物語の概要
■ 作品概要
エリーゼの出産を間近に控えたヴェンデリンのもとに、エリーゼの母ニーナと大伯父のクリムト(導師)が訪れる。
そこで見つかった14歳当時の肖像画をきっかけに、クリムトの若き日の回想が始まる。 アームストロング伯爵家の次男であるクリムトは、将来の義務に縛られる前に外の世界を楽しむため、冒険者予備校へ入学する。魔力量が少なく放出魔法の使えない落ちこぼれだった彼は、そこで水・風系統の魔法に優れた平民の少年ブルーノと出会い、親友となる。
予備校卒業後、二人は高名な冒険者パーティ『暁の夕暮れ』に加入し実戦経験を積むが、大物貴族ブルーガー公爵に匿われていた猟奇殺人鬼ダットー・シュタインの極秘暗殺任務に焦りから挑んだブルーノは、同行者に裏切られて命を落としてしまう。
クリムトは親友の仇を討つため、若手随一の魔法使いアルフレッドと共にダットーの潜伏先に潜入し、死闘の末に自身の限界を突破した一撃でダットーを討ち果たす。
ブルーノの葬儀後、クリムトは彼の妹リズリット(リズ)との新たな生活へと歩み出していく。
■ 主要キャラクター
クリムト・クリストフ・フォン・アームストロング
- 立場・所属:アームストロング伯爵家の次男。のちに「最終兵器」と称される王宮筆頭魔導師(導師)となる人物。
- 主人公との関係:この巻の回想シーンにおける主人公。
- この巻での主な役割:14歳で実家を出て冒険者予備校に入学。様々な労働やハプニング、そして『暁の夕暮れ』での実戦を通して冒険者としての立ち回りを学んでいく。
- この巻で起きた重要な変化や行動:放出魔法が使えず『身体強化』と『魔法障壁』による打撃しかできなかったが、親友ブルーノを殺したダットー・シュタインとの戦いで、特製魔晶石の全魔力を限界を超えて引き出すことで自身の潜在能力(大器晩成型)を開花させ、仇討ちを果たす。ブルーノの死後は、その妹リズ(のちに妻となる)を自宅に受け入れて新たな一歩を踏み出す。
ブルーノ
- 立場・所属:平民出身の冒険者予備校生。のちにパーティ『暁の夕暮れ』に加入する魔法使い。
- 主人公との関係:クリムトが予備校の魔法使いクラスで最初に出会った、最も信頼する親友。
- この巻での主な役割:華奢だが水・風系統の魔法に優れ、中級に届く実力を持つ。クリムトを貴族だからと特別視せずに対等に接し、仕事の紹介やルームシェアなど行動を共にする。
- この巻で起きた重要な変化や行動:実戦経験を求めて焦るエトガルの危うさを見かねて極秘暗殺任務に同行するが、エトガルに見捨てられて逃げられ、ダットーに無惨に切り刻まれて命を落とす。
アルフレッド・レインフォード
- 立場・所属:若手魔法使い随一と評される実力者。のちにヴェンデリンの師匠となる人物。
- 主人公との関係:特別講義での臨時講師。のちにクリムトの「新しい親友」であり、仇討ちの共同戦闘パートナー。
- この巻での主な役割:クリムトの大器晩成型の潜在能力を最初に見抜き、ダットー・シュタインの極秘暗殺においてクリムトの頑丈さと突進力を活かした綿密な連携作戦を提案・実行する。
- この巻で起きた重要な変化や行動:クリムトと共に対等な連携でダットー・シュタインを撃破し、戦闘後はクリムトと呼び捨てで呼び合う新たな親友となる。
血まみれキャンディー
- 立場・所属:百年以上続く高名な冒険者パーティ『暁の夕暮れ』のリーダー。
- 主人公との関係:クリムトとブルーノの上司であり、冒険者としての師。
- この巻での主な役割:大剣使いの凄腕冒険者だが、心は乙女であり料理や裁縫、新人の育成にも長けている。『剣撃団』の密売事件で冒険者ギルドや貴族から敬遠されていたクリムトを、実力と将来性を評価してスカウトする。
- この巻で起きた重要な変化や行動:ダットー・シュタインの暗殺に臨むクリムトに、高威力の魔法を数回防ぐ特殊なアンダーウェアと即効性の治療薬を渡し、彼の生存と勝利を裏から支える。
リズリット(リズ)
- 立場・所属:ブルーノの妹。のちにクリムトの妻の一人となる人物。
- 主人公との関係:ブルーノを介して知り合い、のちにクリムトと心を通わせる女性。
- この巻での主な役割:家事が苦手なクリムトとブルーノの新居を定期的に訪れ、料理や掃除、洗濯を行って生活をサポートする。
- この巻で起きた重要な変化や行動:兄ブルーノを失うが、キャンディーから兄の死の真相とクリムトが命を懸けて仇を討った真実を聞き、クリムトを「リズ」と呼ぶように告げて再び彼の世話を焼き、共に新たな生活へ歩み始める。
ダットー・シュタイン
- 立場・所属:上級魔法使い。裏の顔は「殺人鬼」。
- 主人公との関係:クリムトの親友ブルーノを殺した仇。
- この巻での主な役割:肉体を切り裂く性的衝動を満たすために百人以上の冒険者を殺害してきた狂気の魔法使い。先代国王の双子の弟であるブルーガー公爵に匿われ、バーゼル子爵領の森に潜伏していた。
- この巻で起きた重要な変化や行動:暗殺に挑んだエトガルとブルーノを撃退しブルーノを殺害。その後の再襲撃で「燃える水」を操る独自の魔法でクリムトとアルフレッドを追い詰めるが、クリムトの限界突破の一撃によって両腕と胸を撃ち抜かれ死亡する。
ホーエンハイム枢機卿
- 立場・所属:正教徒派カソリック教会の枢機卿。エリーゼの祖父。
- 主人公との関係:クリムトの潜在能力に注目していた教会の権力者であり、ブルーノを死に追いやった暗殺の依頼主。
- この巻での主な役割:王国の安寧を脅かすダットー・シュタインを極秘裏に排除するため暗殺を計画するが、焦りからエトガルとブルーノに強行させて失敗を招く。
- この巻で起きた重要な変化や行動:ダットー討伐の直後、聖堂騎士団を率いて現場を包囲し、口封じを図ろうとしたブルーガー公爵とバーゼル子爵をその場で毒殺してお家騒動を即座に完全鎮圧する冷徹さを見せる。
書籍情報
八男って、それはないでしょう! 16
著者:Y.A 氏
イラスト:藤ちょこ 氏
出版社:KADOKAWA(MFブックス)
発売日:2019年3月25日
ISBN:9784040656366
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
あらすじ・内容
そろそろお腹が目立ってきたエリーゼと、無事教え子を巣立たせたヴェルのもとに、ニーナと導師が様子を見に訪ねてくる。そして生まれてくるであろう子の話に花を咲かせるなか、いつしか話題は導師の昔話に――。
それは、アームストロング伯爵家のために尽力する人生しか待ち受けていないのであれば、猶予ある限り『全力で外の世界を楽しむのである!』と母の墓標に誓いを立て、冒険者予備校の門を叩いた若き日の導師の立志譚であった。
大器晩成で不器用なアームストロング少年の成長、そんな彼の相棒となる美少年ブルーノとの出会い、そしてすでに活躍中のアルフレッドへのライバル心!
王都を舞台に、王国の黎明期を彩った偉人たちが多数登場する完全書き下ろしの第十六幕!
八男って、それはないでしょう! 16
感想
今回は本編でも強烈な存在感を放っているアームストロング導師、クリムトの過去編である。
まず何より驚いた。
導師、アルフレッドより年下だったのか。
2巻からずっと見てきたあの貫禄と老け顔のせいで、どう考えてもアルフレッドより年上だと思っていた。
しかも十四歳の頃からすでに今の面影がかなりある。
本人は「昔は小さくて可愛らしかった」と主張するが、最後に出てくる肖像画を見る限り、やっぱり十四歳には見えない。
今回、ブルーノの死やダットー・シュタインとの戦いなど重い話も多いのだが、個人的にはこの年齢差がかなり大きな衝撃だった。
今では怪物みたいに強い導師も、昔は落ちこぼれ魔法使いだった
現在の導師を知っていると信じられないが、冒険者予備校へ入った頃のクリムトは、魔法使いとしてかなり微妙な立場だった。
魔力量は初級レベル。
しかも成長速度が異常に遅い。
さらに放出系の魔法が使えない。
ファイヤーボールも飛ばせない。
念力すら使えない。
ではどうやって戦うのかというと、魔法障壁をまとって体当たり。
身体強化して殴る。
拳や足へ魔力を込めて直接ぶつける。
……今とあまり変わってないな。
初日の実技でも、他の生徒が火や氷の魔法を飛ばしている中、クリムトだけ人形へショルダーアタックして粉砕している。
魔法使いとは。
本人も魔法使いらしい派手な魔法を使いたがっており、放出魔法が使えないことをかなり気にしている。周囲からも中途半端な魔法使いだと陰口を叩かれていた。
今ではあれだけ規格外なのに、当時は「このまま初級を抜けられないかもしれない」と本気で悩んでいたのが興味深い。
そしてアルフレッドだけは、そんなクリムトを見て何かを感じ取っていた。
周囲が天才だと評価していたエトガルを「秀才」と見ながら、名前すら明かさず「大器晩成型の新人がいる」とブランタークに話している。
いつか自分を超えるかもしれない。
そして、その時には勝負を挑んでくるかもしれない。
後の二人を知っていると、この時点でアルフレッドがクリムトの異質さを見抜いていたのも面白かった。
キャンディーさんに鍛えられ、ブルーノという親友を得る
そんな若いクリムトの冒険者人生で大きな存在になるのが、ブルーノとキャンディーである。
ブルーノは冒険者予備校で出会った同級生。
平民出身だが魔法使いとしてはクリムトより遥かに優秀で、氷の刃を使いこなす有望株だった。
一方で、クリムトの変わった戦い方を馬鹿にしない。
むしろ魔物の素材を傷つけにくい実用的な攻撃だと評価してくれる。
二人で工事現場や書店、酒場のアルバイトまでしているのがいい。
現在の導師からは想像しにくい、普通の学生生活である。
そして、もう一人が《血まみれキャンディー》。
心は乙女。
身体はマッチョ。
名前だけ聞いたら可愛らしいのに、ワイルドベアーの群れを一人で倒し、返り血で血まみれになるから《血まみれキャンディー》。
濃いな。
後にクリムトとブルーノを自分のパーティ《暁の夕暮れ》へ迎え、二人を冒険者として鍛えていく。
現在の導師が頭の上がらない存在なのも納得だった。
クリムトは元々、一人で突っ込んで敵を殴り倒す戦い方をしていた。
そこへキャンディーが、後衛の射線や仲間との連携、集団戦での立ち位置まで叩き込んでいく。
現在の導師の強さは、単に魔力が増えたからではなく、こういう地道な経験の積み重ねでもあるのだと分かる。
親友ブルーノの死は、思っていた以上に重かった
そんな青春時代が続くと思っていたところで、ブルーノが死ぬ。
しかも普通の冒険中の事故ではない。
殺人鬼ダットー・シュタインの暗殺任務に参加し、返り討ちにされていた。
ここはかなり重い。
ブルーノは自分が名誉を得たいから参加したわけではない。
一緒に依頼を受けたエトガルが危ういことに気付き、彼が一人でも行くと判断したから付き添った。
その結果、自分が死ぬ。
しかもダットーは、エトガルへ「ブルーノを置いて逃げれば追わない」と持ちかける。
瀕死のエトガルは逃げる。
取り残されたブルーノは、その後さらに切り刻まれて殺された。
普段の導師から、この過去は想像できなかった。
豪快で、悩みなど力ずくで吹き飛ばしそうな人物に見える。
でも若い頃には、自分を理解してくれた親友を理不尽な形で失っている。
しかもブルーノの遺体を、自分の手で綺麗にして家族へ返している。
リズリットが少しでも悲しまないように、傷だらけの体を縫い、清めて、新しい服を着せる。
ここはかなり辛かった。
その後、クリムトはアルフレッドと共にダットー討伐へ向かう。
理由を聞かれても、王国のためとか、犠牲者のためとか、立派なことを言わない。
今はブルーノの仇を討ちたい。
それだけ。
最終的には魔晶石の力まで拳へ全部ぶち込み、ダットーの腕を吹き飛ばして胸を貫く。
やっぱり最後は拳なのか。
でも、この戦いでクリムトが秘めている本当の魔力量の大きさまで判明し、大器晩成型だったことがはっきりしてくる。
失ったものは戻らない。それでも最後に幸せが残るのが救いだった
ブルーノを失った代わりになるわけではない。
それでも、この事件を通じてクリムトはアルフレッドと親友になる。
共に命を懸けてダットーを倒した後、アルフレッドから呼び捨てで呼び合おうと言われる。
後にあれだけ親しくなる二人の始まりが、ここだった。
そして、さらに驚いたのがリズリットである。
ブルーノの妹だったリズが、後に導師の妻になっている。
そういう関係になるのか。
ブルーノの葬儀後、リズはクリムトの家へやって来る。
兄を失った悲しみは当然消えていない。
それでも、ブルーノのために命を懸けて仇討ちをしてくれた親友がいたことを嬉しく思うと伝える。
そこから少しずつ新しい生活が始まっていく。
