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フィクション(Novel)マンガ薬屋のひとりごと読書感想

漫画「薬屋のひとりごと 猫猫の後宮謎解き手帳(22)94~99話」感想・ネタバレ

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薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~ 22の表紙画像(レビュー記事導入用) フィクション(Novel)

薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~ 21レビュー
薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~ まとめ
薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~ 23レビュー

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物語の概要

■ 作品概要

薬屋のひとりごと』は、日向夏 氏による日本のライトノベル作品。
中世の後宮を舞台に、薬学の専門知識で事件の謎を解く少女・猫猫(マオマオ)の物語。
小説家になろうで連載されているほか、ヒーロー文庫からライトノベル版が刊行されている。
また、月刊ビッグガンガン月刊サンデーGXでコミカライズ版が連載されており、2023年にはテレビアニメ化も決定している。

月刊サンデーGXの方が、中華の雰囲気が強く、文化の小さい部分にも気をつけているように感じている。

本作は、中華風の架空の帝国を舞台にした謎解きミステリー作品のコミカライズ版である。薬学や毒に関する豊富な知識を持つ薬師の少女・猫猫(マオマオ)が、その知識と卓越した洞察力を駆使して、宮廷の内外で起こる様々な事件や不可解な謎を解き明かしていく姿を描いている。 第22巻では、夜の都に現れた見世物一座の「仙女」白娘々(パイニャンニャン)が披露する仙術(人の心を読み、金属を変化させるなど)の真相を猫猫が暴くエピソードや、やぶ医者の里帰り先の「紙作りの村」を舞台に、土地と税を巡る横暴な地主との騒動に、お忍びの壬氏らとともに巻き込まれるエピソードが展開される。

■ 主要キャラクター

  • 猫猫(マオマオ):本作の主人公。毒や薬に対して異常なまでの執着と探求心を持つ薬師の少女。優れた観察眼と科学的な知識を持ち、迷信や怪奇現象を論理的に解明する。22巻では、横暴な地主を相手に自らを担保にした飲み比べ勝負に挑む大胆な一面も見せる。
  • 壬氏(ジンシ):絶世の美貌を持つ青年。かつては宦官として後宮を取り仕切っていたが、その正体は現皇帝の弟(皇弟)である。22巻では火傷の痕をつける変装を施し、身分を隠して猫猫や馬閃らとともに紙作りの村へ同行し、税や産業の実態を視察する。
  • 馬閃(バセン):壬氏の護衛であり補佐役。真面目だが融通が利かないところがある。壬氏のお忍びの旅に主人役として同行し、猫猫や壬氏の突飛な行動に振り回される。
  • 白娘々(パイニャンニャン):白い髪と赤い目を持つ見世物一座の仙女。人の心を読み、不老不死の薬を作ると噂されているが、その奇術の裏には巧妙な仕掛けが隠されている。
  • やぶ医者:後宮の医官。実家が紙作りの村であり、十数年ぶりの里帰りに猫猫や壬氏たちが同行することになる。
  • 左膳(さぜん):元農民の男。薬草の知識と文字を読む力があることを見抜かれ、猫猫から新しく薬師として仕込まれる。

■ 物語の特徴

本作の最大の特徴は、一見すると呪いや魔法、奇跡のように思える不可思議な現象を、主人公の猫猫が化学や医学、物理的なトリックを用いて論理的に解き明かしていく点である。例えば22巻における白娘々の「仙術」も、あぶり出しの原理や金属の膜、高周波の音の聞き分けといった科学的な種明かしがなされる。 また、閉鎖的な村の権力闘争や税逃れのからくりといった社会的な問題も絡めつつ、猫猫のドライで冷静な視点と破天荒な行動力が、物語に痛快さと独特のユーモアをもたらしているのが大きな魅力である。

書籍情報

#薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~(22)
(英語: The Apothecary Diaries、中国語: 药屋少女的呢喃)
著者:#倉田三ノ路  氏
原作:#日向夏  氏
キャラクター原案:#しのとうこ  氏
出版社:小学館サンデーGXコミックス
発売日:2026.6.18
ISBN:9784091582294

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あらすじ・内容

超絶ヒットノベルコミカライズ第二十二弾!
夜の都に現れた見世物の一座。
そこにいる白い髪、赤い目をした“仙女”が
人の心を読み、金を生み出し、不老不死の薬を作るという。
噂を確かめるべく義兄・羅半と
猫猫は見世物に向かったが………!?

一方、皇弟として人前に出るようになった壬氏から
猫猫へ文が届いた。その内容とは…!?

薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~ 22

感想

今巻は、都を騒がせる白娘々の見世物から、地方の紙の村で起きる騒動まで、見どころが次々と続く密度の濃い一冊であった。

読み終えて改めて感じたのは、本作は派手な事件よりも、「違和感」に気付く猫猫の観察力こそが最大の魅力なのだということである。

まず印象に残ったのは、白娘々の見世物である。

金属を変化させたり数字を言い当てたりと、不思議な仙術のように見える演目を、猫猫が一つずつ冷静に種明かししていく流れには、今回も知的な面白さを感じた。

超常現象に飛びつくのではなく、「本当にそうなのか」と疑う姿勢は、やはり猫猫らしい。

だからこそ、最後に猛毒の水銀を飲むという常識外れの芸を見せた白娘々だけは、簡単には説明できない不気味さが残った。

まだ登場したばかりの人物ではあるが、この先どのような形で物語へ関わってくるのか、とても気になる存在である。

また、羅半の活躍も印象深かった。

地方の出荷量という数字だけを見て脱税へたどり着く観察眼には、毎回驚かされる。

猫猫とは違う方向で「数字から真実を読む」人物だからこそ、この兄妹のやり取りは見ていて面白い。

後半の紙の村での騒動も見応えがあった。

理不尽な借金話かと思いきや、猫猫は酒を一口飲んだだけで密造酒や税逃れに気付いてしまう。

何気ない違和感から真相へたどり着く展開は、本作らしい面白さが詰まっていた。

さらに、自ら飲み比べを受けて立つ度胸にも驚かされる。

壬氏という強力な後ろ盾があるとはいえ、自分自身まで賭けの対象にしてしまう行動力には、思わず「そこまでやるのか」と笑ってしまった。

今回改めて感じたのは、猫猫は酒にかなり強いということである。

顔色はほとんど変わらない。

それなのに、少し口数が増えたり、大胆な行動を取ったりする姿を見ると、ちゃんと酔っているのが分かる。

その絶妙な変化が面白く、普段との違いを見比べながら読んでしまった。

そして、一連の騒動の原因が、結局は地主の娘と村の青年による恋愛騒動だったというオチには思わず笑ってしまった。

大事件かと思えば、人間らしい感情が発端だったという結末は、本作らしい肩の力が抜けた後味だったように思う。

日常パートにも印象的な場面が多かった。

花街では左膳に薬の才能を見出し、薬師として育て始める猫猫の姿が描かれる。

人を育てる立場になることは珍しく、新鮮な一面を見ることができた。

一方で、毛毛がそのまま村へ残ってしまった場面には少し寂しさを覚えた。

あの愛嬌たっぷりの三毛猫がいるだけで場の空気が和んでいただけに、しばらく会えなくなるのは残念である。

いつか再び元気な姿を見せてくれることを期待したい。

今巻も、派手な戦いではなく、人の心理や小さな違和感を積み重ねながら事件を解き明かしていく『薬屋のひとりごと』らしい魅力を存分に味わうことができた。

猫猫の観察眼と推理、そして少しずつ広がっていく人間関係を、これからもじっくり追いかけていきたいと思える一冊であった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~ 21レビュー
薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~ まとめ
薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~ 23レビュー

