どんな本?
元々は小説の投稿サイトArcadiaで読んでいた小説だった。
大賞を取れたと書かれた後に消されて、書籍化されたら買おうと思い出版されたのが10年前。
もう10年経つんだ、、
その後、コミック化され遂にアニメ化された。
この作品への感情移入感はハンパない。
3巻まで紙の本、Kindle、BOOK⭐︎WALKERでそれぞれ買って保存してる。
それ以降は電子書籍のみのだがKindle、BOOK⭐︎WALKERで購入している。
もちろん、外伝の方も買っている。
読んだ本のタイトル
#ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 3
著者:#大森藤ノ 氏
イラスト:#ヤスダスズヒト 氏
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あらすじ・内容
「……君は、臆病だね」
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 3
「!?」
「臆病でいることは冒険で大切なこと。
でもそれ以外にも、君は何かに怯えてる」
突如憧れの女性【剣姫】アイズと再会を果たしたベル。
そこで突きつけられてしまった事実。自分を抉る最大の因縁。
紅い紅い、凶悪な猛牛・ミノタウロス。
少年はそんな自分を情けなく思った。
そして少年は初めて思った。僕は── 英雄になりたい。
『偉業を成し遂げればいい、人も、神々さえも讃える功績を』
これは、少年が歩み、女神が記す、
── 【眷族の物語(ファミリア・ミィス)】──
前巻からのあらすじ
ソーマファミリア所属のリリは、ソロでダンジョンに潜るベルくんを次のターゲットにして接近したリリは、部分的な変装をして犬獣人の娘としてベルくんを荷物持ちのサポートした。
ソーマファミリアは、主神ソーマご作る酒を飲みたいがために色々な事を犠牲にしながら稼ぎを出した者に優先的にソーマの酒を与える。
そのせいで、ファミリアの中の関係はギスギスしており。
弱い立場だったリリは搾取されまくっていた。
それでも何とか生きて来たリリだったが、、
今回は以前、罠に嵌めた冒険者と、ソーマファミリアの冒険者達が結託してリリを罠に嵌める。
それを騙されたベルくんが助けて終わる。
感想
この巻辺りは投稿サイトArcadiaで読んだ記憶がある。
それが文庫化されてマンガ化されてアニメ化(4期中)ってのも感慨深い。
ベルくんの勇姿が凝縮されてる。
それを他の冒険者達も見てる中でのミノタウロスとの決闘。
そして勝利、その後にレベルアップ。
ファンタジー小説の御約束的な盛り上がり。
って言っても前半はアイズにボコられてるけどねw
騙されやすいベルくんを守るためと、女神ヘスティアから許可を貰ってリリと組んでダンジョンに潜るベルくん。
ただ、リリはソーマファミリアからは死亡扱いされてるので目立つわけにはいかない。
それなので、リリは変装してさらにベルくんが荷物持ちに扮して迷宮に潜っていた。
迷宮への攻略は順調。
ベルくんの強さも「憧憬一途」のおかげでドンドン強くなって行く。
そんなベルくん達を見ている女神フレイヤだったが。
彼女はベルくんの魂に翳りを刺している事に不満があった。
その原因はミノタウロス。
それを解消するためフレイヤは従者オッタルにベルくんの魂の翳りを取るようにお願いする。
その結果、、
オッタルは中層からミノタウロスを見繕い修行させ、ベルくんにぶつけるつもりだったが、、
それに女神イシュタルの眷属達が横槍を入れたせいでミノタウロスが暴走。
上層の冒険者を襲っている時に、ベルくんが遭遇。
リリを逃すためにベルくんがミノタウロスと対峙する。
レベル1のベルくんが、レベル2のミノタウロスと一騎討ち、、
途中でリリが救援に連れて来たアイズとロキファミリアの冒険者達だったが、、
アイズが救援に入ろうとしたらベルくんが断ってミノタウロスとの一騎討ちを継続。
そして、ベルくんは憧れのアイズの目の前で格上のミノタウロスを討ち取るが、、
立ったまま気絶してしまっていた。
それでロキ・ファミリアは悪いと思いながらも背中に書かれているベルくんのステータスを確認する。
アビリティオールS。
どうやら素速さはSS。
そして、ロキ・ファミリアはベル・クラネルという冒険者を認識する。
そしてベルくんはレベル2に昇格する。
まだ冒険者になって1ヶ月のベルくんが、、、
それが後々に騒動になるとは知らずに。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
ベル・クラネル
急速に成長する新人である。恐怖を克服してミノタウロスを単独撃破した。
・所属組織、地位や役職
ヘスティア・ファミリア・冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
アイズの指導で防御と受け流しを体得した。
【ファイアボルト】と機転で勝利に到達した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
最速記録でレベルアップを達成した。
「世界最速兎」の異名が付与された。
ヘスティア
ベルの主神である。保護者として更新と監督を務めた。
・所属組織、地位や役職
ヘスティア・ファミリア・主神。
・物語内での具体的な行動や成果
ステイタス更新で急成長を確認した。
訓練を条件付きで許可し、現場を同伴した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ベルの新たな頁の刻印を見届けた。
アイズ・ヴァレンシュタイン
第一級の剣士である。師としてベルに戦い方を授けた。
・所属組織、地位や役職
ロキ・ファミリア・剣士。
・物語内での具体的な行動や成果
鞘打ちによる実戦稽古で防御を教示した。
9階層でベルを庇い、主導を託した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
LV.6へのランクアップが公示された。
リリルカ・アーデ
変身魔法で身を隠すサポーターである。過去の背信を悔い支援に徹した。
・所属組織、地位や役職
ソーマ・ファミリア・サポーター。
・物語内での具体的な行動や成果
偽装で追跡を回避し、回収と陽動を担った。
9階層で身代わりとなり負傷した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
脱退条件と資金課題を認識し当面は自立を選んだ。
エイナ・チュール
ギルドの職員である。支援者として現場を動かした。
・所属組織、地位や役職
ギルド本部・受付担当。
・物語内での具体的な行動や成果
運営自粛勧告の提案書を作成した。
ベルとアイズの接点を整理し助言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
越権の自覚と保護志向を併せ持つ姿勢を示した。
フィン・ディムナ
理知的な団長である。指導の目的志向を提示した。
・所属組織、地位や役職
ロキ・ファミリア・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
上層の異常を分析し出動を決断した。
