小説「理想のヒモ生活 13 巻」【感想・ネタバレ】

小説「理想のヒモ生活 13 巻」【感想・ネタバレ】

どんな本?

理想のヒモ生活」とは、渡辺恒彦 氏によるライトノベル。

日本でブラック労働をしていた善治郎は久しぶりの休みの日に異世界に召喚された。
その召喚主は善治郎の好みドストライクの美女だった。
そんな彼女は大国の女王で、善治郎に婿に来て欲しいと言う。
善治郎は躊躇なく「はい」と返事をして地球で婿に行く準備をしていざ異世界へ、、

後宮に引き篭もるヒモ生活を享受出来ると思っだが、、
女王が妊娠したら悪阻が酷く、彼女の代理として政治の表舞台へと行くと、世間が彼を後宮に引きこもる事を許してくれなくなった。

さらに彼の持ち物のビー玉が隣国双王国の付与魔術の媒体として最高品であると判ると、、
さらに善治郎の血統も、、

そんなタイトル詐欺と言いたくなるほど大忙しな善治郎のヒモ生活。

北方大陸から来た姫君を大陸間交易をする絆を得るため、姫君を側室として迎えるため120日もの大航海を乗り越えて相手国に着くのだが・・

読んだラノベのタイトル

理想のヒモ生活 13
著者:渡辺恒彦 氏 イラスト: 文倉 十 氏

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あらすじ・内容

シリーズ累計180万部突破! 「娘さんをください」!? ヒモ男は王女と結婚できるのか!?

長旅を終え、ついにフレア姫の祖国、ウップサーラ王国に到着した善治郎。グスタフ王との会談の場で、善治郎は大陸間貿易と、両国友好の懸け橋としてフレア姫の側室入りを提案する。しかし、第一王女の側室入りなど当然受け入れられるはずもなく、その場に居合わせた人々から大きな反発を受ける。中でもフレア姫の兄、エリク王子は善治郎に強い敵愾心を抱き、『成人の証』も立てていない男に妹はやれないと主張する。フレア姫に婚姻を申し込むため、善治郎は『成人の証』を立てるべく、雪の残る山へと獲物を仕留めに向かうのだった――。

理想のヒモ生活13

感想

シリーズ累計ってコミックも含めて?
それともラノベだけ?
でも、180万部とは凄いな、、
その内の10冊以上は俺が貢献してるんだろうな。

picture_pc_2e0e5e41d7e2ce9b5d346c26a9fb2442 小説「理想のヒモ生活 13 巻」【感想・ネタバレ】

タイトルだけだと確実に敬遠してた。
「小説家になろう」に掲載されてたらしいけどあえて読まなかったくらい楽しみにしてた作品だったけどそれが180万部とは、、

いやはや凄い。
アニメ化とかは、、、
無理そうww

話は善治郎がフレア姫の父親に「娘さんを下さい!側室だけどね。」と言ったら、異母兄が異議を唱えた。

先祖が海賊で、力こそ正義を地で行くフレア姫の国の男達。
その傾向が1番強い異母兄が善治郎を認めないと宣った。

ヴィンランドサガの海賊のような連中。

そんな奴等には善治郎は認められない。
認めて貰いたいなら単独で獲物を狩って周りを認めさせる「成人の証」を受けろと言う。。

護衛は異母兄が選んだ連中と山に行って獲物を狩れと、、

山歩きもほとんどしたことが無い善治郎は歩くだけで疲労困憊になってしまう。
それを護衛の連中は呆れ、遂には馬鹿にするのだが、、
日が傾いたら護衛を山に置いて行って自身だけ瞬間移動で王宮に帰還する。

護衛の連中は山から帰れず、善治郎は帰ってからサウナに入り身体を温めて柔らかいベットで就寝して、朝食を食べ、昼食の弁当を持参して山へ瞬間移動して、山を歩く、日が傾いたら王宮に瞬間移動する。

それを十数日ほど続けてたら、馬鹿にしてた護衛の1人は卑怯者だと憤慨していた。

それを護衛隊の隊長が、善治郎が本気で嫌がらせをするのなら3日目の地点に明日の朝は戻って其処からスタートだと言われたら彼等は夜通しでも其処に行かないといけない。

それを教えられて護衛達は魔法の理不尽さを実感し始める。

更に獲物を狩る時に、善治郎には扱える武器が無いのだが、双王国で貰った風の腕輪で獲物を吹き飛ばすのを見て、善治郎が非力な男だと思う事を止めた。
そして、肉体の力以外にも強さがあると視野が広がった。
それはフレア姫の父親の狙いでもあった。

そんなこんなで善治郎は「成人の証」を得てフレア姫との婚姻が認められる。。

その後は、フレア姫の母国で結婚式を挙げて瞬間移動で必要な人員を送ってアウラの居る善治郎の母国に瞬間移動で帰還する。

それで新しい生活が始まるのだが、、、
北の大陸では鉄の大量生産が可能になり、航海技術も向上しており、いつ南大陸に侵略してくるか解らない状態。

侵略では無いににしても、交易は確実にして来る。
それによって植民地化されてしまうかもしれない。

それを防ぐには、経済的、軍事的にも対抗できる様にしないといけないが、既得権益が大きすぎてなかなか上手くいかない状態。

さて、今後どうなる事やら。

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展開まとめ

プロローグ  広輝宮

王都と港の地理的背景

ウップサーラ王国の王都は、北大陸北方に位置し、メーター湖の北岸に広がっていた。メーター湖は琵琶湖の倍近い広さを誇り、運河の整備により湾のような役割を果たしていた。湖と海の接点には港街ログフォートが存在し、近年の船舶大型化の影響で、大型船はこの港に停泊し、小型船へと乗り換えて王都へ向かうのが一般的となっていた。

『黄金の木の葉号』の到着と乗員の動向

グスタフ五世は、四本マストの大型船『黄金の木の葉号』がログフォートに到着したとの報告を受け、安堵の表情を浮かべた。同船に乗っていたフレア姫やその乗員は、ログフォートで一泊後、翌日には王都に到着予定であった。グスタフ王はこの来訪者たちを「客人」と呼び、その正体について調査を進めていた。

