小説【ダンまち】ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 6 感想・ネタバレ

小説【ダンまち】ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 6 感想・ネタバレ

ダンジョンに出会いを求めるのは 間違っているだろうか 6の表紙画像(レビュー記事導入用)

ダンまち 5巻レビュー
ダンまち 7巻レビュー

どんな本?

元々は小説の投稿サイトArcadiaで読んでいた小説だった。

大賞を取れたと書かれた後に消されて、書籍化されたら買おうと思い出版されたのが10年前。

もう10年経つんだ、、

その後、コミック化され遂にアニメ化された。

この作品への感情移入感はハンパない。

3巻まで紙の本、Kindle、BOOK⭐︎WALKERでそれぞれ買って保存してる。
それ以降は電子書籍のみのだがKindle、BOOK⭐︎WALKERで購入している。
もちろん、外伝の方も買っている。

読んだ本のタイトル

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 6
(Is It Wrong to Try to Pick Up Girls in a Dungeon?
著者:大森藤ノ 氏
イラスト:ヤスダスズヒト 氏
出版社:SBクリエイティブGA文庫

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あらすじ・内容

「ヘスティア、君に『戦争遊戯(ウォーゲーム)』を申し込む!」
「な、なんだとアポロン!?」

『戦争遊戯(ウォーゲーム)』──対立する神々の派閥が総力戦を行う神の代理戦争。
勝者は敗者の全てを奪う。そして敵神の狙いは──
「君の眷族、ベル・クラネルをもらう!」
戦争開始まで期限は一週間。
更に追い打ちをかけるように今度はリリが【ソーマ・ファミリア】に捕らえられてしまう!
もはや絶望的な状況。それでも少年と『出会い』、幾多の『冒険』を経た絆が今ここに集結する。
全ては勝利のために!

「上等だ、アポロン! 僕等は受けて立ってやる、この戦争遊戯(ウォーゲーム)を!」

これは、少年が歩み、女神が記す、
── 【眷族の物語(ファミリア・ミィス)】──

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか6

前巻からのあらすじ

新たなキャラクター達は。
タケミカヅチ・ファミリアの団長の桜花。
レベル2になったミコト、ポーターのような役割をしている千草。

さらに神ヘルメスがこの巻から出てくる。
もっと前から出てそうなくらい存在感のある男神。
その神に苦労する万能者と呼ばれるアスフィもこの巻から、、
あと、ベルくんの男性ファンのモルドもこの巻から、、
じゃなくて4巻から出てたか。。
でも、注目されるのはこの巻から。
この時のモルドって、悪い奴だよな、、、

そしてレベル4の元冒険者、疾風リューの実力も明らかになる。

一気に登場人物も増えて話の規模も大きくなる5巻。

感想

新キャラはダフネとカサンドラ。
そういえば、アポロン・ファミリアにいたんだな、、
ミアハ・ファミリアのイメージが強かったからすっかり忘れていた。
この巻で初めて戦争遊戯が出て来るが、、

神会でどういう遊戯にするか会議をして決めるというのは覚えてなかった。

それもフレイヤがある程度誘導してくれてたとは、、

これでフレイヤが誘導してなかったら、、
この世界、物凄く弱者にキツい世界だと戦慄する。
もし、フレイヤがベルくんに無関心だったらベルくんって、打ち捨てられた存在になってたかもしれないんだな。

集団でとはいえ階層主のゴライヤスを討伐した実績を積んだベルくん達。
冒険者として目立ち出した彼を狙う者(神)が現れた。

美しい下界の子供達は男女問わず好きで。
女性より、少年が好きな男神アポロンがベルくんを欲しがった。

そして、アポロン・ファミリアの眷属から下手な因縁を付けられてアポロン・ファミリアは戦争遊戯をヘスティアに申し込んだが、、
眷属の数が100人いるアポロンのファミリアと眷属が1人しかいないヘスティア・ファミリア。
勝負になるわけが無いと言って断ったら、アポロン・ファミリアはヘスティア・ファミリアに戦争を仕掛けて来た。

ヘスティアとベルくんの棲家を魔法で破壊。
その後も執拗に2人を追いかけて攻撃を仕掛ける。

そんな異常事態になってベルくんのパーティーのリリとヴォルフが救援に来たが、、

アポロン・ファミリアに協力する事になったソーマ・ファミリアが出て来て。

これ以上ヘスティア・ファミリアへの攻撃に参入して欲しくなければ着いて来いとリリを回収して彼女を監禁してしまう。
そのせいで形勢が不利になり。

さらにベルくんをボロボロにしてアポロン・ファミリアに入るように強要して来た。

あまりにも危機的な状況になってヘスティアは、アポロンに戦争遊戯を受けると宣言。

戦争遊戯。

どの遊戯で勝敗を決めるかは、神会での議論になったのだが、、

決まらず、くじ引きで決める事になり。

神ヘルメスがくじを引いたら攻城戦と決まる。

眷属が1人しかいないヘスティア・ファミリアで眷属が100人居るアポロン・ファミリアが守る城を攻城しないといけない。

あまりにもヘスティアに不利な状況なので、遊戯開始直前まで眷属の追加は認められ。
さらにオラリオ以外所属の冒険者の助っ人も認められている。

それでも不利なのは変わりない。
それでヘスティアは、ベルくんにとにかく強くなって来いと言い。

リリについてはヘスティアが何とかすると言ってベルくんを送り出す。

その後、リリを救出するためにパーティメンバーのヴォルフ、神友のミアハ、カケミカヅチ達に助力してもらい。

ソーマ・ファミリアに突入してリリを解放しようとしたが他勢に無勢。
それでも彼等を囮に、リリがソーマ前に赴き。
眷属に無関心だったソーマから、ソーマが作った神酒の誘惑に打ち勝ってたら話は聞いてやると言われ。
リリはソーマからの試練に打ち勝って、ヘスティア・ファミリアへの改宗を承諾してもう。
ソーマ・ファミリアも今までソーマの名を使って好き勝手やっていたザニスが失脚して。
神ソーマが仕切り出したので、眷属達が暴走するのも少なくなる。

そして、ヴォルフもへファイストにお別れを言ってヘスティア・ファミリアに加入。

そして神ヘルメスが、主神アストレアが外部に居るリューに助っ人をお願いして、後押しにシル(フレイヤ)が豊穣の女主人のミアにお願いしてリューも参戦が決まる。

さらにタケミカヅチは眷属をヘスティア・ファミリアに派遣すべく悩んでいたらミコトが志願したので1年間の約束でミコトをヘスティア・ファミリアに改宗する。

それでベル、リリ、ヴォルフ、ミコト、リューの5人が、アポロン・ファミリア100人が守る城を攻めるのだが、、

結果は大半の予想を覆してヘスティア・ファミリアが勝利する。

結果、アポロン・ファミリアは解散。
アポロンの資産は全てヘスティア・ファミリアの元に没収。
神アポロンはオラリオから永久追放となってしまう。

そして、その資産でリリの移籍金を支払い。
アポロンが住んでいた屋敷をヘスティア達は手に入れて住む事になる。

2人だけだったファミリアは5人となり、ベルくんへの執拗な勧誘はコレで鳴りを潜める事となる。

ダンまち 5巻レビュー
ダンまち 7巻レビュー

最後までお読み頂きありがとうございます。

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ダンまち 5巻レビュー
ダンまち 7巻レビュー

キャラクター紹介

ベル・クラネル

ヘスティア・ファミリアに所属する少年冒険者である。主神であるヘスティアを深く敬っている。仲間を守るために強くなることを決意した。

・所属組織、地位や役職
 ヘスティア・ファミリア。冒険者。

・物語内での具体的な行動や成果
 アポロン・ファミリアによる執拗な追跡を逃れた。アイズ・ヴァレンシュタインのもとで一週間の猛特訓を遂げた。戦争遊戯では敵大将のヒュアキントスを撃破した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 戦争遊戯の勝利によって都市中の注目を集めた。アポロン・ファミリアの本拠地を新たな拠点として獲得した。

ヘスティア

ヘスティア・ファミリアを司る主神である。唯一の眷族であるベルを大切に思っている。アポロンからの理不尽な要求に対して毅然とした態度を貫いた。

・所属組織、地位や役職
 ヘスティア・ファミリア。主神。

・物語内での具体的な行動や成果
 アポロンによる戦争遊戯の申し込みを正式に受諾した。ソーマ・ファミリアからリリルカを救い出すために直接乗り込んだ。勝利条件としてアポロンの全財産没収と永久追放を突きつけた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 戦争遊戯に勝利したことで勢力を拡大した。新たに三人の眷族を派閥に迎えた。

リリルカ・アーデ

小人族のサポーターである。かつてはソーマ・ファミリアに所属していた。ベルに救われたことで彼を信頼し、共に歩む道を選んだ。

・所属組織、地位や役職
 ヘスティア・ファミリア。サポーター。

・物語内での具体的な行動や成果
 主神ソーマが差し出した神酒の誘惑を精神力で跳ね除けた。変身魔法を用いて敵の古城へ事前に潜入した。戦争遊戯の最中に城門を内部から開放し味方を招き入れた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ソーマ・ファミリアを脱退した。正式にヘスティア・ファミリアへと改宗した。

ヴェルフ・クロッゾ

若き鍛冶師の冒険者である。自らのこだわりよりも仲間との絆を優先する性格を持っている。ヘファイストス・ファミリアから移籍してベルの力となった。

・所属組織、地位や役職
 ヘスティア・ファミリア。冒険者兼鍛冶師。

・物語内での具体的な行動や成果
 LV.2へと昇格した。リリルカを救出するためにソーマ・ファミリアの団員と交戦した。戦争遊戯のために自らの信念を曲げて強力な魔剣を作製した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ヘファイストス・ファミリアを離れた。正式にヘスティア・ファミリアの一員となった。

ヤマト・命

タケミカヅチ・ファミリアに所属していた少女冒険者である。義理人情に厚い性格をしている。以前ベルたちを見捨てたことに強い罪悪感を抱いていた。

・所属組織、地位や役職
 ヘスティア・ファミリア。冒険者。

・物語内での具体的な行動や成果
 アポロン・ファミリアの襲撃からベルたちを守るために加勢した。戦争遊戯では城内に侵入した。重圧魔法フツノミタマを発動して多数の敵を拘束した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 一年間の期間限定でヘスティア・ファミリアへと改宗した。

リュー・リオン

酒場「豊穣の女主人」の店員である。かつては高名な冒険者であった。正義感が強く、恩義のあるベルたちを陰から支えた。

・所属組織、地位や役職
 酒場「豊穣の女主人」。店員。元冒険者。

・物語内での具体的な行動や成果
 市街地で窮地に陥ったベルを狙撃で援護した。ヘルメスの依頼を受け、助っ人として戦争遊戯に参戦した。魔剣を用いて城壁を破壊し敵軍を攪乱した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 戦争遊戯での活躍は都市中に知れ渡った。正体を隠すために覆面で行動した。

アイズ・ヴァレンシュタイン

ロキ・ファミリアに所属する第一級冒険者である。「剣姫」の二つ名を持つ最強の女剣士の一人である。ベルに対して個人的に修行をつけるなど特別な関心を持っている。

・所属組織、地位や役職
 ロキ・ファミリア。幹部。

・物語内での具体的な行動や成果
 アポロン派の襲撃を逃れたベルに再度の修行を施した。市壁の上で一週間にわたり実戦形式の訓練を続けた。対人戦における駆け引きや勝利への執念をベルに叩き込んだ。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ベルの技術向上に最も大きく貢献した。戦争遊戯ではベルの勝利を静かに見届けた。

ヘルメス

ヘルメス・ファミリアを率いる主神である。常に飄々とした態度で周囲を煙に巻いている。ベルを次代の英雄の器として密かに見守っている。

・所属組織、地位や役職
 ヘルメス・ファミリア。主神。

・物語内での具体的な行動や成果
 神会において「助っ人制度」を提案しベルたちの勝機を広げた。リリルカが監禁されている場所をアスフィに調査させヘスティアへ伝えた。戦争遊戯では実況や「神の鏡」の設置を主導した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 中立を装いつつも裏でベルたちを有利に導くための盤面を整えた。

ソーマ

ソーマ・ファミリアの主神である。極上の酒を造ることにのみ執着している。眷族たちの腐敗や争いに対して無関心な態度を続けていた。

・所属組織、地位や役職
 ソーマ・ファミリア。主神。

・物語内での具体的な行動や成果
 リリルカの退団条件として神酒を飲む試練を与えた。神酒に抗ったリリルカの姿を見て認識を改めた。自らの権限で眷族たちに戦闘停止を命じた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 事件後に酒瓶をすべて片付けた。自らの派閥の状況を改善し始める兆しを見せた。

アポロン

アポロン・ファミリアを率いる主神である。気に入った少年少女へ執拗に固執する性質を持つ。ベルを手に入れるために戦争遊戯を仕組んだ。

・所属組織、地位や役職
 アポロン・ファミリア。主神。

・物語内での具体的な行動や成果
 酒場での騒動を口実にヘスティア・ファミリアを糾弾した。圧倒的に有利な条件で戦争遊戯を開催させた。敗北後にはヘスティアに対して慈悲を乞うた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 全財産を没収された。派閥を解散させられた。オラリオから永久追放となった。

ヒュアキントス

アポロン・ファミリアの団長である。主神アポロンを心から心酔している。自分以外の者が主神の関心を惹くことに激しい嫉妬を覚えた。

・所属組織、地位や役職
 アポロン・ファミリア。団長。LV.3冒険者。

・物語内での具体的な行動や成果
 酒場や市街戦でベルを圧倒した。戦争遊戯では古城の玉座の間でベルを迎え撃った。ベルの予想外の一撃を受けて敗北した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ベルとの一騎打ちに敗れた。追放されたアポロンを追って都市を去った。

エイナ・チュール

ギルド本部に勤務する職員である。ベルの担当官として常に彼の身を案じている。冒険者としての知識や心構えをベルに教え続けている。

・所属組織、地位や役職
 ギルド。受付・担当官。

・物語内での具体的な行動や成果
 ダンジョンの階層知識を改めてベルに予習させた。他派閥との紛争がもたらす危険性について警告を与えた。戦争遊戯の最中もベルの勝利と無事を祈り続けた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ベルにとって精神的な安らぎを与える存在となっている。

