透明化した。窓の外には見渡す限りの氷原が広がっており、ユングヴィ王子はそれを雪原ではなく氷原だと説明した。

善治郎は揺れのなさに違和感を覚えたが、ユングヴィ王子は氷原の中に不自然なほど平坦な道が整備されていることを見抜いた。二人はその道が魔法によって維持されているのではないかと考えた。

巨大な城壁の発見

やがて前方に巨大な黒い壁が現れた。ユングヴィ王子はそれを人工の城壁だと見抜き、その向こうにウトガルズがあると推測した。

善治郎は、自分とユングヴィ王子がほぼ同時に城壁を発見したことから、城壁には一定距離まで近づかないと視認できない魔法が施されているのではないかと考えた。ユングヴィ王子もその推測に納得した。

巨人を想起させる門と乗り換え

箱ソリは巨大な城門を通過した。ユングヴィ王子はウトガルズが巨人族の末裔を自称しているという伝承から、この規模の門であれば巨人でも手動で開閉できるのではないかと語った。

善治郎は巨人が待っている可能性に驚きつつも、過去の記録では使者が極端に巨大だったとは記されていないと聞かされた。

城門内部で箱ソリは停止し、二人は大型トナカイが引く箱車へ乗り換えた。箱車は車輪式であり、内部操作もできず、箱ソリより性能が劣るように見えた。

ロック代表との対面

箱車が到着した先で、善治郎とユングヴィ王子はウトガルズ代表のロックと面会した。

ロックはユミル語には敬語の概念が薄いため無礼に聞こえるかもしれないと前置きし、謝罪したうえで二人を迎えた。善治郎とユングヴィ王子も丁寧に挨拶を返した。

巨人の神殿

面会場所は巨人のために造られた巨大な神殿であった。扉や家具、窓に至るまで巨人サイズで造られており、人間用の椅子だけが別に用意されていた。

ロック自身は二メートルを超える大男だったが、巨人と呼ぶほどの大きさではなかった。

異世界への移動依頼

ロックは本題として、ウトガルズがカープァ王家と取引したいと告げた。その内容は、カープァ王家の時空魔法による異世界への移動手段の確保であった。

ロックは、その目的がウートガルザとの取引にあると説明した。ウートガルザとは巨人たちが住んでいた異世界であり、ウトガルズはそこから移住してきた人類が築いた都市だと語った。

巨人の伝承と幻影

ロックはウトガルズの伝承を語った。巨人族の血を引いているという伝承は残っているが、実際に交配が可能だったとは考えにくいと説明した。

さらに幻影魔法によって伝承の巨人の姿を再現してみせた。そこに現れた巨人は美しく整った容姿と巨大な体格を持ち、多数の宝飾品を身につけていた。

善治郎の仮説

巨人の衣服や宝石の規模を見た善治郎は、巨人が巨大なのではなく、異世界では人間の方が小人なのではないかという仮説を語った。

ロックは魔法によって巨大な宝石を作れるという反論を示しつつも、その仮説には筋が通っていると評価した。特に宝石の希少性が人間世界と似ている点は、その説を支持する材料になると考えていた。

魔堆岩と交易計画

ロックは、ウートガルザとの交易を望む本当の理由が魔堆岩の確保にあると説明した。

魔堆岩は魔法文字の力を十分に発揮させるために必要な物質であり、ウトガルズの技術基盤を支えている。しかし大氷河地下の埋蔵量は減少しつつあり、将来的な供給が問題になっていた。

そのためロックは、ウートガルザとの交易によって魔堆岩を入手したいと考えていた。

魔法文字と人間の価値

ロックは巨人が人間を必要とした理由について説明した。

巨人は高度な魔法文明を持っていたが、魔法文字は正確に刻む必要があり、大きさは効果に関係しなかった。そのため巨大な体を持つ巨人よりも、小さく器用な人間の方が魔法文字を刻む作業に適していた。

ウトガルズの人々は今日までその技術を磨き続けており、それを交易材料にできるとロックは考えていた。

交易と外交の提案

善治郎は、巨人との直接交易には危険が伴うと判断し、ウートガルザとの取引はすべてウトガルズを通じて行うべきだと提案した。

その代わりとして、今後ウトガルズが新たに接触する国や組織との窓口をカープァ王国に任せてほしいと求めた。

ロックは魔法文字の技術そのものを国家間で提供することは拒否したものの、それ以外については前向きに検討する姿勢を示した。

契約成立への合意

善治郎は、異世界移動の実現には百年以上の時間が必要になる可能性があると説明した。しかしロックはそれでも構わないと答えた。

ただし形式だけの協力ではなく、最終的には魔法による契約を結びたいと要求した。その契約には、かつての白の帝国の遺産である契約の魔道具を使用するつもりだと明かした。

善治郎は契約内容の詳細を今後詰めることを提案し、ロックもそれを了承した。こうしてウトガルズとカープァ王家による長期的な協力関係へ向けた交渉が始まったのであった。

幕間一 王と王子の密談

ウトガルズ会談後の極秘報告

ウトガルズでの会談から数日後、広輝宮ではグスタフ王とユングヴィ王子が極秘裏に会談を行った。

ユングヴィ王子はウトガルズで起きた出来事を報告し、善治郎がウトガルズ内に滞在拠点を確保し、そこへの瞬間移動も許可されたことを伝えた。グスタフ王は急激な変化に驚きつつも、その重要性を認識していた。

カープァ王国との婚姻計画

ユングヴィ王子はカープァ王国へ赴き、妻を迎えたいと申し出た。グスタフ王は時空魔法を持つカープァ王家との結び付きが必要不可欠であるとして許可した。

しかし第一夫人は国内または北大陸の王家から迎えるべきだと釘を刺した。ユングヴィ王子はカープァ王国の女性を第一夫人にできないか確認したが、グスタフ王は教会勢力や北方五か国との関係悪化を理由に否定した。

その結果、カープァ王国から迎える女性は第二夫人か第三夫人とし、その立場を理解できる人物を探す方針となった。

第一夫人に求める条件

ユングヴィ王子は、第一夫人については父王に選定を任せる代わりに、カープァ王国から迎える第二夫人を不当に見下さない人物であることを条件として提示した。

グスタフ王もその条件を当然と認めたが、南大陸出身者と良好な関係を築ける第一夫人候補を探すことは容易ではないと考えた。

グラーツ王国案の否定

ユングヴィ王子はグラーツ王国の王族も候補にできないかと提案したが、グスタフ王はオフス王国のような混乱を招くとして即座に否定した。

ユングヴィ王子も父王の指摘を受け入れ、欲張りすぎないよう自省した。

善治郎への強い関心

話題は善治郎へと移った。

ユングヴィ王子は、善治郎が空飛ぶソリの中で空戦には高度・速度・旋回半径が重要だと語り、それを一般論として扱ったことを重視していた。また、善治郎がソリの飛行を即座に見抜き、魔法文字による操作装置を自然に扱っていたことから、過去に類似した技術や経験に触れていたと推測した。

