どんな本?
『Dジェネシス ダンジョンが出来て3年』は、之貫紀 氏による日本のライトノベル。
この物語は、世界各地に「ダンジョン」が出現してから3年後の世界を描いている。
主人公の芳村は、元々は社畜として働いていたが、ある偶然からダンジョン探索者の世界ランキング1位になる。
彼は退職し、ダンジョンに潜ることを決意するが、手に入れた未知のスキルに振り回され、ダンジョン攻略の最前線に関わることになる。
この作品は、投稿小説サイト「小説家になろう」で2019年6月1日から投稿が開始され、その後KADOKAWAのエンターブレインレーベルより2020年2月から刊行されている。
また、『月刊コンプエース』で平未夜 氏の作画により漫画化され、連載が開始されている。
読んだ本のタイトル
Dジェネシス ダンジョンが出来て3年03
著者:之貫紀 氏
イラスト:ttl 氏
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あらすじ・内容
神VS元サラリーマン!?止まらない二人の猛進に世界が振り回される!!
2018年。ダンジョン攻略が当たり前になった世界。
Dジェネシス ダンジョンが出来て3年 03
元社畜の脱サラリーマン芳村は不幸?な事故で最強スキルを手に入れる。
異界言語理解の力を使って碑文に隠された情報を手に入れた芳村と三好はダンジョン下層へと検証に向かう。
そこで待ち受けていたのは黄金の椅子に鎮座する神!?
碑文の翻訳サイトを開設してさらに世界から注目を集めることになったDパワーズの前に、お嬢様がやって来た!
大人気SFファンタジー!第3弾
感想
この巻では、主人公たちのダンジョン探索の深度がより深まり、科学技術との融合が一層進む。
特に目立ったのは、黄金の椅子に鎮座する神、エンガイとの予期せぬ強制戦闘で、芳村たちがレベルアップ(ステータス強化)でこれを物理的に解決する展開が印象的だった。
あぁ、、やっぱチートだわ。
ただ、これはかなり危機的状況だった。
でも、神様相手の戦いにも関わらず、物語の焦点はダンジョンの新機能開拓と世界への影響にあり、芳村たちの活動がどれほど大きな波を起こしているかが如実に示された。
また、異世界言語理解によって明らかになった情報の検証への取り組みも興味深い。
加速器実験からダンジョンが出現して3年、主人公たち芳村の活動はますます目覚ましいものになっている。
また、芳村たちが周囲の人々を巻き込みながらも、彼らの思い通りに物事を進める様子は、読む側にとっても爽快感を与える。
総じて、ダンジョンの神秘と現実世界の複雑さが絡み合いながら、主人公たち芳村の成長と挑戦を描いた本作は、ダンジョン物の魅力を十分に引き出していると感じる。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察・解説
ダンジョンの階層検証
代々木ダンジョンにおいて、芳村圭吾と三好梓は碑文に記された情報の真偽や、ダンジョンシステムの隠された法則を解き明かすため、各階層で入念な検証を行っている。本稿では、彼らが実施した主な階層検証について解説する。
十層におけるLUCとドロップ率の検証
十層はアンデッド系のモンスターが継続的に出現し、同一種の討伐数を稼ぎやすいため、ドロップアイテムの検証に最適な環境であった。
・芳村(LUC100)と三好(LUC10)というステータスの差を利用し、スケルトンを125体討伐して比較検証を行った。
・その結果、骨などの「標準ドロップアイテム」はLUCの影響をほとんど受けず、約25%の基本ドロップ率(BDR)のままであることが判明した。
・一方で、「魔結晶」やヒールポーションなどの「特殊ドロップアイテム」は、LUCの値に比例してドロップ率が大きく変動するという法則を導き出した。
十八層における〈マイニング〉の取得検証
ロシアの碑文情報(RU22-0012)の信憑性を確かめるため、二人は十八層に存在するバティアン峰の麓の地下洞窟へ向かった。
・そこに生息する土属性のモンスター「ゲノーモス」を大量に討伐した結果、想定通りに〈マイニング〉のスキルオーブが選択ウィンドウに出現した。
・ドロップ確率が一万分の一とスキルオーブとしては破格の高さであった。
・二人は安全地帯からゲノーモスを狩り続け、複数の〈マイニング〉を確保して碑文の記述が事実であることを証明した。
二十層における鉱石ドロップの検証
取得した〈マイニング〉の効果を検証するため、二人はただちに二十層(氷雪層)へと移動した。
・そこでスノーアルミラージを討伐した結果、1キロほどの銀色のインゴットがドロップした。
・鑑定によりそれが高純度の「バナジウム」であることが判明し、ダンジョンから希少な金属資源を直接獲得できることが実証された。
・なお、この鉱石ドロップの確率も、三好が33%、芳村が100%と、LUCが強く関与していることが確認されている。
二層における農園実験と植物のリポップ検証
三好の着想により、ダンジョン内の植物が切り取られた後にどうなるかの検証が行われた。
・十八層で「ムフフ」という木の枝を切り取り、翌日確認したところ、全く同じ場所に枝がリポップ(復活)していることが確認された。
・この性質を利用し、「外部から持ち込んだ作物(麦など)が、ダンジョン内で育った後にダンジョンの一部として認識されれば、切り取っても永遠にリポップする『無限収穫畑』になるのではないか」という壮大な仮説が立てられた。
・その実証実験のため、二人はJDAから二層の土地を一坪借り受け、ゴブリンやスライムへの対策を施した上で農園を作る計画を進めている。
まとめ
これらの階層検証は、スキルやステータスの仕様解明にとどまらず、人類にとって有用な未知の資源(レアメタルや無尽蔵の食料)をもたらす可能性を切り拓く重要なステップとなっている。
スキルオーブの収集
主人公の芳村圭吾と三好梓は、代々木ダンジョンの探索を通じて、希少なスキルオーブを効率的かつ戦略的に収集している。本稿では、彼らのスキルオーブ収集に関する主な動向について解説する。
「100匹目」の法則を活用した狙い撃ち
芳村たちは、「同種モンスターの討伐数の下二桁を『00』に調整して狙ったモンスターを倒すと、スキルオーブの選択ウィンドウが出現する」という法則を最大限に活用している。
・この手法により、三層のウルフからは希少な〈危険察知〉のオーブを取得した。
・十八層に生息するゲノーモスからは、1万分の1というスキルオーブとしては破格の高確率で出現する〈マイニング〉を立て続けに7個も確保することに成功した。
クールタイムの管理と戦略的運用
芳村の未知スキル〈メイキング〉はクールタイムが約8.64秒と実質無いに等しいため、オーブ選択ウィンドウさえ出せれば連続でのオーブ取得が可能である。
・しかし、〈収納庫〉のように非常にドロップ確率が低くクールタイムが長い希少なオーブについては、クールタイム明けのタイミングを逃さずにダンジョンへ潜り、計画的に確保するよう動いている。
・収集した〈マイニング〉や〈収納庫〉は、誰に使わせるべきか、あるいはオークションに出品して各国の判断に委ねるべきかといった戦略的な運用が検討されている。
多重取得に伴うペナルティの懸念
スキルオーブの収集が順調に進み、常識外れの数のスキルを身につけていく中で、三好はゲームのバランス調整に例えて「スキルを1つ取得するごとに寿命が縮むようなペナルティがあるのではないか」という懸念を抱いた。
・芳村もそのリスクに思い至るが、現時点では〈鑑定〉の結果にそうしたマイナス効果は表示されておらず、体調にも異常がない。
・そのため、ひとまずは問題ないだろうと推測して収集を続けている。
LUC(運)とドロップ率の検証
スキルオーブの選択ウィンドウ出現とは別に、通常のアイテムドロップに関する検証も行われている。
・芳村(LUC 100)と三好(LUC 10)のステータス差を利用して十層のスケルトンを討伐した結果、骨などの「標準ドロップアイテム」はLUCの影響をほとんど受けずに約25%の確率でドロップすることが分かった。
・一方で、魔結晶やポーションなどの「特殊ドロップアイテム」の取得率には、LUCの値が比例して大きく関与するという法則を導き出している。
まとめ
芳村と三好によるスキルオーブの収集は、ダンジョンの法則を解き明かし、それを最大限に利用する戦略的なものである。「100匹目」の法則やクールタイムの管理を駆使して希少なオーブを計画的に確保する一方で、多重取得による未知のペナルティのリスクも考慮している。さらに、LUCとドロップ率の相関など、アイテム収集におけるシステム検証も並行して行い、効率的な探索を推進している。
ステータス編集機能
本作における「ステータス編集機能」は、主人公・芳村圭吾の持つ未知スキル〈メイキング〉の隠された機能であり、ダンジョン探索におけるキャラクターの育成や、今後のビジネス展開に大きな可能性をもたらす要素として描かれている。本稿では、この機能の発見と活用、そしてそれに伴う騒動について解説する。
パーティメンバーのステータス編集機能の発見
芳村と三好がダンジョン内でパーティ機能のテストを行っていた際、芳村が〈メイキング〉を開くと、自分のステータス画面の下にパーティメンバーである三好梓の名前が表示されていることに気付いた。
・その名前をタップすると三好のステータス画面が現れた。
・芳村は自身だけでなく、パーティを組んだ他者のステータスにも干渉し、編集できることが判明した。
SP(経験値)の半分割り振りの法則
三好のステータスと、彼女がこれまでに取得した総SP(経験値)を照らし合わせた結果、重要な事実が発覚した。
・探索者が取得したSPは、すべてが自動的にステータスへ変換(自然割り振り)されているわけではない。
・おおよそ50%程度が未使用の余剰SPとしてプールされていることが分かった。
・芳村はこの余剰SPを消費することで、パーティメンバーの好きなステータスを任意に引き上げることができる。
ダンジョンブートキャンプ構想
この画期的な機能を知った三好は、探索者向けの訓練企画であるダンジョンブートキャンプを提案した。
・芳村とパーティを組ませた状態で過酷な訓練を行い、終了時に芳村が余剰SPを割り振ることで、努力の結果として自然に急成長したと参加者に錯覚させるというビジネスモデルである。
・参加条件として代々木ダンジョンの探索協力を課すことで対象者を絞り込む案が検討された。
・余剰SPを持たない初心者(伸び代がない者)を弾くための口実として、いざとなれば三好の〈鑑定〉スキルを世間に公開してもよいという思い切った方針まで飛び出した。
芳村のやり過ぎによるトラブル
その後、事務所を訪れた女優の斎藤涼子とモデルの御劔遥に対して、芳村はクリスマスプレゼントと称して密かにステータスをいじってしまった。
・二人の希望(体力や演技力など)に合わせて数値を引き上げた芳村であったが、ここで自然分配されるSPは全体の半分という前提をうっかり忘れて計算してしまった。
・その結果、御劔のDEX(器用さ)を70、斎藤のDEXを50という、当時の世界トップクラスの探索者をはるかに凌駕する異常な数値に設定してしまった。
・後でこれを見た三好は頭を抱え、急激な能力上昇によって体の使い方に違和感が生じ、事故に繋がる危険性があると芳村を強く非難した。
・今度ブートキャンプをやる時は絶対に10ポイント程度に抑えるようにと釘を刺す事態となった。
まとめ
ステータス編集機能は非常に強力なサポート能力である反面、使い方を一歩間違えれば、対象者の人間離れした能力を意図せず引き出してしまう危険な一面も持ち合わせている。強力なスキルであるがゆえに、今後の活用には慎重な判断と管理が求められる機能である。
未知の魔物戦闘
代々木ダンジョンの深層(主に十八層以降)における未知の魔物との戦闘は、従来の物理的・魔法的な常識が通用しない極めて危険なものであり、芳村と三好は知識や機転、そして未知スキル〈メイキング〉によるリアルタイムの能力調整を駆使してこれらを切り抜けている。本稿では、彼らが行った深層での未知の魔物との戦闘について解説する。
太陽神「エンカイ(ンガイ)」との死闘
最も過酷な未知の魔物戦闘は、十八層のバティアン峰山頂で遭遇した太陽神「エンカイ(ンガイ)」との戦いである。
・ここは過去に、最初に足を踏み入れた自衛隊員が侵入直後に原因不明で即死した「立ち入り禁止領域」であった。
・エンカイは、三好が放った鉄球を軽く弾き、視認不可能な速度で接近して強烈な一撃を放つ圧倒的な身体能力を持っていた。
・身代わりとなったヘルハウンド(アイスレム)が瀕死に追いやられるほどの脅威であった。
・さらに、芳村が放った極炎魔法や水魔法すらも完全に霧散させるという、常識外れの魔法耐性を備えていた(討伐後に、これが魔法ダメージを80%カットするドロップアイテム「ンガイの腕輪」の効果だと判明する)。
・芳村は〈メイキング〉を用いて自身のAGI(素早さ)とSTR(筋力)を瞬時に200まで引き上げ、近接での肉弾戦を挑んだ。
・ここで突破口となったのは、三好が語ったマサイの神話(妻のオラパに額を割られ、傷を隠すために激しく輝く太陽になった)に基づく弱点の推測であった。
・芳村はエンカイの攻撃をいなして顎を打ち上げ、三好の援護射撃による隙を突いて弱点である額に鉄球を全力で叩き込み、見事に神話級の魔物を討伐した。
「ゲノーモス」の群れとの物量戦
十八層の地下神殿で遭遇した土属性の魔物「ゲノーモス」との戦闘は、無尽蔵に湧き出すかのような圧倒的な物量戦であった。
・彼らは一斉に石礫(いしつぶて)を投擲して攻撃してくるため、まともに包囲されれば命の危険があり、一度は神殿内への撤退を余儀なくされた。
・しかし、〈マイニング〉のスキルオーブを収集するため、芳村たちは安全地帯(洞窟の入り口付近)を確保した。
・そこで、布団を頭から被って石礫を防ぐという客観的には滑稽ながらも極めて実用的な防御策を編み出した。
・これにより、被害を抑えながら一方的にゲノーモスを狩り続けることに成功している。
超高ステータスによるオーバーキル
新階層である二十層(氷雪層)に足を踏み入れた際の「スノーアルミラージ」との初遭遇では、思わぬ事態が発生した。
・エンカイ戦の延長でSTRを200にしたままだった芳村が鉄球を投げつけた。
・その結果、魔物の上半身を障子のように貫通させて爆散させるというオーバーキルを引き起こしている。
まとめ
このように、深層での未知の魔物との戦闘では、単なるステータスのぶつかり合いにとどまらず、神話伝承からの弱点推測、戦況に応じたリアルタイムのステータス編集、そして身の回りの道具(布団など)を用いた泥臭い戦術が生存と攻略の重要な鍵となっている。
ダンジョン資源の活用
代々木ダンジョンにおける探索が進むにつれ、ダンジョンが単なるモンスター討伐の場ではなく、人類に有益な未知の「資源」をもたらす場としての側面が明確になってきている。芳村圭吾と三好梓は、スキルの検証や独自の仮説に基づき、ダンジョン資源の画期的な活用法を模索している。本稿では、その詳細について解説する。
〈マイニング〉による希少金属(レアメタル)の獲得
・芳村と三好は、十八層の地下洞窟でゲノーモスから〈マイニング〉のスキルオーブを収集し、二十層(氷雪層)でその効果を検証した。
・その結果、スノーアルミラージから高純度(フォーナインクラスと推測される)の「バナジウム」のインゴットがドロップすることが確認された。
・バナジウムは南アフリカ、中国、ロシアなどに偏在するレアメタルであり、ダンジョンから直接高純度で供給できるとなれば、国家の安全保障や安定供給の観点から非常に大きな意味を持つ。
・また、今後三十二層以降に存在するとされる「セーフエリア」に拠点を構築できれば、五十層の金をはじめとする金属資源を集積するビジネスが莫大な利益を生む可能性も示唆されている。
ダンジョン内植物のリポップと「無限収穫畑」の仮説
・三好は、ダンジョン内の植物が切り取られた後にどうなるかに疑問を持ち、十八層で「ムフフ」という木の枝を切り取った。
・翌日、全く同じ場所に枝がリポップ(復活)しているのを確認したことで、ダンジョンの環境を活用する壮大な計画が持ち上がった。
・それは、農業に適した環境(代々木の二層など)に「外部から持ち込んだ作物の種」を植え、それがダンジョンの植物として認識されれば、収穫(切り取り)しても永遠にリポップし続ける「無限収穫畑」になるのではないか、という仮説である。
・この仮説を実証するため、二人はJDAから二層の土地を一坪借り受け、ゴブリンやスライムへの対策(金網や鑑札の設置など)を施した上で農園を作る実験を進めている。
「Dファクター」散布ツールとしてのダンジョンの性質
・この無限収穫畑の仮説の根底には、ダンジョンが「魔素(Dファクター)」を地球上に拡散させるためのツールである、という碑文の解読情報がある。
・通常、外部から持ち込んだ植物がダンジョンのシステムに組み込まれ、無限にリポップするなど常識ではあり得ない。
・しかし芳村は、ダンジョン内で育った作物はDファクターを豊富に含んでおり、それを食糧として世界中にばらまく(人類に摂取させる)行為は、「Dファクターを拡散する」というダンジョンの本来の目的に合致すると考えた。
・そのため、ダンジョンの意思(?)が好意的に協力してリポップを許容するのではないかと推測している。
その他の資源利用とリスク
・金属資源や食糧以外にも、十八層のボスであるエンカイから得られた純金製の「ンガイの玉座」のようなアイテムも存在する。
・三好はこれがリポップすれば日本の菱刈鉱山1年分に匹敵する莫大な黄金資源になると興奮したが、そのためには毎回エンカイのような神話級の魔物と命がけで戦う必要があるため、芳村は非現実的だと却下している。
まとめ
ダンジョン資源の活用は、レアメタルの供給による経済・軍事的な変革だけでなく、ダンジョンの未知のシステム(リポップやDファクター)を利用した「無尽蔵の食料生産」という、人類の未来を左右するほどの巨大なポテンシャルを秘めている。
