物語の概要
本作は、異世界転生と国家運営を融合させたダークファンタジー小説である。主人公・伊良拓斗は、死後に自身が熱中していた戦略級SLG『Eternal Nations』に酷似した異世界へと転生し、邪悪属性文明「マイノグーラ」の王として新たな国家を築く。第5巻では、聖女と魔女による斬首作戦により、英雄である《汚泥の魔女アトゥ》を奪われ、心臓を貫かれ、業火に飲み込まれた拓斗が復活し、単身でレネア神光国へと向かう姿が描かれる。彼の目的は、アトゥを取り戻すこと、そして世界そのものを改変する勝利条件《次元上昇勝利》の達成である。
主要キャラクター
• 伊良拓斗(イラ=タクト):本作の主人公。異世界に転生し、邪悪属性文明「マイノグーラ」の王として国家を運営する。
• アトゥ:タクトの忠実な部下であり、マイノグーラの英雄ユニット「汚泥の魔女」。戦闘能力に優れ、タクトを支える。
• ソアリーナ:レネア神光国の聖女。タクトに対抗する新たな敵として登場する。
• エラキノ:レネア神光国の魔女。ソアリーナと共にタクトに立ち塞がる。
物語の特徴
本作は、異世界転生と国家運営を組み合わせた独自の世界観を持つ。邪悪属性文明「マイノグーラ」を舞台に、主人公が内政や外交、戦争を通じて国家を発展させていく様子が描かれる。特に、ゲームのシステムを活用した戦略的な展開や、個性豊かなキャラクターたちとの関係性が魅力である。また、RPGからの侵略者との戦闘や、異なる理(ルール)で動く敵との対峙など、他の異世界転生作品とは一線を画す要素が含まれている。
書籍情報
異世界黙示録マイノグーラ~破滅の文明で始める世界征服~ 5
英語名:Apocalypse Bringer Mynoghra
著者 : 鹿角フェフ 氏
イラスト: じゅん 氏
出版社:マイクロマガジン社(GCノベルズ)
発売日:2022年6月30日
ISBN:978-4-86716-311-5
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あらすじ・内容
異世界を舞台に探検!拡張!開発!殲滅!大人気ダークファンタジー!
聖女と魔女による斬首作戦によって英雄である《汚泥の魔女アトゥ》を奪われた上、心臓を貫かれ、燃え盛る業火に飲み込まれた拓斗。
一敗地に塗れたかのように思われたマイノグーラであったが……しかし拓斗は滅んではいなかった。
復活した拓斗は単身、レネア神光国――聖女と魔女によって統治される新興国家へと向かう。
アトゥを取り戻すために、そして――?
〈古き聖女の神託書〉に記されし世界の脅威“破滅の王”イラ=タクトの力が今、試される。
感想
戦いの決着と新たなる始まり
本巻では、TRPG勢力との戦いに決着がつき、《汚泥の魔女アトゥ》の奪還が果たされた。
ようやく安堵の瞬間を迎えるかに見えたが、物語は即座に新たな危機へと突入した。
勝利の余韻に浸る間もなく、《破滅の王イラ=タクト》が再び激動の渦中に身を置く展開は、休息を許さない。
個人的には、もう少し平穏な日常描写や、勝利の象徴的演出があればと感じたが、それこそが本作らしい緊迫感とも言える。
群像劇の魅力と世界の広がり
本シリーズは、単なる一国の戦いではなく、多様なプレイヤーや勢力が複雑に絡み合う群像劇である。
今回は特に、敵対勢力であるレネア神光国の内部描写や聖女たちの葛藤が掘り下げられ、マイノグーラの物語に厚みを与えた。
ただし、これほど多層的な構成であるがゆえに、主要人物以外の動向や現地情勢についてもう少しページを割いてほしいと感じた。
模倣と情報操作の恐怖
最大の脅威は、マイノグーラが持つ「模倣」という異能に集約されていた。
人物や感情すら模倣できる存在が、いかに世界を混乱させるかを如実に描いた点は秀逸である。
マイノグーラの正体が明かされるたびに物語は新たな局面に突入し、その都度、読者もまた世界観の再構築を迫られることとなる。
とりわけ、ソアリーナの葛藤やエラキノの最期に至る描写は、戦いが単なる力比べではなく、心理戦でもあることを印象付けた。
苦悩する主人公と失われた記憶
終盤、拓斗が記憶を失い、主導権が《アトゥ》へと移る展開は本巻の中でも特筆すべき転換点であった。
全てを掌握していた彼が突然の限界を迎えることで、物語に大きな揺らぎと不安定さが加わった。
この構造は、次巻以降に向けた伏線として巧妙に機能している。
だがその一方で、あまりに急な展開であるため、読者の心情が置き去りにされた印象も否めない。
新たなる火種と期待される次巻
《幸福なる舌禍ヴィットーリオ》という新たな英雄の登場が予告され、シリーズは再び混沌へと歩を進めた。
悪名高きその存在がどのように物語を撹乱するのか、注視せざるを得ない。
あらゆる手段が正当化されるこの作品の世界観において、次なる脅威は「倫理」そのものかもしれない。
来巻の展開は予測不能でありながらも、確実に読者の期待を煽る内容であることは間違いない。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
イラ=タクト
冷静沈着かつ理知的な性格を持つ本作の主人公である。異世界転生者であり、かつてプレイしていた戦略ゲームの国家マイノグーラを再興している。
・マイノグーラの最高指導者
・レネア神光国への潜入およびアトゥ奪還作戦を単独で実行
アトゥ
タクトの忠臣であり、英雄ユニット《汚泥の魔女》として戦闘能力に秀でた存在である。強制イベントにより一時的に敵勢力に奪われたが、後に奪還された。
・マイノグーラ所属の英雄ユニット
・敵勢力による洗脳と連れ去りの被害に遭う
・奪還後も変化した状態で活動継続中
モルタール
穏やかな語り口とは裏腹に、冷静かつ戦略的な判断を下す賢者である。タクトの側近として情報管理と儀式支援を担っている。
・マイノグーラの呪賢者
・レネア神光国潜入計画において支援役を務めた
ソアリーナ
表向きは慈愛に満ちた聖女だが、実際には残虐な行動も辞さない過激な思想を持つ。エラキノと共に神光国を支配していた。
・レネア神光国の《華葬の聖女》
・アトゥ斬首作戦を主導し、タクトを追い詰めた
・後にタクトの戦略により敗北し、国と共に消滅
フェンネ
ソアリーナに仕える部下であり、聖騎士として忠義を尽くしていた。
・レネア神光国の聖騎士
・アトゥ監禁の補助および城塞防衛を担った
・タクトの戦術に翻弄され、部隊壊滅を経験
