どんな本?
『転生貴族、鑑定スキルで成り上がる 〜弱小領地を受け継いだので、優秀な人材を増やしていたら、最強領地になってた〜』は、転生した主人公アルスが、弱小貴族として生まれながらも「鑑定スキル」を駆使して領地を繁栄させていく物語である。
アルスは戦闘力は持たないものの、他者の能力を見抜く特殊なスキルを武器に、有能な家臣を次々に集める。このスキルにより、人材の潜在能力を最大限に活かし、領地運営や戦略を練り上げ、領地を最強のものにしていく。物語では、時に敵対者との戦いや政略交渉が描かれ、アルスが次々と難局を乗り越えていく姿が見どころである。
特に注目すべきは、個性的な家臣たちとのやりとりであり、彼らとともに成長し、領地を強化していく過程が丁寧に描かれている。また、後半では本格的な戦争が始まり、アルスの知略が試される場面が続く。異世界転生ファンタジーとして、政治や戦略を重視した展開が特徴であり、読み応えがある作品である。
読んだ本のタイトル
転生貴族、鑑定スキルで成り上がる4 ~弱小領地を受け継いだので、優秀な人材を増やしていたら、最強領地になってた~
著者:未来人A 氏
イラスト:JIMMY 氏
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あらすじ・内容
弱小貴族ローベント家の若き当主・アルス。 実は転生者であるアルスは、武力も知識も一般的なレベルだが、 「鑑定」という特別なスキルを使い出自や年齢を問わず有能な人材を集め、重用していた。 所属するカナレ郡の動きに従い、ミーシアン総督の跡継ぎ争いに参加したアルスは、 家臣の功績もあり、ついにはカナレ郡の郡長を任じられるという大出世を遂げる。 だが、そんなアルスの治めるカナレ郡をねらい、大軍勢が押し寄せるが――! 「鑑定」の力で有能な人材を登用し、危機を乗り越える!! コミックも絶好調! 小説家になろう 発 成り上がりファンタジー!
感想
『転生貴族、鑑定スキルで成り上がる 4』は、主人公アルスがカナレ郡長として新たな挑戦に立ち向かう物語である。今回、隣接するサイツ州から8万の大軍が侵攻してくる中で、アルスは3万の兵と援軍を率いて戦うことになる。物語は戦の緊張感と家臣たちとの絆を中心に展開され、鑑定スキルを活かしながら人材を見極め、仲間とともに困難に立ち向かっていく姿が描かれている。
まず、サイツ軍の侵攻という大きな危機に直面するが、アルスはリーツやシャーロット、メイトロー傭兵団とともに敵軍に立ち向かう。戦の描写は緊迫感があり、特にシャーロットと新たに登用されたムーシャの魔法が戦況を大きく左右する。ムーシャは初めての戦いに緊張しながらも、シャーロットとともに活躍し、その成長が感じられる。また、ブラッハムやクラマントも騎兵として重要な役割を果たし、アルスの指示のもとで連携を深める様子が描かれている。
一方で、アルス自身は戦場に立つことなく、後方から指揮を執るスタイルであり、これまでの巻と異なり戦闘に参加しない部分が特徴的である。それでも仲間たちが力を合わせて戦い抜く様子は感動的で、アルスの指揮力と信頼関係がいかに重要かが強調されている。
また、戦の最中にもかかわらず、アルスとリシアの結婚が描かれている。戦の合間に挙げられた結婚式や初夜の描写は、アルスの成長と大人としての新たな一歩を象徴しており、物語に温かみを加えている。リシアとの絆が深まることで、今後の領地運営にも良い影響を与えるだろう。
最後に、飛空船の開発という新たな技術的な挑戦も登場する。シンの技術力による飛空船は、物語の次の展開を示唆しており、カナレ郡の未来を明るく感じさせる要素である。全体として、戦と内政、そして個人の成長がバランス良く描かれた一冊であり、アルスの成長を追う読者にとって、今後の展開がますます楽しみである。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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同シリーズ