碑文公開と波紋
代々木ダンジョンの碑文を巡る情報は、Dパワーズが立ち上げた匿名サイト「ヒブンリークス」での全文公開を機に、世界中の社会制度や国家の戦略に多大な波紋を広げることとなった。
「ヒブンリークス」のクリスマス公開
・JDA職員の鳴瀬美晴(〈異界言語理解〉所持者)によって翻訳された266枚の碑文情報は、2018年のクリスマス午前零時に「ヒブンリークス」として一般公開された。
・このサイトは米国のモニカによるアクセスを皮切りにredditなどの掲示板を通じて瞬く間に世界中へ拡散し、各国の政府や諜報機関が独占しようとしていた情報が白日の下に晒される結果となった。
「パーティ機能」による社会制度への衝撃
・最も早く現実社会に混乱をもたらしたのは、Dカードを用いた「パーティ機能」と「念話(テレパシー)」の存在である。
・ネット上の検証でこれが事実であると判明すると、大学入試センター試験をはじめとする各種試験でのカンニングに悪用される懸念が爆発した。
・入試を翌月に控えた大学入試センターやJDAは対応に追われたが、Dカード所有者を現場で確認する確実な手段が存在しない。
・そのため、Dパワーズのステータス計測デバイスの仕組みを応用した「Dカードチェッカー」の開発要請が急浮上するなど、教育・社会制度の根幹を揺るがす事態となった。
〈マイニング〉公開と各国の代々木集中
・ロシアが隠蔽していた「鉱物資源(バナジウムなど)のドロップ」と「〈マイニング〉オーブ」に関する情報(RU22-0012)も公開された。
・同時に、JDAのサイトで「代々木ダンジョンに〈マイニング〉をドロップするモンスターが存在し、検証が進んでいる」ことが示唆された。
・この結果、優位性を失ったロシアや、情報収集を急ぐアメリカをはじめとする各国のトップ探索者たちが、不確実な自国ダンジョンよりも確実な代々木ダンジョンへと一極集中して探索を行う方針へと転換した。
その他の碑文情報と各国の反応
さらに、碑文には人類の未来に関わる様々な情報が含まれており、多様な議論を呼んだ。
・食料ドロップと探索者登録:探索者5億人を達成すればアマチュア層でも食料がドロップするという情報から、中国やインドなどが国策として強引に探索者登録を進める可能性が取り沙汰された。
・セーフエリアの開発:32層以降に「セーフ層」が存在するという記述により、安全地帯での拠点構築やダンジョン内の土地利用ルールについての議論が活発化した。
・各国の首脳陣:イギリスはいち早くサイト所有者が「アズサミヨシ」であることを突き止め対応を開始し、アメリカ大統領は碑文の中に自国の不利益につながる「ザ・リング」の記述がなかったことに安堵するなど、国家の中枢にも様々な思惑が交錯した。
まとめ
このように碑文の公開は、ダンジョンの知識が一般社会へもたらされただけでなく、現実の法律や試験制度への対応を迫り、国家間の資源獲得競争の舞台を代々木ダンジョンへと集中させる歴史的な転換点となっている。
ステータス計測技術
本作における「ステータス計測技術」は、三好梓と株式会社常磐医療機器研究所(常磐ラボ)の協力によって開発された画期的なデバイスであり、ダンジョン探索の効率化にとどまらず、社会制度や人類の価値観にまで多大な影響を与える技術として描かれている。本稿では、この技術の仕組みとそれがもたらした波紋について解説する。
開発の背景と計測の仕組み
このデバイスは、鳴瀬美晴の姉・翠が所長を務める常磐ラボで開発された。
・中島氏が開発した超高感度の磁力計(MI素子やTMR素子など)を搭載し、人間の脳活動の電気的特性などを非接触で測定する。
・三好は、この機器から得られた時間軸方向のデータを「超解像」や「畳み込み計算」を用いて三次元モデルに変換した。
・これは体脂肪率の計測にも似た帰納的なアプローチであり、膨大な測定データからHP、MP、STR、AGIといった各ステータスを逆算して数値化する仕組みとなっている。
隠された機能と特定のスキルや個人の識別
ステータスを算出するためのモデルを解析する中で、三好は測定データの中にパラメータが変動しても変化しない特異な構造があることを発見した。
・この構造を他者と比較することで、個人を識別する特徴になり得るほか、特定のスキルの有無を判別できる可能性が浮上した。
・実際に、芳村と三好のモデルにのみ共通して現れる突起状の特徴から、〈収納庫〉や〈保管庫〉といった空間収納系のスキルを所持しているかどうかを見分けられることが示唆されている。
「人類の分断」という倫理的懸念
ステータスの数値化は、探索者の能力向上や安全確保に大きく寄与する一方で、倫理的な問題も孕んでいる。
・鳴瀬美晴は、この技術が人間を数値によって明確に格付けしてしまうのではないかと危惧した。
・さらに三好は、このデバイスがDカードを所持していない(非探索者の)場合、特定の値が常にゼロになりステータスが計測できないという仕様を持つことに着目した。
・これにより、人類がDカードを持つ新人類と持たない旧人類に明確に区別されてしまい、改宗不可能な思想的・社会的な対立や分断を引き起こす危険性があると指摘している。
「Dカードチェッカー」としての波紋
この非探索者は計測不能になるという欠点に目をつけたのがJDAの斎賀である。
・当時、ヒブンリークスでパーティ機能による念話(テレパシー)の情報が公開されたことで、翌月に迫る大学入試センター試験でのカンニング不正が深刻な社会問題化していた。
・自己申告以外にDカードの所持を確認する手段がない中、この計測デバイスは不正を見抜くDカードチェッカーとしての価値を見出された。
・その結果、JDAや大学入試センターからDパワーズの非公開アドレス宛に、開発を懇願する大量の問い合わせが殺到することになり、彼らは社会的な責任と技術独占の狭間で対応を迫られることになった。
まとめ
ステータス計測技術は、人間の能力を可視化することでダンジョン探索に革命をもたらす一方で、数値による格付けや人類の分断といった倫理的な危機を内包している。さらに、意図せず判明したDカード所持の判別機能は、試験不正問題の解決策として社会から強く求められる結果となり、開発者であるDパワーズは技術独占と社会的責任の狭間で難しい対応を迫られることとなった。
Dカードの社会問題
Dジェネシスの世界において、Dカードの存在はダンジョン探索の枠を超え、現実の社会制度や人々の倫理観に深刻な問題を引き起こす要因として描かれている。本稿では、その社会問題の全容について解説する。
パーティ機能の念話と試験制度崩壊の危機
・ヒブンリークスで公開された碑文情報により、Dカード所持者同士でパーティを組むと、20メートル圏内で障害物を無視して念話(テレパシー)が使えることが発覚した。
・ネット上でこれが事実だと証明されると、翌月に控えた大学入試センター試験をはじめとする各種試験で、カンニングに悪用される懸念が爆発した。
・優秀な受験者や外部の協力者が頭の中で答えを共有するといった不正が容易に行えるため、試験制度の根幹を揺るがす事態となった。
対策の困難さとJDAの限界
・大学入試センターやJDAは対応に追われたが、誰がDカードを持っているかを試験会場の現場で即座かつ確実に判別する手段が存在しなかった。
・WDAのデータベースに照会しようにも、氏名や生年月日では同姓同名や入力ミス等による誤判定が生じ、人力でのチェックは時間的・コスト的に不可能である。
・また、試験会場で受験生同士を20メートル以上離すことや、願書受付後にDカードを取得する抜け道を防ぐことも現実的ではなく、抜本的な対策が打てない状況に陥った。
Dカードチェッカーの開発要請と圧力
・この状況を打破するため、JDAの斎賀課長は、Dパワーズが開発したステータス計測デバイスの、Dカード非所持者はある値がゼロになるためステータスが計測できないという特性に着目した。
・彼はこれをDカードチェッカーとして利用すべく、大学入試センターや各大学からDパワーズの非公開アドレス宛に大量の開発要請メールを送らせるよう仕向けた。
・Dパワーズ側は、特許出願が間に合わないという知財リスクや、断りにくい状況を作られて製品化を強制されるインサイダー的な状況に強い警戒感を抱いている。
新人類と旧人類の分断という倫理的懸念
・Dカードによる能力の可視化やチェッカーの普及は、より深い倫理的・社会的な問題も孕んでいる。
・三好梓は、デバイスがDカード所持者(新人類)と非所持者(旧人類)を明確に区別してしまうことに強い危機感を抱いた。
・Dカードによるステータス強化が広く知られれば、スポーツ界でのドーピング扱いや階級分けの問題にとどまらず、両者間での差別や、改宗不可能な新人類に対する原理主義者からの迫害・抹殺など、人類を二分する修復不可能な思想的・社会的対立を引き起こす危険性が指摘されている。
まとめ
このように、Dカードの存在やそれに伴う念話機能、ステータスの可視化は、既存の試験制度を無力化し、開発者に対する不当な社会的圧力を生むだけでなく、最終的には人類を新人類と旧人類に分断するほどの倫理的危機を内包している。ダンジョンに由来する未知のシステムが、いかにして現実社会の常識や構造を根底から揺るがすかが明確に示されている。
アーシャの来日と交流
本作におけるアーシャ=アーメッド=ジェインの来日と、芳村・三好たちとの交流は、深穴教団に関する重要な情報伝達と、日本のサブカルチャーを全力で楽しむコミカルなエピソードの二つの側面を持っている。本稿では、その詳細について解説する。
来日の経緯と深穴教団の不穏な動き
・芳村の〈超回復〉によって重大な怪我から完治し、社交界に復帰したアーシャであったが、彼女の周囲では父親が流した「魔法使いに治してもらった」という噂が広まっていた。
・特にアルトゥム・フォラミニス(深穴教団)の関係者は、回復の事実に対して異常な執着を見せ、アーシャに根掘り葉掘り情報を探っていた。
・アーシャはベルギーで教団の側近であるサラ=マグダレーナと遭遇し、彼らが本来の予定を変更して急遽東京(芳村たちのもと)へ向かう動きを見せていることを知った。
・この不気味な状況を直接ケーゴ(芳村)たちに相談するため、そして純粋に彼らと遊ぶために、父親の年末の予定に同行する形で日本を訪れた。
事務所での初めてのお泊まりとアキバカレー行脚
・来日したアーシャは高級ホテルに滞在していたが、三好の提案でDパワーズの事務所に宿泊することになった。
・引きこもりがちだった彼女にとって「友達の家に泊まる」のは初めての経験であり、大変喜んでいた。
・東京観光の行き先として、彼女はネットの友人に勧められていた「秋葉原のカレー店巡り(全店制覇)」を希望した。
・3人で1皿をシェアして回るという営業妨害になりかねない行為を正当化するため、三好の機転で「カレー大王」「カレーの王女様」と書かれた手作りTシャツに、「祈願 アキバ一周カレー行脚」というパーカーを着て街を練り歩くというイベント(ネタ)に仕立て上げられた。
・アーシャもノリノリでアキバの街を楽しんだ。
コミックマーケットの衝撃と薄い本の爆買い
・翌日、三好の案内で東京ビッグサイトで開催されているコミックマーケット(冬コミ)を訪れた。
・アーシャは、世界中から集まる人の多さや、アマチュアが自費で本を作る同人文化の規模に驚愕し、お祭りとして満喫していた。
・三好の友人であるコスプレイヤーたちとも楽しく交流した。
・しかし、会場で偶然「腐向けの薄い本(BL)」を目にしてしまい、あまりのカルチャーショックにパニックを起こしてしまった。
・芳村が咄嗟に「これは文化だ。インドのカーマ・スートラやミトゥナ像と同じだ」と苦しい説得をした結果、アーシャは「日本文化の勉強」として斜め上の納得をしてしまった。
・そして、周囲の護衛(スミスたち)に命じて、目につくサークルの薄い本を端から端まで「爆買い」し、他サークルからも献上本が集まるという騒動に発展した。
・この様子はSNSで「リアル石油王の娘さん」として大きく話題になった。
インド帰国後の後日譚
・大量の同人誌とともにインドへ帰国したアーシャは、自室でこっそりと「薄い本」を愛読するようになっていた。
・物語の終章では、本に登場した「総攻め」というBL用語の意味を父親のアーメッドに尋ねた。
・彼が企業買収などのビジネス用語として真面目に答えた説明を聞いて「さすがパパ」と感心するという、すっかり日本(アキバ)の文化に影響されてしまった姿が描かれている。
まとめ
アーシャの来日は、深穴教団の不穏な動向を芳村たちに伝えるという重要な役割を果たす一方で、日本のサブカルチャーに深く触れる機会となった。秋葉原でのカレー店巡りやコミックマーケットでの同人誌爆買いなど、彼女の純粋な好奇心と規格外の行動力は周囲を巻き込み、SNSで話題になるほどの騒動を引き起こした。帰国後も同人文化に影響を受け続ける彼女の姿は、異文化交流のコミカルな結果として描かれている。
登場キャラクター
Dパワーズ
芳村圭吾
Dパワーズに所属し、三好と行動を共にする探索者である。ダンジョン内の検証や未知の魔物との戦闘を実行する。
・所属組織、地位や役職
Dパワーズ
・物語内での具体的な行動や成果
十八層の山頂でエンカイを討伐した。三好と協力して代々木ダンジョンのシステムを検証している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
未知のスキル〈メイキング〉を保有する。自身のステータスやパーティメンバーの数値を操作できる。
三好梓
Dパワーズに所属し、情報収集やデータ解析を担当する。芳村のサポートと戦略立案を行う。
・所属組織、地位や役職
Dパワーズ
・物語内での具体的な行動や成果
ステータス計測デバイスのテストを進めた。匿名サイト「ヒブンリークス」を立ち上げて情報を公開した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
世界で初めて確認された〈鑑定〉スキルの所有者である。
アルスルズ(カヴァス、アイスレム、グレイシック、ドゥルトウィン)
三好に召喚された4体のヘルハウンドである。芳村と三好の護衛を担う。
・所属組織、地位や役職
Dパワーズ・護衛
・物語内での具体的な行動や成果
事務所の敷地に侵入した工作員やマスコミ関係者を捕縛した。戦闘時にはエンカイの攻撃から三好をかばった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
影に潜んで移動する能力を持つ。一定の質量以下の物体であれば装着したまま移動できる。
アルトゥム・フォラミニス(深穴教団)/ナイトメア
デヴィッド=ジャン・ピエール=ガルシア
ヨーロッパの政財界に人脈を持つ人物である。情報収集のために日本を訪れた。
・所属組織、地位や役職
ナイトメア
・物語内での具体的な行動や成果
オーブのオークションや魔法使いの情報を求めて日本の関係者に接触した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
知りたい情報が得られず、不満を募らせていた。
サラ=マグダレーナ
デヴィッドの側近を務める人物である。宗教団体の中心に位置する。
・所属組織、地位や役職
アルトゥム・フォラミニス
・物語内での具体的な行動や成果
ブリュッセルでアーシャに接触した。マイアミの予定を変更して東京へ向かうことを告げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
艶やかな容貌を持つ。一部で好ましくない噂が存在する。
ジェイン家
アーシャ=アーメッド=ジェイン
インドの富豪の娘である。芳村と三好の友人として交流を持つ。
・所属組織、地位や役職
ジェイン家
・物語内での具体的な行動や成果
日本のダンジョン事務所に宿泊し、秋葉原のカレー店巡りを楽しんだ。コミックマーケットで同人誌を大量に購入した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
周囲に多数の護衛を伴って行動している。
アーメッド=ラフール=ジェイン
アーシャの父親である。大富豪でありビジネスマンとして活動する。
・所属組織、地位や役職
ジェイン家
・物語内での具体的な行動や成果
アーシャから「総攻め」の意味を尋ねられた。それを企業買収の専門用語として回答した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
娘を溺愛している。
ソルデア
アーシャの世話を担当する人物である。
・所属組織、地位や役職
ジェイン家・メイド
・物語内での具体的な行動や成果
本文内に具体的な行動の描写は確認できない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ジェイン家でメイドとして働いている。
ヨーロッパ社交界
ミシェル
ヨーロッパの社交界に属する人物である。
・所属組織、地位や役職
ヨーロッパ社交界
・物語内での具体的な行動や成果
アーシャに声をかけ、サラ=マグダレーナの素性を説明した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
教団のよくない噂についてアーシャに注意を促した。
JDA(日本ダンジョン協会)
鳴瀬美晴
JDAの職員である。Dパワーズの専任管理監を務める。
・所属組織、地位や役職
JDAダンジョン管理課・専任管理監
・物語内での具体的な行動や成果
碑文の翻訳作業を完了させた。Dパワーズの動向を上司の斎賀へ報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
〈異界言語理解〉スキルを保有している。
斎賀
JDAダンジョン管理課の責任者である。鳴瀬の上司にあたる。