アイズの行動を黙認しつつ警告を与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
遠征の指揮体系を維持した。
リヴェリア・リヨス・アールヴ
高位の魔導士である。冷静に場を収めた。
・所属組織、地位や役職
ロキ・ファミリア・上級魔導士。
・物語内での具体的な行動や成果
リリを治療し状況を把握した。
ベルの神聖文字を読み取り数値を確認した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
指導の初手として瞑想を推奨した。
ベート・ローガ
剛速の狼である。弱者観に基づく発言を行った。
・所属組織、地位や役職
ロキ・ファミリア・前衛。
・物語内での具体的な行動や成果
上層の報告を受けて出動に向かった。
戦場でベルの奮闘に動揺した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
矜持と発言の齟齬が露出した。
ティオナ・ヒリュテ
明朗な前衛である。現場重視の姿勢を示した。
・所属組織、地位や役職
ロキ・ファミリア・前衛。
・物語内での具体的な行動や成果
鍛冶師同行の理由を確認した。
戦いを英雄譚と重ねて観察した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
場の緊張を和らげる役割を担った。
ティオネ・ヒリュテ
沈着な前衛である。実力主義の稽古案を述べた。
・所属組織、地位や役職
ロキ・ファミリア・前衛。
・物語内での具体的な行動や成果
遠征行軍を支えた。
指導論で叩き込みを提案した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
隊内の調整に寄与した。
リュー・リオン
寡黙な元冒険者である。条件と手段を簡潔に示した。
・所属組織、地位や役職
酒場スタッフ。
・物語内での具体的な行動や成果
ランクアップの条件を説明した。
パーティ運用の有効性を助言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
助言者としてベルの判断を支えた。
シル・フローヴァ
酒場の看板娘である。日常側の視点から制止を示した。
・所属組織、地位や役職
豊穣の女主人・スタッフ。
・物語内での具体的な行動や成果
雑務を任せてベルの負い目を和らげた。
無理をしない選択肢を提示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
継続的な差し入れを申し出た。
フレイヤ
美を司る神であり、ベルの成長を注視する立場である。嫉妬と興味を自覚しつつ介入を企図した存在である。
・所属組織、地位や役職
フレイヤ・ファミリア・主神。
・物語内での具体的な行動や成果
バベル最上階からベルとアイズの稽古を観察した。
オッタルに働きかけ、上層での事態の下地を整えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ベルの魂の輝きに反応し、再介入の意思を固めた。
オッタル
フレイヤに忠誠を誓う最強の眷族である。命を受けて“洗礼”としての試練を用意した。
・所属組織、地位や役職
フレイヤ・ファミリア・幹部。
・物語内での具体的な行動や成果
10階層でミノタウロスを鍛え上げた。
装備と動きを矯正する形で“教育”を実施した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
嫉妬ではなく主の意志の履行と位置付けて行動した。
ミィシャ・フロット
ギルド職員である。職場の空気を映す存在である。
・所属組織、地位や役職
ギルド本部・受付補助。
・物語内での具体的な行動や成果
残業の場で噂を拡散した。
エイナの発言を誤解して騒ぎを誘発した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
組織内の反応を可視化した。
カヌゥ
上層で強奪に関わった冒険者である。暴発に巻き込まれた。
・所属組織、地位や役職
パーティ所属・詳細不明。
・物語内での具体的な行動や成果
カーゴを強奪し封入体の解放を招いた。
ミノタウロスの反撃で死亡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
上層の惨劇の引き金となった。
展開まとめ
プロローグ「Alea jacta est」
フレイヤとオッタルの対話
薄暗い室内で、フレイヤは従者オッタルとベルの成長について語り合っていた。彼女は少年が魔法という新たな力を得て一段と輝きを増したと感じていたが、同時に何かが彼を縛っていると見抜いていた。オッタルはその要因を、ミノタウロスとの因縁による過去の傷と推測した。フレイヤはその分析に興味を示し、いずれベルがその象徴を自ら打ち破ることで成長を遂げると理解した。
神と従者の信頼と嫉妬
フレイヤはベルへの執着を語り、彼がオッタルより強くなれば自らの寵愛を移すかもしれないと冗談めかして問うた。オッタルは動じず、フレイヤの愛はすべての者に平等であると答えた。その真摯な姿にフレイヤは笑みを浮かべ、堅物の従者が嫉妬する姿を見たいと戯れた。互いの信頼と主従の絆が静かに示される一幕であった。
ベルの未来への懸念
フレイヤは再び少年について思索し、時間の経過だけに成長を委ねてよいのかと不安を抱いた。オッタルは、時間が解決するのは確かだが、冒険しない者は殻を破れないと断言した。その言葉にフレイヤは納得し、ベルへの働きかけをオッタルに一任した。フレイヤは彼の洞察を信じ、少年の未知の可能性を見届けようと決意していたのである。
一章「剣姫襲来」
カフェでの状況確認と再出発の合意
ベルとリリは北通りのオープンカフェで、パーティ再結成一日後の現状を確認していた。リリは【ソーマ・ファミリア】内で死亡扱いになる見込みと説明し、追跡の危険は低いと述べた。ベルは配慮しつつも過度な関与を避け、ここからの再出発を受け入れたのである。
変身魔法による身元秘匿
リリは【シンダー・エラ】で獣人の子供の外見となり、髪色や瞳色も変えて身元秘匿を徹底していた。ベルはこの能力により追跡は困難だと理解し、当面の安全を確認したのである。
罪悪感に揺れるリリとベルの対応
リリは過去の背信と金銭未返済への自責に苛まれていた。ベルは折檻や説教を望まず、彼女の負担を軽くする解決策を模索していたが、決め手を欠いていた。
ヘスティアの同席と査問開始
ヘスティアが合流し、まずリリの打算の有無を直截に問い質した。リリは裏切りは繰り返さないと明言し、神の威圧の前でも動じず誓約した。ヘスティアはその言葉を一次的に信じると表明したのである。
神の警告と役割付与
ヘスティアは再犯時は容赦しないと警告しつつ、罪悪感の処理は自分で決着せよと諭した。その上でベルがいつか騙されると危惧し、リリにお目付役としてベルの面倒を見ることを命じた。リリはこれを受け止め、行動で誠意を示す決意を固めた。
牽制と小競り合い
ベルが席を外した隙に、ヘスティアはベルへの寵愛を明示して牽制し、リリも正面から応じた。ベルが戻ると両者は外見の幼さに反して女同士の火花を散らし、主導権を巡る前哨戦が展開したのである。
