物語の概要
本作は、突如地球上に現れた「ダンジョン」が出現してから3年が経過した世界を舞台とするSFライトノベルである。社畜だった主人公・芳村が、偶然のきっかけでダンジョン探索者ランキング1位となり、大統領との約束を果たすべく現実逃避的にダンジョンへ向かう。そして渋谷方面で特殊な“ファンタジー金属”的能力を持つアイテムを入手し、さらにダンジョンと現実世界を繋ぐ”掲示板”のような異常現象も発生。ついにはダンジョンの住人「ダンつくちゃん」から渋谷デートの誘いすら受ける展開へと突入する。
主要キャラクター
- 芳村:主人公。素材研究部で疲弊する社畜だったが、ダンジョン探索により世界ランカー1位に。大統領との契約とダンつくちゃん絡みのトラブルに巻き込まれる。
- ダンつくちゃん:ダンジョンの“創造主”とも呼ばれる謎の存在。今巻では渋谷デートに誘うほど人間社会に強い関心を見せる。
物語の特徴
- SF とファンタジーの融合:地球上にダンジョンが出現し、それを攻略する”硬派なSF設定”に、ダンつくキャラとのコミカルでユーモアある交流が加わる独特の世界観。
- 現実世界とのリンク展開:ダンジョン内外で通信が可能になり、「渋谷デート」など現世との接液が濃厚になったストーリーは既存のダンジョンものにはない新鮮さ。
- 続巻への布石:SF的謎(核消失の影響、金属の正体、ダンつくちゃんの意図など)が散りばめられており、物語の深層に踏み込む期待を抱かせる展開となっている。
書籍情報
Dジェネシス ダンジョンが出来て3年 10
著者:之 貫紀 氏
イラスト:ttl 氏
出版社:KADOKAWA
発売日:2025年6月30
ISBN:9784047384637
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あらすじ・内容
渋谷で神様と待ち合わせ?!
核消失の影響で各国上層部に苦悩の嵐が吹き荒れる中、
表面上、世界は何事もなかったかのように平穏が装われていた。
大統領との約束の履行と現実逃避でダンジョンに向かった芳村たちは、
そこで手に入れたファンタジー金属の驚くべき特性に気付く。これはダンジョンの焦りか福音か?
トンデモなお願いの余波で、ダンジョン内外で通信ができたり、
ダンジョンの向こう側にいる何かと話せるなどという馬鹿げた掲示板が賑わったりする中、
ダンつくちゃんに渋谷デートのお誘いが!
それでいいのかファーストコンタクト!?
感想
今回の『Dジェネシス』は、いつにも増して騒がしい展開だった。特に、ダンつくちゃんを巡る騒動は、まさにカオスという言葉がぴったりであった。
特別付録の設定資料でファントムについてじっくりと確認し、渋チーのビジュアルを初めて認識したのだが、本編の怒涛の展開に、それらが霞んでしまうほどだった。
物語は、ダンつくちゃん質問箱に官僚が「会いたい」と書き込んだことから始まる。
その返事が「良いよ」だったものだから、各国諜報関係者たちが渋谷駅周辺に集結するという異常事態に発展する。
そこにタイラー博士とダンつくちゃんが現れ、血迷った諜報員が発砲するという、まさに予測不能な展開には、思わず笑ってしまった。
芳村がこの騒動に巻き込まれ、ダンつくちゃんが彼にべったりとくっついて離れない様子は、まるでコメディを見ているかのようだった。
ダンつくちゃんを渡せと迫る諜報員たちとのやり取りは、緊迫感がありつつも、どこか滑稽で、物語に独特のユーモアを加えている。
今回の巻では、ダンジョン内外で通信が可能になったり、ダンジョンの向こう側にいる何かと話せる掲示板が登場したりと、新たな要素が盛り込まれており、今後の展開が非常に楽しみである。
ダンジョンが焦っているのか、それとも人類への福音なのか、その真意を探る過程で、どのようなドラマが繰り広げられるのだろうか。
芳村とダンつくちゃんの関係も、目が離せないポイントだ。
渋谷デートのお誘いは、ファーストコンタクトとして本当に良いのかと疑問に思いつつも、見守っていきたい。
『Dジェネシス』は、ダンジョンという非日常的な設定の中で、人間関係や社会問題を巧みに描き出している点が魅力である。
今回の巻では、その魅力がさらにパワーアップしており、読後感は非常に満足のいくものだった。次巻が待ち遠しい。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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展開まとめ
序章 プロローグ
深夜の電話と国家非常事態の発端
パトリック=シャノン国防長官代行は帰宅直前、深夜の電話によって重大な報告を受け、動揺しながら執務室へ引き返した。報告はアメリカ全土の核兵器貯蔵庫に保管されていたピット(核兵器のコア)がすべて消失したという衝撃的な内容であった。続けて、空母および戦略原潜の原子炉も次々と停止しており、国の核抑止力が崩壊しつつあることが明らかとなった。
原子力艦の異常と世界規模の広がり
アメリカでは、戦略原潜ネバダの無命令浮上に加え、空母の原子炉停止が連続して発生していた。これにより、稼働可能な空母が一隻も存在しない事態となった。続報により、フランスの原子力空母シャルル・ド・ゴールや戦略原潜トリオンファンも同様に動力を喪失していたことが判明し、これはアメリカだけの問題ではないと確認された。
フランスの核戦力の崩壊と国家的危機
フランス大統領マクレの元にも、同様の原子炉停止と核弾頭からのコア消失の報が届き、核戦力の中核をなすトリオンファン級のすべてでコアの喪失が確認された。K15型原子炉のみに限定された不具合であり、低濃縮燃料を使う旧型リュビ級には影響が見られなかった。この事態により、フランスの独立核抑止戦力は事実上消滅し、軍上層部による反乱や外的攻撃の可能性までが疑われた。
各国の対応と政治的動揺
核戦力の無力化に伴い、アメリカではハンドラー大統領、フランスではマクレ大統領がそれぞれ国家非常事態に近い判断を迫られた。マクレは核兵器の安全保障やEUの防衛に関する声明を緊急に発表し、ブレグジットや外国の介入といった現実的な懸念と絡めて、混乱する国内外に向けて沈静化を試みた。一方で、イギリスではすべての原潜が停止するなど被害が広がり、核兵器の高濃縮燃料が共通点として浮かび上がった。
原因不明の異常とダンジョンの影
一連の現象は、各国の軍中枢が把握する限り、共通して高濃縮ウランを燃料とする原子炉や核弾頭に限定されていた。仮説として、かつて横浜で行われた高放射性廃棄物処理実験がダンジョンに与えた影響や、ダンジョンそのものによる報復の可能性も示唆されたが、決定的な原因は掴めなかった。抑止力を喪失した複数の核保有国が、未曽有の軍事的空白に突入しつつある中で、各首脳はただ事態の沈静化と情報統制を急いでいた。
新越ダンジョンとの突如の提携申し出
榎木義武は、化学業界大手である新越化学の子会社・新越ダンジョン株式会社の開発部長である三浦典義との面会に臨み、突如持ち込まれた提携話に困惑していた。相手は、詳細不明の液体素材についての共同研究と合成を提案し、早速現物の瓶を提示した。その液体は無色透明でありながら、屈折率が7.9という異常な光学特性を有していた。
半導体技術との関係と液体の可能性
その液体は、従来の純水よりも遥かに高い屈折率を持ち、半導体製造において使用されているArF液浸露光装置の性能を飛躍的に向上させる可能性があった。従来、半導体の微細化は短波長の光源開発に注力されてきたが、屈折率を上げることで同様の効果が得られる。この液体を応用すれば、マルチパターニングを用いずに7ナノメートルの微細化が実現できると推測された。
出所不明な素材と企業内の課題
榎木が出所を確認すると、三浦はその液体が素材買取時に袋の底に溜まっていたものであり、どのアイテムから流出したのかが不明であると答えた。ダンジョン由来の素材であるにも関わらず、名称や由来が特定できない異例の事態であり、新越ダンジョン社内の研究方針の偏りも原因とされていた。三浦は北谷マテリアルの基礎研究能力に期待を寄せ、協力を要請した。
過去の研究と失われた人材
提携の背景には、かつて北谷マテリアルが発表した基礎研究論文に掲載されていた研究者・三好梓の存在があった。だが、三好はすでに会社を退職しており、榎木はその事実を隠すよう部長から暗に指示されていた。さらに、三好は提携以前に協力依頼を拒否しており、榎木には苦い記憶として残っていた。
