フィクション(Novel)継母の心得読書感想

小説「継母の心得 7 ぺーちゃんショック!」感想・ネタバレ

継母の心得7の表紙画像(レビュー記事導入用) フィクション(Novel)

継母の心得 6 レビュー
継母の心得 全巻まとめ
継母の心得 8 レビュー

物語の概要

■ 作品概要

本作は、マンガ『氷雪の英雄と聖光の宝玉』の世界に、非業の死を遂げる悪辣な継母キャラクター・イザベルとして転生した主人公が、義理の息子への溢れんばかりの愛と前世の知識を武器に、自らの運命と世界を変えていく異世界ファンタジーである。 第7巻では、前巻で起きた義息子ノアの誘拐事件が解決した後の物語が描かれる。救出されたノアと共に保護された赤ん坊が「神託」に関わる重要人物であることが判明し、周囲が騒がしくなる中、ノアと第二皇子イーニアスが地下迷宮の探検に乗り出すという、新たな局面へと物語が展開する。

■ 主要キャラクター

  • イザベル: 本作の主人公。前世は日本人であり、転生後は「悪辣継母」の役割を担うはずだったが、義息ノアの可愛さに目覚めて重度の親バカへと変貌した。オタク知識と深い家族愛を駆使し、平穏な日常を守るために奔走する。
  • ノア: イザベルの義理の息子。本来の物語では継母に虐げられる薄幸な少年だったが、本作ではイザベルの過保護なまでの愛情を受けて素直に成長している。第7巻では、友人である第二皇子と共に地下迷宮へ挑むなど、好奇心旺盛な一面を見せる。
  • イーニアス: 帝国の第二皇子。ノアの友人であり、彼と共に地下迷宮の探検を計画する。皇族という立場ながら、ノアたちと行動を共にする物語の重要人物の一人である。

■ 物語の特徴

本作の最大の特徴は、従来の「悪役令嬢もの」の派生でありながら、義理の息子との「擬似親子愛」をテーマの主軸に据えている点である。本来は敵対するはずの継母と継子の関係を、主人公の突き抜けた愛情(親バカ要素)によって、コミカルかつ心温まるホームドラマへと塗り替えている点が読者の支持を集めている。

また、単なる子育て物語に留まらず、前世のオタク知識(ゲームやマンガの知識)を活用してファンタジー世界の常識を覆していくカタルシスも魅力である。第7巻においては、誘拐事件の背後に潜む謎の組織や「神託」を巡る伏線、さらには「キノコ妖精」の進化といったファンタジー要素が強化されており、家族の絆と壮大な世界観の謎解きが並行して楽しめる構成となっている。

書籍情報

継母の心得 7
著者:トール 氏
イラスト:ノズ  氏
出版社:アルファポリス(レジーナブックス)
発売日:2025年4月5日
関連メディア展開:コミカライズ:作画:ほおのきソラ、構成:藤丸豆ノ介。

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あらすじ・内容

マンガ『氷雪の英雄と聖光の宝玉』の世界に、悪辣継母キャラとして転生したイザベル。実際に会った義息のノアはめちゃくちゃ可愛くて、 ノアのためならなんでもしてみせる! と自重しない日々を送っていた。――誘拐されたノアが無事保護され、安堵したイザベル。けれど 誘拐を企んだ犯罪組織はいまだ謎に包まれたまま。しかもノアと一緒に保護された赤ちゃんが、「神託」に関わる重要な子であることが判 明する。落ち着かない日々が続く中、ノアとイーニアス第二皇子が地下迷宮を探検すると言い出して……!? 家族への愛とオタクの力で異 世界を変える異色のファンタジー、新展開の予感高まる第7巻!

継母の心得7

感想

イザベルとノアたちの、温かな親子愛に満ちている7巻。
しかし、その裏側では、教会の闇や世界を左右する大きな宿命が、着実に動き出している。この、日常の柔らかさと、物語の重厚な展開が混ざり合う感覚が、本作の魅力なのだと感じる 。

特に印象に残ったのは、新しく家族に加わった、ぺーちゃん(フェリクス)の存在である 。彼には前世の記憶があり、イザベルのことを、かつてノアをいじめていた「最悪の悪女」として認識していた 。そのため、目の前にいる、あまりにも慈悲深い彼女の姿に、ずっと戸惑いを隠せない様子だった。疑念を晴らすために、鑑定魔法をかけた直後、ショックのあまり気絶してしまう場面は、彼の価値観が根底から崩れた瞬間として、強く印象に残った 。

また、第2章での「もふもふ」たちの活躍も、見逃せない。ナラやデュークといった犬たちが、ただ可愛らしいだけでなく、偽物の使いを、鋭い感覚で見抜き、捕縛する場面は痛快である 。癒やしを提供しながらも、きっちりと屋敷を守る彼らの姿に、公爵家の頼もしさを、改めて感じさせられた 。

さらに、ノアがイザベルのために、秘密裏に動いた一件には、胸が締め付けられる思いがした 。妊娠によるつわりに苦しむ母を、どうにかして助けたいという一心で、イーニアスと共に、皇宮へ料理を頼みに行く。誘拐事件の直後だっただけに、イザベルが真っ青になって、探し回る描写は、親としての恐怖が、痛いほど伝わってきた 。しかし、戻ってきたノアが抱えていた、贈り物の優しさを知ると、その成長と深い愛情にはホッコリした 。

後半の地下迷宮探検では、一気に、物語のスケールが、世界設定の核心へと広がった。イーニアスが、神殿の管理者として登録され、背中に印がついたことで、皇帝ネロが、我が身を裂くように絶叫する反応には、つい笑ってしまったが、親心としては、理解できる反応でもある 。
その一方で、枢機卿による、フローレンスを狙う計画が、じわじわと進んでいる点は、非常に不安である 。彼女の安全が、今後、どのように守られるのか、目が離せない。

なお、ひらがなや、カタカナが多く並ぶ場面は、読み進めるのに、少し骨が折れることもある。文字量そのものは、決して多くないはずだが、独特の表現が続くため、疲れが残る小説だと言える。

全体を通して、教会の権威争いという暗雲が、立ち込める中で、家族や仲間たちが、手を取り合い、絆を深めていく様子が、丁寧に描かれていた。ノアとイーニアスが、転移魔法を使えるようになった今、妖精の力も借りて、これから訪れる危機を、どのように乗り越えていくのか、期待が膨らんでいく 。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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考察

聖職者の赤ん坊

物語に登場する「聖職者の赤ん坊」は、ノアから「ぺーちゃん」と呼ばれている本名「フェリクス」という一歳ほどの男の子である。彼は単なる孤児ではなく、作品の背景にある教会や帝国の均衡に関わる非常に重要な存在である。

彼の正体や能力、そして彼を取り巻く状況について、以下の重要なポイントに分けて解説する。

誘拐事件からの救出とディバイン公爵家での保護

フェリクスは、ノアを誘拐した巨大犯罪組織「エンプティ」の監禁場所に囚われていた赤ん坊であり、ノアと一緒にディバイン公爵家に連れ帰られた。
・衰弱して眠り続けていたが、イザベルの手厚い看護や美味しい離乳食によって元気を取り戻していく。
・ノアは彼を弟のように可愛がり、二人は実の兄弟のように強い絆で結ばれている。

前世の記憶と「鑑定」の特異魔法

フェリクスは前世(回帰前)の記憶を持っている。
・かつての記憶にある「ノアを虐待する悪女のイザベル」や「悪魔のようなイーニアス」の姿を知っているため、最初は彼らに強い警戒心を抱いていた。
・相手のステータスを見抜く「鑑定」の特異魔法を持っている。
・しかし、この魔法は魔力を大きく消耗するため、本人の臆病な性格も相まって、驚いたり魔法を使ったりするとすぐに気絶してしまう。

「神託の子」であり「教皇」であるという真の正体

クレオ大司教はフェリクスを「自分の大切な孫」として深く愛しているが、その真の正体は七十年前の聖女の神託で予言された「全てを見通す瞳持つ赤子(未来を知り、信心なる者を導く存在)」である。
・さらに物語が進むと、クレオ大司教から歴代教皇の証である鍵(神の書が保管された部屋の鍵)を託される。
・これにより、彼こそが実質的な「教皇」であることが明かされる。

教会内部からの命の危機

フェリクスの誘拐は、彼の能力や存在を狙った教会内部の裏切り者による犯行である可能性が高いとされている。
・教会内ではクレオ大司教派と枢機卿派(エンプティと繋がっている可能性が高い勢力)が対立している。
・大司教自身も飲み物に睡眠薬を混入されるなど命の危機に晒されていた。
・クレオ大司教は「教会にいれば再び攫われ、最悪殺される」と判断し、フェリクスを最も安全なディバイン公爵家のイザベルたちに託す決断を下した。

イザベルたちとの絆による心の癒やし

前世の過酷な記憶や悪夢(戦乱や聖女フローレンスとの悲しい別れ)にうなされることもあったフェリクスだが、イザベルの無償の愛に触れることで次第に心を開いていく。
・彼女に優しく抱きしめられ、おしゃぶりで落ち着きを取り戻していく。
・やがてイザベルを「かぁちゃ」と呼んで慕うようになる。
・公爵邸を自分の温かい居場所として受け入れていく。

このように、フェリクス(ぺーちゃん)は世界を揺るがす教皇という重い宿命と前世のトラウマを抱えながらも、ノアやイザベルという新しい家族の愛に包まれて、子供らしい平穏を取り戻していく存在として描かれている。

焔の神殿

焔の神殿(焔神の神殿)は、創造神によって作られ、世界を安定させる役割を担う東西南北および中央にある神殿のうちの1つ(西の神殿)である。神殿内には不死の神獣である「不死鳥」が祀られている。

場所とアクセス方法

本来はグランニッシュ帝国の外でも内でもあるような魔法で作られた別空間に存在しており、外からは見えない場所であった。神殿へは以下の経路と手順で辿り着くことができる。
・皇宮の皇帝ネロの執務室にある本棚の裏の隠し扉から地下迷宮へ降りる
・地下迷宮からさらに魔力を込めて作動させる石や古代文字の転移陣を経由する
後にイーニアスの手によって神殿が復活した際、それまで見えていた空は幻影魔法による偽物であったことが明かされ、帝都から遠く離れた西の森に神殿の実体が現れた。

外観と内部の特徴

・外観:白い石でできた城で、屋根には大きな玉ねぎのような形のものが載っている。妖精たちからは「神殿に妖精や精霊が飛ぶ」という意味を持つ「クーポル」と呼ばれている。
・神の加護と罠:内部には多くの罠が仕掛けられており、普通に入れば命を落とすほど危険である。安全に入るためには「焔神の加護」が必要であり、祖先が焔神の神官だったイーニアス以外(皇后マルグレーテ、ソロモン、ノア)は、焔神からその日限りの特別な加護を与えられて足を踏み入れた。
・宝物庫:大理石のように磨き上げられた廊下の先には、侵入者を殺す石像(ゴーレム)が扉を守る宝物庫がある(ただし挨拶をすれば通してくれる)。壁も床も天井も金でできており、内部には金塊や金貨、巨大な宝石が山のように積まれている。

管理者と不死鳥の契約

先代の管理者が亡くなってから長い時が経っており、不死鳥の力だけでは維持が限界に達し、あと数百年で世界が滅んでしまう危機にあった。
そのため、宝物庫の転移陣から不死鳥のもとへ辿り着いたイーニアスが、神殿の新たな「管理者」として選ばれた。イーニアスが大きな透明の水晶に魔力を注いだことで、焔の神殿は復活を遂げた。
管理者となったイーニアスには、以下の変化や役割が与えられた。
・管理者の印:不死鳥から羽を胸に送られ、右肩甲骨あたりに炎の羽のような「管理者の印」が刻まれた。
・役割:神殿空間の管理、神獣の世話、不死鳥の言葉を伝える役割を持ち、月に一度神殿を訪れて水晶に魔力を注ぐことになる。
・能力の向上:不死鳥の神力を魔力に変換して利用できる仕組みとなり、より強力な火の魔法を使えるようになった。魔法の器は不死鳥が担うため、幼いイーニアスの身体に負担はかからない。

まとめ

焔の神殿は長らく管理者が不在であり、世界の存亡に関わる危機に瀕していたが、イーニアスが新たな管理者として選ばれたことで無事に本来の姿と機能を取り戻した。今後はイーニアスが不死鳥と協力し、月に一度の魔力供給を行うことで、世界の安定を支える重要な神殿として維持されていくこととなる。

妖精の進化

妖精の進化は、死ではなく虫の「脱皮」のように新しい身体へと再構成され、より優れた存在へと変化するプロセスである。作中では、小妖精から中妖精への進化について以下の仕組みや特徴が描かれている。

進化の条件とプロセス

・幸せの蓄積:小妖精は、幸せを感じるほどに体内に力を蓄え、体がパンパンに膨らんでいく。これは食べすぎで太っているわけではなく、病気でもない。
・破裂と再構成:幸せの力が限界に達すると、風船が割れるような大きな音とともに破裂し、一度姿を消す。その後、直径30センチほどの楕円形の光の玉が浮かび上がり、そこから新しい身体が形作られていく。
・子供の存在:妖精は元々子供と契約し、一緒に遊んだりおやつを食べたりする生き物であり、妖精の進化には子供の存在が必要不可欠とされている。

進化後の変化

進化を遂げると、妖精には以下のような成長が見られる。
・外見と知能の成長:身体が大きくなり、身長30センチほどの小人の姿になる。また、言葉も以前より流暢に話せるようになる。
・魔法の能力の向上:妖精自身の力が強くなる。例えば進化したアカとアオは、ノアやイーニアスといった契約した子供たちを、自分たち(妖精)が知っている場所へ転移させる魔法が使えるようになった。

まとめ

作中では、アカとアオがノアやイーニアスと一緒にアフタヌーンティーの菓子(プチシューやフルーツタルトなど)を食べてはしゃぎ、大きな幸せを感じたことが引き金となって中妖精へと進化を遂げた。突然破裂したため子供たちは妖精が死んでしまったと大泣きしたが、弟である正妖精から進化の仕組みを教えられ、無事に大きくなった姿を見て安堵している。

皇城地下迷宮

作中における宝石の加工術について、特に妖精アオが地下迷宮から持ち帰った巨大なブルーダイヤの加工エピソードを中心に、以下のポイントが描かれている。

従来の主流カットと職人の探求

当時の宝石加工の主流は「ローズカット」と呼ばれる技法であった。
・ディバイン公爵家御用達であるルークス宝飾店の宝石彫刻師ロマンは、これよりも優れたカットを常に追求していた。
・独自に「オールドマインカット」に通じる高度な技法を考案していた。

妖精の力を用いた「ブリリアントカット」の誕生

イザベルは、アオが持ち帰った古いカットのブルーダイヤを見て、より光を反射させる「ブリリアントカット」に加工すればさらに美しくなると考えた。
・彼女はアオが光の妖精であることに着目し、レーザービームを用いて加工できるのではないかと発案した。
・二人は離れの研究室にこもり、大量の宝石を練習台にして屑石を生み出しながらも、数日後には見たこともない輝きを放つブルーダイヤを完成させた。

ブリリアントカットの特徴と職人の驚愕

このブリリアントカットは、表面が57から58もの面で構成され、光を内側で反射させるように緻密に計算された加工術である。
・侍女カミラのミスによって偶然このブルーダイヤを一瞬目撃してしまったロマンは、その構造を即座に見抜いた。
・自身の考案した技法が赤子同然に思えるほどだと強い衝撃を受けた。

職人への技術継承への期待

ロマンが考案していた独自の技法や知識の深さを、イザベルは素晴らしい発想だと高く評価した。
・テオバルドがカットに失敗した屑石を見せる許可を出したうえで、イザベルはロマンに対し、まだ成功例が一つしかないブリリアントカットの再現に挑戦するよう勧めた。
・ロマンもその提案を受け入れ、新たな加工術の習得へと挑む決意を固めている。

まとめ

イザベルの知識と妖精の未知なる力によって誕生した「ブリリアントカット」は、熟練の職人であるロマンに大きな衝撃を与えた。彼がこの未知の技術の再現に挑む決意を固めたことで、新たな宝石加工技術がこの世界で受け継がれ、発展していく可能性が示されている。

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キャラクター紹介

イザベル・ドーラ・ディバイン

ディバイン公爵夫人の立場にある女性である 。義理の息子であるノアを深く愛しており、現在は新たな命を授かっている 。

・所属組織、地位や役職
 ディバイン公爵家・公爵夫人 。
・物語内での具体的な行動や成果
 誘拐事件で心の傷を負ったノアを献身的に支える 。赤ん坊のぺーちゃんを保護し、自ら考案したベビーマッサージなどの育児知識を普及させる 。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 公爵家内で動物や妖精と対話できる女神のような存在として崇められる 。子育て支援センターの設立に向けた実技研修を主導し、皇后からも信頼を得る 。

ノア

イザベルの義理の息子である 。誘拐事件の経験から他者の機微に敏感となり、赤ん坊のぺーちゃんを弟のように可愛がる 。

・所属組織、地位や役職
 ディバイン公爵家・公子 。
・物語内での具体的な行動や成果
 ぺーちゃんを元気づけるために庭へ連れ出し、家族や犬を紹介する 。母の体調を案じて皇宮へ料理を頼みに行く 。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 キノコ妖精のアオと契約を結び、転移魔法を使用可能となる 。地下迷宮の探検を経て、世界を救うヒーローになる決意を新たにする 。