漫画版
備忘録
プロローグ
アルス・ローベントは日本で死んだ後、異世界で貴族の長男として生まれ変わり、約十三年が経過していた。彼は他人の能力を測る特異な力を持っており、その能力を活かして、優秀な人材を家臣として登用してきた。マルカ人のリーツ・ミューセスや魔法使いのシャーロット、頭脳派のロセルなど、多様な才能を持つ者たちを集め、彼らの助けを借りて領主としての責務を果たしてきた。
十二歳で父を失い領主となったアルスは、自身の知識だけでは足りず、家臣たちの力に頼ることで何とか領地を治めてきた。そして、ミーシアン州の大戦での戦功により、彼はカナレ郡長に昇進した。新たな城と大勢の人々を治める責任に不安を感じつつも、家臣たちの力を信じ、これからも領主として進んでいく決意を固めていた。
一章 カナレ危機
アルスはルメイルとの話し合いの翌日、カナレ郡長に任命された。クランが貴族たちの前で宣言し、異論はなかったものの、何人かの領主からはやっかみを買ったかもしれないと感じた。アルスは彼らの能力を鑑定し、今後注意すべき人物として記録した。
その後、アルスは家臣たちと共にランベルクに戻り、カナレ城への移住の準備を進めた。ルメイルから補佐役としてメナス・レナードを紹介され、カナレ郡の現状についての情報提供を受けた。
また、ランベルクの運営を誰に任せるかについて家臣たちと議論し、最終的にミレーユに任せることに決定した。リーツはアルスの側に残りたいと申し出たため、ランベルクの運営はミレーユに一任され、シャドーの団員が彼女の動向を監視することとなった。
アルスは至急の決定事項を終え、領主たちを城に招待して祝宴の準備を進めることにした。リシアとの結婚については、まだ戦が終わっていないため、後に話し合うことを決めた。
数日後、トルベキスタ領主のハマンド・プレイドとクメール領主のクラル・オルスローがカナレ城を訪れた。シン・セイマーロも現れ、飛行船の開発資金を求めたが、アルスは財政の余裕がないため、まずは必要額の三分の一を提供することにした。
祝宴では、リシアがアルスに抱きつき、無事を喜んだ。また、ハマンドとクラルはアルスに忠誠を誓ったが、クラルはまだアルスを値踏みしている様子であった。
祝宴は無事に終わり、翌日、領主たちはそれぞれの屋敷へと戻った。
アルスは領主たちが帰った後、少し休暇を取ることにした。疲れを癒し、リラックスしていると、弟のクライツが剣の稽古をしようと部屋にやってきた。一方、妹のレンは勉強をしようと言い、二人は喧嘩を始めた。アルスは二人にどちらも行うことを約束し、まずはクライツとの剣の稽古を行った。クライツは才能豊かで、アルスは危うく負けそうになる場面もあったが、最終的に勝利した。
その後、レンと一緒に勉強を開始した。レンは非常に知識が豊富で、ロセルに教わったことを自慢していた。一方、クライツは勉強が苦手で、早々に疲れてしまったが、アルスは彼にもっと勉強するように励ました。レンは兄に対していたずらっぽく笑い、彼女がクライツを将来手玉に取るかもしれないとアルスは感じた。
アルスは休暇を終え、働き始めようとしていた時、リーツから釣りの誘いを受けた。普段仕事熱心なリーツからの意外な提案に驚きながらも、アルスはこれを受け入れ、二人で湖へ向かった。釣りは不調だったが、リーツと様々な話をし、楽しい時間を過ごした。
釣りを終えて城に戻ると、サプライズの誕生日パーティーが待っていた。リーツの計画で、家臣たちやリシアがプレゼントを用意して祝福した。シャーロットからはクッキー、ロセルからは本、ミレーユからは銀貨を受け取り、リーツは剣と防具を贈った。リシアも多くの贈り物を持参し、アルスを祝った。
アルスはこのパーティーを最高の誕生日として心に刻み、家臣たちの支えを強く感じた。
