どんな本?
“転生したらスライムだった件”とは、伏瀬 氏による日本のライトノベルで、異世界転生とファンタジーのジャンルに属す。
主人公は、通り魔に刺されて死んだ後、スライムとして異世界に転生。
そこで様々な出会いと冒険を繰り広げながら、魔物や人間との交流を深めていく。
小説は2014年からGCノベルズから刊行されており、現在は21巻まで発売されている。
また、小説を原作とした漫画やアニメ、ゲームなどのメディアミックスも展開されており。
小説のタイトルは「転生したらスライムだった件」だが、略称として「転スラ」と呼ばれることもある。
読んだ本のタイトル
転生したらスライムだった件12
著者:伏瀬 氏
イラスト:みっつばー 氏
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あらすじ・内容
スライムが魔王に成り上がる!?話題のモンスター転生ファンタジー!!
順調に勢力拡大を続けるテンペストに向け、ついに『東の帝国』が動き出した。 未来を知る少女“勇者クロエ”の話では、とある時間軸で、その帝国によってリムルが討たれ、テンペストが崩壊したという。 今はその時とは違った運命線にいるとはいえ、可能性が消えたわけではない。 警戒を強めるリムルであったが、そんな折、帝国の密偵がテンペストに潜入する――。 シリーズ累計450万部突破! 大人気モンスター転生ファンタジー、最新刊が登場!
転生したらスライムだった件 12
感想
テンペストがさらに勢力を広げていくなかで、ついに「東の帝国」との対立が浮き彫りになる物語である。
未来を知る少女「勇者クロエ」の予言によれば、ある時間軸ではリムルが帝国によって倒され、テンペストが滅びるという。
現在はその運命から逸れているものの、危機は完全には去っていない。
この危機感を背に、リムルは帝国の動きに警戒を強める。
物語は、帝国のスパイがテンペストに潜入し、情報を探る場面から始まる。
一方で、帝国ではギィから逃れたユウキが暗躍し、さらには異世界から来た者たちがテンペストの迷宮を攻略しようとするが、60階層で大きな壁に阻まれる。
迷宮の守護者たちの圧倒的な力と、テンペストの住民が享受する豊かな生活に心が動かされ、彼らは迷宮の研究職へと転向する。
一方、帝国側では強力な存在が明らかになり、その中にはヴェルドラの姉である竜種ヴェルグリンドや、帝国を統べる皇帝ルドラの姿もあった。
帝国の脅威はリムルたちにとって無視できないものだが、彼らは冷静に対策を練り、テンペストと帝国との間で緊張が高まっていく。
最後は、帝国とテンペストとの間で戦争が始まる直前で物語は終わる。
リムルとその仲間たちは、帝国との戦いに向けて力を合わせ、未来を切り開こうとする決意を新たにする。
この巻では、戦争前夜の緊迫した雰囲気と、リムルたちの団結力が描かれる。
本は、テンペストと帝国との対立が徐々に明らかになり、互いに警戒を深める様子を描く。
リムルと仲間たちがどのようにして危機を乗り越えるのか、続きが待ち遠しい結末で締めくくられる。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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展開まとめ
序章 道化の逃亡
ユウキの過去と理不尽な世界への憎悪
神楽坂優樹は、生まれながらに観念動力という超能力を持つ天才であったが、その力を他人に知られることを避け、慎ましく生活していた。両親の突然の事故死により、理不尽な社会構造と自身の無力さを痛感し、復讐を望むも、法治国家においては手立てがなかった。様々な事実を知る中で、加害者すら社会の被害者であると理解したユウキは、怒りの矛先を社会全体へ向けた。しかし、その高度に発展した社会を変えるには、地道な政治的活動が必要であり、それには数十年単位の時間を要する現実があった。
異世界召喚と能力の覚醒
ユウキは決断を下す前に異世界へと召喚された。召喚主は呪術王カザリームであり、彼の復活の器として利用されるはずであったが、ユウキにはその術が通じなかった。ユウキは異世界の理を理解し、魂の力によって世界を改変する力「ユニークスキル『創造者』」を手に入れた。最初に創造したのは、敵意を無効化する能力『能力殺封』であり、これによってカザリームを制し、彼を配下とした。未完成なこの世界において、自身が支配者となって理不尽を正すという目的を定め、ユウキは世界征服へと動き出した。
クロノアの暴走と神聖法皇国からの逃亡
ユウキはラプラス、フットマン、ティアと共に大聖堂を脱出し、神聖法皇国ルベリオスからの逃亡を図った。暴走状態のクロノアが出現し、あらゆる存在を敵と見なす状況となったため、現地に留まるのは危険と判断したのである。グランベルの策略によりユウキの計画は崩れたが、それを自業自得と受け入れつつ、迅速な逃亡を選択した。
ギィ・クリムゾンの出現と戦闘への導入
逃亡中のユウキたちの前に、魔王ギィ・クリムゾンとその従者であるレインとミザリーが現れた。フットマンはミザリーに瞬時に制圧され、その実力差は明白となった。ギィはユウキに興味を示し、自らの意思で接触してきた。ユウキは交渉を試みたが、ギィはルドラに戦力が加わるのを嫌い、ユウキを消すと明言した。これにより交渉は決裂し、ユウキはギィとの戦闘に備える決意を固めた。
ギィの圧倒的優位とユウキの劣勢
ユウキは自信を持って先制攻撃を仕掛けたが、ギィの肉体の硬さと魔法的能力の融合には通用せず、逆にその弱点を見抜かれてしまった。ギィの魔法「熱龍炎覇」は『能力殺封』の効果をすり抜け、ユウキを呼吸困難に陥らせた。ギィはユウキの力の限界を早々に見抜き、相手を精神的に追い詰めるため、戦いを引き延ばす姿勢を取った。
精神生命体への進化と反撃の開始
ユウキは、窮地を脱するため、自らの力を極限まで引き出した。呼吸を必要としない完全な「聖人」へと進化し、魔素量は他の魔王級に匹敵するまでに達した。しかし、それでもギィは動じず、勝利を確信していた。ギィは自らの楽しみのため、ユウキに全力を尽くさせようとしていた。ユウキはなおも奥の手として、『創造者』と『強欲者』を残しており、形勢を覆す一手として最後の挑戦に出た。
最強の魔王との真の戦いの始まり
ユウキの挑発により、再び戦いが始まった。ギィは余裕の態度を崩さず、ユウキはその態度の裏にある真意を見抜きながらも、自らの全てを賭けて挑むことを決意した。こうして、ユウキは最強の魔王ギィ・クリムゾンの真の力を目の当たりにする戦いへと突入したのである。
ギィとの戦闘における圧倒的敗北
ユウキはギィ・クリムゾンとの戦闘において、ありとあらゆる策を講じたにもかかわらず、傷一つ負わせることができずに倒された。『能力殺封』も突破され、超能力や身体能力の強化も無力であった。ラプラスはユウキの敗北を目の当たりにし、その強さを認めつつも、ギィの格が圧倒的であることを痛感した。
ラプラスの決死の策とユウキの復起
ユウキの敗北を受け、ラプラスは自身を犠牲にしてユウキ達を逃がす策を講じた。裏切りを装ってギィの注意を引くことで、ユウキに逃亡の機会を与えようとしたのである。しかし、ユウキはその意図を正確に理解し、自らの不甲斐なさに怒りを覚えながらも立ち上がった。
精神への囁きと力の拒絶
ユウキの心に、未知の存在から力を与えるという囁きが届いたが、ユウキはそれを拒絶した。他人の力ではなく、自らの手で野望を成し遂げるという意志が彼の中にあったためである。この精神的な拒絶により、ユウキは再び冷静さを取り戻した。
知略による交渉の転換
ユウキはギィが本気で殺意を持っていないことを見抜き、交渉へと切り替えた。帝国に加担する姿勢を見せつつも、内側から操ることで最終的には目的に利用するという策を語り、ギィの興味を引いた。帝国への敵対姿勢を共有することで、共通の敵を前提とした協力関係を提案したのである。
世界征服への宣言と交渉の成立
ユウキは、自らの最終目標は世界征服であり、いずれはギィをも倒す存在になると明言した。そのふてぶてしい態度がギィの興味を惹き、結果としてユウキ一行は見逃されることとなった。こうしてユウキの交渉は成功し、一行は無事にカガリとの合流地点へと向かった。
仲間たちの驚愕とユウキの精神的疲労
待ち合わせ場所で合流したユウキ一行は、ギィとの交渉の内容を語り合い、無事に帰還できたことに安堵した。ユウキは精神的疲労を感じつつも、成功したことを肯定し、そのまま休息を取った。
謎の声の正体と『強欲者』の再考
ユウキは戦闘中に聞こえた謎の声の正体について考察した結果、それが自身のユニークスキル『強欲者』に関係している可能性に思い至った。このスキルは欲望の増大と共に成長する性質を持ち、ギィとの戦闘によってユウキの欲望が限界を超えたことで新たな段階へ進化しうると考えた。
スキル進化と究極能力の覚醒
ユウキは自身の内面に眠る存在と対峙し、その意思を制して精神的勝利を収めた。これにより、ユニークスキル『強欲者』は究極能力『強欲之王』へと進化した。新たな力を得たユウキは、自らの成長に満足し、次なる野望の実現に向けて静かに動き始めた。こうして、この瞬間に「最悪の魔人」が誕生したのである。
第一章 軍靴の足音
帰国と子供達の休養措置
音楽交流会後、リムルたちは無事に帰国した。警護を担当したヴェノムやタクト一行にも怪我はなく、ディアブロが保護した子供達にも怪我は見られなかったが、精神的な影響を考慮して一週間の休養が与えられた。
会談の準備と場所の決定
ルミナスとレオンとの会談は後日に持ち越され、場所は魔国連邦の首都リムルに決定された。ルミナスのルベリオスでは復旧が優先され、レオンの黄金郷では不穏な動きがあったためである。テンペストには特に問題がなかったため、受け入れを決めた。
臨時会談の開始と出席者の布陣
翌日、ルミナスとレオンが早速訪れ、臨時の魔王会談が開かれた。リムル側からはシオン、ディアブロ、ヴェルドラが出席し、ルミナス側にはヒナタ、ルイ、ギュンターが、レオン側にはアルロスとクロードが同行した。クロエも主役として参加し、会談は厳格な布陣のもと始まった。
クロエとヒナタによる説明と未来の回想
