物語の概要
■ 作品概要
この巻の概要
物語開始時、一行はベリオス王国の魔術学院の特別教官兼短期編入生として、ヴィヴィアン湖畔のセフテント周辺での「学外サバイバル実習」に参加し、生徒たちの護衛任務を務めていた。
しかし、湖の温厚な魔獣が狂暴な「モドキ」に変異して船を襲う異常事態の発生を契機に、状況は一変する。
調査の過程で、かつての宿敵である錬金術師ゼライセの陰謀や、未来から時間移動(タイムスリップ)してきた成長後のロミオである少年「シエラ」の存在が明らかになる。
同時に、師匠の精神が人間らしさを失う「剣化」の危機を精霊レーンから警告される。
大魔獣の不完全復活に直面する中、レーンが繋いだ時間加速空間を通じて「別の時間軸(前の世界)の、完全に剣化した師匠と悲惨な未来を辿るフラン」と邂逅。
現在の師匠がもう一人の自分を激しく叱責したことで相手の心を取り戻させ、悲劇の未来を改変することに成功する。
現実に戻った一同は大魔獣を完全に消滅させ、最後は師匠の新スキル「精霊の手」を用いて、融合により命の危機にあったウィーナレーンと精霊レーンを安全に分離・生存させる結末まで状況が進展する。
■ 主要キャラクター
師匠
- 立場・所属:元人間の魂が転生した知性を持つ魔剣(インテリジェンス・ウェポン)。
- 主人公との関係:フランの相棒であり、彼女の保護者・教育者を自任する。
- この巻での主な役割:自身の精神が「剣」という器に適応し、人間的な感情を失いかける「剣化」に直面。フランの涙を見て人間性を保つことを強く決意する。終盤、ゼロスリードの邪気とウルシの魔力を借り、新獲得したユニークスキル「精霊の手」によってウィーナとレーンの縁を断ち切った。
- この巻で起きた重要な変化や行動:別時間軸の接続時に「精霊察知」「邪気支配」「神気操作」「精霊の手」のスキルを獲得。しかし、二度の神属性行使と潜在能力解放の反動により、耐久値が100未満に低下し、自己修復機能が停止するほどの深刻な消耗を負う。
フラン
- 立場・成長:黒猫族の少女。ランクB冒険者。魔術学院の短期編入生。
- 主人公との関係:師匠の装備者。
- この巻での主な役割:師匠の剣化に対する不安を抱きながらも、彼への絶対の信頼を表明して精神を支える。戦闘においては自傷を伴う新合体技「狼式抜刀術」や「黒雷神爪」を成功させ、大魔獣やゼライセを圧倒する主戦力として活躍した。
- この巻で起きた重要な変化や行動:以前はゼロスリードへの復讐心に駆られていたが、彼の変化やロミオとの絆を見て、勝手に死ぬことを許さない条件付きで生かすなど、憎悪を乗り越えた精神的成長を見せる。
ウルシ
- 立場・所属:フランの従魔。新種「ラグナロク・ウルフ」。
- 主人公との関係:フランの従魔。
- この巻での主な役割:暗黒魔術レベル7「ダーク・エンブレイス」を部分展開する必殺技「断界ノ牙(だんかいのきば)」を編み出し、ゼライセの下半身を噛み潰して致命傷を与えた。さらに、魔力を枯渇させた師匠へ自身の魔力を最後まで供給し続けた。
- この巻で起きた重要な変化や行動:実戦での戦闘や移動手段としてフランを支え、自傷ダメージを負いながらも任務をまっとうした。
シエラ
- 立場・所属:ランクE冒険者の少年。
- 主人公との関係:当初はフランに強い殺意を向けていたが、同じインテリジェンス・ウェポンの使い手としての秘密を明かされたことで和解し、共闘する。
- この巻での主な役割:正体は、前の世界の「ロミオ・マグノリア」が8年前に時間移動し、そこで成長した姿。携える黒剣は、時間移動時に疑似狂信剣へ魂が移った「前の世界のゼロスリード」である。
- この巻で起きた重要な変化や行動:自身の剣から放つ膨大な邪気「理よ、乱れろ」によって、周囲の魔術や透過スキルを打ち消し、ゼライセ討伐の起点を作った。最後は、大魔獣の封印負荷を自身の肉体と二人のゼロスリードで分担することを提案し、ロミオを救った。
ウィーナレーン(ウィーナ)
- 立場・所属:ベリオス王国魔術学院の学長。最強種族とされるハイエルフ。
- 主人公との関係:フランの上司(教官雇用主)。
- この巻での主な役割:双子の姉妹である精霊レーンと契約したことで、魂が融合し「ウィーナレーン」という二重の精神を持つ存在となっていた。
- この巻で起きた重要な変化や行動:大魔獣を完全に滅ぼすため、ハイエルフの奥義「亜神化」と魔力の前借り(未来から力を借りる)を極限まで行使し、百メートル超の水球に神属性を付与して大魔獣を消滅させた。反動で右腕、右顔面麻痺、右目失明に陥るが、師匠の手でレーンと分離された。
レーン
- 立場・所属:時と水の精霊。ウィーナの双子の姉。
- 主人公との関係:未来の悲劇を予告し、危機を救う協力者。
- この巻での主な役割:かつて大魔獣を弱らせて封印するため、自ら湖の精霊と同化して魔獣内部に残り、後にウィーナと契約して魂を融合させた。
- この巻で起きた重要な変化や行動:不完全な状態での大魔獣の復活を決断。戦闘中に現在のフラン・師匠と、前の世界の二人との精神的接続を仲介し、未来の改変を成し遂げた。のちに、師匠の「精霊の手」でウィーナと分離され消滅を免れる。
ゼライセ
- 立場・所属:レイドス王国に身を寄せる錬金術師。
- 主人公との関係:大魔獣の封印を解き、それをサンプルとして究極の魔獣を作ろうと企む宿敵。
- この巻での主な役割:未来(前の世界)から来た「前のゼライセ(疑似狂信剣に魂を移した魔剣・ゼライセ)」と、現在の時間軸の「今のゼライセ」の二人が暗躍していた。
- この巻で起きた重要な変化や行動:今のゼライセは魔剣ゼライセを操り、時空魔術の連打や透過能力(亜空間潜行)でフランたちを翻弄。しかし、最後はネームレスに裏切られて首を折られ、大魔獣の触手に飲み込まれて死亡・消滅した。
ネームレス
- 立場・所属:デミリッチ。レイドス王国の「黒骸兵団」第一席・団長。
- 主人公との関係:浮遊島でフランたちに滅ぼされたリッチの怨念を受け継ぐ怨敵。
- この巻での主な役割:リッチの復讐として、満身創痍のフランたちを大魔獣の目前に空間転移させて殺害しようとした。
- この幕で起きた重要な変化や行動:魔剣・ゼライセ(前のゼライセ)の「自身が唯一の存在になるため、生身のゼライセが目障りである」という意思に同意し、ゼライセを裏切ってその首をへし折る。魔剣・ゼライセを自身の配下に回収した。
ジュゼッカ
- 立場・所属:冒険者。正体はレイドス王国赤騎士団の六大団長の一人「緋眼のジュゼッカ」。
- 主人公との関係:目的の一致(ゼライセの暴走阻止)から、一時的にフランたちと共闘。
- この巻での主な役割:時空魔術の阻害を用いてゼライセの逃走を防いだ。さらに、大魔獣との戦闘では「ヴァーミリオンアイ」によって弱点を暴き、極大魔術に匹敵する「ヴァーミリオン・スピア(緋槍)」で大魔獣を貫いて弱体化させ、戦闘を有利に導いた。
書籍情報
転生したら剣でした 15
著者:棚架ユウ 氏
イラスト:るろお 氏
出版社:マイクロマガジン社(GCノベルズ)
発売日:2023年3月30日
ISBN:9784867164082
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あらすじ・内容
魔術学院の教官として慣れてきたフランへ、ついに動き出したゼライセが襲いかかる――!?
魔術学院の教官となったフランは師匠と共に校外でのサバイバル訓練に参加していた。
かつて敵であったゼロスリードの動向を気にしつつ生徒達の護衛をする二人であったが、想定していた数より多くの魔獣による襲撃がある。
フランに恨みを持ち、悪を誇る錬金術師による計画の一部だと知らず……。
感想
前巻では魔術学院に馴染み始めたフランだったが、今回はヴィヴィアン湖の異変、大魔獣、ゼライセ、シエラの正体と、一気に話が重くなる。
その中でも一番印象に残ったのは、やはり「もう一つの時間軸」にいるフランと師匠である。
剣としての体に順応しすぎた結果、人間らしい感情をほとんど失ってしまった師匠。
ウルシもいない。
そして、そんな師匠と二人きりで戦い続けてきた向こうのフラン。
読んでいてかなり辛かった。
今のフランと師匠を見ているからこそ、「少し違えばこうなっていた」という未来が余計に重く感じられる巻だった。
剣になっていく師匠を、フランはずっと怖がっていた
今回まず衝撃だったのが、師匠自身が少しずつ「剣」へ変化していたことだ。
肉体の話ではない。
精神そのものが、剣という存在に適応し始めている。
以前ならフランを叱ったり止めたりしていた場面でも、最近の師匠は少し離れた場所から判断を任せることが増えていた。
師匠本人はフランを信頼しているつもりだった。
だが、精霊レーンから見ると違う。
保護者ではなく、使用者の判断に従う剣へ近づいている。
そして何より、フラン自身がその小さな変化に気付いていた。
「剣なら、いっぱいある。でも、師匠は師匠だけ」
この感覚がすごく重い。
フランにとって師匠は強い武器だから大切なのではない。
料理を作ってくれる。
褒めてくれる。
危ないことをすれば叱ってくれる。
一緒に悩んでくれる。
そういう存在だから「師匠」なのだ。
だから、性能は同じでも中身がなくなったら意味がない。
その後、フラン、師匠、ウルシの三人で一緒に寝て、翌朝のパンケーキの話をする場面には少し救われた。
こういう何でもない会話こそ、師匠が人間らしさを保つために必要だったのだと思う。
向こうの世界では、その変化が最後まで進んでしまった
そして後半。
大魔獣との戦闘中、レーンの力によって時間の感覚が引き延ばされ、現在のフランと師匠は別の時間軸にいる自分たちと接触する。
そこで出てきた向こうの師匠が、想像以上にきつい。
完全に感情を失っている。
向こうのフランが怒っても、悲しんでも、機械的に返答するだけ。
褒めない。
叱らない。
慰めない。
戦闘について必要なことだけを淡々と伝える。
しかもウルシまでいない。
そりゃフランも荒むよな……。
むしろ、よくここまで壊れずに戦い続けていたと思う。
向こうのフランが、ロミオとゼロスリードの関係を見て苛立っていたのも辛い。
自分には、かつて優しかった師匠がいる。
でも、その師匠はもう自分を見てくれない。
一方で、憎んでいるゼロスリードはロミオを心配し、守ろうとしている。
現在のフランが前半で感じていた不安が、そのまま最悪の形になった世界だった。
だから向こうのフランが師匠に辛く当たるのも、単なる八つ当たりには見えなかった。
「昔の師匠に戻ってほしい」
結局はそれだけなのだと思う。
こっちの師匠が、向こうの自分にブチ切れる
この場面で面白かったのが、現在の師匠の反応である。
向こうのフランが泣いている。
それなのに、向こうの師匠は「自分は正常だ」という態度を崩さない。
それを見た現在の師匠が、向こうの自分に本気で怒る。
お前は剣である前にフランの師匠だろ、と。
「師匠」という名前自体、フランから与えられたものだ。
ただの武器なら、そんな名前は必要ない。
その一喝によって、完全に剣となったはずの向こうの師匠に揺らぎが生まれる。
ここはかなり熱かった。
敵を倒すための叫びではない。
別の世界の自分自身に、「お前は何者なのか」を思い出させるための言葉である。
そして向こうのフランも、もう一度師匠へ呼びかける。
すると、ほんの少しずつ師匠の声に感情が戻ってくる。
後のエピローグでは、向こうの師匠はかなり人間らしさを取り戻している。
しかも神剣としての権能を失ってでも、「師匠」に戻る。
向こうのフランも、それを喜ぶ。
強い剣より、師匠の方がいい。
シリーズをずっと読んできたからこそ、この答えはかなり納得できた。
でも、本人同士を時間を越えて会話させて大丈夫なのか?