親友を失った事実は変わらない。
クリムト自身も、一度は冒険者として行き場を失い、親友まで殺され、かなり大きな挫折を経験している。
それでもキャンディーに育てられ、アルフレッドという新しい親友ができ、最後にはブルーノの妹であるリズと家庭を築いた。
今の豪快な導師だけを見ていると、最初から何でも力ずくで乗り越えてきた人物のように見える。
実際には、魔法使いとして落ちこぼれ扱いされ、冒険者として失敗し、大切な友人まで失っている。
それでも諦めずに積み重ねた結果が、現在のマッチョ導師なのだと思うと、今までとは少し違って見えてくる。
ただし。
アルフレッドより年下だったという事実だけは、まだ納得できない。
あの顔で年下なのか……。
最後までお読み頂きありがとうございます。
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
考察・解説
主要な転換点
『剣撃団』の密売摘発と暁の夕暮れへの加入
- それ以前の状況:予備校を卒業したクリムトは、接近戦主体の魔法スタイルと実家への政治的配慮から、どこのパーティからも勧誘されず行き場をなくしていた。
- 出来事:ようやく入れた『剣撃団』が実は違法魔法薬の密売にクリムト(の実家の名前)を利用しており、それに気付いたクリムトは暗闇の中で彼らを一人で全滅させて拘束した。しかし、実家への疑惑が生じたことでパーティは解散し、冒険者ギルドや貴族からさらに敬遠される事態となった。
- 変化:行き場を失ったクリムトの前に血まみれキャンディーが現れ、彼を実績ある新人育成パーティ『暁の夕暮れ』へとスカウトし、ブルーノと同じパーティで再び活動できるようになった。
- 次への影響:『暁の夕暮れ』に加入したことで、クリムトは厳しい実戦の中で周囲との連携や前衛としての立ち回りを身につけることができた。
ベッケンバウアーの魔法薬による一時的女性化
- それ以前の状況:『暁の夕暮れ』で前衛としての実績を重ねつつ、ブルーノと同じ瑕疵物件でルームシェア生活を送っていた。
- 出来事:調合実験中の事故で「美男美女薬」の煙を吸い、クリムト、ブルーノ、キャンディーの3人が2〜3日間の間、肉体そのものが女性へと変化してしまった。
- 変化:クリムトは筋肉質の逞しい巨乳女性に、ブルーノは美少女へと変化し、その姿のまま大貴族モーゲーソン伯爵の跡取りフランクリンの狩猟・野営指導に当たるハプニングが起きた。
- 次への影響:フランクリンが女性姿のクリムトに一目惚れし、性別が男性に戻った後も執拗にプロポーズされ続け、諦めさせるのに数ヶ月を要する大騒動に巻き込まれることとなった。
親友ブルーノの惨殺とダットー・シュタインの正体の発覚
- それ以前の状況:『暁の夕暮れ』加入から約一年が経ち、クリムトとブルーノは個別の依頼を受けられるまで一人前の冒険者として成長していた。
- 出来事:ブルーノが極秘裏にダットー・シュタインの暗殺任務に挑むも、エトガルに裏切られて見捨てられ、ダットーによって全身を切り裂かれて惨殺された。
- 変化:親友の死に直面したクリムトは、政治的な配慮や大人の事情(ダットーがブルーガー公爵に匿われている事実)を無視し、親友の仇を討つためにアルフレッドと組んで死闘に臨む決意を固めた。
- 次への影響:クリムトとアルフレッドによる、危険極まりないダットー・シュタインの極秘暗殺作戦の本番へと繋がった。
限界を超えた魔力の引き出しによるダットー撃破
- それ以前の状況:ダットーの「燃える水」を操る高度な全系統魔法の前に、クリムトの防具も限界に達し、アルフレッドも魔力を消耗して追い詰められていた。
- 出来事:アルフレッドはクリムトの潜在的な「大器晩成型」の魔力を信じ、容量の大きな魔晶石を渡して一撃を託した。アルフレッドの連携でダットーの退路を塞いだ瞬間、クリムトは自分の最大魔力量制限を無視して魔晶石の全魔力を引き出し、右拳に込めてダットーの防御を粉砕し、胸を撃ち抜いて即死させた。
- 変化:それまで初級扱いだったクリムトの、現在の魔力量では説明がつかない計り知れない潜在能力(大器晩成型)が初めて戦闘中に開花した。
- 次への影響:ダットーの撃破、およびその後に現れたブルーガー公爵・バーゼル子爵をホーエンハイム枢機卿らが毒殺することでお家騒動が完全終結する道筋を作った。
クリムトを中心とした人物関係の変化
ブルーノ
- 開始時:冒険者予備校の入学式で、隣の席になったことで出会う。当初ブルーノはクリムトを大剣使いだと思っていた。お互いに自分にない強さ(クリムトの肉体、ブルーノの魔力・精密さ)を認め、親友となる。
- 主な出来事:一緒にアルバイトをし、一軒家を借りてルームシェア生活を始める。『暁の夕暮れ』でも共に冒険者として成長する。しかし、ブルーノがダットー暗殺任務で殺害される。
- 巻末時:クリムトは命を懸けてブルーノの仇を討ち果たし、彼の形見となった魔法書を大切に受け継ぐ。永遠の存在としてクリムトの心に残り続ける。
アルフレッド
- 開始時:冒険者予備校での特別講義で、臨時講師と生徒として出会う。アルフレッドはクリムトを「どういう魔法使いになるか想像がつかないが、自分が正しいと思う方向に進めば良い」とだけ告げる。
- 主な出来事:ブルーノの遺体の処置を共に行い、ダットーの暗殺任務に二人で挑む。戦闘中、アルフレッドはクリムトの潜在能力を信じて特製魔晶石を渡し、見事な連携でダットーを討ち取る。
- 巻末時:戦闘後、アルフレッドから「クリムト」「アルフレッド」と呼び捨てることを提案され、命を共に懸けた対等な魔法使いとしての「新しき親友」となる。
リズリット(リズ)
- 開始時:ブルーノの妹として、書店のアルバイト中にクッキーを届けてくれた際に出会う。クリムトは彼女を見て妹のニーナを思い出す。
- 主な出来事:クリムトとブルーノが新居に引っ越した後、家事が苦手な二人のために、小遣いと引き換えに定期的に掃除・洗濯・料理をして世話を焼くようになる。
- 巻末時:ブルーノの葬儀後、キャンディーから兄の死の真相とクリムトの仇討ちの話を聞き、クリムトを「リズ」と呼ぶように促して新たな生活を共に進め、のちに彼の妻(四人のうちの一人)となる。
クリムトの認識と周囲の評価
クリムト自身の認識
- 自身の魔力量はクラスでも下から数えた方が早く、放出系魔法(『ファイヤーボール』や『念力』など)が使えない「落ちこぼれの魔法使い」だと認識している。
- 自分の得意な魔法は『身体強化』と『魔法障壁』だけであり、肉体に魔力を通して殴る、あるいは体当たりするだけの戦闘スタイルは「魔法使いらしくない中途半端なもの」だと思っている。
周囲からの評価
- クラスメイト:魔法使いとして生まれたのに放出魔法も使えず、ただ体格が大きくて殴るだけのクリムトを「魔法使いらしくない」「中途半端な魔法使い」と陰口を叩いていた。
- 家族(父・兄・ニーナ):魔法使いらしく見えなくても、戦闘力が高く武の一家であるアームストロング伯爵家にふさわしい強さを持っていると認めていた。
- アルフレッドとリネンハイム:クリムトの魔力増加ペースは極端に遅いものの、その裏に「現在の魔力量では説明がつかないほどの大きな力を秘めている」ことを見抜き、いずれ大化けする「大器晩成型」の天才だと高く評価していた。
- ブルーノ:クリムトの打撃による戦闘スタイルを「魔物の素材を傷つけない、冒険者として極めて実用的で効率的な方法」だと評価し、いずれ彼が大物になる可能性を信じていた。
認識の差が現れた場面
- 予備校での実技講義にて、クリムトが『魔法障壁』を張って木人形にショルダーアタックをしてバラバラにした際、クラスメイトは「ただ体が大きいからだ」「魔法ではない」と批判したが、ハック先生やブルーノは「なかなかの威力」「実用的な攻撃」と称賛した。
- ダットー・シュタインとの決戦時、ダットーはクリムトの少ない魔力量を見て「その程度の実力で」「嬲り殺されるだけ」と防御を侮っていた。しかし、クリムトがアルフレッドから渡された大容量魔晶石の全魔力を(本来なら自分の限界値までしか引き出せないはずの制限を突き破って)一気に出し切り、右拳に込めてダットーの両腕と胸を撃ち抜いた場面で、クリムトの潜在的な魔力量が怪物級(大器晩成)であることが実証された。
クライマックス
発生原因: 猟奇殺人鬼である上級魔法使いダットー・シュタインがブルーノを惨殺。ダットーは先代国王の双子の弟ブルーガー公爵に匿われ、バーゼル子爵領の森に潜伏して兵に守られていた。上級魔法使いが合流して近づけば警戒されるため、クリムトは親友ブルーノの仇を討つために、アルフレッドと共に極秘裏に暗殺に挑む。
当初の状況: 警戒を強めてランダムに小屋を移動していたダットーであったが、クリムトとアルフレッドが到着すると、すでに警備兵を気絶させて小屋の外で待ち構えていた。ダットーはブルーノをじわじわと切り刻んで殺したことを嬉々と語り、戦闘が開始される。
登場人物それぞれの行動:
- クリムト:キャンディーから託された、高威力の魔法を防ぐ特殊なアンダーウェアを着て戦闘に参加。アルフレッドのサポートを受けながら、ダットーへの接近・肉弾戦を試みる。
- アルフレッド:ダットーの多彩な全系統魔法に対抗。ダットーが繰り出す『岩棘』の生成を妨害し、炎の壁やウィンドカッターでクリムトへの追撃を防ぐ。
- ダットー・シュタイン:岩棘、追尾する火炎の鳥などを放つ。さらに「燃える水(揮発性で一度火がつくと消えない水)」を魔法で再現し、二人の体に巻きつけて着火させ、火傷を負わせて追い詰めていく。
予定外の出来事と危機: ダットーの「燃える水」による自在な着火攻撃により、アルフレッドは治癒魔法で魔力を急激に消耗。クリムトの防具も限界に達し、このままではジリ貧で戦闘不能にされ、生きたまま切り刻まれるという絶体絶命の危機に陥る。
対応: ダットーが勝利を確信して油断した瞬間、アルフレッドはクリムトに「膨大な魔力が蓄えられた特製の魔晶石」を渡し、拳の一撃にかける賭けを提案。アルフレッドは、ダットーが「燃える水」を放った瞬間に先手を打って着火させ、炎のヘビとして水魔法で相殺。さらにダットーの周囲に岩壁を急造して退路を塞ぐ。クリムトは火炎を突き破ってダットーに突進する。
決着: ダットーは両腕をクロスさせて魔力による鉄壁の防御を固めた。しかし、クリムトは本来なら自分の最大魔力量までしか引き出せない魔晶石の限界制限を「大器晩成型」の潜在能力で突き破り、全魔力を一気に出し切って右拳に込めた。その渾身の一撃はダットーの両腕を千切り飛ばし、胸を完全に貫いて貫通。ダットーは自分の防御が破られたことに驚愕しながら、即死した。
その直後の結果: 直後、ブルーガー公爵とバーゼル子爵が兵を率いて二人を口封じに殺そうとする。しかし、そこへホーエンハイム枢機卿の聖堂騎士団とアームストロング伯爵の軍勢が出現し、逆に包囲する。国王も公爵の排除を認めており、ホーエンハイム枢機卿は抵抗するブルーガー公爵とバーゼル子爵をその場で毒殺し、王国のお家騒動は即座に完全沈黙された。
巻末時点の状況
- 主人公(クリムト)がいる場所と立場: 事件後、アルフレッドらと共に国王に謁見して謝罪と報酬を受け取り、アームストロング伯爵家の屋敷に戻って家族に叱られつつも功績を称えられる。その後、王都の共同下宿先に戻り、魔法書を読んで過ごしている。
- 主要人物との関係: アルフレッドとは、共に命を懸けた戦いを経て、お互いを「アルフレッド」「クリムト」と呼び捨てる、身分を超えた「新しき親友」となる。 ブルーノの妹リズとは、兄の死の真相と仇討ちの真実を共有したことで信頼を深め、これからは「リズ」と呼ぶように告げられ、再び料理や世話を焼いてもらう関係が始まる。
- 解決した問題: 親友ブルーノを殺した殺人鬼ダットー・シュタインが討伐され、彼を匿って王位を脅かしていたブルーガー公爵、バーゼル子爵が排除され、王国の大きな火種が極秘裏に処理された。
- 継続している問題と今後につながる要素: ブルーノというかけがえのない親友を失った悲しみはリズと共に抱え続けるが、リズが定期的にクリムトの自宅を訪れて家事の世話をする関係(のちに妻となる生活)が始まっていく。 クリムトは自分の潜在能力が「大器晩成型」であることをアルフレッドから告げられ、今後さらに時間をかけて成長していく魔法使いとしての道を進む。 そして、エリーゼのお腹の子(バウマイスター伯爵家の跡取り)が、導師のように逞しく育つことを期待されながら、いつもの王都での日常に戻っていく。
登場キャラクター
バウマイスター伯爵家(現代の聞き手)
ヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスター
本編の主人公であり、バウマイスター伯爵家の当主である。
彼はエリーゼの夫だ。
彼は大伯父であるクリムトの昔話を聞く。
・所属組織、地位や役職
バウマイスター伯爵家・当主。
・物語内での具体的な行動や成果
彼は王都までニーナとクリムトを瞬間移動魔法で迎えに行った。
彼はクリムトから昔話を語り聞かされる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼は近々子供が生まれる予定である。
エリーゼ・カタリーナ・フォン・ホーエンハイム
ヴェンデリンの正妻であり、ニーナの娘だ。
彼女はクリムトの姪にあたる。
彼女は現在出産を間近に控えている。
・所属組織、地位や役職
バウマイスター伯爵家・正妻。
・物語内での具体的な行動や成果
彼女は伯爵邸を訪れた母や大伯父を迎え入れた。
彼女はクリムトの昔話をヴェンデリンとともに聞く。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼女は間もなく子供を出産する予定だ。
エルヴィン・フォン・アルニム
ヴェンデリンの親友であり、彼の家臣を務める。
彼はエルの愛称で呼ばれている。
彼はクリムトの肖像画に強い関心を示した。
・所属組織、地位や役職
バウマイスター伯爵家・家臣。
・物語内での具体的な行動や成果
彼はクリムトの持っていた昔の肖像画について指摘を行った。
彼はヴェンデリンたちと同席して昔話を聞く。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特に地位の変化は記述されていない。
アームストロング伯爵家
クリムト・クリストフ・フォン・アームストロング
アームストロング伯爵家の次男である。
彼はのちに王宮筆頭魔導師となる。
彼は若い頃は線が細く、魔力量も少なかった。
・所属組織、地位や役職
アームストロング伯爵家・次男。冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
彼は冒険者予備校に通い、のちに『暁の夕暮れ』に所属した。
彼は親友ブルーノを殺したダットー・シュタインを討ち取った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼はダットー討伐の功績で、のちに王宮筆頭魔導師への道を歩み始める。
ニーナ・フォン・ホーエンハイム
クリムトの異母妹であり、エリーゼの母親である。
彼女はヴィターゼン伯爵家出身の義母に育てられた。
彼女はホーエンハイム子爵家に嫁ぐ予定だ。
・所属組織、地位や役職
アームストロング伯爵家・令嬢。
・物語内での具体的な行動や成果
彼女は墓参りをするクリムトに別れの挨拶をした。
彼女はバウマイスター伯爵邸を訪れ、エリーゼの様子を見守る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼女はホーエンハイム子爵家に嫁いだ。
アームストロング伯爵
アームストロング伯爵家の当主である。
彼はクリムトやニーナの父親だ。
彼は軍部の重鎮を務めている。
・所属組織、地位や役職
アームストロング伯爵家・当主。
・物語内での具体的な行動や成果
彼はかつてダットー・シュタインの暗殺有志連合に参加した。
彼は軍勢を率いてダットー討伐直後の現場に現れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼は軍系貴族の重鎮として強い影響力を持っている。
ヘルムート王国(王宮・貴族・その他)
王太子
ヘルムート王国の王太子である。
彼はクリムトの幼馴染であり、親友だ。
彼は王城で自由に外に出られない立場を羨んでいた。
・所属組織、地位や役職
ヘルムート王国・王太子。
・物語内での具体的な行動や成果
彼は旅立つクリムトから事前の挨拶を受けた。
彼はクリムトに将来の助力を要請した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
のちにヘルムート三十七世として王位を継承する。
国王
ヘルムート王国の現在の国王である。
彼は先代国王の息子だ。
彼はブルーガー公爵への対応を長年決断できずにいた。
・所属組織、地位や役職
ヘルムート王国・国王。
・物語内での具体的な行動や成果
彼はダットー・シュタイン討伐後のクリムトたちと極秘裏に謁見した。
彼はこれまでの対応の遅れをクリムトたちに謝罪した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼は事件に際し、ブルーガー公爵の処分を黙認した。
セバスチャン
ホーエンハイム子爵家の執事である。
彼はニーナの世話役を務めている。
彼は非常に仕事に忠実な人物だ。
・所属組織、地位や役職
ホーエンハイム子爵家・執事。
・物語内での具体的な行動や成果
彼はニーナに同行してパスツール湖を訪れた。
彼は現地でマテ茶の給仕などを行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特に記述されていない。
バート子爵
パスツール湖がある領地を治める領主である。
彼は領地の観光資源化を強く望んでいる。
彼はパッシーの噂を利用して観光客を増やそうとした。
・所属組織、地位や役職
バート子爵家・当主。
・物語内での具体的な行動や成果
彼は船に偽物のパッシー(ハリボテ)を載せて宣伝を試みた。
彼はのちに本物のパッシーを剥製にして展示する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特に記述されていない。
ゲットー
バート子爵の部下である。
彼は領地開発のために当主の命令に従って動いている。
・所属組織、地位や役職
バート子爵家・家臣。
・物語内での具体的な行動や成果
彼はバート子爵とともにパッシーのハリボテを用いた宣伝の準備を進めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特に記述されていない。
モーゲーソン伯爵
王国の治水を担当する大物法衣貴族である。
彼の一族は代々美男美女として有名だ。
彼は息子の気が弱いことを心配している。
・所属組織、地位や役職
モーゲーソン伯爵家・当主。
・物語内での具体的な行動や成果
彼は息子の教育を『暁の夕暮れ』に依頼した。
彼はベッケンバウアーの調香実験に資金を出していた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
治水分野において強い影響力を持っている。
フランクリン
モーゲーソン伯爵の跡取り息子である。
彼は十二歳ほどの美少年だ。
彼は女性化したクリムトに一目惚れした。
・所属組織、地位や役職
モーゲーソン伯爵家・外嗣。
・物語内での具体的な行動や成果
彼は狩猟の訓練でウサギや鹿を見事に仕留めた。
彼はクリムトに獲物を捧げ、男性に戻った彼にも求婚し続けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特に記述されていない。
執事
モーゲーソン伯爵家に仕える執事である。
彼もまた端正な顔立ちをしている。
・所属組織、地位や役職
モーゲーソン伯爵家・執事。
・物語内での具体的な行動や成果
彼は女性化したキャンディーやクリムトを見て言葉を失った。
彼は一行をモーゲーソン伯爵の元へ案内した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特に記述されていない。
教会(正教徒派カソリック教会)
ホーエンハイム枢機卿
正教徒派カソリック教会の枢機卿であり、エリーゼの祖父である。
彼は「妖怪」と恐れられる老練な政治家だ。
彼はダットー・シュタインの暗殺を計画した。
・所属組織、地位や役職
カソリック教会・枢機卿。
・物語内での具体的な行動や成果
彼はエトガルとブルーノに強硬な暗殺命令を下して失敗した。
彼は聖堂騎士団を率いてブルーガー公爵たちを包囲し、その場で毒殺した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
教会や王国内で強大な権力と影響力を持っている。
若い神官
カソリック教会の若い神官である。
・所属組織、地位や役職
カソリック教会・神官。
・物語内での具体的な行動や成果
彼はクリムトを呼び止め、ブルーノの死を告げた。
彼はクリムトを遺体安置所まで案内した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特に記述されていない。
冒メント予備校王都校
ハック先生
冒険者予備校王都校の魔法使いクラスの担任教師である。
彼は生徒たちの才能を見極める役割を担っている。
・所属組織、地位や役職
王都冒険者予備校・講師。
・物語内での具体的な行動や成果
彼はクラス最初の実技講義で、木製の人形を標的にして生徒の実力を測った。
彼はクリムトに放出魔法の習得と魔力量の増加を促した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特に記述されていない。
エトガル・トレーダー
魔法使いクラスの首席生徒である。
彼は卒業時点で上級クラスの魔力量を持つ「天才」と称されていた。
彼はアルフレッドにライバル心を抱いている。
・所属組織、地位や役職
王都冒険者予備校・首席生徒。
・物語内での具体的な行動や成果
彼は実技講義で火の糸を用いて人形の首を綺麗に焼き切った。
彼は極秘暗殺任務でブルーノを見捨てて逃げ帰り、精神を崩壊させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼は将来を嘱望されていたが、任務失敗により廃人同然となった。
冒険者パーティ『暁の夕暮れ』
ブルーノ
平民出身の冒険者である。
彼はクリムトの最初の親友だ。
彼は水と風の魔法を得意としており、非常に優しい性格をしている。
・所属組織、地位や役職
『暁の夕暮れ』・魔法使い。
・物語内での具体的な行動や成果
彼はクリムトに様々な短期アルバイトを紹介した。
彼はエトガルの身を案じて暗殺任務に同行したが、見捨てられてダットーに殺害された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼は若くして命を落とし、彼の死はクリムトに多大な影響を与えた。
血まみれキャンディー
『暁の夕暮れ』のリーダーである。
彼は大剣使いの凄腕冒険者だが、心は乙女である。
彼は新人の育成に優れた才能を持っている。
・所属組織、地位や役職
『暁の夕暮れ』・リーダー。
・物語内での具体的な行動や成果
彼は剣撃団を失ったクリムトを自らのパーティにスカウトした。
彼はダットー暗殺に臨むクリムトに特殊な防具を渡して支援した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
かつてワイルドベアーの群れを無傷で全滅させた実績を持つ。
ボルトル
『暁の夕暮れ』のサブリーダーである。
彼は三十二歳のオッサンだ。
彼は弓やナイフの扱いや罠の設置に長けている。
・所属組織、地位や役職
『暁の夕暮れ』・サブリーダー。
・物語内での具体的な行動や成果
彼は予備校生のクリムトたちに実戦の連携を厳しく教え込んだ。
彼は食べられたウサギの代わりに、別のウサギを塗料で偽装した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼は既婚者である。
ダールトン
『暁の夕暮れ』の前衛を務めるメンバーである。
彼は二十代半ばの、寡黙でほとんど喋らない男性だ。
彼は大斧を武器として使っている。
・所属組織、地位や役職
『暁の夕暮れ』・前衛。
・物語内での具体的な行動や成果
彼はクリムトたちと共に魔物の討伐や探索に従事した。
彼はリズリットにお土産の菓子を買って届けるなど、気遣いを見せた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼は既婚者であり、子供がいる。
冒険者(その他)
アルフレッド・レインフォード
若手魔法使い随一と評される魔法使いである。
のちにヴェンデリンの魔法の師匠となる。
彼はクリムトの「大器晩成」の潜在能力に注目していた。
・所属組織、地位や役職
高名な魔法使い。
・物語内での具体的な行動や成果
彼は予備校の特別講師としてクリムトの資質を最初に見抜いた。
