どんな本?
「理想のヒモ生活」とは、渡辺恒彦 氏によるライトノベル。
日本でブラック労働をしていた善治郎は久しぶりの休みの日に異世界に召喚された。
その召喚主は善治郎の好みドストライクの美女だった。
そんな彼女は大国の女王で、善治郎に婿に来て欲しいと言う。
善治郎は躊躇なく「はい」と返事をして地球で婿に行く準備をしていざ異世界へ、、
後宮に引き篭もるヒモ生活を享受出来ると思っだが、、
女王が妊娠したら悪阻が酷く、彼女の代理として政治の表舞台へと行くと、世間が彼を後宮に引きこもる事を許してくれなくなった。
さらに彼の持ち物のビー玉が隣国双王国の付与魔術の媒体として最高品であると判ると、、
さらに善治郎の血統も、、
そんなタイトル詐欺と言いたくなるほど大忙しな善治郎のヒモ生活。
読んだラノベのタイトル
理想のヒモ生活 6
著者:渡辺恒彦 氏 イラスト: 文倉 十 氏
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あらすじ・内容
大人気シリーズ待望の第6弾!! いよいよ善治郎に側室が!? まさかの善治郎の選択に全俺が泣いた!? 面白さ120%の保証付き
プジョル将軍は、女王アウラにガジール辺境伯家長女ルシンダ・ガジールとの結婚許可を申し出る。 中央の有力貴族であるプジョルと、地方の大領主であるガジール辺境伯家の娘の婚姻は、本来許可できない。 しかし、プジョル将軍には、女王の婚約者候補として婚姻を縛っていた過去に引け目を感じている女王アウラは、その婚姻を認める。 結婚式会場は、ガジール辺境伯領。王都を離れられない女王アウラの名代として、善治郎が結婚式に参加することが決定。数日後、港街ワレンティアから王都にフレア姫一行が到着する。 夜会の席で、結婚式の話を聞いたフレア姫は、善治郎のパートナーとして、自分もその結婚式に出席したいと申し出る。 結婚式に男女一組で出席するということは、その二人は色恋の関係にあるのが一般的。つまりそれは、フレア姫から善治郎に向けた事実上の求婚―――。 善治郎の答えは? そしてアウラとの夫婦関係はどうなるのか!?
理想のヒモ生活6
感想
何だこの煽り文句?
全俺って善治郎?
確かに側室候補者は決まった。
しかも、大衆の面前で女性の方からそれに立候補する。
男尊女卑の文化が強い国ではとんでもない事らしい。
だからはしたないと言われてしまう。
で、その原因となったのは餓狼将軍と辺境伯の長女との婚姻。
その結婚式は普通なら王都でやるはずなのに、辺境伯の領地でやる事になった。
結婚式には夫婦が出席する事が習わしだが、女王アウラは政務を優先するため出席を断念。
その変わりに善治郎のパートナーを選ばざる得なくなった。
そこに自ら志願したのがフレア姫だった。
国王の反対を振り切って大航海に出てしまうほど御転婆な彼女からしたら善治郎は理想の夫らしい。
男尊女卑のこの時代、女だからと一段下に見ず対等な立場で評価してくれる善治郎はかなり稀有な存在らしい。
それを見定めたらロックオンして、チャンスに向かって襲いかかるフレア姫。
大型帆船1隻で大航海するだけありますわ、、
善治郎も、大陸間貿易と鉄製品、船舶技術の獲得のためにフレア姫を受け入れざる得ない。
周りをしっかり抑え込んで、機があったら速攻でチャンスを掴み取る瞬発力。
半端ない、マジ、半端ない。
女王アウラはこんなフレア姫を御せるのか?
更に、フレア姫が側室候補として決定した事によって、側室候補だった後宮の侍女たちも別の嫁ぎ先が決まって行く。
それによって、侍女達の入れ替えが起こり問題児3人組に後輩が出来る!!
緩むのか?
侍女長の特訓の努力虚しく緩んでしまうのか?w
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考察・解説
新年祭の風習
『理想のヒモ生活6』におけるカープァ王国の「新年祭」は、日本の正月と似た大枠を持ちつつも、精霊信仰や独自の言い伝えに基づく独特の風習として描かれている。
新年祭の風習について、以下の4つのポイントから解説する。
1. 年末年始の基本的な過ごし方
・カープァ王国が位置する南大陸では月の満ち欠けを基準とした太陽太陰暦が用いられているが、年の終わりと初めを祝う概念は存在している。
・一年の末日(大晦日に相当)は、断食と大掃除を行い、静かに過ごす風習がある。
・新年の初日(元旦に相当)は、家の中では賑やかに過ごすものの、あまり外には出歩かないのが一般的な過ごし方である。
2. 新年二日目の「初売り」と時空精霊の加護
・新年二日目は、本来カープァ王家にしか微笑まない「時空精霊」が、この日ばかりは全ての者に祝福を与える特別な日であると言い伝えられている。
・「新年二日目に購入した品は長持ちする」と信じられているため、国中の商会がこの日を最大のかき入れ時と定め、人々もこぞって大きな買い物をする。
・王都には特需を求めて多くの人が集まるため、値切り交渉や商品の奪い合い、酔っ払いによる喧嘩が頻発し、王都警備隊は「脅し」の短槍ではなく実用品である「棍」を装備して、過酷な群衆整理と治安維持に当たる。
3. 新年三日目の夜の祭典「炎夜祭」
・新年二日目が昼の祭典であるならば、三日目は夜の祭典である。
・人々が明かりを持ち寄り、ありったけの火で「不幸の象徴」である夜闇に抗い、「幸福の象徴」である朝日を迎えることで、その年の幸福を呼び込む(昼が延びて夜が縮む)という言い伝えに基づいている。
・この夜だけは王宮の前庭が一般市民に開放され、安全性の高い蝋燭を購入した比較的裕福な王都民たちが集い、街全体を美しく照らし出す。
4. 王族の責務としての参加
・炎夜祭は、よほどのことがない限り王族が絶対に参加しなければならない最重要の公的行事である。
・アウラや善治郎は、重いターバンや宝飾品が施された伝統的な「第一正装」を身にまとい、王宮の二階バルコニーの特別席に座る。
・そこで東の空が白々と明けてくるまで、眼下の前庭に集う臣民たちが灯す星空のような無数の炎を、静かに見守り続ける。
まとめ
カープァ王国の新年祭は、断食と大掃除で静かに終える年末から始まり、二日目の熱気あふれる「初売り」、そして三日目の幻想的な「炎夜祭」へと続く、国を挙げての一大行事である。特に炎夜祭は、民衆の祈りと王族の威厳が交差する美しい神事として、女王アウラも毎年楽しみにしている特別な風習となっている。
プジョル将軍の結婚
『理想のヒモ生活6』において、国軍の重鎮であるプジョル・ギジェン将軍の結婚は、単なる慶事にとどまらず、王家や有力貴族の政治的思惑が複雑に交錯する重要な出来事として描かれている。
プジョル将軍の結婚について、以下の4つのポイントから解説する。
1. 群竜討伐を機に結ばれた縁
・結婚相手は、地方貴族の雄であるガジール辺境伯家の長女ルシンダ・ガジールである。
・ルシンダは先の大戦時に父や兄に代わって領主代行として領地を守り抜いた女傑だが、その代償として婚期を逃し、26歳という当時の価値観では大年増と呼ばれる年齢になっていた。
・先の群竜討伐の際、プジョル将軍がチャビエル・ガジールの部隊を辺境伯領まで送り届けたことがきっかけで両者は顔を合わせ、結婚の縁が結ばれることとなった。
2. 王家を脅かしかねない危険な婚姻
・中央政界や軍部で強い影響力を持つギジェン家と、地方で独自の強固な武力と財力を持つガジール辺境伯家が婚姻で結びつくことは、将来的に王家を凌ぐ勢力になりかねない危険なものであった。
・本来であれば王家としては絶対に認められない結びつきだが、両家の思惑が一致しており、強引に潰せば両家の心証を著しく悪化させるため、女王アウラは許可を出さざるを得なかった。
3. アウラによるしたたかな政治的駆け引き
・結婚を止めることができないと悟ったアウラは、この婚姻から最大限の王家の利益を引き出した。
・ガジール辺境伯家には、チャビエルの失言を利用して群竜退治にかかった戦費の補填や報奨金を放棄させた。
・プジョル将軍には、彼を長年アウラの婿候補として縛っていた王家からの借りを相殺させると同時に、群竜退治の予算の穴埋めを議論する予算会議において、他貴族の反発を引き受けて全面協力することを約束させた。
4. 結婚式が引き起こした新たな波乱
・プジョル将軍は自らの結婚に王族を呼び寄せて箔をつけるため、あえて王都ではなくガジール辺境伯領での挙式を決定した。
・アウラは長期間王都を離れられないため、名代として夫の善治郎を辺境へ派遣することになった。
・しかし、既婚の王配が一人で出席するわけにはいかずパートナーとなる女性が必要となり、この事情が結果的にウップサーラ王国のフレア姫による結婚式のパートナーへの立候補という大騒動を引き起こす直接の要因となった。
まとめ
プジョル将軍の結婚は、有力貴族同士の野心と実利が結びついた政略結婚であると同時に、女王アウラの巧みな交渉術が光る政治的イベントである。さらに、善治郎を名代として結婚式へ派遣せざるを得なくなったことで、フレア姫の求婚という国家間の外交・側室問題にまで発展し、物語の展開を大きく動かす重要な転機となっている。
善治郎の異質性
『理想のヒモ生活6』において、善治郎の「異質性」は、彼と共にワレンティアで群竜討伐の対応に当たったラファエロ・マルケスの視点から、父親であるマルケス伯爵への報告という形で詳細に語られている。ラファエロは善治郎の精神性を「化け物」と表現し、この世界の貴族の常識が全く通用しない特異性を強く警戒している。
善治郎の異質性について、以下の4つのポイントから解説する。
1. 精神的な意味での「化け物」
・ラファエロは善治郎を、外見は常人と同じでありながら精神性が全く異なる「化け物」と評している。
・それは例えるなら「首から上が飾りで、急所は足の甲にあり、背中に見えない第三の腕を隠している」ような異質さだと語られている。
・そのため、一般的な人間だと思って接すれば、善治郎の怒りのポイント(逆鱗)も分からずに不用意に触れてしまい、致命的な間違いを犯す危険性があると指摘されている。
2. 既存の分類に全く当てはまらない価値観
・人の性格や価値観を年齢・性別・身分などから推測することに長けたラファエロにとって、善治郎は「若い」「男」「王族」といったいかなる型にも当てはまらない分類不能な存在であった。
・善治郎は男でありながら武力がないことを指摘されても全く気にせず、表舞台に立って武名を上げる機会も欠片も欲していない。
・また、妻である女王アウラの指示に従い、陰に回ることを少しも疎まないという、この世界の貴族男性の常識から完全に外れた価値観を持っている。
3. 「操り人形」ではなく「自動人形」
・一部の口さがない貴族たちは善治郎を「女王陛下の操り人形」と見なしているが、ラファエロはその見解を明確に否定している。
・善治郎はアウラの指示を仰げない遠方のワレンティアにいても判断に遅れを見せず、自らの確固たる自由意思と自己判断に基づいて、常に「女王にとって最善」の言動を取り続けていた。
・そのため、糸で操られているのではなく、自律的に動く「自動人形」と表現するべきだと評されている。
4. 感情を抑え込んでいるわけではない本心からの受容
・善治郎は常に冷静で感情を完璧に制御しているように見えるが、実際にはフレア姫の山羊の提案に喜んで即決したように、理性を超えて感情を優先させることもある。
・このことからラファエロは、善治郎が感情を無理に押し殺して「陰に回る王配という立場」を務めているのではなく、心底からその立場に不満を持っていないのだという結論に至った。
まとめ
善治郎の異質性は、異世界人であるがゆえの価値観の違いから生じており、名誉や権力闘争が常識である貴族社会の人間から見れば理解不能な「化け物」として映っている。しかしラファエロは、その特異性を正しく理解し、名誉や功績の場面で王族と貴族の利害が衝突しないという点を利用できれば、将来的に協力関係を築ける可能性があると見出している。
大陸間貿易の交渉
『理想のヒモ生活6』における大陸間貿易の交渉は、カープァ王国とウップサーラ王国の将来を左右する国家規模の重要な政治的取引として描かれている。
女王アウラとウップサーラ王国の第一王女フレア姫の間で行われた直接交渉について、以下の4つのポイントから解説する。
1. 両王家による独占事業の合意と有力貴族の思惑
・ワレンティアでの事前の話し合いにより、大陸間貿易はカープァ王家とウップサーラ王家の独占事業とすることが確定している。
・しかし、王家のみで砂糖や香辛料、竜皮などの輸出特産品を全て用意することは不可能である。
・そのため、この合意の裏ではマルケス伯爵家のような国内の有力貴族が、実質的な取引に優先的に関与して莫大な利益を得ようと画策している。
2. フレア姫の側室入りと技術提供の提示