クロエとヒナタから、過去に起きた出来事と〝無限の輪廻〟からの脱出についての説明がなされた。リムルやヒナタの助力により、クロエは輪廻から解放されたと明かされた。その後、ヴェルドラの不用意な発言から場が騒然となったが、リムルが仲裁に入り、帝国による暗殺未遂事件の話題へと移行した。
帝国の脅威と未来の戦争
帝国はリムルやヒナタを殺害し、暴走したヴェルドラさえ撃退するほどの戦力を有していた。未来においてはヴェルドラの消滅と魔国連邦の崩壊、西と東の全面戦争が勃発し、ミリムとギィ、ダグリュールとルミナスの対立が発生していた。クロノアは戦いの中で命を落としたが、その死の間際に時間遡行が発動し、クロエに精神と記憶が転移されたとされた。
クロノアとリムルの関係の背景
クロノアは未来世界で暴走していたが、リムルにより救われたことで深い感情を抱くようになっていた。記憶の断片からは、リムルが復活して再会し、戦いを経てクロノアの心を取り戻させた様子が推察された。クロエによれば、当時のリムルは今よりも遥かに強く、『智慧之王』へと進化していた可能性が高いと示唆された。
ダグリュールと息子達に関する懸念
未来で戦争を引き起こしたダグリュールの動向についても議論されたが、現在では彼の息子達がテンペストに滞在しており、シオンの指導のもと鍛錬を重ねていることが明かされた。ルミナスはこの情報に驚きを見せつつも、今後の警戒を強化する姿勢を見せた。
ギィ・クリムゾンの立場と調停者の役割
ギィについても話題が及び、彼がクロノアを殺した可能性が高いと推測された。その理由として、世界の崩壊を防ぐための調停者という役割が挙げられた。〝調停者〟とは勇者や魔王とは異なる枠組みに属する存在であり、創造主である星王竜ヴェルダナーヴァの意志を代行する者とされていた。
ギィへの説明とレオンの立ち位置
ギィへの説明はレオンが担当することとなり、クロエもその判断に異を唱えなかったが、レオンの片想いは全く伝わっておらず、クロエからは無邪気に否定された。リムルはそんなレオンの姿に同情し、少しだけ支援してやろうと考えたのである。
ギィの予期せぬ登場とディアブロの対処
会談の終盤、突如ギィが訪問し、廊下での騒ぎを通じてその存在が明らかとなった。ディアブロは即座に扉を閉めて退けたが、ギィは再度扉を開いて部屋へ入ってきた。ディアブロは丁寧ながら強い口調でギィを咎め、招待を受けていないことを理由に帰るよう求めた。これにより、ディアブロがただ者でないことが明らかとなり、ルミナスとレオンは「原初の黒」であることに驚愕した。
原初の悪魔たちの出現と参加者の動揺
ギィの気配を察知した仲間たちが次々と部屋に乱入し、ベニマル、ソウエイ、カレラ、ウルティマが加わって一時的に混乱を招いた。リムルは会議の再開を宣言し、ギィにも参加を認めた。落ち着いた場において、ルミナスとレオンは改めて原初の黄・紫の存在に驚きを示し、リムルが彼女らに名を与えたことに困惑した。
原初の悪魔に関する説明とリムルの無自覚
リムルは原初という呼称の意味を知らず、智慧之王により悪魔族の起源に属する存在であると再認識した。ディアブロは自らを七系統の始まりの悪魔の一柱と名乗り、その召喚が計画的なものであったことを語った。リムルはその正体を今になって知り、自身の知識不足と注意力の甘さを痛感した。
ディアブロの忠誠と独白の長話
ディアブロはリムルとの出会いがシズの死を契機に始まっていたと述べ、自身がベレッタへの嫉妬から暗躍しようとしていたことも明かした。彼の語りは長引いたが、リムルとギィの制止によりようやく会議は再開され、ディーノを呼びに出たシュナが場を整えた。
会議の再開とディーノの責任問題
再開された会議では、原初の悪魔たちにリムルが名付けた件に対し、ギィがディーノの監視不備を責めた。ディーノは驚いて何もできなかったと弁明し、ギィの指示を実行できなかったことを認めた。ギィの怒りはリムルにも向けられたが、リムルは責任の分散を図り、ディアブロの主導による勧誘だったことを強調した。
責任の所在とギィの説教
ギィはディアブロの常軌を逸した行動に呆れつつも、最終的にはリムルの判断が世界の勢力均衡を崩したとして厳しく非難した。さらに、ミザリーの作戦失敗の責任もリムルにあるとし、釈明の余地を与えずに説教を終えた。リムルは納得できない点がありつつも、場の空気を穏便に保つため了承の意を示した。
ギィの作戦とミザリーの行動失敗
ギィは災禍を演出し人類を共通の敵に団結させることで、過度な権力闘争を抑制していた。だがグランベルによる攻撃で均衡が崩れたため、ギィはミザリーに指示し評議会加盟国に恐怖を植え付けようとした。しかし、テスタロッサが襲撃現場に現れたことで作戦は中断された。ミザリーの計画が失敗した結果、西側諸国が分裂し帝国の侵攻に対抗できなくなる懸念が生まれ、その責任をギィはリムルに問うた。
ディアブロによる理想論の展開とギィの評価
リムルの代わりにディアブロが前に出て、恐怖ではなく経済による支配を語った。選択肢と錯覚を与えた再分配経済によって人類の平和と秩序を構築し、それをリムルが管理するという構想を説いた。ギィはこの理論に一定の理解を示し、試みを任せると表明した。リムルはこの展開に戸惑いつつも、理想に向けた責任を引き受けると約束した。
原初の悪魔たちに関する警告と懸念
会談の中で、レオンとルミナスは原初の悪魔であるカレラとウルティマの性質についてリムルに警告した。特にテスタロッサは二人以上に危険とされ、リムルは彼女らの管理を一手に担うこととなった。すでにエルメシアにも約束しており、逃げ場はなかった。
会談からの離脱とディーノの逃避
ラミリス、ディーノ、ヴェルドラは話の流れを見て会議からの離脱を図った。ディーノは働く意思を見せたが、ギィからの信用は得られなかった。リムルは働かざる者は食うべからずという国の方針を説明し、場を収めた。
ギィがもたらしたユウキに関する情報
ギィはユウキとその組織「中庸道化連」の情報をもたらした。ユウキは西側を捨てて東へ逃走しようとし、ギィによって捕えられたが、最終的に交渉によって解放された。ユウキは自由組合の長として表社会を支配し、裏では秘密結社「三巨頭」を操る存在であり、様々な陰謀の首謀者だったことが明らかとなった。
ギィの目的と西側支配の公認
ギィは「ゲーム」と称して人類を魔王たちで支配することを目標としており、その管理をリムルに任せると明言した。西側の統治に関しては既にテスタロッサらを通じてリムルが支配下に置いており、ギィとしては予想以上の進展であった。
帝国の脅威と戦争への備え
帝国が軍事行動を起こす可能性が高まっており、ドワーフ王国を通じた進軍の可能性も浮上した。リムルはヒナタに調査を依頼しており、ガゼルと連携して先手を打つ決意を示した。評議会の軍権を持つ立場上、リムルが最前線に立つことが求められた。
ユウキとの関係の整理と対応保留
ユウキが再び登場した際の対応について議論され、シオンは敵対時には殲滅も辞さない姿勢を見せた。リムルはユウキの行動次第で協力も考慮するとしたが、現段階では信用できないとの立場を崩さなかった。ディアブロの提案により、ソウエイに監視を任せ、対応を保留とすることで合意が形成された。
ギィの来訪とクロエの真実
ギィが訪れた主目的は、グランベルの行動と「勇者」クロエの真相確認であった。グランベルが封印されし存在を解放しようとしていたこと、それを防ぐためにギィは監視を行っていたが、ディアブロがリムルに任せると申し出たため、ギィは介入を控えていた。ギィは事後の状況確認のために来訪し、リムルが説明役を担うこととなった。リムルたちはクロエが時間を超えた存在である事実を伏せ、クロエが「封印の器」としての適性を持ち、暴走したクロノアを封じたことで勇者の力を得たという筋書きで話を整えた。ギィはその説明に懐疑を抱いたが、最終的には受け入れる姿勢を見せた。
クロエとギィの試し合い
ギィは唐突に長剣でクロエに襲いかかったが、クロエは一瞬で成長した姿となり、聖霊武装によってその剣撃を防いだ。クロエとギィは軽く剣を交え、その戦いは常人には認識不可能な速度で進行した。クロエの力は智慧之王ですら解析不能であり、結果として「時間停止」に類する能力であると推測された。これはクロエが新たに獲得した究極能力『時空之王』に由来し、従来のスキル『時間旅行』が統合された結果であった。
戦いの収束と正体の告白
クロエの戦いの最中、一時的にクロノアが表出し、クロエに成り代わってギィと応戦していたことが判明した。戦闘後、クロエは元の姿に戻り、リムルに抱きついた行動について、もう一人の人格であるクロノアの仕業であると説明された。これにより、クロエの強大な力と多重的な存在が関係者に認識されることとなった。
魔王たちの和解と忠告
レオンはクロエを守るためにギィに強く抗議したが、最終的にはクロエ自身の言葉によって場が収まった。クロエはレオンの心配を受け止めつつ、自分が子供ではなくなったことを示すため、大人の姿を見せて安心させた。ルミナスもクロエを友人として大切に思い、ギィに対して手出しをしないよう釘を刺した。ギィは最終的にクロエに手を出さないと約束し、場は円満に収束した。
晩餐会と平穏のひととき
会談終了後、シュナの用意した夕食で晩餐会が開かれた。魔王たちはそれぞれ料理を堪能し、特にヒナタは二千年ぶりに実際に食事を味わえることに大きな喜びを見せた。料理は概ね好評であり、和やかな雰囲気のまま宴は終了した。会談に参加した魔王たちは帰路についたが、レオンはクロエをリムルに任せることに未練を残しつつも、彼女の選択を尊重した。
それぞれの別れと未来への不安
ルミナスもクロエに親しみを込めて別れの言葉を残し、ヒナタも帰還した。一方、ギィに対してディアブロは語りかけを続けていたが、ギィは丁重に逃げるように退場した。リムルは、クロエの存在と能力が受け入れられたことで一つの問題が解決したと考えたが、ユウキの動向や帝国の思惑という新たな課題に直面していた。次なる困難を前に、リムルは改めて平和の困難さを痛感するのであった。
魔王との協力関係と戦争への備え
魔王二人との間に口約束ながらも協力関係を築けたことは、リムルにとって大きな成果であった。戦争が実際に勃発した場合、信頼のおける協力国の存在は心強く、彼らからの支援や、必要とあらば避難民の受け入れにも期待が持てる状況であった。理想は戦争の回避であったが、それは相手の出方次第であり、確実な予測は困難であった。そのため、リムルは愚痴をこぼすのではなく、事前の対策として自国の足場を固め、帝国と衝突しても問題が生じないよう万全の体制を整える決意を固めたのである。
