どんな本?
『Dジェネシス ダンジョンが出来て3年』は、之貫紀 氏による日本のライトノベル。
この物語は、世界各地に「ダンジョン」が出現してから3年後の世界を描いている。
主人公の芳村は、元々は社畜として働いていたが、ある偶然からダンジョン探索者の世界ランキング1位になる。
彼は退職し、ダンジョンに潜ることを決意するが、手に入れた未知のスキルに振り回され、ダンジョン攻略の最前線に関わることになる。
この作品は、投稿小説サイト「小説家になろう」で2019年6月1日から投稿が開始され、その後KADOKAWAのエンターブレインレーベルより2020年2月から刊行されている。
また、『月刊コンプエース』で平未夜 氏の作画により漫画化され、連載が開始されている。
読んだ本のタイトル
Dジェネシス ダンジョンが出来て3年 08
著者:之貫紀 氏
イラスト:ttl 氏
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あらすじ・内容
神聖な木を守り 森を支配する偉大な王 VS ダンジョン初心者な研究員!
代々木ダンジョンの21層で不思議なオレンジを手に入れたDパワーズ。
Dジェネシス ダンジョンが出来て3年 08
研究者・佐山は、その調査のためにDパワーズに同行を依頼する。
再び訪れた21層で、森の奥にあった特別な木の枝を折ってしまった佐山は、図らずもエリアボスの標的となってしまう!
佐山を助けるべく芳村と三好が考えた方法とは――
備忘録多めの感想
表紙は四角い人こと斎賀課長と、Dパワーズ専任の鳴瀬女史。
場所はJDAのオフィス?
シーンは、電話は三好からかかって来て斎賀課長が顰めっ面してるのかな?
鳴瀬姉妹で彼女の方が姉ってのが意外だった。
女優の斎藤涼子が新しいドラマの役作りためにピアノを学ぶ事となった。
彼女は音大の准教授、中路郁子にピアノの基本を学が、楽譜を読めないにも関わらず、見た演奏を完璧にコピーする特異な才能を発揮。
ただ、ペダルを踏んでる所を見てなかったので何か違和感がある。
それでも、一回演奏する姿を見ただけでミスした所まで完全にコピーしてしまった。
ピアノを弾くために一所懸命やっていた中路からしたら、斎藤という存在が恐ろしく感じてしまった。
一方で、Dパワーズはダンジョンで収穫したオレンジの調査を農研機構にお願いしたら。
調べる者によって調査結果が変わってしまう。
再現性のない検証に郷をにやした農研機構は、ダンジョンにオレンジを回収するために。
農研機構の研究者、佐山が農研機構から派遣される事となった。
彼を連れてオレンジを発見した21階層まで護衛をしながら潜って欲しいと依頼され。
その佐山と契約を結ぼうしたが、Dパワーズの依頼料が異様に高額で。
さらに守秘義務の金額がバカにならないほど高かった。
潤沢な予算が無い機構が依頼を取り下げようとした時。
WDAのアーガイル博士が乱入して来て、彼の提案により代金をアーガイル博士が持つ事で21階層までの護衛依頼が決まる。
そして、Dパワーズ、農研機構の佐山。
WDAのアーガイル博士とその秘書のシルクリーと潜るのだが、、
アルスルズが自動的にモンスターを狩るため、ピクニックのような気軽なダンジョンウォークとなってしまった。
そんな状態で、Dパワーズとそのメンバーたちは、ダンジョンの8層で豚串を購入し、10層でカヴァスたちの活動に注目しながらダンジョン内を気軽に進む。
また、代々木ダンジョンの18層が観光地化していた。
ここでアーガイル博士とシルクリーが記念撮影を楽しんでいたりもする。
そうして21層に到達し、湿地帯にある美しい風景を楽しみながら釣りをしたりと観光地のようにバカンスをする。
佐山はオレンジの枝以外にも好奇心旺盛に彼方此方調べ回ってダンジョンから地上に帰還して依頼は終わる。
そして、佐山がダンジョン内で採取したオレンジの木が一夜にして巨木に成長し、チェーンソーで切っても再生(リポップ)する現象が起こる。
この現象は農研機構やダンジョン庁の関心を集め、ダンジョン種による侵略行為としての扱いが議論される。
つくば市で魔結晶が消失する事件が起こり、近所の農家のミカンが季節外れに実り。
収穫するとリポップする事も確認された。
その現象に、ダンジョン庁や農水省の職員達が動き出す。
ダンジョン庁の職員、名塚なつかと農水省の三橋は、この問題に対処するために現地を訪れ。
彼らは食品衛生法上では扱いが難しいこの現象に対し、原発事故時の食品出荷制限のようなフレームで処理する案を有力視していた。
最終的には雅尊みかん園に自粛要請を行い、収穫禁止を求め。
名塚は三谷に、みかんの収穫が魔結晶の消失と関連があることを説明し、収穫続行が窃盗の容疑になる可能性があると警告した。
農研機構の佐山は、異常なみかんの枝について相談しにDパワーズの事務所を訪れた。
接ぎ木された枝が日本中に配られ、大量の実を短時間で生産する可能性があり、京都の木津川で魔結晶が消失したことが判明。
これが農業や経済に大きな影響を与える可能性があることが話され、どのように対応すべきかが議論される。
ダンジョン管理課は、セーフエリアと大学入試の二次試験に関連する事務で忙しく動いており、黒いモンスターに関する多くの通報を受けたが、Dパワーズが21階層に向かっていると知る、斎賀課長は黒い影は大きい犬だと言い張り、混乱を回避しようとする。
アルスルズが世間にデビュー!
Dパワーズ一行は、ダンジョンの十八層に到達し、佐山が森の王との最終戦に臨む。
彼は森の王との一騎打ちに備え、三好が設置した兵器「桃ちゃん」という装置を使用して森の王の動きを制限しようとする。
佐山は緊張しながらも、森の王を足止めするためにリモコンを操作し、計画通りに行動する。
戦いが進む中、佐山はRPG-7という武器を使用し、森の王にダメージを与えることに成功。
しかし、森の王は頑強で、佐山は限界まで追い詰められる。
その緊迫した状況の中、佐山は意を決して、最後のリモコンを押し、森の王を黒い光に還元した。
この勝利により、「Rex Mortuus Est, Vivat Rex(王は死んだ、王に栄あれ)」という言葉が響き渡り、新たなる王の誕生を告げた。
佐山は新しい王として認められ、彼の魂は森を守る存在となる。
最後に、彼がこれからどのような生活を送るのか、彼の行く先が新たな森となるのかという疑問が提起され、物語は終わる。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察・解説
斎藤涼子の才能
本作における「斎藤涼子の才能」は、ダンジョン探索によるステータスの向上が、単なる戦闘や身体能力の向上にとどまらず、芸術や芸能の分野においても常識を覆す超人的な結果をもたらすことを示す象徴的なエピソードである。その異常な才能の開花と、それがもたらす波紋について、以下のポイントに整理して解説する。
ピアノ未経験からの完全コピー
新作ドラマでピアニストの卵を演じることになった斎藤涼子は、役作りの所作を学ぶために音大の中路郁子准教授の元を訪れる。彼女はピアノに触れた経験すらなく、楽譜も読めない完全な素人であった。しかし、以下のような常識外れの能力を発揮する。
- 手本として弾かれたショパンのエチュード(作品10-4)の運指や姿勢を一度見ただけで、ミスタッチまで含めて完璧に記憶し、そのまま再現した。
- ペダルの操作を映像で確認し、即座に習熟した。
- 晩年のホロヴィッツの映像を見ただけで、その特殊な奏法すらも一瞬でコピーし、高速で弾いてもテンポを乱さずに演奏した。
才能の正体:ステータスによる圧倒的な情報処理と再現力
この信じがたい才能の正体は、彼女が芳村や御劔遙とともにダンジョンでスライムを大量討伐し、ヘルハウンド(アイスレム)との過酷な特訓を経たことで得た高いステータスにある。芳村たちの分析によれば、そのメカニズムは以下のように推測されている。
- AGI(素早さ)により、相手の動作を完全に視覚で捉える。
- INT(知力)により、その動きを解析して記憶する。
- DEX(器用さ)により、自らの肉体で正確に再現する。
これは、台本を一度で覚え、思い通りに演技ができるようになった能力の延長線上にあった。
専門家の戦慄と芸術界への脅威
中路准教授は、音楽への深い理解や長年の修練がなくとも、映像を見るだけで歴史的な超一流プレイヤーの演奏を完璧に再現できる彼女の姿に戦慄を覚える。
- 彼女が本格的にピアニストになれば、完璧なコピーに自身の容姿やアレンジが加わり、コンクールを荒らし回る異質なヴィルトゥオーソ(名手)になるだろうと危惧した。
- ダンジョンで鍛えられた人間が芸術界をも席巻する未来に、強い恐れを抱いた。
- 実際に、涼子が横浜のストリートピアノでその腕前を披露した際には、通行人が全員足を止め、「往年のホロヴィッツのアンコールか」と驚愕するほどの騒ぎを引き起こした。
あっけらかんとした自己受容と社会への影響
涼子自身は、この異常な能力の向上に最初は「訳が分からなすぎて気持ち悪い」と戸惑い、芳村の関与を疑った。しかし、芳村からステータスの影響であることを示唆されると、最終的には「たったあれだけでこうなれたんだから、実は私には才能があったってことで!」と、あっけらかんと受け入れるサバサバした性格を見せる。
この彼女の規格外の才能開花は、社会へ以下のような多大な影響を与えた。
- 同時期にニューヨークのファッション界で「服が歩いているようだ」と絶賛された御劔遙の活躍とともに、「Dパワーズのブートキャンプの成果」として世間に認識されることになった。
- スポーツ界だけでなく芸能界やモデル業界にまで、ダンジョン・トレーニングに対する異常な需要と熱狂を巻き起こす大きな要因となった。
まとめ
斎藤涼子の超人的なピアノ演奏能力は、ダンジョン探索によって得られたステータスがもたらした成果である。彼女の圧倒的な再現力は専門家を驚愕させ、芸術界に大きな衝撃を与えた。この出来事は、御劔遙の活躍とともに「Dパワーズのブートキャンプ」の驚異的な効果を世に示すこととなり、社会全体におけるダンジョン・トレーニングへの需要を爆発的に高める結果となった。
ダンジョン産作物
本作におけるダンジョン産作物は、人類の食糧危機を根本から解決しうる奇跡の福音であると同時に、生態系や既存の経済システム、さらには物理法則すらも破壊しかねないパンドラの箱として描かれている。その驚異的な特性と、それが社会に与えた影響について、いくつかのポイントに整理して解説する。
無限のリポップとウケモチ・システム
代々木ダンジョンの二層で発見された小麦や、二十一層の未踏エリアで発見されたオレンジ(せとか)などの作物は、一度収穫しても数十秒という極めて短時間で無限にリポップ(再出現)するという特性を持っている。この特性を利用して考案されたのがウケモチ・システムである。
- わずか1アールの面積で年間約3万1千トンもの小麦を生産できるこのシステムは、FAO(国連食糧農業機関)の高官アンブローズらに世界の貧困を改善する特効薬として熱狂的に支持された。
- しかし同時に、消費地で無限に食料が生産されるようになれば、既存の巨大農場や穀物流通網、種子を支配するバイオメジャーのビジネスモデルを根底から無価値にする危険性も孕んでいる。
DNA鑑定の混乱と遅延評価
二十一層で採取されたオレンジのDNAを農研機構で鑑定した結果、分子生物学の常識を覆す異常な現象が確認された。
- 鑑定する観測者によって、せとか、天草、清見とDNAの同定結果が変わってしまった。
- 芳村と三好はこれを、ダンジョンのシステムであるDファクターによる遅延評価であると推測した。
- 最初から厳密な分子構造を持っているのではなく、観測されて評価を受ける瞬間に初めてその詳細が決定されるという、量子力学の多世界解釈のような現象がマクロな食物レベルで起きていると考えられた。
Dカードの強制取得と社会の分断
さらにWDAのネイサン・アーガイル博士によって、ダンジョン産食物を摂取すると、Dカードを持たない一般人でもDカードを取得してしまうという衝撃的な副作用の可能性が明かされた。
- これを人類への福音と捉えるか、異界の食物による侵略や同化と捉えるかで社会的な評価は大きく分かれている。
- 作中では、この不安や忌避感をバイオメジャーや移民排斥団体などがプロパガンダとして利用している。
- その結果、ダンジョン産作物に対する激しいネガティブキャンペーン(排斥運動)が各地で起き始めている。
地上への魔法の汚染と市場崩壊の危機
最も恐ろしい事態となったのが、地上での栽培実験に伴う魔法の汚染である。農研機構の佐山が二十一層のエリアボスである森の王が守護する特別な木から枝を持ち帰り、つくばで温州みかんに接ぎ木した。その結果、その木は一夜にして巨木化し、瞬時に開花と結実を果たした。
- 三好の鑑定により、この木がアウレウス・アルボル(黄金の木)と呼ばれる神話的な存在であることが判明した。
- この木は、周辺のNIMS(物質・材料研究機構)などに備蓄されていた魔結晶(Dファクター)を勝手に大量消費して異常成長を遂げていた。
- さらにこの魔法は周辺の一般のみかん農園にまで飛び火し、季節外れの温州みかんが無限に結実・リポップする現象を引き起こした。
- もしこの魔法の枝が国内外に流出すれば、超高効率の生産によって日本の柑橘市場は一瞬で崩壊し、植物防疫法による大規模な緊急防除として地域一帯の伐採に追い込まれる危険があった。
最終的にこの事態は、佐山がダンジョン内で森の王を討伐して新たな王となり、事態をコントロールできる森の王のスキルを得ることで収束に向かった。しかし、ダンジョン産作物が食糧問題の解決という光の側面を持つ一方で、取り扱いを誤れば既存の生態系や経済を大混乱に陥れる劇薬であることが浮き彫りとなっている。
まとめ
ダンジョン産作物は、超効率的な生産力によって世界の飢餓を救う可能性を秘めている。しかし、物理法則を無視したリポップ現象や遅延評価、Dカードの強制取得による社会の混乱、さらには地上への魔法の汚染がもたらす市場崩壊のリスクなど、その影響力はあまりにも大きい。ひとたび管理を誤れば、人類のコントロールを超えて既存の生態系や社会秩序を崩壊させかねない危険な劇薬であり、今後の付き合い方には慎重な管理と法的な制度設計が必要である。
探索者の身体能力
本作における探索者の身体能力は、ダンジョン内で蓄積されたDファクターやステータスの上昇が、スポーツ界や芸術・芸能といったあらゆる分野で、非探索者の常識を完全に破壊するほどの超人的な影響をもたらすものとして描かれている。その規格外の能力と、それが社会に与えた衝撃について、いくつかのポイントに整理して解説する。
トップアスリートを凌駕する素人の記録
探索者の身体能力がどれほど異常であるかを示す象徴的な出来事が、JADA(日本アンチドーピング機構)の依頼で行われた代々木のトップ探索者チーム、通称「渋チー」の非公式記録会である。
- 陸上競技の経験がなく、クラウチングスタートの姿勢すらまともに作れないデニスが、100m走で向かい風1.2メートルという悪条件の中、ウサイン・ボルトの世界記録(9秒58)を上回る9秒46という驚異的なタイムを叩き出した。
- 他のメンバーも、短距離、中距離、およびフィールド競技で軒並み世界記録級の結果をマークしている。
- これにより、競技の素人である探索者が、人生を懸けて訓練してきたトップアスリートを軽々と凌駕する現実が浮き彫りになった。
スポーツ界のドーピング論争と絶対的な壁
さらに、Dパワーズが主催するダンジョンブートキャンプをたった1日受講しただけの高田選手と不破選手が、マラソンで自己ベストを約8分も縮めて世界記録を樹立した。これを受けてJADAの専門委員会では、ダンジョントレーニングがドーピングにあたるかどうかが議論されたが、以下のような理由から規制は不可能であり合法であると結論づけられた。
- 薬物使用ではなく、高地トレーニングと同じような環境への順応である。
- 血液検査などの医学的な検査にも引っかからない。
- 事後的に禁止すれば法の不遡及の原則に反することになる。
専門委員会は最終的に、同じ技術を持っていたとしたら非探索者は絶対に探索者には勝てないという残酷な結論を下した。これにより、指導者たちは政治問題化してでもブートキャンプの参加枠を奪い合おうと動き出している。
芸術・芸能分野での超人的な情報処理と再現力
身体能力の向上は、単純な筋力や走力にとどまらない。芸術や芸能の分野でも、ステータス上昇による圧倒的な恩恵が現れている。
- 女優の斎藤涼子はピアノ未経験で楽譜も読めないにもかかわらず、音大の准教授が弾いたショパンのエチュードの運指を一度見ただけで、ミスタッチまで含めて完璧に再現した。
- 歴史的な名ピアニストであるホロヴィッツの映像を見ただけで、その特殊な奏法やペダル操作まで一瞬でコピーし、高速で弾いてもテンポが全く乱れないという常識外れの能力を発揮している。
- この驚異的な再現力は、彼女のAGI(素早さ)で相手の動作を視覚で完全に捉え、INT(知力)で解析・記憶し、世界チャンピオン級のDEX(器用さ)で自身の肉体を使って正確に再現しているためだと推測されている。
- モデルの御劔遙もニューヨークのファッションウィークで、服が歩いているようだと世界的な大御所から大絶賛されるなど、その表現力で世界を席巻し始めている。
まとめ
探索者の身体能力の向上は、単にスポーツの記録を塗り替えるだけでなく、あらゆる人間の技術や努力の概念を根底から覆すものである。ステータス上昇による超人的な情報処理と身体の連動は、従来のトレーニングの限界を軽々と超越してしまう。結果として、探索者と非探索者の間には決して埋められない絶対的な壁が生まれ、今後の社会のあり方に極めて大きな影響を与えることになる。
Dパワーズの活動
合同会社Dパワーズ(芳村圭吾と三好梓)は、単なるダンジョン探索にとどまらず、地球の常識や世界経済、国際政治のあり方すらも根本から覆す規格外の活動を展開している。彼らの主要な活動とその影響について、いくつかのポイントに整理して解説する。
ダンジョンブートキャンプの主催による各界の常識破壊
Dパワーズは、探索者の潜在能力を引き出す訓練プログラムであるダンジョンブートキャンプを主催している。この訓練は様々な分野に計り知れない影響を与えている。
- 陸上界では、ブートキャンプを受講したマラソンの不破選手や高田選手が自己ベストを約8分縮めて世界記録を樹立した。
- 芸術・芸能界では、女優の斎藤涼子がピアノ未経験ながら往年の名ピアニストの演奏を完璧に再現し、モデルの御劔遙はニューヨークのファッション界を席巻した。
- これらの成果はスポーツ界や芸術界に凄まじい衝撃を与え、既存の努力や技術の壁を無意味にするものとして受け止められている。
- 現在では、アメリカのダンジョン省(DAD)から部隊単位での申し込みが届くなど、世界中から熱狂的な参加希望が殺到している。
ダンジョン農業の確立とウケモチ・システムの提唱
代々木ダンジョンの二層で一度収穫しても無限に再出現(リポップ)する小麦が発見された。Dパワーズはこれを利用した無限食糧供給システムであるウケモチ・システムを考案した。
- このシステムはわずか1アールの占有面積でありながら、小麦なら年間約3万1千トンもの生産が可能であると試算されている。
- 国連食糧農業機関(FAO)の高官をはじめとする関係者は、世界の飢餓や貧困問題を根本から解決しうる福音としてこのシステムを熱狂的に支持している。
- 一方で、既存の巨大農場や穀物流通網、バイオメジャーのビジネスモデルを根底から無価値にする危険性も孕んでおり、既存の市場や流通構造に劇的な変革を迫るものとなっている。
黄金の木をめぐるダンジョン災害の極秘解決
Dパワーズは二十一層の未踏エリアにセーフエリアを発見し、収納庫スキルを使って前哨基地であるイグルー一号を建設した。その後、このエリアを端緒とする重大な災害が発生したが、彼らの尽力により極秘裏に解決された。
- 農研機構の研究員である佐山が、二十一層のエリアボスである森の王が守護するオレンジの枝を地上に持ち帰った。
- この枝が地上で魔結晶を吸収して巨大な黄金の木に異常成長し、周囲の温州みかんを季節外れの無限結実状態に汚染させる災害を引き起こした。
- 事態を収束させるため、Dパワーズは佐山を再び二十一層へ連れて行き、自衛隊から借りた試作兵器である障害型改タイプD(桃ちゃん)や、極秘の収納庫スキルを駆使して作戦を展開した。
- 最終的にボスである森の王を無力化し、佐山に新たな森の王のスキルを取得させて事態をコントロール下に置くことで、日本の柑橘市場の崩壊を防ぐことに成功した。
超大国トップとの極秘裏の取引と国際的影響力
Dパワーズの持つスキルや影響力は、すでに一国の政府の枠組みを飛び越え、世界のトップクラスと直結している。
- アメリカのハンドラー大統領から、三核心階層である三十二層への巨大なガスタービン発電設備の搬入を直接依頼され、その報酬として幻のカルトワイン(スクリーミング・イーグルやルフレーヴのモンラッシェ)を受け取るという国家規模の裏取引を行っている。
- 事務所にはアメリカのサイモンやロシアのドミトリーといった世界トップクラスの探索者が出入りしている。
- CIAやNSAといった各国の諜報機関からは、彼らがWDA(世界ダンジョン協会)を独立国家にしようと企んでいるのではないかと警戒され、本気で監視されるほどの存在となっている。
探索者インフラの整備と技術協力
Dパワーズは裏での暗躍だけでなく、表の活動として探索者支援のインフラ整備にも大きく貢献している。
- 探索者向け情報サイトである代々ダン情報局のサイトリニューアルに協力した。
- 超音波センサーを用いて作成した、三十一層までの完全な3Dマップデータを提供した。
- 三好の鑑定スキルを用いて、モンスターやドロップアイテムに関する緻密なデータを一般に開示した。
- これらの正確なデータ提供は、他の探索者の安全確保や攻略効率を大幅に向上させる重要なインフラとして機能している。
まとめ
合同会社Dパワーズの活動は、単なるダンジョン深層の攻略という枠組みを完全に超越している。彼らは自身の知的好奇心や善意、あるいは個人的な欲望に従って行動しているに過ぎない。しかし、その結果としてもたらされる成果は、世界経済、既存の生態系、そして国際的なパワーバランスに対して不可逆な変革を及ぼし続けている。地球上に突如として現れたダンジョンという未知の存在において、Dパワーズはまさに世界の特異点として機能していると言える。
国際的な諜報戦
ダンジョンを巡る国際的な諜報戦とDパワーズの圧倒的影響力
本作における国際的な諜報戦は、代々木ダンジョンからもたらされる規格外の力(無限の資源、食料、魔法など)が世界のパワーバランスを根本から覆す可能性を秘めていることから、各国の政府、諜報機関、国際組織が、その震源地であるDパワーズの動向を巡って繰り広げる水面下の暗闘として描かれている。その実態と主要なプレイヤーたちの思惑について、いくつかのポイントに整理して解説する。
諜報銀座「ラ・フォンテーヌ」と手出し不可能なDパワーズ
代々木八幡にあるDパワーズの事務所の裏には、ラ・フォンテーヌという五階建てのマンションがあり、ここにはCIAとNSAの合同チームやロシアの監視チームなど、各国の諜報機関が陣取っており「諜報銀座」と呼ばれている。彼らはDパワーズの動向を監視しているが、以下のような極めて特異な状況に直面している。
