物語の概要
ジャンル:
異世界ファンタジー/冒険譚である。本作は「オラリオ」の世界を舞台に、冒険者ベル・クラネルを中心としたモンスターとの交錯、神々との関係、種族間の軋轢を描く大河シリーズである。
内容紹介:
ベルたちは新たに発見されたダンジョン階層域「大樹の迷宮」に進出する。そこで彼らは、言葉を話し、人に襲われ、人にも恐れられる孤独な竜の少女ウィーネと出会う。ベルは彼女を保護しようと決意するが、その行動は大きな波紋を呼ぶ。暴悪な狩猟者の襲撃、人とモンスターの軋轢、そしてギルドの暗躍が絡み合い、都市に混乱をもたらす。竜女を巡る物語が、人と怪物、神々を揺るがす異変の始まりを告げるであろう。
主要キャラクター
- ベル・クラネル:本作の主人公。弱き冒険者から強く成長を遂げつつあり、仲間を守るために自らの信念を貫こうとする人物である。
- ウィーネ:大樹の迷宮で出会った竜の少女。人語を話しながらも孤立した存在で、ベルにとって守るべき存在となる。
物語の特徴
第9巻は、シリーズの中でも「出会い」と「保護」を軸にした物語構造が強く意識されている点が特徴である。ベルという主人公が“弱者”とされるキャラクターを守ろうとするヒーロー然とした行動を取り、読者に共感を呼ぶ。また、竜という伝説的な種族を扱うことで、モンスターと人間の関係性、種族間対立というテーマが深まる。さらに、ギルドや都市機構の暗部がちらつく構図も本巻を単純な冒険譚以上のものにしている。竜少女ウィーネという存在を巡る謎と軋轢が、シリーズ全体での伏線や展開を強くする巻である。
書籍情報
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 9
(Is It Wrong to Try to Pick Up Girls in a Dungeon?)
著者:大森藤ノ 氏
イラスト:ヤスダスズヒト 氏
出版社:SBクリエイティブ(GA文庫)
発売日:2015年9月13日
ISBN:978-4-7973-8500-7
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あらすじ・内容
大森藤ノ×ヤスダスズヒトが贈る、圧倒的ダンジョンファンタジー、第九弾!「モンスター……ヴィーヴル?」
新たなダンジョン階層域『大樹の迷宮』に進出したベルは、竜の少女ウィーネと出会う。
人語を話し、人からも怪物からも襲われる孤独な少女を保護することを決めるのだが……。
「竜女か──久々の上玉だ」
忍び寄る暴悪の狩猟者達の魔の手、覆すことのできない人と怪物の軋轢、そして動き出すギルドの真の主。
一匹の竜の少女を巡り、都市に波乱がもたらされる。
人と怪物、神々を揺るがす異常事態──ダンジョンの異変に迫る迷宮譚第九弾!
「ベル……大好き」
これは、少年が歩み、女神が記す、
──【眷族の物語(ファミリア・ミィス)】──
感想
本巻の中心は、ダンジョンから生まれ落ちた竜の少女・ウィーネである。
モンスターでありながら、同族に襲われ、人間からも恐れられる孤独な存在。
そんな彼女と、冒険者ベル・クラネルの出会いから物語は始まる。
ベルは偶然出会った彼女を助け、傷ついたウィーネを自らの手で保護する。
そして「ウィーネ」という名を与えた。
その行為は、誰からも呼ばれたことのない彼女にとって、初めての“救い”であった。
しかしそれは同時に、神々と人々が定めた禁忌への第一歩でもあった。
ヘスティア・ファミリアの仲間たちは、ウィーネの存在に戸惑う。
襲ってこないモンスター、意思を持つ存在――その矛盾は、人と怪物の境界を揺るがす。
ヘスティアは神友ヘファイストスやミアハ、タケミカヅチらに相談するが、
誰も「喋るモンスター」を知らず、ウィーネが異例の存在であることが明らかになる。
その後、ベルたちはウィーネがどこから現れたのかを探るため、
ダンジョン十階層周辺の調査に乗り出す。
アイシャ・ベルカとリュー・リオンが臨時で加わり、
彼らは中層へと潜行するが、ベルは戦闘中に一瞬のためらいを見せてしまう。
ウィーネと同じく「心を持つモンスター」がいるかもしれない――その思いが彼の手を止めたのだ。
調査の中で、ベルとヴェルフはウィーネと同種と思しき竜女と遭遇する。
彼女は人とモンスターの共存を口にし、金色の羽根を残して姿を消した。
ベルたちはこの出会いがウィーネの存在に繋がると確信するが、
同時に何者かに監視されている気配を感じ取る。
地上では、ギルドが有翼のモンスター出現を受けて混乱していた。
やがて【ヘスティア・ファミリア】にはギルドから極秘任務が下される。
その内容は、「竜の娘(ウィーネ)を伴い、二十階層へ向かえ」というもの。
ウィーネの存在がすでにギルドに知られていたことに、ベルは衝撃を受ける。
一方、ウィーネはベルたちが自分を避難させようとしている会話を聞き、
悲しみのまま街へ飛び出してしまう。
そして、事故に遭った幼い犬人を助けるために翼を広げ、正体を晒してしまった。
群衆の恐怖と怒号の中、ベルとリリ(変装した姿)がウィーネを救い出し、
ファミリアはかつての教会跡地の地下室に身を隠すことになる。
夜、泣き崩れるウィーネはベルに「一緒にいてはいけないのか」と問う。
ベルは答えを出せず、ただ彼女を抱きしめるしかなかった。
その一方で、ギルド本部では「ウィーネを泳がせるのは限界」との判断が下され、
ギルドの主・ウラノスが新たな行動に出る決意を固めていた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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展開まとめ
プロローグ 出会い
迷宮に生まれ落ちた存在
木皮に覆われた階層域を、青銀の髪を持つ少女のような怪物が駆け抜けていた。
その身は無数の傷に覆われ、紅い血が滴り落ちている。恐怖と悲しみに震える瞳には、自らの存在への疑念が浮かんでいた。
彼女は迷宮の壁を破って生まれ落ち、この世界を初めて目にした存在であった。自分と同じ匂いを辿り、他の怪物たちに近付いたが、返ってきたのは敵意と暴力だけだった。襲いかかる同族から逃げ続けるうちに、彼女は痛みと孤独という感情を知ることになった。
人間との邂逅と拒絶
彷徨う彼女の前に現れたのは、剣と弓を手にした人間の男女だった。
救いを求めて近寄った彼女に、男は剣を振るい、女は悲鳴を上げながら矢を放った。
