どんな本?
「理想のヒモ生活」とは、渡辺恒彦 氏によるライトノベル。
日本でブラック労働をしていた善治郎は久しぶりの休みの日に異世界に召喚された。
その召喚主は善治郎の好みドストライクの美女だった。
そんな彼女は大国の女王で、善治郎に婿に来て欲しいと言う。
善治郎は躊躇なく「はい」と返事をして地球で婿に行く準備をしていざ異世界へ、、
後宮に引き篭もるヒモ生活を享受出来ると思っだが、、
女王が妊娠したら悪阻が酷く、彼女の代理として政治の表舞台へと行くと、世間が彼を後宮に引きこもる事を許してくれなくなった。
さらに彼の持ち物のビー玉が隣国双王国の付与魔術の媒体として最高品であると判ると、、
さらに善治郎の血統も、、
そんなタイトル詐欺と言いたくなるほど大忙しな善治郎のヒモ生活。
読んだラノベのタイトル
理想のヒモ生活 4
著者:渡辺恒彦 氏 イラスト: 文倉 十 氏
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あらすじ・内容
大人気シリーズ第4弾。フランチェスコ王子の来訪から続々とトラブルが巻き起こり、ついにカルロス王子を病魔が襲う……
シャロワ・ジルベール双王国より、ついにフランチェスコ王子とボナ王女が来訪する。朗らかに笑いながら、何かとトラブルを連発するフランチェスコ王子に善治郎は振り回されがち。そんな中、善治郎のもとに衝撃的な報告が入る。愛息、カルロス=善吉王子が発病。病気の程度は九割方助かるというが、その高い生存率が逆にネックとなり、貴重な魔道具『治癒の秘石』の使用は認められない。そこに、フランチェスコ王子が自分の持つ『治癒の秘石』をカルロスに使っても良い、と提案してくる。しかし、実際に病床のカルロスに使ったのは『治癒の秘石』ではなく、自らの魔力による『治癒魔法』だった。そこでフランチェスコ王子の「血筋」が明らかになる—–。
理想のヒモ生活4
感想
フランチェスコ王子とボナ王女が双王国からやって来た。
それに応待するのは王族である善治郎。
そんなフランチェスコ王子はよく言えば天真爛漫で色々とやらかす。
それの火消しをするのがボナ王女で、いつも王子に変わって謝ってばかりww
ただそのボナ王女も装飾品が関わるとポンコツになる。
そんなポンコツなボナ王女は善治郎と相性が良く、善治郎の懐に無自覚にスルッと入って来てしまう。
だから善治郎もボナ王女にレンズの原理をポロッと教えてしまい、望遠鏡、顕微鏡の開発のきっかけを与えてしまったかもしれないと後悔してしまう。
そして、フランチェスコ王子が王位継承権が無い事に疑問に思っていた善治郎とアウラ達。
善治郎とアウラの息子、カルロス善吉が病気になった事で判明する。
付与魔法を持つ王族であるフランチェスコ王子が、治療魔法を目の前で使って見せた。
善治郎の血筋のせいで、息子のカルロス善吉は時空魔法と付与魔法、2つの王家の魔法が両方使える可能性が高いと判り善治郎とアウラは戦慄する。
そして、それを教えたフランチェスコ王子は、、、
国王の祖父と、王太子の父親がフランチェスコ王子に双王家両方を統一して欲しいと思っており、両方の魔法が使えるフランチェスコ王子はその象徴にはもってこいの神輿だと思われており迷惑に思ってる。
そんな思惑を他所に、塩騒動の原因の肉食竜の群れ問題に対応してた餓狼将軍率いる最精鋭の国軍は、、
100頭ほどだと思ってた群が、何回も迎撃して30匹以上倒しても毎回同じ規模の襲撃を受けて、500頭規模だと判明する。
それにより、餓狼将軍単独の解決はせず女王アウラに援軍を要請する。
王女の旦那になって、気楽なヒモ生活と思ってたが凄く忙しそうな善治郎が気の毒なようで忙しそうで良かったとも思ってしまう。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察・解説
シャロワ王家の来訪
シャロワ・ジルベール双王国からの使節団として、シャロワ王家のフランチェスコ王子とボナ王女がカープァ王国を訪問した出来事は、単なる友好使節の枠を超え、両国の政治的思惑や魔法の秘密が交錯する重要な事件として描かれている。
シャロワ王家の来訪に関する全容を、以下の4つのポイントから解説する。
1. 百数十年ぶりの異例の公式訪問と警戒
「付与魔法」の使い手であるシャロワ王家の人間は基本的に国外へ出ることがないため、この公式訪問は百数十年ぶりの極めて異例な出来事であり、カープァ王国の貴族たちを大いに驚かせた。女王アウラは、この来訪の真の目的が以下のいずれかにあると見抜き、強く警戒していた。
・善治郎が持ち込んだ「ビー玉(透明な宝玉)」への接触
・善治郎自身の「血筋(付与魔法の血統)」への接触
2. 来訪した二人の特異な王族
使節団の代表であるフランチェスコ王子とボナ王女は、それぞれ特異な事情を抱えた王族である。
・フランチェスコ王子:現王の嫡孫という最高の血統を持ちながら王位継承権を与えられていない。普段は脳天気で軽薄な人物を演じているが、実際はシャロワ王家とジルベール法王家の両方の血を引き、「付与魔法」と「治癒魔法」という2つの血統魔法を併せ持つ規格外の天才であった。
・ボナ王女:下級貴族の出身だが、隔世遺伝で付与魔法に目覚めたため王族に迎えられた。宝飾職人としての顔も持ち、生真面目な性格から、実質的にフランチェスコ王子の「お目付役」兼「目くらまし役」として同行させられていた。
3. 第一王子の治療と明かされた血統魔法の秘密
来訪中、カープァ王国の第一王子カルロスが命に関わる「赤斑熱」に罹患する。政治的な理由から絶対的な治療手段である「治癒の秘石」を使えず苦悩するアウラと善治郎の元へ、フランチェスコ王子が「自分が治癒の秘石を使う」という名目で男子禁制の後宮に乗り込んだ。しかし、そこから以下の事実が明らかとなった。
・フランチェスコ王子は実際には秘石を使用せず、自身が隠し持っていた「治癒魔法」でカルロスを完治させた。
・彼が二つの王家の血を引き、両方の魔法を使えるという国家機密が明かされた。
・同時に、同じく二つの王家の血を引くカルロスも「時空魔法」と「付与魔法」の両方を使える資質を持っていることが確定的となった。
4. 魔道具の恩恵と新たな政治的危機
フランチェスコ王子は善治郎が提供した「ビー玉」を活用し、魔力を長期間貯蔵できる「未来代償」の画期的な魔道具を短期間で完成させ、カープァ王国に時空魔法の運用を広げる大きな恩恵をもたらした。一方でアウラは、双王国の真の狙いを推測し、以下のような懸念を抱くことになった。
・カルロスという前例を公にすることで、二つの血統魔法を持つ者の血筋を絶やすという双王国独自の密約を無効化すること。
・もしカルロスが付与魔法を使えると知れ渡れば、善治郎がシャロワ王家の血を引いていることも露見するため、善治郎に側室を求める国内からの圧力が今まで以上に強まること。
まとめ
シャロワ王家の使節団来訪は、画期的な魔道具という恩恵をカープァ王国にもたらした一方で、善治郎の血統やカルロスの資質に関わる重大な機密を浮き彫りにした。これにより、二つの王家の密約を巡る双王国の政治的思惑と、善治郎の側室問題を巡るカープァ王国内の圧力が絡み合い、両国に新たな政治的危機をもたらす結果となったのである。
魔道具製作の秘匿
シャロワ・ジルベール双王国の使節団来訪において、「魔道具製作の秘匿(シャロワ王家の秘伝)」に関する情報漏洩は、単なるアクシデントではなく、両国の高度な政治的駆け引きを引き起こす重要な要素として描かれている。
魔道具製作の秘匿がどのように明かされ、カープァ王国がどう対応したのかについて、以下の4つのポイントから解説する。
1. フランチェスコ王子の失言とシャロワ王家の秘伝
善治郎が空のウィスキー瓶(透明なガラス瓶)を贈った際、フランチェスコ王子は「あの透明な宝玉さえあれば魔道具作成に関する時間の問題は解決する」と不用意に漏らしてしまう。これを聞いたボナ王女は「シャロワ王家の秘伝」が漏れたと激しく動揺した。ボナ王女の説明により、以下の裏技が明らかとなった。
・無色透明な宝玉を使えば魔力の通りが良くなる
・一般的な四大魔法の付与が一日で終わる
2. カープァ王国側のジレンマと内密な対応
この機密情報を善治郎だけが聞いてしまったことに対し、ファビオ秘書官は「してやられた」可能性があると分析した。得られた情報を活用して国益を上げれば善治郎の素晴らしい外交功績となるが、男優位のカープァ王国において善治郎の名声が高まることは、以下のような望まぬ事態を招く懸念があった。
・善治郎への権力集中
・側室問題の強要
そのため、機密情報を得た側である善治郎やアウラが、自分たちの身を守るために自ら進んで事を内密に運ばざるを得ない状況に追い込まれた。
3. 魔道具完成の秘匿と発表の先送り
アウラは情報の確度を確かめるため、実際にフランチェスコ王子に「ビー玉」を渡し、「未来代償」の魔道具を作成させた。結果として、王子は数日で極めて高度な魔道具を完成させる。アウラは時空魔法の運用に大きな恩恵をもたらすこの成果を評価しつつも、以下の理由から苦肉の秘匿策を取ることにした。
・作成期間が短縮された事実が漏れるのを防ぐため
・善治郎の功績が発覚するのを防ぐため
実際の完成は数日でも発表を一年後まで遅らせるという対応をとった。
4. お目付役であるボナ王女を利用した目くらまし
これら一連の機密漏洩は、フランチェスコ王子の単なる不注意ではなく、シャロワ王家上層部の意図が含まれていた可能性が高いとされている。実際、双王国の国王と第一王子は「最終的には宝玉の入手を優先する。最悪の場合、機密の漏洩もやむなし」と事前に許可を出していた。生真面目で責任感の強いボナ王女を「お目付役」として同行させたのは、以下の目的のためであった。
・本気で機密を守ろうと奔走させるため
・漏洩に激しく動揺する姿を見せるため
・明かされた情報の信憑性を高めるための「目くらまし」として利用するため
まとめ
魔道具製作の秘匿漏洩は、双王国の緻密な情報戦略とカープァ王国の国内事情が複雑に絡み合った結果である。カープァ王国側は得られた情報の価値を認識しつつも、政治的バランスを保つためにあえてその成果を秘匿する選択を余儀なくされた。この一連の出来事は、異世界における国家間のしたたかな駆け引きを色濃く反映している。
魔道具製作の秘匿
『理想のヒモ生活4』において、「魔道具製作の秘匿(シャロワ王家の秘伝)」に関する情報漏洩は、単なるアクシデントにとどまらず、カープァ王国とシャロワ・ジルベール双王国の高度な政治的駆け引きを引き起こす重要な要素として描かれている。
魔道具製作の秘匿がどのように明かされ、カープァ王国がどう対応したのかについて、以下の4つのポイントから解説する。
1. フランチェスコ王子の失言とシャロワ王家の秘伝
善治郎がフランチェスコ王子に透明なガラス瓶(ウィスキー瓶)を贈った際、王子は「あの透明な宝玉さえあれば魔道具作成に関する時間の問題は解決する」と不用意に漏らしてしまう。これを聞いたボナ王女は「シャロワ王家の秘伝」が漏れたと激しく動揺した。ボナ王女の説明により、以下の双王国が本来秘匿すべき魔道具製作の裏技が明らかとなった。
・無色透明に近く、真球に磨かれた宝玉を使えば魔力の通りが良くなる
・一般的な四大魔法の付与が一日で終わる
2. カープァ王国側のジレンマと内密な対応
この機密情報を善治郎だけが聞いてしまったことに対し、ファビオ秘書官は双王国側に主導権を握られ「してやられた」可能性があると分析した。得られた情報を活用して国益を上げれば善治郎の素晴らしい外交功績となるが、男優位のカープァ王国において善治郎の名声が高まることは、以下の望まぬ事態を招く懸念があった。
・善治郎への権限拡大を望む勢力に口実を与えること
・側室問題の強要
そのため、機密情報を得た側である善治郎やアウラは、自ら進んで事を内密に運ばざるを得ない状況に追い込まれた。
3. 双王国上層部の意図とボナ王女の目くらまし
これら一連の情報漏洩は、フランチェスコ王子の単なる不注意ではなく、双王国上層部の意図が含まれていた可能性が高いとされている。実際、双王国の国王と第一王子は「最終的には宝玉の入手を優先する。最悪の場合、機密の漏洩もやむなし」と事前に許可を出していた。生真面目で責任感の強いボナ王女をお目付役として同行させたのは、以下の目的のためだったと推測されている。
・彼女が本気で機密を守ろうと奔走させるため
・漏洩に激しく動揺する姿を見せるため
・明かされた情報の信憑性を高めるための「目くらまし」として無意識のうちに利用するため
4. 魔道具の実証と発表の先送り
アウラは情報の確度を確かめるため、実際にフランチェスコ王子に「ビー玉」を渡し、未来代償の魔道具を作成させることにした。結果として、王子は数日で純金の骨格に守られた極めて高度な魔道具を完成させる。アウラは時空魔法の運用に大きな恩恵をもたらすこの成果を評価しつつも、以下の事実が発覚するのを防ぐため、実際の完成は数日でも発表を一年後まで遅らせるという苦肉の秘匿策を取ることにした。
・作成期間が短縮された事実
・善治郎の功績
まとめ
魔道具製作の秘匿漏洩は、単なる偶然ではなく双王国側の意図的な情報戦略が疑われる事態であった。一方のカープァ王国も、男優位の社会において王配である善治郎の権力が拡大することを危惧し、得られた画期的な成果をあえて秘匿するという政治的判断を下した。両国の思惑が交錯するこの出来事は、魔道具という技術を巡る国家間の高度な駆け引きを浮き彫りにしている。
善治郎の外交功績
『理想のヒモ生活4』において、善治郎がシャロワ・ジルベール双王国の使節団対応で上げた「外交功績」は、カープァ王国に莫大な利益をもたらした一方で、彼自身の平穏な立場を脅かす政治的ジレンマを孕むものであった。
善治郎の外交功績とその裏に潜む政治事情について、以下の4つのポイントから解説する。
1. 貴重な機密情報の獲得
善治郎はフランチェスコ王子との公式な面談において、自身が持ち込んだ透明なガラス瓶(ウィスキー瓶)を贈った。この見事な器に感激した王子は、「あの透明な宝玉さえあれば魔道具作成に関する時間の問題は解決する」と、双王国が本来秘匿すべき裏技を不用意に漏らしてしまう。さらに同席したボナ王女の説明により、以下の極めて重要な機密情報が善治郎の耳に入ることとなった。
・無色透明に近く真球に磨かれた宝玉を使えば、魔法の付与が一日で終わる
2. 画期的な魔道具「未来代償」の入手
善治郎は、この情報を実証するために自身の私物である「ビー玉(薄水色の宝玉)」をフランチェスコ王子に提供した。その結果、王子は自身の付与魔法を駆使し、魔力を長期間貯蔵・継ぎ足しできる「未来代償」という極めて高度な魔道具を短期間で完成させた。この魔道具は、以下の国家レベルの大きな利益をもたらした。
・アウラが使用する消費魔力の大きい「時空魔法(時間遡行や次元遮断大結界など)」の運用に絶大な恩恵を与える
3. 「素晴らしい功績」をあえて秘匿するジレンマ
