- どんな本?
- 読んだ本のタイトル
- あらすじ・内容
- 前巻からのあらすじ
- 感想
- 考察・解説
- 登場キャラクター
- 展開まとめ
- 新たな生命の誕生を祝った宴の翌日、イルク村で――ディアス
- 森の中でセナイ達と共に――エイマ
- イルク村へと帰還して
- イルク村で ―――――ナルバント
- 鬼人族の村で――――ゾルグ
- 倉庫の側で薪割りをしながら――ディアス
- 冬服を身にまとって、一列になって
- 一方その頃、イルク村では クラウス
- 数日が過ぎ、すっかり雪が積もったイルク村で
- 一方その頃、イルク村のディアス達のユルトで アルナー
- 三日後、毛皮を鞣しながら――ディアス
- 冷気が支配する空を舞い飛びながら――フレイムドラゴン
- 戦いを終えて
- 書き下ろし 白雪の日々
- 積雪の朝にディアス
- 特別書き下ろし。魔法のパン
- 竈場でセナイとアイハン
- 電子書籍特典「冬のメーア達」
- イルク村の広場でディアス
- 同シリーズ
- その他フィクション
どんな本?
戦争で、孤児から救国の英雄に成ったディアス。
それを面白く思わない王族が横槍を入れて。
拝領した広大な草原には領民がおらず、住む家も無く、食料すら無い。
領地を与えると言いながらやってる事は流刑にしたような物。
その誰一人いないはずの草原で、ディアスは少女アルナーに出会う。
彼女は額に角がある鬼人だった。
読んだ本のタイトル
領民0人スタートの辺境領主様 V 白雪の日々
著者:風楼 氏
イラスト:キンタ 氏
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あらすじ・内容
寒~い冬でも
あったかい家族!
――さらに新たな領民も……!?ディアスの公爵就任にメーア達の出産と、めでたいこと尽くしのイルク村。領の名前も「メーアバダル領」と改め、領主として新たな一歩を踏み出していく。
順調に冬備えを進めていくイルク村だが、そこに正体不明の老人が訪れる。
生命感知魔法も魂鑑定も反応しないこの老人の正体は一体……!?
さらに、王都からメーアバダル領を目指して一人歩みを進める男の姿も――。新たな領民を迎え、冬備えも一段落したディアス達に、思わぬ知らせが届く。
なんと、強大な魔物「フレイムドラゴン」が領に向かっているというのだ。領民一同、力を合わせて、いざドラゴン退治!!
領民0人スタートの辺境領主様5 白雪の日々
前巻からのあらすじ
謎のメアーに貰った薬草を双子が煎じた薬が万能薬だと判明。
その元になってる苗木は人の悪い欲望に敏感に反応し、枯れてしまう厄介なものらしい。
それでも2人に全てを任せるディアスの器の大きさが凄い。
最後の方は、メアー、犬族達の出産ラッシュ。冬の魔獣達の到来。
様々な騒動が一気に押し寄せて来て、村が危機的な状況だったのだが、、
犬族達とディアスが無双してそれほどでも無いと錯覚してしまうw
あとやっとあの羊達の子供が産まれた。
これから冬か・・
大変だろうな。
感想
どんどん領民が増えて、遂にはドワーフまで来た。
どうも古代からの盟約とか謎なことを言ってるのだけど、、
この辺りの事は説明されるのだろうか?
あと、メアー達も冬限定だがかなり増えた。
でも、あくまでも冬限定で間借りするだけで春になったら野生に帰ると言ってるメアー達でもある。
来年からはもっと増えそうな、、
冬の間の野生のメアー達の生活は過酷過ぎるのがな、、
子供のメアーなんか絶対に冬を越えられないよな?
村にいる子供のメアー達はスクスクと育っているけど、野生のメアーは親メアー達が生きるのがやっと、、
そんな過酷さを嫌がった近くの野生のメアーが村に間借りして冬を越すのもなんとなくわかる。
そんな一気に人が増えた村に、ドラゴンが攻めて来たけど返り討ち。
地龍とは違うレッドドラゴンで、空を飛ぶし、炎も吐く。
地龍は鱗がメチャクチャ硬くて攻撃してもほとんど効かなかったけど、レッドドラゴンは地龍ほど鱗が硬くないので攻撃は通る。
でも、空を飛ぶから地面に縛り付けるのが大変でその辺りは鬼人、犬族、メアー、村人が共同で頑張り。
レッドドラゴンの炎は、耐火性のあるドワーフ達が率先して突っ込んで浴びていく、
そんなドワーフに混じってディアスも突っ込むから、、
なんか凄い事になってるな、、
地龍より柔らかいとかディアスは言うが、、
それは、ドラゴンスレイヤーだから言える事だよな、、
でも、今回は鬼人、ドワーフ、犬族、メアー達も総動員してのドラゴン狩。
ドワーフとディアスが突っ込んで、鬼人達が弓で援護。
そしてトドメはディアスとドワーフ達が刺して終わるが、、
耐火性の無いディアスは火傷を負ってしまう。
でも、チリチリする程度の火傷って、、、
それ耐火性あると言わないか?
それにドラゴンの魔石も王家に献上しなければいけないと完全体だった魔石をドワーフが半分に割ってしまうのが豪快過ぎる。
価値を知ってる人間達は目玉が飛び出るほどの驚きようなんだが、、
価値を知らないディアスは、魔石を欲しがっていたドワーフ達も満足してると大変納得して大満足。
その隣で、目玉が飛び出そうなまでに驚愕している連中の表情には知らんぷり、、
その後に、王家に魔石が献上されて半分になってるのを凄く悔やまれるのも笑えてしまう。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察・解説
ドラゴン討伐
『領民0人スタートの辺境領主様』第5巻におけるドラゴン討伐は、過去のアースドラゴンやウィンドドラゴンの討伐とは異なり、ディアスが村の総力を挙げて挑んだフレイムドラゴンとの激戦として描かれている。その詳細を解説する。
フレイムドラゴンの襲来と「総力戦」の決断
空を飛び、火炎を吐き出す正真正銘のドラゴンであるフレイムドラゴンが北から飛来し、イルク村へと向かってきた。その際の決断と背景は以下の通りである。
・これまでディアスは強敵に対してもほぼ独力で戦ってきたが、今回はイルク村総出に加え、ゾルグ率いる鬼人族の弓騎兵にも協力を要請した。
・村に被害を出さないよう、北東へ打って出る「総力戦」を決断した。
・エリーは、この決断の理由について、ディアスが幼い頃から憧れていた「多様な仲間を率いて赤き竜へ挑む竜殺しの英雄譚」を再現しようとしているのではないかと推測している。
隠蔽魔法による奇襲と「メーアワゴン」の突撃
瘴気に侵され理性を失いながらも独自の知性を持ち、南進を企てていたフレイムドラゴンに対し、村人たちは以下のような作戦を展開した。
・まずは鬼人族たちが隠蔽魔法で雪原に完全に紛れ込み、奇襲を仕掛けた。
・地吹雪のように無数の矢を放ち、アルナー、セナイ、アイハンが背後から翼の腱を断ち切ることで、空を飛ぶドラゴンを雪上へ墜落させた。
・続いて、洞人のナルバントとサナトが用意した特殊な戦闘用ソリであるメーアワゴンが投入された。
・黒ギーの皮や薬草で炎対策を施し、前面に鉄製のメーアの笑顔の鏡をつけたワゴンを、犬人族たちが全力で牽引して直前でロープを切り離し、ドラゴンへ激突させた。
・その後、中から飛び出したナルバントとサナトが斧で攻撃を開始した。
驚異の再生能力と決死の近接戦
墜落したドラゴンに対しさらなる猛攻を加えたものの、戦闘は激化の一途をたどった。激戦の様子は以下の通りである。
・ディアスとクラウスもドラゴンの炎を封じるために腹を集中攻撃し、ディアスの戦斧が鱗を砕き、クラウスの槍が深々と突き刺さった。
・しかし、フレイムドラゴンは凄まじい再生能力を持っており、傷ついた腹や切断された翼の腱を驚異的な速度で回復させてしまった。
・長期戦によりディアスの体力が限界に近づく中、アルナーとゾルグが囮となってドラゴンの注意を引き、鬼人族たちがドラゴンの口内や両目を矢で射抜いた。
・さらにナルバントたちとクラウスが3台目のメーアワゴンで突撃してドラゴンの体勢を崩させた。
・その隙を突き、ディアスはドラゴンの吐き出す炎の中へ飛び込み、何度も戦斧を首に叩きつけてついに切断し、討伐を成し遂げた。
討伐の代償と、巨大な魔石の分配
激戦の末に得られた戦果と、その後の素材分配を巡る動向は以下の通りである。
・炎の中へ飛び込んだディアスは両脚に火傷を負ったが、泥が熱を遮断したため重傷には至らず、アルナーが馬油を染み込ませたメーア毛を貼り付けて治療した。
・戦後の素材の分配について、ディアスは鬼人族との山分けを提案したが、ゾルグは命懸けの戦いをしたディアスたちの功績を称え、3割で十分であるとして固辞した。
・また、解体作業で胸部からアースドラゴン以上の大きさの巨大な魔石が発見された。
・ディアスが王への献上と、ナルバントたちが求める魔石炉の燃料としての利用で悩んでいると、ナルバントが手斧で国宝級の魔石をあっさりと真っ二つに割ってしまい、駆けつけたカマロッツが絶叫して崩れ落ちるという一幕もあった。
・最終的にヒューバートの提案により、魔石の半分を王へ献上し、残りのドラゴン素材の一部をエルダンに譲って資材や食料と交換するという方針に決まった。
まとめ
このように、フレイムドラゴンとの戦いはイルク村の総力を結集した歴史的な大戦となった。各種族がそれぞれの特技を活かして協力し合い、掴み取った勝利は、村の絆をさらに深めるとともに、今後の領地発展に向けた巨大な資源と交易のチャンスをもたらす結果となったのである。
領地の発展と公爵叙勲
『領民0人スタートの辺境領主様』において、ディアスが治めるイルク村の発展と彼への公爵叙爵は密接に結びついており、領地の未来を大きく切り拓く原動力となっている。自らの手で切り拓く生活の実態と、領地発展のプロセスについて解説する。
領民ゼロからの飛躍的な発展
当初は領民0人、住居も食料もない過酷なネッツロース草原からスタートしたが、鬼人族の協力や隣領のエルダンからの支援を得て、徐々に開拓が進んだ。その発展の詳細は以下の通りである。
・ディアスの「弱い者を守る」という信念に惹かれ、棄民の老婆たち、犬人族、大耳跳び鼠人族、孤児の双子、さらには洞人のナルバントたちなど、多様な種族が次々と集まった。
・これにより、領民数は98人から125人へと拡大した。
・ユルトや井戸から始まった村の施設も、竈場、飼育小屋、厩舎、畑、溜池、工房などが次々と整備された。
・農業やメーア毛の加工なども軌道に乗り、自立した村としての機能が整っていった。
政治的思惑による公爵叙爵とディアスの自立
ディアスの名声が高まる中、様々な政治的思惑が絡み合い、ディアスは公爵位と新たな家名「メーアバダル」、3年間の免税措置を与えられることとなる。その背景とディアスの対応は以下の通りである。
・エルダンの王都での工作や、王位継承争いに忙殺される貴族たちの事情が影響した。
・権威を失墜させた国王が、将来の隠居生活の「保険」として、特権を持つ公爵(ディアスとエルダン)を味方につけようとした。
・王からは横領されていた資金や人材の追加支援も提案されたが、ディアスは「不遇な状況だったからこそ今の仲間たちと出会い、イルク村を築けた」としてこれを辞退した。
・国からの支援に頼るのではなく、自分たちの力で村を発展させていく決意を固めた。
「領地の裁量権」の行使と鬼人族との共存
公爵となったことで、ディアスは国王の許可なく領地の売買や無人地帯の領地化ができる「領地の裁量権」という強大な特権を得た。彼はこの権限を以下のように活用している。
・生活物資である木材の安定供給と、鬼人族による木材の無断伐採という将来のトラブルの種を解決するため、エルダンの領地である境界の森の半分をウィンドドラゴンの素材と引き換えに購入した。
・ネッツロース草原を鬼人族と「半分こ」にするという画期的な提案を行った。
・十字街道と中心の円形の領域のみを自らの領分とし、残りを鬼人族の土地として王国法の下で正式に保証した。これにより将来の禍根を断ち切り、隣人との平和的な共存を確固たるものにしようとした。
街道建設と交易拠点の形成
公爵位の特権や免税措置を背景に、イルク村を中心とした巨大な交易計画も動き出している。具体的な動きは以下の通りである。
・孤児ギルドの幹部であるエリーの提案により、カスデクス領の都市とイルク村を繋ぐ大街道の敷設が決定した。
・冬までには森を切り拓いて踏み固めた仮設の道が完成した。
・新たに加わった文官のヒューバートの働きにより、メーア布を労働対価として流通させ、貨幣経済の基礎を根付かせる試みも始まっている。
まとめ
このように、ディアスへの公爵叙爵は単なる名誉の授与にとどまらない。彼が築き上げた「家族」や多様な種族との共生を守り、イルク村を開拓地から巨大な交易拠点へと飛躍させるための強力な法盾として機能しているのである。
新たな生命の誕生
『領民0人スタートの辺境領主様』において、厳しい冬を前にしたイルク村では、総勢27人の犬人族の赤ん坊と6頭のメーアの赤ん坊という新たな生命が次々と誕生し、村全体が大きな喜びに包まれた。この出来事は単なる村の賑わいにとどまらず、彼らが築き上げてきた共生社会の成熟を示す重要なエピソードとして描かれている。
メーアの六つ子の誕生と成長
メーアの群れの長であるフランシスとフランソワの間に六つ子が誕生した。その様子と成長の過程は以下の通りである。
・生まれたばかりの六つ子たちは、まだ毛も生えておらずしわしわの顔で、温かさを求めて母親のふわふわの毛の中に懸命に潜り込もうとする愛らしい姿を見せた。
・ディアスはその姿にすっかり心を奪われ、村の見回りや冬備えの仕事があるにもかかわらず、ユルトから離れがたくなるほど溺愛していた。
・多産の影響で身体が小さく、立ち上がるまでに少し時間がかかった。
・やがてふわふわの産毛が生えそろうと、持ち前の好奇心を発揮して村中を元気に駆け回るようになり、村の賑わいの中心となっていった。
犬人族の伝統的な「共同子育て」
一方、犬人族たちが出産時期を冬に揃えたのには、彼らなりの明確な理由があった。その子育ての仕組みは以下の通りである。
・外での仕事が減る冬の期間に、暖かな共同施設である「竈場(かまどば)」に集まり、皆で協力し合いながら子育てをするのが、犬人族に伝わる昔ながらの知恵である。
・病気などで母乳が出ない母親の代わりに別の母親が授乳を行う。
・母親たちが疲労で倒れないように交代で赤ん坊の世話をする。
・これにより、安全かつ確実に子供を育て上げる合理的な体制が築かれている。
種族の壁を越えた「家族」の絆と、外部からの信頼
この竈場での共同子育ては、犬人族たちだけで行われているわけではない。そこから生まれた絆と外部への影響は以下の通りである。
