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フィクション(Novel)読書感想領民0人スタートの辺境領主様

小説「領民0人スタートの辺境領主様 Ⅰ(1) 蒼角の乙女」感想文・ネタバレ

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フィクション(Novel)

領民0人まとめ
領民0人2巻レビュー

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  1. どんな本?
  2. 読んだ本のタイトル
  3. あらすじ・内容
  4. 感想
  5. 考察・解説
    1. 辺境領主の生活
    2. 鬼人族との交流
    3. 領民ゼロからの脱却
    4. 救国の英雄の過去
    5. 魔物との戦闘
    6. ディアスの領地運営における家族の絆と仲間
  6. 登場キャラクター
    1. イルク村
      1. ディアス(ディアス・ネッツロース)
      2. クラウス
      3. マヤ婆さん
      4. セナイ
      5. アイハン
      6. フランシス
      7. フランソワ
      8. 老婆たち
    2. 鬼人族
      1. アルナー
      2. モール
    3. 王国
      1. 王様
      2. ディアーネ
      3. プリネシア
      4. ミラルダ
    4. カスデクス領
      1. エルダン・カスデクス
      2. カマロッツ
      3. エンカース・カスデクス
      4. ジャーニ・カスデクス
      5. ジャニア
      6. ネハ
    5. 行商人一行
      1. ペイジン・ド
    6. その他
      1. ディアスの父
      2. ディアスの母
      3. なんたらショーグン
      4. ジャン
      5. ライル
  7. 展開まとめ
    1. プロローグ
    2. 春の日の草原で
    3. 布製の家だらけの不思議な村で
    4. 小川の側で
    5. 見渡す限りの草原で
    6. 出来上がったユルトの側で
    7. 翌日の朝、ユルトの中で
    8. 草原を北に向かいながら
    9. 岩山の麓で
    10. 翌朝、鬼人族の村で
    11. 三週間と少しが過ぎた日の朝、ユルトの側に作られた井戸で―
    12. ユルトを離れ、草原の東で
    13. 一週間が過ぎた日の、朝のユルトで
    14. ユルトへと戻って
    15. 10日後、ユルトの側の草原で クラウス
    16. 立ち並ぶユルトを眺めながら ディアス
    17. 翌日、小川の側で
    18. イルク村を離れながら ペイジン・ド
    19. 取り引き後のイルク村で ディアス
    20. 10日後、夜明けのユルトで
    21. 特製ベッド型馬車の上で
    22. 夜更けのユルトで ディアス
    23. 夜更けの草原で 侵入者の頭目
    24. 森を駆けながら 謎の男
    25. 戦いを終えて ディアス
    26. 書き下ろし蒼角の乙女
    27. 過日。婚姻の祝宴の翌日、ユルトの中で アルナー
    28. アルナーを待ちながら ディアス
    29. アルナーの草食み
    30. ある日の午後、ユルトで ディアス
  8. 同シリーズ
    1. 領民0人スタートの辺境領主様
  9. その他フィクション

どんな本?

戦争で、孤児から救国の英雄に成ったディアス。

それを面白く思わない王族が横槍を入れて。

拝領した広大な草原には領民がおらず、住む家も無く、食料すら無い。
領地を与えると言いながらやってる事は流刑にしたような物。

その誰一人いないはずの草原で、ディアスは少女アルナーに出会う。
彼女は額に角がある鬼人だった。

読んだ本のタイトル

領民0人スタートの辺境領主様  Ⅰ 蒼角の乙女
著者:風楼 氏
イラスト:キンタ  氏

Bookliveで購入 BOOK☆WALKERで購入

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あらすじ・内容

戦争で活躍し孤児から救国の英雄となったディアス。
彼は、その報償として国王陛下から最果ての地を拝領する。

だが、自らの領地へと到着したディアスは、広大すぎる草原に領民がいない、住む家も無い、食料も無い状況で、呆然と立ち尽くすこととなった。

その誰一人いないはずの草原で、ディアスは気の強い少女・アルナーに出会う。
彼女の額には、青く輝く“角”が生えていて!?

初めて見る角のある少女とともに歩いていくと、そこには角の生えた人々が住む集落が!

果たしてディアスは領主としてやっていけるのか?
何もない草原で、どうやって生活するのか?
ここで生きていくことは出来るのか???

前途多難な新米領主の辺境スローライフのはずが!?
剣と魔法の世界の物語が始まる!

領民0人スタートの辺境領主様1 蒼角の乙女

感想

元孤児で平民の英雄のディアスは脳筋で考える事が苦手な35歳。

王様に褒められて領地を貰えると言われて、言われるがまま付いて行ったら。

担当の役人からおざなりな説明を受けて、草原のど真ん中に置いて行かれた。

貰えるはずだった報奨金は派閥争いをしている王子に横領され。
貰える領地も横取りされていたらしい。

あとは後始末として、誰もいない、食糧も無い、草原にディアスを放置して流刑のように追放してしまう。

着の身着のままで食糧も水も無い状態で放置。

そこから始まる領主生活。

そこにいた鬼人族達と友誼を結び。

友誼の証として鬼人族のアルナーを婚約者にして、2匹のメアーと共にテントのようなユルドを建て暮らし始める。

そして狩に行ったらアースドラゴンを討伐して鬼人に認められる。

アースドラゴンって言っても亀だよな、、、
いや、火を吹くからドラゴンなんだろうけど。。

見た目が亀だからな、、、
凄いんだよな。

でも、商人の反応を見るにドラゴンで高額の取引が出来ているからドラゴンなんだろう。

その対価として双子の女の子を貰うのも、、
その双子って最初はこんな感じだったんだ。。

後の巻で無邪気にディアスに懐いてるイメージしか無かったから意外だったわ。。

でも、両親が病気で亡くなってしまって商人に売られたんじゃな。。
仕方ないって言えば仕方ないか。

でも、ディアスに貰われて2人は娘として育てられる。
ついでにメアー達も家族として扱うからな、、
何気にメアー達が賢くて子供の心に寄り添うのが良い。

2人には幸せになって欲しいな。
もちろんディアスとアルナーもね。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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領民0人まとめ
領民0人2巻レビュー

考察・解説

辺境領主の生活

領民も家も食料もない、見渡す限り草しか生えていない「ネッツロース」という過酷な草原に放り出されるところから、ディアスの辺境領主としての生活は始まる。一般的な貴族が送るような贅沢や権力闘争とは無縁の、自らの手で切り拓く泥臭くも温かい生活の実態は以下の通りである。

1. 肉体労働とサバイバルによる自給自足
着の身着のままで領地に降り立ったディアスは、まず飲み水を探し、身を隠す場所を求めるという完全なサバイバルから生活をスタートさせる。生活の基盤となる住居(布製の家「ユルト」)や食料、井戸や厠を整備するため、領主自らが最前線で泥臭い肉体労働を行うのが日常となっている。具体的な活動は以下の通りである。

  • 愛用の戦斧を振るい、「黒ギー」と呼ばれる獣や「アースドラゴン」などの強力なモンスターを狩って素材を集める
  • 完成した井戸から自ら水を汲む
  • 領民が増えれば率先してユルトの組み立てを手伝う
  • 夕食のためのキジの解体を自ら買って出る

2. 異種族や家畜との「家族」としての共生
王国の人間が誰もいない領地で、ディアスは長年王国から隠れ住んでいた「鬼人族」と隣人としての関係を築く。

  • 鬼人族の女性にとって男の価値は「男気(甲斐性や働き者であること)」であり、ディアスの圧倒的な狩りの成果が結納とみなされ、鬼人族の少女アルナーと婚約し共に暮らすことになる
  • 生活に欠かせないのが「メーア」という毛を採るための家畜である。メーアは人間の言葉を完全に理解するほど賢く、ディアスは妊娠中のメーア(フランソワ)を安心させるためにユルトの中で一緒に寝起きするなど、家畜というよりも「大事な家族」として愛情深く接している

3. 弱者救済と「奴隷制の拒絶」を貫く領地運営
ディアスは両親の「弱い者を守れる男になれ」という遺言を領地運営の根幹に据えている。

  • 領民を増やすために奴隷を買うという案が出た際には、自らの戦争体験から「奴隷制自体が好きではない」と強く拒絶し、領内での奴隷の所持・売買を禁止する姿勢を見せた
  • その代わり、隣領から口減らしで追放された70歳以上の老婆たち(棄民)や、フロッグマンの商人ペイジンから引き取った「災厄の子」と忌み嫌われる孤児の双子(セナイとアイハン)を領民として受け入れた
  • 王都の権力闘争や戦争への参加要請はきっぱりと拒否し、人間と亜人が種族の垣根を越えて平和に暮らせる世界を目指す、隣領の半亜人領主エルダンと同志として協力し合うことを約束している

4. 活気あふれる「イルク村」での温かな日常
集まった多様な領民たちと共に、ディアスは自分たちの拠点を「最初の村」を意味する古い言葉から「イルク村」と名付けた。過酷な辺境でありながらも、笑顔と活気に満ちたアットホームな生活空間が広がっている。

  • 日々の生活では、アルナーが作る薬草入りの煮物を食べる
  • 引き取った双子の夜泣きや癇癪に手を焼いたり、メーアの背中で眠る子どもたちを微笑ましく見守ったりしながら本物の親のように世話を焼く
  • 日中は、老婆たちがメーアの毛を紡ぎながら歌を歌う
  • 村の名前が決まったなどの良いことがあれば、焚き火を囲んで皆で歌い踊る質素な宴を開く

まとめ
このように、ディアスの辺境領主としての生活は、自らの圧倒的な武力と底抜けのお人好しな性格によって、身分や種族を問わず弱い者たちを保護し、家族のような絆で結ばれた仲間たちと汗を流しながら一つずつ生活を豊かにしていくという独自のものとなっている。

鬼人族との交流

領地を与えられた主人公ディアスと、その地に隠れ住んでいた鬼人族との交流は、当初の勘違いから始まり、やがて強固な信頼関係と「家族」としての絆へと発展していく。

1. 魂鑑定による信頼の獲得
ディアスの領地であるネッツロース草原には、50年前の戦争で敗北し、額の角に魔力を蓄えて使う「隠蔽魔法」で王国から身を隠していた「鬼人族」が住んでいた。

  • 当初、ディアスは草原で見つけた鬼人族の少女アルナーを自分の「領民」だと勘違いし、いかなる敵からも「味方として守る」と宣言する
  • この無欲で純粋な決意により、相手の敵意や危険度を見極める鬼人族の魔法「魂鑑定」において、幸福や恵みをもたらすことを示す強い「青」の光が放たれる
  • これを見た族長のモールは彼を信用し、隣人としての交流が始まる

2. 秘密の共有と互恵的な協力関係
ディアスが鬼人族の存在を王国に黙認する代わりに、家も食料もなかった彼に対し、鬼人族は持ち運び可能な布製の家「ユルト」や食料、そして生活を支える賢い家畜「メーア」を提供し、アルナーを世話係として同行させる。その後も強力な協力体制が築かれている。

  • ディアスが獣の「黒ギー」や巨大な亀型モンスター「アースドラゴン」を狩って素材を提供する
  • 鬼人族がその対価として井戸や厠を建設したり、ドラゴン素材から強力な武具を加工したりする

3. 「男気」の証明とアルナーとの婚約
鬼人族の女性にとって、顔の良さや会話の相性ではなく、働き者で甲斐性があるかという「男気」が男の価値の全てとされている。

  • ディアスが一度に数十頭の黒ギーを狩り、さらにアースドラゴンを単独で討伐したことは、鬼人族にとって類を見ないほどの「男気」の証明となった
  • これが圧倒的な「結納」とみなされ、ディアスは15歳のアルナーと半ば強制的に結婚(婚約)することになる
  • ディアスは自身の年齢(35歳)との差に戸惑い、王国法の18歳になるまで3年間は婚約状態に留めることを決意するが、2人は同じユルトで深い絆を育んでいく

4. 生活の知恵と文化の共有
世話係となったアルナーは、草原で病気を防ぐための毎日の水浴びや髭剃り、朝に体を温める薬草入りの食事など、鬼人族が持つ草原でのサバイバルと衛生管理の知恵をディアスに指導する。
また、ディアスも彼らの文化に触れていく。

  • 魔力を込めた特別な宝石を髪に編み込む風習がある
  • 草の汁と唾液、木の実の汁を混ぜ合わせてメーアの毛織物を鮮やかな青色に染め上げる伝統的な染色技術など、鬼人族独自の文化が領主の生活にも深く浸透している
  • 種族の壁を越えた「家族」として共に暮らすようになる

まとめ
このように、ディアスと鬼人族の交流は、互いの信頼と協調によって支えられている。過酷な環境の中で、単なる領主と先住民という関係を超え、文化や生活の知恵を共有しながら、彼らは確かな家族の絆を築き上げている。

領民ゼロからの脱却

主人公ディアスが「領民0人」という過酷な状況からどのように脱却し、人々を集めていったのかについて解説する。

1. 鬼人族は「隣人」であり領民ではない
領地であるネッツロース草原に降り立った当初、ディアスはそこで出会った鬼人族の少女アルナーや族長モールたちを自分の領民だと思い込んでいた。しかし、彼らは長年王国から隠れ住んできた独立した存在であり、ディアスの領民は依然として0人のままであった。

2. 領民を受け入れるための基盤作り
どうすれば領民が増えるのかと頭を抱えるディアスに対し、アルナーは「今の家も食料もない状態で人を集めても、待っているのは餓死か病死だ」と現実を突きつける。これに納得したディアスは、人を迎えるためのインフラを整えるべく以下の行動を起こした。

  • 大量の黒ギー(獣)を狩る
  • 巨大なアースドラゴンを討伐する
  • 鬼人族と取引を行い、住居(ユルト)の建材、井戸、厠、そして食料を確保する

3. 「棄民」となった12人の老婆たちの受け入れ
領民0人からの本格的な脱却は、隣領カスデクスからやってきた12人の老婆たちとの出会いによって果たされる。

  • 彼女たちは隣領の内乱による口減らしで追放された「棄民」であった
  • 元部下のクラウスは「全員が70歳以上でいつ死んでもおかしくなく、生産性がない」と懸念を示した
  • しかしディアスは「領民が一気に12人も増えた!」と大喜びし、自ら嬉々としてユルトを引っ張り出して彼女たちを領民として温かく迎え入れた