読んでいて一番気になったのはここだった。
未来というか、別の時間軸にいる本人同士を直接会わせていいの?
しかも会話した結果、向こうの未来まで変わっている。
普通に考えると、かなり危ない時間干渉である。
ただ、作中でもこれは軽い出来事として扱われていない。
レーンは未来を完全に自由操作できる存在ではなく、水を通して過去の因果を読み、そこから可能性の高い未来を推測している。
そして今回は、時間を越えてきたシエラたちとの縁や師匠の時空系の力などを利用して、二つの時間軸を一時的に接続している。
しかも、その代償はかなり重い。
レーン自身が消滅しかねないほど消耗している。
つまり「未来の自分とちょっと話してみました」という便利能力ではない。
かなり無理をした例外的な接続だったように見える。
さらに面白いのは、現在側が過去を書き換えたというより、別の時間軸に存在しているフランと師匠へ干渉した形になっているところだ。
シエラ自身も、現在の幼いロミオが過去へ飛ばされて成長した存在である。
ゼロスリードも剣となって時間を越えている。
ゼライセまで時間移動している。
もうこの巻、時間軸がだいぶ大変なことになっている。
「これ、本当に大丈夫?」
という感想になるのは当然だと思う。
ただ、その危うさまで含めて面白かった。
そして結果として、救われたのは現在のフランたちだけではない。
本来なら絶望して暴走するはずだった向こうのフランも、心を失っていた向こうの師匠も救われた可能性が生まれた。
さらに最後には、向こうの世界でもウルシを再召喚できる可能性まで提示されている。
最悪の未来を見せるだけでは終わらず、そこにもわずかな救いを残した。
それが一番よかった。
『転生したら剣でした』という題名だけを見ると、「人が剣に転生する話」である。
でも15巻まで来ると、逆に「剣になっても、人としての心をどう残すのか」という話になっている。
師匠が剣として強くなるほど、人間だった自分から遠ざかっていく。
それでもフランは、強い剣ではなく「師匠」を求める。
今回のもう一つの世界は、その関係がどれだけ大切だったのかを改めて見せてくれたように感じた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察・解説
主要な転換点
- 転換点:精霊レーンによる師匠の「剣化」の警告
- それ以前の状況:師匠は会話の減少や判断の放棄を「フランの成長のため」と肯定的に捉えており、自身の精神が人間らしさを失う「剣への適合(傍観者化)」の進行を自覚していなかった。
- 出来事:実習地で精霊レーンが突然現れ、師匠の精神が「傍観者(ただの剣)」に変質していることを指摘。フランも不安を抱き涙を流す。
- 変化:師匠は自分がただの剣になることを恐れるようになり、人間らしい感情と保護者としての意志を保つことを強く誓った。
- 次への影響:精神的な揺らぎを自ら認識したことで、時間加速時に「前の世界の剣化した自分」を激しく叱責する足がかりとなり、過去の悲劇の未来を改変する結果に繋がった。
- 転換点:封印神殿での魔石兵器の破壊
- それ以前の状況:ゼライセが設置した大魔獣の封印を吸い尽くす魔石兵器は、フランの通常の天断でも傷一つ付けられない鉄壁の防壁に覆われていた。
- 出来事:フランが自力で黒雷を制御して「黒雷神爪」を成功させ、神属性の突きで魔石兵器を傷つけ、師匠が共食いで消滅させる。
- 変化:封印の侵食は停止したものの、神属性を重ねて使った反動で師匠の耐久値は大幅に低下(残り100未満)し、自己修復機能も一時停止する。
- 次への影響:大魔獣がこれを脅威と認識し、本格的に復活・暴走を開始。また、師匠の戦闘能力が著しく制限され、ウルシや新スキルへの依存度が高まった。
- 転換点:時の超加速(二つの時間軸の対話)と未来の改変
- それ以前の状況:前の時間軸では、剣化した師匠に絶望した前のフランが大魔獣と暴走して相打ちになる最悪の結末(悲劇の未来)に向かっていた。
- 出来事:精霊レーンの力によって二つの時間軸が精神世界で接続され、現在の師匠が「ただの剣」となったもう一人の師匠を激しく叱責する。
- 変化:あっちの師匠の精神に揺らぎが生じて心を取り戻し、前のフランとの和解が成立。悲劇の未来は回避され、未来はより良い方向へ改変される。
- 次への影響:接続中の情報交換により、現在のアナウンスさんが「剣化を遅滞・解除する方法」を得ると同時に、師匠は「精霊の手」や「神気操作」などの強力な新スキルを獲得した。
- 転換点:師匠の新スキル「精霊の手」によるウィーナとレーンの分離
- それ以前の状況:大魔獣を滅ぼした代償(前借りと消滅)により、ウィーナとレーンのどちらか一方の命しか救えない二者択一の状態に追い詰められていた。
- 出来事:師匠がゼロスリードの邪気とウルシの魔力を借りて「精霊の手」を起動し、ウィーナとレーンを繋ぎ融合させていた「縁(繋がり)」を断ち切る。
- 変化:ウィーナレーンは元の二人(ウィーナとレーン)に無事分離。ウィーナは一時的に昏睡し、レーンは本来の力を取り戻して消滅の危機を脱する。
- 次への影響:誰も犠牲にしないというフランの願いが完全に叶い、魔術学院や湖の事件におけるすべての懸念事項が解決へと導かれた。
フラン・師匠を中心とした人物関係の変化
- シエラ(未来のロミオ)
- 開始時:初対面時にフランへ不自然で強烈な殺意をぶつけ合い、お互いに強い警戒と敵愾心を抱いていた。
- 主な出来事:ゼライセとの戦闘でシエラがスキル無効化でフランを助け、その後お互いの時間移動の真実を打ち明け合う。師匠が自身の正体(インテリジェンス・ウェポン)を明かしたことで、同じ境遇の相棒を持つ者として深い共感を得る。
- 巻末時:大魔獣を共闘して倒した戦友となり、お互いの目的達成と生存を認め合う、強いシンパシーで結ばれた信頼関係へと変化した。
- ゼロスリード(現在・魔剣)
- 開始時:キアラの仇としてフランが真っ先に殺意を抱き、魔術学院で襲いかかった。ゼロスリード自身はフランに命を預けて契約解除後に殺されることを約束していた。
- 主な出来事:大魔獣との死闘において、ゼロスリードが全身を焼かれながら盾となってフランたちを庇い、またシエラたちが彼の命を守るために負荷を背負う。
- 巻末時:依然として憎しみはあるものの、ロミオを大切に思う彼の「変化」を目の当たりにし、殺意やわだかまりが僅かに氷解。勝手に死ぬことは許さないという誓いへと変化した。
フラン・師匠の認識と周囲の評価
- 主人公自身の認識
- 師匠:自身を「フランの師匠であり、保護者」と認識していたが、剣としての適合が進むことで、知らぬ間に会話を減らし、判断を投げる「単なる剣(傍観者)」の思考へ変わっていた。レーンの指摘とフランの涙により、ただの道具へ成り下がる自分への恐怖を覚え、何があってもフランの味方として「人間であり、師匠」であり続けることを強く決意する。
- フラン:大魔獣やウィーナレーンの天変地異の如き超絶戦闘を目の当たりにし、自分はまだまだ未熟で弱いと捉えている。もっと強くなって、いつか誰もが笑顔で終われるよう、また黒猫族の進化の呪いを自力で解くためにさらなる高みを目指さねばならないと痛感している。
- 周囲からの評価
- ウィーナレーンや精霊レーン:フランと師匠の実力を、大魔獣の完全復活を阻止し、自らの命を救ってくれた「恩人」として絶賛・信頼。特に師匠の持つ「魔石を吸収・消滅させる能力」を魔石使い(ゼライセ等)の天敵として極めて高く評価している。
- シエラ:最初は「仇」や「前の世界の敵」として睨んでいたが、フランがゼロスリードとロミオを命懸けで守り、師匠が同じインテリジェンス・ウェポンであることを明かしたことで、深い敬意と感謝、信頼を抱くようになる。
- 認識の差が現れた場面
- 終盤、大魔獣との決戦前に、ウィーナレーンや精霊レーンが「大魔獣に近づけば邪神の支配を受けて操られてしまう」とフランたちの接近戦を強く止めた場面。実際には、師匠が「地球人の魂」であるため支配を受けず、彼と魂で不可分に繋がっているフランやウルシ、さらには「共食い」を持つシエラにも邪神の支配が効かないという特異性があった。これをフランが実証し、周囲の常識を覆して大魔獣の弱体化任務をやり遂げた。
クライマックス
- 発生原因:ゼライセの魔石兵器による封印の侵食、およびレーンが不完全な状態で大魔獣を復活させたことにより、湖底から飢餓感と強力な邪気を放つ巨大な肉塊(大魔獣)が完全脱出を求めて暴走を始めたこと。
- 当初の状況:大魔獣は全身から無数の触手や漆黒の魔力弾、光線を放ち、周囲五〇〇メートルを焦土と化す圧倒的な物量で襲いかかる。
- 登場人物それぞれの行動:
- フラン・ウルシ:師匠にヒール・ディスターブを付与し、カタパルト反動を使った合体技「狼式抜刀術(ろうしきばっとうじゅつ)」で急降下。大魔獣を真っ二つに裂くも、加速の反動(自傷)で内臓破裂、骨折の満身創痍に陥る。
- シエラ・ゼロスリード:ゼロスリードが身を挺して光線を盾で防ぎ、シエラが圧縮邪気の巨槍で大魔獣に特大の穴を穿つ。
- ジュゼッカ:魔眼を起動し、時空属性の「ヴァーミリオン・スピア」を六度にわたって貫通させ、大魔獣の注意を惹きつけて弱点を露呈させる。
- ウィーナレーン:「亜神化」と「前借り」によって巨大な水球を操り、大魔獣を完全に消滅・滅ぼした。
- 予定外の出来事 / 危機:
- 戦闘の合間にゼライセとデミリッチ「ネームレス」が現れ、消耗しきったフランたちを大魔獣の目の前へ空間転移させて拘束する。
- ネームレスはリッチの怨念を継ぎ、フランを仇として狙う。しかし、ネームレスは「魔剣・ゼライセ(前のゼライセ)」の『自身が唯一の存在になるため、生身のゼライセが目障りである』という意思を受け、ゼライセを裏切ってその首をへし折り、大魔獣の触手に飲み込ませて殺害する。
- 対応:
- ウルシは自らの防御を犠牲にしながら、急加速で接近。暗黒魔術と次元牙を合わせた必殺の「断界ノ牙(だんかいのきば)」でゼライセの下半身を噛み潰す。
- ジュゼッカや精霊レーンが転移阻害を行い、ゼライセの逃走を阻止した。
- 決着:大魔獣はウィーナレーンの神水によって跡形もなく消滅。ゼライセはネームレスの裏切りで死亡し、ネームレス自身はジュゼッカの応戦によってその場を退けられた。
巻末時点の状況
- 主人公がどこにいるか:ベリオス王国のヴィヴィアン湖の白い舞台。
- どのような立場になっているか:大魔獣の不完全復活を防ぎ、融合して命の危機にあったウィーナレーンと精霊レーンを「精霊の手」で救った英雄的な立場。
- 主要人物との関係:
- ウィーナや精霊レーンとの絆はより強固なものとなり、命の恩人として深く感謝されている。
- シエラやゼロスリードとも同じインテリジェンス・ウェポンの使い手としての秘密を共有し、不器用な和解と深い信頼を築く。
- 解決した問題:
- 大魔獣の完全復活と、それに伴うベリオス王国の滅亡の危機を阻止したこと。
- 師匠の「剣化」を自覚し、人間らしい心を取り戻して悲劇の未来を改変したこと。
- ウィーナレーンとレーンの融合状態を安全に解除したこと。
- 宿敵である人間のゼライセが完全に死亡・消滅したこと。
- 継続している問題 / 今後につながる要素:
- 前の世界のゼライセが宿る「魔剣・ゼライセ」がネームレスに回収され、回収後の行方は不明。
- 黒骸兵団の第一席ネームレスとの因縁(リッチの怨念による復讐心)が残されていること。
- ウィーナ(元ウィーナレーン)の前借りの代償による肉体麻痺(右側麻痺、右目失明、右耳失聴など)が回復するのに「年単位」の長い時間を要すること。
- 神剣化・潜在能力解放の酷使により、師匠の耐久値は100以下に激減。しばらく自己修復不可のポンコツ状態が続く。
登場キャラクター
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展開まとめ
プロローグ シエラ×????