これら一連の成果に対し、ファビオ秘書官は「公式記録にも残る素晴らしい外交功績」であり、善治郎の名声が劇的に上がると評価した。しかし、男優位の価値観が根強いカープァ王国において善治郎の功績が表沙汰になれば、以下の危険性がある。
・善治郎への権限拡大を望む勢力に口実を与える
・善治郎が最も忌避する「側室問題の強要」を招く
そのため、善治郎とアウラは自分たちの身を守るべく、得られた国益を手柄として誇るのではなく、魔道具の完成発表を遅らせるなど、あえて事を内密に運ばざるを得ない状況に追い込まれた。
4. 距離感の甘さが招いた「レンズ技術」の流出
一方で、善治郎の外交対応には手痛い失敗もあった。宝飾に強い情熱を燃やすボナ王女との非公式会談において、善治郎は日本の五円玉の穴と水滴を使って「凸レンズ(水レンズ)」の原理を教えてしまう。これに感激した王女が水レンズを作る魔法を編み出し、さらにそれを魔道具化する着想を得てしまったことで、以下の大失態を招いた。
・遙か遠方を監視できる「望遠鏡」などの強力なレンズ技術を双王国に独占されかねない
この一件からアウラは、善治郎がボナ王女に対して無意識のうちに警戒心を緩めていると危惧し、今後は二人きりでの面会を禁じる措置を取った。
まとめ
このように善治郎の外交は、異世界人ならではの品物や発想で大きな成果を生み出す反面、その功績自体が国内の権力闘争の火種となり、何気ない親切が国家間の技術格差を揺るがす危機を招くという、複雑な綱渡りとして描かれている。
ビー玉の有用性
『理想のヒモ生活』において、善治郎が日本から持ち込んだ「ビー玉」は、単なる子供のおもちゃにとどまらず、異世界において国家間のパワーバランスを揺るがすほどの極めて高い有用性と価値を持つアイテムとして描かれている。
ビー玉の有用性とその影響について、以下の4つのポイントから解説する。
1. ガラス技術のない世界における「宝玉」としての破格の価値
・善治郎が万が一の換金用として持ち込んだビー玉は、ガラス製造技術が存在しないこの世界では、極めて貴重な「無色透明で真球の宝玉」として扱われる。
・双王国のイザベッラ王女は、ビー玉一つに対して下級貴族の邸宅一軒分に相当する「金貨50枚」という法外な値を提示した。
・これは、単なる装飾品としての美しさだけでなく、ビー玉の素材や技術そのものに途方もない価値を見出していたためである。
2. 魔道具製作の時間を劇的に短縮する「秘伝の触媒」
・ビー玉の最大の有用性は、双王国の秘術である「付与魔法」の媒体として用いた際の劇的な効果にある。
・ボナ王女やフランチェスコ王子の説明によれば、無色透明に近く真球に磨かれた宝玉は魔力の通りが極めて良く、これを使用すれば通常は長期間を要する魔道具の作製(一般的な四大魔法の付与)が、わずか一日で完了してしまう。
・これは、双王国が長年隠し続けてきた「魔道具作製の時間を短縮する裏技(シャロワ王家の秘伝)」の核心となる条件であった。
3. 画期的な魔道具「未来代償」の完成
・情報の確度を確かめるため、アウラは双王国のフランチェスコ王子にビー玉を提供し、魔道具の作製を依頼した。
・王子はビー玉を核として純金の骨格で覆った「未来代償」の魔道具を、わずか数日で完成させた。
・この魔道具によって魔力を長期間貯蔵・継ぎ足しすることが可能となり、アウラが使用する消費魔力の大きい「時空魔法(時間遡行や次元遮断大結界など)」の運用に絶大な恩恵をもたらすことになった。
4. 双王国の思惑と国家間外交への影響
・魔道具の生産効率を根底から覆すビー玉の有用性は、双王国(シャロワ王家)にとって喉から手が出るほど魅力的なものであった。
・双王国の上層部は「最終的には宝玉の入手を優先する。最悪の場合、機密の漏洩もやむなし」とまで判断して、フランチェスコ王子らをカープァ王国へ派遣している。
・善治郎にとっては一袋数百円のおもちゃに過ぎないガラス玉が、魔道具という戦略的技術の鍵を握る触媒として機能したことで、ビー玉は両国の高度な政治的駆け引きを引き起こす重要なアイテムとなった。
まとめ
このように、善治郎が日本から持ち込んだビー玉は、ガラス技術の存在しない異世界において途方もない価値を持ち、双王国の魔道具製作の根幹に関わる重要な触媒として機能した。たかが子供のおもちゃが国家間のパワーバランスを揺るがし、高度な政治的駆け引きを引き起こすアイテムへと変貌する展開は、本作における異世界の価値観と現代の物品が交錯する面白さを象徴している。
二つの血統魔法
カープァ王国および周辺諸国において、「二つの血統魔法」を一個人が同時に保有し行使することは、国家間のパワーバランスや王位継承の根幹を揺るがす極めて重大な事象として描かれている。
血統魔法は特定の王家の血筋にのみ発現する秘術であるが、異なる王家の血を引く者が二つの血統魔法を操ることは、理論上は不可能ではない。しかし、それを実現するためには通常の王族の倍に相当する莫大な魔力量が必要であるとされている。
この「二つの血統魔法」を巡る状況と政治的影響について、以下の4つのポイントから解説する。
1. フランチェスコ王子の秘密と双王国の密約
・シャロワ・ジルベール双王国のフランチェスコ王子は、シャロワ王家の直系でありながら隔世遺伝でジルベール法王家の血筋にも目覚めており、「付与魔法」と「治癒魔法」の両方を行使できる規格外の魔力を持っている。
・しかし、双王国の間には「お互いの家に相手の血統魔法に目覚めた者が生まれた場合は、その者は生涯独身のまま過ごさせ、血統を途絶えさせる」という密約が存在する。
・これは、二つの血統魔法を使える人間は両王家融合の象徴として玉座に就くべきだとする完全融合派などの急進的な思想を刺激し、国を二分する乱を起こしかねないためである。
・そのため、フランチェスコ王子は第一王子の長男でありながら王位継承権を持たず、日頃からあえて脳天気な人物を演じて政治から距離を置いていた。
2. カルロス王子の資質の発覚
・善治郎は、約150年前に駆け落ちしたシャロワ王家の王女の血を引いているため、その息子であるカルロス王子はカープァ王家(時空魔法)とシャロワ王家(付与魔法)の両方の血を引いている。
・カルロスは生まれた直後からアウラを上回るほどの圧倒的な魔力を放っており、二つの血統魔法を使える前提条件を満たしていた。
・カルロスが命に関わる赤斑熱に罹患した際、フランチェスコ王子は自らの治癒魔法で彼を完治させた。
・それと同時に、カルロスが時空魔法と付与魔法の二つの血統魔法を使える資質を持っているという事実をアウラと善治郎に突きつけた。
3. 双王国の思惑と密約無効化の狙い
・フランチェスコ王子が国家機密である自身の能力を明かしてまでカルロスの資質を伝えた背景には、背後に控えるシャロワ王家上層部の高度な政治的思惑があると推測されている。
・アウラは、カルロスという二つの血統魔法を持つ王族の前例を他国で公然のものとすることで、巡り巡って双王国内の「もう一つの血統魔法に目覚めた者の血筋は絶やす」という理不尽な取り決めを無効化しようとする狙いがあるのではないかと分析した。
4. 善治郎に降りかかる新たな政治的圧力
・この事実は、カープァ王国と善治郎にとって極めて厄介な火種となる。
・カルロスが付与魔法を使えると知れ渡れば、必然的に父親である善治郎がシャロワ王家の血を引いていることも露見してしまう。
・そうなれば、時空魔法と付与魔法の使い手を量産して国力を増強したい国内の急進派貴族(プジョル将軍など)から、善治郎に側室を求める圧力が今まで以上に強硬になることが確実視されている。
・結果として、アウラと善治郎は今後の厳しい政治的対応を迫られることになった。
まとめ
二つの血統魔法の同時保有は、個人の魔力の大きさを示すだけでなく、国家間の密約や国内の権力闘争に直結する危険な要素である。フランチェスコ王子の思惑によりカルロスの資質が明らかになったことで、善治郎の血筋や側室問題に新たな圧力がかかり、カープァ王国の内政と外交はさらなる緊張状態を迎えることとなった。
未来代償の魔道具
『理想のヒモ生活』において、シャロワ・ジルベール双王国のフランチェスコ王子によって作製された「未来代償」の魔道具は、カープァ王国の時空魔法の運用に画期的な変化をもたらした重要なアイテムである。
この魔道具の特徴と、それがもたらした影響について、以下の4つのポイントから解説する。
1. ビー玉を核とした見事な造形と保護機構
・「未来代償」の魔道具は、善治郎が提供した無色透明に近いビー玉(薄水色の宝玉)を核として作製された。
・真球型の魔道具は少しでも傷がつくと機能を失ってしまうため、ビー玉を保護する目的で、正八面体に組まれた純金製の骨格ですっぽりと覆われている。
・骨格の太さや中のビー玉を覗かせる穴の大きさが完全に均一に揃えられており、フランチェスコ王子の宝飾職人としての超一流の技術が発揮された見事な造形となっている。
2. 魔力の長期間貯蔵と継ぎ足し機能
・この魔道具は、未来の自分の魔力を先払いする「未来代償」という魔法を機能させた手動回復型の魔道具である。
・宝玉に直接指で触れ、魔法語で「我は○○日の糧を捧げる」と唱えることで、魔道具の内部に魔力を貯蔵することができる。
・最大の利点は継ぎ足しが可能である点で、魔法を使わない日の魔力を少しずつ長期間にわたって溜め込み、後でまとめて使用するという運用が可能になった。
3. 時空魔法への絶大な恩恵と使用上の制約
・溜めた魔力は、宝玉に触れて「我は行使する」と唱えることで引き出すことができる。
・これにより、アウラは通常であれば自身の魔力を何十日分も費やす必要がある「時間遡行」や「次元遮断大結界」といった、消費魔力の極めて大きい大魔法を格段に運用しやすくなった。
・ただし、技術的な限界から小刻みな魔力の抽出は実現できず、一度起動すると溜めていた魔力が一日分であれ一年分であれ全てまとめて放出されてしまうという制約がある。
・そのため、日常的に使用したい「瞬間移動」の魔法に対しては応用しづらいという欠点も抱えている。
4. 政治的配慮による完成発表の先送り
・この魔道具は国家レベルの絶大な利益をもたらしたが、同時に政治的なリスクも孕んでいた。
・通常であれば年単位の時間を要する魔道具の作製がビー玉のおかげでわずか数日で完了してしまったことや、そのビー玉を提供した善治郎の功績が表沙汰になれば、彼への権限拡大や側室問題の強要を望む国内勢力に口実を与えてしまう懸念があった。
・そのため、アウラと善治郎はこの輝かしい成果をあえて内密にし、実際の完成から発表を一年後まで遅らせるという苦肉の秘匿策を取ることにした。
まとめ
未来代償の魔道具は、カープァ王国の時空魔法運用に絶大な恩恵をもたらす画期的な発明であった。しかし、その圧倒的な有用性や善治郎の功績が国内の政治的バランスを崩す懸念があったため、完成の事実は秘匿されることとなった。この一連の出来事は、異世界において強大な力を持つ魔道具が、単なる便利な道具にとどまらず、国内の権力闘争に直結する重要な要素であることを示している。
登場キャラクター
カープァ王国 王家・側近
アウラ
カープァ王国の女王である。ゼンジロウを異世界から召喚し、伴侶に迎えた。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国・女王。
・物語内での具体的な行動や成果
第一子カルロスを出産する。ガジール辺境伯軍の出兵を許可した。双王国の使節団と密約を結ぶ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
時空魔法の使い手である。直系王族の唯一の生き残りとして、国政と軍事を直接指揮している。
ゼンジロウ
異世界から召喚されたアウラの夫である。政治的野心を持たず、後宮に引きこもる生活を望む。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国・王配。
・物語内での具体的な行動や成果
パソコンで地方貴族の納税書類を再計算し、脱税を可視化させた。双王国との密約文書の抜け穴を指摘し、追加条項を盛り込ませた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王家の血を色濃く引いており、時空魔法を使える素質を持つ。シャロワ王家の血も引いている可能性が浮上した。
カルロス・善吉・カープァ
アウラとゼンジロウの間に生まれた第一王子である。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国・第一王子。
・物語内での具体的な行動や成果
酷暑の時期に誕生する。赤斑熱という病にかかったが、フランチェスコの治癒魔法によって完治した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アウラを上回る魔力を持つ。時空魔法と付与魔法の二つの血統魔法を使える資質を持っていることが判明した。
ファビオ
アウラの第一秘書官である。常に無表情で、冷徹な意見を述べる。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国・秘書官。
・物語内での具体的な行動や成果
アウラに地方貴族の脱税に対する穏便な対応を提案する。ゼンジロウに独自の領地を持たせるよう探りを入れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
女王の右腕として大きな権限を持つ。
ミシェル
王室付きの初老の医師である。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国・王室付き医師。
・物語内での具体的な行動や成果
アウラの妊娠を診断した。カルロスの赤斑熱を診断し、治療に当たった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
男子禁制の後宮に立ち入ることを許されている数少ない男性の一人である。
カサンドラ
カルロスの乳母である。三人の子供を持つ。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国・乳母。
・物語内での具体的な行動や成果
カルロスの泣き声で欲求を区別し、世話を行っている。アウラに泣き声の聞き分け方を教えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記述なし。
マルグレーテ
アウラの側近である金髪の侍女だ。
・所属組織、地位や役職
後宮・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
カルロスが赤斑熱にかかった際、看病に当たった。アウラにボナの動向を報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
直接的な戦闘能力を持つ、後宮に二人しかいない侍女の一人である。後宮と王宮の侍女達に情報網を持つ。
