物語の概要
■ 作品概要
本作は、異世界に転生した貧乏貴族の八男・ヴェンデリンの活躍を描く人気ファンタジー小説の第10巻である。隣国アーカート神聖帝国の内乱編が、ついに大きな節目を迎える。 前回の決戦を経て、ヴェンデリンたちは一時的に重要拠点サーカットの町を占領し、持ち前の土木魔法で街道や堤防の整備、町と砦の拡張を進めていく。 一方で、皇帝アーカート十七世の戦死という衝撃的な事態が勃発する。これに伴い、第三の皇帝候補として「平民皇子」ことペーターが台頭し、いち早く帝都を掌握して帝国宰相に就任する。 ヴェンデリンたちは、再度英霊召喚された亡き師匠アルフレッドとの決着をつけ、さらには巨大な古代地下要塞に籠城するニュルンベルク公爵との最終決戦へと挑むことになる。
■ 主要キャラクター
ヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスター
本作の主人公である。バウマイスター伯爵。 ・所属組織、地位や役職:バウマイスター伯爵家当主。 ・物語内での具体的な行動や成果:アルフレッドとの再戦に備え、ブランタークや導師と共に死に物狂いの特訓を重ねる。最後は自身の魔力を一点に凝縮した魔法剣で恩師を貫き、呪縛から解放した。後半の要塞戦では「大魔砲」の砲身素材となる古代の万能金属「極限鋼」の精錬に成功する。 ・影響力、特筆事項:魔力量において魔族すら驚嘆させる先祖返りとしての資質を指摘される。
ペーター・オスヴァルト・デリウス・フォン・アーカート
現皇帝の三男で、母親が平民であることから「平民皇子」と呼ばれる少年である。 ・所属組織、地位や役職:アーカート神聖帝国皇子、後に帝国宰相。 ・物語内での具体的な行動や成果:軽薄な姿を装いつつ、裏では有能な軍人やスラムの住民などを味方に引き入れる工作を重ねていた。皇帝の戦死と同時に無血クーデターを成功させ、帝都の支配権を確立する。 ・影響力、特筆事項:高い政治的感覚と尋常ではない図々しさ、しぶとさを兼ね備えており、ヴェンデリンから「次の皇帝に相応しい」と認められる。
アルフレッド・レインフォード
ヴェンデリンの亡き魔法の師匠である。 ・所属組織、地位や役職:元ブライヒレーダー辺境伯家お抱え魔法使い。 ・物語内での具体的な行動や成果:ターラントの英霊召喚によって現世に呼び戻され、不本意ながらも敵として立ち塞がる。魔力の消耗によってターラントの支配が弱まった隙をつき、ヴェンデリンとの最後の真剣勝負を繰り広げ、弟子の成長を喜びながら成仏した。
マックス・エアハルト・アルミン・フォン・ニュルンベルク
帝国北部の強大な貴族にして、クーデターの首謀者である。 ・所属組織、地位や役職:ニュルンベルク公爵、反乱軍首謀者。 ・物語内での具体的な行動や成果:自ら軍を率いて現皇帝アーカート十七世を討ち取る。帝都からは物資を全て引き揚げ、古代遺跡を利用した難攻不落の巨大地下要塞に精鋭と共に立て籠もる。最終決戦では古代の巨大人型ゴーレムを駆り圧倒的な力を見せるが、ヴェンデリンとエルにゴーレムを破壊され致命傷を負う。 ・最期、特筆事項:大貴族としての血の呪いや虚しさをテレーゼに吐露しながら、応急治療の中で静かに息を引き取った。
テレーゼ・ジークリット・フォン・フィリップ
フィリップ公爵家の女性当主で、解放軍の総大将を務めていた。 ・所属組織、地位や役職:フィリップ公爵、後に一兵士として王国軍に志願。 ・物語内での具体的な行動や成果:親族の暴走による新たな内乱計画の責任を取り、アルフォンスに公爵位を譲って強制隠居する。その後は一兵士の立場としてニュルンベルク公爵の最期を見届けるべく戦いに同行した。 ・特筆事項:当主の座を降りてからは一転して自由な立場を謳歌し、ヴェンデリンとの距離を縮める。
エルヴィン・フォン・アルニム
ヴェンデリンの親友であり、優れた剣の才能を磨き続ける少年である。 ・所属組織、地位や役職:バウマイスター伯爵家家臣。 ・物語内での具体的な行動や成果:サーカットへの道中では部隊の指揮を任され、ハルカの支えを受けながら成長を遂げる。最終決戦ではハルカから借りた「魔刀」を手に、ルイーゼによって巨大ゴーレムの装甲の亀裂へ撃ち出され、見事にロボット型兵器を真っ二つに両断して勝利の決定打を挙げた。
魔族
白いタキシードとシルクハットを身につけた、耳の長い考古学者を名乗る謎の存在である。 ・所属組織、地位や役職:謎の魔族。 ・物語内での具体的な行動や成果:ニュルンベルク公爵に協力し、地下遺跡から発掘された各種の古代兵器や、通信・移動妨害装置の調整・維持を自らの魔力で手伝っていた。戦闘では圧倒的な魔力と闇魔法でヴェンデリンたちを窮地に追いやるが、エリーゼによる高濃度の治癒魔法(過治癒)を繰り返し受けたことで体が動かなくなり、敗退した。
■ 物語の特徴
本作の大きな魅力は、アーカート神聖帝国編の完結と、それに関わる重厚なドラマ描写である。 特筆すべきは、ヴェンデリンの魔法の師匠であるアルフレッドとの決着シーンだ。ブランタークや導師と共に特訓を経て弱点(ターラントの命令が最優先されること)を突き、魔力量を活かした猛攻でアルフレッドを追い詰める頭脳戦が描かれる。そして最後に交わされる、師弟としての暖かい別れとワインの回し飲みは、シリーズ屈指の感動的な名場面となっている。
また、物語後半の地下要塞戦では、ファンタジー小説としては異色の**「ロボットアニメ」的なSF要素**がふんだんに盛り込まれている。自爆ゴーレムや、合体・再生能力を持つ全高二十メートルの「大人型カラクリ魔人君」に立ち向かうため、ヴェンデリンたちが魔晶石を連結させた「大魔砲」を精錬した極限鋼で作り上げるプロセスは、ロマンと緻密な設定が融合した読み応えのある展開だ。
さらに、ニュルンベルク公爵の持つ「大陸統一への執念」と、大貴族の当主という逃れられない血の呪い・孤独による悲哀が丁寧に描かれており、単なる勧善懲悪に留まらない人間ドラマの深みも見どころである。
書籍情報
八男って、それはないでしょう! 10
著者:Y.A 氏
イラスト:藤ちょこ 氏
出版社:KADOKAWA(MFブックス)
発売日:2017年2月25日
ISBN:9784040690872
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
あらすじ・内容
いい加減、帰らせろ!! 師匠を超え、このくだらない戦に終止符を打つ!
八男って、それはないでしょう!10
師であるアルフレッドとの戦いで、引き分けに持ち込むことが精一杯だったヴェルは、その脅威を実感し対策を急ぐ。一方、テレーゼとニュルンベルク公爵による最初の決戦の行方は、双方共に決定打を与えることができず、痛み分けとなった。
来る帝都での戦に向け、両陣営仕切りなおしの合間、ヴェルたちはかつての重要拠点サーカットの町を落とし、そこを拠点とする。しかし、なぜか人様の国で開発三昧の日々を過ごすはめになるのだった。
そして迎えるアルフレッドとの再戦。ヴェルはアルフレッドの身体がターラントであることを利用した戦略で有利に進めるが、当然一筋縄ではいかず……。
感想
前巻から続く帝国内乱はさらに大きく動き、ヴェルたちは再び恩師アルフレッドとの戦いに挑む。
本巻で特に印象に残ったのは、単純な魔力量の勝負ではなく、前回の敗北をどう次へ生かすかという点である。
ヴェル、ブランターク、導師の三人は、一度アルフレッドに完敗している。
だからこそ今回は、死に物狂いで特訓を重ねる。
相手の攻撃をどう防ぐか。
木偶をどう消耗させるか。
アルフレッドがターラントの命令に縛られている点をどう利用するか。
力押しだけでは勝てない相手に対して、泥臭く対策を積み重ねていく過程が面白かった。
師匠を超えるための、泥臭い特訓
アルフレッドの恐ろしさは、魔力量そのものではない。
相手の攻撃をいなし、最小限の魔力で防ぎ、確実に反撃する技術にある。
前回のヴェルは、自分の方が魔力を持っているにもかかわらず、その長所をほとんど生かせなかった。
そこで今回は、上手く戦おうとすることを捨てる。
大量の火球を放ち続け、アルフレッドへ回避ではなく防御を強制する。
さらに後方の反乱軍まで巻き込むように攻撃することで、ターラントの命令に従うアルフレッドへ味方の防御まで押しつける。
かなり乱暴な戦い方である。
しかし、それでいい。
技術では勝てないなら、自分が勝っている魔力量を徹底的に押しつける。
自分の強みを理解して戦い方そのものを変えたヴェルに、前巻からの成長を感じた。
アルフレッドとの最後の師弟対決
さらに印象的だったのが、アルフレッド自身も完全な操り人形ではなかったことである。
ターラントの魔力が減るにつれ、《英霊召喚》による支配も弱まっていく。
撤退を命じられても、アルフレッドはヴェルとの決着を選ぶ。
そこには「師匠が弟子の実力を測る」という関係だけではなく、一人の魔法使いとしてヴェルと本気で戦いたいという気持ちがあったように感じた。
最後は互いに残った魔力を魔法剣へ注ぎ込み、正面からぶつかる。
ヴェルは左肩を傷つけられながらも、アルフレッドの心臓を貫く。
これまでの小細工や対策を重ねた末に、最後だけは真正面から決着をつける。
この流れがよかった。
そして戦いの後、消えていくアルフレッドをヴェル、ブランターク、導師がワインで送り出す。
悲しい場面ではある。
それでも、師匠を無理やり利用し続けていた呪縛からようやく解放できたという安心感もある。
アルフレッドも、成長したヴェルを見ることができた。
敵として倒すしかなかったのに、最後にはどこか温かさが残る。
本巻でも特に好きな場面だった。
帝都を捨てるニュルンベルク公爵
ところが、アルフレッドを倒して終わりではない。
シーナ平原での大会戦後、ニュルンベルク公爵は帝都そのものを放棄する。
軟禁されていた皇帝アーカート十七世が復権し、帝国の政治状況は再びひっくり返ってしまう。
ここが実に面倒で面白い。
反乱軍を倒せば、それで解放軍側が一枚岩になるわけではない。
皇帝が戻れば皇帝には皇帝の思惑がある。
テレーゼが内乱で功績を挙げ、勢力を持ちすぎたことも当然警戒される。
しかもニュルンベルク公爵は帝都から資産や物資まで持ち去っている。
政治的には復権したのに、皇帝の手元には十分な金も物資も残っていない。
戦争で勝つことと、国を動かすことはまったく別なのだと感じさせられた。
テレーゼの弱さも見えてきた
ここで少し印象が変わったのがテレーゼである。
これまで彼女は解放軍の中心人物として活躍してきた。
しかし、復権した皇帝を前にすると決断しきれない。
アルフォンスからは皇帝を退位させるよう求められるものの、そこまで踏み込むことができなかった。
ヴェルも、そんなテレーゼに「為政者としての非情さが足りないのではないか」と疑問を持ち始める。
個人的には、この弱さが興味深かった。
テレーゼは有能である。
人望もある。
しかし、権力を握るためなら何でもやれる人物ではない。
平時なら長所になるであろう育ちのよさや潔さが、内乱では逆に弱点になる。
政治の世界では、善良であることだけでは勝てない。
そんな厳しさが見えてきた。
突然現れた第三皇子ペーター
そこで登場するのが、皇帝の三男ペーターである。
この男がかなり面白い。
平民出身の母を持つため皇家では軽く見られ、自身も軽薄な皇子を演じながら生き延びてきた。
ところが実際には、かなり冷静に情勢を見ている。
そしてヴェルに、
皇帝の討伐軍はどうせ負ける。
負けた後、自分が帝都を押さえる。
だから協力してほしい。
という話を持ちかけてくる。
図々しい。
しかもヴェルの財力まで利用し、軍備のために一億セントを超える借金を重ねていく。
それでも不思議と嫌いになれない。
自分が強者ではないと理解したうえで、人脈と情報と機会を使って生き残ろうとしているからだと思う。
ヴェルとの会話にも妙なテンポのよさがあり、二人の打算的な関係が読んでいて楽しかった。
本当に皇帝軍が壊滅するとは
そしてペーターの予想どおり、皇帝率いる討伐軍は壊滅する。
後方支援まで含めれば五十万人規模。
圧倒的な兵力差で押し切れると考えていた皇帝は、ニュルンベルク公爵の罠に完全にはまってしまう。
自爆型ゴーレム。
金属製の竜ゴーレム。
古代魔法文明時代の兵器によって討伐軍は崩壊。
最後には皇帝自身もニュルンベルク公爵に討たれる。
数が多ければ勝てるわけではない。
大軍を率いる人物に、その軍を扱う能力がなければ意味がない。
戦争の厳しさがよく出ていた場面だった。
ペーターが一気に帝都を掌握する展開が痛快
皇帝の死を知ったペーターは、すぐに動く。
帝都内部の協力者と連携し、混乱が広がる前に軍を入れる。
皇宮を押さえる。
帝国軍本部を掌握する。
皇帝の命令書に必要な《皇帝の羽ペン》まで確保する。
さらに議会では宰相へ就任し、事実上帝国の最高権力者となる。
ここまでの手際が非常にいい。
皇帝が敗北することを予想していたからこそ、事前に軍人や貴族、商人、スラムの自警団にまで手を伸ばしている。
ダークホースという言葉が本当に似合う人物である。
ヴェルたちは歴史的な政変の中心にいながら、本人が言うように「基本何もしない」。
それでもヴェルが傍にいるだけで、王国との関係や軍事的な後ろ盾として利用できる。
ペーターは使えるものを徹底的に使う。
この図々しさが頼もしかった。
帝都防衛戦の勢いも気持ちいい
その後、ニュルンベルク公爵軍が帝都へ迫る。
ここから再び大規模な防衛戦となる。
自爆型ゴーレムが城壁へ突撃。
竜ゴーレムが攻撃。
ヴェル、ルイーゼ、導師が前へ出て次々と破壊する。
さらに、使い捨てにされていた敵先鋒部隊へ導師が寝返りを呼びかける。
彼らが一斉に反転し、ニュルンベルク公爵家諸侯軍へ襲いかかる。
そこへペーター側の軍勢も総攻撃。
一気に形勢が崩れる展開は爽快だった。
ニュルンベルク公爵本人には逃げられるものの、精鋭の半数以上を失わせる大勝利となる。
つい少し前まで皇帝から「平民皇子」と軽く見られていた人物が、いつの間にか帝都を守る中心人物になっている。
ペーターの躍進が本巻後半の大きな面白さだった。
読後の感想
『八男って、それはないでしょう! 10』は、かなり内容の濃い一冊だった。
前半ではアルフレッドとの師弟対決。
中盤では皇帝の復権と政治的な混乱。
後半ではペーターの台頭と帝都防衛戦。
戦闘だけでも十分に濃いのに、その合間にはサーカットの街道整備や町づくり、書類仕事、大福作りといったいつもの日常も挟まる。
この落差が『八男』らしい。
特に印象に残ったのは、やはりアルフレッドとの決着である。
師匠を倒すために弟子が必死に特訓する。
そして最後には、倒した相手を憎むのではなく、ワインで送り出す。
敵を倒した爽快感よりも、ようやく師匠を解放できた安堵の方が強く残った。
その一方で、政治の世界では新たにペーターという厄介で面白い人物が登場した。
テレーゼでもない。
ニュルンベルク公爵でもない。