・所属組織、地位や役職
JDAダンジョン管理課・課長
・物語内での具体的な行動や成果
鳴瀬からの報告を受け、大学入試センターからの問い合わせに関する会議を主催した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
非探索者のステータスが計測できない特性を利用し、Dカード判別法の着想を得た。
株式会社常磐医療機器研究所(常磐ラボ)
鳴瀬翠
常磐ラボの所長である。鳴瀬の姉にあたる。
・所属組織、地位や役職
株式会社常磐医療機器研究所・所長
・物語内での具体的な行動や成果
ステータス計測デバイスの試験機を用意した。三好と量産化や提携について相談した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ベンチャー企業の経営者として資金繰りに苦労している。
中島
常磐ラボに所属する技術者である。
・所属組織、地位や役職
株式会社常磐医療機器研究所
・物語内での具体的な行動や成果
超高感度の磁力計を搭載したステータス計測デバイスを開発した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
要求仕様を超える性能の機器を作り出す傾向がある。
芸能界・マスコミ
御劔遥
芸能界で活動するモデルである。芳村からダンジョンの指導を受ける。
・所属組織、地位や役職
芸能界・モデル
・物語内での具体的な行動や成果
芳村の事務所を訪れ、ステータス計測の実験に協力した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
芳村のステータス調整により、極めて高いDEXの数値を与えられた。
斎藤涼子
芸能界で活動する新人女優である。御劔とともに芳村から教えを受ける。
・所属組織、地位や役職
芸能界・女優
・物語内での具体的な行動や成果
映画の製作発表会で師匠の存在を語った。芳村から主役祝いとしてアレキサンドライトのピアスを贈られた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
芳村のステータス調整により能力値を引き上げられた。
氷室隆次
番組制作会社に所属するディレクターである。
・所属組織、地位や役職
メディア24・ディレクター
・物語内での具体的な行動や成果
斎藤涼子を尾行して芳村の事務所に侵入した。アルスルズに捕縛されて暗闇の空間に閉じ込められた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
恐怖体験を経て三好の協力を受け入れた。
石塚誠
テレビ局に所属するプロデューサーである。
・所属組織、地位や役職
中央TV制作局・プロデューサー
・物語内での具体的な行動や成果
斎藤涼子の「師匠」とオークション主催者の関連性を探るよう氷室に依頼した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
局長の意向を受けて調査を指示していた。
局長
テレビ局の幹部である。
・所属組織、地位や役職
中央TV・局長
・物語内での具体的な行動や成果
石塚に対して調査を指示した。過去の事情を理由に事態への介入を進めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
神に関わる存在が影響している可能性を認識していた。
吉田陽生
自称ダンジョン研究家として活動する人物である。
・所属組織、地位や役職
マスコミ・自称ダンジョン研究家
・物語内での具体的な行動や成果
NHKへダンジョンの企画書を持ち込んだ。担当者から民放向けであるとして提案を却下された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
JDAが公開した映像に商業価値を見出している。
日本政府・関係機関
某田中さん
芳村たちが頼る関係機関の人物である。
・所属組織、地位や役職
日本政府・関係機関
・物語内での具体的な行動や成果
深夜に芳村の事務所を訪れ、捕縛された氷室を引き取った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
氷室を中野の警察病院へ収容する手配を行った。
内調の二人(見張り)
警察病院で監視任務に就く職員である。
・所属組織、地位や役職
内閣情報調査室
・物語内での具体的な行動や成果
警察病院において氷室の病室の前に配置されていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
三好が影を利用して病室を出入りしたことには気付かなかった。
アメリカ合衆国関係者
カーティス
アメリカ合衆国のダンジョン省を率いる人物である。
・所属組織、地位や役職
ダンジョン省・長官
・物語内での具体的な行動や成果
ヒブンリークスの翻訳内容を確認した。代々木ダンジョンでの〈マイニング〉取得を部隊に命じた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
日本側への対応の遅れに対して焦りを抱いている。
世界一の大国を率いている男(プレジデント)
アメリカ合衆国の国家元首である。
・所属組織、地位や役職
アメリカ合衆国政府・大統領
・物語内での具体的な行動や成果
翻訳された碑文にザ・リングに関する記述が含まれていないことを確認した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
自身の任期中に問題が表面化しないことを望んでいる。
サイモン
アメリカの探索者チームに所属する人物である。
・所属組織、地位や役職
アメリカ合衆国関係者・探索者
・物語内での具体的な行動や成果
代々木ダンジョンのエントランスで芳村に接触した。ヒブンリークスの所有者について質問した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
〈マイニング〉を獲得するため代々木ダンジョンに留まることを決断した。
カヤマ
Dパワーズの動向を監視する要員である。
・所属組織、地位や役職
アメリカ合衆国関係者・監視要員
・物語内での具体的な行動や成果
芳村の事務所に接近した氷室の車のナンバーを記録した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
NSA出向のノールとともに任務にあたっている。
ノール
NSAから出向した監視要員である。
・所属組織、地位や役職
アメリカ合衆国関係者・監視要員
・物語内での具体的な行動や成果
カヤマが記録したナンバーからメディア24の車両であることを特定した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
カヤマとともに芳村の事務所を監視している。
USのDパワーズ監視要員たち
Dパワーズの拠点を監視する集団である。
・所属組織、地位や役職
アメリカ合衆国関係者
・物語内での具体的な行動や成果
芳村の事務所へ接近する人物を観察し続けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
対象の敷地へ入った者が戻ってこない状況を平然と受け止めている。
ロシア連邦関係者
クルニコフ
ロシア諜報機関に所属する人物である。
・所属組織、地位や役職
ロシア連邦関係者
・物語内での具体的な行動や成果
『局長』に対し、ヒブンリークスの翻訳内容がほぼ正確であると報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
工作員の失敗が続いていることから上司の反応に怯えていた。
『局長』
ロシア諜報機関の幹部である。
・所属組織、地位や役職
ロシア連邦関係者・幹部
・物語内での具体的な行動や成果
ヒブンリークスによりロシアの優位性が失われたと判断した。代々木への探索チーム派遣を命じた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
諜報員ではなく探索者を主力とする方針へ切り替えた。
ロシアFSBのV局が派遣した六名
ロシアの連邦保安庁に所属する工作員である。
・所属組織、地位や役職
ロシアFSB・V局
・物語内での具体的な行動や成果
芳村の事務所に侵入を試みたが、武装解除されて気絶した状態で発見された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
任務の失敗により本国へ送還された。
ロシアSVRの『防壁』の五人
ロシアの対外情報庁に所属する精鋭部隊である。
・所属組織、地位や役職
ロシアSVR
・物語内での具体的な行動や成果
日本の警察機関に拘束され、銃刀法違反で逮捕された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
自決もできない状態で捕らえられ、スパイとしての経歴を失った。
イギリス政府関係者
ナンバー10の主(首相)
イギリスの政府を率いる国家元首である。
・所属組織、地位や役職
イギリス政府・首相
・物語内での具体的な行動や成果
国防情報参謀部の職員からヒブンリークスに関する報告を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
翻訳の主体が不明であることに疑念を抱き、事態への関与を開始した。
コミックマーケット関係者
佐彩雅
コミックマーケットに参加する人物である。三好の大学時代の友人にあたる。
・所属組織、地位や役職
コミックマーケット関係者・サークル参加者
・物語内での具体的な行動や成果
三好たちにサークルチケットを譲り、自身のブースで一行を迎えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
日本人相手に片言の英語で話しかける癖を持つ。
折原志緒里
コスプレ衣装の制作を手掛ける人物である。三好から依頼を受けている。
・所属組織、地位や役職
コミックマーケット関係者・衣装制作者
・物語内での具体的な行動や成果
芳村の体を採寸し、今後の衣装制作に向けた準備を進めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
コスプレ専門の服飾工房を立ち上げる計画を有している。
展開まとめ
序章プロローグ
二〇一八年 十二月某日
日比谷 帝国ホテル
日本での情報収集の停滞
二〇一八年十二月、日比谷の帝国ホテルに滞在していたデヴィッド=ジャン・ピエール=ガルシアは機嫌を損ねていた。教化スケジュールを変更してまで来日したにもかかわらず、目的である情報がほとんど得られていなかったためである。オークションの主催者が「Dパワーズ」という名のパーティであること以外、有益な情報が掴めていなかった。
日本政財界への失望
デヴィッドは欧州で築いた人脈を利用し、日本の政財界の人物に接触して情報収集を進めていたが、期待は裏切られた。彼らはオーブのオークションについて深く理解しておらず、一般的な美術品のオークションと同程度の認識しか持っていなかった。その認識の浅さに対し、デヴィッドは強い不満と失望を抱いていた。
次なる標的の選定
現状を踏まえ、デヴィッドは狙うべき対象を見直した。ダンジョン管理を担うJDA(日本ダンジョン協会)上層部、自衛隊、さらに情報収集能力を持つマスコミ関係者を新たな標的として定めた。対象を絞り込むことができれば、自身の組織『ナイトメア』による工作が有効に機能すると見込んでいた。ただし、その手法は相手が男性である場合に限られていた。
冷徹な観察と内心の示唆
高層階の窓から日比谷公園を見下ろしながら、デヴィッドは行き交う人々を無機質に眺めていた。冬でありながら緑を保つ公園や、噴水周辺に並ぶ建物、その中を行き交う人間を蟻の群れのように捉えていた。やがて彼は窓越しに人差し指を押し当てる仕草を見せ、対象を潰すかのような想像を抱きつつ、冷笑を浮かべていた。
ベルギー ブリュッセル
謎の女性サラとの遭遇
ブリュッセルにて、アーシャは突然フランス語で話しかけられた。振り返ると、ワインレッドのドレスをまとった扇情的な雰囲気の女性が微笑んでいた。女性はアーシャの素性を把握しており、彼女の回復を祝う一方で、自身がマイアミではなく東京へ向かうことになった不満を語った。その会話の意図が掴めないまま、女性は「東京の魔法使いによろしく」とだけ言い残して去っていった。
女性の正体と背後関係の判明
困惑するアーシャに対し、社交界で顔見知りのミシェルが声をかけた。彼の説明により、先ほどの女性がガルシアの側近であり、「サラ=マグダレーナ」という人物であることが明らかとなった。さらに、彼女が属するアルトゥム・フォラミニスという宗教団体の存在も示され、その教団にはマリアンヌ=テレーズ=マルタンという人物が関わっていることが語られた。
サラと教団に対する警戒
ミシェルは、サラが宗教団体の中核にいるにもかかわらず、過度に艶やかで社交的な性質を持つ点を指摘し、一部では好ましくない噂も存在すると警告した。発言はすぐに濁されたものの、その含意は明確であり、アーシャに対して注意を促すものであった。
魔法使いを巡る関心の高まり
その後もアーシャは、多くの人々から東京での出来事について尋ねられていた。特にアルトゥム・フォラミニス関係者と思われる者たちは、執拗に魔法の施術者について情報を求めてきた。彼らの関心は単なる興味を超え、強い執着と異様な熱意を帯びていた。
東京行きの意図への疑念
サラが東京行きを余儀なくされたと語っていたことから、アーシャはその目的に疑問を抱いた。奇跡を掲げる宗教団体が東京に向かう理由に不穏なものを感じ取り、後にケーゴへ相談する必要があると判断した。
第4章 ヒブンリークス
二〇一八年 十二月六日(木)
代々木八幡 事務所
碑文内容の検証準備の開始
衝撃的な碑文の内容が判明した翌日、芳村は三好と共に〈マイニング〉をはじめとする記述の真偽を確かめるための準備を開始した。エクスプローラー五億人達成という大きな流れに対しては関与できないと判断し、それ以外の情報をヒブンリークス公開前に検証しておく方針を取った。
準備状況と時間的余裕
準備といっても実際には、注文していた食品の完成を待つことが中心であり、差し迫った作業は少なかった。そのため時間的な余裕があり、週末には再び御劔たちの訓練に付き合う予定も立てられていた。
訓練参加に対する認識
三好はその予定をダンジョンデートのようだと揶揄したが、芳村はあくまで修行であると位置付けていた。目的は娯楽ではなく、能力向上のための実践であった。
パーティ機能使用の見送り
今回の検証においては、パーティ機能の使用は見送られた。未公表の情報である以上、不要なトラブルを避けるべきと判断したためであり、慎重な姿勢が優先された。
二〇一八年 十二月八日(土)
代々木ダンジョン
御劔と斎藤との再会
二〇一八年十二月八日、芳村は代々木ダンジョン内のYDカフェで御劔と斎藤と再会した。斎藤は軽い調子で挨拶を交わし、前回からわずか二週間しか経っていないにもかかわらず、親しげな態度を見せていた。
ウルフ狩りへの挑戦
斎藤はコンパウンドボウに興味を持ち、三層に出現するウルフを狩ることを目的としていた。ゴブリンより俊敏な動きを持つウルフは攻略の難度が高く、訓練としての価値もあると考えられていた。芳村は現在の二人の実力であれば大きな危険はないと判断し、同行を受け入れた。
ダンジョン狩りの性質と娯楽性
ダンジョン内の狩りは死体が残らず、現実の狩猟とは異なり仮想的な体験に近いものであった。そのため、生物を殺すことへの心理的抵抗は薄く、娯楽としての側面も強かった。一層のスライム討伐は効率的な訓練である一方で単調であり、三層のウルフ狩りは娯楽性の高い活動として位置付けられていた。
飽きと報酬不足の問題
当初はウルフの素早さに楽しさを見出していた斎藤であったが、やがてドロップ品や報酬が存在しないことに不満を示し、次第に飽きを感じるようになった。現状では四層までのモンスター討伐に明確な成果が伴わないため、高レベル探索者の関心を維持しにくい状況であった。
アミューズメント化の着想
この状況を受けて芳村は、討伐を得点化する仕組みや専用装備の開発によって、ダンジョンを娯楽施設として活用する可能性を考えた。安全性の問題やコスト、社会的批判といった障壁はあるものの、探索者の増加や新たな産業としての展開には一定の価値があると認識していた。
スキルオーブの取得と選択
同行中、芳村は二人の安全確保のため密かにモンスターを討伐し続けていた。その結果、ウルフから複数のスキルオーブ候補が得られた。中でも〈生命探知〉は希少性の高いスキルであったが、入手機会を考慮した結果、より有用性の高い〈危険察知〉を選択した。
二〇一八年 十二月九日(日)
代々木ダンジョン 一層
スライム討伐による鍛錬
二〇一八年十二月九日、芳村は代々木ダンジョン一層にて御劔と二人でスライム討伐を行った。修行僧のように無心でスライムを叩き続ける単調な作業であったが、能力向上のための鍛錬として継続された。
御劔との関係の変化の予感
芳村は、来年には御劔が広く知られる存在になると予測していた。そのため、このような気軽な関係も長くは続かない可能性を意識していた。鍛錬後は食事を共にし、次の約束を交わして別れた。御劔は年内であれば比較的時間の融通が利く状況にあり、今後も連絡を取る余地があることを伝えていた。
代々木八幡 事務所
アーシャ来日の報せ
芳村が事務所へ戻ると、三好からアーシャより連絡があったことを知らされた。ダンジョン内にいたため電話に出られなかったことに対し、アーシャは不満を示していたという。体調の異変も懸念されたが、その場合は父親から連絡が来るはずであり、緊急性の高い問題ではないと判断された。その後、年末に父親の用事に同行する形で来日し、芳村に会う予定であることが伝えられた。