・人間族の老婆たちや鬼人族のアルナーまでもが嫌な顔一つせず手伝いに加わり、種族の壁を越えた「家族」としての温かい空間を作り出していた。
・この光景は、極めて重要な政治的意味を持った。
・獣王国内で迫害されている「血無し(獣の特徴を失った獣人)」たちの移住先として、イルク村が本当に安全で信頼に値する場所なのかを確かめるため、獣人国の参議である狐人族のキコが密かに村を訪れていた。
・キコは竈場を覗き込み、慈愛に満ちた表情で赤ん坊を抱く犬人族の母親たちや、それを手伝う他種族の姿、そして何より健康的な犬人族の毛並みや赤ん坊たちの穏やかな表情を目にした。
・キコは「この姿こそが嘘や演技で誤魔化せない真実を物語っている」と確信し、安心して血無し達をイルク村へ預ける決断を下した。
まとめ
このように、新たな生命の誕生は「この子供たちに温かい冬を過ごさせたい」という村人たちの冬備えへのモチベーションを最高潮に高める原動力となった。それと同時に、ディアスが掲げる「弱い者を守る」「行き場のない者を家族として受け入れる」という信念が実を結んだ証であり、村の絆の強さと他国からの信頼を決定づける象徴的な出来事となっている。
洞人族との出会い
『領民0人スタート of 辺境領主様』における新たな仲間「洞人族」との出会いは、森での偶然の遭遇から始まり、この地に伝わる「只人」の伝説が絡む重要なエピソードである。その出会いから村の仲間になるまでの経緯、そして彼らがもたらした影響について解説する。
森の中での第一の接触
冬備えのために森を訪れていたセナイ、アイハン、エイマが、キノコが育ちやすい場を整える秘密の魔法を使っている最中に最初の接触があった。その詳細は以下の通りである。
・森の奥から三角帽子と白髭、分厚い斧を持った小柄な老人が現れた。
・老人は自らを「洞人」と名乗り、セナイ達を「森人」と呼んで懐かしんだ。
・セナイ達の首飾りから石人の魔力を感じ取った老人は、彼女たちの頭目が「魔力を持たない只人」ではないかと尋ねた。
・セナイ達がディアスの優しさを即答すると、老人は満足そうに笑い、「昔の約定を果たすため数日以内に訪れる」と言い残して去っていった。
ディアスとの対面と「大昔の約定」
後日、村の感知魔法に全く反応しないまま、東の方角から巨大な丸太を5本も引きずりながらその老人が現れた。彼との対面と伝説の内容は以下の通りである。
・老人は洞人のナルバントと名乗り、かつてセナイ達が森で伐り倒すよう目印をつけて忘れていた丸太を代わりに伐り出してきてくれた。
・ナルバントはディアスに対し、大昔の伝説を語った。
・かつて瘴気と魔物に溢れていたこの地に、神の武器と知恵を持った「魔力を持たぬ只人」が現れ、洞人達をはじめとする人々をまとめ上げて国を築いた。
・その只人は東へ旅立つ際、「再びこの地に只人が現れ、皆と手を取り合える者であれば力を貸してやってほしい」という遺言(約定)を残していた。
・ナルバントはその約定を守るために駆けつけたのである。
「只人」の継承者ではなく「領民」としての受け入れ
ディアスは、自分はその大昔の只人とは全く無関係であり、その重い想いを受け取る資格はないと考えた。その後の受け入れの経緯は以下の通りである。
・足元にいたセンジー氏族の若者から「領民(移住希望者)として歓迎しないのか」と問われ、ディアスは言葉を飲み込んだ。
・ディアスは約定とは関係なく「この村で暮らしたいなら歓迎する」と告げた。
・これを聞いたナルバントは豪快に笑い、自らが持つ大陸一の鍛冶や細工の腕で村を豊かにしてやると宣言し、正式にイルク村の仲間となった。
家族の合流と「只人」を守るための知恵
その後、ナルバントの妻オーミュンと息子サナトも合流した。彼らがもたらした情報と役割は以下の通りである。
・新しく合流した家族もアルナーの魂鑑定や感知魔法を弾いてしまい、アルナーを狼狽させた。
・オーミュンはその理由として、洞人の髭は暗闇で目を代用し瘴気を防ぐだけでなく、「魔力を受け流す」特別な性質を持っているためだと説明した。
・さらにオーミュンは、魔力を持たない「只人」は毒魔法などには強い反面、肉体や魂に干渉する魔法には全くの無防備であり、非常に危険な状態にあると警告した。
・かつての只人の約定も、そんな弱く儚い同胞を守るために遺されたものであった。
・洞人たちはその特別な髭と金属を混ぜ合わせ、魔力を防ぐ「お守り(護符)」をディアスやベンのために作成し、彼らを魔法の脅威から守るという重要な役割も担うこととなった。
まとめ
このように、洞人族との出会いは単なる偶然にとどまらず、失われた歴史の約定を現代へと繋ぐ重要な転換点となった。彼らの持つ卓越した技術と魔力を防ぐ知恵は、イルク村の安全を高め、ディアスが目指す多様な種族が共生する理想郷をさらに強固なものにする原動力となっているのである。
獣人国との外交
『領民0人スタートの辺境領主様』における獣人国(獣王国)との外交は、国家間の堅苦しい交渉ではなく、ディアスの「行き場のない者を受け入れる」という信念と、村の日常の光景そのものが信頼を勝ち取るという、イルク村ならではの温かい形で進められている。その詳細を解説する。
獣人国参議キコの密かな視察
獣人国との交渉が始まった背景と視察の目的は以下の通りである。
・獣人国内では、「血無し(獣の力や特徴を失い、人間に近い姿となったために差別されている獣人)」と呼ばれる者たちの迫害が問題となっていた。
・彼らの移住先としてイルク村が候補に挙がっていたが、「王国の貴族に預けたら奴隷のように扱われるのではないか」という懸念もあった。
・そこで、獣人国の参議の一翼を担う狐人族のキコが、領主ディアスの人品とイルク村の実態を確かめるために密かに村を訪れた。
日常の光景がもたらした「真実の証明」
キコが村を訪れた際、イルク村のありのままの姿が大きな信頼へと繋がった。その詳細は以下の通りである。
・キコがイルク村の竈場(かまどば)で目にしたのは、ディアスが飾った言葉や演技ではなかった。
・慈愛に満ちた表情で赤ん坊を抱く犬人族の母親たち、それを嫌な顔一つせずに手伝う人間族の老人たちや鬼人族のアルナーの姿があった。
・何より、犬人族たちの豊かで美しい毛並みや色艶の良い鼻先、穏やかな表情ですやすやと眠る赤ん坊たちの姿がそこにあった。
・キコは「そのどれもこれもが嘘や演技でどうこう出来るものではなく、その姿こそが真実を物語っている」と確信し、安心して血無し達をイルク村へ預ける決断を下した。
子供たちによる民間交流と「香り高いキノコ」の贈り物
大人たちの交渉だけでなく、子供たちの純粋な行動も外交に好影響を与えている。具体的なエピソードは以下の通りである。
・視察の最中、森人族の双子セナイとアイハンが、森で採ってきたばかりのバターと砂糖のような甘い香りがする珍しいキノコをキコに見せた。
・キコがその素晴らしい香りに感動し、「遠き故国へ持ち帰り、家族にも楽しませてあげたい」と漏らした。
・双子たちは香りが長持ちするようにと、急いでキノコを油漬けにしてキコにプレゼントした。
・こうした子供たちの純粋で温かい思いやりも、遠方からやってきたキコの心を打ち、両国の友好的な関係を後押しする出来事となった。
ディアスの無欲な姿勢と絶対の信頼
ディアスの領主としての姿勢が、獣人国との絆をさらに強固なものとした。その経緯は以下の通りである。
・キコが今回の世話になった礼とキノコの礼を後日送ると申し出た際、ディアスは「礼なんていらないぞ、キコの子供達が領民になってくれるだけで充分だ」と無欲な姿勢を見せた。
・その損得勘定のない心根を見たキコは、「貴殿のお心の有り様は充分に見せて頂きましたし、後はもうただただ信頼し、お任せするばかりです」と深く頭を下げた。
・春になるまでの間に血無し達をしっかりと躾けた上でイルク村へ送り出すと約束し、キコは帰路についた。
ペイジン商会を通じた経済・交易関係の構築
政治的な信頼関係をベースに、経済的な結びつきも始まっている。交易の実態は以下の通りである。
・これらの外交の橋渡しとなっているのが、フロッグマンの行商人ペイジン一族である。
・キコの来訪と同時期に、ペイジン家のペイジン・ミが率いる商隊がイルク村で市場を開き、犬人族のサイズに合わせた衣服や靴、骨細工や干し肉などを持ち込んだ。
・孤児ギルドの幹部エリーの主導のもと、メーア布や金貨を用いた本格的な取引が行われた。
・これにより、獣人国とイルク村の強固な交易ルートが着実に構築されている。
まとめ
このように、イルク村と獣人国との外交は、形通りの政治交渉ではなく、お互いの信頼と真摯な交流によって実を結んでいる。ディアスの無欲な優しさと村の温かい日常が最大の外交カードとなり、新たな領民の受け入れと経済的な発展を同時に推し進める原動力となっているのである。
冬に向けた産業開発
『領民0人スタートの辺境領主様』における冬に向けた産業開発は、新たに加わった仲間たちの知識や技術が結集し、イルク村をただの開拓地から自立した交易拠点へと飛躍させる重要なステップである。雪に閉ざされ外仕事が制限される冬の期間を利用し、村では多角的な産業開発が進められた。
「地機織り機」の導入とメーア布生産の飛躍
新たに村の仲間となった洞人のナルバントは、自らの鍛冶・細工の技術を活かし、地機織り機を作成した。生産体制の向上に関する詳細は以下の通りである。
・地機織り機は木枠の椅子と複雑な木細工を組み合わせたものであり、座りながら作業ができるため足腰への負担が少ない。
・従来よりも簡単かつ手早く美しい布を織ることが可能となった。
・この織り機の導入により、マヤ婆さんたちの作業効率が劇的に向上した。
・さらに質の良い布を作ってもらおうと、メーアのエゼルバルドたち自身も質の良い毛を伸ばそうと張り切るなど、生産体制全体に良い相乗効果をもたらした。
エリー主導の「冬服」量産と裁縫技術の向上
メーア布を活用した産業として、孤児ギルドの幹部エリーが指揮を執る冬服作りが本格化した。その開発と量産の経緯は以下の通りである。
・エリーは王国の経験と鬼人族の伝統的な柄を融合させ、暖かさを逃さず、各部位が着脱可能で動きやすく汚れにくい独自の冬服を開発した。
・この冬服を村人全員に行き渡らせるため、毛の長さなど各氏族の要望を取り入れつつ、村人から裁縫の手伝いを大々的に募集して量産体制を整えた。
・ナルバントたちも持ちやすい編み針や大小の縫い針を作成してこの作業を後押しした。
・これにより、村全体の被服の質と生産力が大きく向上した。
仮設工房と「魔石炉」による鍛冶基盤の確立
村の南側には、ナルバント一家を中心とした仮設工房が建設された。鍛冶基盤の確立に向けた取り組みは以下の通りである。
・南の荒野で集めた石や土で作ったレンガの竈が並べられた。
・モンスターの魔石を燃料とする魔石炉が造られた。
・魔石炉は魔石が発する瘴気を浄化しながら莫大な熱を生み出すため、薪の消費を劇的に抑えることができる。
・これにより、ディアスの旧式鎧を溶かして機能的な新しい鎧に作り直すことや、村の生活を豊かにする様々な鉄製品を自給自足で生み出す生産基盤が整った。
野生メーアの受け入れ拡大と「貨幣経済」の基礎構築
新たに文官として加わったヒューバートの提案により、メーア布を軸とした巨大な経済計画が動き出した。経済基盤の構築内容は以下の通りである。
・厳しい winter を越せない野生のメーアたちを村のユルトに呼び集め、食料と宿を提供する代わりに余分な毛を対価として受け取るビジネスモデルを考案した。
・これにより16頭もの野生のメーアが集まり、大量のメーア毛が確保され、それを織り機で布にして隣領メラーンガルへの主力交易品とした。
・ただ金貨を配るだけでは貯め込まれてしまう村の現状を踏まえ、労働の対価として実生活に直結するメーア布を支払う仕組みを整え始めた。
・布が服や家になり、売れば金貨になるという価値観を教えることで、村人たちにゆっくりと貨幣経済や経済感覚を根付かせようとしている。
冬の運搬を支えるインフラ整備
交易品を他領へ運ぶため、物流のインフラ整備も同時に進められた。具体的なインフラ設備は以下の通りである。
・ナルバントたちは、雪の上ではソリ板として滑り、雪のない道では車輪に付け替えられる特殊な荷車を開発した。
・隣領のエルダン側も、森を切り拓いて鉄のローラーで踏み固めた仮設の道を村の近くまで開通させた。
・これにより、冬の雪道であっても安全かつ大量に物資を輸送できる物流インフラが整えられた。
まとめ
このようにイルク村の冬に向けた産業開発は、各種族の長所が見事に噛み合わさった結果である。洞人の技術、エリーの商才、ヒューバートの行政知識、犬人族や老婆たちの労働力、そしてメーアの資源が融合したことにより、村を豊かにするための強力な土台が築かれたのである。
新たな領民
『領民0人スタートの辺境領主様』第5巻において、冬の訪れとともにイルク村には多種多様な新たな領民や一時滞在者が加わり、村の技術、行政、経済、そして人口がさらに大きく発展していくこととなる。新たに加わった領民たちの詳細について解説する。
大昔の約定を胸にやってきた「洞人族」
森でセナイたちが出会った小柄な老人ナルバントは、妻のオーミュン、息子のサナトと共にイルク村へ移住してきた。彼らの特徴や村への貢献は以下の通りである。
・大昔にこの地を救った「魔力を持たぬ只人」が遺した「再び只人が現れたら力を貸してやってほしい」という約定を守るためにやってきた。
・ディアス自身はその只人と無関係であるとして申し出を断ろうとしたが、一人の移住希望者、すなわち領民として彼らを受け入れることを決めた。
・ナルバント一家は大陸一とも言える鍛冶や細工の技術を持っている。
・座って作業ができる地機織り機や、モンスターの魔石を燃料とする魔石炉、戦闘用ソリのメーアワゴンなどを次々と作成し、村の産業と戦闘力を飛躍的に引き上げた。
・魔力を持たないが故に魔法に対して極めて無防備なディアスのために、魔力を受け流す洞人の髭を混ぜた金属で魔法防ぎの護符を作成し、彼を魔法の脅威から守る役割も担っている。
王国から派遣された文官「ヒューバート」
王命によりディアスを支えるために辺境へやってきたサンセリフェ王国の文官である。彼の合流経緯と役割は以下の通りである。
・彼は獣人の血を引いているため、隣領の旧カスデクス領での迫害を恐れて荷馬車に隠れて移動していたが、冬の雪原で遭難し、死にかけていたところをアルナーと犬人族たちに救助された。
・イルク村に合流した後は、これまでエリーやエイマが手探りで行っていた事務、税務、交易管理などの文官業務を正式に引き継いだ。