カープァ王国 貴族・軍関係者
プジョル・ギジェン
カープァ王国軍の将軍である。野心家であり、アウラの元婿候補の一人だ。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国・将軍。竜弓騎兵団総団長。
・物語内での具体的な行動や成果
自身の妹ファティマをゼンジロウの側室として売り込んだ。塩の街道の安全確保は国軍の領分だと主張した。郊外演習の名目で軍を率いて塩の街道へ赴き、群竜を討伐する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
軍部で強い影響力を持つ。「餓狼」の異名を持つ。
チャビエル・ガジール
ガジール辺境伯の三男である。小柄で痩身の若者だ。
・所属組織、地位や役職
ガジール辺境伯領・領主代理。
・物語内での具体的な行動や成果
塩の街道で群竜の群れと交戦する。自軍の被害を抑えるため、単独での討伐を断念し王都へ援軍を要請した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ガジール辺境伯家で唯一生き残っている実息である。
ジョゼップ
ガジール辺境伯の側近である。中年の騎士だ。
・所属組織、地位や役職
ガジール辺境伯領・騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
チャビエルの初陣を支え、助言を行った。竜弓を用いて群竜を一矢で仕留めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
先の大戦でも武名を鳴らした歴戦の古強者である。
近衛兵士
アウラや王宮を護衛する兵士の集団である。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国・近衛兵士。
・物語内での具体的な行動や成果
ゼンジロウが持ち込んだ荷物の検査を行った。ゼンジロウとアウラが双王国の使者と面会する際、護衛を務めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記述なし。
竜弓騎兵団
カープァ王国軍の精鋭部隊である。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国・国軍。
・物語内での具体的な行動や成果
プジョル将軍に率いられ、塩の街道で群竜を迎撃し、高い命中率で討伐した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
若い走竜の骨と腱で作られた竜弓を使用し、走竜に騎乗したまま戦闘を行う。
ガジール辺境伯領領主軍
ガジール辺境伯領の地方軍である。
・所属組織、地位や役職
ガジール辺境伯領・領主軍。
・物語内での具体的な行動や成果
チャビエルに率いられ、塩の街道の異変解決に向かった。群竜の奇襲を受け、交戦した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記述なし。
カープァ王国 王宮・後宮使用人・職人
アマンダ
後宮の侍女長である。四十歳前後の細身の女性だ。生真面目で厳しい性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
後宮・侍女長。
・物語内での具体的な行動や成果
ゼンジロウに後宮の侍女たちを紹介する。後宮商人の訪問時に若い侍女たちの監督をした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
後宮の人員を統括する。
エミリア
後宮の庭園担当責任者である。中年女性だ。
・所属組織、地位や役職
後宮・庭園担当責任者。
・物語内での具体的な行動や成果
若い侍女たちに庭仕事を指導した。休憩時間には若い侍女たちに飲み物を振る舞った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
公私の区別を明確につける。
フェー
小柄で短髪の少女である。お調子者だ。
・所属組織、地位や役職
後宮・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
掃除中に誤って善治郎の携帯ゲーム機を自室に持ち帰る。携帯ゲーム機で落ち物ゲームに熱中した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
問題児三人組の一人である。
ドロレス
長身で切れ長な瞳の少女である。
・所属組織、地位や役職
後宮・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
携帯ゲーム機の持ち出しについてフェーに注意した。パイ作りの際に携帯ゲーム機の時計機能を活用した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
問題児三人組の一人である。
レテ
巨乳で垂れ眼の少女である。
・所属組織、地位や役職
後宮・侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
フェーが持ち帰った携帯ゲーム機を起動させ、取扱説明書を読んだ。パイ作りの際に生地を練り上げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
問題児三人組の一人である。若い侍女の中では料理の腕が高い。
シャロワ・ジルベール双王国
フランチェスコ
シャロワ王家の王子である。軽薄な言動をとるが、その振る舞いは計算されたものである。
・所属組織、地位や役職
シャロワ・ジルベール双王国・第一王子長男。
・物語内での具体的な行動や成果
治癒の秘石を使うという名目でカルロスを見舞い、自身の治癒魔法で赤斑熱を完治させた。ビー玉を核とした魔道具を作成した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
付与魔法と治癒魔法の二つの血統魔法を使える。双王国の密約により、王位継承権を持たない。
ボナ
シャロワ王家の王女である。真面目で責任感が強い。フランチェスコのお目付役として同行する。
・所属組織、地位や役職
シャロワ・ジルベール双王国・王女。
・物語内での具体的な行動や成果
善治郎の結婚指輪を見て強い関心を示した。フランチェスコが後宮へ無断で入り込んだ件について説教をした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
下級貴族の出身だが、隔世遺伝で付与魔法に目覚めたため王族に迎えられた。宝飾職人としての顔も持つ。
展開まとめ
プロローグ 王子と王女の旅路
シャロワ王家の来訪者
カープァ王国東部の整備された街道を、シャロワ・ジルベール双王国の王族を乗せた大規模な一行が進んでいた。一行は途中の水場で休息を取り、走竜達に水を与えながら護衛の騎士達が周囲の警戒に当たっていた。草原と澄んだ川に囲まれた安全な場所であったため、騎士達の間には適度な緊張感と共に穏やかな空気が流れていた。
フランチェスコ王子の人柄
休憩中、巨大な竜車からフランチェスコ王子が姿を現した。長時間の移動で凝った身体をほぐしながら、護衛隊長に移動計画を一任するなど、気さくな態度を見せていた。
フランチェスコ王子は次期国王の第一男子という高い地位にありながら、周囲の騎士達が過度に緊張しないほど親しみやすい性格であった。そのため、王族としての威厳を保ちながらも、どこか軽い印象を与えていた。
ボナ王女の指摘
そこへボナ王女が現れ、フランチェスコ王子へ声を掛けた。彼女は王子の服装に違和感を覚え、靴下が左右で異なる色になっていることを指摘した。
フランチェスコ王子は素直に間違いを認め、礼を述べた。ボナ王女はその反応に安堵した。王子は他人の意見を聞き入れる度量を持っていたためである。
フランチェスコ王子の問題点
しかし王子は、竜車へ戻って靴下を履き替えれば今度は左右が逆になるだけではないかと真顔で疑問を口にした。
ボナ王女は片方だけ履き替えればよいと説明したが、そのやり取りを通じて王子の問題点を改めて実感した。王子は人の意見を受け入れる素直さを持つ一方で、物事を理解する面では少々頼りない部分があったのである。
ボナ王女の内心
ボナ王女は、今回の国外訪問に際して現王と第一王子からフランチェスコ王子を頼むよう言われていたことを思い出した。当初は補佐役程度の意味だと思っていたが、実際には王子の世話役に近い役割であることを痛感していた。
それでも彼女は、自らの意思でこの派遣へ立候補していた。きっかけは、イザベッラ王女が持ち帰った金剛石の指輪であった。宝飾職人として活動していたボナ王女は、その精巧な細工に強く魅了されていたのである。
カープァ王国でアウラや善治郎と接点を持てれば、自身の技術や知識をさらに高められるかもしれないという期待があった。そのため、この任務を引き受けていたのであった。
旅路への不安
ボナ王女は、王家がフランチェスコ王子を派遣する理由に何らかの意図があると考えていたが、その真意までは知らされていなかった。
王子から柔軟な発想だと褒められながらも、ボナ王女は頭痛を覚えるような思いを抱いていた。そして早くも、この任務への参加を少し後悔し始めていたのであった。
シャロワ王家使節団到着の報告
数日後、アウラは王宮の執務室で書類に目を通していた。そのもとへ東の国境砦から小飛竜便が届き、シャロワ・ジルベール双王国の使節団が到着したことを知った。
使節団の代表はフランチェスコ王子とボナ王女であり、数日の休養後に王都へ向かう予定であった。さらに護衛として騎兵千名が同行することも報告されていた。アウラは事態の重要性と今後の面倒を思い、溜息をつきながらも受け入れ準備の確認を始めた。
使節団受け入れ準備の確認
アウラはファビオ秘書官に準備状況を尋ねた。ファビオは王宮南側の三棟を使節団用に確保し、人員も揃えていると報告した。
一の棟をフランチェスコ王子、二の棟をボナ王女、三の棟を護衛騎士用とする配置が提案され、アウラもそれを了承した。随伴人数が想定より少なかったため、三棟で十分対応可能と判断されていた。
武装問題への対応
続いてアウラは、使節団の護衛が所有する武器や魔道具について協議した。
ファビオは護衛騎士達が戦闘用魔道具を所持している可能性が高いと指摘した。王宮内で無制限の武装を認めることはできない一方で、王族護衛に必要な装備を全て取り上げることも現実的ではなかった。
そのため、使節団に貸し与える三棟の区域内では武装を認め、それ以外の王宮区域では許可された防御系魔道具のみ携行可能とする方針が検討された。一般武器についても一定の制限を設けながら認めることとなり、アウラは将来善治郎が双王国を訪れる可能性を考慮し、過度な制限を避ける判断を下した。
魔道具を巡る思案
武装許可の代償として何らかの魔道具を要求する案も話し合われた。
しかし金銭による解決は危険な前例になるため却下された。代わりに双王国の王族だからこそ支払える対価として魔道具の作製を求める案が浮上した。
その中でファビオは時空魔法の魔道具化が持つ危険性を指摘した。アウラも瞬間移動の魔道具化は論外であり、仮に時空魔法を利用する場合でも使い捨て型に限定すべきだと考えたが、現時点では具体的な結論を出さず、到着後の交渉事項として保留した。
侍女の選定と警戒
アウラは使節団に対応する侍女達についても確認した。ファビオは下級貴族や裕福な平民出身の若い侍女を中心に、人前に出しても恥ずかしくない者を選抜済みであると報告した。
アウラは今回の来訪が単なる親善訪問ではないと考えていた。双王国が求めるものは善治郎のビー玉か、あるいは善治郎自身の血筋である可能性があった。さらに来訪するのは、王位継承権を与えられていない事情を抱えたフランチェスコ王子と、結婚適齢期の若いボナ王女であった。
そのためアウラは、この訪問中に何事も起こらないとは全く考えていなかったのである。
第一章 女王と王配と王子と王女
シャロワ王家の来訪
その日の昼下がり、カープァ王国王宮の謁見の間には異様な緊張感と好奇心が漂っていた。集まった貴族達は国家を支える重鎮ばかりであったが、シャロワ・ジルベール双王国の王子と王女の来訪という前例の少ない出来事を前に、平静を保ち切れずにいた。
特に来訪者が、普段は国外に姿を現さないシャロワ王家の王族であったため、貴族達の関心は一層高まっていた。しかし善治郎の血筋やビー玉に関する情報は広まっておらず、情報統制は機能していた。
フランチェスコ王子とボナ王女の登場
やがて謁見の間の扉が開き、フランチェスコ王子とボナ王女が姿を現した。二人は貴族達の注目を集めながら赤い絨毯の上を進み、その後ろには護衛の騎士達が続いていた。
護衛達は主武装こそ持ち込んでいなかったものの、その立ち居振る舞いから高い実力を持つことがうかがえた。武官達は彼らに対して感心と警戒の入り混じった視線を向けていた。
アウラの観察と警戒
玉座から二人を見下ろしたアウラは、その魔力量に注目した。ボナ王女は善治郎にやや及ばない程度の魔力であったが、フランチェスコ王子はその倍近い魔力を有していた。
現王の嫡孫であり、王族としても破格の魔力を持ちながら王位継承権を持たないという事実に、アウラは改めて疑問を抱いた。健康上の問題も見当たらず、王族としての資質も十分に見えるため、王位継承権を持たない理由は人格面にあるのではないかと警戒を強めた。
予想外の礼節
アウラが歓迎の言葉を述べると、フランチェスコ王子は定型の挨拶を返した後、深々と頭を下げた。
将来王位を継ぐ立場の王族が他国の王に頭を下げることは極めて異例であり、その光景に謁見の間はざわめいた。しかし双王国側の騎士達は何の反応も示さなかった。
その様子からアウラは、双王国内ではフランチェスコ王子が王位を継承しないという認識が共有されているのだと理解した。これにより、王位継承権を持たないという情報が事実であることを改めて確信した。
深まる疑問
続いてボナ王女が丁寧な口上を述べたが、アウラの意識はなおフランチェスコ王子へ向けられていた。
儀礼を無難にこなし、十分な常識も備えているように見える王子が、なぜ王位継承権を持たないのか。その理由が依然として見えず、アウラは今後起こり得る事態を警戒しながら思考を巡らせていたのであった。
フランチェスコ王子・ボナ王女歓迎パーティ
入場を待つ善治郎とアウラ
フランチェスコ王子とボナ王女の歓迎パーティはカープァ王家主催であったため、主催者であるアウラと善治郎は最後に会場へ入場する必要があった。しかし夜は正確な時計が存在しないため参加者全員の来場確認に時間がかかり、二人は控え室で長く待機することになった。
善治郎は長時間の待機で退屈し、正装の窮屈さにも苦労していた。アウラから着崩してはどうかと勧められたものの、自力で着直す自信がなかったため、そのまま待つことを選んだ。