彼はクリムトとともにダットー・シュタインを倒し、彼の新しい親友となった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
のちに魔の森で死亡して死霊(古代竜)となるが、本編より前の出来事だ。
ブランターク・リングスタット
アルフレッドの魔法の師匠である。
彼は非常に経験豊富なベテラン魔法使いだ。
・所属組織、地位や役職
ブライヒレーダー辺境伯家のお抱え魔法使い。
・物語内での具体的な行動や成果
彼はアルフレッドから予備校生の話を酒場で聞き出した。
彼はクリムトの特異な潜在能力についてアルフレッドと議論を交わした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特に記述されていない。
ジッポー
『暁の旅団』に所属するベテラン冒険者である。
彼は態度が大きく、酔って看板娘に絡んでいた。
・所属組織、地位や役職
『暁の旅団』・メンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
彼は酒場で看板娘を強引に連れ出そうとした。
彼は間に入ったクリムトに抜刀を手ごと防がれ、キャンディーの威圧を受けて逃げ去った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特に記述されていない。
冒険者パーティ『剣撃団』・密売グループ
タンドリー
違法魔法薬の密売グループに属する魔法使いである。
・所属組織、地位や役職
密売グループ・魔法使い。
・物語内での具体的な行動や成果
彼は密売現場を襲撃してきたクリムトにファイヤーボールを放った。
彼はクリムトが盾とした仲間にファイヤーボールを防がれ、投げつけられて倒れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
クリムトによって他の密売グループとともに拘束された。
魔導ギルド
ベッケンバウアー
魔導ギルドで魔法陣の改良を研究する若い魔法使いである。
彼は研究費を得るために貴族から美男美女薬の製造依頼を受けた。
・所属組織、地位や役職
魔導ギルド・研究員。
・物語内での具体的な行動や成果
彼は調合実験で誤って「男性を女性に変える魔法薬」を爆発させた。
彼は失敗した魔法薬でクリムトたちを女性化させて大騒動を起こした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特に記述されていない。
商人・不動産業・その他
ゼノ
王都の商業街で広い書店を経営する初老の男性である。
彼は魔法関連の書籍に詳しい。
彼は売上のために多くの色本を取り扱っている。
・所属組織、地位や役職
ゼノ書店・店主。
・物語内での具体的な行動や成果
彼はクリムトとブルーノを店番や掃除の短期アルバイトとして雇い入れた。
彼はクリムトが高価な色本を二百セントで売った際に、もっと高く売れたとアドバイスした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特に記述されていない。
料理人
冒険者ギルド本部に近い酒場で働く中年の料理人である。
彼は長年、多くの冒険者を見てきた経験から世情に詳しい。
・所属組織、地位や役職
酒場の料理人。
・物語内での具体的な行動や成果
彼はブルーノに対して女性ばかりのパーティに入る危険性を忠告した。
彼は酔ったジッポーが看板娘に絡んだ際、体格の大きなクリムトを仲裁に向かわせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特に記述されていない。
看板娘
酒場で働く愛らしい看板娘である。
・所属組織、地位や役職
酒場の看板娘。
・物語内での具体的な行動や成果
彼女は酔ったジッポーから強引な誘いを受けて困惑していた。
彼女は自分を助けてくれたクリムトに対して、感謝の言葉を伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特に記述されていない。
リネンハイム
アンサント不動産に勤める若い主任の男である。
彼は非常に胡散臭い雰囲気を持っている。
・所属組織、地位や役職
アンサント不動産・主任。
・物語内での具体的な行動や成果
彼はクリムトとブルーノにルームシェアを提案して瑕疵物件を紹介した。
彼はブルーノからの追及にタジタジとなり、格安の家賃で家を貸すことになった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
教会とも取引を行う不動産屋である。
ヴァークト夫人
クリムトが最初の1年間下宿していた家の家主である老婆だ。
・所属組織、地位や役職
下宿先の大家。
・物語内での具体的な行動や成果
彼女はクリムトに屋根裏部屋を安く貸し出していた。
彼女はのちに息子と同居することになり、クリムトに退去を要請した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特に記述されていない。
レイス
リネンハイムが紹介した格安の一軒家に巣食っていた悪霊である。
彼は家の前の持ち主だった。
・所属組織、地位や役職
一軒家の元所有者。
・物語内での具体的な行動や成果
彼は聖職者が来ると逃げて、去った後に戻ることで住人を追い出し続けていた。
彼は現れたクリムトを脅したが、魔力を込めた彼の拳による一撃で消滅させられた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
クリムトによって浄化され、成仏した。
朝日と冒険亭(関係者)および毒殺事件関係者
リーラ
朝日と冒険亭を経営する二十歳ほどの若い女将である。
彼女は大変美しい容姿をしている。
・所属組織、地位や役職
朝日と冒険亭・女将。
・物語内での具体的な行動や成果
彼女は夫バルドーの看病をしながら宿を切り盛りしていた。
彼女は元恋人のイツルクを唆して夫を毒殺し、その罪をフリックに擦り付けようとした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
共犯のイツルクとともに警備隊に逮捕された。
バルドー
ヘキスの町の資産家であり、リーラの夫である。
彼は七十歳を超えている。
彼は病床に伏していた。
・所属組織、地位や役職
ヘキスの町の資産家。
・物語内での具体的な行動や成果
彼はリーラの実家の借金を肩代わりして彼女を正妻に迎えた。
彼はリーラとイツルクが仕組んだ、ハーブティーと昼食の食べ合わせによる毒で死亡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
毒殺された。
ワルム
バルドーの長男である。
彼はリーラとは年の近い義理の息子に当たる。
彼はリーラと大変仲が悪い。
・所属組織、地位や役職
バルドー家・長男。
・物語内での具体的な行動や成果
彼は父の死後、リーラが犯人であると激しく追求した。
彼は一時的に毒殺の容疑をかけられ、警備隊に拘束されたが、のちに無罪放免となった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特に記述されていない。
フリック
ワルムの息子であり、バルドーの嫡孫にあたる。
彼は真面目な行商人だ。
・所属組織、地位や役職
バルドー家・嫡孫。
・物語内での具体的な行動や成果
彼は祖父に気に入られており、財産の半分を相続する遺言を遺されていた。
彼はリーラと関係を持っており、イツルクによって毒のスープ皿を庭に埋められて犯人に仕立て上げられた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
事件後に解放され、祖父のすべての遺産を継いで宿の新しい経営者となった。
イツルク
リーラの故郷の元恋人である。
彼は偽名「マクセル」を使って朝日と冒険亭の受付として働いていた。
・所属組織、地位や役職
朝日と冒険亭・受付。
・物語内での具体的な行動や成果
彼はリーラの指示を受け、ハーブティーと合わさると毒になる香草を調達して昼食に混ぜた。
彼はフリックの仕業に見せかけるために、毒のついたスープ皿をワルムの庭に埋めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
共犯であるリーラとともに警備隊に逮捕された。
サンディー
朝日と冒険亭で新たに働き始めた可愛らしいウェイトレスである。
・所属組織、地位や役職
朝日と冒険亭・ウェイトレス。
・物語内での具体的な行動や成果
彼女は黄昏れていたクリムトとブルーノに自己紹介をした。
彼女は二人から同時にアプローチを受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼女にはすでに婚約者がおり、二人を失恋させた。
ブルーノの家族
リズリット
ブルーノの妹である。
彼女はのちにクリムトの妻の一人となる。
彼女は非常にしっかり者で、家事全般が得意だ。
・所属組織、地位や役職
ブルーノの妹。
・物語内での具体的な行動や成果
彼女はクリムトとブルーノの新居を定期的に訪れ、掃除や洗濯、料理などの家事を行った。
彼女はブルーノの葬儀後、キャンディーから兄の死の真相とクリムトの仇討ちの話を聞き、クリムトと共に新たな生活へ歩み出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
のちにクリムトの妻となった。
ブルーガー公爵家および関係者
ブルーガー公爵
先代国王の双子の弟である。
彼は王位に対する強い不満と野心を持っている。
彼はダットー・シュタインを匿い、自らの財力と人脈作りに利用していた。
・所属組織、地位や役職
ブルーガー公爵家・当主。王族。
・物語内での具体的な行動や成果
彼はダットーを匿う代わりに、贄となる人々を貧民街から調達して彼に切り裂き殺させていた。
彼はダットーを討ち果たした直後のクリムトたちを殺しようとしたが、ホーエンハイム枢機卿によってその場で毒殺された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼は枢機卿の命令で毒を飲まされ、死亡した。
バーゼル子爵
ブルーガー公爵の娘婿である。
・所属組織、地位や役職
バーゼル子爵家・当主。
・物語内での具体的な行動や成果
彼はダットー・シュタインを自らの領地の森に潜伏させ、警備の兵を提供していた。
彼はダットー討伐の現場でクリムトたちを包囲したが、出現したホーエンハイム枢機卿によって、公爵とともにその場で毒殺された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼は毒を飲まされ、死亡した。
ダットー・シュタイン
五十歳近い上級魔法使いである。
彼の裏の顔は、人間を魔法で切り裂くことに快感を覚える猟奇殺人鬼だ。
彼はブルーノを惨殺した。
・所属組織、地位や役職
上級魔法使い。
・物語内での具体的な行動や成果
彼はかつて百人以上の仲間を魔物領域や裏で切り裂き殺害してきた。
彼は暗殺に挑んできたブルーノを無惨に切り刻み、のちに襲撃してきたクリムトの限界突破の一撃によって胸を貫かれて死亡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
クリムトの一撃により即死した。
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
展開まとめ
プロローグ 導師来たりて
エリーゼを訪ねた家族
エリーゼの出産が近づき、お腹も大きくなったため、母のニーナと導師がバウマイスター伯爵邸を訪れた。ヴェンデリンが王都まで迎えに行き、二人は出産を控えたエリーゼの姿を嬉しそうに見守った。
ニーナは、男児か女児かを気にしながらも、元気に生まれればどちらでもよく、エリーゼは若いので何人でも産めると語った。跡取りの男子を望む周囲の声を気にしていたヴェンデリンとエリーゼは、その率直さに戸惑った。
導師に似た子供
導師は、特に男児なら自分に似た逞しい子になると期待した。エリーゼと導師に血縁があることを改めて意識したヴェンデリンは、導師そっくりの子供が生まれる可能性を想像した。
ヴェンデリンとエリーゼは、導師のような体格と髪型で魔法の鍛錬を迫ってくる息子や娘を思い浮かべ、揃って顔色を悪くした。
若き日の肖像画
導師は、自分も子供の頃は小さく可愛らしかったと主張した。しかしヴェンデリンたちは、現在の導師やよく似た兄の姿から、その言葉を信じられなかった。