エラキノ
冷徹かつ理知的な存在であり、TRPG勢力の代表的キャラクター。魔女として、思考汚染や洗脳を武器に戦う。
・《啜りの魔女》として知られるTRPG勢の支配者
・アトゥ洗脳を実行し、敵の切り札として扱った
・レネア神光国滅亡後に消息を絶ったが、一部の情報で生存が示唆されている
ヴェルデル
忠誠心と信仰に厚い聖騎士であるが、変化した体制との相剋に葛藤を抱いていた人物である。かつての盟友を自らの手で葬るなど、内部的に大きな変化を遂げた。
・レネア神光国の上級聖騎士
・旧友トマスを再会の末に暗殺
・信仰と体制の間で揺れつつ、個人的信念に従い行動した
トマス
穏健な性格を持ち、旧来の友人ヴェルデルに対し警告を与える立場であったが、裏切りにより命を落とした。
・レネア神光国の元聖騎士
・変化した国家への警戒を共有したが、ヴェルデルにより暗殺された
フィヨルド=ヴァイスターク
現体制を支える有力な聖騎士であり、混迷の中でも冷静に情勢判断を下していた人物である。
・聖騎士団の団長
・騎士団内部の秩序維持と事件対応を担う
・日記の聖女リトレインや他聖女との接触において仲介的役割を果たした
キャリア
イラ=タクト直属の部下であり、諜報・欺瞞工作に長けた存在である。タクト不在時には指示系統を代行する立場を担った。
・マイノグーラ所属、双子の一人
・影武者計画においてエムルを任命
・敵勢力への情報撹乱を担う中核メンバー
メアリア
キャリアと共に行動する双子の姉妹であり、戦闘能力と情報操作において重要な役割を担う。
・マイノグーラ所属、双子の一人
・聖女ソアリーナの攻撃を妨害し、都市制圧に貢献
・《疫病感染》《白痴感染》などの能力で敵勢力に甚大な影響を与えた
エムル
慎重かつ内向的な性格であり、ダークエルフとしての誇りと羞恥心を抱える。王の影武者という大役に就いたことで、精神的な葛藤に苦しんだ。周囲との関係に悩みながらも、自身の任務を全うしようと努めた存在である。
・マイノグーラの民、王の影武者に任命された
・特製マスクと衣装で王に扮し、聖女陣営への心理戦に貢献した
・ギアとの衝突や処刑騒動を経て、役目を果たした
リトレイン=ネリム=クオーツ
救世七大聖女の一人であり、幼い少女の外見を持つ聖女である。冷静な振る舞いの裏に複雑な感情を抱き、元養父への執着を残していた。
・クオリア所属、聖王都から派遣された使者
・エル=ナー壊滅の報せと共に現れ、情報共有を行った
・目的はヴェルデルとの再会であり、密会を取り付けた
ヴァギア
強大な魔力を持つ魔女であり、冷酷な手段をもって敵対勢力を滅ぼす存在である。部下と共に精霊契約連合エル=ナーを襲撃し、壊滅させた。
・魔女勢力に所属
・精霊契約連合を配下のサキュバスと共に襲撃
・その戦力と行動により、聖女陣営を戦慄させた
展開まとめ
プロローグ
ドラゴンタンの譲渡と新勢力の襲撃
マイノグーラは、多民族国家フォーンカヴンとの交渉を経て、重要拠点である《龍脈穴》を含む都市ドラゴンタンの譲渡を受けた。同時に軍事同盟も正式に締結し、両国の友好関係は強固なものとなった。しかし、移譲式典の最中に異変が発生し、《華葬の聖女ソアリーナ》《顔伏せの聖女フェンネ》《啜りの魔女エラキノ》ら新たなる敵勢力がマイノグーラを急襲した。
アトゥの洗脳と拓斗の殺害
敵勢力はゲームシステムの恩恵を受けたプレイヤーと、神の国の最大戦力である聖女たちが結託したものであった。マイノグーラはこの予想外の連携に対応できず、《汚泥の魔女アトゥ》が洗脳され、伊良拓斗が殺害されるという致命的な打撃を受けた。特に、ゲームマスターによる行動結果の強制変更という不条理な能力の行使により、マイノグーラは抵抗すら許されなかった。
絶望と復活
国家の中心である拓斗の死により、マイノグーラは瓦解寸前の状態に追い込まれた。拓斗の存在こそが国家の枠組みを維持していたため、彼の喪失はそのまま国家の崩壊を意味していた。しかし、拓斗は生存しており、ダークエルフの賢者モルタール老の前に姿を現した。
復讐の始動
拓斗はこれまでの事態を意に介さぬ様子を見せつつも、己に敵対した者たちに対する怒りと悪意を全身にまとって再び立ち上がった。マイノグーラを破滅させようとした者たちに対する復讐を果たすため、攫われたアトゥを奪還すべく、自ら初めてこの異世界で行動を開始したのである。
第一話 帳
神の国レネアの変貌とヴェルデルの帰還
レネア神光国の変化
聖王国クオリア南方州から独立する形で建国されたレネア神光国は、かつての静謐な雰囲気とは一変し、喧騒に満ちた活気ある宗教国家へと変貌していた。久方ぶりに帰還した上級聖騎士ヴェルデルは、その変化に戸惑いつつも市民からの温かい歓迎を受け、懐かしい知己との再会を喜んだ。
聖騎士団の状況と派閥構造
聖騎士団の本部もまた様変わりしており、旧来の厳粛な施設は、今や喧噪と業務に追われる職場へと姿を変えていた。ヴェルデルは旧友トマスと再会し、南方州での大きな変革と権力構造の変化を知らされた。新国家の誕生と共に、不正を働いていた聖職者たちへの断罪が進み、フィヨルド団長と華葬の聖女ソアリーナの友人であるエラキノが裁定の中心を担っていた。
信念と忠告の交差
ヴェルデルはかつての誓いを思い出しながらも、友人トマスの忠告を受け、変化した国家に対する警戒心を深めていた。自身の信念と体制の乖離を感じながらも、信仰を捨てず剣を手放さないという決意を語った。
裏切りと暗殺
しかし、その対話は策略の一環であった。ヴェルデルは突如としてトマスを暗殺し、剣を突き立てた。トマスはかつての盟友の裏切りに戸惑いながら命を落とし、彼の死は誰にも知られぬまま処理された。
死体の発見と不可解な状況
その後、神の街アムリタの路地裏で、炭化し損壊された聖騎士の遺体が発見された。検視により炎と刃物による凄惨な殺害が明らかになったが、身元の特定には至らなかった。フィヨルド団長はこの異常な事件に強い警戒を示し、大聖堂への報告を決意した。
不安と神への問い
かつての盟友を手にかけたヴェルデルの真意は語られず、国家は一つの聖騎士を失った。聖女による支配と神への信仰が交錯する中、国家は新たな危機と混沌へ向かって歩み出していた。フィヨルドは祈りの中で、神の導きとこの事態の意味を求めていた。
聖騎士団内部の動揺と調査の始動