そのため善治郎は、北大陸や南大陸とは異なる異文化圏の知識と常識を有していると考えていた。

異文化知識への期待

ユングヴィ王子は、善治郎の知識だけで飛行技術を再現できるとは考えていなかった。

しかし善治郎が持つ異文化の知識や発想の中に、将来的な技術発展や国力増強の鍵となるものが含まれている可能性を強く感じていた。

グスタフ王は、そのように実利を重視する息子の姿勢を頼もしく思う一方で、国力増強に直接結び付かない価値を軽視する危うさも感じていた。

ウトガルズ独占契約への評価

グスタフ王は、善治郎がウトガルズとの独占的な交易契約を結んだ件について問いかけた。

ユングヴィ王子は介入することも可能だったが、その場合は善治郎の強い不興を買うと判断し、あえて口を挟まなかったと説明した。

さらに、善治郎は独占契約による利益拡大よりも、何らかの大きな不利益を避けるために急いで契約を結んだように見えたと語った。

第三国の存在への推測

ユングヴィ王子は、善治郎がウトガルズと直接接触させたくない第三国が存在するのではないかと推測した。

グスタフ王もその可能性を否定せず、調査する価値があると認めた。

もっともユングヴィ王子は、その情報を利用して善治郎を追い詰めるつもりはなかった。むしろ事情を理解したうえで善治郎に配慮することで、将来的な信頼関係や利益につなげようと考えていたのであった。

第二章 策と暗躍

ウトガルズとの独占貿易契約の説明

『瞬間移動』で帰国した善治郎は、後宮本棟のリビングルームで女王アウラと向かい合い、ウトガルズでの出来事について報告した。

アウラは空飛ぶソリや魔法文字による文明について説明を受けた後、善治郎が独断でウトガルズとの独占貿易契約を結んだことについて説明を求めた。

善治郎は、シャロワ・ジルベール双王国にウトガルズとの直接的な繋がりを持たせたくなかったことが理由だと明かした。

ビー玉供給を巡る懸念

善治郎は、ウトガルズには高品質なガラス技術が存在し、実用に耐えるビー玉を製造できる可能性が高いと説明した。

その話を聞いたアウラは、双王国がウトガルズからビー玉を調達できるようになれば、現在の同盟関係における力の均衡が崩れる危険があると理解した。

戦闘用魔道具の量産は、双王国の付与魔法とカープァ王国のビー玉供給によって成り立っているため、ビー玉の供給源を独占する意義は大きかった。

北大陸からの職人招へいへの考察

善治郎は、双王国が北大陸からガラス職人を招き、自国内でビー玉を生産する可能性についても懸念を示した。

しかしアウラは、双王国には紹介状もなく、移住を望む職人を惹きつける条件も不足しており、さらに瞬間移動や大陸間航行船も持たないため、その危険性は低いと判断した。

また、現在北大陸では技術革新によって職を失ったガラス職人が存在しており、カープァ王国にとっては職人招へいの好機であるとも説明した。

独占契約そのものへの懸念

アウラは善治郎の判断自体は正しかったと認めた。

しかし問題視していたのは、善治郎がその場で独断により国家間契約をまとめた事実そのものであった。

善治郎には権限上の問題はなかったが、その事実が広まれば、各国は女王アウラではなく善治郎を外交交渉の対象として重視し、直接働きかけようとするようになると警告した。

善治郎はその指摘を受け、自身の考えが浅かったことを認め、今後はより慎重に行動することを約束した。

異世界転移研究の担当決定

続いて二人は、ウトガルズ側から求められた異世界ウートガルザへの転移手段の研究について話し合った。

善治郎はアウラに意見を求めたが、アウラは魔法の行使と新たな魔法の開発は別の能力であり、自分には研究を進める能力はないと率直に認めた。

そこで善治郎は、カルロスが残した異世界召喚関連の資料をパソコンに入力し、整理したいと提案した。

パソコンによる資料整理計画

アウラは、資料を電子化することで検索や整理が容易になることを評価した。

一方で、魔法語の発音を正確に記録できないことや、パソコンを扱う技術を継承する必要があることを課題として挙げた。

善治郎は将来的なデータ保存容量の不足を懸念したが、アウラは三十年後の異世界送還を利用して新たな機器を調達する案を示した。

しかし善治郎は、三十年後には技術や規格が大きく変化している可能性が高く、その方法には不確定要素が多いと説明した。

研究責任者への任命

協議の結果、アウラはウトガルズとの契約に基づく異世界転移研究を善治郎へ正式に委ねた。

さらに、研究を次世代へ引き継ぐ体制づくりも善治郎の役目であると告げた。

善治郎はその責任を受け入れ、本格的な学習と研究に取り組む決意を固めた。

研究協力者の選定

善治郎は研究の相談相手について尋ねた。

アウラは、自分への相談は問題ないとしたものの、時間や知識には限界があると説明した。

オクタビア夫人については機密情報が多すぎるため協力は認めず、エスピリディオンについては限定的な協力を許可した。

ただし面会場所や同行者、情報管理方法には厳しい条件が課された。

善治郎はエスピリディオンの協力が得られることに希望を見出し、アウラも研究の進展を期待したのであった。

双子の再会

カープァ王国を訪れたユングヴィ王子は、石室でフレア姫と再会した。

二人は他国の王族同士として形式的な挨拶を交わしたが、その態度には親しい兄妹ならではの感情が滲んでいた。周囲の者たちも微笑ましく見守る中、二人はそれぞれの側近を伴って石室を後にした。

南大陸の気候と善治郎の近況

来客用の部屋に移った後、二人は普段通りの口調に戻って会話を始めた。

ユングヴィ王子は南大陸の暑さに驚き、フレア姫は今の気候はまだ穏やかな方であると説明した。また、善治郎が両国の外交官のために暑さ対策と寒さ対策を相互に整備させていたことも話題となった。

善治郎の近況を尋ねられたユングヴィ王子は、善治郎が元気に活動している一方で、しばらく帰国できなくなったことを明かした。

ヤン司祭拘束の報告

ユングヴィ王子は、北大陸から届いた情報によりヤン司祭が『教会』に拘束されたと説明した。

そのため善治郎はウップサーラ王国への協力を続けることになり、王都とログフォート間の迅速な移動を実現するため『瞬間移動』を用いて支援していた。

フレア姫は事態の重大さを理解しつつも、善治郎が国外へ直接転移できない事情について説明を受け、その制約に納得した。

結婚を優先するユングヴィ王子

フレア姫は北大陸で大きな問題が起きているにもかかわらず、ユングヴィ王子が予定通り南大陸に来たことを疑問に思った。

それに対しユングヴィ王子は、ヤン司祭拘束は重要な問題であるものの、今すぐ対応できる段階ではなく、自身の結婚の方が優先順位は高いと答えた。

さらに、この婚姻を早急に成立させようとしていること自体が、自分とグスタフ王がカープァ王国との関係をどれほど重視しているかの証であると語った。

善治郎帰国と北大陸情勢の報告

数日後、善治郎は予定より遅れてカープァ王国へ帰国し、女王アウラと会談した。

善治郎は新たな情報こそないものの、ウップサーラ王国首脳陣がヤン司祭拘束の先行きを分析していたことを伝えた。

彼らは、ヤン司祭と『教会』が互いに譲歩せず、最終的にはヤン司祭が処刑される可能性が高いと予測していた。

ヤン司祭の信念に対する評価

アウラは、ヤン司祭が処刑を受け入れるほど頑固なのか疑問を呈した。

善治郎は、自身の印象では理性的で穏やかな人物だったため断言できないとしつつも、周囲の評価や現在の状況から見れば、そのような一面を持っていても不思議ではないと語った。

