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とある魔術の禁書目録フィクション(Novel)読書感想鎌池和馬

小説「新約 とある魔術の禁書目録 (9)」感想・ネタバレ

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新約とある魔術の禁書目録 9の表紙画像(レビュー記事導入用) とある魔術の禁書目録

新約 とある魔術の禁書目録(8)レビュー
新約 とある魔術の禁書目録まとめ
新約 とある魔術の禁書目録(10)レビュー

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  1. 物語の概要
    1. ■ 作品概要
    2. ■ 主要キャラクター
    3. ■ 物語の特徴
  2. 書籍情報
  3. あらすじ・内容
  4. 感想
  5. 考察・解説
    1. オティヌスの世界改変
    2. 完璧な世界の否定
    3. 幻想殺しと魔神の対決
    4. 理解者としての絆
  6. 登場キャラクター
    1. 学園都市
      1. 上条当麻
      2. 御坂美琴
      3. 雲川鞠亜
      4. 吹寄制理
      5. 青髪ピアス
      6. 月詠小萌
      7. 土御門元春
      8. 雲川芹亜
      9. 麦野沈利
      10. フレンダ=セイヴェルン
      11. 浜面仕上
      12. フレメア=セイヴェルン
      13. 駒場利徳
      14. 服部半蔵
      15. エツァリ
      16. トチトリ
      17. 一方通行
      18. 芳川桔梗
      19. 天井亜雄
      20. 打ち止め
      21. 御坂妹(一〇〇三二号)
      22. 一〇〇三一号
      23. ミサカネットワークの総体
      24. 番外個体(ミサカワースト)
      25. 木原加群(ベルシ)
    2. グレムリン
      1. オティヌス
      2. ロキ
      3. フレイヤ
      4. マリアン=スリンゲナイヤー
      5. トール
      6. ミョルニル
    3. イギリス・イギリス清教・騎士派
      1. エリザード
      2. キャーリサ
      3. 騎士団長
      4. ウィリアム=オルウェル
      5. インデックス
      6. ステイル=マグヌス
      7. 神裂火織
      8. シェリー=クロムウェル
      9. ルチア
      10. オルソラ=アクィナス
      11. アニェーゼ=サンクティス
    4. ローマ正教
      1. 前方のヴェント
      2. 左方のテッラ
    5. ロシア成教
      1. ロシア成教の重鎮
    6. アメリカ合衆国
      1. ロベルト=カッツェ
    7. 魔術結社「明け色の陽射し」
      1. レイヴィニア=バードウェイ
    8. 魔術結社「新たなる光」
      1. レッサー
    9. その他の魔術師
      1. オッレルス
      2. 右方のフィアンマ
      3. オリアナ=トムソン
    10. その他の個人
      1. 上条刀夜
      2. 上条詩菜
      3. ヴェントの弟
      4. エリス
      5. スフィンクス
    11. 怪物・術式
      1. ニーズヘッグ
  7. 展開まとめ
    1. 序章ある世界の終わり Game_Over. 
    2. 第五章 最果てよりも遠く Point_Unknown. 
    3. 第六章移ろい揺らぐ世界 Version_Alpha. 
    4. 第六章移ろい揺らぐ世界 Version_Beta. 
    5. 第六章 移ろい揺らぐ世界 Version_Omega. 
    6. 第七章 『平凡な高校生』 Black_or_White. 
    7. 第八章 少女位相、 幾千億 Create_V.S._Break.
  8. 同シリーズ
    1. 新約 とある魔術の禁書目録
    2. とある魔術の禁書目録
    3. 外伝
    4. とある暗部の少女共棲
    5. 同著者シリーズ
    6. ヘヴィーオブジェクトシリーズ
  9. その他フィクション

物語の概要

■ 作品概要

『新約 とある魔術の禁書目録(9)』は、科学と魔術が交差する世界を描いた異能バトル・ファンタジーである。物語は、前巻で魔神オティヌスが『主神の槍(グングニル)』を完成させ、世界そのものを崩壊させた直後から展開する。 真っ黒な何もない空間に取り残された上条当麻に対し、オティヌスは彼の精神を完全に折るべく、幾千億もの「見方が違う世界(位相)」を作り出して見せつける。自身が絶対悪として世界中から命を狙われる世界や、自分がいなくても誰もが幸せに笑っている完璧な世界を突きつけられ、上条は絶望の底へと突き落とされて自ら死を選ぼうとする。しかし、ミサカネットワークの『総体』の叱咤と導きにより、彼は「元の世界へ帰りたい」というちっぽけな己の本音を認め、勝算が皆無であることを承知で魔神オティヌスとの無限の闘争へと挑んでいく。

■ 主要キャラクター

  • 上条当麻:右手に異能を打ち消す「幻想殺し(イマジンブレイカー)」を持つ高校生。崩壊した世界にただ一人取り残され、オティヌスが作り出す絶望的な位相の世界に心を折られかける。しかし、自らのわがままな本音を貫き、オティヌスとの一万回以上に及ぶ死闘に身を投じる。
  • オティヌス:『グレムリン』を束ねる魔神の少女。完全な神の力を得て世界を崩壊させた。上条の心を折るために無数の世界を作り出し彼を殺し続けるが、無限の闘争や対話を通じて自身が本当に求めていた『理解者』を見出す。最終的には自らの理想を捨て、彼のために元の世界を復元する。
  • ミサカネットワークの総体:二万人以上の「妹達(シスターズ)」の意識をまとめた存在。生者と死者の情報が入り混じった特異な状態であったため、オティヌスの世界改変から免れた。絶望に沈む上条を導き、再び立ち上がって戦うきっかけを与える。

■ 物語の特徴

本作の最大の特徴は、世界を自在に操る「神」と特別な力を持たない「ただの人間」による、絶望的で孤独な一対一の死闘が丸ごと一冊を通して描かれる点にある。主人公が幾万回と殺されながらも、敵の行動パターンを手癖で覚えるまで諦めずに挑み続ける姿は圧巻である。さらに、絶対に勝てない圧倒的な強者に対し、武力ではなく『理解』と『対話』によって決着をつけ、最終的にはかつての巨悪を「守るべき一人の少女」として救うため、全世界を敵に回すことを決意するラストシーンは、他の作品にはない強烈なカタルシスと感動を読者にもたらす。

書籍情報

新約 とある魔術の禁書目録 9
(A Certain Magical Index)
著者:鎌池 和馬 氏
イラスト:はいむらきよたか 氏
出版社:株式会社KADOKAWA電撃文庫
発売日:2014年1月10日
ISBN:9784048662222

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

魔神オティヌスの思惑の通りに、世界は、滅びた。
オティヌスの支配は、成就した。 闘いの舞台であるグレムリンの本拠地、東京湾上に浮かぶ『船の墓場』は消失した。それどころか、世界そのものも消えて無くなった。共に来たインデックスも、御坂美琴も、レッサーやバードウェイ達も当然消えた。 統一された闇の空間。黒一色のそこに、上条当麻だけが残されていた。その理由は、ただ一つ。世界の基準点であり修復点でもある『右手』を持つからだった。 神と成ったオティヌスにとって、上条当麻はすでに微塵も興味の無い存在となっていた。いつものように、ここから彼の逆転劇が始まる可能性は、全くない。 ここはそういう『世界』だった。 そして。 そして。 そして。 これは、上条当麻の心を挫く物語。

新約 とある魔術の禁書目録(9)

感想

読んでまず感じたのは、「これは上条当麻という一人の人間を描く物語だったのか」ということである。

世界を救う戦いではなく、一人の少年の心を徹底的に壊そうとする物語。そのスケールの大きさと重苦しさに、最後まで圧倒され続けた。

魔神オティヌスは、上条の精神を折るためだけに無数の「位相」を作り出す。

彼が世界中から憎まれる世界もあれば、逆に上条当麻など最初から存在しなくても誰も困らない理想の世界もある。

どちらも「上条の存在意義」を否定するためだけに用意された世界であり、読んでいて息苦しくなるほどだった。

特に印象に残ったのは、ミサカネットワークの『総体』とのやり取りである。

これまでの上条は、どれだけ苦しくても誰かを助けるために立ち上がってきた。

しかし今回は違う。

「元の日常を返してほしい」

「自分はもう嫌なんだ」

そうやって初めて本音をさらけ出し、泣きながら弱音を吐く姿には胸を打たれた。

ここまで我慢し続けてきた主人公だからこそ、その叫びには重みがあった。

読んでいて感じたのは、この巻で上条は初めて「自分のため」に戦う決意をしたということだ。

誰かを救うためではない。

奪われた日常を、自分の手で取り戻したい。

その願いはとても身勝手なようでいて、実は一番人間らしい願いだったのだと思う。

後半の戦いも圧巻だった。

圧倒的な力を持つオティヌスに対し、何度も殺されながら戦い続け、少しずつ攻撃の癖を見抜いていく。

力では到底敵わない相手に、経験だけを積み重ねて立ち向かう姿は、禁書シリーズらしい泥臭さが詰まっていた。

しかし、それでも終わらないところが恐ろしい。

最後の最後で、上条はオティヌスの本当の願いに気付く。

彼女は世界を壊したかったのではない。

自分を理解してくれる存在を探し続けていただけだった。

敵として殺し合っていた二人が、最後には唯一の理解者になる展開は、本当に印象深かった。

そして何より衝撃だったのはラストである。

元の世界へ戻ったオティヌスは、全世界から憎まれる存在になってしまう。

そんな彼女を救うため、上条は世界中を敵に回すことを選んだ。

正義の味方であり続けた主人公が、自ら悪の側へ立つことを決める。

この決断には鳥肌が立った。

それは善悪を超えて、「一人くらい理解者がいてもいいじゃないか」という、上条らしい答えだったように思う。

読んでいて感じたのは、この巻は派手な能力バトルではなく、上条当麻という主人公の心を描き切った物語だったということだ。

極限の絶望を経験したからこそ見えた本音。

そして、その先で結ばれたたった一人との絆。

読み終えた後もしばらく余韻が消えず、「新約」の中でも特に印象に残る一冊になった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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新約 とある魔術の禁書目録(8)レビュー
新約 とある魔術の禁書目録まとめ
新約 とある魔術の禁書目録(10)レビュー

考察・解説

オティヌスの世界改変

『新約 とある魔術の禁書目録9』における「オティヌスの世界改変」は、魔神として完成したオティヌスが、世界を修復する唯一の基準点である上条当麻の精神を破壊し、その右腕に宿る幻想殺し(インデックスリサーサー)を無力化するために実行した、精神的絶望の強制プロセスとして描かれている。

位相の差し替えによる認識世界の書き換え、クラスメイトや両親から殺意を向けられる絶対悪の世界、別の誰かが上条の位置に収まる存在を奪われた世界、上条がいないことで全員が救われている完璧な幸福の世界、そして記憶の隠蔽という反則の看破と孤独を共有できる理解者の発見にいたる全容は以下の通りである。

上条当麻の精神を折ることによる幻想殺しの無力化と檻への封じ込め

魔神として完成し、元の世界を崩壊させたオティヌスは、何もない漆黒の空間に上条当麻だけを残した。

・彼女の目的は、世界を修復する唯一の基準点である上条の右腕を物理的に破壊することではなかった。

・上条自身の精神をへし折り、彼という檻の中に幻想殺しを封じ込めて無力化することであった。

異なる宗教のフィルターである位相の自在な生成と差し込みによる書き換え

オティヌスが行ったのは、世界を物理的に作り直すことではなく、世界の「見え方」を変えることであった。

・世界には十字教や仏教、北欧神話など様々な宗教の位相(天国や地獄などのフィルター)が重なっている。

・オティヌスは新しい位相を自在に生み出して世界に差し込む手法をとった。

・これにより、上条の認識する世界を何度でも書き換えた。

クラスメイトからの殺意や別人のなりすましおよび自死へ追いやる完璧な幸福

オティヌスは上条の心を折るために、幾千億もの残酷な世界(位相)を作り出し、彼を殺し続けた。

・絶対悪の世界(Version_Alpha):上条当麻のこれまでの行動が自身の都合で他人の世界を壊してきた悪と見なされ、世界中から命を狙われる世界である。連合軍からの空爆を受け、吹寄制理や青髪ピアスといったクラスメイト、さらには恩師の月詠小萌や両親からまで憎悪と殺意を向けられる。

・存在を奪われた世界(Version_Beta):全く見知らぬ別人が上条当麻としてインデックスやクラスメイトの輪の中に収まっている世界である。周囲の誰も違和感を抱かず、本来の上条は誰にも認識されない、交換可能な電池のような存在として孤独に打ち捨てられる。