・非常に常識的で優秀な人物であり、金貨を溜め込んでしまう村人たちに経済感覚を根付かせるためのメーア布による労働対価の支払いの導入を提案した。
・さらに、村の牧畜の計画的な管理などをディアスに提案し、村の行政や経済の近代化を推し進めている。
獣人国から春に移住予定の「血無し」達
獣人国で獣の特徴を失い、人に近い姿になったために迫害されている獣人たちである。受け入れに至る経緯は以下の通りである。
・獣人国の参議である狐人族のキコが、移住先としてのイルク村と領主ディアスの人柄を確かめるために密かに視察に訪れた。
・キコは、種族の壁を越えて犬人族の赤ん坊を皆で世話する村の温かい日常風景や、ディアスの無欲な姿勢を見て深く安堵した。
・これにより、春になるまでの間に彼らをしっかりと躾けた上で、イルク村へと送り出すことを正式に約束した。
冬の避難所として集まった「野生のメーア達」
彼らは正式な領民ではなく、あくまでお客様という立場であるが、村の経済に多大な貢献をもたらしている。その仕組みと効果は以下の通りである。
・雪原で飢えと寒さに苦しんでいた野生のメーア夫婦をディアスが見つけたことをきっかけに、取引が始まった。
・ヒューバートが、冬の間の宿と食事を提供する代わりに、余分な毛を対価として受け取るという交易関係を提案した。
・この提案に賛同した夫婦が仲間を呼び寄せ、結果的に5家族・16頭もの野生メーアが村の仮設ユルトへ滞在することになった。
・彼らがもたらした大量の毛はナルバントの織り機によって次々とメーア布に加工され、隣領への重要な交易品となった。
・ディアスは、来年以降も厳しい冬を越せないメーアたちの駆け込み宿として、この受け入れを続けていきたいと考えている。
まとめ
このように、冬のイルク村には多彩な背景を持つ人材や亜人、家畜が集まり、それぞれの能力を活かして村の基盤を強化している。洞人族の技術力、ヒューバートの行政能力、獣人国との信頼関係、そして野生メーアを活かした経済活動のすべてが噛み合うことで、イルク村は開拓地から持続可能な独自の共同体へと着実に進化を遂げているのである。
登場キャラクター
イルク村(メーアバダル領)
ディアス(ディアス・メーアバダル)
イルク村の領主である。公爵位を得てメーアバダルという家名を名乗る。アルナーの夫にあたる。
・所属組織、地位や役職
メーアバダル領の領主。公爵。
・物語内での具体的な行動や成果
フレイムドラゴンやウィンドドラゴンなどのモンスターを討伐した。ウィンドドラゴンとの戦闘で重傷を負うが、サンジーバニーの薬湯により回復する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王から公爵位に叙爵され、三年間の免税措置を受けた。
アルナー(アルナー・メーアバダル)
ディアスの妻である。鬼人族の出身にあたる。
・所属組織、地位や役職
イルク村の住民。代表者の一人。
・物語内での具体的な行動や成果
ディアーネに矢を放ち、彼女を森へ追い立てた。ディアスの傷にサンジーバニーの薬湯を飲ませ、手当てを行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ディアスの家名であるメーアバダルを名乗ることになった。
エイマ
大耳跳び鼠人族の女性である。村の教育係や書記を担当する。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。教育係、書記。
・物語内での具体的な行動や成果
セナイとアイハンに助けられ、秘密の畑作りを手伝った。エリーと共に商人との交渉や計算作業を担う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
村の住民として正式に受け入れられた。
セナイ
森人族の双子の一人である。アイハンの姉妹にあたる。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
森の奥で特別なキノコを採取した。ディアスにサンジーバニーの薬湯を飲ませる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
編み物の技術を上達させ、メーアバダル家の紋章を編み上げた。
アイハン
森人族の双子の一人である。セナイの姉妹にあたる。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
セナイと共に特別なキノコを採取した。ディアスにサンジーバニーの薬湯を飲ませる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
編み物の技術を上達させ、メーアバダル家の紋章を編み上げた。
クラウス
元王国兵である。イルク村の領兵隊長を務める。カニスの夫にあたる。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領兵隊長。代表者の一人。
・物語内での具体的な行動や成果
犬人族達に冬服の洗濯方法を指導した。カニスと結婚し、村で祝宴を挙げる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
カニスと結婚した。
カニス
犬人族の女性である。クラウスの妻にあたる。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
クラウスと結婚し、村の祝宴に参加した。アルナー達と共に赤ん坊の世話を行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
クラウスと結婚した。
エリー
ディアスが育てた孤児の一人である。女性の心を持つ青年である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の交渉役。ギルド幹部。
・物語内での具体的な行動や成果
エルダンとメーア布やドラゴン素材の取引交渉を行った。冬服作りを指揮する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
村の商業や交渉を取り仕切る立場になった。
マヤ婆さん
カスデクス領から追放された老婆達のまとめ役である。占いが得意である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の人間族代表者。
・物語内での具体的な行動や成果
寒波とモンスターの襲来を予測した。魔法のパン作りに参加する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
ベン
ディアスの父の兄にあたる人物である。元神官である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
ディアスの新たな家名「メーアバダル」を考案した。メーア達や出産を控えた犬人族の相談役を務める。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
魔力を持たない只人である。
マーフ
黒毛のマスティ氏族の長である。勇敢で力自慢の性格である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領兵。マスティ氏族長。
・物語内での具体的な行動や成果
クラウスと共に大蜥蜴の迎撃を行った。雪原でディアスと共にメーアの護衛にあたる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
父親となった。
フランシス
メーアの群れの長であるオスである。フランソワの番にあたる。
・所属組織、地位や役職
イルク村の家畜。メーアの長。
・物語内での具体的な行動や成果
エゼルバルドとの歌の勝負に勝利した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
六つ子の父親となった。
フランソワ
メーアのメスである。フランシスの番にあたる。
・所属組織、地位や役職
イルク村の家畜。
・物語内での具体的な行動や成果
産屋で六つ子を出産した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
六つ子の母親となった。
フラン
フランシスとフランソワの間に生まれた男の子である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の家畜。
・物語内での具体的な行動や成果
産屋で元気な産声を上げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
エゼルバルド
大柄なメーアのオスである。
・所属組織、地位や役職
イルク村の家畜。
・物語内での具体的な行動や成果
フランシスとの歌の勝負に敗れ、自らフランシスの群れに合流した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ディアスから名前を与えられた。
ヒューバート
サンセリフェ王国から派遣された文官である。真面目で常識的な性格である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の文官。
・物語内での具体的な行動や成果
雪原で遭難していたところをアルナーと犬人族に救助された。村の事務や税務、牧畜管理の提案を行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
イルク村の文官として受け入れられた。
ナルバント
洞人の老人である。鍛冶や細工に優れた技術を持つ。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。鍛冶職人。
・物語内での具体的な行動や成果
地機織り機や魔石炉、メーアワゴンを作成した。ディアスと協力してトレントを討伐する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
過去の約定に従ってディアスに力を貸すため、イルク村に移住した。
オーミュン
洞人の女性である。ナルバントの妻にあたる。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
魔力を受け流す洞人の髭について説明した。フレイムドラゴンの解体作業を指揮する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
サナト
洞人の若者である。ナルバントとオーミュンの息子にあたる。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
ナルバントと共にメーアワゴンに乗り、フレイムドラゴンに突撃した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
シーヤ
白毛の牝馬である。セナイの乗馬にあたる。
・所属組織、地位や役職
イルク村の馬。
・物語内での具体的な行動や成果
セナイを乗せて森や草原を駆け回った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
グリ
灰色毛の牝馬である。アイハンの乗馬にあたる。
・所属組織、地位や役職
イルク村の馬。
・物語内での具体的な行動や成果
アイハンを乗せて森や草原を駆け回った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
ベイヤース
黒毛の牡馬である。ディアスの乗馬にあたる。
・所属組織、地位や役職
イルク村の馬。
・物語内での具体的な行動や成果
ディアスを背に乗せ、草原や森を移動した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
アイーシア
月毛の牝馬である。元はディアーネの乗馬だった。
・所属組織、地位や役職
イルク村の馬。
・物語内での具体的な行動や成果
エイマに心を許し、背中に乗せて歩いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アルナーによってアイーシアと名付けられた。
カーベラン
赤毛の牡馬である。アルナーの乗馬にあたる。
・所属組織、地位や役職
イルク村の馬。
・物語内での具体的な行動や成果
アルナーを乗せて雪原を駆け、ヒューバートの救助に向かった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
犬人族達
イルク村に移住してきた小型種の獣人たちである。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
ガチョウの池の掘削や、落とし穴の作成などのインフラ整備に従事した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
イルク村に定住した。
マスティ氏族
黒毛でがっしりした体つきを持つ犬人族の氏族である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領兵。
・物語内での具体的な行動や成果
竜牙のマスクと竜鱗のマントを装備し、モンスターの迎撃にあたった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
センジー氏族
真面目で堅物な茶毛の犬人族の氏族である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
毎朝井戸から水を汲み、各ユルトへの水運搬を担当した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
シェップ氏族
好奇心旺盛で白黒毛の犬人族の氏族である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
馬や白ギーのブラッシングを行い、草のチーズを作成した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
婦ర్ణ会の面々
アルナーを中心に結成された犬人族の女性達の集まりである。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
戦場から武器や戦利品を回収した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