アウラも説明を受けて納得し、ヤン司祭の強固な信念を改めて認識した。

ヤン隊長の動向分析

続いて二人はヤン隊長について話し合った。

『教会』はヤン隊長がヤン司祭のもとへ戻る前の時期を狙って拘束を実行したため、大規模な救出行動は防げたと考えられていた。

現在ヤン隊長は姿を消しているものの、傭兵隊の大部分を伴っていないため、理性を失っているわけではなく、少人数で行動していると予測されていた。

善治郎は、ヤン隊長が救出を試みる可能性は高いが、正面からの武力行使ではなく潜入による解放を目指すだろうと説明した。

ヤン司祭蘇生計画の発案

話の流れの中で、アウラは魔力を持たないヤン司祭に対し、『時間遡行』を利用した蘇生の可能性を示した。

善治郎はその危険性を指摘したが、アウラは危険を冒さず、まず信頼できる現地協力者を通じてヤン隊長と接触し、状況次第で計画を進める考えを示した。

また、『時間遡行』の存在についても必要最低限の情報だけを伝える方針を説明した。

火刑と死体奪還の可能性

善治郎は、ヤン司祭が火刑に処される可能性が高いことと、竜信仰では土葬が重視されていることを説明した。

そのため、たとえ死後であってもヤン隊長が遺体回収に強く執着する可能性は高いと考えられた。

アウラは、その心理を利用すれば協力を得られる可能性があると判断した。

教会との敵対認識の違い

善治郎は計画を進めれば『教会』と明確に敵対することになる点を懸念した。

しかしアウラは、『教会』はすでに南大陸諸国と根本的に対立する存在であり、敵意を買うことを恐れて行動を制限する必要はないと断言した。

善治郎は、自分が無意識のうちに敵対関係から目を背けていたことを自覚し、認識を改めることになった。

ヤン司祭蘇生計画の方針決定

アウラは、ヤン司祭蘇生計画は北大陸勢力の妨害ではなく、自国強化のための時間稼ぎという位置付けであると説明した。

そのうえで、ヤン司祭の処刑までは静観し、処刑後にヤン隊長と接触する機会があれば利用するという方針を示した。

成功すれば利益となるが、失敗しても大勢に影響しない程度の策として扱う考えであった。

策士についての語らい

善治郎は、成功率が低くても利益が見込める策を幾つも仕掛けるアウラの姿勢に感心した。

しかしアウラは、自分などまだ策士とは呼べず、本当の策士は相手に策を仕掛けていることすら気付かせない存在だと語った。

そして、そのような人物は大国には必ず存在し、自国にもいると告げて善治郎を安心させるのであった。

トゥカーレ王国からの書状

翌朝、執務室に入った女王アウラは、トゥカーレ王国から届いた書状を受け取った。

差出人はジョアンとだけ記されており、それがトゥカーレ王国の男性王族全員の総意を意味することから、アウラは嫌な予感を抱いた。書状を開封したアウラは内容を確認すると天を仰ぎ、事態の重さを察した。

ヤン隊長の所在情報

書状には、ヤン隊長の現在地と今後潜伏する可能性が高い場所が詳細に記されていた。

内容を確認したファビオ秘書官は、その情報の価値を問いかけた。アウラは極めて有益な情報だと断言し、それがトゥカーレ王家の血統魔法『解得魔法』によるものであると説明した。

『解得魔法』は正しい問いに正しい答えを返す魔法であり、本来知り得ない情報を得られることから強力な価値を持っていた。

策の成功率向上

アウラは、この情報によって成功の見込みが低かった策が、高い成功率を持つ策へ変わったと判断した。

ヤン隊長の潜伏場所が具体的に判明したことで接触そのものは容易になったが、褐色の肌を持つカープァ王国人は北大陸で目立つため、実行役の選定が新たな課題となった。

そのためフレア姫の配下や現地人の利用、さらにウップサーラ王国への協力要請など、具体的な方策を検討し始めた。

見えない協力者としてのトゥカーレ王国

策を練りながらアウラは、今回の情報提供者であるトゥカーレ王国の存在が表に出ることはないと理解していた。

ウップサーラ王国やヤン隊長、さらに計画が成功した場合のヤン司祭にも、情報源が『解得魔法』であることを知らせる必要はなかった。

そのため、この策が成功したとしても、トゥカーレ王国は大きく貢献しながら一切表舞台に立たないことになる。

策士への理解

アウラは、自らが善治郎に語った、本当の策士は策を仕掛けたことすら相手に気付かせないという言葉を思い出した。

そして今回の件こそ、まさにトゥカーレ王国がそのような策士の在り方を体現している例であると実感するのであった。

第三章 能力と嗜好

夜会とユングヴィ王子の歓待

善治郎が帰国して数日後の夜、カープァ王国王宮ではユングヴィ王子を歓迎する盛大な夜会が開かれた。

会場には多くの蝋燭や、シャロワ・ジルベール双王国から提供された『不動火球』の魔道具が灯されていた。善治郎とフレア姫は主催者としてユングヴィ王子を迎え、カープァ王国の料理や文化を楽しんでほしいと語りかけた。

ユングヴィ王子は南大陸の食文化や風習に強い関心を示し、特にカープァ王国の民族衣装をまとったフレア姫の姿を称賛した。双子らしい軽妙なやり取りを交わす二人の様子を見ながら、善治郎は微笑ましく見守っていた。

第二夫人候補との顔合わせ

善治郎とフレア姫がユングヴィ王子のもとを離れると、会場では本来の目的である第二夫人候補との顔合わせが始まった。

ユングヴィ王子のもとには、保護者に伴われた未婚の少女たちが次々と挨拶に訪れた。その光景は大規模な見合いのようであり、少女たちは緊張しながらも未来を左右する機会に臨んでいた。

善治郎はその様子を見ながら、自らも異世界へ婿入りした経験を思い出し、異国へ嫁ぐことになる少女たちの不安を理解していた。そして彼女たちを少しでも支えたいと考えるのであった。

タラーイェとの商談

善治郎は会場でタラーイェの姿を見つけ、声をかけた。

ユングヴィ王子の周囲にいた少女たちが身につけていた黄金の装飾品は、タラーイェが販売したものであった。タラーイェは金細工を通じて利益を上げており、善治郎もまた『瞬間移動』による移動支援でその商売を後押ししていた。

会話の中で、タラーイェは『空間遮断結界』の魔道具製作が順調であることを伝えた。また商品の補充のため、善治郎が双王国へ赴く予定を尋ねた。

善治郎は将来的な訪問の可能性を示しつつ、自身が購入したい宝飾品について相談した。タラーイェは善治郎を自領へ招こうと熱心に勧誘したが、善治郎は王都訪問の可能性だけを残し、領都訪問については明確に断った。

プジョル元帥との交流

第二夫人候補たちとの面会が一段落した後、ユングヴィ王子はプジョル元帥夫妻と歓談した。

両者は軍事力や騎乗動物、製鉄技術について意見を交わした。ユングヴィ王子は走竜の能力に強い関心を示し、プジョル元帥は馬の成長速度を羨ましいと語った。

また、鍛冶師ヴェルンドが自らプジョル元帥のために槍を作ることを知ったユングヴィ王子は、その武勇を高く評価した。プジョル元帥も自らの武人としての力量を率直に認めながら応じ、両者は友好的に別れた。

双王国の王族との会話

続いてユングヴィ王子のもとには、フランチェスコ王子とボナ王女が訪れた。

ユングヴィ王子は『不動火球』の魔道具を高く評価し、購入への関心を示した。フランチェスコ王子とボナ王女は製作期間について説明したが、量産を望むユングヴィ王子にとっては十分な速度ではなかった。

それでも両者は自分たちの私物を改良して譲渡する提案を行い、ユングヴィ王子は喜んで受け入れた。

その後、フランチェスコ王子はユングヴィ王子の国力増強への情熱を称賛した。ユングヴィ王子はそれを王族として当然の務めだと答えたが、フランチェスコ王子は自分にはそのような気力がないと率直に語った。