矢が肩を裂き、鱗が砕ける中、彼女は再び逃げ出した。理解を求めた相手から向けられた拒絶と攻撃に、彼女は涙を流す。痛みと苦しみを抱え、泣き続けるしかなかった。
この世界のすべてが自分を拒み、疎外する現実の中で、彼女は深い絶望に沈んでいった。
追跡と絶望の逃避
傷だらけの身体を引きずりながら逃走する彼女を、別の人間たちが追ってきた。
その者たちは彼女の美しさに魅せられ、嗜虐的な笑みを浮かべながら近付いてくる。
恐怖に駆られた彼女は、内に秘めた力を解放して追手を振り切り、再び迷宮の闇を彷徨った。
孤独な足音だけが響く中、琥珀の瞳からは涙が絶えることなく流れ続けた。
やがて足を滑らせて坂を転げ落ち、脚を痛めて動けなくなる。息を殺して物陰に身を潜め、怯えながら迫り来る足音を聞き続けた。
少年との出会い
震える身体を抱き締め、恐怖に耐える彼女の前に、一つの人影が現れた。
白い髪に深紅の瞳を持つ少年である。
剣を構えたまま、少年は低く呟いた。
「モンスター……ヴィーヴルか」
絶望の淵にいた彼女は、その声にわずかな希望を見出し、顔を上げた。
――こうして、涙を流す怪物の少女は、一人の少年と出会うことになった。
一章 異形の少女
炎鳥討伐依頼と臨時編成
【ヘスティア・ファミリア】はリヴィラの街からの要請を受け、十五階層で大量発生したファイアーバードの討伐に協力した。安全階層である十八階層にまで被害が及ぶ危険があったため、街側はサラマンダー・ウール製の護衣を事前に配布し、速度重視の一団にベルが加わることとなった。
はぐれと孤立
十九階層での掃討戦の最中、迷宮構造の変化や殿の配置の不備が重なり、ベルは臨時パーティからはぐれて孤立した。途方に暮れる中、物陰へ逃れようとする影を見つけ、負傷した冒険者と判断して接近したが、その正体がヴィーヴルであると悟り、警戒を強めた。
異形との遭遇と葛藤
ベルの前にいたのは、青白い肌と額に紅石を持つ人型の竜種であった。人類の敵であるはずの存在が、恐怖に震え涙を流す光景を目の当たりにし、ベルは闘争本能よりも強い逡巡を覚えた。ヴィーヴルが《神様のナイフ》に怯える様子を見て、ベルは刃を隠した。その行動が、彼の心の動揺を一層深めたのである。
襲撃の危機と救出
背後からファイアーバードが迫り、火炎を放とうとした瞬間、ベルは跳躍して斬閃を放ち、炎鳥を撃破した。理性では介入を戒めていたが、危機に対して身体が先に動いたのである。
応急手当と意思の揺らぎ
ベルは高等回復薬で肩の裂傷を癒し、脚は護衣の裂布と鞘で固定して応急処置を施した。ヴィーヴルが言葉を発したことで常識がさらに揺らいだが、目の前の痛みと怯えに対し、保護の意識が芽生え始めた。
追手の回避と機転
ヴィーヴルを追ってきた冒険者たちが接近すると、ベルは護衣を被せてその身体を隠し、自身が火傷を負って回復薬を求める演技へと切り替えた。現場の残滓も手伝い、冒険者たちは不審を抱かずに立ち去り、追跡を一時的に免れた。
合流地点への移動
ベルは負傷したヴィーヴルに肩を貸し、交戦音や簡易地図を頼りに十八階層方面へ進んだ。道中での遭遇は速攻魔法で退け、ヴィーヴルは怯えと安堵の狭間でベルに身を預けていた。
帰還と仲間の対面
十八階層の出入口付近では、エルフの冒険者が「モンスターが喋った」と訴えていたが、誰も真に受けなかった。ベルは仲間と合流し、人目を避けて森の開けた場所へ移動した。
正体露見と緊張
フードが外れて紅石が露わになると、リリ、ヴェルフ、命、春姫は即座に警戒態勢を取った。リリは「怪物趣味」とまで言及して強く糾弾し、モンスターは人類の敵であると主張した。
発話による状況の転換
緊迫した空気の中、ヴィーヴルがベルの名を呼び、その発声を繰り返した。仲間たちは驚愕して武器を緩め、春姫は震える声で事情を尋ねた。ベルはこれまでの経緯を説明し、負傷と怯えの中で救うべきと感じたことを明かした。
方針の提示と同意
リリは派閥への影響を懸念したが、最終的には武器を下ろした。ヴェルフ、命、春姫も反対を示さず、ベルはヘスティアに意見を仰ぐため、夜間に人目を避けて地上へ戻る計画を立てた。階層天井の光が薄れ、夜の訪れが近づく中、一行は秘匿帰還の段取りを整えた。
夜のバベルと帰還の気配
白亜の巨塔バベルと中央広場は夜を迎え、人影もまばらであった。街の喧騒は酒場へと移り、地下一階の大広間には遅れて白髪のヒューマンを中心とする六人組が到着した。
地下広間の観測と異変の報
神殿風の石造りの広間で、四本の松明が揺らめく中、黒衣の人物フェルズが台座の水晶に映る光景を注視していた。理性を持つモンスターが冒険者と接触し、今まさにバベルを出ようとしていると報告したのである。
水晶に映る二人の特定
水晶は青玉を介して地下一階の様子を映し出し、火精霊の護衣を纏った少女と、白髪・深紅の瞳の少年の姿を映していた。フェルズは冒険者をベル・クラネルと断定し、【ヘスティア・ファミリア】所属と特定した。老神ウラノスは蒼の瞳を細め、その映像を注視した。
対応協議と神意の裁可
フェルズが処置を問うと、ウラノスは「様子を見る」と裁可した。女神の眷族である以上、彼らは狩猟者ではないと断じ、むしろ変化をもたらす者、あるいは希望となり得る存在かを見極めたいと述べた。
監視の指示と影の展開
最終的にウラノスは「目を放て」と命じ、ベル・クラネルとモンスターの少女の監視を開始させた。フェルズは神意に従うと応じ、黒衣を翻して静寂の闇へと姿を消した。
二章 竜娘のいる日常
深夜帰還と秘匿の入館
【ヘスティア・ファミリア】はリリの采配により人目を避けながら深夜に地上へ戻り、『竈火の館』裏門から入館した。都市の喧騒や魔石灯にウィーネ(竜女)は怯え続け、ベルは彼女を庇いながら同行した。
対面と経緯説明
居室でヘスティアはローブのフードを外したウィーネの紅石と青白い肌を確認し、ベルから遭遇から保護に至るまでの経緯を聴取した。神は即断を避け、この件を外部秘とし、当面は様子を見ると裁可した。
保護の決定と名付け
ヘスティアは怯える存在を見捨てられないと明言し、庇護を宣言した。続いて名の有無を確かめ、名がないと知ると命名をベルに委ねた。ベルは「ウィリュジーネ」と提案し、最終的に呼称を「ウィーネ」と定めた。ウィーネは自らの名を受け入れ、無垢な笑みを浮かべた。
同居初夜の警戒と安堵