ダンまち 5巻レビュー
ダンまち 7巻レビュー

展開まとめ

プロローグ 月夜の禍根

リリによる退団の嘆願

深夜の静まり返った街の片隅で、リリは【ソーマ・ファミリア】の本拠に忍び込み、主神ソーマとの面会に臨んだ。リリは古びたローブに身を包み、跪いたまま震える声で派閥からの退団を願い出た。派閥の呪縛から解放され、胸を張ってベル達の隣に並ぶためには、背に刻まれた神の恩恵を改宗する必要があり、そのためには主神であるソーマの協力が不可欠であった。かつて神酒の魔力に惑わされていた記憶もあり、リリはソーマに対して強い恐怖を抱きながらも必死に許しを請うた。

無関心な主神ソーマ

しかしソーマは、部屋の隅で膝を抱えて座り込んだまま、運営自粛や罰則といった言葉を呟き続けており、リリの嘆願にまったく反応を示さなかった。彼は痩せた体に薄汚れた服をまとい、ぼさぼさの髪のまま壁に向かって背を向け続けていた。主神としての威厳や関心は感じられず、リリの訴えも耳に届いていない様子であった。

団長ザニスの介入

その場に居合わせた団長ザニス・ルストラが、代わりにリリの話を聞くと名乗り出た。ザニスは【ソーマ・ファミリア】の団長であり、神酒の影響に振り回されない強い精神を持つ上級冒険者である。しかし実際には主神の名を利用し、団員を私利私欲のために操ることも多かった人物であった。彼は、死亡したと報告されていたリリが生きていることを嘲るように指摘し、最近消息を絶ったカヌゥ達の件についても問いただしたが、リリは関与を否定した。

退団の代償としての巨額請求

ザニスは退団の条件として、一〇〇〇万ヴァリスという莫大な金額を要求した。リリはその額を聞き愕然としたが、ザニスが主神に確認すると、ソーマは振り向きもせず任せるとだけ答えた。主神からの助けも期待できないと悟ったリリは、抗議する力も失い、ふらつく足取りで部屋を後にした。ザニスはその背を見送りながら嘲笑を浮かべていた。

アポロン派閥との交渉

リリが去った後、ドワーフのチャンドラが現れ、アポロン・ファミリアの者達が来訪したことをザニスに告げた。ザニスは彼らを裏手の小部屋に案内するよう頼んだが、チャンドラは無愛想に拒否して去っていった。ザニスは主神に交渉へ向かう許可を求めたが、ソーマはやはり無関心に任せるとだけ答えた。ザニスはその反応を嘲るように笑いながら部屋を出ていった。

孤独な神の酒

静まり返った部屋に取り残されたソーマは、独り言を止めると棚から酒瓶を取り出した。月光に照らされた植物の傍らで杯に酒を満たし、それを一気に飲み干した。

一章 憤激の兎

地上への帰還と再会

ダンジョンの階層主ゴライアスを撃破してから三日後、ベル・クラネルは西のメインストリートでシルと再会していた。18階層からの帰還後、地上では多くの人々がベル達の安否を心配しており、シルもまたリューを送り出す形で救援に協力していた人物であった。ミアハ・ファミリアの治療により怪我や疲労は回復しており、ベルは知人達へ無事を報告して回っていた。明るい地上の日常へ戻ったことを実感しながら、ベルはシルへ改めて感謝の言葉を伝えていた。

酒場の前での会話

酒場『豊穣の女主人』からリュー・リオンが現れ、ベルへ挨拶を交わした。ダンジョンでは覆面の冒険者として共闘していた彼女も、今は酒場の制服を着た店員として働いている姿であった。帰還時にベルが疲弊していたことを心配していたリューは、その体調が回復していることを確認し、ベルも改めて無茶をしたことを詫びた。ダンジョンでの共闘を経たことで、ベルは以前よりリューとの距離が近くなったように感じていた。

覗き事件の叱責

その様子を見ていたシルは、ベルとリューの関係が近くなったことを指摘し、以前起きた覗きの件について改めて注意を与えた。ベルは水浴びの際にリューの裸を見てしまった出来事を思い出し、強く叱られた過去に恐縮するしかなかった。リューはそれを事故だと庇ったが、もし邪念があればその場で斬り伏せていたと淡々と告げたため、ベルは二度と同じ過ちを犯さないと心に誓った。

階層主討伐の話題

やがてシルは、18階層に突如現れた階層主ゴライアスをベルが倒したという話を持ち出した。ベルは咄嗟に否定しようとしたが、リューの視線を受けて言葉を飲み込み、ぎこちなく肯定した。シルはその功績を称えて喜んだが、ベル自身は胸を張ることができなかった。仲間達の助けがあったからこそ勝利できた戦いであり、自分一人の力ではないと理解していたためであった。

祝賀の提案と辞退

シルは無事の帰還を祝うため、酒場で再び祝賀の席を開くことを提案した。しかしベルはそれを遠慮した。リューが無断で救援に向かったことに激怒していた女将ミアの存在を思い出し、迷惑をかけた身で祝い事をすることに気後れしていたためである。シルとリューは土産話を持ち込めば機嫌も良くなると勧めたが、ベルはその誘いを辞退した。

仲間との約束

ベルには既に別の予定があった。リューの指摘通り、その約束は仲間達とのものであり、ベルはそれを楽しみにしていた。仲間との先約があることを伝えながら、ベルはその夜の予定に思いを馳せていた。

ヴェルフの昇格を祝う席

夜の繁華街の路地裏にある酒場『焰蜂亭』で、ベル・クラネル、リリルカ・アーデ、ヴェルフ・クロッゾは乾杯し、ヴェルフの【ランクアップ】を祝った。中層での戦いと18階層での連戦を経て、ヴェルフはLV.2となり、『鍛冶』の発展アビリティも獲得していた。さらに【ヘファイストス・ファミリア】の名を武具に刻む資格も得ており、鍛冶師として大きな前進を遂げていた。ベルとリリルカはその朗報を心から喜び、ヴェルフも普段とは違うはにかんだ様子を見せていた。

パーティ継続の約束

ベルは、ヴェルフが自分達のパーティに加わっていたのは上級鍛冶師になるまでの約束だったことを思い出し、これでパーティ解消になるのではないかと寂しさを覚えた。しかしヴェルフは、ベル達は恩人であり、用が済んだからといって別れるつもりはないと告げた。呼ばれればこれからも共にダンジョンに潜ると約束し、三人は改めて仲間としての繋がりを確かめ合った。

階層主事件への疑念

祝宴の最中、話題は18階層で遭遇した異常な階層主ゴライアスへと移った。安全階層であるはずの18階層に、本来あり得ない形で出現したうえ、通常の階層主を超える力を持っていたため、三人はそれを前代未聞の異常事態だと受け止めていた。ヘスティアが神を抹殺するために用意された存在だと語っていたことから、神々とダンジョンの間に何らかの因縁があるのではないかという疑念も共有された。しかしヘスティアは直接の原因について語らず、ベルはその未知を解き明かすのは冒険者の役割なのかもしれないと感じていた。

事件後の都市と罰則

三人は事件後の状況についても情報を交わした。ギルドは直ちに箝口令を敷き、都市や冒険者の間に目立った混乱は起きていなかった。18階層のリヴィラの街も既に機能を取り戻し、ダンジョンにも新たな異常は見られなかった。一方で、事件の原因を神災と断定したギルドは、【ヘスティア・ファミリア】と【ヘルメス・ファミリア】に厳しい罰則を課していた。【ヘスティア・ファミリア】は資産の半分を罰金として支払うことになり、規模の大きい【ヘルメス・ファミリア】はさらに深刻な打撃を受けていた。

リリルカの不穏な様子

会話が続く中で、ベルはリリルカの様子がどこか上の空であることに気づいた。リリルカは明るく振る舞いながら話題を逸らしたが、ヴェルフもその不自然さに気づいていた。二人は今は無理に踏み込んでも仕方がないと判断し、そのまま宴席を続けた。

冒険者達による挑発

そこへ隣席の冒険者達が、ベルに聞こえるように嘲笑と侮蔑の言葉を投げかけ始めた。小人族の冒険者は、ベルが有名になったことを皮肉り、ミノタウロスから逃げたことや、ヴェルフとリリルカを寄せ集めの凸凹パーティだと嘲った。ベルは派閥同士の揉め事を避けるため耐えようとしたが、仲間を侮辱されたことで怒りを抑えきれなくなっていった。

ヘスティアへの侮辱とベルの激怒

やがてその冒険者は、【ヘスティア・ファミリア】の主神であるヘスティアをも侮辱した。ベルはその言葉に激昂し、椅子を跳ね飛ばして立ち上がり、侮辱を取り消せと叫んだ。自分の主神を貶められたことが、ベルにとって最も許しがたい屈辱だったからである。怒りに駆られたベルは相手に掴みかかろうとしたが、その直前にヴェルフが横から前蹴りを放ち、小人族の冒険者を一撃で気絶させた。

酒場での乱闘

ヴェルフの一撃を合図に、相手の冒険者達は一斉に立ち上がって襲いかかり、酒場はたちまち乱闘の場となった。ヴェルフはLV.2となった実力を見せ、四人の冒険者を相手に立ち回り、ベルもそれに合わせて応戦した。周囲の客達は騒ぎを煽るように歓声を上げ、狭い酒場は熱狂に包まれた。しかし六人組の最後の一人が動いたことで状況は一変した。

ヒュアキントスの介入

最後まで手を出さずにいた細身の美青年は、圧倒的な速さでヴェルフを投げ飛ばし、続けてベルの突撃も容易くいなしたうえで、腹と顔面に強烈な一撃を叩き込んだ。ベルはテーブルを破壊しながら吹き飛ばされ、その相手が【太陽の光寵児】ヒュアキントスであり、LV.3の上級冒険者であることを知った。ヒュアキントスは【リトル・ルーキー】と呼ばれるベルを見下し、仲間を傷付けた報いを与えると冷笑を浮かべながら迫った。

ベートの出現と場の収束

その時、酒場の一角でテーブルを蹴り倒した狼人の青年が声を上げた。彼は【ロキ・ファミリア】のベートであり、騒ぎに苛立ちながら、雑魚が騒ぐなと一喝した。都市最大派閥の幹部である彼の威圧感に、酒場の空気は一変した。ヒュアキントスはベートと短く言葉を交わした末、興が削がれたとして仲間を連れて退店した。こうして乱闘は収束した。

ベートの叱責

ヒュアキントス達が去った後、ベートは真っ直ぐベルのもとへ歩み寄った。ベルは以前、酒場で罵倒された記憶を思い出して凍りついたが、ベートは胸ぐらを掴んで強引に引き上げると、調子に乗るなと低く言い放った。そしてすぐに手を放し、不機嫌なまま酒場を去っていった。リリルカはベルを心配し、ヴェルフはベートの行動に呆れていたが、殴られた傷の痛みと壊れた店内の光景の中で、ベル達には何とも言えない空気だけが残されていた。

乱闘後の治療と報告

『焰蜂亭』での乱闘からしばらくして、ベル・クラネル、ヴェルフ・クロッゾ、リリルカ・アーデは【ヘスティア・ファミリア】の本拠である教会の隠し部屋に集まり、怪我の手当てを受けながら酒場での一件をヘスティアへ報告していた。ベル達は酒場の主人に謝罪し、壊した物の弁償代は【ファミリア】へ請求するよう伝えていた。ヘスティアは事情を聞いて納得しつつも、乱闘で傷を負って帰ってきた三人を見て複雑な思いを抱いていた。リリルカは特に怒っており、軽率な行動で心配をかけたことを厳しく責めていた。

ベルの反発と神への怒り

ヘスティアは、ベルが喧嘩をしたことに驚きながらも、怪我をした以上やはり良くないことだと諭した。しかしベルは、その言葉に耐えきれず立ち上がり、自分が怒ったのは相手がヘスティアを侮辱したからだと訴えた。自分への侮辱なら耐えられても、大切な神を貶められることだけは我慢できなかったのである。ベルは悔しさを押し殺しながら、ヘスティアの目をまっすぐ見つめ、自分の怒りの理由をはっきり示した。

ヘスティアの慰めと教え

そんなベルに対し、ヘスティアは怒ってくれたこと自体は嬉しいと伝えたうえで、それによってベルが危険な目に遭うことの方がずっと悲しいと優しく語りかけた。もし逆の立場でヘスティアが喧嘩をして傷だらけで帰ってきたらどう思うかと問い、ベルにその痛みを考えさせた。そして、神にとって一番嬉しいのは眷族が無事であることだと告げ、次からは怒り返すのではなく笑い飛ばしてほしいと諭した。ベルはその言葉で気持ちを落ち着かせ、次は我慢すると謝罪した。

穏やかな時間の回復

ベルが謝ると、ヘスティアは温かな表情で受け止め、自分の隣に座らせて優しく髪を撫でた。ベルは恥ずかしさを覚えながらも、その手を拒まず受け入れた。二人のやり取りを、リリルカとヴェルフもどこか微笑ましく見守っていた。乱闘の余韻が残る地下室には、少しずつ穏やかな空気が戻っていった。

今後への懸念と相手派閥の手掛かり

落ち着きを取り戻した後、リリルカは相手側が逆恨みをして、今後ベル達にちょっかいを出してこないかと懸念を口にした。ヴェルフは最初に手を出したのは自分であり、ベルにまで問題が及ぶことはないだろうと述べたが、リリルカは面子を重んじる派閥なら厄介なことになりかねないと指摘した。ヘスティアもその可能性を認め、後々の面倒を避けるため主神同士で話をつける必要があると考えた。そして相手の【ファミリア】がどこかを尋ねると、ベルは酒場で見た太陽のエンブレムを思い出し、それを手掛かりとして答えた。

アポロン派閥の裏工作

乱闘の後、繁華街から離れた暗い路地裏で、ヒュアキントス率いる六人の冒険者達が集まっていた。彼らの肩には太陽のエンブレムが輝いており、【アポロン・ファミリア】の構成員であることが示されていた。小人族のルアンは酒場での役回りに不満を漏らしていたが、ヒュアキントスはそれを労い、目的はすでに達成されたと満足げに語った。

計画通りの挑発

ルアンが受けた暴行の跡を気にする中、ヒュアキントスは仲間達に向かって笑みを浮かべた。酒場での騒動は偶然ではなく、あらかじめ仕組まれた挑発だったのである。途中で別の派閥が介入したものの、計画の狙いはすでに果たされたとヒュアキントスは判断していた。

主神アポロンの意向

ヒュアキントスは夜空を見上げながら、今回の結果なら主神アポロンも満足するだろうと語った。月明かりの下で揺れる耳飾りと太陽の紋章が、静かな裏路地で淡く輝いていた。酒場の乱闘は単なる偶発的な争いではなく、アポロンの意志のもとで動く派閥の策略の一端であったことが示唆されていた。

二章 Shall We Dance?