第二章 成果と準備
戦争前夜の警戒と入国管理の厳格化
帝国の動きが活発化する中、テンペストでは入国審査を厳重化した。正体不明の者による混乱を避けるため、冒険者や商人でも信用のある者のみに入国を許可した。ドワーフ王国を参考にしたこの制度では、入国希望者に教育を施し、国のルールを理解させた上で滞在を認める仕組みが導入された。特にシオンの部下がこの教育において適任であり、帝国からのスパイ摘発にも効果を上げていた。
観光・経済施策と階層別対応
観光地としての発展も進み、資金に応じた宿泊区分を設定した。上級者向けには高級宿泊施設を提供し、十階層突破者などには宿泊券を配布することでモチベーション向上と宣伝効果を狙った。高額な食事や宿泊も好評で、迷宮攻略者や商人の間で利用が広がった。クロベエやドルドの弟子が製造した武具・工芸品、迷宮から得られた装備品などが高く評価され、テンペストの名声も高まっていた。
交通網整備と魔導列車の運用開始
ベニマルの働きかけにより、交通インフラも整備された。各国との道路やトンネルが開通し、魔導列車の試験運用が始まった。ドワーフ王国・イングラシア王国間では運用実績の積み上げが進められ、物流と人の移動に革命をもたらした。中継地点として整備された宿場町は、重要な交通拠点として今後の発展が期待されていた。夜間の安全性や整備体制も確保され、実践運用へと段階的に移行していた。
帝国との戦争可能性と防衛戦略の再考
帝国との戦争が現実味を増す中、リムルは対処方針を巡って葛藤していた。ヴェルドラの存在が抑止力となる一方で、帝国が囮やゲリラ戦術に出る可能性もあると考え、ジュラの大森林内の三つの侵攻ルートを想定しながら防衛戦略を練った。しかしルートの予測は困難であり、兵力の分散も危険と判断されていた。結果として、戦況に応じて臨機応変に対処するという結論に至った。
ドワーフ王国経由の侵攻可能性とその障壁
ドワーフ王国を通過する侵攻ルートも検討されたが、同国の地形的・軍事的優位により、実行は非現実的と判断された。三つの出入口のうち、特に帝国と国境を接するイーストにはガゼルが兵力を集中させ、警戒を強化していた。仮に侵攻があれば、テンペストとドワーフ王国による挟撃が想定されていた。
帝国の侵攻手段とその制約
海路による侵攻は大海獣の脅威と輸送の難しさから非現実的とされ、また陸路による大軍の移動も物理的・地形的困難を伴うため困難であった。ジュラの大森林を通る以外に実質的な選択肢は存在せず、最終的にリムルは防衛の難しさと可能性を天秤にかけながら、柔軟な対処を念頭に置いていた。
日常の描写と将来への不安
戦争準備の最中でも、リムルはベニマルやシオンと共に、日常の平穏を味わっていた。シュークリームや紅茶を楽しみつつも、帝国との対決への不安と覚悟を胸に、日々の積み重ねを続けていた。ディアブロは部下のウルティマとカレラの仲裁に奔走しており、悪魔族の好戦性には手を焼いていた。だが、それでも平和な日常の一幕として描かれていた。
移民の増加と教育制度の導入
魔国連邦では移民の増加に伴い、就業機会の確保が課題となっていた。能力のある者は職に就けたが、技能を持たない者への対応が求められた。そのためリムルは教育施設を設け、入国時に能力を確認し、それに応じた訓練を施す体制を整備した。軍への志願者も増加しており、軍備増強にも貢献していた。
軍制改革とゴブタの抜擢
帝国との戦争が現実味を帯びる中、ベニマルは軍の再編成を進め、新たな組織表を提出した。リムルはその中で、第一軍団長にゴブタを任命する案を推した。当初は反対意見も多かったが、ゴブタの努力と人望が評価され、テスタロッサを監察官として配置することで最終的に任命が承認された。
三軍団の編成と戦力分析
第一軍団はゴブタを団長とし、狼鬼兵部隊と緑色軍団を擁する実戦部隊であった。第二軍団はゲルドが指揮し、猪人族による高耐久の工作兵と後方支援部隊を有する。第三軍団はガビルが率いる遊撃飛空兵団で、飛行戦力を中心とする高機動部隊で構成されていた。
親衛隊と特殊部隊の維持
ベニマルの紅炎衆、ソウエイの藍闇衆、シオンの紫克衆は独立部隊として維持され、それぞれが親衛や諜報、囮任務など特化した役割を担っていた。特に紫克衆は高い再生能力により高成長を遂げ、将来的には主力級の活躍が期待されていた。また、シオンの私設親衛隊という公然の秘密部隊も存在していたが、軍組織には含まれていなかった。
左翼軍の編成と拡大
右翼にあたる三軍団に対し、新たに左翼軍として三つの軍が編成された。第一に西方配備軍は十五万の大規模部隊であり、各国から現地採用された人員によって構成された。これはテスタロッサ主導による公的支援事業から発展したもので、治安維持と後方支援を目的としながら、実質的な治安軍へと拡張されていた。
魔人混成軍と志願の背景
第二の左翼部隊である魔人混成軍は、元クレイマン配下の魔人達を中心に編成された。かつては統率に難のあった者たちであったが、現在はゲルドの指導のもとで協調性を身につけ、戦力として再評価されていた。彼ら自身の意思により志願した経緯もあり、士気の面でも期待が持たれていた。
義勇兵団の構成と立場
第三の左翼部隊は義勇兵団であり、魔国連邦在住者や近隣諸国の冒険者・傭兵などからなる混成部隊であった。地下迷宮探索者や移民志願者なども含まれており、約二万名が所属していた。右翼と比較して忠誠心に差があるものの、一定の戦力として計上されていた。
軍全体の構成と政治的配慮
総戦力は常備軍五万二千名に加え、左翼軍二十万名が計上され、人口百万人を超える国力がこれを支えていた。西側評議会の軍権掌握により、西方配備軍を通じた支配力が強化されたが、他国への影響や反発への配慮も求められていた。そのため、忠誠心と指揮系統を区別する形で、右翼と左翼の区別が導入されたのである。
軍団長人事と今後の課題
右翼三軍団に続き、左翼各軍の軍団長を誰に任命するかが次なる課題として浮上していた。リムルはベニマルの案を受け入れつつも、政治的・戦略的判断を求められる局面に差し掛かっていた。軍の膨張と統制、そして忠誠の所在が今後の大きなテーマとなる中、リムルは国家と仲間を守る覚悟を新たにしていた。
西方配備軍の運用方針と指揮体制
西方配備軍は評議会傘下の軍団として各地に分散しており、今回は現地運用に専念させる方針が採られた。軍団長は外交武官であるテスタロッサが仮任され、モスは部隊間の連絡管理を担う体制が整備された。戦争時における対応も想定されてはいるが、当面は治安維持に従事させる方針であった。
魔人混成軍の再編と第四軍団化
寄せ集めの魔人混成軍は、赤色軍団として再編され、ベニマルが軍団長を兼任することとなった。統率の難しさと練度不足を考慮し、ベニマルのユニークスキルによる統制が最も適任と判断されたためである。紅炎衆の千人長が部隊を束ね、戦力の均質化を図る構想が採用された。
義勇兵団の指揮官選定とマサユキの起用
義勇兵団は人間の構成員が多く、指揮官に魔物を据えると不信感を招く恐れがあった。このため人間出身のマサユキを軍団長に推挙する案が採用された。本人の同意を得ずに決定されたが、リムルらの説得により承諾に至った。マサユキの持つ影響力により、義勇兵団の士気は一気に高まり、確かな戦力として組織に加えられた。
戦力構成と右翼・左翼軍の整理
再構成された軍勢は、右翼(常備軍)五万二千、左翼(臨時軍)五万で構成され、頂点にベニマルが指揮官として立つ体制が整えられた。予備戦力として西方配備軍十五万が待機しており、さらに西側各国からの応援部隊の動員計画も進められていた。その総数は二十万に達する可能性があり、有事の際の後詰として期待されていた。
独立部隊・黒色軍団と魔王勢力の支援
表向きにはベニマルが全軍を指揮する体制であったが、実際にはリムル直轄の黒色軍団が存在していた。この軍団はディアブロとその部下の悪魔三人娘の命令しか受け付けず、完全に独立した戦力である。また、ミリムやカリオンの協力、さらにはヴェルドラ、ルミナス、レオンといった魔王の支援も見込まれていた。
戦争への決意と帝国の動向
リムルは自国の守護を最優先とし、如何なる外敵であれ楽園を脅かす者は容赦なく排除する覚悟を固めていた。一方、帝国でも長年にわたる準備のもと、大攻勢の体制が整いつつあった。両勢力はついに、全面衝突の時を目前に控えていた。
幕間 帝国の内情
帝国の成り立ちと統治体制
ナスカ・ナムリウム・ウルメリア東方連合統一帝国、通称「東の帝国」は、ナスカ王国がナムリウス魔法王国とウルメリア東方連合を吸収して形成された強大な国家である。統一皇帝ルドラ・ナム・ウル・ナスカの名の下、二千年もの間、征服地に反乱を許さず絶対的な支配体制を維持してきた。皇帝は実力主義を掲げ、特に軍部では「力こそ全て」の理念が貫かれていた。皇帝が望むままに国土を広げるという方針の下、臣民はこれを当然のこととして受け入れていた。
ヴェルドラとの遭遇と侵攻計画の頓挫
三百五十年前、帝国はジュラの大森林を越えての侵攻を企図し、長年かけて橋頭堡を築いていたが、当時の部隊長の愚行により作戦は瓦解した。暴風竜ヴェルドラを従えようとしたことで、要塞都市が完全に消滅し、文献も残らぬまま全てが灰となった。以後、帝国は同地への侵攻を禁じ、長年その力を蓄えることに終始していた。
政治と軍事の構造
帝国内では政治部と軍事部が存在するが、両部の主権はすべて皇帝が掌握していた。貴族院は名誉職として存在するに過ぎず、実権は与えられておらず、全領地は皇帝の所有とされ、貸与という形式で貴族が管理していた。また、役人たちは高度な教育を受け、皇帝の忠実な配下として政治運営を担っていた。軍事についても、皇帝が直接統帥権を持ち、地方部隊に至るまで全てが皇帝の意向で動いていた。
帝国の秩序と恐怖支配
帝国は降伏を認める代わりに全権利を奪い、不服とした者には血の粛清をもって対応した。その徹底的な支配は、軍事力による恐怖と臣民への生活保障という飴と鞭の政策で安定を保っていた。二千年の支配の中で、皇帝の権威が揺らぐことは一度もなく、代替わりしても絶対的な力を持ち続けていた。
三軍団と異世界技術の導入