勧誘提案と辞退
ベルはリリに【ヘスティア・ファミリア】加入とホーム受け入れを提案した。ヘスティアも表向き容認したが、リリは現状は【ソーマ・ファミリア】の構成員であるとして辞退した。関与が露見すればヘスティア側に火の粉が及ぶと判断したためである。
脱退条件の確認と資金問題
脱退には主神の承認や多額の資金が必要になる可能性が示された。ヘスティアは派閥脱退が神側のリスク管理に絡むことを説明し、主神次第で困難になる実情を共有した。ベルは改宗も協力なしでは不可能であると理解した。
当面の生活拠点と実務的支援方針
リリは顔馴染みのノームの店で働きながら身を寄せる意向を示した。ベルはギルドのエイナの助力も視野に入れ、無用な介入を避けつつ実務的支援に回る構えを固めた。
軽口と緊張緩和
会話の末、ヘスティアの仕事上の失敗談を交えたやり取りで場が和らいだ。ベルは本心から笑みを取り戻したリリを見て、必要ならば自ら頭を下げてでも彼女を支える覚悟を新たにしていたのである。
ギルド訪問と再会の衝撃
ベルは【ソーマ・ファミリア】の件を報告するためギルド本部へ向かっていた。受付のエイナの窓口には先客がいて、振り返った人物がアイズ・ヴァレンシュタインであると判明した。ベルは混乱のあまり退避しようと走り出したが、アイズが神速で進路に回り込み、倒れかけたベルを抱きとめて制止したのである。
プロテクター返却と事情の説明
アイズは布で包んだ荷を解き、ベルが十階層で落とした緑玉色のプロテクターを返却した。エイナは、アイズが直接返すために相談に来ていた経緯を説明した。ベルは当時の救援者がアイズであった可能性にも思い至り、状況を飲み込んだ。
謝罪と感謝の応酬
アイズは倒し損ねたミノタウロスがもたらした被害についてベルに謝罪した。ベルは即座に否定し、自身の浅慮を詫びるとともに、命を救われた礼を正式に伝え、深く頭を下げた。アイズは小さく微笑し、場の緊張は一時和らいだ。
成長の確認と評価
アイズはベルが十階層に到達していることに言及し、努力を認める発言を行った。ベルは協力者への感謝と自己の未熟を重ねて述べ、平常心を失いながらも現状の課題を吐露していた。
教導の提案
逡巡ののち、アイズは戦い方を教えることを提案した。理由はベルが強さを望んでいると感じたためであり、自身の経験からその気持ちを理解できると述べた。謝意の一環としての意図も示された。
揺れる本心と決断への前段
ベルは【ファミリア】間の関係や力量差を案じつつも、アイズと時間を共有したいという強い憧れを自覚していた。理屈を巡らせながらも、内心の答えは既に定まりつつあり、教えを受けたいという本心が決定へと傾いていったのである。
アイズの内心と打算
アイズはベルの反応を見守りながら、彼に師事を申し出た自分の真意を静かに見つめ直していた。表向きは彼の努力と成長に共感したことが理由だったが、内には別の意図があった。短期間で急成長を遂げたベルの戦果に興味を抱き、その成長の秘密を知りたいという探求心があったのである。
罪悪感と決意の交錯
アイズは純粋に善意と受け止めているベルを前にして、わずかな罪悪感を覚えていた。だが、迷いを断ち切るように腰の剣の柄を握り、自らの選択を受け入れた。少年の純粋な信頼に対し、行動で応えることを誓ったのである。
師弟の成立
ベルは赤面しながらも真摯に頭を下げ、アイズへの教導を願い出た。その姿にアイズは心のわだかまりを溶かし、深紅の瞳を正面から受け止めて小さく頷いた。二人の間に、新たな師弟関係が成立した瞬間であった。
二章「牛兎特訓」
未明の市壁と秘密の稽古開始
ベルは未明の市壁上に赴き、アイズから戦い方の指導を受ける段取りとなっていた。遠征前で時間が限られる事情と他派閥への配慮から、人目の少ない場所と時間が選ばれたのである。呼称はアイズで統一するよう確認が入り、素振り観察から稽古が始まった。
手探りの教示と事故的回し蹴り
アイズは体術の例示を試み、動作を探る中で急転し上段回し蹴りを放ってしまい、ベルは吹き飛ばされた。アイズは即座に謝罪し、以後も方法を模索したが停滞が続いたため、方針転換を決断した。
鞘による模擬戦の開始
アイズは剣身を置き鞘のみを手に取り、実戦形式で学ばせると宣言した。臆病さを見抜かれたベルは自ら踏み込みを試みたが、横薙ぎや突きで度々地に伏した。アイズは無鉄砲を戒め、視野の確保と死角を作らない立ち回りを説いた。
速度差と防御課題の露呈
連撃の中でベルは回避も受け流しも遅れ、膝打ちや斬閃の連打で膝をついた。アイズは【ステイタス】と技術は別物であり、能力に依存しない技・駆け引きを鍛える必要を指摘した。特に防御が弱点であると明言し、攻撃を読んで防ぐことを訓練目標に据えた。
継続の誓いと夜明けまでの稽古
アイズはこのやり方なら現段階のベルにも戦い方が身に付くと断じ、目標に近づけると鼓舞した。ベルは再起を選び、痛みを受けつつ立ち続けた。稜線が光に染まるまで、ベルはアイズの鞘打ちを受け続け、防御の基礎を身体に刻み込んでいたのである。
洞窟の情景と層域
ダンジョン10階層は岩肌が迫る閉塞的な地形で、薄暗い光源が不安定に空間を照らしていた。通路は未整備で歩きにくく、迷宮特有の坑道様相が広がっていたのである。
オッタルの探索と装備
オッタルは軽装ながら各部位の防具を極厚に固め、背嚢を携えて単独探索を行っていた。足音を消す異様な進退と圧のある存在感により、モンスターは彼を回避していたのである。
フレイヤへの想念と“風”の比喩
歩を進める中で、オッタルはフレイヤの愛を風に喩えて内省した。風は誰にも縛られず平等であり、消えずに在り続ける。ゆえに妬みは不要で、崇敬を揺るがすことはないと再確認していたのである。
ミノタウロスとの遭遇と力量差の明示
横穴から出現したミノタウロスは石斧を手に突撃したが、オッタルは左腕一本で完全に受け止め、斧は粉砕された。棒立ちのまま突撃を捻じ伏せる“耐久”と基礎体の異常性を誇示したのである。
武器授与と“教育”の開始
オッタルは腰の双剣の一本を投げ与え、「使いこなしてみせろ」とミノタウロスに役割を課した。以後は剣戟を弾き、踏み込みや振り抜きの矯正を繰り返す形で“教育”を実施し、洞窟に火花と金属音が長時間反響した。
意図の核心―嫉妬ではなく洗礼
フレイヤの命を受けた働きかけは、ベルに“茨の道”を通させる洗礼であった。ミノタウロスの厳選はベルの殻を破るための膳立てであり、フレイヤの名を汚さぬ「資格」の証明を求める行いであると、オッタルは自らに言い聞かせていたのである。
結語―使命の遂行
ベルの前に相応の強敵を送り込む準備は着々と進んだ。全てはフレイヤのためであり、オッタルは私情を排し、課せられた使命を果たし続けたのである。
負傷の理由を隠すベル
ベルはアイズによる過酷な訓練で満身創痍となっていたが、その事情をリリに明かさず笑みで誤魔化したのである。
バベル入場と装備の偽装
【ソーマ・ファミリア】からリリの身を隠すため、二人は役割を偽装した。ベルがサポーター風に空のバックパックを背負い、リリは獣人の子ども姿で《バゼラード》とプロテクターを装着していた。9階層手前で装備を元に戻す段取りであった。
周囲の誤解と視線
獣人の子ども(リリ)と兎系のベルという取り合わせは、周囲の冒険者に「格差ペア」と受け取られ、同情や揶揄の囁きが生じたのである。
