- どんな本?
- 読んだ本のタイトル
- あらすじ・内容
- 前巻からのあらすじ
- 感想
- 考察・解説
- 登場キャラクター
- 展開まとめ
- ユルトの寝床でディアス
- 翌朝、ユルトの中で
- 鈍い頭を懸命に働かせながら
- 早秋の森の中で
- イルク村に戻って
- カスデクス領、西部の街メラーンガルナリウス
- 冬備えが進むイルク村で・ディアス
- カスデクス領改めマーハティ領、東部の街バーンガルマイザー
- 秋の色が濃くなっていくイルク村でディアス
- 草原北部の仮設ユルトでクラウス
- マーハティ領、西部の街メラーンガル、領主屋敷の寝室エルダン
- 夕日が赤く染め上げるメラーンガルで・エルダン
- 出産の翌日、早朝のイルク村でディアス
- 書き下ろし 絆の結実
- 晩秋のある日に、ユルトの中でディアス
- 特別書き下ろし。アルナーのレシピ
- ある雨の日の昼下がりに、二人きりのユルトの中でディアス
- 電子書籍特典「エリーの背中」
- 同シリーズ
- その他フィクション
どんな本?
戦争で、孤児から救国の英雄に成ったディアス。
それを面白く思わない王族が横槍を入れて。
拝領した広大な草原には領民がおらず、住む家も無く、食料すら無い。
領地を与えると言いながらやってる事は流刑にしたような物。
その誰一人いないはずの草原で、ディアスは少女アルナーに出会う。
彼女は額に角がある鬼人だった。
読んだ本のタイトル
領民0人スタートの辺境領主様 IV 絆の結実
著者:風楼 氏
イラスト:キンタ 氏
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あらすじ・内容
草原の領主ディアス、公爵に!?
そして、メーアがついに出産…!
イルク村は今日も幸せいっぱい!!クラウスの異種族間結婚、育て子たちとの再会。
新たな絆を結び、さらに領地を発展させていくディアス。しかし、アルナーの兄ゾルグと共闘しドラゴンを倒すものの
戦闘で受けた毒の影響で倒れ込んでしまう!
朦朧状態の彼を救うのは人語を話すメーアから
譲り受けた奇跡の薬草!?
さらに友好を結ぶエルダンにも変異が…?冬備えの準備をはじめたディアスたちに訪れる
領民0人スタートの辺境領主様4 絆の結実
領地の大きな転換期!!
前巻からのあらすじ
孤児時代の仲間達とディアスの叔父が登場して、両親がかなり高位の神官だったと判明。
その両親の子供が人殺しで功績を得て領主になった事に腹を立てるのがなかなかに豪快w
それを説教するためにわざわざディアスの領地に行って拳骨1発で終わらせる。
あと、ギャグキャラっぽいアルナーの兄ゾルグも出て来たし。
その後でディアスとゾルグとてトンボ型のドラゴンの群を討伐して漢気を上げて、ダメ人間と判断されていたゾルグは族長候補に格上げ。
ディアスも中央で爵位が格上げされてしまう。
そして話が盛り上がりそうだと思ったら終わってしまった。
感想
謎のメアーに貰った薬草を双子が煎じた薬が万能薬だと判明。
しかもその薬を隣の領主にあげたら、先天的に虚弱体質だった領主が健康体になった。
それを喜ぶ家臣一同。
それに驚くディアス達。
その薬の元になってる苗木は人の悪い欲望に敏感に反応し、枯れてしまう厄介なものらしい。
それでも娘の双子に全てを任せるディアスの器の大きさが凄い。
そんな秘密を共有した隣の領主はかなり感動してしまい、更なる交流をと言って来るw
最後の方は、メアー、犬族達の出産ラッシュ。冬の魔獣達の到来。
様々な騒動が一気に押し寄せて来て、村が危機的な状況だったのだが、、
犬族達とディアスが無双してそれほどでも無いと錯覚してしまうw
あとやっとあの羊達の子供が産まれた。
これから冬か・・
大変だろうな。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察・解説
伝説の薬草サンジーバニー
『領民0人スタートの辺境領主様』に登場する「サンジーバニー」は、神代の頃から伝わる伝説の薬草であり、物語において奇跡をもたらす。同時に、扱う者の心が試される特別な存在として描かれている。その詳細な特徴や役割は以下の通りである。
1. 神代より伝わる「万能の薬草」の伝説
サンジーバニーは、一口飲めばどんな病でもたちまち癒やし、死の淵にあっても命を救うとされる万能の薬草である。その伝説の概要は以下の通りである。
- 神々の住まう山の山頂に生え、慈悲深い神々が故ある者に授けると言い伝えられている
- かつての建国王が流行病にかかった際、聖人ディアが神々に頼み込んで譲り受け、病を治したという逸話が残されている
- 歴代の領主が莫大な予算をかけて探索したものの見つからず、現在ではおとぎ話や笑い話の類とされていた
2. 驚異的な治癒力と奇跡の体現
ディアスはウィンドドラゴンからメーアを救った報酬として、人語を話す「喋るメーア」からサンジーバニーの「葉三枚、種一つ」を託されていた。その驚異的な治癒効果は以下の通りである。
- ドラゴンの羽の毒によって高熱とひどい化膿に苦しみ、長く寝込むことを覚悟していたディアスを、たった一晩で元の健康な身体へと回復させた(それどころか若い頃のように調子が良い状態となった)
- 来訪した隣領主エルダンとその従者カマロッツにも振る舞われた
- エルダンが抱えていた「先天的な体の内部の歪み」による大病は、一晩で完治させることは本人の体力が耐えられないため不可能であったが、それでも病魔の根源を大きく鎮め、彼に自力で走り回れるほどの活力を与えるという奇跡的な効果を発揮した
3. 「邪念」を嫌う性質と大人たちの決断
サンジーバニーを託した「喋るメーア」は、「売って儲けようだとか、悪用しようだとか、そういった類の邪念を抱くとたちまちその葉と種は枯れてしまう」という強い警告を残していた。
- ディアスやエルダンたち大人は、そのあまりの価値を知ってしまったが故に、「礼の品を払おう」「何らかの見返りがあるのでは」と心の隅で僅かな欲(邪念)を抱いてしまった
- しかし、セナイとアイハンが畑に植えたサンジーバニーの種は枯れることなく、青々とした芽を出していた
- これは、薬草を使ったのがディアスたちを純粋に心配し、善意のみで動いたセナイとアイハンだったからだとディアスは結論づけた
- 大人たちはこれ以上の邪念が入って枯れてしまうことを防ぐため、サンジーバニーの存在自体を忘れ、以後の管理をすべてセナイとアイハンに任せる(他言無用とする)ことで合意した
4. セナイとアイハンによる栽培と活用
病で両親を失った経験から「もう病で家族を失いたくない」と願うセナイとアイハンは、この奇跡の薬草を大切に管理している。
- 二人は広場の「苗畑」にサンジーバニーの種を植え、厳しい寒波から若木を守るために、干し草と木材で手作りの「冬囲い(草木のユルト)」を作って愛情深く育てている
- サンジーバニーの上澄みを利用して、フランソワや犬人族たちのための安産のお薬を作るなど、村の皆の命を救うためにその力を純粋に活用している
まとめ
このように、サンジーバニーは単なる万能薬ではなく、所有する者の純粋な心や善意によってのみその力を保ち続ける神秘的な薬草である。大人たちの賢明な決意により、過去の傷を背負う双子のセナイとアイハンに管理が委ねられたことで、この奇跡の力はイルク村の仲間たちを守るための大いなる救いとして息づいている。
ディアスの公爵叙爵とイルク村の転機
サンセリフェ王国によるディアスの公爵叙爵は、王国の複雑な政治事情とエルダンの尽力によって実現し、イルク村の未来を大きく変える転機となった。一般的な貴族の昇進とは異なる、その詳細な背景と影響は以下の通りである。
1. 叙爵の理由と背景
国王は、辺境開拓を命じられたディアスが本来受け取るはずだった資金や人材を何者かに奪われていた件を遺憾に思い、その埋め合わせとしてディアスに公爵位、新たな家名を名乗る権利、3年間の免税措置を与えた。この異例の厚遇の裏には、隣領の領主エルダンの王都での暗躍があった。エルダンはアースドラゴンの魔石を王に献上し、ディアスの名声を高める噂を流すなどの工作を行って交渉を有利に進めたのである。平民から公爵への大出世にもかかわらず貴族たちから反対が起きなかった理由は以下の通りである。
- 王位継承争いが激化して各派閥がそれどころではなかったため
- 利益のない辺境の公爵を攻撃して国王や有力貴族を敵に回すリスクを避けたため
- 権威を失墜させた国王が将来の隠居生活の保険として、ディアスとエルダンを味方につけようとした思惑が絡んでいたため
2. ディアスの反応と追加支援の拒否
当のディアスは自分を平民だと思っていたため、この報せに愕然とした。実は領地を与えられた時点で貴族扱いでありネッツロースという家名も存在していたが、当時のディアスは生き延びることで精一杯で、役人の説明を完全に忘れていたのである。国王からは改めて資金や人材の融通が提案されたが、ディアスはこれをきっぱりと断った。断った理由は以下の通りである。
- 最初から十分な支援を受けていれば、アルナーや今の仲間たちと出会い、イルク村を築くことはできなかったと考えたため
- 不遇な状況だったからこそ得られた今の幸せに感謝し、これからは自分たちの力で村を発展させていきたいと考えたため
3. 公爵の特権「領地の裁量権」
公爵には王族の暴走を止める権利など強大な特権が与えられるが、中でもエルダンが重要視したのが領地の裁量権である。これは国王に逐一許可を取ることなく、領地の売買や無人地帯の領地化を自由に行える権限である。ディアスはこの権限を以下のように活用している。
- 生活物資である木材の安定供給と鬼人族とのトラブル回避のために、エルダンの領地である境界の森の半分をウィンドドラゴンの素材と引き換えに購入した
- ネッツロース草原の半分を鬼人族の土地として王国法の下で正式に保証するという、鬼人族との画期的な共存提案への活用を計画している
4. 新たな家名「メーアバダル」
新公爵として自ら家名を考えなければならないと知ったディアスは頭を抱えたが、ベン伯父さんがアルナー達と相談して決めたメーアバダルという名を受け入れることになった。この家名の特徴は以下の通りである。
- 古い言葉でメーアを守る勇士やメーアの加護を受けた勇者を意味する
- 隣人である鬼人族にも受け入れやすい響きを持つ
- 将来メーア布を特産品として売り出す際にも非常に有利になるという実利を兼ね備えている
まとめ
このように、ディアスの公爵叙爵は王国の政治的思惑やエルダンの支援によってもたらされたものである。ディアスは過去の不遇を財産に変え、国からの追加支援に頼ることなく、公爵としての特権を仲間や異種族との共存のために役立てようとしている。この決断が、イルク村をただの開拓地から自立した交易拠点へと発展させる確かな礎となっている。
イルク村における冬備え
イルク村が位置する過酷なネッツロース草原の冬は、何もかもが凍りつくほど厳しいものである。そのため、村では秋の訪れとともに村人総出で本格的な冬備えが行われる。その全貌は以下の通りである。
1. 冬備えの始まりと鬼人族のルール
イルク村の冬備えは、秋を告げる渡り鳥が姿を見せたことを合図に始まる。作業はアルナーが教える鬼人族の伝統的なルールに従って進められる。そのルールには以下のような、自然の恵みを持続させ、他者と共存するための知恵が込められている。
- 狩りの際に繁殖期のメスに手を出さない
- 他の家との資材や獲物の取り合いを避ける
- 飼葉は村から遠い場所に生えている固い草を使い、必要以上に作りすぎない
2. 食料と飼料の確保
冬を越すための備蓄として、多種多様な食料や飼料が集められる。具体的な内容は以下の通りである。
- 森での採取:セナイとアイハンを中心に、くるみやキノコ、森芋などを採取する。また、冬の寒気にさらして毒を抜くことで肉や魚の保存剤(腐敗防止)となるローワンの実も大量に収穫される。セナイたちは、一つの木から採りすぎない、増える力のある芋は別の場所に植え直すといった森の知識を駆使して作業を進める。
- 狩猟と干し肉作り:クラウスやマスティ氏族が中心となって山鹿などの狩りを行う。山鹿の肉は淡白であるが干し肉に適しており、アリダ婆さんやチーマ婆さんたちによって塩やハーブをまぶした美味しい干し肉へと加工され、各ユルトに吊るされる。また、南の荒野での岩塩拾いも犬人族が担当する。
- 草のチーズの作成:シェップ氏族 of 若者たちは、革袋に草を詰め込んで踏み固め、発酵させた草のチーズを作る。これは厳しい冬を越すメーアや馬たちにとって、滋養たっぷりのご馳走となる。
3. 厳しい寒気と雪を防ぐ冬囲い
厳しい寒気と雪から村の施設や作物を守るため、冬囲いが行われる。
- ユルトの冬囲い:ディアスがすべてのユルトの柱の折れや布の破れを点検・補修した後、村人全員でユルトの冬囲いを行う。柱を木材で補強し、外布を二重にし、雪が自然に流れ落ちるように屋根の傾斜を強くすることで、冷気の侵入を劇的に防ぐことができる。
- 苗畑の冬囲い:セナイとアイハンが育てている若木(くるみやサンジーバニーなど)を寒波から守るため、ディアスとエイマが協力して畑の冬囲いを行う。土に干し草を敷き詰めて根を保温し、木材で作った三角形の骨組みに干し草を被せて屋根にするという、植物のための小さなユルトのような構造になっている。
4. 命を守る冬着・冬寝間着の作成
冬の夜は、生物が体内の血を燃やして熱を持たなければならないほど冷え込む。体力が少ない老人や赤ん坊は凍死の危険があるため、衣服の準備も徹底される。
- メーア布の冬寝間着:汗を吸ってすぐ乾き、外気を寄せ付けないメーア布で作られた特別な冬寝間着が用意される。山鹿の毛皮は汗が凍って凍傷になるため寝間着には不適とされる。
- 王国風デザインの冬服:エリーの指揮のもと、機能性だけでなく気分を明るくするようなお洒落な王国風のデザインを取り入れた冬服作りも進められる。急な寒波の際には、エリーや犬人族の女性たちが協力して即席の防寒布やマントを作成して寒さを凌いだ。
まとめ
このように、イルク村の冬備えは、鬼人族の自然の知識とルールを土台とし、犬人族の労働力、棄民の老婆たちの経験、そしてディアスやエリーたちの力が結集することで、大量の備蓄を築き上げる一大行事となっている。
ディアスとエルダンの領地交渉による生活基盤の安定
『領民0人スタートの辺境領主様』におけるエルダンとの領地交渉は、公爵となったディアスが初めて「領地の裁量権」を行使し、今後のイルク村の生活基盤を安定させるための重要な出来事である。その経緯と結末は以下の通りである。
1. 公爵の特権「領地の裁量権」の勉強と実践
エルダンはディアスが公爵に叙爵されたことを受け、貴族や公爵に関する勉強会を開く。その中で、公爵の特権の実践として領地交渉が持ちかけられた。
- 公爵の特権の中でも特に重要とされる「領地の裁量権」について説明される。これは国王に逐一許可を取ることなく、領地の売買や無人地帯の領地化を自由に行える権限である。