考察・解説

白娘々の仙術

作中における「白娘々の仙術」は、都の高官や富裕層を熱狂させている謎の見世物として描かれている。白い髪と肌、赤い目を持つ白娘々は、錬丹術や不老不死の薬と結びつけられ、仙女として崇められていた。しかし、猫猫はその仙術が巧妙な奇術や科学的トリックの組み合わせであることを見抜く。

舞台で披露された仙術と、猫猫が暴いた仕掛けの正体は以下の通りである。

数字と隠し場所を当てる仙術の現象と仕組み

百本の筒を使った演目では、あぶり出しと音の反響を利用した仕掛けが施されていた。

・現象:猫猫が誰にも見えないように紙に数字を書き、それを百本の筒のどれか一つに隠した。しかし、白娘々は書かれた数字が七であることと、その筒の位置を正確に言い当てた。

・数字の正体:使われた墨には塩のようなものが溶かし込まれていた。薄い紙に数字を書くと、その墨が下の黒い下敷きに染み込む。それが乾くと塩が白く浮き出るため、裏にいる手下には何が書かれたか読み取れる仕組みになっていた。

・位置の正体:百本の筒の入った箱は笛の構造になっていた。紙を詰めることで笛の穴が塞がり、出る音の高さが変わる。舞台上の靄(もや)は湯気であり、机の下から蒸気を箱に送り込んで笛を鳴らしていた。銅鑼や鈴の音に紛れて非常に高い高周波が鳴らされており、目が悪い代わりに聴覚が極めて鋭い白娘々が、その音の高さを聞き分けることで位置を特定していた。

銅を銀や金に変える仙術の現象と仕組み

金属を変化させる演目では、錬金術を装った科学的な表面処理が行われていた。

・現象:観客が確認した銅片を液体に浸し、祈りと舞を捧げると銀色に変化した。さらに火にかけることで金色へと変わり、観客を驚かせた。

・正体:これは黄白術と呼ばれる錬金術に似た手法であり、実際に金属の材質が変わったわけではない。金属の表面に別の金属の膜を張り、火で炙ることで見た目を変える鍍金(めっき)の技術を利用したものであった。

観客を信じ込ませる巧妙な環境作り

これらの見世物を本物の仙術だと信じ込ませるため、会場全体に観客の判断力を奪う演出が施されていた。

・薄暗い照明や不可思議な蒸気の靄を用いて視覚的な錯覚を誘発していた。

・観客に振る舞われた酒には、アルコール度数が低いにもかかわらず悪酔いさせる混ぜ物が入っていた。

・感覚が鈍った観客たちは、目の前で起きる現象を無批判に盲信しやすい状態に置かれていた。

まとめ

最後の演目で、白娘々は銀色に輝く液体である水銀を盃に注いで飲み干すという、一歩間違えれば猛毒となるパフォーマンスを見せた。猫猫はこれらの仕掛けを解き明かし、高官たちに正しい説明をして注意喚起するよう羅半たちに求めた。しかしその数日後、白娘々の一座は跡形もなく姿を消し、都の商人たちの間に謎の食中毒事件だけが残されるという不気味な結末を迎える。白娘々の仙術は、知識を悪用した巧妙な詐欺行為であり、権力者たちの欲望や信仰心を弄ぶ極めて危険な見世物であったことが描かれている。

薬師修行と左膳

作中における「薬師修行と左膳」のエピソードは、緑青館で男衆として働く左膳に意外な才能があることが発覚し、猫猫が彼を自身の代わりとなる薬師として鍛え上げる過程を描いている。

毒草の発見をきっかけとする左膳の知識の発覚から、薬師への適性と猫猫の思惑、自信のない左膳への説得、そして花街ならではの処方を含む急ぎの修行にいたる全容は以下の通りである。

猛毒の附子を見抜いていた左膳の隠された基礎知識

ある日、趙迂と梓琳が草餅を作るために若草を摘んできたが、猫猫はそれが蓬(よもぎ)ではなく猛毒の附子(とりかぶと)であることに気づく。

・引率していた左膳はそれが毒草であることを最初から理解していた。

・子どもたちに怪我のないよう後でこっそり取り替えるつもりであっただけでなく、薬の材料として使える附子の根をわざわざ引っこ抜いて持ち帰っていた。

・猫猫が薬屋の棚にある薬草を次々と見せて効用を尋ねると、左膳はその半分ほどを的確に理解していた。

・彼がかつて、じいさんと呼ばれる元医官から字や薬の基礎知識を教わっていたことが判明した。

緑青館での男衆としての不向きと留守を任せる人材の必要性

猫猫は、左膳が緑青館での男衆の仕事があまり得意ではないことを見抜いており、薬屋の仕事のほうが彼に向いていると判断した。

・猫猫自身も壬氏からの依頼で頻繁に薬屋を留守にする可能性が高く、店を任せられる代わりの人材を急いで育てる必要があった。

・当初は趙迂に調薬を仕込もうとしていたが、趙迂はまったく興味を示さず絵を描いて遊んでばかりいた。

・そのため、すでに基礎知識がある左膳を仕込む方がずっと手っ取り早いという現実的な理由もあった。

卑屈になる左膳に対するやぶ医者を例に挙げた現実的な割り切り

猫猫は左膳に薬の書物を渡し、昼間は薬屋に通って修行するよう命じる。

・しかし、左膳は、俺はただの農民なんだぞ、と卑屈になり、重病人が来たらどうするのかと尻込みしてしまった。

・それに対し猫猫は、できねえならできねえって言えばいい、と告げる。

・さらにおまえよりまともに薬を作らない医者なんてけっこういる、と世のやぶ医者を引き合いに出しながら現実的な割り切り方を説いた。

・この現実的な言葉で彼を無理やり納得させ、薬師への道を歩ませることにした。

驚異的な飲み込みの早さと堕胎剤など花街特有の処方箋伝授

猫猫の予想通り左膳の飲み込みは早く、たどたどしいながらも図録を読み、簡単な調合をすぐに覚えることができた。

・猫猫は近隣の畑を案内してよく使う薬草の知識を教え込む。

・さらに、望まない妊娠をした妓女が物理的な手段、具体的には冷水に浸かる、腹を殴るなどで身体を痛めないように配慮する。

・そのための堕胎剤の作り方といった花街ならではの処方まで教え込んだ。

・こうして左膳は、猫猫が不在の間の薬屋を任せられる人材として、着実に薬師としての修行を積んでいくこととなった。

まとめ

左膳の薬師修行を巡るエピソードは、猫猫の現実的な人選と、左膳の秘められた才能が合致したことで始まった、実用性の高い師弟劇である。猛毒の附子をめぐる左膳の隠れた知識を猫猫が鋭く見抜き、やぶ医者の実態を引き合いに出して彼の卑屈な心を解きほぐしたことで、留守居役としての育成が本格化した。短期間で調合を習得した左膳の確かな素質に加え、花街の妓女の身体を守るための堕胎剤の処方までを教え込んだ一連のプロセスは、猫猫が不在時の拠点を守るための確かな基盤を築くとともに、左膳という青年の人生に新たな光を当てる契機となっている。

偽装した壬氏

作中において「偽装した(変装した)壬氏」は、お忍びでの地方調査において、普段のきらびやかな皇族としてのオーラを完全に消し去った姿として描かれている。また、その裏で見せる無防備さや、いざという時の迫力など、様々な側面が描写されている。

地味な青年への完璧な変装とその真の目的、宿での化粧直しで見せた無防備な素顔、そして飲み比べの場で大金を叩きつけて見せた圧倒的な存在感にいたる詳細は以下の通りである。