ステイタス更新問題の提起
ベルはリリが当面【ステイタス】を更新できない点を懸念した。これに対しリリは「当面は対処可能」とし、半年前から更新なしでも立ち回ってきた事実を示したのである。
ソーマ派のノルマとリリの生存戦術
【ソーマ・ファミリア】では「資金ノルマ達成後に【ステイタス】更新」という運用が定着していた。リリは目立つ収益を献上すれば餌食になると判断し、敢えて未献上で“弱者”を装い更新を止めた。派閥集会には“貧しい構成員”として顔を出し続け、発現後の『魔法』以外は更新を避けてきたのである。
自己嫌悪の吐露と試す問い
リリは「嘘で塗り固めて生きた自分」を軽蔑するかと問い、冒険者一般への嫌悪も隠さず表明した。反省はしないと強がりつつ、獣耳は怯えを示すように伏せられていた。
ベルの受容と心情の緩和
ベルは「素直になれない人を軽蔑できない」と述べ、リリを肯定した。さらに「リリのことが好き」と本心を告げ、彼女の不安を和らげた。リリは頬を染め、耳と尻尾で喜びを示し、歩調も軽くなったのである。
当面の危機回避としての偽装と運用方針が固まり、リリの過去と現在の立ち回りが共有された。ベルの受容により、二人の関係は信頼の度合いを増し、次なる探索へ向けた心理的な足場が強化されたのである。
インプ群の迎撃
10階層の霧深いルームにて、ベルは両手に《神様のナイフ》と《バゼラード》を携え、インプの群れを迎撃した。アイズの特訓で得た足運びと体術をなぞり、爪の攻撃を捌いて回し蹴りで吹き飛ばし、連携突きで二体を同時に穿ったのである。
視野確保と死角管理
ベルは「視野を広く、死角を作らない」という教えを実戦で徹底し、振り向きざまの二閃で接近個体を三断した。以後も霧越しの気配を追い、リリに《バゼラード》回収を任せつつ前進した。
連携陽動と奇襲
包囲を狙うインプに対し、外輪の霧へ消えたリリが頭部射抜きで動揺を誘発。さらに毒袋(パープル・モス由来の毒鱗粉調合)を投擲し、咳き込む個体をベルが即時処理した。二人は陽動・奇襲を事前分担し、ソロ殺しの群戦をパーティ戦術で上回ったのである。
増援出現と魔法殲滅
オークと上空支援のバッドバットを含む混成群が接近。霧で数把握が難しい状況を踏まえ、ベルは全武器を納めて【ファイアボルト】を選択。高速多条の炎雷で短時間に殲滅した。
安全地帯での小休止と所感
9階層連絡の始点ルーム(霧なしの実質安全地帯)で休憩し、ベルは魔法への「依存」を自省した。シルのサンドイッチを取りつつも、必殺感に乏しいのではという不安を表明した。
リリの分析と助言
リリは【ファイアボルト】を「速攻魔法」と位置付け、詠唱不要ゆえに“動作の一部”として頻繁に使える強みを指摘した。一撃必殺の長文詠唱魔法に比べ瞬発火力は劣るが、発動頻度が高い分【魔力】が成長しやすく、総合脅威は高いと評価した。また自身の【シンダー・エラ】の運用例を挙げ、【ステイタス】強化で魔法効果の融通が増すことを示し、ベルの魔法は「成長性が群を抜く」と結論づけた。
リリの言葉に、ベルは表情を緩めた。
信頼する相棒に背を押され、彼は再び立ち上がる。
「午後も、頑張ろうか」
「はい、どこまでも力添えさせていただきます」
そうして二人は再び迷宮へ向かった。
三章「ブラック・レイド」
気絶からの覚醒と膝枕
ベル・クラネルは市壁上で意識を取り戻し、頭を膝枕で支えられていたことに気付き赤面した。アイズが体調を確認し、二人は胸壁にもたれて小休止を取ったのである。
稽古の進捗確認と評価
ベルは上達を不安視していたが、アイズは変化していると評価した。ただし気絶が多いのは自分の力加減の誤りだと述べ、ベルはそれを否定して励ました。
動機の開示と共感
アイズはなぜ速く強くなれるのかを問い、ベルは追いつきたい相手がいるからだと答えた。アイズは空を仰ぎつつわかると小さく共感を示した。
昼寝の訓練の提案
正午の鐘が鳴る中、アイズはダンジョンでは何処でも眠れる必要があるとして昼寝の訓練を提案した。二人は石畳に横たわり、アイズは即座に眠りについた。
寝入りばなに起きた異変
眠れないベルの頭中に祖父の声が響き、無意識にアイズへとにじり寄ってしまった。さらにヘスティアの声も割って入り、祖父の声と相克したが、最終的に祖父の声が勝りかけ、唇が触れそうな距離まで接近したのである。
寸前の自制と口の動き
間際でベルは正気に戻って距離を取った。アイズは眠ったままであったが、ベルは待っててと唇が動いたように見え、その意味に思いを巡らせた。
自己嫌悪と距離の取り直し
ベルは己の行為を強く恥じ、広めに間隔を空け直して仰向けに戻った。寝息や表情を確かめつつ、隣にいる現実を夢のように感じ、心を鎮めていった。
まどろみへの移行
青空の下、市壁道の中央で二人は横になり続け、ベルは謝意と自戒を胸にゆっくりとまどろみに落ちたのである。
市壁の構造と秘匿性
オラリオの市壁は迷宮対策を主眼とした高層・堅牢構造である。天辺部は環状の石畳道と胸壁を備え、原則立入禁止であった。高層建築からも天辺は視認困難であり、特訓は外部観測から遮断される設計であった。
アイズの手回しと訓練の秘匿
アイズはベルとの稽古が両【ファミリア】に露見しないよう配慮していた。市壁上の訓練は人目を避ける意図に適合し、目論見は機能していた。
唯一の例外―バベル最上階
ただし例外が存在した。都市最高所であるバベルの最上階からは市壁上を俯瞰でき、フレイヤは自室からベルとアイズを明瞭に視認していた。胸壁の遮蔽効果も俯瞰には無力であった。
フレイヤの『眼』と二つの輝き
フレイヤは『魂』を識別する『眼』で、ベルの透明な光とアイズの金色の鮮烈な光を捉えていた。黎明から続く鍛錬を観察し、二人の進展に強い興味を抱いた。
妬心の自覚
フレイヤは椅子の肘掛けを指で叩き、無意識の高揚を自覚して動きを止めた。過去にヘスティアに対して覚えた感覚が再燃し、アイズの輝きに対する小さな嫉妬を認めたのである。
“主役”への執着と悪戯心
眷族が迷宮で仕込みを進める一方、ベルがアイズに師事する構図を「見もの」と評し、フレイヤは嫉妬と興味を動機に「少しちょっかいを出す」意図を固めた。動機は好奇と試験、そしてわだかまりの解消であった。
フレイヤの観察と次なる動き
オラリオの市壁上で続く鍛錬を見下ろし、フレイヤはベルとアイズの関係に興味を深めた。
嫉妬と戯れ心を胸に、再び二人へ干渉することを決意する。
それは、後に物語の動勢を左右する女神の介入の始まりであった。
市壁からの脱出と食事への誘い
長い通路と階段を抜け、ベルとアイズは忘れられた市壁の出入口から外へ出た。昼寝後に訓練を再開していたが、空腹を覚えたベルの腹の音をきっかけに、アイズが軽食を提案したためである。
北の大通りと目的地
アイズの案内で二人は北のメインストリートへ向かった。ティオナに聞いた「ジャガ丸くん」の店を目指していた。夕暮れの通りは人で賑わい、ベルは注目を浴びるアイズの隣で気後れしながら歩いた。
露店での再会と神の激怒
店員はヘスティアであった。アイズの注文に応じた後、ようやくベルの姿を確認したヘスティアは激昂し、怒号とともに二人の間へ割って入った。ベルが訓練の事実を隠していたためである。
誤解と説明
ベルは慌てて釈明したが、ヘスティアは信用せず詰問を続けた。アイズは庇うように自ら口を開き、「戦い方を教えている」と正直に説明した。ヘスティアはなお疑念を抱きつつも、状況を整理し始めた。
