物語の概要
『月が導く異世界道中』は、あずみ圭氏による異世界ファンタジー作品である。
物語の概要
高校生・深澄真は、月読命と女神によって異世界に召喚されますが、女神の身勝手な理由で世界の果てに追放されてしまう。
真は商人として活動しながら、異世界での生活を切り開いていく。
主要キャラクター
• 深澄 真(みすみ まこと):主人公。異世界に召喚された高校生で、商人として活動しつつ、強大な力を持つ。
• 巴(ともえ):上位竜「蜃」であり、真の第一の従者。真の記憶から時代劇を好む。
• 澪(みお):「災厄の黒蜘蛛」と呼ばれる魔獣で、真の第二の従者。食欲旺盛で、真に忠誠を誓う。
物語の特徴
本作は、異世界召喚という定番の設定ながら、主人公が女神に見放されるというユニークな展開が特徴。また、商人としての活動や、多種多様なキャラクターとの関係性が物語に深みを与えている。
書籍情報
月が導く異世界道中 16
著者:木野コトラ 氏
原作:あずみ圭 氏
キャラクター原案:マツモトミツアキ 氏
出版社:アルファポリス
発売日:2025年10月31日発行
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あらすじ・内容
TVアニメ第三期制作快調、夏休みの鍛錬の成果が実る!!
夏休みを利用して、自主トレを始めた主人公・真(まこと)。修練の甲斐あって魔力の物質化に成功……と思いきや、想定外の事態が発生! そんな真のドタバタの陰で、亜空に住まう有志たちが一大イベントを計画していて――。
感想
読み終えて、まず感じたのは、小説版には描かれていないエピソードの多さである。夏休みを利用した真の自主トレから始まる物語は、魔力の物質化という成果を生み出すものの、そこから想定外のドタバタ劇へと発展していく。この展開が、とても面白かった。
今巻で特に印象的だったのは、ユーノとシフがメインで活躍していた点だ。ユーノの特撮スーツへの執着が生まれた経緯が描かれていたのも、その一環だろう。小説版でも蒸着装置を空に投げたという回想はあったと記憶しているが、特撮スーツそのものが登場するシーンはなかったはずだ。ユーノの特撮スーツへの異常なまでの情熱は、この時に澪によって植え付けられたものなのだと考えると、澪も罪なことをしたものである。ユーノの暴走っぷりは、見ていて飽きない。
そして、シフの活躍も目覚ましい。普段は冷静沈着な彼女が、今巻ではどのような活躍を見せてくれるのか、読み進めるのがとても楽しみだった。
物語の終盤は小説版にもあったエピソードだったが、漫画版ならではの表現が加わっていた。絵の迫力や、キャラクターの表情など、文字だけでは伝わりにくい部分が、より鮮明に伝わってくるのが漫画版の魅力だと改めて感じた。真のドタバタ劇の裏で、亜空に住まう有志たちが一大イベントを計画しているという展開も、今後の物語にどう影響してくるのか、とても楽しみである。
本作は、戦いだけでなく、日常や人間関係も丁寧に描かれている点が魅力だ。真と仲間たちのコミカルなやり取りや、亜空の住人たちの個性的なキャラクターが、物語をより一層魅力的なものにしている。ユーノとシフという、普段とは違うキャラクターにスポットが当たったことで、物語に新たな奥行きが生まれたように感じる。
読後感としては、笑いあり、感動ありの、とても満足できる一冊だった。ユーノとシフの今後の活躍にも期待したいし、亜空の一大イベントがどう展開していくのかも、目が離せない。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
真(マコト)
クズノハ商会の代表であり、講師としても活動する人物である。
・所属組織、地位や役職
クズノハ商会・代表。ロッツガルド中央学園・講師。
・物語内での具体的な行動や成果
高難度素材を短時間で調達した。魔力物質化の実験でスライム体を生成した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
新技披露会で結界の死角を突いて内部侵入を示した。
識
真の従者であり、回復と指導を担う術者である。
・所属組織、地位や役職
クズノハ商会・第三の従者。学園講義補佐。
・物語内での具体的な行動や成果
負傷学生の回復を実施した。アベリアに属性付与の基礎を指導した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
新技披露会の最終演者として実力を示した。
澪
真の従者であり、荒野での実地訓練を主導した人物である。
・所属組織、地位や役職
クズノハ商会・第一の従者(自称)。
・物語内での具体的な行動や成果
ユーノに変身装備を与えて訓練を実施した。特別枠の演出を企画した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
発表会で眷属と共演し場を掌握した。
巴
真の従者であり、催しの企画運営を行う調整役である。
・所属組織、地位や役職
クズノハ商会・第二の従者(澪視点)。催事主催者。
・物語内での具体的な行動や成果
新技披露会を主催した。採点基準と安全管理を示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
イベント運営で各種族の交流を促進した。
ユーノ=レンブラント
帰郷した令嬢であり、戦闘方針に迷いを抱えつつ修行の道を選んだ人物である。
・所属組織、地位や役職
レンブラント商会・令嬢。モリスの門下希望者。
・物語内での具体的な行動や成果
ギルドで依頼選定を行った。酒場の騒動では冷静に退避を図った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
モリスの体術に弟子入りを志願した。澪の装備で荒野訓練を受け始めた。
モリス
老執事であり、高い戦闘力と統率力を示した人物である。
・所属組織、地位や役職
レンブラント家・執事。
・物語内での具体的な行動や成果
酒場で暴れる冒険者を一撃で制圧した。ユーノとアーシェの離脱を指揮した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
自らの力量を「商人風情だがレベル三百ほど」と示し周囲を驚愕させた。
レンブラント
商会当主であり、家庭では過保護な父として描かれた人物である。
・所属組織、地位や役職
レンブラント商会・当主。
・物語内での具体的な行動や成果
臨河の報告を受けて対応を検討した。商隊の準備を進めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
家庭内意思決定では妻に主導権を譲った。
リサ
商会女主人であり、家庭と事業の双方で決断を下す人物である。
・所属組織、地位や役職
レンブラント商会・女主人。
・物語内での具体的な行動や成果
シフに臨河行きを命じた。夫に業務の遂行を促した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
家内の実権を握り、教育方針を明確化した。
シフ
令嬢であり、臨河で実務経験を積み始めた人物である。
・所属組織、地位や役職
レンブラント商会・長女。
・物語内での具体的な行動や成果
荷物確認の任務を遂行した。リスイへの弟子入りを自ら求めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
魔術と精霊術の融合を学ぶ見習いとなった。
ライム
クズノハの現場担当であり、調整役として動いた人物である。
・所属組織、地位や役職
クズノハ商会・従業員。
・物語内での具体的な行動や成果