まさかの第三候補が一気に帝国の中心へ躍り出る。
内乱そのものはまだ完全には終わっていない。
それでも、帝国の勢力図は大きく変わった。
ヴェルとペーターの妙に気の合う関係が今後どうなっていくのか。
そして追い詰められたニュルンベルク公爵が、最後にどのような手を打ってくるのか。
次巻が気になる終わり方であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
考察・解説
アルフレッドとの再戦
ヴェンデリンとアルフレッドの再戦と決着の全貌
『八男って、それはないでしょう! 10』で描かれた、主人公ヴェンデリンと亡き師匠アルフレッド・レインフォードとの再戦(決着)について、死に物狂いの特訓と徹底した対策、シーナ平原の会戦と盤面を支配する頭脳戦、極限の師弟対決と呪縛の突破、および決着と感動に満ちた別れの各点から解説する。
死に物狂いの特訓と徹底した対策
前回の戦いで、魔力量では上回りながらもアルフレッドの圧倒的な魔法技術に翻弄されたヴェンデリン、ブランターク、アームストロング導師の3人は、敗北を猛省し、死に物狂いの実戦的特訓を重ねた。
・防御の克服:アルフレッドが魔法障壁を貫通させてきた微細な魔力攻撃に対抗するため、察知した瞬間に障壁を部分的に厚くして防ぐ訓練を重ね、成功率を上げた。
・攻撃の模倣:逆に、敵の魔法障壁の一部だけを撃ち破る「魔力効率に優れた攻撃」を習得し、特訓期間中に他の敵魔法使いを相手に実践して手応えを掴んだ。
・弱点の分析:アルフレッドを降ろしている依代(ターラント)の特性も分析した。ターラントは常時存在感を消す魔法がかかっており、その自己主張の薄さゆえに死者との同化に適していた。しかし、召喚主であるターラントの魔力が減れば英霊への支配力が弱まること、そして何よりニュルンベルク公爵やターラントの命令に縛られ、非情になりきれないという致命的な弱点を見抜いた。
シーナ平原の会戦と、盤面を支配する頭脳戦
解放軍15万と反乱軍9万が激突したシーナ平原の会戦にて、再びターラントの手によってアルフレッドが召喚された。アルフレッドは前回同様、2体の木偶(能力と姿を複製するゴーレム)を召喚し、ブランタークと導師を分断してヴェンデリンとの1対1に持ち込もうとした。
・木偶の魔力消耗作戦:ブランタークと導師は、木偶への攻撃をわざと後方の反乱軍本隊へと流した。ターラントの「味方を守れ」という命令が優先されるため、木偶たちは障壁を張ってこれらを防がざるを得ず、余計な魔力を激しく消耗して自滅へと追い込まれた。
・魔力量を活かした物量攻勢:ヴェンデリンは自身の最大の武器である膨大な魔力量を活かし、小細工なしで後方の反乱軍を巻き込むように大量の火球を絶え間なく放ち続けた。これにより、アルフレッドに得意の回避を許さず、ひたすら防御を強要することで彼の魔力をじわじわと削り取ることに成功した。
極限の師弟対決と、呪縛の突破
アルフレッドも黙ってはおらず、移動・通信妨害を一時的に無効化する古代の魔道具キャンセラーを使用し、瞬間移動で突如ヴェンデリンの至近に現れて魔法剣で脇腹を抉るなど、猛烈な反撃を行った。
・ヴェンデリンは激痛に耐えながら自己治癒を行い、攻撃の手を緩めず、アルフレッドが魔法の袋から巨大魔晶石を取り出して魔力を回復させる隙を与えなかった。
・やがて、激しい消耗によってターラントの魔力が底を突きかけ、アルフレッドへの支配力が著しく弱まった。
・ターラントは焦って一時撤退を命令したが、元よりこの理不尽な使役に不満を抱いていたアルフレッドはそれを拒絶した。
・アルフレッドは一人の魔法使いとして、愛弟子の成長の限界を見極めたいという自身の純粋な願いのために、最後の一騎打ちをヴェンデリンに望んだ。
決着と、感動に満ちた別れ
お互いに残り少ない魔力のすべてを魔法剣に込め、正面から突撃した。ヴェンデリンは複雑な技術を捨て、純粋な速度と絶対に退かないという気迫だけで突き進んだ。
・激突の瞬間、ヴェンデリンは左肩に風の槍を受けて負傷したものの、放った火属性の魔法剣は見事にアルフレッドの心臓を貫いた。
・致命傷を負ったターラントが絶命したことで、英霊召喚の術は解け始めた。
・光となって消えゆくまでの短い時間、アルフレッドはかつての穏やかな師匠の顔に戻り、見事に自分を撃破して立派な魔法使いへと成長したヴェンデリンを心から優しく褒め称えた。
・駆けつけたブランタークや導師とも軽口や感謝を交わし、導師が用意したワインを3人で回し飲みしながら、アルフレッドは数十年後にはあの世で自分がヴェンデリンから魔法を習うかもしれないねとユーモアを交えて言い残し、満足そうな笑みを浮かべて天へと帰っていった。
まとめ
ヴェンデリンとアルフレッドの再戦と決着を巡る一連の全貌は、前回の敗北を踏まえた特訓と敵の弱点分析から始まり、シーナ平原での頭脳戦による魔力消耗作戦、呪縛を振り払った純粋な師弟一騎打ち、そして恩師の解放と感動的な別れに至るまで、その歩みを明瞭に示している。
英霊としての不当な拘束や戦乱の不条理という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確活たる意志によって完璧に確立するに至る、頭脳戦の勝利と恩師救済の記録である。
敗北の検証から、能力の克服、作戦遂行、魂の交歓、そして安らかな還流へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
帝都防衛決戦
帝都防衛決戦の全貌と戦闘の経過
『八男って、それはないでしょう! 10』における帝都防衛決戦について、決戦の布陣と城壁の状況、自爆型ゴーレムの襲来と誘爆作戦、量産型竜ゴーレムの撃破、ヴェンデリンの本陣奇襲と護衛魔法使いの排除、導師の宣言と先鋒部隊の反転、および総攻撃と名将ザウケンの最期の各点から解説する。
決戦の布陣と城壁の状況
皇帝を討ち取ったニュルンベルク公爵は、勝利の勢いのまま軍を帝都バルデッシュへと進めた。
・対するペーターは、実力主義でギルベルトやポッペクを軍の指揮官に据えた。
・さらにミズホ上級伯爵率いる二万の精鋭や、男爵様とランドルフが率いるスラム自警団を各城壁に配置した。
・帝都の城壁は老朽化しており、特に南側城壁は防御力に不安を残した状態での開戦となった。
自爆型ゴーレムの襲来と「誘爆作戦」
ニュルンベルク公爵は、かつて皇帝討伐軍を壊滅させた第一の切り札である大量の自爆型ゴーレムを投入し、城壁の破壊を試みた。
・アームストロング導師が機転を利かせ、魔法で作り出した巨岩をゴーレムの群れに向かって次々と投擲した。
・このゴーレムは非常に衝撃に敏感であったため、導師の投石によって次々と誘爆し、自滅していった。
・ルイーゼの投石、イーナの投槍、ヴィルマの魔銃、カタリーナの魔法も加わり、大半を城壁に到達する前に処理することに成功した。
・一部は城壁に衝突して爆発し、南側城壁を大きく損傷させたが、ペーターやポッペクが想定していた市街地戦の備えによって、防衛線は維持された。
量産型竜ゴーレムの撃破
続いて公爵は、第二の切り札としてブレスを吐く量産型竜ゴーレム10体を前線に展開した。
・城壁を完全に破壊されるのを防ぐため、ペーターはヴェンデリンと導師にその破壊を命じた。
・乗馬が苦手なヴェンデリンはルイーゼを馬に同乗させ、導師と左右に分かれて敵軍の中へと突進した。
・敵前衛部隊がブレスに巻き込まれるのも構わず放たれる猛攻を魔法障壁で防ぎながら、ヴェンデリンは極限まで圧縮したファイヤーボールを口内に叩き込んで頭部を溶かした。
・ルイーゼは魔闘流の拳で粉砕し、導師も力技で次々と破壊し、見事に10体すべてを全滅させた。
ヴェンデリンの本陣奇襲と護衛魔法使いの排除
竜ゴーレムを破壊する道中、ヴェンデリンはニュルンベルク公爵の本陣を発見した。
・奪い取ったキャンセラーで飛翔し、上空から公爵本人を無属性魔法で狙撃すると見せかける奇襲を仕掛けた。
・狙われていると勘違いした公爵の護衛魔法使いたちが、公爵の前に立ち塞がった。
・ヴェンデリンは彼らの動きを完全に読み、軌道を変えた風の槍などの魔法で、公爵が頼りにしていた優秀な護衛魔法使いたちを次々と撃破した。
・公爵自身の殺害には至らなかったものの、ニュルンベルク公爵家の象徴である大旗を魔法で千切り飛ばし、敵軍の戦意を挫いた。
導師の宣言と先鋒部隊の反転
南側城壁を攻めていた敵の先鋒部隊は、ニュルンベルク公爵に使い捨てにされていた元帝国軍の兵士たちであった。
・戦況が膠着したところへ、導師が戦場に響き渡る大声で、ペーター殿下からの伝言であり、これよりニュルンベルク公爵家の兵を討てば帝国軍への復帰を認める旨を偽って宣言した。
・さらに公爵の首を獲った者には爵位を授けると付け加えた。
・この言葉を信じた先鋒部隊は、自分たちは捨て駒ではないと激怒し、一斉に反転して後方にいた反乱軍主力へ襲いかかった。
総攻撃と名将ザウケンの最期
この絶好の好機に、防衛部隊を指揮していたギルベルトが全軍を率いて突撃を敢行し、エルやフィリップが率いる王国軍、ミズホ伯国軍もこれに加わった。
・前後から挟み撃ちにされたニュルンベルク公爵軍は、ついに瓦解し始めた。
・敗走する公爵を逃がすため、彼の腹心である名将ザウケンが精鋭を率いて決死の足止めを行った。
・しかし、ヴェンデリンがウィンドカッターでザウケンの首を刎ねたことで、足止め部隊も完全に崩壊した。
まとめ
帝都防衛決戦の全貌と戦闘の経過を巡る一連の全貌は、老朽化した城壁での防衛体制構築から始まり、自爆型ゴーレムの誘爆処理、量産型竜ゴーレムの粉砕、本陣奇襲による護衛魔法使いの排除、導師の虚言に伴う敵先鋒部隊の反転、そして総攻撃と名将ザウケンの討伐に至るまで、その歩みを明瞭に示している。
敵軍の猛攻や兵力差という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、機転と総力戦による帝都防衛成功の記録である。
開戦の危機から、兵器の打破、本陣への圧迫、敵軍の内部瓦解、そして反乱軍撃退へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
ペーターの政権奪取
平民皇子ペーターの政権奪取の全貌と無血クーデターの真相
『八男って、それはないでしょう!』における平民皇子ペーター(ペーター・オスヴァルト・デリウス・フォン・アーカート)の政権奪取について、牙を隠した事前工作と人材の囲い込み、討伐軍の壊滅と最速の情報入手、帝都と皇宮の迅速な掌握、および旧政権の瓦解と帝国宰相への就任の各点から解説する。
牙を隠した事前工作と人材の囲い込み
ペーターは現皇帝の三男であり、母親が平民出身であることから平民皇子や恥さらしと呼ばれ、皇家内では冷遇されていた。皇帝アーカート十七世からは、ヴェンデリンやミズホ伯国軍を監視する名目で、帝都から離れたサーカットの町へと派遣されていた。しかし、彼はこの監視任務を逆手に取り、以下のような周到な事前工作を進めていた。
・実力派家臣のスカウトと軍備強化:監視強化を口実に皇帝から一軍の編成許可を得ると、元帝国軍のエリートであるポッペクを参謀長に、かつて剛力将軍と謳われたギルベルトを司令官に迎え、数カ月で五千人を超える軍勢を組織・訓練した。
・帝都内の協力者の確保:帝都留守部隊を指揮するバイエルラインや、皇宮の事情に精通するランズベルク伯爵、さらには帝都スラムを束ねる男爵様やラン族のランドルフといった、帝国中枢が把握していない強力なネットワークを構築した。
・ヴェンデリンからの莫大な借金:軍備やスラム支援、西側城壁の修復に必要な多額の資金は、すべてヴェンデリンから個人融資の形で借り入れていた。これを皇帝へは皇子の立場を利用してヴェンデリンに借金を重ねさせ、その財力を削り取っていると虚偽の報告をすることで、一切の警戒を解くことに成功していた。
・ミズホ伯国との密約:テレーゼにも秘密裏に、ミズホ上級伯爵と水面下で会談を行い、いざという時の協力関係を取り付けていた。
討伐軍の壊滅と最速の情報入手
ペーターは、軍事経験が皆無である父や兄たちが率いる五十万人規模のニュルンベルク公爵討伐軍が、優れた軍人である公爵に敵うはずがないと冷徹に見抜いていた。
・予言通り、討伐軍が公爵の用意した古代兵器の前に大敗し、皇帝アーカート十七世が命乞いも虚しく斬首された。
・ペーターは自身が放っていた密偵から、この敗戦と皇帝戦死の報を大陸で誰よりも早く入手した。
帝都と皇宮の迅速な掌握(無血クーデター)
情報の空白期間が生じ、テレーゼ率いる北部諸侯軍が動けない隙を突いて、ペーターはサーカットで温存・再編していた自身の軍、ヴェンデリンたちの王国軍、およびミズホ駐留軍を率いて、夜間に帝都へと急行した。
・帝都入城と軍本部の掌握:夜間開門を拒む門番に対し、内通していたバイエルラインが自分が責任を取ると強弁して開門させ、ギルベルトと共に一瞬にして帝国軍本部を接収・掌握した。
・皇宮の制圧と羽ペンの確保:皇宮では事前にランズベルク伯爵が警備を掌握しており、ペーターを下賤の者とののしる義母を迅速に軟禁した。同時に、サインすることで帝国の公的命令を有効化する唯一の魔道具である皇帝の羽ペンの確保にも成功した。
旧政権の瓦解と「帝国宰相」への就任
翌朝、ペーターは何も知らずに皇宮へ集まった閣僚や軍人に対し、討伐軍の壊滅と皇帝・皇子たちの死を冷酷に突きつけた。
・諜報部門のトップでありながら全く状況を把握していなかった皇后の兄・アーレー侯爵をはじめ、パニックに陥った旧閣僚たちは、ニュルンベルク公爵の精鋭十五万が帝都に迫っていると知ると、責任追及を恐れて次々と自発的に辞職していった。
・ペーターはこれを好都合として彼らを切り捨て、実力重視の新たな閣僚を配置した。
・その後、ペーターは即座に議会を招集した。混乱の中で皇帝選挙を行う猶予はないとして、自身が宰相の地位に就いて帝都防衛の迎撃指揮を執る案を提示する。
・他に現実的な選択肢がなく、ペーターの息がかかった大商人らの賛同もあり、議会は満場一致でペーターの帝国宰相就任を承認した。
・これにより、ペーターは名実ともに帝国の最高権力者となり、事実上の政権奪取を完了させた。
まとめ
平民皇子ペーターの政権奪取を巡る一連の全貌は、冷遇された立場を利用した水面下での軍備構築と協力者の確保から始まり、討伐軍壊滅の最速察知、夜襲による帝都軍本部および皇宮の無血制圧、そして旧閣僚の排除と議会承認による帝国宰相就任に至るまで、その歩みを明瞭に示している。
無能の烙印や冷遇という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、周到な準備と迅速な権力掌握の記録である。
冷遇の利用から、軍備の偽装、最速の情報入手、要所の制圧、そして最高権力の獲得へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
ニュルンベルク公爵の最期