・フレア姫は善治郎の側室となることを希望し、輿入れの際には身一つで嫁ぐのではなく、母国の根幹である鉄と船の文化と人材をもたらすとアウラに提案した。
・具体的には、カープァ王国に造船所を築き、本国から造船技師や鍛冶師を呼び寄せることである。
・これにより、アウラが欲している大型帆船の製造技術や製鉄技術を惜しみなく提供するというものであった。
3. 領地の自治権と血統魔法の流出防止
・技術提供の見返りとして、フレア姫はウップサーラ王国が格下に見られないよう、王家に連なる公爵位と湾岸部の港を含む領地の自治権を要求した。
・これに対しアウラは、カープァ王家の時空魔法の血筋が他国へ流出する事態を防ぐための対策を講じた。
・公爵位の継承者は時空魔法の素養がない者を優先し、素養がある者は王家に養子へ出すという条件を提示し、合意を取り付けた。
4. 貿易の主導権を巡る対立と妥協案
・フレア姫は自身の領地の港で独自の武装を施し母国と直接貿易を行う権利を求めたが、アウラは大陸間貿易の主導権を王家間で握るという大原則からこれをきっぱりと退けた。
・その代わり、アウラは造船所で建造される最初の十隻のうち、偶数番号の五隻をウップサーラ王国へ無償で提供するという譲歩案を提示した。
・フレア姫も将来的な直接貿易の可能性を規約に残す形で交渉をまとめた。
まとめ
大陸間貿易の交渉は、フレア姫の側室入りを前提として、高度な技術の提供と主導権を巡る両国のシビアな駆け引きとして展開された。アウラとフレア姫の直接交渉によって大筋の合意には至ったものの、貿易を正式なものとするにはフレア姫が一度本国へ戻り、国王の許可を得る必要があり、実現には最短でも一年以上の時間を要する状況となっている。
フレア姫の求婚
『理想のヒモ生活6』において、北大陸のウップサーラ王国の第一王女フレア姫が善治郎に対して行った事実上の求婚は、カープァ王国の中枢を大きく揺るがす出来事として描かれている。
フレア姫の求婚について、以下の4つのポイントから解説する。
1. 歓迎夜会での大胆な求婚宣言
・王宮で開かれた歓迎夜会において、プジョル将軍の結婚式に善治郎が名代として出席することが話題に上った際、フレア姫は自らをパートナーとして連れて行くよう申し出た。
・アウラは南大陸では結婚式に血縁者以外の女性を伴うことは深い仲を意味するとたしなめたが、フレア姫は北大陸でも同じであると答え、公衆の面前で改めてパートナーに立候補した。
・さらに、スカートの裾をつまんで深くかがみ、首筋を見せるという、ウップサーラ王国における正式な女からの求婚の仕草をとり、善治郎への愛を宣言した。
2. 国家の未来を見据えた思惑
・フレア姫の行動は、単なる色恋沙汰ではなく、母国ウップサーラ王国の未来を背負った打算的なものであった。
・ウップサーラ王国は海軍や海路貿易の増強を進めているが、大型船建造に必要な森林資源が枯渇しつつあった。
・さらに、北大陸で強い権力を持つ教会の干渉を避けるため、カープァ王国に独自の港と造船所を築き、北大陸南部諸国を経由しない独自の貿易航路を確立する必要があり、そのために自らが側室入りする決断を下したのである。
3. 理想の夫としての善治郎への評価
・母国のために身を捧げる犠牲的な婚姻に見えるが、フレア姫自身は善治郎を理想の夫として高く評価していた。
・これまで女でありながら積極的に活動してきたフレア姫に対し、多くの男は否定的な反応や見下した態度をとってきた。
・しかし、善治郎は彼女を対等な交渉相手として扱い、その成果を純粋に評価したため、フレア姫は結婚後も自分の活動を肯定してくれる相手として善治郎に強く惹かれていた。
4. 逃げ場を失った善治郎とアウラの決断
・公衆の面前で他国の王女から申し込まれたため、公式に拒絶すれば大陸間貿易そのものを白紙に戻す覚悟が必要となり、政治的に断ることは事実上不可能となった。
・さらに、フレア姫が輿入れの際に鉄と船に関する高度な技術と人材をもたらすと提案したため、アウラは莫大な国益のためにこの申し出をむげにはできなかった。
・結果として、善治郎はフレア姫を結婚式のパートナーとして同伴することになり、アウラも将来的な側室入りを前提として準備を進めることになった。
まとめ
フレア姫の求婚は、母国の国益を追求する強烈な打算と、女性を対等に扱う善治郎への個人的な好意が結びついた大胆な政治的行動である。この予想外の事態により、善治郎とアウラは逃げ場を失い、カープァ王国は高度な技術の獲得と引き換えに、異国の王女を側室に迎えるという新たな局面に直面することになった。
側室問題と後継者
『理想のヒモ生活6』における側室問題と後継者は、血統魔法の使い手を増やすという国家的な至上命題と、それに伴う政治的な駆け引きとして描かれている。
側室問題と後継者について、以下の4つのポイントから解説する。
1. 血統魔法の継承と国内貴族からの圧力
・カープァ王国が位置する南大陸では、血統魔法の継承者数が国力に直結するという事情がある。
・しかし現在、カープァ王家の時空魔法の担い手は女王アウラ、王配の善治郎、そして第一王子のカルロスの三人のみという状態である。
・そのため、国内の貴族たちからは善治郎に対して側室を持てという強い圧力がかけられている。
・アウラ自身も王国の繁栄と存続を考えれば、善治郎が側室を持つことは絶対に必要であると認識している。
2. 第二子の出産と側室を迎えるタイミング
・現在、直系王族はカルロス王子ただ一人である。
・この状態で側室が血統魔法の後継者を出産した場合、万が一カルロスに何かあった際に、側室の子が後継者と目されてしまう危険性がある。
・この王位継承を巡る危険を防ぐためには、側室を迎える前に正嫡の子を増やしておくことが最も安全な解決策である。
・アウラの体調も完全に回復していることから、今こそが第二子を作るための良い時期だとアウラは判断している。
3. フレア姫の側室入りと時空魔法の流出防止
・ウップサーラ王国の第一王女であるフレア姫が善治郎の側室となることを希望しているが、他国の王族を迎え入れるにあたって懸念されたのが時空魔法の血筋の流出であった。
・さらに善治郎の血統には、シャロワ王家の付与魔法の素養も含まれている。
・この事態を防ぐため、アウラはフレア姫に対し、彼女が得る公爵位の継承者は時空魔法の素養がない者を優先し、素養がある者は王家に養子へ出すという条件を提示した。
・これにより、合意を取り付けることで未然に対策を講じている。
4. 側室攻勢を回避するための瞬間移動習得
・フレア姫が正式に側室となるには、ウップサーラ王国に戻って国王の許可を得る必要があるため、どんなに早くても一年の時間を要する。
・もしそれよりも早くアウラの第二子妊娠が発覚した場合、フレア姫が側室になる前の空白期間を狙って、国内貴族が別の側室を強引に押し込んでくる危険性があった。
・この事態を回避するため、アウラは善治郎に瞬間移動の魔法を急いで習得させる計画を立てた。
・出産の場に双王国から治癒術士を呼ぶという正当な大義名分を与えて彼を国外へ一時退避させることで、本人不在を理由に側室話を進めさせないというものである。
まとめ
側室問題と後継者に関する課題は、単なる夫婦間の問題ではなく、血統魔法の管理と国家の安定に関わる高度な政治問題として描かれている。善治郎の感情を思いやりつつも、アウラは女王として王家の血統を守り抜くため、国内貴族の思惑や他国からの干渉に対して緻密な防衛策を張り巡らせている。
登場キャラクター
カープァ王国 王家・王宮
アウラ一世
カープァ王国の女王である。直系王族の唯一の生き残りとして国を治めている。善治郎を異世界から召喚して伴侶とした。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国国王。ワレンティア公爵。
・物語内での具体的な行動や成果
善治郎を召喚して彼と結婚した。地方貴族の脱税を摘発して軍事費を増額させた。第一子であるカルロスを出産した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
妊娠と出産により政務に一時的な制約が生じた。時空魔法の使い手として王国の統治に大きな影響力を持っている。
善治郎・カープァ
異世界から召喚されたアウラの伴侶である。平和主義で政治的な野心を持たない。アウラを愛しており側室を迎えることを拒絶している。
・所属組織、地位や役職
王配。ワレンティア公爵全権代理。
・物語内での具体的な行動や成果
現代日本の道具を持ち込んで生活環境を改善した。地方貴族の脱税を計算ソフトで明らかにした。ワレンティアで群竜討伐の総責任者を務めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
異世界の一般人から王配となった。第一子カルロスの誕生により父親となった。
カルロス・善吉
アウラと善治郎の間に生まれた第一王子である。両親から愛情を受けて育っている。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国第一王子。
・物語内での具体的な行動や成果
赤斑熱という病に感染した。フランチェスコの治癒魔法によって回復した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
時空魔法と付与魔法の両方の素質を持つ可能性があると判明した。
ファビオ
アウラの第一秘書官である。常に無表情で冷静沈着に物事を判断する。王家に強い忠誠を誓う一方で善治郎には警戒心を抱いている。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国第一秘書官。
・物語内での具体的な行動や成果
アウラに対して様々な進言や報告を行った。善治郎のお目付け役として行動を監視した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
女王の右腕として国政に大きな権限を持っている。
エスピリディオン
宮廷筆頭魔法使いである。アウラの腹心の一人として助言を行う。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国筆頭宮廷魔法使い。
・物語内での具体的な行動や成果
双王国の魔道具や歴史についての知識をアウラへ提供した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地位に関する大きな変化の記述はない。
オクタビア
マルケス伯爵の後妻である。教養と魔法技術に優れている。善治郎の家庭教師として指導を行う。
・所属組織、地位や役職
マルケス伯爵夫人。善治郎の家庭教師。
・物語内での具体的な行動や成果
善治郎へ王国の歴史や礼儀作法を教えた。魔法の基礎について実演を交えて指導した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
家庭教師に選ばれたことで善治郎に影響を与える立場に就いた。
マルケス家
マヌエル・マルケス
カープァ王国の有力貴族である。オクタビアの夫として実利を重んじる思考を持つ。
・所属組織、地位や役職
マルケス伯爵家当主。
・物語内での具体的な行動や成果
妻のオクタビアを善治郎の家庭教師に推薦した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地位に関する大きな変化の記述はない。
ラファエロ・マルケス
マルケス伯爵の嫡男である。有能な文官であるが自主性に欠ける面がある。
・所属組織、地位や役職
善治郎の臨時私設補佐官。群竜討伐部隊の参謀。
・物語内での具体的な行動や成果
ワレンティアで善治郎の補佐官として実務を取り仕切った。群竜討伐の際において参謀として作戦を立案した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アウラの婿候補の一人であったが善治郎の補佐官に就任した。
ガジール辺境伯家
ガジール辺境伯
辺境領を治める老将である。先の大戦で二人の息子を失っている。
・所属組織、地位や役職
ガジール辺境伯領領主。
・物語内での具体的な行動や成果
塩の街道の異変解決を自領軍で対応する許可をアウラから得た。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地位に関する大きな変化の記述はない。
チャビエル・ガジール
ガジール辺境伯の三男である。生真面目で経験が浅いが次期辺境伯としての責任感を持つ。
・所属組織、地位や役職
ガジール辺境伯領主軍指揮官。
・物語内での具体的な行動や成果
塩の街道で群竜討伐を行い巨大群竜の存在を確認した。ワレンティアでの群竜討伐では前線指揮官として群竜の本隊を撃滅した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
