新約 とある魔術の禁書目録(10)レビュー
新約 とある魔術の禁書目録まとめ
新約 とある魔術の禁書目録(12)レビュー
物語の概要
■ 作品概要
『新約 とある魔術の禁書目録(11)』は、科学と魔術が交差する世界を描いた大人気ライトノベルシリーズの一作である。本作は、学園都市第五位の超能力者・食蜂操祈を主人公格に据え、彼女が記憶喪失になる前の上条当麻と出会い、共に事件に立ち向かった「幸せな時代」の過去と、現在の戦いを交差させて描く。ある日、何者かの手によって上条との大切な思い出を「偽物の記憶」だと疑わされた食蜂は、真相を確かめるべく調査に乗り出す。その事件の背後には、かつて学園都市の「素養格付(パラメータリスト)」によって才能を見限られ、すべてを失った少女の深い憎悪と悲哀が隠されていた。
■ 主要キャラクター
食蜂操祈:学園都市第五位の超能力者。人の心を操る精神系最強の能力「心理掌握(メンタルアウト)」を持つ常盤台中学の女王。上条当麻との大切な思い出を胸に秘めており、自身の記憶と過去を狙う黒幕に立ち向かう。
上条当麻:右手に異能を打ち消す力を持つ少年。記憶を失う前、食蜂の窮地を命懸けで救った彼女だけの「ヒーロー」である。現在においても、事の経緯や彼女自身を覚えていない状態でありながら、目の前で苦しむ少女のために迷わず駆けつける。
蜜蟻愛愉(みつありあゆ):食蜂と同じ精神系能力の頂点に至る可能性を持ちながら、「素養格付」によって才能を切り捨てられた少女。食蜂にすべてを奪われたと憎悪し、自らの能力「心理穿孔(メンタルステインガー)」と兵器を駆使して復讐を企てる本作の黒幕。
雲川芹亜(くもかわせりあ):上条と過去を共有する人物。食蜂の記憶が改ざんされている可能性を指摘し、彼女の調査に協力する。
■ 物語の特徴
本作の最大の魅力は、長らく謎に包まれていた食蜂操祈と上条当麻の過去の出会いと、彼女がなぜ彼を特別視して深く慕うのかが明かされる点にある。物語の終盤では、上条が食蜂に関する記憶だけをどうしても保持できなくなってしまった残酷な理由(食蜂が上条の命を救うために能力を使った結果、記憶の呼び出し経路が破損したこと)が判明し、それでも彼を奇跡のように待ち続ける彼女の切ない想いが読者の胸を強く打つ。また、才能を評価されなかった蜜蟻愛愉の絶望を通じて、学園都市の「素養格付」という冷酷な暗部が浮き彫りになる点も、シリーズの深い闇を感じさせる重厚なテーマとなっている。
書籍情報
新約 とある魔術の禁書目録 11
(A Certain Magical Index)
著者:鎌池 和馬 氏
イラスト:はいむらきよたか 氏
出版社:株式会社KADOKAWA(電撃文庫)
発売日:2014年10月10日
ISBN:9784048669382
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あらすじ・内容
待望の最新刊は、新ヒロイン・食蜂操祈が登場!
「そういえば初めて『あの人』と出会ったのも、あの交差点だったかしら」 食蜂操祈が初めて上条当麻と遭遇したのは、数多の魔道書を司る白いシスターが魔術の世界から逃げ出し空から振ってくる、ずっと前のことだった。 今でも、食蜂操祈は覚えている。ツンツン頭の少年との想い出を。 はじめは、新手のナンパかと思った。 ある時は、水着を見られた。 ある時は、バッグで頭をぶん殴った。 ある時は、間接キスを経験させられた。 そして、最後に――。 命を救われた。 それは、彼女の人生の中でも、一、二を争う『幸せな時代』。精神系最強の能力者『心理掌握(メンタルアウト)』の、大切な『記憶』だった。 食蜂操祈の過去を紐解く物語が、今始まる。
感想
今巻は、ついに食蜂操祈が物語の中心となる一冊だった。これまで断片的にしか語られてこなかった彼女と上条当麻の過去が描かれ、読み終えた後は切なさが強く残った。
物語全体としては大きな戦いへ向けた「繋ぎ」のような印象もある。それでも、食蜂というキャラクターを深く知ることができる内容になっており、とても満足度が高かった。
一番印象に残ったのは、やはり上条が食蜂のことだけを思い出せない理由が明かされたことだ。
これまで「なぜ彼女だけ特別なのか」と気になっていたが、その真相を知ると胸が苦しくなる。二人が想像以上に深い時間を共有していたからこそ、現在のすれ違いが余計につらく感じられた。
また、食蜂が御坂美琴に対して複雑な感情を抱いていた理由にも納得できた。ただのライバル意識ではなく、どうしようもない過去があったのだと分かり、彼女を見る目が大きく変わった。
過去編で描かれる中学一年生の食蜂も、とても印象的だった。
今とは雰囲気が違い、年相応の少女らしさが前面に出ている。大切な思い出を誰よりも大事にしている姿は健気で、読んでいて自然と応援したくなった。
戦闘については、これまでのような派手な魔術戦とは少し違う印象だった。
食蜂の能力らしく、リモコンや人脈を駆使した心理戦が中心となっている。派手さは控えめでも、「精神を操る能力者だからこそできる戦い」がしっかり描かれていて興味深かった。
そして、やはり上条当麻という主人公には心を動かされる。
「今にも泣きそうな女の子を守れるなら本望だ」と迷わず飛び込んでいく姿は、相変わらず無茶ばかりなのに格好いい。
病院を抜け出し、満身創痍のまま戦場へ向かう姿には思わず苦笑してしまった。ここまでくると、本当に身体を大切にしてほしいと思ってしまう。
それでも、絶望する食蜂の前へ駆けつけ、蜜蟻愛愉まで救おうとする姿は、この作品らしい熱さに満ちていた。
何より心に残ったのは、事件が終わった後の食蜂だった。
上条が自分を思い出せないという残酷な現実を受け入れながら、それでも彼への想いを捨てない姿は本当に切ない。
思い出してもらえないと分かっていても、それでも隣にいたいと願う。その一途な気持ちが最後まで胸に響いた。
今回は大きく物語が動く巻ではないかもしれない。それでも、食蜂操祈というキャラクターの魅力と、上条との切ない関係をじっくり描いたからこそ、シリーズの中でも特に印象に残る一冊だった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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新約 とある魔術の禁書目録(10)レビュー
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考察・解説
食蜂操祈の記憶
『新約 とある魔術の禁書目録 11』において、「食蜂操祈の記憶」は物語の根幹をなすテーマである。彼女と上条当麻の過去の絆や現在の切ない関係性を浮き彫りにする重要な要素として描かれている。本稿では、食蜂の記憶を巡る事件の真相と、上条の記憶喪失に隠された残酷な現実、そして彼女の切実な想いについて整理する。
記憶改ざんの疑いと深い絶望
食蜂操祈は、上条当麻と出会った大切な思い出の場所である第二一学区の「真円の人造湖」を訪れた際、周囲の施設が自身の記憶と全く異なるデザインや規模になっていることに気づく。
精神系最強の超能力者である彼女は、何者かの手によって自身の最も大切な記憶がいじくられ、上条との思い出そのものが存在しなかったのではないかという深い絶望と恐怖に苛まれることとなる。
風景の偽装と黒幕の巧妙な狙い
実際には食蜂の記憶は正しく、現実の風景の方が操作されていた。人造湖の風景は、次世代の迷彩技術である「磁性制御モニター」の粉末によって広範囲にわたって書き換えられ、偽装されていたのである。
黒幕である蜜蟻愛愉の狙いは以下の通りである。
・食蜂に「自分の記憶は偽物だ」と思い込ませる ・食蜂自身の能力「心理掌握(メンタルアウト)」を自ら使わせ、上条との思い出を自己消去させる ・兵器「ファイブオーバー」に食蜂を組み込んで能力を搾り出し、彼女の記憶を粉微塵に消し去る ・上条との過去を自らが独占する