ニュルンベルク公爵の最期と大貴族の虚しさ
『八男って、それはないでしょう! 10』において描かれた、アーカート神聖帝国の内乱を引き起こした首謀者・ニュルンベルク公爵(マックス)の最期について、巨大ゴーレムの崩壊と致命傷、治療の拒否とせめてもの情け、血の呪いと大貴族の虚しさ、最後の言葉と息引き取る瞬間、および終幕とヴェンデリンの心中の各点から解説する。
巨大ゴーレムの崩壊と致命傷
内乱の最終決戦において、ニュルンベルク公爵は魔族が起動した全高二十メートルに及ぶ巨大人型ゴーレムのコックピットに乗り込み、ヴェンデリンたちと死闘を繰り広げた。
・テレーゼに予備部品の供給設備を破壊されたことでゴーレムの再生能力が失われ、さらにエリーゼの過治癒魔法によって魔族の魔力供給も弱められていった。
・最後は、ヴェンデリンが放った炎の刀身による一撃と、エルがハルカから借りた魔刀による追撃によって、巨大ゴーレムは縦に真っ二つに両断されて活動を停止した。
・その凄まじい両断に巻き込まれた公爵は、残骸の中から右腕と右脚を失って大出血した悲惨な状態で発見されることとなった。
治療の拒否とせめてもの情け
エリーゼは自身の持つ治癒魔法で公爵を救命しようとしたが、彼はここで中途半端に情けをかけるなとそれを拒絶した。
・もし治療で一命を取り留めたとしても、帝都でペーターの裁判を受けて死刑になることは確実であり、公爵はここで無様に死んだ方がマシだと自ら死を望んだ。
・ヴェンデリンに意見を求められたテレーゼも、このまま死なせてやれと公爵の意思を尊重した。
・そのため、エリーゼは命を救う治療ではなく、苦痛を取り除く応急処置を施して切断口からの大出血を止め、傷の痛みだけを消し去るというせめてもの情けで応じた。
・公爵は敵に情けをかけるとは聖女の二つ名に相応しいと皮肉混じりの感謝を述べた。
「血の呪い」と大貴族の虚しさ
静かに死を待つ間、公爵は傍らにいるテレーゼに語りかけ、幼少期に二人で遊んだ楽しい思い出を振り返った。
・二人はそれぞれの公爵家という強大な家督を継がねばならず、公爵はこれを血の呪いと表現した。
・テレーゼもまた、継ぎたくありませんとは口が裂けても言えないと、当時の抗えない重圧に強く同意した。
・千二百年の歴史を持つニュルンベルク公爵家を継いだマックスは、周囲から称賛され羨まれるたびに、心の中に冷たい虚しさを募らせていった。
・彼が望まぬ人生から逃れることも、誰かに頼ることもできない孤独の中で、その虚しさを忘れるために選んだのが、帝国を掌握して王国を攻め滅ぼし、大陸を統一するという無謀な夢への挑戦であった。
・彼は勝てば称賛され、負けても元々望んでいなかった人生が終わるだけと、最初から破滅を恐れぬ投げやりな覚覚悟を明かした。
最後の言葉と息引き取る瞬間
公爵から問いかけられたテレーゼが、国を出て自由になると答えると、公爵は一瞬だけ羨ましそうな表情を見せた。
・公爵は、数十年後あの世で会おうという最後の言葉を遺し、静かに目を瞑って息を引き取った。
・エリーゼがその脈と呼吸の停止を確認すると、テレーゼは顔を上に向けて涙を堪えながら、届かぬ独白を涙ながらに呟いた。
まとめ
ニュルンベルク公爵の最期と大貴族の虚しさを巡る一連の全貌は、巨大人型ゴーレムの破壊と致命傷から始まり、自尊心に基づく治療の拒否、血の呪いに縛られた人生の虚しさの吐露、かつての友であるテレーゼに看取られての死、そして見届けた者たちの複雑な心情に至るまで、その歩みを明瞭に示している。
血筋や立場という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、権力者の悲壮な末路と信念の全うの記録である。
決戦の敗北から、治療拒否、虚しさの露呈、魂の解放、そして不条理な宿命への洞察へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
古代魔法文明の遺産
古代魔法文明の遺産と超テクノロジーの全貌
『八男って、それはないでしょう!』の世界において、一万年以上前に滅亡した「古代魔法文明」が遺した遺産について、移動・輸送に関わる遺産、兵器・軍事技術の遺産、保管・日常のインフラに関わる遺産、および失われた生体操作技術の各点から解説する。
移動・輸送に関わる遺産
古代魔法文明の交通・輸送インフラ技術は、現代の魔導技術を遥かに凌駕している。
・魔導飛行船および超巨大魔導飛行船リンガイア:現代の技術では新規建造が不可能であり、遺跡からの発掘品を修理・維持して運用している。全長100メートル級の通常の飛行船のほかに、ドックで眠っていた全長400メートル級の超巨大魔導飛行船も存在する。これらを動かすには、現代技術では製造できない超巨大な魔晶石や、船体を補強するための古代竜の骨といった規格外の素材が必要となる。
・魔導エレベーター:イシュルバーク伯爵の地下倉庫で稼働していた昇降機である。ボタンで任意の階層を指定して自動で移動する機能や、扉に人が挟まれた際に自動で開く安全センサーなど、現代の魔道具職人には再現できないロスト技術が詰め込まれている。
兵器・軍事技術の遺産
古代魔法文明の兵器群は、戦術や国家の軍事バランスを根本から覆す威力を有している。
・魔法妨害装置(移動・通信阻害装置):ニュルンベルク公爵がクーデターの切り札として稼働させた最大級のオーパーツである。帝都を中心に半径約2000キロメートルの広範囲において、瞬間移動や飛翔といった移動系魔法、および携帯通信機などの魔道具を強制的に沈黙・阻害する。
・キャンセラー:魔法妨害装置による移動・通信阻害を、一時的に無効化できる特殊な魔道具である。数回の使用で壊れてしまう極めて貴重な消耗品である。
・大人型カラクリ魔人君:地下要塞の最深部に隠されていた、全高20メートルにおよぶ巨大人型ゴーレムである。ニュルンベルク公爵が操縦し、魔族が魔力供給を担当した。ロケットパンチや魔砲など圧倒的な攻撃力を誇り、後方の専用設備から予備部品を呼び寄せることで、受けた損傷を何度でも瞬時に復元・再生する防衛システムを持つ。
・自爆型ゴーレムおよび量産型竜ゴーレム:公爵領の遺跡から大量に発掘された自律兵器である。自爆型は熊や狼の形をした金属製ゴーレムで、衝撃を感知すると大爆発を起こす。竜ゴーレムは強力なブレスを吐き出し、軍勢を一瞬で機能不全に追い込む性能を持つ。
・拠点防衛用ドラゴンゴーレム:イシュルバーク伯爵の遺跡の門番として配置されていたゴーレムである。外殻が純度100%のミスリルでコーティングされており、あらゆる魔法攻撃を完全に無効化する。さらに、空気中の魔力を自動的に回収するパネルを備え、魔力を蓄えながら無制限にブレスを連発し続ける。
・怨嗟の笛および竜使いの笛:怨嗟の笛は吹いた本人の強い怨念と周囲の土地に漂うわずかな怨念を強制的に集束させ、自身を巨大な黒い煙のアンデッドへと変貌させる仇討ち用の魔道具である。竜使いの笛は吹くことで飛竜やワイバーンを狂暴化させて呼び寄せ、周辺一帯を壊滅に追い込む危険な兵器である。
・魔導噴進砲および閃光炸裂魔弾:フィリップ公爵家に代々秘蔵されていた古代の魔道具である。閃光によって一時的に視力を奪い、推進弾によってドラゴンゴーレムの部位を直接破壊するほどの物理威力を発揮した。
保管・日常のインフラに関わる遺産
物資の保存やエネルギー回収に関するインフラ技術も極めて高度である。
・魔蔵庫:大理石の部屋の全面に状態保存の魔法陣が隙間なく描かれた大規模な倉庫である。扉が閉まっている間は室内の時間経過が完全に停止するため、中に入れた衣服、雑貨、食料、酒類などが一万年以上経過しても一切劣化せず、新品同様の状態で保存される。
・魔法の袋:通常の物理法則から外れた異次元空間に、その袋の容量を超える物資を収納できる携帯用巾着袋である。袋の内部は時間が完全に停止しており、生鮮食品をそのままの鮮度で保存可能である。さらに、登録された使用者以外の魔力では開かない強力なセキュリティ機能が施されている。
・魔力回収パネル:ドラゴンゴーレムの体に張られていた、空気中に極めて微量に漂うマナを吸収してエネルギーに変えるパネルである。現代の魔法技術では、これを街灯の上に設置して維持費を削減するインフラ技術として再利用する研究が進められている。
失われた生体操作技術
古代魔法文明の最奥には、生物の根幹に介入する技術が存在していた。
・人工魔法使いの技術(第三の生物設計図):古代魔法文明が最も栄えていた時代、高度な魔法社会を維持するために開発された魔法使いを人工的に量産する技術である。人間の生物設計図における劣性遺伝要素である魔力具現化と増殖を強制的に操作・定着させた。
・この技術によって生み出された人工魔法使いは、性交渉を伴う交際によって異性の潜在能力を刺激し、本来魔法が使えないはずの者の才能を強制的に発現・強化させる能力を持つ。さらに、その子供にも高確率で魔法の才能が遺伝する。
・現代においてヴェンデリンの周囲で起きた妻たちの魔力の異常な覚醒・増大は、ヴェンデリン自身にこの第三の生物設計図が極めて稀に自然発現(先祖返り)したためであると分析されている。
まとめ
古代魔法文明の遺産と超テクノロジーを巡る一連の全貌は、移動・輸送手段としての魔導飛行船やエレベーターから始まり、魔法妨害装置や各種ゴーレムなどの兵器群、魔蔵庫や魔法の袋といった保存インフラ、そして遺伝子レベルで魔力を操作する人工魔法使いの技術に至るまで、その歩みを明瞭に示している。
技術的限界や資源の枯渇という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、超技術の分析と現代への運用の記録である。
遺跡からの発掘、兵器の打破、インフラの再利用、そして生体技術の解明へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
登場キャラクター
バウマイスター伯爵家・関係者
ヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスター
本作の主人公である。
彼はバウマイスター伯爵家の当主を務めている。
エリーゼたちの夫にあたる。
・所属組織、地位や役職
バウマイスター伯爵家、当主。
・物語内での具体的な行動や成果
魔法を用いて帝国内乱の様々な戦局を打開した。
師匠であるアルフレッドとの再戦で彼を撃破することに成功している。
大魔砲の砲身となる極限鋼の精錬を成し遂げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
帝国内乱における功績により、男爵から伯爵へと陞爵した。
エリーゼ・カタリーナ・フォン・ホーエンハイム
ヴェンデリンの正妻である。
彼女は「聖女」と称される治癒魔法使いにあたる。
ホーエンハイム枢機卿の孫娘を指す。
・所属組織、地位や役職
バウマイスター伯爵家、正妻。教会、助司祭。
・物語内での具体的な行動や成果
戦場において多数の負傷者を治癒した。
魔族の闇魔法を聖魔法で解除してエルヴィンを救うことに成功している。
過治癒を施して魔族の動きを封じた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
夫であるヴェンデリンの補佐として、書類仕事から救護活動まで幅広くこなす。
イーナ・ズザネ・ヒレンブラント
ヴェンデリンの妻の一人である。
彼女は赤い髪が特徴の女性を指している。
槍術を得意とする。
・所属組織、地位や役職
バウマイスター伯爵家、妻。
・物語内での具体的な行動や成果
魔の森の探索や各戦場での戦闘に参加した。
遠距離からの槍の投擲で敵の魔法使いを狙撃することに成功している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
夫の魔力を受けて魔力量が中級にまで増加した。
ルイーゼ・ヨランデ・アウレリア・オーフェルヴェーク
ヴェンデリンの妻の一人である。
彼女は小柄な体格の女性にあたる。
魔闘流の使い手を指す。
・所属組織、地位や役職
バウマイスター伯爵家、妻。
・物語内での具体的な行動や成果
魔の森の探索や戦場での白兵戦に従事した。
投石や近接格闘により多数の敵兵を無力化することに成功している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ヴェンデリンとの関わりにより魔力量がブランタークと同等にまで増加した。
ヴィルマエトル・フォン・アスガハン
ヴェンデリンの妻の一人である。
彼女は「英雄症候群」と呼ばれる特殊な体質の持ち主を指している。
驚異的な怪力を誇る。
・所属組織、地位や役職
アスガハン準男爵家、三女。バウマイスター伯爵家、妻。
・物語内での具体的な行動や成果
エドガー軍務卿の養女としてヴェンデリンの護衛に派遣された。
大型の魔銃や大斧を操り、戦場で兵として活躍している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ヴェンデリンとの婚約を機に、彼の側室候補として深く結びついた。
カタリーナ・リンダ・フォン・ヴァイゲル
ヴェンデリンの妻の一人である。
彼女は没落貴族の令嬢にあたる。
風属性の高度な魔法を操る。
・所属組織、地位や役職
ヴァイゲル準男爵家、当主。バウマイスター伯爵家、妻。
・物語内での具体的な行動や成果
魔の森の探索を機にヴェンデリンたちと行動を共にした。
風魔法の『竜巻』を用いて敵軍の追撃を防ぐ役割を果たしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ヴェンデリンと婚姻し、ヴァイゲル準男爵家を再興させた。
エルヴィン・フォン・アルニム
ヴェンデリンの親友であり家臣である。
彼は剣術に優れた少年を指している。
ハルカの婚約者にあたる。
・所属組織、地位や役職
バウマイスター伯爵家、従士長。
・物語内での具体的な行動や成果
戦場で部隊を指揮した。
最終決戦において魔刀を手に、巨大ゴーレムを真っ二つに両断することに成功している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ハルカと婚約を交わし、将来的な結びつきを強めた。
アルフレッド・レインフォード
ヴェンデリンの魔法の師匠である。
彼はブライヒレーダー辺境伯家に仕えていた故人を指している。
・所属組織、地位や役職
元ブライヒレーダー辺境伯家お抱え魔法使い。
・物語内での具体的な行動や成果
ターラントの英霊召喚によって敵として現世に呼び出された。
ヴェンデリンたちと戦うことを余儀なくされている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
最期はヴェンデリンに討ち取られることで、呪縛から解放されて成仏した。
ヘルムート王国(王宮・貴族・その他)
クリムト・クリストフ・フォン・アームストロング(アームストロング導師)