南大陸からの来訪者と外交的意味合い

王は「客人」が南大陸の王族である可能性を考慮していた。確たる情報は得られていなかったが、ズウォタ・ヴォルノシチ貴族制共和国の高官たちがその人物を王族としてもてなしていたという報があった。大陸間貿易の成功を示す象徴として、フレア姫とその国との友好関係が築かれた可能性を王は評価していた。

フレア姫と随行者の力量に対する信頼と懸念

姫の随行者であるスカジとマグヌスは、戦士と船長として名高い人物であり、その実力に信頼が置かれていた。フレア姫自身も優れた判断力と交渉力を備えていたが、王は親としての視点から娘に対し複雑な感情を抱いていた。育て方への後悔や名前の選定への疑念を抱きつつも、彼女の行動に一定の理解を示していた。

ウップサーラ王国の価値観と伝統に対する問題意識

王は、同国が勇気や果敢な行動を美徳とする価値観を持つ戦士の国であり、それが国家の発展を阻害していることを自覚していた。危険を避けることすら非難される気質は柔軟性を欠き、特に海軍国家としての成長には足枷となっていた。

国際情勢と情報の混乱

王は、大陸間航行の成功による経済的発展の必要性と同時に、国際的な緊張にも目を向けていた。『騎士団』が共和国のポモージエ港に奇襲を仕掛けたという情報が錯綜しており、正確な状況は把握できていなかった。商船の乗員による伝聞は憶測を多分に含み、情報の混乱を助長していた。

『歓迎』の多様な意味と今後の備え

グスタフ王は、フレア姫の帰還、南大陸の客人、そして敵対勢力『騎士団』のそれぞれに対する「歓迎」の準備が必要だと考えていた。それぞれに異なる意味を持つ対応を要し、愛情、打算、そして武力という三つの形での備えが求められていた。王は部下に命じ、事前の手配を進めさせた。

第一章  対面

王都到着と宮廷への移動

善治郎はフレア姫らと共にウップサーラ王国王都に到着した。ログフォート港で船を乗り換え、湖を越えた一行は馬車で王宮へと向かった。到着後、礼法に従い善治郎はフレア姫をエスコートし、二人は謁見の間へと向かった。

謁見と王族との初対面

ウップサーラ王グスタフ五世や王妃、王族、有力貴族らが謁見の間に揃う中、善治郎らは正式な歓迎を受けた。ただし主役はあくまでフレア姫ら航海成功者であり、善治郎たちは「南大陸からの客人」として形式的に紹介されたに過ぎなかった。

女戦士スカジからの忠告と王国の価値観

謁見前、女戦士スカジは善治郎にウップサーラ王宮が尚武的な価値観で支配されていることを忠告した。戦士としての在り方が重視される宮廷において、柔和な態度は理解されにくく、強さや実力をもって評価される空気が強かった。

フレア姫の説得と父王の懸念

謁見後、フレア姫は正装に着替え、父王に対しカープァ王国との通商条約と自身の婚姻を訴えた。グスタフ王は貿易の有益性は認めたが、王女が王配の側室となることによる国の体面の失墜を憂慮した。

フレア姫の条件提示と王の興味

フレア姫は自身が側室入りすることにより、貿易港の提供、造船ドックの建設、八隻の大型船の譲渡など、具体的な国益を提示した。それによりグスタフ王は興味を抱き、善治郎との会談を決断した。

善治郎との会談開始と貿易の申し出

翌日、王族や重鎮が列席する中で会談が始まり、善治郎はウップサーラ王国との直接貿易の締結とフレア姫との婚姻を申し出た。フレア姫を側室として迎える提案に対しては、多くの反発が起きた。

エリク王子との衝突

フレア姫の兄である第一王子エリクは激しく反対し、善治郎を臆病者と侮辱した。善治郎は冷静に対応しつつも、皮肉を交えて応戦し、エリク王子の態度を公的な場における無礼として処理した。

王国の価値観と『成人の証』の要求

ウップサーラ王国では戦士としての強さを成人の証とする価値観が根強く、エリク王子は善治郎に『成人の証』を立てるよう要求した。善治郎は最初は受け流しつつも、逆にエリク王子を自国へ招待し、その文化を体験させることを提案した。

瞬間移動の魔法と提案の逆転

善治郎は自身が瞬間移動魔法を使えることを明かし、エリク王子の招待を現実的なものとした。エリク王子が拒否した際には「臆病」と皮肉を交え、王国の価値観を逆手に取って追い込んだ。

善治郎の『成人の証』への挑戦宣言

議場の雰囲気を見て取った善治郎は、あえて自ら『成人の証』に挑むと宣言した。ただしその条件として、エリク王子がカープァ王国を訪問することを受け入れた場合に限ると付け加えた。

王の判断と会談の収束

グスタフ王は善治郎の提案を了承し、両者は互いの条件を受け入れる姿勢を見せた。エリク王子も最後には訪問を受け入れ、善治郎も『成人の証』に挑むことが正式に決まった。戦士達は双方の勇気を称賛し、場は一応の収束を見た。

グスタフ王の本音と善治郎の覚悟

会談後、グスタフ王はエリク王子を無事に返すよう善治郎に念を押し、善治郎もそれを快く引き受けた。対面に座る王と双子の弟ユングヴィ王子だけは、善治郎の行動が計算の上に成り立つ打算であったことに気づいていたが、それを責める様子はなかった。

エリク王子への信任と単身訪問の決定

グスタフ王は、善治郎との会談後、エリク王子を呼び出し、南大陸カープァ王国への単身赴任を命じた。エリク王子は不本意な経緯ながらも、父王の信頼に応える意思を示した。グスタフ王は、エリク王子の戦士としての直感を高く評価し、その判断力に国の命運を託す価値があると判断していた。

成人の証と同行者の選定

善治郎が成人の証に挑むことになった件について、グスタフ王はその同行者の選定に慎重を期すよう命じた。成人の証とは、一定以上の野獣を単独で仕留めることで認められる北方諸国の通過儀礼であり、未成年者の通過儀礼として始まったが、近年は成人した経験者の同行も許可されていた。

