とある魔術の禁書目録(9)レビュー
【とある魔術の禁書目録】あらすじ・ネタバレ・まとめ
とある魔術の禁書目録(11)レビュー
物語の概要
■ 作品概要
『とある魔術の禁書目録(10)』は、最先端の超能力開発を行う「科学サイド」と、宗教やオカルトに基づいた異能を操る「魔術サイド」という二つの勢力が複雑に絡み合う学園アクションファンタジー小説(ライトノベル)である。
物語の舞台は、東京都の西部に位置し、総人口の約8割を学生が占める広大な「学園都市」である。大覇星祭の熱気が依然として続く中、魔術サイドの新たな脅威が学園都市に牙をむく。前巻で描かれた霊装を巡る陰謀の決着編であり、伝説の聖遺物『使徒十字(クローチェディピエトロ)』の発動を阻止するため、科学と魔術の境界線上で少年たちの最終決戦が繰り広げられる。
本作(第10巻)では、学園都市をローマ正教の支配下に置こうとする魔術師オリアナ=トムソンとリドヴィア=ロレンツェッティによる「世界変換」の計画が最終局面を迎える。日没までに霊装の発動を阻止しなければ、学園都市の全住民の価値観が書き換えられ、ローマ正教にとって都合の良い幸福を受け入れる世界へと変貌してしまう。タイムリミットが刻一刻と迫る中、満身創痍の少年たちが都市の夜を駆け抜け、世界の命運を懸けた壮絶な追撃戦に挑む。
■ 主要キャラクター
- 上条 当麻(かみじょう とうま): 本作の主人公。学園都市の高校生であり、能力の評価は最低の「無能力者(レベル0)」である。しかし、その右手にはあらゆる異能の力を打ち消す謎の能力「幻想殺し(イマジンブレイカー)」が宿っている。オリアナの無差別な魔術によって級友の吹寄制理が重傷を負わされたことに激怒し、彼女の企みを完全に打ち砕くため、自らの危険を顧みずに夜の街へと出撃する。
- インデックス(禁書目録): 本作のメインヒロイン。頭の中に10万3000冊の魔術書を完全に記憶しているイギリス清教のシスターである。魔術の知識は膨大だが、自身は魔力を持たないため戦闘力はない。今作では上条によって戦いから遠ざけられていたが、大覇星祭の裏で起きている異変を察知し、自分なりの方法で上条をサポートしようと行動を起こす。
- ステイル=マグヌス: イギリス清教に所属する天才ルーン魔術師の神父。14歳でありながら、炎の魔術を駆使した高い戦闘能力を誇る。学園都市の崩壊とインデックスの日常を脅かすローマ正教の陰謀を阻止するため、冷徹な判断力を保ちながらも、上条や土御門と連携してオリアナの追跡に全力を注ぐ。
- 土御門 元春(つちみかど もとはる): 上条の友人であり、その正体は魔術サイドと科学サイドの両陣営に所属する「多重スパイ」である。陰陽術をベースにした魔術を操るが、超能力(肉体再生)の肉体開発を受けているため、魔術を使うたびに激しい拒絶反応で内臓を損なうという致命的なリスクを抱える。前回の戦闘で深く傷つきながらも、世界の破滅を止めるために執念で立ち上がる。
- オリアナ=トムソン: 『追跡封じ(ルートディスターブ)』の異名を持つ、魔術業界屈指の「運び屋」の女性。様々な属性の術式をその場で使い捨てる『速記原典(ショートハンド)』を媒介に戦う戦闘のプロフェッショナルである。リドヴィアの理想に共鳴し、学園都市をバチカンの起点たる聖地へと変貌させる『使徒十字』の設置・発動役として、上条たちの前に最大の壁として立ちはだかる。
- リドヴィア=ロレンツェッティ: ローマ正教の重役であり、今回の学園都市侵ン略計画の首謀者。世界中の虐げられた人々や異端者を救済してきた布教のプロであり、自らの信仰と「世界中の人々を救う」という歪んだ善意に基づいて『使徒十字』による世界支配を目論む。戦闘そのものはオリアナに任せ、自身は計画の完遂に向けて冷酷に状況をコントロールする。
■ あらすじ
大規模な体育祭「大覇星祭」で賑わう学園都市の裏で、ローマ正教による学園都市支配の陰謀が進行していた。運び屋オリアナとリドヴィアが、対象地域をローマ正教の支配下に置く霊装「使徒十字(クローチェディピエトロ)」の発動を企てていたのである。
企みを阻止すべく、上条当麻は土御門元春やステイルと共にオリアナを追跡する。しかし、迎撃術式により土御門が重傷を負い、さらにオリアナの誤認によって一般生徒の姫神秋沙までもが瀕死の重傷を負わされた。ステイルが姫神の救命にあたる中、上条たちは第二三学区の実験空港でオリアナを追い詰め、死闘の末に彼女を打ち破る。
だが、真の脅威は終わっていなかった。「使徒十字」を持つリドヴィアは学園都市の外に潜み、発動条件である「夜空の星座」が現れる日没のタイミングを待っていたのだ。発動まで残り時間がなく、上条は絶体絶命の窮地に立たされる。しかしその時、ナイトパレードが開始され、学園都市中を照らす莫大な光が星空をかき消したことで術式は不発に終わった。
大覇星祭を楽しむ人々の想いが街を救い、上条たちはかけがえのない日常へと帰還していく。
書籍情報
とある魔術の禁書目録 10
(A Certain Magical Index)
著者:鎌池 和馬 氏
イラスト:はいむらきよたか 氏
出版社:株式会社KADOKAWA(電撃文庫)
発売日:2006年5月10日
ISBN:9784048665193
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あらすじ・内容
『使徒十字』が降臨する時、未来は破壊される――。
学園都市の全生徒が参加する巨大運動会「大覇星祭」が始まった!運営委員の吹寄制理やチアリーディング姿の月詠小萌、名門お嬢様学校の御坂美琴など、上条当麻に縁のある美少女たちも、それぞれに楽しい時を過ごす。しかし、『使徒十字(クローチェディピエトロ)』という謎の存在がすべてを崩壊させ……!
感想
主人公の上条当麻が、体育祭を応援しに来てくれている両親や同居人のインデックスに一切の事情を明かさず、世界の命運を懸けた事件に首を突っ込む姿は相変わらずである。そして激闘の末に、またしても大怪我を負って入院してしまう展開には、思わず笑みがこぼれてしまった。しかし、周囲に心配をかけた結果として待っているのが、強烈な噛み付きや手痛いお説教だけで許されてしまうあたり、彼を取り巻く人々は本当に度量が大きいと感じる。実際には誰も知らないところで学園都市の全住民を救うという大活躍をしているにもかかわらず、その見返りが災難ばかりなのだから、やはり彼は筋金入りの不幸体質だと言わざるを得ない。
だが、上条以上に今作で気の毒な不幸に見舞われてしまったのが、一般生徒の姫神秋沙である。オリアナによる単なる「魔術師との勘違い」という理不尽な誤認攻撃によって、瀕死の重傷を負わされる姿はあまりにも気の毒で見ていられなかった。彼女を救うためにステイルが専門外の治癒魔術を必死に組み立て、上条が怒りを燃料にしてオリアナを追う緊迫した戦いは、読者としても非常に胸が熱くなる魅力的な戦闘シーンに仕上がっていた。
何より印象深いのは、絶体絶命の窮地を救ったのが上条の右手ではなく、学園都市の夜を彩る「ナイトパレードの光」だったという点だ。使徒十字の発動条件である星空を、祭りを純粋に楽しむ人々の想いが照らし出す莫大な光量がかき消した瞬間は、鳥肌が立つほどの爽快感を覚えた。
日常の楽しげな体育祭の描写から、一転して血生臭い魔術戦へと移行する多角的な構成、そして何より命懸けで日常を守ろうとする少年たちの絆と人間関係には深く心を打たれた。絶望的な窮地を乗り越え、吹寄制理や姫神、そしてインデックスたちの賑やかな声が響く病室で、上条たちがかけがえのない日常の居場所を再確認する結末には、読後に温かい安心感が胸に広がる傑作である。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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とある魔術の禁書目録(9)レビュー
【とある魔術の禁書目録】あらすじ・ネタバレ・まとめ
とある魔術の禁書目録(11)レビュー
考察・解説
大覇星祭の開催
『とある魔術の禁書目録10』における大覇星祭の開催について、行事の概要と圧倒的な規模、一般公開に伴う交通対策、学校対抗の競技システム、そして警備の隙を突いた魔術師の暗躍という観点から解説する。
1. 行事の概要と圧倒的な規模
大覇星祭は、9月19日から25日までの7日間にわたって学園都市で開催される大規模な合同体育祭である。
- 総人口230万人弱のうち8割を学生が占めるこの街の行事スケールは半端ではなく、参加する学生は180万人を軽く超える。
- 映画に出てくるような超能力者同士がしのぎを削り合うという内容から人気が高く、テレビ中継の視聴率はワールドカップに匹敵するほどだと言われている。
2. 一般公開に伴う交通対策
年に数回だけ閉鎖環境にある学園都市が一般公開される特別な日であり、街は競技に参加する生徒の父兄や外部からの見学者で溢れ返る。
- 学園都市の統括理事会は外部見学者対策として一般車の乗り入れを禁止している。
- その代わりに無人で走る自律バスや地下鉄、列車の臨時便を増発して過密な交通需要に対応している。
3. 学校対抗の競技システム
競技は基本的に学校対抗で行われ、全生徒は赤組と白組に分けられている。
- それぞれの組の合計勝ち数に合わせて各学校に点数が加算され、その総合得点によって最終的な学校ごとの順位が決定される仕組みである。
- 上条当麻と御坂美琴も、学校の順位で負けたら何でも言うことを聞く罰ゲームを条件に互いに張り合っている。
まとめ
大覇星祭期間中は一般来場者の流れを滞らせないため、学園都市側も普段の厳重な警備を緩め、ある程度の窓口や遊びを設けざるを得ない。その警備の隙を突いて、ローマ正教のリドヴィア=ロレンツェッティや運び屋のオリアナ=トムソンといった魔術師が学園都市へ侵入した。彼らは華やかな祭典の裏で、突き刺した空間を丸ごとローマ正教の支配下に変えてしまう強大な霊装である使徒十字(クローチェディピエトロ)を用いた大規模な取引を企てており、上条たちはこれを阻止するために奔走することになるのである。
大覇星祭の裏側
『とある魔術の禁書目録10』における大覇星祭の裏側について、ローマ正教による学園都市支配の陰謀、秘密裏に動く迎撃部隊の死闘、一般人を巻き込む被害と隠蔽、そしてナイトパレードによる意図せぬ決着という観点から解説する。
1. ローマ正教による学園都市支配の陰謀
大覇星祭の開催で賑わう表の顔とは対照的に、裏では世界規模の危機が進行していた。
- ローマ正教の重役リドヴィア=ロレンツェッティと運び屋オリアナ=トムソンは、警備の隙を突いて学園都市へ侵入した。
- 突き刺した空間を丸ごとローマ正教の支配下に変えてしまう強大な霊装である使徒十字(クローチェディピエトロ)を発動させようと暗躍していたのである。
2. 秘密裏に動く迎撃部隊の死闘
この陰謀を阻止するため、上条当麻、土御門元春、イギリス清教のステイル=マグヌスの3人が追跡戦を繰り広げる。
- 彼らは大覇星祭の熱狂に紛れながら、土御門が魔術の反動で重傷を負い、ステイルも身を呈して敵の術式に立ち向かう。
- 一般の生徒や来場者の目には触れないところで文字通りの死闘を繰り広げていたのである。
3. 一般人を巻き込む被害と隠蔽
魔術師たちの戦いは、無関係な一般人にも被害をもたらした。
- オリアナの仕掛けた迎撃術式により運営委員の吹寄制理が倒れた。
- さらにイギリス清教式の霊装を身につけていたため重要な魔術師と勘違いされた姫神秋沙が瀕死の重傷を負わされた。
- しかし、上条たちは混乱を避けるため、インデックスやクラスメイトたちには事件を隠し通し、平穏な祭りの裏で戦いを強いられることになるのである。
まとめ
追いつめられたリドヴィアは学園都市の外から使徒十字を発動させようとする。使徒十字は見た目の星座を利用する術式であり、その発動条件である夜空の星座が現れる日没直後、上条たちは絶体絶命の窮地に陥る。しかし、学園都市を救ったのは、大覇星祭の夜を彩るナイトパレードであった。学園都市中を照らす莫大な電飾やレーザーの光が星空をかき消したことで術式は不発に終わり、祭りを成功させようとする人々の想いが、意図せず学園都市を救う結末を迎えたのである。
使徒十字の脅威
『とある魔術の禁書目録』において学園都市をかつてない危機に陥れた、ローマ正教の伝説級の霊装である使徒十字(クローチェディピエトロ)の脅威について、その絶大な効果と恐るべき支配の仕組み、そして発動条件の観点から解説する。
1. 空間の強制的な聖地化と世界均衡の崩壊
使徒十字は、十二使徒の一人であるペテロの墓に立てられた十字架を起源とし、ローマ教皇領(現在のバチカン)の起点となった霊装である。
- この十字架を大地に突き立てると、その空間を物理的・精神的な両面から強制的にローマ正教の所有地(聖地)へと作り変えてしまう絶大な効果を持つ。
- 現在、世界は科学サイドと魔術サイドの半分ずつでパワーバランスが保たれているが、科学サイドの総本山である学園都市でこの霊装が発動すれば、学園都市は無条件でローマ正教の庇護下に入ってしまう。
- その結果、世界の均衡は完全に崩壊し、ローマ正教が魔術と科学の両方を掌握する一極支配が完了してしまうという、世界規模の脅威を秘めていたのである。
2. 幸福のすり替えによる完全な心理的支配
この霊装の最も恐ろしい点は、支配された土地の人間に対し、一切の反発を抱かせずに理不尽な状況すらも幸福だと錯覚させて受け入れさせるという点である。
- 空間全体がローマ正教にとって極めて都合良く展開するよう幸運と不幸のバランスが捻じ曲げられ、支配下にある人々はどんな不条理な重荷を背負わされてもこれで良かったと疑問を抱かずに納得してしまう。
- これは、マイナスとマイナスの天秤を操って幸福の相対価値を引き下げるという、聖マーティンの逸話などに代表される神話的・心理学的な効果を利用した精神支配である。
3. 星座の光を束ねるパラボラアンテナとしての機能と発動条件
当初、イギリス清教は学園都市に持ち込まれる霊装を、あらゆる聖人を一撃で葬る刺突杭剣(スタブソード)だと推測していたが、それは使徒十字の真実を隠すための偽装(後世の誤認)であった。
- 真の霊装である使徒十字は、いつでもどこでも起動できるわけではない。
- 夜空に浮かぶ見た目の星座が描く図形と光を利用して効果を発揮する大規模魔術であり、十字架本体は星の光を受け止めて術式発動のリンクを作るパラボラアンテナの役割を果たす。
- そのため、発動にはその土地の特性に最も適した星座の選択と、空からの光を的確に受け止めるための天文台(使用ポイント)の特定、そして発動条件となる星座が見える日没直後という厳密な条件を満たす必要があったのである。
まとめ
運び屋のオリアナ=トムソンは追跡者の目を学園都市内部に向けさせるための囮として動き、その裏で首謀者であるリドヴィア=ロレンツェッティは学園都市の外部に真の天文台を設定し、日没のタイミングで使徒十字を発動させて学園都市を丸ごと支配しようと企てた。しかし、大覇星祭の夜を彩るナイトパレードの莫大な電飾やレーザーの光が地上の闇を吹き飛ばし、空の星の光を完全に塗り潰したことで、星の光を利用するこの術式は不発に終わった。大覇星祭を成功させようとする人々の想いが生み出した光が、意図せずして使徒十字の脅威から学園都市を救う結果となったのである。
星座術式の解析
『とある魔術の禁書目録10』における星座術式の解析について、保管庫のルールから導かれた夜の光、天球図を利用した巨大な魔法陣の仕組み、オルソラがもたらした季節の矛盾の解消、そして土御門元春の陰陽道を用いた天文台の特定という観点から解説する。
1. 保管庫のルールから導かれた夜の光
イギリス清教のオルソラ=アクィナスがもたらした情報により、使徒十字(クローチェディピエトロ)の保管庫は光を極端に遮断する構造でありながら、大掃除は特定の日付の昼間に行うルールがあったことが判明する。
- 上条当麻はこのルールから、霊装の発動には太陽光ではなく夜の光が関係していると推測した。
- 土御門元春は、カレンダーの日付と連動する夜の光は月齢ではなく、一年単位で移り変わる星座の光であると結論づけた。
2. 天球図を利用した巨大な魔法陣
土御門の解説によれば、星座魔術とは実際の星の力や距離を利用するものではない。
- 天球図(夜空というスクリーン)に浮かんだ見た目の星座の図形を、そのまま巨大な魔法陣として術式に組み込むものである。
- 図形自体は単純でもスケールが超巨大なため絶大な力を持つ。
- 使徒十字の十字架本体は、空からの星の光を受け止めて術式発動のリンクを作る、一種のパラボラアンテナの役割を果たしていることが解析された。
3. オルソラがもたらした季節の矛盾の解消
星座を利用する場合、使徒十字の起源であるペテロの処刑日(6月29日・夏の星座)と、現在(9月下旬・秋の星座)とで星空が異なるため発動できないはずだという矛盾があった。
- しかし、再びオルソラからもたらされた情報により、この霊装は88星座全てに対応していることが判明する。
- 使用エリアの特性を詳しく把握して最適な星座を選択すれば、世界中のどこでも発動可能な大規模霊装であることが判明したのである。
まとめ
土御門は、風水や占術、暦術などを司る陰陽道の知識を駆使し、オリアナが巡っていたルートを実際に自らの足で検証した。その結果、どの地点から見ても同じ魔術的意味を読み取れるよう秋の星座を中心にポイントが設定されていることを見抜いた。そして、オリアナがまだ訪れておらず、学園都市内で最も空が開けた場所である第二三学区の鉄身航空技術研究所付属実験空港が、最終的な天文台であると特定することに成功したのである。
オリアナの逃走
『とある魔術の禁書目録』におけるオリアナ=トムソンの逃走劇について、魔術業界屈指の運び屋としての手口、自動迎撃術式による追跡の妨害、自律バスでの攻防と臨機応変な対応、そして逃走の裏に隠された囮としての真の目的という観点から解説する。
1. 魔術業界屈指の運び屋としての手口
オリアナ=トムソンは追跡封じの異名を持つ魔術業界屈指の運び屋である。
- 彼女は追跡者を振り切るために、大覇星祭で賑わう人混みに紛れ、地下鉄や自律バスといった交通機関を巧みに乗り継ぐ。
- さらに、巨大な看板を使って運搬物を偽装したり、逃走の合間に衣服を着替えて目立たないようにするなど、状況に合わせて素早く外見や行動を変化させて追跡の目を欺くのである。
2. 自動迎撃術式による追跡の妨害
彼女はただ逃げるだけでなく、追跡者の魔力や生命力を解析し、逆探知を防ぐ自動迎撃術式を仕掛けるという高度な技術を持っている。
