物語の概要
『理想のヒモ生活』は、現代日本のブラック企業に勤めるサラリーマン・山井善治郎が、異世界の女王に召喚され、王族の婿として「ヒモ生活」を送るという異世界ファンタジー作品である。第21巻では、善治郎とフレアが他国の内戦に巻き込まれ、女王アンナとの駆け引きに挑む一方、傭兵ヤンが率いる寄せ集め部隊が『教会』の勢力である『騎士団』との戦闘に臨む。圧倒的な兵力差を前に、ヤンの奇策が試される展開となっている。
主要キャラクター
• 山井善治郎:現代日本から異世界に召喚された主人公。王族の婿として、平穏な生活を望むが、政治や戦争に巻き込まれていく。
• フレア:善治郎の婚約者であり、異世界の王女。聡明で行動力があり、善治郎と共に困難に立ち向かう。
• 傭兵ヤン:寄せ集め部隊を率いる傭兵。戦術に長け、奇策を用いて劣勢を覆そうとする。
• 女王アンナ:他国の女王。政治的手腕に優れ、善治郎たちにとって強敵となる。
物語の特徴
本作は、異世界召喚を題材にしながらも、主人公が積極的に戦うのではなく、平穏な生活を求める姿勢が特徴的である。政治的駆け引きや外交、戦略などが重視され、異世界ファンタジーでありながらリアリティのある展開が魅力となっている。また、登場人物たちの人間関係や成長も丁寧に描かれており、読み応えのある作品である。
書籍情報
理想のヒモ生活 (21)
漫画 日月 ネコ 氏
原作 渡辺 恒彦 氏
キャラクター原案 文倉 十 氏
出版社:KADOKAWA(角川コミックス・エース)
発売日:2024年10月4日
ISBN:9784041153604
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あらすじ・内容
傭兵ヤンたち寄せ集めの部隊は『騎士団』の進行を食い止められるのか!?
傭兵ヤンが率いる寄せ集め部隊がついに『教会』の勢力である『騎士団』と接触。
圧倒的な兵力差に傭兵ヤンの奇策は通じるのか!?
一方、期せずして他国の内戦に巻き込まれてしまった善治郎とフレア。
何枚も上手な女王アンナ相手に、上手く立ち回ることができるのか――!?
争いから見えてくる、新しい時代の到来――。
【未知への乗船篇】決着!!
感想
本巻は、戦と外交、そして技術の発展が巧みに絡み合った巻であった。
読後には、平穏を願う善治郎と、波乱を呼び込む世界との緊張感が静かに胸に残る。
まず印象的であったのは、傭兵ヤンの戦いぶりである。
寄せ集めの部隊を率い、奇襲を仕掛けようとする騎士団に対し、戦列を整え毅然とした態度を見せたことで敵の計画を崩す場面には高揚感を覚えた。
とくに“笛”と呼ばれる爆音装置によって馬を混乱させた戦法は、古典的な軍略と現代的兵器の融合を思わせ、読みごたえがあった。
ヤンの奇策によって劣勢を覆す展開には、軍事物語としての重厚さが宿っていた。
また、この“笛”の登場により、善治郎が銃の存在を疑い、火薬技術の発展に警戒を強める描写は、物語世界が新しい時代に入ったことを示唆する。
善治郎の視点を通して、読者もまた北の技術革新の速度と南の遅れに不安を感じる。
大航海時代の始まりと、それが南大陸に及ぼす影響を想像させる描写には、世界観の広がりを感じた。
一方で、外交の舞台でも緊張感があった。
善治郎とフレアが他国の内戦に巻き込まれ、女王アンナと駆け引きを重ねる中、善治郎が鏡を要求する場面は一見些細ながらも、裏に隠された技術目的と国家的戦略が匂う。
情報を与えすぎたのではと自省する描写には、彼の外交上の未熟さも垣間見え、今後の成長を期待させる。
また、登場が控えめであったヤン司祭や孤児の少年ヤンも、いずれ再登場する伏線と見受けられる。特に少年ヤンの「技術を学びたい」という意志には、これからの物語の希望が託されているように思えた。