エイナとの面談

酒場『焰蜂亭』での騒動の翌日、ベル・クラネルはギルド本部を訪れ、担当官エイナ・チュールと面談していた。エイナはダンジョンから戻らなかったベルを非常に心配していたが、無事を確認して安堵し、笑顔で迎えた。ベルは借りていた火精霊の護布への礼を述べ、互いに少し照れた空気が流れた。

ダンジョン対策の強化

エイナは今回の異常事態を踏まえ、今後はより多くのダンジョン知識を学ばせる方針を示した。これまで安全階層について詳しく教えていなかったことを自分の落ち度だと認め、どんな状況にも対応できるよう予習の量と範囲を増やすと宣言した。ベルはその厳しい勉強を思い浮かべて内心苦しさを感じながらも、エイナの好意を断ることはできず了承した。

今後の探索計画

その後、ベルは今後の予定をエイナに説明した。数日はダンジョン探索を休み、ヴェルフ・クロッゾに新しい武器と防具を作ってもらう予定であることを伝えた。中層遠征で装備が損耗したため、上級鍛冶師となったヴェルフが新たに武具を用意することになっていた。装備が整い次第、探索は13階層から再開し、確実に踏破を進める計画を立てた。

冒険者依頼の受託

エイナはベル達の成長を認め、ギルドに集まっている冒険者依頼の中から適切なものを紹介した。ベルはその中から、特定モンスターのドロップアイテム収集と、13階層に存在する特殊鉱石の採掘という二つの依頼を受けることにした。こうして今後の探索方針が整い、面談は有意義に終わった。

酒場騒動への注意

面談を終えてロビーに出た後、エイナはベルに昨夜の喧嘩について注意を与えた。他派閥との揉め事は決して軽い問題ではなく、場合によっては派閥同士の抗争に発展し、都市全体が戦場になる可能性すらあると説明した。ベルはその危険性を改めて認識し、慎重に行動する必要を強く感じた。

アポロン派閥からの来訪

その時、ロビーの隅から二人の女性冒険者が近づいてきた。短髪で気の強そうなダフネ・ラウロスと、控えめな雰囲気のカサンドラ・イリオンであり、どちらも【アポロン・ファミリア】に所属するLV.2の第三級冒険者であった。二人はベルを探していたらしく、カサンドラが一通の封書を差し出した。

宴の招待状

渡された封書は、弓矢と太陽の紋章が刻まれた招待状であり、主神アポロンが開催する宴への招待であった。ダフネは必ずベルの主神に伝えるよう念を押し、用件だけを告げるとカサンドラと共に立ち去ろうとした。その際、ダフネはベルに向かって意味深に「ご愁傷様」とだけ呟き、そのまま去っていった。ベルはエイナと共にその言葉の意味を理解できないまま、手元の招待状を見つめていた。

アポロンの宴への招待

ベル・クラネルは昼間に受け取った招待状について、夜になってヘスティアに報告した。招待状は【アポロン・ファミリア】が二日後に開催する『神の宴』へのものであった。酒場での騒動があった直後でもあり無視することは難しく、ヘスティアは参加するべきだと判断する。また今回の宴は通常と異なり、神々だけでなく眷族一人を伴う形式で行われると知り、ベル達は出席を決めた。

宴の会場へ到着

宴の当日、ベルは燕尾服を着てヘスティアをエスコートし、会場へと向かった。豪華な馬車や正装した神々と眷族が集まる華やかな雰囲気に、ベルは強い緊張を覚える。会場にはミアハとナァーザも同行しており、ヘスティアの誘いによって共に参加することになっていた。豪華な宮殿のような施設へ入った一行は、きらびやかな大広間で多くの神々と眷族が集う光景に圧倒される。

神々との再会

会場ではヘファイストスとタケミカヅチ、さらにヘルメス達とも合流した。ベルは命に改めて18階層での助力を感謝し、命もまたベルの活躍を称えた。互いに困った時には助け合うことを約束し合い、ベルは仲間達との繋がりを深めていった。

宴の主催者アポロン

やがて宴の主催者であるアポロンが登場し、神々と眷族に向けて歓迎の言葉を述べた。アポロンは神と子が共に参加する今回の宴を特別な催しとして紹介し、夜を楽しむよう呼びかけた。その挨拶の最中、ベルは一瞬アポロンの視線が自分に向けられたような違和感を覚えるが、深く気に留めることはなかった。

フレイヤの登場

その後、広間にどよめきが広がり、【フレイヤ・ファミリア】の主神フレイヤが現れた。銀髪と圧倒的な美貌を持つ女神の姿に、多くの神々や眷族が魅了されて動きを止める。ヘスティアはベルが魅了されることを警戒して必死に視線を遮るが、フレイヤはベルに近づき頬を撫でながら意味深な言葉を残した。ヘスティアは激しく反発し、フレイヤは楽しげに笑いながらその場を去っていった。

ロキとアイズの来場

フレイヤが去った直後、今度はロキとアイズ・ヴァレンシュタインが会場に姿を現した。ドレス姿のアイズを見たベルは思わず見惚れてしまうが、ヘスティアに強く叱られる。ロキはベルを値踏みするように見て、アイズとの実力差をからかう発言をしたため、ヘスティアと激しい言い争いが始まった。

すれ違うベルとアイズ

神々の口論は周囲の注目を集めながらも仲裁によって収まり、ロキとヘスティアは互いに反対方向へ去っていった。ベルとアイズもそれぞれ主神に引かれる形で離れていく。視線を交わしながらも言葉を交わすことはできず、ベルは二人の距離の大きさを改めて痛感する。やがてベルはその想いを胸に抱えたまま、ヘスティアと共に宴の中へと歩み去っていった。

宴の中での違和感と休息

宴が始まってしばらくの間、ベル・クラネルはヘスティアに連れられて知り合いの神々へ挨拶をして回っていた。慣れない社交の場で緊張し続けた末、二時間ほど経った頃にようやく一人で休む時間を得た。壁際に移動して会場を見渡したベルは、豪華な料理や葡萄酒、広間の中央で始まった舞踏を眺めながら、この場が自分にはまだ不相応であるように感じていた。そこで気分を落ち着けるため、ベルはバルコニーへ出て夜風に当たった。

庭での密談の目撃

バルコニーから庭を見下ろしたベルは、木陰でヒュアキントスと見知らぬ男が話している姿を見つけた。ベルは聴覚を研ぎ澄まし、唇の動きも読みながら会話の一部を拾おうとした。その中で、相手の男がザニスと呼ばれていること、何かを仕掛ける時機や報酬について話しているらしいことを察した。だがヒュアキントスに気配を察知されて視線がぶつかった直後、背後からヘルメスに声をかけられ、ベルが庭へ視線を戻した時には二人の姿は消えていた。

ヘルメスとの語らい

ヘルメスはベルに水の入ったグラスを渡し、バルコニーで二人きりの会話を始めた。彼は18階層での戦いを見てベルを応援したくなったと語り、やがて冒険者になった理由を尋ねた。ベルは、育ての親である祖父から、オラリオには何でもあり、覚悟があれば英雄にもなれると言われたことを語った。女神のファミリアに入ることや女の子との出会いまで口にしていた祖父の言葉に、ヘルメスは大笑いしたが、ベルにとってそれは、家族や憧れを求めてオラリオへ来た理由そのものであった。

ゼウス・ファミリアと三大冒険者依頼

会話の流れの中で、ヘルメスはベルにゼウスという神の名を知っているかと尋ねた。ベルは知らなかったが、ヘルメスはかつてオラリオの頂点に立っていたのがゼウスとヘラの二大派閥であったと明かした。十五年前、その両派閥は三大冒険者依頼の一つである黒竜討伐に挑み、陸の王者と海の覇王を倒した後、最後の一体である黒竜に敗北して全滅したのである。その結果、主戦力を失った二大派閥は勢力を失い、ロキとフレイヤの派閥によって都市から追い出された。ヘルメスは、ダンジョンから地上へ進出した古の三体の怪物の討伐こそが、オラリオに課された重大な責務であると説明した。

英雄譚と現実の重なり

黒竜の名を聞いたベルは、それが『迷宮神聖譚』の最終章を飾る隻眼の竜であることに気づき、大きな衝撃を受けた。子供の頃に読んだ英雄譚の中だけの存在と思っていた怪物が、現実にこの世界で生きていると知ったのである。ベルはさらに、敗北したゼウス達がその後どうなったのかを尋ねたが、ヘルメスは送還されたとも、隠居したとも、新たな英雄の器を探しているとも言われており、真相は誰にもわからないと答えた。ベルはその話を聞きながら、勢力争いに敗れた神と眷族が都市を追われる現実を、自分達にも無関係ではないこととして受け止めていた。

ヘルメスの悪乗り

重い話を終えた後、ヘルメスは一転して、ベルに踊らないのかと尋ねた。彼は会場の女性達の中から気になる相手を選べと促し、ベルをからかうように広間を見回させた。ベルは必死に意識しないよう努めたものの、結局アイズ・ヴァレンシュタインの姿を見つけてしまう。ヘルメスはベルの視線からその想いを見抜き、彼の恋を応援すると勝手に盛り上がり始めた。そしてベルの制止も聞かず、アイズのもとへ向かっていった。

アイズへの代役の押し付け

ヘルメスはロキとヘスティアがまたも口論している隙を突き、アイズの前へ出て自分と踊ってほしいと申し出た。戸惑うアイズが断ろうとした瞬間、ヘルメスは急用を思い出したと芝居がかった態度で申し出を撤回し、その代役をベルに押し付けた。ベルは状況に呆然としたが、ヘルメスが作った大義名分と、目の前で困っているアイズを前にして逃げることもできなかった。

手本を示したミアハとナァーザ

どう誘えばよいかわからず立ち尽くすベルの横で、ミアハとナァーザが進み出た。ミアハは恭しくナァーザに手を差し出し、一曲踊ってほしいと申し込んだ。ナァーザもそれを受け入れ、二人はそのままダンスホールへ向かっていった。そのやり取りを見たベルは勇気を得て、アイズの前へ歩み寄った。

ベルとアイズのダンスの始まり

ベルは顔を真っ赤にしながらアイズに踊ってほしいと頼み、アイズもまた頬を染めてそれを受け入れた。二人は手を取り合い、ダンスホールへ向かった。だが踊り始めた直後は、互いの動きがまったく噛み合わず、姿勢も方向も合わないままぎこちなくぶつかり合った。そこで近くを踊っていたタケミカヅチと命が助言を送り、相手の目を見て動きを読むこと、足元ではなく相手の意思を捉えることを教えた。

息の合い始めた円舞曲

タケミカヅチの助言を受けたベルは、市壁の上での鍛錬を思い出し、アイズの視線と動きを読むよう意識した。アイズもそれに応えるようにベルを見つめ返し、二人は少しずつ動きを合わせていった。やがてステップが噛み合い始め、言葉少なに意思を交わしながら踊れるようになっていく。その最中、ヘスティアとロキが二人を見て激昂したものの、ヘルメスとアスフィが二柱を取り押さえたことで、ダンスは中断されずに済んだ。

アイズの言葉と夢のような時間

踊りながらアイズは、ダンスをするのはこれが初めてであり、子供の頃は少し憧れていたと打ち明けた。そしてベルと踊れて嬉しい、ありがとうと笑みを浮かべた。凛々しい剣姫としてではなく、一人の少女として見せたそのあどけない笑顔に、ベルは強く心を奪われた。こうして二人は弦楽の調べに合わせて踊り続け、ベルにとってそのひとときは夢のような時間となっていた。

ダンスの終わりと神々の乱入

ダンスを終えたベル・クラネルとアイズ・ヴァレンシュタインは、ヘルメス達のもとへ戻った。ベルは踊っていた時の感触がまだ残っているようで落ち着かず、アイズもまた緊張が解けたように息をついた。ミアハやナァーザ、タケミカヅチや命に礼を述べるベルであったが、その直後、ヘルメスは自分はこの後死ぬと冗談めかして言い残した。するとヘスティアとロキが怒気を纏って現れ、ヘルメスは二柱に連れ去られて制裁を受けた。

アポロンの登場

ヘスティアとロキがそれぞれベルとアイズを踊りに引っ張ろうとしたところで、主催者であるアポロンが従者達を伴って現れた。舞踏の音楽は止み、周囲の招待客も自然と集まって円を作る。アポロンは宴が盛り上がっていることを喜ぶ言葉を述べた後、酒場での一件についてヘスティアへ切り出した。

酒場騒動を利用した糾弾

アポロンは、自分の眷族がベル達に重傷を負わされたとして、その代償を要求した。ヘスティアは、ベルも怪我をしており一方的に責められる筋合いはないと反論したが、アポロンは大げさな態度でルアンの被害を訴えた。さらに全身を包帯で巻かれたルアンを登場させ、証人として複数の神々や団員まで呼び出して、自分達の主張を補強した。ヘファイストスがヴェルフ・クロッゾこそ最初に手を出したと庇っても、アポロンはベルがけしかけたのだと決めつけ、言い分を退けた。

戦争遊戯の申し込み

話し合いでは埒が明かないと見たアポロンは、ヘスティアへ『戦争遊戯』を申し込んだ。派閥同士が眷族を駒として戦う総力戦であり、敗者は勝者に全てを奪われる可能性がある重大な決闘であった。ベルは、たった一人の眷族しかいない【ヘスティア・ファミリア】が中堅以上の力を持つ【アポロン・ファミリア】と戦うことの絶望的な差を即座に理解し、言葉を失った。だが周囲の神々は事態を娯楽のように面白がり、騒ぎを歓迎していた。

ベルを巡る要求

さらにアポロンは、もし自分達が勝利した場合の条件として、ベル・クラネルをもらい受けると宣言した。ヘスティアはそれを聞いて、酒場の一件から今回の騒ぎまで全てがベルを奪うための計略だったのだと悟った。アポロンはヘスティアに対して、こんな可愛い子を独り占めしてはいけないと欲望を剥き出しにした笑みを向けた。ベルはその視線に強烈な悪寒を覚え、アポロンの求愛が単なる冗談ではなく、自分を取り込もうとする執着であることを理解した。

ヘスティアとアポロンの因縁

ヘスティアはアポロンを変態だと罵った。アポロンは天界で求婚し愛を囁き合った仲だと嘘めいた言葉を口にしたが、ヘスティアはそれを全力で否定した。彼女がアポロンを苦手としていた理由は、かつてしつこく求婚され続けた過去にあったのである。ベルはそこでようやく、アポロンが男女を問わず見初めた相手へ執着する性質を持つ神であり、【アポロン・ファミリア】に美男美女が多いのもその嗜好の表れなのだと理解した。