善治郎の能力評価と危惧

エリク王子は、善治郎に証を立てる実力がないことを断言した。戦士としての動作や体格から、善治郎が戦闘の素人であると見抜いたうえで、どれほど護衛を揃えても本人が仕留めなければ証とは認められない現実を述べた。父王もこの見解を共有しつつ、善治郎の無傷の帰還を最優先とする姿勢を示した。

成人の証の成否と婚姻の政治的価値

成人の証に失敗しても無事であれば良しとする理由として、善治郎の死亡が即ちエリク王子の帰還不可能を意味するという魔法の制約があった。これにより、王国間の均衡と王族の安全確保の必要性が浮上した。グスタフ王はフレア姫と善治郎の婚姻を政治的に容認可能としたが、その価値は証の成功や交渉の進展に依存すると見なしていた。

成人の証を巡る戦略と世論対策

成人の証は、善治郎が婚姻のために身体を張っていることを可視化できる手段であり、国内の反発を抑える象徴となりうると王は認識していた。エリク王子は、この儀式を通して善治郎に撤退を促す計略を進言したが、王は過剰な介入を戒めた。

ユングヴィ王子の意見とフレア姫の本心

次に面会したユングヴィ第二王子は、フレア姫の価値観を最もよく理解している人物として意見を求められた。彼は、フレア姫にとって今回の婚姻は義務ではなく自発的な選択であり、善治郎との関係は本人の価値観に即した望ましいものであると断言した。

王家の体面と国益の葛藤

グスタフ王は、国際社会における王家の体面と、カープァ王国との通商の実益との板挟みに悩んでいた。ユングヴィ王子は、南大陸との貿易によって教会勢力下から脱却できる可能性に言及し、現状維持が国力の衰退を招くと強く主張した。

王位継承の意識と親子の対話

ユングヴィ王子は将来的な王位継承を念頭に置きつつ、父王に改革の必要性を説いた。グスタフ王はその野心を肯定的に受け止めつつも、現時点では王位を譲る考えはないと明言し、王としての力量を高めるよう促した。

善治郎との単独会談の準備

二人の息子と意見を交わした後、グスタフ王は善治郎との単独会談を設定するよう側近に命じた。王は、善治郎が戦士としては頼りない存在でありながら、交渉における切れ者であり、エリク王子を動かしたことを評価していた。王としては、今後の外交交渉を円滑に進めるため、善治郎のもう一手に期待を寄せていた。

第二章  成人の証

エリク王子のカープァ王国派遣と善治郎の決意

数日後、エリク王子を『瞬間移動』によりカープァ王国へ送り出す日が訪れた。善治郎はその翌日、自らの『成人の証』を立てるため雪の残る山へ赴く決意を固めていた。同行者選びを巡っては、能力と人格に秀でたスカジを同行させたいとのフレア姫の提案を退け、全てをエリク王子に一任した。騎士ナタリオも同行を申し出たが、善治郎は頑なに拒否した。

フレア姫との密談と密かな戦略

過日に行われた善治郎とグスタフ王との密談において、王は善治郎にある任務を託し、それを成功させればフレア姫の側室入りを内定すると述べた。その条件達成には危険が伴い、善治郎は密かに作戦を立てていた。装備においてもスカジの助言を受けつつ、罠猟を選び、弓や槍は自らの技量にそぐわぬとして排除した。

エリク王子の出発と猟師達の紹介

善治郎とエリク王子は再会を果たし、挨拶を交わした後、エリク王子の護衛兼猟師である五人の男達が紹介された。彼らは善治郎の『成人の証』に付き添うこととなり、代表のヴィクトルが善治郎に協力を申し出た。善治郎は、彼らが自分に抱く敵意を察しつつ、挑発的なやりとりの中で『成人の証』の規定や失敗条件について確認し、もし護衛側が足を引っ張る事態となれば責任を取らせると釘を刺した。

森での実地行動と『瞬間移動』による優位性

翌日、善治郎は山へ赴いた。森の中は素人には困難な地形で、善治郎は初日から極度に消耗した。昼食を取った後、善治郎は目印を記録し、デジタルカメラの画像を頼りに『瞬間移動』を発動し、自室に戻った。この魔法により、善治郎は毎晩王宮の風呂と寝具で体力を回復できる一方、護衛の猟師達は野営を強いられることとなった。

移動戦略の徹底と猟師たちの困惑

善治郎は日中に少しずつ移動し、夕方には王宮へ帰還するという日帰り作戦を三日間続けた。目的地である断崖絶壁まではまだ遠く、猟師達は疲弊の兆しを見せ始めていた。善治郎は意図的に進行を遅らせ、猟師たちの体力と精神力を削る戦術をとり、必要であれば百日でも二百日でも挑戦し続ける覚悟を示した。

援助を拒む挑発と護衛達の立場

善治郎は自らの携行物の少なさを指摘されつつも、護衛達に援助を受けるつもりはないと断言し、逆に猟師側の体力を疑うような言動をとった。エリク王子の名を盾に取り、彼らの能力を逆手に取ることで精神的な圧力をかけ続けた。その結果、猟師達も善治郎の成功を願わざるを得なくなり、利害が一致する形で行動を共にすることとなった。

行軍の停滞と戦略の本質

三日目の朝には、猟師達も自身の状況を把握し始めた。善治郎は獲物が仕留められない場合、何日でも挑戦を続けると宣言したことで、猟師達は彼の本気を知った。若い猟師が反発するも、善治郎は挑発と理詰めで押し返し、護衛達の発言を拘束する形で主導権を握った。最終的には、護衛達も表面上は善治郎に協力する姿勢を取るようになった。

自分だけの戦場での勝負

善治郎は己の非力を認識した上で、自分の得意分野で戦う道を選んだ。魔法と策略を駆使して、護衛達を心理的にも戦術的にも封じ、自らの勝利条件を成立させる布石を打ち続けた。装備と魔法のアドバンテージ、そして忍耐と執着心で、善治郎はこの困難な『成人の証』に挑み続けたのである。