フィヨルドは騎士団員が何者かに殺害された事件を聖女フェンネに報告し、街の警備強化と聖女の護衛強化を決定した。ソアリーナは不在であったが、エラキノも会合に参加し、事件の深刻さに関心を示した。フェンネは騎士団の混乱や犠牲者の不明確さを憂慮したが、フィヨルドは団員の尊厳を守るため、聖騎士団内部での解決を望んだ。
エラキノの提案とフィヨルドの拒絶
エラキノは得意とする調査能力を活かし、事件の真相を解明しようと申し出た。しかしフィヨルドは、聖騎士団としての誇りと責任から外部の力に頼ることを拒否した。これに対しフェンネも理解を示し、フィヨルドの決意を尊重する姿勢を見せた。
記録の混乱と神聖国家の脆さ
聖騎士団は改革期の混乱により、団員の配置や任務状況すら把握できていなかった。これは過去に行われた聖職者の粛清による人員減少と、制度改革の影響によるものであった。国家の理想を追うあまり、実務面の不備が多発していたのである。
フィヨルドの信念と誇り
フィヨルドは仲間を守り、神に対する責務を果たすことこそが聖騎士団の務めと信じていた。事件の解決には聖騎士団自身の手で臨むべきとし、エラキノの助力を断った。彼の真摯な姿勢にフェンネも賛同したが、エラキノは困惑しつつも理解を示した。
フェンネの説得とGMの決断
フェンネは冷静な判断から、リスク回避のために真実の把握を優先すべきと考え、エラキノに《占い》による情報開示を依頼した。エラキノは葛藤の末に要請を受け入れ、ゲームマスターの力で真実を知ろうとした。
《占い》による意外な結果
エラキノが行使した《占い》は成功したものの、犯人も被害者も「不明」という結果が示された。この結果は関係者に大きな衝撃を与えた。エラキノは事態の深刻さを悟りつつも、マスターに問いかけるも答えは変わらなかった。
疑念と不安の広がり
フェンネは冷静に危機の本質を見極めようとし、エラキノに再度依頼を行った。表向きは自身の欲求であるとしつつ、実際には国家と仲間の安全のための選択であった。エラキノは納得できぬままも、その願いを受け入れ、協力の意志を固めた。
闇の深淵と未来への兆し
最終的に、神の如き力をもってしても明らかにできぬ真相が浮かび上がり、レネア神光国に迫る新たなる闇の存在が暗示された。謎が謎を呼び、今後の展開にさらなる緊張をもたらす幕引きとなった。
第二話 真と偽
混乱と会議の開始
レネア神光国が聖騎士団員殺害事件により動揺を見せるなか、マイノグーラもまた危機の只中にあった。王イラ=タクトと英雄アトゥが不在の状況下、統治の代理を命じられたエルフール姉妹キャリアとメアリアは、モルタール老らダークエルフ上層部が機能不全に陥る中、国家運営の会議を主導した。彼女たちの行動は年齢に不相応な責任を背負うものであったが、それを果たすべく冷静に任務を遂行していた。
情報操作と民衆の掌握
ダークエルフたちは情報操作に長けており、中央広場での事件を「不審火」として処理し、王とアトゥの不在を覆い隠した。都市ドラゴンタンの治安維持にはブレインイーターの存在が寄与し、外見上は平穏が保たれていた。しかし、双子たちは国家の要職者に対して虚偽の情報を与えながら指揮をとるという、情報戦を織り交ぜた冷徹な采配を展開していた。
同盟国との交渉と戦争の兆し
マイノグーラは同盟国フォーンカヴンとの信頼維持にも配慮していた。聖女たちの属する「クオリア(現在のレネア神光国)」との戦争が不可避であると判断され、国家間の連携と軍事的な準備が急務となった。キャリアはフォーンカヴンへの事前説明や譲歩の構えも見せ、外交的な戦略を展開した。
タクトの動向と欺瞞
双子の姉妹はイラ=タクトの安否や行動に関しても会議出席者に虚偽の説明を行った。タクトが聖女の拠点である旧南方州に潜入していることや、敵が法外な能力を持ち、アトゥを洗脳して連れ去ったことなどの真偽不明な情報が交錯した。キャリアはあえて誤情報を流布させ、敵への防諜を徹底しようとしていた。
精神的な揺らぎと欺瞞の芝居
ダークエルフたちは精神的な動揺により正常な判断力を欠き、キャリアとメアリアの芝居に容易く騙された。彼らは王の慈悲に感涙し、自責の念に駆られていたが、そのすべてが演出された嘘であった。双子は冷徹に状況を操りながらも、敵の不確定要素に最大限の警戒を払っていた。
真偽の交錯と王の行動
混乱と会議の開始
レネア神光国が聖騎士団員殺害事件により動揺を見せるなか、マイノグーラもまた危機の只中にあった。王イラ=タクトと英雄アトゥが不在の状況下、統治の代理を命じられたエルフール姉妹キャリアとメアリアは、モルタール老らダークエルフ上層部が機能不全に陥る中、国家運営の会議を主導した。彼女たちの行動は年齢に不相応な責任を背負うものであったが、それを果たすべく冷静に任務を遂行していた。
情報操作と民衆の掌握
ダークエルフたちは情報操作に長けており、中央広場での事件を「不審火」として処理し、王とアトゥの不在を覆い隠した。都市ドラゴンタンの治安維持にはブレインイーターの存在が寄与し、外見上は平穏が保たれていた。しかし、双子たちは国家の要職者に対して虚偽の情報を与えながら指揮をとるという、情報戦を織り交ぜた冷徹な采配を展開していた。
同盟国との交渉と戦争の兆し
マイノグーラは同盟国フォーンカヴンとの信頼維持にも配慮していた。聖女たちの属する「クオリア(現在のレネア神光国)」との戦争が不可避であると判断され、国家間の連携と軍事的な準備が急務となった。キャリアはフォーンカヴンへの事前説明や譲歩の構えも見せ、外交的な戦略を展開した。
タクトの動向と欺瞞
双子の姉妹はイラ=タクトの安否や行動に関しても会議出席者に虚偽の説明を行った。タクトが聖女の拠点である旧南方州に潜入していることや、敵が法外な能力を持ち、アトゥを洗脳して連れ去ったことなどの真偽不明な情報が交錯した。キャリアはあえて誤情報を流布させ、敵への防諜を徹底しようとしていた。
精神的な揺らぎと欺瞞の芝居
ダークエルフたちは精神的な動揺により正常な判断力を欠き、キャリアとメアリアの芝居に容易く騙された。彼らは王の慈悲に感涙し、自責の念に駆られていたが、そのすべてが演出された嘘であった。双子は冷徹に状況を操りながらも、敵の不確定要素に最大限の警戒を払っていた。
真偽の交錯と王の行動
本当の情報はイラ=タクトただ一人しか知らない。キャリアたちはその命を受けて情報の撹乱に徹し、真実を封じた。敵の力が情報を引き出す可能性を考慮し、すべての言動に欺瞞を仕込む必要があった。誰が敵で、誰が味方かすら定かではない中、マイノグーラの未来は王の一手に託された状態であった。双子の少女はその重圧と孤独を噛みしめながら、偽りを演じ続けるしかなかった。
