小説【ダンまち外伝】「ソード・オラトリア 2」感想・ネタバレ

小説【ダンまち外伝】「ソード・オラトリア 2」感想・ネタバレ

物語の概要

ジャンルおよび内容
本作は、地下迷宮(ダンジョン)が広がる都市“オラリオ”を舞台に、冒険者たちが“経験値(エクセリア)”を積み成長していくダンジョン・ファンタジーである。「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」の世界観を踏襲し、姫剣士を主人公とした外伝シリーズの第2巻として、冒険・成長・ファミリアの絆が描かれている。特に、本巻では主役である「剣姫」アイズ・ヴァレンシュタインが、自身の過去と強さへの渇望に向き合う姿が中心となった。

主要キャラクター

  • アイズ・ヴァレンシュタイン:本作の主人公格の剣姫。〈ロキ・ファミリア〉所属の冒険者であり、「剣姫」の異名を持つ実力者であるが、本巻では強さへの純粋な渇望と、自身の弱さへの気づきを描かれる。
  • レフィーヤ・ウィリディス:エルフ族の魔導士で、アイズを尊敬し慕う存在。アイズの内面に気づき、共に冒険・成長するパートナーとしての役割を持つ。
  • フィン・ディムナ:〈ロキ・ファミリア〉の団長であり、アイズの“先輩”として、ファミリアの運営・冒険を統括する立ち位置にある。強さだけでなく判断・責任という面でもアイズと比される。

物語の特徴
本作の魅力は、「強さ」と「成長」に対する探求を、冒険ファンタジーの枠組みで丁寧に描いている点である。特に、第2巻においては単なるバトル展開だけでなく、アイズが“自分とは何か”“何のために剣を振るうのか”という問いに向き合う心理描写が目立つ。また、多くの冒険者が軽視しがちな「裏方」「成長途上の段階」を描くことで、読者にとって共感を呼ぶストーリーとなっている。他作品と差別化される要素としては、冒険の舞台であるダンジョンが単なるモンスター討伐場ではなく「成長・絆・選択」の場として機能しており、〈ロキ・ファミリア〉という組織を中心とした団体視点の描写が豊富である点が挙げられる。さらに、女性キャラクターを主体に据えながら、本編(「ダンまち」)とは異なる主軸で展開する“外伝ならでは”の構造も魅力である。

書籍情報

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか外伝 ソード・オラトリア 2
(Is It Wrong to Try to Pick Up Girls in a Dungeon? On the Side: Sword Oratoria)
著者:大森藤ノ 氏
イラスト:はいむらきよたか 氏
出版社:SBクリエイティブGA文庫
発売日:2014年1月12日
ISBN:978-4-7973-7553-4

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あらすじ・内容

『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』外伝、待望の第二弾!
これは、もう一つの眷族の物語、
──【剣姫の神聖譚(ソード・オラトリア)】──


真っ赤な血に染まる部屋、むせ返る鉄の臭い、
そして頭部を潰された凄惨な冒険者の骸──。

怪物祭の騒動を無事解決したのも束の間、アイズ達は謎の殺人事件に巻き込まれてしまう。
調査に乗り出す彼女達は、上級冒険者を手にかける凶悪な殺人鬼を追っていく内に、都市と迷宮を揺るがす事柄に直面する。
「なに、これ……?」
謎の宝玉をめぐって、地上と地下、二つの舞台が交差し、迷宮都市(オラリオ)に潜む闇が静かに蠢き出す!

これは、もう一つの眷族の物語、
──【剣姫の神聖譚(ソード・オラトリア)】──

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか外伝 ソード・オラトリア2

感想

本編とは異なる視点から、迷宮都市オラリオの深淵に迫る物語は、読み応え充分だったと言えるだろう。

今回の物語は、破損した武器の弁償代を稼ぐため、仲間と共に再びダンジョンへと潜ったアイズが、リヴィラの街で発生した殺人事件に巻き込まれていくというものだ。本編では最強の剣姫として描かれるアイズだが、外伝ではフィンやリヴェリアといった頼れる仲間に支えられる存在として描かれているのが興味深い。特に、探し求めていたものを知る相手には、冷静さを失ってしまう彼女の姿は、本編だけでは見えてこない一面だ。ベルへの膝枕の場面も、彼女の背景を知った上で見ると、その意味合いが深く感じられる。

物語は、上級冒険者を次々と襲う殺人鬼を追う中で、都市と迷宮を揺るがす事態へと発展していく。怪物祭の裏で、このような事件が起きていたとは、本編を読んでいるだけでは想像もできなかった。圧倒的な力を持つ敵に対し、アイズだけが反応してしまう胎児や、過去の記憶、そして新たな神の登場と、目まぐるしい展開に目が離せない。

フィンが、宙に浮かされたアイズへの攻撃を、槍で地面をついてかわす場面は、まさに圧巻だった。彼の冷静さと実力が遺憾なく発揮されており、思わず息をのんでしまった。また、物語の最後に、ちょっぴり泣きそうになるアイズの姿も、非常に可愛らしく、心に残った。

外伝とはいえ、本編との繋がりが深く、五巻で使用された武器の正体が明かされたり、物語のラスボスになりそうな者たちの暗躍が描かれているため、本編をより深く理解するためにも、読んでおいて損はないだろう。ただ、ヒロインであるアイズは魅力的だが、ロキファミリアの他の面々については、本編のヘスティア・ファミリアほど魅力を感じなかったのが、少し残念だった。もちろん、あまりにも濃く描かれても困るのだが、もう少し掘り下げて欲しかったという気持ちもある。

それでも、全体としては非常に面白く、読み応えのある作品だった。LV.6になった時の話なのか、膝枕の時はまだレベルアップ前だったのか、など、細かい部分にも興味が湧き、今後の展開がますます楽しみになった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

アイズ・ヴァレンシュタイン

寡黙でまっすぐな剣士である。迷宮での資金確保と鍛錬を目的に探索へ向かい、事件の渦中で前へ進む決意を強めた。
・所属組織、地位や役職
 【ロキ・ファミリア】・第一級冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
 鍛冶場で愛剣の整備を受け、代剣破損の弁償を決意した。リヴィラの街で殺害事件の現場を検分し、獣人少女ルルネを確保した。食人花群の襲撃で前線に立ち、赤髪の女と交戦した。白宮殿で階層主ウダイオスに単独挑戦し、長期戦の末に討ち果たした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 「アリア」の名を示され動揺したが、鍛錬と実戦で克服へ踏み出した。ベルの救護で膝枕を行い、心情に変化が生まれた。

レフィーヤ・ウィリディス

勤勉な魔導士である。支援と火力の両面で仲間を支え、判断力も示した。
・所属組織、地位や役職
 【ロキ・ファミリア】・魔導士。
・物語内での具体的な行動や成果
 緑の宝玉を回収し、アイズの体調悪化を見て距離を取る判断をした。広場では囮連携のもとで大規模火矢雨を放ち、女体型個体の殲滅を助けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 実戦下での詠唱管理と状況判断が周囲に認められた。