- 彼女が使い捨てるように書き殴る魔道書である速記原典(ショートハンド)によって構築されたこの罠により、探索魔術を使おうとしたステイル=マグヌスや土御門元春は術式を封じられる。
- そして昏倒させられるなどの重傷を負うことになったのである。
3. 自律バスでの攻防と臨機応変な対応
オリアナの逃走とそれに対する迎撃の攻防は激しさを極める。
- 彼女が逃走に利用した自律バスに対し、ステイルが遠隔操作で仕掛けていたルーンを爆発させて車体を炎上させたが、オリアナは瞬時に霧の術式で周囲を水分の膜でコーティングし、炎を完全に防いでみせた。
- また、一度使った魔術は二度と使わないという独自の法則により、常に相手の予測を裏切る魔術を繰り出して追跡者を翻弄するのである。
まとめ
オリアナがリスクを冒して学園都市の内部を派手に逃げ回っていた真の理由は、上条たち迎撃要員の目を学園都市の内部へと釘付けにするための囮であった。上条たちは彼女が持つ看板の中に霊装があると考えて追跡していたが、本命である使徒十字(クローチェディピエトロ)は、学園都市の外部にいる首謀者リドヴィア=ロレンツェッティが所持していた。オリアナの逃走劇そのものが、世界の支配を狙う計画を成功させるための巨大な時間稼ぎだったのである。
科学と魔術の対立
『とある魔術の禁書目録』における科学と魔術の対立について、世界を二分するパワーバランスと不干渉の原則、科学を異教と見なすローマ正教の思想、使徒十字による一極支配の危機、そして大義名分を真っ向から否定する上条当麻の戦いという観点から解説する。
1. 世界を二分するパワーバランスと不干渉の原則
現在、世界は科学サイドと魔術サイドの半分ずつでパワーバランスが保たれている。
- 両者は互いの領分を分けることでそれぞれの利権を確保している。
- 例えば学園都市の警備員や風紀委員が魔術師を直接捕縛すれば、その境界を踏み越えることになりかねない。
- そのため、魔術師が学園都市に侵入してきても大々的な迎撃部隊を招き入れることはできず、両勢力は表立った介入ができない繊細な均衡状態にある。
2. 科学を異教と見なすローマ正教の思想
魔術サイドの最大勢力であるローマ正教の重役リドヴィア=ロレンツェッティは、科学を単なる学問ではなく宗教に取って代わろうとする一つの異教と見なしている。
- 彼女は現代の科学の傲慢さをかつての異教と同列に語っている。
- 人間の手で汚された主の威光を清め直し、科学を宗教に屈服させることが正しい行いであると狂信的に主張しているのである。
3. 使徒十字による一極支配の危機
ローマ正教の真の狙いは、強大な霊装である使徒十字を学園都市で発動させることであった。
- 科学サイドの中心である学園都市がローマ正教の庇護下に落ちれば、世界の半分を占める科学の力と魔術の組織力が統合され、世界のパワーバランスは完全に崩壊する。
- 科学と魔術の両方を掌握したローマ正教による一極集中の支配が完了してしまうという、世界規模の戦争や崩壊をもたらす危機が迫っていたのである。
まとめ
世界の支配権や宗教的対立といった壮大な大義名分に対し、上条当麻は科学と魔術のバランスなどはつまらない枝葉の飾りに過ぎないと真っ向から切り捨てる。彼にとって重要なのは、政治や宗教の都合で大覇星祭が台無しにされることや、無関係な仲間たちが理不尽に傷つけられることへの怒りであった。上条は、高尚な理屈で人々のささやかな幸福を奪う魔術師たちの暴論を否定し、目の前の笑顔を守るためだけに右の拳を握り締めて戦うのである。
土御門の魔術行使
『とある魔術の禁書目録10』における土御門元春の魔術行使について、能力者ゆえの拒絶反応と代償、追跡のための理派四陣の強行、迎撃術式を逆探知する占術円陣、そして仲間と目的のための自己犠牲という観点から解説する。
1. 能力者ゆえの拒絶反応と代償
土御門は魔術師でありながら、学園都市の能力者(無能力レベルの肉体再生)でもある。
- 能力者が魔術を使うと拒絶反応が起こり、全身から血を流し、肉体のあちこちで小爆発が発生する危険性がある。
- 何回耐えられるか決まっておらず、一撃で死に至るロシアンルーレットのような状態であるため、通常は極力魔術を使わないようにしている。
2. 追跡のための理派四陣の強行
オリアナを追跡する際、時間がなくステイルに探索魔術である理派四陣の準備を任せられない状況に陥る。
- 土御門は自らの体への負担を承知で、自ら理派四陣を発動させる決断を下した。
- 発動後、彼は激痛に耐え、全身から血を流すという深刻なダメージを負いながらも、上条とステイルにオリアナの最新座標を伝え続けた。
3. 迎撃術式を逆探知する占術円陣
オリアナの迎撃術式を特定するため、土御門はステイルにわざと魔術を使わせて迎撃を誘発し、その魔力の出所を逆探知する占術円陣を設置する。
- この占術円陣を発動させるためにも微量の魔力を使用せざるを得ず、土御門はこめかみが切れ、脇腹から出血するというさらなるダメージを負った。
まとめ
土御門は、自分がまともに魔術を使えないせいでステイルを傷つけた責任を認めながらも、感情を押し殺して冷静に徹していた。彼が自らの身体をボロボロにしてまで魔術を行使したのは、一刻も早く戦闘を終わらせてステイルの負担を減らすためであり、そしてインデックスの学園都市での平和な生活を守り抜くためであった。
とある魔術の禁書目録(9)レビュー
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登場キャラクター
学園都市
上条当麻
学園都市に住む平凡な高校生である。インデックスを自室に居候させている。困っている少女を見捨てられない性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
学園都市の高校生であり、無能力者(レベル0)である。
・物語内での具体的な行動や成果
右手の力を用いて様々な魔術師や能力者と戦い、事件を解決に導いた。オルソラ救出戦や大覇星祭でのオリアナ追跡などにおいて、戦局を左右する役割を果たしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
あらゆる異能の力を打ち消す「幻想殺し(イマジンブレイカー)」を右手に宿す。夏休み以前の記憶を失っているが、その事実を周囲に隠して生活を続けている。
御坂美琴
常盤台中学に通うお嬢様である。勝気な性格をしており、上条当麻とはよく衝突する。
・所属組織、地位や役職
学園都市における常盤台中学の生徒である。学園都市第3位の超能力者(レベル5)に認定されている。
・物語内での具体的な行動や成果
自身のクローンである妹達が殺される実験を止めるため、一人で研究施設を破壊して回った。大覇星祭では学校対抗の勝負で上条と競い合っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「超電磁砲(レールガン)」の異名で知られている。電撃や磁力を自在に操る力を持つ。
白井黒子
常盤台中学の1年生である。御坂美琴を「お姉様」と慕うルームメイトとして生活を共にしている。
・所属組織、地位や役職
学園都市の治安維持を担う風紀委員(ジャッジメント)に所属する。大能力者(レベル4)である。
・物語内での具体的な行動や成果
風紀委員としてテロリストの捜索や地下街での避難誘導を担当した。結標淡希との戦闘では重傷を負いながらも果敢に立ち向かっている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
空間移動(テレポート)の能力を操る。
姫神秋沙
上条のクラスに転入してきた黒髪の少女である。感情表現が乏しく、無表情なことが多い。
・所属組織、地位や役職
学園都市の高校生である。以前は霧ヶ丘女学院に在籍していた。
・物語内での具体的な行動や成果
三沢塾ではアウレオルスに協力していたが、上条によって救出された。大覇星祭ではオリアナに魔術師と誤認され、重傷を負う被害に遭っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
吸血鬼を誘き寄せ、血を吸った吸血鬼を灰にする「吸血殺し(ディープブラッド)」の能力を持つ。普段は十字架の霊装でその力を封じている。
吹寄制理
上条のクラスメイトである。責任感が強く、行事の準備に熱心に取り組む真面目な性格をしている。
・所属組織、地位や役職
学園都市の高校生であり、大覇星祭の運営委員を務めている。
・物語内での具体的な行動や成果
大覇星祭において、競技の合図や玉のカウントなどの運営業務を担当した。クラスメイトを指揮して競技を勝利に導く活躍を見せている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
大覇星祭の成功に向けて尽力する姿が描かれている。
月詠小萌
上条のクラスの担任教師である。小学生のような幼い外見をしているが、生徒思いで平和主義な性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
学園都市の高校教師である。
・物語内での具体的な行動や成果
負傷したインデックスの看病や治療の手伝いを行った。大覇星祭では、重傷を負って倒れた姫神の救命処置を必死に試みている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
一般人であるが、魔術による治療の過程に立ち会うことになった。
アレイスター=クロウリー
男にも女にも、大人にも子供にも見える謎めいた人間である。機械に生命活動を預けて生きている。
・所属組織、地位や役職
学園都市を統治する統括理事長である。
・物語内での具体的な行動や成果
窓のないビルから指示を出し、土御門元春をスパイとして使役している。大覇星祭の際は警備体制の変更を許可し、事件の推移を見守った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
かつては歴史上最大の魔術師と呼ばれていた過去を持つ。現在は科学側の長として学園都市を支配する。
カエルに似た顔の医者
学園都市の病院に勤務する医師である。飄々とした態度で患者に接する。
・所属組織、地位や役職
学園都市の病院に所属する医師である。
・物語内での具体的な行動や成果
負傷した上条当麻や御坂妹の治療を担当し、彼らの回復を支えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)」という異名を持つ優秀な医師として知られている。
警備員
学園都市の治安維持を担う部隊である。教員によって構成されている大人の集団として活動する。
・所属組織、地位や役職
学園都市の治安維持機関(アンチスキル)である。
・物語内での具体的な行動や成果
大覇星祭期間中の警備や、地下街に侵入したシェリー=クロムウェルの追跡などを担当した。被害を最小限に抑えるため、重傷を負いながらも前線で戦い続けている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
次世代兵器を装備して活動する。
風紀委員
学園都市の治安維持を担う学生の部隊である。能力者によって構成されている。
・所属組織、地位や役職
学園都市の治安維持機関(ジャッジメント)である。
・物語内での具体的な行動や成果
大覇星祭の準備や警備活動を行った。地下街でのテロリスト警戒時には、一般人の避難誘導を迅速に遂行している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
学生主体の組織であり、警備員と協力して都市の治安を守る。
イギリス清教
インデックス
イギリス清教に所属するシスターである。純白の修道服を着ており、食べ物への関心が強い天真爛漫な性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
イギリス清教「必要悪の教会(ネセサリウス)」に所属している。
・物語内での具体的な行動や成果
豊富な魔術知識を用いて、上条やステイルに重要な助言を与えた。オルソラ救出戦では魔滅の声(シエオールフイア)で戦闘を支援している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
一〇万三〇〇〇冊の魔道書を記憶する完全記憶能力を持つ「禁書目録」である。
ステイル=マグヌス
長身で赤い髪を持つ少年である。香水と煙草の匂いを漂わせており、インデックスの安全を最優先に行動する。
・所属組織、地位や役職
イギリス清教「必要悪の教会(ネセサリウス)」に所属する魔術師である。
・物語内での具体的な行動や成果
三沢塾への突入や、オルソラ救出戦に参加した。大覇星祭ではオリアナ=トムソンと交戦し、重傷を負いながらも追跡作戦を支援している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
炎の魔術「魔女狩りの王(イノケンティウス)」を操る実力を持つ。
土御門元春
上条のクラスメイトとして振る舞う少年である。金髪にサングラスを着用しており、義妹を溺愛している。
・所属組織、地位や役職
学園都市の高校生である。イギリス清教の魔術師でありながら、学園都市側にも属する多角スパイを務める。
・物語内での具体的な行動や成果
大覇星祭ではオリアナの追跡において探索魔術を発動させた。過去には御使堕しの魔法陣を破壊し、事件を収束させている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
超能力者であるため、魔術を行使すると肉体に深刻なダメージを受ける体質を抱える。
シェリー=クロムウェル
古いゴシックロリータのドレスを着た女性である。科学と魔術が不用意に距離を縮めることを危険視している。
・所属組織、地位や役職
イギリス清教「必要悪の教会(ネセサリウス)」の暗号解読専門官である。
・物語内での具体的な行動や成果
学園都市に侵入し、戦争の火種を作るために破壊工作を行った。泥の人形(ゴーレム)を操り上条当麻と交戦したが敗北を喫している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王立芸術院の中で最も寓意画の解読に優れた人物として知られる。
オルソラ=アクィナス
黒い修道服を着た修道女である。世間知らずで、おっとりとした性格をしている。
・所属組織、地位や役職
ローマ正教の修道女であったが、後にイギリス清教の傘下に入る。
・物語内での具体的な行動や成果
法の書の解読法を発見したことでローマ正教と天草式から追われる身となった。上条たちに救出され、自身の発見した解読法がダミーであったことを悟る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
事件解決後、イギリス清教の庇護を受けることになった。
ローラ=スチュアート
身長の二倍以上ある長い金髪を持つ少女である。飄々とした態度で組織を動かしている。
・所属組織、地位や役職
イギリス清教第零聖堂区「必要悪の教会(ネセサリウス)」最大主教(アークビショップ)である。
・物語内での具体的な行動や成果
アレイスターと会談し、学園都市に侵入した魔術師の情報を共有した。ステイルに指示を出し、事態の収拾を図っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
イギリス清教のトップとして、魔術側の動向に強い影響力を持つ。
ローマ正教
リドヴィア=ロレンツェッティ
一世代前の修道服を着た女性である。布教活動に情熱を燃やし、目的のためには手段を選ばない性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
ローマ正教に所属している。
・物語内での具体的な行動や成果
オリアナを雇い、使徒十字(クローチェディピエトロ)を用いて学園都市を支配しようと計画した。学園都市の外から術式を発動させようとしたが、大覇星祭の光によって阻止された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「告解の火曜(マルディグラ)」の異名を持つ。
オリアナ=トムソン
金髪で抜群のプロポーションを持つ女性である。肌の露出が多い衣服を好み、目的を達成するために様々な手段を講じる。
・所属組織、地位や役職
運び屋として活動している。ローマ正教の依頼を受けて動く。
・物語内での具体的な行動や成果
使徒十字の取引のために学園都市へ侵入した。上条たちと激しい追跡戦と戦闘を繰り広げたが、最後は敗北している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
「追跡封じ(ルートディスターブ)」の異名を持つ。一度使った魔術は二度と使わない戦法を駆使する。
一般人・その他
上条刀夜
上条当麻の父親である。息子の不幸体質を案じている。
・所属組織、地位や役職
一般人である。
・物語内での具体的な行動や成果
大覇星祭の開会式を見学し、街で御坂美鈴と交流した。過去には息子の不幸を遠ざけるために土産物を集めた結果、意図せず御使堕しを発動させている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
魔術の知識を持たない平凡な社会人として描かれる。
上条詩菜
上条当麻の母親である。若々しい外見をしている。
・所属組織、地位や役職
一般人である。
・物語内での具体的な行動や成果
大覇星祭に合わせて学園都市を訪れ、手作り弁当を持参して喫茶店で当麻を待っていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
刀夜とともに息子の競技を観戦する姿が描かれている。
御坂美鈴
御坂美琴の母親である。娘と似た容姿をしているが、大学生のような若々しい服装をしている。
・所属組織、地位や役職
一般人である。
・物語内での具体的な行動や成果
大覇星祭で学園都市を訪れ、刀夜や詩菜と相席して昼食をとった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
娘の美琴をからかって楽しむことが多い。
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展開まとめ
第五章 緊張の糸の上の休憩時間 Resumption_of_Hostilities.