上条当麻の脳機能破損と記憶喪失の真相
本作では、食蜂自身の記憶が狙われるだけでなく、上条当麻が抱える「食蜂操祈に関する記憶喪失」の残酷な真相も明かされる。
一年前の夏、食蜂を庇って少年グループ「デッドロック」の襲撃を受け、瀕死の重傷を負った上条を救うため、食蜂は極端に血圧が低下した状態の彼に痛覚遮断の能力を施した。その結果、上条の脳内で食蜂操祈の顔や名前を格納する「呼び出し経路」が物理的に破損してしまい、彼は食蜂のことだけをどうしても思い出せない(何度会っても忘れてしまう)という障害を負うこととなった。
切ない現実と奇跡を待ち続ける意思
現在においても、上条は食蜂のことをすぐに忘れてしまうため、彼女は再会しても名乗る気力をなくしている。彼のおでこに口づけをして「かつて助けられた女の子の一人」とだけ告げて立ち去る関係が続いている。
しかし、食蜂は彼が自分を救ってくれた「自分だけのヒーロー」であるという事実に強く支えられている。もしも彼がいつか自分のことを思い出せるようになったら「甘くて優しい大切な話をしよう」という小さな奇跡を、彼女は世界の果てで待ち続けているのである。
蜜蟻愛愉の復讐
『新約 とある魔術の禁書目録 11』における蜜蟻愛愉(みつありあゆ)の復讐は、単なる私怨にとどまらず、学園都市の理不尽なシステムによって人生を狂わされた少女の、悲痛な「過去の奪還」を目的としたものであった。本稿では、彼女の復讐の動機、目的、手段、そしてその結末について整理する。
復讐の動機:奪われた才能と「救い」
蜜蟻愛愉は、食蜂操祈と同じく水分制御を基盤とする精神系能力「心理穿孔(メンタルステインガー)」の持ち主であり、本来であれば超能力者(レベル5)に至る可能性を秘めていた。しかし、学園都市の理不尽なシステムにより、彼女の運命は大きく狂わされることとなる。動機の背景にある要因は以下の通りである。
・素養格付(パラメータリスト)による選別
学園都市の大人たちが能力者の未来を勝手に決定づける裏のリストにより、食蜂がマスター、蜜蟻がスレーブ(予備)として選別され、蜜蟻の才能は切り捨てられた。
・すれ違いによる救いの喪失
絶望した蜜蟻は第二一学区の人造湖で入水自殺を図り、心の拠り所であった上条当麻の助けを待っていたが現れなかった。直前に交差点で上条が食蜂とぶつかった際、彼の携帯電話が偶然食蜂の荷物に紛れ込んでしまい、蜜蟻からのSOSに気づけなかったためである。
蜜蟻は一命を取り留めたものの、自分の才能も、上条に救ってもらうという奇跡も、すべて食蜂の存在によって奪われたと思い詰め、深い憎悪と復讐心を抱くようになった。
復讐の真の目的:過去の独占
蜜蟻の目的は、食蜂を単純に殺害することではなかった。未来や現在に絶望しきっていた彼女は、せめて上条との過去だけは自分が主役だったと考え、それを独占しようと企てたのである。
そのためには、食蜂の頭の中にある上条との美しい思い出が邪魔であった。蜜蟻は、食蜂の記憶をいじって消去するのではなく、食蜂自身の能力「心理掌握(メンタルアウト)」を強制的に作動させ、彼女自身の手で上条との記憶を粉微塵に削除させるという、極めて残酷な精神的拷問を目論んだ。
復讐の手段:最新兵器による精神破壊
蜜蟻は学園都市の暗部に潜り込み、目的を果たすために複数の最新技術を駆使した。その具体的な手段は以下の通りである。
・風景の偽装(ファイブオーバーOS)
人工脂肪(デザイナーズゲル)を纏って300キロ近い巨体に偽装した蜜蟻は、磁性制御モニターの粉末を用いて第二一学区の人造湖の風景を丸ごと別の形に書き換えた。これにより食蜂に「自分の記憶が間違っている」と思い込ませようとした。
・ストロビラの罠
食蜂の首筋にダミーの洗脳機器「ストロビラ」を取り付け、外部から記憶を操作されていると錯覚させ、食蜂が自ら記憶を消去するよう誘導した。
・真のファイブオーバー(ヒメバチ型)
最終手段として、ヒメバチに似た巨大兵器の透明な棺(腹部)に食蜂を沈め、医療用電極を用いて彼女の能力を強制的に引き出した。これにより心理掌握の作動データを採取し、能力の工業的量産化を図ると同時に、食蜂の記憶を消し去ろうとした。
復讐の結末:ヒーローの到着
蜜蟻の計画は完璧に近いものであったが、食蜂が最大派閥の能力者たちを操り、ファイブオーバーOSの視点を奪取したことで形勢が逆転する。最終的に食蜂を兵器の中に取り込むことには成功するが、絶望的な状況でも食蜂は上条から貰った防災ホイッスルを咥え、彼が必ず助けに来ると信じて疑わなかった。
自分の時は間に合わなかったのに、なぜ今回は間に合うのかと狂乱した蜜蟻は、周囲の水分を奪い尽くす魔の領域を展開する。しかしそこへ、片腕をギプスで吊った上条が現れ、右手の幻想殺し(イマジンブレイカー)でその攻撃を粉砕した。
上条は事件の経緯も二人の少女の思いも記憶していなかったが、それでも目の前で苦しむ少女を見殺しにはしなかった。食蜂から背中を押される形で、蜜蟻は上条と激突し、かつて得られなかった救いの機会をようやく得ることとなる。
まとめ
学園都市のシステムによって選別され、光の当たる場所から断絶された蜜蟻愛愉の復讐劇は、上条当麻というヒーローの介入によって決着を迎えた。その後、蜜蟻は表向き少年院へ送られるが、暗部からの報復を防ぐために食蜂が彼女の経過観察を引き受けることとなり、この悲劇的な復讐劇は幕を閉じたのである。
心理掌握の量産計画
『新約 とある魔術の禁書目録 11』における「『心理掌握(メンタルアウト)』の量産計画」は、学園都市第五位の超能力である精神系最強の力を純粋な工学技術のみで再現し、無尽蔵に世界へばら撒こうとした恐るべき企みである。本稿では、この計画の全容と結末について解説する。
過去の試みとデッドロックの利用
かつて、デッドロックと呼ばれる少年グループが食蜂操祈を襲撃した際、彼らが用いた特殊装備「簒奪の槍(クイーンダイバー)」のヘルメットには、食蜂に操られた人間の脳構造を徹底的にスキャンして情報を送信するという裏の機能が隠されていた。
大人たちはこのデータから心理掌握のメカニズムを解明しようとしたが、被害者のデータを何万人分集めても能力の再現には至らないことが判明する。
加害者本人からのデータ抽出
被害者のデータでは不十分だと悟った研究者たちは、能力者本人(加害者)を機械に組み込み、電極などを使って強制的に能力を引きずり出してデータを採取するという結論に至った。この計画を引き継いだ蜜蟻愛愉は、ヒメバチに似た巨大な兵器「ファイブオーバー・モデルケースメンタルアウト」を完成させる。
心理掌握は作動方式の厳密な配分が複雑であり、レシピのない食材のような状態であったため、この兵器の内部にはおよそ8000方式の出力子がびっしりと並べられていた。
ファイブオーバーの機構と真の目的
蜜蟻は、ファイブオーバーの腹部にある透明な棺を満たす赤い粘液(伝導体)の中に食蜂を沈め、医療用電極を取り付けて能力を強制的に作動させようとした。計画の具体的な狙いと蜜蟻の真意は以下の通りである。
・能力の工業量産化
食蜂がどの出力子をどう動かすかをモニタリングすることで、能力の詳細なレシピをたった一回で手に入れ、純粋な工業量産化を可能にする。
・蜜蟻による復讐の遂行
蜜蟻自身の真の目的は量産化そのものというよりも、兵器によって強制的に引き出した力を使って、食蜂自身の手で「上条当麻との思い出」を粉微塵に削除させるという凄惨な復讐を果たすことにあった。
計画の終焉
絶望的な状況に陥った食蜂であったが、記憶を失っているはずの上条当麻が予期せず到着し、魔の領域を打ち砕いたことで蜜蟻の復讐劇は幕を下ろす。
事件解決後、ファイブオーバーおよび偽装用のファイブオーバーOSの試作機は完全に破壊され、設計データも食蜂たちの手で処分された。これにより、心理掌握が工業的に量産されて世界にばら撒かれるという最悪の事態は未然に回避されたのである。
上条当麻との過去