アルスは誕生日パーティーが終わった翌日、家臣たちと領地の経営について本格的に話し合いを行った。最初の議題は人材集めであり、リーツが提案したお触れを出して人材を集める方法を採用することに決まった。また、ロセルの提案で、どのような人材を優先して採用すべきかも話し合われ、戦に備えて武勇に優れた者を優先することとなった。
人材発掘においては、看板を町や村に設置し、アルスの鑑定能力で候補者を評価した。しかし、初めの数週間は優秀な人材が見つからず、疲労も重なり困難な状況が続いた。その中で、ようやく武勇や知略に優れた男性、ザット・ブロズドと、魔法兵適性が高い女性、ムーシャ・トリックを見つけ、彼らの採用を決めた。
こうして、アルスは領地の強化と戦への準備を進めていった。
アルスはザットとムーシャを家臣として採用することを決定した。ムーシャは魔法適性Aを持ち、魔法兵としての潜在能力が高い人物であった。リーツやロセルたちと話し合いを行い、特にムーシャの能力に期待を寄せていた。シャーロットもまた、彼女を歓迎し、訓練を共にすることになった。
ムーシャは初めて魔法を使い、その威力に驚いた。彼女は今まで自分に何の才能も感じていなかったが、魔法の才能を見出されたことで、新たな自信を得た。シャーロットはムーシャの成長を見守りながら、魔法兵としての訓練を手伝い、二人の間には友情が芽生えていった。
ムーシャは自分の力を信じ、少しずつ魔法の腕を上げていく決意を固め、シャーロットとの交流を深めながら成長していった。
アルスはザットとムーシャを家臣として採用し、数週間が経過した。ムーシャは魔法適性が高く、訓練を重ねることで徐々に成長を見せていた。一方、ザットは副隊長として少数精鋭部隊に配属されていたが、隊長であるブラッハムの無鉄砲な性格に不満を抱きつつも、その高い戦闘能力を認め、共に訓練に励んでいた。
その後、アルスはさらに人材を募集し、新たに十人の家臣を獲得した。人材集めが続く中で、より広範囲に優秀な人材を集めるため、ほかの郡長たちとの交流を深める必要を感じ始めていた。
一方、ミーシアンではクランから出兵命令が下り、アルスも出陣の準備を進めることとなった。その頃、敵方のバサマークは窮地に立たされており、サイツ州との交渉に最後の望みを託していた。
アルスは兵を集め、クランの軍に合流する準備を進めていたが、資金不足により動員できる兵の数は少なくなっていた。さらに、サイツの攻撃に備えるため、一部の兵を残さねばならず、出陣できる兵は少数に限られていた。そんな中、シャドーの伝令役であるベンから、サイツ州がカナレ郡に隣接するプルレード郡で兵を集結させているとの報告が入った。八万の兵が集結しているという情報に、アルスは緊急軍議を開くことを決めた。
ミレーユは、サイツがバサマークと手を組んでいる可能性を指摘し、援軍が期待できない状況になるかもしれないと予想した。最悪の場合、降伏も視野に入れるべきだと提案したが、アルスはクランへの忠誠心や領地を守る決意から、降伏は避けたいと考えた。リーツやロセルも最終的には降伏を容認する意見を持ちながらも、援軍を待つことを優先とした。
数日後、クランからの返答が届き、バサマークがサイツ州と手を組んで動き出したことが確認された。クランはカナレに二万の援軍を送ることを約束したが、大規模な援軍は難しく、アルスは28,000人の兵で八万のサイツ軍に対抗しなければならなくなった。援軍には有能なメイトロー傭兵団も含まれていたため、アルスはクランを信じ、カナレを守るための戦いに備えることを決意した。
アルスはクランからの援軍の報告を受け、兵数が二万であることに少し不安を感じていたが、メイトロー傭兵団が参加することに安心感を覚えていた。敵のサイツ軍は八万の兵を擁し、兵糧も豊富で、侵攻が始まれば長期戦になる可能性があった。敵将ボロッツ・ヘイガンドは五万の兵で十万の敵軍を破ったという実績を持つ優秀な指揮官であり、簡単には勝てないことが予想された。
軍議では、ミレーユやロセルが、サイツ軍を追い払うために最初の戦いで大打撃を与えることが重要だと提案した。カナレ軍は少数ながらも質の高い兵を擁し、シャーロットやリーツの力を活用すれば勝機はあると考えた。援軍には大量の魔力水も含まれており、サイツ軍に対抗する準備は整っていた。