ぺーちゃん(フェリクス)

ノアが救出した一歳ほどの赤ん坊である 。前世の記憶を保持しており、鑑定魔法を使用する能力を持つ 。

・所属組織、地位や役職
 教会の「神託の子」 。次期教皇 。
・物語内での具体的な行動や成果
 鑑定魔法でイザベルの情報を確認する 。大司教クレオから歴代教皇の証である鍵を継承する 。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 犯罪組織エンプティに狙われるが、ディバイン公爵家で保護を受ける 。教皇としての正当な継承者となる 。

テオバルド

ディバイン公爵家の当主である 。軍事を司る立場であり、妻のイザベルや息子のノアを深く慈しむ 。

・所属組織、地位や役職
 ディバイン公爵家・当主 。
・物語内での具体的な行動や成果
 ノア誘拐事件の背後にある犯罪組織エンプティの調査を指揮する 。教会内部の腐敗を暴くために「影」を動かす 。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 大司教クレオからの信頼を得て、ぺーちゃんと教皇の鍵の守護を引き受ける 。

クレオ

教会の頂点に立つ大司教である 。養い子であるフェリクスを実の孫のように大切に思っている 。

・所属組織、地位や役職
 教会・大司教 。
・物語内での具体的な行動や成果
 腐敗した教会内部からフェリクスを救うため、独断でディバイン公爵家に助力を求める 。自身の死期を悟り、教皇の鍵をフェリクスに託す 。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 かつて聖女の側付きを務めており、妖精の姿を視認できる特異な感性を持つ 。

マルグレーテ

グランニッシュ帝国の皇后である 。さっぱりとした性格の女性であり、イザベルとは育児を通じて親交を深める 。

・所属組織、地位や役職
 グランニッシュ帝国・皇后 。
・物語内での具体的な行動や成果
 子育て支援センターの研修に自ら参加する 。子供たちの地下迷宮探検に同行し、引率役を務める 。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 転移魔法の使い手であり、皇宮と公爵家の連絡役を担う 。

イーニアス

グランニッシュ帝国の第二皇子である 。ノアの親友であり、純粋で好奇心旺盛な少年として描かれる 。

・所属組織、地位や役職
 グランニッシュ帝国・第二皇子 。
・物語内での具体的な行動や成果
 地下迷宮の探検を提案し、焔の神殿に辿り着く 。神獣である不死鳥と対話し、神殿の管理者として登録される 。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 キノコ妖精のアカと契約を交わす 。右肩甲骨に管理者の印が刻まれ、以前より強力な火の魔法を扱えるようになる 。

ソロモン

グランニッシュ帝国の第一皇子である 。弟のイーニアスを大切に思っており、思慮深く冷静な性格を持つ 。

・所属組織、地位や役職
 グランニッシュ帝国・第一皇子 。
・物語内での具体的な行動や成果
 イーニアスに誘われて地下迷宮の探検に参加する 。探検中、年長者として子供たちの安全に気を配る 。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 妖精の存在を知る数少ない皇族であり、その秘密を命懸けで守る決意を固めている 。

ウィーヌス・ウラノ・ディオネ

教会の枢機卿であり、実質的な頂点に立つ人物である 。空色の長髪を持つ中性的な外見であり、神獣の加護を狙っている 。

・所属組織、地位や役職
 教会・枢機卿 。
・物語内での具体的な行動や成果
 皇宮図書館で坑道の地図を調査し、教会地下の通路を確認する 。オリヴァーやイザベルに接触し、情報を収集する 。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 犯罪組織エンプティとの関わりや、教皇派を蹴落とそうとする野心を抱いている 。

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展開まとめ

プロローグ

静かな夜と窓辺に立つイザベル

夜、照明を消した部屋には暖炉の光だけが揺れており、屋敷の中は夜間勤務の使用人たちが静かに働いているため、物音も少なく静寂に包まれていた。イザベル・ドーラ・ディバインは窓辺に寄り、ジャカードのカーテンを開けて外を眺めた。冷たい空気が顔を撫で、降り続く雪がバルコニーを白く染めており、世界に一人取り残されたような気分になった。

眠るノアと誘拐事件の記憶

カーテンを閉めて振り返ると、ベッドには眠っているノアの姿があった。その穏やかな寝顔を見て、イザベルは安堵した。だが『おもちゃの宝箱』で起きたノアの誘拐事件は、いまだにイザベルの心に影を落としていた。もし妖精のチロがそばにいなければ、もし影が間に合わなければという思いがよぎり、恐怖がよみがえっていた。ノアの姿を常に探してしまう自分に気づき、イザベルはそれではいけないと自らを戒めた。

悪夢にうなされるノア

その時、ノアが小さな声でおかぁさまと呼んだ。そばに近づくと、ノアは額に汗を浮かべ、うなされながら何度もイザベルを呼んでいた。誘拐された時の恐怖が幼い心に残っているのだと悟ったイザベルは、ノアの手を両手で包み込み、もう大丈夫であると優しく声をかけた。このやり取りはここ数日続いていた。

自分自身への悔恨

ノアの心に傷を残した事件と犯人を、イザベルは許せないと感じていた。しかしそれ以上に、あの時何もできなかった自分自身を許せずにいた。ノアの表情が少しずつ落ち着き、頬に赤みが戻っていく様子を見ながら、イザベルはこの子のために何ができるのかと考えていた。

ノアの寝顔と新たな赤ん坊への思い

ノアの小さな手の温もりを感じながら、イザベルの胸には穏やかな幸福感が広がっていった。最近はしっかりした兄のように振る舞うノアを誇らしく思いつつも、少し寂しさも感じていた。しかし眠る姿はまだ赤ん坊のようであり、頬を軽く突きながら、幼い頃のノアを想像して癒やされていた。そして可愛いといえば、ノアが連れ帰ってきた赤ん坊もとても可愛かったと、イザベルは思いを巡らせていた。

第一章 悪女とぺーちゃん

眠り続ける赤ん坊ぺーちゃん

イザベル・ドーラ・ディバインの前にあるベビーベッドから、可愛らしい寝息が聞こえていた。そこにはノアが連れ帰った赤ん坊ぺーちゃんが眠っていた。ぺーちゃんはノアを誘拐した組織に囚われていた子供であり、現在はテオバルドが親を探している状況であった。年齢は一歳ほどで、ディバイン公爵家の本邸に来てから一日が経ってもまだ眠り続けていた。医者の診察では異常はないものの衰弱しているため、しばらくは眠らせておき、長く眠るようなら起こして食事を与えるよう指示されていた。ノアも疲れているのか起きておらず、イザベルは心配していた。

ぺーちゃんを起こす

イザベルはそろそろ起こすべきかと考え、侍女ミランダに促されてぺーちゃんを優しく起こした。ぺーちゃんは身体を揺らされながら目を覚まし、イザベルを見て驚いた様子を見せた。ミランダがイザベルの美しさに驚いているのではないかと冗談のように言い、イザベルはそれを否定した。ぺーちゃんは混乱した様子で声を上げていたが、イザベルには赤ん坊の可愛らしい反応にしか見えなかった。

ぺーちゃんとの握手

イザベルが自分はノアの母でイザベルであると名乗ると、ぺーちゃんは小さな手を差し出した。イザベルはそれを握手の意思と受け取り、ぺーちゃんの手を取って握手を交わした。その様子を見たメイドたちも赤ん坊の可愛さに喜んでいた。ノアの名前を聞いたぺーちゃんは突然布団を跳ね除け、四つん這いになって周囲を見回しながらノアを探し始めた。

戸惑うぺーちゃんと世話をするイザベル

ぺーちゃんは周囲を見回し、自分のいる場所を確認するような様子を見せた。まだ誘拐されていると思っているのではないかとイザベルは考え、寝汗をかいたぺーちゃんの顔や首をタオルで拭いてやった。ぺーちゃんはタオルの感触を気に入った様子で、気持ちよさそうにしていた。

離乳食を用意する

そこへミランダが戻り、机と椅子を用意して離乳食を運んできた。イザベルはぺーちゃんを椅子に座らせ、食事を勧めた。ぺーちゃんは料理を見て目を輝かせ、口を開けて食べさせてもらうのを待っていた。イザベルが食べさせると、ぺーちゃんは震えるほど驚きながら美味しそうに食べ始めた。

満足して食事を終えるぺーちゃん

ぺーちゃんは離乳食を残さず食べ切り、満足そうに音を立てた。口の周りをタオルで拭いてもらうと、ぺーちゃんはタオルや食事が好きだと嬉しそうに声を上げた。衰弱していると聞いていたイザベルは、食欲がある様子に安堵した。ぺーちゃんは満腹になり、ぽっこりしたお腹を叩いて満足そうにしていた。

赤ん坊のための部屋

ぺーちゃんがいる部屋には、ベビーベッドや家具、服など赤ん坊用の品が揃えられていた。それらはこれから生まれてくる子供のためにテオバルドが準備していたものであったが、思いがけず役立つことになっていた。

ノアの登場

その時、扉の方を見たぺーちゃんが声を上げ、ノアが部屋に入ってきた。イザベルは元気そうなノアの姿に安心したが、ノックを忘れていたことを注意した。ノアは素直に謝り、イザベルはその可愛さに強く言えなくなった。

ノアをかばうぺーちゃん

イザベルが注意した様子を見て、ぺーちゃんはノアをかばうような声を上げた。ノアは自分がノックを忘れたのだと説明し、自分が叱られるべきだと伝えた。イザベルはノアがきちんと理解していることを褒め、頭を撫でた。ノアは次から気をつけると答え、イザベルに抱きついた。

ぺーちゃんに説明するノア

驚いた様子のぺーちゃんに、ノアはここが自分の家であること、イザベルは自分の母でありとても優しい人であることを伝えた。ノアはぺーちゃんに怖い人はもういないから安心するよう語りかけた。ぺーちゃんはノアの言葉を聞き、怖くないのかと確かめるように問い返していた。

イザベルへの警戒とノアへの信頼

ぺーちゃんは離乳食の美味しさに気を取られ、一時はイザベル・ドーラ・ディバインへの警戒を忘れていたが、顔を拭かれて心地よくなっていた自分を恥じていた。ふわふわのタオルで油断を誘っているのだと考え、前世とは違う姿を見せて自分を籠絡しようとしているのではないかと疑っていた。そこへノアが部屋に入ってきたことで我に返ったが、イザベルがノアを叱ったため、やはり前世のようにノアを虐待しているのだと思い、ぺーちゃんは怒った。

ノアの言葉による違和感

しかし、ぺーちゃんの予想に反して、ノアはイザベルのことを優しくて大好きなお母様だと嬉しそうに語った。ぺーちゃんは洗脳を疑ったものの、ノアの目はきらきらと輝いており、虐待や洗脳を受けているようには見えなかった。さらに、ノアが怖くないと優しく声をかけてきたことで、ぺーちゃんは前世の英雄ノアそのものだと感じ、状況に強い違和感を覚えた。

鑑定で見えたイザベルの情報

疑念を確かめるため、ぺーちゃんは特異魔法の鑑定を使い、イザベルの情報を見た。そこには名前や年齢、家族構成、レベル、体力、魔力、魔法属性、状態、加護、スキルなどが示されていたが、一部は判読できない内容であった。鑑定を終えたぺーちゃんはイザベルを見つめたまま怪訝な顔をし、やがて目を見開いて子猫のような声を漏らした後、チーズと言い残して突然眠ってしまった。イザベルはその様子を見て、チーズが食べたかったのかと受け取り、ノアにはご飯をたくさん食べたため眠くなったのだろうと説明していた。

フェリクス失踪を巡る教会内の対立

大司教クレオは、養い子である赤子フェリクスの行方がわからなくなったにもかかわらず、騎士団への捜索願いに反対する司祭たちに苛立っていた。司祭たちは、騎士団を教会内部に入れることは神聖な場所への冒涜であり、教会の立場を損なうと主張していた。だがクレオは、欲にまみれた者たちが出入りする方がよほど神への冒涜であると考えていた。

フェリクスを巡るクレオの怒り

クレオは、たかが孤児の赤子がいなくなった程度で騒ぐべきではないと語る司祭に激怒し、フェリクスは自分の大切な孫であり、神託の子であって、司祭たちよりもはるかに大事な存在だと言い放った。司祭たちはその言葉に反発したが、クレオは反省の色を見せない彼らに強い不快感を覚えていた。

教会と帝国の均衡への懸念

一方で司教は、教会の権威が弱まっている今、騎士団に教会内部の捜査を許せば、教会がグランニッシュ帝国の下についたと世間に見なされ、世界の均衡が崩れかねないと訴えた。クレオはその言葉を聞き、現在の帝国が皇室、教会、ディバイン公爵家の三つ巴で成り立っていること、そしてディバイン公爵家が皇室を支持しているからこそ辛うじて均衡が保たれていることを思い返した。そのため、自らが教会に騎士団を招けば、教会を私物化したと見なされ、帝国が各国から攻め込まれる口実になりかねないと理解した。

ディバイン公爵家への独自の依頼

その結果、クレオは騎士団への依頼を断念し、代わりに個人としてディバイン公爵へ助力を求めることを決めた。ディバイン公爵家は軍事を司っており、思慮深い公爵なら秘密裏に動いてくれると考えたためである。誘拐犯がフェリクスの能力を狙っているなら命までは奪わないはずだと考え、なんとしてでも無事に取り戻そうと決意した。

一週間の旅路と公爵邸への到着

クレオは帝都の教会を飛び出し、馬車で一週間かけてディバイン公爵領へ向かった。老体には厳しい旅であったが、出発時に先触れを出していたため、領都に到着すると公爵家の騎士たちが門で待ち受けており、公爵邸まで先導してくれた。

フェリクス保護の報せと安堵

公爵邸に入ると、クレオはすぐに公爵との面会を果たした。貴族としての挨拶も省き、フェリクスが行方不明であることを必死に訴えたクレオは、公爵からフェリクスを保護していると聞かされ、大きな安堵を覚えた。さらに怪我も熱もなく、医師の診察でも健康と告げられたことで、クレオは心から安心していた。

気絶の理由への察し

ただし、公爵はフェリクスが二度気絶したと伝えた。クレオはその話から、フェリクスが鑑定を使ったのだと察した。フェリクスの特異魔法は魔力を大きく消耗し、本人も非常に臆病であるため、驚くとすぐ気絶してしまうのであった。クレオはあれほど鑑定を使うなと言っていたのにと思いながらも、公爵に不審そうな顔をさせてしまったことを恥ずかしく感じていた。

客間への呼び出しと保護者判明への期待

公爵家の寝具やタオル、離乳食をぺーちゃんは気に入っていたが、とりわけ夢中になっていたのはノアに抱っこされることであった。試作段階だった抱っこ紐を完成させたことで、ノアも楽にぺーちゃんを抱っこできるようになっていた。イザベルはその微笑ましい様子を眺め、ぺーちゃんが自分たちの言葉を理解しているような反応を見せることにも気づいていた。そこへ執事長ウォルトが現れ、旦那様がぺーちゃんを連れて客間に来るよう伝えてきたため、イザベルは保護者が見つかったのではないかと考え、ノアとともに客間へ向かった。

クレオ大司教との対面

客間に入ると、ぺーちゃんはフェリクスと呼ばれ、白い聖職者の衣をまとった老人が涙目でぺーちゃんに手を伸ばしていた。テオバルドは、その人物がクレオ大司教であるとイザベルとノアに紹介した。イザベルは大司教という立場に驚きつつ挨拶し、ノアも自ら名乗った。クレオ大司教は穏やかに応じ、ぺーちゃんの世話をしてくれたことに礼を述べた。ノアは赤ん坊の名がフェリクスであることに戸惑いながらも、ぺーちゃんという呼び名を伝えたため、クレオ大司教はフェリクスが自分でそう教えたのだと受け止めていた。

ぺーちゃんの家族事情

イザベルが保護者について考えていると、クレオ大司教はフェリクスには父母がおらず、自分が迎えに来たのだと先回りして伝えた。イザベルは不用意な視線を向けてしまったことを詫びたが、クレオ大司教は気にせず穏やかに受け流した。その後、クレオ大司教はフェリクスを自分のもとへ戻そうとしたが、ノアはぺーちゃんを離したがらなかった。そこでテオバルドが、ぺーちゃんも家族のもとへ帰りたいはずだと諭したため、ノアはぺーちゃんに向き直った。

ノアとぺーちゃんの別れ

ぺーちゃんはノアの頬に小さな手を当て、クレオ大司教はそれをありがとうという言葉であると伝えた。ノアも涙を堪えながら礼を返し、二人は抱き合って別れの挨拶を交わした。クレオ大司教はまた会いに来ようとぺーちゃんに語りかけ、ぺーちゃんも返事をした。やがて抱っこ紐を外し、ノアがぺーちゃんをクレオ大司教へ渡すと、ノアは涙をこぼし、ぺーちゃんもまた泣きながらノアに手を伸ばした。クレオ大司教は二人を優しくあやし、また会えると諭していた。