音楽プレーヤーによる暇つぶし
薄暗い控え室で善治郎が明かりの少なさを気にしていると、アウラが携帯用音楽プレーヤーを取り出した。退屈しのぎとして持参していたものであり、アウラは善治郎を隣へ招いてイヤホンを分け合った。
再生されていたのはクラシックピアノ曲であった。善治郎は自分の好みではないと感じたが、アウラはカープァ王国には存在しないピアノの音色を特に気に入っており、その美しい旋律を楽しんでいた。
カルロスの音楽の好みを巡る夫婦の応酬
音楽を聴きながら善治郎は、息子カルロス・善吉がクラシックを流している時の方が機嫌が良い気がすると話した。それを聞いたアウラは、カルロスの感性は自分に似ているのだと得意げに語った。
善治郎はまだ勝負はこれからだと対抗心を燃やし、今後はバラード曲やインストゥルメンタル曲を聴かせるつもりだと主張した。一方のアウラは、カルロスが言葉を理解するまで歌は十分に伝わらず、さらに五歳になれば後宮を出ることになると指摘した。
二人は互いに挑発し合いながらも、そのやり取り自体を楽しんでいた。肩を寄せ合い、一つのイヤホンを分け合いながら続いた夫婦の軽口は、侍女が迎えに来るまで続いていたのであった。
フランチェスコ王子・ボナ王女歓迎パーティ
女王夫妻の入場
アウラと善治郎は、歓迎パーティの会場へ入場した。会場は多数のシャンデリアと燭台の蝋燭によって明るく照らされており、二人に多くの視線が集まった。
善治郎は当初ほど緊張することなく、これまで積み重ねてきた経験によって、このような場にも慣れてきたことを実感していた。そして主賓であるフランチェスコ王子とボナ王女へ挨拶するため、アウラと共に二人を迎えた。
フランチェスコ王子とボナ王女との対面
フランチェスコ王子とボナ王女は、歓迎の場が設けられたことへの感謝を述べた。善治郎は初めて直接言葉を交わしながら、二人を観察した。
フランチェスコ王子は整った容姿と優れた体格を持ち、朗らかで親しみやすい態度を見せていた。一方で善治郎は、その振る舞いに社交的である反面、やや軽薄な印象も受けていた。
ボナ王女の印象
ボナ王女は緊張を隠しきれない様子で、礼儀正しく受け答えをしていた。華奢な体格と控えめな容姿から派手さはなかったが、銀粉をまぶした栗色の長髪と独特の髪型が人々の目を引いていた。
会場の女性達もその装いに関心を示しており、善治郎は今後真似をする者が現れるかもしれないと感じていた。
訪問の理由を語る王族達
会話の中でアウラが来訪の理由を尋ねると、フランチェスコ王子は国外へ出る機会の少ないシャロワ王家の人間として、この機会を楽しみにしていたと語った。
王子がやや砕けた言葉遣いをすると、ボナ王女は慌てて注意しながらも、自分も今回の訪問を望んでいたと補足した。二人はそれぞれ異なる態度を見せていたが、訪問そのものを楽しみにしていた点では一致していた。
善治郎への親近感
さらにフランチェスコ王子は、善治郎に強い親近感を抱いており、会うことを楽しみにしていたと明かした。
善治郎はその言葉に礼を返しながらも、非常に馴れ馴れしいほど親しげに接してくる王子へ、作り笑顔で応対したのであった。
フランチェスコ王子の独唱騒動
夜会が盛り上がる中、会場中央では酔ったフランチェスコ王子が美声で高らかに歌を披露していた。突然の独唱は本来ならば場違いな行動であったが、双王国の騎士達も頭を抱えたり苦笑したりしており、双王国でも一般的な振る舞いではないことがうかがえた。
ボナ王女は何度も善治郎へ謝罪を重ねたが、善治郎は迷惑がかかっているわけではないと気遣った。善治郎は、王子が蒸留酒を用いた果実カクテルを飲んだことで酔ってしまったのだと理解していた。
アウラによる場の収拾
フランチェスコ王子が歌い続ける中、宮廷楽師団が弦楽器や横笛による伴奏を始めた。これはアウラの指示によるものであり、王子の独唱を余興として成立させる意図があった。
その結果、会場に漂っていた戸惑いは消え、貴族達も素直に歌声へ拍手と笑顔を向けるようになった。善治郎は物怖じしない王子の性格を評し、ボナ王女も少し安堵した様子を見せた。
ボナ王女への気遣い
アウラが王子の対応へ向かう一方で、善治郎はボナ王女を気遣い、果実酒を勧めた。ボナ王女は酒を口にしたことで幾分緊張を和らげたが、なおも王子の様子を気にしていた。
しかし王子がすでに会場の余興として受け入れられている状況を見て、これ以上介入しても意味がないと悟り、ようやく意識を別の方向へ向けた。
結婚指輪への強い関心
その時、ボナ王女は善治郎の左手薬指にはめられた魔道具化された結婚指輪へ気づいた。善治郎がフランチェスコ王子によって魔道具化された品であると説明すると、ボナ王女は強い関心を示した。
彼女は自分も付与者として名乗りを上げていたが選ばれなかったことを明かし、付与魔法の才能ではフランチェスコ王子に及ばないと語った。一方で宝飾品の制作には自信があるとも話した。
宝飾職人としての情熱
善治郎が双王国の宝飾技術について話題を向けると、ボナ王女は自身の専門分野について熱心に語り始めた。特に善治郎の結婚指輪に施された金剛石の加工や、台座の精密な金属細工に強い興味を抱いていた。
ボナ王女は故国では一般的な技術なのか、加工方法を知っているのかと次々に質問を重ねた。しかし善治郎は、自分にはそうした専門知識がないと説明した。それでもボナ王女は少しでも参考になる情報を求め続けた。
善治郎の譲歩
宝飾工芸への並々ならぬ情熱を見せるボナ王女を前に、善治郎は当初抱いていた物静かな印象との違いに驚いた。だが、自分の好きな分野に熱中する人間に親しみを感じた善治郎は、機会があれば協力すると約束した。
その言葉を聞いたボナ王女は大いに喜び、善治郎は結果として約束を取り付けられる形になったのであった。
夜会後の夫婦の語らい
夜会を無事に終えた善治郎とアウラは、入浴を済ませた後、エアコンの効いた寝室でくつろいでいた。善治郎はカルロスの顔を見られなかったことを残念がったが、アウラは深夜に訪問すれば乳母や侍女へ負担をかけると説明した。
二人は寝室に設置されたテーブルと椅子で過ごしており、酷暑期の間は食事も含めて多くの時間をその部屋で過ごしていた。善治郎は氷水で喉を潤した後、アウラから夜会で接したフランチェスコ王子とボナ王女について意見を求められた。
フランチェスコ王子への評価
善治郎はフランチェスコ王子について、表面的には脳天気で軽率な人物に見えたと率直な感想を述べた。しかし同時に、幼少期から王宮で期待を裏切り続けた人物が、あれほど邪気のない性格に育つのか疑問も抱いていた。
アウラは両親の愛情によって真っ直ぐ育った可能性を指摘したが、善治郎はそれもあり得ると認めつつ、付与魔法の才能という支えがあった可能性にも言及した。その上で、もし本当にあの性格が素ならば、なぜ百数十年ぶりの重要な国外訪問へ送り出されたのかという疑問が残ると語った。
二人は、フランチェスコ王子本人か、あるいは彼を派遣したシャロワ王家上層部のどちらかに表に見えない事情があると考え、現段階での判断は保留することにした。
ボナ王女への評価
続いて善治郎は、ボナ王女について真面目な苦労人という印象を抱いたと語った。常にフランチェスコ王子を気に掛けており、お目付役として大きな負担を背負っているように見えたのである。
一方で、結婚指輪の話題になると態度が一変し、宝飾品に関する話では驚くほど饒舌になったことも伝えた。アウラは、シャロワ王家の分家王族は魔道具制作で生計を立てることが多く、宝飾職人であるボナ王女が結婚指輪へ強い関心を示すのは当然だと説明した。
約束への懸念
善治郎はボナ王女から強く求められ、将来的に指輪について話す約束をしてしまったことを明かした。これを聞いたアウラは、軽率な言質を与えたことを注意した。
善治郎は失礼にならないよう対応した結果だと弁明し、必要ならば曖昧な約束として処理することも可能だと話した。アウラは約束そのものよりも、慎重な善治郎が初対面の相手にそこまで踏み込んだことを気に掛けていた。
善治郎とボナ王女の距離感に違和感を覚えたアウラは、それが単なる気のせいか、自身の嫉妬心によるものか判断できずにいたが、今後注意するよう求めるだけに留めた。
就寝前の軽口
話を切り上げた二人は就寝することにした。善治郎は立ち上がってアウラへ手を差し伸べ、二人は手を取り合った。
その際、善治郎は妻をお姫様抱っこでベッドまで運べたら格好がつくのにと冗談めかして漏らした。するとアウラは、自分が善治郎を抱き上げられるよう鍛え直そうかと返した。
善治郎はそれでは立場が逆だと抗議したが、アウラがわざとからかっていることに気づき、軽く額を叩くだけで済ませた。アウラもそれを笑って受け流し、善治郎の腕に抱きつきながら肩へ頬を寄せた。
こうして二人は寄り添いながら寝台へ向かい、一日を終えたのであった。
幕間一 英雄と若者
プジョル将軍との面会
チャビエルは王領南端の砦で、先の大戦の英雄であるプジョル・ギジェン将軍と面会した。圧倒的な体格と実力、地位を持つ将軍を前に、チャビエルは緊張しながらも、自らの要望を伝えた。
チャビエルは群竜討伐の指揮権を求めるのではなく、自身と部下百名を義勇兵として将軍の作戦に参加させてほしいと願い出た。プジョル将軍はその申し出を受け、まずチャビエルの考えを確認した。
群竜討伐と塩不足の問題
プジョル将軍は、群竜の首領が高い知能を持つ可能性を踏まえ、この討伐が長期戦になる恐れを指摘した。そして長期化した場合、ガジール辺境伯領で深刻化する塩不足の問題を話題にした。
チャビエルは、領内の塩の備蓄が三か月程度しかなく、配給制による延命策も領民の不安や物価への悪影響を招くため避けたいと説明した。
これに対しプジョル将軍は、自ら大量の塩を王都から運んできていることを明かし、本来は群竜討伐後に辺境伯領へ搬送する予定だったと語った。
塩輸送任務の提案
プジョル将軍は、チャビエルたちが塩の輸送と護衛を担当するのであれば、まず塩を辺境伯領へ届けることを優先できると提案した。
輸送中に群竜と遭遇した場合はその場で討伐を試みるが、決着がつかなければ、その後の軍事行動ではチャビエルたちにも前線で活躍する機会を与えると約束した。
チャビエルは、この提案なら領民の利益を守りながら戦功を立てる機会も残されると判断し、迷うことなく受け入れた。
任務受諾と将軍の評価
チャビエルは塩輸送任務を引き受けるとともに、辺境伯領を優先してくれたことへの感謝を領民に代わって述べた。
プジョル将軍は、それが自らの任務に過ぎないと答えたが、その表情には初めて笑みが浮かんでいた。チャビエルは将軍の提案を受け入れ、新たな任務に臨むこととなった。
第二章 振り回す者、振り回される者
異国での生活への適応
フランチェスコ王子とボナ王女がカープァ王宮に滞在してから十日ほどが経過し、王宮側も使節団側も異国の環境にある程度慣れ始めていた。
しかし、建築様式や侍女たちの常識、食材の違いによる食事など、根本的な文化の違いは依然として存在しており、それらを完全に受け入れるにはまだ時間が必要な状況であった。
フランチェスコ王子の買い物
そうした中でも、フランチェスコ王子は異国での生活をまったく苦にしていなかった。
王宮南側の使節団用宿舎では、商人を招いて衣類を見せてもらい、カープァ王国独自の服飾文化に強い興味を示していた。北大陸由来という共通の起源を持ちながらも、自国とは異なる発展を遂げた衣装を面白がり、次々と見て回った。
そして新型の四つ穴丸ボタンを用いた服を含め、三組の衣装を仕立てるよう注文した。商人は大口の顧客を得たことに大喜びし、期待に応えることを誓った。
護衛騎士たちの苦悩
一方で、その様子を見守る護衛騎士たちは複雑な表情を浮かべていた。
王族の仕立てには身体への接触が避けられず、仕立屋は暗殺の危険性がある職種として知られている。そのため本来なら身元の確かな人物以外に任せるべきではなかった。
異国の商人や仕立屋に衣装を作らせることは護衛にとって大きな負担であったが、彼らはすでにフランチェスコ王子の行動を止めることを諦めていた。その代わり、使用する針の管理や布地の検査、身元確認など可能な限りの安全対策を講じることにした。
王子の無邪気な振る舞い
フランチェスコ王子は仮縫いにも協力すると気軽に申し出て、必要があればいつでも訪ねてくるよう仕立屋へ伝えた。
商人は感謝とともに全力を尽くすと応じたが、そのやり取りを見守る護衛騎士たちは、苦虫を噛み潰したような表情やため息を押し殺しながら、無邪気な王子の振る舞いを見守るしかなかったのである。
異国の王族対応で多忙となる善治郎
フランチェスコ王子とボナ王女の来訪後、善治郎の生活は大きく変化していた。
大国シャロワ・ジルベール双王国の王族を迎える以上、それに見合う立場の者が対応する必要があり、女王アウラが政務に追われる中、成人王族である善治郎がその役目を担うことになった。その結果、以前のような自由な時間は大幅に減少していた。
フランチェスコ王子との面談
善治郎はファビオ秘書官の案内で、フランチェスコ王子との面談に臨んだ。
王子はカープァ王国での生活に十分慣れたと語り、気候や食事も自国と大差ないと朗らかに話した。善治郎はその認識に疑問を抱きつつも、フランチェスコ王子の大ざっぱな性格を理解していたため、深く追及することはしなかった。
蒸留酒の贈呈
話題が酒に及んだことで、善治郎は夜会で気に入っていた蒸留酒を一本贈ることを提案した。
フランチェスコ王子は予想以上に喜び、強い関心を示した。そこでファビオが持ち込んだのは、蒸留酒が詰められた透明なウィスキー瓶であった。
ガラス製造技術のない南大陸では、その透明で精巧な瓶自体が工芸品のような価値を持っていたため、フランチェスコ王子も護衛騎士たちも強い驚きを示した。
透明な器への強い反応
フランチェスコ王子は蒸留酒だけでなく、その透明な器そのものにも深い感銘を受けていた。
善治郎は瓶を贈りつつ、衝撃に弱いことを説明した。王子は無邪気に喜び続けたが、その反応が単なる美術品への賞賛なのか、それとも魔道具の素材としての価値を見出しているのか、善治郎には判断できなかった。
魔道具の話題と不用意な発言
贈り物への返礼として、フランチェスコ王子は善治郎に魔道具を贈りたいと申し出た。
善治郎が制作期間の問題を指摘すると、フランチェスコ王子は透明な宝玉さえあれば解決するのだがと、独り言のように漏らした。
その言葉は、透明な球体によって魔道具制作を大幅に短縮できるという噂を裏付ける内容であり、善治郎は内心で大きな衝撃を受けた。
ボナ王女の到着と事情の判明
その直後、近衛兵からボナ王女が訪ねてきたとの報告が入った。
善治郎が理由を尋ねると、フランチェスコ王子はボナ王女にも自由な時間が必要だと考え、何も告げずに単独で面談へ来たことを明かした。
善治郎はその説明を聞き、責任感の強いボナ王女の苦労を察しながら、彼女を中へ通すよう命じたのであった。
ボナ王女の謝罪と善治郎の配慮
善治郎の予想通り、ボナ王女は先触れなしで訪問したことへの謝罪から話を始めた。