ボナ王女が慌てる中、ユングヴィ王子は表情を崩さず対応し、二人との会話を続けるのであった。

ユングヴィ王子による人物評

翌日、カープァ王宮別棟の一室で、ユングヴィ王子とフレア姫は二人きりで会談していた。

フレア姫は前夜の夜会について感想を求め、特に第二夫人候補の中で誰が印象に残ったかを尋ねた。ユングヴィ王子はミレーラを高く評価したが、それ以上に養父であるマルケス伯爵とオクタビア夫人の人格や能力を称賛した。

ミレーラ本人についても聡明で芯が強く、自らの役割を理解している人物だと評価したうえで、養女であることに伴う法的立場を確認した。フレア姫から養子にも実子と同等の権利と義務があると聞くと、問題はないと判断した。

プジョル元帥への高評価

フレア姫が他に印象に残った人物を尋ねると、ユングヴィ王子はまずプジョル元帥の名を挙げた。

ユングヴィ王子は、プジョル元帥の圧倒的な武勇と将軍としての力量を高く評価した。上昇志向の強さは欠点にもなり得るが、それが行動力に結びついており、有事には極めて頼りになる存在だと分析した。

フレア姫もその評価に納得しつつ、そうした人物を統率する女王アウラの苦労について言及した。

フランチェスコ王子への複雑な感情

続いてユングヴィ王子は、フランチェスコ王子について語った。

ユングヴィ王子は、世間で言われる評価とは異なり、フランチェスコ王子は為政者としても高い能力を持つ人物だと断言した。王位継承権を持たないのは能力不足ではなく、自ら望まないためだと分析した。

そのうえでユングヴィ王子は、フランチェスコ王子を大嫌いだと率直に打ち明けた。王になるだけの能力と立場を持ちながら、自らそれを拒絶し、それでも自由に生きることを許されている存在であることが気に入らないのであった。

フレア姫は価値観の違いによるものだと理解を示しつつも、個人的感情を表に出さないよう強く念を押した。ユングヴィ王子も国益を考えれば双王国やフランチェスコ王子との友好が必要であることを理解しており、感情を表面化させるつもりはないと約束した。

善治郎への評価

会話の流れでフレア姫は、善治郎もまた権力を積極的に求めない人物であることを指摘した。

しかしユングヴィ王子は、善治郎とフランチェスコ王子は根本的に異なると説明した。善治郎は王族として必要な冷徹さや損得勘定に欠けており、それらを実行すれば精神的な負担を抱える人物だと評した。

一方で、誠実さや信頼性においては非常に優れており、友好国の王族としては理想的な存在だとも評価した。善治郎に対して不義理を働くつもりはなく、誠実な相手には誠実に接することこそ最大の利益になると語った。

その言葉にフレア姫は納得し、それ以上の追及を控えた。

見落とされていたルシンダ

最後にフレア姫が他に気になる人物はいないかと尋ねると、ユングヴィ王子はマルケス伯爵、オクタビア夫人、プジョル元帥、フランチェスコ王子ほど印象に残った人物はいないと答えた。

その言葉に偽りはなかったが、それは同時にユングヴィ王子の観察眼が初めて外れた瞬間でもあった。

プジョル元帥の妻であり、元帥の隣で挨拶まで交わしたルシンダについて、ユングヴィ王子は何一つ印象を持っていなかったのである。

幕間二 潜伏中の傭兵

ヤン隊長の悲嘆と復讐心

共和国の大都市ブレスワフの貧民街にある隠れ家で、ヤン隊長はヤン司祭が火刑に処されたという報告を受け、深い悲しみに沈んでいた。

ヤン隊長だけでなく腹心の傭兵たちもヤン司祭を敬愛しており、その理不尽な死に怒りと憎しみを募らせていた。ヤン隊長は部下たちの暴発を抑えていたが、自身もまた復讐心に支配されつつあった。

謎の手紙の到着

復讐の感情が高まる中、隠れ家の扉が叩かれた。

現れたのは貧民街の少年であり、見知らぬ男からヤン宛ての手紙を預かったと告げた。自分の潜伏先が知られていたことに警戒したヤン隊長は少年を中へ招き入れ、手紙を受け取った。

その手紙には、ヤン司祭への弔意とともに、亡骸を完全な形に修復し清める手段があるため協力したいという内容が記されていた。

復讐より優先される目的

手紙を読んだヤン隊長は、煮えたぎっていた復讐心が急速に冷めていくのを感じた。

焼かれた亡骸を元に戻せるという話が事実なら、それは復讐よりも優先すべき価値を持っていた。理性を取り戻したヤン隊長は、手紙の差出人について分析を始めた。

少年の正体を見抜く

手紙を運んできた少年に違和感を覚えたヤン隊長は、観察を続けた。

やがて少年に対し、父親の名誉に誓えと問いかける。すると少年は観念し、自らが傭兵ヤーノシュの息子ラースローであることを認めた。

ラースローは丁寧な態度で名乗りを上げ、ヤン隊長もその名を知っていたことを明かした。

ヤーノシュとの関係確認

ヤン隊長は、この件へのヤーノシュの関与を尋ねた。

ラースローは、父が受けた依頼は手紙を届けることだけであり、現状では敵対する意思はないと説明した。ヤン隊長はその言葉を受け入れつつも、これ以上自分たちの動向を探らないよう伝言を託した。

見破った理由の説明

ラースローは、自分の変装がなぜ見破られたのかを尋ねた。

ヤン隊長は、まず封書が綺麗すぎたことを指摘した。貧民街の少年が運んだなら泥や手垢が付き、折れや傷みがあるはずだと説明した。

さらに決定的だったのは、手紙を見た者がいるかと問われた際の返答だった。貧民街の少年なら差出人と仲介人を区別できないはずだが、ラースローは仲介者の存在を前提とした答えを返していた。その知識が正体を露呈させたのであった。

ラースローは説明に感心し、礼を述べて立ち去った。

書状への期待と警戒

ラースローが去った後、ヤン隊長は部下たちに書状を見せた。

部下たちは、ヤン司祭の亡骸を元に戻せるという内容に大きな希望を抱いた。ヤン隊長も話を聞く価値はあると判断したが、同時に差出人への警戒を強めていた。

この書状は、ヤン司祭の処刑を見越したうえで、ヤン隊長の居場所を把握して届けられたものだった。差出人は処刑の瞬間を待ち、亡骸の修復を取引材料として接触してきたのである。

ヤン隊長は、その手法に不快感を覚えながらも、もし書状の内容が虚偽であれば容赦しないという強い決意を抱くのであった。

第四章 策を巡らせる女王、世界を巡る王配

ログフォートでの密会

ウップサーラ王国の港町ログフォートにある館へ、ヤン隊長が密かに訪れた。

館の一室で待っていたのは善治郎であった。ヤン隊長は善治郎が今回の接触の首謀者だと考えていたが、善治郎は自分は伝言役と移動手段に過ぎず、全てを計画したのは別の人物だと説明した。