本当の情報はイラ=タクトただ一人しか知らない。キャリアたちはその命を受けて情報の撹乱に徹し、真実を封じた。敵の力が情報を引き出す可能性を考慮し、すべての言動に欺瞞を仕込む必要があった。誰が敵で、誰が味方かすら定かではない中、マイノグーラの未来は王の一手に託された状態であった。双子の少女はその重圧と孤独を噛みしめながら、偽りを演じ続けるしかなかった。
閑話 変装
偽王の作戦とエムルの苦悩
情報戦の構想と聖女陣営への揺さぶり
エルフール姉妹は、イラ=タクトの不在を逆手に取った情報戦を構築し、聖女たちを混乱させる作戦を実行に移した。表向きには国内外に王が健在であると示すことが目的であったが、実際には敵勢力である聖女陣営の動揺を狙った心理戦であった。この計画は、王が生きているという偽情報を流すことで、彼女たちの行動に迷いを生じさせようとするものである。
影武者としてのエムルの任命
王の姿が確認されないことに対して懸念が上がる中、キャリアは代役としてエムルを任命した。外見や体格が王と似ていたエムルは、王の衣装を身にまとい、特製のマスクで顔を隠すことで影武者としての体裁を整えた。視線を合わせることがタブーとされる王の特性も利用し、姿を見せるだけでその役割を果たせるように工夫が施された。
周囲の反応とエムルの葛藤
エムルは、自身が王の代役を務めることへの不安とプレッシャーから混乱し、しばしば周囲に助けを求めた。ギアやモルタール老といった長老たちはその姿勢に苦言を呈し、特にギアは失言によってエムルの怒りを買い、処刑を望まれるほどの騒ぎとなった。エムルはダークエルフとしての誇りや羞恥心に加え、王への敬意と畏怖が交錯する中で、自らの任務に苦しんでいた。
声の違いとタクトの性格を利用した解決
エムルは声の違いが露見することを恐れていたが、キャリアは「王は知らない者とは話さない」というタクトの性格を利用し、その懸念を払拭した。この一言がすべての問題を解決し、会議はやや締まりのない空気を残しながらも無事に終結を迎えた。
第三話 乙女覚醒
フェンネたちの疑念と捜査の行き詰まり
聖女フェンネとフィヨルドたちは、国内で発生している聖騎士団員殺害事件の捜査に苦慮していた。GM(ゲームマスター)の権限でフィヨルドの潔白が確認されたものの、真相は掴めず、事件の犯人や被害者すら特定できなかった。聖女たちは事態の深刻さを認識し、自らの能力を総動員して真実に迫ろうとしたが、すべて徒労に終わった。
マイノグーラの脅威と再浮上するタクトの存在
国内が混乱する中、破滅の王イラ=タクトの生存の可能性が浮上する。ソアリーナとエラキノがその調査に当たるが、情報の隠蔽やシステム的な干渉により真実に辿り着けなかった。やがてGMはこの世界が異なるゲームの影響下にあると明かし、神託書に記された終末の予言と重ねて事態の深刻さを聖女たちに伝えた。
アトゥの洗脳と情報聴取
アトゥはエラキノの《啜り》の能力により聖女陣営へと引き込まれた。すでに忠誠心は失われ、イラ=タクトへの強い愛情を語る一方、マイノグーラの情報提供にも応じた。アトゥはイラ=タクトが生存していると確信しており、その根拠は個人的な信頼とゲームシステムにおける国家の存続に基づいていた。
イラ=タクトの戦略的脅威
アトゥは、マイノグーラが存在している限りイラ=タクトもまた生存していると語り、さらにこの世界に《幸福なる舌禍ヴィットーリオ》という英雄が存在する可能性を指摘した。彼の能力は情報操作や国家扇動に優れており、現状の混乱にも関与していると推測された。
聖女陣営の危機感とアトゥの忠告
アトゥは、エラキノたちの楽観主義を非難し、敵がすでに目前に迫っていることを警告した。聖女陣営に生存の道があるとすれば、降伏しかないと断言し、自分が唯一の助けになり得ると誇示した。
不安と警戒
聖女たちが敵の策略に後れを取っていることが浮き彫りとなる。イラ=タクトの復活が事実であれば、自分たちの存在基盤すら揺らぐことになると理解し、今後の対応に厳重な警戒が求められる状況で物語は幕を閉じた。アトゥはなおも忠誠と愛を語り続け、彼女の情報が真実なのか妄想なのかの境界線が曖昧なまま、状況は一層混迷を深めた。
第四話 火事場泥棒
正統大陸と暗黒大陸の境界に現れた異変
レネア神光国の南端、暗黒大陸との接続地域において未知の魔物が出現し、村落の住民や行商人からの陳情が殺到した。対応に追われた聖騎士たちは急遽討伐隊を編成し、現地に向かったが、魔物の異形とその危険性は想像を超えるものであった。
フォーンカヴンとの偶発的遭遇と協力の模索
討伐の場に現れたフォーンカヴン軍は、聖騎士団と同じく魔物討伐のために派遣されたと主張し、少年指導者ペペの積極的な交渉姿勢によって、非公式ながら共闘の機運が高まった。しかし、レネアの上級聖騎士たちは外交権限の不在と宗教的対立への懸念から、協力体制を明言することを避けた。
魔物との戦闘と即席の共闘体制
議論の最中、魔物の襲撃により事態は急変し、両勢力はやむなく共闘して魔物に立ち向かうこととなった。聖騎士たちは神の加護と信仰をもって、フォーンカヴン兵は未知の杖状兵器を用いて応戦し、現場は混戦を極めた。
フォーンカヴンの独断進軍と指導層の衝突
戦後、フォーンカヴンは暗黒大陸の要地からレネア領土南端への進軍を進めていた。その行動は少年ペペの独断であり、トヌカポリら指導者はその軽率さと危険性を激しく非難した。しかしペペはイラ=タクト本人からの黙認を得たと主張し、その進軍の正当性を主張した。
明かされる政治的背景とレネア崩壊の兆し
ペペの軽い口ぶりに隠された真意を探る中、トヌカポリはマイノグーラからの情報と過去の事件を総合し、暗黒大陸と正統大陸の接続地域が破滅の王の計略の中心であることに気づいた。すなわち、クオリアから分裂した新興国レネアは既に破滅の道を辿っており、フォーンカヴンの進軍はその事後処理を見越した布石であった。
緊迫の予感
ペペは、レネア神光国が「文字どおり」近く崩壊することを予告した。これにより、両大陸の中心地帯で勃発した異変が、聖なる国々すら巻き込む大戦争の引き金となる未来が浮かび上がった。フォーンカヴン、マイノグーラ、そして破滅の王イラ=タクトの意思が交錯する中、世界は新たな局面を迎えようとしていた。