アルスはリーツやシャーロット、クラマント率いるメイトロー傭兵団に前線で戦うよう命じたが、無理をせず状況が悪化したらすぐに撤退するよう指示した。彼自身はクメール砦に留まり、戦場の指揮を遠隔で行うことになった。
サイツ州の新総督の右腕であるボロッツ・ヘイガンドは、プルレード砦でカナレ領への侵攻準備を進めていた。彼は軍略に優れた指揮官であり、今回の戦いでカナレ郡長アルスを捕らえるか、殺すことを目的としていた。総督はアルスの能力に注目し、彼を家臣にするか、敵対するなら排除する必要があると考えていた。
サイツ総督は人材を最も重要視しており、アルスのように人材を見抜き育てる力を持つ者を味方に付けたいと強く望んでいた。クランがアルスを高く評価しているため、戦でカナレを占領し、アルスを確保することが急務だと判断していた。
ボロッツは総督の命令に従い、カナレ軍の抵抗が予想以上に強くても攻め続け、アルスを捕らえるか殺すよう兵に指示を出した。戦は激しくなる見込みであり、サイツ軍は多くの兵を失う覚悟で進軍を開始する準備を整えていた。
二章 戦開始
前線に到着したリーツは、シャーロット、ブラッハム、ザット、クラマントと共に軍議を開き、敵が来た際の対応を話し合った。作戦は、敵軍が川を渡る際にシャーロットの強力な魔法で混乱させ、その隙に弓兵で攻撃し、敵を追撃して損害を与えるというものだった。リーツはこの作戦が成功する可能性が高いと考え、敵が引き返すことを期待していた。
一方、シャーロットは魔法兵たちに指示を出し、戦の準備を進めていた。ムーシャも参加していたが、まだ成長途上であったため、シャーロットはムーシャの実力に若干の不安を抱いていた。ムーシャ自身も戦場での初めての経験に緊張していたが、シャーロットの励ましを受けて戦場に臨んだ。
やがてサイツ軍が到着し、リーツはシャーロットに合図を出し、シャーロットは強力な炎魔法「ヘル・ファイア」を放ち、敵の防御を打ち破った。驚いたことに、ムーシャも同じ魔法を使い、シャーロットに匹敵する威力を発揮した。これにより、敵軍は大きく混乱し、無秩序に撤退を始めた。
リーツはその隙を逃さず、ブラッハムら騎馬兵に追撃を命じた。ブラッハム隊は逃げる敵将を捕らえ、彼を討ち取った。カナレ軍は初戦を圧勝で終え、敵軍に大きな打撃を与えることに成功した。
初戦に大勝利を収めた夜、リーツたちの陣は勝利の喜びに包まれていた。特にブラッハムは自身の活躍を誇っていたが、実際にはシャーロットとムーシャの魔法が戦果の大部分を担っていた。ムーシャは初めての戦で多くの敵を倒したことに心を痛めていたが、周囲の兵たちは戦場の経験があるため、あまり気に留めず騒いでいた。リーツは兵たちの士気が高いのは良いことだが、指揮者としては気を引き締めていた。
リーツは、初戦の大勝利によって敵軍が撤退する可能性を考えつつも、簡単には撤退しないだろうと予想していた。数回の戦で勝利を重ね、最終的には停戦交渉に持ち込み、譲歩することで敵軍を追い返すことを目指していた。シャーロットの魔法が今後も有効であれば、次の戦でも勝利は見込めるとリーツは考えていた。
クメール砦にいるアルスも、リーツたちの勝利報告を受けて喜んでいた。しかし、ロセルは兵の数がまだ圧倒的に劣っているため、油断は禁物だと警告していた。そんな中、リシア・プレイドが砦を訪れ、アルスの側にいたいと申し出た。アルスはリシアの安全を心配して断ろうとしたが、彼女の強い意志とミレーユの助言により、最終的にリシアの同行を認めた。リシアはアルスの隣で戦況を見守ることになった。
前線で指揮を執っていたリーツは、斥候からの報告を受け、サイツ軍が本格的な大規模攻勢を開始したことを知った。ラントルク・ロッダーやその弟トラポル・ロッダーといった有能な将が指揮を取っており、敵軍の士気は非常に高かった。リーツは、シャーロットやムーシャを中心とした魔法兵を活用した戦術を取ることに決め、敵軍が防御魔法を駆使してくると予測して対策を練っていた。