臨河でシフを案内した。リスイに紹介し弟子入りを取り付けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
過去の因縁に向き合いつつ支援役を担った。
リスイ
荒野で研究に専念する魔族の錬金術師である。
・所属組織、地位や役職
臨河ベース・錬金術師。
・物語内での具体的な行動や成果
素材取引で真と交渉した。シフを条件付きで弟子として受け入れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
融合術の使い手として注目を集めた。
トア
ツィーゲのトップ冒険者であり、護衛任務で臨河に現れた人物である。
・所属組織、地位や役職
ツィーゲの冒険者・パーティ領袖。
・物語内での具体的な行動や成果
商隊護衛を予定より早く完了した。現地調整に協力した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
臨河での信頼を高めた。
アーシェ
受付業務を担う職員であり、規律の厳しい職場で成績向上に寄与した人物である。
・所属組織、地位や役職
冒険者ギルド・受付担当。
・物語内での具体的な行動や成果
依頼複製の貸し出しでユーノを支援した。酒場で絡まれた際に助言に従い膝蹴りで危機を脱した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
依頼達成率の上昇に貢献したとされる。職務姿勢が上司に評価されている。
アベリア
学園の学生であり、弓術と魔法の両立を模索する人物である。
・所属組織、地位や役職
ロッツガルド中央学園・学生。
・物語内での具体的な行動や成果
図書館で研究を行った。識の助言で属性付与の基礎に到達した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
魔法固定化に成功し次段階へ進んだ。
エヴァ
学園図書館の司書であり、学術面の支援を担う人物である。
・所属組織、地位や役職
ロッツガルド中央学園・司書。
・物語内での具体的な行動や成果
アベリアの学習状況を把握し情報連携を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
講義運営の補助役として信頼を得た。
ミスラ
実験熱心な学生であり、失敗から示唆を残した人物である。
・所属組織、地位や役職
ロッツガルド中央学園・学生。
・物語内での具体的な行動や成果
実験中の爆発で医務室に運ばれた。直前に示唆的な言葉を残した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
事象の解明が今後の課題として残った。
エマ
回復と補助に秀でた術者であり、連携技の要となった人物である。
・所属組織、地位や役職
クズノハ商会・術者。
・物語内での具体的な行動や成果
アガレスに強化を付与し高得点を記録した。事故の凍傷を即時治療した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
詠唱言語の改善提案で翼人に協力を呼びかけた。
アガレス
前衛戦士であり、信頼連携により渾身の打撃を示した人物である。
・所属組織、地位や役職
ハイランドオーク族・戦士。
・物語内での具体的な行動や成果
「キュア・コキュートス」で巨岩に高得点を刻んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
単独志向から共闘志向へと姿勢が変化した。
ベレン
老練の鍛冶と戦闘に通じる戦士である。
・所属組織、地位や役職
エルダードワーフ・匠兼戦士。
・物語内での具体的な行動や成果
変形巨大斧で「山斬り」を披露した。岩を大きく断った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
高威力技で会場の評価を得た。
アクア
森鬼の若手であり、共鳴補助により結界構築を担った人物である。
・所属組織、地位や役職
森鬼族・代表出場者。
・物語内での具体的な行動や成果
エリスと共に「献花氷牢」を展開した。会場の保安事案に対応した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
代表として技術発表の責を負った。
エリス
研究と現場の両立を行う術者である。
・所属組織、地位や役職
クズノハ商会・術者。
・物語内での具体的な行動や成果
「献花氷牢」を設計し披露した。反射機能で事故が発生し解除判断に従った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
結界の強度と危険性を示し改善課題を残した。
ミスティオ・リザード(戦士団)
冷静な陣形運用で対空迎撃を示した集団である。
・所属組織、地位や役職
亜空・リザード族戦士団。
・物語内での具体的な行動や成果
上空への一斉射で対翼人戦術を提示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
発表会で高水準の得点を記録した。
翼人族(白蝙蝠羽・黒鳥羽)
機動力を誇る空戦種であり、新戦術の構築に踏み出した集団である。
・所属組織、地位や役職
亜空・翼人族。
・物語内での具体的な行動や成果
二層連携で命中精度を示した。黒鳥羽が防御重視案を提言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
他種族との協働を受け入れ、戦術改善に動いた。
ショナ
翼人の調整役であり、牧場運営で他種族と連携した人物である。
・所属組織、地位や役職
亜空・翼人代表者。
・物語内での具体的な行動や成果
ゴルゴンの牧畜を視察した。作業協力を申し出た。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
種族間の実務連携を前進させた。
ゴルゴン族(姉妹)
石化の魔眼を持つ女性種であり、生活基盤の再構築を進める集団である。
・所属組織、地位や役職
亜空・牧畜と裁縫の担当。
・物語内での具体的な行動や成果
牧場業務に従事した。発表会で石化技は無機物に通じないことを確認した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
装いと生活を改善し、交流の機会を広げた。
アルケー(ホクト)
澪の眷属であり、粘糸戦術を披露した戦士である。
・所属組織、地位や役職
アルケー族・戦士。
・物語内での具体的な行動や成果
拘束と斬撃を合わせた攻撃で得点を記録した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
眷属戦力の多様性を示した。
展開まとめ
第百二夜「素材採取 RTA」
ギルドでの再会
アーシェは冒険者ギルドの受付業務を担当していた。荒野担当に配属されなかったことを喜び、気楽な環境に満足していたが、職務中に上司から注意を受けていた。その折、かつての仲間ユーノが帰郷し、突然ギルドを訪れる。再会を喜ぶアーシェとユーノは、軽口を交わしつつ近況を語り合った。
ギルドの変化と雑談
ユーノは久々の帰郷により、街とギルドの変化に驚いていた。アーシェは現在の職場が荒野専門ギルドよりは楽だが規律が厳しいことを語り、依頼達成率の向上を誇らしげに述べた。また、有能な冒険者の増加で上司が上機嫌であると話す。ユーノは案内を頼み、仕事が終わるまで待つことを提案し、互いに冗談を交わした。
依頼探しと仕事風景
アーシェはユーノに依頼書を見せ、複製を貸し出して選定を促した。ユーノはそれを見ながら適した依頼を探すが、アーシェへの感謝として酒を奢る約束をする。二人は気軽なやり取りを続け、アーシェは仕事を再開する一方、ユーノは依頼掲示板で真剣に内容を確認した。