瞬間移動の説明

善治郎はカープァ王家の血統魔法である瞬間移動について説明した。

その魔法によってヤン隊長を首謀者の元へ送り届けると告げると、ヤン隊長は驚きながらも了承した。善治郎は南大陸では周知の事実だとして、瞬間移動の存在を隠さなかった。

兎を使った証明の準備

善治郎は、ヤン隊長が持参した生きた兎をその場で殺すよう求めた。

これは死体の損傷修復能力を証明するためであった。ヤン隊長は慣れた手つきで兎の首を折り、その死を確認すると、善治郎は瞬間移動の魔法を発動した。

南大陸への転移

瞬間移動を体験したヤン隊長は、一瞬で見知らぬ石室へ移動した。

そこには女王アウラと侍女、兵士たちが待っていた。気候や空気、周囲の人々の容姿や装備から、ヤン隊長は自分が本当に南大陸カープァ王国へ移動したことを理解した。

女王アウラとの会談

女王アウラは、書状に記した提案について説明した。

カープァ王家の血統魔法には破損した死体を修復する力があり、ヤン司祭の亡骸を持ち込めば元の状態へ戻せると告げた。ただし死体を生き返らせることはできないとも明言した。

ヤン隊長は、処刑前から自分の居場所を把握していたのか、救出できたのではないか、自分の暴発を防ぐことが目的だったのかなどを問い質した。しかし女王アウラは必要以上の説明を拒み、答える義務はないと繰り返した。

提案受諾への判断

ヤン隊長は女王アウラの言動を観察しながら熟考した。

女王アウラが有能な為政者であることは理解できたが、その真意までは読み切れなかった。それでも、死体修復という提案に価値を認め、まずは証拠を見せるよう求めた。

時間遡行による死体修復

ヤン隊長は兎の死体を篝火の中で徹底的に焼き、水をかけて踏みつけ、原形を失うほど損傷させた。

その後、女王アウラは秘匿された血統魔法である時間遡行を発動した。光に包まれた兎の死体は瞬く間に修復され、焼け焦げる前の姿へと戻った。

ヤン隊長は自ら手に取って確認し、毛並みや耳の模様から間違いなく自分が持ち込んだ兎であることを確かめた。体温まで戻っていたが、兎は確かに死んだままであり、死体のみが修復されたことを理解した。

ヤン司祭奪還への決意

奇跡のような光景を目の当たりにしたヤン隊長は、ヤン司祭の亡骸も修復できると確信した。

そして女王アウラに対し、この計画が自分に不利益をもたらすものかと最後の質問を投げかけた。女王アウラは、自らの意図では不利益になることはなく、自分の思惑通りに進めば悪くない結果になるはずだと答えた。

その言葉を受けたヤン隊長は提案を受け入れ、ヤン司祭の亡骸を必ず奪還すると約束した。

半年以内の奪還という条件

女王アウラは、死体修復には時間的な限界があり、ヤン司祭の死から半年以内でなければならないと告げた。

ヤン隊長はそれだけの猶予があれば問題ないと断言し、教会内部にも心情的に味方する者がいるため奪還は可能だと語った。

ただし女王アウラは、亡骸を取り違えればやり直しはできないと警告した。火葬されたヤン司祭の遺骨を正確に見極めなければならないという現実を突き付けられたヤン隊長は、その重要性を理解し、絶対に間違えないと固く決意した。

ログフォートへの帰還

女王アウラとの密約を結んだヤン隊長は、瞬間移動によってウップサーラ王国の港町ログフォートへ戻された。

教会勢力圏までは遠かったが、ヤン隊長は歴戦の傭兵であり、まだ教会に対して明確な敵対行動を取っていなかったため、身を隠しながら戻ることは可能と考えられていた。以後しばらくは、カープァ王国側が直接関与できることはなかった。

黄金の木の葉号の到着

数日後、黄金の木の葉号がワレンティア港へ到着したという報告が王宮へ届けられた。

フレア姫はすでに下船していたため、現在の船長はマグヌスであった。善治郎はカープァ王家の代表として出迎えるため、瞬間移動でワレンティアへ向かった。フレア姫や関係者たちはすでに現地入りしており、善治郎が最後の到着者となった。

代官館での面会準備

ワレンティア代官館に到着した善治郎は、代官ダミアンの出迎えを受けた。

善治郎は身だしなみを整えると、黄金の木の葉号一行との面会へ向かった。ダミアンは必要な準備が整っていることを報告し、善治郎を案内した。

黄金の木の葉号との会談

善治郎はマグヌス船長と再会し、無事に大陸間航行を成功させたことを称賛した。

その後、マグヌス船長とダミアン代官によって、船の現状や物資の売買、船員の行動範囲、責任の所在などについての事務的な協議が行われた。さらに黄金の木の葉号の修繕を建設中の大型ドックで実施し、その費用をウップサーラ王国が負担することも確認された。

リンネ教授の紹介

協議が一段落すると、善治郎は予定外の人物である中年男性について説明を求めた。

フレデリック外交官は、その人物が自然学の権威であるペテル・リンネ教授だと紹介した。善治郎はグスタフ王からの帰国命令を伝えたが、リンネ教授は大学教授に与えられた独自裁量権を理由に帰国を拒もうとした。

ヴェルンドの依頼による説得

善治郎は鍛冶師ヴェルンドから、南大陸で探してほしい土があるという依頼を伝えた。

さらに、帰国後も再び南大陸へ来られるよう支援することや、移動には瞬間移動を利用することも説明した。その話を聞いたリンネ教授は即座に帰国を受け入れた。

リンネ教授にとって最大の関心事は知的好奇心であり、再び南大陸を訪問できる保証を得たことで帰国命令に従う決断を下したのであった。

港の視察

面会後、善治郎はフレア姫やフレデリック外交官、マグヌス船長とともに港へ向かった。

そこで善治郎は、以前とは大きく変化した港の光景を目にした。特に目を引いたのは大型の木製クレーンであり、ウップサーラ王国から招かれた職人たちによって造られたものであった。

そのクレーンは黄金の木の葉号の修繕作業に活用されており、大型船を扱うための新しい技術として存在感を放っていた。

乾ドック建設の進捗確認

善治郎は大陸間航行船用の乾ドック建設について状況を確認した。

現場責任者の職人は、黄金の木の葉号の修繕に人員や資材を回しているため、乾ドック建設は予定より遅れていると説明した。善治郎は双王国へ発注した水操作の魔道具が役立たないか尋ねたが、職人は効果はあるだろうものの、乾ドックの膨大な水量に対してどの程度有効かは未知数だと答えた。

工事への理解と激励

善治郎は大規模工事である以上、遅延も想定内であると述べた。

重要なのは完成時期ではなく品質であり、長期間使用に耐えられるものを作ってほしいと現場責任者へ伝えた。その言葉を受けた職人は安堵し、善治郎へ頭を下げたのであった。

アルカト視察の目的

善治郎とフレア姫は、黄金の木の葉号一行の受け入れやリンネ教授の一時帰国、ワレンティアの造船所と修繕ドックの進捗確認を終えた後、アルカトへ向かった。

アルカトは元々無人同然の王家直轄地であったが、フレア姫がアルカト公爵となったことで、将来的には大陸間航行船用の港と造船所を備えた国際港として発展させる計画が進められていた。

第二の大型港建設の必要性

善治郎は、カープァ王国の大型港が事実上ワレンティア港に集中している現状を改めて認識していた。

大型船の修繕や建造、停泊機能が一か所に集約されている状態は危険であり、将来的な海戦や侵略を考慮すると、代替となる大型港の整備は重要な課題であった。そのため、アルカトを第二の大型港として育成する計画には大きな意味があった。

発展途上のアルカト

しかし実際のアルカトは、少数の作業員が整地を進めているだけの状態であった。

フレア姫はアルカト公爵として善治郎を歓迎したが、目の前に広がる光景は街どころか村とも呼び難いものであり、国際港としての姿はまだ遠かった。それでもフレア姫は、将来必ず国際貿易港アルカトを実現すると強い意志を示した。