翌日の再会

別れの翌日、クレオ大司教はぺーちゃんが会いたがっているとして再び公爵家を訪れた。前日に涙の別れをしたにもかかわらず、ノアとぺーちゃんは客間で楽しそうに積み木で遊んでいた。イザベルはその切り替えの早さに驚きつつ、二人のやり取りを見守っていた。

フェリクス預かりの依頼

積み木遊びの最中、クレオ大司教は姿勢を正し、実はお願いがあると切り出した。そしてフェリクスをしばらくこちらで預かってほしいと頼んだ。イザベルは驚いたが、クレオ大司教がぺーちゃんを大切に思っていることは理解していたため、余程深い事情があるのだと感じた。ノアが懐いており、公爵家なら安全だという言葉もあり、イザベルは面倒を見ることは可能だと考えて了承した。

教会内の危険と神託の赤子

だがクレオ大司教は、教会にいればフェリクスは再び攫われるかもしれず、最悪殺される可能性もあると明かした。さらに神託について語り、七十年前に聖女が受けた夜の帳が下りる時、全てを見通す瞳持つ赤子立つ。その者未来を知り、信心なる者を導くという言葉を伝えた。その神託の赤子こそフェリクスであり、誘拐もその存在を狙った教会内部の者による可能性が高いと説明した。フェリクスの世話を任せていたシスターも姿を消しており、クレオ大司教は信じていた相手に裏切られたことを悲しんでいた。

睡眠薬混入と視える力

クレオ大司教は、ぺーちゃんを教会へ連れ帰った後、自分の飲み物に睡眠薬が混ぜられるようになったため危険を察知したと話した。イザベルがどうしてそれがわかったのか尋ねると、クレオ大司教は自分は昔から視える者であり、イザベルの肩やノアとぺーちゃんの間に小さな光が見えていると答えた。さらに、自分が子供の頃には聖女のそばにも同じような小さな光が寄り添っていたことを明かした。声は聞こえないものの、その小さな光たちが飲み物を取ろうとするたびに邪魔をしたため、不審に思って調べた結果、睡眠薬の混入が判明したのであった。

公爵家での保護決定

クレオ大司教は、公爵には昨夜の時点で手紙で相談し、最終的な判断はイザベルに任せると言われていると伝えた。イザベルはミランダの反応も見ながら、公爵家の警備が見直されたばかりであることを踏まえ、ぺーちゃんを保護する決意を固めていた。イザベルはクレオ大司教自身も滞在してはどうかと提案したが、教会を刺激しないためにもそれはできないと断られた。

おやつと犬の話

その最中、ぺーちゃんはお腹が空いたとノアに訴えた。イザベルはぺーちゃんを抱き上げ、クレオ大司教におやつを与えてよいか確認したうえで、ミランダに赤ちゃん用のおやつを用意させた。会話の流れで、ぺーちゃんは犬が好きであり、ノアの家にいるナラとデュークに会いたがっていることもわかった。イザベルは安堵し、おやつの後に犬を見に行こうと二人に伝えた。

おやつの時間と大豆菓子の好評

やがておいもを使ったおやつやたまごボーロが並べられ、ノアもぺーちゃんも喜んで食べ始めた。ぺーちゃんはたまごボーロを美味しそうに食べたあと、クレオ大司教にも食べさせていた。さらにノアは赤ちゃんも食べられるフレンチトーストを頬張り、ぺーちゃんにも食べさせた。ぺーちゃんは、きな粉と豆乳で作ったそのフレンチトーストを大いに気に入り、はしゃいでいた。クレオ大司教はその言葉を通訳し、かなり気に入ったようだと伝えた。

レシピ提供の申し出

クレオ大司教は、その後でレシピを教えてほしいと頼んだ。イザベルは帰る際にレシピと使用する食材も渡すと答えたうえで、それがまだ広まっていない新種の豆を使ったものであり、身体にも良いものだと説明した。クレオ大司教は貴重すぎるとして恐縮したが、イザベルは大豆を広めたいと考えており、影響力のある大司教に食べてもらえれば他の者も受け入れやすくなると考えて協力を求めた。クレオ大司教はその申し出を受け入れ、感謝を述べていた。

クレオ大司教との別れ

クレオ大司教は帰る前に、フェリクスへ我儘を言わないこと、好き嫌いをしないこと、そしてある力を使わないことまで細かく言い聞かせていた。さらに荷物はメイドに預けてあり、夜に使うぬいぐるみやおしゃぶりも持ってきていると伝えた。フェリクスはノアに聞かれるのを恥ずかしがっていたが、クレオ大司教はその反応を微笑ましく受け止めていた。

しばらく離れる事情の説明

クレオ大司教は、しばらく会えなくなるが辛抱してほしいとフェリクスに告げたうえで、帝都の教会に戻って大掃除をしてから迎えに来ると伝えた。フェリクスは一緒に行きたがったが、危険であるため連れて行けないと諭された。クレオ大司教は、フェリクスが安全な場所にいてくれることが自分の安心につながるのだと語り、フェリクスを宥めていた。

イザベルへの託付と大司教の帰還

クレオ大司教はイザベル・ドーラ・ディバインにフェリクスを託し、よろしく頼むと頭を下げた。イザベルはそれを受け、道中を気遣いながら見送った。クレオ大司教は必ず迎えに来るとフェリクスに約束し、そのまま帝都へ戻っていった。フェリクスは大泣きしながらその別れを見送っていた。

元気をなくしたぺーちゃんとノアの提案

クレオ大司教が去った後、ぺーちゃんはしゅんとして口数も少なくなっていた。その様子を見たノアは、ぺーちゃんが元気がないことを心配した。イザベルも、おじい様と離れ離れになったためだと受け止めていた。するとノアは、ぺーちゃんにナラとデュークを見せるのだと言い出し、イザベルはそれで大丈夫なのかと気にしていた。

第二章 もふもふと悪夢

大司教の帰還後のぺーちゃんの寂しさ

クレオ大司教が公爵邸を去った後も、ぺーちゃんは寂しそうに扉を見つめ続けていた。ノアはそんなぺーちゃんに寄り添い、元気を出すよう優しく声をかけた。そしてぺーちゃんを元気づけようと、ナラとデュークを見に行こうと提案した。ぺーちゃんはその言葉を聞き、嬉しそうな反応を見せていた。

ノアとぺーちゃんの庭への散歩

ノアは手を差し出し、ぺーちゃんと手をつないで庭へ向かって歩き出した。ぺーちゃんの歩みに合わせてゆっくり進むノアの姿を見て、イザベル・ドーラ・ディバインは成長を感じていた。ぺーちゃんはもふもふした動物が好きであるらしく、ナラとデュークに会えることを楽しみにしていた。

ドーベルマンとの対面

庭ではナラとデュークがノアとぺーちゃんの姿を見つけ、尻尾を振りながら吠えて迎えた。二匹は飼い主に従順で賢く優しい犬であったが、外見は迫力があり、ぺーちゃんは震えながらノアの後ろに隠れていた。ノアは二匹の頭を撫でながらぺーちゃんを紹介したが、ぺーちゃんはまだ怖がっている様子であった。

デュークの接近とノアの叱責

やがてデュークが後ろに回り込み、ぺーちゃんの頭の匂いを嗅いだり舐めたりし始めた。イザベルが慌てて止めようとした時、ノアがデュークに対してぺーちゃんの頭を舐めてはいけないと叱った。デュークはしゅんとした様子を見せ、その様子を見たぺーちゃんは嬉しそうな反応を見せていた。

ぺーちゃんの突然の眠り

その後、ぺーちゃんはいつの間にかイザベルにもたれかかり、眠ってしまった。ノアはぺーちゃんが眠ったことを伝え、赤ちゃんは突然眠るものなのかとイザベルは感じていた。ナラはデュークを叱るような様子を見せ、イザベルはデュークが悪いわけではないと伝えた。

犬とのやり取りと噂の広まり

ナラとデュークはイザベルの言葉を理解しているかのように反応していた。妖精チロの言葉から、二匹が人の言葉を理解していることをイザベルは知った。その後、イザベルが犬と会話している様子が使用人たちの間で噂となり、妖精や動物と話せる女神のような存在であるという話が公爵家の中に広まっていった。

ノアの抱っこの申し出

眠ったぺーちゃんを抱いていると、ノアが自分が連れていくと言って抱っこしようとした。イザベルは危ないと考えたが、ノアは抱っこ紐を使えば抱けると言い出した。カミラが抱っこ紐を持ってきて、ミランダが装着すると、ノアはぺーちゃんを抱いて屋敷へ戻り始めた。

子猫と犬たちとともに屋敷へ戻る

ノアの後ろには最近屋敷に迎えられた子猫がついて歩き、その後ろをナラとデュークが続いた。その光景を見ながら、イザベルも後を追って屋敷の中へ戻っていった。

ぺーちゃんの目覚めと不安

屋敷に戻ってしばらくすると、ぺーちゃんは突然目を覚ました。リビングに置いたベビーベッドで眠っていたが、汗をかきながら天井を見つめていた。イザベルが抱き上げて背中を叩いて落ち着かせると、ぺーちゃんは次第に安心した様子を見せた。

おしゃぶりで落ち着くぺーちゃん

ぺーちゃんが指をくわえているのを見て、イザベルはミランダにおしゃぶりを持ってこさせた。おしゃぶりをくわえたぺーちゃんは落ち着き、じっとイザベルを見つめていた。ノアの名前を呼ぼうとした拍子におしゃぶりが落ちたため、イザベルはソファで眠っているノアの姿を見せて安心させた。

犬を探すぺーちゃんと子猫との触れ合い

ぺーちゃんは犬のことを思い出して周囲を見回した。犬は外へ戻ったと伝えると残念そうにしたため、イザベルはノアの布団の中で眠っている子猫を見せた。ぺーちゃんは喜び、小さな手で子猫を優しく撫でていた。その様子を見た使用人たちも微笑んでいた。

母を求めるぺーちゃん

子猫を撫でながら、ぺーちゃんはかぁちゃと呟いた。両親がいないと聞いていたイザベルは、その言葉を聞いて優しく応えた。安心させるように声をかけると、ぺーちゃんはイザベルの腕の中で目を閉じ、再び眠りについた。

悪夢の中で見た戦乱とフローレンスの別れ

ぺーちゃんは、砂埃と血が飛び交い、街が無惨に荒れ果てた戦場のような光景を見ていた。タイラー子爵やイーニアス、イザベルを倒したはずなのに戦争が起きていることに戸惑い、隣にいた聖女フローレンスに問いかけた。するとフローレンスは、ノアの判断は仕方なかったが、自分たちは間違えたのだと悲しげに語った。さらに悪魔はタイラー子爵ではなかったと告げたが、その真意が明かされる前に、皇室騎士団がフローレンスを捕らえに来た。フェリクスが逃げようと促しても、フローレンスはノアに迷惑をかけられないと立ち上がらず、皇族暗殺の容疑で連行されていった。フローレンスは別れ際にノアを頼むと告げ、フェリクスは何もできない自分の無力さを痛感していた。そして聖女フローレンスが処刑されたという報せまで聞き、苦しさと悔しさに押し潰されていた。

夢から覚めたぺーちゃんとイザベルの慰め

ぺーちゃんは夢から覚めると、ディバイン公爵家の部屋の中にいた。ドーベルマンに会った直後であったことや、自分の頭が無事であることを確認して安堵したところへ、イザベル・ドーラ・ディバインがおしゃぶりを咥えさせた。ぺーちゃんは反発しつつも、おしゃぶりで落ち着きを取り戻した。イザベルは怖い夢を見たのかと気遣い、ノアもそばにいると伝えたため、ぺーちゃんはノアの居場所を気にした。イザベルがソファで眠るノアを見せると、ぺーちゃんはその姿に見惚れていた。

犬への未練と子猫との触れ合い

ぺーちゃんはワンちゃんのことも思い出し、もう会えないのかと気にしていた。イザベルは、ぺーちゃんが眠ったので犬は自分たちの家へ戻ったと教えた。ぺーちゃんは残念そうにしたが、代わりにノアの布団の中に子猫がいると聞くと勢いよく反応した。そして子猫を触らせてもらい、その極上の触り心地に夢中になった。イザベルはそんなぺーちゃんの頭も優しく撫で、ぺーちゃんはその温かさに母親のようなものを感じていた。

かぁちゃという呼びかけと安心

ぺーちゃんはイザベルに抱かれたまま、かぁちゃと呟いた。イザベルはそれに応え、自分がここにいるから安心するよう伝えた。ぺーちゃんは怖い夢の記憶を抱えながらも、今は温かい居場所があるのだと感じ、イザベルの腕の中で安らいでいた。

支援センター準備とベビー用品開発

ぺーちゃんを預かってから一週間が経ち、イザベルは子育て支援センターやベビーグッズの開発についてミランダやカミラと話していた。実際に赤ちゃんを育ててみることで必要なものが見えてきたと感じており、抱っこ紐のおんぶ機能などの工夫も好評であった。一方でミランダは、妊娠中であるイザベルが仕事をしすぎないよう釘を刺していた。支援センターに関しては、医師と監修した冊子をスタッフ候補たちがよく読み込んでおり、今後は子供同伴の実習も予定されていた。イザベルは、自分が赤ちゃんを産む頃には計画が軌道に乗りそうだと考えていた。

子猫を抱くぺーちゃんと外への興味

その頃、ぺーちゃんは子猫を抱っこしながらよちよち歩いていた。周囲の大人たちはいつでも支えられるよう身構えながら見守っていたが、ぺーちゃんもノアも構わず進んでいた。ノアによれば、ぺーちゃんはナラとデュークに会いに行こうとしていた。イザベルは、この広い屋敷の中を赤ちゃんの足で外まで行くのは難しいと考え、自分が抱っこして連れて行くと申し出た。ぺーちゃんは少し考えたあと、それを受け入れた。

ノアの抱っこへのこだわり

イザベルがぺーちゃんを抱き上げると、ノアが泣きそうな顔でドレスを引っ張った。イザベルは一瞬、自分が赤ちゃんに取られたと思って嫉妬しているのかと考えたが、ノアは自分もぺーちゃんを抱っこするのだと訴えた。イザベルは、その言葉に少し意外な気持ちを抱いていた。

テオバルドによる誘拐事件の報告

一方テオバルドは皇城で、皇后と皇帝にノア誘拐事件の調査状況を報告していた。事件を起こしたのはエンプティという世界各国に拠点を持つ巨大犯罪組織であり、その実態把握は公爵家でも難しく、調査は進んでいなかった。皇后はノアが狙われたことに激怒しており、テオバルドが監禁場所にもう一人赤ん坊が捕らえられていたと告げると、さらに驚いた。

クレオ大司教の孫と教会への疑念

その赤子がクレオ大司教の孫であると聞かされ、皇后と皇帝は強く反応した。皇后はクレオ大司教について、庶民から大司教にまで上り詰めた人物であり、若い頃は聖女の側付きも務めた、庶民に人気の高い聖職者だと説明した。しかし同時に、ただの善人ではなく相当な狸でもあると見ていた。テオバルドは、エンプティと教会の一部の者が繋がっているようだと報告し、さらにエンプティの幹部は教会関係者なのではないかと考えていることを伝えた。

庭で遊ぶ子供たちと穏やかな時間

雲一つない青空の下、ぺーちゃんとノアは、公爵邸の芝生の上でナラとデューク、そして子猫とともに遊んでいた。ぺーちゃんは実際にはよちよち歩きでイザベルのそばではしゃいでいたが、本人はノアと駆け回っているつもりでいた。デュークがぺーちゃんの背中を鼻で押して驚かせると、ノアはすぐにデュークをたしなめており、その様子を見たイザベルとカミラは、ノアがすっかりお兄ちゃんらしくなったことを微笑ましく感じていた。最初はナラとデュークを怖がっていたぺーちゃんも、すでに打ち解けており、イザベルは子供の順応の早さを実感していた。

教会関係者の来訪と警戒

そんな穏やかな時間の最中、ミランダがクレオ大司教の使いを名乗る教会関係者がぺーちゃんを迎えに来たと耳打ちした。現在は執事が対応しており、イザベルが会う必要はないこと、公爵家の敷地には決して入れないことも伝えられた。カミラはすぐにノアたちのもとへ向かい、護衛も子供たちの周囲を固めた。イザベルは子供たちを屋敷へ戻そうと声をかけたが、その最中もノアはぺーちゃんの言葉を自然に理解し、二人はおやつの話をしながら手をつないで歩いてきた。ナラとデュークが護衛のように寄り添い、子猫まで周囲を警戒しているような光景に、イザベルは絵本のようだと感じていた。

不自然なタイミングへの疑念

ミランダの態度から、来訪者が大司教の使いではないことは明らかであり、ぺーちゃんを狙ってきたのだとイザベルは理解した。もっとも、ここはディバイン公爵家であり、簡単に侵入できる場所ではないとも考えていた。だが同時に、今日はテオバルドが帝都へ転移した日であり、前回の誘拐事件と同様に妙に都合のよいタイミングで動きが起きていることに不安を抱いた。使用人の中に情報を流している者がいる可能性も一瞬考えたが、妖精たちはスパイはいないと告げており、イザベル自身も公爵家の使用人を疑いたくはなかった。転移の事実を知る者も限られているため、その中に裏切り者がいるとは考えたくなかったが、やはりタイミングが良すぎる以上、この謎は解かなければならないと考えていた。考えられるのは何らかの特異魔法であり、イザベルには未来予知くらいしか思い当たらなかった。