ユーノの成長への葛藤
ユーノは依頼選定の途中で、自身の戦闘力に思いを巡らせた。かつて共に戦った仲間ジンやミズラ、エナ、イヅモらと比較し、自分がまだ中途半端な実力であると感じていた。スキルや魔法に頼らず、肉体を鍛えて戦うライドウの方針を理解しつつも、明確な戦闘スタイルを見出せずに悩んでいた。彼女はモリスの庇護を離れて以降、一定の成長を遂げたが、次なる目標を見失い、亜竜討伐のためにどう戦闘能力を伸ばすべきか答えを見いだせずにいた。
依頼選びと再会の宴
ユーノは依頼掲示板で低難度の依頼ばかりを見つけ、成果を得られずにいた。アーシェは荒野担当に比べれば平和だと笑い、二人は再会を祝して飲みに出かける。酒場で互いに冗談を交わしながら旧交を温め、ユーノは平和な夜を楽しむ気分でいた。
荒野専門ギルドの男たちとの遭遇
酒場では荒野専門ギルドの冒険者が現れ、アーシェに絡み始めた。彼らは酔っており、女性のユーノたちをからかいながら近付く。ユーノは軽口で受け流そうとするが、相手の酔いは深く、空気は険悪化していく。アーシェは恐れを見せ、二人は困惑するが、男たちはさらに絡みを強めた。
レンブラント家の名が火種に
男たちはアーシェの友人がユーノ=レンブラントであることを知り、商会への敵意を露わにした。レンブラント商会の名が逆に火をつけ、酔客たちは罵声を浴びせる。ユーノは冷静を装いながらも、アーシェに逃げるよう促す。だが、男の一人がユーノの喉を掴んで持ち上げ、アーシェも拘束されてしまう。場の空気は完全に暴力の域に達した。
モリスの介入
その緊迫の中、執事モリスが現れ、穏やかな声で場を制した。彼は男の腕を軽く打ってユーノを救出し、アーシェに指示を与える。「バンザイ」と言われた彼女が従うと、男の拘束が一瞬緩む。続けて「膝を」と助言され、アーシェが反射的に放った膝蹴りが男の股間に命中した。男はその場で昏倒し、酒場は騒然となる。
事後処理と帰還
モリスは冷静にユーノを抱え上げ、アーシェと共にその場を離脱した。ユーノは感謝を述べつつも、屋敷へ帰るよう促される。モリスが「奥様がお待ちです」と告げると、ユーノは青ざめ、叱責を免れない未来を悟った。アーシェも恐怖と安堵が入り混じる表情でモリスに礼を述べ、夜の騒動はようやく収束した。
モリスの実力と対峙
モリスは執事服の上着を脱ぎ、冷静に暴れる冒険者の前に立った。相手は自分を「荒野で稼ぐ冒険者」と豪語し、「暗土のベースまで行ける実力者」と誇示したが、モリスは「半年も前の水準」と淡々と評し、レンブラントを敵に回す軽率さを指摘した。激昂した冒険者が襲い掛かると、モリスは一撃でその鳩尾を蹴り抜き、「商人風情ですがレベル三百ほどでございます」と静かに告げ、続けざまの回し蹴りで完全に制圧した。
圧倒的な力量と周囲の反応
老執事の動きは俊敏かつ優雅で、周囲の客たちはどよめきと歓声を上げた。アーシェはその強さに歓喜し、ユーノは呆然としながらも感嘆の声を漏らした。モリスは乱れた服を正しながら「老体に鞭打つのは困りますな」と語り、酒場には拍手が広がった。
ユーノはこれまで見たことのない師の姿に衝撃を受け、自らの課題に重ね合わせて見入った。
ユーノの決意と新たな道
戦闘後、モリスはユーノに帰宅を促すが、ユーノは彼の動きを見つめたまま「見つけた、これだ」と呟き、突如として弟子入りを懇願した。「今みたいなのを教えて」と真剣に頼み込むユーノに、モリスは言葉を失う。
翌日、レンブラント邸の中庭では、ユーノの母がモリスを師に選んだ娘の判断を静かに受け入れ、家族はそれぞれ思惑を抱えながら見守っていた。ユーノは迷いを断ち、モリスの体術を学ぶ新たな修行の日々へと踏み出した。
姉シフの動揺
レンブラント家の中庭で、母リサは突然「シフ、臨河まで行ってきなさい」と告げた。父が驚愕する中、シフも困惑し、自分はまだ荒野に出られるほどの実力がないと訴える。しかしリサは「誰が冒険者として行けと言ったの?」と一蹴し、商家の娘としての経験を積むための小用だと説明する。母の穏やかな笑顔の裏に反論を許さぬ圧があり、父娘は沈黙した。
母リサの真意
リサは、商会の仕事で臨河ベースまでの荷物確認を任せたいと話す。転移陣を使えば距離も短く、危険はないという説明にシフは渋々同意した。一方で父は「荒野に行く必要はない」と庇うが、リサは笑顔のまま「娘たちの経験を奪ってどうするのです?」と反論。夫は言葉を失い、家族の主導権が完全に妻の手にあることを痛感する。
母の教育方針と父の狼狽
リサは「可愛い子には旅をさせろ」という言葉を引用し、娘たちを鍛える意志を明言した。過保護な父は焦って弁明するが、リサの静かな威圧に屈する。父の「クズノハ様まで使って無理に帰郷させたのは愛情から」という言葉も、母の冷静な笑みに遮られた。家庭内ではリサが完全な実権を握っており、誰も逆らえない空気が漂う。
出発の決定とシフの覚悟
最終的にリサは「明日は早いから準備を」と命じ、シフは逆らえず頷いた。父も「うう……」と項垂れ、妻の決定を受け入れるしかなかった。こうして、シフの臨河行きが決定する。レンブラント家の姉妹はそれぞれ異なる形で成長の機会を与えられ、物語は次なる舞台、荒野のベースへと移る。
臨河での顔合わせ
レンブラント商会の依頼を受け、真は従者の識と共に臨河ベースを訪れた。同行するのはクズノハ商会の従業員ライムで、彼の案内で魔族のリスイとの商談に臨む。リサから「娘に荒野での仕事経験を積ませたい」と聞いた真は、商会の下見を兼ねての訪問でもあった。リスイは戦争や政治から距離を置き、荒野で研究に専念している魔族の女性であり、ライムは「口は悪いが気のいい人」と紹介した。
魔族リスイとの対面
真はクズノハ商会代表として丁寧に自己紹介し、リスイの協力を求める。リスイは興味を示しつつも慎重な態度を崩さず、専門分野である魔術・精霊術・錬金術に関する話題を交え、素材取引の条件を確認した。
真は目的の素材「ルビーアイの瞳」を求めるが、リスイは「入手難度が極めて高く、手に入れるのは年単位の仕事だ」と告げる。それに対し真は即答で「すぐに用意できる」と返し、リスイを呆然とさせた。
真の迅速な行動とリスイの驚愕
ライムが場を和ませるように「最近荒野で急に名を上げた冒険者トア一行を鍛えたのは、実は真のご主人なんですよ」と補足する。さらに、「その時にルビーアイの瞳を大量に採取したのも真本人です」と明かされ、リスイは完全に言葉を失う。
直後、真は「では用意してきます」と席を立ち、短時間で本当に素材を持ち帰ってくる。リスイは「……はやっ!?」と驚愕し、真の圧倒的な行動力と実力を思い知らされる。
交渉の成立と素材の納品
真は素材を完璧な状態で提示し、「解体に失敗しそうだったので頭ごと持ってきた」とあっさり言ってのけた。リスイは呆然としながらも、即座にその品質を認め、クズノハ商会との正式な取引を承諾する。商談は極めて短時間で成立し、リスイは内心で「この男、只者ではない」と確信した。
場面転換:シフの臨河訪問
場面は変わり、レンブラント家の長女シフが臨河ベースに到着する。彼女は父の伝言と商会の用件を携え、現地の担当者と取引を進めていた。父からの指示を丁寧に伝えながら、無理のない交渉を心掛けており、レンブラント家の娘としての実務経験を積み始めていた。
第百三夜 「常識外れデーモン」
臨河ベースでの再会
臨河ベースで荷物確認の任務にあたっていたシフは、血痕と爪痕が残る輸送車を見て緊張を覚えていた。冒険とは無縁と思っていた仕事が、予想以上に危険と隣り合わせであることを実感する。
作業に集中していたところ、背後から「そこにいるのはシフお嬢さんじゃねぇか?」と声がかかり、驚いて振り返ると、それはクズノハ商会のライムだった。彼の後ろには、ツィーゲのトップ冒険者トアの姿もあり、シフは思わぬ再会に驚愕する。
