小説「異世界のんびり農家 19」感想・ネタバレ・アニメ化

小説「異世界のんびり農家 19」感想・ネタバレ・アニメ化

物語の概要

ジャンル
異世界ファンタジー・ほのぼの生活譚である。異世界で農村生活を営む人々の営みと、心温まる交流を描く日常系シリーズの第19巻。
内容紹介
二十年目の春を迎えた大樹の村には、ため池カーリングや氷の迷路といった冬の名残を楽しむ風景が広がるなか、村中が甘い春の陽気に包まれているのである。そんな温かな季節感の中、混代竜族メットーラの結婚式と披露宴が開かれ、村は大盛り上がりである。他方、四ノ村では魔物・メレオカーンの嫁探しが起こり、五ノ村では洋菓子店の出店が計画され、甘くて温かい春の空気が複数の話題によって彩られる一冊。

主要キャラクター

  • 街尾 火楽(むらお ほらく):本シリーズの主人公であり、大樹村の創設者たる村長である。万能農具を用いて村の暮らしを豊かに導く人間味豊かな存在である。
  • メットーラ:混代竜族の一員。結婚式の主役として村全体を明るくする存在であり、異種族との絆を象徴する人物である。
  • メレオカーン:四ノ村で飼育されている魔物である。その嫁探しが物語にユーモアと意外な展開をもたらす存在である。

物語の特徴

本作の魅力は、「異世界×農村×団欒」が織り成す温かさと、種族を超えた交流による多様性にある。結婚式、魔物の嫁探し、洋菓子店出店などのささやかな出来事を通じて、人や魔物が交わる村の幸せな日常が丁寧に描かれている。重厚さではなく優しさで包む異世界の営みを描く点が、本作を他と異なる味わいにしている。

書籍情報

異世界のんびり農家 19
著者:内藤 騎之介 氏
イラスト:やすも  氏
レーベル/出版社:KADOKAWA/新文芸
発売日:2025年8月29日
ISBN:978-4-04-738537-5

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あらすじ・内容

二十年目の春!メットーラの結婚式で村に甘い春の陽気が漂うシリーズ19巻ため池カーリングに氷の迷路!凍える冬も賑やかに過ごす大樹の村に、二十年目の春の訪れが。
村では混代竜族メットーラの結婚式と披露宴が行われることになり大盛り上がり!
時を同じくして、四ノ村で飼育されている魔物メレオカーンの嫁探しに、五ノ村での洋菓子店出店計画と、甘く温かい春の陽気が漂うシリーズ19巻。

異世界のんびり農家 19

感想

二十年目の春を迎えた大樹の村を舞台に、心温まる出来事がたくさん詰まった物語。
メットーラの結婚式というおめでたいイベントを中心に、村全体が幸せな空気に包まれている様子が伝わってくる。

今回の読みどころは、何と言ってもメットーラの結婚式と披露宴だろう。神代竜族たちがまたもや何かをやらかしてくれるのではないか、という期待を裏切らない展開に、思わず笑みがこぼれてしまう。お祝いムード一色の中にも、どこかドタバタとした騒がしさが加わるのが、この作品ならではの魅力だと感じる。

また、四ノ村で飼育されている魔物メレオカーンの嫁探しも、物語に彩りを添えている。雄メレオを巡って雌たちが繰り広げる騒動は、読んでいてとても愉快だった。しかし、そこにハクレンが加わることで、事態が思わぬ方向へ転がっていくのは、まさに予想外。ハクレンには、いつも驚かされてばかりである。

五ノ村に洋菓子店がオープンするエピソードも、印象に残った。新しい住民たちが村に溶け込み、それぞれの個性を発揮しながら生活している様子が、生き生きと描かれている。特に、五ノ村の日常を描いた場面は、クスっと笑えるユーモアに溢れていて、とても楽しい。ビーゼルの祖母であるビー婆のキャラクターも、なかなか強烈だった。
彼女の登場によって、物語に新たな風が吹き込まれたように感じる。個性的なキャラクターたちが織りなす人間関係も、この作品の大きな魅力の一つである。

アニメ二期も決定し、ますます勢いを増す「異世界のんびり農家」。次巻では、どのような物語が展開されるのか、今から待ち遠しい気持ちでいっぱいである。村人たちの温かい交流や、予想外の出来事が満載の本作は、これからも多くの読者を魅了し続けるだろう。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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展開まとめ

【序章】とある移住者

移住者の集団と五ノ村への到着
魔族の女性は住む場所を失い、三十人ほどの移住者の一員として行き場のないまま歩みを続けた。幸運にも移住者を受け入れる村の存在を知り、互いに励まし合いながら目的地に到着した。その場所は村と呼ばれていたが、実際には街のような規模であった。彼女たちは「五ノ村」と呼ばれる地で、移住者講習を受け、集合住宅での仮住まいと仕事の斡旋を受けることになった。

生活基盤の整備と学び
住居は種族ごとに分けられ、これまでの集団は解散したが仲間意識は残った。彼女は日雇い仕事で当面の生活費を稼ぎながら、読み書きや計算を学ぶ機会を得た。学びによって職の幅が広がり、給金の向上にも繋がると理解し、勉学に励むことを決意した。

出会いと結婚
勉強の場で大工のラングホーと出会い、交際を経て結婚に至った。夫婦生活は狭い家から始まったが、やがてラングホーが白鳥レースで得た資金で大きな家を購入したことから口論となった。それでも二人の生活は続き、彼女は安定した暮らしの中で物語を書く趣味を持つようになった。

妊娠と村からの支援
その後、妊娠が判明し、趣味は一時中断された。出産の知識がない彼女は不安を抱えたが、村からの支援や妊婦仲間との交流により安心を得た。同じ移住者からも祝福を受け、結婚や妊娠を経験する者が多くいることを知った。彼女は五ノ村での暮らしに感謝し、幸福をかみしめながら元気な子を産む決意を固めた。

[一章]冬の村

 合金製のスプーン

ハクレンの同行と氷の魔物
冬の村にウルザが帰還したが、すぐにハクレンを連れて行った。理由はメットーラの結婚に関わることであり、同行にはグラッファルーンも加わった。村に残った氷の魔物はドースたちと麻雀を楽しみ、本人も満足している様子であった。

吸血鬼ロベルト=パーシモンアンダーと魔法の巻物
ウルザが紹介した吸血鬼ロベルトは、フローラの知人であり、魔法の杖の研究者であった。近年は魔法の巻物の研究に転じ、フローラからいくつか巻物が渡された。その多くは殲滅や撃滅といった大規模な戦闘用魔法であり、生活用途には不向きであった。巻物は詠唱や大量の魔力を要する魔法を簡便に発動できる利点を持つが、素人には危険とされていた。

子供の世話とライメイレン
ハクレン不在の間、ライメイレンがヒカルとヒミコの世話を担い、笑顔で対応した。ヒイチロウ、グラル、ラナノーンも協力し、父親としての役割を果たそうとした語り手であったが、竜であるライメイレンの強い愛情により子を手放さない状況であった。

合金製スプーンの開発
村では木製や銀製のスプーンが使われていたが、口当たりや管理に課題があった。鍛冶職人ガットは合金による改良を試み、鉄に未知の鉱石を加えた灰色のスプーンを完成させた。毒性や健康への影響を慎重に確認した上で、安全性が保証された。用途はイチゴを潰す専用スプーンであり、妖精女王の要望によりアイスクリーム用やパフェ用の試作も計画された。

食器具の拡張と改良
合金製スプーンの成功を受け、鬼人族メイドからは食事用スプーンやナイフ、フォークの統一要望が出された。さらに、菜箸やトングの製作も検討され、使いやすさと耐久性を考慮した改良が求められた。村の生活水準は、少しずつ新たな道具の導入によって向上していった。

冬の村の様子と氷

帰還と浚渫の報告
ハクレンとグラッファルーンはティゼルの手伝いを終えて帰還し、廃墟化した港を再建するため川底の泥を竜姿で浚渫していたことを伝えた。村でもため池や水路の浚渫は継続されており、今後は参加意識を高める旨が確認された。到着後、グラッファルーンはドライムのもとへ案内され、ククルカンは一時的にグラッファルーンへ懐いた。空飛ぶ絨毯は汚れのため鬼人族メイドが洗濯し、後に労いが示された。

ティゼルからの近況と結婚騒動
ティゼルの手紙には、ハクレンとグラッファルーンの活躍、メットーラの結婚、そして四頭の混代竜族の既婚の雄がギィーネルの独身を守るために動いた顛末が記されていた。彼らは当初は強硬姿勢であったが、ハクレンとグラッファルーンの存在により断念し、その後は整地や荷運びに動員された。返書では無理のない対応を促す旨が記された。

五ノ村への植栽支援
海風に強い木の苗木の要請に対し、オリーブ、ビワ、ローリエを候補とし、四ノ村で『万能農具』により苗木を育成してゴロウン商会を通じて送付する準備が進められた。追加で松と椿、さらに護岸強化を期待して柳も候補に挙がり、用途未定ながら観賞も視野に入れて送付予定とされた。

子の世話と宴の気配
ハクレンの帰還でヒカルとヒミコは元の世話役へ戻り、ライメイレンは名残惜しさを見せたが周囲が慰めた。一方、ドースらは歓談し、フェニックスの雛アイギスが氷の魔物の頭上に乗ったため、一時的に表面が融解するも自己の冷気で再凍結する現象が確認された。

氷の魔物と冬の娯楽施設
氷の魔物は周囲温度を業務用冷凍庫から軽い冷房相当まで可変でき、外のカマクラでの宿泊に支障はないと示した。翌日には「大樹の村」に巨大な氷の滑り台と氷の迷路が設置され、出入口が屋敷に直結したため生活動線の混乱と遭難への注意喚起が行われた。

迷路のアップデートと攻略体制
迷路は翌日に更新され、透明壁・トンネル・立体交差・滑り台の一方通行などが追加され難度が上昇した。子供たちは氷の魔物と規則を事前確認し、破壊行為や逆走・飛び乗りの禁止、閉じ込めの不実施、天使族への救助合図などのルールを遵守した。ナートの指導下で攻略本部を設け、大判の紙で地図化し、ロープで連結して慎重に進むなど、組織立った攻略が展開された。

迷路内バーの出現と運営判断
ドワーフが迷路内にバーを開店し、氷の魔物から運用相談が寄せられた。休憩所として黙認する一方で、未成年への酒提供禁止、温かい飲料の提供推奨、酔客の屋外就寝防止などの方針が示され、氷の壁の改造については必要性と安全を勘案して対応する姿勢が示された。

ヨウコの帰還と迷路逸話
ヨウコは五ノ村の神社で動物の神の縄張りに関する集会へ参加し、翌日仕事のため滞在を延長した。帰還が遅れた理由は氷の迷路への挑戦であり、途中でドワーフの休憩所に寄って温を取り、鬼人族の協力によるラーメンの提供やスタッフ通路の存在が確認された。状況により安全確保のため通路を利用した可能性が示唆され、家族には無事帰宅が安堵をもたらした。

空飛ぶ絨毯の機嫌と日常の余話
洗濯直後は触感の違いでククルカンに敬遠され、空飛ぶ絨毯は一時的に落ち込んだが、翌日には再び掴んで離さないほどに関係が回復した。寂しさを覚える様子に対し、クロとユキが寄り添い、冬の村の日常にささやかな温もりが戻った。

マイケルさんとの雑談

コタツの間での再会と取引調整
冬の昼下がり、落ち着いた団らんの場にマイケルが合流し、これまで通りゴロウン商会との取引を継続しつつも現金流通の偏在を避けるため、現物決済を中心に据える方針が確認された。大樹の村の産品価値が高く需要品目が限られる問題に対し、商会側は周辺地域での作物・畜産生産を増やし、その現物を大樹の村が一括買い取り、低価格で各地に還流させる循環が維持された。味噌や醤油、各種ソース類による高収益で相殺しつつ、一方的な利得を避ける配慮も続行されたのである。

収穫拡大と労働力の補填
シャシャートの街と周辺では小麦・大麦・トウモロコシ・米・野菜群の畑拡張が進み、次回収穫は二割増が見込まれた。過度な労働を抑えるため監督官の巡回が実施され、五ノ村周辺のエルフ集落からは樹王・弓王の斡旋で働き手が供給された。背景には、五ノ村の庇護を聞きつけたエルフの移住増と、キネスタの紹介による各里への振り分けがあり、治安対応は五ノ村と商会が連携して臨む体制が示された。