ノアへの配慮と表情の隠蔽

考え込むイザベルの様子に、ノアはすぐに気づいて心配そうに見上げてきた。ノアが感受性の強い子で、人の機微を読むのが上手であることを知っていたイザベルは、不安を悟らせてはいけないと考えた。そこで自分は少し考え事をしていただけだと笑顔を作り直し、ノアとぺーちゃんを安心させるよう努めた。そしておやつの話をしながら、再び平静を装って二人とともに屋敷へ向かっていた。

門前に現れた偽の使者たち

一方、執事に扮した影は、門前に立つ男女を見て、いかにも清廉潔白を装っているが行動は怪しすぎると判断していた。ノア誘拐事件の際に、ディバイン家の影を容易に昏倒させた者たちがエンプティに属していた事実から、今回の者たちも同業の裏仕事の人間が犯罪組織に落ちた存在である可能性が高いと見ていた。ウォルトは、エンプティの中には教会関係者に扮した者が多い可能性を指摘しており、この男女もその一味と考えるのが妥当であった。

侵入者の捕縛

影は、クレオ大司教からは本人が必ず迎えに来ると聞いているため、本人以外には引き渡せないと告げた。来訪者たちはそれを聞いて引き下がろうとしたが、影は笑顔のまま帰る必要はないと告げ、地獄の入り口へ案内すると言い放った。門前で注意を引きつける役の者たちのほかに、別の場所から侵入を図った者たちもいたが、公爵邸にはナラとデュークという強力な警備役がいたため、侵入者たちは捕らえられた。こうして情報源でもある連中は確保され、ウォルトへ報告が届けられた。

捕縛者の正体と教会への疑い

捕らえた者たちは、男三名と女一名であった。そのうち女はシスターとして、同行していた男は下働きとしてディバイン公爵領都の教会で活動していた。別の場所から侵入した男二名は教会に出入りする商人ということになっていたが、実際には影と同じ裏仕事の人間であるらしかった。テオバルドはこの報告を受け、やはり教会とエンプティには関わりがあると確信した。

教会そのものが拠点である可能性

ウォルトは、あくまで推測と前置きしたうえで、エンプティと教会の共通点は世界各国に拠点を持つことであり、教会の上位役職者の一部がエンプティの幹部であるなら、教会そのものが犯罪組織の拠点として利用されている可能性が高いと述べた。これまでエンプティの本拠地が世界中にあると考えられながら実態を掴めなかった理由も、教会内部が治外法権に近く、国家ですら安易に調査できない場所であることを考えれば筋が通っていた。

影とクレオ大司教への期待

ウォルトは、教会は皇帝やディバイン公爵の権力をもってしても簡単に立ち入れない場所だと述べたが、テオバルドは、だからこそ影の存在が必要なのだと返した。さらに今は協力者もいるとし、それがクレオ大司教であることを明かした。ウォルトが本当に信用できるのかと問うと、テオバルドはクレオ大司教は妖精が見える人物であり、周囲に妖精の卵がいることもあると語った。妖精は魂の汚れた者には近づかないため、それが一つの基準になると考えていた。こうしてテオバルドは、教会を徹底的に調べ上げるよう命じ、ウォルトはそれに従った。

第三章 妖精の秘密と契約

ノアの不安とアオの相談

教会関係者を名乗る者たちは執事と門番に追い返され、問題はひとまず収まっていた。その夜、ぺーちゃんを寝かしつけた後、ノアは不安そうな様子でイザベル・ドーラ・ディバインに話しかけた。相談の内容は訪問者のことではなく、キノコ妖精アオがぱんぱんに腫れているというものであった。イザベルは、おやつを食べすぎると人間も動物も妖精も風船のように膨らむのだと説明し、食べすぎればノアも雪だるまのようにぷくぷくになると冗談めかして語った。

母がいなくなることへの恐れ

イザベルはさらに、自分もたくさん食べたらアカやアオのように風船になって空へ飛んでいってしまうかもしれないと冗談を続けた。するとノアはその言葉を真に受け、おやつを食べてはいけない、飛んでいっては駄目だと必死に訴えた。イザベルは、ノアを置いてどこにも行かないと抱きしめて約束し、その後もしばらくノアはイザベルから離れなかった。

皇后とイーニアスの来訪

そこへイーニアス殿下が明るく現れ、ノアは目を輝かせて駆け寄った。今回は久しぶりの再会であり、皇后マルグレーテもイーニアスの魔法訓練のために同行していた。イザベルが抱いていたぺーちゃんを見た皇后は近づき、自らマルグレーテと名乗って優しく声をかけた。ぺーちゃんは驚きつつも自己紹介を返し、その様子に皇后は可愛らしさを感じていた。

成長したイーニアスの挨拶

イーニアスはイザベルに久しぶりの挨拶をし、相変わらず美しいとまで口にした。皇后は、イーニアスが最近レディへの接し方を習っているのだと明かし、イーニアスはそれを恥ずかしがっていた。イザベルは、将来たくさんの女性を魅了する男性になりそうだと評し、皇后は息子の容姿を誇らしげに語っていた。

ノアによるぺーちゃんの紹介

ノアは、ぺーちゃんを自分の弟だとイーニアスに紹介した。ぺーちゃんを絨毯の上に下ろして挨拶しやすくすると、ぺーちゃんは立ち上がってノアの方へ歩いたものの、イーニアスの顔を見た瞬間に尻もちをついた。イーニアスはそれを見てぺーちゃんを抱き上げ、優しくあやした。イザベルが赤ちゃんの抱っこが上手だと感心すると、皇后はイーニアスがリュークをよく抱いているため慣れているのだと説明した。

子供たちと母親たちの穏やかな時間

イーニアスはぺーちゃんを落とさないから大丈夫だと優しく声をかけ、ノアも抱っこの修業をしているから上手なのだと褒めていた。イザベルはそのやり取りを微笑ましく見守りながら、久しぶりに皇后との会話を楽しんでいた。

ぺーちゃんから見た皇后とイーニアス

ぺーちゃんは真紅の髪を持つイーニアスを見て既視感を覚えていたが、名を聞いた瞬間に大きな衝撃を受けた。さらに、皇后を名乗るマルグレーテにも驚いていた。回帰前にはオリヴィアが皇后を名乗っていたためである。しかし実際に目の前にいるマルグレーテは、ぺーちゃんが知る評判とは異なり、太陽のようにさっぱりした美しい女性であった。そのためぺーちゃんは照れてしまい、イザベルばかり見ていた。

幼いイーニアスへの戸惑い

尻もちをついたぺーちゃんは、気づけばイーニアスの腕の中にいた。目の前のイーニアスは、かつて知る悪魔のような存在ではなく、純粋で目を輝かせた子供であった。ぺーちゃんはその違いに戸惑いながらも、イザベルと同じようにイーニアスも変わったのかもしれないと考えていた。

鑑定への迷いとテオバルドの登場

ぺーちゃんは、クレオから禁じられていたものの、イーニアスや皇后を鑑定したいという思いに駆られていた。昨日会っていないはずのイーニアスとノアが、まるで既に話していたかのように会話していることや、イザベルの加護のことなど、ぺーちゃんには不自然な点が多く見えていた。そこで鑑定を試みようとした瞬間、低く響く声でテオバルドが現れ、遊びの前に魔法訓練だと告げた。

テオバルドを見たぺーちゃんの失神

テオバルドの登場にノアとイーニアスはすぐ反応したが、ぺーちゃんは公爵の姿を見た瞬間に失神した。床が絨毯であったため無事であったが、その後、目を覚ました時にはディバイン公爵の腕の中におり、再び気絶することになるはずであった。ただその時のぺーちゃんは、フレンチトーストの海に溺れる幸せな夢の中にいた。

アカが伝えた契約の話

一方イーニアスは、妖精アカからノアとアオが契約したと聞かされていた。契約という言葉に聞き覚えがあったイーニアスは、それが約束のことだと思い当たった。アカはとても興奮しており、ノアとアオはずっと一緒にいる約束をしたのだと伝えた。

アカとイーニアスの約束

その話を聞いたイーニアスは、自分もノアとずっと一緒だと約束したことを思い出し、ならば自分とノアとアオはずっと一緒なのだと受け止めた。するとアカは、自分もずっと一緒がいいと願い、イーニアスもそれを受け入れた。こうしてアカはイーニアスと契約し、バディになると喜んだ。イーニアスもまた、アカが大好きだと素直に返していた。

アカとの契約を喜ぶ子供たち

魔法の修業が終わった後、イーニアスは自分もアカと契約したのだとノアに報告した。ノアはそれを自分のことのように喜び、ノアとアオとアカとイーニアスがずっと一緒でいられると受け止めていた。アカとアオも嬉しそうに飛び回っており、皆がその約束を喜んでいた。

ぺーちゃんを抱くテオバルドと夫婦の会話

子供たちの魔法の授業が終わり、イザベルと皇后がお茶をしているところへテオバルドがやって来た。テオバルドは、イザベルの腕の中で眠っていたぺーちゃんを無言で抱き上げ、そのまま隣に座った。皇后はその姿に興奮し、絵に残したいとまで言っていた。そんな中、テオバルドは、最近イザベルがぺーちゃんにかかりきりで、自分と過ごす時間が減っているのではないかと口にした。優先してほしいわけではないが、たまには二人きりの時間を作りたいと続け、さらに乳母や侍女がいるのだから、少しは休んでほしいとも伝えた。イザベルはその気遣いに感謝し、子供たちの世話を楽しんでいたが、今後はゆっくりする日も作ると応じていた。

皇后の研修参加の申し出

和やかな空気の中で、皇后は表情を改め、イザベルに大切な話があると切り出した。そして、子育て支援センターの研修を自分も受けたいと申し出た。皇后は、イザベルたちがまとめた乳幼児と妊婦に関する新しい知識が、今まさに子育てをしている自分に必要だと感じていた。以前受け取った冊子を読んだことで、蜂蜜やうつぶせ寝などの危険を知り、一歩間違えればイーニアスを失っていたかもしれないと気づいていたのである。さらに、国で子育て支援を進める以上、皇后である自分が研修を受けずにいるわけにはいかず、実際に体験しなければならないとも考えていた。イザベルはその姿勢に深く感動し、ぜひ参加してほしいと答えた。すると皇后は、ならばイザベルも自分の研修に付き合ってくれるのだろうと返し、イザベルはその流れで自分も参加することになった。テオバルドはため息をつきつつも、条件付きで許可を出していた。

公爵邸で始まった実技研修

こうして、子育て支援センター初の実技研修が行われることになった。イザベルは、知識はあるが子育て経験は乏しいため、皆の力を借りたいと挨拶した。研修の場には新人スタッフたちが集められていたが、その中には皇后とリュークも混ざっていたため、部屋全体は強い緊張に包まれていた。本来は別の建物で行う予定だったが、イザベルの妊娠と警備面を考慮し、テオバルドの条件によってディバイン公爵邸で実施されることになっていた。そのため、身元の確かな新人スタッフとその子供たちが公爵邸に招かれていたのである。

床で行う研修と緊張するスタッフたち

イザベルは、まずベビーマッサージから始めると告げた。床には新しい絨毯が敷かれ、ルームシューズで入室するよう徹底されていたため、清潔な状態で赤ちゃんを下ろせるようになっていた。皇后はすぐに絨毯の上に座り、リュークを寝かせて準備を始めたが、他のスタッフたちは高位貴族がいることや、公爵邸の環境に圧倒されて、なかなか緊張を解けずにいた。周囲を囲むメイドや侍女、護衛の存在も、その緊張を強めていたが、イザベルはそれには触れず、研修を進めていった。

ベビーマッサージの説明

イザベルは、ベビーマッサージには肌の保湿やリラックス効果、親子の触れ合いによる情緒の安定、夜泣きの軽減、便通の改善、血行促進、発達の支援などの効果が期待できると説明した。話を聞くうちにスタッフたちも徐々に興味を示し、夜泣きや発達、血行促進について質問を始めた。イザベルは、それぞれの効果について答えながら、赤ちゃんだけでなく親にも幸福感や愛情を感じやすくなる良さがあると伝えていた。

ぺーちゃんを使った実演

説明の後、実際のマッサージに移った。イザベルはぺーちゃんを相手に実演し、まずはこれからマッサージをするのだと伝えながら身体を軽く揺らし、安心させた上でベビーオイルを全身に広げていった。直接肌に触れることで、赤ちゃんの身体の状態も把握しやすくなることも説明していた。スタッフたちもそれに倣って恐る恐る始めていたが、最初は泣いていた赤ちゃんも、次第に落ち着いていった。中でも、シングルファザーのスタッフは特に上手で、その赤ちゃんは今にも眠りそうなほど気持ちよさそうにしていた。

親子で広がるマッサージ体験

やがて、離れた場所で遊んでいたノアたちも興味を持って近づいてきた。ノアは自分もやってみたいと言い、イザベルは手を石鹸で洗ってから、一緒にぺーちゃんの手をマッサージするよう促した。他の子供たちもそれぞれ弟妹のところへ行き、親子で楽しそうにマッサージを始めた。皆が穏やかな空気に包まれる中、皇后も自分までリラックスして幸せな気持ちになったと笑みを浮かべていた。イザベルは、それこそがベビーマッサージの良さであり、子育て支援センターでも教えていきたい内容だと語った。スタッフたちの表情も明るくなり、研修は良い滑り出しを見せていた。

子育て支援センターの説明と赤ちゃんたちの反応

イザベル・ドーラ・ディバインは、子育て支援センターを、子供と親の交流を深め、子育てに関する悩みや不安を相談できる場にしたいと説明していた。ぺーちゃんは突然裸にされてベビーマッサージを受け、あっという間にふにゃふにゃになっていた。途中でノアとイーニアスが加わり、二人による手のマッサージがくすぐったくて笑ってしまったが、隣の赤子も同じように笑っていたため、ぺーちゃんは目立たずに済んでいた。

リューちゃんへの違和感と友達扱い

ぺーちゃんは、隣でふにゃふにゃになっている赤子が皇后の子供だと知り、リューちゃんという呼び名に引っかかりを覚えた。皇帝リュークの名を思い出したが、皇后の子供であるはずがないと考えて混乱していた。そこへイザベルが、ぺーちゃんはリューちゃんと友達になりたいのかと声をかけたため、ぺーちゃんは驚いた。否定するつもりで声を上げたが、イザベルには友達になりたいと受け取られ、皇后とイーニアスもその流れを受け入れた。ノアはぺーちゃんが特別だと言っているのだと通訳し、イーニアスも自分とも仲良くしてほしいと加わったため、ぺーちゃんは今のイーニアスなら仲良くなれると感じていた。

不穏な男の思惑

場面は変わり、男はチェス盤の駒を動かしながら、公爵家では公爵と公子、皇族ではイーニアス殿下と皇后、教会では大司教と教皇がいる状況を整理していた。そして、その中の一人を聖者ではないかと見なし、それを教皇を蹴落とすのにちょうどよい駒だと考えていた。男は白いキングを白いクイーンで倒し、その様子を楽しみながら赤いワインを飲み干していた。

おもちゃカフェでの親子のひととき

『おもちゃの宝箱』帝都支店では、整理券を持った父と娘が案内され、おもちゃカフェで楽しげに過ごしていた。娘はおもちゃよりご飯に興味を示し、お子様ランチを楽しみにしていた。父は娘と会話をしながら注文を済ませたが、腹の音が鳴ってしまい、恥ずかしそうに水を飲んで誤魔化した。すると娘の手がコップに当たり、水がこぼれてしまった。父は娘を落ち着かせ、店員が布巾を持ってきてくれたことで、もう大丈夫だと優しく宥めていた。そして落ち込む娘を、フローレンスと呼んで励ましていた。

不安な目覚めを見せるぺーちゃん

ぺーちゃんは寝起きの際、たびたび酷く不安げな表情を見せていた。それはただ泣くのとは違い、目を潤ませ、虚ろな眼差しになるものであった。イザベルはそれを少し心配しており、この日もまた不安そうなぺーちゃんを抱き上げて優しく声をかけた。ぺーちゃんが怖かったと泣き出すと、イザベルは自分はここにいるからもう大丈夫だと伝えた。最近では、目覚めたぺーちゃんに毎日そう声をかけていたことで、ぺーちゃんは声を上げて泣くようになり、その後はイザベルにくっついて指を吸いながら落ち着くのが習慣になっていた。

皇后から届いたクレオ大司教急報

その最中、妖精通信で皇后から大変だという知らせが届いた。クレオ大司教が倒れたという内容に、イザベルは思わず声を上げ、ぺーちゃんも異変を察していた。イザベルがなんでもないと取り繕うと、皇后はさらに、テオバルドとぺーちゃんに教会へ様子を見に行ってほしいと頼んだ。皇后自身が今教会へ行くのは怪しまれるためであり、ぺーちゃんは大司教に会うための理由としてちょうどよいのだと説明した。しかしイザベルは、今ぺーちゃんを教会へやるのは危険だと強く反発した。教会側が親権を主張して返せと言えば、公爵家でも拒否しきれないと考えていたためである。