前髪を下げ火傷の跡を作った変装と米の出荷量をめぐる地方調査

壬氏は紙の村がある地方へ赴くにあたり、普段の華やかな姿を完全に隠す必要があった。

・右頬に大きな火傷の跡を作り、前髪を下げて薄暗い雰囲気を漂わせる地味な青年へと変装する。

・これはかつて猫猫が教えた変装方法を応用したもので、普段の彼を知るやぶ医者すら全く正体に気づかないほどの完璧なものであった。

・表向きは馬閃を主人とし、壬氏はその従者として地味に振る舞っていた。

・このお忍びの真の目的は、国が行った穀物増税に対する民の反応を直接確かめることであった。

・同時に、羅半が指摘したこの地方の米の出荷量の不自然さ、すなわち税逃れの疑いを自ら調査することであった。

湯盥の手ぬぐいでの洗顔と化粧直し中に見せた無防備な微睡み

やぶ医者の実家に宿泊した夜、壬氏は火傷の化粧が薄れてきたため、猫猫の部屋を訪れて作り直しを頼んだ。

・この際、壬氏は猫猫が足を洗うのに使った湯盥の手ぬぐいで平然と顔の化粧を拭い落とす。

・猫猫に糊と染料で傷跡を作り直してもらっている間、気持ちよさそうに目を瞑って微睡むなど、非常に無防備な姿を見せた。

・猫猫は、仮にも皇弟である彼のあまりにも警戒心が薄い態度に呆れていた。

・また、化粧直しのついでに猫猫が自分の顔にも染料を塗って化け物のような顔を作って遊んでいたところ、部屋に入ってきた馬閃が勘違いして叫びそうになる。

・この時、壬氏と猫猫が息を合わせて馬閃を素早く取り押さえるという喜劇的な一幕もあった。

卓に叩きつけた大量の金銀と農民を怯ませた不気味な凄み

翌日、飯屋で行われた地主との話し合いの場でも、壬氏は従者として静かに様子を窺っていた。

・猫猫が自らの身を担保にして飲み比べの賭けを提案し、それに激怒した地主側の農民が猫猫に殴りかかろうとした瞬間、壬氏が二人の間に割って入る。

・壬氏は卓に大きな銭袋を叩きつけて大量の金銀をあふれさせた。

・そして、この娘が銀三百で買えるなら安いものだな、と低い声で言い放つ。

・その端正でありながら不気味な凄みのある姿は、ただの従者ではない圧倒的な存在感で場を完全に制圧した。

・この壬氏による大金の後ろ盾があったからこそ、地主は猫猫の賭けに乗らざるを得なくなり、その後の痛快な勝利へと繋がっていった。

まとめ

変装した壬氏の動向は、統治者としての冷徹な調査能力と、猫猫の前だけで見せる人間味あふれる無防備さのギャップが魅力的に描かれたエピソードである。かつて教わった技術で地味な従者に身をやつし、増税への不満や米の密造という地方の不正に鋭く目を光らせる一方で、宿では猫猫に身を委ねて微睡むほどの深い信頼関係が示された。最終的に、猫猫の危機に対して圧倒的な財力と皇族としての覇気を漂わせて場を制圧し、賭けを成立させたその行動は、変装の皮膜を破って出た彼の強い保護欲と、事件解決における決定的な役割を象徴している。

紙の村の土地問題

作中における「紙の村の土地問題」は、やぶ医者の故郷である村を舞台に、新しい地主の不当な要求と、その裏に隠された不正を猫猫が見抜いて解決に導くエピソードである。

新しい地主による理不尽な難癖、背景にある国の税制変更、猫猫が酒の席で暴いた裏の真相、そして命懸けの飲み比べと密造の告発による決着にいたる全容は以下の通りである。

宮廷御用達の看板と利益を丸ごと奪うための不当な立ち退き要求

やぶ医者の実家がある村は、放置されていた森と山の湧水を利用して高級紙を作り、宮廷御用達として成功を収めた村であった。

・村の土地と森は地主からの借り物であり、20年で支払いを終えれば買い取れるという正式な契約を結んでいた。

・しかし、先代から代替わりした新しい地主はよそ者や職人を嫌っており、紙作りで水を汚すから米の収量が減った、などと難癖をつけるようになる。

・まだ5年の支払期限が残っているにもかかわらず、残額を一括で支払うか、土地から出ていくよう迫った。

・猶予期間を与える代わりに紙作りの技術を教えるよう要求し、村から職人を追い出して紙作りの利益と宮廷御用達の看板を丸ごと奪うことを目論んでいた。

識字率向上に伴う紙への減税と穀物税の引き上げによる歪み

地主が村への不満を募らせていた背景には、国が実施した新たな税制が関係していた。

・国は識字率向上のために紙の税を安くする一方で、今後の蝗害への備えとして、豊かな土地からの穀物税を引き上げていた。

・この税制変更により、地主自身の税負担が増加することとなる。

・これに不満を抱いた地主が、税の負担の矛先を国から優遇されている紙の村へ向けていた。

高級な透明の酒から見抜いた収穫の隠蔽と地主の個人的な嫌がらせ

話し合いの場である飯屋に同行した猫猫は、地主側の農民たちが飯屋の主流である濁り酒ではなく、上等な透明の酒である蒸留酒を振る舞われていることに違和感を抱き、以下の真相を見抜く。

・米の収穫増と酒の密造による二重の税逃れ:地主は水を汚されたと主張していたが、猫猫は、紙作りで出る米ぬかの糊や木屑はむしろ良い肥料となり、実際の米の収穫は減るどころか増えていたはずだと推測した。地主はその増えた収穫を役人に隠し、それを密かに酒造りに回して販売することで、二重に税逃れを行っていた。

・個人的な嫌がらせの理由:さらなる騒動の火種として、やぶ医者の甥である長男と地主の娘が恋仲になっており、長男を毛嫌いする地主が二人の関係を認めまいとしていたという、間抜けな痴話事も嫌がらせの大きな原因であったことが発覚した。

酒精を用いた飲み比べの勝利と密造の告発による完全なる屈服

猫猫は自らを女街に売る権利を担保にして地主側に飲み比べの賭けを挑み、自身の杯に消毒用の酒精を混ぜるという策を用いて地主たちを潰し、証文を奪い取る。

・地主が賭けを反故にしようとすると、猫猫は酒の密造と税逃れを役人に告発すると脅すことで地主を完全に黙らせた。

・結果として、村の土地問題は契約通り、あと5年で金を返す、ことで決着した。

・これにより、村の危機は無事に回避されることになった。

まとめ

紙の村の土地問題は、新地主の強欲さと個人的な感情から生じた立ち退き要求に対し、猫猫の観察眼と機転によって逆転勝利を収めた事件である。地主が主張する米の減収という嘘を、紙作りの副産物がもたらす肥料効果から見抜き、高級な蒸留酒の存在から組織的な密造と税逃れの隠蔽工作へと結びつけた。自身の身代を賭けた危険な飲み比べで主導権を握り、密造の事実を盾に地主を完全に脅し伏せたことで、村は本来の契約期間を守ることに成功した。この解決劇は、猫猫の冷徹な交渉術と、身内の縁者を守るための容赦のない実行力を如実に示している。

酒の飲み比べ勝負

作中における「酒の飲み比べ勝負」は、紙の村の土地を不当に奪おうとする地主から村を守るため、猫猫が仕掛けた痛快な勝負のエピソードである。

不自然な酒から始まった賭けの申し出から、自らの身を担保にしたやり取りと壬氏の援護、次々と農民を破った連勝劇、そして酒精を用いたトリックによる地主への勝利と密造の告発にいたる全容は以下の通りである。

上等な蒸留酒の流通から見抜いた密造の疑惑と勝負の提案

紙の村の権利を巡る話し合いの場である飯屋において、地主側は村人たちに借金の一括返済か立ち退きという理不尽な要求を突きつけていた。

・話し合いを見守っていた猫猫は、飯屋で出されている酒の主流が濁り酒であるにもかかわらず、地主だけでなく小作人の農民たちにまで上等な透明な酒である蒸留酒が振る舞われていることに気づく。