謎の強者
シエラの相棒は、真っ青な髪と赤い目、黒い肌を持つ女性が自分を見ていたことに気づいた。シエラはその女性の存在すら認識しておらず、相棒は隠形系の能力を使っていた可能性を考えた。立ち姿だけでも強者と分かるほどの存在であり、相棒は戦えば勝敗が読めないほど危険だと評価した。
前の歴史にいない存在
その女性は、以前の歴史では見たことのない存在だった。相棒は、かつて戦ったフランにも匹敵するほどの力を持ち、単独で戦況を変えかねないと警戒した。重要な時期に現れた未知の強者が、今後どのように関わるか分からないことを不安視した。
すべてへの警戒
シエラと相棒にとって、ウィーナレーンやフラン、ゼライセたちを含め、自分たち以外は敵対する可能性がある存在だった。目的を阻む者であれば誰であろうと警戒し、未知の女性についても注意を続けることにした。
ロミオ救出への決意
相棒はどんな試練があっても目的を果たし、シエラとロミオを救うと改めて決意した。以前のようにロミオを死なせることはせず、今度こそ必ず助けるという強い意志を固めた。
第一章 剣と化す
学外サバイバル実習
学院一行の出発
魔術学院では学外サバイバル実習が始まり、二百人を超える生徒と三十人ほどの教官が四十台の馬車でヴィヴィアン湖へ向かった。フランは教官として遊撃役を任され、ウルシに乗って上空から車列を警戒した。雑魚魔獣は生徒に任せ、危険な相手だけを排除する役割であった。
森林地帯の魔獣
森林地帯では、フランが脅威度Eのトールトールマンティスを迎撃し、その死角から一刀両断した。続いて隠密行動に長けた六匹のアサシンエイプが生徒たちへ接近したため、フラン、師匠、ウルシが先手を取り、短時間で全滅させた。
ゼロスリードとの同行
最初の野営地でフランはウィーナレーンの天幕へ呼ばれ、拘束されたゼロスリードとロミオに再会した。フランはゼロスリードへの殺意を抑えたが、ロミオから彼をいじめるなと責められた。ウィーナレーンは翌日のスロウトータス狩りについて説明し、周囲から寄ってくる魔獣への対処をフランに任せるとともに、ゼロスリードも生徒の安全のため働かせると告げた。フランは複雑な感情を抱きながらも受け入れた。
ヴィヴィアン湖への到着
三日目の夜、一行はセフテント近郊のヴィヴィアン湖へ到着した。生徒たちは戦闘や夜間行軍で疲れ切っていたが、それも実習の一環であった。野営地にはセフテントのギルドマスターであるジル婆さん率いる冒険者たちも護衛として合流した。
湖の異変
ウィーナレーンが翌日からの水練について尋ねると、ジル婆さんは湖で異変が起きていると答えた。同じ頃、シエラと相棒も学院一行の到着を察知し、ウィーナレーン、ロミオ、ゼロスリード、フランが再び湖へ集まったことを確認していた。
シエラと過去の破滅
シエラの相棒は、以前の出来事ではウィーナレーンによってシエラが殺されたことを思い返していた。しかしシエラ自身は、それが当時もっとも確実な方法だったとしてウィーナレーンを憎んでいなかった。一方、フランに対しては強い殺意を抱いていた。二人はゼライセの所在を警戒しながら、八年間準備してきた力で以前の破滅を防ぐと決意した。
ヴィヴィアン・ガーディアンの異変
翌日、フランはキャローナ、カーナらの班を若手冒険者チャールズと護衛した。チャールズから、ヴィヴィアン湖固有の温厚な魔獣ヴィヴィアン・ガーディアンに異常個体モドキが現れていると聞いた。モドキは本来の縄張りを離れて人や船を襲い、特に商業船団の周辺で多く目撃されていた。
緋水草不足の違和感
生徒たちは小川で不足している緋水草を発見した。チャールズによれば東部で需要が高まっているというが、風土病が広がっているという話は学院にもなく、キャローナも流行しているなら子供の患者が増えるはずだと疑問を示した。カーナも事情に違和感を覚えながら、表向きは商売の機会を考えたと説明した。
モドキに襲われた運搬船
湖岸付近で、生徒たちはモドキに襲われている運搬船を発見した。救出へ向かおうとする生徒をチャールズが制止する中、フランはウルシを護衛として残し、一人で救助に向かった。触手に捕らわれた船員を救い、雷撃で周囲を巻き込まないよう師匠を投擲用の形へ変化させ、全力投擲と念動カタパルトでモドキを貫いて倒した。
沈没船の積み荷
船はすでに沈み始めており、フランは五人の船員を救出した。積み荷には穀物のほか、不足している緋水草から作られた新しい緋水薬が含まれていた。フランと師匠は沈没する船へ戻り、次元収納を使って三十箱近い積み荷を回収した。
水魔術の違和感
船内の水中では、フランの水魔術が想定より僅かに強く作用した。師匠も同じ違和感を覚え、水そのものに何らかの影響が出ていると考えた。船員によれば緋水薬以外の魔法薬は積んでおらず、原因が薬なのか、溶けたモドキなのかは分からなかった。
倒れたロミオ
野営地へ戻った夜、フランは草むらで高熱を出して倒れているロミオを発見した。安易に回復魔術を使わず、彼を抱えてウィーナレーンのもとへ運んだ。診察の結果、長旅やゼロスリードの邪気による疲労で消耗していたが、命に別状はなかった。
ロミオへの心配
ウィーナレーンからロミオを嫌っているのではないかと尋ねられたフランは、嫌っていないと答えた。フランにとってロミオは接し方が分からない相手であるだけで、苦しんでいれば素直に心配できる存在だった。ロミオも、自分にとって敵であるはずのフランが助けてくれたことに戸惑っていた。
ゼロスリードの優しい声
戻ってきたゼロスリードがロミオの名を心配そうに呼んだ瞬間、フランは強く動揺した。その声が、師匠が自分を心配するときの優しい声と同じに聞こえたためであった。フランはゼロスリードが本当にロミオを案じていると確信し、仇である彼の変化に戸惑った。
精霊レーンの正体
自分の天幕へ戻ったフランの前に、キアーラゼンで魚を売っていたレーンが突然現れた。以前の眼帯を外した彼女は右目が紫、左目が緑であり、自らを時と水の精霊レーンと名乗った。レーンは水を通じて過去の因果を視て、その情報から未来を予測する力を持っていた。
近づく悲劇
レーンはフランたちに高い確率で悲劇が迫っていると警告し、以前フランに救われた恩を返すために現れたと語った。ただし未来への干渉が大きすぎれば結果そのものが変わるため、詳しい事情までは説明できなかった。
師匠の剣化
レーンは師匠に対し、肉体だけでなく精神まで剣へ適応し始めていると告げた。以前なら保護者としてフランを止めていた場面でも判断を本人に任せ、一歩引いた傍観者のようになっていると指摘した。師匠は否定しようとしたが、強く否定することができず、自身の変化を自覚した。
フランの不安
フランは以前から師匠の小さな変化に気づいていたが、それを口にすることを怖がっていた。その不安が最近の苛立ちや攻撃性にも繋がっていた。フランは剣なら他にもあるが、師匠は一人しかいないと涙を流し、師匠を強く抱きしめた。
師匠としての決意
師匠はフランの悲しみを前にしても剣になること自体を恐れられなかった自分に衝撃を受けた。しかしフランの呼びかけによって再び強い恐怖と人間らしい感情を取り戻し、自分はフランの師匠であり、単なる剣にはならないと決意した。
ゼロスリードへの戸惑い
師匠が改めてゼロスリードの声について尋ねると、フランはロミオを呼んだ声が師匠と同じ優しさを持っていたと説明した。仇であるゼロスリードが良い方向へ変化している一方で、師匠が人間性を失いつつあることが、フランをより不安にさせていた。
三人で眠る夜
フランは師匠と一緒に眠りたいと願い、ウルシも加えて三人で過ごした。久しぶりに取り留めのない会話を交わし、翌朝のパンケーキを頼んだフランは安心したように眠りについた。師匠はその姿を見ながら、二度と自分のことでフランを悲しませないと誓った。
剣化適応システム
フランが眠った後、師匠はアナウンスさんに自身の変化を尋ねた。剣への精神適応は、剣の体に人間の精神を宿すことで狂わないよう神が用意した救済システムであり、完全に停止すれば精神が不安定になって狂う確率は八十八パーセントと告げられた。
人の心を保つ道
師匠が人の精神を保ちながら剣として狂わずにいるには、精神そのものを柔軟かつ強靱にする必要があった。その成功率は五パーセントだったが、師匠は可能性がゼロではない以上諦めないと決めた。アナウンスさんは自身の機能を一時低下させてでも剣化を解析し、進行を遅らせる方法を研究することになった。
剣となった師匠の未来
その後、フランはゼロスリードを斬った自分を師匠が褒めず、以前のように感情を向けてくれないことに苦しんでいた。師匠は行動を淡々と評価するだけで、フランが怒る理由すら理解できず、最後には喋らないでほしいという言葉にも無感情に従った。その姿は、レーンが警告した単なる剣へ変わった師匠を思わせ、フランは一人で助けを求めていた。
第二章 レイドスの魔の手
湖底の大魔獣
ウィーナレーンはフランにヴィヴィアン湖の異変調査を依頼し、護衛任務から一時的に外した。彼女自身は湖へ入れず、その理由として湖底に脅威度A以上の大魔獣が封印されていることを明かした。その魔獣はかつて海からヴィヴィアン湖の大精霊を狙い、大地を変形させて海と湖を繋ぎ、大精霊を取り込んでさらに強大化していた。知人によって湖底へ封印された後、ウィーナレーンが封印と契約を引き継いでいた。
ヴィヴィアン・ガーディアン
ヴィヴィアン・ガーディアンは、大魔獣の中に残る守護精霊が封印を守るために生み出した存在だった。通常は封印へ近づく者を追い払うだけだが、強く攻撃されれば群れ全体が攻撃形態へ移行した。ウィーナレーン自身も守護精霊と契約しており、その力を体内に宿しているため、湖へ入れば大魔獣と力が引き合い、封印が緩む危険があった。
レーンの名
師匠が守護精霊の名をレーンかと尋ねると、ウィーナレーンは強く動揺した。フランたちが前日にレーン本人と会ったと知ると、ウィーナレーンが存在する限りレーンは現れないはずだと取り乱し、湖の異変との関係を疑った。その後はフランに調査を急ぐよう命じ、自分の名を使って多少の無茶をしても構わないとまで告げた。
異変調査の手掛かり
フランはセフテントの冒険者ギルドでジル婆さんから情報を集めた。モドキは正常なヴィヴィアン・ガーディアンと異なり、生物を襲って魔力を吸収し、特に商業船団を狙う傾向があった。調査に動いている者として、ロブレン、シエラ、青髪で黒い肌をした新米冒険者ジュゼッカの名も挙げられた。