ウィーネは極度の疲労からベルに抱きついたまま眠り、ヘスティアやリリらは誤解を避けるため同じ部屋で寝泊まりした。ヴェルフ、命、リリは武器を手元に置き、警戒を緩めなかったが、ベルは不安を抱きつつも看護を続ける決意を固めた。
方針確立と秘匿行動
翌朝、ヘスティアはウィーネに関する情報収集を指示し、同時に絶対秘匿を厳命した。迷宮探索は当面見送りとし、ベル、春姫、命には不用意な接触を避けるよう命じた。嘘や隠し事が不得手な面を踏まえ、警戒をさらに強めた。
ヘスティアの直談判
ヘスティアは【ヘファイストス・ファミリア】高級支店の商談室でヘファイストスに「喋るモンスター」の件を持ちかけ、真剣な反応を引き出した。確証は得られなかったが、事態の異常性を共有することができた。
命の相談と神々の見立て
命は【ミアハ・ファミリア】本拠でミアハ、タケミカヅチに事情を告げた。二柱は下界の未知がもたらす変化の可能性を語りつつも、前例のない事象として慎重な姿勢を崩さなかった。命は警戒を解けない自らの恐れを吐露した。
ヴェルフの公的情報探り
ヴェルフはギルド本部のロビーで風聞を収集し、装備品を奪うモンスターの噂と掲示物を目にして顔を強張らせた。中層にも異変が及ぶ兆しを察し、関連の可能性を胸中に留めた。
リリの裏社会調査と“泥犬”
リリは変身魔法で幼いエルフに化け、裏酒場で情報を買いに動いた。店主からの収穫は乏しかったが、【ヘルメス・ファミリア】の犬人盗賊“泥犬”と遭遇し、迷宮で人語や歌を発するモンスターの噂、さらにそれを追う正体不明の連中の存在を掴んだ。ヘルメス派閥の胡散臭さを念頭に置きつつ、リリは尾行に備えて強臭袋で追跡を撒こうと横道に消えた。
陽の下の“箱庭”
ウィーネは中庭で初めて太陽を浴び、春姫の説明に目を輝かせながら外遊びを満喫した。裸同然を避けるためサラマンダー・ウールを着せていたが、地上の温かさに脱ぎたがる場面もあり、ベルと春姫が慌てて制止した。
食事と距離感の変化
春姫が用意した籐籠の昼食(命の握り飯や果物)をウィーネは問題なく口にし、春姫の尻尾に興味を示しつつ少しずつ心を開いていった。会話は次第に流暢になり、人語習得の速さがベルを驚かせた。
不意の負傷と“子ども”としての涙
じゃれていた拍子にウィーネの爪がベルの腕を掠め出血した。ウィーネは自分の手を恐れて号泣したが、ベルは血のついた手ごと包み「大丈夫だ」と言い聞かせた。ウィーネは子どものようにしがみつき、やがて落ち着きを取り戻した。その最中、屋根の上から白い縦縞の梟が彼らを見下ろし、ベルに不穏な監視の気配を残した。
帰宅組の無収穫と“ただいま”の一言
夜、ヘスティア、ヴェルフ、リリ、命が戻るも、「喋るモンスター」に関する核心情報は得られなかった。ウィーネは春姫に促され「おかえりなさい」と小さく挨拶し、一同を唖然とさせた。その後もウィーネは春姫に強く懐き、神は「春姫は母親の素質がある」と苦笑混じりに評した。
夕餉での融和
命が素材を重視して整えた献立(塩味の肉・魚、野菜スープ、甘い卵焼き)にウィーネは大喜びした。命は照れ、リリは緊張を訴えたが、春姫とヘスティアを交えた食卓は自然と賑わい、ウィーネの人への警戒は大きく和らいだ。
匂い問題と“みんなで風呂”宣言
遊び疲れた後、リリが「獣臭い」と指摘し、春姫と命も同意した。ダンジョン以来まともに洗えていなかったため、ヘスティアが「なら、みんなでお風呂」と宣言した。
檜風呂の時間と事件
ヘスティア、命、春姫、リリ、ウィーネは大浴場で入浴した。春姫と命が丁寧に洗い、ウィーネは湯の心地に頬を緩めたが、途中で「ベルも一緒がいい」と裸のまま飛び出し、居館中にベルの悲鳴が響いた(直後に収拾)。
爪の“無害化”と信頼の確認
入浴後、ヴェルフが鍛冶の技でウィーネの爪を丸く仕上げ、接触しても人を傷付けないよう整えた。ウィーネはベルの頬をそっと触れ、痛まないことを確かめて涙ぐみ、安堵の笑みを見せた。
「好き」の連鎖と家族の絵
リリの嫉妬めいた小言をきっかけに、春姫、ヴェルフ、ヘスティア、命、リリの順で「ベルが好き」と明言が続いた。ベルも「みんなが好き」と返し、ウィーネはそのやり取りを胸に刻んでベルに抱きついた。異種が円座する光景は、確かに家族であった。
夜の語らい—春姫と命
就寝前、春姫と命は月明かりの下で本心を交わした。春姫は自らの過去を重ね「見捨てられない」と語り、命は恐れを抱えながらも「家族のように絆を育てたい」と応えた。
夜の語らい—リリとヴェルフ
別室ではリリが「神々はダンジョンの何かを知りつつ隠している」と推測し、ウィーネを“厄介な異常”と見なして警戒を表明した。ヴェルフは「諦めでなく本心を見ろ」と諭し、リリの揺らぐ心を映し出した。
川の字の寝床と“夢”の告白
ベル、ヘスティア、ウィーネは同じ寝具で横になった。やがてウィーネは小声で、自分が「人を襲い、血に染まり、銀の閃きに斬られて闇に沈む夢」を繰り返し見ると告白した。怒りが寒さに変わり、誰かを庇う人々が“綺麗に見える”という描写は、記憶とも予兆とも取れる不気味さを帯びていた。
女神の逡巡と抱擁
背を向けて聞いていたヘスティアは、少年と少女の寝息が重なる頃、ためらいの末にウィーネをそっと抱き寄せた。保護を選んだ女神の決意と不安が、静かに形を成した一瞬であった。
ヘルメス派の動向
夜半、オラリオ東門付近の路地裏で【ヘルメス・ファミリア】の一団が帰還を果たした。主神ヘルメスと副団長アスフィが待ち構える中、遠征を終えたエルフのローリエらが密輸調査の成果を報告した。彼らは都市外で魔石製品の不正取引経路を突き止め、裏で糸を引く商会を特定した。しかし、それ以上に衝撃だったのは、調査中に発覚した「モンスター密売」の実態であった。ローリエが潜入した貴族屋敷では、怪物が鎖で繋がれ虐げられていたという。彼女が持ち帰った遺品は、無数の傷を刻まれた角であった。しかもその怪物は死の間際、人語を発し助けを求めたという。ローリエは錯乱し、涙ながらに訴えたが、ヘルメスは「すべては自分が預かる」と言って彼女を鎮めた。
団員たちを見送った後、アスフィが次の方針を問うと、ヘルメスは空を仰ぎ沈思した。犬人の団員ルルネが報告した「喋るモンスターを探るエルフの少女」――すなわち変身したリリ――の情報も合わせ、都市の地下で何かが動いていることを確信する。羊皮紙に記された密輸経路の終点に浮かぶ名は【イケロス・ファミリア】。ヘルメスは静かに呟いた。「厄介事を押し付けてくれたな、ウラノス」と。月明かりの下、彼の瞳は鋭く光り、次なる探索の幕が上がった。
イケロス派の暗部