帝国の軍事組織は、機甲軍団・魔獣軍団・混成軍団の三つの主力で構成されていた。機甲軍団は機械化兵士を用いた近代兵器を擁し、魔獣軍団は支配された魔獣によって構成され、混成軍団は個人の戦闘能力に特化した兵で構成されていた。これらは異世界からの知識や技術、さらには異世界人によって強化されており、その代表的存在が老魔法使いガドラである。
ガドラと異世界人の影響力
ガドラは異世界語を含む幅広い知識を持ち、自らの転生能力によって長命を得ていた。異世界人の能力と知識の価値を認識し、保護・研究することにより帝国の技術力を向上させていた。帝国内では多くの異世界人が厚遇されており、彼らの力は軍事力の中核を成すに至っていた。
帝国皇帝近衛騎士団の存在と役割
機士や魔獣兵が主流となった帝国においても、皇帝を守護する百名からなる帝国皇帝近衛騎士団は特別な存在であった。各軍団から選出された最上位者で構成され、その中には異世界人も含まれていた。伝説級の武具を授けられ、上級将校として最高待遇を受ける彼らは、帝国最強戦力とされていた。
実力主義の序列と軍団長の選出
帝国軍では序列強奪戦という制度により地位が決定され、正規の手続きを経た下剋上が認められていた。挑戦には条件があり、敗北時には一定期間の挑戦権停止が課せられた。その中で、元帥一名と大将三名が選ばれ、神話級の宝具を与えられることで帝国の象徴的存在とされた。
異例の出世とユウキの台頭
数十年ぶりに混成軍団の軍団長が代替わりし、歴戦の勇士たちを退けて新たに頂点に立ったのは、神楽坂優樹という少年であった。彼は帝国軍に所属してから一年足らずでその座を獲得し、以後、物語はユウキの登場によって大きく動き始めたのである。
第三章 帝国からの客
ユウキと三巨頭の会談
帝国軍団長に就任したユウキは、秘密結社「三巨頭」のダムラダ・ミーシャ・ヴェガと面会した。三人はユウキに忠誠を示しつつ、それぞれの立場や性格を垣間見せた。ダムラダは手配した異世界人を通じてガドラとユウキを繋ぎ、信頼を築いていた。
魔王リムルに関する報告と分析
カガリはユウキに対し、魔王リムルが西方諸国を支配し、軍備を整えている現状を報告した。リムルの首都には五万を超える兵が駐留し、旧ユーラザニアからの援軍も含めて総兵力は十万を超えると推定された。一方、帝国軍は百万の兵力を擁し、その改造兵士の戦力はCランク以上と見積もられていた。
技術力と新兵器に対する警戒
魔国連邦における技術革新、特に魔導列車や高性能武具の開発は、情報封鎖によって外部からは詳細が把握できなかった。帝国の技術に匹敵する開発能力を持つことは、ユウキにとって脅威であった。兵器開発の分野においても、魔国連邦が戦車や列車に匹敵する装備を整えている可能性が示唆された。
地下迷宮の存在と都市防衛策の驚異
首都リムルで実施された避難訓練により、都市全体が忽然と姿を消す現象が確認された。ユウキはこれを地下迷宮に連結した都市防衛機構と推測し、非常識ながら現実であると断定した。迷宮内に重要施設があると考えたカガリも同意し、帝国軍がこの防御構造に驚かされる可能性を示唆した。
戦略的展望と魔国連邦の脅威評価
ユウキは、戦局において質が量を凌駕することを重視し、魔国連邦が擁するベニマル・ディアブロ・シオン・ゴブタら四天王を戦術単位として警戒した。さらにゲルドやガビルなどの強力な魔人の存在も脅威と見なされた。戦争が泥沼化することで帝国の国力が低下し、クーデターの機会が生まれるとユウキは分析した。
ユウキの真意とクーデター計画
ユウキは帝国軍団長の地位を利用して内部から帝国をかき乱し、戦争によって帝国を疲弊させたうえでクーデターを決行する計画を立てていた。その後は皇帝を傀儡とし、新生帝国を打ち立てたうえで西側諸国と和平を結ぶ構想を語った。最終的には皇帝暗殺事件を契機に世界を混沌へと誘導するのが目的であった。
ガドラ・近藤達也・謎の人物への警戒
ユウキは帝国で最も警戒すべき人物として三名を挙げた。まずは復讐心に燃えるガドラであり、次に帝国情報局局長・近藤達也であった。彼の階級は中尉ながら命令権を持たず、情報に巣食う怪人と呼ばれていた。最後に、皇帝の傍に控える正体不明の存在を挙げ、その異様な存在感から重大な障害になると認識していた。
三巨頭への命令と潜入指示
ユウキはダムラダに近藤達也の調査を、ミーシャに機甲軍団長の篭絡を、ヴェガには魔獣軍団への潜入を命じた。ただし、軍団長の暗殺は禁止とされた。三人はそれぞれの任務に従い、ユウキの野望のために動き出すこととなった。
戦争と混沌を利用した覚醒計画
カガリとユウキは、戦争によって世界を混乱させ、その中で真なる魔王への覚醒を目指していた。ユウキは究極能力を獲得し、寿命の延長と力の成長を実感していた。戦禍が拡大すれば、民衆の厭戦気分とともにクーデターの機運が高まり、理想の実現へと近づくと確信していた。
ヴェルドラ復活による軍議の分裂とガドラの懸念
帝国はヴェルドラ復活を契機に、軍の動きが三つの派閥に分かれた。すなわち、消失を待つ慎重派、新兵器による制圧を主張する好戦派、そして迂回案を支持する中立派である。だが、主流は後者二つであり、好戦派の意見は黙殺された。ガドラはヴェルドラへの精神支配は非現実的と見ており、過去の敗北経験からもその危険性を認識していた。彼の目的は帝国の勝利ではなく、親友を殺した七曜の老師への復讐であった。
魔王リムルの脅威と地下迷宮への関心
魔王リムルがジュラの大森林を支配し、ヴェルドラと手を組んだことにより、帝国の侵攻は困難を極めた。ガドラはリムルとヴェルドラが潜む地下迷宮の存在に注目し、三割以下の被害で両者を排除できなければ西側諸国との決戦に勝てないと判断した。だが、彼はリムルを単なる障害と誤認しており、その誤解が後の命運を分ける可能性を孕んでいた。
異世界人三人の任務と人選の背景
ユウキは混成軍団から選出された異世界人の谷村真治、マーク・ローレン、シン・リュウセイの三名をガドラの指揮下に置き、迷宮の調査任務に就けた。三人はそれぞれ戦闘に秀でたユニークスキル所持者であり、帝国でも一線級の戦力とされていた。ガドラの教えを受けた弟子でもある彼らは、任務の重要性を理解しつつも、当初は唐突な命令に困惑していた。
ユウキの意図と軍事クーデター計画の一端
ユウキは、迷宮調査が単なる好奇心や妨害工作ではなく、帝国を内部から瓦解させるための戦略の一環であることを明かした。大遠征中に帝都を掌握するクーデターを計画し、その陽動として迷宮の重要性を過大に宣伝する狙いが語られた。三人は驚きながらも任務の意義を理解し、報酬ではなく生存のために成功を誓った。
ガドラの協力とリムルへの敵対意志
ガドラはユウキの計画に同意し、魔王リムルを手始めとして敵対する意志を明らかにした。その理由は、魔王ルミナスへの復讐を遂げるためであり、リムルがその協力者である限り見逃せない存在であると断じていた。ただし、ガドラは無謀な行動は取らず、長年練った計画に基づいて慎重に動く姿勢を示した。
魔王リムルの不可解な行動と警戒心
ガドラは、ファルムス王国の二万の軍勢が壊滅した件について、明確な証拠がないことから、リムルに対する警戒を強めていた。ヴェルドラの性格を知る彼にとって、全滅はあり得ないという認識があり、それがリムルの関与を示唆するものであった。だが、リムルの人柄からして虐殺は考えにくく、真相不明のまま不気味さを募らせていた。
迷宮と魔王ラミリスの関係
会話の中でガドラは、ウルグ自然公園にあった精霊の棲家が魔王ラミリスの住処であり、その迷宮が現在リムルの支配下にある地下迷宮である可能性を示唆した。迷宮妖精ラミリスが迷宮を創り、魔王リムルと共闘関係にあるとの推測が成されたことで、調査の危険度が一気に増したことが明らかとなった。
調査任務への決意と警戒の呼びかけ
任務の重大性を認識した三人は、リムルとラミリスの共闘関係を前提とし、迷宮攻略への意志を固めた。ユウキとガドラは彼らに警戒を怠らぬよう命じ、万全の準備を求めた。シンジ達は命を賭した覚悟を胸に、任務へと向かう決意を固めていた。
最終的な意図と覚醒への布石
ユウキとカガリの真の目的は帝国を疲弊させることであり、戦争を長期化させた後に皇帝を傀儡とし、新秩序を打ち立てることにあった。その上で、皇帝暗殺事件を利用して世界を混沌へ導き、カガリを真なる魔王へと覚醒させる計画を進めていた。迷宮調査はその一端に過ぎず、ユウキの野望実現のための布石であった。
地下迷宮への潜入と探索開始
シンジ、マーク、リュウセイの三人は、ガドラの命を受けてリムルの支配下にある地下迷宮の攻略に乗り出した。迷宮は首都リムルの南に位置し、入場には料金と規約への同意が必要であった。受付では勇者マサユキの姿が目撃されたが、彼らは関与を避けて潜入を急いだ。
迷宮の構造と異常な特性
迷宮内部は精密かつ頑強な構造を持ち、魔物の再生・配置・罠の稼働まですべてが自動で制御されていた。侵入者に対して適切な難易度での挑戦を提供する機構を持ち、異世界の技術とは異なる原理で作動していた。第十層までの攻略を目指す中、三人は魔物の数が調整されていること、通過難度が高く設定されていることを認識した。
戦闘による能力検証と技能の披露
三人はそれぞれユニークスキルを駆使し、出現する魔物を撃破していった。シンジは【解析者】による情報収集と指揮統制、マークは【導く者】による空間把握、リュウセイは【剣王】による超人的な反応速度と剣技で対応した。それぞれの能力が迷宮内でも通用することを確認しつつ、罠や回復装置の位置などを探り、探索を進めた。
自動回復機構と魔素の異常
探索中、三人は設置された回復魔法陣を発見し、その効果を確認した。魔法陣は連続使用が可能であり、明確な再発動時間を伴っていた。また、周囲には回復薬や補助装備が自動供給される機構が存在しており、迷宮が長期滞在を前提として設計されている事実が明らかになった。さらに、魔素の質が極めて純粋であり、空間が異常なほど安定していることも確認された。
迷宮の主の介在と強制送還の仕組み
三人は予備の探索として九階層まで到達したが、第十階層で待ち構えていたのはゴーレム型の守護者であった。戦闘は圧倒的な火力差で三人の敗北に終わり、死ぬことなく強制的に外部へ送還された。敗北しても死亡せず再挑戦が可能という迷宮の特異なルールにより、探索者の安全がある程度保証されていることが分かった。