来日目的への疑念
アーシャは電話では話せない内容があると伝えており、その意図について芳村と三好は推測を巡らせた。軽口としてプロポーズの可能性も話題に上がったが、実際には容易な話ではないと認識されていた。遠方からわざわざ来日する以上、重要な用件であると考えられた。
滞在中の案内計画
来日時の案内について検討が行われた。明治神宮や浅草寺といった観光地が候補に挙がったが、いずれも年末は大混雑が予想されるため、具体的な日程が決まってから再検討する方針となった。食事についても、ヒンドゥー教の戒律や個人差を考慮する必要があり、慎重な対応が求められると判断された。
文化差への理解
ヒンドゥー教の食習慣は複雑であり、カーストや個人によって規範が異なるため、一律の対応が困難であることが確認された。一方で、アーシャの家系は国外では柔軟な対応を取っているとされ、過度な懸念は不要との見方も示された。最終的には相互理解と配慮が重要であると認識された。
ダンジョン検証計画の開始
話題は翌日以降の行動へ移り、芳村と三好は再び代々木ダンジョンでの検証を行うことを決定した。今回の目的はパーティ機能の検証を含む複数の調査であり、長期間の探索となる見込みであった。三好はLUC(運)がドロップに与える影響など、具体的な検証項目を提示した。
事前準備と懸念事項
探索に先立ち、鳴瀬との顔合わせや事務所の鍵の扱い、さらにカヴァスたちとの接触についても検討が行われた。特にヘルハウンドの存在は対外的な問題となる可能性があり、対応には慎重さが求められた。三好はそのリスクを認識しつつも、最善を尽くす姿勢を示していた。
二〇一八年 十二月十日(月)
代々木八幡 事務所
十八層に関する不穏な情報
二〇一八年十二月十日、芳村と三好は早朝に事務所を訪れた鳴瀬から、十八層に関する情報提供を受けた。提示された地図では未調査領域が広く存在し、特に崖と雲海に阻まれた区域は調査が進んでいなかった。また、山頂付近に至る特定ルートのみ詳細に調査されており、その先は「立ち入り禁止領域」とされていた。
自衛隊調査隊に起きた異常事態
そのルートでは、最初に調査を行った自衛隊員のうち二名が、山頂付近に侵入した直後に死亡していた。報告書には死因の記載はなく、医師の所見も存在しなかった。原因不明のまま危険区域と認定され、以後の調査は中止された。鳴瀬はその場所に「何かがいる」とだけ伝えられていると説明した。
危険区域と目的地の重複
芳村たちは危険区域を避ける方針を確認したが、目的であるゲノーモスの生息地がその周辺の地下洞窟に存在していることが判明した。そのため、完全に回避することは難しく、慎重に接近する必要がある状況となった。
ヘルハウンドの存在の開示
出発前、芳村は鳴瀬に対し、事務所に残す護衛の存在を伝える必要があると判断した。三好の誘導でカヴァスを見せたところ、鳴瀬は驚愕し悲鳴を上げかけたが、制止される形で落ち着きを取り戻した。その後、恐る恐る触れ合う中で徐々に慣れ、最終的には愛嬌を感じるようになった。
飼育に関する法的整理
鳴瀬の調査によれば、ヘルハウンドに関する法的規定は現時点で存在せず、ペットとして扱う場合は一般的な犬と同様の届け出が想定される。ただし狂犬病予防接種の影響は不明であり、慎重な対応が必要とされた。現段階では秘匿しつつ情報収集を進める方針が取られた。
出発準備と今後の対応
ヘルハウンドの一頭を事務所の護衛として残し、鳴瀬には安心して業務に従事するよう伝えた。ダンジョンに関する制度が未整備である現状を踏まえ、今回の件も新たな前例となる可能性を認識しつつ、芳村たちは探索へと向かった。
代々木ダンジョン
ヘルハウンドへの反応と認識の差
代々木ダンジョンへ向かう途中、芳村と三好は鳴瀬の反応について話していた。突然ヘルハウンドが目の前に現れる状況は一般的に恐怖を伴うものであり、気絶しなかっただけでも冷静な対応であったと認識された。一方で三好はその外見を可愛らしいと評価しており、飼い主としての主観的な見方との違いが明確となっていた。
パーティ機能の検証開始
ダンジョン一層に到着した二人は、人目を避けた場所でパーティ機能の検証を開始した。この機能はまだ公表されておらず、ヒブンリークス公開時の重要な要素となる予定であったため、事前に詳細な確認を行う必要があった。
パーティ結成とシステムの感覚的UI
芳村と三好はDカードを接触させ、「アドミット」と念じることでパーティを結成した。視覚的・聴覚的な演出は存在しなかったが、互いに繋がった感覚が生じることで成立を認識できた。また、Dカードの裏面にはメンバー一覧が表示され、視覚的な確認も可能であった。
機能確認と下層への移動
二人は念話の可否や経験値分配、位置情報の把握など、各種機能の検証を行いながら行動した。その過程でパーティシステムの挙動を詳細に確認しつつ、調査を進めるため十層へと向かった。
代々木ダンジョン 十層
十層での拠点確保と検証環境の整備
芳村と三好は代々木ダンジョン十層に到達し、その場で休息と検証を行う方針を取った。十層は一般には危険視されているが、二人にとっては比較的安全であり、キャンピングカーであるドリーを展開して拠点とした。周囲に探索者もおらず、モンスターの脅威も制御可能であったため、検証には適した環境であった。
検証対象としての十層の特性
十層はモンスターの種類が偏っており、同一種を多数討伐しやすい環境であった。さらに標準ドロップアイテムを持つ個体が継続的に出現するため、ドロップ率や魔結晶の取得率に対するLUCの影響を検証するには最適な階層であった。芳村たちはアンデッドを相手にしながら検証準備を進めた。
討伐数カウントの課題と技術的検討
検証にあたり、討伐数の正確なカウントが課題となった。映像解析による自動カウントの可能性が検討されたが、ダンジョン内ではクラウド利用が困難であり、スタンドアロンでの判定も精度に限界があると判断された。最終的には簡易的な判定であれば可能としつつも、現段階では手動カウントを前提とする方針となった。
アミューズメント化構想の具体化
芳村は、ダンジョンを娯楽施設として活用する構想を三好に説明した。討伐に応じて得点が表示される仕組みを導入することで、初心者層の継続的な参加を促し、探索者人口の増加に繋げる意図であった。三好はこれに対し、二層にサーバーを設置しWi-Fi接続することで実現可能性があると提案し、より具体的な構想へと発展させた。
実用化に伴うリスクの認識
一方で、この構想は現実には死亡リスクを伴うため、単なる娯楽として成立させるには大きな課題があることも確認された。安全対策や責任問題、社会的評価といった要素が障壁となり、商業化は困難であるとの結論に至った。最終的に、個人レベルでの技術開発や試験的利用に留める方向で整理された。
LUC検証の実施準備
本来の目的であるLUCの影響検証に移行するため、芳村と三好はスケルトンを対象に討伐実験を行うことを決定した。事前に三好のLUC値を正確に把握する必要があるため、鑑定結果を基に数値の特定作業を開始した。芳村は〈メイキング〉を呼び出し、検証の準備を整えた。
パーティメンバー編集機能の発見
芳村は〈メイキング〉を呼び出した際、自身のステータス表示の下に三好梓の名前が表示されていることに気づいた。名前をタップすると三好のステータスが表示され、パーティメンバーのステータスを確認し、操作できる可能性が明らかになった。これは、〈メイキング〉がパーティメンバーにも作用することを示す発見であった。
SPの自然割り振りと余剰分の推測
三好の記録と表示された数値を照合した結果、取得したSPのすべてが自動的にステータスへ変換されているわけではなく、およそ半分が未使用のまま残っている可能性が示された。芳村は、自然に割り振られるSPは取得量の一部であり、残りは〈メイキング〉によって任意に配分できるのではないかと考えた。
ブートキャンプ構想の浮上
三好はこの機能を利用し、探索者向けの訓練企画を行う案を出した。芳村とパーティを組ませたうえで訓練を行い、終了時に余剰SPを希望する能力へ少しずつ割り振れば、努力の結果として自然に成長したように見せられるという考えであった。芳村は効果の大きさを認めつつも、それに時間を奪われ続ける生活には強い抵抗を示した。
参加条件と事業化の検討
三好は、参加者に代々木ダンジョンの探索協力などの条件を課せば、応募者を絞り込めると提案した。さらに、以前話題に出ていた基金と組み合わせ、訓練自体は別の人間に任せる事業形式も考えられた。芳村は、パーティ人数の制限や教官の必要性を踏まえ、実行には子パーティへの〈メイキング〉作用など追加検証が必要だと判断した。
〈鑑定〉公開の可能性
参加者の選別には、余剰SPの有無を確認する必要があった。三好は、そのためにいずれ〈鑑定〉を公開してもよいと考えていた。世界唯一のオーブハンターとして既に名が売れている以上、名前が知られること自体は今更であり、鑑定依頼やスカウター開発の理由づけにも使えると見込んでいた。芳村は複雑に思いながらも、その方針を受け入れた。
LUCとドロップ率の検証
本来の目的に戻り、芳村と三好はスケルトンを討伐してLUCとドロップ率の関係を調べた。二人のLUCは十倍差であったため比較しやすく、標準ドロップ品である骨の取得率は双方ともおおむね二五%前後で、LUCの影響は小さいと見られた。一方、魔結晶の取得数には大きな差が出ており、LUCが強く関与している可能性が示された。
ドロップ仮説の整理
検証結果から、芳村たちはモンスターには基本ドロップ率と特殊ドロップ率があると仮定した。標準ドロップ品はLUCにほとんど依存せず、特殊ドロップ品と魔結晶はLUCに応じて確率が変動する可能性が高いと整理された。ただし、特殊ドロップについては試行数が少なく、三好がヒールポーションを一つも得られなかったため、暫定的な仮説に留まった。
十八層探索前夜
十層での検証は一定の成果を得たが、モンスターの種類ごとの討伐数を正確に記録する作業は非常に面倒であった。WDAが基本ドロップ率を公表していない理由も、探索者から正確な討伐数を得ることが困難だからだと推測された。翌日に十八層へ向かう予定であったため、芳村たちは検証を切り上げ、休息を取った。
二〇一八年 十二月十一日(火)
市ヶ谷 JDA本部
ヘルハウンド飼育の報告
二〇一八年十二月十一日、市ヶ谷のJDA本部にて、美晴は三好がヘルハウンドをペットとして飼育している件を斎賀へ報告した。予想外の内容に斎賀は驚きを隠せず、現行制度の想定外である事実に直面した。
制度未整備と法的対応
調査の結果、サモナーやテイマーに関する規定はJDAにも存在せず、特定動物や外来生物のリストにも該当しなかった。そのため、現行法の範囲では一般的な犬として扱う以外に手段がないと判断された。法整備が現実に追いついていない状況が明確となった。
ヘルハウンドの実態と評価
斎賀は危険性を懸念したが、美晴は実際の行動は犬そのものであり、問題はないと説明した。見た目や体格は通常の犬を大きく上回るものであったが、性質は温和であり、扱いに支障はないと評価された。
対応方針の決定
今後の対応として、区への届け出など既存の手続きを確認しつつ、WDAやJDAに該当する制度がないか調査を進めることとなった。ただし、正式な扱いが確定するまでは外部に公表せず、秘匿する方針が採られた。
専任管理監への一任
斎賀は、この問題が現時点では限定的な事例であると判断し、対応を専任管理監である美晴に一任した。今後新たな動きがあれば報告する形とし、暫定的な管理体制が整えられた。
代々木ダンジョン十八層
十八層の異様な景観
芳村と三好は代々木ダンジョン十八層へ到達し、崖下に果てしなく広がる雲海と、黒い岩が転がる荒涼とした大地に圧倒された。周囲にはケニア山を思わせる氷食尖峰がそびえ、目的地であるゲノーモスの生息地は、立ち入り禁止区域に近いバティアンの麓にあると確認された。
危険察知オーブの使用
山頂に原因不明の危険があることを警戒した芳村は、三好に〈危険察知〉のスキルオーブを渡した。芳村自身が使用すると三好にとっての危険を見逃す可能性があると考えたためである。三好は冗談めかしながらもオーブを使用し、二人は地下洞窟へ向かった。
地下洞窟への到達
二人はアルプスアイベックスのようなモンスターや歩く高山植物のようなモンスターを倒しながら進み、約一時間で洞窟の入り口に到着した。入口は想像より小さく、溶岩洞窟のような構造をしていた。奥へ進むと洞窟は急に広がり、明らかに人工的な地下神殿の前広場へと繋がっていた。
地下神殿とゲノーモスの出現
広場は淡く光る水晶のような物質や光る地衣類によって薄明るく照らされ、ゴシック様式に近い荘厳な建造物が存在していた。三好は、それがモンスターの棲み処というより文化的活動の痕跡に見えると感じた。その直後、神殿の奥から子供のような影をしたゲノーモスが多数現れた。
〈マイニング〉オーブの入手
芳村はゲノーモスを倒し始め、想定どおり一回目のオーブチョイスで〈マイニング〉が候補に出現した。ドロップ確率はスキルオーブとしては非常に高く、目的の達成に近づいたことで芳村は手応えを得た。しかし、ゲノーモスは無限に湧くかのように次々と現れ、戦闘は急速に激化していった。
ゲノーモスの包囲と石礫攻撃
三好は、鑑定時に名前の前へアスタリスクが付くモンスターは館を出現させない可能性があると説明した。だが、その間にもゲノーモスの群れは増え続け、やがて立ち止まって呟いた後、石礫を飛ばして攻撃してきた。芳村は三好を守るため盾で防ぎながら撤退を判断した。
神殿内への退避
退路はすでにゲノーモスに塞がれていたため、芳村は三好を抱えて神殿へ向かった。三好はヘルハウンドたちに囲まれる前に引き揚げるよう叫び、芳村は包囲が閉じる前に神殿の階段を駆け上がった。二人は神殿内部へ飛び込み、分厚い扉を閉じたが、直後に部屋は闇に包まれた。しばらく外から扉を叩く音が聞こえたものの、やがてそれも消えていった。
代々木ダンジョン 十八層 地下神殿
地下神殿内での状況確認
芳村たちは地下神殿の内部へ逃げ込み、闇の中で三頭のヘルハウンドが無事に合流していることを確認した。扉の向こうには多数のゲノーモスが残っており、強引に突破すればさらに危険が増すと判断された。そのため、芳村たちは神殿の奥へ進むしかない状況となった。
神殿奥への探索
芳村はLEDカンテラと予備のヘッドライトを用意し、三好はアイスレムに先行偵察を頼んだ。回廊の先には多数の柱が整然と並ぶ広間があり、三好はエジプト神殿の多柱室に似ていると評した。内部にはモンスターの気配がなく、神聖な場所としての異様な静けさが漂っていた。
聖所と魔法陣の発動
柱廊や中庭を抜けた先には、八角形の小部屋があった。三好はそこを神殿構造上の聖所に近い場所と見なし、辺りを調べた。めぼしいものは見つからなかったが、隠されていた魔法陣が突然発動し、芳村たちは強い浮遊感とともに上方へ運ばれ始めた。
山頂へ向かう可能性
魔法陣による移動は、高層ビルのエレベーターのように上昇していた。芳村と三好は、その行き先が危険区域である山頂付近ではないかと察した。これまで避けようとしていた場所へ強制的に向かわされる状況となり、三好は過去の発言が現実化したように受け止めていた。
エンカイの神話と弱点の推測
上昇中、三好はマサイの神エンカイに関する神話を説明した。エンカイは妻オラパとの争いで額に傷を負い、その傷を隠すために強く輝く太陽になったとされていた。この話から、芳村はもし神話が反映されているなら額が弱点である可能性を考えた。
危険察知による警戒
三好の〈危険察知〉は強い警告を発しており、上方に重大な危険があることを示していた。芳村はオーブドロップへの欲を捨て、命を最優先に行動する方針を確認した。やがて上昇速度が落ち、冷たい空気と夕焼けが見え始める中、芳村の〈生命探知〉はそこに何かがいることを明確に告げていた。
戦闘準備の完了
三好はヘルハウンドたちのランタンを外し、戦闘に備えた。周囲に他の敵はいないと見られたが、山頂にいる存在の危険性は極めて高かった。芳村たちはその正体を前に、警戒を最大限に高めた状態で魔法陣の終点へ到達した。
代々木ダンジョン 十八層 山頂
山頂でのエンカイとの遭遇
芳村と三好は十八層山頂へ到達し、夕日を背に金色の椅子へ座る存在と対峙した。それはエンカイと思われる存在であり、三好が即座に鉄球を放ったものの、軽く弾かれた。エンカイは凄まじい速度で三好の前へ移動し、拳を振り下ろした。
ヘルハウンドの防御と芳村の強化
三好を救ったのは、間に割り込んだアイスレムであった。アイスレムは拳を避けきれず吹き飛ばされ、動けなくなった。芳村はその攻撃力を見て危険を悟り、〈メイキング〉で自身のAGIに100ポイントを追加した。さらに三好を狙うエンカイに対し、カヴァスたちと連携しながら攻撃を仕掛けた。
エンカイの圧倒的な耐性
芳村のウォーターランスやフレイムランスはエンカイに当たっても霧散し、魔法の効果は薄かった。カヴァスの噛みつきも腕を振られただけで弾かれ、歯が折れるほどであった。芳村は魔法戦では不利だと判断し、STRにも100ポイントを加え、物理攻撃で額を狙う方針を取った。
額への集中攻撃と勝利
芳村はエンカイの拳を受け流し、鉄球を用いた掌底で顎を打ち上げた。その反動で空中へ跳び、神話上の弱点と推測した額へ鉄球を叩き込んだ。さらに三好も隙間へ鉄球を撃ち込み、芳村が再度額へ全力の一撃を加えたことで、エンカイは地面へ倒れた。太陽が沈むと同時に、エンカイの体は黒い光へ還元された。
ンガイの装備品の入手
芳村たちは山頂を離れ、山腹の安全そうな場所でドリーを展開した。エンカイのドロップを鑑定すると、魔法ダメージを大幅に軽減し、ダメージの大半をMPへ移す「ンガイの腕輪」と、全ステータスを上昇させる「ンガイの指輪」が得られていた。腕輪は三好が装備し、指輪は芳村が左手の小指に着けた。