そこでニーナの提案を受けた導師は、若い頃の肖像画を取り出した。そこには、美少女にも見えるほど中性的で線の細い美少年が描かれており、ヴェンデリンたちは現在との違いに驚愕した。
親友ブルーノの肖像
エリーゼが肖像画の髪と目が青いことに気づき、導師本人ではないと判明した。導師も確認して取り違えを認め、その人物がすでに亡くなった親友ブルーノだと明かした。
ブルーノの命日が近いことから肖像画を持ち出していたらしく、導師は十四歳で外の世界へ出た頃に彼と出会ったと話し始めた。こうして出産を巡る話題から大きく逸れ、導師の若き日の思い出話が始まるのであった。
第一話 旅立ち
母レーラへの別れ
十四歳のクリムトは、冒険者予備校へ入る前日、亡き母レーラの墓を訪れた。生後間もなく母を亡くしたため記憶はほとんどなかったが、抱かれた時の温もりだけは覚えており、母を安心させるためにも強い男になって戻ると誓った。
そこへ異母妹ニーナが現れた。ニーナの母はレーラの死後にアームストロング伯爵家へ嫁ぎ、跡継ぎである兄の立場を脅かさないという取り決めのもとでニーナを産んでいた。義母は血の繋がらない兄弟にもよくしており、クリムトに不満はなかった。
ニーナの婚約
ニーナはホーエンハイム子爵家へ嫁ぐ予定であり、相手について優しそうな人物だと話した。この婚姻には、軍系貴族だけでなく教会の有力者とも縁を結ぶというヴィターゼン伯爵の意図があった。
一方、ニーナは魔法使いであるクリムトが、なぜ家に残らず外へ出るのかを尋ねた。クリムトは未熟な魔法使いとして外で経験を積み、見聞を広め、将来は兄を助けられる存在になるためだと説明した。
外の世界への憧れ
クリムトは冒険者予備校で一年学び、その後は冒険者として実戦経験を積むつもりであった。しかし本心では、将来アームストロング伯爵家を支える立場から逃れられない以上、それまで自由な外の世界を楽しみたいという思いも抱いていた。
ニーナにはその本音を見抜かれ、面白い旅の話や土産を期待された。クリムトも母の墓前で、修行だけでなく外の世界を全力で楽しむことを改めて誓った。
王太子との別れ
墓地を離れたクリムトは、幼馴染で親友でもある王太子を訪ねた。二人は幼少期から学友として親しく、王太子は型破りなクリムトを気に入っていた。
王太子は、将来王になる自分には自由に外の世界を経験する機会がないため、クリムトの旅を羨んだ。クリムトも、王族や貴族には平民の生活を支える責任があり、身分の違いにかかわらずそれぞれに苦労があることを理解していた。
親友との約束
クリムトは、自分の魔力量では成人までに中級へ届かない可能性を考え、魔力の効率的な使用や魔法以外の戦闘技能も身につける必要があると考えていた。そのため、予備校卒業後も冒険者として鍛錬を続けるつもりであった。
王太子は、クリムトが外の世界で成長して戻り、将来自分を助けてくれると信じていた。土産話を楽しみにしていると送り出され、クリムトはその日の夜に家族から送別の宴を開いてもらった。そして翌朝、アームストロング伯爵家の屋敷を出発した。
第二話 落ちこぼれ魔法使い
王都の冒険者予備校への入学
十四歳のクリムトは王都の冒険者予備校へ入学し、魔法使いクラスに振り分けられた。魔力量はクラスでも下の方で、放出系の魔法を使えず、『身体強化』や自分だけを覆う『魔法障壁』、拳や足に魔力を込める戦い方しかできなかった。
クリムトは魔法使いらしい放出魔法への憧れを抱き、魔力量を増やすことを目標にしていた。
ブルーノとの出会い
隣の席になったブルーノは、小柄で華奢な平民出身の少年であった。クリムトの姿勢や手先から貴族育ちだと見抜き、アームストロング伯爵家の出身と知っても臆することなく接した。
ブルーノは、冒険者や魔法使いの世界では身分より実力が重視されるため、貴族相手でも必要以上に萎縮しないよう心掛けていると話した。クリムトも予備校では身分を持ち込まず、ただのクリムトとして接してほしいと応じ、二人は親しくなった。
期待の魔法使いたち
ブルーノはすでに中級に届きそうな魔力量を持ち、水と風の魔法に適性があった。さらにクラスには、すでに上級クラスの魔力量を持つエトガル・トレーダーがおり、その才能は講師や冒険者ギルド、大貴族や大商人から注目されていた。
クリムトは自分との差を感じながらも、同じ魔法使いとして彼らの力量に強い関心を抱いた。
最初の実技講義
初日の実技では、生徒たちが木と薬で作られた人形を得意な魔法で攻撃した。多くの生徒が『ファイヤーボール』を使い、一部は水や土、風の魔法を披露した。
ブルーノは三日月型の『氷の刃』で人形の首を一撃で刎ね、威力と制御の両面をハック先生から高く評価された。
クリムトの体当たり
放出魔法を使えないクリムトは、『魔法障壁』で全身を覆って人形に体当たりし、その威力で人形をバラバラにした。ハック先生は攻撃力を認めながらも、今後は魔力量を増やして放出魔法を習得することが課題だと告げた。
一部の生徒からは魔法らしくないと批判されたが、ブルーノは魔物の素材を傷つけにくい実用的な攻撃だと評価した。クリムトも回数を使えないことを自覚し、魔力量を増やす必要性を改めて感じた。
エトガルの精密魔法
最後にエトガルが実技を披露すると、人形の首だけが突然落ちた。ブルーノは、極細の火の糸で首を正確に焼き切ったのだと見抜いた。
クリムトは、膨大な魔力量だけでなく精密な魔法操作まで備えたエトガルの実力に驚き、自分の未熟さを痛感した。
クリムトへの期待
クリムトは、自分の魔力成長が遅く、周囲の貴族から中途半端な魔法使いだと陰口を叩かれてきたことを思い返した。それでも家族や王太子、ニーナは彼を否定せず、強さや可能性を認めていた。
ブルーノも、魔力の成長次第ではクリムトが大物になる可能性があると率直に評価した。クリムトはその言葉を嬉しく受け止め、これから一年間の予備校生活と、その先の冒険者生活を共にするかもしれないブルーノを、よき友になりそうな存在だと感じた。
第三話 予備校生生活
質素な屋根裏暮らし
予備校入学から一週間後、ブルーノはクリムトの下宿を訪れ、その質素さに驚いた。クリムトはアームストロング伯爵家からの仕送りを自ら断り、老婆ヴァークト夫人の家の屋根裏部屋で最低限の家具と私物だけを置いて暮らしていた。
外の世界に出た以上、平民と同じ生活を経験したいと考えていたクリムトは、狩猟などで生活費を稼ぐつもりであった。しかし王都周辺では狩猟場所が少なく競争も激しいため、予備校生の狩猟は週二回に制限されていた。そこでブルーノは、知人から紹介される短期の仕事を一緒にしようと誘った。
初めての工事現場
クリムトとブルーノが最初に働いたのは建設現場であった。ブルーノは『念力』で重い石材を高所まで正確に運び、クリムトは鍛えた体だけで数人がかりの石材を軽々と運んだ。
二人の働きによって遅れていた工事が進み、親方たちから高く評価された。クリムトは初めて自力で働いて報酬を得たことを喜んだ一方、簡単な放出系魔法とされる『念力』すら使えないことを改めて気にしていた。
ブルーノとの夕食
仕事を終えた二人は、予備校生向けの安い食堂で初収入を祝った。クリムトは自分の魔力が今も増えているものの、その速度が遅いため、初級を脱せるか不安を抱えていた。
一方のブルーノは、魔法の才能に恵まれていても小柄で細い体を気にしており、クリムトの筋肉質な体を羨んでいた。互いに自分にないものを羨みながら、二人はそれぞれ鍛錬を続けようと話した。
ゼノの書店
工事現場の仕事を終えた後、ブルーノはクリムトを知人のゼノが経営する書店へ連れていった。ゼノは魔法関連の書籍に詳しい一方、売上のため大量の色本も扱っており、自ら内容を確認して仕入れ数を決めていた。
二人の仕事は店内の掃除や本の整理、留守番であった。仕事量も給金も少なかったが、終われば店にある高価な魔法関連書籍を自由に読めるため、魔法を学びたい二人にとって非常に魅力的な仕事であった。
リズリットとの出会い
店番中、ブルーノの妹リズリットが手作りのクッキーを届けに現れた。可憐なリズリットはクリムトを頼もしそうで格好いいと評し、クリムトは女性からそのように言われた経験がなかったため驚いた。
クリムトはリズリットを見て妹のニーナを思い出した。ブルーノにニーナがどんな人物か尋ねられると、自分によく似た自慢の妹だと答えたため、ブルーノは逞しい女性なのだろうかと想像していた。
色本と商売
仕事を終えた二人は読書を始めたが、クリムトは魔法書だけでなく色本や、魔法を使って女性のスカートを捲る内容の本にも目を奪われた。ブルーノは魔法理論の参考にはならないと注意したが、その本は教会の摘発によって希少品になっていた。
やがて、その本を探していた中年男性が現れると、クリムトは定価十セントの本を二百セントで販売した。希少品なら需要に応じて価格が上がるのは当然だと考えたのである。
戻ってきたゼノは怒るどころか、もう少し粘れば二百五十セントで売れたかもしれないと指摘した。クリムトは初めての労働や書店での経験を通じ、魔法だけでなく平民の暮らしや商売についても学んでいった。
第四話 酒場にて
酒場でのアルバイト
ブルーノの紹介で、クリムトは冒険者ギルド本部近くの酒場で働いた。客の多くは冒険者であり、将来自分も同じ世界に入るクリムトにとって、その実態を知る貴重な機会であった。
ブルーノは若く容姿もよい魔法使いであるため、女性冒険者たちから頻繁にパーティへ勧誘された。一方、クリムトには男性冒険者からの誘いが多かった。
女性パーティへの忠告
厨房の料理人は、女性ばかりのパーティから勧誘される際には注意するようブルーノに忠告した。若く有能な男性が加入すると恋愛を巡って仲間同士が争い、パーティ解散や仲間殺しにまで発展する例があるという。
冒険者には男女を問わず様々な人間がおり、若く経験の浅い魔法使いは利用されることもあると教えられた。クリムトも自分が未成年の魔法使いである以上、十分に警戒する必要があると受け止めた。
看板娘への絡み
やがて酔った冒険者ジッポーが、仕事中の看板娘を執拗に誘い始めた。店主が止めても聞かなかったため、クリムトとブルーノが助けに向かおうとしたが、料理人はブルーノでは相手に舐められる可能性があるとして止め、体格の大きなクリムトだけを向かわせた。
クリムトが二人の間に入り、仕事を邪魔するなと注意すると、ジッポーは剣を抜こうとした。クリムトは即座に剣の柄を握った相手の手ごと掴み、アームストロング伯爵家に伝わる技で抜刀を封じた。
血まみれキャンディー
そこへ、筋肉質な男性冒険者が割って入った。女性的な口調で話す彼は、ワイルドベアーの群れを一人で倒したことで知られる高名な冒険者、血まみれキャンディーであった。
キャンディーは、予備校生に剣すら抜けないまま怒鳴っているジッポーを嘲り、自分と戦うかと迫った。その名を知っていたジッポーは急に態度を変え、会計を済ませて逃げるように酒場を去った。
冒険者の多様さ
閉店後、クリムトは看板娘や店主、ブルーノから、ジッポーの抜刀を防いだことを称賛された。キャンディーが言葉だけで騒ぎを収められたのも、先にクリムトが相手を抑えていたからだと評価された。
また、キャンディーは男性として生まれたものの、自分を女性と認識している人物だと聞かされた。クリムトは、それも本人の生まれ持った在り方なのだから仕方がないと受け入れた。様々な冒険者と接したことで、クリムトは未知の世界への興味をさらに強め、卒業後に冒険者として活動する日を心待ちにした。
第五話 偉大な魔法使い
アルフレッドの特別講義
初夏のある日、ハック先生は魔法使いクラスに、若手魔法使い随一と評されるアルフレッド・レインフォードが特別講師として来ると告げた。多くの生徒が興奮し、首席のエトガル・トレーダーも彼に追いつき、いつか超えたいと意気込んだが、クリムトだけはアルフレッドの名を知らなかった。
実際に現れたアルフレッドは容姿も整い、穏やかな態度で生徒たちに接した。冒険者になれば皆平等だと語ったが、クリムトはその言葉を、成功する機会だけでなく失敗や死も身分に関係なく平等だという厳しい意味まで含むものだと受け取った。
エトガルとブルーノへの指導
特別講義の後半では個別の魔法指導が行われ、まず注目されたのはエトガルであった。続いてブルーノも指導を受け、魔力の伸びを気にしていたものの、まだ十四歳で成長の余地が十分にあるとアルフレッドに励まされた。
生徒たちは魔力量の多い順に指導を受け、クリムトの番は最後に近かった。
クリムトへの助言
クリムトを見たアルフレッドは、どういう魔法使いになるのか想像しにくいと告げた。これまでの知識や経験に当てはまらず、下手な助言はかえって成長を妨げるかもしれないため、自分が正しいと思う方向へ進むべきだと話した。