・完璧な幸福の世界(Version_Omega):上条当麻が存在しなくても、すべての悲劇が回避されている世界である。御坂妹たちの犠牲など、上条には救えなかった命すらも救われており、誰もが幸せに笑っている。これは、自分が元の世界に戻すことは、この幸福な世界を壊し、皆を再び不幸にする悪であると上条に思い込ませ、彼を自死へ追いやるための最大の罠であった。

ミサカネットワーク総体による記憶隠蔽の指摘と元の世界への帰還願望の露呈

完璧な幸福の世界を前に完全に心が折れ、自殺を選ぼうとした上条であったが、オティヌスの支配から逃れていたミサカネットワークの総体の指摘により踏みとどまる。

・総体は、オティヌスが、元の世界(上条の喪失)を覚えていると人々が悲しむため、彼らの記憶を隠蔽しているという反則を犯していることを見抜いた。

・再び立ち上がった上条は、オティヌスがこれほど執拗に世界を書き換え続けた真の理由を指摘する。

・それは、オティヌス自身が自らが作り出した都合の良い偽物の世界で妥協できず、どうしても自分の生まれ育った元の世界へ帰るという第一希望を諦めきれなかったためであった。

・上条との果てしない闘争と対話の末に、オティヌスは自身が本当に求めていたものが完璧な世界ではなく、自らの孤独を共有できる理解者であったことに気づくこととなる。

まとめ

オティヌスの世界改変は、全能の力を得た魔神が、一個人の心を破壊するためだけに幾千億の位相を重ね合わせた、壮絶な精神的拷問の記録である。絶対悪としての糾弾や存在の忘却、さらには自身がいない方が皆が幸せになれるという究極の精神攻撃は上条を自死の寸前まで追い詰めた。しかし、記憶隠蔽の欺瞞を突かれて形勢は逆転し、世界改変の乱発が「元の世界へ帰りたい」というオティヌス自身の孤独の裏返しであったことが上条の対話によって暴かれる。完璧な偽物の世界を否定し合い、死闘の果てに互いを唯一の理解者として認め合うに至った結末は、神の座の虚しさと人間との絆の強さを厳密に証明している。

完璧な世界の否定

『新約 とある魔術の禁書目録9』における「完璧な世界の否定」は、魔神オティヌスが上条当麻の精神を破壊するために提示した究極の幸福な世界に対し、上条がその背後にある欺瞞と神の反則を看破し、自身のちっぽけな本音を受け入れて立ち上がる決定的な転換点として描かれている。

すべての人が悲劇から解放された世界の構造、皆の幸福を守るための自死の決意、ミサカネットワークの総体が指摘した記憶隠蔽と因果応報の遮断というイカサマ、そして偽りの完璧さを排して元の日常へ帰るための闘争の決意にいたる全容は以下の通りである。

上条当麻がいないことを大前提とした悲劇のない黄金比の世界

魔神オティヌスは、上条当麻の精神を完全にへし折るために、最後に完璧な幸福の世界(Version_Omega)を作り出した。

・そこでは、かつて上条が救えなかった命も含め、すべての人が悲劇から解放され、事件も借金も失恋もない平和な日々を送っていた。

・しかし、この世界は上条当麻がいないことを大前提とした黄金比の計算で成り立っている。

・そのため、彼が一個体として存在するだけでいずれ誤作動を起こし、崩壊を迎えるように作られていた。

自分が消えれば皆が幸せになれるという悟りとビルの屋上での自殺の選択

この光景を見せつけられた上条は、自分が良かれと思って介入してきた選択が、かえって悲劇を加速させていたのではないかと自問する。

・彼は自分が消えれば皆が幸せになれると悟った。

・この完璧な世界を守るために、自らの命に決着をつける(自殺する)という道を選ぼうとした。

犠牲を知ることで生じる世界の離反への恐れと人々の善意や好悪の感情操作

自殺の直前に現れたミサカネットワークの総体は、この完璧に見える世界に隠されたオティヌスの決定的な反則を指摘し、その正当性を否定した。

・記憶の隠蔽:救われた人々は元の世界の記憶を失っていた。もし彼らが真実を知り、自分たちの幸福が上条当麻という一人の少年の犠牲の上に成り立っていると理解すれば、彼らの心は壊れ、この幸せな世界から離反してしまう。オティヌスはそれを恐れ、都合よく彼らの記憶を隠蔽していたのである。

・因果応報の遮断:上条がこれまで血反吐を吐きながら築いてきた絆は本物であり、もし彼が世界中の笑顔に押し潰されそうになっていると知れば、人々はすべてをかなぐり捨ててでも彼を助けに来るはずであった。オティヌスはその可能性を恐れ、人々の善意や好悪の感情を操作して因果応報が正しく回らないよう設定を変更した。それは神の御業ではなく、低レベルで卑怯なイカサマに過ぎなかった。

自由な意思や尊厳を奪った欺瞞の打破と当たり前の日常に帰りたいという慟哭

総体から、本当に完璧な世界なら、お前が何を口走ったところで亀裂一つ入らないはずだ、と指摘された上条は、この世界が人々の自由な意思や尊厳を奪った上に成り立つ欺瞞の世界であることに気づく。

・総体に自分自身を一番に優先してもいいと諭された上条は、ついに心の中に溜め込んでいた感情を爆発させた。

・万人を救うという奇麗ごとや大義名分ではなく、ただ元の当たり前の日常に帰りたい、自分からすべてを奪ったオティヌスが悔しい、という、あさましく独りよがりな本音を号泣しながら吐き出した。

・結果として、上条当麻はこの偽りの完璧な世界を明確に否定し、世界中の笑顔を犠牲にし、すべての罪を背負ってでも、たった一つの自分の居場所を取り戻すために魔神オティヌスと戦う決意を固めたのである。

まとめ

完璧な世界の否定は、神が用意した絶対的な幸福という名の檻を、人間の泥臭い本音と他者との真実の絆によって打ち破る、新約9巻の核心的なクライマックスである。オティヌスの作った世界は一見非の打ち所がない理想郷であったが、その実態は上条の犠牲を隠蔽し、人々の自由な意思や善意を操作することで維持された張り子の虎に過ぎなかった。総体の鋭い指摘によって神のイカサマを看破し、みっともない本音の慟哭を経て日常への強烈な執着を肯定した上条は、偽りの調和を壊す絶対悪となる覚悟を完了し、たった一人の居場所を取り戻すための無限の闘争へと再び歩みを進めている。

幻想殺しと魔神の対決

『新約 とある魔術の禁書目録』における「幻想殺し(イマジンブレイカー)」と「魔神(オティヌス)」の対決は、世界を自らの理想の形に作り変えようとする神の全能に対し、世界を元に戻す修復点である右手を宿した少年が、果てしない死闘の末にその牙城を崩す人類史最大の防衛戦として描かれている。

世界を身勝手に歪めた魔術師たちのための基準点としての幻想殺しの役割、上条当麻という檻の中に封じ込めるため幾千億の位相で精神を折るオティヌスの戦略、テレビゲームのプレイヤーと作業者の違いが生んだ精神的摩耗の逆転劇、そして積み重ねた経験によって穂先を読み切り主神の槍(グングニル)を完全分解させた決着にいたる全容は以下の通りである。

魔術師たちが世界を身勝手に歪めた後の基準点および修復点としての右手の役割

魔神オティヌスは主神の槍を完成させ、世界を丸ごと崩壊させて真っ黒な何もない空間を作り出した。その中で唯一、上条当麻だけが生き残された。

・オッレルスによれば、上条の右手に宿る幻想殺しは、魔術師たちが世界を身勝手に歪めた後、元に戻し方が分からなくなった時のための基準点や修復点である。

・世界を自在に変質させ、自らの理想の形に作り変えようとするオティヌスにとって、世界を元に戻す可能性を秘めた幻想殺しは、自らの思想と相容れない最大の邪魔者であった。

絶対悪として命を狙われる世界や完璧な幸福の世界による檻への封じ込め

オティヌスは、上条を物理的に殺して幻想殺しが他の何かに宿るリスクを避けるため、彼自身の精神をへし折り、上条当麻という檻の中に幻想殺しを宝の持ち腐れとして封じ込める道を選んだ。

・そのために彼女は、上条が絶対悪として世界中から命を狙われる世界や、彼がいなくても全員が完璧に幸せな世界など、幾千億もの位相(見方が違う世界)を生み出して上条を絶望へと追い詰めた。

・しかし上条は、偽りの完璧な世界を否定し、元の世界を取り戻すために勝ち目のない魔神との闘争へと挑む決意を固める。

無謀な挑戦にやり甲斐を見出すプレイヤーと退屈な作業を繰り返す神の落差

人と神とでは根本的なスペックが違いすぎた。上条は一度も勝てず、ひしゃげ、切断され、爆散され、数えるのも忘れるほど何度も殺され続けた。

・しかし、同じ地獄のような迷宮を共有し続ける中で、両者の精神的摩耗の速度に落差が生じ始める。

・上条はテレビゲームのプレイヤーのように、無謀な挑戦にやり甲斐を見出し、何度も殺されながらオティヌスの戦闘パターンを手癖で覚えるまで分析し続けていた。

・一方で、圧倒的な強者であるオティヌスにとって、弱すぎる相手を延々と狩り続ける行為は単なる退屈な作業でしかない。

・これにより、先に限界を迎えて動きを止めたのは神であるオティヌスの方であった。

圧倒的な速度と破壊力の必殺攻撃に対する一点読みと右拳の激突による完全分解

摩耗によってこれ以上の繰り返しが不可能になったオティヌスは、ついに上条を完全に屠るため、主神の槍を構えて一撃を放つ。

・普通に真正面から受ければ、圧倒的な速度と破壊力によって全身を粉砕される必殺の攻撃であった。

・しかし、上条はこれまでの闘争で積み重ねた経験によって、槍の先端が来るただ一点を読み切っていた。

・彼は右の拳を硬く握りしめて前へ突き出し、槍の穂先へと激突させる。

・上条の右拳によって真上へ跳ね上げられた主神の槍は、軌道を大きく変え、オティヌスの元へ返る前に空中で完全にバラバラに分解し、破壊された。

・スペックでは絶対に敵わない魔神に対し、積み重ねた経験と幻想殺しの力によって、上条当麻は決定的な勝利をもぎ取ったのである。

まとめ

幻想殺しと魔神の対決は、神の領域の全能性を、人間の経験の積み重ねと「世界の基準点」という不変の力が打ち破る極限の勝利劇である。物理的な抹殺を避けて精神を折ろうとしたオティヌスの計算は、テレビゲームのプレイヤーのごとく死を学習し続けた上条の驚異的な適応力によって狂わされ、精神的摩耗の逆転を許す結果となった。絶望的なスペックの差を心の在り様で埋め、最終的には必殺の主神の槍の軌道を右手一本で読み切って粉砕した結末は、どれほど世界が歪められようとも、決して揺るがない人間の意地と世界の修復力を厳密に証明している。

理解者としての絆

『新約 とある魔術の禁書目録9』における上条当麻と魔神オティヌスの関係性は、無限の死闘と絶望の果てに結ばれた「理解者としての絆」として描かれている。人と神という相容れない立場から始まった二人が、究極の絆を結ぶに至った全容は以下の通りである。

恐怖や敵対に囲まれた魔神の絶対的孤独、何万回もの殺戮空間の共有を通じた本音の看破、上条の元の世界を再生させるための自己犠牲の決意、そして世界中から巨悪と見なされる少女を守るための全世界への宣戦布告にいたる全容は以下の通りである。

絶大な力ゆえの疎外の傷と風景ではなく自身に寄り添う理解者への真の渇望

魔神オティヌスは世界を自在に操る絶大な力を持つ一方で、その力故に常に孤独を抱えていた。

・彼女を取り巻く関係は、同種の力を持ちながら敵対するオッレルスのような存在か、恐怖で縛り付けられたグレムリンの配下であった。

・あるいは、その強大な力に怯えて結集した多国籍連合軍しか存在しなかった。

・彼女は自らがこね回して分からなくなってしまった元の世界へ帰ることを強く望んでいた。

・しかし、漆黒の世界に一人取り残された時に、自分が本当に求めていたものが単なる風景としての元の世界ではないことに気づく。

・彼女が欲していたのは、何かがズレてしまった世界の中で、自身の疎外の傷を理解し、寄り添ってくれる理解者であった。

幾千億の残酷な世界での地獄と次の世界への逃げをためらう弱さの看破

漆黒の空間に取り残された上条当麻は、オティヌスによって幾千億もの残酷な世界(位相)を見せつけられ、何万回も殺され続けるという地獄を味わう。

・しかし、同じ迷宮を共有し、絶望的な闘争を繰り返す中で、上条はただやられるだけでなくオティヌスの心の奥底にある本音を見抜いていく。

・彼は、オティヌスが元の世界へ帰るという第一希望をどうしても諦めきれず、簡単に作れる次の世界へ逃げることをためらっているのだと突きつけた。

・己の葛藤と弱さを正面から見抜かれたオティヌスは、自身を敵対者として憎むはずの上条当麻が、いつしか自分を最も深く理解する理解者へと醸成されていることに驚愕する。

致命傷を負った少年の命の委ねと自らの理想を捨てた元の世界への帰還選択

二人の死闘の最終盤、オティヌスの圧倒的な力によって胸を貫かれ致命傷を負った上条は、最期の瞬間に自らの右手を差し出し、お前の世界、第一希望を取り戻してくれ、と彼女に命を委ねる。