ぺーちゃんの願いとイザベルの決断

そのやり取りの中で、ぺーちゃんはクレオ大司教の名前を聞き、大司教のもとへ行きたいというように何度も呼びかけ始めた。イザベルはその姿を見て、危険な場所へ行かせたくない気持ちと、大司教に会いたがるぺーちゃんの思いの間で揺れていた。しかしぺーちゃんを不安にさせてはいけないと考え、まずはテオバルドに相談に行こうと決めた。

帝都の教会で明かされたクレオの容体

ぺーちゃんはテオバルドとともに帝都の教会へ戻り、ベッドに寝ているクレオ大司教を見て強い衝撃を受けた。だが実際には、クレオが倒れた原因は命に関わるものではなく、ぎっくり腰であった。ぺーちゃんは危篤を想像して急いで戻ってきたため、大きく驚いた。クレオは、ベッドの上で暴れると腰に響くからやめてほしいと苦笑しつつも、公爵に教会の状況を話し始めた。

教会内部の勢力状況

クレオによれば、帝都の教会は枢機卿派が六割を占めていた。残る四割の大半も教皇の存在すら知らない一般のシスターや司祭であり、実質的な教皇派は二割にも満たなかった。ぺーちゃんは、その状況が回帰前と逆転していることに驚いていた。クレオは、自分の力不足のためにこのような状況になったと悔いていたが、テオバルドは、教皇の存在が公表されていないにもかかわらず教皇派が存在しているのは、クレオの人柄によるものだと評していた。

教皇の証である鍵の継承

クレオは、このままでは自分がフェリクスを守り切れないと考え、胸元のペンダントを外してぺーちゃんに渡した。それは歴代教皇の証である杖と指輪、そして教皇だけが見ることを許された神の書が保管された部屋の鍵であった。クレオは、それがフェリクスが教皇である証でもあると伝えた。さらに、鍵には自分とフェリクスしか触れられない魔法をかけてあると説明し、ぺーちゃんの首にその鍵をかけた。

神の書と守護の依頼

クレオは、神の書については詳しくは知らないものの、聖なる地に通ずる道を示すものと伝えられていると話した。そして、今の自分では鍵を守り抜けないため、フェリクスをここへ呼んだのだと明かし、公爵にフェリクスとこの鍵を守り抜いてほしいと頼んだ。テオバルドは、妻がぺーちゃんを我が子のように大事に思っている以上、自分にとっても子供であるとして、必ず守り抜くと約束した。クレオは深く感謝し、ぺーちゃんにも、本当は鍵を渡すためだけではなく、可愛い孫の顔を見たかったのだと語り、頭を撫でていた。

枢機卿への警戒

最後にクレオは、公爵に対して枢機卿が何やらおかしな動きをしているため気を付けるよう真剣な表情で忠告した。その言葉を聞き、ぺーちゃんは回帰前の嫌な記憶を思い出していた。テオバルドはその忠告を受け、警戒を強めていた。

妖精の授業と見える理由の説明

皇后がテオバルドとぺーちゃんを迎えに来た後、イーニアスは公爵邸に泊まることになり、ノアと楽しそうに遊んでいた。そんな中、妖精たちは突然、自分たちについて詳しく教えると言い出し、子供たちに授業を始めた。イザベル・ドーラ・ディバインが、なぜ子供たちがいつの間にか妖精を見えるようになっていたのか尋ねると、正妖精は、テオバルドとイザベル、そしてノアとイーニアスは、妖精たちが力を使って強制的に見えるようにしたのだと説明した。それは似たような波動を持つ者にしかできず、大きな力を消耗するものであった。

妖精が子供たちに姿を見せた理由

正妖精は、ノアとイーニアスは見えなくても遊んでくれていたため、もともとは見せる必要を感じていなかったと語った。しかし、ボードゲームが開発されたことで事情が変わったのだという。皆で楽しむボードゲームは妖精の表情が見えなければ面白くないため、そのために見えるようにしたのだと明かした。イザベルはその理由に大いに力が抜けたが、子供たちは楽しそうに話を聞いていた。

アカとアオの進化予告

続いて正妖精は、今日妖精について教えようと思った理由は、アカとアオがもうすぐ進化するからだと説明した。ノアは進化という言葉の意味がわからず首を傾げたが、イーニアスがより優れたものに変形することだと教えたため、ノアは目を輝かせてアカとアオを見た。イザベルも、小妖精が正妖精になるのではないかと想像しながら話を聞いていた。

膨らんだ妖精の正体

正妖精は、アカとアオがパンパンに膨れているのは、幸せを感じて体内に力が溜まっているためだと説明した。イザベルは食べすぎで太ったのだと思い、病気にならないようにダイエットが必要だと考えていたが、妖精は食べても太らず、病気にもならないと否定された。さらに、小妖精は幸せを感じるほど力を蓄えて膨らんでいくのだと語られた。

お茶の時間と予想外の破裂

その説明の途中でアフタヌーンティーが運ばれてきたため、妖精たちも子供たちも菓子に夢中になり、授業は中断された。プチシュー、フルーツタルト、モンブランを前にして妖精たちははしゃぎ、ノアやイーニアスも嬉しそうに食べ始めた。そんな中でアカとアオはさらに膨らんでいき、イザベルがその変化に気づいた時には、風船が割れるような大きな音とともに二人は破裂して消えてしまった。

子供たちの動揺と正妖精の説明

突然の出来事にノアとイーニアスはアカとアオが死んだと思い込み、大声で泣き出した。イザベルも大きな衝撃を受け、部下のような存在が死んだのだと正妖精を責めたが、正妖精はアカとアオは部下ではなく兄弟だと告げた。さらに、これは死ではなく進化であり、小妖精は幸せを力として蓄え、最後には破裂して虫でいう脱皮のように新しい身体になるのだと説明した。

光の玉から始まる進化

正妖精が示した先には、直径三十センチほどの楕円形の光が二つ浮かんでいた。それがアカとアオであり、そこから新しい身体が形作られていくのだと説明された。ノアとイーニアスは涙と鼻水に濡れた顔のまま、アカとアオが生きているのかと確かめ、正妖精がもちろん生きていると答えると、二人は安心して進化の様子を見守った。

中妖精へ進化したアカとアオ

やがて光の玉は人の形を作り、アカとアオは身長三十センチほどの小人の姿になって現れた。二人は赤と青のキノコの帽子をかぶったまま、言葉も以前より流暢になっていた。ノアとイーニアスはアカとアオが大きくなったことを素直に喜び、イザベルも生きていてよかったと安堵した。正妖精は、自分は弟であり、立派な中妖精になった兄たちを誇らしく思うと語ったため、イザベルは正妖精が弟で、アカとアオが兄であることにも驚いていた。

進化の目的と子供との関係

進化したアカとアオを見て、正妖精はこれで自分たちの力が強くなり、補助魔法をかければテオバルドは大魔王だと冗談めかして語った。さらに、妖精たちは元々子供と契約し、一緒に遊び、おやつを食べ、眠る生き物であり、その進化には子供が必要不可欠なのだと説明した。そして子供にとっても妖精は必要な存在なのだと続けた。

契約の有無への追及

その説明を聞いたイザベルは、妖精たちがノアとイーニアスと勝手に契約を結んだのではないかと問い詰めた。正妖精は、自分は結んでいない、可愛いフローレンスがいるからだと答えたが、その言い方にイザベルは引っかかった。そしてアカとアオについて問い詰めると、正妖精は首を傾げて誤魔化すような反応を見せたため、イザベルはきちんと説明するよう迫っていた。

第四章 接触

研究に没頭するオリヴァーとドニーズの気遣い

帝都のシモンズ伯爵家のタウンハウスで暮らすオリヴァー・ルーカス・シモンズは、普段はアカデミーに通っており、屋敷には寝に帰る程度であった。屋敷の管理は主に執事長とドニーズが担っており、最高責任者の権限を持つドニーズは、ディバイン公爵家から紹介された優秀な文官であった。休みの日、研究に集中したいオリヴァーに対し、ドニーズは昼食を取り、少し休むよう勧めた。オリヴァーは研究は休憩と同じだと返したが、ドニーズは身体を気遣い、さらにイザベルに報告すると持ち出したため、オリヴァーは渋々食堂へ向かった。

フローレンスとの触れ合いと外出の流れ

食堂では、ドニーズの娘フローレンスがオリヴァーに抱っこを求めてきた。オリヴァーは自然に抱き上げ、フローレンスも食事を終えていたため、ドニーズと遊びに行くよう勧めた。しかしドニーズは、サリーから屋敷を任されているため、オリヴァーから目を離せないと答えた。そこでオリヴァーは、フローレンスが自分と遊べば、結果的にドニーズも一緒に動けると考え、皆で街へ出ることになった。

劇場を目指した一行と売り切れた当日券

祝日で人の多い帝都の貴族街に出たオリヴァーは、フローレンスを抱っこしながら、イザベルに勧められた人気劇団輪舞の公演を観に行こうと提案した。使用人たちはその名を聞いて大いに喜び、劇場へ向かった。しかし、長い行列の末にたどり着いた売り場で、当日券はすでに売り切れていると告げられた。フローレンスや使用人たちは残念そうであったが、オリヴァーは次の機会に前もってチケットを取ろうと穏やかに受け止めていた。

ディオネを名乗る人物からの申し出

その時、空色の長髪を持つ中性的で整った容姿の人物が、当日券が買えなかったのではないかと声をかけてきた。高位貴族らしい雰囲気を持つその人物は、ウィーヌス・ウラノ・ディオネと名乗り、友人たちが来られなくなったため余った当日券三枚を譲りたいと申し出た。だがオリヴァーは、護衛や侍女もいるため三枚では足りず、せっかくなら皆で楽しみたいと考え、その申し出を丁重に断った。ディオネはそれ以上食い下がらず、その場を去っていった。

劇団スタッフの登場とオリヴァーへの対応の変化

ディオネが去った後、今度は劇団輪舞の腕章をつけた女性スタッフが慌てた様子で話しかけてきた。彼女は、先ほどの会話からオリヴァーがシモンズ伯爵家の人間であり、さらにディバイン公爵夫人の弟であると知って声をかけたのだと説明した。オリヴァーがイザベルは自分の姉だと認めると、女性は激しく動揺し、すぐに一行の席は用意すると言い出した。オリヴァーは貴族だからという理由で特別扱いされることに戸惑ったが、女性は遠慮は不要であり、ディバイン公爵夫人のためにいつでもVIP席を空けていると熱弁した。

輪舞とイザベルの関わり

女性スタッフは、輪舞はもともと女性だけで構成された旅役者の集団であり、男社会の中で劇場を貸してもらえず、広場に簡易舞台を作って芝居をしていたのだと語った。そこへイザベルが目を留め、自宅のホールで芝居をさせたことが転機になったという。さらにイザベルは、これまでにない脚本、演出、音楽まで手掛け、その結果として輪舞は劇場で公演できるまでになったのだと説明した。女性はイザベルを女神のように崇拝しており、その熱意にオリヴァーはただ圧倒されていた。

演目の内容とオリヴァーの困惑

その日の演目は、イザベルが演出、脚本、作曲を担ったモンスタープリンセスであり、様々な動物や森の白い精霊が登場すると女性は誇らしげに語った。フローレンスも精霊という言葉に反応して興味を示したが、女性はそれは妖精ではなく、カタカタ動く精霊だと説明した。オリヴァーは、イザベルが一体何をしているのかとますます困惑していた。

去っていくディオネの姿

一方で、先ほどのディオネは、護衛や侍女もいるため三枚では足りないというオリヴァーの言葉を思い返しながら、手にしていた三枚のチケットを離した。チケットは足元にひらひらと落ち、その人物は劇を観ることもなく、その場を去っていった。

アオとの散歩と鍵への気がかり

雲一つない青空の下、ノアは右手でぺーちゃん、左手で大きくなったアオと手をつなぎ、庭を散歩していた。イザベル・ドーラ・ディバインはその微笑ましい光景を眺めながら、昨日ぺーちゃんがクレオ大司教のもとから無事に戻ってきたことに安堵していた。一方で、ぺーちゃんが首から下げた鍵を決して手放そうとしないことは気にかかっていた。

テオバルドへの契約報告

やがてテオバルドが現れ、いつものようにイザベルの隣に座った。そして、青いキノコがなぜ成長しているのかと問いかけた。イザベルは、アカとアオは幸せの力で限界まで膨らんだあとに破裂し、身体を再構成して大きくなったのだと説明したが、テオバルドは意味がわからないと返した。その流れで、イザベルはアオがノアの妖精となり、二人が契約したことを報告した。

妖精との契約の重さ

契約の話を聞いたテオバルドは頭を抱え、妖精は身近すぎて特別だと思えなくなっているが、本来は教会や国が動くほど重要な存在なのだと諭した。イザベルは、自分が妖精を近くに置きすぎて気を抜いていたと気づき、今後は気をつけると答えた。テオバルドはその言葉を受け、何があるかわからないのだから注意してくれと優しく告げた。

契約後の変化の確認

テオバルドは続けて、妖精と契約したノアに何か変化がないか尋ねた。イザベルは、今のところ大きな違いはないが、ノアとイーニアスがいつの間にか妖精の姿を見られるようになっていることを挙げた。テオバルドは、それだけでも大騒ぎになるほどのことだが、契約した以上は他にも何か能力が現れている可能性があると考えていた。

ノアとアオが明かした新たな力

そこへノア、ぺーちゃん、アオがやってきて、イザベルとテオバルドの膝に分かれて座った。テオバルドは、ノアとアオに本当に契約したのかと確かめたうえで、どのような力が現れたのかを尋ねた。するとアオは、自分の知っている場所へノアを移動させられるようになったと答えた。ノア自身が転移魔法を使うのではなく、アオの魔法によってノアを移動させられるのであり、それはアカも同様であるため、ノアとイーニアスはアカとアオが知る場所なら行けることになるのだとわかった。

ぺーちゃんの怯えと謝罪

テオバルドとイザベルがその能力に驚いて顔を見合わせたことで、ぺーちゃんは自分が叱られているのではないかと勘違いし、不安そうな様子を見せた。イザベルは、自分は怒っていないし大丈夫だと何度も伝え、ぺーちゃんを怖がらせてしまったことを謝り続け、ようやく許してもらっていた。

皇后との妖精通信

その後イザベルは、皇后に妖精通信で、アカとアオがそれぞれノアとイーニアスのそばにいれば様々な場所へ移動できるようだと伝えた。皇后は、妖精と契約するとそんなことまでできるのかと驚き、自分の転移能力の意味が薄れてしまうとこぼした。イザベルは、すべての妖精が同じことをできるわけではなく、自分が契約しているチロにはそうした力はないと説明した。するとチロは、力がなくてごめんなさいとしゅんとしたが、イザベルは、チロは可愛く、妖精通信もでき、自分をいつも守ってくれているのだから十分に力があると慰めていた。

子供たちの移動に対する不安

皇后は、これでお互いの行き来がしやすくなり、特にテオバルドが領地に戻っている間のイーニアスの魔法訓練には便利だと考えていた。しかしイザベルは、移動回数に制限がなさそうでも、ノアを一人で皇宮へ行かせるのはまだ不安だと答えた。皇后もそれに同意し、ノアが成長するまでは一人で遊びに行ってはいけないと伝えることにした。

朝の訪問と転移の実証

その翌朝、朝食前にもかかわらず、ノアとイーニアスはぺーちゃんを連れて庭で遊んでいた。イザベルが驚いていると、イーニアスは少し遊んだら帰るつもりで来たのだと挨拶し、自分の目で転移ができるか確かめることは大切だと教わったのだと話した。母である皇后にもきちんと伝えてきたと説明し、イザベルは安心しつつも、今後は来る前に妖精通信で知らせるよう求めた。イーニアスは素直にそれを受け入れた。

妖精への新たな懸念

その場でイザベルは、アカとアオに子供たちを勝手に連れ回してはならないと注意した。しかし妖精たちは、もっと一緒に遊びたい、きれいな場所を見せたいと無邪気に答えたため、イザベルはルールを設けなければ危険だと感じた。

朝食の場での相談

朝食の席でイザベルは、アカとアオが子供たちを外へ連れ出す可能性があることをテオバルドに訴えた。テオバルドはそれを理解し、自分からも妖精たちに注意しておくと答えた。しかしイザベルが、もし妖精たちが子供を妖精の世界のような場所へ連れて行ってしまったらと不安を重ねると、テオバルドはその話を遮り、険しい表情で別のことを問い質した。

つわりによる食事の変化

テオバルドが問題にしたのは、イザベルの前に置かれていた朝食が柑橘のゼリーだけだったことであった。イザベルが、つわりで食事が辛くなり、シェフがゼリーを用意してくれたのだと説明すると、テオバルドはただでさえ食べる量が少ないのに、さらに食べられなくなったのかと絶望した表情を見せた。その様子を見たノアまで父の真似をするように絶望した顔になっていたが、ぺーちゃんだけは気づかず、美味しそうに食べることに夢中になっていた。