4. 慕って来る者と「災厄の子」の保護
その後も、ディアスの元には少しずつ人が集まっていく。主な受け入れの実態は以下の通りである。

  • 元部下クラウスの合流:戦場で共に戦い、ディアスの真っ直ぐな人柄を慕っていた若者クラウスが、王都の権力闘争を嫌って軍を辞め、ディアスの下で領兵隊長として働くためにやってくる
  • 孤児の双子(セナイとアイハン)の保護:カエル頭の行商人ペイジンが連れてきた、故郷で「災厄の子」として処刑されかけ、両親も病で亡くした双子の孤児を保護する

5. 「奴隷制の拒絶」と「弱者救済」という信念
手っ取り早く領民を増やすために、討伐したドラゴンの素材などで奴隷を買うという手段もあったが、ディアスは独自の信念を貫く。

  • 戦場で奴隷兵の悲惨な末路を見てきたディアスは「奴隷制自体が好きではない」とこれを強く拒絶し、領地での奴隷売買を禁止する姿勢を見せる
  • 孤児の双子を引き取る際も、奴隷として買うのではなく、これまで育てるのにかかった赤字分を支払って家族として迎え入れるという特例の形をとった

まとめ
ディアスの領民ゼロからの脱却は、金や権力で人を買い集めることではなかった。両親の「弱い者を守る」という遺言に従い、行き場を失った老婆たちや迫害された孤児を無条件で保護し、彼の人柄を慕う者を受け入れることで果たされたのである。この圧倒的なお人好しさと優しさが、やがて多様な人々が笑顔で暮らす「イルク村」の誕生へと繋がっていく。

救国の英雄の過去

ディアスが「救国の英雄」と呼ばれるようになった背景には、彼の生い立ちと両親の遺言、そして戦場での桁違いの武勇が深く関わっている。

1. 孤児としての生い立ちと戦場への志願
ディアスは10歳の時に流行り病で両親を亡くした。そこからの生い立ちと志願の経緯は以下の通りである。

  • 母の「人の役に立つ仕事をするように」、父の「弱い者を守れる男になれ」という遺言を胸に刻んでいた
  • 同じ孤児たちをまとめて日銭を稼ぎながら懸命に生きていた
  • 15歳の時に隣国との戦争が始まり、自国が連戦連敗して街の目の前で敵兵が略奪を始めたのを目にした
  • 両親の遺言に従って皆を守るために志願兵となり、そこから20年にも及ぶ戦いの日々が始まった

2. 規格外の戦闘スタイルと「獅子の戦斧」
ディアスは技術に頼らない独自の戦い方を貫いていた。

  • 剣や弓を扱うような複雑な技術はなく、相手の動きを読むこともしなかった
  • 巨大な戦斧を力任せに振り回し、敵の盾や鎧ごと粉砕するという愚直な戦闘スタイルを貫いていた
  • 戦斧の扱いが乱暴すぎて戦闘中に武器が壊れて死にかけるという致命的な欠点があった
  • 敵国の「ショーグン」を倒して手に入れた「獅子の顔の意匠を持つ頑丈な戦斧」によってその欠点を克服した
  • この戦斧はどんなに全力で叩きつけても壊れず、わずかな刃こぼれなら持ち主の意思で勝手に直してしまう不思議な力を持っていた
  • この武器を得て全力で暴れ回れるようになったことが彼の大戦果へと繋がった

3. 戦場での人柄と「奴隷制への嫌悪」の芽生え
戦場においてもディアスの優しく真っ直ぐな性格は変わらず、身分や立場を問わず仲間を大切にしていた。

  • 部下のクラウスとは互いに命を助け合い、周囲から深く慕われていた
  • 捕虜の悲惨な扱いを改善しようと奔走して失敗した際には、一晩中クラウスの号泣に寄り添った
  • 戦場で奴隷兵たちが早く死んで楽になりたいと自ら敵の剣に飛び込んでいくという地獄のような光景を目の当たりにした
  • この経験により、奴隷制度そのものに対して強い嫌悪感と怒りを抱くようになった

4. 「救国の英雄」の誕生と伝説化
ディアス自身には全く自覚がなかったが、彼が単独であげた桁違いの戦果によって自国は有利な条件で終戦を迎えることができた。

  • 彼の活躍は瞬く間に王都へ伝わり、戦意高揚のための演劇の題材として舞台化された
  • 演劇の中に「横暴な貴族を拳で窘める」といった彼自身の記憶にない脚色が含まれていたため、都合の悪い貴族たちによって一週間で公開中止にされた
  • 公開中止が逆に人々の関心を集め、彼を知る帰還兵や商人たちの口伝えによって、彼の実力と本物の人柄が「英雄ディアス」の伝説として国中に広く知れ渡ることとなった

まとめ
このように、ディアスは権力や名誉のために戦ったのではなかった。両親の遺言と純粋なお人好しな性格に従って目の前の弱者を守るために20年間戦斧を振り続けた結果、無自覚のうちに「救国の英雄」に登り詰めることになったのである。

魔物との戦闘

本作における魔物(モンスター)は、瘴気の渦から発生したりダンジョンから這い出てきたりする、生物ならざる存在である。彼らはモンスター以外の全生物を憎んでおり、その憎しみのままに無闇矢鱈に襲ってくる厄介な特徴を持っている。瘴気まみれのため肉は食用に向かないが、外皮や爪、角、心臓部にある魔石などは非常に有用な素材となる。主人公ディアスによる魔物との戦闘を象徴するのが、草原の北部に生息していた「アースドラゴン」との激闘である。

1. ドラゴンらしからぬ姿と、愚直な戦斧での攻撃
アースドラゴンという恐ろしい名前に反して、その姿は長い首に4本の足、ごつごつとした甲羅を背負う巨大な亀そのものであった。ディアスは以下のような愚直な戦い方を貫いた。

  • 剣や槍のような複雑な技術を使わず、愛用している頑丈な戦斧を力任せに振り下ろす
  • 強固な甲羅を何度も殴り続ける
  • 相手が甲羅の中に籠城し、その凄まじい硬さによって戦斧の刃にヒビが入っても、「直れ」と念じて武器を自己修復させる不思議な力を使いながら、延々と甲羅を叩き続ける

2. 仲間の危機に激怒し、一撃で討伐
日没近くに及ぶ長時間の消耗戦の末、ついにディアスが甲羅を割ると、アースドラゴンは慌てて口から巨大な火球を吐き出して反撃を始めた。その後の展開は以下の通りである。

  • ディアスは火球を回避しながら弱点である足を攻撃し優位に立つ
  • アースドラゴンが離れた場所で見守っていたアルナー(鬼人族の少女で婚約者)に狙いを定めた瞬間、事態が急変する
  • アルナーを狙われたことにディアスは激しい怒りを爆発させ、一気に甲羅へ駆け上がる
  • 割れた部分に全力を込めた一撃を叩き込んで討伐を果たした

3. 必殺技「戦斧竜甲断」の誕生
戦闘後の解体作業において、アースドラゴンの規格外に硬い甲羅を割ることは鬼人族の職人でも極めて困難であった。そこから新たな技が誕生することとなる。

  • ディアスは甲羅の隙間や衝撃が伝わりやすい弱点を見つけ出し、戦斧の一撃で巨大な甲羅を真っ二つに割る技を編み出す
  • この技は後に合流した元部下のクラウスによって「戦斧竜甲断」と名付けられる
  • 行商人の前でその威力を披露した際には、相手を腰を抜かして驚愕させるほどの圧倒的なインパクトを与えた

まとめ
このように、ディアスの魔物との戦闘は、戦術や駆け引きを全く用いない本能的な力技でありながら、仲間を守るための強大な爆発力と、そこから新たな戦技まで生み出してしまう桁外れのポテンシャルを秘めている。

ディアスの領地運営における家族の絆と仲間

主人公ディアスの領地運営の根幹には、彼自身の人柄と過去の経験から育まれた「家族の絆と仲間」という強いテーマが存在する。血の繋がりや種族の壁を越え、過酷な辺境の地で彼らがどのように絆を深めているのか、いくつかの視点から解説する。

1. 孤児としての過去と「親代わり」の経験

ディアスは10歳で両親を亡くした孤児であり、戦争へ行く前は他の孤児たちをまとめ、彼らの親代わりとして世話をしていた。自分の名前を捨てたい、あるいは覚えていないといった孤児たち10人ほどに、彼が名付け親となって名前を与えた経験も持っている。この過去があるからこそ、行き場を失った子どもや弱者に対して強い保護の意識を持ち、彼らを単なる「領民」としてではなく「家族」として迎え入れる素地があった。

2. 種族や境遇を越えた多様な「家族」の集結

ディアスの下には、彼の底抜けのお人好しさと「弱い者を守る」という信念に惹かれ、多様な仲間が集まっている。具体的な顔ぶれと絆の実態は以下の通りである。

  • 鬼人族のアルナー:初めは世話係であり半ば強制的な婚約者であったが、ディアスが仲間を守るためにアースドラゴンを討伐した姿に決定的に惹かれた。鬼人族や実家の縁以上に「ディアスの妻として歩んでいく」という強い覚悟と誓いを立てるようになる。
  • 元部下のクラウス:戦場でディアスの真っ直ぐな人柄を慕っていた彼は、王都の権力闘争を嫌って領兵隊長として志願した。ディアスから希少なドラゴン素材の武具を惜しみなく与えられたクラウスは、その期待に応えるべく、彼らと領民全てを死ぬ気で守り抜くと固く誓っている。
  • 賢い家畜メーア(フランシスとフランソワ):人間の言葉を完全に理解するメーアたちを、ディアスは「大事な家族」として愛情深く扱っている。妊娠したフランソワを安心させるためにユルトの中で共に寝起きするなど、家畜の枠を超えた絆を築いている。
  • 棄民の老婆たち:隣領から口減らしで追放されたマヤ婆さんたちを温かく迎え入れた。彼女たちもただ保護されるだけでなく「領地のために働きたい」と自らメーアの毛の加工を申し出るなど、互いに支え合う関係を築いている。

3. 孤児の双子(セナイとアイハン)を包み込む温かな絆

「家族の絆」を最も象徴するのが、行商人から引き取られた孤児の双子、セナイとアイハンとの関係である。

  • 彼女たちは故郷で「災厄の子」として迫害され、両親を病で失い、心を閉ざして無表情のまま言葉を発しなかった。
  • ディアスが根気強く語りかけ、「名前がないなら私が名付け親になってやる」と言ったことで、両親からもらった名前を失いたくないという思いから殻を破り、自らの名前を明かす。
  • アルナーが彼女たちの名前が古い言葉で「月のように綺麗な人(セナイ)」「聖なる月(アイハン)」を意味することを教え、月を象徴する宝石のペンダントを作って贈った。
  • 両親の愛情の証である名前の意味を知り、涙を流す双子をディアスとアルナーが優しく抱きしめ、さらにフランシスやフランソワが柔らかな毛で彼女たちを包み込んで慰めた。

その後、夜泣きや癇癪といった騒動を乗り越えながら、双子は徐々に心を開き、村の誰もが彼女たちを我が娘のように愛する本物の家族となっていった。

まとめ

このように、ディアスの築く「イルク村」は、人間、鬼人族、家畜、さらには未知の亜人(双子)までが入り混じる共同体である。金や権力による支配ではなく、互いの過去や傷を受け入れ、思いやりと対話によって結びついた彼らの関係性は、強固で温かい「家族の絆」そのものと言える。

領民0人まとめ
領民0人2巻レビュー

登場キャラクター

イルク村

ディアス(ディアス・ネッツロース)

本作の主人公であり、両親の遺言に従って弱い者を守ることを信条としている。奴隷制度を嫌悪し、孤児の親代わりをしていた過去を持つ。アルナーの婚約者となる。

・所属組織、地位や役職
 ネッツロース草原の領主。元志願兵。
・物語内での具体的な行動や成果
 20年間戦場で戦い続け、救国の英雄と呼ばれるようになる。王から領地を与えられ、ネッツロース草原に赴く。マタビの粉末を使って大量の黒ギーを狩る。アースドラゴンを戦斧で討伐し、戦斧竜甲断という技を編み出す。孤児の双子を家族として迎え入れる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王から領主を命じられ、ディアス・ネッツロースと名乗るようになる。獅子の顔の意匠を持つ頑丈な戦斧を愛用している。鬼人族から信頼を得て、生活基盤を築く。

クラウス

ディアスの元部下であり、ディアスを慕って領兵として志願する。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の領兵隊長。元王国兵。
・物語内での具体的な行動や成果
 王都の案内役兼護衛としてディアスのもとを訪れる。後に兵士を辞め、ディアスの下で働くために再び草原へやってくる。ディアスからドラゴン素材の武具を与えられる。槍、剣、弓の訓練や走り込みを欠かさず行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ディアスの誘いを受け、イルク村の領兵隊長に就任する。

マヤ婆さん

隣領から追放された棄民の老婆たちのまとめ役であり、占いを特技とする。奴隷制度を嫌っている。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
 占いの結果に従って草原を歩き続け、ディアスたちと出会う。イルク村でメーアの毛の加工仕事に取り組む。双子が人間族ではない可能性に気づき、ディアスに注意を促す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 年齢は90歳である。

セナイ

行商人ペイジンから引き取られた双子の孤児の一人であり、アイハンの姉妹である。フランシスやフランソワに懐いている。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の領民。ディアスの家族。
・物語内での具体的な行動や成果
 故郷で災厄の子として処刑されかけ、両親とともに逃亡する。ディアスの問いかけに応じ、自らの名前を明かす。アルナーから月のように綺麗な人という意味だと教えられ、ペンダントを贈られる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 耳が外に向かって尖っており、横に長い特徴を持つ。