- 出入りする人物(アメリカのサイモンなど)の行動を逐一本国へ報告しているが、Dパワーズの事務所には完璧な盗聴対策が施されており、内部の音声は一切拾うことができない。
- 物理的な侵入や工作を試みた諜報員(ロシアのリョーニャなど)は、いつの間にか気を失った状態で路上に放置され、当局に連行されるという異常事態が起きている。
- 訓練されたプロの諜報員が、ただの若い女性に全く歯が立たないという現実は、監視機関に自分たちが世界から置き去りにされているという不気味な恐怖感すら与えている。
WDA独立国家化の懸念とアメリカの「お友達作戦」
アメリカのCIA長官ジーン=カスペルは、ハンドラー大統領に対し、WDA(世界ダンジョン協会)が独立国家として振る舞い始める可能性を報告している。その背景には、以下のようなダンジョン資源による高い自立性がある。
- セーフエリアの発見により、国家形成に必要な領土と永続的な住民の要件が満たされつつある。
- ダンジョン産小麦やオレンジによる無限の食料、水魔法、そして魔結晶によるエネルギーが確保されれば、国家として完全に自立できてしまう。
CIAは、これら一連の奇跡の震源地がDパワーズであり、中心人物が三好(ザ・ワイズマン)であると分析した。これに対してアメリカ政府は、強硬手段ではなくサイモンを通じたパーソナルな安全保障を展開することを決定した。 - 三好の極めてマニアックなワイン趣味を把握したうえで、ハンドラー大統領個人のカルトワイン(スクリーミング・イーグルやルフレーヴのモンラッシェなど)を報酬として提示した。
- 国家規模で個人的な友人になるという、前代未聞の懐柔策であるオペレーション・トモダチを実行している。
英雄たちの極秘会談と監視網のパニック
アメリカのトップ探索者であるサイモンがDパワーズ事務所に滞在しているタイミングで、ロシアのトップ探索者であるドミトリーが突然訪問するという事態が発生した。これを目撃した米露の監視チームは、以下のような不測の事態を懸念して大パニックに陥った。
- アメリカとロシアの英雄が日本で接触し、亡命を企てているのではないか。
- WDAを独立国家にするための密談をしているのではないか。
しかし実際には、アメリカのビールとロシアのウォッカ、モルドバのワインを飲み交わしながら、ダンジョン産オレンジの無限リポップについて語り合って頭を抱えていただけである。当事者たちの気楽な振る舞いと、監視する国家側の過剰な深刻さとの間に生じる落差が、コミカルに描かれている。
国際機関と裏社会の暗躍
国家だけでなく、国際機関や裏社会も独自の思惑を持って諜報戦に参戦している。
- WDAのDFA(食品管理局)のネイサン博士は、ダンジョン産小麦による無限食糧供給システム(ウケモチ・システム)の存在を知り、極秘裏に来日した。彼はFAO(国連食糧農業機関)の高官アンブローズと通じており、バイオメジャーの妨害や、UNDP(国連開発計画)、WFP(国連世界食糧計画)といった他の国際機関との主導権争いを出し抜くため、自らの手でこのシステムを世界へ普及させる算段を立てている。
- ラーテル率いる傭兵部隊も、代々木周辺に潜伏している。彼らは宗教団体の代表デヴィッドから依頼を受けているが、新たにボットネット経由で、JDAが禁止しているマイニングスキルの取得を前提とした極秘かつ危険な依頼を受け、ダンジョンを利用した裏社会の思惑のために動き出そうとしている。
まとめ
本作における国際的な諜報戦は、軍事力や経済力による直接的な武力行使ではない。それは、Dファクターという未知の現象といかに結びつくか、そして規格外の力を持つDパワーズの機嫌をいかに損ねずに自陣営へ引き込むかという、全く新しいルールによる駆け引きとして展開されている。世界の諜報機関や国際組織が暗躍する中、Dパワーズはその圧倒的な技術と資源、そして独自の行動原理によって、世界秩序を揺るがす特異点であり続けている。
世界的な魔結晶消失
本作における世界的な魔結晶消失は、つくばの研究所から始まった怪事件を端緒としている。その背後では、ダンジョンから持ち出された「黄金の木」の枝による異常成長と、それを利用しようとする世界的な投機戦が絡み合う重大なインシデントが描かれている。その実態と事態が引き起こした波紋について、以下のポイントに整理して解説する。
つくばの研究所で起きた消滅現象と原因
- つくばのNIMS(物質・材料研究機構)をはじめとする周辺の研究所で、保管されていた大量の魔結晶が光に還元されて突如消滅する事件が発生した。
- この現象は盗難ではなく自然崩壊のように見えたが、実際は農研機構の佐山研究員が代々木ダンジョン二十一層から持ち帰った「森の王」の枝を温州みかんに接ぎ木したことが原因である。
- 接ぎ木された枝は「アウレウス・アルボル(黄金の木)」へと変貌し、急成長と一斉結実を行うためのエネルギー(Dファクター)として、周囲の施設に備蓄されていた高純度の魔結晶を無断で吸収・消費していた。
京都・けいはんな学研都市への飛び火
- 魔結晶の消失はつくば周辺に留まらず、遠く離れた京都の木津川(けいはんな学研都市)にある地球環境産業技術研究機構などでも発生した。
- つくばでの異常結実のニュースを見た者たちが農家から問題の枝を譲り受け、別の地域で接ぎ木を試みたことが原因である。
- この事実は、ダンジョン由来の魔法の枝が日本国内に拡散し始めているという危険な状況を示していた。
魔結晶価格の暴騰と世界的な投機戦
- 魔結晶の価格がわずか2日間で8倍に暴騰する異常事態が、日本だけでなく香港、アメリカ、EUなどの主要な世界市場で一斉に発生した。
- 無限収穫が可能な魔法の枝を手に入れた国内外の組織や投機筋が、果実を結実させるための「肥料」として魔結晶が不可欠であることに気付き、市場の魔結晶を全力で買い漁ったためである。
- 無限の生産力によって既存の柑橘農家や市場を破壊してでも、一瞬で巨利を貪ろうとする投機活動の強欲さが浮き彫りになった。
事態の収束とコントロール
- 事態を重く見たダンジョン庁や農林水産省は、筑波山周辺の農家に窃盗罪の可能性を示唆してまで収穫自粛を要請し、消失の連鎖を止めようと奔走した。
- 最終的には、原因を作り出した佐山自身が二十一層で「森の王」を討伐して新たなる王のスキルを継承し、魔法の影響を無効化した。
- これにより、全国的な魔結晶の消失とオレンジ騒動は収束を迎えることとなった。
まとめ
- 世界的な魔結晶消失事件は、ダンジョンの法則が不用意に地上へ持ち出された結果、農業市場や経済システムを一瞬で崩壊させかねない連鎖的災害を引き起こすリスクを示した。
- 未知の力を管理なしに地上の経済活動に組み込むことは、社会基盤そのものを脅かす危険性を孕んでいる。
- ダンジョン資源の地上利用においては、極めて慎重な管理体制と法的枠組みの構築が不可欠である。
森の王討伐計画
本作における森の王討伐計画(オペレーション・黄泉比良坂)は、地上で発生した「ダンジョン産オレンジの異常成長と魔結晶消失」という未曾有の危機を根本から解決するため、Dパワーズが立案・実行した極秘にして決死のミッションとして描かれている。
その計画の背景から驚くべき結末までを、いくつかのポイントに整理して解説する。
討伐の目的とステータス調整型のギミック
農研機構の佐山が21層から持ち帰った枝が、地上で魔結晶を吸収して巨大化・無限結実を起こし、世界的な魔結晶の暴騰と柑橘市場の崩壊(DFシンドローム)を招く危機を引き起こした。芳村と三好は、この木の魔法(呪い)を解くため、以下のような結論と戦略を導き出した。
- 枝を折った逃亡奴隷に該当する佐山自身が21層のエリアボスである森の王を討ち、新たな王(レックス・ネモレンシス)になる必要がある。
- 森の王は挑戦者のステータスに応じて強さが変動するステータス調整型モンスターであると三好の〈鑑定〉から推測された。
- 事前に佐山のステータスを大幅に上げてしまうとボスもそれに比例して強くなり、現代兵器すら通用しなくなる。
- そのため、戦闘未経験の佐山が初期能力のままで挑むこととなった。
素人のためのデバフ兵器「桃ちゃん」の投入
素人である佐山がエリアボスに勝つため、JDAの斎賀経由で防衛装備庁の漆原(キヨミー)が極秘派遣され、D研(ダンジョン装備研究部)の試作兵器が投入された。
- 銃器では動くターゲットに命中させられないため、相手の動きを物理的に阻害する対人障害システム「障害型改タイプD」(三好による命名:桃ちゃん)が採用された。
- 作戦は、佐山が森の王から全力で逃走しながら、あらかじめルート上に等間隔で設置した3つの桃ちゃんをリモコンで順次起動させるというものである。
- 射出されるワイヤー付きゴム弾を王に絡みつかせて減速させる、デスゲームさながらの追走劇が展開された。
収納庫を使った奥の手「捕人網」
桃ちゃんだけでは森の王を完全に止めきれないため、最終地点には以下のような最大の罠が用意された。
- 芳村たちは、JDAへ提出予定だった時価400億円相当の極めて希少なスキルオーブ〈収納庫〉を、この作戦のためだけに佐山へ使用させている。
- 佐山は決戦前夜に江戸川の河川敷で特訓を受け、本番に備えた。
- 本番では最終地点のオレンジの木の根元に追い詰められた瞬間、空中に巨大な重金属フレーム付きの多層ワイヤーネット(捕虫網ならぬ捕人網)を出現させて落下させ、森の王を完全に拘束することに成功した。
儀式の完成と新たなる王の誕生
拘束後、漆原が用意していたRPG-7でトドメを刺す予定であったが、佐山はあえてそれを使わなかった。
- 持ち込んでいた黄金の木の枝をレガリアのように掲げた。
- 自らの手で「報いの剣」を振り下ろし、呪術を完成させるための儀式の手順を全うしている。
- その結果、森の王は黒い光となって消滅し、残されたスキルオーブが佐山に吸収され、彼は〈森の王〉のスキルを獲得した。
- 新たなる王の誕生により、地上の異常な結実現象と魔結晶消失事件は無事に終息を迎えた。
まとめ
森の王討伐計画(オペレーション・黄泉比良坂)は、ダンジョン由来の地上の危機を、ダンジョン自身のルールをハッキングするように解決した象徴的なミッションである。戦闘素人の佐山を初期ステータスのまま勝たせるため、Dパワーズは希少スキルや科学兵器を組み合わせた奇策を立案した。この作戦の成功は、ただ力でねじ伏せるだけではない、知略とシステムの理解こそが深層攻略の鍵であることを証明している。
登場キャラクター
Dパワーズ・常磐ラボ
芳村圭吾
Dパワーズに所属する探索者であり、三好梓とともに行動する。Gランク探索者であるが、その正体は世界ランク一位の「ファントム」である。
・所属組織、地位や役職
合同会社Dパワーズ。探索者。
・物語内での具体的な行動や成果
三好とともに代々木ダンジョンなどで様々な検証や実験を行い、ダンジョンの法則を次々と解明した。横浜ダンジョンでの騒動後、死んだはずのタイラー博士とダンジョン内で対話している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
表向きはGランクだが、その規格外の行動により各国のトップ探索者や諜報機関から注目を集めている。
三好梓
Dパワーズの代表社員であり、「ザ・ワイズマン」の二つ名を持つ。情報収集や交渉、データ分析に長けた人物である。
・所属組織、地位や役職
合同会社Dパワーズ。代表社員。
・物語内での具体的な行動や成果
芳村とともにダンジョン内で数々の実験を行い、ステータス計測デバイスの開発やヒブンリークスによる碑文の翻訳公開を主導した。合同会社Dパワーズの設立会見では、記者たちを前に堂々とした対応を見せた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
世界で唯一の〈鑑定〉スキル保持者として知られ、商業ライセンスはSランクへと特進した。
六条小麦
英国宝石学協会および米国宝石学会の資格を持つ宝石の鑑定士である。ダンジョン産鉱物に対して並々ならぬ情熱を抱いている。
・所属組織、地位や役職
日本宝石学研究所(GIJ)。鑑定士。
・物語内での具体的な行動や成果
ダンジョン産宝石の魅力に取り憑かれ、自ら二十層より下へ潜るためにDカードを取得した。三代絵里とパーティを組み、芳村たちの支援を受けながら探索を開始した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
LUCの値が異常に高く、JDAにおける〈マイニング〉使用の筆頭候補となっている。
三代絵里
六条小麦のパートナーとしてダンジョンに潜る女性である。元々は別のパーティに所属していたが、事情により解散状態となっていた。
・所属組織、地位や役職
合同会社Dパワーズ。契約探索者。
・物語内での具体的な行動や成果
過去に芳村たちから受けた恩に報いるため借金を返しに訪れ、そのままDパワーズの契約探索者第一号となった。六条小麦とパーティを組み、ブートキャンプのプログラムを受けながら前衛または弓使いとして探索をサポートしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
Dパワーズの育成により、短期間でランキングが三十六万位台から千位台へと急上昇した。
鳴瀬翠
医療機械の開発会社である常磐ラボを経営する人物である。鳴瀬美晴の妹にあたる。
・所属組織、地位や役職
常磐ラボ。所長。
・物語内での具体的な行動や成果
三好からの依頼を受け、ステータス計測デバイスの量産試作機を開発し、テストのためのニューヨーク出張を決定した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
自分の懐が痛まない限りはファーストクラスの利用も厭わないという合理的な思考を持つ。
中島
常磐ラボに所属する技術者である。
・所属組織、地位や役職
常磐ラボ。技術者。
・物語内での具体的な行動や成果
Dカードチェッカーなどの二次試験用機器の生産対応に休みなく追われ、ニューヨークの大規模オフ会への出張を命じられた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
放っておくと新しいバージョンの設計を始めてしまう傾向がある。
従魔
グラス
Dパワーズの従魔であるヘルハウンドの一頭である。
・所属組織、地位や役職
Dパワーズ。従魔。
・物語内での具体的な行動や成果
代々木ダンジョン二十一層において、佐山に襲いかかろうとした小型のドラゴン型モンスターを撃退した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
三好によって再召喚された際には、スキッパーキのような子犬の姿で現れた。
アイスレム
Dパワーズの従魔であるヘルハウンドの一頭である。
・所属組織、地位や役職
Dパワーズ。従魔。
・物語内での具体的な行動や成果
斎藤涼子のダンジョンでの特訓相手を務め、彼女のステータス向上に寄与した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
三好の指示に従い、周囲の警戒や護衛任務を忠実にこなしている。
カヴァス
Dパワーズの従魔であるヘルハウンドの一頭である。
・所属組織、地位や役職
Dパワーズ。従魔。
・物語内での具体的な行動や成果
三好の影の中に潜み、常に彼女を護衛している。佐山と漆原を背に乗せて、代々木ダンジョンを高速で移動した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
氷室隆次をシャドウピットに落として持ち物を分別するなど、特殊な能力を発揮する。
ドゥルトウィン
Dパワーズの従魔である。
・所属組織、地位や役職
Dパワーズ。従魔。
・物語内での具体的な行動や成果
六条小麦の護衛として貸し出され、彼女の影に潜んで探索をサポートした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
芳村がシャドウピット内で待機している際に、彼と意思疎通を図る様子を見せている。
ウストゥーラ
Dパワーズの従魔である。
・所属組織、地位や役職
Dパワーズ。従魔。
・物語内での具体的な行動や成果
代々木ダンジョンで六条小麦と三代絵里の探索に同行し、露払いとして活躍した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
召喚されたばかりで機微に疎く、他者へ過剰に反応しそうになることがある。
グレイシック
Dパワーズの従魔である。
・所属組織、地位や役職
Dパワーズ。従魔。
・物語内での具体的な行動や成果
キャシーとランニングする際に、ルートから外れそうになる彼女を押し戻す役割を果たした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
普段は事務所の警備を担当している。
グレイサット
Dパワーズの従魔である。
・所属組織、地位や役職
Dパワーズ。従魔。
・物語内での具体的な行動や成果
キャシーの護衛として彼女に同行している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
描写が限られている。
ロザリオ
Dパワーズの従魔である鳥型のモンスターである。
・所属組織、地位や役職
Dパワーズ。従魔。
・物語内での具体的な行動や成果
芳村がよからぬことを考えた際に頭の上へ飛んできて鳴き声を上げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
三好から最新型のウソ発見器と称されている。
JDA(日本ダンジョン協会)
鳴瀬美晴
JDAのダンジョン管理課に所属し、Dパワーズの専任管理監を務める職員である。
・所属組織、地位や役職
JDAダンジョン管理課。課長補佐待遇・専任管理監。
・物語内での具体的な行動や成果
Dパワーズからもたらされる規格外の情報を斎賀へ報告しつつ、自身も〈異界言語理解〉のオーブを使用して碑文の翻訳作業に没頭した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
合同会社Dパワーズの設立会見で司会を務めるなど、組織の内外で重要な役割を担っている。
斎賀
JDAダンジョン管理課の課長であり、鳴瀬美晴の上司である。
・所属組織、地位や役職
JDAダンジョン管理課。課長。
・物語内での具体的な行動や成果
セーフエリアの割り振りを一般区画の入札と特別区画に分ける決断を下し、Dパワーズからの国家機密級の報告を適切な機関へ丸投げする方針をとった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
次々と持ち込まれる非常識な事態に頭を抱えつつも、柔軟かつ迅速に対応している。
橘
JDAダンジョン管理部の部長である。
・所属組織、地位や役職
JDAダンジョン管理部。部長。
・物語内での具体的な行動や成果
斎賀から〈収納庫〉の買い取りに関する報告を受け、その後の運用について彼に一任する方針を示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
情報を素材として扱い、利益を追求する冷徹な一面を持つ。
デミル=アンダーソン
JDA国際協力課の課長である。
・所属組織、地位や役職
JDA国際協力課。課長。
・物語内での具体的な行動や成果
来日したネイサン博士に対し、Dパワーズの指名依頼に関する情報を提供した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
描写が限られている。
日本政府・自衛隊・公的機関
寺沢
防衛省に所属する二佐であり、ダンジョン攻略群を統括する立場にある。
・所属組織、地位や役職
防衛省。二佐。
・物語内での具体的な行動や成果
斎賀から自衛隊の武器貸与を要請され、ダンジョン災害という名目で特例的に了承した。行方不明になった君津伊織たちについてJDAと情報共有の協定を結んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
国家レベルの裏事情に通じており、柔軟な判断力を持つ。
漆原清麻呂
防衛装備庁の次世代装備研究所ダンジョン装備研究部に所属する技官である。
・所属組織、地位や役職
防衛装備庁。技官。
・物語内での具体的な行動や成果
森の王討伐のための特製ネットを徹夜で製作し、代々木ダンジョン二十一層まで同行して作戦をサポートした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
愛称はキヨミーであり、仕事に没頭しすぎるため「ザ・シックス」という二つ名を持つ。
名塚義弘
ダンジョン庁の職員である。
・所属組織、地位や役職
ダンジョン庁。職員。
・物語内での具体的な行動や成果
三橋とともに茨城県の雅尊みかん園を訪れ、ダンジョン由来の異常結実に関する収穫自粛を説得した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ダンジョン庁特有の扱いにくい優秀な人材として描かれている。
三橋
農林水産省から派遣された職員である。
・所属組織、地位や役職
農林水産省。職員。
・物語内での具体的な行動や成果
名塚とともに雅尊みかん園へ赴き、収穫したみかんの買い取りや販売禁止の手続きを穏便に完了させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
折衝とマスコミ対策のエキスパートである。
君津伊織
陸上自衛隊の二尉であり、日本のエースエクスプローラーである。
・所属組織、地位や役職
陸上自衛隊ダンジョン攻略群。二尉。
・物語内での具体的な行動や成果
横浜での騒動に巻き込まれて代々木ダンジョン三十一層へ転移し、そこで出会った仮面の男の支援を受けながら三十二層のセーフエリアを発見した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
世界ランク十八位に位置し、凛とした態度で部隊を率いている。
研究機関
佐山繁
農研機構の果樹茶業研究部門に所属する研究員である。
・所属組織、地位や役職
農業・食品産業技術総合研究機構果樹茶業研究部門。研究員。
・物語内での具体的な行動や成果
ダンジョン産柑橘の謎を解明するため、Dパワーズの護衛のもと代々木ダンジョン二十一層へ赴き、森の王を討伐して黄金の木の枝を持ち帰った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
戦いの素人でありながら、周りの支援を受けてエリアボスを討伐する偉業を成し遂げた。
水木明憲
農研機構の果樹茶業研究部門の主任である。
・所属組織、地位や役職
農業・食品産業技術総合研究機構果樹茶業研究部門。主任。
・物語内での具体的な行動や成果
DNA鑑定の異常結果を受けて他機関への追試を指示し、佐山へ代々木ダンジョンでの枝採取を命じた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