・この敗北者の言葉によって、オティヌスは自分が本当に求めていたものが理解者であると確信した。

・そして彼女は、世界を修復するチャンスを自分のためではなく、上条当麻が生まれ育った元の世界を取り戻すために使うという決断を下す。

・それは、自らの理想や夢を完全に捨て去り、世界中から憎悪されて貪られる悲惨な結末(自業自得の罰)を自ら受け入れることを意味していた。

主神の槍を失った巨悪への総攻撃と全世界を敵に回す右拳の拒絶

上条当麻が目を覚ますと、そこは自分が切望していた元の世界の船の墓場であり、オティヌスの手からは世界を支配する主神の槍が失われていた。

・元の世界の人々(インデックスや御坂美琴、多国籍連合軍)にとって、オティヌスは未だに世界を脅かした巨悪であり、彼女に対する総攻撃が開始される。

・しかし、上条当麻だけは、オティヌスが自分に内緒で自らの理想を捨て、自分を助けてくれた真実を知っていた。

・世界中の憎悪を一身に受けて死の淵に追いやられ、早く行け、と自分を突き放す少女に対し、上条当麻は彼女を見捨てることを決して良しとしなかった。

・彼は、だったら、俺がお前を助けてやる。世界の全てと戦ってでも、と宣言した。

・善悪の基準や理不尽を越え、自分を救ってくれた理解者であるたった一人の少女の命と笑顔を守るため、上条当麻が全世界を敵に回して右の拳を握り締めるこの瞬間こそが、二人の間に結ばれた決して揺るがない理解者としての絆の集大成と言える。

まとめ

上条当麻とオティヌスの関係性は、無限の殺戮と対話を経て、神の絶対的孤独を人間の深い共感が救い出す究極の相互理解の物語である。風景としての元の世界ではなく、傷を共有できる理解者を切望していたオティヌスは、上条の無謀な闘争と最期の懇願によって救われ、自らの全能性と槍を破棄して彼の日常を再生させる自己犠牲を選んだ。世界中から巨悪として追いつめられる少女の真実を知る唯一の存在として、上条が全世界を敵に回してでも彼女を守ると誓った決断は、善悪や世界の摂理すら超越した、個と個の決して揺るがない絆の価値を厳密に証明している。

新約 とある魔術の禁書目録(8)レビュー
新約 とある魔術の禁書目録まとめ
新約 とある魔術の禁書目録(10)レビュー

登場キャラクター

学園都市

上条当麻

右手に異能を打ち消す「幻想殺し」を宿す高校生である。魔神オティヌスによって無数の世界へ放り込まれ、絶望的な闘争を繰り返す。

・所属組織、地位や役職
 学園都市の学生。
・物語内での具体的な行動や成果
 オティヌスが作り出す世界で心を折られかけるが、ミサカネットワークの総体に救われて再び立ち上がる。オティヌスの攻撃パターンを記憶して反撃し、彼女の槍を破壊した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 オティヌスから魔神の力を放棄させ、全世界を敵に回して彼女を守ることを決意した。

御坂美琴

学園都市の超能力者である。上条当麻とともに行動し、彼を支援する。

・所属組織、地位や役職
 常盤台中学の生徒。超能力者。
・物語内での具体的な行動や成果
 超音速旅客機に乗り込み、墜落後は上条当麻と共に地下鉄でフレイヤと戦った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 オティヌスが作った完璧な世界では、上条当麻が役目を奪わなかった未来の姿として描かれた。

雲川鞠亜

メイド服を着た少女である。恩人である木原加群を慕っている。

・所属組織、地位や役職
 繚乱家政女学校の生徒。メイド候補生。
・物語内での具体的な行動や成果
 超音速旅客機に乗り、木原加群が死んでいても彼を見届けるために東京に残ることを選んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 別の見方の世界では、雲川芹亜の妹として上条当麻と騒動を繰り広げた。

吹寄制理

上条当麻のクラスメイトである。長い黒髪を持つ少女として描かれる。

・所属組織、地位や役職
 学園都市の学生。
・物語内での具体的な行動や成果
 オティヌスが変えた世界では、上条当麻を恨み、ガラス片で彼の脇腹を刺した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 別の世界では、教室で上条当麻と日常のやり取りを行っている。

青髪ピアス

上条当麻のクラスメイトである。親しい友人として日常を共有する。

・所属組織、地位や役職
 学園都市の学生。
・物語内での具体的な行動や成果
 オティヌスが変えた世界では、上条当麻に強い憎悪を抱いて鈍器で襲いかかった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 別の世界では、上条当麻をからかいながら胴上げを行った。

月詠小萌

上条当麻の担任教師である。小柄な体格をしている。

・所属組織、地位や役職
 学校の教師。
・物語内での具体的な行動や成果
 オティヌスが変えた世界では、クラスの生徒を守るために泣きながら上条当麻を包丁で襲撃した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 別の世界では、教室で上条当麻の奇行に驚きながら授業を始めようとした。

土御門元春

上条当麻のクラスメイトである。日常の騒動に参加する。

・所属組織、地位や役職
 学園都市の学生。
・物語内での具体的な行動や成果
 オティヌスが変えた世界では、青髪ピアスと共に上条当麻をからかって胴上げを行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 教室での馬鹿騒ぎを楽しむ友人として描かれている。

雲川芹亜

雲川鞠亜の姉である。人の心を操る技術を持つ。

・所属組織、地位や役職
 学園都市の学生。
・物語内での具体的な行動や成果
 オティヌスが変えた世界で、妹の鞠亜を心配しつつも、上条当麻へ強烈なドロップキックを放った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 常に冷静な態度を保とうとするが、上条当麻の行動には堪忍袋の緒を切らした。

麦野沈利

学園都市の超能力者である。オティヌスの作った完璧な世界に登場する。

・所属組織、地位や役職
 学園都市の学生。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、フレンダ達とレストランで食事をしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 化学調味料に注意するようフレンダへ文句を言っている。

フレンダ=セイヴェルン

麦野沈利と行動を共にする少女である。

・所属組織、地位や役職
 学園都市の暗部のメンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、麦野達とレストランで食事をしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 年中缶詰ばかり食べていると麦野に指摘された。

浜面仕上

学園都市の少年である。

・所属組織、地位や役職
 学園都市の不良。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、遅刻したことを咎められながら仲間達と合流した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 駒場や半蔵と一緒に行動している姿が描かれた。

フレメア=セイヴェルン

フレンダの妹である。

・所属組織、地位や役職
 学園都市の小学生。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、レストランにいる姉を見つけて駆け寄った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 極限の筋肉を持つ駒場に懐いている様子が描かれた。

駒場利徳

学園都市の不良グループのリーダーである。

・所属組織、地位や役職
 不良グループのリーダー。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、浜面達と共にレストランの仲間のもとへ現れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 自動販売機のルーレットで当たりが止まらなくなったことが遅刻の原因とされた。

服部半蔵

学園都市の不良である。

・所属組織、地位や役職
 不良グループのメンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、近道を提案したことで浜面達の遅刻の原因を作った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 浜面や駒場と行動を共にしている。

エツァリ

褐色の肌を持つ青年である。

・所属組織、地位や役職
 魔術師。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、トチトリと共に歩いている姿が描かれた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 トチトリの機嫌を直すのに苦労している。

トチトリ

エツァリと共に行動する少女である。

・所属組織、地位や役職
 魔術師。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、騒ぎを聞きつけてエツァリを連れてきた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 頬を膨らませてエツァリを困らせている。

一方通行

学園都市第一位の超能力者である。

・所属組織、地位や役職
 学園都市の学生。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、妹達が屋台を見て喜んでいる様子を眺めている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 かつての罪を清算し、妹達とともに祭りの会場にいる。

芳川桔梗

学園都市の研究者である。

・所属組織、地位や役職
 学園都市の研究員。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、祭りの会場で天井亜雄と共に何かを微笑ましく眺めていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 胸にネームプレートを付けている。

天井亜雄

学園都市の研究者である。

・所属組織、地位や役職
 学園都市の研究員。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、芳川桔梗と共に祭りの会場を歩いていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 胸にネームプレートを付けている。

打ち止め

一方通行と行動を共にする幼い少女である。

・所属組織、地位や役職
 妹達の司令塔。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、祭りの会場で歓喜の声を上げていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 一方通行の側にいるちびっ子社長として言及された。

御坂妹(一〇〇三二号)

上条当麻によって命を救われたクローンである。

・所属組織、地位や役職
 学園都市のクローン。
・物語内での具体的な行動や成果
 総体の口から、無事に助かった妹として言及された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 事件の際に上条当麻が直接知り合った妹の一人である。

一〇〇三一号

ミサカネットワークの総体に肉体を貸している妹達の一人である。

・所属組織、地位や役職
 学園都市のクローン。
・物語内での具体的な行動や成果
 総体が上条当麻と会話するための器として機能した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 上条当麻がタッチの差で助けられなかった妹として言及された。

ミサカネットワークの総体

二万人以上の妹達の意識や自我をまとめた存在である。生者と死者の情報が入り混じった状態にある。

・所属組織、地位や役職
 ミサカネットワークの全体意志。
・物語内での具体的な行動や成果
 オティヌスの世界改変から逃れ、絶望する上条当麻を叱咤して立ち上がらせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 オティヌスの作った完璧な世界の矛盾を指摘し、上条当麻に本来の戦う理由を思い出させた。

番外個体(ミサカワースト)

悪意の塊として作られたクローンである。

・所属組織、地位や役職
 第三次製造計画の要。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、一方通行に追加のおねだりをしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 祭りの会場で他の妹達とともにはしゃいでいる。

木原加群(ベルシ)

雲川鞠亜の恩人である。

・所属組織、地位や役職
 グレムリンのメンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
 船の墓場へ向かう上条達を襲うニーズヘッグを撃破した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 完璧な世界では、雲川鞠亜と共に祭りの会場を見回っている。

グレムリン

オティヌス

科学と魔術の融合組織であるグレムリンを束ねる魔神の少女である。世界を自在に改変する力を持つ。

・所属組織、地位や役職
 グレムリンの頂点。
・物語内での具体的な行動や成果
 上条当麻の精神を折るために無数の世界を作り出し、殺戮を繰り返した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 上条当麻との無限の戦いの末に理解者を見出し、第一希望の元の世界を取り戻すために力を放棄した。

ロキ

グレムリンに所属する魔術師である。燕尾服の老人として描かれる。

・所属組織、地位や役職
 グレムリンのメンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
 北海に浮かぶ囮の船の墓場でイギリスの大部隊を騙し切った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 時間を稼ぐことで世界の趨勢を左右しようとした。

フレイヤ

豊穣神を名乗る魔術師である。地下鉄で上条当麻たちを待ち受ける。

・所属組織、地位や役職
 グレムリンの魔術師。
・物語内での具体的な行動や成果
 わざと穴を残して強敵を誘い込み、上条当麻と交戦した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 インデックスや御坂美琴の協力を得た上条当麻によって撃破された。

マリアン=スリンゲナイヤー

黒小人と呼ばれる魔術師である。

・所属組織、地位や役職
 グレムリンの魔術師。
・物語内での具体的な行動や成果
 槍の製造作業を行っていたが、それは世界を騙すための囮であった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 完璧な世界では、トールやベルシと共に祭りの会場へ向かっている。

トール

グレムリンの魔術師である。

・所属組織、地位や役職
 グレムリンのメンバー。雷神。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、マリアン達に急かされながら祭りへ参加しようとしていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 オッレルスが彼に化けて船の墓場へ潜入していた。

ミョルニル

トール達とともに行動する魔術師である。

・所属組織、地位や役職
 グレムリンのメンバー。投擲の槌。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、マリアンから配慮されるべき存在として言及された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 嫉妬で爆発する可能性があると評されている。

イギリス・イギリス清教・騎士派

エリザード

英国の女王である。

・所属組織、地位や役職
 英国女王。
・物語内での具体的な行動や成果
 国連での首脳会議に参加し、部下からの連絡を受けて船の墓場の位置を推測した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 オティヌスが変えた世界では、上条当麻討伐を名誉のための戦いと称して応じた。