老婆達
カスデクス領から追放された棄民の女性達である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
メーア毛を糸に紡ぐ作業や、干し肉作りを行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
メーアの六つ子達
フランシスとフランソワの間に生まれた赤ん坊達である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の家畜。
・物語内での具体的な行動や成果
産屋で誕生し、村中を元気に駆け回った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
エゼルバルドの妻達
エゼルバルドと番になったメーアのメス達である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の家畜。
・物語内での具体的な行動や成果
エゼルバルドに寄り添って過ごした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ディアスによってエゼルティアなどの名前を与えられた。
野生のメーア達
冬の間だけイルク村に滞在するメーア達である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の滞在者。
・物語内での具体的な行動や成果
食料と宿を提供する対価として、村にメーア毛を提供した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
白ギー
山牛と呼ばれる家畜である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の家畜。
・物語内での具体的な行動や成果
シェップ氏族からブラッシングなどの世話を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
メスが妊娠していることが判明した。
ガチョウ
卵や肉、羽毛をもたらす鳥である。
・所属組織、地位や役職
イルク村の家畜。
・物語内での具体的な行動や成果
飼育小屋と小さな池で飼育される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ペイジンとの取引で購入された。
マーハティ領(旧カスデクス領)
エルダン(エルダン・マーハティ)
マーハティ領の領主である。人間と亜人が共生する社会を目指している。
・所属組織、地位や役職
マーハティ領領主。公爵。
・物語内での具体的な行動や成果
王都で王と交渉し、ディアスへの公爵位叙爵を取り付けた。サンジーバニーの薬湯を飲み、持病から回復する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
正式に公爵位と新たな家名「マーハティ」を与えられた。
カマロッツ
エルダンに忠誠を誓う従者である。
・所属組織、地位や役職
マーハティ領の従者。
・物語内での具体的な行動や成果
ディアーネ軍との戦いで細剣を振るい、エルダンを守るために奮戦した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
ジュウハ
自らを王国一の兵学者と称する男である。
・所属組織、地位や役職
エルダンの配下。
・物語内での具体的な行動や成果
エルダンに軍事や統治に関する授業を行った。ディアーネ軍との戦いに乱入し、敵を斬り伏せる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
エルダンに破格の待遇で雇われた。
ゲラント
鳩人族の伝書隊の長である。
・所属組織、地位や役職
マーハティ領の鳩人族伝書隊長。
・物語内での具体的な行動や成果
空を飛んでイルク村を訪れ、エルダンからの手紙を届けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
ジャッカルの獣人
メラーンガルにいる商人である。
・所属組織、地位や役職
メラーンガルの商人。
・物語内での具体的な行動や成果
エリーが持ち込んだメーア布を高額で買い取った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
エルダンの妻達
エルダンを慕う女性達である。
・所属組織、地位や役職
マーハティ領の住民。
・物語内での具体的な行動や成果
エルダンの体温調節や食事の世話を献身的に行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
鳩人族達
空からの情報収集を担う部隊である。
・所属組織、地位や役職
マーハティ領の飛翔諜報隊。
・物語内での具体的な行動や成果
フレイムドラゴン襲来の情報を迅速に伝達した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
鬼人族
ゾルグ
アルナーの兄である。
・所属組織、地位や役職
鬼人族の警備班長。族長候補。
・物語内での具体的な行動や成果
ディアスと共にウィンドドラゴンを討伐した。大蜥蜴の解体作業に参加し、報酬を分配する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
モールから角細工を与えられ、族長候補および警備班の長となった。
族長
鬼人族をまとめるモールである。
・所属組織、地位や役職
鬼人族の族長。
・物語内での具体的な行動や成果
ゾルグに警備班の長を任せ、族長候補とした。ディアスに薬草の知識やレシピを提供する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
鬼人族達
アルナーと同族の者達である。
・所属組織、地位や役職
鬼人族の村の住人。
・物語内での具体的な行動や成果
隠蔽魔法を用いてフレイムドラゴンに奇襲を仕掛けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
警備班
ゾルグが率いる部隊である。
・所属組織、地位や役職
鬼人族の村の警備部隊。
・物語内での具体的な行動や成果
大蜥蜴の解体作業を行い、報酬を受け取った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
遠征班
外部での活動を担う部隊である。
・所属組織、地位や役職
鬼人族の村の部隊。
・物語内での具体的な行動や成果
森の利用許可が出たことで、役割が縮小された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
弓騎兵
弓と馬を扱う部隊である。
・所属組織、地位や役職
鬼人族の部隊。
・物語内での具体的な行動や成果
フレイムドラゴンの討伐に参加し、矢を放って攻撃した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
サンセリフェ王国
サンセリフェ王国国王
王国の統治者である。
・所属組織、地位や役職
サンセリフェ王国国王。
・物語内での具体的な行動や成果
ディアスに公爵位と家名、三年間の免税措置を与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ディアスから献上されたアースドラゴンの魔石を装飾品に加工しようとした。
第一王子リチャード
王国の第一王子である。冷徹で計算高い性格である。
・所属組織、地位や役職
サンセリフェ王国第一王子。
・物語内での具体的な行動や成果
ナリウスに命じてマイザーを監視・妨害させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王国最大の派閥を築いた。
第一王女イザベル
王国の第一王女である。
・所属組織、地位や役職
サンセリフェ王国第一王女。
・物語内での具体的な行動や成果
元帝国領土で好き勝手に振る舞っているとされる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
第二王女ヘレナ
王国の第二王女である。
・所属組織、地位や役職
サンセリフェ王国第二王女。
・物語内での具体的な行動や成果
王位争いにおいて特に目立った動きを見せていない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
第二王子
マイザーのことである。歪んだ価値観を持つ。
・所属組織、地位や役職
サンセリフェ王国第二王子。
・物語内での具体的な行動や成果
資金集めに執着し、帝国と結託して密造品の取引を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ナリウスによって捕縛された。
獣人国
キコ
獣人国の参議を務める狐人族の女性である。
・所属組織、地位や役職
獣人国参議。
・物語内での具体的な行動や成果
血無し達の移住先としてイルク村を視察し、村の様子を見て移住を決定した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
血無し達
獣の特徴を失った獣人達である。
・所属組織、地位や役職
獣人国の住民。
・物語内での具体的な行動や成果
イルク村への移住を希望し、交易に従事する予定である。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
商人・ギルド・その他
ペイジン・ミ
ペイジン家の一員である。行商人である。
・所属組織、地位や役職
行商人。
・物語内での具体的な行動や成果
イルク村を訪れ、エリーと交渉して商取引を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
アイサ
ディアスが育てた孤児の一人である。イーライの妻にあたる。
・所属組織、地位や役職
ギルドの商人。
・物語内での具体的な行動や成果
アルナーやセナイ達に王国風のドレスを作り、化粧を教えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
イーライ
ディアスが育てた孤児の一人である。アイサの夫にあたる。
・所属組織、地位や役職
ギルドの商人。
・物語内での具体的な行動や成果
イルク村を訪れ、村の需要を調査した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
数日間滞在した後、帰路についた。
邪神
かつてこの地に存在したとされる存在である。
・所属組織、地位や役職
記載なし。
・物語内での具体的な行動や成果
フレイムドラゴンが南進を邪魔する存在として認識している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
アースドラゴン
巨大な亀のような姿をしたモンスターである。
・所属組織、地位や役職
モンスター。
・物語内での具体的な行動や成果
過去にディアスによって討伐された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
討伐後、その魔石が王に献上された。
ウィンドドラゴン
巨大なトンボのような姿をしたモンスターである。
・所属組織、地位や役職
モンスター。
・物語内での具体的な行動や成果
ディアスとゾルグによって討伐された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
討伐素材が森の購入資金として使われた。
フレイムドラゴン
火炎を吐く巨大なモンスターである。
・所属組織、地位や役職
モンスター。
・物語内での具体的な行動や成果
イルク村を襲撃しようとしたが、ディアス達の総力戦によって討伐される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
討伐後、魔石が真っ二つに割られた。
トレント
木に化けて襲いかかるモンスターである。
・所属組織、地位や役職
モンスター。
・物語内での具体的な行動や成果
北の荒野でディアスとナルバントによって討伐された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
討伐後、焼却して浄化された。
狼型のモンスター
瘴気に支配されかけた黒狼である。
・所属組織、地位や役職
モンスター。
・物語内での具体的な行動や成果
雪原でメーア達を襲おうとしたが、ディアスによって討伐される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
黒ギー
牛のような姿をした獣である。
・所属組織、地位や役職
野生の獣。
・物語内での具体的な行動や成果
結納品としてクラウスに狩られたり、エリーに拳で仕留められたりした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
記載なし。
展開まとめ
エイマのレポート
領民は98人から125人へ増加した。
【辺境の領主】ディアスは【おひとよしの鬼人族】ゾルグと共闘し、村へ襲来したウィンドドラゴンを討伐した。しかし戦いの中で深い傷を負い、一時は命の危機に陥った。
その危機を救ったのが【伝説の薬草】サンジーバニーだった。ディアスはそれを口にしたことで、瞬く間に回復を果たした。エイマは、ディアスが死んでしまうのではないかと強く不安を抱いていたため、無事に回復したことを心から喜んでいた。同時に、サンジーバニーを渡した謎のメーアの正体に疑問を抱いていた。
【亜人の未来を憂う領主】エルダンもまた、サンジーバニーを口にしたことで長年抱えていた持病から回復した。
その後ディアスは、サンセリフェ王国国王より公爵位を授けられ、正式に【メーアバダル】の家名を名乗ることとなった。領地もまた【メーアバダル領】と改められた。
さらに、ウィンドドラゴンの素材を対価として、カスデクス領改めマーハティ領との境界にある森の東側を手に入れた。
冬への備えを進める中、ディアス達は犬人族とメーア達の出産にも立ち会った。その結果、27人の犬人族の赤ん坊と6頭のメーアの赤ん坊が無事に生まれた。
公爵となり、順調に領地を発展させていく新米領主ディアス。その歩みは、さらに新たな物語へと続いていくのだった。