王宮筆頭魔導師である。
彼は巨躯と驚異的な魔力を持つ魔法使いを指している。
国王の親友にあたる。
・所属組織、地位や役職
ヘルムート王国、王宮筆頭魔導師。
・物語内での具体的な行動や成果
戦場において投石や肉弾戦で多数の敵を撃破した。
傷ついた兵士たちを聖魔法で治療している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
一個軍団に匹敵する戦闘能力を持つ。
ブランターク・リングスタット
ブライヒレーダー辺境伯家のお抱え魔法使いである。
彼はヴェンデリンの魔法の指南役を務めている。
アルフレッドの師匠にあたる。
・所属組織、地位や役職
ブライヒレーダー辺境伯家、筆頭お抱え魔法使い。
・物語内での具体的な行動や成果
魔力探知に優れ、戦場で敵の魔法使いを素早く発見した。
状況に応じて味方へ適切な指示を送っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
長年の冒険者経験に基づき、ヴェンデリンたちの参謀役を務める。
フィリップ・フォン・ブロワ
元ブロワ辺境伯の割りを食う嫡男である。
彼は後籍者争いに敗れた身を指している。
・所属組織、地位や役職
王国軍組、指揮官。
・物語内での具体的な行動や成果
レーガー侯爵の独断侵攻に巻き込まれて壊滅した王国軍の残党を率いた。
ヴェンデリンたちと合流して戦列に加わっている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
敗戦後は捕虜となったが、釈放されてヴェンデリンのもとに集まった。
クリストフ・フォン・ブロワ
元ブロワ辺境伯の次男である。
彼はフィリップの弟にあたる。
・所属組織、地位や役職
王国軍組、指揮官。
・物語内での具体的な行動や成果
兄のフィリップと共に王国軍の残党を指揮して逃れてきた。
ヴェンデリンに詳細な地図を渡して支援している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
敗北後に釈放され、サーカットで残留軍の再編を進めた。
シュルツェ伯爵
ヘルムート王国の貴族である。
彼は親善訪問団の代表の一人を指している。
・所属組織、地位や役職
ヘルムート王国、親善訪問団代表。
・物語内での具体的な行動や成果
クーデターの発生時に一時軟禁された。
後に解放されてヴェンデリンたちと合流を果たしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
資金や物資が何もない状態でヴェンデリンから借金をして軍勢を維持した。
ユーファ(疾風のユーファ)
教会に所属する伝令の少女である。
彼女は『快速』の魔法のみを極めた魔法使いを指している。
・所属組織、地位や役職
カソリック教会、伝令。
・物語内での具体的な行動や成果
帝国の魔法妨害装置に影響されない快速魔法を使い、戦火の帝国を走り抜けた。
ヴェンデリンへ国王の残留密命を伝える役割を果たしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特異な移動能力を活かして長距離の情報伝達を成功させた。
ブライヒレーダー辺境伯
ヘルムート王国の南部を統括する大貴族である。
彼はヴェンデリンの実家の寄親にあたる。
・所属組織、地位や役職
ブライヒレーダー辺境伯家、当主。
・物語内での具体的な行動や成果
未開地の開発や内乱の処理において、ヴェンデリンを寄子とするため様々な支援を行った。
王都でのお見合い会を企画するなど、婚姻策を進めている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
後見人的な立場でバウマイスター伯爵家と密接に結びついている。
アニータ・フォン・ブライヒレーダー(ブライヒレーダー辺境伯の叔母)
ブライヒレーダー辺境伯の叔母にあたる。
彼女は独身を貫く四十歳以上の女性を指している。
・所属組織、地位や役職
ブライヒレーダー辺境伯家、一族。
・物語内での具体的な行動や成果
ブライヒレーダー辺境伯が企画した大お見合い会に参加した。
彼女は自分の好みを主張して会場に留まっている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
叔母としての強い存在感を持ち、周囲から少し苦手とされている。
王国軍組(親善訪問団、王国軍残党)
帝国に派遣された訪問団や敗残兵の集団である。
・所属組織、地位や役職
ヘルムート王国、諸部隊。
・物語内での具体的な行動や成果
レーガー侯爵の敗北により敵中に孤立した。
フィリップらの指揮下でヴェンデリンに合流している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
サーカットに集まり、ヴェンデリンに維持を委ねることとなった。
アーカート神聖帝国政府・ペーター派
ペーター・オスヴァルト・デリウス・フォン・アーカート
現皇帝の三男である。
彼は「平民皇子」と呼ばれる軽妙な皇子を指している。
・所属組織、地位や役職
アーカート神聖帝国、皇子。後に、帝国宰相。
・物語内での具体的な行動や成果
愚連隊を装いながら優秀な人材や実力者を水面下で囲い込んだ。
皇帝の死を察知して最速で無血クーデターを成功させている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
実権を掌握し、事実上の帝国の最高権力者へ就任した。
ヴェルナー・ギュンター・フォン・ポッペク
貧乏騎士爵家の当主である。
彼は元帝国軍のエリート軍人を指している。
・所属組織、地位や役職
帝国軍元将校。後に、ペーター軍参謀長。
・物語内での具体的な行動や成果
当初は反乱軍として登場したが、ヴェンデリンに降伏した後に有能な参謀となった。
サーカットの占領と開発に尽力している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ペーター派の重要幹部として軍の再編に貢献した。
ギルベルト・カイェタン・フォン・ボンホフ準男爵
『剛力将軍』の二つ名を持つ武官である。
彼はポッペクに推薦された有能な軍人を指している。
・所属組織、地位や役職
ペーター軍、司令官。
・物語内での具体的な行動や成果
ペーターが編成した軍の指揮を任され、厳しい訓練を主導した。
帝都防衛戦において全軍の突撃を指揮して勝利に貢献している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
大貴族出身ではないが、実力を評価されて最高司令官としての地位を確立した。
エメラ
ペーターに仕える魔法使いである。
彼女はライトグリーンの髪が特徴の女性を指している。
・所属組織、地位や役職
ペーター派、魔法使い。
・物語内での具体的な行動や成果
実戦訓練や帝都防衛戦において、その魔力を発揮した。
ペーターの護衛として常に彼の近くに控えている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
帝国の魔法使い不足により、若くして筆頭魔導師級の働きを求められる。
マルク
ペーターに仕える若い騎士である。
彼はオリハルコンの剣を装備する剣士を指している。
・所属組織、地位や役職
ペーターの護衛、騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
ペーターを守る盾として、常に彼の近くに控えて行動した。
抜群の剣術をもって周囲を圧倒している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
帝国において右に出る者がいないほどの高い剣技を誇る。
バイエルライン
帝国軍の留守部隊を率いる人物である。
彼はペーターに協力した軍人を指している。
・所属組織、地位や役職
帝都留守部隊、指揮官。
・物語内での具体的な行動や成果
ペーターの急行時に、自らの責任で帝都の門を開放した。
帝都内の治安維持や重要拠点の制圧を助けている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ペーター派の無血クーデターにおいて重要な役割を担った。
ハルトムート・カイザー・フォン・ランズベルク(ランズベルク伯爵)
爽やかな美男子の法衣貴族である。
彼は皇宮の事情に精通する人物を指している。
・所属組織、地位や役職
アーカート神聖帝国、法衣貴族。
・物語内での具体的な行動や成果
事前に皇宮内の警備を掌握し、ペーターに反抗する皇后らを部屋に閉じ込めた。
帝都防衛戦に備えて様々な根回しを行っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
独自の交渉能力を持ち、ペーターから厚い信頼を得ている。
ペンツェ(サーカットの代官)
サーカットの町を治める官僚である。
彼は町を栄えさせるために動く人物を指している。
・所属組織、地位や役職
サーカットの代官。
・物語内での具体的な行動や成果
ペーターに協力して町の治安や情報を管理した。
ヴェンデリンたちを利用して旧下町の整理や砦の拡張を行わせている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
代々サーカットの地を世襲している。
ガトラ(密偵・諜報部門責任者)
ペーターの腹心たる密偵である。
彼は新しい諜報部門の責任者を指している。
・所属組織、地位や役職
ペーター派、諜報部門責任者。
・物語内での具体的な行動や成果
皇帝の敗戦や死亡、さらには皇后たちのペーター排除計画の証拠をいち早く掴んだ。
ペーターの迅速な意思決定を裏から支えている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
旧トップであったアーレー侯爵の後任として、帝国の情報網を再編した。
男爵様
帝都スラム街のボスである。
彼は優秀な治癒魔法使いとしての顔を併せ持つ。
・所属組織、地位や役職
スラム街の主。後に、ペーターにより男爵に封じられる。
・物語内での具体的な行動や成果
スラム街で治療院を営み、住民からの信頼を集めた。
ペーターから資金や物資の支援を受け、城壁の修復を請け負っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
解放された領域を領地として与えられ、正式な貴族(男爵)へと就任した。
ランドルフ
男爵様を守る自警団の指揮官である。
彼はラン族の初老の男性を指している。
・所属組織、地位や役職
スラム自警団、指揮官。ラン族の元重臣。
・物語内での具体的な行動や成果
スラムの住民を厳しい訓練により優秀な戦力に育て上げた。
城壁防衛においてニュルンベルク軍の攻撃を防ぎ止めている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
かつてテレーゼらに追放されたが、ペーターに認められて新天地での再起を約束された。
マイヤー(マイヤー商会当主)
帝国の有力な商人である。
彼はペーターを支援する大商人を指している。
・所属組織、地位や役職
マイヤー商会、当主。
・物語内での具体的な行動や成果
ペーターの議会召集時に率先して彼の宰相就任に賛同を表明した。
ペーターの資金繰りを支える役割を担っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ペーターと深く結びつき、帝都の商業活動を再編する影響力を持つ。
再編帝国軍(帝国留守部隊)
ペーターのクーデターによって再編された軍勢を指す。
・所属組織、地位や役職
アーカート神聖帝国軍。
・物語内での具体的な行動や成果
バイエルラインらの手によって掌握された。
そのままペーターの防衛計画に組み込まれている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
無能な将校が一掃され、ギルベルト指揮の下で戦闘力を高めた。
スラム自警団
ランドルフが率いるスラムの住民による武装組織を指す。
・所属組織、地位や役職
帝都スラム自警団。
・物語内での具体的な行動や成果
城壁の老朽化した南側や西側の防御を担当した。
高い練度で敵の攻撃を何度も撃退している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
男爵様への恩義によって結束しており、兵として高い士気を維持している。
門番(守将)
帝都の門を守る人員を指す。
・所属組織、地位や役職
帝都警備兵。
・物語内での具体的な行動や成果
ペーターたちの急行時に夜間開門を拒んだ。
バイエルラインの説得によって開門に応じている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
アーカート神聖帝国・旧皇帝派
アーカート十七世(帝国皇帝)
アーカート神聖帝国の皇帝である。
彼はペーターの父親にあたる。
・所属組織、地位や役職
アーカート神聖帝国、皇帝。
・物語内での具体的な行動や成果
自ら五十万人の大軍を率いてニュルンベルク公爵討伐に赴いた。
しかし、敵の罠により敗退し、最終的に斬首されている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
戦死した。
皇后(ペーターの義母)
現皇帝の正妻である。
彼女は家柄のみを誇り、ペーターを「下賤の者」と蔑む人物を指している。
・所属組織、地位や役職
アーカート神聖帝国、皇后。
・物語内での具体的な行動や成果
ペーターの無血クーデターにより皇宮に軟禁された。
その後、ペーターの暗殺を画策して失敗している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
暗殺計画の露見により、最終的に病死を装って処分された。
アーレー侯爵(諜報部門トップ、皇后の兄)
皇后の兄である。
彼は諜報部門の最高責任者を指している。
・所属組織、地位や役職
アーカート神聖帝国、侯爵。諜報部門トップ。
・物語内での具体的な行動や成果
妹である皇后の権勢により地位を保っていたが、実務能力が皆無であった。
戦況の把握を怠り、後に職を辞している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ペーターの暗殺未遂への関与により、皇后らと共に処分された。
アレクサンダー(皇子、ペーターの兄)
現皇帝の長男である。
彼はペーターの義理の兄にあたる。
・所属組織、地位や役職
アーカート神聖帝国、第一皇子。
・物語内での具体的な行動や成果
父である皇帝と共にニュルンベルク公爵討伐に出陣した。