基礎研究の成果と経営上の葛藤
三浦は、北谷マテリアルの地道な研究姿勢を評価し、今後の素材解析を託そうとした。しかし、かつてその基礎研究を切り捨て、応用研究へと転換させたのは他ならぬ榎木であった。現在、基礎研究の中心を担っていた人物たちはすでに不在であり、提携に応じる体制は整っていない。榎木はそれを口にできず、ただ瓶に入った未知の液体を見つめながら苦悩に沈んでいた。
第 13章 ファースト・コンタクト
二〇一九年 三月四日(月)
事情聴取と疑惑の余波
デヴィッドとイザベラは、前日に発生した銃乱射事件に巻き込まれたことにより、警察の監視下で身元確認と任意の事情聴取を受けていた。事件の犯人ラーテルの携帯電話には、直前にデヴィッドへの発信記録が残っていたため、警察は両名に疑念を抱いたが、デヴィッドは過去の護衛契約に基づく偶然の接点と説明し、冷静に応対した。その説明には一定の合理性があり、当局は追及を控えた。
再会と二人の対話
イザベラがホテルの部屋に戻ると、デヴィッドは平然とくつろいでいた。彼女はその態度に反発を示したが、互いの間には皮肉を交えた会話が交わされた。イザベラは事件の余波に巻き込まれることを嫌い、これ以上の関与を避けようとする姿勢を見せたが、デヴィッドは依然として目的を見据え、代々木に残るサイモンへの関心を語った。サイモンは変装していたが、科学的鑑定により高確率で本人と断定されていた。
交錯する信念と別れ
二人の対話は、宗教的信念と個人の自由意思を巡る皮肉の応酬となった。デヴィッドは、残された目的のために活動を継続する意向を示しつつ、イザベラにアメリカへの先行渡航を提案し、さらに二つの依頼を口にした。イザベラは不満げながらもそれを受け入れ、部屋を後にした。立ち去る際、デヴィッドは老いに関する皮肉を投げかけ、彼女は露骨なジェスチャーで応じてドアを閉めた。外は小雨が降る寒空であったが、デヴィッドはそれを愉快そうに笑って見送った。
二〇一九年 三月五日(火)
表面上の平穏と潜在する異常事態
三月五日、世界は表面上は平穏を装っていたが、水面下では異常事態が継続していた。地中海ではフランスの空母が故障し、夜空には大火球が出現した。火球は高濃縮燃料を搭載した人工衛星である可能性が指摘され、衛星軌道もまた「地球上」とみなされ得る状況が示唆された。北極海では原子力砕氷船が流氷に閉じ込められ、動力を失っていた。使用されていた燃料の濃縮度が高く、一連の“消失”現象との関連性が強く疑われた。
原子力艦の停止とアメリカ軍の衝撃
アメリカでは空母および潜水艦の全艦が原子力で運用されており、それらが機能停止に陥ったことは、事実上、軍事力の根幹を喪失したに等しかった。被害額は数十兆円規模とされ、その影響は甚大であった。三好と同行者は、これにより責任追及の強まりを懸念し、既に報酬を受け取っていた横田基地への出向を決断した。
横田基地と軍人の反応
横田基地では新任司令官シュナイダーが応対し、荷物処理能力に驚きを示した。軍人として疑念を抱きつつも追及は避けられ、一行は曖昧な態度でその場を後にしてダンジョン内へと退避した。その後、ダンジョン内部から通信を試みる者が現れ、YouTube上に世界初のダンジョン生中継チャンネルが開設された。
デヴィッドを巡る外交的警戒と調査
フランス大使館では、デヴィッドに関わる一連の事件に対して政府が強い懸念を抱いていた。フランスの特殊部隊や情報機関も動き、代々木での銃撃事件を含む奇妙な動向に注目が集まっていた。デヴィッドは関与を否定しつつ宗教的な言辞で応じ、大使ローランの不信を買った。結果として、保護名目で監視下に置かれることが決定され、中佐ブーランジェに引き渡された。
ダンジョン内通信の発覚と行政の混乱
ダンジョン内での携帯通信が可能である事実が探索者により発見され、JDA内部でも正式な対応が求められる事態となった。当初は仕込みと誤解されたが、運用の現実性が判明し、対応体制の整備が急務とされた。課長の斎賀と部下の美晴は、ルール策定と情報管理に追われつつも、前例なき現象に柔軟に対応した。
内部の対立と計画の崩壊
振興課の吉田課長は、この通信現象により自部署が推進していた「代々木開発計画」が無意味になったと激怒した。通信整備が目的であったにもかかわらず、それが別ルートで達成されたことに不満を抱いた吉田に対し、美晴は論理的な反論を試みたが、斎賀は非合理な現実を受け止めつつ、組織内の感情的反発を受け流した。
告知とダンジョン内通信の新時代
その夜、代々木ダンジョンにおいて通信が可能になったことが正式に発表され、ダンジョン利用と管理の在り方に大きな転換がもたらされた。この一連の変化は、個人の意志や行動が国際的かつ軍事的な構造にまで影響を及ぼし得るという、現実の予想を超えた側面を浮き彫りにした。
二〇一九年 三月六日(水)
ファンタジー金属の探索と収集
三好と語り合いながら、一行はダンジョンの24層でファンタジー金属の収集に励んでいた。そこではヒヒイロカネやアダマンタイト、ミスリルといった定番の金属に加え、『スタートレック』由来のダイリチウムや、フィクションで知られるアンオブタニウムといったSF的な金属もドロップされていた。それぞれ異なるステータスを持ち、〈鑑定〉で得られた数値をポストイットに記入して分類していた。なかでもアンオブタニウムは、LUCの上昇効果がある可能性のある金属として注目された。
世界の変化と核兵器の喪失
かつて核兵器を巡る選択を迫られた結果、全世界的に核兵器が消失するという現実がもたらされた。一行はその事実を静かに受け止めていた。各国は喪失を公に認めないまま、パワーバランスの変化に直面していた。TPNW(核兵器禁止条約)の批准は進まず、NPT(核不拡散条約)は形骸化しつつあった。今後、世界は軍縮か、あるいは新たな核開発競争のいずれかへと進む可能性があると三好は語った。特に、純粋なプルトニウムやMOX燃料の再開発は現実的な脅威と見なされていた。
セーフエリアの観察と配置任務
一行は三十二層のセーフエリアに入り、DAD施設の設置作業を行った。この場所はダンジョン内では稀な広大かつ平穏な環境であり、JDAや自衛隊によって既に白線で区画整理が進められていた。境界は榊の木で象徴的に示され、神社まで建てられていた。この光景に、観光に近い感情すら抱く者もいた。
三十二層の探索と危険の兆し
三十二層は、世界樹を思わせる巨大な樹木を中心とした構造であり、南には湿地帯、北には乾燥地帯が広がっていた。出現するモンスターには、オルトロス(仮称)やジャイアントリーチなど危険な個体が含まれていた。探索の途中、ロザリオが三十三層の入り口を探すかのように飛び去り、その帰還を待つあいだ、一行はしばしの休息を取ることになった。
三十二層での安息と考察
広がる枝の下、一行はオークであると判明した大樹の根元にテントを張り、静かな時間を過ごしていた。やるべきことを終えた安堵と、これから訪れる未知への警戒心を胸に、小さな平穏を享受していた。やがてDAD施設の発電機が稼働し始め、新たな拠点の稼働が静かに始動した。
三十三層の発見と異常な導き
坂井は、三十三層の入り口が発見されたという一報を斎賀に伝えた。特異なのは、その発見が青みがかったグレーの小鳥による導きによってなされた点である。ダンジョン内において、モンスター以外の動物の存在は前例がなく、その小鳥は極めて異例な存在であった。斎賀は、Dパワーズの事務所に居ついていたコマツグミとの関連を疑った。鳴瀬との通話により、その小鳥が最近はDパワーズに同行していることが確認され、導きの正体がその小鳥である可能性が高まった。斎賀はDパワーズの関与を確信しつつも、彼らが発見の栄誉を他者に譲った意図を測りかねていた。
DADによる基地設置とインフラ先行
その後、三十二層に突如として基地が設置されたとの報告が入り、斎賀はDパワーズが組み立てていた施設の存在を思い出した。基地には五千kVA級のガスタービン発電機が備えられており、JDAのインフラ整備が遅れる中、DAD側が当面の電力供給を申し出ていた。この提案は、初期インフラ整備に失敗していたJDAにとって魅力的であり、DADが求めた燃料は液化天然ガス(LNG)であった。
LNG輸送とDパワーズの役割