キャーリサ

英国第二王女である。

・所属組織、地位や役職
 英国第二王女。
・物語内での具体的な行動や成果
 騎士団長や傭兵ウィリアムと共に、北海に浮かぶ囮の船の墓場へ攻撃を仕掛けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ロキと遭遇し、彼に騙されていたことに気づいた。

騎士団長

英国の騎士派を束ねる存在である。

・所属組織、地位や役職
 騎士派のトップ。
・物語内での具体的な行動や成果
 キャーリサやウィリアムと共に、北海に浮かぶ囮の船の墓場へ攻撃を仕掛けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 前線に立って戦闘の指揮を執っている。

ウィリアム=オルウェル

かつて後方のアックアと呼ばれた傭兵である。

・所属組織、地位や役職
 傭兵。
・物語内での具体的な行動や成果
 キャーリサや騎士団長と共に、北海に浮かぶ囮の船の墓場へ攻撃を仕掛けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 英国の大部隊の中心として活動している。

インデックス

完全記憶能力を持つシスターである。上条当麻と日常を共にする。

・所属組織、地位や役職
 イギリス清教のシスター。
・物語内での具体的な行動や成果
 上条当麻と共に超音速旅客機に乗り、墜落後は地下鉄で彼を支援した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 元の世界に戻った後、状況を理解できないままオティヌスへ攻撃を仕掛けた。

ステイル=マグヌス

イギリス清教の魔術師である。

・所属組織、地位や役職
 イギリス清教の魔術師。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、インデックスの声に反応して行動を共にしていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 上条当麻が役目を奪わなかった未来の姿として描かれている。

神裂火織

イギリス清教の聖人である。

・所属組織、地位や役職
 イギリス清教の魔術師。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、インデックスやステイルとともに行動していた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 上条当麻が役目を奪わなかった未来の姿として描かれている。

シェリー=クロムウェル

イギリス清教の魔術師である。

・所属組織、地位や役職
 イギリス清教の魔術師。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、亡き親友のエリスとともに笑顔を見せている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 科学に対して憎悪を抱かずに済んだ未来として描かれている。

ルチア

イギリス清教に出向中の修道女である。

・所属組織、地位や役職
 ローマ正教の修道女。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、高額なホットドッグを見つけて興奮していた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 アニェーゼやオルソラとともに行動している。

オルソラ=アクィナス

修道女である。

・所属組織、地位や役職
 修道女。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、高額なホットドッグをすでに食べ始めていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ルチアにその様子を指摘されている。

アニェーゼ=サンクティス

イギリス清教に出向中の修道女である。

・所属組織、地位や役職
 ローマ正教の修道女。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、若い夫婦とともにサンドイッチを頬張っていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 両親と平和な時間を過ごしている姿が描かれた。

ローマ正教

前方のヴェント

ローマ正教の神の右席である。

・所属組織、地位や役職
 神の右席。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、幼い弟の手を引いて歩いていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 弟を失わなかった平和な未来の姿として描かれた。

左方のテッラ

ローマ正教の神の右席である。

・所属組織、地位や役職
 神の右席。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、パラソルの下でアイスコーヒーを飲んでいた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 同僚から処刑されずに済んだ未来として描かれた。

ロシア成教

ロシア成教の重鎮

ロシア成教を代表する人物である。

・所属組織、地位や役職
 ロシア成教の指導層。
・物語内での具体的な行動や成果
 オティヌスが変えた世界において、大聖堂の前で上条当麻を澱みと呼び、討伐を肯定する演説を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 信者たちへ向けた演説がテレビで放送されていた。

アメリカ合衆国

ロベルト=カッツェ

アメリカ合衆国の大統領である。

・所属組織、地位や役職
 アメリカ合衆国大統領。
・物語内での具体的な行動や成果
 国連本部で各国首脳に対し、船の墓場への総攻撃を宣言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 オティヌスが変えた世界では、上条当麻を悪魔と呼び、討伐の正当性を世界に向けて演説した。

魔術結社「明け色の陽射し」

レイヴィニア=バードウェイ

魔術結社を率いる金髪の少女である。

・所属組織、地位や役職
 魔術結社「明け色の陽射し」のボス。
・物語内での具体的な行動や成果
 上条当麻を精密誘導爆弾に例え、槍の製造を中断させる役割を説明した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 元の世界に戻った後、状況を理解できないままオティヌスへ攻撃を仕掛けた。

魔術結社「新たなる光」

レッサー

上条当麻とともに戦場へ向かう魔術師の少女である。

・所属組織、地位や役職
 魔術結社「新たなる光」のメンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
 上条当麻とともに超音速旅客機に乗り、墜落後も船の墓場を目指した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 元の世界に戻った後、状況を理解できないままオティヌスへ攻撃を仕掛けた。

その他の魔術師

オッレルス

魔神になり損ねた青年である。オティヌスに対抗する術式を仕掛ける。

・所属組織、地位や役職
 魔術師。
・物語内での具体的な行動や成果
 雷神トールに化けて船の墓場に潜入し、右方のフィアンマと共にオティヌスへ妖精化を打ち込んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 彼の放った術式が、結果としてオティヌスの魔神としての可能性を広げることになった。

右方のフィアンマ

かつて第三次世界大戦を引き起こした魔術師である。

・所属組織、地位や役職
 魔術師。
・物語内での具体的な行動や成果
 オッレルスと共に船の墓場へ潜入し、オティヌスへ対魔神用の術式である妖精化を打ち込んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 彼の行動はオティヌスに贈り物を与える結果となった。

オリアナ=トムソン

魔術業界の運び屋である女性である。

・所属組織、地位や役職
 運び屋。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、子供や老婆たちと一緒に笑っている姿が描かれた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 争いから解放された平和な生活を送っている。

その他の個人

上条刀夜

上条当麻の父親である。

・所属組織、地位や役職
 会社員。
・物語内での具体的な行動や成果
 オティヌスが変えた世界において、上条当麻を産んだ罪を裁かれる場に立ち、彼の討伐に協力すると宣言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 テレビの液晶画面越しにその様子が映し出された。

上条詩菜

上条当麻の母親である。

・所属組織、地位や役職
 主婦。
・物語内での具体的な行動や成果
 オティヌスが変えた世界において、刀夜とともに罪を裁かれる場に立っている映像が流れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 テレビの液晶画面越しにその様子が映し出された。

ヴェントの弟

前方のヴェントの弟である。

・所属組織、地位や役職
 一般人。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、ヴェントと手を繋いで歩いている姿が描かれた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 過去の悲劇が回避され、平和に生きている。

エリス

シェリー=クロムウェルの亡き親友である。

・所属組織、地位や役職
 一般人。
・物語内での具体的な行動や成果
 完璧な世界において、シェリーとともに笑顔で走り去る姿が描かれた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 上条当麻が救えなかった命が救われた象徴として現れる。

スフィンクス

インデックスが飼っている三毛猫である。

・所属組織、地位や役職
 ペット。
・物語内での具体的な行動や成果
 別の見方の世界において、インデックスの頭の上に乗っていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 インデックスの行動に巻き込まれながらも気楽に過ごしている。

怪物・術式

ニーズヘッグ

グレムリンの防衛装置である悪竜のような怪物である。

・所属組織、地位や役職
 グレムリンの怪物。
・物語内での具体的な行動や成果
 船の墓場を目指す上条当麻たちを襲撃したが、木原加群によって撃破された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 東京湾への進行を妨害する役割を担った。

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展開まとめ

序章ある世界の終わり Game_Over. 

世界崩壊への道筋

国連の総攻撃

ニューヨークの国連本部では、ロベルト=カッツェが各国首脳へ、グレムリンの本拠地である船の墓場へ連合勢力で総攻撃を仕掛けると告げた。魔神の槍が完成すれば世界六〇億人が束になっても勝ち目はないため、残された時間は一二時間しかなかった。

船の墓場には、魔神になるはずだったオッレルスが雷神トールに化けて潜入していた。彼もまた、槍の製造を止めるために動く時が来たと考えていた。

囮の船の墓場

バードウェイは上条当麻を学園都市から連れ出し、槍の製造を中断させるための精密誘導爆弾のような役割だと説明した。彼女は、上条当麻がオティヌスに勝つのではなく、繊細な作業の最中へ幻想殺しを放り込むことに意味があると見ていた。

一方、英国の大部隊は北海の船の墓場を攻撃したが、そこにいたロキによって騙されていた。本物の船の墓場は東京湾にあり、東京西部の学園都市と東京東部の船の墓場が激突すれば、東京二三区全域が戦場になる状況だった。

東京湾への道

上条当麻、インデックス、御坂美琴、バードウェイ、レッサー、雲川鞠亜は、それぞれの理由で超音速旅客機へ乗り込んだ。しかし学園都市の領空を抜けた直後、悪竜のような存在に襲撃され、機体は爆発した。

上条達はパラシュートで散り散りになりながらも、船の墓場を目指した。上条当麻は交通麻痺した東京を進むため地下鉄の屋根へ飛び乗り、そこでグレムリンの魔術師フレイヤと戦った。

フレイヤと木原加群

フレイヤは強敵を誘うためにあえて穴を残し、上条当麻を迎え撃った。上条当麻はインデックスと御坂美琴の力を借り、何とかフレイヤを撃破して東京湾へ向かった。

その後、グレムリンの防衛装置であるニーズヘッグが襲いかかったが、木原加群がそれを撃破した。雲川鞠亜は、木原加群がすでに死んでいても、そのわがままに付き合う人間が一人くらいいてもよいとして、その場に残ることを選んだ。

妖精化の失敗

船の墓場では、オッレルスと右方のフィアンマが、魔神を矮小化する切り札である妖精化を使ってオティヌスへ挑んでいた。彼らはオティヌスへ妖精化を叩き込むことに成功した。

しかしオティヌスは余裕を失わなかった。成功しても失敗しても、自分には魔神として完成するチャンスが与えられると告げ、オッレルス達の決死の作戦さえ自分への贈り物に過ぎないと見なしていた。

完成したオティヌス

ようやく船の墓場へ到着した上条当麻達の前で、オティヌスは眼帯の奥から槍を引き抜いた。彼女は、マリアン=スリンゲナイヤーもグレムリンも囮であり、自分一人で槍を作れることを隠すために利用していたと明かした。

上条当麻は絶望的な状況を否定しようとしたが、オティヌスはつまらなさそうに、ちまちま戦うのは面倒だから世界を丸ごと壊してみると告げた。直後、冗談ではなく、世界のすべてが壊れた。

第五章 最果てよりも遠く Point_Unknown. 

黒一色の世界

失敗の現実

上条当麻は、魔神オティヌスの声で目を覚ました。彼女は、上条当麻が失敗し、その結果が今の状況だと告げた。

上条当麻の周囲には、黒一色の平坦な世界だけが広がっていた。船の墓場も東京湾もなく、空と地面の区別さえつかないほど、すべてが同じ黒に塗り潰されていた。

消えた人々

上条当麻は、ここは別の場所であり、オティヌスが自分を連れてきただけだと考えようとした。しかしオティヌスは、東京湾も船の墓場も残っていないと告げた。

上条当麻はインデックス、御坂美琴、レッサー、バードウェイ、そして東京にいた人々の安否を問い詰めた。だがオティヌスは、それを自分が気にするように見えるのかと返し、東京湾どころか地球だけの話でもないと告げた。

黒い平原の孤独

上条当麻は、オティヌスの言葉を嘘だと決めつけ、自分の目で確かめるために歩き出した。彼はインデックスや御坂美琴達の名を呼びながら、黒一色の世界を歩き回った。

しかし、どこにも誰もいなかった。山も谷も海も川も太陽も月もなく、目印すらない世界で、上条当麻は自分がどこを歩いているのかも分からなくなった。

一人だけの恐怖

時間の感覚も失われ、上条当麻はついに緊張の糸を切らした。彼は、自分以外のすべてが消えてしまったという恐怖に襲われ、その場に崩れ落ちて胎児のように体を丸めた。

死ぬ恐怖ではなく、自分だけが生き残ってしまった恐怖だった。当たり前に会っていた人々と再び会う方法が分からないことが、彼の心を押し潰していた。

唯一の目印

上条当麻は、何か確かな目印を求めた。村でも橋でも看板でもよかったが、黒一色の世界には何もなかった。

その時、彼はこの世界に残っている唯一の異物を思い出した。すべての元凶であるオティヌスがいると考え、彼女を目印にして再び歩き出した。

幻想殺しへの賭け

上条当麻はオティヌスと再会し、世界を元に戻す方法があるはずだと訴えた。彼は、幻想殺しが魔術師達の身勝手な希望から生まれた基準点や修復点であるなら、今こそ使うべき時だと考えた。

オティヌスは、最後の関門は上条当麻ではなく右手の幻想殺しだと見ていた。彼女は、上条当麻を殺して幻想殺しが別のものへ宿るより、精神を折ってその檻の中に封じる方がよいと判断した。

精神を折るための世界

上条当麻は、他に任せられる者はいないとして戦う覚悟を示した。しかしオティヌスは、自分が直接戦う必要はなく、魔術の神として世界を手駒にすればよいと告げた。

オティヌスが槍を掲げると、黒一色だった世界は白く変質し始めた。彼女は、上条当麻が守りたかったもの、帰りたかった場所、再会したかった面影を根底から覆し、その認識を破壊しようとしていた。

消えた傷跡

黒い世界で、上条当麻は以前、小さな傷を刻んでいた。それは時間や通過回数を数えるためだったのかもしれないが、少しずつ増える傷は彼に些細な達成感を与えていた。

しかしある時、その傷の山は消えていた。変わらないものを支えにしたいという願いは、すべてが終わった後だからこそ切実になっていた。世界が変わり続ける中でも、確実に数えられるものを得ることには意味があるはずだった。

第六章移ろい揺らぐ世界 Version_Alpha. 