魔道具の量産化と実用志向
五ノ村製の魔道具は、山エルフの職人集団とイフルス学園生徒の協業により量産化が進み、装飾を抑えた実用モデルとして灯り・コンロ・冷蔵箱・浄水器が高評価であった。大樹の村にある希少な高性能機器群との差別化のため、献上ではなく普及を重視する運用が選ばれ、実用品は簡素で掃除しやすい造作が望ましいという現場の判断も再確認された。

厨房馬車の転用と軍への導入
キャンピング馬車の小型廉価版である厨房馬車は、冒険者向けには過大・不向きと判断され、五ノ村の運営するイベント給食用として活用されていた。これをユーリの進言で魔王国軍の巡回部隊に導入する構想が生まれ、多種族の食文化差による供食トラブルを回避しつつ、十人規模の行動隊が自前で温食と冷蔵保存を確保できる利点が注目された。試験導入後に注文は拡大し、春までに百台規模の需要見込みが示され、生産計画の無理を抑える注意喚起が共有された。

余話と場の空気
場ではクロとユキ、アイギスが安心しきって眠り、大樹の村の日常の安寧が漂っていた。コタツ天板の彫り模様に対する清掃面の所感など、装飾より運用性を優先する視点が交わされ、雑談は実務の要点を静かに押さえる結びとなった。

閑話:学園の変化

冬の学園の静寂と喧噪
王都のガルガルド貴族学園は冬季に人影が薄く、遠くの爆発音や校舎の振動、学園長の怒声があっても全体としては静寂に包まれていたのである。

礼儀作法教師の自負と回想
礼儀作法を担当する古株の教師は、貴族子弟には基礎が浸透しているが「極める」余地は大きいと考えていた。八十年前、共通語がほぼ話せないオーガ族の男子に礼儀と共通語を教え、戦場でも挨拶を欠かさなかった彼が【こんにちはオーガ】の異名を得るに至った経緯を誇らしく回想したのである。

必修化とポイント制の導入
春からの制度改定として、共通語一般・共通語文書作成・礼儀作法の三教室が必修化され、出席によりポイントを獲得し卒業時合計三十ポイント以上を求める方式に移行した。いずれか一教室に集中出席して三十ポイントを満たす抜け道も容認され、需要不確定ゆえに準備を進める必要が生じたのである。

魔王国の方針転換と教育要請
近年の魔王国は軍事優先から内政重視へ舵を切り、文官の圧力も背景に「会話能力・読み書き・最低限の礼儀」を貴族層へ求めた。学園も外圧へ反発しつつ将来像を踏まえて制度変更に応じ、結果として冬期の準備負担が一部教員に偏る現実が生まれたのである。

自前給食の仕組みと木工の腕前
冬は食堂の閉鎖日が多いため、有志が日々食を提供し、利用者は食費・食材・労働のいずれかで対価を払う運用であった。教師は木工に長け、五十人分のテーブルと椅子を作って労働分の食事権を得ており、生徒からは木工授業を望む声も上がったが、貴族学園の性格上実現は見送られていた。

三種の献立と爆発騒ぎの顛末
この日の献立はカレー、肉厚ソースのパスタ、揚げカツを黒いタレに浸したサンドイッチであった。先の爆発はキハトロイが混代竜族のオージェスをからかったことに端を発し、敷地に大穴が開いたため学園長の叱責を受け、両名は罰として森へ狩りに出された。希少とされる混代竜族も、春のパレードで神代竜族や古の悪魔族が並ぶ状況では特筆に値しないと受け止められたのであった。

防寒環境と小屋建設の構想
食事場は焚き火で暖が取れたが風が冷たく、教師は簡易小屋の建設を思案した。資材は仲介を営む生徒を頼り、人手は呼べば数人は集まる見込みであり、礼儀作法教師としての冬の準備に加え、木工から建築へと作業の幅を広げる意欲を見せて締めくくった。

ティアだって頑張っている

氷上遊びの誕生と見守り
ため池が凍結し、子供たちは氷の魔物が作った高密度の氷塊を使って氷上おはじきに興じた。ハクレンやグーロンデも参加し、畔ではオルトロスのオルが転倒経験から氷上を避けて待機した。ポンドタートルの冬眠への影響はなく、氷上活動は許容範囲と確認されたのである。

ティアの氷割りと存在感の可視化
北側水路の結氷に対し、ティアはゴーレムを列隊させて砕氷作業を実施した。天使族の増加に伴い、村のための働きを外から見える形で示す意図があった。ティアは初期からの中核であり、副村長的に住民対応やハウリン村との交渉窓口を担い、魔法知識でも助言役を務めていた。

多素材ゴーレムと試作支援
ティアの強みは多様素材・多形状のゴーレム生成であり、山エルフの試作工程を加速させた。筒・歯車・スクリューなど微細な寸法調整を要する部品を即応で生成し、最適形状の探索後に本製造へ移る開発プロセスが定着した。これにより村の技術基盤は着実に強化されたのである。

練り物の大量生産実験と設計判断
夕食のオデンでは、チクワやハンペンの食感が機械量産試作由来である点が指摘された。ティア協力の混練スクリュー設計により、具材ごとの練り速度・密度を交換式で切替可能とした。自動交換化は清掃・保守と装置大型化の観点から退け、複数機運用を選択する実務的判断が示された。評価は大量生産品として合格であり、シャシャートの街での魚加工品展開を見据えた。

訪問頻度と居住環境の是正
オーロラから、ローゼマリア、ララーデル、トルマーネへの訪問増加の要請があり、背後事情としてグランマリアの居室の散らかりが指摘された。訪問宣言により片付けを促す狙いが共有され、ティアの居室についても整理を促す必要が示唆された。

家族計画の希望と教育の予告
オーロラは弟妹の増加を望む意向を示し、ラズマリアやスアルロウからの同調も伝達された。子は授かり物として受け止めつつ、ティアとルィンシァに対しては食後にオーロラの教育方針を協議する旨が通達され、家庭内の秩序と育成体制の整備に向けた一歩が示されたのであった。

閑話:「五ノ村」の立ち方

ラングホー(魔族・大工)は、結婚が許されない三男として故郷を出て流れ着き、創設初期の“五ノ村”に移住。受け入れへの不安は杞憂で、仕事も寝床も公平に与えられ、数年で生活は安定した。大工不足の追い風と腕前の評判で収入は堅調、白鳥レースの配当も重なり、麓の大きな家を購入。ほどなく妻の妊娠が判明する。

広すぎる家の管理が課題となり、ラングホーは家事の助力を雇うことを検討。まずは実家の妹ルシデルを思い出し、妻が代筆して招待の手紙を送る。返事がないまま月日が流れるが、ある日いきなりルシデルが来訪。隣村の工房長の五男ホルランと恋仲だったが、故郷では三男以降の結婚が慣習上禁じられていたため、兄からの誘いを機に二人で“五ノ村”へ脱出してきたという。翌日教会で結婚報告をする予定で、そのまま同居を希望。

ラングホーは広い家の一室を夫婦用にあてがい、家の管理と妻の妊娠期を支える体制を整える。ここで浮かび上がる“五ノ村”の「立ち方」は――

  • 出自や序列に縛られた旧慣から来た者を偏見なく受け入れる開放性
  • 需要の高い仕事に公正な対価が支払われ、努力が生活の安定に直結する実利性
  • 読み書き教育や職の斡旋が整い、家族の事情(妊娠・同居)に柔軟に対応できる生活基盤

こうして、ラングホーは家族を迎え入れながら“大きな家で暮らす”という小さな夢を、五ノ村の制度と人の温度で現実にしていく。

閑話:「五ノ村」の歩き方(ルシデル視点)

駆け落ちの決断と五ノ村到着
ルシデルは隣村の工房で出会ったホルランに一目惚れ。だが双方の家は「五男に相続はない」慣習を理由に結婚を拒否。停滞を破ったのはラングホーからの手紙で、夫婦は家族に書き置きだけ残して“五ノ村”へ。到着して驚く――“村”と聞いていたのに実態は大都市規模、転移門まである。

新生活の基盤と役割分担
ラングホーの家は想像以上の大邸宅。ルシデルは家政婦的に家の管理を担い、給金にも満足。ホルランはラングホーの紹介で就業予定。二人はコーリン教会で正式に結婚報告を済ませ、実家への説明はラングホーの手配で読み書きできる冒険者に代読を依頼し、和解金も送る段取りに。

五ノ村の“歩き方”ガイド(ラングホー流)

  • 基本姿勢:村長(希少種・夜に屋台を出すことあり)が危ないことをしていない限りは見守る。面白そうなら乗っかる――それが“五ノ村”の楽しみ方。
  • 権威との距離感:ヨウコは村長代行。元エルフ皇女キネスタ、王姫ユーリ(魔王は野球チーム監督)、元四天王の老人、剣聖、三騎士、吸血姫や殲滅天使、古の悪魔族まで在住・出入り。だが彼らは滅多に暴れないので過度に恐れず。
  • 秩序と寛容:寄付は“余裕の範囲で”。額の多寡で責められない。問題があれば村議会報告で筋を通すが、その程度で追放はされない。
  • 日常の楽しみ:教会併設売店の団子は行列必至。踊って人気者の「ファイブくん」に会えたら当たり――握手は自慢案件。

ルシデルの所感と決意
“五ノ村”は常識がいくつも覆る場所だが、暮らしやすさは段違い。ホルランと共に馴染み、家の切り盛りで頼られる存在になる――それがルシデルの次の目標であった。

閑話:「五ノ村」の跳ね方(ホルラン視点)

移住と仕事の足場づくり
ホルランはルシデルと駆け落ちし、ラングホーの大邸宅の一室を借りて“五ノ村”に移住。彫金ギルドに所属して受注は得たが、家業由来の技術を易々と外部に教えられず工房の間借りに難航。最終的にラングホーの家の空き部屋と庭を仮作業場にして稼ぎを立て、将来は外部に作業場を借りる貯金を目標に据える。

ラングホーの忠告①:魔眼のこと
ラングホーとルシデルは“種族と称号が読める”系の魔眼持ち(広く知られた称号のみ判別)。この前提を明かしたうえで、「五ノ村には重要人物が多い。称号が読めると見誤らないが、読めなくても礼節でカバーできる」と教える。

ラングホーの忠告②:この村の“要注意だけど恐れすぎない”面々

  • ミヨ(シャシャート代官の秘書/古代王国の王族守護者/称号【王家の管財人】):揉めない。頼まれごとは無理のない範囲で協力。
  • ナナ(同じく王族守護者/称号【王家の影】):視線を向けすぎない。ヨウコ配下と認識して干渉しない。
  • 神社筋・聖獣・使徒:蛇の使徒、虎の聖獣、狐(ヨウコ配下)など多彩だが、基本は無用に関わらず礼を尽くす。
  • 最重要注意:ハイエルフと鬼人族:腕も気性も一流。挑発・侮りは厳禁。
    (ラングホー自身、来村初期にハイエルフを侮って家作りに突っかかり、結果あの巨大邸宅を“実力の証明”として建てられた過去がある。学んで和解済み。彼らの称号は【マンイーター】だった、と後で知って冷や汗。)

“五ノ村”カルチャーの核心

  • 基本姿勢:「危ないことをしていない村長は見守る。面白そうなら乗る」――深く詮索せず、巻き込まれ方を選ぶ。
  • 権威との距離:村長代行ヨウコ(九尾狐)、元四天王の老紳士、王姫ユーリ(野球チーム監督でもある)、元エルフ皇女キネスタ、剣聖・三騎士など“強者”は日常に溶け込んでいるが、滅多に暴れない。礼を尽くせば怖くない。
  • 秩序と寛容:問題があれば村議会へ報告して筋を通す。軽率な一件で住民を追い出すような風土ではない。寄付は“余裕の範囲”で良い。

学びと身の守り
ホルランは文字習得を決意(天使族の寺子屋は教え方が上手と評判)。天使族は「逃げ切れない相手」なので、無用な警戒より“良き隣人としての礼”で接するのが最善――ヨウコのお墨付き(ただし不審は報告)という現実的ガイドも受け取る。