エンカイ討伐によるSP増加
装備後に〈メイキング〉で確認すると、三好の余剰SPが大きく増えていた。ゲノーモス討伐分を差し引くと、エンカイの経験値は約45ポイントと推定された。芳村は三好の希望を聞き、INTとAGIを中心に能力値を割り振った。三好はアルスルズの強化や自身の移動能力を考慮し、最終的にINTを大きく伸ばす形となった。
アルスルズの強化条件の推測
三好はカヴァスたちに質問し、アルスルズの強化について情報を集めた。その結果、主のMP増加、魔結晶の摂取、戦闘経験が成長に関係している可能性が示された。ただし情報は曖昧であり、明確な仕様までは分からなかった。
ヘルハウンドによる地上との連絡可能性
芳村は、事務所に残していたはずのグレイシックが影から現れたことで、ヘルハウンドたちがダンジョン内外を入れ替わる形で移動できることに気づいた。さらに装備や荷物ごと移動できるなら、手紙や記録媒体を持たせることでダンジョン内外の連絡手段になる可能性を見出した。
ンガイの玉座と危険な可能性
三好はエンカイの金色の椅子も収納しており、それは「ンガイの玉座」と鑑定された。HPとMPの回復を高める効果を持つ一方、座る者に相応しい力を求めるような説明があり、芳村たちは呪いや戦闘発生の危険を警戒した。そのため、当面は座らない方針を確認した。
ダンジョン資源のリポップ仮説
三好は十八層で切り取ったムフフという木の枝を取り出し、ダンジョン内の植物や石を持ち帰った場合にどうなるのかを問題提起した。もし切り取られた植物が元の場所に復活するなら、外部から持ち込んだ作物もダンジョン内の植物として認識され、無限に収穫できる可能性があった。
魔法の畑と黄金鉱山の発想
芳村は、ダンジョン内で農業が成立し、収穫物がリポップするなら食料問題に大きく関わる発見になると理解した。一方で三好は、ンガイの玉座が復活するなら黄金を毎日得られると興奮した。しかし芳村は、そのためにはエンカイと再戦する危険があると指摘し、三好もンガイが玉座上で復活する可能性に気づいて焦っていた。
二〇一八年 十二月十二日(水)
代々木ダンジョン 十八層
ムフフのリポップ確認
翌朝、三好は前日に切り取ったムフフの枝を確認し、同じ形の枝が元通りに生えていることを発見した。これにより、ダンジョン内の植物がリポップする可能性が示された。三好は無限収穫畑への第一歩だと興奮したが、外部から持ち込んだ植物がダンジョン内のものとして認識されるか、また成長するかは未検証であった。
ゲノーモス狩りによる〈マイニング〉収集
芳村と三好は麓へ戻り、目的である〈マイニング〉オーブの収集を開始した。神殿前広場には入らず、洞窟入口付近からアルスルズを囮にしてゲノーモスを引き出すことで、安全性を高めていた。石礫攻撃には布団を重ねて防御し、二人は魔法と鉄球でひたすらゲノーモスを狩り続けた。
大量湧きとオーブ取得
ゲノーモスは尽きることなく現れ続け、芳村たちは修行のように討伐を重ねた。その結果、〈地魔法〉、〈暗視〉、〈器用〉を一つずつ取得し、さらに七個目の〈マイニング〉を出現させた。〈マイニング〉の出現確率は高く、クールタイムも実質的な問題にはならなかった。
二十層での〈マイニング〉検証
目的のオーブを集めた後、二人は二十層へ向かい、碑文に記された〈マイニング〉の効果を確認した。氷雪層に現れたスノーアルミラージに芳村が鉄球を投げると、過剰な威力でモンスターは即座に消滅し、銀色のインゴットを落とした。
バナジウムのドロップと確率確認
落ちた金属は銀ではなくバナジウムであり、一キロ程度のインゴットであった。検証の結果、鉱石ドロップ率は三好が三三%、芳村が一〇〇%であり、こちらもLUCが関係していると考えられた。必要な確認を終えた二人は、氷雪層で夜を明かすことを避け、地上へ戻る準備を進めた。
二〇一八年 十二月十三日(木)
代々木八幡 事務所
地上帰還と検証結果の報告
十二月十三日午後、芳村と三好は代々木八幡の事務所へ戻り、鳴瀬に検証結果を報告した。パーティに関する碑文の記述は正しいと確認され、〈マイニング〉もゲノーモスから実際に取得できたことが伝えられた。さらに二十層で使用し、鉱物ドロップが発生することも確認されていた。
バナジウムの価値と資源的意義
二十層で得られた鉱物はバナジウムのインゴットであった。芳村は当初それほど高価ではないと考えたが、三好は高純度であれば価値が大きく変わると指摘した。バナジウムは供給地域が偏っているため、価格以上に安全保障や安定供給の面で重要性を持つ資源であった。
碑文翻訳の整理
鳴瀬は、登録済みの二百六十六枚の碑文を分類した結果を共有した。多くはダンジョンマニュアルや歴史書に近い内容であり、一部は意味不明なものに分類された。また、重要な情報はエリアボスやユニーク個体の周辺から得られることが多いと説明された。
セーフエリアと土地利用の問題
マン島の碑文には、三十二層以降に発生するセーフエリアや、階層全体が安全地帯となるセーフ層について記されていた。三好は、そうした場所が見つかれば街ができると見込み、芳村はダンジョン内の土地利用ルールを早めに整える必要があると鳴瀬に助言した。
Dファクターという概念
碑文には「魔素」と訳された概念が頻出しており、鳴瀬はそれをダンジョンの力を具現化する要素と説明した。芳村たちはそれをDファクターと呼ぶことにし、ダンジョンがDファクターを拡散するための装置である可能性について考察した。これにより、スキルオーブやポーション、ステータスの仕組みもDファクターと関係している可能性が示された。
ダンジョンの目的への推測
芳村は、ダンジョンが地球環境をDファクターに適応させるための装置であり、探索者はその影響を確認するための小規模な試験対象のような存在かもしれないと考えた。さらに、向こう側の存在は人類を滅ぼすのではなく、共存や接触の準備を進めている可能性があると推測した。ただし、その真意は不明であり、人類側に抗う手段はほとんどないとも認識された。
公開への不安と判断
鳴瀬は、ダンジョンが地球改造装置であるかのような情報を公開してよいのか不安を示した。芳村は、重要な判断には正確な情報が必要であり、酷い内容であっても隠すより公開した方がよいと考えた。ただし、それが社会にどのような反応を引き起こすかについては楽観できない状況であった。
二層での畑作り相談
話題を変え、芳村は代々木二層の土地を利用して小さな畑を作りたいと鳴瀬に相談した。これは、ダンジョン内の植物がリポップする性質を踏まえ、農業実験を行うためであった。ダンジョン内部の所有権は明確でなく、WDAと各国ダンジョン協会による管理体制の下で扱われているため、利用許可の所在を確認する必要があった。
ダンジョン内農業の相談
芳村は鳴瀬に、代々木二層に小さな畑を作りたいと相談した。当初はスローライフの冗談を交えていたが、実際の目的はダンジョン内で作物を育てられるかを検証する実験であった。鳴瀬は過去に砂漠地帯のダンジョンで似た試みがあったものの、施設がいつの間にか消失した記録があると説明した。
土地利用許可と制度上の課題
鳴瀬は、許可を出すとすればJDAのダンジョン管理部になると見込んだ。ただし浅層での土地占有は、勝手な別荘建設などに繋がる恐れがあるため、許可制になる可能性が高かった。芳村たちは、当面は数坪程度の小さな実験区画を、人の来ない場所に借りる形で申請する方針を決めた。
会社設立の検討
三好は、実験が成功した場合に備え、知的財産権や事業化を見据えて会社を作ることを提案した。NPO法人は設立に時間がかかるため、より早く自由度の高い合同会社が候補に挙がった。代表社員は三好が務める方向となり、必要に応じて法人を用意することになった。
斎藤からの謝罪連絡
その後、芳村のもとに御劔の電話を使った斎藤から連絡が入った。斎藤は来年公開予定の映画でヒロインに抜擢されたが、製作発表会のインタビューで、最近の演技力向上について「師匠に教えを受けた」と話してしまったという。その発言が注目を集め、謎の師匠の正体に芸能界が関心を示していると説明した。
ブートキャンプ需要の発生
芳村は斎藤の発言が放送で使われないことを願ったが、斎藤は盛り上がった場面なのでカットは難しいだろうと語った。電話後、芳村が事情を三好に説明すると、三好は以前話していたブートキャンプ構想に新たな需要が生まれたと捉えた。芳村はその話が本気だったことに驚き、また厄介事が増えそうな気配を感じていた。
二〇一八年 十二月十四日(金)
江戸川区 常磐ラボ
常磐ラボへの訪問
十二月十四日、芳村と三好は軽トラックを借り、江戸川区の常磐ラボを訪れた。そこは翠が所長を務める医療機器研究所であり、以前の町工場を引き継いだ施設であった。社名は、前身である常磐精機に由来していた。
計測機器の試験機完成
常磐ラボでは、精密計測用と簡易版の二種類の試験機が用意されていた。生理学的な値の取得が少なくなったことで構造は簡略化されたが、試験機としては多数のセンサーを搭載した高性能機であった。三好は、これらで得たデータを基に必要な情報を絞り込み、市販機へ落とし込む構想を持っていた。
非接触計測技術の説明
精密計測用の機器は、円盤の上に数秒立つだけで測定できる仕様であった。中島は、高感度の磁力計を利用して脳活動の電気的特性を反映するよう調整していると説明した。ただし簡易版は測定状態によって誤差が出る可能性があり、三好はソフトウェア側で補正する方針を確認した。
量産化と販売構想
試験機の価格は精密計測用が二千万円、簡易版が三百万円程度と見積もられた。量産時には部品や仕様を絞ることで、三分の一から十分の一程度まで価格を下げられる可能性があった。三好は、この装置を人間の能力を数値化する機械として世界的に展開する構想を翠へ説明した。
合弁会社と提携の提案
三好は翠に対し、量産のための合弁会社や小規模工場の設立を持ちかけた。翠は当初資金面を懸念したが、常磐ラボの技術、とくに中島のセンサーが中核となることを認め、提携に前向きとなった。芳村も資金面の支援を了承し、常磐ラボは試作メーカーに留まらず、今後の事業に関与する方向となった。
買収リスクへの警戒
提携が外部に知られれば、常磐ラボに買収や投資の誘いが殺到する可能性があると三好は警告した。翠は状況を十分に理解しきれないままも、すり寄ってくる組織には慎重に対応するよう促された。最終的に、詳しい話は後日専門家を交えて行うこととし、芳村たちは試験機を軽トラックに積み込んで常磐ラボを後にした。
代々木八幡 事務所
計測機器の設置開始
事務所へ戻った三好は、常磐ラボから持ち帰った計測機器をすぐに設置し、調整を始めた。芳村はレンタカーを返しに出たが、戻るとすぐに三好に捕まり、精密計測用の機器で測定されることになった。
芳村を使った計測テスト
芳村は三好の指示に従い、以前の計測時と同じステータスへ調整されたうえで測定を受けた。その後も、さまざまなステータス値に変更しながら、長時間にわたってデータ収集に協力させられた。三好は機器の精度確認と補正のため、芳村を実験台として使っていた。
鳴瀬と芸能人二人組への測定予定
途中で事務所に来た鳴瀬は測定の様子に興味を示したが、三好の不穏な反応を見て翻訳部屋へ退避した。三好はサンプル数を増やすため、鳴瀬に加え、御劔と斎藤の測定も行いたいと考えた。彼女たちは芳村とパーティを組むことで現在のステータスを確認できるため、測定対象として適していた。芳村は御劔へ電話をかけ、留守番電話に伝言を残した。
港区
氷室への依頼電話
港区の制作会社で働く氷室隆次は、深夜に中央TVのプロデューサー石塚誠から電話を受けた。石塚は、斎藤の製作発表インタビューで語られた「師匠」の正体を調査してほしいと依頼した。氷室は本来の業務外であることに不満を抱きつつも、仕事として引き受ける姿勢を見せた。
新人女優の急成長への疑念
石塚は、斎藤が短期間で演技力を大きく向上させ、出来レースとされていたオーディション結果を覆した事実に注目していた。その背景にいる師匠が実在するなら、業界にとって価値のある存在であり、芸能事務所が関心を持つのも当然であった。
オークションとの関連性の示唆
石塚はさらに、斎藤が接触した場所が、スキルオーブのオークションを主催したJDA商業ライセンスIDに登録された住所と一致している可能性を示した。これにより、師匠とオークション主催者が同一人物である疑いが浮上し、その裏取りを氷室に求めた。
制作局による意図的な取材方針
氷室は、この案件が本来なら報道局の扱いであるべきだと指摘したが、石塚はあえて制作番組として扱う方が都合が良いと説明した。誤報であっても軽く済ませられる制作側の特性を利用し、話題性を優先する意図があったためである。
危険性への懸念と曖昧な責任
氷室は、JDA関連の情報に踏み込む危険性を感じ、責任の所在を確認しようとした。しかし石塚は曖昧な返答のまま話を打ち切り、最終的な責任を現場に押し付ける可能性を残したまま電話を終えた。
局長の思惑
通話後、石塚は局長と会話し、この件が上層部の意向によるものであることが示唆された。局長は過去の貸し借りを理由に今回の調査を進めており、さらに神に関わる存在が絡んでいる可能性を匂わせた。これにより、単なる芸能ネタではない裏事情が存在していることが明らかとなった。
二〇一八年十二月十六日(日)
代々木八幡 事務所
御劔と斎藤の来訪
十二月十六日、芳村の留守電に応じて御劔遥と斎藤涼子が事務所を訪れた。斎藤はインタビューで芳村を「師匠」と呼んだ件が放送されていたことを明るく話したが、芳村は余計な注目を集めたことに困惑していた。御劔は斎藤の迂闊さを叱っており、斎藤自身も周囲から師匠を紹介してほしいと言われる状況になっていた。
氷室による張り込み
一方、番組制作会社の氷室は、斎藤たちを尾行し、二人が芳村たちの事務所へ入っていく様子を撮影していた。彼は石塚からの依頼どおり、斎藤の「師匠」とオークション関係者との関連を裏取りしようとしていた。二人が建物へ入った事実は確認できたものの、相手の男が映っていないため、映像としてはまだ弱いものだった。
ステータス計測装置の披露
事務所では、三好が精密計測装置を披露した。最初は身長や体重を測る機械のように誤解されたが、三好は人間の能力を測る装置だと説明した。さらに芳村は、未公開情報であるパーティ機能について二人に説明し、Dカードを用いて実際にパーティを結成した。
念話への驚きと警戒
御劔と斎藤はパーティ結成時の繋がった感覚に驚き、念話を体験してその実在を確認した。斎藤は、考えていることがすべて漏れるなら芸能界では人間関係が壊れると警戒したが、伝えたいと思った内容だけが伝わると聞いて安心した。芳村は、意図せず漏れる可能性もあるため注意を促した。
ステータス確認と成長の分析
芳村は〈メイキング〉で御劔と斎藤のステータスを確認した。御劔はスライム討伐を続けており、討伐数では芳村を上回るほどの成果を出していた。斎藤も途中で忙しくなったにもかかわらず、相応のSPを稼いでおり、出入り付きスライム討伐の効率の高さが明らかになった。
理想の成長方向の聞き取り
芳村は二人に、もし自由に成長できるならどの能力を伸ばしたいかを尋ねた。斎藤は演技力や若さを望み、御劔はモデル業に必要な体力を希望した。鳴瀬も会話に加わり、探索者を物理的に従わせられる力が欲しいと語ったことで、ダンジョン管理課の苦労がうかがえた。
侵入者の察知
計測中、三好はアルスルズの網に何かが掛かったことを芳村に伝えた。侵入者は日中に現れたため、これまでの諜報関係者とは違う雰囲気があった。芳村たちは宗教勧誘やセールスの可能性も考えたが、後で確認することにして、表向きは計測を続けた。
US監視班による確認
事務所を監視していたUS側のカヤマとノールは、新たな侵入者が現れたことを把握した。車のナンバーを調べた結果、その車が港区の番組制作会社メディア24の所有であることが判明した。二人は相手がマスコミ関係者であると判断し、家の向こうへ消えた男が戻ってこないことも当然のように受け止めていた。
計測完了とカメラの回収
夜になり、御劔と斎藤、続いて鳴瀬がタクシーで帰宅した。三好は計測データが十分に取れたことを確認し、庭に落ちていたハンディカメラを拾い上げた。芳村は報道関係者のものかと考え、三好とともに映像を確認することにした。
弟子二人への調整
事務所へ戻った後、三好は芳村が御劔と斎藤のステータスを弄ったことに気づいた。芳村は二人の希望を聞いたうえで、クリスマスプレゼントのようなものとして能力値を調整していた。
ステータス調整のやり過ぎ
芳村が御劔と斎藤のステータスを希望に合わせて調整した結果、三好はその数値の高さに頭を抱えた。自然分配されるSPが全体の半分程度であることを考慮すると、御劔のDEXや斎藤のDEXは世界トップ級に達しており、特に御劔は突出した数値となっていた。三好は急激な能力上昇による違和感や事故を懸念した。
侵入者の映像確認
芳村と三好は、庭で回収したカメラの映像を確認した。そこには斎藤を追跡しているような映像が記録されており、芳村はストーカーの可能性を疑った。三好は、斎藤のスケジュールを知っていた点から関係者の関与を推測した。
氷室隆次の身元判明
三好はカヴァスに命じて、捕まえていた男を事務所へ吐き出させた。男の持ち物を確認した結果、名前は氷室隆次であり、番組制作会社メディア24のディレクターであることが分かった。中央TVとの関係も確認され、斎藤の映画関係者による調査や追跡の可能性が強まった。
証拠処理とシャドウピットの利便性
芳村と三好は、氷室の録音機器やスマホなどを確認し、必要な処理を行った。カヴァスのシャドウピットは生体以外の持ち物を分離して取り出すことができ、再び元の状態に戻すことも可能であった。芳村はその便利さに驚き、変装や着替えにも応用できるのではないかと考えた。
正体を隠す活動への発想
芳村は、今後ダンジョン攻略で人目につく機会が増えることを考え、別の姿で活動する可能性を口にした。現在は三好の影に隠れているが、既に一部の人物には正体を察されつつあり、このままでは限界があると感じていた。三好はコスチューム案を含めて考えると応じたが、芳村はその方向性に不安を覚えた。