歪められた世界

壊れた寝室

上条当麻は、見覚えのない壊れた寝室で目を覚ました。屋根はなく、外壁の一面も砕けて消え、室内には瓦礫と焦げ臭い匂いが漂っていた。

彼は、先ほどまでの黒一色の世界が夢だったのか、それとも今の状況こそが夢なのか判断できなかった。船の墓場でオティヌスと戦い、仲間達に運ばれてきたのだと考えようとしたが、その推測には強い違和感があった。

上条当麻掃討作戦

突然ついたテレビには、東京で上条当麻を掃討するため、多国籍連合軍が侵攻を続けているというニュースが映っていた。都心二三区の多くが瓦礫になり、ロベルト=カッツェは上条当麻の死亡確認が取れるまで攻撃を止めないと演説していた。

上条当麻は、グレムリンへ向くはずの矛先がなぜ自分へ向いているのか理解できなかった。テレビの中では各国の指導者や宗教勢力が、彼を悪として討つべきだと語っていた。

オティヌスの世界改変

壊れた寝室に現れたオティヌスは、世界が温まってきたと告げた。彼女は、世界は一度完全に終わり、今ある世界は自分が作った現実だと語った。

上条当麻は、彼女が人々を脅迫しているのではないかと疑ったが、オティヌスは否定した。彼女は見方を変えただけだと言い、上条当麻はこのままでは確実に死ぬと告げて消えた。

燃やされた家

外から人の声と懐中電灯の光が迫り、上条当麻は家に誰かが踏み込んでくるのを察した。彼らはテレビの音を聞きつけ、誰かが隠れていると考えていた。

上条当麻は部屋の陰に隠れてやり過ごそうとしたが、相手は捜索ではなく火を放って中の人間を炙り出そうとしていた。彼は燃える家から飛び降り、暴漢達の上に落下して脱出した。

警察官の銃撃

庭に落ちた上条当麻へ、乾いた発砲音が響いた。彼は相手が警察官である可能性に気づき、住宅街をジグザグに逃げた。

街の建物は壊れ、黒煙や火柱が上がっていた。秩序を守るはずの警察官が、テレビの音だけで民家に押し入り火を放つ世界になっていることに、上条当麻は恐怖を覚えた。

飢えた日本

逃げる途中、上条当麻は瓦礫の中で餓死したような人々を見つけた。携帯ラジオからは、国連決議によって日本への国交、貿易、食料支援が断たれ、食料自給率の低い日本では多くの人が死ぬという声が流れていた。

オティヌスは、私は何もしていない、ただ見方を変えただけだと告げた。上条当麻は、自分の知る世界が根本から反転させられていることを突きつけられた。

瓦礫の渋谷

上条当麻は、道路案内から自分が渋谷にいると知った。だがそこにあったのは流行の街ではなく、建物が崩れ、高架も破壊された瓦礫の街だった。

店舗のスピーカーからは、学園都市から逃げ出した学生達の疎開先を空爆しているという海外ニュースが流れていた。上条当麻の頭上を巡航ミサイルが越え、渋谷へ着弾した。

吹寄制理との再会

上条当麻は、渋谷駅跡の瓦礫の麓で吹寄制理を見つけた。彼女は熱せられた地面の上で倒れていたが、まだ息があり、上条当麻は助けようとして抱き上げた。

しかし吹寄制理は、鋭いガラス片を上条当麻の脇腹へ突き刺した。彼女は、上条当麻があんなことをしなければ誰も死なずに済んだと怨嗟をぶつけた。

崩れ落ちる渋谷駅

吹寄制理が鉄筋を握り、上条当麻へ振り下ろそうとした時、再びテレビがついた。画面では巡航ミサイルの第二波、第三波が続くと報じられていた。

直後、光と音の洪水が渋谷を襲った。駅舎跡の反対側へミサイルが落ち、強烈な熱と衝撃が広がる中、渋谷駅の地下構造ごと地面が崩れ落ちた。

見方の違う世界

落下する上条当麻

渋谷駅の崩落に巻き込まれた上条当麻は、どこまでも落ち続けるような感覚の中で、オティヌスの声を聞いた。彼女は、ここが見方の違う世界であり、変えられたのは上条当麻自身の見方だと告げた。

目を覚ました上条当麻は、駅舎の地下らしき暗闇に倒れていた。吹寄制理の姿はなく、脇腹の傷だけが残っており、彼は上着で傷口を押さえながら何とか起き上がった。

学園都市の崩壊

地下の液晶画面には、学園都市が事実上崩壊したという情報が映っていた。外周へ核地雷を敷設され、補給線を断たれたことで、学園都市は自給率の高さをもってしても維持できなくなっていた。

上条当麻は、自分に関わった人間や組織が無差別に攻撃されていることを理解し始めた。そこで、父と母がどうなっているのかを思い出し、強い不安に襲われた。

青髪ピアスの憎悪

暗闇の中に現れたのは、青髪ピアスだった。彼は上条当麻を責め、今の上条当麻なら広場で磔にされても誰もが拍手するだろうと告げた。

オティヌスは、これは洗脳ではなく、上条当麻の見方を変えただけだと囁いた。上条当麻は今までヒーローのように扱われてきたが、別の見方をすれば、気に入らない相手を拳で屈服させ、他人の世界を壊してきた存在でもあると告げた。

それでも譲れないもの

青髪ピアスは、上条当麻が何もせずにじっとしていれば、自分達がこんな目に遭うことはなかったと責めた。その言葉に対し、上条当麻は明確に首を横に振った。

たとえ自分のせいで皆が居場所を失ったのだとしても、あれを黙って見過ごす方が正解だったとは絶対に頷けないと答えた。青髪ピアスは懐中電灯を鈍器にして襲いかかり、上条当麻は左腕を折られながらも反撃した。

出口への逃走

上条当麻は青髪ピアスを倒せる状況まで追い込んだが、とどめを刺さず、その場を離れた。彼は父と母の無事を確かめるため、暗闇の中を走り出した。

青髪ピアスは、上条当麻の居場所などどこにもなく、自分達もすべてを失ったのだから元凶だけに救いが残るはずがないと叫んだ。その言葉は、傷だらけの上条当麻へさらに深く突き刺さった。

小萌先生の包丁

上条当麻は、脇腹と左腕の痛みに耐えながら進もうとした。その時、天井に逆さに現れたオティヌスが、よそ見している場合かと告げた。

直後、背後から包丁が突き刺さった。襲撃者は月詠小萌だった。彼女は泣きながら、クラスのみんなが大変なことになるのを目の当たりにしたため、そのケジメを取らなくてはならないと告げた。

両親の協力宣言

地下の液晶画面が一斉に点き、上条当麻の父親の声が流れた。画面には、上条当麻を産み落とした罪を裁かれる場に立たされた両親の姿が映っていた。

父は、上条当麻という絶対悪を滅ぼすためには、彼をよく知る者の協力も必要だと語った。自分達を裁くのは構わないが、その前に過ちを正す機会をほしいと訴え、世界は拍手喝采でそれを迎えていた。

誰も見ていなかった上条当麻

オティヌスは、誰が上条当麻をきちんと見ていたのかと問いかけた。多くの人に囲まれていても、彼らは上条当麻という名前や行動履歴から勝手に人物像を作っていただけで、見方を変えれば簡単に印象は操作されたのだと告げた。

さらに、命を懸けて守るほどの価値が本当にあるのかと問うた。上条当麻は、それでもきっと守る価値はあると答えた。

守る価値

上条当麻は、どれほど悲劇が人を叩きのめしても、もう一度立ち上がる機会はあってよいと考えていた。関係がねじれ、憎悪が絡まっても、一つずつほどいていく選択肢はあるはずだった。

それは、彼がこれまでの事件で見てきたものだった。たとえ今度は自分が元凶として償う側になったとしても、すべてを受け止めて前へ進む覚悟を決めれば、元に戻せるはずだと信じていた。

戻る時間

オティヌスは、上条当麻の不変性が右手だけではなく、その考え方にもあると見抜いた。彼女は趣向を変えると告げ、指を鳴らした。

止まっていた時間が戻り、月詠小萌の包丁が上条当麻へ向けて勢いよく振り下ろされた。

第六章移ろい揺らぐ世界 Version_Beta. 

日常の教室

教室の目覚め

上条当麻は、学園都市の学校の教室で目を覚ました。先ほどまでの炎と瓦礫と流血の地獄は消えており、吹寄制理に刺された傷も左腕の骨折もなかった。

昼休みの教室にはクラスメイト達がいて、弁当の匂いが漂っていた。上条当麻は夢だったのかと混乱しながらも、無事な吹寄制理を見て思わず体を確かめようとし、彼女に叩き飛ばされた。

騒がしい昼休み

青髪ピアスと土御門元春は、上条当麻が寝ぼけて吹寄制理へ触れたとからかった。上条当麻は二人へ反撃しようとしたが、二人に受け止められ、そのまま不安定な胴上げへ発展した。

そこへインデックスが現れ、第二ご飯を要求した。続いて小萌先生も教室へ来たが、上条当麻が天井に頭を突き刺してぶら下がっている姿を見て驚いた。

第二ご飯とおでん

上条当麻は天井から抜け落ち、机に背中を打ちつけた。インデックスは三毛猫が鮭フレークをもらっているのを見て、自分の第二ご飯構想を訴えた。

上条当麻は、今半端に食べるか、晩飯を豪華にするかをインデックスに選ばせた。放課後になると、インデックスはおでんを希望し、上条当麻は家計の危機を承知でおでんフィーバーを決行しようとした。

雲川姉妹の通学路

放課後の通学路では、雲川芹亜と雲川鞠亜が歩いていた。鞠亜は、芹亜が寝床を変えたのに連絡しなかったことや、部屋の台所を放置していたことを責めていた。

芹亜は、鞠亜の世話焼きが自分に向けられているうちは安心だとからかった。さらに、上条当麻の部屋へ走っていないことに触れ、鞠亜は冷静を装いながら動揺していた。

雲川鞠亜への突入

その背後から、上条当麻とインデックスの騒がしい声が近づいてきた。インデックスが手を離した拍子に、上条当麻は勢いよく吹き飛び、雲川鞠亜の両足の間へ仰向けに滑り込んだ。

雲川芹亜は、鞠亜と上条当麻にはすでに繋がりがあるのではないかと動揺した。鞠亜は自分が見せパンを穿いているから平気だと言ったが、その反応がかえって芹亜の不安を強めた。

肩車の攻防

インデックスは、上条当麻を噛むために近づいた。上条当麻は後頭部を守るため、雲川鞠亜の両足の間に首を入れたまま立ち上がり、彼女を肩車する形になった。

上条当麻は、雲川鞠亜を人間ヘルメットのようにしてインデックスの噛みつきを防ごうとした。鞠亜は揺れる高さに慌て、芹亜はその状況に怒りを募らせた。

インデックスの進化

上条当麻は、和平を結ぶか、このままおでんの材料を買いに行くかとインデックスへ迫った。インデックスは噛みつきが通じないなら手足の技を極めると返し、上条当麻は彼女がさらに手に負えない存在になると恐れた。

一方、雲川鞠亜は肩車されたまま微妙に嬉しそうな反応を見せ、雲川芹亜の堪忍袋の緒が切れた。日常の騒ぎはさらに混迷を深めていった。

奪われた上条当麻

日常の継続

上条当麻を名乗る少年は、雲川芹亜のドロップキックを受けて吹き飛ばされ、今度はインデックスのスカートの中へ潜り込んでしまった。人間ヘルメット作戦は失敗し、インデックス、雲川鞠亜、雲川芹亜から次々に制裁を受けた。