拒絶と退場

アポロンは返答を迫ったが、ヘスティアは戦争遊戯を受ける義理はないと明確に拒否した。勝ち目のない戦いに持ち込まれることを理解していたからである。そうしてヘスティアはベルの手を掴み、怒りのまま会場を後にした。退出する間際、ベルは扉に寄りかかっていたヒュアキントスと目を合わせ、その冷笑を目に焼き付けた。神々の宴の場を後にしながらも、ベルはこれで終わりではないことを予感させられていた。

三章 勃発

戦争遊戯前夜の警戒

『神の宴』の翌朝、ベル・クラネルとヘスティアは本拠である教会の隠し部屋でそれぞれ支度を進めていた。ベルは【ステイタス】の更新を終え、わずかに上昇した能力値を確認していた。『焰蜂亭』での乱闘による経験が数値に反映されていたが、その原因がヒュアキントスに一方的に叩き伏せられた結果であるため、素直には喜べなかった。一方のヘスティアは前夜から機嫌が悪く、アポロンの強引なやり口に怒りを募らせていた。

ヘスティアの警告

ヘスティアは、【アポロン・ファミリア】が昨夜の件を受けて何らかの行動に出る可能性を強く警戒していた。そのためベルに対し、何かあればすぐ逃げること、人通りの多い場所を通ること、一人にならないことを厳しく言い含めた。さらにダンジョン探索の際もしばらくは命達と行動を共にした方がよいと助言し、ベルもそれを真剣に受け止めた。装備を整えたベルは、ヘスティアと共に教会を出て摩天楼施設へ向かうつもりでいた。

教会を出る直前の違和感

地下室から地上へ出たベルは、荒れ果てた教会内部を見渡しながら出口へ向かった。その途中、詠唱や魔法行使の時に感じるような、かすかな魔力の気配を察知した。明確な正体までは掴めなかったものの、胸騒ぎを覚えたベルは一度足を止めて周囲を見回した。しかし原因を特定できないまま、先に玄関口へ向かった。

アポロン派閥の包囲

教会の外へ一歩踏み出したベルの目に飛び込んできたのは、周囲の建物の屋根や屋上に配置された無数の冒険者達の姿であった。彼らは弓や杖を構え、太陽のエンブレムを刻んだ装備から【アポロン・ファミリア】の構成員であることがわかった。教会の正面を包囲する形で待ち伏せしていた彼らは、ベルが姿を現した瞬間に一斉に武器を構え、弓使いは矢を番え、魔導士達は既に詠唱を済ませて待機していた。

ベルの即座の判断

包囲の中心にいたエルフの指揮者が攻撃の合図を出そうとした瞬間、ベルは迷わず反転した。まだ教会内にいたヘスティアのもとへ全力で駆け戻り、驚く彼女に飛びつくようにして抱え込み、そのまま礼拝堂の奥へ身を投げ出した。次の瞬間、外から放たれた攻撃が教会を襲い、大爆発が発生した。

教会への奇襲準備

『神の宴』の翌朝、ベル・クラネルは【ステイタス】更新を終え、ヘスティアとともに出発の支度を進めていた。『焰蜂亭』での乱闘による経験が能力値に反映されていたが、ベルはそれを複雑な思いで受け止めていた。ヘスティアは【アポロン・ファミリア】の報復を強く警戒し、ベルに単独行動を避けることや何かあればすぐ逃げることを繰り返し言い聞かせていた。二人は同時に教会を出るつもりでいたが、その直前、ベルは教会内にかすかな魔力の気配を感じ取った。

教会への一斉攻撃

不穏な気配を抱きながら教会の外へ出たベルは、周囲の建物の屋根や屋上に無数の冒険者が配置されている光景を目にした。彼らは弓や杖を構えており、装備に刻まれた太陽の紋章から【アポロン・ファミリア】の構成員であると判明した。待ち伏せしていた一団はベルを見つけるなり攻撃態勢に入り、ベルは即座に反転して教会内へ戻り、ヘスティアを抱えて礼拝堂の奥へ飛び込んだ。直後に魔法と爆薬の結びついた矢が教会へ撃ち込まれ、大爆発によって建物は半壊した。

教会からの脱出と逃走開始

爆撃で破壊された教会の裏口から、ベルはヘスティアを抱えたまま外へ脱出した。しかしそこにも待ち伏せていた獣人の冒険者達が短剣を手に奇襲を仕掛けてきた。ベルはヘスティア・ナイフで攻撃を防ぎつつ、煙の中に飛び込んで敵の視界を切り、土地勘を頼りに裏道へ逃げ込んだ。白昼の街中で堂々と襲撃を受けたことで、ベルは【アポロン・ファミリア】がギルドの取り締まりすら恐れず実力行使に出たのだと理解した。さらに崩れ落ちた教会を振り返り、自分とヘスティアが帰る家を失った現実に衝撃を受けた。

完全包囲されたベル達

裏道へ逃げ込んだ後も、ベル達の前後左右から追手が現れ続けた。路地の先に待ち伏せる冒険者の集団を避けて進路を変えても、敵は次々と新手を投入してきた。やがて一本道に出たベルは、道の両側の家屋の上に待機していた十名の弓兵から一斉射撃を受ける。しかしベルは爆発的な加速で前方へ駆け抜けることで矢を振り切り、曲がり角へ飛び込んで辛うじて逃走を継続した。それでも敵は完全に包囲網を敷いており、ベルはホーム周辺の地理に明るいにもかかわらず逃げ切れない状況に追い込まれていた。

袋小路からの跳躍

追い詰められたベルは、ついに袋小路へ入り込んでしまった。しかしそこで諦めず、高さ八メートルにも及ぶ人家の壁を助走をつけて跳び越えた。【ランクアップ】により向上した身体能力を活かした大跳躍によって、ベルはヘスティアを抱えたまま屋根の上へ到達した。見晴らしの良い高所から北側のギルド本部を視認したベルは、絶対中立であるギルドに逃げ込むしかないと判断した。

ダフネ達の追撃と勧告

しかし屋根の上には、ダフネ・ラウロス率いる【アポロン・ファミリア】の小隊が待ち構えていた。カサンドラ・イリオンも同行しており、ダフネはアポロンは気に入った相手を地の果てまで追いかける神であり、自分達もかつてそうして追われ続けたのだと語ったうえで、ベルに投降を勧めた。ベルはそれを拒否し、ダフネは即座に小隊へ攻撃を命じた。投げナイフによってベルの体勢を崩したうえで一斉に襲いかかる彼女達に対し、ベルはヘスティアを抱えたまま応戦を余儀なくされた。

ベルの魔法と敵の組織力

ベルはヘスティアを脇に抱える形で片手を空け、ヘスティア・ナイフを一度ヘスティアへ預けたうえで、飛びかかってくる冒険者達へ無詠唱の速攻魔法【ファイアボルト】を三連射した。爆炎により敵を一時的に吹き飛ばしたが、ダフネの指示で後衛のカサンドラが即座に治癒魔法を発動し、倒れた仲間達を回復させた。ベルはここで、【アポロン・ファミリア】が小隊単位で高い連携を保ち、組織として自分達を圧倒している現実を痛感した。やがてさらに敵が集まり始めたため、ベルは再び下へ飛び降りて路地裏へ逃げ込んだ。

カサンドラの予知夢

ベルを追う前に、カサンドラはダフネに対して、あの兎を追い詰めるべきではないと弱々しく訴えた。彼女は予知夢を見たと話し、傷付いた兎が月を飛び越え、太陽を呑み込む夢を語った。しかしダフネはそれをいつもの妄言として受け流し、ベルの追撃を優先した。こうしてベルへの追跡は続行された。

騒動の拡大と周囲の反応

一方、西のメインストリート周辺では、教会方面から響く爆発音と煙によって、市民や酒場『豊穣の女主人』の店員達が異変に気づいていた。ルノア、アーニャ、クロエは、これが派閥同士の抗争ではないかと察し、シルとリューも煙の方角を見つめて不安を募らせた。中央広場では、ベルとの待ち合わせに来ていたヴェルフ・クロッゾとリリルカ・アーデが、【アポロン・ファミリア】が【ヘスティア・ファミリア】を襲っているという情報を耳にし、即座に西の第七区画へ向かった。

傍観する者達

ベル達の追跡劇を離れた場所から観察していたヘルメスは、アスフィからフレイヤ派が今のところ静観していると報告を受けた。ヘルメスは、自分はこれまでもこれからも傍観者に徹すると語り、自らは介入せず状況を見届ける立場を選んだ。都市北端の【ロキ・ファミリア】本拠でも、ティオナがベル襲撃の報を持ち帰り、アイズ・ヴァレンシュタインが心配をのぞかせた。しかしフィンは、派閥間抗争へ勝手に介入することを禁じ、ロキの厳命もあるとしてアイズを制した。アイズは従うしかなく、ただ窓辺から外を見つめることしかできなかった。

包囲網の中での逃走

ベル・クラネルは、ヘスティアを連れてなおも包囲網の中を走り続けていた。逃げ遅れた市民の頭上すら跳び越えながら、迫る追手を振り切ろうとしていたが、前方にはまた新たな冒険者達が回り込んできた。ベルはヘスティアを一度地面に下ろし、両手のナイフを構えて自ら突撃し、不意を突かれた敵を峰打ちで素早く斬り伏せた。再びヘスティアの手を取って走り出したベルは、自分が足を引っ張っていると謝る彼女に対し、それは神様のせいではないと強く言い返した。敵にヘスティアを渡せば、主神を失ったベルが奪われる危険がある以上、何としても彼女を守らなければならなかった。

魔法を抑えながらの応戦

追撃してくる敵の中にはLV.2の冒険者も多かったが、ベルは一対一であれば十分に渡り合える感触を得ていた。敵の弓使いに対しては【ファイアボルト】で反撃し、混乱した敵に肉薄してさらに三人を倒す場面もあった。しかしヘスティアが魔法をもっと撃てば状況を打開できるのではないかと口にすると、ベルはそれを避けたいと答えた。火力を誤れば民家へ燃え移り、西地区全体を炎に包む危険があるためであった。ベルは起死回生の手段として魔法を温存しつつ、何とか包囲の薄い地点を探して突破しようとしていた。

他派閥の介入を示す違和感

その最中、ベルは追手の一人のエンブレムが太陽ではなく、三日月と杯の紋章であることに気づいた。敵は【アポロン・ファミリア】だけではないのではないかという疑念が生じ、昨夜バルコニーから見たヒュアキントスとザニスの密会を思い出した。そこまで考えが及んだ直後、背後にこれまでとは異なる強烈な重圧と殺気を感じ、ベルは反射的に振り返った。

ヒュアキントスとの遭遇

そこに立っていたのは、【アポロン・ファミリア】の団長ヒュアキントスであった。ベルは即座にヘスティアを脇へ突き飛ばしたが、その瞬間にはすでにヒュアキントスが眼前に迫っていた。紅炎のような波状剣による斬撃を咄嗟に《ヘスティア・ナイフ》で受けたものの、その衝撃だけでベルは吹き飛ばされた。すぐに《牛若丸》も抜いて応戦に入ったが、ヒュアキントスは圧倒的な速さと技量でベルの攻撃をことごとく捌き、逆に的確な反撃を叩き込んできた。

圧倒的な実力差

路地裏で繰り広げられた攻防は激烈であったが、ベルの二刀による連続攻撃は一撃も有効打にならなかった。ヒュアキントスはベルの速度を認めつつも、それを完全に見切っていた。ベルは最大加速から渾身の連続斬撃を仕掛けたが、ヒュアキントスはまるで揺るがず、長剣《太陽のフランベルジュ》で全てを迎撃した。そして流れるような切り払いから胸甲ごとベルの胸を斬り裂き、続けざまに頬骨への打撃、足止め、喉への肘打ち、腹への追撃、最後には強烈な回し蹴りまで叩き込んだ。ベルは石畳へ吹き飛ばされ、血にまみれたまま倒れ込んだ。

完全敗北とヒュアキントスの嫉妬

倒れ伏したベルは、それでも何とか起き上がろうとしたが、ヒュアキントスはその姿を見下ろして嘲った。彼にとってベルは、主神アポロンに執着される価値のない存在であり、自分こそがあの神の全てを受け止められるのだという嫉妬混じりの執念を露わにしていた。ベルは第二級冒険者として完成されたヒュアキントスの実力を思い知らされ、自分との格の違いに絶望した。ヒュアキントスは暴れられても困るとして、どうせ後で治すのだから腕や足の一本を斬っても構わないとまで言い放ち、波状剣を振り上げた。

ナァーザの狙撃

ヘスティアが止めようと駆け出すも間に合わず、ヒュアキントスの剣がベルに振り下ろされようとしたその瞬間、幾本もの矢が石畳を撃ち砕いた。ヒュアキントスは間一髪で回避し、振り返った先に、西のメインストリート外れの古い鐘楼の屋根から長弓を構える犬人の弓使いを見つけた。それはナァーザであった。

ナァーザの援護射撃

ナァーザは【アポロン・ファミリア】による抗争を察知し、誰よりも早く高所に陣取ってベル達の位置を把握していた。【ミアハ・ファミリア】元第三級冒険者としての正確無比な射撃で、遠距離からヒュアキントスだけを狙撃し続けた。彼女は上級冒険者の回避能力に顔をしかめながらも、ベルを逃がすため矢を撃ち続けた。そしてその願いに応えるように、ふらつきながら立ち上がったベルはヘスティアの手を引き、再び逃走を開始した。

傷だらけの逃走

ベル・クラネルは、ヒュアキントスとの戦闘で深手を負いながらも、ヘスティアに支えられて逃走を続けていた。上等回復薬では胸の傷を塞ぐのが精一杯で、全身の痛みは重くのしかかっていた。そこへ建物の高所からエルフの魔導士が詠唱を完了させ、射程外から雷属性の魔法を叩き込んできた。ベル達は着弾を避けきれず地面に転がされ、煙と衝撃の中で新たな追手に囲まれてしまった。

タケミカヅチ派の援軍

倒れ込んだベル達の前に現れたのは、襟巻きで口もとを隠したエルフのリッソス率いる【アポロン・ファミリア】の一隊であった。降伏を迫られたその瞬間、ベル達の前に六人の冒険者が割って入り、【タケミカヅチ・ファミリア】の桜花と命達が姿を現した。彼らは盟友の危機を見捨てられないとして、ためらいなく【アポロン・ファミリア】へ敵対を宣言し、その場で激突した。