善治郎は、お目付役としてのボナ王女の立場を理解していたため、今回のような事情であれば後から合流することに問題はないと伝えた。ボナ王女は安堵し、感謝の言葉を述べた。一方でフランチェスコ王子は状況を深く理解していない様子であった。
あずまやへの移動
場の空気を変えるため、善治郎は庭のあずまやで茶を飲みながら話の続きをしようと提案した。
王子と王女はこれを受け入れた。善治郎が場所を移した本当の目的は、周囲の人間に会話を聞かれない環境を作ることであった。噴水の水音によって会話が外へ漏れにくいあずまやは、先ほどのフランチェスコ王子の失言について確認するのに最適な場所だった。
失言への気付きとボナ王女の動揺
善治郎は、わざと周囲に聞こえないことを示すやり取りを行い、二人へ密談可能な環境であることを伝えた。
フランチェスコ王子は特に反応を示さなかったが、ボナ王女は善治郎の意図を理解した。そして、自分が来る前にフランチェスコ王子が重大な機密を漏らしたのだと察し、衝撃を受けて顔色を変えた。
透明な宝玉についての追及
飲み物が運ばれた後、善治郎は単刀直入に透明な宝玉による魔道具作成時間短縮の意味を尋ねた。
その質問を聞いたボナ王女は驚愕し、フランチェスコ王子へ本当に話してしまったのかと詰め寄った。しかしフランチェスコ王子は軽く認め、内緒にしてほしいと頼んだ。ボナ王女は、善治郎に知られた時点で意味がないと強く反論した。
善治郎による場の収拾
善治郎は、話を聞いたのは自分だけであり他者には漏れていないと説明し、建設的な話をするよう促した。
ボナ王女は冷静さを取り戻して謝罪した。一方でフランチェスコ王子は、この機会に透明な宝玉を譲ってもらえれば魔道具作成時間を短縮できると提案した。
宝玉と魔道具作成の仕組み
善治郎が水晶球では代用できないのかと尋ねると、ボナ王女が説明を引き継いだ。
双王国でも完全な真球の透明な宝玉を作れる職人は存在せず、過去の卓越した職人でも生涯に数個しか作れなかったという。さらに、魔道具の付与では無色透明に近いほど魔力の通りが良く、形も重要であるため、そのような宝玉は極めて価値が高いと説明した。
また、フランチェスコ王子は、以前見た透明な宝玉があれば一般的な四大魔法の付与は一日で終わると明かした。
交渉の主導権を巡るやり取り
ボナ王女は途中で話を切り、善治郎がその話題に興味を持つかどうかを確認した。
善治郎はその意図を理解しつつ、自身は魔法に詳しくないため、こうした話はアウラを交えて行うべきだと答えた。これは、これ以上の情報交換を自分の判断だけで進めないという意思表示でもあった。
ボナ王女はその意図を受け取り、続きは後日アウラも交えて話すことを提案した。善治郎も了承し、話はそこで一区切りとなった。
それぞれの思惑
ボナ王女はどうにか危機を収拾できたことに安堵していた。
善治郎もまた強い緊張と負担を感じながら対応していたが、それを表には出さなかった。一方でフランチェスコ王子だけは終始変わらず、邪気のない笑顔で二人のやり取りを見守っていたのであった。
王宮での会談後
フランチェスコ王子とボナ王女との会談を終えた善治郎は、執務室へ戻った。
会談という重責から解放された善治郎は、蒸し暑い室内でくつろぎながら一息ついていた。そこへファビオ秘書官が声をかけ、あずまやへ移動した理由について確認した。善治郎は、双王国の機密に関わる情報が話題になったため詳細はアウラへ報告すると伝え、必要ならアウラから聞くよう答えた。
ファビオ秘書官の懸念
善治郎の説明を聞いたファビオ秘書官は、今回の件はむしろ双王国側に主導権を握られている可能性があると指摘した。
フランチェスコ王子が機密情報を漏らした後で口止めを行ったことに着目したファビオ秘書官は、その情報を利用して利益を得れば、それが善治郎の外交的功績として記録され、善治郎の名声が大きく高まると説明した。
善治郎の立場が抱える問題
ファビオ秘書官は、善治郎の名声上昇がカープァ王国にとって微妙な問題を生むと語った。
男優位の価値観が根強い国内では、善治郎へより大きな権限を与えるべきだという声が存在している。そのため、今回の情報を利用して功績を上げれば、善治郎の権力拡大を望む勢力に口実を与えることになると説明した。
その結果、情報を得た側であるにもかかわらず、善治郎たちは機密を表沙汰にせず慎重に扱わざるを得ない立場に置かれていると指摘した。
フランチェスコ王子への疑問
善治郎は、この状況がフランチェスコ王子の計算によるものなのか疑問を抱いた。
しかしファビオ秘書官は、仮にフランチェスコ王子が表向き以上に聡明な人物だったとしても、善治郎の特殊な立場や性格まで見越してこの状況を作り出すことは不可能だろうと述べた。
普通の王族であれば、得た機密情報を利用して利益を得ようとするはずであり、善治郎のように内密に処理しようとする方が例外だからである。
結論の出ない考察
善治郎は、全てが偶然とも必然とも思えない状況に疑問を抱いた。
それに対しファビオ秘書官は、偶然と必然が入り交じっているのか、あるいは機密漏洩以上に大きな目的が背後にあるのかもしれないと述べた。しかし現時点では情報が不足しており、推測以上の結論を出すことはできないと語った。
フランチェスコ王子とボナ王女の帰還
善治郎とファビオ秘書官が機密情報について話し合っていた頃、フランチェスコ王子とボナ王女は南の館へ戻っていた。
通路を歩きながら、ボナ王女は善治郎との面会時には必ず自分にも知らせてほしいと強く訴えた。フランチェスコ王子は気を遣ったつもりだったと謝罪し、今後は気をつけると答えたため、ボナ王女もそれ以上は追及を控えた。
涼しい居室での会話
二人はフランチェスコ王子の部屋へ入り、魔道具によって涼しく保たれた室内で向かい合って腰を下ろした。
フランチェスコ王子は、国王と第一王子から宝玉入手を優先するよう命じられていた以上、自分が機密を漏らすことも想定済みだったはずだと主張した。しかしボナ王女は、機密漏洩を許可されたわけではないと反論し、王子の解釈を否定した。
それでもフランチェスコ王子は、自分の性格を理解しているからこそ許可が出されたのだと胸を張ったため、ボナ王女は頭を抱えるしかなかった。
ウィスキー瓶との対面
話題を変えたフランチェスコ王子は、善治郎から贈られたウィスキー瓶を取り出して見せた。
無色透明の美しい瓶を見た瞬間、ボナ王女は目の色を変えた。両手で慎重に瓶を抱え込み、材質や加工技術、均一な模様や歪みのない形状を熱心に観察した。
その美しさと精巧さに魅了されたボナ王女は、透明な宝玉と同じ素材ではないかと考えながら、夢中で瓶を見つめ続けた。
宝飾への情熱の暴走
ボナ王女はついに、その瓶を譲ってほしいとフランチェスコ王子へ懇願した。
しかしフランチェスコ王子は、善治郎から直接贈られた品である以上、人に譲ることはできないと断った。するとボナ王女は、せめて角の一部だけでも削らせてほしいと食い下がった。
フランチェスコ王子は、そんなことをすれば中身が漏れて使い物にならなくなると必死に止めたが、ボナ王女は使えなくなった残りも欲しいと主張した。
こうして、普段とは逆にフランチェスコ王子が常識的な側に回り、宝飾技術への情熱を暴走させたボナ王女をなだめ続けるという珍しいやり取りが、ボナ王女が正気を取り戻すまで続いたのであった。
夜の夫婦会議
夕食と入浴を終えた善治郎は、エアコンの効いた寝室でアウラと向かい合い、昼間に起きた出来事を報告した。
話を聞いたアウラは、フランチェスコ王子の失言は扱いに困るものだとしながらも、ビー玉の効果を確認できたこと自体は大きな成果だと評価した。善治郎は、失言によって自分だけが先に情報を得た状況が意図的なものではないかと懸念を示したが、アウラは情報不足のため断定はできないと答えた。
ビー玉の実証実験への検討
アウラは、情報の確度を高めるためにも実際にビー玉を渡して魔道具を作らせる価値はあると考えていた。
仮にフランチェスコ王子とボナ王女の発言が狂言だったとしても検証できるうえ、本当に制作期間を大幅に短縮できるなら、時空魔法の施術に費やす自身の時間と魔力を大きく節約できるからである。
善治郎は成果が明らかになれば自分の功績として扱われる危険を指摘したが、アウラは完成時期を秘匿し、発表を遅らせることで対応する考えを示した。しかしフランチェスコ王子が秘密を守れるかについては不安も認めていた。
作成する魔道具の選定
話題は、実際に制作を依頼する魔道具の内容へ移った。
アウラは強力な魔法ほど利便性は高いが、敵対勢力へ渡る危険も増すため慎重になる必要があると説明した。血統魔法は王家の基盤であり、魔道具化によってその優位性を失う危険もあるため、選択は難しいと考えていた。
善治郎は時間遡行や瞬間移動以外の候補として大結界や効果継続を挙げ、アウラは空間振動を使った使い捨ての魔道具も抑止力になると評価した。
異世界召喚と未来代償の可能性
善治郎は異世界召喚の魔道具化も提案したが、アウラは星の並びに左右される魔法であり実用性がないとして否定した。
さらに善治郎は時間遡行や時間加速との組み合わせによる応用案を語ったが、アウラは時間操作系魔法が魔力を帯びた対象には使えず、消費魔力も大きすぎるため現実的ではないと説明した。
それでも善治郎は発想を続け、未来代償を魔道具化すれば過去代償に近い効果を得られるのではないかと提案した。アウラはその着想に興味を示し、詳細はフランチェスコ王子へ確認する必要があると考えた。
こうして二人の議論は、携帯電話が就寝時刻を告げる音楽を鳴らすまで続いたのであった。
幕間二 竜弓騎兵団の戦い
群竜との遭遇
善治郎が王宮で双王国の王族を歓待していた頃、辺境ではプジョル将軍率いる竜弓騎兵団が街道脇から現れた群竜を迎撃していた。
プジョル将軍の号令とともに放たれた矢は高い命中率で群竜を射抜き、群竜たちは次々と倒された。その戦いを後方から見守っていたチャビエルは、竜弓騎兵団の圧倒的な技量に驚嘆した。
竜弓騎兵団の卓越した技量
チャビエルは、走竜に騎乗したまま弓を扱う騎兵たちの姿に強い衝撃を受けていた。
群竜の咆哮が響く戦場にもかかわらず、走竜は騎手の意図通りに静止し、騎兵たちは鐙の上という不安定な体勢から正確な弓射を続けていた。しかも彼らが扱うのは強力な竜弓であり、その技量は百人以上の騎兵全員に共通していた。
戦時中との比較
チャビエルは父の腹心であるジョゼップに、自分にも同じことができるかと尋ねた。
ジョゼップは問題ないと答え、現在の竜弓騎兵団は十分優秀ではあるものの、先の大戦当時の水準には及ばないと評した。そして経験を積めば、プジョル将軍の指導によって再び往年の強さへ近づくだろうと語った。
騎乗戦術の理由
チャビエルは、なぜプジョル将軍が騎兵たちを騎乗したまま戦わせているのか疑問を抱いた。
それに対しジョゼップは、高所を確保することで前方の槍兵や盾兵を気にせず水平射撃が可能になるためだと説明した。チャビエルはその単純かつ合理的な理由に納得し、自身の視野の狭さを反省した。
巨大群竜の出現と撤退
その時、密林の奥から巨大群竜の咆哮が響いた。
チャビエルとジョゼップは以前目撃した巨大な群竜の姿を確認し、プジョル将軍も即座に弓騎兵へ攻撃を命じた。しかし巨大群竜は兵が攻撃態勢を整えるより早く森の奥へ姿を消し、それに合わせて他の群竜たちも一斉に退却した。
プジョル将軍は追撃を禁じ、塩の護衛を優先する方針を維持した。その後も警戒を続けたが異変は起こらず、行軍再開の準備が進められた。
補給計画への評価
戦闘終了後、プジョル将軍は矢の消耗が予想以上だったため、辺境伯領到着後に補給を行いたいと申し出た。
チャビエルはすでに御用商人を街道近くの村へ手配しており、必要な物資を迅速に揃えられると説明した。討伐が長期化した場合や塩の輸送を見越して事前準備を整えていたことを知ったプジョル将軍は、その判断を高く評価した。
大戦の英雄から直接賞賛を受けたチャビエルは、喜びを隠せず顔をほころばせたのであった。
第三章 善治郎の失敗
ボナ王女の疲弊とアウラの提案
ボナ王女はフランチェスコ王子のお目付役として使節団の実務を一手に引き受けていた。
フランチェスコ王子は各種行事で人名を間違えたり、舞踏会で失敗をしたりと問題を起こし続けていたため、その後始末はすべてボナ王女に集中していた。結果として、ボナ王女は異国の宝飾文化を楽しむ余裕もないほど責務に追われていた。
その状況を見たアウラは、双王国との窓口であるボナ王女が倒れてしまうことを危惧し、善治郎に気分転換の手助けを頼んだ。
未来代償の魔道具化
話題は進行中の魔道具開発へ移った。
アウラは最初に作成する魔道具として未来代償を選んだことを明かした。未来代償を魔道具化することで、使用しない日の魔力を蓄積し、必要な時にまとめて利用できるようになるという。
制約はあるものの、長期間にわたり魔力を貯蔵できる利点は大きく、すでにフランチェスコ王子とボナ王女には制作に必要なビー玉が渡されていた。
ボナ王女への休暇支援
フランチェスコ王子が魔道具制作に集中する数日間は、ボナ王女にとって久々の休暇になる予定であった。
しかし異国の地で休暇を与えられても、自室で休むだけになりかねないとアウラは考えていた。そのため善治郎に、結婚指輪や異世界由来の品々を見せて宝飾技術への興味を刺激してやってほしいと頼んだ。
善治郎はその意図に納得し、結婚指輪や硬貨、ビーズなどを持参することを提案した。アウラも細かな判断は善治郎に任せることにした。
夫婦のじゃれ合い
話し合いが終わると、善治郎は背後からアウラに抱きつき、そのまま一緒にベッドへ倒れ込んだ。
最近は仕事が忙しく、息子のカルロスを抱く機会が減って寂しいと語る善治郎に対し、アウラは自分がカルロスの代わりなのかと冗談めかして拗ねた。
善治郎が慌てて否定したものの、出産後の体重に触れるような発言をしたことで形勢は逆転した。アウラは素早く善治郎を押さえ込み、自らが甘える子供役となって抱きつき始めた。
アウラの反撃
アウラは善治郎を強く抱き締めながら、父親に甘える娘のような振る舞いを続けた。
善治郎は笑いながら応じていたが、アウラは力を緩めず、胸や脚を絡めながらさらに密着していった。首筋への口づけまで加わり、善治郎は次第に本気で苦しくなっていった。
しかしアウラは甘え続けることをやめず、善治郎は雌虎に捕食されるような不吉な想像を抱きながら、その状況に翻弄されるのであった。
ボナ王女との面会
数日後、善治郎は結婚指輪や財布、ビーズなどを持参し、ボナ王女が滞在する王宮南の二の棟を訪れた。
しかし待合室に通された後、一時間以上待たされることになった。時間にルーズなこの世界でも長すぎる待ち時間に善治郎は疑問を抱いたが、やがてボナ王女の準備が整ったとの知らせを受けた。
乱れた姿のボナ王女
案内された先で善治郎を迎えたボナ王女は、これまでとはまるで違う姿をしていた。
装飾のない地味な服装に加え、髪は麻紐で無造作にまとめられ、あちこちが飛び出していた。王族として来客を迎えるには不相応な格好であり、善治郎は事情の説明を求めた。
待たせた理由の告白