緋水薬と時空魔力
ジル婆さんは、ヴィヴィアン湖の水には微量の時空系魔力が含まれていると説明した。それを長年摂取すると体内に魔力が蓄積し、弱いヘイスト状態による感覚と身体反応のずれが風土病として現れていた。緋水草はその魔力に耐性を持ち、そこから作られる緋水薬は逆に作用を強めることで身体に適応を促す特効薬だった。以前フランが水魔術に覚えた違和感も、船内に漏れた緋水薬の影響と考えられた。
ゼロスリードの頼み
野営地へ戻ったフランは、拘束されたゼロスリードから頼みを持ちかけられた。ゼロスリードは、ウィーナレーンがロミオとの契約を解除した後なら、自分の命を好きにして構わないと申し出た。その対価として、自分の死後にロミオをバルボラの孤児院へ連れていってほしいと頼んだ。フランは激しい憎しみを抑え、ゼロスリードの命を対価としてその依頼を受け入れた。
フランと師匠の変化
師匠は、以前ならフランがゼロスリードへ襲いかかることを当然と考え、破滅へ向かっても剣として付き従おうとしていた自分を省みた。それは保護者ではなく、レーンが指摘した傍観者の思考だったと理解した。今回は憎しみを抑えたフランを素直に褒め、保護者として叱ることも支えることも必要だと改めて考えた。フラン自身もゼロスリードをまだ許してはいなかったが、以前とは違う存在になったことを認め始めていた。
幻の屋台
キアーラゼンでレーンを探したものの、以前の屋台は消えていた。商会にもレーンという商売人の記録はなく、代わりに黒い布で目を隠した少女が営む幻の屋台という都市伝説が伝わっていた。いつどこに現れるか分からず、探しても見つけられない存在だとされていた。
師匠の分体
師匠は人間らしさを取り戻す方法として分体創造を試し、人の姿で商会と会話した。しかし分体の感覚は希薄で、人間の体に戻った実感はなく、むしろ本体が剣であることを意識させられた。フランも分体には違和感を抱いており、常用する方法にはならなかった。
シエラの魔剣
港でフランは、禍々しい黒い剣を湖へ浸していたシエラと再会した。ウルシは剣から僅かな邪気を察知して強く警戒した。師匠が鑑定すると、剣の銘は不明と表示され、邪気を帯びた特殊な武器であることが判明した。シエラ自身はその性質を把握していたが、入手経緯を話そうとはしなかった。
ロミオの生贄
シエラは立ち去る直前、ウィーナレーンがロミオを殺す可能性があると告げた。マグノリア家には邪を喰らい吸収する邪神の聖餐という力があり、湖底の大魔獣に取り込まれた邪神の欠片を抑えるには、ロミオを生贄としてその力を使う方法が最善だと説明した。フランはゼロスリードは敵でもロミオは敵ではないとして、死なせないと明言した。
呪われた剣の噂
ロブレンによれば、シエラは六、七年前から現在の剣を持ち、この地域では呪いの魔剣と呼ばれていた。無理に奪おうとした者たちは次々に大怪我などの不運に見舞われたが、シエラ自身には全てアリバイがあった。剣の詳細はロブレンにも分からなかった。
襲われた船の共通点
ロブレンはモドキに襲われた船の積み荷を各地で調査していた。フランも商会の資料確認を手伝い、襲われた全ての船に緋水薬か、その原料となる緋水草が積まれていたことを突き止めた。人間の魔力が目的なら他の魔獣を狙う方が効率的であるため、モドキが緋水薬そのものを狙っている可能性が高まった。
レーンと師匠の未来
野営地へ戻ったフランたちは、ウィーナレーンにレーンとの二度の遭遇を詳しく伝えた。レーンに未来を視る力があることは間違いないとされ、師匠の精神が剣へ適応しているという警告も真実である可能性が高かった。
狂わない剣
ウィーナレーンは、過去に出会ったインテリジェンス・ウェポンの多くが狂っていたと語った。人間としての自我が強すぎて剣の体を受け入れられず壊れたものと、逆に剣へ適応しすぎて感情を失ったものがいた。しかし唯一正常だった剣は、誕生から同じ使用者と長く過ごし、相棒として強い絆を築いていた。フランは自分たちは最高のコンビだから師匠は大丈夫だと信じ、師匠もその言葉によって不安を和らげた。
調査への新たな目的
ウィーナレーンは、湖の異変を解決できれば、その狂わなかったインテリジェンス・ウェポンの居場所を教えると約束した。師匠のための手掛かりを得られると知ったフランは、異変の原因を必ず突き止めると強く決意した。
カーナの調査
フランは教官役を離れたことを伝えるため、キャローナたちを訪ねた。そこでカーナから、実家の伝手で調べた緋水薬に関する情報を密かに提供された。カーナは商材として緋水草を調べる中で、湖周辺だけ価格が異常に高騰していることと、その理由とされる東部の風土病患者増加が事実ではないことを突き止めていた。
メッサー商会とレイドス王国
風土病患者は例年通りであるにもかかわらず、緋水薬は不足しているとされていた。新型緋水薬の流通をほぼ独占するメッサー商会は、裏でレイドス王国と繋がっており、患者増加という偽情報が操作されている形跡もあった。カーナは陰謀の全貌までは掴めていなかったが、湖の異変と同時期に起きた不自然な動きとしてフランへ託した。
緋水薬の偽装流通
ロブレンも情報を聞き、実際には患者が困っていないため、風土病の流行が偽情報であることに誰も気づかなかったのだと考えた。薬の価格も例年通りであり、値上げが目的ではないことから、国内向けに販売したよう偽装して緋水薬そのものを別の目的へ集めている可能性が浮上した。
商業船団への潜入
フラン、師匠、ウルシ、ロブレンは商業船団へ向かい、メッサー商会の船を訪ねた。幹部グレゴリーは湖の異変との関係を否定し、帳簿や倉庫の確認も拒否した。しかし師匠の虚言の理によって発言が嘘だと判明し、フランがウィーナレーンの名代であることを明かすと、グレゴリーは拒み切れず倉庫へ案内することになった。
グレゴリーの撤収命令
師匠は密かに糸をグレゴリーへ付着させ、会話を盗み聞きした。グレゴリーは冒険者に計画を察知されたとして撤収を前倒しし、国元へ逃げる準備を命じた。またフランたちを第三倉庫へ誘導し、そこに潜む黒屍人へ殺させようとしていた。
第三倉庫のワイト・キング
第三倉庫にはアンデッドを休眠させる棺があり、中には脅威度Bのワイト・キングが潜んでいた。師匠は侵入前から鋼糸を張り巡らせて魔力を奪い、さらに浄化魔術で弱体化させた。フランは扉を破って突入し、奇襲するはずだったワイト・キングを棺ごと一刀両断した。
レイドス王国の潜伏工作
倉庫へ案内した男を尋問すると、メッサー商会がレイドス王国の隠れ蓑であり、東征公爵配下の錬金術師が計画を指揮していることが判明した。レイドス王国では国王と嫡男の死後、後継者争いが続いており、四大公爵家が国を支えていた。東征公爵家は過去にウィーナレーンによって侵略を阻まれた勢力で、現在は水面下の工作を進めていた。
グレゴリーの捕縛
ロブレンがギルドへ報告に向かった後、フランはウルシとともに逃走準備を進めていたグレゴリーを捕らえた。護衛の男二人を瞬時に気絶させ、グレゴリー自身も抵抗を諦めるまで痛めつけて尋問した。グレゴリーは二十年以上前から潜伏していたレイドス王国の子爵であり、普段は商人として信頼を築いていた。
錬金術師ゼライセ
グレゴリーは、東征公爵配下として計画を指揮している錬金術師の名をゼライセだと明かした。フランたちが以前バルボラで戦った人物であり、現在はレイドス王国側で活動していた。グレゴリーたちはゼライセから緋水薬の大量生産を命じられていた。
黒骸兵団のワイト・キング
第三倉庫のワイト・キングはゼライセの配下ではなく、南征公に属する黒骸兵団から貸し出された存在だった。黒骸兵団では、人間に死霊魔術を覚えさせたうえで無理やりアンデッド化し、理性と会話能力を残した高位アンデッドを作り出していた。平時は専用の棺で眠らせ、敵国内へ密かに運び込むことも可能だった。
保管された緋水薬
ゼライセの最終目的はグレゴリーにも知らされていなかった。大量生産された緋水薬は国外へ送られず、国内向けに僅かに流通させた残りが一年以上も商業船団内に保管されたままだった。グレゴリー自身も湖の異変への関与を知らず、緋水薬を集める目的とモドキ発生の繋がりは依然として不明だった。
工房船の爆発
フランは駆けつけたダゴールたちへメッサー商会の制圧と捕虜の確保を任せ、ゼライセがいるという緋水薬工房へ向かおうとした。その直後、船団の一角で巨大な爆発が発生し、激しい火柱が上がった。ダゴールは、燃え上がった船こそフランたちが向かおうとしていた工房船だと告げた。
第三章 インテリジェンス・ウェポンたち
工房船の爆発
フランたちが向かおうとしていた緋水薬の工房船が爆発し、炎上しながら沈み始めた。湖に投げ出されていたロブレンを救助すると、工房にいた金髪碧眼の錬金術師が瓶を投げて爆発を起こしたと判明した。ロブレンの説明から、その男がゼライセであることは確実だった。フランとウルシは生存者を救助したが、多くの犠牲者も出ており、フランはゼライセへの怒りを強めた。
メッサー商会船の炎上
続いてメッサー商会の船も爆発し、証拠隠滅のための仕掛けによって急速に炎上した。拘束されていた商会関係者の多くは逃げられず、フランたちは再び救助に追われた。その直後、今度は複数の船がヴィヴィアン・ガーディアンのモドキに襲撃され始めた。
緋水薬に集まるモドキ
工房船やメッサー商会船の爆発によって大量の緋水薬が湖へ流出し、それに引き寄せられるように三十体以上のモドキが商業船団へ殺到した。フラン、師匠、ウルシは船への被害を抑えるため派手な魔術を避け、接近戦を中心にモドキを次々と仕留めた。ロブレンやシエラも戦線に加わり、特にシエラは漆黒の魔剣によってランクB級に匹敵する戦闘力を発揮した。
戦場を見つめる視線
戦闘中、フランと師匠は何者かに観察されている不快な視線を感じた。相手の位置を捉えられなかったが、進化したウルシだけはその居場所を把握した。モドキをほぼ撃破すると、ウルシは影転移で視線の主へ奇襲を仕掛け、フランと師匠もその後を追った。
ゼライセとの再会
視線の主はゼライセだった。ウルシの拘束魔術を障壁で防いだゼライセへフランが奇襲したが、斬撃はその体をすり抜けた。ゼライセは実体も気配も消す特殊な透過能力を使用しており、通常の斬撃や魔術は通じなかった。師匠の時空魔術やウルシの次元牙には反応したため、時空属性なら干渉できる可能性があった。