- 特権の実践として、カスデクス領とメーアバダル領(イルク村)の境界にある森のこちら側半分をディアスに売却する交渉が提案された。
2. 隠されていた「木材の無断使用」問題
エルダンがこの森の売買を持ちかけた真の理由は、イルク村や鬼人族の木材調達先に関するトラブルを未然に防ぐことにあった。
- イルク村のユルトなどの建築資材は鬼人族から譲り受けたものであったが、その鬼人族が木材を伐採していたのはエルダンの領地である森であった。
- 実質的に無断使用(盗伐)の状態になっていたため、エルダンは今後の揉め事を無くすために、十分な対価を受け取った上で正式に森をディアスの領地にするという平和的な解決策を提示した。
3. ウィンドドラゴンの素材とエリーへの丸投げ
適正な土地の価格がわからないディアスは、手元にある余剰金と「ウィンドドラゴン二匹半の素材」を提示する。
- ウィンドドラゴンの素材はアースドラゴンに匹敵するほどの高い価値と希少性があり、辺境の森の代金としては余るほどの対価であった。
- エルダンはその価値に愕然としながらも交渉の練習として対応しようとするが、土地や経済の価値観に全くついていけないディアスは、今後の交渉も含めて商売経験の豊富なエリーにすべてを任せることを決意した。
4. 交渉の結末と売買の成立
エリーが交渉を引き継ぎ、エルダンと白熱した話し合いを行った結果、正式な手続きへと進むこととなった。
- 最終的に「ウィンドドラゴン2匹分の素材」を対価として森の半分を買い取ることで話がまとまった。
- 森の地図に売買した部分を示す線を引き、ディアスとエルダンの印章を押した書類の原本を国王へ送ることで、領地売買の手続きが完了することになる。
まとめ
このように、エルダンとの領地交渉はエリーの活躍もあって無事に成立した。これにより、イルク村と鬼人族は堂々と森から木材を調達できるようになり、ディアスは公爵としての権限を使って領地を拡大する第一歩を踏み出したのである。
新たな家名「メーアバダル」
『領民0人スタートの辺境領主様』において、公爵となったディアスが名乗ることになる新たな家名「メーアバダル」は、イルク村の現状と未来、そして隣人との絆を象徴する重要な名前である。その名付けの経緯と込められた意味について解説する。
1. 新たな家名を決める苦悩
公爵叙爵に伴い、ディアスは自ら新たな家名を考えなければならなくなった。家名は以下のような理由から、非常に重要な意味を持つ。
- その家族だけが名乗るものではなく、自分が管理する領地(草原)の名前にもなる
- 何百年も受け継がれる極めて重要なものである
平民出身で到底そのような大層な名前を思いつけないと頭を抱えていたディアスの元へベン伯父さんが現れ、アルナーやセナイ達と相談した結果として「メーアバダル」という名前を提案した。
2. メーアバダルの意味と鬼人族への配慮
「バダル」は古い言葉で「勇士」や「勇者」を意味し、「メーアバダル」と繋げることで「メーアを守る勇士」や「メーアの加護を受けた勇者」という意味になる。この名前が選ばれた最大の理由は、隣人である鬼人族への配慮であった。
- 元々の「ネッツロース」という名前は古い王国語で「不要」というネガティブな意味を持っていた
- 鬼人族の生活の根幹である「メーア」を冠した名前であれば、彼らも悪い気はせずすんなりと受け入れることができる
- ディアスの名前にメーアを取り入れることで、今後の友好や融和に繋がると考えられた
3. 特産品販売への実利とベン伯父さんの野望
さらに、この家名には大きな実利と裏の狙いが含まれていた。詳細は以下の通りである。
- メーア布販売への好影響:将来、イルク村の特産品としてメーア布を売り出す際に、「メーアバダル公が売り出すメーアバダル領の名産品メーア布」と宣伝すれば、非常に分かりやすく商売に有利に働くという計算があった
- メーアを祀る神殿構想:ベン伯父さんは、奇跡の薬草「サンジーバニー」をディアスに授けた喋るメーアを「神の御使い」であると確信していた。彼は将来この地にメーアを祀る立派な神殿を建てるという野望を抱いており、神の御使いが住む地の領主がその名を家名に刻んでいる方が都合が良いと考えていた
4. 家名の届け出と「家族」への広がり
ディアスはベン伯父さんの神殿構想には呆れつつも、「メーアバダル」の意味と響きの良さには納得し、正式に「ディアス・メーアバダル」として王へ届け出を行った。その後の村の様子は以下の通りである。
- アルナーも、この草原がメーアバダルと呼ばれるようになることを喜んで受け入れた
- 鬼人族には本来「家名」の文化はないが、アルナーは「私もその家名を名乗っていいのか」「セナイ達が名乗ってもいいのか」とディアスに尋ねた
- ディアスが「本人が望めば誰でも名乗ってよい」と答えると、アルナーは正式に家族として一つの名前を共有できることに心から歓喜し、宴の準備に一層張り切ることになった
まとめ
このように、「メーアバダル」という家名の決定は、単なる貴族としての形式的な手続きに留まらない。隣人である鬼人族との融和、将来的な経済基盤となる特産品販売への見通し、そして何よりもイルク村の仲間たちが一つの家族として絆を深めるための、極めて意義深い一歩となったのである。
サンセリフェ王国の王位継承争いと各派閥の動向
『領民0人スタートの辺境領主様』におけるサンセリフェ王国の王位継承争いは、王国の情勢を大きく揺るがすだけでなく、辺境にいるディアスや隣領のエルダンにも多大な影響を与えている。その現状と各派閥の動向は以下の通りである。
1. 王位継承争いの現状と各派閥のスタンス
サンセリフェ王国では国王の存命中にもかかわらず、王位継承を巡って貴族たちがいくつかの派閥に分裂し、激しい政争が繰り広げられている。各派閥の状況は以下の通りである。
- 第一王子リチャード派:現在の王国最大派閥である。第一王子リチャードはディアスの公爵叙爵にも賛成の意を示しており、派閥全体で賛成の立場をとっている。
- 第一王女イザベル派:派閥の筆頭であるサーシュス公爵がディアスに友好的であるため、ディアスの叙爵には消極的賛成の立場をとっている。
- 第二王女ヘレナ派:芸術肌や変わり者が多く、権力争いやディアスの件には無関心な態度を示している。
- 第二王子マイザーおよび第三王女ディアーネ派:本来であれば難癖をつけるのが好きな連中が集まっているが、ディアーネが王墓襲撃事件を起こして失脚したことなどにより派閥が弱体化し、王位継承争いどころではない状況に陥っている。
2. 第一王子リチャードの勝利と台頭
第一王子リチャードは、ディアーネの暴走を収拾したことなどで王国最大の派閥を築き上げた。動向の詳細は以下の通りである。
- 敵対する第二王子マイザー自身も「王位はリチャードで確定であり、たとえ国王が味方についたとしてもひっくり返せない」と認識している
- 実質的に王位継承争いはリチャードの勝利で決着しつつある
- リチャードはさらに、王国西部で不穏な動きを見せるマイザーを監視・妨害するため、配下のナリウスを密かに派遣している
3. 第二王子マイザーの没落と新たな野望
王位継承の道を絶たれた第二王子マイザーは、過去の戦争時に国を売ってでも私腹を肥やした貴族や商人たちが罰せられなかった現実を見て、「この世は金が全てだ」という歪んだ価値観を持つようになる。その後の展開は以下の通りである。
- 王位を諦めたマイザーは帝国の諜報員と結託し、関税が撤廃されたカスデクス領の交易都市バーンガルなどで、密造品や禁制品を流通させて莫大な裏金を集め始めた
- 彼の新たな野望は、金の力で地域一帯を牛耳り、ディアスやエルダンを傀儡化して「人と獣」を商品として扱う巨大な利権を築くことである
- 最終的には金に埋もれた悠々自適の隠居生活を送ることを目指していたが、その陰謀はエルダンたちに察知され、最終的にナリウスによって捕縛されて王都へと連行される結末を迎えた
4. 継承争いがディアスの公爵叙爵に与えた影響
この激化する王位継承争いは、結果として辺境の領主であるディアスにとって極めて有利に働いた。主な要因は以下の通りである。
- 本来、平民から公爵への大出世は貴族たちの猛反発を招くはずであるが、彼らが王位継承という何よりも重要な政争で忙殺されていたため、ディアスに構う暇がなかった
- 利益のない辺境の新米公爵を攻撃して、国王やリチャード、サーシュス公爵、そしてエルダンを敵に回すリスクを避ける意図があった
- 戦時中の失策などで権威を失墜させ、後継者争いまで引き起こしてしまった国王が、王位確定後の自身の安全や隠居生活の「保険」として、特権を持つ公爵であるディアスとエルダンを味方につけようとした
まとめ
このように、王位継承争いは王国の情勢を不安定にする一方で、辺境におけるディアスの公爵としての立場を盤石なものにし、イルク村の発展を後押しするという結果をもたらしている。
登場キャラクター
イルク村(メーアバダル領)
ディアス(ディアス・メーアバダル)
かつて孤児を育てていた過去を持つイルク村の領主である。両親の「弱い者を守る」という遺言を信条とする。
・所属組織、地位や役職
メーアバダル領領主。公爵。
・物語内での具体的な行動や成果
大蜥蜴の群れを討伐し、疲労困憊のクラウスたちを救出した。ディアーネ軍の襲撃を無血で撃退する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
国王から公爵位と新たな家名「メーアバダル」を与えられた。エルダンから資金の融通を提案されるが、自力で村を発展させたいと辞退した。
アルナー
ディアスの妻であり、鬼人族の少女である。家事や魔法に長けている。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。代表者の一人。
・物語内での具体的な行動や成果
ディアーネの王笏を矢で弾き飛ばし、彼女を森へ追いやった。ディアスの高熱に際し、サンジーバニーの薬湯を飲ませて看病する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ディアスの家名決定を機に、彼と家族として名前を共有できることを喜ぶ。
クラウス
元王国兵であり、ディアスを深く慕う青年である。真面目で勤勉な性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領兵隊長。代表者の一人。
・物語内での具体的な行動や成果
カニスと結婚し、村で祝宴を挙げた。大蜥蜴の襲来時に殿を務めようとし、村を守るために奮戦する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
カニスとの結婚を経て、村における防衛の要としての立場を確固たるものにしている。
カニス
犬人族(大型種)の女性である。クラウスの妻であり、彼を献身的に支える。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
クラウスとの結婚を機にイルク村へ移住し、祝宴に参加した。アルナーと共にフランソワや犬人族たちの出産の世話を担当する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
里帰りをして両親に結婚の許しを得た後、正式にイルク村の住民となった。
セナイ
森人族の双子の一人である。アイハンの姉妹であり、ディアスたちを親のように慕っている。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
ディアスが高熱を出した際、許可を得てサンジーバニーの薬湯を作り飲ませた。アイハンと共に小川でローワンの実の毒抜きを行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
両親の形見である名前の意味を知り、アルナーから月を象徴するペンダントを贈られた。
アイハン
森人族の双子の一人である。セナイの姉妹であり、彼女と常に行動を共にする。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
木箱に閉じ込められていたエイマを救出した。セナイと共に広場に畑を作り、植物の世話に励む。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アルナーから「聖なる月」を意味する名前の由来を教えられ、ペンダントを受け取った。
エイマ
大耳跳び鼠人族の女性である。読み書きや算術の知識を持つ。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。教育係。
・物語内での具体的な行動や成果
セナイとアイハンの畑作りに協力し、秘密の結界張りを支援する。エリーと共にメーア布や食料などの収支概算を計算した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
襲撃事件に関与していなかったことと高い知能を認められ、イルク村の住民として受け入れられた。
マヤ
棄民として追放された老婆たちのまとめ役である。占いを特技とする。
・所属組織、地位や役職
イルク村の人間族代表者。
・物語内での具体的な行動や成果
占いで寒波とモンスターの襲来を予測し、村の防衛準備を促した。集会所でのメーア毛の加工を提案し、自ら作業を主導する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
セリアの提案により、人間族の意見を代表する立場に就任した。
チルチ
畑仕事の経験が豊富な老婆である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
寒波の到来予測を受け、芋掘りなどの畑の収穫を早急に行うよう提案する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
ターラ
畑仕事を特技とする老婆である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
チルチと共に畑の収穫作業にあたる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
アリダ
小柄でふくよかな体型の老婆である。干し肉作りに強いこだわりを持つ。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
狩猟で得た山鹿の肉に塩やハーブをまぶし、美味しい干し肉へと加工した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
チーマ
お洒落好きの老婆である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
アリダと共に干し肉作りの作業を担当した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