条件付きの許可
ベルの真摯な懇願と、三日後に控えたロキ・ファミリアの遠征を理由に、ヘスティアは渋々残り二日間だけの訓練継続を認めた。ロキ側への秘匿を条件とし、「変な真似をしたら即中止」と釘を刺した。
監視の決定
納得したかに見えたヘスティアは、突然「今日の訓練は見物する」と宣言した。ベルが困惑する中、彼女は仕事を切り上げて露店へ戻り、神として眷族の行動を見届けるつもりであった。
二人の反応
去っていくヘスティアを見送り、ベルとアイズは互いに顔を見合わせた。アイズは小さく笑みを浮かべ、「優しい神様だね」と呟き、ベルも静かに頷いた。
夜の再開訓練
ベルとアイズはヘスティア同伴で市壁に戻り、遅れを取り戻すべく鍛錬に集中した。ベルは気絶こそ避けたが満身創痍であった。
襲撃の兆候
市壁内部を降り外へ出ると、裏通りは不自然に暗く、魔石街灯が破壊されていた。アイズが異変を察知し、敵影の気配を捉えた。
奇襲の開始
暗装束のキャットピープルが瞬時に間合いを詰め、槍で急襲した。アイズが神速の抜剣で弾き、直後に四名の小人族が上方から重武装で追撃した。
アイズの対処
アイズは回避を最小化し、一本の剣で五方向の連携攻撃を受け流し反撃した。剣筋は視認困難であり、第一級相当の相手を単独で抑え切っていた。
ベルとヘスティアの対処
別動の四名がベルとヘスティアを包囲。ベルは《短刀》と《神様のナイフ》で先制し、足払いと体当たりで間合いを崩し、落ちた大剣を振り抜いて三名をまとめて吹き飛ばした。ヘスティアは背後で警戒と警告を行った。
速攻魔法と敵の余裕
ベルは「【ファイアボルト】」を六連射し炎域を展開したが、第一級側は炎を割って無傷で出現し、詠唱破棄の事実を観察項目として言及した。敵は「十分」と判断して撤退した。
動機の推測
襲撃者は【ファミリア】標章を隠匿し、事前に照明破壊と人払いを実施していた。アイズ側には恨み筋が多く、ベル側には同格程度をぶつけて力量測定をしていた可能性が高いと推測された。
離脱の決定
騒擾拡大とギルド介入を避けるため、三名は現場離脱を決定。負傷はなく、ベルのみ痺れと消耗が残った。
不吉な視線
撤収直前、ベルは強烈な被視感を覚え、バベル最上部からの監視を直感した。妖美な微笑の錯覚とともに、黒い予兆が近づく感覚を得たのである。
四章「冒険の意味を」
場面設定
場所は【ロキ・ファミリア】の応接間である。暖色の室内で団員達が寛ぐ中、アイズは膝を抱え思案に沈んでいた。
仲間の介入と応酬
ティオナが心配して声を掛け、ベートとティオネが口論を交えつつ加わった。ベートは遠征前の軽挙を戒め、ティオナは実戦重視の楽観を示し、場は賑やかとなった。
フィンとリヴェリアの卓上遊戯
リヴェリアとフィンが盤上で対局し、リヴェリアが敗北を認めた。二人はアイズの視線に気づき、悩みの有無を問うた。
問い:「教える時に何をするか」
アイズは「冒険者に物を教える際に何をするか」と質問した。各人の答えは次の通りである。
- リヴェリア:まず瞑想で己を知ることを課すべきである。
- ティオナ:実地同行が有効である。
- ティオネ:組み手で叩き込み、実力を引き上げるべきである。
- ベート:弱者は弱い限り意味をなさないと断じ、関与自体を否定した。
フィンの見解(極論)
フィンは「冒険せざるを得ない局面で本当に必要となる資質を培うこと」が指導の要と示した。相手次第で養う点は変わるため、固定手順より目的志向が重要であると結論づけた。
アイズの動機の内省
アイズはベルへの教導を六日続け、当初の関心であった『成長』の秘密探りから、いかに叩き伸ばすかへ関心が移った事実を自覚した。素直で愚直な反復が学習速度を押し上げていると評価し、師範として応える決意を固めた。一方で関係露見と昨夜の強襲を踏まえ、詳細は秘した。
黙認と警告
フィンは迂闊な行動を戒めつつ、派閥間の関与を今は咎めないとし、ロキにも黙っておくと示した。ただし【ロキ・ファミリア】を危険に晒す行為は厳禁と警告した。
ティオナの指摘と小さな変化
ティオナは「今のアイズは考えて試そうとしており、楽しそうである」と指摘した。アイズは自覚こそ薄いが、その言葉を受けて小さく微笑みを見せた。
掲示板の報と動揺
ギルド本部の掲示板で、アイズの【ランクアップ:LV.6】が公示された。深層の階層主を単独撃破という異例の偉業であり、エイナは「特別である」と説明した。ベルは圧倒的な隔たりを痛感し、落胆したのである。
街の喧騒と孤独感
中央広場からバベルを仰ぎ、西の大通りへ向かう道すがら、祝祭めいた賑わいに反してベルは取り残されている感覚を覚えた。
シルの呼び止めと“罠”
『豊穣の女主人』近くでシルに手を取られ、「会いたかった」と告げられる。結局、無断欠勤の尻拭いとして皿洗いを手伝わされ、厨房で雑務に没頭した。
リューの助力と問い
仕事を手伝いに現れたリューに、ベルは「【ランクアップ】はどうすれば可能か」と問うた。リューは「偉業の達成」、すなわち自分より強大な敵の打破による“より上位の【経験値】”の獲得が条件であると整理し、加えてアビリティがD以上で資格が生じると述べた。弱者が強者を倒すための現実的手段としてパーティ運用も助言した。
“冒険の意味”という勧め
リューは「人の数だけ冒険の意味がある。自分の冒険、その意味から目を逸らさないで」と諭し、「貴方は冒険者だ」と明言した。その言葉はベルの胸奥に残響した。
シルの制止と気遣い
店外でシルは「冒険はしなくてもいいのでは」と小声で制止し、「無理はしないで」と気遣いを示した。昼食の差し入れ継続を約しつつ、遠回しに“無事であること”を求めた。
二つの道の輪郭
ベルの前に、対照的な二つの指針が並んだ。リューとエイナが示す“冒険者として試練を越える道”と、シルが示唆する“無理をせず日常を守る道”である。ベルは夜空を仰ぎ、揺れる心を反芻し続けた。
訓練の終幕
暁光が差す市壁上で、ベルとアイズは最後の鍛錬を迎えた。東の空に太陽が覗き、これまで続いた一週間の稽古の終わりが刻まれたのである。
受け流しの体得
アイズは鞘による仮借なき連撃で課題を示し、ベルは正面から弾かずに角度をずらして受け流す防御を反復した。回避に逃げず“見る・合わせる・外す”の一連を体に刻み、被弾を許しつつも着実に成功回数を重ねたのである。
初めての反撃
防御の壁を越え、ベルは《短刀》で初の反撃を通した。斬撃は即座に防がれたが、「届いた」という事実が双方に共有された。朝日が強まり、アイズはわずかに微笑を見せた。
別れと感謝
アイズは「これで終わり」と告げ、ベルは深く礼を述べた。アイズは「楽しかった」と言葉を返し、金色の朝日に縁取られながら背を向けた。短くも濃密な一週間が、静かな感謝とともに締めくくられたのである。
ベルの誓い
遠ざかる背中を見送りながら、ベルは到達すべき高みの遠さに一瞬怯みつつも、再び手を伸ばす決意を固めた。やらなければ何も始まらないと自らを鼓舞し、彼は逆方向へ走り出し、次の冒険と成長へ踏み出したのである。
ギルドの夜と報告書
夜八時を回り、ギルド事務室には残業組だけが残っていた。エイナは一日の報告書をまとめ終え、同僚ミィシャの嘆き声を聞き流しながら、机上に広げた自筆の報告書へ視線を落とした。内容は【ソーマ・ファミリア】に対する運営自粛勧告の提案であった。