緋水薬の廃液
ゼライセは、自分たちの目的が緋水薬そのものではなかったと明かした。新型緋水薬では緋水草の内部だけを使うため、時空魔術を乱す作用を持つ外皮成分が廃液として残った。ゼライセはその廃液を大量に湖へ流し、湖中央を守るヴィヴィアン・ガーディアンを弱体化させようとしていた。
モドキ誕生の原因
廃液によってヴィヴィアン・ガーディアンは消滅せず、魔力不全を起こして凶暴なモドキへ変異した。さらにモドキは乱れた自身の魔力を整えようとするかのように、緋水薬を求めて船を襲うようになっていた。ゼライセは予想外の変異さえ興味深い現象として楽しんでいた。
大魔獣への興味
ゼライセの目的は国を滅ぼすことではなく、湖底に封印された特殊な大魔獣を研究することだった。複数の力が混じった大魔獣を、究極の魔獣を作るための研究材料にしようとしていた。フランたちはゼライセをこの場で仕留めるため、総力戦の準備を整えた。
シエラの邪気解放
そこへシエラが現れ、ゼライセに激しい憎悪を向けた。シエラは漆黒の剣から膨大な邪気を解放し、理よ、乱れろと叫んだ。その力は周囲で発動していた魔術やスキルを強制的に打ち消し、フランとウルシだけでなく、ゼライセの透過能力まで解除した。
シエラとゼライセの因縁
透過を失ったゼライセへシエラが斬りかかり、深い傷を負わせた。戦いの中でゼライセはシエラをロミオと呼び、ゼロスリードの名まで口にした。シエラは激しく動揺しながらも、ゼライセを元凶として殺そうと戦い続けた。
フランの必殺の一撃
フランは剣神化と黒雷転動を発動し、シエラとの戦闘に集中するゼライセへ必殺の斬撃を放った。ゼライセは魔石製の剣で防ごうとしたが、師匠がそれを共食いで吸収したため防御を失った。神属性を帯びた斬撃はゼライセへ深く入り、その生命力を急速に奪った。
ゼライセの死
致命傷を負ったゼライセは湖へ落下し、死の直前に肉体を紫色の毒霧へ変化させた。フランたちは距離を取り、師匠が風魔術で毒霧を封じた後、毒吸収ですべて取り込んだ。ゼライセの肉体も生命力も完全に失われたため、フランたちは釈然としないものを感じながらも、その死を認めた。
シエラの黒剣
ゼライセ討伐後、シエラはフランに礼を告げた。フランが黒剣について尋ねると、シエラは自分が扱う限り害はないと答えた。フランはそれ以上追及せず、その説明を受け入れた。
逃走する疑似狂信剣
その直後、ゼライセが沈んだ場所の水中から強大な魔力反応が動き出した。追跡すると、その正体は半ばから折れた疑似狂信剣だった。剣は自律的に攻撃を回避し、多数のスキルを持っていたため、師匠はインテリジェンス・ウェポンに近い存在だと判断した。
疑似狂信剣の透過能力
疑似狂信剣はゼライセと同じ透過能力を使い、フランたちの攻撃をすり抜けながら逃走した。攻撃時だけ透過を解除する性質も同じであり、師匠はその瞬間に魔力残量が半分ほどまで減っていることを確認した。透過能力には大きな消耗が伴っていた。
黒雷神爪への挑戦
追跡の最中、フランは黒天虎の奥義である黒雷神爪を発動しようとした。潜在能力解放なしで黒雷の剣を生み出すところまで成功したものの、攻撃直前に形が崩れて消滅した。完成には至らなかったが、これまで発動できなかった技へ大きく近づいていた。
守護者の領域
疑似狂信剣を追ううち、フランたちはヴィヴィアン・ガーディアンが守る湖中央の領域へ到達した。疑似狂信剣はそのまま内部へ進んだが、フランたちは無数の守護者に阻まれた。師匠も単独で侵入を試したものの察知され、ディメンジョン・シフトで異空間へ移って初めて守護者の警戒を抜けることができた。
レーンの警告
領域の奥へ進もうとした師匠の前に、精霊レーンが現れた。レーンは今は先へ進んではならないと止め、以前告げた悲劇の一つは回避されたものの、新たな干渉によって別の悲劇が迫っていると明かした。ゼライセはすでに封印の地へ到達しており、大魔獣の封印も大きく揺らいでいた。
回避された未来
レーンによれば、本来は師匠の精神が完全な剣へ変わったことでフランが自暴自棄となり、ゼロスリードを殺していた。その結果、保護者を失ったロミオが暴走し、マグノリアの力を利用した大魔獣の再封印に失敗する未来へ繋がっていた。師匠が人の心を取り戻し、フランもゼロスリードへの憎しみを抑えたため、この流れはすでに回避されていた。
封印の地のゼライセ
しかし、ゼライセ自身はまだ生きており、守護者の異常を利用して封印の地へ侵入していた。追い詰めれば大魔獣を復活させる可能性があるため、レーンは不用意な突入を止めた。師匠は一度フランのもとへ戻り、シエラから事情を聞いてウィーナレーンへ救援を求めることにした。
未来から来たロミオ
合流したシエラは、自分の正体を明かした。シエラは現在の幼いロミオが八年前の世界へ飛ばされ、そこで成長した姿だった。現在の歴史とは異なる前の世界を経験しており、ロミオが二人存在する理由も時間移動によるものだった。
前の世界の悲劇
前の世界ではロミオとゼロスリードはゼライセに捕まり、ロミオを人質にされたゼロスリードは人体実験を受け続けていた。その後ロミオはウィーナレーンに救出されたが、大魔獣の復活を巡る戦いでフランとゼロスリードが激突した。師匠が完全な剣となっていたためフランを止める者がおらず、その戦闘によって商業船団も壊滅した。
ロミオを使った再封印
ウィーナレーンは大魔獣を封じるため、ロミオの邪神の聖餐を利用しようとした。ロミオに大魔獣内部の邪神の力を吸収させ、その力を封印術式へ流す方法だったが、幼いロミオには耐えられず死に至る手段だった。ロミオを救おうとしたゼロスリードは隙を見せ、フランに斬り倒された。
剣となったゼロスリード
力を暴走させたロミオは意識を失い、目覚めると八年前の世界にいた。その傍らには漆黒の剣があり、その中にはゼロスリードの意識と力が宿っていた。ゼライセの人体実験によって疑似狂信剣や魔石を埋め込まれていたことが作用し、時間移動の際にゼロスリードがインテリジェンス・ウェポンへ変化したと考えられた。
シエラの復讐
シエラは前のフランにも恨みを抱いていたが、最大の敵はすべての元凶であるゼライセだった。フランへの復讐を止めるとは言わなかったものの、ゼライセとの決着がつくまでは待ってほしいと頼んだ。フランはその願いを受け入れた。
三人目の時間移動者
シエラは、時間を越えた者が自分とゼロスリードだけではなく、もう一人いると明かした。その人物はゼライセだった。直後、折れた疑似狂信剣を持った別のゼライセが姿を現し、先ほど倒されたゼライセとは別人であることが判明した。
二人のゼライセ
先ほどフランたちが倒したのは未来から来た前のゼライセであり、目の前に現れたのは現在のゼライセだった。前のゼライセは死の直前、自らの精神を疑似狂信剣へ移し、インテリジェンス・ウェポンとして生き残っていた。
魔剣・ゼライセ
現在のゼライセが名付けると、折れた疑似狂信剣は姿を変え、魔剣・ゼライセとなった。前のゼライセは、疑似狂信剣と肉体の双方へ魔石を仕込み、長期間一体化させることで魂を剣へ移す研究を完成させていた。現在のゼライセはその研究成果とゼロスリードの事例を利用し、インテリジェンス・ウェポン化の技術をさらに進めていた。
二人一組の戦闘
現在のゼライセと魔剣・ゼライセは、フランと師匠のように互いの硬直を補いながらスキルや魔術を連発した。魔剣は大量のスキルを持ち、自己修復も可能で、ゼライセの透過能力も以前より自在に使われた。消耗しているフランたちは決定打を与えられず、シエラもスキルを打ち消す力を連続使用できなかった。
ゼライセの足止め
師匠は、ゼライセが本気で倒そうとしているのではなく、挑発を繰り返してフランたちをその場へ留めようとしていると見抜いた。湖中央で何かが進んでいると判断し、フランは先へ向かうことを決めた。
邪縛黒鎖
フランと師匠はディメンジョン・ソードを連発し、ウルシは攻撃を受ける覚悟でゼライセの足を次元牙で捕らえた。その隙にシエラが邪気を鎖状にした邪縛黒鎖をゼライセへ絡ませ、スキルの維持を妨害した。シエラは自分がゼライセを足止めすると告げ、フランたちを先へ送り出した。
湖中央への疾走
ゼライセはフランを挑発して引き止めようとしたが、フランは応じなかった。シエラがゼライセの前に立ちはだかり、フランとウルシは封印の地で起きている事態を確かめるため、湖の中心へ向かって駆け出した。
第四章 復活の災厄
湖中央の封印神殿
フランと師匠はディメンジョン・シフトでヴィヴィアン・ガーディアンの領域を抜け、湖中央に並ぶ十二本の白い柱と、その水底に沈む神殿へ到達した。祭壇にはゼライセの巨大な魔石兵器が設置され、周囲の魔力を吸収して大魔獣の封印を侵食していた。レーンによれば、このままでは数日で封印が自壊し、大魔獣が完全復活する状態であった。
魔石兵器の破壊
魔石兵器には幾重もの防壁が施され、フランの天断でも傷一つ付かなかった。師匠は剣神化を使おうとしたが、フランは師匠への負担を恐れて拒み、自分の力で破壊すると決めた。フランは長く集中して黒雷を制御し、ゼライセが現れた直後、武器に神属性を纏わせる黒雷神爪を成功させた。その一撃で魔石兵器に傷を付け、師匠が魔石を吸収したことで装置は完全に消滅した。
消耗した師匠
巨大な魔石を吸収した師匠は膨大な魔力に意識を呑まれかけたが、フランの声で正気を取り戻した。しかし神属性を重ねて使った反動によって耐久値が大きく減り、自己修復も止まっていた。師匠はゼライセとの斬り合いが危険な状態まで弱っていた。
前のゼライセの警戒
現在のゼライセは、未来から来た前の自分とは研究上の協力関係にあるだけで、過去の出来事をほとんど聞いていないと明かした。ただし前のゼライセはフランだけを特別に警戒し、バルボラで予定していた大量の魔石兵投入まで止めていた。現在のゼライセは師匠が魔石を消滅させて力を得る能力を見抜き、魔石を扱う自分にとって天敵だと認識した。
前のフランとの差
魔剣・ゼライセは現在のフランを、前の時間軸のフランより弱く危険性も低いと評した。師匠は、前の時間軸では大量の魔石兵を吸収したことで自身の成長が早まり、その代わり人としての心を失う時期も早まった可能性を考えた。フランは、それでも前の師匠なら必ず自分を取り戻していたはずだと信じ、師匠もその言葉によって前の自分とフランへの不安を振り切った。