リヴェリア・リヨス・アールヴ

沈着な指揮と高位魔法で戦線を支える賢者である。
・所属組織、地位や役職
 【ロキ・ファミリア】・幹部。高位魔導士。
・物語内での具体的な行動や成果
 並行詠唱で追撃し、氷雪魔法で巨大個体の進路を封じた。アイズの単独挑戦では護衛と治癒を担い、戦場を保持した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 母性的な言葉でアイズを支え、隊の精神的支柱として機能した。

フィン・ディムナ

冷静な策と即応で隊を導く小人族の長である。
・所属組織、地位や役職
 【ロキ・ファミリア】・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 私的探索を承認し、現地で五人小隊の再編を指示した。長槍で魔石を正確に貫き、赤髪の女との交戦で主導権を奪った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 統率と現場判断が街側の指揮者ボールスとも噛み合い、治安維持に寄与した。

ティオナ・ヒリュテ

快活な前衛である。重い刃で群体を割り、突破口を作る。
・所属組織、地位や役職
 【ロキ・ファミリア】・前衛。
・物語内での具体的な行動や成果
 足群の花部を斬り落とし、断崖で本体討伐に加勢した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 武器再調達を視野に資金稼ぎへ同行した。

ティオネ・ヒリュテ

堅実な前衛である。制圧と護衛の両立で戦線を安定させた。
・所属組織、地位や役職
 【ロキ・ファミリア】・前衛。
・物語内での具体的な行動や成果
 触手腕を切断し、断崖下で止めの連携を担った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 調査機会の喪失を指摘し、戦後の検証意識を示した。

ベート・ローガ

嗅覚と機動力に優れる前衛である。
・所属組織、地位や役職
 【ロキ・ファミリア】・前衛。
・物語内での具体的な行動や成果
 地下旧水路で残り香を追跡し、食人花の巣を発見した。ロキの随行で群れを排した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 地上調査での実働が新たな手掛かりへつながった。

ガレス・ランドロック

重厚な前衛である。
・所属組織、地位や役職
 【ロキ・ファミリア】・幹部。
・物語内での具体的な行動や成果
 館内で小騒動を叱責し、秩序を保った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 内部統制の役割を果たした。

ロキ

真相探索を進める女神である。
・所属組織、地位や役職
 【ロキ・ファミリア】・主神。
・物語内での具体的な行動や成果
 ギルド本部でウラノスと対面し、怪物祭の黒幕性を否定された。東地区や下水路で独自に聞き込みと現場確認を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 地上調査の主導で情報の流れを掌握した。

ウラノス

都市の均衡を祈祷で保つ古き神である。
・所属組織、地位や役職
 ギルドの主神。祭壇の守護。
・物語内での具体的な行動や成果
 怪物祭の黒幕ではないと明言し、地下神殿で状況を総括した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 表の運営を職員に委ね、聖域化で影響を制御した。

フェルズ

地下神殿で報告と分析を担う参謀である。
・所属組織、地位や役職
 ウラノスの側近。
・物語内での具体的な行動や成果
 食人花と未知宝玉の情報を整理し、潜伏個体の存在を確認した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 上位存在の関与の可能性を示した。

ロイマン

事務方の長として動く実務家である。
・所属組織、地位や役職
 ギルド長。
・物語内での具体的な行動や成果
 神域への進入を制止しつつ、許可に従い通行を認めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 統治の線引きを現場で実行した。

ミィシャ

状況把握に長けた受付である。
・所属組織、地位や役職
 ギルド本部・受付。
・物語内での具体的な行動や成果
 言外の反応でロキに所在を示唆した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 橋渡し役として機能した。

アミッド

治療と物資供給を担う医師である。
・所属組織、地位や役職
 【ディアンケヒト・ファミリア】・治療院。
・物語内での具体的な行動や成果
 高等回復薬や精神回復薬の販売を行い、白樹の葉の採取を依頼した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 遠征準備の要として信頼を得た。

ゴブニュ

整備と見積で現実を突きつける鍛冶師である。
・所属組織、地位や役職
 【ゴブニュ・ファミリア】・鍛冶場主。
・物語内での具体的な行動や成果
 代剣の破砕を確認し、修理費用四〇〇〇万ヴァリスを提示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 装備維持の厳しさを示した。

レノア

魔具整備を担う店主である。
・所属組織、地位や役職
 路地裏の魔具店。
・物語内での具体的な行動や成果
 リヴェリアへ整備済みの白銀の長杖を引き渡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 競売中の高位グリモアを扱い、情報網の広さを見せた。

ボールス・エルダー

現地の実力者である。
・所属組織、地位や役職
 十八階層『リヴィラの街』・治安責任者格。
・物語内での具体的な行動や成果
 殺害現場の指揮を執り、開錠薬で身元を特定した。街の封鎖と冒険者再編を実行した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 外部勢力と連携し、被害拡大を抑えた。

ヴィリー

宿の管理者である。
・所属組織、地位や役職
 『ヴィリーの宿』・宿主。
・物語内での具体的な行動や成果
 前夜の宿泊者と支払い方法について証言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 事件の初期情報を提供した。

ルルネ・ルーイ

荷運びを請け負った若い犬人である。
・所属組織、地位や役職
 【ヘルメス・ファミリア】・冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
 ハシャーナから荷を受け取り、地上への運搬を担当した。追跡で確保され、緑の宝玉を引き渡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 実力はLv.3と明かし、依頼人に把握されていた可能性が示された。

ハシャーナ・ドルリア

殴打に秀でる実力者である。
・所属組織、地位や役職
 【ガネーシャ・ファミリア】・【剛拳闘士】Lv.4。
・物語内での具体的な行動や成果
 三十階層での回収依頼に関与し、宿室で殺害された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 Lv.4が瞬時に殺害された事実が、犯人の危険性を示した。

ベル・クラネル

白髪の若い冒険者である。
・所属組織、地位や役職
 不明(本文範囲では明示なし)。
・物語内での具体的な行動や成果
 上層で倒れているところを発見され、精神疲弊と診断された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 アイズとの再会が今後の関係に影響を与える可能性がある。

敵対・不明勢力

ティマ(赤髪の女)

剛力と剣技を併せ持つ謎の実力者である。
・所属組織、地位や役職
 不明。調教師の疑い。
・物語内での具体的な行動や成果
 黒鎧で接近し、レフィーヤとルルネを瞬時に制圧した。アイズと一騎打ちを行い、「アリア」の名を口にした。敗勢で湖へ退いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 Lv.5〜6相当と推定され、街襲撃の統率に関与した疑いが強い。

女体型個体(食人花融合体)

宝玉の寄生で変異した大型個体である。
・所属組織、地位や役職
 迷宮内部・異常個体。
・物語内での具体的な行動や成果
 広場で暴れ、上半身を切り離して逃走を試みたが討伐された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 極彩色の魔石や宝玉との関連が示された。

ウダイオス(階層主)