ベン
ディアスの父親の兄である。かつては神官を務めていた。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。元神官。
・物語内での具体的な行動や成果
出産を控えたメーアや犬人族たちの相談相手となり、不安を和らげる役目を果たした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
神殿には戻らず、イルク村で余生を過ごすことを決意した。
エリー
孤児の互助組織の幹部である。女性の心を持つ青年。
・所属組織、地位や役職
ギルドの幹部。イルク村の交渉役。
・物語内での具体的な行動や成果
エルダンと街道建設や領地売買の交渉を行う。村人たちのために防寒用のマントや冬服の製作を指揮した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王都の店を手放し、イルク村に定住して交渉を担当することを宣言した。
イーライ
ディアスが育てた孤児の一人である。アイサの夫にあたる。
・所属組織、地位や役職
ギルドの商人。
・物語内での具体的な行動や成果
イルク村を訪れ、需要や持ち込むべき商品を調査した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
数日間イルク村に滞在した後、帰路についた。
アイサ
ディアスが育てた孤児の一人である。イーライの妻にあたる。
・所属組織、地位や役職
ギルドの商人。
・物語内での具体的な行動や成果
アルナーやセナイ達に王国風のドレスを作り、化粧を教えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
マーフ
勇敢で力自慢のマスティ氏族の長である。
・所属組織、地位や役職
マスティ氏族の氏族長。イルク村の領兵。
・物語内での具体的な行動や成果
クラウスと共に大蜥蜴の群れを迎撃し、疲労困憊になりながらも戦い抜いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
妻が無事に出産し、父親となった。
セドリオ
真面目で堅物なセンジー氏族の長である。
・所属組織、地位や役職
センジー氏族の氏族長。
・物語内での具体的な行動や成果
畑の収穫作業や雑用を指揮した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
シェフ
好奇心旺盛なシェップ氏族の長である。
・所属組織、地位や役職
シェップ氏族の氏族長。
・物語内での具体的な行動や成果
家畜の世話や厩舎の掃除を担当し、冬を越すための「草のチーズ」を作成した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
本名はライハートゴードフニャディシェフ・オースン・シェップである。
ロアン
マスティ氏族に属する若者である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領兵。
・物語内での具体的な行動や成果
大蜥蜴の偵察を行い、クラウスに状況を報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
センガ
マスティ氏族に属する若者である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領兵。
・物語内での具体的な行動や成果
大蜥蜴の偵察を行い、クラウスに状況を報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
トクデ
マスティ氏族に属する若者である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領兵。
・物語内での具体的な行動や成果
大蜥蜴の偵察を行い、クラウスに状況を報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
ルパ
シェップ氏族に属する男性である。ビアトの夫にあたる。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
妻の出産を心配し、産屋に駆け込もうとしてアルナーに制止された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
五つ子の父親となった。
ビアト
シェップ氏族に属する女性である。ルパの妻にあたる。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
産屋で無事に五つ子を出産した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
フランシス
メーアのオスである。フランソワの番にあたる。
・所属組織、地位や役職
イルク村の家畜。メーアの群れの長。
・物語内での具体的な行動や成果
歌の勝負でエゼルバルドに勝利し、群れの長としての地位を確立した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
六つ子の父親となった。
フランソワ
メーアのメスである。フランシスの番にあたる。
・所属組織、地位や役職
イルク村の家畜。
・物語内での具体的な行動や成果
産屋で一際大きな産声を上げる六つ子を出産した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
フラン
フランシスとフランソワの間に生まれた男の子である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の家畜。
・物語内での具体的な行動や成果
産屋で元気な産声を上げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
フランカ
フランシスとフランソワの間に生まれた男の子である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の家畜。
・物語内での具体的な行動や成果
産屋で元気な産声を上げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
フランク
フランシスとフランソワの間に生まれた男の子である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の家畜。
・物語内での具体的な行動や成果
産屋で元気な産声を上げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
フランツ
フランシスとフランソワの間に生まれた男の子である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の家畜。
・物語内での具体的な行動や成果
産屋で元気な産声を上げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
フラメア
フランシスとフランソワの間に生まれた女の子である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の家畜。
・物語内での具体的な行動や成果
産屋で元気な産声を上げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
フラニア
フランシスとフランソワの間に生まれた女の子である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の家畜。
・物語内での具体的な行動や成果
産屋で元気な産声を上げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
アイーシア
月毛の牝馬である。元はディアーネの乗馬にあたる。
・所属組織、地位や役職
イルク村の馬。
・物語内での具体的な行動や成果
人を乗せることを拒絶し続けているため、騎乗用としては扱われず世話だけを受けている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アルナーによってアイーシアと名付けられた。
エゼルバルド
大柄なメーアのオスである。
・所属組織、地位や役職
イルク村の家畜。
・物語内での具体的な行動や成果
フランシスとの歌の勝負に敗れ、自らフランシスの歌に合流した。冬を越すための草のチーズ作りを厳しい視線で見張る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ディアスから名前を与えられた。
犬人族達
イルク村へ移住してきた小型種の獣人たちである。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
ガチョウの池の掘削や溜池の建設など、村のインフラ整備に従事した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
老婆達
隣領カスデクスから追放された棄民の女性たちである。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
メーアの毛を糸に紡ぐ作業や、干し肉の加工などを担当する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
マスティ氏族
勇敢で力自慢の黒毛の犬人族である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領兵。
・物語内での具体的な行動や成果
竜牙のマスクと竜鱗のマントを装備し、モンスターの迎撃にあたった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
センジー氏族
真面目で堅物な茶毛の犬人族である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
毎朝井戸から水を汲み、各ユルトの水瓶へ運搬する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
シェップ氏族
好奇心旺盛で働くことが好きな白黒毛の犬人族である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
馬や家畜たちの世話を担当し、草のチーズを作成した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
カスデクス領(マーハティ領)
エルダン(エルダン・マーハティ)
カスデクス領の若き領主である。人間と亜人が共生する社会を目指す。
・所属組織、地位や役職
カスデクス領領主。公爵。半亜人。
・物語内での具体的な行動や成果
王都での工作により、ディアスへの公爵位叙爵と免税措置を取り付けた。ジュウハの進言を受け、軍の一部を動員してマイザーの捜索を行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
国王から正式に爵位を認められ、新たな家名「マーハティ」を与えられた。
カマロッツ
エルダンに忠誠を誓う老齢の従者である。
・所属組織、地位や役職
カスデクス領の従者。
・物語内での具体的な行動や成果
エルダンに同伴してイルク村を訪れ、サンジーバニーの薬湯を飲んで活力を得た。マイザーとの戦いでは細剣を振るい、孤軍奮闘する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
ゲラント
鳩人族伝書隊の長である。
・所属組織、地位や役職
カスデクス領の鳩人族伝書隊。
・物語内での具体的な行動や成果
空を飛んでイルク村へ赴き、エルダンからの手紙をディアスに届けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
ジュウハ
自らを王国一の兵学者と称する人物である。戦争を嫌う思想を持つ。
・所属組織、地位や役職
エルダンの配下。
・物語内での具体的な行動や成果
エルダンに仕官を申し入れ、破格の待遇で迎えられた。廃墟での戦いに乱入し、華麗な剣技で敵を斬り伏せる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
エンカース
エルダンの父親である。前カスデクス領主にあたる。
・所属組織、地位や役職
元カスデクス領主。
・物語内での具体的な行動や成果
過去にネッツロース草原の開拓を試みたが失敗に終わった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
内乱の末にエルダンに討ち取られたとされる。
エルダンの母
象人族の女性である。本名はネハ。
・所属組織、地位や役職
エルダンの母親。元奴隷。
・物語内での具体的な行動や成果
ディアスの武勇伝をエルダンに語り聞かせ、彼に大きな影響を与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
パティ
エルダンの妻の一人である。
・所属組織、地位や役職
カスデクス領の住民。
・物語内での具体的な行動や成果
マイザー討伐へ向かうエルダンの袖を掴み、無言で心配の意を伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
エルダンの妻達
エルダンを慕う女性たちである。
・所属組織、地位や役職
カスデクス領の住民。
・物語内での具体的な行動や成果
エルダンの体温調節や食事の世話を献身的に行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
カスデクス領一の名医
エルダン専属の医師である老人である。
・所属組織、地位や役職
カスデクス領の医師。
・物語内での具体的な行動や成果
サンジーバニーの薬湯を飲んだエルダンの体調を診断し、快癒には時間が必要だと説明した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
兎人族の弟子達
名医の教えを受ける兎人族の獣人たちである。
・所属組織、地位や役職
カスデクス領の医師見習い。
・物語内での具体的な行動や成果
エルダンの診察や治療を補佐する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
獅子人族の老人
大耳跳び鼠人族を厳しく教育する教官である。
・所属組織、地位や役職
カスデクス領の地上諜報隊。
・物語内での具体的な行動や成果
マイザー捜索の際、襲撃が失敗に終わったことをエルダンに報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