・そこから地主が裏で酒の密造と税逃れをしている可能性を察知した。

・猫猫は状況を動かすために、自ら地主たちへ飲み比べの賭けを申し出た。

身代を賭けた要求と変装した壬氏による大金を用いた圧倒

猫猫は村の借金残額が四千五百であることを確認すると、賭けの元手として、自分を女街に売れば銀三百にはなる、と自らの身を担保にする。

・農民たちは猫猫を、土に汚れた大根、と侮辱して殴りかかろうとしたが、そこへ変装した壬氏が割って入る。

・壬氏は卓に大きな銭袋を叩きつけて大量の金銀を見せつけ、この娘が銀三百で買えるなら安いものだ、と不気味な凄みを見せて場を圧倒した。

・この大金を見た地主は、猫猫の背後には十分な資金があると判断し、飲み比べの賭けに乗ることを決めた。

強い酒を淡々と飲み干す連勝と借金を補う証文の獲得

勝負が始まると、猫猫は度数の高い蒸留酒を相手に次々と飲み比べを行った。

・農民たちは猫猫を甘く見て一気飲みをしたが、強い酒に耐えきれずに一人、二人と次々に潰れていく。

・猫猫は前の酒が残っている不利な状況でも淡々と勝ち続け、4人に連勝した。

・これにより借金をカバーできるだけの直筆と手形付きの証文を勝ち取る。

・そして最後に、酒に強い本命の地主自身が勝負の相手として立ち塞がった。

消毒用酒精を用いた計略と税逃れの告発による完全な屈服

地主との勝負の際、猫猫は、酒の味に飽きた、と言って懐から小瓶を取り出し、自分の杯に謎の液体を注いだ。

・酔い止めの薬を疑った地主は、自分の杯にも同じものを入れさせる。

・猫猫が平然と飲み干したのを確認した地主も一気に酒をあおったが、直後にその場に倒れ伏して敗北した。

・小瓶の中身は医療用の消毒用の酒精であり、普通の酒とは比べ物にならないほど度数が高かったのである。

・目を覚ました地主は敗北を認めず、賭けは反故だ、と喚き散らしたが、猫猫は酒樽の前に立ち、見抜いていた酒の密造と二重の税逃れを役人に告発すると脅しをかけた。

・痛いところを突かれた地主側は完全に沈黙し、最終的に紙の村の土地問題は、契約通りあと5年で金を返す、ことで決着した。

・また、猫猫自身も賭けの取り分として、今後十年間、緑青館へ一定量の米を送らせる、という実利をしっかり確保した。

まとめ

酒の飲み比べ勝負は、地主の隠された犯罪を見抜いた猫猫が、自身の知略と強靭な内臓、そして壬氏の強力な財力援護を組み合わせて勝利をもたらした鮮やかな逆転劇である。農民たちの侮りを利用して次々と潰し、地主の猜疑心を逆手に取った消毒用酒精のトリックで本命を昏倒させた。敗北を認めない往生際の悪さに対しても、酒の密造と税逃れの告発という決定的な手札を突きつけて脅し伏せ、村の契約を守るだけでなく緑青館への米の配給という利益までをももぎ取った一連の顛末は、猫猫の徹底した現実主義と容赦のない交渉術を象徴している。

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薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~ 21レビュー
薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~ まとめ
薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~ 23レビュー

登場キャラクター

宮廷・官吏・軍関係者

猫猫

薬屋であり、緑青館の者である。壬氏たちと行動を共にし、事件の謎を解き明かす。鋭い観察眼と推理力を持つ。毒や薬に関する豊富な知識を備える。羅門を養父としている。

・所属組織、地位や役職
 薬屋。緑青館の者。

・物語内での具体的な行動や成果
 劇場で白娘々の仙術の仕掛けを見抜いた。左膳を薬師見習いとして指導した。紙の村で地主の不正を暴き、飲み比べの賭けに勝利して村の借金問題を解決へ導く。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 壬氏から仕事の依頼を受ける立場にある。

羅半

数字に強い執着を持つ変人である。猫猫とともに白娘々の見世物を観覧する。

・所属組織、地位や役職
 官吏。

・物語内での具体的な行動や成果
 猫猫に白娘々の舞台へ行くよう促した。紙の村がある地方の米の出荷量に不自然な点があることを壬氏に報告した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 数字に関する分析能力は高く、壬氏から信頼を得ている。

陸孫

猫猫や羅半とともに白娘々の見世物を観覧する人物である。

・所属組織、地位や役職
 所属組織や役職の詳細は文書内に明記されていない。

・物語内での具体的な行動や成果
 劇場で酒杯に手を伸ばしたところを猫猫に制止された。猫猫による仙術の種明かしを聞いて納得を示す。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項に関する詳細な記述はない。

壬氏(王氏)

皇帝の弟であり、美しい容姿を持つ。お忍びの際には変装を施す。

・所属組織、地位や役職
 皇族(皇弟)。表向きは宦官。

・物語内での具体的な行動や成果
 猫猫に遠出の仕事を依頼した。右頬に火傷の跡を作る変装で紙の村を訪れる。飲み比べの賭けで農民に殴られそうになった猫猫を大金を見せつけてかばった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 皇族としての絶大な権力と財力を有する。

馬閃

壬氏の乳兄弟であり、真面目で融通が利かない一面を持つ。

・所属組織、地位や役職
 壬氏の従者。お忍びの際は主人役を務める。

・物語内での具体的な行動や成果
 壬氏の変装に合わせて主人役を演じた。化粧直し中の猫猫と壬氏を見て叫びそうになり、二人に取り押さえられる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項に関する詳細な記述はない。

緑青館・薬屋

緑青館を取り仕切る人物である。金銭に厳しい性格を持つ。

・所属組織、地位や役職
 緑青館のやり手婆。

・物語内での具体的な行動や成果
 猫猫が薬屋を留守にする際、説得を要する存在として言及された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項に関する詳細な記述はない。

趙迂

緑青館に出入りするやんちゃな少年である。絵を描くことを好む。

・所属組織、地位や役職
 所属組織や役職の詳細は文書内に明記されていない。

・物語内での具体的な行動や成果
 蓬と間違えて毒草の附子を摘んできた。逃げ出した毛毛に食事中の魚を奪われる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 絵を描いて小遣い稼ぎをしており、他店の妓女からも依頼を受けるようになった。

梓琳

貧民街出身の少女である。趙迂と行動を共にする。

・所属組織、地位や役職
 所属組織や役職の詳細は文書内に明記されていない。

・物語内での具体的な行動や成果
 趙迂と一緒に附子を摘んできた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項に関する詳細な記述はない。

左膳

緑青館で働く男である。元は農民であり、医官から知識を学んだ過去を持つ。

・所属組織、地位や役職
 緑青館の男衆。

・物語内での具体的な行動や成果
 毒草の附子を見分け、根を持ち帰った。猫猫から本を渡されて薬の調合を教わる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 猫猫の指導により、薬師として店を任せられる存在になる。

毛毛

立派な首輪をつけた三毛猫である。図々しく食い意地が張っている。

・所属組織、地位や役職
 鈴麗公主の愛玩動物。

・物語内での具体的な行動や成果
 やぶ医者に連れられて緑青館に現れたが、妓女の声に驚いて逃げ出した。趙迂が食べようとしていた魚を叩き落として食べる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 宮中からやぶ医者の実家へ預けられることになった。

白娘々の一座・劇場関係者

白娘々

白い髪と肌、赤い目を持つ娘である。仙女として振る舞い、観客を魅了する。目が悪い代わりに聴覚が鋭い。

・所属組織、地位や役職
 白娘々の一座の主役。

・物語内での具体的な行動や成果
 舞台で数字を当てる術や金属を変化させる術を披露した。最後に水銀とみられる銀色の液体を飲み干す。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 見世物終了後、一座とともに跡形もなく姿を消した。