LNGの運搬には高度な技術と専用設備が必要であり、従来のポーターでは対応できなかった。しかし、佐山の〈収納庫〉があれば可能であると見なされていた。これにより、DADは燃料輸送の制約から解放されると同時に、JDAに対して貸しを作る構図となった。インフラが整う前の段階で燃料仕様を統一することで、将来的には三十二層全体の電力をDADが事実上支配し、他企業もその供給に依存せざるを得ない状況が形成されつつあった。
JDAの後手と戦略的劣勢
これら一連の動きにより、JDAは発電設備の整備で後手に回り、燃料輸送という負担を実質的に背負わされる可能性が高まっていた。坂井は再び輸送計画の修正を迫られ、斎賀もまた、アメリカ側の政治的に練られた戦略に舌を巻かざるを得なかった。こうしてDADは、電力供給を足がかりとして三十二層における発言力を急速に高めていった。
二〇一九年 三月七日(木)
吉田とテンコーの失敗と葛藤
吉田陽樹は、バラエティ企画の一環として、政治家の能力値を測定する番組案をテレビ局に提案していた。しかし、データの公表が予想以上に大きな政治的リスクを伴うことが判明し、局側は放送を拒否した。テンコーと合流した吉田は、政治家の能力が可視化されることによって、放送局が圧力や免許取消のリスクに晒される可能性を説明した。テンコーは、番組化に向けて議事堂での撮影や機材管理に尽力していたため、努力が無駄になったことに激怒した。収益化の道を断たれた吉田は、テンコーの提案を受け、彼女の動画チャンネルで資料を公開し、広告収入を得る方針へと方針転換した。
成宮のレポートと外交方針
外務省では、宇宙的存在との接触を想定した政策立案の一環として、レポートの選考が行われていた。若手官僚の成宮春樹が提出したレポートは、倫理観と技術進歩の相関性に着目し、星間文明が高い倫理性を持つ傾向や、戦争よりも接触回避を選ぶ可能性について論理的に展開されていた。国家安全保障局の内谷はこの内容を高く評価したが、田室靖は違和感を覚え、とりわけ「奉仕することが目的」とする異文明の動機に関しては理解に苦しみ、成宮の判断に対して懐疑的な姿勢を示した。
外交準備組織の創設と人材選定
成宮を含む四名が、異文明との交流を担う新組織の選抜メンバーに選ばれた。この組織は外務省内ではなく、国家安全保障局に設置されることが決定された。外務省による設置案は退けられ、内閣官房直轄の形式となった。選抜された人材の特異性に対し、田室は疑念を拭えなかったが、木鈴局長や内谷は、組織が外務省の枠組みを超える存在になることを見越していた。田室は、成宮が本来歩むはずだった高位官僚としての道を捨て、この任務に傾倒していく姿を憂えながらも、自らの関与を終える覚悟を固めた。
結末と不穏な予兆
吉田は、自らの企画が失敗に終わったことを受け入れ、テンコーに今後の展開を託した。一方、外務省では異文明との接触に向けた準備が着々と進行し、成宮の選抜によって外交政策の枠組みそのものが大きく変容しようとしていた。田室は、自分の役目が終わったことに安堵しつつ受け止めていたが、安全保障政策課が後に未曽有の混乱へと巻き込まれていく未来を、当時はまだ知る由もなかった。
二〇一九年 三月八日(金)
鳥と帰宅の描写から始まる日常
三好が帰宅すると、言葉を理解する鳥・ロザリオが反応し、軽い冗談を交えた会話が交わされた。三好はPCを起動し、以前に断った協力依頼について再度の連絡メールが届いていることに驚き、その意図に違和感を抱いた。
共同研究の申し出とその背景
メールには、新越から北谷マテリアルへの共同研究提案が記されており、きっかけは過去に発表した論文にあることが明かされていた。研究対象はダンジョンアイテムの物性に関するもので、新越がその内容を高く評価したことが理由であった。一行は、かつての努力が認められたことに一定の感慨を抱きつつも、複雑な感情を抱えていた。
極端な屈折率を持つ謎の液体
新越から持ち込まれた物質は、屈折率7.9という極めて異常な無色透明の液体であり、この値はダイヤモンドをも上回るものだった。これを知った一行は驚愕し、さらに榎木がこの情報を送ってきたことから、彼が何らかの切迫した状況にあるのではないかとの懸念が浮上した。
検査装置の利用とバーターの可能性
過去の関係から、北谷の保坂らに協力を求めれば、この液体の分析が可能だと見込まれた。その代償として、保坂側が興味を持つ未鑑定のファンタジー金属を検査させるというバーター形式の案が検討された。
アイテムの正体と鑑定の変化
〈鑑定〉で得られる情報が使用者の問いかけや意識によって変化する可能性が議論された。実験の結果、透明な水晶状のアイテムは塩分濃度0.37%の条件で液化し、これはアイボールというモンスターの水晶体が溶けたものではないかと推定された。
再召喚の試みと出現条件の仮説
アイボールが現れる〈さまよえる館〉の再出現には、碑文による再召喚が関係している可能性が示唆された。また、別のダンジョンでの大量出現を試みる案も検討されたが、リポップ速度や空間的制約が課題として挙げられた。
ステータスを変化させる金属の発見
分類作業の中で、ファンタジー金属を所持することにより、使用者のステータスが即座に上昇する現象が確認された。これは従来の食料アイテムとは異なり、大幅かつ即効的な効果を持っており、強化素材としての有用性が高いことが明らかとなった。
公開の可否と研究者としての葛藤
この金属の性質を公表すれば社会的影響が大きくなることが懸念される一方で、研究者としてさらなる検証を進めたいという三好の思いもあった。現段階では特許化が困難であるため、詳細な調査の後に発表する方針が確認された。
合金化・応用に向けた今後の展望
ファンタジー金属を既存金属と混ぜた際の物性やステータス保持率、スライムなどによる劣化耐性、装着数の上限など、多くの実験項目が挙げられた。合成が困難な場合には水増しによる量産も視野に入れ、研究の道筋が整理された。
実験機器の導入と研究の加速
家庭ながら高電力対応の設備が整っていることが示され、実験用融解炉の導入により、ファンタジー金属の本格的な研究が始まろうとしていた。物語は、分類と準備作業に邁進する一行の描写で締めくくられる。
ステータス増加の条件と計測実験
芳村と三好は〈メイキング〉と高精度ステータス計測装置を用い、ミスリルによるINT値上昇の詳細を実験した。〈鑑定〉の結果、同一インゴットでは効果は重複せず、異なる個体ならば加算が可能であった。また、指先で触れた場合のみ効果が発揮され、接触面の広さや部位によっても影響が生じた。
距離制限と減衰パターンの発見
複数の金属に触れる際、体表面上の接触点間距離が効果に影響を与えることが確認された。9cm、15cm、21cm、25cmといった間隔で減衰が発生し、その減衰率はフィボナッチ数列を基礎とした f(x)f(x)\frac{\sqrt{f(x)}}{f(x)}f(x)f(x) の式で説明された。十個目以降は効果が1未満となり、増加に限界があることが判明した。
LUCの関与と影響の差
芳村が計測を担当した際、LUC(運)の値が距離減衰に補正を与えることが実証された。三好のLUCが10であるのに対し、LUCを100に設定した芳村は、11個目まで効果がフルに適用され、INT加算が維持された。このことから、効果値は LUC10⋅f(x)f(x)\frac{LUC}{10} \cdot \frac{\sqrt{f(x)}}{f(x)}10LUC⋅f(x)f(x) で算出できることが導かれた。
ドロップ時の差異と探索者間の違い
過去の取得データと照合した結果、LUCの高い芳村が入手した金属は、ステータス分布が5〜6に集中していたのに対し、三好の入手分は2〜3にとどまっていた。LUCの差異がドロップ時の性能上限に強く影響していることが裏付けられた。
ブートキャンプとの比較と育成方針の再考
ファンタジー金属による強化は、従来の〈ブートキャンプ〉に比べ、より短時間で中堅以下の戦力向上を可能とする手段であることが判明した。ただし、LUCの自然成長が難しい点や、効果が上級者には限定的である点が課題とされ、今後はLUC強化を目的とした訓練枠の新設も検討された。
応用と今後の展望
三好はファンタジー金属の武器応用実験をキヨミーに依頼し、研究と実戦支援の両面での活用を進めた。芳村はこの技術が探索者全体の底上げにつながることに期待を寄せつつ、同時にこの発見が予期せぬ展開の前兆である可能性も感じ取っていた。