その頃、地下の闇では鎖が軋み、獣の咆哮と悲鳴が交錯していた。無数の檻が並ぶ牢獄では、モンスターたちが捕らえられ、調教の名の下に痛めつけられていた。檻の前に立つのは、黒髪に赤い瞳を宿した男ディックス・ペルヘスである。眼装を光らせながら、彼は“竜女”を逃した部下を嘲り、「生け捕りにしていれば貴族どもに高く売れた」と吐き捨てた。
手にしていたのは、殺すためでなく苦しませるために作られた赤い槍。彼は苛立ちを紛らわせるように黒檻の中のモンスターへと槍を突き立て、その悲鳴を楽しんだ。やがて「喋る竜女」の存在が金脈であると見なし、匿った者がいるのではと推測する。「怪物趣味の冒険者が惚れたのかもしれねぇ」と嘲る声が、血と鉄の臭いに満ちた地下に反響した。
背後では主神イケロスが胡座をかき、褐色の肌に冷笑を浮かべて眷族を見下ろしていた。「神には子供の嘘がお見通しだ」と言いながらも、その瞳には退屈を凌ぐ玩具を得た時のような光が宿っていた。ディックスが「またお力を」と請うと、イケロスは面倒そうに笑い、「今度も俺を楽しませろ」と応じた。地下を満たす獣の咆哮と人の笑いが重なり、闇の底で蠢く悪意が形を取り始めていた。
三章 世界と現実と怪物
神々の動揺と情報源の検討
ヘファイストス、ミアハ、タケミカヅチは『竈火の館』でウィーネを確認し、人を襲わず意思疎通も可能な存在に驚愕した。ギルドが何かを把握している可能性は示されたが、モンスター保護の露見は【ヘスティア・ファミリア】の危機に直結するため、探索は見送られた。最終的に三柱は、情報収集への協力を約した。
ダンジョン調査の決定
神々が退出したのち、ヘスティアは地上情報のみでは限界があると判断し、ベル、リリ、ヴェルフに十階層周辺の調査を指示した。ウィーネ出現の事情に加え、“喋るモンスター”を追う別勢力の存在も共有され、迅速な行動が必要との結論に至った。
出発編成と所要時間への懸念
出発はベル、リリ、ヴェルフの三名。命と春姫は留守番を兼ねてウィーネの世話に当たることとなった。少人数ゆえに安全階層往復と調査に時間を要する恐れがあり、ホームの長期不在リスクが意識された。
助っ人交渉とアイシャの申し出
『豊穣の女主人』で昼食を受け取る場面で、ベルはリューへの協力依頼をためらったが、リリの進言で声をかけようとした矢先、アイシャ・ベルカが現れ護衛を即答した。報酬を巡る挑発的なやり取りはリューの制止を招き、応酬の末、リューも身辺警護を理由に同行を決めた。
臨時パーティの編成と上層突破
ベル、リリ、ヴェルフに第二級冒険者のアイシャ、リューを加えた臨時編成は、最小装備で白塔から即時潜行した。中層十四階層では、アイシャが大剣で前衛を切り開き、リューが二刀で死角を掃討し、圧倒的な制圧力を示した。
アイシャの昇格と戦闘力
リリは挙動からアイシャのランクアップを看破し、当人もLV.4到達を明かした。歓楽街での抗争後に迷宮籠もりで鍛えた成果であり、体術と大剣の連携で敵を次々と葬った。リューは身元露見を避ける装いに改めつつ、即応撃破を重ねた。
アルミラージ戦とベルの逡巡
横穴からのアルミラージ群との交戦で、ベルは投擲をいなしたものの、突進を前に刃が鈍り被弾して転倒した。ウィーネの影響で殺傷に躊躇が生じ、言語や感情を持つ可能性が脳裏をかすめたためである。間際にリューが介入して群れを殲滅し、ベルは謝意とともに姿勢の乱れを詫びた。
評価と自己是正の決意
アイシャは失望を隠さず、リューも「らしくない」と指摘した。ベルは動揺を自覚し、気持ちを切り替えて進軍を再開したが、迷いは残った。
16階層到達と臨時隊の分散
一行は十六階層に到達。階層主は他隊により討伐済みであり、第二級二名の活躍も相まって、所要は約三時間であった。『リヴィラの街』では、ベルとヴェルフが戦利品換金を名目に離脱し、リリ、アイシャ、リューは街中で待機した。
大樹の迷宮への極秘再潜入
ベルとヴェルフはウィーネと邂逅した十五階層『大樹の迷宮』へ単独潜入した。苔と樹皮が発光する秘境風景で採取資源は豊富。遠距離・異常攻撃主体の敵が多く、『耐異常』など発展アビリティが要と認識された。迎撃は《ゴライアスのローブ》で前に立つヴェルフと、【ファイアボルト】や《神様のナイフ》で援護するベルの連携で突破した。
金色の羽根を落とす“彼女”との遭遇
ウィーネが潜んでいた地点近傍で、長身のフード姿と遭遇。縦割れの瞳孔と猛禽じみた威圧から竜種の特徴が示され、当初は強い殺気を放ったが、血臭の不在を嗅ぎ取り敵意を収めた。「人と我々は共生できるか」と問いかけ、日光下で羽ばたく願いを漏らして跳躍離脱。残された金色の羽根により、ベルとヴェルフはウィーネとの同質性を直感し、撤退を選択した。
不穏な冒険者との擦れ違い
十八階層への帰路で、赤い槍と眼装を備えたヒューマンを含む五人組とすれ違った。亜人四名は先にウィーネを追っていた面々であり、彼らはベルを【リトル・ルーキー】と認識して含みのある会話を交わした。主神を通じた“探り”の意図が示され、後の脅威の兆しとなった。
合流と即時撤収、二人の助力者の去就
安全階層で再合流後、別行動についてアイシャは不満を示したが、追及は控えた。彼女は「報酬不要・貸しにする」として離脱し、リューも「困り事があれば助力する」と告げ店へ戻った。一行は迅速に地上へ帰還した。
イケロスの接触とヘルメスの割込み
地上でベルはイケロスに呼び止められ、「喋る竜女」の風聞を含む探りを受けた。言質を狙う詰問の最中、ヘルメスが介入して場を収める。両神は人気のない広場で対面し、ヘルメスは【イケロス・ファミリア】の密輸疑惑と“変わったモンスター”がオラリオから流出している情報を示した。イケロスは関与を否定しつつ眷族の独走と享楽性を示唆し、「嗅ぎ回れ」と挑発して去った。ヘルメスは娯楽に飢えた神の危うさを嘆じ、背後の眷族への警戒を促した。
留守番組の動きとウィーネの不安
『竈火の館』に残ったヘスティア、命、春姫、ウィーネは、それぞれ情報収集・警邏・外遊びで時を過ごした。ベル不在の寂しさが募ったウィーネは、約束を破って三階のベルの部屋へ向かい、隣室の密談を“聴き取って”しまう。
密談:第二の“喋るモンスター”と保護継続の是非
帰還したヴェルフの報告で、十五階層で“ウィーネの同類”と会話した事実が共有される。事態の危険度を踏まえ、リリは【ファミリア】存続を最優先に「保護中止・都市外避難」を提案。命は激昂し、ヘスティアは宥めたが結論は出ず――このやり取りを壁越しに聞いたウィーネは、衝撃のまま屋敷を飛び出した。