臨河ベースでの再会
臨河ベースで荷物確認の任務にあたっていたシフは、緊張しながらも作業を進めていた。そんな中、クズノハ商会のライムが声をかけてきて、彼女は驚きながらも応じる。ライムの隣には、ツィーゲのトップ冒険者トアの姿もあり、シフは思わぬ再会に動揺する。
トアとの初対面
トアは快活に自己紹介し、「レンブラント商会のお嬢さんに名前を知ってもらえて嬉しい」と笑顔を見せる。シフはツィーゲでも有名な冒険者たちを前に、礼儀正しく挨拶。ライムとは過去の因縁があるため、やや緊張を残すが、表面上は丁寧に応対した。トアの依頼がレンブラント商会の護衛であったことが判明し、両者の行動がそこで結びつく。
和やかな会話と別れ
トアたちが護衛を務めた商隊が予定より早く到着したことで、シフはその働きを称賛する。トアは軽く笑いながら会話を終え、打ち合わせを引き受けると言い残して立ち去った。残ったライムは、臨河で情報収集を行っており、翌日には荒野の奥へ向かう予定だと話す。シフは「一人で荒野に!?」と驚くが、ライムは「クズノハ商会の仲間と三人で行く」と軽く答えた。
過去への確執とわだかまり
ライムが以前の事件に触れ、「謝罪も済ませた」と話すが、シフは冷たい表情で「頭では理解していますが、普通に接するのはまだ難しい」と返す。ライムは「謝罪なら今ここで土下座でもいい」と冗談交じりに言うが、シフは「そんなことで過去がなかったことにはならない」と感情を抑えきれずに反発する。それでも彼女は父からすでに事情を聞き、ライムがクズノハ商会に迎え入れられたことも知っていた。ライムはその反応を受け入れつつ、「許さなくていい」と静かに言葉を締める。
精霊術師としての関心
話題が変わり、ライムは「お嬢さん、精霊術を使うんだってな」と問いかける。シフは不審に思いながらも頷くと、ライムは「この臨河には精霊術と魔術を融合させた術を使う者がいる」と語る。その話にシフは大きな衝撃を受け、自分が目指す理想の術師像に重なることから、強い興味を示した。
魔族との邂逅を提案するライム
ライムは続けて、「その術の使い手は魔族だ」と明かす。シフは一瞬ためらうが、ライムは「荒野じゃ種族なんて関係ねぇ。魔族の変わり者だと思えばいい」と諭す。沈黙ののち、シフは「会ってみたい」と決意を示し、ライムはすぐに案内を申し出る。
ライムの導きで、シフはついに精霊術と魔術を融合させる異能の使い手――魔族リスイとの邂逅へと向かうのだった。
リスイ宅への訪問
臨河居住区でライムは、魔族の錬金術師リスイの家を訪ねた。扉を叩きながら「生きてるかー」と気安く声をかけると、リスイは呆れ顔で応対する。今回は素材の代金ではなく別件だと説明し、ライムはシフを伴ってきた。
シフの大胆な願い
ライムが紹介を切り出すよりも早く、シフは自ら「リスイさん! 私に魔術と精霊術の融合術を教えてください!」と真っ直ぐに頭を下げた。突然の申し出にリスイは呆然とし、「なぜ私がそんなことを?」と困惑するが、ライムは「この子はお前と同じ系統の術を使う」と助け舟を出す。シフはさらに、「素材代金は私が払います」と持参した金を差し出し、即金で契約を迫る。その勢いにリスイはたじろぎながらも、レンブラント商会の娘であることを知って驚愕した。
ライムの紹介とリスイの動揺
ライムは「クズノハの視察で臨河に来ている」と弁明するが、リスイは「なんで大商会の娘を魔族に関わらせるんだ!」と声を荒げる。それでもライムが真剣に頭を下げて頼み込むと、彼女は折れて「数日見てモノにならなければ叩き返す」という条件で弟子入りを承諾した。シフは喜び、リスイも「面倒くさい注文をまとめて頼む覚悟をしな」と苦笑しながら家に迎え入れる。
ライムの去り際と内心
シフが家に入ると、ライムは静かにその場を離れる。リサから「シフを臨河で学ばせてほしい」と頼まれていた彼は、「これで大丈夫だろう」と胸を撫で下ろす。だが同時に、過去の出来事への罪悪感から、無意識に彼女たち姉妹の成長を見守り続ける自分に苦笑するのだった。
リスイとシフの師弟の始まり
シフはすぐに実践に入り、リスイから魔術と精霊術の基本構造を教わる。リスイは最初、彼女とライムの関係を怪しみ、「あの粗野な男とどう繋がってるんだ」と探るが、シフは「以前助けられたことがあるだけです」と答える。リスイは荒野で魔物に襲われた際、ライムに救われた過去を語り、「あいつは人を欺けるような奴じゃない」と呟く。シフはその言葉に頷き、「都合良く利用させていただくだけです」と微笑んだ。
レンブラント家の驚愕
一方ツィーゲでは、レンブラントが書斎で報告を受け、娘が臨河で魔族に弟子入りしたと知って仰天する。彼女は荷物確認のついでに「臨河の観光」に出たと報告され、父は愕然。モリスが冷静に「案内役も付けており、荷物が揃うまでの滞在です」と補足するが、レンブラントは娘の行動力にただ頭を抱えるしかなかった。
仕事と家庭の板挟み
レンブラント商会では、臨河に滞在しているシフからの報告を受け、父レンブラントは動揺を隠せずにいた。妻リサは冷静に「シフに恥をかかせるつもりですか?」と詰め寄り、商隊に休みを与えず急ぎ荷の準備を指示する。さらに「お仕事で見せる顔の半分でも家で見せてください」と苦言を呈し、家庭内で頼りない夫の態度をたしなめた。レンブラントは「シフとユーノを見ていると、どうしてもなあ」と言い訳するが、リサは容赦なく仕事人としての自覚を求めた。
夫婦のやり取りと善処の誓い
リサは「ライドウ様もあなたを信頼しているのです」と諭す。レンブラントはしどろもどろになりながら「善処はする、いや、してみる……つもり」と答えるが、リサのため息は深かった。かつて金と地位を追い求めていた頃の野心的な夫と比べ、今の過保護な父親ぶりに呆れつつも、それが彼の魅力でもあると苦笑する。
妻の決意と小さな圧力
その後、リサは「私も臨河へ視察に行きます」と宣言し、レンブラントをぎょっとさせる。慌てて止めようとする夫に対し、リサは静かに微笑んだまま黒いオーラを放ち、「ご自分の仕事をなさってください」と低い声で圧をかける。レンブラントは即座に背筋を伸ばして「はいっ!」と返事をし、机に向かうのだった。
並行するロッツガルドの場面
一方その頃、ロッツガルド中央学園では、真が講師として特別フィールドで講義の準備をしていた。
彼の前に現れたのは、授業が始まる前にもかかわらず既に満身創痍の学生たちである。真は内心で「……なんで講義を受ける前からボロボロなんだ、生徒たち。特にミスラ」と嘆息した。
治療の必要を感じた真は、傍らの識に「識、回復を」と指示を出す。識は落ち着いた声で「承知しました」と応じ、即座に回復魔法の詠唱を始めた。
こうして臨河で修行を始めたシフと、ロッツガルドで教育に臨む真――二つの舞台は、同時に新たな展開を迎えようとしていた。
図書館での研究と焦り
講義後、アベリアは図書館で亜竜の生態やブレス発動に関する資料を読み漁っていた。だが書物ごとに記述内容が異なり、炎のブレス発動に関する情報も一致しなかったため混乱する。以前の講義内容を思い出せず、焦燥を募らせながら勉強を続けていたが、練習場の予約時間が迫り慌てて退室した。司書のエヴァに礼を述べ、再び書を借りに来ると告げて図書館を後にした。
識とエヴァの会話
その後、エヴァは図書館で識と遭遇し、アベリアの様子について話す。識は彼女が自らの授業内容を復習していたことを知り、安堵する。エヴァはアベリアが識の弟子であり、いずれは講義で亜竜を討つ実践を担当するのかと尋ねるが、識はその予定はないと否定する。識は学園都市の周囲には亜竜が生息していないと説明し、エヴァも納得した。
魔術練習場での失敗