護衛達
カマロッツやエルダンを守る獣人たちである。
・所属組織、地位や役職
カスデクス領の護衛。
・物語内での具体的な行動や成果
馬車の周囲を警戒し、カマロッツの指示に従って行動する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
料理人達
カスデクス領主屋敷で食事を用意する者たちである。
・所属組織、地位や役職
カスデクス領の料理人。
・物語内での具体的な行動や成果
食欲が増したエルダンのために大量の料理を作る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
飛翔諜報隊
鳩人族などで構成される空からの情報収集部隊である。
・所属組織、地位や役職
カスデクス領の諜報組織。
・物語内での具体的な行動や成果
マイザーの潜伏先を空から探る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
地上諜報隊
獅子人族などで構成される地上での情報収集部隊である。
・所属組織、地位や役職
カスデクス領の諜報組織。
・物語内での具体的な行動や成果
マイザーの行方を追い、襲撃作戦に参加した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
親衛隊
獣人を中心としたエルダンの直属部隊である。
・所属組織、地位や役職
カスデクス領の軍。
・物語内での具体的な行動や成果
廃墟群での戦いでエルダンを守るための防陣を築いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
大耳跳び鼠人族達
砂漠を故郷とする獣人たちである。
・所属組織、地位や役職
カスデクス領の諜報要員。
・物語内での具体的な行動や成果
天井裏に潜伏し、マイザーの密談内容を記録した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
襲撃事件の罪を償うため、獅子人族の指導を受けて内偵任務に就いている。
鬼人族
モール
鬼人族をまとめる老婆の族長である。
・所属組織、地位や役職
鬼人族の族長。
・物語内での具体的な行動や成果
ウィンドドラゴンを討伐したゾルグに角細工を与え、族長候補とした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ディアスに葉肥石や薬草の知識を提供する。
ゾルグ
アルナーの兄である。素行不良だったが、ドラゴン討伐を経て改心しつつある。
・所属組織、地位や役職
鬼人族の警備班の長。族長候補。
・物語内での具体的な行動や成果
ディアスと草原半分の所有権などに関する約定を交わし、鬼人族の村へ持ち帰った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
モールから族長候補の証である金属の輪を与えられ、警備班の長に任命された。
サンセリフェ王国
王様
サンセリフェ王国の統治者である。ディアスを深く信頼している。
・所属組織、地位や役職
サンセリフェ王国国王。
・物語内での具体的な行動や成果
ディアスに公爵位と新たな家名、三年間免税の特権を与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
エルダンからの提案を受け入れ、彼とディアスを自身の隠居生活の保険にしようとしている。
リチャード
王国の第一王子である。誠実で冷徹な政治手腕を持つ。
・所属組織、地位や役職
サンセリフェ王国第一王子。
・物語内での具体的な行動や成果
マイザーを西へ釘付けにするため、ナリウスをカスデクス領へ派遣した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王国最大の派閥を築き、実質的な次期国王としての地位を固めつつある。
イザベル
王国の第一王女である。
・所属組織、地位や役職
サンセリフェ王国第一王女。
・物語内での具体的な行動や成果
元帝国領土で好き勝手に振る舞っているとされる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
マイザー
王国の第二王子である。金が全てという価値観を持つ。
・所属組織、地位や役職
サンセリフェ王国第二王子。
・物語内での具体的な行動や成果
帝国と結託して密造品や禁制品を流通させ、カスデクス領一帯の支配を企む。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ナリウスによって捕縛され、王都へ連行された。
ヘレナ
王国の第二王女である。変わり者が多い派閥を率いる。
・所属組織、地位や役職
サンセリフェ王国第二王女。
・物語内での具体的な行動や成果
王位争いやディアスの件に対しては無関心な態度を示している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
ディアーネ
王国の第三王女である。野心に溺れ、ディアスを逆恨みしている。
・所属組織、地位や役職
サンセリフェ王国第三王女。
・物語内での具体的な行動や成果
王の印章を盗み、イルク村を襲撃したが撃退される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
捕縛され、遠方の神殿への幽閉が決まった。
ナリウス
リチャードの密命を受けて動く工作員である。
・所属組織、地位や役職
第一王子リチャードの配下。
・物語内での具体的な行動や成果
メラーンガルの酒場で情報収集を行い、逃亡中のマイザーを捕縛した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
サーシュス公爵
第一王女イザベル派閥の筆頭貴族である。
・所属組織、地位や役職
王国貴族。
・物語内での具体的な行動や成果
過去に玉無し事件を起こしたディアスを庇い、彼の公爵叙爵にも消極的賛成を示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
商人・ギルド・その他
ペイジン
フロッグマンの行商人である。本名はペイジン・レ。
・所属組織、地位や役職
ペイジン家の次男。行商人。
・物語内での具体的な行動や成果
イルク村へ食料や雑貨などを運び、アルナーと激しい値引き交渉を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
血無しの移住とイルク村を中心とした交易ルート構築に合意した。
ゴルディア
王都でギルド本部を仕切る人物である。ディアスの戦友にあたる。
・所属組織、地位や役職
ギルド長。
・物語内での具体的な行動や成果
孤児たちをまとめ、ギルドを王国中に拡大させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
商家の主
マイザーと密談を行う商人である。
・所属組織、地位や役職
メラーンガルの商人。
・物語内での具体的な行動や成果
マイザーに協力して帝国諜報員を排除し、資金運用を支援する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
獅子人族の長
好奇心旺盛な性格の獣人の長である。
・所属組織、地位や役職
カスデクス領の獣人の長。
・物語内での具体的な行動や成果
エルダンの回復を喜び、彼に感謝の手紙とたてがみを贈った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
水鹿人族の長
エルダンに従う獣人の長である。
・所属組織、地位や役職
カスデクス領の獣人の長。
・物語内での具体的な行動や成果
エルダンに感謝の手紙と角の欠片を贈った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
カニスの父
犬人族(大型種)の長である。エルダンの留守中に領主代行を務める。
・所属組織、地位や役職
カスデクス領の犬人族の長。領主代行。
・物語内での具体的な行動や成果
クラウスとカニスの結婚を認め、エルダンに代わって竈場と厩舎の建設資材を手配した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
犀人族の女性
メラーンガルの酒場にいた獣人である。
・所属組織、地位や役職
メラーンガルの住民。
・物語内での具体的な行動や成果
ディアスの結婚の噂を聞き、異種族間の恋愛にあやかりたいと語った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
獣人の子供達
メラーンガルで暮らす子供たちである。
・所属組織、地位や役職
メラーンガルの住民。
・物語内での具体的な行動や成果
犀人族の女性に背負われながら、楽しげに手を振った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
聖人ディア
建国期に活躍した人物である。
・所属組織、地位や役職
聖人。
・物語内での具体的な行動や成果
神から知識と神具を賜り、王国の建国を支えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
結婚や家族を作ることを奨励したが、生涯独身だったとされる。
建国王
サンセリフェ王国の基礎を築いた人物である。
・所属組織、地位や役職
王国の建国王。
・物語内での具体的な行動や成果
聖人ディアの知識と神具の力で国を興し、領土を平定した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
ディアスの両親
ディアスに「弱い者を守る」などの遺言を残した人物である。
・所属組織、地位や役職
東の大神殿・神官長(第一席・第二席)。
・物語内での具体的な行動や成果
神殿の古道派に属していたが、流行り病で死亡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ディアスに自身が神官長であることを隠し、雑用係だと伝えていた。
喋るメーア
人語を話す不思議な存在である。ベンからは神の御使いと考えられている。
・所属組織、地位や役職
謎の存在。
・物語内での具体的な行動や成果
ウィンドドラゴン討伐の報酬として、ディアスにサンジーバニーの葉と種を渡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
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展開まとめ
エイマのレポートとイルク村の発展
ディアスが治めるイルク村は、領民数が九十五人から九十八人へと増加した。
第三王女ディアーネがイルク村へ戦を仕掛けてきたものの、村人達は力を合わせてこれを撃退した。しかも死者を一人も出さずに勝利し、多くの戦利品まで獲得する成果を挙げていた。
その後、ディアス達は獣王国の商人ペイジンと交渉し、大量の食料や雑貨、家畜を購入した。領民と家畜の増加に伴い、竈場や厩舎などの施設も増設され、村はさらに拡張されていった。
功績を称える首飾りと結婚式
ディアスはディアーネとの戦いで功績を挙げた領民達を称えるため、手作りの首飾りを贈った。骨細工と宝石を組み合わせたその首飾りは、領民達から非常に喜ばれていた。
また、イルク村の領兵長クラウスと、犬人族の使者カニスが結婚し、村では盛大な祝宴が開かれた。
エイマは、ディアスが二人の仲にまったく気付いていなかったことへ呆れつつも、クラウスとカニスが本当に幸せそうだったと記している。
新たな来訪者達
イルク村には新たな来訪者も現れた。
旅の神官ベン、英雄ディアスの育て子であるイーライ、アイサ、エリー、そして逃げてきた六頭のメーア達である。ディアスはベンやエリー、メーア達を新たな村人として迎え入れた。
さらにアルナーの兄ゾルグとも共闘し、村へ襲来したウィンドドラゴンを討伐することにも成功していた。
こうしてディアスは、多くの者達と新たな絆を結びながら、少しずつイルク村を発展させていくのだった。
イルク村の現状
現在のイルク村には、ユルト、倉庫、厠、井戸、飼育小屋、集会所、広場、厩舎、畑、溜池などの施設が整備されている。さらに複数の施設が増設され、新たな家畜も増えていた。
また、伝説の薬草サンジーバニーも入手している。
しかし一方で、領民増加によって食料消費量も増大しており、イルク村の蓄えは少しずつ減り始めていた。
ユルトの寝床でディアス
ディアスの高熱と看病
ウィンドドラゴンとの戦いの翌朝、ディアスは高熱にうなされながら目を覚ました。全身の痛みと吐き気、重い倦怠感に苦しみ、まともに動くことすら出来ない状態となっていた。
原因は、戦闘時に負った傷の化膿であった。アルナーによれば、ウィンドドラゴンの羽に付着していた毒によって症状が急激に悪化したらしい。アルナーやセナイ、アイハン達は慌ただしく看病を続け、薬湯を飲ませながら必死に世話をしていた。
ディアスは長く寝込むことを覚悟し、アルナー達へ世話を頼んだ。しかしその後、セナイとアイハンが持って来た特別な薬湯を飲んだことで状況が一変する。
その薬湯は、以前喋るメーアから渡された「サンジーバニー」の葉から作られた物だった。爽やかで甘い味わいを持つその薬湯を飲んだディアスは、再び眠りについた。
驚異的な回復
夕刻に目覚めたディアスは、自身の高熱と倦怠感が完全に消えていることに気付く。傷の腫れも膿も引いており、回復速度は常識外れだった。
アルナーは傷口を確認しながら困惑し、ディアスへ何か思い当たることはないか尋ねる。そこでディアスは、喋るメーアとの遭遇と、セナイ達から飲まされた薬湯について語った。
そんな中、クラウスがエルダン来訪の報せを持って現れる。体調は既に問題なく、ディアスは来訪を歓迎することを決めた。
しかしアルナーは病み上がりのディアスへ徹底した養生を命じる。薬湯を飲ませ、薬草を口に含ませ、香を焚き、竈の熱で大量に汗を流させるなど、念入りな処置を施していた。
エルダンの来訪と村の見学
夕刻、エルダン達がイルク村へ到着した。エルダンはディアスの回復を喜びつつ、公務のため数日間滞在したいと申し出る。そして何より、以前から憧れていたイルク村を見学したいと強く望んだ。
ディアスとアルナーはエルダンを案内し、畑、厩舎、飼育小屋、広場などを順番に見せていく。
エルダンは、畑に描かれた謎の円形模様に驚き、深く考えることを諦める一方で、元気に育つ家畜達を見て満足そうな笑顔を浮かべていた。
また広場では、犬人族達がエルダンへ感謝を伝えようと集まり、非常に賑やかな空気となっていた。
その最中、セナイとアイハンがエルダンとカマロッツへ、例の薬湯を振る舞ってしまう。ディアスは慌てて事情を説明したが、エルダンは自らの嗅覚で毒ではないと判断していたため、問題にはならなかった。