氷室への対応検討
氷室の目的は完全には判明しなかったが、報道・制作関係者であることは確認された。芳村はそろそろ目を覚ます頃だと考え、門のところにでも転がしておくかと対応を検討した。
ピット
暗闇での覚醒と閉塞感
氷室隆次は意識を取り戻したものの、周囲は完全な暗闇に包まれていた。体を起こそうとすると頭や手がすぐに壁に当たり、極めて狭い空間に閉じ込められていることを理解した。四方を囲まれている状況から、自分が棺桶のような場所に入れられている可能性を思い至った。
パニックと恐怖の増大
氷室は生き埋めにされたという恐怖に襲われ、呼吸が乱れ始めた。パニックを抑えようと意識を失う前の状況を思い出し、斎藤涼子を追って事務所に侵入した経緯を整理した。しかしスマートフォンは電源が入らず、外部との連絡手段が断たれていることが分かると、恐怖はさらに増大した。
救助を求める絶叫
酸素が限られている可能性を考えた氷室は、壁を叩きながら必死に助けを求めて叫び続けた。狭い空間の中で汗と息苦しさに包まれ、窒息の危機を強く意識し、完全に混乱状態に陥っていった。
尋問と情報の吐露
その最中、どこからともなく声がかかり、氷室は何を調査していたのかを問われた。彼は恐怖の中で中央TVの石塚プロデューサーから依頼された内容を説明し、自身の行動が取材の一環であったことを明かした。制作局の軽い判断で行動した結果、命の危険に直面している現状に強い後悔を抱いていた。
代々木八幡 事務所
氷室の処理と後始末
氷室隆次は尋問後に再び麻痺させられ、救急搬送ではなく某田中の手配により警察病院へ送られることとなった。三好は過剰な刺激にならないよう配慮していたと説明し、記憶も夢と認識されるよう処理していると述べた。さらに彼との接触をきっかけに、マスコミとの関係構築を視野に入れている意図も明かした。
情報漏洩への疑念と対策意識
JDAの商業ライセンス情報が外部に漏れている可能性に対し、三好は強い問題意識を示した。氷室の証言から、テレビ局側が別の意図で調査を行っている可能性が浮上し、単なる取材ではなく背後関係の存在が疑われた。これを受けて三好は、マスコミ対策として逆に情報網を利用する方針を示した。
計測データの解析と異常構造の発見
三好は計測デバイスから得られたデータを時間軸と組み合わせて三次元モデルとして可視化し、奇妙な立体構造を提示した。そのモデルは条件を揃えた場合に高い一致性を示したが、通常の測定値とは明確な差異が存在していた。これは単なる測定誤差ではなく、別の要因による影響である可能性が示唆された。
個体差としての突起構造の特定
複数の人物モデルを比較した結果、芳村および三好にのみ共通して現れる突起状の特徴が確認された。この差異は他の被験者には見られず、単なる性差では説明できないものであった。三好はこの要因をスキル、とりわけ空間収納系能力に起因するものと推定した。
識別情報としての応用可能性
このモデル構造の中に個人固有の特徴が含まれている可能性が指摘され、三好はパラメータ変化を繰り返して不変部分を抽出することで個体識別に応用できると考えた。これにより能力の可視化だけでなく、識別技術としての発展性も見えてきた。
今後の戦略と能力運用の検討
芳村は〈収納庫〉や〈マイニング〉といったスキルの配分について検討を始めた。特に深層での資源採取においては収納能力の価値が飛躍的に高まると予想され、その使用者の選定が重要課題となった。また、オーブをオークションにかけることで各国に委ねる案も浮上したが、判断は保留された。
休息と次の行動への準備
三好が解析に没頭する中、芳村は思考を一旦放棄し休息を取ることを選択した。翌日には〈収納庫〉の確保という重要な行動が控えており、そのための準備として体力の回復を優先した。
二〇一八年 十二月十七日(月)
代々木八幡 事務所
徹夜明けの三好と解析処理
翌朝、芳村が階下へ下りると、三好は徹夜で解析作業を続けていたため鳴瀬に注意されていた。三好は収集した芳村の計測データ処理にPC性能が不足していると訴え、スーパーコンピューターの利用を求めた。徹夜で興奮状態にあった彼女は、HPCIや地球シミュレーターの利用申請まで進めようとしていた。
先輩モデルの説明回避
鳴瀬は三好の口にした「先輩モデル」という言葉に疑問を抱いたが、芳村は機密性の高い内容であり、三好でなければ説明が難しいとしてその場を濁した。三好はその後数時間眠り、起床後に解析の目的を芳村へ説明した。
スキル判別と個人識別の試み
三好は、計測デバイスの高性能な生データを利用し、芳村の複数パラメータ時のデータから変化しない部分を探していた。それにより、ステータス変化に左右されない個人識別情報や、スキルの有無を判別できる可能性を検証していた。ただし計算量は膨大であり、処理は容易には終わらなかった。
鳴瀬へのデバイス説明
鳴瀬は、自分も計測に協力させられていたことから説明を求めた。三好は、常磐ラボと協力している計測デバイスの目的が、探索者のステータスを数値化することにあると明かした。鳴瀬はその意義に強く反応し、探索者の安全や訓練に大きな恩恵をもたらす可能性を理解した。
ステータス可視化への懸念
一方で鳴瀬は、人間の能力を数値で示すことが格付けや差別につながるのではないかと懸念した。芳村と三好は、体脂肪率や偏差値のように既存の数値化と同じ側面を持つと説明しつつ、社会的影響の大きさは認めていた。
〈鑑定〉の公開
アルゴリズムの信憑性を問われた三好は、ステータス計測が帰納的に作られた技術であることを説明したうえで、自身が〈鑑定〉持ちであると鳴瀬に告白した。Dカードを提示することで、世界で初めて〈鑑定〉スキルの存在が確認された。
未確認ログの発生
数日後、三好のデスクトップには長時間の探索処理の結果として「適合性」と記されたログが表示された。しかしその時点では、誰もすぐにはその結果に気づかなかった。
中野区 東京警察病院
三好の警察病院訪問
芳村が〈収納庫〉の取得に向かう一方、三好は中野の東京警察病院を訪れた。氷室はすでに診察で異常なしと判断され、退室を求められていたが、内調らしき人物から詳しく尋問されており、自分の身辺まで調べ上げられていたことに不安を抱いていた。
カメラ返却と氷室のしらばっくれ
三好はカヴァスの影を利用して病室へ入り、氷室が落としたカメラを返した。カメラが自分のものだと認めた氷室は、庭にいた理由を問われると、他の家と間違えたと取り繕った。前夜の恐怖体験がありながらも、彼はいつもの取材現場の感覚でごまかそうとしていた。
闇の記憶による威圧
氷室がしらを切った瞬間、彼は再び暗闇の中に立たされたような感覚に襲われた。直後に病室へ戻ったものの、前夜の閉塞感と恐怖が鮮明によみがえり、三好の声があの闇の中で聞いた声と同じだと気づいた。氷室は三好をただの見舞客ではなく、異様な存在として認識した。
協力関係の強制
三好は穏やかな態度のまま、家を間違えたなら仕方ないと受け入れたうえで、今後も仲良く協力してほしいと告げた。氷室は状況を理解しきれないまま頷くしかなかった。三好はさらに見舞いとして鉢植えを置き、後で連絡すると言い残した。
デュランタの意味と恐怖
氷室は鉢植えがデュランタであることに気づき、過去に調べた知識からその存在に強い不安を覚えた。三好が去った後、彼女の姿は廊下にもなく、見張りの内調職員も誰も出入りを見ていなかった。氷室は、あの女が自分に何をさせるつもりなのか分からず、監視されているような恐怖に襲われ、鉢植えにシーツをかけて息を吐いた。
代々木八幡 事務所
見舞いの内容とデュランタの意図
事務所に戻った三好は、氷室への見舞いについて語った。彼女は花としてデュランタの鉢植えを渡したと説明したが、入院患者に鉢植えを贈る行為は縁起が悪いとされるため、芳村は違和感を覚えた。三好は、氷室がその植物の名前を思い出した瞬間に青ざめたと語り、その反応を観察していたことが明らかとなった。
花言葉による心理的圧力
デュランタには「あなたを見守る」という花言葉があると三好は説明した。それは表向きは穏やかな意味でありながら、状況次第では監視や威圧を連想させるものであった。三好はひまわりの「あなたを見つめる」という花言葉も候補に挙げていたが、季節的に用意できなかったため断念していた。
協力関係の成立
三好は氷室に対し、マスコミ関連での協力を依頼しており、氷室はそれに応じたと語った。芳村はその「快諾」に疑念を抱いたが、三好は軽く受け流した。結果として、氷室は心理的圧力を受けたうえで、事務所側と協力関係を結ぶこととなった。
今後の調査方針
芳村は法的問題を避けるよう釘を刺したが、三好は関係者の調査を進める意向を示した。マスコミ側の接触をきっかけとして、今後は情報戦や対策の必要性が高まっていく流れが示された。
市ヶ谷 JDA本部
鳴瀬の報告内容の選別と葛藤
鳴瀬美晴は市ヶ谷のJDA本部へ戻る途中、Dパワーズから得た情報の報告内容を取捨選択する必要に迫られていた。ヒブンリークスや〈マイニング〉といった核心部分は伏せ、農場、〈鑑定〉、ステータス計測デバイスに限定して報告する方針を決めたが、情報を意図的に制御する行為に強い負担を感じていた。
斎賀課長への緊急報告
鳴瀬は定時外で課長である斎賀のもとを訪れ、報告書を提出した。斎賀は内容から、Dパワーズがダンジョン内で活動を始める意図を、スライム対策の確立にあると推測した。今後の動向に警戒しつつも、無用な干渉は避ける方針が確認された。
〈鑑定〉スキルの発覚と価値
報告書に記載された三好梓の〈鑑定〉スキルについて、鳴瀬はDカードによる確認を行っており、確実な情報であると説明した。このスキルにより、未知のアイテムやオーブの安全な取り扱いが可能となり、ダンジョン攻略の効率と安全性が飛躍的に向上する可能性が示された。
ステータス計測デバイスの衝撃
さらに、〈鑑定〉の応用としてステータスを数値化するデバイスがすでに試作段階を超えて稼働している事実が明らかとなった。研究段階にすら至っていなかった概念を実用化している点において、Dパワーズは既存の研究機関を大きく凌駕していると評価された。
組織的影響と内部の懸念
この情報が公になれば、JDA内部の権力争いを再燃させる可能性があり、特に瑞穂常務の動きを斎賀は警戒した。また三好の存在は、世界的にも極めて重要な人物と認識され、各国の関心や危険性が高まっている状況が示唆された。
今後への不安と予兆
斎賀は、Dパワーズの活動により今後さらに多くの新ルールや対応が必要になることを予見し、状況の複雑化に頭を悩ませた。鳴瀬もまた、報告内容の異質さに戸惑いながらも対応を進めるしかなく、事態の拡大を予感させる形で場面は締めくくられた。
二〇一八年十二月十八日(火)
代々木八幡 事務所
土地利用契約の提示と高額賃料
鳴瀬美晴はダンジョン内の土地利用に関する暫定契約書を持参し、事務所を訪れた。提示された賃料は坪三万円であり、現実の都市部と同等、あるいはそれ以上の水準であった。三好梓はその金額に強く反発し、仮に一フロア全体を貸し出した場合の収益が莫大になることを指摘し、設定の不合理さを批判した。
小規模利用による実験方針
芳村は必要最低限の検証に目的を絞り、一坪のみの借用を提案した。検証内容は、ダンジョン内で栽培した植物がリポップするかどうか、そしてどの範囲からダンジョン内部と認識されるかの確認であった。これにより、最小限のコストで実験を進める方針が決定された。
鑑札設置とスライム対策の示唆
鳴瀬は契約条件として鑑札の設置を求めたが、それがスライムに破壊されないことを前提としている点に着目し、Dパワーズがすでにスライム対策を確立している可能性を指摘した。芳村は明確な回答を避けたものの、結果を共有する約束をすることで場を収めた。
実験準備と今後の行動
スライム対策については、いずれ公開する可能性があると認識されており、情報の扱いは慎重に進められていた。最終的に一同は、ダンジョン内で適切な場所を選定するため、同日中に現地へ向かうことを決め、農園実験の準備を進めることとなった。
代々木ダンジョン 二層
農園候補地の選定
芳村と三好梓は代々木ダンジョン二層にて、農園実験のための土地選定を行った。候補として選ばれたのは、小さな丘の頂上に一本の木が生えている場所であった。既存の木を利用して金網で囲うことで、ゴブリン対策と安定した構造の両立を図る方針が固められた。
防衛設備の検討
二人は約二畳ほどの範囲を三メートル程度の網で囲い、さらにゴブリン返しを設置する計画を立てた。加えて、動体センサーと液体噴出機構による防衛策も検討されたが、植物への影響を考慮して設置位置を調整する必要があると判断された。こうしてダンジョン内での農園構築に向けた具体的な設計が進められた。
実験成功への疑問
作業の合間に三好は、外部から持ち込んだ植物がダンジョン内でリポップするという仮説の妥当性に疑問を呈した。通常の理屈ではあり得ず、もし成立すればダンジョンが物質を複製する存在となり、希少性の概念が崩壊することになると指摘した。
ダンジョンの性質に関する仮説
これに対し芳村は、ダンジョンがDファクターを拡散するための装置であるという前提から、人類へDファクターを供給する行為には協力的に働く可能性があると推測した。すなわち、ダンジョン産の食品を栽培し広める試みは、その目的に合致するため成功する余地があると考えたのである。
ダンジョンの意思の可能性
さらに芳村は、ダンジョンそのもの、あるいはそれを創造した存在に意思がある可能性にも言及した。三好はそれを半信半疑で受け止めつつも、現在の世界が既に常識外れの現象に満ちていることを踏まえ、そのような存在がいても不思議ではないと認識した。
二〇一八年 十二月二十日(木)
代々木八幡 事務所
周辺環境の異変と違和感
事務所の窓から外を見た芳村は、有蓋トラックが連なる様子を目にし、周囲で引っ越しが頻発していることに気づいた。三好梓も同様の状況を把握しており、近隣では搬出の様子は多く見られる一方で、搬入の場面がほとんど確認できないという違和感を共有した。理由は不明ながら、周辺環境に何らかの変化が起きている兆候が示された。
引っ越し事情と現実的背景
会話は引っ越し業界の実情へと移り、三好は見積もり競争や営業手法について説明した。複数業者による競合や、早期契約を狙った値引き提示などの実態が語られ、現代の引っ越し事情の厳しさが明らかとなった。三好自身は不用品処分を重視して業者を選択しており、生活環境の整理も進めていた。
碑文翻訳の完了
その後、鳴瀬美晴が翻訳作業の完了を報告した。二百六十六枚に及ぶ碑文の翻訳を短期間で仕上げた彼女は、大きな達成感と解放感を得ていた。専門的な厳密さよりも理解しやすさを重視した翻訳は、実用面で大きな価値を持つ成果となっていた。
次なる計画の提示
しかしその直後、芳村は碑文公開後に〈マイニング〉のオークションを実施する計画を明かした。この発言は鳴瀬に強い衝撃を与え、彼女が感じていた安堵を一瞬で打ち消すものとなった。新たな展開がさらに大きな波紋を呼ぶことが示唆され、事態は次の段階へと進もうとしていた。
二〇一八年 十二月二十三日(日)
代々木八幡 事務所
来客予定と日常のやり取り
斎藤涼子たちの来訪予定を確認しながら、芳村と三好梓は事務所で時間を過ごしていた。三好は芋菓子の話題で盛り上がる一方、芳村は状況確認を優先し、JDAへの報告後の動きを気にしていた。三好の〈鑑定〉能力に関する報告はすでに提出されているはずだったが、週末であるためか動きはなく、芳村は呼び出しの際には同行する意向を示した。
個人識別技術の成立
三好は徹夜の計算の成果として、個人識別情報の抽出に成功したと報告した。パラメータ変動に対して不変の要素を特定することで、個人の識別が可能になる見込みであった。ただし、本来の目的であった計測妨害には必ずしも識別は必要なく、別の信号を用いた干渉手段の方が現実的であると説明した。
計測妨害と技術競争の懸念
三好は、信号を発信する装置によって計測結果を操作する構想を提示したが、この方式は規格乱立による混乱を招く可能性があった。芳村は電子マネーや音楽デバイスの例を引き合いに出し、業界全体での統一がなければ非効率な状況に陥ると指摘した。三好もまた、規制を無視する低コスト製品が市場を席巻する可能性を認め、技術競争の歪みを懸念した。
Dカードによる人類の分断可能性
さらに三好は、デバイスがDカード所持者と非所持者を明確に区別する仕様であることを明かした。非所持者は特定の値が常にゼロとなり、結果としてステータス自体が取得できない。この仕様は人類を二分する可能性を孕んでおり、価値観や倫理観の対立を引き起こす危険性があると指摘された。
社会的影響への懸念
芳村は、Dカード取得が任意である以上、深刻な対立には至らないと見ていたが、三好は人間が些細な違いでも対立を生む性質を持つことを指摘した。特に一度取得した者が元に戻れない点は、思想的対立を激化させる要因となり得るとされた。スポーツや社会制度への影響も含め、ステータスの可視化が新たな社会問題を生む可能性が示唆された。
測定不能という本質的制約
最後に三好は、Dカード非所持者からはステータスそのものが取得できないという根本的な制約を明かした。この仕様により、単純な格付けすら成立しない側面があることが判明し、芳村は皮肉を交えて受け止めた。結果として、技術の進展は利便性と同時に新たな制約と問題を生み出すことが明確となった。
六本木 東京ミッドタウン
ミッドタウンでのイルミネーション鑑賞
芳村たちは時間調整のため、東京ミッドタウンのイルミネーションを訪れていた。雨上がりで人出は少ないと予想していたが、実際には大混雑であり、身動きもままならない状況であった。青い光が広場に広がる演出を眺めながら、御劔遥は戯曲の一節を口にし、その幻想的な雰囲気を楽しんでいた。
能力変化への気付きと受容