アベリアは学園内の魔術練習場で、ブレスの模倣を応用した魔法実験を行っていたが、発動が不安定で矢が何度も燃え尽きてしまう。火傷を負いながらも回復薬を使うのを惜しみ、自力治癒を選んだ。そこへ識が現れ、図書館で見かけたと声をかける。焦るアベリアに識は「焦っても無駄をするだけ」と冷静に助言し、観察を続けた。
魔法の基礎確認と導き
識はアベリアが自らの力量不足を感じ、焦りから無理をしていることを見抜く。そして過去の模擬戦で識が行った武器への属性付与を思い出させる。魔法を戦闘で活かすためには、まず武器への固定付与と制御を理解すべきと説き、魔物の解体や構造理解が重要であると指導する。アベリアはその助言により、魔法の焦点を「解体」へと見出した。
実演と成長の兆し
識は実際に杖を用い、属性付与の要領を実演してみせる。油のような魔力を流し込み、制御の精度を上げる工程を説明した。アベリアもその手順を真似て魔力の制御を試み、矢の形を維持することに成功する。識は彼女の集中が深まっているのを確認し、静かにその場を離れた。
成果と余韻
日が暮れる頃、アベリアはついに魔法の固定化に成功し、歓喜の声を上げた。しかし識の姿はすでになく、彼女は残された回復薬を見つけ、識の気遣いに感激して涙を流した。後にクズハ商会の応接室では、真とエリスが帰還後の様子を語り合い、ボロボロになった生徒たちの状況を確認していた。
エリスからの報告
真はエリスから、自分たちの不在中に生徒たちの間で起きた出来事を聞いていた。アベリアをはじめとする生徒たちは、それぞれの得意分野を鍛えており、順調に成長していた。しかし、ミスラが実験中に突然爆発を起こし、医務室に運ばれるという一件があった。ミスラは気絶する直前、「そういうことか」と謎の言葉を残しており、真とエリスはその意味を測りかねていた。
深夜の実験と異変の発生
真は生徒たちの努力を確認し、自身も刺激を受けて修練を再開した。深夜、亜空間開拓予定地で魔力制御の課題に取り組むうち、魔力が異常反応を起こして物質化し、スライム状の物体が発生した。真は困惑しながらも、自分の魔力が実体を持ったことを確認し、予期せぬ結果に驚きを隠せなかった。
第百四夜日
「修(練したら)スラ(イムができた件)」
魔力物質化の研究に着手
深夜、真は亜空にある自宅で、司書エヴァから勧められた論文「魔力の物理干渉の可能性について」を読んでいた。論文は、魔力の物質化を研究テーマとし、その仮説・準備・挑戦の三段階に分かれていた。真は研究内容を読み終えると、実際に自らの魔力を使って試行を始める決意を固めた。
魔力物質化の実験開始
真は魔力を物質化させるための理論を確認しながら、実践的な魔力制御を行った。初めは魔力の放出量に意識を取られたが、徐々に安定した流れを掴み、外部に魔力を展開することに成功する。しかし、論文には「魔力の物質化には膨大な魔力量が必要で、限界を超えると生命の危険もある」と警告が記されており、過去の実践者が死亡した例も書かれていた。
論文の警告と実験の継続
論文の後半には、「一人で行うな」「危険を感じたら中断せよ」「協力者を可能な限り集めよ」といった多数の警告文が記されていた。著者自身の挑戦記録も載っており、複数の術者が協力して行うことで物質化の一部成功を収めたことが示されていた。真はその内容を理解しつつも、興味に駆られて単独で実験を進めた。
初成功と小さな成果
真が詠唱を行うと、床の上に砂粒ほどの物質が出現した。それは魔力の物質化に成功した証であった。期待した成果には遠かったが、魔力を実体化させることには成功し、安定した形状を保っていた。真はその小さな欠片を観察し、研究を進めれば応用の可能性があると考えた。
続行への意欲と準備
論文の続きには「研究を進めるには、失った粒子を探すことから始めよ」と記されており、真はそれを実践することを決意する。エマに軽食を受け取り、修練に出かける準備を整えた。彼は論文の著者がその後行方不明になった記述に一抹の不安を覚えつつも、さらなる探求へと踏み出していった。
詠唱体系と論文への敬意
真は魔力物質化の論文を読み進め、著者が使っていた高位詠唱「ウェアードチャント」に興味を抱いた。一般的に広く使われる「コモンチャント」や、そこから派生した「ノーブルチャント」「グラフチャント」に比べ、この詠唱は古代語に近く、現存する術者がほとんどいない絶滅言語に等しいものであった。真は研究の深さに感銘を受け、著者への敬意を深めていった。
古代詠唱の実情と研究者の孤独
著者は各地を巡って古文書を集め、伝承を紐解きながら失われた詠唱体系を再構築していたと推測された。真はその労力に驚き、学園の講師ですら理解不能なほどの難解な術語に、現代で研究する者がいない理由を悟る。亜空ではミスティオリザード族が古代詠唱を継承している例もあり、真は古代言語の奥深さを改めて認識した。
禁忌の詠唱と失われた言語
さらに真は論文の末尾で、かつて禁忌とされた詠唱「フォルカチャント」の存在を知る。それはグラフやノーブルに匹敵する威力を持つが、使用者は女神の祝福を失うという呪われた言葉とされていた。著者は禁忌に手を出さず、あくまで正道からの解明を目指した研究者であり、その姿勢に真は敬意を抱いた。
古代詠唱の継承と識の言葉
真は自身が使う「ロストチャント」が、識によって改良された簡易詠唱であることを思い出した。識は古代語を扱うハイエンドオークが使いやすいよう改変したと述べており、真はそれをさらに独自に改良して使っていた。古代詠唱の本質に近づくほど、識の教えの正しさを実感していった。
新たな実験と予期せぬ変化
真は試みに、以前の詠唱を「ロストチャント」形式に変換して発動を試みた。砂とともに障壁のような魔力膜が発生し、内部構造が二層に分離する現象が起きる。真はそれをマヨネーズ作りの乳化現象に例え、魔力の内外が分離し変質した結果だと推察した。魔力物質化の研究は、未知の領域へと一歩踏み込んだ段階に達していた。
魔力融合の試行
真は論文を参照しつつ、内外の魔力を融合させる新たな実験を開始した。砂と障壁を混ぜ合わせ、魔力の内外を油と卵に見立てて慎重に融合を試みた。詠唱を調整しながら外部魔力を制御した結果、魔力の発動が突如として停止し、異常な現象が発生する。
未知の物質の出現
魔力の暴走を危惧した真の前で、突如として半透明の膜状物質が形成された。それはスライムのように柔らかく弾力を持ち、真の身体を包み込む形で出現した。砂や障壁は消失しており、真は「魔力が物質化した存在」だと推測する。外部からの操作にも反応し、物理的な干渉に耐える強度を有していた。
再現実験と制御確認
真は再び詠唱を行い、再現性を確認。生成されたスライム状の魔力体を「おかえりスライムくん(仮)」と命名した。外部魔力のみで構成されたこの存在は、内側からの衝撃には弱いが、外部からの攻撃には高い防御力を示す。さらに真はスライム内部から魔法射撃を行う実験を成功させ、魔力体の応用可能性を見出した。
防御実験と課題の発見
スライムの外殻は外部からの衝撃を完全に防御し、伐採予定の木にも大きな損傷を与えなかった。一方で、物質化しているため展開や移動には制限があり、常時使用には不向きであると判明。真はさらなる改良の必要性を感じつつも、防御力強化の手応えを実感した。
実験後の思索と覚悟
真は地面に横たわり、浮遊するスライムに包まれながら思索する。もし自分が死んだ場合、亜空そのものが連動して消滅する可能性があり、住民を巻き込む危険を考慮していた。ゆえに、亜空の維持を自分以外でも可能にする方法を見つける必要を痛感する。
未来への決意
真は「自分がいなくても亜空が存続する」確証を得るまでは決して死なないと誓い、皆が自立して守り合えるように強くなることを願った。そして、まずは目の前の成果であるスライムの改良を進める決意を新たにした。
亜空住民区での異文化交流