共鳴魔術
消耗した状態で長期戦を避けるため、フランと師匠は修行中に得た共鳴魔術を使用した。互いの魔力を合わせ、フランの雷鳴属性と師匠の時空属性を融合させた雷を放つことで、透過状態のゼライセにも攻撃を通した。フランは激しい頭痛に耐えながら術式を完成させ、ウルシも生じた隙を突いてゼライセへ深手を負わせた。
大魔獣の不完全復活
戦いの最中、神殿の底から灰色の膨大な魔力と無数の触手が噴き出し、ゼライセを拘束した。現れたレーンは、自ら大魔獣を不完全な状態で復活させたと告げた。完全復活が避けられない以上、弱い状態で復活させる方がまだましだと考えたためだった。レーンはフランたちに逃げるよう促し、ウィーナレーンへ覚悟を決めろと伝えるよう頼んで姿を消した。
神殿からの脱出
大魔獣の影響で時空魔術が乱れ、転移も正常に使えなくなった。無数の触手に追い詰められた師匠は、あと僅かな魔石値で自己進化できることに気付き、拘束されていたゼライセから魔石を受け取った。ランクアップによって師匠は完全回復し、さらにゼライセの魔石兵器が作った一瞬の防壁を利用して六本のカンナカムイを放ち、触手を薙ぎ払った。フランたちはその隙に神殿から脱出した。
姿を現した大魔獣
逃走するフランたちは、湖を割って現れる全長百メートルを超える大魔獣を目撃した。その気配には強烈な飢餓と邪気が混ざっており、周囲の存在すべてを餌として求めていた。フランたちはレーンの伝言を届けるため、急いでセフテントへ戻った。
壊滅した商業船団
セフテントでは商業船団の被害を受けた船が次々と避難しており、多くの死傷者が出ていた。シエラの姿は見つからず、ジュゼッカが転移術を使って救助活動をしていたことだけが分かった。フランたちは広場に並べられた犠牲者の遺体を目にし、自分たちが回収した遺体も引き渡した。フラン、師匠、ウルシは犠牲者へ黙祷し、改めてゼライセを倒す決意を固めた。
レーンとウィーナレーンの正体
野営地へ戻ったフランは、大魔獣を復活させたのがレーンだとウィーナレーンへ報告した。混乱したウィーナレーンは、レーンが元々自分の双子の姉妹であるハイエルフだったと明かした。レーンは大魔獣を封じるため湖の精霊と一体化し、自らも精霊となって大魔獣内部へ残った。その後、元はウィーナという名だったウィーナレーンがレーンと契約すると魂まで融合し、二人の意識を併せ持つウィーナレーンという存在になっていた。
レーンへの執着
ウィーナレーンはレーンをいつか大魔獣から分離して取り戻すことを望み、そのために長い年月を費やしていた。魔術学院を作ったことや国を守ってきたこと、孤児院への援助なども、レーンの願いや復帰後の居場所を考えての行動だった。レーンへの執着は非常に強く、大魔獣の復活よりもレーンを失うことを恐れていた。
生徒たちの避難
ウィーナレーンは大魔獣の再封印へ向かう前に、フランへ学院生たちを町から避難させるよう命じた。フランは教官たちへ、大魔獣がウィーナレーンでも勝利を保証できないほど強力だと説明した。危険性を理解した教官と生徒たちは、住民たちとともに湖から離れる街道へ避難を開始した。
消えたロミオとゼロスリード
避難中、フランはロミオとゼロスリードがいないことに気付いた。教官や生徒たちも幼いロミオを心配し、フランへ捜索を頼んだ。避難隊が十分な護衛戦力を確保していると判断したフランは、ウルシとともにセフテントへ引き返した。
再封印の祭壇
匂いを追ったフランたちは、大魔獣近くの湖上に出現した白い祭壇へ到達した。そこではウィーナレーンが再封印の儀式を始めており、ロミオとゼロスリードが水の枷で拘束されていた。ウィーナレーンはロミオの邪神の聖餐を使い、その負荷をゼロスリードへ移して封印を成立させるつもりだった。
ゼロスリードの覚悟
ゼロスリードは自分だけが死ねばロミオは助かると理解し、儀式を受け入れていた。ウィーナレーンは二人の契約を解除したうえで、残った繋がりを利用してロミオへ流れる負荷をゼロスリードへ移す術式を組んでいた。しかしフランは、目覚めた時にゼロスリードを失えばロミオが悲しむと考え、二人とも助ける方法を求めた。
ウィーナレーンの嘘
ウィーナレーンは他に方法はないと言い切り、フランを強烈な威圧で退けようとした。しかし師匠はその発言が嘘だと見抜いた。フランも嘘だと指摘して追及すると、ウィーナレーンは二人を救う別の方法が存在することを隠しきれなくなった。ただし、その方法では代わりに別の存在が犠牲になると示唆した。
双子の再会
そこへ本来のハイエルフに近い姿となったレーンが現れ、犠牲になるのは自分だと告げた。数百年ぶりに再会したウィーナレーンは喜びを露わにしたが、レーンは自分を含めて大魔獣を完全に滅ぼすことを望んでいた。不完全復活している今なら、ウィーナレーンの力で大魔獣を消滅させられる可能性があった。
滅びを望むレーン
レーンは封印され続けることに疲れただけではなく、レーンを取り戻すことだけに人生を捧げているウィーナレーンを解放したいと考えていた。さらに、ウィーナとレーンという二人の精神が融合した状態そのものが、ウィーナレーンの精神を徐々に歪ませていると悟っていた。自分が滅びれば、ウィーナレーンは本来のウィーナへ戻れると考えていた。
レーンを拒むウィーナレーン
ウィーナレーンはレーンを滅ぼすことを激しく拒絶した。レーンを取り戻すために学院を作り、国を守り、長い年月を生きてきたため、レーンがいない世界などどうでもいいとまで叫んだ。邪神の聖餐を利用してレーンだけを大魔獣から分離できないかと考え始め、感情の制御を失いかけていた。
シエラたちの合流
対立する二人の前に、レーンがシエラと魔剣・ゼロスリードを呼び出した。シエラはゼライセとの戦いで死にかけたところをレーンに救われていた。シエラは自分が未来のロミオであり、漆黒の剣には未来のゼロスリードが宿っているとウィーナレーンへ明かした。
負荷を分ける方法
シエラは邪神の聖餐による負荷を、現在のゼロスリード、未来のロミオである自分、魔剣・ゼロスリードへ分散させる方法を提案した。これなら現在のロミオを含め、誰も死なずに儀式を行える可能性があった。危険や大幅な力の喪失は残るものの、シエラたちは現在のロミオとゼロスリードを救うため、その危険を受け入れる覚悟を示した。
二人の願いを叶える方法
フランはレーンの消滅とウィーナレーンの再封印のどちらかを選ぶのではなく、双方を救う方法を探した。レーンを大魔獣から分離し、邪神の聖餐で大魔獣を弱体化させた後、ウィーナレーンが止めを刺せないかと提案した。しかし邪神の聖餐の儀式自体をウィーナレーンが担当するため、儀式後には大魔獣を倒せるほどの力が残らないという問題があった。
邪神の支配
大魔獣を事前に弱らせれば可能性が生まれるものの、その内部には邪神の喉の欠片があり、近付いた生物を声で支配する力を持っていた。ウィーナレーンでさえ長時間近付けば支配されるため、継続して攻撃することはできなかった。舞台にはその声を遮断する結界が張られていた。
邪神に抗うフランたち
師匠は地球人としての魂を持つため邪神の支配を受けず、その魂と深く繋がるフランとウルシにも支配が及ばないことを確認した。フランは自分たちが大魔獣を弱らせ、その後に邪神の聖餐とウィーナレーンの攻撃を繋げれば、ロミオ、ゼロスリード、レーン、ウィーナレーンの全員を救えると提案した。
シエラの参戦
シエラも魔剣・ゼロスリードの共食いによって邪神の力を吸収できるため、支配を防げると明かした。シエラは儀式開始時には祭壇に残る必要があるものの、邪神の聖餐による邪気の流れが確立した後なら戦闘へ加われることになった。
ジュゼッカの登場
そこへ時空魔術を使ってジュゼッカが突然現れた。彼女はレーンの感知さえ欺いて祭壇まで到達し、自分もゼライセを止めるため戦うと申し出た。さらに邪神の支配を跳ね返す手段も持っていたため、フランたちはジュゼッカを新たな戦力として受け入れた。
大魔獣討伐の作戦
ウィーナレーンはまず邪神の聖餐を発動する儀式を開始し、その間にフランとジュゼッカが大魔獣を攻撃することになった。邪気の流れが安定した後はシエラと魔剣・ゼロスリード、現在のゼロスリードも戦闘へ加わる。十分に大魔獣を弱らせられればレーンを分離し、ウィーナレーンが大魔獣を滅ぼす。失敗した場合はレーンが残ったまま再封印するという作戦であった。
全員を救う決意
失敗しても再封印という最低限の手段は残されたが、フランはそれで終わらせるつもりはなかった。ロミオもゼロスリードも、レーンもウィーナレーンも救い、全員が笑顔で終われる結果を目指すと決意し、大魔獣へ向かって歩き出した。
第五章 大魔獣
大魔獣への出撃
レーンから癒しの水を受けたフランは、黒猫族の呪いを解くために将来戦う可能性のある邪神の力を知る機会だと考え、大魔獣へ向かった。師匠は消耗したフランに無茶をさせない方針を取り、ウルシとジュゼッカとともにまず相手の性質を探ることにした。
規格外の再生力
大魔獣は遠距離から大量の魔力弾を放ったが、ウルシはそれを回避した。師匠は破邪顕正を乗せたカンナカムイや念動カタパルトによる直接攻撃を試し、大きな傷を与えた。しかし大魔獣はすぐに肉体を再生し、内部に突き刺さった師匠を取り込もうとするほどの知性も備えていた。
邪神の声
大魔獣の頂上には人間に似た巨大な口が形成され、何度も従えと叫び始めた。その声には邪気と支配の力が込められていたが、師匠、フラン、ウルシにはまったく通じなかった。師匠は口の内部へ攻撃を加え、外側より多少効果があることを確認した。
雷撃による検証
フランと師匠は広範囲を覆う雷鳴魔術エカトケラウノスを大量に浴びせた。破邪顕正を乗せた雷は表面を焼いたものの、大魔獣は膨大な魔力を放出して強引に攻撃を吹き飛ばし、失った力も僅かであった。小さな攻撃を重ねるより、一撃の威力を高める必要があると判断された。
狼式抜刀術
フランは魔狼の平原でウルシと編み出した協力攻撃を使用した。上空から突進したウルシの全力の一撃を足場として受け、その反動と自身の加速を重ねて大魔獣へ突撃したのである。フランの天断は大魔獣の上半分を真っ二つに裂いたが、その反動でフラン自身も骨折や筋断裂、内臓損傷などの重傷を負った。大魔獣はなお再生を始め、討伐には至らなかった。