調査の中間報告と想定外の知見
戻った三人は、迷宮内で得た情報を詳細に報告した。特に、魔素制御や空間安定化、回復装置と自動補給機構の存在は、既存の帝国技術を上回る革新であった。また、情報が戦力として蓄積されている可能性、迷宮が情報収集施設として機能している点も警戒要素とされた。
ラミリスの支配と自動制御の本質
探索結果から、迷宮の運営には魔王ラミリスの能力が密接に関わっていると判断された。迷宮内の魔素循環や自動制御、出現する魔物の配置と再生成など、全てが彼女の固有能力に起因すると見られた。つまり、迷宮は単なるダンジョンではなく、魔王の加護を得た兵站拠点および訓練施設として機能していた。
帝国の対応とユウキの判断
ユウキとガドラはこの情報を受けて、地下迷宮が単なる防衛線ではなく、情報収集・戦力育成・住民避難を兼ねた多機能要塞であると評価した。ユウキは帝国による攻略が不可能であることを認め、当面は迷宮に手を出さぬ方針を固めた。加えて、迷宮に挑んだ異世界人三人の実力が実証されたことを喜び、今後の布石として用いる意志を示した。
ガドラの推測と危機感
ガドラはラミリスとリムルの連携によって、迷宮がほぼ完全な都市防衛機能を持っていると断定した。迷宮が本気で軍団を迎撃すれば、帝国の機甲軍団でも壊滅は避けられないと考え、単なる要塞ではない異次元の兵站基地と評した。彼はこの事実を踏まえ、リムルと敵対すべきではないという警鐘を発した。
帝国とリムルの力関係の再評価
一連の調査により、リムルとその支配下にある地下迷宮が帝国の兵力を容易に上回る可能性が浮き彫りとなった。特に、量産型改造兵士や魔導戦車に依存する帝国軍にとって、情報共有・再挑戦可能な迷宮という存在は致命的な相性の悪さを示していた。ユウキは、この結果を受けて本格的な帝国侵攻は拙速であると判断した。
近藤達也とダムラダの接触
帝国情報局局長・近藤達也は、混成軍団に潜入していたダムラダと極秘裏に接触した。達也はダムラダに対して冷静な威圧感を示しつつ、旧知であることを匂わせた。一方、ダムラダは従順な態度を装いながらも内心で警戒心を強めていた。彼にとって近藤は謎の多い存在であり、その真意を測りかねていた。
帝国の情報管理と軍団内の動向
近藤は、ユウキの影響で混成軍団が過激思想に傾き始めていることに言及し、その統制に疑念を示した。さらに、シンジたち異世界人が行った地下迷宮の調査が上層部に伏せられていることに触れ、情報操作が行われている可能性を示唆した。ダムラダはこれを内心で肯定しつつも、表面上は知らぬ存ぜぬを貫いた。
ユウキの行動に対する観察と牽制
近藤は、ユウキがリムルへの関心を強めていること、そしてそれが地位と権力の拡大を狙った行動に繋がっていると分析した。彼はダムラダに対し、ユウキが帝国の力を削ぎつつある事実を軽く指摘し、行動の是非を暗に問いかけた。ダムラダは内心で不快感を抱きながらも、冷静を装って応じた。
七曜の老師との関係と過去の因縁
近藤はダムラダが七曜の老師の一員であることを察しており、その上であえて明言せずに会話を進めた。七曜の老師が帝国の礎を支えてきた影の存在であることは、両者の共通認識であった。ダムラダは、ユウキの野望に自らの目的を重ねる一方で、近藤の懐の深さと冷徹さに不気味さを覚えていた。
魔王リムルに関する警戒と評価
近藤は、魔王リムルが抱える危険性についても言及した。彼は、ファルムス王国の壊滅がリムルによるものであると確信しており、リムルが支配する魔国連邦が異常な成長を遂げていることに注目していた。そのうえで、迷宮の機能や構造についても把握しつつあることを示し、ダムラダに驚愕を与えた。
情報局の力と達也の異常性
近藤は、「情報局は知っている」という言葉で締めくくり、情報管理の主導権が自分にあることを誇示した。その発言は、帝国内でさえ誰もが避けるべき存在としての自身の地位を再認識させるものであった。ダムラダは、近藤の本性がまったく見えないことに恐怖を覚え、軽率な行動が自らの死に繋がることを直感した。
会談の結末と両者の思惑
最終的に、近藤は何も強制することなく会談を終えた。ダムラダは、近藤の真意を見極められないまま席を立ち、ユウキに報告するべきか否かを思案した。一方、近藤はダムラダを試すために情報の一部を故意に開示しており、その反応をもって彼の立場と考えを見定めていた。両者の腹の探り合いは、今後の帝国内部抗争の火種となる気配を漂わせていた。
魔法による監視体制の構築
リムルは情報伝達の遅延を危惧し、既存の諜報体制に加えて魔法による監視方法の開発を検討していた。従来の遠見魔法は使い勝手が悪く、魔法障壁によって無効化される可能性があったため、〈物理魔法〉の「神之怒」の理論を応用して、レンズと映像転写を組み合わせた監視魔法の構築に着手した。智慧之王の協力によって試作品は完成しており、さらなる改良を進めていた。
地下迷宮での異常事態の発生
そんな折、ベレッタから緊急の思念伝達が届き、地下迷宮にて第二の五十階層突破者が現れたことが伝えられた。先の突破者はマサユキ一行であり、今回はそれとは別の三名の挑戦者によるものであった。
迷宮の現況と挑戦者の台頭
迷宮は多くの挑戦者によって賑わっており、三十階層を越える者も出始めていたが、四十階層以降は強力な魔物や罠によって行き詰まっていた。五十階層には知恵ある魔人であるゴズールとメズールが交代で配置されていたが、今回この守護を突破された。彼らの倒され方と報奨として与えた特質級のミノスシリーズの武具は、リムルにとって驚きと損失の両方であった。
突破者三名の実力と特徴
三人のうち、戦闘を主導していたのはマークという茶髪の戦闘士で、魔銀製の牛頭魔人の戦斧を用いて死霊狼を圧倒していた。罠の発見や回避はシンと名乗る黒ローブの狩猟家が担当しており、恐らくはユニークスキルの恩恵によって罠の位置を完全に見抜いていた。リーダー格であるシンジーとされる白衣の青年は、戦闘にはあまり関与せず、必要に応じて毒を用いた弱体化や治療を行い、戦術の中枢を担っていた。
三人の経歴とスパイの疑惑
シュナが届けた登録情報によると、三人は帝国側の小国出身で、迷宮の噂を聞いて訪れたとの申告があった。しかし、三人がそれぞれユニークスキルを所持していることや、職業の高度さから見て、偶然の訪問とは考えにくく、リムルはスパイの可能性を強く疑っていた。
町の迷宮隔離作戦とスパイへの罠
地下迷宮への挑戦者を誘導するため、町そのものを迷宮の階層に移すという作戦が実行されており、その準備過程がスパイにとって格好の調査対象になっていた。これは、ラミリスの『迷宮創造』能力とヴェルドラの協力によって可能となった防衛策であり、結果として三人のスパイを迷宮に誘い込むことに成功していた。
六十階層への挑戦と守護者の限界
次に彼等が挑むのは六十階層であり、守護者は死霊の王アダルマンであった。だが、マークが聖属性を持つ牛頭魔人の戦斧を所持している以上、アダルマンの敗北は避けられないと予想されていた。そもそも、この階層の主役は罠であり、ボスの強さには期待していなかったことから、挑戦者に有利な装備を渡したことが裏目に出る形となっていた。
リムルの観察と次なる布石
リムルは三人を監視しつつ、彼等の実力を見極めていた。必要であれば逮捕も視野に入れていたが、まずは彼等の限界を観察し、実力を確認する方針を取っていた。六十階層での敗北を見越しつつも、最終的には七十階層以降の守護者に望みを託していた。
アダルマンとその仲間達の進化
死霊の王アダルマンは、魔王リムルへの忠誠心から再起を果たし、全盛期を上回る力を得ていた。彼の側には、生前の姿を保持する死霊聖騎士アルベルトと、死霊竜が控えていた。アルベルトはかつて骸骨剣士として再誕していたが、今や魔素によって肉体を構築し、生者同様の姿となっていた。三者は、次なる侵入者を迎撃するべく準備を整えていた。
シンジー一行との戦闘と圧倒的勝利
アダルマンの待つ六十階層に到達した挑戦者は、ユニークスキルを備えた実力者シンジー、マーク、シンの三人であった。各自の能力は非常に高く、特にシンジーのスキル『医療師』は生物に対する極めて強力な攻撃・回復能力を持ち、マークの『投擲者』は物理戦において対軍戦力としても有用であり、シンの『観察者』は迷宮攻略に最適な感知能力を備えていた。
しかし戦闘はあっけなく終了した。アダルマンは玉座から動かず、戦闘の主力はアルベルトが担った。マークの特質級武器も無力化され、シンジーの奥の手である霊子聖砲もアルベルトには通じなかった。その理由は、アダルマンが編み出したエクストラスキル『聖魔反転』により、アルベルトの属性を聖へと変換していたためである。こうして三人は一撃ずつで倒され、光の粒子となって退場した。
アダルマンの成長と死霊竜の存在
リムルはアダルマン達の異常な強化に驚かされた。修行による成長に加え、迷宮内の濃密な魔素環境が影響していた。さらに、アダルマンが飼っていた死霊竜も圧倒的な存在感を放っていた。戦闘には直接関与しなかったが、その姿は災厄級に匹敵していた。
アダルマンの昇格と七十階層への配置
リムルは、アダルマンの戦闘力が現七十階層の守護者である魔王の守護巨像を上回ると判断した。この巨像はベスターとカイジンによって開発され、強力な防御力と遠隔操作機能を備えていたが、自我が存在せず、破壊時の復元も保証されていなかった。そのため、アダルマンの昇級が決定され、五十一~六十階層と六十一~七十階層の入れ替えが行われることとなった。
『聖魔反転』の由来と協力者たち
『聖魔反転』の開発には、ルミナスの秘儀『昼夜反転』と、ベレッタのユニークスキル『天邪鬼』が関与していた。ルミナスは七曜の暴走を見逃した詫びとして秘儀を提供し、アダルマンはそれを改良して新たなスキルを完成させていた。リムルはアダルマンの成長と働きぶりを称賛し、アルベルト共々司令室に招いた。
昇格への賛辞と紅茶のひととき
アダルマンとアルベルトは司令室でリムルと対面し、その成長を称えられた。アダルマンは骸骨のままだったが、アルベルトは魔素による肉体を保持し、紅茶の香りを楽しんだ。『聖魔反転』の成果に加え、これまでの経緯もリムルに報告され、両者はさらなる貢献を誓った。こうしてアダルマン達は七十階層の守護者として新たな役割を担うこととなり、迷宮の防衛体制は一層強化されたのである。