ネッツロース領イルク村の施設一覧
【ユルト】【倉庫】【厨】【井戸】【飼育小屋】【集会所】【広場】【厩舎】【畑(野菜・樹木)】【溜池】【草原東の森】
新たな生命の誕生を祝った宴の翌日、イルク村で――ディアス
冬枯れの村と六つ子達への溺愛
冬枯れの季節となり、イルク村では家畜の世話や冬囲い、赤ん坊達の世話など、皆がそれぞれの仕事へ励んでいた。しかしディアスは、外仕事へ向かうことが出来ずにユルトへ留まり続けていた。理由は、フランシスとフランソワの六つ子達の存在だった。
毛も生えていない小さな身体を震わせながら、母親フランソワの毛へ潜り込もうとする赤ん坊達の姿はあまりにも愛らしく、ディアスは飽きることなく眺め続けていた。そんな様子を見たアルナーは呆れながらも笑い、子供好きであることは良いことだと語った。ディアスもまた、かつて育てた孤児達の世話を思い返しながら、夜泣きや粗相程度では苦にならないと答えた。
エリーの冬服作り
会話の中でアルナーは、エリーが新しい冬服作りへ取り組んでいることを語った。鬼人族の実用的な冬服へ、王国風というより“エリー風”と呼ぶべき独自の意匠を取り入れた服であり、女性陣から大きな期待を集めていた。
ディアスは必要な材料を揃えるため、エリーから注文内容を書いた手紙を受け取り、後で街道建設中の者達へ届けることを決めた。
鍛錬へ打ち込むクラウス達
村の外れでは、クラウス達が激しい訓練へ励んでいた。大蜥蜴達との戦いを経て、クラウスは己を鍛え直そうと決意しており、その気迫に犬人族達も刺激され、互いに負けまいと懸命に身体を動かしていた。
アルナーによれば、草原の冬はモンスターすら姿を消す静かな季節であり、鬼人族達はその期間を準備と鍛錬の時間として過ごすという。ディアスは、春を迎える頃に皆がどれほど成長しているのかを楽しみにしていた。
馬達との交流とエイマの初乗馬
その後ディアスは、セナイ、アイハン、エイマと共に森へ向かうこととなった。厩舎では馬達と白ギー達がシェップ氏族による手入れを受けており、皆気持ち良さそうにしていた。
セナイとアイハンはそれぞれ愛馬シーヤとグリへ駆け寄り、ディアスの愛馬ベイヤースも渋々ながら近寄ってくる。そして普段は誰も乗せない牝馬アイーシアが、何故かエイマへ心を許し、自ら頭を下げて騎乗を促した。
初めて乗馬を体験したエイマは大興奮し、馬と意思を通わせながら進む感覚へ感激した。しかし速度を上げると激しい揺れに翻弄され、目を回してしまう。そこでアルナーが小型用の鞍を作る話となり、エイマは大喜びした。
魔法と魔力の話
森へ向かう道中、エイマは誰でも多少の魔法は使えるものだと語った。魔力を使い過ぎると体調を崩すため、苦手な者は無理をしてはいけないとも説明する。
魔法を全く使えないディアスは、自分に魔力が無い理由や、そもそも魔力とは何なのかを考え込み、もし使えたなら便利なのだろうなと想像を巡らせていた。
森で見つけた秘密のキノコ
森へ到着した一行は、セナイ達の案内で奥へ進んでいった。森は冬枯れの景色へ変わっていたが、セナイとアイハンは楽しそうに走り回りながら、木々へ炭で目印を書き込んでいった。
やがて二人はある場所へ辿り着くと、「立入禁止」と大きく書き始める。その先には、とても美味しいキノコが生えているという。しかしまだ数が少なく、今採れば絶えてしまう可能性があるため、来年まで皆のために我慢するのだと語った。
ディアスはその心遣いを褒め、皆で協力して柵を作ることを決めた。セナイとアイハン、エイマ、そしてディアスの力を合わせることで、人も獣も近付けない立派な柵が完成していった。
エイマへの信頼
作業後、ディアスはエリーから預かった手紙を届け忘れていたことへ気付く。しかし今から向かえば、セナイ達を危険へ晒すことになりかねなかった。
するとエイマが、自分が子供達を見ているから行ってきてほしいと申し出る。セナイとアイハンもまた、何故か強く背中を押してきた。
ディアスは何度も本当に大丈夫なのか確認したが、エイマは半目で睨み返し、早く行ってこいと言わんばかりの態度を見せる。最終的にディアスはその言葉を信じ、「すぐ戻る」と告げて森の中を駆け出していくのだった。
森の中でセナイ達と共に――エイマ
森で秘密の魔法を使うセナイ達
ディアスがエリーへの手紙を届けるため森を離れると、エイマはセナイとアイハンへ、何を隠していたのかを問いかけた。二人は以前畑で使ったものと同じ魔法を行うつもりだった。
セナイとアイハンはキノコの生える場所へ向かい、向かい合って祈りを捧げる。すると魔法陣が現れ、木々や地面へ溶け込むように消えていった。しかし二人によれば、これはキノコを直接育てる魔法ではなく、キノコが育ちやすい“場”を整えるためのものだった。
とても美味しいキノコだからこそ、どうしても育ってほしかったのだと二人は語った。
森の奥から現れた洞人の老人
その直後、森の奥から何者かの気配が現れた。セナイ達とエイマは即座に弓を構え警戒する。
現れたのは、三角帽子と白髭を蓄え、道具だらけの鞄と分厚い斧を持った小柄な老人だった。老人は自らを「洞人」と名乗り、セナイ達のことを「森人」と呼び懐かしがる。
さらにセナイ達の首飾りから石人の魔力を感じ取り、彼女達の頭目が“魔力無しの只人”かと尋ねた。セナイとアイハンは、ディアスは優しく温かい存在だと即答する。
それを聞いた老人は満足そうに笑い、昔の約定を果たすため数日以内に訪れると告げ、そのまま森の奥へ消えていった。
ディアスへの報告
そこへディアスが戻ってくる。エイマは森で出会った不思議な老人について説明したが、洞窟に住んでいるという話も含め、どこまで本当なのか判断しかねていた。
ディアスは、もしかすると森へ迷い込んだ老人かもしれないと考え、翌日エルダンの部下達へ相談することを決める。そして一行はそのまま村へ帰還した。
再び森へ向かう一行
翌日、ディアス達は再び森へ向かった。目的は老人の件をエルダンの部下達へ伝えることと、セナイ達の森歩きに付き合うことだった。
しかし老人の痕跡は全く見つからず、代わりに一行は柵の点検や木材選び、食料探しを行いながら森を歩き回る。そんな中、馬達が突然何かへ気付き、ディアス達をある広場へ導いた。
香り高い珍しいキノコの発見
広場へ辿り着いたセナイとアイハンは、地面を掘り返し、不思議な物体を取り出した。それは石のような見た目をしていたが、上質なバターを思わせる濃厚で甘い香りを放っていた。
これこそ昨日話していた珍しいキノコであり、非常に美味な品だという。このキノコは木の根から栄養を受け取り、その代わり木を病から守る存在であり、木が寿命を迎えると共に消えてしまうものだった。
セナイ達は、今収穫できるものだけを掘り出し、来年以降に備える場所とは区別して管理していた。
センジー氏族の急報
その最中、センジー氏族達が森へ駆け込んできた。アルナーからの伝言を届けるためであり、「テカテカじっとりしていて毛がなく口が大きい人」がまた来たと知らせる。
それは商人ペイジン達の来訪を意味していた。セナイ達は遊び足りない様子を見せることなく、収穫したキノコの香りを楽しみながら帰還の準備を始める。
こうしてディアス達は、センジー氏族と共にイルク村へ戻っていくのだった。
イルク村へと帰還して
ペイジン達の市場とエリーの指揮
イルク村へ帰還したディアス達を迎えたのは、犬人族達へ大声で指示を飛ばすエリーの姿だった。ペイジン達が開いた市場には、干し肉や服、靴、骨など犬人族向けの商品が並び、犬人族達は目を輝かせながら買い物を楽しんでいた。
エリーは保存食を最優先に要求し、商人であるペイジン・ミへ、商人として覚悟を持って品を出すよう迫る。圧倒されていたペイジン・ミだったが、やがて覚悟を決め、獣人達へ次々と指示を出し始めた。
キコとの出会い
市場をエリーとエイマへ任せたディアスは、別の来客を確認するため竈場へ向かった。そこには犬人族達と赤ん坊、アルナー達に交じり、見慣れない狐人族の女性が居た。
彼女は獣人国参議の一人、キコと名乗り、血無し達を本当に受け入れる人物なのかを確かめるために来たと語る。
しかしキコは、赤ん坊を慈しみながら世話する犬人族や人間達の姿、穏やかな空気、健康な犬人族達の毛並みや赤ん坊達の様子を見て、この村が信頼に値する場所であると即座に理解していた。彼女にとって、この光景そのものが何より雄弁な証拠だったのである。
キノコを贈るセナイ達
そこへセナイとアイハンが戻ってきて、森で採取した香り高いキノコの下ごしらえを始める。キコはその芳香に驚き、故郷にいる家族にもこの香りを味わわせたいと感想を漏らした。
するとセナイ達は、キノコを奪われると誤解したのではなく、どうすれば遠く離れた家族へ香りを届けられるのかを真剣に考え始める。そして油漬けに加工したキノコを壺へ詰め、キコへ贈った。
その優しさに触れたキコは深く感謝し、セナイ達をこの村の家族なのかと尋ねる。ディアスが家族であり子供達だと答えると、キコは複雑な驚きを見せながらも、その関係の深さを理解するのだった。
東から現れた異様な老人
その直後、センジー氏族達が慌てて駆け込んでくる。東から巨大な丸太を何本も引きずる老人が現れたというのである。
さらにアルナーは、村の周囲へ張っていた感知魔法が全く反応していないことを明かし、尋常ならざる相手であると警告した。
ディアスは戦斧を担ぎ、センジー達と共に東へ向かう。そこで目にしたのは、小柄な老人が巨大な丸太を五本も束ね、力任せに引きずっている異様な光景だった。しかもその丸太には、以前セナイ達が書いた「今日持って帰って木材にする」という文字が残されていた。
洞人ナルバントの来訪
老人は自らを洞人のナルバントと名乗り、森に忘れられていた丸太を代わりに伐り出してきたのだと説明する。
さらにナルバントは、大昔この地には瘴気と魔物が溢れており、そこへ現れた“魔力を持たぬ只人”が神々の武器と知恵によって戦い、人々をまとめ上げて国を築いたという昔話を語り始めた。
その只人は東へ旅立つ際、もし再び只人が現れ、皆と手を取り合える人物であったなら力を貸してやってほしいという遺言を残したという。ナルバントは、その約定を守るためディアスの下へ来たのだった。
領民として迎えられるナルバント
ディアスは、自分はその只人とは無関係であり、遺言を受け取る資格はないと考える。しかしセンジーの若者から、移住希望者として歓迎しないのかと問われ、言葉を飲み込む。
そしてディアスは、遺言は受け取れないが、領民として村に住みたいのであれば歓迎すると告げた。
するとナルバントは豪快に笑い、自分は鍛冶や細工の腕に自信があり、村を豊かにしてやると宣言する。さらに近いうちに同族二人も来る予定だと語り、その者達の受け入れも頼み込むのだった。
ディアスは、ナルバントが丸太を引きずって作った道の先を見つめながら、これから訪れる新たな出会いへ思いを巡らせるのだった。
イルク村で ―――――ナルバント
ナルバントへの村案内
村へ入ったナルバントは、ディアスがかつて自分達を迎え入れた際に口にした、豊かではないが歓迎するという言葉を聞き、遠い過去の只人を思い出していた。姿形も魂も違うにもかかわらず、似通った言葉を口にするディアスへ、不思議な懐かしさを感じていたのである。
ナルバントは村の案内よりも、この村がどのように生きていくつもりなのかを尋ねた。ディアスは、メーアの毛を使った布や衣服を名産品にして交易する予定であることを説明する。
その話を聞いたナルバントは、現在使われている布作りの道具があまりに古いことに内心で驚き、昔只人と共に作った織り機の技術が失われていることを惜しみながらも、新たな織り機の設計を頭の中で描き始めていた。
双子の秘密
そこへセナイとアイハンが慌てた様子で駆け込んできて、ディアスをキコの元へ向かわせ、自分達がナルバントを案内すると申し出る。
ディアスが去った後、双子はナルバントへ、自分達が森人であることを誰にも話してはいけないと強く念押しした。ナルバントは理由を尋ねるものの、二人はとにかく秘密だと繰り返すだけだった。
ナルバントはその様子を面白がりながらも約束を守り、市場で必要な資材を揃えようと考えるのだった。
キコとの正式な約束
竈場へ戻ったディアスは、犬人族の赤ん坊へ子守唄を歌うキコと再び向き合う。
キコは、春までに血無し達をしっかり躾けた上で送り出すと約束し、さらに今回世話になった礼と、キノコの礼も後日送ると告げた。
しかしディアスは、領民になってくれるだけで十分だとして礼を辞退しようとする。するとキコは微笑みを消し、無言の圧力で礼を受け取るまで見つめ続けるのだった。
アルナーの不安
その後、ディアスはナルバントの件をアルナーへ説明した。だがアルナーは、生命感知魔法も魂鑑定も通じない存在であることへ強い不安を抱いていた。
ディアスは、悪意があれば犬人族達がすぐ気付くだろうと語り、まずは直接話し合うしかないと諭す。
市場へ向かった二人は、荷物の陰で細工仕事へ没頭するナルバントと、それを興味津々に見守るセナイ達を見つける。そこには悪意どころか穏やかな空気しかなかったが、アルナーはなおも魂鑑定が通じないことを警戒していた。
オーミュンとサナトの来訪
そこへ再び来客の報せが入り、ディアス達は東へ向かう。現れたのは、ナルバントによく似た洞人の二人だった。
一人は若い男サナト。もう一人は立派な白髭を持つ女性オーミュンであり、彼女は高く美しい声で自分達を紹介した。
アルナーは再び魂鑑定が通じないことに狼狽するが、オーミュンはその理由を説明する。洞人の髭は魔力を受け流す性質を持っており、それによって鑑定魔法も弾いてしまうのだという。
只人と魔力の危険
さらにオーミュンは、只人であるディアスの危うさについて語った。
魔力を持たない只人は、毒魔法のような魔力干渉系には極めて強い反面、肉体や魂へ直接作用する魔法には無防備であり、幼子の魔法でも命を落としかねないほど脆弱なのだという。
その弱さゆえに、神々は只人専用の神具や神域を用意し、かつての只人もまた同胞を守るため約定を遺したのだった。
オーミュン達洞人は、その髭を利用した護符によって、只人を魔力から守ることが出来ると説明する。アルナーはその話を聞き、ディアスの危険性を改めて理解して険しい表情を浮かべるのだった。
洞人達との交流
オーミュン達と共に村へ戻ると、ナルバントは既にディアス用の細工を作り始めていた。
それは髭を混ぜた特殊金属で作る護符であり、火も炉も使わず、魔力だけで加工されていた。セナイとアイハンはその技術へ強い興味を示し、アルナーも次第に警戒を解きながら会話へ加わっていく。