二〇一九年 三月九日(土)
ステータス上昇の原理に関する初期検証
芳村と三好は、INT値を増加させるファンタジー金属(ミスリル)の効果を確認するため、〈メイキング〉とステータス計測デバイスを用いて実験を行った。三好が異なるインゴットに指先で接触するとINTが上昇したが、指の腹で触れた場合には効果が現れなかった。これは、接触する部位や接点間の距離が効果発現の条件に大きく関与していることを示唆していた。
接触距離と装備制限の関係
体表面上の接触点間距離が9センチ、15センチ、21センチ、25センチと増加するにつれ、INTの増加量が減衰していく現象が確認された。三好の場合、有効距離は奇数の合成数と一致する傾向が見られた。五つ以上のインゴット装備による上昇効果も認められたが、その増加幅は緩やかに鈍化していった。
減衰率とフィボナッチ数列の関係性
INTの増加量は、フィボナッチ数列の項を分母とし、その平方根を分子とする比率 f(x)/f(x)\sqrt{f(x)} / f(x)f(x)/f(x) で近似される数式に従っていた。三つ目以降の装着による効果はこの関数モデルと一致し、計測値との誤差も許容範囲内に収まった。これにより、装備数の理論的上限が数式的に導出可能となった。
LUCによる補正効果の発見
三好と同じ条件下で芳村が実験した際、より高いINTの増加が確認された。LUC(運)が効果減衰の補正に関与していると考えられ、数式は LUC10⋅f(x)f(x)\frac{LUC}{10} \cdot \frac{\sqrt{f(x)}}{f(x)}10LUC⋅f(x)f(x) の形で表されることが判明した。LUCが100の芳村は最大補正を得ており、減衰の影響をほとんど受けていなかった。
ドロップ時のLUCの影響
過去に取得した金属の統計を比較したところ、三好が得た金属のINT値は2〜3が中心であったのに対し、芳村の取得品は5〜6に集中していた。これはLUCの高さがドロップ時の品質に直接影響していることを示唆していた。もっとも、LUC自体の成長手段は限られており、アンオブタニウムのような希少金属への依存が前提となっている。
実用性と今後の方針
三好は、成果を探索者支援に応用すべく、武器への適用実験を外部に依頼した。また、LUC強化を目的とする訓練枠を〈ブートキャンプ〉に組み込む必要性を示した。芳村は、この技術が中堅層の能力向上に寄与し、層突破率の向上に貢献すると期待を抱いていた。ただし、実験の成果はのちに予期せぬ事態を引き起こす引き金となる。
ステータス上昇の重複条件の検証
三好が指先で異なるミスリルに触れた際、INTが6増加した。一方で、同一インゴットに触れた場合には効果は重複せず、別個体であれば加算されることが確認された。ただし、接触部位が指の腹になると効果は失われた。接触面積や位置、接点間距離が効果に影響していると考えられる。
距離制限と数列に基づく減衰モデル
ミスリルの効果は、接点間の距離が9センチ、15センチ、21センチ、25センチと増すごとに減衰し、その度合いは f(x)/f(x)\sqrt{f(x)} / f(x)f(x)/f(x) の式と一致した。十個目以降の装着によるINT増加は1未満にとどまり、効果の頭打ちが明確になった。
LUCによる補正と芳村の例外値
LUC値が100の芳村は、3個のミスリルでINTが18上昇するなど、三好のような減衰現象が見られなかった。計算式では、LUC補正を加味することで最大値が維持され、11個目までの装着でいずれも6の加算効果が持続していた。
金属のステータス分布と取得傾向
三好の取得品はINT2〜3を中心とする正規分布に近い傾向を示し、芳村の金属は5〜6を中心に偏っていた。ドロップ時の性能分布にLUCが強く作用していると見られるが、その値を意図的に制御する手段は現時点では存在しない。
〈ブートキャンプ〉との比較と育成可能性
ファンタジー金属による強化は、訓練や育成を要する〈ブートキャンプ〉と異なり、装備するだけで即効性を発揮するという利点がある。特に中堅層にとっては短期間での戦力向上手段となり得る。ただし、上位層への効果は限定的であり、LUC育成の必要性が改めて浮上していた。
応用範囲と今後の展望
芳村は武器適用の実験を他者に委ね、成果の実戦応用を模索していた。探索者全体の能力底上げを図る一方で、今回の発見が予期せぬ変化の前兆であることも察知していた。LUCの自己強化手段がほとんど存在しない中、環境や特殊金属への依存構造が次なる課題として残された。
二〇一九年 三月十日(日)
日本武道館での密会
2019年3月10日、井部首相は夫人と共に日本武道館で開催されたコンサートに訪れていた。その最中、スーツ姿の男に呼び出され、会場内の控室で駐日大使ハガティと極秘会談を行った。ハガティはタブレットに表示された親書を提示し、日本が異世界と接触している可能性についてアメリカ大統領の憂慮を伝えた。事前手続きのない非公式会談、そして電子媒体による親書提示という異例尽くしの形式が、この会談の異常性を際立たせていた。
日本の対応と原子力施設の異変
日本政府は、3月3日に発生した事件について内閣情報調査室からの報告を受けていたが、他国への報告は行わず静観する姿勢を選んだ。しかし国内では、複数の原子炉において燃料の枯渇による稼働停止という異常事態が発生していた。特に中性子捕捉療法で使用されていたKURを含むいくつかの研究施設で、濃縮ウラン燃料の消失が確認されていた。
アメリカの苦境と電話協議
事態を受け、井部はアメリカ大統領と電話で協議した。表向きは大阪サミットの打ち合わせとされたが、実際には核兵器廃絶を含む「新しい世界の秩序」構想が提案された。会談では、高濃度ウランやプルトニウムといった核兵器の中核物質が失われ、再生産も技術的に困難な状況であることが共有された。
核兵器消失の原因と国際的影響
アメリカ国内では、核兵器の消失はザ・リングやダンジョンによる影響ではないかとする議論が展開されていた。不要物を排除する機能を持つダンジョンが、報復として高濃度ウランのみを選択的に消失させたとの見方も存在した。この結果、相互確証破壊(MAD)理論に基づく核抑止体制は崩壊し、世界は第二次世界大戦前後の軍事的パワーバランスへと逆行した。
ダンジョンと新しい人類の可能性
探索者を中心とする「新人類」が旧来の社会構造に優位を築きつつあるとの分析もなされていた。DFAの研究者がテロの標的となった事件も発生し、Dカードの取得有無による分断が拡大していた。さらに、ダンジョンがWDAによる独立国家を支援しているとの未確認情報も流布し、社会不安の一因となっていた。
アメリカの戦力と安全保障の崩壊
原子力を動力とするアメリカの潜水艦部隊はすべて無力化され、通常動力を採用する他国と比較して著しく戦力を喪失していた。加えて、戦略核兵器の機能停止によってアメリカ主導の安全保障体制は崩壊寸前となり、日本との連携への期待が高まる要因となっていた。
ダンジョン関連の不審な出来事
代々木ダンジョンでは、突如として携帯電話の使用が可能になるという異変が発生した。政府・経済界いずれも事前に情報を得ておらず、関与の可能性は否定された。また、異界言語理解スキルやマイニング能力の登場、さらにヘブンリークスによる情報開示により、ダンジョンの深層攻略が急速に進展した。JDAはマイニング取得者のダンジョン進入を禁止する異例の措置を取ったが、研究成果の保護を名目としたこの対応にも政府関与が疑われていた。
疑念と情報の駆け引き
井部とハガティの会話は、ダンジョンとの接触を巡る疑念と、日本政府による否定姿勢の応酬に終始した。JDAが主導する施策に国家レベルの関与があるとする見方が、アメリカ側には根強く存在していた。また一部では、核兵器の喪失をダンジョンからの攻撃と解釈する声も上がり、安全保障に対する信頼が大きく揺らいでいた。
結末と今後の動き
会談の終盤、ハガティは日本に対する不信感がアメリカ政界内部にも広がっていることを婉曲に示し、世界秩序の再構築に向けた協力を要請した。井部は、週明けの役員会で新たな情報への対応を求められることを予感しながら、会場を後にした。今後は国家安全保障局長を中心に組織が動き出し、アメリカへの情報提供も視野に入れた対応が進められる予定であった。