初陣を経験して次期辺境伯としての実績を積んだ。
ジョゼップ
ガジール辺境伯の側近である。歴戦の騎士としてチャビエルを補佐する。
・所属組織、地位や役職
ガジール辺境伯領の騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
塩の街道での群竜討伐でチャビエルに的確な助言を与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地位に関する大きな変化の記述はない。
アンドレス
チャビエルに仕える従者である。色白の若者として行動を共にする。
・所属組織、地位や役職
ガジール辺境伯家の従者。
・物語内での具体的な行動や成果
塩の街道での行軍中においてチャビエルの世話や走竜の管理を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地位に関する大きな変化の記述はない。
アントニオ
ガジール辺境伯領の熟練の猟師である。竜種の生態に詳しい。
・所属組織、地位や役職
猟師。
・物語内での具体的な行動や成果
塩の街道で群竜の痕跡から巨大群竜の存在や群れの逃亡を推測した。ワレンティアでも群竜討伐の助言者として行動した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
一介の猟師から王配の会議に助言者として招かれた。
王軍・ワレンティア公爵領
プジョル・ギジェン
王国軍の大将軍である。野心家でありアウラの元婿候補でもあった。
・所属組織、地位や役職
カープァ王国竜弓騎兵団総団長。将軍。
・物語内での具体的な行動や成果
自らの妹を善治郎の側室に推薦した。塩の街道で群竜討伐の援軍を率いて戦闘を指揮した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
群竜討伐の主導権を握った。
ダミアン
ワレンティア公爵領代官である。職務に熱心で責任感が強い。
・所属組織、地位や役職
ワレンティア公爵領代官。
・物語内での具体的な行動や成果
四本マストの船の入港を王都へ報告した。善治郎がワレンティアに滞在した際に現地の実務を担当した。善治郎が城外に出ることに反対して説得を試みた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
一時的に善治郎の指揮下に入った。
後宮の侍女
アマンダ
後宮の侍女長である。規則に厳格で有能な人物として後宮を管理する。
・所属組織、地位や役職
後宮侍女長。
・物語内での具体的な行動や成果
後宮の侍女たちを統括した。善治郎の不在時には特別指導期間を設けて若い侍女たちを再教育した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地位に関する大きな変化の記述はない。
イネス
後宮の清掃担当責任者である。上品で落ち着いた態度で業務をこなす。
・所属組織、地位や役職
後宮清掃担当責任者。
・物語内での具体的な行動や成果
ワレンティアへ同行し善治郎の身の回りの世話や各方面との調整を行った。フレア姫の身体検査を実施した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ワレンティア滞在時は善治郎の事実上の侍女長兼秘書を務めた。
ヴァネッサ
調理責任者である。豪快な性格で後進の指導に熱心に取り組む。
・所属組織、地位や役職
後宮付き調理責任者。
・物語内での具体的な行動や成果
善治郎が持ち込んだレシピを元にカステラを独自に改良して再現した。若い侍女たちに調理の指導を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地位に関する大きな変化の記述はない。
フェー
問題児三人組の一人である。小柄でショートカットのお調子者として描かれる。
・所属組織、地位や役職
後宮の侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
善治郎の携帯ゲーム機を誤って自室へ持ち帰りゲームに熱中した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
清掃担当へ配置換えとなりアマンダの特別指導を受けた。
ドロレス
問題児三人組の一人である。長身で要領が良く味覚が鋭い。
・所属組織、地位や役職
後宮の侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
調理練習で作られた料理の欠点を的確に指摘した。芝刈りの際に台車を使って効率的に草を運んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
清掃担当へ配置換えとなり特別指導を受けた。
レテ
問題児三人組の一人である。天然な性格であり料理が得意な少女である。
・所属組織、地位や役職
後宮の侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
携帯ゲーム機の遊び方の紙を見つけてゲームを始めた。調理の助っ人として働き料理の腕を振るった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
清掃担当へ配置換えとなり特別指導を受けた。
キーシャ
若い後宮侍女の一人である。カリナの班に所属している。
・所属組織、地位や役職
後宮の侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
具体的な行動に関する記述は存在しない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地位に関する大きな変化の記述はない。
コンチタ
若い後宮侍女の一人である。調理の練習に参加している。
・所属組織、地位や役職
後宮の侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
調理の練習でスープを作ったが同僚たちから欠点を指摘された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ヴァネッサから厳しい指導を受けた。
サブリーナ
若い後宮侍女の一人である。調理の練習に参加している。
・所属組織、地位や役職
後宮の侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
調理の練習で作った料理を酷評された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ヴァネッサから厳しい指導を受けた。
ウップサーラ王国
グスタフ五世
ウップサーラ王国国王である。フレアの父親にあたる。
・所属組織、地位や役職
ウップサーラ王国国王。
・物語内での具体的な行動や成果
ヴィクトリアに対してスカジの称号を与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地位に関する大きな変化の記述はない。
フレア・ウップサーラ
ウップサーラ王国第一王女である。男装の船長として剛胆で交渉能力に長ける。
・所属組織、地位や役職
ウップサーラ王国第一王女。帆船黄金の木の葉号の船長。
・物語内での具体的な行動や成果
四本マストの帆船で南大陸へ渡りワレンティアへ入港した。善治郎と直接貿易や家畜の取引について交渉した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
地位に関する大きな変化の記述はない。
ヴィクトリア・クロンクヴィスト
フレア姫の護衛である。大柄で優れた戦闘能力を持つ。
・所属組織、地位や役職
ウップサーラ王国の戦士。フレア姫の護衛。
・物語内での具体的な行動や成果
ワレンティア公爵邸でフレア姫を護衛した。群竜討伐において巨大群竜を一騎打ちで討ち取った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
スカジの称号を持つ戦士として活躍した。
ニコライ
フレアの会話の中で名前が挙がった人物である。正体はフレアとヴィクトリアのみが知っている。
・所属組織、地位や役職
詳細は不明である。
・物語内での具体的な行動や成果
フレアの会話に名前が登場しただけであり具体的な行動の記述はない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
シャロワ・ジルベール双王国
フランチェスコ
シャロワ王家第一王子の長男である。軽薄に見えるが無邪気な態度で振る舞う。
・所属組織、地位や役職
シャロワ王家第一王子の長男。
・物語内での具体的な行動や成果
カープァ王国を訪問した。カルロス王子の赤斑熱を治癒魔法で治療した。未来代償の魔道具を作製した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
密約により王位継承権を持たないことが判明した。付与魔法と治癒魔法の両方を使える稀有な存在である。
ボナ
シャロワ王家の王女である。下級貴族出身で真面目な性格をしている。
・所属組織、地位や役職
シャロワ王家の王女。宝飾職人。
・物語内での具体的な行動や成果
フランチェスコ王子と共にカープァ王国を訪問した。フランチェスコの奔放な行動に振り回されて対応に追われた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
フランチェスコのお目付役として行動した。
展開まとめ
プロローグ カープァ王国の新年祭
新年祭と王都の賑わい
新年二日目の初売り
南大陸では太陽太陰暦が用いられており、新年を祝う風習も存在していた。カープァ王国では一年の末日を静かに過ごし、新年最初の三日間を盛大に祝っていた。
新年二日目には、その日に購入した品は長持ちするという言い伝えがあり、人々はこぞって買い物へ繰り出した。商人たちも最大の稼ぎ時として様々な商品を売り込み、王都の商店や露店は大勢の買い物客で溢れ返っていた。
初売りを支える王都警備隊
人々が殺到した王都では、喧嘩や口論、酔客による騒動が頻発していた。そのため王都警備隊は短槍ではなく棍を装備し、群衆整理や治安維持に奔走していた。
兵士たちは汗だくになりながら人々を押し戻し、騒ぎを鎮めていた。交代した若い兵士は疲労困憊の様子を見せ、初売り期間の警備の過酷さを身をもって実感していた。
巡回中の兵士たちの会話
交代後の兵士たちは住宅街の巡回を続けた。商業地区に人が集中する一方で、空き巣を狙う者も現れるため、住宅街の警備も重要な任務だった。
巡回中、若い兵士は恋人へ贈る青銅製の結婚指輪を買いたかったと打ち明けた。善治郎がアウラへ贈った結婚指輪の風習は商人たちによって広まりつつあり、若い兵士もその風習を取り入れようとしていた。先輩兵士はその話を聞きながら、結婚指輪が王国に定着していく未来を感じていた。
炎夜祭の開催
新年三日目の夜には炎夜祭が催された。人々は灯火を持ち寄り、王都中を明るく照らした。特に王宮前庭は一年に一度だけ一般開放され、多くの市民が蝋燭を手に集まっていた。
無数の灯火が夜の闇を押し返す光景は壮観であり、人々はその年の幸福を願いながら祭りに参加していた。
善治郎とアウラが見守る灯火
善治郎とアウラは王宮二階のバルコニーから、前庭を埋め尽くす無数の灯火を見下ろしていた。眼下に広がる光景は星空のような美しさを見せ、善治郎は深く感動していた。
アウラは毎年楽しみにしている祭りの光景を誇らしく語り、善治郎も王族だけが見ることのできる特別な眺めに見入っていた。
第二子への思い
第一正装に身を包んだ善治郎とアウラは、それぞれ祭りを眺めながら思索にふけっていた。善治郎は昨年の炎夜祭を余裕なく過ごしていたことを思い出し、今年ようやく祭りの美しさを味わえていることを実感していた。
一方アウラは、出産後に増えた体重が元に戻ったことを喜びながら、第二子について考えていた。カルロスも成長し、次の子を迎える時期として悪くないと感じていたのである。
夜明けまで続く祭り
善治郎とアウラは、前庭に集まった人々が灯す無数の炎を静かに見守り続けた。
やがて東の空が白み始めるまで、二人は炎夜祭の幻想的な光景を眺め続けるのだった。
第一章 将軍の結婚
活動期の結婚シーズン
活動期に集中する結婚式
活動期は人々が最も活発に動く季節であり、雨期や酷暑期に行動を制限される分、多くの行事がこの時期に集中していた。結婚式もその代表例であり、遠方から多くの親族が集まる都合上、身体への負担が少ない活動期に行われるのが一般的だった。