一方サナトは、只人など知ったことではないと強がりながらも、本当は只人の酒を飲むため外へ出る機会を待っていたのだと漏らし、アルナーはその露骨な嘘へ思わず笑い出してしまうのだった。
交易成立と別れ
そこへペイジン・ミが現れ、ナルバント達を鍛冶師として迎え入れたことを祝福した。鍛冶という発展の礎が整った以上、この村は大きく発展すると確信していたのである。
エリーが作成した注文書を確認したペイジンは、満足そうに契約を結び、鬼人族の村へ戻る準備を始める。
同時にキコも帰還の挨拶へ現れ、自分の子供達を信頼して任せると告げた。ディアスは、村の子供達と同じように接すると約束し、キコはそれを聞いて穏やかに微笑む。
市場には大量の物資が積み上がり、犬人族達も満足そうな笑顔を浮かべていた。ようやく皆の努力へ報いることが出来たと感じたディアスだったが、その直後にエリーやナルバント、セナイ達、クラウス達から次々と声を掛けられ、まだ慌ただしい一日が終わっていないことを思い知らされるのだった。
鬼人族の村で――――ゾルグ
大蜥蜴素材の分配
行商人達が去った翌日、ゾルグは自らのユルトで、大蜥蜴の素材を売却して得た金貨銀貨を勘定していた。
イルク村へ返す取り分と、解体作業を手伝った警備班への賃金を細かく分配していき、働きぶりや不正行為の有無まで考慮して配分額を決めていく。
本来であれば素材そのものを分け合う約定であったが、イルク村も警備班も素材より金貨銀貨を望んだため、売却益を割合で分ける形へ落ち着いていたのである。
作業量に対して利益は決して多くなかったが、配下へ十分な報酬を与えられたことで、警備班の面々は以前とは比べ物にならないほど従順になっていた。ゾルグは、自身が警備班長として、そして次代の族長候補としての立場を確かなものに出来たことを実感していた。
モールへの理解と覚悟
報酬を配り歩きながら、ゾルグは族長モールの苦労へ思いを巡らせる。
王国によって家族を奪われながらも、村を守るため耐え続け、怒りに駆られる者達を抑え込み、何十年も隠れ潜みながら生存を優先してきたモール。その末にディアスという大きな縁を掴み取ったのである。
ゾルグは、族長の後を継ぐのであれば、自分もまた同じ覚悟を持たなければならないと強く決意するのだった。
ジュウハによる統治の授業
一方マーハティ領では、エルダンがジュウハから統治と軍事に関する授業を受けていた。
領主制度の必要性、官僚制度、教育、外交、軍事運用に至るまで、卓上の地図と駒を使いながら実践的な議論が交わされていく。
その中でエルダンは、どうしてジュウハが実際の戦場ではなく仮想戦場ばかり扱うのかを尋ねた。するとジュウハは、自分の経験した戦場には必ずディアスが存在しており、授業にならないからだと苦笑する。
ディアスという規格外の存在
ジュウハは、地図上へ他の駒とは比較にならない巨大な香炉を置き、それをディアスに見立てた。
士気低下、撤退戦、砦攻略、補給線破壊、敵将討伐――あらゆる問題はディアスを投入することで解決してしまう。圧倒的不利な状況を何度も単独で覆してきた存在こそがディアスだったのである。
さらにジュウハは、帝国側が行った数々の対策についても語る。
暗殺は野生の勘で察知され、罠は突破され、火計や落石も回避される。毒すら勘で避け、魔法による拘束も通用しなかった。精鋭兵で包囲しても、兵士達はディアスを前に怯えてしまう。
そしてディアスの周囲には、ジュウハ自身を始めとする優秀な人材が集っていた。
その説明を聞いたエルダンは、渋い表情を浮かべながら静かに香炉を地図から取り除く。ディアスという存在そのものが、戦術論を成立させない規格外であることを痛感したのである。
辺境へ向かう男
その頃、細面で冴えない中年男が、一人街道を歩いていた。
彼は忠義を尽くしていたにもかかわらず辺境へ左遷され、さらに第二王子派に利用され続けていた人物であった。しかし、第二王子派が壊滅したことで自由の身となり、今は自らの任地である辺境を目指していた。
多くの者が故郷や王都へ戻る中、その男だけは、国王の命を忠実に果たそうと歩み続けていた。
冬が訪れる前に任地へ辿り着くため、男は静かに歩を進めていくのだった。
倉庫の側で薪割りをしながら――ディアス
地機織り機による村の発展
ナルバント達が村へ来てから五日が経ち、イルク村は以前にも増して賑やかな日々を送っていた。
その理由の一つが、ナルバント達が作った地機織り機である。複雑な木組みで作られたその織り機は、従来よりも簡単かつ素早く、美しい布を織ることが出来た。さらに椅子に座ったまま作業が出来るため足腰への負担も少なく、マヤ婆さん達から大好評を得ていた。村ではカタンカタンという織り機の音が絶え間なく響いていた。
六つ子達の成長
フランシスとフランソワの六つ子達も、村の賑わいの中心となっていた。
小さな身体で生まれたため成長が遅れていた六つ子達だったが、ようやく立ち上がり、ふわふわの産毛を生やし、元気に村中を駆け回るようになっていた。
好奇心旺盛なメーア達は、音や景色に興味を示しては体力の限界まで走り回り、腹いっぱい母乳を飲んで眠り、目覚めればまた走り回るという忙しない日々を送っていた。犬人族の赤ん坊達もまた着実に成長を続けており、近い将来には六つ子達と共に遊び回るようになるだろうとディアスは感じていた。
キノコへの執念と冬支度
犬人族達は冬備えにも今まで以上に力を入れていた。
特にセナイ達が見つけた香り高いキノコに強い執着を見せており、その味を忘れられなかった犬人族達は、防柵の補修や縄張りの警戒を兼ねて頻繁に森へ通っていた。
ディアスから「来年まで採取してはいけない」と厳命されていたため、香りを楽しむだけに留めていたが、その代わり木々に自分達の匂いを付けて縄張りを主張し、侵入した獣は即座に狩って食料としていた。
戦斧と火付け杖への呆れ
薪割りをしていたディアスのもとへ、ナルバントが呆れ顔でやって来る。
ディアスが戦斧を薪割りに使っていることに加え、ベンが火付け杖を竈の火起こしへ使っていることを知り、ナルバントは天罰が下ると大げさに嘆いていた。
しかし地方神殿では防火管理も神官の役目であり、ベンは火の扱いに慣れていたため、工房完成後も火の管理を任される予定となっていた。
魔力無しの血筋
ディアスはナルバントへ、以前作ってもらった魔力対策のお守りについて礼を述べる。その際、ベンもまた魔力を持たない只人であることを聞かされ驚く。
ナルバントによれば、ディアスの一族は純血の只人であり、神殿という特殊な環境でその血筋が守られてきた結果らしかった。
ただし、魔力持ちであるアルナーとの間に子供が出来た場合、その子には魔力が宿ると説明され、ディアスは自分と同じ苦労を子供にさせずに済むと安堵するのだった。
エゼルバルド達の職人魂
そこへエゼルバルドが現れ、織り機をもっと増やして欲しいとナルバントへ訴える。
ナルバントは当初困惑するが、メーア達が自分達の毛を少しでも美しく丈夫な布へ仕立てて欲しいと願っていることを理解し、職人同士として強い共感を抱く。
その熱意を受けたナルバントは、自らの職人魂が再び燃え上がるのを感じ、働きがいのある村だと豪快に笑うのだった。
六つ子達との会話
その後、六つ子達を連れたエリーが現れる。
エリーはメーア達と自然に会話を交わしており、ディアスは改めてメーアの知能の高さへ感心する。人の側で育ったメーアは驚くほど早く言葉を覚え、六つ子達も既に簡単な会話が出来るようになっていたのである。
一方で、自分は未だにメーアの言葉を完全には理解出来ていないことに、ディアスは少し焦りを覚えていた。
エリー渾身の冬服
そしてエリーは、大きな布袋を掲げながら、完成した冬服を披露する。
以前作った山賊のような服装をディアスが警戒すると、エリーはあれは間に合わせだったと激怒し、今回は売り物にも出来るほど真剣に仕立てた完成品だと胸を張る。
そうしてエリーは、自信作である冬服を勢いよく広げて見せるのだった。
冬服を身にまとって、一列になって
冬服の完成と村人達の活気
エリーが作り上げた冬服は、ディアスが想像していた以上に暖かく動きやすい仕上がりとなっていた。
メーアの毛を巧みに使うことで熱を逃さず、さらに王国で培ったエリーの技術と鬼人族独特の柄が合わさることで、他にはない特別な衣服となっていた。ディアス用の服は狩りで汚れることを想定して獣革を縫い付け、部位ごとに着脱可能な構造にすることで、動きやすさと洗いやすさを両立していた。
アルナー用の服は、可愛らしさと作業性を兼ね備えたスカートドレス風に仕立てられ、セナイとアイハンの服は暖かさを最優先しつつ、メーアの尻尾を模した装飾が加えられていた。
冬服量産計画
試着を終えたディアス達から問題ないとの感想を聞いたエリーは、広場へ集まった皆へ向けて、これから村人全員分の冬服を作ると宣言する。
毛量に応じて布の厚みを変えることや、個々の好みに合わせるため要望提出を呼びかけ、さらに冬服と寝間着を冬までに完成させるため、裁縫の手伝いも募集した。
ナルバント達もまた、編み針や縫い針へ工夫を加えられないか話し合いを始め、広場は一気に賑わいを増していった。冬服完成を喜ぶメーア達は歌声を響かせ、村人達も冬への備えへ一層力を入れるようになった。
冬支度の進展
村では乾燥肉や薪が大量に積み上げられ、燃料用に乾燥させた家畜の糞や、保存食用のベリーやキノコ、薬草なども着々と備蓄されていった。
ナルバント達が工夫した編み針や縫い針のおかげで裁縫作業も順調に進み、冬服や寝間着も次々と完成していく。
その間にもガチョウの雛や六つ子達、犬人族の赤ん坊達は成長を続け、イルク村は賑やかで忙しい晩秋を過ごしていた。
道と工房の建設
一方、エルダン達はイルク村へ通じる仮設道路を完成させていた。
森を切り開き、大型の鉄製ローラーで踏み固めたその道は、春になるまで仮設として利用される予定だった。春以降には石畳を敷き、本格的な街道へ発展させる計画も進められていた。
ナルバント達の工房もまた、春までは仮設のユルト型工房として利用されることとなり、村は着実に発展を遂げていた。
冬の始まりと竈場の賑わい
寒さが厳しくなり始めると、毎朝ベンが火付け杖で村中の竈へ火を入れることが日課となった。
ユルトでは鉄枠を用いた簡易暖炉が使われ、火を絶やさぬことが冬を生き抜く上で重要とされていた。アルナーは、身体だけでなく心まで冷やしてしまえば寒さに負けると語っていた。
ディアスが冬服を着込んでいると、フランシス達メーア一家が竈の前へ並び、毛の中へ熱を取り込みながら気持ちよさそうに暖を取る。その様子を見て、ディアスはメーアの賢さを改めて実感していた。
ナルバント達への懸念
朝食後、アルナーはディアスへ、ナルバント達の工房で薪の消費が多すぎることを相談する。
このままでは不足分を「黒水」という悪臭を放つ燃料で補わなければならないという。黒水はランプや暖房用に使えるものの、燃やした際の臭いが酷く、貧しい時以外には使いたくない代物であった。
ディアスは事情を理解し、ナルバント達へ注意するため工房へ向かうことにした。
魔石炉の完成
工房へ到着したディアスは、ナルバント達が巨大な「魔石炉」を作っていたことを知る。
魔石炉とは、モンスターの魔石を燃料として瘴気を浄化しつつ熱を得る特殊な炉であり、本来なら薪を使わず工房を運営出来る予定だった。
しかしディアスは、これまで手に入れた魔石を全て売却してしまっていた。ナルバント達は大きく落胆するが、すぐに魔石を調達するため狩りへ向かう決意を固める。
ナルバントの戦士としての誇り
ディアスと共に北の岩山へ向かったナルバントは、自分達ドワーフ族の戦い方について語る。
重装備を身にまとい、力と耐久力を武器に正面突破するのが彼らの戦法であり、煮え油すら耐える毛皮と体格を活かして、攻城戦では生きた破城槌として戦うのだという。
一方ディアスは、もう戦争には関わりたくなく、平和に村を守っていきたいと本音を語るのだった。
トレントとの戦い
ナルバントは地面の振動や匂いからモンスターの位置を探り当て、ディアスをトレントの群れへ案内する。
冬の荒野で青々と茂る木々の正体がトレントだと見抜いたナルバントは、魔法対策のお守りがあることを確認すると、単身突撃していった。
トレント達の枝による打撃や刺突を全身で受け止めながら、ナルバントは短柄の斧で次々と胴体を粉砕していく。しかし俊敏なトレント達に逃げ回られると苦戦し、ディアスへ助力を求めた。
ディアスは戦斧でトレント達を次々と両断し、最後の一体もナルバントと同時に仕留めることに成功する。
モンスターへの慈悲
戦いを終えたナルバントは、トレント達の葉や木片を集め、火で焼却し始める。
モンスターは瘴気に支配されており、逃げることも許されない哀れな存在だと語り、その瘴気を浄化して自然へ還してやることこそ慈悲なのだと説明する。
ディアスはその考えを聞きながら、散らばった葉を一枚残らず拾い集め、ナルバントと共に浄化作業を進めていくのだった。
一方その頃、イルク村では クラウス
冬服の扱いを学ぶ領兵達
ディアスとナルバントがトレント討伐を行っていた頃、イルク村ではクラウス主導による特別な訓練が行われていた。
領兵達はエリーが支給した冬服を使い、洗濯や手入れの方法を学ばされていた。センジー氏族用には厚手、マスティ氏族用には薄手の生地が使われており、それぞれの身体的特徴に合わせた工夫がされていた。
クラウスは、戦時であっても自分の身の回りのことは自分で行うべきだと説き、清潔を保ち、健康を維持することこそ兵士に必要な資質なのだと教えていた。
ディアス軍の行軍の秘密
カニスは、戦争中に洗濯や食事作りまでしていては行軍速度が落ちるのではないかと疑問を抱く。
それに対しクラウスは、ディアス軍が王国最速級の行軍速度を誇っていた理由こそ、略奪をしなかったことにあると説明した。
略奪は一度始めれば数日単位で停滞を招くが、ディアス軍は金を払って物資を購入し、足りない分は狩りで補っていた。そのため長居が出来ず、結果として常に素早い移動を続けていたのである。
ディアスが兵士達を支えた方法
同じ頃、エルダンもまたジュウハから戦時の話を聞いていた。
エルダンは、略奪を許さずにどうやって兵士達の士気を維持していたのかを尋ねる。するとジュウハは、ディアスが兵士達を心から褒めていたことこそが答えだと語った。
ディアスは嘘をつけない男であり、そんな英雄から心底認められた兵達は、その言葉だけで飢えた心を満たされていた。さらに兵達はディアスのように正しくあろうと振る舞い始め、やがて占領地の民衆からも歓迎される存在となっていった。
その結果、平民出身の兵達は騎士団すら凌ぐ規律と精鋭さを持つ軍へ変貌していったのである。
トレント出現の謎