第五話 怪人
レネア神光国と聖騎士団の動揺
騎士団長フィヨルドの苦悩と殺害事件の進行
レネア神光国聖騎士団の団長であるフィヨルド=ヴァイスタークは、部下の報告に憔悴した様子で耳を傾けていた。南方州の治安は悪化し、聖騎士団員の連続殺害事件が止まらず、情報の欠如が捜査の障害となっていた。団員たちの死体は毎回焼き尽くされており、痕跡や目撃者は皆無であった。神の戦士たちが次々に倒される中、聖騎士団は無力さを突きつけられていた。
神の敵意と違和感
フィヨルドは繰り返される被害に苛立ちを募らせ、神への祈りを求めて席を立った。だが彼の心には、破滅の王イラ=タクトの存在に関する密かな情報があった。タクトが関与している可能性がある以上、事件の背後には常識を超える脅威があると理解していた。捜査が進展せず、仲間が焼かれていく中で、フィヨルドは焦燥感に包まれていた。
聖王都クオリアからの使者の訪問
フィヨルドの休息中、聖王都クオリアからの使者の来訪が告げられた。騎士団員たちは緊張し、来訪者の名が告げられると場が騒然とした。その人物は《日記の聖女リトレイン=ネリム=クオーツ》であり、聖女の訪問は重大な局面の始まりを示唆していた。騎士団員たちはレネアの離脱問題や、内情が漏れる危険性に強い警戒感を抱いていた。
聖女との対話とエル=ナー陥落の報せ
リトレインは幼い少女のような外見ながらも、救世七大聖女の一人であった。彼女は依代の聖女の命を受けて精霊契約連合エル=ナーの壊滅を報せに来たという。襲撃者は《魔女ヴァギア》およびその配下のサキュバスであった。この情報により、フィヨルドはレネアも戦火に巻き込まれる可能性を悟り、対応を再考せざるを得なくなった。
聖女の個人的目的とヴェルデルの消息
リトレインの真の目的は、元養父である聖騎士ヴェルデルに会うことであった。フィヨルドはその事情を理解し、密会を手配することを了承した。表立った接触は避けるべきとの配慮から、面会は人目を避けて行う手はずとなった。リトレインは神の祝福を受けた代償として、父への執着を残していた可能性があると、フィヨルドは推察していた。
聖女との協力と介入回避の狙い
フィヨルドはリトレインの関心をヴェルデルに向けることで、クオリアの過剰な介入を防ぐ意図を持っていた。彼女に余計な情報を与えず、父親への再会の希望だけを持たせておくことがレネアにとっても最善と判断したのである。リトレインの問いかけに、フィヨルドは神の存在を肯定し、彼女を安心させることで対話を終えた。
第六話 閃き
レネア神光国の機能不全とアトゥの現状
レネア神光国では国家中枢が機能不全に陥っていたが、アトゥはそれを他人事のように捉え、与えられた個室で怠惰な生活を送っていた。マイノグーラの副官という地位から離れた彼女は、現在ではTRPG勢力のNPCとして扱われており、誰からも行動を咎められない立場であった。しかし、その無為な日々のなかでも、イラ=タクトの行動には関心を持ち続け、事件の背後にある彼の意図を推測しようとしていた。
レネア上層部の混乱とアトゥの洞察
国家中枢である聖アムリターテ大教会の統制は崩れており、聖女ソアリーナとフェンネの対立、魔女エラキノの優柔不断、実働部隊フィヨルドの孤立など、組織としての意思統一が不在であった。アトゥはこの状況を危機的と捉えつつも、自身の自由な立場を満喫していた。また、かつて主君であった拓斗の意図を推し量りながら、自らの裏切り行為に対する不安に苛まれはじめた。
洗脳の影響とアトゥの心理的動揺
アトゥは、GMの権能によってレネアに所属しているが、拓斗を裏切ったという罪悪感から心理的に不安定な状態にあった。彼女は拓斗を模した人形と対話することで思考を整理しようとしたが、その結果として、自分が主君から見放される可能性を想起し、感情的な動揺を露わにした。その一方で、敵として拓斗と対峙した場合には、殺意を向けられる可能性すらあるという自覚も持っていた。
忘却されていた記憶と《閃き》判定
拓斗の目的や事件の背後にある真実を解き明かす手段がないと悟ったアトゥは、自身が持つTRPGシステムの一要素《閃き》を使うことを思いつき、ダイスを振って記憶を呼び戻そうとした。判定は成功し、彼女は長く忘れていた、致命的な内容を思い出した。それは、拓斗の本質に関わる重大な情報であった。
ソアリーナとフィヨルドの密談
一方、聖女ソアリーナは、大教会地下の資料室で聖騎士団長フィヨルドから内密の相談を持ちかけられていた。彼の態度は普段とは一変しており、強い緊迫感が漂っていた。フィヨルドはフェンネやエラキノを交えずに話したいと語り、その内容の重大さを暗示していた。ソアリーナは混乱しながらも、彼の要望に応じるほかなかった。
第七話 号令
謎に満ちた復活と再会
雨が降る夜、モルタール老はイラ=タクトの不可解な生還に関する問いを考察していた。タクトは死亡に至る攻撃を受けたにもかかわらず、第三者の介入なく奇跡的に生き延びていた。そこへ突如現れた当人は、魔法による移動で戻ったとだけ語り、再会を果たした配下たちと短い応答を交わした。
統治体制の維持と戦備の整備
タクトは、国内の秩序維持と市民の情報統制が問題なく行われていることを確認した。都市防衛の準備も整っており、ギアが指揮する武装ダークエルフ銃士団や王直属の魔物も即応可能な状態であった。双子の魔女姉妹を中心に、彼の不在時にも体制は維持されていた。
敵勢力の正体と脅威の開示
タクトは、レネア神光国を支援する敵勢力の正体が「テーブルトークRPG」の権能を持つ存在であると明かした。彼らは運命を支配するダイス判定により全てを制御し、さらに《裁定者》という特権を用いて判定結果を自在に改変していた。これにより、マイノグーラの攻撃は無効化され、アトゥすら奪われる結果となっていた。
アトゥの安否と戦略の核心
奪われたアトゥの消息について、タクトは彼女が敵陣で悠々と暮らしていたと語った。自由奔放な様子に皆は驚きつつも安堵したが、洗脳によって敵側に立っている可能性を憂慮した。タクトは今回の戦略の第一目標をアトゥの奪還、次いで敵幹部の撃破と位置付けた。
対抗手段と作戦名の発表
《裁定者》の能力には欠点が存在し、タクトはその隙を突く手段を得ていた。準備を完了したタクトは、国内には敵対国・レネア神光国の殲滅という指令を下した。そして作戦名を「神光国斬首作戦」とし、自らも敵中に乗り込んでアトゥ奪還と敵首魁撃破に臨む決意を表明した。