サンジーバニーの正体
エルダンは、サンジーバニーとは神代から伝わる伝説の薬草であり、どんな病でも治してしまう存在だと語った。建国王を救ったという逸話すら残るほどの存在であり、長い歴史の中で多くの者が探したものの、実在を確認した者はいないらしい。
そのため、今回の薬湯についても、本物ではなく「サンジーバニー」の名を借りた別の薬草だろうとエルダンは推測していた。
セナイとアイハンの想い
夕食後、ディアスはセナイ達へ、なぜ勝手に薬草を使ったのかを問いただした。
しかし二人は、熱にうなされるディアス本人へきちんと許可を取り、さらにエイマやマヤ婆さん達へ相談した上で薬湯を作ったのだと説明する。
薬草の扱いには今後注意するよう約束した上で、ディアスは改めて二人へ感謝を伝えた。
病で両親を失ったセナイとアイハンにとって、大切な家族が高熱で倒れることは強い恐怖だったのである。だからこそ二人は必死になってディアスを助けようとしていた。
そんな二人の気持ちを理解したディアスは、自らの軽率さを反省しながら二人を抱き締めた。アルナーも加わり、四人は暑苦しいほど密着しながら笑い合い、そのまま穏やかな眠りにつくのだった。
翌朝、ユルトの中で
サンジーバニーの奇跡
翌朝、ディアスは驚くほど軽い体で目を覚ました。高熱の原因だった傷は完全に塞がりかけており、十年以上前の若い頃へ戻ったかのような感覚すら覚えていた。
そんな中、カマロッツが慌てた様子で駆け込んで来る。エルダンが薬の力なしで起き上がり、元気に動き回っているというのである。
急ぎ幕屋へ向かったディアス達だったが、そこでは無理をして息を切らせたエルダンが横になっていた。同行していた名医によれば、サンジーバニーは本物であり、病そのものを完全に治した訳ではないものの、病魔を大きく鎮めているらしかった。
エルダンの病は生まれつきの体の歪みによるものであり、一晩で完治させるには本人の体力が耐えられない。そのため、サンジーバニーは時間をかけて少しずつ病を治しているのだと説明された。
会談の開始
朝食後、ディアスはエイマとエリーを連れてエルダン達の天幕を訪れた。
エルダンはまず、サンジーバニーを分け与えてくれたことへの感謝を述べ、高額の礼を返そうとする。しかしディアスは、サンジーバニーを託した謎のメーアが、利益目的や邪念を抱けば葉や種は枯れると警告していたことを説明した。
ディアス達大人は既に多少なりとも欲を抱いてしまっているため、純粋な善意で薬を扱えるセナイとアイハンへ任せるしかないという結論に至っていた。実際、二人が植えた種は青々と芽吹いていた。
その話を聞いたエルダンは深く納得し、サンジーバニーの件を他言無用とするようカマロッツへ厳命した。カマロッツもまた、臣下達はディアス達へ強い感謝を抱いており、裏切る者はいないと断言していた。
公爵位と家名の授与
サンジーバニーの話が終わると、エルダンは改めて国王からの正式な言葉を伝えた。
王は、ディアスが本来受け取るはずだった資金や人材を奪われていた件を遺憾に思っており、その埋め合わせとして、公爵位、新たな家名を名乗る権利、さらに三年間の免税措置を与えると決定していたのである。
突然の叙爵にディアスは混乱したが、エルダンやエリーから、領地を持った時点で既に貴族であり、「ネッツロース」という家名も存在していたことを知らされる。
かつて辺境へ送り出された際、役人から説明されていた内容だったが、当時のディアスには生き延びることで精一杯で、全く頭に入っていなかったのである。
王都の事情とエルダンの尽力
エルダンは、王都で行ってきた工作についても語った。
ディアスへ支給されるはずだった資金や人材が誰かに横流しされていた事実を突き止め、その情報とアースドラゴンの魔石を使って国王との交渉を有利に進めたのである。
さらにディアスの名声を高めるため、噂を広めたり演劇への投資まで行っていた。
また、公爵位への反対が全く起きなかった理由についても説明する。王国では王位継承争いが激化しており、各派閥がそれどころではなかったのである。加えて、辺境の名ばかり公爵を攻撃しても利益がなく、逆に国王や有力貴族を敵に回す危険の方が大きかった。
国王自身も、将来の保険としてディアスとエルダンという「公爵」を味方にしておきたかったのだろうとエルダンは推測していた。
ディアスの決意
しかしディアスは、追加の資金や人材の提供を断った。
もし最初から十分な支援を受けていたなら、アルナーとも出会えず、今のイルク村も存在していなかっただろうと考えていたからである。
ディアスは、皆と作り上げたこの村を守り育てていきたい、自分達の力で未来を築きたいと真っ直ぐに語った。
その言葉を聞いたエルダンは、ディアスが二つ勘違いをしていると指摘する。
一つは、エルダンが一方的に支援している訳ではなく、アースドラゴン素材や政治的恩恵など、むしろ自分達の方が多くを得ているという点だった。
もう一つは、公債による支援はエルダンや国王にとっても利益があるという点である。公債は貴族としての発言力を高めるため、支援は決して損失ではなかった。
街道計画の始動
そんな中、エリーが勢いよく立ち上がり、カスデクス領とイルク村を結ぶ大街道の建設を提案した。
道を整備すれば、人も物も自然と集まり、イルク村の発展にも繋がる。そして莫大な建設費によって、公債の問題も解決できるというのである。
エルダンも大いに乗り気となり、二人はどの都市と繋ぐか、どのような街道にするかを猛烈な勢いで語り始めた。
エイマは、ディアスが皆と共に歩んでいきたいという想いを公の場で語ってくれたことを喜び、その言葉を丁寧に記録していた。
ジュウハの思想
その後、ディアスはカマロッツから、かつての仲間ジュウハについて聞かされる。
ジュウハは「王国一の兵学者」を自称する人物だったが、戦争を極端に嫌っていた。戦争は国力と人命を消耗する最悪の行いであり、本当に優れた兵学とは、外交や内政によって戦争を避けることだと考えていたのである。
しかしジュウハは、どんな戦況でも早期講和を主張し続けたため、王城では敵国との内通すら疑われ、最終的に追放同然に去ることになっていた。
新たな家名への苦悩
会談の終盤、ディアスは叙爵の封筒に、家名を自分で記入する必要があることを知る。
しかもその家名は、自分だけでなくアルナーやセナイ、アイハンにも受け継がれるものだった。
エイマから、公爵家に相応しい意味ある名前を考えるよう念押しされたディアスは、その重大さに頭を抱え、これまでにないほど深い唸り声を上げるのだった。
鈍い頭を懸命に働かせながら
新たな家名への苦悩
翌日、ディアスはエルダン主催の「新公爵の為の勉強会」を終えた後も、新しい家名について頭を悩ませ続けていた。家名は一族だけでなく領地名にもなり、何百年先まで使われる重要な名だと教えられていたためである。
そこへベン伯父さんが現れ、既にアルナーやセナイ達と相談して家名を決めてきたと言い出した。提案された名は「メーアバダル」。
「メーアを守る勇士」や「メーアの加護を受けた勇者」という意味を持つ古い言葉であり、鬼人族にとっても受け入れやすく、さらに名産として売り出す予定のメーア布とも結び付けられる実利的な名前だった。
ベン伯父さんの構想
さらにベン伯父さんは、将来的にメーアを祀る神殿を建てたいと語った。
サンジーバニーを授けた存在が言葉を話すメーアであった以上、メーアは神の御使いに違いないと本気で考えていたのである。だからこそ、その名を家名に刻むことにも意味があると説明した。
ディアスは呆れつつも、その響きと意味を悪くないと感じ、最終的に「ディアス・メーアバダル」という家名を受け入れることになった。
宴と新たな家名
家名の届け出を終えて広場へ戻ると、村では既に盛大な宴の準備が進められていた。
爵位と家名という大きな祝い事が重なったことで、村中が活気に満ちていたのである。
アルナーは、新たに「メーアバダル」と呼ばれることになる草原を嬉しそうに見つめていた。鬼人族には家名文化はないが、代わりに「父称」という、自分が誰の子かを名乗る文化があることも語られる。
その流れでセナイとアイハンは、自分達を「ディアスの子」と誇らしげに名乗り、アルナーは満足そうに微笑んでいた。
家名を継ぐ者達
アルナーは、誰がメーアバダルの家名を名乗れるのかを尋ねた。
ディアスは、家名を誰に許すかは当主である自分が決めることであり、養子や家族も本人が望めば名乗れると説明する。ただし家名を名乗る以上、貴族として相応しい振る舞いが求められるとも教えられていた。
アルナーはその話を聞き、自分や子供達も正式に家族として迎えられる可能性を知って、心から嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
賑やかな宴とセナイ達の想い
夜になると、これまでで最も盛大な宴が始まった。
病から回復したエルダンは、アルナー特製の薬湯粥を何杯も平らげながら、この村の宴は今まで経験した中で一番楽しいと満面の笑みを浮かべていた。
エルダンは、特にセナイとアイハンが異様に元気な理由を不思議に思っていた。
ディアスは、二人が病で両親を失っているため、自分達の手助けでエルダン達が元気になったことを、両親の仇を討ったような気持ちで喜んでいるのだろうと説明した。
その話を聞いたエルダンは深く納得し、病を乗り越える手助けが、二人にとって大きな区切りになったのだろうと静かに語った。
エルダンの夢
宴の中でエルダンは、自分の夢について改めて語った。
これまでは短命な体のせいで、大きな理想を抱いても心のどこかで諦めていた。しかし今は違う。サンジーバニーによって未来の可能性を得た以上、様々な種族が共に笑い合える世界を本気で実現したいと思っていた。
その為に、メーアバダル公となったディアスにも協力して欲しいと頼む。
ディアスは、自分に出来ることは小さいかもしれないが、それでも力を貸すと約束した。
貴族制度と公爵の特権
翌日からは、アルナーも参加しての勉強会が始まった。
エルダンは、王国の貴族制度や公爵の特権について詳しく説明する。公爵には王の暴走を止める権利すらあり、王位継承へ影響を与えるほど強大な権限を持っていた。
その中でも特に重要なのが「領地の裁量権」であり、公爵は領地を売買したり、新たに開拓して領地化したり出来るという。
森の売買交渉
エルダンは勉強会の一環として、境界にある森の半分をディアスへ売りたいと提案した。
理由は、鬼人族達が今までその森から木材を調達していたためである。つまり実質的にエルダン領の資源を無断使用していた形になっていた。
今後の揉め事を防ぐためにも、正式に森をディアス側の領地へする必要があったのである。
ディアスは交渉の末、ウィンドドラゴン二匹分の素材を対価として支払うことで話をまとめた。
ただし交渉そのものについては、自分には荷が重すぎると痛感し、今後は商売経験のあるエリーへ任せようと決意する。エルダンもまた、全てを一人で抱え込まず、仲間を頼ることも領主の重要な資質だと教えていた。
エルダンの帰還と新たな騒動
三日後、全ての公務と勉強会を終えたエルダンは、予想以上の成果を得られたことに大満足しながら帰っていった。
そして数日後、新たな騒動が起きる。
森がメーアバダル領になると知ったセナイとアイハンが、自分達の森へ行きたいと大騒ぎし始めたのである。
鬼人族にとって秋は冬備えの季節であり、森での木の実拾いや薬草採取、狩りなどが必要不可欠だった。アルナーは既にエルダンから許可を得ており、今日から皆で森へ向かうと宣言する。
秋の始まり
アルナーは、秋は冬を越すための備えを集める最も忙しい季節だと説明した。
岩塩集め、飼葉作り、狩り、木の実拾いなど、やるべきことは山ほどあり、セナイとアイハンも大喜びで森へ行く準備を始める。
ディアスは出産間近のフランソワを心配したが、ベン伯父さんが不安を和らげる相談役として大きな信頼を得ており、問題ないと説明された。
こうしてディアスは、アルナーや子供達と共に、秋の森へ向かうことになるのだった。
早秋の森の中で
森での採取と森の知識
森へ入ってしばらくした頃、アルナーは森には毒キノコや毒草、毒虫など危険が多く、本来は細かな知識とルールが必要なのだと語った。しかしセナイとアイハンは危なげなく森を駆け回っており、ディアスもまた手慣れた様子でキノコを採取していたため、アルナーは複雑そうな表情を浮かべていた。
ディアスは、確実に安全だと分かるもの以外には手を出さないと説明し、森では食べられるキノコが数多くあることも教える。草原育ちのアルナーにとって、キノコは毒のイメージしかなく、食べられる種類が存在すること自体が衝撃だった。
さらにアルナーが毒キノコへ手を伸ばしかけたところを、ディアスが違いを見抜いて止めたことで、アルナーは今まで見せたことのないほど渋い表情を浮かべることになった。
くるみ拾いと森のルール
やがてセナイとアイハンは、大好物であるくるみの木を見つけ、一目散に駆け出した。二人は地面に落ちた実を丁寧に選別し、外皮を削ぎ落として籠へ入れていく。
その様子を見たアルナーは、二人が「採り過ぎてはいけない」という森のルールをきちんと理解していると感心する。
木の実を必要以上に採れば新しい芽吹きを妨げ、獣達の食料も減らしてしまうため、森の恵みを持続させるには節度が必要だった。
またセナイ達は、古く傷んだ実には手を出さず、森のゴミは森へ返すなど、自然と共に生きる知恵を身につけていた。
ローワンの実と保存食の知識
次にセナイ達が見つけたのは、赤い実を大量につけたローワンの木だった。
アルナーは毒の実だと嫌そうな顔をしたが、ディアスはローワンには肉や魚を腐りにくくする保存効果があり、毒を抜けば非常に役立つと説明する。
毒抜きには冬の寒気へさらす必要があり、その知識を聞いたアルナーは態度を一変させ、目を輝かせながら方法を詳しく尋ねていた。
その間セナイ達は、ロープを使って枝を引き寄せ、器用にローワンの実を収穫していく。森で育った経験がある二人は、こうした作業にも非常に慣れていた。
冬備えへの覚悟
ディアスは、これから毎日こうして森へ来るのかと尋ねる。
アルナーは、今日はあくまで下見に過ぎず、本格的な冬備えでは荷車単位の収穫や狩りが必要になると説明した。
さらに狩りでは繁殖期のメスを避けること、年老いた獣を優先することなど、自分なりの考えも語る。若い獣は生きる力を残すべきであり、干し肉にするなら老獣でも十分だという理屈だった。
アルナーは、過去には備蓄不足による不安で眠れない冬もあったと振り返りながら、今年はその心配をしなくて済みそうだと嬉しそうに笑った。良い良人に恵まれたことが本当に幸せだと語るアルナーに、ディアスはその期待を裏切らないよう気を引き締め直す。
森芋と森の循環
ディアスは森芋を見つけると、戦斧を使って掘り返し始めた。
するとセナイ達が駆け寄り、芋を一つ一つ選別し始める。二人は、増える力を持つ芋だけを別の場所へ植え直し、増えないものを食用に回していた。