アイハン

行商人ペイジンから引き取られた双子の孤児の一人であり、セナイの姉妹である。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の領民。ディアスの家族。
・物語内での具体的な行動や成果
 故郷で処刑されかけ、両親を失う。ディアスに自らの名前を明かす。アルナーから聖なる月という意味だと教えられ、宝石のペンダントを貰う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 耳が外に向かって尖っており、横に長い特徴を持つ。

フランシス

ディアスが鬼人族から譲り受けたオスのメーアであり、ディアスを群れの長として認めている。

・所属組織、地位や役職
 イルク村で飼育される家畜。ディアスの家族。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアスの側に張り付いて眠る。新参者のクラウスに体を擦り寄せ、群れの中での立場を教える。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 人間の言葉を完全に理解する賢さを持つ。

フランソワ

ディアスが鬼人族から譲り受けたメスのメーアであり、フランシスの番である。

・所属組織、地位や役職
 イルク村で飼育される家畜。ディアスの家族。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアスの側に寄り添って眠る。ディアスが少しその場を離れただけで涙を流すほど懐いている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 妊娠中である。人間の言葉を完全に理解する。

老婆たち

隣領カスデクスから追放された棄民である。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアスに助けられ、薬湯を飲んで顔色を回復させる。集会所でメーアの毛を洗ったり解したり、糸を紡いだりして働く。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 全員が70歳以上である。マヤ婆さんを含めて12人いる。

鬼人族

アルナー

鬼人族の少女であり、ディアスの妻となる覚悟を決める。セナイとアイハンの親代わりとして接する。

・所属組織、地位や役職
 鬼人族。ディアスの世話係であり、婚約者。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアスを魂鑑定し、青の光を確認して信用する。ディアスにマタビの粉末を渡し、狩りを促す。隠蔽魔法や生命感知魔法などの魔法を操り、ディアスを支援する。ディアスのために独自の生命感知魔法を草原に仕掛ける。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 額に青く輝く角を持つ。年齢は15歳である。

モール

鬼人族の長であり、ディアスの人柄を評価して協力関係を築く。

・所属組織、地位や役職
 鬼人族の族長。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアスが青であることから彼を信用し、ユルトや食料、メーアを提供する。ディアスがアースドラゴンを討伐したことを受け、アルナーとの結婚を強制的に進める。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 50年前に王国との戦争で敗北し、草原に隠れ住むようになった。額の角に魔力を蓄えて隠蔽魔法などを使う。

王国

王様

王国の統治者である。

・所属組織、地位や役職
 王国の最高権力者。
・物語内での具体的な行動や成果
 戦争で戦果を上げたディアスを褒めそやし、領地を与える。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ディアスが領主となる原因を作った人物である。

ディアーネ

王都からディアスのもとを訪れた騎士である。

・所属組織、地位や役職
 王国の騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアスに派兵と助力を請うため、草原を訪れる。報酬として自身や同行者との婚姻、領地の拡大を提示する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 アルナーの魂鑑定で赤と判定される。

プリネシア

ディアーネに同行してディアスのもとを訪れた騎士である。

・所属組織、地位や役職
 王国の騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアーネの背後に控え、ディアスとの婚姻の報酬として名が挙げられる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 アルナーの魂鑑定で赤と判定される。

ミラルダ

ディアーネに同行してディアスのもとを訪れた騎士である。

・所属組織、地位や役職
 王国の騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
 プリネシアとともにディアーネの背後に控え、婚姻の報酬として名が挙げられる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 アルナーの魂鑑定で赤と判定される。

カスデクス領

エルダン・カスデクス

カスデクス領の現領主を名乗る人物であり、人間と亜人が幸せに暮らせる世の中を作りたいという夢を持つ。ディアスに憧れを抱いている。

・所属組織、地位や役職
 カスデクス領の自称領主。カスデクス家次男。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアスに会うため、ベッド型馬車でイルク村を訪れる。隠蔽魔法で隠れていたアルナーの存在に気づく。興奮して象人族の力を暴走させる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 人間と象人族の間に生まれた半亜人である。アルナーの魂鑑定で強い青と判定される。

カマロッツ

エルダンに長年仕える従者であり、エルダンを深く敬愛している。

・所属組織、地位や役職
 カスデクス家の従者。
・物語内での具体的な行動や成果
 エルダンの先触れとしてディアスの前に現れる。エルダンの生い立ちや半亜人であること、内乱の真相をディアスに説明する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 アルナーの魂鑑定で白と判定される。

エンカース・カスデクス

カスデクス領の元領主であり、亜人奴隷推進派である。

・所属組織、地位や役職
 カスデクス領の元領主。
・物語内での具体的な行動や成果
 自分に似た長男ジャーニを嫌い、美男子であるエルダンを嫡男として優遇する。エルダンの真の目的を知り、エルダンと亜人たちを皆殺しにすると宣言する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 内乱の末にエルダンたちに討ち取られる。

ジャーニ・カスデクス

エンカースの長男である。

・所属組織、地位や役職
 カスデクス家長男。
・物語内での具体的な行動や成果
 エンカースに似て醜悪であり、エルダンを憎悪して嫌がらせを繰り返す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 内乱の末に討ち取られる。

ジャニア

エンカースの妻である。

・所属組織、地位や役職
 カスデクス家の妻室。
・物語内での具体的な行動や成果
 エルダンを憎み、妨害や嫌がらせを行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 内乱の末に敗北する。

ネハ

エルダンの母親である。

・所属組織、地位や役職
 エンカースの奴隷。象人族。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアスの武勇伝を耳にし、エルダンにディアスのような立派な大人になるよう言い聞かせて育てる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 エルダンの活動の原動力となる。

行商人一行

ペイジン・ド

フロッグマンの行商人であり、ディアスを上客と見なす。

・所属組織、地位や役職
 行商人。
・物語内での具体的な行動や成果
 イルク村を訪れ、ディアスが討伐したアースドラゴンの素材を買い取る。両親から託された双子の孤児をディアスに引き渡す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 カエルの頭部を持つ緑の肌の亜人である。

その他

ディアスの父

ディアスの父親である。

・所属組織、地位や役職
 記載なし。
・物語内での具体的な行動や成果
 弱い者を守れる男になれという遺言をディアスに残す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ディアスが10歳の時に流行り病で死亡している。

ディアスの母

ディアスの母親である。

・所属組織、地位や役職
 記載なし。
・物語内での具体的な行動や成果
 人の役に立つ仕事をするようにという遺言をディアスに残す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ディアスが10歳の時に流行り病で死亡している。

なんたらショーグン

隣国の軍人である。

・所属組織、地位や役職
 隣国兵。
・物語内での具体的な行動や成果
 戦場でディアスに倒される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 所持していた獅子の顔の意匠を持つ頑丈な戦斧をディアスに奪われる。

ジャン

盗賊の一員である。

・所属組織、地位や役職
 盗賊。
・物語内での具体的な行動や成果
 夜襲の際、アルナーの矢を受けて負傷する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

ライル

盗賊の一員である。

・所属組織、地位や役職
 盗賊。
・物語内での具体的な行動や成果
 夜襲の際、アルナーの放った矢で射られる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

領民0人まとめ
領民0人2巻レビュー

展開まとめ

プロローグ

両親の遺言に従って生きたディアス

ディアスは、母から人の役に立つ仕事をするように、父から弱い者を守れる男になれと言い聞かされて育った。十歳の時に両親を流行り病で亡くした後、二十五年間その遺言に恥じないよう必死に生きてきたのである。

孤児達と共に生活を支えた日々

ディアスは、自分と同じように流行り病で親を失った孤児達をまとめ、街の清掃や農作業の手伝いで日銭や食料を得ていた。時には街の近くに現れたモンスターを狩り、報奨金を生活の糧にしていた。

戦争への志願と二十年の戦い

十五歳になった年、隣国との戦争が始まり、ディアスの国は敗北を重ねた。やがて敵兵が街の近くまで迫り、略奪行為を始めたため、ディアスは両親の遺言を守り皆を守るために志願兵となった。その後、二十年間戦い続けたのである。

救国の英雄と呼ばれる戸惑い

三十五歳になった冬の終わり、隣国との交渉が有利に終わり、終戦宣言が出された。ディアスは自覚のないまま大きな戦果を上げていたため、救国の英雄と呼ばれるようになった。一緒に戦った仲間や騎士、街の人々、国の高官、さらに王からも褒められ、戸惑い続けたのである。

領地を与えられ王都を離れる

王はディアスを称え、領地を与えると言い出した。ディアスは領地を持つ意味をよく理解していなかったが、領民を守り、領民から金を集めて王に渡せばよいと説明された。そして準備もできないまま役人達に馬車へ押し込まれ、王都を離れることになった。

草原だけの領地への到着

一ヶ月にわたる窮屈な移動の末、ディアスは目的地へ到着した。役人が示した領地は、見渡す限り草原だけの場所だった。想像とあまりに違う光景にディアスが呆然とする中、役人は孤児の成り上がり者に似合いの領地だと嘲り、草原の名がネッツロースであることから、今日からディアス・ネッツロースだと言い残した。

何もない領主生活の始まり

役人達が去ると、草原にはディアス一人だけが残された。領民も家も見当たらず、食料もなかった。ディアスが持っていたのは戦場で使っていた戦斧、麻布の服、ボロボロのブーツ、傷だらけの鉄鎧だけであった。こうして、領民も家も食料もない、ただ広いだけの草原での領主生活が始まったのである。

春の日の草原で

草原での生存を目指すディアス

ディアスは、まず水と食料を確保し、住む場所を見つけなければならないと考えた。野垂れ死にを避けることを最優先とし、水場や食料になりそうな生き物、さらに洞窟や木陰のような休める場所を探すために草原を歩き始めた。

小川の発見と草原の現実

歩き始めてすぐに、ディアスは澄んだ小川を発見した。戦争中に泥水を飲み続けてきた彼にとって、綺麗な水はそれだけで大きな喜びだった。しかし周囲には食料になりそうな生き物は見当たらず、さらに探索を続けた結果、この領地には草しか存在しないことを思い知らされる。洞窟どころか木一本すら見つからず、住居を作る手段もなかった。

逃亡も視野に入れた夜

日が暮れた後、ディアスは小川の側へ戻り、草原へ寝転がって休息を取った。草を利用できないか試してみたものの、味は酷く、加工にも向かなかった。何も改善しない状況の中、ディアスは二日ほど粘って駄目なら近くの村へ移動し、人の役に立つ仕事を探して生きていこうと考えた。その決意によって少し心が軽くなり、草の匂いに包まれながら眠りへ落ちていった。

角を持つ女性との遭遇

翌朝、ディアスは何者かの声で起こされた。さらに背中を蹴飛ばされて飛び起きた彼の前には、額に青く輝く角を持つ女性が立っていた。女性は炎を思わせる化粧と露出の多い服装をしており、強い警戒心を隠さずディアスへ質問を投げかけた。

ディアスへの尋問

女性は、なぜこんな場所で寝ていたのか、この草原で何をするつもりなのかを厳しく問い詰めた。ディアスは、自分がここへ連れて来られ、住むよう命じられたこと、生き延びるために水や住処や食料を探していたことを素直に説明した。さらに、父母の遺言を守り、人の役に立ち、弱い者を守りたいと語った。

敵か味方かという問い

女性はさらに、ディアスへ敵か味方かを即答するよう迫った。ディアスは困惑しながらも、自分の領地にいる以上、目の前の女性は領民なのだと考え至った。そして領主の役目は領民を守ることだと思い出し、彼女の目を見据えながら、自分は彼女の味方であり、どんな敵からでも守ると断言したのである。

村への案内

ディアスの言葉を聞いた女性は驚き、額の角を強く青く輝かせた。その後、女性は混乱しながらもディアスの腕を掴み、自分の村へ連れて行くと言い出した。ディアスは草原に村が存在していたことへ驚きながら、彼女に手を引かれるまま歩き続け、やがて白い布製の家々が並ぶ不思議な村へ辿り着いたのである。

布製の家だらけの不思議な村で

鬼人族の村への案内

アルナーはディアスを村へ連れ込み、族長に会わせると言った。ディアスは案内に従い、角を持つ村人達の視線を浴びながら、村の中央にある大きな家へ案内された。家の内部は豪華で美しく、天井や家具、絨毯には精巧な装飾が施されており、ディアスは王宮以上かもしれないと感じるほど驚かされた。

族長モールとの対話

家の奥には、布に埋もれるように座る老婆がいた。彼女はモールと名乗り、鬼人族の長であることが後に明かされる。アルナーは、ディアスを草原で発見し尋問した経緯と、彼が「青」であったことを報告した。モールはその報告へ興味を示し、ディアスへ名前を尋ねた。

領民だと思っていた鬼人族

モールは、自分達の味方になれるのかをディアスへ確認した。ディアスは、この村に住む者達は領民なのだと思い込んでいたため、当然のように全員の味方になると答えた。さらに、それは領主としての仕事だからだと説明し、その仕事は王から命じられたものだと語った。

王国の敵である鬼人族

王という言葉を聞いた瞬間、場の空気は緊張したものへ変わった。モールはディアスへ人生の経緯を最初から語らせ、その内容を聞いた上で、彼が本気で領民を守ろうとしていることを理解した。その後モールは、自分達はディアスの領民ではなく、長年王国と争ってきた敵であると明かした。ディアスは、自分が敵地の中心で武器も持たず孤立している事実に大きな衝撃を受けた。

鬼人族と草原の歴史

モールは、鬼人族が五十年前の戦争で敗北し、多くの仲間を失いながら草原から逃げた過去を語った。しかし鬼人族は数ヶ月後に草原へ戻り、以後は隠蔽魔法を使いながら王国から身を隠して暮らしてきたという。額の角には魔力を蓄える力があり、その魔力によって魔法を扱えるのだと説明した。

魂鑑定と「青」の意味

モールはさらに、鬼人族には魂鑑定という魔法があり、相手の危険性や敵意を角の光で見極められると明かした。赤は危険や敵意を示し、白は敵意無し、そして青は鬼人族へ幸福や恵みをもたらす相手を意味していた。ディアスは一度も赤へ変化せず、強い青を示し続けていたため、モールは彼を信用したのである。