ボナ王女は羞恥に顔を赤く染めながら経緯を説明した。
善治郎を迎えるため早くから準備を整えて待っていたが、予定より到着が遅かったため時間を持て余した。そこで昨夜途中まで作業していたブローチの彫金に少しだけ手を付けるつもりだったという。
作業の邪魔になる髪をまとめるため、近くにあった麻紐を使ったが、そのまま彫金に熱中してしまった。善治郎の到着を侍女から知らされて慌てて髪を戻そうとしたものの、髪が絡まって解けなくなり、侍女たちの助けでも改善しなかったため、結局その姿のまま現れることになったのであった。
善治郎の理解と許し
事情を聞いた善治郎は、ボナ王女が宝飾制作に没頭するあまり身だしなみを忘れてしまう性格であることを理解した。
目の前で震えながら謝罪を続けるボナ王女を見て、善治郎は気にするなとは言えないものの、謝罪は受け入れると告げ、今後気を付けてほしいと伝えた。
その言葉を受けたボナ王女は安堵し、改めて深く頭を下げたのであった。
ボナ王女の熱中ぶり
善治郎は、結婚指輪やビーズ、日本の硬貨を前に目を輝かせるボナ王女の様子を見て、その熱中ぶりに圧倒されていた。
本来であれば髪の乱れを理由に会談を中止する流れになると思っていたが、ボナ王女はそのままでも話を聞きたいと申し出た。善治郎は予想外の申し出に戸惑いながらも了承し、会談は続行された。
職人としての視点
髪だけが乱れたままのボナ王女は、ビーズを手に取りながら、その均一な大きさや小さな穴の精巧さに感嘆していた。
善治郎はそんな様子を見ながら、ボナ王女の髪に銀粉とともに付着した銀屑に気付いた。そして、普段の独特な髪型や銀粉をまぶした装いも、彫金作業の都合から生まれたものではないかと考えた。
しかし、その推測を口にしても意味はないと判断し、髪型については触れずに会話を続けた。
宝飾技術についての意見交換
会談では、善治郎が知る加工技術や発想について説明し、ボナ王女は強い興味を示した。
金剛石を金剛石で磨くという発想にも感心し、実現には課題があるものの、新たな可能性があると語った。一方で、魔法による金剛石加工については、自身の魔力では足りず、逆に十分な魔力を持つ者は精密操作が苦手なため、実行できる者は極めて限られると説明した。
その中で、フランチェスコ王子は莫大な魔力と高い精密操作能力を兼ね備えた優れた魔法使いであると評価した。
ビーズ細工への関心
ボナ王女はビーズにも強い関心を示した。
自国にも似た民芸品は存在するが、天然の石を使うため形や色が揃わず、小型化にも限界があると語った。その点、均一な形状と大きさを持つビーズは、より精巧で美しい細工を可能にすると評価した。
善治郎は、ビーズを使って指輪やブローチなど様々な装飾品を作れることや設計図も存在することを説明し、挑戦してみてはどうかと勧めた。
その提案にボナ王女は大いに喜び、二人は和やかな雰囲気の中で会話を続けながら、少しずつ距離を縮めていったのであった。
ボナ王女との共感
善治郎とボナ王女は、生まれ以上の高い立場に置かれ、その環境に適応するため苦労してきたという共通点を持っていた。
善治郎は一般家庭の出身でありながら王配となり、ボナ王女も下級貴族の娘から王族へ迎えられていた。二人は互いの苦労を理解し合い、自然と親近感を深めていた。
ボナ王女の過去と努力
ボナ王女は十歳まで下級貴族の次女として暮らしていたが、『付与魔法』の素質が判明したことで王族として迎えられたと語った。
突然の環境の変化に本人も家族も大きく戸惑ったという。その後六年間で付与魔法や宝飾加工技術を習得したが、それ以上に王族としての言葉遣いや礼法を身につけることが苦労だったと振り返った。
善治郎もその苦労に強く共感した。
フランチェスコ王子の才能への評価
会話はフランチェスコ王子の話題へ移った。
ボナ王女は、フランチェスコ王子が十二歳で一人前の付与術士となり、さらに宝飾加工と武防具製作の両方を修めていることを明かした。そして魔道具制作者としては超一流の才能を持つ人物だと評価した。
善治郎はその話から、フランチェスコ王子が幼い頃から分家王族向けの教育を受けていたことを推測し、王位継承権に関して何らかの事情が存在するのではないかと考えた。
結婚指輪への関心
再び結婚指輪へ意識を向けたボナ王女は、均一な金剛石や精密な台座の細工に感嘆した。
善治郎は、台座の網目模様が全て同じ数で構成されていることを説明した。ボナ王女はそれを確かめようと懸命に模様を数え始めたが、肉眼では限界があった。
水レンズの発見
善治郎は五円玉の穴に水滴を張り、小さな凸レンズを作ってボナ王女へ渡した。
ボナ王女は穴越しに指輪を見ると、その拡大効果に驚いた。善治郎が光の屈折による原理を説明すると、ボナ王女はすぐに水魔法で同様の形状を再現し、自ら水のレンズを作り上げた。
その効果を確認したボナ王女は大いに感激し、さらに専用の魔法を作って魔道具化できる可能性に思い至った。
善治郎の後悔
ボナ王女は新たな発想を得たことに感謝したが、善治郎はその瞬間、自らの失策に気付いた。
水レンズの仕組みを教えたことで、レンズという重要技術を双王国側が独占する可能性が生まれたのである。
善治郎は動揺を隠しながら礼を受け流し、後でアウラへ報告して対策を相談しなければならないと考えるのであった。
ボナ王女との面談報告
その日の夜、善治郎はボナ王女との面談内容を包み隠さずアウラへ報告した。
アウラは、ボナ王女の意外な素顔やフランチェスコ王子の出生に関わる情報など多くの成果があったと評価したが、善治郎が水レンズの件を深刻に受け止めている理由を理解できずにいた。
レンズ技術の危険性の説明
善治郎は五円玉と水滴を用いて凸レンズと凹レンズの仕組みを説明した。
さらに地球から持ち込んだオペラグラスを取り出し、凹レンズと凸レンズを組み合わせることで遠くの物を拡大して見られることを実演した。実際にのぞいたアウラは、その効果に強い衝撃を受けた。
善治郎は、ボナ王女が現時点では凸レンズしか知らなくても、技術的には望遠鏡のような装置を作り出せる可能性があると説明した。
失態の重大性と対策の検討
望遠鏡の可能性を理解したアウラは、この件を確かに失態であると認めた。
そのうえで、双王国が水レンズの魔道具を実用化した場合には優先的に譲渡を受ける交渉を行うことや、将来的には善治郎の血筋から付与魔法の使い手を生み出し、同様の生産体制を築くことが最善策だと考えた。
善治郎は別案として、ガラス製造技術とレンズ研磨技術を発展させ、レンズを魔道具ではなく一般的な高級道具へ変える方法を提案した。アウラもその案に検討の価値を認めた。
善治郎への警告
しかしアウラは、今回の問題の根本は技術流出だけではないと指摘した。
善治郎はボナ王女に対して異常なほど警戒心が薄くなっていると断言し、その自覚があるか問いただした。善治郎も、ボナ王女とは話しやすく波長が合うため、無意識に気が緩んでいたことを認めた。
今後の方針決定
アウラは、善治郎に悪意がなくても今回のような情報漏洩が再び起こりかねないと判断した。
そのため今後は、善治郎がボナ王女と二人きりで会うことを禁じ、接触はフランチェスコ王子のお目付役としての立場に限定するよう求めた。
善治郎はその判断を受け入れ、今回の失敗は自分の隙の大きさが原因であると認めた。アウラも、自ら善治郎をボナ王女のもとへ送り出した経緯があることを気にしていたが、善治郎はそれを責めず、互いに納得したうえで話を終えるのだった。
深夜の密会と報告
深夜、善治郎が寝入ったことを確認したアウラは寝室を抜け出し、隣のリビングルームで腹心の侍女と密かに会っていた。
その侍女は表向きは後宮侍女の一人であったが、実際には王宮と後宮に広い情報網を持つ重要人物であり、アウラは彼女にボナ王女の監視結果を報告させた。
ボナ王女への監視結果
侍女は、ボナ王女のもとへ派遣されている侍女達の報告として、ボナ王女が善治郎を誘惑するような行動は一切見せていないと伝えた。
その報告を受けたアウラは、ボナ王女個人には本当に裏の目的がないのかと考え込んだ。シャロワ王家が善治郎の血筋を狙っていることは承知していたため、善治郎が単独でボナ王女を訪問した今回の機会に何らかの働きかけがあると予想していたが、そのような動きは確認されなかった。
善治郎とボナ王女の距離感への懸念
一方でアウラは、善治郎がボナ王女に対して妙に気安く接していることを気にしていた。
善治郎の女性の好みを双王国が把握しているとは考えにくく、またアウラとボナ王女に共通点もほとんどなかったため、その親しさの理由が分からなかった。
善治郎はオクタビア夫人やファティマ・ギジェン、後宮の侍女達に対しても一定の警戒心を保っていたが、ボナ王女にはそれが薄かった。アウラはその状況に対し、女としての感情が混じっていることを自覚しながらも警戒を強めていた。
監視継続の指示
アウラは侍女に対し、今後も大きな異変があれば報告するよう命じた。
ただし監視が発覚して警戒されることを避けるため、定期報告などは不要とし、派遣された侍女達にはこれまで通りボナ王女に忠実な侍女として振る舞うよう指示した。
侍女はその命令を受け入れ、一礼して静かに部屋を後にした。
幕間三 静かな街道
群竜の沈静化への懸念
プジョル将軍率いる竜弓騎兵団と、チャビエル率いるガジール辺境伯領軍の混成部隊は、塩の補給任務を終えた帰路を順調に進んでいた。
補給も完了していたため行軍速度は遅かったが、兵士達には余裕があった。しかしチャビエルが街道の静けさに言及すると、プジョル将軍は状況を楽観視していなかった。
将軍は、群竜が人間全体を警戒して姿を見せなくなったのであれば任務成功と言えるが、自分達の部隊だけを警戒している場合は討伐が難しくなるだけだと指摘した。
群竜の知能への警戒
チャビエルは、年老いた群竜ほど身体の成長に伴って知能も発達するという話を伝えた。
それを聞いたプジョル将軍は、人間全体への警戒という都合の良い可能性を捨てるべきだと判断し、新たな作戦を決定した。
部隊分散による誘引作戦
プジョル将軍は部隊を複数の小集団に分け、互いに距離を保ちながら進軍するよう命じた。
チャビエルには自軍を率いて行動するよう指示しつつ、呼び笛が届く範囲は維持するよう求めた。そして全軍が囮となる作戦であり、数の異なる部隊を複数作ることで群竜の判断基準を探る考えを明かした。
チャビエル率いる領主軍は最も人数が多いため襲撃される可能性は低いと見られていたが、油断は禁物だと警告された。
群竜の判断基準を探る意図
プジョル将軍直属の部隊は人数こそ最少だったが、装備や練度、将軍自身の武力を考慮すれば高い戦闘力を有していた。
もし将軍の部隊が狙われれば、群竜は人間の数だけを脅威の基準としていることになる。一方でチャビエルの部隊が襲撃された場合は、群竜が装備や練度を含めた戦闘力そのもので脅威を判断していることになる。
そうした可能性を見極めるため、プジョル将軍は各部隊長を集め、部隊分割の編成説明を始めるのだった。
群竜襲撃と防護円陣
数時間後、群竜は最少人数でありながら最大戦力を誇るプジョル将軍直属部隊を襲撃した。プジョル将軍は即座に防護円陣を命じ、援軍到着まで自衛を優先するよう指示した。
兵士達は動揺することなく盾兵と槍兵で円陣を組み、その内側で弓兵が迎撃態勢を整えた。弓騎兵達も安全を優先して走竜から降り、盾兵が攻撃を受け止め、槍兵が反撃し、弓兵が仕留めるという連携で群竜を撃退していった。
プジョル将軍の驚異的な武勇
戦闘中、一人の槍兵が群竜に槍を弾き飛ばされ、槍は円陣中央へと飛んだ。
その瞬間、プジョル将軍は走竜の背から高く跳躍し、空中で槍を素手でつかみ取った。さらにそのまま槍を反転させて群竜へ投擲し、見事に頭部を貫いて地面へ縫い止めた。
兵士達は将軍の絶技に一瞬見入ったが、将軍の短い注意で我に返り、再び戦闘へ集中した。その後も部隊は一人の戦闘不能者も出さずに援軍到着まで持ちこたえた。
群竜の数への疑念
群竜を撃退して部隊が再集結した後も、プジョル将軍の表情は晴れなかった。
チャビエルとの会話の中で、過去三度の襲撃はいずれも五十匹前後の群竜によるものであり、その都度かなりの数を討ち取っているにもかかわらず、襲撃してくる数が減っていないことを確認した。
その事実からプジョル将軍は、巨大群竜が率いる総数は五十匹程度ではなく、百匹以上、あるいは数百匹規模で存在している可能性が高いと判断した。また、毎回約五十匹だけを投入していることから、巨大群竜が意図的に戦力を温存している可能性にも言及した。
援軍要請の決断
チャビエルは山狩りを行うしかないのではないかと考えたが、プジョル将軍は現在の竜弓騎兵団だけでは数が不足していると認めた。
そのため、自らの見通しの甘さを認めた上で王都へ援軍を要請する決断を下した。チャビエルはその判断に驚いたが、プジョル将軍は名声や誇りよりも任務の達成と人的被害の最小化を優先すると断言した。
女王の意向を踏まえた将軍の判断
プジョル将軍は、群竜異常発生の原因解明や、一般兵でも対処可能な戦術の確立こそが本来の成果であり、自らの精鋭部隊だけで群竜を殲滅することは真の功績ではないと考えていた。
また、女王アウラが何より人的被害の抑制を重視していることも理解しており、その方針に従って行動していた。
こうしてプジョル将軍は、全軍を率いて王領端の砦へ向かい、王宮へ小飛竜で援軍要請を送った後、増援の到着を待つことを決定したのだった。
第四章 明かされた王子の秘密、暴かれた王子の秘密
カルロスの発病
酷暑期が過ぎた頃、後宮はかつてない緊張に包まれていた。アウラも善治郎も予定を取りやめ、後宮で報告を待っていた。
やがて王室付き医師ミシェルが現れ、カルロスが赤斑熱を患っていると告げた。赤斑熱は赤い斑点と高熱、喉の腫れを伴う病であり、成人なら命に関わることは少ないが、乳幼児や老人には危険な病であった。
乳母による異変の察知
最初に異変へ気付いたのは乳母カサンドラであった。普段とは異なる弱々しい泣き声を聞いた彼女は、すぐに侍女を起こし、アウラとミシェル医師へ連絡を取らせた。
その迅速な対応によって、カルロスは早期に診察を受けることとなった。
病状説明と善治郎の不安
善治郎は病名を知らず、ミシェル医師へ詳細を尋ねた。医師はカルロスが体力に恵まれているため、生存の可能性は九割ほどだと説明した。
一度は安堵した善治郎だったが、アウラから死亡率一割という意味でもあると指摘され、その危険性を改めて認識した。
治癒の秘石を巡る対立
善治郎は治癒の秘石の使用を提案した。しかしアウラは、国が保有する秘石は三つしかなく、九割方助かる病気に使用すれば貴族達の反発を招くと説明した。
善治郎は第一王子の命より秘石が優先されることに激昂したが、ミシェル医師は子供が成長するまでに同程度の病を何度も経験するのが一般的であり、この段階で切り札を使えば将来的に足りなくなると説明した。
その説明を受け、善治郎は感情的になっていたことを認めて謝罪した。
打開策を模索する夫妻
善治郎は治癒術士の招集や専門医の存在、特効薬の有無など様々な可能性を尋ねた。しかしアウラはそれらが現実的ではないことを説明し、一つずつ否定した。