走竜騎乗を楽しむフレア姫

ワレンティアからアルカトまでの移動では、フレア姫は走竜に騎乗していた。

後宮で始まった走竜の訓練では、騎馬経験のあるフレア姫とスカジが善治郎よりも早く上達していた。フレア姫は竜車よりも騎竜の方が気持ち良いと語り、自由に騎竜を選べる現在の生活を楽しんでいた。

善治郎直属の護衛団

善治郎とフレア姫の周囲には、スカジやナタリオ騎士団長、ビルボ公爵騎士団の面々が随行していた。

かつては女王アウラから借り受けた護衛が多かったが、現在は善治郎直属の人員が中心となっていた。善治郎やナタリオの意向に反して、ビルボ公爵騎士団は規模を拡大し続けていた。

港建設の現実

アルカトの開発は理想とは程遠く、まずは土地の整備と基礎づくりが優先されていた。

本来であれば桟橋を整備して水運を活用する方が効率的だったが、そのためには高度な技術を持つ職人と多額の費用が必要だった。そのため、まずは比較的安価に雇える作業員による整地作業から始められていた。

善治郎が土操作の魔法利用について触れると、フレア姫はそのような人材を雇う予算があるなら最初から桟橋建設を進めていると答えた。

独自財源への模索

フレア姫は、アルカト開発計画自体は自らの裁量で決定できるものの、予算は女王アウラに握られているため、独自の財源が必要だと語った。

そのため、自身の知識や経験を活かした事業によって利益を生み出し、その資金をアルカト開発へ投入したいと考えていた。善治郎も、北大陸の先進技術の中に利用できるものがないか考え始めた。

北大陸技術の活用案

善治郎は北大陸で見聞きした技術を思い返し、その中で白い糸や布に着目した。

共和国で珍重されていたレース編みを思い出した善治郎は、レースそのものではなく、それに使われる白い糸に価値があるのではないかと考えた。北大陸産の糸や布は南大陸産よりも白く見え、その違いが洗浄や脱色技術によるものであれば事業化できる可能性があると指摘した。

新たな商機への期待

善治郎の説明を聞いたフレア姫は、その技術を調査する価値があると判断した。

もし北大陸独自の加工技術によって高品質な白布が生み出されているのであれば、それは大きな商機になり得ると考えたのである。もっとも実現には女王アウラの許可が必要であったが、フレア姫は負けないと意気込み、新たな事業への意欲を見せるのであった。

第五章 目論見通りの奇跡

ヤン隊長の帰還と遺骨の搬入

女王アウラとヤン隊長の密約から約一か月後、ヤン隊長は教会内部の協力者たちの助けによってヤン司祭の遺骨を持ち出し、再び女王アウラの前へ現れた。

善治郎の瞬間移動によってカープァ王宮の石室へ運ばれたヤン隊長は、白い木箱を抱えたまま女王アウラに救いを求め、本懐を果たすために力を貸してほしいと願い出た。

時間遡行の準備

女王アウラはヤン隊長に遺骨を寝台へ並べるよう命じた。

ヤン隊長は炭化して原形を失った骨片を、一つひとつ丁寧に取り出して寝台へ並べた。その後、女王アウラは時間遡行の起点となる骨を選ばせ、ヤン隊長は震えながら一つの骨片を指し示した。

未来代償の魔道具発動

女王アウラはヤン隊長を十分な距離まで下がらせた後、秘匿魔法を行使した。

使用したのは未来代償の魔道具であった。この魔道具には長年蓄積された膨大な魔力が封じられており、その力によって大規模な時間遡行が可能となっていた。

女王アウラは対象を五十三日前まで巻き戻す時間遡行を発動し、ヤン司祭が拘束された後でありながら確実に生存していた時点へ戻した。

ヤン司祭の再生

時間遡行が発動すると光が寝台を包み込み、消えた後には遺骨の代わりに裸の男が横たわっていた。

女王アウラは魔法の成功を告げ、ヤン隊長に本人確認を命じた。ヤン隊長は寝台へ駆け寄り、再生された人物がヤン司祭であることを確認した。

また、再生後も寝台に残った骨片が存在したため、起点となる骨を誤って選んでいれば別人を再生していた可能性があったことも判明した。

蘇生の兆候

女王アウラは再生されたのはあくまで亡骸であると説明したが、ヤン隊長は違和感を覚えた。

体温だけでなく皮膚や筋肉に弾力があり、さらに脈拍まで感じ取れたのである。女王アウラが確認すると呼吸も存在していた。

その直後、ヤン司祭は目を開き、言葉を発した。こうして時間遡行によって再生されたヤン司祭は、生者として蘇ったのであった。

蘇生後の確認

しばらくして落ち着きを取り戻したヤン司祭は、ヤン隊長から自らの処刑や蘇生の経緯を説明された。

ヤン司祭の記憶や体調は五十三日前の状態に戻っており、投獄中の消耗は残っていたものの会話や行動に支障はなかった。

女王アウラは魔力を全く持たないヤン司祭の特異性を改めて確認しながらも、予想外の出来事として振る舞い続けた。

女王アウラとヤン司祭の対話

女王アウラはヤン司祭に感謝の気持ちがあるなら、カープァ王国の関与を疑わせる言動を避けるよう求めた。

ヤン司祭は了承し、自分が生きている事実以外は確かなことを語らないと約束した。また、竜信仰について問われると、信仰は人生の道標であり、直接的な奇跡や救済をもたらすものではないという考えを語った。

その知性と理性に触れた女王アウラは、ヤン司祭を必ず北大陸へ送り返すべき存在だと判断した。

空白の五十三日間の問題

続いて三人は、ヤン司祭の失われた五十三日間の扱いについて協議した。

ヤン司祭は記憶が五十三日前の時点で途切れており、その後の出来事を全く覚えていなかった。この事実を教会側に利用されれば、偽物だと断じられる危険があった。

女王アウラは脱獄したことにする案を提示したが、ヤン司祭は信念に反するとして拒否した。

ヤン隊長の対策提案

そこでヤン隊長は、教会内部の協力者から情報を集め、その内容をもとに空白期間の出来事を推測して対応する案を提案した。

教会側も都合の良い物語を作る可能性が高いため、自分たちも収集した情報をもとに真実を組み立てればよいと主張した。

さらにヤン隊長は、ボヘミア王国を中心にヤン司祭を信じる者が数多く存在するため、教会が一方的に偽物扱いしても必ず支持者が現れると説明した。

北大陸への帰還決定

女王アウラは二人が北大陸で活動可能だと判断し、当初の予定通り送り返すことを決めた。

ヤン隊長は、生きたヤン司祭と行動する方が遺骨を運ぶより容易だと語り、問題なく移動できると請け負った。

ヤン司祭も了承し、二人は女王アウラへの感謝を示した。

瞬間移動による出発

女王アウラは最後に幸運を祈る言葉をかけた。

そして二人のヤンを瞬間移動によって北大陸のログフォートへ送り出し、ヤン司祭蘇生という一連の計画を完遂したのであった。

ヤン司祭蘇生後の情報整理

ヤン司祭の蘇生から数日後、善治郎と女王アウラは後宮のリビングルームで密談を行った。

二人はヤン司祭蘇生に関する情報を整理し、善治郎はログフォートでヤン司祭やヤン隊長と直接会わなかったことを説明した。善治郎は自分の演技力では不自然さを隠しきれず、蘇生が想定内の出来事だったことを見抜かれる危険があると判断していた。