鬼人族との共存提案

モールは、ディアスが王国貴族と縁が薄く、鬼人族へ敵意も持っていないことから、彼の存在は鬼人族にとって幸運だと語った。ディアスは鬼人族が草原へ住み続けることを自由にして構わないと答えたが、モールはその無欲さを呆れながらも評価した。そして鬼人族の存在を王国へ漏らさないこと、立派な領主になることを条件に、住居や食料、家畜を提供すると提案した。

前領主の存在

会話の中で、モールは以前にもこの地に領主がいたことを語った。その前領主は別の場所に家を持ちながら草原へ時折現れており、鬼人族にとって非常に不快な存在だったらしい。最近病死したと聞かされたディアスは、詳しい事情には踏み込まないことにした。

アルナーとの共同生活の決定

モールは、ディアスへ川の近くに家を用意し、着替えや生活用品、一週間分の干し肉、さらに家畜のメーアを与えると決めた。そして草原での暮らしに慣れるまで、アルナーを世話係として同行させ、一緒に暮らさせることも決定した。アルナーは強く反発しかけたが、モールに押し切られて受け入れるしかなかった。こうしてディアスは、住居と食料を得て草原での生活基盤を整えることに成功したのである。

小川の側で

ユルト建設の開始

モールとの話し合いを終えた後、ディアスはアルナーと共に草原へ戻った。そこでは鬼人族の男達が、布製の住居であるユルトの建設を始めていた。作業は驚くほど手際良く進み、草を刈り取った地面へ床布が敷かれ、壁の骨組みや柱付きの天窓が組み上げられていった。最後に白い外布が被せられ、短時間で家の形が完成したのである。

遊牧生活に適したユルト

ディアスが建設速度へ驚くと、アルナーはユルトが組み立てやすく、解体しやすく、持ち運びにも適していることを説明した。鬼人族は隠蔽魔法でも逃げ切れない危機が迫れば、ユルトごと村を移動させるため、そのような構造になっているのだという。

アルナーによる生活指導

世話係となったアルナーは、草原で生きるための知識をディアスへ教えていった。病気を防ぐため毎日水浴びをすること、髭や爪を清潔に保つこと、服を毎日洗うことなど、細かな衛生管理を徹底するよう言い聞かせた。さらに家畜であるメーアについても熱心に説明した。

メーアという家畜

メーアは白い体毛と巻いた角を持つ家畜であり、鬼人族の生活を支える重要な存在だった。肉ではなく毛を利用するために飼育されており、その毛は耐久性と耐水性に優れていた。加工された布はユルトや衣類、寝具に使われるだけでなく、行商人との交易品にもなっていた。

メーアを利用した生活設計

ディアスは、メーアの毛を鬼人族へ持ち込めば食料や生活用品と交換できることを知り、繁殖によって数を増やそうと考えた。さらに野生のメーアを捕獲できると聞き、見つけた際は全力で捕まえようと決意した。生活を豊かにし、鬼人族の期待に応えるためにも、メーアを増やすことが重要だと考えたのである。

領民不足への苦悩

その一方で、ディアスは領民が一人もいない現状を思い出した。領民を増やさなければならないと考え、アルナーへ方法を尋ねたが、人間はメーアのようにはいかないと呆れられる。野生の領民など存在するはずもなく、ディアスは領民をどう集めれば良いのか全く分からなかった。

生活基盤不足への指摘

アルナーは、仮に領民を集めたとしても、今の状況では家も食料も足りず、待っているのは餓死や病死だと指摘した。その言葉でディアスは、領民集め以前に、まず住居と食料の確保を優先すべきだと気付かされる。

狩りという活路

頭を悩ませ続けるディアスへ、アルナーはマタビという粉末を渡した。それは獣を引き寄せる香りを持つ草の粉であり、獣を狩れば肉や毛皮、角を得られると説明した。さらに、それらを鬼人族の村へ持ち込めば、ユルトとの交換も可能だと教えた。

狩人としての再出発

ディアスはその提案へ大きく喜び、狩りなら得意だと即座に行動を決めた。アルナーへユルトとメーアの世話を任せ、自身は戦斧を担いで風下へ駆け出していく。体を動かすうちに頭の熱も冷め、領民集めの方法もそのうち思いつくかもしれないと前向きな気持ちを取り戻していったのである。

見渡す限りの草原で

マタビの粉末を使った獣寄せ

ディアスは十分に距離を取った後、アルナーから渡されたマタビの粉末を使うことにした。量を聞いていなかったため、彼は革袋ごと空へ放り投げ、粉末を風に乗せて広範囲へ散らした。一部は自分の頭に降りかかったが、遠くまで香りを届けるという狙いは成功したのである。

大量の獣の出現

ディアスが獣を待っていると、風下から激しい足音が響き始めた。現れたのは、黒い毛皮と大きな二本角を持つ牛のような獣の大群だった。想像を超える数に驚きながらも、ディアスはこれだけ狩れれば目標数を達成できるかもしれないと考え、戦斧を構えた。

戦斧による力任せの戦い

獣達が一直線に突進してくる中、ディアスは戦斧を振り上げ、振り下ろす動作を繰り返して命を絶っていった。彼の戦い方は、技術や駆け引きではなく、本能のまま力任せに戦斧を振り回すものだった。

ディアスの戦い方と戦斧への適性

ディアスはかつて訓練で剣や槍や弓を教わったが、どれも性に合わなかった。急所を狙う、鎧の隙間を突く、相手の動きを読むといった複雑な戦い方は苦手であり、盾や鎧ごと相手を粉砕できる戦斧こそが自分に合う武器だったのである。

不思議な戦斧との出会い

戦斧による戦いには、乱暴に扱いすぎて武器が壊れるという欠点があった。しかしディアスは、隣国兵のなんたらショーグンと名乗る男を倒した際に、獅子の顔の意匠を持つ頑丈な戦斧を手に入れた。その戦斧は異常なほど壊れにくく、刃欠けすら自然に直る不思議な力を持っていた。

獣の群れの半数を討つ

ディアスは考え事をしながらも戦斧を振るい続け、獣の群れの半数ほどを狩り終えた。残った獣達は周囲の惨状に萎縮し、ディアスが戦闘態勢を解くと一斉に逃げ出した。彼は逃げる獣を追わず、そのまま見送った。

獲物を運ぶ問題

大量の獣を狩ることには成功したが、ディアスはそれらを鬼人族の村まで運ぶ手段がないことに気付いた。一人で何度も往復して運ぶのは現実的ではなく、考えても解決策は浮かばなかった。そこで彼はアルナーに相談することにし、狩りの成果を示すため一匹だけ背負って戻ることにした。

出来上がったユルトの側で

黒ギーを背負った帰還

ディアスは、運ぶ手段を考えずに大量の獣を狩ったことで、アルナーにまた馬鹿領主と言われるのではないかと不安を抱きながら戻った。完成したユルトと建設中の飼育小屋が見えると、アルナーは黒ギーを背負うディアスに気付き、意外にも嬉しそうに駆け寄ってきた。

アルナーの称賛

アルナーは、初めての狩りで黒ギーを狩ったディアスを褒めた。ディアスが一匹だけでなく、群れの半分ほどを狩ったと説明すると、アルナーはその数に驚き、いきなり大きな男気を見せたと機嫌を良くした。

モールの反応

そこへモールが二頭のメーアを連れて現れた。モールも黒ギーを見てディアスを称賛し、三十から四十もの黒ギーを狩ったと知ると、初日から見事な男気を見せたと喜んだ。アルナーは日が沈む前に獲物を回収するため、村の男達を呼びに走った。

男気の意味

ディアスは、アルナーとモールが繰り返す男気という言葉の意味に戸惑った。モールは、男気とは働き者であることや甲斐性を含めた男の価値であると説明した。鬼人族の女性にとって、男気は相手を評価する最重要の基準だったのである。

鬼人族の価値観

モールは、顔の良さや話の合うことよりも、男気こそが重要だと語った。男気のない男と結婚すれば、自分だけでなく子供まで飢えるため、女にとって男気が全てなのだという。ディアスは、種族や生活環境の違いによって価値観が大きく異なることを理解した。

結納と結婚観

モールは、アルナーと結婚したいなら黒ギー三十頭か若いメーア二十頭ほどが妥当だと話した。ディアスは人身売買のように感じて驚いたが、モールはそれを結納だと説明した。鬼人族では十分な結納品を納めることが男気の証明となり、結婚成立の大きな条件になるのである。

増えた悩み

ディアスは、今考えるべきは領民を集めることであり、結婚は後回しだと考えた。しかしモールは、角有りと角無しの間にも子供はできると話を進め、結婚生活や子育てについて語り始めた。ディアスは鬼人族との価値観の違いと、アルナーの態度の変化という新たな悩みに頭を痛めたのである。

翌日の朝、ユルトの中で

朝の目覚めと前日の整理

ディアスは香ばしい匂いと空腹で目を覚ました。ユルトの中でメーアの布と毛を使った柔らかな寝床に寝かされており、前日の出来事を思い返した。アルナー達が黒ギーを回収し、モールからメーアの世話を教わり、フランシスとフランソワと名付けた後、アルナーの煮物を食べすぎて眠ってしまったのだと理解した。

アルナーの朝食と草原の衛生知識

アルナーは竈で朝食を作っていた。草原では病を防ぐため、朝に体を温める薬草を食べることが重要であり、アルナーは前日の煮物に薬草を足していた。完成した煮物は香りと辛味が加わっており、ディアスは昨日より美味いと褒めた。アルナーはその言葉に頬を赤くし、嬉しそうな態度を見せた。

次に必要な生活基盤

ディアスは昨日の狩りで十分な物資が得られたと考えていたが、アルナーはまだ足りないと指摘した。人を集めるには井戸と厠が必要であり、川の水や糞尿は病の原因になり得るため、職人に作らせる対価が必要だった。そのため、さらに狩りを続ける必要があった。

モンスター狩りの提案

アルナーは、黒ギーばかりでは村も困るため、次はモンスターを狩るべきだと提案した。モンスターは食用には向かないが、外皮や爪、角、魔石などが生活に役立つ素材になる存在だった。ディアスは草原で少数のモンスターを探すのは難しいと考えたが、アルナーは魔物を探す魔法が使えるため、自分と一緒ならすぐに見つけられると語った。

アルナーの積極的な同行

アルナーは、村の男衆が物資を運びに来るため、その間はメーアの世話を任せられると説明した。そして、ディアスと二人で狩りに行くことを楽しみにしている様子を見せた。ディアスはアルナーの態度の変化に不安を覚えながらも、同行を了承した。

身支度と男衆の到着

食後、アルナーはディアスに歯磨き用のブラシと髭剃り用の小刀を渡し、川で身支度をするよう促した。ディアスが川で髭剃りに苦戦していると、鬼人族の男衆がユルトの建材や食料を運んでやって来た。

化粧を変えたアルナー

ユルトから出てきたアルナーは、これまでの炎を思わせる赤い化粧を落とし、瞼に青紅、唇に赤紅を差していた。男衆はその姿に歓声を上げ、ディアスも驚いた。アルナーはディアスが化粧の変化に気付いたことを喜び、満足げな笑顔を見せた。

嫉妬を受けながらの出発

アルナーは男衆にメーアの世話を頼み、一度頷かせた後で断らせなかった。男衆はアルナーの変化とディアスへの態度に嫉妬の視線を向けた。ディアスは余計な騒ぎを避けるため、急いで髭剃りを済ませ、鉄鎧と戦斧を整えた。そして弓と矢筒を身に着けたアルナーと共に、嫉妬に燃える男衆の側を離れて狩りへ向かった。

草原を北に向かいながら

モンスター出現地帯への出発

ディアスとアルナーは、草原北部にあるモンスター出現地帯へ向かった。そこは近くにダンジョンでも存在するのか、頻繁にモンスターが現れる場所らしく、何匹か狩って素材を持ち帰れば、井戸と厠の対価には十分になるとアルナーは説明した。

アルナーの期待とディアスの返答

道中、アルナーは自分が家事だけでなく魔法も得意だと誇らしげに語った。そして期待するような目でディアスを見つめたため、ディアスは少し迷いながらも素直に凄いと褒めた。その言葉を受けたアルナーは満面の笑みを浮かべ、さらに上機嫌になっていった。

荒野のような北部地帯

やがて二人は北部へ到着した。そこは巨大な岩山から吹く冷たい風の影響で草が育ちにくく、草原というより荒野に近い景色となっていた。低い草と剥き出しの土、転がる岩が広がるその光景を見て、ディアスはいかにもモンスターが居そうな場所だと感じた。

アルナーの探索魔法

二人で周囲を探してもモンスターは見つからなかったため、アルナーは魔法を使うことにした。呪文を唱え始めると、アルナーの角が白く輝き、その光が周囲へ広がっていく。さらに髪に編み込まれた宝石も宙へ浮かび、白い光を放ちながら漂い始めた。

赤い光が示した巨大な存在

しばらくすると、白い光の一部が赤く染まり、一方向へ集約されて槍のような形を作った。アルナーはその光を通じて、北の岩山の麓に巨大なモンスターを見つけたと告げた。他のモンスターが見当たらないのは、その存在が原因かもしれないとも推測した。

共に危険へ向かう決意

ディアスは危険ならまず自分一人で様子を見るべきだと提案した。しかしアルナーは、自分には隠蔽魔法があり、危険なら二人で隠れて逃げられると主張した。ディアスはその言葉でアルナーの力を思い出し、危険が少ないならと同行を認めた。そうして二人は、巨大なモンスターが潜む岩山の麓へ向かって歩き始めたのである。

岩山の麓で

巨大な亀型モンスターとの遭遇

岩山の麓にいたモンスターは、遠目にも分かるほど巨大だった。長い首と四本足、巨大な甲羅を持つその姿は、ディアスには巨大な亀にしか見えなかった。しかしアルナーは顔色を変え、それがアースドラゴンだと告げた。