正義と私情の葛藤
この文書には、ベルやリリの件を通じて知った実情が反映されていた。ギルド職員としては越権行為に等しいが、「見捨てるよりはまし」と、エイナは自らの良心を優先した。公務員的中立よりも、半端なエルフとしての誇りと情を選んだのである。
軽口と職場の反応
再就職先を冗談めかして考えた独り言をミィシャに聞かれ、「辞めるの!?」という誤解が職場全体を走った。慌てて否定し、ようやく場は落ち着く。報告書が上に通れば、【ソーマ・ファミリア】には何らかの処分が下る見込みであった。
冒険者と罪の構図
リリの事件に関わった花屋を訪ねた際、エイナは少女を追い出した店主が密かに金を置いていたことを知る。冒険者の「血と汗」は時に他者を踏みつけて流れるものだと感じつつも、それでも見過ごせぬ者のために手を差し伸べたいと考えていた。
信念の再確認
矛盾に苛まれながらも、エイナは冒険者達を支える決意を固めている。悪徳者も多いが、善良な者も確かに存在する。彼等を死なせないという思いだけは偽りでなかった。
ベルとの再会
職員に呼ばれロビーを覗くと、ダンジョン帰りのベルが笑顔で立っていた。エイナも微笑み返し、自分の支えたい対象が目の前にあることを再確認する。たとえ免職されようとも、彼をはじめとする冒険者達を守り続けたいと、胸の内で誓ったのである。
紅の惨劇
カヌゥ一行はダンジョン内で【フレイヤ・ファミリア】所属の獣人オッタルが運搬していたカーゴを強奪した。だが中に封じられていたのは、片角を折られたミノタウロスであった。束縛を破った怪物は瞬く間に仲間を虐殺し、血の海を築き上げた。
恐怖の追走
唯一生き残ったカヌゥは狂乱状態のまま逃走した。だがミノタウロスは異様な知性を帯び、狩人のように一定の距離を保ちつつ追跡を続けた。袋小路に追い詰められたカヌゥは、奪取した紅の魔剣を乱射し抵抗したが、武器は限界を超えて砕け散った。
終焉の一撃
大剣を構えたミノタウロスが迫り、カヌゥは絶叫とともに頭部を叩き割られ即死した。かくして強奪の報いは果たされ、上層に似つかわしくない地獄が生まれたのである。
不吉な兆し
朝のホームで、ヘスティアは白いマグカップの取っ手が自然に割れるのを見て胸騒ぎを覚えた。訓練を終え、意気揚々とダンジョンへ向かおうとするベルを見送りながら、どうしてもその不安を拭えず、咄嗟に呼び止めた。
【ステイタス】更新の提案
理由を説明できず、ヘスティアは【ステイタス】更新を口実に時間を稼ぐ。戸惑うベルは承諾し、ヘスティアは破損したカップを放置したまま更新作業に入った。針を刺して神血を滲ませ、【神聖文字】を刻みながら、彼の成長を確認していく。
嫉妬と冗談
訓練の成果を反映した【耐久】の熟練度は飛躍的に上昇していた。だが【憧憬一途】の影響による急成長に、ヘスティアの嫉妬は隠し切れない。「剣姫と何かいかがわしいこと、した? 膝枕とか」と問い、ベルが赤面して取り乱す様子に、さらに妬心を燃やした。
経験値の仕組み
話題を逸らそうとするベルに、ヘスティアは神としての立場から経験値の本質を説明した。
訓練や戦闘であっても「真に身となった経験」が蓄積されること、努力の過程そのものが【経験値】に変わることを示した。ベルは真剣に聞き入り、訓練の成果を実感する。
異常な成長と不吉な数字
更新を終えたヘスティアは、【ステイタス】を俯瞰して目を細めた。力・耐久・器用の数値がすべて「S」級に到達し、敏捷は「SS」。そして魔力欄に記された「B77」という不自然な末尾の「5」。
意味を測りかねたヘスティアは額を押さえ、割れたカップと重なるように、胸の奥で再び不穏な感覚を覚えたのである。
遠征の朝
オラリオ東方の山脈から朝日が昇り始める。屋敷の最上階に立つアイズ・ヴァレンシュタインは、都市を囲う市壁の外に光を放つ山々を見渡しながら、静かに装備を整えた。蒼の鎧と銀の胸当て、腰のサーベル。戦闘のために磨き上げられた装いが、朝の光に輝きを返す。
剣姫の覚悟
姿見の中に映る自分を見据え、アイズは「【剣姫】」としての覚悟を確かめた。LV.6への到達から十二日。今日は【ロキ・ファミリア】が誇る主力を集め、深層を攻略する「遠征」の決行日である。己の成長を確かめ、さらなる高みへ進むための絶好の機会だった。
出立の喧噪
扉の外からはベートの声が響く。「まだか?」と急かす彼に、アイズは短く「今、行きます」と応じる。その直後、ティオナが陽気に駆けつけ、彼らの口喧嘩が始まった。
「どっちがモンスターを多く狩るか勝負しよう!」
「負け犬は負け犬らしく尻尾巻いてろ!」
「犬じゃねえ、オオカミだ!」
いつもの賑やかなやり取りを背に、アイズは静かに立ち上がり、扉へと歩み出た。
遠征の幕開け
耳に届くのは鐘楼の重々しい鐘の音。オラリオの朝を告げるその音が、やがて【ロキ・ファミリア】の進軍の合図となる。アイズは一度だけ東の空を見上げ、静かに息を整えた。
――深層へ。
新たな冒険の幕が、今まさに開こうとしていた。
静寂の9階層と不穏な予感
ベルは9階層のルームで得体の知れない視線を感じ、不安を覚えて装備を整えたが、モンスター遭遇が異様に少ない違和感が拭えなかったのである。
脳裏に刻まれた咆哮と再演
頭内に蠱惑的な声が響いた直後、過去の恐怖と同質の唸りが届き、通って来た通路から片角のミノタウロスが出現した。ベルは恐怖に身体を硬直させ、行動を封じられた。
捨て身の庇護と初動
ミノタウロスの袈裟斬りを、リリが体当たりで遮り頭部を負傷した。これによりベルは恐怖を抱えつつも立ち上がり、リリを退避させて正面から対峙した。
【ファイアボルト】の連射
ベルは緊急発動の【ファイアボルト】で巨体を押し返し、連射で爆炎の連鎖を起こして後退させた。わずかな手応えを掴み、魔法に縋って攻勢を続けたのである。
反撃の鉄拳と装備崩壊
黒煙を裂いて放たれたミノタウロスのアッパーを後方跳躍で殺したが、壁に叩きつけられ軽装が背面から瓦解した。ベルはなおも立ち上がった。
装甲の厚さと戦況の断絶
度重なる直撃にもミノタウロスは火傷程度で致命傷を負わず、五体満足で咆哮した。ベルは自らの火力不足と力量差を痛感し、「勝てない」という現実を初めての“冒険”として突き付けられたのである。
五章「英雄願望」
遠征の始動
ダンジョンは階層を下るほど広くなり、上層での大規模行軍は困難であった。そのため【ロキ・ファミリア】は遠征を二部隊に分け、上層を経由して深層を目指した。今回は武器の耐久問題を解決するため、【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師達を同行させていた。フィン、リヴェリア、アイズ、ティオナ、ティオネ、ベートら第一級冒険者が先遣隊として進行を担っていた。
道中の会話と価値観の対立
移動中、ティオナが鍛冶師の同行理由を尋ね、ティオネやフィンが前回の遠征で武器が先に壊れたことを説明した。話題が一段落すると、ベートが他の冒険者を「雑魚」と評して挑発的な言葉を放つ。ティオナとリヴェリアがそれを咎め、価値観の衝突が起きた。ベートは「弱い者が嫌いなだけ」と断言し、リヴェリアは「強者の驕り」と諫めた。アイズはその会話の中で、かつて自分の前で涙した少年――ベルを思い出し、静かに視線を伏せた。
異変の報告と緊張の高まり