トレント素材を荷車へ積み込みながら、ディアスは何故トレントが荒野のような場所に居たのか疑問を口にする。
ナルバントは、元々いた森や北の魔境で何かが起こり、居場所を失って移動してきた可能性を挙げた。さらに森に結界が張られていたため、入り込めず荒野へ留まっていたのではないかとも推測する。
しかしディアスは結界そのものを知らず、ナルバントもそれ以上深くは語らなかった。
魔石炉への火入れ
イルク村へ戻ったディアス達は、工房へ運び込んだトレント素材と魔石を使い、魔石炉への火入れ準備を進める。
オーミュンとサナトは慌ただしく作業へ取り掛かり、ナルバントはその様子を満足そうに見守っていた。
その後ナルバントは、ディアスが使っていた鎧を手に取り、その作りの悪さを次々と指摘する。鉄板同士が無駄にぶつかって音を立てる鎧は三級品であり、まともな防具とは言えないと断言した。
ナルバントが語る真の鎧
ナルバントは、自作した鉄靴の一部をディアスへ見せる。
それは薄い鉄板を幾重にも重ね、蛇の腹のように滑らかに動く構造となっていた。鉄板一枚一枚へ刻まれた溝のおかげで、音を立てず柔軟に可動するよう工夫されていたのである。
ナルバントは、蛇や蜥蜴、ドラゴンなどの鱗構造を研究することでこうした防具を作り出したと語り、ディアスの旧式鎧は溶かして一から作り直した方が良いと判断する。
ディアスもそれに納得し、ナルバントの好きなように作り直して構わないと任せるのだった。
冬の訪れ
工房を後にしたディアスが広場へ向かっていると、冷たい風と共に雪が舞い始める。
アルナーの話では、この地方の雪は少しずつ降り積もり、気付けば地面を厚く覆うのだという。
ディアスは雪を払いながらユルトへ戻り、火に当たるフランシス達と、既に編み物や裁縫を始めていたアルナー達の姿を見る。
皆がすでに冬の仕事へ取り掛かっていることを理解したディアスは、自分も家の中で出来る役目を探さなければならないと考えるのだった。
数日が過ぎ、すっかり雪が積もったイルク村で
冬の暮らしとディアスの葛藤
雪が積もり始めたイルク村では、外仕事が減り、編み物や針仕事、薬草の勉強など、冬ならではの仕事が中心となっていた。
一方でディアスは、外で働かずに過ごす生活へ馴染めずにいた。十分な冬備えがあるため無理に働く必要はないとアルナーに言われていたものの、何もせず食事を取ることに強い違和感を覚えていたのである。
そんなディアスの性格を理解していたアルナーは、身体を温める薬草と香辛料を渡し、無理をしない範囲で狩りへ出ることを許可した。さらに冬の狩りでは、繁殖期のメスや群れを守るオスを狩ってはならないこと、一日に狩る数を抑えることなどの掟を教えるのだった。
吹雪の中での狩り
薬草入りの香辛料を口にしたディアスは、その強烈な辛さに思わず悲鳴を上げながらも、身体を温めて狩りへ向かう。
吹雪寸前の悪天候の中、見回りをしていたマスティ氏族長マーフが同行を申し出た。寒冷地出身のマスティ氏族は冬に強く、エリーの冬服も相まって雪中行動を苦にしていなかった。
雪原での狩りは困難を極めた。周囲は一面真っ白で身を隠す場所がなく、獣達も雪の下の草や森の葉を食べて生き延びていた。ディアスは、冬備えが不十分であれば、この雪景色の中で飢え死にしかねないことを改めて実感し、領主として皆を飢えさせない覚悟を強めていく。
雪原で出会った野生のメーア
獲物の痕跡を追っていたマーフは、近くに何かいる気配を察知する。
ディアスが周囲を探ると、雪景色に紛れ込む二頭の白いメーアを発見した。痩せ細ったその姿を見たディアスは、村で共に暮らさないかと穏やかに語りかける。
野生のメーアは、人と暮らすかどうかを自ら選ぶ存在であり、無理に連れ帰ることは許されていなかった。夫と思われるメーアは悩みながらも、ディアス達を見つめ返していた。
黒狼型モンスターとの戦闘
その時、雪原の彼方から黒い影が高速で迫ってくる。
ディアスはマーフへメーア達の護衛を命じ、自ら戦斧を構えて迎え撃った。飛びかかってきた黒狼を一撃で両断するが、後方にはさらに八匹の黒狼が控えていた。
しかし彼らは本来の狼のような連携も狡猾さも持たず、ただ殺意だけで突進してくるだけだった。ディアスはマーフ達との訓練で慣れた動きでもって次々と斬り伏せていき、最後の一匹まで討ち取る。
戦いながらディアスは、この狼達が瘴気に支配されかけた「モンスターになりかけの獣」なのではないかと考えるのだった。
瘴気に負けた狼達
戦闘後、新たな狼の群れが雪原から現れる。
ディアスは警戒するが、その狼達には敵意がなく、ただ死んだ黒狼達を静かに見つめていた。
マーフは、その狼達が冬毛も十分に生えず、痩せ細っていることに気付き、十分な獲物を得られなかったことで群れの仲間が瘴気に負け、モンスター化してしまったのだと推測する。
狼達はディアス達を見つめた後、静かに山へ帰っていった。ディアスは、瘴気へ身を委ねてしまった狼達へ複雑な思いを抱くのだった。
メーア夫婦の決断
狼達が去った後、野生のメーア夫婦は前へ進み出て、覚悟を決めたように力強い声を上げる。
しかし人慣れしておらず言葉も通じないため、その意味を理解することは出来なかった。ディアスとマーフはただ首を傾げながら、真剣な様子のメーア夫婦を見つめ返すことしか出来ないのだった。
一方その頃、イルク村のディアス達のユルトで アルナー
雪原での遭難者発見
ディアスとマーフが野生のメーア達との対話に苦戦していた頃、アルナーはユルトの中で針仕事をしていた。
そこへ犬人族達から、東側で人間族らしき侵入者を発見したとの報告が入る。侵入者は衰弱しており、このままでは雪に埋もれて死んでしまいそうな状態だった。
クラウスが手を離せない状況だったため、アルナーは自ら確認へ向かうことを決め、犬人族達を連れて現場へ急行するのだった。
犬人族達の追跡能力
アルナーは冬服と弓を携え、愛馬カーベランに跨って雪原を進んでいく。
生命感知魔法が雪によって機能しにくい冬場において、犬人族達の嗅覚は極めて頼もしい存在となっていた。雪中でも正確に侵入者の位置を探り当て、奇襲態勢を維持したまま接近していくその姿に、アルナーは改めて犬人族達の有用性を実感する。
やがて犬人族達は雪の中に倒れている男を発見し、アルナーへ合図を送るのだった。
遭難者ヒューバートの救助
倒れていた男はまだ息があり、アルナー達はすぐに救助へ取りかかる。
犬人族達は毛皮で男を包み、自らの体温で温めながら薬湯を飲ませていく。口移しで飲ませるという話まで出たことで、男は必死に薬湯を飲み始めた。
体力を回復した男は、自分の名をヒューバートと名乗る。サンセリフェ王国の文官であり、国王の命令によってディアスを支えるためにやってきたのだと説明した。
アルナーは警戒しつつも、ヒューバートの様子から敵意や悪意は感じ取れず、徐々に態度を軟化させていくのだった。
マーハティ領の変化を知らなかった男
アルナーはヒューバートに対し、なぜ隣領であるマーハティ領へ立ち寄らなかったのかを問いただす。
するとヒューバートは、自分には獣人の血が流れており、旧カスデクス領では差別を受ける危険があったため、人目を避けて荷馬車に隠れて通過したのだと説明した。
しかしアルナーは、現在の隣領はエルダンが治めるマーハティ領であり、獣人と人が共に暮らせる領地へ変わっていることを教える。もし正直に事情を話していれば、馬や護衛まで用意して安全に送り届けてもらえたはずだと言われたヒューバートは、自分の判断ミスに衝撃を受け、そのまま気絶してしまうのだった。
集会所での事情説明
イルク村へ運ばれたヒューバートは、暖かな集会所で目を覚ます。
周囲には犬人族達が寝転がり、エリーが薬を調合していた。アルナーは魂鑑定魔法を使ってヒューバートに悪意がないことを確認し、エリーと共に村の事情やディアスのこれまでの歩みを説明する。
ヒューバートは、人語を理解し会話まで可能なメーアの存在や、幸せそうに暮らす獣人達の姿に大きな衝撃を受けていた。
野生のメーア達との交渉
その頃ディアスは、連れ帰った野生のメーア夫婦と話し合いを続けていた。
しかし彼らはあくまで野生のままでいたいと望み、正式に村の一員となることを拒否する。一方で、冬を越すための食料と寝床だけは提供してほしいと要求していた。
その話を聞いたヒューバートは、それを交易の一種として考えれば良いのではないかと提案する。冬の間の食料と宿を提供する代わりに、メーア毛を対価として受け取れば、将来の交易の予行演習にもなるという考えだった。
その意見にディアスは感心し、メーア達をその条件で受け入れる方針を決める。そして改めて、ヒューバートへ名前と事情を尋ねるのだった。
三日後、毛皮を鞣しながら――ディアス
ヒューバートによる文官業務の整理
ヒューバートと野生のメーア夫婦がイルク村へ来てから三日が経過した。
メーア夫婦は昼間は村周辺で草を探し、余分な毛を刈らせながら過ごし、夜は小さなユルトで静かに休んでいた。村人達とも最低限の挨拶を交わすようになり、その穏やかな態度から徐々に受け入れられていった。
一方ヒューバートは、村中を駆け回りながら情報収集を続けていた。エイマやエリーから記録、教育、商売、倉庫管理などの詳細を聞き取り、それらを正式な文官業務として整理し直そうとしていたのである。
エリーは、現在の村運営は小規模だから成立しているだけであり、今後人口や交易が増えれば、税務や行政管理を担う正式な文官が必要になるとディアスへ説明した。ヒューバートは、その役割を担う存在として働いていたのである。
常識人ヒューバートとディアスのズレ
エリーは、ヒューバートを「常識的な普通の文官」だと評した。
ディアスは自分が常識外れな行動をしている自覚が薄かったが、ヒューバートはすぐに問題点へ気付く。
白ギー二頭を飼育していた件についても、ヒューバートは「将来的な牧畜拡大を見越した試験運用なのではないか」と考え、飼料消費量や牧草量、増頭可能数などを把握する必要性を説いた。
さらに白ギーの雌が妊娠していることまで見抜き、繁殖管理や家畜運営の計画について次々と提案を行う。その勢いにディアスは完全に圧倒され、エリーも早々にその場から逃げ出してしまうのだった。
メーア交易拡大計画
ヒューバートは、野生のメーア達との交易をさらに拡大しようと考える。
食料と宿を提供する代わりにメーア毛を受け取る仕組みを活用し、他の野生メーアも呼び寄せれば交易規模を広げられると判断したのである。
その提案に乗ったメーア夫婦は仲間達へ声をかけ、三日後には五家族十六頭ものメーア達がイルク村へやって来た。
村では急遽メーア用の小型ユルト宿を量産し、増えたメーア達から大量のメーア毛を確保する。そしてナルバント達が作った織り機で布へ加工し、本格的な交易品として準備を進めていくのだった。
交易準備とメーア布経済構想
ヒューバートは交易だけでなく、将来的な経済基盤まで考えていた。
金貨を配っても村人達は財宝のようにしまい込んでしまい、貨幣経済が根付かなかった。そのためヒューバートは、生活に直結するメーア布を労働対価として流通させる方が効果的だと考える。
働けば布が手に入り、その布が服や住居になる。さらに布を売れば金貨銀貨へ変わる。その流れを通じて、徐々に経済感覚を根付かせようとしていたのである。
そして大量のメーア布を積み込んだ荷車が完成し、エリーとマスティ氏族の犬人族達が、初の本格交易へ向けて隣領メラーンガルへ出発するのだった。
メラーンガルの繁栄
メラーンガルへ到着したエリーは、その発展ぶりに驚かされる。
冬でありながら街には活気が溢れ、多くの獣人と人間が協力して働いていた。荷運びや商売も種族ごとの得意分野で役割分担されており、エルダンの統治が極めて上手く機能していることが窺えた。
そこへカマロッツが現れ、エルダンの命令で迎えに来たと告げる。エリーは本来なら自分で市場調査を行いたかったが、領主からの正式な招待を断る訳にもいかず、屋敷へ向かうことを決めるのだった。
変貌したエルダンとの再会
領主屋敷へ到着したエリーは、以前とは別人のように痩せ、鍛え上げられたエルダンの姿を見て驚愕する。
エルダンは、全てはディアスとの出会いと薫陶のおかげだと語り、自身を鍛え直した成果だと説明した。
その後エリーは、メーア布と狼毛皮の商談を持ちかける。エルダンは既にメーア布の価値を理解しており、妻達や有力商人達が強い関心を示していることを明かした。
さらに選び抜かれた獣人商人が品定めを行い、エリーの予想を超える高額を提示する。商人は、メーア布には希少価値があり、現在の価格は決して高すぎないと説明した。
エリーはその誠実さを見抜き、正式に取引を成立させるのだった。
フレイムドラゴン襲来
商談がまとまりかけたその時、鳩人族ゲラントが緊急報告を持ち込む。
北からフレイムドラゴンが飛来し、メーアバダル領へ向かった可能性が高いというのである。
その報告を受けてエルダン達が緊張する中、エリーだけは冷静だった。むしろ素材の売却先について考え始めるほどであり、周囲を驚かせる。
一方イルク村では、ディアスが総力戦の準備を始めていた。イルク村だけでなく、アルナーの一族の弓騎兵まで招集し、村を守るため北東へ打って出る決断を下す。
その理由について問われたエリーは、ディアスが幼い頃から憧れていた「竜殺しの英雄譚」を再現しようとしているのではないかと語る。
黒馬に跨り、仲間達を率いて赤き竜へ挑む英雄譚。その物語への憧れこそが、今のディアスの根底にあるのだとエリーは推測するのだった。
冷気が支配する空を舞い飛びながら――フレイムドラゴン
フレイムドラゴンの南進
瘴気に侵されたフレイムドラゴンは、理性を失いながらも独自の知性を持ち、南進によって草原を瘴気で満たそうとしていた。
過去に何度も邪神達によって進行を阻まれてきたことへ苛立ちを募らせながら空を飛んでいたが、その最中、雪原に奇妙な異変を察知する。
何も存在しないはずの雪上で地吹雪が一直線に巻き上がり、それがドラゴンを挟み込むように動き始めたのである。
鬼人族達による隠蔽奇襲
直後、地吹雪の中から無数の矢が放たれた。
フレイムドラゴンは当初、それらを取るに足らない攻撃だと嘲笑していた。しかし一部の矢は鱗を貫き、翼の付け根や腱へ深い傷を負わせる。
ゾルグ率いる鬼人族達が隠蔽魔法を利用し、雪原に完全に紛れ込んでいたのである。
さらにアルナー、セナイ、アイハンによる背後からの奇襲によって翼の腱が断たれ、フレイムドラゴンは雪原へ墜落するのだった。
メーアワゴンによる突撃作戦
遠方から戦況を見守っていたディアス達は、次の段階へ移行する。
ナルバント達が用意していたのは、「メーアワゴン」と呼ばれる特殊な戦闘用ソリであった。黒ギーの皮や薬草で炎対策を施し、犬人族達が高速で牽引する構造となっていた。