また、ヤン司祭とヤン隊長は人目につくことなくウップサーラ王国を離れたことも確認された。

蘇生の秘匿と記録方法の検討

二人は時間遡行による蘇生の事実をどのように記録するか話し合った。

噂として広まる可能性はあるものの、ヤン司祭が約束を守る限り、時間遡行による蘇生という真相は表に出ないだろうと判断された。

善治郎は記録を残すなら完全に残すか、一切残さないかのどちらかにすべきだと主張した。中途半端な記録は後世で誤解を招き、人間の蘇生が可能という誤った解釈につながる危険があるためである。

その結果、日本語で記した記録を残す方針が検討され、パソコンや竜皮紙を利用した情報保管の方法についても話し合われた。

日本語資料と機密管理

善治郎と女王アウラは、日本語による記録の秘匿性について意見を交わした。

日本語で記された資料は理解できる者が極めて限られるため、機密保持に有効だと判断された。一方で、日本語と南大陸西方語の対応辞典は機密情報解読の手掛かりとなるため、公開は避けるべきだという結論に至った。

こうして、時間遡行による蘇生に関する情報管理の方針が定められた。

北大陸から招いたガラス職人

話題は善治郎が北大陸から招いたガラス職人へ移った。

女王アウラは、その職人を王宮内で保護していると説明した。善治郎は透明度の高いガラス製造技術への期待を語ったが、女王アウラは目くらましとしての役割を果たしただけでも十分だと冷静に評価した。

その職人は技術革新に取り残されて困窮していた人物であり、大きな成果を期待するべきではないと考えられていた。

フレア姫の繊維事業計画

続いて、フレア姫が北大陸から繊維の洗浄や脱色に関する職人を招きたいという計画について話し合われた。

善治郎は、北大陸の技術を利用して白糸や白布の品質向上を図る考えを説明した。しかし、自ら商品を生産販売するよりも、技術を確立して既存の商会へ提供し、継続的な技術料を得る形が望ましいと提案した。

この方法であれば既存業者との対立を避けつつ利益を得ることができるため、女王アウラも一定の理解を示した。

脱色技術への集中

女王アウラは染色技術についても導入を提案したが、善治郎はまず洗浄と脱色に集中するべきだと主張した。

染色には植物由来の原料が必要であり、北大陸と南大陸では植生が異なるため再現が難しい。一方で洗浄や脱色は再現性が高く、短期間で成果を出しやすいと考えていた。

女王アウラはその説明に納得し、フレア姫へその方針を伝えることにした。

ユングヴィ王子の縁談

話題はユングヴィ王子の婚姻へ移った。

ユングヴィ王子は第二夫人候補としてミレーラを望んでいることが伝えられた。しかし異国への嫁入りという重大な決断であるため、本人の真意を慎重に確認する必要があると考えられていた。

女王アウラは侍女たちの噂話や会話を利用して本音を探る方針を示し、最終的にはオクタビア夫人の協力を得る考えを明かした。

里帰り制度の提案

善治郎は、ユングヴィ王子のもとへ嫁ぐ者や同行する侍女たちに定期的な帰国の機会を与えるべきだと提案した。

女王アウラもこれに同意し、そのために必要となる瞬間移動の負担について触れたが、善治郎は大きな問題ではないと受け止めていた。

戦争への備えの自覚

一連の議題を終えた後、善治郎は今進めている施策がすべて戦争への備えであることを口にした。

女王アウラは、それは侵略ではなく応戦の準備であると訂正した上で、国家が戦争を仕掛ける際に必要な条件について語り始めた。

戦争に必要な三つの条件

女王アウラは、戦争を仕掛けるためには利益、勝算、終戦の主導権という三つの条件が必要だと説明した。

利益の見込みがなければ戦争を行う意味はなく、勝算は当然必要である。そして終戦を自らの意思で決定できる状態を整えておくことも極めて重要だと語った。

北大陸諸国は大陸間航行船を保有しているため、侵攻しても必要に応じて撤退できる。そのため終戦の主導権を握っているのは現状では北大陸側であると指摘した。

大陸間航行船の重要性

女王アウラは、大陸間航行船を南大陸が保有することの重要性を説明した。

南大陸側も北大陸へ到達できる手段を持てば、北大陸諸国は自国本土への反撃を警戒せざるを得なくなる。そのため侵略計画への牽制効果が期待できるのである。

しかし侵略準備と大陸間航行船開発はどちらも年単位の計画であるため、侵略自体を止めることは難しいという見解を示した。

善治郎の決意

戦争が避けられない未来であることを受け入れた善治郎は、震えるほどの恐怖を感じながらも決意を固めた。

迎え撃とう、勝とう、そして次の戦乱が少しでも遠ざかるよう徹底的に戦おうと語る善治郎に対し、女王アウラはその重い決意に驚きながらも静かに同意した。

エピローグ 戦火の萌芽

ユングヴィ王子の帰還

ウップサーラ王国へ帰還したユングヴィ王子は、カープァ王国での滞在成果に満足しながら王宮を歩いていた。

ユングヴィ王子は、カープァ王国が異なる文化や産物を持ちながらも価値観に共通点のある有益な貿易相手であると実感していた。また、第二夫人候補の女性やその養父であるマルケス伯爵にも好印象を抱いており、両国の結びつきが順調に進んでいることを喜んでいた。

しかし王の私室へ向かう途中、周囲の使用人たちの微妙な反応から王宮内で何らかの重大な出来事が起きていることを察知し、警戒を強めた。

ヤン司祭生存の報告

父王グスタフとの面会で、ユングヴィ王子はヤン司祭が姿を現したという報告を受けた。

処刑されたはずのヤン司祭の名前を聞いたユングヴィ王子は混乱したが、グスタフ王は教会がヤン司祭の処刑を公表した後、大学に現れたヤン司祭を教会が偽物と断定し、それに対して大学が本人であると発表した経緯を説明した。

この報告を受けたユングヴィ王子は、大学が公然と教会へ反旗を翻した状況に驚きを隠せなかった。

大学とボヘビア王国の立場

ユングヴィ王子は、大学やボヘビア王国がヤン司祭本人と認めている以上、その人物が本物である可能性は極めて高いと判断した。

大学や王国中枢にはヤン司祭と面識のある者が多数存在するため、偽物を本人と認定する方が不自然だからである。

またボヘビア王国が大学の発表を黙認していることからも、国全体がヤン司祭寄りの立場を取っていると考えた。

教会の矛盾への考察

ユングヴィ王子は、教会が偽物を処刑したのではないか、生存したヤン司祭が再び姿を現したのではないかなど、様々な仮説を立てて状況を分析した。

しかしグスタフ王は、自称ヤン司祭が教会から処刑されたこと自体を認めた上で、その処刑が不当だったと非難する声明を出していると告げた。

この前代未聞の状況に、ユングヴィ王子は大きな衝撃を受けた。

死者蘇生と勇者伝説の問題

ヤン司祭が処刑された事実を認めながら生存していることは、教会にとって極めて不都合な事態であった。

爪派教会は歴代勇者の復活伝説を史実として扱っているため、ヤン司祭の復活が事実として受け入れられれば、信徒たちはヤン司祭を勇者同然の存在として認識する可能性が高かった。

そのため教会はヤン司祭を偽物と主張するしかなかったが、多くの人々が本人と認識している以上、その主張には無理があった。

教会の権威失墜への分析

ユングヴィ王子とグスタフ王は、今回の件が教会の権威を大きく傷つけると分析した。

一般の人々は教会がヤン司祭を処刑したことも信じており、同時に生きているヤン司祭本人も目にしている。その結果、多くの者がヤン司祭は処刑された後に復活したと認識する可能性が高かった。