まとめ:ホルランの“跳ね方”
頼れるところは素直に頼り、働いて返す。強者を怖がりすぎず、決して侮らない。学びを積み、礼節を盾に広い世界へ一歩ずつ。――それが“五ノ村”で気持ちよく“跳ねる”コツだ。

“四ノ村”の生活スタイルの変化

冬長引く中の“四ノ村”と水問題(ベルの報告)
浮遊庭園で畑が拡張された“四ノ村”は、魔法フィールドで「常春」運用を継続。畑の用水は計画内だが、生活スタイルの変化で貯水槽の減りが想定以上に早いとベルが説明。
要因は二つ。

  • 城内の王族規格の大浴場を開放→悪魔族・夢魔族がほぼ毎日利用、城外にも集合浴場が建ち水消費が激増。
  • 清掃需要の増大→衣服・住居の美化熱が高まり、城壁清掃などで水使用が膨らむ。
    対処は、万能船+水槽仕様の浮遊庭園で給水運搬を回す一方、非常時に備え水槽庭園の増設をルーに打診する方針へ。

巨大化した“カメレオン系魔物”の課題
太陽城時代に保護されていたトカゲ型魔物は、飼い主の少女と城外生活へ移行後、全長約5mに成長。問題はサイズより食費(毎日二十人前以上)。生息地への返還案は、ミヨとヨウコの調査で“百年前を最後に目撃なし=実質絶滅”の可能性が判明し断念気味。

魔物の申告と“透明化体液”の発見
当の魔物が「繁殖相手が欲しい」と直訴。体表の体液を触れたヒトの手が透明化し、水で洗うと元通りになる特性が確認される。魔物自身も半日ほど“透明化”できるが、動きは緩慢。
村長はここから推測――仲間も透明化できるなら「絶滅ではなく発見困難」の可能性があると希望を抱く一方、探索難度は非常に高いと判断。マイケルに冒険者依頼を検討しつつ、体液の安全な活用はルーへ託して食費の自己調達につなげたい意向。ベルは悪用の懸念を示すが、村長は「ルーなら用途を善に寄せられる」と信じて預けた。

二章 祝福

カメレオンみたいな魔物の体液

透明マントの完成と効果
四ノ村にいたカメレオンのような魔物の体液を用いて、透明化するマントが作られた。このマントは被ると周囲から姿が見えなくなるが、内部から外部の視認はできず、頭部を出さないと行動が困難であった。そのため完全な透明化は半減の効果しか持たなかった。また、体液には匂いを抑える効果も確認され、追跡から逃れる用途が期待された。このマントは数着作られ、狩猟などで試験的に使用されることとなった。

魔物メレオカーンの特性と美容効果
魔物の正式名称はメレオカーンであり、体長は五メートル程度に成長する。透明化能力を持つため過去には乱獲され、絶滅に近い状態に追い込まれた歴史があった。さらに、この体液は匂い抑制に加え、美容効果を持つことが判明した。化粧品に混ぜればシミが薄れ、粉に混ぜれば肌に張りを与え、入浴に用いれば無駄毛が目立たなくなるとされた。そのため王族や富裕層の間で飼育され、体液が商品として利用されていた。

飼育先の判明と交渉の難しさ
体液を利用した商品はクローム伯ビーゼルの妻シルキーネが手掛ける商会で取り扱われており、複数の個体が飼育されていることが判明した。交渉はゴロウン商会のマイケルも困難と判断するほどで、美への理解と人脈がなければ成立しないとされた。商品は高価でほぼ貴族専用の贈答品とされ、金銭だけでは取引が難しかった。結果として、繁殖や体液利用に関してはシルキーネとの直接的な交渉が不可欠であるとされた。

シルキーネの来訪

透明マントの実験
村長は透明マントを試用するハイエルフたちの様子を見守った。姿は隠せても足跡や建物内では効果が薄いこと、寒さ対策の必要性などの課題が浮上した。ルーは量産については危険性から村内利用に限定すると決定した。

シルキーネの登場
フラウの母シルキーネが迅速に来訪し、カメレオン型魔物メレオカーン(通称メレオ)の繁殖相手について協議を始めた。彼女はメレオの飼育責任者を伴い、雄であることを確認すると協力を快諾したが、体液利用商品に関する交渉も条件とした。

シルキーネ商会の概要
シルキーネはバブル商会を中心に、美容専門店を複数展開していた。《アフロディ》は貴族向け、《アポロ》は庶民向け、《アテネス》は輸出用と棲み分けを行い、特にメレオ由来の商品は高級品として流通していた。

交渉の開始
交渉役は女性陣に任され、天使族の長マルビットが主導することとなった。シルキーネは自らの保有する十二頭がすべて雌であること、繁殖には雌の縄張りでの誘惑が必要であることを明かし、雄メレオをビーゼル領に三十日ほど滞在させる条件を提示した。村長は悪魔族の飼い主の了承を得るため、四ノ村に再度向かうことを決めた。

閑話:メレオカーンの飼育係(コリンコリン視点)

コリンコリン=ルーサルースは、クローム伯爵夫人シルキーネのバブル商会で百年勤める“メレオカーン美容品”生産班の責任者。伯領の小森で女性スタッフ三十名と雌十二頭を飼育し、体液採取まで担っている。

抱える問題は三つ。

  1. 乱獲の余波で飼育個体を狙う輩への防衛負担。
  2. 雄不在ゆえ繁殖不能。唯一保護できた雄は高齢で交尾不可。
  3. その雄も三十年前に老衰死し、以後は雌群が無気力化して体液産出が逓減。

そこへ若い雄個体の速報。「救世主」登場に、コリンはシルキーネとともに“四ノ村”へ。武骨な外見・いぼ肌・生殖器確認で確実に雄と断定し、即座に協力意志を表明。条件は“雌の縄張りでの繁殖儀式(誘惑ダンス含む)”――ゆえに雄をビーゼル領へ約三十日受け入れる要請を出す。

並行して“体液由来の美容品”の独占流通・模倣防止の線引きを巡り交渉開始。相手は天使族の長マルビット。押し引き激化、ついには“殴り合い→治癒”の泥仕合を経て、何とか合意に到達(詳細条件は非開示)。コリンは「次は顔面に一発入れたい」と闘志を見せつつも、相互理解の芽を認める。

帰還後、雌十二頭を前に号令。

  • 放置気味の縄張り整備(水溜まり・ゴミ除去)。
  • 皮膚コンディション回復(偏食是正、磨き込み)。
  • 誘惑ダンスの再訓練(やる気を削がないレベル必達)。
    「私が見本を踊るから、繁殖は必ず成功させなさい」と一喝。
    コリンは自らを「バブル商会のメレオカーン飼育係」と誇り、雌群の奮起と“春の繁殖”に全てを賭ける。

春に向けての準備

シルキーネの頻繁な訪問と背景
シルキーネはこれまで年に一度程度しか訪れなかったが、最近はほぼ毎日大樹の村を訪れていた。理由は精神の療養とされ、孫のフラシアや美容品の説明のためでもあった。美容品はメレオの繁殖交渉に伴い、大樹の村に一部譲渡されていた。飼育担当者を巡り、マルビットが引き抜きを試みたため、止めるよう求められた。

フラシアの成長と呼称の変化
かつてフラシアはシルキーネを幼い呼び方で呼んでいたが、現在は「シルキーネお姉さま」と改めていた。ビーゼルも同様に呼び方が変化し、時の流れを示していた。

メレオ輸送方法の決定
四ノ村のメレオをビーゼル領にある飼育場に移すこととなった。飼育していた悪魔族の少女は一カ月間の外出に同意し、条件として必ず戻すことと子供の一頭を求めた。輸送は当初竜を用いる案があったが、メレオが怯えたため断念し、万能船で行うことになった。万能船は本来死の森に留める約束であったが、造船制限のみで運用は自由と解釈された。通信手段や竜による物資輸送も確保されており、孤立の懸念はなかった。

竜族の協力と物資輸送体制
物資輸送はヒイチロウが希望し、ライメイレンの監督とグラルの同行で行うことになった。状況によっては輸送仕事を新たに用意する方針が示された。

春の訪れと重要行事
春の訪れを前に、普段通りの備えがされていたが、特別な行事としてメットーラの結婚式と披露宴が予定されていた。混代竜族のメットーラは冬に許嫁と結婚したが、色恋沙汰や決闘騒ぎが相次ぎ、正式な式典の必要性が生じた。決闘は夫が勝利して収まったが、報告書は惚気を含み、文官娘衆には好評であった。

混代竜族に関する諸問題
他にも混代竜族の男四頭やその妻たちが関与する騒動があり、戦いや誤解が繰り返された。これを受け、メットーラの結婚を広く認めさせることが必要とされ、大樹の村での結婚式と披露宴開催が決まった。竜王ドースと暗黒竜ギラルの承認を得ることで、対外的な不満を鎮める狙いがあった。

結婚式準備と村の協力
村長は費用を負担し、村全体で祝うこととなった。宴会形式で進められ、女性陣や鬼人族メイドが準備にあたり、子供たちも楽しんでいた。さらにティゼルの新国家の名や代表も式典で発表される予定であった。

二十年目の春

春の到来と村の再始動
ニュニュダフネの宣言により春の訪れが確認された。冬眠していたザブトンと子らが目覚め、村に再び賑やかさが戻った。村長は万能農具を用いて畑仕事に着手し、迫るメットーラの結婚式と披露宴に備え急ぎながらも丁寧に作業を進めた。

混代竜族の来訪と宿泊体制
結婚式に出席するため、マークスベルガーク、スイレン、ドマイムら混代竜族が村に到着した。労働に参加する者は現場に加わり、それ以外は屋敷の一室を宴会場として収容された。ウルザたちも出席予定であったが、王都での仕事により到着は遅れる見込みとなった。

混代竜族の到着と旧知の竜たち
結婚式当日、転移門を通じて多数の混代竜族が到来し、同行してきたオージェス、ハイフリーグータ、キハトロイの三人の姿も確認された。彼らは参加を避けたい様子であったが、裏方として働く形で調整された。

メットーラの夫と仲間竜の紹介
花婿ギィーネルは三十代ほどの痩身で威厳ある混代竜族の男性として紹介され、村長からの挨拶に力強く応じた。さらに、グルベル、エイドン、ザハーザハー、ジュドの四名が仲間思いとして出席した。彼らは人間社会において「賢竜」と呼ばれる立場にあったが、実際には他の暴れやすい混代竜族の調停役を担っているに過ぎないと謙遜した。

竜族間の関係性と評価
ハクレンは自身の夫婦関係を「戦いに勝って結ばれた」と説明し、過去の襲撃を経た縁であると強調した。賢竜たちは村長を英雄視したが、村長はそれを退け、問題があれば竜王ドースやライメイレンへ相談するよう助言した。ハクレンはスイレンやヘルゼルナークらの性格変化を説明し、現在では大きな問題は生じにくいことを保証した。

賢竜たちの立場と式典参加
四人の賢竜は表立った席にはつかず、控えの立場で結婚式を見守ることを選んだ。その後の紹介場面では、ギラルやグーロンデに深い敬意を示して頭を下げ、式典の重みを一層際立たせた。

メットーラの結婚式 出席者募集中

女性陣の登場と緊張感
ハクレンにより新たに紹介されたのは、四人の混代竜族女性――オータット、オーワメアー、ハイフリーニアルス、ラクトロイ。いずれも先に紹介された男性四人の妻であり、オージェスたち三名にとって「嫌いではないが苦手」な存在とされた者たちであった。彼女らは過去に【魔黒竜】の称号を求めて暴れていた経歴を持つことも明かされた。ギラルとグーロンデが背後に控える中、祝福のために来たと慌てて弁明し、場は収まった。

メットーラ到着と準備
やがてメットーラがウルザ、アルフレート、ティゼルらと共に村へ到着した。メットーラは女性陣に伴われて式の準備へ直行し、村長は残ったウルザたちと話すことにした。同行してきた二人の人物の正体確認が行われる。

ロベルトとの邂逅
一人は両目を黒布で覆った中年の吸血鬼ロベルト。彼は花婿ギィーネルの部下で友人であり、メットーラの式に参列する立場にあった。フローラとの知己と聞いたが、本人は身分差を理由に謙遜して接触を避けようとした。最終的には始祖とルー、そしてフローラによって案内されていった。