そのため高位貴族の婚姻許可も増加し、女王アウラは許可証への署名や祝辞、祝い金の判断など多くの関連業務を抱えていた。
問題の婚姻許可申請
そんな中、アウラのもとにはギジェン家当主プジョル・ギジェンと、ガジール辺境伯家長女ルシンダ・ガジールの婚姻許可申請が提出された。
この婚姻は、王族が関与せざるを得ない有力貴族同士の結び付きであり、王家にとって極めて扱いの難しい案件だった。アウラはプジョル将軍とチャビエル・ガジールを呼び出し、両家の総意であることを確認した。
群竜退治が結んだ縁
二人は群竜退治を通じて親交を深めていた。チャビエルが単独行動を取った後、プジョル将軍はガジール家の部隊を責任を持って領地まで送り届け、その過程でルシンダと知り合ったのである。
アウラはルシンダが戦乱期に父や兄に代わって領地を守り続け、その結果として婚期を逃していたことを思い出した。すでに二十六歳となった彼女にとって、この縁談は極めて貴重な機会だった。
王家にとって危険な結び付き
プジョル将軍とルシンダの婚姻は、中央で強い発言力を持つギジェン家と、地方に大きな勢力を持つガジール辺境伯家を結び付けるものであった。
本来であれば王家にとって認め難い結び付きだったが、ガジール辺境伯家にとっても中央との関係強化という利益があり、両家とも強く婚姻を望んでいたため、アウラには阻止する手段がほとんど残されていなかった。
婚姻許可を巡る駆け引き
冗談交じりに婚姻許可を渋る素振りを見せたアウラに対し、チャビエルは自らの武功を代償として婚姻許可を求めた。
その発言は、本来支払われるべき報奨金や戦費補填を放棄することを意味していた。アウラはその背後にガジール辺境伯の了承もあると察し、ルシンダの結婚を実現させたい一族の強い意志を理解した。
最終的にアウラは婚姻を認める決断を下し、プジョル将軍が長年独身であった理由が王家の婿候補だったことにも触れつつ、この件をもって双方の貸し借りを清算する意図を示した。
結婚式への招待と新たな思惑
婚姻許可を得たプジョル将軍は、結婚式をガジール辺境伯領で執り行う予定であることを明かし、王家へ招待状を送ると告げた。
チャビエルは姉が故郷で最後の晴れ舞台を迎えられることを喜んだが、アウラはその決定の裏にあるプジョル将軍の狙いを即座に見抜いた。王族が辺境の結婚式へ出席すれば、それ自体がプジョル将軍の権威を高めることになるからである。
予算会議を巡る取引
アウラは、自身も善治郎も多忙であり、双王国やウップサーラ王国の王族対応が控えていると説明した。そのうえで、今後の予算会議が順調に進めば出席も検討できると遠回しに伝えた。
その言葉の真意は、群竜退治によって発生した追加予算の確保について、プジョル将軍に協力を求めることだった。予算確保のために他貴族の反発を引き受ける代わりに、王家は結婚式への出席という形で将軍へ恩を返すのである。
その意図を理解したプジョル将軍は、予算会議への全面協力を約束し、両者は互いの利益を交換する形で話をまとめるのだった。
女王と秘書官の評価
プジョル・ギジェンとチャビエル・ガジールが去った後、アウラは腹心の秘書官ファビオに今回の結果への率直な意見を求めた。
ファビオは、善治郎を名代として結婚式へ送り込むことでプジョル将軍に箔を付け、その見返りとして今後の会議で全面協力を得た取引だと整理したうえで、王家はプジョル将軍への借りを相殺し、ガジール辺境伯家への報償支払いも回避できたため、十分な利益を得たと評価した。
善治郎への依存を指摘されるアウラ
しかしファビオは、善治郎に負担を押し付けながらも、彼が報酬も求めず忠実に従っていることを指摘し、アウラにとって善治郎は便利な駒になっていると皮肉を述べた。
その言葉にアウラは反発しながらも、最近は何かあれば善治郎に任せればよいと自然に考えるようになっていたことを自覚し、自身の変化に動揺した。
夫婦としての甘えと自制
ファビオは、善治郎自身は不満を抱いておらず、アウラだけが罪悪感を抱くのは無意味だと指摘した。
それに対しアウラは、善治郎への甘えを自覚しなければ際限なく増長すると語ったが、ファビオは夫婦なのだから多少の甘えは自然であり、むしろ自制しすぎていると反論した。
アウラはその言葉を完全には否定できず、考え込むことになった。
結婚式出席に伴う問題
続いてファビオは、善治郎が結婚式へ名代として出席する場合、同行する女性が必要になると指摘した。
既婚者が配偶者以外の女性を伴って結婚式へ出席すれば、その女性が側室候補として注目される可能性が高い。そのためアウラは、高齢の既婚女性であるパスクアラを同行者にする案を考えたが、それでも周囲を完全に納得させることは難しいと理解していた。
側室問題を避け切れない可能性に、アウラは憂鬱な気持ちを抱いた。
山羊の到着を楽しみにするアウラ
話題はフレア姫から贈られる山羊へ移った。
山羊の飼育には施設整備や人材育成など多くの手間と費用が必要だったが、それは善治郎が初めて望んだ品でもあった。アウラは山羊の受け入れ準備を面倒だと言いながらも、善治郎のために用意できることを心から喜んでいた。
その様子を見たファビオは、初孫への贈り物を選ぶ祖母のようだと評し、アウラはせめて母親と言ってほしいと不満げに返すのだった。
蒸留酒の完成と量産計画
その夜、後宮のリビングルームでアウラと善治郎は、現地で複製された蒸留装置による試作品の蒸留酒を飲んでいた。
善治郎は品質に問題がないと評価し、アウラも量産化への手応えを感じていた。ただし善治郎は大型化による新たな問題の可能性を指摘し、アウラは試行錯誤を重ねながら進めればよいと考えていた。
名代の依頼と善治郎の反応
蒸留酒の話を切り上げたアウラは、プジョル将軍とルシンダの結婚式へ、自身の名代として善治郎に出席してほしいと告げた。
善治郎は予想外にあっさり了承し、アウラが心配していたほど問題視していなかった。アウラは、自分が善治郎を駒のように扱っているのではないかと悩んでいることを打ち明けたが、善治郎は王と王配という立場上、ある程度行動を決められるのは当然だと考えていた。
互いの本音を語り合う決意
アウラは、当初交わした子作り以外は何も求めないという約束から現状が大きく離れてしまったことを認め、改めて腹を割って話し合う必要があると提案した。
善治郎もそれに同意し、互いに遠慮や建前を捨てて本音を語ることになった。
善治郎の望む生活
善治郎は、アウラやカルロスと家族として過ごす時間を望み、アウラ以外の女性を必要としていないと明言した。
また故郷の食べ物や趣味、サッカーや音楽、インターネットへの未練を語る一方で、外交や側室問題への対応には強い負担を感じていることも率直に打ち明けた。
アウラはその言葉を聞き、善治郎が自覚以上に不満や欲求不満を溜め込んでいたことを理解した。
アウラの女王としての要求
続いてアウラは、自身の願いを妻としての願いと女王としての願いに分けて語った。
妻としては善治郎と同じく家族の時間を望んでいたが、女王としては側室を迎えること、双王国との約束を果たすこと、付与魔法の継承体制を整えること、ガラス製造や財政強化への協力、そして王族としての公務や名代の役割を求めていた。
それらは善治郎の希望と正面から衝突する内容だったため、善治郎は露骨に困惑した。
善治郎の立場と王宮内の危険
アウラは、自分への不満は後宮内でのみ吐き出し、公の場で自分を批判しないでほしいと頼んだ。
その理由として、善治郎はもはや単なる王配ではなく、外交や群竜騒動での実績によって王族として十分な影響力を持つ存在になっていると説明した。
善治郎が王宮内で反発すれば、本人の意思とは無関係に派閥や政治的対立が生じる危険があるためである。
王族としての価値を自覚させるアウラ
アウラは、自身の妊娠や出産をきっかけに善治郎へ名代を任せる機会が増え、その能力に頼ることが当たり前になっていたと認めた。
さらに群竜討伐では総大将という立場を担ったことで、善治郎は王族としても有能であると周囲に認識されるようになった。そのため今後は王宮外での言動にも十分注意してほしいと求めた。
善治郎はその説明を受け、自分の立場を理解し、これまで以上に慎重に振る舞うことを約束するのだった。
夫婦の希望のすり合わせ
善治郎との対話の中で、アウラは再び自分が夫へ都合を押し付けていたことを反省した。そして話題を切り替え、双方の利害が一致する物作りについて積極的に取り組んでほしいと伝えた。
善治郎は磁石の完成を目指し、その後は山羊が届いたらチーズやバター作りに挑戦したいと語った。アウラはフレア姫一行が山羊を連れて王都へ向かっていることを知らせ、善治郎は乳製品によって作れる菓子類への期待から喜びを見せた。
王族としての仕事に対する善治郎の考え
続いてアウラは、善治郎が外交や社交を苦手としていることについて尋ねた。
善治郎は好んではいないものの、王族としての責務である以上、必要ならば果たすべき仕事だと考えていると答えた。ただし、仕事が存在するのにそれを避けることには居心地の悪さを感じるとも語り、自らの責任感を明かした。
故郷への未練と現実的な願い
アウラが金銭や手間を考慮せず望みを挙げるよう促すと、善治郎は故郷への未練について語った。
Jリーグ観戦や新曲を聴くことは現実的ではないと認める一方、山羊の到着によって故郷の味に近い菓子作りの可能性が広がることを期待していた。また、シャンプーやリンスの代用品開発もすでに進めていると説明した。
生活習慣を合わせるアウラ
石けんやシャンプーの話題から、アウラは材料の確保には協力すると約束した。
善治郎のためにアウラは香油を落としてから後宮へ戻り、私生活では侍女を極力近づけないなど、多くの習慣を変えていた。善治郎は改めて妻の献身に気付き、心から感謝を伝えた。そして自分だけが我慢していると勘違いしてはならないと、自戒の念を抱いた。
異世界でのインターネット構想
善治郎は次に、魔法を利用して異世界のインターネットへ接続する構想を語った。
時間遡行によって特定空間を過去の状態に保ち、異世界接続のような魔法を使えば可能ではないかと考えていた。しかしアウラは、時間遡行を空間に適用するための改良や、新たな魔法の開発が必要になることを説明した。
さらに、その維持には膨大な魔力が必要となるため、理論上は可能性があっても実現は極めて困難だと指摘した。
家電維持のための魔力利用
善治郎は未来代償の魔道具に蓄積された魔力の利用を提案したが、アウラはそれを認めなかった。
その魔力は善治郎が持ち込んだ家電製品を時間遡行によって保全するために使う予定だったのである。冷蔵庫やエアコンなどの寿命を延ばすことの重要性を説明され、善治郎も納得した。
パソコンを未来へ残す計画
アウラは家電の中でも特にパソコンを最優先で維持したいと語った。
善治郎が毎年行う納税資料の再計算によって脱税摘発に大きな成果が出ており、その仕組みを王家の財産として残したいと考えていたのである。
さらに将来生まれる娘へ時空魔法とパソコン操作を継承させ、王家独自の監査体制として未来へ引き継ぐ構想まで明かした。
価値観の違いによる議論
しかし善治郎は、生まれた時点で役割が決められていることに抵抗を覚えた。
一方のアウラは、王族に生まれた以上、生き方が定まっているのは当然であり、その中で幸福を追求するものだと考えていた。
現代日本の価値観で育った善治郎と、身分制度が根付いた世界で生きるアウラとの間には大きな認識の違いがあり、善治郎は完全には納得できなかった。
説明書作成の提案
善治郎は妥協案として、家電やパソコンの取り扱い説明書を残すことを提案した。
アウラはその考えを歓迎し、言霊による翻訳を利用しながら少しずつ書面化していけば、知識の継承にも役立つと評価した。
二人目の子供への期待
娘の将来について話しているうちに、善治郎はまだ娘がいないことに気付き、その前提となる話題へ意識を向けた。
アウラはカルロスの成長、自身の体調回復、そして善治郎への信頼を理由に、二人目の子供を作る時期が来たと告げた。
その言葉を聞いた善治郎は喜びを隠せず、露骨なほど嬉しそうな反応を見せた。
夫婦の再接近
善治郎は欲望を隠そうともせずアウラへ近付き、アウラは呆れながらもそれを受け入れた。
寝室へ移動するよう促しても善治郎は待ちきれず、ついにはソファー越しに迫っていった。アウラは苦笑しながら観念し、夫を受け止めた。
そして善治郎の後頭部を軽く叩き、人語を話すよう注意しながらも、久しぶりに夫婦としての時間を受け入れるのだった。
第二章 王都の凱旋式
凱旋式と王都の反応
フレア姫一行の凱旋
ワレンティアから来たフレア姫一行の凱旋は、王都民にとって交通封鎖を伴う迷惑である一方、非日常の娯楽として好意的に受け止められていた。
中央道には見物客が集まり、商人や沿道の家の者達は出店や見物席で小銭を稼いでいた。
スカジと巨大群竜の頭蓋骨への注目
凱旋の先頭には、巨大群竜の頭蓋骨を載せた荷竜車が進んでいた。