二〇一九年 三月十一日(月)
第一空挺団への訪問と試験依頼
2019年3月11日、ダンジョン装備研究部の技官・漆原清麻呂は、習志野の第一空挺団を訪問し、以前の協力関係にあった自衛官・君津二尉と再会した。漆原はNATO弾を使用した実験の依頼を目的としており、午後にはJDAスタッフと共に三十二層への派遣が予定されていた。
秘密部署への配属と異様な拠点
同日、成宮ら四名の若手官僚は、省庁の事務所から移転された古い日本家屋に足を踏み入れ、その外観と内部設備との著しいギャップに驚いた。彼らは外務省、財務省、経産省から選抜された人員であり、国家安全保障局に新設された組織へ配属されたばかりであった。内部には最低限の改装が施されていたが、周囲の環境や建物の老朽性に困惑の色を隠せなかった。
新組織の目的と背景の説明
国家安全保障局長の内谷が現れ、組織設立の背景として、1月23日にJDAからダンジョン攻略群へ送られた報告書の内容を挙げた。それによれば、ダンジョンの向こう側に存在する何らかの意図が明らかとなり、それを受けて突貫的に本組織が編成されたという。
核兵器コアのドロップとテロ事件
続いて話題は、代々木ダンジョンの25層で発見されたプルトニウム・ガリウム合金のドロップに移った。このコアはテロリストにより持ち出され、内幸町の劇場で使用されかけたが、SATの出動により事態は未然に防がれた。この事件は、国家安全保障上の重大な脅威と認識された。
ドロップ物質の制限と原子炉停止
JDAは、今後ダンジョンからウラン以上の物質がドロップしないと報告していた。また、KURやJMRなど実験用原子炉の停止と符合する情報もあり、核関連物質の消失が現実のものである可能性が高まっていた。このため、日本が世界の中で唯一、異変を正確に把握しているという状況が成立していた。
核兵器廃絶への外交的可能性と限界
成宮は、日本の立場を生かして核兵器廃絶へと導く外交戦略を提案したが、杉田はこの提案を退け、さらなる異常事態の発生に備えるべきだと主張した。問題の本質は、核兵器を消し去ることができる「神のような存在」の有無と、既に何者かがそれと接触している可能性にあった。
国家か否かを超えた接触方針
相手が国家であるか否かは重要ではなく、まずは接触し関係を築くことが優先されるとされた。外交という枠を超え、個人対個人の交渉が必要であるという認識が共有された。三井は国家承認の要件にこだわったが、杉田はその拘りを否定した。
コンタクト手段と交渉窓口の特定
JDAから提供された情報により、接触手段として「ダンつくちゃん質問箱」という掲示板形式の公開サイトが浮上した。このサイトは一般にも閲覧可能で、投稿にはアクセス制限が設けられていることから、限定的な交渉が可能と判断された。
実験的組織としての役割
このチームには、外務省による通常の外交とは異なる「実験場」としての性格が与えられていた。仮説的な交渉に失敗があったとしても柔軟な対応が許容されており、内谷局長は自由な発想による提案を奨励した。必要に応じて、後段での調整が可能との立場を示していた。
ダンジョンと外交の新領域
交渉対象が「奉仕すること」を目的とする存在である点に関して、杉田は利害の一致を強調し、そこから最大限の利益を引き出すべきと主張した。一方で、村越や三井は、相手の情報の真偽や動機への疑念を示し、慎重な姿勢を崩さなかった。
外務省との住み分けとJDAの影響
本交渉は最後まで本チームが担う方針とされ、既存の外交チャネルは使用されないことが明言された。また、JDAが国交樹立に関する警戒を示し、公式外交を避けるよう助言した経緯も説明された。さらに、JDA内部の特定人物が情報遮断や意思決定に強い影響力を及ぼしていることも示唆された。
コンタクトURLの提示と驚き
最終的に、内谷が提示したURLにより、掲示板形式のサイトを介してダンジョンの向こう側と直接やり取りが始まることになった。これが国家間交渉の出発点になるという事実に、一同は驚きを隠せなかったが、状況を受け入れ、交渉開始に向けた投稿準備へと移行した。
二〇一九年 三月十二日(火)
神楽坂での再会と会食
2019年3月12日、芳村は神楽坂の割烹にて、旧知の保坂と難波、三好と会食を行った。久々の再会に雑談が交わされる中、芳村は銀色のインゴットを提示し、それがただの金属ではなく、ダンジョンでドロップした特殊なアイテムであることを明かした。当初、難波と保坂は懐疑的な反応を見せたが、保坂が〈鑑定〉によってその金属が「ファンタジー金属」と呼ばれる未知の物質であることを認識すると、場の空気は一変した。
未発表金属とその性質
芳村は、この金属が未発表であり、かつ非公開の情報であることを説明した上で、調査への協力を依頼した。保坂は戸惑いを見せたものの、芳村および三好の説得により分析作業の引き受けを決意した。この金属には一時的に知性を向上させる効果があるとされ、保坂自身が〈鑑定〉を通じてINTの数値上昇を実感したことで、関心を深めた。
モノアイ水晶の提示と液体分析結果
続いて保坂は、自ら持参した「水晶:モノアイ」と呼ばれるアイテムを提示し、それに関連する高屈折率の液体について分析結果を説明した。この液体は比誘電率が非常に高く、周波数の上昇に対しても誘電特性を維持するという異常な性質を持っていた。可視光領域においても配向分極が保たれるこの特性は、従来の物理常識を覆すものであり、応用の可能性について言及された。
高機能液体の応用と限界
この液体は純水に対してわずか1%の濃度で溶解可能であり、濃度の変動によって屈折率がほとんど変化しないという特異性が確認された。また、電子レンジ内でも加熱されない可能性が指摘され、ナノレベルの露光装置などへの応用も期待された。ただし、分子構造や作用機序はいまだ不明であり、再合成は困難と見られていた。
溶解条件の提示と今後の展望
三好は、液体の生成方法として、0.37%濃度の塩化ナトリウム水溶液を用いることでモノアイ水晶を液化できることを明かした。ただし、この濃度には高い精度が求められ、わずかな誤差でも結果が変わることが示された。また、この液体は一般的な塩水とは混ざらない性質も併せ持つことが確認された。
会食の終幕と資料の持ち帰り
〈鑑定〉の便利さに感嘆しつつ、保坂と難波は会話を楽しみながら炊き込みご飯を味わった。そして、インゴットと料理を土産として受け取り、店を後にした。研究対象として託されたファンタジー金属および高屈折率液体に関する一連の情報は、今後の分析と新たな発見に大きな影響を及ぼす可能性を秘めていた。
二〇一九年 三月十三日(水)
ファンタジー金属の実体と性質の検証
保坂から送付された資料により、ファンタジー金属は既存の金属または合金で構成されていることが確認された。たとえば、ヒヒイロカネはベリリウム銅、ミスリルは銀、オリハルコンは真鍮、アダマンタイトは超硬合金、ダイリチウムはα石英、アンオブタニウムはチタンに相当していた。ただし、構造や状態には微細な違いがあり、溶融や加工の難易度にも影響を及ぼしていた。
ステータス補正のメカニズムと効果の検証
三好と芳村は、ミスリルなどを素材とした指輪を試作し、ステータスへの影響を測定した。素材の重量が約6.05グラムで効果が発現すること、同一インゴットから切り出した素材では効果が重複しないことが明らかとなった。さらに、複数のインゴットを用いた場合、接触点が体表面上で離れると効果が減衰し、この減衰はLUCの値に依存することが判明した。
指輪製作と試作品の完成
国内規格(JCSおよびJIS)を確認し、19号を基準とした試作品の製作が行われた。三好はハンディバーナーと金切鋏を用いて鍛金的に加工し、芳村も銀板の焼きなましと曲げ加工を試みた。最終的に、シンプルな指輪が完成した。
ファンタジー金属の活用と今後の流通戦略
JDAの斎賀は、ミスリル、ヒヒイロカネ、オリハルコンの指輪がオークションに出品される予定であることを把握した。これらは+2〜+4のステータス上昇効果を持ち、計120個が出品予定であった。とりわけ探索者や政治関係者にとって極めて有用な品と見なされていた。
政治家ステータス公開の影響とJDAへの圧力