1
学園都市に潜む魔術師
魔術師侵入の記憶
上条当麻は、学園都市に魔術師が侵入したというステイル=マグヌスの言葉を思い返しながら、大覇星祭で賑わう街を歩いていた。
土御門元春によれば、侵入者はオリアナ=トムソンとリドヴィア=ロレンツェッティであり、二人は大覇星祭によって警備に隙が生じた学園都市で、大規模な霊装の取り引きを行おうとしていた。
科学サイドと魔術サイドの制約
土御門は、警備員や風紀委員が魔術師を捕らえると科学サイドと魔術サイドの問題が生じる一方、大量の魔術師を学園都市へ招くことも危険だと説明していた。
そのため、オリアナ達の動向を把握していても大規模な介入はできず、現在動けるのは上条、土御門、ステイル達だけであった。
インデックスを遠ざける必要
ステイルと土御門は、学園都市外の魔術師達が魔力の流れを感知するために、インデックス周辺へサーチ術式を集中させていると見ていた。
インデックスが事件の中心に近づけば、魔力を感知されて外部の魔術師達が学園都市へ踏み込む口実になりかねなかった。そのため、上条は事件対応だけでなく、インデックスを現場から遠ざける役割も担うことになっていた。
使徒十字の危険性
上条は、オリアナ達が扱う霊装が刺突杭剣ではなく、使徒十字であったという説明も思い返していた。
使徒十字は、突き刺した空間を物理的にも精神的にもローマ正教の所有地へ変える力を持つ霊装であった。その土地では、すべてがローマ正教に都合の良い方向へ進み、人々もその変化に違和感を抱かず受け入れてしまうのである。
学園都市支配という取り引き
土御門達は、オリアナ達の取り引きが霊装そのものの受け渡しではなく、使徒十字によって支配された学園都市をローマ正教の手中に収める行為だと見抜いていた。
学園都市は科学サイドの中心であり、それをローマ正教が支配すれば、魔術サイド最大勢力であるローマ正教が世界の均衡を崩すことになる。そのため、上条は表では能力者達が競技に参加し、裏では魔術師が潜む大覇星祭の雑踏を歩き続けていた。
2
大覇星祭の昼休み
インデックスを探す上条
大覇星祭一日目の昼休み、上条当麻は大勢の来場者で賑わう学園都市の街を歩いていた。
競技の最中に起きた出来事の影響で傷だらけの状態だったが、能力者同士の競技が行われる大覇星祭では特に目立つことはなかった。上条は昼食も取らず、土御門元春から事件現場へ近づけないよう指示されていたインデックスを探し続けていた。
使徒十字の使用条件を探る作戦
上条は、ステイルや土御門から聞いた話を思い返していた。
オリアナ=トムソンとリドヴィア=ロレンツェッティは使徒十字による学園都市支配を狙っているが、即座に実行しない以上、発動には何らかの複雑な条件が存在する可能性があると考えられていた。その調査は魔術師側が担当し、上条はインデックスの安全確保を優先するよう求められていた。
変装したインデックスとの再会
上条は銀髪の少女を何度も見かけながらも、修道服姿ではないため見過ごしていた。
しかし聞き慣れた声に導かれて振り返ると、チア衣装に着替えたインデックスが三毛猫を抱えて立っていた。修道服を預け、小萌の指導で応援用の衣装へ着替えていたのである。
インデックスの不満
インデックスは怒っていた理由を打ち明けた。
上条を応援するためにチア衣装へ着替え、振り付けまで覚えたにもかかわらず、上条が競技にも出ず姿も見せなかったため寂しい思いをしていたのである。慣れない大覇星祭の中で一人取り残されたような気持ちになっていたことも明かした。
上条はようやく事情を理解し、空腹が原因だと思い込んでいたことを謝罪した。
照れるインデックスと上条の失言
インデックスは怒りながらも上条を軽く叩き続けていたが、上条はいつもの噛み付きがないことに気付いた。
その言葉を聞いたインデックスは突然顔を真っ赤にし、耳まで染めながら俯いた。そしてしばらく沈黙した後、とうまのえっちと小さく呟いた。
上条が反論すると、インデックスは照れ隠しのように再び拳を振るい、上条の言葉を強引に止めたのであった。
3
オリアナの休息と通信
着替えたオリアナの姿
オリアナ=トムソンはアイスクリーム店で二段重ねのアイスクリームを受け取っていた。
彼女は作業服を脱ぎ、キャミソールとスリットの入ったスカートに着替えていた。十字教社会において衣服は地位や権威を示す意味を持ち、特に女性のスカートを切り取られることは権威の剥奪や罪人への侮蔑を象徴していた。オリアナはそのことを思いながら、罪人という言葉に笑みを漏らしていた。
リドヴィアとの会話
オリアナは通信術式を使い、リドヴィア=ロレンツェッティと連絡を取っていた。
オリアナは自分の役目を忘れていないと告げ、自身の行動がリドヴィアの立場を少しでも良くするかもしれないと語った。一方のリドヴィアは、今はオリアナの方を優先すべきだとして体調を気遣ったが、オリアナは作戦への支障はないと答えた。
その後も二人は軽口を交わしながら、互いの状況を確認していた。リドヴィアはラウンジで身を潜めていることを伝え、オリアナはそれを羨ましがりつつ冗談を飛ばしていた。
風船を子供へ返す
会話の途中、オリアナは街路樹の枝に引っかかった風船を見つけた。
背伸びして風船を回収した彼女は、近くで見上げていた小さな少年へそれを手渡した。少年は何も言わず風船を持って走り去ったが、その様子を見たリドヴィアは民間人との接触を避けるよう注意した。
オリアナは可能な限り避けていると返し、今回の出来事は避けられなかったと答えた。
待機への焦り
通信を続けながら、オリアナは青空を飛ぶ飛行船を見上げた。
作戦のために待機する必要があることは理解していたものの、待ち続けることの大変さを改めて実感しながら、静かに空を眺めていたのであった。
4
昼食会と賑やかな再会
喫茶店での合流
上条当麻はインデックスを連れて喫茶店へ向かった。大覇星祭の昼休み中だったため店内は満員であったが、窓際の席では刀夜と詩菜が待っていた。
刀夜は大覇星祭では競技ごとに場所取りを繰り返さなければならず、親も一緒に競技へ参加しているような気分になると語った。上条も学食や購買の混雑を街全体で行っているようなものだと納得していた。
詩菜の弁当とインデックスの反応
席に着くと、詩菜は籐のバスケットから手作りのライスサンド弁当を取り出した。
空腹だったインデックスと三毛猫は食べ物の匂いに敏感に反応した。上条はその様子を見ながら店内を見回し、隣の席に御坂美琴と大学生ほどの女性が座っていることに気づいた。
御坂美琴との口論
上条と美琴はいつものように言い合いを始めた。
美琴はインデックスの存在について問い詰め、海へ泊まりがけで出かけたことまで話題に上がったため、さらに動揺した。インデックスは美琴を上条のガールフレンドかと尋ね、美琴は強く否定したものの、周囲からからかわれる結果となった。
一方で詩菜は、インデックスが普段から上条の作った料理を食べているような発言に反応し、上条は慌てて事情を説明していた。
家事能力を巡る話題
話題は料理や家事へ移った。
インデックスは料理が苦手だと認め、美琴は家庭科で学んだ内容を挙げたが、それは一般的な家事ではなく高級品の修復技術に近い内容だったため、同行していた女性に指摘されていた。
そのやり取りによって、上条はインデックスの話題からうまく話を逸らすことができた。
御坂美鈴の正体
刀夜が昼食を始めようと提案すると、大学生ほどに見える女性が改めて自己紹介した。
彼女の正体は御坂美琴の母・御坂美鈴であり、その事実に上条たちは驚愕した。美鈴は大学で学び直していると説明し、刀夜たちは見た目とのギャップに戸惑っていた。
チーズフォンデュ騒動
美鈴は弁当代わりとして大量のチーズや鍋、コンロを取り出し、チーズフォンデュを始めようとした。
美琴は危険物を持ち込むなと激しく抗議したが、美鈴は娘の成長のためだと言って取り合わなかった。さらに食べれば育つという話題になり、美琴はからかわれて顔を赤くしていた。
インデックスの変化と上条の困惑
上条がインデックスにも同じ話を向けると、インデックスは大きく口を開いて噛みつこうとしたものの、途中で動きを止めた。
顔を真っ赤にして座り直し、小さく当麻のばかと呟く姿に、上条は以前のように気軽に噛みついてこないことへ違和感を覚えた。
その後も刀夜や詩菜、美琴、美鈴が好き勝手に話題を広げ続け、上条は騒がしい昼食会の中心で頭を抱えることになったのであった。
5
英国図書館での調査
使徒十字の情報収集
ステイル=マグヌスは公園のベンチで携帯電話を使い、シェリー=クロムウェルとオルソラ=アクィナスから報告を受けていた。
三人は英国図書館の記録を調査し、ローマ正教が秘匿してきた霊装「使徒十字」の使用条件や弱点を探ろうとしていた。しかし使徒十字は公開情報が極端に少なく、記録の信頼性も不明であったため、調査は難航していた。
シェリーとオルソラのやり取り
通話の中では、図書館内でマフィンを食べるオルソラをシェリーが注意するなど、二人の掛け合いが続いていた。
オルソラは天草式が作った特製マフィンで体力回復を図っていたが、シェリーはその自由な振る舞いに呆れていた。やがて騒ぎの末に通話は途切れてしまった。
変化した必要悪の教会への思い
通話を終えたステイルは、必要悪の教会の空気が以前よりも柔らかくなったことを思い返していた。
かつては常に緊張と犠牲を伴う集団だったが、今では仲間同士の関係にも余裕が生まれていた。その変化の要因として、ある少年と関わった魔術師たちが自身の生き方を見直したことを考え、ステイル自身もその影響を受けていることを認めていた。
小萌との遭遇
その後、ステイルは視線を感じて顔を上げた。
そこには月詠小萌が立っていた。小萌はかつてインデックスを保護した人物であり、ステイルのことを睨みながら近づいてきたため、ステイルは自分への警戒から声を掛けてきたのだと思った。
禁煙指導
しかし小萌の目的は全く別だった。
彼女は学園都市の路上が全面禁煙であることを理由に、ステイルへ大声で注意した。さらに未成年に見えるとして説教を始め、煙草を取り上げるとポケットから煙草の箱まで没収した。
ステイルは反発しつつも、魔術とは無関係な一般人へ危害を加えるつもりはなく、小萌の行動を受け入れるしかなかった。
インデックスを思わせる存在
真っ直ぐに説教を続ける小萌の姿を見ながら、ステイルはやりづらさを感じていた。
人との距離を気にせず踏み込み、誰かを傷つけないために根気強く叱り続ける小萌の姿は、ステイルにとってよく知る少女を思い起こさせるものだった。
小萌はステイルが目を逸らしても説教をやめず、最後まで根気強く言葉を掛け続けていた。
6
ホテルのラウンジ
古びた修道服と信念
リドヴィア=ロレンツェッティはホテルのラウンジにいた。
彼女は一世代前のローマ正教の修道服を身にまとっており、その姿は現代的な風景の中で強い違和感を放っていた。白地に赤い十字の修道服は、祖母の代から受け継いだものであり、優れた者なら罪人にも手を差し伸べるという自身の信念を表す象徴でもあった。
大覇星祭によるホテルの混雑
リドヴィアが滞在するホテルは世界的な名声こそ高くなかったが、大覇星祭の影響によって非常に混雑していた。
学園都市は普段ホテルの需要が少ないため、大規模行事が開催されると限られた宿泊施設へ利用者が集中する状況になっていた。多くの人々が慌ただしく行き交う中、リドヴィアだけは落ち着いた様子で移動していた。
行動開始の決意
ラウンジを抜けたリドヴィアは、回転扉を通って屋外へ出た。
降り注ぐ強い日差しの下で、オリアナが任務を続けていることを思い、自分も動き出すべき時だと考えていた。
平和な街への潜入
リドヴィアは大覇星祭のアナウンスを耳にしながら空を見上げた。
飛行船の大型画面では晴天が続くという天気予報が流れており、街には平和な空気が広がっていた。その光景を見届けた後、リドヴィアは人々で賑わう街の中へ静かに姿を消していった。
7
大覇星祭の午後
三人での移動と上条への疑問
昼休みが終わり、上条当麻、インデックス、御坂美琴は駅前通りを歩いていた。上条は二人が学園都市で進行中の事件に気づいていないことに安堵し、これ以上誰も巻き込みたくないと考えていた。
そんな中、美琴は上条とインデックスがいつも一緒にいる理由を尋ねた。インデックスは逆に美琴へ同じ質問を返し、その流れから上条が何かあるたびに一人で問題へ飛び込み、事後承諾で病院送りになっていることを話した。美琴とインデックスは上条へ疑問を向けたが、上条は曖昧な言い訳で誤魔化そうとしたものの、二人から冷ややかな反応を受けていた。