甲羅への初撃

アルナーが恐怖を露わにする中、ディアスはまず一発殴ってみると言い、戦斧を構えてアースドラゴンへ突進した。相手は余裕を見せて回避も迎撃もせず、甲羅への攻撃を受け止めた。しかし戦斧から伝わる衝撃は凄まじく、甲羅には傷一つ付かず、逆に戦斧の刃へヒビが入ってしまった。

籠城するアースドラゴン

ディアスは首を狙おうとしたが、アースドラゴンは首と足を甲羅へ引っ込め、さらに甲羅の一部を動かして穴まで塞いだ。攻め手を失ったディアスは、それでも逃げるのは悔しいと考え、甲羅へよじ登ってひたすら戦斧を叩き込み続けることを決めた。

修復する戦斧

何度攻撃しても甲羅は砕けず、戦斧だけが傷ついていった。しかしディアスの戦斧には自己修復の力があり、彼が直れと念を込めると、戦斧は光を放ちながら修復された。その光景を見たアルナーは驚愕し、言葉を失った。

長時間に及ぶ消耗戦

ディアスは修復した戦斧で再び甲羅を叩き続け、アースドラゴンも甲羅へ籠城し続けた。互いに戦法を変えないまま時間だけが過ぎ、やがて空は夕焼けに染まり始めた。ディアスは最後の一撃にしようと決め、全力で戦斧を振り下ろした。

甲羅の破壊と火球攻撃

最後の一撃で、ついに甲羅へ亀裂が走った。ディアスが追撃しようとすると、アースドラゴンは慌てて頭と足を出し、口から巨大な火球を吐き出した。ディアスは甲羅から飛び降りて回避しながら、反撃として足を斬りつけ、アースドラゴンへ傷を負わせた。

弱点を突く戦い

甲羅に亀裂が入ったことで、ディアスは首や足への攻撃を成功させるようになった。アースドラゴンは混乱し、まともに戦えなくなっていく。火球攻撃も放っていたが狙いは定まらず、ディアスはこのまま押し切れると確信した。

アルナーを狙った瞬間

しかしアースドラゴンは、離れた場所で戦いを見守るアルナーの存在に気付いた。そして次はアルナーを狙うとでも言うような視線を向けた。その瞬間、ディアスの中で激しい感情が沸き上がり、彼は一気に甲羅へ駆け上がって、割れた部分へ全力の一撃を叩き込んだ。

アースドラゴン討伐

甲羅を失った急所への攻撃を受け、アースドラゴンは一度体を震わせた後、そのまま動かなくなった。こうして長い戦いは終わりを迎えたのである。ディアスは、もし最初から火球を連発されていたなら苦戦していたかもしれないと考えつつ、モンスターの慢心を不思議に感じていた。

興奮するアルナー

戦いが終わると、アルナーは顔を真っ赤にし、涙を浮かべながら駆け寄ってきた。そして興奮のあまり支離滅裂な言葉を叫び続け、ついには今ここで結婚をなどと言い出した。ディアスが落ち着かせようとしても、アルナーはドラゴン素材だけで結納品として十分だとさらに興奮し続けた。結局、その興奮は男衆が様子を見に来るまで収まらなかったのである。

翌朝、鬼人族の村で

アースドラゴンの運搬

アースドラゴンを鬼人族の村まで運ぶ作業は、想像を絶する重労働だった。巨大な死体はあまりにも重く、男衆だけでは手が足りず、村中の男達が総出となり、さらに馬の力まで借りてようやく運搬が行われた。それでも時間はかかり、村へ辿り着いた頃には夜が明けていた。

村中を包んだ歓声

アースドラゴンを目にした鬼人族達は大歓声を上げた。モールを始めとした女衆も到着を待ち構えており、ドラゴンだと叫びながら男衆と女衆が協力して解体作業を始めた。素材への期待と興奮に満ちたその光景を、ディアスはぼんやりと眺めていた。

ドラゴン素材の価値

モールは、ドラゴンの足一本だけでも大量の井戸や厠を作れるほど価値があると説明した。ディアスがあれは本当にドラゴンなのかと疑問を口にすると、モールは牙や火球を吐く性質を挙げ、亀ではなくドラゴンであると断言した。

素材の分配と行商人との縁

モールは、鬼人族が受け取るのは素材の一部だけで十分だと語った。残りはディアスへ返却し、その一部を行商人へ見せれば、行商人がディアスへ興味を持つだろうと説明した。さらに井戸や厠、追加のユルト、倉庫用ユルト、食料や薬草まで用意すると申し出た。

結納話の再燃

しかしモールは、その流れでアルナーの結納についても話し始めた。ドラゴンの牙や爪一本で十分な結納になると語り、ディアスは慌てて抗議したが、モールはドラゴン殺しという男気を見せた以上、アルナーとの結婚は避けられないと断言した。

鬼人族の女性達の熱視線

モールは、もしアルナーと結婚しなければ、村中の独り身の女達がディアスへ群がるだろうと説明した。現在女達が大人しくしているのは、アルナーが唯一の嫁になると思っているからだという。その話を聞いたディアスは、周囲の女衆から向けられる熱い視線に気付き、完全に押し切られてしまった。

アルナーとの結婚決定

さらにアルナーは既に実家へ戻り、ディアスとの結婚話を進めていた。鬼人族には婚約という習慣もなく、結婚だけ済ませて後の関係は自由にすれば良いというのがモールの考えだった。こうしてディアスとアルナーの結婚は、半ば強制的に決定してしまったのである。

アルナーの年齢とディアスの戸惑い

ディアスは男衆へアルナーの年齢を尋ね、彼女が今年十五歳だと知って呆然とした。三十五歳の自分とは二十歳差であり、まるで父娘ではないかと困惑したのである。さらに王国法では結婚は十八歳からだったため、ディアスは少なくとも三年間は婚約状態のままにし、その間に領地を発展させ、自分も結婚に相応しい男になろうと決意した。

領民か家族かという疑問

結婚式や祭りの準備が進む中、ディアスは疲労を感じながらも乗り切ろうと気合を入れ直した。そしてふと、アルナーが家族になるなら領民でもあるのか、それとも婚約状態では違うのかと、新たな疑問を抱くのだった。

三週間と少しが過ぎた日の朝、ユルトの側に作られた井戸で―

井戸と新しい生活

ディアスは朝の陽射しの中、完成した井戸から水を汲み上げていた。最初は滑車や桶の扱いに失敗ばかりしていたが、今では慎重に作業できるようになっていた。身に着けている服はアルナーが作ってくれたものであり、王都の貴族のような格好にディアスは満足していた。

領民が増えない悩み

しかし井戸や厠が完成し、一ヶ月近くが経過しても、領地にはディアスとアルナー以外の人影がなかった。倉庫には大量のユルト資材が眠り、人を迎える準備だけが整っていた。アルナーは自分を領民だと言ってくれていたが、ディアスは彼女を領民というより家族だと感じていた。どう領民を増やせば良いのか、その答えは依然として見つからなかった。

メーアの妊娠

そんな中、アルナーが満面の笑みで駆け寄り、子供ができたと告げた。ディアスは喜びのあまり水桶を落としたが、すぐに相手がアルナーではなくメーアのフランソワだと気付いた。それでもディアスは大喜びし、フランソワとフランシスを撫で回して祝福した。

賢い家畜メーア

メーア達は非常に賢く、人間の言葉を理解していた。指示にも従い、自ら家畜になることを望むほど知性が高い生き物だった。ディアスは改めてその賢さへ感心していた。

妊娠したメーアへの配慮

アルナーは、妊娠したメーアは精神的負担に弱く、群れで最も強い者が側にいて安心させる必要があると説明した。ディアスは飼育小屋で寝る必要があるのだと考えたが、実際にはフランシスとフランソワをユルトへ迎え入れる必要があった。ディアスは家族なのだから構わないと即答し、アルナーはその優しさへさらに好意を深めた。

不穏な会話からの退避

その後、フランシス達は鳴き声でアルナーへ何かを伝え始めた。アルナーは頬を染めながら否定したり慌てたりしていたが、会話の内容は妙に不穏な方向へ進んでいった。ディアスはそれを察し、そっとその場を離れて水汲みへ向かった。

平穏な朝と突然の反応

朝食と後片付けを終えた後、ディアスは今日の予定を考えていた。領民集めは進まず、狩りも禁止されているため、アルナーの家事を手伝うかユルト組み立ての練習をするくらいしか思いつかなかった。そんな時、アルナーの角が突然緑色に輝き始めた。

接近する人間達

アルナーは、草原へ仕掛けていた魔法に何かが引っかかったと説明した。東から十人ほどの人間が馬を連れて近づいてきているらしく、恐らく王都方面からの来訪者だという。ディアスは即座に戦斧を握り、アルナーへ隠蔽魔法でユルトや井戸、メーア達を隠すよう頼んだ。

来訪者への警戒

ディアスは、もし客なら練習用ユルトで話を聞こうと考えた。一方で、盗賊など厄介な相手の可能性も警戒していた。不安そうに寄ってきたフランシスとフランソワを撫でながら、十人程度ならドラゴンより強いことはないと安心させ、ディアスは来訪者を迎え撃つために動き始めたのである。

ユルトを離れ、草原の東で

王都からの来訪者

ディアスは東から近づく一団を確認した。騎兵三人と歩兵四人、さらに馬を合わせた十人であり、歩兵達の鎧は王国兵のものだった。しかし騎兵の女達は豪華な装飾付きの鎧を身につけており、ディアスには実戦向きには見えなかった。

クラウスとの再会

歩兵の一人は、かつて戦場で共に戦ったクラウスだった。クラウスは王都からの案内役兼護衛として来ており、騎兵達がディアスへ用事を持っていると説明した。ディアスは一団を練習用ユルトへ案内したが、アルナーの隠蔽魔法によって本来の生活拠点は完全に隠されていた。

ディアーネ達の困惑

ユルトへ入った一行は、その質素さへ強い困惑を見せた。銀髪の女騎士ディアーネは、使用人も屋敷も存在しないことに驚き、職人を雇わなかったのかと尋ねた。しかしディアスは、支度金も報奨金も一切受け取っておらず、水も食料もない状態で草原へ放り出されたのだと説明した。

戦争への協力要請

沈黙の後、ディアーネは王都で新たな戦乱の気運が高まっていると明かし、救国の英雄であるディアスへ派兵と協力を求めた。報酬として、自分か同行する二人の女騎士との婚姻まで提示したのである。

戦争への拒絶

しかしディアスは、その提案を即座に拒否した。領民が一人もいない現状では派兵など不可能であり、さらにフランソワの妊娠中であるため、今は絶対に領地を離れられなかった。加えて、もう戦争だけで人生を終えたくないとも語り、自分より若く鍛えられた騎士達へ任せるべきだと断言した。

領地拡大にも興味を示さないディアス

ディアーネはなおも説得を続け、報酬として領地拡大も提案した。しかしディアスは、今の土地ですら持て余しているのに、これ以上土地を与えられても困るだけだと答えた。そして、たとえ金貨の山を積まれても戦争には参加しないと明言した。

一行の退去

ディアスは用事がそれだけなら帰ってくれと強く告げ、最後には戦斧を床へ叩きつけながら一喝した。クラウス達兵士は笑顔で一礼し、三人の女騎士達も顔色を変えながら慌ててユルトを後にした。ディアスは戦斧を構えたまま彼女達を見送り、一行はそのまま草原の向こうへ去っていった。

アルナーの報告

去った後、隠蔽魔法で近くに潜んでいたアルナーが姿を現した。アルナーは魂鑑定の結果を伝え、女騎士三人は全員が赤、つまり敵意や危険を持つ存在だったと説明した。一方で兵士の一人は強い青を示しており、ディアスはそれがクラウスだったのだろうと考えた。

家族としての絆

アルナーは、自分の魂鑑定は自分とディアスにとって危険な相手を示すものであり、自分達は既に家族だからこそ同じ基準で判定されるのだと語った。ディアスはその言葉を受け止めつつ、フランソワとフランシスを撫で、改めて家族として守っていこうと考えるのだった。

一週間が過ぎた日の、朝のユルトで

フランシス達との朝

ディアスは、左右に寄り添って眠るフランシスとフランソワの温もりで目を覚ました。二頭は用意された寝床ではなく、ディアスの側で眠ることを望んでおり、彼もそれを受け入れていた。起床後、ディアスは二頭の散歩と毛の手入れを行い、家族としての世話を続けていた。

再び東から近づく人影

朝食中、アルナーの角が緑に輝き、東から人間が一人近づいていることが分かった。前回フランソワを泣かせたこともあり、アルナーとフランシス達は隠蔽魔法で姿を消したまま同行することになった。ディアスは戦斧を手に取り、その人物を確認しに向かった。

クラウスの来訪

草原を進んだディアスは、迷いながら歩いていた人物がクラウスであることに気付いた。クラウスは以前の鎧を失い、質素な服と短い剣だけを身に着けていた。彼は王都へ戻った後、戦争に送られることを避けるため、あえて嫌われるように振る舞って兵士を辞めたのだと説明した。

クラウスの志願

クラウスは、ディアスの下で働きたいと真剣に申し出た。領兵として雇ってほしいという願いに、ディアスはすぐに応じそうになったが、アルナーの判断も必要だと考えた。アルナーは隠蔽魔法を解き、クラウスが青のままだったため問題ないと認めた。

家族の紹介

突然現れたアルナーとメーア達にクラウスは驚いた。ディアスはアルナーを婚約者、フランシスとフランソワを大事な家族だと紹介した。クラウスはアルナーの美しさや角、魔法に驚きつつも、ディアスの新しい生活を受け入れようとしていた。

クラウスへの説明

ディアスはユルトへ戻りながら、鬼人族との友好関係、ユルトや井戸、厠、食料を融通してもらっていること、メーアの賢さや毛の価値、フランソワの妊娠について説明した。同時に、クラウスがかつて捕虜の扱いを改善しようとしていたことや、その失敗に涙した過去もアルナー達へ語った。