妹トーシーラの参列
もう一人は混代竜族の女性トーシーラ。メットーラの実妹であり、姉の結婚を心配しつつも祝福のために駆けつけた。彼女はライメイレンの腹心として広大な縄張りを任されていたが、許可を取らずに出発していたため、到着後すぐにライメイレンに見つかり連れ戻されそうになる。村長はトーシーラの参列を許すようライメイレンに取りなした。

氷の魔物の件
式の開始を前に村長はウルザへ重要な話を切り出した。氷の魔物を迎えに行かず放置している件である。氷の魔物は拗ねて夏場の居場所を案じるほどであり、村長はウルザに迎えを約束するよう強く求めた。ウルザは「環境を整えてから迎えに行く」と説明し、村長は一応納得を示した。

結婚式の開始
こうして各来訪者とのやり取りを終え、いよいよメットーラの結婚式が始まろうとしていた。

メットーラの結婚式 神前スタイル

竜族の結婚観と式の準備
竜族に結婚式の文化は存在せず、通常は報告程度で済まされる。重視されるのは結婚よりも出産や卵の孵化であるため、式は自由形式となった。“大樹の村”では竜姿での挙式が選ばれ、会場は南方の競馬場が用いられた。

竜姿での挙式開始
晴天の昼前、新郎ギィーネルと新婦メットーラが竜姿で入場。道の両側には雄竜・雌竜が列を成し、最奥にはドースとライメイレンが待機。村長は二人の間に設けられた特別席に着座させられ、式の中心を見守った。

結婚宣言と竜族の祝福
新郎新婦は声を揃えて結婚を宣言し、ドースが「異議のある者は声を上げよ」と問いかけた。妹トーシーラが反対を叫んだが、無視され式は進行。続いて竜たちの大咆哮による祝福が始まり、大気が震える中で神聖な空気が満ちた。

神々しい変化と“神の声”
ドースとライメイレンをはじめ神代竜族の雰囲気が一変し、咆哮とともに神々しさを放つ。やがて頭に直接響く“神の声”が降り、「新たな番を祝福する」と新郎新婦を認めた。声の主は村長にも未知の神であり、「雄が進めることを認める」と励ましの言葉を残して去った。

式の締めと退場
神の声の余韻により参列者は硬直し、動いていたのは村長と氷の魔物のみであった。村長が進行を促し、混代竜族は頭を上げて拍手で新郎新婦を送り出した。二人は旅立たず、続く披露宴で再会できると告げられ、式は円滑に締めくくられた。

閑話「神の事情」

世界の危機と創造神の介入
月の神は、管理する世界が滅亡確定に近い危機に直面していたと述べている。神々は再生準備に力を費やし、ほぼ諦めていた状況であったが、上位の存在である創造神が一人の人物を送り込み、世界の行く末が変化した。月の神は当初その行為を越権と見て憤ったが、創造神の介入により世界が救済されていたことを後に確認した。

創造神への対応と20年後の現状
月の神は農業神から創造神を制裁したとの報告を受け、さらに創造神本人からの手紙も受け取った。その後ふて寝を続けたが、二十年後に目覚めると世界の危機は回避されていた。原因は送り込まれた人物が意図せず数々の変革に関与していたことであった。

神の役割と未来災厄の調整
月の神は未来を見通し、大規模な災厄を小規模に抑えることを自らの役目としていた。地震や洪水のように管轄外の災厄は他の神々に任せたが、小惑星衝突の危機には月の噴火を利用して軌道を逸らすなど積極的に対応していた。絶望的な未来はすでに回避されたため、以後は縮小と調整が中心となっていた。

神代竜族の咆哮と誤報
神代竜族の一斉咆哮は世界滅亡級の非常警報であったが、実際には結婚式での祝福が原因であった。これは誤報であり、月の神は訓練扱いにして処理した。祝辞を添えて事態を収拾し、上位の神々に説明可能な形を整えた。

終末の獣セリオンと麻雀の発覚
非常警報により終末の獣と呼ばれる存在が覚醒しかけたが、月の神はそれを自らの飼い犬セリオンと明かし、子守唄で再び眠らせる意向を示した。また、冬に神代竜族が私的に神と交信していた事実を摘発し、原因は麻雀の捨て牌相談であったことを明らかにした。月の神は誤報処理を終えた後、麻雀の再戦を誓った。

披露宴 その一

披露宴の開始と会場の様子
夕方、ギィーネルとメットーラの結婚披露宴が乾杯とともに始まった。会場は屋敷の一階ホールと中庭で、主役席以外は自由席として設けられ、大量の料理と酒が並んでいた。新鮮な食材は不足していたが、鬼人族メイドたちの工夫で料理は十分に整い、混代竜族も夢中で食事を楽しんでいた。中央には八段重ねのウエディングケーキが置かれ、妖精女王や子供たちが大喜びで取り囲んでいた。費用は竜側が負担し、祝いの場にふさわしい規模となった。

神の声と警報の事情
ヨウコとニーズがドースに対し、結婚式で響いた神の声の背景を説明した。神代竜族が一斉に咆哮すると、神に向けた非常警報として作用するため、本来は不用意に集まらない決まりがあった。しかしその伝承が不完全に伝わり、ドースは知らなかった。本人は「知らなかったので仕方がない」と軽く受け止め、咆哮で神の声を聞けたことを幸運と捉えていた。神々の間では大騒ぎになったが、祝福であったため問題視はされない様子であった。

氷の魔物と神との交信
氷の魔物は結婚式で動けていた数少ない存在であり、その理由は神との交信に慣れていたからであった。冬の間、ドースやギラル、ドライムらが麻雀中に神へ捨て牌の相談をしており、それに氷の魔物が同席していたのである。頻繁なやり取りにより氷の魔物は動揺せずに済んだが、神代竜族自身は事態の重大性に気づいて沈黙していた。村長は彼らの奔放さを改めて実感し、祭壇を設けて神々に謝罪する意向を示した。

披露宴の共同作業とケーキ
披露宴の進行は順調であり、メットーラとギィーネルが八段重ねのウエディングケーキに入刀する場面が披露された。この習慣は村長の提案によるもので、メットーラは共同作業を喜んでいた。ケーキは鬼人族メイドたちにより切り分けられ、参列者に配られたが、人数に対して不足することを見越して六段重ねのケーキがさらに四基用意されており、妖精女王や子供たちはお代わりを楽しみながら賑やかに盛り上がった。

披露宴 その二

黒黒との遭遇とヴェルサの紹介
披露宴の挨拶回りの最中、村長は黒いフードに身を包んだ集団と対面した。彼らは「三十七人の軍団長」の一角であり、一人であり万人でもある影の種族。代表格は「黒黒」と名乗り、ヴェルサとは旧知の仲であった。敵意はなく、妖精女王やフェニックスの雛の存在を見て即座に降参の姿勢を示したため、平和的に交流が進んだ。ヴェルサは彼らを友人と呼び、過去にダンジョン建設を手伝ってもらった縁を語った。

披露宴の雰囲気とメットーラの家族事情
混代竜族たちの関心は新郎新婦に集中し、結婚式で響いた神の声は「神代竜族なら当然」という結論で話題にならなかった。メットーラの妹のトーシーラは、姉の結婚阻止を諦めて祝い酒に転じ、叔母として未来を担う覚悟を語った。ほかの妹たちは重責を担って各地に仕えており、結婚式には参加できなかったが、祝いの品は贈られていた。

始祖の反応と神の想像図
披露宴に参加した始祖は、結婚式での神の声に対し冷静に受け止め、「信仰対象の創造神ではない」と判断した。そのうえで、声の主を推測して描かれた想像図を提示。清楚さの中にやんちゃさを残す女性像で、妙に納得感を与える姿であった。村長は時間を見つけて彫刻にする意向を示した。

宴の進行と深夜への突入
披露宴は次第に賑わいを増し、深夜に突入。子供たちは眠りにつき、大人や竜族たちは酒と談笑を続けた。混代竜族の酒量に懸念もあったが、大きな騒動には至らなかった。

ティゼルによる国名と王の発表
宴の終盤、ティゼルが魔法で拡声し、新たに建国する国の名と代表を発表した。国名は「六竜神国」、初代国王は新郎ギィーネルであると告げられた。村長は意外性に驚いたが、神代竜族たちは縄張りを国として明確化するだけと説明し問題視しなかった。さらに、結婚式での神の声の「応援する」との言葉が、この建国を後押ししていたのだと判明した。

披露宴 その三

六竜神国の成立と名称の由来
新国家の名称は当初「六竜国」であったが、結婚式で神の声を受けたことから急遽「六竜神国」と改められた。名称の「六」は、ギィーネルに加えて駆けつけた四頭の混代竜族が支援するものの、全員が常駐できないため交代制を前提とした最大滞在数に由来する。十頭規模であっても「十竜神国」を名乗ると、実際の出迎え人数が少ない際に体裁を疑われる懸念があり、外交上の配慮として六に定められた。国王を引き受けたギィーネルは、無職では見栄えが悪いと考え、メットーラの助言とティゼルの仲介で決断した。

披露宴の終盤と人員配置の調整
披露宴は夜半を超えて続いたが、子供たちと一部の大人は早めに帰宅した。ギィーネルとメットーラも主賓への挨拶を終えて退場し、宿で休むこととなった。ティゼルの世話役については新婚生活を尊重し、当面ルィンシァが引き継ぐ予定とされたが、天使族の長マルビットの存在により短期的対応に留まる見込みとなった。後任選定は改めて協議されることとなった。

撮影隊の苦境と映像記録の欠落
披露宴の一角では、イレ率いる撮影隊が落胆していた。結婚式を記録するため入念に準備を行っていたが、神代竜族の咆哮と神の声の発生時に全機材が停止し、最も重要な場面を収録できなかったのである。神の声は記録不可能と判断され、依頼主のドースも理解を示したが、撮影隊は責任を感じていた。披露宴冒頭のフラワーシャワーで補填を試みたものの、時間帯が夕方で映像効果に欠けたと自己評価していた。

今後の展望と結婚式の機会
王都で行われる結婚式は王城内が会場となるため撮影許可が下りない予定であったが、将来的に別の結婚式を記録する機会は残されていた。グラルやヘルゼルナークが結婚に憧れを示していたため、次の対象は遠からず現れると見込まれていた。撮影隊に対して村長は励ましの言葉を送り、披露宴の料理と酒を楽しむよう促した。

閑話 オータットは考えるのを止めた 前編

混代竜族としての自覚
炎竜族のオータットは、大地竜族のグルベルの妻である。炎竜族と大地竜族を含む混代竜族は地上の生物の頂点の一角に立ち、一対一で他種族に劣ることはない。だが精霊王や原初の悪魔族など、さらに上位の存在は数多く、特に神代竜族は竜族でありながら格が違い、畏敬すべき対象であった。混代竜族は彼らに仕える立場であり、適度な距離を保つことこそ平穏の秘訣と認識していた。

仲間との再会と神代竜族の戦闘
オータットは妹のオーワメアーや友人のハイフリーニアルス、ラクトロイ、そしてかつて暴れ回っていた仲間ダンダジィと再会した。旧友との懐かしい会話の最中、目の前では神代竜族のハクレンとグラッファルーンが竜の姿で激闘を繰り広げていた。かつてハクレンとギィーネルが戦い、止めようとした混代竜族たちが薙ぎ払われた場面もあったが、不思議なことに全員が傷一つなく蘇っていた。人族が世界樹の葉を用いたと知り、オータットは助けに感謝しつつも驚きを隠せなかった。

償いとしての労働と抵抗感
ハクレンに攻撃し、世界樹の葉を使わせてしまった償いとして、オータットたちは土地の整地や城の改修に従事した。天使族の娘や人族から指示を受けることには抵抗があったが、ハクレンの命である以上は従った。ただし、ギィーネルの手伝いについては拒否し、自身と夫にはマークスベルガークから与えられた役目があることを理由にした。許可があれば協力は惜しまないとしつつも、その山に挑むことの難しさを強調した。

マークスベルガークへの畏敬と気づき
マークスベルガークを畏怖すべき存在と語っていたオータットは、彼が妻を大切にする人物だと知らされ驚く。思い出せばその妻はハクレンの妹であり、縁によって繋がっていると理解し、畏れと親近感を入り混ぜた笑みを浮かべた。最後に、川の拡張作業に向かいつつ、ギィーネルの件はマークスベルガーク本人からの直接の指示を求めると述べ、再び労務に励むのだった。