白娘々の一座

白娘々を支える集団である。

・所属組織、地位や役職
 白娘々の一座。

・物語内での具体的な行動や成果
 数日後に跡形もなく姿を消した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 都に謎の食中毒事件を残す。

紙の村・地主関係者

やぶ医者

気が弱く、おしゃべり好きな中年男性である。

・所属組織、地位や役職
 後宮の元医官。宦官。

・物語内での具体的な行動や成果
 毛毛を連れて里帰りのため花街を訪れた。壬氏たちを伴って実家の村に帰省する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 甥から宦官であることを理由に見下されている。

やぶ医者の妹

やぶ医者の妹である。兄によく似た柔和な顔立ちを持つ。

・所属組織、地位や役職
 村長の妻。

・物語内での具体的な行動や成果
 帰省したやぶ医者や猫猫たちを出迎え、食事を振る舞った。猫猫が話し合いの場に同行することを心配して止めようとする。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項に関する詳細な記述はない。

義弟

やぶ医者の妹の夫である。義兄であるやぶ医者に敬意を払っている。

・所属組織、地位や役職
 紙の村の村長。

・物語内での具体的な行動や成果
 やぶ医者に土地の権利問題について相談した。地主との話し合いの場に参加する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項に関する詳細な記述はない。

長男

やぶ医者の妹夫婦の上の息子である。学がなく、官を嫌う。地主の娘と恋仲になっている。

・所属組織、地位や役職
 紙職人の一人。

・物語内での具体的な行動や成果
 やぶ医者に対して無礼な態度をとった。地主との話し合いの場に同席し、泣いて謝る地主の娘をかばう。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項に関する詳細な記述はない。

義弟一家

やぶ医者の妹とその家族である。

・所属組織、地位や役職
 紙の村の住人。

・物語内での具体的な行動や成果
 やぶ医者に地主とのトラブルについて話し、助けを求めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項に関する詳細な記述はない。

村人たち

紙作りを行う村の住人たちである。

・所属組織、地位や役職
 紙の村の住人。

・物語内での具体的な行動や成果
 地主からの不当な要求に苦しめられている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項に関する詳細な記述はない。

紙職人たち

村で紙作りを行う職人たちである。

・所属組織、地位や役職
 紙職人。

・物語内での具体的な行動や成果
 地主との話し合いの場で小さくなっていた。猫猫の飲み比べの行動に唖然とする。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 猫猫の活躍により土地の権利を守ることができた。

地主

村の土地を管理する新しい地主である。よそ者や職人を嫌っている。

・所属組織、地位や役職
 地主。

・物語内での具体的な行動や成果
 村人たちに借金の一括返済か立ち退きを迫った。裏で米の収穫を隠し、酒の密造と税逃れを行っていた。猫猫との飲み比べで消毒用の酒精を飲んで倒れる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 猫猫に不正を告発すると脅され、不当な要求を取り下げた。

地主の娘

地主の娘である。やぶ医者の甥(長男)と恋仲になっている。

・所属組織、地位や役職
 地主の娘。

・物語内での具体的な行動や成果
 話し合いの場に駆け込み、父親の無体な要求を村人たちに謝罪した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項に関する詳細な記述はない。

地主側の男たち

地主に取り巻く小作人や用心棒である。

・所属組織、地位や役職
 地主の手下。

・物語内での具体的な行動や成果
 猫猫を田舎娘と侮辱して殴りかかろうとしたが、壬氏に止められた。飲み比べで次々と酒に酔い潰れる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項に関する詳細な記述はない。

先代地主

現在の地主の前任者である。婿養子であり字が読めなかった過去を持つ。

・所属組織、地位や役職
 先代の地主。

・物語内での具体的な行動や成果
 村人たちと二十年で土地を譲る契約を結んだ。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 すでに亡くなっている。

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展開まとめ

第九十四話 白娘々

白娘々の登場

夜に一度だけ現れる見世物として、白い髪と赤い目を持つ仙女・白娘々が舞台に現れた。彼女は錬丹術によって不死の薬を作るという噂を持つ存在であり、猫猫たちは観客席からその姿を見ていた。

選ばれた猫猫

舞台では劇場の配置図が示され、投げられた道具が猫猫たちの席を指し示した。羅半は猫猫に舞台へ行くよう促し、猫猫は白娘々を間近で観察できる機会として檀上へ向かった。

数字を書く試し

白娘々は猫猫に好きな数字を書くよう求めた。猫猫は白娘々から見えないように数字を書き、紙を小さく折り曲げた。その後、百本の筒が並んだ箱の中から一つを選び、紙を詰め込むよう指示された。

白娘々の手

猫猫が紙を筒に入れて紗を掛けると、銅鑼が鳴った。白娘々は猫猫の手を取り、猫猫はその冷たい手に触れた際、白娘々の目が悪いことに気づいた。

数字を当てる仙術

白娘々は猫猫が書いた数字を七だと言い当てた。さらに、紙を詰めた筒の位置についても、上から三番目、左から二番目だと告げた。猫猫は周囲の靄や暑さ、頭痛を感じながら、白娘々の言葉を聞いていた。

数字当ての種明かしはされず

白娘々の指示どおり、男は指定された筒から紙を取り出し、中に書かれていた数字が「七」であることを示した。会場は歓声に包まれたが、猫猫には仕掛けが分からず、不思議なまま席へ戻った。

猫猫の推理

羅半は猫猫が何か細工をされたのではないかと疑ったが、猫猫はそれを否定した。猫猫は文字も紙を入れた筒も見られていないはずだと考え、鏡などを利用した可能性も検討した。しかし、舞台の環境や白娘々の視力を踏まえると、その方法も成立しないと判断した。

金属を変える演目

続いて白娘々は、銅片と液体を使った新たな演目を始めた。客に確認させた銅片を液体に浸し、祈りと舞を披露した後、取り出した金属は銀色へと変化していた。さらに火にかけることで、今度は金色へと変わり、観客を大いに驚かせた。

猫猫が仕掛けを見抜く

羅半は現象の説明を猫猫に求めたが、猫猫は答えを後回しにし、見世物を最後まで楽しむことを優先した。猫猫は仕掛けに気付きながらも、次々と披露される珍しい術に興味を引かれ、観察を続けた。

続く仙術の数々

白娘々は、紙の上で火を起こす術や蝶を出現させる術など、さまざまな見世物を披露した。幻想的な演出に観客は次々と歓声を上げ、会場は大きな盛り上がりを見せた。

銀色の液体を飲む白娘々

最後の演目では、白娘々は銀色に輝く液体を盃へ注ぎ、そのまま飲み干した。猫猫は思わず身を乗り出すほど驚き、その様子を凝視した。白娘々は観客へ別れの挨拶を告げると、舞台を後にした。

酒に混ぜられたもの

白娘々の見世物が終わった後、観客たちは興奮した様子で語り合っていた。猫猫は陸孫が酒杯に手を伸ばしたのを止め、自分の酒を匂いや肌への反応で確かめた。その結果、酒には毒ではないが、酒精の弱さに対して酔いやすくする混ぜ物が入っていると判断した。

信仰を生む仕掛け

猫猫は、薄暗い室内、揺れる提灯、靄、幻想的な白娘々の姿、不可思議な仙術が組み合わさることで、観客を信じ込ませる仕掛けになっていると考えた。会場の中には、すでに白娘々を信奉する者が何人もいると見ていた。