犬人族達が全力でワゴンを牽引し、直前でロープを切断することで、ワゴンだけがフレイムドラゴンへ突撃する。
フレイムドラゴンは炎で迎撃するものの、勢いを止められず、ナルバントとサナトのワゴンが腹と脚へ激突した。
その衝撃で体勢を崩したドラゴンへ、ナルバント達が斧で攻撃を開始する。
ディアスとクラウスの近接戦
ディアスとクラウスもワゴンの後方から突撃し、フレイムドラゴンへ肉薄する。
二人はまず炎を封じるため腹部への集中攻撃を選択した。
ディアスの戦斧は白い腹鱗を砕き、クラウスの槍がその内部へ深々と突き刺さる。二人は連携しながら何度も攻撃を叩き込み、大量の血を流させていく。
しかしフレイムドラゴンは凄まじい再生能力を持っており、傷は驚異的な速度で回復していった。
それでもディアスは、これこそ本物のドラゴンらしい強敵だと感じ、恐怖と同時に高揚感を抱いていた。
激戦と再生能力への苦戦
戦闘が長引くにつれ、ディアス達の体力は消耗していく。
ドラゴンは両腕と翼を振り回し、ディアス達を叩き潰そうと暴れ続けた。ナルバントとサナトも吹き飛ばされるが、それでも立ち上がって再び攻撃を続ける。
さらにドラゴンは再生能力によって腹部や翼の傷を回復させていった。
ディアスは呼吸も限界に近づき、一時は大きな隙を晒してしまう。しかしアルナーとゾルグが敢えて姿を現し、ドラゴンの注意を引き付けたことで、ディアスは立て直す時間を得るのだった。
鬼人族達の総攻撃
アルナーとゾルグへ意識を向けたドラゴンへ、今度は鬼人族達の集中射撃が浴びせられる。
まず両目へ矢が突き刺さり、続いて口内へ大量の矢が撃ち込まれた。鱗に守られていない内部へ矢が突き刺さり、ドラゴンは激痛にもだえる。
さらにセナイとアイハンが放った矢が両翼を貫通し、ドラゴンの機動力を完全に奪った。
その隙を逃さず、ナルバント達は三台目のメーアワゴンで再度突撃する。ワゴンは粉砕されるほどの勢いでドラゴンへ激突し、クラウス達も総攻撃へ加わった。
フレイムドラゴン討伐
体勢を崩したフレイムドラゴンへ、ディアスは全力で突撃する。
倒れたまま炎を吐き散らすドラゴンへ構わず飛び込み、ディアスは戦斧を首へ叩き込んだ。
一撃では断てずとも、何度も同じ箇所へ斧を振り下ろし続ける。
やがて確かな手応えと共に、フレイムドラゴンの首は切断された。
巨大な首は雪上へ転がり、身体も痙攣を残したまま動かなくなる。ついにディアス達は、本物のドラゴン討伐を成し遂げたのである。
戦いの代償
戦闘後、ナルバント達は慌ててディアスを雪へ押し倒す。
ディアスは炎の中へ飛び込んでいたため、両脚に火傷を負っていたのである。幸い、泥が熱を遮断していたことで重傷には至らなかった。
ディアスは痛みに顔を歪めながらも、駆け寄ってくる仲間達へ向けて「私は無事だ」と大声で告げ、両手を振って応えるのだった。
戦いを終えて
フレイムドラゴンの解体開始
討伐されたフレイムドラゴンは、想像より遥かに軽い体をしていた。
アースドラゴンのような重量感はなく、馬と犬人族達だけで容易にイルク村へ運搬できたのである。ナルバントによれば、空を飛ぶ種である以上、そもそも体の構造が違うのだという。
広場へ運び込まれた後、ナルバント、サナト、オーミュンを中心として解体作業が開始された。
アルナーによる火傷の治療
ディアスは広場の隅で、アルナーから火傷の治療を受けていた。
アルナーは馬油を薬として用い、それをメーア毛へ染み込ませて患部へ貼り付ける。馬油は肌荒れだけでなく、火傷や傷にも優れた効能を持つのだという。
処置を受けたディアスの痛みは急速に和らぎ、重傷には至らないと判明した。
ディアスが礼を述べると、アルナーは柔らかな笑顔を浮かべ、宴の準備へ向かっていった。
ゾルグとの分け前交渉
その後ゾルグが現れ、フレイムドラゴン素材の分配について話し合いが行われた。
ディアスはイルク村と鬼人族の村で山分けを提案する。しかしゾルグは、それでは借りを受けすぎるとして拒否した。
命懸けで突撃し、炎の中へ飛び込み、最後に止めを刺したのはディアス達である。鬼人族側としては三割でも十分だというのが総意だった。
さらに、フレイムドラゴン討伐によって草原や野生のメーア達を守れたこと自体が大きな利益だと語る。
ディアスはその言葉を受け入れ、感謝を伝えるのだった。
巨大魔石の発見
翌日、解体作業はさらに進み、胸部から巨大な魔石が取り出された。
その規模はアースドラゴン以上であり、ナルバント達は歓声を上げる。鬼人族にとっては爪や牙の方が重要で、魔石への執着は薄かった。
ディアスは、この魔石を王へ献上すべきか悩み始める。
アースドラゴン討伐時に受けた恩義を思い返し、今回も何らかの礼を返したいと考えたのである。しかしナルバント達の喜びを見ると、丸ごと渡すことにも抵抗があった。
魔石の分割とカマロッツの悲鳴
その悩みを見たアルナーがナルバント達へ事情を伝えると、ナルバントはあっさりと「半分で十分だ」と宣言した。
そしてその場で、巨大な魔石を手斧で真っ二つに割ってしまう。
ちょうどその瞬間、援軍として到着していたカマロッツがその光景を目撃し、「国宝級の魔石が」と絶叫しながら崩れ落ちた。
強行軍で駆けつけたカマロッツだったが、既に戦いは終わっていた。それでも彼は安堵し、解体作業へ参加することになる。
ヒューバートの提案
広場へ現れたヒューバートは、割られた魔石を見て衝撃を受けつつも、冷静に提案を行った。
魔石を王へ送る際、マーハティ公エルダンにも礼としてドラゴン素材を分配し、その代わりに資材・食料・家畜を受け取ってはどうかという内容だった。
さらに交渉自体はエリーへ任せるべきだとも進言する。
ディアスはその考えに納得し、細かな調整をヒューバートへ一任した。
仲間達への信頼
仕事が次々と周囲へ分担されていく様子を見て、ディアスは自分の役目が減っていると呟く。
しかしアルナーは、それは皆を信頼している証だと返した。
ナルバント、エリー、ヒューバートだけでなく、料理を作るアルナー達や、裁縫をするマヤ婆さん達、犬人族達やメーア達に至るまで、ディアスは村の皆を深く信頼していた。
その言葉を聞いたアルナーは嬉しそうに笑い、片付けへ戻っていくのだった。
セナイとアイハンの編み物
一方その頃、セナイとアイハンはユルトの中で編み物に没頭していた。
革刺繍を教わる条件として編み物を学ばされていた二人だったが、次第にその奥深さへ夢中になっていく。
鬼人族式、王国式、洞人式と様々な編み方を吸収した二人は、驚異的な速度で腕を上達させていた。
完成したのは、メーアバダル家の紋章でもあるメーアの横顔模様だった。
六つ子達も大喜びするほど見事な出来栄えに、二人は誇らしげな笑みを浮かべる。そして皆へ見せようと、六つ子達を連れて外へ駆け出していった。
エリーとエルダンの交渉
その頃メラーンガルでは、エリーとエルダンがフレイムドラゴン素材を巡る本格的な交渉を行っていた。
ドラゴン素材は二度と手に入らないかもしれない希少品であり、エリーにとっては商人として腕を振るう絶好の機会だった。
エルダンもまた本気で応戦し、食料や家畜、資材の価格について互いに譲らぬ駆け引きが続く。
その交渉は丸三日にも及び、ようやく全てがまとまるのだった。
王都へ広がる噂
数週間後、王都では「ディアスが再びドラゴンを討伐した」という噂が広まっていた。
さらに、討伐した魔石を再び国王へ献上するという話まで流れ始める。
酒場では、人々がディアスの忠誠心を称賛すると同時に、王位継承争いへの影響を噂し始めていた。
リチャード王子だけでなく、イザベル王女やヘレナ王女までもが、ディアスを取り込もうと動く可能性があるというのである。
その会話を聞いていた酒場の主人もまた、ディアスを巡って貴族達が動き出す危険性を察知し、裏で警戒を強め始めるのだった。
書き下ろし 白雪の日々
積雪の朝にディアス
初雪と白い草原
一晩で雪が積もり、イルク村は真っ白な雪景色に包まれていた。セナイとアイハンは大喜びでディアスを起こし、雪遊びをしようと促した。
ディアスは冬服に着替え、アルナーやフランシス達と共に外へ出た。雪景色の美しさに感動しつつも、空気の冷たさから本格的な冬の到来を実感していた。
雪遊びへの期待
セナイとアイハンは、雪像作りや雪玉遊びをしたいと目を輝かせていた。ディアスは、身支度と朝食、家事を終えた後なら好きに遊んでよいと許可した。
二人はその言葉に大喜びし、家事を勢いよく片付けていった。その結果、昼前には仕事が終わり、ディアス、アルナー、セナイ、アイハン、エイマ、フランシス、フランソワで雪遊びを始めることになった。
エイマの雪遊びの知恵
セナイとアイハンは雪像を作ろうとしたが、さらさらの雪がまとまらず苦戦していた。そこでエイマが、水を使えば雪を固めて運びやすくなると教えた。
寒さに震えるエイマを、セナイとアイハンは感謝しながら襟元へ入れて温めた。エイマはそのまま二人に雪像作りを教え、皆でメーアの像やディアスの像、雪洞を作って楽しんだ。
雪の中の遊びと笑顔
昼食後は雪玉を投げ合いながら追いかけっこをし、セナイとアイハンは頬を赤く染め、汗をかくほど遊び回った。
ディアスは、寒さに負けず元気に遊ぶ二人を見守りながら、病魔も寄り付かない良い子達だと感じていた。
春を呼ぶおまじない
やがてセナイとアイハンは、春を早く呼ぶためのおまじないとして、特別な木を模した雪像を作りたいと言い出した。
二人の両親は、冬を越せない幼木を鉢へ植え、飾り付けをして守ることで、春を呼び、家族や森の健康を祈っていたのだという。適した木がなければ、木材や石、雪で代わりを作る習わしだった。
ディアス達は二人の説明に従い、三角形の木を模した雪像を作り、木彫りの玩具や宝石で飾り付けた。そして干し草で覆い、春の訪れを祈るおまじないを完成させた。
春を願う祈り
完成した雪像を前に、セナイとアイハンは春を待ち遠しそうに語った。草や木が生えてくる春が良いと話す二人の言葉を聞き、フランシスとフランソワは大きな声でメーア達を呼んだ。
村中のメーア達が集まり、六つ子達までユルトから出てきて、それぞれの方法で春への祈りを捧げた。
ディアスも、皆が腹いっぱい草を食べられるようにと改めて祈った。アルナーやセナイ達、エイマ、通りがかった村人達も加わり、イルク村の皆は待ち遠しい春を想いながら、雪像へ長く祈り続けるのだった。
特別書き下ろし。魔法のパン
竈場でセナイとアイハン
魔法のパン作り
雪除けのメーア布に囲まれた竈場で、セナイとアイハンが暖を取っていると、マヤ婆さんが小麦粉袋を持って現れ、魔法のパンを作ると言った。
興味を引かれた二人は手伝いを申し出る。調理台には干しベリー、干しブドウ、干し杏、薬草、バター、砂糖、クルミが並んでおり、セナイとアイハンはそれだけで美味しそうだと期待を膨らませた。
贅沢な生地作り
マヤ婆さんは、小麦粉、水、パン種、バター、少量の砂糖でパン生地を練り始めた。セナイとアイハンも加わり、力を込めて生地を練っていく。
そこへ細かく千切った薬草とさらにバターを混ぜ込み、続いて干し果物とクルミをたっぷり加えた。普段なら叱られそうなほど贅沢な材料の使い方に、二人は焼き上がりへの期待を隠せなかった。
焼き上がっても終わらないパン
生地はパン竈でじっくり焼かれ、ふっくらと香ばしい焼き色をまとった。
セナイとアイハンはすぐ食べられると思ったが、マヤ婆さんは、魔法のパン作りはここからが本番だと止めた。
マヤ婆さんはたっぷりのバターを溶かし、焼き上がったパンをくぐらせる。さらに大量の砂糖をまぶすと、パンは雪を被ったように真っ白になり、甘い香りを漂わせた。
特別な味見
本来は棚の上で何日か寝かせて完成するカビない魔法のパンだったが、マヤ婆さんは手伝ってくれた二人に、少しだけ味見を許した。
セナイとアイハンは嬉しさのあまり言葉を失い、マヤ婆さんのスカートに抱きついた。
やがて切り分けられた端の部分を受け取った二人は、干し果物とクルミ、バターと砂糖の甘さが詰まった魔法のパンを夢中で味わった。まさにその名にふさわしい味であった。
電子書籍特典「冬のメーア達」
イルク村の広場でディアス
暖かな冬の日とメーア達
冬にしては珍しく暖かな空気が流れ込み、雪が緩んで水へと変わった日、イルク村のメーア達は揃って広場へ姿を現していた。
フランシスとフランソワ、その六つ子達、エゼルバルド達、さらには野生のメーア達までが集まり、広場はもこもことした毛並みで埋め尽くされていた。
ディアスはその光景を眺めながら、賑やかな日常への幸福感を覚えていた。
寒がりなメーア達
メーア達は冬になるとユルトへ籠もることが多く、晴れた日でも外へ出ることは少なかった。
寒さに耐えるだけの毛を持ち、雪の中に潜っても平気なほど寒さに強い生き物でありながら、それでも寒いこと自体は大嫌いで、暖かな場所や火の側を好んでいた。
そのため、この季節に元気に駆け回っているのは、生まれたばかりで好奇心旺盛な六つ子達だけだった。
野生のメーアの暮らし
ディアスは、これほど寒がりなメーア達が本当に野生で暮らし続けられるのか疑問を口にした。
すると側にいたエゼルバルドが、地面に地図を描きながら説明を始めた。北の山の麓や南の荒野近くなど、雪が少なく草が残る場所を移動しながら暮らしているのだという。
さらに雪の中へ潜るメーアの絵を描き、雪の中に隠れて敵を避け、雪を食べて水分補給をしながら生き延びていることを伝えた。
その説明を受けたディアスは、野生のメーア達が過酷な環境の中で賢く生きていることを知り、強い感銘を受けた。
冬の避難場所という考え
エゼルバルドは、野生のメーア達を尊敬していると同時に、その暮らしを心配していることも伝えた。そして今後も野生のメーア達を受け入れて欲しいという願いを示した。
ディアスは、冬の間だけでも野生のメーア達が安心して過ごせる場所としてユルトを開放するのも良いかもしれないと考えた。
多くのメーアが来れば毛も得られるが、それ以上に冬を安全に越えられるメーアが増えることを望ましく感じていた。
メーア達への尊敬
ディアスは、メーアが増えれば草地や縄張りを巡る問題も起こるだろうと考えた。しかしエゼルバルドは、メーア達は賢いから平和に解決できると語った。
その言葉を聞いたディアスは、メーアという生き物の強さと賢さを改めて実感し、青空の下で日向ぼっこをする彼らの姿を、深い尊敬の念を抱きながら見つめ続けるのだった。
同シリーズ
領民0人スタートの辺境領主様














その他フィクション

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