全体を通して、本巻は戦闘の興奮、外交の駆け引き、そして技術革新の不安という三本柱が見事に調和していた。善治郎の「ヒモ生活」という言葉からは想像もできないような、緊張感と野心に満ちた展開でありながらも、静かに深まっていく人間関係の描写が絶妙であった。次なる航海の先に何が待ち受けているのか、今後の展開に期待が高まる。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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展開まとめ
第85話 対峙
隻眼の傭兵ヤンは、千二百の兵を率いてポモージエの街から北上し、草原で陣を構える。
目指すは『騎士団』との遭遇だが、その傭兵たちは粒が揃っており、騎兵隊に対する奇襲を考える。
しかし、森の中では適切な指揮が取れないため、草原での直接対決を選ぶ。
隊は陣地を軽く整備し、『騎士団』の接近を待つ。
戦闘が始まると、『騎士団』は突撃を試みるも、予期せぬ傭兵隊の存在に一時停止する。
この時、ヤンは『笛』隊と呼ばれる部隊を使用し、大きな爆音と煙で『騎士団』の馬を驚かせ、その隙に反撃を試みる。
これにより『騎士団』は混乱し、傭兵隊は反撃のチャンスを得る。
『笛』隊の攻撃後、傭兵隊は全力で反撃を開始し、『騎士団』はその統率を乱される。
最終的に、傭兵隊は『騎士団』を撃退し、勝利を収める。
この戦いでは、ヤンの戦術と部隊の迅速な行動が功を奏する。
第86話 欲するもの
隻眼の傭兵ヤンが率いる傭兵部隊がポモージエを出て数日後、ポモージエの街は不穏な静けさに覆われた。
港の船の出入りは制限され、街の門では日常の倍の兵士が配置され、通行の際の検査も厳しくなった。
ポモージエ侯爵は公式には「国家指名手配犯が潜んでいる可能性がある」と発表したが、市民の間では疑問が広がっていた。
数日前、アンナ王女が去った後のポモージエ領主館で、善治郎はフレア姫に「火薬」について尋ねた。
フレア姫は火薬が北大陸で一定の認識があることを認め、過去に戦場での使用例があるが、魔法による簡単な破壊のために失敗に終わったと述べた。
善治郎は、戦場での火薬使用の危険性を考慮し、ヤン傭兵隊に関する情報が奇襲作戦に関連しているかもしれないと考えた。
フレア姫は、火薬が戦術として用いられている可能性について、ヤン隊長の身から火薬の匂いがすることから推測した。
また、善治郎が提案したヤン傭兵隊への人材派遣については、戦場での観察が重要であるとし、予想外の展開に備えるべきだと強調した。
フレア姫はそのリスクを承知の上で行動を決定し、善治郎もそれに同意した。
その一方で、この事件の発端となった孤児の少年ヤンはポモージエ領主館に客人として留め置かれていた。
孤児で田舎出身の彼にとっては異世界のような贅沢な環境だが、居心地は悪かった。
屋敷の使用人たちには表面的には丁重に扱われつつも、内心では疎まれていることを感じ取り、孤独を感じていた。
そんな中、ヤンは唯一自分を疎ましく思わないヤン司祭の元に頻繁に訪れていた。
「司祭様、俺いつまでここにいればいいんだろう?」と孤児ヤンが尋ねる場面があった。
ヤン司祭は「ヤン隊長の結果が出るまでは難しいでしょうね」と答え、また、将来的にどのように生きていくべきか、技術や知識を身につけることの重要性を説く。
孤児ヤンは技術と知識が取り上げられることのない貴重なものであることを理解し、自身も何か技術や知識を身につけたいと考えるようになる。
隻眼の傭兵ヤンが率いる傭兵隊の帰還により、『騎士団』の撃退という吉報がもたらされた。