敵が大軍で渡河を強行してきたため、カナレ軍は防御しつつ攻撃を開始したが、ムーシャの魔法は不発で、シャーロットの魔法に頼る場面が増えた。カナレ軍は最初こそ敵兵を撃退していたが、敵の勢いに押され、川を渡られてしまい、陣が破られる寸前まで追い詰められた。リーツは撤退を決断し、殿の兵士たちの奮闘もあって最小限の損害で撤退に成功したが、物資や大型触媒機を失い、戦況は厳しさを増した。
リーツは、この状況をアルスに報告するため、書状をクメール砦に送り、次の対応を急ぐこととなった。
クメール砦でアルスたちは、リーツからの書状を受け取り、敵軍の勢いに押されて撤退したことを知った。アルスは和平交渉を試みたが、サイツ側からの提案はカナレ郡を差し出すという内容であり、アルスが郡長として続けることが条件だった。これに対し、アルスと彼の仲間たちは、裏切りや領地の放棄は賢明でないと判断し、交渉は失敗に終わった。
その後、アルスたちは戦いに勝利するための方法を模索し、ロセルはシャドーを使って敵の物資を破壊するという案を出した。これにより、敵の兵糧や魔力水を減らし、守備を有利に進める作戦が決まった。クメール砦自体の防御力が不安視されていたが、時間を稼ぐことができればクランからの援軍が期待できるため、全力で戦うことが決定された。
最終的にアルスはリーツに時間稼ぎを指示し、シャドーに工作活動を依頼して戦況の改善を図ろうとした。
アルスからの書状を受け取ったリーツは、敵の大軍を相手に時間を稼ぐ必要があるという指示に悩んでいた。シャドーによる工作が成功するかどうかは未知数であり、戦術的な準備が急務であった。リーツは、自分が先頭に立って戦うことを決意し、兵たちを鼓舞した。
クラマントからの助言を受け入れ、リーツは大型触媒機の使用をシャーロットとムーシャに限定し、他の魔法兵たちには歩兵の援護を命じた。ムーシャは初めての重要な役割に緊張していたが、シャーロットの励ましを受け、覚悟を決めて魔法を発動させる準備を整えた。
敵軍が迫る中、ムーシャは自身の過去を振り返り、自らを奮い立たせて魔法を発動させることに成功した。
リーツは前線で指揮を執り、兵士たちの士気を高めるため、自ら戦場に立った。敵軍は数で圧倒していたが、リーツは冷静さを保ち、戦術を練りながら敵兵を迎え撃った。魔法兵シャーロットとムーシャによる強力な魔法攻撃が敵を大きく削り、戦場は一時的に優勢となった。しかし、魔力水の補充が必要となり、魔法が一時止まると、敵兵が再び迫ってきた。
リーツは自軍の歩兵と騎兵を巧みに使い、敵軍を崩すために乱戦を起こし、その隙に騎兵を背後に回して魔法兵を奇襲する作戦を立てた。騎兵のクラマントとブラッハムに指示を伝え、タイミングを見計らいながら戦い続けた。
リーツは自ら多くの敵兵を斬り倒し、仲間のザットと共に奮闘したが、疲労も徐々に溜まっていた。それでもリーツは限界を超えて戦い続け、カナレ軍の士気を高めるため奮闘した。
クラマントは戦況を見て、騎兵隊を率いて奇襲を仕掛けることを決断し、ブラッハムと共に敵の魔法兵に突撃した。騎兵隊は少数精鋭で、敵の防御を突破し、魔法兵を討ち取ることに成功した。敵軍は混乱し、リーツはこの機を見て自軍を後退させ、追撃してきた敵に対して魔法兵の集中攻撃を仕掛けた。これにより敵は大打撃を受け、戦意を喪失して撤退した。
カナレ軍は勝利を収めたが、戦力を消耗しており、特に魔力水の不足が深刻な問題となっていた。リーツは次の戦いに備えつつ、シャドーが敵の魔力水を減らす工作を成功させることを祈った。
一方、シャドーのリーダーであるファムは、アルスの指示を受け、敵の魔力水を狙う作戦を立てた。ファムは敵の拠点を襲うことを決断し、作戦の成功にはアルスの協力が必要だと考えたため、すぐにベンに伝言を託してアルスに報告させた。