それでも上条当麻を名乗る少年は、今夜をおでんにすると決めていた。インデックスの怒りを鎮めるためにも、高級デパ地下へ向かう必要があった。

高級おでん

上条当麻を名乗る少年とインデックスは、高級デパ地下へ足を踏み入れた。値札を見た少年は正気に戻り、スーパーのお徳用おでんやコンビニおでんで済ませようとしたが、インデックスはすでに高級品を見てしまったため納得しなかった。

そこへ御坂美琴が現れた。彼女は買い物ではなく、常盤台中学寮へ高級百貨店の試食案内が大量に届く件で、責任者を直接問い詰めに来ていた。

おでんとすき焼き

インデックスは、美琴の話からスイーツを得られる可能性を見出し、百貨店の奥へ向かおうとした。上条当麻を名乗る少年は、おでんにケーキ類を混ぜる事態を避けるため、必死に止めた。

話題は再び夕食へ戻り、少年はどうせ地獄を見るなら高級すき焼きでもよいのではないかと言い出した。インデックスはおでん欲に加えてすき焼き欲まで刺激され、結局少年は高級なおでん具材を買う覚悟を決めた。

楽しい毎日

上条当麻を名乗る少年は、こうした毎日が楽しくて仕方がないと感じていた。これからも多くのトラブルに巻き込まれるとしても、帰る場所があるから闇の奥へ踏み込めるのだと心から思っていた。

今日が終わっても、明日も明後日も、その先も、同じように楽しい日常が続くのだと信じていた。

教室の片隅

夕暮れの教室の片隅には、本当の上条当麻が一人で座っていた。誰にも気づかれず、誰にも不思議がられないまま、彼は小刻みに震えていた。

輪の中心には、上条当麻の知らない誰かがいた。その誰かは上条当麻を名乗り、周囲の者達も違和感を抱かず、別人を当然のように受け入れていた。

誰でもよかった上条当麻

教卓の上に現れたオティヌスは、これが上条当麻の日常だと告げた。彼女は、上条当麻が人々を助けたことで信頼を得てきたのなら、助ける役目を果たす者は別の誰かでもよかったのだと語った。

黒板にはAとBの文字が書かれ、Aに×、Bに丸がつけられた。オティヌスは、上条当麻の価値は交換可能な電池のようなものであり、問題解決の手段さえあれば誰も困らないと突きつけた。

守ってきた箱庭

上条当麻は、ここが自分の世界であり、自分が守ってきたものだと答えた。魔神にとっては小さな箱庭でも、自分にとっては十分な価値があると語った。

オティヌスは、槍があれば世界をいくらでも組み替えられると示し、絶望すれば彼らをまともな形に修正してやると誘った。しかし上条当麻は、新しい人形を作っても意味がなく、そこには何も込められていないと拒んだ。

自由な他者

上条当麻は、自分が切り捨てられたとしても、それは他者が自分の思い通りにならないほど自由で価値がある証だと考えた。痛みしか与えない世界であっても、こちらの都合で勝手に平らにならしてよいものではないと告げた。

さらに、彼は何かを得るために戦ってきたわけではないと答えた。一度別れても、縁があればまた繋がる可能性があると信じていた。

誰なのか

オティヌスは笑いをこらえながら、自分が意地悪な仕込みをしていたと明かした。皆は別の少年を上条当麻と呼び、その少年自身も自分を上条当麻だと信じて疑わなかった。

そしてオティヌスは、ここで惨めに俯いているお前は一体誰なのかと問いかけた。さらに、そんなぐじぐじした者が本当に皆の知る上条当麻なのかと告げた瞬間、上条当麻の認識は途絶した。

位相の正体

自分の名前

上条当麻は、夕暮れの教室の隅で呆然と座っていた。周囲の誰もが別人を上条当麻として受け入れており、自分自身が本当に何者なのかさえ信じられなくなっていた。

オティヌスは、上条当麻の本当の名前を言えと迫った。さらに集合写真を示し、その中から本当の自分を選べば元の場所へ帰してやると告げた。

選ばなかった答え

集合写真には、クラスメイト達と月詠小萌が写っていた。オティヌスは、性別や年齢も当てにならないと告げ、上条当麻をさらに追い詰めた。

しかし上条当麻は、自分は上条当麻であり、それ以外の何者でもないと答えた。オティヌスは不快そうに顔を歪め、どこで気づいたのかと尋ねた。

悪意の読み筋

上条当麻は、オティヌスが本当に自分を苦しめるだけなら、集合写真など見せる必要がなかったと見抜いた。写真を出した以上、そこには答えを選べる状況があり、オティヌスは彼が間違えるのを楽しみにしていたのである。

さらにオティヌスは、新しい上条当麻を作っていたぶっても意味がないと言っていた。だからこそ、彼女が責め立てる相手は本物の上条当麻でなければならなかった。

続く絶望

オティヌスは指を鳴らし、世界は再び黒一色へ戻った。彼女は、カードは何万程度では済まないと告げ、次の絶望を用意した。

上条当麻はいくつもの世界を見せられた。冤罪で処刑される世界、遭難した仲間達に生きるため肉を分けられる世界、意識があるまま葬式が進む世界、生きながら腐敗する世界、宇宙へ放り出される世界など、心を少しずつ壊すような絶望が続いた。

見え方の世界

上条当麻は、オティヌスが何かを壊しているのではないと考え始めた。数万数億の世界が存在しているのではなく、ここは最初から自分達の世界であり、移動などしていなかったのである。

オティヌスは位相について語った。世界には宗教ごとの天国、地獄、冥府、浄土、黄泉、妖精の島、アースガルドなどの位相が薄いフィルターのように重なっており、人が見ている世界はそれらを通した景色だった。

生み出す側の神

上条当麻は、オティヌスが色眼鏡を壊したのではなく、新しいフィルターを作って世界へ差し込んでいるのだと理解した。彼女は世界を変えて見せるため、悪意に満ちた位相を生み出していたのである。

オティヌスは、自分を神と呼べと告げた。世界を壊して作り直すより、新しいフィルターを差し込む方が楽であり、世界そのものを変えてしまえば幻想殺しも機能しづらいと語った。

幻想殺しの可能性

上条当麻は、オティヌスが生み出す側の極致なら、幻想殺しはその正反対にあるものだと考えた。余分なものを打ち消す可能性が右手にあるなら、狂った歯車を元に戻すこともできるかもしれないと考えた。

オッレルスは、幻想殺しが魔術師達の身勝手な夢であり、世界を捻じ曲げすぎた時の基準点や修復点だと言っていた。その言葉から、上条当麻はまだ元の世界へ戻る細い糸は途切れていないと見た。

望みの致命傷

オティヌスは、上条当麻の考えを見透かしたように、安易に一縷の望みへ手を伸ばしてよいのかと問いかけた。希望や勝算を知ることが、決定的な致命傷になる場合もあると告げた。

上条当麻には、その意味が分からなかった。だがオティヌスは、すぐに嫌でも分かると告げた。

第六章 移ろい揺らぐ世界 Version_Omega. 

幸せな世界の重圧

公園の目覚め

上条当麻は、柔らかな陽の当たる公園のベンチで目を覚ました。これまで何度も精神を打ちのめされてきたため、目の前の穏やかな光景もオティヌスの仕掛けだと考え、先に動いて対抗策を探ろうとした。

彼は、記憶だけは蓄積している以上、オティヌスの力にもどこかに癖や亀裂があるはずだと考えた。目を逸らさず、どんな破滅も真正面から受け止め、インデックス達の尊厳を取り戻すつもりだった。

救われた者達

上条当麻の前には、死んだはずのエリスや、両親と過ごすアニェーゼ=サンクティス、弟と歩く前方のヴェント、処刑されなかった左方のテッラ、運び屋にならず笑うオリアナ=トムソンがいた。

さらに雲川鞠亜は、死んだはずの木原加群を先生と呼んでいた。上条当麻は、オティヌスが作った世界では、自分が関われなかった悲劇まで回避されていることを見せつけられた。

否定できない幸福

オティヌスは、変えられた世界を悪だと断じるなら、この幸せな世界を否定してみせろと上条当麻へ迫った。主神の槍は上条当麻の右手が届く位置にあり、壊せばこの仮縫いの世界を吹き飛ばせる状況だった。

しかし上条当麻は動けなかった。目の前の人々は幸せであり、彼が救えなかった者達も救われていたため、世界を元に戻すことが本当に正しいのか分からなくなった。

上条当麻の揺らぎ

オティヌスは、世界は上条当麻がいなくても続き、それぞれの危機は別の形で回避されていたと告げた。上条当麻は、自分が今まで何をしてきたのか分からなくなった。

エリスの死も、オリアナやアニェーゼの抱えた事情も、御坂妹達の犠牲も、上条当麻には救いきれないものだった。彼は、自分の選択がいくつかの悲劇を加速させ、助けた気分になっていただけではないかと追い詰められた。

インデックスのいる未来

上条当麻の足元へサッカーボールが転がり、真っ白な修道服のインデックスが近づいてきた。彼女の向こうにはステイル=マグヌスや神裂火織、上条当麻の知らない神父や修道女達がいた。

それは、彼らが失敗せず、上条当麻が役目を奪わなかった未来だった。上条当麻は、インデックスの頭を右手で撫でれば何かが変わるかもしれないと思ったが、右手を握り締めたまま、笑顔で大丈夫だと答えた。

完璧な世界の楔

オティヌスは、この世界は上条当麻がいないことを前提にした完璧な黄金比で守られていると告げた。逆に、上条当麻という一個体がいるだけで世界は誤作動を起こし、いずれ崩壊が始まるのだという。

この世界を守る方法は、上条当麻が自分の命に決着をつけることだけだった。オティヌスは、自分で選べと告げ、首吊り縄、包丁、拳銃、洗剤、七輪、錠剤など、命を絶つための道具を周囲に降らせた。

平和と正義

上条当麻は、世界が平和になるために自分が不要だという答えへ辿り着いた。自分の知る人々が笑顔になり、問題が解決され、誰もが結果に歓喜する理想の世界には、彼の居場所がなかった。

平和は尊く、一人の命で買えるなら誰もが飛びつくかもしれなかった。だがそれは、全人類が共有する笑顔の殺人であり、正義を忘れて気持ち悪い平和にすがる世界でもあった。

第七章 『平凡な高校生』 Black_or_White. 

黄金色の死刑台

動けない上条当麻

上条当麻は、真っ白なベンチから立ち上がれなかった。オティヌスが作った幸せな世界を見せつけられたことで、自分が元の世界を取り戻そうとする行為は、他人の幸福を壊す悪なのだと考えてしまった。

彼は、自分が助けたつもりでいた行為も、別の方法ならもっと良い結果にできたのではないかと疑った。完璧な世界を前に、上条当麻という一個人の人生を取り戻したいという願いは、自分だけの身勝手な望みに過ぎないと思い至った。

死に場所探し

上条当麻は、オティヌスが言った通り、自分がこの世界にいるだけでいずれ崩壊が起きるなら、ここで終わるのが正しいと判断した。彼は死に場所を探すため、夕暮れの公園から静かに歩き出した。

彼は、学園都市を模した街を進みながら、自分の死に方を慎重に考えていた。並大抵の不幸では死ねない性質があるため、確実に助からない方法を選ぶ必要があった。

幸せな学園都市

上条当麻は、完璧な世界から不要なものが取り除かれていることに気づいた。学園都市の外壁はなく、暗部の施設も消えており、魔術と科学の対立も解消されているようだった。

街には、麦野沈利、フレンダ、絹旗最愛、滝壺理后、浜面仕上、フレメア、駒場利徳、服部半蔵達が平和に集っていた。ルチア、アンジェレネ、オルソラ達もいて、木原加群や雲川鞠亜、雲川芹亜、食蜂操祈らしき者達も、それぞれの幸福を得ていた。

祭りへ向かう人々

上条当麻は、ホットドッグを買って食べながら、これは未練を消す作業なのだと考えた。自分に絡まるものを一つずつ断ち切り、最後の一線を越えるための準備だった。

やがて太鼓の音が聞こえ、トール、マリアン、ベルシ、投擲の槌達も祭りへ向かっていた。そこには敵味方の争いがなく、オティヌスが新しく組み直した人間関係の中で、誰もが自然に幸せを得ているようだった。

妹達の祭り

祭りの会場には、打ち止め、御坂妹、一方通行、芳川桔梗、天井亜雄らしき者達の姿もあった。二万人以上の妹達が一人残らず助け出され、番外個体も含めて屋台を楽しむ平和な光景が広がっていた。