フランシスの挨拶

ディアスの話を聞いたフランシスは、クラウスに体をすり寄せ、鳴き声を上げた。アルナーによれば、それは群れの新参者に立場を教える挨拶だった。フランシスは、自分は毛や子供によって群れへ貢献しているのだから、クラウスもディアスと群れのために働けと伝えていたのである。

新たな仲間の加入

クラウスはフランシスの態度に驚きながらも、その意味を受け止めた。フランシスは自慢げにしていたが、フランソワは少し呆れているようにも見えた。こうしてディアスの領地に、初めて家族以外の仲間としてクラウスが加わる流れが生まれたのである。

ユルトへと戻って

隠蔽魔法の解けた拠点

クラウスは、隠蔽魔法が解かれた本来の拠点の姿を見て呆然としていた。ユルトや井戸、厠などが整った光景は、以前訪れた時とはまるで別物だったのである。ディアスとアルナーは驚くクラウスを一旦放置し、まずは食事の片付けや身支度など、日々の生活に必要な作業を優先した。

クラウス用ユルトの建設

その後、ディアス達はクラウスが暮らすための新しいユルトを組み立て始めた。クラウス自身は練習用ユルトで十分だと申し出たが、そこには穴や傷が多く、ディアスは新しく建てるべきだと判断した。二人掛かりの作業は順調に進み、完成後には竈の使い方や天窓の開閉方法、生活上の注意なども教えられた。

昼食と装備の相談

昼になると、アルナーが用意した黒ギー肉の香草焼きを囲みながら、クラウス用の装備について話し合いが行われた。アルナーは、鬼人族の村では短剣や槍、弓などは作れるが、ディアスの鉄鎧のような物は難しいと説明した。

ドラゴン素材の利用

そこでディアスは、倉庫に眠っているドラゴン素材を使えないかと尋ねた。アルナーは、既に鬼人族達が牙や爪を利用した剣や槍、腱を利用した弓、さらに甲羅を使った盾などを作り始めていると答えた。ディアスは、それならクラウス用に胸当てや籠手、すね当てなども簡単な造りで良いから用意してほしいと頼んだ。

クラウスの動揺

ディアスとアルナーの会話を聞いたクラウスは、激しく動揺した。ドラゴン素材の武具を当然のように扱う会話に理解が追いつかず、顔色まで悪くなってしまったのである。ディアスは金の心配だと思い込み、隊長を任せる以上、装備は無償支給すると説明した。

アースドラゴン討伐の事実

しかしクラウスが驚いていたのは、ディアスが本当にドラゴンを倒していたことだった。ディアスは、アースドラゴンは空も飛ばず見た目も亀だったため、そこまで大層なものとは思っていなかったと語った。だがクラウスによれば、アースドラゴンは騎士団が攻城兵器まで持ち出してようやく倒せる存在だったのである。

領兵隊長としての決意

ディアスは、領地を守るためならドラゴン素材くらいいくらでも使うと告げた。その言葉を受けたクラウスは、ドラゴン装備に相応しい男になり、ディアス達やこれから増える領民全てを守ると誓った。そしてディアスを「ディアス様」、アルナーを「アルナー様」と呼び始め、正式に領兵隊長として仕える覚悟を示したのである。

10日後、ユルトの側の草原で クラウス

クラウスの訓練と決意

クラウスは草原で槍の訓練を繰り返していた。ディアスの下で働き始めて十日が経ち、槍だけでなく剣や弓、走り込み、さらにディアスとの手合わせまで行いながら、少しでも主君へ近づこうと必死に鍛錬を積んでいた。

荒れる王国情勢

王都では王位継承争いが激化していた。第一王子派から第三王女派まで貴族達が争い合い、そのせいで戦後処理や兵への報酬支払いは後回しにされていた。民も兵も荒れ、辺境では領主達が好き勝手に振る舞っていた。特に隣領カスデクスの悪評は酷く、クラウスは旅の途中でその実態を目にして嫌悪感を抱いていた。

ディアスへの忠誠

クラウスは、領主となっても変わらないディアスの優しさと真っ直ぐさに強く心を動かされていた。王都や貴族達のためではなく、この人のためなら命を懸けても良いと思うほどだった。そしてドラゴン素材の武具を与えられたことで、その期待に応えなければならないと強く決意していた。

接近する十二人の気配

夕暮れ時、ディアス達が慌ただしくユルトから出てきた。アルナーの生命感知魔法によれば、東から十二人の人間が接近しており、その中の一人は今にも死にそうなほど弱っているという。クラウスは同行を申し出たが、鬼人族から荷物が届く日であるため、ディアスから拠点防衛を任された。

弱りきった老婆達

しばらく後、ディアス達は十二人の老婆を連れて戻ってきた。彼女達はぼろ布をまとい、疲弊しきっていた。事情を聞けば、隣領カスデクスで内乱が発生し、村が口減らしのため老婆達を追放したのだという。老婆達は占い師マヤ婆さんの導きに従い、生きる道を求めて草原を彷徨っていた。

薬湯による救助

アルナーは老婆達へ薬湯を振る舞った。特に衰弱していた老婆も、薬湯を飲むことで少しずつ顔色を取り戻していった。クラウスは、その様子を見てようやく命の危機は去ったと判断した。

領民十二人の増加

老婆達の世話を終えたディアスは、満面の笑みでクラウスへ駆け寄った。そして領民が一気に十二人増えたと大喜びしたのである。クラウスは、生産性もなく高齢な老婆達を領民として受け入れることへ不安を示したが、ディアスは全員が七十歳以上、マヤ婆さんに至っては九十歳だと知って逆に感心していた。

お人好しな領主

クラウスが呆れている間に、ディアスは嬉しそうに倉庫へ飛び込み、老婆達用のユルト建材を無理矢理抱えて運び出し始めた。クラウスは慌てて駆け寄り、ユルトを壊すなと叫びながら手伝いに向かった。ディアスの底抜けのお人好しぶりに頭を抱えながらも、その優しさこそがこの領地を形作っているのだと改めて実感するのだった。

立ち並ぶユルトを眺めながら ディアス

イルク村の誕生

マヤ婆さん達を迎えてから三日が経ち、草原には多くのユルトが並ぶようになっていた。ディアスとアルナーの住居、クラウスのユルト、倉庫、飼育小屋、厠、井戸、さらに老婆達の住居用ユルトと集会所まで加わり、もはや村と呼べる規模になっていた。ディアスは、そろそろ正式に村の名前を決めても良いのではないかと考え始める。

メーア毛の加工仕事

集会所では、アルナーとマヤ婆さん達がメーア毛の加工を行っていた。これまで毛はそのまま鬼人族との交換に使われていたが、老婆達はその扱いをもったいないと考え、自分達で加工して価値を高めたいと申し出たのである。アルナーも、高齢者が何もせずにいるのは良くないと賛成し、現在は皆で糸紡ぎを行っていた。

歌声に包まれた作業場

ディアスが集会所へ近づくと、糸車の音と共に優しい歌声が響いていた。歌はメーア毛から糸を紡ぎ、それが領主の財となり、さらにアルナーへ子を授けるよう願う内容だった。歌詞には少し思うところがあったものの、ディアスはあえて口を挟まず、その穏やかな光景を眺めていた。

村名を巡る相談

ディアスは、村の名前を決めたいが良い案が思いつかないと相談した。するとマヤ婆さん達やクラウスは様々な名前を提案したが、ディアスは次々と却下していった。そんな中、アルナーが古い言葉で「最初の村」を意味する「イルク村」を提案した。

イルク村への決定

ディアスは「イルク村」という響きを気に入り、他の者達も概ね賛同した。こうして、領内最初の村は正式に「イルク村」と名付けられたのである。ディアスは、人が増え、物作りが始まり、平和な光景が広がっていく現状に大きな手応えを感じていた。

村誕生の宴

村名が決まると、マヤ婆さん達は祝宴を開くべきだと言い出した。ディアスもそれを了承し、その夜は焚き火を囲んだ宴が開かれた。クラウスはフランシス達と踊らされ、アルナーは大量の酒を飲めることを明かしながら香草料理を振る舞った。

質素ながら温かな宴

宴は豪華ではなかったが、皆で歌い、踊り、食べ続ける楽しい時間となった。夜更けから明け方近くまで続いたその宴は、静かで素朴ながらも、誰もがまた開きたいと思うほど温かなものだった。

発展へのやる気

翌日、皆は次の宴を開くためにも、領地やイルク村をどう発展させるか考えようと意欲を見せ始めた。アルナーもクラウスも、さらにはフランシス達までもが異様なやる気を見せ、ディアスは少し戸惑いながらも、皆で発展策を話し合うことを決めるのだった。

翌日、小川の側で

領民募集の新たな課題

領民集めの話し合いから翌日、ディアスは小川のほとりでフランシスとフランソワを撫でながら、領の未来について考えていた。フランソワの妊娠は順調で、秋頃には子供が生まれる見込みだった。イルク村も少しずつ発展していたが、領民募集については決定打となる案がまだ見つかっていなかった。

奴隷制度への拒絶

そこへ現れたマヤ婆さんは、以前提案した「奴隷を購入して領民を増やす案」を改めて持ち出した。ディアスは、奴隷兵達が希望もなく死を望む姿を戦場で見てきた経験から、奴隷制度そのものを嫌悪していると語った。さらに、奴隷を買えば奴隷商人に利益が渡り、新たな奴隷が生まれる原因になるとも説明し、この領では奴隷制度を禁止したいと明言した。

マヤ婆さんの真意

マヤ婆さんは、自分も奴隷制度を嫌っていると打ち明けた。彼女は、今後領民が増えた際に誰かが奴隷制度を推進し始めることを危惧し、先にディアスの考えを確認したかったのである。さらに、隣領カスデクスでは領主一家が奴隷狩りや奴隷遊びを行っており、多くの悲惨な話を見聞きしてきたと語った。ディアスは、この領ではそんなことは絶対に起こさないと強く約束した。

行商人の到来

その後、アルナーが鬼人族の村へ行商人が来ていると知らせに来た。しばらくして現れたのは、大きな幌馬車を率いるフロッグマンの行商人一団だった。ディアス達は、カエルそのもののような姿をしたフロッグマンに驚愕するが、アルナーは平然と彼らを紹介した。行商人のペイジン・ドは礼儀正しく挨拶し、まずはドラゴン素材を鑑定したいと申し出る。

ドラゴン素材への衝撃

ディアスは牙や爪、甲羅を倉庫から持ち出したが、その大きさを見たペイジン達は顔色を変えた。さらに、ディアスが戦斧で甲羅を一撃で真っ二つに割る「戦斧竜甲断」を披露すると、護衛達は腰を抜かし、ペイジンも完全に圧倒された。これにより、ディアスが本当にアースドラゴンを単独討伐したことを認め、行商人達は素材を高額で買い取る姿勢を見せる。

双子の子供達との遭遇

その最中、ペイジンは売れ残っている商品として二人の幼い双子を連れて来た。痩せ衰え、目から生気を失ったその姿に、ディアスは激しい怒りを覚える。マヤ婆さんも奴隷を嫌っていると告げ、ペイジンを咎めた。

しかしペイジンは、双子は奴隷ではなく、ある里で「災厄の子」と忌み嫌われ、処刑されかけた存在だと説明した。両親は子供達を守るために里を逃げ出したが、やがて病で倒れ、最期にペイジンへ子供達を託したのである。ペイジンは、仕方なく商品扱いとして預かっていただけであり、これまで赤字で育て続けていたと明かした。

双子を家族として迎える決断

アルナーは、ペイジンに嘘はなく、双子の魂の色は強い青であるとディアスへ伝えた。それを聞いたディアスは、かつて戦争前に孤児達の世話をしていた頃を思い出し、この双子も引き取ることを決意する。

奴隷として買うのではなく、今まで育てるのにかかった費用を支払った上で、家族として迎え入れる。その提案をペイジンも受け入れ、こうして双子は新たな領民、そして家族としてイルク村へ迎え入れられることとなった。

イルク村を離れながら ペイジン・ド

行商人の上機嫌な帰路

イルク村での取引を終えたペイジン・ドは、御者台で上機嫌になっていた。ドラゴン素材という極上の品を手に入れた上に、売れ残っていた双子まで引き取ってもらえたことで、彼にとって今回の取引は大成功だったのである。

ペイジンは、手に入れたドラゴン素材を獣王へ献上した際の反応を想像しながら、西方の獣王国へ向けて馬車を走らせていた。

ディアスへの評価

護衛の熊人族は、ディアスのような怪物じみた男を放置して良いのかと懸念を示した。アースドラゴンを単独討伐する存在が、いずれ獣王国の障害になるのではないかと危惧したのである。

しかしペイジンは、ディアスは腕力こそ異常だが、王には向かない男だと断言した。覇気も野心もなく、草原の小さな村で満足している時点で、大国を率いる器ではないと見抜いていたのである。

さらにペイジンは、ディアスの本質は誰かの下でこそ輝く人物だと分析していた。もし獣王の配下であれば優秀な牙になっていただろうと語る。

獣人達の軽口と人間族への嫌悪

移動中、護衛達はフロッグマンを獣人に含めるべきかどうかで軽口を交わし始めた。ペイジンは、水棲種だからと差別するなと不満を漏らし、人間族の貴族のようだと皮肉を飛ばした。

その流れでペイジンは、ディアスが貴族社会と相性の悪い男だとも語った。家名を名乗らず、礼儀作法にも疎く、賄賂も求めない。あれほどの実力者が辺境へ押し込められているのも、王国貴族達と反りが合わなかったからだろうと推測していた。

護衛の熊人族は、奴隷嫌いという性格や全身に染み付いた血の匂いから、ディアスは奴隷好きの貴族と衝突した過去でもあるのではないかと推測する。ペイジンも、実際に近いことをやった可能性はあると考えていた。