しかし、戦場で討ち死にしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
戦死した。
ユリアン(皇子、ペーターの兄)
現皇帝の次男である。
彼はアレクサンダーの弟にあたる。
・所属組織、地位や役職
アーカート神聖帝国、第二皇子。
・物語内での具体的な行動や成果
兄と同様に討伐軍へ加わった。
敗戦の中で死亡している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
戦死した。
アーカート十一世(昔の皇帝)
アーカート神聖帝国の中興の祖とされる昔の皇帝である。
・所属組織、地位や役職
元アーカート神聖帝国、皇帝。
・物語内での具体的な行動や成果
本巻では彼が愛用したという古い服や古い兜がヴェンデリンたちへの「褒美」として登場した。
実質的な価値はないが、歴史的な名誉として受け渡されている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
アーカート三世(昔の皇帝)
昔の皇帝である。
・所属組織、地位や役職
元アーカート神聖帝国、皇帝。
・物語内での具体的な行動や成果
本巻においては直接登場せず、その名前のみが歴史上の人物として言及された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
ウィルヘルム十四世(前皇帝)
ペーターらの前の皇帝である。
彼は選帝侯から選ばれて即位した人物を指している。
・所属組織、地位や役職
元アーカート神聖帝国、皇帝。
・物語内での具体的な行動や成果
病死したとされるが、後にニュルンベルク公爵による暗殺の可能性が指摘された。
彼が亡くなったことにより、新たな皇帝選挙が実施されている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
指名されたウィルヘルム十四世の崩御に伴い、国全体が後継者争いに突入した。
諜報部(賊)
アーレー侯爵が率いていた諜報部員たちを指す。
・所属組織、地位や役職
アーカート神聖帝国、諜報部。
・物語内での具体的な行動や成果
皇后らの指示でペーターやヴェンデリンの暗殺を試みた。
ヴィルマらに撃退されてその場で捕縛されている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
アーカート神聖帝国・フィリップ公爵家(解放軍・北部諸侯)
テレーゼ・ジークリット・フォン・フィリップ
フィリップ公爵家の女性当主である。
彼女は「解放軍」の総大将を務めていた人物を指している。
・所属組織、地位や役職
フィリップ公爵家、当主。解放軍、総大将。
・物語内での具体的な行動や成果
北方諸侯やミズホ伯国をまとめてニュルンベルク公爵への抵抗運動を率いた。
ヴェンデリンを誘惑する行動を繰り返している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
兄二人の暴走による責任を取り、公爵位をアルフォンスに譲って隠居した。
アルフォンス・フォン・フィリップ
テレーゼの従兄である。
彼はテレーゼの幼馴染でもある人物を指している。
・所属組織、地位や役職
フィリップ公爵家、先遣隊大将。後に、フィリップ公爵家当主。
・物語内での具体的な行動や成果
ソビット大荒地における野戦陣地の防衛を指揮した。
テレーゼを陰で支えながら、迅速な意思決定を助けている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
テレーゼの隠居に伴い、新しいフィリップ公爵として当主の座を継承した。
アンスガー・ヘルガー・フォン・バーデン公爵公子
バーデン公爵家の当主(公子)である。
彼はテレーゼに対してライバル心を燃やす人物を指している。
・所属組織、地位や役職
バーデン公爵家、公子(選帝侯家)。
・物語内での具体的な行動や成果
焦りから勝手な攻勢に出て、商業都市ハーバット周辺の砦で敵に包囲された。
ペーターを支持するリストをヴェンデリンたちに提供している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ペーターが皇帝に即位した後に、正式に選帝侯としてバーデン公爵を襲爵することが決定した。
レーメー伯爵
解放軍の左軍を率いた指揮官である。
彼は元帝国軍の優秀な将軍を指している。
・所属組織、地位や役職
解放軍、左軍総大将。元帝国軍将軍。
・物語内での具体的な行動や成果
会戦において一軍を指揮した。
ニュルンベルク公爵の精鋭部隊の突撃を受け、討ち死にしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
戦死した。
エッボ
テレーゼに仕える家臣である。
彼はテレーゼを強く支持する人物を指している。
・所属組織、地位や役職
フィリップ公爵家、家臣。
・物語内での具体的な行動や成果
逃走する馬車の御手を務めた。
ヴェンデリンに対して反抗的な態度をとったが、テレーゼに窘められている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
フィリップ公爵家諸侯軍(解放軍、北部諸侯軍)
テレーゼが率いる公爵領の軍勢を指す。
・所属組織、地位や役職
解放軍、主力。
・物語内での具体的な行動や成果
ソビット大荒地やシーナ平原において、反乱軍の攻撃を防ぎ止めた。
多大な損害を被りながらも、防衛線を維持している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
北方諸侯
帝国北部に領地を持つ貴族たちの集団である。
・所属組織、地位や役職
解放軍、構成諸侯。
・物語内での具体的な行動や成果
テレーゼの呼びかけに応じて兵を出した。
共同で反乱軍に対抗する役割を担っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
アーカート神聖帝国・ニュルンベルク公爵派(反乱軍)
マックス・エアハルト・アルミン・フォン・ニュルンベルク
ニュルンベルク公爵である。
彼は帝国内乱を引き起こした首謀者を指している。
・所属組織、地位や役職
ニュルンベルク公爵、反乱軍首謀者。
・物語内での具体的な行動や成果
クーデターにより帝都を掌握した。
その後、討伐軍を壊滅させ皇帝を討ち取っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「大人型カラクリ魔人君」を操って戦ったが、ヴェンデリンたちに敗北し、致命傷を負って死亡した。
ターラント
ニュルンベルク公爵の腹心である。
彼は存在感が極端に薄い特異な魔法使いを指している。
・所属組織、地位や役職
ニュルンベルク公爵派、側使。魔法使い。
・物語内での具体的な行動や成果
聖魔法『英霊召喚』を用いて、アルフレッドや初代アームストロング伯爵を呼び出した。
戦場においてヴェンデリンたちを窮地に追い詰めている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
シーナ平原の会戦において、ヴェンデリンに討ち取られて死亡した。
ザウケン(名将ザウケン)
ニュルンベルク公爵の腹心である。
彼は歴戦の名将を指している。
・所属組織、地位や役職
ニュルンベルク公爵家、家臣。将軍。
・物語内での具体的な行動や成果
会戦後の敗走において、自らが殿となり、ニュルンベルク公爵を逃がすために踏みとどまった。
最期はヴェンデリンのウィンドカッターにより首を刎ねられて戦死している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
戦地での討ち死にによりその生涯を終えた。
ニュルンベルク公爵家諸侯軍
ニュルンベルク公爵が率いる精鋭の私兵集団である。
・所属組織、地位や役職
反乱軍、主力。
・物語内での具体的な行動や成果
高い練度と規律を誇り、解放軍に対して圧倒的な強さを見せた。
帝都防衛戦においてギルベルトらの反撃を受けて大打撃を被っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
反乱軍(先鋒部隊、護衛魔法使い部隊)
ニュルンベルク公爵に加担する軍勢の総称である。
・所属組織、地位や役職
ニュルンベルク公爵派、軍勢。
・物語内での具体的な行動や成果
自爆ゴーレムや竜ゴーレムを用いて帝都再攻略を試みた。
ペーター軍らに撃退されて多くの部隊が投降している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
ミズホ伯国
トヨムネ・ミズホ(ミズホ上級伯爵)
ミズホ伯国を統治する上級伯爵である。
彼は黒髪と黒目の民族の指導者を指している。
・所属組織、地位や役職
ミズホ伯国、当主。
・物語内での具体的な行動や成果
テレーゼの参戦要請に応じ、自ら一万の軍勢を率いてソビット大荒地に出兵した。
ヴェンデリンたちを温泉宿で手厚くもてなしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ペーターの資質を認め、水面下で彼を支援する密約を交わした。
ハルカ・フジバヤシ
抜刀隊に所属する女剣士である。
彼女はエルの婚約者となった人物を指している。
・所属組織、地位や役職
ミズホ伯国軍、抜刀隊。
・物語内での具体的な行動や成果
ヴェンデリンたちの護衛や連絡役を務めた。
お見合い会の件をきっかけに、エルヴィンと婚約している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
魔の森や地下要塞の戦闘にも同行し、ヴェンデリンの一門を支える。
タケオミ・フジバヤシ
ハルカの兄である。
彼は妹を溺愛するシスコンの剣士を指している。
・所属組織、地位や役職
ミズホ伯国軍、抜刀隊。
・物語内での具体的な行動や成果
ハルカに近づくエルヴィンに反対し、ヴェンデリンと決闘した。
敗北後に二人の婚約を認める対応を見せている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ヴェンデリンから「オリハルコン刀」を貸与された。
八十七代目カネサダ
ミズホ家のお抱え鍛冶師である。
・所属組織、地位や役職
ミズホ伯国、お抱え鍛冶師。
・物語内での具体的な行動や成果
ヴェンデリンが提供したオリハルコンを用いた。
エルとハルカのために最高級の魔刀を鍛え上げている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
壊れた兜の修復などもこなす高い技術力を持つ。
ムネカズ・タチバナ・ミズホ
ミズホ伯国の一族の重臣である。
・所属組織、地位や役職
ミズホ駐留軍、指揮官。
・物語内での具体的な行動や成果
帝都周辺での治安維持任務において、ミズホ軍の指揮を執った。
部隊の統率を維持して任務を全うしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
ミズホ伯国軍(ミズホ駐留軍、精鋭)
ミズホ伯国の軍勢を指す。
・所属組織、地位や役職
ミズホ伯国、軍勢。
・物語内での具体的な行動や成果
抜刀隊の白兵戦や魔銃隊の射撃により、反乱軍の部隊に大きな被害を与えた。
夜襲や防衛戦において目覚ましい成果を挙げている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
魔族
魔族(考古学者、ちょび髭の中年紳士)
考古学者を名乗る謎の存在である。
彼は耳の長い中年紳士の姿をしている。
・所属組織、地位や役職
謎の魔族。考古学者。
・物語内での具体的な行動や成果
ニュルンベルク公爵に協力し、地下遺跡から発掘された古代兵器や各種装置の維持・調整を手伝った。
圧倒的な魔力と闇魔法を用いてヴェンデリンたちを追い詰めている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
展開まとめ
第一話 南進開始、軽い神輿に人は集まる
アルフレッド対策の特訓
ヴェンデリン、ブランターク、導師は、アルフレッドとの再戦に備えて実戦的な魔法訓練を続けていた。三人は前回、魔力量では上回りながらアルフレッドの技量に翻弄されたため、魔法障壁を貫く攻撃への対処や、逆に一点だけを突破する効率的な攻撃を重点的に練習した。
ブランタークは、アルフレッドが前回三人を仕留められなかったこと自体が失敗であり、その経験から対策を立てられると考えた。また、アルフレッドがターラントの体を借り、ニュルンベルク公爵の命令に従わなければならない点も弱点になり得ると見ていた。
ターラントの口寄せ
朝食の席でエリーゼは、ターラントの英霊召喚が聖魔法に属し、死者の言葉を伝える口寄せが高度に発展したものではないかと説明した。教会には稀に本物の口寄せを使える者がいたが、生者が死者に頼ることを好まないため積極的には扱われていなかった。
さらに、ターラントはヴィルマの英雄症候群と同じように、常時無意識に気配を薄くする魔法が働いている可能性が考えられた。その存在の薄さが死者を自分の体へ降ろす能力と相性がよく、英霊召喚につながったのではないかと推測された。
テレーゼへの警戒
ターラントの能力が暗殺にも向くと考えた一行は、前皇帝ウィルヘルム十四世の死についても疑念を抱いた。証拠はなかったものの、ヴェンデリンは念のためテレーゼに警戒を強めるよう伝えた。
テレーゼは忠告を受け入れたものの、ヴェンデリンが自分を心配していると喜び、再び迫ろうとした。そこへルイーゼが割って入り、テレーゼの接近を阻止した。
ニュルンベルク公爵の反省
一方、ニュルンベルク公爵は前回の戦いを敗北と認識していた。ターラントがヴェンデリンたちを圧倒した一方、反乱軍は野戦陣地を突破できず、兵糧と中級魔法使いたちを失って撤退を余儀なくされたためである。
英霊召喚されたアルフレッドは、ヴェンデリンが戦場で補給を狙う判断をしたことを師匠として喜んだ。また、自分は死者なので成長できないが、死線を経験したヴェンデリンたちは次の戦いまでに強くなるため、再戦で勝てる保証はないとニュルンベルク公爵に忠告した。
解放軍の前進
最初の決戦では反乱軍の損害担当部隊に大きな被害を与えたものの、ニュルンベルク公爵直属の精鋭はほぼ無傷で残った。さらに多数の捕虜を抱えたため、テレーゼは食料や管理にも苦労することになった。
それでも帝国の疲弊を止め、政権の正当性を示すため、テレーゼは重要軍事都市アルハンスへの進撃を決定した。前回ヴェンデリンが補給拠点を焼いたことで反乱軍は大軍をすぐには動かせず、その隙に勢力圏を南へ広げる狙いであった。
エルの部隊指揮