さらに同じ場所へ植えすぎると土が痩せるため、色々な場所へ分散して植えるべきだとも教える。ディアスとアルナーは、森での知識では完全に二人の方が上だと認め、一緒に土を掘り返しながら芋を植え直していった。
森の管理と“葉の王様”の歌
休憩中、ディアスは森の木が多すぎるのではないかと疑問を口にする。
セナイ達は、木は少なすぎても多すぎても駄目で、木漏れ日が少し差す程度が理想だと説明した。今の森は木が密集しすぎており、良い木も薬草も育ちにくい状態になっているという。
そのため、不要な木や弱った木を選んで伐る必要があると強く主張し、適当に伐れば良いというディアスへ勢いよく反論した。
アルナーはそんな二人を「先生」と呼び、セナイ達は嬉しそうに歌を歌い始める。
その歌は、森を大切に扱わなければ「葉の王様」が怒るという内容であり、森と共に生きる森人族の思想が色濃く表れていた。
秋の終わりとメーア布の隊商
休憩中、アルナーは秋の終わりになるとペイジンが大隊商を率いてやって来ると語った。
夏を越えて良質な毛を生やしたメーア達の毛を求めて来るのであり、同時に鬼人族達が冬備えに必要な物資を購入する重要な時期でもあった。
所有するメーアの数は、その家の豊かさと家長の男気を示すものであり、世話しきれない数を抱えることは大罪だった。だからこそ、今年フランシス達の仲間が大きく増えたことをアルナーは心から喜んでいた。
ディアスがメーア達を家畜ではなく村の仲間だと考えていることを見抜いたアルナーは、それも悪くない考え方だと笑う。メーアバダルの名を名乗る以上、メーア達は神の使いであり、村の家族なのだと語った。
その想像に皆で笑い合った後、再び冬備えの作業へ戻っていくのだった。
謎の存在の反応
一方その頃、どこか暗い空間では、何者かがセナイ達の歌を耳にしていた。
その存在は、あの歌が遥か昔の古い歌であることに驚き、さらに歌の中に感じる魔力へ覚えがあるような反応を示す。
しかし今は忙しいとして深く考えることをやめ、また冬か春頃になれば歌を聞く機会もあるだろうと呟きながら、その場を立ち去っていった。
イルク村に戻って
イルク村の将来構想への悩み
森での採取を終えてイルク村へ戻ったディアスは、アルナーへキノコ料理用の籠を預けた後、一人でユルトへ戻った。
フランシスとフランソワを撫でながら、以前ペイジンから手に入れた地図を広げ、イルク村と鬼人族の村の位置へ小石を置き、そこへ木の棒を使って街道の構想を書き込んでいく。
ディアスは、森側にエルダン達が通った仮道が存在することから、本格的な街道もそこへ敷かれるだろうと考えていた。さらにエリーは、その街道を西のペイジン達の国まで繋ぎ、東西交易の中心としてイルク村を発展させたいと考えていた。
北や南へも道を伸ばし、山や荒野の資源、そしてメーア布を交易品として扱えば、イルク村は十字街道の中心都市になれる。ディアスはその構想を地図上へ描きながらも、同時に強い悩みを抱えていた。
草原とメーアを守りたい思い
ディアスは、メーアと草原がこの地の暮らしに不可欠だと理解していた。
村を発展させたい気持ちはあるものの、その結果として草原やメーア達を損なうような真似はしたくない。そのため、鬼人族達との関係をどう保つべきか、頭を悩ませていた。
そんなディアスへ、フランシスとフランソワは、自分がどうしたいのかをまず考えるべきだと語りかけるような態度を見せる。
それを受けたディアスは、自分なりの将来構想を二頭へ長々と説明していった。
説明を聞き終えたフランシス達は、そこまで考えているなら好きにすれば良いとでも言うような軽い反応を返す。その様子にディアスは少し呆れながらも、改めて真剣に地図を睨み続けるのだった。
エイマとの相談
やがて夕食前、エイマがユルトへやって来る。
地図上に置かれた木の棒や食器を見たエイマは、何の遊びかと問いかけるが、ディアスは真面目に街道構想について説明した。
エイマはその案へ賛成しつつも、これほど大きな話なら鬼人族側の意見も必要だと指摘する。アルナーでは既にイルク村の一員としての考えしか出てこないため、別の鬼人族へ相談すべきだと言う。
その言葉を受けたディアスは、相談相手としてゾルグを思い浮かべるのだった。
ゾルグとの会談
その日の夕食後、ゾルグはすぐにイルク村へやって来た。
キノコ料理を気に入りながらくつろぐゾルグへ、ディアスはまず、自分が公爵となったこと、メーアバダル草原の支配権、森の半分を自由に利用できるようになったことを説明する。
その上で、街道建設によって交易の中心地を作りたいこと、しかしそのままでは鬼人族との摩擦が避けられないことを率直に語った。
ディアスは、過去の戦争や土地所有の問題など、鬼人族との間には将来的なしこりになり得る要素が残っていると考えていた。そのため、最も公平で分かりやすい解決策として、草原を半分ずつ分ける案を提示する。
“半分こ”という提案
ディアスは地図の上へ紙を置きながら、自分達が管理するのは十字街道と、その中心となる円形の領域のみで、それ以外は鬼人族側の土地とする案を説明した。
街道は鬼人族も自由に使えるようにし、盗賊討伐への報奨金制度や、飼葉不足時の融通なども含め、長期的に共存していく構想だった。
さらにディアスは、公爵として正式に半分を鬼人族領として認めれば、それは王国法によって将来にわたり保証される土地になると説明する。
その話を聞いたゾルグは、驚愕の表情を浮かべながらも、鬼人族側から見れば十分すぎるほど有利な条件だと認める。現在の鬼人族には王国へ対抗できる力はなく、半分を正式に認められるだけでも破格だった。
族長の真意への気付き
さらにゾルグは、ディアスとアルナーの結婚こそが全ての始まりだったと気付く。
ディアスとアルナーの子供が将来土地を継げば、それは鬼人族の血を引く者が残り半分も受け継ぐことを意味していた。つまり族長は最初から、長い時間をかけて鬼人族と王国側を一つにする構想を描いていたのだと理解する。
ゾルグは、メーアや食料、ユルトを分け与え、自分を族長候補へした理由も全て繋がったと納得し、族長の深謀遠慮へ半ば呆れたような感情を抱いていた。
交渉への前向きな姿勢
やがてゾルグは、公爵の権限や王国法について詳しく教えて欲しいと求める。
その上で細かな条件を詰め、本格的に話を進めようと前向きな姿勢を示した。
さらに、自分がこの大きな話をまとめて帰れば、族長を大いに驚かせられると目を輝かせながら語る。
ディアスは状況を完全には理解しきれないまま、それでも頷き返すのだった。
カスデクス領、西部の街メラーンガルナリウス
メラーンガルの繁栄とナリウスの葛藤
領主屋敷の近くにある酒場は、その日も大勢の人々で溢れ返っていた。
金貨や銀貨が飛び交い、街中には酒樽と豪勢な料理が並び、夜であるにもかかわらず無数の灯りが昼のような明るさを生み出していた。祭り以上の熱気に包まれたメラーンガルでは、誰もが笑顔で語り合っていた。
その片隅で、リチャードの命を受け再びこの地へやって来たナリウスは、肉料理を頬張りながら周囲の会話へ耳を傾けていた。
住民達は、最近エルダンが剣術や馬術の鍛錬を始めたことや、食欲が増し顔つきまで凜々しくなったことを嬉しそうに語り合っていた。公爵位と新たな家名「マーハティ」を得たことで、覚悟を決めたのだろうと噂され、景気の良さも相まって街全体に活気が満ちていた。
その様子を見たナリウスは、この街の空気を嫌いになれないと感じていた。料理は美味く、治安も良く、獣人達は種族を越えて混ざり合い、気楽に生きている。ギルドにも友好的で、帝国やマイザーの策謀によって壊されるには惜しい場所だと考えていた。
しかし一方で、ナリウスにはリチャードから与えられた使命があった。
帝国と結びつきつつあるマイザーを西へ釘付けにし続けること。それを実行すれば、この街にも悪影響が及ぶ可能性がある。ナリウスは恩義あるリチャードへの忠義と、この街への愛着との間で葛藤していた。
そんな中、獣人族の女性に連れられた子供達がナリウスへ笑顔で手を振る。種族を越えて共に暮らすその姿を見たナリウスは、ついに観念したように、エルダン側へ情報を漏らす決意を固めるのだった。
ゾルグの帰還と約定書
一方その頃、ゾルグはディアス達との話し合いを終えた翌朝、鬼人族の村へ帰還していた。
彼は真っ直ぐモールのユルトへ向かい、ディアスと交わした約定について得意げに語り始める。
そこには草原半分の所有権承認、森と街道の利用権、飼葉売買の取り決め、盗賊への対処、市場での交易許可など、多くの内容が正式書式で記されていた。ディアスとゾルグ双方の署名と、公爵印まで押されている本格的な契約だった。
ゾルグは、この契約はまだ正式手続き前の段階だと説明しつつも、将来的には鬼人族の国を興すか、ディアス側へ入るかを含めて判断していくことになるだろうと語った。
モールの評価
モールはまず、ディアス以外の者達の反応について確認する。
ゾルグは、エリーはディアスの判断を全面的に支持し、エイマもあまりに単純かつ公平な理屈だったため反論できなかったと説明した。
その話を聞いたモールは静かに立ち上がり、金属の輪をゾルグへ放り投げる。
それは族長候補としての格上げを意味していた。
さらにモールは、新たに「警備班」を作り、その長をゾルグへ任せると告げる。
今後街道が整備され、人の往来が増えれば揉め事も増える。さらにドラゴン達の不穏な動きや、不吉な気配も感じているため、備えが必要だと判断したのである。
遠征班の役割が減る代わりに、ゾルグは警備班を率いて実力と統率力を示さねばならなくなった。
ディアス達を守る決意
モールは最後に、今回の話も今後の関係も、全てはディアスとアルナーがいてこそ成り立っているのだと語った。
その上で、二人へ害を及ぼそうとする者が現れたなら、鬼人族側でも先回りして排除して構わないと、強い口調でゾルグへ命じる。
土地を半分も譲り、自分へ手柄まで立てさせてくれたディアス達は甘い人間だとモールは評し、その甘さにつけ込む者達を警戒していたのである。
その視線と圧力を受けたゾルグは、生唾を飲み込みながら頷き、与えられた金属の輪を大切に角細工へ取り付ける。
そして震える手を膝へ叩きつけて気合を入れ直し、鬼人族の新たな役目を背負う覚悟を固めるのだった。
冬備えが進むイルク村で・ディアス
冬備えに包まれるイルク村
冬備えが始まって十日が経ち、イルク村は完全に冬支度の景色へ変わっていた。
干し草や干し肉、キノコや木の実、洗濯された大量のメーア布が村中へ整然と並べられ、シェフ率いるシェップ氏族の若者達は、草を詰めた革袋を踏み固める作業へ励んでいた。
その革袋の中身は「草のチーズ」と呼ばれる保存食であり、発酵によって杏の香りを持つ滋養豊かな飼料になるという。特に冬を越えるメーアや馬達にとって重要な食料であるため、エゼルバルド達も厳しい目で作業を見守っていた。
狩猟成果と冬の食料作り
そこへクラウス達が大量の山鹿を積んだ荷車を引いて帰還する。
犬人族達は肉よりも角を好んでおり、角は誇りある狩猟成果であり、さらに食用にもなる大切な品だった。肉は淡白で味気ないが、干し肉に適しているため、アリダ婆さん達は大喜びで解体作業を始めていた。
ディアスはその光景を眺めながら、イルク村全体が冬を迎えるため一丸となって動いていることを実感していた。
セナイ達の不満とアルナーの判断
アルナーは疲労を隠しきれない表情で現れ、セナイとアイハンをなんとか説得したと語る。
二人は森での冬備え作業を通じて驚異的な手際を身につけ、必要量を大きく超える食料を短期間で集めてしまっていた。そこでアルナーが「もう森へは行かない」と宣言した結果、セナイ達は猛反発していたのである。
ディアスは、今後は遊び目的で森へ連れて行くと提案し、アルナーもそれに安堵した様子を見せる。
しかしアルナーは、冬備えはまだ本番前だと告げ、ユルトの冬囲いや薪棚作りなど、まだ多くの仕事が残っていることを説明した。
ゲラントの来訪
そんな最中、重そうな鞄を抱えたゲラントが空から飛来する。
鷹に襲われながらもどうにか振り切ってきたらしく、疲弊した様子でディアス達の元へ降り立った。セナイ達はすぐに水と木の実を持ってきて、ゲラントを労わる。
ゲラントが持参した鞄には、大量の手紙が詰め込まれていた。
その大半はエルダンとカマロッツからの近況報告であり、さらに獅子人族、水鹿人族、犬人族の長達からの感謝の手紙も含まれていた。そこには種族を象徴する毛や角の欠片まで同封されており、極めて名誉ある贈り物だった。
アルナーはそれらを丁重に宝石箱へ保管し、ディアスへ手紙だけを渡した。
大耳跳び鼠人族への処遇
その中でも急ぎの返答が必要だったのは、大耳跳び鼠人族達の扱いについての相談だった。
彼らは獅子人族による厳しい教育を受けた結果、会話可能な程度には更生しており、現在は不審者への内偵任務へ使う案が出ているという。
ゲラントは、再びディアスへ牙を剥く危険性もあると説明しつつ、それでもエルダンは彼らへ更生の機会を与えたいと考えていると語った。
それを聞いたディアスは、自分は既にカマロッツへ任せると決めている以上、口を出すつもりはないと返す。さらに、彼らが更生すればエイマも喜ぶだろうと語り、良い結果になるよう願うのだった。
エルダン達の近況
翌日、ゲラントは返事を持って隣領へ帰還した。
エルダン達の手紙には、エルダンが順調に快復し、食欲も増し、体格まで大きく変わってきていることが記されていた。妻達からの感謝の言葉も大量に綴られており、ディアスへの深い恩義が強く表れていた。
さらに街道工事についても準備が進んでおり、冬までに仮設道路を完成させる予定だという。ディアスは、自分の役目は今は街道ではなく冬備えだと改めて認識するのだった。
冬囲いと冬着の準備
アルナーは、次は寒さ対策だと説明する。
冬着やユルトの冬囲いに加え、老人や赤ん坊用の「冬寝間着」が必要になるという。幼い者や高齢者は寒さへ耐える熱を十分に生み出せず、眠ったまま命を落とすこともあるため、保温性に優れたメーア布が欠かせないのだった。
ディアスは村中のユルトを確認し、補修と冬囲い作業を開始する。
柱の補強、外布の二重化、雪対策の屋根調整などを行った結果、ユルト内部への冷気侵入は大きく軽減されていた。
エリーの提案
作業後、エリーは概算資料を持ってディアスへ相談に訪れる。
冬支度に必要な物資を計算した結果、今年は赤字になる見込みだという。しかしディアスは、金貨は人を暖める訳でも食料になる訳でもないのだから、皆が安心して冬を越せることを最優先にすべきだと即答した。
さらにエリーは、冬服へ王国風の装飾を加えたいと提案する。
機能だけなら最低限で十分だが、可愛い服は皆の気分を明るくし、将来的な商品価値にも繋がるという考えだった。
ディアスは、お洒落についてはアルナーと相談しながら好きに進めて良いと許可する。
その返答を受けたエリーは大喜びし、すぐにアイサ達へ追加仕入れの手紙を書こうと駆け出していくのだった。
カスデクス領改めマーハティ領、東部の街バーンガルマイザー
マイザーの資金集めと野望
交易都市バーンガルの旧市街にある屋敷で、第二王子マイザーは帝国の諜報員と密会していた。