閑話 オータットは考えるのを止めた 後編

結婚式と披露宴への参加
オータットと夫グルベルは、ギィーネルとダンダジィの結婚式と披露宴に出席することになった。結婚式の存在自体は知っていたが、混代竜族にとって馴染みがなく、具体的にどう振る舞うべきかは理解していなかった。そのため、人族の指示に従い、妹夫婦や友人夫婦と共に行動することで不安を解消しようとした。

王都での再会と親族への思い
魔王国の王都に到着した際、オータットは懐かしい人物と再会した。姉の娘であるオージェスである。若いころの自分と同じように暴れていると姉から聞かされていたため、オータットは彼女をたしなめ、姉を困らせすぎないよう諭した。そのうえで、魔王国での生活について問いかけ、役目ではなく生活費を得るために働いていると察する。必要であれば自分が融通すると申し出つつ、無理をせず、困ったときは遠慮なく助けを求めるように言い含めた。ただし、その際は姉には黙っておいてやると付け加え、親族への思いやりを示した。

三章  メレオ騒動

のんびりした日と報告

中庭での安息
春の昼下がり、村長は中庭で椅子に身を預け、クロとユキと共に穏やかな時間を過ごしていた。猫たちも集まり、娘猫の将来や伴侶について考える中で、以前の失敗した縁談を思い出す。相手探しは魔王に相談する方針を検討するが、確信を持てず話題を逸らした。ハイエルフの鳥の鳴きまねが猛禽類を刺激し、鷲が真剣に探す騒ぎになる一幕もあった。

ガットの報告 ― 鉄鉱石の処理
夜の会合で、ガットは“五ノ村”で集めた鉄鉱石を高炉で銑鉄化したと報告した。その過程で一部に希少な貴金属が含まれており、鉄と結合させてしまったことが問題となった。原因は炉の稼働に高揚し確認を怠ったことにあり、ルーが不満を示したため、村長が調停役を担うことになった。

ビーゼルの報告 ― メレオの繁殖状況
ビーゼルは領地での雄メレオと雌メレオたちの繁殖について、予定より滞在を延ばしたいと報告した。雌たちが繁殖行動に前向きになり、飼育員やシルキーネも感化されたためである。雄メレオの健康状態は良好とされ、ビーゼル自身が転移魔法で送り届ける段取りとなった。

ヨウコの報告 ― 村の諸問題
ヨウコからは白鳥レースやポンドタートルの順調な活動、警備隊に参加するハイエルフの子らの成長が伝えられた。ただし、親たちが遠距離から見守る行為が問題視され、村長が改善を促すことになった。また、転移門の利用による物資輸送の渋滞対策として、道幅拡張や宿泊所の整備が提案された。

氷の魔物の立場
報告後、ヨウコは入浴に向かい、村長は眠るヒトエを部屋まで運んだ。その際、氷の魔物が従者のように補助を行い、自然に村に溶け込んでいる様子が見られた。ウルザの迎えが来た際、村長が引き止める可能性を懸念するほどに、存在感を発揮していた。

雌メレオの籠城

転移魔法による輸送の困難
ビーゼルの転移魔法は大規模な輸送に対応できるが、五メートル級のメレオを移送するには箱や人員、護衛、餌や水が必要であり、相当の規模となる。さらに距離が遠いため中継地点を多数確保せねばならず、最終的に十五日を要するとの見積もりであった。これによりシルキーネが輸送を困難とした理由が明らかとなった。

雌メレオの籠城と交渉困難
輸送開始前に問題が発生した。ビーゼル領の飼育場で雌メレオたちが巣を作り、雄メレオを囲い込んで籠城したのである。飼育員との交渉は進展せず、雌メレオの要求は雄を帰さないことであった。発情期後には執着が薄れると予想されていたが、予想に反して強い執着を示した。

救出方法の模索
雄メレオの様子は不明であり、強行奪還は卵への危険から難しいとされた。飼育員は、雄メレオの飼い主である悪魔族の少女に現場で声をかけさせ、雄の自発的行動で雌の結束を崩す案を提示した。ビーゼルは護衛を含め当日中に戻ると約束し、護衛人数は三人に限定するとした。

救出隊の編成と準備
村長は自らガルフ、ダガとともに護衛に加わる意向を示した。ビーゼルはこれに動揺し、村長の妻たちへの相談を強く求めた。相談の結果、男だけの同行は不適切とされ、ハクレンを加えた先行偵察隊が結成された。ハクレンは特別な小盾兼用の剣を装備し、暴走防止の重りも兼ねる形で同行することになった。

出発準備と配慮
出発前、ビーゼルは村長らに「既婚者です」と書かれたタスキを掛け、誘惑対策とした。準備を整えた救出隊は、日帰りの予定でメレオ救出に向けて出発することになった。

閑話 籠城戦

貴族出身の飼育員の事情
私は魔王国のとある男爵家の三女として生まれ、結婚後は夫の不在がちの家庭で子育ても終わり退屈していた。そんな折、クローム伯爵夫人に誘われ、美容品の原材料となるメレオカーン(通称メレオ)の飼育に関わるようになった。重労働ではあるが性に合い、楽しさを覚えた。

雌ばかりの飼育場と雄メレオの導入
飼育場には雌ばかりが残り、怠惰が進行していた。体液の採取量も減少し、未来を憂う状況だった。だがコリンコリン子爵夫人が若い雄メレオを連れて来て以降、雌たちは活発化し状況は改善した。

籠城の発生
しかし雄が帰還することを一部飼育員が漏らした結果、雌のメレオたちは森に巣を築き雄を捕縛し籠城を開始した。要求は雄を帰さないこと。飼育員側は対策本部を設置した。

初期の交渉と戦闘法規
交渉は難航し、食料差し入れや童謡作戦も失敗した。クローム伯爵夫人が解放を訴えるも結束は崩れず。飼育員側は雌と交渉し、交戦は昼のみ・飼育場外禁止・魔法禁止・捕虜の人道的扱いなどの戦闘法規を取り決めた。雄には冠を装着し、それを奪えば解放とする条件も設定された。

救出作戦の失敗
丸太攻撃と鉄球攻撃による巣破壊はネットタートルの介入で失敗。さらに雌は食料を隠し持ち、飼育員のトンネル作戦も水攻めで防がれた。強攻策を取るも、後方に第二の巣が構築され突破できなかった。

果物の手土産と情勢の変化
村長の手土産である高級果物が先に届き、雌にも分配されたことで一時的な和解の空気が生まれた。だが力押し作戦は依然として成果が乏しかった。

村長の到着と事態収束
七日目、村長が到着。同行していた女性――奇妙な武器を装備し、圧倒的な威圧感を放つ存在――の前に、雌メレオもネットタートルも震えあがった。飼育員と雌は急ぎ抱擁し合い「喧嘩していません」と仲良しアピールをすることで、事態は収束に向かった。

ごめんなさい

断崖での謝罪の儀式
ビーゼルの領地の断崖で、シルキーネが縄で縛られ滝に落ちるという儀式を行った。地域の伝統的な謝罪の方法であり、処刑のように見えるが安全は確保されていた。雄メレオ返還が果たせなかった責任を感じての行動だった。

ハクレンの存在に怯える魔物たち
護衛のハクレンのもとには近隣の魔物が次々と現れ、命乞いをした。ワイバーンや大型獣、巨大魚までもが一族の安堵を願って服従を示した。原因は過去のハクレンの振る舞いにあり、本人は謝罪して関係を修復した。

雄メレオの決断を託される
雄メレオは「帰りたいが雌と離れたくない」と迷い、最終的に村長に判断を委ねた。村長は「帰還は約束履行で必須、雌との今後は飼い主と保護者が決めること」と整理し、雄も雌も納得させた。雌は未練から体液で透明化させる行為をしたが、最終的に従うこととなった。

輸送手段の検討
雄メレオの帰還方法を巡り、ビーゼルは箱を使った通常輸送では時間がかかると説明。村長はハクレンに運搬を依頼する案を提示し、雄も同意した。安全な背負子の作成が必要とされ、現地で木材を伐採して準備することとなった。

予定変更の伝達
作業は一日では終わらず、村長は現地泊を決断。ビーゼルが「大樹の村」宛ての手紙を転移魔法で届けることになり、村長は「予定が変更になってごめんなさい」と記すことにした。

ハクレン式移動方法

背負子の完成と準備
雄のメレオを運ぶための背負子作りは、村長の万能農具と竜姿のハクレンの組み立てによって順調に進み、翌日には完成した。掴まる部分を多く設け、頑丈で暴れても耐えられる仕様となった。雄メレオは背負子に乗り、村長、ダガ、ガルフ、ビーゼルも同乗することに決まった。護衛力を落とさないため、全員で行動する方針が採られた。

ハクレンの移動開始
竜姿のハクレンが背負子を背負い、全員を乗せて浮上した。会話は集中の妨げになるため禁止され、垂直上昇で成層圏近くまで到達。地球が球体である景色を目にし、村長はハクレンの移動方法が地球の自転を利用した長距離移動であると理解した。

恐怖と現実逃避
高度上昇後、ハクレンは急降下を開始。空気圧縮による高熱で宇宙船の再突入のような現象が起き、村長は恐怖を紛らわすために現実逃避をした。ダガやガルフ、ビーゼルは気絶していたが、雄メレオは耐えていた。途中、ハクレンの盾が変形して青く発光し、効果よりも驚かせる演出だと村長は理解した。

帰還と到着
降下速度はやがて落ち、通常の飛行速度に戻った。ハクレンは村長に降下地点を尋ね、雄メレオを考慮して四ノ村が選ばれた。移動時間は体感で一時間ほどであり、メレオの飼育場から四ノ村までの帰還は成功した。

飼育場に向けて出発

帰還と家族への謝罪
雄のメレオを四ノ村に届けたあと、大樹の村に戻った村長は、予定より帰還が遅れたためクロやユキ、ザブトン、さらに家族に心配をかけたことを謝罪した。子供たちには遊びの約束を交わし、ダガとガルフには治癒魔法を依頼。ハクレンには礼を述べた。

信仰と「神の視点」への悩み
ダガ、ガルフ、ビーゼルは、成層圏から地球を見下ろした体験を「神の視点」と感じ、神罰を恐れて悩んでいた。村長は信仰に関わるため口を出さず、必要ならヨウコやニーズ、聖女セレスらに相談させるつもりでいた。

飼い主との話し合いと決断
五日後、雄のメレオは飼育場に行くことが決定した。飼い主は別れを惜しんだが、四ノ村での生活や恋愛事情を理由に同行は断念。ビーゼルとシルキーネの協力で、飼い主が後日訪問できるよう手配することになった。

準備と同行者の不安
再びハクレン式の高速移動で輸送することが決まったが、ダガ、ガルフ、ビーゼルは恐怖心から背負子への同乗を拒否。転移魔法で先行することになり、護衛はハクレン一人で十分と判断された。背負子にはトイレや貯水タンクが設置され、手土産も積み込まれた。

出発前の装備と目的地
ハクレンは重装甲を装備し、竜姿でも華やかに変形する姿に子供たちは喜んだ。村長はその魔法の便利さに感心しつつも、防御力は変わらないと聞かされる。雄のメレオは不安を抱えながらも飼育場に戻る覚悟を決め、ハクレンの背に乗った。目的地は直接飼育場ではなく、滝のある湖を経由点とすることが決まり、村長とハクレンは雄のメレオを連れて再び出発した。

閑話 名もなきワイバーン

生贄としての長の立場
名もなきワイバーンは三十頭の群れを率いていたが、実力は三番手から四番手程度であった。長の地位を得たのは、神代竜族ハクレンの襲撃後に設けられた「生贄役」として自ら立候補したからであった。若者を守るため、自ら犠牲になる覚悟で長を務めていたのである。

ハクレンの謝罪と安堵
ある日、ハクレンが再び現れた。名もなきワイバーンは覚悟を決めて挨拶に赴いたが、意外にもハクレンは謝罪し、今後は挨拶の必要もないと告げた。これにより恐怖から解放され、群れにも安堵を伝えたが、その軽率さを後に悔やむこととなる。

群れ内の争奪戦
ハクレンの脅威が去ったことで、群れの内部では強者による長の地位を巡る争いが始まった。名もなきワイバーンはまだ挑まれていなかったが、最後には最強とされる二頭のどちらかと戦わざるを得ない状況に追い込まれていた。二頭の短慮な性格を見て、群れを率いるには不適と考え、必死の抵抗を覚悟していた。