ノアが抱いた危機感

ノアは、イザベル・ドーラ・ディバインが食事をできず、このままでは死んでしまうのではないかと深く心配していた。そこでノアは、アオに頼んでイーニアスのもとへ連れて行ってもらい、イザベルを助ける方法を相談した。イーニアスは事情を聞いて真剣に考え、美味しいものを食べさせればよいと答えた。アカとアオもそれに賛成し、ネロに料理を作ってもらうことになった。

皇帝への依頼と料理の用意

ノアとイーニアスは、アカとアオの力で皇帝の執務室へ向かった。突然現れた二人に皇帝は驚いたが、ノアの話をきちんと聞き、イザベルが食べ物を食べられないこと、そのために美味しい料理を作ってほしいことを理解した。皇帝はそれを引き受け、自ら料理を用意した。

ノア失踪による屋敷の混乱

その一方で、公爵邸ではノアがいなくなったことで大騒ぎになっていた。カミラとミランダ、護衛が半狂乱でイザベルのもとへ駆け込み、屋敷中で捜索が始まった。イザベルも必死に探し回ったが、ノアは見つからず、再び誘拐されたのではないかという不安が募っていた。だがミランダは、カミラと護衛の説明から誘拐の可能性は低いと判断していた。ノアは妖精と話しながらお手洗いに入り、そのまま姿を消したのであり、護衛も外で見張っていたため、外部から連れ去られたとは考えにくかった。

マディソンの到着とイザベルの限界

イザベルがアオの関与を考え始めた頃、タウンハウスの侍女長であり、ウォルトの母でもあるマディソンが到着した。マディソンはイザベルの青ざめた顔を見て、すぐに部屋へ連れて行き、医師を呼ぶよう指示した。ノアが突然いなくなったことで、イザベルは過去の誘拐事件を思い出し、足が震えるほど追い詰められていた。マディソンは、ノアには妖精もついており、何よりテオバルドの子なのだから誰にも傷つけられないと落ち着かせたが、それを聞いたイザベルは張り詰めていたものが緩み、その場で倒れてしまった。

皇帝からの連絡とノアの帰還

その混乱の中で、皇帝から妖精通信が届いた。しばらくしてムーア医師から注意を受けていたイザベルの耳に、近くからノアとアオの声が聞こえてきた。顔を上げると、ノアが両手で何かを抱えながら立っていた。イザベルはすぐに駆け寄り、無事なノアを強く抱きしめた。ノアもいつも通りの笑顔を見せたが、イザベルがずっと探していたことを伝えると、自分が誰にも言わずにイーニアスのもとへ行ったことに気づき、涙を浮かべて謝り始めた。

涙の再会と母子のやり取り

ノアは、自分が悪いことをしたせいでイザベルが悲しい顔をしているのだと泣きながら謝り続けた。イザベルもまた涙を流しながら、ノアが無事に帰ってきてくれただけでいいと伝えた。ノアは、おかぁさまを泣かせないようにいい子になると言い、イザベルはそんなノアに対し、ずっといい子だと心の中で思っていた。そして、誰にも言わず一人で皇宮まで行けるようになったことを、心配ではあるが素晴らしい成長だとも認めていた。

ノアが持ち帰った贈り物

落ち着いた後、ノアは大事そうに抱えていたバスケットをイザベルへ差し出した。中にはたくさんの料理が入っており、どれも美味しそうであった。ノアは、イザベルが食事をできないことを心配し、食べないと死んでしまうと思って皇宮へ向かい、皇帝に料理を作ってもらったのだと説明した。すべてはイザベルのためであった。その優しさに、イザベルはさらに涙をこぼしながら、とても嬉しいのだと伝えていた。

ぺーちゃんとマディソンの合流

やがてぺーちゃんが現れ、ノアの帰還を迎えた。ぺーちゃんはすでにマディソンに抱っこされており、すっかり懐いていた。マディソンは、奥様とノアを守るためにテオバルドに呼ばれて領地から来たのだと自己紹介した。ノアはそれを聞いて驚きつつも、すぐに受け入れていた。ノアに手を伸ばすぺーちゃんを見て笑うその姿には、先ほどまでイザベルに甘えていた様子はなく、しっかりした兄の顔が表れていた。

マディソンが領地へ呼ばれた経緯

帝都のディバイン公爵家タウンハウスで侍女長を務めるマディソンは、テオバルドから届いた手紙を受け取り、大きな喜びに包まれた。手紙には、妻が懐妊したため領地の邸へ戻り、世話をしてほしいこと、信頼できるのはマディソンだけであることが記されていた。マディソンはかつて前妻サラ・ユリアン・フィオーレに振り回され、本邸から遠ざけられていたが、イザベルとの再婚によって公爵家が良い方向へ変わったことを実感していた。そんな中でイザベルが懐妊し、さらにテオバルドが自分を頼ってくれたことを、何よりの慶事として受け止めていた。

騒然とする邸とノア失踪の報

領地の邸へ到着したマディソンは、祝いに満ちた雰囲気ではなく、使用人たちが必死の形相で屋敷内を駆け回る異様な光景を目にした。話を聞くと、ノアの姿が邸のどこにも見当たらないという事態が起きていた。マディソンはすぐに奥様であるイザベルを探し出し、真っ青になってノアを呼び続ける姿を目にして胸を痛めた。間もなく皇帝からノアを保護したとの連絡が入り、イザベルはその場に座り込んで涙を流した。マディソンは、その様子からイザベルがノアを本当に我が子のように大切に思っていることを強く感じていた。

ぺーちゃんの世話を任される

ノアの帰りを待つ間、マディソンはぺーちゃんという赤子を紹介された。可愛らしい挨拶に心を動かされたマディソンは、自ら世話を申し出て、それを任されることになった。ぺーちゃんにもすぐに懐かれ、奥様が考案したおもちゃで遊びながら、落ち着かない様子のイザベルを見守っていた。ノアがいないことで屋敷全体から笑顔が消えていたが、ノアが戻ると邸はようやく明るさを取り戻した。

ノアの反省とマディソンの励まし

夕食前、ノアはマディソンに、自分はおかあさまを泣かせてしまった、悪いことをしたと打ち明けた。マディソンは、悪いことをした時にきちんと反省し、ごめんなさいが言える人は立派な紳士になれると優しく伝えた。ノアは紳士という言葉がよくわからず、自分は騎士なのだと主張したが、マディソンは紳士であり騎士でもあると認めた。さらに、将来は父に負けないほど立派な大人になるだろうと語り、ノアを励ましていた。

ノア帰還後の安堵とマディソンの見立て

ノアが無事に戻ってからしばらくして、ノアはイザベルの腕の中で眠っていた。マディソンは、その穏やかな様子を見ながら、無事に戻ってきてよかったと安堵していた。イザベルも、妖精やイーニアスがそばにいてくれたこと、そして皇帝がすぐに保護と連絡をしてくれたことで安心できたと語った。マディソンは、ノアは素晴らしい力を持っているが、それは一歩間違えれば大変なことにもなり得るため、今回の出来事はノアにとって良い勉強になったのだと受け止めていた。

イザベルへの忠告と世話の引き受け

マディソンは、これから自分がイザベルとノアの世話をすることを改めて伝えたうえで、先ほどの医師の診断を踏まえ、改善してほしいことがあると切り出した。そして、緊急事態であっても胎児に負担がかかるような動きは避けるべきであり、屋敷内を駆け回ることやノアを抱き上げることも控えるよう、静かだが厳しい口調で諭した。イザベルはその言葉を受け止め、素直に従っていた。

皇帝の料理と食事の再開

さらにマディソンは、ノアが持ち帰った料理の中に、イザベルでも食べられるものがあるはずだと勧めた。その料理は、匂いの抑えられたものが少量ずつ箱に収められており、マディソンはジンジャーを使った料理から食べるのがよいと助言した。イザベルが恐る恐る口にすると、美味しいと感じ、さらに別の料理を食べた瞬間、その味に衝撃を受けた。それは梅干しを使った料理であり、イザベルは強く反応した。結果として、九種類のうち三種類は食べることができたため、イザベルは皇帝に礼を伝えるとともに、その三品のレシピも教わることになった。

ノアの思いと母の感謝

ノアは、自分は役に立てたのかと不安そうに尋ねた。イザベルは、ノアが皇帝から料理をもらってきてくれたからこそ、自分は食事ができるようになったのだと伝え、心から感謝した。ノアはそれを聞いて安心し、おかあさまが元気になって嬉しいと満面の笑みを浮かべた。イザベルはそんなノアを抱きしめ、その優しさを改めて愛おしく感じていた。

ぺーちゃんの梅干し挑戦

そのやり取りを見ていたぺーちゃんは、自分も梅を食べたいと訴えた。ノアはその言葉をすぐに汲み取り、イザベルに伝えた。イザベルは、梅干しはすっぱいのだと説明しつつも、塩抜きしたものを少しだけ与えることにした。しかし予想どおり、ぺーちゃんは口に入れた瞬間、大量のよだれを垂らしながら飛び上がり、猫のような反応を見せた。ノアはそれを見て、すっぱいと言っているのだと説明していた。

第五章 地下迷宮へ

聖女を狙う人物の思惑

ある人物は、フローレンスこそ聖女であると確信していた。そして、先祖の日誌に記された、グランニッシュ帝国の皇城地下に神獣を祀る神殿へ通じる道があり、神の加護を持つ者だけが辿り着けるという記述を読み返していた。地下への入り口の一つは皇宮図書館の最奥の本棚の裏にあると把握していたが、自身には神の加護がないため、聖女を手に入れれば神殿へ辿り着けるだけでなく教皇派も黙らせられると考えていた。そこで聖女を養子に迎え、娘として連れていく計画を立てたが、クレオ大司教に知られることを避けるため、養子縁組が済むまで聖女の存在は伏せるつもりであった。さらに、坑道の記録も図書館にあるはずだと気づき、一石三鳥だと考えていた。

地下迷宮探検の誘い

ノアは、母と父、ぺーちゃん、カミラ、マディソンとともに城へ泊まりに来ていた。そこでイーニアスから、地下迷宮へ行こうと誘われた。以前イザベルから聞いていた皇城のずっと下にある秘密の道のことだと理解したノアは、仲間として名乗りを上げた。アカとアオも仲間になると主張したが、イーニアスは迷宮は広く、子供だけでは何があるかわからないため、もっと仲間が必要だと説明した。アオは案内できると自信を見せたが、イーニアスは、道案内だけでなく、探検に必要な準備を知る者が必要なのだと話し、食料、水、磁石、勇気、そして仲間が必要だと語った。

第一皇子ソロモンへの勧誘

イーニアスは、まず兄である第一皇子ソロモンを仲間にしようと考えた。ノアたちはアカとアオの力でソロモンのもとへ転移し、地下迷宮探検の話を伝えた。ソロモンは、皇城の地下にそんな迷宮があること自体に驚いたが、ノアとイーニアスから仲間になってほしいと頼まれると、喜びを滲ませながら承諾した。そして、子供だけでは危険だから大人がいた方がいいと提案した。

大人たちへの相談

その後、ノア、イーニアス、ぺーちゃん、ソロモンは、皇后とイザベルたちのもとへやってきた。礼儀正しく挨拶を済ませたソロモンを交えて、地下迷宮探検の話が切り出された。ノアたちは、以前から地下迷宮を探検する約束をしており、その仲間を探しているのだと説明した。イザベルは、自分を仲間に誘ってくれたことを嬉しく感じていたが、テオバルドは即座に反対した。

イザベルとぺーちゃんが参加できない理由

テオバルドは、イザベルの腹には赤ん坊がおり、最近少し良くなったとはいえ食も細く、体力も十分ではないため、地下迷宮へ連れ回すわけにはいかないと諭した。さらに、ぺーちゃんはまだ赤ん坊であり、当然連れて行けないと断じた。ノアはそれを聞いてしょんぼりし、ぺーちゃんもまた強く残念そうな反応を見せた。イザベルも一緒に行きたい気持ちはあったが、まだ安定期ではなく、長く歩き回ることはできないため、今回は無理なのだとノアに説明した。その代わり、探検が終わったらおもちゃで一緒に遊ぶと約束し、ノアもそれを受け入れた。

皇后の参加表明

落ち込むイーニアスを見た皇后は、自分は誘ってもらえないのかと身を乗り出した。イーニアスは母が忙しいのではないかと案じたが、皇后は子供と遊ぶ時間くらい作れると答え、自分も地下迷宮が気になっていたのだと語った。イーニアスは母が仲間に加わることを大いに喜び、ノアも一緒に喜んでいた。ソロモンは本当に大丈夫なのかと心配したが、皇后は仕事はネロに任せると言って探検に行く気満々であった。

地下迷宮の安全確認

イザベルは、地下迷宮は自分がかつて通った時に大人でも迷いそうなほど入り組んでいたため、子供たちと皇后を行かせることに不安を示した。だがアカとアオは、自分たちは道がわかるから安全だと自信満々に断言した。テオバルドも妖精たちを疑わしげに見ていたが、皇后は自分がいればいざという時は転移できるし、妖精もいるから大丈夫だと主張した。テオバルドも、地下迷宮は皇族として把握しておくべき場所であると認め、最終的には探検を許した。

探検準備と期待の高まり

こうしてすぐに出発するのではなく、準備を整え、皇后の仕事の都合も調整したうえで、数日後に探検へ行くことになった。探検当日、イザベルは心配を抑えながら、ノアのタンブラーやリュック、靴などを確認していた。ノアのリュックにはおやつとおもちゃが入っており、スニーカーも履いていた。イーニアスとソロモンにも同じようにスニーカーとリュックが用意されており、皆お揃いになっていた。妖精たちにもキノコ型のリュックが渡され、喜んでいた。

ノアたちの出発

イザベルはノアを抱きしめ、気をつけて楽しんでくるよう送り出した。ノアは、おかぁさま、おとうさま、ぺーちゃん、チロに向かって元気に行ってきますと挨拶し、妖精たちもそれに続いた。こうしてノアたちは意気揚々と地下迷宮探検へ出発した。ノアを追いかけようとしたぺーちゃんは、マディソンに抱き上げられて止められていた。

地下迷宮へ向かった皇后たち

地下迷宮の探検に向けて準備を進めた皇后マルグレーテは、出発当日の早朝に乗馬服とブーツを身につけ、タンブラーや鞭、リュックも携えて万全の姿でイーニアスの宮へ向かった。そこでは、クマのリュックを背負ったノアとイーニアスが待っており、ソロモンも無地のリュックを背負って合流していた。子供たちはスニーカーの歩きやすさや速さを楽しそうに語り、妖精たちの案内のもと、地下迷宮への入り口を目指した。

皇帝の執務室にあった隠し扉

妖精たちが案内した先は、ネロの執務室であった。マルグレーテは、突然の訪問に喜ぶネロを仕事へ戻らせたうえで、皇族の隠し通路を知られないよう、部屋にいた使用人や護衛、事務官たちをすべて下がらせた。イーニアスは部屋の隅の本棚に近づいたが、目当ての本に手が届かなかったため、ネロが代わって妖精の指示どおりに三冊の本を倒した。すると本棚が扉のように開き、その奥に地下へ続く階段が現れた。

地下への降下

本棚の奥は真っ暗な階段であったため、マルグレーテは全員に帽子型の魔道具で明かりを灯させた。ソロモンはイーニアスと手をつなぎ、マルグレーテはノアと手をつなぎながら、子供たちが自分のライトの魔法で足元を照らしつつ、ゆっくりと階段を下りていった。階段が緩やかであったことに安堵しながら、一行は地下へと降り立った。

ノアを待つぺーちゃん

一方その頃、皇宮に残ったイザベル・ドーラ・ディバインは、リュックやスニーカーを作ったものの、それが地下迷宮探検に使われるとは思っていなかったと感じていた。ぺーちゃんはノアの姿を探して落ち着かない様子を見せていたため、イザベルはノアはイーニアス殿下と課外授業に出かけているのだと説明し、一緒に帰りを待とうと伝えた。ぺーちゃんはそれを受け入れ、遊び歌で遊ぶことになり、イザベルはグーチョキパーで形を作る遊びを始めていた。

図書館を訪れたディオネ枢機卿

その頃、皇宮の図書館には高位の閲覧申請が出されていた。案内役の司書は、教皇不在の今、実質教会の頂点に立つウィーヌス・ウラノ・ディオネ枢機卿を案内することになり、その高貴さと美しさに緊張していた。枢機卿が希望していたのは、帝都の現在と昔の地図、そして昔の坑道の地図であり、司書はそれらを個室に用意して案内した。

坑道の地図から見えた教会への道

司書が去った後、ディオネ枢機卿は坑道の地図と現在の帝都の地図を見比べながら、教会の地下にも道が通じていることを確認した。そして、その事実に満足したように、静かに笑みを浮かべていた。

幻想的な地下空間とソロモンの思い

階段を下り切った先には、全体がぼんやりと発光する広い洞窟のような空間が広がっていた。皇后マルグレーテは、それが魔力を帯びて発光するヒカリゴケだと説明した。ソロモンは初めて見る光景に感嘆しつつ、隣で目を輝かせるイーニアスの姿を見て、この弟が以前は離宮に閉じ込められ、寂しそうにしていたことを思い返していた。だが今では、ディバイン公爵夫人と公子の存在によって庭で楽しそうに遊ぶようになり、自分たち兄姉とも自由に交流できるようになっていた。今回その弟から探検に誘われたことを、ソロモンは心から嬉しく思い、兄として仲間としてこの冒険を楽しもうと決めていた。