『新約 とある魔術の禁書目録 11』において、長らく謎に包まれていた食蜂操祈と上条当麻の過去の出会いと、彼女が彼を特別視して深く慕う理由、そして悲劇的な結末が詳細に描かれている。本稿では、二人が紡いだ過去の絆と、現在の戦いへと繋がる因果関係について解説する。
偶然の出会いと奇妙な日常
二人の最初の遭遇は、真夏の交差点でぶつかり、荷物が散乱した出来事であった。この時、上条の携帯電話が偶然食蜂の荷物に紛れ込んでおり、これが後に別の少女(蜜蟻愛愉)の運命を狂わせる原因となってしまう。
数日後、様々な問題に疲れ果てた食蜂は、第二一学区の山頂にある真円の人造湖を訪れた。テレビのリモコンをこめかみに当て、自らの能力「心理掌握(メンタルアウト)」で自身の記憶をすべてリセットしようとした瞬間、上条に声をかけられ未遂に終わる。食蜂は彼の記憶を消そうとしたが、彼の右手によって能力は無効化され、二人は互いを明確に認識することになった。
その後も、水没した地下街で浅い水に溺れかけた食蜂を上条が助けたり、公園で鳩の群れに襲われた食蜂を救って彼が防災ホイッスルを渡したりと、超能力者である食蜂にとって彼と過ごす日々は幸せな時代となっていった。
デッドロックの襲撃とヒーローの誕生
ある日、二人は超能力者を逆恨みする少年グループ「デッドロック」の強襲を受ける。雑居ビルの屋上に追い詰められた際、デッドロックは上条に対し「お前が食蜂を守ろうとしているのも、彼女の能力で操られているからだ」と指摘し、食蜂自身も不安に揺さぶられた。
しかし、上条は自身の想いが本心だろうが操られていようが関係なく、泣きそうな女の子を守る側に立てれば本望であると言い切った。満身創痍になりながらも絶対に自分を見捨てず庇い続ける少年の背中を見て、食蜂操祈の心の中で決定的な変化が起き、彼は彼女にとっての自分だけのヒーローとなったのである。
残酷な結末と失われた「呼び出し経路」
しかし、この輝かしい過去は悲劇的な結末を迎える。デッドロックの攻撃から食蜂を命懸けで庇った上条は、腹部に燃料タンクの破片を受けて瀕死の重傷を負ってしまった。
救急車が到着するも、血圧低下によるショック症状で麻酔が使えなかったため、食蜂は彼の命を繋ぐべく自らの心理掌握で痛覚の遮断を試みた。その結果、以下のような残酷な障害を上条が負うこととなる。
・応急処置自体は成功し一命を取り留める
・極端な血圧低下状態での脳への干渉が原因で、上条の脳内にある「食蜂操祈の顔や名前を格納する呼び出し経路」が物理的に破損する
・上条は何度会っても食蜂のことだけをどうしても思い出せない状態になる
過去がもたらす現在の戦い
現在、上条との思い出だけを心の支えに生きる食蜂に対し、その記憶を偽物だと思い込ませて彼女自身の手で破壊させようと企む黒幕が現れる。それが、あの日あの時に交差点で携帯電話が紛失したせいで上条に救ってもらえず、絶望の淵に突き落とされた蜜蟻愛愉であった。
まとめ
食蜂操祈にとっての上条当麻との幸せな過去は、同時に蜜蟻愛愉にとってのすべてを奪われた絶望の過去でもあった。この切なくも残酷な因果関係こそが、本作の物語の核心であり、食蜂が今なお上条を深く慕い続ける理由の根底にあるのである。
木原脳幹の暗躍
『新約 とある魔術の禁書目録 11』における木原脳幹(きはらのうかん)の暗躍について解説する。本作の裏側で進行していた木原脳幹の行動は、学園都市の統括理事長アレイスター=クロウリーの体制を取り戻すための粛清任務であった。本稿では、彼の特異なキャラクター性と、作中での具体的な行動、そしてその背後にある目的について整理する。
ゴールデンレトリバーの姿を持つ研究者
木原脳幹は、純粋な犬の脳を拡張して高い知性を獲得した、ゴールデンレトリバーの姿を持つ特異な研究者である。キューバ産の一級品の葉巻を嗜み、人間顔負けの渋い声で話す特徴を持つ。
木原唯一を唯一君と呼んで従えており、周囲からは飼い主とペットのように見られているが、実際には彼の方が上位の立場にある。
彼は善悪ではなく好悪を基準とした独自の哲学を持っており、科学者とはすべからくロマンチストであり、人へ夢を与えるために邁進する存在でなければならないと語る一面も持つ。
蠢動俊三の撃滅
アレイスターが留守にしている間に増長し、再合流を拒んだ暗部の輩たちを一人残らず始末することが彼の任務であった。
物語の終盤、木原脳幹は第一五学区の巨大水族館「天体水球(セレストアクアリウム)」の最上階へ一人で赴く。標的は、かつて少年グループ「デッドロック」を裏で操り、食蜂操祈を犠牲にして心理掌握(メンタルアウト)の強奪を企んだ大人たちの代表者・蠢動俊三(しゅんどうとしぞう)であった。爆殺されたはずの蠢動は、脳の破片を寄せ集め、シャチの脳と接続することで怪物化して生き延びていた。
蠢動は鋼の臼歯と呼ばれる球体兵器で木原脳幹を包囲するが、木原脳幹は外部からビルの外壁を砲撃させて海水を流出させ、シャチの機動力を奪うことでこれを封じた。
対魔術式駆動鎧(アンチアートアタッチメント)の展開
木原脳幹の真の役割は、魔術などの理解のできない領域に対する安全弁であった。
彼は外部から巨大なコンテナを呼び寄せ、ミサイル、レーザー、分子高振動電磁波照射器など無数の過剰な兵装群からなる要塞のような装備「対魔術式駆動鎧(アンチアートアタッチメント)」を展開した。これにより蠢動を圧倒して始末することに成功する。これが彼にとって七二件目の粛清であった。
「この街の王」との関係
木原脳幹は、アレイスターをこの街の王と呼んでいる。アレイスターが原型制御(アーキタイプコントローラ)という技術を用いて、科学サイドや木原という枠組み・存在定義そのものを支配していると理解しており、自分たち木原ではかの王には勝てないと冷静に分析している。
まとめ
すべての粛清を終えた木原脳幹はアレイスターに通信を繋ぎ、注文通りに体制を取り戻したことを報告した。そして、取り戻した力を正しく使い、あらゆる魔術を撃滅するために動くよう促したのである。学園都市の裏で科学のロマンを掲げながら圧倒的な力で秩序を維持する彼の行動は、今後の物語の方向性を決定づける重要な節目となった。
新約 とある魔術の禁書目録(10)レビュー
新約 とある魔術の禁書目録まとめ
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登場キャラクター
学園都市
食蜂操祈
学園都市第五位の超能力者であり、「心理掌握」の能力を持つ常盤台中学の生徒である。上条当麻を自分だけのヒーローとして慕っている。
・所属組織、地位や役職
常盤台中学の生徒。学園都市第五位の超能力者。最大派閥の女王。
・物語内での具体的な行動や成果
自分の記憶が改ざんされたと疑い、真相を確かめるために行動を起こした。蜜蟻愛愉の仕掛けた罠を突破し、ファイブオーバーOSの制御を奪い取った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
上条当麻が自身に関する記憶の呼び出し経路を破損した事実を受け入れ、奇跡を待ち続けている。
上条当麻
ツンツン頭の少年であり、右手に異能を打ち消す力を持つ。目の前で苦しむ少女を放っておけない性格である。
・所属組織、地位や役職
学園都市の学生。無能力者。
・物語内での具体的な行動や成果
過去に食蜂操祈をデッドロックの襲撃から庇い、瀕死の重傷を負った。現在において、蜜蟻愛愉の魔の領域から食蜂操祈を救い出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
食蜂操祈に関する記憶の呼び出し経路が物理的に破損しており、何度会っても彼女をすぐに忘れてしまう。
蜜蟻愛愉
食蜂操祈と同じ精神系能力の頂点に至る可能性を持っていた少女である。食蜂操祈に全てを奪われたと憎悪し、復讐を目論んでいる。
・所属組織、地位や役職
学園都市の学生。強能力者。