白骨の王である。
・所属組織、地位や役職
 白宮殿のモンスターレックス。
・物語内での具体的な行動や成果
 骨杭生成と黒大剣で広域を制圧したが、アイズに魔石を破砕されて灰化した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 復活周期が確認され、個体情報が蓄積された。

展開まとめ

プロローグ 閨の一幕

暗闇の部屋と二人の来訪者
部屋は小型の魔石灯ひとつのみで照らされ、赤い絨毯や木製の寝台が置かれた陰湿な空間であった。そこへ全身鎧をまとった男と、フード付きのローブを被った女の二人が入室した。荷物を下ろしたのち、男は鎧を脱ぎ、半裸の姿で寝台に腰かけた。

女の素顔と誘惑
ローブの下から現れた女は、豊かな体躯と艶めいた肌を持つ美しい女であった。男はその姿に息を呑み、なぜ顔を隠すのかと問うた。女は、男に絡まれるのを防ぐためだと淡々と答えた。やがて男は彼女を抱き寄せ、寝台へと押し倒した。

依頼の話と裏切り
男は事に及ぶ直前、奇妙な依頼を受けたと語った。それは三十階層で正体不明の物を回収するというものであり、男はそれを口にしてから軽く口を滑らせたことを謝罪した。女は頷きながら男の頬に触れ、そのまま首に手を這わせて締め上げた。

殺害と苛立ち
女は圧倒的な握力で男の首を折り、その死体を床へ放り捨てた。裸のまま荷物をあさったが、探していた物が見つからなかった。苛立ちを募らせた女は舌打ちし、最後に男の頭部を踏み潰して鮮血を撒き散らしたのである。

一章 日常風景

鍛冶場の喧騒とアイズの来訪
大型炉がうなり火花が飛び散る鍛冶場で、獣人やドワーフの職人が巨鎚を振るい『鍛冶』のアビリティで超硬金属を鍛えていた。アイズは怪物祭の翌朝、愛剣デスペレートの整備受け取りのため【ゴブニュ・ファミリア】の本拠『三鎚の鍛冶場』を訪れていた。

代剣破砕と修理費用
整備の間に借りていた細剣が粉砕されて戻ったため、ゴブニュは五日で使い潰したと呆れ、費用は四〇〇〇万ヴァリスと見積もった。アイズは周囲の鍛冶師からの視線を感じつつ謝罪し、資金確保のため当面ダンジョンに潜る決意を固めた。

早朝の素振りと技の研鑽
日の出前、アイズはホームの中庭で九年来の日課の素振りを行い、細剣の誤差を修正するように連続の剣閃を刻んで鍛錬を締めくくった。前に進めなくなることへの恐れが、日々の反復を欠かさない理由であった。

レフィーヤの賛嘆とリヴェリアの指導
剣を納めたアイズに、書庫に向かっていたレフィーヤが見入って賛嘆を伝え、剣術の出自を尋ねると、アイズは父の影響と答えた。直後にリヴェリアが現れ、鍛錬に現を抜かす暇はないとしてレフィーヤを朝食までの修業に引き戻した。

食堂準備と微かな疎外感
身支度を終えたアイズは大食堂で配膳を手伝おうとしたが、幹部に雑事はさせられないと団員にやんわり断られた。賑やかに厨房を仕切るティオネの様子を横目に、アイズはわずかな寂しさを覚えて食堂を離れた。

廊下での遭遇と小騒動
廊下でベートと出会ったアイズは、酒場での一件を思い出しつつ挨拶を交わそうとしたが、ティオナが割り込み抱きついて場をさらった。口論めいた騒ぎはガレスの叱責で静まり、朝食の時間を迎えた。

朝食風景と資金稼ぎの相談
朝食の席で、アイズは怪物祭で壊した細剣の弁償のためしばらく潜る意向を打ち明けた。ティオナは同行を申し出て、自身も大双刃の費用を用意すると述べ、レフィーヤも手伝いを願い出た。アイズは二人の善意を受け入れ、出立前にロキかフィンへ申請する必要を確認した。

ロキ・ファミリアの館と執務室
一行は塔が連なる『黄昏の館』の北塔にあるフィンの執務室を訪れた。室内には女神フィアナのタペストリーが飾られ、フィンの来歴と小人族の栄光への思いがうかがえた。フィンはリヴェリアと総務を処理中で、書類に区切りをつけて応対した。

探索許可と編成決定
ティオネが事情を説明すると、フィンは私的探索の機会として同行を即諾した。さらに誘われたリヴェリアも同意し、レフィーヤを含め六名の布陣が整った。ティオナは朝の件を理由に、この計画はベートには伏せるべきだと釘を刺し、場は苦笑でまとまった。

集合時刻の合意
一同は正午にバベル集合と決め、各自準備に移った。ティオナとティオネの快活な返答に続き、アイズとレフィーヤも控えめに賛同し、リヴェリアは静かに同意を示して、臨時探索隊の出立が確定したのである。

賑わう北西メインストリート
冒険者通りは朝から活気に満ち、装備や薬を求める冒険者で混雑していた。露店の呼び込みや怒声が飛び交い、今日も多くが迷宮へ向かう気配であった。

治療院での物資調達
アイズとティオナは【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院でアミッドから高等回復薬や精神力回復薬を大量購入した。長期滞在に備え、依頼された白樹の葉の採取も引き受け、想定外に備えて物資を過剰気味に整えた。

路地裏の魔具店と杖の受領
リヴェリアはレフィーヤを伴い、魔術師レノアの店で整備済みの白銀の長杖を受け取った。店内には魔宝石を備えた杖や奇怪な素材が並び、競売中の高位グリモアが法外な値を示していた。レノアは二人が魔法大国の一派に目の敵にされているとからかい、リヴェリアは相手にせず店を後にした。

ギルドでの依頼選定
フィンとティオネはギルド本部で掲示板の冒険者依頼を選別し、討伐や収集など報酬効率のよい案件を受託した。フィンは下層で聞こえる美しい歌の正体を探るという浪漫性の高い依頼にも興味を示したが、ティオネは実利を優先するよう諫めた。受託手続きを通して派閥評価の上昇も見込まれた。

バベル前での合流と出発
中央広場近くでアイズ、ティオナ、レフィーヤ、リヴェリアが装備を整え、フィンとティオネが合流した。準備万端を確認し、正午の鐘とともに一行は摩天楼の門へ向かい、久方ぶりの顔ぶれでの迷宮行を開始した。

黄昏の館でのロキの動向
黄昏の館の最上階でロキは怪物祭の報道を読み比べたが、求める食人花の情報は得られなかった。館内を回って談話室でベートを見つけると、取り残されたと茶化しつつ一日付き合うよう求め、調査に同行させる意図を示したのである。

二章 発生

中層への進行
アイズらは正午にバベルを出立し、上層を一気に突破して中層十一階層まで進んだ。ティオナの新調した《ウルガ》とアイズの《デスペレート》が先陣を切り、ライガーファングらを瞬時に屠りつつ戦利品を回収して資金調達を進めたのである。