宝物への期待と妖精の秘密を守る決意

宝物がありそうだと皇后がはしゃぎ、イーニアスとノアも宝物という言葉に目を輝かせていた。妖精たちも張り切っているとイーニアスから聞かされる中、ソロモンは、自分と第一皇女エリザベスだけが妖精の存在を知る兄妹であることを改めて意識していた。イーニアスは当初それを秘密にしていたが、二人が事情を知っているとわかると、今までのことを嬉しそうに打ち明けた。ソロモンは、その素直さが危うくもあると感じ、この秘密を命を懸けて守ろうと心に決めていた。

分かれ道と遺跡への進路変更

しばらく進むと分かれ道が現れ、妖精たちは片方は街の教会へ、もう片方は遺跡へ繋がっていると告げた。隠し通路からしか行けない遺跡があると聞いた皇后は、行くしかないと即断した。もともとは街へ繋がる道を確認して折り返す予定であったが、こうして一行は予定を変え、遺跡の方へ進むことになった。ソロモンは、イーニアスとノアの体力を気にしながら、楽しげに進む皇后のあとを追っていた。

行き止まりと埋まっていた石

何度も道を曲がり進んだ先で、一行は何もない行き止まりに突き当たった。皇后もイーニアスも戸惑い、ノアも妖精に道を間違えたのかと問いかけていた。ソロモンは、絵本で見た仕掛けを思い出して壁に触れてみたが、特に反応はなかった。だが妖精たちは道は間違っていないと主張し、今度はイーニアスに魔力を込めるよう促した。地面をよく見ると、透明な水晶のような石が埋まっており、イーニアスがそれに触れて魔力を流し込んだ瞬間、地面全体が輝き出した。

転移によって辿り着いた白い城

強い光に包まれたあと、一行が目を開けると、そこは洞窟ではなく青空の見える場所であった。目の前には、白い石でできた城が建っており、その屋根には大きな玉ねぎのような形のものが載っていた。ノアとイーニアスはその異様な外観に目を丸くし、皇后もここがどこなのか理解できず戸惑っていた。妖精たちはここを遺跡だと説明し、空や風景は幻である一方、城そのものは本物だと告げた。さらに、ここは古代文明の遺跡であり、今のグランニッシュ帝国の外でもあり内でもあるような、魔法で作られた空間なのだと伝えた。

宝物庫への期待と城への突入を制止

妖精たちは、この城の中には金銀財宝があると断言した。ノアとイーニアスはすっかり興奮し、海賊の秘宝のようなものがあるのではないかと想像を膨らませながら城へ駆け出そうとした。だが皇后は二人のリュックを掴んでそれを止め、罠があるかもしれないのに勝手に入ってはいけないと叱った。妖精たちによれば、城の中には多くの罠があり、普通に入れば死ぬほど危険だという。もし皇后が止めていなければ、二人は危険に晒されていたことになるため、皆はその危うさを改めて認識していた。

焔神の加護とイーニアスの役割

妖精たちは、この城は焔神の神殿であり、イーニアスの祖先は焔神の神官であったと説明した。そして、焔神の加護を持つイーニアスがいれば中へ入れるのだと語った。しかし皇后もソロモンも、危険な城へ幼いイーニアス一人を行かせることには断固反対した。イーニアス自身も一人ぼっちは嫌だと漏らし、その言葉は離宮に閉じ込められていた過去を思い起こさせた。そんな中、イーニアスは、冒険は仲間と一緒でなければ楽しくないのだから、皆で行けないなら秘宝にも魅力はないと毅然と告げ、妖精たちを庇いながら母に怒らないでほしいと頼んだ。

焔神の声と皆への加護

その直後、突然男の声が頭の中に響き、その心意気を認めて今日だけ特別に加護を与えると告げた。アカが白目をむいて口をぱくぱくさせていたため、焔神がアカの身体を借りて喋ったのだと妖精たちは説明した。そして、焔神はその日だけ特別に皇后、ソロモン、ノアにも加護を与えたのだという。こうして全員が城の中に入れるようになり、一行はそのまま城へ足を踏み入れた。

玉ねぎ屋根の城の内部探索

城の中は壁も床も大理石のように磨き上げられており、外観と同じくグランニッシュ帝国の建築とは大きく異なっていた。妖精たちは、この城をクーポルと呼び、それは神殿に妖精や精霊が飛ぶという意味なのだと説明した。だがノアとイーニアスは、その響きや玉ねぎの屋根から食べ物を連想し、空腹を自覚していた。そこでソロモンが懐中時計で時間を確認すると昼食時であり、内部の配置が皇城に似ていたため、ほどなく食堂を見つけて父が作った弁当を皆で食べた。

宝物庫で見た圧倒的な財宝

食後、一行はさらに探索を進め、妖精たちに導かれて長い廊下の先にある宝物庫へ辿り着いた。扉の両脇には焔神を模した石像のようなものが立っており、侵入者を殺すゴーレムだと妖精たちは言った。ノアとイーニアスは、その石像にご機嫌麗しいですか、こんにちは、お邪魔すると挨拶をした。すると石像が頷き、重々しい音とともに扉が開いた。中に入ると、そこは大きな広間いっぱいに金塊や金貨が積み上がり、壁も床も天井までも金でできている異様な空間であった。巨大な宝石まで床に転がっており、その圧倒的な光景に皆は息を呑んでいた。

壁に現れた古代文字と転移陣

ノアとイーニアスは宝物よりも見慣れないおもちゃを探そうとして部屋の奥へ進み、突き当たりの壁の前で立ち止まった。そこには、洞窟の地面に埋まっていたものと同じような石が二つあり、二人がせーので魔力を込めると壁が光り始めた。近づいてみると、そこには帝国文字ではない古代文字らしきものが円の中に描かれ、淡く発光していた。皇后はそれを見て、洞窟から転移した時にも同じ図形を見たことを思い出し、これは転移陣なのではないかと気づいた。妖精たちも、それに触ると転移すると説明した。

妖精の宝石遊びと二人の転移

その最中、アカとアオは頭のキノコに宝石を引っかけて、パーティーごっこをしようとしていた。皇后は呆れつつも転移陣に意識を戻したが、イーニアスとノアは壁の文字をミミズのようだと話しながら、光る文字に触れてしまった。途端に淡い光が強烈な輝きへ変わり、次の瞬間、二人の姿は目の前から消えていた。ソロモンはそれを見て、ノアとイーニアスが文字に触ったことを慌てて母へ伝えていた。

暗闇の中で聞こえた声

ノアは、光る壁に触れた直後に強い光に包まれ、目を開けると何も見えない真っ暗な場所にいた。近くにはイーニアスもおり、二人は互いの声を頼りに存在を確かめ合った。そこへ知らない老人のような声が響き、自分は不死鳥であると名乗った。直後に炎のような赤い鳥が現れ、部屋は一気に明るくなった。

不死鳥との出会い

ノアとイーニアスは、現れた赤い鳥を炎の鳥だと受け止め、その美しさに見入った。不死鳥は、自分は焼かれた鳥ではなく、不死の神獣であると主張した。そしてノアのことを見て、運命が捻じ曲げられていることや、高位の悪魔の影響を感じ取った。ノアとイーニアスが自分たちで悪魔を倒したと答えると、不死鳥は驚きつつ、ノアが複数の神の加護を持つ最強の存在であると評した。

イーニアスを管理者に選ぶ不死鳥

その一方で、不死鳥は相性が良いのはイーニアスの方だと見抜き、イーニアスこそ自分の代理人となる運命の子であり、神殿の管理者にふさわしいと告げた。イーニアスが管理者とは何かと尋ねると、不死鳥は、神殿とその空間の管理、神獣の世話、そして神獣の言葉を人々に伝える重大な役割だと説明した。イーニアスは、不死鳥を飼うには父母の許可が必要ではないかと考えたが、不死鳥は自分はペットではなく神獣だと強く否定した。

管理者登録の水晶

不死鳥は、大きな透明の水晶に魔力を注ぐようイーニアスに求めた。その水晶は、魔力を流した者を神殿の管理者として登録し、神殿維持の力とする魔道具であると説明された。イーニアスは父母に相談した方がよいのではないかと迷ったが、不死鳥は宝物庫の財宝や神殿内の物、加護、背に乗せて空を飛ばせることまで持ち出し、必死に説得した。その様子を見たノアは、不死鳥がどうしても管理者になってほしい理由があるのだと感じ取っていた。

世界を支える神殿の役割

不死鳥は、東西南北と中央にある神獣の神殿は、創造神によって作られ、世界を安定させるために人間の魔力で維持されてきたものだと語った。だが、先代の管理者が亡くなって長い時が経ち、不死鳥自身の力だけでは限界があり、あと数百年で世界が滅ぶと説明した。そのため、各神殿には新たな管理者が必要であり、イーニアスには焔の神殿を、ノアには風と水の神殿を任せたいと告げた。ノアとイーニアスは、自分たちがやらなければ世界が滅ぶのだと理解した。

焔神の加護を確かめたイーニアス

イーニアスは、先ほど焔神の声を聞き、今日だけ特別に皆へ加護を与えると言われたことを思い出し、不死鳥へ伝えた。不死鳥はそれが今日限りの加護だと一度落ち込んだが、イーニアスがもともと焔神の加護を授かっていると知ると、問題ないと喜んだ。イーニアスは、世界を救えるならと決意し、水晶へ魔力を注いだ。

焔の神殿の復活

イーニアスが魔力を流し込んだ直後、水晶の中が火事のように燃え上がり、さらに地面が大きく揺れ始めた。ノアとイーニアスは手をつないで座り込み、不安に耐えた。やがて揺れが収まると、不死鳥は焔の神殿が復活したと高らかに告げた。イーニアスは、これで世界は滅びないのかと尋ねたが、不死鳥は、西の神殿は救われたものの、東南北中央の残る四つの神殿にも管理者が必要だと答えた。

神獣たちの存在

不死鳥は、東の神殿には風と水、西には火、北には光、南には闇、中央には地の神獣がいると説明した。さらに、最後の一体として創造神の神獣がいるが、それは特別な存在で神殿にはいないのだと語った。ノアは数を数えながら話を聞き、イーニアスとともにその説明を受け止めていた。

不死鳥の背で見た復活した神殿

神殿復活の祝いとして、不死鳥は二人を背に乗せて空を飛ばせた。ノアとイーニアスは、ふかふかの背に乗って浮かび上がり、天井をすり抜けて青空へ出た。そこでは綿あめのような雲の中を飛び、下方には地上へ姿を現した神殿が見えていた。不死鳥は、神殿は帝都から遠く離れた西の森にあり、先ほどまで見えていた空は幻影魔法による偽物であったと説明した。さらに、この場所自体が別空間に存在しているため、外からは見えないのだと明かした。

管理者の印の授与

神殿へ戻った後、不死鳥はイーニアスへの礼として、羽を一本抜いてその胸へ送り込んだ。それによってイーニアスには管理者の印が刻まれ、いつでもここへ来られるよう、不死鳥の力の一部も与えられた。印は右肩甲骨あたりに現れており、ノアはそれを炎の羽のようで格好いいと伝えた。

財宝を断る二人

不死鳥は、宝物庫の財宝はすべてイーニアスのものだと言い、自由に持ち帰るよう勧めた。しかしイーニアスは置く場所がないから要らないと断った。不死鳥は今度はノアにも勧めたが、ノアも要らないと答えた。不死鳥はなおも好きにせよと叫んだが、結局二人は財宝に執着しなかった。

仲間たちとの再会

その後、不死鳥は仲間たちが心配しているからもう戻るよう促した。二人が再び光に包まれて目を閉じると、次の瞬間には元の宝物庫に戻っていた。そこではアカとアオが泣きながら二人にぶつかり、ソロモンと皇后マルグレーテも安堵しつつ涙ぐんでいた。ノアとイーニアスは、自分たちが心配をかけたことを謝り、皇后は無事でよかったと抱きしめるように受け止めていた。

神獣の話を持ち帰る決意

こうして地下迷宮での一件は終わり、ノアは帰ったらイザベルに神獣のことを教えようと考えていた。

図書館での枢機卿との遭遇

ぺーちゃんが昼寝している間、イザベル・ドーラ・ディバインは皇宮図書館を訪れた。皇宮に滞在している今、図書館が近く便利であることを喜びつつ、司書に植物図鑑を用意してもらい個室で読み始めた。しかし内容は公爵家の蔵書と似通っており、収穫は少なかったため、次に建築史と周辺諸国に関する本を頼もうと個室を出た。

ウィーヌス・ウラノ・ディオネとの会話

その時、隣の個室から空色の髪をした美しい人物が現れた。互いに会釈を交わしたのち、その人物は自らをウィーヌス・ウラノ・ディオネと名乗った。イザベルは、その髪色と名前から相手が枢機卿であると気づき、丁重に名乗り返した。枢機卿は、自身には良くない噂もあると笑ったが、イザベルは高名な人物として認識していた。話の中で、ディオネ家が武闘派の辺境伯家であり、その中で異質な存在として見られてきたことにも触れられた。

オリヴァーの話題とイザベルの違和感

やがて枢機卿は、イザベルの弟と先日劇場の前で会ったと語り出した。友人と観劇する予定だったが来られなくなり、チケットを譲ろうと声をかけたのだという。しかし弟は、使用人たちも一緒に観たいからと断ったのだと笑って話した。その際、弟がイザベルは領地にいると言っていたことにも触れ、今ここで会えたことを不思議がった。さらに、弟と一緒にいた小さな姫君についても尋ねてきた。イザベルはその話題に強い違和感を覚えながらも、確かな答えを返せずにいた。枢機卿は意味深な笑みを残して立ち去り、イザベルはその後ろ姿を見送りながら、胸の内に燻る不安を感じていた。

ノアの帰還と冒険話

その後、地下迷宮探検を終えたノアが無事に戻り、皇宮の離れの客室でイザベルに冒険の顛末を語った。ノアは疲れているはずだったが、話したくてたまらない様子で、最後に光に包まれて皆のもとへ戻ったところまで一気に話した。イザベルは、話の内容が四歳の子の土産話とは思えないほど壮大であることに戸惑いつつも、無事だったことに心から安堵してノアを抱きしめた。ノアも探検は楽しかったと笑顔を見せていた。

皇后の怒りと妖精たちの戦利品

引率した皇后は、心配のあまり倒れそうだったと強くこぼし、特にイーニアスが相談もなく勝手に行動したことを責めていた。イーニアスはその言葉に落ち込み、泣きそうになっていた。さらに皇后は、神殿の管理者になったことや赤い鳥に契約させられたことに怒りを見せていた。そんな中、アカとアオは宝物庫から持ち帰ったらしい宝石類をキノコ帽子に飾り、派手な姿でパーティーごっこをしていた。イザベルは、巨大なブルーダイヤまでついたその姿に呆れつつ、後で返却しようと考えていた。

子供たちの反省と皇后の受容

イーニアスが落ち込んでいるのを見て、ノアも自分も悪い子だとしょんぼりした。皇后は、反省しているならそれでよいと告げ、次からは自分かイザベル、あるいはテオバルドに相談するよう言い聞かせた。イザベルが自分には相談してはいけないのかと反応すると、皇后は視線を逸らしたが、結局二人とも怒っているわけではなく、世界滅亡を回避しようとした優しい息子たちを誇りに思うと伝えた。その言葉を受け、イーニアスとノアは皇后に抱きしめられていた。

東の神殿と珍獣ハンター

ノアは、赤い鳥から東の神殿へ行けと言われたこと、そこには神獣がいることをイザベルに伝えた。だがイザベルは、喋る赤い鳥や神獣を珍獣だと受け取り、東の神殿には珍しい動物がいるのだと勘違いした。その結果、ノアは自分を珍獣ハンターだと名乗り、イーニアスや妖精たちまで同調した。こうしてイザベルは、珍獣ハンターを量産してしまった形になった。

夜の報告と東の神殿への不安

夜になり、ノアとぺーちゃんが眠ったあと、イザベルは仕事から戻ったテオバルドに今日の出来事を話した。テオバルドも、神殿の管理者という話に驚きを隠せず、眠るノアを見つめていた。ぺーちゃんの手には、アオが持ち帰った巨大なブルーダイヤが握られていた。イザベルは、イーニアスが西の神殿の管理者になった以上、ノアも東の神殿の管理者になると張り切っていること、しかし神の加護がなければ死ぬ危険すらある場所にまた行かせるのは反対だと訴えた。テオバルドも、子供に世界の命運を背負わせるわけにはいかないという点では同じ考えであった。

オリヴァーと枢機卿の話への警戒

イザベルはさらに、皇宮図書館で枢機卿に会ったこと、その際にオリヴァーが劇場前で枢機卿と遭遇していたらしいこと、しかも自分が領地にいると話したという内容を伝えた。オリヴァーは警戒心の強い子であり、初対面の相手に家族の話をするような人物ではないと考えていたため、不自然さを感じていた。加えて、フローレンスらしき小さな女の子のことまで話題に出されたことから、イザベルは胸騒ぎを覚えていた。だがテオバルドは、今は自分の身体のことだけを考え、ストレスを溜めるなと諭し、ノアもぺーも必ず自分が守ると断言した。それでもイザベルの胸のざわつきは消えなかった。