幕間一  エリク王子のカープァ王国訪問

プジョル元帥との手合わせによる交流

善治郎が北大陸で『成人の証』に挑む一方、エリク王子はカープァ王国王宮の訓練場にて、プジョル元帥との手合わせを行っていた。全力を尽くす王子の攻撃は元帥に受け止められ続け、最初は苛立ち、やがて怒り、最後には指導されていることへの喜びへと感情を変化させていった。プジョル元帥の技と配慮により、エリク王子は満足感と敬意を抱いた。その後、走竜への騎乗も経験し、北大陸では伝説級とされる存在に魅了された王子は、感嘆の声をあげた。

王宮会議におけるプジョル元帥の報告

その夜、プジョル元帥は女王アウラら重臣たちと会談し、エリク王子の様子を報告した。訓練と走竜体験を通じて王子が大いに楽しんでいたこと、また元帥自身も彼の武勇を高く評価したことが伝えられた。エリク王子が贈呈した宝剣も実戦向けの優れた武器であり、プジョル元帥はそれに対し賞賛を惜しまなかった。剣の質からウップサーラ王国の製鉄技術の高さが示唆され、女王は大陸間貿易の必要性を再認識した。

女王アウラとエリク王子の私的会談

翌日、女王アウラとエリク王子は私的な会談を開いた。冒頭のやり取りでは互いに礼を交わしつつも、善治郎に対する王子の評価は低く、フレア姫との婚姻には難色を示した。女王はその意見をいなした上で、王子の真意を問うた。王子は、妹にはより適切な婚姻を望むと語ったが、女王はフレア姫が自ら積極的に善治郎に求婚した実例を提示し、王子の認識を覆した。

フレア姫の求婚の衝撃と価値観の崩壊

女王から語られた、フレア姫が公衆の面前で善治郎にパートナー役を求めた件は、エリク王子に強い衝撃を与えた。王子の価値観では考えられない行動であり、妹への怒りと羞恥が入り混じる中で、自らの希望が既に潰えていたことを悟った。女王と善治郎がフレア姫の行為を咎めず、受け入れていた事実は、王子にとってはウップサーラ王国としての大きな借りであった。

妹の将来と和解への決断

女王の問いに対し、エリク王子は苦渋の末、フレア姫の行為が招いた状況と、それを受け入れた善治郎とアウラへの感謝を述べた。王子は自身の望む理想的な結婚像を捨て、現実を受け入れ、妹の未来のために善治郎との婚姻を認める決断に至ったのである。こうして、反発を抱いていたエリク王子は、ついに善治郎の配偶者としての立場を承認し、和解の道を歩み始めた。

第三章  探索のち密談の日々

善治郎の生活リズムと初の面会

善治郎は森での「成人の証」達成と日々の帰還を繰り返す中で新生活に順応していた。やがて面会者との時間も確保できるようになり、初の対談相手にはウップサーラ王国国王グスタフ五世を選んだ。会談では酒を交えた友好的な空気の中で、善治郎がフレア姫に対して個人的敬意を持っているものの、結婚には積極的ではないという本心を巧みに隠していた。グスタフ王はそれを見抜きつつも、善治郎が護衛たちを通して価値観を変える姿勢を見せたことから、側室入りに同意する意思を表明した。

グスタフ王の懸念と政治的駆け引き

グスタフ王は善治郎に対して、結婚式などの風習について自国の形式に従うよう求め、外聞を保つための配慮を求めた。これは、第一王女の側室入りという外聞の悪さを緩和するためであり、善治郎もこれに応じた。グスタフ王はフレア姫の結婚が大陸間貿易の鍵であると判断しており、時代遅れの価値観を持つ戦士たちの意識改革も含めて、善治郎の行動に意味を見出していた。

フレア姫とユングヴィ王子の再会と会話

一方、広輝宮ではフレア姫と双子の弟ユングヴィ王子が再会し、共和国との緊張、北方五ヶ国の動向について意見を交わしていた。フレア姫の行動が北方諸国に影響を及ぼしていることに触れつつ、ユングヴィはフレアの結婚の経緯に疑問を抱き、最終的にフレア姫自身が善治郎に結婚を申し込んだと明かさせた。

善治郎の誠実さとユングヴィの分析

フレア姫が善治郎に告白した事実を隠していたことにより、善治郎は本来なら避けられた反発に真正面から向き合い、努力を重ねていた。ユングヴィはその善治郎の誠実さを高く評価しつつ、今後フレア姫との関係に配慮すべきと述べた。また、カープァ王家の血統魔法の価値に注目し、将来的にカープァ王国との縁組を自身も視野に入れていることをほのめかした。

ユングヴィの結婚戦略と兄王子の処遇

ユングヴィ王子は自身が次期国王となる意思を表明し、エリク王子がウップサーラ王ではなく、オフス王国の王となることが内々に決定している事実を明かした。これは、オフス王国に王位継承者が不在となり、他国の王子を迎え入れざるを得ない事情から来ていた。王弟の子孫に『教会』の影響が強く、北方諸国としてもそれを避ける必要があった。

グスタフ王の策略とその意図

グスタフ王があえてエリク王子を会談の場に同席させたのは、国内の反対意見の代弁者として意図的に利用するためであり、善治郎に誤解を与えることで反発をうまく吸収する狙いがあった。最終的にフレア姫は、エリク王子が風除けとして使われたことに気づき、その策略の巧妙さを理解した。

双子の洞察と善治郎への信頼

ユングヴィ王子は、善治郎が誠実で人との対立を好まない性格であることを見抜き、策略よりも率直な交渉が効果的であると説いた。善治郎と直接会話すらしていない彼の分析は、フレア姫を驚かせるほど鋭く、ユングヴィの人物観察力の高さを印象付けた。

断崖での調査と危険の認識

善治郎と護衛の一行は森の断崖絶壁に到達し、善治郎は命綱を頼りに断崖を確認した。そこはかつての沢と思われる深い裂け目であり、慎重に観察を行った善治郎は、落下すれば命に関わる場所であると認識した。彼はこの地形を利用して狩りを行う考えを抱くが、自身の技術の未熟さも自覚していたため、ヴィクトルに助言を求めた。