光の演出が終わりに近づいた頃、御劔遥は芳村に対し、以前何かをしたのではないかと問いかけた。芳村は明確に答えられなかったが、御劔遥はそれ以上追及せず、クリスマスプレゼントとして受け取ると述べて感謝を伝えた。芳村は肯定も否定もできないまま、その言葉を受け入れた。
食事場所を巡るやり取り
その後、食事場所についての話題となり、三好梓は高級フレンチではなく和食を選択した理由を語った。クリスマス時期のフレンチは価格や内容が画一化しやすいと判断し、より季節感を楽しめる和食店を選んだのである。一行は三田の店へ向かうこととなった。
斎藤涼子の新たな役柄
移動中、斎藤涼子は自身が出演する映画について説明した。香港のホテルを舞台にした詐欺師三人組の物語であり、彼女はそのうちの一人であるヒロインを演じる予定であった。詳細は機密扱いであったが、役柄の概要だけが共有された。
贈り物としてのピアス
芳村は斎藤涼子に対し、主役決定の祝いとしてピアスを贈った。それは光の条件によって色が変わる石を用いたものであり、斎藤涼子の印象に合うと考えて選ばれた品であった。その石はアレキサンドライトであり、「秘めた想い」という意味を持つことが三好によって指摘された。
贈り物を巡る反応と関係性
斎藤涼子はその意味を理解しつつも、軽く受け流す形で贈り物を受け取った。その後、御劔遥に耳打ちを行い、互いに安心した様子を見せていた。芳村はそのやり取りの詳細を知らぬまま、状況を受け流していた。
食事の時間と穏やかな締めくくり
一行は三田の和食店へ到着し、料理を楽しんだ。中でも御劔遥は越前ガニのクリームコロッケを特に喜んでおり、その表情から満足感が伝わっていた。こうしてクリスマスの夜は、賑やかな時間と共に穏やかに締めくくられた。
二〇一八年 十二月二十四日(月)
代々木八幡 事務所
アルスルズの入れ替わり検証
クリスマスイブの朝、三好梓は二頭のアルスルズを使い、影を通じた入れ替わり能力を検証していた。色違いの首輪を付けて試した結果、入れ替わるのは個体の中身であり、一定以上の質量を持つ装着物はその場に残ることが判明した。
軽量媒体による通信手段の発見
三好はさらに、メンディングテープやマイクロSDカードを使って、どの程度の物なら移動に伴って運べるかを調べた。その結果、およそ一グラム未満の物体であれば一緒に移動できる可能性が示された。これにより、マイクロSDカードを用いたダンジョン内外の情報伝達手段が現実味を帯びた。
超軽量ポシェットの成功
三好はPEラインで編んだ超軽量ポシェットを作成し、マイクロSDカードを入れてアルスルズに装着した。ポシェットは約〇・三グラムであり、入れ替わり時にも無事に移動した。これにより、アルスルズを利用したデータ配送の実用化に向けた大きな前進が得られた。
土地契約書の到着
検証が一段落したところで、鳴瀬美晴が事務所を訪れた。彼女は代々木ダンジョン二層の土地利用に関する賃貸契約書を持参しており、農園実験に向けた正式な準備が進み始めた。
市ヶ谷 JDA本部
レポートによる衝撃と斎賀の動揺
鳴瀬美晴が提出したレポートを読んだ斎賀は、その内容に衝撃を受けて机に突っ伏した。再び起き上がった彼は、最近同様の事態が続いていることに苛立ちを見せつつ、記載内容の真偽を確認した。美晴は事実であると断言し、公開前のサイトも確認済みであると説明した。
ヒブンリークスの危険性と影響
レポートに記されていたのは、碑文の全文翻訳を公開する「ヒブンリークス」というサイトの存在であった。WDAとは無関係の形で公開されるこの情報は、各国の投資や安全保障上の意図を無意味にしかねないものであり、斎賀は各方面からの反発や混乱を懸念した。一方で、〈異界言語理解〉を持たない者には真偽の判別が困難であるため、影響は限定的との見方も示した。
ロシア資料との差異と信憑性の増大
公開予定の翻訳内容には、ロシア由来とされる既存資料に含まれていた内容に加え、それまで明らかにされていなかった情報も含まれていた。その差異はむしろ翻訳の信頼性を高める要素となっており、斎賀は内容の真実性を強く意識することとなった。
〈マイニング〉オークション計画
さらに美晴は、三好梓が来年初頭に〈マイニング〉のオークションを実施する予定であることを報告した。具体的な手段は不明であったが、鉱石ドロップに関する情報と連動した動きであり、既にモンスターの検証も進められているとされた。
JDAの対応と葛藤
斎賀はJDAとしてオークションに参加すべきかを検討したが、予算面や税務上の事情も絡み、判断は容易ではなかった。そもそも存在すら確認されていないオーブを前提とした議論が成立している現状に苦笑しつつも、事態の進展に備える必要性を認識していた。
事態拡大への備え
一連の報告を受け、斎賀は今後の混乱を避けるための対応策を考えざるを得なくなった。週の始まりでありながら、すでに疲労感を覚えつつ、迫り来る影響への対処に意識を向けていた。
二〇一八年 十二月二十五日(火)
代々木八幡 事務所
ヒブンリークス公開の開始
二〇一八年十二月二十五日午前零時、ヒブンリークスが公開された。最初にアクセスしたのはモニカであり、サイトの内容に強い興奮を示した。その直後、USからのアクセスが急増し、短時間のうちに全米へと拡散していった。
掲示板での拡散と注目の集中
ある利用者が掲示板にサイトを紹介すると、その投稿は瞬く間に注目を集め、トップに躍り出た。当初は創作性の高いサイトとして評価されていたが、次第に内容の真偽を巡る議論へと発展していった。
パーティ機能の発覚と混乱
その中で、Dカード所有者同士がパーティを組むことでテレパシーのような通信が可能になるという報告が投稿された。当初は冗談として扱われたが、実際に検証する者が現れ、事実であることが証明されると状況は一変した。これにより、ヒブンリークスの内容が現実と結びつく可能性が一気に注目されることとなった。
試験制度への影響の懸念
芳村と三好梓は、この能力が試験に悪用される可能性について議論した。特に大学入試のような重要な試験においては、公平性を損なう重大な問題となり得るため、対策の困難さが浮き彫りとなった。Dカード所持の確認手段が確立されていない現状では、根本的な解決は難しいと認識された。
社会的分断の可能性の再認識
さらに、Dカードの有無を判別する技術が普及すれば、人類を二分する要因となる可能性も指摘された。これにより、以前議論された新人類と旧人類の分断問題が現実味を帯びてきた。
入試直前というタイミングの問題
公開時期が大学入試直前であったことも問題を深刻化させた。十分な対策を講じる時間がない中での情報拡散は、教育制度に大きな混乱をもたらす可能性が高く、二人はその影響の大きさに危機感を抱いた。
世界の変化と日常の対比
ヒブンリークスの公開によって世界が大きく動き始める一方で、芳村たちは日常の延長として静かに就寝した。巨大な変化の兆しと、それに無自覚な個人の日常との対比が強調される形で、その夜は過ぎていった。
アメリカ合衆国 ワシントンDC
カーティスの焦燥と失態の蓄積
ワシントンDCにて、ダンジョン省長官カーティスは強い焦りを抱いていた。代々木での一連の対応において成果を上げられず、Dパワーズに翻弄されたうえ、オーブ落札でも不利な立場に立たされたことが重なっていた。さらに、日本での拠点調査に派遣したエージェントが送り返されるなど、組織としての無力さが露呈していた。
ヒブンリークスの信憑性の確認
その中で報告されたのは、ヒブンリークスに掲載された碑文翻訳が、ロシアの公開資料とほぼ一致しているという事実であった。加えて、ロシア側の資料には存在しない文章が含まれていたことから、単なる偽造ではなく、別の情報源に基づく可能性が示唆された。
翻訳主体の不明と疑念
〈異界言語理解〉を保有するのは米国とロシアのみであるという前提のもと、カーティスは翻訳主体について疑問を抱いた。ロシアによるものでもなく、米国内の機関であるDADも関与を否定したため、第三者が独自に翻訳を行った可能性が浮上した。高額なオーブを用いた翻訳である可能性も指摘され、その異常性が際立った。
鉱物資源情報への着目
提示された碑文の中でも、RU2-0012に記された鉱物資源に関する内容は、ダンジョン省にとって極めて重要な情報であった。これが事実であれば、資源確保の観点から探索方針の見直しが必要となると判断された。
〈マイニング〉取得への方針転換
カーティスは、鉱物資源獲得の鍵となる〈マイニング〉スキルの重要性を認識し、代々木に残る部隊へ情報収集と取得を命じた。JDA側がすでに対象モンスターの特定と検証を進めている状況を踏まえ、遅れを取り戻すための行動に移った。
対応の遅れに対する危機感
一連の判断を通じて、カーティスは自国の対応の遅さを痛感していた。日本側の動きを「温い」と評しつつも、その裏で着実に進む状況に対し、危機感を抱きながら指示を下したのであった。
ロシア モスクワ 中央行政区
諜報作戦の失敗と異常事態
モスクワ中央行政区にて、クルニコフは上司である『局長』への報告に臨んでいた。最初の異常は、FSBのV局が派遣した六名の工作員が、ダンジョン内で武装解除された状態で発見され、何も記憶を持たずに救助されていた件であった。彼らは何が起きたのか理解できず、最後の一人は悪魔の仕業と認識していた。
続いてSVRの精鋭部隊『防壁』が五名も日本警察に拘束されるという事態が発生した。自決すらできない状態での逮捕であり、形式上は軽犯罪扱いであったが、諜報員としてのキャリアは事実上失われた。
ヒブンリークスによる優位性の消失
これらの失敗の結果として、ヒブンリークスにより公開された碑文翻訳が問題となった。クルニコフは、その内容がほぼ正確であると認めざるを得なかった。ロシア側は〈異界言語理解〉を用いて翻訳を進めていたものの、担当者が基礎知識に乏しく、効率が極めて低かったため、優位性は限定的であった。
そのため、局長は翻訳公開によってロシアのアドバンテージが消失したと判断した。
〈マイニング〉未取得の現状
続いて問われた〈マイニング〉の取得状況について、クルニコフは土属性モンスターを中心に探索中であると報告した。しかし実際には、対象モンスターすら特定できていない段階であり、進展はなかった。
未知のスキルオーブの取得が極めて困難である現実がある中で、成果を求められる状況に追い込まれていた。
代々木ダンジョンへの方針転換
局長は、JDAの公開情報に基づき、代々木ダンジョンに〈マイニング〉を持つモンスターが存在すると判断した。そして、未知のダンジョンを探索するよりも効率的であるとして、探索チームの派遣を命じた。
RUDAを通じてJDAへ連絡を取り、正式な形で代々木への介入を進める方針が決定された。
探索者重視への認識転換
一連の失敗から、通常の諜報員ではダンジョン内で探索者に対抗できないという認識が明確になった。これにより、今後は探索者を主体とした戦力投入が必要であると判断された。
局長は、現状の劣勢を覆すために、現実的な手段へと舵を切ったのであった。
イギリス ダウニング街
翻訳公開の確認と疑念の発生
ダウニング街にて、国防情報参謀部のダンジョン課職員は、碑文の翻訳が英国由来のものも含めすべて公開されていると報告した。米国が翻訳者を確保した直後の出来事でありながら、それが外交文書ではなく一般公開されたことに対し、首相は強い違和感を示した。
関与主体の否定と第三者の浮上
米国は関与を否定し、ロシアの関与も否定されたことで、翻訳公開の主体は不明となった。調査の結果、サイトの実質的な所有者が三好梓であることが判明し、オーブを扱うオークションハウスの責任者であると報告された。
三好梓の異質な経歴
三好梓の経歴は特に秘匿されておらず、不審点も見られなかったが、商業ライセンス取得後に急速に頭角を現した点が注目された。この変化は、何らかの特殊スキルの取得によるものと推測されたが、その内容は不明であった。
さらに、ロシアの工作員を退けたという未確認情報もあり、一般人とは考えにくい能力が示唆された。
翻訳内容の信憑性の検証
英国側は翻訳内容そのものの真偽に焦点を当てた。ロシアが公開した部分と一致していることから、少なくとも一部は正確であると判断された。加えて、米国も確認中であるとの情報が共有された。
パーティ機能の実証
サイトに記載されていたDカードによるパーティ機能についても実証が行われた。その結果、記載内容通りの現象が確認され、翻訳内容の信頼性がさらに高まることとなった。
対応方針への移行
翻訳の主体よりも内容の重要性を優先した英国政府は、情報の事実性を前提に次の対応を検討する段階へ移行した。首相は即座に連絡手段を取り、事態への本格的な関与を開始しようとしたのであった。
代々木ダンジョン エントランス
サイモンとの接触と疑念の指摘
代々木ダンジョンのエントランスにて、芳村はサイモンに呼び止められた。サイモンはヒブンリークスの公開について言及し、ドメイン所有者が三好梓である点から、Dパワーズの関与を疑っていた。これに対し芳村は、WHOIS情報は代理公開されているはずであり、直接的な証拠にはならないと応じた。
関与否定と各国の思惑の整理
芳村は、自分たちは場所を貸しているだけであり、サイトの制作には関与していないと説明した。また、〈異界言語理解〉による情報公開は時間の問題であり、各国も独占を前提としていないと指摘した。サイモンもこれを認めつつ、米国内でも意見が統一されているわけではないと補足した。
〈マイニング〉情報公開の影響
ヒブンリークスに加え、JDAの情報更新により〈マイニング〉の存在が代々木で確認された可能性が示された。この影響で、各国の探索者が代々木に集中することが予想され、現場の緊張は一層高まっていた。
探索者集中の必然性
芳村は、自国ダンジョンで同種モンスターを探す選択肢について言及したが、サイモンはそれを否定した。同じモンスターが存在しても、オーブを確実にドロップする保証はないため、確定情報のある代々木に集まる方が合理的であると判断されていた。
現場への影響と長期滞在の決定
サイモンは、〈マイニング〉を巡る状況により、当面は代々木に滞在せざるを得ないと語った。こうしてヒブンリークスの公開は、国家レベルの動きだけでなく、現場の探索者たちの行動にも直接的な影響を及ぼしていたのである。
アメリカ合衆国 ワシントンDC
翻訳内容への確認と安堵
ワシントンDCのウエストウィングにて、国家の指導者は翻訳された碑文の内容を確認していた。そこで彼は、ザ・リングに関する記述が存在しないことを知り、安堵の息を漏らした。
機密事項露見への危機意識
ダンジョンの碑文にその情報が含まれていた場合、重大な問題へと発展する可能性があった。内容次第では、国際的な非難を招きかねず、政治的な立場を揺るがす事態にもなり得たためである。
任期内回避への願望
そのため彼は、この問題が少なくとも自身の任期中には表面化しないことを望んでいた。翻訳公開が進む中で、未知の情報がどこまで露出するのかに対し、強い警戒心を抱いていたのである。
二〇一八年 十二月二十六日(水)
代々木八幡 事務所
アーシャの再訪と滞在計画
ヒブンリークスが世界を揺るがす中、代々木八幡の事務所にはアーシャが訪れていた。彼女は日本での治療により回復し、充実した日々を過ごしていると語った。滞在は二十九日までの予定であり、その後は家族と新年を過ごすため帰国する予定であった。
また、リッツから移動し、三好の提案により事務所に滞在することが決まった。これまで外出や交流が制限されていた彼女にとって、友人の家に泊まる経験自体が初めてであった。
インド文化とディワリの話題
会話の中で、ヒンドゥー教の祭りディワリが話題となった。これは光が闇に勝利することを象徴する祭りであり、新年とも結び付けられている。インドでは欧米式の新年も併存しており、特にムンバイではその傾向が強いと説明された。
また、爆竹や花火による大気汚染問題から規制が行われている現状も語られた。
アルトゥム・フォラミニスの存在
アーシャは、聖女による癒やしで知られる宗教団体アルトゥム・フォラミニスについて言及した。この団体は上流階級の間で影響力を持ち、回復魔法を装った活動を行っているとされていた。
彼女は、自身の回復について「魔法使いに治された」と説明していたが、その話題に強く食いつく者たちが存在し、それが同団体の関係者であったと明かした。
教団の関心と行動の変化
アルトゥム・フォラミニスの関係者は、誰が治療を行ったのかを執拗に追及していた。さらに、本来はヨーロッパから北米へ進出する予定だったにもかかわらず、急遽東京へ向かう動きを見せていた。
この動きは、Dパワーズへの関心の高さを示しており、今後の接触や干渉の可能性を示唆していた。
護衛体制と周辺状況
アーシャの周囲には多数の護衛が配置されており、その厳重さから父親の過保護ぶりが改めて浮き彫りとなった。英国関係者との連携も示唆され、単なる個人の来訪以上の意味を持つ状況であった。
今後の行動計画と不安
芳村と三好は、アーシャの滞在中の行動について検討したが、観光や食事の候補は限られていた。加えて、彼女の父親が突如介入する可能性も懸念され、計画には不安が残った。
最終的に詳細は後回しとし、ヒブンリークスのアクセス解析へと意識を戻すこととなった。
駒場 大学入試センター
Dカード騒動の波及
駒場にある大学入試センターでは、Dカードに関する騒動が急速に波及していた。パーティを組むことでテレパシーが使用可能になるという情報は事実と認識され始めており、試験制度そのものを揺るがす問題として受け止められていた。
事業第一課には既に多数の問い合わせが寄せられており、特に対策の有無や公平性に関する懸念が中心となっていた。対策を講じなければ、Dカード未所有の受験生が著しく不利になる可能性が指摘されていた。
不正行為の現実性と懸念
テレパシーによる情報共有が可能である以上、試験における不正は極めて現実的な問題であった。優秀な受験者一人がいれば、他の受験者がその知識を共有できるため、組織的な不正や友人同士の協力も容易に想定された。