十八階層とセーフティポイント
十七階層の大広間を縦断し、十八階層へ降下した。一帯は水晶が擬似の「空」を形作る安全階層であり、時間帯も光量で変化していた。一行は西部の『リヴィラの街』へ向かった。

街の違和と入城
街は通常より人影が少なく、静まり返っていた。物価の高騰は相変わらずであるが、今回はフィンが宿代を負担すると申し出て利用を決定した。リヴェリアは街の雰囲気の異変を指摘し、情報収集を優先する方針となった。

買取り所での風聞
天幕の買取り所で店主のアマゾネスから「街中で冒険者の死体が出た」との情報を得た。現場は『ヴィリーの宿』で、人だかりができていると判明したのである。

ヴィリーの宿と惨状
アイズらは人波を抜け宿内へ進入した。客室の一つには頭部を踏み潰された男の死体が横たわり、床や寝台は血で染まっていた。宿主ヴィリーは「昨夜、全身鎧の男とローブの女が全室貸切で入った」と証言した。

ボールスの指揮と証言
街の実力者ボールス・エルダーが調査を主導しており、犯人は同行していたローブの女と推定された。支払いは証文ではなく高額魔石の現物で、身元を追う手掛かりは残っていなかった。

開錠薬による身元特定
ボールスは非合法の『開錠薬』を用いて死体の【ステイタス】を露出させ、リヴェリアとアイズが神聖文字を解読した。死者はハシャーナ・ドルリア、所属は【ガネーシャ・ファミリア】であった。

脅威の推定と緊張の拡大
ハシャーナは【剛拳闘士】の二つ名を持つLv.4であると判明した。すなわち、殺害したローブの女は少なくともLv.4以上の実力者である可能性が高く、凶手が街に潜伏している懸念が一気に高まったのである。

三章 下界探偵ロキ

東の街での聞き込み
ロキはベートを連れて東のメインストリートを歩き、怪物祭の食人花騒動に第三者が関わった可能性を探る。露店でジャガ丸くんを頬張りつつ住人や店に聞き込みを続けるが、決定的な手がかりは得られない。

地下下水路へ
路地奥の石小屋から地下へ降り、下水路を捜索。魔石の浄化柱で悪臭は薄く、途中で飛び出したレイダーフィッシュはベートが瞬殺。さらに古い鉄門を発見し、使用痕の残る錠前をベートが破壊して旧水路へ進む。

旧水路と“おんぶ”騒動
浅い浸水路を進むにあたり、ロキは靴を濡らしたくないと駄々をこねてベートにおんぶされる。狼人は悪態をつきつつ警戒を続行し、人の残り香から最近の出入りを察知する。

壁の大穴と痕跡
水路壁が内側から破られた大穴を発見。痕跡を追って階段を上がると、巨大な柱が林立する空の大貯水槽へ到達。薄闇にずるずると引きずる音が響き、奥から複数体の食人花が姿を現す。

交戦開始
花弁を広げ牙を晒す群れを前に、ベートは「出てくるな」とロキに告げて単独で突撃。ロキは調査の“当たり”を確信しつつ、戦闘をベートに任せるのだった。

貯水槽での交戦と観察
大貯水槽でロキとベートは食人花の群れに遭遇。打撃が通りにくい硬質な体皮にベートは苛立つが、『魔剣』を《フロスヴィルト》へ吸わせて緋炎の蹴りを発動し、爆砕。ロキは魔力に反応する性質を利用して魔石を囮にし、追撃を逸らして連携を取った。摘出した魔石は極彩色の芯を持ち、以前50階層で遭遇した新種の魔石と酷似。

旧水路の手掛かりと邂逅
旧水路には「内側から破られた大穴」と最近の人の出入りの残り香。装備不足のため撤退し地上へ戻る途中、ディオニュソスと黒髪のエルフに遭遇。ベートは旧水路で嗅いだ残り香が彼らのものと一致すると告げ、ロキは目を細める。

ヴィリーの宿の検証と推理
アイズらはハシャーナ・ドルリア(【ガネーシャ・ファミリア】、【剛拳闘士】Lv.4)の遺体を前に検分。首折り→頭部粉砕が致命。『耐異常:G』の発現から毒殺は否定的。容疑の視線が女性陣へ向くも、ティオネが一喝して鎮圧。
部屋は荷物が荒らされ、特定の品を探して癇癪を起こした痕跡。血塗れの依頼書には「30階層/単独採取/内密に」の断片。普段は兜のみで全身鎧は未使用との証言から、今回限定の変装と推定。

方針決定
フィンは犯人が目的物を未入手のまま逃げ切れないと判断し、ボールスに街の封鎖と冒険者の集約を要請。リヴィラは北南門閉鎖へ――アイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤも動き出し、弔いと捜索に踏み込む。

逃げる犬人の少女
水晶の街路を犬人の少女が駆け抜けた。小麦色の肌は蒼白に染まり、肩から提げた小鞄を胸に抱えている。震える足取りは速く、結晶の光が逃走の軌跡を照らしていた。アイズはその背を追い、レフィーヤが遅れて続いた。

追跡と追い詰め
少女は路地を抜け、崖縁の木製桟道に飛び出す。下には青く澄んだ湖が広がり、冷たい風が吹き抜けた。逃げ場はない。アイズは静かに間合いを詰め、レフィーヤが両手を上げて穏やかに声をかけた。
「大丈夫、傷つけません。少しだけ話を聞かせてください」

錯乱と抵抗
少女は怯えた瞳で二人を見つめ、かすれた声で「関係ない……私は関係ないの……」と繰り返す。胸の前で握りしめた小鞄を離そうとせず、焦燥と恐怖が全身を支配していた。
アイズは落ち着いた声で「その鞄を見せて」と告げるが、少女は激しく首を振る。

決死の行動
「嫌っ!」と叫んだ少女は、手すりを越えて身を躍らせようとした。
その瞬間、アイズがすかさず動いた。風を裂く踏み込みで少女の足首を掴み、体を桟道へ引き戻す。木板が軋み、鞄が宙を舞う。

落下する証拠
少女の手を離れた鞄は弧を描き、崖下の湖へ落下した。水面に跳ねる音が響き、泡とともに沈んでいく。
少女は力を失い、アイズの腕の中で崩れ落ちた。
「どうして逃げたの?」という問いに、少女は唇を震わせながら、か細く答えた。
「……見たの。あの人が、殺すところを……」

静観する人物の独白
水晶広場の騒乱を遠くから見つめながら、一人の人物が沈黙を保っていた。喧噪の中心では小人族の少年を巡って乱闘が続いているが、その人物の表情には緊張よりも倦怠が漂っていた。
(面倒なことになった……)と胸中で呟き、吐き出しかけた溜息を飲み込む。

殺害の記憶と冷徹な思考
男の喉を潰し、骨を折った感触がまだ右手に残っている。わずかに指を動かし、力を抜きながらも殺意の余韻が消えない。
(見られた以上、口を封じるしかない……エニュオにもそう言われている)
思考は冷静でありながらも苛立ちを孕んでいた。
(やはり殺したのは早計だったか……それに、アレはまだこの街に残っているのか……)