・物語内での具体的な行動や成果
ファイブオーバーOSを用いて巨体に偽装し、磁性制御モニターで風景を書き換えて食蜂操祈の記憶を揺さぶった。食蜂操祈をファイブオーバーに取り込み、彼女自身の力で記憶を消去させようとした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
事件後、表向きは少年犯罪の判決を受けて少年院へ送られた。
雲川芹亜
食蜂操祈や上条当麻と同じ過去の時間を共有する人物である。統括理事会のブレインとして活動している。
・所属組織、地位や役職
統括理事会のブレイン。
・物語内での具体的な行動や成果
食蜂操祈の身体にストロビラが装着されているのを発見し、抜き取った。食蜂操祈の依頼に応じ、グラウンド・ジオに関する情報を調査した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
最高機密のデータにアクセスできる権限と技術を有している。
統括理事会・暗部
アレイスター=クロウリー
学園都市の統括理事長であり、この街の王と呼ばれる存在である。
・所属組織、地位や役職
学園都市統括理事長。
・物語内での具体的な行動や成果
ホットライン越しに木原脳幹からの報告を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
原型制御を用いて科学サイドや木原という枠組みを支配している。
木原脳幹
純粋な犬の脳を拡張して高い知性を獲得したゴールデンレトリバーである。独自の哲学を持ち、必要な破壊は真摯に行う。
・所属組織、地位や役職
木原の一員。研究者。
・物語内での具体的な行動や成果
第一五学区の巨大水族館に赴き、対魔術式駆動鎧を展開して蠢動俊三を始末した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
理解のできない領域に対する安全弁として機能し、アレイスターの体制を取り戻すために動いた。
木原唯一
リクルートスーツに白衣を着た女性である。木原脳幹を先生と呼び、彼の指示に従って行動する。
・所属組織、地位や役職
木原の一員。
・物語内での具体的な行動や成果
ペットカフェで木原脳幹にわんこケーキを勧め、食蜂操祈と蜜蟻愛愉の動向を報告した。巨大水族館の襲撃時は、離れた場所で待機していた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
木原脳幹の助手のような立場で行動を支援している。
蠢動俊三
かつてデッドロックを追い詰め、食蜂操祈を犠牲にして心理掌握の強奪を図った大人達の代表者である。
・所属組織、地位や役職
大人達の代表者。
・物語内での具体的な行動や成果
爆殺されたはずだったが、脳の破片をシャチの脳と接続して怪物化していた。第一五学区の巨大水族館で木原脳幹を迎え撃ったが、敗北した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
鋼の臼歯と呼ばれる球体兵器を操ったが、最終的に木原脳幹によって撃滅された。
その他個人
忍
座敷童と会話をしている人物である。
・所属組織、地位や役職
所属は不明である。
・物語内での具体的な行動や成果
飛縁魔がどのように犯罪装置パッケージに組み込まれているのかを考察し、人工血液の正体にたどり着いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
敵がばら撒いたスポーツ飲料や経口補給液の仕掛けを見抜いた。
座敷童
忍と会話をしている存在である。
・所属組織、地位や役職
妖怪。
・物語内での具体的な行動や成果
忍に対して飛縁魔の正体や性質について説明した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
忍の推論を補佐する役割を果たした。
山川
即応救急の隊員を名乗る男である。
・所属組織、地位や役職
即応救急の隊員。
・物語内での具体的な行動や成果
白衣を着てステーションワゴンに乗り、食蜂操祈を搬送しようと接触した。食蜂操祈に操られ、与えられた命令やストロビラの状態について自白した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
食蜂操祈の心理掌握によって気絶させられた。
集団
常盤台中学最大派閥
食蜂操祈が率いる常盤台中学の生徒たちによる集団である。
・所属組織、地位や役職
常盤台中学の生徒の集団。
・物語内での具体的な行動や成果
食蜂操祈の指示に従い、街中に潜伏していたファイブオーバーOSの視点協力者たちを制圧した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
食蜂操祈のために動き、彼女の作戦をサポートした。
デッドロック
能力開発が頭打ちになった学生たちで構成される集団である。超能力者を逆恨みし、抹殺を企てている。
・所属組織、地位や役職
襲撃者の集団。
・物語内での具体的な行動や成果
赤いライダースーツと特殊装備である簒奪の槍を纏い、過去の食蜂操祈と上条当麻を襲撃した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
素養格付によって見限られた者たちの集まりであった。
即応救急
民間の救急車サービスであり、暴走能力者の搬送なども行っている。
・所属組織、地位や役職
民間の救急サービス。
・物語内での具体的な行動や成果
本物の即応救急は過去のデッドロックの襲撃時などに通り過ぎた。偽装した集団が食蜂操祈の前に現れ、彼女を拘束しようとした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
偽装された集団は食蜂操祈に制圧された。
救急隊員
負傷者の治療に当たる医療従事者である。
・所属組織、地位や役職
救急隊員。
・物語内での具体的な行動や成果
デッドロックの襲撃で重傷を負った上条当麻の救護に当たった。麻酔が使えない状況で、食蜂操祈の心理掌握による痛覚遮断の提案を受け入れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
危険なギャンブルであると承知の上で、上条当麻の命を救うための決断を下した。
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展開まとめ
和製サキュバス
忍が飛縁魔の正体を尋ねると、座敷童は和製サキュバスのような存在だと説明した。飛縁魔は血を吸う鬼として数えられる一方、本質は色香で修行を妨げる女の妖怪であり、仏敵でもあった。
モテモテパッケージの疑問
忍たちは、飛縁魔がどう犯罪装置パッケージに組み込まれたのかを考えた。飛縁魔は本来、男性を惑わす女の妖怪であり、若い女性を魅了したり仲間を増やしたりする性質はなかったため、事件の仕組みには本来の性質を曲げる仕掛けがあると考えられた。
飛縁魔との同一化
忍は、ターゲットの女性を飛縁魔と同一化させることで、飛縁魔を増やすパッケージになっているのではないかと推測した。座敷童は、それが飛縁魔に襲わせるのではなく、飛縁魔と同じ行動をさせて取り込む仕組みなのかと理解した。
人工血液の正体
忍は、飛縁魔が吸う血の定義に注目した。人の血なら人工血液でも条件を満たす可能性があり、その人工血液は生理食塩水にミネラルや電解質を足したものに近いと考えた。そこで、敵がばら撒いていたスポーツ飲料や経口補給液が人工血液として使われていた可能性にたどり着いた。
化けの皮
忍は、スポーツ飲料や経口補給液を飲んだ女性をサキュバス化させ、意のままに操るのがモテモテパッケージの正体だと見抜いた。仕掛けが分かれば恐れる必要はないとして、忍たちは敵の正体を暴く方向へ動こうとした。
序章 ある入口 No.05_Open.