明確な鍛錬方法を期待していたクリムトは戸惑ったが、アルフレッドから得られた助言はそれだけであった。
エトガルへの評価
講義後、アルフレッドは師匠のブランタークと酒を飲みながら生徒たちについて語った。エトガルについては、魔力量が多く、魔法の精度や種類を増やす努力も怠らず、勉学にも真面目で協調性もある優秀な魔法使いになると高く評価した。
しかしアルフレッドは、エトガルを天才ではなく秀才と評した。能力に欠点はないものの、その優秀さは予想の範囲内であり、強烈な個性がないため歴史に名を残すような存在にはならないだろうと考えていた。
大器晩成の新人
ブランタークは、アルフレッドがエトガル以外の生徒に興味を持ったことを見抜いた。アルフレッドもそれを認めたが、その生徒が誰なのかは明かさなかった。
その人物はまだ実力を完全に表しておらず、大器晩成型で、自分が教えなくても勝手に強くなっていくように感じるという。いつか自分を超え、成長した後に勝負を挑んでくるかもしれないと、アルフレッドはその未来を楽しみにしていた。
第六話 卒業
卒業とパーティ探し
一年間の予備校生活を終え、クリムトたちは卒業を迎えた。ブルーノは魔力と使える魔法を増やし、血まみれキャンディーが率いる暁の夕暮れへの加入を決めていた。一方のクリムトは、接近戦主体の戦闘方法とアームストロング伯爵家への配慮から、なかなか勧誘されなかった。
ブルーノは自分のパーティへの紹介を申し出たが、クリムトはまず自力で所属先を探すことを選んだ。
剣撃団への加入
クリムトはほどなく、剣士五人で構成された剣撃団に加入した。魔力を込めた肉体による近接戦闘で魔物を倒し、即戦力として平等に報酬を受け取った。
リーダーは無理に成果を求めず、疲労を見ながら少しずつ活動量を増やすよう教えた。他の仲間も親切で、クリムトは剣撃団をよいパーティだと感じていた。
夜の密売現場
剣撃団の面々が毎晩クリムトを早く寝かせることを不審に思ったクリムトは、ある夜、寝たふりをして彼らを尾行した。森の中で剣撃団は別の集団と合流し、違法魔法薬の密造と密売について話し始めた。
剣撃団は、アームストロング伯爵家のクリムトを仲間に入れることで警備隊の疑いを避けていたのである。自分と実家を利用されたと知ったクリムトは激怒し、取引現場へ姿を現した。
暗闇での反撃
剣撃団と密造側を合わせて十人いたため、正面から戦えば不利であった。クリムトは松明を持つ剣撃団の一人を一撃で倒して灯りを消し、暗闇に紛れた。
相手は同士討ちを恐れて剣や魔法を使えなくなったが、クリムトにとって自分以外は全員敵であった。気配を頼りに次々と剣撃団の面々を倒し、最後にはリーダーの剣を魔力を込めた拳で折って全員を戦闘不能にした。
密造グループの制圧
剣撃団が倒れると、密造グループの魔法使いタンドリーがファイヤーボールで攻撃してきた。クリムトは倒れていた剣撃団の一人を盾にして魔法を防ぎ、そのまま相手へ投げつけて魔法使いを倒した。
続いて動揺した残りの密造グループにも接近し、短時間ですべて殴り倒した。クリムトは全員の武器を取り上げて拘束し、密造工房の所在を突き止めるための後始末を続けた。
功績と疑惑
一週間後、クリムトはブルーノに事件後の事情を語った。違法魔法薬の密造と密売を摘発した功績はあったものの、剣撃団は一ヵ月ほどで消滅し、新たなパーティからも敬遠されるようになっていた。
さらに一部では、アームストロング伯爵家そのものが密売に関与していたのではないかという疑惑まで持ち上がった。家を失脚させたい貴族たちが騒いだため、父や兄にも迷惑をかける結果となった。疑惑は晴れたものの、功績と悪評が相殺され、クリムトは冒険者として行き場を失いつつあった。
キャンディーからの誘い
そこへ血まみれキャンディーが現れ、クリムトの行動自体は正しかったと語った。剣撃団が消えたことで利益を失った冒険者ギルドや、アームストロング伯爵家を失脚させたい貴族にはそれぞれ事情があり、そのためクリムトが敬遠されているのだと説明した。
それでもキャンディーは、剣撃団と密造グループを一人で制圧したクリムトの実力と将来性を評価した。冒険者は生まれや身分ではなく実力で評価されるべきだとして、自ら率いる暁の夕暮れへ誘った。
クリムトはその申し出を受け入れ、暁の夕暮れの新たなメンバーとなった。
第七話 『暁の夕暮れ』
暁の夕暮れへの加入
クリムトはブルーノと同じく、キャンディーが率いる暁の夕暮れへ加入した。そこで弓やナイフ、罠を扱うボルトル、大斧を使う寡黙なダールトンを紹介され、五人で活動することになった。
暁の夕暮れは百年以上続くパーティで、固定されたリーダーと幹部が有望な新人を育て、一人前になった者が他のパーティへ移籍したり独立したりすることを歓迎していた。キャンディーは新人を厳選していたが、ボルトルから男性ばかり自分の好みで選んでいると指摘され、クリムトとブルーノは一瞬身構えた。キャンディーは強引なことはしないと告げ、二人の才能を育てることもリーダーの役目だと説明した。
実戦での連携訓練
暁の夕暮れでの戦闘は、新人育成とはいえ厳しい実戦形式であった。単独戦闘に慣れていたクリムトは前へ出すぎ、後衛のブルーノやボルトルの射線、前衛を務めるキャンディーやダールトンとの連携まで考えるよう注意された。
クリムトは自分が一対多数の戦いに勝ったことで慢心していたと認め、集団戦での役割を学んでいった。戦闘中のキャンディーは厳しかったが、休憩になると冷たい飲み物や手作りの弁当を用意する気さくさを見せた。料理や裁縫にも長けており、ブルーノたちはその多才さに感心した。
新居探し
加入から一ヵ月ほど経つと、クリムトは集団戦にも慣れ、キャンディーから注意される回数も減っていた。魔力も少しずつ増え続けており、毎日の鍛錬を続けていた。
そんな中、下宿先のヴァークト夫人が息子と同居することになり、クリムトは退去を求められた。ブルーノも成人して実家を出るつもりだったため、二人は一緒に住む家を探すことにした。
格安物件の裏事情
二人はアンサント不動産のリネンハイムから、ルームシェアを勧められた。最初に紹介された格安の一軒家は、住んだ者が商売の失敗や事故などの不運に遭うことで知られていたため、二人は断った。
次に紹介された家は風呂付きで条件もよかったが、亡くなった元所有者がレイスとなって現れ、住人を追い出す物件であった。教会が浄化しようとしても、レイスは聖職者が来ると逃げ、去ったあとに戻るため退治できずにいた。
拳によるレイスの浄化
家を出ようとしたところでレイスが現れ、自分の家だから出ていけとクリムトたちを脅した。クリムトはすでに売却されている以上、元所有者の家ではないと告げたが、レイスは怒って襲いかかってきた。
クリムトは霊体も魔力の塊に近いと聞いていたため、魔力を込めた拳でレイスを殴った。すると一撃でレイスは消滅し、ブルーノを驚かせた。クリムトは自分が浄化したのだから格安の家賃を維持するよう求め、ブルーノもリネンハイムを追及したため、二人は月二百セントでその家を借りることに成功した。
リズリットの家事支援
引っ越し後、クリムトは使う場所を限定すれば掃除も少なくて済むと考えたが、訪ねてきたブルーノの妹リズリットに、家は放置しても埃が溜まると指摘された。ブルーノも家事が得意ではなく、二人が家を借りた理由も特に深く考えたものではなかった。
リズリットは食材や調理道具を持参して料理を作り、家事に疎い二人を世話した。結局、クリムトとブルーノは小遣いを出し合い、リズリットに定期的な掃除、洗濯、料理を頼むことになった。
ホーエンハイム枢機卿の関心
一方、ホーエンハイム枢機卿はリネンハイムからクリムトについて報告を受けていた。クリムトは魔力量こそ少ないものの、冒険者になって間もなく違法魔法薬の密造集団を一人で制圧し、教会でも捕らえられなかったレイスを拳一発で浄化していた。
リネンハイムは、今は未熟でも将来は底知れない存在になる可能性があり、二十年後が楽しみだと評した。ホーエンハイム枢機卿もクリムトを大器晩成型と見なし、しばらく見守ることにした。また、無料でレイスを退治してもらった以上、家賃を欲張って値上げしないようリネンハイムに釘を刺した。
第八話 クリムトの恋
東方への遠征
暁の夕暮れに加わって二ヵ月ほど経ち、クリムトとブルーノは実戦にも慣れたため、王都から東へ二百キロほど離れた王国直轄地の魔物の領域へ遠征した。貴族領と違って成果への税がなく、王都近郊ほど混雑していない一方、魔物が強いため実力のある冒険者が集まる場所であった。
一行は近隣のヘキスの町にある新しい宿、朝日と冒険亭を一ヵ月ほどの拠点に決めた。
若い女将リーラ
宿の夕食時、若い女将リーラが挨拶に現れた。二十歳ほどの美しい彼女を見たクリムトは一目で惹かれ、同じくブルーノも好意を抱いた。
しかしキャンディーが調べたところ、リーラは七十を越える資産家バルドーの後妻であった。父親が抱えた借金のためバルドーの愛人となり、のちに正妻となって宿を任されたという事情があった。病床のバルドーを看病している一方、長男ワルムとは険悪な関係であった。
人妻だと知ったクリムトとブルーノは落胆し、キャンディーとボルトルから余計な問題を起こさないよう釘を刺された。
バルドーの毒殺
滞在から一週間後、療養中だったバルドーが急死した。警備隊が調べると毒が検出され、ワルムはリーラが父を殺したと激しく非難した。
だが、リーラが飲ませたハーブティーのカップから毒は検出されなかった。さらにバルドーは教会に遺言を預けており、財産をリーラと孫のフリックに半分ずつ相続させる内容だったため、ワルム自身も容疑者となった。
フリックへの疑惑
バルドーが毒を摂取した可能性のある時間を調べると、ハーブティーの一時間前、フリックと昼食をとっていたことが判明した。フリックは行商で薬草を扱っており、毒の原料となる薬草が採れる村にも出入りしていた。
さらに台所からスープ皿が一枚なくなり、その皿がワルムとフリックの家の庭から発見された。皿から毒の反応も出たため、警備隊はフリックが毒を盛り、毒の効く時間を遅らせる薬を使ったと考えた。
クリムトとブルーノもフリックを犯人と思い、リーラの無実が証明されたことを喜んだ。
キャンディーの再検証
ところがキャンディーは、フリック犯人説に異を唱えた。バルドーの胃の内容物を調べ、毒の効く時間が遅れたのではなく、昼食とその後のハーブティーに含まれる別々の成分が胃の中で結合し、そこで毒が生じた可能性を示した。
昼食のナマサの香草焼きには、この近辺では珍しい香草が使われていた。その香草は、リーラが二年前から飲ませ続けていたハーブティーの成分と合わさることで毒へ変化するものであった。
当初は薬草を扱うフリックがこの知識を利用したと疑われ、フリックとワルムは拘束された。
マクセルの正体
葬儀当日、捜査を続けていた警備隊員が現れ、キャンディーの調査から新たな事実を明らかにした。
宿の従業員マクセルの本名はイツルクであり、リーラとは故郷で結婚を約束していた仲であった。しかしリーラの家が莫大な借金を抱えたため、彼女はバルドーに囲われ、二人は引き離されていた。
イツルクは行商を始めてもリーラを取り戻せず、名を偽ってバルドーのもとで働き始めていた。さらに事件の一週間前、故郷近くで毒を生じさせる香草を採取していたことも判明した。
二年前からの殺害計画
イツルクはバルドーの家への出入りを許されており、事件当日も宿の用事を装って台所へ入り、フリックが用意した香草の中に例の香草を混ぜたと推測された。
またバルドーが亡くなった騒ぎの中で、イツルクはワルム宅へ知らせに行き、その際に毒のついたスープ皿を庭へ埋めてフリックに罪を着せたとされた。
クリムトとブルーノは、イツルクがリーラへの未練から単独で犯行に及んだと思い、なおもリーラを信じた。
リーラの共犯発覚
しかし警備隊はリーラも拘束するつもりであった。そこへフリックとワルムが現れ、さらに事実が明らかになった。
フリックはリーラと密かに将来を誓い合っており、祖父の見舞いを口実に彼女と会っていた。一方イツルクも、リーラから二年前にバルドーを殺して一緒になる計画を持ちかけられたと訴えた。
リーラはイツルクに殺害の実行を任せながら、彼に罪を被せ、さらにフリックとも関係を持っていたのである。バルドーを殺し、フリックまで排除できれば、遺産を手にしたうえで自分だけ逃れることも可能であった。
リーラとイツルクは警備隊に拘束され、事件は二人による計画的な毒殺として決着した。
失恋したクリムトとブルーノ
ワルムとフリックは解放され、バルドーの遺産はフリックが相続し、朝日と冒険亭も彼が経営することになった。