罰ゲームの話と美琴の退場
話題は学校対抗の順位争いと罰ゲームへ移った。
美琴は学校対抗の勝負を忘れていないかと確認したが、上条は余裕の態度を見せたため、美琴は常盤台中学の追い上げを強調した。しかし上条が真面目に取り合わなかったため、美琴は雷撃の槍を放った。上条は右手で全て打ち消し、美琴は悔しがりながら競技の準備のため走り去っていった。
インデックスとのぎこちない関係
美琴が去った後、インデックスは罰ゲームの内容を気にしたが、上条は慌てて否定した。
インデックスは噛み付こうとしたものの途中で動きを止め、以前のように接することができなくなっていた。上条もその変化に戸惑い、二人の間にはぎこちない空気が流れていた。
話題を変えようとしたインデックスは果物ジュースを飲みたいと言い出したが、上条から太るのではないかと指摘されて反発した。そして自分は太っていないと証明するため、上条に自分の体を測るよう迫った。
美琴と黒子の合流
一方、美琴は常盤台中学の競技時間変更を母の御坂美鈴へ伝えるため、街を走っていた。
その途中で白井黒子と合流した。黒子は空間移動による手助けを申し出たが、美琴は拒否した。二人が会話を続ける中、黒子は前方に上条の姿を発見した。
誤解から生じた騒動
美琴が前方を見ると、インデックスに体を近づけている上条の姿が目に入った。
実際にはインデックスの体型を確かめようとしていただけだったが、美琴には親密な行為に見えてしまった。黒子も面白がって茶化したため、美琴の怒りは一気に高まった。
美琴は上条へ突進し、渾身の拳で殴り飛ばした。上条は吹き飛ばされたことで我に返ったが、その際にインデックスのチア衣装のスカートを引き裂いてしまっていた。
上条の絶体絶命
スカートを失ったインデックスは顔を真っ赤にして動けなくなり、三毛猫で必死に身を隠そうとしていた。
事態を理解した上条は絶望しつつも、インデックスが噛み付きをためらっていることに一縷の望みを見出した。しかしその直後、美琴と黒子が冷たい視線を向けながら迫ってきた。
上条は壊れたスカートの対処を優先すべきだと訴え、平和的解決を試みたものの、自分でも失敗を悟っていた。そして次の瞬間、美琴と黒子が一斉に襲いかかり、上条は絶体絶命の状況へ追い込まれたのであった。
8
大覇星祭の午後の焦燥
使徒十字を巡る上条の葛藤
御坂美琴と白井黒子から逃げ切った上条当麻は、疲労困憊のままベンチに座り込んでいた。インデックスは破れたスカートを補修するため、美琴と黒子に連れられてどこかへ向かっていた。
上条は土御門元春やステイル=マグヌスからの連絡を待ちながら、オリアナたちの目的について考えていた。敵が霊装「使徒十字」を発動するためには何らかの使用条件が必要であり、その条件を突き止めることが事件解決への鍵だと理解していた。しかし連絡はなく、使徒十字がいつ発動されるか分からない状況に焦りを募らせていた。
さらに上条は、インデックスに尋ねれば使徒十字の情報などすぐに分かるはずだと考えていた。しかし彼女を事件に近づければ、外部の魔術勢力や事件そのものを引き寄せる危険があるため、それもできなかった。知識を借りたいのに頼れないという状況に、上条は強い葛藤を抱いていた。
姫神秋沙との再会
そんな中、上条の前に姫神秋沙が現れた。姫神は困ったことがあるとして上条を捜しており、小萌先生が何かのトラブルを起こしていると説明した。
上条は姫神に手を引かれて現場へ向かったが、途中で手を繋いでいることを気にしているのではないかと口にした。すると姫神は慌てて手を離し、意識していたことを態度で示していた。
小萌先生とステイルの口論
姫神に連れられてやって来た公園では、小萌先生がステイル=マグヌスへ喫煙について説教していた。
小萌先生は煙草を没収しようとしていたが、ステイルは煙草の箱を巧みに投げ続けており、説教を受けながらもどこか余裕を見せていた。姫神は恩人同士である二人の口論に困惑していたが、上条はむしろステイルは説教されるべきだと考えていた。
やがて上条が近づくと、ステイルは携帯電話に着信が入っていることをそれとなく示した。どうやら重要な連絡が届いているらしかった。
土御門からの緊急連絡
その直後、今度は上条の携帯電話にも着信が入った。相手は土御門元春だった。
上条は小萌先生の説教から逃れるため姫神を盾代わりにしてその場を離れ、電話に出た。土御門は学園都市の監視システムを調べた結果、約三分前に第五学区の地下鉄「西部山駅」の出入口からオリアナが出てくる姿を確認したと報告した。
その後は姿を見失ったものの、位置を特定する手掛かりは得られた。土御門はステイルの探索魔術「理派四陣」を使えば追跡できると説明し、一刻も早くステイルを現場へ連れて来るよう求めた。
最後の追跡への決意
通話を終えた上条は、これがオリアナを捕まえる最後の機会になるかもしれないと考えた。
使徒十字の使用条件や弱点が判明していない以上、オリアナ本人を捕らえることが最優先となる。上条は姫神や小萌先生を避けるように公園へ引き返し、ステイルを連れて現場へ向かう決意を固めた。
オリアナがまだ発見されたことに気づいていない可能性に望みを託しながら、上条は足りない時間と距離を埋めるため全力で走り始めた。
行間 四
病院での静養
回復途上の吹寄制理
吹寄制理は病院の待合室のベンチに座っていた。医師から必要な処置は終わっており、病院内であれば自由に歩いてよいと告げられていたが、日射病によって失った体力までは回復しておらず、一日入院することになっていた。
体調を確かめるため病院内を歩こうとした吹寄だったが、エレベーターへ向かう途中で緩やかな目眩に襲われた。手渡されていた携帯式ナースコールを見ながら、自分がまだ万全の状態ではないことを改めて実感していた。
自動販売機での思わぬ失敗
吹寄は喫煙スペース近くに設置された自動販売機へ向かい、体力回復のためスポーツドリンクを選ぼうと考えた。しかし立ち上がるだけでも頭痛が走るほど体調は悪く、慎重に飲み物を選んでいた最中にくしゃみをしてしまった。
その拍子に額が自動販売機のボタンへ当たり、意図せず商品が排出された。取り出し口から出てきたのは「練乳サイダー」という飲み物であり、吹寄は不健康の極みだと呟きながらも、捨てるわけにはいかず缶を手に取った。
競技復帰への不安
吹寄は病室へ戻るため廊下を歩き始めたが、その道のりさえ過酷に感じるほど消耗していた。病院内でこの状態なのだから、炎天下で競技に参加するのは到底無理だと痛感していた。
歩きながら吹寄は、自分がいつになったら仕事へ戻れるのかと考えていた。そして、自分がいない間にあの馬鹿が調子に乗って問題を起こしていないだろうかと案じながら、ため息をついていた。
第六章 追撃の再開とその終わり Accidental_Firing.
1
姫神秋沙の迷い
上条への違和感
小萌先生と姫神秋沙は学生寮が並ぶ第七学区の一角を歩いていた。小萌先生は上条当麻を見失ったことを嘆きながらも、次の競技へ戻るため急ごうとしていた。
しかし姫神は上条の様子が気になっていた。上条がどこか上の空で焦っているように見えたからである。小萌先生は競技の時間が迫っているためだろうと考えたが、姫神はそうは思えなかった。
彼女はかつて、自分を救うために錬金術師へ立ち向かった時の上条の張り詰めた空気を思い出していた。そして先ほどの上条にも、それに似た雰囲気を感じ取っていた。
小萌先生の問いかけ
考え込む姫神に対し、小萌先生は上条のことが気になっているのかと尋ねた。
姫神は事実として気にはなっているが、その言い方では誤解を招くと返した。そして逆に、小萌先生も上条を気にしているのかと問い返した。
小萌先生は慌てて否定し、自分が気にしているのは担任教師としての立場からであり、将来を心配しているだけだと説明した。すると姫神は、それと同じだと静かに答えた。
ナイトパレードへの想い
そのやり取りから、小萌先生は姫神がナイトパレードの話題を避けていた理由に気づいた。
大覇星祭の夜に行われるナイトパレードは、生徒たちの間で人気の高いイベントである。しかし姫神は、自分から上条を誘っても彼は戸惑うだけであり、自分には似合わないことだと考えていた。そのため、最初から誘わない方がよいと思っていたのである。
小萌先生の後押し
そんな姫神に対し、小萌先生は上条なら喜ぶはずだと伝えた。上条は姫神が笑えば嬉しく思い、泣けば悲しむような人間であり、姫神が楽しいと思うことに誘われればきっと喜ぶはずだと語った。
その言葉に姫神は驚きを見せたが、結局は絶対に誘わないと繰り返した。小萌先生はなおも背中を押そうとしたが、姫神は意地を張るように断り続けた。
それでも姫神は、顔を真っ赤にしている小萌先生を見ながら、そっと肩の力を抜いていた。
2
オリアナ追跡
地下鉄での移動
上条当麻とステイル=マグヌスは、オリアナを追うため地下鉄へ向かった。地下鉄の方が自律バスより速いと判断し、急いで駅へ駆け込む。
発車寸前の列車へ飛び乗った二人は、西部山駅まで向かう途中で状況を確認した。ステイルは煙草を吸おうとしたが上条に止められ、代わりに噛み煙草を口にした。二人は残り一駅となった時点で、追跡成功への望みを繋いでいた。
オリアナの余裕
一方、第五学区を歩くオリアナ=トムソンは、人々の視線を集めながらも落ち着いて行動していた。
彼女はリドヴィアに任務を任せ、自身はどう動くべきかを考えていた。追跡されていることには気づいておらず、余裕を保ったまま街を進んでいた。
理派四陣発動の決断
西部山駅へ到着した上条とステイルは、探索魔術『理派四陣』を使うため土御門元春との合流を試みた。
しかし土御門は大覇星祭の競技による交通規制に巻き込まれ、到着まで十分ほどかかる状況だった。時間的猶予がないと判断した土御門は、自分のいる場所から直接『理派四陣』を発動すると決断する。
魔術を使うたびに肉体へ深刻な負担がかかるにもかかわらず、土御門は迷わず実行を選んだ。上条は危険を訴えたが、土御門は覚悟を固めて通話を切った。
追跡開始とオリアナの察知
やがて土御門は『理派四陣』を発動し、オリアナの位置を探知し始めた。
その瞬間、オリアナは自分を追跡する術式の存在に気づいた。彼女は単語帳のページと自身が魔力で繋がっている性質から、逆探知が行われていることを理解する。
追跡範囲には限界があると推測したオリアナは、まず距離を取る方向で行動を開始した。
第五学区での追走
上条とステイルは第五学区へ飛び出し、土御門の報告を頼りに全力で追跡した。
土御門は激痛に耐えながら位置情報を伝え続け、オリアナが北西へ移動していることを知らせる。二人は地図を確認しながら走り続け、モノレール駅へ向かう可能性も考えた。
しかし途中で土御門は、オリアナが突然進路を変えたことに気づく。さらに移動速度も急激に上昇していた。
逆転した追跡
術式を維持する土御門の苦痛は限界へ近づいていた。その中で彼はオリアナの目的地を察し、驚愕する。
直後、通信は不自然な雑音と共に途切れた。
状況を分析したステイルは、オリアナが単純に逃げるのではなく、逆探知の中心点である土御門自身を潰そうとしているのだと結論づけた。距離を離して術式の範囲外へ逃げるよりも、術式の発動者を無力化する方が確実だと判断したのである。
上条は土御門の危機を悟り、急いで助けに向かおうとした。しかしステイルにも土御門の正確な位置は分からなかった。
二人は土御門を捜し出すため、ただちに行動を開始することになった。
3
土御門元春とオリアナの激突
逆探知による急襲
土御門元春は、人目のない地下街の連絡通路で探索魔術『理派四陣』を発動していた。しかしオリアナ=トムソンは、魔術による繋がりを逆に利用して土御門の居場所を突き止め、先制攻撃を仕掛けた。
土御門は吹き飛ばされて地面を転がり、展開していた『理派四陣』も踏み潰される。オリアナは土御門を最も危険な相手と評価し、自ら潰しに来たことを告げた。
土御門の覚悟
魔術の反動によって全身から血を滲ませながらも、土御門は退く意思を見せなかった。
彼はステイルや上条当麻が自分を信じて協力してくれたことを思い出し、その思いを無駄にできないと決意する。そして魔法名『背中刺す刃』を名乗り、自らの覚悟を示した。
対するオリアナも魔法名『礎を担いし者』を告げ、互いに魔術師として正面から戦う意思を確認した。