ミアハの判断

さらにその直後、ミアハもベル達のもとへ駆けつけた。彼は騒ぎを聞きつけ、タケミカヅチ達へ援軍を頼みに行っていたのである。ミアハは、ベル達の身の安全が確保されなければこの戦いは終わらないと告げ、ここは桜花達に任せて逃げるよう促した。ベルは躊躇したものの、後方から新手の敵の声が迫る中で、その判断に従うしかなかった。こうしてベルとヘスティアは再び逃走を開始し、派閥抗争が一つの派閥だけで完結せず、次々と他派閥を巻き込んで泥沼化していく現実を身をもって知ることになった。

西端への追い詰め

逃げながらヘスティアは、頭上にそびえる市壁との位置関係から、自分達がすでに都市の西端近くまで追い込まれていることを悟った。ギルド本部の方角からも大きく外れており、逃げ続ける中でさらに不利な位置へ追い詰められていた。そんな二人に、またしても建物の上から敵冒険者達が飛びかかってきた。

ヴェルフとリリの合流

その急襲を防いだのは、横合いから割り込んできたヴェルフ・クロッゾであった。大刀の一撃で敵をまとめて吹き飛ばし、さらにリリルカ・アーデが放った金属矢が残る一人を撃ち落とした。中央広場で騒ぎを聞きつけた二人は、ベル達の危機を察して急行してきたのである。再会したリリルカは、ボロボロに傷付いたベルの姿を見て強い衝撃を受け、すぐに上級回復薬と二属性回復薬を押し付けた。ヘスティアから事態の成り行きを聞かされる中で、リリルカはアポロンがベルを狙って全てを仕組んでいたことを知り、自分の認識以上に深刻な状況に追い込まれていることを理解した。

ヴェルフとリリの足止め

しかし再び前方から敵の姿が現れたため、リリルカはベル達にギルドへ急ぐよう促し、ヴェルフも片付けたらすぐ追いつくと断言して前へ出た。ヴェルフは単独で敵に突っ込み、LV.2となった実力で最初の三人を一撃で吹き飛ばした。リリルカも援護に回り、二人は迫る敵の混成部隊を相手に戦い始めた。ヴェルフは下級冒険者を優先的に叩き潰し、上級冒険者にはリリルカの射撃が隙を作り、その隙を突いて打ち倒していった。

強臭袋による攪乱

敵の増援がさらに押し寄せた時、リリルカは袋から『強臭袋』を取り出し、狭い路地裏へ投げ込んだ。瞬間、逃げ場のない通路いっぱいに緑色の臭気が爆散し、凄まじい悲鳴が響き渡った。ヴェルフも巻き込まれかけて顔色を変えたが、リリルカとともに鼻をつまみながら全力でその場を離脱した。こうして周囲の戦場は一時的に機能を失ったが、それでも敵の数は減らず、なおも各所から追手が押し寄せ続けていた。

ソーマ派の介入発覚

そんな中、ヴェルフが斬り伏せた敵の防具に刻まれた三日月と杯の紋章を見て、リリルカは凍りついた。それは【ソーマ・ファミリア】の徽章であった。周囲を見渡すと、戦場にはソーマ派の団員達も紛れ込んでおり、【アポロン・ファミリア】に協力してベル達を追い詰めていたのである。リリルカは、自分の存在が彼らの介入理由にされているのだと直感した。

ザニスの正義とリリルカの絶望

やがてリリルカの前にザニス・ルストラが現れた。彼は、【ソーマ・ファミリア】にはアポロン派とは別に【ヘスティア・ファミリア】と争う大義名分があると語り、その理由がリリルカ自身であることを告げた。今なお退団できていないリリルカを取り戻すという名目を利用し、ザニス達はベルとヘスティアへの襲撃に加担していたのである。しかも18階層でのベルとリリルカの活躍が地上へ伝わったことで、ザニスは彼女が生きていることと、ベル達との関係を突き止めていた。リリルカは、自分が火種となってベル達を追い込んでいる現実を突きつけられ、激しい自己嫌悪に呑まれた。

リリルカの投降

絶望したリリルカは、もうベル達に手を出さないでほしいとザニスへ懇願し、自分がソーマのもとへ帰る代わりにこれ以上の加勢をやめるよう求めた。ザニスは意外にもその申し出を受け入れた。もともと彼は前金も受け取っており、危ない橋を渡り続けるつもりもなかったうえ、リリルカそのものを必要としていたからである。彼はリリルカへ自分のもとへ来いと命じ、撤退の合図として閃光弾を空へ打ち上げた。すると【ソーマ・ファミリア】の団員達は次々と戦線から離脱し始めた。

別れの言葉

路地裏からヴェルフが呼びかけても、リリルカは力のない目で見下ろし、自分は【ソーマ・ファミリア】へ帰る、もう迷惑はかけないと告げた。ヴェルフはそんなことをすればベルに顔向けできないと引き止めたが、リリルカはごめんなさいと謝り、さようならと言い残してザニスの後を追った。事情も知らされないまま見送るしかなかったヴェルフは、彼女を追おうとしたが、そこへ再び【アポロン・ファミリア】の冒険者達が現れ、交戦を強いられたため、追跡を断念せざるを得なかった。

水路への潜伏

度重なる襲撃を受けながら、ベル・クラネルはヘスティアを連れて住宅街を逃走し続けた。敵の攻撃はさらに激しさを増しており、ベルは石造りの古家へ【ファイアボルト】を連射して煙幕を発生させ、その隙に離脱した。ヘスティアに導かれて路地裏の先にあった水路へ飛び込み、二人は隧道状の用水路の中でようやく身を潜めた。ベルは残っていた回復薬を使って消耗した体を立て直そうとしたが、外ではなお追手達の足音と声が響いていた。

ヒュアキントスの脅迫

その時、外からヒュアキントスの大声が響き渡った。彼は、どこへ逃げようと追い続けること、地上でもダンジョンでもベルに安息はないことを宣告した。ベルはその言葉によって、今回の襲撃をやり過ごしただけでは終わらず、何らかの決着をつけなければ今後も平穏は訪れないことを悟らされた。

ヘスティアの提案

追い詰められた状況の中で、ヘスティアはベルへ打開策は二つしかないと告げた。勝ち目のない戦いに臨むか、オラリオから逃げるかである。ヘスティアは、ベルが一緒ならばどこへ行っても構わず、相手が諦めるまで二人で逃避行を続けてもよいと本心を明かした。ベルはその言葉に心を揺さぶられ、ヘスティアと遠い土地で暮らす未来を一瞬思い描いたが、同時にオラリオで得た仲間達や日々の記憶、そして憧憬の剣士であるアイズ・ヴァレンシュタインの姿を思い出し、自分の答えを見失えなくなっていた。

ヘスティアの告白

沈黙するベルに対し、ヘスティアは彼の手を握り、自分はベルのことが好きであり、可愛くてたまらず、ずっと隣にいたいのだと正面から告げた。そしてベルは自分をどう思っているのかと問いかけた。ベルは動揺しながら尊敬していると答えたが、ヘスティアはそれではないと叫び、求めている意味の違いを突きつけた。神と眷族の関係ではいられなくなるような不安を本能的に感じながら、ベルが答えようとしたその瞬間、水路の入口で爆撃が起こり、会話は中断された。

水路からの脱出

敵に発見されたベルは、再びヘスティアを庇いながら水路から飛び出した。ヘスティアは、二度も邪魔をされたことでついに覚悟を決めたと怒りを露わにし、ベルへ西南を目指すよう強い口調で指示した。ベルはその命令に従い、これまでとは逆方向へ進路を変え、手薄になっていた包囲網を突破して西南へと駆け抜けた。

アポロン本拠への乗り込み

ベルとヘスティアが辿り着いた先は、第六区画にある【アポロン・ファミリア】の本拠であった。巨大な屋敷の門には弓矢と太陽のエンブレムが掲げられており、ベルは驚愕したが、ヘスティアは躊躇なく正門を突破した。やがて屋敷からアポロン本人が現れ、ルアンを伴って二人の前に立った。ヘスティアはルアンから手袋を借りると、それをアポロンの顔へ投げつけ、戦争遊戯を受けて立つと高らかに宣言した。

戦争遊戯の正式成立

ヘスティアの宣言を受けて、アポロンは即座に神双方の合意が成立したと宣言した。すると庭や木陰に潜んでいた多数の神々が姿を現し、一斉に歓声を上げた。彼らは戦争遊戯の申請や神会の招集を進め始め、その場はたちまち祭りのような騒ぎとなった。こうして【ヘスティア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】の戦争遊戯は正式に決定した。

一週間の猶予

呆然とするベルに対し、ヘスティアは戦争遊戯まで一週間の時間を稼いでみせると告げた。そしてその一週間で、ベルに今日襲ってきた誰よりも強くなってほしいと訴えた。ヘスティアはベルの可能性に賭けており、その眼差しには一切の曇りがなかった。ベルはその信頼に胸を打たれ、大きく心を震わせた。

リリルカの報せと役割の分担

そこへヴェルフ・クロッゾが現れ、リリルカ・アーデが自ら【ソーマ・ファミリア】へ連れて行かれたことを報告した。ベルはすぐに助けに行こうとしたが、ヘスティアはそれを止め、リリルカの救出は自分が必ずやり遂げるから信じてほしいと告げた。ベルは迷いながらも最終的にヘスティアを信じることを選んだ。ヘスティアはベルに自分のナイフを置いていくよう命じ、ヴェルフにはリリルカ救出への協力を求めた。

剣姫のもとへ向かう決意

すべてを託されたベルは、ヘスティアの言葉に送り出され、騒然とするアポロンの本拠から全力で駆け出した。期限は一週間。その間に敵を、そしてヒュアキントスを超える自分になるためであった。恩恵の刻まれた背中を熱くしながら、ベルはもはや意地も体裁も捨て、都市北端にいる最強の剣姫、アイズのもとを目指して走り出した。

四章 集う者達

戦争遊戯の報が広がる

戦争遊戯の開催決定は、神々の口から凄まじい勢いで都市中へ広まっていった。騒ぎ立てる神々と、それを目撃した冒険者や市民達の口伝えによって、知らせはあっという間にオラリオ全域へ浸透した。アポロンとヘスティアが宣言してから、まだ一刻も経っていない段階での出来事であった。

黄昏の館への直行

【アポロン・ファミリア】の本拠を飛び出したベル・クラネルは、都市北部へ急行し、【ロキ・ファミリア】の本拠である黄昏の館へ辿り着いた。彼はアイズ・ヴァレンシュタインに会わせてほしいと門番へ必死に頼み込んだが、他派閥の人間が戦争遊戯を前に彼女を頼ろうとしたと受け取られ、館の団員達から強い非難を浴びた。ベルは怯みながらも、時間を無駄にできない焦りから何度も懇願を繰り返した。

ティオネの芝居

騒ぎの中で現れたティオネ・ヒリュテは、ベルに対して冷たく拒絶を言い渡し、【ロキ・ファミリア】の総意として追い返す姿勢を見せた。しかし彼女はベルを門前から引き剥がす際、周囲には聞こえない小声で、右へ進んだ先の二つ目の路地裏へ向かうよう伝えた。表向きには突き放す態度を取りつつ、裏ではベルに道を示していたのである。

路地裏での再会

ティオネの指示通り路地裏へ向かったベルを待っていたのは、アイズとティオナ・ヒリュテであった。ティオナは、黄昏の館へ駆け込んできたベルの姿を見て、アイズがその意図を察し、ティオネに一芝居打ってもらったのだと説明した。アイズは、ベルが再び鍛錬を願いに来たことを理解していたのである。

アイズの判断

ベルは、自分の都合で力を貸してもらっていいのかとためらいながら尋ねた。アイズは、直接戦争遊戯に加勢するわけではなく、あくまでベル自身が戦うのだと前置きしたうえで、それでもベルを見捨てるのは違うと思うと静かに答えた。ティオナもまた、【アポロン・ファミリア】のやり方は気に入らないとして、ベルとアイズを支える姿勢を見せた。

修行再開の決定

二人の申し出を受けたベルは深く感謝し、再び彼女達に教えを請うことになった。こうしてベルは、アイズとティオナを伴い、一ヶ月前と同じ都市北西の市壁上部へ向かうことになった。戦争遊戯までのわずかな期間で、敵を上回る力を得るための命懸けの修行が、再び始まろうとしていた。

戦争遊戯準備の混乱

ヘスティアとアポロンの戦争遊戯は、間もなくギルドに承認される運びとなり、都市全体は一層慌ただしさを増していた。物資や人員の手配、宣伝、戦場候補の選定など、都市管理機関であるギルドは多くの作業に追われ、神々の気ままな要望がその負担に拍車をかけていた。戦争遊戯への注目は都市内外で急速に高まり、準備は着々と進められていった。

神会でのヘスティアの遅延工作

摩天楼施設三十階で開かれた神会では、アポロンが何度も欠席を続けていたヘスティアに苛立ちを募らせていた。襲撃から三日が経っても、ヘスティアは病に伏せたと言い張って神会を引き延ばしていたのである。そこへようやくヘスティアがミアハを伴って現れ、堂々と席に着いた。明らかな時間稼ぎではあったが、神会はそのまま戦争遊戯の詳細決定へ進められた。

ベルの所有権を巡る確認

手続きが進む中で、アポロンは勝利条件としてベル・クラネルの所有権を明文化するよう求めた。自分達が勝利した暁にはベルを得ること、逆にヘスティアが勝てば要求は何でも呑むと宣言し、その内容を正式な記録として残させた。ヘスティアは不快感を露わにしながらも、その条件を受け入れざるを得なかった。

一騎打ち案の却下

続いて戦争遊戯の形式が議題に上がると、ヘスティアはベルとアポロン側代表者による一騎打ちを提案した。ミアハやタケミカヅチもそれに賛同し、観衆の前での決闘は盛り上がるだろうという声も上がった。しかしアポロンは、団員数が少ないのはヘスティアの怠慢であり、その不利を他者が補う義理はないと切り返した。こうして一騎打ち案は通らなかった。

くじ引きによる形式決定

アポロンの提案により、戦争遊戯の形式はくじで決められることになった。神々がそれぞれ羊皮紙に形式を書いて箱へ入れ、誰が引くかを巡って中立を装ってきたヘルメスが選ばれる。両主神から圧をかけられたヘルメスが引き当てたのは『攻城戦』であった。これは多人数による戦力がものを言う形式であり、団員数に圧倒的な差がある【ヘスティア・ファミリア】にとって最悪の結果であった。しかもアポロンは攻撃側をヘスティアに譲ると述べ、さらに不利な立場へ追い込んだ。