亜空の住民区において、新たに迎え入れられたゴルゴン族の女性達がリザードマン達と交流を試みる。彼女らは繁殖のために他種族の男性との協力を必要としており、率直に「性的対象として見られるか」と質問。突然の問いにリザードマン達は困惑しつつも、「我々は卵生であり性的対象には見られない」と丁寧に断る。
種族間の価値観の相違
リザードマン側はゴルゴン達を美的には評価しながらも、性的対象としては見ないと説明する。一方でゴルゴン達は「どの種族の男性とも子を成せる」と主張し、見た目や相手の種族を気にしない交配性を持つことを明かす。生まれる子は全てゴルゴンであり、外見よりも繁殖相手の確保が重要とされていた。
記憶保管室での相談
ゴルゴン族の代表が真に相談を持ちかける。眼鏡の魔道具により石化能力の制御は可能になったものの、亜空内の男性から声をかけられることが少ないという。真は「相手が足りないのか」と聞き、繁殖期を逃す懸念を理解するが、具体的な解決策を出せずに困惑する。
他種族からの評価と誤解
荒野系の種族や純血主義的な民族は他種との交わりを拒む傾向にあり、ゴルゴン達は異種間交配が進まない状況にあった。見た目にこだわるヒューマン男性にも受けが悪く、街で誘っても成果はなかったという。ゴルゴン達は自らの魅力に自信が持てず、繁殖期を迎えても相手が見つからないことを不安視していた。
巴への相談と真の拒絶
巴に相談した結果、「若様(真)を発情させることができれば、相手にすることも考えてよい」と言われ、ゴルゴン達は真にアプローチを試みようとする。だが真は即座に「何言ってんだバカ!」と強く否定し、狼狽する。場の空気は一時騒然となったが、真は話題を逸らして彼女達に別の提案をする。
美的支援と雰囲気改善
真はゴルゴン達に女性向けファッション誌とヘアカタログを提供し、興味を持った服や髪型を亜空内で再現できるように手配する。ゴルゴン達は大喜びし、皆で共有することを決意する。自分たちの外見に対して前向きな意識が芽生え、雰囲気は大幅に明るくなった。
真の心境と締め
帰り際、ゴルゴン達は何かを忘れたような感覚を残しながら去っていった。真は机に突っ伏し、「二人に相談しただけなのに……」と頭を抱える。巴と澪にこの件を報告すれば、また厄介な方向に発展しそうだと察し、ため息をつくのだった。
ゴルゴン問題の相談
真は、ゴルゴン族から繁殖協力を求められた件について、どう対応すべきか判断に迷い、識とライムに相談する。しかし話の切り出し方が曖昧だったため、二人は「真の恋愛や性的関係に関する相談」と勘違いしてしまう。
識とライムの恋愛観
識は「私は性欲がすでに枯れていますので、そういうことはありません」と静かに答え、淡々と距離を取る。一方、ライムは平然と「体だけの相手なら何人かいる」と告白し、真をドン引きさせる。
続けて識は「この世界では一夫多妻が一般的で、男性が複数の女性と関係を持つことは珍しくない」と説明。真は唖然としながら、「文化が違う……」と呟くしかなかった。
ライムの誤解と過剰な反応
真が「実は相談というのはゴルゴン族のことで……」と事情を説明すると、ライムは即座に「なるほど、そういうことなら任せてください!」と張り切る。
あまりに勢いづくライムに真は慌て、「そういう意味じゃない!!」と必死に否定した。
真への直球質問と赤面
それでもライムは真に向き直り、「でもさ、若様的にはゴルゴンのお姉さんたち、どうなんです? 体つきも良くて美形揃いですよ?」と茶化すように聞く。
真は顔を真っ赤にし、「ぼ、僕はそういうのは! ちゃんと好きな人同士で、結婚を前提に……!」と狼狽。
その様子を見た識とライムは、同時に苦笑しながら内心で呟いた。
「……文化が違う」
ゴルゴン問題の後始末
ゴルゴン族の件はライムが引き受けてくれたことで一段落したものの、真はまだ心の整理がつかずにいた。巴はその様子を見ながら、「ゴルゴン達を統制しようとしてくれたのかもしれませんが、言葉の選び方というものがあるでしょう」と諭す。
真は「巴と澪の例えはやめてくれ」と赤面しつつ反論するが、内心では自分が少し意識してしまったことを悔しがっていた。
巴からの報告と提案
話題を変えるように、巴は一枚の書類を差し出し、「つきましては催しの許可をいただきたく」と報告する。
しかし真は上の空で聞いており、巴が「若? 聞いておられますか?」と呼びかけても気のない返事しか返さない。
ようやく興味を示した真が「で、なんの催しだって?」と尋ねると、巴は答える。
新技披露会の企画
「――亜空の脳筋有志による新技披露会でございます」と。
巴の提案に真は呆れたように書類を見つめ、「新技披露会?」と聞き返すのだった。
第百五夜
「ザ・イエロー・サン」
ゴルゴンの件とライムの疲弊
執務室にて識が新技披露会の出場者名簿を提出し、同時にゴルゴンの件について報告した。ライムは当初、繁殖期のゴルゴンたちの相手を一手に引き受けていたが、相手の多さに疲弊し、ついに披露会を欠場することとなった。識はこの事態を「繁殖機会の少ない種族が積極的に動くのは当然」と分析し、真も苦笑しながら理解を示した。
亜空におけるゴルゴンたちの新たな生活
場面は亜空の平原へ移り、ゴルゴンたちは羊や牛の世話に従事していた。彼女たちは以前の荒野での生活から一転して、広大な環境で牧畜や裁縫に励み、真から渡されたヘアカタログをもとにおしゃれを楽しむようになっていた。彼女たちの穏やかな会話の裏には、種の存続を担う重大な事情が潜んでいた。
翼人ショナとの交流
牧場を訪れた翼人ショナは、ゴルゴンの長から飼育の状況を聞き取った。羊は大人しく飼いやすいが、牛は気性が荒く危険であり、飼育には石化能力を持つ者でなければ対応できないことが語られた。ショナはこの話に驚きつつも、翼人の飛行能力を活かして運搬や牧場作業などで協力したいと申し出た。ゴルゴン側もこれを歓迎し、将来的にはヤギやニワトリといった新たな家畜の導入も検討されることになった。
繁殖観の違いと種族間の認識
会話の流れで、ゴルゴンたちは繁殖に関する率直な質問を翼人へ投げかけた。彼女たちは交雑しても子が完全なゴルゴンとして生まれるため、相手種族に不利益はないと説明した。この発言にショナは動揺し、場の空気は一瞬緊張を帯びた。だが、その後のやり取りは互いの文化や価値観の違いを確認する穏やかなものとなり、相互理解の一歩を築く場となった。
新たな協力体制の形成
対話の最後に、ゴルゴンの工房から呼び声が上がり、彼女たちは新しい試作品の完成を知らされた。ショナは退席を申し出て、後日再び訪問することを約束した。こうして、ゴルゴンと翼人の間に実務的な協力関係が芽生え、牧畜・家畜管理を通じて亜空社会全体の基盤を強化する流れが形作られつつあった。
翼人族の模擬戦と敗北
翼人たちは真との模擬戦に臨んだが、結果は完敗であった。いかに高度を取り、空からの一方的な攻撃を仕掛けようとも、真の魔術と弓の精密な射撃により全員が容易く撃ち落とされる。空を制することを誇りとしてきた彼らにとって、この敗北は屈辱であり、族長カクンは戦術の根本的な見直しを迫られた。
黒鳥羽(ペイジ)の反論と提案
議論の中で、下位階級とされる黒鳥羽の一人が発言した。彼は模擬戦の際、仲間たちと共に真の攻撃をわずかに逸らすことに成功したと報告し、「全力で防御と回避を組み合わせれば、一撃、あるいは二撃までは耐えられる」と主張した。この意見は上位種の白羽たちから半信半疑で受け取られたが、確かな観測に基づくものであり、会議の空気を変えるきっかけとなった。
上空攻撃班の新戦術構築
黒鳥羽の提案をもとに、上空から攻撃を行う部隊と、地上で座標を念話で伝達する支援班を連携させる新戦術案が立案された。高高度からの奇襲を狙うことで、真の射程を外し攻撃の隙を突こうというものである。しかし族長カクンは「それだけでは甘い」と指摘し、この戦法が成立するには高度な連携と訓練が不可欠であると結論づけた。