店内放送
食蜂操祈は店内の薄型モニターを眺め、最近の店内放送の開発力に感心していた。そこには磁性制御モニターらしき機器が使われており、食蜂は店員の中にガジェット好きがいるのかもしれないと考えていた。
当たり前の贅沢
食蜂の前には、チーズハンバーガーやフライドポテト、サラダ、オレンジジュースが並べられた。それらは一見どこにでもあるファストフードだったが、当たり前の食材を当たり前に美味しく作ることこそが、この店の価値であった。
食蜂操祈の味覚
食蜂は、日頃から商品棚に埋もれた名品のような飲食物を選んでいた。食べ物の好みは記憶や思い出と結びつくという説があり、食蜂が当たり前のものを楽しむ理由にも、そうした心地よい記憶が関わっている可能性があった。
ハンバーガーの時間
食蜂は紙ナプキンでハンバーガーを包み、上品に食べた。肉汁やチーズ、野菜、スパイスの味を楽しむ彼女は、当たり前のことを当たり前に楽しんでおり、お嬢様という世界に自分の感性を奪わせていなかった。
交差点の記憶
食蜂は窓の外の交差点を見て、上条当麻と初めて出会った時を思い出した。そこは特別に美しい場所でも劇的な出会いの場でもなかったが、彼女にとってはその後の人生を強く決定づける特別な場所であった。
第一章 追憶> > 正面ホール Episode_the_Girl
交差点の衝突
食蜂操祈と上条当麻の最初の遭遇は、真夏の交差点での衝突だった。上条は食蜂とぶつかって荷物を散らかし、謝罪してすぐに走り去った。食蜂の荷物には上条の携帯電話が紛れ込んでおり、彼女は面倒に思いながらも持て余していた。
山頂の邂逅
数日後、食蜂は人と会うことも記憶も思い出も人間関係も面倒になり、第二一学区の山頂にある人造湖へ向かった。彼女は心理掌握で自分の記憶をリセットしようとしたが、上条に声をかけられて中断された。食蜂は上条の記憶を消そうとしたものの、彼には心理掌握が通じず、二人は互いを認識した。
水没した地下街
現在の食蜂は地下街を歩きながら、夏季都市水害防止プログラムの日を思い出した。泳げない食蜂は見栄を張って水着姿で地下街へ向かったが、子供に背中を押されて浅い水中で溺れかけた。上条に助けられた食蜂は恥を隠すため、彼を人間浮き輪のように使って地下街を進んだ。
公園の催眠術
食蜂は公園で、上条が催眠術のノートを読んでいるところに出会った。上条は食蜂に催眠術を試し、彼女は呆れながらも演技で付き合った。しかしノートには雲川芹亜による悪質な指示が書かれており、上条がそれを真に受けたため、食蜂は怒って彼をハンドバッグで止めた。
防災ホイッスル
別の日、食蜂は公園で鳩の群れに襲われた。上条は鳩を追い払い、食蜂に防災ホイッスルを渡した。食蜂は口では不満を言いながらもそれを受け取り、その後もハンドバッグに入れ続けていたため、上条とのつながりを完全には切り捨てられていなかった。
御坂美琴への連想
現在の食蜂は、防災ホイッスルを持ち続けている自分を見つめ、未練を断ち切れていないことを認めた。そして御坂美琴との関係を思い浮かべた。年上の男子、常盤台のお嬢様、通じない能力、間接的な接触という点で、御坂美琴が上条と辿った道のりは自分と似ているのかもしれないと考えた。
デッドロックの襲撃
食蜂と上条は、赤いライダースーツの集団に追われていた。彼らはデッドロックと呼ばれる能力開発が頭打ちになった学生達で、超能力者を憎み、食蜂を殺すための特殊装備簒奪の槍を使っていた。上条は食蜂の手を引いて逃げ、リモコンを投げつけて追っ手の一人を崩したが、さらに多くのデッドロックに囲まれた。
屋上の包囲
食蜂と上条は屋上へ追い詰められた。デッドロックは、食蜂の心理掌握が無意識に世界を歪め、他人の人生を奪っているのではないかと突きつけた。食蜂は自分の力が知らないうちに誰かを狂わせ、死なせていたかもしれないという恐怖に揺さぶられた。
上条当麻の選択
デッドロックは、上条が食蜂を守ろうとする気持ちも心理掌握によるものではないかと問いかけた。食蜂は反論できず、見放されれば終わりだと思った。しかし上条は、自分の思いが本心でも操られたものでも関係ないと言い切り、泣きそうな女の子を守る側に立てれば本望だと語った。その言葉は食蜂の中で決定的な感情を動かした。
思い出巡りの終点
現在の食蜂は、地下街、公園、路地、屋上を巡り終えたあと、上条との始まりの場所である第二一学区の山頂へ向かった。すでに二人は別れていたが、彼女には未練が残っていた。疲れながら山道を登った食蜂は、ようやく思い出の人造湖へ辿り着いた。
異なる人造湖
山頂にあった地殻熱発電施設は、食蜂の記憶とはまったく違う形をしていた。湖の大きさも塔の高さも形も違い、場所を間違えた可能性や施設が建て替えられた可能性も考えにくかった。食蜂は、自分の記憶の方が間違っていたのではないか、上条との思い出は存在しなかったのではないかという恐怖に襲われた。
記憶への激昂
食蜂は上条から渡された防災ホイッスルを確認したが、それすら偽りの記憶とともに用意された可能性を否定できなかった。彼女は物的読心で周囲の物から記憶情報を読み取ろうとしたが、何も得られなかった。最も大切な記憶を踏みにじられた怒りから、食蜂は真実を掴むための戦いを始めようとしていた。
行間 一
木原脳幹と木原唯一
ペットカフェの木原脳幹
ゴールデンレトリバーの姿をした木原脳幹は、ペットカフェを苦手としていた。店はペット歓迎を掲げていたが、木原脳幹には動物が人間より下に扱われ、おちょくられているように感じられていた。
わんこケーキ
木原唯一は、木原脳幹に低脂肪で糖分控えめのわんこケーキを食べさせようとした。木原脳幹は合成甘味料の塊だと怒り、葉巻を求めた。周囲の客は犬が渋い声で話すことに驚いたが、学園都市らしく、しゃべる首輪だと勘違いして受け流していた。
蜂と蟻
木原脳幹が本題を促すと、木原唯一は食蜂操祈が異変に気づいたと報告した。さらに、蜂の動きをきっかけとして蟻も行動を開始し、連絡の途絶したセクションは内側から乗っ取られた可能性が高かった。木原脳幹は、それを他の巣を襲って奴隷を作るサムライアリにたとえ、しばらく荒れると見ていた。
必要な破壊
木原唯一は荒れる状況を木原脳幹の業務向きだと笑ったが、木原脳幹は彼女の木原らしい一面を好ましくないと告げた。彼は必要な破壊なら真摯に行うが、不要な破壊を肯定する気はないと語った。ただし、それは善悪ではなく好悪の問題であり、現実には必要な破壊が起こることもあるため、自分のような外道の席が残されているのだと述べた。
第二章 白紙 > > 迷宮 Broken_road.