政治家のステータス一覧が公開されたことにより、JDAには多くの推薦依頼が集中した。ブートキャンプ枠を巡る政治的圧力が強まり、斎賀は困惑しつつも、状況の背景にテレビ番組の影響を見出していた。三好がSMD試作機に関与していたため、情報拡散の起点として注目された。
ファンタジー金属の公開とJDAの対応方針
ファンタジー金属の詳細について、JDAは公式な公開に慎重な姿勢を維持した。Dパワーズの知的財産に関わる情報であり、無断の開示はトラブルの要因となるため、オークション終了までは非公開を貫く方針が確認された。
国家機関の動向と新組織の設立
ダンジョンとの接触が現実的な問題となったことを受け、国家安全保障局内に「D交流準備室」が新設される見通しとなった。既存の探索者の協力を得ることも視野に入れ、JDAでは情報整理と体制整備が急がれていた。
ガレージでの作業とリングの完成
芳村は事務所のガレージで純銀を用いたリングを製作していた。作業は順調に進み、形状調整、カット、ろう付けを経て予定通りに完成した。酸化膜除去にはフラックスを用いたが、ろう材の溶解にはハンディバーナーの調整にやや手間取った。
三好の登場と指摘
作業が終わるころ、三好がガレージに現れ、リングを見て「アートしてますね」と冗談を口にした。表面のこぼれや歪みはあったが、初作品としては上出来であった。外はすでに暗くなり、芳村は一つ一つの手作業に時間を要することを実感していた。
手作りリングとプレゼントの話
三好は、小ロット鋳造に対応する業者を紹介し、ハードワックスやゴム型の持ち込みで2営業日で納品されると説明した。また、手作りリングをプレゼントに使うことを提案したが、芳村はそれが重すぎると感じ、バレンタインのお返しには不向きと考えた。
指輪製作の拡大と適用対象の検討
三好は、より多くの人間に指輪を作るべきだと提案した。これに対し芳村は、斎藤はアイスレムの訓練によってすでに十分に強化されているため不要ではないかと指摘した。三好は別のステータスを上げることを提案し、STRやVITの重要性に言及した。
ヒヒイロカネの使用と加工の検討
三好はアダマンタイトの加工困難性を話題にし、芳村はその硬度と融点の高さから加工は実質不可能と判断した。その後、三好がヒヒイロカネによる製作を提案した。
ベリリウム銅合金の安全性確認
三好が取り出したヒヒイロカネはベリリウム銅25合金であると説明された。芳村は安全性に懸念を示し、アレルギー反応や防護措置の必要性について三好と確認し合った。
作業の継続とリングの完成
芳村は、ベリリウム銅合金を使用してさらに2つのリングを製作した。作業は夜遅くまで続いたが、リングは無事完成し、磨きも施された。三好は指輪ケースを差し出し、プレゼントの準備が整ったことを伝えた。
軽口とやり取りの余韻
三好は芳村の処女作を「ありがたくいただく」と述べ、着用している自身のリングを見せながら冗談を交えた。その後は菓子の話題へ移り、芳村はマカロンを選ぶと述べたが、三好はマシュマロの意味合いに話を絡めたため、芳村は返礼の内容に頭を悩ませることとなった。
二〇一九年 三月十四日(木)
ホワイトデーの来訪者とプレゼントの準備
この日、斎藤は三好の誘いを受け、芳村のもとを訪れた。芳村は午前中に新宿伊勢丹でマカロンを購入し、バレンタインのお返しとして準備していた。斎藤は世界選手権リカーブ部門の三次選考会に向けた練習の合間に立ち寄っており、三好の手配によってプレゼントの演出も用意されていた。
御劔の合流と「ちからのゆびわ」の贈呈
午後からは御劔が半休を取得して合流し、斎藤とともにマカロン入りの袋を受け取った。袋の中にはファンタジー金属製の手作りリングが入っており、「ちからのゆびわ」としてSTR+6の効果を持つことが明かされた。当初はその性質が誤解を招いたが、贈り物としての意味と効果が正確に伝えられた。
指輪の効果と反応
斎藤と御劔はリングを着用し、その効果に満足の様子を見せた。斎藤のSTRは15、御劔は10であり、+6の補正は握力などの身体能力に明確な変化をもたらすと期待された。なお、ベリリウム銅合金の使用に伴う金属アレルギーの可能性についても注意喚起が行われ、両名は理解を示した。
ダンジョンアイテムとしての課題
加工されたファンタジー金属には、従来のダンジョンアイテムのように名称が自動表示される機能が存在せず、外見から効果を判別することが困難であった。現時点ではSMDによるステータス測定が唯一の検証手段であり、将来的には偽装品による詐欺も懸念されていた。販売時には測定結果の提示が不可欠であり、SMDの供給が追いついていない現状も課題とされていた。
商品化の見込みと市場の反応
オークション出品を見据えた取り組みが進行中であり、指輪の性能やデザインから高い需要が見込まれていた。特にINT補正のあるリングは、学業成就のお守りとしての用途も検討され、Dカード未所持者への効果検証が次の課題とされた。若年層向けのアクセサリーとしての訴求力も高く、贈答品としての展開が議論された。
銀座「九丁目」の職人との接触計画
アクセサリー製作に関し、斎藤が紹介を申し出た職人は、銀座九丁目と呼ばれる無番地地帯に工房を構えていた。その住所の由来や区画上の曖昧さが説明され、趣味性の強い職人であることから、報酬としてファンタジー金属の提供が求められる可能性があると見られた。今後の製作依頼に向け、事前確認が行われる予定となった。
代々木ダンジョンへの同行と懸念
斎藤と御劔は代々木ダンジョンでの実地練習を希望し、芳村も同行することとなった。有名人としての立場によりステータスが公開される可能性を考慮し、芳村が壁役として付き添う判断が下された。
オークションの反響と未来への展望
事務所に戻った芳村は、三好とともにオークション掲示板の反応を確認した。「ちからのゆびわ」はレトロゲームを想起させる名称も相まって注目を集めており、話題性を獲得していた。ファンタジー金属の応用可能性として、危険度の低い層での娯楽的な活用や、転移魔法陣の設置に関する議論も浮上していた。
最後に気付かれなかった存在
この一連のやり取りを、梁の上から誰かが静かに見守っていたが、芳村らは最後までその存在に気づくことはなかった。
二〇一九年 三月十五日(金)
新型弾丸の性能試験
伊織が持ち込んだ新型弾丸の性能確認のため、三十二層にて海馬が狙撃試験を実施した。使用銃器はM24狙撃銃で、対象はセーフエリア付近に出現したオルトロス(仮)であった。187メートルの距離から放たれた弾丸は正確に命中し、標的は一発で黒い光に還元された。過去には同種のモンスターを倒すために複数名と魔法を要したことから、この結果は異常と受け止められた。
弾丸の特性と波紋
この成果により、タイプA弾は攻撃特化型であることが実証された。他の試験用弾薬にも特殊効果が存在する可能性が指摘されていた。隊員の間では、これらの弾薬が量産されれば、通常部隊によるダンジョン展開も現実味を帯びるとの期待が広がった。海馬は冗談交じりに関連企業の株価上昇を予想したが、実際に旭精機工業の株価は後日高騰を記録した。
ポーターの耐久試験と装備基準
同時期、朝霞訓練場ではK2HF開発のポーターが銃弾耐久試験を受けていた。試験は国内装備基準に準拠した厳しい内容で、メーカー側からは過剰試験およびコスト高騰に対する懸念が示された。装備庁の漆原は現場にてチームIからの急報を受け、新型弾に関する概要を聴取した。しかし、この試験は正式な予算措置もなく、個人判断に基づくものであり、今後の量産には多数の課題が残されていた。
ファンタジー金属と国家的関心
その後、JDAの斎賀は防衛省関係者・寺沢の訪問を受けた。寺沢の目的は、ファンタジー金属に関する情報公開の中止要請であった。背景には、新型弾の素材がファンタジー金属である可能性があり、その軍事的価値の高さを危惧する動きがあった。現時点では日本以外では入手不能な物資であることから、戦略的優位性を守るための情報統制が求められていた。
指輪と〈マイニング〉を巡る駆け引き
ファンタジー金属製の指輪が大量にドロップしたことで、オークションは注目を集め、指輪によるステータス補正効果も大きな関心を呼んでいた。寺沢は情報公開の抑制に加え、JDAが保有する〈マイニング〉スキルの譲渡も求めた。斎賀は適価での譲渡を認めたが、その代償としてDパワーズが保有するファンタジー金属に関する情報の提供を条件に提示した。
ダンジョン戦略と国際的な思惑