善治郎は政治的事情によって治癒の秘石を使えない現実に苦しみながらも、有効な解決策を見つけることはできなかった。
森の祝福への言及
ミシェル医師は話題を変えるように、森の祝福について言及した。森の祝福は一度かかれば様々な病への抵抗力を得られる風土病であり、幼少期に罹患しておくことが望ましい病であった。
アウラも以前からカルロスに感染させる機会を探していたが、その機会がないままカルロスは先に赤斑熱を患ってしまっていた。
それぞれの決断
これ以上できることがないと判断したアウラは、カルロスの治療をミシェル医師とカサンドラへ任せ、自身は会議へ向かうことを決めた。
一方の善治郎は、仕事に集中できる精神状態ではないとして王宮へ行くことを断念した。ただし感染拡大を防ぐため、カルロスの見舞いには行かないことを約束した。
アウラは思い詰めないよう夫へ言い残し、自らは気持ちを切り替えて後宮を後にしたのだった。
善治郎の焦燥と魔法訓練
後宮のリビングルームに一人残った善治郎は、何もできない自分への苛立ちを紛らわせるように魔法の自主訓練へ打ち込んでいた。
『魔力出力調整』の練習を続けながら、もし自分が『瞬間移動』を使えれば双王国へ治癒術士を呼びに行けたかもしれないと考えていた。しかし病気のカルロスを思い浮かべるたびに集中力は乱れ、訓練は思うように進まなかった。
無力感に苦しむ善治郎
訓練を中断した善治郎は水を飲みながら、今日は練習しても無駄だと弱音を漏らした。
アウラから思い詰めるなと言われていたものの、病気の息子を案じる気持ちは抑えられなかった。日本で家庭を持っていても同じように取り乱していただろうかと考えながら、自分の無力さと向き合っていた。
気晴らしを試みる善治郎
何を考えてもカルロスのことへ思考が戻ってしまうため、善治郎は気を紛らわせようと久しぶりに据え置きゲーム機を取り出した。
その時、扉がノックされ、アマンダ侍女長が入室を求めた。普段は必要以上に干渉しない侍女達が自ら訪ねてきたことから、善治郎はカルロスの容態悪化を連想し緊張を高めた。
フランチェスコ王子からの申し出
アマンダ侍女長は、王宮からファビオ秘書官の使いが来ていることを告げた。そして双王国のフランチェスコ王子がカルロスを見舞いたいと申し出ていると伝えた。
善治郎は当初、その提案を非常識だとして否定した。病気のカルロスを他国の王族と会わせる利点はなく、男子禁制の後宮へフランチェスコ王子を入れることもできないと考えたのである。
治癒の秘石提供の提案
しかしアマンダ侍女長は続けて、フランチェスコ王子がジルベール法王家から多数の『治癒の秘石』を預かっており、見舞いを許されるならその一つをカルロスのために使用する用意があると伝えた。
その言葉を聞いた善治郎は即座に態度を変え、すぐ王宮へ向かうと決断した。着替えを急がせる善治郎に対し、アマンダ侍女長はすでに準備が整っていることを告げ、善治郎を隣室へ案内したのだった。
フランチェスコ王子との緊急会談
着替えを済ませた善治郎は急ぎ王宮へ向かい、指定された部屋へ入った。そこでは既にフランチェスコ王子とアウラが向かい合って話し合いを進めていた。
善治郎は遅れたことを詫びてアウラの隣へ座り、緊急の会談に加わった。
ボナ王女を呼ばなかった理由
善治郎はボナ王女の姿が見えないことを不思議に思い、その理由を尋ねた。
フランチェスコ王子は、この件はボナ王女には秘密にしていると説明した。『治癒の秘石』を譲る話を知れば反対される可能性が高いためであった。善治郎とアウラもその説明に納得し、ボナ王女を呼ばないことを容認した。
治癒の秘石の提示
アウラが『治癒の秘石』の件を確認すると、フランチェスコ王子は懐から実物を取り出して見せた。
しかしそれは譲渡するためではなく、自らカルロスに使用するために持参したものであり、その代わりにカルロスへの直接の見舞いを許可してほしいと求めた。
フランチェスコ王子の目的への疑念
アウラは、なぜそこまでしてカルロスに会いたいのか理由を問いただした。
フランチェスコ王子はカルロスに親近感を抱いていること、自分は双王国の王族であり『治癒の秘石』を比較的入手しやすい立場にあることを理由に挙げた。
その言葉を聞いた善治郎は、以前自分に対しても同じく親近感を覚えると語っていたことを思い出し、その発言が強く印象に残った。
直接使用にこだわる理由
アウラは、秘石だけを渡してもらえれば十分ではないかと提案した。
しかしフランチェスコ王子は、秘石が実際に使用される保証がない以上、自分が直接使いたいと主張した。カルロスに会うことだけは譲らず、身体検査や単独行動などの条件も受け入れる姿勢を示した。
その理路整然とした説明を聞いた善治郎は、普段の軽薄な振る舞いとは異なり、フランチェスコ王子が決して愚かな人物ではないと改めて認識した。
後宮立ち入りの許可
フランチェスコ王子が何度も懇願し続けた結果、アウラはついに決断を下した。
『治癒の秘石』を使用する見舞いは医師や治癒術士に準ずるものと判断し、特例として後宮への立ち入りを認めたのである。また、後で問題にならないよう、秘石による治療という名目を公にした上で正式に後宮へ招く方針も定めた。
フランチェスコ王子は満面の笑みで礼を述べ、アウラの決定を受け入れたのだった。
カルロス王子の寝室への同行
善治郎、アウラ、フランチェスコ王子の三人は後宮の廊下を進み、カルロス王子の寝室へ向かった。
フランチェスコ王子は事前に身体検査を受け、『治癒の秘石』以外の所持品を全て取り上げられていた。一方で善治郎とアウラは剣を帯び、万一に備えていた。目的が不明なまま後宮入りを認めたことへの警戒は残っていたが、フランチェスコ王子は終始気楽な様子で後宮の様子に興味を示していた。
病床のカルロス王子
寝室では乳母のカサンドラとミシェル医師が待っていた。
カルロス王子は眠っていたが、起きている間は喉の痛みで泣き続けていたことが報告された。アウラは我が子の状態に胸を痛めながらも奥へ進んだ。
そこでミシェル医師は、感染の危険があるにもかかわらず寝室へ来たアウラと善治郎を厳しく叱責した。しかしアウラは事情が変わったと説明し、説得を試みた。
治癒の秘石による治療の確認
ミシェル医師はフランチェスコ王子に『治癒の秘石』を持参した本人か確認した。
フランチェスコ王子が秘石を示すと、ミシェル医師は安堵を見せた。カルロス王子の症状は安定しているものの、早く治療できるに越したことはないと考えていたためである。
フランチェスコ王子は病気を治すと請け負い、カルロス王子のベッドへ近づいた。
突然明かされた嘘
治療を始める直前、フランチェスコ王子はこれまで嘘をついていたと告白した。
彼は双王国から多数の『治癒の秘石』を持参していると説明していたが、実際には右手に持つ一個だけだったのである。双王国では治癒術士を容易に頼れるため、王家専用の秘石はほとんど存在しないと明かした。
この告白にアウラたちは強い警戒を示したが、フランチェスコ王子は笑顔を崩さなかった。
治癒魔法の発動
フランチェスコ王子は秘石ではなく空いている左手をカルロス王子へ向け、病を退ける呪文を唱えた。
すると淡い魔力光がカルロス王子へ降り注ぎ、身体中にあった赤い斑点は瞬く間に消え去った。苦しそうだった寝息も穏やかなものへ変わり、病状の改善は誰の目にも明らかだった。
善治郎はそれが治癒魔法であることに気づき、アウラは驚愕した。なぜならフランチェスコ王子はシャロワ王家の人間であり、本来ならジルベール法王家の血統魔法である治癒魔法を使えるはずがなかったからである。
秘密の説明要求
周囲が驚きに包まれる中、フランチェスコ王子だけは普段と変わらぬ態度を保っていた。
そして詳しい説明を行いたいので場所を移したいと提案し、その内容を聞く者全員に口止めが必要であるため、この場にいる者を拘束してほしいと求めたのだった。
フランチェスコ王子の秘密の告白
カルロス王子の治療後、アウラ、善治郎、フランチェスコ王子の三人は後宮内の別室へ移動した。
アウラは、カルロスの看病を続けるミシェル医師、乳母カサンドラ、侍女マルグレーテ以外に秘密が漏れないよう手配を済ませたうえで、フランチェスコ王子へ説明を求めた。
二つの血統魔法の保有
アウラは、シャロワ王家の人間でありながら治癒魔法を使えた理由を問いただした。
フランチェスコ王子は、それが詐術ではなく本物の治癒魔法であり、自分は付与魔法と治癒魔法の両方を使えると明かした。
その言葉を受け、善治郎は以前フランチェスコ王子が自分とカルロスに親近感を抱くと語っていたことを思い出し、その理由を尋ねた。
二つの王家の血を引く存在
フランチェスコ王子は、善治郎とカルロスがカープァ王家とシャロワ王家の血を引いているように、自分もシャロワ王家とジルベール法王家の血を引いていると認めた。
善治郎とアウラはその重大な告白に驚いたが、二つの血統魔法を使える理由が明らかになったことで納得した。
さらにフランチェスコ王子は、両親は正統なシャロワ王家の王族であり、自身は長い歴史の中で生じた隔世遺伝によってジルベール法王家の血筋にも目覚めたのだと説明した。
王位継承権を持たない真相
アウラは、フランチェスコ王子が正統な王位継承権を持たない理由も同じ事情によるものか確認した。
フランチェスコ王子はそれを認め、シャロワ王家とジルベール法王家の間には、相手方の血統魔法に目覚めた者は生涯独身とし、その血統を絶やすという密約が存在すると明かした。
そのため、自身は王位継承権を持たず、結婚も許されない立場に置かれていたのである。
普段の振る舞いの真実
アウラは、普段の軽薄な言動も王位継承権を持たない理由を隠すための演技ではないかと尋ねた。
しかしフランチェスコ王子はそれを否定し、むしろ普段の振る舞いこそ本来の自分であり、今のような場面で見せる慎重な態度の方が教えられて身につけた振る舞いだと語った。
その説明により、日頃の言動が極めて自然だった理由も明らかになった。
秘密を明かした理由
最後にアウラは、なぜ国家機密とも言える秘密を二人へ明かしたのか問いかけた。
フランチェスコ王子は、この事実をアウラと善治郎に知ってほしかったからだと答えた。そして、自分と同程度の魔力を持ち、二つの王家の血を引く者は、両方の血統魔法を使える可能性があると告げた。
その言葉の意味を理解したアウラは、カルロスが時空魔法と付与魔法の両方を使える可能性を持つことになるのだなと確認した。
フランチェスコ王子は静かに肯定し、カルロスが二つの血統魔法を受け継ぐ存在であることを明らかにしたのだった。
第五章 判明した狙い
エピローグ
機密保持の徹底
フランチェスコ王子が去った後、アウラと善治郎はカルロスの部屋へ向かった。だが目的は病み上がりの我が子を抱くことではなく、その場に居合わせたミシェル医師、乳母カサンドラ、侍女マルグレーテへ改めて口止めを行うことであった。
アウラは、フランチェスコ王子の秘密とその場で起きた出来事を決して漏らしてはならないと厳命し、三人は忠誠を誓って従った。アウラは三人への信頼から、秘密漏洩の危険は少ないと判断した。
疲労と安堵のひととき
その後、アウラと善治郎はリビングルームへ戻り、ソファーへ身を投げ出した。
カルロスの発病、フランチェスコ王子の見舞い、治癒魔法の発覚、そしてカルロスが二つの血統魔法を受け継ぐ可能性が明らかになったことなど、一日で起きた出来事はあまりにも多かったためである。
アウラは本来の業務を休む決断をし、二人はしばらく疲労に身を任せていた。
治癒魔法への確認
気力を取り戻した善治郎は、フランチェスコ王子が使った魔法について改めて確認した。
アウラは、あれが間違いなくフランチェスコ王子自身の治癒魔法であり、治癒の秘石は未使用のまま残されていると説明した。また、秘石を持ち帰らなかった理由についても、見舞いの名目との整合性を取るためだと語った。
さらに二人は、フランチェスコ王子の正体を隠すため、ボナ王女が無意識のうちに目くらまし役を担わされていた可能性について話し合った。
カルロスの資質が持つ意味
善治郎は、フランチェスコ王子がなぜカルロスの秘密を教えたのか疑問を口にした。
アウラは、カルロスが付与魔法を使える事実を知っただけではすぐ利益にはならず、実際に魔法を習得するにはシャロワ王家の協力が必要だと説明した。
そして、この情報公開の真意は別にある可能性を指摘した。カルロスが二つの血統魔法を持つ前例となれば、同じく二つの王家の血を引くフランチェスコ王子にも子孫を残す資格を認めるべきだという議論が起こり、双王国の長年の密約を揺るがすきっかけになるかもしれないと推測した。
善治郎の立場への影響
しかしアウラは、この事実が広まれば新たな問題も生じると語った。
カルロスが付与魔法を使える理由を追及する者が現れれば、善治郎がシャロワ王家の血を引いていることもいずれ明らかになる可能性が高い。その結果、善治郎へ側室を求める圧力は今まで以上に強まるだろうと説明した。
善治郎は絶望しつつも、アウラを責めることはなかった。アウラもまた、自らが善治郎に提示した条件を守れなくなりつつある現状を申し訳なく感じていた。
我が子への思い
話の最後にアウラは、善治郎が今何を望んでいるのか尋ねた。
善治郎は少し考えた後、今一番望むことはカルロスを抱きしめることだと答えた。
その言葉にアウラも深く共感し、病気が治った以上、もう少ししたら二人でカルロスに会いに行こうと提案した。
善治郎は元気を取り戻し、二人はカルロスとの再会を楽しみにしながら談笑した。重苦しい空気は次第に消え、後宮には久しぶりに穏やかな時間が戻ったのだった。
ボナ王女の説教
王宮南の棟へ戻ったフランチェスコ王子は、後宮へ無断で入り込んだ件についてボナ王女から激しい説教を受けた。
ボナ王女は、他国の後宮へ立ち入る行為や、唯一所持していた治癒の秘石を使おうとした軽率さを厳しく非難した。一方フランチェスコ王子は、幼いカルロス王子が命の危険を伴う病に苦しんでいることを放置できなかったと弁明したが、ボナ王女を納得させることはできなかった。
治癒の秘石と双燃紙の使用
フランチェスコ王子は、治癒の秘石の代替品を送ってもらうため、すでに双燃紙で父王へ連絡を入れたと説明した。
双燃紙という極めて貴重な情報伝達用魔道具まで使ったと知ったボナ王女はさらに驚愕した。しかし、フランチェスコ王子はその際にボナ王女が必要としていた彫金用の道具も一緒に送るよう依頼したと明かし、二人は一時的に宝飾加工の話題で盛り上がった。
後宮訪問の理由への追及
話題を戻したボナ王女は、治癒の秘石を渡すだけで済むはずなのに、なぜ自ら後宮へ入り込んだのか問い詰めた。
フランチェスコ王子は、カープァ王国にも治癒の秘石の備蓄がある以上、渡しただけでは本当に使われる保証がないと考えたためだと説明した。さらにその考えをアウラにも直接伝えたと聞かされたボナ王女は頭を抱え、アウラと善治郎へ改めて謝罪しようと決意した。
そしてフランチェスコ王子へ、今後は勝手な行動をせず必ず自分へ相談するよう念を押して部屋を後にした。