また、経済的・社会的背景による不正の可能性も議論され、特定の受験者を合格させるための手段として利用される危険性も認識されていた。
対策の困難さ
しかしながら、試験まで残された時間は極めて短く、現実的な対策はほとんど存在しなかった。テレパシーの有効範囲が約二十メートルであるため、受験者同士の距離を離す案が検討されたが、会場の構造や受験番号の配置の問題から実現は困難であった。
さらに、不正を後から検出する方法も検討されたが、得点の異常を疑うことはできても、それを証拠として断定することは難しく、実効性に乏しいと判断された。
制度的対応の限界
センター試験だけでなく二次試験にも影響が及ぶ可能性がある中、大学入試センターは制度全体の見直しを迫られる状況にあった。しかし、どの部署が主導するのかも不明確であり、事業部や総務部、さらにはJDAとの連携まで視野に入れる必要があった。
ただし、共同研究などを進める時間的余裕はなく、即応的な対応が求められていた。
外部機関への依存と不安
最終的に、JDAからの情報や対応を待つしかないという結論に至った。Dカードの所有有無を判定する仕組みや検出機器の存在に期待が寄せられたが、それが実現するかどうかは不透明であった。
突如として発生したこの問題により、大学入試センターは大きな混乱と不安を抱えたまま、対応方針の決定を迫られることとなった。
市ヶ谷 JDA本部
大学入試センターからの要請
JDA市ヶ谷本部において、大学入試センターからDカード取得者を識別する方法に関する問い合わせが届いた。念話機能の影響を受けた試験不正対策であることは明白であり、斎賀は法務およびシステム管理を含めた会議の開催を指示した。
この問題は単なる試験対応に留まらず、社会制度全体に波及する可能性を孕んでおり、迅速な対応が求められていた。
識別システムの技術的限界
会議ではまず、WDAIDの仕組み上の制約が指摘された。IDは個人に紐付くため、IDの所有者特定は可能であるが、特定の個人がIDを持っているかどうかを逆引きすることは困難であった。
名前や生年月日による照合も検討されたが、同姓同名や同一誕生日の存在、住所変更や入力ミスなどにより誤判定が発生するため、精度に重大な問題があった。また、受験会場での人力確認は時間的・人的コストの面から現実的ではなかった。
制度運用上の問題点
仮に事前にデータ照会を行ったとしても、その後にDカードを取得される抜け道が存在するため、完全な対策とはなり得なかった。さらに、WDAカード所持者とDカード所持者が一致しないケースも存在し得るため、識別基準自体が曖昧であった。
結果として、現場での完全な判定は不可能であり、自己申告と事後ペナルティによる抑止が現実的な対応とされた。
現実的対応策の模索
JDA側の対応としては、APIを提供し外部から問い合わせ可能な仕組みを整備する案が提示された。また、試験期間中のWDAカード発行停止といった措置も検討されたが、浪人生などの存在により完全な封鎖は困難であった。
総じて、抜本的解決には至らず、暫定的対応に留まることが確認された。
突破口としての計測デバイス
会議後、斎賀はDパワーズのステータス計測デバイスに着目した。非探索者はステータス自体が取得できないという特性を利用すれば、Dカードの有無を即時判定できる可能性があると気付いたのである。
この発想により、従来のデータ照会型の識別ではなく、現場で即時判定できる新たな解決策の可能性が浮上した。
新たな可能性への期待
斎賀はその仮説をもとにDパワーズへの問い合わせを準備し、この手法が実用化されれば社会的混乱を抑える切り札になり得ると考えた。
ただし実現までの時間は限られており、入試までの短期間でどこまで対応できるかは不透明であった。それでも、この発見は停滞していた問題に対する重要な突破口となった。
代々木八幡 事務所
アーシャの希望と秋葉原案
ホテルをチェックアウトしたアーシャは、事務所に戻ると日本で行きたい場所を尋ねられた。彼女は秋葉原を希望し、特にカレー店を巡りたいと語った。ネット友達から秋葉原には多様なカレー店があると聞いており、以前から全店を試してみたいと考えていたのである。
全店制覇への無理と共有案
アーシャは秋葉原のカレー店を全部回りたいと望んだが、一人一皿では到底不可能であった。そのため三人で一皿を分けながら巡る案が浮上した。芳村は営業妨害に見えるのではないかと懸念したが、三好梓は秋葉原らしい解決策があるとして準備を始めた。
イベント化による正当化
三好はTシャツやパーカー、ステンシルシート、アクリル絵具などを用意し、即席の衣装作りを始めた。Tシャツには「カレー大王」や「カレーの王女様」といった文字が入れられ、背中には「祈願 アキバ一周カレー行脚」と記されたパーカーが作られた。
秋葉原らしいノリへの転換
三好は、この格好であれば単なる少量注文ではなく、秋葉原らしいイベントとして受け止められると考えていた。昼の混雑時間を避ければ、店側にもネタとして受け入れられる可能性があると判断したのである。
芳村の不安と二人の高揚
アーシャは衣装の意味を聞いて大いに喜び、三好も自信を見せていた。一方で芳村は、三人が怪しい格好でカレーを食べ歩く様子がSNSの話題になりそうだと不安を抱いていた。それでも二人の勢いに押され、秋葉原でのカレー行脚が実行されようとしていた。
西新宿
JDAからの緊急依頼
西新宿で弁理士事務所を訪れた帰り道、鳴瀬美晴はJDAからのメールを受信した。その内容は、Dカード取得者を判別する機器の制作をDパワーズに依頼できないかというものであり、しかも大学入試に間に合わせるという極めて厳しいスケジュールが提示されていた。
現実離れしたスケジュールへの疑念
メールの内容を確認した美晴は、その計画が現実的ではないと即座に判断した。ステータス計測デバイスに関する知的所有権の申請すらまだ完了しておらず、もしこのまま機器を開発・公開すれば、権利確定前に技術が流出する危険性があった。
知的所有権との矛盾
そもそも美晴自身が弁理士事務所を訪れていたのは、その知的所有権の手続きを確認するためであった。したがって、申請前に機器を実用化するという案は、手続きの前提そのものを崩す行為であり、矛盾を孕んでいた。
業務としての受諾と行動
それでも、この依頼は業務として無視できるものではなかった。美晴は困惑しながらも対応する決意を固め、代々木八幡へ向かうためタクシーに乗り込んだ。
無理を承知であっても、関係各所の期待と責任を背負いながら、Dパワーズへの説得に向かう必要があったのである。
二〇一八年 十二月二十七日(木)
代々木八幡 事務所
大量問い合わせの発生
十二月二十七日の朝、芳村が事務所に入ると、三好梓はPCの前で難しい表情をしていた。原因は、商業ライセンスに紐づいた非公開アカウントに届いた五百通以上のメールであった。これらは単なる迷惑メールではなく、正規のサーバーから送られたものであり、内容はいずれもDカード取得者を識別するデバイスに関する問い合わせであった。
情報漏洩と圧力の構図
メールの送信元は大学入試センターや各大学の入試部門であり、極めて短時間で情報が拡散したことから、情報の出所はJDAである可能性が高いと判断された。この状況により、Dパワーズが識別技術を持つという前提が既成事実化し、開発を断りにくい圧力が形成されていた。
拒否困難な社会的状況
本来であればスケジュール的に不可能な案件であり、開発は断るのが妥当であった。しかし、社会的には「解決手段を持ちながら放置した」と見なされる危険性があり、対応しない場合には非難の対象となる可能性があった。
一方で、技術的には将来的に実現可能であり、市場規模も極めて大きいことから、いずれ開発すること自体は既定路線であった。
技術的課題と知財リスク
三好は、識別機能自体は比較的単純な構造で実現可能であると分析したが、最大の問題は生産数と時間、そして特許出願であった。短期間で製品化すれば、知的財産権の確立前に市場へ流通することとなり、権利面で重大なリスクを伴う。
さらに、情報公開のタイミングと市場圧力の関係から、インサイダー的な状況が発生する可能性も指摘され、背後に何者かの意図が存在する可能性が疑われた。
対抗意識の芽生え
三好は、この状況が仕組まれたものである可能性に強い不快感を示し、主導権を奪われることへの反発を見せた。芳村は半信半疑であったが、仮に操作されているとすれば看過できない問題であると認識していた。
最終的に、現時点ではメールへの返信を控え、鳴瀬美晴との協議を優先する方針が決定された。
日常への回帰と新たな展開
議論の最中、アーシャが起床し、三人は予定通り秋葉原へ向かうこととなった。しかし現地では、肉を使用しないカレーの選択肢が少ないという問題に直面し、想定外の制約の中で行動を余儀なくされた。
結果として三人は注目を集め、秋葉原において話題の存在となるに至った。
ヒブンリークス専用スレッドの開設
掲示板には、ヒブンリークスについて語る専用スレッドが立てられた。投稿者たちは、四千億円規模のオーブで得られるはずの碑文情報が無償公開されたことに驚き、本物かどうかを議論していた。
パーティ機能と念話への衝撃
最初に大きな話題となったのは、Dカードによるパーティ機能と念話であった。redditなどで検証が進み、念話が事実であると受け止められると、学校や試験でのカンニング問題が一気に現実味を帯びた。
投稿者たちは、教室内や隣のクラスとの通信、予備校による組織的利用、受験番号の連番利用などを想定し、来月に迫るセンター試験への影響を深刻に語っていた。
試験制度への不安
Dカード取得を一時停止すべきだという意見も出たが、年齢や浪人生、海外での取得、既取得者の扱いなどの問題が指摘され、完全な対策は困難だと認識された。
さらに、司法試験などの資格試験にも影響が及ぶ可能性が語られ、口頭試問や小論文など、念話による不正を防ぎやすい形式への転換案も挙げられた。
マイニングへの期待と停滞感
念話に続いて、〈マイニング〉も大きな話題となった。鉱石ドロップや五十層での金ドロップに期待が寄せられた一方で、どのモンスターが〈マイニング〉を落とすのか分かっていないため、実用化にはまだ遠いという見方が強かった。
代々木の攻略がまだ二十一層に留まっていることもあり、五十層の資源獲得は当面先の話として受け止められていた。
食料ドロップと探索者五億人問題
アマチュア層での食料ドロップについても注目が集まったが、条件である探索者五億人達成の困難さが議論された。中国が成人登録制度を検討しているという噂も流れたものの、ダンジョン数や登録処理能力を考えると、短期間での達成は難しいと見られていた。
それでも、中国やインド、アフリカ諸国が追随すれば、いずれ条件達成に近づく可能性があると語られていた。
セーフ層と土地利用への関心
三十二層以降に存在するとされるセーフ層やセーフエリアにも関心が向けられた。発見されれば拠点化が進むと予想され、早い者勝ちになるのか、JDAの土地利用ルールが適用されるのかが議論された。
ただし代々木の攻略深度を考えると、セーフ層到達はまだ先であり、自衛隊やトップ探索者への期待が語られていた。
翻訳者への疑問
最後に、ヒブンリークスの翻訳者が誰なのかという疑問が浮上した。ロシアやアメリカが候補に挙げられたが、国家がダンジョンドメインで一般公開するとは考えにくいとされ、正体は不明のままであった。
掲示板の議論は、念話による社会制度の揺らぎ、〈マイニング〉による資源獲得、食料ドロップ、セーフ層開発へと広がり、ヒブンリークスが世界に与える影響の大きさを示していた。
二〇一八年十二月二十九日(土)
江東区有明
コミックマーケットへの来訪
芳村たちは三好の提案により、有明の東京ビッグサイトで開催されるコミックマーケットを訪れた。会場周辺には開場前から膨大な人が集まり、アーシャはその規模に驚きながらも興味を示していた。三好はサークルチケットを用いて入場し、知人のサークルを訪ねることとなった。
同人文化への驚き
会場では個人が制作した同人誌が大量に販売されており、その数が商業出版に匹敵する規模であることが語られた。アーシャは個人が紙の本を作り販売する文化に強い衝撃を受け、日本独自の創作文化として感心していた。
コスプレイヤーとの再会と目的の接触
三好の知人である佐彩雅のサークルを訪問した後、目的であった折原志緒里と接触した。彼女はコスプレ衣装制作の技術を持ち、芳村の依頼に関わる人物であった。志緒里は芳村の体格を確認しながら採寸を行い、今後はコスプレ衣装制作を本業として工房設立を検討していることを明かした。
コスプレエリアでの文化体験
コスプレエリアでは多種多様な衣装と表現に触れ、アーシャはその自由さと規模に驚嘆した。会場全体を祭りのようなものとして受け止め、非日常的な文化空間として楽しんでいた。
同人誌との遭遇と混乱
しかし、同人誌の内容に触れたアーシャは強い衝撃を受け、一時的に混乱状態に陥った。芳村はこれを文化として説明し、インドの性愛文化を引き合いに出して理解を促したことで、アーシャは辛うじて落ち着きを取り戻した。
大量購入による騒動の拡大
落ち着いた後、アーシャは日本文化の研究として同人誌を大量購入することを決断した。スミスたち護衛がそれを実行し、会場内では異様な光景となった。さらに他サークルから献上本が集まり、購入量は膨大なものとなった。
撤収と余波
最終的にアーシャは大量の同人誌を持ち帰るため専用車両で撤収した。会場ではその行動が注目を集め、後にSNS上で「リアル石油王の娘」として話題となった。また、秋葉原での「カレーの王女様」と同一人物ではないかという推測も広まり、注目を浴びることとなった。
コミックマーケットでの一連の出来事は、日本のサブカルチャーの濃密さと、それに対する異文化の反応を象徴するものとなっていた。
代々木八幡 事務所
帰宅後の疲労と余韻
コミックマーケットから戻った芳村と三好は、その規模と熱気に圧倒され、強い疲労を感じていた。会場の広さや参加者の多さに驚きつつ、事前準備や戦略が必要とされる特殊な環境であることを改めて認識していた。混雑を避けるためタクシーで帰宅し、非日常的な体験の余韻を引きずっていた。
事務所の異変と鳴瀬の存在
事務所に戻ると室内に明かりが灯っており、鳴瀬が来訪している可能性が示唆された。これまでDカードチェッカーや知的所有権に関する調査を進めていた彼女の存在を思い出しつつ、状況の進展を予感していた。
鳴瀬の謝罪と異常事態の発生
玄関を開けた瞬間、鳴瀬が深く頭を下げて謝罪するという予想外の光景が広がっていた。突然の謝罪に芳村と三好は困惑し、ただ事ではない事態が発生していることを直感した。
新たな局面への突入
この出来事を契機として、芳村たちのパーティは自らの意思とは無関係に次の段階へ進まされることとなった。Dカードチェッカー問題を中心とした一連の流れが、彼らをより大きな責任と役割へと押し上げる転機となった。
終章 エピローグ
後日譚
渋谷区神南
ダンジョン企画の持ち込みと否定的評価
NHK放送センターの一角において、眼鏡の男は企画書を机に放り出し、内容の実現性に疑問を示した。自称ダンジョン研究家の吉田陽生は、碑文サイト公開以降にテレパシーやマイニング、セーフエリアといった要素が現実化し、ダンジョンの時代が到来していると主張していたが、その熱意は受け入れられなかった。
ダンジョンブームの停滞と焦燥
吉田はダンジョンブームに乗じて活動を始めたものの、テレビからダンジョン関連の話題が減少したことで苦境に立たされていた。アメリカのサイモンチームによるエバンスダンジョン攻略や、JDAが公開した『さまよえる館』の映像によって復調の兆しはあったが、依然としてメディアでの扱いは限定的であった。
映像価値への確信と交渉の難航
吉田は『さまよえる館』の映像に高い商業価値を見出し、撮影者への協力要請を試みようとしたが、JDAは情報開示を拒否していた。そのため、コンテンツとしての展開は困難な状況にあった。
放送媒体の不一致と提案の却下
眼鏡の男は、この企画は公共放送よりも民放向けであり、内容もやや過激であると判断していた。ナショナルジオグラフィックやディスカバリーチャンネル、さらには配信サービスへの持ち込みを提案しつつも、NHKでの採用には消極的な姿勢を崩さなかった。
ドキュメンタリー需要の低下と失望
現代ではダンジョンを題材としたドキュメンタリーは視聴率が見込めないと断じられ、吉田の企画は時流に合わないものとされた。吉田は内心で不満を募らせながらも、その評価を受け入れざるを得なかった。
インド ムンバイ
薄い本を隠すアーシャ
ムンバイの自室にて、アーシャは薄い本を真剣に読んでいたが、廊下から足音が近づくのを聞き取ると、慌ててそれらを隠し、以前から読んでいた本を開いて平静を装った。紅茶を口にしながら、何事もなかったかのように振る舞ったのである。
父アーメッドへの問いかけ
部屋を訪れたアーメッドを笑顔で迎えたアーシャは、かねて疑問に思っていた「総攻め」という言葉の意味を尋ねた。突然の質問にアーメッドは戸惑いながらも、その語を一般的な意味で解釈しようとした。
誤解に基づく解釈
アーメッドは「総攻め」を、あらゆる方向から総合的に攻勢をかける行為と捉え、企業買収において取引先や銀行への働きかけ、不利な情報の流布などを含めた戦略的行動として説明した。その説明はあくまでビジネス上の文脈に基づくものであった。
父への評価と会話の継続
アーシャはその説明を聞き、父のような人物が「総攻め」と呼ばれるのだと納得し、感心した様子を見せた。その後、彼女は立ち上がって紅茶を淹れながら、日常的な会話へと移行していった。
同シリーズ
Dジェネシス ダンジョンができて3年











その他フィクション

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