未知の事象に対して慎重に検証を進める姿勢を持つ。
北島
京都大学の教授である。
・所属組織、地位や役職
京都大学。教授。
・物語内での具体的な行動や成果
水木からの依頼で柑橘の追試を行い、試料を「せとか」と同定した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
直接の登場はない。
神沼
国立遺伝学研究所の教授である。
・所属組織、地位や役職
国立遺伝学研究所。教授。
・物語内での具体的な行動や成果
水木からの依頼で柑橘の追試を行い、研究室のメンバーによって「清見」や「天草」など異なる同定結果が出た。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
直接の登場はない。
マスコミ・芸能界
斎藤涼子
注目を集めている新人女優である。
・所属組織、地位や役職
芸能界。女優。
・物語内での具体的な行動や成果
ダンジョンの特訓で超人的な身体能力や記憶力を獲得し、ピアノの演奏やアーチェリーの記録で世間を驚かせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
オリンピック強化指定選手に選ばれるほどの能力を見せている。
吉田春樹
ダンジョン研究家を名乗る元タレントである。
・所属組織、地位や役職
マスコミ関係者。ダンジョン研究家。
・物語内での具体的な行動や成果
ダンジョンの映像を撮るために代々木ダンジョンへ入り、そこで仮面の男(芳村)の規格外の戦闘を目撃して興奮した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特ダネを狙って積極的に行動している。
御劔遙
ファッションモデルである。
・所属組織、地位や役職
モデル。
・物語内での具体的な行動や成果
ダンジョンでの特訓を経てニューヨークのファッションウィークで高い評価を受け、専属モデルのオーディションに合格した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ダンジョンブートキャンプの効果を体現する一人として注目されている。
スポーツ界・JADA
不破正人
長距離ランナーである。
・所属組織、地位や役職
陸上選手。
・物語内での具体的な行動や成果
別府大分毎日マラソンに出場し、世界記録を更新して優勝した。優勝インタビューでキャシー教官へ感謝の言葉を叫んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ダンジョンブートキャンプの受講により記録を大幅に伸ばした。
高田
大阪国際女子マラソンで世界記録を樹立した選手である。
・所属組織、地位や役職
陸上選手。
・物語内での具体的な行動や成果
不破とともにダンジョンブートキャンプを受講し、飛躍的な記録向上を果たした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
スポーツ界にダンジョントレーニングの脅威を知らしめた。
インタビュアー
不破選手へインタビューを行った人物である。
・所属組織、地位や役職
マスコミ。
・物語内での具体的な行動や成果
不破選手に優勝後の言葉を求め、キャシー教官への感謝を引き出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
描写が限られている。
菅谷恭也
JADA専門委員会の委員である。
・所属組織、地位や役職
JADA専門委員会。委員。
・物語内での具体的な行動や成果
代々木ダンジョンのエントランスで渋チーに声をかけ、非公式の記録会への参加をスカウトした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
トップ探索者の身体能力を計測し、新たな事業の可能性を模索している。
民間探索者
林田康生
民間トップチーム「渋チー」のリーダーである。
・所属組織、地位や役職
渋谷チートリアル(渋チー)。リーダー。
・物語内での具体的な行動や成果
代々木ダンジョンで菅谷からのスカウトを受け、非公式記録会への参加を了承した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
チャラい外見に反して、チームをまとめる強い責任感を持つ。
デニス=タカオカ
渋チーに所属する斥候である。
・所属組織、地位や役職
渋谷チートリアル(渋チー)。斥候。
・物語内での具体的な行動や成果
代々木十七層でカマイタチの接近をいち早く察知し、チームへ警告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
半分リトアニア人であり、外国語担当も兼ねている。
喜屋武
渋チーに所属するメンバーである。
・所属組織、地位や役職
渋谷チートリアル(渋チー)。
・物語内での具体的な行動や成果
菅谷からのスカウトに対し、自分たちがヒーローになれるかもしれないと強い関心を示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
目立ちたがり屋な性格である。
東
渋チーに所属するメンバーである。
・所属組織、地位や役職
渋谷チートリアル(渋チー)。
・物語内での具体的な行動や成果
喜屋武の言動に冷静なツッコミを入れつつ、記録会への参加に同意した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
キャンベルの魔女のファンであるらしい。
ダイケン
渋チーに所属するメンバーである。
・所属組織、地位や役職
渋谷チートリアル(渋チー)。
・物語内での具体的な行動や成果
代々木十七層で周囲のトップ探索者たちに不満を漏らしつつも、記録会への参加に同意した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
大きな剣を背負っている。
渋チー
民間トップチームの探索者パーティである。
・所属組織、地位や役職
探索者パーティ。
・物語内での具体的な行動や成果
代々木ダンジョン十七層などで探索を行い、JADAの記録会に参加することになった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
一般探索者の中では高い実力を持つ。
アメリカ合衆国(政府・情報機関・DAD)
アルバート=ハンドラー
アメリカ合衆国の大統領である。
・所属組織、地位や役職
アメリカ合衆国政府。大統領。
・物語内での具体的な行動や成果
WDAの独立国家化の可能性について報告を受け、Dパワーズと個人的な友人になるための「オペレーション・トモダチ」を承認した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
大富豪であり、柔軟かつ大胆な政治判断を下す。
ニック=マルベリー
大統領の首席補佐官である。
・所属組織、地位や役職
アメリカ合衆国政府。首席補佐官。
・物語内での具体的な行動や成果
WDAの独立可能性に関する議論に参加し、大統領の友人作戦に驚きを示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
現実的な視点から意見を述べる。
ジーン=カスペル
CIA長官である。
・所属組織、地位や役職
CIA。長官。
・物語内での具体的な行動や成果
WDAが国家として自立する可能性や、Dパワーズがその震源地であることを大統領へ報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
三好のワイン趣味を分析し、懐柔策のヒントを提供した。
ラリー
CIAとNSAの合同チームに所属する諜報員である。
・所属組織、地位や役職
CIA・NSA合同チーム。諜報員。
・物語内での具体的な行動や成果
ラ・フォンテーヌからDパワーズ事務所を監視し、ドミトリーの訪問に驚愕した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
描写が限られている。
ノール
CIAとNSAの合同チームに所属する諜報員である。
・所属組織、地位や役職
CIA・NSA合同チーム。諜報員。
・物語内での具体的な行動や成果
サイモンの行動計画書を確認し、彼の事務所訪問の意図を把握した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
冷静に情報の分析を行っている。
カヤマ
日系の諜報員である。
・所属組織、地位や役職
諜報機関。
・物語内での具体的な行動や成果
マスコミ関係者の車がDパワーズ事務所に接近した際、その身元を特定した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
描写が限られている。
サイモン=ガーシュウィン
DADのトップ探索者である。
・所属組織、地位や役職
DAD(ダンジョン省)。探索者(中尉)。
・物語内での具体的な行動や成果
Dパワーズのブートキャンプに参加して能力を強化し、代々木ダンジョンの十八層や三十二層で探索を行った。芳村たちからタイラー博士の真相を聞き、碑文公開の危険性を忠告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
世界トップクラスの実力を持ち、大統領直属の命令で動いている。
キャシー
DAD出身の探索者であり、フルネームはキャサリン・ミッチェルである。
・所属組織、地位や役職
DAD(ダンジョン省)。探索者(ブートキャンプ教官)。
・物語内での具体的な行動や成果
Dパワーズの依頼でブートキャンプの教官を務め、厳しい指導で参加者のステータス向上に貢献した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「レディ・パーフェクト」と呼ばれるほど優秀な能力を持つ。
ジョシュア
DADチームの斥候を務める探索者である。
・所属組織、地位や役職
DADチーム。探索者。
・物語内での具体的な行動や成果
ブートキャンプで苛酷な訓練をこなしながら、ナタリーと軽口を叩き合っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
報告書をきちんと書く真面目な一面もある。
ナタリー
DADチームの魔法使いである。
・所属組織、地位や役職
DADチーム。探索者。
・物語内での具体的な行動や成果
炎の魔法を操り、サイモンチームの主力として活躍している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
横須賀で育ったため日本語に堪能である。
メイソン
DADチームの探索者である。
・所属組織、地位や役職
DADチーム。探索者。
・物語内での具体的な行動や成果
エバンスダンジョンでデスマンティスに腕を負傷したが、ブートキャンプの訓練を経てステータスを大幅に向上させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
肉体派で力強い戦闘スタイルを持つ。
モーガン=ルーカス
DADの〈マイニング〉使用者である。
・所属組織、地位や役職
DAD。探索者。
・物語内での具体的な行動や成果
サイモンたちとともに代々木ダンジョン二十二層で貴金属の回収任務に従事した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
プラチナブロンドの年下の男性である。
ランス
カナダ国境付近出身の探索者であり、通称「キングサーモン」である。
・所属組織、地位や役職
探索者。
・物語内での具体的な行動や成果
代々木十八層で芳村たちのキャンプを訪れ、「致死の指輪」の鑑定を三好に依頼した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
民間探索者のトップとして広く名を知られている。
ロシア(情報機関・探索者)
ドミトリー=ネルニコフ
ロシアの世界ランク二位の探索者である。
・所属組織、地位や役職
探索者(ロシア)。
・物語内での具体的な行動や成果
Dパワーズ事務所を訪れ、サイモンや芳村たちと懇親を深めつつ、ダンジョン産オレンジの存在に驚愕した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「求道者」と呼ばれるほどストイックな戦闘スタイルを持つ。
サーシャ
ロシア監視チームの諜報員である。
・所属組織、地位や役職
ロシア監視チーム。諜報員。
・物語内での具体的な行動や成果
ラ・フォンテーヌからDパワーズ事務所を監視し、ドミトリーの訪問を確認した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
精悍なヒゲと鋭い目つきを持つ。
ドローニャ
ロシア監視チームの諜報員である。
・所属組織、地位や役職
ロシア監視チーム。諜報員。
・物語内での具体的な行動や成果
監視対象の異常性に触れ、自分たちが世界から置き去りにされているような恐怖感を漏らした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
描写が限られている。
セリョージャ
ロシア監視チームの諜報員である。
・所属組織、地位や役職
ロシア監視チーム。諜報員。
・物語内での具体的な行動や成果
ドミトリーの動向について他の諜報員と情報交換を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ストイックにヒゲを刈り込んでいる。
リョーニャ
ロシア監視チームの諜報員である。
・所属組織、地位や役職
ロシア監視チーム。諜報員。
・物語内での具体的な行動や成果
Dパワーズ関係者を尾行した結果、気を失って日本の警察当局に連行されたことが語られた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
直接の登場はない。
ロシア監視チーム
ラ・フォンテーヌに陣取るロシアの諜報部隊である。
・所属組織、地位や役職
ロシア政府情報機関。
・物語内での具体的な行動や成果
Dパワーズの監視任務に就いているが、対象の異常性に困惑し、有効な情報を得られずにいる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
工作に失敗して強制送還される者が後を絶たない。
国際機関(WDA・FAO)
ネイサン=アーガイル
WDA食品管理局(DFA)の主席研究員である。
・所属組織、地位や役職
WDA食品管理局(DFA)。主席研究員。
・物語内での具体的な行動や成果
ダンジョニングの特許内容や食糧リポップの事実を確かめるため来日し、強引に代々木二十一層の探索へ同行した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
自由奔放な性格で、周囲を振り回しながらも研究に情熱を注ぐ。
シルクリー=サブウェイ
ネイサン博士のアシスタントである。
・所属組織、地位や役職
WDA食品管理局(DFA)。アシスタント。
・物語内での具体的な行動や成果
暴走しがちなネイサン博士を諫めながら、ともに代々木二十一層の探索を走破した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
日本語に堪能である。
裏社会・傭兵
ラーテル
歴戦の傭兵部隊の隊長である。
・所属組織、地位や役職
傭兵部隊。隊長。
・物語内での具体的な行動や成果
デヴィッドからの依頼を受け、代々木ダンジョン内でDパワーズや日本の探索者への妨害工作を試みた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「キュレナイカのバジリスク」と恐れられた実力を持つ。
イザベラ
傭兵部隊に所属する女性である。
・所属組織、地位や役職
傭兵部隊。
・物語内での具体的な行動や成果
ハニートラップ要員としてデヴィッドに雇われ、Dパワーズの関係者へ接触する機会を窺っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「ナイトメア」の異名を持ち、関わった男を破滅させると恐れられている。
ファシーラ
傭兵部隊の副官である。
・所属組織、地位や役職
傭兵部隊。副官。
・物語内での具体的な行動や成果
ラーテルの指示に従い、ダンジョン内での作戦行動をサポートしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
飄々とした細マッチョの男である。
デヴィッド
宗教団体の代表である。
・所属組織、地位や役職
宗教団体。代表。
・物語内での具体的な行動や成果
Dパワーズの秘密を探るため、日本へ入国し傭兵部隊やイザベラを使って裏工作を指示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
元は詐欺師まがいの経歴を持つが、現在は強い影響力を有している。
その他の人物・集団
タイラー博士
3年前のネバダ実験事故で死亡したとされる科学者である。
・所属組織、地位や役職
元素粒子原子核研究機構所長。
・物語内での具体的な行動や成果
ダンジョン内の心象風景で再構成された情報体として芳村たちと対話させ、ダンジョン発生の真相やデミウルゴスの目的を語った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
公式には行方不明扱いとなっている。
アーシャ
アーメッドの娘である。
・所属組織、地位や役職
大富豪の娘。
・物語内での具体的な行動や成果
芳村たちから〈超回復〉の支援を受けて失った四肢を取り戻し、お礼として日本を訪れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
社交界で「日本の魔法使い」の噂を広めるきっかけとなった。
三谷美尊
茨城県の雅尊みかん園のオーナーである。
・所属組織、地位や役職
雅尊みかん園。オーナー。
・物語内での具体的な行動や成果
ダンジョン由来の魔法の影響で温州みかんが異常結実したため、役人の説得に応じて収穫を自粛した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
茨城弁を話す。
森の王
代々木ダンジョン二十一層のエリアボスである。
・所属組織、地位や役職
代々木ダンジョン。エリアボス。
・物語内での具体的な行動や成果
枝を切り落とした佐山を執拗に追い回したが、最後は自衛隊の試作ネットと佐山の攻撃によって討伐された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
挑戦者のステータスに応じて能力が変わる特性を持つ。
展開まとめ
序章 プロローグ
東京都調布市調布ヶ丘
ピアニスト役への不安
斎藤涼子は、新作ドラマでピアニストの卵を演じることになり、マネージャーの英香蓮に連れられて音大を訪れていた。涼子はピアノに触れた経験すらなく、演奏シーンも吹き替えになるのではないかと考えていたが、香蓮は姿勢や手の形が不自然であれば作品全体が台無しになると説明した。
涼子は、アーチェリーやダンジョン番組など次々と新しい挑戦を求められる女優業に半ば呆れつつも、スケジュールに追われながら音大の建物へ入っていった。
中路郁子による基礎指導
音大准教授であり演奏家でもある中路郁子は、サニーミュージックからの依頼で、涼子へピアノ演奏時の基礎的な動作を教えることになっていた。中路は本格的な音楽指導ではなく、あくまで演技用の所作を学ばせるつもりで、座り方や腕の形、奏法などを簡潔に説明した。
その中で、爪が長いと鍵盤に当たる音や滑りによってミスタッチの原因になると説明し、実際に黒鍵へ爪を当てながら演奏例を見せた。涼子は役作りの際には爪を切るつもりだと答え、中路は演奏を見せるためピアノの前へ座った。
ショパン演奏の再現
香蓮は演技研究用として三台のビデオカメラを設置し、中路の演奏を様々な角度から録画した。中路はショパンのエチュード作品10-4を弾き、涼子は鍵盤の上を動く指を真剣に観察していた。
演奏後、中路が感想を尋ねると、涼子は指がたくさん動いていたと素人らしい感想を述べた後、自分にもできそうだと言って隣のピアノへ座った。
そして涼子は、楽譜も見ていないにもかかわらず、先ほど見たばかりの中路の演奏をそのまま再現し始めた。左手のオクターブから右手の細かな十六分音符まで完全に再現されており、中路は思わず香蓮へ、過去にピアノを習っていたのか確認した。しかし香蓮は、楽器に触れること自体が初めてのはずだと答えた。
さらに涼子は、中路のミスタッチまで再現していた。中路は常識ではありえない現象に衝撃を受けた。
ペダル操作の習得
演奏後、涼子は何か違うと首を傾げた。中路は、その違いがペダル操作によるものだと説明した。涼子はペダルについて何も知らず、中路はダンパーペダルとシフトペダルの役割を簡潔に教えた。
香蓮は録画した映像をノートPCに映し出し、涼子は足元の動きまで真剣に確認し始めた。中路は、指の動きだけでなくペダル操作まで映像通り再現しようとする姿に恐怖にも似た感情を抱いていた。
中路は、演奏の動きを見ただけで完璧にコピーする能力に戦慄していた。しかも涼子は、ホロヴィッツの映像を見せるだけでその奏法まで再現し、爪の当たる音を激減させていた。
異常な才能への危惧
涼子は、一度覚えた演奏なら速度変更も自由自在であり、高速演奏でもテンポが乱れなかった。中路は、初心者が数時間でここまで到達する異常性に危機感を覚えていた。
中路は本格的にピアノを学ぶ気はないかと尋ねたが、涼子は楽譜も読めないため無理だと答えた。それでも中路は、もし彼女が本格的にピアニストになれば、超一流奏者たちの演奏を自在にコピーできる異質な存在になるだろうと考えていた。
容姿にも恵まれた涼子が国際コンクールへ出場すれば、世間やマスコミが放っておかない未来も容易に想像できた。中路は、こうした能力を持つ人間が芸術界へ入り込む未来に不安を抱き、ダンジョンによる変化を隠すべきか利用すべきか決められずにいた。
涼子の戸惑い
帰路の車内で、涼子は芳村へ電話をかけたが繋がらなかった。アーチェリーの時は実感が薄かったものの、今回のピアノ演奏によって、自分の身に起きている変化の異常性を強く自覚していた。
しかし、実際にやったことといえば、ダンジョンでスライムを叩き続けていただけだった。涼子は、わずか三か月で自分と吉田春樹の人生を大きく変えた芳村という存在に疑念を抱きながらも、その正体を考えても仕方ないと割り切り、スマホをバッグへしまった。
第10章 森の王
二〇一九年一月二十九日(火)
ラ・フォンテーヌでの諜報監視
代々木八幡にあるマンション「ラ・フォンテーヌ」では、CIAとNSAの合同チームがDパワーズ事務所の監視を行っていた。そこには各国の諜報関係者も集まり、「諜報銀座」と呼ばれる状況になっていた。