助っ人制度の提案

このままではあまりにも不公平であるとして、ヘルメスは助っ人制度を提案した。他派閥から人数制限付きで協力者を募れるようにしようという案であった。しかしアポロンは、戦争遊戯はあくまで派閥同士の代理戦争であり、他派閥の子が参加するのは名に傷をつけると反対した。さらに第一級冒険者級の助力が加われば自分達の身が危うくなるとも主張し、受け入れを拒んだ。

フレイヤの介入と条件付き承認

そこでフレイヤが口を開き、相手が一人でなければ戦えないのかとアポロンを挑発した。さらに自分の子を信じていないのか、その愛はその程度かと問いかけたことで、アポロンの矜持は強く刺激された。フレイヤの発言に一部の神々も同調し、助っ人制度に肯定的な空気が広がる。最終的にアポロンは折れ、助っ人は一人まで、かつ都市外の【ファミリア】からのみという条件付きで制度を認めた。ヘスティアにとってなお厳しい条件であったが、完全拒否よりはましな結果であった。

神会の終了とヘスティアの決意

神会はそのまま解散となり、アポロンは不敵な笑みを残して去っていった。ヘスティアは悔しさを抱えつつも、与えられた条件の中で勝利の道を見つけるしかないと決意を固めた。くじの結果自体は公平であり、助っ人制度まで認められたことを思えば、これ以上の不満を口にしても意味はなかった。ヘスティアは手持ちのあらゆる駒を用いて勝ち筋を探す覚悟を決めた。

リリルカ救出への手掛かり

意識を切り替えたヘスティアは、最も気がかりであったリリルカ・アーデの行方についてヘルメスに尋ねた。仮病を装っていた三日間、彼女はリリルカの居場所を追っており、ヘルメスにも情報収集を依頼していたのである。ヘルメスは、アスフィが調べた結果、リリルカは【ソーマ・ファミリア】のホームではなく、神酒を保管する酒蔵へ連れ込まれたらしいと伝えた。その場所は都市東南のダイダロス通り近くであり、警備は厳重で上級冒険者も多数いるという。

救出への即断

ヘルメスは、自分の【ファミリア】は争いごとに直接手を貸せないと前置きしたうえで、どうするのかとヘスティアに問うた。するとヘスティアは一切ためらわず、行くに決まっていると答えた。ベルと交わした約束を守るため、彼女はリリルカを必ず助け出すつもりであった。

地下牢で目覚めたリリ

薄暗い地下牢で目を覚ましたリリルカ・アーデは、後ろ手に拘束されたまま石床に伏せていた。そこは【ソーマ・ファミリア】の酒蔵に備えられた牢であり、派閥内の懲罰や『神酒』に理性を奪われた者を閉じ込めるための場所であった。時間の感覚も曖昧な中、リリルカは惨めな姿で水をすすりながら、ただベル達の無事だけを案じていた。

ザニスの真意

やがて地下牢に現れたザニス・ルストラは、リリルカが使える存在だから必要だと明かした。彼はリリルカの盗賊めいた技術や隠し持っていた金、そして何より変身魔法に価値を見出していた。モンスターを誘き出して捕獲し、それを売りさばく商売にリリルカを利用するつもりだと語るザニスの本性は、欲望にまみれた醜悪なものであった。彼は主神ソーマすら敬っておらず、この派閥を自らの快楽と利益のために利用しているだけであった。

侵入者の報とザニスの裏切り

その時、地下牢の外から警鐘が鳴り響き、酒蔵が侵入者の襲撃を受けていることが判明した。チャンドラの報告により、所属がばらばらの者達と幼い女神が攻め込んできたと知ったリリルカは、それがヘスティア達だと直感する。彼女はザニスに約束が違うと訴え、自分が説得するから危害を加えないでほしいと叫んだ。しかしザニスは最初から約束を守るつもりなどなく、いざとなれば『神酒』を飲ませてリリルカを従順な傀儡に変える腹積もりであった。

チャンドラの助力

ザニスが戦場へ向かった後、リリルカは拘束を解こうと必死に足掻いた。盗賊としての経験と部分的な変身魔法を使い、なんとか両手の拘束を解いたところで、見張り役のチャンドラが自ら牢の錠を破壊した。彼はザニスが嫌いであり、神酒だけを求めて派閥に入った自分には、今の歪んだ【ソーマ・ファミリア】は耐え難いものだと語った。そしてリリルカを見逃し、黙って行かせることを選んだ。

戦場を見たリリの衝撃

地上へ上がったリリルカは、管理塔の小窓から酒蔵の広場を見下ろし、そこでヴェルフ・クロッゾや命達が【ソーマ・ファミリア】の団員達と交戦している光景を目にした。彼等は数に勝る敵に包囲されながらも必死に戦っており、その原因が自分を助けるためであることを理解したリリルカは、今すぐ逃げてほしいと叫んだ。しかしヘスティアはそれを拒否し、自分達はリリルカを連れて帰るまでここを離れないと断言した。

ヘスティアの訴え

ヘスティアは、【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯が攻城戦で決まり、ベル・クラネルは勝利のために今一人で地獄のような修行に臨んでいると告げた。そしてその勝利にはリリルカの力が必要であり、ベルを助けるために今度はリリルカが必要なのだと訴えた。今まで誰にも必要とされなかった自分を、女神がはっきりと必要だと言ってくれたことで、リリルカの心は大きく揺さぶられた。彼女は涙を流しながら、主神ソーマに戦いを止めさせるしかないと決意し、最上階にいるソーマのもとを目指して駆け出した。

ソーマとの対面

三階の主神の間へ辿り着いたリリルカは、酒の原料を調合していたソーマへ、戦いを止めるよう必死に直訴した。しかしソーマは、酒に溺れる子供達の話を聞くことに何の意味があるのかと、無関心かつ冷淡に切り捨てた。彼は眷族達の争いに失望しており、すでに彼らを救う対象ではなく、ただ失望の塊として見ていたのである。そしてリリルカに『神酒』を差し出し、これを飲んでもなお同じことが言えるなら耳を貸すと告げた。

神酒への抵抗

リリルカは恐怖に震えながらも、その杯をあおった。たちまち神酒の圧倒的な陶酔感が全身を支配し、意識は白濁し、使命も感情も消え去ろうとした。しかしその心の最奥で最後まで消えなかったのは、自分を救ってくれたベルの白い笑顔であった。ベルの温もりと優しさを想起したリリルカは、涙を流しながら再び立ち上がり、神酒の呪縛を打ち破った。そして戦いを止めてくださいと、変わることのない願いを叫んだ。

ソーマの命令

『神酒』を乗り越えたリリルカの姿に、ソーマは初めて言葉を失った。彼は少女の生き様を目の当たりにし、今まで切り捨ててきた下界の住人達に対する認識を揺さぶられた。ザニスが止めようとするのも聞かず、ソーマはバルコニーへ出ると酒瓶を戦場の中央へ投げ捨て、戦いを止めろと命じた。その厳命に【ソーマ・ファミリア】の団員達は逆らえず、次々と武器を下ろして戦闘を停止した。

ザニスの失脚

主神の命で戦場が静まり返る中、ザニスは動揺しつつも、せめてリリルカだけでも確保しようと飛びかかった。しかしナァーザの狙撃によって阻まれ、続いて金属矢に結ばれた鋼線を伝ってヴェルフが見張り塔からバルコニーへ飛び込んできた。ヴェルフはリリルカへ家出は終わりだと告げたうえで、ザニスと一騎打ちに入った。ザニスは激情のまま剣を振るったが、ヴェルフは冷静にその力任せの戦い方を見切り、最後は大刀の峰で顔面を叩き潰すように打ち据えて完全に沈黙させた。

救出と脱退交渉

やがてヘスティアが命達を伴って最上階へ辿り着き、リリルカと再会した。ヘスティアはソーマに対し、リリルカの【ファミリア】移籍を正式に交渉し、その脱退金の担保として《ヘスティア・ナイフ》を差し出した。戦争遊戯に勝てばアポロン達から賠償金を取り、それと引き換えにナイフを返してもらうという算段まで示したうえで、彼女はリリルカの退団を認めるよう求めた。ソーマは《ヘスティア・ナイフ》を見つめた後、ぼろぼろに傷付いたリリルカと視線を交わし、最終的にその要求を受け入れて頷いた。

リリの改宗

管理塔二階の別室で、ヘスティア、ソーマ、リリルカ・アーデの三人は改宗の儀式を行った。ソーマの神血で旧来の【ステイタス】を起動させた後、ヘスティアが自らの神血を重ね、新たな契約を刻み込んだことで、リリルカは正式に【ヘスティア・ファミリア】の眷族となった。儀式を終えたヘスティアは、リリルカがここまで変わった意味を考え直すようソーマに言い残し、部屋を去った。

酒蔵からの離脱と戦力の確認

ヘスティア達はヴェルフ・クロッゾ、ナァーザ、命、桜花達と合流し、【ソーマ・ファミリア】の酒蔵を後にした。リリルカは救出に駆けつけてくれた者達へ感謝を伝えたが、ヘスティアとミアハは、戦争遊戯に必要なのはリリルカ一人ではないと告げた。やがて一行は十字路で別れ、ヴェルフや桜花、命達はそれぞれの目的のため別方向へ走り去っていった。

タケミカヅチの決断

【タケミカヅチ・ファミリア】の本拠では、タケミカヅチが誰をヘスティア達のもとへ送り出すべきか苦悩していた。派閥の事情や団員達の実力を考えた末、送り出せるのは命しかいないと理解しつつも、彼女が仲間や責務を捨てて移籍を受け入れるかを迷っていた。そこへ命が現れ、自らベル達のもとへ行かせてほしいと土下座して願い出た。彼女は一度見捨てかけた相手を今度こそ見捨てたくないと訴え、タケミカヅチはその覚悟を受け入れた。こうして命は一年後の帰還を前提に、【ヘスティア・ファミリア】へ入団することになった。

ヴェルフの離脱と餞別

一方、【ヘファイストス・ファミリア】支店では、ヴェルフがヘファイストスへ別れを告げに来ていた。彼は上級鍛冶師としての栄誉や【Hφαιστος】の名を刻む資格を捨ててでも、【ヘスティア・ファミリア】へ行く意思を固めていた。ヘファイストスは、血筋の呪いを超える武器を作りたいという願いまで捨てるのかと問うたが、ヴェルフは剣と鉄と情熱があればどこでも武器は打てると答えた。そして友のためだと断言する彼に、ヘファイストスは移籍を許し、餞別として紅の剣を手渡した。こうしてヴェルフもまた【ヘスティア・ファミリア】へ加わることになった。

リューへの助力要請

酒場『豊穣の女主人』の離れでは、ヘルメスがリューに対し、戦争遊戯でベル達へ力を貸してほしいと頼み込んでいた。助っ人制度の条件は都市外の【ファミリア】出身者であり、都市外に主神がいるリューは形式上それを満たしていた。リューは正体が露見する危険を懸念したが、ヘルメスは外部から来た助っ人という形で情報操作すると約束した。最終的にリューは、シルの後押しも受けて参戦を決め、覆面の冒険者として再び戦場へ赴く覚悟を固めた。

市壁上の修行の継続

その頃、ベル・クラネルは都市北西の市壁上で、アイズ・ヴァレンシュタインとティオナのもと厳しい修行を続けていた。すでに五日が経過しており、ベルは朝から晩まで二人と打ち合いを重ね、寝食もこの場でともにするほど徹底して鍛えられていた。アイズはベルが見なくても反応できるようになってきたと評価し、ティオナは食料や新しいナイフを持ち込みながら修行を支えていた。

戦争遊戯の詳細と仲間の増加

ティオナは街で集めた情報として、戦争遊戯が四日後に行われること、そして【ヘスティア・ファミリア】の団員が増えたことをベルに伝えた。ソーマ、タケミカヅチ、ヘファイストスの三派閥から、それぞれ一人ずつ移籍したという報せを聞いたベルは、リリルカ達が無事に救出されたことを悟り、胸の懸念を大きく軽くした。そして神様への感謝を新たにするとともに、さらに修行を続けさせてほしいとアイズ達へ頼み込んだ。

第一級冒険者二人との実戦訓練

修行はその後さらに激しさを増し、ベルはアイズとティオナの二人を同時に相手取る形で訓練を受けた。ティオナの巨大な双剣と蹴りは圧倒的で、ベルは回復薬に頼りたくなるほどの打撃を受けながらも、傷付いた状態でも戦い続ける感覚を叩き込まれた。またアイズとの打ち合いでは、対人戦では相手が先を読み、隙を誘ってくること、止めを狙う瞬間こそ最も油断が生じることを教えられた。ベルはその教えを胸に刻み、二人の指南を受けながらひたすら反復と実戦を重ね、戦争遊戯へ向けて己を鍛え続けた。

戦争遊戯への熱狂

戦争遊戯の開催が迫るにつれ、オラリオ全体は静かに熱を帯び始めていた。冒険者も商人も一般市民も、その行方を話題にし、酒の肴にして盛り上がっていた。迷宮へ潜る者は減り、商人は物の流れに敏感になり、市民達も仕事が手につかなくなっていた。街の子供達ですら玩具の剣を振って騒ぎ立て、都市そのものが大きな決戦の瞬間を待ち望んでいるようであった。

フレイヤの静観

『バベル』最上階では、フレイヤが市壁上で続くベル・クラネルの修行を見つめていた。アイズ・ヴァレンシュタインとティオナ、二人の第一級冒険者に打ちのめされながらも輝きを増していくベルの魂に、彼女は恍惚としていた。オッタルが【アポロン・ファミリア】の暴挙を止めなくてよいのかと問うても、フレイヤはもはや手を出すつもりはないと答えた。代理戦争の行方を見守ることこそ、今の自分には相応しいと考えていたのである。

エイナの不安と応援

ギルド本部では、戦争遊戯の準備で職員達が奔走していた。戦場となる『シュリーム古城跡地』への立入制限や、周辺地域への警告文書作成などの業務に追われる中、エイナ・チュールも疲労を滲ませていた。担当冒険者であるベルが死地へ向かおうとしていることに、彼女は強い不安を抱いていたが、ギルド職員としてどちらかに肩入れすることはできなかった。そんな彼女に、同僚のミィシャはせめて心の中で応援すればよいと告げた。エイナは窓辺に立ち、月を見上げながら、静かにベルへ頑張れと願いを送った。