王都民はその大きさに驚き、頭蓋骨の上に立つ金髪の女戦士スカジへ注目を集めた。スカジは巨大群竜を討った異国の美しい女戦士として人々の視線を浴び、フレア姫の交渉を有利にするため、意識的に堂々と振る舞っていた。
北大陸兵士たちの威容
スカジの後ろには、ウップサーラ王国の兵士達が続いていた。
彼らは金髪や明るい瞳、彫りの深い顔立ち、大柄な体格を持ち、南大陸の人々から見れば異形の巨人のように映っていた。その迫力に、見物客は驚きと畏怖を抱いていた。
王都を観察するフレア姫
フレア姫は豪華な箱竜車に乗り、窓から王都の様子を観察していた。
王都の石畳、立派な木造家屋、民衆の余裕ある表情から、フレア姫はカープァ王国が大戦後にもかかわらず豊かな大国であると判断した。そして、母国ウップサーラ王国との貿易が大きな利益を生むと確信していた。
善治郎を交渉相手に望むフレア姫
フレア姫は、継続的な交渉窓口として善治郎を望んでいた。
善治郎は王配でありながら権限や決定権は強くないように見えたが、誠実で裏切る恐れが少ない人物だった。フレア姫は、善治郎を交渉しやすい相手と見なしつつ、もう一人の王族であるアウラを手強い相手として警戒していた。
ラファエロとマルケス伯爵の再会
一方、先に王都入りしていたラファエロは、マルケス伯爵家の王都屋敷で父マヌエル・マルケス伯爵と再会していた。
マルケス伯爵はラファエロの働きを労い、ラファエロも自分向きの仕事を与えられたことに感謝していた。二人は父子でありながら、高位貴族同士らしい節度ある関係を築いていた。
大陸間貿易交渉の成功
ラファエロは、善治郎とフレア姫の間でカープァ王国とウップサーラ王国の大陸間貿易について前向きな合意がなされ、両王家の独占貿易となる見込みだと報告した。
マルケス伯爵はその成果を評価した。直接の窓口は王家に限定されるものの、輸出品の調達には有力貴族の関与が必要となるため、マルケス伯爵家にも利益を得る余地があった。
ラファエロの後継者としての不安
マルケス伯爵は、ラファエロが有能で期待通りの成果を出したことを認めつつも、最終的な責任と成果を他者に委ねる姿勢に不安を抱いていた。
ラファエロは出来の良い息子である一方、大家の家長としての自覚にはまだ不足があると見られていた。
正確な噂を流したラファエロ
マルケス伯爵は、王都に流れている群竜退治の噂が事実に近すぎることを不自然に感じ、ラファエロの手によるものか確認した。
ラファエロはそれを認め、善治郎の武勲が過度に誇張されることで善治郎の不評を買わないよう、意図的に事実に近い噂を流したと説明した。
善治郎を化け物と評するラファエロ
ラファエロは、善治郎を精神性の面で化け物だと評した。
善治郎は温厚で理性的に見えるが、一般的な人間の価値観で接すれば致命的な誤りを犯す危険があるとラファエロは考えていた。善治郎の怒りや憎悪の急所が読めず、触れてはならない領域が分からないことを恐れていたのである。
善治郎の危険性への警戒
ラファエロは、善治郎をただの人間だと思って接すれば、見えない急所や隠された腕を持つ化け物に挑むような危険があると説明した。
マルケス伯爵はその例えから、善治郎の本質を知らずに接すれば、プジョル将軍でさえ思わぬ敗北を喫する可能性があると理解した。
善治郎が操り人形ではないという認識
ラファエロは、善治郎が一部の貴族に陰口を叩かれているような、女王アウラの操り人形では決してないと断言した。
善治郎は受動的で攻撃性に乏しく見えるが、感情が存在し、その感情が理性を超えて行動に結びつくこともある人物だった。ラファエロは一月近く補佐を務めたことで、その危うさを理解していた。
善治郎への警戒と評価
善治郎は自動人形であるという認識
ラファエロは、善治郎を女王アウラの操り人形ではなく、自らの意思で女王に従う自動人形だと評した。
ワレンティア滞在中も善治郎の判断に迷いはなく、女王からの指示を待つことなく行動していた。その様子からラファエロは、善治郎が確固たる意思と判断力を持ちながら、常に女王にとって最善の行動を選び続けていると理解した。
善治郎との距離を保つべきという進言
ラファエロは、善治郎の価値観や感情の動きを十分に理解するまでは距離を置くべきだと父へ進言した。
善治郎は武力の欠如を指摘されても気にせず、妻の指示に従うことにも不満を示さないため、何を褒めれば喜び、何を侮辱と受け取るのかが分からなかった。そのため、味方として近づくことすら危険だと考えていた。
善治郎を味方にする価値
ラファエロは慎重な姿勢を示しながらも、将来的には善治郎を味方にするべきだと語った。
長期間接した結果、善治郎は感情を完全に抑えているのではなく、本心から現在の陰に回る王配という立場を受け入れている可能性が高いと判断した。また、群竜討伐では司令官の立場を不本意と感じている様子も見せていた。
表舞台を望まない善治郎の特異性
ラファエロは、善治郎が王族でありながら表舞台を好まず、武名を得ることにも執着しない人物だと推測した。
そのため、通常なら王族と貴族が競い合う名誉や功績の場面で利害が一致する可能性が高く、マルケス家にとって有益な協力関係を築けるかもしれないと考えていた。
プジョル将軍の結婚話
ラファエロが領地への帰還許可を求めると、マルケス伯爵は近々プジョル・ギジェンがガジール辺境伯家の長女ルシンダと結婚すると明かした。
ラファエロは、その縁談が大きな利益と同時に危険も伴う選択だと評価し、プジョルの野心に感心していた。
ラファエロの結婚話
マルケス伯爵は、プジョルの結婚式に出席するため、ラファエロにも結婚相手を決める時期だと告げた。
ラファエロは父の判断を信頼しつつ、理想を問われると義母オクタビアのような女性を挙げたが、具体的な希望はないと答えた。
キーシャとの縁談
マルケス伯爵は、マッサーナ男爵家の次女キーシャを第一候補として挙げた。
キーシャは社交界でも名高い美女であり、現在は後宮侍女を務めていた。家格は決して高くないが、実家が大きすぎないことや本人の魅力を考慮して選ばれていた。
後宮侍女と善治郎の関係
マルケス伯爵は、善治郎が後宮侍女達と非常に親しい関係を築いているという話を伝えた。
ただし男女関係に発展した者はおらず、それにもかかわらず侍女達から高い人気を得ているという。その話を聞いたラファエロは、善治郎の価値観をさらに理解できなくなり、警戒心を強めていた。
縁談の受諾
キーシャの経歴や人物像を聞いたラファエロは、一度会って判断することを条件に、結婚を前提として話を進めることを了承した。
マルケス伯爵は満足し、可能であればプジョル将軍の結婚式には正式な婚約者としてキーシャを同伴させたいと考えていた。ラファエロもそれを受け入れ、縁談は具体的に進み始めたのであった。
歓迎夜会
歓迎夜会の開催
フレア姫一行が王宮での入国儀式を終えて三日後、王宮では歓迎の夜会が開かれた。
活動期の過ごしやすい気候もあり、会場には華やかに着飾った貴族達が集っていた。その中でも主賓であるフレア姫と、その護衛であるスカジはひときわ注目を集めていた。
フレア姫と双王国王族の対面
周囲へ自ら挨拶しようとしていたフレア姫の前に、シャロワ・ジルベール双王国の第一王子フランチェスコとボナ王女が現れた。
互いに名乗りを交わした後、フランチェスコは北大陸の文化について教えてほしいと頼み、フレア姫も双王国について知りたいと応じた。会話の中で、双王国の王族達は北大陸から移住してきた祖先の血を引いていることが明かされた。
双王国の成り立ちへの疑問
フレア姫は双王国王族の容姿や歴史について話を聞きながら、内心で疑問を抱いていた。
二つの血統魔法を持つ王家が共に南大陸へ移住し、その後も協力して国家を築いたという経緯は不自然に思えたのである。しかし、この場で追及するべきではないと判断し、話題を文化や竜種の違いへと移した。
文化交流の会話
フレア姫とフランチェスコ王子は、それぞれの国の文化や竜種、建築様式について語り合った。
北大陸と南大陸の違いだけでなく、同じ南大陸でも地域ごとに文化が大きく異なることが語られ、フレア姫は興味深く耳を傾けていた。
アウラと善治郎の来場
やがてアウラと善治郎の来場が告げられると、フレア姫はフランチェスコ王子とボナ王女を伴って挨拶へ向かった。
フレア姫は歓迎への謝意を述べ、アウラは夜会を楽しむよう勧めた。さらに両者は料理を話題に、北大陸と南大陸の食文化の違いについて和やかに語り合った。
善治郎と双王国王族の会話
一方で善治郎は、フランチェスコ王子とボナ王女の相手を務めていた。
フランチェスコ王子は新調したシャツに使われている四つ穴平ボタンを話題にし、その工夫を高く評価した。ボナ王女も素材や加工技術に興味を示し、珊瑚や宝石を使った応用について語り始めたため、善治郎は話題を変えて会話を進めた。
フレア姫との再合流
その後、フレア姫も会話へ加わり、双王国の王族達と親しく交流したことを報告した。
フランチェスコ王子は、将来改めて北大陸の話を聞きたいと希望し、その場に善治郎も同席してほしいと提案した。
蒸留酒の話題
フランチェスコ王子は、スカジが飲んでいる蒸留酒を善治郎が作らせたものだと紹介した。
それを聞いたフレア姫は驚きを示し、善治郎への関心を強めた。さらに北大陸にも蒸留酒が存在することが明かされ、スカジは木樽で長期間熟成させる製法について説明した。
善治郎は熟成という概念自体は知っていたものの、具体的な製法までは知らないと答えた。そのやり取りを聞いたフレア姫は、善治郎の知識の広さに改めて感心し、後日落ち着いた場で様々な話を聞かせてほしいと願うのであった。
歓迎夜会
善治郎への会話の誘い
善治郎は山羊の搬入手続きの際に話すとして、フレア姫の申し出をいったんかわした。
しかしフランチェスコ王子は、自分も善治郎の話を聞きたいと軽い調子で求めた。ボナ王女はその無遠慮な言葉遣いに慌てて袖を引いたが、周囲の王族達は問題視しなかった。
善治郎の遠出予定
アウラは、善治郎が近く自分の名代として遠出する予定であるため、フランチェスコ王子の希望は叶わないと告げた。
善治郎が再び王都を離れると知り、フランチェスコ王子だけでなく、ボナ王女やフレア姫も意外そうな反応を示した。善治郎は行き先を答えかねたが、アウラがガジール辺境伯領で重鎮の結婚式が行われると説明した。
プジョル将軍とルシンダの結婚
フレア姫は、結婚するのがチャビエル・ガジールかと尋ねた。
アウラはそれを否定し、結婚するのはガジール辺境伯家の長女ルシンダであり、嫁ぎ先はギジェン家当主プジョル将軍であると明かした。フレア姫は、国を代表する将軍の結婚であれば、善治郎が名代として赴くに足る出来事だと理解した。
フレア姫の同行希望
フレア姫は、ガジール辺境伯家に縁があるとして、善治郎に自分を結婚式へ連れて行ってほしいと願い出た。
その大胆な申し出に会場は静まり返った。アウラは、南大陸では血縁者でない女性を結婚式に伴うことが深い仲を示す場合が多いと指摘し、軽率だとたしなめた。
フレア姫の求婚に等しい宣言
フレア姫は、北大陸でも同じ意味であると答えた上で、改めて善治郎のパートナーとして結婚式に参加したいと会場中に聞こえる声で宣言した。
さらにフレア姫は、スカートの裾をつまんで深くかがみ、首筋を見せるように頭を下げた。その仕草は、ウップサーラ王国で女性が男性に求婚する際の所作であり、その意味を知るスカジだけが驚愕していた。
第三章 フレア姫の思惑
夜会後の反省会
フレア姫の求婚への対応
夜会を終えた善治郎とアウラは、入浴と着替えを済ませた後、後宮のリビングルームで反省会を開いた。
二人は、フレア姫が公衆の面前で事実上の求婚を行ったことを予想外の事態として受け止めていた。アウラは、あれほど公然と宣言された以上、この話をなかったことにはできないと説明した。善治郎は自分が断れない状況に追い込まれていることを理解し、動揺した。
政治的に困難な婚姻拒否
アウラは、フレア姫が王配である善治郎の側室入りを望んでいる形であり、政治的には極めて有利な条件であるため、拒否は困難だと語った。
善治郎は国際結婚が伝統に反することを思い出し、国内貴族の反発による破談の可能性を期待した。しかしアウラは、貴族達は反対するどころか、自分達の娘を先に側室にしてほしいと求める可能性が高いと説明した。
複数の妻を巡る問題
善治郎が結婚式のパートナーを複数連れて行けるのか尋ねると、アウラは禁じられていないと答えた。
その流れで、複数の妻を持つ貴族達が、誰を優先するかで常に苦労している実情を語った。善治郎はその話に恐怖を覚えたが、アウラは自分が責任を持って側室達を教育し、後宮の秩序を維持すると力強く約束した。
結婚式同行の受諾を迫られる善治郎
アウラは、フレア姫を結婚式のパートナーとして同行させる件は、断れる可能性がほとんどないと告げた。