白井黒子、初春飾利、佐天涙子達らしき声も人混みに混ざっていた。上条当麻は人々の声を聞きながら、自分の行いには意味があるのだと刷り込むように歩き続けた。

通り過ぎたインデックス

上条当麻は、真っ白な修道服のインデックスが三毛猫を抱えて走ってくるのを見た。彼女はステイルや神裂火織の方へ向かっており、上条当麻のことは見ていなかった。

インデックスが一瞬の停滞もなく横を駆け抜けたことで、上条当麻は覚悟を決めた。彼女達が本当に守るべきものなのだと感じ、二度と振り返らずに死刑台へ向かうように歩き出した。

屋上への道

上条当麻は、祭りの会場の先にある大きなビルへ入った。エレベーターで屋上へ上がる道は、幸せな祭りの風景も含めて、すべて死刑台への階段のようだった。

屋上から見える学園都市は、大覇星祭のように黄金色に輝いていた。祭囃子が届き、警備員や救急車のサイレンは聞こえず、もうそれらが必要ないほど平和な世界だった。

最高の終わりの場所

上条当麻は、人生の終わりには最高の場所だとオティヌスへ語った。自分の手ではここまでの世界を作れず、これまで解決してきた事件の先に本当に望んだものがあったのかも分からなくなっていた。

彼は、たとえオティヌスのやり方が独善や傲慢による支配だったとしても、目の前には確かな平和と幸福があると認めていた。人が求めるのは途中経過ではなく、最終的に残る幸福なのだと考えた。

最後に残った欲望

上条当麻は、屋上の縁に立ちながらも、飛び降りることへの躊躇と恐怖が残っていることに気づいた。自分には抗う理由も合理もないはずなのに、それでも心の奥に何かが残っていた。

その最後に残ったものは、誰かを助けるという大義ではなく、自分自身のちっぽけな欲望だった。上条当麻は、それこそがオティヌスに見抜かれた弱さであり、自分に居場所がなかった理由なのかもしれないと感じていた。

完璧な世界の亀裂

死を選ぼうとする上条当麻

上条当麻は、屋上から踏み出そうとしていた。自分が消えることで完璧な世界が完成するのなら、それが正しい結末だと考えていた。

だが落下の直前、背後から少女の怒鳴り声とドロップキックを受けた。上条当麻はビルから投げ出されたが、清掃用のゴンドラに引っかかり、死なずに済んだ。

ミサカネットワークの総体

上条当麻を助けた少女は、御坂妹ではなく一〇〇三一号の体を借りたミサカネットワークの総体だった。彼女は、正規の妹達が生者と死者の情報を同時に抱える存在であるため、オティヌスの生者と死者を分ける支配から外れたのだと説明した。

総体は、オティヌスの作った世界で操られなかった異物として現れた。彼女は上条当麻を、彼らしい場所である学生寮へ連れていった。

白い空き部屋

上条当麻の学生寮は、インデックスや三毛猫の気配がない真っ白な空き部屋になっていた。そこは、今の上条当麻を象徴するような空白の空間だった。

総体は、上条当麻が不甲斐ないから一発殴りに来たと軽い調子で告げた。彼女は、ここが幸せな世界だと分かった上で、これからどうするのかと問いかけた。

理想世界への疑問

上条当麻は、オティヌスの世界をひっくり返しても得られるものはなく、すべてが崩れるだけだと訴えた。皆が救われている世界を、自分一人の居場所のために壊すことは悪だと考えていた。

総体は、オティヌスが悲劇を哀しんで世界を作ったのではなく、目障りな問題を埋め立てただけだと指摘した。それでも上条当麻は、実際に皆が救われている以上、元に戻すことが正しいとは言えないと苦しんだ。

戦ってきた理由

総体は、上条当麻が正しいから戦ってきたのか、相手が悪だから殴り倒してきたのかと問うた。上条当麻は答えに詰まった。

総体は、上条当麻が善悪を基準に戦ってきたわけではないと見抜いていた。状況が善か悪かは、彼が命を預ける指標ではないと告げた。

隠された細工

総体は、オティヌスが一つだけ反則をしていると告げた。それは上条当麻だけを救わないことではなく、救われたように見える人々の側に施された簡単な細工だった。

上条当麻は、その細工に薄々気づいていたが、オティヌスに正しくあってほしいと願い、目を逸らしていた。総体は、その点を口に出せば完璧に見える世界へ亀裂が入るから、上条当麻はためらっているのだと指摘した。

元の世界の記憶

上条当麻は、インデックス達が笑っていること、妹達やエリスや他の人々が救われていることを思い返した。彼らの笑顔まで偽物だとは言えず、一人の高校生のわがままで壊してよいものではないと考えていた。

しかし総体は、本当に完璧な世界なら証明してみろと迫った。上条当麻は顔を覆い、夕暮れの中でゆっくりと息を吸い、彼らは元の世界を覚えていないと口にした。

進めない上条当麻

完璧な世界の反則

上条当麻は、救われた人々が元の世界を覚えていないことを口にした。インデックスもステイルも神裂火織も御坂美琴も一方通行も妹達も、今ある幸福を当然のものとして受け入れており、それがどれほど貴重なものかを知らなかった。

ミサカネットワークの総体は、その記憶の欠落に大きな意味があると指摘した。元の世界を覚えていれば、救われた全員が上条当麻の消失を受け止めることになり、完璧な幸福から離反する者も出るかもしれないため、オティヌスはそれを恐れて記憶を隠したのである。

失われた因果応報

総体は、上条当麻を失えば困ると考える人間は少なくないと告げた。上条当麻が過去に助けてきた人々は、世界中の笑顔に押し潰されそうな彼を知れば、すべてを捨ててでも味方になるはずだった。

だからオティヌスは、因果応報が正しく回らないように世界を変えた。人々の善意や記憶を操作し、上条当麻を助ける可能性を封じた世界は、見かけだけが幸福な卑怯な細工に過ぎなかった。

手放される幸福への恐れ

上条当麻は、総体の言葉を拒絶しなかった。しかし、本当に完璧な世界に突破口があるなら、なおさら協力は求められないと考えた。

彼は、人々が上条当麻を助けるために、失われた命が戻った幸福を自分の手で手放すかもしれないことを恐れた。そんな選択を彼らに背負わせることは絶対にできないと叫んだ。

単純な問い

総体は、命や倫理をいったん脇に置き、もっと単純に考えるよう促した。そして、オティヌスという黒幕にこれまで築いてきたすべてを奪われて、本当に悔しくないのかと問いかけた。

その問いは、上条当麻の胸へまっすぐ突き刺さった。彼は長い沈黙の末、凍った涙腺から涙をこぼすように、悔しいに決まっていると認めた。

奪われた日常

上条当麻は、大金や権力を望んだわけではなく、学生寮で目覚め、インデックスの食事を作り、学校へ行き、放課後に友人と遊ぶだけの日常を取り戻したかったのだと叫んだ。

それなのに、自分一人の願いが大勢の命と天秤にかけられ、絶対悪のように扱われることへの悔しさを吐き出した。彼は、これまで不幸と折り合いをつけて生きてきたが、オティヌスはその均衡をすべて壊したのだった。

越えられない魔神

上条当麻は、血反吐を吐いて乗り越えてきた道のりを、オティヌスが遊びのように軽々とまたいでいったことに怒りをぶつけた。彼が一〇〇年努力しても与えられない笑顔を、オティヌスは槍一つで簡単に叶えてしまったのである。

それは欺瞞だと分かっていても、上条当麻にはその作り物にさえ勝てなかった。彼は、怪物のような魔神にもう立ち向かいたくないと本音をこぼした。

戦ってきた理由

上条当麻は、戦いたくて戦ってきたわけではなかった。ただ、涙をこらえている者や、辛い目に遭っても我慢している者を見過ごせなかっただけだった。

拳を握って事件に飛び込み、解決するたびに人の輪が広がっていった。その繋がりが、自分の行いには意味があると錯覚させていたのだと、彼は打ち明けた。

戻らない元の世界

上条当麻は、もし皆が真実を知れば、自分のために駆けつけてくれるかもしれないと理解していた。しかし、それでも失われた命が戻った奇跡のような状況を手放させるわけにはいかないと考えていた。

今から元に戻すことは、何も知らずに笑っている人々をもう一度自分の手で殺すことと同じだった。オティヌスが勝っても負けても、上条当麻が生きても死んでも、もう元の世界は戻らないと彼は絶望した。

進めない一歩

上条当麻は、どちらに傾いても破滅しかないなら、救われた人数で決めるしかないと考えた。自分とオティヌスのどちらが多くの人間を救えるかと問われれば、答えは明らかにオティヌスだった。

彼は、自分では魔神に敵わないことを認めた。奇跡のような世界を壊してまで進む意味を見つけられず、ここまで追い詰められて前へ一歩でも進めるはずがないと叫んだ。

元の世界への帰還

醜い本音

ミサカネットワークの総体は、上条当麻の胸の内から噴き出した言葉を黙って受け止めていた。彼女は、その言葉が美しいものではなく、むしろ醜いものだったからこそ安心したと語った。

上条当麻は、叫んでも状況は変わらず、オティヌス以上の答えは出せないと吐き捨てた。元の世界へ戻っても、救われた人々を自分の手で失わせた罪悪感に耐えられず、心が壊れるだけだと考えていた。

自分自身の事情

総体は、上条当麻の事情が、なぜ無条件に皆の事情より下に置かれなければならないのかと問いかけた。誰を優先するかは自分で決めればよく、一度くらい自分自身を一番に優先してもよいと告げた。

さらに、万人を救うのが正しいなら、他人だけでなく上条当麻自身の命も助けるべきだと語った。命を天秤にかけて安易に価値を決めること自体が、上条当麻の歩んできた道に反していた。

隠さない償い

上条当麻は、元の世界へ戻ったとしても、何も知らない皆の前で笑い続けることには耐えられないと漏らした。総体は、それなら隠さなければよいと答えた。

彼女は、すべてを話した上で謝ればよいと告げた。取り返しのつかない悲劇や憎悪を抱えた相手とも向き合い、こじれた関係をほどいてきた上条当麻なら、今回も壊れた輪を作り直せるはずだと語った。

帰りたい場所

上条当麻は、自分がこんな目も眩む世界に挑んでよいのかと迷った。総体は、元の世界を完全には取り戻せないとしても、すべてを壊した後で関係を築き直せばよいと答えた。

やがて上条当麻は、独りよがりでも、誰の幸せにも繋がらなくても、やはりあそこへ帰りたいと涙をこぼした。それは、悪でも何でも、どこにでもいる高校生の偽りない本音だった。

総体の見送り

総体は、上条当麻の答えを聞き、神に一泡吹かせに行くと決めた。上条当麻は腰を上げ、学生寮のドアへ向かった。

彼は、これまでと同じようにその扉をくぐり、世界へ向かう。決着をつけ、神と戦うために歩き出した。

隠された手札

上条当麻が出ていった後、総体は真っ白な部屋に一人残った。彼女は、実は自分がこのままでは別の存在に塗り潰されることを、上条当麻に伝えれば簡単に彼を動かせたと考えていた。

また、妹達の最期の気持ちや、元の世界の人々の声を聞かせることでも、上条当麻を戦わせることはできた。だが、それでは彼が崩れてしまうため、総体はその手札を隠し、彼自身の本音で立ち上がらせた。

元の世界でまた会おう

総体は、借り物である一〇〇三一号の体から剥がれるように消えかけていた。オティヌスが妹達全員を救ったことで、半数以上の死を含んで成り立っていた総体は、別の何かへ上書きされようとしていた。

彼女は、次の世界ではなく元の世界でまた会おうと告げた。白い花弁のようなものが散る中、総体は一時的にこの世界へ別れを告げた。

校庭のオティヌス

魔神オティヌスは、第七学区の高校の校庭にいた。そこは上条当麻の日常の象徴であり、この世界における要衝だった。

そこへ上条当麻が踏み込んできた。オティヌスは、今さら何を埋め込まれたのかと問い、上条当麻は、お前の知らないものだと答えた。

幻想殺しの器

オティヌスは、インデックスや御坂美琴達の笑顔を人質に取るような真似はしなかった。彼女は主神の槍を握り、世界で上条当麻を押し潰すことには飽きたと告げた。

壊れないなら殺すまでだと、彼女は幻想殺しをもっと脆い器へ移し替えることを考えた。上条当麻とオティヌスの戦いは、利害ではなく尊厳と矜持を賭けた個人同士の戦いとして始まった。

第八章 少女位相、 幾千億 Create_V.S._Break.