ヴェンデリンたちは六万規模の先遣軍と共に南下した。王国軍残党約千五百名は遊軍として別行動となり、エルはそのうち五百名を率いる中隊長を任された。ハルカが副官として支え、フィリップの下で実戦的な指揮経験を積んでいった。
フィリップとクリストフは、敵による補給路遮断も想定して複数の退路を準備し、大量の物資をヴェンデリンに預けていた。進軍先では反乱軍によって食料が安値で買い上げられており、解放軍の補給を妨害する焦土戦術に近い状況も生じていた。
ポッペクの降伏
進軍途中、下級貴族ポッペクが率いる小部隊が奇襲を仕掛けた。事前に察知していたヴェンデリンたちは包囲し、ヴェンデリンが微弱なエリアスタンで潜伏位置を暴くと、ポッペクは抵抗せず降伏した。
ポッペクは反乱軍に従わざるを得なかった小領主であり、領地が解放軍の勢力圏に入るなら協力すると申し出た。道案内役として加わった彼は近隣領主にも顔が広く、その後多くの貴族や代官が合流し、ヴェンデリンたちの軍勢は約四千人まで増加した。
老兵たちの集結
合流した兵士の多くは老人であった。食料が不足する中、若者を農作業に残し、従軍経験を持つ老人たちが兵役を引き受けていたためである。
老兵たちは年齢こそ高かったが、行軍や野営に慣れ、実戦経験も豊富であった。元帝国軍のエリートだったポッペクも彼らの中心となり、最後に戦功を挙げようと積極的に動いた。
サーカット攻略案
アルハンス東方まで進んだところで、ポッペクは南方の商業都市サーカットを攻略する案を出した。町にはかつて重要だった大型砦が残されていたが、軍施設の統廃合後は商人たちの倉庫として利用されていた。
偵察すると反乱軍の駐留兵は約百名しかおらず、主力は後退していた。ポッペクはサーカットを確保して砦を修復すれば、アルハンスと並んで帝都へ圧力をかけられると主張し、ヴェンデリンたちは攻略を決めた。
無血のサーカット占領
ポッペクは老兵たちを使って駐留兵を挑発し、町の外へ誘い出した。老人を侮った反乱軍兵士たちは追撃して岩場へ入り、待ち伏せていたヴェンデリンたちに包囲された。
カタリーナが巨大な岩をウィンドカッターで斬り裂いて力を示すと、駐留兵は戦わずに降伏した。こうしてサーカットと砦は犠牲を出さずに解放軍の支配下へ入った。
サーカットの防衛整備
ヴェンデリンは町に軍政を敷かず、行政と治安維持を従来の代官ペンツェたちに任せた。一方、商人から余剰食料を相場で購入し、反乱軍への情報提供や密偵の匿いは禁止した。
砦では老兵たちが修繕や捕虜管理を担い、ヴェンデリンとカタリーナは魔法で石材を集めて防御力を高めた。老兵たちは経験を生かして予想以上に働き、砦の整備は順調に進んだ。
北方街道の建設
南部との交易が途絶えたため、ペンツェは北方との交易路を改善してほしいとヴェンデリンに依頼した。町の北には湿地帯が広がっていたため、ヴェンデリンとカタリーナは河川の治水と護岸を行い、湿地を魔法で乾燥させて直線的な石畳の街道を完成させた。
ペンツェはその工事を利用して排水溝を整備し、乾いた土地では雑穀栽培や住宅地開発まで始めた。北方との交通が改善すると交易も活発化し、周辺領主から解放軍への参加者も増えた。
西方街道と町の拡張
続いてペンツェは、アルハンス方面へ向かう西側の街道整備も求めた。ヴェンデリンとカタリーナは丘陵と岩山を削って地面を平らにし、出た土砂や石材を堤防や建築資材として利用した。
街道が短縮されると町の西側には新たな平地が生まれ、ペンツェは住宅建設を開始した。さらに義勇兵も集まり、サーカットの防衛戦力は増加した。
サーカットの発展
ヴェンデリンたちは東側の岩場も整地し、街道や堤防を整備した。反乱軍が一ヵ月以上攻めてこなかったため工事は進み、サーカットでは交易や住宅建設が活発になった。
アルハンスではテレーゼたちが反乱軍約二万を包囲しており、ニュルンベルク公爵の別働隊への対応に追われていた。その間、ヴェンデリンにはサーカットの強化を続けるよう命令が届いた。
アルハンスの降伏
サーカットの軍勢は周辺からの参加者を加えて約六千人に増加し、砦や船着き場の整備も進んだ。ヴェンデリンはペンツェに次々と工事を頼まれながら、結果的に町の防衛力と経済基盤を大きく改善した。
やがてアルハンスの反乱軍が降伏し、アルハンスとサーカットを結ぶ一帯が解放軍の勢力圏となった。アルハンスから来た商人たちは、短期間で街道と町が大きく整備された姿に驚き、ヴェンデリンはペンツェの人使いの荒さが原因だと答えた。
第二話 連日の大会戦、そして師匠との決着
アルハンスでの合流
サーカットの拠点化を終えたヴェンデリンたちは、解放軍が占領したアルハンスへ呼び戻された。アルハンスは補給を断った包囲戦と降伏交渉によって大きな損害を受けずに確保されており、帝都を窺う重要拠点となっていた。
アルフォンスはサーカットと砦を確保し、街道まで整備したヴェンデリンたちの働きを高く評価した。忘れられていた旧砦がアルハンスと結ばれたことで、反乱軍へ圧力をかける新たな戦線が生まれていた。
大量の書類仕事
テレーゼは占領後の統治や捕虜管理による大量の書類に追われていた。ブランタークも処理を手伝っていた一方、導師は護衛を務めながら書類仕事を避けて隣室に待機していた。
ヴェンデリンたちも作業を手伝うことになり、エリーゼとイーナは高い事務能力を発揮した。ヴィルマは遅いながら正確で、カタリーナのミスを補い、ルイーゼは大量の書類に苦戦した。エルもハルカに励まされながら作業を進めた。
大福と今後の作戦
書類整理を終えると、ハルカが作った大福を囲みながら今後の方針が話し合われた。ヴェンデリンの提案で作られたイチゴ大福も好評となり、皆がその味を気に入った。
テレーゼは解放軍を再編し、帝都方面へ進撃すると説明した。ニュルンベルク公爵も野戦で決着を狙っており、帝都手前の平地で大規模会戦になる可能性が高かった。双方とも長期化による帝国の疲弊を避ける必要があった。
アルフレッドとの再戦
ヴェンデリンは、ターラントが再びアルフレッドを英霊召喚すると考え、自分とブランターク、導師の三人で決着をつけると決めた。王国軍の指揮はフィリップとクリストフに任せ、他の戦況には関与せずアルフレッドの撃破に集中する方針であった。
テレーゼは単独行動を認めたが、ヴェンデリンは死者まで利用するニュルンベルク公爵を非難する彼女に、為政者としての非情さが足りないのではないかという疑念も抱いた。
シーナ平原の会戦
二日後、解放軍十五万人と反乱軍約九万人が帝国最大の穀倉地帯シーナ平原で対峙した。収穫前の麦畑を戦場に選んだニュルンベルク公爵に、テレーゼは激怒した。
ニュルンベルク公爵はターラントを通じてアルフレッドを召喚し、ヴェンデリンたちへの対処を命じた。アルフレッドは前回の敗北からヴェンデリンたちが成長しているため勝利を保証できないと警告したが、ターラントの命令には従って前線へ向かった。
師弟の再対決
戦闘開始後、ターラントはヴェンデリン、ブランターク、導師の前に現れ、アルフレッドを召喚した。さらに二体の木偶を出し、ブランタークと導師を分断してヴェンデリンとの一対一に持ち込んだ。
しかし三人は前回の敗北を踏まえて対策を立てていた。ブランタークと導師は、木偶への攻撃をわざと反乱軍側へ流し、ターラントの命令によって木偶に味方を守らせた。その結果、木偶は余分に魔力を消耗し、前回ほど自由に戦えなくなった。
魔力量による猛攻
ヴェンデリンは技巧でアルフレッドに勝とうとせず、自分の最大の長所である魔力量を生かした。後方の反乱軍まで巻き込むように大量の火球を放ち続けることで、アルフレッドに回避ではなく防御を強制し、魔力を削った。
アルフレッドはキャンセラーを使って移動魔法の阻害を一時的に無効化し、瞬間的に接近してヴェンデリンの脇腹を傷つけた。それでもヴェンデリンは治癒しながら攻撃を止めず、魔力補充用の巨大魔晶石を使わせないよう追い込み続けた。
英霊召喚の限界
戦いの中で、アルフレッドはターラントの魔力が減るほど英霊への支配が弱まることを見抜いていた。強力な死者ほど完全には操れず、大元の命令には従わされても細かな行動には逆らえる状態になっていた。
アルフレッドは撤退を命じるターラントに逆らい、ヴェンデリンとの決着を選んだ。前回と同じ戦術を使ったのも、ヴェンデリンたちに勝機を与える意図があったと明かした。
ヴェンデリンとアルフレッドの決着
両者は残った魔力を魔法剣に注ぎ、最後の一撃に賭けた。ヴェンデリンは技術ではなく速度と気力で正面から突進し、アルフレッドの攻撃で左肩を傷つけながらも、自らの魔法剣でその心臓を貫いた。
ターラントが致命傷を負ったことで英霊召喚は崩れ始めた。導師とブランタークも停止した木偶を破壊し、ヴェンデリンたちの周囲へ迫る反乱軍はカタリーナや王国軍、ミズホ伯国軍によって押し返された。
アルフレッドとの別れ
消滅を待つアルフレッドは、成長したヴェンデリンを見られたことを喜び、ブランタークと導師にも感謝した。導師が取り出したワインを三人で回し飲みし、アルフレッドは最後まで冗談を交わした。
やがて姿が透明になり、アルフレッドは数十年後には自分がヴェンデリンから魔法を習うかもしれないと言い残して消えた。あとにはターラントの死体だけが残り、ヴェンデリンは師匠を再び利用したニュルンベルク公爵への怒りを強めた。
反乱軍左軍への集中攻撃
ターラントを失ったニュルンベルク公爵は即座に戦術を変更した。全軍を再編し、解放軍左軍を率いるレーメー伯爵へ戦力を集中させた。
ミズホ伯国軍が側面攻撃を試みたが、反乱軍は魔銃対策の大型盾と魔刀対策の魔剣部隊を準備していた。攻撃を食い止めている間にニュルンベルク公爵軍は左軍を突破し、レーメー伯爵を討ち取った。
ニュルンベルク公爵への狙撃
ヴェンデリンはターラントから奪ったキャンセラーと巨大魔晶石を使い、飛翔で上空へ移動してニュルンベルク公爵だけを狙った高威力の無属性魔法を放った。
攻撃は周囲の将兵や護衛魔法使いを次々と倒したが、複数の魔法使いが展開した魔法障壁によってニュルンベルク公爵本人は守られた。代わりにニュルンベルク公爵家の大旗が破壊され、キャンセラーも使用限界を迎えて砕けた。
両軍の離脱
ニュルンベルク公爵はレーメー伯爵を討った時点で深追いせず、軍を整然と撤退させた。解放軍も左軍が崩壊して再編が必要となり、ミズホ伯国軍も反乱軍の対策を突破できなかったため追撃できなかった。
こうしてシーナ平原での大規模会戦は、ターラントとレーメー伯爵という双方の重要人物を失いながらも決着には至らず、両軍に大きな痛手を残す形で終了した。
第三話 ダークホース現る!
帝都放棄と皇帝の復権
ニュルンベルク公爵との会戦は双方に大きな損害を残したまま終わり、解放軍が再編して進撃すると、ニュルンベルク公爵が帝都を放棄したことが判明した。テレーゼが帝都へ入ると、軟禁されていた皇帝アーカート十七世が復権しており、独断で軍を率いたテレーゼの行動を不問にすると告げた。
他の選帝侯たちが殺される一方で皇家だけが生かされていたため、ニュルンベルク公爵との裏取引を疑う余地も生まれた。さらに皇帝は捕らえられた末に敵から解放されたことで権威を失い、テレーゼとの対立も避けられなくなった。アルフォンスは皇帝を退位させるよう進言したが、テレーゼは決断できず、フィリップ公爵家の軍勢は領地へ戻ることになった。
空になった帝都
ニュルンベルク公爵は撤退前に帝都の資産や食料など大量の物資を領地へ運び出していたため、帝国政府は深刻な資金難に陥った。皇帝は収穫後に自らニュルンベルク公爵討伐軍を率いるつもりであり、テレーゼが再び功績を挙げることを嫌って彼女を遠ざけた。
ヴェンデリンたちも皇帝に呼ばれたが、これまでの働きへの褒美として渡されたのは、かつてアーカート十一世が愛用しただけの古い服であった。国庫に余裕がなく、実質的な報酬は期待できなかった。
サーカットへの留め置き
親善訪問団や捕虜となっていた王国軍兵士も解放され、五千人を超える王国人がサーカットへ集まった。しかし移動と通信を妨害する装置は依然として稼働しており、大人数で王国へ帰還する手段はなかった。
そこへユーファが再び現れ、ヘルムート王から帝国に残って情報を集め、王国の利益になるよう行動せよという命令を伝えた。皇帝からもテレーゼとの結託を警戒されており、ヴェンデリンたちは事実上サーカットから動きにくい状態となったうえ、帰還まで五千人以上の王国人を養う負担まで背負った。
王国軍の訓練と休戦
ヴェンデリンたちは食料確保と訓練を兼ね、近隣の魔物の領域で狩猟を始めた。フィリップたちは小隊を分散させて魔物を狩る方法をエルに教え、エルは軍勢を動かす経験を積んだ。
一方、ヴェンデリンが直接戦うと訓練にならないため、本人は総大将として見守るだけであった。ニュルンベルク公爵は領地へ退き、皇帝も秋の討伐に向けて準備を進めていたため、帝国は自然と休戦状態に入った。
平民皇子ペーター
やがて皇帝の三男ペーターを団長とする視察団がサーカットへ派遣された。ペーターは平民出身の母を持ち、帝都で平民や下級貴族の子弟と行動していたため、皇家では平民皇子や恥さらしと呼ばれていた。
彼の護衛には剣士マルクと魔法使いエメラがおり、二人はヴェンデリンたちの力量を確かめるように殺気と魔力を放った。ヴェンデリンたちは警戒したが、ペーターはすぐに挑発を止めさせ、自分をペーターと呼ぶよう求めた。
皇帝敗北の予測
ペーターは視察の目的がヴェンデリンたちの監視ではないと明かし、父である皇帝と兄たちはニュルンベルク公爵に敗れるだろうと言い切った。皇帝はヴェンデリンとテレーゼの結託を恐れて両者を遠ざけ、自ら軍を率いた経験もないまま討伐を進めようとしており、ペーター自身も兄たちを目立たせるため参戦を禁じられていた。
さらにペーターは、皇帝たちが敗れれば帝都の統治者が一時的に不在になるため、その機会に帝都を押さえて次の皇帝になるつもりだと明かした。代官ペンツェも皇帝が忠告を聞かず軍備ばかりに資金を注ぎ込んでいることに見切りをつけ、密かにペーターへ協力していた。
第三の皇帝候補
ペーターは、自分が皇帝になればヘルムート王国との融和を重視し、疲弊した帝国の再建を優先すると語った。ヴェンデリンも、帝国領を得るより未開地開発を優先する王国にとって都合の悪い方針ではないと考えた。
また、テレーゼが復権した皇帝を排除できなかったことに対し、ヴェンデリンは彼女の潔さや育ちのよさが内乱下では弱点になると感じた。一方のペーターは状況に応じて生き残る道を探し続け、機会があれば皇位まで狙う図々しさとしぶとさを持っていたため、ヴェンデリンはテレーゼという選択肢を残しつつ、第三の候補としてペーターにも協力することにした。
ミズホ上級伯爵との密談
ペーターはサーカット駐留のミズホ伯国軍との関係構築を望み、ヴェンデリンと共に密かにミズホ上級伯爵と会談した。ミズホ上級伯爵はテレーゼとの関係を切らないことを条件に、可能な範囲でペーターへ協力することを受け入れた。