第八話 急変
日常の混乱と偽造命令書の発覚
聖アムリターテ大教会の一室にて、アトゥは整理された書類の束を荒らし回り、混乱を引き起こしていた。怯えるシスターの制止を無視し、彼女は明確な目的を持っていた。駆け付けたフェンネはその態度に違和感を覚え、アトゥの問いかけにより自身のアイデンティティに疑念を抱かされる。続いて現れたエラキノも巻き込み、三者は部屋にある命令書類の不自然さに気づいた。それらの文書には本人の記憶にない命令が含まれており、何者かの手による改ざんが疑われた。
文書改ざんの目的と組織の脆弱性
アトゥの指摘により、命令書の矛盾が明らかとなり、内部情報の漏洩や操作の疑いが浮上した。フェンネとエラキノは多忙と職務分担により不正を見逃していた。書類には指揮系統を分断する意図が見られ、彼女たちの連携を阻害するよう設計されていた。アトゥはこれを破滅の王イラ=タクトの策と推測し、警戒を強化する必要性を訴えた。
ソアリーナの失踪と深まる恐怖
混乱の中、ソアリーナの所在が不明であることが判明した。エラキノのGMへの問い合わせにより、ソアリーナがイベント再生中であることが告げられる。これは過去にイスラを失った事件と同様の状況を示していた。アトゥはこの事態が名も無き邪神、すなわちプレイヤー神である破滅の王によるものであると断定した。
聖騎士の証言と旧大教会跡地の危機
ゲームマスターの権限により召喚された聖騎士の証言から、ソアリーナが騎士団長と共に旧大教会跡地にいることが判明した。それはすでに使われなくなった朽ちた建物であり、密談や陰謀に最適な場であった。一同は、破滅の王の手がすでにそこへ及んでいることを理解し、即座に行動を開始する決意を固めた。
覚悟と対決への移行
アトゥ、フェンネ、エラキノはそれぞれの立場と能力を再確認し、戦いに備えた。敵が《名も無き邪神》であり、世界の理すら操る存在であることを再認識した三人は、すでに戦場に立つ覚悟を決めていた。次なる戦いは、ただの戦闘ではなく、世界の構造そのものを揺るがす次元のものであることが示唆されていた。
第九話 名も無き
汚泥の魔女たちの奔走
アトゥ、エラキノ、フェンネの三名は、都市内を駆けながら《名も無き邪神》の恐るべき能力と正体に辿り着いていた。《完全模倣》という権能により、イラ=タクトは他者の存在を完全に模倣し、情報そのものを書き換えることが可能であった。彼はかつて討滅されたはずのブレイブクエスタス魔王軍のイベントを模倣し、事実を捻じ曲げて暗躍していた。
偽ソアリーナとの邂逅
廃れた礼拝堂にて、三人は聖女ソアリーナの姿をした存在と対峙した。倒れている聖騎士フィヨルドの姿が、事態の異常性を物語っていた。エラキノは動揺し駆け寄るが、偽ソアリーナの正体はイラ=タクトであり、罠にかかったエラキノは重傷を負う。間一髪のところでフェンネ、アトゥ、そしてGMの援護により救出される。
偽者と本物の対比
混乱の中、アトゥの提案により、GMが本物のソアリーナを召喚。事情を把握したソアリーナは衝撃を受け、イラ=タクトが模倣していたのが自分であると理解する。さらにフェンネに成りすました偽者により、彼女が遠ざけられていた事実も明らかとなった。
精神戦と模倣の恐怖
イラ=タクトは、アトゥに対しかつての忠誠を讃えながらも、敵として迎えると宣言。アトゥは過去の感情に苦悩しつつも、完全に敵対する決意を表明した。彼の模倣は外見だけではなく、言動、振る舞い、心理までも模写しており、周囲の判断を惑わせ続けた。
所属の強制変化と絶望
エラキノは、自身の《啜り》の能力によってアトゥの所属が完全に変更されたことを告げる。この能力は洗脳ではなく、根本から存在を塗り替えるものであり、通常の手段では復帰不可能であった。そのことにイラ=タクトが反応を見せたことで、初めてその精神に揺らぎが生じた。
騎士団長フィヨルドの復活と戦局の変化
イラ=タクトが殺害した騎士団長フィヨルドは、GMの権限によって復活し、事態を把握したのち撤退する。聖騎士団の再編成が進み、イラ=タクトの用意周到な策略は無に帰した。彼は事実上の敗北を認識しながらも、嘲笑を止めることはなかった。
停止宣言と急襲
予想を裏切り、イラ=タクトは“セッションの一時中断”を宣言。これにより全参加者の行動が凍結される。アトゥとエラキノはただちに再警戒するが、すでに彼の姿はその場から消えていた。そして、次の瞬間、崩れた天井を突き破り無数の触手が降り注ぎ、新たな戦闘が始まった。戦いの幕は、なお開かれたままであった。
第十話 挨拶
襲撃とセッション中断
破滅の王イラ=タクトは、神聖国家レネアの聖地に襲撃を仕掛け、模倣能力により《汚泥のアトゥ》として戦場に顕現した。これに対し、本物のアトゥやソアリーナ、フェンネたちは迎撃を試みた。タクトはテーブルトークRPGのルールを逆手に取り、「セッション中断」によって敵の《ゲームマスター(GM)》の能力を封じる作戦を展開した。だが、その行動はペナルティのリスクを伴う諸刃の剣であり、理由なき中断として制裁を受ける可能性があった。
アトゥの動揺と正体の揺らぎ
イラ=タクトはアトゥに対して心理的揺さぶりをかけ、自身が“伊良拓斗”ではなく、最初から《名も無き邪神》が操る存在だったのではないかと示唆した。これによりアトゥは激しく動揺し、戦闘能力の低下を招いた。タクトの言葉によってアトゥの信念は崩壊し、精神的に追い詰められることとなった。
ソアリーナの決意と聖騎士団の参戦
混乱の中、フィヨルド団長率いる聖騎士団が到着し、タクトに立ち向かう意志を示した。しかし、タクトは今度は《華葬の聖女ソアリーナ》に擬態し、さらなる混乱をもたらした。聖騎士たちは偽物の見分けがつかず混乱するが、本物のソアリーナが命を賭して戦うことで打開を図った。
勝利と炎魔人フレマインの出現
本物のソアリーナは、模倣された自分との一騎打ちに挑み、タクトに致命的な一撃を加え、勝利を収めたかに見えた。しかし直後、炎の中からタクトは《炎魔人フレマイン》として復活し、聖騎士団に壊滅的な打撃を与えた。彼の模倣能力は炎属性の吸収により自己再生を果たすものであり、アトゥたちの予想を上回る存在であった。
アイスロックへの変化と召喚