アポロンの執着

一方、アポロンは自らの本拠で静かに戦争遊戯を待っていた。抗争の段階でベルを奪うこともできたはずであったが、彼はあくまで戦争遊戯という形式にこだわっていた。それは、勝者の権利としてベルを完全に所有し、ヘスティアをも下界から排除するためであり、同時に神々の娯楽としての代理戦争を心から楽しみたかったからでもある。彼はベルを愛玩する未来を思い描き、狂おしいほどの執着を膨らませていた。

ベルの出発

戦争遊戯二日前の早朝、ベルは【ステイタス】更新を終え、ヘスティアに見送られながら都市東門へ向かった。現地へは隊商の馬車で向かい、近くの町アグリスで降りた後、ギルドの臨時支部の指示を受ける手筈であった。ヘスティアはヴェルフ達が先行していることや、通行許可証の扱いなどを伝えたうえで、ここで凱旋を待つと笑って送り出した。別れ際には強く抱きしめ、いってらっしゃいと頬を染めて告げた。

人々の後押しとシルの贈り物

馬車へ乗り込んだベルは、同乗していた旅人達から【リトル・ルーキー】と気付かれ、戦争遊戯への応援とともに菓子を次々押し付けられた。さらに出発した馬車を、シルが酒場の制服姿のまま必死に追いかけてきた。彼女は冒険者から譲り受けたという守りの首飾りをベルへ渡し、頑張って、また店に来てほしいと叫んだ。最後には弁当を作って待っていると恥ずかしそうに告げ、ベルはその姿に笑みを浮かべながら深く心を打たれた。首飾りを胸もとへしまったベルは、必ず勝って帰ると心に誓った。

古城の陣容

戦場となるシュリーム古城跡地では、【アポロン・ファミリア】がすでに現地入りし、籠城の準備を進めていた。古代に築かれた防衛拠点であるこの城砦は、今なお高い城壁を保っており、攻め手にとって極めて厄介な地形であった。総勢百十名ほどの団員達が物資搬入や補修作業に追われる中、団長ヒュアキントスは玉座の間で不満を抱いていた。これほど有利な形式に頼らずとも自分達は勝てるはずであり、攻城戦という形式そのものを退屈な遊戯だと見なしていた。

ダフネとカサンドラの不安

城壁の上では、ダフネ・ラウロスが団員達へ作業の指示を出していた。そんな彼女に対し、カサンドラ・イリオンは今すぐここから逃げるべきだと真剣に訴えた。彼女はまた予知夢を見たらしく、城そのものが滅ぼされると怯えていた。しかしダフネはそれをいつもの妄言として取り合わなかった。やがて最後の補給物資を積んだ荷馬車が城内へ入り、重い城門が閉ざされた。カサンドラはそれを見てさらに蒼白となり、あれを入れてしまったら駄目だと焦燥を深めていた。

戦争遊戯前夜の確認

戦争遊戯を目前に控えた中、それぞれの場所で最終確認が進められていた。ベルは【ステイタス】を見てもらい、ヴェルフから新たな短刀を受け取った。ヴェルフは初代より切れ味が優れていると保証し、さらに時間不足の中でも急造の武器を二振りだけ用意していた。それは威力も強度も万全とは言えず、使いどころを誤るなと念を押されたが、ベルはそれを受け入れた。ヴェルフ自身も、意地と仲間を天秤にかけることはもうやめたと語り、戦争遊戯に向けた覚悟をにじませていた。

古城内の油断

一方、【アポロン・ファミリア】の古城では、団員達が大量の武器や兵糧を運び込み、籠城戦の準備を整えていた。下級冒険者であるルアン・エスペルも物資運搬を命じられ、同僚達の軽口を受けながら周囲の光景を見回していた。城内には数え切れないほどの木箱や大袋が並び、敵を格下と見なす団員達には余裕と慢心が漂っていた。

カサンドラの予感

しかし、城門が閉ざされた直後、カサンドラ・イリオンはその場に立ち尽くしていた。最後の荷馬車によって何か決定的なものが運び込まれてしまったと直感した彼女は、もはや破滅は避けられないと震えながら呟いた。その言葉は、これから始まる戦いの不吉な前兆として、闇の中に落ちていった。

開戦前夜の決意

同じ頃、暗がりの中では複数の声が交わされていた。明日中に城を落とすという宣言と、必ず勝つという応答が重なり、戦争遊戯への決意が静かに固められていった。こうして、【ヘスティア・ファミリア】対【アポロン・ファミリア】による攻城戦は、敵大将撃破を勝利条件として、ついに開戦の時を迎えようとしていた。

五章 僕等のウォーゲーム

戦争遊戯当日の熱狂

戦争遊戯当日、オラリオはかつてないほどの熱気に包まれていた。街中の酒場は早朝から営業を始め、通りには露店が並び、都市全体が祝祭のような雰囲気に染まっていた。至る所に貼られた絵羊皮紙には【アポロン・ファミリア】の太陽の紋章と、【ヘスティア・ファミリア】を象徴する兎の絵が描かれており、人々はその戦いを待ちわびていた。

実況と神の鏡

ギルド本部前庭では舞台が設置され、【ガネーシャ・ファミリア】のイブリ・アチャーが実況役を務めていた。解説として現れたガネーシャは例の決め台詞を叫び、観衆の喝采を浴びる。やがてヘルメスがウラノスへ神の力の使用許可を求めると、都市中の神々が指を弾き、空中に無数の円形の窓――『神の鏡』が出現した。これにより、オラリオの至る場所から戦争遊戯の様子が観戦できるようになり、都市全体が巨大な観客席と化した。

賭博と都市の興奮

酒場では戦争遊戯の勝敗を賭けた賭博が盛んに行われていた。勢力差から【アポロン・ファミリア】の勝利が圧倒的に有利と見られていたが、神々を中心に【ヘスティア・ファミリア】へ賭ける者も少なくなかった。ある酒場では、冒険者モルドが兎――ベル・クラネルに十万ヴァリスを賭けると宣言し、場内を大いに沸かせた。

開戦の瞬間

『神の鏡』の前に都市の人々の視線が集まる中、正午の鐘が鳴り響く。実況の号令とともに、【ヘスティア・ファミリア】対【アポロン・ファミリア】による戦争遊戯がついに開幕した。

古城側の油断

一方、戦場となるシュリーム古城跡地では、【アポロン・ファミリア】の団員達は比較的弛緩した空気の中にいた。敵は少人数であり、城攻めは三日間の期限いっぱいまで引き延ばされるだろうと考えられていたからである。小人族のルアン・エスペルは見張りを命じられ、北側城壁へ上がった。周囲は平原で遮蔽物も少なく、警戒すべきは長文詠唱の魔法のみだと弓使い達は余裕を見せていた。

謎の侵入者

その時、ルアンの目に北側の平野を歩いてくる一人の人物が映った。フード付きのケープとマントで全身を覆ったその人物は、詠唱もせず黙々と城へ接近してくる。城壁から約百メートルの距離に達した瞬間、その人物は両腕を広げてマントを翻した。姿を現した両手には、紅と紫の光を帯びた二振りの『魔剣』が握られていた。

魔剣による奇襲

直後、魔剣が振り下ろされ、凄まじい爆発が城壁を直撃した。城砦の外壁は一撃で破壊され、轟音と震動が古城全体を揺るがす。城内は一瞬で混乱に包まれ、ルアンは慌てて報告した。敵はたった一人だが、使用しているのは伝説の『クロッゾの魔剣』であると。さらに爆発が続き、城壁の上の弓兵が瓦礫とともに吹き飛ばされると、恐怖に駆られたルアンは叫びながら城内へ逃げ込んだ。こうして、戦争遊戯は誰も予想しなかった形で幕を開けた。

都市全体を包む熱狂

戦争遊戯当日、オラリオは異様なまでの熱気と興奮に包まれていた。酒場は朝から開き、露店が大通りに並び、街中の人々が戦いの開始を待ち望んでいた。ギルド本部前庭では実況役と解説役まで用意され、神々は『神の鏡』を通じて都市中へ戦場の様子を映し出した。賭博も各所で行われ、多くの者が【アポロン・ファミリア】有利と見ながらも、一部ではベル・クラネルに賭ける者も現れ、戦いは興行としても最高潮に達していた。

古城側の慢心と奇襲の始まり

一方、シュリーム古城跡地では【アポロン・ファミリア】の士気は決して高くなかった。敵の人数が少ないことから、すぐに本格的な攻城戦にはならないと高を括っていたのである。しかしその油断を突くように、北側から覆面の人物が単独で接近した。その正体はリューであり、彼女はヴェルフが用意した二振りの『クロッゾの魔剣』を携えていた。紅の剣からは炎塊、紫の剣からは雷撃が放たれ、北と東の城壁は次々に破壊されていった。

リューの奮戦

リューは迫る矢の雨をものともせず走り続け、長弓や魔導士の攻撃を回避しながら、魔剣の砲撃で城壁と砦の一部を爆砕した。彼女は自ら囮となって敵の戦力を外へ引きずり出し、城内の戦力を削ぐ役目を果たしていた。やがてヒュアキントスの命令で五十名もの団員が彼女討伐に出撃したが、リューは二振りの魔剣で先鋒を次々に吹き飛ばした。魔剣が使用限界を迎えて砕けた後も、彼女は木刀へ持ち替え、三十名近い上級冒険者を相手に孤軍奮闘した。リッソスがエルフの耳を見て激昂し、同胞でありながら魔剣を使うことを糾弾したが、リューは一族の怨讐よりも自分には大切なものがあると返し、彼を打ち倒した。

命の侵入と重圧魔法

その頃、命は大地と同色の隠蔽布を纏い、混乱の隙に破壊された北側城壁から古城へ侵入した。敵大将ヒュアキントスのいる玉座の塔を目指しつつ、彼女は並行詠唱を開始する。敵は彼女が魔剣を持っていると誤認し、総出で妨害に向かった。矢と魔法を受けながらも命は走り続け、ついに砦中央の中庭へと飛び込み、重圧魔法【フツノミタマ】を発動した。巨大な重力の牢獄が半径五十メートルに展開し、二十二名もの敵冒険者をまとめて地面へ縫い付けた。命自身もまたその重圧に耐えながら、敵を足止めすることに成功した。

ヘルメスが見抜いた情報戦

『神の鏡』越しに戦況を見守っていたヘルメスは、【アポロン・ファミリア】の対応の速さに違和感を覚えていた。『クロッゾの魔剣』への対処や命の侵入への反応があまりに早く、まるで敵側の情報が誘導されているかのようだったからである。彼は情報とは鮮度が高いほど強い武器だが、そこに毒が混ざれば劇薬になると語った。そして、その“毒”こそが内部に潜り込んでいたリリルカ・アーデであった。

リリの内通と西門突破

古城内部では、ルアンに化けたリリルカが完璧に役を演じ切っていた。四日前、本物のルアンは昏倒させられた上で街外れの倉庫へ閉じ込められており、リリルカが彼に成り代わって城内へ潜入していたのである。彼女は内部から情報を流し、敵戦力の誘導を進めていた。その成果として、西側が完全な死角となったタイミングで、リリルカは城門を開けた。そこからベルとヴェルフが古城内へ侵入し、観戦していたオラリオ中に大きなどよめきが走った。アポロンは激怒し、ヘスティアはようやく拳を握り締めて手応えを感じていた。

玉座の塔への道

リリルカはベル達へ、敵大将がいる玉座の塔へは砦三階から伸びる長い空中廊下を通るしかないと説明した。外部から直接塔へ入る手段はなく、そこには当然魔導士を中心とした迎撃部隊が待ち構えているはずであった。ベルとヴェルフはその情報を受けて突撃を開始し、役目を終えたリリルカは再び城内を攪乱するため別行動に移った。

ダフネの迎撃準備

玉座の塔では、ダフネが混乱する状況の中で防衛の指揮を執っていた。伝令からルアンの偽命令で戦力が外へ誘導されたこと、城内の多くが重圧魔法で拘束されていることを知り、事態の深刻さを悟る。やがてベルとヴェルフが接近しているとの報を受けた彼女は、長い空中廊下に魔導士と弓使いを配置し、一斉射撃で迎え撃つ構えを整えた。

ヴェルフの対魔法突破

空中廊下に姿を現したベルとヴェルフに対し、ダフネは合図とともに矢と魔法を放たせた。しかしその瞬間、ヴェルフが短い詠唱とともに対魔力魔法を発動し、魔導士達の魔法を内側から暴発させた。連鎖的に大爆発が起こり、弓使いも巻き込まれて迎撃隊は一気に崩壊した。爆煙の中をベルは高速で突破し、ダフネの脇を一瞬で駆け抜ける。ヴェルフはその場に残り、大刀を床へ突き立ててダフネへ向かい、冒険者なら武器で戦おうと不敵に告げた。こうして、ベルは玉座の塔の奥へ、ヴェルフはダフネ達との足止め戦へとそれぞれ進んでいった。

戦況を見守る者達

ヴェルフとダフネが激しく斬り結ぶ様子が『鏡』に映し出されると、バベル三十階の広間ではロキが面白がるように笑い、ヘファイストスもまた自らの眷族の奮戦に満足げな笑みを浮かべていた。街の酒場でも空気は変わり始めていた。これまで優勢と見られていた【アポロン・ファミリア】に賭けていた冒険者達は、ベル達の快進撃を前に焦燥を募らせ、必死にアポロン派へ声援を送るようになっていた。『豊穣の女主人』でもシルや店員達が『鏡』を見つめ、都市北端の【ロキ・ファミリア】ホームではティオナが大声でベルを応援し、アイズもまた無言のまま少年の姿を見守っていた。ベートは、ベルが自分の手で決着をつけたがっているのだろうと吐き捨て、少年の意地を見抜いていた。

ベルの決意

空中廊下を突破したベルは、リリから教えられていた経路を辿って塔内を進んでいた。古びた絨毯や埃を被った絵画が並ぶ通路は、まるで主を失った貴族の館のようであった。物陰から飛び出してきた敵を冷静に撃退しながら、ベルは前夜のリューの言葉を思い出していた。彼女はあくまで力を貸すだけであり、この戦いは派閥である彼等自身の手で、そして何よりベル自身の手で決着をつけなければならないと告げていた。急造の『魔剣』による力押しや、仲間を犠牲にした突破ではなく、自らの手でヒュアキントスを打ち倒し、敗北の悔しさと涙に終止符を打つことこそ、ベルが本当に望んでいることだった。三度目の再戦で、今度こそ勝つ。その意地を胸に、ベルは最上階を目指して進み続けた。