寺沢の発言からは、二十四層における活動で他国より先行したい意図が明らかとなった。ファンタジー金属や新型弾はすでに戦略物資と位置付けられており、日本がその主導権を維持するには、関連情報の非公開方針と物資の国内独占が必須とされた。両者の協議は終了し、政治的駆け引きがダンジョン戦略における新たな局面を形成する兆しを示していた。
二〇一九年 三月十六日(土)
〈マイニング〉の引き出しと使用者の選定
JDAに対して〈マイニング〉の引き出し要請が行われた背景には、六条の代替として新たな使用者が決定された可能性があった。六条は当初、鉱物未確定層の調査に起用されていたが、現在ではファンタジー金属の取得が主目的となっており、適任者の再選定が進行していると見られた。
銃弾素材とステータス効果の検証
漆原が持ち込んだ五種の試作弾を三好が分析した結果、銃弾AにはSTR+36の効果が確認された。これは+6の素材を6個使用して作られており、三好が保有する一般的な素材と比較しても、格段に優れた性能を示していた。なお、ステータス効果は使用者本人には及ばず、武器の攻撃力に限定される形で現れていた。
ステータス弾の戦術的効果
STR弾は攻撃力の増強に直結し、VITなど他のステータスに対応する弾は、命中時に対象の該当能力を一時的に打ち消す効果を有していた。VIT弾の効果下では、通常の弾丸であっても高いダメージを与えることが可能であり、これらの弾薬はダンジョン戦術の常識を塗り替える潜在性を示していた。
素材入手経路と問い合わせ対応
試験結果を受け、ダンジョン攻略群より素材の入手経路に関する正式な問い合わせが三好に届いた。試験依頼時点では守秘契約を締結しておらず、情報開示を求められるのは当然の流れであった。そのため、今後の対処として〈マイニング〉スキルの削除という選択肢が検討された。
武器への応用可能性と理論的考察
素材に付与されたステータスが武器に応用された場合の効果について議論が交わされた。弾丸では確実に効果が現れるのに対し、武器ではアクセサリー扱いとなり効果の発現が限定的である可能性があると考察された。また、インゴット使用量と効果の相関、大型弾への応用、通常金属との合金化といった発展的な可能性も話題となった。
合金実験と試験目的
ファンタジー金属と真鍮の合金を用いた試験が依頼された。目的は、ウケモチ・システムのケース素材としての適性を確認することであり、比較的単純な合金による耐スライム性能の評価が求められた。対象金属には+4のオリハルコンが提供された。
探索進展と背後の意図に対する疑念
ダンジョン探索が急速に進展する状況に対し、背後にある意図への懸念が生じていた。探索の進行を促すような要素が立て続けに出現しており、〈異界言語理解〉や〈メイキング〉、ファンタジー金属などが連続して登場したことから、何らかの意思によって探索が誘導されている可能性が推測された。
ダンジョンの維持エネルギーに関する疑問
ダンジョンを維持するためのエネルギー源についても問題が提起された。地球上で資源の大規模な消失が見られない以上、外部供給や宇宙規模の変換装置の存在が仮説として挙げられたが、観測情報が存在しないことから、むしろ目に見えない資源枯渇の前兆とする見方もあった。
残された銃弾と法的問題の発生
一連の作業が終了した後、漆原が銃弾を1発残したまま退去したことで、銃砲刀剣類所持等取締法違反の懸念が浮上した。三好は急ぎ連絡を取り、違法所持とならぬよう事態の収拾に努めた。
二〇一九年 三月十七日(日)
ステータスステータス公開の波紋と政界への影響
防衛大学の卒業式に出席した首相は、官邸へ戻るヘリコプター内で党選対委員長・甘利とともに、公開された政治家のステータスリストについて意見を交わした。ステータス公開に対しては、閉鎖や禁止を求める声もあったが、これを正当化する法的根拠は存在せず、訴訟対応も現実的な選択肢とは言えなかった。首相や甘利のステータスは平均的で問題はなかったが、多くの議員が低ステータスとしてリストに記載されていた。
選挙戦略への深刻な影響
高ステータスの候補者が無名であっても注目を集める現状は、世襲制や組織票に依存してきた与党にとって明らかな不利となった。比例名簿制度や地方組織との調整もあり、低ステータスの候補を容易に排除することは難しく、参院選のみならず将来的な衆院選においても、公認方針の抜本的見直しが急務となっていた。
〈ちえのゆびわ〉オークションへの注目
Dパワーズが主催するスキルオーブ・オークションサイトにおいて、INT上昇効果を持つ〈ちえのゆびわ〉の出品が確認された。このアイテムは、ステータス再計測や逆転によってイメージの改善を狙う議員にとって極めて価値が高かった。出品数は限られており、匿名入札制が採用され、最低落札価格のみが公開されていた。
官房報償費による対応と政治的な葛藤
首相官邸は、〈ちえのゆびわ〉の落札に向けて官房報償費や外務省報償費の使用を検討し、選挙対策の一環として全力での入札を決断した。野党による追及も予測されたが、従来の答弁で切り抜ける方針が示され、問題の露呈は回避できるとの見通しが語られた。
公開の意図と変化への認識
ステータス公開の背後には、組織の硬直化の打破や高齢世代の排除、新たな秩序形成といった狙いも推測されたが、愉快犯による単独行動という可能性も否定されなかった。甘利は、この状況を時代の流れと認識し、冷静に受け入れる姿勢を崩さなかった。
結論の先送りと政治的混迷
多数の低ステータス議員に対する即時対応は困難とされ、短期間での問題解決は見込めないとの認識が共有された。首相と甘利は問題の重大性を改めて認識しながら、官邸へと到着した。
二〇一九年 三月二十日(水)
〈ちえのゆびわ〉の異常な高騰
三好と芳村が確認したオークションにおいて、INTを上昇させる〈ちえのゆびわ〉の価格が二億円を超えていた。当初はブートキャンプ一回分に相当すると見積もられていたが、参議院選挙を控えた需要の急増により、価格は著しく上昇した。議員の給与・諸手当・政党助成金を合算しても六年間の収入は約四億円であり、その半分を一つの指輪に投じる行為には、合理性ではなく失われたプライドの回復を目的とする心理が作用していると考えられた。
入札者の目的と市場形成
この指輪は、測定時に装着するだけで効果が発揮されるため、INTの低さを一時的に補いたい政治家や芸能人、あるいはイメージコンサルタント業者が入札に参加している可能性が示唆された。コンサルタントが指輪を貸与するビジネスモデルでも十分な利益が見込まれ、こうした背景からアイテム市場の形成が進行している様子が観察された。
自衛隊による情報非公開の可能性
ファンタジー金属の効果や〈ちえのゆびわ〉の製造手段に関して、JDAからの情報公開がなされていない状況について、芳村と三好は、自衛隊による情報の独占が意図されている可能性を推測した。これは、キヨミーが製作した銃弾の性能が関係していると考えられ、防衛省内部に波及した結果、情報が外部に出ない構造が形成されたものと推察された。
攻略支援に対する芳村の姿勢
仮に自衛隊がファンタジー金属を用いて独自にダンジョン攻略を進めるとしても、芳村はそれを妨げる意思はなく、協力的な立場を取る方針を明確にした。現時点で正式な情報秘匿の要請は存在せず、対立を避けるためにも状況を静観することが最善と判断された。三好は既に新たなアイテムの開発構想に着手していた。
スライム探索への回帰と日常の対話
芳村は、久方ぶりにスライムからスキルオーブを採取する探索へと戻ることを決意した。ここ最近は各種事件への対応に追われていたため、採取活動は中断されていたが、ようやく日常的な探索の再開が可能となった。三好との軽妙なやり取りを交わした後、芳村はその場を離れ、再び探索の常態へと歩み出した。
二〇一九年 三月二十二日(金)
杉田の独断的な接触試み
この日、村越芽衣が部屋に戻ると、杉田がダンつくちゃん質問箱への接触を図るメッセージを作成中であった。彼は登録アカウントに備わった限定機能を用い、通常の閲覧手段では表示されない形式で投稿しようとしていた。内容は渋谷での日曜デートを提案するもので、私的かつ軽率な内容に村越は呆れ、投稿を止めようとした。しかし、杉田は聞き入れず、村越の隙を突いてメッセージを送信した。
成宮の介入と状況の悪化