監視役のラリーは、サイモンが再びDパワーズ事務所を訪れたことを報告した。ノールは、最近のサイモンの訪問頻度増加と、DoDの過敏な反応を不審視していた。
DoDの過剰反応への皮肉
DoDはダンジョンアイテムの横流しを疑っていたが、確証は何も得られていなかった。カヤマは、DoDが諜報機関の真似事をして失敗を重ねていると皮肉を述べ、日本の「餅は餅屋」という言葉を引き合いに出して揶揄した。ラリーもまた、本職の諜報機関も最近は大した成果を挙げられていないと自嘲した。
マイニング受け渡し計画の判明
ノールは、サイモンの行動計画書が提出されていることに気付き、その訪問目的が翌日に行われる〈マイニング〉受け取りの打ち合わせであると確認した。受け渡し場所は市ヶ谷の小会議室であり、JDAが関与していた。
サイモンの来訪とコーヒー
Dパワーズ事務所では、サイモンが翌日の段取り確認を行っていた。しかし実際には、三好の淹れるコーヒーを楽しむことも目的の一つだった。三好はそれを理解し、二杯目まで見越して多めに用意していた。
三十二層の異変
サイモンは、三好が三十二層の利権調査時にどこにいたのかを尋ねた。三好は神殿内でリーフテイルたちと戦っていたと説明し、イオリたちが入口を開いた振動以降、周辺の部屋がボス部屋化した可能性を示した。
イーヴィル・レッサーとの戦闘情報
三好は、ボス部屋で出現した敵がイーヴィル・レッサーとスーサイド・リーフテイルだったと説明した。スーサイド・リーフテイルは自爆する危険なモンスターであり、イーヴィル・レッサーを早期撃破しなければ数で押し切られる危険があった。戦闘後には、ドロップを全回収しなければ扉が開かなかったことや、ヒールポーション(5)が得られたことも共有された。
深層火器試験の構想
サイモンは、三十一層の広場が重火器試験に向いている可能性を語った。代々木ダンジョンは世界で最も攻略が進み、制限も少ないため、深層での火器評価試験場として魅力的だった。彼は〈マイニング〉使用者とともに秘密兵器が届いているとも明かした。
マイニング制限と専門性
JDAは、〈マイニング〉取得者に対して未調査フロアでの活動禁止を通達していた。芳村たちは、〈マイニング〉で得られる鉱石や宝石を意図的に選ぶには、高い専門知識と執着が必要だと説明した。サイモンは、専門家を探索者にするか、探索者を専門家にするかという問題だと理解した。
アメリカ側ダンジョン事情
芳村が代々木に近い条件のダンジョンとしてBPTDを挙げると、サイモンは、あそこはニューヨーク市主体で収益化が進み、完全攻略されると困る事情があると説明した。そのため攻略活動には独自規制があり、大型装備の持ち込みにも問題が多かった。
ブートキャンプ大量申し込み
DADから大量のブートキャンプ申し込みが来ていることが話題となった。サイモンは、ジョシュアの報告で効果が確認されたため、DADのフロントチーム全員分ではないかと推測した。芳村は人数の多さに頭を抱えたが、サイモンは代々木攻略協力を兼ねるなら問題ないと軽く返した。
模倣業者への懸念
サイモンは、Dパワーズのブートキャンプを模倣する業者が現れるだろうと指摘した。しかし芳村たちは、実際の効果は表面的なカリキュラムではなく別の要素にあるため、真似しても成功しないと考えていた。三好は、それでもスポーツ界の焦りにつけ込む詐欺業者が出る可能性を危惧していた。
三十一層からの帰還方法への追及
サイモンは、美晴から聞いた情報と帰還時刻の不自然さから、芳村たちが三十一層から短時間で戻った方法を疑問視した。芳村は、いずれ話す必要があると考え、覚悟して聞くようサイモンへ告げた。
タイラー博士との邂逅
芳村は、三好がダンジョン内でタイラー博士と会い、三年前のネバダ事件について直接聞いたことを明かした。サイモンは、その話で死体が残らなかった理由に納得し、衝撃のあまり手にしたカップにヒビを入れた。
芳村は、録画しても何も映らなかったため証拠は存在しないと説明し、この事実をサイモンへ伝えることで自分たちの葛藤は終わったと告げた。サイモンは、その責任を押しつけられたようだと苦笑した。
予期せぬ来客
話が一段落した直後、事務所の呼び鈴が鳴った。インターフォンを見た三好は驚きの声を上げ、そこにいた人物が予想外の来客であることが判明した。
ドミトリー来訪による騒然
ラ・フォンテーヌの監視チームは、Dパワーズ事務所へ現れた男がロシアの英雄ドミトリー=ネルニコフであると確認し騒然となった。サイモンが内部にいる状況でドミトリーまで現れたため、双方が接触する事態に強い警戒感が生まれた。
ロシア側監視チームもまた、ドミトリーがDパワーズを訪れている事実に混乱し、亡命の可能性すら疑い始めた。
侵入不能な事務所への不気味さ
各国の諜報機関はDパワーズ事務所への潜入を試みていたが、成功した例は存在しなかった。侵入を試みた者たちは理由も分からぬまま倒れ、本国へ送り返されていた。ロシア側も同様の経験を持ち、事務所への強い不気味さを抱いていた。
ドミトリーと三好の対面
事務所内では、ドミトリーと三好の間に真剣勝負のような緊張感が漂っていた。芳村とサイモンはダイニングへ移動し、芳村はロシア産ウォッカとスモークサーモンを用意した。
サイモンは、ドミトリーが初めて自分より上の存在を意識し、その相手が三好だったのではないかと冗談めかして語った。
即席の三国懇親会
やがてドミトリーもダイニングへ移り、ロシア、アメリカ、日本の三国懇親会のような空気になった。三好は旧ソ連映画由来の乾杯を披露し、三人は酒とつまみを囲みながら雑談を続けた。
ダンジョンせとかの衝撃
芳村がダンジョン産のせとかを見せると、サイモンとドミトリーは、それが二十一層で採れた果実だと知って驚愕した。さらに三好が、果実が十数秒から三十秒程度でリポップすると説明すると、サイモンは世界の食糧事情を変えかねない情報だと断言した。
ダンジョン植物の危険性
サイモンは、食用植物がダンジョン内で発見された事実だけでも重大であり、知られる前に保護しなければ木ごと奪われる危険があると警告した。芳村たちは、小麦問題に関わっていた影響で感覚が麻痺していたが、改めて重大性を認識した。
ダンジョン研究と攻略の課題
話題はモンスターや植物の研究へ及び、ドミトリーは、金の卵を産むガチョウを殺す愚かさになぞらえながら、短絡的な研究利用を危惧した。サイモンも、研究と攻略が縦割りで進む非効率さを問題視していた。
鳴瀬の来訪と会の終わり
そこへ鳴瀬が訪れ、サイモンとドミトリーが同席している光景を見て固まったことで懇親会は終了した。ドミトリーは友情を示す言葉を残して帰り、サイモンも芳村たちを見張るよう鳴瀬へ冗談を飛ばして立ち去った。
二〇一九年一月三十日(水)
SMD設置計画の確認
市ヶ谷のJDA本部では、斎賀と美晴がステータス計測デバイスの設置について確認していた。
正式名称はルエミスター・プロであったが、略称の由来は三好の「ステータス見える君」という独自センスによるものだった。斎賀は微妙な表情を浮かべつつも、SMDと呼ぶことにした。
設置はブートキャンプ正式開始日の二月二十三日に合わせて行われる予定であり、回線敷設には二週間ほどかかる見込みだった。
ステータス情報管理への懸念
斎賀は、探索者の能力を客観的に測定できることはJDAにとって有益だと考えていた。
一方で、三好が探索者支援をCI活動だと説明しながらも、実際にはデータ収集そのものを楽しんでいる様子だったことに警戒も抱いていた。
サーバーへ送られるのは生データのみで、個人との紐付けはできない設計だった。しかし、JDAだけはWDAカードと組み合わせることで個人情報とステータスを紐付けられる可能性があった。
斎賀は将来的な管理利用を見据えつつも、現時点では反発が大きく、慎重に扱うべきだと判断していた。
サイモンとドミトリー接触への警戒
美晴は、Dパワーズ事務所でサイモンとドミトリーが同席していたことを報告した。
斎賀は、ロシアのトップ探索者であるドミトリーがDパワーズを訪れたことに驚き、サイモンの手引きによる亡命話ではないかと冗談めかした。
しかし、偶然だという説明を各国諜報機関が信じるとは考えにくく、斎賀はタイミングの悪さに頭を抱えた。
WDA国家設立説の広がり
セーフエリア発見をきっかけに、WDAが国家設立を目指しているという噂まで流れ始めていた。
斎賀は荒唐無稽だと考えていたが、サイモンとドミトリーがDパワーズで秘密裏に接触したように見える状況は、その噂へ妙な現実味を与えていた。
JDAとしては否定する相手も範囲も定まらず、強く否定すればかえって信憑性を高めかねないため、対応に苦慮していた。
二十一層のダンジョンせとか
美晴は、Dパワーズ事務所で出されたせとかが、二十一層で発見されたダンジョン産果実だったと報告した。
斎賀は二十一層でオレンジが発見されたことに愕然とし、さらにリポップしたと聞いて肩を落とした。
人為的に作られた麦を除けば、自然発生した食用植物のリポップ確認は世界初級の大事件だった。
農研機構への分析依頼は済んでいたが、DFAへ提出する現物は芳村たちが食べてしまったため残っていなかった。
商業ライセンスと報告遅延
斎賀は、安全確認前にダンジョン産果実を食べたことを問題視した。
しかし三好は〈鑑定〉持ちであり、商業ライセンスも保有しているため、違法と断定することは難しかった。
斎賀は表向きにはずさんだと批判しつつも、現物がないことで報告を少し遅らせられることを内心では幸運とも考えていた。
情報が広まれば、世界中のトップ探索者が二十一層の果樹園を目指す可能性があり、木の扱いに関するルール策定を急ぐ必要があった。
二十一層拠点の発覚
美晴はさらに、二十一層に設置されたイグルー型拠点の写真を斎賀へ見せた。
斎賀は驚き疲れていたものの、未踏エリアに拠点を築いている事実に改めて衝撃を受けた。
建物の搬入は〈収納庫〉で説明できたが、スライムへの対策や維持方法は不明だった。
それでも、拠点がパーティの私有物であり、JDAが公式に公開する案件ではないことだけが救いだった。
農研機構での異常なDNA鑑定
つくばの農研機構では、佐山繁がJDAから送られた柑橘のDNA鑑定結果について水木明憲へ報告していた。
同一果実から採取した試料にもかかわらず、研究員によって「せとか」「天草」と異なる結果が出ていた。
さらに、事情を知らない別の研究者が鑑定すると「清見」という第三の結果まで現れた。
佐山は、DNA情報が観測されるまで確定せず、観測者によって収束先が変わるようだと説明した。
量子力学じみた果実
水木は当初、試料や器具の汚染を疑った。
しかし汚染なら遺伝子が混ざるはずであり、結果はそれぞれ一つの品種として完全に出ていた。
しかも、一度「せとか」と判定した者は再鑑定してもせとかになり、「天草」と判定した者は何度やっても天草になった。
水木と佐山は、常識的な分子生物学では説明できない結果に困惑し、追加の追試を行うことにした。
追試依頼の決定
水木は、残りの試料を京都大学の北島教授と国立遺伝学研究所の神沼教授へ送り、独立した追試を依頼することにした。
その際、こちらで出た異常結果は伏せ、必ず複数名で品種同定を行わせるよう指示した。
彼らは、自分たちだけが狂っていると思われる危険を避けるため、第三者による検証を必要としていた。
WDA独立説の報告
ワシントンDCでは、CIA長官ジーンが、WDAが独立国家のように振る舞う可能性を大統領アルバートへ報告していた。
セーフエリアが永続的住民の存在を可能にし、ダンジョンそのものが明確な領域となり、WDAがルール策定機能を持っている以上、国家要件に近づいていると分析された。
さらに一流探索者が住民となれば、防衛力も確保できる可能性があった。
代々木発の奇跡への警戒
ジーンは、問題の多くが代々木発であり、中心にDパワーズがいると見ていた。
オーブオークション、〈異界言語理解〉、ステータス計測装置、ダンジョン内農園と、わずか三か月で異常な出来事が連続していた。
調査を進めるほど、日本がダンジョンの向こう側にいる何かと接触しているという噂が現実味を帯びているように見えた。
三好梓への注目
CIAは、ザ・ワイズマンこと三好梓に注目していた。
ジーンは、三好がワインショップでコルギンのカリアド一九九九年を選んでいる写真を示し、その選択が極めてマニアックだと説明した。
アルバートは、三好を高級ワインで買収できないかと冗談を言ったが、その要求内容は娘へのサイン程度だった。
友達になるという安全保障
サイモンからは、Dパワーズをどうにかしたければ友達になれという報告が上がっていた。
ニックはそれをパーソナルな安全保障だと皮肉ったが、ジーンは日本人の気質を考えると悪くない方針だと受け止めた。
アルバートは、国家規模で個人と友人になる計画を、オペレーション・トモダチになぞらえた。
Dパワーズは、もはやダンジョン界の中心であり、ダンジョンの向こう側にある世界の親善大使のように扱うしかない存在になっていた。
二〇一九年二月一日(金)
追試結果の混乱
農研機構果樹茶業研究部門では、佐山がダンジョン産柑橘の追試結果を水木へ報告していた。
京都大学北島研究室では、二人の研究者がともに「せとか」と同定していた。一方、国立遺伝学研究所神沼研究室では、最初の二名が「清見」と判定していた。
しかし、その後事情を知らない学生に同じ試料を検査させると「せとか」と判定され、さらに別の何も知らない研究者が検査すると、今度は「天草」と同定された。
この結果により、鑑定結果が観測者によって変化しているかのような異常現象が、再び確認されることになった。
異常現象への困惑
佐山は、関係者全員の頭がおかしくなったのでなければ、検査機器か現象そのものに異常があるとしか思えないと漏らした。
水木も、自然科学には必ず法則が存在すると考えていたが、この柑橘が常識外れの存在であることは認めざるを得なかった。
そして水木は、この果実が代々木ダンジョン二十一層で発見されたものだとJDAから確認したことを明かし、佐山へ代々木へ向かうよう命じた。
接ぎ木計画の始動
水木は、接ぎ木用の穂木を採取するにはちょうど良い時期だとして、ダンジョン内の木から枝を採取する計画を説明した。
佐山は、ダンジョン内植物を地上へ持ち出して問題ないのかと不安を示した。花粉が外界へ拡散し、交配が発生すれば大問題になる可能性があるからだった。
しかし水木は、JDAへ話を通し、密閉環境で管理する予定だと語った。研究機関として危険管理は徹底するつもりだった。
二十一層行きへの不安
佐山は、そもそもどうやって二十一層まで行くのかと問いかけた。
水木は、果実を持ち帰ったパーティを紹介してもらったと説明した。そのパーティには、探索未経験だった宝石鑑定人を二十一層より深い場所まで連れて行った実績があるらしく、水木は問題ないだろうと楽観視していた。
しかし佐山は、現代で自分がリアルな冒険家のような立場へ置かれるとは思っておらず、死の危険すらある状況に複雑な感情を抱いていた。
それでも未知のダンジョンへ向かうことへの高揚感も、心のどこかに存在していた。
WDAカード取得命令
水木は、ダンジョンへ入るにはWDAカードが必要だと説明し、佐山へ直近の講習会で取得しておくよう指示した。
さらに、向こう側の予定に合わせて出発日を決めるため、それまでに準備だけは進めておくよう伝えた。
一人残された佐山は、代々木へどう通うべきか考えながら窓の外を眺めていた。
農研機構のある藤本地区は周囲に何もない土地であり、昼食場所にすら困る環境だった。
その後、佐山は昼食を取るためマルベル食堂へ向かうことを決め、車へ歩き始めた。
初めてのダンジョン探索で二十一層へ行かされる現実に戸惑いながらも、彼の中には冒険への期待も芽生え始めていた。
二〇一九年二月三日(日)
ダンジョンせとかの異常鑑定
二月に入り、代々木では厳しい冷え込みが続いていた。
芳村が朝に事務所へ下りると、三好が難しい顔でダンジョンせとかのDNA鑑定レポートを読んでいた。
そこには、鑑定者によってDNA鑑定結果が変化するという、量子力学の観測問題を思わせる内容が記されていた。
芳村はレポートを読み終えると、この現象は「遅延評価」に近いのではないかと推測した。ダンジョンせとかは最初から厳密な分子構造を持っているのではなく、鑑定された瞬間に必要な情報が確定しているのではないかと考えたのである。
その仮説では、鑑定者が「せとか」だと思えばせとかに、「清見」だと思えば清見に収束する可能性があった。
Dファクターによる不確定性
芳村は、この理屈が正しいなら、ダンジョン内で育った食物が本当に栄養として成立しているのかも問題になると指摘した。
三好は、必要な化学反応が起きる場面で評価が定まるのではないかと推測したが、芳村はさらに、Dカードを持たない一般人にも同じ現象が起こるのか疑問を呈した。
スキルオーブがDカード所有者にしか使えない以上、ダンジョン由来の食物にも同様の制約が存在する可能性があったからである。
しかし三好は、今回鑑定を行った研究者たちは高齢の専門家も多く、全員が探索者とは考えにくいと説明した。そのため、少なくともDNA鑑定結果の変動はDカードの有無に依存していない可能性が高いと考えられた。
観測によって決定される食物
芳村は、今後ダンジョン小麦を使った動物実験が行われるだろうと予想した。
ネズミなどへ与えて体重変化を観察すれば、栄養として成立するかある程度判断できるはずだった。
しかし同時に、研究者が「調べよう」と考えた時点で結果が決定されるなら、本来の状態を観測すること自体が不可能になるとも指摘した。
三好も、それでは確かめる方法そのものが存在しないと応じた。
二人は、量子力学の観測問題のような現象が、マクロな食物レベルで起きている可能性に困惑していた。
不破のマラソン中継
重い話題が一段落すると、三好はソファへ移動してテレビをつけた。
芳村が理由を尋ねると、今日は不破の出場する別府大分毎日マラソンの日だと説明した。
JADA専門委員会の開催
東京都北区西が丘の国立スポーツ科学センターでは、JADAによる臨時専門委員会が開かれていた。
議題は、大阪国際女子マラソンで世界記録を樹立した高田が、前日に代々木のダンジョンブートキャンプへ参加していた件だった。
委員会では、ダンジョントレーニングをドーピングと見なすべきかどうかが議論されていた。
ダンジョントレーニング合法論
比較的若い元短距離選手は、ダンジョン内訓練は高地トレーニングと本質的に変わらないと主張した。
高田の血液検査やアスリート・パスポートにも違反物質は検出されておらず、現行ルール上は完全に合法だった。
さらに彼は、アスリートはルール違反でなければ何でも利用する存在であり、自分たちも現役時代はそうだったと語った。
そのため、今さらダンジョントレーニングを禁止することは現実的ではないと断言した。
禁止不可能という現実
委員たちは、すでにダンジョントレーニング経験者と未経験者の間に明確な能力差が生まれていることを認識していた。
高田や斎藤、箱根駅伝で注目された長井の例を見る限り、ダンジョン経験者へ未経験者が勝つことは極めて困難と考えられていた。
この段階で禁止すれば、すでに恩恵を受けた選手だけが有利な状態で固定されるため、大きな不公平が生じるという意見も出ていた。
さらに、過去に禁止されていなかった行為を後から違反扱いすることは、法の不遡及にも反すると指摘された。
Dカード問題と競技の変化
委員会では、Dカード保持者を識別できたとしても、それだけで競技資格を奪うことは不可能だと議論された。
オーブ問題以降、Dカード取得者は急増しており、特に若年層では取得率が高まっていた。
もしDカード保持そのものを問題視すれば、現役アスリート世代の多くが競技資格を失う可能性があった。
そのため、むしろDカードの有無で競技カテゴリーを分ける方が現実的ではないかという意見まで出始めていた。
また、念話によるリアルタイムコーチングの可能性など、新たな競技問題も指摘されていた。
JDAへの協力要請
最終的に議長は、現時点でダンジョントレーニングへの勧告は行わず、今後も動向を観察する方針をまとめた。
さらにJDAへ協力を要請し、トップ探索者を集めた非公式記録会を開催して、実際の身体能力データを収集する方向で調整が進められることになった。
委員たちは、高田の記録を見れば、従来型ドーピングよりダンジョントレーニングの方が遥かに効果的だと理解していた。
そのため、多くの指導者たちは、将来的に禁止される可能性を見越しながらも、今のうちに選手へ経験させておこうと考え始めていた。
不破の世界記録更新
代々木八幡の事務所では、芳村と三好が別府大分毎日マラソンの中継を見ていた。
レースでは、不破正人が二時間〇分四十三秒という驚異的な記録で優勝していた。
従来の日本記録を五分更新し、自身の自己ベストからも八分近い短縮となる世界記録だった。
三好は、高田が以前予想していた通りの結果になったと嬉しそうに語った。
秘密のトレーニング
優勝インタビューでは、高田との関係について質問が飛んだ。
不破は、高田は怖い先輩ではあるがトレーニング仲間でもあると答え、二人で特別なトレーニングをしていることをほのめかした。
ただし、その内容については秘密だと笑ってごまかしていた。
インタビュアーも、突然世界記録を出せるようなトレーニングなら秘密でも仕方ないと冗談交じりに応じていた。
キャシー教官への感謝
インタビューの最後、不破は突然カメラへ向かって身を乗り出し、キャシー教官へ感謝を叫んだ。
予想外の発言にインタビュアーは慌て、そのまま中継はスタジオへ切り替わってCMへ入った。
芳村は、不破がああいう性格だったのかと呆れ気味に漏らし、三好も、生放送でキャシーの話をするとは思わなかったと苦笑した。
〈マイニング〉問題への懸念
話題は、現在芳村たちを悩ませている〈マイニング〉問題へ移った。
セーフエリア開発の影響もあり、しばらくは二十一層に人員が張り付く状況が続きそうで、新しい層での鉱石確定作業が進めづらくなっていた。
さらに三十一層も鉄へ変化しており、次に何をドロップさせるか慎重に決める必要があった。
芳村たちは、今後の攻略へ大きく関わるこの問題に頭を悩ませていたが、その問題は後に意外な形で解決へ向かうことになるのだった。
二〇一九年 二月四日(月)
JADAからの依頼
二〇一九年二月四日、代々木ダンジョンの相談スペースでは、十八層から戻った渋チーの面々が、JADAから持ち込まれた依頼について説明を受けていた。
依頼内容は、探索者たちの身体能力を測定するための非公式記録会への参加だった。JADAは日本アンチドーピング機構であり、スポーツ界におけるドーピング検査などを担当している組織だと説明された。
林田は、自分たちが名指しされたことに驚いていたが、実際にはJDA側が「代々木のトップ探索者」として推薦した結果だった。
探索者たちの反応
突然の依頼に対し、喜屋武は強い興味を示していた。
トップ探索者たちの身体能力に世間が注目していることを面白がり、うまくアピールできればオリンピック代表になれるかもしれないと冗談半分に盛り上がっていたのである。
一方、東はその発想を現実味のない話だと感じていた。提示された報酬も、一般的には高額だったが、探索者としての収入と比較すれば大した額ではなかったため、不満を漏らしていた。
しかし喜屋武は、純粋に自分たちの能力を測る機会として楽しんでおり、他のメンバーたちも強い拒否感は示さなかった。
記録会参加の決定