おびき寄せの提案と罠の危険性

ヴィクトルは、善治郎には追い込みよりも餌を使ったおびき寄せが適していると助言した。狩りに不慣れな善治郎が、罠の設置を提案するも、それは獣に警戒され逆効果となると忠告された。善治郎はそれを受け入れ、狩猟対象の選定と準備を整えることを決意した。

狩猟対象の選定と護衛たちの助言

ヴィクトルは、それぞれの獣の特徴を踏まえ、鹿やトナカイは安全だが逃げやすく、熊やイノシシは危険だが倒しやすいと説明した。また、狼は群れで行動するため絶対に避けるべきと断言した。護衛たちも具体的な餌のまき方や匂い・足跡の対策など、善治郎の成功を後押しするよう助言を行った。

『成人の証』達成への護衛たちの焦燥

護衛の戦士たちは、善治郎が『成人の証』を立てるまでは帰還できない状況にあった。長期の森暮らしが続く中で、善治郎の成功を切望していたが、その焦りが若い戦士の不満として表面化した。ヴィクトルは、その態度を戒めつつ、善治郎がすでに『成人の証』を立てる義務がない立場でありながら、護衛たちの面子を守るために続けていることを明かした。

『瞬間移動』の意味と契約の本質

ヴィクトルは、善治郎が持つ『瞬間移動』の能力に言及し、それを使えば善治郎は護衛の都合を無視して狩場を自由に変えられると説明した。これにより、護衛たちは善治郎の温情によって自らの体面が保たれていること、そしてその信頼に応える責任があることをようやく理解した。

覚醒した護衛たちとヴィクトルの本音

自らの立場の危うさに気づいた若い戦士は即座に行動を開始した。ヴィクトルはその様子を見て半ば呆れながらも、結果として善治郎の意図が伝わったことに満足していた。護衛たちはようやく真摯な姿勢で善治郎の成功を支える覚悟を固めたのである。

幕間二  一時帰国

帰還と機材充電の必要性

善治郎は『瞬間移動』によりカープァ王国の石室へ一時帰還した。森での長期間の活動により汗と疲労を抱えながら帰国した彼は、まず自室で防寒具を脱ぎ、携帯機器の充電を行った。特に、瞬間移動の発動にはデジタルカメラの画像が不可欠であったため、電力確保は重要な理由であった。

入浴と家族との再会

アウラ不在の中、善治郎は芯から冷えた体を湯で温め、液体石けんで汗と汚れを洗い流した。その後、息子善吉と娘善乃と久々に対面したが、過剰な愛情表現で二人を泣かせ、乳母たちに叱られた。それでも善治郎にとっては満ち足りた時間であった。

アウラとの再会と情報交換

帰宅後のアウラと善治郎は抱擁を交わし、情報の共有を行った。エリク王子がプジョル元帥と良好な関係を築いていることや、フレア姫の側室入りが進展していることなどを語り合い、善治郎は自らの失策を省みた。アウラは文化の違いに起因する誤解を認識し、外交における注意を新たにした。

北大陸情勢と戦争の予兆

二人は北大陸のズウォタ・ヴォルノシチ貴族制共和国と、北方竜爪騎士修道会との戦争についても言及した。共和国の動員状況から見て開戦は近く、アウラはウップサーラ王国への影響を懸念したが、善治郎は地理的障壁と海軍力の制限から戦火の拡大は困難であると説明した。

フレア姫の政略結婚と文化的評価

アウラは、フレア姫が政略結婚に果たす役割の重要性を再認識した。異文化間の婚姻には配偶者の人格が最も重要であり、フレア姫の胆力と適応力は高く評価されていた。善治郎は、ウップサーラ王国第二王子ユングヴィがカープァ王国から側室を望んでいることを報告し、アウラも条件次第では応じる意向を示した。

人材交流と技術導入の兆し

鍛冶師ヴェルンドが南大陸行きを希望している件も語られた。アウラはその名の重さに懸念を示しつつも、指導力のある技術者であれば国家的価値が高いと認識した。南北大陸間での技術交流による発展可能性も見据えた姿勢であった。

別れの予感と静かな覚悟

善治郎は向こうでの結婚式を予定しており、帰国が遅れることを伝えた。アウラは感情を抑えつつ夫を支え、表情には出さぬまま静かにその帰還を待つ決意を示した。王族としての責務と伴侶としての思いを内に秘めたまま、アウラは穏やかに微笑んでいた。

第四章  風の鉄槌

ヴェルンドの渡航宣言と王の困惑

フレア姫の南大陸行きに続き、国宝級の鍛冶師ヴェルンドが南大陸への同行を望んだことにより、ウップサーラ王国の王グスタフは驚愕し、説得を試みた。しかしヴェルンドは、本人の強い意思と過去の貢献を理由に、退路を断つ決意を示した。

老鍛冶師の決断と技術的信念

ヴェルンドは新型高炉による大量生産を否定せず、王国の発展には不可欠と認識していた。ただ、自身の技術が時代にそぐわなくなった現実と、職人気質からの誇りにより、自ら王宮を去ることを選択した。また、鍛冶師の序列を巡る軋轢や財政難も含め、ヴェルンドの離脱は王国の制度転換に必要な痛みとされた。

旅立ちの真意と老鍛冶師の夢

ヴェルンドが最も望んだのは、南大陸の地で竜殺しの武具を鍛えるという夢の実現であった。自身の腕を活かせる最後の舞台として、竜という存在は彼の情熱の対象となった。グスタフ王はその情熱と覚悟に打たれ、出国を黙認することとなった。

イノシシとの遭遇と『風の鉄槌』の威力

その数日後、善治郎は『成人の証』のため森で狩りを行い、大型のイノシシと対峙した。用意した魔道具『風の鉄槌』を用いて突風を発生させ、イノシシを崖下へ突き落とすことに成功した。この魔法的な力に、護衛戦士たちは圧倒され、善治郎に対する評価を一変させた。