フランチェスコ王子の本音
一人になったフランチェスコ王子は、ボナ王女の生真面目さを微笑ましく思いながら、自身の境遇について考えた。
二つの血統魔法を受け継いだ結果、結婚も子孫も許されない立場となったことに寂しさを感じつつも、王位継承争いから距離を置ける現在の気楽な立場にも未練があると認めていた。
融合派への複雑な思い
フランチェスコ王子は、双王国の二つの王家を統合しようとする政治思想である融合派、とりわけ両王家の血を持つ者を王に据えようとする完全融合派について思いを巡らせた。
二つの血統魔法を使える自身は、その理想を体現する存在でもあった。しかし、その思想は長年続いてきた双王国の均衡を崩しかねない危険なものでもあり、フランチェスコ王子は人を巻き込むような変革を望んでいなかった。
最終的に彼は難しい問題を考えるのをやめ、なるようになると結論づける。そして再びいつもの無邪気な笑顔を浮かべるのだった。
魔道具の完成披露
数日後、アウラ、善治郎、フランチェスコ王子、ボナ王女の四人は王宮で会談を行った。表向きは後宮訪問の謝罪と治療への礼が目的であったが、その話題はすぐに終わり、本来の目的である魔道具の完成報告へ移った。
フランチェスコ王子は完成した『未来代償』の魔道具を披露した。それは善治郎が提供した薄水色の宝玉を、正八面体状の金の骨格で保護した精巧な品であり、アウラと善治郎はその見事な出来栄えに感嘆した。
未来代償の魔道具の機能説明
フランチェスコ王子は、魔道具の本体は内部の宝玉であり、金の骨格は保護のためのものであると説明した。
この魔道具は『未来代償』によって得た魔力を蓄積できる仕組みになっており、魔法語を唱えて魔力を貯蔵し、必要な時に放出できた。また複数回に分けて魔力を蓄積することも可能だった。しかし、蓄積した魔力を少しずつ取り出すことはできず、一度起動すると全ての魔力がまとめて放出される仕様であった。
善治郎はその技術力と造形美を称賛し、アウラも正式に感謝の意を示した。
アウラが見出した将来性
説明を聞いたアウラは、この魔道具が時空魔法の運用に大きな可能性をもたらすと考えた。
特に膨大な魔力を必要とする『時間遡行』や『次元遮断大結界』への活用が期待できた。一方で、小刻みな魔力供給が不可能であるため、『瞬間移動』への応用には限界があることも理解した。
さらに将来的にビー玉の量産と付与魔法の使い手の確保が実現すれば、同様の魔道具を量産できる可能性があると考えた。そのためにはカルロスに付与魔法を習得させるか、善治郎の子供たちから付与魔法の使い手を増やす必要があると認識した。
側室問題への思索
アウラは、付与魔法と時空魔法の使い手を増やすことが国家にとって大きな利益になると考えた。
しかしその実現には善治郎の側室問題や外戚勢力の台頭、さらには双王国との外交問題など、多くの課題が存在していた。それでも国益だけを考えれば、善治郎が今後も側室を持たないという選択肢は難しくなるかもしれないという結論に至り、アウラは複雑な思いを抱いた。
会談の終了
やがてファビオ秘書官が訪れ、アウラに次の公務の時間が迫っていることを告げた。
アウラは会談を途中で切り上げることを伝え、フランチェスコ王子やボナ王女の挨拶を受けると退席した。善治郎は敬語でアウラを見送り、その後を引き継ぐことになった。
女王の憂鬱
善治郎たちとの会談を終えたアウラは執務室へ向かった。椅子に腰を下ろしたアウラは思わず溜息を漏らし、ファビオ秘書官にその理由を問われると、再び善治郎へ負担を強いる流れになりつつあることに気が滅入っていると打ち明けた。
ファビオは善治郎を怒らせることを恐れているのかとからかったが、アウラは真剣にそれを肯定した。
善治郎を怒らせる危険性
アウラは例え話として、マルケス伯爵やプジョル将軍との関係修復ならば、税の免除や元帥の地位といった有効な手段が存在すると説明した。
しかし善治郎の場合は事情が違った。財産や地位に執着せず、収集欲も薄く、側室も拒否している善治郎には機嫌を取るための切り札が存在しないのである。その一方で、関係が悪化した場合には国政へ大きな影響を及ぼしかねないため、アウラは善治郎との関係を損なうことを強く恐れていた。
その説明を聞いたファビオも、善治郎の特殊性を認めて謝罪した。
仕事への切り替え
雑談を終えたアウラは業務に戻ろうとしたが、ファビオは予定を変更し、まずプジョル将軍から届いた報告を見るよう促した。
机の上には『小飛竜便』によって送られた四通の書状が並べられた。塩の街道で群竜討伐にあたっているプジョル将軍が緊急連絡を送ってきたことから、アウラは何らかの不測の事態が発生したに違いないと考えた。
付録 主と侍女の間接交流
後宮侍女たちの夜更かし
カープァ王国後宮の侍女たちは、世話をする相手がアウラと善治郎、そしてカルロス王子に限られているため、一般的な貴族や王族の館に比べれば労働条件は比較的穏やかだった。しかし善治郎が現代日本の生活習慣を引きずり、夜遅くまで起きているため、一部の侍女たちは主が就寝するまで待機しなければならなかった。
その結果、善治郎の夜更かしの習慣は若い侍女たちにも影響を与え、『問題児三人組』であるフェー、ドロレス、レテも夜遅くまで起きて過ごすようになっていた。
フェーのゲームへの熱中
夜更けの私室で、フェーは携帯ゲーム機を使い、善治郎のゴルフゲームの記録を超えようと熱中していた。
飛距離重視のキャラクターを使いながら好成績を狙っていたが、大事な場面でミスショットを出してしまい、悔しさのあまり大声を上げた。ルームメイトのドロレスは周囲への迷惑を心配して注意したが、フェーはあと少しで善治郎の記録を超えられたかもしれないと悔しがり続けた。
ゲーム談義と成長
ドロレスはフェーのプレイ内容を確認し、飛距離ばかり重視せず安全策を取るべきだと助言した。しかしフェーは失敗を恐れず攻め続ける方が良いと主張した。
二人は自然にゲームの攻略法やスコアについて語り合っていた。知らぬ間にゴルフ特有のスコア計算を理解し始めており、結果としてゼロやマイナスの概念にも触れていたが、本人たちはその知識の価値に気付いていなかった。
レテの帰還
最終的にフェーは善治郎の記録を更新できず、悔しさを抱えたままゲームを終えた。
ドロレスは順番を守るよう促し、フェーが続けて遊ぼうとするのを止めた。そこへ両手がふさがっているレテが帰宅し、部屋を開けてほしいと呼びかけた。
フェーとドロレスはゲーム機を片付けると、戻ってきたルームメイトを迎え入れるため、揃って部屋の扉へ向かった。
侍女たちの夜食会
料理の手伝いを終えて戻ってきたレテは、フェーとドロレスに荷物を運んでもらいながら部屋へ戻った。ヴァネッサからの土産として料理や酒を持ち帰っており、三人で分け合うことになった。
レテは調理担当の助っ人として遅くまで働いていた。若手侍女たちだけでは手間のかかる翌日の料理準備が難しかったため、料理の腕に優れるレテが呼ばれていたのである。
善治郎の混成酒の試飲
レテは善治郎が作った酒の感想を聞きたいと言っていたことを伝えた。酒は善治郎が蒸留酒に果実と砂糖を加えて作った混成酒であり、まだ試行錯誤の段階にあった。
酒好きのドロレスは慎重に匂いを確かめた後で味見を行い、失敗作ではないものの非常に甘く、自分の好みには合わないと評価した。一方で甘い物好きのフェーは大いに気に入り、今まで飲んだ酒の中で一番美味しいと喜んだ。
料理を囲んだ談笑
三人は酢漬けや串焼きを食べながら感想を語り合った。ドロレスは甘い酒には酢漬けの方が合うと指摘し、串焼きとの相性について意見を述べた。
レテはその助言を素直に受け入れ、次はもっと合う味付けを考えようと前向きに受け止めた。フェーは料理を美味しいと褒め、ドロレスと軽口を交わしながら賑やかな時間を過ごしていた。
ゲーム機を利用した明かり代わり
料理を食べ尽くしたフェーは、木皿の中を確認するために善治郎から借りている携帯ゲーム機のバックライトを明かり代わりに使った。
ドロレスは善治郎の私物を汚していないか心配したが、フェーは食事の際も手を拭いてからゲーム機に触れていたことを説明した。傍若無人に見えても、越えてはいけない一線は守っていたのである。
就寝準備と翌日の仕事
時刻を確認すると夜九時を過ぎており、三人は翌日の仕事に備えて片付けを始めた。翌日からは庭園担当への配置換えが予定されていた。
庭仕事が苦手なレテは気落ちしたが、フェーは自分が手伝うと励ました。ドロレスも余裕があれば手伝うと約束し、代わりに調理担当になった際は自分が頑張るとレテが応じた。
こうして三人は互いに助け合うことを約束しながら、夜更かしの時間を終えるのだった。
庭園担当の仕事事情
後宮侍女たちの間で庭園担当の評価は極端に分かれていた。庭仕事は他の部署と比べて体力的負担が大きく、酷暑の中で草刈りや芝刈りを行わなければならないため、多くの侍女は最も嫌な仕事と考えていた。
一方で、庭園担当は日中の暑い時間帯を避けて働くため拘束時間が短く、中休みも長い。そのため少数ながら最も好きな仕事と考える侍女も存在していた。問題児三人組では、ドロレスとレテが嫌う側であり、フェーだけが好む側であった。
芝刈り作業の開始
朝早く、中庭では庭園担当責任者のエミリアが作業方針を示し、フェー、ドロレス、レテの三人も大声で返事をした。
エミリアは大柄な体格ながら機敏に動き、自ら鎌を手に芝刈りの手本を見せた。三人もそれに続き、強くなり始めた朝日の下で黙々と作業へ取り組んだ。
レテの苦戦
作業開始から一時間ほど経つと、最初に音を上げたのはレテであった。体力の消耗に加え、身体の硬さや運動の不得手さ、大きな胸による体勢の崩れやすさなどが重なり、庭仕事との相性は最悪だった。
フェーは元気に作業を続けながらレテを手伝っていたが、レテは疲労で限界に達していた。
エミリアの指導方針
レテの様子を見たエミリアは厳しく叱責したが、すぐに本当に限界だったのか、それとも怠けていたのかを問いただした。
レテが体力の限界だったと正直に答えると、エミリアは無理を続けることを許さず、木陰で休むよう命じた。エミリアは怠慢には厳しい一方で、能力以上の無理をして倒れることも認めない方針であり、各人に最善を尽くすことを求めていた。
木陰への退避
休息を許可されたレテは、厳しい口調とは裏腹のありがたい指示に満面の笑みを浮かべた。
そして芝の上を這うように移動しながら、喜んで木陰へと退避していったのであった。
庭園担当の休憩時間
太陽が危険な高さに達したため、エミリアは午前中の作業終了を宣言した。レテとドロレスは疲労でその場にへたり込んだが、フェーだけは元気を持て余していた。
フェーは善治郎から借りているサッカーボールで遊ぼうと誘ったが、ドロレスとレテは疲れ切っており参加を断った。その結果、フェーは一人で喜びながら建物へボールを取りに向かった。
フェーの旺盛な体力
木陰で休むドロレスとレテは、炎天下でも元気に動き回るフェーを見て呆れていた。二人は冗談交じりに、フェーには竜種の血が混ざっているのではないかと語り合った。
その頃フェーは侍女服姿のまま中庭でサッカーボールを使い、リフティングや跳び蹴りを繰り返して遊んでいた。レテとドロレスは、その姿を半ば呆れながら見守っていた。
エミリアの気遣い
そこへエミリアが現れ、疲れ切った二人に若さが足りないと冗談めかして声をかけた。仕事中とは異なり、休憩時間のエミリアは穏やかで親しみやすい態度を見せていた。
エミリアは冷蔵庫から持ってきた果汁と黒砂糖を混ぜた飲み物を配り始めた。疲れた侍女たちは喜び、フェーも真っ先に駆け寄って飲み物を求めた。
冷たい飲み物による回復
三人は冷たい飲み物を一気に飲み干し、渇いた喉と疲労を癒やした。特にレテは大きく体力を回復し、いつもの明るい笑顔を取り戻した。
お代わりを求める三人に対し、エミリアは嫌な顔一つせず飲み物を注ぎ続けた。やがて水差しは空になり、三人は十分な水分補給を終えた。
後宮で求められる清潔さ
エミリアは休憩後に昼食を取る前に、水浴びと着替えを済ませるよう注意した。そのまま建物へ入ればイネスに叱られると忠告したのである。
後宮では大汗をかいた後に水浴びをし、新しい服へ着替えることが習慣となっていた。これは善治郎が清潔さを非常に重視しており、汗の匂いを嫌う一方で香油の匂いも好まなかったためである。
善治郎自身は不満を表に出さないよう努めていたが、侍女たちはその気遣いを察していた。その結果、汗を流して清潔な服へ着替えることが後宮の当然の習慣となっていたのであった。
午後の庭仕事再開
長い昼休みを終えた侍女たちは、日差しが和らぐと再び庭仕事に戻った。エミリアは芝刈りを終えた区域の刈草回収と水やりを指示し、三人はそれぞれ返事をして作業に取り掛かった。
フェーは真っ先に熊手を手に取り、ドロレスは草を運ぶための袋と台車を準備した。一方でレテは何をすべきか迷ってしまい、すぐにエミリアから叱責を受けた。慌てて作業に加わったレテは、フェーと共に熊手で刈草を集め始めた。
刈草回収と台車の活躍
フェーとレテが汗を流しながら刈草を集める一方で、ドロレスは集められた草を袋へ詰めていった。袋が満杯になると、善治郎が持ち込んだ台車を使って投棄場所まで運搬した。
台車は元々善治郎の私物であったが、後宮侍女たちの力仕事を大きく助けていた。その便利さから、アマンダ侍女長は同様の道具の製作を商人へ相談するほどであった。
重労働の水やり
刈草の運搬が終わる頃には日も傾き、最後の作業である水やりが始まった。水道もじょうろも存在しないため、侍女たちは噴水の溜め池から汲んだ水を柄杓でまいていった。
フェーは勢いよく水をまき、ドロレスはその飛沫を浴びながらも大きく気にしていなかった。体力の尽きたレテは水を遠くまで飛ばせず、エミリアから正しくまくよう指導を受けた。
仕事の負担への思案
疲労したドロレスは、水やりを楽にする道具が善治郎の持ち物の中にないかと愚痴を漏らした。エミリアはそれを叱責したが、内心では庭仕事の負担軽減につながる道具の存在を考え始めていた。
若い侍女たちに努力を求める一方で、仕事そのものの負担を軽くする方法にも価値があると感じたエミリアは、後日善治郎へ相談することを考えながら作業を続けた。
終業後の水掛け合戦
日が完全に落ちると、エミリアは終業を宣言した。その時フェーは噴水まで水を汲みに行っており、戻った直後に仕事が終わったことを知らされる。
使い道のなくなった水を適当に処理するよう言われたフェーは不満を抱いたが、ドロレスのからかうような言葉を聞いて予定を変更した。柄杓ですくった水をドロレスへ浴びせると、ドロレスも反撃し、水の掛け合いが始まった。
レテは二人をたしなめながらもその場を離れず、何度も巻き添えで水を浴びていた。やがてフェーとドロレスは互いにバケツを抱え、残った水を同時に相手へぶちまけた。こうして二人は、仕事の疲れを忘れたかのように水遊びを楽しんだのであった。
同シリーズ
理想のヒモ生活 シリーズ
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