仙術の種への気づき

猫猫は酒杯に指を入れ、果実酒を墨のように卓の上へ滑らせた。それをきっかけに、先ほどの仙術にも別の仕掛けがあると気づいた。舞台上の靄は湯気であり、暑さの理由もそこにあると考えたが、頭痛や耳障りな感覚の正体についてさらに考え始めた。

白娘々の反応

猫猫は舞台奥に白娘々の姿を見つけると、小さく口笛を吹いた。周囲は騒がしく、遠くまで届く音ではなかったが、白娘々はその音に反応した。猫猫はその様子から、白娘々の仙術の正体に近づいた。

第九十五話「仙術の正体」

飯屋で始まる種明かし

猫猫たちは緑青館に戻る前に飯屋へ入り、白娘々の仙術について話すことにした。羅半は高い料理と酒を頼む猫猫に文句を言ったが、猫猫は気にせず説明を始めた。

金属変化の仕組み

猫猫は、銅を銀や金に変えた術は黄白術に似ていると説明した。ただし実際に銅が銀や金に変わったわけではなく、金属の表面に別の金属の膜を張り、火で炙って見た目を変えたものだと述べた。

見世物を支えた環境

猫猫は、会場が薄暗く靄に包まれ、観客が混ぜ物入りの酒で酔っていたことも、見世物を本物らしく見せる要因だったと説明した。紙の蝶や自然発火のような演目も、材料や副産物を利用した奇術で再現できるものだった。

数字を読んだ方法

羅半は、猫猫が書いた数字と紙を入れた筒の位置を当てた仕組みを尋ねた。猫猫は紙と汁を使ってあぶり出しを実演し、見えない跡が熱で浮かび上がることを示した。

墨に仕込まれた塩

猫猫は、舞台で使った墨には塩のようなものが混ぜられていたと説明した。薄い紙に書いた数字の墨が下の黒い下敷きに染み込み、乾くと白い粉として浮かび上がるため、白娘々側は猫猫が書いた数字を知ることができたのだった。

紙の位置を見抜いた仕組み

猫猫は紙を折って簡単な笛を作り、筒が笛の穴と同じ役割を果たしていたと説明した。紙を詰めた筒は穴を塞いだ状態となり、音の高さが変化する仕組みだった。

高周波を聞き分ける白娘々

劇場では銅鑼や鈴の音に紛れ、非常に高い笛の音が鳴らされていた。猫猫はその音で頭痛を感じており、人によって聞こえる音域が異なることを実演して見せた。白娘々は優れた聴覚と日頃の訓練によって、その高い音を聞き分けていたのだと推測した。

百本の筒を使った音の暗号

百本の筒は笛の穴に見立てられており、紙を詰めた位置によって音程が変化する仕組みだった。さらに百種類すべてを覚える必要はなく、銅鑼や鈴を合図に十回に分けて音を鳴らすことで、紙の位置を特定できるよう工夫されていた。

蒸気で笛を鳴らす仕掛け

笛の音は人が直接吹いたのではなく、箱のそばにいた男が空気の流れを操作していたと猫猫は説明した。劇場に立ち込めていた靄は湯気であり、その蒸気を机の下から箱へ送り込むことで音を鳴らしていたのだった。

仙術の正体と最後の警告

猫猫は、これまで説明した仕掛けこそが仙術の正体だったと結論づけた。そして白娘々が最後に飲んだ銀色の液体は猛毒であり、本当に飲んだかどうかは別としても、決して真似をしてはならないため、高官たちへ正しく説明する必要があると念を押した。

消えた白娘々の一座

白娘々の一座は、数日後に跡形もなく姿を消した。後に残ったのは、都の商人たちを巻き込んだ謎の食中毒事件だった。猫猫は、白娘々たちが何を目的としていたのか分からないままだった。

水銀という猛毒

猫猫は、白娘々が最後に飲んだ銀色の液体について考えていた。かつて権力者たちは不老不死を求め、水のような銀を薬として口にしたが、それは水銀であり、命を縮めるものだった。

毒にも薬にもなるもの

水銀は液体のまま体外へ排出されれば必ずしも重い毒とはならないが、蒸気として吸ったり、別の物質と結びついて形を変えたりすれば猛毒となるものだった。猫猫は、毒と薬は使い方次第であると考え、丹砂を薬棚へ片付けた。

第九十六話 向き不向き

王氏からの面倒な依頼

猫猫は王氏から届いた文を読み、いつも以上に面倒な内容だと考えていた。断ることもできないため、準備が必要だと判断し、婆をどう説得するか思案していた。

毒草を摘んできた子どもたち

趙迂と梓琳は草餅を作るために若草を摘んできたが、猫猫が確認すると、それは蓬ではなく毒草の附子だった。猫猫は二人を叱り、勝手に外を歩き回ったことも注意した。

左膳の薬草知識

引率していた左膳は、毒草であることを理解したうえで、後で蓬と取り替えるつもりだった。さらに危険な附子の根を抜いて持ち帰っており、猫猫は左膳に薬草の知識があることを知った。

薬師としての適性

猫猫は左膳に薬草を次々と見せ、効用を答えさせた。左膳は棚の薬草の半分ほどを理解しており、字も読めることが分かった。猫猫は左膳に薬草の本を覚えるよう命じ、昼間は薬屋へ通うよう告げた。

左膳への新たな道

猫猫は、男衆の仕事があまり得意ではない左膳には、薬屋の仕事のほうが向いているのではないかと考えた。薬屋を辞めるつもりはないが、もう一人か二人ほど薬師がいてもよいと判断した。

左膳を薬師候補にする猫猫

猫猫は、薬に興味のない趙迂よりも、薬草の知識がある左膳を仕込んだほうが早いと考えた。王氏との関わりで薬屋を留守にする機会も増えそうなため、代わりに店を見られる人材が必要だった。

自信のない左膳

左膳は、自分はただの農民であり、薬草も言われたものを取っていただけだと尻込みした。猫猫は、薬を知らない医者より左膳のほうが役に立つと説き、できないことはできないと言えばいいと割り切らせた。

急ぎの薬師修行

猫猫は左膳に本を覚えさせ、昼間は薬屋に通わせることを決めた。左膳は飲み込みが早く、簡単な調合や図録の確認もこなしていった。猫猫は畑の薬草も教え、必要な薬作りを覚えさせた。

毛毛とやぶ医者の来訪

猫猫が薬を届けに外へ出ると、立派な首輪をつけた三毛猫の毛毛が現れた。続いてやぶ医者も姿を見せ、久しぶりに里帰りの許可が出たことを話した。

壬氏からの遠出の依頼

やぶ医者は、途中まで同行する人物がいると聞かされていた。猫猫は、壬氏から届いていた遠出の依頼と結びつけ、急いで左膳に薬屋の仕事を教えていた理由を改めて認識した。

逃げ出した毛毛

やぶ医者は、毛毛を実家で飼ってもらうつもりだと話した。だが、妓女たちの声に驚いた毛毛は逃げ出し、緑青館の食堂へ入り込んだ。毛毛は趙迂たちの前で止まり、趙迂が魚を差し出そうとした。

やぶ医者の里帰り

やぶ医者は、久しぶりに里帰りの許可を得たと話した。ただし、道中を共にしたい人物がいるという条件が付いており、その相手がやぶ医者の実家の村を見たがっていることも明かした。

紙作りの村への同行

猫猫は、以前やぶ医者の妹から紙の質について文が届いていたことを思い出した。紙作りに関する新たな問題が起きた可能性を考えたが、やぶ医者は詳しい説明を現地に着いてからにしてほしいと頼んだ。