群衆の中の観察者
人物は群衆の波に紛れつつ、中心で指揮を執るフィンやリヴェリアらの動きを注視する。誰にも気取られぬように表情を殺し、周囲の喧騒を背景に思考を巡らせた。
(これ以外にも『アリア』の件がある……本当に、厄介だ……)
その内心には焦りよりも、淡々とした苛立ちが募っていく。

予期せぬ視線の転換
そのとき、視界の端を金髪と翠の影が掠めた。人込みの中を駆け抜ける犬人の少女、そしてそれを追うアイズとレフィーヤの姿である。
人物は短く息を吐き、足音を一つ鳴らすと、ゆっくりと方向を変えた。

闇へ向かう足取り
群衆のざわめきの中を無言で歩き抜け、怪訝な視線を浴びながらも迷いなく追跡を開始する。
頭上では、天井を覆う巨大な水晶が光を失い始めていた。青白い輝きが次第に薄れ、街を包む影が濃くなる。
水晶の大輪が沈黙をまとい、リヴィラの街に『夜』が訪れようとしていたのである。

四章 宝玉

ロキ、ギルド本部でウラノスの所在を探った
ロキはギルド本部ロビーで受付嬢ミィシャに接触し、言外の反応からウラノスの所在を確かめた。直後に関係者以外立入禁止の廊下へ踏み込み、赤い絨毯が敷かれた大通路と地下階段へ向かったのである。

ロイマンが進路を阻んだが、ウラノスの許可で通過した
大勢の職員を率いたギルド長ロイマンが神域への侵入を制止したが、地下から響いたウラノスの声が通行を許可した。ロイマンは退き、ロキは地下へ進んだ。

祭壇のウラノスと対面し、怪物祭の黒幕性を否定された
地下の祭壇でロキはウラノスと対峙し、怪物祭での食人花に関する黒幕性を質した。ウラノスはそれは違うと明確に否定した。ロキは表情と言外の意志を読み取り、首謀者ではないと暫定判断して退出した。

ギルドとウラノスの役割に関する説明が示された
ウラノスは都市の運営を職員に委ね、祭壇で祈禱を捧げてダンジョンの均衡を保っているとされていた。ギルドは武力を持たず、主神の言葉の影響を避けるため祭壇を聖域として隔てていたのである。

アイズとレフィーヤ、逃走する獣人の少女を確保した
場面は18階層のリヴィラの街へ転じ、夜へ移ろう薄闇の中、アイズとレフィーヤは錯綜する路地で獣人の少女を追跡した。アイズが先回りし、挟撃で少女を座り込ませ確保した。

少女の身柄を人目のない倉庫に移し、事情を聴取した
少女はルルネ・ルーイと名乗り、第三級の冒険者で【ヘルメス・ファミリア】所属と述べた。広場へ戻すことを強く拒んだため、二人は倉庫区画で落ち着かせたうえで聴取した。

ルルネは運び屋依頼の実態と身分を明かした
ルルネはハシャーナから受け取った荷を地上の依頼人へ届ける運び屋だったと告白した。依頼人は全身黒ローブで性別不詳、前金を含む高額報酬を提示していたという。単独行動の妥当性を問われると、主神に昇格を秘匿されていたが実はLv.3だと明かした。依頼人はその実力を把握していたと推測できた。

アイズが荷の提出を求め、緑色の宝玉が確認された
ルルネは逡巡の末、小鞄から袋を取り出し、中身をアイズへ手渡した。現れたのは薄い膜に満たされた液体越しに胎児を宿した緑色の宝玉であった。アイズは宝玉に強い生理的反応を示して崩れ、レフィーヤが宝玉を回収して距離を置くと、アイズの容体は落ち着いた。倉庫には静寂が戻り、アイズは胸を押さえて呼吸を整えていた。

本要約は、提示本文の範囲のみを対象に、である調・過去形・第三者視点および見出し付き段落構成の指定に従って作成した。

壁上の監視者、草笛で合図した
街壁上の人物はアイズ・レフィーヤ・ルルネの動向を監視し、ルルネが宝玉を取り出した瞬間に反応して草笛を吹き、何者かの出現を促したのである。

アイズの回復とレフィーヤの判断
緑色の胎児を宿す宝玉に反応して崩れたアイズは、距離を取ることで体調を持ち直した。レフィーヤは宝玉がアイズに悪影響を及ぼすと判断し、自身が預かってフィンへ届ける決断を下した。ルルネは小鞄を渡し、三人は移動を開始した。

リヴィラの街、食人花の群襲発生
遠方で崩落音と悲鳴が連鎖し、街各所で無数の食人花が出現した。街壁の一部は破壊され、天幕や小屋が押し潰される中、水晶広場へ向けて群れが殺到したのである。

ロキ・ファミリアの即応と戦闘展開
フィンの号令でティオナとティオネが前線へ突入し、斬撃で頭部や触手を切断して迎撃した。リヴェリアは大規模詠唱で敵の注意を引き付け、ボールスは冒険者を五人一組の小隊に再編した。フィン自身も長槍で魔石を正確に貫き、混乱は次第に収束へ向かった。

襲撃の不自然さと侵入経路の特定
戦況を立て直しつつあったが、フィンは襲撃全体に作為を感じ、崖下を確認。二百メートル超の断崖下の湖から夥しい食人花が潜伏・浮上し、一斉に断崖をよじ登って侵入していた事実を掴んだ。安全階層に潜伏していたという異常行動から、統率する「意思」の介在を見抜き、調教師(テイマー)の関与と結論づけたのである。

五章 リヴィラ攻防戦

夜のリヴィラ、食人花の大規模侵入が発生した
水晶灯に彩られた夜の街へ、食人花の群れが街壁と断崖の双方から一斉侵入した。黄緑の長軀と極彩色の花弁が天幕や小屋を破砕し、悲鳴が連鎖したのである。

アイズの遮断、レフィーヤとルルネの離脱判断
高台で状況を確認した三人は広場合流を決めるも、北西街壁側から群れが殺到。アイズが単独で群れを押し留め、レフィーヤは宝玉とルルネを伴い北へ迂回して広場を目指した。

群晶街路での遭遇、黒鎧の“男”に急襲された
群晶街路にて黒鎧の人物が接近、瞬速でレフィーヤの喉を片手で締め上げ、ルルネも壁へ叩きつけられた。アイズが突入してレフィーヤを救出、対峙の末、相手が女であることが発覚した。

仮面の正体、肉皮偽装の女剣士であった
女は「顔の皮を死体から剥ぎ毒妖蛆で防腐した」と述べ、ハシャーナの顔面損壊は偽装の隠蔽であったと判明した。鎧や仮面を剝ぎ、赤髪・緑眼の素顔を露わにし、宝玉の引き渡しを要求した。