空からの異変とハクレンの帰還
二頭の激闘の最中、空気を震わせる衝撃と共に赤く輝く炎が上空に現れ、やがて青く光る存在となって降下した。それはハクレンであった。荷物を背負い鎧を纏った姿で湖へと降臨したのである。二頭はそれを偽物と罵倒したが、圧倒的な気配は疑いようがなかった。

村長の怒りと戦いの回避
ハクレンに同行していた村長が、二頭の無礼に怒り戦う姿勢を見せた。名もなきワイバーンは必死で止めようとし、自ら二頭に挑んだ。勝てるはずのない相手であったが、気迫と必死さで勝利を収め、群れの長を続けることになった。

心労と今後への憂い
大事には至らなかったものの、今回の件で心身ともに疲弊した名もなきワイバーンは、長の地位を誰かに譲りたいと考える。しかし、譲ろうと示唆すると群れの仲間たちは逃げ出してしまい、苦々しく思うのだった。

メレオの飼育場での戦い

飼育場到着と戦況の確認
ハクレンに乗って飼育場へ向かう途中、粗暴なワイバーンたちに絡まれたが、ワイバーンの長が収めた。到着すると飼育場は戦闘中であり、飼育員や雌のメレオたちが土と木の防壁を用いて応戦していた。別行動していたダガ、ガルフ、ビーゼル、シルキーネは森に入り魔物を討伐していた。

戦闘後の対応と報告
戦闘は収束したが防壁の一部が壊れており、ハクレンと共に修理を行った。ダガらが戻り、魔物は全方位から襲来し、西側が多かったと報告した。大きな魔物が五十体、小型の魔物は無数であったという。魔物は南へ逃げた群れもあり、当面はシルキーネの調査を待つことになった。

ネットタートルとの共存
飼育場にはネットタートルが共存しており、卵がメレオの卵と酷似していることから相互に利益を得ていた。メレオは土の湿度管理を行い、ネットタートルは外敵からの防衛を担っていた。飼育員が誤って購入したことが契機で共存が始まったと説明された。

獣との交渉
ネットタートルの案内で訪れた先に獣が待っており、縄張り争いの報告を行った。争いに息子が関与したため、見逃しを求めた。了承を得て事態は収束したかに見えたが、息子は反発し、男と力比べを望んだ。最終的に若い獣は滝に落ちる結果となり、村長がハクレンの夫であると知ったことで周囲の獣が畏怖を示した。

謎の家?

若い獣の処遇とシルキーネの合流
戦闘後に戻ったシルキーネは、飼育場の片隅にいる若い獣に目を留めた。この獣は縄張りを持つ一族の子であり、今後は護衛として飼育場を守らせることになった。生活は少し離れた場所で行わせ、報酬は謝罪の意味も込めて不要とされたが、無償労働を避けるため村長が工面することとなった。シルキーネは雄のメレオの護衛としての役割を認め、飼育場での存在を容認した。

施設の改修と新設
村長は防壁や施設を修復し、余った資材で井戸を二か所新設した。また、メレオとネットタートル用の畑を整備した。畑は広大であったが、彼ら自身で世話ができるように設計された。収穫は来年以降を見込まれており、飼育員たちも了承していた。シルキーネはその規模に驚きつつも、受け入れた。

若い獣の住処作り
その後、村長とハクレンは若い獣のために住処を作ることとなった。希望は洞穴であったため、斜面を削って掘削を開始した。水場や果樹も整備され、将来の生活に備えた住環境が整えられた。若い獣は村長を「大地を変化させる神」と恐れて直接会話を避けたが、環境整備は順調に進んだ。

地下から現れた家
視界を確保するために小山を削ると、内部から石造りの家が姿を現した。その外観は老夫婦が暮らす程度の小規模な家であり、木製の屋根は腐食がなく、魔法による保護が確認された。築百年以上は経過していると見られたが、内部の様子を確認することをためらい、ハクレンは炎で内部を焼く案を出した。煙突を通じて炎を入れることを決めかけた瞬間、家の扉が内側から勢いよく開かれ、箒を手にした老婆が怒鳴りながら現れた。家には今も人が住んでいたのである。

老婆

怒りを示す老婆との出会い
小山から現れた老婆は、家を燃やそうとしたことに激しく怒りを示した。謝罪を拒み、聞き流すことを求める独特な態度を取ったが、それは小さな誇りを守るための行動であった。村長とハクレンは困惑しつつも対応に追われた。

ビーゼルとの再会と素性の判明
老婆の名はビーアナシスタ=クロームであり、ビーゼルの祖母であった。長らく消息不明とされていたが生存しており、再会したビーゼルに対して孫である証拠を求めた。ビーゼルが幼少期に踊った奇妙な舞を披露すると、それを認めた。彼女はかつて四天王であり、転移魔法をビーゼルに教えた師でもあった。

五ノ村での生活と現在の活動
ビーアナシスタは“五ノ村”に居を構えており、普段は絵師として活動していた。特にヴェルサの著作の挿絵を手掛けており、その画風は多くの者に知られていた。シルキーネや飼育員たちは彼女の正体に驚き、サインを求めるほどであった。彼女はまた、世には村長では到底敵わない存在が多数いると語り、五ノ村の村長を例に挙げて警告した。

家族への責任と確執
ビーゼルは祖母の長年の失踪に対して怒りを露わにし、とりわけ父の葬儀に姿を見せなかったことを糾弾した。しかしビーアナシスタは葬儀には参列していたと主張し、家族との連絡も定期的に取っていたと語った。そのやり取りは食い違いを見せつつも、家族の確執を浮き彫りにした。

一時的な距離
飼育員たちは挿絵やヴェルサの本を通じて彼女の存在を歓迎したが、ビーゼルは動揺を隠せず、村長もまた彼女が自分を避ける様子を感じ取った。村長は若い獣の住処作りを再開し、時間を置いて関係を整理することを選んだ。

ビー婆

呼称の確立と親族関係の整理
ビーアナシスタ=クロームは自らの呼称を「ビー婆」と定め、丁寧語不要の姿勢を示した。ビー婆はビーゼルの祖母であり、フラウの曾祖母、フラシアの高祖母に当たった。フラウとは“五ノ村”で面会歴があり、村長が“五ノ村”の村長である事実は把握していなかったと示された。村長は公表可否についてフラウやビーゼルと協議する意向を示していたのである。

掘り出した家の取り扱いと周辺整備
掘り出された家は再埋設せず、周囲に植栽や芝生、花壇が既に整えられていた。ハクレンの攻撃が水脈に当たり池が形成されたが、家屋への影響は回避され、池の水は地下循環により滞留しないと見込まれた。近隣の若い獣には家の保全を低優先で依頼し、最優先はメレオ飼育場の防衛とされた。

若い獣の配置と将来計画
若い獣は縄張りの防衛要員として配置され、将来的には伴侶を得て一家で任務に当たる希望を持っていた。相手方の親族承認が必要である事情から、村長とハクレンは当面介入せず、本人の努力を尊重する方針であった。ビー婆は盗賊対策の観点からも配置の有用性を示唆し、用心の重要性が確認された。

失踪の経緯と真相
当時“魔王国”は戦時下で、ビー婆は四天王として輸送部門を統括していた。転移魔法を暗殺に転用する要求を拒否した経緯はあったが、それ自体は失踪理由ではなかった。実際の失踪は、副業として要人の私的移動を転移で請け負った結果、ある大臣の妻から執拗な襲撃を受け、さらに関係の露見で敵対勢力からの襲撃も増加したため、周囲への被害を避ける目的で身を隠したことに起因した。身を隠す前に魔王や四天王へ事情は通達済みであり、クローム伯領への実害は発生していなかった。のちに自由な生活を享受し、先々代魔王の存命中は無給協力を行いつつ、恒常的な復帰は見送られたのである。

家族の所在と関係の再構築
ビーゼルは母の所在を把握していなかったが、ビー婆は母が“五ノ村”地下商店通りで仕立屋を営んでいると明かした。最近は王族の衣装制作にも関与していた事実が示され、ビーゼルは動揺しつつ再会に向けた情報を得た。周囲のメレオたちは、このやり取りから報告と連絡の重要性を学習した。

密閉環境下の空気確保の仕組み
ビー婆は家屋内の空気維持について、空気浄化機能を持つ風魔水晶と、二つで一対となり空気を循環させる壺の魔道具を提示した。風魔水晶は消耗品であり定期補充が必要で、壺は片方から吸い込んだ空気をもう片方から放出する構造であった。この壺の製作者はルーであり、村長は因縁のつながりに感慨を覚えたのであった。

閑話 巨大な魚は争わない

水辺を統べる存在とハクレンとの出会い
湖とその周辺の水域を支配する魔魚は、種としては巨大化したナマズに類似しており、空や陸に生きる者からは魔魚の王、湖の住人からは主と呼ばれていた。数百年前、神代竜族ハクレンが暴れ地形を変えた際、大混乱が生じたが、魔魚は岩陰に隠れてやり過ごそうとした。しかし挨拶を求められ、陸に上がり直接面会したことが両者の初めての出会いであった。

再会と変化への警戒
時を経て再びハクレンが訪れ、当時の迷惑を謝罪し、挨拶の必要がなくなったと伝えた。空や森を統べる者たちの部下は義務から解放され暴れ始めたが、魔魚の部下たちは大人しく従っていた。魔魚は自らの勘を信じ、動かずに平穏を保った。

人族の男への注視
魔魚はハクレンよりも、彼を従えていた人族の男の存在に注目した。ハクレンが気まぐれで従うはずはなく、その男は只者ではないと判断した。やがて男は空と森を統べる者の部下を滝に落とし、魔魚は自らの判断が正しかったと確信した。

人族と竜の関係の告白
魔魚はハクレンに男の正体を尋ね、彼が夫であり三人の子を持つと知らされた。さらに挨拶のやり取りを交わし、互いに支援を約する関係が築かれた。ハクレンは以前より穏やかになっており、魔魚はその変化を実感した。

平穏への希求
魔魚はこの地で争わず、湖底で平穏に暮らすことを望み続けた。唯一の願いは、滝から奇妙なものを流すことをやめてほしいということであり、部下たちの驚きを避けたいと考えていた。

終章 新しいお店

村に帰る

森での調査と帰還準備
シルキーネは森に入り魔物の動向を調査し、逃走方向を確認した結果、村や街に脅威が及ぶ可能性は低いと判断した。ただし念のため警告を出すこととなった。雄のメレオの輸送も完了し、村長は別れを告げて帰還の準備を整えた。

ビー婆との別れと変身
帰還はハクレンと転移魔法を用いて行われることになった。ビー婆も五ノ村に戻ることを選び、竜に乗る誘いを断った。その際、若い美貌の姿へと変身し、普段は老いた姿を見せず作業に専念していた理由を明かした。さらにビーゼルの母が五ノ村の仕立屋を営んでいることが判明し、母子の再会に向けた話が交わされた。

義母をめぐる気づき
シルキーネはかつて五ノ村の仕立屋でドレスを仕立てた経験があり、その職人が義母である可能性に動揺していた。ドレスを注文した際に義母へ惚気を語ったことを思い出し、悶絶する様子が描かれた。

竜による帰還
村長は飼育員から預かった本を持ち、ハクレンに乗って大樹の村へ帰還した。ハクレンの飛翔は速く便利であったが、他の竜には難しい技術であり、星の外に放り出される危険性も伴うため多用は避けるべきとされた。五十年も星外に滞在した竜の例も語られ、危険性が改めて認識された。

旅のあとかたづけ

ビーゼルの不満と親子関係
ビーゼルは母親と再会したものの仕事優先で相手にされず、さらに五ノ村で婦人会を立ち上げて楽しんでいることに不満を抱いていた。彼は母親がシルキーネの補佐をすべきだと愚痴をこぼしたが、フラウがフラシアを膝に乗せて黙らせた。村長は親子の触れ合いの大切さを改めて実感した。

ヴェルサとビー婆の話題
村長はヴェルサに飼育員へのサインを頼み、完成した本を大切に保管した。ヴェルサはビー婆のことを語り、彼女が早く本を読むために挿絵を描き始めた人物で、文章修正まで助言する存在だと説明した。ビー婆を村に招く案も出たが、天使族との因縁を考慮し強制的に呼ぶのは避けるべきとされた。