『成人の証』達成のための谷底への挑戦

イノシシを倒しただけでは証明とならず、換金可能な部位を持ち帰る必要があった。善治郎は指導を受けながら、自らロープを使って崖を下り、死体の解体作業に取りかかった。毛皮を諦め、牙と脚の切り出しに集中することで、必要な成果を得ることができた。

護衛戦士達との信頼の形成と別れ

善治郎の努力と結果に、護衛戦士達は心からの祝意を示した。善治郎は残りのイノシシの肉や装備を彼らに譲り、感謝を伝えた。そして、彼の働きをエリク王子に伝えることを約束し、戦士達に大きな名誉を与えた。護衛達に見送られながら、善治郎は『瞬間移動』により広輝宮へと戻った。

戦争の報告と北大陸情勢の分析

善治郎が『成人の証』を達成した頃、グスタフ王は北大陸西部での戦争に関する報告に頭を悩ませていた。騎士団と共和国の戦争はタンネンヴァルトにおいて共和国の勝利に終わったものの、戦力が予想より少なかった点に王は疑念を抱いた。特に、攻め手であるはずの騎士団の兵力が少なかったことから、王はフレア姫の外交的動きが影響している可能性を考慮し、湾岸部への偵察を命じた。王国としては戦局を左右するような介入は困難であったが、情報収集の重要性は変わらず、王は静かに動向を見守る姿勢を取った。

魔道具の発見と白の帝国の伝承

王は続いて、広輝宮に届けられた三つの魔道具――『真水化』『不動火球』『凪の海』に目を向けた。これらの魔道具が付与魔法によって作られた可能性が高いとされ、王はその由来について思案した。とりわけ、シャロワ・ジルベール双王国の王族が使用する魔法が『白の帝国』と同系統であるという符合に、王は深く動揺した。『白の帝国』の伝承は歴代ウップサーラ王のみに伝わる口伝であり、その信憑性を確かめるには、禁忌に近いウトガルズとの接触が必要であった。

外交的ジレンマと『教会』勢力との対立構図

王はフレア姫の懸念が一般的な視点からは妥当であり、双王国との交易は魅力的であると認識していた。ただし、『教会』勢力が双王国や魔道具の存在にどう反応するかは未知であり、ゼンジロウが所有する魔道具が外交の火種となる可能性が高かった。特に『凪の海』は船の航行に欠かせず、隠蔽が困難であったことから、使用を中止することは現実的ではなかった。また、双王国との関係が深いカープァ王国と既に貿易が決定している以上、双王国を外交的に遠ざけることも困難であった。

王位継承の検討と体制の再構築

グスタフ王は、いずれ不可避となる『教会』勢力との摩擦に備え、外交的・技術的転換を図る最適なタイミングとして王位継承を検討した。ユングヴィ第二王子は精霊信仰を軸にした外交を行える人物であり、新王としての資質も備えていた。王は、自らが退位した後も補佐役として裏方に回り、古い外交や技術体系を部分的に維持する意向を示した。国としての柔軟な体制転換を見据え、王は変革の時期を見定めていた。

善治郎の帰還と『成人の証』の達成

その頃、善治郎は昼前に広輝宮へ帰還し、イノシシの牙と脚を持ち帰ったことで『成人の証』を正式に立てた。朗報は広輝宮全体に広まり、善治郎は蒸気風呂で身体を癒し、部屋で休息を取った。疲労困憊の状態であった彼に、侍女イネスは帰国と休養を提案し、善治郎もそれに同意した。

フレア姫の訪問と婚姻の正式決定

善治郎が休息を取っていたところにフレア姫が訪れ、グスタフ王から正式な婚姻の許可が下りたことを伝えた。当初は『成人の証』を立てることで結婚の可能性が生まれる予定であったが、情勢の変化により、すでに結婚は内定していた。善治郎の功績と善意、王の密約の履行、そしてフレア姫の誠意がその背景にあった。

互いの信頼と未来への覚悟

フレア姫は、自身の行動を支えた善治郎に深く感謝を述べ、善治郎も王家と王に不利益をもたらさない限り、フレア姫の自由を尊重すると誓った。善治郎はフレア姫を人として高く評価しており、彼女の側室入りを心から受け入れる覚悟を示した。フレア姫もまた、善治郎の言葉に心を打たれ、潤んだ瞳でその感謝を伝えた。

第五章  二度目の結婚式

善治郎の多忙な結婚準備

善治郎とフレア姫の結婚式は、善治郎が『成人の証』を立ててからわずか一ヶ月後に挙行された。その間、善治郎は自身の瞬間移動能力を用いて北大陸と南大陸を幾度となく往復し、外交官の送迎や結婚条件の調整を担った。短期間の激務により体調を崩しながらも、彼は唯一無二の役割を全うした。

花嫁衣装の衝撃と新郎の緊張

善治郎は衣装合わせには立ち会ったが、フレア姫の花嫁姿を当日まで知らなかった。初対面で彼女の変わった髪型に戸惑うも、すぐに事情を理解した。フレア姫は過去に切った自身の髪で作ったつけ毛を使い、見事な銀髪のアップスタイルを披露した。善治郎も王国伝統の鎧をまとい、剣を二本携える姿で式に臨んだが、その姿は自身でも似合っていないと自覚していた。

中庭での結婚式と精霊への誓い

結婚式は王宮の中庭で行われ、精霊信仰に基づき自然の中で執り行われた。壇上で善治郎とフレア姫は剣を掲げ、精霊の前で互いに結婚の誓いを立てた。式の後、第一王子エリクが本来グスタフ王が行うはずだった破邪の儀式を代行し、フレア姫と善治郎の肩を黄金の槌で打ち清めた。特に善治郎にはやや強めの力で槌を当て、軽い意趣返しを見せた。

王族の紹介と結婚への理解

式にはウップサーラ王族の面々が出席し、王太后や第二・第三王妃、王子・王女たちが勢揃いした。特にフレア姫の母であるフェリシア第二王妃は公の場に出ることが少ないが、今回は新婦の母として出席した。これは第一王妃の地位が死後も保持されているためである。