ガドラ一行との面会と事情聴取
リムルの前に平伏していた老人は、大魔法使いガドラであった。彼はディアブロとラーゼンを通じて面会を求め、部下としてシンジ・マーク・シンの三人を同行させていた。三人はかつてユウキの下で働いていたが、現在は調査のため一時的にガドラの預かりという立場であった。リムルは形式的な謁見を終え、場所を応接室へ移して彼らと打ち解けた会話を交わした。
コーヒーを通じた交流とリムルの正体
応接室ではリムルの勧めでコーヒーを振る舞われ、帝国出身の一行はその味に感動した。その場でリムルが異世界人である事実が明かされ、ガドラはその点を伝え忘れていたことを悔いた。和やかな空気の中、リムルは本題に入り、ガドラから詳細な事情を聞き出すこととなった。
ガドラの転生者としての過去と動機
ガドラは自らが転生者であることを明かし、大魔導を極めるために幾度も転生を繰り返してきたこと、そして親友アダルマンを西方聖教会に殺されたことにより復讐を誓ったことを語った。彼は帝国に潜り込み信頼を得る一方、ヴェルドラとの戦いも経験していた。ヴェルドラ支配を目論む軍団長たちを諫めたが聞き入れられず、思惑とは裏腹に帝国の覇権主義を後押ししてしまっていた。
帝国の軍事方針とガドラの立場
ガドラはジュラの大森林への侵攻には反対で、代わりにドワーフ王国の調略を提案していた。だが軍上層部は武力行使に固執し、ガドラの意見は通らなかった。ドワーフ王国との軍事行動も視野に入れていたことが語られ、リムルはその動向に警戒を強めた。ガドラは戦争反対に転じており、会議の場ではその立場で発言する意向を示した。
ユウキとの関係と内情の暴露
リムルは会話を通じて、ガドラがユウキとも関係を持っていたことや、ユウキが帝国でクーデターを画策していることを把握した。ガドラはすでに帝国での影響力を失っており、自らの育てた軍団も解体されていた。忠誠心よりも利害で動く人物であることを自認しつつ、今後はリムルの配下として仕える意向を示した。
ガドラの仮雇用と役割の付与
ガドラは客分として仮雇用され、アダルマンへの引き合わせや七十階層への転移許可が与えられた。ラミリスの助手にする案もある中、まずは帝国に戻り、反戦活動を行うよう命じられた。リムルはガドラに全幅の信頼を置かず、戦争が避けられない場合に備えて迷宮へ誘導する策も授け、装備や復活の腕輪を渡して準備を整えた。
三人組の亡命と将来の誓約
シンジ達三人は、ガドラの説得を受けてテンペスト王国への移住を申し出た。リムルはこれを受け入れたが、裏切った場合は追放とする厳格な条件を課した。三人はユウキへの敵対を拒んだが、現状では特に問題視されなかった。リムルもまた、かつての師匠シズがユウキに好意的であったことを思い出し、一定の猶予を与える判断を下した。
帝国潜入と戦争回避のための工作
最終的にガドラは、戦争を止めるため帝国で暗躍する任を負うこととなった。戦争が不可避であれば、迷宮への誘導を行い、そこで戦力を削ぎ、戦意喪失を図る方針が定められた。戦争回避または迷宮への誘導、その成功はすべてガドラの働きに委ねられることとなった。こうして、四人の亡命者を迎えた一件は収束したのである。
第四章 動き出す帝国
帝都に潜む異世界人の正体と来歴
帝国情報局局長・近藤中尉は、帝都の影に潜む冷徹な人物であった。その正体は七十年前、特別攻撃隊員として命を散らすはずであった異世界人・近藤達也である。死を覚悟した作戦中、異世界に召喚された彼は、偶然にも皇帝と遭遇し救われた恩義から、その命を皇帝に捧げてきた。異世界の魔法により年老いることもなく、今も当時の姿を保っている。表舞台に出ることはなく、情報局の長として帝国の裏を支えていた。
異世界人の管理とユウキの暗躍の把握
帝国は異世界人を保護する政策を掲げ、千人を超える異世界人を各地から集めていた。彼らはスキルの有無によって軍や民間に振り分けられ、特に戦闘スキル持ちは軍団へと配属されていた。その一部はユウキによって送り込まれた者であると報告され、ユウキのクーデター計画の可能性が高いと断定されていた。彼は異世界召喚によって忠誠を強制する部下を得ており、その影響が近衛騎士団にまで及んでいる事態に、近藤中尉は重大な懸念を抱いた。
ユウキとガドラの関係性と監視方針の決定
ユウキと大魔法使いガドラが協力関係にあるとする証拠もあり、近藤中尉は両者の動向を警戒していた。ガドラの目的が帝国の理念と一致している限りは問題ないが、利害の不一致が発生すれば帝国にとって脅威となる可能性があった。そのため、情報収集を進めながら、ユウキの配下である異世界人の調査を強化し、不審な動きを見せた際は速やかに排除する覚悟を固めていた。
魔晶石の流通とカリギュリオの利権戦略
機甲軍団長カリギュリオは、ガドラが持ち帰った高品質の魔晶石に強い関心を示していた。魔晶石は魔物から採取され、エネルギー資源や装飾品、魔法触媒として重宝されていたが、その均質さから特定の魔物群の存在が示唆されていた。報告により、これらの魔晶石は魔王リムルの支配地にある地下迷宮から得られた可能性が高いと判明した。
宝剣の正体と迷宮制圧への野心
ガドラが持ち帰った宝剣には孔が空いており、その用途が不明であったが、技術局の解析により、魔法を効率的に発動する装置であることが判明した。魔石を嵌めることで威力が増し、魔力のない者でも魔法を扱える武器であった。迷宮で配布し実験されていると推測したカリギュリオは、この実験兵器の効果に驚嘆し、迷宮の制圧と兵器の確保を急務と捉えた。
帝国軍の進軍決意とカリギュリオの戦略
カリギュリオはこの迷宮を制圧することで、新兵器と魔晶石を掌握し、自らの影響力を拡大しようと画策していた。ガドラとの対立の背景には、かつて彼から指揮権を取り上げたことへの遺恨があった。迷宮の利権を巡り高位貴族とも手を結び、次の御前会議で進軍を提案する準備を進めた。彼の目的は、ガドラとユウキを排し、帝国内で最大の権力を握ることであった。
暴風竜討伐と新兵器への野望
さらにカリギュリオは、帝国の悲願でもある暴風竜の討伐を新兵器で達成することを目論んでいた。それによって得られる名声と成果により、帝国最強軍団としての地位を確立しようとしていた。魔王リムルを侮りつつも、彼の勢力を排除することが帝国の未来にとって重要であると考え、カリギュリオは一連の行動計画を着実に進めていた。こうして、帝国は彼の意志によって動き始めたのである。
御前会議の開幕と緊張感
御前会議は特別な緊張の中で始まり、皇帝ルドラの入室によって厳粛な空気が支配した。集ったのは各軍団の軍団長と副官、近衛騎士団、大臣、大貴族ら約二百名であった。統一帝国の頂点に立つ皇帝に直接意見できる者は限られており、その姿は御簾の向こうにあるままであった。
大遠征を巡る意見の対立
議題は西側諸国への大遠征の是非と手段に関するものであり、戦争開始の勅命が未だ出ていない中、主戦派と慎重派で意見が対立した。主戦派は正面からの武力侵攻を主張し、慎重派や文官たちは外交的手段の先行を訴えた。特にジュラの大森林を経由する進軍ルートと、そこに存在する暴風竜ヴェルドラの存在が懸念された。
ガドラとカリギュリオの激論
慎重派の代表であるガドラは、ヴェルドラの復活と魔王リムルとの同盟により、軽々な侵攻は危険と主張した。一方で機甲軍団長カリギュリオは、自軍の新兵器でヴェルドラの制圧が可能と豪語し、慎重な姿勢を時代遅れと断じた。帝国の覇道に立ち塞がる者はすべて排除すべきだとするカリギュリオに対し、ガドラはドワーフ王との同盟が現実的だと訴えた。
魔獣軍団長グラディムの介入と魔法軍団の終焉
魔獣軍団長グラディムがガドラに対し強く反論し、ドワーフ王国の攻撃も辞さない姿勢を示した。ガドラは魔法軍団解体後、技術顧問として残された過去を持ち、かつての影響力を維持していたが、今や帝国は科学技術を中心に軍を再編しており、魔法は時代遅れとされていた。小型魔導兵器や魔法剣により、魔法の専門知識なしでも戦える兵士が増えたことで、魔法軍団の役割は終わりを告げていた。
ガドラの内心とユウキへの警戒
ガドラは表面上は憤ったが、実際には冷静に帝国の現状を見極めていた。彼は既に魔王リムルの配下となっており、戦争回避を目指しつつも、最終的には皇帝の身柄を保護する意志を持っていた。ユウキによるクーデターの可能性を想定しつつ、今後はリムルの命を受け、帝国の関心を地下迷宮へ向ける計画を進める決意を固めていた。
御前会議の流れを変えるユウキの発言
会議中、ユウキが初めて発言し、カリギュリオに同調しつつ、戦争の前に調査が必要と主張した。ジュラの大森林には迷宮が存在し、都市全体が地下へ避難できる機構があるとの情報を披露した。ガドラが実際に調査して得た情報として、迷宮の深層には暴風竜ヴェルドラが守護者として存在するという噂があると述べ、調査の必要性を訴えた。
三将の競合と皇帝への直訴
ユウキの発言に呼応して貴族たちも賛同し、混成軍団による調査を支持する声が高まった。これに対し、カリギュリオは焦りを見せ、皇帝へ直接「制覇」の命を願い出た。続いてグラディムも出陣を志願し、三将全員が立ち上がる事態となった。騒然とする会場を鎮めたのは、御簾の向こうで立ち上がった帝国元帥であった。
帝国三大軍団の実力と構成
カリギュリオ率いる機甲軍団は、魔法的改造を施された七十万の兵士を中心に、魔導戦車師団二十万、空戦飛行兵団十万を擁し、帝国最大の戦力を構成していた。科学と魔法を融合させた装備により、従来の兵士とは比べものにならぬ戦闘力を発揮していた。
グラディムの魔獣軍団は、DNA解析により培養・強化された魔獣を駆る三万の精鋭で構成されており、獣と人の融合による高い戦闘力を誇っていた。
ユウキの混成軍団は、異世界人を多数抱え、突出した個人能力を有する兵士たちによる二十万の部隊であった。特に十万の実働兵は未知数の戦力とされ、試験的兵器の運用も含めた柔軟な構成が特徴であった。
帝国の総戦力と優位性
三軍を合わせた帝国の総戦力は百十三万に達し、対する西側諸国は最大でも四十万と予想され、軍事力において帝国が圧倒的優位であった。既存の戦術を凌駕する新兵器の登場により、機甲軍団は大遠征の中心として、その存在感を強めていた。
迷宮調査を巡る主導権争い