ポモージエ侯爵とアンナ王女は、彼らを英雄として迎え入れ、公然と街を一周させて見せた。完全武装で汚れた姿の傭兵たちが、市民の興味を引きつつ領主館に向かった。
領主館の前庭でアンナ王女は演説を行い、『騎士団』がポモージエに奇襲攻撃を企んでいたこと、勇気ある少年の証言により事前に察知し、傭兵隊による撃退に成功したことを発表した。
彼らの活躍により街が守られたと讃えられ、市民からは歓声が上がった。
その場面を善治郎とフレア姫が領主館から見ており、演説技術の高さについて言及した。
この一件は、アンナ王女の演説技術と善治郎の洞察力を示す場となった。
第87話 戦果
隻眼の傭兵ヤンが率いる攻撃部隊は、任務を終えて解散し、『黄金の木の葉号』の戦闘員も任務を終えた。
ポモージエ領主館のゲストルームで、善治郎とフレア姫の前で戦闘の詳細を報告した。
戦闘員たちは、戦果は挙げられなかったものの、実際の戦闘には直接関与していなかった。
報酬の支払いは善治郎が行い、フレア姫は木札を買い取る提案をした。
彼らは戦闘中に目撃した、爆音と白煙を放つ武器についても報告し、それが勝因の一つであったことを確認した。
この武器の効果は、『騎士団』の馬を混乱させ、効果的だったが、具体的な構造や詳細は不明だった。
戦闘員たちは報酬を受け取り、その後の行動についても警告を受けた。
善治郎とフレア姫は、武器の可能性とその戦術的な価値についても議論し、今後の影響を検討した。
善治郎たちはアンナ王女の勧めに従い、戦勝パーティーに出席することとなった。
このパーティーは隻眼の傭兵ヤンが勝利を報告した五日後の夜にポモージエ領主館で開催された。
王族主催のため、規模は非常に大きく、遠方からの貴族も多数参加していた。
このパーティーは、ポモージエの戦勝を祝う目的で、有翼騎兵が天馬を駆って近隣貴族に招待状を配っていた。
会場では赤い衣装をまとった人々が多く見られるが、南大陸の慣習では王家の象徴色を他の者が着用することは避けられる。フレア姫もウップサーラ王国では同様の慣習があると語る。会話から、ズウォタ・ヴォルノシチ貴族制共和国だけがその慣習を持たない特別な国であることが示唆される。
会話を聞いた近くの赤い正装の若夫婦が、自らの身分を説明する。彼らは「紅衣貴族」と呼ばれる古参の貴族であり、紅の装束を公式の場でまとう特権を持っていると語る。
この夫婦はエウゲニウシュとテレサで、エウゲニウシュは有翼騎兵団に所属しており、二人は天馬に乗ってパーティーに急いで参加したという。
エウゲニウシュは貴重な経験を積んでおり、外交的な役割も担っている。
彼は善治郎にその経験について話すことを申し出る。
善治郎とフレア姫がエウゲニウシュ卿夫妻と別れ、ルクレツィアの元へ向かった。
ルクレツィアは初老の男にエスコートされ、生まれながらの貴族のように堂々と振る舞っていた。
ルクレツィアがエスコート役のドルヌイ侯爵から高価なガラス鏡を贈られていたことが判明し、その事実に驚く善治郎と、それを喜ぶルクレツィアの様子が描かれる。
ドルヌイ侯爵は、自身が孫娘がいないことから、ルクレツィアのエスコートを楽しんでいると表現する。
会話の中で、ズウォタ・ヴォルノシチ貴族制共和国の豊かさや多様な貿易が話題に上がる。
ドルヌイ侯爵は、その国の多様な貿易関係が豊かさの根源であると誇りを持って語り、南大陸との貿易も含め、国の寛容な姿勢が経済の繁栄に貢献していると述べる。
さらに、対話を重視する国の政策に敬意を表する善治郎の言葉で、寛容と対話が重要視されている国の姿が描かれる。
ドルヌイ侯爵は、ポズーナン王国の建国神話について説明する。
第88話 いざ行かん
ドルヌイ侯爵は、ポズーナン王国の建国神話について説明する。