街中での事故救出と“正体露見”
薄暮の街路で、荷馬車の積荷が幼い犬人に落下しかける。ウィーネは反射的に身を投じ、背から芽生えた“竜の片翼”で庇いきった。だが異形の露見は群衆の恐慌を招き、罵声と投石が集中。ウィーネは怯え、涙した。
ベルの急行と“もう一人の救助者”
出現報を聞いたベルが疾走する一方、人垣を割って先に飛び込んだのは金髪の“エルフ少女”であった。彼女はウィーネの手を取り路地へ退避しつつ、ベルへ「地下の隠し部屋へ」と指示。ベルはその瞳を見て“変身したリリ”だと悟った。
合流指示と撤収
ヘスティア、春姫、ヴェルフ、命も状況を共有し、人混みを避けてリリの示す“隠し部屋”へ向かった。
教会の隠し部屋:一夜の避難と現実
瓦礫の教会地下で【ヘスティア・ファミリア】は身を潜める。地上の騒動は拡大中と判断し、当面の潜伏を決定。ウィーネの“片翼”が群衆の恐怖と敵意を呼び込んだ事実は、「人と怪物の断絶」を痛烈に浮き彫りにした。
ウィーネの慟哭とベルの沈黙
ウィーネは泣いてベルに縋り、「一緒にいてはいけないのか」と問う。ベルは現実の重さの前に言葉を失い、抱き締めることで応じた。目の前の“片翼”は、両者の間に横たわる亀裂の象徴であった。
月下の教会跡地:監視者の決断
夜、教会跡を一羽の梟が偵察する。屋上でそれを受けた黒衣の人物は、梟の義眼と同じ青光を放つ水晶を手に状況を評価し、「希望には足りない。もう泳がせられない」と結論。視線をギルド本部に向け、「後は頼んだ、ウラノス」と呟き、ウラノス主導の次の一手を示唆した。
四章 MISSION
フレイヤの静観と制裁下の事情
夜半、バベル最上階でフレイヤは有翼モンスター出現の報告を受け、被害がなく連れ去り事案であることを確認したうえで静観を選んだ。ギルドからの通達は未着で、必要時はヘルメスに当たるとの判断を示す。歓楽街強襲に端を発した制裁により【フレイヤ・ファミリア】が当面ギルドの従僕を務める事情もあり、面倒事の再来を見越しつつも当座は動かない構えであった。
アイズ達の情報共有と対応方針
翌朝、【ロキ・ファミリア】の廊下でアイズはティオナとティオネから西区画に人型の有翼モンスターが現れたと聞き、先日の騒ぎとは無関係と推測されている状況を把握した。フィンは情報収集を緩やかに指示し、発見時は生け捕り優先、被害発生なら処分という方針を示す。アイズは都市住民の不安に思い至り、冒険者として心に留める決意を固めた。
ギルド本部の混乱と初動調査
ギルドは第七区画での突発出現を受け、問い合わせ対応と実地聴取に奔走。エイナとミィシャは受付から情報伝達、現地確認までを担い、【ガネーシャ・ファミリア】の調教個体に脱走がないこと、発信器破壊の警報も上がっていないことを確認した。目撃談はローブを被った有翼の人型で、知性の可能性が示唆され、エイナは不気味さを覚えた。
エイナへの叱責と情報秘匿の追及
執政室に呼ばれたエイナは、ギルド長ロイマンから素行への嫌味に続いて、ベル・クラネルの能力情報を伏せている疑いで厳しく詰問を受ける。無詠唱魔法や異例の成長に関する未報告を指摘され、ロイマンは冒険者の成長秘匿は組織の損害だと断じた。エイナは反論を飲み込み、叱責を耐えた。
極秘の強制任務の付託と不穏な予感
ロイマンは白封書を示し、【ヘスティア・ファミリア】――すなわちベル・クラネルに極秘の強制任務を渡すよう命じた。これは依頼ではなくギルドの絶対命令で、職員や他派閥への漏洩・詮索を禁ずる厳命付きである。エイナは上層部の独断か否かを逡巡し、さらに上位の意向を疑い、都市の見えない力が動いていると感じた。
ギルド召喚と極秘任務の通達
ベル・クラネルはエイナから至急召喚を受け、面談室で白封書を受領した。内容は「【ヘスティア・ファミリア】全員と竜の娘(ウィーネ)を伴い、二十階層へ向かえ」というもの。ギルドがウィーネの存在と正体を把握している事実が判明し、ベルは動揺したが、エイナは詳細不明のまま受け渡しを命じられていたに過ぎなかった。
指令の衝撃と疑心の制御
ベルは真意不明の指令に一時疑心暗鬼へ傾いたが、エイナ個人の関与を否定して気持ちを整えた。発令主体が上層部、さらにはギルドの“主”に連なる意向である可能性を示し、事態が都市権力の深部で進行中であることを悟った。
帰館後の緊急協議
帰館したベルはヘスティア、ヴェルフ、リリ、命、春姫に指令書を共有。拘束や引き渡しではなく、二十階層深部の特定エリアへの移動を指定し、出発は「翌日零時」と明記されていた。狙いは不明で、【ヘスティア・ファミリア】が“運び屋”として利用される可能性も議論された。
戦力評価とリスク認識
春姫の補助魔法を前提に戦力は中層到達基準を満たすが、未知の地形・初見モンスター・経験不足が重大なリスクと整理。強制任務ゆえ拒否は不可で、脱出などの対抗策はギルドの情報開示ひとつで派閥が瓦解し得るため現実的ではないと結論した。
ヘスティアの暗号解読
指令書の蔦模様には神聖文字が織り込まれ、「眷族出立後、第七区画四番街路へ来られたし。危害の意図なし」との密文が潜んでいた。受領時に「主神へ必ず提示せよ」と添えられていた経緯から、眷族と主神を分断し、ヘスティア個人との密会を企図する第三者の存在が示唆された。
出発準備の分担
リリは中層向け道具の調達、ヴェルフは武具整備、命と春姫は食料と水の補給、ヘスティアは別行動を開始。刻限までに装備と補給を整える方針を即時実行に移した。
ウィーネへの告知と同行の決意
ベルは私室で眠るウィーネに事情を簡潔に告げ、二十階層行きを伝えた。ウィーネは恐怖を抱えつつも「皆のために行く」と自発的に同行を承諾。ベルは守り抜くことを誓い、強い抱擁で覚悟を新たにした。
罪責の吐露と仲間の支え
ベルは仲間に負担をかけたと謝罪したが、春姫は自身の救済体験を踏まえ「後悔しないでほしい」と訴え、ヴェルフは「支え合うのが【ファミリア】だ」と励ました。命は「一蓮托生」と明言し、リリは「サポーターとして最後まで随行」と応じる。結束が再確認され、ベルは感謝を述べて準備を続けた。
ディックスの策動と標的の特定
ディックスは報告を踏まえ、人型モンスターの出現をウィーネと結び付けて断定。有翼という相違点は可変性を根拠に問題視せず、即座に【ヘスティア・ファミリア】への張り付きを指示した。背後には奔放な主神の“探り”と時機の一致があり、【イケロス・ファミリア】の動きは加速した。
装備と出立直前の態勢