カリギュリオはユウキが迷宮調査の主導権を握ろうとすることを見抜き、対抗意識を強めていた。ユウキが情報を開示するたび、場の空気は混成軍団寄りに傾いていったが、カリギュリオは冷静さを保ち、表面上は笑顔を崩さずに応対した。三将の意見が出揃った今、御前会議の結論は皇帝および元帥の裁断に委ねられることとなった。
皇帝の登場と元帥の裁断
御前会議の空気が緊張を極める中、ついに御簾の向こうから皇帝ルドラが姿を現した。年若くも堂々たるその姿に、会場は息を呑んだ。帝国元帥が代読していた勅命を皇帝自らが口にしたことで、その場は劇的な空気へと変化した。皇帝は三軍の出撃をすべて許可し、それぞれの軍が独立して迷宮を攻略する競争形式を提示した。
三軍の出撃命令と競争形式の採用
皇帝ルドラの決定により、機甲軍団・魔獣軍団・混成軍団の三軍は、それぞれ迷宮攻略に向けて出撃することとなった。この形式は三軍間の実力を競わせることを目的としており、各軍団の指揮官たちは皇帝に対して最大限の戦果を捧げようと競争心を燃やした。これにより、迷宮攻略戦は一種の内的選抜戦の様相を呈することとなった。
近藤中尉の分析と警戒
帝国情報局局長・近藤中尉は、この皇帝の判断に潜む危険を即座に理解していた。皇帝は常に戦乱を望んでおり、軍団長たちに競わせることで軍を活性化させようとする一方で、無意味な戦死をも厭わぬ姿勢を見せていた。その冷徹さを改めて認識した近藤は、戦局の裏で真の敵であるユウキの動向を監視し続ける決意を強めた。
近藤とユウキの静かな対立
会議後、近藤とユウキはすれ違う。互いに言葉は交わさずとも、その視線には明確な敵意が込められていた。近藤は七十年前に異世界召喚された存在であり、帝国と皇帝に忠義を誓ってきた。一方のユウキもまた異世界から来た者でありながら、その目的は世界の刷新と破壊にあった。同じ出自を持ちながら、まったく異なる道を歩む二人は、この時すでに相容れぬ存在として認識し合っていた。
混成軍団の編成と出撃準備
ユウキが率いる混成軍団は、総勢二十万の異世界人を中心に構成されていた。その中にはユウキの忠実な部下である三人娘・カガリ、クシエラ、マリアベルを含む強者たちがいた。軍団は柔軟な戦術運用と局地戦への対応力を重視し、迷宮攻略の先鋒として機動的に展開される予定であった。ユウキは、迷宮に潜むリムル配下の勢力と接触し、可能であれば制圧する意志を固めていた。
機甲軍団の戦略と内部事情
機甲軍団長カリギュリオは、帝国最大規模の軍団を率いて出撃準備を整えていた。彼はガドラを軽視し、迷宮攻略によって自身の正統性を皇帝に証明しようとしていた。部下たちは新兵器の運用に自信を持っていたが、実戦経験の不足が懸念点として残されていた。迷宮という未知の構造物に対して、カリギュリオは力による制圧こそが最善と信じて疑わなかった。
ガドラの密命とリムルへの報告体制
一方、すでにリムル配下となっていたガドラは、会議での展開を迷宮内の通信装置を通じて逐一報告していた。この通信は地下迷宮に設置された魔道装置を通じて行われ、リムルのもとに確実に届いていた。ガドラは自らの失脚を前提としつつも、帝国軍の動向を内側から把握するため、しばらくは表向きの役職を維持し続ける方針であった。
地下迷宮とリムルの迎撃準備
リムルの配下たちは、ガドラの報告をもとに帝国軍迎撃の準備を始めていた。迷宮は防御力に優れ、敵の侵入に対して複数の罠と守護者が配置されていた。リムルは直接戦場に出ることを避け、あくまで迎撃戦のシナリオを部下たちに任せ、彼らの実力を試す機会と見なしていた。帝国軍の実力を確かめるとともに、ユウキの野望を抑えるため、慎重かつ確実な対応が求められていた。
三軍の動向と次なる激突への予兆
こうして、帝国の三大軍団はそれぞれの思惑を胸に、ジュラ・テンペスト連邦国へと進軍を開始した。リムルと配下たちはその動きを静かに迎え撃つ準備を整えており、地下迷宮を舞台とする大規模な衝突が迫っていた。競争形式による迷宮制圧戦は、やがて帝国の内部構造や真の皇帝の意図までもを暴き出す火種となるのであった。
クーデター計画の進行とヴェガの扱い
ユウキは御前会議後、自軍を帝都近郊に展開する予定が狂わなかったことに安堵していた。当初の計画では、ヴェガをクーデターの主力とし、失敗時には全責任を押し付けるつもりであったが、元帥の介入によりその案は破棄せざるを得なくなった。それでも、機甲軍団がジュラの大森林へと出撃したため、クーデターの障害は減り、混成軍団だけでも計画は実行可能と判断した。カリギュリオが動いたのは、魔国連邦の富と新技術に目が眩んだからであり、それはユウキがガドラの持ち帰った情報を巧妙に利用して仕向けたものであった。
元帥の異例な行動とその脅威
ガドラとの対話において、ユウキは元帥の実力を測れないことに驚愕していた。元帥は代々皇帝の護衛に任命される存在であり、軍事に介入するのは極めて異例であった。この異変にガドラは強い危機感を抱いていた。ユウキもまた、ギィ・クリムゾンが帝国に干渉しない理由を元帥の存在と結びつけ、何か隠された脅威の存在を感じ取っていた。戦争が拡大すれば、その正体が露わになるかもしれないと考えていた。
ガドラの懸念と魔王への評価
ガドラは今や帝国への忠誠よりも、戦争の回避を望んでいた。魔王リムルとの約定を守る形で、帝国軍の関心を地下迷宮へ向けさせることに成功した今、彼の中では帝国への奉公も終わりを迎えつつあった。リムルの国には共存の可能性と強大な軍事力が備わっており、それと敵対するのは愚かだと確信していた。アダルマンのような存在が下位に位置づけられる国家の戦力は、帝国にとってあまりにも未知数であった。
決別と忠告のやりとり
ガドラはユウキに別れを告げ、自らの行動は裏切りではなく自由意志によるものであると断言した。彼は魔国に渡り、新たな人生を始める決意を述べた上で、ユウキにも助けが必要になれば頼れと伝えた。ユウキもまた、ガドラの生き方に敬意を抱いていた。最後に、ガドラは皇帝の命だけは狙わぬよう忠告し、二人は握手を交わして別れた。
皇帝との面会直前の襲撃
ガドラの皇帝への面会要請は受理され、謁見の場へと案内された。万年桜が咲く美しい廊下を歩く途中、彼は近藤中尉に遭遇する。不穏な空気を察したガドラが対話を求めるも、近藤中尉は理由を語らぬまま彼の前に立ちはだかった。ガドラが銃撃に備えて警戒していたにもかかわらず、背後からのナイフによる不意打ちで致命傷を負う。刺した相手の正体は、ガドラが声に覚えのある人物であったが、信じ難く、幻聴かと疑うほどであった。
最後の抵抗と意識の喪失
毒の影響で意識が薄れる中、ガドラは自身の行動が裏切りと見なされた報いであると悟りながらも、ただでは死ぬまいと最後の賭けに出た。事前に仕込んでいた魔法を発動させようとし、その直後に意識を失った。枯れることのない桜の花が舞う中、ガドラは無念と覚悟を胸に倒れ伏したのである。
五章 開戦に向けて
ラミリスへの尋問と迷宮の異常進化の発覚
ガドラを帝国に送り出した後、リムルはラミリスの挙動不審な態度に疑念を抱き、尋問を開始した。問い詰めの結果、迷宮の階層守護者達が想定を超えて強化されている事実が明らかになった。特にアルベルトの戦闘力はかつての死霊騎士を超え、聖騎士団の隊長格アルノーをも凌駕する存在となっていた。
ゼギオンとアピトの進化と聖騎士団の惨敗
ヴェルドラの弟子ゼギオンは完全変態を遂げ、人型の戦士として無双の強さを誇っていた。また、七十九階層のアピトも高速機動と究極毒を駆使して、聖騎士団を圧倒した。アルノー達はアピトの眷属に刺され、泣きながら逃走する結果となった。アピトとゼギオンはヒナタの指導と相互の戦闘訓練によって、著しく戦闘技術を向上させていた。
アルベルトによる鍛錬と聖騎士団の再挑戦
聖騎士団は初心に立ち返り、迷宮を再攻略するも六十階層でアルベルトに敗北。以降、彼の下で鍛錬を積むようになった。アルベルトは剣技と不死性により、どの攻撃も無効化しうる強さを見せつけた。アダルマンは迷宮の魔素を取り込むことで進化し、『聖魔反転』を駆使して無敵の存在となっていた。
迷宮十傑の台頭と所属問題の整理
ラミリスは地下迷宮内の戦力を整理し、迷宮十傑の存在を公表した。アダルマン、アルベルト、ゼギオン、アピト、クマラに加え、四体の属性竜が竜王へ進化。五十階層のゴズールとメズール、統括役のベレッタも加えて十傑が構成された。所属に関しては、本人の希望に基づいて配属が決定され、ラミリスとリムルの双方に分かれて従属した。
監視魔法『神之瞳』と戦略級魔法の完成
リムルは迷宮百階層に戦略級軍事管制戦闘指揮所──通称「管制室」を設置し、監視魔法『神之瞳』を完成させた。この魔法は精霊操作により成層圏に展開された巨大レンズを通じて、リアルタイムの映像監視を可能にし、同時に『神之怒』を遠隔発動させるシステムと連動していた。さらに、昼夜を問わず運用可能な衛星反射システムも組み込まれていた。
迷宮内の戦力確認と帝国への備え
迷宮内の実地確認を行ったリムルは、守護者達の進化ぶりに驚愕しつつも、帝国の侵攻に対する防衛力には自信を深めた。百階層の防衛はヴェルドラに任せ、八十階層までは適度な難度に調整する方針とした。一般挑戦者に対しては手加減するよう指示を出した。
シンジ達の進路決定と配置計画
亡命してきたシンジ達は、リムルの国での就職を希望した。戦争への関与を避けたい彼等の意向を汲み取り、リムルは研究者として迷宮内に配置することを決定した。ガドラには六十階層の管理と魔王の守護巨像への憑依研究を任せる予定であり、彼等もアダルマンの下での活動に関わることとなった。
総括と今後の展望
こうしてリムルは迷宮内戦力と運営体制を再確認し、帝国との戦争に向けて盤石な備えを整えた。一方で、守護者達の想定外の進化に戸惑いも感じつつ、平和の到来を密かに願っていた。
シンジ達の就職とラミリスの助手採用
リムルは、亡命してきたシンジ達をラミリスの助手として推薦した。ラミリスは研究所の人手不足に悩んでおり、異世界人であるシンジ達の柔軟な発想と高い技術力は即戦力として適していた。ラミリスは月給三枚の金貨と衣食住を保障する条件でシンジ達を雇用し、彼らもそれを了承したことで配属が決定した。
ガドラからの連絡途絶と管制室での監視体制