善治郎は当初、パスクアラに代理を頼むつもりだったが、フレア姫から公然と申し込まれた以上、そのような形で誤魔化すことは不可能になった。アウラは今後の交渉内容次第では婚姻話を断る可能性も残ると述べたが、条件が妥当であれば善治郎が側室を迎える可能性は高いと認めた。善治郎は複雑な思いを抱きながらも、その言葉を受け入れた。
フレア姫とスカジの夜会後の対話
同じ頃、王宮の離れではフレア姫とスカジが夜会の成果について話し合っていた。
スカジは、夜会でフレア姫が善治郎へ求婚の意味を持つ仕草を行った真意を問い質した。フレア姫は、自分には確かな考えがあると前置きし、北大陸における海上貿易と国防の将来について語り始めた。
海洋国家としての課題
フレア姫は、ウップサーラ王国が今後さらに海に依存する国家になると考えていた。
しかし国内では大型船建造に必要な森林資源が不足し始めていた。スカジは大陸間貿易の利益で木材を購入すれば良いのではないかと述べたが、フレア姫はさらに先を見据えていた。
双王国への関心と教会への警戒
フレア姫は、シャロワ王家とジルベール法王家が北大陸からの移民であるという話に強い関心を抱いていた。
また、その背景を考える中で、北大陸の教会勢力が大陸間貿易へ干渉する可能性も懸念していた。教会が敵視する伝説上の白の帝国との関連を口実に、双王国や南大陸との交流を妨害する恐れがあると考えていたのである。
双王国の血統魔法への期待
フレア姫は、双王国の持つ付与魔法と治癒魔法に大きな価値を見出していた。
真水化や風操作などの魔道具は大陸間航海の安全性を飛躍的に高める可能性があり、治癒の秘石も大きな魅力だった。そのため双王国とも強い関係を築く必要があると考えていた。
南大陸での造船構想
フレア姫は、カープァ王国に造船所を設置し、ウップサーラ王国の技術者を送り込む構想を語った。
豊富な木材資源を利用して超大型船を建造し、双王国の魔道具を搭載することで、将来的には補給なしで両国を結ぶ航路を実現したいと考えていた。それが実現すれば、教会や北大陸南部諸国に依存しない海上交易網を築けると見込んでいた。
善治郎との婚姻を望む理由
スカジは、そのためにフレア姫自身が側室になる必要があるのかと問いかけた。
するとフレア姫は、自分は犠牲になるつもりではなく、むしろ善治郎こそ理想の夫だと考えていると明かした。善治郎は女性である自分を対等な交渉相手として扱い、アウラとも対等な関係を築いていた。その姿を見たフレア姫は、結婚後も自由な活動を続けられる可能性を感じていた。
打算と希望による決断
フレア姫は、善治郎との婚姻が国家の利益にも自身の理想にも合致すると語った。
王族としての義務を果たしながらも、自分らしい人生を続けられる相手として善治郎を選んだのである。その率直で打算的な理由を聞いたスカジは圧倒されながらも、主君の決意を理解し、静かに頷くのだった。
フレア姫への注目と王宮の噂
翌日から王宮では、フレア姫が善治郎に対して行った事実上の告白が最大の話題となっていた。
ウップサーラ王国における正式な求婚の意味を知る者はいなかったが、結婚式のパートナーに名乗り出た行為だけでも十分に衝撃的だったためである。そのため、ラファエロが後宮侍女キーシャ・マッサーナを伴って結婚式へ出席する話題さえ霞み、人々はフレア姫の大胆な行動について噂を交わしていた。
山羊の正式な受け渡し
数日後、善治郎とフレア姫は王宮の一室で再会した。
形式上の目的は、かねて約束されていた山羊の受け渡しであり、アウラも同席していた。フレア姫は雄三匹、雌八匹の計十一匹の若く健康な山羊を譲渡すると説明した。善治郎は心から感謝を述べ、山羊から得られる乳や乳製品によって食生活が豊かになることを喜んだ。
山羊飼育係ニコライの派遣
アウラは山羊用の放牧地と厩舎を用意したものの、国内に山羊飼育の経験者がいないため協力を求めた。
そこでフレア姫は、船内で家畜の世話を担当していたニコライを紹介した。ニコライは畜産農家の出身で、山羊飼育に精通していた。フレア姫は彼を善治郎へ貸し出し、山羊飼育の知識を王宮の使用人達へ伝授させることにした。
ニコライへの配慮
善治郎とアウラは緊張するニコライを気遣い、すぐに中庭へ向かわせることにした。
ニコライは王宮の使用人達を指導しながら、将来的に彼らだけで山羊の世話ができるよう教育する役目を任された。フレア姫はニコライの能力に強い信頼を寄せており、山羊も優良な個体を揃えたと説明した。
世間話を名目にした本題への移行
山羊の受け渡しが終わると、アウラはフレア姫に世間話を持ちかけた。
しかし、その真意が夜会での告白について話し合うことにあるのは明らかだった。善治郎はこれから始まる会話を予感して逃げ出したい衝動に駆られたが、自分が問題の中心であることを自覚し、その場に残る決意を固めた。
フレア姫が語る善治郎への想い
アウラが夜会での行動について触れると、フレア姫は善治郎とよしみを結ぶ機会を逃したくなかったため、自分を抑えられなかったと素直に認めた。
さらに善治郎に惹かれた理由を問われると、その人柄こそが理由であると答えた。フレア姫は王族の女性でありながら積極的に活動してきたため、多くの男性から否定的な反応や上から目線の賞賛しか受けてこなかった。しかし善治郎だけは、自分を対等な交渉相手として扱い、大陸間航行という成果を純粋に評価してくれたと語った。
アウラとの応酬と善治郎の苦悩
アウラも善治郎が女性を対等に扱うことを認めつつ、自分は嫉妬深いため簡単には受け入れられないと応じた。
それに対してフレア姫は、二人の邪魔をするつもりはなく、その片隅に居場所を与えてほしいと訴えた。二人の美女から繰り返される賞賛と愛情表現に挟まれた善治郎は、羞恥心に耐えながら沈黙するしかなかった。
スカジを引き合いに出した提案
話の途中でフレア姫は、自分が後宮入りした際には腹心のスカジも同行させたいと提案した。
突然話題の中心にされたスカジは大きく動揺した。善治郎はその発言を軽率だと指摘し、スカジが努力によって戦士としての地位を築いたことを尊重すべきだと述べた。だがその発言は逆効果となり、フレア姫は善治郎が女性の自由意思を尊重する人物であることを改めて確信し、ますます理想の相手だと語った。
婚姻交渉の本格化
アウラは感情論を切り上げ、王侯貴族の婚姻は利益によって成立するものだとして本題へ移った。
フレア姫は、自分がウップサーラ王国第一王女である以上、身一つで嫁ぐつもりはないと宣言した。そして文化と人材を持ち込み、その中心として鉄と船に関する技術を提供すると提案した。
対等な関係を求める条件提示
アウラがその見返りを問うと、フレア姫は普通の側室として迎えられればウップサーラ王国がカープァ王国の下位と見なされると説明した。
そのため、自身に王家に連なる公爵位を与え、湾岸部の港を含む領地を与えてほしいと要求した。そしてその地に造船所を建設し、カープァ王国とウップサーラ王国双方のための船を建造したいと提案するのだった。
造船所と技術提供の提案
フレア姫は、造船所の中核となる職人や鍛冶師はウップサーラ王国から呼ぶが、人手不足を補うためカープァ王国の職人も参加させると説明した。
それは大型帆船の建造技術だけでなく、製鉄技術についても秘匿せず伝える意思を示すものだった。大型帆船や高性能な炉を生み出す技術は、アウラにとって極めて魅力的な提案であり、その価値を慎重に見極めていた。
公爵領と後継者問題の交渉
アウラが公爵領の条件を問うと、フレア姫は一般的な領主貴族と同等の自治権を求めた。
しかしアウラは、王家の分家と地方領主では後継者指名権や王位継承権の扱いが異なると説明した。これに対しフレア姫は、後継者指名権は王家に委ねる代わりに、爵位継承者はカープァ王家とウップサーラ王家双方の血を引く者を優先するよう求めた。
さらにアウラは、血統魔法を持つ者の扱いについて条件を提示した。フレア姫はそれを受け入れ、時空魔法の素養を持たない者を優先して爵位継承者とし、素養を持つ者は王家へ養子に出す案を提案した。双方はその方向で合意した。
港の運営権を巡る対立
続いてフレア姫は、港の安全を守るため独自の武装を持ちたいと述べた。
その発言から、将来的に自らの領地でウップサーラ王国との大陸間貿易を行う意図を察したアウラは警戒を強めた。そして大陸間貿易はあくまでカープァ王家とウップサーラ王家の間で行うべきだと主張し、フレア姫の独自貿易案を認めなかった。
大型帆船を条件とした譲歩案
フレア姫が造船所で建造した船の扱いについて問い返すと、アウラは新たな条件を提示した。
造船所で建造された最初の十隻までは偶数番号の五隻を無償でウップサーラ王国へ提供し、それ以降の船は正式な王家同士の取引として売買するという内容だった。
この提案は、製鉄技術と造船技術を得ながらも、大陸間貿易の主導権を王家が維持するための方策であった。
将来への布石
フレア姫は大型帆船五隻の無償提供に価値を認めつつも、自らの港と母国との直接貿易の可能性を残したいと考えた。
そのため、港での貿易にはカープァ王家の許可を必要とすることを明文化する代わりに、将来的な貿易に備えて港自体を整備する権利だけは認めてほしいと粘り強く交渉を続けた。
交渉の終了
最終的にフレア姫は有意義な話し合いだったと礼を述べ、アウラも近いうちに再び話し合いの場を設けたいと応じた。
善治郎は愛想笑いを浮かべながらその場を見守っていたが、交渉が終わりフレア姫とスカジが退出すると、疲れ切った様子でソファーに身を沈めた。
善治郎の不安とアウラの支え
善治郎は、自分以外の全員にとって有意義な話し合いだったと皮肉を漏らした。
アウラはその言葉を受け止めつつも、王族は私情より国益を優先する存在であると語った。そして隣に座り、恐る恐る善治郎の手に触れた。
しかし善治郎はその手を拒まず、優しく握り返した。アウラは安堵し、王家と王国の繁栄を第一に考えながらも、それに反しない範囲で個人の幸福を追求することは許されると伝えた。
夫婦の絆の確認
善治郎はアウラの言葉に感謝し、これからも協力を願った。
アウラも力強く応じ、二人は手を握り合いながら肩を寄せ合った。互いの体温を感じながら、静かで穏やかな時間を共有するのだった。
幕間 双王国の動き
王宮を賑わせるフレア姫の求婚騒動
フレア姫が善治郎へ事実上の求婚を行ったことで、カープァ王宮はその話題で持ちきりになっていた。王宮中では北大陸の文化やフレア姫の大胆さについて噂が飛び交い、人々は好奇心を隠せずにいた。
そのような中、シャロワ・ジルベール双王国のフランチェスコ王子とボナ王女も、貸し与えられた王宮の一室でこの出来事について語り合っていた。
北大陸と南大陸の婚姻観の違い
ボナ王女は王族同士の婚姻は禁忌ではないのかと疑問を口にした。
それに対しフランチェスコ王子は、血統魔法を持たない王家が多い北大陸では王族同士の婚姻は一般的であり、有力貴族同士の婚姻に近い感覚で行われていると説明した。そのためフレア姫にとって国外への政略結婚は特別なことではないと語った。
さらに、血統魔法の使い手が不足している現在のカープァ王国では、善治郎が側室を持つことは推奨される立場にあるため、フレア姫の申し出も受け入れられる可能性が高いとの見解を示した。
善治郎への同情と側室の冗談
ボナ王女は善治郎が今後多くの側室を持たされることになるのではないかと同情した。
しかしフランチェスコ王子は、アウラもフレア姫も魅力的な女性であり、むしろ善治郎は恵まれている立場だと考えていた。そして冗談半分にボナ王女自身が善治郎の側室になればよいのではないかと勧めた。
だがボナ王女はその提案を完全に冗談として受け取り、自分が善治郎と結婚する可能性など考えたこともないといった反応を見せた。
結婚指輪への興味
フランチェスコ王子は話題を変え、善治郎とアウラが身につけている結婚指輪について語った。
善治郎の世界では結婚相手へ男性が指輪を贈る文化があると聞いたボナ王女は、一瞬真剣に考え込んだ。しかし善治郎が異世界から物資を持ち込めないため、側室の指輪は現地製になるだろうと聞くと、からかわれたことに気付き、慌てて抗議した。
宝飾品に関する話題になると冷静さを失うボナ王女の反応に、フランチェスコ王子は苦笑するのだった。
双燃紙による報告書作成
その夜、フランチェスコ王子は一人で机に向かい、双燃紙を使って本国への報告書を書いていた。
彼はフレア姫が善治郎へ求婚したことや、ボナ王女と善治郎の関係について記していった。そして二人は仲が良いものの、恋愛感情は見受けられないと判断していた。
ボナ王女への評価
報告を書きながら、フランチェスコ王子はボナ王女について考えた。
ボナ王女は下級貴族出身でありながら王族教育も受けているため、王族への従順さと責任感を兼ね備えていた。また、どの階層の人間とも自然に接することができるため、王家にとって非常に扱いやすい存在であった。
そのため善治郎との関係構築にも適していると考えられていたが、実際には善治郎とボナ王女は似た者同士であり、互いに受け身な性格であったため、男女の関係へ発展する気配は見られなかった。