他種族との連携を巡る意見の対立
議論の末、白羽の一人が「他種族にも意見を求めてはどうか」と発言する。これに対して保守的な翼人たちは「翼人の戦術を他に晒すなどありえない」と強く反発した。だが黒羽の者が「亜空では種族の境界に囚われるべきではない」と訴え、カクンもその考えに賛同。彼は「今は同じ亜空で生きる仲間であり、共に発展すべき時だ」と語り、閉鎖的な姿勢を改める方向を示した。
新技披露会への提案と決定
会議の最後、白羽の代表が「近く新技披露会が開催される」と報告し、この新戦術をそこで正式に発表してはどうかと提案する。翼人族の面々は一瞬ためらうも、最終的にこれを受け入れ、三日後の模擬戦で戦術を完成させて臨むことを決定した。亜空の一員としての誇りを取り戻すため、彼らは再挑戦の準備に入った。
クズノハ商会の一幕
一方その頃、ロッツガルドのクズノハ商会では、アクアとエリスが開店準備を進めていた。師匠であるエリスは「樹刑の解析と樹園の調査」で多忙を極めており、代わりに森鬼代表として新技披露会に出場する任をアクアに託すことを告げる。突然の指名にアクアは驚き、「新技なんて、そう簡単に出来るものでは……」と困惑するが、任務を引き受ける覚悟を固めつつあった。
新技「献花氷牢」の完成
エリスはクズノハ商会の工房で、新たに開発した技の試作品をアクアに披露した。その技は「献花氷牢(けんかひょうろう)」と名付けられ、氷と花弁を融合させた美しい結界魔術であった。エリスの魔力だけでは発動が不安定であるため、彼女はアクアに「最も気の合う協力者」として共鳴魔力を求める。アクアは渋りながらも、頼られる嬉しさを隠せずに承諾した。
アクアの出場決意とユーノの登場
新技が「若でも破れぬ強固な結界」であると聞かされたアクアは、その実力に感嘆しつつも、自身が代表として披露会に出場することに不安を抱いていた。しかし「種族代表として仕方ない」と自分を奮い立たせ、エリスの支度を手伝う中で徐々にやる気を取り戻していく。
一方その頃、ツイーゲのレンブラント邸ではユーノが登場。衣装部屋で服を整えていた彼女は、突然背後に気配を感じ、反射的に魔力を放つ。振り向きざまに構えるユーノの前に現れたのは、見知らぬ人物であった。
澪との出会いと誤解の始まり
ツイーゲの衣装部屋で突然現れた澪に驚いたユーノは、即座に魔術で警戒するが、澪はその術を軽々と無効化する。自己紹介をした澪は「クズノハ商会の代表として若様にお仕えする者」と名乗り、その圧倒的な実力にユーノは驚愕する。
澪の提案と強引な決定
澪はユーノが執事モリスから体術を学んでいることを見抜き、「今日は私と修練しなさい」と一方的に決定する。さらにユーノの「若様の一番の従者を目指す」という志を高く評価し、「その気持ちが気に入った」と満足げに語る。
“一番と二番”を巡るすれ違い
澪が「私と巴さんが一番も二番もいますから無理ですけれど」と穏やかに述べたことで、ユーノは「澪と巴が若様の一番と二番の妻である」と誤解してしまう。実際の澪の意図は「一番と二番の従者」という意味であったが、両者の認識は完全に食い違っていた。
ユーノの誤解と決意
澪の言葉を「恋愛的な宣言」と受け取ったユーノは衝撃を受けつつも、「まだ正式な妻と決まったわけじゃない!」と心の中で反発する。そして拳を握りしめ、「ボクは諦めない……!」と決意を新たにするのだった。
荒野への転移
澪に連れられたユーノは、いつの間にかヒューマンが滅多に踏み入らない「荒野未開拓地」へと転移していた。熱気と雪原が入り混じる異様な風景に驚くユーノに、澪は「ここは奥地です」と微笑み、さらりと説明する。恐る恐る「もし魔物が来たらどうするのか」と尋ねるユーノに、澪は悪戯めいた笑みで「貴女は美味しい餌ですわね」と告げ、ユーノを震え上がらせた。
変身装備の授与
怯えるユーノを安心させるように、澪は「お守りを貸します」として一本の装置を手渡す。澪の指示通りに「変身!」と唱えると、ユーノの全身は光に包まれ、重厚な金属鎧に覆われた姿へと変化する。驚くユーノに澪は満足げに頷き、「音声ガイドONですわ」と補足するが、鎧には録音機能まで搭載されており、ユーノは大混乱する。
暴走する鎧と試練の開始
ユーノが戸惑う中、澪は「これが新しい装備です」と平然と告げ、使用方法を教えるためと称して巨大な魔物を召喚する。「しっかり覚えなさい」と言いながら魔物を前に出す澪に、ユーノは必死で応戦しようとするが鎧は暴走状態に入り、制御不能となる。
暴走の果てに
「パワーアシストONですわ!」という音声が響き、ユーノの身体は意思に反して魔物を殴り飛ばすほどの力を発揮する。だが出力が高すぎて姿勢制御が追いつかず、ユーノはその反動で吹き飛ばされてしまう。澪はそんな様子を微笑みながら観察し、「これなら新技披露会に間に合いそうですね」と満足げに語り、音声編集や装備改良の構想を練り始めていた。
亜空新技披露会の開幕
亜空ランキング会場では、各種族が技術と魔法の進歩を披露する「新技披露会」が開催された。主催は巴で、戦闘技術の研鑽と種族間の交流を目的とした催しである。会場中央には識と巴が協力して魔術を施した巨大な岩山が据えられ、攻撃を加えることで威力が数値化される仕組みとなっていた。その圧倒的な大きさに真は思わず「でっか……」と呟く。
披露会の採点方式
巴の説明によれば、攻撃の威力は岩に当てた際の反応で自動的に計測されるが、支援や補助系の技術は数値化が難しいため、従者との連携や補助技を含めた総合評価で判断されるという。また、得点は付与されるものの「優勝」や「最優秀賞」といった順位は設けられず、あくまで発表会形式として行われると説明された。
真の提案と巴の制止
真は興味を示し、「じゃあ最初に僕が試しで岩の強度を測ってみるとか」と提案するが、巴は即座に「イベントを破壊しないでください」と真顔で制止する。真の“スライム体パンチ”は物理的威力がまだ低いと言い訳するが、巴と識は内心ヒヤヒヤしていた。
トップバッターの登場
開幕一番手にはハイランドオーク族のアガレスとエマが選ばれた。会場の期待が高まる中、巴が二人の名前を高らかに呼び上げ、いよいよ新技披露会の幕が切って落とされた。
アガレスとエマの出場
新技披露会の一番手として登場したのは、ハイランドオークのアガレスとエマのペアであった。補助魔術に秀でたエマが出場することは意外と見られていたが、彼女は攻防回復を兼ね備えた万能型術師として高い実力を誇っていた。巴は開会の宣言を行い、二人の演目「キュア・コキュートス」が開始される。
第百六夜
「キュア・コキュートス」
信頼に基づく連携
エマの強化魔法を受けたアガレスは、圧倒的な魔力増幅の中で武器を振りかざす。その魔術は僅かな調整の誤差で爆発を招くほど繊細であり、澪は「信頼がなければ成立しない」と評した。真もまた、アガレスの新たな一面に感心し、かつての「自分だけを頼りにする戦士」から仲間と共に戦う者へと変化したことを実感する。
全力の一撃と成果
エマの補助を受けたアガレスは全力で拳を放ち、巨岩へと叩き込む。轟音と共に爆風が会場を包み、数値は「78点」を記録した。観客席からは歓声が上がり、巴も「なかなかの数値」と評価する。真は「もう少し行くと思った」と感想を漏らすが、巴によればこれは十分に高得点であり、模擬戦で識にダメージを与えられる水準に相当していた。
評価基準と強者比較
識への有効打が75点、巴に通すには100点、澪には50点が目安とされることが判明する。真はそれを聞いて「改めて恐ろしいスペックだな」と苦笑し、巴は「最高点は私に設定してあります」と余裕の笑みを浮かべた。アガレスとエマの一撃は、単なる威力だけでなく信頼と連携の象徴として、発表会の幕開けを飾るにふさわしいものとなった。