深夜、中央広場西門にベル、ヴェルフ、命、リリ、春姫、ウィーネが集合し、二十階層行きの強制任務に臨む体制を整えた。ベル、ヴェルフ、命、ウィーネはサラマンダー・ウール、リリと春姫は巨人の防衣を装備し、武具・予備・魔剣まで揃えた完全武装である。ウィーネは片翼を隠すためバックパックで擬装を徹底した。
監視の察知と不安の制御
ベルは広場周縁からの複数の視線を感知し、ギルドの監視か【イケロス・ファミリア】の尾行かを警戒した。しかしウィーネを不安にさせぬよう平静を装い、行動の主導権を保った。出発刻限の零時をリリが告げ、隊は最終確認に入った。
見送りと含みのある沈黙
ヘスティアは眷族とウィーネを見送り、「いってらっしゃい」と微笑しつつ言いかけた言葉を飲み込み、内密の思惑を胸に収めた。ベルは一礼して白亜の巨塔『バベル』へ進入した。
任務開始
こうして【ヘスティア・ファミリア】は二十階層を目指して出立した。外では【イケロス・ファミリア】が張り付き、内ではギルドの思惑が渦巻く。監視と包囲の影に覆われたまま、強制任務の幕が上がった。
五章 異端児
18階層の夜と進軍方針
白水晶が沈黙して暗闇が広がる中、青水晶の淡光が満ちる18階層に到達した一行は、宿場街を素通りして20階層まで一気に進む方針を固めた。上層から中層までを高速で踏破した成果と階層主不在の幸運が重なり、ウィーネを護りつつ前進を継続したのである。
休憩と装備・消耗品の点検
中央樹の根元で最初で最後の休憩を取り、リリは帰路に備えて強臭袋の温存を提案し、パーティ全体で道具と武装を再確認した。ヴェルフは探索用に作成したクロッゾの魔剣三振りの運用に釘を刺し、戦局を左右するのは最終的に各自の力量と連携であると判断が共有された。
春姫の階位昇華と継続運用
大樹の迷宮へ進入すると、命の促しで春姫が妖術ウチデノコヅチを詠唱し、まず前衛のヴェルフに階位昇華を付与した。効果は最長十五分、再発動まで約十分と見積もられ、精神力回復薬を併用して間断なく強化を回す運用が決定された。ウィーネは初見の付与光に感嘆し、春姫は自らの役割に専念する姿勢を示した。
通路進行中の規律と採取行動
出発直前、リリは発光苔アカリゴケを少量採取したが、派閥の逼迫を疑った命と春姫に否定を返し、必要最小限の補助資材確保であると示した。隊列は前衛にベルとヴェルフ、後衛にリリ・春姫・ウィーネ、殿に命を置く布陣となり、未遭遇モンスターの奇襲に備えるため命は弓を主武装に切り替えた。
ベルの覚悟と護衛対象の優先
暗がりの向こうの敵影を察知したベルは、神様のナイと牛若丸式式を構え、遭遇モンスターがウィーネ同様に言葉を発する可能性への迷いを使命感で押し潰した。ウィーネの不安を視線で受け止めつつ、護衛最優先の方針を明確にし、臨戦態勢で前進を再開したのである。
ヘスティアの呼び出しと邂逅
一方、地上では日付が変わったオラリオの寂れた四番街路で、ヘスティアが強制任務の暗号に従い指定地点へ向かった。そこへ全身黒衣の人物が無音で現れ、神の視線により人間離れした気配を見抜かれた当人は、狙いを察して会話の継続を避ける判断を示した。
煙幕による連れ去り
黒衣の人物は大量の黒煙を展開し、視界を閉ざした直後にヘスティアとともに姿を消した。護衛を依頼されて高所から監視していたミアハとナァーザは狙撃の機会を奪われ、黒霧が晴れた時には既に二人の姿はなかった。タケミカヅチやヘファイストス、桜花や千草が駆け付けたが、撤収を余儀なくされた。
監視側の混乱と撤退
現場近くに潜伏していたカサンドラとダフネは黒い影を幽霊と誤認して騒ぎ、ナァーザが制止する混乱の中、ミアハは全てを看破されていたと結論づけた。残されたのは濃霧の痕跡のみであり、月が雲に隠れる夜空の下、ミアハは一度の合流を指示して現場を離脱したのである。
激戦の広間と前衛の奮戦
15階層の広間にて、ヴェルフとベルは『マッドビートル』『ガン・リベルラ』『バグベアー』らの群れを相手取り、前衛として突破口を切り開いた。春姫の階位昇華により一時的にLV.3へ強化されたヴェルフは一撃必殺で押し切り、ベルは対地・対空を並行処理して遠距離脅威を優先撃破したのである。
後衛防護と資材消耗
後衛のリリ・春姫・ウィーネは《ゴライアスのローブ》で被弾を抑制し、命の射撃援護で陣形を維持した。増援が止まず、リリはやむなく『クロッゾの魔剣(黄短剣)』を投入して通路を雷撃で一掃、代償として一本を失った。回復薬・精神力回復薬の消費が想定以上に進み、残る魔剣は二振りとなった。
毒茸の待伏せと即応対処
袋小路で『巨大茸の壁』に擬態した『ダーク・ファンガス』が一斉に毒胞子を放出した。ベルはエイナから叩き込まれた対策に基づき【ファイアボルト】九連で焼却、拡散前の大半を処理したが、前後から『バトルボア』らが突入して混戦化。ヴェルフは銀盾で巨猪の体当たりを受け止め、命が《地残》で頸部を断ち、ベルが双刀で連殺してこれを収束させた。
解毒と小休止、耐性の差
毒霧の余波でヴェルフに毒症状が出現し、春姫の解毒薬で応急復帰した。命とベルは『耐異常』があるも軽度の不調を残し、ウィーネは竜種ゆえに平然であった。資材節約の方針のもと、解毒薬は分け合って処置された。
不穏な翅音と殺人蜂の襲来
静寂の後、異様な連打音が接近し、22階層以降の強敵『デッドリー・ホーネット』が二十超の大群で飛来した。重装を貫く毒針と高い敏捷を備えるため、広い通路での対空撃墜は非効率と判断し、即時撤退へ転じた。ベルと命は先行して路上の障害モンスターを斬り払い、隊の退路を確保した。
ダンジョンの陥穽と正面突破
20階層の樹穴が視認できた矢先、通路壁面に罅が走り、『怪物の宴』が発動。命の索敵で四十四体の包囲が判明した。ヴェルフは長剣型『魔剣』を最大出力で起動し、「烈進」の轟炎で前面の群れを焼滅、炎の渓谷を形成して強行突破に成功したが、刃は致命的損耗に近づいた。
連絡路への飛び込みと殿の決断
一行は連絡路へ跳び込み、殺人蜂の大群も追随。逃げ場のない縦穴でヴェルフは再度『魔剣』を振り下ろし、大炎塊で群れを連絡路内ごと爆砕した。直後に『魔剣』は粉砕し、ヴェルフは感謝を述べて手放した。
20階層到達と体勢立て直し
爆風に押し出される形で全員が樹穴から吐き出され、重なり合いながらも20階層への進入を果たした。資材は目減りし、魔剣は残り一振り。だが最大の脅威であった殺人蜂の追撃を断ち切り、未到達階層への突破口を確保したのである。
連行と抜け道の正体