剣戟激化、アイズが《エアリエル》を解禁
女の長剣と拳脚を織り交ぜた連撃は凄烈で、レフィーヤの《アルクス・レイ》すら左腕で受け流した。劣勢を悟ったアイズは対人封印の《エアリエル》を発動、風力で一気に形勢を反転させた。

“アリア”の名、女の口から漏れた因縁
風の一閃で兜と肉仮面が飛び、女は「お前がアリアか」と口走った。この語にアイズは胸中を大きく揺らし、双方一瞬の静止が生じた。

宝玉の胎児が孵化・寄生、怪異の進化が始動した
地に転がった緑の宝玉が悲鳴を上げ、胎児が膜を破って飛翔。瀕死の食人花へ接触・寄生すると、赤い脈線が全身に走り、巨体が膨張・変容した。女は舌打ちして離脱、アイズはレフィーヤとルルネを抱え通りから脱出した。

追撃と合流方針、広場へ退きつつ脅威が拡大
寄生体は他個体を捕食しながら連結・増殖し、羽化めいた人型の輪郭さえ覗かせた。地形破壊と狂声を伴う追行に対し、アイズは戦闘継続を断念し、水晶広場への合流を選択したのである。

巨大な女体型モンスターの出現と広場への進路
各所で戦闘が続く街に、食人花の足群と女体上半身を備えた超大型の女体型モンスターが出現した。ティオナとティオネは以前の遠征で遭遇した50階層個体を想起しつつ、水晶広場へ進路を取った当該個体を追跡した。女体上半身は無貌で長い緑髪を持ち、足は巨木の幹のように肥大し、全身が憤怒に似た気配を帯びていた。

広場での交戦開始とアイズへの集中攻撃
広場ではリヴェリア、フィン、ボールスが迎撃体勢にあり、アイズはレフィーヤとルルネを救出して合流した。女体型は発動中の魔力に反応するかのようにアイズを標的とし、突撃で双子水晶を破壊した。アイズは巻き込み回避のためレフィーヤにルルネを預けて離れ、戦場は緊迫した。

ティオナとティオネの迎撃と上半身の触手
ティオナは大双刃で足の花部を次々と斬り落としたが、足は一本単位でなお活動を継続した。ティオネは湾短刀で長足を刻み制圧を図ったが、女体上半身は肘先の触手を槍のように放って迎撃し、投擲をも打ち落とした。足群の射程と変則攻撃により、周辺の冒険者は近接を阻まれた。

リヴェリアとフィンの連携、指揮の移譲
フィンは長槍で足を釘付けにし、リヴェリアはエルフの破砕弓を借り受けて的確な援護射撃を行った。ボールスには周辺の指揮と退避誘導が委ねられ、戦線はフィン、ティオナ、ティオネ、リヴェリアの四名を軸に組み直された。

アイズと赤髪の女の一騎打ちへの移行
アイズの前に赤髪の女が立ちはだかり、挑戦を告げて広場外へ誘導した。アイズは《デスペレート》を用いて応戦し、両者は一騎打ちのまま戦場を離れた。

囮連携による砲撃:レフィーヤの火矢雨
広場ではリヴェリアが高出力の詠唱で注意を引きつける囮となり、その背後でレフィーヤが本命の詠唱を進行した。退避号令の直後、レフィーヤはヒュゼレイド・ファラーリカを放ち、紅蓮の矢雨で女体型の足群と上半身を大規模に焼却・破砕した。

三名の一斉突撃と上半身の離脱
砲撃直後、フィン、ティオネ、ティオナが同時突撃し、燃え上がる躯体を解体した。追い詰められた女体型は上半身を切り離して斜面下の湖へ逃走を図った。

断崖への追撃:リヴェリアの並行詠唱と氷雪魔法
リヴェリアは並行詠唱で追撃し、ウィン・フィンブルヴェトルを発動して斜面と目標を凍結した。女体型は凍結のまま反動で崖外へ脱落し、湖面へ落下しようとした。

アマゾネス姉妹の飛翔と討伐、魔石消失
ティオネとティオナは断崖を駆け降りながら追撃し、ティオネが触手腕を切断、ティオナが渾身の大双刃で本体を粉砕した。女体型は空中で灰化し、魔石は破砕されて回収不能となった。ティオネは調査機会の喪失を叱責し、二人はそのまま湖へ着水した。

余韻と仲間への信頼
ティオナは街側に残るアイズとレフィーヤの安否を案じたが、ティオネはリヴェリアと何よりフィンへの信頼を示し、同行者の安全を断言した。姉妹は断崖上方を見上げつつ、戦況の推移を受け止めた。

西部への戦場移動と荒廃した地形
食人花の殲滅後、アイズと赤髪の女は都市西端へ戦場を移した。西部は街壁付近まで更地同然に破壊され、紅の火片が遠のいた薄闇の下で両者は高速で交錯したのである。

アイズの《エアリエル》と赤髪の女の剣技
アイズは《エアリエル》で切れ味と速度を強化し、斬閃で強撃を受け流した。赤髪の女は長牙のような長剣で応戦し、付与された風を幾度も叩き落とす剣速と膂力を示した。互角の剣戟の中、赤髪の女が「アリア」という名に言及し、アイズは動揺を露わにして攻勢を強めた。

隙の捕捉とアイズの被弾
心の昂ぶりで前のめりになった剣筋を赤髪の女が看破し、左拳で風鎧ごと腹部を撃ち抜き、続けて超速の袈裟斬りを叩き込んだ。アイズは瓦礫へ叩きつけられ《デスペレート》を取り落とし、追撃の掌底が迫った。

フィンとリヴェリアの介入、黄金の連携
寸前でフィンの長槍とリヴェリアの杖が掌底を受け止め、二人が前へ出た。フィンは小柄ゆえの低位間合いと機先を制する突きで主導権を握り、赤髪の女の徒手を悉く空振りさせる。女の踏鳴による衝撃で一時不利となるも、フィンは逆さ姿勢からの抜刀で斬り上げを命中。直後にリヴェリアが歩法で反撃を空振りに変え、フィンの渾身の右拳が頬を撃ち抜いた。赤髪の女はLv.5〜6相当と推定されつつも劣勢を悟り撤退した。

崖際の追走と湖への逃走
アイズ、フィン、リヴェリアが追う中、赤髪の女は破壊された西の街壁を抜け荒野を駆け、崖から湖へ飛び込んで姿を晦ました。水中に逃れたため追跡は困難となり、186階層の広大さが捜索の障壁となった。

アイズの悔恨
崖上でアイズは悔しさを噛みしめ、薄闇の水晶光の下で拳を固く握った。敗北にも似た無力感が胸中に刻まれたのである。

地下神殿での密談:ウラノスとフェルズ
神殿ではウラノスがフェルズを呼び出し、怪物祭の余波と食人花事件を総括した。都市の地下に正体不明のモンスターが少なくとも七体潜伏していた事実、何者かの回収行動、さらには【ガネーシャ・ファミリア】を凌ぐ調教師の存在を確認した。闇派閥(自称「邪神」派)の残党関与の可能性も示唆され、運び屋に関わる依頼を受けていたハシャーナ殺害、運び屋の少女の不明も報告された。加えて、モンスターを変異させる謎の宝玉の存在が示され、ダンジョン内部でギルドすら掌握しきれぬ異常(上位存在の関与を含意)が進行していると結論した。