折れない上条当麻

勝負にならない戦い

上条当麻が右拳を握って駆け出そうとした瞬間、体内で爆発が起きた。彼は宙へ舞い上げられ、校庭へ叩きつけられ、大量の血を吐いた。

オティヌスは一歩も動かず、主神の槍を軽く掲げるだけで夜空に漆黒の穴を開いた。それは黒一色の世界を覗かせる月のようなもので、落下して校庭を半球状に削り取った。

届かない拳

上条当麻は接近すればオティヌスも大規模攻撃を控えるはずだと考え、恐怖を押し殺して踏み込もうとした。しかしその行動も見透かされ、膝をねじ曲げられ、何度も状況が書き換わるように失敗を重ねた。

ようやく拳が届く距離まで迫ったと思った時、オティヌスは逆に懐へ踏み込み、左手で上条当麻の首を掴んで吊り上げた。上条当麻は、人が神に力で勝つことは不可能だと悟った。

繰り返された敗北

首を締め上げられながら、上条当麻はこの戦いが初めてではないと見抜いた。彼はすでに何十回、何百回もオティヌスに殺されており、その苦痛と恐怖を受け入れきれないため、頭の中で一本筋の通った戦いのように再構成していたのだと考えた。

さらに彼は、オティヌスが自分を殺せるのに殺していないことを指摘した。殺して終わらせない理由があり、それはボーナスポイントのようなものではないかと口にしたところで、首を折られて意識を失った。

時間の檻

無限にやり直せる力があるとしても、それは必ずしも有利ではなかった。何度も失敗し、何年も何世紀も破滅を止められなければ、挑戦する側の心が折れてしまうからである。

上条当麻の戦いもそれと同じだった。オティヌスは世界を自在に操れるため、まともに戦っても勝ち目はない。だが、上条当麻は彼女が飽いたと言ったことから、オティヌス自身の内側に限界があると見抜き始めた。

折れない人間

オティヌスは、何万回、何十万回、何百万回と繰り返してきた。記憶の継続性も、情報量も、神である自分の方が圧倒的に上であり、上条当麻の方が先に壊れるはずだった。

しかし上条当麻は折れなかった。彼は、一度でもオティヌスが折れれば先が見え、失った居場所を取り戻せる可能性があるなら諦めないと答えた。

核心への接近

上条当麻は、殺されながらも少しずつ情報を蓄積していた。彼は、オティヌスが無限に世界を渡る力を持つ一方で、自分がどこから来てどこへ帰ればよいのか分からなくなった経験があるのではないかと問いかけた。

さらに、オティヌスは主神の槍を得る以前から、世界を粘土のように変える力を持ち、その結果、元の世界を見失ったのではないかと推測した。彼女は一度力を放棄しながら、不安から再び槍を求めたのだと考えた。

元の世界と次の世界

上条当麻は、幻想殺しが世界を元に戻すための基準点であるなら、オティヌスには二つの選択肢があったはずだと告げた。一つは位相を上塗りして次の世界を作ること、もう一つは幻想殺しを使って元の世界へ帰ることだった。

オティヌスが上条当麻を殺さず、何度もリセットを続けてきたのは、第二希望の次の世界へ逃げれば終わるはずなのに、第一希望である元の世界を諦められなかったからだった。

神への交渉

上条当麻は、自分には幻想殺しの正しい使い方は分からないが、魔術の頂点にいるオティヌスなら世界を修復する方法を知っているはずだと訴えた。彼は神に勝つのではなく、神の軌道を少しだけ人の都合へ向けさせようとしていた。

オティヌスは、元に戻す道はもうないと激しく反論した。しかし上条当麻は、彼女もまた元の場所へ帰りたい渇望を知っているはずだと迫った。

終わらない根競べ

上条当麻は、一億回でも一兆回でも繰り返し、自分は元の世界へ帰ると宣言した。次の世界には進ませず、オティヌスの夢を潰してでも自分の夢を叶えると言い放った。

オティヌスもまた、迷いを断ち切るために上条当麻を完全に駆逐しようとした。戦いは数え切れないほど繰り返され、上条当麻は一度も勝てず、ひしゃげ、切断され、叩き潰され続けた。

魔神の摩耗

オティヌスは、殺戮を重ねるたびに第一希望を諦め、第二希望の次の世界へ進むため心を硬質化させていった。感性を殺し、現実を選ぶことで、自分だけの闘争を終わらせようとしていた。

だが、あと少しで完全に諦められるというところで、凄まじい頭痛が彼女の動きを止めた。斬撃は上条当麻の横を逸れ、彼はついに勝ち目が見えてきたと告げた。

弱者と強者の違い

オティヌスは、同じ痛みを浴びているなら先に壊れるのは人間の上条当麻のはずだと混乱した。上条当麻は、二人が同じ場所で同じ時間を過ごしても、摩耗の仕方は同じではないと説明した。

弱者が強大な敵へ挑む時には、敗北を重ねても試行錯誤や積み上げを感じられる。だが、圧倒的な強者が弱すぎる相手を延々と狩るのはただの作業であり、何も得られない。だから同じ繰り返しでも、先に追い詰められたのはオティヌスだった。

オティヌスの諦め

上条当麻は、オティヌスがもう繰り返せず、ここで立ち止まらなければ内側から崩れていくと突きつけた。それは拳ではなく、交渉の材料として神へ押しつけた見えない刃だった。

オティヌスは獣のように低く唸り、それならここで諦めると告げた。

魔神の諦め

次の世界への決断

オティヌスは、第一希望である元の世界を捨て、第二希望である次の世界に甘んじると告げた。もう戻さず、繰り返さず、迷わず、上条当麻を殺した先に後はないと宣言した。

彼女は主神の槍を掲げ、不可視の爆発で上条当麻を粉砕しようとした。しかし上条当麻は横へ跳び、これまで積み重ねた経験によって攻撃を回避した。

積み上げた経験

上条当麻は、何度殺されても無意味に殺され続けていたわけではなかった。彼は試行錯誤を重ね、オティヌスの攻撃パターンを体で覚えるほど分析していた。

上条当麻自身の筋力や能力が上がったわけではなく、幻想殺しが新たに開花したわけでもなかった。それでも、今のオティヌスの攻撃だけならかいくぐれるほど、彼は彼女に特化した経験を積んでいた。

絶対ではない神

上条当麻は、オティヌスは完成した魔神であっても絶対ではないと見抜いた。彼女は欲望や敵意を持ち、感情に揺らぐ存在であり、完全に機械的なシステムではなかった。

オティヌスは、上条当麻が自分の理解者としてオッレルス以上の位置に届きつつあることを認めた。二人は同時に動き、ついに決着へ向けて踏み込んだ。

主神の槍

オティヌスは、北欧の主神が持つ槍グングニルを放った。その槍は必ず標的へ命中し、破壊されず、持ち主へ戻る神の武器であり、人の権威を打ち砕く象徴でもあった。

神の都合が人の世の理を上回るという、圧倒的な諦観を押しつける一撃だった。普通に正面から受ければ、右方のフィアンマやオッレルスでさえ逃れられない攻撃だった。

槍を越える拳

上条当麻は、世界そのものを犠牲にして作られた巨大な槍の先端を見据えた。彼は自分が特別な人間ではないと知りながらも、今のオティヌスだけなら乗り越えられると笑った。

右拳を突き出した上条当麻は、主神の槍の穂先へ拳を合わせた。積み重ねた経験がその動きを補助し、彼の一撃は槍の軌道を跳ね上げた。

砕けたグングニル

主神の槍はオティヌスの手へ戻ろうとしたが、空中で部品を散らしながら崩れ、彼女の元へ戻る前に完全に空中分解した。上条当麻の拳もただでは済まず、中指と薬指が異様な方向へねじれていた。

それでも上条当麻は笑った。自分はきちんと終わらせた、オティヌスはもう自分の夢から逃げられないと告げた。

失敗一〇〇%の魔神

オティヌスは、主神の槍は成功一〇〇%の方向性に過ぎず、妖精化によって植えつけられた失敗一〇〇%の可能性も残っていると叫んだ。槍がなくとも魔神は魔神であり、何も終わっていないと主張した。

彼女の胸から背中へ光の杭が浮かび、全身と漆黒の世界に亀裂のような紋様が広がっていった。上条当麻はその絶望的な力を前にしても、出し惜しみなしで全てを搾り出せと笑った。

世界そのものの弩

オティヌスは激怒し、北欧の主神にまつわるもう一つの武器である弩を顕現させた。それは一度に十本の矢を番え、あらゆる軍勢を殲滅するとされる神の武具だった。

世界そのものが彼女の弩となり、漆黒の空を覆う紋様が莫大な力を蓄えた。上条当麻が悟った直後、頭上の天蓋から十の破壊が降り注いだ。

認めるのか、否か

十の破壊

オティヌスの弩から放たれた破壊は、言葉で表せる規模を超えていた。上条当麻は十本の矢を回避しながらオティヌスへ迫り、一部は右手で軌道を逸らして進んだ。

しかし最後の一本は、オティヌスの背後から彼女自身を貫き、そのまま上条当麻の死角を突いた。矢は上条当麻の胸を砕き、心臓を奪い去った。

敗北者の願い

上条当麻は、自分だけでは元の世界へ戻れないと認めていた。彼の目的は復讐でも、オティヌスを倒して強さを証明することでもなく、彼女の協力がなければ望んだ世界には届かなかった。

死に向かう上条当麻は、右手を役立ててほしいとオティヌスに頼んだ。彼は、自分では喧嘩にしか使えなかった幻想殺しを使って、オティヌス自身の第一希望を取り戻せと告げた。

理解者の言葉

上条当麻は、本物と同じ世界を作っても、オティヌス自身が違いを知っているなら悲劇になると語った。彼女が本当に最初に何をしたかったのか、それを叶えなければ、幸せな世界に押し潰される迷子になると告げた。

その言葉を残し、上条当麻は動かなくなった。漆黒の世界で一人になったオティヌスは、自分が欲しかったものが理解者だったのだと気づいた。

選ばれた世界

オティヌスは、幻想殺しという基準点と魔神としての力が揃っていることを理解した。挑戦の成功率は五分五分を下回っていたが、少なくとも世界を修復する機会はあった。

彼女は、自分の元の世界と上条当麻の元の世界のどちらのために一度きりの機会を使うかを考えた。そして、上条当麻が本当に生まれ育った元の世界に、自分が求めていたものがあるなら、選択肢は一つに絞られると結論づけた。

船の墓場への帰還

上条当麻は、船の墓場で目を覚ました。そこにはインデックス、御坂美琴、レッサー、レイヴィニア=バードウェイがおり、世界が吹き飛ばされる直前の状況に戻っていた。

オティヌスは甲板の崖際に立っていたが、手にはもう主神の槍がなかった。上条当麻は、オティヌスが自分の目的を放棄してまで、自分を元の世界へ戻してくれたのだと察した。

向けられた敵意

インデックス達は、オティヌスが変わったことを知らなかった。彼女達にとってオティヌスは、東京を壊し、人々を巻き込んだグレムリンの首領のままだった。

インデックス、御坂美琴、レッサー、バードウェイは一斉に攻撃を放った。オティヌスは防御も回避もせず、その小さな体は圧倒的な暴力に弾き飛ばされた。

理解者の代償

上条当麻は、オティヌスがこうなると分かっていながら自分を助けたのだと気づいた。彼女は自分の理想を捨て、元の世界へ戻ったことで、世界中から追われる立場へ落ちたのである。

彼は、オティヌスが味わっているものは、自分が逃げ出した悪夢そのものではないかと考えた。自分は、助けてもらう代わりに、その地獄を彼女へ押しつけてしまったのだと悔いた。

総攻撃の星空

携帯ラジオは、多国籍連合軍がグレムリンの本拠地へ攻撃を開始したと伝えていた。空には、イギリス清教、ローマ正教、ロシア成教などによる無数の光が、東京湾へ流星のように降り注ごうとしていた。

倒れたオティヌスは、それでは神は殺せないが長く苦しむことになると呟いた。彼女は、自分が世界中から狙われることも、ゆっくりと貪られることも承知していた。

もう違うオティヌス

上条当麻は、降り注ぐ攻撃の前に立ち塞がり、右手を掲げてオティヌスを守った。彼は、オティヌスがこうなることを分かっていながら、自分に内緒で助けたのだと責めた。

オティヌスは、槍と妖精化の併用で体内が壊れており、もう助からないと語った。だが上条当麻は、今の彼女には問答無用で殺すほどの悪性を感じないと告げた。

世界との戦い

オティヌスは、たとえ投降してもグレムリンや世界の統治者達が許さず、逃げ場も安住の地もないと諦めていた。彼女が殺され、世界が平和の到来を祝う未来を受け入れていた。

しかし上条当麻は、それだけは我慢ならないと断じた。彼は、世界の全てと戦ってでもオティヌスを助けると決意し、彼女の前で右拳を握り締めた。

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