ウップサーラ王国への関心
フランチェスコ王子は報告書の中で、フレア姫の母国であるウップサーラ王国との接触許可も求めた。
ウップサーラ王国は教会勢力の影響を受けておらず、高い技術力を持つ国である。フランチェスコ王子はその技術に強い興味を抱いており、特に兵士達の武具やスカジの短槍に施された装飾に価値を見出していた。
そして、自国も元は北大陸出身であるにもかかわらず、なぜここまで差が生まれたのかと疑問を抱きながら、静かに報告書を書き進めるのだった。
第四章 準備と心の準備
女王アウラの寝不足と側室問題
善治郎との非公式会談から数日後、アウラは執務中に珍しく眠気を見せていた。秘書官ファビオが理由を尋ねると、アウラは睡眠時間が減っていることを明かした。
ファビオは第二子を授かる時期だと察したが、アウラは話題を変え、プジョル将軍の結婚式では善治郎がフレア姫を伴うことが正式に決まったと説明した。善治郎のパートナー役を狙っていた国内貴族達との調整も終わり、特に有力な推進者となり得たプジョル将軍自身が結婚準備で動けなかったことが幸運だったと語った。
フレア姫の側室入りへの準備
ファビオがフレア姫の将来的な側室入りについて確認すると、アウラは現時点で確定しているのは結婚式のパートナー役だけだが、基本的には側室入りを前提に準備を進めるよう指示した。
その理由は大陸間貿易と製鉄・造船技術の獲得にあり、フレア姫個人の資質だけで迎え入れるわけではなかった。国内には反発する貴族も多く、もし大陸間貿易の話が成立しなければ、この計画自体を取りやめる考えも示した。
善治郎への配慮と第二子計画
ファビオは善治郎の心理面を心配したが、アウラは理屈の上では善治郎も納得しているものの、感情面ではまだ整理がついていないと説明した。そのため現在は夫婦関係を通じて善治郎を落ち着かせており、それが寝不足の原因でもあった。
アウラは善治郎が今でも自分だけを強く愛していることを感じていたが、王家の存続を考えれば側室は必要だと認識していた。さらに第二子の誕生前に側室の子が後継問題へ関わる危険性を避けるためにも、正嫡の子を増やす必要があるとの認識をファビオと共有した。
新たな側室候補への懸念
ファビオは、もしアウラの第二子妊娠が先に判明した場合、大陸間貿易の話がまとまる前に国内貴族が別の側室候補を押し込んでくる可能性を指摘した。
アウラはその可能性を認めつつ、それが善治郎の心情をさらに悪化させるだろうと苦い表情を浮かべた。
休日を持て余す善治郎
一方その頃、善治郎は後宮で休日を過ごしていた。精神的な負担を心配したアウラが特別に休暇を与えていたが、善治郎はゲームをしても集中できず、途中で電源を切ってしまった。
侍女達とゲームをして気を紛らわせる案も思い浮かべたが、特定の侍女を特別扱いしていると受け取られることを避けるため断念した。
フレア姫との結婚式参加を整理する
善治郎はコピー用紙を持ち出し、現在の状況を整理し始めた。
プジョル将軍の結婚式にフレア姫を伴って参加すること、その行為が有力な側室候補として扱われること、さらに大陸間貿易が成立すればフレア姫が正式な側室になる可能性が高いことを書き出した。
善治郎は一夫一妻的な価値観を持っており、愛する妻がいる中で新たな妻を迎えることに強い抵抗を感じていた。しかし同時に、アウラも本心では夫を独占したいと語っていたことを思い出し、彼女自身も辛い立場にいるのだと改めて理解した。
アウラへの理解と覚悟
善治郎は、もし自分がアウラの立場で他の男との関係を受け入れなければならない状況になったら耐えられないだろうと想像した。
その想像を通して、アウラが嫉妬や不安を抱えながらも女王としての責務を優先していることを再認識した。そして避けられないのであれば、その中で最善を尽くすしかないと考えるようになった。
山羊乳と乳製品への期待
気分転換のため冷蔵庫から山羊乳を取り出した善治郎は、その独特の臭いにまだ慣れないことを実感した。
しかし世話係のニコライを高く評価しており、将来的に山羊乳からバターや生クリーム、チーズなどが作られることに期待を寄せていた。乳製品が揃えば、これまで作れなかった菓子や料理を再現できるようになるためである。
シャンプー開発と生活改善
続いて善治郎は、自作のシャンプーやリンスの試作品を確認した。
現在は石けんを基にした製品の改良を進めており、自分よりもまずアウラの美しい髪を守りたいと考えていた。液体石けんが既に一般販売されていることから、シャンプーやリンスも完成すれば広められるのではないかと思案した。
さらに入浴文化について考えを巡らせる中で、北欧の蒸気風呂を連想し、フレア姫の母国にも似た文化があるのではないかと思い至った。
フレア姫の受け入れを考え始める
蒸気風呂のことを考えるうちに、善治郎は無意識のうちにフレア姫が将来後宮へ入る可能性を前提に考えている自分に気付いた。
アウラの献身的な支えによって、善治郎は少しずつフレア姫の後宮入りを現実の未来として受け入れ始めていたのであった。
結婚式への同行準備
夕食と入浴を終えたアウラと善治郎は、リビングルームでプジョル将軍の結婚式について話し合った。
善治郎は竜車で移動することになり、アウラは前回のような緊急事態ではないため瞬間移動は使えないと説明した。善治郎は移動そのものよりも道中の人付き合いを心配していたが、何とか対応すると答えた。
同行者とイネスの選出
アウラは、王家所有の八頭引き竜車に善治郎、フレア姫、護衛のスカジ、そして世話役のイネスが同乗すると説明した。
善治郎はイネスの負担を気遣ったが、アウラは他の候補では不安が残るため、イネスが最適任だと判断していた。善治郎はその説明に納得し、できるだけ負担をかけないよう努めると答えた。
貴族たちとの道中
アウラは、結婚式へ向かう道中で多くの貴族が善治郎へ挨拶に来るだろうと告げた。
善治郎はプジョル将軍が同行しないことを喜んだが、アウラは結婚式では新郎が主役でなければならないため、高位の王族とは同行しないのが慣例だと説明した。
さらに同行する貴族の中ではラファエロ・マルケスが最高位になるだろうと伝えた。善治郎は比較的安心していたが、アウラはラファエロ自身よりも背後のマルケス伯爵家に注意するよう忠告した。
キーシャの婚約話
善治郎がラファエロの結婚相手について尋ねると、アウラは後宮侍女のキーシャだと明かした。
善治郎は驚いたが、アウラはキーシャの実家であるマッサーナ男爵家の家格に加え、後宮侍女として得られる情報価値が評価されたのだと説明した。ラファエロからは正式な婚約発表の許可願いも届いていた。
善治郎は、後宮の情報を得るためだけに嫁を選んだように思えることへ驚きを示したが、アウラは家格や本人の美貌も十分な理由になると説明した。
キーシャへの評価とアウラの考察
アウラからキーシャの美貌について問われた善治郎は、後宮侍女の中で最も美人だと思っていたと率直に答えた。
その答えを聞いたアウラは内心で善治郎の好みについて考察したが、それを口には出さず話題を戻した。
後宮侍女たちの退職問題
アウラはキーシャだけでなく、比較的年長の侍女たちの実家からも帰還を求める要望が届いていると説明した。
善治郎は親の立場を考えれば当然だと理解を示したが、複数人が同時に退職すると後宮の運営に支障が出ることを懸念した。
アウラも同じ考えであり、新しい侍女を補充して十分な戦力になってから退職を認める方針を説明した。善治郎は人員不足の危険性を強く訴え、その方針に強く賛同した。
後宮侍女の選考方針の変更
アウラは、これまでの侍女選考では善治郎の好みを考慮して自分に似た外見の女性を優先していたことを明かした。
しかし善治郎が侍女へ手を出さないことが判明したため、今後は外見への比重を下げ、より若い年齢層を採用することで長期間働いてもらう方針へ切り替えるつもりだった。
退職する侍女への贈り物
善治郎は、退職する侍女たちへ感謝の品を贈りたいと相談した。
アウラは、全員へ同じ程度の品を贈るのであれば問題ないが、差を付けると特別な関係を疑われる可能性があると助言した。善治郎はその注意を受け入れ、何を贈るか考えることにした。
ガラス製造の進展
話題は善治郎が持ち帰ったワレンティアの白砂と貝殻製の消石灰へ移った。
アウラは、それらを用いた結果、ガラスの透明度が大きく向上し、加工もしやすくなったと報告した。善治郎も砂そのものが重要だったのだろうと考え、さらなる砂の探索を勧めた。
電磁石と方位磁針の可能性
アウラは以前話していた磁石による鉄分除去の進捗を尋ねた。
善治郎は電磁石の製作には成功したが、実用的な永久磁石の作成には苦戦していると説明した。その代わり、電磁石を直接利用する方法なら実用化できると考えていた。
また、弱い磁石でも一定方向を指すことから方位磁針として利用できることを説明した。アウラは密林での軍事行動に役立つ可能性を認め、善治郎は後日設計図を用意すると約束した。
砂の探索と双王国の話題
アウラは、まずワレンティア周辺で良質な砂を探す方針を示した。
その流れで、国土の半分が砂漠であるシャロワ・ジルベール双王国には大量の砂が存在すると冗談交じりに語った。善治郎は技術はいずれ広まるものだと述べつつも、まずは近場の砂で試す方が現実的だと考えた。
魔法習得の成果
最後にアウラは善治郎の魔法修練について尋ねた。
善治郎は、一か月前に初成功した二つ目の呪文が、現在では七割以上の成功率になったと誇らしげに報告した。アウラはその成長を称賛し、実演を求めた。
善治郎は自信満々に呪文を唱えたが、その場では魔法の発動に失敗した。呪文自体に間違いはなく、認識か魔力調整のどちらかに問題があったのである。
魔法発動の失敗とアウラの助言
善治郎は一度目の失敗を気にせず再挑戦したが、二度目、三度目も不発に終わった。焦り始めた善治郎に対し、アウラは手を添えて落ち着かせ、魔法はわずかな緊張でも失敗する繊細な技術であり、見られているだけでも成功率が下がるものだと説明した。
その言葉で気持ちが軽くなった善治郎は、成功するまで続けると宣言し、アウラも気長に見守ることを約束した。
『引き寄せ』の成功
善治郎は何度も『引き寄せ』の魔法に挑戦し続けた。
そして十一回目の挑戦でついに魔法が発動し、テーブルの上にあった木製のコースターを一瞬で自分の手元へ移動させることに成功した。アウラはその成果を称賛し、善治郎も照れながら喜びを表した。
『瞬間移動』習得の提案
成功を喜ぶ善治郎に対し、アウラは『引き寄せ』の練習を一旦切り上げ、『瞬間移動』の習得へ移るよう提案した。
善治郎はまだ『引き寄せ』すら十分に使いこなせていないと驚いたが、アウラはすでに魔力出力調整と魔法発動の認識を両立できる段階に達しており、『瞬間移動』を習得する土台はできていると説明した。
瞬間移動への憧れ
『瞬間移動』は人一人とその所持品を距離に関係なく移動させることができる時空魔法の代表的な呪文であった。
実用性の乏しい魔法しか使えなかった善治郎にとって、それは憧れの能力であり、自分が使えるようになる可能性を知って大きく心を躍らせた。そして必ず習得すると決意を固めた。
第二子と側室問題
善治郎が理由を尋ねると、アウラは第二子の誕生時期とフレア姫の側室入りの時期が噛み合わないことを説明した。
フレア姫が正式に側室となるためには大陸間貿易の成立が必要であり、そのためには一度ウップサーラ王国へ戻って国王の許可を得なければならない。そのため実現までには少なくとも一年程度かかる見込みであった。
一方で、アウラが第二子を妊娠した場合、かつてカルロスを妊娠した際と同様に国内貴族による側室攻勢が再燃する可能性が高かった。しかし今回はフレア姫という側室候補が存在するため、善治郎が他の女性に興味がないという理由だけでは押し切れなくなるのである。
双王国への退避案
そこでアウラは、『瞬間移動』を習得した善治郎がシャロワ・ジルベール双王国へ向かうという案を提示した。
出産時に治癒術士を呼ぶという正当な理由があれば国外へ行くことができ、その間は本人不在を理由に国内貴族の側室話を進めさせずに済むと説明した。
しかし善治郎は、双王国側も自分へ側室を押し付けようとしているため、問題の先送りにしかならないと懸念した。
善治郎の決断
アウラは、双王国では国内貴族への配慮を理由に側室話を断ればよいと提案したが、善治郎は国内と双王国が結託した場合には逃げ場がなくなると指摘した。
それでも考えを整理した善治郎は、最優先すべきものはアウラとその子供であり、出産時に治癒術士を呼べるようにすることが必要不可欠だと結論づけた。
そのため、『瞬間移動』を習得し、必要になれば双王国へ向かうことを受け入れたのである。
側室を増やさないという意思
善治郎は、先のことを考え過ぎて身動きが取れなくなるよりも、まずは『瞬間移動』を習得することに集中すると決めた。