防災ホイッスル
食蜂操祈は防災ホイッスルにリボンを通し、首から下げて制服の胸元へしまった。それが本物でも偽物でも、夏の日へつながる唯一の物質であるため、彼女は手放すつもりがなかった。食蜂は、自分の記憶を操れる可能性がある人物として、上条当麻と同じ過去を共有し、それを悪用する技術を持つ雲川芹亜に思い至った。
山道の帰還
食蜂は雲川芹亜の名を叫んだものの、第二一学区の山中から第七学区へ戻るには自力で山道を下る必要があった。彼女は汗だくになりながら、雲川を必ず殴ると叫び、疲労で決意を崩しそうになりながらも帰路についた。
SNSの調査
食蜂は地下鉄の終電を逃し、徒歩で移動しながらSNSで第二一学区の人造湖と防災ホイッスルについて質問した。人造湖については彼女の記憶と一致する情報が得られず、防災ホイッスルも第七学区で広く配布される品だと分かった。どちらも上条との思い出を証明する材料にはならなかった。
派閥の少女
第七学区へ戻った食蜂は、雲川芹亜の隠れ家と思われる教職員向けマンションへ向かった。その途中、派閥の縦ロールの少女に声をかけられた。食蜂は、今は仲間が多いほど危険だとして一人で行くことを告げ、学生寮を抜け出したアリバイ作りだけを頼んだ。
雲川芹亜の部屋
食蜂は管理人を操ってマスターキーを手に入れたが、物的読心で玄関の罠に気づき、隣室のベランダから雲川の部屋へ侵入した。雲川は電話越しに食蜂を牽制し、狙撃手や塩素ガス、一酸化炭素の罠を用意していた。食蜂が一年前の夏と上条当麻について切り出すと、雲川は直接姿を現した。
過去の照合
食蜂は、自分の記憶が正しいか確かめるため、同じ時期に上条と関わっていた雲川の証言を求めた。しかし雲川は、互いに上条という共通の知人を持つだけで、それぞれの事件を知らない以上、答え合わせはできないと告げた。防災ホイッスルも第七学区で広く配られる物であり、物的証拠にはならなかった。
機械という死角
雲川は、食蜂の記憶を長期にわたって操作するには相当なテクノロジーが使われているはずだと指摘した。食蜂は能力で出し抜かれることはないと考えていたが、雲川は人の心を操る機械を使われた場合を問い、食蜂の死角を突いた。
身体検査
雲川は、機材の痕跡が食蜂の身体に残っている可能性があるとして、バスルームで調べることにした。食蜂は抵抗しながらも服を脱ぎ、雲川に身体を確認させた。すると首の後ろに異物が刺さっており、そこから髪の毛より細い二〇センチ以上の繊維状のものが引き抜かれた。
ストロビラ
雲川はデータベースで異物を調べ、それがストロビラと呼ばれる理論に基づくものだと突き止めた。ストロビラは脳に触れず、心臓への刺激によってホルモン分泌を調整し、人間の精神を操る技術だった。食蜂は、自分の体にそれが装着されていた以上、自分の記憶や言動の信用度は怪しいと受け止めた。
失われた支え
ストロビラの存在によって、食蜂は上条当麻との思い出が偽りだった可能性を突きつけられた。彼女は黒幕を暴いて制裁を加えることよりも、上条との記憶が本物だと確かめたかったのだと自覚した。雲川は、ストロビラが外れた以上、進むか引き返すかは自分で選べと告げた。
即応救急
雲川の部屋を出た食蜂は、思い出を消去する誘惑に揺れていた。そこへ即応救急を名乗る白衣の男達が現れ、彼女を搬送しようとした。食蜂は、彼らが住居不法侵入を理由にするには到着が遅すぎると見抜き、首筋のストロビラの信号が途絶えたため来たのではないかと指摘した。
標的誤認
白衣の男達は食蜂を昏倒させようとしたが、彼女は心理掌握で互いを食蜂操祈だと誤認させ、同士討ちさせた。食蜂は山川と名乗る男を操り、彼らの目的が機能停止したストロビラの替えを装着することだったと聞き出した。
空のストロビラ
山川は、渡されたストロビラには何のデータも入っていなかったと明かした。食蜂は、ストロビラそのものが彼女を操る本命ではなく、自分に記憶を偽物だと思わせ、自分の心理掌握で思い出を消させるための囮だったと推測した。これにより、上条当麻との思い出は本物であり、誰かが小細工をしてまで消させようとしているのだと見抜いた。
真円の人造湖
食蜂は、問題の中心が第二一学区の地殻熱発電所と真円の人造湖にあると考え直した。記憶が正しいなら、間違っているのは現在の人造湖の方であり、そこに何らかの仕掛けがあるはずだった。彼女は詳しく調べるため、派閥の少女に連絡し、自分の私欲のために駒となる覚悟のある者を集めるよう命じた。
グラウンド・ジオ概要書
行間では、グラウンド・ジオという実験用地殻熱発電所の概要が示された。施設は第二一学区新造山にあり、地下深くの溶岩から送熱ロッドで熱を取り出す方式だった。高度なコンピュータ制御と多数のセンサーによって三年以上無人稼働しており、都市部や海底にも応用可能な発電方式として説明されていた。
第三章 真意 >>ギャラリー Another_Answer.