ペイジンの本当の狙い

ペイジンは表向きには語らなかったが、ディアスを高く評価している理由は別に存在していた。

それは草原北部の山である。あの山は魔物の巣窟であると同時に、鉱物資源の宝庫と予測されていた。ディアスほどの戦力なら、いずれあの山へ進出し支配する可能性が高いとペイジンは見抜いていたのである。

もしディアスが山を手に入れれば、獣王国にとって極めて重要な取引相手になる。あるいは、獣王国がその土地ごと取り込む未来もあり得た。

だからこそ今は、ディアスと良好な関係を築いておくべきだとペイジンは判断していた。そして獣王とディアスの間で大きな利権が動く時、自分もその端を少し齧れれば十分だと密かに考えていたのである。

そうしてペイジンは、その思惑を胸の奥へ隠したまま、獣王国へ向けて馬車を進め続けるのだった。

取り引き後のイルク村で ディアス

双子との対面と心を開かせる試み

ペイジン達を見送った後、ディアスは倉庫前で無表情のまま立ち尽くしていた双子へ近付いた。アルナー達も扱いに困っていた中、ディアスは二人を抱き上げ、優しく声を掛け続ける。好きな食べ物や遊びを尋ね、名前を教えてほしいと根気よく語りかけたのである。

さらに、名前が無いなら自分が名付けると言ったことで、双子は両親から与えられた名前を失いたくない思いを抑えきれず、ついに口を開いた。右の子はセナイ、左の子はアイハンと名乗り、ディアスはその名前を褒めながら笑顔を向けた。

ディアスの過去と孤児達との関わり

双子がアルナー達へ預けられた後、クラウスはディアスの子供への接し方に驚きを示した。ディアスは、戦争前に孤児達のまとめ役をしており、生まれたばかりの赤ん坊の世話まで経験していたと明かす。名前を失った子供達へ名付けをした経験もあり、その数は十人ほどだった。

クラウスは、かつて面倒を見ていた孤児達がいつかディアスの噂を聞き、この地へ訪ねてくるかもしれないと語り、ディアスも静かにその可能性を思った。

ペイジンの荷物整理と謎の木箱

その後ディアスとクラウスは、ペイジンから受け取った大量の荷物整理に取り掛かった。干し肉や小麦、塩、ぶどう酒、チーズなど多くの物資が運び込まれており、倉庫の狭さを感じるほどだった。

整理の途中、目録に載っていない小さな木箱が見つかった。中には遠眼鏡、精巧な地図、方位を示す道具、鍵開け用らしき工具、仕込みナイフなど、用途不明や物騒な品が詰め込まれていた。クラウスは一部の道具を説明できたものの、半数近くは正体不明だったため、ディアスは次回ペイジンが来た際に確認することに決めた。

双子とアルナーの交流

身綺麗になったセナイとアイハンは、アルナーによって鬼人族式の髪の編み込みを施されていた。アルナーは髪へ宝石を編み込みながら、それぞれの宝石が持つ意味や力を優しく説明していく。二人は興味津々でその話を聞き、次第に笑顔を見せ始めた。

その様子を見守っていたマヤ婆さんは、二人は普通の人間族ではないのではないかとディアスへ打ち明けた。耳が尖って長いことに加え、カエル頭の商人が「災厄の子」と呼んでいたことを不安視していたのである。しかしディアスは、耳の形程度は個性の範囲だと考え、普通の女の子にしか見えないと答えた。

名前に込められた意味

アルナーはさらに、黄色い宝石アーイを加工してペンダントを作り、セナイとアイハンへ贈った。セナイは「月のように綺麗な人」、アイハンは「聖なる月」という意味を持つ古い言葉の名前であり、月に関わる宝石を与えたのである。

両親から与えられた名前の意味を知った二人は、喜びと悲しみが入り混じって涙を流した。ディアスとアルナーはそれぞれを抱きしめて慰め、さらにフランシスとフランソワも柔らかな毛で二人を包み込む。セナイとアイハンはその温もりに安心したのか、泣き疲れてそのまま眠りへ落ちていった。

10日後、夜明けのユルトで

セナイとアイハンとの日常

セナイとアイハンがイルク村で暮らし始めて十日が過ぎ、村は以前とは比べ物にならないほど賑やかになっていた。夜泣きやおねしょ、姉妹喧嘩や悪戯、高熱騒動など次々と問題は起きたが、そのたびに村人達は振り回されながらも絆を深めていった。双子も徐々に心を開き、笑顔を取り戻していったのである。

特にフランシス達との関係は深く、セナイ達は彼らを親や友人のように慕っていた。さらにフランソワの妊娠を知った後は、赤ちゃんのために世話を手伝うようにもなっていた。

一方アルナーは厳しい躾役でもあり、説教や薬湯で双子を鍛えていた。薬湯は鬼人族に伝わる病気予防の習慣であり、強烈な臭いと苦味を持っていたが、アルナーは愛情を持って続けていた。また歌や世話を通して母親のように接しており、双子も彼女へ強く甘えるようになっていた。

ディアス自身は双子との距離感に少し悩んでいた。会話や散歩はするものの、アルナーほど甘えられている感覚がなく、もう少し頼ってほしいと思っていたのである。

村での朝と来訪者の報せ

その日の朝も、村人達は集会所で揃って食事を取っていた。セナイ達の好物であるくるみを使った料理が大量に並び、皆が双子の食事風景を微笑ましく見守っていた。

しかし食事中、アルナーが東から高速で接近する人馬の存在を感知する。ディアスは村へ近付けないため、自らアルナーと共に迎撃に向かうことを決めた。フランシス達はセナイ達を守るため村に残ることを選び、セナイとアイハンも笑顔でディアス達を送り出した。

カマロッツの訪問

草原で待ち構えていたディアス達の前に現れたのは、上等な乗馬服を着た老人カマロッツだった。アルナーの魂鑑定では白判定であり、敵意は無いと分かる。

カマロッツは、主人エルダン・カスデクスがディアスへ会いに来ていると伝えた。しかしディアスは、奴隷好きで内乱を起こしたという噂を持つエルダンを村へ近付ける気にはなれず、この場で会うと断言した。ディアスの態度に圧倒されたカマロッツは、慌てて主の元へ戻っていった。

奇抜な登場を果たしたエルダン

しばらくして現れたのは、巨大なベッド型馬車だった。天蓋付きの豪華な寝台を四頭の馬が引き、そこには丸々と太った青年エルダンと、多数の女性達が乗っていた。女性達は食事や扇での介抱、歌などでエルダンの世話をしていた。

見た目からすれば危険人物そのものだったが、アルナーの鑑定結果は強い青だった。ディアスが困惑する中、エルダンは泣きそうな顔で駆け寄り、憧れの英雄ディアスに会いたかっただけだと必死に訴えた。ディアスが警戒を解くと、エルダンはすぐに打ち解けた様子を見せた。

アルナーの正体とエルダンの暴走

エルダンは隠蔽魔法で姿を隠していたアルナーの存在まで感知していた。驚いたディアス達だったが、観念したアルナーは自ら姿を現し、自分が鬼人族でありディアスの嫁だと宣言した。

その瞬間、エルダンは号泣しながらディアスへ飛びつき、亜人の嫁や子供について矢継ぎ早に質問を始めた。そして感情の高ぶりと共に、耳が巨大化し、鼻が長く変形してディアスを持ち上げるほどの怪力を発揮した。カマロッツによれば、それは象人族としての力が暴走した結果だった。

半亜人エルダンの秘密

落ち着きを取り戻した後、カマロッツはエルダンの秘密を語った。エルダンは人間エンカースと、象人族のネハとの間に生まれた半亜人だったのである。象人族特有の大耳と長鼻、怪力を持ちながら、人間としても生きていた。

しかしその身体は不安定で、体温調節や生活維持のために常に女性達の世話が必要だった。ベッド型馬車や女性達による介抱にも、全て実用的な理由が存在していた。

エルダンの夢と内乱の真相

さらにカマロッツは、エルダンが人間と亜人が共に暮らせる世界を夢見ていることを明かした。亜人奴隷を保護し続けた結果、表向きには「亜人ハーレム好き」という評判が流れたが、実際は亜人保護活動を隠すための偽装だったのである。

やがて父エンカースと兄ジャーニはその真意に気付き、エルダンや亜人達を皆殺しにすると宣言した。それに対抗するため、エルダンは戦いを決意したのであり、内乱は単なる後継者争いではなかった。領民達もエルダンを支持し、最終的にエルダンは勝利して領主を名乗るに至ったのである。

同志としての握手

話を聞き終えたディアスは、エルダンの夢へ共感を示した。イルク村では既に人間と亜人が共に暮らしており、その光景が広がるのは素晴らしいことだと語る。そして全面的な同志にはなれなくとも、応援し協力すると約束した。

その言葉を聞いたエルダンは涙を堪えながら胸を張り、周囲の者達もまた感動して泣き始めた。エルダンは涙を流しながらも、誇らしげにその場へ立ち続けていたのである。

特製ベッド型馬車の上で

エルダンによるディアスへの興味

エルダンは休憩のために招いたベッド型馬車の上で、興奮した様子でディアスの話を聞かせて欲しいとせがみ始めた。自分達が深い事情まで語った以上、ディアスも何か話すべきだろうと考えたディアスは、決まりの悪さを感じながらも自分のこれまでを語り始めた。

ディアスは孤児となった過去、志願兵として戦場へ出たこと、戦後に領主となった経緯、アルナーとの出会い、イルク村での生活、アースドラゴン討伐、クラウスやマヤ婆さん達との出会い、さらにセナイとアイハンについてまで順に説明していった。鬼人族に関する秘密だけは伏せつつも、出来る限り誠実に語ったのである。

その話に対し、エルダン達は内容ごとに様々な反応を見せた。ドラゴン討伐には大いに盛り上がり、アルナーとの婚約には嫁達が騒ぎ、マヤ婆さん達の棄民の件にはエルダンが平謝りした。そしてセナイとアイハンの話には、その場の全員が優しい笑みを浮かべた。

英雄ディアスの武勇伝

ディアスはふと、エルダンの母ネハがなぜ自分を知っていたのかを疑問に思った。するとエルダンは、ディアスの武勇伝が国中へ広まっていたからだと語り始める。

戦時中、王都では戦意高揚のために英雄達の演劇が毎晩のように上演されていた。その中で「英雄ディアス」は、巨大な戦斧で万の敵を薙ぎ払い、弱者を救い、横暴な貴族を諫める存在として描かれていたのである。

しかしその演劇は、貴族達に都合が悪い内容だったため公開中止となった。だが逆にその噂は広まり、人々の口伝えによって各地へ伝播していった。カスデクス領にもその話は届き、ネハは特に「両親の遺言を守る英雄」という部分へ強く感銘を受けた。そして幼いエルダンへ、ディアスのような立派な人間になるよう言い聞かせて育てていたのである。

虚像ではなく本物の英雄

ディアスは、自分の知る限り演劇の大部分は創作であり、貴族を殴った覚えなどもないと苦笑混じりに否定した。だがエルダンは、それでも問題無いと断言した。

エルダンは、帰還兵や商人、教師など、実際にディアスを知る者達が皆ディアスを褒めていたことを語った。そして実際に会って話した今、ディアスは自分が憧れていた通りの人物だったと力強く言い切ったのである。

さらにエルダンは、人間と亜人が共に笑顔で暮らせる世界を一緒に作って欲しいと願い、ディアスへ握手を求めた。ディアスはその真っ直ぐな想いに胸を打たれ、自分では敵わないと感じながら、その手を力強く握り返した。エルダンは満面の笑みを浮かべながら、両手でその握手を包み込んだのである。

未来への助言

その後、ディアスとエルダンは茶を飲みながら様々な話を交わした。王都の後継者争い、アルナーとの関係、エルダンの体調、ネハに会いたいという話題まで幅広く語り合った。

やがて話題は食料備蓄へ移り、エルダンは今のイルク村では保存食も食糧生産も足りないと指摘した。冬は遠いようで近く、今から準備を進めなければならないと真剣に忠告したのである。

その言葉を聞いたディアスは、自分の考えが甘かったことに気付き、今後は食料問題も本格的に考えなければならないと決意した。そして草原を耕し、畑を作ることを新たな目標として定めるのだった。

夜更けのユルトで ディアス

セナイとアイハンの癇癪

エルダンとの長い会談を終えて村へ戻った後、夜更けになってようやくセナイとアイハンは眠りについた。ディアスはフランシス達と共に静かな寝息を立てる二人の寝顔を見つめながら、安堵の溜め息を吐いた。

セナイとアイハンは、それまで激しく感情を爆発させて暴れていたのである。約束した時間より帰りが遅くなったディアスとアルナーに対し、二人は涙を流しながら怒りと不安をぶつけていた。寂しさや心細さも限界だったのだろうとディアスは理解していた。

アルナーは、あれほど暴れていた二人が穏やかな寝顔を見せていることに苦笑した。ディアスもまた、感情を吐き出した結果なのだろうと考えていた。

家族として受け止める決意

アルナーは、二人を叱らなくて良かったのかとディアスへ尋ねた。ディアスは、約束を破ったのは自分達の方であり、まず謝るべきだと思ったのだと答えた。

さらにディアスは、家族になったばかりの子どもが大人を試すように我儘をぶつけるのは珍しいことではないと語った。今はそれを受け止めるべき時期だと考えていたのである。ただし、それが続くなら今後はしっかり叱るつもりでもあった。

その考えを聞いたアルナーは静かに微笑んだ。しかし次の瞬間、生命感知魔法に何かを捉えたのか、その表情は緊張へ変わっていった。

夜の侵入者

アルナーは、南東から複数の侵入者がイルク村へ向かって来ていると告げた。これまでの来訪者達とは異なる方角であり、エルダン達の仲間ではないと断言した。深夜に動き回る時点で、まともな相手ではないとも判断していた。

ディアスは単独で様子を見に行こうとしたが、アルナーはそれを強く拒否した。今夜は新月で視界がほとんど利かず、方向感覚すら失う危険がある以上、自分の魔法が必要不可欠だと主張したのである。