馬閃の到着

猫猫が同行を承諾すると、外から馬の声が聞こえた。そこへ馬閃が現れ、猫猫に準備ができているか確認した。

第九十七話 紙の村

変装した壬氏との合流

猫猫は、火傷跡を隠した地味な青年に変装した壬氏と合流した。壬氏は従者として振る舞い、主人役は馬閃が務めていたため、やぶ医者は壬氏の正体にまったく気付かなかった。

急な出発と紙の村への道中

馬閃に促され、一行は急ぎ紙の村へ向かった。馬車で二日ほど進むと、水路が整備された豊かな農地が広がっていた。やぶ医者は、この地域では稲と麦の二毛作を行い、水が土へ栄養を運ぶため土地が痩せにくいことを説明した。

紙作りで栄えた村

やぶ医者は、移住当時は良い農地がすでに埋まっていたため、放置されていた森を利用して紙作りを始めたと語った。紙の原料となる木や湧き水に恵まれていたことから、高級紙の生産で成功し、村は豊かになったという。一方で、猫猫は畑で麦を踏む農民の鋭い視線に違和感を覚えた。

やぶ医者の里帰り

村では妹が出迎え、やぶ医者は十数年ぶりの帰郷を喜んだ。毛毛は妹に預けられ、猫猫たちも客として迎えられる。妹は猫猫たちを「職場の上司と助手」だと受け止め、そのまま家へ案内した。

食卓での出来事

妹は急いで料理を用意し、一行をもてなした。食事中、妹が「宦官なのに若い嫁を連れてきたのかと思った」と冗談を口にすると、壬氏は動揺して茶碗を取り落としてしまう。妹は気にする様子もなく、「すぐ新しいお茶を用意しますね」と席を立った。

義兄への反発

やぶ医者の義弟一家が食卓に集まる中、義弟の長男だけは挨拶もせず食事を始め、長年村を離れていたやぶ医者を宦官と侮って冷たい態度を取った。猫猫はその態度に腹を立て、長男が取ろうとした料理を先に食べ始める。やぶ医者は気にしていない様子だったが、家族は長男の無礼を詫びた。

村人の願い

食事が落ち着くと、義弟は本題を切り出した。やぶ医者が天子の子の出産に関わった名医だと聞き、宮中へ願いを届けてほしいと頼む。しかし、やぶ医者はそのような願いは身分不相応だとして断ろうとした。

猫猫が危険性を指摘

猫猫は、宮中へ直接願いを届けることの危険性を説明した。過去に後宮の医官が責任のない件で処罰され、後宮を追われた例を挙げ、軽率な直訴は命に関わる可能性があると忠告する。その話を聞いた一家は考えを改め、やぶ医者も事情を聞く姿勢を見せた。

土地を巡る問題

義弟は、村の土地は近隣の地主から長期契約で借りており、将来的には買い取る約束になっていると説明した。しかし地主が代替わりすると状況は一変し、新しい地主は村人や職人を嫌い、紙作りで成功した村を快く思わなくなったという。

地主の嫌がらせ

新しい地主は、水を汚して米の収穫を減らしたなど根拠のない言い掛かりを繰り返し、以前から借金の催促を続けていた。そして今回は、まだ五年残っている支払期限を無視して残額の一括返済を要求し、応じなければ村から立ち退けと迫っていた。村人たちは家や工房を失う危機に追い込まれていた。

問題の背景を察する猫猫

村人たちは、地主が村を追い出して紙作りの技術ごと奪おうとしているのではないかと考えていた。さらに近年、穀物税が引き上げられた一方で紙の税は引き下げられており、その政策によって地主の不満が強まっていることを知った猫猫は、紙の普及によって識字率を高めようとする国の思惑が、この騒動の背景にあると推測した。

税と蝗害の影響

猫猫は、穀物税の引き上げが蝗害への備えであり、豊かな土地から穀物を集めるための政策だと考えた。壬氏の判断は間違っていないものの、その負担が紙の村へ向かっていることも理解した。

紙作りの村を狙う者

紙作りは知識と経験がなければ成り立たないため、村を奪っても簡単に再現できるものではなかった。それでも地主側は、紙作りの利益を狙って村を手に入れようとしていると見られた。

税の引き下げという無茶な頼み

村側は、やぶ医者を通じて税の引き下げを願えないかと考えていた。しかし猫猫は、それが無茶な願いだと判断した。壬氏が納得したとしても、国の命令を簡単に変えれば混乱を招くためである。

明日の話し合いへの同行

やぶ医者は、自分はただの宦官に過ぎないとして願いを退けた。それでも村側は、翌日の話し合いに同行してほしいと頼む。馬閃も第三者として同席すると申し出て、やぶ医者も同行を了承した。

やぶ医者の実家に泊まる一行

一行は村長でもあるやぶ医者の義弟の家に泊まることになった。猫猫、やぶ医者、壬氏と馬閃、護衛たちにそれぞれ部屋が用意される。客人として風呂も勧められたが、馬閃は遠慮した。

壬氏の訪問

猫猫は部屋で身体を拭き、髪を洗っていた。すると戸を叩く音がし、猫猫が返事をしても返答はなかった。不審に思って戸の隙間から外を見ると、そこには火傷跡の男に変装した壬氏が立っていた。

第九十八話 飲み比べ

火傷跡の化粧直しを頼まれる

猫猫は変装姿の壬氏を部屋へ招き入れた。壬氏は右頬の火傷跡を隠す化粧が薄れてきたため、化粧を落として作り直してほしいと頼む。猫猫は赤い染料と糊、白粉を使えば再現できると判断し、その依頼を引き受けた。

無防備な壬氏の変装解除

壬氏は猫猫が使った湯でそのまま化粧を落とそうとし、猫猫は内心複雑な思いを抱きながらも何も言わなかった。猫猫は壬氏の顔を丁寧に拭き、火傷跡を覆っていた化粧を落としていく。傷跡は薄くなりつつあったが、完全に消えることはないと見ていた。

立ち寄った本当の目的

猫猫が医官の実家へ立ち寄った理由を尋ねると、壬氏はここが目的地ではなく通過地点であり、増税への反応を直接見たかったと明かした。さらに、この地方では米の出荷量に不自然な点があり、羅半が異変を指摘していたことも説明する。

製紙業への懸念

壬氏は、この土地では今後製紙業に力を入れる予定であり、技術を持つ職人が素人に置き換えられるような事態は避けなければならないと考えていた。今回の騒動も、その問題に関わる可能性を懸念していた。

壬氏の眠気と化粧のやり直し

話を終えた壬氏は眠気に襲われ、そのまま寝台へ横になった。猫猫は火傷跡を作り直すため、糊と染料を混ぜて傷跡の周囲へ丁寧に塗り直していく。乾燥する季節なら十分に変装として通用すると判断した。

無防備な壬氏に呆れる猫猫

猫猫は、壬氏が自分に顔を預けたまま無防備に眠りかける姿を見て、あまりにも警戒心が薄いと呆れた。馬閃ではこのような細かな作業はできないため自分が同行させられたのだと理解しつつも、皇弟である壬氏が不用意な姿を人前で見せれば大騒ぎになるだろうと危惧した。

壬氏の補佐役への疑問

猫猫は、壬氏の補佐として馬閃が選ばれていることに疑問を抱いた。壬氏は馬閃にも役に立つ部分はあると庇ったが、その言い方はどこか曖昧だった。猫猫は、乳兄弟である壬氏が馬閃に甘いのではないかと感じていた。

変装化粧の完成と悪戯

猫猫は壬氏の火傷跡の化粧を仕上げたあと、自分の顔にも糊と染料を塗りつけ、化け物のような顔を作った。壬氏はそれを見て笑いをこらえきれず、猫猫もさらに悪戯を続けた。

馬閃の誤解を招く騒動

そこへ馬閃が部屋へ入ってきた。馬閃は、赤く汚れた顔の猫猫が壬氏に迫っているような光景を目にして叫びかける。猫猫と壬氏は即座に馬閃を押さえ込み、騒ぎにならないよう口を封じた。