その時、通路の先から慌てた様子の冒険者パーティが駆けてきた。ティオナが声をかけると、彼らは【ロキ・ファミリア】の姿を見て驚愕した。ベートが事情を問いただすと、彼らは「ミノタウロスが上層に現れた」と訴える。ミノタウロスは本来中層以降に出現するモンスターであり、しかも「大剣を携えていた」との報告に一同は眉をひそめた。
神の干渉の気配
一ヶ月前の遠征で討ち漏らした個体の可能性は低く、上層での活動は不自然だった。フィンやリヴェリアは状況を分析し、「神の戯れによる意図的な干渉」ではないかと推測する。全員が不穏な空気を感じ取り、進行が一時中断された。
アイズの決断と第一級の出動
ミノタウロスが現れた階層が「9階層」だと知るや、アイズは即座に走り出した。仲間の制止も聞かず、彼女は迷わず現場へ向かった。フィンは咄嗟に決断し、本隊を予定通り進ませた上でラウルに指揮を託し、自らとリヴェリアがアイズの後を追った。
【ロキ・ファミリア】と【ヘファイストス・ファミリア】の面々が呆然と見送る中、第一級冒険者達は疾風のように9階層へ向かい、そこで起こりつつある異常の真相を確かめようとしていた。
祖父の記憶と英雄観
両親不在で育ての親であった祖父の面影を、ベルは極限下で思い起こした。祖父は英雄譚を語りつつ「やばい時は逃げろ、動けないのが一番恥ずかしい」と教えた存在であった。幼少期にゴブリンから救い出した剛腕の姿は、ベルにとって最初の「英雄」であった。
魔法の限界と無力感
ミノタウロスは表層的な火傷のみで致命傷に至らず、【ファイアボルト】の連射も効果薄であった。壁際での劣勢を悟ったベルは開けた場所へ離脱し、辛うじて回避を繰り返すが、圧倒的な剣速と圏打・蹴撃の連続で思考が狭まり、体力と余裕を削られていく。
リリの負傷と進退
初撃を身代わりで受けたリリは頭部から出血しつつも立ち上がる。ベルは「逃げて」と叫ぶが動かない。激昂の末にリリを通路へ走らせ、自身はルームから出さぬため正面に残留する決断を下した。
死地の攻防と墜落
間合い管理と側面取りを試みるも、ミノタウロスは頭突き=片角の刺突でプロテクターごと左腕を引っかけ、振り回しからの放擲でベルを高所へ弾き飛ばす。落下衝撃で装備は破損、四肢は痙攣。『耐久』補正がなければ致命の場面で、恐怖が再燃し、完全硬直へと追い込まれた。
剣姫の到来
地響きが止み、風のみが鳴る。アイズ・ヴァレンシュタインが背を向けて庇う位置に立ち、研ぎ澄まされた威圧でミノタウロスを後退させた。「大丈夫?」「頑張ったね」「今、助けるから」という言葉が、かつての初遭遇とは異なる労わりを伴って投げかけられる。
再起の瞬間
「また助けられるのは御免」という感情が恐怖を上回り、ベルは立ち上がる。震えを叱咤し、憧れの前での醜態を拒絶する意思が、逃走ではなく対峙を選ばせた。
主導の奪還と宣言
ベルはアイズの手を取り、自分の背後へ下がらせて前へ出る。「アイズ・ヴァレンシュタインに、もう助けられるわけにはいかない」と宣言し、《バゼラード》を構えてミノタウロスに真正面から勝負を挑む。ここに、恐怖に膝を屈していた少年が初めて「冒険」を自ら選び取る局面が成立した、である。
ベルとミノタウロスの死闘
少年ベルは、アイズの視線を背に受けながらミノタウロスへと駆け出した。恐怖も迷いもすでに捨て、ただ一人で立ち向かう覚悟を固めていた。対峙する牛人は唸り声を上げ、大剣を振り上げる。ベルはその初撃を紙一重で回避し、刃を閃かせて反撃した。短剣の一撃は厚い筋肉を浅く切り裂き、紫紺の光が走る。
観戦する第一級冒険者達
後方では【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者達が戦況を見守っていた。ベートは一目見てそれがかつてアイズに救われた「白髪の少年」であると気づき、皮肉めいた笑いを浮かべる。しかし、ベルの身のこなしを見た瞬間、その笑みが凍りついた。ミノタウロスの剛撃に対して一歩も退かず、短剣一本で互角に切り結ぶ姿は、到底Lv.1の冒険者のものではなかった。
リリの懇願と仲間の動揺
リリは満身創痍の体を引きずってルームに辿り着き、ベートに縋りついて「ベル様を助けてください」と泣きながら訴えた。リヴェリアが癒しの魔法でリリを抱き留め、彼女の行動こそがアイズ達をこの場へ導いたことが明らかになる。仲間のために血を流しながら助けを求めたその勇気に、周囲の冒険者達は息を呑んだ。
ベートの矜持と変化
ベートは一度舌打ちしながらも立ち上がった。「雑魚を助けるのは御免だが、自分より弱ぇ奴をいたぶる雑魚に成り下がるのはもっと御免だ」と吐き捨て、戦場へ向かう決意を見せた。しかしアイズの横に並んだ瞬間、彼の足は止まる。アイズは驚愕に目を見開き、ベルとミノタウロスの激突に見入っていた。
少年の覚醒と戦闘の激化
ベルとミノタウロスの交戦は凄まじかった。大剣と短剣が幾度も衝突し、爆風と火花がルームを包む。轟音と清音が交錯し、銀と紫紺の閃光が空間を舞った。圧倒的な力差があるにもかかわらず、ベルは恐怖を凌駕する集中力で食い下がり、一歩も退かない。観戦する第一級冒険者達は、その稚拙ながらも純粋な「闘い」に目を奪われていった。
英雄譚との重なり
ティオナはふと呟いた。「『アルゴノゥト』……」。それは迷宮に囚われた王女を救う、滑稽で、それでいて勇気に満ちた英雄の物語。愚かでも臆せず挑む者の象徴。ティオナは微笑みながらその光景を重ね見た。
観る者を黙らせた戦い
ティオナ、ティオネ、ベート、リヴェリア、フィン。誰もが口を閉ざした。
そこにあるのは等身大の冒険、命のぶつかり合い。
【ロキ・ファミリア】の精鋭達でさえ、その光景から目を離せなかった。
彼等が見たのは――
駆け出しの少年が、確かに「冒険者」へと生まれ変わる瞬間であった、である。
覚醒の瞬間
ベル・クラネルの体は軽く、意識は研ぎ澄まされていた。恐怖も痛みも存在せず、ただ目の前の敵へ突き進むという一点に全ての思考が収束していた。振るわれる大剣を掻い潜り、響く咆哮を自らの声で打ち消しながら、ベルはただ前進を続けた。
闘志の燃焼
全身が焼け付くように熱かった。恐怖に縛られていた心は、今や燃え尽きる寸前の枷となって崩れ落ちていた。情けなさも虚栄も、憧れだけに頼る弱さも存在しない。ベルはただ、己の力で勝利を掴み取ることを願っていた。
英雄への願い
その瞬間、彼は初めて真に願った。
「英雄になりたい」と。
妄想でも虚飾でもなく、心の底からの本心であった。目の前のミノタウロスを倒し、守りたい者を守れる存在になる――ベルは初めて、自らの意思で“英雄”を目指す者となったのである。
神の覚醒と魂の輝き
同刻、下界の戦場を見つめるフレイヤは、椅子を蹴り飛ばすように立ち上がった。
その銀の瞳は、鏡越しに映る光景を捉え、驚愕と歓喜の入り混じった光を宿していた。
禁忌の「神の鏡」
彼女が覗いていたのは、神々にのみ許された下界観測の術『神の鏡(アルカナム)』である。
本来は天界から地上を覗くための一方通行の能力であり、祭典など公的な催しを観覧する際のみ使用が許されていた。私的な利用は厳禁であり、発覚すれば即刻天界へ送還される。
しかし、フレイヤはその禁を破った。自らの美貌と誘惑を用いて周囲の神々を籠絡し、わずか一日の特例として「誰にも害を及ぼさない」「ダンジョンの一部のみ観測」という条件のもと、密かに一つの窓を開いた。