夫婦による肉の切り分けと役割の共有

結婚式の慣習に従い、善治郎はゲストへ肉を切り分けて提供する役を担ったが、それをフレア姫と共同で行った。これは男女の役割分担を再定義する意味を持ち、善治郎が用意した二本の剣で二人はそれぞれ肉を切った。善治郎の不器用さに対し、フレア姫は見事な手さばきを見せた。王族席ではグスタフ王やエリク王子と交流し、それぞれの言葉から善治郎の努力が評価されていた。

王侯貴族たちとの交流と祝福

続いて、王族の分家や来賓たちのテーブルを回った。フレア姫の知人達からは気軽な祝福が寄せられたが、善治郎には形式的な挨拶が多かった。かつて『成人の証』で関わった若き戦士の父親とも言葉を交わし、好意的な言葉を受けた。

各国使節との応対と予期せぬ再会

北大陸の諸国から多くの使節が招かれ、善治郎とフレア姫は順に挨拶を行った。中でもズウォタ・ヴォルノシチ共和国からの来賓として、以前戦勝会で顔を合わせたエウゲニウシュ夫妻との再会があった。彼らの活躍と共和国の勝利を祝し、後日の会談を約束した。

オフス王国の微妙な態度と戦士ケヴィンの動揺

オフス王国の使節は最大規模で、代表者はフレア姫とエリク王子の関係に興味を示した。中でも戦士ケヴィンは善治郎の側にいた金髪の侍女マルグレーテを見て強く動揺し、異常な反応を見せた。善治郎は警戒しつつも、後日詳しく話を聞くことを約束した。

宴の自由と新郎の義務

すべてのテーブルを回り終えた後、宴は自由時間へと移行した。客たちは酒を酌み交わし、踊り、時に剣を交えた。ウップサーラ王国の伝統により、新郎はこの剣の催しにも一度は参加せねばならず、善治郎もその義務を果たした。最低限の役目を終えた彼は、戦場から逃れるようにその場を去った。

密入国による瞬間移動の拠点構築

結婚式後、善治郎はエウゲニウシュおよび戦士ケヴィンとの面会を果たし、その情報を携えてカープァ王国へ戻った。ケヴィンの話は信頼性に乏しく、真偽の判別が難しい上に無視できない内容であったため、対応が急務となった。一方でエウゲニウシュからは、タンネンヴァルトの戦いに関する有益な情報を得た。善治郎の提案により、女王アウラがウップサーラ王国の広輝宮別棟に『瞬間移動』し、そこを基点とする転送の拠点として整備することに成功した。この行動は相手国に無断の侵入であり、大きなリスクを伴っていたが、今後の迅速な人員・物資移動において大きな利点となる手筈が整った。

アウラと善治郎の作戦と準備

善治郎とアウラは王宮のソファーにて、情報共有と今後の対応について話し合った。フレア姫との結婚式は北大陸側で完了しており、カープァ王国内では披露目的な夜会のみが予定され、アウラの出席は避けられることとなった。また、フレア姫の引越しや関連人員の送り込みに向けて、カープァ王国側でも準備が進んでいた。特に注目されたのが国宝級鍛冶師ヴェルンドの移住であり、彼の希望により実現したものであったが、その背景に政治的な意図があることをアウラは即座に察知し、善治郎と共にその裏を探る姿勢を見せた。

技術革新と戦略的資源移動の模索

ヴェルンドの技術は、現在カープァ王国が直面している高温炉の問題やガラス製造の効率化に貢献する可能性が高く、彼の招致は王国にとって大きな技術的飛躍となる見込みであった。また、彼のような特別な職人が他国へ渡ることは極めて異例であり、グスタフ王の意図に何らかの戦略的判断があったことは否定できなかった。さらにヴェルンドは単なる鍛冶師にとどまらず、『竜殺しの武器』という野望を掲げており、その目的が国境を超える意義を持っていると理解された。

共和国の動向とアンナ王女の台頭

続いて、善治郎はズウォタ・ヴォルノシチ貴族制共和国から得た情報について報告した。タンネンヴァルトの戦いにおいて、共和国は勝利し、ヤンという傭兵とアンナ王女が特に大きな名声を得た。アンナ王女はこの機に王位選挙への出馬を正式に表明しており、女王アウラはこれを大陸情勢に大きな影響を与える可能性のある動きと捉えた。共和国が既に大型船を複数保有していることや、高度な港湾施設を有していることから、将来的な大陸間貿易や外交戦略の脅威として警戒する必要があると判断された。

マルグレーテに関する不可解な情報

最後に、善治郎は戦士ケヴィンから得た、侍女マルグレーテに関する不可解な話をアウラに伝えた。内容は荒唐無稽ながら、無視できない点を含んでおり、女王アウラも慎重に聞き入れた。この情報の扱いは極めて重要であり、善治郎とアウラはさらなる検証と対応を検討する必要に迫られていた。

エピローグ  後宮、二人目

瞬間移動による人員移送の完了

善治郎は約一か月にわたり、ウップサーラ王国からカープァ王国へと一日一人ずつ『瞬間移動』を繰り返し、フレア姫やスカジ、侍女達、職人ヴェルンドらの送還を進めた。大人数の輸送は不可能であるため、それ以外の者たちは船での長旅を強いられた。カープァ王国大使館がウップサーラに常設されたことにより、善治郎も安全に滞在できる環境が整っていた。最終的に、最後まで残っていた侍女イネスを送り出した後、善治郎自身も帰国を果たした。

王宮での帰還とアウラの迎え

善治郎は、瞬間移動先として最も安定した石室に到着し、帰国を果たした。後宮ではアウラが彼の帰還を迎えていた。二人は日常のやり取りを交わしながら、今回の任務の終結と今後の対応について確認した。アウラは正式な王妃として善治郎を労い、善治郎もまた帰るべき場所の存在を再認識した。彼は毎月一度、大使館を経由して北大陸への情報収集の継続を約束した。