数日後、ファムはアルスからの返答を受け取り、すぐに必要な兵の手配が行われることが確認された。ファムは、ランバース、レメン、ムラドーの三人に任務を命じた。彼らはサイツ軍の文官カイサスをターゲットにし、レメンの巧みな交渉でカイサスを部屋に誘い込んだ。その後、ムラドーがカイサスを殺害し、ランバースがカイサスに変装してサイツ軍内部に潜入した。
カイサスに変装したランバースは、サイツ軍の輸送責任者ラクトルに接触し、地下に補給拠点を作る案を提案した。ラクトルはその提案を採用し、補給作戦の変更を決定した。ファムは、この変装が予想以上に成功したことに驚きつつも、これを利用してサイツ軍の補給拠点の場所を事前に把握し、魔力水を盗み出す作戦を進めた。
シャドーの面々はファムの指示のもと、すぐに行動を開始した。
サイツ軍は急ピッチで新しい輸送拠点を地下に作り、六ヵ所に兵糧と魔力水を分散させた。しかし、ランバースが作戦の発案者として参加していたため、カナレ軍はその場所を把握していた。ファム率いるシャドーは、土魔法で拠点に穴を開け、魔力水を大量に盗み出すことに成功した。
クメール砦にいたアルスは、シャドーの成功に驚き、戦力の増強を確認したが、ロセルから「まだ安心できない」と指摘された。ミレーユは、敵軍の混乱に乗じて野戦を仕掛けるべきだと提案した。魔力水を奪われたサイツ軍は補給が滞り、機動力が低下するため、早急に攻撃を仕掛ける必要があると判断した。
さらに、ミレーユは川の水量を増やすことで、敵軍の撤退を妨げる作戦を提案した。これにより、敵軍を追い詰め、大損害を与えることが可能となる。アルスはミレーユの作戦を採用し、カナレ軍を守り抜くことを誓った。
三章 決着
アルスは、シャドーの工作が成功したことをリーツに報告し、敵軍の現状についても詳しく聞くよう指示を出した。リーツからは、敵軍が混乱し、攻撃を止めているという情報が届いたため、アルスたちは攻撃の準備を進めた。次の戦では、シャーロットに川の水量を増やすための魔法を任せ、サイツ軍を追い込む作戦を立てた。
アルスはクメール砦に残っていた兵を率いて出陣し、リーツ軍と合流後、サイツ軍への奇襲を計画。ミレーユの提案で、事前にシャドーを使ってサイツ軍に「クランが勝利し、カナレに向かっている」という偽情報を流すことに決定した。シャーロットは少数の兵を率いて川の上流へと向かい、水魔法の準備を開始した。
シャドーの工作により、サイツ軍は「クランが勝利した」という偽情報を信じ込み、混乱していた。アルスはその機会を逃さず、クメール砦から出陣を決意。彼自身も兵士たちの士気を上げるため、戦場に立つことにした。リーツやミレーユが最前線で指揮を執り、ロセルは後方でアルスを補佐。クラマント率いるメイトロー傭兵団は、遊撃隊として機動力を活かし、戦場での対応力を発揮する役割を担った。
進軍中、サイツ軍がシャーロットの動きを察知し、彼女を討つために数百の兵を送ってきた。アルスはブラッハムをシャーロットの援護に送り、彼女の安全を確保するために備えた。敵軍との戦闘が開始され、アルスの軍は魔法攻撃を駆使して敵兵を削り、リーツとミレーユの指示で陣形を崩さず応戦した。
敵軍の騎兵がアルスの本隊に突撃してきたが、ロセルとメイトロー傭兵団の的確な対応で撃退に成功。サイツ軍はついに撤退を始めた。アルスはシャーロットとの連携を図り、敵を川に追い込む作戦を進めていくことにした。
サイツ軍が後退した数時間後、シャーロットは川上でアルスからの合図を待っていた。合図はまだ来ておらず、待機中に彼女は暇を持て余していた。釣りを試みるもすぐに飽き、無駄な時間を過ごしていた。その間、敵兵が接近しているという報告があり、援軍が間に合わない可能性が出てきた。兵士たちは不安を感じていたが、シャーロットは落ち着いていた。
やがて、敵兵がシャーロット達に迫り、戦闘が始まった。シャーロットは炎魔法を使って敵を攻撃し、何人かの敵兵を倒したが、次々に敵が上陸し状況は悪化。彼女の魔法の使用も制限され、危険な状況に陥った。追い詰められたシャーロットだったが、遅れて到着したブラッハム率いる援軍によって、敵兵は撃退され、危機を脱した。