近接戦闘の開始
土御門は一気に距離を詰め、腕と足を同時に破壊する近接戦術を仕掛けた。
しかしオリアナは攻撃を読み切り、後方へ体勢を崩すことで致命打を回避する。そのまま単語帳から発動した術式によって無数の爆炎の刃を放ち、土御門へ反撃した。
土御門は辛うじて回避したものの、通路の柱や壁、床は次々と破壊されていった。
劣勢に追い込まれる土御門
土御門はなおも獣のように飛び掛かり、オリアナの足を捕らえた。
しかしオリアナは拘束される寸前に体を回転させ、自由な足で土御門の顔面を蹴り飛ばす。さらに見えない力の壁や光弾による攻撃を連続で放ち、土御門を壁へ叩きつけた。
土御門は血を吐きながら立ち上がるが、魔術の反動と負傷によって動きは大きく鈍っていた。オリアナはその状態を見て、このままでは勝負にならないと判断する。
結界の存在と違和感
オリアナは、この地下通路には結界が張られており、誰も近づけず、内部の異変も外へ伝わらないと説明した。
土御門はその言葉に違和感を覚えたが、重傷によって思考が追いつかなかった。敵の発言である以上、攪乱の可能性もあると考えながらも、その違和感を整理できなかった。
最後の賭け
オリアナは決着をつけるため、再び単語帳のページを破って術式を発動した。
巨大な鉄柱が床から突き出し、さらにそれを利用した攻撃が始まろうとする中、土御門は血まみれの体で折り紙を取り出した。次の一撃を受ければ終わると理解しながらも、最も大きな損害を与えるため最後の行動に出る。
しかし土御門の詠唱が終わるより早く、オリアナは術式を発動させた。
鋼鉄の津波
巨大な鉄柱は瞬時に砕け散り、無数の鋭い破片となって通路全体を埋め尽くした。
鋼鉄の破片は津波のような勢いで土御門へ襲い掛かり、通路の端から端までを飲み込む。轟音と共に全てを破壊する鋼鉄の奔流が地下通路を駆け抜けた。
4
土御門の反撃と結界破壊
オリアナの攻撃によって地下通路は壊滅状態となった。柱や壁、床は徹底的に破壊され、土御門元春も鉄片や瓦礫を受けて倒れていた。
オリアナは勝利を確信していたが、結界を解除しようとした瞬間、異変に気付く。自分が何もしていないにもかかわらず、結界がすでに破壊されていたのである。
その原因を探る中で、彼女は土御門が最後に折り紙で術式を組み上げていたことを思い出した。
生き残った土御門
倒れていた土御門はなお意識を保っていた。
彼は結界内では内部の状況が外へ伝わらないというオリアナ自身の説明を逆手に取り、その結界を破壊することこそが目的だったと明かす。
オリアナは仲間を呼ぶつもりだったのかと嘲笑したが、土御門は上条当麻やステイルのことではないと否定した。
神裂火織という切り札
土御門は、自分たちがイギリス清教の一員であり、三人だけで動いていると考える方が不自然だと語った。
さらに、イギリス清教には世界でも数少ない聖人の一人である神裂火織が存在すると告げる。神裂は学園都市に滞在していても不自然ではなく、自分との個人的な繋がりもあるため、連絡を受ければ駆け付けるはずだと説明した。
オリアナは動揺しながらも、それが本当かどうか判断できずにいた。
偽りの通信術式
土御門は折り紙で作った護符を取り出し、『付文玉章』という通信術式だと説明した。
これは神裂火織へ連絡を送るための術式であり、すでに信号は送信済みだと告げる。さらに護符を握り潰し、破壊しても意味がないことを示した。
オリアナは神裂が本当に来る可能性を考え始める。聖人との戦闘は勝敗以前に計画全体へ悪影響を及ぼしかねず、無視できない問題だった。
オリアナの撤退
その間にも土御門は最後の力を振り絞り、瓦礫を叩いて大量の粉塵を発生させた。
視界を奪われたオリアナは土御門を即座に仕留めることもできたが、そのために時間を浪費する危険を嫌った。神裂火織が本当に来るかもしれないという不確定要素も加わり、彼女は土御門の始末を諦めて地下通路から離脱した。
こうして土御門は命拾いすることに成功した。
明かされる真実
オリアナが去った後、土御門は自嘲気味に笑った。
実際には神裂火織は来ておらず、増援も存在しない。オリアナを追っているのは上条当麻、ステイル、土御門の三人だけだった。
『付文玉章』という通信術式も完全な作り話であり、折り紙の護符も適当に作った偽物だった。神裂の名前を書いた木札など存在せず、陰陽道に詳しくないオリアナを騙すための即席のハッタリに過ぎなかったのである。
土御門はオリアナが東洋術式に詳しくないことへ賭け、その賭けに勝ったのだった。
限界に達した土御門
しかし代償は大きかった。
探索術式『理派四陣』は破壊され、オリアナのページも失われ、携帯電話も壊された。さらに魔術の反動と負傷によって体は限界に達していた。
起き上がろうとしても激痛が走り、思うように呼吸すらできない状態だった。
土御門は学園都市の能力である肉体再生能力に頼りながら、この瀕死の身体をどうにかしなければならないと考えるのだった。
5
オリアナの逃走方針
土御門元春から新しい携帯電話で連絡が入り、オリアナの襲撃によって探索術式『理派四陣』と追跡に必要なページが破壊されたことが判明した。土御門自身も深刻な負傷を負っていたが、オリアナは神裂火織の存在を警戒しているはずだと推測し、交通機関を利用して距離を取ろうとしている可能性を示した。
上条当麻とステイルは、残されたわずかな手掛かりを頼りに再び追跡を開始した。土御門も監視システムへのアクセスを続けながら支援を試みることになった。
オリアナの警戒と行動確認
一方のオリアナは地下鉄で第七学区へ移動していた。神裂火織が本当に参戦しているのか判断できず、対策を考えるための時間と安全な場所を求めていた。
駅を出た後、彼女は尾行の有無を確認するため、人通りの少ない路地へ入った。追跡者が存在するなら何らかの反応や動きが現れるはずだと考え、周囲を警戒しながら状況を探っていた。
姫神と小萌先生との遭遇
その最中、脇道から飛び出してきた月詠小萌と姫神秋沙に突然ぶつかられた。
衝突の勢いで姫神が持っていたフルーツジュースがこぼれ、二人とも衣服を濡らしてしまう。小萌は慌てて謝罪し、姫神も冷静に状況を確認していた。
オリアナは当初、二人を一般人だと判断していた。
歩く教会の発見
しかし、濡れて透けた姫神の体操服越しに、首から下げられた大きな銀の十字架が見えた。
それは単なるアクセサリーではなく、イギリス清教製の特殊な霊装『歩く教会』と同系統の防護装備だった。
オリアナはその存在を見た瞬間、姫神を単なる学生ではなく、イギリス清教と関係する危険な存在だと誤認した。
オリアナの先制攻撃
神裂火織の存在に神経を尖らせていたオリアナは、姫神を新たな脅威と判断した。
彼女は即座に単語帳のページを噛み千切り、『Soil Symbol』の術式を発動させる。
次の瞬間、鈍い爆発音が路地に響き渡った。
6
地下鉄駅からの追跡再開
上条当麻とステイルは地下鉄駅から地上へ出ると、オリアナを追うため最寄りの自律バス停へ向かった。土御門の追跡術式が失われたことで手掛かりはほとんどなくなっていたが、オリアナが距離を取ろうとしている可能性に賭けて行動を続けた。
移動中、ステイルは英国側で進めている『使徒十字』の調査結果について語った。しかし判明している情報は少なく、専用保管庫が極端な遮光構造だったこと程度しか分かっていなかった。状況打開のためには、やはりオリアナ本人を捕らえるしかないという結論に至っていた。
異変の気配
二人が裏路地へ続く人だかりに近づくと、ステイルは集団の興奮した空気に異常を感じ取った。
やがて人波をかき分けて進んだ上条は、小萌先生の悲鳴を聞き、最前列へ飛び出した。
そこで目にしたのは血に染まった裏路地だった。
重傷を負った姫神
路地の中央では姫神秋沙が倒れていた。
体操服は大きく裂け、応急処置として巻かれた包帯は血で真っ赤に染まっていた。周囲には肉片まで散乱し、姫神はほとんど意識を失った状態で浅い呼吸を続けていた。
小萌先生は全身を血で汚しながら泣き続けていた。彼女の説明によれば、先ほどまで普通に会話していた姫神は、偶然ぶつかった女性に突然襲われたのだという。
オリアナによる誤認攻撃
ステイルは現場に落ちていた『歩く教会』の十字架を見て事情を察した。
姫神が身につけていた特殊な霊装を見たオリアナが、姫神を重要な魔術師と誤認し、先制攻撃を仕掛けたのである。
その事実を知った上条は激しい怒りを覚えた。何の関係もない姫神が、ただの勘違いによって瀕死の重傷を負わされたからだった。
上条とステイルの対立
上条は姫神を置いて追跡を続けることに強く反発した。
しかしステイルは、今の自分たちには姫神を治療する力がない現実を突きつける。手を握っても傷は治らず、今できる唯一のことはオリアナを止めることだと告げた。
ステイル自身も三沢塾で救出した姫神が再び傷つけられたことに怒りを抱いていたが、その怒りを行動へ変えるしかないと考えていた。
上条は悔しさを押し殺しながらも、その現実を受け入れざるを得なかった。
小萌先生の必死の救命行為
その時、ステイルは小萌先生が奇妙な行動をしていることに気付いた。
彼女は石や空き缶を並べ、かつてインデックスを救った際に使われた治癒術式の再現を試みていた。理論も理解できず、完成形も知らないまま、それでも少しでも姫神を助けようとしていたのである。
泣きながら術式を組み立てる小萌先生の姿は、かつてインデックスのために必死になっていた者たちの記憶を呼び起こした。
ステイルの決断
小萌先生の姿を見たステイルは追跡を中断した。
治癒魔術は専門外であり、完全な治療は不可能だと理解していた。それでもインデックスの知識の断片と小萌先生の記憶を頼りに、病院へ搬送されるまでの時間稼ぎを試みることを決意した。
そして上条には先へ進み、オリアナを追うよう命じた。
再び追跡へ向かう上条
上条は血の海に沈む姫神を見つめながら、すべてを終わらせるためにはオリアナを止めるしかないと理解した。
姫神をステイルに託し、自分はオリアナの追跡を続けることを決意した。
一方のステイルは、誰かを傷つけるためではなく、誰かを救うために魔術を使おうとしていた。そんな行為に慣れていない自分へ皮肉を抱きながらも、姫神の命を繋ぎ止めるため術式の構築を始めた。
行間 五
姫神秋沙の願い
姫神秋沙は冷たい裏路地の地面に横たわりながら、自分がなぜこんな状況になったのかを考えていた。
胸から腹にかけて負った深い傷の痛みは限界を超え、むしろ感覚が麻痺し始めていた。そのため周囲の光景を認識する余裕が生まれ、自らの血や肉片が散乱する惨状を目にしてしまう。しかし姫神にとって、それ以上につらかったのは、自分を挟んで言い争う上条当麻とステイルの姿だった。
上条の苦悩を見つめる姫神
ステイルは、傷ついた姫神の前で上条にできることは何もないと厳しく言い放った。
姫神はその言葉を否定したかった。一緒にいても傷は治らないかもしれないし、痛みも消えないかもしれない。それでも何も変わらないわけではないと伝えたかった。
しかし声は出なかった。
上条が言葉によって追い詰められ、苦しそうに表情を歪めていく様子を見ながらも、姫神には何も伝えることができなかった。
叶えたかったささやかな願い
姫神が本当に望んでいたのは特別なことではなかった。
上条や仲間たちと一緒に競技へ参加し、応援し、屋台を巡り、ナイトパレードを見て、楽しい思い出を作ることだった。
ただそれだけの平凡な願いだった。
それなのに現実は残酷で、自分の想いも言葉も届かず、上条は自分をまたいで先へ進もうとしていた。
姫神は心の中で拒絶した。行かないでほしいと願った。しかし、その願いを声にすることはできなかった。
上条の約束
上条は苦しみながらも決断した。
そして倒れている姫神に向かって謝罪し、ナイトパレードが始まるまでに病室へ戻ると約束した。だから必ず待っていてくれと告げたのである。
その言葉を聞いた瞬間、姫神はかすかに笑みを浮かべた。
届いた言葉
姫神は心の中でずるいと思った。
世界はどこまでも冷酷で、自分の願いも言葉も伝わらない。どれだけ必死に願っても叶わないことばかりだった。
それなのに、上条の言葉だけは違った。
何も伝えられないはずの状況で、その一言だけは確かに姫神の心へ届いていた。
絶望の中で失われかけていた希望を、上条の約束だけが繋ぎ止めていたのである。
第七章倒すべき敵、守るべき者 Parabolic_Antenna.