ジュゼッカの追撃
師匠が切断面へ火炎魔術と光魔術を叩き込み、ジュゼッカも百を超える時空属性の魔力弾で追撃した。しかし大魔獣は依然として高い魔術耐性と再生力を維持していた。狼式抜刀術を使ったウルシも前脚を大きく損傷しており、フランたちの消耗は深刻であった。
シエラとゼロスリードの参戦
邪神の聖餐の儀式を終えたシエラとゼロスリードが戦場へ加わった。二人は強烈な邪気を纏っていたが、魔剣・ゼロスリードの共食いや邪人としての性質によって邪神の支配を防いでいた。ただし吸収できる邪気には限界があり、長期戦は危険であった。
邪気の巨槍
シエラは圧縮した邪気の槍を作り、ゼロスリードはその進路上に三つの邪気の輪を展開した。槍は輪を通過するたびに加速・巨大化し、大魔獣へ巨大な穴を穿った。傷は再生を始めたものの、それまでより回復が遅くなっていた。
再生阻害の発見
レーンが現れ、一部の傷や触手だけ再生が遅れていることを教えた。それらはウルシの攻撃や邪気による傷であり、再生阻害の効果が原因だった。師匠は自己進化ポイントを使って生命魔術をレベル5まで高め、傷の治癒を妨げるヒール・ディスターブを習得した。
生命魔術の強化
生命魔術には再生阻害だけでなく、筋力や神経、肉体強度を高める術も存在していた。師匠はこれらがフランの技による自傷を軽減できると考えた。さらにフランとウルシの合体技には狼式抜刀術という名前が付けられた。
ヒール・ディスターブの効果
師匠はヒール・ディスターブを自身へ付与し、念動カタパルトで大魔獣へ突撃した。形態変形によって体内へ多数の針状の刃を伸ばして内部を破壊すると、その傷はほとんど再生しなくなった。再生阻害が大魔獣にも明確に有効であることが確認された。
大魔獣の反撃
脅威として認識されたフランたちに対し、大魔獣は湖の水から魔力を吸収して力を増大させた。全身には百を超える人間型の口が生まれ、それぞれが魔術を詠唱した。千を超える火の矢や二千を超える水の矢が一斉に放たれ、触手や魔力弾まで加わった圧倒的な物量攻撃が始まった。
ゼロスリードの盾
シエラとゼロスリードも攻撃を受け、ゼロスリードはシエラを庇って下半身や頭部を吹き飛ばされた。フランが治療した後、ゼロスリードは自分が囮となり、シエラたちに最大攻撃の準備をさせることを決めた。さらに大魔獣が遠距離へ極太の光線を放つと、ゼロスリードは邪気の盾で正面から受け止めた。
Side ゼロスリード
戦場で育ったゼロスリード
ゼロスリードは戦場で生まれ、幼い頃から人や邪人の死肉を食べながら生き延びた。その後は傭兵団に拾われ、ゼロスリードという名を与えられて戦い方を叩き込まれた。戦場こそが最も生を実感できる場所となり、力と戦いだけを求めて各地を渡り歩いた。
ミューレリアとの出会い
戦い以外に興味を持たなかったゼロスリードは、ミューレリアの苛烈さや執着に初めて強く惹かれた。彼女の最期の願いを受け、ロミオを連れ出すことになった。
ロミオとの旅
子供の世話に慣れていないゼロスリードはロミオを面倒に感じていたが、妙に懐かれたことで次第に放っておけなくなった。孤児院へ預けても別れたくないと言うロミオを結局引き取り、病気になれば焦り、自分だけ逃げる選択もできなくなっていた。
シエラを守る理由
大人になったロミオであるシエラを前にしたゼロスリードは、理由を言葉にすることをやめた。今はただシエラを守り、そのために自分の力を使うことだけを重視した。大魔獣の光線を受け止めながら、シエラに攻撃準備を続けるよう叫んだ。
最大攻撃の準備
シエラが三十秒後の攻撃を宣言すると、フランとウルシも狼式抜刀術の準備へ入った。師匠は全魔力を剣身へ伝導し、さらに剣神化を重ねる最大攻撃を選んだ。魔力過剰伝導は凄まじい攻撃力を生む代わりに、師匠自身の耐久値を急速に削る危険な方法であった。
ジュゼッカの緋槍
攻撃準備中、ジュゼッカが大魔獣へ突撃し、ヴァーミリオンアイを起動した。彼女は膨大な魔力を圧縮したヴァーミリオン・スピアを放ち、大魔獣を貫通したうえで時空魔術によって軌道を曲げ、六度にわたって同じ巨体を貫いた。大魔獣の力は確実に減少し、その注意もジュゼッカへ集中した。
潜在能力解放の選択
師匠は潜在能力解放を使えば攻撃成功率が上がる一方、長期間の能力低下や破壊の危険があると知り、一度は使用を断念した。しかしレーンが師匠へ僅かに力を与えた直後、アナウンスさんが判断を覆し、フランたちにとって最良の選択として潜在能力解放を推奨した。師匠はその助言を信じて発動した。
止まった時間
狼式抜刀術による突撃の最中、レーンの力で師匠とフランの知覚が極端に加速した。周囲が停止したような白い空間の中に、別のフランと師匠の姿が現れた。そのフランは現在とは異なる装備を身につけ、重い負傷を抱えながら感情を失った師匠と戦っていた。
Side フラン?
心を失った師匠
別の時間軸のフランは、師匠が次第に会話も感情も失い、フランの判断へ機械的に従うだけの剣へ変わっていったことに苦しんでいた。褒められることも叱られることもなくなり、以前の優しい師匠の声を求め続けていた。
ゼロスリードへの苛立ち
そのフランは幸せそうなロミオとゼロスリードを見て、自分との違いに苛立ちを覚えた。しかし感情を失った師匠は理由を理解できず、フランの心を支えることもできなかった。フランは混乱と怒りを抱えたまま、全てを大魔獣との戦いへぶつけようとしていた。
もう一人のフランとの対話
レーンは時間を越えた三人の縁と師匠の力を利用し、二つの時間軸を一時的に繋いだ。別のフランは現在のフランが師匠やウルシと幸せに暮らしていると知り、自分の師匠が変わってしまった苦しみを初めて吐き出した。
師匠への本心
別のフランは、優しくなくなった師匠は嫌であり、以前のように笑い、褒め、叱ってほしいと泣きながら訴えた。しかし剣化した師匠は自分に異常はないと返し、感情ではなく戦闘上の判断だけを告げた。
二人の師匠
現在の師匠は、別の自分の態度に激怒した。フランが泣いているのに何も感じず、自分をただの剣だと定義するもう一人の師匠へ、剣である前にフランの師匠であり、その名はフランから与えられた希望そのものだと訴えた。
剣化した師匠の揺らぎ
現在の師匠の言葉によって、剣化した師匠の精神に揺らぎが生じた。消えたと思われていた別のアナウンスさんも活動を再開し、今ならさらに変化を与えられると別のフランへ伝えた。別のフランは恐れながらも師匠へ再び呼びかけ、師匠の声には僅かに感情が戻り始めた。
未来を変えた言葉
接続が切れる直前、現在の師匠は別のフランへ、何があってもずっと味方だと叫んだ。レーンによれば、別の時間軸では本来、絶望したフランが暴走し、師匠の中の邪神の欠片と相打ちになって大勢を巻き込む未来が待っていた。しかし二人の言葉によって未来は大きく変わり、剣化した師匠も心を取り戻した可能性が高まった。
アナウンスさん同士の情報共有
二つのアナウンスさんは短い接続中に情報交換を行った。剣化を防止・解除するための考察に加え、師匠側は精霊察知、邪気支配、神気操作、精霊の手などの新たなスキルを獲得した。これにより邪気や神属性、精霊への干渉能力が大きく広がった。
渾身の二撃
時間加速が解除されると、フランは瞬時に感覚を修正し、狼式抜刀術、剣神化、潜在能力解放、破邪顕正、魔力過剰伝導を重ねた全力の一撃を放った。同時にシエラも魔剣・ゼロスリードによる渾身の斬撃を叩き込み、大魔獣にはほぼ同規模の巨大な斬撃痕が二本刻まれた。
再生しない傷
フランたちの傷には神属性が、シエラの傷には強力な邪気が残り、どちらも大魔獣の再生を阻害した。大魔獣の存在感は大きく弱まり、攻撃は確かな成果を上げた。一方でシエラは反動で意識を失い、フランと師匠もまともに戦えないほど消耗していた。
レーンの分離
レーンは姿を維持できないほど消耗しながら、フランたちへ直ちに離脱するよう告げた。その直後、大魔獣は激しく苦しみ始め、全身から膨大な魔力と無数の触手を放出した。肉体も急速に巨大化し始め、レーンが分離したことで内部からの弱体化が失われたと考えられた。
完全復活への暴走
大魔獣は肉体を裂きながら強引に封印から抜け出そうとし始めた。傷ついてでも本来の力を取り戻すことを優先した状態であり、腕一本分だけでも圧倒的だった存在が完全復活すれば、さらに危険な状態になることは明らかであった。フランたちはウィーナレーンの攻撃に巻き込まれる可能性も考え、急いで離脱しようとした。
ゼライセの阻止
逃げようとしたフランたちの前に、一人の影が立ちはだかった。現れたゼライセは緊迫した状況にもかかわらず軽い調子を崩さず、フランへ師匠を貸してほしいと要求した。
第六章 良縁悪縁
ゼライセとネームレス
満身創痍のフランたちの前に、生き延びていたゼライセが現れ、師匠を研究するために貸すよう要求した。さらに同行していたデミリッチのネームレスは、レイドス王国の黒骸兵団第一席にして団長を名乗った。ネームレスは浮遊島で倒されたリッチの怨念を取り込んで生み出された存在であり、その記憶と憎悪を継承していたため、フランを仇として殺そうとした。
大魔獣への転送
フランたちは戦える状態ではなく逃走を選んだが、ネームレスがウルシを足止めし、その隙にゼライセが空間魔術を発動した。フランたちはネームレスごと大魔獣の目前へ転送され、無数の触手に包囲された。ゼライセは師匠を天敵と認識しており、大魔獣に飲み込ませて始末しようとしていた。
レーンの救援
大魔獣の触手に捕らわれかけたフランたちを、不思議な力が包んだ。触手が剥がされ、僅かながら体力も回復すると、レーンの声が響いた。レーンは数分後にウィーナレーンの攻撃が始まると警告し、残る力でフランたちの脱出を助けた。
ウルシの突破
ネームレスは拳聖技による衝撃波で退路を塞いだが、ウルシは最も攻撃の激しい場所へあえて突撃した。自身を傷つけながらもフランたちを守り抜き、さらに追撃しようとしたネームレスはジュゼッカに阻まれた。
ゼライセへの反撃
前方へ回り込んだゼライセは時空属性の大量の魔力弾を放った。ウルシはフランを守るため自身の防御を最低限にし、全身を傷つけながら弾幕を正面突破した。そして暗黒魔術と次元牙を組み合わせた必殺技・断界ノ牙を発動し、ゼライセの下半身を噛み潰した。