大剣は特に興味はないが反対する理由もないと答え、デニスも同様の態度を見せていた。
最終的に、誰も強く反対しなかったことと、喜屋武が非常に乗り気だったこともあり、林田は一日だけなら引き受けてもいいと判断した。
こうして渋チーは、JADA主催の非公式記録会へ参加することを決めた。
記録会への準備
JDA職員からは、テスト内容の詳細が記載された資料が渡された。
そこには足のサイズを記入する欄もあり、陸上用シューズをJADA側が用意する予定だと説明されていた。
日程には幅が設けられていたが、林田は早めに終わらせて本業の探索へ戻りたいと考え、最も早い日程を希望していた。
職員は、そのまま本蓮沼にある国立スポーツ科学センターへ直接向かうよう案内し、手続きが進められることとなった。
ニューヨークでの活動
二〇一九年二月五日、ニューヨークではファッションウィーク開幕を目前に控え、各地で関連イベントが開催されていた。
ウィメンズ部門はラルフ・ローレンを皮切りに始まる予定であり、その前段階としてメンズ部門が既に始動していた。
その中で遙は、以前ディレクターから告げられた「存在感が強すぎて服が負ける」という言葉を思い返していた。
本来はオーラを身につけるためにダンジョンへ潜ったはずだったが、今度は逆に存在感が強すぎることが問題視されていたのである。
ファッション業界への理解
ニューヨークでの日々は夢のようだったが、現場へ来たことで初めて理解できたことも多かった。
その一つが、ファッション業界に対する抗議活動だった。
以前は環境負荷の高さから激しいデモが行われていたが、英国ファッション協会による毛皮使用禁止やサステナブル対策の強化によって、現在では抗議活動は大幅に減少していた。
その影響もあり、今年はファーの代わりにフェザーを用いるブランドが増えていた。
遙自身は素材の倫理性よりも、それをどう美しく見せるかへ意識を向けていた。
モデルとしての思考
遙は、自分を技術者に近い存在だと考えていた。
モデルとして重要なのは、自身を目立たせることではなく、デザイナーの意図通りに服を見せることだったからである。
そのため、服の素材や性質、しわやドレープの見え方、歩行時の速度や加速度まで意識し、観客の視線をどのように誘導するかを深く考えていた。
存在感を消し、服だけが際立つ状態を理想として、彼女は思索を続けていた。
チェルシーピアーズでの一幕
深く考え込んでいた遙は、気付けばチェルシーピアーズのスタジオ50付近まで歩いていた。
そこで彼女は、ベンチの前に置かれていた奇妙な仏像を発見し、そのおかしさに思わず写真を撮影していた。
その写真を「へんなぶつぞー」という文面付きで涼子へ送った後、芳村たちにも何か送ろうと思い立った。
ちょうどバレンタインが近づいていたこともあり、遙はスマートフォンでチョコレートショップを探し始めていた。
市ヶ谷JDA本部での契約交渉
市ヶ谷のJDA本部では、農研機構研究員の佐山とDパワーズの間で、二十一層への護衛依頼契約が進められていた。
依頼内容は、佐山を安全に二十一層へ同行させ、問題の柑橘の枝を採取した後、無事地上へ帰還させることであった。
佐山は、ダンジョン内柑橘を接ぎ木して研究したい目的を説明し、芳村は標準的な探索者待遇であれば対応可能だと応じていた。
NDA締結と佐山の衝撃
契約に先立ち、芳村たちはNDAを提示した。
これは探索中に見聞きした情報、とりわけスキルや魔法について守秘義務を課す内容であり、違反時には過去一年分の収入相当額を賠償金として請求するという極めて重い契約だった。
さらに鳴瀬から、Dパワーズの過去一年間の収入を日割り換算すると、一日あたり十二〜十三億円規模になると説明され、佐山は絶句していた。
NDA違約金が四千五百億円規模に達すると知り、研究者としての常識を超えた世界に強い衝撃を受けていたのである。
ネイサン・アーガイル博士の乱入
契約交渉の最中、突然部屋へ飛び込んできたのは、WDA所属のDFA主席研究員ネイサン・アーガイル博士だった。
赤毛で自由奔放な雰囲気を持つ彼は、ロビン・ウィリアムスや数学者ガウスを思わせる外見をしており、場の空気を一気にかき乱した。
後から現れたアシスタントのシルクリー・サブウェイが謝罪しつつ、彼がWDAの大物研究者であることを説明していた。
ネイサン博士は、Dパワーズが提出したダンジョン農業関連レポートへ強い関心を抱き、二十一層探索への便乗参加を希望していた。
ダンジョン産食物を巡る危機
ネイサン博士は、ダンジョン産小麦や作物に関する重大な問題を説明した。
ダンジョン産食物を摂取した結果、Dカード未所持者がDカードを取得してしまう現象が確認されていたのである。
これは人類への福音にもなり得る一方、「異界の食物によって人類が変質する」という恐怖にも繋がる危険性を孕んでいた。
博士は、既に海外ではダンジョン産食物へ反対する社会運動の兆候が見られると語っていた。
三好はさらに、アメリカでは探索者移民の流入によって既存労働者との摩擦が発生していることを指摘した。
その上で、ダンジョン産食物への嫌悪感が探索者排斥運動へ発展し、探索者と非探索者の分断を引き起こす危険性を分析していた。
共同依頼への変更
依頼費用を捻出できず困っていた佐山に対し、ネイサン博士は共同依頼への変更を提案した。
自身も二十一層探索へ同行する代わりに、護衛依頼費用をDFA側で負担すると申し出たのである。
しかし、シルクリーの補足によって、ネイサン博士自身は探索経験ほぼ皆無の完全な素人であり、最高到達階層が一層であることが判明した。
その結果、芳村たちは佐山・ネイサン博士・シルクリーという素人三名を連れて、二十一層へ向かうことになってしまった。
二層の麦畑再訪
契約終了後、芳村たちは佐山の準備が整うまでの間、ネイサン博士の希望に応じて二層の麦畑を訪れていた。
畑は自然へ埋もれかけていたが、麦だけは三好が収穫した当時の状態を維持し、黄金色の穂を揺らしていた。
ネイサン博士は、その異常な光景へ強い感動を示し、鎌で刈り取られた麦穂が即座に元通り再生する様子を見て、永遠性を備えた神秘だと評していた。
さらに博士は、この現象をギリシャ神話のエレウシスの秘儀になぞらえ、デーメーテールが人類へ農耕を授けた神話と重ね合わせていた。
麦畑の扱いを巡る議論
動物実験用の麦を採取し終えた後、ネイサン博士は、この畑を今後どう扱うつもりなのかを尋ねた。
芳村と三好は相談の末、この畑をJDAへ返却する方向で考えていると答えた。
世界唯一のダンジョン内麦畑ではあるものの、今後は各国や組織から注目を集めるのが確実であり、管理責任や政治的圧力を背負うことを避けたかったのである。
三好も、優先利用権さえ確保できれば後は構わないと同意していた。
ネイサン博士の反対
しかしネイサン博士は、その判断に強く反対した。
JDA管理下へ移した場合、各国や巨大組織からの圧力に耐えられない可能性が高く、権利者が存在した方が政治的な盾になると指摘したのである。
さらに、もし土地がフリーな状態になれば、多数の組織が権利獲得を狙って争奪戦を始めるだろうとも語っていた。
その流れで三好は、畑をオークションへ出品したり、ダンジョン麦を利用した「Dカード取得ッキー」を販売したりする冗談を口にしたが、芳村から即座に却下されていた。
ネイサン博士の本当の目的
探索準備のため地上へ戻ろうとした芳村たちだったが、ネイサン博士は当然のように二十一層同行を継続する意思を示した。
彼は、当初はダンジョン麦の確認だけが目的だったものの、オレンジの存在まで判明したことで強く興奮していたのである。
ニューヨークでの業務を半ば強引に放置し、時差ボケ状態のまま日本へ飛び、JDA経由で芳村たちの依頼情報を知るや否や、職権を使って無理やり同行をねじ込んでいたことまで明かされた。
ネイサン博士は、今回の探索を「世界の秘密へ近づく旅」だと捉えており、二十一層に存在する柑橘を「聖なる木立の枝」とまで呼びながら、強い期待を隠していなかった。
八層での休憩と屋台の豚串
芳村たちは佐山とネイサン博士一行を連れて八層まで到達し、探索者向け屋台で豚串を購入して休憩していた。
代々木ダンジョン観光としては定番の場所であり、芳村はこの屋台が実質的には自衛隊系統の情報拠点ではないかと推測していた。
ネイサン博士とシルクリーは、焼き過ぎ気味の豚肉を食べながら率直な感想を述べていた。
博士はユダヤ教徒だったが、自身を世俗派だと説明し、宗教戒律に厳格ではないことを明かしていた。
佐山は、期待していたオーク肉ではなく普通の豚肉だったことに少し拍子抜けしていたが、初めてのダンジョン探索にもかかわらず強い高揚感を見せていた。
今後の探索方針
時間が夕方に近づいていたため、芳村と三好は八層で宿営する方針を決めた。
翌日に十八層まで降下し、その次の日に二十一層へ向かう計画である。
同行者たちが探索慣れしていないこともあり、安全を優先した判断だった。
その最中、三好は御劔遙から届いた英文メールを確認していた。
ニューヨークのファッション業界で刺激を受けながらも、場違い感に戸惑っている様子が綴られており、芳村と三好は、彼女が短期間で世界的舞台へ飛躍していく異常な変化について語り合っていた。
グラスとこたつ談義
休憩中、グラスは珍しく表へ出てきて、まるで警備隊長のように周囲を巡回していた。
芳村がからかったことで腕へ本気噛みを食らう場面もあり、三好は楽しそうにグラスをあやしていた。
グラスたちは召喚者防衛への強い執着を持っているらしく、周囲警戒を自主的に行っていた。
また二人は、以前の事務所に置かれていたこたつについて語り始めた。
三好は、こたつを導入して鍋を囲み日本酒を飲みたいと夢想していたが、芳村は、こたつは人間を堕落させる危険な装置だと本気で警戒していた。
知性とダンジョンの関係
ネイサン博士は、芳村たちの会話から、ダンジョンによる知性向上の可能性へ強い関心を示した。
もしINT上昇が現実世界の知性にも影響するなら、将来的に研究者たちがこぞってダンジョンへ向かう時代が来るかもしれないと語ったのである。
特に数論研究者のような純粋数学者は、わずかな知能向上へ人生を賭けて飛び込んでくるだろうと予測していた。
三好は芳村を『ドン・キホーテ』型の人物だと評し、自分は暴走する彼を村へ帰す『銀月の騎士』役だと冗談交じりに語っていた。
佐山の高揚
周囲の植物を採取して回っていた佐山は、探索を終えて戻ってくると、目を輝かせながらダンジョンの楽しさを率直に語っていた。
未知の植物、生態、環境へ直接触れられる体験は、研究者としての好奇心を強く刺激していたのである。
二〇一九年 二月七日(木)
十八層の観光地化
芳村たちは八層で一夜を明かした後、十八層へ到達した。
ネイサン博士は、タルチョがはためく風景を見て、ヒマラヤのベースキャンプのようだとはしゃぎ、佐山を巻き込んで記念撮影を繰り返していた。
十八層は以前以上に観光地化しており、探索者キャンプ周辺ではファルコンインダストリー製ポーターの展示会まで行われていた。
ポーターたちは愛嬌を振りまいていたが、その背中には重機関銃が搭載されており、ネイサン博士は深層探索の危険性を改めて実感していた。
芳村たちは、今後ポーター普及が進めば、JDAの格納設備が確実に不足すると予測していた。
DADチームとの再会
そこへサイモン率いるDADチームが現れた。
彼らは二十二層で〈マイニング〉とポーター運用試験を続けており、モーガン=ルーカスが貴金属回収を担当していた。
ナタリーとジョシュアは相変わらず軽口を叩き合っており、DAD内部でもキャシーによるブートキャンプ動員が始まっていることが語られていた。
また、サイモンは〈マイニング〉とポーターの相性問題について説明した。
ポーターが倒したモンスターは、必ずしも〈マイニング〉使用者の撃破扱いにならず、貴金属ドロップが安定しないのである。
使用者がポーターへ触れている場合のみ功績判定される傾向はあるが、条件は依然不明だった。
アメリカ大統領からの依頼
サイモンは本題として、アメリカ大統領からの依頼を芳村たちへ伝えた。
内容は、三十二層まで大型ガスタービン発電設備を〈収納庫〉で運搬してほしいというものであった。
サイモンは、芳村たちが〈収納庫〉持ちであることを察していたが、その根拠はNASAへの秘密打診情報から逆算した推測だった。
当初、三好は依頼を断る姿勢だったが、報酬として提示されたのが、一九九七年ヴィンテージのスクリーミング・イーグル一ケースだった瞬間、態度を一変させた。
さらに、ルフレーヴのモンラッシェ二〇一六年垂直セットという追加報酬を聞いた三好は、完全に降伏し、即座に依頼受諾へ傾いた。
彼女は、二〇一六年ブルゴーニュ霜害によって極少量しか存在しない特別なモンラッシェについて熱弁を振るい、その希少性を説明していた。
芳村は、世界最強クラスの探索案件よりも、ワインの方が三好へ強烈に作用している現実に呆れつつも了承していた。
サイモンが語る高ランク探索者の特性
会話の中で、サイモンは興味深い情報を明かした。
強力な探索者になると、格下モンスター側が接敵前に避けるようになるというのである。
モンスターは戦闘になれば襲いかかってくるが、そもそも遭遇自体を回避しようとする傾向があるらしかった。
芳村は、この性質が高位探索者たちの深層到達速度や、過去にさまよえる館が長期間発見されなかった理由にも繋がると理解していた。
金枝とセーフエリアへの興味
芳村が二十一層のオレンジ樹木群について説明すると、サイモンは三十二層にも巨大なヤドリギ――金枝が存在すると語った。
それを聞いたネイサン博士は激しく興味を示し、即座に三十二層行きを要求し始めた。
芳村たちは予定外行動を拒否したが、博士は仕事を放り出してでも探索したいと本気で叫び始めた。
最終的に博士は、勢いのまま「代々木に分局を作ろう」と言い出し、芳村はその自由過ぎる発想に呆れ返っていた。
二〇一九年二月八日(金)
二十一層への到達
芳村たちは八層で一夜を明かし、十八層を経由して二十一層へ到達した。
セーフエリア関連で自衛隊の往来が増えていたため、雪山層のメインルートは想像以上に踏み固められていた。そのため、移動は比較的容易だった。
三好は移動中も、アルスルズによってドロップした鉱物を、触れずに〈収納庫〉へ回収していた。〈収納庫〉は熟練によって非接触収納が可能になっており、芳村はその技術を怪盗じみていると感じていた。
佐山の興奮と深層の危険
二十一層は春のムーアを思わせる穏やかな景観だったが、依然として危険な深層であった。
佐山が水辺の植物へ駆け寄ろうとした瞬間、グラスが彼の襟を咥えて制止した。直後に小型ドラゴン型モンスターが飛び出し、アルスルズが即座に処理した。
佐山はこの出来事によって、自分が初心者では到底来られない深層にいることをようやく実感した。
芳村たちはアルスルズを広範囲へ先行させ、護衛エリアを広げていた。そのため、同行者たちは危険をあまり感じずに済んでいた。
三好は、この方式ならコンダクターと闇魔法を組み合わせて三十二層ツアーも可能ではないかと冗談を口にしたが、芳村は無秩序な観光化の危険を懸念していた。
ネイサン博士の危うさ
ネイサン博士は、この安全性を世界中へ宣伝したいと口にした。
しかしシルクリーが即座に制止し、NDA違反になる可能性を警告した。
芳村は、博士が一見常識人に見えても、目的のためならルールを軽視しかねない危険人物であると警戒していた。
ダンジョン内での動物利用の失敗
移動中、佐山は荷物運搬に馬を使えないのかと疑問を口にした。
ネイサン博士は、アメリカで過去に動物利用実験が行われたが、水や飼料の大量消費、モンスター襲撃時のパニック、怪我による殺処分など問題が多発し、結局断念されたと説明した。
大型動物は護衛コストが重く、結果的に荷物輸送効率も悪化していた。
博士はさらに、古代アリキアの伝承になぞらえ、聖地には馬を近づけられないという神話的な冗談も交えていた。
イグルー一号と開発リスク
丘を越えた先には、イグルー一号が人工建造物としてそびえていた。
ネイサン博士は、ダンジョン内でここまで大規模な建造物を設置できることに驚愕した。
三好は、室内リポップによる危険性を説明し、大規模開発には常に都市崩壊級のリスクが伴うと警告した。
佐山は待ちきれず、一人でオレンジの森へ向かった。芳村たちは博士たちを伴ってイグルー一号へ移動した。
湖での釣りと魚類の発見
芳村はネイサン博士を湖へ誘い、魚類の存在確認を行った。
ダンジョン内では通常の魚類が確認されておらず、もし魚が存在するなら無限漁場になる可能性があった。
二人はスプーンルアーで釣りを開始し、やがて芳村が大型魚を釣り上げた。
釣り上げられたのは七十センチ超のスチールヘッドだった。
本来は降海型ニジマスであり、海へ下る経路がない二十一層の内陸湖に生息していること自体が異常だった。
芳村は、ダンジョン環境そのものが雑多な知識を元に構築されているのではないかと推測していた。
ダンジョン産魚類の食用実験
ネイサン博士は、この魚を食べるべきだと即断した。
三好の〈鑑定〉で安全性確認ができるため、ダンジョン産魚類の初の食用実験を行おうと考えたのである。
芳村は、一人の能力へ依存した安全確認体制の危険性を指摘したが、博士は半ば本気で三好をDFAへ引き抜きたいとぼやいていた。
その後、芳村たちはスチールヘッドを持ち帰り、イグルー一号へ戻っていった。
記録会への到着
渋チーの面々は、本蓮沼駅から国立スポーツ科学センターへ向かった。
林田たちは、二十三区内にしては空が広く静かな街並みに軽口を叩きながら歩いていた。
競技場へ案内された彼らは、屋根付きトラックや施設を見回しつつ、探索者用トレーニング施設との違いを実感していた。
現時点では探索者専門の訓練施設は存在せず、実戦で鍛えるしかない状況だった。
記録会開始と周囲の注目
会場にはJADA関係者だけでなく、陸連関係者やテレビ局も集まっていた。
三塚と吉田が渋チーへ説明を行い、陸連関係者たちは探索者の身体能力を直接確認するため視察に来ていた。
さらにMBSの取材も行われていたが、喜屋武はむしろ積極的にカメラへ手を振った。林田も、面倒が起きない限り許容する姿勢を見せていた。
対照的に、ダイケンは人目の多さに不機嫌さを隠していなかった。
百メートル走への挑戦
最初の競技は百メートル走だった。
渋チー内で最も足が速そうだという理由で、最初にデニスが走ることになった。
デニスはクラウチングスタート自体を知らず、三塚から基本動作の説明を受けていた。
吉田は、スターティングブロックの使い方も姿勢移行も素人同然であることから、記録は期待できないと判断していた。
探索者の異常な身体能力
しかし、デニスが叩き出したタイムは常識を超えていた。
スタートはぎこちなかったにもかかわらず、計測タイムは九秒四六だった。しかも風速はマイナス一・二メートルの向かい風であり、条件としては不利だった。
吉田や三塚は信じられない数値に絶句し、観戦していた関係者たちにも大きなどよめきが広がった。
デニス本人はその記録の凄さを理解しておらず、東へ「あれって速いのか」と平然と尋ねていた。
さらに喜屋武は、自分でも同程度のタイムが出せそうだと自信満々に語り、次は自分も走らせろと林田へ要求した。林田はその流れを予想していたように苦笑しながら了承した。
記録会後の合同検討会
国立スポーツ科学センターでは、記録会終了後、JADAのアスリート委員会と学術委員会による合同検討会が開かれた。
高コンディションの中で行われたとはいえ、渋チーが出した記録は異常だった。
短距離、中距離、フィールド競技の多くで世界記録級、またはそれに近い結果が出ており、委員たちはトップ探索者の身体能力に衝撃を受けていた。
探索者と非探索者の決定的な差
三塚は、同じ競技技術を持つなら、非探索者は探索者に絶対勝てないと結論づけた。
これまで問題が表面化しなかったのは、トップアスリートは競技練習で忙しく、トップ探索者はダンジョン探索で忙しかったためだった。
両方を本格的に行っている者が少なかったため、競技界と探索者界の能力差が見えにくかったのである。
浦辺は、高田や不破も少し前までは普通の有望選手に過ぎなかったはずだと疑問を呈した。吉田は、その急激な伸びの原因はDパワーズのダンジョンブートキャンプだと説明した。
ブートキャンプ効果への注目
ブートキャンプは、探索者が蓄積した潜在能力を目的の能力へ振り分ける訓練プログラムだと説明されていた。
高田と不破は、ダンジョンが出現した頃に大学へ入学し、興味本位で代々木へ通っていた世代だった。
そのため、ダンジョン内で蓄積された能力があり、ブートキャンプを受けることで一気に競技能力へ転化された可能性が高かった。
吉田は、ダンジョンを練習に組み込んでいた選手がブートキャンプを受ければ、世界トップアスリートへ一気に到達する可能性があると指摘した。
スポーツ界の焦り
委員たちは、ダンジョントレーニングをドーピング扱いすることは困難だと認識していた。
しかし、渋チーの記録と高田・不破の世界記録更新によって、ダンジョントレーニングへ乗り遅れれば、競技指導者として時代遅れになることも明らかになった。
ブートキャンプ費用は個人枠なら三万円、組織枠なら三万ドルと大きな差があったが、世界記録や報奨金を考えれば、組織枠でも安いと判断されていた。
枠争奪と政治マター化
問題は、ブートキャンプの倍率が非常に高く、通常応募では選ばれるのが難しい点だった。
浦辺は日本陸連として枠を押さえるべきだと主張したが、すぐに水泳連盟出身の議長が反発した。
そこから各競技団体が自分たちの利害を主張し始め、議論は収拾がつかなくなった。
坂上は、最終的にはスポーツ庁預かりとなり、日本スポーツ振興センターなどが管理する形になるのではないかとまとめに入った。
委員たちは、国会議員へ働きかければ枠を確保できると考え始めていた。
菅谷恭也の冷めた視点
その議論を、菅谷恭也は冷めた目で見ていた。
彼は、JADAの委員会が本来扱うべきドーピング検査や教育活動から外れ、ブートキャンプ枠の奪い合いに変質していることに違和感を覚えていた。
また、陸上競技なら既存選手を一年でダンジョンに馴染ませるより、既にダンジョンに馴染んでいる探索者へ競技技術を教える方が早いと考えていた。
こうして、日本スポーツ界はブートキャンプ参加を政治マターにしてしまった。
森の王の出現
昼食後、芳村たちは佐山が見つけた特別なオレンジの木へ向かった。
その木は通常のオレンジとは明らかに異なり、十メートルを超えるほど大きく、神々しい雰囲気をまとっていた。
佐山はその木から接ぎ木用の枝を採取しようとし、ナタを振り下ろした。
すると芳村と三好の探知に強い反応が現れ、何かが急速に接近してきた。
姿を現したのは、暗緑色のローブをまとい、杖と短剣を持った人間のような存在だった。
三好が〈鑑定〉した結果、それは二十一層のエリアボス「森の王」であった。
枝を折ったことで始まった追撃
佐山が枝を折り落とした瞬間、森の王は激しく吠え、短剣を抜いて突進してきた。
三好は即座に鉄球を撃ち出し、森の王の頭部を潰して吹き飛ばした。
強者感のある登場に反して、森の王はあっけなく倒れたように見え、芳村たちは拍子抜けした。
しかし森の王は黒い光へ還元されず、やがて再生して再び起き上がった。
三好が再度鉄球で吹き飛ばしても同じであり、森の王は通常のモンスターとは異なる不死性を持っていた。
弱点の推測