1
オリアナ追跡の行き詰まり
上条当麻は自律バスの停留所へ到着したが、そこにはすでにオリアナの姿はなかった。姫神秋沙が襲われた現場で足止めされた影響により、追跡は完全に遅れていたのである。
オリアナがどの便に乗ったのか、そもそもこの停留所を利用したのかすら分からず、上条は追跡の手掛かりを失ってしまった。焦燥感に駆られた上条は、土御門元春へ連絡を取った。
使徒十字の使用条件への着目
土御門は重傷を負いながらも上条と情報を整理した。
その中で上条は、そもそもオリアナが午前中から街中を歩き回っていた理由に疑問を抱いた。取引相手と会うためではない以上、オリアナは『使徒十字』を使用するための何らかの条件を探していたのではないかという仮説へ辿り着いた。
保管庫の情報から見えた異常
ステイル経由で届いたオルソラの調査報告を土御門が確認した結果、『使徒十字』の保管庫には不自然な特徴があることが判明した。
保管庫は窓を塞ぎ二重扉で光の侵入を防いでいた一方で、大掃除は必ず昼間に行うという規則が存在していた。また保管員たちは勤務中にホロスコープを使って星占いを行っていたという報告も残されていた。
これらの情報から、発動条件に関わるのは太陽光ではなく夜空に関係する何かではないかという推測が生まれた。
星座利用説の浮上
上条の発想を受け、土御門は『使徒十字』が星座の力を利用する霊装である可能性を語った。
星座魔術とは実際の恒星の力を利用するのではなく、夜空に描かれた星々の配置を巨大な魔法陣として扱う術式である。『使徒十字』は夜空の星の光を受信するアンテナのような役割を果たし、発動に適した地点を探すためオリアナが学園都市を移動していた可能性が高いと考えられた。
残された矛盾
しかし土御門は、この仮説にも大きな問題があると指摘した。
『使徒十字』は聖ペテロの死と深く結び付いた霊装であり、ペテロが処刑された六月二十九日の星空を基準としている可能性が高い。しかし現在は九月下旬であり、季節も場所も異なるため、当時の星空とは一致しない。
もし星座の配置が重要なら、本来は現在の日本で正常に発動できないはずだった。その矛盾を解決する条件が何なのかは、まだ判明していなかった。
迫るタイムリミット
土御門は、『使徒十字』が星空を利用するなら発動のタイミングは日没後になるだろうと推測した。
九月下旬の日没まで残された時間は二〜三時間程度しかない。上条たちはその短い時間の中でオリアナを発見し、さらにリドヴィアの居場所まで突き止めなければならなかった。
土御門は重傷の身体を押してオリアナの移動経路を逆に辿り、占星術的な共通点を探る決意を固めた。上条も次の行動を考え始めるが、その時、背後から思いがけない人物の声がかけられた。
2
オリアナの誤射への後悔
オリアナは乗車していた自律バスが重量オーバーによって緊急停止したため、自ら降車して移動を再開した。尾行確認を繰り返しても神裂火織らしき追跡者の反応はなく、土御門の警告がハッタリだった可能性を強く感じていた。
しかしその一方で、姫神秋沙を襲撃した件が頭から離れなかった。オリアナは通信術式を用いてリドヴィアへ連絡を取り、自らの判断を振り返った。誤って一般人を攻撃してしまった事実は、彼女に強い苛立ちと自己嫌悪を抱かせていた。
リドヴィアによる事実確認
通信を受けたリドヴィアは、姫神秋沙が魔術師ではないと断言した。
姫神が身に着けていたケルト十字は特殊能力を封印するための霊装であり、攻撃的な意味合いは持っていなかった。また、その情報は過去の事件報告書やイギリス清教からの正式な通達にも記載されていた。
その説明により、オリアナは神裂火織の参戦情報も含め、自分が誤った判断を重ねていた可能性を認識した。
修道女としてのリドヴィアの信念
リドヴィアは今回の件を明確に過ちと認めた。
本来守るべき一般人に危害を加えてしまった事実を重く受け止めながらも、その失敗を理由に立ち止まろうとはしなかった。むしろ二度と同じ過ちを繰り返さないためにも、『使徒十字』を用いて学園都市を支配し、自らの計画を成功させなければならないと語った。
彼女は聖書の教えを引用しながら、救いを必要としている者こそ手を差し伸べるべき対象であると説き、自らの罪を認めながらも前進する姿勢を崩さなかった。
二人の価値観の差
リドヴィアは反省も後悔もしていた。しかしその感情を行動停止の理由にはせず、全てを糧として目的達成へ繋げようとしていた。
どれほど苦しい経験や失敗を重ねても、それを試練として受け入れ、前へ進み続ける。その在り方はオリアナとは根本的に異なっていた。
オリアナはその揺るぎない信念に寒気すら覚えた。強さや能力ではなく、生き方そのものに埋めがたい差を感じたのである。
オリアナの確認
迷いを抱えたオリアナは、決して迷わないリドヴィアへ問いかけた。
学園都市を支配することで、本当に全ての問題が解決するのか。これまで積み重ねてきた犠牲や過ちも含めて、その先に望む結果が待っているのかを確かめようとしたのであった。
3
インデックスとの再会
上条当麻がオリアナの追跡を続けている最中、偶然インデックスと遭遇した。チア衣装姿のインデックスは、上条が競技へ参加せず姿を消していることを不審に思い、事情を尋ねた。
上条は魔術師たちの戦いへインデックスを巻き込まないため、運営委員の手伝いをしていると嘘をついて誤魔化した。一方で、姫神秋沙の治療に魔術を使っているステイルたちの存在が、インデックスを中心とした監視網に感知されていないことを確認し、内心で安堵していた。
果たせない約束
インデックスは次の競技である組体操に参加することを伝え、上条が戻って来るのを待つと言った。
上条はできるだけ早く用事を終わらせて必ず行くと約束した。しかし彼自身、その約束を守れる保証がないことを理解していた。
それでもインデックスは何の疑いもなく頷き、自分が覚えた応援の振り付けを見せるのを楽しみにしていると笑顔で語った。そして上条を信じたまま競技場へ向かっていった。
罪悪感と決意
インデックスの姿が人混みに消えると、上条は深くうつむいた。
土御門元春は、自分たちの事情によって上条を事件へ巻き込んでいることを謝罪した。しかし上条は、それを否定した。
何も知らずに笑っている裏側で、土御門やステイルが血まみれになって戦っている状況の方が耐えられないと語った。魔術師たちが不幸を持ち込んだのではなく、彼らもまた本来なら大覇星祭を楽しめたはずの人間だと考えていたのである。
自分の矛盾への自覚
上条は、自分がインデックスを巻き込みたくないと思う一方で、その考えが結局は苦しみを彼女へ押し付けているだけなのではないかと自問した。
自分だけが真実を知り、インデックスには何も知らせないまま笑顔でいてほしいと願うことに矛盾を感じていた。しかし今は迷っている時間はなかった。
事件を終わらせるために
上条は土御門へ、この面倒な事件を一刻も早く終わらせようと語った。
そしてインデックスの元へ戻り、皆と一緒に騒ぎ、食事をして、写真を撮り、大覇星祭の思い出を作りたいと願った。
その平凡な日常を取り戻すために、上条は再びオリアナ追跡へ向かう決意を固めた。
4
上条による単独捜索
午後四時三十分、上条当麻はオリアナを見失った自律バス停を中心に周辺を捜索していた。
本来ならオリアナはバスで逃走した可能性が極めて高かったが、上条には魔術的な探索手段がなく、土御門元春の調査結果を待つしかなかった。そのため、わずかでも可能性を潰すべく、周辺の建物や人混みの中を地道に探し回っていた。
夕方へ向かう街は依然として賑わいに満ちていたが、上条は金髪の人物を見かけるたびにオリアナではないかと警戒しながら捜索を続けた。
電気店での待機と時間への焦り
上条は大型電気店へ入り、店内を見回しながら外の様子も確認していた。
空は徐々に夕暮れへ向かい始めており、オリアナたちが『使徒十字』を発動するまでの時間が限られていることを改めて実感していた。
そんな中、携帯電話へ着信が入った。相手は非通知番号から連絡してきたステイルだった。
姫神救命の報告
ステイルは姫神秋沙の治療が終わったことを報告した。
上条は真っ先に姫神の容体を尋ねた。ステイルは、月詠小萌の知識と自身の魔術を組み合わせるという危険な試みだったことを明かしながらも、破れた血管の補強や失血対策に成功し、ショック症状からは脱したと説明した。
あとは病院での治療に委ねる段階まで持ち直したと聞き、上条は安堵した。
さらに救急隊員たちは、搬送先の病院には重傷患者ほど燃える優秀な医師がいると自信を見せていた。
小萌とステイルのやり取り
感謝の言葉を伝えようとする上条だったが、電話の向こうでは月詠小萌が涙ながらにステイルへ感謝を伝えようとしていた。
普段なら他人を寄せ付けないステイルだったが、小萌を乱暴に追い払うこともせず、むしろ困惑しながら相手をしていた。
上条はその様子に呆れながらも、姫神が救われる可能性を得たことに安堵していた。
土御門からの新情報
通話を切ろうとした上条へ、ステイルは最後に重要な情報を伝えた。
土御門が何か手掛かりを掴んだらしいというのである。
ステイル自身も小萌から離れ次第、土御門の元へ向かうつもりだと告げた。
上条は捜索を続けながら、事件解決へ繋がるかもしれない土御門の新たな情報を待つことになった。
5
土御門による星座術式の解析
土御門元春は、第七学区にあるオリアナと最初に遭遇した地点を訪れていた。
オリアナとの戦闘で重傷を負った土御門は、新しい体操服へ着替えていたものの、顔色は悪く、呼吸も浅かった。それでも彼は休まず調査を続けていた。今やるべきことは、『使徒十字』発動の仕組みを解明することだったからである。
陰陽師としての知識による検証
土御門は空を見上げながら、これまでオリアナが巡った地点を思い返していた。
彼は陰陽道の術者として風水だけでなく、占術や暦術など幅広い知識を持っていた。その知識を利用し、実際に現地を歩いて星空との関係を検証していたのである。
そこで土御門は重要な共通点を発見した。
オリアナが訪れていた複数の地点は、どこから星空を観測しても同じ魔術的意味を導き出せるよう配置されていたのである。
秋の星座利用説の確信
本来、星座を利用する魔術は観測地点によって微妙に意味が変化する。
星座は地球から見た見かけ上の配置に過ぎず、観測位置が少し変わるだけでも魔術的な解釈には誤差が生じる。そのため星座利用型の魔術では、高度な天文台や神殿などの観測施設が必要とされていた。
しかし土御門が調べた複数の地点では、どこから観測しても同じ結果が導き出されていた。
偶然とは考えられなかった。
その事実から土御門は、オリアナとリドヴィアが『使徒十字』の発動条件に秋の星座を組み込んでいるという仮説に確信を持った。
残された矛盾への疑問
だが、土御門にはまだ解けない疑問が残っていた。
秋の星座を利用していることはほぼ確定した。しかし、その仮説では説明できない矛盾も存在していたのである。
土御門は青空を見上げながら、その不可解な点について考え続けた。
『使徒十字』発動の仕組みは見え始めていたが、まだ決定的な答えには辿り着いていなかった。
6
吹寄の回復と小萌への連絡
吹寄制理は入院先の病院中庭にある携帯電話使用区域から、月詠小萌へ連絡を取った。
日射病から回復しつつあった吹寄は、自身の体調を報告するとともに、大覇星祭で問題が起きていないか確認した。特に上条当麻たちが騒動を起こしていないかを気にしていた。
姫神襲撃事件の発覚
しかし小萌から返ってきたのは予想外の報告だった。
姫神秋沙が何者かに襲撃され、重傷を負って病院へ搬送されたというのである。
小萌は、偶然その場に上条たちが駆けつけてくれたため最悪の事態を避けられたと語った。声には不安も残っていたが、姫神が助かったことへの安堵も感じられた。
吹寄の疑問
吹寄はその話に強い違和感を覚えた。
大覇星祭期間中の学園都市は警備員や風紀委員によって厳重に警戒されているはずだった。それにもかかわらず、生徒が襲撃される事態が発生したのである。
犯人は一体誰なのか。なぜ姫神が狙われたのか。そして警備体制を突破できるほど危険な存在が街の中にいるのかという疑問が浮かんだ。
上条と謎の神父
さらに吹寄が気になったのは、小萌の語った上条たちの存在だった。
小萌によれば、重傷を負った姫神への対応を主導したのは上条と、一緒にいた神父姿の少年だったという。その神父は礼も受け取らず、まるで逃げるように去っていったらしい。
その話を聞いた吹寄は、自分が日射病で倒れた際にも上条が真っ先に現れて助けてくれたことを思い出した。
上条への疑念
吹寄は考え込んだ。
自分が倒れた時も、姫神が襲われた時も、上条当麻が現場にいた。
日射病と襲撃事件に直接の関連はないはずだったが、その両方に上条が関わっている事実は無視できなかった。
吹寄は、上条当麻が何かを知っているのではないかと感じ始める。
そして、一連の出来事の裏で何が起きているのか分からないまま、学園都市で進行している異変へ強い不安を抱くのだった。
7
オルソラからもたらされた新情報
上条当麻と土御門元春は、『使徒十字』に関する調査結果を整理していた。
土御門は、オリアナたちが秋の星座を利用して術式を発動しようとしていること、そして学園都市内に存在する複数の地点が、そのための観測地点として機能していることを突き止めていた。
しかし土御門は、その結論に完全な確信を持てずにいた。歴史上『使徒十字』が使用されたのは夏の星座が有効な時期であり、秋の星座だけで同じ効果を再現できるとは考えにくかったからである。
時間切れへの焦燥
午後五時が迫る中、二人は焦りを募らせていた。
土御門が発見した地点へ向かうべきか、それとも未解明の条件を探るべきか判断できなかったのである。
もし推測が外れれば、オリアナとリドヴィアは全く別の場所で『使徒十字』を発動してしまう可能性があった。
決断を迫られる中、土御門の携帯電話へイギリス清教から着信が入った。
オルソラとの再会
電話の相手はオルソラ=アクィナスだった。
相変わらずのんびりした口調で話を脱線させながらも、彼女は英国図書館で調査した『使徒十字』の新情報を伝えようとしていた。
最初に語られた内容は、星座の光を集めて術式を発動するという既知の情報だったため、上条と土御門は落胆する。
しかしオルソラは、その先にさらに重要な事実があると続けた。
使徒十字の真の使用条件
オルソラによれば、『使徒十字』は夏の星座だけで発動する術式ではなかった。
八十八星座すべてを利用できるよう設計されており、世界中のあらゆる地域で発動可能な大規模霊装だったのである。
ただし無制限ではなく、それぞれの地域ごとに対応する星座と発動可能な日付が存在していた。
術者は土地の特色や性質を把握し、その地域に最適な星座を選択する必要があった。その条件を満たした時のみ、『使徒十字』は発動できるのである。
リドヴィアの長年の準備
この事実から、リドヴィア=ロレンツェッティが世界各地を巡っていた理由も明らかになった。
彼女は布教活動の裏で、各地域に対応する星座や発動条件、観測地点の情報を収集していた可能性が高かった。
オルソラ自身も、リドヴィアが古い望遠鏡を抱えて各地へ向かう姿を何度も見ていたという。
学園都市についても、過去の調査によって既に発動条件を把握していたと考えられた。
ペテロ自身が仕組んだ術式
さらにオルソラは、『使徒十字』そのものがペテロの生前から準備されていた可能性を語った。
ペテロは自らの殉教が後世へ与える影響を理解しており、どこで死ぬべきか熟考していたと伝えられている。
有名な「クォ・ヴァディス」の逸話や、逆さ十字架での処刑を望んだという伝承も、単なる信仰心だけでなく、『使徒十字』を成立させるための準備だった可能性があった。
ペテロは自らの死の場所や時刻までも計算に入れ、後世のための術式を完成させたのかもしれなかった。
決定的な手掛かり
上条は最も重要な問いを投げかけた。
今日――九月十九日の日本において、『使徒十字』を発動できる場所が特定できているのかという問いである。
それに対しオルソラは迷いなく答えた。
彼女はすでに、その発動地点を突き止めていたのであった。
8
御坂親子の大覇星祭散策
御坂美琴と御坂美鈴は、大覇星祭の合間を利用して学園都市の街を歩いていた。