アトゥは先手を取りフレマインに攻撃を仕掛けたが、タクトは即座に《氷将軍アイスロック》へと変貌し、優先行動として仲間の召喚を発動した。《足長蟲》《首刈り蟲》《ブレインイーター》《ダークエルフ銃士団》《暗殺者ギア》《呪賢者モルタール》《エルフール姉妹》といった破滅の軍勢が一挙に呼び出され、聖地レネアは地獄絵図と化した。
絶望の始まり
その狂宴の中、破滅の王の圧倒的な模倣能力と情報戦術により、敵対勢力は完全に後手に回った。イラ=タクトは知識と経験、そして冷酷さを武器に、世界そのものを侵食する存在として今なお君臨している。彼の目的は未だ明かされていないが、その手腕は確実に世界を絶望へと導いていた。
第十一話 決着
街での戦闘と闇の軍勢の襲来
タクトは氷塊の怪人と化し、能力を行使すると同時に闇の勢力を顕現させた。双子の魔女が登場し、聖騎士たちは直感的に彼女らが危険な存在であると悟った。エルフール姉妹はミニガンを手に無差別に聖騎士たちを薙ぎ倒し、戦場を地獄絵図と化した。ギア率いる銃士団が散開し、アトゥの触手攻撃を阻止した。
破滅の大地と戦場の変質
モルタール老が《破滅の大地》を発動し、大地を腐敗させ、空気を毒に染めた。その影響で聖属性の能力が減退し、マイノグーラ側の戦力が一方的に増強された。アトゥは仲間を守りつつ応戦するが、力を制限されて苦戦した。
邪神の召喚と戦力の逆転
タクトの召喚によって《全ての蟲の女王イスラ》が出現し、昆虫型ユニットの戦闘力が強化された。マイノグーラの軍勢は足長蟲、首刈り蟲、ブレインイーターなど多種多様な異形で構成されており、神聖な軍勢と激突した。エルフール姉妹はアトゥの反撃を阻止し、魔王武器を用いて戦闘を仕掛けた。
魔女の力と都市全域への効果
再現された満月の夜により、エルフール姉妹は魔力を最大限に発揮した。彼女たちは《疫病感染》《白痴感染》という能力を用い、都市全体に影響を及ぼした。聖騎士たちは精神と肉体を蝕まれ、信仰心を失っていった。
反撃の試みと戦況の悪化
聖女ソアリーナは炎による攻撃を行うが、メアリアによって妨害され、エラキノはキャリアによって重傷を負った。モルタール老は暗闇に紛れ指揮を継続し、戦況はさらに悪化した。都市ではダークエルフによる放火も発生し、住民の避難が始まった。
エラキノの覚醒とGMの介入
瀕死のエラキノを通じて、ゲームマスターである繰腹慶次が意識を乗せて語り始めた。彼は過去の失敗を語りながら、タクトに勝負を挑んだ。その発言にタクトは動揺し、GMは権限を行使して戦場の全てを巻き戻した。
勝利の裁定とタクトの敗北
繰腹は《裁定者》の能力で戦闘を停止し、マイノグーラの軍勢を完全排除した。レネア神光国の勢力は回復し、死者たちは蘇生し、街は再建された。GMはタクトの能力を封印し、彼を孤立させた。繰腹は勝利を宣言し、ギャンブルに勝ったことを誇った。
結末とタクトの孤立
タクトは全てを失った。仲間も力もなく、聖なる軍勢に囲まれて一人取り残された。繰腹の一撃によって、詐欺師未満の存在としての本質が暴かれ、ゲームオーバーが宣告された。タクトはただ狼狽し、敗北を噛みしめるしかなかった。
閑話 かつて存在した頂
イラ=タクトとクローザーの邂逅
名声と実力を併せ持つ男、クローザー
クローザーは、『Eternal Nations』における公式大会で毎回優勝を果たす実力者であった。見た目は爽やかで好青年の印象を持ち、筋肉質な体格と陽気な性格が特徴である。だが、公式オンラインランキングでは常に二位であり、その理由は一人のプレイヤーの存在にあった。
ミステリアスな王者、イラ=タクトの影
クローザーが二位に甘んじる理由は、常に一位を維持していたイラ=タクトの存在にある。イラ=タクトは『Eternal Nations』のランキング一位でありながら、公式大会には一度も出場せず、その実態は長らく謎に包まれていた。大会の厳格な運営体制により、参加には時間と自由の制限があり、イラ=タクトが参加できない背景には仕事や病気といった事情が噂されていた。
対談と疑念の交錯
ゲーム雑誌の編集者はクローザーにインタビューを行い、イラ=タクトに関する噂を尋ねた。クローザーはこれを受け流しながらも、彼の強さを称賛した。特にイラ=タクトの「悪癖」、すなわち手を抜いたかのような序盤の緩慢な動きが、むしろその天才性を物語っていると語った。
実力の証明と恐怖の回想
クローザーは、過去に一度だけイラ=タクトとボイスチャットで会話したことがあった。そのときの声は非常に弱々しく、彼に現実感のなさを覚えさせた。この経験により、彼はイラ=タクトが人間ではなくAIである可能性すら疑った。また、イラ=タクトを怒らせた際の報復の苛烈さを語り、自らが一切関わらないと誓ったことを編集者に忠告した。
畏怖の対象となる存在
クローザーはイラ=タクトに勝てないことを認め、彼こそが『Eternal Nations』において最強の存在であると断言した。編集者もまた、クローザーの語る恐怖と威圧感に圧倒され、それ以上の詮索を諦めた。インタビューの終盤、クローザーの手は震えており、それが全てを物語っていた。
第十二話 終焉
懲罰動議の発動とGMの失脚
伊良拓斗は、自らの本名を用いてゲームマスター繰腹慶次に対し懲罰動議を発動した。セッションの進行を停止させ、参加者ではないプレイヤーの次元にて裁定が下された。理由はダイス操作、不正なゲーム進行、誹謗中傷、そしてプレイヤー間の秩序破壊など多岐にわたった。結果、繰腹のGM権限は剥奪され、ゲームの進行と過去の行為が巻き戻された。
ゲームの巻き戻しとアトゥの帰還
懲罰動議の可決により、システムは過去の不正を無効化し、時間を巻き戻した。その結果、アトゥは洗脳前の状態に戻され、拓斗の元へと無事帰還した。アトゥは深い忠誠心と感動を露わにし、感情を爆発させた。銃士団やモルタール老を含むマイノグーラ陣営は無傷で、完全な勝利を収める状況となった。
新たなる権限とゲームマスター就任
拓斗は空位となったゲームマスターの権限を自身に移すよう申請し、それが受理された。かくして、彼は『Eternal Nations』の指導者にして『エレメンタルワード』のGMにもなった。自らの支配下に敵を置き、管理権限を次々と行使する中、かつての敵対者であるエラキノの支配権まで奪取した。
システムからの神罰と限界の自覚
GM権限の無制限使用により、拓斗は上位次元からの神罰を受けた。世界が一瞬停止し、何らかの高次的存在による介入を受けた拓斗は、その領域へのさらなる干渉が危険であることを理解し、今後の行動に慎重さを加える決意を固めた。