机の上には大量の金貨と権利書が積み上げられており、諜報員は短期間でこれだけの資産を築いたマイザーへ驚きを隠せなかった。マイザーは、カスデクス領の関税撤廃と自由市場政策の隙を突き、密造品や禁制品を流通させることで莫大な利益を得ていたのである。
しかしマイザーにとって、それらはまだ「端金」に過ぎなかった。
彼はさらに金を増やし、この地域全体を支配下へ置き、ディアスとエルダンを傀儡化した上で、人と獣を商品として扱う巨大な利権を築こうとしていた。その後は帝国を利用しながら勢力を拡大し、最後には金に埋もれた悠々自適の生活を送るつもりでいた。
王位を諦めたマイザー
諜報員は、当初の「マイザーが王位につき王国を帝国へ差し出す」という計画について問い質した。
しかしマイザーは、既に王位争いはリチャードの勝利で決着していると断言する。たとえ国王が味方につこうとも覆せない以上、自分は別の方法で力を握るしかないと考えていた。
諜報員は、価値がないと判断すればマイザーを始末して帝国へ帰る可能性を示唆するが、マイザーは動じなかった。自分を殺せば帝国に不利益となる秘密を暴露すると脅し、完全に主導権を握っていたのである。
マイザーの歪んだ価値観
諜報員は、なぜそこまで金へ執着し、国も家族も平然と売れるのかと問いかける。
するとマイザーは、自分をそう変えたのは帝国と王国民達だと語り始めた。
帝国侵攻時、民衆は善良な国王をあっさり裏切り、食料や武器や情報を帝国へ売り渡した。さらに戦況が王国有利へ傾くと、今度は平然と王国側へ媚び始めた。特に商人達は、国を売って利益を得ておきながら、賄賂と経済再建を理由に裁かれなかったのである。
その現実を見たマイザーは、「この世は金が全てだ」と悟ったのだった。
善良さや真面目さでは人は救われず、血に塗れた金こそが力を持つ。そう信じ込んだマイザーは、窓の外を見つめながら醜悪な笑みを浮かべるのだった。
大耳跳び鼠人族達の潜入
その屋敷の天井裏には、大耳跳び鼠人族達が潜伏していた。
彼らは獅子人族の老人によって厳しく教育されており、教官への恐怖から震えながらも、マイザー達の会話を必死に記録していた。
一部の者は今すぐ襲撃すべきではないかと騒ぐが、まずは報告を優先するよう互いに戒め合いながら、任務を続行していた。
エルダンの苦悩
数日後、エルダンの執務室では、エルダンが深いため息を吐いていた。
ジュウハは、昨日決断した「マイザー暗殺」をまだ悩んでいるのかと問いかける。
エルダンは、鼠人族達の報告から見ても、マイザーを放置できないことは理解していた。しかし相手が王族である以上、暗殺を決断した事実そのものが重くのしかかっていたのである。
ジュウハは、王族も平民も奴隷も、裸になれば皆同じ人間だと語る。重要なのは生まれではなく生き方であり、マイザーは討つべき賊に過ぎないと断言した。
その言葉によって、エルダンはわずかに気持ちを立て直す。
暗殺計画の失敗
しかしそこへ、獅子人族の老人が慌てて飛び込んでくる。
大耳跳び鼠人族と獅子人族による襲撃は、既にマイザー側へ察知されており失敗したという報告だった。
帝国の間者達こそ捕縛できたものの、肝心のマイザー本人は逃亡していた。さらに、マイザーは複数の商会や領民を買収しており、その協力によって既に領外へ逃げた可能性も高いという。
その報告を受けたエルダンとジュウハは愕然としながらも、即座に事態収拾へ向けて動き出すのだった。
秋の色が濃くなっていくイルク村でディアス
冬備えの完成間近
エリーとアルナーによる冬着作りが進む中、イルク村では冬支度が最終段階へ入っていた。
干し草や干し肉、草のチーズや森の恵み、薪や木材などが整然と保管され、皆の努力が形となった光景にディアスは強い満足感を覚えていた。厳しい冬が来ると分かっていても、その備えが順調に進んでいることが嬉しく、冬そのものを待ち遠しく感じるほどだった。
犬人族やセナイ、アイハンも倉庫へ頻繁に足を運び、積み上げられた備蓄を眺めては笑顔を浮かべていた。森で思い切り遊べる時間が増えたこともあり、皆の表情には以前よりも余裕と活力が満ちていた。
セナイ達の畑の冬囲い
そんな中、セナイとアイハンがディアスへ声をかけ、自分達の畑へ冬囲いを作って欲しいと頼み込む。
二人は木材で三角形の骨組みを作り、その上へ干し草を被せて畑を守る構造を身振り手振りで説明した。土にも干し草を敷き詰め、寒さから根を守るつもりだったのである。
そこへチルチ婆さんが現れ、翌日か翌々日に畑の収穫を行う予定だと告げる。さらにアルナーとカニスから、フランソワと妊娠中の犬人族達に出産の兆候が現れ始めたとの報せが届いた。
加えてクラウスからは、マヤ婆さんの占いによって寒波とモンスター襲来の予兆が出たことが伝えられる。
次々に重なる出来事へ、ディアスは頭を抱え込むことになるのだった。
村全体での役割分担
イルク村では即座に話し合いが行われ、それぞれの役割が決定された。
クラウスとマスティ氏族はモンスター迎撃を担当し、村から離れた位置にユルトを建てて防衛線を張ることになった。
アルナー、カニス、マヤ婆さん達は出産担当となり、集会所を産屋として整え始める。
シェップ氏族とセンジー氏族は畑の収穫を担当し、犬人族達の得意な穴掘りによって芋掘りを急ぐことになった。
エリーとベン伯父さん、犬人族の女性や子供達は寒波対策を担当し、防寒用の布やマント作りへ取り掛かる。
そしてディアス達は、セナイ達の畑の冬囲いを急ぐことになった。
苗畑に込められた願い
ディアスはエイマ、セナイ、アイハンと共に畑へ向かい、干し草と木材を使った冬囲い作業を進めていく。
その途中、ディアスはこの畑では木が大きく育った際に手狭になるのではないかと疑問を口にした。するとセナイ達は、この畑は「苗畑」なのだと説明する。
ここで若木を育て、大きくなったら別の場所へ植え替える。そうしてイルク村全体を木の実でいっぱいの豊かな村にするのだと、二人は力強く語った。
さらに、木の実が増えれば皆がお腹いっぱいになれること、生まれてくる赤ん坊達も飢えずに済むことを嬉しそうに話した。
その言葉を聞いたディアスは、セナイ達が村の未来を真剣に考えていることを実感し、彼女達の望む通りの畑を作ろうと決意するのだった。
冬囲いの完成と出産の始まり
夕刻頃、セナイ達の畑全体の冬囲いがようやく完成した。
疲れ切ったセナイとアイハンをユルトへ連れ帰ろうとしたディアスだったが、二人は何故か激しく抵抗する。その直後、産屋となっていた集会所が騒がしくなり始めた。
フランソワ達の出産が始まったのだと察したディアスは、心配するセナイ達を抱えたままユルトへ向かう。そこへエリーが防寒布と毛皮を抱えて現れ、セナイ達とエイマを防寒布で包み込み、自分が面倒を見ると宣言した。
ディアスには毛皮製の防寒具が渡されたが、その姿は山賊のような見た目になってしまっていた。
ディアスの夜警
夜になったイルク村は静まり返っていたが、産屋となった集会所だけは慌ただしい空気に包まれていた。
ディアスは戦斧を担ぎ、篝火を設置しながら村中を巡回する。出産について何の知識もなく、自分は役に立てないと感じていたからこそ、せめて村の守りだけは全力で果たそうとしていたのである。
集会所の外布には、休む間もなく動き回るアルナーの影が映っていた。その姿を見たディアスは、自分も負けてはいられないと気持ちを奮い立たせる。
そして生まれてくる赤ん坊達の為にも、フランソワ達が安心して出産出来るようにと、夜通し警戒を続けるのだった。
草原北部の仮設ユルトでクラウス
クラウス達の防衛準備
草原北部に建てられた仮設ユルトでは、クラウスがマスティ氏族達へ防衛の指示を出していた。
草原全体を見張るのではなく、村へ近付こうとする敵だけを警戒し、まず威嚇、それでも退かなければ足を狙って攻撃するという方針が共有される。逃げる相手を深追いする必要はなく、何よりも村と生まれてくる命を守ることが最優先だとクラウスは語った。
さらにクラウスは、自分は指揮のため眠らないが、皆は交代で休息を取るよう命じる。かつてディアスと共に戦場を駆け抜けた経験を思い返しながら、彼の常人離れした体力と行動力を懐かしそうに語るのだった。
マヤ婆さんが語る出産の意味
深夜、ディアスが巡回を続ける中、産屋となった集会所からマヤ婆さんが姿を現した。
ディアスは中の様子を尋ね、妊婦達もアルナー達も順調であるとの返答を受けて安堵する。しかしマヤ婆さんは、出産とは単に子を産むだけではなく、神の世界から赤ん坊を「引き寄せる」行為なのだと説明した。
赤ん坊は神の世界に近い存在であり、産湯や薬草によって清め、こちらの世界へしっかり迎え入れなければならないのだという。
さらに産屋で笑い声が響いていた理由について、妊婦達が篝火を背に熊のように歩き回るディアスの影を見て笑っていたのだと明かされる。皆を安心させているのだと知ったディアスは、その後も熊のような歩き方を続けながら夜警へ戻るのだった。
大蜥蜴との戦い
夜が更け、寒波が訪れ始めた頃、マスティ氏族達が異変を察知した。
やがて見張り役の犬人族達が戻り、大きく、動きは遅いが怯まないモンスターが現れたと報告する。そして篝火に照らされる形で、その正体が明らかとなった。
現れたのは巨大な黒い大蜥蜴だった。
火を吐く訳でも特別な能力を持つ訳でもないが、強靭な肉体と生命力を持つ危険なモンスターである。クラウスは正面を引き受け、マスティ達には左右から脚と脇腹を狙うよう指示を出した。
しかし大蜥蜴の体内に宿る瘴気が、逃走しようとした本能を塗り潰し、憎悪による突撃を強制する。大蜥蜴は絶叫しながら襲い掛かるが、クラウスは跳躍によって回避し、その背へ飛び乗って急所を一撃で貫いた。
戦いは完勝だったが、大蜥蜴の絶叫は別の大蜥蜴達を呼び寄せてしまうのだった。
終わらない迎撃戦
その後も次々と大蜥蜴が現れ、クラウス達は休む暇なく戦い続けることになった。
夜が明け、昼を過ぎても襲撃は終わらず、クラウス達は疲労困憊となる。それでも事前に準備していた落とし穴や連携のおかげで、大きな被害は出ていなかった。
だが数の暴力は確実に彼等を追い詰めていた。
クラウスは撤退を考えるが、出産中の村へ大蜥蜴を誘導する危険を思うと決断出来ない。そこで彼は、自分が殿を務め、他の者達をイルク村へ逃がすという判断を下した。
しかしマーフ達はそれを拒否する。
彼等は血の意思に従い、仲間と家族を守る為に共に戦うと吠え、クラウスの隣へ並び立った。犬人族特有の本能的決断に入った彼等は、もはや説得を受け付けない状態になっていた。
寒波の朝と赤子達の誕生
一方イルク村では、寒波によって草原が霜に覆われる朝を迎えていた。
それでも村人達はいつも以上に慌ただしく動き回り、産屋のアルナー達を支える為に食事や薬湯を準備する。ディアスは徹夜を理由に休憩を命じられていたが、気が気ではなく、産屋の側で落ち着かない時間を過ごしていた。
昼頃、ついに産屋から歓喜の声が響く。
最初に生まれたのはシェップ氏族ルパとビアトの子供達であり、五つ子全員が元気な産声を上げていた。続いて犬人族達の出産も次々成功し、村中が赤ん坊達の泣き声で包まれていく。
そして最後に残ったフランソワの出産が始まる。
心配のあまり産屋の周囲をうろつくディアス達をよそに、やがて一際大きな産声が響き渡った。
フランソワが産んだのは六つ子だった。
アルナーは、三つ子でも多産とされるメーア族で六つ子を産み切ったフランソワを称賛し、フランシスは涙を流しながら歓喜の踊りを披露する。イルク村はかつてないほどの祝福と幸福に包まれるのだった。
ディアスの参戦
草原北部では、クラウス達がなおも大蜥蜴達に囲まれていた。
そこへ突然、南側から激しい地響きが迫ってくる。新たなモンスターの襲来かとクラウス達が緊張する中、聞こえてきたのはディアスの声だった。
毛皮姿のディアスは、赤ん坊達が全員無事に生まれたと満面の笑みで叫びながら駆け込んでくる。そして大蜥蜴達を見つけるなり、一瞬で表情を引き締め、戦斧を構えて突撃した。
次の瞬間、大蜥蜴の首が吹き飛ぶ。
その後も周囲一帯で次々と大蜥蜴の断末魔が響き渡り、クラウス達は乾いた笑いを漏らしながら、その場へ座り込んでしまうのだった。
全てを乗り越えたイルク村
大蜥蜴達を討伐した後、ディアスは疲労困憊のクラウス達と共にイルク村への帰路につく。
収穫、出産、寒波、モンスター襲来という数々の試練を、イルク村は誰一人欠けることなく乗り越えていた。
ディアスは、本来なら今すぐにでも過去最大の宴を開きたい気持ちだった。
しかし皆の疲労は限界に達しており、その夜はクラウス達を労う豪華な食事と少量の酒だけを用意し、しっかり休むことが優先されるのだった。
マーハティ領、西部の街メラーンガル、領主屋敷の寝室エルダン
マイザー逃亡への後悔
マイザー逃亡の報を受けてから二日間奔走し続けたエルダンは、自室の寝床へ身を横たえながら、自分の油断を悔いていた。
マイザーが王都やディアスの元へ向かわなかったことには安堵していたものの、領内へ潜伏したままという事実は、自分達が甘く見られている証でもあると感じ、複雑な思いを抱いていた。
それでもエルダンは、鼠人族や諜報隊を総動員して必ず捕らえると決意する。しかし疲労は限界に達しており、言葉を続ける途中で深い眠りへ落ちていくのだった。
マイザーと商家の密談
一方マイザーは、とある商家の一室で領内商人と会談していた。
マイザーは、脅しをかけてきた帝国諜報員達を排除したことを語り、その上で自らの資金運用によって莫大な利益を生み出していると誇示する。
商家の主は、エルダンそのものではなく、その周囲に集まる獣人達に問題があるのだと語った。
しかしマイザーは、獣人を奴隷として扱うことには賛成しつつも、エルダンのように市民化して市場規模を広げる手法も合理的だと認めていた。
彼にとって人間も獣人も等しく「商品」であり、その価値は金によってのみ測られる存在だったのである。
ジュウハの進言
翌朝、執務室でエルダン達はマイザー捜索について協議していた。
そこでジュウハは、諜報隊による秘密工作ではなく、軍を動員して一斉制圧を行うべきだと主張する。
裏稼業と深く結びついた商家達がマイザーへ協力している以上、事を起こされる前に叩き潰す必要があるという判断だった。
しかしエルダンは、十分な調査もなく軍を動かすことへ強い抵抗を示す。
それに対しジュウハは、反乱の芽は拙くても迅速に摘み取るべきであり、父が反乱に対処した時と同じだと語った。
さらに、マーハティ領は反乱直後で不安定な状況にあり、マイザー達が領内に留まっている以上、何を企んでいるにせよ事を起こさせる訳にはいかないと警告する。
長い熟考の末、エルダンは軍の一部のみを動かし、主軸はあくまで諜報隊とする方針を選択した。
その決定を聞いたジュウハは無言で執務室を去っていくのだった。
マイザー潜伏発覚
昼前、ついにマイザーの潜伏先が判明する。
しかも潜伏していたのは、エルダンの本拠地であるメラーンガルそのものだった。
エルダンは即座に行動開始を命じ、飛翔諜報隊、地上諜報隊、大耳跳び鼠人族、そしてカマロッツ率いる親衛隊による少数精鋭部隊の編成が始まる。
エルダン自身も直接指揮を執るため、目立たぬ服へ着替え、愛用の宝剣を帯びて屋敷を出ようとしていた。