数日後、ラミリスの下で働くシンジ達は職場に適応したが、帝国に戻ったガドラからの連絡は途絶えていた。リムルは監視魔法『神之瞳』を通じて各地の状況を監視し、帝国の動向を注視していた。その魔法はエネルギー消費が少なく、上空からの映像を高精度で管制室に映し出す画期的なものであり、ディアブロはその利便性を誇っていた。
ガドラの帰還と暗殺未遂の報告
突如ガドラが迷宮へ帰還し、命を狙われた事実を報告した。彼は皇帝への謁見中に刺され、『復活の腕輪』と帰還魔法の仕込みによって一命を取り留めた。攻撃者の詳細は不明であり、背後から心臓を貫かれた上に防御術式まで破壊されるという、極めて高い技術による暗殺であった。リムルは調査をガドラに任せ、帝国の脅威を再認識した。
帝国の開戦体制と戦争の無法性
ガドラの報告により、帝国が正式に開戦準備に入ったことが判明した。帝国は他国を国家と認めず、宣戦布告をせずに一度きりの降伏勧告だけを行う方針であった。戦争法規を持たず、捕虜の保護も保証しないため、国際社会における危険な存在として西側諸国から恐れられていた。リムルはこの非常識な国との戦争に備え、万全の体制を整える決意を固めた。
作戦統合本部の設置と情報優位性の確立
リムルは管制室内に作戦統合本部を設置し、ベニマルを司令官、ソウエイを情報担当とし、各幹部の配置を完了させた。ソウエイとモスの協力により、地上の索敵も徹底され、帝国軍の動きは完全に監視下に置かれた。この体制は従来の戦争概念を覆すものであり、初動から敵の行動を完全に把握できることが、絶対的な優位性を生み出していた。
戦争指針と倫理的制約の明示
リムルは戦争に際して明確な指針を示し、「民間人への攻撃禁止」「先制攻撃の禁止」「戦争終結宣言後の攻撃禁止」という三原則を設けた。この方針の下、幹部達は帝国に対抗する為の会議に臨んだ。ディアブロやシオン、シュナなど主要幹部に加え、マサユキ、ガドラ、シンジ達も参加し、国家総力戦体制が築かれていった。
帝国軍の近代兵器と脅威の顕在化
『神之瞳』によって捉えられた映像から、帝国が二千台の戦車を展開している事実が明らかとなった。これらは魔素内燃機関で駆動し、悪路でも走行可能で、一部は宙に浮く機能も備えていた。さらに空を飛ぶ輸送艦も確認され、制空権の確保に関するリムルの楽観は打ち砕かれた。帝国の兵站能力と兵器開発の水準は想定以上であり、科学技術を応用した近代兵器の脅威が現実のものとなった。
技術的遅れへの反省と今後の展望
帝国の戦車や空中輸送艦を目の当たりにしたリムルは、自国の技術開発が後れを取っていたことを痛感した。列車は開発していたが、車や戦車までは思い至らなかったことを悔やみ、今後は自由な発想での研究と開発を強化する方針を固めた。戦後にはより柔軟な技術開発を目指し、未来への課題として受け止めたのである。
帝国軍の兵力と構成の把握
リムルは映像に基づき、帝国軍の総兵力が約百万であること、主力に機甲軍団の「魔導戦車師団」が存在することを説明した。カリギュリオ軍団長が地下迷宮の資源を狙っており、独断で行動する傾向があるため、戦略の予測が可能とされた。
戦力配備とゴブタの任務
第一軍団長ゴブタには戦車部隊との交戦が割り当てられたが、宿場町の死守は作戦には含まれておらず、住民の避難が優先された。ゴブタの軍はドワルゴンの防衛に転進し、ドワーフ王国軍との共闘が決定された。帝国の示威行動に対応するため、テンペストとドワルゴンは挟撃体制をとり、正面からの迎撃を目指す方針が示された。
避難誘導と帝国軍の異常な機動力
第三軍団長ガビルには住民の避難支援と後方からの増援が命じられた。帝国軍は魔導改造による異常な行軍速度を持ち、一日で最大八十キロ進軍可能と判明。開戦地点まで二十日程度で到達すると予測され、作戦は迅速な対応が求められるものとなった。
第二軍団の迎撃態勢と索敵体制の強化
帝国の本命はジュラの大森林を抜けて地下迷宮を目指すと見られ、陽動の戦車部隊とは別行動が確認された。ベニマルは防衛線に第二軍団のゲルドを配置し、進軍ルートの早期把握のためにソウエイとモスの監視能力を活用。森の中に潜む小隊規模の敵を各個撃破し、誘導戦術を展開する作戦が立てられた。
悪魔三人娘の実戦投入と軍団支援体制
リムルはテスタロッサ、ウルティマ、カレラの三名を軍団に配属し、戦力補強を図った。テスタロッサは第一軍団、ウルティマは第三軍団、カレラは第二軍団に付き従う形で配置され、各軍団長の支援にあたることとなった。三者の正体は秘匿されており、軍内部での影響を避けるため指揮系統に従うよう命じられた。
義勇兵団の役割とマサユキの配置
マサユキ率いる義勇兵団には治安維持任務が与えられた。市民の不安を抑える象徴としての役割を期待され、補佐官には聖騎士団から派遣される予定であった。迷宮内への都市避難計画により、マサユキの任務は迷宮内での民衆安定に集中される形となった。
都市隔離機構とラミリス・ヴェルドラの協力
地上の都市部はラミリスとヴェルドラの力で迷宮内に隔離される仕組みが構築されていた。百階層の守護者であるヴェルドラが敗北した場合、都市が露出するリスクが存在したが、迷宮十傑の布陣によってその事態は起こらないと予想された。
会議の締結と戦時体制の確立
全軍団長が士気高く任務に取り組む中、マサユキも役割を理解し、最終的に任を受け入れた。作戦統合本部の指導の下、各部隊は配備され、臨戦態勢が確立された。リムルはクロエの記憶にあった未来の不安を抱きつつも、智慧之王の助言を受け、自らの意志で仲間を守る決意を新たにし、その日の会議を締めくくった。
マサユキによる住民説得と勇者伝説の拡大
マサユキは、住民に対して戦争前の説得を成功させた。彼が『魔王リムルを説得して町の防衛を確約させた』という解釈が広まり、冒険者や移民者からは称賛を一身に受ける結果となった。本人は困惑の表情を見せていたが、それすらも勇者らしい憂いとして受け止められ、彼の評価は一層高まった。住民の間では、マサユキが町の守護者として絶大な信頼を集め、魔王リムルが加勢することで町の安全は確実視されていた。
帝国軍の出現と戦争の幕開け
町の住民が安堵の中で日常を取り戻しつつあったその時、ついに帝国軍が姿を現した。それは突如として現れた現実であり、準備を重ねてきたテンペストにとっても、いよいよ戦争が始まることを示す転機となった。平穏な日々は終焉を迎え、戦乱の幕が静かに、だが確実に上がろうとしていた。
終章 皇帝の覇道
ルドラの目覚めと大遠征の決定
皇帝ルドラは目を覚まし、元帥であるヴェルグリンドから帝国評議会で大遠征が決定されたことを知らされた。反対意見を唱えたガドラの現実的な見解を認めつつも、ルドラは遠征を通じて自らの覇道を世界に知らしめる意志を語った。これはギィとの約定に基づく行動であった。
灼熱竜ヴェルグリンドの存在と参戦
ヴェルグリンドはこの世界に存在する四体の竜種の一体であり、炎を象徴する不滅の存在であった。彼女はルドラに対し、必ず勝利をもたらすと断言し、魔王の慢心を砕き、眠れるヴェルドラを戦場に引きずり出すことで、ルドラの支配をギィに認めさせると述べた。
ルドラとギィのゲーム構造と駒の定義
ルドラとギィの対立は、世界を盤上としたゲームであり、魔物と人類が駒として用いられる。直接の対決を避けた上で駒のみを用いることがルールであり、原初の悪魔や最後の竜種の存在はゲームの不確定要素として扱われていた。
原初の悪魔たちの脅威と交渉戦略
原初の黄・紫・白の悪魔たちはいずれも強大な存在であり、無理に敵対すれば多大な被害が出ると判断された。特に原初の白は不死に等しく、交渉によって味方に引き入れることが最善とされた。ヴェルグリンドでさえ戦えば甚大な被害が予測されるため、現実的ではないと判断された。
ルミナスと西側の台頭による膠着
西方において土着神ルミナスが一神教へと発展し、支配体制が確立されたことは誤算であった。ルミナスが魔王であると発覚した頃にはすでに宗教が定着しており、東西の力の均衡によってゲームは膠着状態に陥っていた。
勇者たちと兄ヴェルダナーヴァの影響
勇者クロノアとグランベルの登場はルドラの戦略を困難にし、ヴェルダナーヴァが仕組んだ試練であるとルドラは捉えていた。ルドラとヴェルグリンドはその影響を嘆きながらも、駒が出揃った今こそが勝機であると確信していた。
障害の除去と情勢の変化
魔王ルミナスの正体判明、七曜の老師の失脚、グランベルの死去といった事象により、西側の脅威は激減していた。これらはルドラにとって覇道達成への追い風であり、天使之軍勢の再使用も可能となったことで、帝国は満を持して進軍準備を整えていた。
ルドラの肉体的制約と転生の代償
ルドラは自我と記憶を維持したまま転生を繰り返しており、その影響で魂が摩耗していた。今回は力の完全解放に至ったが、それを維持するために皇子の誕生を避けていた。皇子が生まれることで力が継承され、発動条件に制限がかかるため、最適なタイミングを逃すことを恐れたのである。
精神的疲弊と限界への自覚
力を蓄積し続けた結果、ルドラは極度の倦怠感と疲労に悩まされていた。眠りの頻度が高まり、魂の摩耗も進行していたが、彼は皇子への力の継承を拒み、今世での決着に全てを賭ける決意を固めていた。
最後の決意とヴェルグリンドの覚悟
ヴェルグリンドはルドラの状態を案じながらも、彼の覇道を支えることを誓い、戦場で慈悲なき死をもたらす役を担う覚悟を示した。ルドラは全てを終わらせる勝利を約束し、支配者としての姿勢を貫いた。
歴史的軍勢の出撃
そして翌日、歴史上最大規模の帝国軍が、魔国連邦を目指して進軍を開始した。
同シリーズ
転生したらスライムだった件 シリーズ
小説版






















漫画版







その他フィクション

コミックス(外伝含む)
『「転生したらスライムだった件~魔物の国の歩き方~」(ライドコミックス)』
『転生したらスライムだった件 異聞 ~魔国暮らしのトリニティ~(月刊少年シリウス)』
『転スラ日記 転生したらスライムだった件(月刊少年シリウス)』
『転ちゅら! 転生したらスライムだった件(月刊少年シリウス)』
『転生したらスライムだった件 クレイマンREVENGE(月刊少年シリウス)』
TVアニメ
転生したらスライムだった件 3期(2024年4月から)
劇場版
PV
OP
ED
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