グラウンド・ジオへの再訪
食蜂操祈は第二一学区の山道を再び登りながら、雲川芹亜と通話していた。雲川は、グラウンド・ジオに関する公的記録や資料は食蜂が見た現状と一致しているが、更新日時には改ざんの痕跡があると告げた。食蜂はそれすら罠の可能性があると見なし、相手を侮らないまま人造湖へ向かった。
塗り替えられた風景
食蜂は記憶と現実の齟齬を確認するため、人造湖の湖畔に寝転がり、周囲の風景を確かめた。記憶と一致するものはほとんどなかったが、彼女は安物の千枚通しをコンクリートに突き立て、表面が砂のように崩れることに気づいた。人造湖や山の風景は、磁性制御モニターの粉末で覆われ、巨大な迷彩画面として書き換えられていた。
本物だった記憶
食蜂は、記憶が間違っていたのではなく、現実の風景が磁性制御モニターによって偽装されていたのだと見抜いた。人造湖は本来、食蜂の記憶通りの形であり、誰かが上から大規模に塗り替えていた。彼女は、上条当麻との思い出が偽物ではなかったことを確認した一方で、真相に辿り着いた自分へ黒幕が接触してくると予測した。
監視する少女
大型トレーラーのコンテナ内では、異様に肥大化した常盤台中学の制服姿の少女がグラウンド・ジオ周辺を監視していた。彼女は食蜂が最後のラインを越えたと判断し、退けなくなったと笑っていた。少女は自分がまだ奪われたままだと呟き、食蜂に報いを受けさせようとしていた。
磁性制御モニターの襲撃
食蜂の前に、巨大な肉塊のような少女が現れた。しかし正面の姿は磁性制御モニターで作られた映像であり、本体は背後から接近していた。食蜂は心理掌握を使ったが、相手には効かなかった。さらに相手は磁性制御モニターで黒い紋様や虫の幻覚を食蜂にまとわせ、スズメバチの群れや恐怖の視覚イメージで攻撃した。
派閥の反撃
食蜂の周囲には、彼女が操った派閥の能力者達が潜んでいた。スズメバチの群れは炎で焼き払われたが、黒幕は磁性制御モニターで隠れた能力者の位置を暴き、手駒を潰していこうとした。食蜂は被害を避けるため、派閥の者達を退かせた。
効かない心理掌握
黒幕の少女は、食蜂の心理掌握が自分に効かないことを繰り返し示した。食蜂は相手が自分の過去や能力の死角を知り過ぎていることから、何らかの形で自分と深く関わっている人物だと考えた。しかし、食蜂にはその少女を見た記憶がなかった。
ストロビラの除去
食蜂はリモコンを投げつけて相手の顔を防がせ、その隙に距離を詰めた。彼女は相手にもストロビラが取り付けられていると見抜き、首の後ろからそれを引き抜いた。すると今度こそ心理掌握が通じ、黒幕の少女は自白強要の術中に落ちた。
もう一人の食蜂操祈
食蜂が黒幕の正体を問いただすと、少女は自分こそ食蜂操祈だと答えた。食蜂は混乱したが、相手は嘘をついているのではなく、そう信じ込んでいるようだった。さらに少女は、これは冗談だと嘲り、ファイブオーバーOSの触腕で食蜂を拘束した。
ファイブオーバーOS
黒幕の少女は、ファイブオーバーOS・モデルケースメンタルアウトを使っていた。人工的に再デザインされた脂肪をまとって体形や顔を偽り、磁性制御モニターの粉末を吐かせていた。偽装が剥がれると、そこにいたのは食蜂に似ているが別人の少女だった。
蜜蟻愛愉
黒幕の少女は蜜蟻愛愉と名乗った。彼女の能力は心理穿孔であり、本来なら超能力まで育つはずだった精神系能力者だった。だが、素養格付によって食蜂操祈を育てるために時間割りから切り捨てられ、蜂になれなかった蟻として食蜂を憎んでいた。
食蜂操祈と蜜蟻愛愉
行間では、食蜂操祈と蜜蟻愛愉に関する統括理事会向けの中間報告が示された。二人の能力は生体電気ではなく水分制御を基盤としており、脳内物質や血液、随液などの配分を操ることで精神系能力を発現していた。両者はどちらも超能力者に至る可能性を持っていたが、通常の時間割りでは共に強能力で頭打ちになるため、片方を選び、もう片方を切り離す必要があるとされていた。
第四章 邂逅>>謁見の間 Duel_in_the_Mind.
蜂と蟻
蜂と蟻は近い種でありながら共存せず、互いに食い合う存在でもあった。食蜂操祈と蜜蟻愛愉もまた、同じ精神系能力の頂点へ至る可能性を持ちながら分かたれた者同士であった。蜜蟻はファイブオーバーOSの触腕で食蜂を拘束し、自分の力が劣っていても同系統であるため、食蜂の心理掌握を阻害できたのだと語った。
選ばれた者の言葉
食蜂は、蜜蟻が素養格付によって未来を奪われたことを、犯罪に走った自分への言い訳でしかないと断じた。現実の競争では実力以外の要素で勝敗が左右されることも珍しくなく、それでも勝とうとするのが人間だと語った。さらに、無能力者であっても腐らず進んだ上条当麻を知っている食蜂は、超能力者になれなかったことを罪の免罪符にする蜜蟻を弱いと宣告した。
蜜蟻愛愉の切り札
食蜂の言葉を受けても、蜜蟻は笑みを崩さなかった。蜜蟻は、自分も上条と話し合った仲であり、あの日あの時に自分もいたのだと告げた。彼女は、食蜂が知る美しい過去の裏で、自分は上条に救ってもらえなかったのだと明かした。
間に合わなかった救い
蜜蟻は、人造湖で自ら命を絶とうとした時、上条が間に合わなかった理由を食蜂に突きつけた。食蜂は、交差点で上条の携帯電話が自分の荷物に紛れたことを思い出した。その些細な連絡の不備が、蜜蟻に届くはずだった救いを断ち切っていた。上条が後に食蜂の前に現れたのは、間に合わなかった少女への悔いを抱えていたからだった。
重なる過去
蜜蟻は、素養格付に苦しめられていたのは自分だけではなく、デッドロックも同じだったと語った。彼らも大人達の決めた素養格付によって枝から切り落とされた者達だった。食蜂は、自分が蜜蟻の才能を奪われる原因であり、最後には携帯電話の件で救いの機会まで奪ったことを理解した。
見せられなかった自分
食蜂は、蜜蟻がファイブオーバーOSを身にまとって巨体を偽っていた理由を問うた。蜜蟻は、自分が人の役に立ちたいと言っていたのに、結局こんな道しか選べなかった残骸として生きている姿を上条に見せられるはずがないと答えた。食蜂はその核を掴み、蜜蟻を見捨てられないと感じた。
救う宣言
蜜蟻は暗部に浸かり、食蜂の記憶や人格を破壊しようとした犯罪者であった。それでも食蜂の中では認識が変わっていた。食蜂は、上条が自分にそうしてくれたように、今さらでも蜜蟻を救うと宣言した。
蜜蟻の精神世界
食蜂の意識は、蜜蟻の精神世界へ引きずり込まれていた。そこは人造湖がお菓子の国のように変化した世界であり、蜜蟻の思いが致死量の甘さとして広がっていた。食蜂は、蜜蟻がこの戦術を取った理由を考え、外の世界で自分の身体に何かが進行していると推測した。
ファイブオーバー