リーラを信じ切り、フリックを犯人扱いしたクリムトとブルーノは、自分たちが彼女の容姿と態度に完全に惑わされていたことを思い知らされた。二人は揃って落ち込み、女性は怖いと黄昏た。
ところが、新しく働き始めた可愛らしいウェイトレスのサンディーを見ると、二人はすぐに立ち直って競うように自己紹介した。しかしサンディーには婚約者がおり、一ヵ月の遠征を終えるまでに、二人は再び揃って失恋することになった。
第九話 謎の巨大生物探索
武芸大会後の依頼
軍務系貴族の義務として武芸大会の剣部門に出場したクリムトは、慣れない剣ながら四回戦まで進んでいた。翌日、暁の夕暮れに戻ると、キャンディーからパスツール湖に三十年以上前から目撃されている謎の巨大生物パッシーの捕獲依頼を告げられた。
依頼は長年達成されておらず、冒険者ギルドが依頼主のバート子爵家に努力を示す意味合いが強かった。その代わり、近隣の魔物の領域で得た成果には領主への税がかからなかったため、暁の夕暮れは狩りを主目的として依頼を引き受けた。
妹たちとの避暑
キャンディーは安全性が高い仕事だとして、ブルーノとクリムトに妹たちを誘うよう勧めた。ブルーノはリズリットを、クリムトは一年以上会っていなかったニーナを招いた。
ニーナには将来嫁ぐホーエンハイム子爵家から執事セバスチャンが同行した。ニーナとリズリットは同い年ですぐに親しくなり、一行は狩りを終えたあと、透明度の高いパスツール湖へ向かった。
パスツール湖での監視
パスツール湖は美しいものの知名度が低く、道や宿泊施設も十分に整備されていなかった。暁の夕暮れは三日間パッシーを監視する契約だったが、見張りながら泳いでも構わない程度の仕事であり、キャンディーが用意した水着に着替えて水辺で過ごした。
キャンディーは、三十年以上見つからないパッシーを諦めているなら依頼自体をやめるはずなのに、バート子爵家が監視すら置かないことを不審に感じていた。
偽りのパッシー
実はバート子爵は、パスツール湖を観光地として有名にするため、巨大生物パッシーの噂を利用しようとしていた。これまで噂だけでは効果がなかったため、今回は船に木と紙で作った巨大なハリボテを載せ、暁の夕暮れに目撃させる計画を立てていた。
翌日の夕方、湖上に長い首と竜のような頭を持つ巨大なパッシーが現れた。ブルーノは湖上では不利だとして岸へ誘い出す案を出し、キャンディーは放出魔法をまだ使えないクリムトに、威力の弱い魔法で挑発するよう勧めた。
クリムトは初めて小さなフレイムアローの放出に成功したが、それが命中するとパッシーは一気に炎上した。正体は木と紙で作られた偽物であり、中にいたバート子爵家の家臣たちはブルーノに救助された。
観光振興の失敗
家臣たちは、アームストロング伯爵家のクリムトに本物のパッシーを目撃したと広めてもらい、貴族社会で話題にして観光客を増やすつもりだったと明かした。
しかしクリムトは実家との交流が薄く、リズリットやキャンディーも、巨大生物に襲われる危険がある湖を金持ち向けの避暑地として売り出す発想に疑問を示した。暁の夕暮れにも観光振興の知識はなく、バート子爵家への助言はできなかった。
本物のパッシー
契約最終日、一行が再び湖で過ごしていると、前日と同じ巨大生物が現れた。偽物だと思ったキャンディーはブルーノに小さなファイヤーボールを撃たせたが、今度は燃えず、怒ったような鳴き声をあげて猛然と岸へ向かってきた。
そこへ昨日ハリボテを動かしていたバート子爵家の家臣たちが現れたため、目の前の存在が本物のパッシーだと判明した。
クリムトの一撃
武器や防具を宿に置いていたうえ、家臣たちが観光資源として生け捕りを望んだため、クリムトが捕獲を試みた。
ブルーノの飛翔魔法で上空へ運ばれたクリムトは、そのまま自由落下し、魔力を込めた膝蹴りをパッシーの頭へ叩き込んだ。しかし威力が強すぎたため、パッシーは一撃で死亡した。
パッシーは魔物ではなく、クリムトも想像以上に脆かったと振り返った。キャンディーは剥製にして観光資源にすればよいと提案し、一行は依頼を切り上げて宿へ戻った。
パッシーの剥製
後日、バート子爵は本物のパッシーを剥製にして宿の一階に展示した。しかし、それを目当てに観光客が増えることはなく、パスツール湖はその後も穴場の避暑地のままであった。
第十話 ペット捜し
逃げたウサギの捜索
暁の夕暮れが休みとなった日、ブルーノは一人で貴族の逃げたペットを捜す依頼を受けていた。王都の多くの人や動物の気配からウサギだけを探知することで魔法の訓練にもなり、指名依頼なので報酬も悪くなかった。
ブルーノはドルク伯爵のウサギを無事に見つけたが、夕方だったため翌朝届けることにし、籠に入れたまま自宅へ置いてリズリットと夕食の買い物へ出かけた。
酒の肴になったウサギ
その頃、実家から戻ったクリムトは、夕食の約束をしていたボルトルとダールトンを自宅に招いていた。ブルーノとリズリットが不在だったため、三人は先に酒を飲み始めた。
酒の肴を探していた三人は、籠の中にいた生きたウサギを見つけた。食材だと思った彼らは、あとで問題があれば別のウサギを返せばよいと考え、ウサギを締めて解体し、塩焼きにして食べてしまった。
ドルク伯爵のペット
買い物から戻ったブルーノは、依頼で見つけたドルク伯爵のペットが食べられたと知って激怒した。クリムトは、骨だけ見つかったと報告すればよいと提案したが、それでは依頼失敗となり、ブルーノの魔法使いとしての評価が傷ついてしまう。
そこでクリムトは、ドルク伯爵がペットに飽きやすい人物だという噂を思い出し、よく似たウサギを捕まえて代わりに返す案を出した。ボルトルとダールトンも賛成し、翌日に代わりのウサギを探すことになった。
代わりのウサギ
翌日、四人は王都近郊の森で似た模様のウサギを探した。しかし完全に同じ模様の個体は見つからず、時間だけが過ぎていった。
そこでボルトルは、キャンディーが布を染めるために使っていた落ちにくい塗料を持ち出し、比較的似たウサギに茶色い模様を描き足した。こうして、食べてしまったペットによく似たウサギを作り上げた。
偽物の返却
四人はそのウサギをドルク伯爵邸へ持っていった。対応した家臣はウサギを確認しただけでブルーノに報酬を渡し、特に追及することもなかった。
ボルトルは、その家臣も偽物だと気づいていた可能性が高いと考えた。ドルク伯爵本人が姿を見せなかったことからも、すでに別のペットへ興味が移り、戻ってきたウサギが本物かどうかには執着していなかったと見られた。
ブルーノの評価は守られたが、本人は酒の肴が欲しいという理由だけで依頼対象を食べてしまったクリムトたちも十分に酷いと呆れていた。クリムトは次からは確認してから食べると答え、この一件を深く気にしなかった。
第十一話 美男美女薬
美男美女になる魔法薬
祖父の葬儀から戻ったキャンディーは、美男美女になれる魔法薬の材料となる希少な薬草を採取する依頼を持ち込んだ。暁の夕暮れは魔法薬の効果には疑問を抱きつつも、依頼された素材を届けることが仕事だと割り切り、人里離れた魔物の領域で薬草を採取した。道中では魔物も狩ったため、素材売却でも利益を得られ、クリムトとブルーノにとって遠征と実戦の経験にもなった。
ベッケンバウアーの実験
依頼者のベッケンバウアーは、魔導ギルドで魔法陣を研究する若い魔法使いであった。本来は魔法薬が専門ではなく、貴族から得た研究費を本命の魔法陣研究に回すため依頼を引き受けていた。
暁の夕暮れが採取した薬草を赤い魔法薬へ混ぜると、大量の泡と煙が発生した。危険を察したボルトルとダールトン、さらにベッケンバウアー本人まで逃げ出し、遅れたクリムト、ブルーノ、キャンディーは煙を吸って気を失った。
女性になった三人
目覚めたクリムトたちは、煙を浴びた三人の体が女性へ変化していることを知った。ベッケンバウアーによれば、美男美女になるために変装魔法を応用した結果、肉体そのものを変える作用が想定外の形で現れたのである。
効果は二、三日程度で、戦闘力や魔法には影響しなかった。女性になれたキャンディーだけは歓喜したが、キャンディーとクリムトの外見は男性時と大差がなく、華奢だったブルーノだけは美少女の姿になっていた。
フランクリンの家庭教師
女性の姿のまま、暁の夕暮れはモーゲーソン伯爵家の跡取りフランクリンを狩猟と野営で鍛える依頼を受けた。事情を説明されたモーゲーソン伯爵は、能力に変化がないなら問題ないとして予定どおり仕事を任せた。
フランクリンは気弱だと心配されていたが、狩猟では弓で獲物を正確に仕留める実力を見せた。しかし彼は、美少女となったブルーノではなく、長身で筋肉質な女性姿のクリムトに一目惚れしてしまった。
クリムトへの求愛
フランクリンはクリムトに恋人がいないと知ると喜び、仕留めた獲物を捧げ、将来は正式な側室に迎えるとまで告げた。クリムトがどのような姿を見せても好意は揺らがず、大食いや豪快な狩り、寝相やイビキまで長所として受け取った。
ボルトルは、美男美女ばかりの一族で育ったフランクリンにとって、クリムトの異質な容姿が強烈に新鮮だったため、それを恋心と受け取ったのではないかと考えた。クリムトは魔法薬の効果が切れれば諦めるだろうと期待し、求愛への明確な返答を避けた。
男性に戻ったクリムト
二日目の夕方、魔法薬の効果が切れ、クリムト、ブルーノ、キャンディーは男性の姿へ戻った。クリムトは自分が本来男性であることをフランクリンに説明し、彼なら別の良い女性に出会えると諭した。
しかしフランクリンは、性別だけを理由に惚れたのではないとして気持ちを変えず、男性に戻ったクリムトへ妻になってほしいと求婚した。クリムトは必死に拒絶したが、その後も数ヵ月にわたって求愛され続け、モーゲーソン伯爵が諦めさせるまで時間を要した。
ベッケンバウアーの失敗した魔法薬によって、クリムトたちは思いもよらない騒動に巻き込まれたのであった。
第十二話 壊れた魔法使いダットー・シュタイン
ブルーノの死
暁の夕暮れに入って約一年が経ち、クリムトとブルーノは休日に個別の仕事を受けられるまで成長していた。ある休日、ブルーノは半日で終わる別件の仕事へ出かけたが、そのまま帰宅しなかった。
翌日、若い神官に呼び止められたクリムトは、ブルーノが死んだと告げられた。教会本部の奥で遺体と対面すると、それは間違いなくブルーノであり、全身には強力なウィンドカッターによる無数の深い傷が刻まれていた。
ホーエンハイム枢機卿への怒り
遺体の側にはアルフレッドとホーエンハイム枢機卿がおり、クリムトはブルーノの死に枢機卿が関わっていると悟って激昂した。アルフレッドも、枢機卿が自分の忠告を無視した結果としてブルーノが死んだと厳しく責めた。
そこへキャンディーも現れ、ブルーノを勝ち目の薄い暗殺任務へ送り込んだことに怒りを露わにした。枢機卿は自分に責任があると認め、せめて遺族へ惨い姿のまま遺体を返したくないと語った。
ブルーノの遺体
クリムト、キャンディー、アルフレッド、ホーエンハイム枢機卿は、ブルーノの遺体に刻まれた傷を縫い、体を清めて新しい服を着せた。クリムトはリズリットの悲しみが少しでも軽くなることだけを考えながら、親友の傷を塞いだ。
失敗した暗殺任務
ホーエンハイム枢機卿は、ブルーノとエトガル・トレーダーに殺人鬼の暗殺を極秘で依頼していた。アルフレッドは一週間待つよう求めていたが、枢機卿は新たな犠牲者を防ごうと焦り、二人なら勝てると判断して任務を実行させたのである。
結果、ブルーノは死亡し、エトガルだけが瀕死で逃げ帰った。肉体の傷は治ったものの、エトガルは受けた恐怖によって心を壊し、まともな生活に戻れる見込みも薄くなっていた。
殺人鬼ダットー・シュタイン
ブルーノを殺した相手は、ダットー・シュタインという五十歳近い上級魔法使いであった。幼い頃から虫を魔法で切り裂くことに快感を覚え、やがて動物、魔物へと対象を広げ、最後には人間を殺すようになっていた。
冒険者となった後は仲間を次々と殺害し、被害者は百人を超えていた。犯行が露見した後も、先代国王の弟であるブルーガー公爵が彼を死んだことにして匿ったため、処刑されることなく生き続けていた。
ブルーガー公爵の庇護
ブルーガー公爵は先代国王の双子の弟であり、王位継承争いを避けるため出生記録を改められ、公爵となった人物であった。その経緯から王位への不満や野心を抱いている可能性があり、現在の国王も強く出にくい立場にあった。
公爵はダットー・シュタインを領地開発に利用し、縁戚の貴族たちへ貸し出して利益と人脈を得ていた。ダットーは優れた魔法使いとして畑や道路、橋、水利の整備に大きく貢献する一方、月に一度、数人を生きたまま切り裂かなければ満足できなかった。その犠牲者には、王都の貧民街などから集められた人々が使われていた。