ポズーナン王国の民はかつて白の帝国の支配を受けており、その支配は非常に過酷だったとされる。
白の帝国には何度も反乱が起こされたが、全て鎮圧されてしまった。
ポズーナン王国が独立を果たしたのは、白の帝国が真竜に滅ぼされた後のことである。
この話には、善治郎は違和感を覚える。
建国神話が敗北を繰り返す内容であることが不自然だと感じたためである。
さらに、白の帝国が物質に頼らない超魔法文明だったという説が話される。
そのため、遺跡などが一切残っていないとされる。
この説明にも善治郎は疑問を抱くが、ドルヌイ侯爵はその理由を述べ、魔法の効果時間が大幅に延ばされていたと説明する。
この神話の話を聞いた善治郎は、『白の帝国』とシャロワ・ジルベール双王国の関連性を疑う。
特に、付与魔法に関する共通点に着目し、ルクレツィアとの関連性についても考慮する。
その後、ルクレツィアが悪酔いしているのを見た善治郎は、彼女をエスコートして休ませる。
善治郎とルクレツィアが壁際の椅子に座って休んでいる際、アンナ王女が演説を開始した。
彼女は、『騎士団』によるポモージエへの侵略を撃退したことを祝い、ヤン隊長の活躍を称賛した。
しかし、彼女は『騎士団』の脅威が未だに存在すること、さらに次なる侵略の兆しを捉えたことを明らかにした。
アンナ王女は、ズウォタ・ヴォルノシチ貴族制共和国だけでなく、近隣諸国にも協力を呼びかけると発言し、戦場がタンネンヴァルトであることを示唆した。
この演説が終わると、フレア姫が善治郎たちのところに来た。
彼女は、自身がアンナ王女に盛大に見送られて帰国することが、『騎士団』からどのように解釈されるかを懸念していた。
フレア姫は、自国が戦争に巻き込まれる可能性を示唆し、これがアンナ王女の戦略の一環であることを理解した。
その後、アンナ王女が善治郎に礼を尋ね、善治郎は妻に送るガラス鏡を要求した。
アンナ王女はこの要求に対して、隣国の工房を紹介することを提案し、自国のガラス鏡を一枚贈ることを約束した。
これにより、善治郎はビー玉の生産を進めるためのガラス製造技術を得ることを望んでいた。
最終的に、善治郎とアンナ王女は互いに異なる目的を持って協力関係を維持することに同意し、互いに利益を見込んでその場を終えた。
二日後、『黄金の木の葉号』がアンナ王女に大々的に見送られ出航しようとしていた。
善治郎とフレア姫、およびその護衛であるスカジとナタリオは桟橋上に残り、ポモージエ侯爵と三人のヤンが対面していた。
出航の際、アンナ王女は善治郎とフレア姫に感謝の言葉を述べた。
ポモージエ侯爵も感謝を表し、彼らの行動がポモージエを救ったと称賛した。
その礼として、ポモージエ侯爵は貴重な蒸留酒を船に積んでいた。
ヤン司祭も前に出て、善治郎にガラス鏡を製造している工房への紹介状を提供した。
この工房は教会からも需要があるステンドグラスを生産しており、ヤン司祭の紹介は大きな意味を持つかもしれない。
善治郎はこれを受け取り、感謝の意を表した。
『黄金の木の葉号』がポモージエ港を出航し、北大陸の航路を順調に進んでいた。
船員たちはマグヌス副長の厳しい監視の下、全力を尽くして航海に励んでいる。
一方、善治郎はウップサーラ王国への到着を前に緊張しており、フレア姫との婚姻の許可を得るために、彼女の父であるグスタフ五世に会うことを憂慮していた。
フレア姫は父が自分の価値観を理解していないことを認めつつも、国の未来のためには婚姻が受け入れられると励ましている。
善治郎は国益を考え、提案が受け入れられることを期待していた。
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