蜜蟻は、食蜂の記憶を消すために、ファイブオーバーOSより上位のファイブオーバーを用意していた。それはヒメバチに似た兵器であり、食蜂を内部に取り込み、心理掌握の作動データを採取するための機体だった。蜜蟻は、食蜂本人を機械に組み込み、その能力を作動させることで第五位の力を量産化しようとしていた。
過去の独占
蜜蟻の目的は未来でも現在でもなく、上条とのあの日を自分だけのものにすることだった。食蜂の心理掌握を使って食蜂自身の思い出を削除し、上条との過去から食蜂を消そうとしていた。食蜂は蜜蟻の精神世界に囚われながらも、外の状況に異変を起こした。
アウトサイダーの奪取
現実世界に戻った蜜蟻は、ファイブオーバーOSの触腕が自分を攻撃していることに気づいた。食蜂は、退かせた派閥の能力者達が各地の視点協力者を制圧し、ファイブオーバーOSの制御に必要なレンズを奪ったと明かした。常盤台中学最大派閥の連携によって、食蜂は蜜蟻のオモチャを奪い取っていた。
二つの兵器
風景は食蜂の記憶通りの人造湖へ戻り、アウトサイダーの触腕が蜜蟻へ向かった。蜜蟻はファイブオーバーを呼び、ヒメバチ型の兵器がアウトサイダーと激突した。食蜂と蜜蟻は、もはや騙し合いではなく、互いの能力と兵器をぶつけ合う戦いへ移った。
蜜蟻の接近
蜜蟻は心理戦を避け、肉弾戦で食蜂に迫った。食蜂はアウトサイダーの恐怖効果を使おうとしたが、蜜蟻はスマートフォン越しに視線を迂回させ、逆に食蜂へデジタルな石化を浴びせた。その隙に蜜蟻は食蜂を殴り、心理穿孔を叩き込んだ。
透明な棺
食蜂は意識を失い、気づくとファイブオーバーの透明な棺のような腹部に収められつつあった。赤い粘液の中で身体を沈められ、医療用電極を取り付けられていた。蜜蟻は食蜂の能力を引き出し、その作動データを採取し、最終的に食蜂自身の力で上条との記憶を消させようとしていた。
防災ホイッスル
敗北を悟りながらも、食蜂は胸元の防災ホイッスルを口にくわえた。音が出るはずも届くはずもない液中で、彼女は上条の言葉を思い出した。食蜂は、上条は自分のヒーローであり、顔見知りでなくても、記憶を失っていても、目の前の少女を見殺しにはしないと信じていた。
来ないという叫び
蜜蟻は、上条は来ないと叫びながら食蜂の首を絞めた。自分の時には届かず、間に合わなかったのだから、今回も来るはずがないと訴えた。しかし食蜂は、彼の全てはそれだけではないと返した。その時、蜜蟻はありえない誰かの姿を見つけた。
上条当麻の到着
蜜蟻の怒りは暴走し、周囲の水分を奪う魔の領域を放った。だが、片腕をギプスで吊った上条当麻が現れ、ギプスを砕きながら右手でその攻撃を消し去った。彼は事件の事情も、食蜂や蜜蟻の思いも、防災ホイッスルの約束も覚えていなかった。それでも、目の前で苦しむ少女を見殺しにしなかった。
蜜蟻愛愉への宿題
食蜂は、自分はもう十分に救われていると感じた。そして蜜蟻へ、これはあなた達の宿題だから、今度こそ納得するまで助けてもらいなさいと告げた。直後、上条と蜜蟻の間に激突が起こった。
終章 ある出口 No.05_Closed (and_Next_Door).
病院の中庭
忘れられる再会
上条当麻は病院の中庭へ避難し、食蜂操祈と再会した。食蜂は久しぶりと声をかけたが、上条は彼女を覚えていなかった。食蜂はそれが正常だと受け止めつつ、髪の匂いに覚えがあると言われ、叶わない期待を抱かされる自分を苦く笑った。
蜜蟻愛愉のその後
食蜂は、ファイブオーバーとアウトサイダーの試作機は破壊済みであり、心理掌握が量産される危機は回避されたと上条に説明した。蜜蟻愛愉は表向き少年院送りになるが、暗部からの報復を受ける可能性があるため、今後の経過観察は自分が引き受けると告げた。
誕生日の花
食蜂が、上条がなぜ人造湖に現れたのか尋ねると、上条は先輩から蜜蟻の誕生日に花を手向けに行くよう言われたからだと答えた。食蜂はその理由を知り、手品の種明かしを聞いた後のように優しい目を向けた。
額への口づけ
上条は改めて食蜂の名を尋ねたが、食蜂は何度も忘れられるため名乗る気力もないと呟いた。そして彼の額に口づけをし、かつて助けられた女の子の一人だと思えばよいとだけ告げて立ち去った。
デッドロック戦の傷
過去のデッドロック戦では、食蜂も心理掌握で応戦したが、全ては防ぎきれなかった。上条は食蜂を庇い、迎撃しきれなかった攻撃を身体で受けていた。戦いの後、上条は腹部に破片を受けて重傷を負い、救急隊員も搬送先を確保できずにいた。
痛覚遮断
食蜂は、麻酔を使えば血圧が下がって危険だと知り、自分の心理掌握で上条の痛覚を遮断することを提案した。救急隊員は迷いながらも可能性に賭けた。食蜂は血圧低下で能力が万全に働かない可能性を告げなかったが、上条の命を救うことを最優先にした。
失われた呼び出し経路
後に医者は、上条の記憶は破損ではなく呼び出し経路が壊れた状態に近いと説明した。上条は食蜂のことを話していても思い出すことができず、顔や名前を格納する中で彼女に関する枠だけが物理的に潰れているような状態になっていた。
叶わない約束
食蜂は、もし上条がいつか自分を思い出せるようになったなら、大切な話をしようと告げていた。しかしそれが叶わないことも知っていた。それでも彼女は、最も近い世界の果てで小さな奇跡を待ち続けていた。
木原脳幹の仕事場
ゴールデンレトリバーの木原脳幹は、木原唯一を離れた場所に待機させ、第一五学区の巨大水族館へ入った。そこは彼の仕事場であり、最上階の巨大水槽には、木原脳幹が追っていた相手がシャチの姿で潜んでいた。
蠢動俊三
シャチの中にいたのは蠢動俊三だった。彼はかつてデッドロックを追い詰める一方で簒奪の槍を貸与し、食蜂を犠牲にして心理掌握を奪おうとした大人達の代表者だった。過去に爆殺されたはずだったが、脳の破片を寄せ集め、動物の脳に人間性を接続することで怪物化していた。
対魔術式駆動鎧
蠢動俊三は鋼の臼歯という球体兵器で木原脳幹を囲んだが、木原脳幹は外部から水族館を砲撃し、海水を流出させた。さらにコンテナから大量の兵器を展開し、巨大な要塞のような装備をまとった。木原脳幹は、自分が超能力者ではなく理解不能な領域に対する安全弁であり、対魔術式駆動鎧を扱う存在だと示した。
七二件目の始末
木原脳幹は蠢動俊三を始末し、深夜の水族館を離れた。彼はアレイスターへ連絡し、留守中に増長し再合流を拒んだ者達をすべて撃滅し、これで七二件目が終わったと報告した。アレイスターは、これは始まりに過ぎないと答えた。
取り戻された体制
木原脳幹は、木原では学園都市の王には勝てないと考えていた。アレイスターが作った科学サイドという枠組みや木原という定義そのものが、彼の原型制御によるものだったからである。夜明けを前に、木原脳幹は取り戻した体制を正しく使い、あらゆる魔術を撃滅するよう求めた。
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