六章 渇いた叫び

回想と目覚め
アイズは幼少期の記憶――「風のよう」な母アリアへの愛情と幸福な語りを夢に見て、ティオナに起こされて目を覚ました。短い休息の終わりを告げられ、薄く夢の残滓を抱えたまま意識を現在へ戻したのである。

事件後の経過と捜査の停滞
『リヴィラの街』の奇襲事件から六日が経過し、一行は地上での報告や救護・撤収支援を終えて再潜行した。赤髪の調教師はハシャーナ殺害容疑で要注意人物に登録されたが、ロキの指示で情報の外部共有は保留となった。食人花から摘出された極彩色の魔石はギルドが押収し、真相は上級冒険者の間だけの共有にとどまっている。ハシャーナの足取りや宝玉の出所は不明のままであった。

再編成と探索再開
パーティはフィン、リヴェリア、アイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤに新たなサポーター・ラクタを加えた七名構成で、深層域の探索と資金稼ぎを再開した。『リヴィラの街』は既に再建が始まり、地下買取で証文化しつつ価値品のみ地上換金を狙う運用を継続している。

アイズの内面――悔恨と渇望
赤髪の調教師に敗れ「アリア」の名を突かれた動揺は、アイズの中に悔しさと自己嫌悪として沈殿していた。自らを「弱い」と断じ、より強さを求める渇望が静かに燃え上がる。仲間の気遣いにも表向きは普段通り応じるが、剣の冴えだけが異様に研ぎ澄まされていった。

白宮殿の地形と敵勢
一行は巨大構造と厚い暗闇に満ちる『白宮殿(ホワイトパレス)』の広域通路と大円壁を進む。この階層は戦士系モンスター――『バーバリアン』『リザードマン・エリート』『オブシディアン・ソルジャー』――が多く、魔導士には厳しい環境である。アイズは前衛で群れを切り裂き、ティオナが強引に道を開き、後衛は二人のサポーターを護衛しつつ進軍した。

戦闘の様相と仲間の観察
アイズは《エアリエル》を軸に銀の軌跡で敵を灰に変え、連戦連勝の勢いを保つ。フィンとリヴェリアは彼女の気迫を案じるも「今は静観」と判断し、レフィーヤには空腹時の気分転換という“実務的”対処を助言した。

大規模ルームでの異常出現
広大な『ルーム』で戦闘を続ける最中、壁ではなく床に亀裂が走り、地中から一斉に白骨の戦士『スパルトイ』が出現した。各個体は骨製の剣・斧・盾を備え、俊敏かつ高い連携で包囲を仕掛ける。アイズは単騎で最上位級(この階層のトップクラス)と渡り合い、盾ごと叩き斬り、槍・斧・大剣の連撃を捌きながら群れの只中へ踏み込んだ。

到達点
『スパルトイ』の群体が黒い眼窩を一斉に向けて団結威嚇する中、アイズは氷の相貌で《デスペレート》を鳴らし、さらなる殲滅戦へと躍り込んだ。悔恨を糧に変えた剣は、渇いた叫びとともに白宮殿の闇を切り裂いていくのである。

スパルトイ殲滅と小休止
アイズは五分の連戦でスパルトイの群れを単独討ち取り、最後の一体も大上段の一撃で粉砕。戦利品回収はレフィーヤたちに任せ、ティオナの“餌付け”に苦笑しつつも受け取る。

撤収決定とアイズの「居残り」希望
フィンが撤収を提案する中、アイズは「自分だけ残りたい」と要請。ティオナ・ティオネは強く反対するが、リヴェリアが「この子の稀な我儘を尊重すべき」と後押しし、自ら護衛役を買って出る。フィンは慎重に許可。物資の都合でレフィーヤとティオナは同行を断念し、激励の言葉を残して離脱する。

静寂の『ルーム』で待つ理由
二人きりになった広間で、アイズは動かず“その時”を待つ。彼女の狙いは周期復活する階層主の再出現。微震→地割れ→漆黒の巨影――計算どおり、モンスターレックスが産声を上げる。

階層主『ウダイオス』出現
黒い骨格、胸郭に巨大魔石、圧倒的な威圧を放つ骸骨王『ウダイオス』が地面を突き破り顕現。前回の討伐から約三ヶ月、復活周期が満ちたとリヴェリアは悟る。

アイズの決意と単独挑戦
アイズは《デスペレート》を抜き、「手を出さないで」とリヴェリアに告げる。赤髪の調教師の影を巨躯に重ね、次の段階へ至るための単独撃破を誓う。「すぐに終わらせるから」。黒骨の咆哮が轟く射程へ、アイズはただ一人、無謀にも見える決戦へ跳び込んだ。

突入と核狙いの失敗
アイズは《エアリエル》で加速して正面から懐へ突入し、胸郭の巨大魔石を肋骨の隙間から狙ったが、可動する肋骨に阻まれて失敗した。背面を突こうとした直後、床下から逆杭が連続生成され、接近継続が困難となった。

戦場支配と攻略方針の転換
ウダイオスは骨盤から広間全域へ骨状の枝を張り巡らせ、無尽蔵の逆杭で足場と退路を封鎖した。アイズは防戦から転じ、紫紺に光る核関節を破壊目標に設定し、背面から腰椎の核を砕いて体勢を崩させた。

右肩の破壊と階層主の武装
倒れ込んだ敵の右肩に着地したアイズは、剣に風を暴走させて核関節を爆砕し、右腕を脱落させた。激昂したウダイオスは地中の柱を抜き取り黒大剣を生成、左腕の三核に魔力を注いで常識外の速度の斬撃を放ち、アイズを吹き飛ばした。

リヴェリアの制止とアイズの強行
リヴェリアは介入を試みたが、アイズは流血しながらも介入停止を懇願し、再び《エアリエル》で単独突入を選んだ。スパルトイの増援と逆杭の壁が行く手を塞ぐなか、アイズは意志の昂進で速度と圧を引き上げ、黒大剣の切っ先を破砕して優位を取り戻した。

袋小路と必殺の衝突
ウダイオスは前方のみ開いた半円形の柱壁で退路を断ち、黒大剣の刺突に三核同時チャージで決着を狙った。アイズは壁上へ跳躍して正面から「リル・ラファーガ」を発射し、黒大剣と必殺同士の拮抗が生じた。

支援魔法と左肩の破砕
拮抗の最中、リヴェリアが補助防御魔法《ヴェール・ブレス》を付与し、アイズは防御強化と微回復を得て出力を増大させた。風の矢は黒大剣の刃先を圧倒し、そのまま左肩の核関節を粉砕して左腕をも脱落させた。