戦闘後、シャーロットはブラッハムに感謝しつつも、援軍の到着が遅かったことに怒りを見せた。状況が安定した後、本隊から水魔法の使用を指示され、シャーロットはすぐに行動に移った。
サイツ軍の指揮官バサ・ルペリコルは、魔力水の不足による失敗に怒りを感じながら、撤退を指揮していた。彼は輸送の不備が原因で、この戦いに敗れたと考えていたが、兵を早めに撤退させなかった自分にも責任があることを自覚していた。バサは一旦退却し、体制を整えて再度攻撃するつもりであったが、敵軍の魔法によって川が氾濫し、渡河が不可能となった。
アルスの指揮下、カナレ軍は川の氾濫を利用し、サイツ軍を追い詰めて大規模な魔法攻撃を仕掛けた。サイツ軍の多くが川を渡ろうとして溺死し、一部は反撃したが、リーツやミレーユの奮戦でカナレ軍は持ちこたえた。ムーシャの強力な魔法も敵を大きく削り、最終的にサイツ軍は撤退を余儀なくされた。
この戦いでカナレ軍は四万の敵兵を討ち取ったが、サイツ軍の兵数はまだ上回っていた。しかし、ロセルやミレーユは、これ以上サイツ軍が攻めてくる可能性は低いと判断した。クランがバサマークを撃退するまでの間、カナレ軍は防備を固め、サイツ軍の動向を警戒したが、数ヵ月後、クランが勝利したという報告を受け、ようやく安心することができた。
エピローグ
サイツ軍の総大将ボロッツ・ヘイガンドは、バサマークの敗北の報を受けて、カナレ攻略が絶望的になったことを悟り、落胆していた。彼は部下の指揮官たちに問題があったことを認めつつも、自身の判断ミスを痛感していた。アルス・ローベントが指揮するカナレ軍に敗北し、その優れた戦略と人材力に脅威を感じていたボロッツは、暗殺者を雇ってアルスの命を狙う決意を固めた。
その後、クランからクメール砦に援軍が到着し、アルスはサイツ軍の動きを監視する役割を担いながらも、戦の終結が近いことを実感していた。最終的に、バサマークがアルカンテス城で包囲され、六月十五日に処刑されることで、ミーシアンの統一が成し遂げられた。
アルスはアルカンテスで開かれた祝宴に参加し、戦果を讃えられ、褒美として大量の金貨を授与された。貴族たちの評価も改善し、彼の地位は確固たるものとなった。そして、八月八日、アルスはリシアとの結婚式を挙げ、幸せな節目を迎えた。
アルスは十四歳でリシアとの結婚式を迎えた。前世では結婚を夢見ていたが、実現することなく35歳を迎えたアルスにとって、今世での結婚は早すぎると感じていた。結婚式はカナレ城の大広間で行われ、アルスとリシアは純白のウェディングドレスとタキシードに身を包み、ルメイルを立会人として誓いを立て、キスを交わした。
式には家臣たちも出席しており、アルスの成長を喜ぶリーツや、食事に夢中なシャーロット、緊張するロセルなど、それぞれが個性的な様子を見せていた。式後の宴会は、賑やかな祭りのような雰囲気で進み、リシアと共に食事を楽しむアルスの姿もあった。途中、シャーロットがアルスをからかう場面もあったが、リシアの圧により彼女はすぐに退散した。
その日の宴会は、アルスの誕生日も兼ねており、結婚と誕生日を祝うプレゼントが多数贈られた。長い一日を終えたアルスは、疲れ果ててそのまま眠りについた。
アルスは結婚式翌日、義父のハマンドとルメイルを見送り、ハマンドにリシアを幸せにすると誓った。その夜、アルスはリシアとの初夜を迎えることになったが、前世でも今世でも経験がなく、緊張していた。リシアも同じく緊張しており、ぎこちない様子で部屋に入ってきた。二人はお互いに戸惑いながらも、徐々に緊張が解けていき、リシアは年長のメイドから助言を受けていたが、アルスは彼女をリードする立場であることを伝えた。
リシアはアルスに愛情を抱きつつ、恥ずかしさから戸惑いを見せたが、最終的には二人は名前を呼び合い、互いの存在を確認し合った。そして、その夜は甘く熱い時間を共に過ごし、夫婦としての新たな一歩を踏み出した。