ペーターは父から警戒されないよう、これまで意図的に軽薄な皇子を演じており、サーカットで軍勢を持つ許可も監視強化を口実に得るつもりであった。ミズホ上級伯爵もニュルンベルク公爵と現皇帝の双方に不安を抱いており、皇帝から与えられた褒美が古い兜だけだったこともあってペーターを気に入った。
こうしてペーターは、秋に予定されるニュルンベルク公爵討伐までに勢力を整え、次代の皇帝を狙うためサーカットを新たな活動拠点とした。
第四話 討伐軍、出陣す
討伐軍出陣の秋
ペーターがサーカットに来て数ヵ月が経ち、秋の収穫と徴税を終えた皇帝は、ニュルンベルク公爵討伐のため後方支援を含む五十万人規模の大軍を動かし始めた。皇帝や皇子たちは圧倒的な兵力に自信を持っていたが、ペーターは軍事経験のない父や兄たちがニュルンベルク公爵に勝てるとは考えていなかった。
その間、ペーターは皇帝からヴェンデリンたちを監視する名目で軍勢を持つ許可を得て、五千人を超える部隊を編成していた。参謀長には元帝国軍人のポッペクを迎え、剛力将軍と呼ばれたボンホフ準男爵ギルベルトも加わった。王国軍やミズホ駐留軍との共同作戦では魔物の領域を解放し、ペーター軍も実戦経験と名声を得ていた。
帝都郊外の待機命令
皇帝はペーター軍、王国軍、ミズホ駐留軍を帝都内部には入れず、郊外で治安維持と有事への備えを命じた。ペーターは皇帝がヴェンデリンやミズホ勢力を警戒しているためだと見ており、自分たちは討伐軍には加わらず帝都近郊に留まった。
皇帝が豪華な輿に乗って出陣すると、帝都の民衆は勝利を確信したように送り出した。一方、ヴェンデリンたちは農村での治療や犯罪者の摘発、部隊訓練や軍務を続け、ペーターは皇帝の敗北後を見据えて帝国内で密かに協力者を増やしていった。
ペーターの協力者
ペーターは、皇帝の作戦に反対したことで後方勤務へ回された有能な帝国軍人たちと接触していた。ポッペクやギルベルトの人脈を利用し、ニュルンベルク公爵にも皇帝にも従いたくない者たちを自陣営へ引き寄せていたのである。
さらに帝都西部のスラムを束ねる男爵様も配下に加えていた。男爵様は治癒魔法使いとして住民の信頼を得ており、元フィリップ公爵家重臣のラン族ランドルフが率いる自警団も抱えていた。ペーターは領地を与える約束とヴェンデリンから借りた資金や物資で彼らを支援し、帝都西側の城壁修復まで進めていた。
莫大な借金
ペーターの軍備やスラム支援に必要な資金は、ほとんどヴェンデリンが貸していた。ペーターは皇帝には、ヴェンデリンを言いくるめて借金を重ねさせ、その財力を削っていると報告して警戒を解いていた。
借金は一億セントを超えていたが、ペーターは踏み倒すつもりはなかった。皇帝になっても外国の一伯爵への借金を返せなければ権威を失うため、あくまで自分個人の債務として必ず返済する考えであった。
討伐軍壊滅の報
討伐軍出陣から二十日後、密偵ガトラが皇帝の敗北と戦死を知らせた。ニュルンベルク公爵は味方する貴族たちまで領地から退かせ、本拠地付近まで全軍を後退させていた。討伐軍は無抵抗の領地を次々と進み、敵が逃げ続けていると油断して本拠地へ踏み込んだ。
皇帝は圧倒的な兵力差を頼みに全軍突撃を命じたが、ニュルンベルク公爵は古代魔法文明時代の発掘品を準備していた。隠されていた金属製の竜ゴーレムがブレスで兵を焼き払い、攻撃を受けると爆発する動物型ゴーレムが多数の指揮官を死傷させたことで討伐軍は崩壊した。そこへニュルンベルク公爵軍が反撃し、ほとんど損害を受けずに大軍を撃破した。
アーカート十七世の最期
討伐軍崩壊後、皇帝の輿は倒され、泥まみれになった皇帝はニュルンベルク公爵に命乞いした。しかしニュルンベルク公爵は見苦しいと言い放ち、その首を一撃で刎ねた。皇帝の息子たちも一軍を率いていたが、ペーターは戦況を立て直す能力がないため同じ結末になった可能性が高いと見た。
ニュルンベルク公爵は、初見で最大の効果を発揮する古代兵器をテレーゼやヴェンデリンではなく皇帝軍に投入し、決定的な勝利を得ていた。ペーターは予想していた結果とはいえ、多数の兵が巻き込まれて死んだことには複雑な感情を見せた。
帝都掌握への始動
ガトラの報告によって、皇帝の死を最も早く知ったのはペーターたちであった。テレーゼは領地から軍を再召集する必要がある一方、ニュルンベルク公爵領は帝都に近いため、このままではニュルンベルク公爵が先に帝都へ到達すると予想された。
ペーターは皇帝の死を公表し、王国軍、ペーター軍、ミズホ伯国軍を動かして帝都を押さえることを決断した。帝都内部では協力者のバイエルラインとランズベルク伯爵が正門を開ける手筈となっており、入城後は皇宮と帝国軍施設を接収してペーターが実権を握る計画であった。
ペーターの政権奪取
ペーターはヴェンデリンに、何もせず傍にいるだけでよいと伝えたが、その存在自体を自らの権威を補強するために利用する意図を隠さなかった。ヴェンデリンも貸し借りを残さない条件で協力し、全軍は帝都正門へ向かった。
こうして皇帝アーカート十七世は、ニュルンベルク公爵に復権させられた末に再び誘導され、討伐戦で命を落とした。在位期間は百七十八日で歴代二番目の短さとなり、その死を契機にペーターは帝都掌握と皇位獲得へ動き始めた。
第五話 俺たちは歴史の目撃者となる……が、基本何もしない
皇帝死後の帝都入城
皇帝がニュルンベルク公爵に討たれたとの情報を得たペーターは、混乱が広がる前に政権を掌握するため、帝都郊外の軍勢を率いて入城を図った。夜間入城を拒む守将に対し、協力者のバイエルラインが責任を負って開門を命じたため、軍勢は帝都へ入った。ペーターはギルベルトとバイエルラインに帝国軍本部の掌握を任せ、フィリップやエル、ミズホ伯国軍もその指揮下に入れた。
皇宮の掌握
ペーターはヴェンデリンたち少数を伴って皇宮へ向かった。皇宮では協力者のランズベルク伯爵がすでに警備を掌握し、皇后を私室に閉じ込めていた。女性好きのランズベルク伯爵はエリーゼたちに華やかに挨拶したが、他人の妻には手を出さないと述べ、皇宮内の人間関係や事情に精通する人物としてペーターを支えていた。
皇后への敗戦報告
ペーターは皇后に、皇帝がニュルンベルク公爵に討たれ、二人の皇子もほぼ戦死したと告げた。しかし皇后は信じず、ペーターが反乱を企てていると決めつけた。さらに諜報部門を任されていた皇后の兄アーレー侯爵も機能していなかったため、ペーターは皇后との議論を打ち切り、そのまま軟禁を続けさせた。
皇帝の羽ペン
玉座の間では、ペーターに協力する貴族や軍人たちが待っていた。ペーターは皇帝の命令書を正式なものとする魔道具、皇帝の羽ペンを確保し、自ら使用することにした。既存の閣僚を召集すると同時に翌朝の議会開催を命じ、無造作に玉座へ座って帝国の実権掌握を進めた。
ヴェンデリンたちは直接政務には関わらず、翌日の混乱に備えて休息を取ることになった。ランズベルク伯爵は、混乱した帝国をペーターがまとめて王国と友好関係を築くことは、ヴェンデリンが早く帰国し、その後の領地開発に専念するためにも利益になると語った。
旧政権の瓦解
翌朝、ペーターは集められた閣僚や軍人に討伐軍の壊滅と皇帝たちの死を突きつけた。諜報を担当していたアーレー侯爵は事実を把握できておらず、軍務大臣も皇帝たちの消息不明までしか掴めていなかった。
ペーターは、ほぼ無傷のニュルンベルク公爵軍が間もなく帝都へ迫ると説明し、自分以外に迎撃を指揮する者がいるか問いかけた。皇后とアーレー侯爵は責任を負うことを避けて退出し、他の閣僚たちも次々と辞職した。ペーターは彼らを切り捨て、爵位ではなく能力を重視した新たな人事を進めることにした。
宰相ペーター
議会では、皇帝選挙を行う時間すらない状況を説明したうえで、ペーターが宰相として迎撃を指揮する案が示された。マイヤー商会の当主らが賛同し、他に現実的な選択肢もなかったため、議会はペーターの宰相就任を認めた。
これによりペーターは事実上帝国の最高権力者となった。帝国軍の再編は現役復帰したポッペクとギルベルトに任せ、新しい閣僚も実力重視で配置された。各地には援軍要請が送られ、事前に密約を交わしていたミズホ伯国からは二万人規模の援軍が急行することになった。
帝都防衛の再編
帝都には約三万人の残留部隊があり、皇帝の討伐作戦に反対して後方へ回されていた有能な軍人も多く残っていた。さらに敗走した討伐軍の一部も戻り始めており、ペーターは彼らを再編してニュルンベルク公爵に対抗しようとした。
一方、テレーゼは次期皇帝の座を争う相手となったペーターを積極的に援護できず、北部諸侯の援軍もすぐには期待できなかった。ペーターはニュルンベルク公爵にとって自分の台頭が想定外であることを利用し、帝都の民衆には討伐したレインボーアサルトの甲羅を展示して戦意を高めた。
西部城壁と男爵様
帝都西部では、男爵様とランドルフがペーターの支援を受けて城壁の修復と自警団の訓練を終えていた。ペーターは勝利後に解放した魔物の領域を彼らの領地とする約束を改めて示し、ランドルフたちも新天地を得るために戦う意思を固めた。
こうしてペーターは、平民や下級貴族、元軍人、スラムの住民、ミズホ伯国軍、王国軍まで幅広い戦力をまとめながら帝都の防衛態勢を整えた。ニュルンベルク公爵による帝都再攻略を迎え撃つための決戦準備が進んでいった。
第六話 帝都防衛決戦
帝都南城壁の攻防
ニュルンベルク公爵軍は皇帝討伐軍の残兵を吸収し、ペーター側とほぼ同数の兵力で帝都へ迫った。帝都の城壁は老朽化しており、爆発するゴーレムや竜ゴーレムによる攻撃にも耐え難い状態だったため、ポッペクは城壁を突破された場合に備えて市街地での防衛も準備していた。テレーゼはペーターを皇帝候補の競争相手と見て援軍を送らなかったが、ミズホ上級伯爵は二万人の精鋭を率いて間に合い、西側城壁では男爵様とランドルフも防衛に当たった。
自爆型ゴーレムの襲来
ニュルンベルク公爵は先鋒に続いて大量の自爆型ゴーレムを投入した。導師が巨岩を投げつけると、ゴーレムは容易に誘爆することが判明し、ヴェンデリンたちは矢や魔法、石、槍、魔銃で迎撃した。それでも一部は南側城壁まで到達して爆発し、城壁を損傷させて負傷者を出した。ペーターは突破後の市街戦も想定していたため冷静に兵を入れ替え、西側城壁から敵を誘い込む策も試みたが、ニュルンベルク公爵には罠を見抜かれた。
竜ゴーレムへの突撃
自爆型ゴーレムで弱った南側城壁を竜ゴーレムで破壊しようとする動きを見て、ペーターはヴェンデリンと導師に破壊を命じた。ヴェンデリンは乗馬が不得手だったためルイーゼが同乗し、導師と左右に分かれて十体の竜ゴーレムへ突撃した。
敵兵の攻撃を魔法障壁で防ぎながら進むと、竜ゴーレムは味方の先鋒を巻き込むことも構わず火炎や吹雪、石礫、カマイタチを放った。ヴェンデリンは圧縮した火球で頭部を溶かし、ルイーゼは魔力を込めた拳で粉砕し、導師も次々と破壊した。量産型の竜ゴーレムは以前の個体より性能を抑えられており、三人はすべての竜ゴーレムを破壊することに成功した。
ニュルンベルク公爵本陣への攻撃
竜ゴーレムを破壊する途中、ヴェンデリンはニュルンベルク公爵の本陣を発見した。ヴェンデリンは公爵本人を狙うように見せかけて風の槍を放ち、彼を守ろうと前に出た魔法使いを標的に切り替えた。同じ手法で複数の魔法使いを倒し、ニュルンベルク公爵が温存していた戦力を削った。
竜ゴーレムを全滅させた後も、ヴェンデリンと導師は敵本隊との間に留まり、火球や火蛇を撃ち込んだ。魔法使いの損失が増えたニュルンベルク公爵軍は全軍を障壁で守れなくなり、それまで整然としていた陣形を崩していった。
先鋒部隊の反乱
城壁攻撃を続けていた敵先鋒の多くは、ニュルンベルク公爵に使い捨てにされていた元帝国軍兵士だった。導師は彼らに対し、ニュルンベルク公爵家の兵を討てば帝国軍への復帰を認め、功績次第で褒美や地位も与えるというペーターからの伝言を勝手に宣言した。
先鋒部隊はそれを信じ、これまでの扱いへの不満もあって一斉に反転し、ニュルンベルク公爵家諸侯軍へ襲いかかった。その動きを見たギルベルトも即座に全軍を前進させ、王国軍も攻勢に加わった。前後から攻撃されたニュルンベルク公爵家諸侯軍は、急速に崩れていった。
ザウケンの最期
敗走するニュルンベルク公爵を逃がすため、腹心のザウケンは精鋭を率いて追撃を食い止めた。通常の軍勢なら崩壊する状況でも統制を維持し、ギルベルトの進軍を止めるほどの指揮力を見せた。
ヴェンデリンたちが王国軍と共に突破すると、ザウケンは主君が再び盛り返すと断言して自ら剣を抜いた。ヴェンデリンはウィンドカッターでザウケンの首を刎ね、その死によって足止め部隊も崩壊した。
ペーター軍の大勝
ニュルンベルク公爵本人は逃走に成功したものの、頼みとしていた精鋭の半数以上を失った。想定していなかったペーターの台頭に加え、竜ゴーレムの全滅、先鋒部隊の反乱、ギルベルトの総攻撃によって帝都攻略は失敗した。
こうしてニュルンベルク公爵は守勢へ追い込まれ、帝都を巡る戦いはペーター側の大勝で終わった。
第七話 ペーターと、テレーゼと……
テレーゼ派の進軍
帝都防衛に成功したペーターは中央領域を掌握し、支持する貴族を増やして帝国軍の再編を進めていた。だが、ニュルンベルク公爵との戦いに援軍を送らなかったテレーゼたちが大軍を率いて帝都郊外へ現れた。ペーターは、テレーゼ自身よりも皇帝の座を失ったことで利益を失う周囲の貴族たちが彼女を動かしていると見ていた。
ペーターとテレーゼの会見
テレーゼは戦勝祝いを名目に少数の随伴と帝都へ入り、ペーターと会見した。ペーターはテレーゼを対等な皇帝候補ではなく配下のように扱い、ニュルンベルク公爵討伐軍への配置も自分が決めると告げた。テレーゼは表立って反発しなかったが、同行した二人の兄はヴェンデリンやペーターへの敵意を隠さなかった。
ペーターは、テレーゼが皇帝になれば甥がフィリップ公爵位を継ぎ、兄たちが実権を握れることから、彼らが皇帝の座を諦められないと見抜いた。さらにガトラから、テレーゼの兄二人が皇后や旧政権の貴族たちと密かに連絡を取っているとの報告を受けた。
皇后派の暗殺計画
ペーターは先に手を出さず、相手に反乱の証拠を作らせる方針を取った。その夜、ヴェンデリンの部屋にも刺客が侵入したが、ヴィルマが気配を察知し、石を投げて二人を気絶させた。ペーター側でも刺客を捕らえており、彼らがアーレー侯爵に通じる諜報部の者だと判明した。
ペーターは暗殺計画の証拠を得ると、ガトラに皇后やアーレー侯爵ら主だった関係者を処分し、表向きは病死とするよう命じた。
アルフォンスの決断
そこへアルフォンスとバーデン公爵公子が訪れた。アルフォンスはテレーゼが暗殺計画を命じたのではなく、兄たちが独断で皇后と組んだと説明した。そのうえで、自らフィリップ公爵位を継いでペーターの新政権に加わり、兄たちには責任を取らせる代わりに、テレーゼだけは強制隠居で助命してほしいと頼んだ。
アルフォンスは、かつてテレーゼの婿となって支える話から逃げたことを今も悔いており、ここで彼女を死なせれば一生後悔すると訴えた。ペーターはその願いを受け入れ、ヴェンデリンとマルクも同行して事態を収めることになった。