ゼライセの逃走阻止
重傷を負ったゼライセは亜空間潜行によって逃げようとしたが、レーンによる干渉で発動できなかった。フランの弱い魔力弾と師匠の念動によって体勢を崩され、大魔獣の触手へ引きずり込まれた。さらにジュゼッカも時空魔術を妨害し、ゼライセの逃走を封じた。
緋眼のジュゼッカ
ゼライセはジュゼッカを、レイドス王国赤騎士団の六大団長の一人である緋眼のジュゼッカだと明かした。ジュゼッカは宰相直属の立場でありながら、ゼライセの暴走を止めるため行動していた。ゼライセはレイドス王国の内情や西征公について語って揺さぶりをかけたが、ジュゼッカは動じなかった。
魔剣・ゼライセの裏切り
救援に戻ったネームレスは、予想に反してゼライセの首を掴んだ。ネームレスは魔剣・ゼライセの意思を聞き取り、剣となったゼライセが唯一の存在になるため、人間のゼライセを邪魔と見なしていると告げた。魔剣も人間のゼライセを助けようとはせず、ネームレスに回収された。
ゼライセの最期
ネームレスは自らの目的にとってもゼライセが邪魔だとして首を潰した。瀕死のゼライセはそのまま大魔獣の触手に捕らえられ、肉体を押し潰されながら取り込まれた。生命反応も完全に消え、人間のゼライセは命を落とした。
ウィーナレーンの神水
ジュゼッカと別れたフランたちは、ウィーナレーンの攻撃範囲から必死に離脱した。直後、大魔獣の上空に百メートルを超える巨大な神水の球が形成された。そこから分裂した無数の水球が神速で大魔獣を貫き、肉体を次々と削り取った。
神水と大魔獣の削り合い
ウィーナレーンは湖の水を次々と神水へ変え、途切れることなく大魔獣へ撃ち込んだ。一方の大魔獣も肉体を小さく集中させ、強力な障壁と瞬間再生によって耐え続けた。フランは圧倒的な戦いを前に、自分もいつか同等の敵を倒さなければならないと悔しさを募らせた。
神水の糸
水球による攻撃が止まった後、湖面から万を超える神属性の水糸が生み出された。水糸は大魔獣を包み込み、全身を締め上げながら封印の中に残っていた肉体まで無理やり引きずり出した。未完成の肉体は神水に触れるだけで崩れ、再生も阻害された。
大魔獣の消滅
水糸によって完全に封印外へ引きずり出された大魔獣は、全身を削り取られて崩壊した。最後の咆哮を残してその存在は完全に消え、湖面も静けさを取り戻した。ヴィヴィアン・ガーディアンの姿も消え、大魔獣の気配は一切残らなかった。
ウィーナレーンの代償
フランたちが儀式場へ戻ると、ロミオ、シエラ、ゼロスリードは生存していたが、ウィーナレーンの右半身の一部が異様な黒色へ変質していた。ウィーナレーンは、未来の自分が生み出す力を先に引き出す前借りと、ハイエルフの奥の手である亜神化を重ねて使用した代償だと説明した。
亜神化と神水創造
ウィーナレーンは亜神化によって能力を大幅に強化し、さらに強化された前借りによって未知の力まで未来から引き出していた。その状態で神水創造と大海魔術アクエリアスを組み合わせ、広範囲の湖水すべてへ神属性を与えて操ったのである。代償として黒く変質した部分は感覚も動きも失い、回復には何年も必要だった。
フランたちへの感謝
ウィーナレーンは、フランたちが事前に大魔獣を弱らせていなければ、自分は討伐途中で死んでいたと明かした。フランは自分たちの力不足を感じたが、ウィーナレーンは彼らの攻撃が確実に勝利へ繋がったと伝えた。
消耗したレーン
ウィーナレーンが召喚すると、存在感を大きく失ったレーンが現れた。レーンはフランたちのおかげでウィーナレーンもロミオも生き残ったと感謝したが、未来への干渉や二つの時間軸を繋いだ影響などによって、自然消滅しかねないほど消耗していた。
ウィーナとレーンの二者択一
レーンを救うには、ウィーナレーンの中に残るレーンの力を返す必要があった。しかし通常の方法で分離すれば、消耗しきったウィーナレーンが命を落とす危険があった。このままではレーンかウィーナレーンのどちらかしか救えない状態だった。
精霊の手
レーンは、師匠が新たに得た精霊の手なら、自分とウィーナレーンを一つにしている縁だけを断ち切り、最小限の消耗で分離できると説明した。師匠は精霊察知で縁を探したものの捉えられず、精霊との相性が良いフランが先にその存在を感知した。フランとの感覚を重ねることで、師匠も複雑に絡み合った縁を認識できるようになった。
不足する魔力
縁を断つには精霊の手を強く発動する必要があったが、師匠には魔力が残っていなかった。そこでゼロスリードから邪気を、ウルシから魔力を借りることになった。ゼロスリードは自分の命をフランへ預けているとして、迷わず協力を受け入れた。
師匠の正体
ゼロスリードを心配するシエラは、フランたちへ疑いを向けた。そこでフランは師匠がインテリジェンス・ウェポンであることを明かした。師匠自身もフランの剣であり保護者だと名乗り、ゼロスリードへ復讐するよりレーンたちを救うことを優先すると説明した。シエラは同じインテリジェンス・ウェポンを相棒に持つ者として師匠を信用した。
邪気と魔力の供給
師匠は邪気支配を使ってゼロスリードの邪気を引き出した。アナウンスさんの補助によって邪気をそのまま力として扱い、自身への悪影響を抑えながら蓄積した。さらにウルシから魔力を吸収し、精霊の手を使うために必要な力を確保した。ウルシは力を使い果たしながらも最後まで耐え抜いた。
縁の切断
師匠は精霊の手を発動し、レーンとウィーナレーンを繋ぐ縁を断とうとした。当初は全く傷つけられなかったが、残る魔力と邪気を注ぎ込み、アナウンスさんの補助を受けて干渉を強めた。やがて複雑に絡んだ縁は耐え切れず、完全に砕け散った。
ウィーナとレーン
縁が消えると、ウィーナレーンからレーンに属していた膨大な力が流れ出し、レーンへ戻った。二人の気配は大きく変化し、長く一つだった存在は再び別々になった。ウィーナレーンは自らをウィーナと名乗り、そのまま力尽きて意識を失った。一方のレーンは本来の力を取り戻し、消滅の危機を脱した。
レーンの未来への干渉
レーンは完全な未来予知はできず、自分の行動が自分へどう影響するかを勘として感じ取れるだけだと説明した。遠い未来ほどその力の消耗は激しく、年単位の先を探れば消滅する危険さえあった。それでもレーンはより良い未来へ辿り着くため、その力を使い続けていた。
シエラとの出会い
レーンが最初に希望を見出したのは、未来から現れたシエラと魔剣・ゼロスリードだった。過去を視ることで二人が未来から来た存在だと知り、別の時間軸の自分から、この少年が希望の始まりだという無言の意思を受け取った。そこから二つの時間軸のレーンは、破滅を避ける可能性へ賭けるようになった。
歴史への小さな介入
レーンはシエラを陰から見守り、危機の際に僅かな助力を行っていた。ギルドの人間を誘導したこと、魔獣からの脱出を助けたこと、病で弱った際に癒したことなど、直接的な介入は三度だけだった。それ以外は歴史を大きく変えない範囲で、最悪の結果を避けるために動いていた。
フランとの縁
ゼライセが湖周辺で暗躍し、ロミオやシエラ、フランが集まったことで状況は大きく動いた。レーンは自身と親しい者ほど勘が働きやすいため、フランと繋がりを作る目的で先回りして屋台を開き、雑談を交わしていた。その後も関係者たちを見守りながら、最悪の未来だけを避けるため孤独に動き続けた。
レーンの選んだ結末
レーンは当初、大魔獣を復活させずに滅ぼそうとしていた。しかしゼライセの暗躍とウィーナの執着によって完全復活が避けられなくなったため、自ら封印を解いて不完全な状態で復活させる道を選んだ。その結果、大魔獣は滅び、ウィーナとレーンは生き残って元の二人へ戻り、ロミオ、シエラ、ゼロスリード、フランたちも生還した。
失われた命への祈り
レーンは、自分たちは神ではなく、すべてを救えると考えること自体が傲慢だと語った。今回の結果を十分な奇跡として受け入れ、事件によって命を落とした人々を思いながら静かに目を閉じた。
エピローグ
Side 前のフラン
取り戻した師匠の声
前のフランは、擦れながらも以前の感情を取り戻し始めた師匠の声を聞き、嬉しさから涙を流した。剣としてではなく師匠として力を貸してほしいと頼むと、師匠は自分がフランの師匠であることを思い出し、荒々しくも心のこもった口調へ戻った。前のフランはその変化に安心し、大魔獣との決着を決意した。
神獣化と全力攻撃
前のフランは黒猫族の力を大幅に高める神獣化を発動し、師匠と復活したアナウンスさんの支援を受けて全力を解放した。師匠もフランに遠慮せず力を使うよう促し、神剣開放による餓狼剣・フェンリルの力まで投入した。戦いの末に大魔獣を倒したが、その余波で湖には大きな穴が残った。
消耗したレーン
戦いの後、前のフランたちが休んでいる場所へレーンが現れた。レーンはロミオたちを別の時間へ送ったことや、二つの時間を繋いだことなどで大きく消耗しており、姿も力も薄れていた。前のフランは別の時間の自分たちのその後を尋ねたが、接続が切れたためレーンにも分からなかった。
師匠との和解
前のフランが師匠の状態を心配すると、師匠は力こそ使い果たしたものの気分は良いと答え、これまで自分がおかしくなっていたことを謝罪した。前のフランは、元に戻ってくれたならそれでいいと受け入れた。再び優しい師匠の声を聞けたことに喜び、涙を流した。
神剣から師匠へ
アナウンスさんは、師匠の名称が以前の師匠へ戻り、それに伴って神剣としての名称と権能が失われたと告げた。前のフランからも神剣開放スキルが消失した。前のフランは神剣であることより、心を持った師匠が戻ったことを喜び、師匠もその言葉を受け入れた。
ウルシ再召喚の可能性
前のフランは、師匠とアナウンスさんが戻った今、ウルシだけがいないことを寂しく思った。するとアナウンスさんは、師匠の中にウルシの魔石が同化しているため、その縁を利用すれば再召喚できる可能性があると明かした。ただし神獣召喚術が必要であり、習得方法を知るには神獣の伝説を調べる必要があった。
新たな目標
前のフランと師匠は、ウルシを再び召喚することを次の目標に定めた。前のフランはウルシとの再会を願いながら、師匠たちとの冒険を続けることを決めた。
シリーズ 一覧
その他フィクション

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