アルナーの強い意思を宿した瞳を見たディアスは、それ以上反対することは無粋だと悟った。そして力を貸して欲しいと告げ、一緒に向かうことを認めた。

夜襲への出発

アルナーは初めて出会った時と同じ戦化粧を施し、静かに戦支度を整え始めた。ディアスも装備を整え、留守の間の村をクラウスへ任せる。

そうして二人は、暗闇に包まれた新月の草原へ向け、侵入者達の下へと歩き出したのである。

夜更けの草原で 侵入者の頭目

闇夜の襲撃者達

月も無い深夜の草原を、十五人の裏稼業の男達が進んでいた。依頼人は標的であるディアスを確実に仕留めるため、闇夜に紛れての奇襲を選んでいた。依頼人はディアスを化物じみた強者と認識しており、正面から戦えば勝ち目は無いと断言していた。

依頼人はさらに、エルダンも見つけ次第始末するよう命じた。領主の座を狙う者にとって、空席は多いほど都合が良いという考えだった。

襲撃者達は不満を漏らしつつも、報酬のために草原を進んでいく。しかし、その時点で既にアルナーの生命感知魔法によって位置を完全に把握されていた。

アルナーによる夜襲

突如として闇の中に赤い光が現れ、それと同時に風切り音が響いた。直後、襲撃者の一人が矢で頭を射抜かれ悲鳴を上げる。

襲撃者達は即座に反撃態勢へ移行し、松明を消して伏せながら弓で応戦した。しかし赤い光はすぐ闇へ消え、放たれた矢は何も捉えられなかった。

それ以降も、闇の中から一方的に矢が放たれ続ける。襲撃者達は敵の姿を捉えられず、仲間だけが次々に射抜かれていった。

襲撃者の頭目は、相手が闇を見通す能力でも持っているのではないかと疑い始める。だが原因を掴めぬまま、部下達の被害だけが増え続けていった。

ディアスとの遭遇

頭目は部下達へ檄を飛ばし、数で押し潰すしかないと判断する。その直後、少し離れた場所から女の短い悲鳴と男の怒声が聞こえた。部下達の矢が敵に当たったと確信した頭目は、一気にそこへ突撃する。

しかし、そこで待っていたのはディアスだった。闇の中で鉢合わせとなった瞬間、頭目は咄嗟に剣を振るう。ディアスもまた戦斧を振り下ろし、両者の武器が激突した。

火花が散った一瞬、頭目は相手の姿を視認する。金髪碧眼、鉄鎧、大斧。その特徴から、目の前の男が噂のディアス本人だと理解した。

そして次の瞬間、自分の剣が砕けていることに気付く。ディアスの怪力によって愛剣は破壊され、衝撃で頭目は地面へ尻餅をついていた。

頭目は、自分が次の一撃で真っ二つにされると覚悟する。しかしディアスが放ったのは戦斧ではなく、腹への強烈な蹴りだったのである。

森を駆けながら 謎の男

襲撃失敗後の逃走

襲撃が失敗に終わった後、一人の男が松明を手に草原を駆け抜けていた。男は草原の東に広がる森へ逃げ込み、追手から逃れるように闇雲に走り続けていた。

男は、雇った傭兵達があっさり壊滅したことに苛立ちを爆発させ、ディアスへ気付かれた時点で終わりだと言ったはずだと毒づいた。

森の奥深くまで辿り着いた男は、何度も背後を確認しながら周囲へ神経を張り巡らせる。長い時間警戒を続けた末、ようやく追手が無いことを確信し、深く息を吐いた。

ディアスへの異常な執着

しかし安堵した直後、男は突然全身を震わせ、その表情を狂気で歪め始める。古傷の痛みが再び疼き始めたことで、ディアスへの憎悪を爆発させたのである。

男は、孤児上がりのディアスが自分の邪魔ばかりしてくると喚き散らし、狂犬や化物と罵倒しながら殺意を叫び続けた。

やがて罵声を吐き続けたことで古傷の痛みが収まり始め、男の狂気も少しずつ薄れていく。

次なる執念

男は今回の襲撃失敗を悔しがりながらも、既に次の機会へ思考を切り替えていた。そして、この恨みを晴らすまでは絶対に諦めないと呟く。

そうして男は、幽鬼のような表情のまま森の奥深くへ姿を消していったのである。

戦いを終えて ディアス

盗賊達の壊滅

黒尽くめの盗賊達との戦いは、ディアス達の圧勝という形で終結した。盗賊達が自ら盗賊行為を宣言したこと、さらにアルナーの魂鑑定で強い赤が確認されたことで、アルナーは生命感知魔法を用いた容赦ない奇襲を敢行したのである。

戦闘中、アルナーの顔を敵の矢が掠めたことで、ディアスは怒りのまま敵陣中央へ突撃した。しかし結果として、盗賊側は矢傷十二名、ディアスの蹴りによる骨折四名、逃亡者一名という壊滅状態となり、死者は出なかった。

捕らえた盗賊達から武器を没収した後、ディアスは盗賊行為の愚かさを説教し、草原の外へ追放する処分を下した。アルナーは処分が甘いと不満を見せたが、ディアスは未遂で終わった以上、この程度が妥当だと判断していた。

草原での盗賊狩りの価値

帰路の途中、アルナーは盗賊狩りが草原では大金を得られる仕事なのだと語った。盗賊を倒した報奨金だけでなく、鉄製武器を回収できる点が大きかったのである。

ディアスは、質の低い武器ばかりなのに価値があるのかと疑問を口にした。しかしアルナーは、草原では鉄そのものが貴重品であり、溶かして道具へ作り変えられるため十分価値があると説明した。

さらにアルナーは、自分の実家が裕福ではなかったこと、貧しい者にとって盗賊狩りは成り上がるための夢だったことを静かに語る。だが草原に盗賊が現れること自体が稀であり、大規模な盗賊団など滅多に現れなかったのである。

ディアスとの出会いの真実

アルナーは、最初にディアスの馬車を生命感知魔法で発見した時、盗賊が現れたのかと思って期待したのだと明かした。しかし実際には、草原で無防備に眠る奇妙な男がいるだけだった。

アルナーは、死体かと思って近づいた相手が幸せそうな寝顔で眠っていたことに困惑したという。魂鑑定では強い青が出てしまい、対応に悩み抜いた末、結局ディアスを起こして言葉を交わす道を選んだのである。

アルナーは、どうして自分がディアスを殺さず、話しかけようと思ったのか今でも分からないと語った。そして、その選択の結果として今の生活があるのだと笑顔で振り返った。

暗闇の口付け

アルナーが満面の笑みを向けた直後、突如として角と宝石の灯りが消え、周囲は完全な暗闇に包まれた。

次の瞬間、アルナーは一気にディアスへ踏み込み、その頬へ柔らかな口付けを落とす。武器を抱えて両手が塞がっていたディアスは、突然の行動に何も反応できず呆然と立ち尽くした。

やがて灯りが戻ると、アルナーは既に離れた場所へ立っており、顔を背けたまま黙り込んでいた。そして何も言わぬまま駆け出してしまう。

ディアスは、この暗闇でアルナー無しではイルク村へ戻れないことに気付き、慌てて武器を抱え直しながら彼女を追いかけ始めたのであった。

書き下ろし蒼角の乙女

過日。婚姻の祝宴の翌日、ユルトの中で アルナー

アルナーの外出準備

婚姻の祝宴から一夜明けた昼過ぎ、アルナーは一人で外出の支度を進めていた。虫除けと厄除けの香を焚いて灰を作り、それを身体へ薄く塗ってから、メーア毛と毛皮で作られたビレーシャを身に纏う。

アルナーは既婚者用の巻き方をしようとして、ディアスが婚約という状態にこだわっていたことを思い出し、未婚者用の巻き方へ変えた。そして弓と矢筒を装備し、長年集め続けてきた大量の宝石を革袋へ詰めて胸元へ隠し、静かにユルトを出た。

ディアスへの想いと隠し事

外では鬼人族の男衆が井戸掘りを進めており、ディアスも嬉々としてその作業を手伝っていた。対価は既に十分支払われているにもかかわらず、見ているだけでは性に合わないからと、自ら働いていたのである。

アルナーは見回りと狩りへ向かうとディアスへ告げた。ディアスは自分が代わりに行くと言い出したが、アルナーは働き過ぎだと制止し、自分に任せるよう説得する。

しかしアルナーの本当の目的は別にあった。もしそれを話せば、ディアスはさらに自分を心配するだろうと考え、アルナーは真意を隠したまま草原へ向かったのである。

生命感知魔法の設置

ディアスの視線が届かない場所まで来たアルナーは、魔力で脚力を強化しながら草原を駆け抜け、東端の森近くへ到達した。

そこでアルナーは宝石を地中へ埋め込み、その中へ生命感知魔法を組み込んでいく。一定以上の生命力だけに反応するよう調整しながら、草原の東側へ感知網を広げていった。

本来、草原には鬼人族が仕掛けた生命感知魔法が既に存在していた。しかしアルナーは、それをディアスのために使うことを躊躇っていた。だからこそ、自分の宝石と魔力だけを使い、ディアスと自分だけのための感知魔法を作り上げていたのである。

妻としての覚悟

アルナーは、自分はもう鬼人族よりもディアスを優先する存在なのだと胸中で確認していた。鬼人族や家族との縁を軽視する訳ではないが、それ以上にディアスとの縁を大切にしたいと考えていたのである。

そしてアルナーは、自分がいつディアスへ惹かれたのかを思い返す。最初は警戒心しか無く、黒ギー狩りの時にも決定打にはならなかった。だが、アースドラゴンとの戦いだけは違った。

アルナーが危険に晒された瞬間、ディアスは命懸けでドラゴンへ立ち向かい、一撃で討ち倒してみせた。その姿が、異族婚への不安や恐怖を吹き飛ばし、アルナーの心を決定的に変えたのである。

誓いの儀式

アルナーは、貧しい生活の中で集め続けた宝石を使い、鬼人族にも見つからぬよう魔法を編み続けた。この行為は、鬼人族の村で行われた祝宴以上に、アルナーにとって重要な意味を持っていた。

それは、ディアスの妻として共に生きるのだという誓いを、大地へ、鬼人族へ、そして自分自身へ示すための儀式だったのである。

やがて日が傾き始め、今日はここまでだと判断したアルナーは、革袋を胸元へ戻した。そしてディアスへ狩りをすると告げていたことを思い出し、夕食用の鳥を探しながらイルク村への帰路についたのであった。

アルナーを待ちながら ディアス

アルナーの帰りを待つディアス

日が沈み始める頃、井戸掘りを終えた鬼人族達は作業を切り上げ、村へと帰っていった。井戸掘りは一日で終わるような仕事ではなく、これからもしばらく続くらしい。

ディアスは一人ユルトの前に立ちながら、アルナーの帰りが遅いことを気にしていた。帰りが遅くなるとは聞いていたものの、鳥を狩るだけでここまで時間がかかるものなのかと疑問に思い、もしや何かあったのではないかと胸をざわつかせる。

探しに行くべきかとも考えたが、そうすればフランシス達を守る者がいなくなる。連れて行けば行き違いになった際にアルナーへ余計な心配をかけるかもしれないと悩み、ディアスはどうするべきか思案し続けていた。

帰還したアルナー

そんな中、風と共にアルナー特有の薬草と灰の香り、そして微かな血の臭いが漂ってくる。視線を向けると、三羽の大きなキジを提げたアルナーが戻って来ていた。

アルナーは満面の笑みで、今日は運良く珍しいキジを三羽も仕留められたと語り、鬼人族から貰った米を使ってキジ肉と干しぶどうの煮米飯を作ろうと提案する。

アルナーの無事な姿を見たディアスは、気付かれないよう安堵の溜め息を吐きつつ、キジを受け取った。そして疲れているだろうから自分が捌くと申し出る。

二人での夕食作り

しかしアルナーは、自分も鳥を捌くのは得意だから二人でやった方が早いと微笑みながら答えた。

その言葉を受けたディアスは、ならば夕食の支度も共にしようと考え、二人でキジを捌き、二人で料理を進めていく。

そうして完成した甘酸っぱい味付けのキジ料理は想像以上の出来栄えとなり、ディアスとアルナーは揃ってその味に舌鼓を打つのであった。

アルナーの草食み

ある日の午後、ユルトで ディアス

アルナーの奇妙な作業

ある日の昼下がり、ディアスがフランシス達の食事を終えてユルトへ戻ると、アルナーが大量の草を脇へ積み上げながら、何かを口の中で咀嚼していた。

その草は、先程フランシス達が食べていたものと同じ種類であり、ディアスはアルナーが草を食べているのかと驚く。しかしアルナーは、草を食べているのではなく、歯ですり潰して唾液を混ぜているだけだと平然と答えた。

さらにアルナーは、草をすり潰したものを布で絞り、その汁を陶器へ溜めていく。続いて黒い木の実を潰して汁を作り、それを草汁へ加えると、液体は濃く暗い色へ変化した。

鬼人族の染色技術

アルナーは、その液体へ真っ白なメーア布を浸した。折角の綺麗な布を汚してしまう行為にディアスは衝撃を受けたが、フランシス達はむしろ楽しそうな様子を見せていた。

アルナーは布を何度も絞って洗い直し、その作業を繰り返していく。すると、汚れていたはずの布は次第に鮮やかな青色へ変化していった。

これは鬼人族に古くから伝わる染色法であり、草汁と唾液、黒い木の実の汁を混ぜることで、美しい青色の染料を作り出しているのだという。配合によって、鮮やかな青から深い紺色まで様々な色を生み出せるらしかった。

アルナーは、こうした染色技術によって鬼人族達の鮮やかなビレーシャが作られているのだと説明した。完成後も数日間陰干しを行い、しっかり色を定着させる必要があるという。

赤ん坊用の布

説明を終えたアルナーは、この布は赤ん坊用になるだろうと口にした。そして照れたように頬を赤く染め、視線を逸らす。

その瞬間、フランシス達はディアスへ責めるような視線を向けた。居た堪れなくなったディアスは、何も言えないままユルトの外へ逃げ出してしまうのであった。

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