その最中、成宮が部屋に入室した。状況を誤解した成宮に対し、村越は必死に事情を説明したが、すでに杉田のメッセージは送信済みであった。確認の結果、投稿にはプライベート設定が施されておらず、短時間ながら一般公開されていたことが判明した。これを受け、成宮は村越とともに緊急会議を開き、事後対応を協議した。
想定外の反応と事態収拾の模索
投稿は即座にダウンボートが殺到し、外部に内容が流出したことが確定した。成宮は事態の深刻さを認識したが、杉田は依然として「単なるデートの誘いに過ぎない」と楽観的な態度を崩さなかった。成宮と村越は、実際に接触が成立した場合に備え、現地での臨機応変な対応を取ることを決定した。
想像を超えた交渉相手の正体
三人は、相手の正体や好みが一切不明な状況下で、渋谷での行動計画を検討した。村越は、そもそも相手が人間の姿をしているのかすら疑問視し、混乱発生の可能性を警告した。これに対し杉田は、現代人は異常な存在を目撃しても撮影目的で近づく傾向があると述べた。最終的に、現地対応の柔軟性が必要との結論に至った。
杉田の本音と対応の限界
杉田は、「美少女以外とは付き合わない」と冗談めかして述べ、写真を要求しなかったことを悔やんだ。この発言により、成宮は杉田の真意が本当にデート目的であったのではないかと疑念を深め、頭を抱えることとなった。軽率な一人の行動によって発生した今回の騒動は、未確定要素の多さから即応策の限界に直面しつつ、収束の兆しを見せぬまま続いていた。
二〇一九年 三月二十三日(土)
イザベラによるデヴィッドの救出作戦
銀座の中級ホテル「メルキュール」に到着したイザベラは、監視下に置かれたデヴィッドとの接触を図るため、計画どおりに行動を開始した。フランス大使館の意向により、フランス資本のホテルが選定されていた。イザベラはカードキー不要の客室フロアに移動し、シグナルで到着を通知した。時間を稼ぐため、デヴィッドは護衛の一人に東急プラザでの買い出しを依頼し、合図を送った。
ナイトメアの能力による護衛の無力化
デヴィッドの合図から数分後、イザベラはノックの後に現れた護衛に〈ナイトメア〉の能力を行使し、夢に引き込んで無力化した。デヴィッドはその護衛を部屋に引きずり込み、イザベラを迎え入れた。〈ナイトメア〉は稀にしか使用されない特殊能力であり、魔結晶によって効果が増幅されていた。
脱出の実行と別れの会話
デヴィッドはイザベラから変装用具を受け取り、15分ほどで支度を整えた。ホテルの構造と緩いセキュリティを利用し、二人は監視カメラに映らずにエントランスから外に出た。道中、デヴィッドはイザベラに再度の協力を要請し、マリアンヌの保護も依頼した。イザベラは「金に釣られたのよ」と皮肉を言いつつも、車に乗ってその場を後にした。
渋谷でのデート承諾の衝撃
一方、前日に投稿された杉田の「渋谷で会おう」という誘いに対し、「いいよー」という返信が届いた。杉田は即座にガッツポーズを取り、準備のため職場を飛び出した。この様子を見た成宮らは事情を理解できず、混乱しながら対応策の検討に追われた。対象が人類と異なる存在であることから、公共の場での接触には重大なリスクが伴っていた。
顕現条件と魔結晶の探索
対象が物理的に出現するための魔結晶が渋谷周辺に存在する可能性が議論された。短大や大学、企業の研究施設、さらには金融ファンドの倉庫が候補として挙げられ、ダンつくちゃんが顕現可能な範囲にそれらが含まれる可能性が示唆された。
接触の目的と警戒の必要性
質問箱でのやりとりから、ダンつくちゃんが人間の常識とは異なる感覚を持っていることがうかがえた。掲示板で伝達できる内容をあえて対面で伝えようとする意図には、監視への対抗や別の思惑が含まれている可能性があった。
現地視察の計画と職員たちの姿勢
三好と語り合う中で、鳴瀬もまた事態の深刻さを認識し、当日渋谷での動向を確認すべきと判断した。公式な立場では何もできないことから、彼らは一般人を装って現地で事態を見守る決意を固めた。
圧倒的なアーチェリーの成績
同日、斎藤涼子による世界選手権三次選考会の結果が報告された。初日に1440点の満点を記録し、すべてがインナーテンという前例のない精度であった。二日目と三日目も同様の結果を出し、周囲の選手たちは動揺し集中力を失った。
競技の存続に対する危惧
強化部長は、これほどの実力を持つ選手の存在が競技の意義を揺るがす可能性を憂慮した。斎藤涼子の影響により、七十メートルラウンドという競技形式が終焉を迎えるおそれがあるとされ、暗くなる室内で関係者たちは言葉を失った。
二〇一九年 三月二十四日(日)
渋谷での対面に向けた準備と緊張
渋谷の朝、花束を携えた杉田は意気揚々としていたが、徹夜で対策を練った他の三人は疲弊していた。交渉対象との初接触に備え、政府機関や諜報機関の存在、通信内容の漏洩可能性などが懸念され、警備体制の脆弱さが指摘された。不確かな状況の中、混雑する渋谷の中心部で事態を見守る覚悟が固められた。
世界各国の諜報機関の集結
アメリカ、フランス、アジア圏諸国の情報機関が渋谷に潜伏し、日本政府の掲示板での投稿およびその反応から、接触の予兆を探っていた。各国は、日本との情報戦や交渉の足掛かりを得るため、顕現するであろう存在の確保を至上命題として動いていた。
顕現の瞬間と渋谷の異変
午前十時、スクランブル交差点で鐘の音が響き、周囲の静寂とカラスの集結が不穏な空気を演出していた。人々がスマートフォンを構える中、空間に裂け目が生じ、タイラー博士と少女の姿が出現した。群衆は騒然とし、予想を超えた展開に各組織が動き出した。
襲撃の発生と混乱の拡大
突如としてスモークグレネードが投げ込まれ、銃を持った襲撃者が現れた。日本人と思しき護衛らがタイラー博士を守るべく行動し、銃撃戦が発生した。芳村は咄嗟に少女を抱えて渋谷駅周辺からの脱出を図り、混乱の中、複数の情報機関が追跡に乗り出した。
逃走と高層ビルへの退避
芳村と三好は少女を連れて工事中のビルへ逃げ込み、仮設エレベーターで最上階へ移動した。だが、フランスの探索者デヴィッドとその仲間もこれを追跡し、屋上で対峙することとなった。芳村は応戦の意思を見せつつ、少女との距離を守ろうとした。
謎めいたデヴィッドの目的
デヴィッドは少女を「使徒」と呼び、神との邂逅を求める狂信的な姿勢を示した。彼のステータスは感情によって変動しており、正確な能力が掴めないまま緊張が高まった。フランス当局の追跡者たちが屋上に到着し、事態は一触即発となった。
少女の行動と予期せぬ結末
騒動のさなか、少女は芳村に「よく分かった」「またね」と言い残し、その場から姿を消した。諜報機関は彼女の行動に強い関心を示したが、正体や目的は依然不明であった。
騒動の余波と現場の困惑
残された関係者は、少女の「お願い」の意味を測りかねつつ、収拾のつかない状況に対応していた。杉田は“デート”が無意味に終わったことに落胆し、D交流準備室の面々は、それぞれの立場から責任や情報流出経路の反省に取り組んだ。
今後への不安と対応の模索
混乱の渦中で、渋谷駅前に現れた西洋人風の男の正体、彼を追う諜報員の動向、少女との関係性など、事態は多くの謎を残したまま進行していた。現場に居合わせた者たちは、事後報告と対応に向けて行動を開始せざるを得なかった。
エピローグ
後日譚
数学の授業中の異変
午後一の数学の授業中、生徒たちは春の陽気と終業前の緩んだ空気に包まれていた。生徒は眠気に抗いながらも、意識が曖昧な状態にあった。その最中、突然奇妙な声を発し、教室内の生徒たちは一様に驚愕した。
教室内の発光現象
驚きの原因は、数学教師の身体が神々しく淡く光り始めたことであった。教師は年齢も若く、生徒から一定の人気を得ていた人物であり、通常とは異なるその発光により、教室はざわついた。さらに、生徒たち自身の身体も同様に輝いており、後方の席からはその様子が目撃されていた。
光の収束とカードの出現
混乱の中、教師が黒板から振り返り、生徒たちの様子を見て驚き、手にしていたチョークを取り落とした。その音が響いた瞬間、光は各人の前に集まり、最終的にカードの形を成して机の上に落ちた。
全国規模の奇跡の発生
この出来事は教室内に限られたものではなく、日本国籍を持つすべての人々に等しく訪れた現象であり、奇跡として記録されるに値する規模であった。







その他フィクション

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