三十年間の犠牲
ブルーガー公爵は多くの領民を豊かにするダットーの力を重視し、少数の犠牲を許容していた。ホーエンハイム枢機卿はその考えを否定し、ダットーは殺人鬼であり、放置すれば将来王国への不信を招くとして暗殺を計画していた。
これまでにもダットーの暗殺は三度試みられており、クリムトの父も過去の計画に加わっていた。しかし、いずれも失敗し、挑んだ凄腕の魔法使いたちが命を落としたことで、ダットーはさらに経験を積んでいた。
エトガルとブルーノの選択
エトガルは予備校時代に天才と称されたが、卒業後はアルフレッドほどの名声を得られずにいた。ダットーを暗殺すれば表立って功績を誇れなくとも、貴族や冒険者ギルド上層部から極秘に評価され、アルフレッドを超えられると考えて任務を引き受けた。
ブルーノはエトガルの危うさに気づいて止めようとしたが、彼が一人でも任務へ向かうと悟り、見捨てられず同行した。クリムトは、親友の優しさが命を縮めたことを知り、深い悲しみと怒りを抱いた。
暗殺計画の行き詰まり
アルフレッドは本来、師匠であるブランタークと組んでダットーを討つつもりであった。しかし最初の襲撃失敗によってダットーとブルーガー公爵の警戒が強まり、上級魔法使い二人が合流して接近することは難しくなっていた。
ダットーはバーゼル子爵領の広大な森に点在する小屋を転々とし、ブルーガー公爵家とバーゼル子爵家の者たちに守られていた。アルフレッド一人で挑んだ場合の勝算も低く、彼まで失敗すれば、その後長く暗殺を引き受ける者が現れない可能性があった。
親友の仇討ち
行き詰まる話を聞いたクリムトは、自分がアルフレッドと共にダットーを討つと申し出た。初級魔法使いにすぎないクリムトの参加をホーエンハイム枢機卿とキャンディーは危険視したが、クリムトは自分の頑丈さと戦い方を生かせば役に立てると主張した。
アルフレッドから参加理由を問われたクリムトは、王国の政治やこれまでの犠牲者以上に、今は親友ブルーノの仇を討つことが最も大切だと答えた。その言葉を聞いたアルフレッドは同行を認め、キャンディーも冒険者としての勘から成功の可能性を感じて賛成した。
こうしてクリムトとアルフレッドは、ブルーノを殺したダットー・シュタインを極秘裏に討つため、暗殺任務へ向かうことになった。
第十三話 暗殺作戦本番
ブルーガー公爵家の監視
ダットー・シュタインが暗殺者に襲われたことで、ブルーガー公爵家はブランタークやアルフレッドら高名な魔法使いたちを監視していた。複数の上級魔法使いが集まれば警戒する方針だったが、ブランタークとアルフレッドに合流の動きはなく、監視側は一人ならダットーが返り討ちにすると考えていた。
暗殺任務への出発
その夜、クリムトはアルフレッドと共にバーゼル子爵領の森へ入り、ダットーの潜伏先を目指した。居場所はアルフレッドの師匠が事前に調べており、二人は兵の監視を避けながら進んだ。
途中、気配を完全に隠して追ってきたキャンディーが現れ、クリムトに高威力の魔法を数回防ぐアンダーウェアと即効性の治療用魔法薬を渡した。さらに、ダットーは全系統の魔法を使い、これまで見たことのない魔法まで操るという情報を伝え、二人の無事を願って送り出した。
ダットー・シュタインとの対峙
潜伏先の小屋へ到着すると、ダットーはすでに外で待ち構えていた。彼は警備兵たちを気絶させており、二日前にブルーノを切り裂いたことを嬉々として語った。さらに肉を切り裂きたい欲求を抑えられず、自分を止めるなら殺すしかないと言って戦闘を始めた。
ダットーは岩棘や追尾する火炎の鳥など多彩な魔法を繰り出した。アルフレッドは水の鳥で火炎を相殺したが、クリムトは会話に気を取られた隙に火柱へ包まれた。それでもキャンディーから渡された防具のおかげで致命傷を免れ、接近してダットーの顔面を殴ることに成功した。
ブルーノの最期
ダットーは、以前エトガルにブルーノを見捨てて逃げれば追わないと持ちかけたことを明かした。重傷のエトガルはその言葉を受け入れて逃げ、立ち上がれないブルーノを残した。ダットーはブルーノの絶望した表情を楽しみ、さらに切り刻んで殺したと語った。
クリムトは激怒し、父や貴族社会を引き合いに逃走を勧めるダットーに対し、家柄ではなく親友ブルーノを殺されたからここに来たのだと言い切った。
燃える水
ダットーは新たな魔法として、異臭のする水を自在に操り、好きな場所で着火させる攻撃を使った。その正体はパーラー湿原に湧く燃える水を魔法で再現したものであり、水と火の魔法を組み合わせた技であった。
燃える水は衣服の中にまで入り込み、着火されるため防御が難しく、クリムトとアルフレッドは繰り返し火傷を負った。治療用魔法薬や治癒魔法で凌いだものの魔力を消耗し、クリムトの防具も限界に近づいた。ダットーは二人を戦闘不能にしてから生きたまま切り刻もうと余裕を見せた。
魔晶石を握った突撃
ダットーが勝利を確信した時、アルフレッドはクリムトに膨大な魔力を蓄えた特殊な魔晶石を渡した。自分が攻撃を防ぐため、クリムトには全力で接近し、魔晶石を握った右拳でダットーを殴るよう指示した。
クリムトは残り一度しか耐えられない防具を頼りに火炎を突破した。アルフレッドはダットーの燃える水を先に着火して水魔法で消し、ウィンドカッターや氷弾、岩棘も次々と相殺した。さらに岩壁でダットーの退路を塞ぎ、クリムトが接近できる状況を作った。
渾身の一撃
ダットーはクリムトの魔力量なら攻撃を防げると考え、両腕に膨大な魔力を集中させた。しかしクリムトは、自身の残った魔力と魔晶石に蓄えられていた魔力を一気に拳へ注ぎ込んだ。
その一撃はダットーの両腕を千切り飛ばし、そのまま胸を貫いて肺と心臓を破壊した。ダットーはなぜクリムトの魔力でこれほどの威力が出たのか理解できないまま死亡した。
アルフレッドによれば、通常は魔晶石から本人の最大魔力量を超える魔力を引き出せないはずだった。しかしクリムトは魔晶石の膨大な魔力をほぼすべて一度に引き出しており、アルフレッドが予想していた以上の結果を出していた。
ブルーガー公爵の包囲
ダットーを倒した直後、ブルーガー公爵とバーゼル子爵が兵を率いて現れ、二人を殺そうとした。アルフレッドは、公式には三十年前に死亡しているダットーがここで死んでも問題にはできないと皮肉を返した。
そこへホーエンハイム枢機卿が聖堂騎士団を率いて現れ、さらにクリムトの父であるアームストロング伯爵も軍勢と共にブルーガー公爵たちを包囲していた。アームストロング伯爵は、公式には認められない功績ながら、ダットーを倒したクリムトを息子として誇りに思うと告げた。
ブルーガー公爵の最期
ブルーガー公爵は国王へ訴えると激昂したが、ホーエンハイム枢機卿は、すでに国王も彼への配慮をやめたと告げた。先代国王の双子として本来の王位継承者だったという噂についても、同じ母から生まれた双子を意図的にすり替える理由などないとして一蹴した。
聖堂騎士団はブルーガー公爵とバーゼル子爵を拘束し、ホーエンハイム枢機卿の命令で毒を飲ませた。公爵は最後まで自分こそ本物の王だと主張したが、そのまま眠るように死亡し、バーゼル子爵も同じく命を落とした。
ブルーノの仇討ち
事件後、ホーエンハイム枢機卿はアルフレッドとクリムトを国王のもとへ同行させることにした。アルフレッドは報酬と口止め料を要求し、クリムトも父たちと共に王城へ向かった。
クリムトは、ダットー・シュタインを討ち取り、親友ブルーノの仇を果たせたことを胸に刻んだ。
第十四話 新しき友
国王からの謝罪
ダットー・シュタイン討伐後、クリムト、アルフレッド、アームストロング伯爵、ホーエンハイム枢機卿は極秘で国王に謁見した。国王は、自分と父である先代国王がブルーガー公爵への対応を決断できなかったことを詫び、討伐に使った装備や魔法薬の費用も報酬と合わせて支払うと約束した。
アルフレッドとの友情
王城を出たあと、アルフレッドはクリムトに、共に命を懸けてダットーを倒した仲なのだから呼び捨てで呼び合おうと提案した。クリムトは戸惑いながらも受け入れ、二人は対等な魔法使いとして親しくなった。
その日はブルーノの葬儀が行われる予定であり、アルフレッドも参列を申し出た。クリムトはブルーノの仇を討てた一方で親友を失った悲しみを抱えながら、その縁によってアルフレッドという新しい親友を得たことを、いつか天国のブルーノへ報告しようと考えた。
クリムトの潜在能力
葬儀後、アルフレッドは師匠のブランタークと酒場でダットーとの戦いについて語った。アルフレッドは、クリムトが単なる初級魔法使いではなく、現在の魔力量では説明できないほど大きな力を秘めていると考えていた。
決定的だったのは、クリムトが本来なら自身の限界魔力量までしか引き出せない魔晶石から、蓄えられていた膨大な魔力をすべて引き出して拳へ込めたことであった。アルフレッドは、クリムトの潜在的な魔力量は非常に大きく、成長が極端に遅い大器晩成型なのだと見ていた。
ブランタークは器合わせで魔力を増やす案を出したが、アルフレッドは急激な成長がクリムトに悪影響を与える可能性を考え、自然に成長させた方がよいとした。
ブルーノのいない家
ブルーノの葬儀から三日ほど経つと、クリムトはキャンディーから一週間の休養を命じられていた。強敵との戦いの直後は気が緩み、普段ならしない失敗をする危険があるためであった。
クリムトはブルーノの遺品となった魔法書を読みながら自宅で過ごした。ブルーノの家族には死の真相を知らせられず、ホーエンハイム枢機卿が魔物討伐中の事故として説明していた。葬儀で涙を堪えるリズリットを見たクリムトは、真実を話せないことに強い罪悪感を抱いていた。
リズの訪問
クリムトは、兄の世話をするために通っていたリズリットがもう家へ来ることはないだろうと思っていた。しかし、その直後にリズリットが食材を持って訪ねてきて、クリムトの食生活を心配しながら夕食を作り始めた。
リズリットは、キャンディーからブルーノの死の真相を聞いたと明かした。兄を失った悲しみは消えていなかったが、クリムトが親友の仇を討つため命を懸けてダットーと戦ったことを知り、ブルーノにそこまで想ってくれる親友がいたことが嬉しかったと涙ながらに語った。
新しい生活
リズリットはクリムトに、これからはリズと呼んでほしいと告げ、そのまま夕食作りを続けた。クリムトは翌日も暇だから一緒に出かけようと誘った。
リズの笑顔を見たクリムトは、ブルーノを失った悲しみを抱えながらも、ようやく新しい生活へ進めそうだと感じた。
エピローグ 結局、導師の若い頃って?
語り終えた青春時代
導師は、親友ブルーノの仇を討ち、その縁でアルフレッドという新しい親友を得た少年時代を語り終えた。ヴェンデリンたちは話そのものには引き込まれたものの、王家の内情や殺人鬼を巡る過去まで聞かされたことに強い不安を覚えた。
ヴェンデリンは、先々代国王の双子の弟が殺人鬼を庇い、その男を導師とアルフレッドが討ち、さらにブルーガー公爵まで極秘に始末された話は本来知らない方がよかったのではないかと考えた。しかし導師は、ブルーノの話には必要だったとして、秘密にしておけばよいと意に介さなかった。
十四歳の肖像画
エルヴィンが本来の目的だった導師の少年時代の肖像画を思い出し、導師は得意げにそれを取り出した。十四歳当時の導師は現在より多少幼く、まだパイナップルカットではなかったものの、ヴェンデリンたちには到底十四歳には見えなかった。
それでもニーナは、当時のクリムトは小さくて可愛らしかったと当然のように語った。エリーゼは母の感覚が少しずれているとヴェンデリンに小声で詫びた。
生まれてくる子供
導師は、ヴェンデリンとエリーゼの子供も自分に似て逞しく育てばよいと話した。エリーゼは不安そうになり、ヴェンデリンも特に娘が導師そっくりになるのは避けたいと考えた。
するとニーナは、クリムトは女性に人気があり、自分の友人であるリズも妻になったと明かした。ヴェンデリンたちは、亡くなった親友ブルーノの妹リズが導師の妻になっていた事実に驚いた。
ヴェンデリンは、外見はともかく、導師の内面に少し似る程度なら悪くないと考え直した。エリーゼと共に、伯父である導師に似て健康な子が生まれればよいと取り繕うと、導師は満足して、生まれてくる子はきっと逞しく育つと高笑いを続けた。
同シリーズ
八男って、それはないでしょう!シリーズ































異世界帰りのパラディンは、最強の除霊師となるシリーズ

異世界帰りの勇者は、ダンジョンが出現した現実世界で、インフルエンサーになって金を稼ぎます!シリーズ

その他フィクション

Share this content:


コメント