二人は地下道・地上・二階歩道が複雑に入り組んだ商業エリアを訪れ、露店を見て回っていた。美鈴は学園都市らしい奇妙な土産物に興味を示し、擬似五次元万華鏡を欲しがったが、美琴はそんな物はすぐ飽きると呆れながら止めていた。
しかし美鈴は、学園都市らしい非現実的な技術や施設への憧れを語り続け、美琴との軽妙な親子喧嘩を繰り広げていた。
白井黒子の暴走
その最中、美琴は強烈な視線を感じて振り返った。
そこには車椅子に乗った白井黒子がおり、美鈴の姿を目にした黒子は異常なほど興奮していた。
黒子は御坂家の血縁者を目の当たりにしたことで理性を吹き飛ばし、美琴と同じ雰囲気を持つ存在が増えたことに歓喜した。さらに姉妹でも親子でも構わないと暴走気味の妄想を口にし始めたため、美琴は妹達の存在だけは絶対に知られてはならないと改めて決意した。
上条へのからかい
美鈴はさらに、美琴が想いを寄せている少年の話題を持ち出した。
美琴は激しく否定したものの、美鈴は面白がってからかい続けたため、美琴は顔を真っ赤にして反発した。
親子のやり取りは周囲を気にしないほど賑やかなものだった。
地上にいた上条と土御門
そんな中、美鈴は地上の道路に上条当麻と土御門元春の姿を発見した。
二人は人混みの中に立ちながら真剣な表情で話し込んでおり、その様子は学生同士の会話とは思えないほど重苦しかった。
美鈴には内容までは分からなかったが、二人の表情からは多くの人々の運命を背負っているかのような緊張感が感じられた。
美鈴は上条の存在を美琴へ教えようとしたが、美琴はからかわれていると思い込み、まともに取り合わなかった。
その間に上条と土御門は人混みの中へ姿を消し、御坂親子は気づかないまま彼らとすれ違うことになった。
9
オルソラの情報による突破口
上条当麻と土御門元春は、オルソラから得た新情報を整理していた。
オルソラの調査によって、『使徒十字』は好きな場所や時期に使える霊装ではなく、地域ごとに対応する星座と使用期間が定められていることが判明した。
またリドヴィアは以前から世界各地を巡り、それぞれの地域に対応する使用地点である「天文台」を調査していた可能性が高かった。
その情報と土御門の調査結果を照合したことで、学園都市内で使用可能な地点は実質一か所だけに絞り込まれた。
最後の天文台の特定
土御門は、オリアナがこれまで巡っていた地点の特徴を説明した。
これまで確認された候補地の多くは、ビルや街路樹によって空が遮られており、星座観測には適していなかった。そのためオリアナたちは最終的に、最も空が開けた場所を目指すはずだと結論付けた。
その場所は第二十三学区にある鉄身航空技術研究所付属実験空港だった。
航空・宇宙開発施設が集まる特殊区域であり、一般には公開されていない空白地帯であった。
第二十三学区への懸念
上条は厳重な警備区域に魔術師が侵入できるのか疑問を抱いた。
しかし土御門は、オリアナがこれまで警備の緩い場所から順番に回っていたことを指摘した。
オリアナたちは学園都市そのものを強く警戒しており、無用な衝突を避けながら行動していたのである。だからこそ最後の地点への侵入にも慎重にならざるを得ず、その分だけ時間を稼げている可能性があった。
土御門は、この最後の天文台でオリアナたちを捕らえ、全てを終わらせるべきだと語った。
ステイルとの再合流
そこへステイル=マグヌスが合流した。
土御門は到着の遅れを怪しんだが、上条は姫神秋沙の救命処置によって月詠小萌に懐かれ、追いかけ回されていたのではないかと茶化した。
ステイルは即座に否定したものの、土御門は呆れながら、命懸けで探索術式を使っていた自分との差を皮肉った。
三人は軽口を交わしながらも、最終決戦へ向けて意識を固めていった。
土御門の切り札
第二十三学区への侵入方法を考える中、上条は厳重な警備をどう突破するのか疑問を口にした。
すると土御門は、自分だけが使える特権があると不敵に笑った。
携帯電話を操作しながら、彼は学園都市統括理事長の存在を持ち出した。
土御門は、その権限を利用して第二十三学区へ入り込む算段があることを示し、上条とステイルを驚かせた。
10
第二十三学区への侵入機会
オリアナ=トムソンは第二十三学区のターミナル駅に到着していた。
第二十三学区は航空・宇宙開発を担う特殊区域であり、学区内へ通じる交通網は全てこの巨大なターミナル駅へ集約されていた。多数の鉄道路線やモノレール、バスターミナルが集まるその構造は、国際空港にも匹敵する規模だった。
オリアナは駅構内を観察する中で、警備員たちの配置が不自然に変化していることに気付いた。警備そのものは続いているものの、本来重要な場所から人員が移動し、死角が増えていたのである。
警備網の異変への警戒
第二十三学区はターミナル駅までは容易に入れるものの、その先の施設群へ進むことは極めて難しい場所だった。
そのためオリアナは、これまで駅と国際空港の間を移動しながら侵入の機会を窺っていた。しかし今回の警備体制の変化は、好機であると同時に罠にも見えた。
警備員たちの動きには迷いがあり、命令の理由を理解していない様子すら感じられたため、誰かが意図的に舞台を整えているように思えたのである。
リドヴィアとの通信
状況を確認するため、オリアナは通信術式を使ってリドヴィア=ロレンツェッティと連絡を取った。
リドヴィアは、まだ予定時刻まで余裕があるのではないかと尋ねたが、オリアナは敵側が既に動き始めていると判断していた。
学園都市側はオリアナの存在を把握しており、警備体制の変化もその対応の一環だと考えていた。ただし、それは包囲や制圧ではなく、むしろ意図的に戦場を用意しているように見えた。
最後の決断
リドヴィアは別の学区へ移動して仕切り直す案も示した。
しかしオリアナは、これまで確認した候補地の中で最も条件が良い場所は第二十三学区しかないと結論付けた。
開けた空間であれば一般人を巻き込む危険も少なく、術式発動にも最適だったためである。
オリアナは警戒を強めながらホームを後にし、第二十三学区内部へ向かって歩き出した。
そしてリドヴィアへ準備を促し、自分たちの計画によって学園都市を陥落させる決意を改めて示した。二人は最終段階へ向けて動き出していた。
11
第二十三学区への突入準備
上条当麻、土御門元春、ステイル=マグヌスは、第二十三学区へ向かう地下鉄ホームに集まっていた。
土御門は学園都市統括理事長アレイスターへ働きかけ、第二十三学区の警備配置を変更させていた。ただし警備を完全に撤去させたわけではなく、配置変更の過程で生じる一時的な混乱と隙を利用する作戦だった。
さらに人工衛星による監視体制も映像処理方式の切り替えが行われており、その間は上空監視も弱まる見込みだった。
迫る時間制限
土御門は『使徒十字』発動の条件について改めて説明した。
星座を利用する術式である以上、発動の可能性が高いのは日没直後であり、残された時間は極めて少なかった。現在は午後五時二十五分で、第二十三学区のターミナル駅までは約十分。発動予想時刻は午後六時から七時の間であり、最悪の場合は到着後二十五分しか猶予がなかった。
しかし土御門は、一学区全体の警備再編には時間がかかるため、自分たちが到着する頃でも警備体制は混乱したままだろうと説明した。
土御門の決意
上条は重傷を負った土御門が同行することを心配した。
だが土御門は、警備の混乱があっても第二十三学区は甘い場所ではなく、自分抜きでは突破が難しいと断言した。
ステイルもまた、発動時刻が迫っていることはオリアナとリドヴィアにとっても制約であると分析した。今から別の候補地へ移動しても間に合わないため、敵も第二十三学区で勝負せざるを得ない状況だった。
こうして双方の逃走劇と追跡劇は終わりを迎えようとしていた。
上条の覚悟
列車がホームへ到着すると、ステイルは上条へ最後の確認を行った。
この先に待っているのはオリアナとリドヴィアとの命懸けの戦いであり、一度乗り込めば後戻りはできないと告げたのである。
上条は今日一日の出来事を思い返した。
血に染まった現場、傷ついた姫神秋沙、自分の無力さ、何もできなかった悔しさ。その全てを胸に刻みながら、彼は覚悟を決めた。
最後の戦いへの出発
上条は列車へ足を踏み入れながら、ここで全てを終わらせると宣言した。
そしてステイルがその先を尋ねると、上条は振り返らずに答えた。
自分は殺し合いで終わらせるつもりはない、と。
その言葉を聞いた土御門とステイルは、それぞれ異なる感情を込めた笑みを浮かべた。
やがて三人は列車へ乗り込み、ドアが閉まる。
地下鉄はゆっくりと発進し、第二十三学区――オリアナとリドヴィアが待つ最後の戦場へ向かって走り出した。
行間 六
オリアナの信念の原点
オリアナ=トムソンは敬虔な十字教徒の家庭で育った。
幼い頃から教会へ通い、年老いた神父から繰り返し、人のためになることをしなさいと教えられていた。しかし彼女は成長するにつれ、その言葉の難しさに直面していった。
道に落ちた空き缶を拾うことも、困っている人へ道案内をすることも、荷物を運ぶことも、一見すれば善行である。だが、その結果が必ずしも誰かの幸福に繋がるとは限らなかった。
善意で行った行動が別の誰かを苦しめたり、不幸を招いたりする可能性があることを、彼女は理解していた。
善意が生む悲劇への恐怖
オリアナは、自分の行動が本当に正しい結果を生むのか分からないことに苦しんでいた。
結果が事前に分かるのであれば選択は簡単だった。しかし現実はそうではない。
どれほど善意から行動しても、予想外の形で誰かを傷つけてしまうことがある。逆に何もしなければ、助けを求めている人を見捨てることになる。
そのどちらも避けられない現実に、オリアナの心は少しずつ疲弊していった。
絶対的な基準への渇望
彼女が求めたのは、迷わず選択できる絶対的な基準だった。
人々がそれぞれ異なる価値観を持つからこそ争いや悲劇が生まれる。ならば全員が従う唯一の基準があれば、誰も迷わずに済むのではないかと考えた。
それは皇帝でも教皇でも大統領でも構わなかった。
誰かが絶対的なルールを定め、その基準に従って世界が動けば、人々は価値観の違いによる悲劇から解放されるかもしれないと信じていた。
学園都市支配計画への動機
オリアナが『使徒十字』による学園都市支配に協力している理由も、そこにあった。
彼女は権力や支配そのものを望んでいたわけではない。
明確な基準の下で誰も迷わず、誰も不幸にならない世界を作りたいと願っていたのである。
しかしその理想を追い求める過程で、彼女はすでに姫神秋沙という無関係な少女を傷つけてしまった。
誰かを救いたいと願いながら、そのために別の誰かを傷つけてしまう。その矛盾こそが、今のオリアナを最も苦しめていた。
だからこそ彼女は心の中で、誰もが従う絶対のルールと、それによって悲劇のない世界が生まれることを願い続けていた。
第八章 右の拳を握り締める理由 Light_of_a_Night_Sky.
1
当麻の不在と両親の不安
夕暮れの競技場で、上条刀夜と上条詩菜は上条当麻の姿が見当たらないことに気付いた。団体競技では見逃した可能性も考えていたが、おたま競走にも当麻が参加していなかったため、不審に思った二人は担任の月詠小萌に事情を尋ねた。
小萌の説明と謝罪
小萌は当麻の行方を把握できておらず、警備員に捜索を依頼していると説明した。詩菜が当麻の身を案じると、小萌は当麻が神父と共に元気に行動していたことを伝えたものの、詳しい状況は説明できなかった。そのため自分の責任を感じ、大切な生徒の動向を把握できていないことを謝罪した。
刀夜と詩菜のやり取り
刀夜と詩菜は小萌を責めるつもりはなく、状況を知りたかっただけだったため困惑した。二人は当麻の性格について軽口を交わしながらも、小萌に頭を上げるよう促した。
当麻への信頼
刀夜は当麻が誰かに振り回されているのではなく、自分の意思で行動しているのかを確認した。小萌がその通りだと答えると、刀夜はそれ以上の追及をしなかった。
刀夜は一番星が見え始めた夕空を見上げながら、当麻にとっては競技よりも価値のある行いがあるのだろうと考えた。そして、それが当麻自身の意思によるものであるならば、止める理由は思い浮かばないと静かに語った。
2
使徒十字の展開
夕暮れの空の下、オリアナ=トムソンは人影のない実験空港の滑走路に立っていた。大覇星祭の最中であり、一般人立入禁止区域でもあるため周囲に人の姿はなく、彼女の長く伸びた影だけがアスファルトの上に映っていた。
使徒十字の解放
オリアナは肩に担いでいた十字架を下ろし、巻き付けられていた白い布を取り外した。現れたのは、縦一五〇センチ、横七〇センチの真っ白な大理石製の十字架であった。
その十字架は約一八〇〇年もの時を経ていたが、長い間公開されてこなかったため傷一つなく、新品同様の姿を保っていた。オリアナはその重厚な十字架を両手で持ち上げると、一気に振り下ろしてアスファルトを貫き、日本の大地へ深く突き立てた。
術式発動の準備完了
オリアナは使徒十字を使用するための呪文を唱えた。すると地面に突き刺さった十字架は自ら動き始め、夜空からの光を受けるためにゆっくりと角度を調整した。
オリアナは空を見上げ、一番星が輝き始めていることを確認した。そして、広大な滑走路の中で準備が整ったことを実感し、あと数十分で世界が変わる段階まで来たことを静かに口にした。
3
第二三学区への潜入
上条当麻は土御門元春、ステイルと共に第二三学区へ到着した。そこは滑走路やロケット発射場が広がる巨大な施設群で構成されており、学園都市の人間にとっても馴染みの薄い場所だった。
土御門は、この学区の警備が主に空から行われていることを説明した。そして旅客機や実験機が飛行する際に監視機の巡回ルートが変化することを利用し、その死角を縫って目的地へ向かう作戦を明かした。
実験空港への接近
三人は監視の目を避けながら広大な敷地を走り続けた。上条は携帯電話で時間を確認し、『使徒十字』発動まで残された時間が少ないことを意識していた。
やがて鉄身航空技術研究所付属実験空港の敷地を隔てるフェンスへ到着した。土御門はフェンスを越えようとしたが、その直前に金網へ仕掛けられていた単語帳のページが発動した。
土御門の負傷
術式によってフェンス全体が高熱を帯び、触れていた土御門の手足を焼いた。土御門は激しく吹き飛ばされ、手足に深刻な火傷を負ったため立ち上がることも困難になった。
それでも土御門は上条に先へ進むよう促し、術式の仕掛けを破壊してオリアナを追うよう命じた。
オリアナとの遭遇
ステイルはフェンスの向こうにいるオリアナ=トムソンの存在を察知した。上条は仕掛けられていたページを破壊してフェンスの熱を消し去ると、ステイルと共にフェンスを越えた。
オリアナは約五百メートル先から単語帳を用いて術式を発動した。全身を青白く発光させると、周囲の空気を巨大な圧力の塊として操り、建物を破壊しながら上条たちへ襲い掛からせた。
戦闘の開始
上条は右手で術式を打ち消したものの、続いて押し寄せるアスファルトの破片までは止められなかった。そこへステイルが炎の剣による攻撃を放ち、石の津波を吹き飛ばした。
上条は前進を続け、ステイルは新たな炎剣を生み出し、オリアナは単語帳を操り続けた。こうして三者による本格的な戦闘が始まった。
その時刻は午後五時五十分であり、『使徒十字』発動のタイムリミットまで残された時間はわずかだった。
4
第二三学区 実験空港の戦い
オリアナの挑発と結界の展開
上条当麻とステイルが実験空港でオリアナ=トムソンへ迫る中、オリアナは神裂火織や増援が現れない状況を面白がりながら挑発を続けた。そして土御門元春が罠にかかって戦線を離脱したことにも触れ、自分たちが上条たちを掌の上で転がしていたように語った。
やがてオリアナは単語帳を使って術式を発動し、周囲からあらゆる音を消し去る結界を展開した。ステイルはそれが物理・魔術を問わず通信を遮断する結界であると見抜き、上条と共に一気に距離を詰めた。
オリアナによるステイルの無力化
接近した上条とステイルは左右から同時に攻撃を仕掛けた。先に踏み込んだステイルは炎の剣を振り下ろしたが、オリアナは単語帳から生み出した水球でそれを受け止めた。
水球は炎剣に絡みついて形を変え、そのままステイルの全身を覆った。水の膜に閉じ込められたステイルは呼吸を奪われ、地面へ倒れ込んだ。
上条への猛攻