クロの子供と日常の一幕
クロの子供が村長のもとに駆け寄り、鬼人族メイドに捕まるのを嫌がった。村長は「嫌がる者を無理に動かすべきでない」と思いつつも捕まえて渡し、風呂に入るよう促した。

風魔水晶の用途
ビー婆が使っていた風魔水晶についてルーが説明し、粉状から大粒までさまざまな大きさが存在した。粉は着火補助や土壁に混ぜて生存率を上げる用途に使われるが効果は限定的であり、中程度の大きさを携帯するほうが実用的だと語られた。

空気を送る壺の再製作
村長はルーに、かつて作られた二つで一組の壺について依頼した。壺の魔法陣を介して空気を行き来させる仕組みで、実際には伝声管のように使われていた。過去に削って壊してしまったため、同等品の再製作を強く求められたのである。ルーは壺さえ用意すれば一日で完成できると請け負い、後日高級品の壺を用いて再製された。ビー婆は受け取ったが、豪華すぎる品を外置きできないと叱り、今後は屋内通話用に使うこととなった。

子供の玩具

ジュエルの訪れと部屋の惨状
昼食後に休んでいた村長のもとへ、宝石猫のジュエルがやって来て甘えた。違和感を覚えつつ鬼人族メイドに呼ばれると、屋敷の一室が荒らされていた。原因はジュエルの子である姉猫と妹猫たち八匹で、彼女らは整列して反省していた。

暴走した玩具の発見
部屋の原因は、缶ジュースほどの木片に見える玩具であった。それは手足と尻尾を持ち、自律的に動く仕掛けで、ルーが機構を作りヤーたちが形を整えたものであった。子供たちに人気であったが、強い魔力に反応して暴走する欠点があったため、竜の子供たちには危険視され隠されていた。それを猫たちが見つけ、暴走した玩具を追いかけたことで部屋が破壊された。

玩具の仕組みと反応条件
玩具は制御の未熟な魔力に反応して動作する特性を持っていた。大人が持つと動かず、子供が持つと暴走しやすい仕組みであった。村長が持った際には動いたが、それは魔力の制御が完璧ではなかったためと推測された。猫たちの場合は本来反応しないはずだが、意図的に魔力を与えて暴走させていたことが判明した。

責任と修繕
村長は原因が自らの飼う猫たちにあると認め、部屋の修理を請け負った。猫たちには反省の姿勢を長く取らせ、軽率な行動を戒めることとなった。

洋菓子店出店計画

出店要請と立地の選定
五ノ村ではケーキやチョコレートを提供する店舗が少なく、需要が高まっていた。既存の二店舗は常に満席で供給不足の状態であったため、村長が出店を担うことになった。立地は牛乳や卵の搬入に便利な麓の広大な敷地に決定され、将来的な発展も見込まれる場所であった。

建物と設備
厨房の防火を考慮してレンガ造りとされ、倉庫や従業員寮を併設した構造となった。当初は持ち帰り専門の予定であったが、待機や商談用に椅子とテーブルを置くスペース、さらに応接室も追加され、結果的に三階建てとなった。

人員体制
職人はクロトユキで学んだ十名で、その代表は元エルフ帝国の皇室厨房で修行していた女性であった。販売員は接客経験者五名が配置され、意欲的に準備を進めていた。村長が店長に就任し、代理には獣人族の女性が抽選で選ばれた。天使族は補佐として運営を支える体制となった。

商品構成と価格
当面はイチゴのショートケーキとフルーツケーキの二種を中心に販売し、価格は中銅貨十枚から十二枚で設定された。贅沢品でありつつも、原材料費を考えると格安であった。補助商品としてクッキー、ビスケット、限定数のチョコレートも販売されることになった。チョコレートは一日一箱限定で、中銅貨五百枚という高額ながら原価を考えれば安価とされた。

店名決定
店名候補として身近な者の名を冠する案もあったが却下され、最終的に妖精女王の提案により《洋菓子店フェアリーフェアリ》と命名された。呼称は簡略化され《フェアリー》と呼ばれる可能性が高いと見られた。

閑話《洋菓子店フェアリーフェアリ》前編

店長代理ロロネの任命
獣人族の女性ロロネは幼少期に大樹の村へ移住し、牛馬の世話や畑仕事に従事していた。安定した生活を送っていたが、突如として五ノ村の洋菓子店の店長代理に任命された。これは天使族の意向と、セナの推薦によるものであり、本人は追放と誤解したが、信頼の証であると知り奮起した。洋菓子の定義についても説明を受け、ケーキやクッキーなどを販売する店舗であると理解した。

店舗の立地と建築
洋菓子店フェアリーフェアリは、広大な敷地に建つ大規模な店舗で、周囲にはまだ道しか存在しなかった。開店準備は夏を予定し、早くから客が並ぶ状況が生じた。建物はレンガ造りで、大きなガラス窓が採用され、内部は明るく開放的であった。火災対策も施され、堅牢かつ実用的な設計となっていた。

導入された先進的設備
店舗には多くの魔法的設備が導入された。自動で開閉する魔法扉、動く階段、浮遊庭園式の昇降箱、魔法照明、空調箱などである。厨房には魔法窯、冷蔵庫や冷凍庫、攪拌機、魔法の壺など多様な機材が揃えられ、十人の職人が効率よく作業できる体制が整った。さらに水道も完備され、従業員の生活環境にも配慮がなされていた。

待機スペースと付随機能
販売スペース横には待機スペースが設けられ、三十曲収録の楽曲箱が設置され、客の待ち時間を和らげる工夫があった。従業員寮や食堂も整備され、快適な勤務環境が用意された。開店前からの行列に対しても柔軟に対応がなされ、ゴロウン商会の関係者が証拠作りのため並んでいることが判明した。ロロネは彼らに配慮しつつ協力関係を維持する姿勢を示した。

閑話《洋菓子店フェアリーフェアリ》後編

護衛としてのスナイプスパイダー
洋菓子店フェアリーフェアリの護衛には、ザブトンの子であるスナイプスパイダーが派遣されていた。彼らは高い隠密能力を持ち、糸を硬化させて無音で射出し、鉄をも貫く威力を誇った。常時六から八匹が交代勤務し、防衛体制を担っていた。

従業員の到着と生活環境
従業員は職人十名と販売員五名で構成され、建物の二階と三階には寮や食堂、風呂が整備されていた。職人たちは交代で食事を用意することになり、過労防止が重視された。実習として商品試作や試食、接客訓練が行われ、店舗での生活に慣れることが最初の課題とされた。

職人と販売員の熱意
職人たちはケーキ、クッキー、プリン、チョコレートなどを自由に作り続け、技術や味の改良に意欲を見せた。販売員たちも接客実習を熱心に行い、顧客対応を学んだ。ただし過度の熱意から誇張した言動もあり、店長代理ロロネは冷静に指導を行った。

地下施設と転移門
店舗の地下は倉庫や従業員の私室、事務所として使用され、売上金管理や防犯を考慮した設計であった。その奥には極秘の転移門が設置され、五ノ村のヨウコ邸倉庫と繋がっていた。これは通勤や緊急避難に利用できるもので、大樹の村への迅速な帰還を可能とした。存在は外部秘とされ、定期的に表向きの移動を演出する必要があった。

閑話 洋菓子店の職人

語り手(魔族の女性職人)
魔力がほとんどないため辺境の村で疎まれ追い出され、各地を流転。腕力だけが取り柄で食いつなぎつつ“五ノ村”へ。白鳥レースで勝ったのち、《クロトユキ》のケーキに衝撃を受け、未経験ながら職人見習いに採用。厳しい修業を経て《洋菓子店フェアリーフェアリ》の職人として配属される。

店舗と体制に触れての所感
麓の大規模店舗に驚嘆。自動扉/動く階段/昇降箱、魔法窯・巨大冷蔵冷凍庫など設備は万全。寮・食堂・浴場完備で勤務環境も良好。店長代理ロロネと天使族補佐の統率に「実力」を認め、種族や年齢で上下を決めない方針に安心する。

日常と訓練
厨房ではケーキ・クッキー・プリン・チョコの試作が熱を帯びる一方、ロロネは過労防止と衛生徹底(入浴後に入室等)を指示。防災(消火・避難)に続き防犯訓練を実施。「命優先で逃げる」を徹底しつつ、実地ではスナイプスパイダー(ザブトンの子)が無音の糸で侵入者の武器を次々と破壊、店舗防衛力の高さを確認する。

結び
居場所を失った語り手は、仲間=家族として受け入れる《フェアリーフェアリ》で常識を更新。ロロネの下で「上品な甘さ」を追求しながら、衛生・安全・連携を学び、職人としてここで生きていく決意を固める。

閑話 新商品

幹部の立場と常駐の事情
語り手はゴロウン商会の幹部であり、各地を飛び回る役割から五ノ村に常駐する立場となった。五ノ村は商会が村の設立時から深く関わっているため、取引額が大きく、常駐の必要が生じていた。

新商品のチョコレートとの出会い
語り手は文官から新作チョコレートを試食し、その甘さと香りの良さに驚いた。これは薬を原点とする品であり、美容に効能があると説明を受けた。高級菓子であるが一般販売予定とされ、貴族専用店は設けられない方針であった。

販売方法と懸念
販売は一日一箱限定、中銅貨五百枚という高額設定であり、希少性から貴族が殺到することが予想された。商会側は混乱を懸念し、数量増加を要望したが、原料の希少性から数年先まで増産は困難とされた。代案として、一箱あたりの粒数を減らし供給数を増やす案が出された。

ゴロウン商会の役割
新商品発売に伴い、貴族への対応はゴロウン商会に委ねられることとなり、事前に三十箱の試供品が商会に渡されることになった。これにより商会は貴族の圧力を調整する役割を担うことになった。

語り手の決意
語り手は責任の重さを理解し、自ら並んで商品を入手することで公正性を示す覚悟を固めた。これは部下任せにできない重要な案件であり、自身が直接対応することで問題を回避しようとしたのである。

閑話 出店計画の裏側(ヨウコ視点)

はじめに(ヨウコ)
幼児化の約束は捏造だと全力否定しつつ、今日は《洋菓子店フェアリーフェアリ》のプレオープンに参加する段取り。

出店の経緯
《クロトユキ》《青銅茶屋》が常時満席で、五ノ村の住人から「並べば食べられる」現状を是正してほしいと要望。さらに魔王国の貴族層からも「平民は食べられて貴族が食べられないとは何事か」と圧。対症療法として“持ち帰り専門”の洋菓子店をまず一軒、試験出店する方針に(将来的には十軒展開を想定)。

立地の決定理由
既存の繁華街は用地なし。上部・中腹も不可。消去法で麓の端へ。いまは何もないが、将来的に中心部と新居住地を結ぶ導線、“五ノ村—シャシャート新道”、高級宿・大型食堂・劇場・商業施設・乗合馬車発着場などの整備計画があり、将来価値は高いと判断。

建物と設備(村長の暴れっぷり)
レンガ造・寮併設・風呂・応接室・商談室までは想定内。問題は魔道具の豪華さ。自動開閉扉、動く階段、昇降箱、強化ガラス、屋外の“洗濯箱”まで完備。安全装置・耐荷重も山エルフが入念に設計。外観が悪人を呼ぶ可能性を見て警備体制を検討。

護衛配備:スナイプスパイダー
ザブトンの子たちが進化して到着。以前の“見ただけで気絶”スキルは制御可能に。個別指名での気絶、再気絶もでき、効かない相手には超遠距離・高貫徹の硬化糸射出で対処。過剰火力感にヨウコが若干ビビる。

極秘インフラ:転移門
地下のさらに奥に、ヨウコ邸へ繋がる転移門を村長が設置(事後報告でヨウコ驚愕)。通勤・避難・攪乱に有用。結果、この店舗は五ノ村防衛の“要”の一角に。

プレオープン運用
今回は持ち帰り専門店でも試食を解禁し、村長一家と子どもたち、妖精女王も招待。味はお墨付き。

持ち帰り方式
一般顧客は貸出制の木籠(返却時に籠代返金)。貴重なチョコや貴族向け取引では、絵入りの紙箱を採用。今回の紙箱の絵はヨウコの娘・ヒトエが一点ずつ手描き。