芳村と三好は、神話や伝承に登場する不死身の存在のように、森の王にも特殊な弱点があるのではないかと考えた。
状況から、枝を折った者、すなわち佐山でなければ倒せない可能性が浮かんだ。
ネイサン博士がこの場所をネミの森になぞらえていたこともあり、芳村たちは、逃亡奴隷が森の王を倒す伝承と重ね合わせた。
しかし、装備も経験もない佐山に二十一層のエリアボスを倒させるのは現実的ではなかった。
撤退と時間稼ぎ
芳村は佐山を抱え上げ、ネイサン博士たちをアルスルズに追い立てさせながら、湖沿いに逃走した。
三好は、森の王が起き上がって追ってくるたびに鉄球を撃ち込み、頭部を吹き飛ばして時間を稼いだ。
森の王は合計九回も頭を潰されたが、それでもなお再生し、執拗に佐山を追い続けた。
追跡は、芳村たちがオレンジの丘を登り切るまで途絶えなかった。
二〇一九年 二月十日(日)
代々木ダンジョン エントランス
地上帰還と佐山の別れ
二月十日、芳村たちは代々木ダンジョンのエントランスへ戻っていた。
佐山は、不死身の森の王が守っていた特別なオレンジの枝をクーラーボックスに収め、芳村たちへ深く礼を述べた。枝は光に還元されることなく、普通の枝として残っていた。
しかし佐山は、森の王に追われた体験を思い出し、もう二度とダンジョンはごめんだと苦笑した。研究者としての好奇心は刺激されたものの、深層の危険は彼に十分すぎるほど刻み込まれていた。
ネイサン博士と佐山の変化
帰還中、ネイサン博士は十八層へ戻る頃にはすっかり調子を取り戻し、三好へ質問を浴びせていた。特にアルスルズをどこで手に入れたのかに強い関心を示しており、大型犬好きらしい一面も見せていた。
また、佐山は最後にはネイサン博士と意気投合しており、研究対象へ没頭すると周囲が見えなくなる点で同類のようでもあった。
佐山は、ダンジョン植物を外へ持ち出した後の結果を報告すると約束し、NDA違約金の重さに怯えながらタクシーで去っていった。
森の王への懸念
佐山を見送った後、芳村と三好は森の王について話し合った。
森の王は戦闘能力そのものは大したことがないように見えたが、不死身で倒せないことが最大の問題だった。もし伝承通り、枝を折った者しか倒せないのだとすれば、佐山が二度と二十一層へ戻らない以上、森の王はあの森に残り続けることになる。
ただし、森の王は森の外へ出てこなかったため、テリトリーへ近づかなければ問題はないと芳村は判断した。エリアボスは基本的に縄張りを侵さなければ無害に近く、危険なのは徘徊型のワンダリングユニークだけだと考えていた。
アメリカからの大仕事
三好は、無事に帰ってこられてよかったと話したが、芳村は彼女がアメリカ大統領から大型依頼を引き受けていたことを思い出させた。
その依頼は、三十二層へガスタービン発電設備を運ぶという大仕事であり、本来なら膨大な時間と費用を必要とする案件だった。Dパワーズが〈収納庫〉で一気に運べば、三十二層には一気に電力供給拠点が生まれることになる。
しかし、その事実が日本政府側に知られれば、同様の無理難題を持ち込まれる可能性が高かった。
中立性への不安
芳村は、今回の依頼がアメリカからである点を問題視していた。
Dパワーズとしては、友人の頼みを手伝い、礼としてワインを分けてもらう感覚だった。しかし役人や政府関係者がそれを信じるとは限らなかった。
特に三好は世界唯一の〈鑑定〉保持者であり、アメリカへ渡ろうと思えば特別枠でグリーンカード取得も可能な存在だった。その可能性だけでも、日本側に警戒される恐れがあった。
芳村と三好がワインの分け前を巡って軽口を交わしていると、三好のスマホに鳴瀬から着信が入った。
市ヶ谷 JDA本部 ダンジョン管理課
スチールヘッド発見の報告
美晴は、Dパワーズから聞き取った二十一層探索の内容を報告するため、市ヶ谷のJDA本部を訪れていた。
報告内容には、二十一層の湖にスチールヘッドが生息しており、釣って調理した結果、美味だったという話まで含まれていた。
しかし、その場に居合わせたWDA食品管理部主席研究員ネイサン・アーガイル本人が、三好の〈鑑定〉結果だけを根拠に魚を食べていたと知った斎賀は激怒した。
食用と表示されていても、未知の副作用や長期的安全性までは保証されていない。ましてVIP研究員に何か起これば国際問題になりかねず、斎賀は頭を抱えるしかなかった。
ネイサン博士の代々木執着
ネイサン博士は、ろくに引き継ぎも済ませないまま来日していたらしく、帰国後も再び戻ってくるつもりだと伝えられた。
しかも博士は、代々木にWDA食品管理部の分局を作る構想まで語っていた。
日本には食品安全を一元管理する組織が存在せず、斎賀はその発想自体に困惑した。しかし、美晴は博士がDパワーズとの連携を重視しているのではないかと推測した。
特に二層の麦畑に対する執着は強く、博士はすでにFAOにも話を通し、麦の安全性検証や管理体制を動かし始めていた。
世界の食糧問題への視線
ネイサン博士は、二層の麦について最優先で安全性確認を進める方針を示していた。
美晴は、その行動理由について、人間だからではないかと語った。
目の前に世界の食糧事情を変え得る技術があり、それを必要とする場所へ届けられる立場にある以上、動かずにはいられないのだろうと推測したのである。
その青臭いほど真っ直ぐな理由に、斎賀は半ば呆れながらも、同時に畏敬の念を抱いていた。
代々木開発計画の再始動
話の流れの中で、美晴は机から落ちた書類に「代々木開発計画試案第六号」というタイトルを見つけた。
それは、ダンジョン内部を施設利用するための計画書であり、セーフエリア発見によって再び動き始めた企画だった。
内容は、無線中継基地局などをダンジョン内部へ設置し、通信網を整備するというものだった。しかし従来は、スライム問題や維持困難性から現実性が薄く、机上の空論扱いされていた。
ところが、Dパワーズがベンゼトス液による施設維持方法を持ち込んだことで、再び企画室が活気づき始めていた。
二十一層拠点の危険性
斎賀は、もし二十一層の拠点の存在が企画室側へ知られれば、大騒ぎになると警戒していた。
拠点を維持できている以上、何らかの未知技術が使われているのは明白であり、従来の常識に縛られた者たちは、それを技術隠蔽だと疑う可能性が高かった。
企画室には政治家や天下り関係者も絡んでおり、強引な介入によってDパワーズを刺激すれば、大きな混乱を招きかねない。
そのため斎賀は、今のダンジョン管理課には対応する余力がないことを理由に、当面は企画室を適当にあしらって時間を稼ぐ方針を取ることにした。
茨城県つくば市藤本 農研機構 果樹茶業研究部門
佐山の帰還とダンジョン体験の報告
佐山が農研機構へ戻ると、休日にもかかわらず出勤していた水木が、ダンジョン探索の感想を尋ねた。
佐山は、二十一層で命の危険を感じる場面もあったことを思い出したが、DパワーズとのNDAに抵触する危険を恐れ、その詳細には触れなかった。
代わりに、ダンジョン内の植物相が既存の植物生化学を根底から覆しかねないほど異常であることや、世界の見え方が変わるような体験だったと語った。
水木は、以前より積極的になった佐山の変化に驚きを覚えていた。
二十一層の異常環境
佐山は、二十一層にはイギリスのムーアを思わせる景観が広がり、湖にはスチールヘッドが泳いでいたと説明した。
水木は、降海型であるスチールヘッドが閉鎖湖に存在する事実へ疑問を抱いたが、ダンジョン内部では既存の常識が通用しない以上、断定はできなかった。
佐山は、採取してきたオレンジやその他植物を地上で育成したいと提案し、水木はすでに陰圧温室を用意していることを明かした。
花粉拡散を防ぐための最低限の設備ではあったが、研究には十分な環境だった。
接ぎ木実験の開始
佐山は、ダンジョン内と地上では環境条件が大きく異なる以上、通常の時期にこだわらず接ぎ木実験を始めるべきだと主張した。
低温処理を行って季節を合わせる方法だけでなく、そのまま接ぐ方法も含め、複数条件で試験を行う方針を立てた。
水木は、世界の常識が通用しない存在だからこそ、人を派遣したのだと思い直し、佐山の判断に任せることにした。
また、静岡のカンキツ研究拠点にも試料を回すよう指示し、佐山はそれを了承した。
特別なオレンジへの期待
静岡への資料発送を終えた佐山は、特別なオレンジの木から採取した枝を、二年目の温州みかんへ接ぎ木した。
思った以上に順調に作業を終えた佐山は、その苗木を見つめながら、もし地上であの果実が実るなら、柑橘の世界そのものが一変すると確信していた。
彼は、その枝が無事に活着し、大きく育つことを強く願っていた。
二〇一九年二月十一日(月)
代々木ダンジョン エントランス
菅谷による接触
代々木ダンジョンへ向かおうとしていた渋チー一行は、エントランスでスーツ姿の中年男性から声をかけられた。
喜屋武は軽口を叩いて相手をあしらおうとしたが、東がそれを制止し、丁寧に応対した。男は菅谷恭也と名乗り、JADA専門委員の肩書を持つ人物だった。
菅谷は、渋チーをスポーツ選手としてスカウトしに来たと率直に切り出した。
林田は探索者として十分な収入を得ている以上、稼げない仕事に興味はないと即答したが、菅谷は話だけでも聞いてほしいと持ちかけ、一行はYDカフェへ移動することになった。
スポーツ界の報酬事情
YDカフェで菅谷は、オリンピックの報奨金やスポンサー契約について説明した。
JOCの報奨金自体は高額とは言えなかったが、競技団体やスポンサーからの報酬を含めれば大きな収入になる可能性があると説いた。
しかし渋チー側は、ダンジョン探索で得られる収入と比較すれば割に合わないと判断していた。
さらにデニスは、仮に世界記録を出しても、自分たちより上位の探索者が多数存在する以上、トップの座は長続きしないと冷静に分析した。
その指摘により、スポーツ選手としてのスカウト話は現実味を失っていった。
ダンジョンブートキャンプ事業の提案
スポーツ選手への転向が難しいと悟った菅谷は、もう一つの提案を切り出した。
それは、Dパワーズのダンジョンブートキャンプを利用し、それを模倣したサービスを立ち上げる共同事業だった。
菅谷は、高田や不破が締結したNDAを精査した結果、Dパワーズのプログラム内容を第三者へ漏らさなければ、自分たちで同様の訓練を行うこと自体は禁止されていないと判断していた。
その奇妙な契約内容は、むしろプログラムの普及を容認しているようにも見えた。
主要顧客としては陸連や水連など各種スポーツ団体を想定しており、スポーツ界側の予算と人脈を利用する計画だった。
林田の判断
林田は、以前からブートキャンプ自体には興味を抱いていたこともあり、菅谷の提案を検討した。
ブートキャンプへの参加枠はJDA経由で確保できる可能性が高く、初期投資も菅谷側が負担するという条件だった。
他のメンバーたちも大きく反対はせず、最終的に林田は提案を受け入れた。
菅谷は、次回のブートキャンプが二月二十三日に開催予定であることを伝え、早めにJDAへ連絡するよう勧めた。
こうして渋チーは、探索者としてだけでなく、スポーツ界を巻き込んだ新たな事業へ関わる流れに足を踏み入れることになった。
代々ダン情報局リニューアルへの反応
Dパワーズ関連スレでは、代々ダン情報局の大規模リニューアルが話題となっていた。
利用者たちは、「collaborated with d-powers」という表記から、Dパワーズ、とりわけワイズマンが運営に関与しているのではないかと推測していた。JDAへ提出されたアイテム情報がワイズマンの鑑定を通じて反映される可能性も語られ、未報告アイテムが減少するのではないかと期待されていた。
完全3Dダンジョンマップへの驚愕
利用者たちが特に衝撃を受けていたのは、完全3D化されたダンジョンマップだった。
主要ルートのみとはいえ三十一層まで再現されており、超音波センサーなどによるポイントクラウドデータからレンダリングされているらしいと分析されていた。セーフエリア発見によって、大型荷物を搬入するため正確な地形情報が必要になったのではないかという推測も上がっていた。
モンスター情報と鑑定データの公開
マップ内では、モンスター情報やドロップアイテム情報も閲覧可能となっていた。
WDA公式データベースより詳しい情報が存在するケースもあり、利用者たちはワイズマンの鑑定結果が反映されているのではないかと考えていた。フレーバーテキストのような記述まで存在し、それが実際に鑑定結果へ含まれているらしいという話題には、驚きの声が広がっていた。
不破正人とキャシー教官の話題
スレでは、不破正人の別府大分毎日マラソン優勝インタビューも大きな話題になっていた。
不破が「キャシー教官! やりました!」と叫んだ映像から、ダンジョンブートキャンプ受講者であることはほぼ確定だと受け止められていた。高田と不破が、一回の受講だけで世界記録級の成績を叩き出した事実に、多くの利用者が衝撃を受けていた。
ダンジョンブートキャンプへの熱狂
ブートキャンプへの需要は爆発的に高まっていた。
三万円、あるいは組織枠の三万ドルで世界記録級の成果を得られる可能性がある以上、受講しない理由がないという空気が形成されていた。一方で、募集人数は極めて少なく、抽選倍率も異常な水準に達していると語られていた。
芸能界やモデル業界への波及
利用者たちは、スポーツ以外の分野にもDパワーズの影響が広がっていると考えていた。
斎藤涼子や、ファッションウィークへ参加したモデルなども、Dパワーズ式訓練によって才能を開花させたのではないかと噂されていた。芸能やモデル業界にまで影響が及び始めていることが、スレ住民たちの関心を集めていた。
ステータス計測デバイスへの期待
スレでは、ステータス計測デバイスの予約開始日や転売防止仕様についても議論されていた。
計測データがセンター送信型で処理されることから、機器ID管理や本人認証が存在するのではないかと推測され、単純な転売は難しいだろうと考えられていた。利用者たちは、新たなダンジョン時代の到来を実感しながら、その発売を待ち望んでいた。
二〇一九年二月十二日(火)
茨城県つくば市藤本 農研機構 果樹茶業研究部門
ダンジョン産オレンジの異常成長
佐山は祝日明けに農研機構へ出勤すると、接ぎ木したダンジョン産オレンジの様子を確認するため陰圧温室へ向かった。
しかし温室内には、一昨日接いだばかりとは思えない巨大な樹木が広がっていた。木は温室の天井付近まで成長し、剪定もされていないにもかかわらず、理想的な樹形を維持していた。さらに枝はガラスを貫通して外へ伸びていたが、ガラスは割れておらず、まるで枝の形に沿って融合したかのように密着していた。
佐山は、これが自分の知る植物学から完全に逸脱した現象であると痛感し、強い混乱と危機感を抱いていた。
花粉飛散への危機感
佐山は、もし花粉が外部へ飛散すれば、未知のハイブリッド種が生まれかねないと危惧していた。
通常の柑橘類なら開花時期はまだ先である。しかし、一日で巨木化した以上、常識的な成長サイクルが通用する保証はなかった。佐山は、自分だけでは対処不能だと判断し、上司の水木へ緊急連絡を入れた。
当初、水木は疲労による幻覚か悪質ないたずらを疑っていたが、現場を確認するため温室へ向かうことを決めた。
一斉開花と異常繁殖
佐山が温室内で状況整理を試みていた最中、木が突如として光に包まれた。
次の瞬間、数千もの白い花が一斉に開花し、温室内には爽やかな甘い香りが広がった。ちょうどその時、水木も到着し、現実離れした光景を目撃して絶句した。
危険性を察知した水木は、即座に枝を切断して飛散防止シートで封鎖するよう指示した。佐山は高枝用チェンソーで外へ伸びた枝を切断したが、切り口から光が溢れ、切断された枝が瞬時に再生した。
さらに、切断した枝そのものも消滅せず別個に存在しており、佐山はダンジョン内で発生する「リポップ」に近い現象ではないかと推測した。
瞬時の結実と事態の深刻化
再生現象に呆然としていた佐山たちの前で、今度は開花していた花々が再び光に包まれた。
すると花は瞬時に黄金色の果実へ変化し、無数の実が枝にぶら下がった。佐山が試しにもぎ取った実は、枝のようには再生しなかったものの、その果実は見た目こそ「せとか」に酷似していた。
もはや通常の科学では説明不能な現象が連続して発生しており、佐山は世界で唯一の〈鑑定〉保持者である三好へ相談する必要性を痛感していた。
一方その頃、つくば周辺のエネルギー関連研究所では、正体不明の異常現象によって大混乱が発生していたが、佐山はまだその事実を知らなかった。
代々木八幡 事務所
魔結晶消失事件の報道
代々木八幡の事務所で、芳村は鳴瀬から電話を受けている三好を横目に、居間でテレビを眺めていた。
ワイドショーでは、NIMS(物質・材料研究機構)から大量の魔結晶が突然消失した事件が大々的に報じられていた。研究中の魔結晶までも研究者の目の前で光に還元されて消滅しており、盗難ではなく自然崩壊と見なされていた。
芳村はネット上の情報も確認し、同様の現象がつくば周辺で多数発生していることを知った。世界ではすでにオーブ消失事件が経験済みであったため、現象そのものは受け入れられていたが、原因はまったく不明のままであった。
地上で発生したリポップ現象
電話を終えた三好は、唐突に「ダンジョン外でリポップが起きると思うか」と芳村へ問いかけた。
芳村は、ダンジョン外でモンスターがリポップするなら世界中が大混乱になっているはずだと否定した。横浜の事例のような危険なケースは存在したものの、地上で実際にリポップが確認されたことはなかったからである。
しかし三好は、佐山から報告された異常現象を説明した。
接ぎ木されたダンジョン産オレンジが一夜で巨木化し、温室から飛び出した枝を切断すると、その枝が光と共に再生したというのである。さらに木は一斉開花した直後、瞬時に結実まで行っていた。
芳村は、そのあまりにも荒唐無稽な現象に、花咲か爺のようだと呆れながらも、ダンジョン由来のDファクター現象なら起きても不思議ではないと考え始めていた。
つくばで繋がる異常現象
三好は、オレンジのリポップ現象も魔結晶消失事件も、どちらもつくばで発生している点に着目していた。
偶然とは思えず、何らかの関連がある可能性は極めて高いと考えられた。さらに農研機構側は、原因究明のため〈鑑定〉を持つ三好に協力を依頼してきていた。
芳村は面倒ごとの予感を抱きつつも、未知の現象への興味を抑えきれなかった。
農研機構への急行決定
三好は、鳴瀬がすでにつくばで待機していることを伝え、すぐ出発すると言い出した。
芳村は突然の話に驚きながらも、魔結晶消失と地上リポップという前代未聞の現象を前に、結局同行を了承することになった。
茨城県つくば市藤本 農研機構 果樹茶業研究部門
農研機構での現地調査
芳村たちは、鳴瀬の要請を受けて農研機構果樹茶業研究部門へ到着した。
佐山は、ダンジョン庁やJDAへ報告したものの、ダンジョン外の現象は管轄外だとして十分に対応されなかったことを説明した。そのため鳴瀬へ直接連絡し、今回の調査へ繋がっていた。
施設内を案内された芳村たちは、建物を突き破るように成長した巨大なオレンジの木を目撃した。接ぎ木からわずかな期間で成長したとは思えない規模であり、枝には大量の果実が実っていた。
魔結晶を消費する再生現象
鳴瀬は、事前に小枝を切断して実験を行っていた。
その結果、近くに置かれていた魔結晶の質量が減少し、切断された枝が再生したことが判明していた。つまり、この木の異常成長や再生には、魔結晶に含まれる高濃度Dファクターが利用されている可能性が高かった。
さらに、枝の再生時には危険な現象も確認されていた。再生する枝は、生成空間に存在する物体を切断しながら伸びるのである。温室のガラスやタオルが、枝の形に綺麗に切り抜かれていたことから、芳村はレーザーブレードや次元刀のような危険性を感じ取っていた。
行政機関でも扱えない未知の存在
三好は、この植物をどの行政機関が扱うべきかを佐山へ尋ねた。
しかし佐山によれば、既存制度では対応先が極めて曖昧だった。外来植物対策は農水省農村振興局が担っているものの、基本方針は「被害がなければ静観」であり、ましてダンジョン由来の未知植物を想定した制度など存在していなかった。
鳴瀬は、結局こうした前例のない問題はJDA側へ押し付けられがちだと嘆息していた。芳村も、未知の異常事態へ即応できる組織が必要だと語ったが、三好からは理想論だと半ば呆れられていた。
〈鑑定〉による正体判明
佐山が上司に呼ばれて席を外した後、芳村は三好へ、この現象が本当にリポップなのか確認した。
三好は即座に否定した。再生した枝は元の枝と完全一致しておらず、さらにリポップ現象のように周囲物体との干渉回避も起きていなかったからである。
三好は〈鑑定〉結果を書き出したメモを芳村たちへ見せた。
そこには、この木が「アウレウス・アルボル(黄金の木)」と記されており、ヘスペリデスの黄金の林檎や、エリスの黄金の林檎を連想させる神話的説明が並んでいた。
さらに、「光ある限り、理は円環を巡り、滅することあたわず」と記されており、この木がDファクターを糧に自己再生を繰り返す存在である可能性が示唆されていた。
つくば全域へ広がる危険性
芳村たちは、この現象がつくばで発生した理由について考察した。
つくば周辺には、NIMSをはじめ大量の魔結晶を扱う研究施設が集中している。つまり、この木は周囲の高濃度Dファクターを吸収して異常成長している可能性が高かった。
三好は、もし他地域に十分なDファクターが存在しなければ、同様の現象は発生しないはずだと推測した。しかし芳村は、佐山たちが「花粉拡散を防がなければならない」と強く意識したこと自体が、Dファクターへ影響を与えている可能性を懸念していた。
もしDファクターがその危機感を“理解”していたなら、この木は開花時期すら無視して交配可能な状態へ変化しかねないのである。
そして芳村は、つくばには魔結晶が多すぎること自体が最大の問題だと感じていた。
茨城県桜川市真壁町
筑波山周辺で発生した異常結実
農研機構から北に約十キロ離れた筑波山周辺では、古くからみかん栽培が行われていた。
その地域で農園を営む男は、いつものように山道を車で走っている最中、自分の畑に異変が起きていることへ気付いた。木々に大量のオレンジ色の何かが実っていたのである。
最初は悪質ないたずらを疑った男だったが、近づくにつれて状況の異常さを理解し始めた。
季節外れの大量結実
筑波山西側のみかん畑では、主力品種として温州みかんや福来みかんが栽培されていた。
しかし現在は二月であり、通常なら収穫時期はとっくに終わっている季節であった。それにもかかわらず、男の畑では、理想的な形をした温州みかんが木いっぱいに実っていた。
男は、その光景を目の当たりにし、自分の理解を超えた異常現象に呆然としていた。
二〇一九年二月十三日(水)
代々木八幡 事務所
季節外れのみかん騒動の拡大
芳村は、会社員時代なら確実に遅刻していた時間に目を覚ましたが、自由業の生活に慣れ始めている自分を自覚しながら、落ち着いた様子で事務所へ降りた。
すると三好が興奮した様子で、筑波周辺のみかん農園に異変が起きている映像を見せてきた。そこでは、二月にもかかわらず大量の温州みかんが実った農園が地元ニュースで紹介されていた。
二人は、それが黄金の木の影響であると即座に理解した。通常の受粉や開花時期を無視して実が生っている以上、既存の植物学では説明できない現象だったのである。
Dファクター汚染への危機感