翌朝のぺーちゃんの恐怖

翌朝、イザベルはぺーちゃんの大声で目を覚ました。見ると、ぺーちゃんは自分の手の中にあった巨大なブルーダイヤを見て震えていた。眠る時にはなかったものが突然手の中にあり、驚いてしまったのである。イザベルは、妖精がキラキラして綺麗だから見せたかったのだろうと説明しつつ、ぺーちゃんからブルーダイヤを受け取って、まだ眠っているアオへ返した。ぺーちゃんはようやく安心したものの、恐怖で泣き出してしまい、イザベルはマディソンとともに必死にあやすことになった。

『幻のブルーダイヤ』

幻のブルーダイヤの由来

冒頭では、最高品質のブルーダイヤ原石を、世界一と名高い加工技術を持つ者が丹精込めてカットした、世界に唯一つの巨大なブルーダイヤについて語られていた。この宝石をめぐって戦争が起こり、数十万人が死亡したとされる、いわくつきの宝石であった。

枢機卿の評価と新たな標的

枢機卿ウィーヌス・ウラノ・ディオネは、先ほど図書館で会ったイザベル・ドーラ・ディバインについて、外見は極上だが話してみれば凡庸な女だと見なしていた。そして、技術開発の実績も本人ではなく、別の者が行ったものをディバイン公爵が妻の功績として流している可能性を考えていた。一方で、新素材の開発についてはシモンズ伯爵家嫡男が関わっていると見ており、さらにフローレンスという子供がシモンズ伯爵邸の使用人の娘だと把握していた。枢機卿は、その娘の加護を利用して早く神獣に関わるものを手に入れねばならないと考え、まずはフローレンスの父親をどうにかする算段を始めていた。

穏やかな朝のひととき

一方で、ぺーちゃんが泣きやみ、しばらくするとノアが目をこすりながら目を覚ました。肩には同じように眠たげなチロが乗っており、その姿にイザベルは朝から心を和ませていた。ノアは抱っこをねだり、イザベルは息子を抱き上げて、幸せな朝の時間を過ごしていた。

管理者の印をめぐる騒動

その後、ノアは自分の背中にもマークを描いてほしいとイザベルに頼んだ。それはイーニアスの背中にある管理者の印と同じものを、自分も仲間の証としてほしかったからである。この話を受けて皇后に相談する場が設けられたが、そこには皇帝とテオバルドも同席していた。そしてイーニアスの背中に実際の印があることを知った皇帝は、息子にタトゥーのようなものが刻まれたと激しく動揺し、絶叫した。イーニアスは痛くはないと説明したが、皇帝はその健気さにかえって心を痛めていた。

管理者の変化を探る問いかけ

騒ぎの中で、テオバルドは神殿の管理者になると何をするのか、そしてイーニアスにどのような変化があったのかを丁寧に尋ねた。イーニアスは、月に一度魔力を神殿の水晶に注ぐだけだと説明し、変わったこととして以前より大きな火を出せるようになったこと、さらに赤い鳥と話せるようになったことを挙げた。ただし、その鳥が管理者以外とも話せるのかはわからず、イーニアスは直接その鳥に尋ね始めた。

赤い鳥との対話

やがて、皆には聞こえないはずの赤い鳥の声が、ノアにははっきり聞こえた。ノアはそれが赤い鳥の声だと教え、鳥は自分が恥ずかしがり屋なのではなく、尊き存在だから人前には出ず、イーニアスを通してしか話さない決まりがあるのだと弁明した。しかし、ノアは今まさに話していると素直に指摘し、そのやり取りは皆を和ませた。テオバルドは鳥を面倒そうだと切り捨て、鳥は親子そろって失礼だと憤っていた。

皇后と皇帝の怒り

その後、皇后と皇帝は、イーニアスを勝手に管理者にし、背中に印まで刻んだ赤い鳥に怒りをぶつけた。皇后は、世界を滅亡から救えなどという重い使命を子供に背負わせたことに激怒し、皇帝もそれに同調した。赤い鳥は仕方なかったと弁明したが、皇后は納得せず、イーニアスに悪影響があるのではないかと強く警戒していた。イーニアス自身は、相談しなかった自分が悪かったのだと庇い、皇帝はそんな息子の健気さに再び感動していた。

イザベルによる冷静な確認

場が熱くなる中、イザベルは赤い鳥に対して、自分はノアの母イザベル・ドーラ・ディバインだと名乗ったうえで、管理者になったことがイーニアスにどんな影響を及ぼすのかを順序立てて尋ねた。まず、魔力量が増えることは身体への負担にならないのかと問うと、赤い鳥は、普通は魔力量も器も変えられないが、イーニアスは自分と繋がったことで、自分の魔力量を使えるようになり、しかも器は自分が担うため、イーニアス自身に負担はかからないと説明した。

神力と魔力の仕組み

さらにイザベルは、赤い鳥の持つ力と水晶に注ぐ力の違いについても問いかけた。赤い鳥は、自分の力は魔力ではなく神力であり、水晶はそれをうまく受け取れないのだと答えた。一方で人間を通した神力は魔力に変換されるため、イーニアスが媒介となれば問題なく扱えるのだと説明した。イザベルはこれを、神力を魔力に変える仕組みとして理解し、月に一度の魔力注入以外に危険な役割は本当にないのかを確認した。赤い鳥は、神託を伝える可能性はあるが、実際には管理者に求められるのは月に一度の魔力注入程度だと答えた。

チロによる保証

それでもイザベルは赤い鳥の説明に胡散臭さを感じたため、最後にチロへ、この話は信じてよいのかと尋ねた。チロは問題ないと自信を持って答え、問題なのは性格だけだと補足した。その言葉を受け、イザベルはようやく話を信じることにした。皇后と皇帝も、チロがそう言うならと、それ以上の追及は控えた。

子供たちへの共有と謝罪

話が一段落すると、イザベルはトランプで遊んでいた子供たちを呼び寄せた。イーニアスはぺーちゃんを抱っこしており、ぺーちゃんもとても大人しくしていた。イーニアスは、赤い鳥への誤解が解けたかを心配していたが、イザベルは皇后も皇帝も怒りを収めたと伝えた。その言葉を聞き、イーニアスは両親のもとへ向かった。すると皇后は、自分が頭に血が上ってしまったことを認め、勝手に怒ってしまったことを謝りながら息子を抱きしめた。

管理者としての注意点

その後イザベルは、子供たちも集まったところで、管理者となったことによる注意点を共有した。まず、魔力量が増えるということは魔法の威力も上がるということであり、火の攻撃魔法を主に使うイーニアスにとって、それは大きな意味を持つと説明した。だからこそ、まずは自分の力を知ることが必要であり、その訓練はテオバルドに任せるべきだと述べた。また、月に一度の神殿訪問についても、イーニアスがある程度大きくなるまでは必ず保護者が同行すべきだと提案した。皇后はそれに強く同意し、皇帝も次は自分も行くと張り切っていた。

ノアとの約束

最後にイザベルはノアへ向き直り、まだ管理者ではないものの、神殿に行ったり管理者になったりするような行動は、必ず自分かテオバルドに相談してからにするよう約束させた。ノアは、自分は世界を救うヒーローだと胸を張りつつも、その約束には素直に従い、相談することを約束した。イザベルは、もし神殿へ行くことになるなら、必ずテオバルドに同行してもらおうと心に決めていた。

エピローグ

前世のノアへの思い

地下迷宮の探検は、世界の存亡に関わる大きな話へ発展したが、当の子供たちは意外なほど前向きで、大人たちの方が慌てていた。そんな賑やかな様子を見ながら、イザベル・ドーラ・ディバインは前世のノアのことを思い返していた。前世のノアは父を早くに亡くし、戦時中は最前線で戦い続け、悪魔にまで立ち向かっていた。フローレンスがいたとはいえ、聖女は後方支援であり、前線で共に戦う存在ではなかった。そのためノアは、たった独りで重い宿命を背負い、英雄として崇められながらも苦しんでいたのではないかと考えていた。

今のノアが持つ仲間たち

一方で今のノアには、イーニアスと妖精たち、さらに周囲で支えてくれる大人たちがいる。管理者になるのだと楽しそうにしている息子の姿を見て、イザベルはこの時間がどれほど奇跡的で得難いものなのかを改めて実感していた。今のノアには、たくさんの仲間がいて、心から笑えているのだと、前世のノアに伝えたいと願っていた。

子供たちの誓い

ノアは、イーニアスと一緒に世界を救うのだと語り、イーニアスもノアと一緒なら何だってできると応じた。そこへアカとアオも加わり、自分たちも一緒だと賑やかに主張した。こうして子供たちは、皆で力を合わせて世界を救い、英雄になるのだと明るく笑い合っていた。

大人たちの決意

その言葉を聞いたイザベルは、テオバルド、皇后、皇帝と視線を交わし、子供たちの笑顔を守らなければならないと改めて心を固めた。自分たちにとってかけがえのない宝物である子供たちのためなら、できることは何でもするという思いを共有していた。

ぺーちゃんも含めた未来への願い

ぺーちゃんもまた輪の中に加わり、イザベルとイーニアスからヒーローだと認められた。大人たちは、迷宮探検を経てひとまわり成長した子供たちが、これからさらに多くの経験を積み、逞しく育っていくのだろうと感じていた。そしてその未来を楽しみに思いながら、子供たちの幸せを心から願っていた。

呪いのブルーダイヤ

ノアの衣替えとカミラの役目

ノアのクローゼットは、専属侍女であるカミラを中心に、選び抜かれたメイドたちによって管理されていた。かつてノアの立場が微妙であった頃、侍女を引き受ける者がいなかったため、新人だったカミラが抜擢されたが、今では事情が変わり、誰もがノアの世話を望むようになっていた。それでもなお侍女を任されているのは、イザベルとノアがカミラを望んでいるからであり、カミラはその期待に応えようと励んでいた。そんな中、この日は三ヶ月に一度の衣替えの日であり、衣類だけでなく装飾品やおもちゃの整理、新たな仕立てや商人との調整まで含めた大仕事が始まっていた。

おもちゃ箱から現れたブルーダイヤ

衣替え作業の最中、おもちゃ箱の整理をしていたメイドが突然悲鳴を上げた。駆けつけたカミラが見たのは、この世のものとは思えないほど透明感のある神秘的な青色をした、拳大の巨大なダイヤモンドであった。それは迷宮探検の際に妖精のアオが持ち帰り、イザベルが呪われそうだと引いていた特大のブルーダイヤであった。メイドたちは恐れおののき、一人は泥棒が宝物庫から盗んでここに隠したのではないかと震えながら口にしたが、カミラは屋敷の警備体制から見てその可能性は低いと判断していた。

妖精のいたずらとして処理しようとするカミラ

動揺が広がる中、カミラはこれ以上場が乱れないよう、これは妖精のいたずらかもしれないと努めて明るく言った。メイドたちもその言葉で少し落ち着きを取り戻したため、カミラは自分が執事長へ報告に行くと決めた。指紋がつかないよう手袋をつけ、震える手でブルーダイヤをトレーに載せ、布をかぶせて部屋を出た。執事長の居場所を考えた末、この日は宝飾店の者と商談しているはずだから一階の客間にいると見当をつけたものの、商談中に声をかけるべきではないと迷って立ち尽くしてしまった。

奥様に届けるという判断

その時、近くからノアとイザベルの楽しそうな笑い声が聞こえてきたため、カミラはイザベルに判断を仰ぐのが最善だと気づいた。急いで階段を下りる途中、トレーにかけていた布がふわりと落ちてしまったが、ダイヤを落とさずに済み、安堵しながら布を拾い直した。その後はより慎重に歩き、無事にブルーダイヤをイザベルのもとへ届けた。カミラはそこでようやく緊張から解放された。

イザベルの反応とアオの行動

ブルーダイヤを受け取ったイザベルは、一般的な貴族夫人のように宝石に高揚することなく、アオがまたブルーダイヤをおもちゃにしていたのだと呆れ気味にため息をついた。カミラは物騒な事件でなく妖精のいたずらでよかったと胸をなで下ろしたが、イザベルはアオが、宝石をつければパーティーに参加できるという考えをまだ引きずっているのだと説明した。さらに、自分が以前教えてしまったことで、屋敷の地下にはたくさんの宝石が転がっているため、アオがそれらを全部つけてパーティーに行こうとしたら、一つや二つ会場に落としてしまうかもしれないと心配していた。カミラは、その心配はそこではないと心の中で強くつっこんでいた。

外部の視線にさらされた秘宝

カミラとイザベルがそのように話している間に、カミラが布を落とした瞬間、ブルーダイヤは外部の者の目に触れていた。その者は、その大きさと神秘的な輝き、そして今まで見たことのない透明感のある青を目にして、あれこそがディバイン公爵家の秘宝なのだと確信していた。

カミラの呼び出しと不安

カミラがノアとイザベルの姿に癒やされ、改めて衣替えを頑張ろうとノアの部屋へ戻ろうとした時、リビングの扉がノックされ、テオバルド付きの執事が現れた。執事はカミラを探しており、今すぐ旦那様のもとへ来るようにと告げた。それまで一度もテオバルドに呼び出されたことのなかったカミラは、自分が粗相をして侍女を解任されるのではないかと怯えた。イザベルはそれを否定して落ち着かせ、ノアもカミラを励ましたため、カミラは二人に付き添われてテオバルドのもとへ向かった。

商談室で明かされた問題

商談に使われている部屋の前まで来ると、中から切迫した男たちの声が聞こえてきた。入室すると、ウォルトがカミラに対し、先ほど運んでいたブルーダイヤについて確認した。カミラがイザベルに渡したと答えると、ウォルトは大きくため息をつき、そのブルーダイヤをある男が目撃してしまったのだと説明した。部屋の中では若い男がテオバルドの前で土下座しており、その異様な光景にカミラもイザベルも言葉を失っていた。

ルークス宝飾店の祖父と孫

その若い男は、ディバイン公爵家御用達であるルークス宝飾店の店主ルークスの孫で、宝石彫刻師のロマンであった。ルークスは孫の無礼を詫びたが、ロマンはなおもブルーダイヤをもう一度見せてほしいと懇願した。彼はその石を欲しているのではなく、見たこともないカットを間近で見たいだけだと必死に訴えた。イザベルはその理由を尋ね、ロマンの言葉に興味を示した。

ブリリアントカットへの反応

イザベルが何気なくブリリアントカットという言葉を口にすると、ロマンは即座に食いついた。場の空気を読む余裕もなく、そのカットとは何かと強く問いただしたため、周囲は引いていたが、宝石彫刻師である彼にとって、その言葉は無視できないものであった。ここでカミラは、かつてイザベルが妖精のアオから持ち帰られた巨大なブルーダイヤを見て、古いカットだと見抜き、より光を反射させるブリリアントカットにすれば美しくなると話していたことを思い出していた。

妖精と研究室で生まれた秘宝

当時アオはその話に興味を示し、イザベルは絵を描いて説明したのち、アオが光の妖精であることからレーザービームで加工できるかもしれないと考えた。こうしてイザベルと妖精は離れの研究室にこもり、数日後、見たこともない輝きを放つブルーダイヤを完成させたのである。離れの研究室には練習台となった大量の宝石の残骸が転がっており、それらを箒で掃いて片付けていたことを後で知ったメイドたちは絶叫した。こうして、イザベルの発想と妖精の力によって、公爵家の秘宝と呼ぶべき宝石が誕生していた。

カミラの絶望と意外な展開

カミラは、そのような経緯で生まれた秘宝を外部の人間に見られてしまった責任は重大であり、自分の命を差し出す程度では済まないと覚悟していた。だがその一方で、イザベルとロマンは宝石のカット技法について語り合い始めた。ロマンは、今の主流であるローズカットよりも優れたものを常に考えており、自分なりにオールドマインカットに通じる高度な技法を考案していたことを明かした。しかしブルーダイヤを一瞬見ただけで、その表面が五十七から五十八もの面で構成され、光を内側で反射させるよう計算されていることを見抜き、自分の考えが覆されたと語った。

職人同士の対話と新たな挑戦

イザベルはロマンの考案した技法を聞いて、その発想を素晴らしいと高く評価した。ロマンは、自分の技法などブリリアントカットに比べれば赤子同然だと落ち込んだが、イザベルは知識と理解の深さをもって応じていた。やがてロマンはようやく冷静さを取り戻し、先ほどの無礼を詫びた。するとテオバルドは、公爵家の秘宝そのものは見せられないが、カットに失敗した屑石なら見せても構わないと告げた。さらにイザベルは、ブリリアントカットの成功例はまだ一つしかなく、ロマンほどの技術を持つならぜひ挑戦してほしいと勧めた。ロマンはその提案を受け、挑戦を決意した。

カミラの立場は守られる

一連の騒動のあと、ノアはカミラをいじめてはならないとテオバルドに訴えた。テオバルドは自分は何も言っていないと困惑したが、イザベルがカミラたちが侍女を辞めさせられるのではと不安になっていたのだと説明した。ノアも父に怒った様子を見せたため、結果としてカミラは何事もなく侍女を続けられることになった。カミラは、イザベルとノアへの感謝を新たにし、生涯この二人に仕えようと心に誓った。

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