ミスティオ・リザードの登場
次に登場したのは、ミスティオ・リザードの戦士団であった。彼らは常に冷静で戦略的な種族として知られ、登場時から観客席には緊張が走る。真は「うちの従者は僕を何だと思ってるんだ」と苦笑し、巴も「若様を基準にするのは不適」と同意する。一方、アガレスはリザード達に「亜空ランキングで勝つのは難しくなりそうだ」と忠告を送り、彼らは静かに「覚悟しておけ」と応じた。
対空特化の攻撃披露
ミスティオ・リザードたちは陣形を組み、合図と共に上空へ向けて一斉にブレスを放つ。その攻撃は地上ではなく天空を狙ったもので、観客の真は「空に撃ってどうするの?」と首を傾げる。識はこれを「翼人対策のアピール」と説明し、実際に模擬戦では翼人族以外が彼らに勝てたことがないと語る。結果は68点と高水準で、地上からの対空迎撃能力を証明する形となった。
翼人族の対抗策
続いて出場した翼人族は、亜空内で最も高い機動力を誇る種族である。彼らは白蝙蝠羽が黒鳥羽の陰に隠れて上昇するという二層構造の戦術を展開し、相手の視界を撹乱した。真もかつての模擬戦で黒鳥羽の防御力に苦戦した経験があり、識も「空戦での防御を重視している」と分析する。翼人たちは上空から地上のリザード陣を俯瞰し、位置情報を共有する高度な連携を披露した。
命中精度と戦術の妙
黒鳥羽の戦士が視界と座標を仲間と共有することで、白蝙蝠羽の攻撃は全弾命中。観客の真も「的が大きいとはいえ、あの高さから全弾命中はすごい」と称賛した。しかし威力はリザードに及ばず、得点は20点に留まった。巴は「攻撃力は今後の課題」と評し、翼人族も悔しさをにじませる。
言語と詠唱の改良提案
披露後、エマは翼人族に対し「新しい詠唱言語を学んでみませんか」と提案した。これは魔術効率を向上させる研究の一環であり、翼人族の代表たちは「ぜひ参加させてください」と即答。巴も「イベントを通じて良い成果が得られましたね」と微笑み、披露会は新たな学術的発展へと繋がる成果を残した。
ベレンの新技「山斬り」
続いて登場したのはエルダードワーフのベレンであった。彼は一見地味な小型の斧を携えて登場したが、実際にはサイズを自在に変化させる「変形巨大斧」であった。構えた瞬間、斧は倍々に拡大し、ベレンが放つ一撃「山斬り」は岩を真っ二つに割るほどの威力を見せる。計測値は七十点を記録し、観客から大歓声が上がった。真も「すっごい!」と素直に驚き、巴は「これだけ攻撃して壊れない岩もすごい」と識とともに自画自賛した。
アルケー族の参戦
続いて登場したのは澪の眷属であるアルケーの戦士ホクト。彼らは粘糸を用いた戦闘技術を披露し、攻防一体の柔軟な戦い方を見せた。ホクトの一撃は岩に斬撃と拘束を同時に与える形となり、最終的に六十五点を記録。真は「アルケーってあんなにいたの!?」と驚くが、澪は「彼らは粘糸でできた傀儡ですわ」とさらりと答えた。
ゴルゴン族姉妹の挑戦と失敗
次に登場したのはゴルゴン族の姉妹。彼女たちは見た目を整えた「イメチェン」姿で現れ、石化の魔眼による技を披露しようとする。しかし、相手が無機物である岩であったため効果は発揮されず、結果はゼロ点。観客は静まり返り、真も「まあ岩に石化は無意味だよね……」と呟く。ゴルゴン姉妹はその場に項垂れ、披露会の空気は一瞬で和やかな笑いに包まれた。
森鬼アクアとエリスの登場
発表会の最終演目に登場したのは、森鬼族のアクアとエリスであった。二人は華やかな装束をまとい、まるで儀式の巫女のような姿で現れる。周囲の者たちはその奇抜な格好に驚愕し、真は「ファッション分くらいは加点してもよい」と苦笑した。モンドたちも「儀式に必要だと言われたら断れない」と困惑の表情を見せる。
氷結結界の披露
アクアとエリスは「全身全霊を尽くして披露する!」と宣言し、息の合った詠唱と舞を開始した。二人の魔力が共鳴し、氷の花弁のような紋章が展開されていく。やがて「コキュートス・フローラル・トリビュート」の名を持つ防御結界が完成し、巨大な氷の神殿のような構造物が出現した。その強度は圧倒的で、攻撃を受け付けない完璧な防御を実現していた。
反射機能による事故と結界の異常
観客の一人が興味本位で攻撃を加えようとしたところ、結界のカウンター機能が発動し、攻撃者の腕を凍結させてしまう。エマが即座に治療を行う事態となり、会場には緊張が走った。識は「結界は一撃ごとに自動修復され、損傷が蓄積しない完全防御型」と分析し、巴も「これは数日かけても解除が難しい」と評した。
真の観察と死角への転移
真は黙って結界の構造を観察していた。彼は結界が地表より少し下までしか覆っていないことに気づくと、誰にも見られぬように短距離転移で死角の位置へ移動した。そして土魔法を用い、結界の範囲外から地下を掘り進み、氷壁の下から内部へと侵入したのである。
結界内部での指示と解除
結界内部では、アクアとエリスが「誰も入ってこられない」と安心しきっていた。そこへ突然、真が姿を現す。驚愕するエリスを前に、真は冷静に「結界を解除しなさい」と命じた。その声に逆らうこともできず、エリスは呆然としながらも詠唱を止め、結界を解除。氷壁が音を立てて崩壊した。
観客の驚愕と発表会の締め
結界が崩れ去ると、会場中にどよめきが広がる。アクアとエリスは絶句し、観客たちは「若様が中から出てきた!?」と騒然とした。巴は「若はどんどん未知の生命体になってゆく」と感嘆し、識も「……正攻法で解除できる者はいない」と呟いた。こうして、真の機転と観察眼によって披露会の最終演目は予想外の形で幕を閉じたのである。
発表会の締めと次なる予告
巴が「では最後にエキシビションとして……」と締めに入る。
澪と愉快な仲間たちの登場
発表会の終盤、澪とその眷属たちが「特別枠」として登場した。澪は「澪と愉快な仲間たち」と称して自信満々に舞台に上がり、真にも「協力してほしい」と参加を求めた。予想外の展開に真は困惑しながらも承諾し、観客の注目を一身に浴びることとなった。
特撮スーツ(汎用攻性全身鎧試作型)の披露
澪の眷属アルケーが取り出したのは、奇妙な装置――「ボタンを押してください」と言われ、真が素直に押すと、光に包まれて全身が鎧で覆われる。まるで特撮ヒーローのような姿となった真に、観客席からは歓声が沸き起こった。アルケーは興奮気味に「繊細で力強く、虫すら畏怖させるこのフォルム!」と解説を始め、「使用者によって色が変わる仕様です!」と誇らしげに語る。
真の困惑とアルケーの悲鳴
真は人前で派手に変身させられた恥ずかしさに顔を真っ赤にし、「大勢の前でなんて格好をさせるんだよ」と呆然と呟く。さらに内心では「アクアの気持ちがすごくわかった」と、先ほど無理矢理演出させられた仲間の苦労を実感していた。
その後、装着解除を求めた真は、説明を続けるアルケーの話を無視してスーツを解除。アルケーが「汎用攻性全身鎧試作型あああー!!」と名前を発表している最中に、真は装置を空中へ放り投げてしまい、アルケーが絶叫した。会場は爆笑と混乱に包まれる。
最後の発表:識の新技
澪たちの騒動の後、巴が「ではこれにて最後の演目です」と宣言する。舞台に立ったのは、真の三の従者・識。観客が静まり返る中、識は凛然と手を掲げて詠唱を開始した。彼は静かに言葉を紡ぎ――「来い、『十三階梯(リースリッツァ)』」。
こうして識による新技の披露をもって、新技発表会は幕を下ろし、『月が導く異世界道中』第16巻は終章を迎えたのである。
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漫画版 月が導く異世界道中 シリーズ






小説版 月が導く異世界道中 シリーズ





















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