芳村は、問題がここまで広がればJDAなどの権威ある機関が動き出すだろうと判断し、自分たちにできることは限られていると考えていた。
しかし三好は、問題は単なるみかん農園の異常では済まないと警戒していた。黄金の木由来のDファクターが、他の植物へ連鎖的に広がる可能性を危惧していたのである。
温州みかんですら突然結実した以上、種や品種の壁は意味を持たず、Dファクターが生態系全体へ波及する可能性も否定できなかった。
森の王との関連性
二人は、この異常現象が森の王と無関係であるはずがないと考えていた。
王が強い呪術的性質を持ち、王や民の願望を実現する存在であるなら、今回の柑橘騒動もその力によるものだと推測できたのである。
三好は、事態を制御するには佐山を新たなレックス・ネモレンシス、すなわち森の王へ変えるしかないのではないかと考えた。しかし、素人である佐山に森の王を討伐させるのは現実的ではなく、仮に銃器を用いても成功する保証はなかった。
さらに、芳村たちは、森の王の性質についてある危険な仮説へ辿り着いていた。その仮説が正しい場合、芳村自身が枝を折れば、取り返しのつかない災厄を生み出す可能性があったのである。
市ヶ谷 JDA本部 ダンジョン管理課
つくば異変の報告
斎賀は複数の打ち合わせを終えて部屋へ戻ると、美晴からつくばで発生した異変についての報告書を受け取った。
当初はダンジョン外の出来事であり、JDAの管轄外だと考えていた斎賀だったが、美晴はそう簡単には済まない状況になっていると説明した。
農研機構へ持ち込まれたオレンジの枝は、実際に魔結晶を消費しながら急成長しており、その成長時間はNIMSで大量の魔結晶が消失した時間帯とほぼ一致していたのである。
無限結実現象の発覚
さらに美晴は、筑波山中腹のみかん畑で、季節外れの温州みかんが一斉に実った事件を報告した。
しかも農家が収穫を終えるたび、木は再び開花し、短時間で新たな実を結実させていた。農家は異常を理解しないまま、大喜びで収穫を繰り返していたのである。
斎賀は、この現象と同時に世界中の魔結晶市場が急激に高騰している事実を重ね合わせた。
日本国内だけでは説明できない規模で、アメリカ、香港、EUまで含めた市場全体が反応しており、複数の巨大組織が魔結晶を買い漁っていると推測された。
黄金の枝を巡る思惑
斎賀と美晴は、その原因が二十一層の特殊なオレンジの枝にあると考えた。
もしその枝が、無限に果実を生産する性質を持つなら、各国や巨大組織が確保へ動くのは当然だったのである。
しかし、燃費や安全性、生産効率などは何も分かっていなかった。それにもかかわらず即座に動ける組織は、食料問題へ強い関心を持ち、独裁的な意思決定が可能な巨大組織に限られると斎賀は判断した。
森の王と二十一層の危険性
美晴は、農研機構が持ち帰った枝は、森の王が守護していた特別な枝であると補足した。
報告によれば森の王は不死性を持つエリアボスであり、通常の探索者では到底対処不可能な存在だった。
だが現時点では具体的な被害が確認されておらず、二十一層を立ち入り禁止区域へ指定すれば、JDAがオレンジを独占するため虚偽の危険情報を流していると受け取られかねなかった。
さらに問題は、異変がダンジョン外でも発生していることである。筑波山周辺のみかん農家や苗木の流通まで含めれば、JDA単独では制御不可能な段階へ入りつつあった。
政府対応の開始
斎賀はすぐに部長へ連絡し、ダンジョン庁を通じて農林水産省と協議を行い、筑波周辺の農家へ収穫停止を要請する必要があると判断した。
少なくとも、収穫による魔結晶消失の連鎖だけでも止めなければならなかったのである。
しかしその直後、美晴はさらに重要な情報を告げた。
芳村と三好によれば、この問題そのものを根本から解決できる可能性が存在するというのであった。
茨城県桜川市真壁町
筑波山みかん園への対応
筑波山の斜面温暖帯にある雅尊みかん園には、季節外れのみかん騒動を聞きつけた取材陣と野次馬が殺到していた。
ダンジョン庁職員の名塚義弘と、農水省から派遣された三橋は、人や車で混雑する山道を進みながら、収穫自粛を要請するため農園へ向かっていた。
今回の問題は、既存の食品衛生法では扱いが難しかった。規制対象は本来「販売」であり、畑の所有者が自分の作物を「収穫」する行為そのものを止める法的根拠は弱かったからである。
収穫規制の難しさ
三橋は、販売規制をかければ通常は収穫も止まると考えられるものの、今回の現場では事情が違うと見ていた。
取材陣や野次馬は、みかんを得ることではなく、収穫後すぐに開花し再結実する瞬間を撮影するために集まっていた。そのため、販売を禁止しても、撮影目的で収穫が繰り返される危険があった。
三橋は、農園主へ「販売」ではなく「収穫」そのものを止めてもらう必要があると考えていた。
三谷美尊との交渉
雅尊みかん園の園主である三谷美尊は、突然訪れた農水省とダンジョン庁の職員に強く反発した。
三橋は農水省として収穫自粛を要請したが、三谷は、実っているみかんには価値がある以上、補償が必要だと主張した。
話し合いが平行線になりかけたところで、名塚は、収穫を続ければ窃盗容疑がかかる可能性があると切り出した。
魔結晶消失との関連説明
名塚は、つくば周辺の研究所で起きた魔結晶消失事件と、雅尊みかん園のみかん結実が関係している可能性を説明した。
農家に分かりやすく言えば、研究所の魔結晶が、みかんを結実させるための肥料のように使われている状態だった。
この説明を聞いた三谷は、自分の畑が他所の資源を勝手に使っている可能性を理解した。以後も収穫を続ければ、未必の故意と見なされる恐れがあるため、彼は収穫停止を受け入れた。
収穫済みみかんの引き取り
三橋は、すでに収穫されたみかんは販売できないが、今回に限りダンジョン庁が引き取ると説明した。
三谷は書類へ署名捺印していったが、守秘義務契約については難色を示した。取材陣から、なぜ収穫の再現を見せないのかと問われた場合、理由を説明できなければ金の亡者のように扱われると懸念したためである。
名塚は、ダンジョン庁ではなく農水省の要請による収穫禁止として説明するよう提案した。ダンジョンが関係している情報を現時点で外へ出すのは危険だったからである。
一応の収束と見落とし
最終的に三谷は、農水省の要請により収穫が禁止されたと説明する形で納得し、収穫自粛と守秘義務を受け入れた。
過去に消失した魔結晶については、防ぎようのない事故として国が処理することになったが、以後の収穫については三谷の責任になることも確認された。
こうして雅尊みかん園の収穫禁止は形になった。しかし名塚たちは、この時点で、みかんの取引対象が果実だけではないことを見落としていた。
二〇一九年二月十四日(木)
横浜市中区関内 マリナード地下街
横浜のストリートピアノ
二〇一九年二月十四日、芳村は朝早く事務所を訪れた斎藤涼子に連れられ、横浜関内の地下街へ向かった。
斎藤は、自由に弾けるストリートピアノを試したいのだと説明した。今度、ピアノを弾く役の仕事が入ったため、実際に弾けるか確認したかったのである。
芳村は、斎藤がピアノを弾けること自体を初めて知り、意外そうな反応を見せた。
圧倒的な演奏技術
斎藤がピアノの前へ座ると、低音の力強い響きとともに演奏が始まった。
最初は通行人たちも何気なく視線を向ける程度だったが、演奏が進むにつれ、誰もが足を止めて振り返った。
その演奏は素人芸とは到底思えない完成度であり、周囲では、斎藤涼子本人ではないかという声まで上がり始めた。
演奏を聞いていたクラシック愛好家らしき男性は、往年の名ピアニスト、ホロヴィッツのアンコールのようだと驚嘆していた。
激しい運指や大きな移動を伴いながらも、斎藤の演奏にはミスタッチが一切存在せず、音の粒は完璧に整っていたのである。
斎藤自身の困惑
二分ほどの演奏を終えた斎藤へ、周囲から大きな拍手が送られた。
斎藤は軽く頭を下げた後、芳村へ向き直り、困惑した様子で疑問を口にした。
彼女自身、なぜ自分がこれほど高度な演奏を当然のように行えるのか理解できていなかったのである。
代々木八幡 事務所
事務所での斎藤への追及
横浜でストリートピアノを弾いた後、芳村と斎藤は代々木八幡の事務所へ戻った。
三好は、斎藤が人前で高度な演奏を披露したことに呆れていた。ネット社会ではすぐに拡散されるため、斎藤祭りになっているはずだと警戒していた。一方、斎藤は自分など誰も知らないと軽く考えており、三好は彼女が自分の知名度を理解していないことに呆れていた。
斎藤の能力への説明
斎藤は、ピアノに触った経験すらないにもかかわらず、先生の試奏を一度見ただけで弾けるようになったことを改めて説明した。
芳村は、それは以前から斎藤に起きていた変化の延長だと説明した。台本がすんなり頭に入り、思った通りに体が動くようになったのと同じく、先生の動きを記憶し、解析し、身体で再現した結果だと考えたのである。
斎藤は最初こそ納得しきれない様子だったが、最終的には自分に才能があったということにすると割り切った。芳村は、そのこだわらない性格こそ彼女らしさだと感じていた。
御劔遙からのバレンタインチョコ
斎藤は、ニューヨークにいる御劔遙から預かったチョコレートを芳村へ渡した。
御劔は、ニューヨーク到着後すぐに購入して国際宅急便で送っていたらしく、芳村はその心遣いに驚いた。
包みの中身は、ヴォージュ・オー・ショコラのチョコレートだった。ニューヨークの有名店の多くは日本でも買えるため、御劔はあえて変化球として、ワサビや抹茶、ショウガを使った個性的なチョコレートを選んだらしかった。
御劔遙のモデル評価
斎藤は、御劔がニューヨークファッションウィークで大きな注目を集めている記事も見せた。
記事では、御劔がランウェイに現れるだけで視線を集め、歩き始めると服そのものが歩いているように見えると絶賛されていた。写真や映像では魅力を伝えきれず、会場にいた者だけがその異常な存在感を知っているとも評されていた。
芳村たちは、御劔がリハーサルやテストで何かをやらかしたのではないかと推測した。斎藤と同じく、御劔もDパワーズ式の訓練で急激に変化したと見なされる可能性が高かった。
ブートキャンプ需要のさらなる拡大
三好は、斎藤と御劔がペア扱いされている以上、御劔の活躍もブートキャンプの成果と見なされる可能性が高いと指摘した。
すでにスポーツ界では高田や不破が世界記録を出し、芸能界では斎藤が注目され、モデル業界では御劔が評価され始めていた。Dパワーズのブートキャンプは、各業界から注目される存在になりつつあった。
定員が限られている以上、今後の需要爆発は避けられない状況だった。
三人からのチョコレート
斎藤は、芳村へマーブルチョコを渡した。
さらに三好も、九州限定のミルクヌガー味のチロルチョコを芳村へ贈った。三好は、チロルチョコはミルクヌガー味こそ本流だと語り、芳村はそのこだわりに呆れつつも懐かしさを覚えていた。
芳村は、御劔、斎藤、三好からもらったチョコを並べ、久しぶりに人から気にかけてもらっている感覚を覚え、素直に嬉しさを感じていた。
ストリートピアノ動画の拡散
二月十四日、横浜関内の掲示板では、マリナード地下街で撮影されたストリートピアノ動画が話題になっていた。
当初は、近年流行し始めていたストリートピアノへの賛否が語られていた。騒音問題や設置場所、文化論にまで話題が飛び火し、雑談めいた流れになっていた。
しかし、動画を実際に視聴した利用者が現れると、空気が一変した。
斎藤涼子=アルテミス説の浮上
動画に映っていた演奏者が、アーチェリー界で話題となっていた「アルテミス様」こと斎藤涼子ではないかという指摘が出た。
七十メートルベアボウ世界記録という常識外れの噂は半信半疑で受け止められていたが、五輪強化選手リスト入りや過去に出回った映像の存在から、完全な作り話とも言い切れない空気が形成されていた。
そこへ今回のピアノ演奏動画が加わり、掲示板利用者たちはさらに混乱していった。
異常な演奏技術への驚愕
動画を見た利用者たちは、斎藤の演奏が素人芸ではないことに驚愕した。
吹き替えや演技ではないかという疑いも出たが、演奏と動作の一致度が高すぎることから否定的な意見が強まっていった。
中にはクラシック愛好家らしき人物も現れ、往年の名ピアニストの映像と比較し始める者までいた。
さらに、通行人が全員通り過ぎてから振り返って立ち止まる様子が、まるで演出のようだと話題になっていた。
ブートキャンプとの関連疑惑
議論はやがて、Dパワーズのブートキャンプへと飛び火した。
斎藤の才能がブートキャンプで開花したという噂や、同時期に御劔遙がニューヨークで絶賛されていた件が持ち出され、利用者たちは混乱しながらも関連性を疑い始めた。
しかし、ブートキャンプでなぜピアノやモデル技術が向上するのか理解できず、多くの利用者が意味不明だと困惑していた。
横浜スレの脱線
最終的に掲示板は、横浜の地域スレッドであるにもかかわらず、斎藤涼子やDパワーズの話題へ完全に乗っ取られていた。
本来の地域雑談から逸脱していることを指摘する利用者もいたが、それ以上に、動画が与えた衝撃の方が大きかったのである。
代々木八幡 事務所
佐山による緊急相談
その日の遅い時間、佐山は代々木八幡の事務所を訪れ、芳村たちへ助言を求めた。
農水省とダンジョン庁による収穫禁止要請は受け入れられていたが、ニュース報道直後から全国のみかん農家から枝を譲ってほしいという依頼が殺到していたのである。
接ぎ木用に枝を切っても再生は起きなかったため、佐山たちは一部へ枝を譲渡した。しかし、直接受け渡された枝の本数や行き先は不明確で、その追跡は困難になっていた。
接ぎ木による危険性の考察
佐山は、黄金の木そのものではなく、そこから影響を受けた地上のみかんの枝を接いだ場合、同じ現象が起きるのかを質問した。
芳村は、黄金の木が異常成長したのはダンジョン産素材と魔結晶によるものだろうと推測し、通常の木では再現しないのではないかと考えた。
しかし三好は、フィロキセラ禍においてヨーロッパ系ブドウを北米系の根へ接ぎ木して品種を維持した事例を引き合いに出し、接がれた枝は元の性質を保つ可能性が高いと指摘した。
つまり、黄金の木から派生した枝も、魔法が掛かった状態のまま維持されるかもしれないのである。
関西での魔結晶消失事件
佐山は、すでに京都府木津川市でも魔結晶消失事件が発生したと明かした。
場所は、けいはんな学研都市にある地球環境産業技術研究機構周辺であり、多数の研究機関が存在する地域だった。そこには大量の魔結晶備蓄も存在していると考えられた。
京都や奈良ではみかん生産量は少ないが、大阪周辺には観光農園が存在する。佐山は、誰かが譲渡された枝を接いだ結果だろうと推測していた。
無限収穫による市場崩壊の危機
佐山は、この枝が持つ真の危険性を説明した。
通常のみかんの木一本から採れる実は年間約五十キロほどだが、収穫すると即座に再結実するなら、一日で七・二トン、一年では二千六百二十八トンにも達する。さらに収穫を自動化できれば、一本で年間二万六千トン超という異常な生産量になる可能性があった。
三好は、それがまさに「柑橘版ウケモチ・システム」だと評した。
さらに芳村は、枝単位ならもっと危険だと気付いた。もし枝に生る実が短時間で再生するなら、枝二本だけで木一本を超える生産量を叩き出せる。三好の計算では、四十九本の枝だけで日本全国のみかん生産量を賄える規模だった。
魔結晶市場の異常高騰
三好は、主要市場で魔結晶価格がわずか二日で八倍に暴騰しているグラフを見せた。
これは、複数勢力が無限収穫システムを実用化しようとして、魔結晶を奪い合っている証拠だった。
芳村は、もし国外勢力が枝を使い始めれば、日本の柑橘市場は壊滅しかねないと理解した。TPPによって関税撤廃も進んでおり、防衛手段も乏しかったのである。
感染拡大と緊急防除の恐怖
さらに三好は、この魔法が花粉のように飛び火する可能性を警告した。
黄金の木の影響と思われていた現象も、実際には感染症のように木から木へ拡散している可能性があったのである。
もし制御不能と判断されれば、植物防疫法に基づく緊急防除が実施される可能性が高かった。これは鳥インフル時の殺処分に相当する措置であり、感染疑いだけで果樹を伐採される危険があった。
温州みかんは、まともな収穫まで十年近い歳月を要する。もし大規模伐採が行われれば、多くの農家は廃業に追い込まれるだろうと佐山は危機感を募らせていた。
三好が提示した解決策
事態の深刻さを理解した芳村たちに対し、三好は静かに問いかけた。
もし黄金の木に掛かった魔法、あるいは呪いを解く方法が存在し、その成否が佐山次第だとしたらどうするか、と。
二〇一九年二月十五日(金)
市ヶ谷 防衛省
斎賀による異例の要請
二〇一九年二月十五日、斎賀は市ヶ谷の防衛省を訪れ、自衛隊の武器を貸してほしいと寺沢へ要求した。
突然の要請に、寺沢は武器の横流しを求めているのかと警戒し、強く難色を示した。自衛隊の装備を民間へ回すなど、現代日本では到底認められる話ではなかったのである。
しかし斎賀は、単なる武器貸与ではなく、必要なら部隊派遣という形でも構わないと説明した。
災害派遣という名目
寺沢は、自衛隊派遣には法的根拠が必要であり、通常は都道府県知事などからの災害派遣要請が前提になると反論した。
だが斎賀は、緊急時には要請を待たずに行動できる規定が存在すること、さらに寺沢自身がダンジョン災害に限れば派遣命令権を持っていることを指摘した。
寺沢は、その権限が一般にはほとんど知られていない情報だったため、なぜ斎賀が把握しているのかと動揺した。
また、現時点で国内ダンジョンに大規模災害の報告は上がっていないことにも疑問を抱いた。
常識外れの危機
斎賀は、今回の件が「ダンジョン災害」の定義に該当するかは微妙だと認めつつも、状況は極めて深刻だと説明した。
さらに、必要なのは大人数の部隊ではなく、場合によっては一人だけでも構わないと語った。
その理由は、報告内容が事実なら、通常戦力をどれだけ投入しても役に立たない可能性が高いからだった。
寺沢は、その発言から事態が通常の脅威ではないと察し、警戒を強めた。
横浜の借りと対スライム装備
斎賀は最後に、「横浜の借りを返すチャンスだ」と意味深な言葉を口にした。
さらに、自衛隊には対スライム装備が存在すると聞いていると続けた。
寺沢は、その言葉で今回の件が、横浜事件やDパワーズ周辺の異常事態と繋がっていることを理解した。
そして、ここまで踏み込んだ話をされては無視できないと判断し、斎賀へ詳細説明を求めた。
代々木八幡 事務所
漆原技官の来訪
二〇一九年二月十五日、代々木八幡事務所を訪れたのは、防衛装備庁次世代装備研究所ダンジョン装備研究部所属の漆原清麻呂技官だった。
三好は、横浜事件で世話になった彼を迎え入れ、今回の訪問理由を尋ねた。
漆原自身も詳細を把握しておらず、「例の件」で派遣されたと説明されただけだと語った。
三好たちは、その「例の件」が、森の王討伐に関する支援要請であると察していた。
NDAへの指摘
三好はまず、Dパワーズ側のNDAへ目を通させた。
漆原は高速で内容を確認した後、この契約内容では、国家や大富豪が違約金を支払う前提で情報購入を行えると指摘した。
つまり、四千億円を支払えば秘密を合法的に買える契約書として解釈できてしまうのである。
芳村と三好は、その指摘に驚きつつも、〈メイキング〉の秘密さえ守られていれば致命傷にはならないと判断した。
森の王討伐という目的
その後、芳村たちは、佐山へ森の王を討伐させるための助力を求めている事情を説明した。
問題となっているのは、一般人同然の佐山が、二十一層のエリアボスを短期間で倒さなければならないという点だった。
漆原は、数か月訓練すれば対応可能ではないかと提案したが、芳村たちは否定した。
森の王と逃亡奴隷の関係は、伝承上「即座に決着する」前提で成立しているため、長期間放置した場合に何が起こるのか予測不能だったのである。
最悪の場合、森そのものが地上へ侵食してくる可能性すら否定できなかった。
既存兵器の限界
漆原は、現代兵器による対応案を順に検討し始めた。
しかし、自動小銃程度では二十一層エリアボスへの火力が不足しており、対物ライフルやM2重機関銃クラスになると、今度は個人携行が困難になると説明した。
さらに、誘導兵器である01式対戦車誘導弾なども候補に挙がったが、一人での運用には無理があると判断された。
芳村が半ば冗談で巡航ミサイルの使用を口にすると、漆原は真顔でINF条約破棄後の状況まで含めて解説し始めた。
D研の思想
議論の末、漆原はホワイトボードを使い、自分たちダンジョン装備研究部の基本思想を語り始めた。
深層モンスターには、単純に火力を増やしただけの兵器が通用しなくなる。
だから必要なのは「発想の転換」であると、彼は強調した。
通常兵器が人間や兵器を対象に設計されている一方、D研は最初から「モンスター」を仮想敵として研究を進めているのである。
その後、漆原は試作兵器や特殊装備について熱弁を振るい続け、芳村と三好が途中から遠い目になっていたことにも最後まで気づかなかった。
江戸川区 常磐ラボ
常磐ラボの多忙な状況
二〇一九年二月十五日、芳村と三好は江戸川区の常磐ラボを訪れた。
センター試験から約一か月が経過し、中島は二次試験向けチェッカーの追加生産対応に追われ、ほとんど休みなく働き続けていた。
翠は、四月の展示会までは大きなハード変更予定がないため、ちょうどよかったと説明した。また、放置すると中島が新型設計を始めてしまうため、別件で忙殺されていた方が都合が良かったとも語った。
NYイベント計画
三好は、二月二十三日からニューヨークで開催される探索者イベントに、常磐ラボのメンバー全員を派遣したいと提案した。
目的は、探索者が大量に集まる特殊環境で、生データを収集することだった。
Dパワーズ自身は、外務大臣と国家公安委員長から渡航自粛要請を受けていたため、直接現地へ行けなかったのである。
翠は、その話を聞くと社員旅行として全員参加を決定し、ファーストクラスや高級ホテルまで要求した。
三好は呆れつつも了承し、イベント当日はしっかり働いてもらう条件で契約が成立した。
世界平和のための特訓
翠が本題を尋ねると、三好は「世界の平和を守るための特訓」だと説明した。
実際には、佐山を森の王討伐へ向かわせるための準備だった。
全国で魔結晶消失事件が拡大しており、佐山も事態の深刻さを理解して覚悟を決めていた。
しかし、一般人である佐山が二十一層エリアボスへ挑むには、ステータスに依存しない武器が必要だった。
通常の銃器では訓練不足の佐山には扱いが難しく、芳村たちは別の手段を探していた。
JDAとの連携と急速な対応
芳村たちは鳴瀬へ相談し、その翌日には防衛装備庁の漆原技官が派遣されてきた。
芳村は、その迅速さにJDA、特に斎賀の強力なコネを感じ取っていた。
こうして彼らは、森の王対策のため、時間との勝負の中で急ピッチに行動を開始していた。
二〇一九年 二月十六日(土)
代々木ダンジョン
代々木ダンジョンへの再突入
二〇一九年二月十六日早朝、芳村たちは代々木ダンジョンへ集結した。
佐山は前夜遅くまで河川敷で訓練を受けていたため、疲労を隠し切れない様子だったが、とりあえず最低限の操作は身についたと報告した。
そこへ三好と漆原技官が到着した。
漆原は徹夜明けの異様なテンションで現れ、三好から頼まれていた秘密兵器を完成させるため、一晩中作業していたと明かした。
漆原の派遣事情
芳村たちは、佐山にダンジョンショップ製の高級防具を装備させ、一層へ降り始めた。