上条がステイルを助けようとした瞬間、オリアナは鋭い蹴りを脇腹へ叩き込み、そのまま体当たりを重ねて上条を吹き飛ばした。
上条は激しく転倒したが、ステイルが炎剣を爆発させて拘束を破壊し、反撃を試みた。しかしオリアナは冷静に攻撃を回避し、カウンターの拳でステイルの顎を打ち抜いた。ステイルはその一撃で地面へ沈み、戦闘不能となった。
上条の決意
上条は傷つきながらも立ち上がり、『使徒十字』の発動を止める意思を示した。オリアナは『使徒十字』によって科学と魔術の壁を取り払い、人々を幸せへ導ける可能性があると語った。
しかし上条は世界の支配権や科学と魔術の対立には興味がないと断言した。そして多くの人々が準備し、楽しみ、全力を尽くしている大覇星祭を、自分たちの目的のために踏みにじる権利はないと激しく非難した。
吹寄と姫神への言及
上条はオリアナの理想論を否定し、自らの行動によって傷ついた吹寄制理や姫神秋沙の前でも同じ言葉を言えるのかと問いかけた。
その言葉を受けたオリアナは、わずかながら沈黙し、笑み以外の表情を見せた。上条は『使徒十字』を持って立ち去るだけなら追わないと告げたうえで、なお学園都市で誰かを傷つけるつもりなら、その幻想を打ち砕くと宣言した。
5
第二三学区 上条当麻とオリアナの攻防
炎の壁を突破する上条
午後六時となり、『使徒十字』発動まで残された時間が刻一刻と減る中、上条当麻とオリアナ=トムソンは激しく激突していた。
オリアナは単語帳を使って魔術を発動し、二人の間に青い炎の壁を生み出した。さらに炎を折り曲げて上条を挟み込もうとしたが、上条は恐怖に抗いながら前へ踏み込み、壁の中心を右拳で破壊した。
その直後にオリアナは新たな魔術を放とうとしたものの、上条が一瞬で懐へ飛び込んだため、放たれたアスファルトの刃は見当違いの方向へ飛んでいった。
近接戦で圧倒される上条
上条はオリアナの顔面へ拳を放ったが、オリアナは足払いで体勢を崩し、片膝をついた上条の顔面へ強烈な中段蹴りを叩き込んだ。
吹き飛ばされた上条はすぐに立ち上がり、飛来したガラスの弾丸に対してアスファルト片を投げつけて迎撃した。しかし、その隙を突いたオリアナは高速で接近し、魔術による衝撃を上条の鳩尾へ叩き込んだ。
さらに拳による追撃を加え、上条の体を数メートル先まで吹き飛ばした。
オリアナの戦術を見抜く上条
上条は痛みに耐えながら立ち上がったが、オリアナは近接格闘と魔術を自在に組み合わせ、常に有利な間合いを維持していた。
上条の拳はあと一歩のところで回避され続け、どれだけ追い詰めても決定打を与えられなかった。オリアナは大技で勝負を決めるのではなく、均衡を保ちながら相手の隙に強烈な反撃を叩き込む戦法を取っていた。
上条は、自分が遊ばれているのではなく、これこそがオリアナにとって最も効率的な戦い方なのだと理解した。
突破口を求める上条
オリアナは周囲が暗くなり始めたことを口にしながら余裕を崩さず、上条を挑発した。
それでも上条は諦めずに突撃を続けた。攻撃を避けられ、反撃を受けながらも立ち上がり続け、自分の攻撃を届かせるために何か一つでも手数を増やす方法が必要だと考えた。
透明な壁に阻まれているかのように拳が届かない状況の中で、上条は突破口を求めながら戦い続けていた。
6
第二三学区 魔女狩りの王
倒れたステイルの苦闘
ステイル=マグヌスはオリアナの一撃によって倒れ、意識が朦朧としていた。顎の痛みや平衡感覚の乱れに苦しみながら、自分が敗北したことをようやく認識した。
彼は神裂火織のような聖人でも、土御門元春のような天才魔術師でもなかった。しかし戦うべき理由があったため、代償を承知で強大な術式『魔女狩りの王』を修得していた。その結果、魔力精製による負担が常に肉体を蝕んでいた。
戦い続ける上条への思い
朦朧とする意識の中で、ステイルは上条当麻がなお戦い続けている音を聞いていた。
攻撃を受けても倒れず、諦めず、ただ拳を握り続ける上条の姿を感じながら、ステイルは自分にはあの立場にはなれないと理解していた。それでも、自分がこれまで身につけてきた炎の魔術には意味があると考えた。
かつて守ろうとした少女のために習得した力は、今では別の誰かを守るためにも使えると悟ったのである。
守るための決意
ステイルは、自分の術式が本来守りたかった相手のためだけのものではなくなっていることを理解していた。
それでも、傷ついた人々や学園都市を守ることが、結果として大切な誰かの笑顔を守ることにつながるのならば、その力を振るう価値があると決意した。
彼は残された力を振り絞り、オリアナを倒すため再び立ち上がる覚悟を固めた。
『魔女狩りの王』の顕現
ステイルは呪文を唱え、『魔女狩りの王』の召喚を開始した。
修道服の内側から大量のルーンカードが舞い散り、周囲の砕けたアスファルトへ張り付いていった。やがて紅蓮の炎が収束し、その中心に黒い人型の核を持つ摂氏三千度の炎の巨神が出現した。
ふらつきながらも立ち上がったステイルは『魔女狩りの王』へ呼びかけ、自らの魔法名を宣言した。そして、自身が最強である理由を証明しろと命じ、再び戦いへ身を投じたのであった。
7
第二三学区 反撃の意志
上条とステイルの連携による反撃
空が紫色へと変わり、発動の時が迫る中、オリアナは炎の閃光を目にした。ステイルが再び戦線へ復帰し、『魔女狩りの王』の炎の巨腕が横から襲いかかったのである。
オリアナは上条を盾に利用しようとしたが、上条は炎の軌道を右手で逸らし、その隙に懐へ飛び込んだ。そしてガードの上から拳を叩き込み、初めてオリアナへ確かな打撃を与えた。
読めない二人の動き
上条の攻撃に続き、ステイルも炎剣を携えて突撃した。オリアナは脅威であるステイルへ意識を向けたが、ステイルは途中で転倒した。
しかしそれは攻撃の終わりではなかった。ステイルが地面へ炎剣を叩きつけて爆風を発生させ、その衝撃で上条の拳の軌道が変化した結果、拳はオリアナの胸部へ命中した。
オリアナは呼吸を潰されて後退したが、さらにステイルと上条は互いに足を引っ張り合うような動きを見せながら攻撃を続けた。二人の行動には規則性も連携の意思もなく、オリアナはその予測不能な動きに対応できなくなっていった。
オリアナの劣勢
オリアナは氷の剣で反撃を試みたが、上条が右手で破壊した。さらに二人は同時に拳を放ち、オリアナの顔と腹へ打撃を与えた。
大きく吹き飛ばされたオリアナは地面へ叩きつけられ、呼吸も平衡感覚も失った。立ち上がることもできず、接近してくる上条とステイルを見ながら、自らの敗北を意識し始めた。
絶対の基準点への執着
倒れたオリアナは、目の前に落ちた単語帳を見つめながら、自分が求め続けてきたものを思い返した。
人によって価値観が異なり、同じ行いでも感謝されることもあれば恨まれることもある現実に苦しみ、誰も迷わずに済む絶対の基準点を求めてきたのである。皇帝や教皇、大統領など立場は問わず、人々を幸せへ導く明確なルールを作りたいという願いこそが、自身を突き動かしていた。
再起と新たな術式
その願いを再確認した瞬間、オリアナの意識は再び奮い立った。
敗北を認めることなく、答えを作るために勝たなければならないと決意したオリアナは、震える手を伸ばして地面に落ちた単語帳を掴み取った。
そして礎を担いし者と呪文を唱え、新たな術式を発動しようとしたのであった。
8
ステイルの重傷と上条の怒り
オリアナは単語帳のページを噛み切り、氷の球体を放った。その球体は爆散して無数の刃となり、上条の頭上をかすめて背後のステイルを貫いた。
ステイルは全身に深手を負い、その場に崩れ落ちた。上条は駆け寄ろうとしたが、オリアナに制止される。『使徒十字』の発動が迫る状況にもかかわらず、上条はステイルを傷つけたオリアナへの怒りを露わにした。
オリアナの目的の告白
オリアナは、自分も傷つけるために戦っているのではないと語った。そして、自分の望みは特定の組織や人物に従うことではなく、人々を幸せに導ける絶対的な基準を持つ存在に世界を導いてもらうことだと明かした。
人々の価値観や思想が無数に存在するため、善意の行動ですら不幸を生むことがある現実に苦しみ続けてきたオリアナは、『使徒十字』による支配によって価値観の衝突や悲劇をなくそうとしていた。
上条の反論
上条は、オリアナの抱える問題は誰もが持っているものだと指摘した。そして、その解決策は人それぞれであり、一つの大義名分があるからといって他人を犠牲にすることは許されないと断言した。
さらに、自分はステイルや土御門を傷つけられたくないこと、大切な仲間たちと日常を過ごしたいこと、それらの想いを守りたいだけだと語った。そして失敗したからといって全てを他人に任せるのではなく、転んでも立ち上がり続けるべきだと訴えた。
最終決戦の開始
上条の言葉を聞いたオリアナは、一度穏やかな笑みを浮かべた後、単語帳のページではなく束ねていた金属リングを外した。
解放された大量のページから巨大な術式を発動し、全ての才能を解放して敵を討つための最大の魔術を完成させた。白い閃光は強大な吸引力を持つ必殺の攻撃となり、上条へ向かって振るわれた。
しかし上条は右手でその術式を打ち消した。術式は砕け散ったものの、内部に圧縮されていた空気やアスファルトが一気に解放され、石の嵐となって上条を襲った。
決着の一撃
無数の石塊によって全身を打ち据えられた上条は大きく消耗した。その隙を突いて、オリアナは最後の一撃を放つため拳を振り上げて突撃した。
だが上条は、吹寄や姫神、土御門、ステイルらが守ろうとしていた大覇星祭と学園都市の人々の笑顔を思い出し、自らの戦う理由を再確認した。
強い意志によって踏みとどまった上条は、迫るオリアナへ反撃した。互いの拳が交差する中、上条の右拳がオリアナの顔面へ直撃した。
その一撃によってオリアナの体は大きく吹き飛ばされ、決着へ向けて戦況が大きく動いたのであった。
9
オリアナの敗北と新たな事実
オリアナ=トムソンは上条の一撃によって倒れ、結界も消滅した。上空を飛ぶ旅客機の轟音が再び聞こえ始め、実験空港の惨状も明らかになった。
上条は重傷を負ったステイルのもとへ駆け寄った。ステイルは自分のことよりも『使徒十字』の発動阻止を優先するよう求め、オリアナから情報を聞き出すよう促した。
リドヴィアからの通信
その時、倒れたオリアナの懐から女性の声が聞こえた。通信の相手はリドヴィア=ロレンツェッティであり、『使徒十字』の発動が間近であることを告げた。
さらに彼女は、『使徒十字』は学園都市内には存在せず、最初から学園都市の外に設置されていたと明かした。オリアナは迎撃部隊の目を学園都市内部へ向けさせるための囮であり、本命は学園都市外で準備を進めていたのであった。
囮作戦の全容
リドヴィアは、オリアナが意図的に姿を見せ続けた理由を説明した。迎撃要員を学園都市内部へ集中させるためであり、その間に自分は学園都市外で『使徒十字』の発動準備を進めていたのである。
ステイルは作戦の真相を理解し、土御門へ連絡するよう上条に求めた。しかしリドヴィアは、残された時間では何をしても間に合わないと断言した。
残り時間と絶望的状況
『使徒十字』発動まで残り百秒余りとなり、ステイルも土御門も即座に対処できる状態ではなかった。
リドヴィアは、科学が宗教に取って代わった異教であると主張し、『使徒十字』によって学園都市を改変し、ローマ正教の権威を示すのだと語った。
上条はその主張を聞き流しながらも、刻一刻と迫る制限時間の中で打開策を模索し続けた。
上条の着想
追い詰められた上条は、『使徒十字』が星座を利用する術式であることを思い出した。そして土御門へ連絡し、学園都市外に存在する発動地点の数と最も遠い地点までの距離を確認した。
答えは五か所で、最も遠い場所でも学園都市から約一七〇〇メートルだった。
その情報を得た上条は、大覇星祭のデジタルパンフレットを必死に調べ始めた。
ナイトパレードによる逆転
発動直前、上条はナイトパレードの開始時刻を確認した。
午後六時三十分ちょうどになると、学園都市全域で電飾やネオンサイン、スポットライトなど膨大な光が一斉に点灯した。地上から放たれた莫大な光量によって夜空の星々は見えなくなり、『使徒十字』が利用する星座そのものが覆い隠された。
星空を利用する術式である『使徒十字』は成立せず、計画は失敗した。
大覇星祭を支えた人々の勝利
上条は、オリアナやリドヴィアが敗れた理由は、自分たちではなく大覇星祭を支えた無数の人々の存在にあると語った。
吹寄制理や姫神秋沙、月詠小萌をはじめ、多くの人々が祭典を成功させようと積み重ねてきた想いが、学園都市を照らす光となり、『使徒十字』を打ち破ったのである。
上条はリドヴィアへ、運動会らしく追いかけっこでもするのだなと告げた。土御門も現場へ到着し、今後は『使徒十字』を持つリドヴィアの追跡と確保へと事態が移っていった。
終章 終わった後に待つもの達 Those_Who_Hold_Out_a_Hand
病院での再会
『使徒十字』事件から救出された上条当麻たちは警備員に発見され、病院へ搬送された。上条の両親である上条刀夜と上条詩菜も駆けつけていたが、長時間の心労と疲労から待合室で眠っていた。
治療後の病室では、インデックスが上条に対して強い不満をぶつけた。上条が自分に何も相談せず危険な戦いへ参加したことを責め、心配していた気持ちを素直に表した。二人はいつものように騒がしく言い争いながらも、無事を確認し合った。
美琴たちのお見舞い
そこへ御坂美琴と白井黒子がお見舞いに訪れた。インデックスが上条に噛みついている様子を見た黒子は誤解し、美琴も嫉妬を交えながら上条へ文句を言った。
その後、美琴は大覇星祭の結果について語り、上条との勝負の決着を主張した。重傷を負っている上条は必死に言い訳を試みたが、美琴は取り合わず病室を後にした。
リドヴィアの逃走
一方、リドヴィア=ロレンツェッティは『使徒十字』を持ってヨーロッパへ逃走していた。彼女は作戦の失敗やオリアナ=トムソンの捕縛すら新たな試練として受け止め、学園都市への再挑戦を誓っていた。
困難が大きいほど乗り越えた時の喜びも大きくなるという歪んだ信念によって、敗北すらも前進の糧へ変えていたのである。
ローラの介入
しかし逃走中の自家用ジェット機へ、イギリス清教最大主教ローラ=スチュアートが介入した。機体に取り付けられた霊装によって通信を確立し、リドヴィアへ接触したのである。
ローラは機体のハッチを切断し、リドヴィアと『使徒十字』を高度八千メートルの上空へ放り出した。さらにパイロットまでも落下させ、リドヴィアへ『使徒十字』か人命かという究極の選択を突きつけた。
試練へ挑むリドヴィア
リドヴィアは重傷を負いながらも『使徒十字』を受け止めた。続いて落下してくるパイロットを見捨てるか否かの選択を迫られたが、ローラの挑発によって闘争心をさらに燃え上がらせた。
彼女は困難そのものを快楽として受け入れ、すべてを救おうとする無謀な挑戦へ踏み出した。
アレイスターの思惑
学園都市統括理事長アレイスター=クロウリーは、『使徒十字』事件を分析していた。
ローマ正教が勢力低下への危機感から学園都市への攻撃を強めていると判断し、今後さらに大規模な攻撃が行われる可能性を危惧した。そして、自らが進めている全世界の魔術活動を停止させる計画を前倒しする必要性を感じ始めていた。
姫神の葛藤
翌朝、姫神秋沙は病室で目を覚ました。怪我は順調に回復していたが、自分が上条に助けられる価値のある存在なのかという疑問を抱いていた。
上条は誰に対しても同じように手を差し伸べる人間であり、自分だけが特別なのではないと考え、自身の存在意義に悩んでいたのである。
インデックスの言葉
そんな姫神に対し、インデックスは上条が姫神を守ると決めていることを語った。
上条は世界のためや義務感で動く人間ではなく、自分で守ると決めた相手のためなら何があっても戦う人間であると説明した。そして姫神が迷惑な存在であるはずがなく、上条は姫神と一緒にいることを心から望んでいるのだと伝えた。
姫神が見つけた答え
その時、病室の外から吹寄制理や上条たちの賑やかな声が聞こえてきた。
姫神はカーテンを開き、その騒がしい日常の光景を見つめた。そして、自分が望んでいた居場所がそこにあることを静かに感じ取ったのであった。
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