玉座の間の混乱

その頃、玉座の間ではベル接近の報がもたらされ、一気に緊張が高まっていた。ヒュアキントスは城内の醜態に怒り狂い、周囲の団員達へ怒声を浴びせていた。そんな彼に、カサンドラは何度もこの場を離れるよう必死に進言していたが、彼はそれを弱腰だと一蹴した。近衛の団員が十名もいれば、たとえベルが一人で攻め込んできても返り討ちにできると確信していたのである。しかしカサンドラはなおも怯え続け、ついには雷が昇ると呟いた。ヒュアキントスは晴れ渡った空を見て一笑に付そうとしたが、彼女が見つめていたのは空ではなく、自分達の足もとであった。

英雄願望の蓄力

塔の真下へ辿り着いたベルは、左右に伸びる巨大な螺旋階段の前で立ち止まった。上から敵が駆け下りてくる気配を感じながらも、彼は右手へ意識を集中させた。『英雄願望』の蓄力は以前と同じように働いていたが、大鐘楼の音が鳴らなかったあの時との違いもまた感じ取っていた。そして今、必要なのはあの時のような不確かな高まりではなく、明確な一撃であると悟る。彼は憧れの英雄アレギスの姿を胸に思い浮かべ、不死身と謳われた大英雄の勇姿をなぞるように、右手へ六十秒分の力を凝縮した。天へ向けて右手を掲げたベルは、最後にただ一言、『ファイアボルト』と唱えた。

雷の上昇と玉座の間の崩壊

次の瞬間、通常とは比べものにならぬ弩級の炎雷が直上へ向かって撃ち出された。塔内を貫くその一撃は床を罅割れさせ、純白の光を漏れ出させながら玉座の間へと到達する。ヒュアキントスがようやく異変に気付いた時にはすでに遅く、雷はまさに下から天へ昇るように炸裂した。カサンドラの予言通り、雷は空からではなく足もとから現れ、玉座の間そのものを大爆発で呑み込んだ。

戦争遊戯の開幕と都市の熱狂

戦争遊戯当日を迎えたオラリオは、朝から異様な熱気に包まれていた。酒場や大通りには観衆が溢れ、神々は『神の鏡』を通じて遠方の戦場を観戦する準備を整えていた。ギルド本部前では実況役のイブリとガネーシャが場を盛り上げ、神々も市民も冒険者も、この一戦を一大興行として待ち望んでいた。バベル三十階にはヘスティアとアポロンをはじめ多くの神々が集まり、戦争遊戯の開幕を見届ける体勢に入ったのである。

城壁破壊とリューの先制攻撃

開戦直後、【アポロン・ファミリア】の古城は早々に想定外の打撃を受けた。覆面姿のリューがヴェルフの用意した『クロッゾの魔剣』を用いて北側と東側の城壁を次々と破壊し、さらに砦本体にも砲撃を浴びせたのである。圧倒的な威力に城内は大混乱に陥り、アポロン派は急遽大量の戦力を城外に差し向けざるを得なくなった。リューは魔剣を使い潰した後も木刀で多数の敵を相手取り、同胞であるエルフの怒りすら正面から受け止めながら、友人を助けることを優先する姿勢を貫いた。

命の突入と敵戦力の拘束

リューの猛攻によって城外へ引きずり出された敵兵力に続き、命が城内へ侵入した。彼女は偽の『魔剣』を持つことで敵の注意を引きつけつつ、砦中央まで駆け抜け、重圧魔法【フツノミタマ】を発動した。その結果、中庭一帯にいた二十名以上の敵冒険者が結界内に閉じ込められ、動きを封じられた。命自身もその重圧に耐え続ける必要があったが、敵の大半を足止めするという大きな役割を果たした。これにより城内守備はさらに薄くなり、ベル達の突入を可能にする状況が整った。

リリの諜報と城内侵入

リリはルアンに変身して敵地に潜入し、古城内部の構造や敵配置を仲間へ伝えていた。決戦当日、リューと命の行動で北と東に敵の意識が向いている間に、彼女はルアンとして西門を開き、ベルとヴェルフを城内へ招き入れた。これにより【ヘスティア・ファミリア】側は正面戦闘ではなく、敵将ヒュアキントスのいる玉座の塔へ最短で迫ることに成功した。リリの潜入と誘導こそが、この作戦の核心であり、敵陣に運び込まれた“破滅”そのものであった。

ヴェルフの足止めとベルの単独進撃

西門から侵入したベルとヴェルフは、敵将のいる塔へ向かって進軍した。だが塔へ繋がる空中廊下ではダフネ率いる迎撃隊が待ち構えていたため、ヴェルフは自ら残って足止め役を引き受けた。彼は短い詠唱による対魔力魔法で敵魔導士達の魔力を暴発させ、迎撃隊の陣形を一気に崩壊させたうえで、ダフネとの直接戦闘に移った。その間にベルは単身で塔内へ突入し、ヒュアキントスとの決着をつけるため最上階を目指した。

玉座の間の崩壊

玉座の間ではヒュアキントスが城内の混乱に怒り狂い、カサンドラの不吉な忠告を聞き入れようとしなかった。だがベルは塔の真下で立ち止まり、【英雄願望】の蓄力を右手に集めたうえで【ファイアボルト】を放った。その一撃は通常の速攻魔法とは比べものにならない出力を持ち、玉座の間の床を下から撃ち抜いて大爆発を引き起こした。塔の上半分は消し飛び、ヒュアキントスはカサンドラに突き飛ばされる形でかろうじて生き延びたものの、周囲の近衛兵は全滅した。ベルは崩壊した瓦礫と砂煙の中から姿を現し、ついに敵将との一騎打ちへ持ち込んだ。

ベルとヒュアキントスの決戦

瓦礫の中で始まった再戦において、ベルは以前とは別人のような速度と技量を示した。アイズとティオナの指導で叩き込まれた対人戦の技術、ヴェルフの新装備、そして己の意地が結実し、ヒュアキントスを押し込んでいった。ベルの右手には新たに作られた《牛若丸弐式》があり、その一撃でヒュアキントスの波状剣すら叩き折った。追い詰められたヒュアキントスは魔法【アロ・ゼフュロス】を発動し、自動追尾する大円盤でベルを吹き飛ばすことには成功したが、その過程で決定打を与えられると思い込み、明確な隙を晒した。

逆転の一撃

右肩を潰され、追い詰められたように見えたベルであったが、そこはアイズから教えられた「追い込まれたその先が一番の好機」であった。勝利を確信したヒュアキントスが短剣による突きを繰り出した瞬間、ベルは後転して攻撃をかわし、その勢いのまま足で敵の短剣を蹴り上げた。完全に武器を失い、意識が一瞬止まったヒュアキントスに対し、ベルは使えなくなった右肩を捨て、左手のみで全力突進を敢行した。そして白兎の牙のような渾身の左拳をヒュアキントスの顔面へ叩き込み、彼を大きく吹き飛ばして戦闘不能にしたのである。これにより大将同士の勝敗が決し、【ヘスティア・ファミリア】の勝利が確定した。

都市と関係者の歓喜

ヒュアキントスの敗北が『鏡』を通して映し出されると、オラリオ全体は大歓声に包まれた。ギルド本部前ではエイナとミィシャが喜び合い、『豊穣の女主人』ではシルや店員達が勝利を祝った。酒場ではヘスティア派に賭けていた神々が熱狂し、アポロン派に賭けていた冒険者達は悲鳴を上げて賭券を破り捨てた。【ロキ・ファミリア】ホームでもティオナとアイズがベルの勝利を喜び、ベートは不機嫌そうにしながらも少年の成長を認めざるを得なかった。ベルは仲間達に囲まれ、その勝利は都市中の注目と賞賛を集めた。

アポロンへの裁定

一方、バベル三十階では敗北したアポロンが呆然と立ち尽くしていた。そこへ、これまで沈黙していたヘスティアが怒りを爆発させるように歩み寄り、戦争遊戯前にアポロンが約束した「勝者の要求は何でも呑む」という言質を突きつけた。慈悲を乞うアポロンの弁明を一蹴したヘスティアは、アポロンの全財産没収、【アポロン・ファミリア】解散、さらにアポロン本人の永久追放を宣言した。ベルを狙い、ホームを破壊し、街中で執拗に追い回した罪への報いとして、アポロンは都市から完全に排除されることとなったのである。

戦争遊戯の決着

こうして、圧倒的不利と見られていた【ヘスティア・ファミリア】は、仲間達それぞれの役割と決意、そしてベル自身の手による勝利によって、戦争遊戯を制した。リューの砲撃、命の拘束、リリの潜入、ヴェルフの支援、そしてベルの決着。そのすべてが噛み合った結果であった。都市を沸かせたこの一戦は、単なる番狂わせではなく、ベル達が本当の意味で仲間として結束し、未来を切り開いた戦いとして刻まれたのである。

勝利直後の安堵とリリの役割

戦いを終えた古城跡地では、ベル達が勝利の実感を噛み締めていた。命とヴェルフは、自分達だけで【アポロン・ファミリア】に勝利した事実に驚きつつも、今だけは誇ってよいと語り合っていた。そんな中、ベルはリリの前に屈み、助けてくれたことへの感謝を真っ直ぐに伝えた。自分は役に立てたのかと不安げに尋ねるリリに対し、ベルは、彼女がいてくれたからこそ自分はオラリオに帰れるのだと答えた。その言葉を受けたリリは、かつてベルとの関係が結び直された時のように、頬を染めて心からの笑顔を浮かべた。

壊れた首飾りと見えない加護

リューの提案に従い、ベル達は治療のため古城跡地を離れることにした。その直前、ベルは胸元にしまっていた首飾りを取り出した。それはシルから渡された守りの首飾りであったが、戦いの中で完全に砕けていた。宝石は粉砕され、金属部分にも大きな亀裂が走っており、もはや元の美しい姿は残っていなかった。ベルは、それが自分の身代わりになるように魔法の直撃を受け止めてくれたのではないかと直感した。さらに破損した内部には、何らかの徽章らしき刻印が見えたが、それが誰のもので何の意図で託されたものなのかは判然としなかった。空を見上げたベルは、この首飾りを巡る見えない誰かの存在を、ぼんやりと感じ取っていた。

アポロン派の崩壊と敗者達の行方

戦争遊戯の決着により、【ヘスティア・ファミリア】の勝利は都市全体に広く知れ渡った。敗北した【アポロン・ファミリア】は、ヘスティアの要求通り即座に解散となり、主神アポロンは眷族との別れと退団の儀式を済ませたのち、単身で都市を追放された。無所属となった元団員達は、それぞれ異なる道を歩み始めた。他派閥の勧誘に応じる者もいれば、今後の身の振り方を模索する者もおり、また落ちぶれていく者もいた。一方で、ヒュアキントスのようにアポロンへの忠誠を捨てきれず、ギルドの制止を振り切って主神を追う者も存在した。戦争遊戯の結末は、勝者だけでなく敗者達の運命にも大きな影響を与えたのである。

リリのけじめとソーマとの別れ

戦争遊戯から二日後、リリは一人で【ソーマ・ファミリア】の本拠を訪れていた。彼女はアポロン派から得た賠償金をもとに脱退金を用意し、担保として預けていた《ヘスティア・ナイフ》を引き取るために来ていた。ベル達の同行の申し出を断ったのは、自分の手で最後のけじめを付けたいという意志からであった。ソーマは淡々と脱退金を受け取り、保管していたナイフを返却した。そこでリリは、恨みでも皮肉でもなく、今まで世話になったことへの挨拶を口にした。するとソーマは、去ろうとする彼女を呼び止め、リリルカ・アーデと名を呼んだ上で、自分の非を詫び、最後に体に気を付けるよう告げた。かつて一度も与えられなかった主神からの言葉を受け、リリは振り返れないまま涙を浮かべ、震える声で返事をした。そして今度こそ【ソーマ・ファミリア】を後にした。

ソーマの変化と派閥の再出発

リリが去った後、ソーマはしばらくその場に立ち尽くしたのち、棚に並んでいた酒瓶をすべて取り出して木箱へしまい込んだ。そして使われなくなった杯を棚に置き直し、静かに目を細めた。この行動は、彼の中で何かが変わり始めたことを示していた。以後、【ソーマ・ファミリア】の派閥状況は少しずつ改善へ向かっていくことになる。リリの決別と訴えは、彼女自身だけでなく、かつて所属していた派閥にも小さくない変化をもたらしたのであった。

エピローグ ヘスティア・ファミリア

新たなホームの獲得

戦争遊戯の決着後、ヘスティア達は広い庭を持つ巨大な屋敷の前に立っていた。三階建ての邸宅には中庭と回廊も備わっており、広い敷地は鉄柵に囲まれ、花や庭木のある前庭まで整えられていた。これは戦争遊戯の勝利によって得た【アポロン・ファミリア】の本拠であり、ヘスティアは新しいホームだと誇らしげに宣言した。理不尽に以前のホームを壊された以上、文句は言わせないと胸を張る主神に対し、ベル達は驚きながらも新しい住まいの大きさに感嘆していた。

改装計画と仲間達の要望

屋敷を手に入れたことで、【ヘスティア・ファミリア】はこれまでとは比べものにならないほど環境が向上した。戦争遊戯の賠償金も十分にあり、ヘスティアはアポロンの趣味で飾られていた彫像などを撤去し、屋敷全体を改装する計画を語った。すると命は浴場の設置を願い出て、ヴェルフは鍛冶のための炉を作ってほしいと頼み込んだ。仲間達の要望を受けながらも、ヘスティアはまず派閥としての象徴を決めるべきだと提案した。

ファミリアのエンブレム

屋敷の玄関前の階段に座り込んだヘスティアは、画材を取り出してエンブレムの図案を描き始めた。以前から考えていたと言うその絵を完成させると、ヴェルフ、命、リリへ順に見せた。図案には炎が描かれており、それはヘスティアの象徴である護り火を表していた。しかしリリは、この意匠は結局ヘスティアとベルを象徴するものではないかと不満げに指摘した。それでもヘスティアは、この派閥は自分とベルが始めたのだから問題ないと誇らしげに言い切った。

本当の門出

やがて羊皮紙はベルの手にも渡った。そこには炎と鐘が重なり合うエンブレムが描かれていた。自分の象徴である鐘が含まれていることに気付いたベルは驚きを見せたが、ヘスティアは頬を染めながら、今日こそが本当の意味で【ヘスティア・ファミリア】の門出だと告げた。その言葉にベルは嬉しそうに笑みを浮かべ、仲間達と共にエンブレムを見つめた。炎と鐘を重ねた紋章は、こうして新しい派閥の象徴として掲げられることになった。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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