黒衣の人物は黒霧と布で感覚を遮断し、携行用魔石灯を頼りにヘスティアを地下の抜け道へと連行したのである。通路は人三人が並べぬ狭幅で、継ぎ目のない壁面に紋様が刻まれていた。出入口は四番街路付近にあると推測でき、非常時に主を逃がすための密路であるとヘスティアは見抜いた。
隠し扉の先—地下神殿と祭壇
終点の紋様に触れて呪文を唱えると壁が横に滑り、石造りの広間が開いた。四炬の松明のみが照らす地下空間は、忘れられた古代神殿の様相であり、唯一の出入りは上階への階段のみだった。ここがギルド本部地下の最奥――祈禱の間であるとヘスティアは察した。
ウラノスとの再会
祭壇の神座には老神ウラノスが巍然と着座していた。ヘスティアは千年ぶりの旧知と対面し、黒衣の人物がフェルズと呼ばれることを確認した。フェルズは「急ぐ用がある」とのみ告げて退席し、場は二神の対話へ移行した。
強制任務の真意と密会の意図
ヘスティアは強制任務が独断かを質し、ウラノスは職員不関与の独断であると認めた。密会を感知されず迅速に行う必要があり、ヘスティア派閥に警戒される覚悟もあったと明かされた。同時に、彼らが早期からウィーネの存在と匿護を把握し、ヘスティア達の反応と資質を見極めていたことが示唆された。
核心への問い—神意と秘事
ヘスティアは議題をウィーネとダンジョンの異変に絞り、ウラノスの秘匿と神意を質した。老神は視線を外さず、「我々の秘事を語ろう」と開示を予告したのである。
武装蜥蜴人との交戦
20階層に進出したベル一行は、剣と盾を操る新種モンスター『リザードマン』と遭遇した。彼らはダンジョン産の天然武器「花弁カッター」や「ラウンドシールド」を用い、剣技を駆使して攻撃を仕掛けてきた。ヴェルフとベルは連携して撃破するが、剣術を持つモンスターの存在に驚愕する。命の索敵により安全を確保しつつ、強制任務の目的地である「食料庫」方面へと前進した。
歌声に導かれる発見
目的地の広間には濃緑の石英が群生し、幻想的な光景を呈していたが、特別な異変は見られなかった。探索を進める中でウィーネが「歌声」を感知し、発光の弱い石英をヴェルフが破壊すると、奥に隠された樹穴が現れた。修復が始まる前に全員が中へ滑り込み、通路を抜けた先で清冽な泉を発見。命が潜水して横穴を見つけ、全員で潜行してその先へ進んだ。
未開拓領域への突入
浮上した先は地図にない黒岩の洞窟であり、リリが「未開拓領域」と断定した。未知の迷宮であるその場所は静寂に包まれ、モンスターの気配すらない。やがて巨大な広間に至り、ベルは無数の視線を感じ取った。次の瞬間、周囲から殺意が膨れ上がり、全方位からの襲撃が始まった。
暗闇の奇襲と混戦
蜥蜴人、赤帽子の小鬼、半人半鳥など多種のモンスターが武装して現れた。魔石灯が砕かれ闇に包まれる中、リリは機転を利かせて採取していた発光苔「アカリゴケ」を散布し、広間を照らした。ベルは強力なリザードマンと一騎討ちとなり、尾を使った三連撃を受けて吹き飛ばされる。蜥蜴人はウィーネへと迫り、春姫とリリが身を挺して庇い、ヴェルフと命が剣を交差して受け止めた。
英雄願望の発動
倒れたベルは仲間の危機に呼応して【英雄願望】を発動し、拳の一撃で蜥蜴人を吹き飛ばした。敵の戦意は一転して静まり返り、蜥蜴人は高笑いを上げて人語を発した。彼はリドと名乗り、「同胞を匿う冒険者を試していた」と明かす。さらに、空から舞い降りた金翼のセイレーン、レイが加わり、ベル達に謝意を示した。
異端児との邂逅
リドはフェルズからベルの名を聞いていたと語り、差し出した手で握手を求めた。ベルは恐怖と常識を乗り越え、これを受け入れる。握手の瞬間、広間はモンスター達の歓声に包まれ、彼らは灯りをともして周囲を照らした。そこには老竜や半人半蛇、一角兎など、多種多様な理性を持つ怪物達が集っていた。
ウィーネの受容と告白
ウィーネは自分と同じ異形の存在に怯えながらも、レイに手を取られ「新たな同胞」として歓迎された。涙ながらにその温もりを受け入れたウィーネは笑みを見せ、モンスター達の祝福を受けた。ベルの問いかけに応じ、レイは静かに答える。「私達は――『異端児(ゼノス)』です」と。
地下祈禱の間で明かされた「異端児」
ヘスティアはギルド本部地下でウラノスから、理知と心を備えたモンスターを異端児と呼び、ギルドが保護と支援を続けてきた事実を知らされたのである。今回の強制任務は地上に出た異端児を仲間のもとへ送り届けることであり、その対象がウィーネであると示された。ウラノスは人類と怪物の共存に通じる僅かな可能性をヘスティア・ファミリアに見いだしたと述べ、彼等を希望の媒介と位置付けていた。
ヘスティアの逡巡と共存構想の重み
ヘスティアはモンスターとの融和は不可能と断じながらも、心を持つウィーネを知ってしまった者として切り捨てられない現実に直面したのである。ウラノスはこれはギルドの総意ではなく自身の独断であると明言し、協力神はヘルメスとガネーシャに限られると示した。怪物祭を五年前から仕掛けた意図が抵抗感の緩和という布石にあったことも明らかになり、共存構想の政治的危うさと長期的準備が示された。
隠れ里の宴とベル達の交流
一方、ベル、リリ、ヴェルフ、命、春姫は異端児の隠れ里で歓待を受け、酒や食事を共にして交流を深めたのである。リドは人間文化への驚嘆を語り、装備や酒樽が冒険者との戦闘や遺失物に由来する事情を率直に示した。敵意を示す一部の異端児もいたが、歓迎の輪が勝り、ウィーネは歌人鳥レイと出来事を語り合い、命と春姫は半人半鳥に誘われて踊りの輪へと引き込まれて場は和やかに進行した。
ギルドと異端児の関係の実相
リドとレイは、ギルドの中でもウラノス個人と異端児が連携し、正体秘匿の支援と引き換えに迷宮内の異常事態の調査・鎮圧を請け負う関係にあると説明したのである。リリは関係の不均衡と切実さを指摘し、双方の利害だけでなく異端児側の大望があるのではないかと問いかけた。このやり取りにより、単なる情けや取引を超える目的の存在が焦点化された。
フェルズの来訪と正体の開示
黒衣の人物フェルズが到着し、過去七日間ベル達を監視していた事実を告げたのである。フェルズはフードを外して白骨の髑髏の素顔を晒し、自身が賢者と呼ばれた者の成れの果てであり、不死の秘法の反動で肉体を失った元人間であると述懐した。ウラノスの私兵として数百年の付き合いがあり、異端児との接触と秘匿に大きく関与してきた経緯が示された。
異端児の組織と戦力