教養ある者ほど復活伝説を疑っている一方で、今回の事実そのものが本当の死者蘇生であるとは考えにくく、かえって真相から遠ざかっていた。

ヤン隊長の存在

ユングヴィ王子は、隻眼の傭兵ヤンについても質問した。

グスタフ王は、ヤン隊長がヤン司祭の護衛として確認されていると答えた。

ユングヴィ王子は、ヤン隊長がヤン司祭救出に成功し、替え玉の死体を用意して教会を欺いたのではないかという推測を語った。グスタフ王も、その推測は十分に現実的な説明であると認識していた。

今後の対立の予測

二人は今後の情勢について意見を交わした。

ユングヴィ王子は、ヤン司祭の性格や現在の行動から考えて簡単に矛を収めるとは思えず、教会も立場上譲歩できないため、最悪の場合は武力衝突に発展する可能性があると指摘した。

グスタフ王は、小規模な衝突は避けられないとしつつも、教会は騎士団が敗北して戦力を失っているため、大規模な戦争に発展するかどうかは五分五分だと判断した。

教会上層部への評価

ユングヴィ王子は、教会上層部は他人事には冷静でも、自分たちの権威や面子が傷つく問題になると感情を優先する傾向があると分析した。

そのため、合理的に判断して事態を収束させるよりも、危険を承知でヤン司祭排除へ突き進む可能性の方が高いと考えていた。

グスタフ王もその指摘には一定の説得力を認め、自然に事態が大きくなった場合に備える必要があると考えた。

父子の意見の相違

ユングヴィ王子は、ヤン司祭へ傭兵を紹介し、自国の戦士も同行させて情報収集を行う案を提案した。

しかしグスタフ王は、それでは露骨に一方へ肩入れすることになるとして却下した。

能力は高くても慎重さに欠ける息子をたしなめながら、グスタフ王はユングヴィ王子が一度痛い目を見るべきかもしれないと評し、ユングヴィ王子は不満を示しながらもその評価を覆すことはできなかった。

付録 主と侍女の間接交流

後宮に訪れた新たな変化

フレア姫が側室として後宮に入ったことで、後宮には大きな変化が生じていた。

フレア姫専用の別棟が開設され、北大陸出身の侍女たちも加わった。フレア姫や側近のスカジは後宮内で騎竜の訓練を行い、狩猟服を着用するため、侍女たちは従来とは異なる衣類の管理や庭の補修作業にも対応していた。

そのような変化の続く後宮に、新たに北大陸から取り寄せた窓ガラスが設置された。

窓ガラス清掃の指導

アマンダ侍女長は若い侍女たちを集め、窓ガラスの取り扱いについて説明した。

窓ガラスの管理経験を持つ北大陸出身の侍女たちが指導役となり、ランヒルドの指示のもと、エルヴィーラが清掃方法を教えることになった。

フェー、ドロレス、レテの三人は、指導役が厳格なランヒルドではなくエルヴィーラになったことを内心で喜んでいた。

エルヴィーラによる実技指導

エルヴィーラは窓ガラスの構造や清掃方法を説明しながら実演を行った。

窓ガラスは透明なガラス部分、鉛の枠、木枠で構成されており、それぞれ異なる薬剤で手入れする必要があった。フェーたちは実際に清掃を行いながら、凹凸のあるガラス特有の扱いに苦労していた。

また、小柄なフェーでは高い位置の掃除が難しいことが話題となり、ドロレスが上部を担当し、フェーが下部や床を担当することで役割分担が決まった。

休憩時間の雑談

仕事を終えたフェー、ドロレス、レテ、エルヴィーラは侍女用食堂で休憩を取った。

ドロレスは窓ガラス清掃を教えてくれたエルヴィーラに感謝を伝え、エルヴィーラは自分よりもランヒルドの方が指導力は高いと語った。しかし問題児三人組は、ランヒルドの厳しい指導を恐れており、エルヴィーラが担当で良かったと口を揃えた。

ニルダとランヒルドの関係

会話は後宮別棟の筆頭侍女であるニルダの話題へ移った。

ドロレスたちは、形式上ランヒルドの上司となっているニルダに同情していたが、エルヴィーラは二人の関係は非常に良好だと説明した。

ニルダは素直にランヒルドの助言を受け入れ、ランヒルドもニルダの誠実さを理解していたため、互いにうまくやっているのであった。

ガラス製品と善治郎の価値観

話題は窓ガラスから善治郎が持ち込んだ品々へと移った。

フェーたちはテレビやパソコン、鏡などの手入れ経験があったため、ガラスの扱いにある程度慣れていた。しかし窓ガラスはそれらより脆く、取り扱いには細心の注意が必要だった。

やがて三人は、もし窓ガラスを割ってしまった場合の対処法を相談し始めた。エルヴィーラは、そのような話を平然とできるのは善治郎への信頼があるからだと指摘した。

善治郎は不慮の事故による破損で使用人を厳しく責めないため、三人は失敗した場合の対応を冷静に考えられるのであった。

北大陸と南大陸の技術差

窓ガラスの話から、北大陸から招かれたガラス職人の話題になった。

ドロレスは技術流出を心配したが、エルヴィーラは職人が高齢であり、北大陸基準では特別高度な技術者ではないと説明した。

その一方で、南大陸では依然として貴重な技術者であるとも語った。さらに、北大陸から来た侍女たちの私物を例に挙げながら、魔法以外の多くの分野で北大陸の技術力が南大陸を上回っていることが話題になった。

大学とエルヴィーラの知識

ドロレスはエルヴィーラの知識の豊富さに感心し、その理由を尋ねた。

エルヴィーラは、王都の大学で法学や論理学などの講義を聴講していた経験があると明かした。

大学という組織の存在にフェーとレテは驚き、エルヴィーラは知識の収集や研究、人材育成を目的とする機関だと説明した。また、女性は正式な学生にはなれず、聴講が許される程度であることも語った。

ミレーラの配置転換と縁談

会話はミレーラの配置転換へと移った。

ミレーラはアウラ付きの本棟からフレア姫付きの別棟へ移る予定であり、その理由はユングヴィ王子との縁談が内定したためだとエルヴィーラは説明した。

別棟で働くことで、ミレーラはウップサーラ王国の文化や礼法を学ぶことになる。また、ランヒルドに認められれば、フェリシア第二王妃への推薦も期待できる状況であった。

ユングヴィ王子との相性

レテはユングヴィ王子がどのような人物なのかを尋ねた。

エルヴィーラは、ユングヴィ王子は理性的で主導権を握ることを好む人物であり、相手に主導権を委ねる傾向のあるミレーラとは相性が良いと説明した。

さらに、フレア姫やランヒルドから助言を受けられるため、ミレーラならば問題なく適応できるだろうと語った。

その話を聞いた三人は、ミレーラの幸せと両国にとって良い結果となることを願った。

レベッカの合流

休憩中の四人のもとへレベッカがやって来た。

レベッカは窓ガラスの扱いを三人が覚えられそうか尋ね、フェーたちはエルヴィーラの指導が分かりやすかったと答えた。

レベッカは指導力ではエルヴィーラに及ばないことを認めつつ、自分が勝てるのは殴り合いだけだと胸を張った。

その言葉にフェーたちは呆れ、エルヴィーラは楽しそうに笑うのであった。

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