おまけ(ヒトエ)
ヒトエは“動く階段”にドハマり。試食そっちのけで上り下りを満喫。ヨウコも付き添うが乗るタイミングに苦戦して置いていかれるオチ。

試験開業から正式開業

プレオープンの段取りと現場
《洋菓子店フェアリーフェアリ》は数日間の試験開業を実施。初日は招待客のみ、以後一般開放→一旦クローズして改善→本開業という流れ。店長の村長は来賓対応、実務の主役は店長代理ロロネ。妖精女王のお墨付きメニューは好評で、招待客の評価も上々。

運営体制と装備
ロロネは天使族補佐と連携し、現場を統率。制服は職人=白コックコート&帽、販売員=白基調メイド服、補佐=淡クリームのジャケット、ロロネ=薄緑ジャケット+赤紐タイで視認性を確保。店内警備のザブトン子にはコック帽型ギア(ひっくり返すと迷彩シート)を支給し、ハクレン鱗粉で対魔法防御を強化。

チョコの希少性と増産課題
新作チョコは“絶賛”だが、一日一箱制限が不満点に。カカオは四ノ村の生産に依存し、当面は増やせず。新規農園候補としてメレオ繁殖地を検討するも、許可・人手・遠隔管理が課題。まずは現行体制で運用継続。

試験営業の運びとロロネ判断
初日終了報告後、ロロネは「問題なければあと五日」継続を提案し承認。村長は“無理して儲けず、足場固め”の方針を再確認。

正式開業と移動販売網
正式開業前に、魔法アシスト付き小型四輪リヤカー10台を投入(冷蔵庫・レジ内蔵)。護衛兼運搬2+販売2の計4名×10台=40名を新規採用し短期研修後に配置。ロロネの号令で一号車から十号車まで五ノ村中心部へ展開し、定点でケーキを販売。

移動販売の目的(3本立て)

  1. 立地不利の本店に代わり需要地へ“攻める販売”。
  2. 将来の複数出店に向け、売れ筋エリアと時間帯を調査。
  3. ケーキの又売り対策(衛生・品質劣化リスクを抑制)。※チョコの又売りは事前合意内で黙認。

派生ビジネス
「ケーキにはお茶」の需要を捉え、お茶専門リヤカーも併走。ロロネが即応し売上を伸ばす。

閑話 洋菓子店の施設開発をする山エルフ

設備開発の依頼と自動扉の構想
山エルフたちは村長の依頼で《洋菓子店フェアリーフェアリ》の設備を担当することとなり、班の任務は自動開閉扉の開発であった。人の接近を重量変化で感知する方式を採用したが、ザブトンの子供たちが軽すぎて反応せず、最終的に手動スイッチを併設することになった。

ガラス扉導入と強度問題
村長の要望で木製からガラス扉に変更されたが、強度不足で砕ける問題が発生した。防犯上も不安視され、硬化ガラスの開発が必要とされた。ルーの協力により強化ガラスの製造に成功し、導入された。

速度調整の失敗と改善
扉の開閉速度が速すぎるためにガラス扉が砕ける事故が続発し、調整の不備が問題となった。試行錯誤を繰り返しながらも、改善を進めることで安全性を確保する方針が取られた。

山エルフの姿勢
山エルフは失敗を重ねつつも開発を楽しみ、物作りへの意欲を強調した。他班が担当した動く階段を羨みつつも、自らの成果に満足を示し、引き続き創意工夫を重ねる姿勢を見せた。

閑話 “五ノ村”の働き口案内

職業斡旋所の仕事
“五ノ村”は街並みに発展しているが、あくまで「村」と呼ばれる。その地で正規の職業斡旋所を営む魔族の案内人が、移住者に働き口を紹介していた。発展中の村だけに職種は多岐にわたり、需要も絶えなかった。

人気の職業
大工は常に不足しており、高い需要がある。技術者でなくとも体格を生かして重労働に従事すれば収入を得られる。次いで人気なのはウエートレス・ウエーターで、チップ収入や店の信用度に応じて稼ぎが変動する。ラーメン店など賃金制の厳しい職場もあり、《クロトユキ》や《青銅茶屋》といった人気店は試験や面接が条件となっていた。

運搬・清掃関係の仕事
坂の多い“五ノ村”では荷物の運搬も重要な職で、体力や土地勘が求められる。ゴミ収集や下水清掃といった敬遠されがちな職も賃金が高く、スライム頼りの現状を補う要員が模索されていた。

変わり種の職業
ファッション通りで新作の服を着て歩くモデル、白鳥レースの調教師、映画のエキストラやファイブくんのバックダンサー、大盛りラーメン免許の認定員なども存在した。収入は職により差があるが、名誉や楽しさを重視する人も多かった。

農業の推奨
案内人が最も安定していると勧めたのは農業であった。村長所有の畑を委託される形式のため税の心配がなく、収穫が不作でも基本賃金が保証される。村への貢献度も高く、結婚や将来の安定につながるとされていた。

閑話『勝負の結果』

語り手の自己紹介
語り手は魔族の男スールカール=ジャンドールである。年齢は三十二歳。魔王国出身で、自身を「最強を目指す男」と称していた。

固有スキルの能力
スールカールの持つスキルは『勝負の結果』である。これは戦おうと思った相手に対し、勝敗の未来を第三者視点で確認できる能力である。未来像は勝利、敗北、あるいは逃走の姿として映る。敗北の未来を見ても状況や条件を変えれば結果を覆せるため、彼は鍛錬を怠らず勝てる相手だけを狙って勝ち続けてきた。

五ノ村への到着と目的
スールカールは五ノ村を訪れた。目的は「武神ガルフ」と呼ばれる獣人族の戦士との対決である。村の発展ぶりに驚きながらも、ラーメン店を巡る場面ではスキルを食事の選択にまで用いていた。

勝負を仕掛ける試み
冒険者に勝負を挑んで勝利を得たが、人通りの多い昼間だったため警備隊に注意を受けた。スールカールは殺しを避ける主義であり、恨みを買わぬよう勝負はあくまで無力化に留めていた。しかし警備隊長との勝負予知では瞬殺される未来が映り、彼らの強さを認めざるを得なかった。

圧倒的存在との遭遇
通行人に次々とスキルを使った結果、細切れになる、消し炭になる、星空に飛ばされるなど絶望的な未来を連続で見る。弱そうな人族の男にすら槍で貫かれる未来しか映らず、驚愕した。その際、『勝負の結果』そのものが自我を持ち、スールカールの思考に介入した。スキルは「その男には手を出すな、土に還される」と警告し、以後は慎重に行動するよう強く諭した。

新たな役割の獲得
五ノ村では危険な相手が多すぎることを悟り、無闇に勝負を挑むのをやめた。やがて警備隊長から、三人のエルフの少年を鍛える仕事を依頼される。周囲には自分を瞬殺できる強者しかいないため、自身が「ほどよい相手」として選ばれたのだと理解した。

結論と現在
スールカールは報酬に満足し、少年たちの武術の家庭教師として働き始めた。彼は自らを「最強を目指す者」と改めて名乗りつつ、五ノ村での生活と結婚相手探しを続けていた。

閑話『相談者』

スキルの自我覚醒
語り手はスキル『勝負の結果』である。これまでは自我を持たなかったが、最近になって目覚めた。所有者は魔族の男スールカール=ジャンドールであり、彼は最強を目指すため日々の鍛錬を欠かさない。スキルを活かすには実力が必要で、力なき者には敗北の未来しか視せられないためである。

五ノ村での生活と懸念
スールカールは五ノ村に滞在し、美食の豊富さを楽しんでいた。ただし食事がラーメンと焼き肉の繰り返しになっている点をスキルは危惧し、多様な料理を勧める。また、自我を持った影響で所有者の食欲が増している可能性を示唆した。家の購入にも立ち会い、未来を視ようとしたが遠すぎる結果は見通せなかった。

最強を目指す理由
スールカールが最強を目指す理由は「モテたいから」であると判明する。これまで彼がスキルを女性相手に多用してきたのも、強さを誇示して惚れられる未来を期待していたためと理解された。

スキルの進化
スキルは進化し、新たに『相談者』と名乗る存在となった。従来の未来予知能力を保持したまま、所有者の相談に乗る役割を得た。また、実体化の能力を獲得し、五歳ほどの子供の姿で現れることができるようになった。姿は幼いが、自由意思で所有者の傍に現れることが可能である。

所有者への影響
『相談者』が傍にいることで、スールカールの女性関係は減少した。しかしこれは意地悪ではなく、彼がさらに強さを追求し最強を目指すための後押しと解釈された。実体化した姿で共に食事を取り、ラーメンと焼き肉のローテーションの魅力も理解するに至った。

結び
『相談者』は未来を自分自身に対しては視られないものの、所有者の未来を支え、共に歩む決意を示した。自らの存在が所有者を強く導くと信じ、明るい未来を期待していた。

閑話『相談窓口』

相談窓口の職務
語り手は五ノ村の村議会場で働く職員であり、三十人ほどの同僚とともに相談窓口を担当している。村人からのさまざまな相談を受けるのが仕事である。

日常の相談事例
相談者からは奇妙な依頼も寄せられる。例えば「税金をもっと払いたい」という者に対しては受け取れないと断り、賄賂を持ちかけられると厳しく拒否した。また、夫が毎日ラーメンを食べ続けることへの不満を訴える妻には「夫婦で話し合うべき」と応じつつ、要望としてヨウコへの提案を伝えることを約した。

住宅に関する相談
ミノタウロス族の移住者が集合住宅の個室で家族が分かれて暮らすことを嫌がり、家族向けの住居を望む相談もあった。職員は担当部署に改築要望を出すと約束した。

職場での情報交換
昼食の時間は情報交換の場でもある。報告によると、以前から要望されていた結婚問題対策が進展していた。五ノ村は移住者が多いが、結婚している者が少ないのが課題である。

結婚問題の背景
他地域では顔役が結婚相手を斡旋するが、五ノ村では移住者が多いため身元調査が難しく、斡旋が行いにくい。そのため、移住者同士での結婚が多いが、男女比の偏りから余剰が生じるのが問題とされる。

村長とヨウコの方針
村長やヨウコも問題を把握し、結婚希望者に資金を稼げる職を与え、出会いの場を作るなどの対策を講じていた。ただし望まない結婚を強要することはせず、自然な成り行きを重視している。

新たな対策としての婚活パーティー
要望に基づき、結婚希望者を集めたパーティーの開催が決定した。自己紹介やアピールの場、性格を見極めるためのゲームなどが行われる予定である。村長は「集団お見合い」「婚活パーティー」と呼んでいた。

職員の決意
語り手自身も独身であり、パーティーに参加する意欲を見せた。相談窓口で働きながらも結婚の望みを捨てず、好待遇の職場に留まりつつ伴侶を得ようとする決意を語った。

閑話『とある移住者は夢を見る』

移住者の生活と秘密の扉
五ノ村に移住した魔族の女性は、夫ラングホーと結ばれ子をもうけ、主婦として穏やかな生活を送っていた。彼女はある日、集合住宅に紛れて設けられた扉を訪れ、合言葉を交わして中へ入る。そこは《園》と呼ばれる秘密の場所であり、一般には公開されない本が並ぶ書棚と、紅茶や菓子を楽しめる空間であった。

《園》の仕組みと禁書の存在
《園》は図書館ではなく茶店でありながら、蔵書を自由に読むことができる。ただし本の持ち出しや売買は禁じられ、存在そのものが隔離されていた。本は村長とヨウコによって「一般公開禁止」とされ、訪れるには面倒な手順を経る必要があった。

憧れの作者との邂逅
女性は普段とは別の《園》に通っていたが、この日は特別な目的を持って麓の《園》に足を運んだ。それは、《園》にある本の大半を書いた作者ヴェルサに会うためであった。勇気を振り絞り、自らの創作原稿を差し出したところ、ヴェルサは丁寧に読み進めたうえで「装丁を施し、ここに置きましょう」と応じた。

作品の扱いと今後の決意
ただし原稿は奥の奥に配置されることになった。理由は、生きている人物――今回は武神ガルフを主役にしたことが問題視されるためであった。名前を変えればよかったと告げられるが、女性は「変えません」と断言し、次作はオリジナルで挑むと誓う。

夢を抱く主婦の姿
彼女は子育てをしながら創作活動を続け、将来的には有名なビー婆に挿絵を依頼したいという大きな夢を抱いていた。創作の喜びと日常の幸せを胸に、五ノ村での暮らしを紡いでいく決意を固めていた。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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