翌朝、アルスはリシアの寝顔に気づいて昨日の出来事を思い出し、ついに大人になったことを実感した。リシアも目を覚まし、お互いに照れながらも昨夜の行為を振り返り、二十人もの子供が欲しいと語った。アルスはその数に驚きつつも、リシアの野心的な性格を再確認し、まずはカナレの強化を進めることを決意した。
その後、アルスとリシアは朝の会議に遅れて参加した。家臣たちが揃い、今後の領地運営について話し合いが行われた。ミーシアンの内乱が終結したことで、カナレの経済は上向きになり、今が領地を強化する絶好の機会であると確認された。魔法兵の増加や、ロセルの提案による魔法騎兵隊の設立なども議題に挙がり、アルスは慎重にそれらを検討した。
さらに、外交関係についても話し合われ、特にマサ郡との友好関係を築くための方法が議論された。リシアはパーティーへの招待や贈り物などを提案し、アルスもそれに同意した。外交情報の収集はシャドーに任せることになり、会議は終了した。
最後に、アルスはシンに飛行船製作を進めるための資金を提供し、その準備を進めることにした。数日後、シンがカナレ城に到着し、飛行船プロジェクトが本格的に動き出した。
シンがカナレ城に到着し、飛行船の開発に使う資金が入ったことを確認すると、彼はアルスに研究成果を見せることを提案した。アルスはシンに金貨を渡し、飛行船開発を進めるための資金を提供していた。シンは研究成果として、小型の飛行船を披露し、それが実際に飛行する様子を見せた。アルスや家臣たちはその光景に驚き、シンの才能を改めて認めた。
飛行船は風の魔力石と風の魔力水を使い、特殊な機材で浮力と推進力を得ていた。シンはこの技術が帝都の魔法研究者ハイネス・ブラウンの理論から着想を得たものであると説明した。ハイネスは変人として追放されたが、その理論は正しかったことが証明された。アルスはシンの飛行船開発をさらに支援するため、資金を増額し、今後の開発が早まることを期待した。
登場人物
- アルス・ローベント
日本で死後、異世界で貴族の長男として転生したアルスは、【鑑定】スキルを持ち、その力を使って有能な家臣を集めた。彼はカナレ郡長としての責務を果たすため、領地の強化と戦略を練り続け、戦においても成果を上げた。 - リーツ・ミューセス
アルスの忠実な家臣で、元傭兵であり、剣術に優れた戦士であった。アルスの側近として戦場で活躍し、彼のために多くの戦功を立てた。特に、戦闘指揮においても重要な役割を果たした。 - シャーロット・レイス
魔法使いとしての才能を持ち、戦場で数々の魔法を駆使して戦った。特に、強力な魔法で敵を打ち破る場面が多く、アルス軍の主要戦力として活躍した。彼女の魔法の力は、しばしば戦局を大きく左右した。 - ロセル・キーシャ
アルスの軍師であり、知略に優れた人物であった。冷静な分析と計画で、アルスの戦略を支え、特に戦況判断や作戦立案においてその能力を発揮した。 - ミレーユ・グランジオン
元貴族であり、知略や野心を持つ女性であった。彼女はアルスの家臣として迎え入れられ、戦略面で大きな貢献をしたが、独自の考え方を持ち、時に他の家臣たちと対立することもあった。 - ブラッハム・ジョー
優れた武勇を持つ戦士であり、戦場で奮闘した。無鉄砲な性格ながらも、その戦闘力を評価され、アルスに仕えた。 - ムーシャ・トリック
魔法の適性を持ち、訓練を経て成長した魔法兵であった。初めは自信を持てなかったが、シャーロットの指導のもとで次第に力を発揮し、戦場で活躍するようになった。 - リシア・プレイド
アルスの婚約者であり、後に妻となった。彼女はアルスを支えながら戦況を見守り、外交関係の提案など、領地経営にも積極的に関わっていた。 - シン・セイマーロ
飛行船の開発を進める研究者で、アルスから資金を得てプロジェクトを進行した。彼は独自の理論と技術で飛行船の開発を成功させ、アルスの信頼を得た。
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