テレーゼの拘束未遂
ヴェンデリンたちがフィリップ公爵家諸侯軍の本陣へ向かうと、テレーゼの兄たちは暗殺成功を前提に、彼女へ皇帝になるよう迫っていた。テレーゼは命令した覚えはないと拒絶し、成功する見込みもない計画だと兄たちを批判したため、二人は彼女を拘束しようとした。
アルフォンスが突入を命じ、ヴェンデリンは兄二人の手足や首の周囲に風の刃を展開して動きを封じた。兄たちの命令でテレーゼを拘束しようとした兵士も、エル、タケオミ、マルクによって制圧された。
フィリップ公爵位の継承
アルフォンスはペーターの命令として、自らが新たなフィリップ公爵を継ぎ、テレーゼには隠居を命じた。暗殺計画を進めた兄二人には、人生最後のワインが下賜されたと告げ、処分する意思を示した。
テレーゼの兄たちは拘束され、反乱は戦闘に発展する前に鎮圧された。これにより、ペーター派とテレーゼ派による新たな内戦は回避された。
テレーゼの抱擁
事態を終えて帝都へ戻ろうとしたヴェンデリンに、テレーゼは突然抱きついた。ヴェンデリンは自分が彼女を隠居へ追い込んだ側だと戸惑ったが、テレーゼは、それでも自分を助けてくれたことを喜んでいた。
こうしてテレーゼの兄たちによる反乱計画は潰え、アルフォンスがフィリップ公爵を継承することで、帝都を巡る新たな戦いは避けられた。
第八話 とある政変後の午後
クーデター失敗後の処分
皇后、アーレー侯爵、テレーゼの兄二人を中心としたクーデターは失敗し、首謀者たちは毒酒によって自裁した。表向きは病死とされ、アーレー侯爵家は改易、関係した大貴族も降爵された。フィリップ公爵位はアルフォンスが継ぎ、テレーゼは隠居した。解放軍も解散して帝国軍へ再編され、北方諸侯もペーターが次の皇帝となることを受け入れた。
テレーゼの隠居
ペーターはこれまでの功績を考慮し、テレーゼに帝国から年金を与えた。テレーゼは自分の役目は終わったとして、今後は帝国政治に関わらないと宣言した。一方で自由の身になったことを理由にヴェンデリンと腕を組み続け、ペーターを呆れさせた。
エッポとの別れ
皇宮を出たテレーゼは、長く仕えてきたエッポにアルフォンスへ仕えるよう命じた。エッポを傍に置けば復権を企んでいると疑われるためであった。テレーゼはこれまでの忠誠に感謝し、自らの私物の剣を与えて別れを告げた。エッポは泣き崩れながら彼女を見送った。
テレーゼとの初デート
自由となったテレーゼは、ランズベルク伯爵から教わった店へヴェンデリンを誘った。店には一つの飲み物を二本の曲がる木製ストローで一緒に飲む趣向があり、テレーゼはそれをヴェンデリンと試したがっていた。
しかし店には先回りしたエリーゼたちが待っていた。テレーゼが政治的影響力を失ったため、妻たちは以前のように彼女を排除せず、ヴェンデリン自身の判断に任せる姿勢を取った。
六人との飲み物
エリーゼたちはそれぞれ違う飲み物を注文し、ヴェンデリンと二本のストローで順番に飲んだ。最後には寂しそうな様子を見せたテレーゼとも一緒に飲むことになり、彼女は心から嬉しそうな笑顔を浮かべた。結果として六人分に付き合ったヴェンデリンは、飲みすぎで腹を満たしてしまった。
ランズベルク伯爵の副業
迎賓館へ戻ったヴェンデリンが店の話をすると、エルもハルカを誘おうとしたが、すぐにタケオミが同行を申し出た。そこへランズベルク伯爵が現れ、店が自分の副業であることを明かした。
ランズベルク伯爵は恋人同士の距離を縮めるために曲がるストローまで考案し、愛の狩人としての活動資金を稼いでいた。ヴェンデリンは、皇宮の仕事以外には深入りせず、得意分野を生かして自由に生きる彼の人生が賢いものに思えた。
第九話 ニュルンベルク公爵の事情
ニュルンベルク公爵と魔族
滅亡の危機に立つニュルンベルク公爵は、南部で防衛しヘルムート王国と同盟する案を退け、独力での帝国統一に固執していた。そこへ長年遺跡調査に協力してきた魔族の考古学者が、ペーターやヴェンデリンの台頭を運命のようだと皮肉った。ニュルンベルク公爵は反発しながらも、最後の戦いに備えて魔族から情報を引き出そうとした。
古代遺産と魔族の国
魔族はニュルンベルク公爵領の地下遺跡を調査し、自爆型ゴーレム、量産型竜ゴーレム、移動と通信を妨害する魔導装置などの発掘と整備に協力していた。魔族の国は遥か西方にあり、高度な文明を維持する一方で少子化が進み、人間の大陸への進出を唱える者も存在すると語った。ニュルンベルク公爵は将来的な魔族の侵攻を警戒し、大陸を人間だけで統一する必要性をさらに強く意識した。
人工魔法使いの技術
魔族は古代魔法文明時代、人間が魔法使いを人工的に増やす技術を持っていたと説明した。魔法の才能には複数の生物設計図が関係し、それらを備えていても通常は才能が具現化しない者が多かった。しかし第三の生物設計図を備えた人工魔法使いには、異性の潜在能力を刺激して魔法を発現・強化させ、自らの子供にも高確率で魔法の才能を継がせる特徴があった。
ヴェンデリンの特殊性
魔族はヴェンデリンの高い魔力量と、結婚後に妻たちの魔力が発現・強化された事実から、彼に古代の人工魔法使いと同様の第三の生物設計図が現れていると推測した。ただしヴェンデリンの魔力が五、六歳頃に具現化したという記録は、本来生まれた直後から特徴が現れる人工魔法使いとは一致しなかった。最終的に魔族は、第三の生物設計図が固定技術なしで極めて稀に自然発現した可能性を挙げた。
古代魔法文明の崩壊
魔族は古代魔法文明が、大量の魔力を用いた巨大魔導装置の実験失敗によって崩壊したと語った。大爆発によって首都周辺は消滅し、ギガントの断裂も生まれた。さらに大陸中へ飛散した濃密な魔力が土地や生物を変質させ、魔物の領域や魔物を生み出したという。領域のボスはその土地に集中した最大級の魔力を宿す存在であり、討伐によって魔力の偏在が弱まる仕組みであった。
大陸統一への執念
ヴェンデリンとその子孫が今後長く強力な魔法使いの血統として王国を支える可能性を知り、ニュルンベルク公爵は自らが最悪の時期に反乱を起こしたことを認識した。それでも王国との協調を拒み、分裂した人間社会では将来の魔族に対抗できないと考えた。最後の切り札の整備を魔族に命じ、後世に悪人と呼ばれても構わないとして、さらなる犠牲を払ってでもリンガイア大陸を統一する決意を崩さなかった。
第十話 巨大砲は男の浪漫?
ニュルンベルク公爵領への進軍
ペーター率いる帝国軍はニュルンベルク公爵領へ侵攻したが、各地の貴族や軍勢は次々と降伏し、ほとんど戦闘は起こらなかった。ニュルンベルク公爵は最初から彼らを戦力として当てにせず、本拠地へ精鋭を集中させたと見られた。ヴェンデリンたちは降伏兵の武装解除と後方移送を担当しながら進軍した。
テレーゼの従軍
隠居したテレーゼは、内乱に関わった者としてニュルンベルク公爵の最期を見届けたいと従軍を希望した。ペーターは疑念を抱きながらも、一兵士として王国軍に加わることを許可した。テレーゼは皇帝の座への未練を見せず、ニュルンベルク公爵の死を見届ければ帝国に用はないと語った。
地下要塞への籠城
帝国軍は一ヵ月足らずでニュルンベルク公爵領の大半を制圧したが、ニュルンベルク公爵は数万の精鋭と大量の物資を古代魔法文明時代の巨大地下要塞へ集めていた。地下要塞は山岳地帯に広がり、完全包囲が困難なうえ、領民による秘密の補給網が存在する可能性も高かった。外国勢力である王国軍とミズホ伯国軍は前面に出ず、後方に陣を構えた。
地下要塞の防御
功績を焦った一部貴族が夜襲を行ったが、地下要塞各所に設置された小型ブレス装置によって撃退された。さらに要塞は強固な魔法障壁で守られており、魔法使いやミズホ伯国軍の魔砲でも突破できなかった。長期包囲では帝国側の負担が増す一方であり、ペーターは魔法障壁そのものを破壊する必要に迫られた。
魔族による要塞維持
地下要塞では、ニュルンベルク公爵に協力する魔族が自身の膨大な魔力を吸着魔法陣へ供給し、魔法障壁やブレス装置、移動・通信妨害装置を維持していた。ニュルンベルク公爵は要塞に籠って時間を稼ぎ、ペーター政権やヘルムート王国に混乱が起こるのを待つつもりであった。
大魔砲の計画
ペーターはヴィルマが使用した大型狙撃魔銃を参考に、魔法障壁を正面から撃ち破る巨大魔砲の製造を決めた。ミズホ伯国の技術者と帝国の職人を集め、巨大な砲身、特殊砲弾、連結魔晶石、冷却装置などの開発が始まった。ヴェンデリンは砲身に耐久力を持たせる特殊合金の製造を担当した。
極限鋼の完成
ヴェンデリンは鋼にオリハルコン、ミスリル、複数の金属を混ぜ、何万通りもの配合を魔法で試し続けた。四万五千五百六十七通り目で砲身素材が青白く光り、古代魔法文明時代の特殊合金極限鋼の再現に成功した。テレーゼは、その詳細な配合比率が大きな財産になると見抜き、ペーターやミズホ上級伯爵にも秘密にするよう忠告した。
極限鋼を巡る駆け引き
極限鋼の完成を知ったペーターとミズホ上級伯爵は、領地や金銭などを提示して製造方法を得ようとした。しかしヴェンデリンは配合比率を機密とし、大魔砲完成後に改めて交渉すると答えた。テレーゼは、権力者や大貴族との交渉の難しさを笑いながら眺めていた。
大魔砲の製造
完成した極限鋼の砲身は、カネサダがオリハルコン製のノミを使い、手作業で砲口を削り始めた。一方で照準機、冷却装置、魔晶石連結装置、特殊砲弾の製造も進められた。ヴィルマは照準担当、ルイーゼは大量の魔力を砲へ送り込む補助役を任され、カタリーナたちも魔晶石への魔力補充を続けた。
地下要塞突入への準備
大魔砲で魔法障壁を繰り返し破壊し、再展開のたびに敵の魔力を消耗させ、地下要塞そのものにも損害を与えた後に全軍で突入する作戦が決まった。さらにヘルムート王国からは、移動と通信を妨害する装置を必ず破壊するかヴェンデリンが確保するよう命令が届いた。ペーターやミズホ伯国も装置を狙う可能性があり、ヴェンデリンたちは最後の地下要塞攻略にも参加することになった。
第十一話 野望の終焉
大魔砲の完成
一ヵ月をかけて大魔砲が完成し、ヴィルマが照準、ルイーゼが補助魔力供給を担当した。連結魔晶石から膨大な魔力を送り込んで発射すると、砲弾は地下要塞を覆う魔法障壁を突破し、そのまま山腹と内部施設を破壊した。導師が重い砲弾の装填を担い、二十五発すべてを撃ち込んだことで、地下要塞は大きな損害を受けた。
地下要塞への突入
帝国軍は大魔砲によって生じた穴から地下要塞へ突入した。生き残ったブレス発生装置もエメラたちが防御と破壊を進め、ヴェンデリンたちもエルとハルカが率いる兵を伴って最深部を目指した。途中の敵兵はエリアスタンで麻痺させ、自爆型ゴーレムやブレス発生装置も遠距離攻撃で処理し、戦闘に時間をかけず進んだ。
ニュルンベルク公爵と魔族
最深部の巨大な扉の先では、ニュルンベルク公爵と白いタキシード姿の魔族が待っていた。魔族は古代魔法文明の遺産を修復し、ニュルンベルク公爵に協力していた人物であった。ヴェンデリンたちが攻撃を仕掛けると、魔族は闇魔法で魔法を打ち消し、さらにエルを操って味方へ斬りかからせた。しかしエリーゼが聖魔法で闇魔法を解除し、エルを元に戻した。
大人型カラクリ魔人君
魔族は全高二十メートルほどの巨大人型ゴーレム大人型カラクリ魔人君を起動し、ニュルンベルク公爵が操縦、魔族が魔力供給を担当した。巨大ゴーレムは飛翔する両腕や魔砲で猛攻を仕掛け、ヴェンデリンと導師の魔法障壁を押し込むほどの威力を発揮した。
テレーゼの隠し玉
兵士たちが退避する中、テレーゼは戦場に残り、フィリップ公爵家に秘蔵されていた古代魔道具を使用した。閃光炸裂魔弾でニュルンベルク公爵たちの視界を奪い、魔導噴進砲で巨大ゴーレムの腕を破壊した。ヴェンデリンたちも一斉攻撃を加えたが、巨大ゴーレムは予備部品を呼び寄せて何度でも復元した。
補充施設の破壊
テレーゼは巨大ゴーレム本体ではなく、後方にある予備部品の供給設備を破壊すべきだと指摘した。ブランターク、カタリーナ、ルイーゼ、イーナ、ヴィルマ、テレーゼが集中攻撃を行うと、予備部品と設備が爆発し、ゴーレムの再生能力が失われた。その爆発で移動・通信を妨害していた装置も故障し、ヴェンデリンたちは再び飛翔を使えるようになった。
魔族への過治癒
再生不能となった巨大ゴーレムへ総攻撃が加えられる一方、エリーゼは魔族に高濃度の治癒魔法を繰り返し施していた。治癒魔法を過剰に受けた魔族は水ぶくれや眩暈などの症状を起こし、身体を満足に動かせなくなった。これによって魔族からの支援も弱まり、巨大ゴーレムはさらに追い詰められた。
巨大ゴーレムの両断
ヴェンデリンは師匠の形見である魔法剣に膨大な魔力を一点集中させ、極限まで圧縮した炎の刀身で巨大ゴーレムの胴体を斬り裂いた。しかし完全には両断できず、ヴェンデリン自身も魔力を大量に消耗した。そこでエルがハルカから借りた魔刀を手に、ルイーゼに打ち出されて亀裂へ一撃を加えた。巨大ゴーレムは縦に真っ二つとなり、完全に活動を停止した。
ニュルンベルク公爵の最期
ゴーレムの残骸から発見されたニュルンベルク公爵は右腕と右脚を失い、致命傷を負っていた。エリーゼの奇跡の光なら救命できたが、ニュルンベルク公爵自身が治療を拒み、処刑されるよりこの場で死ぬことを望んだ。エリーゼは苦痛だけを取り除き、テレーゼもその選択を認めた。
マックスとテレーゼ
死を待つニュルンベルク公爵は、幼い頃には冒険者になることを夢見ており、テレーゼと冒険者ごっこをして遊んでいたと振り返った。しかし二人とも大貴族家の当主となり、自ら望んだわけではない地位と責任から逃れられなかった。ニュルンベルク公爵は、その虚しさを紛らわせるため大陸統一という無謀な夢に進み、勝敗にかかわらず自分の人生を終わらせようとしていたと明かした。
さらばマックス
テレーゼは、自身もフィリップ公爵を自力では辞められなかったため、ニュルンベルク公爵の苦しみを完全には否定できなかった。自由になったテレーゼを羨むような表情を見せたニュルンベルク公爵は、数十年後にあの世で会おうと言い残し、静かに息を引き取った。テレーゼはマックスに別れを告げ、涙を堪えながら他に選択肢はなかったのかと悔やんだ。
内乱の終幕
ブランタークと導師は、ニュルンベルク公爵が魔族に従属したのではなく、あくまで利用しながら技術や情報を得ようとしていたのだと考えた。ヴェンデリンたちはニュルンベルク公爵の遺体を回収し、残る古代兵器や妨害装置の処理へ移った。長い内乱の元凶を討ったものの、ヴェンデリンは大貴族という立場に縛られ続けたニュルンベルク公爵の人生について考え、素直に勝利を喜ぶことはできなかった。
同シリーズ
八男って、それはないでしょう!シリーズ































異世界帰りのパラディンは、最強の除霊師となるシリーズ

異世界帰りの勇者は、ダンジョンが出現した現実世界で、インフルエンサーになって金を稼ぎます!シリーズ

その他フィクション

Share this content:

コメント