その上で双王国へは行くが、可能な限り新たな側室は迎えないという意思を明確にした。フレア姫のように国政上避けられない事情がある場合は別として、それ以外では側室を増やさない方針を示した。
その決意を聞いたアウラは、善治郎の献身に感謝し、心から礼を述べるのだった。
エピローグ ガジール辺境伯領に向かって
王都出立
善治郎は準備を整え、ガジール辺境伯領で執り行われるプジョル・ギジェンとルシンダ・ガジールの結婚式へ、女王アウラの名代として出発することになった。
謁見の間では多くの貴族が見守る中、アウラと善治郎が儀礼的な別れの挨拶を交わした。二人はすでに後宮で本当の別れの時間を過ごしており、カルロス・善吉とともに穏やかなひと時を過ごした後であった。善治郎は礼法に則って謁見の間を後にした。
フレア姫との同行
王宮前では巨大な八頭引きの竜車と、同行するフレア姫とスカジが待っていた。
善治郎はフレア姫と挨拶を交わしたが、その服装に驚いた。フレア姫は実用性を重視した旅装束に身を包み、腰には手斧まで携えていたのである。フレア姫は長旅に備えた服装だと説明し、善治郎はよく似合っていると答えた。フレア姫はその言葉を喜んだ。
竜車の乗員たち
竜車には善治郎とフレア姫のほか、スカジ、騎士ナタリオ、侍女イネスが同乗していた。
道中の安全確保のため、スカジとナタリオは武装したまま乗車していた。スカジはフレア姫唯一の護衛であったため、特別に武器の持ち込みが認められていた。
王都の景色への感動
竜車が動き出し、王都の街並みが窓の外に広がると、善治郎は興味深くその光景を眺めた。
自身の結婚式の際にも王都を通っていたが、その時は余裕がなく、実質的には今回が初めて街並みをじっくり見る機会であった。整然とした石造りの街や多くの住民たちの様子を見て、善治郎は王都の規模と発展ぶりに感心した。
沿道には巨大な王家の竜車を見ようとする人々が集まり、子供たちは竜車を追いかけながら走っていた。その光景に善治郎は微笑みを浮かべた。
旅の会話とフレア姫の過去
善治郎が街並みに見入っている様子を見たフレア姫は話しかけた。
善治郎が王都を見るのは事実上初めてだと知ったフレア姫は驚いたが、善治郎は自分が出不精だったためだと説明した。そして逆にフレア姫へ幼少期の話を尋ねた。
フレア姫は川遊びや狐狩り、川下りなどを好む活発な性格だったことを語り、長期間の川の旅や狩猟を率いた経験もあると明かした。さらに道中で竜種の狩猟機会があれば挑戦したいと意欲を見せた。
善治郎も興味を示し、その際は同行したいと答えたが、自分の代わりに騎士ナタリオが活躍するだろうと話した。ナタリオも竜弓にかけて尽力すると応じた。
塩の街道へ
やがて竜車は王都を抜け、塩の街道へ入った。
侍女イネスは道が悪くなるため体調に注意するよう善治郎へ声をかけた。善治郎はその気遣いに礼を述べながら、人里を離れた旅の始まりを実感した。
もっとも、周囲には数百の騎兵や同行する貴族たちの私兵が護衛として付き従っており、安全は十分に確保されていた。
善治郎は大きな問題なく目的地へ到着することを願いながら、旅情を感じつつ流れていく景色を静かに楽しむのであった。
付録 主と侍女の間接交流
後宮侍女の退職通達
善治郎がガジール辺境伯領へ出立して十日ほど経った頃、侍女のコンチタとサブリーナはアマンダ侍女長に呼び出され、侍女長室を訪れた。
二人は問題を起こした覚えがなかったため落ち着いていた。アマンダ侍女長は、二人の実家から帰還要請が届き、善治郎もそれを受け入れたため、近いうちに後宮侍女を退職して実家へ戻ることになると告げた。
二人は驚くことなく受け入れた。ルームメイトであるキーシャの結婚と退職をすでに知っており、自分たちにも同じ話が来る可能性を理解していたためである。
退職延期と新人教育の任務
しかしアマンダ侍女長は、退職は即時ではないと説明した。
後宮の人手不足を防ぐため、まず新人侍女を迎え入れ、その教育を終えてから退職してもらう方針だった。コンチタとサブリーナは、新人侍女と現役侍女を交えた三人一組の体制で教育役を務めることになった。
さらに今後は六人から十二人程度まで侍女を増員する計画があり、後宮の人員に余裕を持たせる方針も示された。二人はその説明にも素直に従った。
善治郎からの贈り物
続いてアマンダ侍女長は、これまでの働きへの感謝として善治郎からの贈り物を渡した。
木箱の中には、銀製の腕飾りが収められていた。銀の鎖には善治郎の私物である透明なビーズが組み込まれていた。
さらに侍女長は、不要なら返却してもよいが、その場合は必ず本人が直接善治郎へ手渡しするよう伝えられていると説明した。
腕飾りに込められた意味
その言葉を聞いたコンチタとサブリーナは、腕飾りの本当の価値に気付いた。
それは単なる装飾品ではなく、将来一度だけ善治郎へ直接面会できる権利を意味していた。もし実家や婚家が不当な扱いを受けた際には、王配へ直接訴える手段となるのである。
アマンダ侍女長は、善治郎が特別扱いを好まない人物である一方、不当な事態には力を貸してくれるだろうと説明した。二人はその厚意に深く感謝し、腕飾りを大切に握りしめた。
新人教育の担当発表
感謝の言葉を述べた後、サブリーナは新人教育の担当編成について尋ねた。
アマンダ侍女長は、コンチタはフェーと、サブリーナはドロレスと組んで新人教育に当たることが決まっていると告げた。
その名前を聞いた瞬間、問題児三人組として知られる侍女たちと組まされることになったコンチタとサブリーナの表情は、大きく引きつるのであった。
新人侍女達の後宮入り
数日後の早朝、後宮に集まった侍女達は、アマンダ侍女長の隣に立つ三人の見知らぬ若い侍女の存在に気付いた。新人達は緊張で身体を強張らせていたが、アマンダ侍女長は退職予定者の補充として本日から後宮へ配属されると説明し、三人に挨拶を命じた。
最初に小柄なマノラが緊張しながら自己紹介を行い、続いてミラグロスが落ち着いた態度で挨拶した。最後にモニカも丁寧に名乗りを上げ、三人は正式に後宮侍女として迎えられた。
新人教育の班分け
アマンダ侍女長は、新人達には当面、既存の侍女と組ませて仕事を覚えさせると説明した。
マノラはサブリーナとフェー、ミラグロスはコンチタとドロレス、モニカはカリナとクリステルと組むことになった。レテとケイトは二人だけで厨房担当となり、それぞれ新人教育も兼ねて業務に当たることになった。
侍女達は突然の班分け変更に戸惑いながらも、侍女長の決定を受け入れた。
ミラグロスと先輩侍女達の会話
清掃担当となったドロレス、コンチタ、ミラグロスは、仕事場へ向かいながら互いに自己紹介を行った。
退職予定のコンチタは、自身が結婚のため後宮を去ることを明かし、後宮侍女の経歴は大きな価値を持つため、思わぬ高位貴族から縁談が来ることもあるとミラグロスへ忠告した。そして今はまず仕事を覚えることが大切だと励ました。
善治郎の私室での清掃指導
三人は善治郎のリビングルームへ到着した。
そこには冷蔵庫や大型液晶テレビ、パソコン、プリンターなど、この世界では見慣れない品々が並んでいた。ドロレスとコンチタは、それらには不用意に触れず、扱い方を覚えるまでは見て学ぶようミラグロスへ指示した。
ミラグロスは一般的な侍女仕事には慣れており、丁寧に掃除を始めた。しかしドロレスは、善治郎の部屋の掃除は短時間で終えることが重要だと指摘し、完璧さよりも効率を優先するよう助言した。
コンチタも、善治郎は叱責を好まない人物であり、肩の力を抜いて働くことが大切だと説明したが、ミラグロスは後宮独特の価値観に戸惑いを隠せなかった。
控え室での待機と後宮の特殊な環境
掃除を終えた三人は侍女控え室へ移動した。
善治郎もアウラも不在であるため、三人は控え室で待機しながらお茶とチェリータルトを楽しんでいた。ミラグロスは勤務中に菓子を食べていることに驚いたが、コンチタは、掃除後は主の呼び出しに備えて待機すること自体が仕事であり、控え室では比較的自由に過ごせると説明した。
さらにチェリータルトは若い侍女達の料理訓練で作られたものであり、捨てるのではなく侍女達が食べているのだとドロレスが教えた。
後宮生活への戸惑い
待遇の良さや自由な空気に触れたミラグロスは、後宮が単なる奉公先とは思えなくなっていた。
そんな彼女にコンチタは、今のうちに休めるなら昼寝をしておいた方がよいと勧めた。清掃担当侍女は善治郎やアウラが就寝するまで待機しなければならず、その生活は一般的な侍女とは大きく異なるからである。
理由を完全には理解できないまま、ミラグロスは後宮独特の生活へ少しずつ足を踏み入れていくのであった。
新人侍女マノラへの入浴指導
午前中の庭園作業を終えたフェー、サブリーナ、マノラは浴室で汗と泥を流していた。冷水を浴びて喜ぶフェーは、飛び散った水を浴びたマノラに謝罪すると、身体を洗ってあげようと強引に世話を焼き始めた。
気弱なマノラは断り切れず従ったが、サブリーナはフェーをたしなめながらも、新人に浴室の使い方を教えること自体は評価した。励まされたフェーは、後宮で使用している液体石けんの使い方をマノラへ教え始めた。
液体石けんと後宮の入浴習慣
マノラは初めて見る液体石けんに興味を示し、その香りに感嘆した。フェーはそれが善治郎の考案した石けんであり、香油も含まれていると説明した。
サブリーナは石けんが目に入ると危険であることを教え、マノラは指示に従って身体を洗った。こうしてマノラは後宮独自の入浴方法を学びながら、無事に身体を洗い終えた。
フェーのシャンプーとリンスの試用
入浴を終えた後、フェーは善治郎から託された試作品のシャンプーとリンスを使って髪を洗い始めた。
それは善治郎が開発中の髪用洗浄剤であり、安全性確認のためフェーが試用を任されていた。問題が発生した場合は報酬が支払われることも説明されていた。
フェーは善治郎の指示を思い出しながら丁寧に使用し、頭がすっきりして良い感触だと評価した。サブリーナは商品化されたら購入したいと興味を示した。
後宮の待遇への戸惑い
マノラは入浴や試作品の使用などを目の当たりにし、自分達がこのような待遇を受けてよいのか不安を口にした。
フェーとサブリーナは、入浴は庭園担当責任者エミリアから指示された正式な業務であり、善治郎の意向によって後宮侍女は常に清潔であることが求められていると説明した。
しかしマノラはその説明から、善治郎が侍女達を夜伽に呼ぶために身綺麗にさせているのではないかと誤解してしまった。
善治郎とアウラの関係を知るマノラ
サブリーナはマノラの誤解を否定し、侍女達が夜伽に呼ばれたことは一度もないと説明した。
さらにフェーは、善治郎は常にアウラと共に過ごしており、アウラが妊娠中であっても同じ部屋で寝ることを望んでいたと語った。
その話を聞いたマノラは善治郎とアウラの仲睦まじさに感動した。一方でフェーは、もし侍女が寵愛を受けるとすればアウラに容姿が近いサブリーナだろうと冗談交じりに語ったが、サブリーナ自身はそれを否定した。
問題児三人組の一日の振り返り
その夜、フェー、ドロレス、レテは久しぶりに同じ部屋で顔を合わせた。
新人達と別々の班で働いた疲れを語り合いながら、それぞれの担当した新人について話した。フェーはマノラの可愛らしさを語り、ドロレスは新人達も善治郎の人柄を知れば緊張しなくなるだろうと述べた。
また、キーシャに続いてコンチタとサブリーナも結婚退職することに触れ、後宮の変化について思いを巡らせた。
フレア姫と後宮の将来への不安
話題は善治郎と共に旅に出ているフレア姫へ移った。
側室候補であるフレア姫が将来後宮へ入れば、大きな変化が訪れる可能性があると三人は語り合った。現在の後宮は平和で居心地が良く、侍女達はその環境が変わることを歓迎していなかった。
フェーは三年ほどこのままの状態が続いてほしいと漏らし、ドロレスも苦笑しながらその気持ちを理解していた。
レテの将来の夢
会話の中でレテは、自分は結婚せずに後宮へ残るかもしれないと打ち明けた。
ヴァネッサから将来の後継者になれると言われたことが理由であり、料理人として生きる道に魅力を感じていたのである。
しかしドロレスとフェーは、結婚しない選択は簡単ではないと諭し、一度結婚を経験してから後宮へ戻る道もあると助言した。レテは二人の意見を受け入れ、今後ゆっくり考えることにした。
後宮への愛着と将来への懸念
話の最後にフェーは、結婚して他家へ嫁いだ後の生活への不安を口にした。
昼の水浴びや菓子、酷暑期の氷、善治郎が持ち込んだ快適な生活環境は、他の貴族家には存在しないだろうと三人は理解していた。
現代文明の恩恵に慣れた三人は、後宮を離れた未来を想像しながら、自分達の将来について改めて考えるのであった。
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理想のヒモ生活 シリーズ
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