話し合いの場へ同行する猫猫

翌日、猫猫はやぶ医者たちとともに、地主側との話し合いの場へ向かった。場所は近くの飯屋であり、紙作りの村の者たちと地主側の男たちが向かい合っていた。猫猫は、場の空気が荒れそうだと見て警戒していた。

地主側の一方的な要求

地主は、土地代の支払いを急がせ、金が用意できないなら出ていくよう迫った。さらに来年まで待つ代わりに、紙作りの技術を自分たちへ教えるよう要求した。猫猫は、村を奪い、職人だけを入れ替えるつもりなのだと見抜いた。

契約書をめぐる不自然な主張

猫猫は卓上の契約書に注目した。契約書には二十年で支払いを終える内容と返済額、花押印が残されていたが、地主側は代書屋が勝手に書いたものだとして無効を主張していた。先代地主が字を読めなかったこともあり、話はさらにこじれていた。

濁り酒ではない酒への違和感

話し合いが地主側に押し切られそうになる中、地主側の男たちは酒を頼み始めた。猫猫は運ばれてきた酒に目を留める。店の主流は濁り酒のはずだったが、杯に注がれていたのは透明な酒であり、猫猫はその違和感に気付いた。

違和感のある酒

猫猫は地主たちが飲んでいる酒に目を留め、小作人にまで高価な澄んだ酒が振る舞われていることへ違和感を抱いた。自らも同じ酒を頼み、壬氏にも同じ酒を用意させる。酒は都のものほど洗練されてはいないものの、味の割に酒精が強い酒であることを見抜いた。

酒蔵への疑問

猫猫は近くに酒蔵があるかを尋ねたが、そのような施設はないと知らされる。大量の濁り酒がある店で地主側だけが上等な酒を飲んでいる状況から、猫猫は何か裏があると考えた。

飲み比べの提案

地主たちの前へ進み出た猫猫は、飲み比べを提案した。周囲は無謀な行動に驚くが、壬氏は馬閃を制し、静かに成り行きを見守った。

猫猫を賭ける勝負

借金の残額が四千五百であることを確認した猫猫は、地主へ賭けを持ち掛ける。そして、自分を女街へ売れば銀三百になると告げ、自らを賭けの対象にしたことで、その場を騒然とさせた。

地主への挑発

地主側は猫猫の言葉を笑い飛ばしたが、猫猫は農民たちを土の付いた大根に例え、商品価値すら理解していないと皮肉を浴びせた。さらに、読み書きもできない者に紙作りが務まるのかと追い打ちをかけ、農民たちの怒りを煽った。

壬氏の援護

農民が猫猫へ掴みかかると、壬氏が間へ割って入り、大きな銭袋を卓へ叩きつけた。袋から大量の金をあふれさせ、猫猫が銀三百で買えるなら安いものだと言い放つ。その場の空気は一変し、猫猫も壬氏の意図を察して地主たちをさらに揺さぶろうとした。

第九十九話 間抜けな喜劇

賭けに乗った地主

猫猫は壬氏の金を後ろ盾に、地主へ賭けに乗るか逃げるかを迫った。地主は積まれた金を見て、猫猫を女街に売るまでもなく金があると判断し、飲み比べの賭けに応じた。

次々と潰れる相手

猫猫は地主側の男たちを相手に、蒸留酒で飲み比べを始めた。相手たちは猫猫を甘く見ていたが、酒精の強い酒に耐えきれず、一人、二人と倒れていった。

勝ちを重ねる猫猫

猫猫は三人目、四人目にも勝ち、賭け金を増やしていった。前に飲んだ酒が残っている分、普通なら猫猫が不利なはずだったが、猫猫は顔色を大きく変えず、淡々と勝負を続けた。

本命の地主

猫猫の連勝に、ついに地主本人が酒瓶を手に取った。地主は自分を他の男たちと一緒にするなと告げ、猫猫との勝負に臨んだ。

小瓶の中身

猫猫は酒の味に飽きたと言って、小瓶の中身を杯に加えた。地主は酔いを回りにくくする薬ではないかと疑い、自分の杯にも同じものを入れさせた。

倒れた地主

猫猫が先に杯を飲み干すと、地主も疑いを解いて酒を飲み干した。しかし次の瞬間、地主はその場に倒れた。猫猫は、飲み比べの勝負を利用して地主側を追い詰めていった。

賭けの後始末

猫猫は地主が倒れた理由を、酒に酔っただけだと淡々と告げた。証文を回収した猫猫は、慌てる周囲をよそに厠の場所を尋ね、そのまま席を外した。

酒精の正体

戻ってきた猫猫は、酒の味を変えるために消毒用の酒精を足しただけだと明かした。自分も同じものを飲んでいたが、地主は濃い酒をさらに強くして飲んだため倒れたのだった。

私の取り分

紙職人の旦那は猫猫が自分たちのために賭けたと思っていたが、猫猫は証文を自分の取り分だと言い切った。やぶが取りなそうとしたものの、猫猫はまだ話が終わっていないと告げた。

反故の叫び

目を覚ました地主は、先ほどの賭けを無効だと騒ぎ出した。猫猫は直筆と手形の入った証文を示したが、地主は酒の席の余興だと言い張った。

酒樽の前

猫猫は酒樽の前に立ち、役人へ税をごまかしていることを報告するしかないと告げた。その一言で場の空気は一変し、地主側の男たちは動揺した。

隠された酒造り

猫猫は、酒を造って店に卸しているなら酒税の対象になると指摘した。飯屋に大量の酒があり、地主たちが濁り酒ではなく別の酒を飲んでいたことから、密造と取引の可能性を見抜いていた。

水と収穫

地主が紙職人の村にかけていた難癖も、猫猫は嘘だと見抜いた。紙作りで流れる米ぬかや木屑はむしろ肥料になり、米の収穫は減るどころか増えていた可能性が高かった。

二重の税逃れ

猫猫は、増えた収穫を隠し、それを酒造りに回していたのではないかと推測した。地主側は証拠を求めて反論しようとしたが、その表情は猫猫の読みが大きく外れていないことを示していた。

猫猫の脅し

猫猫は証拠を求められても動じず、無実なら役人に調べられても何も出ないはずだと笑顔で返した。地主側は強く出ようとしたが、酒で倒れた者が多く、壬氏や馬閃の護衛も控えている状況では不利だった。

やり返す覚悟

猫猫は地主に、助けを呼ぶならこちらは役人を呼ぶだけだと告げた。さらに、嫌がらせをするならやり返される覚悟を持てと迫り、地主を完全に黙らせた。

地主の娘

そこへ地主の娘が駆け込んできた。彼女は父が無茶な要求をしたことを謝り、紙職人たちに許しを請うた。長男は娘をかばい、落ち着かせようとした。

痴話の発覚

地主は娘に近づく長男に激怒し、長男は地主を義父と呼んだ。これにより、長男が農民寄りだった理由と、地主が紙職人たちを追い出そうとしていた理由が、二人の関係にあることが明らかになった。

間抜けな喜劇

猫猫は、村ひとつを巻き込んだ騒動の原因がくだらない恋愛沙汰だったことに呆れた。真剣な当人たちとは裏腹に、猫猫には間抜けな喜劇にしか見えなかった。

酒の追加

やっていられなくなった猫猫は席に座り、さらに酒を頼んだ。周囲は呆れたが、猫猫はまだ飲めると平然としていた。

紙職人の村

最終的に、紙職人の村はこれまで通り、残り五年で金を返すことになった。猫猫の取り分については、今後十年間、緑青館へ米を納めることで片がついた。

知らぬ存ぜぬ

猫猫は、地主の不正についてはいずれ役人の調査が入るだろうと考えた。一方、やぶの甥と地主の娘の今後については、知ったことではないと切り捨てた。

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