その道中で、漆原は自分がなぜ二十一層攻略へ同行することになったのか分からないと愚痴を漏らした。
本来、防衛装備庁は前線で戦う組織ではなく、外局に過ぎない。
しかし、自衛隊装備を合法的に貸与するには、自衛隊員自身を派遣する形式を取る必要があり、その結果として漆原が巻き込まれたのである。
芳村と三好は、今回の派遣が、かなり上層部まで話を通した政治案件になっている可能性を察していた。
横浜事件の影響
漆原は、横浜での焼夷手榴弾事件によって、防衛装備研究への予算が増えるかもしれないと期待していた。
しかし芳村と三好は、財務省ヒアリングや政府原案提出時期を考えると、仮に増額があっても再来年度以降だろうと冷静に分析していた。
それでも漆原は、自分が今回の案件へ関与した実績が、今後の評価につながる可能性へ期待していた。
十八層への高速移動計画
三好は、漆原に対し、十八層が各社ポーターのショールーム状態になっていると説明した。
現在ポーター試験を担当している漆原は、その話に強く興味を示し、それだけを心の支えにしていた。
さらに芳村は、今日中に十八層へ到達すると宣言した。
全国で魔結晶消失が続き、柑橘汚染が広がっている可能性を考えれば、一刻の猶予もなかったのである。
サイモンたちが十八層から地上まで九時間ほどで戻った実績を踏まえ、芳村は、自重しなければさらに短縮可能だと判断していた。
そして芳村が提示した移動方法を聞いた佐山と漆原は、その無茶な内容に思わず声を上げることとなった。
市ヶ谷 JDA本部 ダンジョン管理課
ダンジョン管理課の混乱
二〇一九年二月十六日、市ヶ谷のJDAダンジョン管理課は、セーフエリア関連業務と大学入試二次試験対応で既に繁忙状態にあった。
そこへ朝から大量の通報が押し寄せ、通常業務は完全に停止状態へ陥っていた。
内容は、「黒いモンスターが人間を掴んだまま高速でフロアを走り抜けていた」というものだった。
斎賀の即座の理解
寺沢へ直接交渉し、自衛隊支援を取り付けた張本人である斎賀は、その正体がアルスルズだと即座に理解した。
通常、一般人を護衛して二十一層まで到達するには数日を要する。
しかし全国で魔結晶消失事件が拡大し続けている現状では、その猶予は存在しなかった。
農水省までもが異例の速度で対策へ動き始めている以上、Dパワーズが自重を捨てて強行突破へ移行したことも理解できたのである。
それでも斎賀は、もう少し穏便にやってくれと内心で頭を抱えていた。
問い合わせ対応の崩壊
さらに管理課には、「その犬をどうやってテイムするのか」という問い合わせまで殺到した。
斎賀は苛立ちながら、「ペットショップで聞け」と返答するよう指示した。
管理課は完全に対応限界へ達していたのである。
SNSで拡散する異常光景
この日、各種SNSでは、ダンジョン内で撮影されたアルスルズの高速移動写真や映像が爆発的に拡散されていた。
巨大な黒い犬に人間が掴まったまま高速移動する光景は、多くの探索者や一般人に衝撃を与えることとなった。
代々木ダンジョン 十七層
十七層到達と疲弊した同行者たち
代々木ダンジョン十七層へ到達した時点で、佐山と漆原はカヴァスの背中で完全に眠り込んでいた。
最初は高速移動に恐怖し、必死にしがみついていた二人だったが、十層を超えた辺りから疲労に負け、いびきをかき始めていたのである。
芳村は、カヴァスの背中がどうなっているのか疑問を口にした。
三好によれば、何らかの魔法的な力で安定しており、揺れも電車程度しか感じないらしかった。
二十一層直行案
ここまでの移動時間はおよそ十時間だった。
途中、同行者二人の大騒ぎで速度が落ちたとはいえ、十分異常な速度だった。
芳村は、このまま二十一層まで一気に進んでも二十一時頃には到着可能だと判断し、そのまま進軍する案を提示した。
しかし三好は、十八層をこの状態で駆け抜ければ目立ちすぎると懸念を示した。
十八層には探索者キャンプや世界トップクラスの探索者たちが存在しており、アルスルズの存在が知られる危険があったのである。
アルスルズ露見の危険
芳村は、すでに途中階層で多数の探索者に目撃されている以上、今さら隠し切れないと判断していた。
さらに、キャシーへの口止めも行っていないため、サイモンたちもアルスルズの存在自体は知っている可能性が高かった。
三好は、アルスルズの存在から、ファントム様が消失する謎へ迫られる危険を指摘した。
しかし芳村は、アルスルズ空間の詳細までは外部から分からないこと、〈闇魔法(W)〉自体は六条も保有していること、自分自身がGランク探索者であることを理由に、決定的な疑いまでは向かないと考えていた。
異常確率への認識
芳村は、ハウンドオブヘカテやバーゲスト出現率の低さを説明し、同系統能力を再現できる探索者がしばらく現れないだろうと語った。
三好は、それでもDパワーズ周辺に二人も〈闇魔法(W)〉保持者がいる時点で怪しすぎると苦笑した。
だが、具体的な確率を把握しているのは芳村と三好だけであり、外部には説明不能な偶然として処理されるだろうと判断していた。
十八層突入
漆原がポーター見学を楽しみにしていたことを話題にしながら、芳村たちは軽口を交わした。
「この問題を解決したら十八層でポーターを見る」という発言が死亡フラグのようだと笑い合った後、彼らは十八層へ続く階段を下り始めた。
代々木ダンジョン 二十一層
二十一層到達とイグルー一号
佐山と漆原が目を覚ますと、そこは代々木ダンジョン二十一層だった。
佐山は見覚えのある円筒形の建物を見て驚愕し、漆原はイグルー一号を見た瞬間に興奮状態となった。
ダンジョン内部に建築物が存在する事実そのものに衝撃を受け、素材や構造に強い関心を示して外壁を触り回っていたのである。
三好は漆原へNDAを忘れないよう釘を刺し、漆原も慌てて了承した。
黄金の枝と森の王への準備
佐山は鞄から、黄金の木の枝の先端部分を取り出した。
本来必要なのはオリジナルの枝だったが、既に地上側で黄金の木として成長してしまっているため、代用品としてその枝を持ち込んでいたのである。
芳村は、重要なのは枝そのものではなく「枝を折る」という行為だと考えていた。
一方で、切断後の枝が再生しなかったことから、本体から分離した部分には別の性質があるとも推測していた。
イグルー内での武器講習
イグルー一号内部では、漆原が佐山へ武器の使用法を説明していた。
芳村と三好は外周モニターで周囲を警戒していたが、アルスルズが周辺モンスターを間引いているらしく、時折宝石の原石がドロップしていた。
漆原は、訓練を受けていない一般人が銃で動く敵へ命中させることは不可能だと説明し、そのためには敵の動きを封じる必要があると語った。
RPG-7とD研の備品事情
テーブル上にはRPG-7が置かれていた。
芳村は自衛隊装備として違和感を覚えたが、漆原によれば、それはD研に払い下げられていた試験用装備だった。
本来、自衛隊正式採用はパンツァーファウスト3系列だったが、高価なためD研には回ってこず、安価なRPG-7だけが残されていたのである。
漆原は、二十一層エリアボスを一撃で仕留めるには最低限これほどの火力が必要だと判断していた。
障害型改タイプD“桃ちゃん”
さらに漆原は、対人障害システム「障害型改タイプD」を取り出した。
これは低致死性ゴム弾をワイヤーで繋ぎ、多数射出して相手へ絡みつかせる試作兵器だった。
三好は即座に「桃ちゃん」と命名し、日本神話の桃太郎になぞらえて扱い始めた。
漆原は正式名称を主張したものの、最終的には自らも「桃ちゃん」と呼ぶようになっていた。
森の王の正体への推測
作戦会議の中で、芳村たちは森の王の本質へ辿り着いていた。
三好の〈鑑定〉結果が時間経過で変化していたことから、森の王は挑戦者のステータスに応じて能力が変動する「ステータス調整型モンスター」だと推測したのである。
そのため、佐山のステータスを意図的に上げることは避けていた。
もし佐山が強化されれば、それに比例して森の王も強化され、現代兵器が通用しなくなる危険があったからである。
同じ理由で、芳村自身が再び枝を折ることも危険視されていた。
三好の作戦構築
漆原は、最終地点付近へ障害型改タイプDを集中配置する案を提案した。
しかし三好は、それでは佐山が広場到達前に捕まり死亡すると指摘し、森の途中へ等間隔に配置する案へ修正した。
目的は森の王を徐々に減速・拘束しながら、佐山を最終地点まで逃がすことだった。
漆原は、その配置では最後に拘束手段が残らないと疑問を呈した。
だが三好は、漆原へ急造させた“秘密兵器”を使うと明かしながらも、詳細は当日まで伏せた。
その説明を聞いた佐山は、自分が本当に生還できるのか不安を隠せず、必死に安全確保を念押しした。
二〇一九年二月十七日(日)
代々木ダンジョン 二十一層
二十一層での最終作戦開始
運命の日、二十一層に広がるオレンジの森は薄い霧に包まれていた。
森の王が祭壇から動かないことを確認した三好は、地面へスプレーでターゲット地点を描きながら、作戦準備を進めていった。
一方で佐山は緊張のあまり額に汗を浮かべ、これから始まる死闘を前に強い不安を抱いていた。
三好は作戦名を「オペレーション・黄泉比良坂」に決定し、日本神話になぞらえながら軽口を叩いていたが、実際にはここから先、芳村たちが直接介入できないことを理解していた。
桃ちゃん設置と最終確認
森へ向かう途中、佐山は三つの「桃ちゃん」を指定地点へ設置していった。
漆原はスプレー跡や装備がスライムに溶かされないか不安視していたが、三好はアルスルズによる定期巡回を前提に問題ないと判断していた。
やがて目的地点目前まで到達すると、佐山は整理した三つのリモコンを確認し、覚悟を決めて森の王の元へ向かった。
森の王との追走劇
曲がり角を抜けた先では、森の王が仁王のように立って待ち構えていた。
佐山は恐怖に息を呑みつつも即座に踵を返し、全力で逃走を開始した。
しかし森の王は圧倒的な速度で迫り、佐山は恐怖と焦燥の中で第一地点へ到達した。
三好のタイミング指示に従って桃ちゃんを起動すると、爆発音とともに多数のワイヤーが森の王へ絡みつき、初動の足止めに成功した。
漆原の分析と置き去り
最初の拘束成功を見た漆原は、ワイヤーの範囲や拘束効率について興奮気味に分析を始めた。
しかし気付いた時には、芳村と三好は既に次の地点へ先回りしており、漆原だけがその場へ置き去りにされていた。
漆原は慌てて追跡を開始し、護衛役のアイスレムが呆れたようにその後を追った。
第二地点での死線
疲労で限界に近づいていた佐山は、二つ目のマークへ辿り着く直前、森の王がわずか数秒後方に迫っていることを知らされ絶望した。
彼は地面へヘッドスライディングするように飛び込み、伏せた状態で二つ目のリモコンを起動した。
爆発した桃ちゃんは頭上をワイヤーが走り抜け、森の王の動きを再び阻害した。
その隙に佐山は、震える足を無理やり動かして最後の地点へ向かった。
限界と最後の一撃
最後の地点へ辿り着く寸前、佐山は背後から森の王の蹴りを受け、オレンジの木の根元まで吹き飛ばされた。
しかし吹き飛ばされながらも三つ目のリモコンを押し込み、最後の桃ちゃんを起動させた。
森の王は後方へ飛び退いて完全拘束を避けたものの、警戒によって一瞬動きを止めた。
その時点で芳村は失敗を覚悟しかけたが、三好は「ここからが本番です」と断言した。
収納庫を用いた捕縛
直後、空中から巨大なフレーム付きネットが出現し、そのまま森の王へ覆い被さった。
それは〈収納庫〉を利用して空中へ設置された特製の捕人網だった。
D研へ極秘製作させた重金属フレームと、多層ワイヤーネット、さらに多数のフックによって構成された拘束装置であり、暴れるほど絡みつく構造になっていた。
漆原は佐山まで〈収納庫〉を使えることに衝撃を受けていたが、芳村たちはJDAへ提出予定だった〈収納庫〉を、この作戦のためだけに秘匿利用していたのである。
RPG-7と儀式の完成
拘束された森の王へ、佐山はRPG-7を向けた。
しかし彼は発射直前で武器を置き、代わりに黄金の木の枝を掲げ始めた。
芳村は、その行為が呪術を完成させるための儀式手順だと理解していた。
やがて佐山は、いつの間にか手にしていた「報いの剣」を構え、森の王へゆっくり近づいていった。
そして最後に祈るように空を仰ぎ、大きく呼吸した後、覚悟を決めて剣を振り下ろした。
新たな森の王の誕生
森の王は黒い光へ還元され、その魂のような輝く球体が佐山へ吸収されていった。
同時に世界には「Rex Mortuus Est, Vivat Rex(王は死んだ、王に栄あれ)」という囁きが響き渡った。
こうして森の王は討たれ、新たな王として佐山が選ばれたのである。
三好は、佐山が森の外へ出られなくなる可能性を危惧していたが、芳村は、既に佐山の魂はつくばの黄金の木と繋がっているのだろうと推測した。
そして、新たな王が存在する場所そのものが「森」として定義されていくのかもしれないと考えていた。
代々木ダンジョン 十八層
佐山の生還と十八層見学
森の王を倒した後、佐山は無事に二十一層から出ることができた。
帰路では漆原の希望により、その日のうちに十八層へ立ち寄った。漆原は各メーカーのポーターに張り付き、技術者へ専門的な質問を浴びせ続けていた。
森の王討伐後の変化
芳村がRPG-7を使わなかった理由を尋ねると、佐山は、そうしなければならない気がしたと答えた。
森の王が消滅した後、佐山の体に溶け込んだものはスキルオーブであり、Dカードには〈森の王〉というスキルが追加されていた。
〈森の王〉は、オレンジの魔法を解除できるだけでなく、森の天候や植物の生育にも干渉できる可能性があった。
研究者としての苦悩
佐山は、自分のスキルが研究結果に影響してしまう可能性に悩んでいた。
植物を育てたい、芽が出てほしいと考えるだけで〈森の王〉が作用するなら、実験結果が純粋な自然現象なのか、スキルの影響なのか判別できなくなる。
その場合、他者による再現性が失われ、研究者としての信用そのものが揺らぎかねなかった。
三好による転職提案
三好は、佐山に転職を提案した。
本当はDパワーズでウケモチ・システム関連事業に関わってほしいものの、〈収納庫〉保持者が集中すると問題が大きいため、JDA所属の方が安全ではないかと考えたのである。
三好は、ダンジョニングした作物を無限収穫するウケモチ・システムの概要を説明した。
佐山は、地球由来の植物がダンジョニングするという事実に強い衝撃を受けた。
ウケモチ・システムの事業性
三好は、ウケモチ・システムは一度作ればリピート需要がなく、通常の商品としての将来性は低いと説明した。
そのため、月額利用料や稼働時間課金のような形で収益化する方が現実的だと考えていた。
小麦版ウケモチ・システム一台あたりの月間産出価格は約六千三百七十五万円に達し、一パーセントの利用料でも月六十三万円以上になる計算だった。
〈収納庫〉保持者としての危険
三好は、佐山が〈収納庫〉を持っていることが知られれば、盗難や密輸、誘拐などの危険が生じると警告した。
農研機構よりもJDAの方が、彼の身元や能力を隠しやすいと考えられた。
一方で芳村は、農研機構から突然JDAへ転職した研究者がいれば、かえって怪しすぎてカバーに見えるかもしれないと考えた。
ただし、漆原が佐山の〈収納庫〉使用を見ているため、自衛隊側から情報が漏れる可能性も残っていた。
佐山の決断保留
佐山は、その場では転職について明確な答えを出せなかった。
しかし地上へ戻った後、自分に使われた〈収納庫〉オーブの価値を知り、大慌てで芳村たちへ連絡してくることになった。
二〇一九年二月十九日(火)
市ヶ谷 JDA本部 ダンジョン管理課
管理課の多忙と美晴の報告
セーフエリア入札を目前に控えたダンジョン管理課は、多忙を極めていた。
職員たちは疲弊しながら働いており、美晴が課長ブースへ向かう姿を見て、仕事を押し付けようと狙うほど殺気立っていた。
そんな中、美晴は斎賀へ、芳村たちが昨夜無事に出ダンし、佐山も目的を達成したと報告した。さらに佐山から、斎賀へ礼を伝えてほしいと頼まれていた。
柑橘騒動の収束確認
斎賀は、自分がしたことは自衛隊への橋渡しくらいだとしながらも、今回の件について一定の成果を認識していた。
十七日午後以降、魔結晶消失の報告は止まっており、さらに桜川のみかんも突然果実が消滅して異常現象が終息したという連絡が農水省経由で届いていた。
これにより、オレンジ騒動は収束したと判断された。
Dパワーズが残した影響
一方で斎賀は、芳村たちが支払った代償は大きいと考えていた。
ヘルハウンド使役の存在は広く認知され、三好のスキルの一部も農研機構や自衛隊関係者の前で露見してしまったのである。
NDA契約は結ばれているものの、情報そのものが存在すると知られれば、状況証拠だけでも推測が進む危険があった。
斎賀は、社会から彼らを守ることと、彼らから社会を守ること、その両方の観点から、今後さらに注意深く監視する必要性を感じていた。
例のアイテム使用者候補
その後、美晴は三好からの新たな相談を伝えた。
それは、使用者が決まらず扱いに困っていた“例のアイテム”について、適任と思われる人材が現れたため興味がないか、という内容だった。
セーフエリア開発を前に、そのアイテムの扱いを部長から丸投げされていた斎賀は、その話に強く反応した。
終章 エピローグ
後日譚
イタリア ローマ カラカラ・テルメ通り
FAOにもたらされた報告
イタリア・ローマのFAO本部で、農業消費者保護局高官アンブローズは、WDAのDFAから届いた報告を秘書のマリから聞かされていた。
その内容は、ダンジョン内で育成された小麦が収穫後にリポップしたというものだった。以前から論文上では可能性が示されていたが、実際に小麦とレポートが提出されたことで、関係者に大きな衝撃を与えていた。
アンブローズは、その報告を人類を飢餓から救う福音のように受け止め、強く興奮していた。
ウケモチ・システムの生産力
マリは、ウケモチ・システムの生産量を説明した。
一台あたりの占有面積はわずか一アールでありながら、小麦なら年間三万一千五百三十六トンを生産できると試算されていた。
アンブローズは、このシステムが世界の食料問題を劇的に改善する可能性に強く期待していた。
一方でマリは、消費地で無限に食料が生産されるようになった場合、既存の生産・分配構造が崩れる危険を冷静に考えていた。
食料基盤をダンジョンへ依存する危うさ
マリは、ウケモチ・システムが劇的な効果を持つことを理解しながらも、人類の食料基盤をダンジョンという理解不能な存在へ依存する危うさを感じていた。
水道や電気なら、利用者が仕組みを知らなくても、それを支える技術者や制度が存在する。
しかしダンジョン由来の現象は、開発者でさえ原理を説明できず、ただ「できたから使う」という段階に過ぎなかった。
そのため、システムが突然失われた場合、世界の食料分配構造を立て直せるのかという不安が残っていた。
導入費用と国際機関の限界
マリは、生産量を通常農地に換算すれば、ウケモチ・システム一台が約六十三平方キロメートルの農場に匹敵すると計算した。
仮に巨大農場開発と同等のコストを求められれば、導入価格は極めて高額になる可能性があった。
さらに、国際農業開発基金の無償資金供与規模を考えると、仮に一台二千五百万ドルでも、全額を投入して三台程度しか購入できない。
アンブローズは、それでもこのシステムをFAO主導で導入しなければ、資本力のある組織に独占されると危惧していた。
国際機関内の主導権争い
アンブローズは、UNDPやWFPが理由をつけて普及を遅らせる可能性があると見ていた。
彼にとって、このシステムは単なる技術ではなく、国際機関内の主導権争いにも関わる案件だった。
マリは協力こそ重要だと諫めたが、アンブローズは建前だと返し、過去の因縁をにじませていた。
代々木の麦畑とFAOの関与
マリは、WDAのネイサンから、代々木に存在する麦畑の管理をFAOへ任せるよう頼んでおいたという連絡も伝えた。
アンブローズは、ネイサンが面白そうな部分だけ先に持っていったと悔しがったが、代々木へすぐ向かうわけにはいかなかった。
まずはIFADとの調整や国際的な導入方針を固める必要があったのである。
ウケモチの名とFAOの使命
アンブローズは、ウケモチという名の意味を尋ねた。
日本人であるマリは、それが食べ物を分け与える日本の神であると説明した。
アンブローズは、その名がシステムの性質そのものを表していると感じた。
このプロジェクトが成功すれば、世界の貧困は少しでも改善するはずだった。
FAO本部の壁には、「FIAT PANIS」、すなわち「人々に食べ物あれ」というモットーが掲げられていた。
代々木八幡
代々木八幡に潜伏する傭兵たち
肌寒い雨の日、代々木八幡の家では、ラーテルたちがシガーの煙を漂わせながら停滞した時間を過ごしていた。
そこへ現れたイザベラは、煙草の臭いに露骨な嫌悪感を示しながらも、彼らへ現状への不満をぶつけた。
ラーテルたちが動きを止めていた理由は、十層で撮影された映像だった。彼らが探索者を見捨てようとした様子と、フランス軍関係者の姿が記録されている可能性があり、それが表沙汰になる危険を抱えていたのである。
荒野に呼ばわるものの存在
ラーテルは、本来なら証拠ごと始末するべきだったと認めつつも、まさか「荒野に呼ばわるもの」を名乗る存在が現れるとは予想していなかった。
しかし、一か月以上経過しても大きな動きがなかったことで、相手側は襲撃ではなく行き違い程度と認識している可能性が高いと判断していた。
ファシーラは敵対者の始末を提案したが、ラーテルはデヴィッドに知られることを嫌って拒否した。
デヴィッドへの不信
ラーテルは、宗教を嘲笑うような男だったデヴィッドが、最近では神に近づく道などと言い始めていることに違和感を抱いていた。
契約内容と実際の仕事も噛み合わなくなっており、ファシーラは撤退を提案した。
ラーテルもそれに同意し、契約違反を理由に仕事を打ち切る方針を決めた。
紛争地帯への嫌気
次の仕事先としてリビア情勢が話題に上がったが、ラーテルは現代の紛争地帯の混沌に嫌気を抱いていた。
民族、宗教、国家利益が複雑に絡み合い、昨日の味方が明日には敵になる状況を、彼は面白いよりも危険だと感じていた。
クルド勢力への参加案も出たが、支援国の思惑次第で簡単に切り捨てられると見ていた。
探索者への転向
そうした中、ラーテルは次の行き先としてダンジョン探索者を提案した。
現代の紛争は複雑化しすぎており、既に探索者へ転向した傭兵も存在していた。
ファシーラも、十層で遭遇した男の異常な身体能力を思い出し、探索者の力を実際に経験してみる価値はあると認めた。
さらに、彼らは「主のお使い」と呼ばれる存在への借りを返す必要も感じていた。
新たな依頼
ラーテルは、ボットネット経由で届いた依頼文書をファシーラへ見せた。
依頼内容は極めて危険であり、しかもJDAが禁止している案件だった。
しかしラーテルは、JDAにはルールを強制する武力が存在しない以上、禁止に実効性はないと判断していた。
彼らは装備の確認を始め、特に「主のお使い」と戦うには通常の七・六二ミリ弾では不足すると考えていた。
そして依頼文書には、自力で用意すべき装備として〈マイニング〉の文字が記されていた。
同シリーズ
Dジェネシス ダンジョンができて3年











その他フィクション

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