フェルズは十五、十六年前に異端児と接触が始まり、以後リドを頭目とする共同体が形成されたと述べたのである。隠れ里と呼ばれる安全地点を転々としながら同胞の保護と探索を続け、構成は四十体前後で推移していた。最強は新加入の一体に更新され、当該個体は深層で武者修行中であると示され、潜在能力の高さが暗示された。
地上進出という願いと前世の憶い
レイは異端児の悲願が地上への進出であると明言し、リドは夕焼けの夢を語って憧憬の強さを示したのである。喋れる個体が言語を早く獲得する実感から、彼等が前世で人間を見て羨望し憧れた記憶を夢として抱くことが示された。フェルズは強烈な憧れが共通項であり、太陽と空の下で人間に抱きしめられる願いなど、些細で切実な希求が彼等の存在理由に等しいと整理した。ベル達はその困難さを理解して絶句しつつ、受け入れてくれた人間がいる事実にリドは深い喜びを示した。
魂の循環仮説と異端児発生の根拠
最後にヘスティアが発生理由を質すと、ウラノスは憶測としてモンスターにも魂があり、死後迷宮へ還って再生する輪廻があると述べたのである。幾星霜の積層により強い未練や願望が魂に刻まれ、理性と自我を帯びた個体として異端児が現れ始めたと推論した。原因は強烈な憧憬あるいは迷宮の意志にあると示唆され、祈禱を捧げる者としてその慟哭を無視できないという決意が語られた。
宴の終幕と余韻
異端児の隠れ里での宴は終わりに向かい、魔石灯が次々と消され、石英の淡い光だけが広間を満たしていた。ベルは命や春姫が打ち解けた相手と言葉を交わす様子を眺めつつ、各々が異なる容姿や話し方を持ちながらも「生きている個」としての個性を確かに感じ取っていたのである。その一方で、憧憬と願望を抱く彼等が、かつては凶悪なモンスターであった事実が胸に刺さり、今後も従来通り刃を向けられるのかという迷いが再燃していた。
リドの忠告と「生きるための殺し」
リドはベルに紫紺の魔石を示し、実際に口へ放り込んでみせた。異端児が同胞以外のモンスターを討ち、その魔石を喰らって強化されていく弱肉強食の理を、あえて露悪的に示したのである。彼は「ためらうな」と諭し、言葉を解しようと襲いかかる相手なら殺せと告げた。目的はただ一つ、ベルに生き延びてほしいという願いであり、再会のための条件であった。ベルは動揺しつつも握手に応じ、ざらついた蜥蜴の手の力強さに応えた。
フェルズの意図と口止め
リリはフェルズに、異端児と引き合わせた狙いを質した。フェルズは「知ってほしかっただけ」と述べつつも含みを残し、ここで見たことの口外無用を求めた。リリは面倒事を嫌いながらも応諾し、場に漂う緊張の芯だけは見失わなかったのである。
ウィーネの別離と決断の強要
帰還準備が進む中、ウィーネがベルの手を取ろうとした瞬間、リドは彼女を異端児の側へ引き戻した。地上での迫害が今度はベル達に向かう危険を理由に、残留を命じたのである。レイもまた「ここなら生きられる」と静かに諭した。ベルは直視を避けていた別離の必然を突き付けられ、言葉を失った。さらにフェルズは、人語を解する異端児を狩り、密輸する狩猟者の存在を示唆し、ウィーネ同伴の危険性を補強した。ウィーネは涙ながらに名を呼び、ベルは「また会える」と気休めに近い約束を投げかけるしかなかった。異端児達は暗闇へと去り、広間には別れの余響だけが残った。
夜明け前の帰還と問い
翌朝、通り雨に濡れたオラリオの石畳を踏み、ベル達はバベルへ戻った。門前にはヘスティアが一人で立ち、「おかえり」と悲しげに迎えた。人数の減少が沈黙の事実を物語る中、ベルは女神に「ダンジョンとは何か」と問うたが、ヘスティアは「ダンジョンは、ダンジョンだ」とだけ答え、真意を伏せた。やり切れなさにうつむくベルの背後で、市壁の彼方から朝焼けが静かに空の色を塗り替えていった。
幕間 とどまらぬ悪意
囚われの広間と狩猟者達の焦燥
石造りの地下広間には、黒檻が整然と並び、鎖の軋む音が響いていた。檻を蹴り上げた大男グランの怒声が響き、怯えた悲鳴が途絶える。周囲を束ねる男、ディックスは赤い槍の柄で肩を叩きながら、無法者達の視線をまとめていた。彼等【イケロス・ファミリア】は、人語を操る竜女を追い、【ヘスティア・ファミリア】が匿っていると確信して監視を続けていたのである。
尾行の失敗と三勢力の交錯
変装したウィーネを連れ出したベル達を、ディックス達は尾行したが、同時に【ヘルメス・ファミリア】の冒険者にも監視されていた。熊獣人の嗅覚が透明な気配を察知したことで、ディックスは追跡の中止を決断し、部下に撤退を命じる。彼等の視線の正体は、ベルが出発前に感じ取っていた複数の気配の一端であり、ヘスティア側とヘルメス側、そしてイケロス側の三勢力が暗闇で交錯していた。己の主神イケロスが事態を愉しんでいると悟ったディックスは「俺達は遊戲盤の駒だ」と嘲るように呟き、唇を歪めた。
密輸の露見と追い詰められた狩人達
【ヘルメス・ファミリア】の動きに加え、ギルドも密輸の情報を掴んでいる可能性を感じ取ったディックスは、苛立ちを隠さず舌打ちした。実際にはウラノスの計略によって、ベル達の強制任務が「餌」として仕組まれていたのであり、ディックス達を誘い出すための罠が密かに機能していた。彼等はその真相を知らぬまま、自分達が標的の中心に立たされていることに気付いていなかった。
残酷な嗜虐と「巣」への執念
それでもディックスは後退を拒み、「巣の階層は掴んだ」と言い放つ。捕獲した異形の影を檻越しに眺め、歪な笑みを浮かべた。「狩りは続ける」と決意し、ねじれた槍を手の中で弄びながら歩を進める。やがて足を止めた先の檻に、恐怖に震える声が漏れた。ディックスは歪んだ快楽を帯びた声で「十分に役に立て」と呟き、異形の存在に槍を突き入れる。直後、石壁を震わせる絶叫が広間に響き渡った。
同シリーズ
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか




















ダンジジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか外伝 ソード・オラトリア





アストレア・レコード




ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか オラリオ・ストーリーズ


その他フィクション

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