後宮侍女の移動と人事構成

善治郎は侍女の顔ぶれの変化について確認し、アウラは北大陸へ派遣した侍女のうち、ニルダを含む六人を送り出したと説明した。ニルダはフレア姫と旧知の間柄であり、フレアの希望により随行が決定した。また、新たに採用された侍女は、王家への忠誠心を重視して選抜された人員であり、フレア付きであることに配慮された構成であった。

フレア姫の別棟訪問と生活環境の確認

善治郎はフレア姫が生活する後宮別棟を訪問した。建物の設備には差があり、電化製品の代わりに霧を発生させる魔道具などで暑さをしのいでいた。アウラの配慮により氷の支給も行われており、フレアの睡眠環境も確保されていた。フレアは、侍女達の家族宛の手紙の送付や物品の配達も善治郎に依頼し、善治郎は快く応じた。

スカジの武装相談と文化差の認識

女戦士スカジは、自身の戦闘技術に適した装備が当地にはないことを訴え、王宮のヴェルンドとの連絡を要請した。防御様式の違いから適応困難であり、南大陸の気候に合う新たな装備を求めた。善治郎は王宮での面会を手配する方針を示し、フレアも同意した。

形式的呼称と新たな関係の確認

フレア姫は善治郎に対して、丁寧語ではなく自然な口調で接してほしいと願い出た。善治郎はこれを徐々に受け入れる姿勢を見せ、フレアも満足を示した。また、善治郎は自身を「陛下」と呼ばないよう要請し、フレアも「殿下」の呼称を辞退した。呼称の調整を通じて、二人は対等な夫婦関係の始まりを確認し合った。

後宮の秩序とアウラの警告

善治郎の知らぬところで、アウラはフレアに対し、後宮内での競争が善治郎に負担をかけることがあれば、政治的損失とみなして厳しい対処も辞さないと警告していた。フレアはその警告を胸に、和やかな振る舞いを保ちつつも慎重に行動する姿勢を取っていた。

新たな生活の第一歩

善治郎はフレアとの会話を通じて、彼女を正式に「フレア」と呼ぶことで新たな関係の第一歩を踏み出した。フレアも善治郎を「ゼンジロウ様」と呼び、対等な夫婦としての関係を受け入れた。二人は静かに手を取り合い、穏やかな時間を共有した。

付録  主と侍女の間接交流

善治郎とフレア姫の結婚発表と後宮の準備

善治郎とフレア姫の結婚が発表されると、カープァ王国の後宮侍女達は一時的に歓喜に包まれた。しかし、フレア姫が一ヶ月後に後宮へ正式に入ることが決まり、後宮には突如として緊急の準備作業が押し寄せた。寝具や食料の準備、別棟の整備に至るまで、侍女たちは熱気の中を奔走した。アマンダ侍女長はその様子を見守り、恒常的な人手不足に対処する案として、身元を厳選した下女の後宮清掃任用を提案した。

下女の後宮勤務案と侍女長達の対話

調理責任者ヴァネッサもその提案を聞き、厨房への立ち入り制限を条件に了承した。下女の後宮清掃任用には、情報漏洩防止のための住み込み勤務や高待遇など複数の制約が設けられ、侍女の補助役として適任者を選抜する方針が決定された。

若い侍女達の反応と不安

この方針は瞬く間に若い侍女達へ伝わり、フェー、ドロレス、レテの「問題児三人組」は部下ができることに浮かれていた。だが、レテは新しい体制への不安を漏らし、指導役への苦手意識を示した。ドロレスは監督責任の重さを指摘し、フェーの浮かれぶりに釘を刺した。

ニルダの異動と三人組の感情

数日後、別棟勤務となる人員が発表され、ニルダが既存侍女の中で唯一の異動者となった。フレア姫と旧知の間柄である彼女は、名指しで任命されていた。ニルダの気負いない様子に三人組は感心しつつも、生活の不便さを案じた。携帯ゲーム機を持ち込むという発言には呆れも見られたが、三人組自身がその常習犯であった。

ミレーラの思惑と今後の展望

ミレーラはフレア姫の弟・ユングヴィ王子の側室候補として名前が挙がっており、将来的な北大陸移住を見据えて侍女としての立場を固めつつあった。表向きは現状維持を選んだものの、善治郎との接点構築を重視する姿勢を見せていた。

スカジの到着と後宮での初対面

十日後、女戦士スカジが後宮に到着した。武装を許された例外的な存在である彼女は、後宮侍女達に対し丁寧に自己紹介し、礼儀正しく振る舞った。アマンダ侍女長の紹介で、ニルダと問題児三人組がスカジの補佐として同行し、徐々に打ち解けた。

別棟の案内と魔道具の要請

ニルダはスカジを別棟へ案内し、室温調整用の『霧の魔道具』に感嘆の声が上がった。スカジはフレア姫付きの侍女達の酷暑対策として追加設置を要望し、ドロレスが購入申請と説明役を担うことになった。

新たな侍女達の到着と構成

さらに十日後、後宮別棟勤務用にカープァ側から五名、ウップサーラ王国から三名の侍女が加わった。いずれも経験豊富な人材であり、特にウップサーラ側のランヒルドはアマンダ侍女長と双璧をなす存在感を放っていた。

文化交流と魔道具の配備完了

スカジの要請は迅速に通り、『霧の魔道具』が三つ追加された。これにより酷暑に弱い北大陸の侍女達もなんとか適応可能となり、配慮の行き届いた対応が実現した。

後宮内での新たな人間関係と展望

問題児三人組は新たな侍女達の印象を語り合い、異文化との接触に興味と緊張を抱いた。北大陸の気候や風習、食文化に憧れを抱く一方、現実的な問題への配慮も忘れていなかった。ドロレスは今後カープァ側からウップサーラ王国へ侍女を送り出す必要性を説き、善治郎の瞬間移動がその鍵になると指摘した。

後宮の拡張と静かな変革の兆し

善治郎とアウラによって守られてきた後宮の安定した生活に、フレア姫とその侍女達が加わることで、新たな秩序と変化が生まれ始めていた。フェー達はその変化に戸惑いながらも、新しい時代の到来を感じ取っていた。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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