全ては、ベル・クラネルの一戦を目にするためであった。
美の神の歓喜
「……ああっ!」
フレイヤの前で輝く『鏡』の中、少年の魂が燃えていた。
恐怖も迷いも捨て、ただ願いのままに剣を振るう白髪の冒険者。
その姿を見た瞬間、フレイヤの瞳は驚愕から陶酔へと変わった。
「ふふ……うふふふふ……見ているか、オッタル。この美しい光景を……!」
純粋なる輝き
ベルの魂はまばゆく光り、フレイヤの視界を灼くほどの輝きを放っていた。
それはなおも穢れを知らぬ透明な色。
意図も打算もない、純粋な願望そのものの輝きであった。
少年は、真に何かを“願った”――その瞬間、ベル・クラネルの中に「可能性」という名の光が確かに芽吹いたのである。
戦闘の再開と恐怖の克服
ベルは恐怖の枷を断ち切り、正面からミノタウロスの猛攻に応じ続けた。相手の巨体と筋肉の動きを注視し、軌道読みと紙一重の迎撃で必殺の大剣をいなした。速度と技量を最大限に引き出し、恐怖を上回る意志で前進を重ねたのである。
技術対怪力の拮抗
《ヘスティア・ナイフ》は側面を叩いて軌道をずらし、《バゼラード》は懐での刺突に用いられたが、ミノタウロスの肉体と体皮は分厚く、浅傷に留まった。速攻魔法【ファイアボルト】は間合いの拒否と体勢立て直しには機能したものの、決定打としては火力不足であった。
武器破壊と機転
拮抗の末、《バゼラード》がへし折られ、続いてミノタウロスのフルスイングがルームを抉った。ベルは折れた短剣を囮として相手の顔面へ投擲し、その僅かな対応遅れに乗じて接近。右手に警戒を誘導した上で、左逆手の《ヘスティア・ナイフ》を手首へ叩き込み、大剣ごと右手を断った。
奪剣と反転攻勢
跳躍で空中の大剣柄を掴み取り、着地と同時に至近の【ファイアボルト】で押し返す。視界を覆う炎煙を裂いて大剣の連撃を叩き込み、粗削りながらも物量で押して裂傷を蓄積させ、主導権を奪い返した。
突撃の相打ち崩し
瀬戸際のミノタウロスは四つん這いの角突撃を選択。ベルは真正面から突撃し、交差の瞬間に角が銀剣を粉砕するも、超反発のブレーキから即時反転。背中合わせの密着距離で《ヘスティア・ナイフ》を右脇下へ突き立て、刃経由で【ファイアボルト】を体内へ送り込んだ。
体内爆破と決着
連続行使された炎雷は体内で膨張し、喉孔から火炎を噴出させる。とどめの【ファイアボルト】が直撃し、ミノタウロスの上半身は爆散。黒焦げの断片が降り注ぐ中、巨大な魔石が地に突き立ち、死闘は終幕を迎えた。
観戦者の所見
リヴェリア、フィン、ベートら第一級冒険者は、技術で怪力を捌き、囮・奪剣・至近魔法・体内起爆までつなげた一連の判断を目撃した。戦いは稚拙さを残しつつも、決断と機転に裏打ちされた「新人の飛躍」であったと評価されるに至ったのである。
戦闘直後の静止
ミノタウロス撃破直後、ベルは《ヘスティア・ナイフ》を振り抜いた姿勢のまま動かず、精神力を使い果たして立位で失神していた。周囲はその彫像のような姿に畏怖を覚え、ルームは一瞬の静寂に包まれたのである。
ベートの動揺と羞恥
勝利を目撃したベートは、かつて自らがミノタウロスを単独で屠れるようになるまでの時間を思い返し、腹の底から苛立ちと羞恥が沸き起こった。彼は言い知れぬ情動に突き動かされ、ベルの実力の根拠を求めてステイタスの確認を急いだのである。
リリの駆け寄りと状況確認
リリは覚束ない足取りでベルのもとへ駆け寄り、その無事を確かめようとした。剥がれた防具と破れたインナー越しに【神聖文字】が露出し、周囲の視線は自然と背面のステイタスへ集まったのである。
ステイタスの読解と驚愕
【神聖文字】の読解に長けるリヴェリアが確認したところ、ベルのアビリティは判読できる範囲で「全アビリティ・オールS」であった。ティオナらは驚愕し、ベートは言葉を失った。アイズはさらに限界突破を示す「SS」の存在を把握していたが、場には明かさなかったのである。
真名の確認と同定
首領フィンは冷静に「真名」の確認を指示した。契約書としての機能を持つステイタスには主神の象徴と真名が刻まれており、リヴェリアが読み取ろうとした矢先、アイズが先んじて「ベル・クラネル」と名を告げた。彼女の金色の双眸には、もはや路傍の石ではない一個の冒険者としての少年が明確に映っていたのである。
場の総括
第一級冒険者達は、短期間での異常な成長と実戦での決断力に立ち尽くした。勝利の余韻の中、ベルの潜在と限界突破の兆しは、以後の評価と関係性を大きく変える契機となったのである。
新記録の誕生
ミノタウロス討伐から三日後。ベル・クラネルの成長記録が正式に更新された。
成長の軌跡
冒険者登録からレベルアップまでの所要期間――わずか一ヶ月。
累計撃破数三千一体を突破し、ギルドの記録台帳に名を刻んだ。
新たな称号
その驚異的な成長速度は、前人未踏の記録としてオラリオ中に伝播した。
以後、ベル・クラネルは「世界最速兎(レコードホルダー)」の異名で呼ばれることとなった。
エピローグ「0頁→1頁」
夕暮れの記憶
血と傷に覆われた幼いベルを、たくましい老人が抱きしめていた。
泣きじゃくる孫を包み込みながら、老人は頭を撫で、静かに語りかける。
「よう耐えた。お前は負けなかった。胸を張れ」
夕焼けに染まる金色の平原の中で、その言葉は温かく、どこまでも優しかった。
幼心の誓い
懐かしい声、懐かしい笑顔。
その情景は、もう現実では届かぬ記憶の断片であった。
小さなベルは涙をこぼしながら見上げ、震える声で誓う。
「僕は、貴方のような強い人になりたい。僕だけの英雄になりたい」
老人は笑って答えた。
「そんな小さい夢を言うな。もっとでかいものを目指せ」
祖父の言葉
英雄のようになれたら――その想いに、老人は頷く。
「その時は頬が落ちるほど喜ぼう。あいつは儂の孫だと胸を張って笑おう」
夕日の光が遠のく中、ベルはその声を胸に刻みつけた。
最後の教え
闇が迫る中、老人は最後にもう一度微笑んだ。
「男なら女の尻を追え。惚れた女のためなら、英雄だろうが何だろうがなれる」
その金色の光景が消えていく。
伸ばした手の先で、あの人の声が優しく響いた。
「何せ、お前は儂の自慢の孫だからな」
ベル・クラネルの“冒険譚”は、この誓いの記憶から始まったのである。
静寂の治療室
戦いの終わった夜、バベルの治療施設の一室。
白いシーツに包まれたベルは、深い眠りに落ちていた。
彼を運び込んだのは金髪金眼の少女達と、共に戦ったサポーターの少女。
その寝顔には苦悶も疲労もなく、ただ穏やかな安らぎがあった。
女神の微笑
傍らに座るヘスティアは、頬を伝う一筋の涙を指先で拭った。
「何の夢を見ているんだい、ベル君……」
その呟きは、労いと誇りに満ちていた。
静けさの中で彼女は小さく微笑み、まぶたの奥の少年に語りかける。
「頑張ったね……おめでとう」
物語のはじまり
ヘスティアはベルの髪をそっとかき上げ、その額へ軽く口づけた。
女神の唇が触れた瞬間、温かな光が少年の背へと宿る。
そこには新しい【神聖文字】が刻まれていた。
眠る少年の物語に、新たな一頁が加えられる。
一頁めの誕生
「これで、一頁めだ」
ヘスティアは静かに呟いた。
眷族としての歩みが始まった夜。
それは、英雄譚が“0頁”から“1頁”へとめくられた瞬間であった。
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