パティの制止とエルダンの決意
その時、エルダンの妻パティが駆け寄ってくる。
ジュウハが怒った様子で屋敷を飛び出したことを知っていた彼女は、何も言わず、ただエルダンの袖をそっと掴んだ。
政治へ口を出さないと決めている彼女にとって、それは精一杯の意思表示だった。
エルダンはその想いを理解し、強く動揺する。
病の間ずっと支え続けてくれた妻達。その愛情を思い返した彼は、パティの手を優しく握り返した。
そして、自分はもう以前ほど弱くはなく、多くの仲間達も側にいる以上、必ず無事に帰ると真っ直ぐに語る。
パティを安心させるように微笑みながら、エルダンは妻達を悲しませないという強い覚悟を胸に、領主屋敷を後にするのだった。
夕日が赤く染め上げるメラーンガルで・エルダン
マイザーの罠
エルダン達によるマイザー包囲作戦は、開始直後から予想外の混乱へと巻き込まれていた。
偽装された隠れ家、金で雇われただけの替え玉、確認せざるを得ない大量の虚報によって、部隊は街中を振り回され続ける。
その結果、人員は少しずつ削られ、エルダンは、マイザーの目的は自分達を翻弄し嘲笑うことそのものではないかと疑うほど追い詰められていた。
そして夕刻、エルダン達はメラーンガル外れの廃墟群へ到達する。そこはかつてエルダンの父が使っていた犯罪者達の拠点だった。
しかし踏み込んだ瞬間、廃墟の各所から武装した人間族達が現れ、半数以下に減っていたエルダン達を包囲した。
敵は防柵や瓦礫へ潜み、鼠人族の脱出すら封じるため投網やとりもちまで準備していた。
マイザーの狂気
その時、廃墟の屋上へ姿を現したマイザーは、エルダンへ向けて狂気混じりの笑声を浴びせる。
自分達は父を嫌悪し反逆した点で似ていると語り、エルダンを徹底的に嘲笑した。
さらに彼は、深緑色の植物束を投げ込む。
それは精神を蝕み、人を依存させ傀儡へ変える禁忌の薬の材料だった。
マイザーは、自分も薄めた薬を愛用していると語り、エルダンへより濃い薬を与えて支配するつもりを露骨に明かす。
カマロッツの奮戦
敵が一斉に動き出す中、カマロッツは渾身の絶叫を放ち単身突撃した。
王国式細剣術は本来一対一を想定した技だったが、カマロッツは経験と気迫でその欠点を補い、多数の敵を次々と斬り伏せる。
しかし多勢に無勢であり、高齢の肉体にも限界が訪れていた。
喉から血を吐きながらも、エルダンを逃がすため戦い続けるカマロッツの姿に、親衛隊と鼠人族達も奮い立たされる。
ジュウハの乱入
そこへ突如として黒い影が戦場へ飛び込んできた。
奇妙な高笑いを響かせながら現れたのはジュウハだった。
ジュウハは踊るような滑らかな動きで人々の間をすり抜け、華麗な剣技でもって敵を次々と斬り捨てていく。
その姿は優雅ですらあったが、顔に浮かぶ濃厚な笑みだけが異様だった。
さらに彼の合図と共に、農具や大工道具を持った大量の獣人達が廃墟へなだれ込み、一気に形勢が逆転する。
ジュウハは、自分が動かしたのは軍ではなく酒場で知り合った「善意の友人達」だと豪語しながら、エルダンへ「数は力」であり、少数奇襲は下策だと説き聞かせる。
ナリウスによるマイザー捕縛
混乱の中、マイザーは逃亡を図る。
しかしその先で待っていたのは、リチャード配下のナリウスだった。
ジュウハに騙される形で待機していたナリウスは、飛び込んできたマイザーを思わず殴り倒して昏倒させてしまう。
彼は愚痴を零しながらもマイザーを縛り上げ、猿ぐつわと麻袋で荷物同然の姿へ変えていった。
そこへ美しい女性が現れ、馬車と酒食、そして王都への案内を用意していると告げる。
事情を察したナリウスは深いため息を吐きながら、マイザーを担いで王都へ向かうのだった。
ジュウハの指摘
騒動後、執務室でジュウハはエルダンへ今回の失敗原因を語る。
健康を取り戻したエルダンは、無意識のうちにディアスへ追いつこうと焦っていたのだと指摘した。
ディアスは絶えず前進し続ける存在であり、その偉業を目にするうちに、エルダンもまた手柄や名声を求めるようになっていたのである。
ジュウハは、焦りや嫉妬を捨てる必要はないと語る。
重要なのは、その感情に呑まれず、自ら支配した上で最善の決断を下せることだと説いた。
そして「王とはそうした感情全てを呑み込む存在だ」と言い残し、執務室を去っていくのだった。
リチャードへの報告
数十日後、ナリウスは王都外れの一軒家でリチャードへマイザーを引き渡していた。
本来は足止めのみが任務であり、捕縛命令など受けていなかったため、ナリウスは恐怖しながら弁明する。
しかしリチャードは報告書を読んだ上で、マイザーの身柄という大きな成果を得たと評価した。
さらに、誰にも気付かれず王都まで連行したナリウスの手腕を認め、報酬の金貨袋を投げ渡す。
全てを見透かされていることに驚きながら、ナリウスは言葉を失うのだった。
出産の翌日、早朝のイルク村でディアス
出産後の宴の準備
クラウス達の奮闘と赤ん坊達の誕生を祝う前祝いを終えた翌日、イルク村では本格的な宴の準備が始まっていた。
秋の収穫祭、赤ん坊達の生誕祭、そして困難を乗り越えたことを同時に祝う特別な宴だけあって、村中がこれまでにない賑わいに包まれていた。
蜥蜴の死体処理は、素材目的と一宿一飯の礼を理由にゾルグ達が引き受けており、ディアス達は遠慮なく任せていた。
村人達は忙しなく働きながらも皆が笑顔で、複雑な表情を見せていたクラウスも、今ではすっかり元気を取り戻していた。
特にカニスが寄り添う姿は、クラウスの心を大きく支えているようだった。
赤ん坊達がもたらす幸福
村の中でも竈場周辺はひときわ賑やかだった。
アルナーやセナイ達、マヤ婆さん達に加え、出産直後の母親達までが働きながら笑い合っており、その中に赤ん坊達の泣き声が響き渡っていた。
メーアの赤ん坊達の「ミアー」、犬人族の赤ん坊達の「ニー」という泣き声が上がる度に、アルナー達だけでなく村中の者達の表情が綻んでいく。
ディアスもまた、用事がないのに何度も竈場へ足を運んでしまうほど、その泣き声に幸福を感じていた。
セナイとアイハンの薬作り
セナイとアイハンは、小川へ沈めておいた革袋を引き上げに向かっていた。
その中にはローワンの木の実が入っており、夜の寒気によって毒気が抜けていることを確認した二人は大喜びする。
二人は、サンジーバニーの上澄みを用いた安産薬が成功したことを喜びながら、もっと多くの薬を作ろうと意気込んでいた。
病で家族を失った経験を持つ二人にとって、薬草作りは特別な意味を持っていたのである。
そうして二人は、アルナーが元々ままごと用に作った小さな竈へ向かい、元気に駆け出していった。
エリーの新たな研究
宴準備で村中が慌ただしくなる中、エリーは一人ユルトへ籠もっていた。
彼女は宴の手伝いよりも優先すべきことがあるとして、紙いっぱいに描かれた服のデザインを広げていた。
そこには鬼人族の服装と王国の服装、それぞれの特徴を取り入れた新たな衣装案が描かれていた。
エリーはそれらを真剣な眼差しで見つめ、より良い服作りを模索していたのである。
赤ん坊達の命名
宴が始まると、村人達は赤ん坊達を囲む形で輪となり、祝いの歌や踊りを披露していった。
本来ならクラウス達も主役側だったが、誰もが赤ん坊達を中心に据え、盛り上げ役へ回っていた。
宴が最高潮へ達した頃、赤ん坊達の命名が始まる。
犬人族達は大量の候補名を出し合い、続いてメーアの赤ん坊達の命名となった。
今回もディアスが名付け役となったが、アルナーから「名前が長すぎる」と指摘されたため、相談しながら短く分かりやすい名へまとめることになる。
その結果、男の子達にはフランフランカ、フランク、フランツ。
女の子達にはフラメア、フラニアという名が与えられた。
名前を授かった赤ん坊達が元気に鳴き声を上げると、宴はこれまで以上の盛り上がりを見せるのだった。
ゾルグと警備班の変化
一方その頃、草原北部ではゾルグ達が大量の大蜥蜴の死体処理に追われていた。
軽い気持ちで引き受けたものの、その数は想像を遥かに超えており、数日がかりの作業になることは明白だった。
しかし作業を進めるうちに、ゾルグは警備班の態度に変化が起きていることへ気付く。
これまで嫌々従っていた鬼人族達が、今では素直に命令へ従うようになっていたのである。
イルク村が大量の大蜥蜴を撃退した実績と、その縁を築いたモールとゾルグへの評価が、彼らの意識を変えたのだった。
ゾルグは、それが自分自身の力だけで得た評価ではないと理解しながらも、大きな前進であることを実感する。
そしてイルク村とアルナーへの深い感謝を抱きつつ、懸命に死体処理を続けるのだった。
書き下ろし 絆の結実
晩秋のある日に、ユルトの中でディアス
メーアの六つ子の世話
フランシスとフランソワの子であるフラン、フランカ、フランク、フランツ、フラメア、フラニアは、今日も元気に泣き声を上げていた。ディアスはセナイとアイハンに手伝われながら、粗相の後始末や布替え、授乳の手配に追われていた。
六つ子は本来のメーアの赤ん坊よりも小さく生まれており、まだ歩くことも毛が生えることもなかった。アルナーは元気に泣き、母乳もよく飲んでいるため心配ないと語っていたが、ディアスは不安を拭えず、暇を見つけては赤ん坊達の世話をしていた。
育児の大変さを知る双子
セナイとアイハンは赤ん坊の世話を手伝う中で、育児の大変さに気付いていた。赤ん坊は泣き、粗相をし、何を求めているのか分からないことも多く、二人は不安そうな表情を見せていた。
ディアスは、赤ん坊の世話は簡単ではなく、眠る暇もないほど忙しいことがあると説明した。犬人族達が同じ時期に出産するのも、そうした苦労を皆で支え合うための伝統なのだと語った。
世話の先にある幸せ
ディアスは、赤ん坊の世話は大変なだけではなく、成長を側で見守れる幸せがあるのだと語った。元気に育ち、楽しいことや嬉しいことを経験していく姿を想像するだけで、これ以上ないほど幸せな気持ちになれるのだと伝えた。
さらに、セナイとアイハンの両親も、二人を育てながら同じ幸せを感じていたはずだと話した。その言葉を聞いた二人は顔を上げ、何かに気付いたような表情を見せた。
命をつなぐ絆
ディアスは、自分もアルナーもかつては赤ん坊であり、誰かに世話をされて大人になったのだと説明した。誰もが誰かの子供として生まれ、世話を受け、やがて世話をする側になるのだと語った。
セナイとアイハンは、その言葉を懸命に受け止め、皆が子供だったこと、皆が誰かに育てられて大人になったことを理解しようとしていた。
ディアスは、その人と人とのつながりこそが絆であり、両親と二人の間にも、ディアス達と二人の間にも、村の皆との間にも存在しているのだと伝えた。そして絆を大事にするからこそ、人に優しくし、喧嘩を避けることが大切なのだと語った。
成長するセナイとアイハン
ディアスの話を聞いたセナイとアイハンは、複雑そうな表情を浮かべながらも頷いた。そして汚れたメーア布の入った洗い籠を持ち、自分達で洗濯へ向かうと言って駆け出していった。
ディアスは、水が冷たいから焚き火にあたりながら洗うよう声をかけた。二人の背中を見送りながら、ディアスはその成長を誇らしく感じていた。
特別書き下ろし。アルナーのレシピ
ある雨の日の昼下がりに、二人きりのユルトの中でディアス
アルナーのレシピ作り
激しい雨がユルトの屋根を叩き続ける中、ディアスは外仕事を諦めてぼんやりと過ごしていた。そんな中、アルナーは座机と紙、ペンを用意し、真剣な表情で何かを書き始めていた。
気になったディアスが尋ねると、アルナーは料理の調理法や材料を書き記したレシピだと説明した。紙を自由に使えるようになった今、知識を残しておかないのは損だと考えていたのである。
料理に必要な知識と薬効
料理は経験や感覚だけでなく、正しい知識と知見が重要なのだとアルナーは語った。特に鬼人族は食事に薬草を取り入れるため、薬効や食べ合わせ、量や体調への影響まで慎重に考慮しなければならないのだという。
アルナーは、エルダンから受け取った品々の薬効についてまとめた紙をディアスへ見せた。そこには砂糖や紅茶、香辛料などの効能や注意点が細かく記されていた。
その知識は、族長モールと情報交換しながら蓄積しているものであり、実際に自分で試し、食べ合わせを確認した上で、より美味しくなるよう工夫したものがレシピなのだと説明した。
食事に込められた信頼
アルナーは、鬼人族の言葉として、良き者は食事を与え、信頼する者はその食事を口にすると語った。食事とは信頼の根本であり、腐っているのではないか、毒が入っているのではないかという疑いを抱かず食べてくれることは、相手が自分を深く信頼している証なのだという。
そしてディアスが、今のような関係になる以前から、自分の作った料理を美味しいと笑顔で食べてくれていたことを、アルナーは嬉しそうに振り返った。
互いへの感謝
そこまで深く考えて食事を受け取っていた訳ではなかったディアスは、少し気恥ずかしさを覚えながらも、いつも美味しい食事をありがとうとアルナーへ感謝を伝えた。
するとアルナーも柔らかな笑みを浮かべ、こちらこそいつもありがとうと静かに返すのだった。
電子書籍特典「エリーの背中」
黒ギーとの遭遇
晩秋が近づいたある日の昼下がり、エリーは黄金色に染まった草原を散歩していた。風に揺れる草を眺めながら爽快な気分に浸っていると、イルク村で飼われている白ギーによく似た黒い獣と遭遇する。
黒ギーは激しく興奮しており、角を構えてエリーを威嚇しながら襲いかかってきた。エリーは護身術の構えを取り、容赦しないという意思を示した上で迎え撃ち、その拳の一撃で黒ギーを仕留めたのだった。
エリーによる黒ギー料理
命を奪った以上、美味しく食べるべきだと考えたエリーは、黒ギーを解体し、自ら料理を始めた。
塩焼き、肉と芋のスープ、炊き込み飯、茶葉や薬草で煮込んだ肉料理など、王国風の料理が次々と作られていった。広場には料理の香りが広がり、犬人族達も料理運びを手伝い始める。
エリーは周囲へ的確に指示を飛ばしながら、疲れを見せることなく調理を続けていた。
料理を通じて見えた成長
ディアスは、水汲みや下ごしらえを手伝いながら、エリーの料理の腕前へ感心していた。かつてのエリーからは想像もできない成長だったのである。
その言葉に対し、エリーは、自分も良い年なのだからこのくらい出来ると返した。そしてゴル叔父とは別に、自分も孤児を集め、家と食事を与え、生きる術を教える活動を続けていたのだと明かした。
その経験を積み重ねた結果、料理の腕も自然と上達したのだという。
孤児達へ託した居場所
ディアスは、以前エリーがイルク村へ残る際に譲った店や家について、その孤児達へ託したのではないかと尋ねた。
エリーは明確な返答を避け、火かき棒で竈をいじりながら黙り込んだ。しかしその様子から、ディアスは自分の予想が正しいのだと感じ取る。
大きく成長したエリーの背中を見つめながら、ディアスは嬉しさと誇らしさを胸いっぱいに抱くのだった。
同シリーズ
領民0人スタートの辺境領主様















その他フィクション

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