消耗となお続く決意
魔法解除で墜落したアイズは満身創痍ながら立ち上がり、光の衣が残るうちに《目覚めよ》を再詠唱した。両腕を失って咆哮するウダイオスを前に、アイズはなお一歩を踏み出し、弱さとの決別を賭けて決戦の継続を選択した。

ウダイオスの最期
一時間に及ぶ死闘の末、アイズとウダイオスの戦いは決着を迎えた。リヴェリアがスパルトイの群れを引き受け、二人の戦場を守る中、アイズの銀の剣閃がついに敵の巨体を貫いた。下顎は砕け、肋骨と角は折れ、腰椎が断たれた漆黒の骸骨は絶叫を上げて崩れ落ちる。アイズは血に塗れたまま静かに歩み寄り、両腕を失いかけた階層主の胸部へ跳び乗った。風を纏う剣を振り下ろし、『魔石』を粉砕すると同時に、ウダイオスの全身が灰と化し、漆黒の墓標群も音もなく崩壊した。

静寂と癒し
戦場の沈黙の中、アイズは力なく剣を下ろし、曇りなき銀光を纏って天井を見上げた。そこへリヴェリアが近づき、何も言わずにアイズの傷付いた額へ手を当て、癒しの詠唱を紡いだ。緑光が傷を閉じ、血を拭う聖布が彼女の顔を包む。子を諭す母のような手つきに、アイズは微かに目を閉じ、安らかな表情を見せた。

語られる真実
治癒を終えたリヴェリアは静かに問いかける。「何があった」と。叱責ではなく、真実を求める声に、アイズは俯きながら語った。リヴィラの街で遭遇した赤髪の調教師ティマから「アリア」と呼ばれたことを打ち明けると、リヴェリアは動揺を隠せず息を呑んだ。やがて沈黙を破り、彼女は優しく言葉を紡ぐ。「アイズ、私は頼れないか?」

母性の言葉
金の髪を撫でながら、リヴェリアは続けた。「ティオナやレフィーヤも、お前を家族のように思っている」と。アイズの胸に溜まっていた孤独の熱が静まり、心を縛っていた鎖が解けていく。髪を梳く手が胸を軽く叩き、「お前はもう一人じゃない。忘れるな」と囁かれると、アイズは目を伏せて小さく頷いた。

帰還の途
「リヴェリア……」「何だ?」「……ごめんなさい」。その言葉にリヴェリアは微笑み、軽くアイズの額を叩いた。叱責ではなく、赦しの象徴だった。戦利品の収集を終えると、二人は灰の中を歩き出す。翡翠の髪と金の髪を揺らしながら、母と娘のように並んで帰路へ向かった。

エピローグ 再会は突然に

地上への帰還と黒剣の行方
ウダイオスを討ち果たした後、アイズとリヴェリアは三日をかけて深層から上層へと戻っていた。リヴェリアが戦闘を引き受け、休息を挟んだことで脱出は順調に進み、現在は6階層を通過中であった。道中、リヴェリアはアイズが『リヴィラの街』に黒大剣を預けた件に言及する。アイズは「私は大剣が使えない」と淡々に答え、武器狂のボールスへ託した理由を語った。ウダイオスの黒剣は上級鍛冶師にも劣らぬ逸品であり、街は大いに沸いたが、アイズ本人は冷静に次の探索に備える姿勢を見せていた。

倒れていた白髪の少年
やがて二人が5階層へ到達した際、広間の中央に一人の冒険者が倒れているのを発見する。軽装の若い体躯、処女雪のような白髪――それは、かつてミノタウロス戦で因縁を持った少年・ベルであった。アイズは驚愕し、リヴェリアが診断すると、外傷はなく典型的な精神疲弊(マインドダウン)と判断された。

償いの提案
アイズは「この子に償いをしたい」と口にするが、リヴェリアは「言いようは他にあるだろう」と苦笑しつつも、静かに提案する。「起きるまで、膝を使って寝かせてやれ。それで十分だ」と。意味を測りかねるアイズが戸惑うなか、リヴェリアは「お前のなら喜ばない男はいないさ」と言い残し、その場を離れた。

膝枕の温もり
リヴェリアの背を見送り、アイズはゆっくりと倒れているベルの傍らに膝を折り、静かに腰を下ろした。どうすれば良いのか考えあぐねながらも、言われたとおり彼の頭を膝に受け入れる。白い髪が金の膝に触れると、アイズの胸の奥に言葉にできぬ感情が生まれた。

リヴェリアの胸中
一方その頃、離れた通路を歩くリヴェリアは、蛙型モンスターを軽く退けながらも後ろを気にしていた。ティマとの接触以降、アイズの心は揺れている。階層主を単独で討伐するほどの衝動を見せたその均衡を、少しでも取り戻してほしい――そう願ってベルを託したのだ。
「まぁ、悪い方向には転ぶまい」と彼女は独りごちる。少女の心が救われるなら、それだけで十分だと微笑みながら、静かに上層への帰路を進んでいった。

膝枕の温もり
細い腿にかかる重みは、アイズにとって未知の感覚であった。眠る白髪の少年――ベルの頭を膝に乗せ、彼の静かな寝息を見下ろすと、胸の奥にくすぐったい羞恥と柔らかな安堵が同時に生まれる。襲来するモンスターを無音の剣閃で排しつつ、アイズは少年の防具の擦れや傷跡を眺め、日々の努力を感じ取った。白く真っ直ぐなその姿勢に、かつての自分とは異なる清廉さを見て、心の奥に残っていた黒い炎がようやく消えていくのを感じた。

夢の呟きとすれ違う想い
そっと髪を撫でていると、寝言のように少年の唇が動く。「……おかあさん?」――その言葉にアイズの肩が震えた。彼女は微かに笑みを浮かべながらも、胸に痛みを覚え、白い髪をよけて静かに答える。「ごめんね。私は、君のお母さんじゃない……」その瞬間、少年の深紅の瞳がゆっくりと開かれ、金の瞳と真っすぐに重なった。

目覚めと動揺
寝惚け眼の少年は現実を疑い、「……幻覚?」と呟く。アイズがむっと眉を寄せ、「幻覚じゃないよ」と返すと、彼は赤面し、言葉を失った。互いに見つめ合い、時間が止まったような沈黙が続く。アイズは何か悪いことをしたのかと不安になり、謝ろうとした瞬間――少年は顔を真っ赤に染めたまま立ち上がり、何も言わずに走り去った。

残された少女の呟き
広間に残されたアイズは、膝をついたまま呆然とその背を見送る。自分のもとから逃げるように去っていく姿に、胸が締めつけられる。遠くでモンスターの笑い声がこだまする中、アイズは小さく呟いた。
「……何で、いつも逃げちゃうの?」

静寂のダンジョンに、寂しげな声だけが残った。

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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 

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アストレア・レコード

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アストレア・レコード 1 邪悪胎動
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アストレア・レコード 2 正義失墜
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アストレア・レコード 3巻 正邪決戦
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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか オラリオ・ストーリーズ

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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