エラキノの最期とアトゥの揺れる忠誠
エラキノは、拓斗により完全に排除された。彼女の死はソアリーナに深い悲しみを与えたが、拓斗はそれに対して無関心であり、合理的判断として処理した。アトゥはその様子に動揺しつつも、命令には従う姿勢を見せたが、内心にはわだかまりを抱えていた。
ソアリーナの抵抗と想いの対立
ソアリーナは「想い」の力による絆の強さを主張し、洗脳解除後も残る感情の真実を拓斗に訴えた。しかし、拓斗はそれを自分語りとして一蹴し、エラキノを射殺した。拓斗の行動は、善悪を超えた支配と制御の現れであり、感情や倫理に基づく判断を拒否する冷酷な一面を強調した。
第十三話 ソアリーナ
過去の罪と聖女ソアリーナの苦悩
ソアリーナは貧しい村で信仰深く生きていたが、聖女として選ばれたことで全てを失った。与えられた力の代償として、村の住民すべてを自らの手で焼き尽くすこととなり、以後は心を閉ざしていた。村人たちの欲望が暴走し、中央の命令を受けた彼女は最終的に全滅を決断したのである。
イラ=タクトの精神的攻撃
イラ=タクトはエラキノの姿を模倣し、ソアリーナの心を徹底的に追い詰めた。過去の罪をなじり、親友をも殺したと嘲笑する姿に、ソアリーナは自責と絶望に苛まれた。特に「破滅の王」を倒そうとしたソアリーナの決断が誤りだったと指摘され、精神的に崩壊寸前となった。
フェンネの救援と託された使命
瀕死の状態で現れた聖女フェンネはソアリーナを救い、「生きろ」と命じた。自らの代償を受け入れた姿にソアリーナは衝撃を受けつつも、その言葉に心を動かされた。フェンネの言葉は、かつての友エラキノの意志とも重なり、ソアリーナは生きる決意を取り戻しかけた。
イラ=タクトの撤退と謎の行動
イラ=タクトは一時的に頭痛に苦しみ、撤退を選択した。これは想定外の事態であり、アトゥやモルタール老も動揺を見せた。彼は配下とともに転移呪文を用い姿を消し、「次は友好的に話ができることを願う」と言い残した。この不気味な言葉は、余裕と含意を帯びていた。
戦いの余韻と喪失の痛み
戦闘後、ソアリーナとフェンネは傷つき倒れ、場に残された。特にソアリーナは、エラキノの死を改めて実感し、深く嘆き悲しんだ。希望を持ちかけた親友を失った現実は重く、泣き崩れる彼女にはもうなす術が残されていなかった。夢も未来も、すべてが潰えたことを実感するのみであった。
第十四話 約束
戦いの後の安息と再会
魔なる勢力と聖なる勢力の決着がついた直後、イラ=タクトたちは大呪界へ帰還した。疲労困憊の状態で帰還したタクトはすぐに休息を取ることとなり、アトゥは彼の身を案じて甲斐甲斐しく看病に努めた。両者の関係性は戦いを経たことでより強くなっており、和解の対話を交わしながら互いの労をねぎらい合った。タクトは「皆と仲良くしてほしい」という願いをアトゥに託し、指切りの約束を交わした。
主の異変と記憶の喪失
穏やかな時間は突如終わりを告げた。タクトは記憶を喪失し、アトゥのことさえも認識できなくなった。人物やエピソードに関する記憶は消失し、長時間の眠りにつくようになった。モルタール老の見立てでは、過度な力の行使が原因と考えられていた。アトゥは自責の念にかられながらも、タクトが記憶を一時的に取り戻した際に与えられた「指導権限」を保持していた。
憔悴する配下と新たな指導者の必要
マイノグーラ国内では情勢の混乱が進行していた。指導者不在の中、国家運営は困難を極めており、特にレネア神光国とその聖女の動向については早急な調査が求められていた。しかし、精神的にも消耗したアトゥは自身に指導力はないと語り、代わりにある人物を推薦した。
最悪の英雄、覚醒す
アトゥが指名したのは、《幸福なる舌禍ヴィットーリオ》という英雄であった。彼は絡め手と策略を得意とし、『Eternal Nations』において最悪と評された人物であった。ダークエルフたちにとっては初耳の存在であったが、マイノグーラに古くから属する者たちはその名と悪名をよく知っていた。アトゥはこの混乱の時代にこそヴィットーリオの力が必要と判断し、新たな一手を打つ決断を下した。
挿話 人形
拓斗の方針とマイノグーラの文化的発展
マイノグーラでは、王であるイラ=タクトの意向により娯楽が推奨されていた。ブラック労働を否定し、誰もが趣味を持つことが奨励されていたのは、彼の現代的価値観に由来していた。この方針のもと、国民であるダークエルフたちは文化的な活動を広げつつあった。
アトゥの趣味挑戦と拓斗人形の制作
非番の日を与えられたアトゥは、自室で拓斗人形の制作に取り組んでいた。しかしその完成品は赤黒く、不気味な異形と化しており、意図とは程遠い仕上がりであった。かつて試みた他の趣味も悉く失敗しており、今回は手芸に打ち込む決意を見せていた。
拓斗の来訪と人形の発見
偶然にも拓斗がアトゥの部屋を訪れ、彼女の手にある異形の人形を目撃したことで、気まずい空気が流れた。拓斗は彼女の趣味を否定せず、文化活動としての価値を語り、フォローを試みた。その際に《文化力》というゲーム的要素を持ち出し、国家発展の新たな指標として趣味を奨励した。
《文化力》の概念と検証の意図
拓斗は、『Eternal Nations』に存在する《文化力》というステータスをこの世界でも検証しようとしていた。マイノグーラのような邪悪属性国家にとって文化は縁遠い要素ではあったが、それ故に文化を育てることの意味に注目していた。また、この世界のシステムが必ずしもゲームの法則に従っていないことから、実験的意図も含まれていた。
ユニットの成長と存在意義の探求
拓斗はアトゥの成長を通して、ゲーム内ユニットがこの世界で独自に成長するのかどうかを確かめようとしていた。個人としての経験が彼女に変化をもたらすのか、その可能性を模索していたのである。同時に、自身と彼女の存在意義や、この世界に存在する意味についても思いを巡らせていた。
ぎこちない関係の修復と希望
失敗作を前に気まずさを抱えながらも、拓斗はアトゥに「信じている」と伝えることで関係を修復しようと努めた。アトゥは自分の才能に疑問を抱きつつも、拓斗の言葉に支えられながら再び努力する決意を示した。彼女となら困難を乗り越えられるという想いが、拓斗の胸に静かに芽生えていた。
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